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御招ばれ <第1章> 「 第 3 回 」

    御招ばれ <第1章> 「 第 3 回 」

 *** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


 *** 目次 ******
  <第1回>(1)~(6)  /いつもの大西家へ
 <第2回>(7)~(11) /お浣腸のお仕置き
  <第3回>(12)~(17)/鞭のお仕置き


 ***< 主な登場人物 >***************

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。

 大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
    医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
    春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
 大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
    茜は彼女を慕っている。
 大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
    だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
 高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
    子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
    もする。
 明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
    大西家の生き字引。

 **************************


*********<第3回>*************


 御招ばれ <第1章>(12)

 現れた茜ちゃんはトレードマークだった三つ編みを解いていま
した。自由になった髪がストレートに肩へ流れると、今までとは
印象が少し違って見えます。ほんのちょっぴりですが、お父さん
にもその姿は大人に見えました

 茜さんはお約束の白いレースのワンピースをさらりと着こなし、
白い短ソックスに黄色いアヒルのスリッパを履いていました。
 そして、お母さんが自分のものをおまじないに振りかけたので
しょうか、ほのかに薔薇の香りが漂います。

 「何だか大人の人みたいに見えるね」
 春花が言えば……
 「ほんと、キレイ」
 美里の思いも同じでした。

 ただ、妹たち二人を見た茜さんはというと、心穏やかではあり
ませんでした。

 そんな不安げな茜さんの肩を抱くように、今度はお母さんまで
が現れます。

 「なんだ、父兄同伴かい」
 お父さんはお母さんに皮肉を言いますが……

 「仕方ありませんよ。この子は女の子。しかもまだ幼いんです
からね。あなたが恐いんですよ。誰かが着いててやらないと……
こんな処でお漏らしでもしたら大変でしょう」

 お母さんは茜さんを擁護したつもりなんでしょうか?
 茜さんは顔を赤らめます。

 いずれにしても、大西家では二親がともに子供へ厳しく接する
ということはありませんでした。
 今日はお父さんがお仕置きをするというのですからお母さんは
茜さんのサポート役だったのです。

 「あのう、あの子たち、ずっと、ここにいるんですか?」
 茜さんは、さっそく目障りな二人につけて尋ねますが……

 「いけないかい?」
 お父さんから薄情な答えが返ってきます。

 「そうだよ。……実は、今日も施設の院長先生からこの子たち
を里子にお願いできないかというお話があってね、今、考えてる
ところなんだ」

 「そうなんですか……」
 茜ちゃんは気のない返事を返します。
 茜ちゃんにしてみれば、家族の中だけならいざ知らずお仕置き
をこんな子たちに見せるなんて…という思いが心の中で渦巻いて
いたに違いありませんでした。

 「ついてはね、この子たち、これまではお客さんとしてうちに
来ていたから、うちの楽しいところしか知らないでしょう。でも、
うちにも辛いことはたくさんあるよね。それを今回見せてみて、
それでもうちに来たいというなら呼んであげようかと思うんだ」

 「えっ、それじゃあ、私のお仕置きをこの子たちに見せるの?」
 茜ちゃんは、最初、目を丸くして大声をあげましたが……
 「……私、生贄なんですか?」
 自分の声に、妹たちが肩をすくめて驚いたのを見ると、最後は
歯切れ悪くお父さんに尋ねます。

 「生贄なんて人聞き悪いなあ。たまたま同じ部屋にいるだけだ
よ。……ところで、茜は、今日何かおいたをしたのかい?」
 お父さんは皮肉たっぷりにこう尋ね返す始末でした。

 「…………」
 これには茜ちゃんも返す言葉がありません。お父さんの前で、
茜ちゃんは下唇を噛むことしかできませんでした。

 「そんなに深刻にならなくても大丈夫だよ、たとえこの二人が
うちに来ることがなくなっても、ここでのことは街に漏れたりは
しないから……」

 「どうしてですか?」

 「この子たちは『教会の子供たち』だからね。私たちとは住む
世界が違うんだ」

 お父さんは、茜さんを安心さそうとしてこう言ったのですが、
その言葉が、どれほど茜さんを励ますことになったかはわかりま
せん。
 分かっているのは、今日はこれからこの妹分二人の前で自分が
醜態を晒さなければならないという現実だけでした。

 ちなみに『教会の子供たち』という用語はその子たちが単なる
捨て子ではなく、教会関係者が神に背いて創ってしまった子ども
たちのことを指していました。

 このため、一般の孤児たちとは異なり、この子たちに対しては
親からそれなりの養育費も出ていますし、面倒をみるシスター達
の扱いも丁寧です。

 ただ、その将来は決められていて大半が聖職者。子どもたちは
隔離された世界の中で大人になり、世間で注目されるような職種
につくことは認められていませんでした。


 「じゃあ、始めようか。……こっちへ来て座りなさい」
 少し顔の表情を引き締めてお父さんが茜さんを呼び寄せます。

 茜さんに与えられたのは、妹分二人が座っているようなソファ
ではありませんでした。どこの学校にも置いてあるような座面が
硬い木でできた粗末な椅子。
 そこに今の茜さんの立場が現れていたのです。

 「先日、学校から今学期の中間テストの結果をみせてもらった
んだけど……芳(かんば)しくなかったみたいだね」

 「ちっ、やっぱり、そのことなんだ」
 茜さんは思わず小さな舌打ちをします。
 実際、お母さんからはその事でお父さんが怒っているみたいだ
との情報を得ていましたから本当は自制しなければならないので
しょうが、お父さんとの間の普段が思わず顔を出してしまいます。

 「何だか不満そうだね。『何だ、そんなつまらないことで私を
呼びつけたのか』って顔をしているよ」
 お父さんの顔は笑っていますが、舌打ちされた側の人が相手を
面白くないのは誰でも同じことです。もちろん、相手がお父さん
でも、それは同じでした。

 「今学期の始め、私は茜の為にスケジュール表を作ってあげた
けど……あの通りできなかったみたいだね」

 「そんなことは……」
 茜さんは伏し目がちに小さな声で否定しようとしましたが……

 「手元の記録では、たしかにやったってことになってるけど、
もし、本当に私の指示通りにやっていたのなら、こんな結果には
ならなかったはずだよ」

 「それは……」
 お父さんの追及に茜さんの顔が曇ります。

 「それは、やってもいない勉強をやりましたって私に報告して
いたってことじゃないのかな。……つまり、私に嘘をついていた
ということだよね」

 「えっ……」
 茜ちゃんは『嘘』という言葉にひっかかりを覚えて顔をあげま
すが、『じゃあ、どれほど真剣にやっていたんだ』と問われたら、
それには返す言葉がみつかりませんでした。

 「小学校の頃はどうだったか、覚えているかい?」

 「『どうだった』って何が……」

 「勉強だよ。茜はどうやってお勉強してたか覚えているかい?」

 「それは……」
 茜さんは、再び頭を下げると、そのままじっとしていました。
嵐の過ぎ去るのを待つことにしたのでした。

 「えっと……」
 うつむくその顔は確かに申し訳なさそうな顔にも見えますが、
内心は、『あ~あ、お小言早く終わらないかなあ』と思っていた
だけでした。

 何よりこうしていればお父さんの恐い顔を見ずにすみますし、
お小言が頭の上を通り過ぎていきますから楽だったのです。

 そんなことですから、すぐに眠くなっちゃって……
 「茜、聞いているのかい?」
 なんてお父さんに強く言われちゃいます。

 「えっ?」
 茜ちゃんは思わず顔を上げましたが、その時すでにしっかりと
寝ぼけ眼。

 「どうやら、もうオネムのようだね」
 お父さんは声こそあげませんでしたが、我慢は限界に近づいて
います。ただ、悲しいことに幼い茜ちゃんにはその事を察知する
レーダーが心にまだありません。

 「忘れちゃったかな。小学校の頃のことは……」
 「あっ……はい……あっ、いいえ」
 お父さんは相変わらずの笑顔のままですから、茜ちゃんはその
顔を見て、むしろほっと一息です。

 でも、お母さんは大人ですし、何より長らく夫婦ですからね、
お父さんの気持は茜ちゃんよりよくわかっています。

 「覚えてます。テストのお点が悪いと、そのたびにお母さんが
家庭教師をやってくれて……もし、そこでも答えを間違えると、
お尻をぶたれてました……」
 消え入りそうな声で茜ちゃんが答えます。

 「そうだね、小学校では単元ごとにテストがあるから、各教科
一学期で10回はテストがある計算だもんね。茜ちゃんも、毎日
毎日痩せる思いだった訳だ」

 「…………」

 「その点、中学校では一学期に行われる主なテストは、中間と
期末の二回だけだもんね。今はずいぶん楽になったと思ってるん
じゃないのかな。……それで、気が抜けちゃったというわけだ」

 「(えっ、何が言いたいのかしら?)」
 茜ちゃんはお父さんの言葉に身の危険を感じます。
 それって、理屈ではなく女の第六感というやつでした。

 「茜。これは今回のテストに限らないんだけど、幼い時という
のは、何かにつけてお仕置きが多いんだ。……それも、おいたを
したらすぐにぶたれる。……覚えてるだろう?」

 「…………」
 茜ちゃんは小さく頷きました。

 「それが大人に近づくと、お仕置きの回数は減るものなんだ。
勿論、分別がついておいたの回数が減ったというのもあるけど、
私たちもまた、大きくなった子に、『些細なことまでとりあげて
お仕置きをするより、もう少し様子をみよう』と思い始めるんだ。
……その間に、我が子が自分で心を入れ替えてくれることを期待
してね」

 「…………」

 「だけど、たいてい裏切られる。それに、いつまでもってわけ
にはいかないんだ。一定の期日を区切って……それまでに成果が
見えない時は……頭のいい茜だったら、お父さんの言ってること
わかるよね」

 「…………」
 茜ちゃんにはお父さんの言っている事が分かるのですが、その
結果どうなるかは認めたくありませんでした。

 「テストも同じ。一学期に二回しかテストがないからその間は
遊んでいてもいいってことにはならないんだよ。中間や期末に備
えて計画を立てて勉強しておかないと、後でこうむる罰は小学校
の時のお尻ペンペンぐらいじゃすまないんだ。わかるだろう?」

 お父さんのお説教を、相変わらず申し訳なさそうな顔で居眠り
しながら聞いてる茜ちゃんでしたが、これではまずいと思ったの
でしょう。お母さんが割って入ります。

 「そうね、ちょうどいい機会だから、今日は中学生のお仕置き
がどんなものか経験してみるのがいいかもしれないわね」

 その瞬間、茜ちゃんの目が一瞬にして醒めます。
 というのも、幼い頃からお仕置きの大半はお母さんによるもの。
お母さんがお仕置きについて話せば、ぐっと現実味が増します。
たとえ自分のことではなくても緊張感が増します。

 お母さんの声は茜さんにとっては起床ラッパと同じだったので
した。


********(12)***********


 御招ばれ <第1章>(13)

 「さあ、お父様のお膝へいらっしゃい」
 お母さんが強い調子で茜さんの腕をとります。
 慌てた茜さんは突然のことに嫌々をしますが、それはお母さん
の腕を振りほどくほどではありませんでした。それが後々どんな
結果になって自分に跳ね返ってくるかを知っていたからでした。

 「おいで……目が覚めるから」
 お父さんがご自分の膝を叩いて指示します。

 「!」
 もう、こうなったらダメです。
 茜さんはそこへ行くしかありませんでした。

 幼い頃からお尻を叩かれていた茜さんにとってお父様のお膝は
世間で言う『お尻ペンペン』なんて生易しいものではありません。
ギロチン台並みの恐怖です。
 でも、そこへ行くしかありませんでした。

 「お父様、お仕置き、お願いします」
 茜さんはお父さんに一声掛けてその膝にうつ伏せなって寝ます。

 『お仕置き、お願いします』なんて、ぶたれる子供の側が言う
セリフじゃないかもしれませんが、これも大西家のしきたりです。
大西家では、朝、『おはようございます』を言うのと同じでした。

 「恐がらなくてもいいからね。茜は女の子だから私からの経験
があまりないかもしれないけど、私もお尻叩きは上手なんだよ」
 お父さんはそう言って、まずスカートの上から叩き始めます。

 リズミカルに軽快に……
 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」

 茜ちゃん、最初は『あれ?これって、お父さんの方が楽だ』と
勘違いしたのですが、すぐにその間違いに気づきます。

 最初の数回はまだそんなに痛くありませんでした。
 でも、10回を過ぎる頃から辛くなります。         
 「パン……パン……パン……パン(あっいや)……パン(ひぃ)
……パン(あっ、だめ)……パン(あっ)……パン(痛~~い)」

 普段お母さんからやられているスパンキングは、お尻の表面が
ピリピリするような乾いた感じの痛みなのですが、お父さんのは、
一発一発がお尻の肉の奥まで届く感じの重い痛みです。
 しかもお父さんのスパンキングは、お母さんと違って短い時間
では終わりませんでした。

 徐々に、徐々に蓄積されていく痛みの中で、茜ちゃんのお尻は
しだいに悲鳴を上げ始めます。

 「パン(あっ、いやあ~~~)……パン(だめえ~~~)……
パン(お願い、お母さんやめさせて~)……パン(あっいやいや)
……パン(ひぃ~~~)……パン(ああん、お母さん許して~)」

 茜ちゃんは、お父さんにお尻をぶたれていたのですが、許しを
求めたのは自分の両手を握るお母さんでした。

 ところが、そのお母さんは……
 「何やってるの。これくらいのことで、両足をバタつかせたり
して、幼い子じゃないの、みっともないことはやめなさい」
 と、逆に茜ちゃんを叱るのでした。

 いえ、それだけではありません。
 今度はお父さんが茜ちゃんのスカートを捲りあげようとします
から……

 「いやあん、しないで!!パンツ見えちゃう!!いや!!ダメ
エッチ、レディーに失礼よ」
 茜ちゃんは慌てて抵抗を試みますが、できたのは口だけでした。

 本当は右手でお尻をかばいにいきたいのですが、お父さんの膝
の上で万歳した格好の茜さんはその両手ともお母さんにしっかり
握られていてピクリとも動かせません。

 「あ~~ん、イヤだって……」
 その間にもお父さんのお尻叩きは再会します。
 今度はショーツの上から。当然スカートの上からより痛いこと
になります。

 「パン(あっ、いやあ痛い痛い~~~)……パン(だめえ~~~)
……パン(お願い、お母さんやめさせて~ホントに痛いんだって)
……パン(あっいやいやいやいや)……パン(ひぃ!ごめんなさい)
……パン(ああん、お母さん許して~誰でもいいから許してよ)」
 茜ちゃん、まだまだ口だけは達者でした。

 いえ、こうして必死に叫んでいないとお父さんの平手の痛みに
耐えられないから……というのが本当の理由かもしれません。

 ところが、真っ赤な顔をして奮闘する茜ちゃんの苦労をよそに
お父さんは涼しい顔。おまけに、茜ちゃんの最後の砦にまで手を
かけるのでした。

 「……!!!……」
 白い綿のショーツが剥ぎ取られてしまいますが、なぜかその時、
茜ちゃんに大声はありませんでした。

 妹分の二人がさっきから笑いを堪えながら見ているのは知って
いますから、もうこれ以上恥の上塗りをしたくないと思ったので
しょうか。

 もちろん、そんなことにはおかまいなく、二人は固唾を飲んで
茜ちゃんの裸のお尻を見ています。
 男の子でないのがまだしもなのかもしれませんが、女の子にと
ってはこれ以上ない屈辱でした。

 それに、当然のことですが、何の防御もない生のお尻はさらに
堪えます。

 「パン(いやあ~~もうぶたないで~~~ぶたないで~~~)
……パン(痛い、痛い、痛い~~痛いんだって~~お願~~い)
……パン(ひい~~~だめえ~~~壊れるから~~お願いよ~)
……パン(お母さんやめさせて~ホントに痛いんだってえ~~)
……パン(ああ~ん、お母さん許して~何でもする、何でもする
から~~~)」

 痰を絡ませながら必死に哀願する茜ちゃん。
 でも、お父さんからは、なかなかお許しが得られませんでした。

 「パン(いやあ~だめえ~)……パン(痛い、痛い、痛い~)
……パン(ひい~~)……パン(だめえ~壊れるから~~)……
……パン(お願い、やめてよ~)……パン(お母さんやめさせて)
……パン(ホントに痛いんだってえ~~)……パン(ああ~ん)
……パン(いやいやいや)……パン(お母さん許して、お願い、
お願い~何でもする、何でもするから~~~)」

 70回を超え、茜ちゃんはひところより口数が少なくなってい
ました。
 泣き疲れ、声も枯れて、もう大声も出なくなっていたのです。
 そして、その頃になってやっと許されます。

 茜ちゃんは床に転がると必死でお尻をさすりましたが、痛みは
すぐには引かず、5分くらいは床に泣き崩れたままただただ自分
のお尻をマッサージしていました。

 やがて、少し落ち着いた頃、お父さんと目と目があって初めて
自分の姿に気がついたみたいで……慌ててお父さんの足元に膝ま
づくと、両手を胸の前で組んでご挨拶します。

 「お仕置き、ありがとうございました」

 これも『お父様、お仕置きお願いします』という最初のご挨拶
同様、大西家のしきたり(躾と呼ぶべきかもしれません)でした。


 もっとも、これはほんの序の口。
 これはあくまで眠そうにしている茜ちゃんの目を覚まさすため
で、本当のお仕置きはこれから……ということのようでした。

 「目が醒めたかい?」
 少し仏頂面のお父さんの顔がいきなり茜ちゃんに迫ってきます。

 大人のそんな顔、恐いですからね。
 「はい」
 嗚咽の収まらない茜ちゃんでしたが小さな声が聞こえます。

 すると、お父さんはとたんに笑顔になって茜ちゃんを膝の上へ
抱き上げます。

 「お~~しばらく抱かないうちに重くなったなあ」
 お父さんの言葉はまるで幼児か赤ちゃんを抱いた時のようです。

 でも、お尻がお父さんの膝に乗っかると茜ちゃんは顔をしかめ
ます。そこはまだ完全に癒えていませんから、お愛想でも笑顔は
難しかったのでしょう。

 「どうした?まだ痛いか?……だったら、静かにして私の話を
聞きなさい。いいね」
 『動くとお尻が痛いよ』というわけです。

 お父さんは、茜ちゃんの頬にご自分の息がかかるほど強く抱き
しめます。
 普段ならタバコの臭いお父さんの顔に嫌々をするところですが、
今は、お父さんのお膝をお尻が摺れただけで飛び上がるほど痛い
ですから、おとなしくタバコの臭いを嗅ぐことになるのでした。

 「いいかい、茜。人はいろんな家に生まれる。農家もあれば、
八百屋さん、鍛冶屋さん、サラリーマン、人それぞれだ。でも、
どんな家に生まれようと、その家を盛り立てなければならない。
お父さんお母さんをお手伝いしなきゃいけない。それが子どもの
義務なんだよ。農家の一樹君も、八百屋さんの真理子ちゃんも、
鍛冶屋の高志君だって、みんなお家のお手伝いをしてるだろう。
それは、茜、君だって同じなんだよ」

 「……私もお手伝いするの?」
 茜ちゃんはぽつんと独り言のように言います。それはそれまで
一度も考えた事がなかったからでした。

 「茜ちゃん、お父さんの仕事は何だい?」

 「大学の先生」

 「そう、お家で商売してるわけじゃないよね。でも、お父さん
は茜ちゃんに手伝って欲しいんだ」

 「どんなことお手伝いするの?……お父さんの助手さんとか?」
 茜ちゃんは首を傾げます。

 「いや、それはまだ無理だろうけど、大学教授の娘らしくして
いて欲しいんだよ。茜ちゃんは世の中の事はまだ分からないかも
しれないけど、大学の先生、お医者さん、弁護士さんなんて仕事
は世間での信用が大事なんだ。『普段偉そうなこと言ってても、
あいつの娘、学校じゃ劣等生らしぞ。娘一人満足に育てられない
奴にこんな仕事頼んで大丈夫かなあ』なんて、思われちゃうと、
お父さんもお仕事がやりにくいからね」

 「つまり私はお父さんの娘にはふさわしくないってことなの?」

 「そんなことはないよ。私はお前を施設から引き取ってから、
ずっと愛してきたし、これからだって、お前がどんな成績でも、
嫌いになることなんて事ないはずだよ。だって、お父さんはお前
を見初(みそ)めてここへ連れて来たんだから……」

 「……うん」

 「でも、お前はどうなんだい。私とは血の繋がりもないし……
こんなお尻をぶつようなお父さんは嫌いかい?」

 「…………」
 茜ちゃんは首を横に振りました。

 理由は簡単です。
 今日はたまたまお尻をぶたれていますが、普段の茜ちゃんは、
お父さんに甘えてばかりいます。お父さんとは楽しい時間がほと
んどなのです。ですから、短い時間のお仕置きのために、楽しい
時間を犠牲にするという選択はありえませんでした。

 茜ちゃんは考えます。
 『要するに、お父さんを愛しているなら成績を上げなさいって
ことよね。でも、私、頭悪いし、頑張っても成績あがるかなあ』

 そんなことを思っていると……
 「よかった、茜も私を愛しているんだね。よし、だったら明日
からは私がお勉強の面倒みてあげるから、また一緒に頑張ろうね」
 お父さんがこんなこと言うのです。

 「えっ、(お父さんと一緒に!!)」
 茜ちゃんは驚きます。

 いえ、小学校時代の茜ちゃんはお父さんのお膝の上で勉強して
いました。お父さんにしてみれば相当に重いお荷物だったと思い
ますが、何しろ甘えん坊の茜ちゃん相手では、これが最も効率的
だったからお父さんも仕方なく続けていたのでした。

 そんな昔の姿が頭をよぎったので驚いたのでした。
 今さらお父さんにだっこされて勉強するなんて、嬉しいけど、
恥ずかし過ぎます。

 すると、そんな茜ちゃんの心の中を察するように……
 「もう、抱っこはしないよ。こんな重い荷物、いつまでも膝の
上に乗せて置けないからね……でも、それ以外は今までとおりだ。
集中心を欠いたような態度なら、すぐに竹の物差しで目覚ましだ。
あんまりだらしがないなら、お灸だってまたすえるよ。それに、
日曜日の朝は必ずお浣腸。便秘なんかしてるとそれが気になって
頭の回転も鈍くなるからね」

 『また、始まるのか。お父さんと一緒のお勉強。何だか体よく
言いくるめられちゃった感じだなあ』
 茜ちゃんは心の中でため息をつくのでした。


********(13)*************


 御招ばれ <第1章>(14)

 「茜さん。お父様が教えてくださるって、よかったわね」

 お母さんは『めでたしめでたし』みたいなことを言いますが、
茜さんにしたら、これからしばらくはお父さんに管理された憂鬱
な日が続くわけで、素直に喜べるわけがありませんでした。

 そんな気持、もっと大人になればうまくセーブできるんでしょ
うが、13歳になったばかり茜さんには自分の気持を素直に表現
することしかできませんでした。

 「何がよかったのよ!!ちっともよくないわよ!!」
 口をへの字にすると、眉間に皺を寄せ、お母さんを睨み返して
しまいます。

 「あかね!」
 お父さんは即座に厳しい顔をして茜ちゃんを睨みますが……

 「あ~あ」
 出るのはため息ばかり。お母さんへの謝罪の言葉はいっこうに
ありません。

 でもそれは、親しい関係なんだから、親子なんだから、すねて
も許されるはずでした。少なくともこれまではそうだったのです。

 「しょがない子だなあ、あまえはもう小学生じゃないんだよ」
 お父さんにこう言われても……

 「は~~い」
 気のない返事をするのが精一杯だったのです。

 「茜、やる気がないのならやめてもいいんだよ」

 お父さんの突然の言葉に、茜さんは心臓に杭を刺された思いが
します。

 「えっ!?」
 目を丸くした茜さん。そのまま声が出ませんでした。

 いえ、お父さんの家庭教師なんてやめてもらいたいというのは
本音なんですが、それが許されない立場にあることも、茜さんは
十分感じていたのでした。

 『そんなのやりたくありません。やめたいです』
 素直にそんなこと言ったらどうなるでしょうか。
 お父さんからぶたれるでしょうか。
 いえ、ぶたれるよりもっと辛いことが起きやしないか……
 茜さんはそっちを心配していたのでした。

 『妹たちもやがてこの家に来るというし、このまま無視され、
スポイルされ、自分だけがこの両親から相手にされなくなったら
どうしよう』
 茜さんの心配は、もちろん実の親子だって起こり得ることです。
でも、血の繋がりのない茜さんにとってはより深刻な問題だった
のでした。

 「茜。お前は頭もいいし私でなくても里親はすぐに見つかるよ」
 案の定、お父さんは茜さんの気持を見透かして、わざとこんな
事を言います。

 もちろん、お父さんは茜さんを愛しています。誰かが茜さんを
欲しいと言ってきても、絶対にどこへもやったりはしません。
 でも、時たまこうして脅してやれば、茜はより強く私を求めて
くるはず……大人は、そう読むのでした。

 実際、これまではこういった脅かしが不首尾になることは一度
もありませんでした。

 この時も、茜ちゃんはお父さんに擦り寄ります。
 そして、お父さんが手を出せば、茜ちゃんの身体に触れられる
距離にまで近づいてから…

 「お父さん、私のこと、嫌い?」
 と言います。

 「どうして?…大好きだよ。今も昔も、子どもの中で茜が一番
大好きだって言ってるだろう」
 お父さんはそう言って、茜ちゃんを身体ごと抱き上げて膝の上
で頬ずりします。

 お尻の痛みが遠のいた今は、気持ちよさだけが茜ちゃんを包み
ます。それは親子の儀式のようなものでした。

 「何で泣いてる?私がお前をどっかにやるとでも思ったのか?」

 幼い時からの習慣。茜ちゃんは、いまだにこの頬ずりから逃れ
られないでした。

 ところがこうなると、お父さんのペース。
 次はとんでもないわがままだって茜ちゃんは飲まなければなら
なくなるのでした。


 「それでね。茜。お父さんとしては今日の事をお前が忘れない
ために鞭を使おうと思うんだ」

 「………………………………お尻、ぶつの?」
 茜ちゃんはそれだけ小さく言って生唾を一つごくんと飲みます。

 「ああ、お父さんはその方がいいと思うんだ。言葉ってのは、
時間が経つと忘れちゃうからね。茜には、もっと忘れない方法で
心に刻んでおいてもらいたいんだ」

 「パンツも脱ぐの?」

 「ああ、パンツも脱いだお尻に竹の物差しでね。……嫌かい?」
 お父さんの声は穏やかでした。

 「……………………………………」
 『嫌かい?』って……そりゃ嫌に決まってます。茜さんは声が
ありませんでした。……でも、『嫌』と言ってみても結果が同じ
なのも分かっていました。

 いえ、茜ちゃんだってこの家の子、2歳からこの家でお父さん
と一緒に暮らしています。裸でベッドを共にした事だって何度も
あります。気心の知れた親子です。

 ですから、お父さんがこんなことを言い出すことぐらい、その
流れの中から読めます。べつに、青天の霹靂というわけじゃあり
ませんが、それでもあらためてお父さんにお仕置きを宣言される
と、子供としてはどう返事をしてよいのかわかりませんでした。

 そもそも幼い頃のお仕置きはこんなことを打診しません。茜が
悪いことをすれば、お父さんもお母さんも、いきなりスカートを
捲りあげて茜のお尻をぶち始めます。
 それが、前回、小学5年生の時のお仕置きでお父さんが初めて
こんな事を尋ねたような気がします。

 『あの時、私、どうしたっけ?』
 茜ちゃんは考えますが、昔の事で思い出せませんでした。
 困っていると、その答えをお母さんが耳元で教えてくれました。

 「茜、そんな時は『はい、お受けします』と言うの。お父様は
あなたの覚悟をきいてらっしゃるんだから、しっかりご挨拶しな
ければいけないの。いいこと、あなたも中学生、もう幼い子じゃ
ないんだから、自分の罪を償う勇気を持っていなきゃいけないわ」

 「はい、お母さん」

 お父様にも当然聞こえているお母さんの助言を受けて茜ちゃん
は、あらためてお父さんにご挨拶。

 「はい、お受けします」

 茜ちゃん、お父さんに抱っこされたままでご挨拶でした。
 でも、お父さんは怒りません。とっても満足そうな笑顔を浮か
べて茜ちゃんの頭を撫でるのでした。


 大西家での子供たちへの鞭打ちは、ごく幼い時は、お父さんや
お母さんが膝に抱きかかえてヘアブラシやパドルを使って行われ
ますが、その子が大きくなると、それ専用の拘束台を使って行わ
れます。

 それは普段お父さんの書斎においてあり、まわりの家具に調和
して一見ライティングデスクにしか見えませんが、部屋の隅から
引き出されてソファの代わりにそこへ置かれると、受刑者はその
姿に恐れおおののくことになります。
 一度でもその台に乗ったことのある者はそれがどれ程の物かを
知っているからでした。

 茜ちゃんのずっと上のお兄様たちでさえ、その時の強烈な痛み、
恥ずかしさをいまだに忘れられずいました。ましてや茜ちゃんは
女の子ですから、小学5年生の時にこの台に張り付けられた記憶
はまだ心の中に鮮烈に残っていました。

 大人たちが拘束台の準備をするさなか、茜ちゃんは呆然として
その様子を見ていたのですが、過去の辛い思い出に縛られたので
しょう。拘束台を見つめたままパンツを穿くことさえ忘れていま
した。

 「何してるの茜。パンツくらい穿きなさい。みっともないわよ」

 気がついたお母さんがやって来て呆(ほう)けた顔の茜ちゃん
にパンツを穿かせようとしますが、その時、あることに気づいて
手じかにあったタオルで茜ちゃんの太股を手早く拭きあげます。

 『まったく、この子ったら……』
 お母さんは心の中で思います。

 茜ちゃんはお漏らしをしていたのです。すでにお浣腸も済んで
いましたが、最後にお腹を洗った時の残りがいくらかまだ膀胱に
残っていたのでしょう。
 二筋三筋太股を雫が伝っていたのです。
 茜ちゃんはそれも気づかぬほどぼんやりしていたのでした。

 お母さんは、そんな茜ちゃんに何も言いませんでした。
 お母さんは、茜ちゃんにパンツを穿かせると、皺になっていた
白いワンピースの裾を整え、髪を手ぐしでセット、ハンカチで涙
を拭き、鼻をかんで、茜さんを元のお嬢さんの姿へと戻していき
ます。

 「よし、できた。どこ見ても立派なお嬢様よ」
 お母さんは完成した茜さんを前にして満足そうです。
 そして、こう言って励ます……いえ、叱るのでした。

 「茜、お父様の鞭はあなたの為に振り下ろされるの。だから、
あなたはお尻だけじゃなくそれをあなたの身体全体でしっかりと
受け止めなければならないわ。悲鳴なんか上げて、そこから逃げ
ようとしちゃいけないの。ただただお父様の鞭の痛み耐えるの。
分かるかしら」

 「…………」
 お母さんの力説にも関わらずこの時の茜ちゃんはまだお人形で
した。

 「あなたはまだ幼くて詳しい理屈は分からないでしょうけど、
この鞭は刑罰の鞭ではないの。お父様の鞭が強ければ強いほど、
痛みが強ければ強いほど、お父様があなたを愛してらっしゃると
という事なのよ。……わかった?」

 「…………」
 茜さんは小さく頷きます。

 すると……
 「わかったんなら、さあ、行ってらっしゃい」
 お母さんは茜ちゃんを送り出します。
 もちろん、そこに待っているのはお父さんでした。


*********(14)***********


 御招ばれ <第1章>(15)

 茜さんがお父様の前へやってくると……お父様の顔は今までの
ようににこやかではありませんでした。
 真剣な顔、少し怒ったような顔にも見えます。
 その顔を見ながら茜さんは膝まづき、両手を胸の前に組んで
……

 「お父様、お仕置き、お願いします」

 茜さんのはっきりした声が部屋のどこにいても聞こえました。
 いつもなら、茜ちゃんがこの言葉を口にすればそれに呼応して
お父さんの顔もにこやかな顔へと変わるのですが、この時ばかり
は恐い顔のまま。

 いえ、チンピラが凄んでるのとは違いますから、こういうのは
恐いというより威厳があると言うべきかもしれません。

 茜さんのご挨拶が終わると、お父さんはその威厳のある顔で…
 「恐かったかい?よく、勇気を出して来たね。でも今の君には
それが大事なんだよ。逃げないってことがね。あとは、歯を喰い
しばって必死に頑張るだけだ。……大丈夫。逃げなかった茜には、
これから先、きっと、いいことがあるから」

 お父さんは茜さんを励まします。そのうえで……
 「……よし、じゃあ、ここにうつ伏せだ」
 お父さんは拘束台のテーブルを指差すのでした。

 茜さんが上半身をテーブルに横たえると、そのテーブルが傾斜
して頭の方が下がり、お尻が一番高い位置に来て、茜さんとして
はとても窮屈な姿勢をとらされることになります。

 でもそれだけじゃありません。両手首も両足も革ベルトで拘束
されてしまいすから、これから先は泣いてもわめいても逃げ出す
ことは不可能でした。

 「わかってるだろうけど、これから先は何があっても声は出さ
ないようにしなさい。お前も、もう小さな子供じゃないんだから
恥ずかしいまねはしないように」

 お父さんはこう注意してから白いワンピースの裾を捲ります。
 せっかく穿きなおせたショーツも再び脱がされてしまいますが、
もうこれは運命と諦めるしかありませんでした。

 「………………」
 こんな格好、そりゃあ恥ずかしいに決まってます。ですけど、
その気持は、自分の心の中に納めておくしかありませんでした。

 そんな茜さんのもとへ今度はお母さんがやってきます。
 お母さんもまたにこやかではありませんでした。

 厳しい顔のまま一言……
 「口を開けなさい」

 何をするのか、されるのか、茜さんは分かっていました。
 「うっぐ」
 開いた口の中にタオルハンカチが入ります。

 お母さんがまずやったこと。それは茜さんにまず猿轡を噛ます
ことでした。

 一方、お父さんは、すでに長さ二尺の物差しを手にしています。
この長さがお尻をぶつにはちょうどいい長さでした。

 「!!!!」
 茜さんが突然緊張します。
 お父さんが試しに竹の物差しそれを振り下ろしたのです。

 茜さんの口はお母さんによって猿轡がされていましたが、耳は
耳栓なんてしてませんから、その空なりの音をどうしても拾って
しまうのです。

 『ブン』『ブン』という音が、茜さんの身体を硬直させます。

 『何でよう!何でお母さん、耳も塞いでくれなかったのよ!』
 茜ちゃんは勝手なことを思いながらも、その音を聞いただけで
もう生きた心地がしませんでした。

 「茜、しっかり歯を喰いしばって我慢するんだぞ」
 お父さんは茜ちゃんの頭を左手で鷲づかみにすると、お仕置き
の前、最後の注意を与えます。

 「…………」
 茜ちゃんは自分では『はい』と言ったつもりでしたが、言葉に
はなりませんでした。
 過去にそれがどれほど痛いかを経験している茜さんには、とに
かく恐くて恐くて、それどころではありませんでした。

 「ピタ、ピタ、ピタ」
 小さく三つ、お父さんの竹の物差しが茜ちゃんの可愛いお尻を
とらえます。でもこれは鞭打ちではありません。
 『さあ、これから、ぶちますよ』という警告でした。

 そして、約束どおりいよいよ本体がやってきます。

 「ぴしっ~~」
 乾いた音が部屋中に鳴り響きます。

 『ぎゃあ~~~』
 猿轡をしていなければ茜ちゃんはきっとこんな悲鳴だったこと
でしょう。
 それほどの衝撃でせした。

 お尻に当たった衝撃は電気となって背骨を走り脳天を突き抜け
て一瞬でどっかへ行ってしまいました。

 茜ちゃんは必死に拘束台の天板を握っていましたが、すぐには
震えが止まりません。両手が震え、両足だって茜ちゃんの意思と
は無関係に跳ね回ります。

 おかげで、ソファにいる春花と美里には、お姉様の大事な処が
丸見え。お互い女の子同士ですからそんなものが見えたとしても
別に驚いたりはしませんが、二人とも茜さんの慌てふためく様子
がよほどおかしかったのかソファの上で笑い転げていました。

 茜さんはたった1回ぶたれただけなのに、この騒ぎ。
 でも、お母さんはその最初の1回が一番辛いことを知っていま
した。普段は厳しいお母さんが茜さんを励まします。

 「茜、心をしっかり持つの」
 「いや、痛いもん、だめ」
 茜さんはお母さんが顔を近づけてくると、さっそくすがるよう
にして愚痴を言います。

 「弱音を吐いちゃだめ。お仕置きは始まったばかりよ」
 お母さんはやさしい眼差しで額に手を置きます。
 すると、そこへお父さんもやって来ました。

 「どうした?痛かったかい?」
 お父さんがそう言ったとたん、茜ちゃんは張り付けられている
拘束台の板の上に顔を押し付けます。

 『お父さんなんて顔も見たくない』ということでしょうか?
 というより、恥ずかしいという気持の方が大きかったみたいで
した。

 「痛いのは当たり前だよ、お仕置きなんだからね……」
 お父さんがこう言うと、茜ちゃんはぶっきらぼうに……
 「恥ずかしい」
 と背けた顔で答えます。

 「恥ずかしいか……それも仕方がないな。お仕置きは、痛くて
当たり前、恥ずかしくて当たり前。どのみち子どもにとって嫌な
ことをするわけだから。痛いのも恥ずかしいのも我慢しなくちゃ」
 お父さんはそう言って茜さんの顔を覗き込もうとしましたが、
茜ちゃんは顔をあげません。どうやらすねてるみたいでした。

 いえ、甘えてると言った方が正しいかもしれません。

 すると、ここでお父さんが意外な事を言います。
 「大丈夫だよ茜、そのうち慣れるから……」

 えっ!?本当でしょうか?
 だって、さっきまでハンドスパンキングで相当やられてるのに、
その上この鞭。これからもっともっと痛くなると思うのですが…

 実際……
 「茜、歯を喰いしばりなさい」
 お父さんにこう言われて受けた次の鞭は……

 「ピシッ!!」
 「ひぃ~~」
 お尻に鞭が当たった瞬間、茜さんの身体が弓なりになりました。

 ですから相当痛かったはずですが、茜さんは悲鳴を上げません
でした。

 相変わらずお母さんだけは娘の頭を撫で続けていますが、そん
なことが何の役にもたたないほど痛かったに違いないのです。

 ところが……
 「さあ、三つ目だよ。しっかりテーブルを握ってなさい!」
 お父さんの声に茜さんは従います。

 「ピシッ!!」
 「ひぃ~~」
 茜さんは自分の身体がバラバラになるんじゃないかと思った程
でした。

 でも、最初のようなうめき声は上げません。
 いえ、それどころじゃないって感じで、とにかく鞭が近づくと
必死に机にしがみ付く。それだけでした。

 「茜、どうだい?だんだん慣れてきたかな?」
 お父さんの不気味な言葉が頭から振ってきます。
 『何言ってるんだろう』
 茜さんは思います。とにかく今は、このラックにしがみ付いて
いるしかありませんでした。

 そして、四つ目。

 「ピシッ!!」
 「…………」
 もうどんなに小さな声も出ませんでした。本当は、お母さんへ
愚痴も言いたいし、お父さんへ恨みがましい悲鳴も聞かせたいん
です。でも、今の茜さんにとってはその何もかもが無理でした。
 そう、机にしがみ付いていること以外は……

 「どうやら、少しは鞭の味が染みてきたみたいだな。……さあ、
いくよ。もう一つだ」

 「ピシッ!!」
 「…………」
 茜さんのお尻にはすでに真っ赤な筋が何本も刻まれています。

 「反省できたのかな?できないようだと、まだまだ続くよ」
 お父さんはそう言ってから、しばらく茜さんのお尻の赤い筋を
見ていました。もともと相手が13歳の少女ということですから
お父さんだって思いっきりぶってたわけではいません。それなり
に手加減してやっていたのですが……

 「…………」
 女の子の肌というのはお父さんの予想以上にデリケートにでき
ているみたいでした。

 「ピシッ!!」
 「…………」

 やや弱い当たりになった6発目を終えると、お父さんは、何も
言わず春花と美里が陣取るソファへとむかいます。
 小休止でしょうか?

 お父さんは二人の座るソファにご自分も腰を下ろすと、笑みを
浮かべてこう言います。
 「驚いただろう?恐かったかい?」

 二人は顔を見合わせ、お互いどうしようか考えていましたが、
そのうちどちらからともなく頷きます。

 「正直だね。でも、とてもいいことだよ。人間正直でなくちゃ。
……実際、恐いことをしてるんだから、当たり前なんだ」
 不安そうにしている二人に向かって大西先生は微笑みました。

 その笑顔に少しほっとしたのでしょうか、春花が、上目遣いに
尋ねます。
 「お姉ちゃまは、いつもああしてぶたれてるの?」

 「いつもじゃないさ。男の子だと一学期に一二度必ずあるけど、
女の子の場合は年に一度くらいかな。でも、ないってことはない
ってことさ。今日はたまたまだよ」

 「私たちも、ここで暮らすとお姉ちゃんみたいにぶたれるの?」
 今度は美里が尋ねます。

 「大丈夫。私が見ている限り二人はとってもいい子だからね、
そんな心配はいらないと思うよ。それに、少しぐらいミスしても、
悪戯してもだからってすぐに鞭を使うわけじゃないんだ。ここで
張り付けられるのは、親の言いつけを何度言っても聞かなかった
飛び切りの悪い子だけさ」

 「うん」
 美里は小さく頷きます。

 「……ただ、うちの子になったら、こんな事が絶対にないとは
言えないからね、二人にはあらかじめそんな怖いところも見せて
おこうと思ったんだ」

 「ふうん、お仕置きって孤児院だけじゃないんだ。私たち孤児
だから先生たちにお仕置きされるのかって思ってた」
 「そうなの、だから普通の家で暮らせばお仕置きなんかされず
にすむんじゃないかと思って……違うんだね」

 「孤児院にいるからお仕置き?そんな馬鹿な……今はオリバー
ツイストの時代じゃないんだよ」
 お父さんは明るく笑いました。そして……
 「ただね、どんな家に生まれてもお仕置きのない家というのは
まずないんだ。修道院のお仕置きなんて軽い方さ」

 「そうなの?」
 「どうしてわかるの?私たちのお仕置き、見たことあるの?」

 「君たちがお仕置きされてるところなんて僕は見たことないよ。
だけど、君たち、とっても明るいじゃないか。厳しいお仕置きの
ある厳格な家で育つとね、子どもの性格まで暗くなっちゃうけど、
君たちにはそれがないから、すぐにわかるんだ」

 「普通のお家は私たちの孤児院より厳しいの?」
 美里が心配そうに尋ねると……

 「そういう処が多いかもしれないね。輝かしい歴史のある家で
あればあるほど、守らなければならない約束事が多くなるんだ。
当然、叱られることも多くなるってわけだ。……ただ、お仕置き
って、とっても恥ずかしいことが多いから、普通は家族以外の人
には絶対に見せないんだ。君たちが知らないのも無理ないよ」

 「じゃあ、おじさまの処はどうして私たちに見せたの?」

 「僕はあいにく嘘やごまかしが嫌いなんだよ。せっかく君達が
ここで一緒に暮らしたいと言ってくれているのに、後から『こん
なはずじゃなかった』なんて言われたくないんだ。まずはありの
ままの姿を見せて、それでもここで暮らしたいなら、どうぞいら
っしゃいってことなんだ」

 「…………」
 「…………」
 二人は思わず顔を見合わせ、お互い『ふっ』とため息です。

 子供にとって、とりわけ女の子にとって父親に叱られるという
のは、たとえぶたれなくてもとてもショックな出来事です。
 ましてや、こんな台に張り付けられてお尻丸出し。竹の物差し
でピシャリピシャリだなんて……二人にとっても、とても耐えら
れそうにありませんでした。

 「どうした?そんな深刻な顔して?……ひょっとして、あてが
外れたかな。おじさんはもっと優しい人だと思ってたんだろう」
 お父さんはソファに座ったままで二人をまとめて抱きしめます。

 いきなり窮屈な姿勢にさせられた二人でしたが、二人ともそれ
自体は嫌ではありませんでした。
 荒々しく大きな胸板は安心感の証でもあります。ここが私たち
のバックグラウンドだったら楽しいだろうに……そう思う気持は
二人の心の中に残っていました。

 ただ、お仕置きは絶対に受けたくありません。特に、目の前で
見たお姉ちゃまのお仕置きは……
 もちろん、そんなことは百も承知している大西先生は、二人に
こんなことを言います。

 「べつに無理してうちに来なくてもいいんだよ。世の中、立派
な里親さんは、他にたくさんいらっしゃるからね。院長先生に、
『気が変わりました』って言えばいいんだよ。

 「他の家でも、ここと同じお仕置きってあるんですか?」
 春花が心細そうに尋ねると……

 「どんなお仕置きをするかはその家しだいだけど、お仕置きの
ない家というのは期待しない方がいいと思うよ」

 「なあ~んだ、そうなのか。私たち孤児だもん、最悪だね」
 美里がかっかりと言った顔をします。

 すると、お父さんはいきなり美里の両脇に手を入れ、目よりも
高く差し上げます。そして、その身体を揺らしながらこう言うの
でした。

 「どうしてそうなるの?美里ちゃん?……そもそも里子を受け
入れようとする家で、子どもが嫌いな家なんてあるわけないじゃ
ないか。いいかい、お仕置きっていうのはね、子どもを愛してる
からやるんだ。嫌いだったらやらないことなんだよ」

 「ホント?だったら、おじさんも子供が好きなの?」
 「おじさんじゃない。お父さんだろう?」
 「あ、そうでした。お父さんも、茜お姉様が好きなの?」

 美里の声に、お父さんはさらにその身体を高く差し上げて……
 「もちろんさあ。もちろん、君たちも大好きだよ」

 すると、それを見ていた春花まで……
 「私も……」
 お父さんに抱っこをおねだり。

 「よし、いいよ……ほら、高い、高い」
 お父さんは美里を下ろし、春花も自分の頭の上へ差し上げます。

 もう、そんな事をしてもらうにはお姉さん過ぎる二人でしたが、
その瞬間は『キャッキャ、キャッキャ』その場は明るい笑い声に
包まれたのでした。


*******(15)*************


 御招ばれ <第1章>(16)

 一方、茜ちゃんの方はというと……
 お父さんが春花と美里のソファへ行ったあと、すぐにお母さん
からその戒めを解いてもらいます。

 お母さんの行動はお父さんとのお約束ではありませんでしたが、
そこは夫婦間の阿吽の呼吸というやつでしょうか。お父さんも、
それについては何も言いませんでした。

 ただ、これで茜さんが許されたのかというと、そういうことで
はありません。

 茜さんはお母さんに部屋の隅まで連れて行かれると、壁の方を
向いて膝まづかされます。
 さらに……

 「あら、どうするのか忘れたの?」

 お母さんに促され、真っ白なワンピースの裾を捲り上げます。
茜さんは真っ赤に熟れた赤いリンゴを二つ、この場にいるみんな
に披露しなければなりませんでした。

 もちろんスカートを持つ手はこの先もずっと上げたままです。
下げることは許されませんからこれだってけっこう辛い罰でした。

 これ、西洋の家庭ではよくみられるコーナータイムというやつ
です。受刑者にとっては小休止の時間でもありますが、茜さんは
その間も恥ずかしい姿勢のままで過ごさなければなりませんから
痛みはなくとも辛い時間に変わりはありませんでした。


 そんな茜さん、最初はただ静かにしていました。泣くわけでも
なく、涙を流すわけでもなく、感情を押し殺したように無表情で
いたのです。
 きっとお尻が痛くて他のことは考えられなかったのかもしれま
せんが……。

 ただ、それからしばらくして、お父様の声と共に春花や美里の
甲高い笑い声が耳に入ってくるうち涙が止まらなくなってしまい
ます。

 もちろん、丸出しのお尻は今でも痛むでしょうけど、涙の原因
はどうやらそれではないようでした。
 お父さんと楽しげに話す妹分二人の明るい声が彼女を泣かせる
のです。

 『昨日まであそこは私の居場所だったのに……お父さん、私を
嫌いになったのかなあ』
 余計な心配が頭の中を駆け巡るうちに、女の子はやがて悲しく
なるのでした。

 そんな思いを察してか、お母さんは茜さんのそばを常に離れず
にいました。いつも微笑んで、何か話しかけるわけでも、どこか
さすってくれるわけでもありませんが、お母さんには、茜さんの
気持ちがわかっているみたいでした。

 二人は声を出しません、時折、口ぱくだけで会話します。
 もちろん、口ぱくですから100%の正確性はありませんが、
そこは親子ですから、それだけで話は通じてるみたいでした。

 やがて、その甲斐あってか、茜さんにもいつしか笑顔が戻って
いました。

 茜さんに限りません。女の子はみんな寂しがり屋さんですから
そんな親しい人が一人そばにいるだけで心が随分と楽になるので
した。


 と、そんな茜さんのもとへ、お父さんがやってきます。
 「お父様がいらしたわよ」
 壁に向かっている茜さんにお母さんが耳打ちして教えてくれま
した。

 それって、普段なら嬉しいことなのかもしれません。茜さんは
お父さんが昔から大好きでしたから。でも、今は単純には喜べま
せんでした。
 むしろ、これから先も何をされるかわかりませんから、茜さん
にとっては怖い人なのです。

 『お父さん、まだ怒ってるかなあ』
 お父さんに対する恐怖から、顔も自然と青ざめます。

 案の定、茜さんの目の前に立ったお父さんは相変わらず怖い顔
をしていました。

 そんななか、
 「どうなんだ?少しは反省したかい?」
 お父さんの顔がほんのちょっとだけやわらぎます。

 実はこれ、お父さんとの仲直りのチャンスだったのです。

 ところが茜さん。たとえお父さんでも見下ろされてるって快く
ありませんから、その通りの顔をしてしまったのでした。

 「おや、おや、怖い顔だな、お父さんは嫌いって顔だね。ま、
いいさ。無理もないだろう。お尻をぶたれたらそりゃあ痛いもん
な……よし、仕方ない、もう少し素直な顔ができるまで付き合っ
てあげるか」
 お父さんの言葉に、茜さんは震撼します。全身身震いといった
方がいいかもしれません。

 『あっ、ヤバイ。私どうして気持ちが顔に出ちゃうんだろう』
 茜さんはここで軽率な自分を反省しますがすでに手遅れでした。

 「お母さん、この子をまた拘束台に縛りつけておいてくれ」
 「まだなさるんですか?」
 「意外に元気そうだから、もう少しやってみる。あ、それから、
なまじ緩いと拘束用のベルトが擦れてかえって怪我のもとだから、
ベルトはしっかりと締め上げてといてくださいね」
 お父さんはそれだけ言うと妹分の待つソファーと戻ります。

 すると、お父さんが離れたのを見はからい、お母さんが……
 「まったくあなたって、不器用ね。女の子のくせに、どうして
泣き真似の一つもできないのかしら。お父さんはあなたを許そう
と思って、ここへ来たのよ。分からないかしら?」

 「えっ、そうなの?」
 茜さんは狐につままれたような顔をします。それはちょっぴり
おどけたようにも見える顔でした。

 「まったく、何て顔するの!」
 お母さんはちょっぴりお冠です。
 「……ま、いいわ、そんな顔ができるくらいだから、あなたも
まだ元気なんでしょうね。……そんな元気なお子さんはお父さん
から、もう少しお尻を暖めてもらった方がいいかもしれないわね」

 お母さんが突き放すように言い放ちますと……
 「そんなあ」
 茜さん、ここで初めて哀れんだ声を出します。
 どうやらお母さんとならちゃんと泣き真似ができるみたいで
した。

 「何が、そんなあよ。女の子は人の顔色がわからないようでは
生きていけないの。そのことをよ~く覚えておきなさい!!……
今度の事はあなたにとって、とってもいい経験になるわ。いっそ、
気を失うまでやってもらった方がいいかもしれないわね」
 お母さんは、そうは言いつつも茜さんにパンツを穿かせます。
 そして、ぶつくさ言いながら、再び拘束台に茜さんを縛りつけ
ていくのでした。


 準備が整うとお父さんがやってきます。
 でも、今度は一人だけではありませんでした。
 春花と美里をお供に引き連れています。

 お母さんはお父さんが何を考えているのか、すぐにピンときま
したが、あえて、それを口にはしませんでした。

 一方の茜ちゃんは、またあの痛い鞭がやって来るのかと思うと、
気が気ではありませんから、必死に首を回して何とか後ろの様子
を確認しようとしますが、如何せん手足を拘束されていています
から思うようになりませんでした。
 そのうち……

 「ほら、バタバタしない」
 お父さんの雷が落ちます。

 「お前は受ける鞭の痛みをそのお尻で目一杯受けて反省すれば
それでいいんだ。それが今のお前の義務なんだよ」

 お父様にこう言われては13歳の小娘に反論なんてできません。
 茜ちゃんは後ろは諦めて、仕方なく縛られている拘束台を抱き
しめます。

 革のベルトで縛られて不自由な両手ですが、ちょうど拘束台の
足の部分がすぐそばにあって、その柱を握ることはできるように
なっています。
 今はそれが頼りでした。

 するとお父さん、今度は茜さんの両足を大きく広げさせます。
 両手と違い、両足は拘束されていませんから自由がききます。
 そこでお父さんは茜さんの両足を目一杯広げさせてその足首も
固定しようとしたのでした。

 「いやあ」
 茜さん、お父さんの手が太股に掛かると、とたんに甘えた声を
出しますが……

 「何が『いやあ』だ。この間までオムツしていた子が、生意気
いうんじゃない。私だってお前のオムツは何度も取り替えたんだ。
今さら恥ずかしがっても仕方がないだろう」
 お父さんはそう言って、茜ちゃんの太股をピシャリと一つ平手
で叩きます。

 これは、今では通用しないでしょうが、昔はよく親が口にした
言葉でした。要するに『お前はまだ子ども。赤ちゃん。何も言う
資格はない』というわけです。

 茜さんも例外ではありません。これ以降、茜さんはお父さんに
抵抗しなくなります。躾の行き届いた家の子であればあるほど、
子どもは親に従順ですから、この言葉だけで黙らすことができた
のです。

 お父さんが茜さんのオムツを取り替えていたのは今から十数年
も前のこと。子どもの茜さんにしてみたら、そんなの自分があず
かり知らない歴史の世界なんでしょうが……親であるお父さんに
してみると、それはつい最近起こった事。現在進行形の出来事で
した。

 お父さんは茜さんの身体を完全に拘束台に張り付けてしまうと、
今度は春花と美里に驚くようなことを言います。

 「ねえ、二人とも、お父さんを手伝ってくれないかな」
 「手伝うって?」
 「どんなことするの?」
 「だからね、これでお姉ちゃまのお尻を『ぱ~ん』ってやって
欲しいんだよ」
 お父さんは、愛用の二尺の竹の物差しを右手に持つと、それを
軽く振って茜さんのお尻を叩く真似をします。

 「えっ!」
 「……ホントに」

 「ホントだよ。……二人とも、お父さんのやってたところを見
てたから、出来るだろう?」

 「それは……」
 「…………」
 二人は黙ってしまいます。

 生まれてこの方、お尻って、自分のをぶたれたことはあっても
他人をぶったことなんて一度もありませんでした。
 二人にとってお尻叩きっていうのは大人の仕事だったのです。

 「嫌かい?……お父さんね、腕が疲れちゃったからさ。二人に
頼みたいんだよ」

 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」
 二人に即答はできません。そんなことやった経験もありません
し、何より、そんなことをして茜お姉ちゃんに嫌われたら………
そう考えると答えはノーなのですが、これまで親切にしてくれた
お父さんの頼みごとを断るというのも、それはそれで勇気がいる
ことでした。

 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」
 それに春花と美里にはおじさんの言葉をどう解釈していいのか
わかりませんでした。『冗談かな?』って思いますけど……でも、
おじさんが本気なら、正直やってみたい気持ちもあります。
 ですから、その真意を計りかねていました。

 すると、お父さんがそんな二人の心の中を察したのでしょう。
先に動きます。
 「何だ、二人とも恐いのか?そんなことしたら姉ちゃんに恨ま
れると思ってるの?」

 「…………」
 「…………」
 お父さんの質問に二人は小さく頷きます。

 実際、二人の気持は複雑でした。
 二人にとって茜さんの仕返しが恐いのも事実です。うまくぶて
るかどうかも心配です。でも、おじさまのお頼みが本当ならやら
なきゃいけないでしょうし……。
 色んな思いが錯綜する中、『他人のお尻をぶつのは楽しそう』
という単純な欲望もまた心の中で芽生えていたのでした。

 「どんなに強くぶっても大丈夫。だって、これはお姉ちゃまが
悪いからこうなってるんだもの。二人に復讐なんてさせないよ。
それに、やがて君たちだって自分の子をお仕置きすることだって
あるはずだよ。そんな時の参考になるじゃないか」

 大西先生が、やや強引な理屈で二人を説得しますと、春花は、
意外にもすぐにおれて、先生から二尺の竹の物差しを素直に受け
取ります。

 事情は美里も同じようでしたが彼女は春花に比べて慎重でした。
 渡された鞭をすぐには受け取ろうとしません。

 「ほら、美里ちゃんも……」
 大西先生は、あらためて美里ちゃんにも竹の物差しを目の前に
刺し出しますが、彼女は進んでそれに手を出しませんでした。

 「怖がらなくてもいいんだ。これはあくまで茜お姉さんのため
のお仕置きなんだから……君たちが何かされる訳じゃないんだよ。
それに君たちがやってくれると、実は私も助かるんだよ」

 「………」

 「君たちはまだ幼いのでわからないだろうけど、茜お姉さんは
君たちにぶたれるのがとっても恥ずかしいんだよ。だからこそ、
君たちに協力して欲しいんだ。お仕置きって、痛い辛いだけじゃ
なくて、恥ずかしいってのも大事だからね」

 お父さんがさらに説得を続けると、とうとう美里ちゃんも応じ
ます。

 「ねえ、いくつぶってもいいの?」

 すると、それまで消極的だと思っていた美里ちゃんの目が春花
ちゃん以上に輝いていることに大西先生は気づきます。

 「たくさんぶちたいの?」
 お父さんの言葉に……
 「だって、せっかくだから私やりたい」
 美里ちゃんの明るい言葉には相手を思いやる気持ちなんて微塵
もありませんでした。

 そんなあっけらかんとした妹分二人の様子を、茜ちゃんは辛い
拘束台の上で想像して屈辱の涙を流さなければならないのでした。


*********(16)************


 御招ばれ <第1章>(17)

 「春花ちゃん、美里ちゃん、おいで」
 大西先生は二人を茜さんの突き出たお尻のあたりへ呼びます。

 「まず、こうやって、物差しの先をお尻にくっつけて……すり
すりしたり、小さくトントンって叩くんだ。ほら、春花ちゃん、
やってごらん」

 先生はまだ幼い二人に鞭打ちの基本をレクチャーします。
 春花ちゃんは緊張しているのかぎこちない動きでしたが、美里
ちゃんは、おじさんの様子をしっかり観察していたのでしょう、
意外なほど上手に茜ちゃんのお尻をじらしていきます。

 たまらず茜ちゃんのお尻がもじもじし始めますから……。

 「ほう、上手だね。美里ちゃんはやったことがあるのかな……
お友だちのお尻を叩いたことがあるんだね」
 先生にからかわれると、美里ちゃんは初々しい笑顔でした。

 「よし、では次に、実際にぶつところをやってみようね」
 
 大西先生は今さっきやったじらし方を含めて最初から始めます。
そして、頃合いを見計らって一閃。

 「ピシッ」
 小気味よく乾いた音が部屋じゅうに木霊しました。

 「(ひぃ~~)」
 茜さんが思わず海老ぞりになります。

 さっきはお尻が裸、今はショーツ一枚とはいえ防ぐものがあり
ますから、まだましなのかと思いきや、そうでもありません。

 「…………」
 茜さんは、鼻水をすすりながら板の上に顔を着けて泣きます。
それって、他人には見られたくない顔でした。

 こんなにも痛がるのは、さっきまでの折檻で痛んだお尻がまだ
治っていないから。ある意味、これが今日受けた鞭のなかで一番
痛かったかもしれません。

 お父さんは最初幼い妹たちの恐れおののく顔を見ていましたが、
そのうち二人の違いに気づきます。春花ちゃんが、純粋な恐怖で
顔を引きつっているのに対し、美里ちゃんの場合は同じ恐怖でも
眼差しはしっかりと茜さんのお尻を捕らえています。

 『この子、こうした事に興味があるんだ』
 お父さんは美里ちゃんは怯えながらもその瞳の奥に怪しい光が
揺らめいているのを見逃しませんでした。

 一方お母さんはというと、茜さんの泣き顔を見て思わず苦笑い。
それは嘲笑ではありません。微笑みかけることで茜ちゃんを励ま
していたのでした。

 そんな茜さんの様子をお父さんの方からは直接見る事ができま
せんから、こういう時はお母さんのその表情が頼りです。
 お父さんは、お母さんの表情を見ながら茜さんがあとどれだけ
堪えられかを察知するのでした。

 「(なるほど、だいぶ、堪えてるみたいだな)」
 お母さんの顔色を見てそう悟ったお父さんは、この一発だけで
やめてしまいます。
 あとは春花と美里の番でした。

 「実際にぶつ時はね、鞭をお尻のほんの少し前で急停止させて、
そのしなりで叩くんだよ」

 お父さんは、鞭を持つ春花ちゃんの手をその上から包み込むと、
茜さんのお尻に向けて軽く振ってみせます。

 「ぴたっ」
 それは茜さんのお尻にヒットしましたが飛び上がるほどの痛み
ではありませんでした。

 「どうしてスピード緩めちゃうの?お姉ちゃん可哀想だから?」
 美里ちゃんが質問してきます。

 「そうじゃないよ。怪我をさせないためさ。血が出て、その痕
がお尻に見苦しく残ったら君たちだっていやだろう?……これは
お仕置きだもん、刑罰や拷問じゃないからね。痛みと恥ずかしさ、
それに悔しさが心の奥底から湧いて出たらそれでおしまいなんだ。
それ以上は親子でもしちゃいけないんだ」

 「どうして?憎いからぶつんじゃないの?」

 「そうじゃないよ。良い子に育って欲しいからお仕置きするん
だ。憎しみからは何も生まれないよ。もし、お仕置きされて親を
憎むようなら、それはお仕置きとしては失敗だよ。……君たちは
どうだい?院長先生にお仕置きされたら院長先生を憎むかい?」

 「……」
 「……」
 二人は首を横に振りました。

 「うちでは、お仕置きの日の夜は素っ裸でお父さんやお母さん
のベッドで一緒に寝ることになってるんだ」

 「どうして?」
 「恥ずかしくないの?」

 「恥ずかしくなんかないさ。お互い親子だもん。……子どもが
親に自分のすべてを見せられないようなら、私たちもそんな子は
信用できないからね。育てていけないじゃないか。……これから
も私たちと親子でいたければそれが条件というわけさ」

 「そんなの子どもの頃だけでしょう」
 「そう、赤ちゃんとか、幼稚園とか……」

 「そんなことないよ。うちではお嫁に行くまではたとえ二十歳
を超えても娘は娘だもん。……うちで娘として暮らしている以上、
たとえいくつになってもお仕置きはあるし、素っ裸でベッドにも
来てもらうつもりだよ」

 「……!……」
 お父さんの言葉は、幼い二人を驚かしましたが、何よりここで
張り付けられている茜さんにとってそれはショックな言葉でした。
 だって、そんなこと、初めて聞いたんですから……

 「お仕置きで大切なのは実はぶつことじゃないんだ。親の意見
を聞いてもらうことなんだ。だから、目一杯は叩かないんだよ。
お説教も沢山したいからね。あんまり強くして人の話を聞く余裕
がなくなるのも親としては困りもんなんだ。だから、幼い頃は、
お膝に抱いて平手で十分ってわけさ。君たちだって先生のお膝の
上にうつ伏せになってお尻ペンペンってことがあっただろう?」

 「うん」
 「あった」

 「この子だって昔はお膝で足りてたから、こんな台や鞭なんか
使わなかったんだ。ただ、身体がこんなに大きくなっちゃうと、
お膝に乗せてのスパンキングだけじゃ、途中で寝ちゃうからね。
もう少し強い刺激のある罰が必要になるんだよ」

 「すっごい!茜おちゃま、お尻ペンペンの最中に寝ちゃうの?」
 春花が目を丸くしますが……。

 「(ははははは)あくまで比喩さ。女の子ってのは慣れるのが
早いからね。どんなに辛い罰もすぐに慣れてしまって、その間は、
自分の頭に麻酔をかけて、意識を外の世界から遮断するることが
できるんだ。君たちはそんな経験ないかな?」

 「…………」
 「…………」
 二人はしばし考え、最後は顔を見合わせますが、この時は思い
当たることがありませんでした。

 いきなりそんなこと尋ねられてもピンとこなかったのでしょう。
でも……

 「そうか、ないか。いや、それならいいんだ。……(ははは)
だったら、君たちにはまだ鞭は必要ないというわけだ」
 お父さんがこう言ったあとは……

 「へへへへへ」
 「ふふふふふ」
 意味深な笑い顔の二人は、心の奥底に秘密を抱えていました。
 そう、思い出したのです。自分たちにも同じ癖があることを。

 お父さんはその含みのある笑顔から二人が自分のことを思い出
したんだと感じましたが、それ以上、二人を追求することはしま
せんでした。
 いえ、そんなことは、実際にお尻ペンペンをやってみればすぐ
にわかることですから。

 「それじゃあ、今度は……美里ちゃんやってみようか」

 お父さんは美里ちゃんを自分の近くに呼びます。
 レクチャーの要領は春花ちゃんと同じ。美里ちゃんの手を包み
こんで、軽く茜さんのお尻にヒットさせるつもりだったのです。

 ところが、美里ちゃんは、一度包み込まれた先生の手をするり
とすり抜けると、自分で鞭を振るいます。
 一瞬の出来事、誰にも止めることはできませんでした。

 「ピシッ」
 その衝撃に、茜さんは思わず海老ぞりになります。

 「ヒィ~~」
 もう、出さないと心に決めていた悲鳴まで出す始末でした。

 美里ちゃんは特別なことをしたわけではありません。さっき、
春花ちゃんの様子を見ていて、それを真似たのでした。

 スナップの効いた実に立派な一撃にお父さんもビックリです。

 気をよくした美里ちゃんの瞳には怪しい炎が揺らめきます。
 続けて第二弾もやろうというわけです。

 「ちょっと、ちょっと、待って」
 慌ててお父さんが止めに入ります。

 すると……
 「え~~~、ダメなの?だって、さっきいくつでもぶっていい
って言ったじゃない」
 美里ちゃんはおおむくれです。

 「いや、あれは……」
 お父さんは、美里ちゃんがこんなにもうまく鞭を扱えるなんて
計算外のでした。
 そこで……

 「よし、わかった。じゃあ、茜にパンツを穿かせるから、それ
からにしよう」

 美里ちゃんは、さっき見た茜お姉様の生のお尻を叩きたかった
のかもしれませんが、仕方がありませんでした。

 お父さんは、お母さんに言ってニットのショートパンツを取り
寄せると、茜ちゃんの足枷となっているベルトを外してショーツ
の上から、これを穿かせます。

 これって衣装が増えるというのに茜さんにしてみたらとっても
恥ずかしいことでした。

 「よし、これでいいよ」

 こうして準備万端整ったあと、美里ちゃんはお姉ちゃんのお尻
に熱い鞭を6発打ち込みましたが……

 「ピタッ……ピタッ……ピタッ…ピタッ……ピタッ……ピタッ」

 気持だけが先行したのでしょう、お父さんのレクチャーを忘れ
てむやみに鞭を振り下ろしましたから思うような成果はあげられ
ませんでした。

 「もっと、やるかい?」
 お父さんの言葉に美里ちゃんは首を振ります。

 おかげで茜さんは、この台の上で恥ずかしくのた打ち回る姿を
あらためて家族に見せずにすんだのでした。


 お休みの時間、茜さんは約束どおり素っ裸でお父さんのベッド
へ現れ、床を共にします。お母さんは小さい二人のベッドでご本
を読み聞かせてから戻ってきます。

 もちろん、その間にお父さんが茜さんに対して何か特別な事を
するわけではありません。ただ……

 「今日は辛かったかい?」
 「はい」
 「だったら、私が嫌いかい?」
 「そんなことありません」
 「正直に言っていいんだよ」
 「正直にって……」
 「もし、今度の事で私が嫌いになったのなら別の里親を探して
あげるからね。……嫌いな人にぶたれるのは本当に辛いからね。
私は茜を不幸にはしたくないんだ」
 「私はお父様の処にいたいんです。他の家は嫌です」
 「ホントに?」
 「本当です」
 「そう、だったらこれからも私は茜を愛していいんだね?」
 「はい」
 「よし、わかった。だったら、これからも私はお前を目一杯愛
してあげられるね」
 「はい」
 「よかった。これで茜に嫌われたらどうしようって思ったよ。
……いいかい、茜。人は愛するだけ、愛されるだけでは幸せには
なれないんだ。愛して、愛されて、はじめて幸せが訪れるんだよ」
 「はい、お父様」

 親子でこんなおしゃべりがあっただけでした。


 一方、春花ちゃんと美里ちゃんのベッドルームではこの二人も
この日最後のおしゃべりをしていました。

 「今日は凄かったね」
 「ほんと、凄かった」

 「こんな厳しいお仕置きのある処で誰だって暮らしたくないよ
ね」
 「……うん」

 「ねえ、来月はもっとお金持ちの家にお呼ばれしようよ」
 「……うん……でも、クジ当たるかなあ?」

 「当たるわよ。私、くじ運強いもの。任せなさい!」

 「それでどこの家に行くの?」

 「ねえ、今度は安藤さん家なんかよくない?」

 「それ、いいかも、一度行ったけどお夕食超豪華だったもの」

 「そうでしょう。あそこ、この町一番のお金持ちらしいわよ。
わたし、鴨料理って食べてみたいなあ」
 春花ちゃんが大西家のベッドで夢見るのは安藤家の食卓、その
豪華な料理でした。

 「よし、決まりね。次は必ずゲットしてみせるわ。私の念力で
……そしたら、こんなオンボロ屋敷に用はないわ」
 春花ちゃんは明るく笑います。

 ところが、その瞬間になって……

 「………………」
 なぜか美里ちゃんは無反応。

 春花ちゃんは、隣りのベッドで美里ちゃんが自分と同じことを
考えていると信じて疑いませんでしたが、美里ちゃんの思いは、
春花ちゃんとは少しだけ違っていたのでした。

 『お仕置きかあ……』
 美里ちゃんの頭の中では、大西先生から厳しくお仕置きされた
あと、とっても、とっても愛される自分の姿が、走馬灯のように
流れていたのでした。

********(17)**************

*******<第3回はここまで>*********
~~ 第1章はここまでです ~~

御招ばれ <第1章> 「 第 2 回 」

    御招ばれ <第1章> 「 第 2 回 」

 *** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


 *** 目次 *******
  <第1回>(1)~(6)  /大西家へ
 <第2回>(7)~(11) /お浣腸のお仕置き
  <第3回>(12)~(17)/鞭のお仕置き


 ***< 主な登場人物 >***************

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。

 大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
    医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
    春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
 大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
    茜は彼女を慕っている。
 大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
    だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
 高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
    子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
    もする。
 明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
    大西家の生き字引。

 **************************


*********<第2回>*************


 御招ばれ <第1章>(7)

 「お母さん、高瀬先生、お願いします」
 茜さんは正座して両手を畳に着けて頭を下げます。

 「やっと、素直になったみたいね。女の子がふてくされた顔を
人様にみせてはいけません。何度も言い聞かせてることでしょう。
あなたももう子供じゃないんだからそのあたりは分別をつけない
と……」

 お母さんの言葉に、高瀬先生は……
 「茜ちゃんも最近は恥ずかしいんでしょう。近くに女医先生が
おられればいいのだが、あいにくこの辺りは男医者ばかりだから」

 「まさか、そんなこと。……お仕事でみえられた先生にそんな
失礼なことを思っていたら、今度あらためて、キツイお仕置きを
しなければなりませんわ」
 お母さんの鋭い視線ときつい言葉に茜さんはひるみます。

 誰だって家族でもない中年男に自分の大切な部分を見られたり
触れられたりするのは心地よくありません。…ましてや、これが
お仕置きに繋がる事となれば、茜さんに同情する余地は沢山ある
と思います。

 でも良家の子女はそんな感情を一切表に出してはいけませんで
した。お医者様や学校の先生やもちろん親に対しても、反抗的な
態度は一切許されていません。
 これもまた一つの厳しい現実(躾)だったのです。

 お母さんは躾けた通りに振舞う茜さんの態度に満足したみたい
でした。

 「では、ここへ来て、いつものように先生の健康診断をお受け
なさい」

 お母さんは敷かれた薄いお布団を叩きます。
 もちろんそれは否応なしでした。

 ブラウスもスカートもスリップもそこで脱いで綺麗にたたんで
から布団の上に上がります。
 身につけているのは、ジュニア用のブラとショーツだけ。つい
1年ほど前まではショーツだけでした。

 「茜、先生の診察のお邪魔になるわ。ブラも取りなさい」
 お母さんの声が聞こえましたが……
 「大丈夫ですよ、お母さん。そのままで」
 高瀬先生はそこはお母さんを制して茜さんを膝まづかせた姿勢
でご自分の前に立たせます。

 最初は聴診器で心音を聞き、肺や内臓にも異常がないかをチェ
ック。お腹を揉んだり、背中に回って肩甲骨の下辺りを叩いたり、
そこにも聴診器を当てたりします。

 そうやって型どおりの触診をすませた先生が次になさったのは、
茜さんの上半身のチェックでした。
 頭の天辺から腰の辺りまで、傷はないか、湿疹、吹き出物など
できていないか、皮膚は健康な肌つやをしているか、そんな事を
細かく見て回ります。

 そして、その最後に、茜さんに頭の後ろで両手を組ませると、
ブラをほんの少し捲り上げて、乳房の様子も確かめます。

 「……(あっ~~、あっ~~、いや、いや、気持悪い)……」
 茜さんは口にこそだしませんが、その瞬間は身体をよじりたい
気持で一杯でした。

 決して長い時間ではありません。先生が触れていたのは、一つ
十秒ほど、二つあわせても三十秒と掛かっていないと思いますが、
茜さんは先生から自分の乳房を揉みほぐされ、さらには、もっと
敏感な乳頭までも先生の指先で刺激されることになります。

 「……(あっ!いやあ!!)……」
 その瞬間は、顔をゆがめ、思わず大声を出しそうになります。
 できることなら先生の頭に空手チョップをお見舞いしたいとこ
ろです。でも、我慢するしかありませんでした。

 こんなこと、今が初めてじゃないから我慢できるのかもしれま
せん。幼い頃から定期的にやられてきたことで諦めがあるのかも
しれません。
 ただ、春の目覚めとともに茜さんには昔と同じ場所を触られて
いてもその心の奥底に微妙な変化が生じているのも確かでした。


 もちろん、身体検査は上半身だけではありませんでした。

 「上半身、どこも問題ないようですな。湿疹、吹き出物のたぐ
いもありませんし、触診による異常もありませんでした。いやあ、
綺麗な肌をしておられる。鮫肌の私などは羨ましい限りだ」
 先生は水差しのお湯をご自分で継ぎ足して再び洗面器のお湯で
手を洗います。

 「先生、茜は少しおっぱいの発達が遅いようにも感じられるの
ですが……」

 「(はははは)それは心配いりません。乳房の発達には個人差
が大きいですから………そういえば、うちの大学なんか、女子の
学生は揃いも揃ってみんなAカップでしたよ。……比較的偏差値
の高い学校でしたから、『あいつら頭に栄養がいるぶん、胸には
まわってこないんじゃないか』なんて男どもが戯(ざれ)ごとを
言ってたくらいです」

 「そういうものなんですか」
 お母さんが真顔で心配すると、高瀬先生は慌てたように……
 「いえいえ、戯ごとです。医学的な根拠があっての事ではあり
ませんよ」
 部屋中に響くような高笑いで先生は打ち消します。

 そんな大人たちの会話を聞きながら、茜さんは黙って上着だけ
を着始めます。
 でも、下半身は相変わらずショーツ1枚。
 いえ、茜さんにとってはむしろこれからが問題でした。

 明子さんが用意してくれた二つ折りの座布団の上に腰を乗せて
仰向けに寝ると、高瀬先生の顔が急に真剣になります。

 「お、準備できたかな……じゃあ、いつもの通りね」
 高瀬先生のその言葉が合図でした。

 いつも通り明子さんが茜さんの顔にタオルが掛け、お母さんが
ショーツを剥ぎ取ります。

 普段風の当たらないところに当たる風は冷たく感じられますが、
お母さんと明子さんによって両足が高く持ち上げられ、さらに、
その足が左右に引き裂かれると、少しずつ芽生え始めた茜さんの
少女としてのプライドも、一緒にどこかへ飛んでいってしまった
ようでした。

 真空状態の頭の中では何も考えられません。でも、茜さんは、
しばしの間こうしているより仕方がありませんでした。

 「……………………………………………………………………」

 高瀬先生が少女の奥の院を観察している間、大人たちは一様に
無言です。冷やかしも励ましも何もありませんでした。
 柱時計の時を刻む音だけが部屋中に響いて、それだけが茜さん
の耳にも届いていました。

 やがて……

 「……(あっ、いやあ)………(だめ、くすぐったい)………
(あっ、冷たい)………(やめてえ~~)……(だめえ~~)」

 ドーナツ状の丸い鏡を頭に巻いた高瀬先生が、茜さんの感じる
部分を次々と素手で触り始めます。今日からみると随分と乱暴な
ようですが、当時はまだこんな時にまでゴム手袋をはめる習慣が
ありませんでした。

 「……(あっ、いやあ~出ちゃう)……」

 一番最初に触れられたオシッコの出口は、ほんのちょっと触れ
られただけでオシッコが漏れそうでしたし……まだまだ未開発の
小さな突起も、先生の指が触れただけで電気が走ります。

 「……(あっだめ、くすぐったい)……」

 ウンチの出る穴には、先生の人指し指が無遠慮に入って来て、
これでもかというほどかき回してから出ていきました。

 「(うっっっ、もうやめてよう、芋虫が入って来たみたいよ。
気持悪いんだから)……」

 さらに、赤ちゃんの出口に拡張器が当てられると、その瞬間は
金属の冷たい感触に身体が反り、声が出そうでした。

 「……(いや、冷たい)……(やめてえ~)……(だめえ~)」


 苦行の時間は実際には5分程度です。
 でも……
 「もう、いいよ」
 先生の言葉がなんと嬉しかったことか……

 両足が布団の上に下ろされ、ショーツを引き上げます。
 脱がされるときはお母さんでしたが、引き上げる時はたいてい
茜さん自身でした。

 「お母さん何も心配いりませんよ。茜さんは健康そのものです。
13歳としては何の問題もありません。男の子は特にそうですが、
女の子もあと一年、14歳になる頃には劇的に変化しますから、
安心してください」
 先生は例によって洗面器のお湯で手を洗いながらお母さんには
嬉しい報告をします。

 「私は、茜が身体だけ大きくなっていくようで、ひょっとして
発達障害なのかと……」
 「(ははは)それは取り越し苦労というものです。この程度は
遅れのうちに入りませんよ。人によって発達のスピードというの
は違うものです。問題はありませんから」

 にこやかな大人二人の雑談は茜さんの耳にも届きますが、でも、
そんなこと、今の茜さんにしてみたらどうでもよいことでした。

 『何言ってるのよ。私の体がいつ大人になろうとお母さんには
関係ないじゃない。そもそも、そんなことをお医者様まで使って
なぜ調べなきゃならないのよ』

 茜さんは、お腹の中では苦々しくそう思っていましたが、例に
よって大人たちに向かってそんな事、声に出す勇気はありません。
 いえ、そんな事より、茜さんにとっては、次に控えるお浣腸が
何より心配でしたから、今はそのことで頭が一杯だったのでした。


************(7)**********


 御招ばれ <第1章>(8)

 「先生、では、お浣腸の方もお願いできますでしょうか」

 お母さんの一言で、いよいよその時がきます。
 茜ちゃんにとっては最初の正念場でした。

 「よろしいですよ。だいぶ溜まっているみたいなので、多めに
いたしましょうか」
 高瀬先生はそう言いながら往診かばんの中をまさぐります。

 出てきたのは100㏄も入るピストン式のガラス製浣腸器。
 この家の子供達を昔から散々脅かしてきた悪名高い代物でした。
 形状が痛い痛い注射器と同じで、おまけにこれは特大サイズと
きていますからね、子供達が怯えるわけです。

 茜ちゃんも事情は同じ。いまだに、これを見ると背筋に電気が
走ります。最初は『あんな大きなお注射!』と思って驚き、実際、
お浣腸を受けてみると、その恥ずかしさ、苦しさ、後味の悪さ、
(グリセリン浣腸は終わったあともお腹が渋ったようになります)
にショックを受けるというわけです。

 いずれにしても、この注射器のような浣腸器は、子供たちの…
とりわけ女の子たちの天敵でした。

 「どうでしょう、今回は100㏄お願いできないでしょうか」
 お母さんが高瀬先生にお頼みすると……

 「そうですか……本来、成長途中の子供に大量のお薬は負担が
大きいので避けたいところですが、無理のない程度にやってみま
しょう」
 先生はあっさり応じてしまうのでした。

 もしこれが見ず知らずの先生だったら断っていたでしょうが、
高瀬先生は幼い頃からずっと茜ちゃんを診て知っています。その
経験と自信から大丈夫と判断なさってやっていただいたのでした。

 お医者様をお仕置きに巻き込むなんて凄い家でしょう。
 でも、昔は全てがおおらかな世の中だったせいか実際にこんな
家庭も少なからずあるみたいでした。

 ただ、この時高瀬先生は一つだけ条件を出します。
 それは……
 「今回は、茜ちゃんにオムツをあててあげてください。そして、
その中にさせるようにしてください。オマルに跨ったり、へたに
トイレへ行くよりその方が安全ですから」

 でも、これもお母さんにしてみたら願ったり叶ったりでした。
 オムツへの排泄はいい見せしめになるからです。
 「承知しました」

 そして、お浣腸は始まります。

 茜ちゃんは先ほど受けた下半身の健康診断の時と同じように、
仰向けで、ショーツを脱がされ、両足を高く上げさせられます。
 要するに赤ちゃんのオムツ替えのポーズ。

 とても他人様にはお見せできない姿ですが、周囲にはお母さん
と明子さん、それに昔から茜ちゃんのことをよく知る高瀬先生と、
親しい人たちしかいませんから、そこは少しは気が楽なのですが、
ただ、こうした親しい人たちというのは親しいだけに無理難題を
吹っかけてきます。
 ですから、子どもたちは、大人たちの言いなり。どんな格好に
でもさせられのが普通だったのでした。

 いえ、茜ちゃんもこの格好になる前に、一応、お母さんに……
 「前は、横向きでなさったけど、それじゃいけないんですか?」
 と、言ってはみたんですが……

 「だめよ」
 あえなく一言で却下されてしまいました。

 実際、お浣腸の施術は茜さんの言うとおり横向きにしてやるの
が合理的でした。楽に大量に入りますから……
 ですが、お母さんだけでなく高瀬先生もまた、これが実質的に
大西家のお仕置きだと知っていますから応じてくれないのです。

 そうこうするうち、ぐずぐずしている茜さんを見てお母さんの
雷が落ちます。

 「何ぼそぼそ言ってるの!子供のくせに生意気言うんじゃない
の。ぐずぐす言ってるとお仕置きを増やしますよ」

 「……………………」
 と、これで決着。茜ちゃんはまたしても先ほどと同じポーズを
とることになるのでした。


 ところが……
 全ての準備が整ったようにみえてから、高瀬先生が思い出した
ようにこう言うのです。
 「あっ、そうだ、明子さん。これを蒸し器の中入れて五分ほど
蒸していただけませんか。先をアルコール消毒しただけでも十分
だとは思うんじゃが、煮沸消毒した方が安心じゃろうから……」

 この時になって、先生は浣腸器を蒸し器で蒸して欲しいと言う
のです。

 いえ、消毒なんて口実。これは茜ちゃんに対する高瀬先生から
のお仕置き。
 今やってるポーズを嫌がった茜ちゃんに大人の言いつけに従わ
ない子がどうなるか、そうやって考えなさいということでした。

 おかげで、茜ちゃんは自分で自分の両足を支える恥ずかしい姿
のまま、5分以上放置されることになります。

 こうしたことは、お母さんが先生に頼んだわけではありません。
すべては大人たちの阿吽の呼吸なのです。

 『大人は常に正しくて、子供はいつも間違いだらけ』
 それが当時の常識ですから、よほど酷い虐待でもしてない限り、
親が子供をお仕置きしていてもそれは常に正しいと誰もが思って
くれます。ですから、親に協力することだってやぶさかではない
というわけでした。
 オント、『子供はつらいよ』という時代でした。


 ところが、茜ちゃんにとって事態はさらに悪化します。

 まあ、間の悪い時というのはそういうものかもしれませんが、
それまで二階の書斎でお父さんから色んなご本を見せられ愉快な
お話をたくさん聞かされて楽しんでいたはずの春花と美里が急に
階段を駆け下りてきたのです。

 目的は極彩色に彩られた中世の時祷書の挿絵を茜おねえちゃま
にも見せたいという思いつきでした。

 もちろん二人は、階下でそんなはかりごとが展開されていよう
などとは夢にも思っていませんから、声も掛けません。いきなり
元気よく襖を開け放ってしまいます。

 「!!!?」
 「!!!?」

 その二人の視界に飛び込んできたのは、普段なら絶対に見られ
ない茜お姉様の恥ずかしい姿でした。
 このチビちゃんたちでさえ、そんな姿になったのは遠い昔の事
ですから覚えていないくらいです。

 「ほら、二人とも今はダメだと言っただろう」
 ほんの少し遅れてやって来たお父さんが珍しく二人を叱り付け
ますが、すでに手遅れ。
 二人は、すでにその映像をしっかりと頭の中に刻み付けてしま
っていました。

 「さあ、帰るよ。……今、お姉ちゃんは忙しいから、また後に
しなさいって言ってるだろう」
 お父さんはさっそく襖を閉め、二人の頭を回れ右させて部屋の
外へ向けさせます。
 これで茜さんの痴態は二人からは隔離されたことになるのです
が……

 「ねえ、茜お姉ちゃん何してるの?」
 「あれ、何かのゲームなの?」
 「お病気よ。だって、裸だったもの」
 「そうそう、まるでオムツ替えてもらう赤ちゃんみたいな格好
してた」
 「ねえ、私たちも仲間に入っていい?」
  さっそく二人からの矢継ぎ早の質問攻めが始まります。

 「ああ、わかったわかった、分かったからお部屋に行ってから
話そう」
 お父さんは慌てて二人を二階へ追い上げます。

 お父さんにとってこれは意図したことではありませんでした。
お父さんは、茜のお仕置きをこの二人にも見せる予定をたてては
いましたが、それはあくまで最後のスパンキングのシーンだけ。
その前段階であるお浣腸は含まれていません。

 お浣腸をこの二人にまで見せるのはさすがに娘に残酷と考えた
お父さんは、その間は、二人を書斎に呼び、珍しいご本や物語で
時間を稼ぐつもりでいたのでした。

 でも、一瞬とはいえ見られてしまったのなら仕方がありません。
お父さんは決心して、二人には大西家で行われるお仕置きの本当
の姿を話してしまうことにしたのでした。

 もちろん、その結果、二人がこの家に来るのが嫌になり里子の
話が破談になってもそれは仕方のないこと。バラ色の夢ばかりを
見せておいて後でショックを受けるより、その方がよほどこの子
たちの為だとお父さんは考えていたからでした。


 やがて明子さんによってお部屋へ蒸しあがったばかりの浣腸器
が届けられます。

 「あれ、どうかなさったんですか?」
 明子さんは自分がここを留守にした前と後でお部屋の雰囲気が
微妙に違うことを鋭敏に感じ取ります。

 「何でもないわ」
 お母さんは毅然として言い放ちますが、事故とはいえ茜ちゃん
の気持を考えるとお母さんの気持は晴れませんでした。

 それだけではありません。頬を伝う涙さえ拭うことも出来ない
茜ちゃんに対して見せる高瀬先生のその軟らかな表情だって……
それはどこまでも茜ちゃんを気遣ってのものだったのです。

 ただ、だからといって『今日のお浣腸はやめましょう』という
ことにはなりません。これもまた大西家の常識でした。
 そして、そのことは、もちろん茜さんだって承知していること
だったのです。


********(8)**************


 御招ばれ <第1章>(9)

 「先生、お薬は普段うちで使っているのでよろしいでしょうか」
 お母さんはおずおずとこげ茶色の薬壜を先生に差し出します。
 それは大西家に常備されていた200㏄入りのガラス壜でした。

 「もちろん結構ですよ。……おお。これはうちでお渡しした物
ですね」
 先生はうやうやしく受け取ります。

 この時代、お浣腸は便秘の為だけにするものではありませんで
した。お腹の具合が悪い時、とりわけ子供に熱がある時などは、
家庭内でも広く行われていましたから、街の薬局でイチヂク浣腸
を購入するだけでなく、病院の薬局からも光を遮断する色つきの
ガラス壜に入れて多めに持ち帰る家庭が少なからずありました。
 そう、お浣腸って、今よりずっと身近な医療行為だったのです。

 「さあ、行きますよ」

 高瀬先生は、おもむろに半透明な茶色のガラス瓶の蓋を取ると、
50%のグリセリン溶液を吸い上げ、最近、肉付きのよくなった
茜ちゃんの二本の足付け根を押し開きます。そして、緊張の為か
ヒクヒクと動いているまだ可愛らしい菊座を確認して、ガラスの
先端を差し入れます。

 「……(うっ)……」
 小さな衝撃ですが、とても恥ずかしい一瞬です。
 慣れない子の中には思わず拒んでしまう子も……でも茜ちゃん
のお尻は先生のガラスの突起を拒否せず受け入れます。

 「よし、いい子だ」
 満足そうな高瀬先生の声がしました。

 こんなこと普段は看護婦に任せている仕事。ここでも、恐らく
お母さんか、明子さんの方が場慣れしているかもしれませんが、
あえてそれを先生がやるのは、やはり先生が男性だから…つまり、
茜ちゃんに辱めをくわえるためでした。

 「ようし、その調子。……さあ、もう一ついくよ」
 先生は本来なら100㏄入る浣腸器にあえて全量をいれません。
 50㏄ずつ二回に分けて行います。
 それもこれも、このお浣腸がお仕置きとして行われているのを
知って、わざと時間をかけているのです。

 十分に時間をかけることで、高瀬先生は茜ちゃんをじっくりと
辱めることができます。
 そして、グリセリンを全て入れ終わると……

 「あえて栓はしないからね、自分の力で頑張るんだ。頑張って
頑張って、悪かったことを反省してごらん」

 高瀬先生はそこまで言ってから、それまで足元に脱ぎ捨てられ
ていたショーツをを足首に穿かせます。

 「!」
 すると、茜ちゃんの反応は早いものでした。

 こんなに長い時間、大人たちに恥ずかしい姿を見られていて、
今さら急いでみてもどうにもならないはずですが、茜ちゃんは、
自分の足首にショーツが引っかかったのを感じると、すぐさま、
それを引き上げました。
 どんなに長い間辱めを受けていても、その時間を一秒でも短く
したいというは少女の素直な気持なのかもしれません。

 その慌てぶりを見て、大人たちは思わず苦笑していたのですが、
茜ちゃんはそのことに気づいていたでしょうか。


 さて……
 これで恥ずかしさだけは若干緩和されることになりましたが、
だかといって、グリセリンの効果まで緩和されるわけではありま
せんでした。
 このお薬は即効性が顕著なお薬なのです。

 「ひぃ~~~~」
 ショーツを引き上げた直後には、もう茜ちゃんの顔色が変わり
ます。

 信じられないほどの強い下痢がいきなり茜ちゃんを襲います。
 お腹の急降下というやつです。
 「……(おなかが痛い)……」
 たちまち芋虫のように布団の上で丸まって、後は身の置き所の
ない地獄でした。

 栓はしてない。オムツもしてない。もしこのまま爆発したら、
他人に見せたくないものがあたり辺り一面に広がって薄い布団を
汚していきます。
 そんなこと、想像するだけで気絶しそうです。
 女の子にとってはとても耐えられそうにない現実でした。

 「いやあ、いやあ、だめえ~~出る出る出る」
 うわ言のような訴えが続きます。
 それを受け止めたのはお母さんでした。

 お母さんは身体を丸めた茜ちゃんをしっかりと抱きしめます。
 こんな大変な時ですから、茜ちゃんにはほとんど冷静な判断が
できません。お母さんに抱きしめられている今の今でさえ、少女
にとっては新たな罰を受けているように感じられて暴れるのです。

 「いや、いや、こんなのイヤ!!」
 茜ちゃんは熱病患者のようにお母さんの胸の中で何度も叫びま
した。
 でも、その身体はお母さんに押さえられてどうにもなりません。

 「あっ、だめ~~」
 大津波に反応して、思わず奇声が上がります。

 もし、これがお薬の影響のない普段なら、あるいは茜ちゃんは
全力を出してお母さんの抱っこを跳ね除けていたかもしれません。
 でも、今、その全力を出したらどうなるか……

 最悪の事態が頭をよぎります。
 そう考えると無理は出来ませんでした。

 だから、お母さんの力が勝って、茜ちゃんは次第にお母さんの
胸の中で締め付けられていきます。自由の利かない絶望の中へ。

 「あ~~ん、お母さん、いやいやいや……」
 半狂乱のようになった茜ちゃんは必死になってお母さんの中で
訴えますが、どうにもなりませんでした。

 『あっ、だめえ~~~私、壊れちゃう』
 窒息するほど圧迫されたお母さんの胸の中で、茜ちゃんは自分
の進退が窮まったこと悟ります。

 『今さら開放されても、もうどこへも行けない。ここでやって
しまうしか……』

 そんな絶望が心に広がるなか、茜ちゃんはそれまでとはまった
く違う感情が自分の心の奥底にあるのを感じるのでした。

 『どうしてだろう。どうしてこんなことしてるのに気持いいの。
こんなに苦しいのに……どうして?』
 『不思議な気持。苦しいことが気持いいなんて初めて……変よ、
変。絶対に変だけど、そんな気がするわ。私、壊れちゃったの?』
 『ああ~、まるで赤ちゃんに戻っていくみたい。とろけそう。
こんなに気持いいことって、何年ぶりだろう。こんなこと、誰に
話しても信じないだろうなあ』
 『ああ~、あまえていたい。このままずっとお母さんに甘えて
いたい』

 そんな娘の変化をお母さんも感じていました。
 それまで、お薬の入った不自由な身体ながらも必死にここから
這い出ようと手足をバタつかせていた茜の身体が今はすっぽりと
自分の胸の中におさまっているのです。抵抗しない分、膝の上も
軽くなります。
 それは茜が自らお母さんに抱かれたいと思っているからでした。

 『し・あ・わ・せ……こんな幸せもあるんだ』

 恥ずかしさに打ちひしがれながらも、それでいて安らぎを見出
した茜。でもそれは、二十数年前、茜のお母さんが自身で感じた
ことでもあったのです。
 そう、お母さんもまた娘時代、そのお母さん(茜ちゃんの祖母)
からお浣腸を受けて、その胸で泣いたことがあったのでした。

 「どうしたの?……落ち着いた?……苦しいでしょう?出して
しまっていいのよ」
 お母さんは茜さんに優しく声を掛けます。
 もちろん、お母さんはすべてを承知の上で茜ちゃんを抱きしめ
続けていましたからそれでもかまわなかったのです。

 とはいえ、お浣腸には波があります。小康状態の次には大波が
……

 「いやあ、だめえ、やめてえ~~トイレ、トイレ、トイレ」
 茜ちゃんの突然の大声。

 まるで目覚めて泣き出した赤ん坊のように声を荒げることも…
 ただ、そんな時も、お母さんはそ知らぬ顔で我が子を抱き続け
たのでした。

 「ああ、いい子、いい子、いい子ね。恐がらなくていいのよ。
あなたは私の赤ちゃん。それは今も変わらないわ。私が、ずっと
あなたを守っててあげるから大丈夫よ。何が起こっても大丈夫よ」
 お母さんは再びすっかりおとなしくなった茜ちゃんの頭をなで
つけながら囁きます。

 『何が起こっても大丈夫』
 お母さんの言葉には、『ここで用を足しなさい』という意味も
含まれています。
 ですから……

 「トイレ、トイレ行きたい」
 茜ちゃんがいくら頼んでも結局トイレは与えられませんでした。


 10分が経過した頃、そのトイレの代わりに用意されたのは、
最初からそういうお約束だったオムツ。

 もう、この頃になると、恥ずかしいと言って抵抗することすら
できないほど事態が緊迫していました。
 おかげで、大人たちが茜ちゃんのショーツを脱がせ昔ながらの
浴衣地を裂いて作ったオムツに履き替えさせるのにも、それほど
苦労はいりませんでした。

 すると、ここで先生が……
 「もういいよ。茜ちゃん、やってごらん」
 と言うのです。

 『やってごらんって言われても……だからって、できる訳ない
じゃない』
 茜ちゃんは悲しく思います。
 でも、一方で……

 『そんなこと絶対にできない。絶対にできないけど……もう、
限界。やってしまうかもしれない』
 茜ちゃんは自分の胸に語りかけるのでした。


 オムツをしてさらに10分後。茜ちゃんはそれでも必死に我慢
を続けていましたが、ついにその時がやってきます。

 「ほら、ほら、これ以上は身体に悪いからやめようね」
 高瀬先生はそう言って茜ちゃんの下腹を揉み始めます。
 すると、これが最後でした。

 「…………………………(!)……………………………………」

 その瞬間は静かでした。
 茜ちゃんは言葉も発せず身体も動かさずでした。
 いえ、むしろその瞬間は身体の動きが全て止まっていました。

 というのも、茜ちゃんにこれいった感情がなかったのです。
 『とうとう、やっちゃった』
 というほかは……

 まるで、白昼夢を見ているようなぼんやりとした意識の中で、
周りの大人たちが忙しく働いているのだけがわかります。

 『これって、どういうことだろう?』
 茜ちゃんは思います。

 さっきまであんなに恥ずかしいこと、嫌なことだと騒いでいた
自分が、今はまるで他人事のようにそれを冷静に見ているのです。
……これって、心の不思議としか言いようがありませんでした。


 茜ちゃんは、お母さんと明子さんにお股のなかを蒸しタオルで
綺麗に拭き取ってもらい、天花粉をたくさんはたいてもらって、
最後はショーツまで穿かせてもらいます。
 そうやってもう一度、茜さんはお母さんに抱かれます。

 「よく頑張ったわ」

 お母さんは抱きしめた茜ちゃんに頬ずりします。
 すると、茜ちゃんもまるで幼稚園児のように笑ってお母さんの
頬ずりを受け入れるのです。

 「あらあら、ご機嫌だこと。でも、随分と大きな赤ちゃんだわ
ね」
 明子さんがイヤミを言いますが、茜ちゃんはそれさえも笑って
答えるのでした。

 「お母さん、好き」
 茜ちゃんの小さな小さな囁きがお母さんの耳に届きます。

 すると……
 「ありがとう」
 お母さんもまた満足そうに答えます。

 成長するとともに大人へ大人へと向かっていた茜ちゃんの心が
この瞬間だけは赤ちゃんへ逆戻りということでしょうか。
 でも、それも高瀬先生に言わせると……

 「恥ずかしいなんてのは、所詮相対的なもんじゃ。信頼できる
親がおればこそ、こんなこともできる。茜ちゃんにとってもいい
息抜きになったはずじゃよ」
 となるのでした。

 でも、これで『一件落着、めでたしめでたし』とはいきません。
 茜ちゃんには、これからまだまだ新たな試練が待ち受けている
のでした。


********(9)**************


 御招ばれ <第1章>(10)

 茜ちゃんは、グリセリンのお浣腸が終わるとパジャマ姿になり
ました。水玉ピンクのパジャマは茜ちゃんのお気に入り。でも、
これでお浣腸が全てすんだわけではありません。

 「さてと、茜、お浣腸の最後にお腹を綺麗にしておきましょう」
 お母さんの言葉は茜ちゃんを再び震撼させます。

 「せっかく、パジャマ着たのに……」
 茜ちゃんが文句を言うと……

 「大丈夫よ。今度は石鹸水のお浣腸だから、刺激も強くないし、
我慢もしやすい。服を汚す気遣いはないわ」
 お母さんが言えば、高瀬先生も……
 「そうだよ。茜ちゃん。今日はグリセリンの量が多かったから
ね。残ったお薬を完全に身体の外へ出すためにもお腹の中をもう
一度洗った方がいいんだよ。洗濯する時、すすぎをやるだろう。
あれと同じだよ」
 こう言って茜ちゃんを説得します。

 もちろん、茜ちゃんがたとえ嫌がっても最後は脅しつけてやる
つもりでしたが、お母さんにしろ高瀬先生にしろ、できれば納得
ずくでやりたかったのでした。

 抵抗してもしなくても結果は同じです。
 そのことは当の茜ちゃんも承知しています。ただ彼女としては
この機会にもう少しお母さんに甘えたい。
 茜ちゃんの望みはむしろそちらにあったのでした。

 ですから、茜ちゃんも今回は比較的短い説得で観念します。
 何より今度は赤ちゃんのオムツ替えポーズではありませんから、
それだけでも心はとっても楽でした。

 「それじゃあ、お布団に横向きになって……」
 先生は茜ちゃんに命じます。

 今回の茜ちゃんは、身体の左側面を下にして横向きに寝ると、
左脚をまっすぐ右脚を曲げた姿勢で待ちます。シムズの姿勢とか
側臥位と呼ばれるこの姿勢は、直腸検査やお浣腸を受ける患者が
やらされる定番の姿勢でした。

 何よりこの方が患者にとって楽ですし大量の浣腸液も無理なく
体に入ります。高瀬先生もこれが茜ちゃんのお仕置きと気づいて
いなければ最初からこうしてやっていたはずでした。

 ただ茜ちゃんに対する見せしめ刑は相変わらずで、高瀬先生は
茜ちゃんを側臥位の姿勢にすると、パジャマのズボンを脱がして
からこう言うのでした。

 「明子さん、石けん水を作ってきてほしいじゃが……そう1L
もあればいいから……」
 先生は明子さんに注文を出します。

 もちろん茜ちゃんのパジャマのズボンを下ろしてから言わなく
てもいいことなんですが、あえてそうするのは茜ちゃんに恥ずか
しい思いをさせるためでした。

 茜ちゃんは……
 昔、同じような事があった時、自分でパジャマのズボンを引き
上げたら、『もうじき始まるから…』と、高瀬先生に止められた
ことを思い出していました。

 「点滴台(イルリガートル台)もお持ちしましょうか」
 明子さんは気を利かせてそう言いましたが……

 「それにはおよばんよ。……あっ、急がなくていいからね」
 高瀬先生はそう言って明子さんを送り出します。

 その時。茜ちゃんは一度は握ったズボンのゴムを離します。
 茜ちゃんはこのズボンは引き上げちゃいけないんだと悟ったの
でした。

 高瀬先生もまた、そんな茜ちゃんの小さな行動を見逃しません。
 「お母さん、茜ちゃんも大人になっりましたね」

 言われたお母さんも頬を赤らめて……
 「ありがとうございます」
 と応じます。

 「人の心を察することができるようになるのが大人への第一歩
ですから……」
 高瀬先生は何だか嬉しそうにそう言うと、茜ちゃんの裸のお尻
にバスタオルを一枚かけてあげるのでした。


 5分ほど、高瀬先生とお母さんは茜ちゃんがまだ幼い頃の昔話
に花を咲かせます。

 日頃、男の子とばかり遊んでいて、木登りは得意だけどお勉強
はさっぱりだったことや、お転婆に手をやいたお母さんが初めて
お灸を据えた日のこと。大の甘えん坊で夜は必ず両親どちらかの
布団に入って寝ていたこと。さらには幼稚園時代すでにオナニー
を覚えてしまいお母さんを慌てさせたことなど……その大半は、
茜ちゃんが赤面することばかりでした。

 これもお仕置きでしょうか?
 いえ、これは、きっと違うでしょう。
 だって、茜ちゃんはその間必死に笑いをこらえていましたから。

 もし、これが愛情や信頼関係のない親子だったら、茜ちゃんは
自分の恥ずかしい過去を話題にされて笑ったりできないはずです。

 同じ事をされても、相手のことをどう思っているかで、受ける
心持はまったく違うもの。他人からは虐待に思える行為も、その
親子にとってはまったく別のものだったりします。

 恥ずかしいお仕置きも実は相手次第。赤の他人なら許されない
虐待も、信頼関係のある親子ならお仕置きということだって……
昔はそんなこと、よくあることでした。


 やがて、明子さんが石鹸を溶いたぬるま湯をなみなみとお鍋に
入れて持って来てくれました。
 
 「これはたくさんだな。こんなにいらなかったのに。500㏄
もあればよかったんだ」
 高瀬先生はそう言いながらも、明子さんからのお鍋を受け取り
ます。その顔は笑っていました。

 いえ、高瀬先生だけではありません。お母さんも明子さんも、
そして、当の茜ちゃんですら、深刻な顔はしていませんでした。

 「さあ、いくよ」

 高瀬先生はさきほどグリセリンを入れて使った浣腸器を使って
今度はお鍋の中の石けん水を吸い上げます。
 今回は50㏄ではありません。100㏄全部吸い上げてから、
その先端を指で押さて、それをそのまま茜ちゃんのお尻へ……

 「ほれ、もう1本……じっとしてるんだよ」
 そう言って一回一回脱脂綿で栓をしてから次を準備します。

 結局、100㏄が5回で500㏄。全ての石けん水が茜ちゃん
のお尻に納まると、そこで許してくれました。

 「さあ、いっといで」

 高瀬先生に送り出させて茜ちゃんがむかう先。それは昼間春花
と美里が遊んでいたあのお外のトイレ。

 茜ちゃんが縁側に出るとお母さんが障子を閉めてしまいます。
高瀬先生もお母さんも、茜ちゃんのトイレタイムまで覗こうとは
思っていませんでした。

 夕闇が迫り、周りを高い生垣に囲まれた中庭はすでに真っ暗。
内庭ですから泥棒でも入ってこない限り誰の目も届きませんが、
ここで用を足すのは、さすがに茜ちゃんにとっても辛いものが…
 でも、仕方がありませんでした。
 だって、これは大西家の昔から習慣だったのですから。

 実のお子さんもお仕置きでここへ連れてこられた伝統のトイレ。
 でも、茜ちゃんには単に恥ずかしいというだけでなく別の不安
もあったのです。
 というのも、足を踏ん張るこの板、乗るとたわんでとても大き
く揺れます。

 『いやだなあ』
 茜ちゃんはできるだけ板を振動させないようにそっと乗ります
が、それでも板は自分の体重で揺れ始めます。

 不安定な足場におっかなビックリというわけです。
 すると、人間不思議なもので、そんな足元の揺れるところでは
出そうとしても出ないんです。

 お腹はすでにだぼだぼ、パンパンにはっています。
 石けん水は効き目が穏やかなのでグリセリンのような強い刺激
や切迫感はありませんが、それでも時間の経過と共に恥ずかしさ
だけでなく苦痛も増してきます。

 『早く、おトイレしなくちゃ』

 今さら恥ずかしいなんて言ってられませんから、ここで出して
しまいたいと思うのですが……でも、いざ出そうとすると……

 「いやっ!」
 揺れ動く足元に気を取られて、止まってしまうのでした。

 『どうしよう、どうしよう』

 まるで糞詰まりチンみたいにその場をやみくもに回り始めた茜
ちゃん。本来ならこんな姿だって他人には見せたくありません。
 ところが……次の瞬間、ビックリするようなことが起こります。

 「いやあ~」
 茜ちゃんは悲鳴もろともその身体が空中に浮かび上がったので
した。

 振り返った茜ちゃんは叫びます。
 「やめて、お父さん」
 犯人はお父さんでした。

 茜ちゃんは抱かれたままの姿勢で慌てて身体をよじりますが、
その大きな腕の中にすっぽり入った身体はどうにも身動きが取れ
なくなっていたのでした。

 「何だ嫌いなのか?」

 「当たり前じゃないの!!」
 茜ちゃんは大きな声を出しますが……お父さんは動じません。

 「大きな声を出すと、部屋の中の人に聞こえるよ」
 こう言うだけだったのです。
 そして茜ちゃんの意向は聞かずにパジャマのズボンとショーツ
をずり下げます。

 「いやっ……やめて……」
 茜ちゃんが出した大声は最初の『い』の音だけ。とっさに先の
事を考えると出なくなってしまったのです。

 悲鳴をあげれば、お母さんのお部屋の障子が開いて、中にいる
大人たちがこちらを見るでしょう。パジャマのズボンとショーツ
を脱がされてお父さんに抱っこされている私を……
 それは絶対に避けなければならない。茜ちゃんはとっさにそう
判断したのでした。

 お父さんは茜ちゃんを赤ちゃんにおしっこさせるように抱いて
板の上に乗ります。

 「どうするの?」
 「どうするって、ウンチとおしっこするんだろう」
 「いやよ、こんなの」
 「嫌でも、ここしかないんだよ。それはお約束のはずだよ」
 「だって、ここ揺れるもん」

 たしかに最初はお父さんの体重で板が大きくたわみましたが、
お父さんがじっとしゃがんでいると、その揺れは次第に収まって
いき、茜ちゃんの身体も安定します。

 でも、だからって……
 「…………」
 茜ちゃんは無言です。もちろん、ウンチも我慢していました。

 すると、お父さんが……
 「早くしなさい。鞭の数を増やしたいのかね」
 と、脅かします。

 「えっ!?」
 茜ちゃんは驚きます。
 でも、だからって……
 「…………」
 茜ちゃんは決断できません。

 すると。今度は……
 「しょうのないやつだなあ」
 お父さんが左手だけで茜ちゃんの太股を支えて、右手でお腹を
揉み始めます。

 「これでどうだ」
 「いやあ、だめえ~~そんなことしないで!そんなことしたら
出ちゃうよ~~」
 悲しい声で訴えますが…でも、それだけじゃありませんでした。

 「いやあ~~~~ん」
 お父さんは、何と茜ちゃんのお尻の穴にまで指を入れたのです。

 これには、茜ちゃんもどうすることもできません。
 「やめて、やる、ウンチするから……本当にするから……もう
しないで~~」

 とうとう降参です。

 「見ないでよ!!」
 茜ちゃんは悪態をついてからお父さんのお膝の上でお尻の筋肉
を緩めます。

 「………………」
 滝のような激しい音が夜のしじまに流れます。
 それは一度浣腸が済んでいますから、出てくるのはオシッコも
ウンチもほとんどが水でした。

 こんなことって何年ぶりでしょうか。
 鼻水をすすりながら、涙を流しながら、茜ちゃんはお父さんの
お膝の上で用を足します。

 もちろんそれって、屈辱的で恥ずかしい瞬間なわけですが……
茜ちゃんは笑っていました。
 親にも、友だちにも、とにかく誰にも言えませんが、こうして
いると、自分の心が温かいのに気づきます。嬉しいさがこみ上げ
てくるのです。

 『私、変態だわ……きっと……』

 自分の笑顔を俯くことで隠しながら、茜ちゃんの心はいつしか
幼児に戻っていたのでした。

 「終わったか?」
 お父さんの野太い声がして、茜ちゃんの目の前に白いティシュ
が現れます。

 もちろん、茜ちゃんはこれが何をする為の物かはわかっていま
した。不自由な姿勢ですが、出来ない事はありません。
 ところが、茜ちゃん、この期に及んでもたもたしているのです。

 とうとう堪忍袋の緒がきれたのでしょう。
 「もういい。ここで四つん這いになるんだ」
 お父さんは芝生の上に茜ちゃんを下ろします。

 この地域では『モーモーちゃん』と言われて、まだごく幼い子
が用を足した後に親からお尻を拭いてもらう時に取る姿勢でした。

 「まったくしょがないやつだ」
 お父さんは不満そうでしたが、やってくれます。

 大きな手が自分の大切な処にティシュと一緒にやって来て荒々
しくかき回します。少し痛いです。
 でもこれ、茜ちゃん自身が望んだことだったのです。

 女の子は恥ずかしくて素直に自分の希望を伝えられないときも
好きな人から何かしらして欲しいと思っています。
 そう、口にはださなくても茜ちゃんにとってお父さんは、まだ
まだ好きな人だったのでした。


********(10)************


 御招ばれ <第1章>(11)

 用事をすませたお父さんは、茜ちゃんをお母さんや高瀬先生の
待つ部屋へと送り届けます。

 「入るよ」
 そう言って障子を開けると……

 「あら、あなた、下りてらっしゃったんですか?」
 お母さんが驚いて出てきました。

 「窓から茜の戸惑ってた姿が見えたものだから……」
 茜ちゃんの肩を抱いて立っているお父さんに、部屋の中の人は
みなびっくりです。

 「さあ、入って……もう大丈夫だから」
 お父さんは、縮こまった小さな肩をそっと押して、茜ちゃんを
そっと部屋の中に入れてあげるのでした。

 「でも、本当に大丈夫なんですか?上の二人」
 お母さんの心配は茜ちゃんではなく、春花と美里がまた降りて
こないかというものでしたが……

 「大丈夫だよ、今度は部屋を出ないように言いつけてきたから
……茜、さっきはすまなかったね」
 お父さんは茜ちゃんにも素直にお詫びを言います。
 普段のお父さんはとても優しい人でした。

 「先生、グリセリンで100㏄石けん水で500㏄ほどかけて
洗っといたが、ついでに導尿もしておくかね?」
 高瀬先生がお父さんに尋ねます。

 その瞬間、茜ちゃんの背筋が凍りますが……お父さんはその時
の茜ちゃんの顔だけで十分だったみたいで……

 「いや、そこまではしなくていいですよ。今回、それはとって
おきましょう。これから先また色々とやっかいなことができれば
使うことがあるかもしれませんから……」
 高瀬先生の提案を断ってくれたのでした。

 すると、今度はお母さんが……
 「あなた、衣装はどうしましょう?体操服でいいですか?」
 と、言ってきます。

 「そうだな、体操服でもいいけれど、お浣腸もすでに済んでる
ことだし、白のワンピでいいんじゃないか」
 お父さんが提案します。

 大西家では、お仕置きの時の衣装はお父さんが決めるしきたり
になっていました。

 「わかりました。それでは、準備ができしだい二階に上げます
から……」
 「ああ、そうしてくれ。すぐにでもかまわないよ」

 お父さんはこうして一旦その場を離れます。

 『やれ、やれ……』
 障子を閉めてほっと一息。二階の書斎に戻ろうとしたその瞬間
でした。

 「ガラガラガラ……」
 戸車のついた二階の窓が閉まる音がします。

 お父さんはとっさに『しまったあ!』と思いましたが後の祭り
でした。
 そう、今の今まで春花と美里が下の様子を見学していたに違い
ないのです。お父さんは二人に階下には下りてこないように注意
していましたが『窓を開けてはいけない』『外を見てはいけない』
とは言っていませんでした。

 「こりゃあまた茜に借りを作ってしまったか」
 お父さんはぼやきながら階段を上がります。


 「待たせたね」
 お父さんが春花と美里の待つ書斎に帰ってくると、さっそく…

 「ねえ、おじさま。茜お姉ちゃんをお仕置きしたの?」
 「ねえ、したよね。私たち窓からずっと見てたんだから……」
 「ねえ、お浣腸のお仕置きしたんでしょう」
 「ねえねえ、お姉ちゃん泣いてなかった?」
 「ばかねえ、泣いてる決まってるじゃない。赤ちゃんみたいに
してオシッコさせられたんだもん」
 「ねえ、あれが私たちに見せたいっていうお仕置きなの?」
 「ねえ、だったら言ってくれたらいいのに……」
 「ホントよ、危うく見逃すところだったんだから……」

 お父さんは部屋に入るなり二人から矢継ぎ早の質問を受けます。
 しかもこの二人の声は明るく弾んでいて、茜ちゃんのお仕置き
をまるで楽しいショーのように思っているみたいでした。

 『おや、おや、こちらさんたちときたら、まだまったくの子供
だな』
 先生は思わず苦笑い。可愛い少女二人にあるいは抱きつかれ、
あるいはその腕にぶら下がられてお父さんはモテモテでしたが、
心は晴れません。

 実際、子どもというのは恐ろしく楽天的です。大人のように、
『その災いがやがて自分にも降りかかるかもしれない…』なんて
ネガティブな考えは持ちません。今が楽しければ笑い。悲しけれ
ば泣く。目の前のことにしか興味がありませんでした。

 ですから、自分に関わりがなければ誰がお仕置きされていても
それは楽しいショーなのです。もちろん、女の子の世界では友達
甲斐に同情して泣いてくれたりもしますが、それもつきつめれば、
自分が善い人と思われたいからそうするだけで、内心は別にある
みたいです。

 二人はすでに何度かこの家に遊びに来ています。でも、二人に
とって茜ちゃんはそんなに近しい距離ではありません。
 『茜ちゃんがお仕置きされる』と聞いて、それが楽しいものに
感じられたとしても無理からぬこと。子供なら仕方のないことで
した。

 先生は、春花と美里をひき連れてソファへ向かい、そこに腰を
下ろします。
 すると、二人はすぐに先生のお膝の上に乗ってきました。

 先生が二人に頬ずりしてもお尻に手がいっても嫌がりません。
 何回かのお泊り経験で、先生は自分たちには優しい人だと学習
しているみたいでした。

 「お浣腸は、お仕置きの前にやるんだ。ここでお仕置きしてて
粗相なんかされるとせっかくの絨毯にシミがついてしまうからね」
 「でも、あれもお仕置きなんでしょう?」
 「そう、だって茜お姉ちゃん泣いてたもん」

 「見えたのかい?」
 お父さんが不思議そうに尋ねますと……
 「うん」
 春花は首を縦にしますが……

 二階から遠い暗がりのトイレを見ても、見えるのはぼんやりと
した人影だけ。お父さんが茜ちゃんを抱っこしているのは何とか
分かったとしても、お父さんがパジャマのズボンを下ろしたのさ
え、ここからでははっきりと見えませんでした。

 春花が、『お姉ちゃんが泣いていた』というのはあくまで想像
にすぎませんが、先生は咎めませんでした。
 女の子から空想の翼を取り去ることは女性を裸にするのと同じ。
紳士たるもの、そんな無粋なことをしてはならないと考えていた
のです。
 先生は春花の嘘を微笑みの中に封印します。

 「ねえ、お姉ちゃんのお仕置きって、どうするの?」
 「どうって、鞭でぶつんだよ。君たちはずっとよい子だったから
そんなことは一度もなかったかい?」

 「んんんん」
 「んんんん」
 二人は首を横にします。

 「うちは四年生から鞭なの。それまでは平手だけだったけど…」
 「院長先生のはもの凄く痛くて、ほかの先生に抑えられながら
やるの」
 「みんな悲鳴あげるもん」

 「そうか、院長先生って恐いんだ」
 お父さんがこう言うと意外な答えが帰ってきました。

 「そんなことないよ。やさしいよ。私、好きだもん」
 「そう、いつもはとっても優しいの。規則を破ったり怠けたり
すると恐いけど……その時だけ」
 子どもたちの話は、信頼している、愛されてるからこそ、その
範囲内ではぶっても虐待ではなくお仕置きという事のようでした。

 「ねえ、お姉ちゃん、いくつぶたれるの?」
 「さあ、いくつになるかなあ。……いくつになるかは茜しだい
だな」

 「どういうこと?」
 「うちでは鞭の数を最初に決めないんだよ。『この子反省して
るな』ってわかるまで続けるんだ」

 「じゃあ、反省しないと、ずっとぶたれるの?」
 「ま、それはそうだけど、いつまでもじゃないさ」
 「どうして?」
 「だって、親の鞭で反省できない子なんて誰もいないもの……
そんないい加減な教育や躾はうちでもしていないからね。だから
みんな立派に育つんだ」

 お父さんが自信たっぷりに話すと、二人はさっそく耳元でコソ
コソ話。
 「ねえ、恐いね」
 「ホント」
 「私たちここの子じゃなくてよかったね」
 「うん」
 それは先生の耳にも届いていましたが笑っていました。

 「ねえ、おじさま。……今ここにはいないけど、おじさまには
お医者様になった二人のお兄ちゃんがいるって、明子さんが言っ
てたけど、ホント?」

 「ああ、ホントだよ。彼らだって僕からたくさん鞭を受けた。
二人とも男の子だったからね、茜より多かったんだよ。だけど、
それで恨むようなことはなかったんだ。茜を施設から引き取る時
だって……『私はお前たちに知識や知恵や常識は授けた。それが
親の責任だからだ。しかし、私の財産はあてにするな。「児孫の
為に美田を買わず」という言葉があるように、男ならそうした物
は自分の力で作り出すものだからだ』って言ってやったんだよ。
僕はね、自分の子どもに残す財産があるなら、一人でも二人でも
血縁を頼れない子を世に送り出したいんだよ」

 先生は幼い二人にはとうてい理解できないことをポロリ。
 思わず、本音がでてしまったのでした。


 そうこうしているうちにドアがノックされます。
 もちろんやって来たのは茜ちゃんでした。

 「そうだ、君たちはそっちのソファに座って見てて欲しいんだ。
見てるのが辛いような事が起こるかもしれないけど、できるだけ
声を出さないようにしてね。君たちには決して何もしないから…」

 先生は春花と美里に小声で指示を出すと、おもむろにノックに
返事を返します。

 「誰だい?」
 とはお父さんの声。
 「茜です。お呼びでしょうか?」
 と、茜ちゃんの声は少し緊張しているみたいでした。

 「お入りなさい」

 お父さんの声に厚い木製扉が開く音がします。これからがいよ
いよ本番でした。


********(11)***************

*******<第2回はここまで>**********

御招ばれ <第1章> 「 第 1 回 」

    御招ばれ <第1章> 「 第 1 回 」

 *** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
*) これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


 *** 目次 *******
  <第1回>(1)~(6)  /いつもの大西家へ
  <第2回>(7)~(11) /お浣腸のお仕置き
  <第3回>(12)~(17)/鞭のお仕置き


 ***< 主な登場人物 >***************

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。

 大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
    医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
    春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
 大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
    茜は彼女を慕っている。
 大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
    だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
 高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
    子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
    もする。
 明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
    大西家の生き字引。

 **************************


 御招ばれ <第1章>(1)

 聖園学園は孤児達の施設。ここに預けられた子たちは、ここで
寝起きをして同じ敷地内にある学校に通って、そしてまた戻って
来ます。つまり、普段の孤児たちはこの孤児院を一歩も出ること
なく暮らしていました。
 ですから……

 「退屈よね」
 「やることないもんねえ」
 ということになります。

 春花と美里はともに11歳。とっても仲の良いお友だちです。
そして、何よりちょっぴりお転婆で、ちょっぴり悪戯好きの少女
たちでした。
 今日も、最初のうちは自分たちの部屋がある二階の手すりから
一階のピロティをただぼんやり眺めていましたが……

 「ねえ、1階、誰もいないみたいよ」
 春花が言えば……
 「じゃあ、やる?」
 美里が答えます。

 「よし」
 二人は躊躇なく一階と二階を繋ぐ緩やかにうねった螺旋階段の
手すりへとやってきます。

 そして、何のためらいもなく、自分たちの身の丈より高いその
手すりへよじ登ると、そこには、ちょうど彼女たちの可愛いお尻
だけを受け入れる木製滑り台が一基、一階へと降りています。

 「ヤッホー」
 「行け、行け」

 春花が先頭、美里が続きます。
 一階の広いピロティを目指して出発です。

 しだいにスピードが上がり、カーブのたびに身体が振られます。
スリル満点のジェットコースター。パンツに摩擦熱が伝わって、
それも心地よいことでした。

 「やったあ!」
 「大成功」
 二人がそう言って声を上げた直後です。

 滑り台も最後の短い直線。あとは華麗にジャンプして着地する
だけ、という処まで来て……

 「ヤバっ……」
 春花の目の前に誰かが立ちふさがったのでした。

 「え~~~」
 後ろの美里もすぐにその異変に気づきます。

 「はい、ここまでよ」
 その人は、せっかく楽しんでいた二人の滑り台をここで止めて
しまいます。

 「降りなさい。何度も言ってるでしょう。もし、落ちたらどう
するの。下の床は大理石、大怪我だわ」

 その人は林先生と言って子供たちが住む寮の舎監の先生でした。
普段は優しい先生なんですが、それはあくまで規則を守る子だけ。
規則を破る子には、逆に容赦がありませんでした。

 というわけで、先生は二人を大階段に並べて立たせると……
 「スカートをあげて」
 と命令します。

 本当は二人とも「そんなの嫌です」って言いたいところですが、
ここでそんな駄々をこねると、次は、鞭、浣腸、お灸…お仕置き
はどんどんエスカレートしますから従わざるを得ませんでした。

 すると、目の前に現れた白いショーツを、先生は当然とばかり
に脱がします。そして……
 「二人とも反省の壁の前へ行って膝まづきなさい」

 反省の壁というのはマリア様の像が高い場所に飾られている壁
のこと。二人はマリア様が見下ろすその場所に行って、壁の方を
向き膝まづかなければなりません。
 でも、こんなこと、この学園ではよくあることでした。

 そして……
 「二人ともスカートを上げなさい。もし、私が見に来たときに
お尻が隠れていたら、次は寝る前に鞭を与えます。お尻がシーツ
に摺れて痛い思いをしたくなかったら、真面目に罰を受けない」

 「………」
 「………」

 「いいですね」
 二人が黙っているので林先生の声が大きくなります。

 「はい」
 「はい」
 蚊の泣くような声。林先生はそんな二人の心細い声を聞くと、
その場を離れたのでした。


 二人は、背後に林先生がいなくなったことをおっかなびっくり
後ろを振り向いて確認すると、またおしゃべりを始めます。

 「あ~~あ、今日は調子よかったから、最後のジャンプは3m
くらい飛べた気がするんだけどなあ」
 「3mって?」
 「だからさあ、床にあるモザイクの聖人の頭くらいまでよ」
 「無理よ無理、そんなに遠くまで飛べないわよ」
 「そんなのやってみなきゃわからないでしょう。今度は、蝋を
塗ってみようと思うの。絶対、もっとスピードが出るはずだわ」
 「そんなことして、また林先生に見つかったらどうするのよ。
この間の典子みたいに中庭に素っ裸で立たされるわよ」
 「大丈夫よ、ばれないようにするもの」

 二人はその時までお互いスカートの裾を捲り上げて話していま
した。もし、ふいに林先生が現れてもいいようにです。
 ところが、ここで、玄関先から男の人たちの声がします。

 「……(えっ!)」
 「……(うそ!)」
 二人は言葉にこそ出しませんが、心の中は緊張します。
 むしろ言葉に出せないほど緊張していたと言うべきかもしれま
せん。

 実は、女子修道院といっても100%男子禁制ではありません。
ミサには司祭様がおいでになりますし、あの忌まわしい金曜日の
懺悔聴聞だって取り仕切るのはいつも男性の聖職者です。

 でも、これらは聖職者であり顔見知りの人たちですから、まだ
よかったのです。でも、今聞こえているのはそれらの人たちとは
明らかに違う声。聞き覚えのない男性の声がいきなり外から聞こ
えてきたのでした。

 「これは凄い、ステンドグラスの天窓が見事だ」
 「全体ロココ調ですね。その時代の創建でしょうかね」
 「祖父の住まいをそのまま残して孤児たちの寄宿舎にしており
ます」
 「ほう、ここが孤児の寮ですか。驚いたなあ、やはり伯爵とも
なるとスケールがでかい」
 「へえ~そうでしたか。道理で立派な建物だと思いましたよ。
でも、氏素性の知れない孤児にはもったいないんじゃないですか」
 「いえ、いえ、これも神の思し召しです。孤児といえど神から
使わされた大切な子どもたち、粗末に扱う理由にはなりません」
 「(ハハハ)いや、これは失礼。お立場も考えず……どうやら
私は徳が足りんようですな」
 「そんなことはございませんわ。でも、こうした恵まれない子
たちの面倒を一晩でもみていただけるなら、それは神様に多くの
徳を積むことになりましてよ」

 大勢の見知らぬ紳士たちを引き連れて院長先生が玄関を入って
きます。

 「(ヤバイ)」
 「(ヤバイ)」
 すると、とっさに二人とも持ち上げていたスカートの裾を下ろ
しました。

 林先生から何を言われたか、忘れたわけではないでしょうが、
女の子ですから、これはもう生理的にやむを得ないことでした。

 その集団は壁を向って膝まづく二人の少女たちに気づいていま
したが、紳士のたしなみとして見てみぬ振りをして通り過ぎよう
とします。
 ただ、その時の話題はというと、やはりそのことでした。

 「最近は男女同権とやらで、娘が増長て困りものです。何か、
妻に任せず何か新しいお仕置きを考えないと……」
 「同感、同感、うちにも娘がいますが、ちょっと甘い顔をする
と、すぐにつけあがりましてな。困ったものです。」
 「うちはここと同じですよ。二階へ行く階段の踊り場で、こう
やって膝まづかせるんです。……そうか、うちはもっと凄いな。
パンツを剥いでスカートを上げさせますから」
 「そりゃあ凄い。家庭ならではですかな?」
 「当たり前じゃないですか。よそ様の処でそんなことしません
よ。家にかえってから、たっぷりオシオキです」
 「おおお、こりゃあ厳しい。(ハハハハハハ)」

 紳士の集団は高笑いを残して奥へと去って行きましたが、二人
は生きた心地がしませんでした。
 と同時に、二人は林先生の言葉をすっかり忘れてしまっていた
のでした。


***********(1)***********


 御招ばれ <第1章>(2)

 二人は、大人たちがいなくなったピロティで再びおしゃべりを
始めます。

 最初は膝まづいたまま小声で……

 「びっくりしたあ」
 「びっくりなんてもんじゃないわよ。心臓が止まるんじゃない
かと思ったわ」
 「林先生、今日が御招ばれの日だって知っててこんな事させた
のかなあ」
 「さあね、でも、もしそうだったら相当な悪魔ね」
 「悪魔?それはちょっと可哀想よ」
 「どうしてよ。私たち、危うく死ぬまでずっとみんなに言われ
そうな大恥かくところだったのよ」
 春花の声が高い天井から跳ね返って戻ってきます。

 御招ばれの日というのは、その名の通り、孤児たちが一般家庭
に御招ばれする日のことで、月に一度、土曜日の午後出掛けて、
日曜日の午後学園に帰るスケジュールでした。

 招待するのは日頃から聖園学園を援助している後援会の人たち。
 もちろん、いずれも身元の確かな人たちでした。

 二人は同じ姿勢に疲れたのでしょう。春花が足を崩してあぐら
座りをすると、美里もすぐにマネをします。

 そうやって楽な姿勢になると、二人の会話は段々と声が大きく
なっていきます。
 でも、本人たちはそのことに気づいていないようでした。

 「だいたい、林先生って、結婚したことあるの?」
 「さあ、分からないわ。でも、普段は「私は神様と結婚したの」
なんて言ってるじゃない」
 「そんなの嘘よ。嘘に決まってるわ。きっと、男に捨てられた
のよ。だいたい見たこともない神様とどうやって結婚するのさ」
 「それは……」
 「あの曲がった性格は、誰からも相手にされなくて、仕方なく
修道院に来たよ。やけっぱちなのよ。決まってるわ」

 と、その時でした。

 「誰がやけっぱちなの?」
 二人の頭のはるか高いところから林先生の顔が現れます。

 二人は慌てて壁の方を向いて膝まづきますが、当然のことなが
ら手遅れでした。

 「おあいにくね、私は、男性に捨てられたからでも相手にされ
なかったからでもないの。純粋に神様のもとで暮らしたいから、
ここへ来たのよ。それ以外にシスターになった理由なんてないわ。
あなたたちも、そんな他人の心配してるより、まずは自分たちの
心配をした方がいいんじゃないかしら」

 林先生の忠告に二人は期せずして唾を飲み込みました。

 「あなたたち、このままじゃ、夜の鞭のあとは這ってベッドに
戻ることになるわよ」

 厳しい鞭打ちを暗示する言葉。実際、そんな子の噂はあちこち
で耳にしますから……

 「(ヤバイなあ)」
 「(嫌だなあ)」
 林先生の言葉は二人の背筋を一瞬にして凍らせるのでした。

 ところが……
 「と、言いたいところだけど、今日は御招ばれの日ですからね。
特別に許してあげます。ただし、これに味をしめて、また同じ事
を繰り返すようなら、お招ばれは中止して、お仕置きに切り替え
ますからね。そこいらは、よ~~~く、覚えておきなさいね」

 林先生はこう言って二人を解放してくれたのでした。

 「やったあ~」
 「ラッキー」
 二人は小躍りして食堂ホールへ向かいます。

 もうその時は、『また同じ事をやったらお仕置き』なんていう
林先生の言葉はすっかり忘れていたみたいでした。


 食堂にはさっき危うくお尻を見られそうになった大人たちの他
にもたくさんの紳士淑女たちがにこやかに語らっていました。
 彼らはこの週末ここの孤児たちを自宅に泊めるボランティアを
していたのです。

そして、そのお招ばれに出かける子どもたちもまた、普段より
ちょっぴりおめかしをしてすでにスタンバイしています。

 まだ経験の少ない下級生は、日頃面倒をみてくれるシスターが
一緒に着いていってお泊りさせますが、慣れてる上級生や中学生
はすでに品定め、お金持ちで、ハンサムなおじさんのいる家庭で
週末を過ごしたいと夢を膨らませていたのでした。

 実際、ボランティアの人たちは孤児を自宅に招くと精一杯歓待
してくれますから、日頃孤児院では出ないような料理を食べられ
るだけでも孤児たちにはメリットがある催しだったのです。

 特に、春花と美里の場合は……

 「先生、遅れてごめんね」
 美里が、静かに座っている大西先生の首っ玉に、いきなりしが
み付けば……
 「先生、夕食は何出してくれるの?私、今夜はビーフシチュー
がいいなあ」
 春花は、ちゃっかりそのお膝に腰を下ろすと、今夜の夕食まで
オーダーしています。

 二人にとってこの紳士はすでに他人ではありませんでした。
 五月の連休に初めて出会ったカップルでしたが、以降は月一回
この催しが開かれるたびに大西先生が必ずこの二人を指名します
から、二人も大西先生と急速に親しくなっていきます。

 この夏休みには、十日間のお泊まりまで経験していましたから、
今ではまるで家族のようにじゃれあう関係になっていたのでした。

 ただ、この日の大西先生は一つの重大な判断をしてここに来て
いました。
 ですからその事を率直に二人に告げます。

 「実はね、君たち二人を私の養女に迎えたいと思っているんだ」

 「養女?」
 「私たち、先生の娘になるの?」

 「そうだ」

 「私たち、先生をお父さんって呼ぶんだよね」
 「おばさんがお母さんで…茜さんはお姉さん?」

 「そんなになるのは嫌かい?」

 「それは……」
 美里は口ごもりましたが……
 「大丈夫だよ、私は……おじさん優しいもの」
 春花は即答します。

 「ただ、今、決めなくていいんだ。……実を言うとね。今日、
私の家に二人を行っていったら、君たち二人が『養女なんて嫌だ』
って言いだすんじゃないかと思って心配してるんだよ」

 「どうして?……私、おじさん好きだよ」
 「私だって、おじさん好きだよ。おばさんも、茜ちゃんも……」

 「ありがとう、春花ちゃん、美里ちゃん。だけどね、今までの
お泊りは、君たちはお客さんだったんだ。お客さんには良い思い
で帰って欲しいだろう。だから、みんな優しく接してきたけど、
もし、君たちが僕の家族になったら、優しい事ばかりじゃなくて、
厳しいことだって起こるんだ」

 「どういうこと?」
 美里は首を傾げましたが、春花にはその意味がすぐに理解でき
たみたいでした。

 「お仕置きね」

 「えっ!」
 美里は慌てて春花の顔を見ます。
 だって、これまでそんな事一度もなかったことだからでした。
自分たちがぶたれたことはもちろん、茜さんがお仕置きされてる
ところも見たことがありませんでした。

 でも、大西先生は、『もし養女になったらそれもあるんだよ』
と警告したのです。

 「茜の奴、今日、ちょっとしくじりをしてね。お仕置きをする
予定でいるんだ。今までだったら、そんなこと君たちがいる間は
避けてたんだけど、今回はそれを見てもらおうと思ってるんだ。
当然、気持の良いものじゃないよ。でも、もし私の娘になったら、
嫌でもそうしたことは出てくるからね。普段通りの生活をやって
みて、それでも、私の処へ来たいなら、喜んで受け入れるけど、
もし、それを見て、こんな処は嫌だと思ったら私の娘になる話は
断ってもいいんだ」

 「…………」
 美里はいきなりの重い決断に口を開きませんでしたが……
 「それって……もし、私たちが養女になったら、やっぱり、茜
さんと同じお仕置きを受けるってことですよね」
 春花の方がむしろ冷静でした。

 「そういうことだ。だから、おじさんとの関係も今日で終わっ
てしまうかもしれないけど、あとで『こんなはずじゃなかった』
って言われたくないからね。あえて、正直に本当の処を君たちに
見てもらおうと思うんだ。……どうだい?……着いて来るかい?」

 こんな事をわざわざ宣言されてしまうと、二人ともまだ子ども
ですから、そりゃあ怖気づいてしまいますが、そこへ、林先生が
やってきました。

 「どうしたの?良いお話よ。あなたたちはまだ子供で知らない
でしょうけど、先生はこのあたりでは有名な学者さんなの。実直
で信頼も厚い町の紳士なのよ。実直な方だからこそ、本当だった
らしなくてもお仕置きの話までなさって、あなたたちを迎えよう
としてるんでしょう。そんな人に、『養女に…』って誘われたら、
断る手はないわね」

 林先生にそう言われると二人の心は動きます。
 実際、お仕置きは大人の専権事項。養子に迎える子どもにわざ
わざ断りを言う大人なんて他にいませんでした。

 「……はい」
 春花は少し唇を噛んでいつも通り大西先生のお家へ行く返事を
します。
 「……私も……」
 美里も答えます。こちらの乗り気はいま一つでしたが、ここで
春花と別れて週末を独り寮で暮らしたくないという思いが強くて、
この日は渋々OKしたのでした。


**********(2)************


 御招ばれ <第1章>(3)

 二人は車寄せに止めてあった大西先生のベンツに乗り込みます。
事情は他のお友だちも同じでした。春花や美里のように定まった
里親がいない場合でもくじを引いて誰かしらが子供たちを自宅に
招待してくれます。中には、それほど裕福ではない家庭も含まれ
ていましたが、大人たちは自分たちにできる精一杯のもてなしを
してくれましたから、子供の方からその招待を断ることはできま
せんでした。

 二人と大西先生との出会いも最初はクジ引きですからまったく
の偶然だったのです。ですが、二回目からは先生の方からご指名
が入ります。
 子供たちも優しく迎えてくれる先生のお宅が気に入って、その
関係が今に続く事になるのですが、それは大西先生の暮らしぶり
がセレブだったからではありませんでした。

 大西先生、たしかにベンツには乗っていましたが、その愛車は
かなりの年代物で、二人が座る後部座席のシートにはすでに穴が
あいています。
 二人は、飛び出してきたスプリングでドレスを破かないように
注意しながら座っていなければなりませんでした。

 到着したお宅もそうです。緑の木々に囲まれた古い洋館はちょ
っと見は趣のある建物なのですが、決して映画のロケに出てくる
ようなピカピカの豪邸ではありませんでした。
 建てた年代があまりに古すぎて、住むにはむしろちょっと問題
がある建物だったのです。

 板張りの廊下は普通に歩くだけでギシギシと音をたてますし、
木枠のガラス窓からは隙間風が入り込みます。本来なら壁に埋め
込まれているはずの電気の線やガス管も、壁や天井をむき出しの
まま這い回っていました。

 でも、そんな事、子供の二人には関係ありませんでした。
 いえ、今となってはむしろこここそが懐かしい我が家といった
感じで、ドアに取り付けられた少し緩んだ真鍮のドアノプを勢い
よく開け放つと、奥に通じる廊下を駆け抜けて行くのです。

 「おばさま、お招きありがとうございます」
 「おばさま、お招きありがとうございます」

 競争するように奥へとやってきた二人は居間にいらした先生の
奥様にさっそくお礼を述べます。
 この挨拶は院長先生に習ったものでしたが、今では「ただいま」
という言葉と同じでした。

 「あら、いらっしゃい」
 と、先生の奥様が……
 「いらっしゃいませ」
 茜お姉様もご挨拶を返します。

 でも、二人がお上品なのはたったこれだけ……
 そっそく二人のおやつのために用意されていたオレオとココア
をテーブルに見つけると、菓子盆に手を伸ばして鷲づかみ……

 「やったあ」
 「わたしも……」
 後はソファーで跳ね回ります。

 すでに自宅気分というか、躾けも何もできていない山猿状態な
わけですが、先生をはじめ大西家の人たちがそんな二人を咎める
ことはしませんでした。

 「今週はどうだったの?孤児院で叱られたりしなかった?」
 二人が落ち着いたところで、おばさまが尋ねます。

 「ん……ない事はないんだけど……もう、いつもの事だから」
 春花が答えると、さらに尋ねてきました。

 「あそこでは、あなたたち、毎日、お仕置きを受けてるの?」

 「私が毎日お仕置きされてるわけじゃないけど……孤児院の子
の誰かしらは、毎日お仕置きされてるわ。だって、お仕置き部屋
から悲鳴が聞こえなかった日なんて1日もなかったもの」

 「お仕置き部屋なんてあるんの。恐いのね。どんな時にそこへ
入れられるのかしら?」

 「どんなって……お友だちと喧嘩したり……入っちゃいけない
芝生に入ったり……授業に遅れたり、消灯時間を過ぎてもおしゃ
べりしてたり……ま、理由は色々」
 春花に続いて美里も……
 「特に、金曜日の夕方は大変なの」

 「どうして?」

 「懺悔聴聞会ってのがあるよ。子供はみんな司祭様にその週に
犯した自分の罪を懺悔しなければならないの。その日のうちなら
まだいいんだけど、二日も三日も前の事なんて、いちいち覚えて
られないでしょう。だから、みんな自然と日記をつけるようにな
るわ。それを読み返して、一週間の行いを暗記してから司祭様に
会うようにしてるの」

 美里の言葉に春花が入り込んだ。
 「そう……だって、その週に犯した罪を全部言えなかったら、
お仕置きが増えるかもしれないでしょう。みんな真剣に覚えるわ」

 「そうなの。大変ね。司祭様って、日頃からそんなに子供たち
の事を丹念に調べてるんだ」

 「そうじゃなくて、林先生が私たちの罪を全部書いた閻魔帳を
司祭様に渡すから、それを見ながら判断なさるのよ。あんちょこ
があるんだもの。こっちはかなわないわ」

 「なるほどね」
 おばさまは笑います。そして……
 「で、罪を告白したら許されるの?」

 「小さい子はね、小学3年生くらいまでは、お膝に抱かれて、
『だめだよ、良い子でいなきゃ。これから私と一緒に神様に懺悔
しましょう』っておっしゃるだけなの」

 「だけど、4年生くらいからはお仕置きとして本当にぶたれる
こともあるわ」

 「あら大変。それじゃあなたたちは司祭様からぶたれたことが
あるわけ?」

 「もちろん……でも、先生より痛くない」
 「嘘よ!司祭様の鞭ってとっても痛いことがあるんだがら……」

 「どんな罰を受けるの?お尻でも叩かれるのかしら?」

 「だいたいお尻が多いけど、手のひらだったり、太股だったり、
お臍の下をぶたれたこともあったわ。トォーズという革紐の鞭なの」

 「先輩に聞いたんだけど、うちでは小学5年生から中学1年生
位までが一番厳しいんですって……」

 「そうなの?……でも、それじゃ、あなたたち、まさに適齢期
ってわけね。…でも、どうしてその年頃の子が厳しいのかしら?」

 おばさまは二人に微笑みながら首を傾け、ココアのお代わりを
入れてくれます。でも、そんなおばさまの問いかけに答えたのは
春花でも美里でもありませんでした。

 「昔から、そのくらいの歳が女の子の躾どころって言われてる
からさ。その頃女の子は一時的に体力的にも男勝りになるからね。
ほおっておくと男を馬鹿にして結婚したがらなくなると言われて
るんだ。ま、職業婦人にさせるつもりなら、それでいいんだろう
けど……たいていの親は、娘の結婚式を楽しみにしているからね。
じゃじゃ馬になって婚期が遠のかないようにその時期は特に注意
して娘を厳しく育てるんだ」

 大西先生は、うがい手水に身を清め普段着に着替えると、居間
へと戻ってきたのでした。

 「この子たちはそれがちょうど始まった時期、うちの茜はその
クライマックスというわけさ。あそこは孤児院と言っても躾けに
手を抜かないからね。どの子を選んで連れてきてもこちらが困る
ことがないんだ」

 ここで、それまで沈黙を守っていた茜さんが口を開きます。
 「じゃあ、この子たちも、うちと同じお仕置きを受けることが
あるんですか?」

 「あるんじゃないかな、聞いてご覧」
 先生は茜さんに言いましたが、茜さんは真っ赤な顔をしてただ
俯いてしまいます。
 それはとても恥ずかしくて訊けないということのようでした。

 その代わりを先生が務めます。
 「二人は、お尻叩きの他にどんなお仕置きをされたことがある
のかな?」

 「えっ、お仕置きで……」
 二人も最初は答えにくそうにはしていましたが、茜さんと比べ
れば二人はまだ幼いので正直に答えます。

 「何でもあるよ。……嘘をついたら、お口に石鹸を入れられて
ゲーゲーいいながらお口の中を洗わされるし、お腹の中も洗わな
きゃいけないって言われて浣腸だってされるもの」

 「あれは気持悪いね」

 「そう、もの凄く嫌な罰なの」

 「あと、テストのカンニングがばれて、中庭の張り付け台で、
二時間も立たされてた子がいたわ」

 「そう、そう、敬子の事でしょう。パンツ一つでね。もの凄く
可哀想だったもん」

 二人がお互いの顔を見合わせて盛り上がるなか、先生は新たに
質問します。
 「君達の処はお灸のお仕置きもあるんだって?」

 「うん、あるよ。お勉強しない子が受けるの?」
 「お勉強も厳しいんだ」

 「林先生ってね、そういう時はいつも『私はあなた方に難しい
ことは求めていませんよ。真面目にやれば、みんなできることを
ちゃんとやりなさいって言ってるだけです。それができないのは
あなた方にやる気がないからでしょう』って……」

 「そう、いつも言われてるの。怠けてる子は最初は鞭だけど、
そのうち院長先生のお部屋に呼ばれて、お尻にお灸を据えられる
のよ。私はやられたことがないけど、やられた子の話だと、もの
凄~く熱くてお尻に穴があいたかと思ったんだって……」

 二人の答えに、なぜかおばさまが……
 「そうだそうよ、茜」
 と言って、茜お姉様に向かい意味深に微笑むのでした。

 「鞭は、たしか革のスリッパだったよね」
 先生が確かめると……

 「私たちはまだそうだけど、6年生からはみんなに見られない
処ではヘアブラシで、見られる処では革のパドルなんだって……
聞いただけでゾッとするわ」

 「中学生になるとお仕置きはケインよ。あれはもの凄く痛くて
先輩の子がよく悲鳴あげてるわ」

 「公開のお尻叩きもあるんだろう」

 「もちろん、たくさんあるわよ。特に日曜礼拝の後は……必ず
誰か舞台の上に呼ばれて……ほかの子への見せしめなの」

 「君たちはやられたことあるの?」

 「ないよ」
 「私もない……」

 「そういうのはたいてい中学生のお姉さんたちだから。鞭打ち
台に縛り付けられて両方の足を大きく広げさせられるの。おかげ
で嫌なのが見えちゃうけど、目を背けると私たちも叱られるから、
仕方く見てるんだけど……お尻も紫色になっちゃうし、とっても
気持悪いわ」

 「私も、あれ、見たくない」

 春花が時に力説し、美里がそれに合いの手をいれますが、二人
の少女のお仕置き話はつきそうにありませんでした。
 でも、それを聞かされていた茜ちゃんが、実は何より辛い立場
なのでした。


**********(3)************


 御招ばれ <第1章>(4)

 三時のおやつが終わると、二人は茜お姉ちゃんやおばさま達と
遊びます。トランプをやったりゲームをしたり、指人形をはめて
即興の劇に興じたり、お庭に出てピンポンなんかも……

 とにかく思いついたことで遊びます。それは、これまでと一緒
の時間。おじさまが孤児院で深刻ぶって話したことなどすっかり
忘れてしまうくらい楽しい時間だったのです。

 お招ばれした子がやることは、楽しく遊ぶこと、美味しく食事
をすること、愉快にお風呂に入ること、そしておじさまおばさま
のベッドで一緒にご本を読んでもらって眠ること、ただこれだけ
だったのです。

 幸薄い孤児達に少しでも家庭的な雰囲気を味わってもらいたい、
そう思って大人たちが始めた慈善の催しでしたから、孤児たちも
最初からここで勉強しようなんて気はありません。

 よく遊び、よく遊べの週末だったのです。

 でもそんな二人が、お庭で奇妙なものを見つけてしまいます。

 「なんだろう、あれ?」
 草むらに隠れるようにして肋木(ろくぼく)が立っています。
でも運動するにはそれは中途半端な高さしかありませんし、その
下は窪地になっていて、二本の板が渡してあります。

 何かの残骸でしょうか。
 恐らく大人たちが見つけてもそうとしか思わないでしょうから
それから先には進みません。
 おばさまも……

 「何でもないわ」
 とそっけない一言でした。

 でも、二人は違っていました。
 「あそこへ行ってみる」
 と言ったのです。

 すると、今度はおばさまが慌てます。
 「だめよ、危ないから」
 そう言って引き止めようとしたのですが……

 「大丈夫です。おばさま。……美里、行こう」

 春花が美里の手を引きますから、おばさまは、さらに慌てて、
本当の事を話すことにしたのでした。
 おばさまにしてみたらそれは見つけてほしくないものだったの
です。

 「あれは、おトイレよ。汚いから行かない方がいいわ」

 こう説得したら諦めると思ったのです。
 ところが…

 「えっ!あれ、おトイレなの」
 「うそ!!あれって、二枚の板が並べてあるだけだよね。あれ
じゃあ、外から丸見えだよ」
 二人はさらに食いついてきます。

 「いいのよ、家族だけで使うものだから……」
 「でも、腰掛ける便器もないし……いちいち持って来るの?」
 「そんなもの最初からないわ。あそこにしゃがんでやるのよ」

 「しゃがんで???」
 「しゃがんで???」
 二人にはしゃがむという言葉の意味が分からないみたいでした。

 「……ねえ、水はどこから出てくるの?」
 「……ねえ、腰掛けないで、どうやってウンチするのさあ」

 二人の興味はつきません。おばさまは、言葉を濁してどうにか
ごまかしたかったのですが、お手上げでした。

 「やっぱり探検してみる」
 好奇心を抑え切れない二人はとうとうその場所に目指して行っ
てしまいます。

 「わあ、これトイレなの?何だか臭そう……」
 「ここにしゃがんでウンチを落とすんだよね。でも、これって、
葉っぱしか見えないよ」
 「きっとその下にウンチがあるのよ」
 二人は板の上に膝まづくとそこから窪地になった穴を覗き込み
ます。

 「もし、落ちたらどうするんだろう?」
 「きっと、ウンコまみれね」
 春花がほがらかに笑います。春花にしても美里にしても自分達
が汚いものに触れているという意識はまったくありませんでした。
 実際、そこには今現在ウンチなんてなかったのです。

 「いやだあ、押さないでよ。ほんとに落ちたらどうするのよ」
 二人はたわむ板の上でふざけあっています。

 そして、それに飽きると今度は肋木によじ登って、その上から
二枚の板へ飛び降り始めます。
 着地の時、板に滑って尻餅をつくこともありましたが、遊びの
楽しさに比べればそれって平気なことだったのです。

 「でも、これ何だろうね」
 「だから肋木でしょう。学校にも寮にもあるじゃない」
 「でも、こんなに低くないでしょう。これ、私たちの身長より
低いのよ」

 すると、そんな遊びを始めた二人がちょっぴり心配になったの
か、おじさまがやって来ました。

 「さすがに孤児院にはこんなものはなかったとみえるな」

 「うん、初めて見た」
 「これトイレなの?……私、こんなドアも壁もない処じゃ恥ず
かしくてできないわ」
 「私も……」
 二人は笑っていました。

 「そうか…君たちの処ではないだろうな」
 「どうして?」
 「だって、これは我が家専用。お仕置き用のトイレだもん」

 「…………」
「…………」
 二人は子供ですから、『お仕置き』という言葉には敏感に反応
します。その言葉を聞いたとたん二人から笑顔が消えてしまいま
した。

 「脅かしちゃったか。ごめんね」
 おじさまは二人の心が和むように穏やかに笑います。

 「君たちの孤児院がどんなに面倒見がいいといっても、そこで
暮らす人たちはみんなは他人だからね、そこまで厳しいお仕置き
はできないかもしれないけど、ここは家庭の中だからね、お外で
は絶対にできない恥ずかしいお仕置きもあるんだよ。……ほら、
いいから、しゃがんでみてごらん」

 「えっ、……」
 おじさまの求めに美里が応じました。理由はありません。その
時、春花は肋木の上、美里は板の上にいたからでした。

 「ほら、この二枚の板に片方ずつ足を掛けて、腰を落とすんだ」

 「……こうですか?」
 春花や美里たちは、生まれた時から様式トイレで用を足します
から、そもそもしゃがむという習慣がありませんでした。

 「そう、そう、それでウンチするんだ」

 「えっ!こんな格好で?……だめ、私、キツイもん」

 「だって、昔の日本人はみんなそうやってウンコしてたんだよ」

 「えっ!?うそ!こんな格好で」

 「嘘じゃないさ。みんなそうやってたんだから、できないはず
ないよ。……慣れれば、君にもすぐにできるようになるよ」

 「無理、絶対に無理」

 「そうかあ、無理かあ……でも、それじゃあ困ったなあ。……
だって、こうやってウンチができるのは、うちのお仕置きでは、
まだ軽い方なんだよ」

 「えっ!?」
 「(どういうこと?)」

 二人はおじさまの言葉に、まるで豆鉄砲を食らった鳩みたいに
きょとんとしてしまったのでした。

 「美里ちゃん、そこに膝まづいてごらん。………そう、そう、
その方が楽だろう。……そうしたら、両手を前に……ちょうど、
肋木の横木が掴めるだろう。……どの高さの横木でもいいんだよ。
それに掴まって……そう、そうやってお浣腸のあとウンチを我慢
するんだ」

 「(えっ!!)」
 「(えっ!!)」
 そりゃあ驚きます。やらされてる美里だけでなく、肋木の天辺
に腰掛けてその様子を見ていた春花だって、驚きで声がでません
でした。

 いえ、この二人が暮らす孤児院にもお浣腸のお仕置きはありま
した。でも、それは少しの時間我慢してからおトイレを許される
ものだったのです。

 こんなお外で……しかもたわむ板の上で……何よりみんなから
見られるかもしれないこんな場所でウンチを我慢するなんて……
ありえないことでした。

 「…………」
 「…………」
 二人にとってはあまりにも現実感のない話だったのでした。

 「ほら、あなた、そんな話、よそ様にしないで頂戴!二人とも
怯えてるじゃないの」
 おばさまが遅れて中にはいります。

 すると、おじさまは……
 「大丈夫さ、この子たちは孤児院で暮らしてるんだから外には
漏れないよ。それに、この子たち自身、うちの子になりたいって
言ってるみたいだし……もし、そうなったら……いきなりこんな
ことしたらショックも大きいだろうし、ここで少しだけ我が家の
やり方にも慣れておいた方がいいんじゃないかと思ってね、それ
で今日は連れて来たんだ」

 「それはわかりますけど、この場所は二人には見せませんよ。
さすがに、それでは茜が可哀想ですから……」
 おばさまはきっぱり。

 「わかってるさ、ここは君の管轄だ。それをどうこうするつも
りはないよ」

 どうやら、おばさまの意見が通ったみたいで……二人はこの先
まずお風呂へ入ることになったのでした。


*********(4)***********


 御招ばれ <第1章>(5)

 「ねえ、茜お姉様はお浣腸されてからあのトイレでウンチする
の?」
 春花はお風呂で自分の体を洗っている女中の明子さんに尋ねま
すが……

 「知りません!そんなこと……」
 当初はそっけない返事が返って来るだけでした。

 「やっぱり、口止めされてるのよ」
 それを見ていた美里が湯船の中から訳知り顔で語りかけます。

 すると、今度は明子さんが春花のつるぺたの胸をゴシゴシやり
ながらこう言うのでした。

 「考えてごらんなさい。自分がウンチしてるところを他人に見
られるなんて、どんなに恥ずかしいか。あなたたちはまだ小さい
からそれほど感じないかもしれないけど……」

 「わかるわよ、それくらい……私なら死んじゃうかもしれない
くらい恥ずかしいもの」

 「相変わらずオーバーねえ、美里は何でも大げさなんだから…」
 春花は美里の物言いに『また始まった』というような呆れ顔を
します。

 「何よ、じゃあ春花は恥ずかしくないの!」
 「そりゃあ、そんなことされたら私だって恥ずかしいけど……」
 「けど、何よ」
 「だって、私たちもみんなの前でお尻だしたことあるじゃない
の。院長先生怒らしちゃって……」

 「そりゃそうだけど、あれはお鞭をもらっただけで……ウンチ
なんてしてないもの」
 「そりゃそうだけどさあ……」

 「ねえ、ウンチって、どのくらい我慢するの?」
 美里はやはり興味津々といった様子です。

 「そんなこと聞いてどうするんです?女の子が関心持つ事じゃ
ありませんよ」
 明子さんは最初にそう言いましたが、やがて仕方ないと言った
表情で、まるで独り言を言うようにして説明してくれました。

 「お子さんの歳にもよりますし、お父様やお母様をどのくらい
怒らしたかにもよりますけど……せいぜい20分くらいかしらね」

 「20分!?」
 それまで比較的冷静だった春花の方が目を丸くして驚きました。
 「えっ、そんなに!……無理、無理、無理、私、絶対に無理」
 もちろん美里も……こちらはあまりのことに驚きを飛び越えて
最初から顔が笑っています。

 最後はお互い顔を見合わせて笑います。

 というのも、二人はお仕置きではなくあくまで医療行為として
ともにグリセリン浣腸を受けたことがあります。
 ですから、それが途方もないことだとわかるのでした。

 でも、明子さんの方は真剣で、二人を叱りつけるように、こう
言います。
 「何、笑ってるの!人間、なせばなるですよ。女の子はねえ、
こんな処で恥をかきたくないと思ったら、自然と、我慢ができる
ようになるんです。…茜お嬢様だって、最初の頃は当然のように
オムツにお漏らしでしたけど、あなたたちぐらいの歳には、もう
ちゃんと我慢できて、お外のトイレでなさってましたよ!!」

 「でも、結局…ウンチしているところは見られるんでしょう?」

 「そりゃそうですけど、見ているといってもお父様かお母様、
それに私のようなごく幼い頃からお世話もうしている者だけです
から……」
 と、ここまで言ってから……

 「あっ、高瀬先生がいらっしゃるか……」
 明子さん、小声で付け足したのですが、それを二人は聞き逃し
ませんでした。

 「高瀬先生って?」
 「ね、誰?」
 二人の小娘が再び湯船の中ではしゃぎ出します。

 困惑気味の明子さんでしたが、もう、こうなったらすべて話す
しかありませんでした。
 いえ、彼女自身も、本当は話したかったのかもしれませんが…

 「お子様たちがいつもお世話になってる小児科の先生ことよ。
ここにもよく往診にみえるの。特にお仕置きのある時は脅かしに
大きな浣腸器をもってみえられるから、それを見るとご兄弟とも
部屋中を逃げ回って、効果てきめんでしたよ」

 「ご兄弟?」
 「お子様たちって、おじさまの子供って、茜お姉様だけなんで
しょう」
 怪訝に思って尋ねると、二人にとっては意外な答えが返ってき
ます。

 「違いますよ。茜お嬢様は2歳まで施設で育ったあと、ご夫婦
が女の子を育ててみたいとおっしゃって養女になさったんです。
お二人の本当のお子様方は二人とも坊ちゃんで、すでに独立され、
今は年に二回ほどしかご実家には戻られませんけど、共にお医者
様をなさってます」

 「なんだ、そうなのか」
 春花は単純に納得しましたが、美里は気になる事がありました。

 「ひょっとして、その先生って、お仕置きの時はいつもここへ
来るの?」

 恐る恐る尋ねたことが、不幸にして当たってしまいます。
 「ええ、そうですよ。ちょうどいい機会ですからね、健康診断
をしていただいたり、発育状況を診てもらったり、お浣腸の量も
先生がお決めになって、ご自身がなさる事もありますし、お導尿
なんて素人ではやりにくいことも先生がやってくださいますから。
……そうそう、茜お譲様はこれが大変にお嫌いで、いつも大泣き
されてました。……そうだ、あなた方も頼んであげましょうか?」

 明子さんに言われたとたん、二人は湯船の中へ……
 導尿がどんなことなのか、実は二人とも知りませんでしたが、
とにかく、今はここしか隠れる処がありませんでした。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 処変わって、こちらはおばさまのお部屋。
 その時、茜さんはお母さんに呼ばれていました。

 「先週、二学期の中間テストの結果をみせてもらったけど……
これ、あまり芳しくないみたいね。お父様にも、当然お見せした
けど、渋い顔なさってたわ」

 「ごめんなさい」

 「まあ、あなたの場合は、女の子なんだから、男の子のように
クラスの中でも抜きん出た成績でなきゃならないというわけでは
ないけど、……それでも、ある程度の成績は残してもらわないと
……」

 「…………」

 「変な言い方だけどね、うちはインテリであることが家業の家
なの。だから、あなたの成績は、あなただけのものではないわ。
それはこのお家の看板でもあるわけですから。他のお家のように
学校の成績なんて悪くても仕方がないとはならないの。そこの処、
何度も説明してきたからわかるわよね」

 「はい」

 「『あれが東都大の教授の馬鹿娘か』なんて世間で後ろ指でも
さされるようになったら、私もお父様も立つ瀬がないわ」

 「ごめんなさい」

 「まあ、それがわかってるなら、もっと頑張ってもらわないと
………これは何よりお父様の体面にも関わることなのよ」

 「はい」
 茜さんはこの時点でもう涙を流していました。
 こんなお説教を過去に何度も聞かされていたからなのです。

 「もちろん、これがあなたの側に何か障害があってというなら、
それは仕方がないことだけど……大病したわけでもなし、虐めに
あってたわけでもないわよね」

 「はい」

 「……強いて原因を考えると……………(ふう~)」
 お母さんは一つため息をついてから……

 「マンガの読みすぎ、テレビの見すぎ、お友だちとの長電話、
休日のたびにお友達と街をぶらついて、勉強は犠牲にしても好き
な映画やコンサートは外さない……これじゃあ、勉強している暇
がないわね。……だいたい、お父様から頂いたスケジュール通り
に一日を過ごした日が何日あったかしらね?……(ふう~)」

 お母さんがため息をつくたびに茜さんは背筋がゾクッとします。
 「…………」

 「これじゃあ、成績が下がっても当たり前よね。お父様もね、
今回はご自身で作成されたスケジュール通りに茜が勉強していな
かったことをお知りになって、とっても憤慨されてるのよ」

 「えっ……」
 茜さんはこの時『意外な』という顔になります。
 というのも、ここ数日、出会うお父さんは、何時も通り穏やか
で、普段と何も変わらなかったからなのです。

 そんな茜さんの気持をお母さんが察したのでしょう。
 「どうしたの?お父様が怒ってるなんて信じられないかしら?
……でも、たしかに怒ってらっしゃるわ。それも、カンカンよ。
いつぞやは、『どうして、私の作ってやったスケジュール通りに
茜にやらさせないだ』って取り付く暇がなかったわ」

 「そうなんだ」
 茜さんはお父さんの怒りに初めて気がついたのでした。

 「それでね、お父様と二人で考えたんだけど………あなたには
久しぶりにお仕置きを受けてもらうことにしたの。……分かって
くれるわね」
 お母さんは茜さんを見つめると、抑揚を抑えた感じではっきり
宣言します。

 「えっ……」
 青ざめた顔の茜さん。ここに呼ばれた時にいくらか覚悟はして
いましたが、あらためてそう言われると、やはりショックだった
のです。

 「あなたへの本格的なお仕置きはいつ以来かしらね。そうそう、
前はまだ小学5年生だったから2年ぶりになるわね。6年生の時
も怪しいことはあったけど、受験の時期でもあったし、お父様と
もご相談して目をつぶっていたの。でも、その受験も終わって、
さあ、これからって時に、気が抜けてしまったんじゃ何の意味も
ないわね」

 「…………」

 「あら、どうしたの?いきなり震えだしちゃって……恐いの?
(フフフフ)まだ子供ね。…ま、もっとも、お仕置きが恐くない
子供というのがいたら言ったら嘘でしょうけど、あなたも大西家
の一員である以上、こればかりは逃げられないわ」

 お母さんは茜さんのおでこをチョンと指ではじきます。
 ちょっぴりからかわれたわけですが、茜さんは、むしろ落ち着
いたみたいでした。

 「はい、お仕置きお願いします」
 茜さんは畳の上に正座しなおすと、両手をついてご挨拶します。
 これもまた大西家の作法だったのです。

 「そう、わかりました。あなたも私達が知らない間に一歩一歩
大人へと近づいているみたいね」

 「えっ?」

 「あら、忘れたの。あなたが前回お仕置きを宣言された時は、
散々泣き叫んで、私の腰に抱きついて『ごめんなさい』『ごめん
なさい』って連呼したのよ。あなたが『お仕置きをお願いします』
と言えたのは、私がとても恐い顔をして脅しつけてからだったわ。
それが今は、自らご挨拶ができるんですもの。大人になったなあ
って感心してるの」

 「そんな…………ただ、お仕置きは今さらどうしようもない事
ですから……」

 「そうね、確かに……でも、それが大切なのよ。女の子は……」

 「…………」

 「女の子は男性とは違うの。それぞれが自分に与えられた場所
で力を発揮しなければならないわ。男性のように、その場所が嫌
なら、自分の気に入るようにそこを変えてしまえばいい、なんて、
なかなか思えないもの」

 「どうしてですか?」

 「単純なことよ。女性は男性に比べて、肉体的にも生理的にも
ハンデが大きいもの。力強くないでしょう。……それより、その
場所に留まって、自分の存在を認めてくれる人を探した方が……
ずっと楽だし、成功する可能性も高いわ。そのためには、まず、
相手の心を掴まなきゃ。相手が猛烈に怒ってるのに『私、嫌です』
なんて、すねてみても始まらないでしょう。だから、女の子は、
我慢するってことが大事になってくるわ」

 「それって、お仕置きのことですか?」

 「そうね、それも一つだわね……もし、これが私とあなただけ
の生活だったら、私はあなたに体罰なんか求めないと思うけど…
ここはお父様のお家なの。そして、あなたはその娘。あなたには
怒りに震えるお父様の溜飲を下げて差し上げある必要があるわ。
わかる?」

 「はい」
 茜さんは小さな声で答えます。

 「大丈夫よ。そんな深刻な顔をしなくても……お父様は立派な
方だから、どんなお仕置きをなさるにしても、あなたが耐えられ
ないような事はなさらないわ。だから、あなたとしては、そんな
お父様を信じて必死にしがみついていればいいのよ。そうやって
耐え抜けば、あなたは今まで以上にお父様から愛される事になる
わ」

 「本当に?」

 「もちろん本当よ。……お仕置きってね、親子がお互いの愛を
確かめ、これからを誓う儀式なの。お父様はあなたを愛したいの。
だから、それを、あなたの方で拒否してはいけないわ」

 「………………」

 「何だか信じられないって顔ね。でも、それがお仕置きという
ものよ。……あなたも子供を持てばわかるわ。……とにかく今の
あなたは必死になってお父様からいただくお仕置きに耐えるの。
……健気なあなたの姿をご覧になれば、お父様だって決して悪い
ようにはなさらないわ。だって、あなたはこの世の中で誰よりも
お父様から愛されてる子どもなんですもの」
 お母さんはそう言って茜さんを励ますのでした。


***********(5)***********


 御招ばれ <第1章>(6)

 その人は、いきなりお母さんや茜さんがいる部屋へと現れます。
玄関の呼び鈴も押さず、誰にも声を掛けず、長い廊下をつかつか
と歩いて、茜さんのいる部屋に顔を出すなり、帽子を取って……
 「こんにちわ」
 と言うだけでした。

 そして、お母さんもまたそんな失礼なお客様を咎めたりはしま
せん。
 むしろ……

 「まあ、先生。よくいらっしてくださいましたわ。ちょうど、
お迎えに上がろうかと思っていたところなんですよ」
 お母さんは恐縮したように座布団を勧めます。

 「ちょうど往診のついでがありましたから、立ち寄ってみたん
です」

 茜さんは大人の会話に耳を傾けながらも、白衣姿の先生の顔を
見たとたん、血の気がうせて呆然と立ちすくんでしまいます。
 こう言うのを茫然自失というのでしょうか、茜さんはお母さん
に……
 「ほら、何、突っ立ってるの。先生にご挨拶なさい」
 と言われるまでその場から一歩も動くことができませんでした。

 「先生、こんにちわ」

 ぶっきらぼうなご挨拶でしたが、気を取り直して茜さんが正座
すると、高瀬先生はそんな少女のあれこれに気を回すことなく、
笑顔で受け答え。

 「はい、こんにちわ。茜ちゃん、元気だったかい。相変わらず
赤いほっぺして元気そうだね。今はどうですか?お腹の調子は?」

 「…………」

 茜さんが答えにくそうなので、代わってお母さんが答えます。
 「それが、最近、また便秘がぶり返してきたみたいで……」

 「そんなことないもん」
 茜さんは、一旦正座して踵に着いていたお尻を浮かし、思わず
身を乗り出して反論します。
 それは、この便秘がお浣腸へと繋がることを恐れたからでした。

 「保健の先生が三四日なら問題ないって……」

 「何言ってるの。あなたの場合は、一週間も出ないことがある
でしょう」
 「そんなの、たまたまじゃない」
 「たまたまなんかじゃありません」

 「まあ、まあ、一度や二度ならそう問題ないでしょうが、毎回、
毎回となると、ちょっとやっかいかもしれませんね。茜ちゃんの
場合は習慣性になっているかもしれませんから……」

 高瀬先生の言葉にお母さんはわが意を得たりとばかり、
 「ほら、ごらんなさい」
 と言うのでした。

 「先生、今日で五日目なんで……そろそろ出してしまいたいん
ですが……」

 「わかりました。……茜ちゃん、ここに寝てごらんなさい」

 高瀬先生はいつものように茜さんを仰向けに寝かせると座布団
を腰の下に当てさせ、お腹を押してその張りをチェックします。

 「なるほど、少し張ってるかな」

 先生は茜さんのお腹を触診すると、用意された洗面器のお湯で
手を洗います。

 そんな先生を見ながらお母さんは尋ねました。
 「浣腸はどのくらいの量、やった方がいいでしょうか?」

 「そうですねえ、30㏄から50㏄もあれば足りると思います
が、ご心配なら100㏄でもかまいませんよ」

 「そんなに、大丈夫なんですか?」

 「心配要りませんよ。茜ちゃんも、もう体が大きいですからね、
100㏄くらいは耐えられますよ」

 高瀬先生とお父さんとは古くからの友人。この家にも茜さんが
生まれる前から出入りしていますから、大西家の家庭の事情にも
精通しています。ですから、部屋に入った瞬間の茜さんの表情を
見て、『今夜は、お仕置きだな』と悟ったのでした。

 そして、もし、お仕置きとしてやるのであれば、30や50㏄
では親御さんも物足りないはずだから、どの程度が上限かを知り
たいはず。そう読んだのでした。

 「それでは、100㏄でお願いできますでしょうか」
 「よろしいですよ。ただ、看護婦は帰してしまいましたので、
私でよければ…ですが……」
 「もちろんですわ」

 大人たちの会話は茜さんには残酷に響きます。でも、13歳の
少女なんて、世間の大人たちにしてみたらまったくの子供。何を
どうされても「年端も行かない小娘のくせに偉そうに口答えする
んじゃありません」とすごまれればそれで終わりだったのです。

 中学生になったといっても、大人たちの扱いは小学生のまま。
時折、『茜ちゃん』だった呼び名が『茜さん』に変化しますが、
それだけでした。
 どうしようもない現実が茜ちゃんを支配します。

 「明子さん、明子さん、……ここにお布団敷いてちょうだい。
茜にお浣腸しますから」

 お母さんが女中の明子さんに指示する声を茜さんはどこか遠く
の出来事のように聞いていました。

 明子さんが部屋に現れると……
 やがていつものように薄い布団が持ち込まれ、目の前に敷かれ
ます。タオル、オムツ、天花粉……もちろん、グリセリン溶液の
入ったこげ茶色の薬壜や50㏄入りのガラス製ピストン浣腸器も
洗面器に入れられて大事そうに目の前を通り過ぎていきました。

 もちろん、これって始めての経験ではありません。幼い頃から
二ヶ月に一回は必ず受けてきた習慣なのです。ですが、茜さんが
これに慣れるということはありませんでした。
 むしろ、それが次第に辛い行事になってきたのです。

 もちろん、年齢と共に恥ずかしいという気持が増してきたのは
事実ですが、それよりも、これをやらされるたびに、自分自身が
世の中から否定されてしまったようで辛かったのでした。
 まるで赤ちゃんのように何も出来ない、何もさせてもらえない
自分は家族の厄介者のような気がして嫌だったのでした。

 「準備ができたわよ。いらっしゃい」
 お母さんは高瀬先生がいらっしゃるので猫なで声で茜ちゃんを
呼びます。

 もちろん、茜ちゃんは目の前の布団に寝そべるしかありません。
今さら何か反抗できるわけではありませんが……

 「さあ。早くなさい」
 お母さんに催促されてから、恐る恐る敷かれた敷布団に近づき
ます。

 そこではお医者様の高瀬先生、女中の明子さん、お母さんまで
もが正座したままの姿勢で近づく茜ちゃんを見ています。
 それって、何だか映画のワンシーンのようです。

 もちろん、そんなの気持のいいことではありませんが、でも、
心の底のどこかには『悲劇のヒロイン』になった気分もあります。
そう考えると、不思議に勇気も沸いてくるのでした。

 やっとの思いで布団の縁まで辿り着くと、お母さんは……
 「まず、そこへお座りなさい」
 と命令しました。

 もちろん正座で、茜さんがその場に座ると……
 「いいですか、これからお浣腸を行いますけど、これは便秘の
治療だけでなく、お父様からお仕置きを頂いた時に、粗相が起き
ないようにするためのものでもありますからね。十分な量で行い
ます。……言ってる意味、わかりますね?」

 「はい、お母さん」

 茜さんは小さな声でしたが、お母さんは満足したみたいでした。
 「よろしい。今日は50㏄の浣腸器で二本分、100㏄を我慢
しなさい。我慢がお仕置きになりますからあえてお尻の穴に栓は
しませんけど、万が一ここで粗相などあったら困りますからね、
オムツをあてます」

 「(えっ、オムツ)」
 茜さんの顔が思わず歪んだのは、それが予想外だったからかも
しれません。

 「20分たったらオムツを外してあげますから、お外のトイレ
で用を足しなさい」
 お母さんは凛とした態度で宣言しますが、茜さんは自信があり
ませんでした。そこで……

 「私、そんなに我慢できないかもしれないと思うんですけど」

 怯えた様子でお伺いをたてると、お母さんは冷静です。
 「あなたも、もう小さな子供じゃないの。中学生なんだから、
そのくらいは我慢しないといけないわね。……もし、どうしても
ダメだったらオムツになさい。私が片付けてあげるから……」

 「えっ!それは……」
 もちろん、茜ちゃんはそんなことされたくありませんでした。
 十三にもなった子がたとえ身内のなかだけとはいえ、ウンチの
着いたオムツを母親に換えてもらうなんて、惨め過ぎます。

 「……どうしたの?嫌なの?仕方がないでしょう。何一つ根気
や根性のないあなたにはお似合いのお仕置きだと思うわよ。……
ちょうどいい訓練になるでしょうから……」

 「…………」
 茜ちゃんは心臓が締め付けられる思いでした。

 「もし、そんなこと、死ぬほど恥ずかしいことだと思うのなら
死ぬ気で頑張ることね。そうすれば、お灸のお仕置きだけは堪忍
してあげるわ」

 「(えっ!お灸も?)」
 茜さんの頭の中で何かが光ります。
 それは究極の恐怖でした。

 幼い子にもお尻ペンペンの罰はありますが、そんな場合だって
親は本気で叩いたりしません。でも、お灸は誰がやられても強烈
な熱さは同じでした。ですから、幼い子の場合、お灸のお仕置き
はより強烈な恐怖の記憶として成長しても心の奥底に残ります。
 茜さんも、その昔の思い出がフラッシュバックしたのでした。

 「(お母さんに泣きつこうか?)」
 恥も外聞もなく、『ごめんなさい』を言ってお膝にすがる。

 幼い日ならきっとそうしていたでしょう。でも、中学生になる
と、悲しいかな逆にその勇気が沸いてきませんでした。

 『今さらそんな子供じみたこと……』
 余計なプライドが邪魔をします。

 もう、残された道は一つしかありませんでした。


*********(6)*************

******<第1回はここまで>*********

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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