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7/21 お久しぶりの更新です

*)ダークなものを描いてたら、挫折しちゃって
真反対なものになっちゃった。
これも続くかどうかわかりませんが……(#^.^#)
あっ、それから小説の描き方が、読者を想定して
会話する形式になってる特殊なものですから、
慣れないと読みにくいかもしれません。


           アチャ子日記<1>

<前振り>

 私の名前は花井明日香。だけど、みんなからはアチャ子とか、
アチャコ姫なんて呼ばれてる。
 父は挿絵画家の花井惣一郎。母は一応専業主婦ってことになっ
てるけど、ファションデザイナーみたいなこともしている花井茜。

 兄弟は私を入れて三人。
 三つ違いのお兄ちゃんの清隆と三つ違いの弟、広樹。都合五人
の家族なんだけど、実は私たち、いずれも施設から引き取られた
養子、養女なの。

 お父さんの身体の問題で自分達に子供ができないからそうした
んだそうだけど……でも、みんな赤ちゃんの時から家にいるから、
お父さん、お母さんと言って他に頭に浮かぶ人はいないのよ。

 よく『もらい子で幸せか?』なんてよくきかれるけど…それは
わからない。だって、他の家で暮らしたことないから。
 このお家と学校が私の全宇宙だから……

 その宇宙の支配者なんだけど……
 お父さんは何にでも鷹揚で優しい人だけど、お母さんは細かな
事ばかり気らしていつもガミガミ言ってるから、兄弟みんなから
煙たがられてるわ。

 (質問)
 『お仕置きなんてするのか?』
 まあね、お母さんなんて挨拶代わりに毎日だし、普段は優しい
お父さんも一月か二月に一回ぐらいは家長としての貫禄を示そう
として吼えてるわ。

 それに、私たち兄弟は全員ある新興宗教が経営する私立学校に
通ってるんだけど、ここがまた大変な学校でね……
 『鞭を惜しむはその子を憎むなり…』なんて古めかしい教えを
いまだに信じてる人たちだから毎日誰かがその生贄になってるの。


 (質問)
 『女の子もぶたれることがあるの?』
 この学校の先生たち、男の子よりむしろ女の子の方がお気に入
りみたいなの。『女性は男性を立てなければなりません』なんて
言っちゃって、むしろ男の子には甘いのよ。世間常識から完全に
ずれてるからやっかいよ。


 (質問)
 『えっ、そのあたりもっと詳しく?』
 いやよ。どうせ、オナニーにおかずにするつもりなんでしょう。
そうはいかないわ。


 (質問)
 『そこを何とか?』って……
 しょうがないなあ、じゃあ、日記をもとにちょっとだけよ。

**************************
**************************


 <5月25日> 晴れ

 その日、私はいつもより遅く起きました。
 どうやら、目覚ましを掛け損ねてたらしく、驚いて飛び起きて、
パジャマを着替えて部屋を出ましたが、間に合いませんでした。

 食堂へ行くと……本当は私の仕事だった配膳がすでに完了して
いて、お父さんも男の子たちもすでに席に着いています。

 『やばいなあ……』
 と思いながらもじもじしていると……

 「あら、明日香ちゃんおはよう。あなたって、食べる時間には
間に合わせるのね」
 さっそく母のイヤミが……

 「ごめんなさい。目覚ましが鳴らなかったんです」
 一応、言い訳を言ってみましたが……

 「そうなの……いいからあなたも席に着きなさい」
 お母さんの冷たい視線と声が心臓に刺さります。

 仕方なく、自分の席に着くと……
 目の前に現れたのは山盛りのごはんだけ。
 おかずは一切ありません。

 『やばいなあ、やっぱり怒ってる』
 これが、この日最初のお仕置き。

 食事の祈りが済んでも、私のおかずは現れません。私は家族で
独りだけ白いご飯だけで食事をすることになります。
 当時、11才でしたが、もうそれだけで泣き出しそうでした。

 おかずがなかったからじゃありませんよ。家族の中で自分だけ
が悪い方に特別扱いされたから……
 女の子って、そんなことにとっても敏感で傷つきやすいんです。

 「ふう」
 ため息をついたその瞬間でした。
 悲しみにくれる私の身体が急に浮かび上ります。

 「あっ!!」

 原因はお父さん。
 お父さんは私をいきなりお姫様抱っこすると自分の席へと連れ
帰ります。

 そして、私を膝の上に乗せると、お父さんの為に配られた料理
を何でも私に食べさせてくれたのでした。

 「あなた、アチャ子を甘やかさないでください」
 さっそくお母さんがお小言。
 でも、お父さんはお母さんの言葉に耳を貸しません。

 「いいじゃないか。私は食事を抜く罰は嫌いなんだ」
 お父さんが言い放つと、お母さんはそれ以上の反論をしません
でした。

 『わあ、よかったじゃないの。優しいお父さんで……』なんて
早合点してはいけませんよ。
 これはこれで、私にとっては大いに問題なんですから。いえ、
考えようによってはこちらの方がよほど事態が深刻だったんです。

 『どういうことか』って……
 お母さんは依然として厳しい目でこちらを睨んでますからね、
目を合わせたくありませんが、かといって、お父さんの場合は、
私を猫可愛がりしますからね、対応がいつまでたっても赤ちゃん
仕様のままなんです。

 この日の朝も私を抱っこしたまま箸やスプーンで食べ物を私の
口元まで運んでくれるのですが……

 「ん?……おいちいか?……おう、そうかそうか」
 お父さんは、私がちょっとでもお愛想で笑うとそのたびに満面
の笑みなんです。

 『おお、麗しの親子愛』って……
 茶化さないでくださいよ。

 そもそもそれって、離乳食を与えられている赤ちゃんと同じ形
なわけですからね……さすがに恥ずかしくて……

 「いや……」
 私は目の前まで来た食べ物に首を振り、自分で何でも取りたく
なって体勢を変えようとしたんですが……

 「ほら、ほら、動かないの」
 大男に押さえ込まれると、それもままなりません。

 そのうち……
 「いいかい、これもお仕置きだからね、静かにしてなさい」
 という答えが返ってくるのでした。

 『やっぱりそうか、どうりで話が上手すぎると思った』

 お父さんは言います。
 「子供はいつもたくさん食べなきゃ。それが仕事みたいなもん。
だからお父さん、どんな時でも食事を抜く罰は嫌いなんだ。ただ、
アチャ子(私のこと)。お前が朝寝坊してお母さんのお手伝いを
さぼっちゃったのは事実だからね。お仕置きは仕方がないんだよ。
だいいち今週はこれで3回目っていうじゃないか。可哀想だけど、
今日はお父さんがお仕置きするから、覚悟しときなさい」

 「は~~い」
 気のない返事。

 そうなんです。これは子供たちに対するお父さん流のお仕置き。
他の家ではまずやっていないと思いますが、言いつけが守れない
子は赤ちゃんの昔に戻されてしまうという一風変わったお仕置き
が我が家には古くから存在するのでした。

 結局、その朝の食事は、お父さんが与えてくれる食べ物を一つ
残らず平らげるまで私には一切の自由がなく、お父さんの膝の上
で、ただただお口をもぐもぐしているほかありませんでした。

 (質問)
 『口の中に入って来た食べ物をくちゃくちゃやって飲み込んで、
頭を撫でてもらうだけ。う~~ん、まるっきり離乳食の赤ちゃん
だ。……でも、それって、羨ましいような気もするんですが……』

 「全然、羨ましくありません!!!(-_-#)」

 「わあ、美味しそうだなあ~……噛み噛みしようね、噛み噛み」
 お父さんは赤ちゃんをあやすように声を掛け、私の口元に料理
を運び続けます。
 しかも……

 「ほら、どうした?笑顔は?女の子はいつも笑顔でなくちゃ。
笑えないならくすぐっちゃうぞ」
 と、こうなんです。

 これって自分のペースで食事ができませんし、何よりその姿は
11才の娘には屈辱的です。お母さんやお兄ちゃんが見ている中
で一人だけ赤ちゃんをやらされてるわけですから、とんだ晒し者
でもあるわけです。

 でも、正直なこと言うと、お父さんにこうやって甘えるのって
……私、そんなに嫌いじゃありませんでした。

 本心を言うと……
 「(とっても幸せ……このまま寝ちゃいそう)」
 ってな気分でもあったのです。

 (質問)
 『何だ、やっぱりそうじゃないか?』
 「だから、女の子ってのは、建前と本音がいつも別にあるって
ことなの(`ε´)」



 ところが、食事が終わり『やれやれ』と思っていた瞬間でした。
お父さんの鮮烈な言葉を耳にして私はたじろぎます。

 「あ~よい子だ。みんな食べちゃったね。偉いぞ。よし、次は
ウンチしようね」

 『えっ!何それ、嫌だ!』
 私は瞬間的に心の中で叫びます。ですが、出来たのはそれだけ。
声に出して反対する勇気まではありませんでした。

 今の教育を受けた人たちにはしてみたら『えっ!?どうして?』
って不思議に思えるでしょうけど、当時の『良家の子女』(私も、
一応その仲間です)というのは、目上の人に対して『イヤ』とか
『ダメ』とか相手の行いを否定するような事を面と向かって言っ
てはいけないことになっていたんです。

 「あなたが接する大人の人たちはみんなあなたのためを思って
何でもしてくださるの。それを、ろくに知識も、人生経験もない
あなたが否定したら、その方が傷つでしょう。そうしたことを、
女の子はしてはいけないわ」
 これは『嫌や駄目をなぜ言ってはいけないのか』とお母さんに
尋ねた時の理由づけ。

 実際、Noという気持は言葉に出さずとも顔にすぐ出ますから、
相手はそれを見て配慮してくれます。良家の子女というのはそん
な配慮もろくにできないような人と接する機会がありませんから、
あえて否定的なことは声に出さずとも問題なかったのでした。

 ただ、その唯一の例外があります。それがお仕置き。当たり前
と言えば当たり前ですが、この時ばかりは、どんなに『イヤ』と
言おうが、『ダメ』と叫ぼうが相手は何の配慮もしてくれません
でした。

 「お浣腸……するの?」

 お姫様だっこしてもらいながら、食堂から私の部屋へ移動中、
恐々私を運んでくれるポーターにこの先の事を尋ねてみたのです
が……

 「そうだよ。ここ三日、お通じがないんだろう。食べたものは
ちゃんと出さなきゃ、病気になっちゃうよ」

 その答えを聞いて、私は諦めるしかありませんでした。

 泣こうが叫ぼうが、うちの親は絶対に宣言したお仕置きはやり
遂げる信念でした。私たち子供はそのことを物心つく頃から肌で
感じ取っていますから、今さら無駄な抵抗はしません。
 それに、昔はオムツを取り替えていた親のすることですから、
他人がやるのとは違って、恥ずかしいという気持も、実はそんな
に強くはありませんでした。

 というか……
 これはこれまで誰にも話さなかった内緒の話なんですが……
 私はませていたのか、この時すでにお父さんのお仕置きを心の
奥底で心待ちにしている自分をで感じていました。

 そんなに厳しい事はしないと知ってますから、お仕置きだって
どこかレクリエーション気分だったんです。

***************************

 私は自分の部屋に着くと、そのままベッドに寝かされます。
 そして、そのまま両足を高く上げて、ショーツを脱がされ……
イチヂク浣腸。

 あのお薬の独特な感じ、とってもイヤですからその先っちょが
ちょっとでも触れるとお尻の穴を塞いでしまいます。
 でも、そんなんで遊んでいると……

 「ほら、ほら、抵抗しないの。朝はみんな忙しいんだから……
アチャ子だって、これから学校に行かなきゃならないんだよ。…
…のんびりしてる暇ないんだから」
 お父さんに叱られてしまいました。

 私だって本気になってイヤイヤしてるわけじゃありませんが、
あの先っちょがちょっとでもお尻の穴に当たると、私の穴は自然
に閉じてしまうのでした。

 「(あっ)………………」
 やっとのことで、細い先っちょが私のお尻の穴を通過すると、
お薬がおなかの中へと入ってきます。

 その何とも言えない気持悪さ。いつも思いますが、最悪です。
 でも、もちろん本当に大変なのはこれからでした。

 「あっ、ダメ。出る、出ちゃう。トイレ、トイレ」
 私はイチヂクの先が抜けると、すぐに悲鳴を上げますが……

 「ほら、ほら、そんなに騒がないの。大丈夫だから。そんなに
早くやっちゃったら、お薬の効果が出ないでしょう。五分は辛抱
しないとだめなんだよ」
 お父さんはそう言って、私を膝の上へあげると、しっかり抱き
しめます。

 お父さんの両手で、ぎゅ~っと背中を締め付けられながら……
 「あっ……だめ、もう出ちゃうよ」
 私は訴え続けますが……

 「大丈夫だよ、しっかりテッシュをお尻の穴に詰めたからね。
そう簡単には出ないよ」

 「でも、ああああ、やっぱりだめ~~~」

 「ほらほら、暴れないの。しっかりお父さんに掴まってなさい。
大丈夫だから」

 こんなやりとりは今回だけじゃありません、毎度のことです。
 これまで何度もやっていて一度だって漏らした事はありません
でしたが、お浣腸というといつもこうなるのでした。そのくらい、
あのお薬は強烈なのです。
 私はお浣腸のたびに、爆発寸前のお尻を押さえながら発狂する
ので、お父さんはそんな私をしっかりと抱きしめてしまいます。

 そして、許されるまでの時間をいつもお父さんの胸の中で油汗
を流しながら必死に我慢します。
 ところが、これがまた、人には絶対に言えない快感だったりす
るので困りものでした。

 「(あっ、いやいやいや、だめだめだめ)」

 大好きなお父さんの前で大恥をかこうとしている自分の存在が
妙に切なくて、愛おしくて…頭の中では四六時中何かがショート
しているのが分かります。
 そんな恍惚感が私のリビドーを高めていきます。

 「(あっ、いやいやいや、だめだめだめ)」
 その拒否は11才の娘の体面が言わせいるもの。でも、本心は
その拒否の裏で燃え上がっていきます。

 その正体が、私の心の奥底に眠るリビドーだと知れるのはまだ
先の事ですが、こうした地獄のような我慢の中に、実はとっても
楽しい事が潜んでいるのを、私はお父さんのセーターをしっかり
握りしめながらいつも感じていたのでした。

 世間に向って楽しいと言えない楽しみを私はこの時すでにお父
さんから教わっていたようでした。

 「ようし、よく頑張ったね。もう漏れちゃうからウンチこれに
しちゃおう」
 お父さんは抱き合っていた私の身体を、両方の太股を持って外
向きに抱きなおすと、その膝の下に新聞紙、さらに赤ちゃんの頃
使っていたスワン型のオマル置きます。

 『こんな処でイヤ!!』
 本当はこう言いたいのですが、そんなこと言っていられる事態
ではありませんでした。

 「****************」
 私はお父さんの膝の上からオマルに向って用をたします。

 普段は外気に当たらないところがスースーして気持悪い。
 いえ、これもお父さんの抱っこなら爽快でした。

 終わると……
 「さあ、モーモーさんになって……」
 お父さんの指示で床に四つん這いに。
 モーモーさんになった気分でお尻を少しだけ高くしてお尻の穴
を拭いてもらいます。

 最後は、ベッドに戻ってお父さんが私のお股の中を検査。

 「綺麗にしているね。かぶれもないみたいだ」
 合格すると、お股の中を濡れタオルで拭き清められてオムツを
着けられます。

 「ん?恥ずかしいか?……お前も女の子だな、顔を赤くして…」

 そんなやり取りのあとオムツが私のお尻の下に敷き込まれます。

 「どうだ、上手いだろう。お父さんだって昔はお前のオムツを
取り替えてたんだぞう……」
 お父さんは自慢げに話しかけます。

 もう10才を超えているというのに……もういつ初潮がきても
おかしくない身体をしているのに、お父さんは何から何まで私を
赤ちゃん仕様で扱うのでした。

 勿論これって、本来ならとっても恥ずかしいことなんですが、
二人っきりでお父さんに抱かれていると、そんな恥ずかしいこと
さえ、何でもないことのように過ぎていきます。

 何だかオママゴトの赤ちゃんをやってるみたいな気分。私は、
お父さんにオムツを替えてもらいながら、思わず笑ってしまいま
した。

 こういう事に理屈はありません。きっとお父さんが好きだった
ってことなんでしょう。とにかくお父さんといると、理屈抜きに
楽しかったのでした。

 「何だ、楽しいか?楽しいならお仕置きにならないな」
 お父さんはそう茶化しますが、お父さんの顔も笑っています。

 そして、私のお股にオムツがぴったりフィットすると、あとは
通学用の制服に着替えて……

 「いいかい、学校に着いたら、まず保健室に行って保健の金山
先生にオムツをとってもらって普通のショーツに穿き替えるんだ。
いいね」
 お父さんは私に指示します。

 「ここでショーツに替えて行っちゃいけないの?」
 心細くお願いしてみましたが……

 「ダメだよ。今のお浣腸で、お腹の中にまだウンチが残ってる
かもしれないだろう。もし教室でお漏らししてショーツを汚しち
ゃったら、クラスの他の子に笑われちゃうぞ。学校に着く頃には
お腹も落ち着くから、そしたらオムツを普通のショーツに替えて
……後は、体育でも何でも好きにしていいからね」

 「はあ~い」
 私は気のない返事を返してオムツを穿いて登校するのでした。

*************************** 

7/13 事務連絡

唐突に「カレンのミサ曲」の途中なんか出しちゃったんで
ひょっとして驚かれた方がいらっしゃるかもしれません。
そこで蛇足とは思いつつも一応は事情説明。

理由はわからないのですが、この部分だけブログから
欠落していましたので補填しました。(*^_^*)

************(作者)****

第7章 祭りの後に起こった諸々(3)

第7章 祭りの後に起こった諸々

§3 最後の晩餐

 楽しいひと時は30分ほど続き、カレンだけでなくアンまでも
がピアノを弾いた。

 アンはそれまで自分なりに工夫を重ねてきたカレン式のピアノ
を披露する。
 それはとても軟らかなタッチで、カレンだけでなく伯爵夫人を
も魅了したが、ただ、カレンと同じ音が弾けたわけではなかった。

 依然、カレンの音はカレン本人にしか出せなかったのである。

 やがて、そんな三人の楽しい語らいも、女中がやって来て水を
さす。
 居間の方へ来てほしいというのだ。

 部屋を出る時、女中は伯爵夫人に手を貸そうとしたが、夫人は
あえてこう言うのだった。

 「カレン、あなたが私を連れて行ってくださるかしら?」

 「はい、喜んで……」
 カレンは、伯爵夫人の言葉に何の躊躇もない。

 こうしてカレンが夫人をエスコートする形で、三人は居間へと
やってきた。

 そこで……
 「お父様」
 「お父様」
 二人は異口同音につぶやく。

 さっき伯爵が部屋を出る時、二人はその知らせを耳にしていた
はずだったが、それからがあまりに楽しい時間だった為にお父様
の事はしばし忘れていたのだった。

 「どうしたんだね、二人とも……親が娘の迎えに来るのは当然
のことだと思うがね」

 ブラウン先生はいつもの営業笑い。
 何の敵愾心も感じさせない穏やかな微笑みを浮かべて、二人を
暖かく迎え入れた。

 「では、食堂の方へ参りましょうか」
 伯爵が誘うと……

 「大変恐縮です。閣下。子供がお邪魔をしたうえに夕餉の心配
までいただき、不肖ブラウン、心が痛みます」

 ブラウン先生、つまり父親が伯爵の前で最大限気を使っている
のが二人の娘にもわかった。

 もちろん、伯爵の方は、
 「そんなにお気になさらずに……こちらがお呼びたてしたので
すから、このくらいは容易(たやす)いことです」
 と、軽く受け流すだけだったが……。

 爵位を持つ人たちの普段の食卓は、その家によって、夫婦だけ
だったり、成長した子供と一緒だったりと形態はさまざまだが、
アンハルト家の食卓には、先代の伯爵夫人のほか、現当主、画家
や音楽家、占星術師など多くの人たちが同席を許されていた。

 「おう、これは、これはブラウン先生。こんな処でお会いする
とは奇遇ですなあ」
 コンクールにも顔を見せていたラックスマン教授が目ざとく見
つけてブラウン先生と握手を交わす。

 「50キロの道のりを飛んでまいりました。子どもを持つと、
何かと苦労が絶えませんよ」
 これが先生の応じた言葉だった。

 夕食は当然ながら豪華な晩餐となった。
 当然、それはブラウン先生と二人の少女たちをもてなすために
用意された料理なのだが、貴族の食卓だから、常に豪華な食事を
しているというわけではない。

 大きな所帯は経費も大きい。貴族の家だからといって日常的な
食事にまで大きなお金をかける家はむしろ珍しく、そういった事
も含めブラウン先生としては出された豪華な料理を前に、心中は
複雑だったのである。

 デザートまでが済み、食後の会話を楽しみ、居間に戻って葉巻
をくゆらす。その場に笑い声は絶えないが……それは少女たちの
甲高い声ではない。そこは大人たちの社交の時間だった。

 一連の行事が終わり、ブラウン先生としてはなるべく早く帰り
たかった。だからそのきっかけを探っていたのだが、伯爵の方が
それを許さなかった。
 伯爵としては最後にもう一品、二つ目のデザートを待っていた
のである。

 もちろん、ブラウン先生もそんな相手の希望は分かっている。
だから、結局はこう言うしかなかった。

 「カレン、最後にもう一曲ご披露しなさい」

 食後の胃もこなれ、頃合いのよい時間。
 カレンは再び居間のピアノに着く。

 ピアノ室に移動してもよかったのだろうが、
 『あの程度なら、ここでも……』
 伯爵は軽く考えていたのだ。

 ところが……

 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」

 ピアノが始まってしばらくすると、その部屋が水を打ったよう
に静まり返る。表現のしようがないほどの繊細な音が周囲の人々
から会話の声ばかりか葉巻を灰皿にねじ込む物音さえも奪い去る。
葉巻は灰皿に乗せられたまま燃えていく。
 誰もがカレンの弾くピアノの音をほんの一瞬たりとも聞き漏ら
したくなかった。

 「(街の喧騒の中ではさほどとも聞こえなかったのに。お母様
はこれを聞かれたのだ)」
 とりわけ、緊張が高まってトランス状態で弾く時のカレンのピ
アノを伯爵はこれまで聞いたことがなかった。それだけに、彼の
驚きは強烈だったのである。

 「(何故だ。これは紛れもなく兄さんの音ではないか。誰にも
決して真似のできないはずの天上の音楽。それをどうして彼女は
奏でることができるんだ。……聞かねばなるまい。もっと詳しい
話を……)」

 伯爵はカレンのピアノを聞くうち、手にしたブランデーグラス
が重いと感じてテーブルの上に置いてしまう。そんな伯爵の気持
がブラウン先生には手に取るようにわかるのだ。
 しかし、だからこそ、いけなかった。

**************************

 帰りの車中、ブラウン先生は無口だった。
 無口だったが、怒った様子もないから娘たちはほっと胸をなで
下ろして家路についたのである。

 「今日はもう遅いから寝なさい」
 そう言った時も先生は笑っていた。

 その次の日の朝も、いつもと変わらない朝だった。

 女中さんたちのなかにカレンの笑顔があって、子供たちの声は
誰の声も甲高く、ブラウン先生もいつものように笑顔で他の先生
たちと談笑している。

 「さあ、みんな、学校へ行く時間よ」
 ベスの声が山荘じゅうに響き渡る。

 学校は山荘のお隣。規模だって寺子屋ほど小さなスペースなの
だが、それでも出かける時は、居間で、でんと構えているお父様
に抱きつき、『行って来ます』のキスをするのが慣わしだった。

 だから、二人とも居間へと出発する準備を整えていたのだが…
 「今日はお父様からお部屋で待っているようにとのことです」
 アンナとベスからカレンとアンは伝言を受ける。

 「あっ、そう……」
 二人とも気のない返事。
 しかし、だったら待っているしかなかった。

 子供たちがすべて出払い、通いの女中達も自宅へ帰って行って、
山荘には気心の知れた使用人たちと家庭教師のヒギンズ先生だけ
が残っていた。

 そうなってはじめて、ブラウン先生は二人の娘たちを呼び出し
たのである。

 おずおずと居間のカーペットを進む二人。カレンはわけがわか
らずそれでも神妙にしているが、アンの方は今にも心臓が口から
飛び出しそうなほど緊張していて、顔は真っ青だった。

 「カレン、おいで……」
 ソファに腰を下ろしたブラウン先生はまずカレンを近くへ呼び
寄せる。

 「はい、お父様」
 心なしか元気のない声。詳しいことなど分からなくても女性は
周囲の空気がよどんでいるのを敏感に感じ取る生き物。

 『何だか、ヤバイ』
 女の勘が働くのだ。

 「あらためて聞くが、君は、私のことをこれからも本当の父親
だと思って、ここで暮らすつもりがあるかね?」

 「えっ!…………あっ……はい、お父様」
 突然の質問に驚くカレンだったが、自信なさげに答える。

 「本当に、心の底からそう呼べるかね。私のことを『お父様』
って……私は単なるパトロンでは嫌なんだよ」

 「はい、最初にお約束した通りです。本当の父が見つかるまで
は、先生が私のお父様ですから」
 カレンは意を決したように今度は少しだけ声を張った。

 「わかった。だったら、お前は私の娘として、私から罰を受け
なければならないが、それでもいいのかな?」

 「(えっ!!……どうして!!)」
 カレンは驚いた。その突然の宣言がアンの予測通りだったから
だ。

 「お前は、アフリカで生まれ育ったから、この町の事情は知ら
ないだろうが、あの伯爵家の先代は、戦時中はナチの幹部だった。
彼としては戦争で多くの犠牲を払うよりその方が得策と考えたの
だろう。たしかに彼の読み通り戦争の被害は少なかった。しかし、
結果として、この町でも罪のない多くの人が処刑されたから、今
でも、伯爵家に対して恨みを持つ人は決して少なくないんだ」

 「(やっぱり、その話なんだ。アンの言うとおりだったわ)」
 カレンは思った。

 「私も、君達も、この山荘も学校も、ここにある全てのものは、
町のみなさんが有形無形のいろんな援助をしてくださるおかげで
成り立っている。決して私の力だけで、全てがうまくいっている
わけではないんだよ。……わかるかい?」

 「はい、お父様」

 「もし、そんな町のみなさんの中に伯爵家を快く思わない人が
大勢いるとしたら…『我々が伯爵家と個人的に仲良くしている』
なんて噂がたつだけで、援助の手をやめてしまう人か出てくるか
もしれない。そうなって困るのは、君だけじゃない。まだ小さい
子供たちを含め、山荘の人たちみんななんだ。それも、わかるだ
ろう?」

 「は、はい、で、でも、私、そんなこと…今まで知らなくて…」
 カレンは慌てて弁解する。

 「わかってるよ。私は君のお父さんだから、娘の事は一番よく
知っている」

 「(よかった)」
 カレンは心の中でそうつぶやいた。許されると思ったからだ。
ところが……

 「でも、多くの人はそんな君の事情は知らないし、そもそも、
そんな事どうでもいいことなんだ」

 「どういうことですか?」

 「肉親を殺された人たちにとっては、先代の伯爵様だけでなく、
伯爵家そのものが敵だし、伯爵家と親しくする人も心許せない人
になってしまう。もちろん、伯爵様に石を投げたり、法に訴える
事はできなくても、離れていることはできるからね。私たちから
も、自然と離れていってしまうんだ。そんな人に君は『あれは、
偶然仲良くなっただけなんです』っていちいち説明に回るかね。
というより、そんな事説明したところで、その人の気持に変化が
起こると思うかね」

 「…………」

 「『伯爵様とは親しいけれど。私はいつまでもあなた方の味方
ですよ』などと言ってみても、肉親を殺された人たちにとって
は、そんなご都合主義の理屈は届かないんだ」

 「じゃあ、どうすれば……」

 「この場合はどうすることもできないんだ。伯爵のそばにいた
事が罪だし、やさしくしてもらった事が罪なんだ。……もちろん
法律的には君に何の責任もないし、落ち度だってない。……でも、
この家の子として……君を罰しないわけにはいかないんだよ」

 「…………」
 カレンは思わず唇を噛んだ。
 『とっても不条理なこと……でも、逃れられない』
 そう思ったのである。

 「だから、さっき私が尋ねただろう。これからも私の子どもと
してここに残るかいって……いいんだよ、今からでも……嫌なら、
それも……無理にとは言わないから……君には別の引き取り先を
探してあげるからね」

 すると、カレンはこう尋ねるのだった。
 「あのう…それって、アンも、同じ罰を受けるんでしょうか?」

 この時、それまで真剣そのものだったブラウン先生の顔が緩む。
彼はどうやらカレンの意図を見抜いたようだった。
 「同じ罰を受けるよ。二人一緒だ。……恥ずかしくて、痛くて、
辛い罰だ」

 「……そうなんですか」
 カレンはぽつりと一言。でも、それは迷っているからではない。
決断のきっかけを探っているだけ。『この家を出る』なんていう
選択肢はアンにはないはず、もちろん、カレンにだって最初から
なかった。

 「アンはどうなんですか。そんな理不尽なことをするこんな家
から逃げだしますか?」
 先生は事のついでにといった感じでアンにも尋ねる。これも、
先生にしてみたら、彼女がここを出る決断は絶対にしないという
確信があってのことだったのである。

 案の定、アンの口からは……
 「私は、これからもお父様の子供ですから……」
 
 「よろしい、……では、カレンはどうしますか?」
 
 「はい、私もお父様の子供です」

 「よろしい、二人がそう言ってくれるのなら、私だって親です。
命に代えてもあなたたちを守りますよ」

 ブラウン先生の顔はいつになく厳しい。普段なら、お仕置きの
場面でも多少の笑顔はみせてくれる先生なのに、この時ばかりは
まったく笑顔がない。それほどまでに、この問題は根は深かった
のである。


*******************(3)*****

早苗お姉ちゃん/番外編

      早苗お姉ちゃん/番外編 

*)お灸の小説。それも私には珍しく大人のお尻にお灸をすえる
話です。ただ、私の作品ですからね、興奮できるお話にはなって
いません。(^o^ゞ


 お灸の味を覚えた母は、それ以後何かと言うと、お灸でのお仕
置きを仕掛けてきました。
 中学から高校にかけての私はかちかち山のタヌキ扱い。

 もちろん正当な理由のある時もありますが、多くは女性独特の
気まぐれ。『何となく私を虐めたくなったから……』などという
信じられない理由が大半だったのです。
 そう、お仕置きに名を借りた虐待だったんです。

 本当は、弟たちにも厳しいお仕置きをして『ストレス解消』と
いきたいところでしょうが、あちらは男の子。小学生といっても
高学年くらいになると押さえつけるだけでも一苦労です。
 まして彼ら、父からたっぷり入れ知恵されて育ってますから、
議論なんかしたらすでに負けてしまいます。
 そんなこんなで、ストレスの解消先はもっぱら私が引き受ける
ことになるのでした。

 おかげで、私の身体はいたるところ灸痕だらけ。『これじゃあ
結婚できない』と真剣に悩みました。
 そこで、そんな母とは断固別れるべく大学は東京へ。
 偏差値なんて関係ありません。とにかく自宅から通えるところ
はすべてNGでした。

 望みが叶い東京での生活は気ままな一人暮らし。学生寮でした
が親元を離れた寂しさなんて微塵もありませんでした。頭が悪い
ので勉強はしませんでしたが今にして思えば楽しいことばかりの
四年間でした。

 当然、そのまま東京での就職を考えましたが、親の反対にあい、
田舎に戻り地元の銀行に就職。ただし、何だかんだ理屈をこねて、
実家に戻ることだけはしませんでした。
 もうこれ以上お灸をすえられるのはごめんだったのです。

 いくら大人になったといっても、母は依然として怖い人でした
から、離れているにこしたことはありませんでした。

 そのうち、ある人と縁あって結婚。私の家は母が情のきつい人、
父が少しだらしのない人でしたから、そうでない人……つまり、
性格が穏やかで仕事に真面目に取り組む人が望みでした。

 結果、『よし、この人』と結論が出て結婚したのです。

 確かに、最初は毎日がバラ色の日々。甘い生活、美味しい生活
だったのです。彼は、いつも私をやさしく気遣ってくれますし、
お給料もちゃんとちゃんと入ってきます。もちろん、私の灸痕の
ことをからかったりもしません。それは『不幸な事故』とよんで
くれていました。

 そうなんです。何の不足も問題もない、申し分ない新婚生活の
はずだったんですが……でも、そのうち『何かが違う?』『何か
が足りない?』と思うようになったのでした。

 『何が理想と違うのか』『何がこの生活に足りないのか』それ
が分からないうちに、私の心はストレスを抱え込んで蝕んでいき
ます。

 そんな私の異変に最初に気づいたのは離れて暮らす母でした。
 彼女は電話口の私の声だけでその変化に気づくのです。

 母は私に『菊江婆さんに相談してみたら』と忠告します。
 当時、こんな場合にまず相談するのは、人生経験の豊かな人。
今のように『精神科の先生に…』なんてのはよほど深刻な場合に
限られていました。

 私は、『子供の頃じゃあるまいし、今さら、あの婆さんに何が
分かるっていうのよ』と、断り続けましたが、とうとう折れて、
再び鍼灸院の玄関を入ります。

 子供の頃、母に連れられ、心臓が飛び出す思いで座布団の上に
座っていた待合室は、十数年の時を経ているのに昔と変わらない
姿で残っていました。まるでその時代にタイムスリップしたよう
です。

 「倉田さん、……倉田さん、いらっしゃいますか」
 そうそう、待合室の私たちを呼びに来る串田のお姉さんだけは
随分と貫禄がついたようでしたが……

 私と母は、やはり昔と変わらない中庭を通って、奥の離れへと
やってきます。

 「倉田でございます」
 障子の前の廊下で正座する母。
 「おう、倉田さんか、お入り」
 菊江婆さんのだみ声までが、幼い頃のビデオを見ているよう…
不思議と恐怖や不安はありませんでした。

 「おう、おう、早苗ちゃんかいな。久しぶりやなあ。結婚式に
およばれして以来じゃな。……こっちへおいで」

 迎えてくれた菊江婆さんは少しお歳をめしたでしょうか。でも、
何より変わったのは部屋の中。畳敷きだった部屋が板張りになり、
ベッドが置かれ、何やら怪しげな機械もあります。まるで病院の
診察室のよう。新しい女性のお弟子さん(助手さん)の顔も見え
ます。

 でも、今日はここではありませんでした。
 その施術室の奥が、菊江婆さんが一服するプライベートルーム
になっていて、そこも洋間でソファが置いてありました。
 私たちはそこへ通されます。

 「どうした?…元気にやっとるか?……あのご亭主はやさしい
じゃろう。結婚式で見かけたが、なるほど育ちの良さそうな顔を
しとった」

 「はい」
 私は手拍子に『はい』と言って笑顔になりますが、海千山千の
菊江婆さんにそんな営業笑いが通用するはずもありませんでした。

 「…………」
 微妙な間があったあと、菊江婆さんは大胆に切り出します。

 「どうじゃ、ちゃんと夜は可愛がってもらっとるのか?」

 ドキッとする質問。でも、気を取り直して……
 「はい……」
 か細い声で答えます。

 実際、私は主人から夜も愛されていましたからそれ自体嘘では
ありませんでしたが……
 しかし、私の顔を穴のあくほど覗き込んだ菊江婆さんはこんな
ことを言います。

 「やってはもらっているが、物足りぬということじゃな」

 「そんなあ……」
 思わず嬌声が出ましたが、それはある意味、図星でした。

 「要するに、今が幸せ過ぎるのよ」

 「(どういうこと!?)」
 意外な答えに目が点になります。

 「あの家のご内儀ともなればお前は何もせんでも暮らせるはず
じゃ。しかも、あの旦那は見るからに紳士じゃからな、ことの他
優しかろう。……そうじゃろう?」

 「………………」
 同意を求められましたが答えませんでした。

 「そんな幸せ過ぎる場所というのは……人間、かえって苦痛な
もんじゃ。……『過ぎたるは及ばざるが如し』と言うてな。ちと
高望みし過ぎたかな」

 「……(何言ってるの?)」
 私は笑顔で語る菊江婆さんの言葉に戸惑いを覚えます。
 だって、幸せがどんなに積み重なっても不幸になるなんてこと
ないと思ってましたから……

 「スポーツなんてのもそうじゃろ。プロになった人を除けば、
あんなことをしてみても何の得にもならんはずじゃが、苦労して
得たものがあるというだけで、人は困難に立ち向かう勇気と自信
が得られる。……おなごかてそうなんじゃぞ。…おなかを痛めて
死ぬ思いをして産んだ子じゃから愛着もひとしおなんじゃ。……
わかるか?」

 「……は、はい、少しは……」

 「人は、空気のように無条件で手に入れられるものには愛着が
わかんもんじゃ。お金に不自由しないで育つと幸せなように思う
かもしれんが、そんな奴に限って、お金のありがたみが分からん
から親の財産を平気で食いつぶす。親に溺愛された子もそうじゃ。
そんな子はろくに親から折檻されたことがないから、親の愛情が
どれほど貴重かがわからない。お金や愛情をただ与えさえすれば
人が育つとでも思ったら大きな間違いじゃ。お金や愛情は、その
値打ちまでも伝えて、初めてその子の役にたったと言えるんじゃ。
折檻というのは、それだけ見ると悲劇じゃがな、親の愛情と表裏
一体じゃからな、なければそれにこしたことはない、というほど
単純なものじゃないんじゃよ」

 「そうなんですか……」

 「その点、お前は、そのかかさんにしっかり躾けてもらっとる
からな、苦労なく何でも得られる今の生活にはどうしても違和感
を感じてしまうのよ。貧乏性、苦労人の性じゃな」

 「でも、それって、やっぱりまずいことですよね」

 「確かにな、郷に入りては郷に従えというからな。……ただ、
そんな場合でも擬似的にそれを作り出すことはできるぞ」

 「どういうことでしょう」
 ここまできてやっと母が口を開いた。

 「簡単じゃ、SMじゃよ」

 何気に飛びたした菊江婆さんの言葉に母と娘は固まります。
 いまでこそ、SMと聞いても驚く人は少数でしょうが、当時は
『SMイコール変態。変態イコール精神異常者』と思われていた
時代でした。

 「そう、怖い顔をしなさんな。サディスティクな思いも、マゾ
ヒティックな思いも、ごく普通に暮らす全ての人の心の中にある。
親が子を折檻するんだって、一応大義名分は掲げてやっていても、
サディスティックな楽しみとまったく無縁とは言えんじゃろう。
芸人がよく使うイジリというのもそれかもしれんな。……ただし、
どんな場合も相手を思う気持、愛情あっての戯れじゃがな」

 「私は何もそんなつもりは……ただ、この子の教育に……」
 母は反論しますが……

 「だから、そうやって『教育』『教育』と教育を隠れ蓑に使う
から、逆に子供に不信感を持たれるんじゃ。子どもは人生経験も
知識もまだないが、親が本心とは違う何かで自分を説得しようと
する時はそれを鋭敏に感じ取るものなんじゃ。……裃はいらんよ。
『好きなものは好き』『嫌いなものは嫌い』『そんな考えは自分の
信念に反する』そうはっきり言ってやれば、それでいいんじゃ。
あとは大人になった子どもが自分で判断する」

 「そうなんでしょうか」

 「そうなんでしょうかって……あんた、そうやって育ててきた
からこんな良い子ができたんじゃないかい。自信もってええこと
なんじゃぞ。……子供だってそうじゃ」
 菊江婆さんの視線が今度は私に向きます。

 「そりゃあ、折檻されれば心に傷はつくじゃろう。しかしな、
心を傷をつけずに大人になる者なんて、誰もおりゃせんのじゃ。
人は心に傷を受けながらもそれを治しながら大人になっていく。
強くなっていくんじゃ。人がばい菌だらけのこの世界でも元気に
生きていけるのは、親から受け継いだもの、自分で獲得したもの、
いずれであっても身体に諸々の免疫力があるから健康でいられる
んじゃ。親の折檻も同じよ。そこに愛情がある限り心の免疫力と
なって子供の心を支え続ける。折檻された子が成長してなお親を
思慕するのは、言われた事実が真理に副っていたからではないん
じゃぞ。その時、親が自分の心に寄り添ってくれていたからなん
じゃ。辛いお仕置きを追体験してマゾヒティクな感傷浸るなんて、
ろくに親から愛情を注がれた事のない者にしてみれば、それこそ
狂気の沙汰としか思えんかもしれんがな。その狂気は、愛情深く
育てられた子供なら誰もが持つ人間性の狂気、人間らしく生きて
きたという証なんじゃ」

 菊江婆さんはいつになく饒舌に自説を語ります。でもそれは、
この時代の風潮が自分の考えとは逆の方向に流れていっている事
への苛立ちでもあったのでした。

 「それって………また、ここでお灸をすえてもらいに来るって
ことでしょうか」
 恐る恐る尋ねてみますと……

 「馬鹿言っちゃいかんよ。そんなものは、今やわしの仕事でも、
おっかさんの仕事でもあるかいな」
 菊江婆さんは破顔一笑。
 「あんた、ご亭主がいるじゃないか。そんな事はご亭主の仕事
に決まっとろうが……」
 あとは高らかに笑うのでした。

 しかし、そう言っておきながら……
 「そうは言うても、とっ掛かりがないと、やりにくいじゃろう。
そこは協力してやらんと、いかんじゃろうなあ」
 菊江婆さんは、一段と大きなだみ声を張り上げます。
 それは、私と母だけに伝えるには不必要なほどの大声でした。

 「どうじゃ、久しぶりにお灸でもすえて帰るか。子供の頃とは
違ごうて、大きな艾にも耐えられるじゃろうし、立派なご亭主も
いて納まる処に納まったんじゃから、これからは尻っぺたの灸痕
も気にせんでよかろうしな……いずれにしても、据え甲斐がある
というもんじゃて……」

 私は菊江婆さんのこの言葉は冗談だとばかり思っていました。
 ところが……

 「そうね、その方がいいかもしれないわね」
 母があっさりと賛成にまわります。

 すると若い助手のお姉さんまでもが、待ってましたとばかりに
ソファを片付け、薄い布団を敷き始めます。
 あまりと言えばあまりに手回しが良すぎました。

 「いや、やめて、私、今日はそんなつもりじゃ……」
 私は慌てて否定しますが……
 ここにいた全員が、私の言葉など聞く耳をもたないといった風
だったのです。

 手荒い歓迎会でした。

 薄い布団の上にうつ伏せにされると、その背中に四人もの大人
がのしかり、私はまるで車に轢かれたヒキガエルみたいに潰され
てしまいます。

 「いやあ、何?、何よ!、何よ!、何なのよ」

 母が右手を……左手は昔からここにいた串田さんが……両足は
若い助手さん……最後は、菊江婆さんの大きなお尻が腰の上に乗
っかると、もう息も出来ないほどでした。

 「いやあ~~、だから、やめてえ」
 あっという間の出来事。母から首根っこを押さえつけられる前、
一言叫ぶのがやっとでした。
 
 スカートを捲られ……
 ショーツを下ろされ……
 子供時代と同じ手順。でも、何も抵抗できませんでした。

 むき出しになったお尻に涼しい風が当たります。

 ただ……
 「……!?」

 それはこの場の熱せられた空気ではないようです。

 ドアが開き、誰かがこの部屋に入って来たような気配がします。

 「ほれ、見てみんしゃい。これは単なる傷ではないぞ。この子
が立派に更生しとる証じゃ」
 菊江婆さんは私のお灸の痕を摘み上げました。

 『誰?誰か他にいるの?』
 私は不信感を持ちますが、こう何人もの大人に押さえつけられ
てしまっては後ろを振り向くことはもちろん、身じろぎ一つ……
いえ、言葉を発することさえままなりませんでした。

 その人が声を出さない限り、私はそれが誰なのかを知るすべが
なかったのでした。

 「お前さんも、ここを責めてやることじゃ。ほれ、触ってみい」

 菊江婆さんに勧められてその人の指が私の灸痕に触れます。
すると……

 「(えっ!!男の人!?)」
 私は直感的にそう思います。
 もちろん、そうなら一大事でした。

 「喜ぶぞ。昔の粗相の痕じゃからな」

 「喜ぶって?……こんな辛い思い出なのに……」
 私はその時その人の声を初めて聞きました。そして全身の血が
凍りついたのでした。

 「そうじゃよ、お仕置きなんてものは、されてる時は地獄でも
それから時間が経って、今が幸せなら、その辛かった思い出も、
自分を彩る楽しい思い出の一部に過ぎんようになるんじゃ。……
お前さんは、今、この子を幸せにしとるんじゃろう?」

 「はい、そのつもりです」

 「だったら何も心配は要らぬ。この灸痕だって、他人様が心配
するほど本人は気にしとらんもんじゃ。だからここを責めてやれ
ばいいんじゃよ。『悪さする子にはお仕置きだぞう』と言うてな」

 「えっ?、あっ……はい」
 夫は気のない返事を返していました。

 「(ははははは)喜ぶぞう」

 「(何言ってるのよ、くそババア!!!)」
 私は母に押さえつけられた頭の中でそう思っていました。

 「だから、今日はあんたが火をつけてやるんじゃ」

 「(え~~~)」
 さすがに驚いて、私は全身に力をいれ、起き上がろうとようと
しましたが、無駄でした。
 いずれも女性ですが、四人もの大人たちにのしかかられ押さえ
つけられてるんです。私の身体は微動だにしませんでした。

 「大丈夫でしょうか、僕で……」

 「大丈夫も何も、あんたの仕事は、その手に持ったお線香を、
艾の頭に近づけるだけのことじゃ。そんなこと、こんな小さな子
どもでもするぞ。……ほれ、ほれ、お前も男じゃろうが、おなご
の一人や二人泣かせんでどうする。男がすたるぞ」

 菊江婆さんが励ますと、母までが……

 「恒夫さん、大丈夫ですよ。この子は、幼い時からたっぷりと
お灸で育ててますから、このくらいのことじゃあへこたれません。
すえちゃってください」

 馬鹿母までが調子に乗ります。
 気がつけば、若いお弟子さんも、昔からいる串田さんも、かす
かな笑い声を漏らしていました。

 私は、目も見えず、口も利けず、身体の自由がままにならない
状態でしたが、こんな時って、他の場所は敏感になっています。
耳でその場の空気感を読み、皮膚感覚だけでお尻に乗っけられた
艾の大きさを推測します。

 その皮膚感覚が叫ぶんです。
 「(馬鹿、本当にやめてよ。そんなに大きなのに火をつけたら
私のお尻に穴が空くじゃないの。何よ、これは何なの!みんなで
寄ってたかって……単なるリンチじゃないの。集団リンチだわ)」
 私は絶望のなか、身を固くします。
 というか、それより他、やることがありませんでした。

 やがて、菊江婆さんが、艾の乗った私のお尻を抓るようにして
持ち上げると……

 「ほれ、ここじゃ。線香を当てて……」
 主人に指示します。

 そして、ほどなく……
 「ぎゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 私は布団を噛みながら、本来上げられるはずのなかった悲鳴を
上げます。もう、のっけから頭の中が真っ白でした。

 「おう、ちっとは堪えたか?……よしよし、では今度はこっち
のお山にしようかな」
 憎憎しい菊江婆さんの独り言が耳元でします。

 そして……
 「いやぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 母に押さえつけられている頭を激しく振り乱し、半狂乱になっ
て叫びます。

 『死ぬ、死ぬ、死ぬ………………』
 心の中だけの断末魔の悲鳴、夢に紛れ込こめないほどの強烈な
現実の痛み。……身体は七転八倒したいのに、あらん限りの声で
悲鳴を上げたいのに、それさえ出来ず、ただひたすら悪魔の火が
私のお尻を突き抜けて、子宮の宮へ到達するまで、私は、じっと
耐え忍んで待っていなければなりませんでした。

 そして、その悪魔の火が子宮に納まる頃になってまた次の火が
現れます。

 「(ぎゃあ~~~いやぁ~~だめえ~~死ぬ、死ぬ、死ぬ~)」
 串田さんに猿轡をされて声は出ませんが思いは今まで以上です。

 耐え難い苦痛をただ耐えるだけの時間。動かせない頭を無理に
動かそうとするもんですから、私の頭の中には血が一滴も残って
いませんでした。

 と、その時です。私は不思議な感覚に襲われます。
 『いやあ、身体が浮いてる』
 意識朦朧の私は、その瞬間、浮くはずのない身体が浮いている
と感じてしまうのでした。

 その瞬間に苦痛はありません。
 『このまま天国へ……』
 そう感じられるほどだったのです。

 ただそんなさなかでも、熱の悪魔は依然としてお尻をつき抜け
私の子宮を収縮させ続けています。

 そして、四番目の火がお尻に下りた時……
 「(ぎゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~)」
 その苦難の悲鳴と一緒に、私はその身体の芯が濡れてることに
気づきます。
 
 『こんな苦痛の中で、どうしてよ!……こんなんで、楽しめる
わけないじゃない!!!』
 そうは思いましたが、でも感じてしまったのも事実でした。

 おっぱいが張り、子宮の奥の奥、切なさを司る女の神経が私の
身体をこれでもかというほど締め上げます。

 『あっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
 長い余韻を持つ快感が噴出してきます。

 『あっ~いやあ~~何よ、~何なのよ、これ、止めてよ~~』

 結果、それは私の意志とは無関係に私の出口でピチャピチャと
卑猥な音をたて始めます。

 最後の四番目の火がお尻に下りた時はすでに放心状態でした、

 若さゆえの恥ずかしい液体を布団にべっちょりとつけても興奮
は納まらず、身体の芯がしばらくはヒクヒクと脈打ち続けます。

 『とうして、お灸を据えられただけでこうなるのよ』
 やけっぱちにこう思いましたが、でも起こっていることは事実
であり現実。隠しようがありません。

 誰に尋ねられても決してこうは答えませんが、正直に言うと、
それってやっぱり……『あ~~~気持よかったあ』でした。

 「感じたみたいじゃな。ならば、もうよかろう」
 やっと、菊江婆さんのお許しがでます。

 そして、衣装を調えた私に対して……
 「ほれ、恒夫さんのお膝に乗ってみんかい。今据えたばかりの
灸がこそばゆくて気持がいいぞ」

 もちろんそんな事、普段なら気恥ずかしくて容易にできません
が、こうまで完璧に押さえこまれてしまうと、何故かそんな命令
さえも素直に従えるのでした。

 菊江婆さんは誰もが日常生活に戻ってくつろいでいるのを確認
すると、その輪の中で再び話し始めます。

 「世の中では、浣腸遊びのことをウォータースポーツと呼ぶん
だそうな。さすれば、わしのこれはファイアースポーツじゃな」
 高らかに天井を向いて笑います。その笑顔に屈託など何もあり
ませんでした。

 「人間は困難に打ち勝って何かをなすと、日常生活では得られ
ない興奮や快感を得ることができる。そこは、スポーツもSMも
同じなのじゃ。…しかもそれが、幼い日に受けた折檻と繋がって
いれば、高まるリビドーはさらに倍加する。イギリスの老紳士は
鞭で育てられているから鞭なのじゃが、この子はお灸で育てられ
てきたからお灸が一番効果がありますのじゃ」
 菊江婆さんは恒夫さんと視線を合わせる。
 「頼みますよ。恒夫さん。……おなごの幸せはなんと言うても
ご亭主しだいじゃからな」

 菊江婆さんに頼まれて、夫は気恥ずかしそうに……
 「はい」
 と返事を返します。

 母からも……
 「どうか、よろしくお願いします」

 「はい、ご心配をおかけしてすみませんでした」
 やはり、穏やかに返事を返します。

 その間も彼は私の頭を撫で続けていました。それって、まるで
夫婦と言うより親子といった感じでした。
 でも、そうされているのが、その時の私には幸せだったのです。

***************************

 その後、私たちが夫婦が、すぐに菊江婆さん直伝のファイアー
スポーツを始めたわけではありませんが、子供が生まれ、その子
に手がかからなくなり始めた頃、夫が決断して始めてしまいます。

 私のお尻には1円玉や10円玉ではなく、500円硬貨ほども
ある大きな大きな灸痕が残りましたが、今となっては、彼の他に
ハズバンドを持つ気もありませんから後悔もありません。

 毎日貞操帯を着け、週に一度はウンチを我慢する生活。
 夫は今でも優しくて私のオムツまでも替えてくれます。
 時に立場を変えて、夫が頑張ったりすることも……。
 他人様には到底見せられませんが、本当に幸せな日々なのです。

 「夫婦は綺麗事じゃないからな」
 帰りしな、玄関先で菊江婆さんに言われてことが、最近やっと
わかるようになりました。
 ですから、こうした夫婦和合に導いてくれた菊江婆さんには、
今さらながら本当に感謝しております。


**************************  

今週はダウン

           今週はダウン

*)近況報告です。

 今週はプライベートな行事目白押しでブログ更新できませんで
した。小説を書く時間はありませんでしたけど、何気にネットを
見ていたら『魔法の鍵』というサイトに出会いまして楽しかった
です。(≡^∇^≡)

 1日2000件近いアクセスがあるみたいなので知らないのは
僕だけだったのかもしれないけど(^o^ゞ

 まず、イラストだけじゃなく、しっかりとした小説物語として
仕上がっているのに感激。『今でも、この分野を小説で描く人が
いるんだなあ( ̄▽ ̄;)』って、あらためて驚きました。

 内容も、厳しいお仕置きがこれでもかってくらい続く架空学園
もので、女の子が比較的従順に設定されていているのも僕好み。
 何より同じ主題で十数年以上も描き続けられてるみたいなので、
これには頭が下がります。

 それと……
 これを言うと、『お前の下手な小説と一緒にするな!!』って
作者さんに怒られそうなんだけど、文章の書き方(新しい段落の
最初を一字空けるとか……段落の区切り方で臨場感を出すところ
とか…)が、どっか僕と似ていて、そういう意味でも読んでいて
親近感がわいてしまいました。

 ただ、僕の場合は、すでにこうした突き抜けた作品は描けなく
なってしまいましたから、そこは残念至極です。
 せめてもう10年若ければ、ひょっとして張り合っていたかも
……なんて妄想してしまいました。(^o^ゞ

 これからも末長く女の子をお仕置きし続けてくださいませ。

****************************
 

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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