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幼年司祭 (前編)

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  単なる雑記帳と化したブログだけど、まだ覗きに来てくださる
方がいるみたいなので、何か貼っておきます。

 これは、昔、清水正二郎さんという作家さんがいらっしゃって
その人の小説の中に、『懺悔聴聞僧』という役柄が登場する作品
(作品名は失念)があったんだけど、これがいたく気に入って、
自分なりの懺悔聴聞僧を書いてみようと作った作品なの。
 僕はまったく厳しさのない甘ちゃん世界で育ちゃったためか、
真逆の、ストイックな世界に憧れがあるんだ。

***********************

 亀山に来て28年、最初は僕に僧院暮らしなど勤まるだろうか
と危惧していたが、善良な村の人たち守られて、知らず知らずに
時は経ち、今では幼年司祭だなんていう役職までもらっている。

 司祭といっても、これはカトリックのそれではない。この村は
宗教法人亀山教団が管理する村。役職も教団での役職の一つだ。

 『幼年司祭』というのは、早い話、子どもたちのお仕置き係。
そもそもここは村人が全て教団の幹部信者という宗教都市なのだ。
だから、学校の先生、診療所の医師、コンビニの店員……どんな
職種についていても村人は全員が教団職員。マリア様を信奉する
敬虔な信者ばかりだった。

 そんなわけで、親がそうなんだから村の子どもたちも、当然、
教団の教義に従って暮らさなければならないわけで、その厳格な
掟に背いた子を罰するのが、私、幼年司祭の仕事というわけだ。

 幼年と銘打っているが守備範囲は広く、幼稚園から高校生まで。
この村の親達にあっては高校生だって十分に子供。悪さをすれば
当然のごとくお仕置きで対処するのがポリシーだった。

 これは何も家庭だけの話ではない。学校で、教会で、村の公園
でも事情は同じで、先生、牧師、その子と血縁のない村人でさえ
悪さを見つければ、お尻を叩いて差し支えなかったのである。

 子供たちは大人たちが決めた厳格なルールを身体に、とりわけ
お尻に染み込ませて大人になっていく。

 といって、虐待されているという印象は受けなかった。
 教団の教義では10歳までの幼い子は抱いて育てなければなら
ないというのが教団のテーゼで、親といわず教師といわず、近所
の人や道行く人でさえ気楽に子供を抱く。
 村人全員が子育てに参加するとてもフレンドリー環境なのだ。

 ただ、そうやって村の大人たちは、普段、子供たちをわけ隔て
なく愛しているが、その愛はペットに注がれるような盲目的な愛
ではない。
 信賞必罰というか、メリハリがはっきりしていた。

 私が村へ来て一番最初に驚いたのが、晒し台(ピロリー)。
 これは滅多によそ者を見ない村の特殊事情からくるのだろうが、
公園にも、学校にも、いや、各家庭の庭先にさえ、子供をくくり
つけて見せしめとする晒し台が設置されていたのである。

 これは決して飾りや脅かしではなく、村を一回りすれば、低い
垣根越しに全裸あるいはパンツ一つで括り付けられた少女の姿を
毎日のように垣間見ることができる。
 さすがにハイティーンの子にはなかったが、10歳以下の子は
鞭によるお仕置きがない分、こうした見せしめによる体罰が多く、
しかも、なぜか男の子より女の子に多いお仕置きだったのである。

 さて、そんな特殊な村の中での私の生活だが、普段の寝泊りは
教会脇にある牧師館で暮らしている。日当たりの良い1DKは、
決して広くないが一人暮らしの身には必要にして十分なスペース
だ。

 まず朝は、日の上がる時間に起きて、近所の世話好き婆さんが
作ってくれた朝食をあり難くいただくと、その後はしばしの読書。
 でも、10時頃ともなれば最初のお客がやってくる。

 「ピンポン」
 というチャイムは牧師館の私の部屋で鳴るが、それが押された
のは礼拝堂。

 私は簡単な身支度を済ませると、裏庭の芝を駆け足で踏んで、
礼拝堂へと向かう。

 礼拝堂の裏口は古びた木製ドアだがいつも鍵がかけられている。
ここは司祭と呼ばれる人たちだけの専用の入口。一般の人たちは
ここから礼拝堂への出入りができない。
 というのも、ドアを開けるとそこは懺悔聴聞室。超極秘空間に
なっていたのだ。

 懺悔聴聞室というのは一般信者が聖職者に懺悔を聞いてもらう
ための小部屋。懺悔を希望する信者は、通常他の信者が礼拝堂に
出入りしない時間帯を狙ってやってくる。

 電気もなく相手の顔さえよく見えないほどの薄暗い小部屋で、
信者と聖職者が金網越しに向き合ってヒソヒソ話。何やら不気味
な雰囲気も漂うが、ここでは信者のプライバシーが最も尊重され
なければならないから仕方がなかった。

 そんな懺悔聴聞は通常一対一だが、私の仕事場へはお客はたい
てい二人ずれでやってくる。私の場合一人はハイティーンの少女。
もう一人はその子の母親というパターンが多かった。

 「どうしました?」
 私が尋ねると金網の向こうでは少女が唇を紫にして震えていた。
 いろいろな意味で怖いのだ。

 「…………」

 返答はないが誰なのかはすぐに分かる。いくら薄暗い部屋でも
彼女の顔は金網を挟んで私と30センチも離れていないのだから。

 「…………」
 むしろ、そっと隠れて泣いてる顔、嗚咽さえもが分かるほどだ
った。

 彼女の名は藤島カレン。父は、現在単身赴任中で、教団が今、
布教活動に力を入れる愛知県で教区長を努めている若手幹部だ。
一方、村に残った家族は、本人を含め母と妹の三人暮らし。父が
教団のエリート職員ということもあって留守家族も他の村人から
後ろ指をさされるような生活はできなかった。

 この為、母はPTAの役員を務めバザーなどには積極的に参加。
娘も学業優秀で生徒会役員、品行方正のお嬢様だ。一見すると、
非の打ち所のない家族と見られていたが、それを維持する為には
いろんなプレッシャーを跳ね除けなければならない。

 そんな母娘のストレス解消の場が、実はここだったのである。

 「…………」

 「ほら、ほら」
 娘のだんまりに耐えかねて、後ろの母親がその背中をつつく。

 すると、母を振り返って一瞥。今度は、さも仕方ないといった
素振りで私の方を向き直ると……

 「私、オナ……オナニーをしてしまいました」

 15歳の娘がオナニーだなんて、そんなことを他人に語るのが
どれほど勇気のいることか容易に想像がつく話だが、私はそれを
顔色を変えずに受け止める。
 というのも、この問題を彼女が懺悔に来るのは、これが初めて
ではないからなのである。

 「そうですか、確か、3年前にもそんなことがありましたね。
……あの時は、きっと中学という新しい環境で戸惑っているうち
道を外れてしまったものと思っていましたけど………そのうち、
お友だちもでき、学校生活にも慣れてきて、そうした問題は解消
されたのかと思っていましたが、また再発してしまいましたか」

 私が静かに語っていると、母親の真理絵が娘の肩越しに……
 「そうなんでございます。あの時は、司祭様にありがたい鞭を
毎日12回もいただき、三週間貞操帯をはめて、何とか事なきを
得ましたが、今回は手遊びだけでなく、家のお金にも手をつける
ありさまでして、どうしたものかと……ご相談にあがった次第で
でございます」

 「そうですか」
 私は、まず娘の背中の声に応対すると……

 「本当ですか?お母さんの言ってること?」
 今度はカレンに向かって語りかける。

 「…………」
 するとカレンは何も話さず、ただ頷く。視線を合わせたくない
様子だった。

 「そう、それは困ったことだね。3年前は、まだ君も幼かった
から萎縮してはいけないと思いあまり厳しいことしないでおいた
が……独り遊びの悪癖が再発して、しかも今回は親御さんのお金
にまで手をつけたとなると、厳しい処置を取らなければ治らない
かもしれないね」

 「……は、はい」
 カレンの蚊のなくような小さな声、こんな近い場所にいてなお
やっと届くような小さな声が聞こえた。

 見ると、その目にいつの間に落としたのか二筋の涙が光っている。
つまり、私の目の前にいる少女が涙にくれているわけだが……
 それを見た私の心はというと……

 『さすがに女の子。誰に教わらなくても立派に泣けるものだ』
 と、意地悪な気持が沸いてくる。

 実際、その顔は『慙愧の……』とか『後悔の……』というもの
ではなかった。むしろ、それは表向きの顔。その顔の奥から滲み
出る嬉し涙こそが私の関心事だったのである。

 こう言っては世間の人に自信過剰と笑われるかもしれないが、
何十年もお仕置き係を務めていると、だいたい少女の顔色だけで
その心の内というのが分かるようになるのだ。

 恐らくカレンが親の金をくすねたのも、オナニーも本当だろう。
しかし、それが衝動を抑えきれずやむを得ずやったことというの
なら、それは違うと思う。

 彼女は品行方正で成績も優秀、何より極めて理性的な子どもだ。
女の子への体罰だって日常茶飯事というこの学校の中にあっても
これまでお仕置き部屋に呼ばれたことなど滅多にない少数派だ。
それが、この卒業間近になって、こうも簡単に罪を犯すとは考え
にくかった。いや、正確に言えば、カレンが親にバレるような罪
を安易に犯すはずがないと考えるべきなのだ。

 では、なぜそんな優秀な子が、わざと罪を犯してまで罰を受け
ようとするのか?

 それには彼女のもう一つの生活の場、家庭が絡んでいる。
 学校では無事な彼女も、家庭内では感情の起伏が激しい母親に
翻弄されて月に数回キツイお仕置きを受けていることがわかって
いる。

 ケインを使ったお尻叩きや浣腸、お灸や蝋涙落しも家庭で親が
行えば立派なお仕置きなのだ。それが教育的かどうかは別にして、
カレンにとっても両親が行うお仕置きは自分への愛情の一つだと
信じてこれまで好意的に受け止めてきたのだ。

 もちろん、幼い頃はそれでよかった。悪いことをしたらお尻を
ぶたれ、終わったら母の胸で甘える。それだけのことだ。
 ところが、思春期に入ると、幼い頃とまったく同じ事をしても
その衝撃が純粋な痛みとは別の情動を生んでしまう。
 お尻を叩かれるたび体の芯がカアッと熱くなるのだ。

 痛くて、恥ずかしくて、屈辱的で……周囲の状況が全てに最悪
という中で……それは誰にも言えない快感となって身を焦がす。

 しかも、これが札付きのお転婆娘なら、チャンスはすぐに来る
のだが、カレンのように物分かりがいい子供となると、親の方も
大きくなった子供に今さらお仕置きでもないだろうと勝手に判断、
多少の過ちならお仕置きをやめてしまうケースが多い。

 つまり、カレンのような子は、なまじよい子であるがゆえに、
湧き起こった情動を処理をする場所に困ることになるのだ。

 そこで、そんな子が逃げ込むのが空想の世界。つまりオナニー。
そこでは現実社会とは反対に自分が罰せられる側に立ってること
が多い。

 もちろん、それで満足できるなら話はそれでおしまいだが……
ただ、それでも足りないとなると、何とか世間に知られない形で
罰を受ける方法はないかと考えるのである。

 そこで思いつくのがこの懺悔聴聞だ。これなら、クラスメイト
にもばれずに、飛び切りのお仕置きが受けられる。
しかも『あまり酷い事にはならないだろう』という読みだって
ちゃんと働いているのだ。

 つまり、ここで告白する罪は大人たちから罰を受けたいが為の
口実。不幸な少女を演じきることで、お仕置きの後、『だから、
今の私はとっても幸せ』と、逆説的に自分の心を納得させる為の
手段だった。

 よく、野球選手が打席に入る前にバットを二本持ってスイング
しているのを見るが、あれとよく似た心理なのである。

 そんなカレンが今、恐怖と慙愧の表情を浮かべて私の前にいる。

 もちろん、そんなカレンの下心を咎めることだってできるが、
私を含めほとんどの大人たちはあえてそれをしなかった。それは、
こうした経験を積み重ねて少女が女性になると知っていたから。

 誰も大声でそれを主張しないが、大人たちの間には暗黙の了解
事項がある。それは……
 『少女は、愛を受けて成長し、その愛を授けてくれた人の鞭で
大人になる』
 愛だけでも鞭だけでも少女はレディーへと変身しないのだ。

 カレンの母親もそんな事情は百も承知でここに娘を連れて来て
いるはずだった。

 今は、優しい男が増えてしまい、男性がマゾヒティクな感性を
持っていても誰も驚かないが、当時それは変態扱い。
 男は全員生まれながらにサディスティクな感性を持っていると
信じられていた。

 ということは、一方の女性はその反対でなければならない。
 サディスティックな男性に身を任せて人生を楽しむというなら
女性はマゾヒティクな感性を磨かなければならないことになる。

 ならば、子供時代、お仕置きで来るべき結婚生活の予行演習を
しておくのもそう悪いことではないのではないか……
 大人たちは、口にこそ出さないもののお腹の中ではそう考えて
いたのである。女の子は少しぐらいマゾヒティクな方向で躾けた
方が、将来は幸せに暮らせると……。

 キャリアウーマン志向の現代の女性には理解不能だろうけど、
男がまだ雄雄しくて一人で家の家計を支えられるほど稼ぎ出せる
時代にあっては、それは不思議でも何でもないことだったのだ。

 それはともかく、私もまた彼女の気持に合わせて演技する。
 さも困ったという顔して考え込み、その後、こう尋ねてみた。

 「お母さんの財布からお金を盗んだのは、これが初めてのこと
かな?」

 「…………それは…………」

 彼女が答えにくそうに口ごもったので答えは一つだ。

 「そう、前にもあったんだ。その時はどうしたの?」

 「どうしたって……」

 「そのことがお母さんにバレなかった?……だって、ここへは
来なかったよね」

 「バレました……」

 「そう、じゃあ叱られたでしょう?」

 「……はい」

 懺悔室は広い礼拝堂の片隅にある。厚い暗幕に囲われていて、
懺悔する側とそれを聞く聖職者側の二つの部屋に分かれている。
二部屋あるといっても広さは共に電話ボックスくらいしかなく、
金網を介しておでことおでこがくっつきそうな距離で話すのだ。

 しかもこんな話、誰だって明るくは語れないから、声も自然に
ボソボソってな感じに……まさに密談という感じだった。

 本来こうした懺悔は大人なら一対一で行われるのが普通だが、
子供の場合は母親が後見人として狭い部屋に入り込んでくること
も多くて、この日も最初から娘の背後には母親が控えていた。

 その母親が、じれったいと感じたのだろう、娘の代わりに口を
開いた。

 「申し訳ありません司祭様。最初にこの子が私の財布からお金
を抜き出したのはまだ受験の前のことでして、その時は、きっと
受験でストレスがたまっているのだろうと様子を見ておりました」

 「では、オナニーの方も……」

 「同じでございます。受験にさわっては……と、そればかりを
懸念しておりまして……でも、その後も、盗み癖と手遊びは続き
ますので心配になりまして……」

 「では、その間、家でのお仕置きもなさらなかったのですね」

 「最初の時は見逃したのですが、二回目からは家できつく叱り
ました」

 「厳しく?……それは折檻といったものでしょうか?」

 「はい、二回目は私がかなり厳しく……三回目は主人も手伝い
まして……」

 「お父様も……で、どのような?」

 私が尋ねると、その瞬間、カレンの顔が真っ赤になった。
 そこで……

 「それは……」
 と、話しかけた母親を遮り……
 「あっ、お待ちください、カレンさんに尋ねてみましょう」
 私は、その答えをカレンに求めたのだった。

 歯切れのよい母親についつい乗せられてしまったが、こうした
ことは本来、カレンが自らの行いを懺悔する中で説明しなければ
ならないことなのだ。

 カレンは自ら知っている全てのことをその口で私に告白しなけ
ればならない。どんなに辛い体験も、どんなに恥ずかしい思いも、
何一つ隠しごとをしてはならない。これがここのルールだった。

 「…………、…………、…………」
 心を落ち着かせるための少し長い沈黙の後、カレンは重い口を
開く。

 「最初は、お小言だけだったけど……二度目は……お母さんが
お仕置きすると言い出して……私、もう子供じゃないって言った
んだけど………………」
 少女は口惜しそうに下唇を噛んだ。

 「君はまだ子供だよ。子ども……」
 私は念を押す。
 「体が大きくなり、少しばかり筋道の通った話ができるように
なったとしても、15歳の子を大人だと認めてくれる人はこの村
にはいないんだ。よそではしらないけどね、少なくともここでは
そういう決まりなんだ。だから、お仕置きだって受けるだろう?
大人だったら刑務所行きだ」

 私は自ら諭しておいて思わずその場に視線を落とした。
 間近で見るカレンの顔が初々しいはにかみで赤く染まっている
のを見て、こちらも心臓がキュンと絞られたのだ。

 プロとしてはそんなこと顔に出してはいけなかった。

 「………………」
 次に顔をあげたとき、カレンは後ろを向いていた。
 何やらそこにいる母に助けて欲しいといった視線のように見え
だが……。

 「………………」
 母は首を振って拒絶する。

 懺悔室で話したことは外部には漏らさない約束になっている。
たとえ、親兄弟や学校の先生でもそれは守られていた。その信頼
がないと懺悔に来る人(子)などいないからだ。

 そして、懺悔する側にもメリットがある。もし、その事が後に
公となり罪に問われることになっても『司祭様に懺悔しました』
と証言すれば自分にとって不都合な多くの秘密をお蔵入りにする
うえに、受ける罰も少なからず軽減される約束になっていたのだ。

 もちろんこれはローカルルールなのだが、日常的なトラブル、
とりわけ子供の罪については国の法律よりこうしたやり方で処理
する方がこの村では一般的だったのである。

 そのため、懺悔室では全てにおいて真実が語られなければなら
ない。嘘をついて罪を免れようとする不届き者を出さない為にも
これは絶対の条件だったのである。

 もし、嘘をついて懺悔しようものなら、こちらも国の法律とは
関係ないところで情け容赦ない体罰、辱めの刑が待っているのだ。

 だから、カレンはこの件で両親から受けたお仕置きの数々を、
洗いざらい私に話さなければならないわけだが、そうは言っても
恥ずかしかったのである。

 「お父様から鞭2ダースです」

 少し投げやりに話してカレンは下を向く。こんなこと、本当は
話したくない。そう思ってるのがありありと分った。

 「もっと詳しく聞きたいんだけど……そう、洗いざらい」

 「えっ」
 カレンは驚いたように一瞬顔をあげたが、その顔はすぐに横を
向いてしまう。

 「だって、お父様がいきなり部屋に入って来て2ダースの鞭を
振るったら、それでおしまいってことじゃないだろう?」

 「それは……そうです……けど」

 「お母様は何もしなかったのかな?」

 「…………」
 カレンは激しく頭を振る。
 それは肩まで伸びたロングヘアーが纏いのように振られて顔が
隠れてしまうほどだった。

 「こういう時は……お母様が、まず最初に何かするんじゃない
のかね」

 「えっ!………………あっ、はい」
 『えっ!』という声がして、しばらく間があったのち、『あっ、
はい』という言葉で締めくくられた。
 さっきより小さな、か細い声だ。

 「……………………」
 それからはわずかに鼻をすする音以外何も聞こえてこない。

 うつむいた少女の簾のような前髪の奥で光るものが、真珠の涙
だとは知れていたが、私も役目柄、妥協はできない。

 懺悔聴聞僧というのは単なる聖職者ではない。その子が犯した
罪の償いを、非公開にして、かつ許すことのでる立場にあるのだ。
だからこそ一連の出来事の全てを知っておかねばならなかった。

 そうでなければ『この子はすでに神への懺悔を済ませており、
これ以上のお仕置きは無用です』というお墨付きを渡せなかった
のである。

 そんな私の立場を彼女も理解した……というより決心がついた
のだろう。
 ある瞬間、顔がきりっと締まる。

 「最初、母から浣腸を受けました」

 「そうですか。それは純粋にお仕置きとして?それとも、罰を
受ける準備としてですか?」

 「それは……」
 カレンが思わず後ろを振り返ったので……

 「分からないのなら、それでいいですよ。あなたが思った通り
に答えればよいのです。あなたはお母様からお浣腸………あっ、
そうだ、あなたは女の子ですからね、やっていただく方に敬意を
払う意味からも『浣腸』ではなく『お』をつけて『お浣腸』って
よんだ方がいいですね」

 「はい、ごめんなさい。お母様からお浣腸をいただきました」

 私が細かなことを指摘すると、カレンも素直に応じた。

 「そうです。お仕置きは、どこまでもあなたの事を思って目上
の人がなさるわけですから、『やられた』『された』は失礼です。
『していただいた』と言わなければなりません。学校でもそれは
習ったでしょう?」

 「はい、司祭様」

 「よろしい、ここではそうした従順さが、あなたを幸せに導く
んですよ。なぜだか分かりますか?」

 「いいえ」

 「ここは教団の中でも徳の高い人たちで構成された村ですから、
他のどんな村と比べても民度が飛びぬけて高いんです。ですから、
相手が誰であろうと、その人がこの村の人なら、あなたの立場や
気持を十分に察してくれるはずです。……大事なことは一つだけ」

 「一つだけ?」

 「そう一つだけ。何だか分かりますか?」

 「…………」
 カレンは首を横に振った。

 「それは嘘をつかないこと。相手にもそうですが何より自分に
嘘をつかなければ、それだけであとは何もしなくても、あなたは
自然に幸せの方向へと導かれます」

 「うそ……今どき晒し台のある村なんて……まるで中世……」
 カレンの口から思わず本音が飛び出す。

 しかし、それこそがここが幸せな村と呼ばれる証だった。

 「(はははは)嘘じゃありませんよ。あなただって、この村に
いるだけで幸せになります……晒し台ですか?……でも、それで
噂を立てられた子はいないはずですよ。日曜日のミサの会場では
神父様にお尻を叩かれる子がたくさん出ますが、それを理由に、
からかわれた子がいますか?いないでしょう?民度の高いこの村
では、どんなに厳しいお仕置きがあった後でも、それがからかい
や虐めに発展することがないんです。だから、大人たちも心置き
なくお仕置きができるし、よい子が増えるというわけです」

 「……????……」

 「(はははは)よそで暮らしたことがないから分からないです
ね。でも大人になって他の街や村で暮らしてみれば分かります。
お仕置きのできる村がどんなに幸せな村か……」

 私は持論を展開してカレンを説得しているつもりが難しい顔を
している彼女を見て思わず吹いてしまう。

 そんな私の顔を見て、カレンもつられて笑顔になった。

 「……さてと、それではこれからも正直に答えてくださいね」

 「はい、司祭様」
 珍しく涼やかな声が礼拝堂の天井まで届いた。

 「お浣腸を受けた時、あなたはどんな姿勢でしたか?仰向け?」

 「はい」
 小さい声だが、ほんの少し元気が戻ったようだ。

 「赤ちゃんがオムツ替えする時によくやる、あのポーズだよね」

 「そうです」

 「君の歳では恥ずかしいだろう?」

 「今じゃなくても、ずっと前からものすごく恥ずかしいけど、
お母さんがそれ以外の姿勢は認めないって言うものですから…」

 「周囲にいたのはお母さんだけ?」

 「当然、そうです。……でなきゃ、自殺します」
 カレンが語気を強める。そこには『もうこんな話させないで!』
という思いが込められていた。

 「おやおや、自殺だ何て穏やかじゃないな。神様は自殺した子
の面倒まではみてくださらないよ。宗教の時間に習っただろう?」

 「はい、わかってます。そんなこと」
 今度はちょっとふて腐れぎみに答えた。

 「で、浣腸液は?……石けん水?それとも、グリセリンかな?」

 「グリセリンです。うちは厳しくていつもグリセリンなんです」

 「量は?……どのくらいだったの?」

 「………………」
 私が尋ねると、カレンは再び下を向き、恥ずかしがった。

 でも、こんな質問にもカレンは答えなければならない。
 もちろん、こんな懺悔の席で中年オヤジに語るのは嫌だという
のなら、日曜日の子供ミサのあと、みんなの見ている前で神父様
から鞭打ちというのでも、それはかまわないわけだが、そちらを
選択する子は稀だった。
 
 「だいたい100㏄くらいです。家にあるガラス製の浣腸器は
50㏄用なので二回やると、100㏄ですから」

 きっと娘の窮状を見かねたのだろう、私の質問に答えたのは、
カレンの背中に張り付く母親の方だった。

 「お母さんは黙ってて……これは娘さんに答えてもらわないと
意味がありませんから」

 私は心配性の母親に注意する。
 もっとも、こうした情報は懺悔が始まる前に直接その母親から
聞き取って情報を得ている。娘がどんな罪を犯したのか?それに
対し家ではどんなお仕置きをしたのか?懺悔の後は、どんなお仕
置きを希望しているのか?などなど私のノートには細かな情報が
びっしりと書き込まれていた。私はそれを見ながら子どもたちの
懺悔を聞いていたのである。

 「さて、と……それは中学生になってから多くなったのかな?」

 「なりました。小学生の頃はイチヂク浣腸でしたから」

 「どのくらい我慢したの?」

 「小学生の時は長くても10分だったけど……今は、20分も
我慢しなきゃいけないんです」

 「我慢できたのかな?」

 「………………」
 私の質問にカレンの顔が強張る。
 言葉は発しなくてもそれは答えたのと一緒だった。

 「オムツは?穿いてたの?」

 「……………………はい、今日は許さないからって言われて」
 しばらく間があって、蚊の鳴くような声が返って来た。
 それが今の彼女には精一杯の答えだったに違いない。

 「そのあとは……」

 私がその先を尋ねると……

 「その先って……」
 カレンはとぼけた。

 『その先は言いたくない』ということなんだろうがそれを許す
わけにはいかなかった。私の仕事はカレンの行いのすべてを彼女
自身から聞き出して、その行いに最もふさわしい処置を施すこと。

 彼女にとって私は検察官であり、弁護士であり、裁判官だった。
そして、処置が決まった後は、刑吏であり、保護司でもある。
 そう、私は彼女の為に一人何役もこなさなければならなかった
のだ。

 「お父さんが帰って来るまでベッドの上に仰向けで寝て、両足
を高く上げて待ちます」

 「お浣腸の時と同じ姿勢で待ってるわけだ。恥ずかしいよね、
それは……女の子だもの」

 「はい」

 「パンツを脱いで待つんだろう?」

 「ええ」

 薄暗い小部屋、網目の細かい金網越しでは相手が泣いているか
どうかはっきりと見る事はできないが、その息遣い、鼻をすする
音などから泣いているのを必死に隠そうとしているのがわかった。

 この恥ずかしい姿勢をとって父親は待つ習慣は何もカレンの家
だけではない。この村の中では、ごく一般的な女の子のお仕置き
となっていた。ただ、あらためてその様子を自分で語るとなると
それはまた別の話なのかもしれない。

 「風邪ひかなかったかい?」

 私が尋ねると、再び母親が娘の肩越しに声をかけてくる。
 きっと、娘の窮地を見ていられなかったのだろう。

 「大丈夫です、司祭様。この子がその姿勢になるのは、主人が
玄関のドアノブを回した後ですから……その時、私が足をあげる
よう指示するんです」

 「なるほど、私の子供時代は母親から『オシオキだ』と言われ
延々恥ずかしい姿勢のまま待たされて、風邪をひくこともありま
したが、最近はどこの家庭でもそのあたりは合理的みたいですね。
いいことだと思いますよ」

 「ありがとうございます」
 母親が礼を言う。

 本当は、本人と私だけで進めていかなければならない懺悔だが
あまりに杓子定規だと女の子というのは意固地になるからそこは
臨機応変に対応した。
 実際、自分の恥ずかしい情景を女の子に語らせるのは酷だった。

 「それで、お父さんはあなたのそんな姿を見て、どんな判断を
されたのかな?」

 「お父さんがイスに座って、そのお膝の上に寝てお尻叩きです」

 「いくつぶたれたの?」

 「50回です」

 「痛かった?」

 「………………」
 カレンは答えない。
 しかし、泣いているわけではなかった。

 細かな金網の奥にある少女の瞳は、私に向かって『当たり前の
ことを聞くな』と怒っているようにさえ見えたのだった。

 実際、父親のスパンキングがどれくらい痛かったのか、経験の
ない私には分からないが、ほとんど家庭で、幼児のころから親に
お尻を叩かれ続けているこの村の子どもたちは、たとえ中学高校
となっても両親の膝にうつ伏せにされただけで顔が青ざめるのだ。

 幼い日の恐怖体験が身体が大きくなった今でも心に残っている
ためで、中学生の男の子でも親の膝の上にうつ伏せにされた瞬間、
気が違ったように泣き叫んだり、恥も外聞もなく親に許しを請う
子が珍しくなかったのである。

 だから親の方だって、特殊な趣味でもない限りそんな哀れな子
の尻を強くは叩かない。

 特に異性である父親は母親以上に娘に対しては気を使うようで、
私の過去の経験から推察するに、50回程度のスパンキングなら、
結果はお尻が程よく赤くなる程度。ウォーミングアップで終了と
いったところだ。

 しかし母親の話によると、この時のカレンは、ドアの向こうで
立ち聞きしている妹たちが満足するほど大きな悲鳴をあげたよう
だった。これはこの時だけ父親が特別強く叩いたということでは
ない。
 『父親のお尻叩きはとっても痛い』という幼児期の摺り込みが
高校生になったカレンに子供のような悲鳴を上げさせるのだった。

 また、子どもというのは不思議なもので、自分もまたお仕置き
される身でありながら兄弟姉妹のお仕置きを見たり聞いたりする
のは大好きである。
 きっと父母の愛情を奪い合う関係にある彼らはライバルの失態
が面白くて仕方がないのかもしれない。

 世間では、他の兄弟にとっても他山の石となるようお仕置きを
公開する親がいるが、『明日はわが身』などというネガティブな
格言は、実は大人だけのもので、子供に求めても徒労に終わるの
が普通だった。

 私たちが日曜日のミサの後、悪さをしたり、怠けたり、規則を
破った子供たちをお仕置きとして公開処刑しているのも、べつに
他山の石を期待しているのではない。
 これはあくまでリクレーション。『異性の裸を見てみたい』と
いう素直で素朴な子供たちの欲求に答えているにすぎないのだ。

 そして、それは『子どもは身も心も無垢なままに育て、全てに
隠し事を認めてはならない』とする教団の教えからもきていた。

 さて、ウォーミングアップが終われば、次は本番だった。

 「お父さんのお仕置きはそれだけだった?」
 私が意地悪く尋ねると、金網の向こうでカレンがすねているの
が分かる。

 「………………」

 ごく幼い子ならいざ知らず、もうすぐ中学校も卒業という子が
お膝の上でのお尻ぺんぺんだけですむはずがないからだ。

 もちろん、その後カレンが両親から何をされたか、私が視線を
落とせば、そこに広げられたノートにそれは書いてある。
 しかし、それを見て私がしゃべったのでは懺悔にはならない。
あくまでカレンが自らの口で語る必要があったのだ。

 「鞭で二ダースぶたれました」

 「ほう、それは大変だったね。痛かったでしょう」
 私は、この情報に初めて接したかのような顔で答える。

 「はい……」

 「どんな鞭だったの?」

 「ゴムのパドルです。ベッドフットにうつ伏せになって……」
 カレンが渋々答える。さながら答えてあげてると言わんばかり
の鼻息がこちらまで伝わってくる感じだった。

 「そう、怖かったでしょう」
 と問うと……
 「ええ、まあ……」
 気のない返事が返ってくる。

 これは大したことないという意味ではない。恐ろしい事実とは、
正面から向き合いたくないという彼女の心情を表していた。

 父親は自分の膝に乗せて平手でお尻を叩く時には気を使うが、
こうやって鞭を使うときは、男の子の8割くらいの力。けっこう
しっかり叩く父親が多いのだ。

 というのも、女の子の場合、父親が使う鞭はたいていがゴム製。
少しぐらい強めに叩いても傷が残る心配がないというのだろう。
さらに言うと、膝の上に置いた時は気にしていた自らの体の変化
を今度は気にせずにすむというのもその理由の一つのようだった。

 どこの家の娘たちもこんな時には、ベッドフットに腰を乗せて
両足は爪先立ち。ふかふかベッドに顔を沈めると両手でしっかり
シーツを掴んでその時を待っていなければならない。
 ちなみに、お浣腸を受けてうんちを我慢する時も、これと同じ
姿勢。
 ベッドフットはお仕置きには欠かせない器具だったのである。

 さて、そうやって動きを止められたところへ男がいよいよ本性
をあらわにしてこちらへとやってくる。
 これが怖くないはずがなかった。

 「いくつぶたれたの?」

 「お母さんのお財布からお金を盗んだことで12回と……えっ
……そのう……オナニーをやったので12回でした」

 カレンは勇気を振り絞って答える。

 「そう、……それで、お母さんのお財布から取ったお金で何を
買ったの?」

 「何をって……友だちと街まで行って……一緒に映画観て……
デパートでブローチ買って……」

 「それだけで、使い果たしちゃった?」

 「……(うん)……」
 カレンが頷く。

 どうやら、カレンが母親からくすねたお金はそれほど大金では
なかったみたいだ。

 そう思っていると母親がカレンの背中越しに……
 「あと、本を買ったみたいなんですが、これがいやらしい本で
……それで……そのう~それでオナニーを……」

 「なるほど、その本というのは……写真集とか……絵画集?」

 「いえ、文庫の小説でして……」

 「小説?……作者は?」

 「たしか、清水正二郎とか……」

 『なるほど……奴の本か……』
 私は心の中で思う。清水正二郎氏はその当時多くの性豪小説を
執筆していたその道の第一人者で、西洋の鞭撻小説風なのものも
多かったが、さて、翻訳物と見えて、実は自身の純粋な創作物と
いうケースも多かったようだ。

 『こんなものを読んでオナニーをしているようなら、こうした
催しもまんざらではないのかもしれないな』
 私は、それまで許してしまおうという思いを。ここで修正して
しまう。

 『この子も、もうそんな時期になったのか』
 私はカレンの幼い頃を知っているだけに感慨深げだった。

 「たしかに、彼の作品は誰でも読める平易な文章だから面白い
のかもしれないな」

 「先生!」
 思わずカレンの背中から眉をひそめた『先生』の掛け声。

 「司祭様は清水さんの小説を読んだ事があるんですか?」
 カレンも意外だったのか、思わずといった顔で私を見つめる。

 「研究のためにね。ここにはオナニーの問題で訪ねて来る子も
多いから何でも一応どんなものかは知っておかないと……」

 私は涼しい顔で応対したが、これはあくまで立場上の嘘。
 私だって若い頃はポルノ小説のたぐいを読み漁っていた時期が
あるのだ。

 「女の子のオナニーがここでは禁止されてるのは知ってるよね。
しかも、当時、君はまだ小学生だったから、ご両親も心配されて、
最初は担任の先生にご相談されたんだけど、そうした事は倫理の
問題だからって、私の処へお話が回ってきたんだ。あの時のこと、
まだ覚えてるかい?」

 「はい」

 「どんなお仕置きだった?」

 「………………」
 私の質問にカレンの顔が真っ赤になる。

 恐らくその時の情景がフラッシュバックしたのだろう。
 これまでも恥ずかしがって紅潮するカレンの顔は見てきたが、
これほど赤い顔は初めてだった。

 それでも、言わなければならないと感じたのだろう。ポツリ、
ポツリと語り始めた。

 「最初にお浣腸をしていただきました。……たくさん我慢した
けど……でも、我慢できなくて……結局、オムツにしちゃって…
…罰として、お股の中にお灸を据えられて……」

 「いくつ据えられたか、覚えてるかい?」

 「たしか……三つです」

 「そう、ちゃんと覚えてたんだ。偉い、偉い。中にはせっかく
してあげたお仕置きを忘れる子がいてね。そういう子は再び同じ
過ちを繰り返すから困りものだ。今度はもっと厳しいお仕置きを
しなくちゃならなくなる。あの時は、会陰という場所に一箇所と
大淫唇に二箇所据えてあげたの。ここでお股にお灸を据える時は、
たいていその三箇所が多いんだ。……それからどうなったの?」

 「それから……あとは……司祭様のお膝で、お説教されながら
お尻を百回叩かれて……テーブルに乗せられて……鞭のお仕置き
だったんですけど……痛くて、飛び降りちゃったから……今度は
お母さんに頭を、お父さんに足を押さえてもらって……」

 「鞭のお仕置きは飛び切り痛いからね。紐やベルトで縛っても
いいんだが、無機質なものより君が愛してる人に抑えてもらった
方がより効果があるだろうと思ってね、やっていただいたんだ。
お仕置きというのは愛を形にしたものだから、痛みの量より誰に
やってもらったかが大事なんだ。カレンは私からお仕置きされる
のは嫌いかね?」

 「えっ!?」
 カレンは予期しない質問に驚き少し狼狽しているみたいだった。

 「私が嫌なら何も無理することはないんだ。他の懺悔聴聞僧の
ところへ行ってもいいんだよ」

 私が水を向けると……
 「…………」
 カレンは激しく首を振る。

 幼い頃からお仕置きのためだけに連れて来られる場所には違い
ないが、それでも、未知の恐怖よりはましということだろう。

 「それから二週間、陰部に手が触れないように貞操帯を着けて
貰ったけど、あれもよく頑張った。女の子は我慢するってことが
大事なんだ。わかるかい?」

 「はい」

 「辛い思い出を蘇らせてしまったかもしれないけど、女の子の
場合、オナニーは慎んだ方がいいからね。君だけじゃないんだよ。
最初にわかった時点でちょっぴり厳しいことをするんだ」

 「……わたし……あれからは、ずっとやってません」
 震える、怯えた声が私の耳に届く。

 これはもちろん嘘。男の子であれ女の子であれ一旦味わった蜜
の味はそう簡単に忘れることができない。
 カレンだって、貞操帯が外れた後は幾度となく楽しんだに違い
なかった。

 ただ、女の子の場合、あまり幼い頃からオナニーを続けると、
自然とその顔、その仕草から清純さがなくなり、男の目からは、
いつも物欲しげにしている女と評価を下げてしまう。
 それは親の立場からすると『良家に嫁がせ専業主婦で夫婦円満
に暮らす』という人生設計を危うくしかねない大問題だったのだ。
 だから良家の娘であればあるほど、『たかがオナニー、若気の
至り』ではすまなかったのである。

 「わかってるよ……今回、たまたま手が滑ったんだろう」

 私がそう言って彼女を見つめると……カレンは恥ずかしそうに
伏し目がちになる。

 この自然な仕草が悪癖に染まった子にはできないから、カレン
はまだまだ初な生娘として大人たちから認知されているのだった。
 この財産をカレンの両親、学校の先生たち、そして私は守って
あげなければならないのだ。

 「ただね、君がオナニーをやってしまったことに違いないわけ
だからね……その事は知ってると思うけど、女の子というのは、
男の子以上に厳しい罰を受けなければならなんだ」

 「どうしてですか?どうして女の子だけ厳しいんですか?」

 「ほう!」
 カレンの言葉に私は目を丸くした。

 常に『清楚、勤勉、恭順』が求められる村の女の子たちの中に
あって、目上の私に議論を吹っかけるというのは大変珍しいこと
勇気もいることなのだ。
 だからその瞬間だけはたしかに驚いたが、それって、彼女が、
子供から大人へと成長した証のようなものだから、それ自体は、
べつに苦にはならなかった。

 「それはね、男の子と女の子では神様がお創りになられた体の
成り立ちが違うからだよ。それに従って社会での役割も違うよね」

 「はい」
 カレンが静かに頷く。
 ここまでは彼女にとっても問題のないことだったのだ。

 というのも、この村では良妻賢母が当たり前の社会。女の子が
本気になって働くなんて、恐らく未亡人になった時ぐらいだろう。

 「女の子は、身体の構造上、雑菌が体に入りやすいものなんだ。
少なくとも元気な赤ちゃんを産むまでは完全な健康体でいなきゃ、
せっかく新しい命を授けてくださった神様に申し訳ないだろう?」

 「…………」

 「それに……これは女の子の君には理解できないかもしれない
けど、男の子と女の子では、欲求の度合いが違うんだ。女の子の
欲求は、我慢しようとすればできる程度のものだけど、男の子の
場合は無理して止めるとかえって心身を蝕んでしまうほどの強い
もので、自分の意思ではどうにもならない部分もあるんだよ」

 「…………」
 カレンは納得していなかったが、男の身勝手、不条理な理屈、
と思われても、当時の社会的な常識ではそう答えるしかなかった
のである。

 私はカレンの熱を冷ますため少しだけ間を置いてから、彼女に
こう次げたのである。

 「カレン、君が元のよい子に戻るためには、鞭によるお仕置き
が必要だと思うだけど……どうだろう?」

 「……はい、わかりました」
 私の提案に、カレンは割とはっきりした声で答えた。

 「お母さんのお金を盗んだ事で鞭12回。オナニーについては
女の子のことだから厳しいよ。鞭18回が必要だと思うんだが、
どうだろう?……受けるかね?」

 「はい、受けます」
 その声は健気とさえ思えたのである。

 こうして懺悔に来る子は最初から親に説得されて来る子が多い。
親は、とにかく本人の為に罰を受けさせたいのだ。そして本人も
また、ミサの会場でお尻を出す屈辱を思えば仕方がないと思える
のかもしれなかった。

 だから私の処へ懺悔に来た段階でお仕置きは既定の事実なのだ
から今さら抵抗しないというわけだ。

 ただ、そうは言っても鞭打ちを宣告されて平常心でいられる子
は少ない。なかには両手を組んで祈りを捧げるために設置されて
いる懺悔室の小さな机にしがみ付いて離れない子や刑の執行の為
に懺悔室の扉を開くと、私の両足に抱きつき、今さらながら哀れ
みを込めた謝罪を繰り返す子もいる。

 人間、誰だって往生際は悪いのだ。
 ただ、いったん決心してしまうと、実は男の子より女の子の方
が度胸が据わっているのも不思議なことだった。

 カレンも、私が懺悔室の扉を開けて迎えに来てた時、ことさら
慌てふためく様子は見せなかったのである。

 「大丈夫かい?……立てる?……長い時間膝まづいてたからね。
足が痛かったら、少しここで休んでからでもいいよ」
 私は心配気げに寄り添っていた母親を気遣ってカレンを丁寧に
エスコートする。

 母親にとっては、自分で決めたお仕置きであっても、それは、
あくまでカレンを思っての事。いくら多くの村人から信頼されて
いるとはいえ、娘のお仕置きを赤の他人に任せるのを心配しない
親などいなかった。

 『とにかく厳しくなければ効果がないのは理解できる。しかし、
厳しすぎて、その後、ぐれたり萎縮したりしないだろうか』
 母親はそう思っているに違いなかった。もしそうでなければ、
私は虐待の片棒を担いでいることになる。

 私は礼拝堂から続く長い廊下をカレンと一緒に歩いて懲罰室へ
と案内する。
 そこは地下室。頑丈なコンクリートの壁や分厚い扉に守られて
どんな悲鳴も外へは漏らさない構造だ。

 誰がよんだか、別名を『鉄の処女』。

 悪名高き拷問器具と同じ名前をいただくこの部屋は入室条件が
10歳以上となっているが、誰もがカレンのように『おしとやか』
とは限らない。まるで幼児のようにお尻を床に着けて必死の抵抗
を試みる者やもの凄い嬌声をあげながら入室する子もいる。

 だから、素直に入室してくれた子には必ずその子を抱きしめる
ことにしていたのである。

 思春期の娘だ、普段ならむくつけき男の抱擁など断固拒否する
ところだろうが、それだけここが恐ろしい場所だと知ってるせい
だろうか、拒否する子はほとんどいなかった。

 部屋に入ると正面に大きな女神様の油絵がある。
 『慈愛』という題がついているが、この女神様、キューピット
を膝に上に抱いてお尻を叩いている。
 
 そもそもお仕置きは慈愛から起こるもの。虐待ではないという
メッセージなのだ。

 そうはいっても、この部屋にある色んな器具や道具は幼い子を
黙らせ、震え上がらせるには十分な装置だった。

 お尻を叩くためだけに作られた『うつ伏せ用お尻叩きテーブル』
をはじめ、恥ずかしい姿のまま身体を固定する『浣腸用ベッド』
や『お灸用ベッド』。コーナータイムの時、膝まづいた足の脛に
敷く『洗濯板』だって子供にとっては怖いものの一つだ。その他、
事情によっては『導尿』や『蝋燭責め』なんてことも……

 まさにこうしたことは巷でならSMの域なのかもしれないが、
その子の親はもちろん、学校の教師、聖職者……この村の誰一人
としてこれをSMと呼ぶ者はいなかった。
 これはあくまで懲罰、子供用のお仕置きだったのである。

 だから、いくら厳しくても、将来のある子ども相手に痕が残る
ようなことまではしないのだが、逆に、子どもであることを理由
にしたハレンチな体罰は多くて、ここにやってきた子どもたちの
大半が、大人たちの前では身体のどんな場所も隠すことを許され
ないと悟ることになるのだ。

 男女は問わない。ローティーンの子はもちろんハイティーンの
娘でもそれは同じだったのである。

 実はカレンがこの部屋を訪れるのは何も今回が最初というわけ
ではなかった。最近こそご無沙汰だったが、小学四年生から中学
一年生頃までは、一学期に一回くらいのペースでお世話になって
いた。

 テストの点が悪い。親や教師に反抗的な態度を取った。友達と
喧嘩をした。卑猥な落書きが見つかった。等々、理由は様々だが、
女の子の場合はさらに『身だしなみがだらしがない』というだけ
でも立派なお仕置き理由だったのである。

 もちろん、これはカレンが特別というのではない。この村では
男女を問わず第二次性長期が始まるころを狙って仕付けを厳しく
する。

 各家庭で、学校で、教会で、大人たちの申し合わせがなされ、
子供たちにはきちっとした生活態度が求められる。そしてそれが
ちゃんと出来ているのか、常に大人たちの目が光っていたから、
普段は問題ないように見える子供でも、どこかで引っかかって、
ここに送られてくるはめになるのだった。

 つまり、この年代はお仕置きラッシュ。
 一学期に一回どころではない。月に一回、十日に一回、はては
先生に目をつけられたお転婆さんだと三日にあかさずということ
だって……。
 お猿さんのようにお尻はいつも真っ赤々で少女らしい白い肌に
戻る間もない子が沢山いたのだった。

 そんな子に比べればカレンはごく普通のお嬢さんだ。

 しかし、そんな厳しい時代も中学二年生からは徐々に自主性を
認められるようになるため、お仕置きの回数も減って、この部屋
ともご無沙汰になる子が多くなる。

 カレンもそんな一人だったわけだが、だったらこのままずっと
この部屋と関わらず過ごせるのかというとそうはいかなかった。

 15歳になろうが、18歳を越えようが、たとえ22歳で大学
を卒業しても女の子は女の子。お嫁に行くまではその家の子供に
違いない。
 そこで、今回のような事があると、幼い日と同様、暗くて狭い
懺悔室で司祭の臭い息を嗅ぎながら懺悔して、あげく二度と行き
たくないと思っていたこの部屋へ連れ戻されるはめになるのだ
った。

 カレンは部屋に入るなり、私の助手となってお仕置きを手伝う
シスター・マーサを見つける。
 すると、「こんにちわ」と挨拶した。

 たしか三年前、カレンが最後にここを訪れた時は、ドアの前に
立っただけで顔面蒼白。唇が紫色に変色し、全身に鳥肌をたてて
震えていた。とりわけ膝が笑っている姿がまるでおしっこを我慢
しているように見えて思わず笑ってしまったのを覚えている。

 幼い子の事である。たとえ過去に何度か経験があったとしても、
自分を責め立てるおどろおどろしい器具を目の当たりにすれば、
その瞬間、足がすくみ、頭の中は恐怖でパニックとなり、自分は
これからどうなるんだろう、という思いだけが心の中を駆け巡る
ことになるのだ。
 自分の事で精一杯、というのが本当のところかもしれない。

 そんな幼い日の思い出に比べると今回は自分をお仕置きする人
に挨拶までしたのだから、カレンもそれだけ大人になったという
ことなんだろう。

 しかし、それだけ大人になったということは羞恥心もそれまで
以上ということで……私は付き添うカレンの母親に訪ねてみた。

 「お母さん、カレンは家を出る時、用を足してきましたか?」

 「はい、懺悔の時はお仕置きをいただくこともあるからトイレ
にだけは必ず行っておくようにと……」

 「それは、グリセリンを使ってですか?」

 「はい、日曜日のミサに出かける時は、いつもそうしています
から……今回もたぶん……」

 「たぶんですか……では、ご覧になりましたか?浣腸している
様子とか、トイレに駆け込んだ姿とか」

 「いえ、今日は忙しくてそこまでの確認はいたしておりません。
それに、もうそうした事は娘が嫌がりますので、娘を信用して…」

 私はお母さんから事情を聞くと、今度はカレンに……

 「カレン、まずは、お腹の中を空っぽにしてきた方がいいな。
鞭はそれからにしよう」

 すると、カレンの顔がほんの一瞬だけ曇った。

 その一瞬の表情を私は逃さない。
 『あれは嘘をついている目だな、困ったものだ』

 すると、すぐに気を取り直したカレンが自信をもって……
 「大丈夫です。家でやってきましたから」
 と、宣言はしたものの、私は信じなかった。

 妙に高いトーンの声。顔だって、まるで道化師が観客に見せる
ような不自然な笑顔だ。高校生といっても実質は中学生のカレン、
嘘はまだまだ下手だった。

 実は、さっきの懺悔室で、カレンの身体に変化が起きている事
に私は気づいていた。
 懺悔室は夏でも冷ややか。そこに長い時間膝まづいていれば、
たとえ家で用を足して来ても、新たに生理現象が起こる事だって
十分ありえる。

 そこで、こうやって懺悔に出向く時は事前にトイレへ行くだけ
でなく、浣腸を使ってお腹の中を完全に空にしておく必要がある
のだが、カレンはそうした約束を守ってはいないようだった。

 年頃の女の子にとってお浣腸はたとえ誰が見てなくても恥ずか
しいもの。できれば避けたい行為なわけだから、幼い頃のように
親が手伝わなくなると、これ幸いとばかりに、やった振りをして
逃げる子も少なくなかった。

 「やりました。ちゃんとお浣腸でトイレをすませましたから」

 そんな親への嘘、私への嘘を隠すかのように、カレンは懺悔室
の時とはうって変わって明るく振舞おうとしている。
 その不自然な明るさが、かえって大人たちには『これ、嘘です』
と言っているようなものだったのである。

 「いや!」
 突然、カレンが悲鳴をあげる。

 原因は、マーサが場の雰囲気を察してカレンの背中に回り込み、
その薄い胸を羽交い絞めにしたためだった。

 私はマーサの機転に反応してカレンのスカートを捲り上げると
その下腹をショーツの上から揉んでみる。

 こんなこと、よその村の子にやったら大暴れかもしれないが、
カレンに限らず幼い頃から厳しく躾けられているこの村の子は、
ここで暴れたらどうなるか、その先のことまで知っていたから、
おとなしく私の右手の侵入を許すのだった。

 「しょうのない子だ。こんなに膀胱が張ってるじゃないか」
 強く握った右手の感触が張り詰めた膀胱の様子を私に伝える。

 予想通りだった。カレンは今の今でもオシッコに行きたいはず。
そんな膀胱の様子だった。このまま鞭によるお尻叩きを行えば、
失禁は間違いないところだったのである。

 「いいからオシッコに行ってきなさい。……マーサ、手伝って
あげなさい」

 私がこう言うと、カレンは顔を真っ青にして珍しく暴れる。
 それはこれから隣の部屋で起こる出来事が半端なくおぞましい
事だと知っているからだった。

 「いやあ~~やめて~~ごめんなさい、もうしませんから~~」
 まるで幼女のような諦めの悪い声が天井に反響して響き渡る。

 カレンの母親は、貫禄十分のマーサに細身の身体を押さえつけ
られ、まるで人買いにでもさらわれるかのようにして隣の部屋に
消えていく娘を複雑な表情で見送ると、あらためて、私に詫びを
入れてきた。

 「申し訳ありません、司祭様。私はてっきりあの子がお浣腸を
済ませて家を出たものだと思っておりましたから……」

 「いや、娘さんも15歳ですから、今が恥ずかしい盛りです。
お浣腸のような恥ずかしいこと、やりたくないと思うのは、当然
ですよ。……ただ……」

 私は言葉の最後で母親の顔色を探る。
 一瞬だが、彼女と目と目を合わせて、この先どうするかを尋ね
たのだ。

 答えはどうやら『お願いします』ということのようだった。
 何がお願いしますなのか……

 「ただ、こうした事は『カレンを慈しみ育てよ』との神の命に
背くことになりますからね、あなたにも少なからず罪はあるわけ
です。承知いただけますか?」
 私は母親に向かって意味深に問いかけた。

 「承知しております。どうか、存分のお仕置きをお願いします。
司祭様のお力で邪悪で怠惰な私の魂をお救いいくださいまし……」
 母親は私の足元に膝まづくと神への許しを請う。

 実は、懺悔聴聞は何も子供だけのものではない。むしろ保護者
である大人たちにとってそれは重要だった。

 子供の頃から親といわず教師といわず厳しいお仕置きを受けて
育った村人たちの中には、大人になってお仕置きから開放された
あとも、刺激の少ない日常生活に物足りなさを感じる人が少なく
ない。

 特に婦人の場合は、更年期を迎えて夫に相手にされなくなると
急に寂しさを覚え、誰かにかまって欲しくなるが、私たちの宗派
では不倫は大罪。そんなことがばれたら、村の辻にある晒し台に
一週間も裸で立たされ、朝昼晩と一日三回、自分の歳の数だけ鞭
打たれるはめになるから、火遊びをやるには、それなりの覚悟が
必要だったのである。

 ただ、そんな危険なことまではできないが、さりとて、単調な
生活に何らかの刺激は欲しいと思っている人は多いわけで……。
 そこで思いつくのが、子供の頃あれほどイヤだったお仕置きを
あえて受けてみようということ。

 実際、この村ではそんなアバンチュールを求めて懺悔聴聞僧を
口説くご婦人が少なくなかったのである。

 私も、本来は子供からのみ懺悔を受けつける若年聴聞僧だが、
求められれば婦人の悩みにも答えるようになっていた。

 『はて?このカレンの母親も、あえてカレンがお浣腸を逃げる
ように仕向けていたのではないだろうか』
 私はそんな疑念すら持ったのである。

 「ここへ……」
 私は母親に鞭打ち用のテーブルを指し示す。

 うつ伏せになった母親はカレンとは違う大人の体。ペチコート
ごとスカートを巻くり上げると、そこにたっぷり脂の乗ったお尻
がいきなり現れる。おまけに、数日前、おそらくは夫から受けた
であろう鞭傷が、そこにまだ生々しく残っていた。

 「神の御名において、Marie・Fujishimaに取り
付く悪魔の魔の手を取り払わん。神より授かりし麗しき魂の永遠
なれ」
 私は、こう言ってケインを振り下ろした。

 「ピシッ!!!」

 「ああああああっ」

 鞭は甲高く天井に響き、アンナの苦痛は低く重く床を這う。

 もちろん、これがカレンならこんなに強くは叩かないが、母は
娘時代から色んな場所で色んな人からこんな鞭を山ほど授かって
大人になっている。
 私が思い切り打ち据えてみたところで、蚊に刺されたほどにも
感じていないはずなのだ。

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 「ピシッ!!!」
 「ああああああっ」

 私は私なりに力を込めて、まるで大きな座布団のようなアンナ
のお尻を打ち据え、アンナもそれを受けて、大儀そうで苦しそう
なうめき声をあげ続けてくれる。

 しかし、それは私の鞭によってそうなったというより、辛く、
恥ずかしかった娘時代を思い起こす呼び水として私から何らかの
刺激を受けたかったということだろう。

 幼き日に受けたお仕置きの思い出が快楽の源泉となっているの
は村の中にあって何も彼女だけではない。

 真理絵はこのまま家に帰れば、夫にさらなる鞭を願うかもしれ
ないし、あるいは一人でオナニーにふけるかもしれない。
 しかし、これはあくまで分別のある大人たちの遊びであって、
私もその奉仕者の一人にすぎないのだ。
 もちろん私たちの宗派にあって、これは罪ではなかった。

 ただ、それはあくまで幾多の試練を乗り越えて成人した大人の
お話。まだ分別のないカレンがそれを求めることはできない。
 彼女は、まだ自分の心をコントロールする訓練を受けなければ
ならない身。つまり教育を受ける身なのだ。

 だから大人の楽しみをフライングして望むようなことがあれば
悲劇はさらに増幅されることになる。

 「いやあ~~もうだめえ~~出ちゃう、もう出ちゃうから~」
 真理絵への奉仕が終わる頃、カレンの悲痛な声がドアの向こう
から漏れてくる。

 「では、参りましょうか」
 私はほんの少し上気した顔の真理絵の手をとってテーブルから
下ろすと、一緒に娘の待つ部屋へと向かう。

 そこで、今、何が行われているか、私も、アンナも、もちろん
承知のうえのことだった。

 カレンのいる部屋は『浣腸部屋』と呼ばれて、文字通りお浣腸
を行うための部屋。イチヂク浣腸に始まり、まるで大きな注射器
のようなピストン式浣腸器や水枕のようものを高く吊るして行う
イルリガートル(高圧浣腸器)ってのもある。

 多種多様な器具と液剤。仰向け、うつ伏せ、つるし上げ…など
どんな体位にも体を固定できる内診台やベッド、滑車なども備え
つけられていて、一度ここで痛い目に遭った子は、二度目は部屋
のドアを見て泣き出すと言われるほどだった。

 見れば、カレンはすでに浣腸を終えて壁に向かって抱きついて
いる。便意を我慢させる方法も色々あって必ずしも体を固定させ
るわけではないが、恐らくマーサが、私とカレンの会話から気を
利かせて厳しい処置をとったのだろう。
 大きなオムツのほかは何も身につけず、壁の前に膝まづくと、
両手を水平にして一杯に伸ばしたところで、手首を革のベルトで
固定されている。

 さながら壁を抱くような姿勢で必死に便意に耐えているのだ。

 カレンは、私たちが部屋の中に入って来たことは承知していた
だろうが、とても挨拶のできる雰囲気ではなかったのである。

 「どのくらい経つね?」

 私はマーサに尋ねると……。
 マーサの答えは……

 「12分です」

 「おう、よく頑張ってるじゃないか。三年前は速攻でお漏らし
したから、この子はよほど肝が据わっているのか、それともまだ
羞恥心が芽生えていないのかって、逆に驚いたりもしたものだが、
こうしてこみると、人並みに羞恥心が育ってるみたいだな。……
いや、なによりだ」

 私はカレンが嫌がる言葉をあえて使って様子を見た。
 長年の経験のなせる業だろうか、子供たちの心のうちはたとえ
顔を見ずともわかってしまう。とりわけその子が改心しているか
どうかは褒め言葉ではわからないが、腐るようなことを言われる
と、その子の本心がでる。

 こんな取り込んだ中でも冷静に私の言葉を聞いているカレンの
後姿は私の基準では合格だった。

 ただ、この浣腸は私たちの世界ではそれ自体お仕置きではない。

 あくまでお仕置きの前にお腹を空にして粗相が起きないように
つとめるのが目的なのだが、子どもたちにとっては、恥ずかしさ、
不快感、苦痛など、大人たちに監視されながら強烈な下痢と戦わ
なければならないのだから、これはもうお仕置きの一部、避けら
れるものなら避けたいと思うのが人情というものだ。

 私はそうやって大人たちの理不尽と戦っているカレンの処へと
近づく。
 しかし、それは励ましではない。彼女にとっては残酷な宣言を
伝えるためだった。 でも、役目柄、仕方がなかったのである。

 「カレン、さあ、もういいよ。出してしまいましょう。あまり
長いことやってると、体に悪いから……」

 私が膝まづいた少女の耳元でささやくと……

 「トイレ、トイレ、トイレに行きたいんです。お願いします」

 それは哀願というべきだろう、弱弱しい声だった。
 少し前ならそれももっと大きな声で叫んでいたかもしれないが、
今はそれすらできない状況にあるのだ。

 何をしても、ちょっとした刺激でもそれは噴き出してしまうの
だから……

 しかし、私はさらに残酷なことを言わなければならない。
 「もう、オムツを脱ぐ余裕はないんだ。…………ね、このまま
オムツにやってしまおう。マーサもお母様もいらっしゃる、後は
みんなで手伝ってあげるから」

 こう語りかけたが……

 「いや、絶対にいや!独りでやります!」
 首を振り、できる限りの声を上げ、全身を震わせて嫌がる。

 もちろん、これはカレンにとって譲れない希望なのだろうが、
私もまたそれを認めるわけにはいかなかった。
 というのも、カレンには新たに罪が発生しているからだ。

 「そう、なら言うけどね、カレン。この村では嘘つきは泥棒と
同じ罰を受けるのは知ってるよね。この村は外の世界と比べても
とりわけ嘘には厳格なんだ。ついて良い嘘は他の人を守る時だけ。
自分を守る為の嘘は絶対にだめだって、君のお尻にも書いてある
はずだよ。このことでは大半の子がそれで親や先生や私にお尻を
ぶたれた経験があるはずだから」

 「うん」
 カレンは小さく頷いた。

 「カレン、君におトイレを使わせてあげせれないのは、さっき
君が『おトイレは浣腸を使って済ませてきました』って私に嘘を
ついたからだ。鞭を増やしてもいいけど、女の子のお尻をあまり
傷つけたくないからね。こちらにしたんだ。君ならそこの処は、
分かってくれるとおもったんだが、君もまだ子供だな」

 「…………」
 カレンは口惜しそうに下唇を噛むと、私とは反対側を向く。

 それは一見すると改悛の表情のようにも見えるが、特に女の子
の場合、それは『何とか言い逃れる方法はないか』と、この期に
及んでも必死に頭を巡らせている場合がほとんどだった。
 そのあたりカレンとて女の子の例外ではないだろう。

 ただ、平静な時ならそこで何か思いつくのかもしれないが、今
の今、彼女に妙案など浮かぶはずがなかった。とにかく今は一秒
一秒が貴重なのだ。我なんて通してる暇はなかったのである。

 『もし爆発しら……』
 そう考えると、身の毛がよだつ。女の子にとっては、この世の
終わりにも匹敵する出来事が待っているのだ。妥協できるものは
全て妥協してでも惨めな姿だけは見られたくない。
 今はそう思っているに違いなかった。

 大半の子がこれをお仕置きだと判断するように、カレンもそう
判断するだろうと思い、私はマーサに、『グリセリンはたっぷり、
オムツも大きなものを穿かせなさい』と命じたのだった。

 女の子は表面上は順法精神で柳に風とばかり何にでも迎合する
ように見えるが、実は芯の部分は男の子以上にしっかりしている。
 SMチックで残酷に見えても、『お互いに嘘や隠し事はしない』
という村の大事な掟を女の子に徹底させる為には、多少の荒療治
もやむを得ないというのが昔から判断だった。

 そう、ここでは世間とは扱いが逆、女の子の方が、男の子より
むしろ受ける罰が厳しかったのである。

 私は、カレンの下腹を鷲づかみにして揉みあげる。
 せっかくの苦労を無にして申し訳なかったが、仕方がない。

 「いやあ、やめてえ~~~だめえ~~~~」

 カレンの悲鳴が悲しく部屋の天井に共鳴して決着はついた。
 その音、その匂い、オムツが膨らんでいく様を見れば、そこで
何が起こったかは語る必要がないだろう。

 最後はカレンの全身の筋肉が緩み、両手を戒めていた革ベルト
によって、その体がかろうじて支えられるまでになった。

 「では、マーサ、後片付けをお願いします。お母様もよければ
着替えを手伝ってあげてください。私は、お仕置きの準備があり
ますので、これで失礼します」

 私はそう言って部屋をでる。
 もちろん、私がカレンの世話を焼いてもいいのだが、さすがに
去勢されているとはいえ、男である私がその場に居合わせては、
カレンの心も必要以上に傷つくだろうから私は浣腸部屋を離れた
のである。

 『幼年懺悔聴聞僧はロリコン野郎の成れの果て』なんて陰口を
よく耳にするが、幼年聴聞僧は決して勝手気ままに鞭を振るって
いる訳ではない。子どもの心理をしっかり読んで的確なお仕置き
を与えて、その子を立派な村の一員に育てあげる。平和な村には
なくてはならない存在なのだ。
 去勢されたうえに下積みだけでも十年もかかるこの仕事は成れ
の果てがやるには結構大変な仕事でもあるのだ。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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