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12/31 御招ばれ<第2章>(6)

       12/31 御招ばれ<第2章>(6)

*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  私的には……ですが(^◇^)


***************************

 <主な登場人物>

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

****************************

 町田先生に引率されてしおしおと居間へ連れて来られた二人で
したが、伯爵様の方は機嫌よくピアノを弾いておいででした。

 二人に気づくと……
 「ん?どうしたね」
 と声をかけられます。

 「私たち、お風呂場のマリア様の像を壊してしまったんです。
ごめんなさい」
 春花ちゃんが言うと、美里ちゃんも……
 「ごめんなさい」
 と続きました。

 「あっ、あれね。町田先生からも伺いましたけど、仕方がない
でしょう、壊れたものは元に戻りませんから…………それより、
あなた方、どこも怪我はありませんでしたか?」

 「はい……」
 「大丈夫でした」
 二人は上目遣いに小さな声で答えます。

 「それはよかった。それが何よりです。せっかく招待したのに
怪我をさせて返しては私も快くありませんから……」

 伯爵様はピアノを弾く手を休めません。

 「……ところで、あなたたち、よく、あんな高いところに手が
届きましたね。あれは確か、天井近くの通気口に固定してあった
はずですよ」

 「……それは……脚立を持ってきて……」
 春花ちゃんが答えますと、美里ちゃんも……
 「……マリア様は少し強く引っ張ったら、取れたんです」

 「脚立?……ああ、ありましたね。ペンキの塗り替えで使って
そのままにしていた古いのが……ああ、あれですか。……でも、
あれをあそこまで持ってきたんですか。……じゃあ、重かったで
しょう」

 「……あっ……はい」

 「今の子はなかなか活動的だ。そうそう、あのマリア様、本当
はあそこにコンクリートで固定してあったんですが、もうもろく
なってたみたいですね。あなたたちがそれを教えてくれたんです
からむしろ感謝しなければいけないかもしれませんね。……でも、
そこまでして……あなたたち、あのマリア様に何か特別の興味が
あったんですか?」

 「えっ?……いえ、そうじゃなくて……」
 美里ちゃんが答え始めましたが、途中で口ごもってしまいます。
 それって、やはり答えにくいことでした。

 「まさか、覗きじゃないですよね」
 伯爵様はそう言って二人の顔をちらっと見ます。

 「…………」
「…………」
 二人はその質問に答えませんでしたが、伯爵様は垣間見た子供
たちの一瞬の様子でわかったみたいでした。

 「……おやおや、そうですか?男の子の場合はよく耳にします
けどね。女の子でもやはり興味がありますか?……男の子の裸」

 伯爵様は終始にこやかですが、そう指摘された二人は赤面して
いました。

 「…………」
「…………」

 あの時の二人の思いに一番近いのは、やはりお風呂での開放感
からつい悪乗りしてしまったってことなんでしょうが……
 今、この場で考えると恥ずかしくて仕方がありませんでした。

 「男の子は見えましたか?」

 「……いいえ、みんなもう脱衣場の方に帰ってましたから…」
 春花ちゃんが答えます。

 「そう、それは残念でしたね。せっかく大きくて重い脚立まで
引っ張ってきたのに……獲物はありませんでしたか……」

 「…………」
「…………」

 しょげ返っている二人に伯爵様は……
 「ただ、獲物はなくても、罰は受けないといけないでしょうね。
あなたたちはそれだけの事をしてしまったんですから……」

 「……はい」
 「……はい」
 小さく蚊の鳴くような声ですが、二人は返事をします。

 その声に応えるように伯爵様はピアノをやめると、二人の方へ
向き直ります。そして、その小さな手を取ると……
 「でも、あなたたちは立派ですよ。二人とも勇気があります。
今は女の子もこうでなくちゃいけません」

 伯爵様は二人をその大きな両手で抱き寄せると……

 「いいですか、あなたたちは男の子のような事をしたんだから
男の子のような罰を受けなければならない。これは社会のルール
だから仕方がないことなんです。……それは分かってますよね」
 伯爵様はその皺くちゃな手で二人の頬を優しく包み込みます。

 「……はい」
 「……はい」
 二人が小さく頷くと伯爵様は零れ落ちそうな笑顔になりました。

 「ああ、いい子だ。いい子だ。それが分かっていれば十分だ。
……だけど、もしお仕置きを受けるようなことがあっても、それ
が終わった時には、君たちは男の子のように強くなってるはずだ
から、受けて損はないかもしれませんね」

 「えっ、嫌よそんなの」
 春花ちゃんは即座に否定しますが、美里ちゃんは、不安そうな
顔で尋ねました。
 「……本当なの、男の子みたいに強くなるって?」

 すると、伯爵様は美里ちゃんをお膝に抱きかかえて……
 「本当だよ。……試練は人を強くします。女の子も数々の試練
に打ち勝つことで強くなります。心の強さに男の子女の子の区別
はありませんから」

 「本当に男の子のように強くなれる?」
 今度は春花ちゃんが尋ねます。

 「力じゃないですよ。心が強くなるんです」
 伯爵様は春花ちゃんもお膝に抱き上げました。
 「若いうちというのは、とかく欲望が止まらなくて、あげく、
お仕置きされることも多いけど、それを恥じる必要はないんだ。
勲章だと思えばいいのさ。間違いがあっても罰を受けて償えば、
また先へ進める。お仕置きだって人生の貴重な経験の一つだから
無駄にはなっていない。君たちは、何もしない何もできないくせ
に口を開けば正義の味方を気取る臆病者なんかより数段良いこと
をしたんだからね。それは誇りに思っていいことなんだよ」

 伯爵は二人の頭を撫でながら、こう言って二人を諭し解放した
のでした。

 「伯爵様、ありがとうございました。今のお言葉、必ずやこの
子たちの人生の教示となりますわ」
 町田先生は、旧華族様の考えとはとても思えないその若々しい
思想に目を丸くしながらも伯爵様に丁寧にお礼を述べます。

 そして、うな垂れる幼い二人を引き連れて、今度は伯爵様から
お借りた懲罰室へと向かったのでした。

***************************

 伯爵家の懲罰室はお屋敷の北の隅にあって、普段は納戸として
使われている部屋がたち並ぶ廊下の一番奥にありました。
 そう、普段、家人があまり立ち寄らない場所にあったのです。

 入口が映画館で見かけるような厚い扉なのは、この部屋がその
昔、ホームムービーを鑑賞するする為の部屋だったなごりでした。

 つまり、人気のない場所で、おまけに坊音設備もしっかりして
いますから、少しぐらいの悲鳴では居間まで届きません。
 まさに懲罰室としてはうってつけの部屋だったわけです。

 町田先生が電気を点けると、そこは12畳ほどの広さがあって
窓は小さな天窓が一つあるだけ。普段使われていませんからカビ
臭い匂いがしています。

 そこに、罪人のお尻を鞭で叩くための拘束台や街のお医者さん
などでよく見かける黒革張りのベッド。傘立てのようなカゴには
ケイン、大きな壷には樺の枝鞭がたてかけてあります。さらに、
祭壇と暖炉、ソファなども見えます。暖炉は飾り暖炉で火は入っ
ていませんがAの刻印を押す為の焼き鏝までもが用意されていて
壁に掛かった牛追い鞭と共にこれ見よがしに犯罪者を威嚇します。

 懲罰室はまさにお仕置きのためにしつらえられた部屋ですから
子供を恐がらせる仕掛けがたくさんあったのです。

 実は、二人が暮らす寮の舎監室にも、これと似たようなものは
あったのですが、他の家で見る時それはまた格別の恐怖感でした。

 二人は、子供がお仕置きを受けている様子を描いた絵画の脇を
まるでお化け屋敷にでも入ったかのように息を殺して歩きます。

 すると、突然……
 「キャー」
 二人から悲鳴があがりました。

 立派な肖像画は、おそらく伯爵家のご先祖様なんでしょうが、
威厳のあるその風貌が二人を睨らんでいるようで、二人は思わず
抱き合ってしまったのでした。

 「何をキャーキャー言ってるの。これは伯爵様のお父様の絵姿
じゃないの。騒いだりしたら失礼よ」
 町田先生はたしなめますが、幼い少女二人にしてみたらここに
ある全てのものが恐ろしかったのです。

 「こっちへいらっしゃい」
 町田先生は部屋の隅に置かれた古ぼけたソファに腰を下ろすと
二人を目の前の床に膝まづかせます。

 これは、寄宿舎で行われている伝統的な作法でした。
 罪のある生徒は床に膝まづいたまま両手を胸の前で組み、先生
のお話を聞くことになります。
 
 「今日は楽しかったかしら?」
 町田先生の第一声は意外なほど明るい顔と声でした。

 これが町田先生のチェジオブポジション。
 というのも、普段の生活では春花ちゃんや美里ちゃんと先生は
あくまで生徒と先生の関係なのですが、もともと町田先生は二人
の養育係。つまり二人が赤ちゃんの頃はミルクを温めたりオムツ
を替えたりする係でした。

 つまり、町田先生は二人にとっては母親代わり。
 そこで、こうした親子水入らずの場所では、普段の先生と生徒
という関係から、親と子の関係に戻るのです。

 「今日はちょっとあなたたち羽目を外しすぎたみたいね」

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」

 二人は素直に謝りましたが、春花ちゃんがすぐに……
 「だってえ、美里のやつが、簡単に男の子のお風呂覗けるって
言うから……」
 ふて腐れて弁明しますから……

 「ほら、春花。あなたすぐに他人のせいにする。美里ちゃんが
どう言おうと、あなたが見に行かなければいいことじゃないの」

 「そりゃあ、そうだけど……」
 春花ちゃんはお口を尖がらしたままでした。

 「院長先生にご報告したら、さすがに驚いてらしたわ」

 「えっ!院長先生に今度のこと話したの?」
 春花ちゃんの驚きに……

 「当たり前でしょう。マリア様の像を壊しちゃったんだから、
その弁償もあるし……」

 「だって、あれは伯爵様がさっき仕方がないって……」

 「馬鹿言わないのよ。それはあくまであなたたちに対してそう
おっしゃっただけ。大人の世界ではそうもいかないわ。まったく、
女の子が覗きだなんて信じられないわ」

 「だって、女の子だって見たいものはわるわよ」

 挑戦的な春花ちゃんの言葉に先生は……
 「何、開き直ってるの。見たいものってのはあなたにとっては
『男の子の裸』ってことなの?」

 「別にそういうわけじゃあ……」

 「それに今日はそれだけじゃないでしょう。……ゴーカートは
脱線させるし……ボートはおじさんに救助してもらうし……この
家の人たちから報告を受けるたびに『またかまたか』って心臓が
ズキンズキンしたわ」

 「あっ、そうなの。だったら、ここにはお医者様が常駐してる
みたいだから一度診てもらったら」
 春花が真顔で言いますが……

 「春花、さっきも言ったでしょう、あなた、少し浮かれすぎよ」
 町田先生は渋い顔でした。

 「ねえ、お母さん、やっぱり今日、お仕置き?」
 美里ちゃんが心配そうに尋ねると……

 「仕方がないでしょう。ゴーカートやボートぐらいまだしも、
男湯は覗くわ、マリア様の像は壊すわでは、何もしないで帰って
きましたなんて院長先生にご報告できないわ」

 「いくつ?」

 「それはあなたたち次第よ。さっきの春花みたいにふて腐れた
態度なら、たとえ鞭百回でも足りないでしょうね」

 それを聞いて春花ちゃんはお母さんから目をそらし下を向いて
しまいます。


 「じゃあ、……まずはお祈りからよ」

 部屋の片隅には小さな祭壇があって十字架とマリア様が祀って
ありました。
 その前に子どもたち二人と町田先生が三人並んで膝まづきます。
 祈りの言葉は、はじめから決まっていました。

 「天にまします私たちのお父様。お願いがあります。どうか、
悪魔に謀られた魂をお救いください。いかなる苦役にも耐えます。
どんな試練にも立ち向かいます。その苦難の果てに私の魂が浄化
されんことを望みます。私の希望は、あなたの歩む光の道を一緒
に歩くことなのです。迷える子羊に愛のお仕置きをお願いします」

 三人は同じ言葉を唱和します。この言葉は子ども達がお仕置き
を受ける前には必ず唱えさせられる言葉でした。

 そして、これが終わると、子供たちはソファの前に戻って再び
膝まづきます。

 「スカートを上げなさい」

 町田先生の号令一下、子どもたち二人は俊敏に動きます。
 その動きはまるで軍隊のようでした。

 二人は、穿いてるパンツが誰の目にもはっきり見える様に自ら
スカートの裾をまくり上げます。

 ただ、そうやっても、すぐにお尻叩きが始まるわけではありま
せんでした。

 町田先生は再びソファに腰を下ろすと、子ども達を回れ右させ
て、ご自分は二人の恥ずかしい姿を後ろから眺めたまま、暫くは
何もしないでいるのです。

 時々……
 「ただ、そこでぼ~としてるだけじゃいけないでしょう。……
よ~く反省できるようにお祈りの言葉をもう一度復唱しなさい」

 両手が疲れて思わず手を下げてしまうと……
 「ほら、春花ちゃん、手を下げないの。スカートの裾でパンツ
が隠れてるわよ」

 寂しくなって泣き始めると……
 「ほらほら、美里ちゃん、泣かないの。あなたがめそめそ泣い
たからって、お仕置きは終わらないのよ」

 先生はこんなことを言いながらチビちゃんたち二人のパンツを
鑑賞し続けます。

 子供たちはパンツ丸見えと言っても見ているのはお母さんだけ
ですし、膝まづいているだけでぶたれているわけではありません
から痛くも痒くもありませんが、これが結構苦痛でした。

 大人と違って子供は何もしないでいるというのが苦手なのです。
特に女の子は相手が目の前にいるのにおしゃべりできないという
現実がストレスでした。

 そこで、先生がソファを離れ見慣れない伯爵家の懲罰室を観察
に行った隙をねらって小さな声で話し始めます。

 「ねえ、お母さん、怒ってると思う?」
 「わからないわ。あんなにしててもすぐに許してくれることも
あるから……あなたどう思うのよ」
 「私もわからないわ。でも、もし、ぶたれたら、私おとついも
あったら泣いちゃうわ。その時は笑わないでね」
 「笑わないわよ。私だって泣いちゃうもん。もし、鞭があった
ら、私の手しっかり握っててよ。暴れちゃうかもしれないから」
 「鞭って?……私たちそんな悪いことしたの?」
 「わからないわ」

 子どもたちは、自分たちにしか聞こえていないと思って話して
いましたが、その声は音響効果のよいこの部屋ではどこにいても
聞こえていました。

 先生は知らん振りしてソファへ戻ってきます。
 そして、その子らのすぐ後ろまでやって来くると、今度はいき
なり……

 「いやあ~!!!」
 「いやっっ!!!」
 続けざまに二人のパンツを太股の辺り迄ひき下ろしたのでした。

 「いきなり脱がさないでよ」
 「恥ずかしいよ」
  突然のことに驚いた二人からは思わず黄色い声が……

 でも、そうすると、間髪をいれず…
 「ピシャ」
 「ピシャ」
 町田先生の右手が可愛いお尻に炸裂。

 今、部屋の空気に晒されたばかりの二人のお尻がたった一撃で
ほんのり赤くなります。

 「うるさい子ねえ、お仕置き最中は、静かに罰を受けなければ
いけないって何度も教えてるでしょう。あなたたち忘れたの!?
『お仕置き中はおしゃべり禁止』こんな事、うちの子なら1年生
でも知ってることよ。

 「はい、お母さん」
 「はい、先生」
 二人はべそをかきながらも、それぞれ違う返事をします。

 でもこれ、どちらかが間違いという事ではありませんでした。
二人にとって町田先生というのは、先生であると同時にお母さん
でもあるのであから。

 「今日はここに誰もこないでしょうから、お母さんでいいわよ」
 町田先生もまた、小さなため息をついて、薄れゆく自分の怒り
に苦笑します。

 そして、これからさらに15分くらいかけて、娘たちの可愛ら
しい生のお尻を2mほど離れたソファで鑑賞するのでした。

 「美里、あなたみたいにおとなしい子が、何で男の子のお風呂
なんて覗こうとしたの?お母さん、あなたにそんな趣味があった
なんて初めて知ったわ」

 「……それは……男の子のお風呂の方が女の子のより大きくて
立派だって聞いたから、そういうの不公平だと思って……」
 「だからって、覗いてみても何も変わらないでしょう」
 「そりゃあ。そうなんだけど……」
 「それとも、男の子たちに『一緒に入れてください』って交渉
するつもりだった?」
 「そういうわけじゃあ……」
 美里ちゃんは顔を真っ赤にして口ごもってしまいました。

 「春花はどうなの?あなたの場合も男の子の裸に興味があった
のかしら?」

 「…………」
 春花ちゃんは首を横に振ります。

 「だったら、なぜそんなことしたの?美里ちゃんにお付き合い
かしら?自分もやらなきゃっ友だち甲斐がない思ったのかしら?」

 「それは…………」
 春花ちゃんとしては本当の事なんて絶対に言えるはずがありま
せんでした。

 だって、春花ちゃんの本心って『好きになった先輩の裸が見て
みたい』という邪な心だったわけですから……
 たとえお尻100回ぶたれても、その事だけは絶対に口にする
つもりがありませんでした。

 すると町田先生、そんな春花の気持を見抜いていたかのように
こんなことを言います。
 「ねえ、春花。あなた、誰か好きな人が出来たんじゃなくて?」

 春花ちゃんにとってはドキッとする言葉です。

 ですから彼女、余計に激しく首を横に振ります。
 「……(何で分かったんだろう?)……」
 春花ちゃん、お母さんの鋭い眼力に恐れおののきますが、勿論
そんな素振りは自分ではみせていないつもりでした。

 ところが、お母さんの方はというと、床に膝まづく春花ちゃん
の後姿を見ているだけで……
 『やっぱり、そうなのね』
 と思うのでした。

************(6)**********


12/28 御招ばれ<第2章>(5)

12/28 御招ばれ<第2章>(5)

*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  私的には……ですが(^◇^)
  あっ、このあたりはR-18解除です。


***************************

 <主な登場人物>

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

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 夕方になり、子どもたちはお屋敷に戻ってお風呂に入ります。

 もちろん男女は別。男の子には大きな浴槽の岩風呂が割り当て
られましたが、女の子にはそれより小さなお風呂。

 いえ、それだって、家庭のお風呂に比べたら何倍もあるのです
が、男の子のお風呂があまりに立派でしたから、美里ちゃんは、
それに不満でした。

 「あったまにくる。男の子のお風呂ってこ~んなに大きいんだ
よ。それに比べて女の子はこれだもん。ね、これって差別よね」

 「ふう~ん……ん?」
 流しで頭を洗っていた春花ちゃん最初は聞き流していましたが、
そのうちあることに気づきます。
 「あんたどうしてそんなこと知ってるの?」

 「だって、さっき見てきたもん」
 「えっ!?男の子のお風呂覗いたの?」
 「うん」
 美里ちゃんごく自然に頷きますからそりゃあ春花ちゃんだって
びっくりです。
 
 「ほら、あそこにマリア様の像があるでしょう。あれ取れるの。
あれ外したら向こう側が見えちゃったのよ」
 「見えちゃったって……あんた、そんなことしたの?」
 「簡単よ。脚立があるからそれに乗ってマリア様を床に下ろせ
ばいいだけだもん。男の子の裸、ばっちり見ちゃった」
 美里ちゃんに悪びれた様子はありません。

 「あんた、時々ビックリするようなことするのね。そんなこと
町田先生に知られたらお仕置き間違いなしだよ。パンツ脱がされ
てパドルの鞭で六つぐらいやられちゃうんだから」
 「いいじゃないの、男の子たちには見つかんなかったんだから。
そうそう、そういえば春花。昼間さあ、あなたと一緒にボートに
乗ってた男の子いたじゃない」

 「ああ、ゴーカート引き出してくれた子でしょう」

 「あの子も、今、入ってるよ」

 その瞬間、春花ちゃんの胸がキュンと痛くなります。
 そして、一瞬、高志君の裸を想像してしまうのでした。

 もちろん、そんな時には身体を洗う手は止まっています。
 急に動きを止めた春花ちゃんに、美里ちゃんはきょとんとして
しまいました。

 「どうしたの?」
 心配して尋ねますが……
 「何でもないわ。私、お湯に入るね」
 と、つれない返事が返るだけでした。

 いえ、これ春花ちゃんが美里ちゃんを毛嫌いしているわけでは
なくて彼女には彼女なりの理由があったわけですが、美里ちゃん
はまだそのことに気づいていませんでした。

 春花ちゃんは男の子たちのお風呂場との間にある壁際に身体を
沈めると何もせずただじっと耳を澄ましていました。

 「へえ~~高志、森脇先生から養子に来ないかって誘われてる
んだ」
 「まだ、わからないよ。決まったわけじゃないから……」
 「でも、先生が本気だったら行く気あるんだろう?」
 「そりゃなあ……」

 春花ちゃんは壁向こう側から反響して聞こえてくる高志君の声
を聞きたかったのでした。

 「いいなあ、高志は……あんな美人の森脇先生から声をかけて
もらって……俺なんて声をかけてくれたの中華屋の町井さんだけ。
考えちゃうよ」
 「いいじゃん、中華屋やれよ。俺なんて何軒もお招れしたけど、
どっからも誘ってくれなかったんだぞ」
 「ひがむな、ひがむな、まだ時間はあるさ」

 「ねえ、ねえ、やっぱり誘ってもらえる処があったら、どんな
処でもそこに行くべきかなあ」
 「そりゃあそうさ、ここにいたって、俺たち田舎周りの牧師に
しかなれないんだぜ。たとえどんな家でもそこの養子になったら
大人になって好きな事ができるじゃないか」

 「じゃあ、俺、ここの養子になっちゃおうかなあ」
 「おう、それいい。最高じゃん」
 「馬鹿、ありえないよ。こんなとこ……だって、そんなことに
なったらたちまち俺たち有名人じゃん。親が絶対潰しちゃうよ。
ここは遊びに来るだけさ」

 春花ちゃんは、最初、愛しい高志君の声を聞くことだけが目的
でしたが、そのうち男の子たちが話す内容にも興味を持つように
なります。

 『そうかあ、伯爵様が私を養女にしてくれるはずないもんね。
私もどこか探さなきゃ。……やっぱり、大西先生かなあ……でも、
先生、お姉ちゃんにだってあんなキツイお仕置きしてたもんなあ
……あたし、もつかなあ……』
 春花ちゃんは小さな胸を湯船に浮かべて思うのでした。

 そのうち、一緒にお風呂に入っていたお友だちが、一人二人と
脱衣場に向かいます。

 少し遅れて湯船にやって来た美里ちゃんも、春花ちゃんの耳元
で色んなことを話しかけていましたが、相手にされないので……
 「わたし、先に上がるね」
 と、声をかけたその時でした。

 美里ちゃんにとっては耳を疑うようなことを春花ちゃんが言い
出します。
 「ねえ、さっき、男の子のお風呂、簡単に覗けるって言ったよ
ねえ。……やってみようか」

 あれほど馬鹿にしていた張本人が、自分もやってみると言いだ
したのですから驚きでした。

 「でも、もうすぐお風呂の時間終わっちゃうよ。……ほかの子
もみんな出ちゃってるし……」

 心細そうに言いますが春花ちゃんの決心は変わりませんでした。
 もちろん断ることも出来たんでしょうが女の子はお付き合いが
大事ですからね、こうやって頼まれると、そっちへ引っ張られて
しまいます。

 結局は二人でもう一度男の子のお風呂場を覗くことに……

 大きな脚立をマリア様の像が飾ってある場所まで移動させて、
脚立を登り、天井近くにある通気口を塞ぐようにして祀ってある
マリア様を慎重に外します。

 あとはマリア様の代わりに通気口から身を乗り出せば、それで
OKでした。

 高志君たち男の子はすでに脱衣場に移動してその裸を見る事は
できませんでしたが、なるほど、この脚立の頂上からだと男の子
の岩風呂は丸見えです。

 「すごいなあ、伯爵様、毎日、こんなお風呂に入ってるのね」
 「うらやましいなあ、わたし、ここの養女になれないかなあ」
 二人は不安定な脚立の天辺にマリア様の像を乗せると、眼下に
広がるお客様用の岩風呂を見ています。ちなみに、伯爵様が普段
お使いになるお風呂は総檜風呂。子ども達には地味に見えるかも
しれませんが、ここよりもっともっと豪華なお風呂でした。

 「無理、無理、……あなたが養女なんて絶対無理よ」
 「どうしてよ。私、伯爵様のお気に入りなんだから」
 「よくいうわ。どこがお気に入りよ。あんなオモチャのピアノ
しか弾けないくせに……ま、私ならわからないけど」
 「わあっ!!よく言うわね。あんたこそ、あんな下手な絵、誰
でも描けるじゃないの」

 女の子二人の甲高い声はよく反響して脱衣所までも筒抜けです。
 そんな声に誘われるようにして黒い影が迫っていることに二人
は気づきませんでした。

 「ちょっと、あなたたち、何してるの!!」

 二人にとっては聞き覚えのある声が、突然、足元でします。

 「えっ!!」
 「いやあっ!!」
 慌てた二人は不安定な脚立の上で揉み合いに……
 そして……

 「ガッシャン!」
 二人は、自分たちが脚立の天辺にマリア様の像を置いたことは
すっかり忘れてたみたいでした。

 『どうしよう!!』
 『やばいよね!!』
 二人は同じ思いで顔を見合わせます。

 湯船で十分に温まっていたはずの身体が一気に冷めた瞬間で
した。

 二人は、鬼のように恐い顔をした町田先生を高い脚立の上から
見下ろすはめになります。

 「とにかく下りてらっしゃい」

 素っ裸の少女が高い脚立の上から男風呂を覗いている。
 もちろんそれだけでも先生が許すはずがありませんが、ただ、
この場ですぐにお仕置きとはなりませんでした。

 これからすぐに伯爵家のディナーがあるのです。
 伯爵家のお夕食ではドレスを着てお招れするのが習慣でした。
ですから、どの子もそれなりにおめかしして食卓に着席します。

 町田先生としては、どの子にも伯爵家から借りた衣装を着せ、
おめかしさせてその席に着かせなければなりません。実は先生、
そのお世話で大わらわの最中です。
 ですから、大変なことが起こったとは思っていても、すぐには
二人を叱れなかったのでした。

 でも、二人はというと、そんな先生の立場や心持なんてわかり
ませんから……
 『今、叱られないんだから、もう大丈夫なんだ』
 と思ったみたいでした。


 お客様をお招きしての伯爵家の夕食は本来なら豪華です。
 自慢の料理人たちが腕をふるい、三ツ星レストランも顔負けの
フルコースです。ワインやリキュールの香りが食堂に立ち込め、
葉巻の煙がたなびきます。

 ただ、今日の主役は子どもたち。正規のものではありません。
 料理も伯爵が普段食べているものと大差ありませんでした。

 「ねえ、ねえ、先生、これ、なあに?」
 春花は他の先生や上級生が伯爵様に向かってお招きいただいた
お礼を述べている最中、目の前にあるプレートに乗った料理を指
差します。

 「ビーフストロガノフよ」
 町田先生が仕方なく小声で囁くと、それよりはるかに大きな声
で……

 「ふう~ん、そんな名前なんだ。カレーライスかと思った」
 と言ったものですから、周囲で失笑が起こります。

 伯爵様もその瞬間にこやかな顔になりましたから、どうやら、
その声は伯爵様にも届いたみたいでした。

 和やかな雰囲気を作り出したともいえますが、町田先生にして
みたら『また、この子に赤っ恥をかかされた』という思いの方が
強かったみたいで、以後は春花ちゃんが何を聞いてきても知らん
ぷりをします。


 食事が始まると、春花ちゃんはさっそくカレーライスみたいな
料理をパクつきます。

 あっという間に完食すると、おしとやかにまだ食べている美里
ちゃんのお皿を覗き込んだりしますから、町田先生はたまらず…
 「春花ちゃん、そんなにジロジロ他人のお皿を覗き込むなんて
お行儀悪いわよ」
 とたしなめたのですが……

 しばらくして、柏村さんがやって来て……
 「伯爵様が、おそばに来るようにとの仰せです」
 と言います。
 もちろん、拒否などできませんでした。

 春花ちゃんや美里ちゃんは小学5年生。伯爵様の近くは上級生
の席ですから、二人はそこから離れた会場の末席にいました。
 それが、伯爵様じきじきのお召しで呼び出されます。

 『何の用だろう?』
 春花ちゃんは、緊張して上座の方へと向かいます。

 すると目の前の伯爵様が……
 「お肉はもっとたくさんあった方がいいかね」
 と問いかけます。

 「(えっ!?)」
 春花ちゃん、恥ずかしくて答えられませんでしたが……

 「持っていきなさい」
 
 伯爵様は自ら食卓に並ぶ色んな料理を取り分けて大きなお皿に
移し変えると、それを春花ちゃんの手に持たせてくれました。

 もちろん、「いらない」とは言えませんから……
 「ありがとうございます」
 春花ちゃんは伯爵様にお礼を言って下がりますが、さすがに、
これは恥ずかしい気持でいっぱいでした。

 ま、春花ちゃんはそうだったのですが、すべての女の子が春花
ちゃんと同じではありませんでした。
 ここには春花ちゃんよりさらに年下の女の子がいます。彼女が
見ると、それはそんなふうには映りません。

 彼女、何を思ったのか自分のお皿を持って席を立つと、伯爵様
の前にやって来て……
 「私も、お肉ください」
 と言ったのでした。

 町田先生、慌ててその子を退散させようとしましたが、伯爵様
は先生を制します。
 「あっ、いいんですよ先生。ここは正式な席ではない。まして
相手は子供じゃないですか、叱らないでください。いえね、私も
世間の親に習って、こんなことがしてみたかったものですから」

 伯爵様は、春花ちゃん同様その子にも穏やかな笑顔を振りまき
ます。
 「どれがいい。さあ、言ってごらん。どれでも取ってあげるよ」
 と問いかけるのでした。

 今の時代の人たちは、同じ家族なら大人も子供も当然同じ物を
食べているはずだと思ってるのかもしれませんが、昔はそうでは
ありませんでした。
 子供に与えられる食事は、その家のお父さんに比べ、質、量、
品数、などその全てにおいて劣っていたのです。

 ですから、多くの子供はお父さんの食べているものが欲しくて
よくおねだりに行きます。そして、それを分けてもらえることで
『お父さんは偉いんだ』『私はお父さんから愛されてる』と実感
することになるのでした。

 ただ、お皿をもって大人の食事のおもらいに行くなんてことは、
本来は幼い子のやること。春花ちゃん、どうやらそこは卒業して
いるみたいだったのですが、自分のお皿が空になり、やることが
なくなって他人の食事風景を見ていたら、それを伯爵様に『まだ、
お腹がすいているのだろう』と誤解されてしまったのでした。


 食事が終わると、子どもたちはおめかししていた衣装を控え室
で脱ぎ捨て、普段着に着替えて居間へやってきます。

 もちろん居間でくつろぐ時も、そのままの衣装で構わないわけ
ですが、この衣装、伯爵家からの借り物ですから、子どもたちに
汚されないうちにと先生たちがさっさと回収してしまうのでした。

 居間でのひと時は何か特別な行事があるわけではありません。
ピアノを弾いたりゲームをしたりして過ごす自由時間でした。

 大人たちの中には子供が苦手な人もいて、そんな人はさっさと
自分の部屋へ引きこもってしまいますが、伯爵様は大の子供好き
でしたからこんな機会も逃しません。子ども達と一緒にゲームを
したり、ピアノを弾いたり、昔話を語ったりします。

 ただ、この場所に春花ちゃんと美里ちゃんはいませんでした。

 二人も控え室で堅苦しい服を脱ぐと、普段着に着替えて居間へ
行こうとしたのですが……

 「あっ、そこの二人。だめよ。あなた達はここに残りなさい」
 と、町田先生に止められてしまったのでした。

 すべての子が普段着に着替えて部屋を出て行くなか、二人だけ
が残りました。
 それでもこの二人、なぜ自分達だけが残されたのか、この時は
まだ理解していなかったみたいです。

 「あなたたちには、まだやるべきことがあります。分かってる
でしょう」

 町田先生に言われた時も、二人は……
 「??????」
 でした。

 「あらあら、そのお顔は分からないってことかしら?」
 町田先生は一つため息をつくと……
 「…(ふう)…いいこと、お二人さん、あなたたちはお風呂で
男の子の浴室を覗き見した上に、あそこに祀ってあったマリア様
の像まで壊したの。…………どうかしら?思い出してくれた?」

 町田先生にこう言われて、やっと……
 「(ああ、あのこと、まだ根に持ってるんだ)」
 と、思い出したのでした。

 そう、お二人さんにとっては、そのことはすでに終わったこと
だったのです。
 ただ大人の世界では、こうした問題はそう簡単には過去になら
ないのでした。

 「これから伯爵様に謝りに行きます」

 「え~~」「今から~~~」
 二人は不満そうでしたが……

 「そう、今からよ。そして、そのあと、あなた方にはたっぷり
お仕置きを受けてもらいます」

 「(えっ!)」
 「(マジ?)」
 すでに終わったものだと思っていた二人には青天の霹靂です。
 たちまち顔は真っ青になりました。

 「だって、マリア様の像が割れた時は何も言わなかったのに」
 春花ちゃんは虚しい愚痴を口をしますが……

 「あの時は、あなた方に衣装を着せるので忙しかったの。でも、
他人の物を壊しておいてそのままってわけにはいかないでしょう。
それに、男の子ならともかく、女の子が覗きなんてハレンチすぎ
ます」

 「えっ~~男の子ならいいの」
 美里ちゃんは不満を口にしますが……

 「そう言うわけじゃなく、あなた方、自分のしたことが恥ずか
しくないんですかって言ってるの。……まったく、あなた方は、
何考えるのかしらねえ!!」

 「…………」
 「…………」
 二人は町田先生の剣幕に恐れおののいて下を向きます。

 「ま、本当なら、寮に帰ってからお仕置きするところだけど、
ここには防音設備のある立派な懲罰室があって、そこを伯爵様の
ご好意でお借りできるみたいだから、今日のお仕置きは、そこで
やってしまいます。いいですね!!」

 凍りつくような町田先生の厳命。
 「…………」
 「…………」
 二人に声はありませんでした。


*************(5)***********

12/25 御招ばれ<第2章>(4)

12/25 御招ばれ<第2章>(4)

*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  私的には……ですが(^◇^)
  あっ、このあたりはR-18解除です。


***************************
 <主な登場人物>

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

****************************

 春花ちゃんと美里ちゃんはほかの子と同じように最初は50m
もある滑り台を滑り下りて伯爵様が子供たちのためにしつらえた
お庭へとやってきます。
 遊び場へ行くには何よりこの特大滑り台が便利でした。

 「ねえ、お尻火傷しなかった」
 「したかもしれない。ものすごく熱かったもん」
 「私も……」
 「ねえ、ちょっと私のお尻見てくれる?」
 「え~ここでえ~」
 「大丈夫よ。誰も来やしないわ」

 二人は物陰に隠れると二人でお互いのお尻を見せっこします。
 でも、何事もなかったみたいでした。
 実際、この滑り台はとっても眺めがよくてスリルがあって最高
なんですが、何しろ長い距離を滑りますから、お尻が熱くなると
いうのが欠点でした。

 「まず、どこ行こうか?」
 「メリーゴーランド」
 「やっぱそれよね」

 最初の乗り物はメリーゴーランド。
 これもここへ遊びに来た子供たちの定番でした。

 「わあ、聞いてたより小さいんだ」
 春花ちゃんが驚きます。
 無理もありません。中央にかぼちゃ型の馬車、その周囲を回る
木馬だってがたった3頭しかないんですから、ミニチュアサイズ
です。
 でも、これを動かしてくれる庭師の松吉さんとそのお弟子さん
にとっては大変な重労働でした。

 実は、今の常識じゃ考えられないでしょうけど、このメリーゴ
ーランドは人力なんです。電気やモーターじゃなくて、人の力で
歯車を回して動かす仕組みになっていました。

 何でも戦前の上海にあったものを伯爵様のお父様が移設なさっ
たんだそうで、相当年季が入っている代物なんですが、いまだに
現役で動きますから今の子どもたちにとっても大事な遊具でした。

 「おじさん、ありがとう」
 10周も回してもらった二人は松吉さんたちにお礼を言います。

 実際、それは街の遊園地にある物のように、早くて滑らかには
動きません。でも、ギシギシパッタンとのんびり動いていくのは
松吉さんの手加減がそのまま自分の乗った馬に伝わるから。
 でも、その方がかえって子どもたちにとっても松吉さんたちに
楽しませてもらったという実感が伴うのでした。


 このあと二人は、ジャングルジムやブランコで遊びます。

 それって、どこにでもある遊具なのですが、ここは高い丘の上
にあります。ですから、ジャングルジムの天辺に登ると、眼下に
緑の街を一望できますし、ブランコを漕ぐと、眼下の街へ落ちて
行くようなスリルを味わうことができます。


 「ねえ、今度、ゴーカートへ乗ってみましょうよ」
 春花ちゃんは次のターゲットをゴーカートに定めていたみたい
でした。

 ただ、美里ちゃんは……
 「え~~あれって、男の子が乗るもんでしょう」
 ちょっぴり尻込みします。

 実はこの伯爵家へのお招れ、女の子だけではなく男の子も来て
いました。
 彼らもまた春花ちゃんや美里ちゃんたちと同じ境遇です。将来
は、やはり聖職者の道へと進まなければなりませんでした。
 ですから、寄宿舎は男女別々ですが、教会内にある同じ学校に
通っていました。

 そんな彼らだって男の子です。スリルのあるゴーカートは大好
きでした。

 ただ、このゴーカート、形だけは街の遊園地にあるゴーカート
と同じ形をしていますが、実はエンジンが着いていません。
 動力がありませんから、坂道を下るだけの代物だったのです。

 それでも男の子たちにとっては一番人気の遊具ですから、二人
がスタート地点へ行ってみると、そこは男の子だらけ。
 女の子としてはちょっぴり気の引ける空間でした。

 「あら、あなたたちもやってみるの?」
 係りのおばさんに言われて……
 「いいんでしょう、女の子でも」
 春花ちゃんは乗り気でしたが……
 「わたし、できないよ。恐いもん」
 美里ちゃんは尻込みします。

 すると、おばさんが……
 「だったら、二人乗りにしなさい。……ほら、これだったら、
お友だちの隣りに座っるだけだから楽よ」
 と、二人乗り用を出してくれました。

 「運転中はヘルメットをぬいじゃダメよ。それから、危ないと
思ったら早めにブレーキを踏んでね。このカート安全には作って
あるけど、転ぶと怪我するわよ」
 おばさんのそんな言葉を背に受けて二人は丘の頂上をスタート
していきます。

 「ヤッホー、すごい、すごい、けっこう早いじゃない」
 
 ハンドルを握って運転するのは、もっぱらん春花ちゃん。美里
ちゃんの席にもアクセル用(?)のペダルが着いていますから、
漕げばそれだけスピードが上がりますが、彼女、運転中は手摺に
しがみ付いているだけでした。

 エンジンが着いていないからって馬鹿にしちゃいけません。
 ブレーキを踏まなければ結構スピードがでるようになっていま
した。

 春花ちゃんは、もともと坂道になっていてスピードの出る道で
さらにペダルを漕ぎます。おまけにどんなカーブにきてもろくに
ブレーキをかけませんからスピードはあがる一方でした。

 疾走する春花ちゃんは有頂天です。
 「やったあ!!これで二人も男の子を抜いたわ。ゴーカートが
こんなに気持がいいなんて思わなかったわ。ねえねえ、あなたも
もっと一生懸命ペダル漕いでよ」
 美里ちゃんは春花ちゃんにせがまれますが、春花ちゃんが力任
せにペダルを漕ぐので、自分の踏むペダルまでが軽くなることが
恐くて仕方がありませんでした。

 「もう一人、前に男の子がいるから、抜いてみせるわ……」

 春花ちゃんは、また坂道が急になっているにも関わらず目一杯
ペダルを踏みこみます。
 どうやら夢中になりすぎて、その先のヘアピンカーブは見えて
いなかったみたいでした。

 「いやあ~~~」
 悲鳴と共に二人の乗ったカートはヘアピンカーブの茂みの中へ
……脱輪…横転…そして、二人はカートの外へと放り出されます。

 「いててて」
 幸い二人が負った怪我は擦り傷だけで大事には至りませんでし
たが……
 「だから、言ったでしょう、無理しないでって……」
 美里ちゃんはおかんむりです。

 でもカートの中で美里ちゃんがそんなことを言ったことなんて
一度もありませんでした。
 いえ、言葉にはしませんでしたが心の中ではずっと叫んでいた
みたいです。

 春花ちゃん、少しムカッとしたみたいですが、とにかく、今は
脱輪してしまったカートを元のコースへ戻さなければなりません。

 「ほら、そっち持ってよ!」
 春花ちゃんはまだ擦りむいた肘をすりすりしている美里ちゃん
にむかって命令します。

 二人は力を合せて、カートを引きずりだそうとしますが……
 「ほら、もっと力をいれなさいよ」
 また春花ちゃんが命令しますが、カートってタイヤでコロコロ
と動く時は快適なんですが、こうやって鉄の塊になってしまうと、
動かすのは簡単ではありませんでした。

 「とても無理よ。大人の人たちを呼んできましょうよ」
 美里ちゃんは提案しますが……
 「だめよ、そんな事したら町田先生に叱られるわ」
 春花ちゃんは乗り気ではありません。

 「だったらどうするのよ。このまま放っていくの?」
 「それは……」
 「こんなの見つかったら、それこそただじゃすまないと思うわ」

 「…………ただじゃすまないって?……オヤツ抜きとか?……
夕食抜きとか?」
 「そのくらいじゃすまないんじゃない?」
 「じゃあ、お仕置き?だって、今はお招れにきてるんだもん。
それは大丈夫よ」

 「何言ってるの。私たちって、いつまでもここにいられるわけ
じゃないのよ。寮に帰るのよ。そこで『二人、お話があります。
舎監室へいらっしゃい』なんてことになったらどうするのよ」
 「そうかあ…………」
 春花ちゃんは少し驚いた後、下を向いて黙ってしまいます。
 確かに、美里ちゃんの心配はその通りでした。

 そんな二人のもとへスタート地点でこのカートを貸してくれた
おばさんがやってきました。
 
 「あっ……」
 「やばっ……」
 二人は緊張しますが、おばさんは笑っています。

 「どうしたの?……ははあ、やっぱりそうか。……ブッシュに
突っ込んだのね。……だから言ったでしょう、早めにブレーキを
踏みなさいって……エンジンがついてないからって馬鹿にしちゃ
だめよ。ここのコースは坂道で、これでも結構スピードが出るん
だから…怪我はどうなの?肘から血が出てるわ。身体は大丈夫?」

 「ごめんなさい。大丈夫です。これは擦りむいただけですから」
 「ごめんなさい。私も大丈夫です。」
 二人はうなだれます。
 こうなったらもう逃げ隠れはできませんでした。

 「よかったわ、事故だけは心配なの。男の子の中には無茶する
子が多いから困るのよ。これも元はエンジンがついていたんだけ
ど、乱暴な運転で大怪我した子が出て、お父さんが外させたのよ」

 「お父さんって?」
 美里ちゃんがつぶやくと……

 「何言ってるの。あなたたち誰に招待されてると思ってるの?
うちの父が招待したからここにいるんでしょう」

 おばさんが笑っている間、二人は頭の中を整理します。そして
……
 『伯爵様をお父さんって呼べる人は伯爵様の娘さんだけよね。
伯爵様の娘さんってことは、つまり伯爵家のお姫様ってことだわ』
 という結論に達したのでした。

 「おばさん、伯爵家のお姫様なんですか?」
 春花ちゃんが、このキャディさんみたいな格好のおばさんに、
素朴な疑問をぶつけると……

 「お姫様?そうね、そうなるかしらね。ま、お姫様にしては、
少しとうが立ってるけど、そういうことになるかもね」

 二人はそう聞いてあらためて緊張したのか少しだけ後ずさりを
します。すると……

 「何なの?そんなに緊張することないでしょう。今は華族なん
て制度はないんだから、私もあなたも同じ身分よ。……そんな事
より、このカートを何とかしなきゃならないわ」

 トウの立ったお姫様はそう言ってコースの方を眺めます。

 やがて……
 「あっ、ちょうどいいのが来た」
 彼女はそう言ってコースの方へ出て行くと、まるでタクシーで
も止めるみたいに右手をあげます。

 すると、彼女の求めに応じて一台のカートが止まり、そこから
男の子が下りてきました。

 男の子は中学生。二人からみたらお兄さんです。
 カートを運転していた時には分かりませんでしたが、その場に
立ってみると、おばさんよりむしろ背が高く、すらっとした長身
なのがわかります。

 「お願いね」
 「いいですよ」
 そんな会話が二人の少女にも届きました。
 きっと、少年が手伝ってくれることになったのでしょう。

 男の子はヘルメットを脱ぎ捨てると、肩まで伸びた髪を手櫛で
かき分けます。すると、細い顎に切れ長の目、鼻筋の通った顔が
のぞきました。

 そして、お姫様に促されて男の子が事故のあったブッシュへと
顔を向けたその瞬間でした。
 春花ちゃんと彼は偶然視線があってしまいます。

 『…………』
 春花ちゃんは何も言いませんが、その瞬間、少女の心に何かが
起こったのは確かでした。

 「どうかしたの?」
 美里ちゃんが友だちの小さな異変に気づいて声を掛けますが…
 「何でもないわ」
 という返事でした。

 でも、本当に何でもないんでしょうか。

 春花ちゃんはお姫様と二人でこちらへむかって来る彼から一度
も視線を外すことがありませんでした。

 そして、いよいよ、彼が目の前まで来ると……
 「やあ」
 男の子が軽く挨拶しただけなのに、春花ちゃんは怯えたように
ほんの少し後ずさりします。

 春花ちゃんっていつも他人の先頭を歩こうとしますから、春花
ちゃんにとってはとても珍しいことでした。

 「ああ、これね」
 高志君は二人が困っているカートを見つけても、驚いた様子は
見せません。
 「これ、コースに戻せばいいの?」
 「高志君、お願いね」

 お姫様の求めに応じて、高志君は鉄の塊となったカートを持ち
上げます。それは二人がどんなに頑張っても全然動かなかった鉄
の塊がいとも簡単に動いた瞬間でした。

 「これでいいの」
 高志君はカートを舗装されたコースへと戻します。
 その間わずかに30秒ほど……

 「助かったわ。ありがとう」
 お姫様にお礼を言ってもらって高志君は去っていきます。
 「じゃあ」

 帰る姿は後姿だけ。中学2年の男の子が小学5年の女の子に媚
を売ったりしません。コースに置いてきた自分のカートにまっす
ぐ戻るとヘルメットを被って坂を下っていきます。
 ただそれだけのことなのです。
 なのに、春花ちゃんはそれもじっと見ていました。

 「ちょっと、春花、行くわよ」
 美里ちゃんはぼんやりしている春花ちゃんを叱りつけます。
 これも普段なら逆。とっても珍しいことでした。

 これって、春花ちゃんが高志君に一目ぼれしちゃったって事で
しょうか?
 そうかもしれません。でも、春花ちゃんの初恋が実る可能性は
ほとんどありませんでした。

 だって二人の間には色々な障害がありすぎます。
 だいいち住んでる寮が男子寮と女子寮で違いますし学校だって
小学校と中学校は別の学校。つまり顔をあわせる機会がほとんど
ないわけです。それに何より、高志君はクラスの人気者ですから
同年代の取り巻きも大勢います。小学5年の女の子に声を掛ける
必要はまったくありませんでした。

 この件だって、お姫様の頼みだからやってきただけなのです。
純粋な他人助け、ボランティアなわけですが……
 人は恋をすると、ものの見方が変わってきます。

 春花ちゃんの目に高志君は……
 『ブッシュの端で悲しんでる私を見つけて真っ先に助けに来て
くれたやさしい男の子』
 となるのでした。

 あとは、高志君との色んなデートシーンが次から次へと頭の中
に浮かんできます。
 公園のボートで……映画館の暗闇で……陽の当たるカフェで…
…楽しい妄想が次々と頭の中を駆け巡ります。

 こんな時、カートのスピードが上がるわけがありませんでした。
 いくら、今さっき事故ったからって、これじゃいくらなんでも
亀さんです。

 頭にきた美里ちゃんが……
 「ねえ、春花、あなたももっとしっかり漕いでよ。これじゃあ
いつまでたってもゴールに着かないでしょう!」
 そう言ってせっつくと……頭の中のシャボン玉を割られた春花
ちゃんが、とたんに美里ちゃんを睨みます。

 美郷ちゃんには訳が分かりませんでした。


 とにかく終点までついた二人、次は何で遊ぼうかと探している
と、春花ちゃんが突然お池のボートに乗ろうと言い出します。
 彼女、何か見つけたみたいでした。

 「えっ?だって、私、ボートなんて漕いだことないもん。……
あなただって、そんなことしたことないでしょう」
 美里ちゃんはしり込みします。だって、春花ちゃんとは幼い頃
からのお友だち。姉妹みたいなものです。ですから、春花ちゃん
だってボートを漕いだ経験がないのはわかるのでした。

 でも、春花ちゃん、強気に頑張ります。
 「大丈夫よ。そんなの簡単よ。やってうちにうまくなるわ」
 春花ちゃんは美里ちゃんの手を強く引っ張ると、貸しボートの
桟橋へ……

 もちろんこれも、乗るのはただでしたが、ただ、おじさんが、
 「君たち、ボート漕いだことあるの?」
 と尋ねてきます。

 二人が不安な顔になりますから……
 「やったことがないんだったら、少し待ってなさい。しばらく
したら経験のある人が来るからね、その人と一緒に乗りなさい。
ひっくりかえった危ないからね」

 おじさんはそう言って二人にしばし待つように促したのですが
……
 「大丈夫です。私、何回もボートを漕いだことありますから…」
 春花ちゃんがいきなり宣言してしまうのです。
 美里ちゃんは目を丸くしてしまいました。

 もちろんこれ、真っ赤な嘘でした。美里ちゃんも春花ちゃんも、
まだ一度もボートを漕いだことがありません。

 ただ、春花ちゃんのあまりにも自信に満ち溢れた態度に押され
て、おじさんが渋々ボートを貸してくれます。

 「いいかい、この救命胴衣は絶対に脱いじゃいけないからね」
 麦藁帽子のおじさんはそう言って、二人の乗ったボートを押し
て出してくれます。

 ボートは、最初、順調に湖面を進んでいきます。

 「やったー」
 美里ちゃんは大喜びでした。

 彼女、春花ちゃんがおじさんの前であんな大見得を切るもんで
すから、ひょっとして自分の知らないところでボートを漕いだ事
があるのかと思っていました。

 でも、春花ちゃんが上手だったのはまっすぐに進むことだけ。

 池の真ん中にある島にボートが突き当たると、そこでストップ。
このボート、一定方向には進めても方向転換ができませんでした。
 結局、二人を乗せたボートは小さな島の入り江で座礁してしま
います。

 「どうしたの?動かないよ」
 「困ったなあ、私、曲がり方ってしらないのよ」
 「何よ、さっきは偉そうに漕いだことあるって言ってたくせに」
 「だって、ああ言わなきゃ貸してくれないみたいだったから」
 「そうじゃないでしょう。おじさんは、経験のある人と一緒に
乗りなさいって言っただけじゃない。だから、そんな人が来るま
で待ったらいいじゃないの」
 「そうはいかないのよ!」
 「どうしてよ!?」
 「どうしてって……」
 春花ちゃんは口ごもります。

 春花ちゃんとしては、『今、高志君がボートに乗ってるから…』
とは言えませんでした。

 と、ここで、まごまごしている二人のもとへおじさんが助け舟
でやっきます。
 
 「大方こんなことだろうと思ってたよ。でも、とにかく事故が
なくて何よりだ」
 
 おじさんは恥ずかしくて顔を真っ赤にしている二人を、自分の
ボートに二人を乗せると、桟橋へと引き返します。

 でも、その時、高志君たちが乗るボートと出合ったんです。
 春花ちゃんは下を向き、その顔はさらに赤くなります。

 そんな春花ちゃんの気持を、おじさんが察したわけでもないん
でしょうが、高志君のボートに向かってこんなことを言うのです。

 「高志君さあ、よかったらこの子たちを乗せて池を一周してく
れないか?」

 「いいですよ。だったら、僕達も桟橋に戻りますから……」
 高志君は一緒にいたクラスメイトの女の子と目と目で会話して
からおじさんに返事を返してきました。

 結局、桟橋に着いた二隻のボート、一隻は高志君のクラスメー
トの女の子が美里ちゃんを乗せて出航。もう一隻は高志君が春花
ちゃんを乗せて遊覧です。

 春花ちゃんとしては、こんなこと、願ったり叶ったりだったに
違いありません。
 だって、初恋の人と、いきなりボートでデートできるんです。
積極的な春花ちゃんのことですから、さぞや話が盛り上がったと
思いきや……池をめぐってきた15分間、春花ちゃん、高志君を
目の前にしてほとんど口がきけませんでした。

 『さっき事故を起こして恥ずかしかったから…』
 勿論それもあるでしょうが、何より春花ちゃんは、それくらい
高志君のことが好きだったということのようでした。


**********(4)**************

お仕置きの蔵 <4>

*********************
お灸のお仕置きを扱った読みきり小説です
*********************

        お仕置きの蔵 <4>

 導尿も終わり、後片付けも終わると、それまで優しく私の身体
を抱いていた父から声がかかります。

 「次はお尻だよ」
 私はあまりの気持ちよさにうとうとしていたみたいです。
 ですから、その時は父からおこされたといった感じでした。

 『あっ、そうか、まだお仕置きが残ってたんだ』
 馬鹿な話ですが、その時はそう思ったのでした。

 今度はうつ伏せにされて、やはり父の膝の上に乗ります。
 今や私もまな板の鯉、抵抗するつもりはまったくありませんで
した。

 もっとも……
 「偉いぞ」
 なんて、こんな姿勢のまま父から頭を撫でられても、それは嬉
しくはありませんが……

 いよいよ今度は父の出番でした。
 お父さんが私のスカートを捲り、ショーツを下ろします。

 母はというと、私の頭の方に正座して水泳の飛び込みみたいな
姿勢になっている私の両手を押さえています。

 私は自分のお尻が外の風が当たった瞬間、一つ大きく深呼吸。
 もうこれからは何があっても取り乱さないようにしようとだけ
心に誓っていました。

 緊張の中、まずはアルコール消毒。これはお父さんになっても
変わらない我が家のルールでした。
 そして、それが終わると、お山のてっぺんにお母さんがこしら
えた円錐形の艾が乗せられます。

 艾の大きさやそこにいくつ据えるかといったことは、各家庭で
さまざまでしたが、我が家の場合、左右のお山に据える場所は、
一つずつでした。

 ただし、ここに据えられる艾は他のどの場所よりも大きいです
から熱さはひとしおです。……いつも……
 「いやあ~~~ごめんなさい~~~とってとってだめだめだめ」
 と足をバタつかせて泣き叫ぶことになります。
 過去はずっとそうでした。

 でも、私も中学生ですから、今回こそは、静かにしていようと
心に誓ったのです。
 ところが……

 「ひぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 その熱いのなんのって……リニアカーみたいに身体がわずかに
浮き上がり、脳天めがけて冷たい電気が走ります。両足を激しく
畳に叩きつけるさまは、縁日の屋台で売っていたゼンマイ仕掛け
のお人形みたいでした。

 終わるとハァ、ハァと荒い息で、顔は真っ赤。必死に頑張った
証しでしょうか、その瞬間は目の玉が零れ落ちるんじゃないかと
思うほど前に飛び出していて恐いくらいの形相をしていました。

 この時も、何とか悲鳴だけは押し殺すことができましたが……
ただ、両足だけはどうにもなりませんでした。

 「バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ」
 その瞬間、両足がうるさいほど畳を叩きます。
 畳の上でバタ足の練習は小学生の時のままだったのです。

 それでも、
 「頑張ったな。お前もようやく泣かずにお仕置きが受けられる
ようになったわけだ」
 お父さんはまたしても私の頭を撫でます。

 「ありがとう、お父さん」
 私は思わずお礼を言ってしまいます。
 本当はその手を振り払いたいのですが、お山へのお灸の直後は
その気力さえ残っていませんでした。

 それに何より、私はこの先もう一箇所試練の谷を越えなければ
ならなかったのです。

 「落ち着いたらいくよ」
 お父さんの声がうつ伏せになった私の頭の後ろで聞こえます。

 「はい」
 小さく返事をすると、早速お母さんが私の両手を握ってくれま
した。他の場所では両手を拘束されるなんて良い感じがしません
が、この時だけはむしろそれがホッとするのです。

 お父さんは私のお尻の割れ目の上の方を押し開くと尾てい骨の
骨の出っ張りが感じられる処へ艾を乗せます。

 ここはお尻の谷間に灸痕が隠れて都合がよいということもあり
ますが、何より皮下脂肪が薄く熱がダイレントに身体へ染み渡り
ますからその熱さは極め付きでした。

 「今日は、お母さんにオシッコも採ってもらって、お漏らしの
心配もないからしっかり頑張るんだよ」
 お父さんから変な励ましを受けます。

 でも、それは事実でした。
 実際、ここに据えられた時、私は、何度となくお漏らしをして
いましたら……

 「あっああああああああああああああああああああああああ」

 こうとしか書けませんけど、でも、とにかく熱かったのです。
 全身が燃えてしまったような…そんな錯覚さえ生じさせるよう
な強烈な熱さ痛みだったのでした。

 真っ赤になった頬を涙がつたい、眼球が飛び出だして、必死に
両足が畳をバタ足する姿はお山へのお灸と同じです。
 でも、お山以上のショックが体には伝わっています。

 そして、それが終わった瞬間に、不思議な心持が私のお腹の底
からじわっと湧いてくるのも過去の経験と同じだったのです。

 これって、その時は特段の意識はなかったのですが、その後、
色んな経験をするなかで、これが性欲だと知ることになります。

 そういえば、かつて父が母に対してこんな事を言っていました。
 「女の子は精神的には性の目覚めが早いけど、肉体的な目覚め
は逆に男性より遅いんだ。だから、結婚前に少しだけ肉体の時計
を進めてやると、ハズバンドとうまくいくのさ」

 父はそれとは知らせないまま、お仕置きにかこつけて私に性の
レクチャーをしていたのかもしれません。

 しかも、この日は……

 「お前ももう子どもじゃないだし、このくらいのお仕置きでも
十分に分別のある行動がとれるようになるとは思うんだが………
どうしようか、お母さん。今回は、ついでに、お股にも据えてお
こうか」
 お父さんがお母さんに尋ねます。

 お父さんは『ついでに……』なんて、まるでお仕置きのおまけ
みたいなこと言ってますが、私にしたら、それは『冗談じゃない』
ってほどの一大事でした。

 ところが、頼みの綱のお母さんまでが……
 「そうですね、今後のこともありますしね、いつもの処にもう
一つ懲らしめを入れておいた方がいいかもしれませんね」
 あっさり、お父さんに賛成してしまうのでした。

 いつもの処というのは……
 お尻の穴と赤ちゃんが出てくる穴の間のことです。膣前庭とか
いいましたっけ。私の場合、性器に直接据えられることはありま
せんでしたが、ここだけは、小学5年生の頃までよくすえられて
いました。

 仰向けに寝かされ、両足を大きく開いたら、開いた両足が閉じ
ないように足首を首箒の柄で縛られます。
 その箒が、寝そべる私の頭の上を通過する頃には、私の大事な
場所はすべてオープンになって、もう自分では隠す事はできなく
なります。

 まさに『ポルノ』って感じのお仕置きですが、幼い頃はあまり
恥ずかしいという気持はありませんでした。
 あくまで悪さをした末のお仕置き。やってるのも両親ですから、
これをやられる時は恥ずかしいというより仕方がないという諦め
の気持の方が強かったのです。

 ただ、娘の身体が大人へと変化するなかにあって両親も考えた
んでしょうね、五年生以降はこのお仕置きを遠慮するようになっ
ていました。ここ数年はご無沙汰のお仕置きだったのです。
 ですから、私は『このお仕置きはもうなくなったんだ』と勝手
に思い込んでいました。

 ところが、それが突然の復活。おまけに、あの頃とは私の身体
も変化しています。いくらまな板の鯉、お父さんの人形になった
つもりでいても、これだけは『お仕置きをお願いします』という
わけにはいきませんでした。

 「お願い、ね、これだけはやらないで……他の処にして……ね、
いいでしょう。あそこは絶対にダメだもん。……ね…ね…ね」
 私はお父さんにすがり付いて懇願します。

 「そんなに嫌なのかい?」
 お父さんも私が直訴するなんて意外だったんでしょう。
 少し当惑した様子で尋ねますから……

 「当たり前じゃない。私、中学生なのよ。小学生じゃないの。
恥ずかしすぎるもん。絶対に嫌よ」

 私が気色ばんで言うと、お父さんは静かに笑って……
 「そうか、お前、中学生か、そうだったな」
 今、気づいたようなことを言います。

 そして……
 「そうか、そんなに嫌か。……それじゃあ、どうしてもやらな
きゃならんな」

 「えっ!?」

 「だって、嫌な事するのがお仕置きだもの。それは仕方がない
よ。……それに、どんな嫌なことをするかは親や先生の判断だ。
真理子の決めることじゃないんだよ」

 「それは……」
 私はそれだけ言って黙ってしまいます。実際子どもの立場では
それ以上は言えませんでした。だって、親や教師がお仕置きする
のは当たり前の時代なんですから。

 「痛い、つらい、恥ずかしいってのがお仕置きなんだ。わざと
そんなことさせてるんだ。『そんなことつらいから嫌です』って
言っちゃったらお仕置きなんてできないよ」
 お父さんは少し馬鹿にしたように笑います。

 もちろん、そんなことは百も承知です。でも、これはどうして
もって思うからお願いしてるのに、聞いてもらえませんでした。

 「どうしてもって言うのなら、司祭様の処で懺悔してお仕置き
していただいてもいいんだよ」
 お父さんは提案しますが……

 「…………」
 私は即座に首を横に激しく振ってみせました。

 もし、司祭様の処へ行って懺悔すれば、罰はお尻丸出しの鞭に
決まっています。司祭様は立派な方かもしれませんが私にとって
は赤の他人の男性です。その他人の男性が私のお尻を割って中を
あらためるだなんて、想像しただけで卒倒しそうでした。

 それに比べれば、ここで何をされたにしても相手はお父さんか
お母さんですから、娘としてはこちらの方がまだましだったので
した。


 準備が整い、箒が仰向けに寝ている私の真上を頭の方へと飛ん
でいきます。

 と同時に、私の身体はくの字に折り曲げられ随分と窮屈な姿勢
を強いられます。普段ならまったく風の当たらない場所にもスー
スーと風が吹き込みますから、この姿勢を続けていると、恥ずか
しさもさることながら、なぜか心寂しく不安になるのでした。

 「ほう、真理子もずいぶんと大人になってきたじゃないか」
 お父さんは私の身体の一部を一瞥してそう言います。

 たった、それだけでも、私の顔は真っ赤でした。

 しかも、これだけではありません。
 まずは両親揃って、クリトリスや尿道口、もちろんヴァギナや
アヌスも、一つ一つ指で触れて確認します。

 もちろん、そこは女の子にとって敏感な処ばかり、触れられる
たびに奇声をあげたい心持ですが、そうするとまた親に叱られて
しまいそうですから、ここは唇を噛んでしっかり我慢するしかあ
りませんでした。

 あれで、五分ほどでしょうか、二人は、まるで丹精した盆栽を
愛でるかのように私の陰部をなでまわします。

 それって、今なら幼児への性的虐待で警察行きかもしれません
が、当時の二人に、これといった罪悪感はありませんでした。

 私がこのことに不満を言うと……

 「何言ってるんだ。親が娘の身体を調べて何が悪い。だいたい、
お前のお股なんてオムツを換えてた当時から承知してるよ。だけど
年頃になると独り遊びを始めたりするから、そこはチェックして
やらんといかんだろうと思ってるだけだ」
 父はそう言ってうそぶきます。

 『娘の身体は親のもの』
 当時はそんな感じでした。

 ハレンチな身体検査が終わるといよいよお灸です。

 このお灸、幼い頃はお父さんが身体を押さえてお母さんが火を
着ける役でした。暴れた時、力のあるお父さんが身体を押さえて
いた方が安全だったからです。

 ところが、今回、火をつけるのはお父さんでした。

 「いいかい、真理子。これが今日のお仕置きでは最後のお灸に
なるけど、これで、お前は今回自分がしたことを反省しなければ
ならない。わかったね」

 私は畳に擦り付けた頭の位置から父の厳とした顔を見つめます。
その時見た父の顔は、お母さんがどんなに恐い顔をしても絶対に
出せない威圧感でした。

 こんな時、言葉は一つしかありませんでした。
 「はい、お父さん」

 私は父の巨大なオーラに飲み込まれ、飲み込まれたまま、熱い
お灸を受けます。

 「いやあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 父の据えたお灸は、最初、私の陰部を痙攣させます。
 もちろんそれだけでもお仕置きとしては十分なのですが、でも、
それだけではありませんでした。

 火が回り熱さが頂点に達した時、
 『熱いとか痛いとかといったものを超えて何かもの凄いものが
体の中にねじ込まれた』
 そんな感じがしたのでした。


 火が消えても全身に悪寒が残ります。
 しばらくは震えがとまりませんでした。
 それって、私の身体にとっては大変な出来事です。
 ただ、それが不快だったかというと……そうではありませんで
した。

 何か分かりませんが、今までに感じたことのないような快感が
身体じゅうを締め上げていったのは確かでした。

 『何だろう、これ?』
 お灸が終わっても、しばらくは箒と一緒に考えます。
 両親は私をすぐには自由にしてくれませんでしたが、でも、私
はそれでよかったのです。

 私は身体に箒をくっつけたまま、どこかマゾヒティクな快感に
しばし酔いしれることができたのですから……。


 年頃の娘が受けるお股へのお灸。
 実は、後になって知ったのですが、クラスメイトの半数が同じ
経験をしていました。

 そこで思ったのですが、これってお父さんによる手込めだった
んじゃないでしょうか。

 今回、お父さんがあえて火をつけたのも、悪い事から遠ざける
ための子どものお仕置きから、一人前の女性としてあえて男性を
求めるように仕向ける為のお仕置きへ変化させたんじゃないか。
 つまり、お仕置きを利用した一種の性教育。
 考えすぎかもしれませんが、そんな気がするんです。

 後年、父にその事を尋ねると……
 やはり、「考えすぎだよ」と笑いますから……

 「でも……」
 私は、さらに食い下がろうしましたが、やめてしまいます。

 確かに、そんなことは語らないほうがいいのかもしれません。
 それに、私だってまた厳しいお仕置きを受けるのは嫌ですから。

**********(終わり)**********

お仕置きの蔵 <3>

*********************
お灸のお仕置きを扱った読みきり小説です
*********************

        お仕置きの蔵 <3>

 「さて、そろそろ始めようか」
 お父さんは抱き合っていた私の顔を少しだけ離すと、穏やかな
笑顔を私に見せます。
 私はその笑顔にこたえて覚悟を決めなければなりませんでした。

 「じゃあ、まずお臍の下からだ。私の膝に頭を乗せて仰向けに
寝そべってごらん」

 私はお父さんが求める姿勢になります。
 もちろん、それから何が起こるかは承知していましたが、もう
イヤイヤはありません。もちろん大泣きなんてしません。幼い頃
とはそこが違っていました。

 「…………」
 お母さんによってワンピのスカートが捲り上げられショーツが
引き下ろされても私は何も変わりませんでした。

 やがて、まだ半分子供のお臍の下があらわになります。

 すると、すでに萌え出していた軟らかな下草をお母さんが蒸し
タオルを当てながら剃刀でジョリジョリと処理。
 まだ軟らかなうぶ毛に近いものですから手間はかかりませんで
した。

 「このくらいのことはあなたも自分でやらないとね」
 母が言いますから、思わず…
 「えっ!こんなことまで……」
 と言うと……

 「何がこんなことよ。あなたのことじゃなないの」
 と睨まれます。

 「だって、お母さんがそうしろって言うから、下着だって私は
自分で洗ってるのよ」
 少し不満げに言うと……

 「洗ってるって?偉そうに……私がやりなさいって言うから、
仕方なくやってるみたいだけど、あなたのやってるのは洗面器に
水をはってバシャバシャってやったら干すだけでしょうが……。
あんなのはね、洗ってるうちに入らないの。とにかく、女の子は
自分の事は自分で全部やれるようにならなくちゃ。それが当たり
前だもん。何でも他人に任すなんて恥ずかしいことなのよ」

 「それって、私が女の子だから?」
 「そうよ」
 「男の子はいいの?」
 「だって、男の人には仕事があるもの。……とにかく今度から
は自分でなさい」

 「え~恥ずかしいよ。やり方知らないし……」
 「何言ってるの!むだ毛の処理と一緒よ。私が教えてあげるわ」
 「えっ!?」
 その瞬間。お母さんにレクチャーを受けている自分の姿を想像
してしまい身震いします。

 「何よ、身震いなんかして?寒いの?……そもそも、お父様に
こうやってお仕置きされる事が何より恥ずかしい事じゃないの!
……やりたくなかったら、お仕置きなんてされないように良い子
にしていれば問題ないことでしょう!」
 私は些細なことでお母さんの機嫌をそこねてしまいます。

 そんなこんなも含めて、すっかり綺麗になった姿をお父さんも
私の頭越しに見ていました。

 やがて剃り上げられたそこに艾が三つ並びます。お臍の下から
割れ目にかけて縦方向、蟻の戸渡りと呼ばれるラインに沿って、
等間隔に置かれていきます。

 実はここ、最初にお灸を据えられたのは幼稚園児の頃でした。
以来、一年に一回位のペースでそれはやってきますから、今回で
何回目でしょうか?

 おかげで、こんな場所を晒しながらもお母さんと口喧嘩ができ
たりするわけですが、両親から何度もお灸を据えられたおかげで、
私のそこには灸痕と呼ばれる火傷の痕がはっきり残りケロイド状
に光っていました。

 『かわいそうに』ってお思いですか?
 でも、それを恥ずかしいと思ったことはありませんでした。

 というのも、この時期、私には仲間がいたんです。
 私たちの学校は女子校なのに体罰によるお仕置きが日常化して
いて、場合によっては親にまで子どものお仕置きを求めてきます。
 そんな時、お灸は学校ではできないお仕置き。しかも保護者側
も学校の要望に端的に応えられるお仕置きでしたから、私を始め
お友だちの大半がここに灸痕を持っていました。

 林間学校や修学旅行のようなお泊まりがあってみんなと一緒に
お風呂へ入る時などお互い見せっこです。
 あくまでローカルルールではありますが灸痕のある方が多数派
だったわけです。

 ですから、逆に、ここに灸痕のない子は仲間はずれにされかね
ませんでした。
 そこで、わざと子どもじみたイタズラをして親からお灸を据え
られるように仕向けたり、思い切って自分でお灸を据えてみたり、
(これをやると、大抵、親からお仕置きされますが…)はたまた、
ダイレクトに親に頼んですえてもらった子だっていました。


 はてさて、強がりを言ってしまいましたが、お灸のお仕置きと
いうのは慣れるということがありませんでした。

 「さあ、いきますよ。よ~く反省なさい」
 お母さんがそう言って火のついたお線香の頭持ち出すと、私の
緊張はピークになります。

 「あなたも中学生、今日はちょっぴり艾を大きくしたからね」
 そう言われて綺麗に円錐状に形どられた艾の天辺に移されます
と……やがて……

 「ひ~~~~~~」
 私はお父さんの太い腕にあらん限りの力でしがみ付きます。

 幼稚園の頃から据えられているというのに、中学2年になった
今でも、やることは同じでした。

 艾の頭に火がついて、それが肌へ下りてくるまで10秒くらい
でしょうか、それが肌を焼いてるのは5秒くらいです。
 でも、そのたった5秒が、耐えられないくらい熱くてショック
なのでした。

 「う~~~~~~」

 息を止めても、うめき声が自然に漏れ、痛みを訴える血が頭へ
と逆流します。全身の毛穴が開き、瞳孔は全開。充血した白目を
これでもかってほどひん剥き、手足の指十本を目一杯の力で握り
しめ、前歯が折れそうなくらい必死に歯を喰いしばります。

 中学二年生になった今でもそうしないと耐えられないのに……
幼稚園時代はどうやって耐えてたのか不思議になります。

 ですから、トラウマは当然でした。
 でも、昔の親って、こうやってわざと子供にトラウマをつけて
躾けていた節があるんです。

 「い~~~~~~(死ぬ~~~~~~~)」
 心の中で思います。

 脂汗と荒い息。
 『やっと三つ終わった』
 そう思った瞬間でした。
 お母さんが信じられないことを言います。

 「あなたも身体が随分大きくなって、お灸にも慣れたみたいね」

 『どういうことよ!?慣れたって……』
 私は目を剥いて頭を激しく左右に振りましたが……

 「お仕置きは何でもそうだけど、慣れてしまっては意味がない
わ。『ごめんなさい』って気持がなくなるもの。あなたも幼い子
じゃないんだし……そろそろ、ウォーミングアップが必要な歳に
なったんじゃなくて……」

 お母さんはそう言うと、太めのローソクを一本取り出しました。
 それは、この蔵の中を照らしている照明用のローソクと同じ物
なんですが……

 『えっ、まさか!』
 私の脳裏に嫌な予感が走ります。

 実はその昔、お灸をすえられそうになった時、お母さんが……
 「ま、今回は、お灸で躾けるほどでもないからこちらにしよう
かしらね」
 そう言って取り出したのが火のついた蝋燭だったのです。

 その時は仏壇用小さなものでしたが、右手をしっかりと掴まれ、
手の甲が真っ白になるまで蝋涙を垂らされたことがあります。

 蝋涙はお灸ほど熱くはありませんが、お仕置き時間はたっぷり。

 結局、両方の手の甲が真っ白になるまで、私は熱い蝋が自分の
手の甲に流れ落ちるのを我慢し続けなければなりませんでした。

 『えっ、ウォーミングアップって、まさか、あれなの!?』

 そう、そのまさかだったのです。
 しかも、今度はあれから身体も大きくなっているとして、蝋燭
も特大になっています。

 「…………」
 私は着々と準備を進める母に何か言いたかったのですが、結局、
何も言えませんでした。

 代わりにお父さんが私の頭を撫でながら……
 「大丈夫、頑張ろうね」
 と励ましてくれたのでした。

 私は普段自分の頭を撫でられることが嫌いでお父さんにもそう
されると跳ね除けていたのですが、この時ばかりは、静かにその
愛撫を受け入れます。
 実際、それだけ不安だったのでした。

 「………!………」
 母はアルコールの壜を逆さにして脱脂綿に含ませると、それで
私のビーナス丘を拭いていきます。

 アルコールによって一瞬ですが体温が奪われスースーと冷たい
感触が肌に残るなか、お灸はその熱さをぐっと際立たせます。


 「さあ、じっとしてなさい。お灸より熱くはありませんからね」
 優しい言葉とは裏腹にお母さんはいつになく厳しい顔。

 その顔が火のついた蝋燭の炎によって浮かび上がると、見慣れ
たはずの顔が恐くてたまりませんでした。

 やがて、その蝋燭が倒されます。

 「熱い!」
 最初の蝋が肌に触れた瞬間、私が反射的に叫ぶと……

 「このくらいのことで騒がないの!お仕置きは黙って受けるの。
騒いでしまったらそれで気が紛れるでしょう。効果が薄れるわ。
あなたには何回も教えてあげたはずよ」
 母に叱られました。

 実は、幼い頃の私は泣き虫で、ちょっとしたお仕置きでもすぐ
に泣いていましたが、泣いて許されることはありませんでした。
 泣いても泣いても父や母のお仕置きは続くのです。

 結局、泣いてもお仕置きは終わらないんだと分かるまで、私は
父の膝からも母の膝からも解放それることはありませんでした。
 そうやって、我慢ということを教わった気がします。

 こんなこと書くと、今の人たちは単純に『虐待を受けただけ』
って思うかもしれませんが、愛している子供が泣き叫んでいる事
くらい親にとって辛い時間はありません。
 でも、そんな辛い時間が長引いても折檻を続けてしまうのは、
『泣いて問題は解決しない』という社会の理(ことわり)を分か
らせる為でした。


 私のウォーミングアップはビーナス丘から始まります。

 「……ぁぁぁ……ヒイ~ヒイ~ヒイ~……ぅぅぅぅ……ぁぁぁ……」
 悲鳴をあげちゃいけないと思う中、声にならない声が漏れます。

 太いローソクの蝋涙が比較的高い位置から落とされてきます。
幼い頃も受けたお仕置きでしたが、一回一回の衝撃は量も威力も
幼い頃とは比べものになりませんでした。

 「……あっ、……いや、……あっつい……だめえ……だめえ~」

 最初は身じろぎせず必死に黙っていようとしましたが、やがて
熱い蝋涙のゼリーが私の丘を叩いて弾けるたびに私は身体をくね
らすようになります。

 「……あっ、……いや、……あっつい……だめえ……だめえ~」

 落ちた蝋涙が丘で固まり、『もう、終わりかしら』と思うたび
白い蝋はお母さんの手ではがされ、また新たな熱いゼリーが……

 『黙っていなければ』『黙っていなければ』と、いくら思って
いても、ついつい小さな声が唇の外へと出て行ってしまいます。
 そして、その声は次第に大きくなっていきました。

 「……あつい!、……いやあ!、……やめてえ~……だめえ~
……お願い~……もうだめえ~……熱い!いやあ~……いやあ~」

 あれでかれこれ10分くらい熱い蝋を受け続けたでしょうか。
 「あっ、熱い!!いや、やめて~!!いい加減にしてよ!!」
 とうとうその声は誰にでも聞こえる声になってしまいます。

 「そう、嫌なの?……それじゃあ。場所を変えましょう」
 お母さんはいつになく冷静です。

 『えっ!?場所を変えるって?』

 蝋涙の落ちる位置が身体の上へ上へと変更されていった結果、
 お母さんの言った意味がわからないでいると、ワンピースの裾
がスリーマーと一緒に捲り上げられ、まだまだ幼い私のお乳まで
もが二人の目の前にあらわになります。

 『いやっ!恥ずかしい!』

 一瞬の出来事。私の顔は火照って真っ赤になりました。
 身体をよじりますが恥ずかしさは増すばかりです。

 「……あっ、あつい……いや、恥ずかしい……あっ、だめ……
だめだってえ~……お願い、やめて~~……あっ、いや、熱い」

 そんな私の窮地を楽しむかのようにお母さんは笑っています。
 さらには何かに気づいたように私に覆いかぶさってきました。

 「あら、あら、奥手だ奥手だと思ってたけど、どうやら乳首の
あたりも女の子らしくなってきたじゃない」
 必死に熱いのを我慢しているさなかお母さんが私の乳首の先を
悪戯します。

 「もう、やめてよ!!」
 私は顔を背けます。声が裏返り涙声がでました。

 不思議なもので、お臍の下を晒している時にはあまり感じられ
なかった恥ずかしさがオッパイを晒さらした今は感じられます。

 「何?……恥ずかしいの?……あなたも女の子ね?……だけど、
あなた、昨日もお父様とお風呂一緒じゃなかったかしら」
 お母さんはわが意を得たりとばかりに笑います。

 たしかにそうでした。私の家は全てがオープンで私は普段から
父とも一緒にお風呂に入っていました。
 ですから、今さらオッパイを隠しても仕方がないはずなのです。
ところが今は、それがたまらなく恥ずかしく感じられるのでした。


 その後も、例によって、アルコールでその場を消毒しながら、
お母さんは熱いゼリーを落とし続けます。
 お臍からお腹、みぞおち、胸へと熱い蝋が落下する場所も段々
と上がっていくのでした。

 「熱いかしら?」

 「…………」
 私は答えませんでしたが、お母さんは一人で話を続けます。

 「それはよかったわ。これであなたの弱い心も少しは強くなる
はずよ。これからは悪い友だちに誘われてもノコノコ着いて行か
ないようにしてね。女は、どれだけ耐えられるかで強くなるの。
お仕置きは、男の子よりむしろ女の子に効果があるものなのよ」

 お母さんのわけの分からないお説教を頭の片隅で聞きながら、
本当は、子どもの頃のように大声で泣き叫びたかったのですが、
それができませんから、せめても身体をよじって降りかかる熱さ
から逃れ続けます。

 溶けた蝋がこんなに熱いなんて……もう、気が狂いそうでした。


 「よし、いいわ。よく頑張った。これからはこんなこともある
だって覚えておきなさい」
 お母さんの蝋燭攻撃は、まだ小さな私の乳頭の上にちょこんと
一つずつ落ちたのが最後でした。

 お母さんはくすぐったい乳首を揉んで白い蝋を落とすと、短く
なった蝋燭の炎を吹き消します。

 ところが、このお仕置き、これで終わりではありませんでした。


 「……?」
 気がつくと、お母さんが私の足元で何かしています。

 私は、それを確かめようと少しだけ体を起こしてみたのですが
……
 
 「えっ!!」
 目に飛び込んできたのは、ウォーミングアップ中にしでかした
私のお漏らし。
 それを母が片付けているところだったのです。

 「それは……」
 私はそれしか言えませんでした。
 正直、どうしてよいのかわからないまま、母がやっているのを
ただ見つめるだけだったのです。

 そして……
 「このままじゃ、またお漏らしするかもしれないから、ここで
導尿してしまいましょう」

 母の提案に私は反論できません。

 普段なら……
 『いやよ、どうしてそんなことしなきゃならないのよ』
 『恥ずかしいでしょう』
 『やるなら、お父さん、部屋から出してよ』
 なんてね、色んなことを言うところです。

 でも、母に迷惑をかけてると思った私は、いつもの威勢のいい
言葉が出てきませんでした。

 まごまごするうちに……
 気がついた時には尿道口から膀胱まで届くカテーテルを入れら
れていました。

 母は元看護婦。こんなことには手慣れています。
 カテーテルの端を咥えて中の空気を吸い取ると、娘のおしっこ
が出てきます。

 膿盆に流れ出るおしっこを見ながら、私は泣いてしまいます。
 いえ、泣きたくはないのです。
 でも、涙が頬を伝って流れ落ちるのを止めることはできません
でした。

**********(3)************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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