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小暮男爵 <第一章> §18 / 天使たちのドッヂボール

小暮男爵 / 第一章

<<目次>>
§1 旅立ち         * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書   * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業?   * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子       * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸     * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事     * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校          * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて      * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き


**<< §18 >>*/天使たちのドッヂボール/**

 午後の最初の授業は体育。もともと一学年一クラスで六人しか
いない学校では何をやるにも人数が足りませんから体育の授業は
五六年生合同で行われていました。

 それでも十二名と少ないですけど、このくらいいればなんとか
ドッヂボールの試合くらい出来ます。
 うちは女の子中心の学校ですから、体育も普段はダンスばかり
やっていました。

 それが女性から男性に先生が代わって、球技もやりましょうと
いうことになり、最初はテニスやゴルフをやりましたが、もっと
子どもらしいことをというお父様たちの希望からドッヂボールを
始めることになったんです。

 大きな球を投げ合うなんて、これまでは一度も経験したことの
なった子供たちですから、前の二時間はひたすらその球を投げて
取ることの練習でした。

 二人で一組。お互いが山なりのボールを放っては相手にそれを
キャッチしてもらいます。
 最初はまったく取れませんでしたが、練習の甲斐あってゆるい
ボールならみんながなんとか取れるようになります。

 そこで『今日は試合をしてみましょう』ということになり先生
から教えていただいたルールも一応は覚えてはきたのですが……。


 試合は五年生と六年生の対抗戦。普段テニスコートとして使わ
れている場所に白線を引いてコートを作りました。
 六年生チームも五年生チームもお互い六人のうち四人が内野、
二人が外野で試合開始。

 みんな上級生ですしね、さぞや血湧き肉踊る熱戦が…と思った
方も多いでしょうが、私たちのドッヂボールでは血も湧きません
し肉も踊りませんでした。

 例えばこうです。一人の内野の子が、相手の内野の子めがけて
ボールを投げるとします。

 こんな時、普通は何も言わず運動神経のなさそうな子をめがけ
て投げるんだと思いますが、私たちの学校ではそれは違っていま
した。

 「これから投げま~~す。瑞穂お姉様、お願いしま~~~す」
 必ず、自分が投げる球をとっていただく方を指名して投げるの
です。

 もちろん、こんなルール教科書には書いてありません。先生が
こうしなさいともおっしゃっていません。
 でも、私たちがやり始めると自然にこうなるのでした。

 投げられたボールを瑞穂お姉様がキャッチすると、今度は……
 「美咲ちゃん取ってね~~」
 瑞穂お姉様がこちらの側の誰かを指名して投げ返してきます。

 そして、そのキャッチに失敗すると……
 「ごめんなさい」
 と言って、取り損ねた子は外野へ移るわけです。

 これ、一見すると他でやってるドッヂボールと同じように見え
るかもしれませんが、実は、外野へ回る子が謝ってる相手が違う
んです。

 彼女、味方に対して失敗してごめんなさいを言っているのでは
ありません。投げてくれた人に対して、『せっかく投げてくれた
のに、取れなくてごめんなさいね』って謝ってから外野に向かう
のでした。

 こうなると、普通は内野の数が減りますよね。
 ところが、ここが一番違うところなんですが、私たちのドッヂ
ボールでは内野の数は減らないんです。

 どうしてかというと……
 相手方のリーダー、この場合は瑞穂お姉様が、「じゃあ、次は
里香ちゃん。入ってえ~~」というふうに、今、外野をやってる
相手側の子を指名して、外野へ回る子の代わりにその子を内野へ
入れちゃうんです。

 ですから、内野4と外野2という数はいつも同じでした。

 もちろんこんなこと、どこのルールブックにも載っていません。
いませんけど、私たちの世界ではお友だちが内野にいなくなるの
は寂しいんです。みんながボールに触れるようにしたいんです。
 すると、自然にこうなります。

 私たちだけのローカルルールなんですが、でも、このやり方に
反対する子は誰もいませんでした。
 『教わったルールには書いてないけど、こうしましょうね』と
お互いが申し合わせることすらありませんでした。
 だって、この方が私たちにとって気持ちよいことだったんです
から。

 当然、試合終了で人数を数えてみても差なんてありませんから、
試合はいつも引き分け。勝ち負けなんてつきません。
 でも、それがよかったんです。

 ローカルルールはまだあります。
 外野にいる子は相手の内野の子に球をぶつけたりはしません。

 ひたすら遠くへ飛んでいったボールを拾ってくるだけの球拾い。
そして……
 「これ、どうぞ」
 と言って取ってきたボールを相手の内野に手渡すだけが外野の
仕事でした。

 すると、今度はボールをもらった相手側が……
 「ありがとう。次は、あなたを指名してあげるからね」
 と、こうなります。
 外野に行っても仲間はずれはありませんでした。

 幼い頃からお父様や先生に『仲良し』『仲良し』で育てられた
私たちには、そもそも仲良しのお友だちがその時だけ敵になると
いう現実が、どうにも理解できなかったのでした。

 ですから、無理に勝ち負けを決めてみてもそのことに満足感が
ありません。勝ってしまうと、何だか相手に悪いことをしたよう
で、とても心持が悪くて困ります。
 ですから、結果はいつも引き分け。それでよかったのでした。

 上手で投げた球を受けられない子には、前に来てもらって下手
で投げます。大事なことは相手がミスするのを喜ぶんじゃなくて、
逆に、取れるような球を投げてあげること。お友だちから投げて
もらった球をちゃんとキャッチしてあげること。
 このキャッチボールこそが大事でした。

 ですから内野全員がキャッチできると、もうそれだけで大きな
歓声があがります。それが私たちにとっては最高の満足なのです
から。


 そんな私たちのドッヂボールで、実はこの日、ある事件が起き
ます。

 内野にいた広志君。覚えてらっしゃいますか?そうフェンスの
破れたのをいいことに校外へ出て谷底まで降りて行ったあの子。
私と一緒に先生からお尻をぶたれたあの子です。

 その子が、相手の内野だった留美お姉様が後ろに下がろうした
瞬間、転んでしまったのを見て……
 「留美お姉ちゃま、取って~~」
 そう言って持っていたボールを高~~く放り投げたのでした。

 前に投げたのと違い狙って狙えるものではありませんが、不幸
にも高く上がったボールが加速度をつけてお姉様の頭に当たって
しまいます。

 「きゃあ」
 ボールは大きく弾んで外野へと飛んで行き留美お姉様の大きな
声が聞こえました。
 見ていたみんなはびっくりです。

 「大丈夫?」
 「怪我なかった?」
 「医務室に行く?」
 たちまち五六年生の女の子たちが総出で中条さんの元へ集まり
ますが、当の広志君だけは涼しい顔です。それどころか……

 「留美お姉ちゃま、取れなかったんだから外野に出てよ」
 広志君の声がしました。

 これには女の子全員が『カチン!』ときました。
 全員が広志君の方を振り返ると睨みつけます。

 すると、広志君もこれに少しびびったみたいだったのですが、
すぐに気を取り直してこう言います。
 「だって、僕はルールどおりにやってるんだよ。取れない方が
悪いんじゃないか」

 たしかに、広志君は留美お姉様に一声かけてから投げましたが、
これって明らかに悪意があります。

 「何言ってるの!倒れてる子はどこからボールが来るか分から
ないでしょう!そんなことして投げたら危ないじゃない」
 私たちを代表して瑞穂お姉様が反論します。

 でも、広志君は折れませんでした。
 「どうしてさあ、僕たち、みんなドッヂボールやってんだよ。
だったら、そのルールに従ってたら別に何しててもいいだろう。
だいたい、留美お姉様は普段から鈍いんだもん」

 これには女の子全員がさらに『カチン!』です。

 愛子お姉様が、
 「あんたなんか内野やってる資格ないわよ」
 友理奈お姉様が、
 「そうよ、あなたこそ外野へ行きなさいよ」

 そのあとは、もうみんなで……
 「そうよ、そうよ、外野で頭を冷やすべきよ」
 「賛成、あなたがいたら楽しく遊べないもの」
 「だいたい男の子のくせに、あなた生意気なんだから」
 「そうよ、あなたなんかピルエットも満足に回れないくせに、
どうしてこんな時だけ大きな顔してるのよ」
 五年生の子も混じって速射砲の一斉攻撃です。

 これには、広志君もたじたじでした。
 でも広志君、心の中でそんな女の子たちの意見をもっともだと
思っていたわけではありませんでした。

 広志君はボールを激しく地面に叩きつけるとコートを去ります。
顔を真っ赤にして、泣いて怒ってる、そんな感じだったのです。

 そもそも、たいして怪我もしていない留美お姉様の処へ女の子
全員が集ってくるんだって、広志君にしたら不満だったのです。
 私は広志君を心配してあとをつけます。

 見ると、そんな広志君を迎え入れたのは進藤のお父様でした。
(親子ですから当たり前と言えばそれまでなんですが……)

 実はこのドッヂボールの試合、昼休みに行われたお仕置きの後
で、お父様方が揃ってコートサイドで見学なさっていました。

 広志君は、最初進藤のお父様が差し出す手を払い除けてもっと
遠くへ行こうとしましたが、お父様が強引に息子の体を懐の中に
入れてしまうと、それからは抵抗しませんでした。

 私はその時、広志君が泣いているように見えました。
 きっと悔しかったんだと思います。
 広志君は広志君で、自分のしたことが正しいと信じてるみたい
でしたから。

 抱き合う親子のもとに他のお父様たちも集まってきます。

 「だいぶ派手にやられてたみたいだね」
 と、佐々木のお父様が……
 「女の子というのはいったん火がつくと見境がなくなるから」
 と、今度は高梨のお父様も……

 他のお父様たちも次々に口を開きます。
 「ここは女の子社会だからね、調和第一というわけだ」
 「でも、これだと男の子には住みにくいですかね」
 「確かにそれはあるだろうね。男の子と女の子では生きていく
哲学みたいなものが違うから。私なんて未だに奥さんの考えてる
ことがよく分からないくらいだ」

 そして、中条のお父様が……
 「大丈夫だよ、ヒロちゃん。君の言っていることは正しいよ」
 こう慰めると、そこでやっと広志君はお父様の胸から顔をあげ
ます。
 やっと自分の考えに賛同してくれる人が見つかってほっとした
のかもしれません。

 中条のお父様は続けます。
 「ドッヂボールの試合だけでみると、君の言ってる事は正しい
んだよ。そもそも内野がボールを投げるのにいちいち声を掛ける
なんてよそじゃやってないだろうし、内野の子が転んだからって
立ち上がるのを待ってる子もいないだろう。逆にチャンスだから
ぶつけちゃえって、ボールぶつけちゃってもそれも構わないさ」

 「ほんとう?」
 広志君は中条のお父様の方を向きます。すると、今まで泣いて
いたのがはっきりとわかりました。

 「本当さあ、大半の学校ではそうやってドッヂボールをやって
るんだから。……ただね、ドッヂボールのルールはそうでもこの
学校の生徒としては、それとは別に守らなければならないルール
があるんだ。女の子たちはそれを言ってるんだよ」

 「どういうこと?」

 「『お友だちとは、いつも仲良しでいましょう』ってことさ。
うちではこれが一番大切なルールなんだ。どんな規則や成績より
これが最優先のルールなんだよ。君だってそれは知ってるよね。
もう耳にたこができるほど聞かされてるだろうから」

 「う、うん……」

 「ドッヂボールをやってる時も君がこの学校の生徒である以上
それは守らなきゃいけないんだ。こんなことしたらお友だちの体
が傷つくとか、こんなことしたら仲が悪くなりそうだと思ったら、
それはドッヂボールのルールに書いてなくてもやっちゃいけない。
……わかるだろう?」

 「う……うん……」
 広志君は小さな声で答えます。
 すると、そこへ桜井先生がやってきました。

 「そうですね。その通りです。いや、私も驚きましたよ。この
子たちときたら、自分たちで自分たちにあったルールをさっさと
創っちゃうんだから、大人顔負けだ。しかも、こうして見る限り
それが美しく機能している。こんな事が自然にできるなんて凄い
ですよ」
 広志君を迎えにやってきた桜井先生が、お父様たちを前にして
大仰に驚いてみせます。
 
 すると、小暮のお父様が…
 「ここには同じ境遇で育った同じ常識を持つ子どもたちだけが
集められてますから、ルールも自然にこうなっちゃうんですよ」

 佐々木のお父様は……
 「過保護に過ぎるという批判もありますが、私たちは年寄りだ。
とげとげしいことは望まないものだから、育て方も自然こうなる。
……仕方ありませんな」

 進藤のお父様も……
 「私たちがよくお仕置きで子どもを裸にするもんだから、口の
悪い人は青髭の王国だなんて言いますがね、それは違いますよ。
ここでは誰にでも甘えられるし、心が無防備でいても困らない。
巨大なお風呂にみんなで入っているみたいなもので、裸でいられ
ることこそ楽園の証しなんですよ」

 桜井先生はドッヂボールの試合を見つめながら……
 「そうですか、ここはみなさんが作った楽園ですものね。……
分かるような気がします。私なんか、いつも勝ち負けにばかりに
こだわってきましたから、こんな子供たちのこんな姿を見ると、
まるで天使たちがドッヂボールをやっているように見えますよ」

 もちろん、それってお父様たちを前にしていますからお世辞が
あるのかもしれませんが先生はその後も私たちを褒めちぎります。
感心しきりでした。

 そして、最後に……
 「さあ、広志君。とにもかくにも、ここは女の子たちに謝って、
また仲間に加えてもらわなきゃ。このまま逃げてちゃ男が廃るよ。
さあ、先生と一緒に行こう。一緒に謝ってあげるから……」
 桜井先生は広志君の手を引いてお父様の懐から引き離します。

 すると、広志君、なぜか気の弱いことを言うのです。
 「僕……また、ドッヂボールできるかな?」

 「もちろんさ、もし、『広志君と一緒に体育をやるのが嫌だ』
何て言ったら今度はその子の方がお友だちと仲良くできなかった
ってことになるじゃないか。必ず許してくれるよ」
 と、桜井先生。

 「大丈夫だよ広志。もし姉ちゃんが嫌だなんて言ったら、私が
この場でお仕置きしてやるから……」
 お父様も励まします。

 「ほんと?」
 桜井先生に手を引かれた広志君がお父様の方を振り返ると……

 「ただし、最初にお前が謝らなきゃだめだよ」
 最後はお父様が再び広志君の肩を押してコートの中へ。

 するとそれとほぼ同時に私もまた私のお父様から両肩を掴まれ
ました。

 「どうした?美咲ちゃんは広志君のことが好きなのかな?」
 ぼそぼそっとした小さな声。でも唐突にお父様から言われて、
思わず私の心臓は止まりそうでした。

 「えっ!?」
 私は振り返ると……
 「そんなわけないじゃない」
 怒ったような顔で否定するのですが……

 「そうか、午前中は一緒にスケッチしてたみたいだし、午後も
こうやって彼の跡を追ってくるぐらいだから、ひょっとして気が
あるのかと思ったが……違ったか?」

 「馬鹿馬鹿しい。変な想像しないでよ。そんなの偶然。偶然よ。
あんなのタイプじゃないもの。私はもっとカッコいい子がいいの。
郷ひろみ、みたいな」
 私はむきになって否定します。

 「そうか、広志君はタイプじゃないのか。残念だなあ。お前が
その気なら進藤さんところと縁続きになれたんだが……」
 お父様は苦笑いです。

 私は十一歳。漠然とした美形の男子への憧れはありましたが、
具体的な想いはまだ何もありません。
 広志君のことだって、あまりにも幼い頃から彼を知っています
から彼のいやな処だって沢山知っているわけで、本当にそんなの
偶然だと思っていました。

 でも、お父様は人生の大先輩。私以上に私の心の奥底をご存知
だったみたいです。

 さて、私のことはともかく、広志君がコートに戻ってきます。

 「ごめんね、ボールぶつけて……」
 彼は留美お姉様にごめんなさいを言ってから、瑞穂お姉様にも
謝ります。
 「ごめんなさい。勝手にコートから離れて……」

 殊勝な心がけと言いたいところですが、実は広志君、バックに
大勢のお父様たちや桜井先生を引き連れていました。

 お父様たちにしてみたら広志君がちゃんとごめんなさいを言え
るか確かめたくて一緒に着いてきただけなんでしょうけど、女の
子の立場からすると、それってまるで自分たちの方がお父様たち
に叱られてるみたいでした。
 広志君、大勢の保護者に見守られながらのごめんなさいだった
わけです。

 また、ドッヂボールが再会され、当然、広志君もそれに加わり
ます。

絶対に勝ち負けの着かない天使のドッヂボール。勝った喜びも
負けた悔しさもここにはありませんけど、私たちにとっては忘れ
得ぬボールゲームの思い出でした。

************<18>***********

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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