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美麗芸能事務所 ~里香の卒業~

(作者一言)
一話完結の話を一つ挟みます。
アイドルなんて柄にないもの書いちゃった。
描いてる時はまだよかったけど、読み返すと感性が錆びてる
なあって実感しました。(T_T)

**********************

      美麗芸能事務所 ~里香の卒業~

里香はダブルベッドに腰を下ろすと、ごぐ自然にサイドテーブル
に置かれたオンザロックのウイスキーグラスに手を伸ばす。
すると、男がそれを遮って自分がそれを口にする。

今度は封の切られたキャメル(タバコ)へと手が伸びた。

それをくわえデュポンを摺りあげ、立ち上がったオレンジ色の炎
に顔を近づけるが……再び、目の前からその炎が消える。

「やめないか、今夜はまだ仕事が残ってるんだろうが……そんな
タバコ臭い匂いをさせてスタジオに入るつもりか?」

男はその大きな手で女の華奢な手のひらごとデュポンを包み込む。

「桃野里香の仕事は何だ?」
男は里香の後ろからスルリと女の尻を抱き上げて自分の膝の上に
乗せる。

大柄な男と小柄な少女。それはまるで親子のようにも見えた。

「答えなきゃいけない?」

「ああ、もう一度聞いておきたいね」
男は少女の背中から細い顎を握った。

「アイドルよ。純情派アイドル」

「そうだ。覚えてはいたんだな。……だったら、何をして、何を
してはいけないのかも覚えてるだろう」

「…………」
少女は何も話さない代わりに小さく頷く。

「だったら、今日のクイズ番組、なぜ怒られたかわかるだろう?」

少女は再び小さくうなづいく。

「お前と組んだ安藤啓太(大御所俳優)はあの番組が招いた目玉。
いわばお客さんさんだ。それを差し置いてお前が、バンバン正解
してどうなる。お前は、ああした処ではお飾りなんだぞ。大御所
をたてて馬鹿に徹するのるがお前の仕事のはずだ。今さらそんな
こと講釈せんでも、わかってるだろう!?」

「わかってます。でも、あいつ、あんまり何にも知らないから、
馬鹿馬鹿しくなっちゃって……つい」

「何がついだ。そんなことで芸能界が生きられると思ってるのか。
お前はお嬢様ってふれこみで売ってるが、お前の親衛隊だって、
別に利口なお前を見たいわけじゃない。おもちゃとしてのお前が
見たいんだ。そこは勘違いするな!」

「はい」

男は美麗芸能事務所の社長。アイドル桃野里香の育ての親だ。
小6の時、大酒のみの父親を説得して事務所に所属させて以来、
彼が実質的な父親としてアイドル桃野里香を育ててきた。

芸能活動だけではない。勉強も行儀作法もきっちりやらせてた。
むしろ少女にしてみたらアイドルになりたくてこの道に入ったと
いうより、勉強のできる環境を求めて社長についてきた、と言う
べきかもしれない。おかげで、彼女は堀越ではなく都立に通って
いる。レッスンもイベントもコンサートもこなしながらなおかつ
都立に通うというのは至難の業なのだが、少女はそれをこなして
きたいた。

『山の手のお嬢様』をキャッチフレーズに中学二年でデビュー。
以来、仕事と勉強以外では何一つ余裕のない日常だったが、それ
でも、これまでは彼女が社長に対して不満を口にしたことはなか
ったのである。

「このあいだの『アイドル選手権』の時もそうだ……お前は選に
漏れたその瞬間、ふくれっ面したよな。…………あれ、バッチリ
カメラに抜かれてたぞ。……清純可憐なお嬢様で売ってるお前が、
あんな顔をしたら、イメージダウン間違いなしだ。こんなミスは
これまでなかった」

「ごめんなさい、あの時は疲れてたから……」

「そんなの理由になるか、たとえ12時間立ちっ放しでも笑顔を
撒き散らすのがお前たちの仕事だろうが……デビューの時、私と
かわした約束を忘れたのか?…ん?……それとも何か、アイドル
なんか飽きたか?………いずれにしても、それができないなら、
アイドルなんかやめてしまえ」
社長は右手で里香の顎を割れんばかりに握りしめる。

「ごめんなさい、ホントにごめんなさい。今度はミスしないから」

「それも聞き飽きたな。最近のお前は、仕事に身が入ってない。
デビューして4年、お前ももう18歳だからな、アイドルとして
は薹がたち始めている。そろそろ、卒業を考えてもいい時期かも
しれんな」

「卒業?」

「だから、アイドルやめて別の道に進むってことさ。ちょうど、
AVの仕事が来てるから……一度、やってみるか?」

「えっ!」
里香は驚く。そう聞いただけで身体が固まってしまった。

「そう驚くことはないだろう。いきなり役者といっても、どの道
お前にまともな演技なんかできないだろうし……歌手というのも
なあ……」
社長は鼻で笑う。里香の歌唱力を知っているからだ。

社長はさっき里香が悪戯していたタバコをくわえると…… 
「こちらがこり押ししても失敗したら二度目はこない。アイドル
なんて潰しの利かない商売だからな……別の道といって言っても、
道は限られるんだ。簡単じゃないのさ」

「…………」

「何だ浮かない顔だなあ。AV嫌か?清純派アイドルのAV出演
なんて、今じゃそう珍しくもないぞ。何よりお前は、まだ現役の
アイドルなんだし、商品価値は高いってわけだ」

「…………そんな」

「何が『そんな』だ、仕方がないじゃないか……アイドルとして
やっていけないなら………それとも何か、俺の処を出るか?」

「…………」
社長がそう突き放すと里香が困った顔をした。
ここを去りたくないという顔をしたのだ。

そこで社長はもう一押ししてみる。
「そうだ、やっぱりSMがいい。あれなら、演技もくそもない。
お前は、ただされるがままにしてればいいんだから。楽なもんさ」

「………………」
社長は膝に乗せた里香の身体の震えをじかに感じていた。
だから、『可愛いもんだ』と思ったのである。


そんな二人の蜜月を「サー」という金属音が引き裂く。
社長がリモコンを操作し、目の前のカーテンが一気に引かれた音
だった。

里香の前にいきなり眩いばかりの明るい舞台が現れる。
そこは社長の自宅に特設された練習用の舞台だった。

ここでは里香も幾度となくレッスンを受けていたから、本来なら
見慣れた風景のはずだったのだが……

「……(これは)……(いつの間に)……」
里香は声が出ない。

そこは普段とは違いSMのセットが組まれていた。
鞭打ち台や三角木馬の大道具に始まり、浣腸器や室内便器、枝鞭、
バラ鞭、極太蝋燭などの小道具がこれ見よがしに並べられいる。
ふと気づいて天井を見上げると、人を吊り上げる為の滑車までが
掛かっていた。
しかも、そこには仮面を着けた見知らぬ男が……

声には出ないが、里香は逃げ出さなければと思ったのだ。
だから、思わず社長の膝を飛びのこうとしたわけだが……それは
叶わなかった。

幸助社長もそれは承知して身構えていた。

里香が飛びのこうとした瞬間、彼は里香の両腕を握り押さえ込む。
結果、里香は僅かにお尻を浮かしただけだった。

「あっ……いや……」
里香は、幸助の胸倉を右手で押し、大きな太股を両手で押して、
その場から離れようともがいたが、どうにもならない。

そのうち、舞台から下りてきた仮面を被った黒いスーツ姿の男が、
里香をさらっていく。

その時、里香を手放す幸助社長に何のためらいもなかったのは、
彼がこの企画を立案したからに他ならない。

「あっ、だめえ~~~」
里香は、自分をさらおうとする男を前に、一瞬、懇親の力でそれ
を拒絶しようとしたが、カメラが回る時に光る赤いライトが目に
入ると、とたんにその手は力強さを欠くことになる。

『自分は、今、撮られている』
そう思った瞬間、里香は本名の青地里香から桃野里香へと変わる。
屈折した18歳の女子高生から、山の手のお嬢様へと変身する。
男のように仮面をつけていなくてもそれは同じだったのである。

これは理屈ではない。長年アイドルとしてやってきた彼女の習性。
もちろん、これが誰によって仕組まれたどんな企画かなんて事は
関係ない。この先どうなるのかがわからないままでも、カメラが
自分を捕らえれば、もうそれだけで、『この企画を成功させなけ
れば……』という強迫観念が強く彼女の脳裏に浮かぶのだった。

だから、後はこの黒いスーツ姿の男のなすがままだったのである。

「やめてえ~~もうしないで~~~人殺し~~~だめえ~~~」
椅子に腰を下ろした男の膝に乗せられた里香は必死に叫び続ける。
……が、本気になってその男と格闘はしなかった。

「だめえ~~~」
声は一段と大きくなり、スカートがまくられていく。

ショーツも下ろされて……
「いやあん」
甘い声に変わった。

「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
リズミカルに軽快に里香のお尻は赤くなる。

「いや、いや、いやあん」
甘えたような声が稽古場全体に響いた。

もちろん、それで何かが起こるわけではない。
「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
同じ強さ、一定のリズムで少女の尻を叩き続ける男。

痛さに耐えかねて里香が思わず後ろを振り返ると……
仮面のすき間から見える男の顔が僅かに笑ったように見えた。

やがて……
「だめえ、だめえ、もういやあ~~」
里香のお尻が、健康そうな子供のリンゴのほっぺのようになった。

それでも男は叩き続けたが……
「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
このくらいが適当と思ったのか、30回ほど叩いてからその手を
止める。

ただ、それで終わりというわけではなかった。

今度はゴム製のパドルで……

「パ~ン」
「いやあ~もうだめえ~~許して~~壊れる、壊れるから~~」

乾いた音のあと、すぐに里香の悲鳴が続く。

「パ~ン」
「ホントにやめて~~」
「パ~ン」
「いやいやいやいや」
「パ~ン」
「だめえ~~お願~~い」

最初は元気よく叫んでいたが……

「パ~ン」
「痛いよ~~~」
「パ~ン」
「だめだよ~~」
「パ~ン」
「壊れる~」

やがて、声に力がなくなり……

「パ~ン」
「やめろよ~~~」
「パ~ン」
「やめて~~~」
「パ~ン」
「おねがい、やめて~~」

そのうち悲鳴は哀願へと変わっていった。

そして、ついには……
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
その哀願の声さえ聞こえなくなったのである。

今は、彼の膝でただただ痛みに耐えてじっとしているのが精一杯。
声を上げるのさえおっくうになっていた。

「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」

そんな過酷な状況がしばらく続いて、里香の頭は機能を停止して
しまう。思考停止状態。しかし、そんな薄れいく意識の中で……
彼女はある夢を見ていた。

恋愛禁止の掟の中にあって、自分を唯一抱いてくれた男の温もり
が心の中に蘇ってきたのだ。

『そういえば、彼もあの時は私のお尻を叩いた』
里香の脳裏に、彼が自分の処女を奪い去る前にやった愛のスパが
その肉感と共に蘇るのだ。

『幸せだった。……あの時の気持がここにもあるみたい』
こんな苦痛がなぜ心地よいのか分からぬまま、里香は最後の数発
を見知らぬ男の膝でリンクさせる。

『今、彼が私のお尻を叩いてる』
自分の頭にそう信じ込ませることでお尻の痛みを逃がそうとした
のだ。


やがて……
里香はパドルを許され、男の手によってベッドに横たえさせられ
るのだが、そこでは何もしなかった。
社長に愚痴を言うわけでもなし、こんなひどい目にあわせた男に
食って掛かるわけでもなかった。
ただただ、今はそこに身を横たえていたかったのである。

それは里香がこのスパンキング男に疲れて動けないのではない。
むしろ、彼に酔っていたのだ。
『気持いい、こんなことって初めて、あの時はもっと優しかった
けど、彼にこんなことされたら、私、死んじゃうかもしれない』

里香は初めての男との逢瀬に今の現実を重ねて楽しんでいた。

そんな彼女の身体を仮面の男が再び抱きかかえる。
しかし、里香はそれにも抵抗しなかった。

後ろ手に縛られ、空中に吊るされてからですら、どこか夢見心地
だったのである。


里香がやっと危機感を感じたのは、自分を見上げている仮面の男
を見た時だった。

そこには仮面の男だけではない。社長も自分を見上げているないか
……そして何より、自分の真下には鋭角な角の木材が迫っている。

「いや!!」
里香は、不安定に吊り下げられた身体をひねったり、慌てて足を
バタつかせようとしたが、すでに手遅れだった。

「いやあ~~~やめてえ~~~」
里香の陰部が尖った角材の上へと吸い込まれていく。

「いやあ~痛い」
最初の痛みは、局部が着地した痛み。

しかし、そんなものは全体の中ではものの数にもならぬほどささ
やかな痛みでしかなかった。

「いや、やめて、お願い」
下半身を晒したまま三角木馬に乗った里香の哀れっぽい声が響く。

今まさに社長と仮面の男がそれぞれ自分の右足と左足に鉄アレイ
を括り付けようとしているのだ。

「だめえ~~~」
里香は最後の最後まで叫び続けたが、無駄だった。

『痛~~~い』
重しによって、里香の陰部はさらに角材へとめり込む。

それはスパンキングのようにヒリヒリとする痛みではない。脂汗
が滲むような重苦しい痛みが、股の中から子宮、胃、肺、そして
顎の辺りへと競りあがってくるのだ。
ボディーブローの痛みだ。

おまけに、手は後ろ手に縛られ、そこから伸びるロープが天井の
滑車へと繋がっている。胸もいつの間にかブラがはずされてむき
出しに……
とんでもない格好でいたのだ。

『あたし、何してたんだろう、どうして抵抗しなかったんだろう』
里香は今頃になって思ったが、あとの祭りだった。


そんな時、里香の股座が突然……

『えっ!!!!』

驚いた里香が体勢を変えようと重心をほんの少しだけ移動させる
と、もうそれだけで……

「いたあ~~~い」
激痛が走った。

三角木馬は、微動だにしないように跨いでいても脂汗が出るほど
痛い。ただその時は、麻痺させた急所によって激痛は避けられて
いる。それが重心を代えてしまうと、上半身の体重があらためて
麻痺していない急所の一点へのしかかることになり、その瞬間は
悲鳴を上げるほどの激痛が走るのだった。

「(はあ、はあ、はあ、はあ、はぁ、はぁ、はぁ、……………)」
やがて押さえつけた急所が麻痺し始めると、鈍痛を残して激痛は
治まる。激痛は短い間だけだ。

そうやって激痛が治まるにつれ、荒い息も収まるのだが……
そうやって痛みが治まる頃になって、里香は自分の身体の異変に
気づく。
右足の太股を細く血が流れているのだ。

バージンを失った時の血ではない。純粋な擦過傷の血なのだが、
里香にはそう映らなかった。あの時の映像が、生々しく頭の中で
リピートされていく。

「(いやあ~~やめて~~~)」
本当は声に出して叫びたかったが、それができなかった。

流れる血の道を仮面の男がその舌で上に向かって、美香の股座に
向かって舐めているのが見える。

『何て、ことを……』
おぞましい光景。二度とは見たくない光景のはずだ。
仮に相手がどんな人であっても絶叫するような事態のはずだが、
彼女は仮面の男を許してしまう。

官能が、頭の天辺から、手の指先から、足の指先から、子宮へと
一気に集まり、それが今度は頭の天辺へ、手の指先へ、足の指先
へと痺れを持って返る。
身体がこれを何回も繰り返すのだ。

『ああ、私、嫌って言わなきゃ……言わなきゃいけないのに……
言えない。言えないのよ。……だって、やめてほしくないから』
里香は自問自答する。

津波のような官能に何度も洗われた彼女の理性は、身体の麻痺と
一緒に消滅してしまったかにみえたのだが……

『違いないわ。やっぱり彼よ』
恍惚の意識の中で、里香は、今、この太股を舐めているのが誰な
のか、ついに感じ取ってしまったのだった。

「(あ~~こんなことって………恥ずかしい、お義父さん(社長)
が見ているのに……死ぬほど恥ずかしいのに……やめられない。
やめて欲しくない。………ああ、なんて私はだらしがない女なの。
……でも、これって、これって、嬉しいもの……こんな幸せな事、
今まで一度もなかったんだもの)」

里香には、うめき、悲鳴をあげる外への顔のほかに……もう一つ、
内なる心の叫びあったのだ。

最後に、仮面の男によって洗濯ばさみが里香の乳頭を飾る。

「痛あ~~~い」

久しぶりに心の声を上げた里香だったが、その声は悲嘆でも哀願
でもなかった。
後ろ手に縛られた自分が目の前までやってきた彼を抱けないもど
かしさと、彼に抱いて欲しい甘えとがない交ぜになった不思議な
よがり声だったのである。

そんな少女の喘ぎ声を聞いて、社長は小さくため息をついた。
彼にとって女の子は商品。その状態の良し悪しを見極める能力が
なければ芸能社の社長は務まらない。
当然、里香の心のうちもお見通しだったのである。


ひとごこちつくと、社長が口を開く。
いまだ歓喜に頬を赤く染めた里香を見上げながら、彼はこう問い
かけたのだ。

「なあ、美香。よう~く考えて答えるんだぞ」

「は……はい」

「お前、この男が誰だかわかるか?」
社長は、仮面男の二の腕を手荒く掴むと木馬に跨る里香の足元へ
突き出す。

「それは…………」
最初、里香は考えた。

この場でアイドルの掟に背いたことを告白したらどうなるだろう。
ましてや相手は社長の一人息子。ただではすまないかもしれない。

しかし、その瞬間、真治の右手が優しく、馬を跨ぐ里香の右足に
触れと……言葉はなかったが、里香にはそれが『大丈夫だから…』
と、彼が言っているように思えたのである。

だから正直に答えた。
「真治さんです」

里香には確信があった。たとえ顔は隠していても背格好、体形、
髪のくせ、何より自分に触れる時の感触が、あの時自分を愛した
彼だったのである。

その瞬間、真治は仮面を取る。

「まったくもってけしからん奴だ。父親の商品に手をつけるとは
な……」
社長は憮然とした表情を作りかけたが、その顔は途中から笑顔に
変わってしまう。

「ごめんなさい、わたし……」
里香はそれだけ言ってあとの言葉が出てこない。

しかし、それから先の言葉は、実は必要ではなかった。
社長はすでに里香が誰かに抱かれたことを察知していたし、それ
が原因でアイドルの世界から足を洗おうとしていたことも感じて
いたのである。

ただ、つい先日、事もあろうにまだ未成年の息子から里香と結婚
したいと打ち明けられて、これには怒りを抑えられなかった。

彼は、仕事上付き合いのあるヤクザをを使って真治を監禁。親の
権限とばかりに、息子のペニスに特大の灸を据えて脅しをかけた
のだ。
ただ、すでに里香のことしか見えなくなっている息子に、そんな
脅しは効果がなかった。

そこで、こんな趣向を……
父親は、もし、仮面を着け一言もしゃべらないお前を真治さんと
呼んだら二人の仲を許してやると約束したのである。

社長親子が勝手に仕組んだ賭け芝居に勝った里香に、もう余計な
言葉はいらなかった。

木馬を下ろされた里香は、下半身裸のまま社長の前に立つ。
すると、こう尋ねられた。

「お前、真治が好きか?」

「えっ……………………」
里香はしばらく間があって頷く。

「真治も私もサディストだぞ。それでもいいのか?」

「えっ……………………」
これもしばらく間があって頷いた。

「真治はお前と結婚する気だ。だが、お前はどうなんだ。真治と
結婚してもいいのか?」

「それは…………」
言葉に詰まったが、それも結局は、頷いてしまう。

「わかった、なら、アイドルは卒業させてやる。……ただし……
うちの鉄の掟である恋愛禁止の約束を破ったんだからな。そこは
たっぷりお仕置きしないとな」

「オ、シ、オ、キ……」

「そりゃそうだ。だってお前はまだうちの所属タレントなんだぞ。
……さあ、こい」

社長は満面の笑みで里香を膝の上に迎えた。

もちろん、ノーパン。
もちろん、平手。
社長だけじゃない、息子の真治も一緒に里香のお尻を責める。

「ピシャン」
「いやあ~~~」
「ピシャン」
「やめてえ~~」
「ピシャン」
「壊れる~~~」
「壊れない壊れない、大丈夫、大丈夫、ほら、真治。未来の花嫁
の両手を押さえてやれ……」
「ピシャン」
「だめえ~~~死んじゃう」
「死んじゃうくらい今に気持ちよくなるよ」
「嘘よ~~」
「嘘じゃないって、僕が気持ちよくしてあげるから……お父さん
代わって……」
「ピシャン」
「いやあ~~痛い、痛いって~~」
「痛い、痛いも好きのうちって言うだろう」
「言わないわよ~~~」
「ピシャン」
「ああああん、だめえ~~~~」
「ピシャン」
「いやあ~~~ん」

里香のその夜は、結局、仕事もキャンセルして社長親子と三人で
スパンキング大会。
辛く辛く、楽しい宴は夜遅くまで続いたのだった。

*************************

おねしょ ~エッセイ~

  おねしょ

 僕のおねしょ最終日は小2の時。
 それ以前にも記憶がないから恐らく物心ついて以来最初で最後
のおねしょ。

 てっきり叱られるかと思ったら、意外にも連れて行かれたのは
お仕置き部屋ではなく、大学病院。
 あちこち調べられたけど、結局、悪いところはどこもなかった。
 いまだにその時のおねしょの原因はわかっていない。

 僕んちの親は心配性だからこうだったけど……
 多くの家では、おねしょなんかすると、お仕置きされることも
多かった時代なんだ。

 「こいつ、そもそも起きる気がないんだ!」
 とか言われてね……早い話が根性論。
 おねしょは病気と言うより怠け癖の一つと考えられていたんだ。

 『怠ける子には、お仕置き』
 というのが常識で、おねしょの場合は圧倒的にお灸が多かった。
 実は、これには男女差があまりなくて、女の子もけっこう被害者
だったんだ。

 大義名分は『治療』ということになってたけど、お母さん達が
聞きかじりの知識で施術してたから、どこまでツボを知ってたか
も疑問で、早い話が折檻なんだろうけど……これが、公開処刑に
なる場合も多くて……幼い日の僕が見学できたのも、一人や二人
じゃなかったんだ。

 被害者は、下は幼稚園児から上は中1のお姉さんまで色々。
 小説に書くような危ない部位はなかったみたいだけど、みんな
幼い子を連れたお母さんたちの見ているなかで晒し者にされて、
そりゃあ可哀想だった。

 家の中で父親がする折檻はあんまり他人には見せないんだけど、
母親が我が子にするお仕置きの場合は、井戸端会議みたいに近所
のおかみさん連中をわざわざ呼び集めて、さながら公開処刑みた
いになることも少なくないんだ。

 中1のお姉さんの時は、さすがに背中だったけど、それでも、
すでに胸は大きくなりかけてるわけだし……幼稚園くらいのチビ
ちゃんなら、お尻もビーナス丘も全然お構いなしだった。

 その時の僕は性欲なんてまだないから、単に『可哀想』だった
けど、これが僕のお仕置き小説の原点になってるのは確かだ。

 今さらながら、良い時代だったなあって思うよ。

***********************

見沼教育ビレッジ(番外編) ~§1 罰当番~

*** 見沼教育ビレッジ(番外編) ***
§1 罰当番

******<登場人物>**********
 新井真治/家の主人
 秋絵さん/お手伝いさん
 子供たち/高坂知美(中2)
      河合春花・森野美里(小4)
      真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
 園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************

 真治氏は施設を離れると夕方遅くいったん自宅に戻る。
 というのも、そこでまだ一仕事残っていたからなのだ。

 彼の家は高級住宅街の一角にあった。
 そこは周囲がまだプロパンガスだった時代にあって、その区画
だけ都市ガスが敷設され、水洗トイレを可能にする下水が流れて
いる。

 大きな松や槇の木が囲う彼の家は、普通の建売住宅なら五軒や
六軒も建てられるほどに広く、南欧調の外壁や青い芝生、それに
小さいとはいえプールまである。彼自慢の家だ。

 そこへ、街灯が灯る時刻になって真治氏は帰ってきたのである。

 「ああ、これから帰る。……あと5分というところかな。……
今日はお嬢さん方、来てるんだろう?……で、玄関でのお出迎え
は?……そうか二人ね?……わかった、わかった……」
 彼がご自慢のフェラーリに備え付けられた自動車電話で話すの
は、家のお手伝いさん、秋絵さんだ。

 今回、家族はみんな見沼に出かけているから、家は彼女一人に
任されていた。

 「えっ、!今日は、全部で五人も来てるの?…………なるほど、
先生を入れたら六人ね。…………こっちは大丈夫だよ。とにかく
必ず五分で帰るから、粗相のないように……」
 彼はそれだけ言って電話を切る。

 「一番上は中二か……他人の目にふれさすには、ちょいと歳が
行き過ぎてないか」
 真治氏はポツリと独り言を言ってアクセルをふかした。


 このあとは、短い道中。
 自宅に近づくと、フェラーリ独特のもの凄いエンジン音が鳴り
響くから彼のご帰還は家にいる誰にもすぐにわかった。

 「さあ、あなたたち、お仕事よ。何て言うかは覚えてるわね。
ちゃんとご挨拶するのよ」

 真治氏は車をガレージに入れ終わる頃、そんな秋絵さんの声を
聞く。

 そうやって玄関先へ回って来ると……
 案の定、その玄関先ではまだ幼稚園児くらいの女の子が二人、
手持ち無沙汰で立っていた。

 「おじちゃま、お帰りなさい」
 いずれも真治氏を見つけるとすぐに駆け寄って来て……

 一人が馴れ馴れしく抱きつき、もう一人は……
 「かばん、持ちます」
 なんてなことを言う。

 この二人、真治氏のことを『おじちゃま』だなんて読んでいる
くらいだから、もちろん彼の子どもではない。
 近くの教会に預けられた孤児たちなのだ。

 実は、真治氏。こうした孤児たちの為に、お仲間たちと一緒に
『臨時の父親』なる一風変わったボランティアをしていた。

 このボランティア、教会の子どもたちを月に一度自宅に招いて
もてなすというもので、普段なら澄江夫人や美香や香織といった
子供たちも手伝ってくれるのだが、今、自宅に帰れるのは真治氏
だけ。
 しかも具合の悪いことに彼は今週『罰当番』に当たっていた為、
どうしても自宅へ帰らざるを得なかったのである。


 『罰当番』?……
 名前だけ聞くと、まるで真治氏が罰を受けるみたいに聞こえる
かもしれないが、そうではない。
 罰を受けるのはあくまで招いた子供たちの方。
 学校や寄宿舎、それに月一回行くお招れ先などでいけない事を
した子どもたちが、教師やシスターからだけなく、外部の人たち
からも罰を与えられるという制度だった。

 「いつも顔見知りにばかりお仕置きされていると、子供たちも
慣れてしまって、お仕置きの効果が薄くなります。ここは子ども
たちの為にも、新しい刺激をお願いしたいのです」
 とは園長先生の弁。

 悪者役にさせられるお父さんたちは、当初、気が進まなかった
が、園長先生に……
 「お仕置きは愛情。こうしたことは愛情溢れるお父様方にしか
お頼みできないのです」
 と、説得されて引き受けたのだった。


 真治氏は、お出迎えしてくれた子供たちがさっさと玄関を開け
て家の中へ戻ろうとするので、試しにその短いスカートをほんの
ちょっと捲ってみた。

 すると、そこに可愛いお尻がちょこんと覗く。
 二人は慌てて自分のスカートの後ろに手をやるが……
 
 「どうした?……恥ずかしいかい?」
 真治氏が二人に笑って尋ねると、二人はそろって振り返り……
 「恥ずかしい」
 と、正直に答えた。

 約束では自ら罪を告白しスカートを捲ってお尻へのお仕置きを
真治氏にお願いするという段取りだったみたいだが、どうやら、
二人とも短い待ち時間の間に忘れてしまっているようだった。

 「そうか恥ずかしいか……でも仕方がないな、恥ずかしい事を
するのがお仕置きだから……」
 真治氏が笑うと…

 とうやら二人、真治氏のナゾに気づいたとみえて、同じように
顔がほころんだ。
 そして、さしたる躊躇もなく短いスカートを目一杯引き上げた
のである。

 ショーツを穿いていない二人だから、おへそから下は、当然、
スッポンポンだった。

 それを見て真治氏の顔がさらにほころぶ。

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 「今日、給食の時間に喧嘩をしました」
 「あたしも喧嘩をしました」

 ちび二人はどうやらこれをやらなければならないと思い出した
ようだ。

 「そうか、……でも、今は仲良しなんでだろう?」

 「うん」
 「そう」

 「そうか、それは良かった。お友だちとは仲良しでいなきゃね」

 真治氏とちびちゃんは顔を見合わせ再び笑顔に……
 ちびちゃんたちもお臍から下を丸裸にして笑っていたのである。

 ただ、園長先生からお仕置きを頼まれている真治氏としては、
このまま解放というわけにはいかなかった。
 そこで…

 「よし、話はわかった。わかったけど、本当はそれを真っ先に
言わなきゃいけなかったんじゃないのかい?……園長先生からも
そう言われたはずだよ」

 真治氏に指摘されて二人の顔が急に曇る。
 『しまった』
 と思ったのだ。

 ただ、これは二人に悪意があったからではない。10分も前に
言われたことなど幼児は単純に忘れてしまう。
 幼児は、たとえ5分10分前であっても興味のないことを長く
意識し続けることはできないのだ。

 もちろん真治氏も子育て経験者だからそのことは承知している。
だから、この二人にも過激な事をするつもりは最初からなかった。

 彼は少しだけ恐い顔を作って、幼い二人を怯えさせると……
 スカートを持ち上げさせたまま、回れ右をさせる。
 あとは、少しだけ小さな身体を支えるようにして…

 真里菜ちゃんに三つ。
 「パン、パン、パン」
 明日香ちゃんにも三つ。
 「パン、パン、パン」
 裸のお尻を平手で叩いた。

 もちろん、これもそんなに強くは叩かない。スカートの上から
お尻の泥をはたく程度だ。

 それでも許されて振り返った時、二人は青い顔をしていた。

 「怖かったかい?」
 真治氏が尋ねると…
 「はい」
 「はい」
 と、素直な答えが返ってくる。

 でも、これはお約束の言葉。たとえ大したことのなかったお仕
置きでも良家の子女は「怖かったです」「痛かったです」「恥ず
かしかったです」と挨拶しなければならないと親や教師から教わ
るのである。

 「よし、それじゃ、スカートを下ろしてお家へ入ろう」
 真治氏が許すとたんに二人にも笑顔が戻る。

 そして、まるで我が家にお客様を迎え入れる時のように、一人
が真治氏のかばんを持ち、もう一人が彼女たちには大仕事となる
重い玄関の扉を開ける仕事を手伝う。

 微笑ましい光景のなか…
 「やれ、やれ」
 真治氏は苦笑しながら我が家の玄関を入るのだった。

 もっともこれは彼女たちが幼い為に用意された軽いお仕置き。
 年齢が上になるにつれ、お仕置きもきついものになるのは当然
のことだったのである。


 真治氏がお出迎えの二人に先導されて居間へ行くと、秋絵さん
が夕食の準備をしながら待っていた。

 「あっ、坊ちゃま……いえ、その旦那様、お帰りなさいまし…
…美香お嬢様はお元気でしたでしょうか?」
 秋絵さんはご主人への挨拶もそこそこにさっそく美香のことを
気にかけてくる。彼女が真治氏のことを今でも思わず『坊ちゃん』
と呼んでしまうのは彼がそう呼ばれていた頃から働いていたから。
 秋絵さんはこの家では家族同然だったのである。

 「ああ、あいつは強いよ。学校からいきなり施設に移したから
さぞやしょげてると思いきや、これがそうでもなかったから安心
したよ。……あげく、自分から私の跡を継ぎたいだなんて言い出
しやがった」

 「まあ、頼もしいこと。さすがは、新井家のご長女ですわ」

 「なあに、世間を知らんだけのことさ……ところで、電話では
お客さんは五人と聞いていたが、あと一人は?」

 真治氏は、すでに玄関先でお出迎えを済ませたチビ二人に加え、
居間へ来る途中、階段の踊り場で壁の方を向いて膝まづく小学校
高学年くらいの少女二人を確認している。
 ゆえに、残りはあと一人だった。

 「あと、お一人は……」
 秋絵さんはそこまで言って、少しだけ考える。
 そして……
 「あっ、その方は……ただいま、入院中なんです」
 と答えた。

 彼女の意味深な笑いは、ご主人がその謎を解いてくれることを
きっと期待してのことだろう。

 「入院中?………どういうことだ?」
 真治氏はしばし考えたが、その答えが出ぬうちに、階段を一人
の老婦人が下りてくる。

 「まあまあ、ご主人、お帰りでしたか。申し訳ございません。
さっさと上がり込んだうえにご挨拶にも遅れてしまって……私、
ちょっと、入院患者の方を看ておりまして……」

 オープンなこの家の居間は階上からも素通しだ。

 「こちらこそ、私一人しか参加できなくて……恐縮です」

 「構いませんよ。ご無理を申してるのは私どもの方ですから。
あ、そうそう、今回もう一人、高坂和美という生徒を連れて来た
のですが、あいにく風邪でふせっておりまして、ただいまお部屋
をお借りして休ませております。じきによくなると思いますので、
その時、またあらためてご挨拶させますわ」

 真治氏は園長先生と挨拶を交わし、そこで秋絵さんが謎をかけ
た入院患者の意味を知るのである。
 そもそも風邪でふせっている生徒を先生がわざわざお仕置きの
場に連れてくるはずもなく、またすぐ治るというのも不自然で…
真治氏はその場で、入院中とは『今、お仕置きの最中で会わせる
ことができない』という教会の隠語だと悟ったのだった。

 先生は白髪をなびかせ上品な笑みをたたえて階段を下りてくる。
 と、その途中の踊り場で膝まづく二人の少女に気づいた。

 「あらあら、あなたたち、まだご挨拶してないの?」

 立ち止まり、二人を見下ろしながら尋ねると……
 二人は恐る恐る首を振る。

 「じゃあ、早くご挨拶しなきゃ。……ちゃんと前を向いて……
さあ……新井のおじさまにご挨拶なさい」

 園長先生は命じたが、二人がすぐに向き直ることはなかった。

 膝まづく二人のスカートは、すでに目一杯の場所まで捲り上げ
られ、ピン留めされて下りてこない。ショーツもすでに足首まで
引き下ろされていた。
 そんな状態で前を向いたらどうなるか、誰でもわかることだった。

 二人は真治氏が自動車電話を切った直後からずっと可愛いお尻
を丸見えにして踊り場の壁とにらめっこをしていたのだ。
 真治氏がここへ帰ってくれば、当然その時はご挨拶しなければ
ならないのは分かっていたが、その勇気が出ないままに踊り場で
固まっていたのである。

 真治氏もまた、玄関を入るなり二人の姿を確認はしていたが、
この格好の子どもたちに声を掛けてよいものかどうかためらって、
結局は、先に居間へと入って行ったのだ。

 「あなたたち、ここでのお作法は教えたわよね。なぜ、教えた
通りにできないの。恥ずかしいなんて言い訳は許さないと言った
はずよ」

 園長先生は二人を見下ろし、真治氏に挨拶するよう命じるが、
時期を失していったん固まった身体がすぐに動くはずもなかった。

 「………………………………………………………………」
 「………………………………………………………………」
 二人は押し黙ったまま動こうとしない。

 これが玄関先で出迎えた幼稚園児たちなら人の体の表裏なんて
そんなに関係ないのかもしれないが、十歳を超えた少女にとって
は、とてもデリケートな問題であり、重い決断だったのである。
 といって、『やらない』というわけにもいかなかった。

 「さあ、どうしたの?あなたたち、ご挨拶もできなくなったの?
……さあ、前を向いて、ご挨拶なさい」
 園長先生にせっつかれ、二人の顔は益々青くなる。

 どうやら、二人の進退は窮まったようにみえた。
 しかし、それでも決断できない二人。

 「どうしたの?ご挨拶も満足にできないの。だったら、さらに
厳しいお仕置きもあるのよ。知美お姉ちゃんみたいに三角木馬に
乗ってみる?」

 さらに厳しく迫る園長先生の処へ今度は真治氏がやってきた。

 彼は、何も言わず二人のショーツを引き上げると……
 「さあ、これでご挨拶がしやすくなっただろう。……前を向い
てごらん」
 と、優しい声で促す。

 慌てて園長先生が……
 「いけませんご主人。これはお約束ですから……」
 と止めたが……真治氏は聞き入れなかった。

 彼の言い分は……
 「もう、このくらいの歳になったら可哀想です。私たちの時代
とは違いますから……ここでできなかった分はお仕置きに上乗せ
すればいいでしょう。夕飯が冷めますから」
 真治氏は優しく微笑んで園長先生を説得。

 「…………」
 「…………」
 二人は園長先生の顔色をしきりに窺います。

 そして、園長先生が『仕方ないわね』というため息をついたの
を確認すると、やおら前を向き、あらためてご挨拶するのでした。

 「河合春花です。本日はお招きありがとうございます」
 「森野美里です。よろしくお願いします」

 「おや、おや、こんなに可愛い顔をして……とても、こんな子
たちにお仕置きが必要だなんて思えませんけど……先生、この子
たち、何をしたんですか?」

 真治氏がその大きな手で包み込むようにして二人の尖った顎を
すくい上げると、それを見ていた園長先生が苦笑します。

 「色々ですわ。教会脇の芋畑からサツマイモを失敬したり……
図書館にある高価な本に落書きしたり……いつだったか音楽室に
あるチューバの中で蛙を飼ってたこともありましたわ。とにかく、
この子たちの悪戯を数え上げたら、今週分だけでも十本の指では
足りませんのよ」

 「そりゃあ頼もしい。男の子並みだ。私も腕白盛りの頃はお尻
を叩かれない日は一度もなかったくらいです。学校で、家で、と
毎日でした。ごくたまに一日一度もお尻を叩かれない日があった
りすると、かえって寝つきが悪かったくらいです」

 「ま、ご冗談を……」
 園長先生が手を口元に当てて笑い、春花も美里もそれには僅か
に顔が緩んで微笑んだように見えた。

 「ところで、入院患者の方は……今夜は絶食ですか?」
 「いいえ、呼んでまいります。実はまだお仕置きの最中ですの。
ただ、こうした席で食事をさせるのも、お仕置きの一つですから、
お招れさせていただきますわ……」
 「そりゃあよかった。……ところで、本日の私のお役目は?」

 真治氏が尋ねると、園長先生は緩んだ顔をいくらか元に戻して
……
 「ご見学くださればそれで……ただし、今回はお口を出さない
ようにお願いします」
 と釘を刺したのだった。


 その日夕食、テーブルを最初に囲んだのは真治氏と園長先生。
それにノーパン姿で真治氏をお出迎えしてくれた幼稚園時代から
の親友、真里菜ちゃんと明日香ちゃん。それに、こちらも階段の
踊り場で長い間待たされていた春花ちゃんと美里ちゃん。
 この六人だった。

 こうした席は、本来なら、にぎやかです。
 この催しはお招れと呼ばれ、教会の子供たちにとっては楽しみ
の一つなのです。

 『臨時の父親』を名乗るお父様のお宅へお招れした子供たちは
大歓待を受けます。
 見知らぬ家でそれまで読んだことのない本や触れたことのない
玩具に出合って、食事もご馳走です。当然、教会で食べる食事よ
り美味しいに決まってます。
 それにお友だち同士はしゃぎあっていても、少しぐらい羽目を
外していても、この日は先生も少しだけ大目に見てくれますから
この日の食事風景はどこも大はしゃぎでした。

 ですが、ここはそういった意味ではまったく違っていました。
 何しろ、ここへ来た子供たちはお仕置きの為にお招れしたわけ
ですから、他のお招れとは意味が違います。これからお仕置きと
いう子どもたちのテンションがあがろうはずもありません。

 この先お仕置きがない真里菜ちゃんと明日香ちゃんは明るい声
を響かせていましたが、四年生の春花ちゃんと美里ちゃんは口数
も少なく、どこかうつろな表情です。
 それはこれから二人にはしっかりとしたお仕置きが用意されて
いるからでした。

 そんななか、少し遅れてもう一人、このお二人さんよりさらに
深刻な問題を抱えたお姉さんが階段を下りてきます。

 ただ、彼女はすでに中学生。先生方から大人になる為の訓練を
十分に受けていますから、こうした場合も、ふて腐れたり物憂い
顔をしてはならないと自分でわかっていました。

 ですから食堂のテーブルに着く時も、ここが痛いあそこが痛い
なんて素振りは見せません。気品のある顔立ちの中に深刻な顔は
隠して真治氏の前に現れたのでした。

 「大変遅くなりました。高坂知美と申します。今晩は、お招き
ありがとうごさいました。よろしくお願いします」

 真治氏は腫れぼったい目や椅子に座る仕草を見て彼女がすでに
厳しい折檻を受けていることを見抜きますが、それ以上にその凛
とした居住まいたたずまいに感銘を受けます。

 教会の子供たちは、決してお嬢様という立場ではありませんが、
その躾はある意味お嬢様と同様、いえ、お嬢様以上に厳しいもの
だったのでした。


 夕食は秋絵さんの手料理。
 時間を掛け腕によりをかけて作った料理は近所のレストランと
比べても引けをとりません。もちろん、子供たちは大満足でした。

 『お仕置き前で食事も喉を通らないのでは……』
 などと心配した真治氏の予想を見事に裏切ります。
 子供たちは現代っ子、『お仕置きはお仕置き』『食事は食事』と
ちゃんと使い分けてるみたいでした。

 一方、食欲旺盛な子どもたちを尻目に大人たちはおしゃべりで
盛り上がります。

 話題の中心はここにいる子どもたちのこと。

 『子供たちは教会の中で、いったいどんな生活をしているのか?』
 『友だち仲は?……虐めはあるのか?』
 『学校の成績は気にしないのか?』
 などなど、真治氏としてもそれは興味津々でした。

 真治氏は残酷なまでの体罰には反対でも、体罰そのものを否定
するつもりはありませんから……
 『子どもたちが、普段、どんなお仕置きを受けてるのか』
 そんなことも園長先生にしきりに尋ねていたのでした。

 「子どもたちの生活ですか?……それは、一般のご家庭と大差
ないと思いますよ。ただ、男の子も女の子も聖職の道へ進みます
から、礼儀作法や上下関係は少し厳しいかもしれませんけど……」

 「友だち仲ですか?……教会が理想の花園でなかったら信者は
どこに行くんでしょう?ここでは仲良しで暮らすことが当たり前
なんです。子供だってそれは同じ。だから、理由のいかんを問わ
ず、取っ組み合いの喧嘩をしたらお仕置きです。それでも女の子
なので、妬み嫉みはある程度仕方がないでしょうけど……露骨な
虐めなんてしたら……いえ、やはりありえませんわ」

 「学校の成績?……多くは望みませんけど、もちろん、怠けて
いる子はお仕置きを受けることになります。……成績が落ちた罰
というより、怠けた罰を受けることになるんです」

 「どんなお仕置き?……これも一般のご家庭と大差ないと思い
ますよ。スパンキングは平手も鞭もありますし、閉じ込め、締め
出し……強い気持で子どもの胸に教訓を植えつける時は、浣腸や
お灸、晒し者にするのも選択肢の一つですわ……ただ、優しさや
愛情なしにはそんな事しませんから子供たちもついて来るんです」

 園長先生は自分の教育方針を自画自賛で説明する。

 一方、子どもたちはというと、耳の痛い大人たちの話は、極力
聞かないようにしていた。その分、食べることに集中していたの
である。

 そんな、子供たちのもとへデザートが運ばれ、『やれやれ』と
思っていた矢先のことだ。
 真治氏が、またもや彼らの食事の味を落とす振る舞いに出る。

 「ところで先生、食事の後は、どのようになさいますか?」

 すると、園長先生……
 「春花ちゃんと美里ちゃんには、お灸をすえようと思います。
日頃の『悪戯』の分も含めて、20個くらい下半身に据えれば、
お腹も温まるんじゃないでしょうか」

 園長先生の言葉はどこまでも穏やか。でも、その穏やかな言葉
の内容を二人は聞かずに済ますことができなかった。

*** 見沼教育ビレッジ(番外編)~§1罰当番~***

見沼教育ビレッジ(番外編)~§2お灸~

***  見沼教育ビレッジ(番外編) ***
§2 お灸

 夕食が終わり、つかの間の歓談。やがて……
 「では、ご主人。ご見学のほどよろしくお願いします」
 園長先生の言葉で食堂の全員が仏間となっている和室へと移動
することになった。

 春花ちゃんと美里ちゃんへのお仕置きは、ここへ来ていきなり
告げられたわけではない。子どもたち全員が学校を出る時すでに
どんなお仕置きになるかを告げられていたのである。

 つまり、真里菜ちゃんや明日香ちゃんのような幼い子はべつに
して、この家を訪ねたときには心の準備はできていたのだ。
 ただ、それにしても取り乱さない子どもたちの姿に、真治氏は
好感がもてた。昔の良家の子女はたとえ親からお仕置きされる時
でも気品を失わないように躾られている。そんな古きよき伝統が
こんな孤児院で守られていることが嬉しかったのだ。
 そこで、彼、こんな事を提案したのである。

 「どうでしょう、私が艾のいくつかに火をつけるというは……
もちろん、お仕置きに差し障りがなければ、ですが……」

 すると、先生も……
 「まあ、やっていただけるんですか。それは何よりですわ」
 と応じたのである。


 大人たちが襖を開くと、六畳の仏間にはすでに薄手のお布団が
敷かれ腰枕が二つ置いてある。そこにお線香や艾はもちろんだが、
万が一、粗相した時のためにバスタオルやパンツの着替えまで、
秋絵さんによって抜かりなく用意されていた。

 「恐れ入ります、こんなに丁寧にご準備くださって……」
 感激した園長先生が秋絵さんにお礼を言うと……

 「何でもありませんわ。うちのお嬢様も、こうしたことござい
ますから」
 という答えが……

 実際、ここの娘である美香や香織もこの薄い布団の上で必死の
形相になったことが1度や2度でなかった。

 「さあ、お二人さん。ここで裸になりなさい。残していいのは
靴下だけ。あとは全部脱いで頂戴」

 「…………」
 「…………」
 園長先生の命令にすでに正座していた二人は互いの顔を見合せ
ますが……気まずい雰囲気……

 「…………」
 「…………」
 続いて、締め切られた襖や同じように部屋の隅で正座している
真里菜ちゃんや明日香ちゃん、それに知美おねえちゃんを見ます。

 「…………」
 「…………」
 でも、もう部屋のどこを探しても『やらないですむという方法』
というのは見つかりませんでした。

 「さあ、やってしまいましょう。いくらお部屋を眺めていても
お仕置きは終わりませんよ……先程はおじさまのご好意であなた
たちは恥をかかずにすんだかもしれませんけど、私の方は大恥を
かいたの。今度はそうはいきませんよ」

 同じように正座をしていても園長先生は背筋を伸ばし凛とした
姿で上から幼い二人を睨みます。
 こうまでされては仕方がありませんでした。

 春花ちゃんが、最初に自分のブラウスに手をかけて脱ぎ始め、
美里ちゃんがあとに続きます。

 「まったく、二人とも手間がかかりますね。新井のおじさまが
ここまでご用意くださったの。今度、私に恥をかかせたら、学校
に戻ってからもう一度お仕置きのやり直しですから。……覚えて
おきなさい。……いいですね」

 園長先生は服を脱ぎ始めた二人を前にして更なるお説教です。
 対する二人はというと……

 「はい、ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 蚊のなくような声を出すのがやっとでした。


 二人は服を脱ぐためにいったん立ち上がりますが、靴下を除き
素っ裸になると再び正座に戻ります。
 ただ、その様子はとても落ち着かないものでした。

 両手で胸を覆い、お臍の下の割れ目を何とか隠そうとして、前
かがみになってもじもじと太股を締め続けます。
 夏のことですから裸になっても寒いということはありませんが、
とてもじっとしていられない様子だったのです。

 もちろん、胸など膨らんでいませんし、陰毛だってありません。
大人の兆候なんてまだ何もありませんが、そこは女の子でした。

 そんな二人に園長先生はご挨拶を命じます。

 「それでは、まず、こんなにも立派なお仕置きの場を用意して
下さった新井のおじさまにお礼をいいましょう。…………ほら、
ちゃんと背筋を伸ばして……『新井のおじさま、お仕置き、あり
がとうございます』」

 先生がお手本をみせて、頭をさげますと、小学生は真似しない
わけにはいきませんでした。

 「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」
 「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」

 二人は靴下以外は素っ裸。でも真治氏に向かって両手を着くと、
園長先生を真似てしっかりご挨拶します。

 庶民感覚では自分をお仕置きする親に『ありがとうございます』
なんて変ですが、これもお嬢様仕様。お嬢様の世界でならこれも
常識でした。

 「さあ、それでは、まず最初はお尻のお山からよ。お布団の上
に、うつ伏せになって……」

 ご挨拶がすむと、園長先生の指示で、二人はうつ伏せに……
 すると、今度はそれまでとは打って変わって素早く動きます。
 もうこうなったら、早くやって早く終わらすしかありませんで
した。
 
 「何だ、やればできるじゃないの」
 園長先生はそう言って艾を丸め始めます。
 その手先、手馴れたものでした。

 綺麗な円錐形になって艾が七つ八つあっという間にお盆の上に
並べられ、まず最初の二つが二人の左のお尻の山へ乗ります。

 「……!……」
 「……!……」
 据えられた経験のある二人、もうそれだけで背筋に電気が走り
ました。

 「あなたたちの悪戯には、私もほとほと手を焼いてきたけど、
今日はいい機会ですからね、新井のおじさまに据えて頂きます。
私なんかと違って、それはそれは熱いですからね。噛み枕を口の
中に入れて、それをしっかり噛み締めて熱さに耐えるんですよ。
わかりましたか?」

 「…………」
 「…………」
 二人の少女は明らかに動揺していました。

 『先生の普段やっているお灸より熱いって……どのくらい大変
なんだろう』
 取り乱した様子は見せなくても心配で心がパニックに……。
 当然ご返事も遅れてしまうのです。

 「どうしました?ご返事は?」

 園長先生に少し強い調子で命じられて二人は我に返ったみたい
でした。

 「はい、先生」
 「はい、先生」

 真治氏の仕事は艾に火を移すだけのことですから、誰がやって
も結果は同じ。彼がやったからって特別熱いなんてことはありま
せんが、信頼している園長先生の言葉ですから幼い二人は素直に
信じます。
 嘘も方便。お仕置きとしては好都合でした。

 やがて、真治氏が火のついたお線香を持ってまずは春花ちゃん
のお尻へと近づきます。
 艾の乗った付近を少し摘み上げてお線香の火を艾へと移すと、
それはあっという間に下へと降りていきました。

 「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
 両足を必死にバタつかせ、噛み枕を吐き出して、腰を振ります。

 でも、春花ちゃん、学校や寮ではこうではありませんでした。
 幼稚園時代からお転婆娘だった彼女はお灸の経験だって一回や
二回じゃありません。ですが、逆にその事で熱さに慣れてしまい、
最近では、『鞭のお仕置きなんかよりこっちの方が楽よ』なんて
涼しい顔で友だちに吹聴していたくらいでした。

 もちろん艾を大きくすれば一時的に効果は上がるでしょうが、
そのぶん痕も大きく残ります。ですから園長先生はそのことには
否定的だったのです。

 それが今回……
 大人の男性からいきなりお尻の肉を摘まれたショックと熱い火
の玉の痛み、おまけに園長先生から『特別熱い』なんて脅されて
いましたから、熱がる姿もそりゃあ尋常じゃありませんでした。

 園長先生としては大成功というわけです。
 園長先生は穏やかな笑顔を見せて真治氏に会釈します。それは
協力してくれたことへの無言のお礼でした。

 さて、次は美里ちゃんです。

 美里ちゃんは、春花ちゃんのお友だちでしたが、春花ちゃんに
比べればおとなしい子でした。
 ですから普段から威勢のいい事ばかり言っている春花ちゃんの
狼狽ぶりを間近に見てショックを受けます。

 お尻から太股にかけて鳥肌がたち全身が小刻みに震えています。

 『どうしよう』『どうしよう』
 お灸を据えられる前からうろたえているのがよく分かりました。

 もうこれなら、十分にお仕置きの効果ありです。あえてお灸を
据えなくてもよくいらいですが、園長先生は、それでも真治氏に
艾への点火を依頼します。
 それは、美里ちゃんだけ許してしまうと春花ちゃんがひがんで
女の子の友情にひびが入りかねないからでした。

 ただ……

 「ひ~~~~~~~」
 美里ちゃんは、お手玉のような噛み枕を吐き出すこともなく、
必死に熱さに耐えて頑張ります。

 いえ、そうやって美里ちゃんが頑張れたのは、園長先生が春花
ちゃんの時よりほんの一瞬早く、艾をその親指でもみ消したから
でした。

 『この子は反省できた。お仕置きは終わり』というわけです。

 ただ、この一箇所だけでお灸のお仕置きが全て終了というわけ
ではありませんでした。

 今度は、右のお尻のお山に据えられます。

 「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
 春花ちゃんは再び悲鳴を上げます。
 二つ目のお灸もそれで慣れるということはありませんでした。

 「う~~~~~~ひ~~~~~~~」
 美里ちゃんもそれは同じです。

 さらに……

 「さあ、今度はここ。いつもあなたたちが熱い熱いって泣いて
るお尻のお骨にいきますからね。今まで以上に頑張らないと……
お漏らしすることになるわよ」

 園長先生はそう言って二人の尾てい骨を人差し指でグリグリ、
加えて割れ目の中にまで手を入れてオシッコの出口をグリグリ、
真治氏すら赤面するようなことを、同性の強みでさらりとやって
のけます。

 たしかに、尾てい骨へのお灸は熱いみたいで……過去、幾度も
お漏らしする子がいました。

 「いやあ~~~ごめんなさい!もうしません、しません」
 「だめえ~~~あつい、いや、いや、いや、お願いやだあ」

 二人とも噛み枕を吐き出して布団をバタ足で蹴り続けます。
 こんなことはお尻のお山に据えられていた時はなかったことで
した。


 と、ここまでは真治氏もある程度予測していた。
 というのも自分の娘たちにも同じようなことをしていたからだ。

 今の娘は、自分のお尻を見ず知らずの人に見せることに抵抗が
ないみたいだが、当時は、そんなこと、親が心配する必要がない
ほどありえなかった。
 だから、逆に、ここに小さな火傷の痕があったとしても、親は
さして心配しなかったのである。

 しかし、園長先生は二人をいったん正座させると、二人にさら
なるお仕置きを命じる。

 「少し落ち着いたら、前にも据えていただきましょう。まずは
春花ちゃんから……今度は仰向けになって寝なさい」

 真治氏は、何気に言い放った園長先生の言葉に驚いた。
 『えっ!?この子たちはそこもやるのか!』

 女の子の前とは、おそらくお臍の下、ビーナス丘あたりを指す
のだろうが、そこは子宮のある場所でもある……そこへの施灸は
さすがに女の子には可哀想だと感じられたのだ。

 ただ、覚悟を決めてお布団の上に寝そべっている春花ちゃんの
その場所にはすでにしっかりとした灸痕が刻まれている。すでに、
何度か経験があるようだった。
 となると、いったん引き受けたからには『これは嫌です』とは
言いにくかった。そこで……

 「先生、実は私、あの場所への施灸は経験がないのです」
 園長先生の耳元まで行って囁く。

 「大丈夫ですわ。艾はこちらで用意して乗せますのでご主人は
お線香の火を艾に移してくださればよろしいかと思います。後は
こちらで処理いたします。大事なことは、この子たちに男性から
お灸を据えられる恥ずかしさを体験させることですから……熱さ
じゃありませんのよ」

 先生もまた、子供たちにさえ聞こえないような小声でこう囁く。
 真治氏、やらないわけにはいかなかったのである。

 今までとやり方は同じ。園長先生がご自分で整形した艾を施灸
の場所へと乗せていく。
 ただ、今度はお尻と違い、艾が乗せられところ火をつけられる
ところを子供たちは目の当たりにするわけで、それだけでも十分
に辛い罰だった。

 「さあ、しっかり踏ん張りなさい」

 今度は園長先生ご自身で春花ちゃんのビーナス丘のその場所を
摘み上げる。

 「お願いします」

 真治氏は園長先生の言葉を受けて、その盛り上がった丘の天辺
へお線香の赤い頭を近づけた。

 「……あっ、熱い……いや、いや、だめ~だめ~」
 顔を歪ませ、眉間に皺を寄せて必死に耐える春花ちゃん。
 彼女が激しく泣き叫ばなかったのは、むしろこうした事に慣れ
ているからだろう。

 「はい、先生、ここにもう一つ」
 園長先生は、そのたびに真治氏を呼んで火をつけさせ、終れば
またすぐ隣りに次の艾を乗せていく。

 お尻の艾に比べればこちらの艾は小さいが、春花ちゃんのそれ
だって狭いお庭なわけで、そんな処に、春花ちゃんは結局六個も
お灸を据えられるはめになったのだからたまったものではない。
 抓られた赤みとお灸の熱による赤みで最後は全体が真っ赤々に
なっていた。

 「春花ちゃん、お臍の下がカイロを乗せたみたいに今でも暖か
いでしょう」
 園長先生は春花ちゃんが頷くのを確認すると…
 「しばらくはそうやってじっとして反省してななさい。絶対に
触っちゃだめよ。綺麗に治らなくなりますからね。わかった」

 先生は、再度春花ちゃんが頷くのを確認して今度は美里ちゃん
に取り掛かる。

 こちらは春花ちゃんの様子を見ていて怖気づいたのか、すでに
最初からべそをかいていた。

 すると、園長先生、タオルで美里ちゃんの涙を拭きながらも、
それを叱るのだ。
 「何ですか、こんなに大きな子が、お灸のお仕置きくらいで、
めそめそしたりして……そんな顔しないの。……お仕置きをして
いただく新井のおじさまに失礼よ。ほら、もっとシャキッとしな
さい。……先生がいつも言ってるでしょう。あなただって下級生
から見ればお姉さんなの。……泣けば許されるという歳ではあり
ませんよ」
 園長先生は、気の弱い美里ちゃんにあえて冷たく言い放つのだ
った。

 一方、真治氏はというと……
 その頃この座敷の隅で正座して妹たちのお仕置きの様子を見学
させられている高坂知美の姿を見ていた。

 『彼女もきっとこんなお仕置きを受けて育ってきたんだろう。
身じろぎ一つしないというのは驚くに値しないということなんだ
ろうなあ。……今の彼女はどんなお仕置きをされてるんだろう?
……今は、もっと厳しいこと、されてるんだろうなあ』

 そう考えると、彼女がお仕置きされている様子が目に浮かぶ。
 その妄想はもうお仕置きの域を超えてSMだったのである。

 とはいえ、真治氏にそんな趣味があるわけではない。彼にして
みたら春花ちゃんだけでも十分に後ろめたい気持でいたのだ。
 ただ今までの行きがかり上、美里ちゃんに対してもやってあげ
なければいけないと思っていたのである。


 園長先生と真治氏のコンビで再びお灸の折檻が始まります。

 「いやいやいやいや、だめ、熱い熱い熱い…………あああ~ん、
またまたまた、ごめんなさいごめんなさい、いやいやいや、もう
しませんから~~~…………いゃあ~~死んじゃう死んじゃう」

 美里ちゃんはビーナスの丘が真っ赤に染まるまで悲鳴や泣き言
を言い続けます。でも、それは春花ちゃんに比べればまだ小さな
声でした。

 つまり、大人たちに向かって許し請うために叫んでいたのでは
なく、自分を励ますために叫んでいたのです。
 幼い彼女でも今さら泣き言を言って園長先生が許してくれない
ことぐらいは分かります。
 でも、何か言ってないと耐えられなかったのでした。

 いずれにしろ、真治氏はほっと胸をなでおろします。
 『やっと終わった』
 そう思ったに違いありません。

 ところが、ところが……

 「さあ、では最後に、お股の中にも一つすえますかね。二人共
いつもの姿勢をとって頂戴」

 園長先生に命じられて、二人は反射的に両足を上げようとしま
したが……どちらからともなく途中でやめてしまいます。

 「さあ、どうしたの?いつもの姿勢って忘れちゃったかしら」

 園長先生は、再度促しますが、今度は足を上げようとしません。
それどころか、今据えられたビーナスの丘まで両手で覆ってしま
ったのでした。

 原因はただ一つ。二人は途中でこの部屋に真治氏がいることを
思い出したのでした。
 いつものように園長先生やシスターだけなら問題はありません
でした。だって、そこには女性しかいませんから。どんな大胆な
ポーズにもなれたのです。

 「あら、急に恥ずかしくなっちゃった?……困ったわねえ……
いいこと、あなたたち。……ここへあなたたちを連れて来たのは、
あなたたちに恥ずかしいお仕置きを受けてもらおうと思ったから
なの。教会には普段男性がいらっしゃないでしょう。お仕置きで
あなたたちを裸にしても、おしゃべりしたり、走り回ったり……
女の子がそれじゃいけないから、ここに連れて来たの。……でも、
そんなに恥ずかしいなら、こちらもやり甲斐があるというものだ
わ。……さあ、さっさと足を上げてごらんなさい」

 園長先生は再度命じます。
 もとより、子供たちがこれに従わないはずがありませんでした。

 恥ずかしさいっぱいの姿勢。
 よくお母さんが赤ちゃんのオムツを換える時にさせるあの姿勢
です。

 幼い二人にとってもそれが恥ずかしくないはずがありませんで
した。

 さすがに心配になった真治氏が尋ねます。
 「今度はどこにお据えになるんですか?」

 「どこって、会陰の真ん中ですよ」

 あまりにあっけらかんと言われて真治氏は思わずのけぞります。
 「…………」

 無言のままでいる真治氏に代わって園長先生が説明します。
 「男の子だって、オチンチンに据えたりするでしょう。あれと
同じことですわ」

 「熱くないんですか?」

 「もちろんお灸ですから熱いですけど、特別熱いわけではない
んです。そのあたりも男性と同じですわ。あくまで皮膚の上から
据えるわけで、粘膜にはさわりませんから………何より、そこは
据えた痕が人目につかないでしょう。そういった意味でも好都合
ですの」

 「なるほど……」
 真治氏は園長先生との会話を成立させる為に相槌をうちますが、
本当は目がくらみそうでした。

 そんな、真治氏の様子がわかったからでしょうか、園長先生は
こうも付け加えるのでした。
 「女性は、お仕置きをするのもされるのも恐らくは男性よりも
好きなんです」

 「えっ!?」

 「どうしてだか分かります?」

 「………いえ」

 「苦痛も愛の一部だと感じられるから………だって、女性には
自分の身体以外に愛を感じる場所がありませんもの。愛する人の
行いは撫でられてもぶたれても同じことなんです。それはこんな
幼い子でもやはり同じなんですよ。女性にとって大事なことは、
その人を愛しているか否かだけ。何をされたかは、実は話の種に
過ぎないんです。私の場合も普段この子たちが私を慕ってくれる
から、お仕置きとしての愛が成り立つんです」
 園長先生は相変わらず意味深なことをさらりと言って笑うので
した。


 園長先生はこのあと、秋絵さんや知美さんにに手伝わせ、二人
にお股を開かせてそこにお灸を据えましたが、真治氏もさすがに
これだけには参加しませんでした。
 理屈はありません。強いてあげれば紳士のたしなみということ
でしょうか。

 でも、真治氏は二人がお股の中を焼かれるのを見ながらこうも
思うのです。

 『もし、これが美香や香織だったら、私だってやったかも……
結局は信頼の問題…………お仕置きは愛……かもしれんな』
 と……

*** 見沼教育ビレッジ(番外編)~§2お灸~***

見沼教育ビレッジ(番外編)~§3 お浣腸~ 

***  見沼教育ビレッジ(番外編) ***
§3 お浣腸

 春花ちゃん美里ちゃんのお仕置きが終わり二人は寝室へ……
 真里菜ちゃんと明日香ちゃんは、お姉ちゃん二人のお仕置きが
始まる前に、すでに秋絵さんが隣の部屋で寝かしつけていました
から、二人ともすでに白河夜船のはずでした。

 大人たちが居間への帰りしな、それを確認するためチビちゃん
たちの部屋を覗いてみます。
 すると、案の定、小さな天使たちは美香のベッドで熟睡してい
ます。

 可愛い唇が微妙に動いていましたから、きっと夢の住人たちと
いずれ楽しいお話の真っ最中なのでしょう。
 二人にとってお灸のお仕置きはまだ先のことのようでした。


 「一区切りつきましたね。やれやれ、ほっとしました」
 真治氏はそう言って居間のソファに腰を下ろします。

 でも、彼にはまだ大事な仕事が残っていたのです。

 「あっ、秋絵さん、お茶」
 真治氏の声に合せるように園長先生がこう言いいます。

 「ご主人、どうでしょう、今、知美がコーヒーを入れますので
それを召し上がっていただけないでしょうか?」

 次のステージは園長先生のこの何気ない一言がきっかけでした。

 「えっ、知美さんが入れてくれるんですか?そりゃあ楽しみだ。
……秋絵さん、コーヒーの用意を……ネルドリップでいいですか」
 真治氏は園長先生の提案を笑顔で受けます。
 もちろん、この時はそれがどんな意味を持つのかなんて考えて
もみませんでした。

 「でしたら、少し着替えにお時間をいただきますけど、ご辛抱
ください」
 園長先生はそう言うと、知美さんを連れて奥の部屋へと下がり
ます。

 コーヒーを入れるだけで、わざわざ着替えるなんておかしな話
ですが、中二の女の子がお茶をいれること自体はべつに不思議な
ことではありませんから、真治氏もさして深く考えずに応じたの
です。


 それから10分ほどして、園長先生と知美さんが居間へ戻って
きます。

 「まあ、こんな立派な茶器までご用意してくださって……さあ、
あなた、粗相のないようにしなければだめよ」

 先生の指示に従い、知美さんはさっそく用意されたコーヒー豆
をミルで挽き始めます。
 今回は布製のフィルターをセットしてお湯を注ぐだけなのです
が……その動きは最初からとてもぎこちないものだったのです。

 『おやおや、こういうことか……』
 真治氏は悔やみます。

 『……ペーパーフィルターにしてやればよかったか……いや、
こんな事だとわかっていればインスタントコーヒーでよかったん
だが……うかつだったなあ……』

 それは、今、知美さんの身に何が起こっているかを彼が推測で
きたからでした。
 ただ、今、思い描いている事を口にするのは、真治氏にもはば
かられます。

 知美さんはミルで豆を挽いていた段階で荒い息をしていました。
 脂汗が額に浮き、手先が震えています。
 
 布のフィルターをセットしてそこに挽いた豆をいれるだけでも
一苦労な様子で……

 「はあ、はあ、はあ」
 少しやってはすぐにその手が止まり、何んだか痛みが遠のくの
を待っているようにうずくまってしまいます。

 コーヒーを入れる手順は熟知しているみたいなんですが、作業
が途切れ途切れなのでなかなか前に進みません。

 そうやって、何度か作業を中断するうち……とうとう知美さん
はその場にうずくまってしまいます。

 すると、その瞬間、真治氏の鼻先をある臭いが掠めるのです。

 もうこうなると知美さんから出るのは脂汗だけではありません
でした。涙も一緒に光ります。

 『仕方ないか……』
 真治氏は一つ大きくため息。

 実際、このような恐ろしいお仕置きは、美香にも香織にもまだ
した事がありませんでした。

 「いいから、行ってきなさい」
 打ちひしがれている知美さんにやさしく声をかけたのは真治氏
でした。

 もちろん、こうしたことは、園長先生のお仕事なんでしょうが、
居てもたまらず声をかけたのでした。

 「…………」
 真治氏に声を掛けられた知美さんは動揺します。
 そして、動揺したままの顔で、今度は園長先生を探すのでした。

 視線を合せた園長先生は……
 「……いいわ」
 と、一言いって首を振ります。
 それは、『この部屋から出なさい』という意味のようでした。

 それを待っていたように、今度は秋絵さんが、知美さんに肩を
貸します。
 秋絵さんもまた、今ここで何が起こっているのかを理解してい
たみたいです。

 すると、園長先生は、傷心の知美さんに向かってさらに冷たく
こう言い放つのでした。
 「知美さん、お家のおトイレはだめよ。汚すといけないから。
……お外のトイレでしなさい……いいですね」

 「はい、先生」
 知美さんは、蚊の泣くような声で答えて、先生に言われた通り
秋絵さんとお庭へ出ようとしますから真治氏が……

 「構いませんよ。うちのトイレを使ってください。汚れたら、
掃除すればいいだけのことですから」
 と引き止めたのですが、今度は園長先生が……

 「ご好意は大変にありがたいのですが、女の子は男性と違って
そういうわけにはいかないのです。ご理解くださいませ」
 と丁寧に断りをいれてきます。

 いえ、そもそもそのお庭にお外用のトイレなんてありませんで
した。あるのは、お昼のうちに知美さんが園長先生に命じられて
掘った溝があるだけ。
 園長先生が言う『お外のトイレ』とはそのことだったのです。


 二人が去った後、居間に残った園長先生と真治氏は無口でした。
 真治氏は言葉を捜し、園長先生は真治氏が何か話せば答えよう
と思っていました。

 そんな真治氏が重い口を開いたのは知美さんが部屋を出てから
数分後のことです。

 「私も、こんなことをしている親がいることは知っています。
……娘の言動が腹に据えかねて、こうしたことが頭を掠めた事も
何度かあったかもしれませんが……さすがに、自分の娘で試した
事はありませんでした」

 「きっと軽蔑なさってるんでしょうね。……お仕置きとはいえ、
何てハレンチなことを、って……」

 「いえ、そういうわけでは……その家のお仕置きは、その家の
事情で色々ですから、よそ者が口を挟むべきではないでしょう」

 「仕方ないんです。あの子とご主人のお嬢様とでは住む世界が
違いますもの……」

 「それだけ、あの子たちの現実は厳しいということですか?」

 「ええ、あの子たちは、生まれながらにして親の業を背負って
生きていかねばならない定めにありますから……特に、モラルや
秩序については、人並み以上に敏感でなければならないんです」

 「それで、より厳しいお仕置きをして従わせる………でも……
親はともかく、子供たちに責任ないでしょう?」

 「観念的にはそうでも世間の感情は別です。仮にあの子たちが
世間の子と同じような罪を犯しても世間から受けるバッシングは
普通の子と同じではありませんもの」

 「それで、教会の中に囲い込もうとするわけですか……」

 「教会の中で清く美しく暮らすシスターの元へは、どんな誹謗
中傷も届きません。たとえそこで厳しいお仕置きがあったとして
も、それで済めば、世間の荒波に翻弄されるより心の傷はむしろ
小さくて済むんじゃないでしょうか……私たちはそう考えてるん
です」

 「なるほど………ところで、知美ちゃんはどんな罪を犯したん
ですか?」

 真治氏の問いに、園長先生は少し考えてから……
 「………………脱走ですわ…………修道院を逃げ出したんです」

 「脱走……理由は?」

 「ありませんわ。ただ、外の世界に出てみたかったんでしょう。
思春期にはよくあります。一般人なら、入信還俗は自由ですが、
あの子たちの場合、親の意向で将来の道が一つに定められてます
から、そこは可哀想なんです」

 「将来は修道女……でも、他に選択肢はないんですか?」

 「生みの親が承諾すれば養女としてもらわれることはあります。
その場合は、養父がその子の将来を決めることになりますけど」

 大人たちがおしゃべりをしている間に、知美ちゃんが居間へと
戻ってきます。
 お腹の物はいちおう出してきましたが、園長先生の言いつけに
反して我慢ができませんでしたから、顔は暗いままでした。

 そんな知美さん、気がついたように今一度コーヒーを入れよう
としますから……
 「もういいわ。あなたの汚れた身体で入れたコーヒーをご主人
に飲んでいただくわけにはいかないもの」

 園長先生が差し止めます。
 でも、真治氏はそれをさらに打ち消してこう言うのでした。

 「そんなことないよ知美さん。僕はいっこうに構わないから。
あらためてコーヒーを入れてくれないか。僕は君の入れてくれる
コーヒーを飲んでみたいんだ。……ね、いいでしょう、先生」

 真治氏は園長先生の許可を得ます。

 こうして知美さんはあらためてコーヒーをたて、それを真治氏
のテーブルに……
 彼は知美さんの置いたカップを丁寧に拾い上げ、口をつけます。
 もちろんこれ、真治氏がコーヒーを飲みたいわけではありませ
んでした。

 彼は二人の娘の親であり、紳士録にも載るような立派なジェン
トルマンです。ですから、知美さんがたとえ自分の娘でなくても
『お仕置きは挫折で終わらせてはならない』という昔からの格言
をそこに当てはめてあげたのでした。

 ただ、だからと言って、彼が何でもかんでも女性の言いなりに
なるフェミニストかというと、それもそうではありませんでした。

 真治氏が知美さんの入れたコーヒーを飲み干し、文字通り一息
ついた時でした。

 「知美さん、お約束は忘れていないでしょう」
 園長先生の声がします。

 「はい」
 振り向いた知美さんが答えます。

 「それを果たしましょうか」
 園長先生の声は穏やかで、落ち着いていて、間違っても怒りの
感情がこもった声ではありませんでしたが……園長先生の手には
しっかりとケインが握られています。
 何をするのかは明らかでした。

 と、ここで再び真治氏が……
 「先生、それを私にやらせていただけませんか?」

 「……(まさか、じょ…冗談でしょう)……」
 知美さんは声こそ出しませんでしたが、顔面蒼白、今にも気絶
しそうな青い顔をして真治氏を見つめます。

 『だって、それって約束が……』
 彼女の思いは顔に書いてありました。
 でも……

 「わかりました。本来、これは私の仕事ですが、ここはご主人
にお譲りしましょう」
 園長先生はあっさり真治氏のお願いを聞きいれます。

 『そんなあ~~~』
 それは知美さんにしてみたら、いきなり向こうからやって来た
地獄ということでしょうか。

 本当はその場で泣き叫びたいほどのショックだったに違いない
のですが、ただ、育ちのよさ、厳しい躾がそうさせてくれません
でした。

 「ご主人はパブリックスクールへの留学経験もおありだとか。
まさかここで本場の鞭打ちを拝見できるとは思いませんでしたわ」

 園長先生のお世辞に真治氏は苦笑いを浮かべて……
 「いえ、それは関係ありませんよ。私はもっぱらぶたれる方で
したから……でも、せっかくの機会ですし、たまには悪役も交代
した方が、先生のご負担も減るんじゃないかと思いまして」

 「まあ、お口の悪い……悪役だなんて……でも、そうかもしれ
ませんね。この子にお仕置きの効果が出るまでにはまだ何十年も
かかるでしょうから……いずれにしても、本当にありがとうござ
います。まさか、こんな事までしていただけるとは思いませんで
したわ。……では、いくつよろしいのでしょうか」

 「1ダースで……少し痛いかもしれませんが、14歳ですから、
頑張れるんじゃないでしょうか……先生は、どうぞこの机の前で
知美ちゃんの手を押さえてあげてください」

 「はい、承知しました」

 大人たちが勝手に話をまとめていきます。
 そこに知美さんが割り込む隙はありませんでした。

 やがて、大きな花瓶が片付けられ、それを乗せていたテーブル
が鞭打ち台へと代わります。
 ちなみにこのテーブルは、真治氏の娘たち、美香や香織も利用
するテーブルでした。

 「さあ、ここにうつ伏せになって……」
 真治氏にこう言われた知美は振り返って悲しい顔を見せます。

 すると、優しい刑吏は穏やかに首を横に振って……
 「今日は運悪く悪魔の館に迷い込んだと思って諦めるしかない
んだよ。これを乗り越えたら、また、次には良い事もあるから、
辛抱しなきゃ」
 
 「えっ?……あっ……はい」
 知美はハッとします。

 『今、自分は何を期待してあんな哀れんだ顔をしてしまったん
だろう』
 そう思うと自分が情けなくなりました。

 彼女のスカートの丈は幼い頃に比べれば幾分長くなりましたが、
お尻叩きのやり方は幼い頃と同じでした。

 「じゃあ、いくよ」
 真治氏の穏やか声が掛かりカナリアイエローのフリルスカート
が捲り上げられると、さっきお漏らしをして履き替えたばかりの
ちょっとぶかぶかの白いショーツが顔を出します。

 知美さんの顔が緊張と恥ずかしさでポッと赤くなります。
 でも、できるのはそれだけ。あとはもう、机に抱きついてされ
るがままだったのでした。

*** 見沼教育ビレッジ(番外編)~§3 お浣腸~ ***

見沼教育ビレッジ(番外編)~§4スパンキング~

***  見沼教育ビレッジ(番外編) ***
§4 スパンキング

 「ピシッー」

 「ひぃ~~」
 最初の一撃がお尻に振り下ろされた瞬間、知美は机にうつ伏せ
になっていたにも関わらず、まるで腰が抜けたような感覚に襲わ
れます。

 『何なの!?これは……』
 たった一撃で、腰から下の感覚がなくなってしまったのでした。
 もちろん、こんなこと園長先生の鞭ではありえないことでした。

 しかも、これが園長先生なら、さっき真治氏に向かってやって
しまったように振り返って甘えた泣き顔をみせることだってでき
ます。もちろん、それで鞭をまけてもらえるわけではありません
が、親しい園長先生の顔を見るだけでも知美の心は落ち着けるの
でした。

 とびきり痛い鞭。そのうえ次の鞭が振り下ろされるまでの間も
ひたすら机を眺め続けていなければならないなんて……知美には
辛すぎる罰だったのです。

 そして、二つ目……

 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 やはり、死ぬかと思うようなのがやってきます。

 でも、その瞬間、感じたのです。
 自分の手を握ってくれている人の存在を……

 「…………」
 知美は顔をあげてその人を間近に見ます。
 不思議な気がしました。

 だって、鞭でのお仕置きの時、園長先生はこれまで常に彼女の
お尻の方にいたのですから……
 それが、今は自分の目の前で穏やかに笑っている。
 こんなこと、初めての経験でした。

 そして、三つ目……

 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 体中に電気が走ります。手の指先、足の指先、そして子宮にも
……
 その走った電気に驚いて思わず腰が浮き上がりました。

 知美は、そのとき『ほんのちょっと腰を振っただけ』と思って
いたのですが、実は、とても激しく腰を動かしていたのです。
 おかげで、彼女、自分の落し物にも気づきませんでした。

 もし、これ園長先生だったら大変なことになっています。

 だって、彼女の落し物は、ショーツの中に仕込んだタオル地の
ハンカチ。これで鞭の痛みを少しでも緩和しようとしたのですか
ら……。

 園長先生はこんなインチキがとても嫌いな人でしたから、こん
なことが分かると、鞭のお仕置きは一時中断、さらなるお仕置き
が言い渡されることになります。

 ただ真治氏はこのハンカチを拾ってテーブルの上に乗せただけ。
ハンカチの事には何も触れませんでした。

 そして、四つ目……
 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 
 『死ぬ~~』
 身体はほんの少し慣れましたが、心細い少女の心はまだ悲痛な
叫び声を上げ続けています。
 それでも、まだ三分の一。
 目を開けているはずなのにすでに目の前が真っ暗でした。

 五つ目……
 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 
 もう、この頃になると、意識が希薄になります。
 『痛い』『辛い』『恥ずかしい』
 薄れていく意識の中ではそのすべてがどうでもよくなっていき
ます。

 六つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~」
 目がかすみ、知美の荒い息からよだれがテーブルに落ちます。

 七つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~やめてえ~~~」
 それまでの遠慮がちの悲鳴とは明らかに違う大声でした。
 知美のこんな悲鳴を聞いたことは園長先生でさえもありません
でした。

 八つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~やめてえ~~~」
 幾分悲鳴は小さくなりましたが、荒い息は相変わらずです。
 いえ、そちらはもっとひどくなったかもしれません。

 九つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~」
 随分と悲鳴が小さくなり息も整って一時の狂乱は収まったよう
にも見えますが、長年こうしたお仕置きをしてきた園長先生には
これがどういうことかわかっていました。
 もちろん、真治氏もそれは承知しています。承知しているから
こそ、八ッ目以降は鞭の威力を落としたのです。

 でも、途中で休憩を入れることはしません。もちろんお仕置き
を中止することなんて考えてもいませんでした。
 途中に休憩を入れれば再開した時のショックがキツイですし、
中止すればそれは挫折したことと同じですから何より本人の為に
なりません。
 どこまでも知美のためにそれはしなかったのでした。

 鞭はいよいよ十回目に入ります。

 「ピシッー」
 「ぁぁぁ~~~」
 知美の悲鳴は小さくくぐもった声です。

 十一回目。
 「ピシッー」
 「ぁぁぁ~~~」
 知美の顔にほんの僅かですか、安堵の表情が浮かびます。
 これは、単にハッピーという意味ではありません。
 むしろ、『諦めた』『悟った』という表情だったのです。

 それが何を意味するか、当然、園長先生はよくご存知です。
 知っているからこそなんでしょうが、先生は知美の後ろに回る
と、彼女のショーツを足首まで下ろします。

 すでにぐっしょりでした。

 最後の十二回目は、むき出しのお尻に飛んで来ます。

 十二回目。
 「ピシッー」
 「ぁぁぁ~~~」
 ほとんど放心状態の知美にそれは感じられなかったのかもしれ
ませんが、その衝撃を受けて彼女は放尿します。
 まるで馬がオシッコをするように、まだこんなにも残っていた
のかと周りが驚くほどに、足首まで下ろされた自分のショーツを
叩きつけます。

 「さあ、もういいよ」
 真治氏の許可を受けてぼんやりと上体を起こす知美でしたが、
ほとんど放心状態の彼女は自分が何をしたのか理解できず辺りを
見回します。

 自分の足元を濡らす水も、最初はそれが自分の仕業だとは理解
できない様子で、秋絵さんと園長先生がやっている床掃除をただ
ぼんやり見ています。

 もちろん真治氏は……
 「先生、やめてください。法衣が汚れます。そんなことはうち
のお手伝いがしますから、先生はどうぞご心配なく」
 と声を掛けたのですが……

 「大丈夫です。ご心配いりません。これも娘のしたこと。私の
仕事ですから……」
 という答えが返ってくるのでした。

 知美はまるで一刻を争うかのようにして床を拭いている先生を
ぼんやりと見下ろしながら……やがて、自分のしでかした粗相に
気づいたみたいでした。

 知美は遅ればせながら先生を手伝います。

 そして、それが終わると、二人は真治氏に断りを言って別室へ。


 戻ってきた時、二人は着替えが済んでいました。

 知美は水玉のワンピース、園長先生もトレードマークの法衣を
脱ぎ捨て、薄い紫のブラウスと捲きスカート姿。
 いずれもラフな格好でした。

 「さあ、ご挨拶なさい」
 先生に背中を押されて知美がまず真治氏の前へとやってきます。

 彼女はソファでくつろぐ真治氏の足元に膝まづくと、両手を胸
の前で組んで……
 「お仕置きありがとうございました」
 とお礼の言葉を口にします。

 もちろん本心は別でしょうが、ご挨拶は良家の子女のたしなみ。
大人達から何かしてもらったら、とにかく感謝の言葉を口にする
のが当たり前と躾けられています。
 お仕置きだってやっていただいたことに変わりありませんから
やはり同じことでした。

 「痛かったでしょう」
 真治氏は優しく微笑みます。
 でも、相手から好意的な顔は期待していませんでした。
 そりゃそうです。あれだけ厳しく打ち据えたんですから。

 「君はよく我慢したよ。あんなに痛い鞭でも取り乱さなかった
んだから、たいしたものだ」

 『…………』
 真治氏に褒められ和美の顔が険しくなります。
 というのも、和美は真治氏が皮肉を言ったものと思ったからで
した。
 だって、お漏らしをしてしまったのに取り乱さなかったなんて
変ですから。

 でも、真治氏はべつに皮肉を言ったのではありません。本当に、
感心していたのです。
 あれだけ強い鞭をいきなり受けたら男の子だって半狂乱になる
子はいます。それがないだけでも十分賞賛に値すると彼は言いた
かったのでした。

 「じゃあ、仕上げといこうか」
 真治氏はそう言ってソファに座った自分の膝を叩きます。

 『えっ!!』
 和美の目が思わず大きく丸くなります。
 もう、お仕置きはすんだものだと思っていた彼女にそれは悪夢
の再来だったに違いありません。

 当然ですが『はい、承知しました』と言って身体は動きません
でした。思わず膝まづいた姿勢のまま後ろを振り返り園長先生の
顔を窺います。
 普段は恐い先生ですが、この時ばかりは彼女にすがるしかあり
ませんでした。

 そして、まるで幼い子がそうするように園長先生の懐へと逃げ
帰ったのでした。

 園長先生は知美を受け入れて抱きしめます。

 でも、少し心が落ち着いてから顔をあげてみると、頼みの先生
も顔を横に振るだけ。

 恐々前を向くと真治氏も笑っていました。

 「もう、終わりだと思ったのかい?」
 慌てふためく和美の様子を見て、真治氏は納得したように一度
だけ首を縦に振るのでした。
 こちらへいらっしゃいということでしょうか。

 「悪魔の館にいったん迷い込むとね、出るまでが大変なんだよ。
……今日はもう楽しいことは諦めて、私に付き合いなさい。……
さあ」
 真治氏は再び膝を叩きます。

 和美に逃げ場はありませんでした。

 あらためて真治氏の足元に膝まづと、両手を胸の前で組み……
 「おじさま、お仕置きお願いします」
 屈辱のご挨拶。

 その後は再びのスパンキングでした。
 今度は、幼い頃やられていたように大人の膝の上にうつ伏せに
なって行われます。

 「あっ!」
 覚悟はしていましたが……着替えたばかりのワンピースの裾が
捲り上げられ、白いコットンショーツもすべて払い除けられて、
お尻が再び丸出しに……

 すると、真治氏の膝の上で急にお腹が差し込みました。
 「(いやよ、やめて、またお漏らしなんて)」
 知美は心配しましたが、原因はそちらではなく子宮でした。

 もちろん、鞭打ちのときだってお尻は丸出しだったのですが、
今は真治氏との距離がとっても近くて、男の人の顔が自分のお尻
の間近に迫っています。しかも、これから赤く熟れた林檎を彼の
ガサガサした大きな手が冒涜しようというのですから、これって、
お尻の痛みとはべつに和美の子宮を激しく収縮させるのに十分な
理由づけになるのでした。

 そんな最中、最初の一撃がやってきます。

 「ピシャ」
 「いやあ~~!!!」
 真治氏は決して強くは叩きませんでしたが、心の動揺が大声を
出させます。

 続けてもう一つ。
 「ピシャ」
 「いやあ、やめて~」
 
 「嫌かい?だろうね、だって君が嫌がることをわざとやってる
んだから……でもね……」
 「ピシャ」
 「痛い」
 
 「子供は耐えるしかないんじゃないかな。……君はこうやって
お仕置きを受けてるんだから」
 「ピシャ」
 「あっ……」

 「さっき、キツイ鞭のお仕置きを耐え抜いたあとだから、なお
さら痛いんだ。そんなこと百も承知でおじさんやってるんだよ。
身体に堪えないお仕置きなんて意味ないもの。中学生の君が耐え
られる程度のお仕置きをしてるんだ」

 「ピシャ」
 「うっ……」

 「少し落ち着いたみたいだね。また、身体が痛みに慣れだした
んだろう。だったら、もう少し強くしてあげようかね」

 「ピシャ!」
 「いやあっ!」

 「よし、よし、そんなもんだ。このくらい神経を集中させてる
時の方が人の言葉ってよく頭に入るんだ」

 「ピシャ!」
 「ひゃぁっ!だめえ~」

 知美は恥ずかしいのと痛いいので反射的に悲鳴をあげますが、
その声を園長先生がたしなめます。
 「嫌じゃないでしょう。お願いしますでしょう」

 園長先生は鞭のときと同じように知美の頭の方へ回り込んで、
中腰の姿勢で知美を見つめその手を取ります。

 「はい、先生、いい子になります」
 知美は意外にも素直でした。

 もしこれが学校で園長先生にぶたれていたら園長先生に対して
こうまで素直にはなれなかったでしょう。
 ですが、真治氏は見ず知らずと言ってよい男性です。力が強く、
鞭にしろ、平手にしろ、すでにお尻は痛くて痛くて、身体がバラ
バラになりそうでした。
 そんな苦境からみれば園長先生の顔だってマリア様に見えます。
誰に従うべきか、結果はあきらか……ということでした。

 「いいかい、君の家は教会なんだ。君がそれを不満思っても、
嘆いても何も変わりはしないよ。……君はその教会から逃げたん
だって?……感心しないな」

 「ピシャ!」
 「あっ!……あっ……はい……おじさま」
 真治氏はそれまでより少し強く叩きましたから、知美のお尻は
今まで以上にショックを受けたはずでしたが、じっと堪えて挨拶
します。

 「お父さん、お母さんを探しに行ったのかい?」
 「ピシャ!」
 「あっ、痛い……いえ、そうじゃなくて……何となく……」

 「『何となく』ねえ……感心しないな、何となくの家出なんて
……『教会なんかよりもっと自由で楽しい場所が世の中にはたく
さんあるはずだ』と思ったのかな?」

 「ピシャ!」
 「あっ、……だって、教会は窮屈だしお仕置きだって多いから」

 「でも、君は物心ついてからずっとこの教会で暮らしてきたん
だろう?」
 「ピシャ!」
 「……はい……それは……そうですけど……」

 「隣りの芝は青く見えるからね……でも、青い鳥は家の外には
いないものなんだ。……わかるかい?」

 「ピシャ!」
 「……はい……ごめんなさい、おじさま……」

 「僕に謝っても仕方がないよ。君を心配してくれる教会の人達
全員に謝らなきゃ」
 「ピシャ!」
 「はい……ごめんなさい、おじさま……」

 「君はまだ幼くて世間を知らないから、この世のどこかに自分
を受け入れてくれるパラダイスがあると信じたいんだろうけど、
中学も卒業していない君を優しく受け入れてくれる場所なんて、
日本はおろか世界のどこにもありゃしないよ」
 「ピシャ!」
 「ぁぁっ!……はい、おじさま」

 知美は、一回一回律儀に悲鳴をあげます。本当は、悲鳴なんか
あげずに、ただ『はい、おじさま』とだけ言いたかったのです。
ただ、それをさせてくれないほど、真治氏の平手は強烈でした。

 「わかったかい?」
 「ピシャ!」
 「ひゃぁぁっ!……はい、おじさま」

 一方、園長先生はというと、普段はあまり見せない柔和な顔を
見ながら必死に真治氏の平手打ちに耐える知美を見つめています。
 実は、知美は痛みに耐えることで精一杯でしたから、真治氏の
問いかけにもいい加減に答えていたのです。

 だったら、真治氏がどんなお説教をしても無駄なのかというと
そこはそうではありませんでした。
 こうした場合、不思議なもので、真治氏のお説教は園長先生の
言葉として知美の心に刻まれていくのでした。

 「君は他の世界を知らないから、園長先生や他の先生方にぶた
れると、継子いじめされたみたいに感じるのかもしれないけど、
それは逆なんだ。ぶっても後に問題が残らないほど絆が強いから
お仕置きだってできるってことさ」

 「ピシャ!」
 「いたいっ!……はい、おじさま………………………………」
 いつものようにそう言った後、しばらくして知美が珍しく口を
開きます。
 「じゃあ、おじさまと私は?」

 「私?(ははは)私は余計なおせっかいを焼いてる部外者さ。
だから私のことは忘れていいんだよ。さっきから言ってるだろう。
今日のことは、運悪く悪魔の館に入り込んだと思って諦めなさい
ってね」

 「ピシャ!」
 「ぁぁっ!……はい、おじさま」

 「ただし、もし教会を脱走して、本当の悪魔の館に入り込んだ
ら……君の青春はそこで終わってしまうかもしれない。……それ
だけは、しっかり覚えておきなさい。……そしてそのことを……」

 「ピシャ!」
 「いゃ痛い!!!…………」
 「この痛い痛いお尻にしっかり覚え込ませるんだ。……いいね」

 「ピシャ!」
 「ぎゃぁぁっ!!!!……はい、おじさま」
 最後は真治氏も加減せずに叩きましたから、飛び切り痛かった
みたいでした。


 やっとのことで、知美のお仕置きが終わり、彼女は別室で園長
先生から痛んだお尻へお薬を塗ってもらいます。

 「先生、あの人、絶対変態です。……もの凄い力で私のお尻を
ぶったんですから……」
 ベッドにうつ伏せになった知美は涙ながらに園長先生訴えます
が……

 「何言ってるの。痛くないお仕置きってのがありますか………
新井のおじさまは立派な紳士よ」

 「どうして分かるんですか?」

 「今日はお見えにならなかったけど、あの娘さんたちを見れば
新井のおじさまが、どれだけ娘さんたちを可愛がってらっしゃる
かわかるわ。だからね、あなたにもその愛のおすそ分けをお願い
してみたの」

 「ということは、お仕置きはこちらからお願いしたんですか?」

 「そりゃそうよ、でなきゃ、新井のおじさまがあんなことする
わけないでしょう。あなたへのお仕置きは私の方からお頼みして
やっていただいたの。……だから、新井のおじさまには何の責任
もないわ」

 「わあ~ショック。私にはあんな人、変態にしか見えないけど
なあ~~」

 「あなたにかかると、お仕置きしていただく方は全員変態ね」

 「だって、私、もう中学生なのに平気でパンツ脱がすんだもの。
そんなこと変態以外しないことだわ」

 「さあ、それはどうかしらね。私は高校生でもパンツを脱がす
ことがあるわよ」

 「だって、それは女同士だから……」

 「……そもそも、お仕置きなんだもの、仕方がないでしょう」

 「だってえ~~」
 知美は甘えた声を出しますが……

 「これは新井のおじさまもおっしゃってたけど、お仕置きして
くれる人がいるうちがよほど幸せだって……お尻を叩かれるだけ
ですべてが決着するならこんなに楽なことはないってよ……」

 「馬鹿馬鹿しい、こんなにお尻叩かれてどこが幸せなのよ」

 「あなたはまだ子供で大人の孤独は分からないでしょうけど、
どんなにお金や権力があってもそれを全部自分で差配しなければ
ならない気苦労は計り知れないものなのよ」

 「全然わかんない。お金と権力さえあったらこんなにハッピー
なことないじゃない」

 「あなたの年齢じゃあ、そんな答えよね。だから、子供なんで
しょうけど……仕方がないわね。空気と同じで、あって当たり前
のものほど気づきにくいって言うから……じゃあ、ちょっぴり、
あなたにも気づかせてあげますか……」
 先生はその言うと、目の前のお尻に強烈な平手を一撃。

 「痛~~~い!!!!」
 知美の大声が屋敷中響き渡ったのでした。

       *)番外編はここまでです。
**  見沼教育ビレッジ(番外編)~§4スパンキング~ **

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §1

      見沼教育ビレッジ

 見沼教育ビレッジはお嬢様専用のリフォームスクール。

 リフォームなんていうから、『お嬢様が洋服屋さんでも始める
のか?』なんて思ったあなた、思いっきり勘違いです。

 ここでリフォームするのはお洋服でも住宅でもありまん。
 お嬢様本人の人となり。性格を更生(リフォーム)させる学校
のことなんです。

 つまり、問題のあるお嬢様を躾直そうというわけです。

 そりゃあ親にとって娘は可愛いですからね、お金に飽かせて、
蝶よ花よで育てるんですが、そのうち、年齢とともにわがままが
強くなっていき、やがて親もそんな娘の要望に応えられなくなる
日がやってきます。

 そこで親がビシッとできればいいんですが、たいていその頃に
は親は娘になめられてますから小言がききません。
 そんな時、親が頼るのが見沼教育ビレッジというわけです。


 夏休み、お嬢様が避暑地の別荘で暮らすなんてのはごく自然の
ことですから、ここではそんな形式をとって行います。
 夏休み、中学生のお嬢様は避暑地の別荘でバカンスを楽しんで
おられたのだと言う体裁にしてあるわけです。

 でも、そこでの生活はお嬢様にとっては地獄のバカンス。

 子どもの父兄から、合宿中はどのような体罰も認めるという旨
のお墨付きを得ている指導教官が情け容赦ないお仕置きでお嬢様
を責め立てますから、これで性格の変わらない女の子はいません
でした。


******<主な登場人物>************

 新井美香……14歳。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールかけている。目鼻立ちの整った美少女だが
       本人は自分の顔に不満があって整形したいと思っ
       ている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 ケイト先生…日本生まれの白人女性。サマーキャンプでは美香
       を担当する。助教師二人と共に美香の更生にあた
       るが、彼女はすでに美香の両親から体罰の承諾を
       得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************


 美香が園長室に呼び出されたのは、よく晴れた初夏も終わりに
近づいた夕方近くだった。

 トントンと軽くノックをして……
 「新井美香です。お呼びでしょうか?」
 ドアの向こうへ問いかけると……

 「入ってらっしゃい」
 園長先生の聞きなれた声が返ってきた。

 そこで美香がドアを開けると、いきなり強烈な西日が顔を刺す。
 その刺激のおかげで最初は部屋の様子を鮮明に見ることはでき
なかったが、中に数人の人たちがいたことだけはわかった。

 太陽の光を右手で遮って、あらためて部屋の中を確認すると、
そこには園長先生の他に見知らぬ三人の女性たちがいたのである。

 「おかけなさい」
 園長先生に椅子を勧められて腰を下ろすと、さっそく目の前に
一通の手紙が差し出される。

 「これ、あなたのお父様からのお手紙。まずは読んでみて」
 園長先生に言われて封を切ると、そこには万年筆でしたためら
れた父の見慣れた文字が並んでいた。

 『二週間前に起きた事件のことは園長先生からお聞きしました。
美香とはこうして離れて暮らしていますから、千キロ以上離れた
この場所から事の仔細を検証することはできませんが、園長先生
は高潔なおかたですから、そのお言葉を信じるとして、あなたの
したことは新井家の娘として私の娘としてとうてい許されるもの
ではありません。あなたが私の娘を名乗る時は全てに無垢でなけ
ればいけないのです。穢れていてはいけないのです。その掟は、
美香も十分に承知していると思いますからあえて正直に言います
が、今の身体のままでは、私は美香を自宅に受け入れるつもりは
ありません。あなたがこれからも私の娘であり続けたいのなら、
まずは、穢れたその身体を洗い流す禊ぎが必要なのです。そこで
提案なのですが、私はあなたの父として、あなたには夏休みの間、
見沼の教育ビレッジに参加してもらおうと思っています。そこで、
身も心もリフレッシュし、無垢な身体を取り戻してから帰宅しな
さい。以上。………あ、それから、もし、美香が身の潔白を訴え
たいのであれば、園長先生には許可をとってありますから、自宅
であれ会社であれとにかく私に直接訴えかけなさい。その内容に
酌むところがあれば再考します。……父より』

 美香はこれが父の手紙だと確信する。というのも、父の手紙は
いつもこのようにそっけない文章だったからだ。
 『何なのこれ。まるで事務連絡ね』
 美香は心の中でため息をついた。

 実は、美香、二週間前に寮の倉庫で友だち数人とシスター遊び
(レズ遊び)をしていて舎監の先生に見つかった事があったのだ。

 レズ遊びは家でも学校でも厳禁。
 ただ女の子だけの世界ではこれはよくあること。クラスの半数
以上の子が、すでに相手を見つけて経験済みの遊びだったから、
そんなことぐらいで『身が穢れてる』なんて大仰に言って欲しく
ないと思ったが、かといって大人たちが聞き耳の前をたてるなか、
父にその話で弁明する勇気も湧いてこなかったのである。

 「お電話はよろしいかしら?あなたの方で言いたいことがあれ
ばご連絡なさい。私たちは、その間、席を外しますよ」
 園長先生のせっかくの提案にも……

 「いえ、結構です」
 美香は電話を遠慮する。

 そもそもレズ遊びをしていたこと自体は事実なので覆らない。
あとは父に許しを請う言葉しか残っていないわけだが、こちらは、
そんな泣き言、他人には聞かれたくないというプライドが邪魔を
したのである。

 こうやって話が分かってきて、あらためてあたりを見回せば、
今ここに座っている女性たちがその見沼教育ビレッジの人たちだ
とわかる。
 『どうりで、みんな取り澄ました偽善者の顔をしてるわ』
 美香は心の中で思うのだった。


 彼女らは女生徒たちの間では『見沼の人買い』と呼ばれていた。

 彼らはひとたび親や学校から要請があれば、直ちに駆けつけて
子どもたちを拉致同様の手段で人里離れた自分たちのリフォーム
スクールへと連行する。

 そこで、素行の悪い娘は真人間になるための訓練を受けるわけ
だが、もともと口で言って諭して効果の上がる相手ではなし……
当然のことながら、そこでは各種お仕置き、体罰が横行していた。

 とりわけ、女の子だけの合宿所は男の目がないことをいい事に
ハレンチの限りをつくすと、美香も経験してきた友だちから一度
聞いたことがあったのである。


(美香の回想)

 でも、行かないわけにはいきませんでした。

 だって、我が家では父の命令は絶対でしたし、何より義務教育
も終わっていない私が家を飛び出しても生活ができませんから。
 今の娘さんのように、行くあてもないのにとりあえず家を飛び
出すなんて勇気は私にはありませんでした。


 案の定、私は三人の大人たちによって学校から連れ去られます。

 待たせてあったのは大きなベンツでしたが、一人は運転、私は
後部座席で大人二人に挟まれるようにして乗っていなければなり
ませんでした。

 こういうのって、拉致っていうんでしょうか?
 なるほど、人買いにさらわれていく娘の気分でした。

 「あのう、向こうでは、私、どんなことをするんでしょうか?」
 心細くなった私は、園長室でのやりとりから、どうやら三人の
中にあっては彼女がボスなのだろうとあたりをつけた人物に尋ね
てみます。

 すると、返ってきたのは意外に明るい声でした。
 「生活の大半はお勉強よ」

 「でも……私……そんなに成績は悪くありませんけど……」
 心苦しそうに言うと……

 「知ってるわ。園長先生にそのあたりは詳しくお伺いしたから。
でも、安心して。中二のあなたがどんなに優秀でもうちもそれで
おたおたするような教師陣じゃないの。ちゃんとかみ合うはずよ。
それにあなた、机での作業は得意でも、お外は苦手なんでしょう」

 「お外?」

 「そう、園長先生がおっしゃってたわ。美香さんはお転婆さん
の割に体育は苦手だって。うちは体育だってちゃんカリキュラム
にあるから弱点克服にはいい機会だわ。それに、うちはたんなる
学習塾ではないの。先学期の悪い生活習慣をあらため、忍耐力や
克己心を養って目上の人を敬う心を育てるのが目標なのよ」

 ケイト先生は、小柄で童顔、明るい声でした。ソバカスを残す
白い肌やツインテールの髪型のせいもあって、一見するとまるで
生徒のようにも見えます。
 ですから、心安く思えたのかしれません。私が気になることを
思い切って尋ねてみますと……。

 「お仕置きってあるんですか?」

 その瞬間、先生の顔が真顔になって……
 「ないと言ったら嘘になるわね。あなたは頭がよさそうだし…
…そのあたりはすでに情報収集ができてるんじゃなくて……」

 「えっ……」

 「これから行くところへは先学期の反省の為と来学期の準備の
為に行くの。当然、あなたの先学期がすばらしいものならこの車
にあなたは乗っていないわ。それくらいわかってるわよね」

 「あっ……はい」

 「だから、期間中は先学期の反省をこめて、朝昼晩それぞれに
6回のパドルを受けてもらうことになるわ。1日合計18回」

 「18回も……」

 私が驚くと……
 「あらあら、あなた小学生じゃないんですもの。そのくらいは
耐えられるし、授業にも支障がでないはずよ。チビちゃんの場合
は3回ってのもあるけど、あなたぐらいの歳の子なら、多い子は
12回、1日なら36回ってのもあるのよ。もちろん、それって
先学期のおいたがどれくらいかで多い少ないはあるけど、年齢や
体格それにこれまでの鞭の経験なんかで、その子が反省するのに
ちょうどいい回数と鞭の種類を決めてるの」

 私はもうそれだけでもショックでしたが話はまだまだ続きます。
 
 「もちろん、授業態度が悪かったり規律違反を犯せばその時は
また別に鞭が飛ぶことになるわよ。でも、これはあなたの心がけ
次第でどうにでも防げるものだから、そこは努力してね……あっ、
そうだ、それと……うちでは、朝、起きた時に必ず浣腸をかける
習慣があるの。身体の中にある不浄な物を綺麗に洗い流してから
一日を始めるためよ」

 お浣腸の件は、経験者の友だちから聞いたことがありましたが、
こうしてあらためて言われるとやはりショックでした。

 「普通30分くらい我慢してもらうけど……もし粗相すると、
その日はずっとオムツ穿きだから気をつけてね」

 「さっ……さんじゅっぷん」
 私は独り言のように囁きます。
 この『30分』には『嘘でしょう』という驚きの言葉も入って
いました。

 目を丸くする私に……
 「最初のうちは大変だけど、大丈夫よ。そのうち慣れるから。
これも、鞭と同じようにその子の体格や年齢で量や濃度を変えて
あるから、べつにあなただけ意地悪して多めになんてことはない
から安心して……あと、まだ色々あるんだけど、それは向こうへ
着いてからのお楽しみということにしましょう」

 ケイト先生は優しく笑いますが、私にはそんな優しい笑顔さえ
不気味に感じられて仕方かありませんでした。


 そうやって車で二時間あまり、着いたのは群馬県の山の中。
 こんな人里離れた場所では、どんな大声をだしても誰の耳にも
届きそうにありませんが、さらにご丁寧なことに、この村はその
敷地全体が5mもある高い二重のフェンスで囲われていました。

 しかも、このフェンスの中をドーベルマンを連れたおじさんが
24時間体制で警備していますから……
 『これじゃあ、逃げ出すなんて絶対無理ね』
 私は高いフェンスを見上げただけでため息です。

 まさに、ここは刑務所か、どこかの国の収容所みたいでした。

 ただ、このフェンスの場所からは見えるのは、うっそうと生い
茂る木々や山々ばかり。肝心の村の建物が何一つ見えませんから、
それを探していると……

 「さあ、いらっしゃい。ビレッジはここから少し歩いた場所に
あるの。ついてらっしゃい」

 ケイト先生に言われた時は、建物はこれらの木々の向こう側に
あるんだぐらいに思っていましたが……


 「先生、まだですか?」
 「だらしないわね。もう少しよ。……なるほど、あなた、体育
は苦手みたいね。……ま、その方が脱走の心配がなくていいかも
しれないけど……」

 フェンスの入口から大人達に連れられて険しい山道を歩くこと
30分。
 やっと、村の建物が見えてきます。

 「ふうっ……何で、こんなに遠いの。車で来ればいいのに」
 山道を歩かされ思わず出た愚痴にケイト先生が反応しました。

 「ここの広さをあらかじめ実感してもらうためよ」

 「広さ?」

 「そう、ここはね、お転婆さんが多いでしょう。だから、ほら
こんなに広い場所だから逃げるのは大変よって教えてあげてるの。
ちなみに、脱走を試みただけで訓練期間が一週間伸びるから気を
つけてね」

 ケイト先生からは相変わらず屈託のない明るい声が返って来ま
したが、私はため息しか出ませんでした。


***********(1)************

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §2~§3

****** 見沼教育ビレッジ(2) ******

 見沼教育ビレッジは、ビレッジという名の通りまるで一つの村
のようでした。

 ひときわ背の高い管理棟を中心にして、教会があり公園があり
体育館があります。テニスコートも図書館も映画館だってあるん
です。手紙だってちゃんと届きます。そして、何より意外だった
のは寄宿舎というか寮というか、子どもたちが集団で寝泊りする
建物がないことでした。

 生徒には一人一軒の一戸建て住宅が割り当てられ、子供たちは
そこで暮らすことになります。その住宅群だけで村の七割程度を
占めていました。まさに、ビレッジというわけです。

 私が寝泊りする家も、当然こうした住宅群の中にありました。

 『まるで建売住宅みたいね』

 整然と同じような建物が並ぶさまは、場末の不動産開発会社が
切り開いた新興住宅地みたいです。

 「ほら、ここがあなたの家もちゃんとあるわよ。似たような家
が多いから気をつけてね。……ほら、間違わないようにちゃんと
名前が書いてあるわ」
 ケイト先生に案内された家のポストにはすでに私の名前があり
ました。


 「さあ入って、入って。ここは今日からあなたの家ですもの。
遠慮はいらないのよ」
 ケイト先生が玄関で手招きします。

 玄関を入ってまず案内されたのは私の部屋でした。

 「ここがあなたの部屋。天蓋付きのベッドなんて素敵でしょう。
……あ、荷物はそこに置いていいわ。後はこの子が自分で片付け
るでしょうから、あなたたちは帰っていいわよ」

 ケイト先生は部屋に着くなり付き添って来た二人に私の荷物を
置かせて返します。ここからはケイト先生と私のマンツーマンで
した。

 実は荷物といっても寮生の身ですから所帯道具のようなものは
ありません。二人が持ってきてくれたのもトランクが二つだけ。
学校の寮から持って来たのは、私服が二三着と下着、それに……
お気に入りの小説や教科書、参考書のたぐいと、洗面道具くらい
でした。

 「私、ここで先生と勉強するんですか?」
 私は部屋をひとあたり見回して尋ねます。そこには天蓋つきの
ベッドの他にも天板の広い机や天井まで届くような大型の本棚、
一人用のソファや大型のベンチチェストなどが置いてありました。

 「ここでの私は、あなたの子守りがお仕事なの。言ってみれば
お母さん役よ。だから、あなたがどんなにわずらわしいと思って
も、私は一日中あなたのそばにいて色んなアドバイスを送り続け
ることになるわ。ただし、勉強の方は専門の先生がいらっしゃる
から、昼間、その方がこちらへ出向いて、ここで教えてくださる
ことになってるの」

 「家庭教師?」

 「まあ、形の上ではそういうことになるかもね。でも、ここの
先生方は世間の家庭教師のように甘くないわよ。ちょっとでも、
集中心を切らすと、即、お仕置き」

 「…オ…シ…オ…キ」

 「耳を思いっきり引っ張られて、このベンチチェスに寝かされ
て、『目を覚ませ~~』ってお尻を叩かれることになるわ。……
もっとも、叩くのはその先生じゃなくて私なんだけどね」

 「ここにうつ伏せになるんですか?」
 
 「軽い時はね」

 「軽い時?」

 「問題のある時は、うつ伏せじゃなくて、そこに仰向けに寝て、
両足を高く上げて鞭をいただくの」

 私はそんな自分の姿を想像して赤面します。
 「まさか、……パンツなんか……脱ぎませんよね」
 ホントにまさかだったんですが……

 「あるわよ。そんなことも……痛くて悲鳴があがるわよ」
 先生は悪戯っぽく笑いますが、こちらはその言葉を聞いた瞬間、
心がすでに瞬間凍結状態になっていました。

 『それって、痛いというより、恥ずかしい』
 と思ったのでした。

 そう思って再びこの部屋を眺めなおすと、ベッドの天蓋からは
人を拘束するための革紐がぶら下がっていますし、天井には頑丈
そうな滑車が据えつけられています。壁に掛かっている牛追い鞭
はもちろん実際には使われないでしょうが、傘立てのような籠に
立てかけられた樺枝の鞭や書棚の引き出しから覗くケインは現役
のようです。

 『いったい、ここはどういう部屋なの……』
 そうこうするうち、私は衝撃的なものを見つけてしまいます。
それは大きなチェストの裏側に隠すようにして置いてありました。

 「……あらあら、気づいちゃった」
 緊張した私の視線をケイト先生は追っていたのでしょう。
 何も言わないのに私の心を読み解きます。

 チェストの裏には卑猥な雑誌によく登場する三角木馬が……

 『まさか、これ……三角木馬じゃないわよね。……うっ……嘘
でしょう。いくらお仕置きでも、これじゃまるでSMなじゃない』

 目を丸くしていると……
 「あらあら、最近の子はおませさんね。あなたみたいな子でも、
これが何かわかるみたいね」

 不安で一杯になった私の心を逆撫でるかのようにケイト先生は
わざわざその組み立て式の木馬を部屋の中央へ引っ張り出すと、
あっという間に組み上げてしまいます。

 「牛追い鞭の方はお飾りだけど、こちらは絶対に使わないとは
お約束できないの。……あら、あなた、随分な驚きようだけと、
これに乗ったことがあるのかしら?」
 先生は木馬をポンポンと叩いて警告します。

 「…………」
 私は慌てて顔を横に振りました。

 「当たり前だけど……これって、とっても痛いわよ」

 私は三角木馬を正視できないて、そこから思わず目を背けたの
ですが、その背けたはずの視線の先にはベッドパンがあります。

 「あら、今度はオマルにご執心なの?……やはり頭のいい子は
色々と好奇心旺盛ね」
 ケイト先生はまごつく私をからかいます。

 「それはあなた専用のトイレ。もちろん、あなただって普段は
家のトイレを使うことができるんだけど……勉強をさぼったり、
悪さばっかりやってると、この部屋に監禁されちゃうことだって
あるから、そういう時には重宝するわよ。……あっ、そうそう、
特に、メンスの時は注意しないと……私たちは慣れてるからいい
けど、あなたは大恥をかくことになるわよ」

 その日、天気は晴天。私に与えられた部屋は日当たりがよくて、
その陽だまりの中に私もいたはずでしたが、幼い私はケイト先生
の思うがまま、何か説明を受けるたびに小さな胸が震えて仕方が
ありませんでした。


 勉強部屋を見終わった私たちは他の場所へも行ってみます。

 「ここがお風呂。二人で入っても狭くない広さでしょう」

 「二人?」

 「そう、私とあなたが一緒に入るの。ここではね、私とあなた
は四六時中いつも一緒なの。食事も、勉強も、お風呂だって一緒
に入るのよ」

 『こんな場所まで二人一緒だなんて……ここではプライバシー
なんてないのかしら?』

 私は心の中だけでつぶやいたはずでしたが……先生は、まるで
私の心の声が聞こえたかのように話し始めます。

 「残念だけど、ここではプライバシーなんてものはないのよ。
ここでの四週間、あなたは身も心も自分のすべてをさらけ出して
生きていかなければならなくなるわ。赤ん坊みたいに……」

 「赤ん坊みたいに……?」

 「泣くのは勝手だけど、それでは何の問題も解決しない。従順
こそが最大の美徳だと、教えるためにそうしてるの。勿論それが
女の子にとってどれほど辛いことかは知ってるけど、ここへ来た
ら辛抱するしかないわね」

 「…………」

 「そんな悲しい顔しないで…………だって、そうしなければ、
あなたは更生されないもの。……あなたが立派に更生することは
ご両親の願いであり、私たちの願いなの。それを忘れないでね」

 「はい、先生」
 私は諦めにも似た境地でそう言ったつもりでしたが……

 「いいご返事だわ」
 ケイト先生は初めて私を褒めてくださいました。

 「ただ、私や先生方、もちろんご両親もそうだけど、あなたを
守る立場にある人に対しては、自分を隠すことが許されていない
けど、それ以外の人に対しての秘密は守られるわ。ここはハイソ
なお嬢様がよく利用するから、この建物だってプライバシー重視
の造りになってるの。どの家も全室冷暖房完備、防音装置付き。
お尻の痛さに大声で悲鳴をあげても、外では聞こえないわ」
 ケイト先生の顔に再び柔和な笑みが戻ります。

 「あなただって、自分がお仕置きされてる姿を他人に覗かれた
くないでしょう?」

 「ええ、まあ」

 「それにね……こうして隔離してしまうと、子どもたちに思い
切ったお仕置きができるから、私たちにとっても都合がいいのよ。
何事も、中途半端はよくないわ」

 『なるほど、まずはお仕置きありきってことみたいね』
 私は思いました。

 「じゃあ、この家の中の悲鳴は外に漏れないんですか?」

 「家の中でやる分にはそうよ。窓を閉めれば、ほとんど悲鳴は
聞こえないわ……だって、どんな時も他人の迷惑をかけちゃいけ
ないでしょう」

 ケイト先生は悪戯っぽく笑ったあと、こうも続けるのです。
 「ただし、中には見せしめとしてお仕置きする場合もあるから、
そんな時は、もちろん別よ」

 『見せしめ!』
 私の心にその言葉は強く残ります。

 「あら?また、驚かせちゃった?……あなたは、感受性が強い
から何にでも反応するのね。……あなたは賢い子だから、私たち
を悩ますこともないでしょうけど、中には我の強い子やおいたが
過ぎる子もいて、そういう場合は、こちらも綺麗事ばかり言って
られないから、非情なこともしなければならなくなるの」

 「それって、どこで……やるんですか?」

 「朝礼やミサのあとで行われることも多いけど…一番多いのは、
やはり自宅の庭よ。ピロリーって知ってる?」

 「えっ……まあ……」
 私は歯切れの悪い返事をします。
 知ってるのに知らないと言えば叱られそうですし、知ってます
なんて大きな声では言いにくいものでした。

 「首と両手を二枚の板で挟んで晒し者にするの。うちのは膝ま
づくタイプだから小さいの。……そうね、百聞は一見にしかず、
ここで説明するより見に行った方が早いわね」

 「…えっ!?………」
 私は何も反応しなかったつもりでしたが、ケイト先生は私の手
を引いて庭へと連れ出します。

 そこは高い生垣に囲まれた10坪ほどの空間でしたが、手入れ
の行き届いた草花が咲き乱れ、ベンチや小さな噴水まであります。
 一見すると住宅街のどこの家庭にでもありそうな庭なのですが、
その庭の片隅に、ケイト先生が説明していた木製の晒し台(ピロ
リー)がありました。

 「あなた、やってみる?」
 「えっ!」
 先生に誘われて私は一瞬驚きましたが、あえて抵抗はしません
でした。どうせ形だけと思っていましたから……

 「まず、この桶の中で膝まづくの」

 まずは古いバスタオルが数枚敷き詰められた大きな桶に入って
膝まづくと……次は、目の前にある半円形にくり貫かれた厚い板
にそれぞれ首と左手右手を乗せます。

 後はその上から同じように三つの半円形のくり貫きがある板が
下りてきてドッキング、首や両手首は板から抜けなくなります。
 それにしても、高さといい、穴の大きさといい、私にぴったり
でした。

 「まるであつらえたみたいですね?」
 何気にこう言うと、先生は涼しい顔で……
 「あつらえたのよ。昨日、あなたの体形を園長先生からお聞き
して、大急ぎであつらえたの。だから、これはあなた専用。……
でも、もしこのキャンプで太ったら調整してあげるわね」

 ケイト先生はいたずらっ子のような笑顔で舌を出します。
 きっと私を和ませようとしてそうしたのでしょうが、私はそれ
を見てまたまた背筋がぞくぞくっとしました。

 最初は、おふざけのつもりでしたが、実際にこうして体を拘束
されてしまうと、やっぱり恐怖です。

 今は服も着ていますし、お尻をケインでぶたれる心配もありま
せんが……これが裸にされ、こんな形にされてお尻をぶたれたら
……そんなこと、想像しただけでお漏らししそうでした。

 「どうしたの?……あなた、震えてるわよ。寒いの?……」
 ケイト先生は意地悪そうな目つきで尋ねます。

 「…………」
 私は窮屈な首を振ることしかできませんでした。

 「あなたはそこまで先生を怒らせないと思うけど…一応言って
おくとね、最悪のケースは、お部屋で浣腸されて……裸でここに
連れて来られて……ここで拘束されたまま、この桶の中でお漏ら
し……なんて事もあるの……この桶はその為のものなのよ。……
つまりはオマルね」
 先生は、まるで幼い子に言って聞かすように、……お部屋……
ピロリー…桶…と、その一つ一つを指差しながら私に説明します。

 「想像してごらんなさいな。自分がそうやって剝き出しのお尻
を叩かれてるところを……」

 「…………」
 たしかに、こうして拘束されていると服は着ていてもその恐怖
が実感できます。

 「ここでぶたれるのはベッドルームでぶたれるのとは違うの。
……たいていの子がたまらず悲鳴をあげるわ。……恐いからよ。
だから、そんな時は、お隣を覗かなくても、鞭音と悲鳴で何やっ
てのるかすぐにわかるってわけ」


 ケイト先生がまさにそんな話をしていた時です。
 まるでその時を計ったかのように女の子が一人、私たちの庭へ
転がり込んできました。

 実は、この庭の大部分が高い生垣によって目隠しされています
が、ただ一箇所、火事など不測の事態が起こった時の為に、自由
にお隣と行き来できる木戸が設けられていました。

 彼女はそこから入ってきたのです。

 とにかく凄い格好でした。
 上半身は裸。下半身だって身につけているのはオムツだけです。
おまけに私と同じように首と両手首を厚い板に挟まれていて……
それをすっぽり被っています。

 初対面の人の前に出るのにあられもない格好と言ってこれほど
ハレンチな姿で現れる人は見たことがありませんでした。

 「!!げっ!!」
 「!!えっ!!」
 驚きはお互い様のようです。

 彼女は私たちの存在に気づくと、まず目が点に……
 そして、数秒後、顔を真っ赤にしてしゃがみ込みます。
 その身体のつくりからして、どうやら私と同年代のようでした。

 「見ないで!!見ないで!!みんな見ないでよお!!」
 彼女はしゃがみ込んだまま叫び続けます。
 普通は両手で胸だけでも隠すんでしょうが、あまりにも大きな
帽子のせいでそれもできませんでした。

 「みんなあっち行ってよ」
 怒っているような泣いてるような声が響きました。
 でも、そのやむにやまれぬ声が、彼女にとっては最も恐い人を
呼び寄せることになるのでした。

 「あ~いたいた」
 女の子を追って再び木戸が開きます。
 入って来たのはケイト先生と同じ大人の女性。ケイト先生より
少し年配の……私の母くらいの年恰好でした。

 「やあ、ケイト、そちらは新人さん?」
 彼女はケイト先生に比べれば大柄で小太り、貫禄があります。

 どうやら、この人はケイト先生のお仲間。今入って来た少女の
指導教官のようでした。

 「そう、今日からここで暮らす短期受講生。初日だから最初に
色々説明しておこうと思って……」

 「ふ~ん、なかなか品のいいお譲ちゃんだ。こんな子が、何か
するとしたら『S』かな」
 その人は拘束された私の姿を頭の天辺から足先まで眺めてから
評価します。
 そして、こんなことを言うのでした。

 「で、親は来るのかい?」

 「ええ、ご両親とも今日の夕方までには……たしか、妹さんも
一緒に……」

 『えっ親って何よ!?香織(妹)まで一緒ってどういうことよ』
 今度、驚いたのは私の方です。

 「百合子先生、何かお手伝いしましょうか?」
ケイト先生は百合子先生に申し出ますが……

 「大丈夫よ。一人でできるから……」
 ケイト先生の申し出をあっさり断ると……

 「ほら、だだこねてたって何も良いことなんておきないよ。…
…あんたもいい加減ここに長いんだし、ちっとは悟らないとね」

 百合子先生はそう言って少女の枷を外すと……
 「さあ、向こうでオムツを替えないと………おや?何すねてる
んだい。……えっ?恥ずかしい?……何、言ってるの!!いつも
すっぽんぽんのくせして……だから言ってるだろう、恥ずかしい
のもお仕置きのうちだって……だいいちこれが最初じゃないんだ
もの。十回もあんたの恥ずかしい処を見せられたらご両親だって
すでに見飽きてるよ。いいかい、ここに入ったら、辛抱して我慢
して卒業するしかないの。一般の学校みたいに中途退学ってのは
ないんだからからね」
 こう言って諭します。

 百合子先生の言葉はケイト先生に比べたら乱暴です。
 でも、少女は泣きながら頷いていました。
 どうやら、これ以上抵抗するつもりもないみたいです。

 「さあ、約束どおり今夜はお灸20個。ご両親もお手伝いして
くださるから、しっかり頑張るんだよ」
 最後まできつい言葉。でも、少女は百合子先生に促されるまま
立ち上がります。

 百合子先生は、そのままオムツ姿の少女に肩を貸すようにして
このお庭を出て行きます。

 少女の一時の激情はすっかり収まったみたいに見えましたが、
私の方は逆でした。
 少女の受けた受難がやがて現実のものになりかねないと思うと、
今度は私の方が、我を忘れて逃げ出したい気分だったのです。

 そんな胸騒ぎを見透かしたかのようケイト先生は穏やかに尋ね
ます。
 「あらあら、あなた目、またが点になってるわよ。大丈夫?」

 「……えっ、」
 私はその言葉で我に返ります。

 「気にしなくていいわ。あの子、もとは札付きの悪だったから。
でもね、あんな子に限って、一皮捲れば気持が弱いのよ。だから、
今は、虚勢じゃなくて本当の強さを教えてる最中なの」

 ケイト先生はそう言いながら私の枷を外してくださいます。
 でも、それはそよ風が一瞬頬を掠めた程度の、ささやかな勇気
しか私に与えませんでした。

 「あのう、私の両親がここに来るって本当でしょうか?」
 私はさっきの先生たちの会話から生じた疑問を尋ねてみます。
 すると、答えは明快でした。

 「ええ、いらっしゃるわよ。昨日あなたに渡したパンフレット
にもちゃんと書いてあったはずよ。ここでの暮らしは原則として
家族一緒なの。場合によっては、ご両親にもあなたのお仕置きを
お手伝いしていただくかもしれなくてよ」

 「そうなんですか」
 私は気のない返事を返します。

 『厳しいお仕置きを両親の前でなんて、なんて残酷なんだろう』
 『両親に取り押さえられながらケイト先生からお仕置きされる
なんて…………それって、どんな気持だろう』
 色々と頭をめぐらしますが、考えれば考えるほど頭は混乱する
ばかりでした。

 「4週間って、けっこう長丁場なの。お互い肩のこらない関係
でいましょうよ。ね」
 ケイト先生はピロリーから私を解放すると、あらためて握手を
求め、ハグしてくれます。

 『そうかあ4週間かあ。その間、私、ずっと缶詰にされちゃう
んだ!あ~あ、大切な夏休みが終わっちゃうじゃないの!』
 私はケイト先生に抱かれながら、身の不運を嘆きます。

 でも、今の私は、次から次に突きつけられる新たな事実の連続
に心の休まる暇がありませんでした。


*************(2)**********

*******  見沼教育ビレッジ (3) ******

 お昼になった。
 美香とケイト先生はいったん家を離れて管理棟にある食堂へと
向かう。
 予約を入れればデリバリーサービスもしてくれるのだが、先生
は美香に村の様子を見せようとして外へ誘ったのだった。

 家並みが途絶えたあたりからマロニエの並木がまっすぐに続き
敷き詰められた石畳には塵一つ落ちていない。木立を吹き渡る風
のざわめきとテニスコートで打ち合うボールの音だけが二人の耳
に届いていた。

 「何だかとっても静かな処なんですね。普段行く軽井沢の別荘
よりこっちの方がよぽど静かだわ」
 美香は大きく伸びをする。

 「ここは、巷の喧騒の中でいつもお転婆している子どもたちの
溜まりたまり場だから、あえて静かな環境にしてあるの。人間、
騒がしい処で暮らすと、心まで刺々しくなって、間違いも起こし
やすくなるから。………もちろん、彼らにが静かにしているのが
苦手なことは知っているわ。……でも、……いえ、だからこそ、
こうした場所でも暮らせるように訓練しているの。……ところで、
あなたは、どう?……こんな環境はお嫌い?」

 「いいえ私はむしろ静かな環境の方がいいです。運動している
より本を読んでる方がすきですから……」

 「そう、それはよかった。あなたの場合はあまり大きな問題を
抱えていないみたいだから、きっとそう答えると思ったわ。……
ところで、あなたはSだったわね」

 「S?」

 「シスター遊びのことよ。時代によって呼び方は色々だけど、
思春期の女の子が一度は通る通過儀礼みたいなものだわ。だから、
ほおっておけばいいんだけど……大人たちは昔の自分を忘れて、
何だかんだと問題視するのよ。特に生理を異にする父親にそれを
理解させるのは至難の業。そこは諦めた方がいいかもしれないわ
ね」

 「そうなんですか……」
 美香は気のない返事を返した。

 「ただね、腐っちゃだめよ。それはそれとしてお付き合いして
あげなくちゃ」

 「おつきあい?」

 「そう、女の子の人間関係は突き詰めればみんなお付き合い。
お仕置きだってごく幼い時は別として、大きくなればお付き合い
で罰を受けてるみたいなものだもの……」

 「えっ?」

 「あら、あなたは、違うのかしら?」

 「それは……」

 「あなたの歳ではまだ難しかったわね。ごめんなさいこんな話、
忘れて………いずれにしても、お父様はあなたが可愛くて仕方が
ないの。だから、こんな些細なことにまで目くじらをたてちゃう
の。そこは理解してあげてね。ちょっとしたことでも放っておけ
ないのよ。だから今度の事でも、お父様を恨んじゃいけないわ。
これはお父様とのお付き合いだと思って受け流すのが、あなたに
とっても一番よ」

 「お仕置きなのに……」
 美香は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

 『これまで、父の教えは常に正しくて、お仕置きはその当然の
結論だったはずなのに……それをお付き合いだなんて……』

 美香は、この人は何て歪んだ考えなんだろうと思った。
 思ったけれど……振り返れば、自分だってそう思ってこの試練
を乗り切ろうとしていたのである。

 そんな困惑した美香に気づいた先生は……
 「ごめんなさい、まだ気にしてる?……忘れて……余計なこと
言っちゃったわね」
 先生は慌てて自分の言葉を取り消す。

 そして、無理やり美香の視線をそちらへ向けさすように……
 「ほら、見て見て……あの子、おかしいでしょう……(プッ)」
 ケイト先生は、大人たちに混じってテニスをしている若い娘を
指差すと、なぜかプッとふいた。

 「どうしたんですか?急にふいたりして……」
 怪訝な顔の美香にケイト先生は……
 「なんでもないわ。……ただ、あの子、またオムツ穿かされて
るのかって思ったのよ」

 「オムツ?」
 「そう、よ~く、見て御覧なさい。あの子のアンダースコート。
ね、違うでしょう」

 「あっ、ホントだ。今日の朝、失敗しちゃったんでしょうか?」

 「たぶんね、……あの子、チャコって言うんだけど、昔から、
からっきし堪え性がないのよ。お浣腸すればどこはばからずすぐ
にお漏らすしするし、鞭で叩たこうとすると、鞭が当たる前から
ぴーぴー泣くしね。この間も、お灸をすえようとしたら、まるで
この世の終わりみたいな声だったわ」

 「お灸って……そんなこともお仕置きにあるんですか?」

 「親御さんの許可があればやるわよ」

 「……私は……」

 「あなたはまだじゃない。私が指示されてないから……お灸は
それをやる専門の鍼灸師さんがいらして、私たちは助手で駆りだ
されるの。お灸の場合、暴れる子も多いから人手がいるのよ」

 美香は、ケイト先生の話を聞きながらほっと胸をなでおろして
いた。数は少ないとはいえ彼女自身も経験者だったのだ。

 人心地ついた彼女は、ポツンとつぶやく。
 「……私もやってみたいな」

 「ん?……」

 美香の独り言に気づいた先生が、わざと……
 「えっ!?オムツを?……お灸を?」
 なんて言うから、美香の顔が真っ赤になった。

 「いえ、そうじゃなくて、テニスをです」

 「何だ、そうなの……」
 先生は美香の顔を真っ赤にさせてご満悦だったのである。

 「どうぞ、どうぞ、いいわよ。お昼休みや夕食の前は自由時間
だもの。何してても構わないわ。テニスやろうと映画を見ようと、
あなたの自由よ。クラブハウスに行けば誰か相手してくれるはず
よ。やってみる?」

 「いえ……でも、今、私、お金ないから……」
 美香が恥ずかしそうに言うと……

 「何言ってるの。ここで生活するのにお金なんていらないわ。
食事もスポーツも学用品も、とにかくここで入り用のものは全部、
研修費としてあなたのお父様から事前事後にいただくからそれで
賄われてるの。ただし、タバコは手に入らないわよ。ここでは、
ただ、勉強して……スポーツして……おとなしく寝るだけの生活。
散々お転婆してきた子にとっては退屈で辛い日々でしょうけど、
やがて、みんなこの静かな暮らしにも順応していくわ。あとは、
言葉遣いや礼儀作法を教えて、卒業」

 「……それが四週間なんですね」

 「あなたの場合はね。……でも、長い子は、半年、一年、二年、
ってここにいる子もいるわ。………中学までは義務教育だから、
近くの学校へここから通わせてるの。よほど、ここがお気に入り
みたいよ」
 先生は含み笑いを浮かべたあと、こう続ける。
 「あなたの場合、学業は優秀だし、罪と言ってもシスター遊び
くらいだから、ここの生活に順応するのは早いんじゃないかしら。
ただ、夜は貞操帯をはめてもらうことになるから、ちょっと窮屈
かも……それと、ここの規則で寝る時はパジャマも下着も許され
ないの。私と一緒にすっぽんぽんでベッドに入ることになるわ」

 「えっ!そこで、私、何されるんですか?」
 不安になって美香が尋ねると……

 「何されるって……ご挨拶ね」
 ケイト先生、顔をしかめてちょっとくさったような顔に…でも、
すぐに気を取り直して……
 「何もしないわよ。ただ私とあなたが一緒にベットで寝るだけ。
あなたがベッドで何か変なことをしやしないか、大人たちが心配
してるから、私がお目付け役になって一緒にいるだけの事だわ。
だって、あなた一度信頼を裏切ってるでしょう。だから、新たに
純潔の証しを立てるためにそうしてもらうの。それさえ慣れたら、
後は楽よ。ここではバカンス気分で過ごせるわ」

 「そうなんですか」
 美香が気のない返事を返す。
 バカンス気分はオーバー。何より両親がここへ来るというのが
今の美香には気になっていた。


 マロニエの並木道の両側には、テニス場の他にもボウリング場、
ゲームセンター、映画館やカフェ、お花屋さんやヘアサロンなど
まるでどこかの街が移転してきたように並んでいる。

 「ここには図書館や体育館みたいなものだけじゃなく、色んな
施設があるんですね」

 美香が驚いて尋ねると、ケイト先生の答えは明快だった。
 「だって、お勉強ばかりしていたら飽きるでしょう。誰だって
息抜きは必要だわ。健全な娯楽は次の仕事の活力源よ。真面目に
取り組んだ子にはこうした処へ来て遊べるように自由時間が増え
る仕組みになってるの。逆に、だらけてやってると勉強部屋での
監禁時間が増えて、お仕置き時間も増えるってわけ……」

 「信賞必罰ってことですか?」

 「それほどオーバーな話じゃないけど、やはり人参は必要って
話よ。……それに、ここは父兄同伴が原則でしょう。付き添って
くださる親御さんたちのためにもこんな施設が必要なのよ」


 並木道を過ぎると、二人は高いフェンスで囲われた公園を右に
見ながら進む。
 やがて、目の前が開け、高い処に大時計のある管理棟が現れる。
生徒たちの為の食堂はこの中にあった。

 時分時とあって中は混雑していたが、カフェテリア方式の食堂
は整然と秩序が保たれている。

 「ここで生徒手帳をおばさんに渡してね」
 美香が先生に言われるまま先ほどもらったばかりの生徒手帳を
カウンター越しのおばさんに差し出すと、受け取ったおばさんは
手早くその手帳を機械にかざし、お盆のバーコードも機械に読み
取らせてから、お盆と生徒手帳を美香へ。

 生徒とおばちゃんが一体になった流れ作業。まるで儀式のよう
にスムーズだ。

 「あとはそのお盆に好きなものを乗せてくればいいわ。ただし、
各コーナーに係りの人が立ってるから、必ずその人がそのお盆と
料理の器についてるバーコードを読み取ってから持ってくるのよ。
もし、それをしないで持ってくると、罰を受けることになるから
気をつけてね」

 「あ、……はい」
 美香は、なぜそんな手間の掛かることをするのか分からぬまま
生返事をして料理を取りに行く。

 大広間はまるでホテルのバイキングレストランのようだった。
壁沿いに色んな料理が目移りするほどたくさん並んでいたのが、
美香はこれが初めてということもあってあまり食欲がわかなった。

 スープと生野菜、それに小さなクロワッサンを二つだけ取ると
ケイト先生を探し始める。

 混雑する大食堂は、気がつけば生徒と先生のカップルばかり。
どのペアもまるで親子のような親しさだ。

 そんな熱気にも圧倒されて美香は心細かったが、そのうち先生
の方がまごつく美香に気づいたのだろう。
 「美香、こっちよ」
 という声がかかった。

 声の方を向くと、先生はすでに自分の分の料理をお盆にとって
着席している。いや、そればかりではない。その隣りでは、なぜ
かやけに親しげな女の子が一人、ケイト先生にじゃれついていた
のである。

 近づくと、さっそくその子が……
 「新米さん。ここでは好きなものを好きなだけ取って食べれば
いいの。たとえお相撲さんみたいに沢山食べてもお金はいらない
から心配しないでね」

 ませた口をきくこの子は、でも、見るからにまだ小学生という
姿だった。
 顔が幼く見えるということもあるが、短いフリルのスカートや
襟足を刈り上げたオカッパ頭が美香にそう思わせたのである。

 「あら、あなた、それだけでいいの」
 ケイト先生が美香の持ってきた食事を見て心配するが……

 「あっ、わかった。あなた、何か悪いことしたんでしょう」
 その子が疑いの目で美香の瞳を覗き込む。
 「だから、心配して食べないんだ」

 「悪いこと?」
 美香にはこの女の子の言う意味が分からない。

 「またまた、とぼけちゃって……お浣腸されるかもしれないと
思って控えてるんでしょう?」

 「キャシー!」
 ケイト先生は突然女の子を一喝する。

 「ごはんの時間よ。場所柄をわきまえなさい。……いいこと、
この子は今日ここへ来たばかりなの。そんなことは知らないわ。
だいたい、あなたに他人の事が言えるのかしら……またこんなに
襟足を刈り上げてもらって………あなたと会うと、いつもワカメ
ちゃんカットじゃないの」

 「ワカメちゃんカット?」
 聞きなれない言葉に美香の口から思わず独り言がでた。
 それをケイト先生が説明してくれる。

 「この子のこんな頭、幼い女の子しかしないでしょう。だから、
ここではこういう頭のことをワカメちゃんカットって言うの」
 先生は抱きついてきたキャシーのうなじを愛おしく逆撫でる。

 「この子、キャシーと言ってね、こんなに甘えん坊さんだけど、
けっこうやんちゃなのよ。……こんな頭で、こんな服着てるから、
あなた、小学生に見えたんじゃない。でも、これでれっきとした
中学二年生」

 『私と同学年?』
 美香はこの時初めてこの子が自分と同学年だと知ったのだった。

 「こんな短いスカート穿かされて、こんなヘアスタイルにされ
て……この事自体、立派なお仕置きなんだけど、この子みたいに
悪さばかり繰り返す子は、このスタイルに自分が慣れちゃって、
恥ずかしいなんて思わなくなっちゃうから困まりものだわ」

 「仕方ないわ。だって、これが私のトレードマークだもの」
 キャシーは明るく言い放った。

 「先生はキャシーさんのことよくご存知なんですね」

 美香はケイト先生に向かって話したのだが、それに答えたのは
キャシーだった。
 「ご存知もなにも、ケイト先生は先週まで私の指導教官だった
んだもん。……ねえ、先生。二人はとっても仲良しなんだから…」

 キャシーは甘ったれた声を出したかと思うと、いきなり先生の
懐に顔を突っ込んできて頭をすりすり。

 「コラ、コラ、やめなさい。まったくもう~いつまでたっても
あなたはそうなんだから……」
 ケイト先生は迷惑そうにキャシーを引き離すが、かといって、
そんなに強く叱るわけでもなかった。

 ヘアスタイルもさることながら、その大胆ないちゃつき方にも
美香はあいた口が塞がらなかったのである。
 たしかに美香は学校で友だちと擬似恋愛を楽しんではいたが、
それはあくまで友だち同士。学院内で教師と生徒がこんなふうに
戯れることがあったかといえば、それは絶対に考えられなかった
のである。

 美香はケイト先生にじゃれつくキャシーを見ていて……
 『何なのこの子。節操はないし、貞操観念はないし、幼稚で、
頭も悪そうで、もとは浮浪児かしら?ひょっとして精薄児かも』
 頭の中で散々に酷評してみるのだが……

 でも、そのうち………
 『でも、この二人楽しそうね。まるで息の合った漫才師みたい』
 やがて、自分のそうした思いが、実は嫉妬だと気づくのである。

 実際キャシーは子供っぽいところはあっても美香が考えている
ほど頭が悪い子ではなかった。
 
 「さあ、いつまでやってるの。食事がさめてしまうわ。………
お祈りして、お食事をいただきましょう。」
 ケイト先生がキャシーを跳ね除けて、居住まいを正して食事が
始まる。

 「今日、ここで暖かい食事がとれることを神様に感謝します」
 ケイト先生が最初にお祈りの言葉を述べ、生徒もあとに続く。
お祈りは宗教宗派に関係なくできるように簡素な言葉だけだが、
子どもたちはこの食前の祈りを欠かしてはならなかった。
 これも躾の一つだったからだ。

 ただ、食事が始まっても、二人はまるで親子のように親しげに
話しを続けている。

 キャシーは午前中の出来事を洗いざらい物語り、ケイト先生は、
キャシーのために自分の料理を取り分けて与えたり、ナプキンで
口元を拭いたりする。まるで、幼い子のためにする甲斐甲斐しく
世話を焼く母親のような献身ぶりだった。

 『何もそこまで……』
 とも思うが、美香にはそれがどこかうらやましくもあった。

 そして、気がつけば、他のテーブルでも事情は似たり寄ったり
だったのである。

 『これって、みんな先生と生徒の関係よね。でも、みんな親子
みたいに見えるわ』
 
 美香が驚くのも無理なかった。
 肩を抱いたり、頭を撫でたり、膝の上に抱いて頬ずりなんての
もあった。ある先生などは自分のスプーンに料理を乗せて生徒の
口元まで運んでやっているのだ。

 『幼児じゃあるまいし……』
 美香は思う。たしかに生徒の歳を考えれば異常というべきかも
しれなかった。
 しかし、これがここのやり方。お仕置きのやり方だった。

 「どうしたの、美香?狐につままれたような顔になってるわよ。
羨ましいのかしら?」
 思わず、ケイト先生から声がかかった。

 「そんなこと」
 美香は否定したが……

 「ここでは、先生がお父様お母様の代わりをしているの。それ
も、まだ若い頃のお父様とお母様の代わりをね」

 「どういうことですか?」

 「お父様お母様が若いってことは、あなたたちは、もっと幼い
わけでしょう。そんな幼い頃の思い出をを疑似体験させてるの。
ひねくれ根性の染み付いた子ってね、そのままでは何を言っても
聞く耳をもたないけど、幼児の昔に戻してあげると、話を聞いて
くれるようになるから、まずは、その時代に戻してあげてるのよ」

 「私も……そんなふうに甘えなきゃいけないんですか?」

 「あなたにはたぶん必要ないと思うけど、でも、もしあなたが
手を焼くようなお転婆さんだったら、年齢はどんどん戻されて、
最後は赤ちゃん扱いよ」

 ケイト先生の言葉を追いかけてキャシーが……
 「そうそう、赤ちゃんって大変なのよ。オムツを穿かされて、
おしゃぶりをくわえさせられて、食事は哺乳瓶のミルクだし……
柵で囲われた特性ベビーベットで一日中過ごすの。そりゃあ一日
二日は、この方が楽でいいかなんてたかをくくってるられるけど、
三日も経つと死にそうに寂しくなるわ」

 「(ふふふふふ)」
 キャシーの言葉を聞いた美香は思わず含み笑いをした。そして、
キャシーにこう尋ねたのである。
 「楽しそうね。何日くらいやらされるの?」

 「楽しい?……馬鹿言わないでよ。あなたオママゴトと勘違い
してるからそう思うのよ。最後は先生に必死に懺悔して『どんな
お仕置きでも受けますから許してください』って言わされるんだ
から……」

 「あなた、やられたことあるのね」
 美香はキャシーのその時の姿を連想して笑ってしまう。

 「まあね、こんなに大きくなってから両親にオムツ替えを見ら
れたらどんな気持がするか。それで効果がないと、この人、今度
はお友だちまで呼んで来るんだから……女の子のプライド、ずた
ずた……二度と立ち上がれないんじゃないかと思ったわ。………
あなたも一度体験してみればいいのよ」

 「(あっ、そうか……なるほどね)」
 美香は、言葉にこそださなかったが、少しだけこのお仕置きの
恐さがわかったような気がした。
 「(確かに、そんなことになったら恥ずかしく街を歩けない)」
 と思ったのだ。

 「で、何日くらいやらされるの?」
 美香は続けてキャシーにたずねてみる。

 確かに大変な罰には違いないが、心の奥底から笑いがこみ上げ
てくるから彼女の頬は膨らんでいる。むしろ、笑いを堪えるのに
必死といった顔になっていたのだ。

 その質問にはケイト先生が答えた。
 「期間とかは別に決まってないわ。とにかく改心するまでよ。
ほかのお仕置きでもそうだけど女の子のお仕置きでは期間や量を
あらかじめ決めないの。どんな微罪でお尻を叩く時でも、反省し
なければお尻が赤くなって血が滲むようになっても終わらないの。
そこらが男の子とは違うところだわ」

 「えっ、ここに男の子っているんですか?」

 「この管理棟のエリアは女の子専用だから男の子いないけど、
男の子は男の子で別の管理棟エリアがあるの。二つのエリアには
高い塀があるから、男の子の顔を見る事は普通はないわね」

 ところが、ケイト先生の答えに、キャシーが反論する。
 「普段はそうよ。でも、今日は特別。……ごくたまにだけどね、
男の子を見る事ができるの。それもヌードでよ」
 キャシーの声が弾んでいた。

 「(ヌード?)」
 すると、キャシーの言葉に美香の胸までも高まるのだ。

 彼女だって思春期の女の子。『男の子のヌード…』と聞けば、
ただそれだけで生理的に胸がときめく、顔が赤くなってしまうの
である。

 「ねえ、ちょうどよかったわ。今日、公園で公開処刑があるの。
一緒に見に行かない?」

 「公開処刑?」

 「そう、みんなが見ている前で行われるお仕置きのことよ。…
…何でも、向こうの男の子とこっちの女の子が炭焼き小屋で逢引
してたんですって……男の子はともかくその女の子、大胆なこと
するもんだと思うわ。私ならできないわね。だって公開処刑なん
かされたらプライドずたずたで、これから先もう生きていけない
と思うもの」

 キャシーの意見に、しかし、ケイト先生は……
 「大丈夫よ。あなたは、こんな短いスカート穿いて、こんな頭
にカットされても、こうして元気じゃない。たとえみんなの前で
裸になされて鞭でぶたれるようなことになっても、神経が図太い
んですもの、ちゃんと生きていけるわ」

 「わあ、ひどいよ先生。それじゃあ、まるで私にデリカシーが
ないみたいじゃないですか」

 「あら、あなたにそんな高尚なものあったかしら、あなたとは
二年もつきあったけど、一度もそんなもの感じたことがないわ。
『ひょっとしてこの子、山から逃げてきたお猿さんじゃないか』
って思ったぐらいよ」

 「わあ、ひどい、先生ひどいよ。私だって女の子なんだからね」

 最後は、二人、またじゃれあいだした。
 ただ、美香にしてみると、キャシーが語る公開処刑が具体的に
どんなものなのか、この時は今一つピンとこなかったのある。


*****************(3)********

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §4~§5

*****************(4)********


 「ねえ、先生、連れてって……いいでしょう……」
 キャシーはケイト先生の腕を強く引いてまたもやおねだり。
 それって、まるで幼児が親に向かって遊園地に連れて行くよう
だだをこねているのと同じだった。

 実は、公開処刑が行われる公園へは指導教官が付き添わなけれ
ばそもそも入ることが出来なかったのである。

 一方、ケイト先生はというと……
 「そうねえ、どうしようかしらねえ……」
 そんなキャシーの猛攻をのらりくらりとした調子で受け流して
いる。

というのも、これがキャシーだけならまだいいのだが、美香に
は少し刺激が強すぎるのではないかと考えていたのだった。

 と、その時である。

 「あら、あら、何かもめごとかしら?」

 低い声がキャシーの耳元に突き刺さる。
 とたんに、キャシーがその場で立ち上がった。

 それまで散々甘ったるい声を出していたキャシーが、いきなり
直立不動になったのだから、美香だってこれはいったい何事かと
びっくりだ。

 声の主は、白髪の乾いた髪に深い皺を刻んだおばあさん。老女
と呼んで差し支えない人だった。
 その人にケイト先生も立ち上がって深々と一礼する。

 「ケイトさん、どうしました?」
 このおばあさん、まずはケイト先生に事の次第を尋ねた。

 「実は、キャシーが今日の公開処刑を今日ここへ来たばかりの
新井美香に見せたいとせがむものですから、今、どうしようかと
思案しておりまして……」

 「なるほど」
 事情を理解した老婆が、今度は美香へ視線を移すと……

 「あなたね、新井美香さんというのは……」

 「あっ、はい……」
 周りの雰囲気から美香も緊張せざるを得なかった。
 『この人、きっと偉い人なんだわ』
 美香は思ったのだ。

 実際、その判断は間違っていなかった。彼女はこのビレッジの
幹部クラス。一教員にすぎないケイト先生とは身分が違っていた
のである。

 「美香さん。あなた、お父様と一緒にお風呂に入ったことある
かしら?」

 『えっ、お風呂?……どういうこと?』
 美香は、その瞬間、先生がなぜそんな事を訊くのか理解できな
かったが、とりあえず、正直に答えた。

 「あります。父は私が背中を流すと、とても喜びますから…」

 「そうなの。それは感心ね。うらやましいお父様だわ……その
時、あなたも一緒に裸になってお風呂に入るのかしら?」

 「昔はそうでしたけど、今は……ちょっと、恥ずかしくなって
……」

 「何年前まで一緒にお風呂を楽しんでたの?」

 「おととしくらいまでです。…あっ、去年も何度かありました。
……家族旅行の温泉で…ですけど……」

 「そう、それじゃあ、あなた、お父様の身体は見たことあるの
ね」

 『お父さんの身体を見たことがあるかってどういうことだろう』
 美香には老先生の謎が理解できなかったが、とりあえず……

 「はい、先生」
 と、答えたのだった。

 すると……
 「いいんじゃないですか、ケイト先生。…父親とでは感じ方が
違うかもしれませんが、何事も勉強と考えていいと思いますよ」

 この鶴の一声で話は決まり、ケイト先生も、美香が公園の中を
歩くことを許可したのだった。


 帰り道は二人増えて四人の道中。キャシーの参加で明るい道行
となったが、何より変わったのはそのルート。
 今度はフェンスの外側ではなく、公園の中を通って帰ることに
なったのである。

 公園の入口で、二人の教員は自分のカードを警備員にかざして
入る。その際、『この子たちも…』と、一言口ぞえすればそれで
よかった。
 この公園は、一般の入場者はもちろん、ここの生徒であっても
先生と同伴でなければ中に入ることが許されないエリアだった。

 「やったあ~」
 キャシーは、公園に入れたのがよほど嬉しかったのか、ゲート
をくぐるなり満面の笑みで公園内をあちこち走り回る。

 でも、美香はというと……
 『ここって、はしゃぐような処かしら。ただ木が生い茂ってて、
花壇があって、ベンチがあって、それに、噴水、東屋……こんな
公園、どこにでもあるじゃないの。……あの子、ホントにまだ、
子供ね』
 キャシーのはしゃぎぶりを冷ややかな目で見ていたのである。

 「ねえキャシー、ここって何か特別なものでもあるの?だって、
見た感じ普通の公園じゃないの」
 キャシーがひとしきり運動してから自分のそばに戻ってきたの
で美香が尋ねてみると……

 「だからあ、今日は男の子の公開処刑が見られそうなのよ。…
…こんなチャンス滅多にないんだから……」

 「公開処刑って……男の子もここに来るの?」

 「さっき、食堂であなたにも話したはずよ。この間、男の子と
女の子が逢引してるところを先生に見つかったって……うちはね、
男女問わず恋愛厳禁だもん。デートが見つかっただけでも、当然、
お仕置きってことなの」

 「それがここであるの?」

 「そういうこと。……こういう場合、例外的に男の子もここへ
呼んでお仕置きするの」

 「じゃあ、……その……そんな時は女の子も男の子のエリアへ
行ってお仕置きを受けるの?」
 その恐ろしい光景を想像して、美香の瞳孔が目一杯開く。

 「さすがにそれはないわね」
 子供の会話に割り込んだのはケイト先生だった。

 「いくら厳しく対処するといっても、男の子と女の子では受け
るショックが違うもの。ただし、女の子の方には甘いということ
にはならないわ。そういうことって、女の子の世界の中では当然
公開処刑だし、体罰も、ひょっとしたら男の子以上かもしれない
わ。……あなた、知ってるかな?『見るは法楽、見られるは因果』
って言葉」

 「見るは法楽?……見られるは因果?……何それ?……」
 最初、分からなかった美香だったが、途中で思い出した。
 「……ああ、見世物小屋の入口なんかで叫んでる口上ですね」

 「ピンポ~ン。そうそう、それそれ。ここはそういう場所なの。
青天井の大きな見世物小屋。だから、お客さんとして先生と一緒
に見物するぶんには、こんなに面白い見世物はないかもしれない
けど……もし、お仕置きとして連れてこられたら、シャレになら
ないほどの生き地獄よ」

 「ここでお仕置きされるんですね」

 「そういうこと。特に見せしめの罰ではここがよく使われるの。
この公園、もともと先生たちの憩いの場だから、生徒も特に許可
された子以外入ってこないし、もちろん一般人の出入りもなくて、
プライバシーが守れるから、ここではけっこう厳しいお仕置きが
行われるのよ」

 「だから、見るだけなら法楽なのか……」

 「そういうこと。……見るだけじゃないないわよ。参加だって
できるんだから……」
 今度はキャシーがその中へ割り込む。

 「参加?……私たちがお仕置きに参加するの?」

 「そうよ。ほら、あそこの東屋に誰かいるみたいだから行って
みましょうよ。やり方を教えてあげるわ」

 キャシーは美香の手を引っ張ると、その東屋へ。


 (美香の回想)

 私は、キャシーが独りで暴走してるんじゃないかと思って振り
向きましたが……すぐ後ろにいた先生二人もその事に対して咎め
だてする様子はありませんでした。

 「わかった。わかったから、そんなに引っ張らないでよう」
 私はキャシーに文句を言いながらも着いて行きます。

 キャシーが私を連れて来たのは青い瓦屋根の東屋でした。

 東屋というは簡単に言うと公園内の休憩所みたいなところで、
ここは六畳ほどの広さがある建物。建物といっても壁や窓はなく、
あるのは屋根とそれを支える柱だけですから、中の様子が外から
素通しで見えます。

 『ここでもやってるの!!』
 私は思いました。
 女の子が一人、東屋の中に設置されたピロリーに掴まっている
のが見えるのです。

 自分の家の庭で一度体験済みでしたからショックはその時ほど
大きくありませんが、それでも同性がこんなことされているのを
見るのは心地よいことではありませんでした。

 当然のようにその子も全裸でしたが、なぜか大きな袋を頭から
被せられていましたから顔はわかりません。

 「ねえ、あれ、誰なの?」
 私は思わずキャシーに尋ねてしまいます。
 すると……

 「そばにいる先生が担当教官だろうからから、察しはつくけど
……ほら、この子、頭からすっぽり袋を被せられてるでしょう。
こういう時は、その子が誰かわかっても、『誰々ちゃん』って、
声をかけてはいけないルールになってるのよ。……だから、あと
で教えてあげるね」

 キャシーが私に耳打ちします。

 「ねえ、この子何したの?」
 私は同じようにキャシーに耳打ちしました。

 すると……
 「それは、そこに書いてあるわ」
 キャシーは入口の掲示板を指差します。

 そこには彼女のものでしょうか、ショーツが一枚掛けてあり、
黒板には……
 『私は、テストの時間にカンニングをしてしまいました。もう
一度、真人間になってやり直したいので、どうか、皆さんご協力
をお願いします』
 と書かれています。

 この文言から、もちろん、これがカンニングの罰だという事は
分かったのですが、『皆さんご協力をお願い…』の意味がわかり
ませんでした。

 そこで……
 「ねえ、ご協力って、何するの?」
 と、キャシーに尋ねてみると……

 「ご協力って?ああ、あれね。要するに、この子のお仕置きを
手伝って欲しいってことだわ」

 「お仕置きを手伝う?……それって私たちも?」

 「そうよ。ここでは、お仕置きのお手伝い、先生じゃなくても
生徒でもいいの。この子のお尻に火の出るような鞭を与えて反省
を促すの」

 「そんな、残酷な……」

 「ちっとも残酷じゃないわよ。むしろ感謝されるわ。……ほら、
あそこに『30/12』って書いてあるでしょう。……あれはね、
現在12名の方から鞭をいただきましたって印なの。この子は、
どのみちあれが『30/30』つまり30人の人から鞭打たれる
までこの枷から開放してもらえないの。だから、あなたも、私も、
あの子のお尻をぶってあげれば、あの子だってそれだけ早く開放
されるわけだから、あの子から感謝されるってわけ。人助けよ」

 「……私、」
 私はそう言っただけでしたがキャシーは行ってしまいます。

 「あっ、待ってよう」
 私は慌ててキャシーを追いかけようとしましたが……彼女は、
すでに東屋の中。そこへ立ち入る勇気はありませんでした。

 しばらくすると、まだ外に立っていた私に向かってキャシーが
手招きします。

 そこで、恐る恐る私も中に入ってみると、いきなりそこにいた
先生に……
 「あなたも、やってくださるの?」
と、尋ねられ、ゴム製の一本鞭を手渡されそうになります。

 私は、その鞭をまるで不浄な物でも差し出された時のように、
両手を突き出して拒否。後ずさりしたのでした。
 「いえ、違うんです。私は関係ありませんから……」

 いくら行きがかりとはいえ、自分とは何の関係もない女の子の
お尻をぶつなんて、良い子を装ってきた私の常識では考えられま
せんから当然こうなります。

 「あらあら、残念ね。あなた、こうしたことは初めてかしら?」

 先生がやさしく問いかけますから……
 「は……はい、先生」
 怯えながら答えると……

 「難しく考える必要はないのよ。この子のお尻をぶつことは、
虐めとは違うの。誘惑に負けそうになるこの子の心の弱さを強く
する大事なお仕事なんだから……名誉なことなのよ」

 再度、先生に勧められます。
 すると、そばで聞いていたキャシーまでもが……

 「やってあげなよ。さっきも言ったけど、もし、あなたがやら
なかったら他の人がやるだけのことなの。どのみち、30人って
ノルマは決まってるんだから……」

 「えっ、そんなこと言わけても……私……鞭なんて使ったこと
ないし……」

 「だから、いいんじゃない。先輩にしてもそれは好都合のはず
よ」

 「えっ!?(そうか、この人、私たちより年長よね)」
 確かにその通りです。枷に繋がれたその人は私たちより身体も
一回り大きく、胸もお尻も私たちより成熟しています。

 『そうか、弱い者をぶつわけじゃないのね』
 変な安心感が生まれたのも事実でした。

 「だってあなたのような子がぶってもあまり痛くないでしょう。
それでいて一人分稼げるんだもの。芸達者な先生達に厳しくされ
るより、よっぽどラッキーだわ」

 『そうか、そういうものなのか』
 私はキャシーの言葉を単純に信じてしまいます。

 いえ、本当のことを言うと、こんな立派なお尻を、一度、鞭で
しこたま叩いてみたかったのです。
 まさに本心は好機到来なんです。
 でも、私は女の子、そんなこと表立っては言えませんでした。

 「じゃあ、先輩のためにやってみます」
 私の顔は『あくまで周りの勧めで仕方なく』という風に作って
ありましたが、内心の顔は笑っています。
 いえ、すでに笑いが止まらなくなっていました。

 『今まで、お父さんやお母さんからぶたれたことはあるけど、
人をぶつのはこれが初めてよ。お人形さんのお尻と違って、緊張
するなあ』
 鞭を持たされて足が震えているのは、怯えていたからだけでは
ありませんでした。可憐な少女の正体は、その心の内に分け入れ
ば、恥知らずなインプ(小悪魔)だったのです。


 胸の高まりを抑えきれず私は順番を待ちます。
 最初はキャシーでした。

 彼女は慣れた様子で鞭を空なりさせると、その先っちょをお尻
のお山に着けて小さく軽く叩き先輩の緊張を高めます。
 そして、その鞭が、膝まづく先輩のお尻を離れて、大きく弧を
描くと……再び急降下して来て……

 「ピシッ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響。
 先輩は身体を固くして耐えます。
 お土産は豊満なお尻についた赤い一本の線でした。

 「あと、二つね」
 とは先生の声。

 そこでキャシーが再び鞭を空なりさせると、先輩の身体一面に
鳥肌が立ちます。
 それは、キャシーの鞭が先生方と同じ威力を持っていることの
証明だったのです。

 パターンは同じです。
 鞭の先っちょがお尻のお山をくすぐってから、やがて離れ……
大きく弧を描いて空中に舞うと……急降下して……

 「ピシッ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響し、先輩は身体を固くして耐えます。
 抜けるはずのない厚い板の穴から両手を引き抜こうとするのは
それだけ痛かったからでしょう。
 お土産が増えて、赤い線は二本になります。

 「あと、一つ。これがラストよ」
 先生の声に、キャシーは余裕の笑顔で返事をします。

 その後のキャシーは、前の二回と同じでした。
 鞭のさきっちょがお尻のお山をくすぐり、やがて、大きく弧を
描いて空中を舞ったかと思うと、急降下して……三たび、大きな
お尻を鞭がとらえます。

 「ピシッ~~」
 「いやあ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響し、同時に先輩の悲鳴が聞こえます。
 先輩の身体は相変わらず枷に繋がれたままでしたが、その体は、
まるで溶けた雪だるまのように、だらんとピロリーの厚い板に垂
れ下がります。


 お土産の赤い鞭筋は三つ。
 これを六本にするのが私の仕事でした。

 キャシーの動作の見よう見まね。
 「ピシッ~~」
 東屋は音響装置がいいのか。予想以上に反響します。

 そして、二発目……
 「ピシッ~~」
 「いやあ!!!」

 『私なんかの鞭で、そこまでしていただかなくても』
 なんて、こちらが恐縮したくなるのような悲鳴があがります。
そして、ピロリーが本当に倒れるんじゃないかと思うほど、枷に
捕まった先輩はその両手首と自分の首を必死に抜こうとしたので
した。

 「お譲ちゃん、あなた、なかなか筋がいいわよ。では、ラスト
ね」
 先生の声に送られて、私は再び大きな弧を描きます。

 「ピシッ~~」
 「いや!」

 最後、先輩も踏ん張って、あまり大きな悲鳴になりません。

 すると、鞭初心者の私は……
 『あれ、なぜ悲鳴が小さいんだろう?……失敗しちゃったのか
なあ。何がいけなかったんだろう』
 と、思ったのでした。


 たった三回の鞭でしたが私の身体は激しく上気していました。
 興奮状態の私はケイト先生や堀内先生がいつこの東屋を訪れた
のかも知りませんでした。

 お二人は、やはりそれが義務だと思われたのでしょう。
 私たちと同じように鞭をとって、先輩に対し三度の戒めを行い
ます。

 でも、それは、私たち子供が振るった鞭に比べてことさら強い
というものでもありませんでした。

 おそらく私たち二人がきつく叩き過ぎたので調整されたのかも
しれません。
 先輩にとって、先生方は救世主。私たちこそがお邪魔虫だった
ようでした。


************(4)***********

************(5)***********


 美香とキャシー、それに二人の先生たちは、東屋を離れると、
林を抜けて公園の奥へと入っていきます。

 このあたりは広い原っぱになっていました。
 天然の芝がはりめぐらされ、アンツーカーの赤い土がその芝を
取り囲んでいます。

 「まるで、陸上競技場みたいね」
 美香が言うと……キャシーが……
 「だって、ここ、そうだもん。サイズは少し小さいけど、ここ
で体育の授業をやるのよ」

 「体育かあ、私、苦手だなあ……」
 と美香……でも、それをキャシーが励まします。
 「大丈夫よ。運動と言っても、たいていダンスだから。激しい
運動はあまりしないの。ほら、あそこでやってるでしょう。……
激しい運動をさせられるのはお仕置きの時だけよ」

 キャシーの視線の先では、女の子たちがフォークダンスを練習
している。そのカセットで流す音楽が、かすかに二人の歩く場所
まで届くのだ。

 「よかった、体育ってダンスなのね。だったら、私でも何とか
なるわ」
 美香は安堵の色だが……
 「ただし、真面目にやらないとだめよ。……サボってると……
ああなるから……」

 キャシーがそう言って振り返った瞬間だった、二人の女の子が
赤いアンツーカーを全速力で駆け抜け、おしゃべりしながら歩い
ている二人を追い越していく。

 「えっ!!!何?……どういうこと???」
 美香は、その瞬間、狐につままれたような顔になった。

 今、追い越して行ったランナー、帽子を目深に被り、靴と靴下
は確かに穿いていたのだが……それ以外、何も身につけていない
ように見えたのである。

 「ねえ、今の子たち……たしか、服……着てなかったよね」
 美香が確認すると、キャシーはあっさりしたものだった。
 「そうよ、裸だった。それがどうかした?」

 「えっ?」

 驚く美香の顔を見て、キャシーは美香にはそれでは足りないと
悟ったのだろう。言葉を足してくれた。

 「体育の京子先生って陰険なのよ。一通り教えたあと、『それ
では、各自、自主練習』なんて言ってその場を離れるんだけど、
その実、どっかで様子をうかがってて、サボってる子がいると、
ああして全裸でトラックを走らせるの。……裸で走るとねえ……
お股がすれて痛いのよねえ……」
 最後は苦笑するような顔になる。

 「キャシー、あなたも、やられたことあるの?」

 「あるわよ。そのくらい」
 キャシーは自慢げに笑い…
 「私、そんなに良い子に見える?」
 と続ける。
 『新参者をからかってやろうか』
 そんな感じの笑い顔だった。

 「ここって、すぐに裸にさせるのね」
 「まあね、周りに女の子しかいないし、やりやすいんでしょう。
でも京子先生は特にそうよ。……ほら、あそこでサングラスして
生徒たちを怒鳴りまくってるでしょう。……あの人よ」

 「あっ、今、お尻叩いた」
 美香が声を上げると……

 「そうそう、あの先生の鞭は樫の棒なの。折れてもいいように
何本もストックがあるわ」

 「樫の棒って、痛いの?」

 「当たり前じゃない。痛くない鞭じゃお仕置きにんらんいじゃ
ない。……だけど、他の先生がよく使うゴム製の鞭とは感じ方が
違う痛みなの。男の子の痛みっていうのかなあ……お尻の皮じゃ
なくてお尻の中、筋肉が痛いのよ。あの先生、ミストレスだから、
ちょっとした規律違反でも口より先に平手が飛んで来て、次は、
すぐに裸にされちゃうの。生徒とっては要注意の危険人物だわ」

 「ほかの先生は?」
 「京子先生よりましだけど……どの先生も学校の先生と比べた
ら大変よ」
 「厳しいの?」
 「当然そう。みんな立派なサディストよ。女の子を虐めるのが
楽しくて仕方がないって感じだもん。一度ね『男の子より厳しい
なんておかしい』って不満を言ったら、『女の子はあれこれ指図
しないと自分じゃ動かないから体罰は男の子以上に必要なんです』
って、怒鳴られちゃったわ」

 「……(そうか、ここって男の子より厳しいところなんだ。私、
やっていけるかな)……」
 美香は今さらながらここが怖い処だと思ったが、ふとした疑問
をキャシーにぶつけてみる。

 「ねえ、あなたは大丈夫なの?こんな処にいて……」

 「大丈夫じゃないよ。毎朝、浣腸されて、鞭でお尻叩かれて、
何かあればすぐに裸にされて……その日その日でまちまちだけど、
今日一日よい子でいなかったら、夜はお灸だってあるんだから。
今でもちっとも大丈夫じゃないけど、……でも、慣れるのよ」

 「慣れる?」

 「そう慣れちゃうの。最初は私だって、浣腸も、鞭も、裸も、
お灸も、何かやられるたびに暴れて悲鳴上げて、抵抗できるたけ
抵抗してたんだけど、それが、そのうち生活の一部みたいになっ
ちゃって、苦痛じゃなくなるの。それに二年もここにいるとね、
先生たちの癖みたいなものがわかってくるから、こちらもそれに
応じた対応ができるようになって罰を受ける回数も少なくなった
わ」

 「じゃあ、あの東屋にいた先輩はまだ慣れてない人なの?」

 「そういうわけじゃないわ。……ただ、人間って、罰を受ける
ことは承知しててもやりたいこと、やらざるを得ないことっての
がでてくるのよ。今日の公開処刑だって、二人ともそれを犯せば
どうなるかは知ってたはずよ。……でも、やめられなかった……
そういうことじゃない」

 「キャシーさんて……考えが深いんですね」

 それまで軽い人間だとばかり思っていたキャシーのこんな一面
を見て、美香は感慨深げにつぶやく。
 すると、彼女は彼女でこう返すのだ。

 「あなた、私がケイト先生にべたべたしてたから、『こいつ、
そんな人間か』って思ったんでしょう」

 「私はべつに……」
 美香は慌てて否定したが……

 「女の子は色んな顔を持ってて、それを相手に応じて使い分け
なきゃいけないの。……それは、私もここへ来て習ったわ。……
あっ、そうだ。東屋ってあそこだけじゃないの。まだ、三四箇所
あるから、暇なら一緒に回ってあげてもいいのよ」

 「いえ、結構です」
 美香はそれも慌てて否定する。

 「そりゃそうよね。私たちが女の裸見ても楽しくないもん。…
…それは見られる方だって同じように思ってると思うわ。きっと
『あんたたち暇ね』って顔されるだけだもんね」
 キャシーは、裸にされるお仕置きなんて大したことじゃないと
言わんばかりのしたり顔で美香を見つめたのだった。


 さて、そんな二人から50mほど後ろを歩いていた二人の先生。
彼女たちはあえて生徒のすぐそばには寄らず常に少し離れた場所
を保っていた。

 「ケイトさん、私、サディストかしらね」
 堀内先生が、突然、ケイト先生に尋ねる。

 自分たちは内輪の話と思って話していても、子どもの声という
のは自然と大きくなってしまうもの。ひそひそ話のつもりでも、
二人の話す声が風に乗って先生たちの耳にも届いていたのだ。

 「注意してまいりましょうか?」
 ケイト先生は先輩に気を使うが……
 「いいのよ、そんなことは……」
 おばあちゃん先生は笑顔で答える。

 「でも、ひょっとして、これみよがしに私たちに聞かせようと
して話しているのかもしれませんから……」
 再度、助言するケイト先生だが……

 「だったら、なおのこと聞いてあげなければならないわ。……
心遣いは嬉しいけど、生徒の私たちに対する評価や本音を聞く事
も教師としての大事な仕事だもの。ぴたっとくっついていたら、
彼女たち何も話さなくなってしまうもの……そうでしょう」

 「はい、先生」

 「私たちは、一般の学校では持て余すような子どもたちを沢山
抱えてるから、多くの場面で専制的になってしまうけど、それは
あくまで秩序を維持するため。神様になったつもりで、あれこれ
微細なことまで指示してはいけないわ。お仕置きだってそうよ。
正義を楯に何でもこれに頼ってると、そのうち子どもたちだって
こちらに向かって本音を語らなくなるの。お仕置きは、あくまで
子どもたちの為にやることで、こちらの都合は関係ないわ。……
『やられたからやり返すんだ』なんてのはお仕置きの理由として
は論外よ」

 堀内先生はベテラン先生らしく自説を力説するが、同時に裸で
走る少女たちを見ても、それがやりすぎだとは言わなかった。
 彼女にしてみても、今、ここで行われているお仕置きは許容の
範囲だと信じていたのである。


(美香の回想)

 その会場は東屋とは違って広い場所にありました。
 まるで野外ステージのような立派なドーム型の舞台があって、
それを見物するための客席も150席以上あります。

 『何なの、これ。……まるで劇場じゃない。……これじゃあ、
まるでショーだわ』
 私は野外ステージの一番後ろから全体を見渡してそう思います。

 実際、私の感想はそう大きく的を外れていませんでした。

 「あっ、もう始まってるじゃないの。急いで急いで」
 キャシーが私をせかせます。

 私たちが到着した時にはすでに舞台が始まっていて、客席では
50人ほどの観客がすでに事の成り行きを見守っていました。
 見渡せば、先生や生徒だけでなくこの村で働いている職員の人
たちの顔も見えます。

 「あっ、もう……何ぼ~っとしてるのよ。早く早く、いい席が
なくなっちゃうわ。こんなの後ろで見たって楽しくないんだから」
 再び、キャシーがはしゃぐように私をせき立てます。

 そして、観客席の前の方へ前の方へと行こうとしますから……
私……
 「いいわ、私、一番後ろ見てるから」
 と言ったのですが……

 「何言ってるのよ、そんな処じゃ肝心な物が見えないじゃない」
 キャシーは面倒とばかり私の手を引き、無理やり前の席を目指
します。

 「ここ、空いてますか?」
 目ざとく空席を見つけたキャシーが、品のよさそういご婦人に
声を掛けますと……
 「ええ、いいですけど……あなた、あの舞台の子とお友だち
なの?」
 と、席に置いていた荷物を取り片付けながら問い返してきます。

 するとキャシー。間髪をいれず、きっぱりと…
 「はい、そうです」
 と、答えたのでした。

 でも、これ嘘なんです。キャシーと舞台の子との間にはそんな
親しい関係なんてありませんでした。
 彼女、一番前の席で見たいばっかりに嘘を言ったのでした。

 というわけで、私たちは目の前が舞台という特等席で事の成り
行きを見学する事になります。

 私は、『こんな前で、恥ずかしい』と思いましたが仕方があり
ませんでした。


 その舞台では、中央に椅子とテーブルが出ていて、すでに二人
の規則違反者に対する尋問が始まっていました。

 テーブルの右側には、問題の女生徒とこちらの規律担当の樺島
先生。左側は夜這いに来たとされる男の子とやはりその規律担当
の梶先生が、それぞれ対峙しています。

 実はその男の子と女の子なんですが、二人とも頭からすっぽり
と大きな袋を被せられていましたから顔は分かりません。
 もちろん、罪を犯した子たちのプライバシーを尊重して、そう
しているわけですが……人間勝手なもので隠されると中が見たく
なります。

 あっちこっち見る角度を変えて袋の中の顔が見えないかと思い
ましたが、結局、見えませんでした。
 そこで……

 「ねえ東屋の時もそうだったけどさあ、あんな袋を被せられて、
あれって、苦しくないの?」
 私は小声でキャシーにこう尋ねてみました。

 すると……
 「大丈夫よ、私も何回か被ってるけど全然苦しくないわ。帽子
と同じ感覚よ。それに、あれ、荒い生地で出来てるから、こちら
からはその顔が見えないけど、被ってる方は外の景色や人の表情
が割とはっきり分かるの。……あなただってそのうち被らされる
でしょうから、その時わかるわ」

 キャシーが最後にドキッとするようなことを言うので……私は
思わず……
 「馬鹿なこと言わないでよ」
 と大声になってしまい……

 「お静かに……」
 と、さきほどの婦人から注意されてしまいます。


 そうこうするうち、舞台では逢引していた二人に対する尋問が
まだ続いてはいましたが、どうやら話はあらかた煮詰まってきた
ようでした。

 「そう、それでは、あなたは先月開かれた男女交流会の時に、
この子を見初めて言い寄ったけど相手にされなかったからここへ
夜這いに来て、それも相手にされなかったから、彼女を無理やり
炭焼き小屋へ連れ込んだ。…………こういう事でいいのかしら?」
 樺島先生は調書のようなものをとっていました。

 「はい、先生」

 「それで、あなた、深夜の炭焼き小屋で何をするつもりだった
のかしら?」

 「それは……」
 男の子の口が重くなります。

 「そんなこと聞くだけヤボかしらね。……ま、いいわ。でも、
こちらも心配だったから、この子の身体は調べたの」

 樺山先生はそう言って袋の中の男の子の瞳を見つめました。
 このくらいの近さなら、あるいはその子の瞳も見えていたかも
しれません。

 「……(ごくっ)……」
 一方、見つめられた男の子は唾を飲み込んだのがここからでも
わかりました。喉仏のあたりがしきりに動いていましたから。
 それって男の子にとっては緊張の一瞬だったんでしょうね。

 「……幸い、何事もないことがわかったわ」

 「……(ふう)」
 樺山先生に言われて、男の子がほっと肩を落とします。
 身に覚えなんかなくても、そこは気になるみたいでした。

 「ただね、これだけは覚えておいてほしいの。女の子ってね、
身の潔白を証明するだけでも心が傷つくのよ。だから、あなたも
これからは取り扱いには注意してね」

 樺山先生の言葉に相手方の規律委員、梶先生の口元も緩みます。
 実は樺山先生、この男の子のことを評価していました。
 というのも、彼が男の子らしく一人で罪を被る気でいるからで
した。

 『僕が恵子ちゃんを勝手に好きになって、無理やり炭焼き小屋
の鍵を持ってくるように迫ったんです』
 彼は最初からそう言ったそうです。全ての罪は自分にあります
と言いたかったのでしょう。
 でも、その潔さが、樺山先生には嬉しかったみたいでした。

 結果……
 樺山先生と梶先生が話し合い、夜這いについてのお仕置きが決
まります。

 「峰岸君。あなたには、鞭36回をケインで受けてもらいます
けど……いいですか」

 先生方の決めたことですから、今さら男の子が反対するはずも
ありませんが……ただ……

 「この袋、脱いでもいいですか?」
 と尋ねました。

 「いいけど、あなた、顔がわかってもいいの?」
 樺山先生が心配しますが……

 「いいんです。これ被ってると、熱いですから……」
 その時はまだ袋を被っていて、彼の表情を窺い知ることはでき
ませんでしたが、その時、袋の中の彼は何だか笑ってるみたいで
した。

 それで、彼、被り物を取ったのですが……
 そのルックスを見たとたん、私、震い付きたくなりました。

 「……(綺麗~~ここにこんな子いたの)……」
 その瞬間はきっとだらしなく口を開けて見ていたんじゃないか
と思います。

 立ち上がった峰岸君は細身で足が長く、被り物を取ると尖った
顎や切れ長の目がのぞきます。彫が深く整った顔は、まるで青春
映画のスターがそこにいるみたいでした。

 そんな彼が、手ぐしで前髪を書き上げた瞬間、私は自分の髪を
同じように撫でつけます。
 それって、彼のオーラが、今、私の頭にもふりかかったんじゃ
ないか……そんな妄想からだったのです。

 なるほど、こんな先輩に声を掛けられたら夢中にならないはず
はないでしょう。

 でも、最初はそうでも、その後は恵子ちゃんが、自分の方から
峰岸君にアタックをかけたに違いありません。ここへ呼び出した
のも彼女なら、炭焼き小屋の鍵を盗んできたもの彼女に違いない
と、私の女の勘はピピンと反応したのでした。

 そんな裏事情、女の先輩である樺山先生だって知らないはずが
ありません。
 ですが、ここは、せっかく恵子ちゃんを気遣ってくれた峰岸君
の顔を立ててあげることにしたみたいでした。


 ところで、峰岸君、彼が脱いだのは頭を覆っていた袋だけでは
ありませんでした。

 「それでは、準備して……」
 黒縁眼鏡、タイトスカート姿の樺山先生の顔が引き締まります。

 そこで峰岸君、こちらにお尻を向けてテーブルにうつ伏せにな
ったのですが、その際、自らズボンまで下ろそうとしたので……

 「あっ、いいわ。それは必要な時に私がやってあげるから」
 せっかく引き締まった樺山先生の顔がほころんで手が止まりま
した。

 ちなみに、男の子の場合は、女の子のようにたくさんの種類の
お仕置きを心配する必要がありません。男の子にとってお仕置き
といえば、大半が鞭でのお尻叩きと相場が決まっていたのでした。

 彼も、普段通りやることはやっておこうとズボンを脱ぎ始めた
のでした。


 「ねえ、キャシー。先生の持ってるの、あれケインじゃない?
……彼、大丈夫かしら」
 樺山先生が空なりさせている鞭を見て、私は心配になります。

 ケインは私たち女の子の学校では一番強いメッセージですから、
滅多に使われることがありませんでした。おまけにそれで36回
もだなんて絶句してしまいます。私にはそのこと自体信じられま
せんでした。

 ところが、キャシーはそうでもないみたいで……
 「大丈夫よ。彼、男だもん。私たちとは違うわ。それに慣れて
るはずだしね……ズボンの上からなら、どうってことないはずよ」
 「そんなあ、どうってことあるわよ」

 私には苦い経験がありました。
 私たちの学校では、新入生に、悪さをしたり怠けていたりする
とこれからどんな罰を受けるかを実際に体験させる行事があって、
私はケインを経験させられたのですが、他の子が見ているという
プレッシャーに押しつぶされたのか、そこでお漏らしを……

 入学早々赤っ恥なんてものじゃありません。
 以来、ケインを見るたびにオシッコに行きたくなってしまうの
でした。

 「ピシッ!!!」
 やがて、樺島先生の最初の鞭が峰岸さんのお尻に炸裂します。

 「きゃあ!」
 私が驚いてキャシーの二の腕にしがみ付くと……
 「よしよし、嫌だった見なけりゃいいの。目をつぶってなよ」
 まるで幼い子をあやすように言われてしまいます。

 再び…
 「ピシッ!!!」

 「きゃあ」
 青空に突き抜けるような甲高い鞭音だけで、思わず小さな悲鳴
をあげてしまいます。
 まるで、私がぶたれているみたいでした。

 「ピシッ!!!」

 当然ですが、鞭音はやみません。
 私はうっすらと目を開けて、その様子を確認しましたが、樺山
先生の鞭は、とても大きく振りかぶっていてから振り下ろします。
それって、私が過去に受けたものとは、同じ一撃でも質が違って
いました。

 「ピシッ!!!」

 『あんなの受けたら、私、一発で昇天するんじゃないかしら』
 そんなことさえ思いました。

 ただ、私のそんな思いは別にして、峰岸さんは悲鳴はもちろん、
足元さえも震えてはいませんでした。

 「ピシッ!!!」

 「すごいわ、やっぱり男の子って凄いのよ。いくらズボンの上
からでも、あんなに何回もやられて平気なんですもの」

 私の言葉は独り言のような呟きでしたが……キャシーがそれを
拾ってくれます。

 「だから言ってるでしょう。彼、この鞭に慣れてるのよ。……
それに樺島先生って、私たちにとっては恐い先生でも女性だもの。
……これが梶先生だったら、こうはいかないはずよ」

 「梶先生って誰?……ああ、向こうの規律担当の先生のこと?」

 「そうよ。あの先生がぶったらあんなに平然とはしてられない
はずよ」

 「だってあの先生、もう腰が曲がりそうなおじいさんじゃない。
いくらなんでも、あのおじいさんに比べたら樺島先生の方がまだ
ましよ。……若いし、力があると思うけどなあ」

 「そう思うでしょう。ところが、そうでもないの」

 私は半信半疑でしたが、やがて、キャシーの言ってる事実が、
目の前で起きます。


***************(5)**********

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §6~§7

***** 見沼教育ビレッジ(6) *****

 最初の12回が終わると、樺山先生は少し荒い息でした。
 そこで少し呼吸を整えてから……

 「では、次はズボンを脱いで行います」
 こう宣言して、彼のズボンを脱がしにかかったのですが……

 「先生、それは私が……」
 こう言って梶先生が手伝います。
 恐らく、ご婦人が紳士のズボンを脱がすというは、お仕置きで
あってもあまりエチケットにないと思って、手を貸されたのかも
しれません。

 いずれにしても、峰岸さんのズボンは脱がされ、私の目の前に
彼のトランクスがで~んと現れました。

 「いやん」
 私はまたキャシーの肩を借ります。

 私の家族は父を除けば女所帯ですから、男性の裸、たとえ下着
姿であってもそんなものを見る機会があまりありませんでした。

 もちろん、父と私は、幼い頃一緒にお風呂に入っていましたが、
父親というのは、性別は男であっても、男性としては見ないもの
なのので、その時は何も感じませんでした。

 そんな様子は、でもキャシーには不思議なものと映るようで…
 「ほら、何カマトトぶってるのよ」
 肩を揺すって私の顔を跳ね上げると……
 「そんなリアクションは、金玉でも見た時に取っておいた方が
いいわ」
 なんて言われてしまいます。

 私は顔が真っ赤に火照っていました。
 だって『金タマ』なんて日本語、意味は知ってはいても一回も
使ったことなんてありませんから、そりゃあ驚きます。

 『この人、どんな育ちをしてるのかしら?』
 とも思いました。

 席を立とうかとも考えましたが、でも、そうこうするうちに、
舞台では第2ステージが始まってしまい、今さら、この場を離れ
にくくなります。

 そこで、再び前を向くことに……
 そこには峰岸君(先輩だけどあえてこう呼びます)の引き締ま
ったお尻がで~んとありました。

 そこへ、樺山先生の鞭が飛んできます。

 「いいこと、邪まな心をあらためなさい」
 これから先はお説教付きです。
 そして、そのお説教の後に……

 「ピシッ」
 鞭が飛びます。

 「はい、先生」
 ズボンを穿いていても大きな音がしていましたが、下着になる
と、鞭音も変わって、だぶだぶのトランクスを揺らします。

 「……(ふぅ~)……」
 まだ下着でしたけど、私は目のやり場に困りました。

 というのも、あのトランクスのなかで、男の子の大事なものが
揺れているかと思うと、目をつむっていてもそれが脳裏に浮かん
できてしまいます。

 「女の子を忘れる最も手っ取り早い方法は、他に夢中になる事
を見つけることよ」

 「ピシッ」
 また、トランクスが揺れ、太股が揺れ、お尻が揺れます。
 すると、また例の妄想が……

 「はい、先生」
 峰岸君の声は、依然、涼やかでしっかりとしています。
 それって、今まで鞭でぶたれていないかのようでした。

 『すごいなあ男の子って…あんなにぶたれても平気なんだもん。
まるでスーパーマンだわ』
 変なことに感心しますが、それでも私のドキドキは別でした。

 「約束しなさい、あの子とはもう付き合わないって……」

 「ピシッ」
 もう、どうしていいのか分かりません。とにかくこれ以上見て
いたら、私の恥ずかしい場所が濡れだすのは目に見えてます。
 ですから、とりあえず目をつぶるしかありませんでした。

 「はい、先生、約束します」
 私は峰岸君の声を聞きながらも、目を閉じ、耳を両手で塞いで
下を向きます。

 「本当に約束できますか?」
 「ピシッ」
 「はい先生」

 「本当に大丈夫?」
 「ピシッ」
 「大丈夫です」

 「本当に大丈夫?約束できるかしら?」
 「ピシッ」
 「大丈夫です。約束します」

 私はどんなことがあっても峰岸君のお仕置きが終わるまで目を
つぶっていようと思ったのですが……

 「?」

 それまで規則正しく打ち込まれていた鞭音が、ある時ぴたりと
やみます。

 すると、不思議なもので、それはそれで気になって、やっぱり
目を開けてしまうのでした。

 すると、私の視界に最初に飛び込んできたのは……にこやかに、
樺山先生がご自分のケインを梶先生に手渡しているところでした。

 「あとは、お願いします、先生」
 どうやら、半分の18回が終わったところで選手交代という事
のようでした。

 でも、バトンを渡された梶先生というのは見るからにお年寄り。
普段から腰が少し曲がっているようにも見えます。ですから私…
 『これで、峰岸君もだいぶ楽になった』
 と思ったのです。

 ところが、ところが……

 「ピシッ」
 たった一撃で峰岸君の背中が反り返ります。

 ただ、梶先生の鞭は、先ほどの樺山先生の鞭に比べてもそんな
に高い音ではありませんでした。

 「ピシッ」
 続けて二発目が飛んできます。

 峰岸君、思わずうつ伏せになっている机に力一杯引き寄せます。
 これって、もの凄く痛い思いをした時のシグナルでした。

 鞭打ち用のテーブルは、机の幅が肩幅より若干広い程度にしか
ありませんから、みんな机を抱くようにして痛みに耐えます。

 きっと、この時は峰岸君は相当に痛かったんだと思います。
 机が浮き上がりそうでした。

 「ピシッ」
 さらに三発目。
 「ひぃ~」
 峰岸君が初めて声を上げました。女の子みたな悲鳴じゃありま
せんけど、その低い声は私の耳にもはっきりと聞こえました。

 「ピシッ」
 四つ目。

 「うっ……」
 また押し殺したようなうめき声。
 それって『僕は男の子だから、悲鳴なんか上げないぞ』という
やせ我慢にも聞こえます。

 でも、不思議でした。
 梶先生は樺山先生のように大きく振りかぶってなんかいません。
その鞭はせいぜい肩の高さくらいまでしか上がっていないのです。
ちょんちょんって軽く叩いているように見えます。なのに、樺山
先生の時より峰岸君ははるかに痛そうでした。

 「ピシッ」
 五つ目。
 相変わらず鞭の当たる音は低く、鈍い音に感じられます。

 「あっ、あああああ」
 その耐えられない痛みからくるうめき声は、今度ははっきりと
聞こえました。

 それって、もちろん私がぶたれていたわけではありませんが、
もう聞いてるだけで辛いうめき声だったのです。

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 パンツ姿の最後は少し強めだったみたいで、両手で握った机が
もう一度持ち上がろうとします。
 峰岸君は男の子の意地でやっとそれを止められた感じでした。

 鞭のお仕置きは慣れない子には拘束をかけますが、慣れた子や
上級生に対しては机に備わった革ベルトでの拘束はしません。

 これって一見すると拘束されない方が楽なように思われるかも
しれませんが、実際は逆で、お仕置き中はどんなにキツイ痛みが
襲っても、自分で自分を自制して、自分の体がテーブルから浮き
上がらないようにしなれければなりません。
 これがとっても大変だったのです。

 鞭のお仕置きでは、男女を問わずほんのちょっとでもテーブル
から身体を離せば、新たなお仕置きが追加される規則になってい
ました。


 『終わったあ』
 わたしは、梶先生が一息ついたので、これで終わりかと勝手に
思ってしまいましたが、36回のうち、終わったのは24回分。
まだ、あと12回分が残っていました。

 そこで、梶先生が峰岸君のお尻の方へやってきた時も、きっと
ズボンを元に戻してあげるんだろうと勝手に解釈していたのです。
 ところが……

 「…………」
 梶先生はズボンを穿かすんじゃなくていきなり峰岸君のパンツ
を下ろしたのでした。
 当然。峰岸君の引き締まったお尻が私の目の前に現れます。

 「いやあ!!」
 私に思い違いがあった分反応が遅れて素っ頓狂な悲鳴を上げる
ことになりました。

 当然、その声は周囲の人たちに聞こえたはずで……
 「ちょっと、変な声出さないでよ」
 キャシーに注意されます。

 すると、私はここでもう一つ思い違いをしていました。

 つまりパンツを脱いだ峰岸君の下半身は丸裸だと思ったのです。
 いくらうぶな私でもお父さんとお風呂に入ったことがあります
からそうなったら何が見えるかぐらいは分かります。
 それで、びっくりしてしまって声をあげたのでした。

 私は両手で顔を覆い、そこは見ないようにしていました。目も
つぶっていました。

 でも……
 「ピシッ」という鞭音は相変わらずですし……
 「うっっっ」という峰岸君の息苦しい悲鳴も相変わらずです。

 すると……
 数発後には、やっぱり目が開いてしまいます。

 そして、次の鞭音が聞こえると……
 私は禁断の指の扉を開いて、再び峰岸君のお尻を確認すること
に……

 峰岸君のお尻には、すでに赤い鞭傷が何本も入っていましたが、
私の目的はそれではありませんでした。

 「…………」
 私は悲鳴を上げて拒否しておきながら、それって変かもしれま
せんが、今度はアレを探してしまうのでした。

 ところが……
 「えっ?……何?……」
 目的のものは見つかりません。

 分かったのは、峰岸君が純粋な裸ではないということでした。
 彼は、パンツの下にお祭りなんかで男性がよく穿いている褌を
しめていたのです。
 ですから、目的のものは見つからないわけです。

 すると、人間勝手なもので、ほっとしたという思いのほかに、
『あ~あ、残念』という思いが混じれます。
 しかもその声が思わず独り言となって口から出てしまいます。

 「なあんだ、褌は着けてるんじゃない」

 すると、キャシーが私を振り返り……
 「ん?…………残念だった?」
 って、隣りで笑うのでした。

 私は、慌てて……
 「そんなことないわよ。変なこと言わないでよ」
 と否定しましが、本心は違っていました。

 そんな私の心を見透かすようにキャシーは頭の天辺からつま先
まで私の体の全てを一度じっくり眺めてから元の姿勢に戻ります。


 一方、舞台はいよいよ佳境に……
 「ピシッ」
 「これからは、心を入れ替えるんだな」
 それまで黙って峰岸君のお尻を叩いていた梶先生も最後の数発
ではお説教をいれます。

 「はい……先生……申し訳ありませんでした」
 苦しい息の下で峰岸君が答えます。

 もちろん最後の方は痛みが蓄積しますからその分は差し引いて
考えなければならないでしょうが、それにしても、樺山先生の時
と比べたら峰岸君の疲労度は雲泥の差です。

 ですから……
 『そんなに、たいして力入れてないみたいなのに、凄いなあ。
あんな強そうな男の子を息絶え絶えにしちゃうんだもん』
 私は変なことに感心してしまうのでした。


 公開処刑が終わり周囲の人たちが席を立ち始めるとケイト先生
たちが迎えに来ましたが、ここでキャシーが……

 「すみません、ちょっと、おトイレ…行って来ていいですか?」
 と尋ねます。

 そして、先生の許可が下りると……
 「美香、あなたも行かない」
 と私まで誘います。

 「私は……」
 その瞬間、断ろうとしたのですが……

 「いいから、付き合いなさいよ」
 キャシーはそう言って私の手を引きます。

 『まあ、仕方ないか……』
 そんな心境でした。

 「それじゃあ、ちょっと失礼して二人で行ってきます」

 キャシーは満面の笑みで二人の先生にご挨拶すると、私の肩を
抱いて出かけます。

 そのトイレですが、実はこの舞台の裏手にありました。

 行ってみると、それなりの人が見物していましたからトイレも
混んでいます。
 ただ、キャシーははじめからその列に並ぶつもりはありません
でした。その代わり……

 「こっちよ」
 私の袖をひいて同じ劇場裏手にある建物のドアを開けるのです。

 「何なの?」
 私がいぶかしげに尋ねると、人差し指を唇に当てて……
 「いいから、黙って!絶対に声を出しちゃためよ。面白いもの
見せてあげるんだから」
 そう言って中へ入っていきます。

 そこは舞台でお芝居をする時にでも使うのでしょうか、色んな
小道具や大道具が仕舞われている道具部屋でした。

 「何なの、ここ?」
 私は心配になって尋ねますが、キャシーは……
 「いいから、いいから、とにかく黙って……」
 と言うだけだったのです。

 そして、その薄暗い部屋の片隅へと私を連れて行きます。

 すると、何やら人の気配が……会話も聞こえます。
 キャシーが指を指しますから、何事かと思って覗いてみますと、
その壁のすき間から樺山先生の姿が……それだけじゃありません、
あの舞台では存在感のなかった恵子ちゃんの姿も見えたのです。

 恵子ちゃんはすでに着替え始めていました。
 私はそこで初めて恵子ちゃんもまたその時に備えてTバックを
穿いていたことを知ったのです。

 『そうか、いくら公開処刑と言っても、大事な場所まで丸見え
なんてことはないのか』
 なんて、ここでも変な事に感心してしまいます。

 すると、ここでキャシーが私に耳打ち。
 「ここは舞台の控え室なの。向こうにもう一つあるわ。きっと、
峰岸君たちはそっちを使ってるはずよ」

 どうやらキャシーのお目当ては峰岸君。こちらは的外れみたい
でした。ですから、私たちは部屋の反対側へ、峰岸君のいる部屋
へ場所を変えようとしたのでした。

 ところが……
 その時でした。ちょっとした事件が起こったのです。

 「パシ~ン」
 二人の逃げ足を止めたのは、平手打ちの甲高い音。

 見ると、ぶったのは樺山先生。ぶたれたのは恵子ちゃんでした。

***************(6)**********

****** 見沼教育ビレッジ (7) ******

 「あなた、私が何も知らないと思ってるの」

 樺山先生はそう言って、恵子ちゃんに皺くちゃになった一枚の
便箋を突きつけます。

 すると、恵子ちゃんはそれを受け取りはしましたが……
 押し黙ったまま、それを開いて読もうとはしませんでした。

 「あなた部屋のゴミ箱から出てきたわ。こういうものは人目に
つかないように処分するものよ。それもしないで、炭焼き小屋へ
遊びに行くなんて……あなたもずいぶん舞い上がっていたのね」

 「……私……」
 恵子ちゃんは、何か言わなければならないと思っていたのかも
しれませんが、声にできたのはそれだけでした。

 「そこには、あなたが、炭焼き小屋で待ってるから来て欲しい
と書いてあるわ。……あなたにしては、随分と積極的ね」

 「…………」

 「駿君は好青年だから、きっと男義を出して罪を被ってくれた
んだと思うわ。……おかげで、あなたは人前でお尻を出さないで
すんだわけだから……そりゃあ、あなたにとっては大ラッキーで
しょうけど……それで、片付けていい問題かしらね」

 「……私は……何も……そんなこと……駿ちゃんに頼んだわけ
じゃないし……」
 恵子ちゃんの言葉は途切れ途切れ。まるでオシッコにでも行き
たいかのようにもじもじした様子で弁明します。

 「そりゃあ、あなたが頼んでないのはそうでしょうね。私も、
このことは彼が独りで判断したことだと思うわ。でも、それでは
私の気持がすまないの」

 「そんなあ、だって、あれは、さっき終わったことでしょう。
……それに……私が彼を呼んだっていう証拠はあるんですか?」
 恵子ちゃんは、やばいことになったと思い、思わず言葉に力が
入ってしまいます。

 でも、それって樺山先生には逆効果でした。

 「あなた、何か勘違いしてるわね。駿君がお尻をぶたれたこと
でこの件が全て終わった訳じゃないのよ。あれはあくまであなた
と駿君が逢引したことを咎めただけ。その罪の清算がすんだだけ
だわ」

 「どういうことですか?」

 「だって、あなたは駿君をここへ呼び寄せる手紙を書いて彼に
渡してるみたいだし……炭焼き小屋の鍵だって、部外者の駿君が
そのありかを知ってるはずがないでしょう。そもそも、消灯時間
を過ぎて外出するのは重大な規則違反よ」

 「だって、あれは……………………」
 恵子ちゃんはそう言ったきり言葉が繋がりませんでした。

 「だってあれは駿君が無理やり私を脅して…とでも言いたの?」

 「…………」
 恵子ちゃんが恐々頷きますと……

 「あなた、警備員のおじさんに発見された時、どんな格好して
たかわすれたの?」

 「……(えっ?)……」

 「最もお気に入りのワンピース姿で……普段は宝石箱に入れて
あるリボンをしてなかったかしら?……脅されて連れ出されたと
いう人が、わざわざそんな粧し込んだ格好で外に出るかしらね?」

 「…………」
 恵子ちゃん、真っ青で足元が震えています。
 もう、何も言えないみたいでした。

 そんな恵子ちゃんに樺山先生は追い討ちをかけます。
 「それに大事なことを一つ……女の子の世界ではね、そもそも
証拠なんていらないの……証拠がないといけないのは男性の世界
だけよ。……女の子や子どもの世界では、親や教師は怪しいって
思えばそれで罪は確定。子どもは罰を受けなければならないわ。
……知らなかった?」

 樺山先生の笑顔は私たちにも不気味に映りました。

 「あなたには、消灯時間を過ぎて外出した規則違反で罰を与え
ます」

 「だって、あれは、駿ちゃんに脅されて……無理やり……」
 恵子ちゃんは必死になって最後の自己弁護を試みましたが……

 こんな時、女の子にはよく効く薬がありました。

 「お黙り!!!」
 と一言。

 樺山先生の剣幕に、恵子ちゃんも口を閉じるしかありませんで
した。

 「あなたが独りで炭焼き小屋へ行くところは何人かの人が見て
るけど、その時、駿君が一緒だったと証言した人は誰もいないの。
駿君の証言は嘘だと思ったけど、どうせあなたをかばってのこと
だろうと思ったから許したの。あなたもそれはそれとして駿君の
好意を受けていいのよ。但し、罰は罰としてちゃんと受けなさい。
事実を捻じ曲げることは許さないわ」

 「だってえ~……」
 恵子ちゃんは甘えたような声をだします。
 それって、男性には有効かもしれませんが……

 「いい加減にしないと、街じゅう素っ裸で歩かせるわよ」

 樺山先生、最後は語気荒く言い放ったのでした。

 その剣幕は隠れている私たちにも伝わります。
 ですから、そ~~~と、そ~~~と退散しました。

 結局、この時の罰で恵子ちゃんは管理棟1Fの床磨きをさせら
ることになりました。
 みんなの前で鞭でぶたれることを考えれば、この方がよかった
のかもしれませんが、誰もが通る1Fロビーで掃除婦さんみたい
なことをやらされたわけですから、お嬢様育ちの恵子ちゃんには
辛い罰でもありました。


 さて、私たちの方のその後なんですが……
 私は、こんな危ない目にあってはたまらないとばかり帰ること
を提案したのですが、キャシーの奴、聞き入れませんでした。

 そこで、渋々二件目の覗き見を敢行することになります。

 一軒目は、それでも大道具の陰からこっそりでしたから、まだ
足場もしっかりしています。でも、二件目は、もっと危ない場所
からの観察だったのです。

 実は私たちのいる道具部屋と男性用の控え室は大きなロッカー
で区切られていました。
 そこで、キャシーの提案は、部屋を間仕切るロッカーの破れた
背板の部分から進入。その鍵穴から向こうの部屋を覗こうという
わけです。

 一人一個の割り当てではありましたが、それにしても中は狭く
足場も悪いですから、当初から困難は承知の上でした。

 「ねえ、こんなことして、本当に大丈夫なの?」
 キャシーに尋ねると……
 「大丈夫よ。たしかここには使用禁止の張り紙がはってあった
はずだから、このロッカーへは荷物を入れないはずよ」

 私はキャシーの言葉を信じてやってみることにします。
 いえ、私も峰岸君をもっと間近で見られるチャンスだと思い、
乗ったのです。
 ただ、今にして思えば、若気の至りと思うほかはありませんで
した。

 たしかに、ロッカー自体はキャシーの言う通りでした。
 窮屈でしたが、鍵穴から向こうの部屋が見えます。会話も聞こ
えます。峰岸君が、例の褌姿でテーブルに寝そべり、梶先生から
お尻にお薬を塗ってもらっているところがバッチリ見えます。

 予想していたより少し遠い位置でしたが、でも、これなら十分
楽しめます。
 私はルンルン気分だったのです。

 ところが、しばらくしてお薬を塗り終わると峰岸君はテーブル
を下りどっかへ行ってしまいます。

 『えっ!?どこへ行ったのかしら?』
 鍵穴というのは狭いですから広い範囲が見えません。

 峰岸君がいったん視界から消えるとどこへ行ったのかまったく
分からなくなってしまったのでした。

 そして、心配して探し回ること十数秒、彼はいきなり私の鍵穴
の前に現れます。

 『えっっっっっっっっ!!!!!』
 私は慌てます。

 でも、私が目の前のロッカーに潜んでいるなんて駿君知る由も
ありません知りませんから、悠然として最後の下着を外し始めた
のです。

 『あっ……あわわわわわわ』
 もちろん、声なんて立てられません。

 そして、今度はいきなりロッカーのドアが開いたのでした。

 驚いたの何のって……
 いえ、正確にはその暇さえなかったかもしれません。
 駿君の荷物の上に乗っていた私は、泡を食った拍子にそこから
転げ落ちます。

 でも、悲劇はそれだけではありませんでした。

 慌てた私はその場ですぐに膝まづいたのです。
 裸の男性の足元で膝まづく。それがどういう結果に繋がるか。
もちろんその時はそんな事を考えて行動する余裕がありません
から、それって一瞬の出来事です。

 私の感覚では、ロッカーが開いた瞬間、辺りが明るくなって、
もう次の瞬間は、私の目の前に彼の一物がぶら下がっていた。
 そんな感じでした。

 でも、人間不思議なもので、だからってすぐには反応しません。
その色、形、大きさ……その全てを目の前でじっくりと見てから、
私は我に返り悲鳴をあげたのでした。

 しかも、片手でそれを思いっきり払い除けた反動で、そいつが
鼻に先にちょこんと当たるというおまけまで付いて……
 もう散々でした。


 その後は、どこをどう逃げたのか自分でもわかりません。
 とにかく、夢中であえいでいるうち外に出られた。そんな感じ
でした。

 「あら、随分時間がかかったのね。ケイト先生、あなたたちを
探しに行かれたのよ。キャシーはまだなの?」

 堀内先生に出合いましたが、どうして本当の事が言えましょう
か。
 「それが……途中で、キャシーとはぐれちゃって……」
 そう言ってもじもじするしかありませんでした。

 そのうち、思いがけない場所からすました顔でキャシーが現れ
ます。彼女もきっとあれから隙を見て逃げてきたんでしょう。
 もちろん、堀内先生に彼女も本当のことは言いませんでした。

 「ここのトイレが混んでたんで、ちょっと遠くまで行って借り
たんです」
 なんて言っていましたけ……思えば、女の子の口は嘘ばっかり。
これじゃあ、女の子はみんな天国へは行けないかもしれません。


 さて、しばらくするとケント先生も戻り、私たち四人は再出発。
でも、野外劇場で時間を使ってしまったこともあり、私たちは、
もうこれ以上この公園に留まっているわけにはいきませんでした。

 公園を出て街に戻るとキャシーの家を確認。彼女とは、そこで
別れて、私は再びケイト先生と二人になります。

 すると、先生が信じられないことを言うのでした。

 「どう、峰岸君の裸は魅力的だったかしら?」

 「えっ!!!」
 私の顔色が変わります。
 だって、今の今の出来事なんですから……

 「ああ、立派なお尻でしたね。あんなにぶたれたら可哀想……」
 私は、引きつった笑顔で答えます。

 でも……
 「そうじゃないの。あなたたち、峰岸君を訪ねて楽屋へ行って
きたんでしょう。怒らないから言ってごらんなさい」

 やっぱり、あのことばれてたみたいでした。

 「それは……」
 私は返事に困ります。

 すると……
 「梶先生がね、『そういえば、二匹の可愛い鼠さんたちが遊び
に来てましたよ』って教えてくださったのよ。一匹はあなたよね。
そして、もう一匹はキャシー。……違う?」

 私、色々考えたのですが……結局は……
 「ごめんなさい」
 ということになったのでした。

 「いいのよ、気にしなくも……どうせ、キャシーに誘われたん
でしょうから……それにね、異性の裸に興味があるのは何も男性
の専売特許とは限らないわ。女の子だってそれはあって当然よ。
ただ、このことは、堀内先生には言わないようにね。あの先生、
腰を抜かすともう二度と立てないかもしれないから……」
 ケイト先生は笑っています。
 そして、それだけ言うと、あとは何も言いませんでした。


 そうこうするうち、私たちはここで暮らすための自分の家へと
戻ってきました。

 すると……
 郵便受けには、両親、それに妹の名前が追加されています。
 玄関を入れば、見覚えのある靴が並んでいました。

 そこで居間へと行ってみると……
 お父さん、お母さん、香織、みんなそこに揃っています。
 家族の顔を見ただけなのに涙が溢れます。
 今日一日の中で、こんなに嬉しいことはありませんでした。


****** 見沼教育ビレッジ (7) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §8

****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************

 「お帰り」
 「お帰り」
 「お帰りなさい、お姉ちゃん」

 お父さん、お母さん、それに妹の香織が、一斉に挨拶します。

 「…………」
 こんなこと普段なら当たり前なのに、その時はとても嬉しい事
だったのです。

 お母さんにハグされ、妹を抱きしめます。
 ただ、部屋の一番奥、お気に入りの椅子までここへ持ち込んだ
お父さんの処へは、さすがにすぐには足を運べませんでした。

 ケイト先生がお母さんと挨拶を交わす中で……私はむしろ今日
知り合ったばかりの先生の背中に隠れるようにして立っています。
 普段だったら真っ先に飛んでいくはずのお父さんとは、どこか
視線を合せづらくなっていました。

 そんな様子が気に入らないのか、
 「どうした、美香?私の処へは来てくれないのか?」
 お父さんが痺れを切らして不満を言います。

 すると、それに答えたのは香織でした。
 「無理よ。だって、お姉ちゃん、せっかくのバカンスをパパの
お仕置きのせいで潰されちゃったんだもん。機嫌がいいはずない
じゃない」

 「そうか……やっぱり、そういうことか……」
 お父さんは私を見て苦笑です。それには、少し侮蔑的な表情も
混ざっていました。

 『すねやがって……』
 という思いがあったのかもしれません。

 でも、私の思いはそう単純ではありませんでした。
 もちろん、ここに強制連行された恨みはあります。でも、それ
以上に『お父さんが私のことを今でも怒っているんじゃないか』
という不安が心から拭い去れなかったのでした。

 そんな私の様子をお父さんは見透かしたようにこう言います。
 「美香、怒らないから、ここへおいで」
 
 お父さんは私の足が微妙に震えていたのを見逃しませんでした。

 「はい、お父さん」
 こう言われたら、娘としては行かないわけにはいきません。
 これでもお父さんの良い子ではいたいと思っていましたから。

 男の子は体力がありますし父親とは同性ですから生理的なこと
も含めてわかるはずです。ですから、そこまでは怯えないのかも
しれませんが、女の子にとって父親はとてつもなく大きな存在。
特に怒られた時は、まるで鬼の棲みかに乗り込む桃太郎ように、
気を引き締めなければなりませんでした。


 私がお父さんの処へ行く決心を固めると……
 ケイト先生も私が独りにならないよう、一緒にお父さんの処へ
やってきます。

 「私が、美香さんを担当する指導教官のケイト辻本です」

 名刺を差し出し、大人の挨拶。
 ケイト先生が私と父の間の緩衝材となってくれたのでした。


 「お嬢さんへのご心配事は親しすぎる同性の友達関係だとか」

 「ええ、この子を預かってくださっている学園長からお手紙を
いただいて……それが、気になりまして……」

 「私もあちらの園長先生や寮長先生にお会いしてそのあたりは
詳しく伺いましたが、それ自体は大きな問題ではないと思います。
これは男女に限らずそうなんですが、思春期のはじめ、子供たち
がそうした同性への強い思慕を抱くのはごく普通のことですから」

 「そうなんですか」
 父は小さくため息をつきます。

 「ただ男の子と違って女の子の場合は、こうしたことに夢中に
なりがちで、深入りすると学力の低下に繋がります。お父様は、
それがご心配なのでしょう」

 「ええ、うちには男の子がいませんから、いずれこの子に養子
を取って会社を任せることになると思うのですが、その場合でも
娘には一定の教養を積んでもらわないと……」

 「わかります。このことで学校の成績が下降ぎみなのをご心配
されているわけですね」

 「そういうことです。べつに一流大学を卒業して会社の事業に
参加させようと思ってるわけじゃないんです。平凡な専業主婦で
いいんです。ただ、そうであっても一定の教養は必要でしょうし、
……それに……婿さんの手前も、男性より女性に興味があったん
じゃ具合が悪い」

 「なるほど」
 ケイト先生の顔が思わずほころびます。
 それを押し隠すようにして先生はこう続けたのでした。

 「では、キャリアウーマンというより、よりよい奥さんになる
ためのプログラミングということでよろしいですね」

 「けっこうです。お願いします」
 父はソファに座ったまま深々と頭をさげます。そしてこう尋ね
たのでした。
 「それで、具体的にはどのようになさるのでしょうか?」

 「良妻賢母型で育てる場合に一番大事なのはルーツの確認です」

 「ルーツ?」

 「ルーツといってもご先祖という意味じゃなくて、自分が誰に
どのように愛されて育ってきたかを確認する作業が必要なのです」

 「????」

 「もっと、具体的な手順を言えば、美香さんには一度赤ちゃん
に戻ってもらうことになります。オムツをはめて哺乳瓶でミルク
を飲んで、ガラガラを振ったら笑ってもらいます」

 「????」
 父にしてみたら、先生のお話はいま一つピンときてないみたい
でしたが、私はもっと驚きです。
 『えっ!?何言ってるのよ!聞いてないわよ。そんな話』
 でした。

 「私たち家族は、どのようにすれば……」

 「ええ、ですから、美香さんを中学二年生ではなく赤ちゃんの
ように扱ってくださればそれでいいんです。授乳、オムツ替え、
……あくまで赤ちゃんとして一緒に遊んでくださればいいんです」

 「でも、そんなこと、今さら、美香がやってくれるでしょうか」

 父が不安そうに尋ねると……
 「やってもらうのではありません。この場合はやらせるのです。
素直に従わなければ可哀想ですがきついお仕置きが待っています」

 「なるほど」
 父は唖然として頷いていました。

 「もちろん、最初は恥ずかしくて嫌なことでしょうが、女の子
というのは、すぐに慣れます。その場その場の与えられた環境に
自分を順応させる能力はもともと男の子より優れていますから」

 「そうなんですか……」

 「ええ、女の子がどこにお嫁に行っても自分なりに生きる道を
見つけられるのはその順応性のためなんです。赤ちゃん返りは、
そのための訓練の一つなんです。……それと、もう一つ。幸せの
確認、という意味もあります」

 「幸せの確認?」

 「赤ん坊には何一つ自由がありません。その代わり親が何でも
してくれますから、ある意味人生で一番幸せな時期もあるんです。
そうした自分の幸せのルーツを再確認する事が、その後の人生で
困難へ立ち向かう時に大事なエネルギーとなるんです。私たちは
赤ん坊時代に得た幸せ感が、どれほど大事かを統計的に確認して
いますし、たとえそれが後発的なものであっても、一定の効果が
あることも経験済みなのです」

 「三つ子の魂百までも……ということですかな?」
 お父さんの顔にやっと笑顔が戻りました。

 「一見、馬鹿げて見えるやり方にも理由があるんです。すでに
お渡しした資料にそうしたことは詳しく書いてありますからご覧
ください」

 「なるほど、そういうことでしたか…………それで、私どもは
美香とどのように接すれば……」

 「特別なことは何もありません。普段通りに接してあげていい
と思います。ただし、最初の一週間だけは、赤ちゃんとして扱い
ますから、その時はご協力をお願いします」

 「協力というのは……」

 「主には授乳とオムツ替えです。特に、オムツ替えはお子さん
が大きいので大変だと思いますが、娘のためだと思ってご協力を
お願いします。こうしたことは、やはり他人より親子の方がいい
ので……それと……」
 先生は少し申し訳なさそうに声を低くしてこう続けます。
 「もし美香さんが赤ちゃんらしくないことをしたら、この私が
お仕置きします。かなり厳しいこともすると思いますが、それに
ついては口出しなさらないでください」

 「わかりました。頂いた資料をもっと詳しく読めばよかったん
ですが、不勉強で申し訳ない。実は、ここのことは私の秘書から
聞いて知ったんです。彼女もまたここの出身者のようで……」

 「それは、きっとキャリアウーマン型のカリキュラムを受けら
れたんだと思います。その場合はまったく別の人格になります。
でも、美香さんの場合は、良妻賢母型でよろしいんですね」

 「ええ、結構です」

 『何が結構よ、私はちっとも結構じゃないわよ。私、これから
どうなっちゃうの?』
 私は大人たちの会話を間近で聞いていてとてもショックでした。

 そんな私に、お父さんが声をかけています。
 でも、ショックを受けてる私は、すぐには頭の回線が繋がりま
せんでした。

 「美香、美香、……どうした?美香……聞こえないのか美香」

 途中から、ようやくお父さんの声が聞こえ始めます。

 「…………」
 慌てて父の方を見ると……お父さんはご自分の膝を軽く叩いて
います。それは『この膝に来なさい』という合図なのですが……

 私は、すぐにそこへ行く気にはなれませんでした。

 「おや、おや、どうやら臍を曲げられてしまったか……先生、
この子はやさしい子で、これでは休暇で帰るたびに真っ先に私の
膝に乗ってきたものなんだが……こんな処に連れて来たから……
どうやらそれを根に持ってるみたいですね」
 と、お父さん。

 「違いますよ。私がいるからですわ。美香さんも、もう14歳、
お父さんのお膝は、さすがに人前では恥ずかしいんでしょう……」
 と、ケイト先生。

 でも、私の心はそのどちらでもありませんでした。

 実は、例のロッカーでの出来事が私の頭の中ではまだ尾を引い
ていたのでした。
 あれは微かに触れた程度なのに、私の鼻の頭はあの時の感触を
覚えているのです。
 父の膝を見ても、それが鮮明に蘇ります。

 『お父さんだって同じ物を持ってた』
 そう思うと近寄れませんでした。

 「では、私は、夕食を済ませてからあらためてうかがいます」
 「まあ、先生、そうおっしゃらず、夕食はご一緒に……」
 母が止めますが……

 「いえ、合宿に入ると家族団欒で過ごせるのは食事の時ぐらい
ですから、そうした時は遠慮いたします。その代わりそれ以外の
時間はほぼ一日美香さんと一緒にいますので、そこはご承知おき
ください」
 先生はそう言って席を立ちました。

 ただ、部屋を出る時、私のブラウスの襟や棒タイを直しながら
……。
 「あなたはお父様の思われ人。女の子はね、そんな人を大事に
しなくちゃ生きていけないの。勝手は気ままは許されないわね。
いいから、お父様のお膝へ行って、いつものように甘えなさい」

 「えっ!」

 「これは命令。指導教官としての最初の命令よ」

 「命令?」

 「そう、命令。もし、私がこの部屋にいる間にお父様のお膝に
乗らなかったら、お仕置き」

 「えっ…だって……」

 「だってもあさってもないの。我を張って隣の子みたいになり
たくないでしょう」

 「隣の子って……(えっ!!!?)……(嘘でしょう!!)」
 私の脳裏に途中から昼間のお庭で出合った少女の映像が浮かび
ます。

 「……(何で、そんな事ぐらいでお仕置きされるのよ)……」
 そうは思いましたが枷に挟まれ裸で転がり込んで来た女の子の
事を忘れることは出来ません。ですから嫌でもお父さんのお膝に
乗るしかありませんでした。


 その様子を見て安心したのか、ケイト先生は一旦我が家を離れ
ます。

 一方、私はというと……
 お父さんのお膝に乗ってしまえば、もう昔の私でした。
 妹の香織とお父さんのお膝を奪い合います。

 私は全寮制の学校はお父さんお母さんに会えないから寂しいと
愚痴を言い、学校で起こったことをあれやこれや何でも話します。
 あること、ないこと、尾ひれをつけて……いったん話し始める
と止まりませんでした。

 でも、お父さんはそんな私の話を楽しそうに聞いてくれます。
 思春期になって、口うるさいお母さんとは口げんかすることも
多くなりましたが、お父さんとは昔のまま。
 口数は少なくとも、まるで大仏様に抱かれているような安心感
で、私を包んでくれます。

 そのせいでしょうか、お父さんって、私のお尻やオッパイに、
平気で手を伸ばしますが、私が抵抗したことはほとんどありませ
んでした。

 お父さんのお膝の上では、香織と二人、スカートがまくれ、シ
ョーツが見えても平気で笑っていられます。
 こんな場所、世界中探してもここだけでした。

 ここは私の秘密の場所。普段、学校ではお父さんの悪口ばかり
言っていますから、友達にはこんな姿は見せられませんでした。

 そんなお父さんが食事のあと、あらたまって私に宣言します。

 「私はここの規則だそうだから、一週間は美香と一緒に暮らす
けど、明日からはケイト先生がお前の親代わりだから、どんな事
でも先生に相談して、先生の指示に従って暮らさなきゃいけない。
いいね」

 「はい、お父さん」
 私が神妙に答えると……

 「ねえ、お姉ちゃん、今日からお仕置きなんでしょう。どんな
ことされるの?」
 香織がお父さんに抱きついて聞いてきます。

 でも、それには……
 「お仕置きなんかじゃないよ。お姉ちゃんは試練を受けるだけ。
お勉強をみてもらうだけさ。……そうだ、お前も、今学期は成績
が下がってたなあ、一緒にやってもらおうか」

 こう言うと、香織のやつ笑いながらお父さんの部屋から逃げて
行くのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §9~§10

****** 見沼教育ビレッジ (9) ******


 その日も遅くなって、ケイト先生が再び新井家へやって来た。

 持ち込んだ大きな荷物見て、美香はてっきりこれは先生の私物
なのだとばかり思っていたが、先生の私物は僅かで、その大半が
美香の為に準備されたものだったのである。

 先生は美香の両親を彼女の部屋へ集めると、その荷物を解いて
説明を始める。

 「これが、今晩から着るあなた用のパジャマよ」

 美香はタオル地でできているそのパジャマを自分の身体に当て
てみるのだが……
 「これって……赤ちゃんの……」

 「そう、赤ちゃんがよく着てるわね。オールインワンとか……
コンビネーションとか……ロンパースとか、あなたたちの処では
どう呼ばれてるか知らないけど、要するに上下が一体になった服
なの。……ほら、こうやって背中のチャックを閉めると……もう
独りでは脱げないわ」

 先生にパジャマを着せられた美香は突然不安な気持になった。
 そこで……
 「このパジャマって……これでなきゃ…いけないんですか?」

 「そうよ。なかなかお似合いよ」

 「…………」

 「最初の一週間、あなたはすべてにおいて赤ちゃん扱いなの。
だから衣装だってすべて赤ちゃん仕様のものを身につけなければ
ならないわ」

 「…………」

 「あら、心配かしら?……そりゃそうよね。もう何年もやって
ないもの。……でも、堅苦しく考える必要はないのよ。ママゴト
の赤ちゃん役だと思えばいいわ」

 「口をきいてはいけないんですか?」

 「そこはOKよ。口がきけないとお勉強がはかどらないもの。
ただ、ご返事はすべて『はい先生』『はいお父様』『はいお母様』
ってことになるわね。赤ちゃんの間は、『いいえ』という言葉は
タブーよ。相手を否定する言葉は言わないお約束になってるの。
もちろん口答えもできないわ」

 『やっぱり……そうなんだ』
 美香は、夕方、先生と父とが交わしていた会話の内容からある
程度覚悟はしていたものの、こうやって面と向かって現実を突き
つけられるとたじろぐ。

 「あなたが赤ちゃんの間は、着替えも食事もお父様やお母様に
やっていただくことになるわ。……どう、楽チンでしょう。何も
しなくてもいいんだもの。こんな楽な暮らしはないはずよ」

 『それで、お父さんまでここに呼ばれたんだ』
 ケイト先生のイヤミな言い方に美香は顔をしかめた。
 と、同時にその時の様子を頭の中で思い浮かべてみたのである。

 『えっ!?……まさか?』
 その中で、ある疑念が頭に浮かんだのだ。
 でも、その質問はやはり勇気が必要だったのである。

 「あのう……まさか……そのう……オムツも穿くんですか?」

 答えはすぐに返って来る。
 「当然そうよ……あなた、赤ちゃんですもの」

 ケイト先生は驚く美香の顔を楽しんでからこうも付け加える。
 「ただし、それは寝る時じゃなくて、起きてから……お浣腸の
あと、ウンチを10分くらい我慢したら、その後お父様かお母様
に付けてもらうことになるわ」

 「えっ!……両親からオムツを穿かせてもらうんですか?」
 美香はショックのあまり声が震える。
 母はともかく、父にそんな恥ずかしい格好……絶対に嫌だった
からだ。

 「どうして?……恥ずかしいかしら?」

 『…………』
 美香は素直に頷いてみせるが……

 「でも、ここではみんなやってることなのよ。あなた一人だけ
特例にはできないわ。ここではね、恥ずかしいことと痛いことを
繰り返しながら成長していくの。女の子が嫌うことが本当は最も
為になることだってわかったからそうしてるのよ」

 『今からでも逃げ出したいなあ。………でも、今さら後戻りも
できないのよね』
 美香はケイト先生の笑い顔を恨めしく見つめるしかなかった。

 そのケイト先生が追い討ちをかける。
 「オムツだけじゃないわよ。このパジャマだって、下には何も
身につけないから、どのみち一度はご両親の前でスッポンポンに
ならないと着替えられないわ。だいいち、パジャマに着替える前
には、ご両親の前に全裸で膝まづいて、今日一日の反省をしなけ
ればならないの。だから、どのみち、あなたはご両親に対しては、
ご自分の裸を見られることになるの。……どう?わかった?」

 「そうなんですか」
 美香は力のない返事を返す。それが今は精一杯の勇気だった。

 「赤ちゃんになるというのは、単に格好だけの問題じゃなくて
身も心も穢れのない時代に戻るってことなの。そこからやり直す
という意味でそうするのよ。だから、裸になることを嫌がったり、
目上の人のお言いつけに逆らえば、即、お仕置き。でもその時、
弁解やいい訳をしてはいけないことになってるの。何よりそんな
ことしてたら赤ちゃんをいつまでも卒業できないことになって、
ご両親にもご迷惑がかかるのよ」

 「いい訳しちゃいけないんですか?」

 「だって、赤ちゃんがいい訳できるはずないでしょう」

 「そりゃあ、そうですけど……」

 「もし、生意気な口をきいてしまうと、そばで誰が見ていよう
と、裸にひん剥かれて、いやってほどお尻を叩かれることになる
から、そこは注意してね」

 「何も言えなくなるんですね」

 がっかりしたような美香の声が聞こえると……
 「何にも言えないなんて、そんなことはないわ。さっき言った
でしょう。誰とでもちゃんとお話しできるわよ。ただし『いいえ』
『ダメです』って言えないだけ。『はい、お父様…はい、お母様』
という相手をご機嫌にするご返事なら、いつでも言えるわよ」
 ケイト先生はそう言って笑うのだった。

 そんな先生に美香の母、澄江が尋ねる。
 「先生、このようなことは11歳の子にも有効なんでしょうか」

 「ああ、そうでしたね。香織ちゃんのことですね。もちろん、
大丈夫ですよ。親への絶対服従は、女の子の基本的な躾ですから、
独立するまでなら、早過ぎることも遅過ぎることもありません。
……その件は、こちらが終わってからお部屋にうかがいますので、
まずは美香ちゃんの方を先にすませてしまいましょう」

 『えっ!この話、香織も一緒だったの?』
 美香は一瞬驚きましたが、今は妹より自分の事でした。

 「さあ、美香ちゃん、オネムの時間ですからね。お父様お母様
におやすみのご挨拶をしてベッドに入りましょうね」

 ケイト先生の言葉に美香は否も応もなかった。
 何も逆らうつもりもなかったから……
 「おやすみなさいお父さん、おやすみなさいお母さん」
 と普段通りに言ったつもりだったが……

 「あらあら、もう忘れちゃったの」
 ケイト先生に指摘されて美香は思い出す。思い出したくない事
を思い出したのである。
 「……!……」

 「あら、思い出してくれたみたいね。そうなのよ、ここではね、
裸になってご挨拶するの。……これは今のあなたが何一つ持って
いないことを再確認するためにやるの」

 「何一つ持ってないって?」
 美香は素朴な疑問を思わず口に出してしまった。

「そうでしょう。あなたが今着ているお洋服も、玩具も学用品も、
学校の授業料だって、何一つあなたが出したお金ではないはずよ」

 「だって、それは……私は子供だから……」

 「子供だからそんなの当たり前?」

 「ええ」

 「だったら、その当たり前を自覚してもらう為にやってちょう
だい。自分は何も持たない一文無しで、今あるものはすべて親の
愛から出ているということを自覚する為に……女の子は愛されて
こそ幸せなのよ。男の子の様に自分勝手な夢を追いかけてるだけ
では、幸せにはなれないわ。……わかるかしら?」

 「…………」
 美香は少し半信半疑ながら小さく頷く。
 そうしなければならないと思ったからだ。

 「だったら、何が自分を幸せにしているのか、それを常に自覚
しておくことは大事なことよね。あなたのように生まれた時から
親に愛されて育った子どもは、両親の愛って空気みたいにあって
当たり前のものだから、親の愛が冷めるなんて理解しにくいこと
でしょうけど、親の愛といえど無尽蔵ではないの。あなたの対応
次第では、無くなってしまうものなのよ。それを自覚してもらう
為にやってもらうの。……わかったかしら?」

 「はい、先生」

 「そう、それではまず服を脱がせましょう」
 ケイト先生は、母の澄江に向かって語りかけたのだが、美香は
自ら服を脱ぎ始めた。


(美香の回想)

 私はすでに覚悟を決めていましたから、自ら服を脱ぎ始めたの
ですが……
 「あらあら、美香ちゃん……あなた、気が早いのね。ちょっと
待って……あなたお利口さんで、自分で服を脱げるのは知ってる
けど……あなたは、今のところはまだ赤ちゃんなの……ですから、
そうしたことは、お父様やお母様にやっていただきましょう」

 ケイト先生は私の手を止めさせます。

 結局、私は父の前へ連れて来られ、制服の赤い棒タイを外して
もらいます。
 父の仕事はそれだけでした。

 あとは、母がすべて……ブラウス、スカートに始まり、靴下も
スリーマーもジュニアブラも……そして最後のショーツまで……
母の手で私からすべての衣服が剥ぎ取られたのでした。

 『何だか、荘厳な儀式みたい』
 私は思います。もちろん、裸にされたことは恥ずかしいことで
したが、それ以上に裸の自分がとてもドラマチックに感じられて
不思議に逃げ出したいほどの羞恥心はありませんでした。

 父と母が見つめるなか、私は二人の前で膝まづき両手を胸の前
で組みます。
 「これからベッドに入っておやすみします。今日一日のお二人
の御慈愛に感謝します。明日もお二人の良い子で過ごせますよう
に……」

 挨拶の言葉はケイト先生が後ろから小さな声で耳打ちしながら
教えてくださいます。

 私の声は、まるで時代がかったお芝居の台詞を棒読みしただけ
ですから、よその人が見たらさぞや滑稽に映ったことでしょうが、
目の前のお父さんもお母さんもソファに座っていつになく真剣な
表情です。

 すると、こんなママゴトみたいなお芝居でも……

 『お父さんが王様で、お母さんがお妃様。私、お姫様になった
みたい』
 馬鹿な幻想が頭をよぎり私の心は浮き立ちます。

 普段なら絶対に口にしない言葉を話す時、私の心はトリップし、
不思議と恥ずかしさはなくなるのでした。


 ご挨拶が終わると、父と母は協力してタオル地でできた続き服
を私に着せていきます。

 私はこの時、父の前で割れ目まで晒して気まずかったのですが、
父も母もこんなに大きな身体の私に赤ちゃん用のパジャマを着せ
るのが面白かったのか、一転して今度は二人で笑っていました。

 「さあ、これで大きな赤ちゃんが出来上がったわ。……どう?
着心地は?……あなたの体のサイズに合せてぴったりに仕上げた
のよ」
 ケイト先生に尋ねられましたが……

 『何だか、着ぐるみを着せられたみたい。熱くて汗をかきそう』
 というのが正直な気持だったのです。
 ただ、その苦情は言えなくて……

 「大丈夫です」
 とだけ一言。

 「夏場にこのパジャマは熱いとは思うけど、今日だけ我慢してね。
実は、これから妹さんの方へも回らなきゃならないので、あなた
と添い寝ができないのよ」

 「添い寝?」

 「明日からは、私かお父様お母様、その誰かと一緒にベッドを
共にすることになるでしょうから……その時は裸ん坊さんにして
あげられるけど、あなたを独りにすると、また悪い遊びを思い出
さないとも限らないでしょう」

 「悪い遊び?………………」
 私はしばし考えてから……
 「えっ!!私、そんなことしません」
 驚いて否定しますが……

 「そうは言っても、あなたには前科もあることだし……この服
は、そのための服でもあるのよ」

 私はこの時はじめてこのパジャマがオナニー防止用だと知った
のでした。

 私はベッドに寝たまま、お父さんお母さんに『おやすみなさい』
を言います。

 部屋の電気が消え、眠りについたわけですが、このパジャマ、
想像通りとにかく熱くて、とてもすぐに寝られませんでした。

 エアコンは働いていましたが、ものの五分と経たないうちに、
全身汗でびっしょりです。

 なかなか寝付けぬうちに10分、20分と過ぎていきます。

 すると、そのうち……
 「いやあ~~~ごめんなさ~~い、もうしない、もうしません
から~~~ゆるして、ゆるして、しないしないもうしないから」
 妹の香織の大泣きが、遠く聞こえてきます。

 それがどんな理由で、どんなお仕置きをされているのかまでは
分かりませんでしたが、それを子守唄代わりに私はまどろみます。

 妹の悲鳴が子守唄なんて、不謹慎かもしれませんけど、建前は
ともかく姉妹なんて所詮は親の愛を巡って争うライバル関係です
から、ライバルの情報は常に気になります。
 そして、両親がどんなお仕置きをするか、その結果どうなって
しまうか、過去の経験からたいてい想像がつきますから、そんな
妹の痴態を想像するだけでも心はうきうきだったのです。


 『それにしても暑いわ』
 その夜はまるでサウナ風呂の中にいるような暑さでした。

 この続き服のパジャマ。冬は暖かくていいのでしょうが、夏は
熱がこもって最悪です。
 おかげでベッドに入って5分としないうちから体中大汗でした。
ひょっとして、寝付いたのは失神したからかもしれません。


 ところが、朝、起きてみると、状況は一変していました。

 「えっ!!!」
 寝ぼけ眼の私に、その素肌がいま裸でいることを伝えます。

 着ていたはず赤ちゃん服がありません。素肌に当たる感触は、
毛布の肌触りのみ。

 『もし、このままこの毛布を捲られたら……』
 そう考えると、本能的に毛布の裾を自分の体へ捲きつかせます。

 すると、その衝撃でベッドの隣人が目を覚ましたようでした。

 「あら、起きたの?」

 「……け、ケイト先生。……先生がどうしてここに……」

 「そんなに驚かなくてもいいじゃないの。私はあなたの子守り
だもの。一緒に添い寝するのは当たり前だわ。その事は説明した
はずよ」

 「……あ、そうでした。……あのう……私……昨夜、着ていた
パジャマ……着てないみたいなんですけど……」

 「ああ、そのことね。あんなの着て寝たら暑くて寝られないで
しょう。だから脱がしてあげたの」

 「えっ!?」
 私は脱がされた記憶がありませんから頭の回線がショートしま
す。
 「そんなこと……私……」

 「知らないでしょうね。熟睡してたみたいだから……羨ましい
わ。あんな大汗かきながらでもちゃんと寝られるんだもん。……
若いっていいわね」

 「…………」
 そりゃあ女同士の話ですから、ビックリするほどの事はないの
かもしれませんが、ケイト先生に私の裸を見られたのはそれなり
にショックでした。

 いえ、それだけじゃありません。その話にはまだ続きがあった
のです。
 「それで……そのついでってわけでもないんだけど、あなたの
大切な処も拝見したわ」

 「……(!!!)……」
 私は、一段ときつく毛布を絞りめ、先生とは反対の方を向いて
しまいます。

 「悪く思わないでね。これも私のお仕事だから。……どのみち、
ここでは隠し事はできないの。……特に、オナニー癖のある子や
レスポスの恋に身をやつす娘たちは、ちょっとでも疑いがあれば、
それこそ穴という穴を全部調べられることになるわ」

 「……」
 私は、思いあまってケイト先生の方を振り向きます。

 『私はそんな恥ずかしいことなんてしてません』
 と宣言するつもりでした。
 『ほんのちょっぴりだけです』というのは伏せて……

 振り向いた時の目がきっと真剣だったからなのでしょう。
 先生は笑って……
 「大丈夫よ。あなたのは襞は綺麗なものだったわ」

 「えっ!」
 私は自分で振り向いていおきながら先生には何も言わず、また
先生に背を向けてしまいます。

 「あなたの悪戯は、まだ、おっぱいとお豆ちゃん止まりね。…
…どっちも先端にほんの少し炎症があったわ」

 『!!!!!!』
 それを聞いた瞬間、私の頭がボイラーのように沸騰します。
 『馬鹿なことやめてよ!!』
 私は大声を上げたい気分でした。

 「これをお父様にご報告してもいいんだけど、また余計な心配
をなさるかもしれないから、これは、あえて報告しないでおくわ
ね。あなたもその方がいいでしょう」

 『もう、いやだあ~~~そんなところまで見られてたんだあ。
……私、その時なぜ起きなかったんだろう』
 そのことが悔やまれてなりませんでした。

 すると、ここでケイト先生がベッドを抜け出します。

 そこで私も……
 「あっ、起きます。あの~昨日着てたパジャマは?」
 と言ったのですが……

 「ああ、あのパジャマ……あれは汗びっしょりで濡れてるから
着ない方がいいわ。冷たくて風邪ひくわよ。それより、あなたは、
これからお浣腸だから、ベッドに寝てなさい。起きてもやること
ないもの」

 『……(え~~~このままの格好で、お浣腸なの~~~)……』
 私の身体は、今、素っ裸。想像するだにそれは悲しい姿でした。


****** 見沼教育ビレッジ (9) ******

****** 見沼教育ビレッジ (10) ******


 毛布越しに恐々見ていると、ケイト先生はお浣腸の準備をして
いました。

 特大の注射器のような形をしたガラス製のピストン式浣腸器が
湯気のたつ蒸し器に入れられ、今煮沸消毒されているところです。
……薬戸棚からはこげ茶色の薬壜が取り出されていました。

 『あれ、ひょっとしてグリセリンかしら………いやだなあ……
あのお薬、苦手なのよ。もの凄く強烈にお腹が差し込んで………
出した後もお腹が渋ってしょうがないし……きいてみようかしら』

 そんなことを思っていた時でした。楽しそうに鼻歌を口ずさん
でいたケイト先生と目があったので尋ねてみると……

 「あのう……グリセリン使うんですか?」

 「あら、グリセリンなんて知ってるところをみると、あなた、
これやったことがあるのね」

 「ええ、……まあ……」
 言いにくそうに答えると、その先も突っ込まれます。

 「お家で?……それとも学校で?」

 「えっ…………それは…………両方です」
 急に声が小さくなります。私はこんなこと尋ねなきゃよかった
と思いましたが、後の祭りでした。

 「あなた、普通にしている時は、便秘気味なの?」

 「………………」
 私が答えたくなくて無言でいると……

 「お仕置きね……」

 「ええ」

 「うちも同じよ。このお浣腸はお仕置きとしてやるの。だから、
当然、グリセリン。普通は濃度50%溶液だけど、体調が悪い時
は薄めてあげるわ。……ただし、前日おいたが過ぎた子には原液
なんてのもあるから気をつけてね。あなた経験ないかもしれない
けど、原液ってもの凄くお腹が渋るわよ」

 「(原液?)」
 私は目を白黒です。

「まさか、お父様はやらないでしょう?こういうことはお母様の
仕事だものね。……学校では上級生にやってもらったんじゃない
の?」

 「ええ、……まあ……」

 「お浣腸は尾篭な話だから、外聞もあって、学校でも家庭でも、
『うちはこれをお仕置きとしてやっています』なんて言いたがら
ないけど……けっこうあちこちでやってるのよ」

 ケイト先生がビニールシートを広げた時でした。

 「おはようございます、先生」
 お母さんの声。

 お母さんが部屋のドアをお義理にノックをして、両親が一緒に
……いえ、それだけじゃありません。両親の後ろに隠れるように
香織までもが一緒に部屋へ入ってきます。

 『なんで、あんたまでが一緒なのよ。昨夜はぴーぴー泣いてた
くせに、今日はよくそんな笑顔でいられるわね。あんたには関係
ないことでしょう』
 私は香織を見るなり、妹を追い払いたくて仕方がありませんで
した。

 私はどうしてよいのか分からず、とにかく毛布を必死になって
身体に捲きつけます。

 お母さんはともかく、お父さんや香織には、この姿を見られた
くありませんでした。

 「おはよう、お姉ちゃん」
 香織は私のベッドに両手を着くと私の顔を見て満面の笑みです。

 「おはよう、美香。昨日はちゃんと眠れたかい?」
 と、今度はお父さん。

 「おはよう、美香ちゃん。先生ができたら布製のオムツの方が
いいとおっしゃるから……お母さん、あなたの為にオムツ作って
きたの。これ前に作ったのは何年前だったかしらねえ」
 お母さんは昨夜徹夜で縫い上げた布製のオムツとオムツカバー
を三つも持って私の枕元に立ちます。

 家族全員にベッドを囲まれ、進退窮まったというのは、まさに
このことです。
 私は、もう、どうしてよいかわからず、ただ引きつった笑いを
浮かべて応対するしかありませんでした。

 「あら、いい顔ねえ」
 そこへケイト先生もやってきて私の怯えた顔を見つめます。

 「お仕置きを受ける時は、そうした申し訳ないって顔をしてる
のが一番よ……」

 先生はそう言うと、いきなり毛布の裾を持って捲りあげます。
 それがどうなるか、誰にもわかることでした。

 「……大丈夫、大丈夫、見てるのお父様とお母様だけだもの」
 先生はそういいながら今度は私の両足を高く持ち上げます。

 これもどうなるかは誰にでも分かります。
 ただ、先生のそのあまりの手際のよさに私は声を出す暇があり
ません。
 どうやら、私、悲鳴を上げるタイミングを逸したみたいでした。

 「お父様もお手伝いください」

 ケイト先生はそうしたことには距離を置きたいお父さんに声を
かけます。お父さんはそ知らぬふりで壁の方を見ていました。

 それに対して香織は積極的です。こんなチャンスは滅多にない
とばかりに、何も隠すものがなくなった私のお尻を至近距離から
まじまじと見ています。

 『あんた、こんなもの見て面白いの?……だって、あんたと私、
同じ体じゃない』
 なんて言ってやりたくなりました。

 そんな好奇心旺盛な香織にケイト先生がまず声をかけます。

 「香織ちゃん、コレ、お姉ちゃんのお尻に挿してくれるかなあ」

 ケイト先生がそう言って香織に手渡したのはイチヂク浣腸。
 『えっ、香織にやらせるの!!ちょっと、ちょっと、やめてよ』
 私の心はいきなり大慌てです。

 香織だって……
 「やだあ~、ばっちいもん」
 と、最初は断ったのですが……

 「ダメよ。香織。あなたも家族の一員なんだもの。協力しない
と……」
 お母さんが諭します。

 「え~~やらなきゃだめなの?」
 香織は一見不満そうに見えますが……その笑顔はまんざらでも
ない様子。
 私はこの子の姉ですから、そこらの事はよくわかるのでした。

 「香織ちゃん、香織ちゃんはお姉ちゃんが好きでしょう」
 「うん……」
 「だったら、大好きなお姉ちゃんの為にもお仕置きしてあげな
きゃ。お仕置きは愛されてる人からがやらないと効果がないの。
お姉ちゃまのお尻をばっちいなんて言ったらお姉ちゃまに失礼よ」
 「だってえ……」
 香織はなおも渋っていましたが……
 「こういうことはお互い様。あなただって、いつかお姉ちゃま
からこういうことをされることがあるかもしれないわ」
 ケイト先生の説得に香織は満を持して決心したみたいでした。

 『ふん、やりたいくせに!』
 私の方はプンプンです。

 「こう持って……ほら、ここに刺すの。……膨らんでるところ
は私が合図をしないうちは強く握らないでね。お薬が出ますから」
 ケイト先生は手取り足取り香織を指導です。

 そのうち……
 『あっ!!!』
 その瞬間、私のお尻の穴がケイト先生によって開かれました。

 「さあ、ここに差し込んで」

 香織は言われた通りにしましたが、私の方が問題でした。
 イチヂクの先がお尻の穴に当った瞬間、私は思わず門を閉じて
しまいます。

 「ほら、ダメでしょう!幼い子じゃないんだから……」
 ケイト先生、さっそく私にお小言です。

 「ちゃんとやらないと、昨日の香織ちゃんみたいにお灸をすえ
られることになるわよ」
 ケイト先生はとっておきの威し文句を私に投げかけます。

 お灸、それは滅多にないお仕置きでしたが、それでも女の子に
とってはおぞましいお仕置きの一つです。
 そして、それと同時に、昨夜の香織の悲鳴がお灸だと知ったの
でした。

 『……てっことは……私も…………!!!!』
 嫌な予感が頭を掠めた瞬間、嗅ぎ慣れたお線香の香りがします。

 『!!!(いつの間に?)!!!』
 原因はお母さんでした。私がそこへ目をやった時は、お線香が
すでに燃えていて、艾も丸められて、準備万端だったのです。

 「私も一応許可をいただいてるけど、こういうことはお母様に
やっていただくことになると思うわ」

 「…………」もう言葉がありませんでした。

 「わかったら、抵抗しないの。大人しくお浣腸を受けましょう。
……ね、わかった?」
 ケイト先生の声に、私は頷くしかありませんでした。


 香織のイチジクがお尻に刺さり、あの嫌な感触がお尻の穴だけ
でなく身体全体に広がります。

 「よくできたわ。あなた、なかなかお上手よ」
 ケイト先生のお世辞に送られて香織が私のお尻から離れました
から、私は急いで立ち上がろうとします。
 ところが……

 「あら、何やってるの!あなた、まだお浣腸が済んでないのよ」
 ケイト先生がベッドから起き上がろうとしていた私の肩を押し
返します。

 私はベッドに仰向けで、逆戻り。両足も再び上げさせられたの
でした。

 「では、まず、お母様にはこちらで……」
 ケイト先生はあの馬鹿でかい注射器みたいな浣腸器をお母さん
に手渡します。

 『やだなあ、あんな大きなので……イチヂクでいいじゃないの』
 心の中でぶつくさ言いながらその時を待っていると……

 「さあ、いきますよ。今度はちゃんとお尻の筋肉を緩めなさい。
あんまり見苦しい真似をしてると、本当に熱いお灸ですからね」

 お母さんに脅されて、私は最大限の努力はします。そのガラス
の尖った先をお尻の穴で受け入れようと努力はしたのです。
 でも、これは人間の防衛本能。身体が自然に拒否してしまうの
でした。

 「ほら、しっかりしなさい。私に恥をかかせないの!」
 お母さんの突き刺すガラスの先端がお尻の入口をつんつんしま
す。

 「ほら、本当にお灸になりますよ。いいのね、それで……」
 お母さんの更なる脅しにビビッた私は、お尻の門を開けるべく
更に一層の努力をしてみますが、これが身体の中に入ったらどう
なるかを私自身が知っていますから、簡単にはお尻の門は開きま
せんでした。

 と、そのときです。

 「いやっ!!」
 私の大事な場所が誰かの手で触れられます。

 小さな芽を悪戯したのはケイト先生でした。
 でも、おかげでお母さんの思いは叶います。

 「………(あっ、流れてる)………」
 気がついた時は、グリセリンのあの嫌な感覚がお尻の中に……。

 「(いやあ!)」
 私はたまらず両手で顔を覆いますが……

 「ダメよ、顔を隠しちゃ。どんな時でも現実を直視しなきゃ。
あなたにとっての現実は何?……上級生に誘われるまま桃色遊戯
にうつつを抜かしていたあげく、成績を下げて、お父様お母様に
ご心配をかけて……それで、こういう事になったんでしょう?」

 「…………」
 私は小さくそれと分からないほど小さく頷きました。

 「だったら、ちゃんとお仕置きされてる自分も見つめなきゃ。
逃げてちゃ反省にならないわ。自分がどういう姿をしているか、
見にくかったら、鏡を持ってきましょうか?」」

 「いや、やめて」
 私はケイト先生の提案に思わず声が出てしまいました。

 「ほら、ほら、イヤを言ってはいけないと教えたはずよ」
 ケイト先生の声に我に返ります。

 『そうだ、今は赤ちゃん。イヤは言っちゃいけなかったんだ』

 ハッとした私は、
 「ごめんなさい、もう言いません」
 慌てて謝りますが、先生はそれには答えずさっさと私の足元に
鏡を置きます。

 「ほら、よ~~く見て御覧なさい。女の子はなかなか自分では
こんな処見ないから、こんな時はいい機会だわ」

 そう言われて見た鏡には私自身の恥ずかしい場所が……

 こんなの見たいのは男の子だけ。女の子は見たくありません。
 でも……

 「ほら、ちゃんと見なさい!自分の汚い部分から目を背けない
のよ」

 先生の強硬な態度に押されて、私はじっくり私の恥ずかしい処
を鏡ごしに見る事になります。それはすでに薬の効果が効き始め
ていた身としては、『こんな事で時間を取られたくない』という
思いからでもありました。

 「トイレ、行ってもいいですか」
 今度こそ、と思ってそう言ったのですが……
 
 「あら、だめよ。まだ肝心のお父様からのお仕置きが終わって
ないてでしょう」

 ケイト先生の声に……
 「でも、もう出そうなんです」
 と泣き言を言うと……

 「大丈夫よ。幼い子じゃないんだから……しっかりお尻の穴を
閉めていればまだまだこれくらい耐えられるわ。……さあ、恥を
かきたくなかったら頑張りなさい。これも、いい教訓になるわ」
 残酷な答えが返って来ました。

 その瞬間です。私のお腹に大津波が……
 「あっ、だめえ~~」

 ベッドのシーツを必死に両手で握りしめ……下腹に意識を集中
します。

 「ほら、大丈夫でしょう」
 ケイト先生は少しだけ落ち着いた私を見て冷たく言い放ちます。

 確かにその時の大津波は漸(ようよ)うのことで治まりました
が、もうこれ以上あんなお薬を受け入れるのは無理でした。
 ですから、恥を忍んでケイト先生に……

 「もう、ダメなんです。ホントに出ちゃいます」
 と申し上げたのです。
 けれど……

 「さあ、そんな泣き言言ってる間に済ませた方がいいわ。……
お父様、ご準備をお願いします」

 ケイト先生は仕事を先へ進めようとします。

 お父さんの顔も『約束したことだから仕方がない』というお顔
でした。
 その顔で先生からあの注射器のお化けを受け取ります。

 『あっ、お父さんが来る!』
 私に迫る新たな恐怖です。

 ただ、お父さんから受けるお浣腸というのは不思議でした。
 それって心の表面では、お母さんからやられた時より、ずっと
恥ずかしいのです。お父さんは男性ですから……

 でも、私はお父さんが幼い頃からずっとずっと好きでした。
 思春期になって口にはあまり出さなくなりましたが、その気持
はその時も変わっていません。
 すると、不思議なことが起きました。

 「……あっ!」
 お父さんが突き刺したガラスの先端を私のお尻はすんなり受け
入れたのです。

 お母さんの時にはあんなに抵抗したガラスの先を、今度はあの
時より、たくさんお薬がお腹に入っているのに……ちょっとでも
気を緩めたら噴出しそうだというのに……それは、するりと私の
お尻に刺さったのでした。

 「さあ、いくよ。頑張るんだよ」
 お父さんの声に素直に頷きます。

 『あっ…入ってくる……入ってくる』
 私はお父さんのグリセリンを受け入れながら、でも不快な気持
は何一つしませんでした。

 むしろ、その瞬間は恍惚として天井を見ていたのです。

 擬似セックス。
 もちろん、その時はそんなこと思いもしませんが、大人になり
セックスを経験すると、あの時のあれはそんな気持だったんだと
分かるのでした。


 結局、私のお尻には、香織の30ccと両親が50ccずつの
130ccが入ります。

 終わった時、おなかの中は大嵐です。たまになぎの時間がある
といってもそれは短く、すぐにまたお腹の大嵐がやってきます。
ですから、トイレに行こうにも危なくてベッドから起き上がる事
さえ困難になっいました。

 その大嵐の私のお尻りに大きな帆が張られます。

 「おトイレ、おトイレ」
 私は弱弱しく叫びましたが……

 「大丈夫よ、美香さん。今日はもうその心配はないわ。だって
あなた、今は赤ちゃん。このベッドの上で存分におトイレできる
んだもの。……こんなに幸せ、またとないわ」

 『そんなあ~~~』
 私は悪い冗談だと思っていましたが、大人たちは本気だったの
です。

 「お父様、お母様、それではお約束ですので、お願いします。
こんなに大きくなったお子さんの下の世話は大変だと思いますが、
こうした事は他人よりご両親の方がはるかに効果的なのです」

 「分かってますわ。自分の娘ですもの。造作のないことですわ」
 お母さんは満面の笑みで答えます。

 つられてお父さんも……
 「あっ……そうだね」
 承知しましたが、その顔は若干引きつって見えます。

 そんな二人の様子を見ながら私は……
 『何でこんなことしなければならないの?なぜこんことするの
よ!馬鹿じゃないの!』
 とそればかり御題目のように思っていたのです。

 そんな御題目を唱えながら頑張っている私の脇にケイト先生が
立ちます。
 それって、私にしてみたら地獄からの使者でした。

 「ほら、もうオムツはめてもらってるんだから、ここに出して
いいのよ」
 地獄からの使者が私の特大オムツを叩きながら笑います。

 『ちょっと、やめてよ!!』
 私はこの時だって必死です。

 ケイト先生は人のことだと思って笑っていられますが、こちら
は『はい、そうですか』という訳にはいきませんでした。
 油汗を流し、顎を震わせて、それでも必死に頑張っていたので
した。

 そんな私のお腹を、先生はいきなりギュウ~っと押し込んで、
鷲づかみにして揉み始めます。

 「……あああっっっ……だめえ~~~~」

 私は微かに声を上げましたが、抵抗できませんでした。

 生暖かいものがあっという間にお尻全体に広がり、同時に私の
プライドが溶けてなくなります。

 その瞬間は、何が起こったのか理解できませんでした。
 いえ、理解しようとしませんでした。
 そう、理解したくなかったのです。

 『夢よね、こんなの夢よ。現実じゃないわ』
 私の心の奥底から今を認めない言葉が響きます。

 『そうよ、悪い夢みてるだけだわ』
 私はその言葉にすがるしかありませんでした。


****** 見沼教育ビレッジ (10) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §11~§12

****** 見沼教育ビレッジ (11) ******


 『今、自分の腰のあたりがスースーするけど、きっと、私……
風邪ひいてるんだわ』

 馬鹿げてると思うでしょうけど、それしか自分の心を納得させ
られなかったのです。

 もちろん、お父さんとお母さんが私の為に仕事をしている事は
知っています。
 でも、それを認めるわけにはいきませんでした。
 だって、それを認めてしまったら、私はもう二度と誰とも顔を
合せられないような気がして怖かったのです。

 ですから、薄情者の妹が……
 「わあ~~お姉ちゃん、ばっちい」
 なんて叫んでも、それを受け入れることは出来なかったのです。

 『………………………………………………………………』

 オムツ替えに掛かった時間はおそらく1、2分でしょう。
 でも、その時間は、私には30分にも1時間にも感じられる程
長いものでした。

 「終わったよ」
 お父さんが枕元にやって来て声を掛けますが、お母さんはまだ
汚物を片付けていました。
 私はお父さんの笑顔にも顔を反対側に向けます。

 でも、そこにも妹の香織の顔があって……
 「よかった、私はお浣腸しなくてもいいんだって……」
 小憎らしい笑顔で私の顔を覗き込みます。

 何もない時だったらきっと首を締め上げていたと思います。

 行き場のなくなった私はしかたなく正面を向いて目を閉じます。
 すると、私の下半身にはしっかりオムツがはめられているのが
わかりました。

 「このオムツ、ずっとしてなきゃいけないの?」
 私は目を開けましたが、その時涙がこぼれました。

 「大丈夫だよ。お勉強の時は涼しい格好になるみたいだから」
 お父さんはやさしく教えてくれたのですが……

 香織はのしかかるようにして私の顔を見つめると……
 「お姉ちゃん、大丈夫だよ。すぐ取ってくれるよ。……だって、
これから痛~~い鞭を六回も受けるんだもの。オムツなんてして
たら痛くなくなるもの。絶対はずしてくれるよ」
 妹はそう言って笑います。

 天使のような笑顔。でも、そのお腹の中は、明らかにこれから
起こる私の受難が嬉しくて仕方がないといった様子でした。

 「悪魔」
 私が香織の顔めがけて吐き捨てると……彼女はさらに甲高い声
で笑います。

 『そうか、そうだったわね』

 でも、私は香織のおかげで朝の儀式のことを思い出しました。
 そうなんです。朝の儀式はまだ終わっていないのです。お浣腸
だけでホッとしてはいられませんでした。

 「あら、何なの?……何だか楽しそうね」
 噂をすれば…ということでしょうか、ケイト先生がお父さんの
背中から顔を出します。

 「美香さん。せっかくお母様から穿かせていただいたオムツだ
けど……これ、いったん脱がすわね。……あなたには、これから、
先学期の反省をして、鞭を受けてもらうことになってるの。……
そのことは説明したから覚えてるでしょう」

 ケイト先生は、そう言いながら私のオムツを脱がそうとします
から……
 「あっ、いいです。私、自分で脱ぎますから……」

 さきほどのお浣腸で度胸がついたのか、私、自ら申し出たので
した。ところが……

 「あっ、それは結構よ。せっかくのご好意だけど、こういう事
はあなたが自分でしちゃいけないことになってるの」

 「どうしてですか?」

 「だって、あなたは、今、赤ちゃんですもの。自分で着替えは
おかしいでしょう」

 「……」

 「それにね、赤ちゃんのお仕置きは、何より辱めが大事なの。
……恥ずかしいと思う気持をあなたが持つことがお仕置きなのよ。
オムツ替えも自分でやるより誰かにしてもらった方が恥ずかしい
でしょう。だから、脱がすのも私がやってあげるの。わかった?」

 「…………」
 私は何も答えませんでした。
 何も言えず、ただ裸の私を見つめるだけだったのです。

 「いらっしゃい」
 ケイト先生の優しい言葉に導かれ、ベッドを降りて鞭打ち台へ
と向かいます。

 鞭打ち台といっても、そこにあるのはサイドテーブルに腰枕を
乗せただけの簡素なものでしたが、今回はそれで十分でした。

 私が腰枕の上にお臍を乗せてうつ伏せになると、お尻が『どう
ぞお願いします』とばかりに浮き上がります。それは鞭を振るう
人がお尻を調教するのにちょうどいい位置でした。

 「足を開いて……」
そう言われましたから足を開きましたが……

 「もっと、広げなさい」
 と言われます。そこで、もっと開いたのですが……

 「さあ、恥ずかしがってないで、もっと一杯に開くの。もう、
ご両親の前ですべて見せちゃってるんだから今さら恥ずかしがる
ことなんてないでしょう……」
 先生はとうとう私の太股に両手を入れて力ずくでこじ開けます。

 私はべつに抵抗するつもりはなかったのですが、お浣腸の時と
同じで本能的に自分を守ってしまうみたいでした。

 「…………」
 お股の中に風がスースー入り込むなか、私は硬質ゴムでてきた
パドルの衝撃に耐えようとしてぶたれる前から身体が熱くなり
ます。
 こんな時はたとえ素っ裸でも寒さを感じている余裕がありませ
んでした。

 「懺悔の言葉はあなたの目の前に張ってある紙を読みなさい。
一発目って書いてあるところには何て書いてあるかしら?」

 ケイト先生の指示で、私は初めて自分がうつ伏せなった机の上
にそんな張り紙がしてあることを知ります。

 「私は悪い子でした。こんな悪い子にどうかきついお仕置きを
お願いします」

 「そう、それよ。でも、もっと大きな声を出して読むの」

 「…………」
 私はその瞬間、恥ずかしくなって声が出ませんでした。
 というのは、これは小学生の時には家庭や学校で散々やらされ
てましたから……中学生になった今は、もう卒業できたと思って
いたのです。
 それを香織の見ているこの場所で今さら……という思いが頭を
よぎったのでした。

 「どうしたの?嫌なの?……嫌なら、他のお仕置きに切り替え
ましょうか?……お灸でもいいのよ。そっちにする?」

 ケイト先生に脅かされて、私は勇気を振り絞ります。

 「私は悪い子でした。こんな悪い子にどうかきついお仕置きを
お願いします」

 私はもう半分以上やけで大声を出します。

 すると、ケイト先生の声がして……
 「では、お願いします」
 私は小さな声を聞いたのでした。

 『何のことだろう?』
 私にふとした疑問がわきます。
 でも、答えはすぐに出ました。

 「美香、歯を喰いしばりなさい。息を止めて、しっかり頑張る
んだよ」

 『えっ?私の腰に乗せた手はお父さん?』

 「ピシッ~~~」
 ろくに考える暇もなく強烈な一撃が私のお尻に炸裂します。
 それって、私の心と身体をバラバラにするのに十分でした。

 男性と女性では同じパドルでぶたれても痛みの質が違います。
 その時の痛みは、振り返らなくても間違いなくお父さんだった
のです。

 「だめ、お父さんだめえ~、しないでそんなことしないで……
お願い、ごめんなさいするから、お父さんやめて~、お願~い」

 恥も外聞もなく私は後ろを振り向いて鞭を握るお父さんに泣き
つきます。

 それって、理屈じゃありませんでした。
 ケイト先生の鞭だと思っていたのが肩透かしを食らったという
のはあるかもしれませんが、私にとっては幼児体験が全てでした。

 もちろん、お父さんから年から年中叩かれていたわけではあり
ません。我が家では、何かあっても私をぶつのは大抵お母さんで
した。お父さんが私を叩くことなんて一年に一回くらいしかあり
ません。
 でも、たとえレアなケースであっても、その強烈な思い出は、
今でも私の心の奥底に刻まれ続けています。

 『お父さんの顔は恐い。お父さんのお尻ペンペンは痛い。鞭は
もっともっと痛い。あの時お父さんは私を納屋の中に放り投げて
閉じ込めた』

 幼い日に経験した恐怖が、こんなに身体が大きくなった今でも
私を必要以上に震え上がらせ取り乱させるのでした。

 「ほら、ごめんなさい、ごめんなさい言ってないで、さっさと
二発目の項目を読みなさい。お仕置きの鞭がいつまでも終わりま
せんよ」
 お母さんが恐い人にはどうしなければならないかを脇から教え
てくれます。

 「もう一度良い子に戻れますように、厳しい鞭をお願いします」

 「そうだな、良い子に戻ってもらわないと、何より私が困る」
 お父さんはそう言って鼻息を一つ。それがうつ伏せになった私
にも伝わったのでした。
 そして、再び……

 「ピシッ~~」

 「いやあ~~ごめんなさい。もう、ぶたないで、いい子になり
ます。約束します。ごめんなさい。ごめんなさい」

 信じられないことですが、お父さんにぶたれる時、私の対応は
幼児の頃とほとんど変わりがありませんでした。
 中学生のプライドなんて、お父さんの前では軽~く吹っ飛んで
しまうのです。

 「さあ、三発目を読んで……」
 お父さんの声が恐いのです。

 「どんな…(はっはっはっ)…辛いお仕置きにも…(はっはっ
はっ)…耐えますから、もう一度、…(はっ)…良い子に………
良い子に……(はっ)……してください」
 私は反省の言葉は途切れ途切れ、嗚咽が止まりません。

 「ほらほら、いくら女の子でもそんなにぴーぴー泣いてばかり
じゃちっとも反省してることにならないぞ。少しぐらい痛くても
ぐっと我慢して耐えなきゃ。……ほら、もっとしっかりせんか」
 私はどんどん追い込まれていきます。

 「はい……」
 私は真面目に真面目にお仕置きを受けているのに、お父さんに
謝らなければならないのでした。

 「さあ、しっかり、歯を喰いしばって……こんな時は何も考え
ないことよ」
 お母さんが脇で励まします。

 「ピシッ~~~」
 三発目はお尻も暖まってきて、特に痛かったです。

 ひと際甲高い音がして、身体が机ごと前に持っていかれそうに
なります。その衝撃は、お尻だけじゃありません。頭の天辺まで
届きました。

 「かわいそう」
 香織の独り言が聞こえました。

 「じゃあ、あとの三つは…母さんに頼もうか」
 お父さんが突然パドルをお母さんに渡します。

 それは、事情はともあれホッとした瞬間でした。

 「私は誓います。絶対に悪い子にはなりません。お父様お母様
のどんなお言いつけも守ります」

 現金なもので、パドルがお母さんに渡ったとたん反省の言葉が
すらすら言えるようになります。

 「ピシッ~~」

 「(ひぃ~~~)」
 ぶたれた瞬間、私は机を両手で握りしめます。もちろんお尻は
ヒリヒリしています。
 お母さんだから優しいってことじゃ決してありません。
 でも、私はこの痛みに慣れていましたから、正直、お父さんの
鞭より、はるかに楽だったのです。

 「ほら、頑張れ、頑張れ、あと二つだぞ」
 いつの間にかお父さんが中腰になって私と視線を合せています。
 お父さんは私をあやすように笑っていました。
 いつもの優しいお父さんがそこにはいたのでした。

 恐いお父さんと優しいお父さん、それはどちらも私がよく知る
お父さんだったのです。

 「さあ、五発目を読んで……」
 今度はお父さんが私を励ます番です。

 「もし、それでもまた悪い子に戻ったら、もっともっとキツイ
恥ずかしいお仕置きをたくさんたくさんお願いします」

 私は早口ですらすらっと読んでしまいました。
 すると、それはそれで……

 「もっと丁寧に……心をこめて読むの」
 お母さんのお小言です。

 「ピシッ~」
 
 「ひぃ~~」
 お母さんの鞭は甲高い乾いた音がします。ぶたれた直後はお尻
の表面がヒリヒリして、そりゃあ痛いですから、思わず悲鳴を上
げてしまいますが、お母さんのお鞭はお尻のお肉にはあまり影響
を与えませんから、その痛みが長く続くことはありませんでした。

 「これからお勉強頑張ります。もし怠けていたら、夜にはまた
キツイお仕置きで励ましてください」

 「ピシッ~」

 最後の一発が届いた瞬間、私は悲鳴を忘れ安堵の顔をしました。
 それは、お母さんも見ていたみたいで……

 「あら、最後は効いてないみたいね。……だったら、もう一つ」

 「ピシッ~」
 とんでもないのが最後におまけでやってきます。

 「ひぃ~~」
 前の悲鳴がお芝居というわけではありませんが、これは本当の
心の声。最後の衝撃は目を白黒させ地団太を踏むほどの衝撃だっ
たのでした。

 「いつも言ってるでしょう。女の子はお仕置きを受けてる時は
いつも申し訳ないって気持でいなきゃ。やれやれ、なんて気持を
外に出しちゃいけないの。わかってる?」

 私はキツイおまけの一撃とお小言をもらってようやくお母さん
のパドルから開放されたのでした。

 『やれ、やれ、』
 今度は本当にやれやれです。

 でも、これで朝の儀式がすべて終わりたわけではありませんで
した。
 ほっとしていた私の耳に、まだ鞭打ち台にうつ伏せで張り付い
ていた私の耳に、ケイト先生が……

 「美香ちゃん、ご苦労様、起きていいわよ。……それじゃあ、
あとはお父様からお尻にお薬を塗っていただきましょう」

 こんな言葉を聞いたものですから……
 「えっ、お父さんにまた、見せるの」
 私の口は忘れっぽくて、思わず本音をポロリとさせてしまうの
でした。

 「あら、お父様はお嫌い?」

 「いえ、……そういうわけじゃあ……」

 「忘れたの?今のあなたは、『いいえ』を言えない子なのよ」

 「…………それはわかってますけど……」

 「わかってますけど、何なの?『恥ずかしいからそれは嫌です』
なのかしら?……でも、赤ちゃんの立場にあるあなたに、それは
言えないお約束よ」

 「………………(!)」
 泡を食った私は頭の中で、何とか反論を、口実をと探しました
が、結局、生唾を一口飲み込むことしかできませんでした。

 「今のあなたは、『パンツを脱ぎなさい!』と命じられたら、
脱がなきゃならないし、『お股を広げなさい!』と言われたら、
やらなきゃならないの。もちろん、穏やかに話して従ってくれる
なら何もしないけど、わがままを言うようだと、お隣のお嬢さん
みたいに、枷を首に捲きつけて大恥かきにお隣へ飛び込むことに
なるわ。あなたは頭のよさそうな子だから、そのあたりの理屈は
わかるわよね」

 「はい、先生」
 私は伏し目がちにうな垂れます。

 「わかったのなら、お父様のお膝にいらっしゃい。……お薬を
塗っていただきましょう。そのあと、オムツも着けていただいて
……それから、朝のお食事……分かりましたか?」

 「はい、先生」

 「よろしい。良いご返事ですよ。良い子はいつでもそんなふう
に素直でなくちゃいけないわ」
 ケイト先生は素っ裸の私を抱きしめます。そして、こう続ける
のでした。

 「あなたのように、今でもご両親から愛されてる子は、人生に
つまづいたら、まずはすべてを脱ぎ捨てて、その愛の中に戻って
みるのが再生の近道よ。その勇気があなたに幸せをもたらすの。
今はこの世の中で唯一あなたを愛してくれる人たちの前だもの。
どこをどう見られたっていいじゃない」

 「……はい」
 私の声は囁くように小さいものでしたが、ケイト先生の言葉が
何となくわかるような気もするのでした。

 「逆に言うとね、私のどこをどう見られたって構わないと思え
るお相手を見つけられるかどうが女の子の幸せの鍵なの。……今、
それはお外にはいないわ。家の中にいらっしゃるでしょう」

 ケイト先生はそう言って私を回れ右させると、すでにソファに
腰を下ろしているお父さんの元へ私の肩と背中を押したのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (11) ******

****** 見沼教育ビレッジ (12) ******


 「覚悟を決めたか?……どうやら、お前も少~~しだけ大人に
なったみたいだな」
 お父さんは最初厳しい顔でそう言います。

 『覚悟って何よ!……こんな状況じゃ仕方がないじゃない……
私は私、何も変わってないわ』
 言われた私はそう思っていました。

 でも、お父さんには私の心持が最初の頃とは幾らか違ってきた
のがわかるみたいで、顔は厳しくても嬉しそうにしている様子が
こちらへと伝わってきます。

 ただ……
 『何がどう違うって言うのかしら?』
 幼い私にその具体的な中身まではわかりませんでした。

 お尻ペンペンの姿勢でお薬を塗られ、ベッドに仰向けらされて
オムツを穿かされます。
 友だちに見られたら自殺だってしかねないくらい哀れな姿です。

 当然……
 『こんな屈辱の時間、早く過ぎ去ればいいのに……』
 とそればかり思っていました。

 ただ、最初の頃と違いがあるとすれば、それはまわりの景色が
よく見えるようになったということでしょうか。
 お父さんがやっているたどたどしいオムツ替えの手つきやお母
さんとケイト先生の何気ない会話。香織の手持ち無沙汰な様子迄、
その時は冷静に観察できるようになっていたのでした。

 「要するに諦めただけよ」
 私は誰に聞かせるわけでもなく、ぼそぼそっと小さな声で独り
言を言います。

 すると、それにお父さんが反応しました。
 「だから、『お前も大人になったなあ』と言っているんだ」

 「諦めることが?」

 「そうだ、……それも一つだな」

 「どういうことよ」

 「お前はさっきまで自分のわがままや欲望だけを連呼していて、
それが受け入れられないと心を閉じていた。でも、今は、自分が
置かれている状況を冷静に観察しようとしている。こうなると、
『自分の欲望は一旦脇に置いてとりあえずは諦める』という選択
だって出てくる」

 「だって、諦めたらどのみち負けじゃない」

 「そうじゃないよ。相手のことを冷静に観察したうえで諦める
のは、何も逃げる負けるという意味じゃない。むしろ、その先で
よりよい結果を得るための手段なんだ」

 「ふうん」

 「そうしたこと分かればお前も一人前なんだろうがな。まだ、
そこまではいってないようだな。…………ま、いいさ。その方が
こちらも長いこと楽しめるというもんだ」

 お父さんは自分の出来栄えに満足したように笑うと、オムツ姿
の私を抱き上げます。
 いつ以来でしょうか、お姫様だっこなんて……。

 「先生、出来上がりましたよ」
 お父さんは自分の作品を誇らしげに目よりも高く差し上げます。

 「あら、美香ちゃん、お父様に抱っこしてもらったの?」
 「わあ~~よかったわねえ~~」
 お母さんやケイト先生の声に私の体は全身がピンク色に染まり
ました。

 「わあ、いいなあ、お姉ちゃん、私も抱っこされたい」
 妹の香織までもがお父さんの袖を引きます。

 「だめだよ。これは頑張ったおねえちゃんのご褒美なんだから。
お前もお浣腸するかい?」
 お父さんに言われると、香織はもちろん……
 「いやだあ、恥ずかしいもん」
 と、女の子らしく身体をくねらせて照れてみせます。

 「よかったわね、美香ちゃん、その調子よ」
 ケイト先生はお父さんに抱きかかえられた私の顔を覗きこむと、
人差し指で私のほっぺを突っついてあやします。

 ケイト先生だけじゃありません。この時、私を取り囲む全ての
人が私を本当の赤ちゃんを見ているように見つめ、微笑みかける
のでした。

 『まったく、何よ!馬鹿にしないでよ!』
 という気持も一瞬湧きましたが、家族全員が笑っている中では
それもすぐにかき消され、いつしか不思議な気分に……

 「ほ~~ら、高い、高~い」
 お父さんは何度も何度も私の身体を上下させます。
 すると、その度に天井が近くなったり遠くなったりしました。

 『私、赤ちゃんの頃って覚えてないけど、こんなだったのかあ。
このまま寝てしまいたいくらい気持がいいわ』
 私はお父さんの大きな腕の中でまどろみかけます。

 『不思議、痛いお尻がくすぐったくて気持いいなんて……』
 久しぶりに味わうお父さんの抱っこはパドルで叩かれたお尻が
まだ少し痛かったりしますが、それさえも心地よく感じられて、
楽しい思い出になったのでした。


 「さあ、お着替えを済ませたらしたら、顔を洗って食堂へ行き
ましょう。さっきから、いい匂いがしてきたわ」
 ケイト先生の明るい声が響きます。

 着替えと言っても脱ぐものはありません。私、その時はオムツ
しか身につけていませんから、あとは一つずつ服を着ていくだけ。
バンビのプリントされたスリーマーに始まり、袖と襟にレースの
着いた薄いピンクのブラウス。紺のプリーツスカートは膝上15
センチで小学生の妹のものより丈が短いものでした。

 しかし、ここでも私は一人前に扱われません。
 自分で服を着ることができないのです。

 お父さんとお母さんが、寄ってたかって裸の私に下着から身に
つけさせていきます。
 私はそんな甲斐甲斐しく働く二人に手出しすることは許されま
せんでした。

 「いいなあ、お姉ちゃん、お父さんとお母さんに何から何まで
やってもらって……」

 香織は脇で不満そうでしたが、私は……
 『何言ってるの。いつでも代わってあげるわ』
 と思っていました。

 実際、お母さんは、着替えの最中、目が笑っていません。
 考えてみればこのお仕置き、私だけが辛いんじゃありません。
私はお父さんお母さんにも大迷惑をかけているのです。

 ですから、お母さんがちょっとでも不機嫌な顔をすると、私は
申し訳なくて、着替えの最中や身づくろいをする洗面所でも、私
の心は針のむしろに乗ったままだったのです。

 妹はまだ幼いので私の気持なんてまだ分からないみたいで……
本当に代われるものなら代わりたいと思っていました。


 私たち家族は身支度を整えると食堂へ行きます。
 朝の食事の仕度は賄いのおばちゃんがやってくれていましたが、
私はここでも何一つ自由を与えられなかったのです。

 『?』

 私は食堂に入ってすぐ、奇妙な椅子の存在に気づきます。
 それは、サイズこそ大人用の椅子でしたが、形は幼児用の椅子
とそっくりだったのです。

 背もたれのプーさんのイラストはご愛嬌だとしても、その椅子
は前に小さなテーブルがあり、身体が転げ落ちないようにお股を
通したベルトで固定できるようになっています。
 お母さんと一緒に離乳食を食べる乳幼児が座る椅子という感じ
でした。

 『!』
 私は嫌な予感がしましたが……

 「美香ちゃん、いらっしゃい」
 ケイト先生がその椅子を引いて私にここへ座るように促します。

 『やっぱり』
 と、がっかり。どうやら、私の予感はピンポンのようでした。

 私はその椅子に座り、お父さんお母さんがその両脇に座ります。

 「いただきます」

 ケイト先生も交えて、みんなで食卓を囲みましたが、案の定、
私は何もさせてもらえませんでした。
 私に出来たのは、「いただきます」というご挨拶とお父さんや
お母さんがスプーンで口元まで運んできてくれた料理をパクリと
やって、口の中でもぐもぐするだけ。

 もし料理を乗せたスプーンが目の前にやってきたにも関わらず
口を開かず顔を背けると、もうそれだけで食事は中断。

 「いやあ、もうしないでえ~~~ごめんなさい、悪い子でした
いやいや。ごめんなさい、ごめんなさい、もうしないもうしない」

 香織がしかめっ面をする中で、私はオムツを脱がされて涼しく
なったお尻が真っ赤に焼きあがるまでお父さんやお母さんからの
平手打ちを覚悟しなければなりませんでした。

 それだけじゃありません。もし……
 「美味しいかい?」
 と尋ねられたら、満面の笑みで答えるのも、赤ちゃんとしての
私の義務だったのです。


 お浣腸されたうえにオムツにお漏らし。強烈にお尻をぶたれた
あとは、オムツをはめられて朝の食事を無理やり口の中にねじ込
まれる。これほど屈辱的な朝がこれまであったでしょうか。
 私は肉体的も精神的にもフラフラで自分の部屋へ向かったので
した。


 勉強部屋に戻ると、ごく自然に自分のベッドへ倒れこみます。

 「どう?朝の儀式の感想は?」
 それを見たケイト先生がカーテンを開けながら尋ねました。

 「…………」
 でも、私は答えません。答えたくありませんでした。

 「朝の儀式で疲れたのはわかるけど、ここからはもっと大変よ。
何しろお勉強しなきゃいけないんだもの。そのためには……まず、
オムツを外さなくてはね。この温気ですもの、こんな物してたら、
それこそお尻じゅうあせもだらけになっちゃうわ」
 ケイト先生は私が寝そべるベッドに腰を下ろします。

 「こんなこと、明日もあるんですか?」
 私は倒れこんだままの姿勢で、腰を下ろしてきたケイト先生を
薄目を開けて見つめます。

 「残念だけど、明日の朝も同じよ。そして明後日も……」

 ケイト先生は首を横に振りながら答え、私を仰向けにすると、
オムツを外し始めます。
 普通の常識なら、こんな事されたら抵抗するところでしょうが
私もすっかり慣れてしまったのか、この時は声もださず無抵抗で
した。

 「その先もずっとこうなんですね」

 疲れた声泣きそうな声に先生は……
 「疲れちゃったの?……無理もないわ。今日が初日ですもの。
……でも、すぐに慣れるわ。だって、ここにいる子たちはみんな
同じことしてるんですもの。あなただけじゃないから安心して」

 『あなただけじゃない』というのは、女の子には励ましの言葉
なのかもしれません。でも、ケイト先生にそう言われても、私の
心は『はい、そうですか』という顔をできませんでした。

 ですから、目を閉じて先生とは反対の方を向いてしまいます。
 すると、その視線の先には壁に掛かったゴム製のパドルが……

 今さら『あれ、どんな時に使うんですか?』と聞く気にもなり
ませんから、再び先生の方へ向き直ると……先生がちょうど蜀台
を戸棚から出している処でした。

 それは極太のローソクを1本だけ立てるタイプのタイプの物で、
小机の上には予備のローソクまでもがまだ箱に入ったままて準備
されています。

 『明かりなら電気で十分なはずなのにどうして?』

 パドルは今さらですが……こちらの蜀台は気になります。です
から、理由を尋ねてみたくなったのでした。

 「ローソクって必要なんですか?」
 恐る恐る尋ねてみると……

 「ああ、これ?……これは『お目覚まし』よ」

 「お目覚まし?」

 「そう、授業の途中で眠くなった子を起こす時に使うの。……
……火の着いた蝋燭をこうやって……」
 ケイト先生は私の右手を取ると、まだ火のついていない蜀台の
蝋燭をその上で傾けてみせます。

 「……!!!……」

 いくら世間知らずの私でも、それがどんな結果をもたらすかは
わかります。

 私は慌てて右手を引っ込めてしまいました。
 ただ、すねている時間はありませんでした。

 「さあ、そろそろ、最初の先生がお見えになるわ。これからは
私とあなたと、各教科の先生と三人でお勉強することになるの。
お勉強中はお父様やお母様といったご家族はご遠慮いただいてる
けど……どう、それじゃあ寂しい?」

 「……別に、そういうわけじゃあ」
 弱弱しく答えると……

 「じゃあ、しゃきっとした顔をしなさい。どの先生も真剣勝負
でみえられるのよ。50分間の授業で、あいだに10分の休憩が
入るけど……集中してやらないと……お昼も夜もごはんを立って
食べることになるから気をつけてね」

 「立って食べるって?……どうしてですか?」
 私は思わず尋ねます。
 それって、さっきは『分かりきってるから尋ねないでおこう』
としたことでした。

 「だから、お尻が痛いと椅子に座りにくいでしょう」

 「お仕置きってことですか?あのパドルで、やるんですか?」
 恐いけど、尋ねてしまいます。

 「10分休憩とお昼ごはんの後や夕ご飯の前に、先生方の指示
を受けて私がやるの。10分休憩の時は時間の関係で平手のお尻
叩きが多いけど……昼ごはんの後や夕ご飯の前は、庭の晒し台に
拘束してパドルが多いかしらね……親御さんから許可の出ている
子はお灸もあるし……赤ちゃん扱いだから公園で木馬に乗ったり、
乳母車でお散歩ってのもあるわね……こちらは気晴らしにはなる
かもしれなくてよ」

 「木馬って、三角木馬ですか?」

 「あらあら、おませさんはそんなことまで知ってるの。困った
子ねえ……」
 思わず口をついて出た言葉にケイト先生は苦笑します。そして、
こう続けるのでした。

 「ここでの木馬は、そんな危ないものじゃなくて、よく幼児が
家の中で乗って遊んでる玩具の木馬。それをただ大きくしただけ
の物なの。ただし、公園の木馬はオムツ姿で乗らなきゃいけない
から、それは覚悟しておいてね」

 「乳母車は?」

 「こちらは楽ちんよ。特注された大型乳母車に乗ってればいい
んですもの。これって中が広いでしょう、乗り心地が最高なの」

 「そうですか……」
 私が気のない返事を返しますと……
 
 「ただし、お家を出る時、もの凄くよく効くお浣腸をするから、
途中でオムツ換えをしなければならなくなるわね。知らない人が
沢山見ている前でのオムツ換えなんて、赤ちゃんにはぴったりの
お仕置きでしょう?」

 ケイト先生の皮肉な笑いに……私は滝に打たれたみたいに全身
びっしょりの脂汗。顔は真っ青になってしまいました。

 「そんなに怯えなくてもいいわ。真面目にやってさえいれば、
私のお尻叩きだけで済むはずだから……」

 ケイト先生の言葉はありがたかったのでしょうか。
 私には……
 『あなた、どんなに頑張ってもお尻叩きは免れませんよ』
 と、聞こえてしまうのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (12) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 /§13~§14 

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******


 そうこうしているうちに最初の先生がやってきます。
 森田先生と言う国語の先生。白髪にメガネをかけ、チェックの
ジャケットを着た温厚そうな年配の紳士でした。

 最初は1学期の復習から……
 ここでの授業は学校のように懇切丁寧にはやってくれません。
要点だけを掻い摘んで説明したら、即、確認テスト。という流れ
で、授業はめまぐるしく進行していきます。
 50分の授業は学校の一時限と同じですが、それでいて1ヶ月
分という猛スピードです。

 『そんなのついていけない』
 と最初は思ったんですが、やっていくうちに……でも、それで
どうにもならない、ついていけないという事はありませんでした。

 というのも、先生方はすでに今まで過ごしていた学園から詳細
な学力情報を得ていました。それは単に中間や期末の成績を取り
寄せたというだけでなく、これまで私が学校でどのような勉強を
してきたのか…理解力は…応用力は…暗記力は…集中力は…等々
ありとあらゆるデータを元に授業案を練って進めていきます。
 ですから、この50分の中に無駄な時間というのは一秒たりと
ありませんでした。(ちょっとオーバーか……でも、そんな感じ)

 おかげで50分が終わると、もうそれだけでこちらは疲労困憊
です。
 『1日分たっぷりやったあ~~』
 そんな感じでした。

 これを午前中だけでも4クール、午後は2クールというのです
から…………死にます。

 おまけに……
 翌日は広い範囲からの復習テストが最初にありますし、漢字や
英単語の類は、毎日に100個以上暗記してきて明日に備えなけ
ればなりませんから、授業のない午後や夜も自由時間が自由時間
になりませんでした。

 「こんなの絶対続きませんよ」
 私は1日終わってケイト先生に愚痴を言うと……

 「大丈夫、大丈夫、あなたのことをすべて調べ上げた上で組ん
だ授業ですもの。どの先生も、あなたにできないことは最初から
求めないの」
 と、軽~~く言われてしまいました。

 「だって~~え、課題だってこんなにあるんですよ」
 それでも私が甘えると……

 「だから、慣れるわよ。朝の儀式と同じ。辛いのは最初だけ。
すぐに慣れるわ。だって、私の授業中の蝋燭にも、授業後のお尻
叩きにも、あなた、すぐに慣れてきてるじゃない」

 「慣れてません!あれは、それどころじゃなかったから……」

 「そうそう。いつも『それどころじゃない』って思って続けれ
ばいいのよ」
 ケイト先生の笑顔に私は膨れっ面でした。

 私は、授業中、何度かケイト先生の蜀台から流れ落ちる蝋涙を
手の甲に受けます。いえ、それだけじゃありません。授業の終わ
りには必ずケイト先生からのお尻叩きが待っていました。これは
その時間を受け持った教科の先生が私の授業態度を判断して下す
罰で、『なし』というのはありません。最低でも三つ、多い時は
12発もパンツを脱がされたお尻に平手打ちされます。
 こんな大変な勉強は初めてでした。

 でも、たしかに、ケイト先生の答えにも一理あります。
 これほどまでに忙しいと普段なら大騒ぎになるお仕置きでさえ、
もうどうでもよいことのように感じられますから……
 人間って、不思議なものです。

 朝のお浣腸も、オムツも、お漏らしも、授業中のローソクも、
授業後のお尻叩きも……忙しさの前にはその優先順位が下がって
しまうのでした。

 「私、馬鹿なんですから……」
 私は、今の苦役から逃れたくて何度かこんなことを言いました。
 すると、ケイト先生は……

 「あら、あら、あなたいつからお馬鹿さんたちの仲間入りした
の?……園長先生は、あなたのこと、最近、成績が落ちてるけど、
本来はとっても優秀な生徒だっておっしゃってたわよ」

 「そんなこと買いかぶりです」

 「そんなことないわ。だって、あなたは今日一日やっただけで、
もう随分と慣れたんですもの。……それは、今、あなたの人生の
フィールドが机の上にあるってことなの。机の上で作業している
時が一番楽しいでしょう?」

 「楽しくありません!!!……だいいち、机の上の作業って、
……それって当たり前じゃないですか!勉強させられてるんです
から……」

 「当たり前じゃないわ。だって、体育会系の人たちに同じ事を
しても寝てしまうのよ。どんなに蝋涙を落とそうが、鞭でお尻を
叩こうが、この人たち結果は同じなの。……でも、そんな子たち
が指導者にこんなトレーニングをしなさいって命じたら……今の
あなたと同じ。不満はあってもやはり真剣に取り組むの。だって、
その子たちにとって人生のフィールドは、机の上なんかじゃなく
本物のグランドの上にあるんだから……」

 「…………」

 「大丈夫、私がついてるから……どんなにあなたが『嫌だあ』
って言っても、ほとんど24時間、私はあなたのそばを離れない
の。赤ちゃんの面倒をみる母親と同じね。……こんな重宝な人を
利用しない手はないんじゃないかしら?」

 『どういう意味よ。あなたなんて厄介なだけよ』
 心はすでにけんか腰でしたが、たしかにその後、ケイト先生は
色んなアドバイスで私を助けてくれたのでした。


 1日6時限みっちり、学校と同じように時間割にそって授業が
行われます。息抜きに他のお友だちと一緒に体育や美術や家庭科
なんてのもありますが、大半の授業が、個室でマンツーマンって
ことでした。

 ここで、個々の先生のことをあれこれ書いてもいいのですが、
読者さんも退屈でしょうからそこは省きます。いずれにしても、
勉強の忙しさにかまけているうち、一週間はあっという間に過ぎ
去りました。


 次の日曜日……
 この施設は曜日に関係なく動いていますから日曜日もおやすみ
ではありませんが、お父さんがこの日施設を離れるというので、
私は特別に半日だけ家族水入らずで過ごすことを許されました。

 とはいえ、その日も午前中は初日と同じ。
 朝のお浣腸、お漏らしに始まり、両親からのお尻叩き……勿論
お勉強もあります。その最中に落とされる蝋涙だって別に回数が
減ったようには感じられませんでした。

 ただ、最初の頃に比べて何をされるにしても気持が楽になった
のは確かでした。
 蝋涙を恐れて殊更『授業集中しなきゃ』と思うこともなくなり
ましたし、課題を聞いて『こんなの徹夜しなきゃこなせないじゃ
ないの!!!』と癇癪を起こすこともなくなりました。

 いえ、そんな立派な事ばかりではなく……
 日頃繰り返されるハレンチなお仕置きのせいで、どこでも平気
で裸になれちゃいますし、誰にお尻をぶたれても驚かなくなって
いました。

 わずか一週間で、ケイト先生の言う通り、ここの生活に慣れて
しまったみたいで……それって自分でも、ちょっぴり、恐い気も
します。

 そんな日曜日の午後、突然ケイト先生の提案でぽっかりと暇が
できたのでした。

 昼食後、家族でよもやま話をしたあとで、お父さんが私を誘い
一緒に散歩に出かけることに……
 でも、お母さんと香織は家に残っていました。

 お父さんと二人だけの時間なんて久しぶりです。
 これが幼い頃なら何か買ってもらえると思って単純に喜んだと
思いますが、思春期になるとそこに微妙な溝が生まれます。

 『また、お小言かなあ?』
 『ひょっとしてお仕置きとか……』
 『まさか、ここが終わったらまた別の更生施設に行けなんて、
言わないでしょうね』
 私はお父さんと一緒に歩いていても、ネガティブな方向でしか
ものを考えられませんでした。

 「どうだ、ここでの生活は慣れたか?」
 「ええ、まあ……」
 「嫌なことばかりさせたから、私を恨んでるんだろうな?」

 「そんなこと……」
 私は下を向きます。
 言葉は否定的でしたが、それが私の本心でないことをお父さん
も承知しているみたいでした。

 「自分で抱えきれなくなったら、私の処へ直接連絡しなさい。
お母さんに話すと止められるだろうから、ケイト先生に話すんだ。
彼女が取り計らってくれるよ」

 「えっ?……じゃあ、明日やめてもいいの?」
 私は思わず本音を口走ってしまいます。

 すると……
 「もちろん、それでもいいけど…おまえはそんな弱音を吐く子
じゃないと信じてるよ」

 「…………」
 こう言われると、次に言葉がでませんでした。

 私には中学になった今でも『お父さんの信頼を裏切りたくない』
という呪縛が常に働いています。そして、そのことはお父さんも
よく承知していることだったのです。

 「ところで、おまえはどんなタイプの男性が好きなんだ?」

 「えっ!何よいきなり……」
 たしかに、そんなこといきなり言われても返事に困ります。

 もちろん私にだって憧れる人はいます。友だちとも色んな話を
します。
 ハンサムで、背が高くて、優しくて、英語が話せて……でも、
中学生の私にとってそれは具体的な誰かを指すのではなく、まだ
まだ、少女マンガに出てくる『彼』でしかありませんでした。

 そして何より、そんなことはお父さんには話したくないことだ
ったのです。

 そこで、私は逆にこんな事を言います。
 「私……お父さんの跡を継いで社長さんやってみたい」

 それは、お父さんのそばにずっといたいという意味程度だった
んですが……

 「(ははは)嬉しいけどね、お前には無理だ」
 あっさり、言われてしまいました。

 あまりにもあっさり言われてしまいましたから、ちょっとムッ
として……
 「どうしてよ。世の中には女性の社長だってたくさんいるのよ」

 「(ははは)そりゃあ、そうだけど……うちは『鍛冶屋』だ。
アパレルや雑誌社ならそうした道もあるだろうが、うちで働いて
いるは大半が男性。女の子が切り盛りできる商売じゃないんだよ」

 「ケチっ」

 「ケチで言ってるんじゃないよ。人はそれぞに向いた道がある
というだけのことさ。女の子は社会で片意地張って生きるより、
いい旦那さんにめぐり合って、子どもをつくり、その子と一緒に
愛し愛されて暮らすのが一番だ」

 「う~~~~ふる~~~~い。今どきそんなの流行らないよ」
 私は両手で胸を抱いて寒~~~いという仕草をみせます。

 「流行る流行らないの問題じゃないよ。人はそれぞれにあった
生き方をしないと幸せにはなれないってことさ」

 「だったら、いいよ。私は別の会社に勤めて、そこで社長さん
になるから……」

 「おやおや、随分勇ましいこと言ってくれるじゃないか。……
そんなにお嫁さんじゃいやなのか?」

 「だって、お母さん見てると、まるでお父さんの召使いみたい
なんだもん。あんなの嫌よ」

 「そうか、お母さん、そんなこと言ってたのか?」

 「そういうわけじゃないけど……私だって、男の子に負けない
くらい学校の成績いいんだから……できないはずないわ」

 「学校の成績ねえ……」
 お父さんは少し小馬鹿にしたしたような含み笑いを見せたあと
……
 「うちにも学校の成績が優秀だから雇ってくださいって推薦状
を持って毎年大勢の人がやってくるけど……そいつは、社会人と
しての優秀さにはあまり関係ないみたいだな」

 「なんだ、勉強なんてしなくてもいいんだ」

 「そうじゃないさ。ま、いいだろう、こんな話をおまえにする
のは少し早かったみたいだ。とにかく、今、おまえがやらなきゃ
ならないのは勉強。グレードの高い婿さんと幸せに暮らす為にも、
話し相手にもならんようなじゃじゃ馬や山猿じゃ、向こうも逃げ
出すよ。教養は何より大事だ」

 「私の結婚する人って、そんなふうに立派な人じゃなきゃいけ
ないの?」
 私はそれまでお父さんの求めに何でも応じてきたのに、この時
はちょっと変でした。

 「お前のお婿さんになる人は私の会社を継げる人でなきゃいけ
ないんだよ。跡継ぎがいなければ、会社はよその人の手に渡って
しまうからね。それではご先祖に申し訳ないから避けたいんだ。
……それがいけないかい?」

 「…………」
 私は何も答えませんでしたが、お父さんは私の気持がわかった
みたいで……自ら話題を変えます。

 「そうだ、ケイト先生が、この一週間のおまえの成績を取りに
行ってくださいっておっしゃってたから……まずは、管理棟まで
行ってみるか」

 お父さんの言葉は、私に新たな警戒心を抱かせます。せっかく
伸ばしかけていた羽根がまた引っ込んでしまいます。
 『やっぱり、お仕置きってことなの?』
 ここへ連れて来られてからというもの、私の頭からはお仕置き
という言葉が離れませんでした。


 管理棟は背の低い建物が多いこの施設の中では一番大きなビル。
7階のラウンジからは食事をしながら施設全体を一望することが
できました。

 その一階にある窓口でお父さんは私の成績表を受け取ります。

 「何て書いてあるの?」
 無表情で成績表を見ているお父さんの脇からそっと顔をのぞか
せると……

 「達成率95%。とてもよく頑張っておられます。これからも
この調子でお続けくださいだってさ」
 まずは嬉しいニュースが舞い込みます。

 でも、それには続きがありました。
 「ただし、達成できなった5%については、1%1回として、
ご父兄の手でお尻を叩いて励ましてあげてください……か……」

 この時、お父さん顔が笑っていましたから……私は……
 「嘘よ!そんなの。そんなこと書いてあるはずないじゃない」
 そう言って、お父さんが見ているレポートを奪い取ったのです。

 ところが、私の笑顔はそれを読んだ瞬間終わってしまいます。

 「…………」
 それって、冗談でも何でもなく、お父さんが読んだそのまま、
そこに書いてあったのでした。

 「どうやら、あと5回、私はお前の尻を叩かなければならない
らしいな」
 お父さんのニヒルな笑いは私の身体を再び凍りつかせます。

 おまけに、窓口の人までが……
 「お尻叩きでしたら、映画館がありますよ。ここの映画館は、
全部個室でから、お尻叩きにみなさんよくご利用されます」

 余計な情報まで教えてくれるのでした。

 このビルは、『管理棟』というくらいですから、もちろん事務
処理のための窓口が並んでいましたが、ビルの中はそれだけでは
ありませんでした。
 その他にも、映画館やゲームセンター、ボウリング場、カフェ、
コンビニなどが一緒に併設されていました。ですから付き添いの
家族たちもここをよく利用していましたし、私たちにとっては、
アミューズメントタウンとしての意識が高い場所だったのです。

 というわけで……
 「じゃあ、せっかくだから映画でも観て帰るか……」
 ということになったのでした。

 ただ、この場合、私の心は複雑です。
 『え~~~~』
 という気持も当然ありましたが、仕方がありませんでした。

 ただ映画館といっても、ここは街の映画館とは造りが違います。
 入口で入場料を払うと、部屋の鍵を渡され、指定された部屋に
に入って映画を観るシステムです。
 この映画館にはそうした8畳ほどの広さの個室が七つ八つあり
ました。

 いずれの部屋も独立していて厚い壁で区切られていますから、
ここなら、どんなに厳しくお尻を叩いてもお尻を叩く音や悲鳴が
外に漏れるのを心配する必要ないのかもしれません。

 私は、部屋に入ってさっさとソファに腰を下ろしたお父さんを
入口付近で恨めしそうに見ていました。

 「なんだ、毎日、散々お尻を叩かれてるくせに、まだ恐いのか」
 お父さんは笑います。
 でも、お父さんは恐い。やっぱり恐いものは恐いのでした。

 「いいから、おいで」
 再度促されて、ようやくお父さんの近くへ寄ってきます。
 これって幼稚園の時も、小学校の時も、そして中学生になった
今も変わらない儀式みたいなものでした。

 お父さんはお膝を叩きます。
 私は仕方なくそこへうつ伏せになると……

 「(はははは)ちょっと待ちなさい」
 今回はそう言って私をいったん立たせ、あらためて私のお尻を
膝の上に乗せ、私はお父さんと同じ方向を向いて座ります。

 「美香、この映画館なあ、映画を観る時に、おまけがついてる
みたいだぞ。……ほら」
 お父さんは目の前のしらっちゃけた画面を指差します。

 「おまけって?」
 その時、私はこのおまけが何のことだかわかりませんでした。

 ほどなく、室内が暗くなり映像が鮮明に見えてきます。

 ちなみにこの映画館、機械の操作は観客にまかされていました。
鍵を回し、セレクトボタンを押して、自分のみたい映画を観ます。
ただ、その中には、観客にとっては二度と見たくない映画という
のも含まれていました。

 『新井美香ちゃんの成長記録』

 『えっ~~~~~』
 タイトルバックにいきなり私の名前。
 それで驚いていると、さらに……

 『ん?……これって……どこかで見たような?……』

 『えっ!!!、これ!これ!これ!』
 私の身体が震えます。

 「止めてよ!止めて!」

 だってそれは、先日、ケイト先生からお尻を叩かれている時の
映像だったのです。
 数学の先生から「今日は少し集中が足りなかったみたいだね」
なんて言われた直後です。例によって休憩時間に裸のお尻を二十
四回も叩かれた時の映像でした。

 『いったい、どこで撮ってたのよ!』
 慌てた私は後ろを振り返ろうとしましたが、そんなことは百も
承知のお父さんが私の身体をしっかり押さえ込んで動かないよう
にしています。

 「やめて、止めてよ。こんなの恥ずかしすぎるわよ」
 私は叫び、身体をよじって抵抗します。
 ですが、その願いは叶えられませんでした。

 「いいから見てなさい」
 お父さんは、もう私を離しません。
 中学生にもなればもう少し抵抗できると思ったのですが、これ
もまた小学校時代と同じでした。

 「いいから、静かに見てなさい。自分の恥ずかしい姿を見るの
も、お仕置きだよ」
 こう言われてしまいます。

 そして、それは……
 朝の儀式の場面も克明に記録していました。
 お浣腸の場面も、オムツを穿かされる場面も、お漏らしも……
とにかく恥ずかしすぎて私は目を開けていられませんでしたが、
お父さんにはそれも不満なようで、目をつぶるたびに怒られます。

 「ほら、目を背けるんじゃない。自分のことだろうが、自分が
しでかしたことだうが……」
 お父さんはこう言ってイヤというほど太股を抓っては私を起こ
すのでした。

 「イヤっ!!!」
 これって、もう拷問でした。
 ですから、泣き出してしまいます。

 『自分の醜い部分は見せたくない、隠してしまいたい』
 女の子の大切な思いが踏みにじられて、そりゃあもう私の心は
パニックだったのです。

 そんな私を力ずくで押さえつけたまま、お父さんは耳元でこう
囁くのでした。

 「いいかい美香、美香は女の子だから綺麗なものだけ見て暮ら
したいんだろうけど……でも、世の中それだけではいけないんだ。
現実を直視する勇気がないと、女の子もやがては不幸になるから
ね。自分の醜い姿も勇気をもって見つめるんだ。……いいね」

 「これって、お仕置きなの?」

 「女の子に不足しがちな勇気を持つ大事な訓練だ。……でも、
そう考えたければ、それでもいいよ」

 「なんだ?おまえ、震えてるのか?……大丈夫だよ、怯えなく
ても……私がしっかり抱いててあげるから……それに、これは私
たち家族だけが見ることのできるプライベートフィルムだ。この
ことを知ってるのは私たち家族とケイト先生だけ。外には決して
漏れないからね。そこは安心していいんだよ。………だからね、
たとえ辛くても、目をそらさずにちゃんと見るんだ。……いいね」

 お父さんに励まされながら、私はその15分ほどの映画を観る
ことに……

 最初は、醜い隠したい場面の連続で目を覆ってばかりでしたが、
でもそのうち身体の力が少しずつ抜けていき、やがてどんな場面
も目をそらさず見る事ができるようになっていました。

 そして、その最後には不思議な感情が芽生えるのでした。

 映像はほとんどが私のお仕置き場面。汚くて、惨めで、悲劇的
……私にとっては何一つ晴れがましいところや自慢できるところ
なんかなかったはずなのに……でも、家族がケイト先生が、私の
ために献身的にお仕置きしている姿がそこに映っているんです。
それってお仕置きされてる最中はわからなくても、こうして映画
になって客観的に観るとよくわかります。

 ですから、最後にはこう思ったのでした。
 『私って、愛されてたんだ』
 と……

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******

****** 見沼教育ビレッジ (14) ******


 お父さんのお膝の上で観た私の映画は、そりゃあほろ苦かった
けど、最後には思わず笑ってしまいました。

 どうして笑ったかというと……
 『へえ~~私のアソコってあんなになってたんだ』
 って分かったのがおかしかったのです。

 男の子は性器が見える処にあって普段見慣れてるでしょうけど、
女の子は努力しないとあそこは見ません。痒みがあったり、血が
出たりすれば、そりゃあ見ますけど……部屋に鍵を掛け、大胆な
ポーズをとって、鏡に映して……普段そんな努力はしないのです。

 『ばっちいものは、見ずにすむならあえて見ない』というのが
女の子のポリシーでした。

 ですから、アソコの事は意外と本人も知らないのです。

 それを図らずも目の当たりにして、笑ってしまったのでした。

 「何だ?何がおかしい?」
 お父さんは私に不思議そうに尋ねますが……

 「何でもないわ」
 私が本当のことを口にするはずかありませんでした。


 「さてと、映画は何を見るかな……」
 お父さんの前に5つのボタンがありました。
 そのどれにも映画のポスターが小さく縮尺版になって貼り付け
てありました。

 「美香、あまえはどれがいい?」
 お父さんは私に選ばせようとします。

 そこで、そのポスターを一通り眺めてから……
 「『ベニスに死す』なんていいんじゃないかな。この子、綺麗
だし……」
 と、望みを言ったんですが……

 「だめだ、だめだ、こんな退廃的な映画は……子供の観るもん
じゃないよ」
 あっさり否定されてしまいます。

 そして……
 「『屋根の上のヴァイオリン弾き』なんていいんじゃないのか?」
 と薦めてきますから、今度は私が……

 「嫌よ、こんな暗い映画、もっと明るいのがいいわ」

 「だったら、ちょっと古いが『俺たちに明日はない』ってのも
あるぞ。……西部劇だ」

 「だってあれ、銀行強盗の話でしょう……人が死ぬお話は嫌い
なの……それに、あれ大人の話よね」
 私は、最初の『ベニスに死す』を否定されたことで少しむくれ
ていました。

 そこで、その妥協案として選んだのが……
 「これなんか、いいんじゃない。『小さな恋のメロディ』……
男の子が可愛いわ」

 「まあ、いいだろう」
 お父さんはあまり乗り気ではなかったみたいですが、承知して
くれます。

 一方、私の方もこの時この映画のことはよく知りませんでした。
 ポスターのマークレスターが可愛かった。
 選んだ理由は、ただ、それだけのだったのです。

 「あ~、ビールとつまみ。ハイネケンあるか?……ならそれと
つまみはピーナッツでいいよ。………美香、おまえはどうする?」
 お父さんが内線電話でルームサービスに注文を出します。

 「私は、オレンジジュースとポップコーンでいいわ」
 私はオットマンに足を投げ出して答えました。

 ささやかですけど、これでやっと避暑地気分です。

 注文の品が部屋に届いてから、お父さんは映画のボタンを押し
ます。
 すると、開演のブザーが鳴り、辺りが暗くなります。
 映写機が回り始めました。

 スクリーンは小さめですが二人だけの貸切映画館は誰に気兼ね
もいりません。
 注文したオヤツをつまみながら……もし、観ている映画がつま
らなければ、毛布を掛けてそのままソファで寝てしまえばいいの
ですから……

 私は、当初、この映画にあまり興味がわきませんでしたから、
そうするつもりでした。
 お父さんに肩を借り、寄り添ってお昼寝するだけでもよかった
のです。

 ところが、私はその映画を最後まで見続けます。

 『飾り気はないけど、どこまでも美しいイギリスの景色と透き
通るような男性ハーモニーのBGM。……英国の子どもたちって、
こんなにも素敵な学園生活を送ってるんだ。私もトレシーハイド
になりたい。好きな人と一緒にあのトロッコに乗って未来を目指
したい……』

 映画を観たことのない人には、何を言っているか分からないで
しょうけど、とにかく大感動したのでした。

 もっとも、お父さんはというと……
 「まったく呆れた映画だ。どこの世界に、11歳のガキが結婚
なんか考える。おまえが11の時は、まだ、私の膝で甘えられる
だけ甘えてたぞ。……でも、それがまともな子供の姿だ」
 
 お父さんにはこの映画を理解することはできないようでした。

 でも、私の11歳も、ただお父さんの膝で甘えていたわけでは
ありませんでした。
 それって、むしろ『お付き合い』という気持の方が強くて……
何でも「お父さん」「お母さん」ではありませんでした。

 実ることはなくても淡い恋心はすでにありましたから、ダニー
とメロディの世界はまったくのおとぎ話ではなかったのです。

 そんな蒸気した顔の私を見て、お父さんは私を抱き寄せます。
 顔と顔が出会い、その口からは先ほどのビールの臭いがします。

 「いやあ」
 私はそのお酒の臭いでお父さんをいったんは拒絶しますが……

 「忘れたのかい?まだ、五回、私からのお尻叩きが残ってるよ」

 こう言われると私は再びそこへ戻らなければなりません。
 そう、私はまだ14歳。彼らからみたらお姉さんのはずですが、
それでもお父さんやお母さん、大人たちが決めたルールのなかで
生きていかなければなりませんでした。

 『あ~、私はいつあのトロッコに乗れるんだろう』

 私はそう思ってお父さんのお膝に身体を沈めます。
すると、今度はお父さんが……

 「こうして、おまえのお尻をいつまで叩けるかな」

 お父さんはそう言いながら、私のスカートを上げ、ショーツを
下げます。
 さすがに、人前でこの姿を晒すことはなくなりましたが、お父
さんにとってお尻叩きはいまだ現役。熱く厳しいお父さんの平手
の下で、私はまだまだお父さんの子どもを演じなければならない
のでした。

 「ピシッ」
 「いやあ~」
 「何がいやあ~だ。こんな大きなお尻を叩かなきゃいけない私
の方がもっと嫌だ。ほら、ここは家の中じゃないんだ、こんな処
で足を開かない」

 私が慌てて、両足を閉じますと……
 「ピシッ」
 「いやあ~」
 再び、両足をバタつかせなければならないほど痛いのがやって
きます。
 
 「少し口をつつしめ。いくら防音装置のある部屋でもそれじゃ
外の人に聞こえるぞ」
 お父さんはそう言って、もう一つ……

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~勘弁して~~」
 本音が出ます。だって、この時のお尻叩きはとっても痛かった
のです。一発一発がこんな痛い平手は初めてでした。

 「どうだ、少しはこたえたか?……おまえは今までのお仕置き
が私の目一杯だと思っていたのかもしれないが、こっちはこっち
で、気を使って緩めてたんだぞ。わかったか?」

 「はい、お父さん」

 「よ~~し、もうひとふんばりだ。しっかりつかまってなさい。
……ほれ」

 「ピシッ」
 「いや~~~~~」
 私は無意識に太股を開いてバタつかせます。
 そんな様子はまたビデオに撮られてしまうかもしれませんが、
こんなキツイお仕置きのもとでは、そんなこと言っていられませ
んでした。

 私はもう必死にお父さんのお膝を握りしめます。
 きっと、お父さんの太股にはくっきりと痣が残っているに違い
ありません。でも、それも仕方のないことでした。

 「『痣のつくほど抓っておくれ、それを惚気の種にする』か、
昔の人はいいことを言うなあ……」
 お父さんは、にが笑いを浮かべると、意味不明の独り言を言い
ます。そして、それが終わってから、最後の一発が炸裂したので
した。

 「ピシッ」
 「ひ~~死ぬ~~~」

 「大仰なこと言いなさんな。いまだお尻叩きで死んだ子なんて
いないよ。……さあ、終わったよ」
 お父さんは私を立たせ、身なりを整えさせます。

 そして、こう言うのでした。

 「私は、これから仕事に戻らなきゃならないので、美香とは、
ここでお別れだ。これからはお母さんやケイト先生の言いつけを
守って、頑張るんだぞ」

 「もう行っちゃうの?」
 私は急に寂しくなりました。

 「大丈夫、お母さんは残るから……」

 「でも……」
 人間なんて勝手なものです。
 つい先ほどまで、甘いアバンチュールを想い描いていたのに、
いざ別れるとなると、心が思いっきり子供に戻ってしまいます。

 「最後に、お前のお尻を思いっきり叩けてよかったよ」

 「もう、お父さんたら、嫌なことばかり言うんだから……」

 「そのうちお前にも分かるだろうがな。お尻なんてものは叩く
より叩かれてる時代の方が幸せなんだよ」

 「まさかあ~~。そんなわけないじゃない」

 私はその場で痛むお尻をさすりながら笑いましたが……でも、
時を経て気づいたのです。『お尻を叩かれる子は愛されてる子』
なんだと……

 お父さんの言う通りでした。
 でも、いつかは私もお父さんの元を離れて独りで羽ばたかなけ
ればなりません。そう、ダニーとメロディのように……二人して、
トロッコを全力で押して未来へ向かわなければならないのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (14) ******

見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-2~

*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-2~***

******<登場人物>**********
 新井真治/家の主人
 秋絵さん/お手伝いさん
 子供たち/高坂知美(中2)
      河合春花・森野美里(小4)
      真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
 園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************

 「ピシッー」

 「ひぃ~~」
 最初の一撃がお尻に振り下ろされた瞬間、知美は机にうつ伏せ
になっていたにも関わらず、まるで腰が抜けたような感覚に襲わ
れます。

 『何なの!?これは……』
 たった一撃で、腰から下の感覚がなくなってしまったのでした。
 もちろん、こんなこと園長先生の鞭ではありえないことでした。

 しかも、これが園長先生なら、さっき真治氏に向かってやって
しまったように振り返って甘えた泣き顔をみせることだってでき
ます。もちろん、それで鞭をまけてもらえるわけではありません
が、親しい園長先生の顔を見るだけでも知美の心は落ち着けるの
でした。

 とびきり痛い鞭。そのうえ次の鞭が振り下ろされるまでの間も
ひたすら机を眺め続けていなければならないなんて……知美には
辛すぎる罰だったのです。

 そして、二つ目……

 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 やはり、死ぬかと思うようなのがやってきます。

 でも、その瞬間、感じたのです。
 自分の手を握ってくれている人の存在を……

 「…………」
 知美は顔をあげてその人を間近に見ます。
 不思議な気がしました。

 だって、鞭でのお仕置きの時、園長先生はこれまで常に彼女の
お尻の方にいたのですから……
 それが、今は自分の目の前で穏やかに笑っている。
 こんなこと、初めての経験でした。

 そして、三つ目……

 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 体中に電気が走ります。手の指先、足の指先、そして子宮にも
……
 その走った電気に驚いて思わず腰が浮き上がりました。

 知美は、そのとき『ほんのちょっと腰を振っただけ』と思って
いたのですが、実は、とても激しく腰を動かしていたのです。
 おかげで、彼女、自分の落し物にも気づきませんでした。

 もし、これ園長先生だったら大変なことになっています。

 だって、彼女の落し物は、ショーツの中に仕込んだタオル地の
ハンカチ。これで鞭の痛みを少しでも緩和しようとしたのですか
ら……。

 園長先生はこんなインチキがとても嫌いな人でしたから、こん
なことが分かると、鞭のお仕置きは一時中断、さらなるお仕置き
が言い渡されることになります。

 ただ真治氏はこのハンカチを拾ってテーブルの上に乗せただけ。
ハンカチの事には何も触れませんでした。

 そして、四つ目……
 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 
 『死ぬ~~』
 身体はほんの少し慣れましたが、心細い少女の心はまだ悲痛な
叫び声を上げ続けています。
 それでも、まだ三分の一。
 目を開けているはずなのにすでに目の前が真っ暗でした。

 五つ目……
 「ピシッー」
 「ひぃ~~」
 
 もう、この頃になると、意識が希薄になります。
 『痛い』『辛い』『恥ずかしい』
 薄れていく意識の中ではそのすべてがどうでもよくなっていき
ます。

 六つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~」
 目がかすみ、知美の荒い息からよだれがテーブルに落ちます。

 七つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~やめてえ~~~」
 それまでの遠慮がちの悲鳴とは明らかに違う大声でした。
 知美のこんな悲鳴を聞いたことは園長先生でさえもありません
でした。

 八つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~やめてえ~~~」
 幾分悲鳴は小さくなりましたが、荒い息は相変わらずです。
 いえ、そちらはもっとひどくなったかもしれません。

 九つ目……
 「ピシッー」
 「いやぁ~~~」
 随分と悲鳴が小さくなり息も整って一時の狂乱は収まったよう
にも見えますが、長年こうしたお仕置きをしてきた園長先生には
これがどういうことかわかっていました。
 もちろん、真治氏もそれは承知しています。承知しているから
こそ、八ッ目以降は鞭の威力を落としたのです。

 でも、途中で休憩を入れることはしません。もちろんお仕置き
を中止することなんて考えてもいませんでした。
 途中に休憩を入れれば再開した時のショックがキツイですし、
中止すればそれは挫折したことと同じですから何より本人の為に
なりません。
 どこまでも知美のためにそれはしなかったのでした。

 鞭はいよいよ十回目に入ります。

 「ピシッー」
 「ぁぁぁ~~~」
 知美の悲鳴は小さくくぐもった声です。

 十一回目。
 「ピシッー」
 「ぁぁぁ~~~」
 知美の顔にほんの僅かですか、安堵の表情が浮かびます。
 これは、単にハッピーという意味ではありません。
 むしろ、『諦めた』『悟った』という表情だったのです。

 それが何を意味するか、当然、園長先生はよくご存知です。
 知っているからこそなんでしょうが、先生は知美の後ろに回る
と、彼女のショーツを足首まで下ろします。

 すでにぐっしょりでした。

 最後の十二回目は、むき出しのお尻に飛んで来ます。

 十二回目。
 「ピシッー」
 「ぁぁぁ~~~」
 ほとんど放心状態の知美にそれは感じられなかったのかもしれ
ませんが、その衝撃を受けて彼女は放尿します。
 まるで馬がオシッコをするように、まだこんなにも残っていた
のかと周りが驚くほどに、足首まで下ろされた自分のショーツを
叩きつけます。

 「さあ、もういいよ」
 真治氏の許可を受けてぼんやりと上体を起こす知美でしたが、
ほとんど放心状態の彼女は自分が何をしたのか理解できず辺りを
見回します。

 自分の足元を濡らす水も、最初はそれが自分の仕業だとは理解
できない様子で、秋絵さんと園長先生がやっている床掃除をただ
ぼんやり見ています。

 もちろん真治氏は……
 「先生、やめてください。法衣が汚れます。そんなことはうち
のお手伝いがしますから、先生はどうぞご心配なく」
 と声を掛けたのですが……

 「大丈夫です。ご心配いりません。これも娘のしたこと。私の
仕事ですから……」
 という答えが返ってくるのでした。

 知美はまるで一刻を争うかのようにして床を拭いている先生を
ぼんやりと見下ろしながら……やがて、自分のしでかした粗相に
気づいたみたいでした。

 知美は遅ればせながら先生を手伝います。

 そして、それが終わると、二人は真治氏に断りを言って別室へ。


 戻ってきた時、二人は着替えが済んでいました。

 知美は水玉のワンピース、園長先生もトレードマークの法衣を
脱ぎ捨て、薄い紫のブラウスと捲きスカート姿。
 いずれもラフな格好でした。

 「さあ、ご挨拶なさい」
 先生に背中を押されて知美がまず真治氏の前へとやってきます。

 彼女はソファでくつろぐ真治氏の足元に膝まづくと、両手を胸
の前で組んで……
 「お仕置きありがとうございました」
 とお礼の言葉を口にします。

 もちろん本心は別でしょうが、ご挨拶は良家の子女のたしなみ。
大人達から何かしてもらったら、とにかく感謝の言葉を口にする
のが当たり前と躾けられています。
 お仕置きだってやっていただいたことに変わりありませんから
やはり同じことでした。

 「痛かったでしょう」
 真治氏は優しく微笑みます。
 でも、相手から好意的な顔は期待していませんでした。
 そりゃそうです。あれだけ厳しく打ち据えたんですから。

 「君はよく我慢したよ。あんなに痛い鞭でも取り乱さなかった
んだから、たいしたものだ」

 『…………』
 真治氏に褒められ和美の顔が険しくなります。
 というのも、和美は真治氏が皮肉を言ったものと思ったからで
した。
 だって、お漏らしをしてしまったのに取り乱さなかったなんて
変ですから。

 でも、真治氏はべつに皮肉を言ったのではありません。本当に、
感心していたのです。
 あれだけ強い鞭をいきなり受けたら男の子だって半狂乱になる
子はいます。それがないだけでも十分賞賛に値すると彼は言いた
かったのでした。

 「じゃあ、仕上げといこうか」
 真治氏はそう言ってソファに座った自分の膝を叩きます。

 『えっ!!』
 和美の目が思わず大きく丸くなります。
 もう、お仕置きはすんだものだと思っていた彼女にそれは悪夢
の再来だったに違いありません。

 当然ですが『はい、承知しました』と言って身体は動きません
でした。思わず膝まづいた姿勢のまま後ろを振り返り園長先生の
顔を窺います。
 普段は恐い先生ですが、この時ばかりは彼女にすがるしかあり
ませんでした。

 そして、まるで幼い子がそうするように園長先生の懐へと逃げ
帰ったのでした。

 園長先生は知美を受け入れて抱きしめます。

 でも、少し心が落ち着いてから顔をあげてみると、頼みの先生
も顔を横に振るだけ。

 恐々前を向くと真治氏も笑っていました。

 「もう、終わりだと思ったのかい?」
 慌てふためく和美の様子を見て、真治氏は納得したように一度
だけ首を縦に振るのでした。
 こちらへいらっしゃいということでしょうか。

 「悪魔の館にいったん迷い込むとね、出るまでが大変なんだよ。
……今日はもう楽しいことは諦めて、私に付き合いなさい。……
さあ」
 真治氏は再び膝を叩きます。

 和美に逃げ場はありませんでした。

 あらためて真治氏の足元に膝まづと、両手を胸の前で組み……
 「おじさま、お仕置きお願いします」
 屈辱のご挨拶。

 その後は再びのスパンキングでした。
 今度は、幼い頃やられていたように大人の膝の上にうつ伏せに
なって行われます。

 「あっ!」
 覚悟はしていましたが……着替えたばかりのワンピースの裾が
捲り上げられ、白いコットンショーツもすべて払い除けられて、
お尻が再び丸出しに……

 すると、真治氏の膝の上で急にお腹が差し込みました。
 「(いやよ、やめて、またお漏らしなんて)」
 知美は心配しましたが、原因はそちらではなく子宮でした。

 もちろん、鞭打ちのときだってお尻は丸出しだったのですが、
今は真治氏との距離がとっても近くて、男の人の顔が自分のお尻
の間近に迫っています。しかも、これから赤く熟れた林檎を彼の
ガサガサした大きな手が冒涜しようというのですから、これって、
お尻の痛みとはべつに和美の子宮を激しく収縮させるのに十分な
理由づけになるのでした。

 そんな最中、最初の一撃がやってきます。

 「ピシャ」
 「いやあ~~!!!」
 真治氏は決して強くは叩きませんでしたが、心の動揺が大声を
出させます。

 続けてもう一つ。
 「ピシャ」
 「いやあ、やめて~」
 
 「嫌かい?だろうね、だって君が嫌がることをわざとやってる
んだから……でもね……」
 「ピシャ」
 「痛い」
 
 「子供は耐えるしかないんじゃないかな。……君はこうやって
お仕置きを受けてるんだから」
 「ピシャ」
 「あっ……」

 「さっき、キツイ鞭のお仕置きを耐え抜いたあとだから、なお
さら痛いんだ。そんなこと百も承知でおじさんやってるんだよ。
身体に堪えないお仕置きなんて意味ないもの。中学生の君が耐え
られる程度のお仕置きをしてるんだ」

 「ピシャ」
 「うっ……」

 「少し落ち着いたみたいだね。また、身体が痛みに慣れだした
んだろう。だったら、もう少し強くしてあげようかね」

 「ピシャ!」
 「いやあっ!」

 「よし、よし、そんなもんだ。このくらい神経を集中させてる
時の方が人の言葉ってよく頭に入るんだ」

 「ピシャ!」
 「ひゃぁっ!だめえ~」

 知美は恥ずかしいのと痛いいので反射的に悲鳴をあげますが、
その声を園長先生がたしなめます。
 「嫌じゃないでしょう。お願いしますでしょう」

 園長先生は鞭のときと同じように知美の頭の方へ回り込んで、
中腰の姿勢で知美を見つめその手を取ります。

 「はい、先生、いい子になります」
 知美は意外にも素直でした。

 もしこれが学校で園長先生にぶたれていたら園長先生に対して
こうまで素直にはなれなかったでしょう。
 ですが、真治氏は見ず知らずと言ってよい男性です。力が強く、
鞭にしろ、平手にしろ、すでにお尻は痛くて痛くて、身体がバラ
バラになりそうでした。
 そんな苦境からみれば園長先生の顔だってマリア様に見えます。
誰に従うべきか、結果はあきらか……ということでした。

 「いいかい、君の家は教会なんだ。君がそれを不満思っても、
嘆いても何も変わりはしないよ。……君はその教会から逃げたん
だって?……感心しないな」

 「ピシャ!」
 「あっ!……あっ……はい……おじさま」
 真治氏はそれまでより少し強く叩きましたから、知美のお尻は
今まで以上にショックを受けたはずでしたが、じっと堪えて挨拶
します。

 「お父さん、お母さんを探しに行ったのかい?」
 「ピシャ!」
 「あっ、痛い……いえ、そうじゃなくて……何となく……」

 「『何となく』ねえ……感心しないな、何となくの家出なんて
……『教会なんかよりもっと自由で楽しい場所が世の中にはたく
さんあるはずだ』と思ったのかな?」

 「ピシャ!」
 「あっ、……だって、教会は窮屈だしお仕置きだって多いから」

 「でも、君は物心ついてからずっとこの教会で暮らしてきたん
だろう?」
 「ピシャ!」
 「……はい……それは……そうですけど……」

 「隣りの芝は青く見えるからね……でも、青い鳥は家の外には
いないものなんだ。……わかるかい?」

 「ピシャ!」
 「……はい……ごめんなさい、おじさま……」

 「僕に謝っても仕方がないよ。君を心配してくれる教会の人達
全員に謝らなきゃ」
 「ピシャ!」
 「はい……ごめんなさい、おじさま……」

 「君はまだ幼くて世間を知らないから、この世のどこかに自分
を受け入れてくれるパラダイスがあると信じたいんだろうけど、
中学も卒業していない君を優しく受け入れてくれる場所なんて、
日本はおろか世界のどこにもありゃしないよ」
 「ピシャ!」
 「ぁぁっ!……はい、おじさま」

 知美は、一回一回律儀に悲鳴をあげます。本当は、悲鳴なんか
あげずに、ただ『はい、おじさま』とだけ言いたかったのです。
ただ、それをさせてくれないほど、真治氏の平手は強烈でした。

 「わかったかい?」
 「ピシャ!」
 「ひゃぁぁっ!……はい、おじさま」

 一方、園長先生はというと、普段はあまり見せない柔和な顔を
見ながら必死に真治氏の平手打ちに耐える知美を見つめています。
 実は、知美は痛みに耐えることで精一杯でしたから、真治氏の
問いかけにもいい加減に答えていたのです。

 だったら、真治氏がどんなお説教をしても無駄なのかというと
そこはそうではありませんでした。
 こうした場合、不思議なもので、真治氏のお説教は園長先生の
言葉として知美の心に刻まれていくのでした。

 「君は他の世界を知らないから、園長先生や他の先生方にぶた
れると、継子いじめされたみたいに感じるのかもしれないけど、
それは逆なんだ。ぶっても後に問題が残らないほど絆が強いから
お仕置きだってできるってことさ」

 「ピシャ!」
 「いたいっ!……はい、おじさま………………………………」
 いつものようにそう言った後、しばらくして知美が珍しく口を
開きます。
 「じゃあ、おじさまと私は?」

 「私?(ははは)私は余計なおせっかいを焼いてる部外者さ。
だから私のことは忘れていいんだよ。さっきから言ってるだろう。
今日のことは、運悪く悪魔の館に入り込んだと思って諦めなさい
ってね」

 「ピシャ!」
 「ぁぁっ!……はい、おじさま」

 「ただし、もし教会を脱走して、本当の悪魔の館に入り込んだ
ら……君の青春はそこで終わってしまうかもしれない。……それ
だけは、しっかり覚えておきなさい。……そしてそのことを……」

 「ピシャ!」
 「いゃ痛い!!!…………」
 「この痛い痛いお尻にしっかり覚え込ませるんだ。……いいね」

 「ピシャ!」
 「ぎゃぁぁっ!!!!……はい、おじさま」
 最後は真治氏も加減せずに叩きましたから、飛び切り痛かった
みたいでした。


 やっとのことで、知美のお仕置きが終わり、彼女は別室で園長
先生から痛んだお尻へお薬を塗ってもらいます。

 「先生、あの人、絶対変態です。……もの凄い力で私のお尻を
ぶったんですから……」
 ベッドにうつ伏せになった知美は涙ながらに園長先生訴えます
が……

 「何言ってるの。痛くないお仕置きってのがありますか………
新井のおじさまは立派な紳士よ」

 「どうして分かるんですか?」

 「今日はお見えにならなかったけど、あの娘さんたちを見れば
新井のおじさまが、どれだけ娘さんたちを可愛がってらっしゃる
かわかるわ。だからね、あなたにもその愛のおすそ分けをお願い
してみたの」

 「ということは、お仕置きはこちらからお願いしたんですか?」

 「そりゃそうよ、でなきゃ、新井のおじさまがあんなことする
わけないでしょう。あなたへのお仕置きは私の方からお頼みして
やっていただいたの。……だから、新井のおじさまには何の責任
もないわ」

 「わあ~ショック。私にはあんな人、変態にしか見えないけど
なあ~~」

 「あなたにかかると、お仕置きしていただく方は全員変態ね」

 「だって、私、もう中学生なのに平気でパンツ脱がすんだもの。
そんなこと変態以外しないことだわ」

 「さあ、それはどうかしらね。私は高校生でもパンツを脱がす
ことがあるわよ」

 「だって、それは女同士だから……」

 「……そもそも、お仕置きなんだもの、仕方がないでしょう」

 「だってえ~~」
 知美は甘えた声を出しますが……

 「これは新井のおじさまもおっしゃってたけど、お仕置きして
くれる人がいるうちがよほど幸せだって……お尻を叩かれるだけ
ですべてが決着するならこんなに楽なことはないってよ……」

 「馬鹿馬鹿しい、こんなにお尻叩かれてどこが幸せなのよ」

 「あなたはまだ子供で大人の孤独は分からないでしょうけど、
どんなにお金や権力があってもそれを全部自分で差配しなければ
ならない気苦労は計り知れないものなのよ」

 「全然わかんない。お金と権力さえあったらこんなにハッピー
なことないじゃない」

 「あなたの年齢じゃあ、そんな答えよね。だから、子供なんで
しょうけど……仕方がないわね。空気と同じで、あって当たり前
のものほど気づきにくいって言うから……じゃあ、ちょっぴり、
あなたにも気づかせてあげますか……」
 先生はその言うと、目の前のお尻に強烈な平手を一撃。

 「痛~~~い!!!!」
 知美の大声が屋敷中響き渡ったのでした。


       *)番外編1~おまけ~はここまでです。
*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-2~***

見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-1~

*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-1~***

******<登場人物>**********
 新井真治/家の主人
 秋絵さん/お手伝いさん
 子供たち/高坂知美(中2)
      河合春花・森野美里(小4)
      真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
 園長先生/子供たちの小中学校の校長先生
***********************

 春花ちゃん美里ちゃんのお仕置きが終わり二人は寝室へ……
 真里菜ちゃんと明日香ちゃんは、お姉ちゃん二人のお仕置きが
始まる前に、すでに秋絵さんが隣の部屋で寝かしつけていました
から、二人ともすでに白河夜船のはずでした。

 大人たちが居間への帰りしな、それを確認するためチビちゃん
たちの部屋を覗いてみます。
 すると、案の定、小さな天使たちは美香のベッドで熟睡してい
ます。

 可愛い唇が微妙に動いていましたから、きっと夢の住人たちと
いずれ楽しいお話の真っ最中なのでしょう。
 二人にとってお灸のお仕置きはまだ先のことのようでした。


 「一区切りつきましたね。やれやれ、ほっとしました」
 真治氏はそう言って居間のソファに腰を下ろします。

 でも、彼にはまだ大事な仕事が残っていたのです。

 「あっ、秋絵さん、お茶」
 真治氏の声に合せるように園長先生がこう言いいます。

 「ご主人、どうでしょう、今、知美がコーヒーを入れますので
それを召し上がっていただけないでしょうか?」

 次のステージは園長先生のこの何気ない一言がきっかけでした。

 「えっ、知美さんが入れてくれるんですか?そりゃあ楽しみだ。
……秋絵さん、コーヒーの用意を……ネルドリップでいいですか」
 真治氏は園長先生の提案を笑顔で受けます。
 もちろん、この時はそれがどんな意味を持つのかなんて考えて
もみませんでした。

 「でしたら、少し着替えにお時間をいただきますけど、ご辛抱
ください」
 園長先生はそう言うと、知美さんを連れて奥の部屋へと下がり
ます。

 コーヒーを入れるだけで、わざわざ着替えるなんておかしな話
ですが、中二の女の子がお茶をいれること自体はべつに不思議な
ことではありませんから、真治氏もさして深く考えずに応じたの
です。


 それから10分ほどして、園長先生と知美さんが居間へ戻って
きます。

 「まあ、こんな立派な茶器までご用意してくださって……さあ、
あなた、粗相のないようにしなければだめよ」

 先生の指示に従い、知美さんはさっそく用意されたコーヒー豆
をミルで挽き始めます。
 今回は布製のフィルターをセットしてお湯を注ぐだけなのです
が……その動きは最初からとてもぎこちないものだったのです。

 『おやおや、こういうことか……』
 真治氏は悔やみます。

 『……ペーパーフィルターにしてやればよかったか……いや、
こんな事だとわかっていればインスタントコーヒーでよかったん
だが……うかつだったなあ……』

 それは、今、知美さんの身に何が起こっているかを彼が推測で
きたからでした。
 ただ、今、思い描いている事を口にするのは、真治氏にもはば
かられます。

 知美さんはミルで豆を挽いていた段階で荒い息をしていました。
 脂汗が額に浮き、手先が震えています。
 
 布のフィルターをセットしてそこに挽いた豆をいれるだけでも
一苦労な様子で……

 「はあ、はあ、はあ」
 少しやってはすぐにその手が止まり、何んだか痛みが遠のくの
を待っているようにうずくまってしまいます。

 コーヒーを入れる手順は熟知しているみたいなんですが、作業
が途切れ途切れなのでなかなか前に進みません。

 そうやって、何度か作業を中断するうち……とうとう知美さん
はその場にうずくまってしまいます。

 すると、その瞬間、真治氏の鼻先をある臭いが掠めるのです。

 もうこうなると知美さんから出るのは脂汗だけではありません
でした。涙も一緒に光ります。

 『仕方ないか……』
 真治氏は一つ大きくため息。

 実際、このような恐ろしいお仕置きは、美香にも香織にもまだ
した事がありませんでした。

 「いいから、行ってきなさい」
 打ちひしがれている知美さんにやさしく声をかけたのは真治氏
でした。

 もちろん、こうしたことは、園長先生のお仕事なんでしょうが、
居てもたまらず声をかけたのでした。

 「…………」
 真治氏に声を掛けられた知美さんは動揺します。
 そして、動揺したままの顔で、今度は園長先生を探すのでした。

 視線を合せた園長先生は……
 「……いいわ」
 と、一言いって首を振ります。
 それは、『この部屋から出なさい』という意味のようでした。

 それを待っていたように、今度は秋絵さんが、知美さんに肩を
貸します。
 秋絵さんもまた、今ここで何が起こっているのかを理解してい
たみたいです。

 すると、園長先生は、傷心の知美さんに向かってさらに冷たく
こう言い放つのでした。
 「知美さん、お家のおトイレはだめよ。汚すといけないから。
……お外のトイレでしなさい……いいですね」

 「はい、先生」
 知美さんは、蚊の泣くような声で答えて、先生に言われた通り
秋絵さんとお庭へ出ようとしますから真治氏が……

 「構いませんよ。うちのトイレを使ってください。汚れたら、
掃除すればいいだけのことですから」
 と引き止めたのですが、今度は園長先生が……

 「ご好意は大変にありがたいのですが、女の子は男性と違って
そういうわけにはいかないのです。ご理解くださいませ」
 と丁寧に断りをいれてきます。

 いえ、そもそもそのお庭にお外用のトイレなんてありませんで
した。あるのは、お昼のうちに知美さんが園長先生に命じられて
掘った溝があるだけ。
 園長先生が言う『お外のトイレ』とはそのことだったのです。


 二人が去った後、居間に残った園長先生と真治氏は無口でした。
 真治氏は言葉を捜し、園長先生は真治氏が何か話せば答えよう
と思っていました。

 そんな真治氏が重い口を開いたのは知美さんが部屋を出てから
数分後のことです。

 「私も、こんなことをしている親がいることは知っています。
……娘の言動が腹に据えかねて、こうしたことが頭を掠めた事も
何度かあったかもしれませんが……さすがに、自分の娘で試した
事はありませんでした」

 「きっと軽蔑なさってるんでしょうね。……お仕置きとはいえ、
何てハレンチなことを、って……」

 「いえ、そういうわけでは……その家のお仕置きは、その家の
事情で色々ですから、よそ者が口を挟むべきではないでしょう」

 「仕方ないんです。あの子とご主人のお嬢様とでは住む世界が
違いますもの……」

 「それだけ、あの子たちの現実は厳しいということですか?」

 「ええ、あの子たちは、生まれながらにして親の業を背負って
生きていかねばならない定めにありますから……特に、モラルや
秩序については、人並み以上に敏感でなければならないんです」

 「それで、より厳しいお仕置きをして従わせる………でも……
親はともかく、子供たちに責任ないでしょう?」

 「観念的にはそうでも世間の感情は別です。仮にあの子たちが
世間の子と同じような罪を犯しても世間から受けるバッシングは
普通の子と同じではありませんもの」

 「それで、教会の中に囲い込もうとするわけですか……」

 「教会の中で清く美しく暮らすシスターの元へは、どんな誹謗
中傷も届きません。たとえそこで厳しいお仕置きがあったとして
も、それで済めば、世間の荒波に翻弄されるより心の傷はむしろ
小さくて済むんじゃないでしょうか……私たちはそう考えてるん
です」

 「なるほど………ところで、知美ちゃんはどんな罪を犯したん
ですか?」

 真治氏の問いに、園長先生は少し考えてから……
 「………………脱走ですわ…………修道院を逃げ出したんです」

 「脱走……理由は?」

 「ありませんわ。ただ、外の世界に出てみたかったんでしょう。
思春期にはよくあります。一般人なら、入信還俗は自由ですが、
あの子たちの場合、親の意向で将来の道が一つに定められてます
から、そこは可哀想なんです」

 「将来は修道女……でも、他に選択肢はないんですか?」

 「生みの親が承諾すれば養女としてもらわれることはあります。
その場合は、養父がその子の将来を決めることになりますけど」

 大人たちがおしゃべりをしている間に、知美ちゃんが居間へと
戻ってきます。
 お腹の物はいちおう出してきましたが、園長先生の言いつけに
反して我慢ができませんでしたから、顔は暗いままでした。

 そんな知美さん、気がついたように今一度コーヒーを入れよう
としますから……
 「もういいわ。あなたの汚れた身体で入れたコーヒーをご主人
に飲んでいただくわけにはいかないもの」

 園長先生が差し止めます。
 でも、真治氏はそれをさらに打ち消してこう言うのでした。

 「そんなことないよ知美さん。僕はいっこうに構わないから。
あらためてコーヒーを入れてくれないか。僕は君の入れてくれる
コーヒーを飲んでみたいんだ。……ね、いいでしょう、先生」

 真治氏は園長先生の許可を得ます。

 こうして知美さんはあらためてコーヒーをたて、それを真治氏
のテーブルに……
 彼は知美さんの置いたカップを丁寧に拾い上げ、口をつけます。
 もちろんこれ、真治氏がコーヒーを飲みたいわけではありませ
んでした。

 彼は二人の娘の親であり、紳士録にも載るような立派なジェン
トルマンです。ですから、知美さんがたとえ自分の娘でなくても
『お仕置きは挫折で終わらせてはならない』という昔からの格言
をそこに当てはめてあげたのでした。

 ただ、だからと言って、彼が何でもかんでも女性の言いなりに
なるフェミニストかというと、それもそうではありませんでした。

 真治氏が知美さんの入れたコーヒーを飲み干し、文字通り一息
ついた時でした。

 「知美さん、お約束は忘れていないでしょう」
 園長先生の声がします。

 「はい」
 振り向いた知美さんが答えます。

 「それを果たしましょうか」
 園長先生の声は穏やかで、落ち着いていて、間違っても怒りの
感情がこもった声ではありませんでしたが……園長先生の手には
しっかりとケインが握られています。
 何をするのかは明らかでした。

 と、ここで再び真治氏が……
 「先生、それを私にやらせていただけませんか?」

 「……(まさか、じょ…冗談でしょう)……」
 知美さんは声こそ出しませんでしたが、顔面蒼白、今にも気絶
しそうな青い顔をして真治氏を見つめます。

 『だって、それって約束が……』
 彼女の思いは顔に書いてありました。
 でも……

 「わかりました。本来、これは私の仕事ですが、ここはご主人
にお譲りしましょう」
 園長先生はあっさり真治氏のお願いを聞きいれます。

 『そんなあ~~~』
 それは知美さんにしてみたら、いきなり向こうからやって来た
地獄ということでしょうか。

 本当はその場で泣き叫びたいほどのショックだったに違いない
のですが、ただ、育ちのよさ、厳しい躾がそうさせてくれません
でした。

 「ご主人はパブリックスクールへの留学経験もおありだとか。
まさかここで本場の鞭打ちを拝見できるとは思いませんでしたわ」

 園長先生のお世辞に真治氏は苦笑いを浮かべて……
 「いえ、それは関係ありませんよ。私はもっぱらぶたれる方で
したから……でも、せっかくの機会ですし、たまには悪役も交代
した方が、先生のご負担も減るんじゃないかと思いまして」

 「まあ、お口の悪い……悪役だなんて……でも、そうかもしれ
ませんね。この子にお仕置きの効果が出るまでにはまだ何十年も
かかるでしょうから……いずれにしても、本当にありがとうござ
います。まさか、こんな事までしていただけるとは思いませんで
したわ。……では、いくつよろしいのでしょうか」

 「1ダースで……少し痛いかもしれませんが、14歳ですから、
頑張れるんじゃないでしょうか……先生は、どうぞこの机の前で
知美ちゃんの手を押さえてあげてください」

 「はい、承知しました」

 大人たちが勝手に話をまとめていきます。
 そこに知美さんが割り込む隙はありませんでした。

 やがて、大きな花瓶が片付けられ、それを乗せていたテーブル
が鞭打ち台へと代わります。
 ちなみにこのテーブルは、真治氏の娘たち、美香や香織も利用
するテーブルでした。

 「さあ、ここにうつ伏せになって……」
 真治氏にこう言われた知美は振り返って悲しい顔を見せます。

 すると、優しい刑吏は穏やかに首を横に振って……
 「今日は運悪く悪魔の館に迷い込んだと思って諦めるしかない
んだよ。これを乗り越えたら、また、次には良い事もあるから、
辛抱しなきゃ」
 
 「えっ?……あっ……はい」
 知美はハッとします。

 『今、自分は何を期待してあんな哀れんだ顔をしてしまったん
だろう』
 そう思うと自分が情けなくなりました。

 彼女のスカートの丈は幼い頃に比べれば幾分長くなりましたが、
お尻叩きのやり方は幼い頃と同じでした。

 「じゃあ、いくよ」
 真治氏の穏やか声が掛かりカナリアイエローのフリルスカート
が捲り上げられると、さっきお漏らしをして履き替えたばかりの
ちょっとぶかぶかの白いショーツが顔を出します。

 知美さんの顔が緊張と恥ずかしさでポッと赤くなります。
 でも、できるのはそれだけ。あとはもう、机に抱きついてされ
るがままだったのでした。

*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ③-1~***

見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ②~

*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ②~***
*)仮置き原稿

******<登場人物>**********

 新井真治/家の主人
 秋絵さん/お手伝いさん
 子供たち/高坂知美(中2)
      河合春花・森野美里(小4)
      真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
 園長先生/子供たちの小中学校の校長先生

***********************

 夕食が終わり、つかの間の歓談。やがて……
 「では、ご主人。ご見学のほどよろしくお願いします」
 園長先生の言葉で食堂の全員が仏間となっている和室へと移動
することになった。

 春花ちゃんと美里ちゃんへのお仕置きは、ここへ来ていきなり
告げられたわけではない。子どもたち全員が学校を出る時すでに
どんなお仕置きになるかを告げられていたのである。

 つまり、真里菜ちゃんや明日香ちゃんのような幼い子はべつに
して、この家を訪ねたときには心の準備はできていたのだ。
 ただ、それにしても取り乱さない子どもたちの姿に、真治氏は
好感がもてた。昔の良家の子女はたとえ親からお仕置きされる時
でも気品を失わないように躾られている。そんな古きよき伝統が
こんな孤児院で守られていることが嬉しかったのだ。
 そこで、彼、こんな事を提案したのである。

 「どうでしょう、私が艾のいくつかに火をつけるというは……
もちろん、お仕置きに差し障りがなければ、ですが……」

 すると、先生も……
 「まあ、やっていただけるんですか。それは何よりですわ」
 と応じたのである。


 大人たちが襖を開くと、六畳の仏間にはすでに薄手のお布団が
敷かれ腰枕が二つ置いてある。そこにお線香や艾はもちろんだが、
万が一、粗相した時のためにバスタオルやパンツの着替えまで、
秋絵さんによって抜かりなく用意されていた。

 「恐れ入ります、こんなに丁寧にご準備くださって……」
 感激した園長先生が秋絵さんにお礼を言うと……

 「何でもありませんわ。うちのお嬢様も、こうしたことござい
ますから」
 という答えが……

 実際、ここの娘である美香や香織もこの薄い布団の上で必死の
形相になったことが1度や2度でなかった。

 「さあ、お二人さん。ここで裸になりなさい。残していいのは
靴下だけ。あとは全部脱いで頂戴」

 「…………」
 「…………」
 園長先生の命令にすでに正座していた二人は互いの顔を見合せ
ますが……気まずい雰囲気……

 「…………」
 「…………」
 続いて、締め切られた襖や同じように部屋の隅で正座している
真里菜ちゃんや明日香ちゃん、それに知美おねえちゃんを見ます。

 「…………」
 「…………」
 でも、もう部屋のどこを探しても『やらないですむという方法』
というのは見つかりませんでした。

 「さあ、やってしまいましょう。いくらお部屋を眺めていても
お仕置きは終わりませんよ……先程はおじさまのご好意であなた
たちは恥をかかずにすんだかもしれませんけど、私の方は大恥を
かいたの。今度はそうはいきませんよ」

 同じように正座をしていても園長先生は背筋を伸ばし凛とした
姿で上から幼い二人を睨みます。
 こうまでされては仕方がありませんでした。

 春花ちゃんが、最初に自分のブラウスに手をかけて脱ぎ始め、
美里ちゃんがあとに続きます。

 「まったく、二人とも手間がかかりますね。新井のおじさまが
ここまでご用意くださったの。今度、私に恥をかかせたら、学校
に戻ってからもう一度お仕置きのやり直しですから。……覚えて
おきなさい。……いいですね」

 園長先生は服を脱ぎ始めた二人を前にして更なるお説教です。
 対する二人はというと……

 「はい、ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 蚊のなくような声を出すのがやっとでした。


 二人は服を脱ぐためにいったん立ち上がりますが、靴下を除き
素っ裸になると再び正座に戻ります。
 ただ、その様子はとても落ち着かないものでした。

 両手で胸を覆い、お臍の下の割れ目を何とか隠そうとして、前
かがみになってもじもじと太股を締め続けます。
 夏のことですから裸になっても寒いということはありませんが、
とてもじっとしていられない様子だったのです。

 もちろん、胸など膨らんでいませんし、陰毛だってありません。
大人の兆候なんてまだ何もありませんが、そこは女の子でした。

 そんな二人に園長先生はご挨拶を命じます。

 「それでは、まず、こんなにも立派なお仕置きの場を用意して
下さった新井のおじさまにお礼をいいましょう。…………ほら、
ちゃんと背筋を伸ばして……『新井のおじさま、お仕置き、あり
がとうございます』」

 先生がお手本をみせて、頭をさげますと、小学生は真似しない
わけにはいきませんでした。

 「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」
 「新井のおじさま、お仕置き、ありがとうございます」

 二人は靴下以外は素っ裸。でも真治氏に向かって両手を着くと、
園長先生を真似てしっかりご挨拶します。

 庶民感覚では自分をお仕置きする親に『ありがとうございます』
なんて変ですが、これもお嬢様仕様。お嬢様の世界でならこれも
常識でした。

 「さあ、それでは、まず最初はお尻のお山からよ。お布団の上
に、うつ伏せになって……」

 ご挨拶がすむと、園長先生の指示で、二人はうつ伏せに……
 すると、今度はそれまでとは打って変わって素早く動きます。
 もうこうなったら、早くやって早く終わらすしかありませんで
した。
 
 「何だ、やればできるじゃないの」
 園長先生はそう言って艾を丸め始めます。
 その手先、手馴れたものでした。

 綺麗な円錐形になって艾が七つ八つあっという間にお盆の上に
並べられ、まず最初の二つが二人の左のお尻の山へ乗ります。

 「……!……」
 「……!……」
 据えられた経験のある二人、もうそれだけで背筋に電気が走り
ました。

 「あなたたちの悪戯には、私もほとほと手を焼いてきたけど、
今日はいい機会ですからね、新井のおじさまに据えて頂きます。
私なんかと違って、それはそれは熱いですからね。噛み枕を口の
中に入れて、それをしっかり噛み締めて熱さに耐えるんですよ。
わかりましたか?」

 「…………」
 「…………」
 二人の少女は明らかに動揺していました。

 『先生の普段やっているお灸より熱いって……どのくらい大変
なんだろう』
 取り乱した様子は見せなくても心配で心がパニックに……。
 当然ご返事も遅れてしまうのです。

 「どうしました?ご返事は?」

 園長先生に少し強い調子で命じられて二人は我に返ったみたい
でした。

 「はい、先生」
 「はい、先生」

 真治氏の仕事は艾に火を移すだけのことですから、誰がやって
も結果は同じ。彼がやったからって特別熱いなんてことはありま
せんが、信頼している園長先生の言葉ですから幼い二人は素直に
信じます。
 嘘も方便。お仕置きとしては好都合でした。

 やがて、真治氏が火のついたお線香を持ってまずは春花ちゃん
のお尻へと近づきます。
 艾の乗った付近を少し摘み上げてお線香の火を艾へと移すと、
それはあっという間に下へと降りていきました。

 「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
 両足を必死にバタつかせ、噛み枕を吐き出して、腰を振ります。

 でも、春花ちゃん、学校や寮ではこうではありませんでした。
 幼稚園時代からお転婆娘だった彼女はお灸の経験だって一回や
二回じゃありません。ですが、逆にその事で熱さに慣れてしまい、
最近では、『鞭のお仕置きなんかよりこっちの方が楽よ』なんて
涼しい顔で友だちに吹聴していたくらいでした。

 もちろん艾を大きくすれば一時的に効果は上がるでしょうが、
そのぶん痕も大きく残ります。ですから園長先生はそのことには
否定的だったのです。

 それが今回……
 大人の男性からいきなりお尻の肉を摘まれたショックと熱い火
の玉の痛み、おまけに園長先生から『特別熱い』なんて脅されて
いましたから、熱がる姿もそりゃあ尋常じゃありませんでした。

 園長先生としては大成功というわけです。
 園長先生は穏やかな笑顔を見せて真治氏に会釈します。それは
協力してくれたことへの無言のお礼でした。

 さて、次は美里ちゃんです。

 美里ちゃんは、春花ちゃんのお友だちでしたが、春花ちゃんに
比べればおとなしい子でした。
 ですから普段から威勢のいい事ばかり言っている春花ちゃんの
狼狽ぶりを間近に見てショックを受けます。

 お尻から太股にかけて鳥肌がたち全身が小刻みに震えています。

 『どうしよう』『どうしよう』
 お灸を据えられる前からうろたえているのがよく分かりました。

 もうこれなら、十分にお仕置きの効果ありです。あえてお灸を
据えなくてもよくいらいですが、園長先生は、それでも真治氏に
艾への点火を依頼します。
 それは、美里ちゃんだけ許してしまうと春花ちゃんがひがんで
女の子の友情にひびが入りかねないからでした。

 ただ……

 「ひ~~~~~~~」
 美里ちゃんは、お手玉のような噛み枕を吐き出すこともなく、
必死に熱さに耐えて頑張ります。

 いえ、そうやって美里ちゃんが頑張れたのは、園長先生が春花
ちゃんの時よりほんの一瞬早く、艾をその親指でもみ消したから
でした。

 『この子は反省できた。お仕置きは終わり』というわけです。

 ただ、この一箇所だけでお灸のお仕置きが全て終了というわけ
ではありませんでした。

 今度は、右のお尻のお山に据えられます。

 「い~~~~ひ~~~~だめえ~~取って、取って、取って、
いやあ~~~ん」
 春花ちゃんは再び悲鳴を上げます。
 二つ目のお灸もそれで慣れるということはありませんでした。

 「う~~~~~~ひ~~~~~~~」
 美里ちゃんもそれは同じです。

 さらに……

 「さあ、今度はここ。いつもあなたたちが熱い熱いって泣いて
るお尻のお骨にいきますからね。今まで以上に頑張らないと……
お漏らしすることになるわよ」

 園長先生はそう言って二人の尾てい骨を人差し指でグリグリ、
加えて割れ目の中にまで手を入れてオシッコの出口をグリグリ、
真治氏すら赤面するようなことを、同性の強みでさらりとやって
のけます。

 たしかに、尾てい骨へのお灸は熱いみたいで……過去、幾度も
お漏らしする子がいました。

 「いやあ~~~ごめんなさい!もうしません、しません」
 「だめえ~~~あつい、いや、いや、いや、お願いやだあ」

 二人とも噛み枕を吐き出して布団をバタ足で蹴り続けます。
 こんなことはお尻のお山に据えられていた時はなかったことで
した。


 と、ここまでは真治氏もある程度予測していた。
 というのも自分の娘たちにも同じようなことをしていたからだ。

 今の娘は、自分のお尻を見ず知らずの人に見せることに抵抗が
ないみたいだが、当時は、そんなこと、親が心配する必要がない
ほどありえなかった。
 だから、逆に、ここに小さな火傷の痕があったとしても、親は
さして心配しなかったのである。

 しかし、園長先生は二人をいったん正座させると、二人にさら
なるお仕置きを命じる。

 「少し落ち着いたら、前にも据えていただきましょう。まずは
春花ちゃんから……今度は仰向けになって寝なさい」

 真治氏は、何気に言い放った園長先生の言葉に驚いた。
 『えっ!?この子たちはそこもやるのか!』

 女の子の前とは、おそらくお臍の下、ビーナス丘あたりを指す
のだろうが、そこは子宮のある場所でもある……そこへの施灸は
さすがに女の子には可哀想だと感じられたのだ。

 ただ、覚悟を決めてお布団の上に寝そべっている春花ちゃんの
その場所にはすでにしっかりとした灸痕が刻まれている。すでに、
何度か経験があるようだった。
 となると、いったん引き受けたからには『これは嫌です』とは
言いにくかった。そこで……

 「先生、実は私、あの場所への施灸は経験がないのです」
 園長先生の耳元まで行って囁く。

 「大丈夫ですわ。艾はこちらで用意して乗せますのでご主人は
お線香の火を艾に移してくださればよろしいかと思います。後は
こちらで処理いたします。大事なことは、この子たちに男性から
お灸を据えられる恥ずかしさを体験させることですから……熱さ
じゃありませんのよ」

 先生もまた、子供たちにさえ聞こえないような小声でこう囁く。
 真治氏、やらないわけにはいかなかったのである。

 今までとやり方は同じ。園長先生がご自分で整形した艾を施灸
の場所へと乗せていく。
 ただ、今度はお尻と違い、艾が乗せられところ火をつけられる
ところを子供たちは目の当たりにするわけで、それだけでも十分
に辛い罰だった。

 「さあ、しっかり踏ん張りなさい」

 今度は園長先生ご自身で春花ちゃんのビーナス丘のその場所を
摘み上げる。

 「お願いします」

 真治氏は園長先生の言葉を受けて、その盛り上がった丘の天辺
へお線香の赤い頭を近づけた。

 「……あっ、熱い……いや、いや、だめ~だめ~」
 顔を歪ませ、眉間に皺を寄せて必死に耐える春花ちゃん。
 彼女が激しく泣き叫ばなかったのは、むしろこうした事に慣れ
ているからだろう。

 「はい、先生、ここにもう一つ」
 園長先生は、そのたびに真治氏を呼んで火をつけさせ、終れば
またすぐ隣りに次の艾を乗せていく。

 お尻の艾に比べればこちらの艾は小さいが、春花ちゃんのそれ
だって狭いお庭なわけで、そんな処に、春花ちゃんは結局六個も
お灸を据えられるはめになったのだからたまったものではない。
 抓られた赤みとお灸の熱による赤みで最後は全体が真っ赤々に
なっていた。

 「春花ちゃん、お臍の下がカイロを乗せたみたいに今でも暖か
いでしょう」
 園長先生は春花ちゃんが頷くのを確認すると…
 「しばらくはそうやってじっとして反省してななさい。絶対に
触っちゃだめよ。綺麗に治らなくなりますからね。わかった」

 先生は、再度春花ちゃんが頷くのを確認して今度は美里ちゃん
に取り掛かる。

 こちらは春花ちゃんの様子を見ていて怖気づいたのか、すでに
最初からべそをかいていた。

 すると、園長先生、タオルで美里ちゃんの涙を拭きながらも、
それを叱るのだ。
 「何ですか、こんなに大きな子が、お灸のお仕置きくらいで、
めそめそしたりして……そんな顔しないの。……お仕置きをして
いただく新井のおじさまに失礼よ。ほら、もっとシャキッとしな
さい。……先生がいつも言ってるでしょう。あなただって下級生
から見ればお姉さんなの。……泣けば許されるという歳ではあり
ませんよ」
 園長先生は、気の弱い美里ちゃんにあえて冷たく言い放つのだ
った。

 一方、真治氏はというと……
 その頃この座敷の隅で正座して妹たちのお仕置きの様子を見学
させられている高坂知美の姿を見ていた。

 『彼女もきっとこんなお仕置きを受けて育ってきたんだろう。
身じろぎ一つしないというのは驚くに値しないということなんだ
ろうなあ。……今の彼女はどんなお仕置きをされてるんだろう?
……今は、もっと厳しいこと、されてるんだろうなあ』

 そう考えると、彼女がお仕置きされている様子が目に浮かぶ。
 その妄想はもうお仕置きの域を超えてSMだったのである。

 とはいえ、真治氏にそんな趣味があるわけではない。彼にして
みたら春花ちゃんだけでも十分に後ろめたい気持でいたのだ。
 ただ今までの行きがかり上、美里ちゃんに対してもやってあげ
なければいけないと思っていたのである。


 園長先生と真治氏のコンビで再びお灸の折檻が始まります。

 「いやいやいやいや、だめ、熱い熱い熱い…………あああ~ん、
またまたまた、ごめんなさいごめんなさい、いやいやいや、もう
しませんから~~~…………いゃあ~~死んじゃう死んじゃう」

 美里ちゃんはビーナスの丘が真っ赤に染まるまで悲鳴や泣き言
を言い続けます。でも、それは春花ちゃんに比べればまだ小さな
声でした。

 つまり、大人たちに向かって許し請うために叫んでいたのでは
なく、自分を励ますために叫んでいたのです。
 幼い彼女でも今さら泣き言を言って園長先生が許してくれない
ことぐらいは分かります。
 でも、何か言ってないと耐えられなかったのでした。

 いずれにしろ、真治氏はほっと胸をなでおろします。
 『やっと終わった』
 そう思ったに違いありません。

 ところが、ところが……

 「さあ、では最後に、お股の中にも一つすえますかね。二人共
いつもの姿勢をとって頂戴」

 園長先生に命じられて、二人は反射的に両足を上げようとしま
したが……どちらからともなく途中でやめてしまいます。

 「さあ、どうしたの?いつもの姿勢って忘れちゃったかしら」

 園長先生は、再度促しますが、今度は足を上げようとしません。
それどころか、今据えられたビーナスの丘まで両手で覆ってしま
ったのでした。

 原因はただ一つ。二人は途中でこの部屋に真治氏がいることを
思い出したのでした。
 いつものように園長先生やシスターだけなら問題はありません
でした。だって、そこには女性しかいませんから。どんな大胆な
ポーズにもなれたのです。

 「あら、急に恥ずかしくなっちゃった?……困ったわねえ……
いいこと、あなたたち。……ここへあなたたちを連れて来たのは、
あなたたちに恥ずかしいお仕置きを受けてもらおうと思ったから
なの。教会には普段男性がいらっしゃないでしょう。お仕置きで
あなたたちを裸にしても、おしゃべりしたり、走り回ったり……
女の子がそれじゃいけないから、ここに連れて来たの。……でも、
そんなに恥ずかしいなら、こちらもやり甲斐があるというものだ
わ。……さあ、さっさと足を上げてごらんなさい」

 園長先生は再度命じます。
 もとより、子供たちがこれに従わないはずがありませんでした。

 恥ずかしさいっぱいの姿勢。
 よくお母さんが赤ちゃんのオムツを換える時にさせるあの姿勢
です。

 幼い二人にとってもそれが恥ずかしくないはずがありませんで
した。

 さすがに心配になった真治氏が尋ねます。
 「今度はどこにお据えになるんですか?」

 「どこって、会陰の真ん中ですよ」

 あまりにあっけらかんと言われて真治氏は思わずのけぞります。
 「…………」

 無言のままでいる真治氏に代わって園長先生が説明します。
 「男の子だって、オチンチンに据えたりするでしょう。あれと
同じことですわ」

 「熱くないんですか?」

 「もちろんお灸ですから熱いですけど、特別熱いわけではない
んです。そのあたりも男性と同じですわ。あくまで皮膚の上から
据えるわけで、粘膜にはさわりませんから………何より、そこは
据えた痕が人目につかないでしょう。そういった意味でも好都合
ですの」

 「なるほど……」
 真治氏は園長先生との会話を成立させる為に相槌をうちますが、
本当は目がくらみそうでした。

 そんな、真治氏の様子がわかったからでしょうか、園長先生は
こうも付け加えるのでした。
 「女性は、お仕置きをするのもされるのも恐らくは男性よりも
好きなんです」

 「えっ!?」

 「どうしてだか分かります?」

 「………いえ」

 「苦痛も愛の一部だと感じられるから………だって、女性には
自分の身体以外に愛を感じる場所がありませんもの。愛する人の
行いは撫でられてもぶたれても同じことなんです。それはこんな
幼い子でもやはり同じなんですよ。大事なことはその人を愛して
いるか否かだけ。私の場合もこの子たちが私を慕ってくれるから
お仕置きとしての愛が成り立つんです」
 園長先生は意味深なことを言って笑うのでした。


 園長先生はこのあと、秋絵さんに手伝わせ、二人にお股を開か
せてそこにお灸を据えましたが、真治氏もさすがにこれだけには
参加しませんでした。
 理屈はありません。強いてあげれば紳士のたしなみということ
でしょうか。

 でも、真治氏は二人がお股の中を焼かれるのを見ながらこうも
思うのです。

 『もし、これが美香や香織だったら、私だってやったかも……
……お仕置きは愛か……かもしれんな』
 と……

*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ②~***

見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ①~

*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ①~***
*)仮置き原稿

******<登場人物>**********

 新井真治/家の主人
 秋絵さん/お手伝いさん
 子供たち/高坂知美(中2)
      河合春花・森野美里(小4)
      真里菜ちゃんと明日香ちゃん(小1)
 園長先生/子供たちの小中学校の校長先生

***********************

 真治氏は施設を離れると夕方遅くいったん自宅に戻る。
 というのも、そこでまだ一仕事残っていたからなのだ。

 彼の家は高級住宅街の一角にあった。
 そこは周囲がまだプロパンガスだった時代にあって、その区画
だけ都市ガスが敷設され、水洗トイレを可能にする下水が流れて
いる。

 大きな松や槇の木が囲う彼の家は、普通の建売住宅なら五軒や
六軒も建てられるほどに広く、南欧調の外壁や青い芝生、それに
小さいとはいえプールまである。彼自慢の家だ。

 そこへ、街灯が灯る時刻になって真治氏は帰ってきたのである。

 「ああ、これから帰る。……あと5分というところかな。……
今日はお嬢さん方、来てるんだろう?……で、玄関でのお出迎え
は?……そうか二人ね?……わかった、わかった……」
 彼がご自慢のフェラーリに備え付けられた自動車電話で話すの
は、家のお手伝いさん、秋絵さんだ。

 今回、家族はみんな見沼に出かけているから、家は彼女一人に
任されていた。

 「えっ、!今日は、全部で五人も来てるの?…………なるほど、
先生を入れたら六人ね。…………こっちは大丈夫だよ。とにかく
必ず五分で帰るから、粗相のないように……」
 彼はそれだけ言って電話を切る。

 「一番上は中二か……他人の目にふれさすには、ちょいと歳が
行き過ぎてないか」
 真治氏はポツリと独り言を言ってアクセルをふかした。


 このあとは、短い道中。
 自宅に近づくと、フェラーリ独特のもの凄いエンジン音が鳴り
響くから彼のご帰還は家にいる誰にもすぐにわかった。

 「さあ、あなたたち、お仕事よ。何て言うかは覚えてるわね。
ちゃんとご挨拶するのよ」

 真治氏は車をガレージに入れ終わる頃、そんな秋絵さんの声を
聞く。

 そうやって玄関先へ回って来ると……
 案の定、その玄関先ではまだ幼稚園児くらいの女の子が二人、
手持ち無沙汰で立っていた。

 「おじちゃま、お帰りなさい」
 いずれも真治氏を見つけるとすぐに駆け寄って来て……

 一人が馴れ馴れしく抱きつき、もう一人は……
 「かばん、持ちます」
 なんてなことを言う。

 この二人、真治氏のことを『おじちゃま』だなんて読んでいる
くらいだから、もちろん彼の子どもではない。
 近くの教会に預けられた孤児たちなのだ。

 実は、真治氏。こうした孤児たちの為に、お仲間たちと一緒に
『臨時の父親』なる一風変わったボランティアをしていた。

 このボランティア、教会の子どもたちを月に一度自宅に招いて
もてなすというもので、普段なら澄江夫人や美香や香織といった
子供たちも手伝ってくれるのだが、今、自宅に帰れるのは真治氏
だけ。
 しかも具合の悪いことに彼、今週は『罰当番』に当たっていた
ため、自宅へ帰らざるを得なかったのである。


 『罰当番』?……
 名前だけ聞くとまるで真治氏が罰を受けてるみたいに聞こえる
が、そうではない。
 罰を受けるのはあくまで招いた子供たちの方。
 学校や寄宿舎、それに月一回行くお招れ先でいけない事をした
子供たちが、教師やシスターからだけなく、外部の人たちからも
罰を与えられるという制度だった。

 「いつも顔見知りにばかりお仕置きされていると、子供たちも
慣れてしまって、お仕置きの効果が薄くなります。ここは子ども
たちの為にも、新しい刺激をお願いしたいのです」
 とは園長先生の弁。

 悪者役にさせられるお父さんたちは、当初、気が進まなかった
が、園長先生に……
 「お仕置きは愛情。こうしたことは愛情溢れるお父様方にしか
お頼みできないのです」
 と、説得されて引き受けたのだった。


 真治氏は、お出迎えしてくれた子供たちがさっさと玄関を開け
て家の中へ戻ろうとするので、試しにその短いスカートをほんの
ちょっと捲ってみた。

 すると、そこに可愛いお尻がちょこんと覗く。
 二人は慌てて自分のスカートの後ろに手をやるが……
 
 「どうした?……恥ずかしいか?」
 真治氏が二人に笑って尋ねると、二人はそろって振り返り……
 「恥ずかしい」
 と、正直に答えた。

 でも、これはお約束。
 これが二人へのお仕置きだったのである。

 こんなにも幼い子が、見知らぬ人にいきなりお尻を叩かれたら
どうなるか……それを配慮しての罰だった。
 二人は、真治氏が家に電話した後、秋絵さんによってショーツ
を脱がされ、玄関先でおじちゃまを出迎えるよう命じられていた。

 約束では自らスカートを捲ってお尻を見せる約束だったみたい
だが、忘れてしまったようだ。

 もっともこれは彼女たちの為に用意された軽いお仕置き。
 年齢が上になるにつれ、お仕置きもきつくなるのは当然のこと
だったのである。


 真治氏がお出迎えの二人に先導されて居間へ行くと、秋絵さん
が夕食の準備をしながら待っていた。

 「あっ、坊ちゃま……いえ、その旦那様、お帰りなさいまし…
…美香お嬢様はお元気でしたでしょうか?」
 秋絵さんはご主人への挨拶もそこそこにさっそく美香のことを
気にかけてくる。彼女が真治氏のことを今でも思わず『坊ちゃん』
と呼んでしまうのは彼がそう呼ばれていた頃から働いていたから。
 秋絵さんはこの家では家族同然だったのである。

 「ああ、あいつは強いよ。学校からいきなり施設に移したから
さぞやしょげてると思いきや、これがそうでもなかったから安心
したよ。……あげく、自分から私の跡を継ぎたいだなんて言い出
しやがった」

 「まあ、頼もしいこと。さすがは、新井家のご長女ですわ」

 「なあに、世間を知らんだけのことさ……ところで、電話では
お客さんは五人と聞いていたが、あと一人は?」

 真治氏は、すでに玄関先でお出迎えを済ませたチビ二人に加え、
居間へ来る途中、階段の踊り場で壁の方を向いて膝まづく小学校
高学年くらいの少女二人を確認している。
 ゆえに、残りはあと一人だった。

 「あと、お一人は……」
 秋絵さんはそこまで言って、少しだけ考える。
 そして……
 「あっ、その方は……ただいま、入院中なんです」
 と答えた。

 彼女の意味深な笑いは、ご主人がその謎を解いてくれることを
きっと期待してのことだろう。

 「入院中?………どういうことだ?」
 真治氏はしばし考えたが、その答えが出ぬうちに、階段を一人
の老婦人が下りてくる。

 「まあまあ、ご主人、お帰りでしたか。申し訳ございません。
さっさと上がり込んだうえにご挨拶にも遅れてしまって……私、
ちょっと、入院患者の方を看ておりまして……」

 オープンなこの家の居間は階上からも素通しだった。

 「こちらこそ、私一人しか参加できなくて……恐縮です」

 「構いませんよ。ご無理を申してるのは私どもの方ですから」

 真治氏は園長先生と挨拶を交わし、そこで秋絵さんが謎をかけ
た入院患者の意味を知るのである。

 園長先生の言葉はおそらくは秋絵さんの言葉を階上で聞いての
ことだったのだろう。

 先生は白髪をなびかせ上品な笑みをたたえて階段を下りてくる。
 と、その途中の踊り場で膝まづく二人の少女に気づいた。

 「あらあら、あなたたち、まだご挨拶してないの?」

 立ち止まり、二人を見下ろしながら尋ねると……
 二人は恐る恐る首を振る。

 「じゃあ、早くご挨拶しなきゃ。……ちゃんと前を向いて……
さあ……新井のおじさまにご挨拶なさい」

 園長先生は命じたが、二人がすぐに向き直ることはなかった。

 膝まづく二人のスカートは、すでに目一杯の場所まで捲り上げ
られ、ピン留めされて下りてこない。ショーツもすでに足首まで
弾き下ろされていた。
 そんな状態で前を向いたらどうなるか、誰でもわかることだった。

 二人は真治氏が自動車電話を切った直後からずっと可愛いお尻
を丸見えにして踊り場の壁とにらめっこをしていたのだ。
 当然、真治氏がここへ帰ってくればご挨拶しなければならない
のは分かっていたが、その勇気が出ないままに踊り場で固まって
いたのである。

 真治氏もまた、玄関を入るなり二人の姿を確認はしていたが、
この格好の子どもたちに声を掛けてよいものかどうかためらって、
結局は、先に居間へと入って行ったのだ。

 「あなたたち、ここでのお作法は教えたわよね。なぜ、教えた
通りにできないの。恥ずかしいなんて言い訳は許さないと言った
はずよ」

 園長先生は二人を見下ろし、真治氏に挨拶するよう命じるが、
時期を失していったん固まった身体がすぐに動くはずもなかった。

 「………………………………………………………………」
 「………………………………………………………………」
 二人は押し黙ったまま動こうとしない。

 これが玄関先で出迎えた幼稚園児たちなら、人の体の表裏なん
て関係ないのかもしれないが、十歳を超えた女の子にとっては、
とてもデリケートな問題であり、重い決断だったのである。
 といって、『やらない』というわけにもいかなかった。

 「さあ、どうしたの?あなたたち、ご挨拶もできなくなったの?
……さあ、前を向いて、ご挨拶なさい」
 園長先生にせっつかれ、二人の顔は益々青くなる。

 どうやら、二人の進退は窮まったようにみえた。
 しかし、それでも決断できない二人。

 「どうしたの?ご挨拶も満足にできないの。だったら、さらに
厳しいお仕置きもあるのよ。知美お姉ちゃんみたいに三角木馬に
乗ってみる?」

 さらに厳しく迫る園長先生の処へ今度は真治氏がやってきた。

 彼は、何も言わず二人のショーツを引き上げると……
 「さあ、これでご挨拶がしやすくなっただろう。……前を向い
てごらん」
 と、優しい声で促す。

 慌てて園長先生が……
 「いけませんご主人。これはお約束ですから……」
 と止めたが……真治氏は聞き入れなかった。

 彼の言い分は……
 「もう、このくらいの歳になったら可哀想です。私たちの時代
とは違いますから……ここでできなかった分はお仕置きに上乗せ
すればいいでしょう。夕飯が冷めます」
 真治氏は優しく微笑んで園長先生を説得。

 「…………」
 「…………」
 二人は園長先生の顔色をしきりに窺います。

 そして、園長先生が『仕方ないわね』というため息をついたの
を確認すると、やおら前を向き、あらためてご挨拶するのでした。

 「河合春花です。本日はお招きありがとうございます」
 「森野美里です。よろしくお願いします」

 「おや、おや、こんなに可愛い顔をして……とても、こんな子
たちにお仕置きが必要だなんて思えませんけど……先生、この子
たち、何をしたんですか?」

 真治氏がその大きな手で包み込むようにして二人の尖った顎を
すくい上げると、それを見ていた園長先生が苦笑します。

 「色々ですわ。教会脇の芋畑からサツマイモを失敬したり……
図書館にある高価な本に落書きしたり……いつだったか音楽室に
あるチューバの中で蛙を飼ってたこともありましたわ。とにかく、
この子たちの悪戯を数え上げたら、今週分だけでも十本の指では
足りませんのよ」

 「そりゃあ頼もしい。男の子並みだ。私も腕白盛りの頃はお尻
を叩かれない日は一度もなかったくらいです。学校で、家で、と
毎日でした。ごくたまに一日一度もお尻を叩かれない日があった
りすると、かえって寝つきが悪かったくらいです」

 「ま、ご冗談を……」
 園長先生が手を口元に当てて笑い、春花も美里もそれには僅か
に顔が緩んで微笑んだように見えた。

 「ところで、入院患者の方は……今夜は絶食ですか?」
 「いいえ、呼んでまいります。実はまだお仕置きの最中ですの。
ただ、こうした席で食事をさせるのも、お仕置きの一つですから、
お招れさせていただきますわ……」
 「そりゃあよかった。……ところで、本日の私のお役目は?」

 真治氏が尋ねると、園長先生は緩んだ顔をいくらか元に戻して
……
 「ご見学くださればそれで……ただし、今回はお口を出さない
ようにお願いします」
 と釘を刺したのだった。


 その日夕食、テーブルを最初に囲んだのは真治氏と園長先生。
それにノーパン姿で真治氏をお出迎えしてくれた幼稚園時代から
の親友、真里菜ちゃんと明日香ちゃん。それに、こちらも階段の
踊り場で長い間待たされていた春花ちゃんと美里ちゃん。
 この六人だった。

 こうした席は、本来なら、にぎやかです。
 この催しはお招れと呼ばれ、教会の子供たちにとっては楽しみ
の一つなのです。

 『臨時の父親』を名乗るお父様のお宅へお招れした子供たちは
大歓待を受けます。
 見知らぬ家でそれまで読んだことのない本や触れたことのない
玩具に出合って、食事もご馳走です。当然、教会で食べる食事よ
り美味しいに決まってます。
 それにお友だち同士はしゃぎあっていても、少しぐらい羽目を
外していても、この日は先生も少しだけ大目に見てくれますから
この日の食事風景はどこも大はしゃぎでした。

 ですが、ここはそういった意味ではまったく違っていました。

 何しろ、ここへ来た子供たちはお仕置きの為にお招れしたわけ
ですから、他のお招れとは意味が違います。これからお仕置きと
いう子どもたちのテンションがあがろうはずもありませんでした。

 この先お仕置きがない真里菜ちゃんと明日香ちゃんは明るい声
を響かせていましたが、四年生の春花ちゃんと美里ちゃんは口数
も少なく、どこかうつろな表情です。
 それはこれから二人にはしっかりとしたお仕置きが用意されて
いるからでした。

 そんななか、少し遅れてもう一人、このお二人さんよりさらに
深刻な問題を抱えたお姉さんが階段を下りてきます。

 ただ、彼女はすでに中学生。先生方から大人になる為の訓練を
十分に受けていますから、こうした場合も、ふて腐れたり物憂い
顔をしてはならないと自分でわかっていました。

 ですから食堂のテーブルに着く時も、どこか痛いなんて素振り
は見せません。気品のある顔立ちの中に深刻な顔は隠して真治氏
の前に現れたのでした。

 「大変遅くなりました。高坂知美と申します。今晩は、お招き
ありがとうごさいました。よろしくお願いします」

 真治氏は腫れぼったい目や椅子に座る仕草を見て彼女がすでに
厳しい折檻を受けていることを見抜きますが、それ以上にその凛
としたたたずまいに感銘を受けます。

 教会の子供たちは、決してお嬢様という立場ではありませんが、
その躾はある意味お嬢様と同様、いえ、お嬢様以上に厳しいもの
だったのでした。


 夕食は秋絵さんの手料理。
 時間を掛け腕によりをかけて作った料理は近所のレストランと
比べても引けをとりません。もちろん、子供たちは大満足でした。

 『お仕置き前で食事も喉を通らないのでは……』
 などと心配した真治氏の予想を見事に裏切ります。
 子供たちは現代っ子、『お仕置きはお仕置き』『食事は食事』と
ちゃんと使い分けてるみたいでした。

 一方、食欲旺盛な子どもたちを尻目に大人たちはおしゃべりで
盛り上がります。

 話題の中心はここにいる子どもたちのこと。

 『子供たちは教会の中で、いったいどんな生活をしているのか?』
 『友だち仲は?……虐めはあるのか?』
 『学校の成績は気にしないのか?』
 などなど、真治氏としてもそれは興味津々でした。

 真治氏は残酷なまでの体罰には反対でも、体罰そのものを否定
するつもりはありませんから……
 『子どもたちが、普段、どんなお仕置きを受けてるのか』
 そんなことも園長先生にしきりに尋ねていたのでした。

 「子どもたちの生活ですか?……それは、一般のご家庭と大差
ないと思いますよ。ただ、男の子も女の子も聖職の道へ進みます
から、礼儀作法や上下関係は少し厳しいかもしれませんけど……」

 「友だち仲ですか?……教会が理想の花園でなかったら信者は
どこに行くんでしょう?ここでは仲良しで暮らすことが当たり前
なんです。子供だってそれは同じ。だから、理由のいかんを問わ
ず、取っ組み合いの喧嘩をしたらお仕置きです。それでも女の子
なので、妬み嫉みはある程度仕方がないでしょうけど……露骨な
虐めなんてしたら……いえ、やはりありえませんわ」

 「学校の成績?……多くは望みませんけど、もちろん、怠けて
いる子はお仕置きを受けることになります。……成績が落ちた罰
というより、怠けた罰を受けることになるんです」

 「どんなお仕置き?……これも一般のご家庭と大差ないと思い
ますよ。スパンキングは平手も鞭もありますし、閉じ込め、締め
出し……強い気持で子どもの胸に教訓を植えつける時は、浣腸や
お灸、晒し者にするのも選択肢の一つですわ……ただ、優しさや
愛情なしにはそんな事しませんから子供たちもついて来るんです」

 園長先生は自分の教育方針を自画自賛で説明する。

 一方、子どもたちはというと、耳の痛い大人たちの話は、極力
聞かないようにしていた。その分、食べることに集中していたの
である。

 そんな、子供たちのもとへデザートが運ばれ、『やれやれ』と
思っていた矢先のことだ。
 真治氏が、またもや彼らの食事の味を落とす振る舞いに出るの
だった。

 「ところで先生、食事の後は、どのようになさいますか?」

 すると、園長先生……
 「春花ちゃんと美里ちゃんには、お灸をすえようと思います。
日頃の『悪戯』の分も含めて、20個くらい下半身に据えれば、
お腹も温まるんじゃないでしょうか」

 園長先生の言葉はどこまでも穏やか。でも、その穏やかな言葉
の内容を二人は聞かずに済ますことができなかったのである。

*** 見沼教育ビレッジ(番外編1)~おまけ①~***

見沼教育ビレッジ (14)

*)仮置き原稿。
****** 見沼教育ビレッジ (14) ******

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************

 お父さんのお膝の上で観た私の映画は、そりゃあほろ苦かった
けど、最後には思わず笑ってしまいました。

 どうして笑ったかというと……
 『へえ~~私のアソコってあんなになってたんだ』
 って分かったのがおかしかったのです。

 男の子は性器が見える処にあって普段見慣れてるでしょうけど、
女の子は努力しないとあそこは見ません。痒みがあったり、血が
出たりすれば、そりゃあ見ますけど……部屋に鍵を掛け、大胆な
ポーズをとって、鏡に映して……普段そんな努力はしないのです。

 『ばっちいものは、見ずにすむならあえて見ない』というのが
女の子のポリシーでした。

 ですから、アソコの事は意外と本人も知らないのです。

 それを図らずも目の当たりにして、笑ってしまったのでした。

 「何だ?何がおかしい?」
 お父さんは私に不思議そうに尋ねますが……

 「何でもないわ」
 私が本当のことを口にするはずかありませんでした。


 「さてと、映画は何を見るかな……」
 お父さんの前に5つのボタンがありました。
 そのどれにも映画のポスターが小さく縮尺版になって貼り付け
てありました。

 「美香、あまえはどれがいい?」
 お父さんは私に選ばせようとします。

 そこで、そのポスターを一通り眺めてから……
 「『ベニスに死す』なんていいんじゃないかな。この子、綺麗
だし……」
 と、望みを言ったんですが……

 「だめだ、だめだ、こんな退廃的な映画は……子供の観るもん
じゃないよ」
 あっさり否定されてしまいます。

 そして……
 「『屋根の上のヴァイオリン弾き』なんていいんじゃないのか?」
 と薦めてきますから、今度は私が……

 「嫌よ、こんな暗い映画、もっと明るいのがいいわ」

 「だったら、ちょっと古いが『俺たちに明日はない』ってのも
あるぞ。……西部劇だ」

 「だってあれ、銀行強盗の話でしょう……人が死ぬお話は嫌い
なの……それに、あれ大人の話よね」
 私は、最初の『ベニスに死す』を否定されたことで少しむくれ
ていました。

 そこで、その妥協案として選んだのが……
 「これなんか、いいんじゃない。『小さな恋のメロディ』……
男の子が可愛いわ」

 「まあ、いいだろう」
 お父さんはあまり乗り気ではなかったみたいですが、承知して
くれます。

 一方、私の方もこの時この映画のことはよく知りませんでした。
 ポスターのマークレスターが可愛かった。
 選んだ理由は、ただ、それだけのだったのです。

 「あ~、ビールとつまみ。ハイネケンあるか?……ならそれと
つまみはピーナッツでいいよ。………美香、おまえはどうする?」
 お父さんが内線電話でルームサービスに注文を出します。

 「私は、オレンジジュースとポップコーンでいいわ」
 私はオットマンに足を投げ出して答えました。

 ささやかですけど、これでやっと避暑地気分です。

 注文の品が部屋に届いてから、お父さんは映画のボタンを押し
ます。
 すると、開演のブザーが鳴り、辺りが暗くなります。
 映写機が回り始めました。

 スクリーンは小さめですが二人だけの貸切映画館は誰に気兼ね
もいりません。
 注文したオヤツをつまみながら……もし、観ている映画がつま
らなければ、毛布を掛けてそのままソファで寝てしまえばいいの
ですから……

 私は、当初、この映画にあまり興味がわきませんでしたから、
そうするつもりでした。
 お父さんに肩を借り、寄り添ってお昼寝するだけでもよかった
のです。

 ところが、私はその映画を最後まで見続けます。

 『飾り気はないけど、どこまでも美しいイギリスの景色と透き
通るような男性ハーモニーのBGM。……英国の子どもたちって、
こんなにも素敵な学園生活を送ってるんだ。私もトレシーハイド
になりたい。好きな人と一緒にあのトロッコに乗って未来を目指
したい……』

 映画を観たことのない人には、何を言っているか分からないで
しょうけど、とにかく大感動したのでした。

 もっとも、お父さんはというと……
 「まったく呆れた映画だ。どこの世界に、11歳のガキが結婚
なんか考える。おまえが11の時は、まだ、私の膝で甘えられる
だけ甘えてたぞ。……でも、それがまともな子供の姿だ」
 
 お父さんにはこの映画を理解することはできないようでした。

 でも、私の11歳も、ただお父さんの膝で甘えていたわけでは
ありませんでした。
 それって、むしろ『お付き合い』という気持の方が強くて……
何でも「お父さん」「お母さん」ではありませんでした。

 実ることはなくても淡い恋心はすでにありましたから、ダニー
とメロディの世界はまったくのおとぎ話ではなかったのです。

 そんな蒸気した顔の私を見て、お父さんは私を抱き寄せます。
 顔と顔が出会い、その口からは先ほどのビールの臭いがします。

 「いやあ」
 私はそのお酒の臭いでお父さんをいったんは拒絶しますが……

 「忘れたのかい?まだ、五回、私からのお尻叩きが残ってるよ」

 こう言われると私は再びそこへ戻らなければなりません。
 そう、私はまだ14歳。彼らからみたらお姉さんのはずですが、
それでもお父さんやお母さん、大人たちが決めたルールのなかで
生きていかなければなりませんでした。

 『あ~、私はいつあのトロッコに乗れるんだろう』

 私はそう思ってお父さんのお膝に身体を沈めます。
すると、今度はお父さんが……

 「こうして、おまえのお尻をいつまで叩けるかな」

 お父さんはそう言いながら、私のスカートを上げ、ショーツを
下げます。
 さすがに、人前でこの姿を晒すことはなくなりましたが、お父
さんにとってお尻叩きはいまだ現役。熱く厳しいお父さんの平手
の下で、私はまだまだお父さんの子どもを演じなければならない
のでした。

 「ピシッ」
 「いやあ~」
 「何がいやあ~だ。こんな大きなお尻を叩かなきゃいけない私
の方がもっと嫌だ。ほら、ここは家の中じゃないんだ、こんな処
で足を開かない」

 私が慌てて、両足を閉じますと……
 「ピシッ」
 「いやあ~」
 再び、両足をバタつかせなければならないほど痛いのがやって
きます。
 
 「少し口をつつしめ。いくら防音装置のある部屋でもそれじゃ
外の人に聞こえるぞ」
 お父さんはそう言って、もう一つ……

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~勘弁して~~」
 本音が出ます。だって、この時のお尻叩きはとっても痛かった
のです。一発一発がこんな痛い平手は初めてでした。

 「どうだ、少しはこたえたか?……おまえは今までのお仕置き
が私の目一杯だと思っていたのかもしれないが、こっちはこっち
で、気を使って緩めてたんだぞ。わかったか?」

 「はい、お父さん」

 「よ~~し、もうひとふんばりだ。しっかりつかまってなさい。
……ほれ」

 「ピシッ」
 「いや~~~~~」
 私は無意識に太股を開いてバタつかせます。
 そんな様子はまたビデオに撮られてしまうかもしれませんが、
こんなキツイお仕置きのもとでは、そんなこと言っていられませ
んでした。

 私はもう必死にお父さんのお膝を握りしめます。
 きっと、お父さんの太股にはくっきりと痣が残っているに違い
ありません。でも、それも仕方のないことでした。

 「『痣のつくほど抓っておくれ、それを惚気の種にする』か、
昔の人はいいことを言うなあ……」
 お父さんは、にが笑いを浮かべると、意味不明の独り言を言い
ます。そして、それが終わってから、最後の一発が炸裂したので
した。

 「ピシッ」
 「ひ~~死ぬ~~~」

 「大仰なこと言いなさんな。いまだお尻叩きで死んだ子なんて
いないよ。……さあ、終わったよ」
 お父さんは私を立たせ、身なりを整えさせます。

 そして、こう言うのでした。

 「私は、これから仕事に戻らなきゃならないので、美香とは、
ここでお別れだ。これからはお母さんやケイト先生の言いつけを
守って、頑張るんだぞ」

 「もう行っちゃうの?」
 私は急に寂しくなりました。

 「大丈夫、お母さんは残るから……」

 「でも……」
 人間なんて勝手なものです。
 つい先ほどまで、甘いアバンチュールを想い描いていたのに、
いざ別れるとなると、心が思いっきり子供に戻ってしまいます。

 「最後に、お前のお尻を思いっきり叩けてよかったよ」

 「もう、お父さんたら、嫌なことばかり言うんだから……」

 「そのうちお前にも分かるだろうがな。お尻なんてものは叩く
より叩かれてる時代の方が幸せなんだよ」

 「まさかあ~~。そんなわけないじゃない」

 私はその場で痛むお尻をさすりながら笑いましたが……でも、
時を経て気づいたのです。『お尻を叩かれる子は愛されてる子』
なんだと……

 お父さんの言う通りでした。
 でも、いつかは私もお父さんの元を離れて独りで羽ばたかなけ
ればなりません。そう、ダニーとメロディのように……二人して、
トロッコを全力で押して未来へ向かわなければならないのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (14) ******

<僕の小説に抱っこが多いわけ> ~どうでもいい話~

 <僕の小説に抱っこが多いわけ> ~どうでもいい話~

 僕は、こうして好きでお仕置き小説なんて描いてるけど、僕の
子供時代に、こうしたお仕置き体験がたくさんあったのかという
と、実はあまりなかった。
 小説ネタにならないような小さなものはたくさんあったから、
今の基準でみたら大有りなのかもしれないけど……とにかく当時
(50年も前)の隣近所と比べたら、我が家なんて甘やかし放題、
放し飼い状態という感じで、当然、子どもだって山猿だった。
 特に小学校時代が凄くて、五年生六年生になっても、ほとんど
自分の部屋のベッドで寝た事がない。寝るのはいつもお母さんの
布団で抱き合って一緒に添い寝。
 ごはんはいくつかおかずを箸でつまんで遊んでいるうちに……
「ほらほら、いつまでも片付かないでしょうが」という声と共に
スプーンが口元までやって来るから、それをパクリっとやるだけ。
 お母さんとはお風呂も一緒なら、トイレだって一緒で構わなか
った。実はお母さんが座る便座の脇で僕が順番待ちしてた記憶が
何度もあるんだけど、それをお互いが気にしてた記憶がないんだ。
(もちろん、Hな気分なんてさらさらなかった)
 そんな馬鹿親、馬鹿息子だったから、お母さんのお膝にノンノ、
つまり腰掛けて遊ぶなんてことも日常茶飯事。母親の方は重くて
大変だったと思うけど頑張ってたね。とにかく、万事が赤ちゃん
扱い。
 そんなわけで、僕の小説には、主人公がやたら親の膝に乗りた
がったり、あるいは親が子供を膝に乗せたがったりするシーンが
出てくるけど、あれは作者自身の家庭環境が実際そうだったから
それを描いてるだけなんだ。
 僕の小説は、『お仕置き』以外はあくまで自分の経験がベース。
そこでは、『子供はいくつになっても親のお膝に乗りたがるもの、
親は子供をお膝に乗せたがるもの』という固定観念があるので、
こうなっちゃうんです。

*************************

見沼教育ビレッジ (13)

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************

 そうこうしているうちに最初の先生がやってきます。
 森田先生と言う国語の先生。白髪にメガネをかけ、チェックの
ジャケットを着た温厚そうな年配の紳士でした。

 最初は1学期の復習から……
 ここでの授業は学校のように懇切丁寧にはやってくれません。
要点だけを掻い摘んで説明したら、即、確認テスト。という流れ
で、授業はめまぐるしく進行していきます。
 50分の授業は学校の一時限と同じですが、それでいて1ヶ月
分という猛スピードです。

 『そんなのついていけない』
 と最初は思ったんですが、やっていくうちに……でも、それで
どうにもならない、ついていけないという事はありませんでした。

 というのも、先生方はすでに今まで過ごしていた学園から詳細
な学力情報を得ていました。それは単に中間や期末の成績を取り
寄せたというだけでなく、これまで私が学校でどのような勉強を
してきたのか…理解力は…応用力は…暗記力は…集中力は…等々
ありとあらゆるデータを元に授業案を練って進めていきます。
 ですから、この50分の中に無駄な時間というのは一秒たりと
ありませんでした。(ちょっとオーバーか……でも、そんな感じ)

 おかげで50分が終わると、もうそれだけでこちらは疲労困憊
です。
 『1日分たっぷりやったあ~~』
 そんな感じでした。

 これを午前中だけでも4クール、午後は2クールというのです
から…………死にます。

 おまけに……
 翌日は広い範囲からの復習テストが最初にありますし、漢字や
英単語の類は、毎日に100個以上暗記してきて明日に備えなけ
ればなりませんから、授業のない午後や夜も自由時間が自由時間
になりませんでした。

 「こんなの絶対続きませんよ」
 私は1日終わってケイト先生に愚痴を言うと……

 「大丈夫、大丈夫、あなたのことをすべて調べ上げた上で組ん
だ授業ですもの。どの先生も、あなたにできないことは最初から
求めないの」
 と、軽~~く言われてしまいました。

 「だって~~え、課題だってこんなにあるんですよ」
 それでも私が甘えると……

 「だから、慣れるわよ。朝の儀式と同じ。辛いのは最初だけ。
すぐに慣れるわ。だって、私の授業中の蝋燭にも、授業後のお尻
叩きにも、あなた、すぐに慣れてきてるじゃない」

 「慣れてません!あれは、それどころじゃなかったから……」

 「そうそう。いつも『それどころじゃない』って思って続けれ
ばいいのよ」
 ケイト先生の笑顔に私は膨れっ面でした。

 私は、授業中、何度かケイト先生の蜀台から流れ落ちる蝋涙を
手の甲に受けます。いえ、それだけじゃありません。授業の終わ
りには必ずケイト先生からのお尻叩きが待っていました。これは
その時間を受け持った教科の先生が私の授業態度を判断して下す
罰で、『なし』というのはありません。最低でも三つ、多い時は
12発もパンツを脱がされたお尻に平手打ちされます。
 こんな大変な勉強は初めてでした。

 でも、たしかに、ケイト先生の答えにも一理あります。
 これほどまでに忙しいと普段なら大騒ぎになるお仕置きでさえ、
もうどうでもよいことのように感じられますから……
 人間って、不思議なものです。

 朝のお浣腸も、オムツも、お漏らしも、授業中のローソクも、
授業後のお尻叩きも……忙しさの前にはその優先順位が下がって
しまうのでした。

 「私、馬鹿なんですから……」
 私は、今の苦役から逃れたくて何度かこんなことを言いました。
 すると、ケイト先生は……

 「あら、あら、あなたいつからお馬鹿さんたちの仲間入りした
の?……園長先生は、あなたのこと、最近、成績が落ちてるけど、
本来はとっても優秀な生徒だっておっしゃってたわよ」

 「そんなこと買いかぶりです」

 「そんなことないわ。だって、あなたは今日一日やっただけで、
もう随分と慣れたんですもの。……それは、今、あなたの人生の
フィールドが机の上にあるってことなの。机の上で作業している
時が一番楽しいでしょう?」

 「楽しくありません!!!……だいいち、机の上の作業って、
……それって当たり前じゃないですか!勉強させられてるんです
から……」

 「当たり前じゃないわ。だって、体育会系の人たちに同じ事を
しても寝てしまうのよ。どんなに蝋涙を落とそうが、鞭でお尻を
叩こうが、この人たち結果は同じなの。……でも、そんな子たち
が指導者にこんなトレーニングをしなさいって命じたら……今の
あなたと同じ。不満はあってもやはり真剣に取り組むの。だって、
その子たちにとって人生のフィールドは、机の上なんかじゃなく
本物のグランドの上にあるんだから……」

 「…………」

 「大丈夫、私がついてるから……どんなにあなたが『嫌だあ』
って言っても、ほとんど24時間、私はあなたのそばを離れない
の。赤ちゃんの面倒をみる母親と同じね。……こんな重宝な人を
利用しない手はないんじゃないかしら?」

 『どういう意味よ。あなたなんて厄介なだけよ』
 心はすでにけんか腰でしたが、たしかにその後、ケイト先生は
色んなアドバイスで私を助けてくれたのでした。


 1日6時限みっちり、学校と同じように時間割にそって授業が
行われます。息抜きに他のお友だちと一緒に体育や美術や家庭科
なんてのもありますが、大半の授業が、個室でマンツーマンって
ことでした。

 ここで、個々の先生のことをあれこれ書いてもいいのですが、
読者さんも退屈でしょうからそこは省きます。いずれにしても、
勉強の忙しさにかまけているうち、一週間はあっという間に過ぎ
去りました。


 次の日曜日……
 この施設は曜日に関係なく動いていますから日曜日もおやすみ
ではありませんが、お父さんがこの日施設を離れるというので、
私は特別に半日だけ家族水入らずで過ごすことを許されました。

 とはいえ、その日も午前中は初日と同じ。
 朝のお浣腸、お漏らしに始まり、両親からのお尻叩き……勿論
お勉強もあります。その最中に落とされる蝋涙だって別に回数が
減ったようには感じられませんでした。

 ただ、最初の頃に比べて何をされるにしても気持が楽になった
のは確かでした。
 蝋涙を恐れて殊更『授業集中しなきゃ』と思うこともなくなり
ましたし、課題を聞いて『こんなの徹夜しなきゃこなせないじゃ
ないの!!!』と癇癪を起こすこともなくなりました。

 いえ、そんな立派な事ばかりではなく……
 日頃繰り返されるハレンチなお仕置きのせいで、どこでも平気
で裸になれちゃいますし、誰にお尻をぶたれても驚かなくなって
いました。

 わずか一週間で、ケイト先生の言う通り、ここの生活に慣れて
しまったみたいで……それって自分でも、ちょっぴり、恐い気も
します。

 そんな日曜日の午後、突然ケイト先生の提案でぽっかりと暇が
できたのでした。

 昼食後、家族でよもやま話をしたあとで、お父さんが私を誘い
一緒に散歩に出かけることに……
 でも、お母さんと香織は家に残っていました。

 お父さんと二人だけの時間なんて久しぶりです。
 これが幼い頃なら何か買ってもらえると思って単純に喜んだと
思いますが、思春期になるとそこに微妙な溝が生まれます。

 『また、お小言かなあ?』
 『ひょっとしてお仕置きとか……』
 『まさか、ここが終わったらまた別の更生施設に行けなんて、
言わないでしょうね』
 私はお父さんと一緒に歩いていても、ネガティブな方向でしか
ものを考えられませんでした。

 「どうだ、ここでの生活は慣れたか?」
 「ええ、まあ……」
 「嫌なことばかりさせたから、私を恨んでるんだろうな?」

 「そんなこと……」
 私は下を向きます。
 言葉は否定的でしたが、それが私の本心でないことをお父さん
も承知しているみたいでした。

 「自分で抱えきれなくなったら、私の処へ直接連絡しなさい。
お母さんに話すと止められるだろうから、ケイト先生に話すんだ。
彼女が取り計らってくれるよ」

 「えっ?……じゃあ、明日やめてもいいの?」
 私は思わず本音を口走ってしまいます。

 すると……
 「もちろん、それでもいいけど…おまえはそんな弱音を吐く子
じゃないと信じてるよ」

 「…………」
 こう言われると、次に言葉がでませんでした。

 私には中学になった今でも『お父さんの信頼を裏切りたくない』
という呪縛が常に働いています。そして、そのことはお父さんも
よく承知していることだったのです。

 「ところで、おまえはどんなタイプの男性が好きなんだ?」

 「えっ!何よいきなり……」
 たしかに、そんなこといきなり言われても返事に困ります。

 もちろん私にだって憧れる人はいます。友だちとも色んな話を
します。
 ハンサムで、背が高くて、優しくて、英語が話せて……でも、
中学生の私にとってそれは具体的な誰かを指すのではなく、まだ
まだ、少女マンガに出てくる『彼』でしかありませんでした。

 そして何より、そんなことはお父さんには話したくないことだ
ったのです。

 そこで、私は逆にこんな事を言います。
 「私……お父さんの跡を継いで社長さんやってみたい」

 それは、お父さんのそばにずっといたいという意味程度だった
んですが……

 「(ははは)嬉しいけどね、お前には無理だ」
 あっさり、言われてしまいました。

 あまりにもあっさり言われてしまいましたから、ちょっとムッ
として……
 「どうしてよ。世の中には女性の社長だってたくさんいるのよ」

 「(ははは)そりゃあ、そうだけど……うちは『鍛冶屋』だ。
アパレルや雑誌社ならそうした道もあるだろうが、うちで働いて
いるは大半が男性。女の子が切り盛りできる商売じゃないんだよ」

 「ケチっ」

 「ケチで言ってるんじゃないよ。人はそれぞに向いた道がある
というだけのことさ。女の子は社会で片意地張って生きるより、
いい旦那さんにめぐり合って、子どもをつくり、その子と一緒に
愛し愛されて暮らすのが一番だ」

 「う~~~~ふる~~~~い。今どきそんなの流行らないよ」
 私は両手で胸を抱いて寒~~~いという仕草をみせます。

 「流行る流行らないの問題じゃないよ。人はそれぞれにあった
生き方をしないと幸せにはなれないってことさ」

 「だったら、いいよ。私は別の会社に勤めて、そこで社長さん
になるから……」

 「おやおや、随分勇ましいこと言ってくれるじゃないか。……
そんなにお嫁さんじゃいやなのか?」

 「だって、お母さん見てると、まるでお父さんの召使いみたい
なんだもん。あんなの嫌よ」

 「そうか、お母さん、そんなこと言ってたのか?」

 「そういうわけじゃないけど……私だって、男の子に負けない
くらい学校の成績いいんだから……できないはずないわ」

 「学校の成績ねえ……」
 お父さんは少し小馬鹿にしたしたような含み笑いを見せたあと
……
 「うちにも学校の成績が優秀だから雇ってくださいって推薦状
を持って毎年大勢の人がやってくるけど……そいつは、社会人と
しての優秀さにはあまり関係ないみたいだな」

 「なんだ、勉強なんてしなくてもいいんだ」

 「そうじゃないさ。ま、いいだろう、こんな話をおまえにする
のは少し早かったみたいだ。とにかく、今、おまえがやらなきゃ
ならないのは勉強。グレードの高い婿さんと幸せに暮らす為にも、
話し相手にもならんようなじゃじゃ馬や山猿じゃ、向こうも逃げ
出すよ。教養は何より大事だ」

 「私の結婚する人って、そんなふうに立派な人じゃなきゃいけ
ないの?」
 私はそれまでお父さんの求めに何でも応じてきたのに、この時
はちょっと変でした。

 「お前のお婿さんになる人は私の会社を継げる人でなきゃいけ
ないんだよ。跡継ぎがいなければ、会社はよその人の手に渡って
しまうからね。それではご先祖に申し訳ないから避けたいんだ。
……それがいけないかい?」

 「…………」
 私は何も答えませんでしたが、お父さんは私の気持がわかった
みたいで……自ら話題を変えます。

 「そうだ、ケイト先生が、この一週間のおまえの成績を取りに
行ってくださいっておっしゃってたから……まずは、管理棟まで
行ってみるか」

 お父さんの言葉は、私に新たな警戒心を抱かせます。せっかく
伸ばしかけていた羽根がまた引っ込んでしまいます。
 『やっぱり、お仕置きってことなの?』
 ここへ連れて来られてからというもの、私の頭からはお仕置き
という言葉が離れませんでした。


 管理棟は背の低い建物が多いこの施設の中では一番大きなビル。
7階のラウンジからは食事をしながら施設全体を一望することが
できました。

 その一階にある窓口でお父さんは私の成績表を受け取ります。

 「何て書いてあるの?」
 無表情で成績表を見ているお父さんの脇からそっと顔をのぞか
せると……

 「達成率95%。とてもよく頑張っておられます。これからも
この調子でお続けくださいだってさ」
 まずは嬉しいニュースが舞い込みます。

 でも、それには続きがありました。
 「ただし、達成できなった5%については、1%1回として、
ご父兄の手でお尻を叩いて励ましてあげてください……か……」

 この時、お父さん顔が笑っていましたから……私は……
 「嘘よ!そんなの。そんなこと書いてあるはずないじゃない」
 そう言って、お父さんが見ているレポートを奪い取ったのです。

 ところが、私の笑顔はそれを読んだ瞬間終わってしまいます。

 「…………」
 それって、冗談でも何でもなく、お父さんが読んだそのまま、
そこに書いてあったのでした。

 「どうやら、あと5回、私はお前の尻を叩かなければならない
らしいな」
 お父さんのニヒルな笑いは私の身体を再び凍りつかせます。

 おまけに、窓口の人までが……
 「お尻叩きでしたら、映画館がありますよ。ここの映画館は、
全部個室でから、お尻叩きにみなさんよくご利用されます」

 余計な情報まで教えてくれるのでした。

 このビルは、『管理棟』というくらいですから、もちろん事務
処理のための窓口が並んでいましたが、ビルの中はそれだけでは
ありませんでした。
 その他にも、映画館やゲームセンター、ボウリング場、カフェ、
コンビニなどが一緒に併設されていました。ですから付き添いの
家族たちもここをよく利用していましたし、私たちにとっては、
アミューズメントタウンとしての意識が高い場所だったのです。

 というわけで……
 「じゃあ、せっかくだから映画でも観て帰るか……」
 ということになったのでした。

 ただ、この場合、私の心は複雑です。
 『え~~~~』
 という気持も当然ありましたが、仕方がありませんでした。

 ただ映画館といっても、ここは街の映画館とは造りが違います。
 入口で入場料を払うと、部屋の鍵を渡され、指定された部屋に
に入って映画を観るシステムです。
 この映画館にはそうした8畳ほどの広さの個室が七つ八つあり
ました。

 いずれの部屋も独立していて厚い壁で区切られていますから、
ここなら、どんなに厳しくお尻を叩いてもお尻を叩く音や悲鳴が
外に漏れるのを心配する必要ないのかもしれません。

 私は、部屋に入ってさっさとソファに腰を下ろしたお父さんを
入口付近で恨めしそうに見ていました。

 「なんだ、毎日、散々お尻を叩かれてるくせに、まだ恐いのか」
 お父さんは笑います。
 でも、お父さんは恐い。やっぱり恐いものは恐いのでした。

 「いいから、おいで」
 再度促されて、ようやくお父さんの近くへ寄ってきます。
 これって幼稚園の時も、小学校の時も、そして中学生になった
今も変わらない儀式みたいなものでした。

 お父さんはお膝を叩きます。
 私は仕方なくそこへうつ伏せになると……

 「(はははは)ちょっと待ちなさい」
 今回はそう言って私をいったん立たせ、あらためて私のお尻を
膝の上に乗せ、私はお父さんと同じ方向を向いて座ります。

 「美香、この映画館なあ、映画を観る時に、おまけがついてる
みたいだぞ。……ほら」
 お父さんは目の前のしらっちゃけた画面を指差します。

 「おまけって?」
 その時、私はこのおまけが何のことだかわかりませんでした。

 ほどなく、室内が暗くなり映像が鮮明に見えてきます。

 ちなみにこの映画館、機械の操作は観客にまかされていました。
鍵を回し、セレクトボタンを押して、自分のみたい映画を観ます。
ただ、その中には、観客にとっては二度と見たくない映画という
のも含まれていました。

 『新井美香ちゃんの成長記録』

 『えっ~~~~~』
 タイトルバックにいきなり私の名前。
 それで驚いていると、さらに……

 『ん?……これって……どこかで見たような?……』

 『えっ!!!、これ!これ!これ!』
 私の身体が震えます。

 「止めてよ!止めて!」

 だってそれは、先日、ケイト先生からお尻を叩かれている時の
映像だったのです。
 数学の先生から「今日は少し集中が足りなかったみたいだね」
なんて言われた直後です。例によって休憩時間に裸のお尻を二十
四回も叩かれた時の映像でした。

 『いったい、どこで撮ってたのよ!』
 慌てた私は後ろを振り返ろうとしましたが、そんなことは百も
承知のお父さんが私の身体をしっかり押さえ込んで動かないよう
にしています。

 「やめて、止めてよ。こんなの恥ずかしすぎるわよ」
 私は叫び、身体をよじって抵抗します。
 ですが、その願いは叶えられませんでした。

 「いいから見てなさい」
 お父さんは、もう私を離しません。
 中学生にもなればもう少し抵抗できると思ったのですが、これ
もまた小学校時代と同じでした。

 「いいから、静かに見てなさい。自分の恥ずかしい姿を見るの
も、お仕置きだよ」
 こう言われてしまいます。

 そして、それは……
 朝の儀式の場面も克明に記録していました。
 お浣腸の場面も、オムツを穿かされる場面も、お漏らしも……
とにかく恥ずかしすぎて私は目を開けていられませんでしたが、
お父さんにはそれも不満なようで、目をつぶるたびに怒られます。

 「ほら、目を背けるんじゃない。自分のことだろうが、自分が
しでかしたことだうが……」
 お父さんはこう言ってイヤというほど太股を抓っては私を起こ
すのでした。

 「イヤっ!!!」
 これって、もう拷問でした。
 ですから、泣き出してしまいます。

 『自分の醜い部分は見せたくない、隠してしまいたい』
 女の子の大切な思いが踏みにじられて、そりゃあもう私の心は
パニックだったのです。

 そんな私を力ずくで押さえつけたまま、お父さんは耳元でこう
囁くのでした。

 「いいかい美香、美香は女の子だから綺麗なものだけ見て暮ら
したいんだろうけど……でも、世の中それだけではいけないんだ。
現実を直視する勇気がないと、女の子もやがては不幸になるから
ね。自分の醜い姿も勇気をもって見つめるんだ。……いいね」

 「これって、お仕置きなの?」

 「女の子に不足しがちな勇気を持つ大事な訓練だ。……でも、
そう考えたければ、それでもいいよ」

 「なんだ?おまえ、震えてるのか?……大丈夫だよ、怯えなく
ても……私がしっかり抱いててあげるから……それに、これは私
たち家族だけが見ることのできるプライベートフィルムだ。この
ことを知ってるのは私たち家族とケイト先生だけ。外には決して
漏れないからね。そこは安心していいんだよ。………だからね、
たとえ辛くても、目をそらさずにちゃんと見るんだ。……いいね」

 お父さんに励まされながら、私はその15分ほどの映画を観る
ことに……

 最初は、醜い隠したい場面の連続で目を覆ってばかりでしたが、
でもそのうち身体の力が少しずつ抜けていき、やがてどんな場面
も目をそらさず見る事ができるようになっていました。

 そして、その最後には不思議な感情が芽生えるのでした。

 映像はほとんどが私のお仕置き場面。汚くて、惨めで、悲劇的
……私にとっては何一つ晴れがましいところや自慢できるところ
なんかなかったはずなのに……でも、家族がケイト先生が、私の
ために献身的にお仕置きしている姿がそこに映っているんです。
それってお仕置きされてる最中はわからなくても、こうして映画
になって客観的に観るとよくわかります。

 ですから、最後にはこう思ったのでした。
 『私って、愛されてたんだ』
 と……

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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