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§1

§1

 「多くの子が同じことをされて大人になっていくんだから…」と多く
の大人たちに励ましというか慰められましたが、結局、心の中に入って
くる言葉はありませんでした。亀山に住む13歳の子にとっては……
 『どうしてこんな事しなきゃいけないのよ。どうして昔のことまで蒸
し返すのよ。わたし、この先も赤ちゃんでかまわないわ。おむつをして、
おしゃぶりをくわえて、学校だってどこだって行けるんだから……』
 なんて、啖呵を切りたくなるような出来事です。頭の中をつまらない
繰り言だけがいつまでもぐるぐる駆けめぐりますから、もうそれだけで
疲れます。そのうち……
 「恵子、お父様がみえられたわ。行きますよ」
 ママの声がしますから勉強机から立ち上がりましたが、気分は最悪で
した。震える足に力を込めて、心の中の自分に「よし」というかけ声を
掛けて部屋の外へ出ます。
 「あら、来ましたわ。噂をすれば影ですわね。……あなた、お父様が
お待ちかねよ」
 玄関先でママの声が弾んでいます。お父様はいつもの通り泰然自若と
いった感じで少し慌てた様子の私を見ていらっしゃいました。
 「遅くなりました」
 「いや、少し早かったけど行こうか。雰囲気には早く慣れておいた方
がいいだろうと思ってね」
 「そうですわね」
 ママが合いの手を打つ。彼女にしてみれば今日は娘の晴れ姿でもあり
ましょうから、ご機嫌でした。
 お父様は私の手を握るとゆっくり歩き出します。私はいつものエプロ
ンドレスでお父様もいつものツイードのコート。お父様との関係はママ
と比べれば少し遠いのですが、こうして手を繋いで歩いていると本当の
親子のようにも感じられます。二人は微妙な位置でした。
 『甘えたいなあ』
 そう思ってすこし肩の位置をお父様の二の腕にすり寄せた時でした。
 「お父様」
 いきなり健児がお父様の前に現れます。健児はこの時まだ八歳。その
子が両手を大きく広げますから、お父様は抱かないわけにはいきません
でした。亀山では幼い子こうすれば赤の他人だって抱き上げます。
 当然、私が握っていたお父様の手は解き放たれます。今からはずっと
ずっと握り続けていて欲しかった手なのに……
 「おう、健児はいつの間にか重くなったなあ。ママのおっぱい沢山飲
んでるな」
 頭より高く『たかいたかい』をしてもらった健児はご機嫌なお父様に
ご機嫌な笑顔を作って答えます。
 その健児が地面に下ろされてまず言ったことは私の肺腑をえぐる言葉
でした。
 「ねえ、お姉ちゃま、今日は、お仕置きなの?」
 こう問われてお父様は少し苦笑い。それをフォローしてママが…
 「違いますよ」
 「でも、お姉ちゃまは今日が13歳最後の日でしょう。みんな言って
るよ。女の子は14歳の誕生日前にとびっきり厳しいお仕置きをされる
って……」
 「そんなことはありません。それは過去に色々と大人の人達に迷惑を
かけた子だけが赤ちゃん時代の清算としてやられるの。お姉ちゃまは、
これまでずっとよい子だったから、きっとそんなことにはならないわ」
 「ほんと?」
 「本当よ」
 「だって、クラスの女の子たちが、13歳最後の日は地獄なんだって」
 「そんなことはありません。今日はご近所のおじさまたちと赤ちゃん
時代の思い出話をするだけよ。さあ、いいから、お家に帰って宿題すま
せちゃいなさい。今日はママ忙しいからピアノの練習とお習字は青山の
おばさまが代わりに面倒見てくださることになってるの。いつも以上に
ちゃんと良い子にしてるのよ。怠けたらすぐ分かりますからね」
 「ネンネも青山のおばさまとなの?」
 「いいえ、あなたのネンネまでには帰るわ。それまでに決められた事
をやっておかないと、あとが怖いわよ。いいわね」
 「は~~い」
 ママは最近知恵がついてさぼり気味になってる健児に釘を差すと追い
払ってくれました。でも、それで私の苦境が改善されるわけでもなく、
それからも私は屠殺場へ向かう牛のようにお父様に手を引かれてクリス
タルパレスへの長い坂道をとぼとぼと歩いて行ったのでした。
 こんな日はもう目的地に着くまでは誰とも会いたくないのですが……
やはり狭い街のこと、そうもいきません。
 坂道のちょうど中間点あたり、少し開けて亀山の町並みがよく見える
場所でその人は街の風景をスケッチしていました。
 「小西先生、こんにちわ」
 私は、内心はともかく笑顔でこちらから挨拶します。それは亀山では
子供の義務でした。大人たちが子供にせがまれれば何をさておいても抱
かなければならないように、子供たちもまた笑顔の挨拶が義務。もし、
挨拶してもふてくされた顔や嫌々ながらの顔なら、もうそれだけで大人
たちはお仕置きの準備だったのです。
 そのあたりは厳格に守られていた習慣でしたから、もう条件反射の様
にして笑顔とおじぎがセットになってやってしまいます。
 「おや、恵子ちゃん。もう来たの?……私も、もうそろそろパレスに
行こうとしていたところなんだ。そうだ、よかったら記念に私に13歳
最後の日をスケッチさせてくれないか」
 一旦片づけ始めていた小西先生がふたたびスケッチブックを再び取り
出します。
 「そりゃあ、いい。写真もいいけど、絵というのはそれとはまた違っ
た趣がありますからね。恵子。小西先生に描いてもらいなさい」
 話は決まりました。急遽、私はそばにあった桜の木にしだれ掛かって
小西先生のモデルを務めることになったのでした。
 小西先生は天野のお父様と同じ立場の方ですから本来なら『おじさま』
とお呼びするところですが、私は小西先生に絵を習っていましたから、
あえて小西先生だったのです。
 「おう、画伯。今日はスケッチ旅行かい」
 富田のおじさまが声をかけます。
 「モデルは天野先生のご令嬢、恵子姫か。どれどれ……」
 おじさまはスケッチブックを覗き込みます。
 「おう、こりゃあ美人だ。二三年経つと、きっとこうなるという顔だ」
 そう、小西先生は今の私の顔から想像してハイティーンになった頃の
私を描いてくださったのでした。
 ほんの十分ほどの間でしたが、次から次にギャラリーが増えていき、
桜の木の周りはたちまち黒山の人だかり。みんなクリスタルパレスに私
を見に行くお父様たちばかりでした。
 「ほら、見てごらん」
 丁寧にデッサンされた絵の中の私は小西先生の中で理想化されていて、
まるで別人のようですが、悪い気持ちはしませんでした。
 いよいよ私たちは、亀山の街中から少し離れた小高い尾根の上に建つ
四階建ての大きな建物へと入って行きます。クリスタルパレスは地下と
一二階がパブリックスペース、三四階が女王様のプライベートスペース
です。特に一階には百畳ほどの展示スペースや五十席ほどの映写室なん
かがあって、まるで博物館か市民ホールのようになっています。
 今、その展示スペースで一週間前から開かれているのが、私の回顧展。
『回顧展』だなんていうとまるでお亡くなりなった有名人みたいですが、
私も今日で赤ちゃんという現役を退きますからそういう意味で同じかも
しれません。
 もちろんこれは私だけじゃありません。亀山の子が十三歳を終える時
には誰にでも企画される催しだったのです。
 物語(写真)は、おばば様にうだかれてお父様の門を叩いた時から始
まっています。おばば様が差し出す乳飲み子を受け取った瞬間のお父様
とお母様の喜びの表情がそこにありました。
 「へえ~」
 こんな写真が撮られていたなんて私自信初めて知ったのでした。写真
だけじゃありません。ガラスケースに恭しく収まって哺乳瓶やガラガラ、
起きあがりこぼしや産着、オムツまでもが麗々しくも飾られています。
 ハイハイの瞬間も、タッチの瞬間も、もちろん、あります。
 少し大きくなった頃には、教壇に立つママにおんぶされてる写真も…
世間じゃあり得ないでしょうが、ここではこれも常識なんです。
 赤ん坊は三歳までは母親が抱いて育てる決まりになっていましたから。
 おかげでミルク、オムツ、ぐずりと何があっても授業は中断しました
が、私たちはそれが当たり前の事だと思っていました。
 やがて幼稚園ともなると、私の作品が登場します。稚拙なお絵かきや
人生初めて作ったお人形。手足をただ動かしてるだけのバレイなんかも
ちゃんと写真になって残っていました。
 お父様やお母様はもちろん、ママやおじさまたちも懐かしそうに眺め
ていますが、当の本人はまだ自分を回顧するには早すぎてただ気恥ずか
しいだけでした。
 そうそう、会場内に流れていたBGMも私のピアノでした。ちょうど
オープンリールの録音機が出たばかりの頃で、新しものが大好きな本宮
のおじさまが気を利かせて盛り上げてくださったのでしょうが、それは
とある発表会でとちってメロメロになった時のものでしたから…
 『よりによってどうしてこんなの流すのよ。消してよ。お願いだから
消して!』
 私の心臓は締め付けられるばかりです。そこへ張本人が現れて……
 「恵子ちゃん、おめでとう。ちょっと見ないうちに随分大人になった」
 「こんにちわ、」私とすればおじさまの胸にすぐにでも飛び込まなけれ
ばならないのはわかっていたのですが……
 「おや、ご機嫌ななめみたいだね」
 「そんなこと……」
 私は否定しましたが、まだ心の中を隠すまでの笑顔を作る事までには
至っていまませんでした。
 「ほら、おじさまに抱いてもらわないと……」
 ママが背中を押しますが、足取りは重くて…私自身は感じていません
が、どうやらその時、私はおじさまを睨みつけていたみたいでした。
 「どうしたの。今聞こえてる曲、覚えるだろう?先日の発表会で君が
弾いてたのを会場で録音して流しているんだよ」
 『だから嫌なの!こんな失敗した演奏なんか流してどういうつもりよ。
おじさまは私に意地悪する為に来たの!恥をかかせるために来たの!』
 私は喉元まで出掛かった言葉をやっと押さえていました。
 「でも、失敗しちゃって……」
 これだけ言うのが精一杯でした。
 でも問題はこれだけではありませんでした。というより、今日の宴席
ではこんなのはほんの序の口、軽い挨拶代わり。問題はこれからだった
のです。
 「さあ、映画が始まるわ」
 「映画?」
 「そうよ。あなたの成長の記録を山崎のおじさまが編集してくださっ
てるのよ」
 「それって、ひょっとして……(図書館の……)」
 私は怖くてその先が口にできませんでした。
 「さあ、行きますよ」
 ママは私の背中を押します。目の前には映写室。ドアがすでに開け放
たれているのですが中は真っ暗でした。ただその大部屋の先がほんのり
明るく光っていてすでに映写会は始まっているようでした。
 「恵子ちゃんは木登りが得意でした。すでに幼稚園児にしてこの高さ」
 当時の動画はまだ8ミリフィルムの時代。それが16ミリと32ミリ
で撮られたフィルムを2台の映写機を使って上映しているのです。特に
32ミリは劇場映画と同じものですから今にして思えばお金持ちにしか
できない贅沢な趣味でした。
 「先生方が心配して見上げるさなか手を振っています」
 32ミリでは山崎のおじさまが下手なナレーターまで務めています。
 「ほらあ~~~見てえ~~~」
 当時幼稚園の裏庭にあった柿の木を一番上まで征服した幼い日の私の
声が聞こえます。
 でも、この後……
 「おっ~~~」
 場内にどよめきが起きます。実は枝が折れて私は落下するのです。
 それをキャッチしてくださったのは原口のおじさまでした。
 丸いお顔でいつも笑っておいででした。この時も抱き上げられた時に
おじさまが笑っていたのを覚えています。
 「失礼します」
 私は劇場内でお父様を見つけてその隣に座ろうとします。でも……
 「おいで」
 お父様は私が隣に座る事を許してくださいません。
 「はい」
 そう言うしかありません。そう言ってお父様のお膝に乗るしかありま
せんでした。
 「今日は、私のお膝の上にお前を乗せて一緒に見ていたいんだ」
 「えっ、……」私に小さな緊張感が走りました。もちろん私は天野の
お父様の子供ですから、言われたらどんな命令にも従わなければなりま
せん。ただ、ここしばらくは「もう、重くなった」からとお膝の上は免
除されていたのでした。それが久しぶりに……
 「でも、重たくありませんか?」
 「大丈夫だよ。歳は取ってもそのくらいのことで音を上げたりしない
から……」
 実は、私が大人に近づいてお父様を異性を意識を意識し始めている事
に気が付いておいでだったのです。お父様たちは紳士ですから娘に無理
強いはなさいません。それは、お仕置きを見学すると言うのとは違った
心持ちでした。
 今はそんなお父様の気持が理解できますがその瞬間は不思議だったの
です。
 私はそろりと膝の上へ…でも、お父様はそんな私をしっかり抱きしめ
て息もできないようにしてしまいます。そう、ちょうど今スクリーンに
映っている時代に寝床で起こった出来事のように……
 幼稚園、小学校を通して私…いえ亀山で暮らす子供たち全てがお父様
の前では全裸で添い寝しなければなりませんでした。寝室で一糸纏わぬ
姿になってお父様の胸にうだかれます。
 巷の常識では奇異に聞こえるかもしれませんが、ここでは当たり前過
ぎるくらいの常識で、私も幼い時は恥ずかしいも何もありませんでした。
お父様はもう年配ですから体臭もしますし肌も皺々です。けれどタオル
ケットやバスタオルにくるまれて抱かれるとそれはそれで幸せな気分に
なります。
 特に天野のお父様は物語を作るのが上手で妖精の話や天国の事、外国
の子供たちの話やご自分が育てた本当の子供たちの事なんかもよく話て
くださいました。
 いえ五年生まではそれで何ともなかったんです。でも、六年生も半ば
を過ぎる頃からベッドの中に裸でいると心の中に妙な気持が湧くように
なったのです。
 とはいえ巷の子のように性に関する知識をまったく持っていなかった
私はそれが何なのかまったく分っていませんでした。それを察したので
しょう。ある日、お父様は私にパジャマを着けるように命じましたが、
私の方でそれを拒否します。他の子がみんな裸で寝ているのに自分だけ
ずるしているようで嫌だったからでした。
 そうはいっても子供は赤ん坊の方へは戻れません。昔はしがみついて
寝ていたお父様との関係もこの一年ほどはただ横で寝ているだけになっ
ていたのです。それが、今日は強烈に抱きしめられて……
 でも、あらがう気持はありません。たとえおじいさんでも、男の人の
大きな胸に強い力で締め上げられると不思議と心が落ち着きます。
 そして、画面はそうやって落ち着いて見なければ、心がどっかへ飛ん
で行ってしまいそうなものになっていたのでした。
 「あなたはお父様がいなければここでは暮らせないのよ。………この
ブラウスもスカートも靴下もすべてお父様の物なの。あなたの物はここ
には何一つないわ。見てご覧なさい。あなた何か持ってるかしら?……」
 先生に促されるまでもありません。先ほど身ぐるみ剥がされて、今は
素っ裸なんですから。
 幼い私は泣いていました。お友だちがみんな恐る恐る私の前を通り過
ぎる姿がスクリーンに映し出されています。
 もちろんこれは私だけに課せられる特殊な罰ではありませんでした。
亀山で暮らす子供たちなら男女に関わらず年に一度や二度必ずやられる
お仕置きだったのです。
 「私は悪い子でした。これからはお父様のお言いつけを守ってよい子
で暮らしますからどうかこれまで通りここへ置いてください」
 最後は必ずこの言葉を乙女の祈りのポーズで誓わなければなりません。
 このように上映されるフィルムは必ずしも名誉な事ばかりとは限りま
せん。正視に耐えないようなお仕置きだって、私の歴史だったのです。
 「恥ずかしかったかい?」お父様が私を包んでいてくれたことが救い
でした。そして、その大きな胸の中に向かってこうおっしゃったのです。
 「恵子は女の子だからできたら一度も恥はかきたくないだろうけど、
恥をかいた事のない子は弱い。幼い頃にどんなにたくさん愛されていて
も、愛される人の前で恥をかいた事のない子は幸せにはなれないんだよ」
 「えっ?ホント?」
 「本当だよ。女の子の心の強さは猫可愛がりだけじゃ育たないからね。
男の子が仕事を成し遂げて自信をつけていくように女の子は愛される人
の前で恥をかくことで自信をつけるんだ」
 「?????」私はその時のお父様の言葉がまったく理解できません
でしたが、社会に出た今はその言葉が理解できます。女の子というのは
本来コンプレックスの塊のようなものですから男の子のように成功体験
を積むだけでは自信に繋がりません。
 いくらうまくいっていても『次はうまくいくかしら』『失敗したらどう
しよう』なんて余計なことばかり考えちゃうのです。ところが愛される
人の前で裸になるというか恥をかくと、そこから先、失うものがなくな
ったせいでしょうか、不思議と『これできっとうまくいく。幸せになれ
る』と信じられるようになるのです。
 ま、今時のキャリアウーマンや殿方には分からない理屈でしょうが、
私の人生経験ではそうでした。そしてこれは亀山の教育哲学みたいなも
のでもありますから、女の子たちはあちこちで大人たちから問答無用の
恥をかかされるはめになるのでした。

§2

§2

 フィルムは代わって私のピアノの発表会の様子が映し出されます。
 舞台でピアノを弾いている時の様子はもちろん楽屋の様子や自宅での
練習風景なんかも撮られていました。
 思い返せば確かに、そうした日常の細々した様子をおじさまから「写
真とらせてね」と言われてカメラを廻されていたのを思い出しました。
とはいえ…
 『あれ、あの時フィルム回ってたんだ』
 なんてのがたくさんありました。というのも、こうして写したプライ
ベートフィルムを子供たちが見る機会というのがほとんどありませんで
したから。
 フィルムは私の心の中しまい込んでいた思い出を次々とスクリーンに
映し出します。
 運動会や学芸会なんかは街のカメラ屋さんが撮ってくれたものですか
ら亀山の公式記録です。ですからこれは家族で見ていた記憶があります。
でも、ここで上映されているものの中には私が気づかないまま隠し撮り
されたものがいくつも混じっていました。
 学校の休み時間にやってしまったお友だちとの取っ組みあいの喧嘩の
様子やすっぽんぽんではしゃいだ川遊び。学校や公園に設置された枷に
捕まってべそをかいている様子や更衣室での着替え、水着に着替えるの
で全部脱いじゃったところを撮られたのもありました。角度が悪くて、
割れ目までばっちり撮られちゃってます。
 「どうした?恥ずかしいのか?」
 「うん」
 力無く頷くとお父様はさらに強く抱いてくださいました。そして、今
動かせるのはお目々だけという状態にしておいてなお…
 「恥ずかしくても見なきゃだめだよ」
 と言われたのでした。でも、まあこれくらいならまだいいのですが…
特に厳しいお仕置きの様子を写したものが現れると……
 『いったい、いつ撮ったのよ!誰がいいって言ったの!私は認めてな
いわよ!』
 って叫びたくなるものばかりでした。
 でもこれ、お父様やおじさまたちがこっそり撮っていたのではありま
せん。亀山では子供の記録は最大限残しておかなければならない規則で
した。とりわけお仕置きの様子は虐待を防ぐ意味からも事の顛末を全て
残す決まりになっていたのです。
 当然、私の大事な処もどアップで晒しものになります。
 「ほら、目を背けちゃだめだ」
 お父様に顔をスクリーンに向けさせられますが、すでに身体はサウナ
に入っているようにかっかかっかと火照っていますし心臓はバクバクで
す。もう、この場からすぐにでも逃げ出したい気分でした。
 「逃げちゃだめだ。自分のことなんだからね。ちゃんと見ないなら、
高橋先生お頼みしてあとでお仕置きしてもらうよ。それでもいいのかい」
 お父様はいつになく強硬だったのです。
 「今日は恥ずかしいことを全部やって、明日少女になるんだ。いいね」
 「はい」
 「もし、今これを見ないと、今日はお家に帰ってからでも見せるよ。
いいね」
 「はい、おとうさま」
 「よし、それでこそ私の赤ちゃんだ」お父様は右手の人差し指で私の
頬をちょんちょんと軽く叩きます。そして、「大丈夫、亀山の子はみんな
こうして大人になっていくんだから。恥をかくことは愛されない人の前
でなら虐待だが、愛される人がやれば一番効果的な励ましになるんだよ」
 「励まし?」
 『どうしてこんな事が励ましになるんだろう?』その時は素直にそう
思いました。
 「女の子にとって大事なことは何をされたかじゃなくて誰にされたか
なんだ」
 「どういうこと?」
 「頭を撫でられてもお尻をぶたれても好きな人ならそれで良いってこ
とさ」
 「私そんなことないわよ。好きな人だってお尻をぶたれたらやっぱり
痛いもの」
 「(ははははは)」お父様はひとしきりお笑いになったあと、「お前も、
大人になればわかる。ここは街全体が大きな大きなお風呂場みたいな処
だから、子供たちがどこで裸になっても傷つくことがないんだ」
 「えっ、傷つくよ。だって恥ずかしいもん」
 「(はははは)そりゃあしょうがないじゃないか。お仕置きなんだから
……でも、誰かを憎んだりはしないだろう?」
 「そりゃあ、仕方がないから……」
 「そうか仕方がないか。でも、仕方がないから公立の施設へ移るって
事でもいいじゃないか?もう一度裸になって裏門まで駆け足すれば良い
んだから……」
 「(んんんん)」私は激しく首を振ります。そして再びスクリーンの方
を向くと独り言のように「お父様は意地悪なんだから………だいたい、
おかしいわよ。そんな大きなお風呂なんて……お湯もないのに?」
 当時の私には亀山を去るという決断はありえませんでした。ですから
お父様の突飛おしもない比喩の方を笑います。でも、それもあながち嘘
ではないのかもしれません。とにかくここに住むことができる住人は、
子供が何より好きな善人だけ。女王様のお眼鏡にかなった人だけでした。
 ここで暮らしていると、世間では我が儘と非難されることもたいてい
通ってしまいます。ここの子供たちは、「だっこ」「おんぶ」「お菓子」こ
んな事を街を歩いている見ず知らずの大人にぶつけます。
 それがまた現実に通りますから、大人を見れば誰彼構わず抱きつくよ
うになるのです。それでたいていの悩みは解消するんですから、確かに
子供たちにとっては楽園なのかもしれません。
 でも、この楽園では勝手に大人になることはできませんでした。普通、
世間の親は子供が自立し始めると喜ぶものですが、ここではそれは喜ば
れませんでした。むしろ赤ちゃんのままで甘えて暮らす子の方がよい子
なのです。
 胸が膨らみ、お尻が大きくなって初潮が始まっても、とにかく13歳
迄は赤ちゃんのままでいなければなりませんでした。
 『赤ちゃんなんだから羞恥心なんてない。だから裸にしても構わない』
 こんな乱暴な論理が当然のようにまかり通ってしまう世界でもあった
のでした。
 私もここの住民です。しかもその時は赤ちゃんです。ですから、自立
なんてしてません。『もし、お父様の愛を失ったら……』『もし、ここを
追放されたら……』そんなことは想像しただけでも身の毛のよだつこと
だったのです。
 亀山の子供たちは大人に甘えます。我が儘も言います。けれど、馬鹿
ではありませんからその源泉がどこにあるかはちゃんと知っていました。
先生になんか教わらなくても、お父様のこのお膝が、亀山で最も安全な
場所、楽しくて幸せな住処だと知っていたのでした。
 だから、昼間、先生からお馬の上で脳天まで響くような鞭を受けても、
お父様のお膝でぐちゃぐちゃのうんちをオムツにして自己嫌悪になって
も、おばば様から錐で揉み込まれるような強烈な熱さをこれ以上ないよ
うな恥ずかしい格好で受けたとしても、夜になれば必ずお父様と一緒に
お布団の中でよしよししてもらえる事が私の…いえ、恐らく女の子全員
の幸せの原点だったのです。
 お父様は…
 「自分はもう年寄りだから…もっと若いお父様の方がよかっただろう」
 なんて時々おっしゃいますがそんな事を言われると悲しくなります。
ママと同様お父様だって物心つく前からずっとやさしいお父様なんです。
 だからこそ、ママからのお仕置きの最中もお父様から「ぐずぐす言っ
てないでパンツを脱ぎなさい」って命じられれば5秒と掛からず脱いで
しまいますし、自分がお仕置きされてるフィルムなんて、本当は見たく
ありませんが、お父様がこうして抱いてくださっているから見ていられ
るのでした。
 というわけで、私は自分のお仕置きのシーンではお父様の胸の中で消
え入りそうに小さく身を縮めて見ていました。
 終わるといつものようにお父様は私の頭を優しく撫でてくださいます。
世間的な常識からするともうすぐ14歳になろうとしている娘と接する
にしては幼稚なように見えるかもしれませんが、亀山ではこれが常識で
した。
 映画が終わりお父様は私の顔をご自分の胸の中へしまわれます。
 「よしよし、…ん?、ちょっと恥ずかしかったか?」
 「ううん、ちょっとじゃない」
 私はお父様の胸の中で小さく首を振ります。
 「ま、そう言うな、人生にはこんな日もあるさ。……だけど今日一日
だけは我慢しないとな………でも、やり遂げさえすれば明日からは少女
になれる。少女になれば楽しいことだって沢山あるぞ」
 「どんなこと?」
 「自分で服を選べるし自分の部屋も持てる。自分で勉強時間を決めて
習い事も減らせる。」
 「お仕置きも減るんでしょう」
 「それは恵子次第だ。ただ、人前で裸になることだけはなくなるよ。
そんなに大きな身体の子が町中で裸じゃ、そこを通る人が目のやり場に
困るからね」
 「ふ~ん、私は平気だけどね」
 「おう、本当かい。だったら女王様に家の恵子には赤ちゃんお仕置き
を残しますって言ってあげようか」
 「えっ、嘘、そんなの絶対ダメよ。本当は今でも裸になると死ぬほど
恥ずかしいんだから……」
 「…………」
 「何だ、やっぱり14歳になるのが嬉しいのか。ざんねんだなあ~。
私はお前が15でも20でも赤ちゃんのままこのお膝にこうしていてく
れた方がいいんだがなあ。私は恵子ちゃんが『二十歳のおしめ様』でも
ちっとも構わないんだよ」
 お父様はその大きな右手で私の両頬を鷲づかみにします。でも、それ
ってお父様のご機嫌が良い時にやる仕草でした。
 「いやだあ」
 「そうか、嫌かあ」お父様はまるで本物の赤ん坊でもあやすように私
のおでことご自分のおでこをごっんこさせて笑います。
 「大丈夫、14歳ともなればもうレディーになる訓練を受けなければ
ならないからね、そういつまでも赤ちゃんのようなお仕置きはできない
よ。ただ、今日までは13歳だからね。私だけじゃなくおじさまたちに
も色々お世話になりました。これからもよろしくお願いしますというご
挨拶をしなきゃいけないよ」
 お父様がそう言った時でした。女王様が自ら声を掛けられます。
 「そろそろお時間ですので参りましょうか」
 その言葉に呼応して私たち親子は腰を上げます。
 最初に向かったのは近くに設けられた楽屋。ここで生まれて初めての
メイクをして、髪をセット。レースのたくさん付いた白いワンピースに
着替えると気分はまるで花嫁さん。ウエディングドレスのような衣装の
ままお父様と目があった私はついいつもの癖でお姫様抱っこをねだった
んですが……
 「やっぱり、無理だよ」
 幼い頃と違って私もそれに重くなっていましたからすぐに床へと下ろ
されてしまいます。
 「これでいいだろう」
 お父様は私の身が腕に左腕を絡めます。
 「うん」
 結局、お父様に腕だけは組んでもらって二階の小ホールへと向かった
のでした。そして、中央の扉がファンファーレと共に開きます。
 今日はこれからがいよいよ本番でした。
 赤い絨毯の上を祭壇に向かいお父様に手を取られて歩くなんてまるで
結婚式みたいです。私は純白の衣装ですし祭壇脇には司祭様もおいでに
なりますから間違えそうです。もっとも、そこには旦那様はいません。
代わりに出迎えてくださったのは、赤い玉座に腰を下ろされた女王様。
それとその周囲を固めた八人のおじさまたち。この方たちは、お父様に
万一何かあった時には協力して私を支えてくれる後見人の方々でしたが、
私の方から見ると普段私の為に何かとプレゼントをくださる方々でした。
 総勢十一人の大人たちの視線が私に集まるなかこの日は黄色いドレス
姿の女王様の足下に跪きます。そのすぐ後ろでお父様も跪いています。
 「本日はお招きいただきましてありがとうございます」
 私は胸の前で両手を組むと型どおりのご挨拶をします。
 いくら情報管理にうるさい亀山でもこれから何が起こるかは知ってい
ます。でも、そんなことは関係なく女王様に礼はつくさなければなりま
せんでした。
 「よく来ましたね。今日の朝の検診では健康状態は良好とのことです
が、あなた自身、体調はいいですか?」
 「はい、女王様」
 「今日あなたを呼んだのは他でもありません。今日があなたにとって
最後の13歳。明日は14歳になるからです。どういう事か、おわかり
ですか?」
 「はい、承知しています」
 「亀山ではどの子にも13歳までは『赤ちゃん』という身分しか与え
ません。どんなに知恵がついてもどんなに身体が大人に近づいても大人
の命令には絶対服従。どんな些細な命令違反でもお仕置きだったはずよ」
 「…………」私は心の中で頷きました。
 「お勉強をさぼればお尻を叩かれますし、口答えや生意気な言動には
お浣腸で体を内側からきれいにしなければなりません。聞き分けのない
子にはお灸というのもあります。みんなの前で素っ裸にされた事だって
一回や二回じゃないはずよ。……『これはあなたの物ではなく、あなた
のお父様の物です』なんて意地悪なことを言われて身ぐるみ剥がされた
でしょう」
 「はい」
 「だからあなたは思ったはずよ。『なんて自分は不幸なんだろう』って
『本当の母親ならこんなことはしないはずだ』って……」
 「はい、…あ、いえ」
 私は『はい』と言っておいて慌てて自分の言葉を取り消します。
 「ん?そうは思わなかった?」女王様は笑います。「……そんなことは
ないはずよ。だってそうでなきゃ、三回も脱走を企てないでしょう」
 「…………」
 「気にしなくていいわ、他人がどんなに優しくしたところでまだ見ぬ
肉親を想う気持をそう簡単に払いのける事なんてできないもの。だから、
ここでは普通の親子なら三年間ぐらいしかない赤ちゃんの時期を十年も
先延ばしにしたの。そしてその間は普通の赤ちゃんと同じように事ある
ごとに抱いてもらうようにしたの。あなたは、今こんなに身体が大きく
なってるけど、やっぱり大人の人たちから抱いてもらえるでしょう?」
 「はい」
 「それは、あなたの身分が赤ちゃんだからなの。赤ちゃんの外側には
大人たちの愛しかないの。邪悪なものや穢れたものは一切ないから裸で
いられるの。そうは言っても普通の家庭ならそれは親の腕の中だけ家庭
の中だけのお話だけど、ここではそれを街ごと全部にしてしまったの。
亀山は、この山全体が愛のドームで被われているから、街の中でも裸で
いられるのよ。こんな場所は世界中探してもここだけだわ」
 「…………」
 女王様はぽかんとして聞いている私に向かってさらに穏やかな調子で
諭します。
 「あなたもやがて外の世界の現実を知って感じるでしょうけど、ここ
は孤児たちの奇蹟の楽園なの。……それを作って下さったのがあなたの
お父様やおじさまたち。だから、幼いあなたはお父様やおじさまたちの
知性や理性にすがって絶対服従でいることの方が何より幸せの道なの。
そのためには自立するより赤ちゃんの身分のままの方がより多くの愛を
受け入れやすいでしょう」
 「女王様が考えたんですか?」
 「私?私じゃなくて私のお婆さまがそうお決めになったの。おかげで
数々の成功者を生み出して、その人たちがさらに亀山の為に働いてくれ
るから、着るもの、食べるもの、色んな施設もこんなに充実させること
ができたの。だから世間で訳の分からない連中が『体罰反対』だの『心
に傷がつく』だのと言っても相手にしないの。あなたもやがて分かる時
がくるわ。お仕置きされる子は愛されてる子だってことが……」
 「私は愛されてるんですか?」
 「もちろんよ。ちょっとお転婆さんだけど利発で清楚で素直、みんな
あなたが大好きよ。私も司祭様も先生方もそうだけど賄いのおばちゃん
や植木屋のおじさんたちも…ここに住む人であなたを愛さない人なんて
誰一人いないわ」
 「どうしてそんなことわかるんですか?」
 「一人一人子供を愛せる人だけを私が選んだからよ。ここではあなた
たちを抱くこと愛することがそもそも仕事の条件なの。だから、あなた
たちに無関係な人というのは一人もいないわ」
 「愛のお布団ってことですか?」
 「そうよ、よく知ってるわね。誰から聞いたの?亀山の赤ちゃんたち
はね、めくってもめくっても愛のお布団を出ることはないの」
 「どういうことですか?」
 「『ママが嫌い!』ってママの愛を抜け出してみてもそこにはお父様と
お母様の愛があるわ。今度は『お父様が嫌い!』って叫んでも、お父様
とお母様の愛のお外にはおじさまたちや先生たちの愛が待ってる。……
さらにその外側には司祭様や私があなたを守ってる。それだけじゃない
わよ。私たちの外側にはさらにマリア様があなたがどこに行こうと守っ
てくださるの」
 「…………」私は思わずため息。正直うざったい気分でした。
 「今のあなたはあまりに大きな愛の中にどっぷりと浸かっているから
自分の置かれた幸せが分からないでしょうけど、社会に出てみれば自分
がいかに凄い処いたかわかります。お婆さまがここを始めた頃は明日の
お米にさえ困っていたけれど、お父様たちだけでなく、社会に出て成功
したOB、OGの方々が何かにつけて協力してくださるので、着るもの
食べるものに不自由しないばかりか、学校や公園の改修もその方たちの
多額の寄付でまかなわれたからほとんど費用がかからなかったわ。もし
お仕置きをされて惨めな思いをしたとお思いならそんな処へ寄付なんて
なさらないはずでしょう。あなたも亀山の子としてお兄様やお姉様たち
と同じ道を歩みなさい。決して不幸にはならないわ。……さあ、ここに
いらっしゃい」
 女王様が両手を広げます。こうすれば子供たちは無条件でその手の中
へ飛び込まなければなりませんでした。これは女王様だからではありま
せん。大人なら賄いのおばちゃんであろうが植木職人のおじちゃんでも
事情は同じでした。ここで暮らす子供たちにとって『大人に抱かれる』
というのは権利というより義務だったのです。
 私は義務を履行します。
 すると不思議なもので、嫌々でもお膝に乗っかり抱かれてしまうと、
まんざらでもない気持がするのです。13歳になった今でもそうなんで
すから困ったものでした。
 「これからあなたは小学四年生から今日まで赤ちゃん時代に犯した罪
の清算をしなければなりません」
 「清算?」
 「そうよ。お仕置きが重なったり生理の日だからという理由でその時
は許してもらった罪があるでしょう。その清算を今日するの」
 「……」私は瞬時に身を固くします。でも、今さら逃げられるわけが
ありませんでした。

§3

§3

 震える私に女王様は耳元で囁きます。
 「あなたが『そんなの嫌だ』って言うのなら無理強いはできないけど」
 「もし、嫌だって言ったらどうなるんですか?」
 私は心細く訪ねてみます。けれど、その答えを聞いたところで気が変
わるはずもありませんでした。
 「どうにもならないわよ。お父様からお借していた服をお返しして、
素っ裸で山を下ればいいだけのことだもの」
 「(やっぱり裸になるんだ)」私は思いました。
 「裏門を出たところで公立の孤児院から職員の人がお迎えに来てくれ
ているから、その人についていけばいいの。やってみる?昔はそんな子
もいたのよ」
 「………………」
 私は激しく頭を振って女王様の胸の中へ顔を埋めていきます。13歳
の子が幼児と同じような甘え方をするんですから、巷の人たちが見れば
きっと滑稽に映るかもしれません。でも、亀山ではごく自然なこと。…
…そして「これからお仕置きになるけどいいわね」と大人たちに言われ
て……
 「はい、お願いします」
 とつい言ってしまうのも亀山の子としてはごく自然な習性でした。
 「賢明な判断よ。大昔にはお仕置きがいやで公立の孤児院へ移った子
もいたにはいたけど、最終的にはほとんどの子戻ってきたもの。何事も
経験を積むのは大事だけど何も好んで遠回りすることもないわ」
 「どんなお仕置きを受ければいいんですか?」
 「どんなって、全部よ。お尻叩きもお浣腸もお灸も……まずはここに
おみえのおじさま方のお膝でスパンキングのお仕置きをいただくの……
大丈夫、平手で10回くらいだから大したことないわ」
 女王様は穏やかな顔でおっしゃいますが、一人10回ってことは……
おじさまは八人だから80回です。「いくら平手でもそれは…」という数
でした。
 そんな不安げな顔を察したのでしょう。女王様は付け加えます。
 「そんなに耐えられない?大丈夫、一人一人の間にコーナータイムが
あるからしっかり歯を食いしばっていれば泣き叫ぶほどではないわ」
 「でも、八十回もあるんでしょう?」
 「んんん」女王様は首を振ります。「お父様も私も司祭様も加わるから
全部で百十回よ」
 「…………」
 私はそれを聞いただけで気が遠くなりそうでした。だってママのお仕
置きの中にお尻百叩きというのがあるのですが、ママの厳しい平手の下
ではどんな大きな子もドアの中だけに悲鳴を隠すことができませんでし
た。
 「不安そうね。でも、あなただってこれまで色んなお仕置きをいただ
いてきたでしょう。もう慣れっこじゃないかしら?」
 「そんなこと……」
 私は不安を顔に出します。確かに亀山で育てばお尻叩きをされたこと
のない子なんていません。それも10回や20回とかじゃなく桁が一つ
二つ違うくらいの回数です。場を踏んでいるといえばそうですが、だか
らと言って慣れっこというのは違う気がしました。
 特に幼い日に受けたお仕置きの記憶はそれはそれは強烈で、さながら
天地がひっくり返って地獄に落とされたみたいでした。「殺される!!」
って叫びたいくらいの恐怖なんです。
 それがトラウマになっていますから、身体が大きくなっても恐怖心は
人一倍あります。恐らく幼い頃お尻叩きのお仕置きを受けていない子に
とっては「なんだ、この程度か」と思うような軽いお尻叩きでも私たち
亀山の子を怯えさせるには十分なのです。
 ですから、実際のお仕置きではそれを考慮して通常の罰ではそれほど
強くお尻を叩かれることがありませんでした。
 「仕方がないでしょう。小学校の四年生から今までの分、全部だもの。
それだけじゃないのよ。それが終わったらお浣腸やお灸だってあるわ。
いずれも普段あまりお見せできない処を今日は最後なんだし、しっかり
ご覧いただくの」
 「えっ、…………」
 そりゃあ頭の悪い私だってそれがどういう事かは分かります。
 「あっ、イヤ……」
 ですから、私は思わず女王様のお膝から逃げ出そうとしました。
 いえ、後先考えての事じゃありません。女のカンでとっさにヤバイと
感じたからでした。
 でも、女王様は巧みに私が膝の上から逃げ去るのを阻止します。その
あたりは普段から子供を抱き慣れているせいもあってうまいものでした。
 「はいはい、そんなに暴れないで頂戴。あなたがもしこのお膝から転
げ落ちたりしたら私はまた新たな折檻を考えなきゃならなくなるのよ。
あまり大人を困らせるものじゃないわ」
 「…………」
 私は急におとなしくなってしまいます。それはちらりとママの視線が
こちらへ届いたからでしすが、それだけではありません。女王様の言葉
にあった折檻という言葉が引っ掛かったのでした。『お仕置き』と『折檻』
国語的には同じ様な意味かもしれませんが、亀山では『折檻』というと
お仕置きにはない『情け容赦のない体罰』という意味が込められていま
した。
 女の先生にありがちなヒステリー症状による子供の被害や迷惑。これ
だったのです。
 「いいこと、何度も言うけどこれが赤ちゃん時代最後のお仕置きなの。
それなりに頑張って我慢しないと卒業できないわよ」
 「えっ、そんなあ~……もし、合格しなかったらどうなるの……」
 「どうにもならないわ。今まで通り、赤ちゃんのままよ。……たまに
いるのよ。ぐずぐず言って意気地のない子が……身体はもう立派な大人
なのに学校の中庭や公園で裸になってる子。あなたもそんな意気地なし
の仲間になりたいのかしら?」
 「そんなこと……」私は言葉を濁します。私に限ったことではありま
せんが女の子は他人から美しく見られたいし羨ましがられたいんです。
自分の汚い(きたない)ものやハンディキャップは最大限隠し通したい。
ですから、日頃から『恥をかきたくない。惨めな思いはしたくない』と
そればかり思っていて、男の子のように積極的にはなれない子が多いん
です。それを根底から否定するようなことなんて普通ならできるはずが
ありません。
 でも、お父様やおじさまには愛されたいし、女王様や司祭様にだって
嫌われたくありません。それに何より私は亀山の子供なんですから他の
子がやっているのに自分だけやらないというわけにはいきませんでした。
お友だちから仲間はずれにされたくはないのです。
 そんなこんなで私は女王様のお膝で迷っていましたが、結論というか
踏ん切りなんて簡単につくはずもありませんでした。
 でも結局は……
 「さあ、始めますよ」
 という女王様の一言で決まりです。そうなんです。
 私は亀山では赤ちゃんなんですからね、始めから結論は出ていました。
 『お父様には絶対服従』
 この鉄の掟の前には何を言っても無駄なんです。でも、女王様は私の
為に手や足を揉み揉み、頭を撫で撫で、お背中トントン、お尻よしよし、
ほっぺたを摺り摺りして私の心が落ち着くのをじっと待っていてくれた
のでした。
 私は女王様のお膝を降りると、最初のおじさま原口さんの足下へ跪き
ます。このおじさまが最初になったのは単に女王様の席から一番近い処
にいらっしゃったからでした。
 八人のおじさまたちは小さなテーブル付きの椅子に腰を下ろすと扇形
に広がって私と女王様の様子をご覧になっていました。ある方はタバコ
を燻(くゆ)らしながら、ある方はワインを飲みながら、本を読みなが
らとか、鼻歌を口ずさみながらという方もいらっしゃいました。
 どの方もゆめゆめ私が裸でこの場を駆け出して裏門へ走るなんてこと
は考えてらしゃいませんが、焦る様子もなくその時を待っておられます。
 この亀山に籍を置くお父様たちは何も私たちの泣き顔だけがお目当て
でこの地へ移住されたわけではありませんでした。笑った顔、困った顔、
甘えた顔、そのすべてを愛してくださっていたのです。
 ですから、私が女王様のお膝の上でお仕置きを受ける決断をするまで
だって、お父様たちにとっては大事なショーの一部だったのです。
 わなわなと震えながら……
 「原口のおじさま、どうか綺麗な身体で14歳をむかえられますよう
に……」私はここで少し詰まりましたが、すぐに勇気を奮い起こします。
「…お仕置きをお願いします」
 乙女の祈りのポーズのまま漏らしそうなほど緊張している私に女王様
が耳元で囁きます。
 「キツいお仕置きよ」
 「あ、キツいお仕置きを…」
 と、そこまで言ったところで今度は原口のおじさまが私の言葉を遮り
ます。
 「いいよ、どのみち僕はそんなにキツいお仕置きはできないから」
 原口のおじさまは男性としては小柄で小太りでした。顔もハンサムで
はありませんが、いつも柔和に笑っておいでで普段からよく抱かれてい
ました。
 前にも述べましたが、亀山の子供が大人に抱かれるのは義務のような
もので「この人は生理的に受け付けません」なんて理由で拒否する権利
はありませんから誰であろうと両手を広げられたらまるでお風呂に入る
時のようにその胸の中へ飛び込みます。
 私は原口のおじさまの胸の中で暫くよい子よい子された後、おじさま
が軽くひざを叩きますからそこへ俯せになります。
 もうあとはなされるまま我慢するだけでした。
 短いスカートが捲りあげられ、ショーツが無造作に下げられます。
 そんなこといつものことでした。ただ……
 「ぴしっ」「……?……」
 その衝撃にはいつもと違う感覚を覚えます。
 「ぴしっ」「……おっ…」
 痛みの質がそれまでとは違います。
 「ぴしっ」「……あっ…」
 これまで私のお尻を叩いていたのは大人でも女性でした。ですから、
どんなに痛いといってもそれは皮膚の表面をひりひりさせるような痛み
だったのです。
 「ぴしっ」「……ああああ」
 私はたった4発でもがいてしまいます。男性のスパンキングは、一発
一発に重みがあって身体が持ち上がるような衝撃なのです。そして痛み
は皮膚の表面というより身体の中からやって来ます。
 「ぴしっ」「わぁぁぁぁぁ」
 5発目、私は大きく体をよじっておじさまの膝から転げ落ちかけます。
でも、そんなこと周囲の大人たちが許すはずがありませんでした。この
時すでに女王様からは両手を押さえられ、ママからは両足をつかまれて
います。
 「(あっ、ママ)」
 もし、痛みに任せて両足でママの顔面を蹴り上げたら……そう思うと
痛みに耐えるしかありませんでした。
 「ぴしっ」「……ひぃやあ~」
 6発目、私は自分が惨めになるのを恐れて何とか我慢しようとしたの
ですが、その思いとは裏腹に悲鳴が部屋中に響きます。
 「ぴしっ」「いやあ~だめ~」
 7発目、原口のおじさまはそれほど強く叩いているわけではありませ
んが、手首のスナップがほんの少し利いただけで脳天に響くほどの痛み
でした。
 「おう、痛かったか。ごめんごめん」
 原口のおじさまは私の悲鳴があまりに大きかったので一度赤くなった
お尻をさすってくださいました。
 と、その時です。私の脳裏にある過去の記憶がよみがえります。
 それは7才の時のことでした。初めてのピアノの発表会で着たドレス
が見当たらないのでママに尋ねますとお父様が見知らぬ女の子にそれを
あげてしまったというのです。私はママの制止も振り切り、血相変えて
お父様の処へ行くと青筋立ててまくし立てました。
 「お父様は鬼よ。悪魔だわ。どうせ私なんか愛してないんでしょう。
悪魔なんてここにいないで地獄で暮らせばいいんだわ」
 なんてことまで言ってしまったみたいです。当人は興奮していて覚え
ていませんが、お父様が終始笑っていたのは覚えています。
 そして当初は「いや、あれはその子が欲しいって言うから……」とか
「ちょうどサイズもぴったりで似合ってたから」なんて言い訳がましい
ことばかり言っていましたが、そのうち「また、すぐに同じのを買って
あげるから」とまで言ってくれたのです。
 でも、私の怒りは収まらず、
 「あれがいいの。あれじゃなきゃだめなの」
 と床を踏み鳴らしてだだをこねます。
 結局10分位もお父様の目の前で金切り声を上げては大演説をぶった
みたいです。その間、心配したママが幾度となく止めに入りましたが、
私はききません。そしてそんなママを止めたのは、なぜかお父様でした。
 「いいから、ほっときなさい」
 こう言ってママに癇癪を起こさせなかったのです。
 とはいえ、10分後、私は疲れ、のどが枯れてしまいました。
 すると、そんな私の処へママが寄ってきて…
 「どうなの?もういいのかしら?おしまいでいいの?」
 と念を押しますから、それとなくうなづきますと、私の体が急に持ち
上がり、そして何か尋ねる間もなく私の身体はお父様のお膝の上にうつ
伏せになって横たえられたのでした。
 「・・?・・」
 やがて、私の頭の方へ回ったママの顔が大きくクローズアップして私
の目の前へ現れると、思いもかけないことを言うのです。
 「お父様、お仕置きをお願いしますって言いなさい」
 「えっ!………」
 私はこの期に及んで初めてことの重大性を知ったのでした。
 「………………」
 私が口ごもっていると…
 「さあ、言いなさい。でないとお庭に引き出してみんなの見てる前で
お仕置きしますよ。その方がいいの」
 ママの言い方は明らかに脅迫です。お庭に出てみんなの前で下半身を
さらけ出すなんて女の子にはとってもできないことなんです。ですから
答えは一つしか残っていないのですが、子供が自分の方からお仕置きを
お願いするなんてとても勇気の要ることだったのです。
 「………………」
 困っている私にお父様は助け舟を出してくださいます。
 「もう、いいでしょう先生。私も軽い気持ちであげちゃったんです。
この子がそれほど気に入っていたとは知らなかったものだから……」
 こう言ってもらったのですが、先生、いえママは納得しませんでした。
 「そうはまいりませんわ。お父様は鬼だの悪魔だの、ましてや地獄に
落ちろだなんて、たとえどのような事情があっても口に出して言っては
ならないことですから……そういうことにはけじめをつけませんと…」
 そう言っていきなり今度は私のショーツをあっさり足首のところまで
引き下ろしたのでした。
 「………………」
 7才の時ですから羞恥心といってもそれほど強いものではありません
が、その瞬間の映像が原口のおじさまのお膝の上でフラッシュバックし
たのでした。
 「『お願いします』は?」
 再び私の目の前に大きなママの顔が現れて脅迫します。
 「お父様、お願いします」
 意に沿わないことですが仕方ありませんでした。か細い声でつぶやく
とお父様は頭を撫でてくれました。
 お父様は自ら子供をお仕置きしたりなさいませんが、ママや司祭様の
ような人たちから頼まれた時だけは別で、この時もママの要請があった
ので私のお尻を叩きました。ただ、それは懲らしめのためにというより
付いた埃を払う程度の衝撃だったのを覚えています。
 ちなみにお父様が女の子にあげたというその服は、私が18才の時、
実の母親と再開した際に彼女の押入れで見つけることになります。実は
亀山ではお父様が里子の実母と接触する事は禁じられていました。勿論
物をあげたりする事もできませんから、私には知らない女の子にあげた
なんて苦しい言い訳をしていたのでした。
 お父様は誰に対しても優しい人だったのです。
 原口のおじさまは10回の約束を終えると私を膝の上に抱いて楽しそ
うでした。頭を撫でたり、頬ずりをしたり、両手の指を揉んだり、殿方
が私たちになさることはだいたい似通っています。そして、おじさまの
里子である克子さんがピアノが上手だと言って私をうらやましがってい
たとか、14才の誕生日には万年筆でいいかい、なんてことをおっしゃ
るのでした。
 原口のおじさまに限りませんが、私たちがおじさまと呼ぶ人たちは、
いずれも万が一お父様が私の面倒を看られなくなった時にその代わりを
務めてくださる方々で、普段は色んな記念日ごとにプレゼントをいただ
けるからその分だけ親密という関係でした。
 もともと私たちはこの亀山に暮らすすべての大人の人たちの愛を拒絶
できない立場にあります。だから、その人がどんな仕事をしているかは
関係ありません。大人が両手を広げる処へは必ず飛び込まなければなり
ませんし自分の方から誰彼かまわず抱きついて行っても「迷惑だ!」と
言って叱る人はいませんでした。
 特に幼いころは、どなたにせよ抱きつけば高い高いをしてもらったり
お菓子をもらったりできますから私も結構手当たり次第に抱きついた方
でした。原口のおじさまにも克子ちゃんのお家で籐椅子に座っておられ
たおじさまの首っ玉にしがみついていた記憶があります。その時は原口
のおじさまは家のお父様と兄弟なのかと思っていました。
 そんなおじさまは別れ際「14才になっても遊びにおいで」と言って
くださいました。もうその頃にはお尻の痛みも癒えていました。

§4

§4

 次は木村のおじさま。このお方は背も高くてなかなかハンサムです。
ですから、本当はお尻なんて出したくなかったのですが、ここではそん
なわがまま聞いてもらえません。
 やっぱり……
 「ぴしっ」「……おっ…」
 「ぴしっ」「……ひぃ…」
 「ぴしっ」「……あっあ、あ…」
 「ぴしっ」「……いやあ~~…」
 ってことになります。後はこれの繰り返しです。10回だけむき出し
のお尻を叩かれると、お膝に乗せられて昔話や将来何になりたいのかと
いったこと、「おっぱいが大きくなったね」なんてちょっぴりHなことを
言われたり太ももやスカートの中に手を入れられることだってあります。
 でも、そんなことがあっても決して取り乱してはいけないとママに言
われていました。
 実際、亀山では子供たちが抱く抱かれるの間にHな刺激を受ける事は
珍しくありませんでしたから、巷の子供たちに比べたらそのショックは
少ないと思います。
 こうして、私は次から次へとおじさまたちのお膝を渡り歩くわけなん
ですが、五人目六人目の頃になると、しばしお膝に乗って休んでもお尻
の痛みが回復しなくなっていました。
 最初から……
 「ぴしっ」「……ひぃ~~…」
 「ぴしっ」「……いやあ~~だめえ~~…」
 「ぴしっ」「……もうしないから~~……」
 「ぴしっ」「……だめえ~~~……………」
 「ぴしっ」「……痛い痛い痛い痛い………」
 恥も外聞もなく足をばたつかせます。おかげで私の大事なところはお
じさまたちに丸見えになってしまいますが、どうやらそれがこの催しの
お楽しみらしく、可愛そうな私を誰も助けてくれませんでした。
 七人目八人目はとうとう涙が流れ落ちて止まらないままおじさまの膝
の上に乗る破目になったのでした。
 そして……
 「ぴしっ」「いやあ~だめえ~~痛い痛い痛い痛いもうしないから~~」
 たった一発でもうこの断末魔になっていました。
正直、後のことはわかりません。もう、耐えることに必死でその時の
ことを覚えていないのです。
 気がついたら私は床に転がってまだパンツも上げずにお尻をさすって
いました。そう、普段おとなしい紳士たちの平手がこれほど痛いなんて
そのとき初めて知ったのでした。
 私は八人のおじさまたちの洗礼を受けると部屋の隅でしばしの休憩を
とります。休憩といってもスカートは捲り上げられてピン留めされて、
ショーツも引き下ろされたままですからお尻は丸出しです。頭の後ろで
両手を組んでるそのポーズは過去にもたびたび経験していましたが、そ
んなポーズを今自分がしている、恥ずかしい格好でいるというのを実感
したのはそうなってから結構時間が経ってからのようでした。
 お父様たちとおじさまたちの雑談が聞こえるようになって我に返った
みたいでしたが、そうなると今の自分はとても恥ずかしくていたたまれ
ません。
 何とかお尻が隠れないかと身体をひねったり間違ってもお尻の割れ目
から中が見えないようにと必死に肛門を閉じたりしました。勿論そんな
こと何の役にも立たないのですが……
 そのうち、お父様が私の異変に気づいたらしくそばへとやって来ます。
普段ならこんなこと大したことじゃないんですが、その時はとっても恥
ずかしくて私の存在が消え入りそうでした。
 「立ちなさい」
 私はお父様の言葉に反応して頭の上から両手を下ろしショーツを引き
上げようとしますが、それより一瞬早くお父様の大きな手が足首の辺り
で小さくなっている白いパンツを鷲づかみにして有無も言わさずお臍の
上まで引き上げます。
 それからよろよろと立ち上がった私はスカートのピンを取ってもらい
曲がりなりにも元の姿に戻ったのでした。
 「恥ずかしかったか?」
 そう言われて肩を抱かれて私たち二人は控え室へ。
 そこは六畳ほどの広さの洋間に化粧台や姿見などががあって、普段は
保健室にいる桜井先生やママが待機していました。
 「…………」
 私はまず姿見の前で白いワンピースに着替えさせられます。
 「さあ、脱いで。下着も全部取り替えるよ」
 ママの指示ですからすぐにでもそうしたいところですが、そこにはお
父様の姿もあります。
 「どうしたの?」
 ママの問いかけにあごをほんの少ししゃくっただけで答えます。
 「女の子は恥ずかしがり屋さんだからな。出ましょうか」
 お父様はこう言ってくださいましたが、ママが承知しませんでした。
 「お気になさることはありませんわ。まだ儀式も終わっていませんし、
この子は今日まで赤ちゃんなんですから」
 結局、私はお父様の前で素っ裸にかることになりました。
 与えられたのは絹のショーツとスリップとブラ。何でもないことの様
に見えるかもしれませんが、今までは綿の下着しか身に着けたことがあ
りませんでしたから少し興奮しました。ブラジャーなんてはじめの経験
だったのです。
 「人には恥はかかないにこした事がないと思ってるかもしれませんが、
愛されてる人の前で恥をかいて初めて女の子は幸せになれるんですよ。
たとえあなたを愛してくれる人がそばにいても、恥をかく勇気がないの
なら愛されてる意味もまたないの。赤ちゃんの頃はお仕置きで強制的に
恥をかかしてもらえるけど、大人になったらその殻は自分で破らないと
いけなくなるから大変なのよ」
 ママは生まれて初めてブラジャーを身に着ける時に耳元でこう囁くの
でした。
 「えっ?どういうこと?」
 その瞬間はまだ私の心にはその言葉を理解するだけの心の余裕があり
ませんでしたが、言葉自体は脳裏にしまわれていて、時間が経つにつれ
『なるほど』と思ったりもするのです。
 次はお化粧。これだって人生最初の経験だったのです。
 アイラインを引き、つけ睫を付けて、チークを塗ると私の顔が私の顔
でないように変化していきます。それは気恥ずかしいようなそれでいて
晴れがましいような不思議な気分でした。
 もちろん儀式はこれで終わりではありません。
 いえ、いえ、むしろこれからが佳境だったのです。
 お父様と再び会場に戻った私は八人のおじさまたちから万来の拍手で
迎えられます。
 私が最初に求められたのはピアノの演奏でした。
 亀山では少なくとも二種類の楽器を習うことが子供たちに義務付けら
れていました。それは私たちのためというよりお父様やお母様が楽しむ
ためにそうしなければならなかったのです。
 ですから私もピアノとヴァイオリンを物心ついた頃から習っています。
 この日、譜面台に乗せられていた楽譜は、エドガーの『愛の挨拶』と
ショパンの『幻想即興曲』それにお父様が作った『月の光』
 お父様は音楽に造詣が深いわけではありませんでしたが、よくご自分
が作った曲を私に弾かせては楽しんでおいででした。
 私は事前にそれらの注文を受けていましたからある程度練習して臨み
ましたが、お父様は私の演奏に満足なさらず、月の光などは「もう一度」
「もう一度」とおっしゃって結局5回もやり直しさせられたのです。
 おじさまたちの拍手の中、お父様の両手の中に迎え入れられた私は、
その膝の上胸の中でこんなことを言われたのです。
 「音楽は奏でている者の心がそのまま表れる。自分では普段通り弾い
ているつもりでも心に波風が立つとその怯えがせっかくの美しい旋律を
曇らせてしまう。それは弾いている者より聞いている者の方がよくわか
る。でも、今は元の恵子ちゃんに戻っているからね。お尻の叩きがいが
あるというものだ」
 私はお父様の最後の言葉に身を硬くします。
 「いいかい恵子。今日のお前は理由のない理不尽なお仕置きを受けな
ければならない。それは14才になったお前がこれからも私たちの子供
であり続けられるか否かの試練なのだ。幼児の時は正と悪は誰の目にも
はっきりとしている。しかし大人になると正義は必ずしも一つに定まら
ない。自分の信じる正義が必ずしも大人たちに受け入れられないことだ
ってたくさんある。でも、そんな時でも君が私たち大人を信じてついて
来て欲しいんだ。それが受け入れられる子でなければこれから先、君を
養育していくことは難しいからね」
 お父様のお話は13才の私には難しいものでしたが、そんな私にも、
理解できることがありました。それはこの日の試練がお父様やおじさま
たちをこれからも愛し続けられるかどうか私が試されてるということ。
そしてもう一つはこの日どんなお仕置きを受けても我慢し続けなければ
明日からの亀山での日々はないということでした。
 もちろん、実際にはそんなことまで悟れない子が泣きじゃくり暴れま
わることもありますが、最後の最後にこの先もお父様の胸の中に入るか、
それとも裸でこの山を駆け下りて新天地を目指すかを問われて、お父様
の胸の中を選ばない子はまずいません。だってこれまでそれほどまでに
お父様からママからおじさまたちから愛され続けて育ってきたのです。
一度や二度理不尽なお仕置きがあったからといってそれで道をたがえる
子はいませんでした。
 「あっ!」
 機は熟したとみたのでしょう。お父様がいきなり私を膝の上でうつ伏
せにします。スカートが跳ね上げられ、ショーツが下ろされます。すべ
てはおじさまたちの時と同じでしたが、違うところもあります。それは
脱がされたショーツを口にくわえなければならなかったこと。そして何
よりスナップの利いた平手がとてつもなく痛くて切ないことでした。
 「ピシッ」「(いやあ~~ごめんなさい。もうしませ~ん。だめ~え)」
 私は口をふさがれているのでもぐもぐやりながら心の中で叫びます。
まさか一発目からこんな痛いとは思いませんでした。悲鳴上げるつもり
はなかったのに、そんな我慢さえできないほど痛かったのです。
 「ピシッ」「(いやあ~~痛い痛い痛い、痛いからやめて~だめ~~)」
 「ピシッ」「(ひぃ~~下ろして痛い痛い痛い、痛いからやめて~~)」
 たった三発で全身に鳥肌がたち、髪の毛が逆立ちます。顔は真っ赤に
腫れてパンパン。次は眼球が飛び出すんじゃないかと思うほどでした。
 「ピシッ」「(もうしませんからやめて~~だめ~~もうぶたないで)」
 「ピシッ」「(よい子になります。どんなことでもしますから~~~)」
 私は足を必死でばたつかせます。いえ、ばたつかせようとしました。
でも、そこはママに抑えられ、右手も女王様に抑えられています。
 「ピシッ」「(もうしませんからやめて~~だめ~~もうぶたないで)」
 「ピシッ」「(ひぃ~~壊れちゃう、壊れちゃうから~~やめてえ~)」
 「ピシッ」「(もうしませんからやめて~~だめ~~もうぶたないで)」
 お父様のお尻たたきは一発一発脳天まで響きます。子宮も大波に揺ら
れてもうどこにあるのかさえわからないほどです。
 「ピシッ」「(あんなに優しかったのにどうしてこんなことするの?)」
 「ピシッ」「(…???…何よ今の。ひっとして…お・も・ら・し?)」
 太ももの奥を伝う何かの水滴。事実は私の想像とは違っていましたが、
恥ずかしいものであることに変わりはありませんでした。
 ママがそれをぬぐう間だけ中断して、スパンキングはまた始まります。
 「ピシッ」「(何でこんなことするのよ。もうゃめて~~だめ、だめ)」
 「ピシッ」「(いやあ~~ん、お父様、十回過ぎてる。もうだめ~~)」
 「ピシッ」「((ひぃ~~下ろして痛い痛い痛い、痛いからやめて~~)」
 私は猿轡になっている自分のショーツを吐き出そうとしましたができ
ません。とうとう力尽きた私は足をばたつかせたり上半身をねじったり
するのをやめてしまいました。
 すると、ここでお父様が声をかけてきます。
 「どうだ、痛いだろう。男の力を甘くみると本当に痛い目に遭うぞ」
 そして、ママも……
 「あなたはこれまで赤ちゃんだったからお父様はあなたへのお仕置き
はご遠慮くださったの。でも、これからはこれがお尻たたきの基準です
からね。身体で覚えておきなさい」
 「…………」
 私はショーツの猿轡が取れないまま涙でぐちゃぐちゃになった顔だけ
を上下させて答えます。
 『もう、早くこのお仕置きが終わって欲しい』その一心でした。
 「ピシッ」「((ひぃ~~まだやるの!だめだめ下ろして痛い痛い痛い)」
 「ピシッ」「((ひぃ~体がばらばらになっちゃう。もうしないでよ~)」
 「ピシッ」「(いやあ~~ん、………………………………………あっ…)」
 それは十六回目の時でした。明らかにそれまでとは違う涼しさが太も
もに感じられます。
 「ピシッ」「(濡れてる?…………まさか?…………でも………あっ…)」
 十七回目を終えて大人たちの動きに変化がみられました。お尻たたき
が止まり、わずかな時間でしたが無言のまま何かを話し合っているよう
なのです。
 そして、再開。
 「ピシッ」
「ピシッ」
 「ピシッ」
 でも、その後の三回は明らかに勢いが弱くなっていました。
 そしてお尻たたきのお仕置きが終わると、やはり私の不安は的中して
いたのです。
 私はお父様の目の前に立たされ、大きめのタオルでお股の中を綺麗に
拭き清められることになります。
 お父様の手が私のお股の中で動くさなか私はお父様の濡れた膝を見つ
めていました。申し訳なさと恥ずかしさでこの場から消え入りたいほど
だったのです。
 そんな憔悴した私はせっかくやってもらったメイクも涙でぼろぼろ、
まるで打ち捨てられたお人形のように身じろぎもせず、ママや女王様に
よって再び自分の身なりが整えられていくのをぼんやりと見つめていた
のでした。
 でも、そんな夢遊病者のような私をある音が現実へと引き戻します。
 それはガラスの擦れあう音。五十ccのガラス製浣腸器がグリセリン
を入れたビーカーを叩く音でした。
 「……!」
 私はとっさに身を縮めその場にしゃがみこもうとしましたが、それを
女王様が抱き起こして支えます。そして、こうつぶやくのでした。
 「次はお浣腸よ。あなただって初めてじゃないんだし、慣れてるから
大丈夫よね」
 そうなんです。亀山で育てばどんなによい子にしていても一学期に二
度や三度はお世話になるお仕置きでした。ママや先生に嘘をついたり、
お友達に意地悪をしたりすると、保健室に呼ばれてこれがやってくるの
です。もちろん私だって初めてじゃありませんが、これに慣れるという
ことはありませんでした。
 グリセリンというお薬をお尻の穴を開いて入れられる時の恥ずかしさ。
オムツを着ける間にも襲ってくる強烈な下痢。ですが、すぐにトイレへ
なんて行かせてもらえません。その罪の重さにもよりますが、とにかく
先生の許可が出るまでは脂汗を流しながら我慢しなければなりませんで
した。
 だいたい五分から十分、場合によっては二十分も、お漏らしの恐怖に
おののきながら先生やママのお膝で必死になって我慢しなければなりま
せんでした。
 そして、おトイレを許されても、用を足せるのはみんなの見ている前
でのおまる。ここににしゃがみこんで用を足します。出した後もお腹が
渋ってそれはそれは不快でした。
 しかも、万が一粗相なんてことになったら次はお灸が待っています。
ですから、誰もがそりゃあ必死になってうんちを我慢します。子供たち
にしたらたまったものでありませんが、大人たちはどういうわけかこの
脂汗を流し必死な顔で全身をぷるぷると震えさせながら抱きついてくる
子供たちの様子が大好きで、たとえそのお膝の上で粗相しても、それで
不快な顔をする人は誰一人いませんでした。
 とはいえそんなものいくつになっても慣れるはずがありません。それ
が証拠に、私は今、浣腸器の触れる音で目を覚ましたくらいなのですか
ら。
 私には女王様の言葉は意地悪そのものに聞こえたのでした。

§5

§5

気がつけば見慣れた浣腸台と呼ばれる黒い革張りのベッドが部屋の隅
にすでに用意されています。
 私はできることならこの場でもう一度気絶したい気分でした。
 「さあ、行きましょうか。お浣腸でお洋服を汚してはいけないから、
司祭様にお洋服を脱がしていただきましょう」
 女王様はそう言って私の背中を押し始めます。私は驚いて後ろを振り
返ろうとしましたが、じたばたしても私の頭はすでに女王様の胸の中に
すっぽり納まってしまって身動きがとれません。目的地の浣腸台はすで
に目の前。もうどうすることもできませんでした。
 浣腸台の周囲を八人のおじさまたちが取り囲み、籐製の脱衣かごの脇
には司祭様が立っておられます。
 私は幼い頃からの習性で気がつくとその足元に膝まづいていました。
 「あなたが14才を迎えるにあたり、これまでに負った穢れを清め、
無垢な心でその日を迎えるため、今日ここでお腹の中を綺麗にします。
よろしいですね」
 「……はい」
 司祭様の言葉は確認です。どのみち嫌とは言えないませんから確認な
んです。そう答えるしかありませんでした。
 こう言うと何だか自由を奪われ権威や権力で脅されて嫌々そう言って
るみたいですが事実は少し違っていました。お父様やママもそうですが、
いつも優しくしてもらっているこれらの人々の命令に従うのは、よい子
にとっては喜びや安心でもあるのです。
 『お仕置きされるとわかっているのにそれはないだろう』と思われる
でしょうが、亀山の子供たちはママを親代わりに、お父様をおじい様の
代わりとして、ちょっぴり過干渉でも愛情深く育てられてきましたから
ママやお父様が望むことなら何でも叶えてあげたいと思うものなんです。
 司祭様への愛もそれは神様への愛と同じでしたから、司祭様が私の服
を脱がし始めた時も私は何一つ抵抗しませんでした。
 純潔な体、無垢な心、天使のような振る舞いはお父様たちが私たちに
大金を投じる理由だったのです。その思いに私たちが自然に応えられる
ようにママが育てて、そのおかげで私たちは本来なら縁もゆかりもない
お父様から、時に実のお子さん以上の愛を得ることができるのでした。
 13才の試練というのは、そんな亀山での卒業試験のようなもので、
もし巷で育てていれば羞恥心という鎧をガチガチに着込んでいる年頃の
娘を膝まづかせ、裸にして、何の理由もなくお仕置きすることで、娘の
忠誠心を確認する儀式だったのです。
 私は白い短ソックス以外は何も身につけていない状態で黒革張りのベ
ッドへ上がりました。
 あとはなされるまま。まずは女王様とママが仰向けになった私の右足
と左足を一本ずつ持ち上げて私の女の子としての中心部が殿方にようく
見えるようにします。
 そこをアルコールに浸した脱脂綿で丁寧に消毒してもらうのですが、
何しろ敏感な処ですから声をたてずにやり過ごすということはまずでき
ませんでした。
 苦悶の表情を浮かべて頭を激しく左右に振りうなされいるような声を
上げます。そんな私を気遣われてのことでしょう、司祭様が私のおでこ
を優しく撫でてくださいます。
 私はそのやさしさに一瞬ほっとしたのですが、次の瞬間とんでもない
ことに気づきます。
 いえ、このお仕置き自体は過去に何度もあるんです。でも今回は……
私の頭の付近に司祭様がいらっしゃって、ママと女王様も私のあんよを
担当なさっている…ということは、今、私のお股に触れているのは……
 「!!!!!」
 私の背筋に衝撃が走りました。私は慌てて身を起こそうとしますが、
それは司祭様に止められてしまいます。その代わり、それが誰なのかを
司祭様は私に教えてくださったのでした。
 「今、原口のおじさまがあなたを清めして終わったところです。次は
木村のおじさま。あなたはこれからすべてのおじさま、もちろんお父様
からも自分の大事な処を清めてもらわなければなりません。少し時間が
かかるので寒いでしょうが、辛抱してくださいね。これはあなたにとっ
て、とてもとても大事なことですからね、逃げることはできませんよ」
 「…………」私は本当はうなづきたくなかったのです。だってそれま
で司祭様を除いては一度もされたことのなかった殿方からのお清め(ア
ルコール消毒)なんですから。『たとえお父様でもそこまではなさらなか
ったのに…』私は思いましたが『今ここで逆らってもどうにもならない』
と悟るしかなかったのです。
 司祭様のおっしゃるとおりお清めは長くかかりました。何しろ八人も
の殿方が代わる代わる念入りに私のお股の中を吹き上げていくのですか
ら……
 「(いや、いやあ~、やめてえ~、もうしないで、ひりひりする)」
 私は右に左に頭を振りながら心の中で叫びます。いえ、幾つかは言葉
になって外へ飛び出てしまったかもしれませんでした。
 大陰唇、小陰唇はもちろん膣前庭や尿道口、ヴァギナやクリトリスだ
って例外ではありませんでした。本当はなりふり構わずベッドから飛び
降りて表に飛び出したいくらいの衝撃だったのです。
 それを目いっぱいの力で理性が何とか押しとどめていたのでした。
 そのうちアルコールの刺激に慣れたのかお父様やおじさまたちの会話
が耳に入ってくるようになります。
 「ほう、この子は綺麗な格好をしてますなあ、家の真美はオナニーの
癖があるせいか、こうした襞がすでにぐちゃぐちゃになってますわ。色
素沈着も始まってますから成長が早いみたいですな。そこへいくと天野
さん処はうらやましい。こんな綺麗な形と肌をしたまま少女になれるん
ですから」
 「そんなことはありませんよ。この子だってオナニー用のオムツを穿
かせたことだってあります。あれは一度覚えてしまうと、なかなか治り
ませんから親は苦労します」
 「ほんとほんと、真美にはここに三回やいとをすえてみましたが、今
だに親の目を盗んでやってるみたいです」
 触られた処は膣前庭でした。お父様やおじさまたちは綿棒を使って私
の大事な部分に無遠慮に触れてきます。殿方にとっては何気ない行為や
会話なのかもしれませんが、聞かされてる、触られてる私からすれば顔
から火が出るほど恥ずかしくて両手で顔を覆わずにはいられません。
 その意味でもこのお清めは苦行だったのです。
 そんな私の両手を司祭様がやさしく離します。
 「どんなに恥ずかしくても顔をかくしちゃいけないよ。君はその体の
すべてでお父様やおじさまたちの愛を受け入れなければならない立場に
あるからね。わかっていると思うけど、亀山の赤ちゃんは、何一つ隠す
ことが許されてないんだ。恥ずかしい処も含めてそのすべてを愛しても
らえる人に捧げて暮らしているんだから……それがここでのルール。…
…知ってるよね」
 「はい、司祭様」
 「明日からはそれも終わる。多くの恥ずかしい出来事からもさよなら
だ。でも、それと同時に明日からは自分で自分の体を管理しなければな
らなくなる。自分で着替え、自分で髪をすき、自分で体を洗い、自分で
お尻を拭く。巷でなら幼稚園の子でもするような当たり前の事を今から
始めることになるんだ。大げさに言うと明日からが君の本当の人生だ」
 「間に合うの?」
 「もちろんさ。亀山では今までもみんなそうやって大人になってきた
んだからね」
 「でも、明日からは、もうお父様は愛してくださらないの?」
 「どうして?そんなことあるわけないじゃないか。誰がそんなことを
言ったの?14になっても15になっても恵子ちゃんは僕のお姫様だよ。
いつでも枕を持って私のベッドにおいで、大歓迎だから」
 「お父様!」司祭様の声が聞こえたのでしょうか、お父様が私の枕へ
とやってきました。
 「13才の赤ちゃんなんて世間じゃ変だろうけど、私に限らずお父様
になる人たちは一日でも長くよい子たちを抱きたいものだから女王様に
お願いしてそういう形にしてもらったんだ。そり代わり、この山を降り
て行く高校だって、その先の短大だって恵子ちゃんたちがいきなり世間
の風に当たって風邪をひかないように万全の体制を敷いてあるからね、
今まで赤ちゃんだったからってこれから先も何も心配いらないんだよ」
 「…………」
 そうは言われても私は心配でした。とにかく、自分が特殊な育てられ
方をしたんだということだけはこの時わかりました。
 「とにかく『恵子ちゃんがお嫁に行くまでは面倒をみます』って私は
女王様には約束したからその約束だけは守るつもりだけど、私はすでに
老人で、ひょっとしたら恵子ちゃんがお嫁に行く前に天に召されるかも
しれない」
 「そんなの嫌よ。お父様、どこか悪いの?」
 「いや、そうじゃないよ。万が一だ。万が一そうなってもここにいる
八人のおじさまたちが君を守ってくれるはずだ。おじさまたちと女王様
とでそのお約束がすでにできているからね。でもそのためにはおじさま
たちにも君のことをよく知っておいてもらわないといけないから…」
 「それでこんなことしてるの?」
 「そういうことだ。恵子ちゃんの性格やら学校の成績なんかはすでに
つたえてあるけど、おじさんたちは君の生身の身体は知らないからね…」
 「……わたし……もしお父様が亡くなったら公立の施設へ移りたい」
 私は重い口を開きました。でも、もちろん答えはノーだったのです。
 「それはできないよ。君はここでの生活しか知らないからわからない
だろうけど、ここは子供たちにとっては幸せすぎる場所なんだ。もし、
外で幸せに暮らしたいならその前に色々準備をしないとね。心がすぐに
風邪をひいてしまうんだよ」
 「心が風邪?」
 「そう、さっき司祭様がおっしゃってただろう。女の子は好きな人の
前で恥をかいて成長するって。あれはね、あくまで恵子ちゃんを好きな
人、本心で愛していくれる人の前でかく恥だから有効なんだ。ここには
君がすべてをさらけ出しても邪念をいだく人が誰一人としていないから
街のどこで裸になっても君の心に傷なんかつかないけど、そんなことは
巷でなんか絶対にできないことなんだ」
 「どうして?」
 「巷にはね、愛する気もないのに女の子の身体をもて遊ぶだけの輩が
たくさんいるんだよ。そんな人の前で恥をかいたら、女の子は一生心に
傷を受けることになるからね。外に出て暮らすなら、まずその人が本当
に自分を愛してくれる人なのかどうかを見抜く力が必要なんだ」
 「ここにはそんな悪い人はいないってこと?」
 「悪い人?う~んそれとは少し違うけど、ま、そういうことだ。私も
ここへ来るまではそんな楽園の存在など信じてはいなかったけど、真実
だった。この世に人の手で創れる極楽があるとしたらここだけだろうね」
 「そんなにここってすごいの?」
 「そう、すべては女王様の才覚と先生方の献身的な努力が支えている
んだよ。だから、あんよを持ってもらってるお二人には感謝しなればね」
 「ま、お上手ですね、私はこの街の管理人にすぎませんわ。この街は
天野様はじめお父様方のお力添えなくして一日もうごきませんもの」
 女王様は笑顔で振り返りますが、お父様はそれには首を横に振って応
えていられました。
 「ただ、ここは楽園だけど、それだけにここでの常識は巷のそれとは
大きくかけ離れている。だからこれから進む高校と短大で、君は実社会
に出るための勉強をたくさんしなければならないんだよ。途中下車なん
て危険なことはできないんだ」
 「間に合うの?」
 「もちろんさ。そうやって社会に巣立って、成功した人が何人もいて、
その人たちが惜しみない援助してくれるおかげで、今の君たちは豊かな
食事や有り余る玩具や本や衣装、快適な家にだって住めるだよ。もしも、
ここにいた時代が不満だらけだったら、先輩たちだって、たとえ社会に
出て成功しても亀山に援助をしようなんて思わないはずだろう」
 「…………」
 「ここでの生活は今も昔もほとんど同じ。先輩たちもここにいた頃は
みんなたくさんのお仕置きを受けて、たくさんの恥ずかしい目にあって、
13才の試練だってもちろんみんな経験してここを巣立っているんだ。
彼らだってここにいる時はここの良さなんてわからない。ほかの世界を
知らないからね。でも実社会に出てみると、ここがどんなに凄い処だっ
たかがわかるから、その楽園を守りたくてみんな援助してくるんだよ」
 お父様のそんな言葉の直後でした。誰かが私の肛門をいじります。
 「(あっ、いや)」
 ママでした。
 「もうよろしいでしょうか」
 お父様に声をかけます。
 「あっ、ごめん、ごめん、つい娘との話しに夢中になってしまって…」
 「では、最後にお父様に清めていただきますからね」
 ママの指示でお父様は私のバックへと回ります。そして……
 「じゃあ、いくよ」
 お父様は私のお股の中をアルコールを浸した脱脂綿で吹き始めます。
 「……………」
 その時もおじさまたちの時と同様、声は出さなかったと思いますが、
私の頬はすでにくすぐったさで緩んでいました。
 不思議なものです。まったく同じことをされているのに感じ方が全然
違うのですから。人には話せませんが、その時の私はおしゃぶりのいる
赤ちゃんへと、一瞬戻っていたのでした。
 でも、その直後でした。
 「……!……」
 細く尖ったものがお尻を突き刺したのがわかります。
 「……(あっ)……」
 イチヂク浣腸の先が肛門の中へと入ってきたのです。
 そして、『ぐちゅっ』という、あのえもいわれぬ不快感。
 後は、次から次へとおじさまたちが私の身体をイチヂクで突き刺して
いきます。
 たった10グラム、されど10グラムの重みが積み重なって終わった
時には90グラムのグリセリン溶液が厳重に締めこまれたオムツの中で
踊っています。
 これからが地獄です。
 私の体はこれからおじさま方の膝の上を転々として回されます。
 お一人、約1分。まるでロシアンルーレットのように、怖い運試しで
すが、みなさん全身に鳥肌を立てて震える私を抱くとなぜかとても喜ん
でおいででした。
 8分後、みなさんを一周して最初に抱いていただいた原口さんの膝へ
戻って来ると……
 「恵子ちゃん、もうどこでお漏らししてもいいからね」
 「好きなおじさまがいたらそこで漏らすといいよ」
 「そうそう。その人がオムツを換えてくれるからね」
 あちこちからかおじさまたちの声がかかります。
 でも、その時の私はたとえ好きな人がいたとしてもその人を選んでお
漏らしするなんて器用なことはできませんでした。とにかくお尻に集中
してほかの事なんて考えられません。ほんのちょっとでも気を許したら
恥ずかしいものが一気にオムツの中へ流れ込むことは間違いありません
でした。
 もちろん、このゲームに終わりがないこと、どんなに必死に頑張って
みてもいつかは恥をかかなければならないのはわかっています。でも、
それでも…もう、本能的にお尻に力を入れてしまうのでした。
 三週目、私は原口おじさまのお膝で力尽きます。それはおじさまが…
 「私でいいかい?」
 と尋ねられた時に無意識にうなづいた結果でした。
 すると、おじさまは私のオムツの中に手を入れて下腹をさすってくだ
さったのです。
 「いやあ~~~」
 私は思わず絶叫します。でも、その先はもうどうにもならないことで
した。

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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