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α201

α201<3>

シャワー室から戻ったパティーはすでに相当に憔悴しているように
見えた。
 にもかかわらず、お仕置きは当然のように強行されていく。

 『浣腸だけで十分だろう』
 私は思った。私のように男の支配する社会で育った者にとって女性
をいたぶるような行為は恥ずべきものとされているからだ。

 しかし、ここは男が支配する国ではない。主体はあくまで女性なの
だ。女性が自ら土木工事を行って都市を築き、一旦事が起きれば銃を
持って前線に赴くことが当然とされる社会なのだ。
 ましてや男性に比べ体力的にハンディのある女性は、何をやるにも
集団で取り組まなければならない。

 男の組織同様と言いたいが、それ以上に規律が厳しくないと成果も
得られないし、ヘタすれば組織が空中分解ってことにもなる。
 そのため幼い頃から長幼の序や身分の差は絶対で違反者はちょっと
したことでも、即、お仕置き。それも周囲に異性、つまり男が少ない
こともあるのだろう、破廉恥な体罰には事欠かなかった。

 この時も私は……
 「もう、憔悴してるみたいだし、許してやってもいいんじゃないか」
 と隣の母親に進言してみたのだが……

 彼女の反応は……
 怪訝な顔で一瞬私を見つめたかと思うと、次の瞬間は笑いだして…
 「大丈夫よ。女ってね、ちょっとしたことでもすぐに『参りました』
『ごめんなさい』って素振りを見せるの。これは習性。……でもね、
そんなことに付き合っていたら、女の性根は治らないのよ」

 「でも……」

 「大丈夫、私だって色んなお仕置きされて大人になったんだもの。
どこが限界かぐらいのことはわかるわ」

 「そうは言っても……」

 「あらあら、こんな事に引っかかるなんて……男性って……ホント、
フェミニストなのね」

 彼女の言葉にはどこか侮蔑的な意味が含まれていた。

 パティーの次なる試練は鞭打ち。シーソーのような傾斜のある板に
うつぶせになって辱めを受け、苦痛に耐えるお仕置きだ。

 板の低くなった側には横棒の長いT字バーがとりつけてあり、この
バーを握ってうつぶせになればパティーの仕事はそれで終わり。後は
助手を勤める二人のシスターの仕事。

 高くなった側のテーブル板の端にはクッションが置かれパティーの
下腹がそこにくるように調整される。さらに余った両足はこれでもか
というほど大きく開かれて足首が細い丸太に固定。
 当然、後ろから彼女の恥ずかしい部分が丸見えになるわけだが……
パティーも慣れてきたのだろう慌てた様子も悲鳴もなかった、

 ただ、あらためて見るパティーのお尻のお山には他の子に比べても
大きなお灸の痕が目につく。きっと何かとこれまでお仕置きを受ける
機会が多かったのだろう。
 こうした言い方には賛成したくないがそれだけ母親に可愛がられて
いるということでもあった。

 そんな大きな灸痕も含めて上級シスターはパティーのお尻を丹念に
アルコールに浸した脱脂綿で拭き取り始める。
 これは子供の鞭打ちに際してこの星ではよく儀式で、お尻の体温を
奪われた子はそれまで手が付けられないほど暴れていてもその瞬間、
身を固くして観念するのだそうだ。

 「いいこと、人は節度というものを持っていなければなりません。
オナニーを絶対にやってはいけないとは言いませんが、やり過ぎれば
記憶力が低下し健康を害します。だから自制することが求められるの
です。お父様お母さまとその回数についてお約束があったでしょう?」

 「…………」

 「……それを守れないのであればお仕置きはやむをえませんね」

 厳とした物言い。その事にパティーは反論することができなかった。
男性が圧倒的に少ないこの星ではお楽しみはレスボスの愛が一般的。
オナニーも許されていたから決して禁欲主義ではない。

 ただ、子供には制約があって、レスボスにしろ独り遊びにしろ親が
相手や日時などを承知している事が条件で、思い付きによる身勝手な
行為は許されていない。
 レスボスの愛も親の知らない処で楽しめば参加者全員がパティーの
ような憂き目にあうことになるのだ。

 上級シスターはこれでもかというほどたっぷりとパティーのお尻に
アルコールを塗りつけると、おもむろに革紐鞭を取り出した。
 六十センチくらいの細身のなめし皮で幅は五センチ位か。真ん中に
深いスリットが入っていて木製の握り手がついている。
 この星で未成年者のお仕置きに使うのは大半がこれだった。

 「ピシっ」
 「あっ」
 お尻のお山にそれが振り下ろされた瞬間、パティーの顔がゆがむ。

 私は確かに彼女と血縁が繋がっているわけではないがそれでも顔を
そむけた。
 やはり長く男社会を生きてきたからだろうその光景が残酷でならな
かったのだ。

 しかし、鞭音がやみ目を開けると母親はしっかりとその様子を冷静
に観察しているのがわかる。

 再び……
 「ピシっ」
 「あっ」
 パティーが両手を添えていたT字のバーを必死に握りしめる。

 今度は私も目をそらさなかったが母親は相変わらず冷静にその様子
を見ている。その姿が、私にはまるでつまらない映画を仕方なく観て
いるように見えて複雑な心境だが、彼女は決して冷たい人間ではない。

 「ピシっ」
 「いやっ」
 冷静に的確にパティーの心の中を読み解こうとしているのだ。

 「ピシっ」
 「いやっ」
 後で聞いた話だが女性はこんな事態になっても、ほんのわずかでも
よく見られようとする。今ある現実を受け入れず、自分の心の中だけ
ではなかったことにしようとする。

 「ピシっ」
 「いやっ」
 それが少しでも感じられるうちはお仕置きは終わらないのだそうだ。

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、ごめんなさいもうしません」
 六回目でやっと本心が飛び出すと母親はもう一段厳しい顔を造って
から私の方を見て笑った。

 「この子も、やっと、いい子になる産声をあげたわ」

 「?」
 私が訳が分からず悩んでいると……

 「女の子ってね、男の子と違ってなかなか本心を外に出さないの。
しかも年齢が上がるほどその意識が強くなって……ほおっておくと、
しまいにはね、自分の本心がどこにあるのかさえわすれてしまうから
やっかいなのよ」

 「まさか」

 私が驚くと……
 「本当よ。あなたにしてみれば可哀そうだという気持ちの方が先に
たつかもしれないけど、女の子ってこれくらいしないと本当の自分と
向き合おうとしない生き物なんだから」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、やめてえ~ごめんなさい、もうしませんから」
 隣の部屋からは悲鳴だけでなくパティーを縛り付けているロープや
机のきしむ音までが伝わって来る。

 「大丈夫でしょうか、健康を害してしまっては元も子もないと思う
んですが……」
 頼りなげに母親に尋ねると……

 「大丈夫よこのくらい。女の子ってね、このくらいでくたばったり
はしないものなのよ」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、いやあ~、死んじゃう~」

 「ほら、元気に叫んでるじゃない。ああして大声が出ているうちは
問題ないの。女の子の体ってぶったり叩かれたりすることには男の子
よりむしろ丈夫にできてるの」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、いやあ~、いやあ~、いやあ~、」

 「何?まだ心配してるの?私だって子供の頃はあんなものじゃない
お仕置きを沢山受けてきたんですもの。限界になった時ってのは見て
いればわかるわ」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、いやあ~、いやあ~、いやあ~、もうだめえ~~」

 「あなたには見えないでしょうけど、あれであの子、どうにもなら
ない恥ずかしい部分を今でも隠そうとしているの」

 「健気ですね」

 「いえ、健気じゃなくて……あんなことができるうちは女の子って
元気そのものなのよ」

 結局、パティーは一ダースの鞭を受けて傾斜のついた机からは解放
されたが、これは裏が終わっただけの話。
 鞭のお仕置きは、まだ表が残っていたのだった。

 傾斜のついた机からは解放されたパティーだったが、次のステージ
は、1m四方、高さ50cmほどの台の上。ここに乗せられて左右の
腕をそれぞれ天井からつり下がったベルトに戒められる。

 「あっ、いや」
 助手をつとめる二人のシスターによるあっという間の出来事。
 鞭打ちで疲れていたパティーにとっては『えっ、何するの』『だめ、
いや、やめて』という言葉を発する暇がないほどの早業だった。

 その動けないパティーの身体を上級シスターが触れてまわる。
 傷んだお尻はもちろん、泣きはらした顔、鳥肌の立つ両腕、震える
両足も、まだ可愛らしい胸のふくらみも、キュートなお臍も、さらに
その下に連なる緩やかな丘も例外ではなかった。

 自然にしていればそこに茂みができるパティーだが、今はすべすべ
に剃り上げられていて剃り跡すらない。つるつるで赤ん坊と同じ姿の
パティーだが、そこにはひと際大きなお灸の痕、灸痕があった。

 もちろん、これは彼女に限らず女の子全てが持っている火傷の痕に
違いないが彼女のそれはお尻のお山に一つずつ据えられたものも含め
ひと際大きかったのである。

 「では、今度は前のお仕置きです。しっかり歯を食いしばって頑張
りましょう。いいですね」

 「はい」
 上級シスターに宣言されるとパティーは蚊の鳴くような声で答える。
 これが彼女の精いっぱいの声だった。

 そんな緊張した雰囲気のなか、
 「びたっ」
 最初の一撃がパティーのお臍の下の膨らみに当たる。

 『これはずいぶん違うな』
 私は思った。
 お尻を叩いていた時のそれとは勢いが明らかに違っていたのだ。

 ささやかな膨らみがあるとはいえ膀胱や子宮まで距離が短い前側の
お尻(この星では恥丘のことをよくそう呼んでいた)への配慮だそう
だが、だからといってこのお仕置きが軽いものというわけではない。

 素っ裸、それも万歳しているような姿勢で立たされているのだから
女の子にとっての恥ずかしさは半端なものではない。
 大切なことは痛みではなく、自分の恥ずかしい場所をすべてさらけ
出させるということ。
 
 だから、鞭の役割も痛みを与えるというより放っておくと夢の世界
に逃げてしまう女の子の意識をつねに現実に引き戻しておく小道具と
して重要だったのである。

 鞭打ちの合間、両足を開き、他人に股座のなかにある自分の性器を
確認してもらうなんていうのは、うら若い少女にはとってはさぞかし
辛いお仕置きだったに違いない。

 「さあ、目をつぶらないの。自分のものなんだから恥ずかしくない
でしょう」
 上級シスターはパティーの股座にカメラを入れ前にあるモニターを
指さしながら自分の持ち物を確認させる。

 「あらあら、襞もだいぶよれてるから、ここにも相当手を入れてる
みたいね」
 上級シスターにこう言われるとパティーの顔が真っ赤になった。

 そして、お尻をぶたれていた時にもこれほど大量にはと思えるほど
大粒の涙を大量に流し始めたのである。

 「あなた、今に生まれて幸せよ。大昔は焼き鏝で大事な処を焼いた
こともあるったんだから……」

 「…………」
 上級シスターの脅しにパティーは息を飲む。

 「これからはせいぜい自重することね。でないと……お仕置きは、
もっともっと厳しくなるし、何より大人にしてもらえないわ」
 上級シスターは笑顔でパティーを諭す。

 実際、この星では年齢がいけば自動的に大人になれるのではなく、
大人委員会と称する組織の承認が必要だった。そこではとりわけ倫理
がうるさく、自分の心をしっかり制御できない者を大人社会の一員と
して加えることはできないとされていたのである。

 つまりオナニーを自制するというのもそのことの一つなのだ。

 仮に、大人と認められなければどうなるのか。
 たとえ身体だけ大人になっていても、いつまでも子供扱いのまま。
悪さをすれば幼い子供たちたと同じように素っ裸で枷に括られる運命
を受忍しなければならない。
 それが生活していく上でどれほど恥しいことか、辛いことなのかを
大人たちはみな知っていたからこそ、大人たちはハイティーンの娘に
厳しかったのである。

 パティーは上級シスターの長い説教の後やっと許されたが、これで
お仕置きの全てが終わったわけではなかった。
 このことを忘れないための教訓を与えなければならなかったのだ。

 その事で上級シスターが再び私たちがいる金魚鉢へとやってきた。

 「お嬢さんの灸痕は他の子と比べて少し大きいに感じますが、お家
ではどのようにされているのでしょうか?」

 上級シスターが尋ねる。確かにパティーの灸痕は他の姉妹と比べて
も少し大きかった。それを心配したのである。

 「ああ、あれですか。あの子、ああ見えてけっこうお転婆なところ
がありましてね、幼い頃、何かあるとよくお灸で矯正していたことが
あったんです。あの子にはお尻叩きや鞭よりお灸の方が効果的でした
から……」

 母親の言葉は私には初めて聞く情報だった。確かに子供と言っても
その性格は千差万別。矯正するための手段も、その子によって効果に
差があるもの頷ける。
 だからこそ、それぞれの子に最も効果のある罰を与えるのは当然の
ことなのだろう。

 灸痕は前にも説明したが医学の進んだこの星では簡単な手術で治る
ため子供の勲章として親もあまり罪悪感を持っていなかった。
 そんなことより、日々、子供が親の望むように行動してくれること
の方がはるかに大事だったのである。

 「そうですか、では普段お宅では艾は大き目のものを……」

 「ええ、この子にはいつも標準的なサイズの1.5倍程度のものを
使っていましたから………ああ、でもあえてそのサイズにすることは
ありませんよことよ。今日はしっかり骨身に応えてるみたいですから、
普通サイズで結構です」

 「わかりました」
 上級シスターは納得して帰ろうとしたが、それを母親が呼び止める。

 「ああ、お待ちを……これはあくまでこちら側の勝手なお願いなん
ですが……」
 彼女の言葉に上級シスターが振り向くと……

 「艾の大きさはそのままでいいんですが、お灸をすえる場所をもう
二か所ほど追加していただけないでしょうか」
 
 「二か所と申しますと……」

 上級シスターが尋ねると、いつもははっきりものを言うこの母親に
しては珍しく少しためらった様子で……
 「実は……この子、前にも申しましたように他の子に比べてお灸が
効果的ですので、我が家では通常の三か所の他にもお仕置きのしめに
据えてる場所がございまして……」

 「そうですか、どちらでしょう?」

 「クリトリスの根元と会陰です」

 「ああ、あれやっぱりそうだったんですね。小さいものでしたけど
ひょっとして思っていたのですが……」

 「あれ、あの子には結構効果があるんです。……微妙な場所ですし
……形ばかりでいいんですが」
 彼女にしては歯切れの悪い物言いだった。

 「わかりました。やってみます。こういう処にも据えられたという
精神的なショックを期待なさっているんですね。わかります。私たち
も例外的に行うことがありますから。もちろん過去にグレートマザー
からの禁止指令はでていませんでしょう?」

 「ええ、それはもちろん」

 「わかりました。では、やってみましょう。お宅でのやり方と同じ
かどうかはわかりませんけど、やってみます」

 上級シスターは約束して部屋を出、母親は「お願いします」と頭を
下げたのだった。

 呆気に取られている私の顔を見て母親は笑う。
 「どうしたのよ、その顔は。大丈夫よ。家では幼い頃からやってる
ことだし彼女はプロなんだから……」

 「でも、そんなところに……」
 私はこう言うだけが精いっぱいだった。

 「あなたは女の身体を知らないから大変な事って思うかもしれない
けど、あそこって触れられることには敏感だけど、熱には意外に鈍感
なんだから。上級シスターも言ったでしょう。大切なことは『こんな
ところにも据えられた』っていう精神的なショックだって。単に痛み
だけのお仕置きならその痛みがひけばすぐにまたやりだすわ。でも、
これって、お仕置きの効果がけっこう長続きするのよ」

 「…………」

 「なあに、その疑い深い目は……」

 「疑ってるわけじゃないけど、大丈夫かなって思ってさ」

 「男性は少女には肉欲がないと思ってるみたいだけど……とんでも
ない。男性と同じくらいあるの。オナニーだってやり始めてしまった
らもう止まらないんだから。そこは男の子と同じ」

 「そうなのか」
 私はあっけらかんと話す母親に調子を合せるしかなかった。


 さて、そうこうするうち隣の部屋ではパティーの最後のお仕置きが
始まろうとしていた。

 お灸のお仕置きは、もともと今はこの星の住人となっている彼らが
流浪の末にたどり着いたこの地で始めた医療行為で医学科学の進んだ
今となっては特に何かに役立っているというわけではないのだが……
今なお子供のお仕置きとしてだけその習慣が残っていた。

 艾の香りが部屋に充満していくなか、パティーの顔が青ざめる。
 もちろん、浣腸だって鞭だって彼女にとって嫌なことに違いないが、
お灸のお仕置きは格別だった。全身に鳥肌が立ち、両足が震え、唇が
青ざめて、心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど胸を打ち始める。

 たまらず、パティーは上級シスターの前に膝まづく。
 「……お、お願いです。お灸だけは許してください」

 もちろん、大人絶対のこの社会で子供がそんなことを言う立場には
ない。そんな事は百も承知しているが、パティーはすでに恐怖で押し
つぶされそうになっていたのである。

 『なるほどね、親の言う通りだわ』
 上級シスターは思った。もちろん他の子だってお灸が好きだなんて
子はいない。しかし、ここまで恐れる子は珍しかった。

 ただ、だからと言って『今回はやめてあげる』とは言えなかった。

 「どうしたの。そんなにお灸が嫌い。熱いから?痕が残るから?」

 「…………」
 これにはパティーが答えない。

 「だめよ、この星の子供たちのお仕置きのしめは、昔からお灸って
知ってるでしょう。あなたのお家では違っていたのかしら?」

 上級シスターがこう言うと……
 「いいえ、」
 ぼそぼそっとした不承不承といった声が返って来る。

 始めから無駄だとわかっていたから、断られたショックはそれほど
強くないようにも見えたが、やはり落胆の様子はこの金魚鉢の中から
でもはっきりわかった。

 「さあ、ここへいらっしゃい」
 上級シスターは、小さな椅子に座り、人目もはばからず泣きはらす
パティーを膝の上に引き寄せた。

 パティーはこの時体操服を着ていたが、その気持ちは素っ裸でいる
時とそれほど変わらなかった。
 今は、『お灸』『お灸』『お灸』『お灸』とそのことばかり。
 それ以外のことは何も考えられなかった。

 涙目を拭いて見れば、サイドテーブルには火のついたお線香、艾も
円錐形に綺麗に成形されたされたものが五つ六つ平皿の上に置かれて
いて、準備は全て整っている。

 『見るんじゃなかった』

 「あら、震えてるじゃない。どうしたの?怖いの?だって、初めて
じゃないんでしょう?これまでも何回だってやってきたんでしょう。
さあ、試練は勇気を持たなきゃ乗り越えられないわ」
 上級シスターはそう言ってブルマーをずり下ろす。

 「試練を乗り越えられなきゃ前には進めないでしょう。……あなた、
ずっとこのまま子供でいるつもり?……大人試験ではどのみちもっと
大きなお灸を据えられるのよ。知ってるでしょう」

 「…………」
 上級シスターに諭されてもパティーの震えは止まらい。

 大人試験の時にもこれが行われ、誰もがその熱さに歯が折れるほど
の我慢を強いられる試練だったのである。

 「さあ、行きますよ」
 上級シスターの声に、助手の二人がすかさずパティーの肩と両足を
押さえる。

 もうこうなってはパティーも、どうすることもできなかった。

 上級シスターの膝の上にうつぶせ。幼い頃ならお尻叩きとなるその
姿勢でブルマーが下ろされ可愛いお尻が顔を出している。

 鳥肌が立ち、震えているお尻のお山に円錐形の艾が乗せられると、
お線香の火が移される。

 「いやあ~~」
 パティーは大声と一緒にその場を跳ねのこうとしたが、頭も両足も
助手二人に厳重に抑え込まれていて果たせない。

 残ったのはパティーの嗚咽だけだった。

 こう書くと、何やら長い間パティーが灼熱地獄にさらされたようだ
が、お灸の所要時間は15秒から20秒程度。あっという間に終わる
話なのだが、幼児体験でショックを受けていたパティーには、これが
トラウマになっていたのである。

 「さあ、今度は表よ」

 上級シスターに促されて今度は仰向け。

 「いやあ~やめてえ~~もうしないから~~」

 艾が灸痕のある恥丘に乗せられ、火がつけられてそれが燃え尽きる
まで、パティーは騒ぎっぱなし。もし、二人の助手が頭と両足を必死
に押さえてくれなかったら、このお仕置きは失敗していたかもしれな
い。そのくらいパティーは必死だったのである。

 ちなみに、銀河系にある地球という星の一部でもこれと同じような
ことが行われているが、これはこの星の先祖が未だ文明開けぬ地球で
たまたま知り合った知能の高いサルに応急処置の治療を行ったものが
きっかけと言われている。

 さて、それはともかく、パティーは許されてシスターの膝を降りる。
 ブルマーを穿くこともいったん許されるが、これで本日のパティー
のお仕置きはすべて終了とはいかなかった。

 彼女にはまだ辛い現実が待っていたのだ。

 「パティー、これで一応あなたへ当初課したお仕置きは終わった事
になるけど、お灸のお仕置きの時に少し反抗したから追加のお仕置き
をするけど……いいわね」

 上級シスターは形の上ではパティーに承諾を求めているが、勿論、
パティーの側にそれを否定する権限はない。仮に否定したところで、
その先に見えるのはさらに厳しいお仕置き。
 『はい』と言う他はなかった。

 「はい、シスター」
 だから、この時のパティーの顔がどんなだったか、それは一口では
とても言えないほどだったのである。

 パティーは再び用意されたテーブルに仰向けになると、やっと身に
つけたブルマーを再び脱がなければならない。
 『これで何度裸になったなったことだろう』
 確かに女しかいない場所での出来事には違いないが恥ずかしくない
と言えばそれも嘘になる。まるで着せ替え人形のようにもてあそばれ
ている自分が情けなくてしかたがなかった。

 そんなことをぼんやり考えていると、再び両足が大きく開かれる。
鞭打ちの時に使ったのと例の細い丸太で両足首を縛られ……そのまま
持ち上げられるのだ。

 もし、何の説明もなくいきなりこんな事をされていたら、誰だって
きっと大声を出していたに違いない。

 でも、この時のパティーはすでに次から次に襲う試練に慣れてきて
いた。
 否、『疲れていた』『諦めていた』という言葉の方が正確かもしれない。

 『もう、なるようにしかならない』
 そんな気持ちの彼女の鼻を再びあの香りがくすぐる。

 「いやあ~だめえ~~」
 諦めていたはずのパティーの脳裏で再び警鐘が鳴る。

 パティーは慌てて起き上がろうとしたが時すでに遅かった。
 起き上がろうとする上半身も細い丸太に固定された両足も、二人の
助手によって1センチたりとも動かないのだ。

 『いやあ~、やめて~、だめ~』
 そればかりではない。あの忌まわしい香りが自分の最も大切な場所
にまとわりついて離れないのだ。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 パティーはやっとの思いで声を出す。
 しかし、それだけしか言えなかった。

 「いやあ~~!!!!!」
 やがて脳天を突き抜けるような熱さが襲ってきて……
 それは、さながら焼け火箸をヴァギナから差し込まれたような衝撃
だったのである。

 もちろん、これは彼女の思い。実際に肉体に起こる衝撃は先に説明
した通りだ。

 『こんなことされた』
 放心状態の彼女は何回も何回も頭の中でつぶやく。

 そして、そのショックからようやく一息ついた頃になって……
 「いいこと、自分で自分を律することのできない子には、何度でも
大事な処を焼いてあげるから、楽しみにしていて頂戴。いいわね」

 上級シスターの厳とした物言い。パティーは……
 「はい」
 と小声で頷くだけだった。


*******************************


 金曜日の翌々日。日曜日の午前、パティーは懲戒所人たちと一緒に
教会のミサに参加し、それが終わると解放された。
 
 たった二泊三日の苦行だったが、さすがに堪えたとみえてさっそく
人目もはばからず母親に飛びつく。
 彼女のお仕置きは私たちが見学した最初のあの日が最もきつくて、
以後は反抗しない限り少しずつ緩やかになっていった。

 ただ、彼女の懲戒所での苦行はお仕置きだけではなかった。
 お仕置きのない昼間も常に拘束衣の下着を身につけいなければなら
ないしトイレで用を足す時も監視役のシスターが傍について見ている。
夜は夜で大事な処にたっぷり促淫剤が塗られるから拘束衣を着せられ
た後は悶絶しながら夜中じゅうベッドをのたうち回ることになる。

 こうやって懲戒所にいる時はお仕置きだけではない。昼夜問わず、
絶対にオナニーをさせない。一歩踏み込んで薬で高まったオナニーを
やりたいという気持ちを押さえる為の訓練まであるのだ。
 これで疲れないはずがない。家庭に帰りたくないなんて思う子は
いなかった。

 パティーばかりではない。そんな懲戒所を出所してきた子供たちが
まず感じるのは家庭の温かさ、帰るべき場所のある安堵感だった。
 だから当初は誰でもが親のいう事を二つ返事できくようになる。

 『あんな処に比べたらここはまだまし』
 というわけだ。

 そんな瞬間を利用して母親はパティーにダメを押した。
 「パティー、あなたは今日からお父様のベッドで一緒に寝なさい」

 母の厳命にパティーは思わずのけぞる。
 『この歳で父親と同じ布団で練るなんて』
 生理的な恐怖感を覚えたのかもしれない。

 ただ、自分の立場を考えると、嫌とは言えない現実もわかっていた
ようで……。
 「はい、お母さま」
 と素直に答えたのである。

 しかし、それは私も同じだった。この星の習慣で普段から娘たちと
一緒には寝てはいるが、それはみんな幼子。
 こんな大きな子は初めてだ。

 無論、間違いなど起きるはずがないとは思っていても、二つ返事で
『いいよ』とも言えなかった。

 そこで、パティーと距離ができた場所で母親に真意を確かめる。

 「どうして、私がパティーとベッドを共にしなければならないんだ」
 小声で尋ねると……

 「あら、いいじゃない。親子なんですもの。問題ないでしょう。…
…それともあなたの方に何か問題があるのかしら」

 「いや、そういうわけじゃあ……」

 「じゃあいいじゃない。懲戒所に行ったと言っても、三日じゃまた
すぐに戻っちゃうわ。あなたが一週間を三日にしたんだから隣に寝て
その分、監視してもらおうと思ったの。だって、いくら気の強いあの
子でも父親と同じベッドのなかじゃできないでしょう」
 母親は軽やかに笑うが……。

 「そういうことか。でも、それならお前の方が適任なんじゃ……」

 「馬鹿ねえ、今のあの子にとって私は自分を地獄へ落とした大魔王
なのよ。そんなベッドで寝られるわけないでしょう。まずは懲戒所で
鍛えてもらった身体を冷まさなきゃいけないけど……それに私は適任
じゃないわ」

 「僕が適任だって言うのかい?僕は男なんだよ」

 「だから何?……だからいいんじゃない。普段あまり抱かれた事の
ないお父さんに抱かれるんだもの、悪い気分じゃないはずよ」

 「また、そんな冗談を……」

 「冗談じゃないわよ。あの子はあなたを好いてるもの。こんな時に
慰めてくれたらそりゃあ嬉しいはずだわ」

 「まさか……年頃の娘が父親を……」

 「どうして?そんなこと言うの?年頃の娘だって父親が好きな子は
たくさんいるのよ。あの子はね、あなたに慰めてほしいのよ」

 「え~~」
 私は懐疑的な顔をして驚く。

 「これは私が同性だからわかるの。女性は直接好き嫌いを言わない
から男性にはわからないかもしれないけど、女性はその仕草の端々で
その人をどう思っているかがわかるものなのよ」

 「う~~ん」
 私はこの時多くの不安を抱えていたが結局はこの母親に従うことに
なったのだった。

 ******************************
 
 懲戒所から帰宅して最初の夜、パティーは私たち夫婦(?)だけが
そこにいる居間に呼ばれる。
 他の子供たちは全員自分の部屋に下がらせていて、ここへは立ち入
らせなかった。

 「懲戒所はどうだった?大変だった?」
 ソファに腰を下ろした母親が自分の前に立つパティーにありきたり
な質問をすると……。

 「はい、お母さん」
 声は小さいが素直に答えた。

 「なら結構よ。もし、平気の平左ですごされてたら私たちの努力が
水の泡になっちゃうもの」
 母親は含み笑いを浮かべ、それを私にも見せて同意を求めてるよう
な仕草だった。

 そして……
 「だったら、受難の跡を見せてもらいましょうか」
 
 パティーに対してだけではないのだが、この母親は私だってギクリ
とするようなことをさらりと言ってのけるのだ。

 「えっ!……」
 パティーの驚きは当然だろう。

 「わからない?裸になりなさいって言ってるの。わかるでしょう?
懲戒所での成果を見たいのよ」

 「ここで?」

 「そうよ。ここにいるのはお父さんとお母さんだけだもの。別に
裸になっても恥ずかしくなんかないでしょう?」

 「えっ!?……あっ……はい」
 彼女は傷ついた自分の体をもうこれ以上誰にも見せたくなかったが、
母親の要求を否定しなかった。というか否定できなかったのである。

 二十歳未満の子供は幼児もハイティーンも同じ扱いというこの星に
あって母親の要求をはねつけるなんて勇気は、パティーでなくても、
誰にも湧いてこないに違いない。
 
 「はい、お母さん」
 パティーにはこの言葉しか残っていなかった。

 若い娘が異性である私を前にしての全裸は、相当に勇気がいること
だろうが、この星に生まれた以上それも仕方がなのだ。

 その勇気を母親は慎重に大胆にめでる。
 二つあるお尻の山の鞭の跡やさらに大きくなったお灸の痕。お臍の
下の様子も細かく観察した後は、ソファに仰向けに寝かせて、両足を
広げさせた。

 「ん……ここも丁寧な仕事がしてあるわね。結構だわ」

 母親は大変満足げだったが、この時ソファに寝ころんだパティーは
すでに大粒の涙を流していた。

 残酷な仕打ちにも思えるがこれがこの星の流儀。長幼の序、身分の
上下は絶対というテーゼをこの星に生まれた女の子たちは頭ではなく
身体に覚えさせられるのだった。

 「服を着ていいわ。……あっ、それから……いいから服を着ながら
聞いてちょうだい。あなた、これから一週間、お父様のベッドで一緒
に寝るの」

 「えっ!」
 その瞬間、パティーの手が止まる。

 「だってそうでしょう。これであなたを一人で寝かせたらまた同じ
事になりそうだもの。暫らくは様子をみてみないと……」

 「…………」
 母親の命令にパティーの口は開かない。

 『ほら、見ろ。ショックで口もきけないじゃないか』
 私は思ったのだが……母親の感覚は違っていたのである。

 『嬉しいのね。それをどうやって打ち消そうかまよっいるのね』
 と、こうだった。

 『無茶苦茶な事言いやがって、どういう精神構造をしているんだ』
 私は母親の理屈を純粋にそう思ったが……ただ……

 「はい、お母さん」
 力のないパティーの最後の返事。いつものように判で押したような
答え方だったのだが、ただその瞬間、私にはパティーの頬がうっすら
笑ったように感じたのだった。

 ****************************

 「お尻はもう痛くないのか?」
 私はぎこちない態度でベッドに腰を下ろす。すでにマークは夢心地。
仕事の半分はすでに終わっていたが問題はこれからだった。

 別に下心があるわけではないが、ハイティーンの娘とベッドインだ
なんて前いた星では考えられない事だったからパティーがというより
私の方がよほど緊張していたのである。

 「大丈夫、最初は大変だったけど、後の四回はそんなでもなかった」

 「お前も大変だなあ」

 「仕方ないよ。約束破っちゃったから」

 「でも、懲戒所では色々やられたんだろう?」

 「そりゃあねぇ」

 「でも、我慢できたんだ」

 「しなきゃしょうがないでしょう。どこにも逃げられないんだもの」
 高い鼻が天井を向く。

 「パティーは……今、幸せかい?」

 この問いにも彼女は即答した。
 「もちろんよ。お母さんも学校の先生方もやさしいもの」

 意外な言葉が返ってきた。
 何かあるたびに素っ裸の尻を叩かれている人たちを優しい人たちと
パティーは表現するのだ。

 ……しかし、
 『そりゃそうだ』
 と私は思った。

 誰もが生まれる場所を選べない。新天地を求めたくともそのコミュ
ニティを抜けられないことだってある。そこが理想の天地でなくとも、
そこで産まれてそこで生きてそこで楽しみを見つけなければならない。
 そうした意味で女の子は男の子より優れているようだった。

 「前のお父様……つまり、司祭様とは一緒に寝たことがあるの?」

 「小学校時代はね、だって週に一回は必ず順番がまわって来るもの。
家ではお父さんとお母さんで週二日くらい添い寝してたかな。ベッド
に入るといろんな処をさすりながら色んなことを話すの」

 「ん?……司祭様も?」

 「そうよ、お仕置きされて痛い処が早く治るようにって……年寄り
だからちょっと臭かったけど、色んなこと知ってて物知りだったし、
お母さんとうまくいかない時は何度も愚痴を聞いてくれたわ。だから
慰めて欲しい時は、本当は私の順番ではない時だってそうっとお父様
のベッドに潜り込んだりしたんだから……」

 『そうか、この星の父親は娘のなぐさめ役だったのか……でも……
今は、違うんだろうなあ。身体もおおきくなったし第二次成長期にも
はいってるしな』

 そんなことを思っていると、いきなり。パティーがきょとんとする
ような事を私につぶやくのだった。

 「お父様、今日は私を抱いてくれるんでしょう」

 その言葉は額面通り受け取ればもの凄くショックな言葉だった。
 しかし、パティーには何の他意もない。19の娘でも純粋に子供と
して扱われるこの星にあって親とのベッドインは特別な事ではない。
身体のありとあらゆる処をさすってもらい。昼間は言えなかった愚痴
をきいてもらうのだ。
 
 「おいで……」
 私はためらいながらもパティーを自分のベッドに誘ったが、この時
怖かったのはパティーではなく私の方だったのである。

 「お邪魔しますね」
 彼女はそう言ってネグリジェを脱ぎ捨てると、この時唯一身につけ
ていたショーツまでも脱ぎ捨ててベッドシーツに包まる。

 「ふう~」
 私は大きく一つ息をつく。
 幼い子も同じように全裸でベッドに入って来るが、ハイティーンと
もなると受け手の側の気持ちはまた格別だった。

 そして、いきなり……
 「私ね、お父様のことが好きだよ。司祭様も決して悪い人じゃない
けど、おじいちゃんだったもん」
 その明るい声にびっくりした。

 「怖くないのかい?」

 「どうして?私だって12の頃までは毎日お父様やお母様に抱かれ
てたんだから、今さら驚くような事じゃないじゃないでしょう?」
 
 パティーはどうしてそんなこときくのかって言わんばかりだったの
である。

 こうして、最初はぎこちない関係だったが、パティーが常に陽気に
振舞ったせいで私の心も次第にほぐれていく。
 
 「そうか、大人にはなりたくないのか」

 「なりたくないってわけじゃないのよ。だって、大人になれないと
いつまでもお仕置きを受けて暮らさなきゃならないでしょう。若い頃
ならまだご愛敬ってところもあるけど、おっぱいやお尻が垂れてきた
いい歳をした女が枷に捕まってみんなに見られてるなんて、さすがに
ぞっとするもの」

 「そんな人いるのかい?」

 「中にはね。さすがにああはなりたくないと思うわ。だから、今が
私にとって一番いい時かもしれないわね。今回は失敗したけど、幼い
頃のようにいつもいつもお仕置きされることもないし、大人のような
責任もまだないから」

 「なるほど」

 「ねえ、お尻さすって。指を谷間の奥に潜らせてもいいのよ」

 「えっ!」

 「ほら、またそうやって驚く。お父様はまだこの星に来て間がない
からわからないかもしれないけど、このベッドだって本当はお母さん
が懲戒所で頑張った私にご褒美としてセッティングしてくれたのよ」

 「…………」
 私は、言葉を失ってしまった。

 「私たちって女だけの世界でしょう。だから、オナニーもレスボス
もそれ自体禁止されているわけじゃないの。だって、それがなくなっ
ちゃったら人生にのお楽しみなんて何もなくなっちゃうもの。ただ、
自制心を失っちゃいけないってだけ。わかる?」

 「ああ、わかるよ。私もここへ来て色々勉強したから……」
 私はパティーが私と言う男を求めているんだとわかった。
 もちろん、この星でも親子でのファックはできない。しかし、それ
以外の事にならこの星はとても鷹揚なのだ。

 「あっ、そう。わかってるならいいの。じゃあサービスしてね」
 あっけらかんと言われて私の顔が赤くなった。

 「今日は頑張った私にお母さんがご褒美をくれたんだから……ね、
わかるでしょう?」
 私の身体にのしかかるパティー。もう主客は完全に転倒していた。

 「やったあ、だから、お父様って好きよ」

 ま、それから先のことについてはあまり細々としたことを書き連ね
たくはないので省略するが、この小悪魔は、私の手や指がどこにどう
入ろうとお構いなしで連れまわす。

 「お尻がまだ痛いの。さすってえ~」
 「お臍の下ってすぐかゆくなるのよ」
 「私のおっぱい小さいけどとっても感じやすいんだから」

 パティーは自分が感じることのできる全ての場所に私の指先を連れ
て行くと、そのたびにはしゃいでいる。その感触を楽しんでいる。
 私は何もする必要がなかった。
 そして、男の精気を全て吸い取った後に、静かに寝息を立てて眠て
しまったのである。

                   <第三話/終了>

α201<第二話>

 私は二十人も子どもがいるウィルソン家の父親となったわけだが、
私と子供たちに血縁関係はなく、妻もそれは同じ。私たちはあくまで
子育てのために便宜上の父親を名乗り、母親となっている。

 二人の身分は、子育てが仕事の公務員という不思議な夫婦なのだが、
『これは困った』と思うような出来事にはあまりめぐり合わなかった。
 子供たちは遺伝子解析をして受精しているせいか、いずれも美少女、
美少年で頭がよく、何より親に従順で品行方正。もちろん子供だから
着任初日に見られたようなこともないわけではないが、私が昔住んで
いた星の子供たちから見れば十分過ぎるほど上等だった。

 だから、もしこれだけが仕事ならここは私にとってパラダイスなの
だが、ま、そうもいかない。
 実は、私には二十人の子供たちの父親としての仕事の他にもう一つ
別の仕事をこなさなければならなかった。

 昨日お世話になった運転手に送られて次の日は朝からそこへ向かう
ことになったのである。

 「いやあ、本当に大丈夫でしょうか?私、こちらの宗教の事なんて
何一つ知らないんですよ」

 「わかってます。でも、それは問題ありません。向こうには正式な
教育を受けた司祭様がいらっしゃいますから、その方の指示で動けば
それでいいんです。あなたの立場は助祭といって、いわばアルバイト
みたいなものですから……」

 運転手氏はそう言うと車のスピードを上げる。

 そうやって着いた処は森の中にたたずむ一件の教会だった。


 緑の森に溶け込むように建つ漆黒の城といった感じで、平屋木造の
造りながら天井は高くその入り口に立つと歴史の重み、威厳や風格に
こちらが押しつぶされそうになった。

 「ここは礼拝堂の入り口。今の時間、司祭様はおおかた執務室です。
裏へまいりましょう」

 運転手氏に導かれ、中庭をよぎって裏へまわろうとすると、そこで
奇妙な置物に遭遇した。

 「……?」
 最初は、『生きていないのか?』『彫刻なのか?』とさえ思ったその
オブジェに私はびっくりする。

 「ホンモノ?」

 そこに飾られていたのは幼い子供たちだった。

 「この子たちは?」

 運転手氏に尋ねると彼女は答えず、この庭の管理人のような女性が
寄ってきて答えた。

 「お仕置きですよ。司祭様からお仕置きを受けてるんです」
 明るい笑顔で答えは明確に返って来る。

 「司祭様ってそんなことまでするんですか?」

 「ええ、この子たちにとって司祭様はお父様にあたりますから……」

 「?」
 私が怪訝な顔をしたので、管理人さんはあらためて説明してくれた。

 「この子たちは、この星の通常の出産ではなく、太古の昔から続く
伝統的な方法で生まれてきたのです」

 『太古から続く伝統的な方法?』
 私の頭は、当初、聞きなれない表現にしばし混乱したが、しばし、
頭の中を整理すると単純な結論が出てくる。

 「ひょっとして……」
 こう言っただけで、管理人さんは微妙な笑顔を返す。相手方は私が
話の中身を理解したことを知ったようだった。

 「この星では優秀な子孫を残すため、本来PCが想定しない形での
子造りはありません。つまり動物のようなSEXで子供を造ることは
原則的にないのです。ですが人間もまた動物ですから間違いが起こる
こともあります。そうした時、コンピューターの指示に従わず造った
子供は違法だから流産させるというのは、今度はバイキングの伝統に
反することになるので、そこでそのような子は『教会の子供』として
教会が養育するようにしているのです」

 「そうか、それでこの子たちにとっては司祭様がお父様というわけ
か……」

 「でも、この仕事は、本来、助祭様の仕事ですから、すぐにあなた
もお父様ですよ」

 「私の?……」
 私は一瞬びっくりしたが拒否はできないと悟るしかなかった。

 管理人の女性は私の悟った顔を見て静かに頷く。

 「この星では大人なら誰でも子どもをお仕置きすることができます。
ですから、日頃、子供たちはとても従順で、お手間は取らせませんよ」

 「大人は誰でも子供を叩くんですか?」

 「もちろん、むやみやたらではないですけど、必要とあれば誰でも
……それでも親や学校の先生、それにこの司祭様が最も多いですかね。
司祭様には色々他の仕事もあって子供の面倒まで手が回らないことも
多くて……今は私が代役を勤めていますが、本来、ここでの子どもの
世話はお仕置きを含めて助祭様の仕事になるんです」

 彼女が説明すると、それまで無機質だった銅像たちからさっそく声
が聞こえてきた。

 「わあ、おじさん、助祭さんなんだ」
 「わあ、今度の助祭さんかっこいい。私好きよ」
 「ねえ、私、もう三十分もここにいるの早く許してえ、もうお家に
帰りたいの」

 ピーちくパーちく黄色い声が飛ぶ中、管理人さんが説明を続ける。
 「ほら、ここに罪状が書いてありますから、ご覧になります?」

 私は日頃子供の悲劇を観察する趣味は持ち合わせていなかったが、
それでも好奇心は人一倍ある方だから近くによって観察してみると、
子供たちは意外に愛想がよかった。

 私に向かって「こんにちわ」「こんにちわ」と挨拶をするし……かと
いって媚びるような笑顔でもない。
 お仕置き中でも大人と話してはいけないとは言われていないようだ。

 彼らはそれぞれに不思議な器具で身体を拘束されていたが、誰一人
痛そうな素振りをしている者はいなかった。
 そして、止まり木に止まるその子の脇には、どうしてこうなったか
が書かれた掲示板が立っている。

 『妹とけんかをして怪我をさせてしまいました』と書かれた掲示板
の子はピロリーと呼ばれる大きな板で首と両手首を挟まれて膝まづい
ているし……『教室の黒板に落書きをしました』と書かれている子は
大人も見上げるような大きな木馬の上で縛られている。

 他にも、両足首を大きな板に挟まれていたり、肋木に大の字に括り
つけられていたりと、そのポーズは色々だ。
 大半の子はこうして何らかの器具で拘束されていたが……中に一人
だけ、野外テーブルの上でおむつ替えのポーズをとらされているロー
ティーンの子がいて目を引く。

 アリスというこの少女は、テーブルの上で赤ちゃんのおむつ替えの
姿勢を取らされており、両足が青空を突き上げるように持ち上がって
おりパンツも一緒に足首の処ではためいている。
 当然のことながら大事な処は丸見えだが、本人はどうやら観念した
様子で泣いてはいなかった。

 ただ彼女の場合、拘束されてはいないから、ここから逃げ出そうと
思えばできるはずだが、どうやらそうもいかないみたいで、屈辱的な
ポーズをひたすら我慢しているといった風に見えた。

 狭いコミュニティーでの出来事、教会からは逃げだす事は簡単でも
その先に逃げ場はないということか。
 それに、もし捕まったらその後どんなお仕置きを受けることになる
か、それは想像するだけでも恐ろしくそれが彼女たちの見えざる足枷
になっていたのである。

 実際、大人たちはお仕置きを授けるにあたり幼い子の場合は、必ず
拘束を掛けるが、十歳を越えるあたりからこうしたことで子供たちの
自制心を育てていく。恥ずかしさの自覚と我慢を覚えさせるのだ。

 女社会では抜け駆けやズルは絶対にダメで、これは男社会よりはる
かに厳しいものがある。もしこれを破ると……お仕置きは男の私でも
正視出来ないほどだった。

 ただ、そうした厳しさの反面、この社会はあちこちで寛容な扱いも
多く、情が絡んだり事情が理解できれば刑はどんどん緩くなっていく。
男社会のような紋切型や杓子定規な対応を女性が望まないことを子供
たちもよくわきまえていて、どうやって権力者(親や教師など)から
厳しい規則を緩めさせるか、そのあたりは名人芸をみせる子も少なく
なかった。

 私はもっと長い時間この彫刻の森を散策していたかったが……

 「……?(何だろう?)?」
 途中から何やら懐かしい音が聞こえ始めてしまい、私の興味はそち
らへと移っていく。

 「……?(ひょっとして鞭打ち?)?」
 私は思い切って付き添いの運転手氏に尋ねてみた。

 「間違っていたらごめんなさい。どこかで鞭の音が聞こえませんか?」

 私の質問に運転手氏は笑顔で即答する。
 「ああ、あれですか。あれは司祭様が信者の一人に愛を授けている
ところですわ」

 「愛?」

 「ええ、ですからお仕置きですよ。ここでのお仕置きは大人であれ
子供であれ虐待行為や刑事罰ではなく、すべて愛として行われるもの
なので、司祭様からその愛を授けていただこうとして、時折、大人が
ここを尋ねて来るんです」

 「?????大人がわざわざお仕置きを受けに来るんですか?」

 「そうですよ?外の世界で育った助祭様にはピンとこないかもしれ
ませんけど、大人たちからたっぷりと愛され十分にお仕置きを受けて
育った子供たちも一定の年齢に達すれば大人になります。そうなると
好きなことが何でもできますから、最初は楽しい時間ばかりなんです
が、自由には必ず責任が伴いますし、結果も求められます。すると、
あれほど渇望していたはずの大人の世界が今度は色あせて見えるよう
になるんです。そうなると辛かっただけのお仕置きがむしろ懐かしく
感じられるようになるんです」

 「お仕置きが懐かしい?」

 「ええ、だって大人の世界では人を責めるのに手加減がありません
が子供時代のお仕置きはすべて手加減されておこなわれます。それに、
終わればたっぷりのハグだって約束されていますから……」

 「なるほど、悲劇はあっても所詮コップの中の嵐。ハッピーエンド
は約束されているわけだ。女の子はそういうのを敏感に悟るんですね」

 「ええ……でも、一旦大人になったら今度は子供へは戻れない」

 「だから大人のまま子供の心に戻れる場所はないかと探すわけです」

 「つまり、それがここ。というわけですね」

 「ここは私たちにとっては聖域。司祭様は私たちが子供のころから
司祭様で、私たちも何年か前までは、この子たちと同じように沢山の
お仕置きを受けて育ちましたから……ここは私たちにとっては第二の
家庭みたいなところなんです」

 「それに、司祭様はとりわけ人間観察に優れたお方ですから婦人が
何を求めて懺悔室の戸を叩いたかよくよくご存じなのです。その観察
をもとに婦人に懲罰と許しを与えて肩の重荷を落として差し上げる。
それがあの甲高い音の正体というわけです」

 「なるほど、それでお仕置きは愛というわけですか。……では……
あなた方もご利用なさるんですか?その……懲罰室を?」

 「さあ……」
 「どうでしょう」
 二人は表情を緩めてお互いが笑顔で向き合う。

 「女性だらけの世界と聞いてましたからもっと気取った処なのかと
思ってましたけど違うんですね」

 「(はははは)女が気取るのは男性の前だけ。女同士見栄は張ります
けど、気取ってみても仕方がありませんでしょう。……着いてるもの
がみんな同じなんですから……」
 運転手氏は失笑したが、気を取り直すように……
 「でも、余りにだらしなくなるのも困りもので、もう一度、男性の
目を利用する事を思いついたというわけです」

 「そういうこと……慣れるまでは文化の違いにどっきりすることも
多いかもしれませんけど、慣れてしまえば、毎日がストリップ劇場で、
男性にはパラダイスかもしれませんよ」

 「(ははははは)」
 私は運転手氏やこの庭の管理人さんの言葉に当惑しはにかみながら、
最後は白い歯を見せて笑ってしまう。
 『男とはどこまでもスケベな生き物』だと今度は自ら苦笑したのだ
った。

 そんな談笑の輪の中に話題の主がやってきた。

 「あら、テレサ。こんにちわ。今日は何か教会に御用なの?」
 運転手氏が教会から出てきたちょっとだけおしゃれをしたテレサを
捕まえる。

 対するテレサ婦人の笑顔は『みんな、白々しい。知ってるくせに』
と言いたげであった。ただ、そうは言わずに……
 「あら、みなさんお揃いね。今日は来週のバザーに出す品物を届け
に来ただけよ」

 彼女はさらりとかわし、私に目をやる。
 「あら、ひょっとしてこの方、新しく赴任された助祭様かしら?」

 「はい、トーマスと申します。当地は初めてですが、美しい景色に
感銘を受けておりました」

 「まあ、ここには初めてこられたんですか?でも、美男子はどこに
いても絵になるわね。今度はこのお方のご指導を受けてみようかしら」

 私は、今の今、話を聞いたばかりなのでギクッと胸に矢が刺さった
が、どうやらこれも、婦人が私たちのよからぬ噂話を察して、先手を
打って放った矢のようだった。

 彼女は、笑顔の他は何も言わず化粧紙に包まれた小銭をそばにいる
管理人に握らせる。

 「ここにいる子供たちはもう許してあげてね。……それと、これ、
子供たちのお小遣い。人数分あるから分けて頂戴」

 彼女の言動は私には不可解だったが、あとでこの庭の管理人さんに
あらためてたずねてみると……
 どうやらこの子供たち、彼女が着飾って教会にやってきたのを見て
からかったのが原因でこうなったようだった。
 この星では親や教師のようにその子と直接的なかかわりがなくても
正当な理由があれば子供をお仕置きできるのだ。思うにご自身の体罰
を近くで子供たちに聞かせたくないというのがその理由のようだった。

 子供たちが次々と解放されていくなか、ただ、アリスに対してだけ
は……
 「あなたはもうしばらくそうしてなさい。懺悔室を覗くなんて許さ
れませんよ。十を越えた子が他人の心を慮ることもできないなくて、
立派なレディーにはなれなくてよ。」

 婦人はアリスに対してだけは厳しい。
 そればかりではなく、こうも言ったのだった。

 「さあ、みなさん。女の子というのはお股の大事な場所が自分では
なかなか見にくいですから、こうした機会に眺めてみましょう」
 婦人の発案で、幼い子から順に展示品の観察会となった。

 それが一回りすると、拘束されていた子供たちはポケットに小銭を
忍ばせてからその場を立ち去る。

 口止め料というほどの額ではないが、何があったか知ってしまった
周囲の人たちに、自分が少しでもよく見られたいと思ったのかもしれ
ない。

 もちろんこれ以前、司祭様にもそれなりのチップ(献金)は渡して
いるはずで、子供のお仕置きは無料だが大人がお仕置きをしてもらう
時は、少額とはいえけっこう小銭が必要だったのである。

 最後にアリスが許され、小さな金貨を一枚受け取る。これは他の子
の十倍以上の値打ちだが、もちろん嬉しいという顔はしなかった。

 アリスが駆け出し、テレサ婦人が去ってから私たちは教会の中へと
入っていく。

 脇玄関を入るとそこは礼拝堂と執務室をつなぐ幅広い廊下になって
いた。内部は薄暗く、ステンドガラスから差し込む自然光が柔らかく
冷ややかな空気ともマッチして神々しく感じられる異空間だ。

 目が慣れてくると、聖母子や神に祈る少年油彩が飾られているのが
分るが、家具や調度品などはなく長い廊下の先からわずかに人の気配
が感じられるだけだった。

 私たちは人の気配に引き寄せられるように遠くの光を目指して進む。

 するとその求める光がやがて大きくなり、私たちを引き寄せる声が
実は子供で、しかも結構な数いることもわかってくる。

 外光に満たされた輝く場所にまでやってきた時、私は思わず溜息を
つく。景色が開けたその場所は広い高台。しかも数多くの大砲が海に
向かって並んでいる。圧巻だった。
 「ここって広いんですね」

 教会というからおそらくはこの程度と頭の中で想像し高をくくって
いた私にそれはびっくりするほどの規模だったのである。

 「教会は町のシンボル。いざという時はいつも街中の人たちここに
避難し立てこもって戦います。私たちの祖先は船にはいくらでもお金
を掛けますが、お城にはあまり興味がなく立派なものは築かなかった
みたいです」

 「なるほど、この教会はお城の代わりでもあるんだ。……ここにも
子供たちがいるんですね。まるで学校だ」

 「放課後集まって来るんです。この教会の中は習い事教室みたいに
なっていて、それぞれ遺伝子で振り分けられた子供たちが学者志望は
勉強を芸術家志望の子は絵筆を……運動選手は中庭でボールを蹴って
いますわ」

 実は拘束されていた子供たちもここから抜け出し、面白いショーを
こっそり見学に行ったみたいなのだ。
 そのリーダーがアリスというわけだ。

 さて、一行はさらに奥へと進むと、そこに司祭様の執務室があった。
やっと目的地にご到着というわけだ。

 「おう、待っていたよ。コリンズ少佐」

 顎髭の白い老人は私が最近呼ばれたことのない名前で呼ぶ。

 「私のことをよくご存じですね。ダフネ大司教」

 「ここはアンドロメダでは片田舎。しかも女が支配する星だがね、
侮ってはいけないよ。のどかな田舎の風景も裏を返せば科学技術の塊。
科学力のみならず政治的にもアンドロメダ連邦政府の中枢に数多くの
人材を送り込んでいる。情報サーチ能力だって、当然、一流だ」

 「なるほど」

 「君はただ単にこの星の住民と先祖が同じ血筋を持っているという
ことで採用されたと思っているかもしれないが、君の氏素性。学歴、
職歴、病歴、性格などありとあらゆるデータを事前に取り寄せた結果
適任と判断されてここにやってきたのだ」

 「もともとここは海賊の秘密基地だったと聞いたことがあります。
してみると、ずいぶん様変わりしたわけですか?」

 「様変わり?そうではないよ。海賊なんて聞くと荒くれ者の集団と
感じる人が多いかもしれないが、当時から彼らは決してバカではない。
航海術を始め近隣では抜きんでた科学力と統治能力を持っていていた。
その伝統が女社会となった今も受け継がれているだけさ」

 「……女はこうしたことを自慢げに語らないからわかりにくい?」

 「そういうことだ。君はなかなか知恵者だな」

 「いえ、そういうわけでは……」

 「謙遜することはない。だからこそグランドマザーも君を助祭にと
推挙したんだろう」

 「グランドマザーって何ですか?」

 「何だ?そんなことも知らないのか?契約書にもそのことは触れて
あったはずだが……読まなかったのか?」

 「は、……はい。……実は、その時は自暴自棄になっていて、もう
どうでもいいという思いでサインしてしまったみたいなんで……」
 私は苦笑いと共に頭をかく。

 「……そうか……なら、教えてやる。グランドマザーというのは、
この星を統括するコンピューターの愛称だ。君はこの星に採用される
時、ある種の手術を受けたはずだ」

 「確か……目の奥に何か埋め込まれたような……」

 「あれはグランドマザーと交信するための基盤でな、この星に住む
者なら全員が身につけている。これにより全員の健康状態、精神状態
も逐一グランドマザーに蓄えられ続ける。だから私と話している今も
その内容はマザーには筒抜けなんだ」

 「えっ、ということは体制批判もできない。まずいんじゃないんで
すか?……さっきの話」

 「さっきの話って?……何を言っても大丈夫だよ。自由闊達な議論
は誰も邪魔しないから。それは大丈夫だ。具体的に体制転覆でも計画
しない限り、マザーも雑談や冗談までは本気にしない……そんなこと
言ってたら、私たち以上におしゃべりな女たちが暮らせんよ」
 司祭は一笑に付した。

 「それにしても怖い社会ですね。PCによる完全なる管理社会だ」

 「しかし、そのお陰で迷宮入りする事件は皆無だし……事故調査も
スムーズ。病気も超が付くほどの早期発見で平均寿命もアンドロメダ
では一二を争う長寿星だ。……どうだ、そのことの方がよほど凄い事
だろう?」
 司祭は複雑な笑みを浮かべる。

 「でも、プライバシーの心配が……」

 「それも事件捜査の対象にならない限りPCの中に封印されるから
外に出ることはないんだ」

 「ふう、」
 私は思わず溜息をついた。すると、それを見て感じることがあった
のか司祭が話を続ける。

 「但し、子供にはこれがないけどね」

 「えっ!どうして?」

 「簡単さ。事件捜査と同じ。親には子供の動静を知っておく義務が
あるからね、私的なこと隠しておきたいことでもPCが全部データを
流してくれるんだ。子供だってプライバシーは欲しいだろうけど……
この星では大人になるまで辛抱するしかないね。……でも、おかげで
みんないい子ばかり。違うかね?」

 「えっ……ええ……」

 「ここはぶったり叩いたり辱めたりとお仕置きも種類が多いが筋の
通らないことで子供が罰を受けることがないから、大人になってそれ
がために問題を起こすことは少ないんだ。もし、それでやり過ぎるよ
うならPCから私たちに情報がもたらされ、親の解任ってことだって
ある」

 「親の解任?そんなことあるんですか?」

 「司祭、教師、PCの三者で訴えを出せば、親は解任され次の親に
引き渡されることになる。親と言えど人間。誰とでもうまくいくはず
がないし間違いは起こりうるからそれを事前にチェックするためにも
PCの持つ個人情報が必要なんだよ。何事もプライバシーで囲っては
かえって人権が損なわれる。それは子育てにおいても同じという訳さ」

 「……なるほど……でもそんな生活をこの星の人たちはみんな承知
しているんですか?」

 「海賊というのは皆一族一家の意識でやってきた。船に同乗する者
は、血の繋がりがあろうがなかろうが、今日初めて乗船する者だって
みんな家族なんだ。そうでなければ海の上では生きられない。だから
もともと個人の隠し事(プライバシー)より社会の絆の方が優先なん
だよ」

 「まるで、軍隊だ」

 「軍隊ねえ……いや、そうじゃないな。それ以上だ。軍隊は、所詮
他人の集団だが、この星に住まう人たちに他人は存在しない。だから、
正規軍さえ何度も撃破してきた」

 「そんなに凄い装備を持ってたんですか!」

 「そうじゃない。装備品は常に正規軍に劣っているが、常に命令に
よってでなければ何もできない軍人と違って、砲手がやられればその
座に小学生座ることだってあるのが海賊の戦いなんだ」

 「小学生が大砲を打つんですか?…というか、戦闘そのものに…」

 「そう、参加してるんだ。しかも、命令によって動いているんじゃ
ない。見よう見まねで銃の打ち方を覚え、戦いの仕方も覚えていく。
最初は当然邪魔だ引っ込んでろと怒鳴られ突き倒されながらも祖国の
ため船のため家族のために戦い続けていると……やがて、彼は歴戦の
強者として迎えられるようになる。それが、もともとこの星の男たち
の姿だったのだ」

 「誰もが戦いを熟知して無駄のない動きで戦うということですか」

 「さすがは、もと軍人。分ってるじゃないか。だから、装備が少々
貧弱でも強いのさ。そんな猛者どもだ。女の扱いだって丁寧なわけが
ないだろう」

 「……というと……」

 「身まで語らせなさんな。船が帰ってくれば、その夜はあちこちで
乱交パーティー。もともと一族一家みな同じ仲間という彼らの頭の中
に他人の奥さんという概念はなく、大人と子供という区別すらない。
そこで船が着くとハイティーンの少女は地下牢へ退避というがこの星
の日常だったようだ」

 「凄いなあ、今では信じられない。そんな生活よく耐えられますね」

 「仕方がないだろう。ここに女として生まれ、それでも生きていか
なければならないのなら……そして、それを生き抜くのが女なんだ。
生きていくために何でもやる。やれるのが女なんだ。そして、それを
象徴するのがつまみの存在さ」

 「つまみ?」

 「酒のつまみ。古酒は鼻につく。新酒は飲めない。となるとあとは
つまみをでもとって楽しむかということになるだろう」

 「?」

 「なんだ、これだけ説明して分らんのか。お前も意外に鈍い男だな。
……子供だよ。ハイティーンがだめならローティーン」

 「……えっ!子供を……そんな非道なことを」

 「犯しはしない。たとえ酔っていても彼らだってそこまで非道じゃ
ない。だいいち、まだ入らないよ」

 「……」

 「ただな、男どもは何かしらの座興は求めているから、幼い子たち
のストリップでお茶を濁したというわけさ」

 「でも、そんなこと子供が嫌がるでしょう」

 「当然そうだが。親の命令なら仕方がないだろう。嫌ならお仕置き
と脅せば女の子は大半従う。お仕置きはそれほどきついことだからね。
この方がまだましかということになる」

 「それでですかね、私、この星に来て女の子が下をすっぽんぽんに
して晒されているのを何度か見ましたよ」

 「ん、まさにそれだよ。今でこそ、その必要がなくなったが、娘に
お仕置きを利用してストリップに慣れかそうというわけだ。だから、
あれだって元々は親心なんだよ」

 「親心って……」
 私はその先の言葉が出ない。

 「生きていくためには何でもしなきゃいけない。母親はそう言って
娘を躾ける。女の知恵さ。今はたしかに必要のないことかもしれない
が、女の生きざま、厳しさを伝えるものとして、今でもお仕置きの中
に残っているんだ」

 「凄いですね。今は女性の天下なんだし、すたれていてもいいはず
なのに……それを守り続けてるなんて」

 「男と女、本来ならどちらが欠けてもうまくいかないものだが……
もし欠けてしまったら……片方は神になる。少女はその供物なんだ」

 「????????」

 「(はははは)分らんのならそれはよい。忘れてくれ。若い君には
まだ早いな。しかし、どうだ、この星に関する君の疑問は解けたかね」

 「ええ、だいぶすっきりはしました。しましまたけど……」

 「そうかそれはよかった。実はマザーに頼まれてね」

 「マザー?……PCですか?」

 「そうだ、彼女たちはこの星に来て君が疑問に感じているであろう
ことを僕に伝えて……それを私の口から解き明かすよう依頼してきた
んだ」

 「彼女……たち……ですか」

 「そうか、それも知らなかったか。実はマザーというのは独立した
七台のPCの複合体のことなんだ。一台では故障暴走を止められない
からね。そこで出てきた多数決の意見が私たちに伝えられるという訳
さ」

 「…………」

 「開いた口が塞がらないか。……無理もない。来たばかりだもんな。
……でも、何事も慣れだよ。……ここに長く住んでいる私が言うんだ
から間違いない。女たちは私たち男性に優しいからね、不幸という事
でもないと思うよ」
 この星の男たちの最後の直系。海賊時代最後の生き残りは、静かに
語った。


 ****************************

 さて、語りたいことは山とあるが、これからはこの星での日常生活
を追いながら話していきたいと思う。

 まず、朝。
 平日の起床はおおむね七時。まずはバスルームに行ってシャワーと
洗顔。髭も剃るのだが、ここでまず最初の緊張が走る。

 もちろんそんなもの自分で髭を剃るのなら問題ないのだが、この星
の習慣で、髭剃りはその家の後継ぎの仕事とされていて、我が家では
それはマーク君になるのだ。

 御年七歳の少年がベッドに寝そべる私の顔に剃刀を近づけるのだ。
 これに恐怖を感じない人は稀だと思う。
 もちろん、髭剃りにあたっては女性たちが傍にひかえ、懇切丁寧に
指導してくれているが、喉元に大きな剃刀の刃が光ると、正直最初は
生きた心地がしなかった。

 ただ、子どもは呑み込みが早く、三カ月も経つとそれなりの仕事が
できるようになって、その意味でも驚いた記憶がある。

 こうしたことをするのは代替わりの時期を後継ぎ自らに判断させる
という海賊の習慣で、そのカミソリで寝首を欠いていつでも代替わり
してよいぞという意味である。
 もちろん、実際にそうやって親殺しをした子供はいないようだが、
バイキングの常に命を懸けて戦う勇敢さの表れでもあるのだ。

 朝の危険が去ると、朝食の時間。
 食堂には子供たちが全員集まり、一人ずつ朝のご挨拶。
 ここでは子供たちを一人ずつ膝に乗せ頬ずりをして親愛の情を示す。
 
 何しろ子供の数が多いから一人あたりの膝への滞在時間は短いが、
それでも一人一分ぐらいは私の愛撫を受け続けなければならない。
 幼い子はいざ知らず、ハイティーンの子がこれを大歓迎するはずも
なく思いっきり嫌な顔をする子もいる。

 きっと、思いは私の髭剃りと同じなのだろう。

 ただ、ここでもあまり露骨な態度を取ると……
 「パティー、スカートを上げなさい」
 「ピシっ」
 「パンツも下げて……」
 「ピシっ」
 ってことになり、母親の鞭で今一度目覚めることになるのだった。

 それだけではない。
 私のテーブルの傍らに置いたパソコンが警告を発した時はそれにも
対処しなければならない。
 前にも説明したが子供たちにはプライバシーがない。たとえ真夜中
でも彼らの情報は逐一グランドマザーの知るところとなるのだ。

 その情報が、朝には私のノートPCに届いていて、私はその処理も
しなければならなかったのである。
 ハイティーンの子が私の膝を嫌がるのはそのこともあってだった。

 「グランドマザーからの報告では……昨夜もまた楽しんでたみたい
だね」

 こう言うと、パティーは私の膝の上で身体を硬くする。
 何を言っているのか分っているみたいだった。

 昨日の夕飯からこの時間までは子供たちの自由時間。色んなことを
する。宿題をやって、ゲームをやって、ピアノを弾いて、もちろん、
おしゃべりだって大事な仕事だ。
 ただ、やってはいけないこともある。

 姉妹喧嘩、無断外出、布団をかぶっての長電話なんてのも親からは
歓迎されないことだが、親が一番嫌がるのはレスボスの恋と自らの体
を慰めること。つまりオナニーだ。

 この二つ、親も決して一度もやってはならないとは言っていないが、
毎日となると話は別で、悪癖が治らないようなら拘束衣としてオムツ
が当てられるようになる。
 実はパティー、すでにこの状態だった。

 にも関わらず、やはり一度覚えた蜜の味が忘れられないとみえて、
ベッドの中でオムツを切り離すと、十分に楽しんだあとに、どこから
調達したのか新しいオムツをはめ直していた。

 全てはベッド毛布の中の出来事であり、うまくやりおおせたつもり
でいたのだが、グランドマザーが知りうる情報は映像だけではない。
血圧、脈拍、呼吸、心拍数、何より不可思議に動く毛布が決め手で、
グランドマザーは彼女がよからぬことをやっていると結論付けたのだ。

 「これは何をしてるのかね?」
 私が尋ねると、パティーの顔色はすでに生気を失っていた。

 「それは……ベッドの中で着替えてて……」
 苦しい言い訳。しかし、そんな小娘のたわごとはこの社会では通じ
なかったのである。

 おもむろに彼女もパソコンの画面を覗き込む。
 それでも、グランドマザー、父親としての私、そして母親も判断は
変わらなかった。

 「まったく、あなたの自制心がないのにも呆れるわ。これはもう、
修道院で鍛えてもらうしかないわね」

 その言葉が出た瞬間だった。パティーは私の膝をはねのくと母親の
前に膝まづき、
 「修道院は嫌!もうしないから、もう一年だってしないから」
 必死に懇願したのである。

 しかし……
 「駄目よ。そんなことで許される時期はとうに過ぎてるわ」
 にべもない。

 「フルコースで一週間は向こうで鍛えてもらわないと治らないわね」

 「そんなあ、そんなことしたら死んじゃいます」

 「何。オーバーな事言ってるの。フルコースと言っても、お浣腸に
お鞭に、お灸、……あっ、そうだ。今度はお宮の中もやってもらいま
しょうね」

 お宮は陰部のことで、会陰やクリトリスの脇にお灸をすえること。
 実際の熱さはそれほどでもないのだが、女性、とりわけ少女にして
みると、こんなところにまでやられたという精神的なショックの方が
大きい場所だった。

 そんなことが朝昼晩三回行われるのだ。いくら普段からお仕置きが
あると言ってもそこは家庭内。他人の鞭とは違うのだ。
 その瞬間気絶してしまった彼女が後に『家の天井が落ちた気がした』
と、語ったのはあながち嘘ではないと思う。

 この結末は、結局、修道院に金〳土〳日の三日間だけ泊まり込むと
言うことで決着したが、母親は……
 「娘の気絶にいちいち付き合っていたら躾も教育もできませんよ」
 と、おかんむりだった。

 女は少女を含めよく気絶するけど、『背中に人が立っていない時には
倒れない』とも言われ、半ば演技だと言うのだ。
 しかし、たとえ演技であるにせよ、私は娘にあまり激しい罰は与え
たくなかった。

 さて、朝食が終わると子供たちは学校へと出かけ私は職場へ向かう。
 私の職場は、例の白髭の司祭さんが管理する教会。
 そこでの私の仕事は、一口で言えば雑用掛かり。墓地の草むしりや
煉瓦塀の修理、噴水池の掃除に花壇の世話、礼拝堂に設置された机や
椅子の修理なんてものまである。

 その他にもパイプオルガンを習い、日曜のミサで司祭様が説教する
原稿の下書きなんてのも……。

 こうして、仕事には事欠かないが、目が回るほど忙しいというほど
でもない。空いた時間は子供たちともよく遊んでいたから仕事の内容
に不満は何もなかったのである。

 ただ、金曜日になると、私の心はそわそわし始めた。
 実は、この日からパティーが女子修道院に付属する懲戒所にやって
来るからだ。
 そこは教会からも目と鼻の先。たまに少女の悲鳴が風に流れて聞こ
えたりもするくらいだ。

 母親の主張を曲げさせて一週間を三日間に短縮したとはいえ、私も
彼女を地獄の門の中へ送りやった一人に違いがないわけでその気持ち
は正直複雑だった。

 そんな時、一人のシスターが教会に訪ねてくる。曰く……
 「もしよろしかったらパティーさんのお仕置きを見学なさいません
か?」
 
 びっくりした私が……
 「そんなことできるんですか?」
 と尋ねると……

 「ええ、お仕置きの様子は後日ご自宅にビデオをお送りしますが、
親御さんとしては何かとご心配でしょうし普段一緒に生活していない
私たちでは分らない部分もありますから、一度はご一緒にその様子を
見ていただけると私たちも助かるんです」

 「なるほど……でも、パティーがそれをどう思うか……」

 「大丈夫ですわ。お仕置きを見学すると言っても同じ部屋に入るの
ではなく、防音装置のついた隣の部屋からマジックミラー越しにその
様子を見るだけですから悟られる心配はありませんわ」

 「妻にも話をしたんですか?」

 「ええ、金曜日最初に行われるお仕置きには伺うそうです」

 「分りました。では私も司祭様に許可をいただいてきます」

 こうして、話はとんとん拍子に進み、私は仕事を早めに切り上げて
教会近くの懲戒所へと向かうことになった。

 懲戒所というのは、親が手が付けられないと判断した子供を一時的
に預かってもらう施設のことで、女子修道院に隣接して建っている。
修道院の敷地内ではないが管理もすべてそこのシスターたちが担って
いた。

 当然、生活や規律は厳しく、誰もがお仕置きのノルマを抱えて入所
しているし、世俗の情報は一切持ち込まれないから、窮屈で屈辱的で
破廉恥な場所。子供たちの間では一般的に『刑務所』と呼ばれていた
場所だったのである。

 私たち夫婦(?)はその裏口で落ち合い、出てきたシスターの案内
で秘密の通路を抜け、俗に金魚鉢と呼ばれる小部屋へと通された。

 すると隣の部屋では全ての準備が整い、ジャストタイムでパティー
にここでの最初のお仕置きが開始されるところだった。

 「パティー、あなたはご両親とのお約束を破っていけない一人遊び
をしたとあるけど……本当ですか?」

 上級のシスターが、床に膝まづいて両手を胸の前で組むパティーに
尋ねると、パティーは静かに頷いた。
 今さらここで異を唱えたところでどうにもならないことはわかって
いるし、ヘタに抗弁して相手の機嫌をそこなえば今度はどんな災難が
降りかかるかしれない。パティーは女の子として常識的な判断をする。

 「そう、ならばここでお仕置きを受けても仕方がないわね。それは
大丈夫かしら?」

 「はい大丈夫です」
 すでに覚悟はできてるという顔だった。

 「よろしい、では、あなたへはどんなお仕置きが必要か、私の希望
を述べてみるわね。……そうねえ……あなたもこれが最初の出来事と
いうわけではないから百行清書というのでは効果がないでしょうし、
やはり身体に堪えるものがないと効果がないと思うの」

 「はい」

 「どうかしら、ここで朝昼晩のフルコースというのは……」

 「…………」
 こう言われてさすがにパティーも唇を噛む。

 「ちょっと身体には堪えるかもしれないけど、それでも、司祭様の
ミサの席でチビちゃんたちと一緒にお尻を出すことを思えば……どう、
恥ずかしくないんじゃなくて……」

 「……」
 その瞬間、パティーの顔が青くなる。

 日曜のミサでは幼い子たちがこの一週間で起こした悪さを咎められ、
祭壇で司祭様からお仕置きを受けるという儀式があるのだが、男女を
問わず近隣の大人たち全員が見ている前でのお尻叩きは恥ずかしさの
極み。
 痛み悲鳴を上げ、耐えかねて動いた拍子にその中までも見られて、
幼い時代にしても死ぬほど恥ずかしいかった。
 それを十六にまでなってできるはずがないではないか。

 「やっぱり、お仕置きはここで行いましょう。それでいいですね」

 「はい、けっこうです」
 パティーはシスターの言葉に肩で一つ息をつく。浣腸されて排泄を
見られたり、革紐鞭でぶたれて悲鳴をあげたり、灼熱地獄のお灸に我
を忘れてのたうち回ったりと、そりゃあ若い娘にとって美しくはない
出来事ばかりだけど、街の人たち全員に自分の秘密を見せびらかすの
を思えばここはまだ密室、周囲で見ている人たちも普段は接触のない
シスターだけというなら、パティーに限らず若い娘がどちらを選ぶか
は火を見るより明らかだったのである。

 「よろしい、浣腸は一日一回だけど、他のお仕置きは朝昼晩と三回
行います。そのあたり、前にも一度経験してるみたいだから……よく
ご存じよね」
 シスターの意味深な笑いにパティーの背筋は凍るが、ここまでくれ
ばもうどうすることもできなかった。

 時は金曜日の夕方、お仕置き部屋には少し広めのテーブルが置かれ
パティーは白い綿生地の体操服姿。下は紺地の提灯ブルマーで、白い
短ソックスをはいている。
 これがいわばこの懲戒所の制服のようなものでパティーも例外では
なかった。

 「仰向けになって寝なさい」
 パティーがシスターに命じられるまま机の上に仰向けになって寝そ
べると、後は二人の助手の仕事。本人には何の挨拶もなくブルマーと
ショーツが脱ぎ取られ両足が高々と持ち上げられる。
 女同士の出来事。そこに遠慮というものはないようだった。

 しかもその奥がさらによく見えるようにと一人の助手がさらに彼女
の谷間を押し開く。

 「…………」
 マジックミラー越しの私たちは、いきなり現れた娘の女としての姿
に思わず息をのむ。肛門、ヴァギナ、尿道口、クリトリスまで、その
すべて手の届きそうな処にあったからだ。

 もちろん私は彼女の親だから数々お尻も叩いたし、お風呂にだって
一緒にはいった。娘の割れ目だって知っているが、こうもあけすけな
姿を見たのは初めてだった。

 「そうねえ……色素沈着はないようだし襞も綺麗な形をしている。
やはり、このくらいの歳の子はだいたいクリトリスで間に合っちゃう
のよね。……ほら、ここに小さな炎症がある。このあたりは、だいぶ
使い込んでるみたいね」
 助手のシスターが開いた谷間を上級シスターがさらに検めていく。

 そりゃあ恥ずかしかっただろうが、こちらからはその表情は分らな
かった。ただただ女の姿がそこに見えただけ。

 そんな少女の穴の一つにガラス製のピストン浣腸器の尖った先が。
 「あっ、いや」
 パティーは思わずお尻の穴をすぼめ身体を左右に捩ったが……

 「ほら、だめよ。反抗しないの。お仕置きへの反抗が厳しいのは
お家だけじゃないの。ここはもっと厳しいのよ」

 上級シスターに諭されてパティーは大人しくなる。この星の少女達
は幼い頃からお仕置き慣れしているというか聞き分けがよい。たまに
抵抗することはあるものの大人が諭せば簡単にやめてしまうケースが
ほとんどだ。
 『抵抗=厳しいお仕置き』という図式は知識というよりその身体が
しっかりと覚えていた。

 「さあ、いきますよ。身体の力を抜いて……」

 上級シスターは大きなこげ茶色の薬瓶からガラス製の浣腸器で一気
にグリセリン液を吸い上げると、きっちり百CCの箇所で止めてすぐ
さまその尖った先を指で押さえる。
 ガラス器をそのまま薬瓶から引き上げると、液が逆流して床に零れ
落ちるからだ。

 それを見て助手のシスターが間髪入れず、パティーのお尻をさらに
押し開いてそこはこれ以上には開かないほどに全開。

 「あああああ」
 パティーからあられもない声が漏れて、ガラス器の先端がまだ幼い
という形容さえできる肛門へと突き刺さる。

 その間はあっと言う間の出来事。
 あとはじたばたしても無駄。静かにゆっくりとグリセリンが身体の
中に入っていくのをパティーは受け止めなければならなかった。

 「どう、ガラスの触感は?……最初はゴム栓にカテーテルを繋いで
とも思ったけど、ちょっぴり抵抗したからお仕置きもちょっぴり追加
したの。ガラスがお尻の穴に当たる感触って心地のいいものじゃない
けど、そのくらいは我慢しなくちゃね」

 「……」
 上級シスターの問いかけにパティーは静かに頷く。

 「あなたもいい歳なんだからわかってると思うけど、子供は大人に
お仕置きを言われたら素直に従わなければならないわ。たとえそれが
気に入らないことでも、大人たちの愛を素直に受け入れなければ損を
するのはあなたなのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは蚊の鳴くような声で答えた。
 その顔にはすでに涙と脂汗が浮き出ている。
 でも、パティーにとってはこれからがまさに正念場だった。

 「あっ、だめえ」
 二人の助手に身体を起こしてもらった瞬間に最初の津波がやってきた。
 グリセリンは効果が現れるのに一分とかからない。

 もちろん上級シスターは何がだめなのかは百も承知しているが……
 「何がだめなの?」
 冷静に尋ねる。

 「もう、漏れそうなんです。早くおトイレに行かせてください」
 パティーは恥も外聞もなく頼んだが……

 「大丈夫よ、ゴムの栓をしっかりしたから、たとえあなたが出そう
としてもあなたの力じゃもうでてこないの。ほら、見てごらんなさい」
 上級シスターははあはあと肩で息をするパティーを机の上から抱き
おろすと大きな姿見の前で彼女を抱くように立たせたのである。

 「…………」
 そこには拳大ほどの黒いゴムがはっきりと見える。実際のサイズは
肛門の中に入っている部分も含めるとかなり大きなものだが、そんな
物をすでにお尻の穴に入れられていたなんて……パティーはその瞬間
までまったく気づいていなかった。

 「外してください。おトイレに行かないとホントに出ちゃいます」
 パティーは上級シスターに哀願したが、返事は冷たかった。

 「駄目よ、パティー。あなたのお腹には、今、邪な悪魔のエキスが
たくさん溜まっているの。それを綺麗に出すためには最低でも五分は
我慢しないと邪悪なエキスは出てこないわ」

 こう言うと、パティーもまた癇に障ったのだろう。それまで指の腹
で握っていた上級シスターの腕に爪を立てて強く握ると……
 「嘘よ!」
 と一声言い放った。

 しかし、これは……
 「ピシっ……ピシっ」

 上級シスターの往復ビンタとなって返ってくる。

 「小娘が生意気いうんじゃないよ」
 それまでとは違ってどすの効いた低い声が浴びせられる。

 パティーはそのひと声だけで、パティーは再び静かになってしまう。
 もとより爆弾を抱えている身のパティー。争えるはずがなかった。

 そんなパティーに上級シスターはさらに難題を突き付ける。
 「とても元気があり余ってそうだから時間は十分に伸ばしましょう」

 上級シスターは勝ち誇ったように罰の追加を決めると、今度は一転
してパティーやさしく膝の上に抱き上げる。

 「駄目よ、子供は子供らしく従順にしていなければ大人に可愛がら
れない。子供が大人に可愛がられないで得になることは何もないのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは上級シスターの胸の中でこうささやくのが精いっぱい。
 とにかくお腹の中は大嵐。いくらゴム栓をしているとはいえ、いつ
大爆発を起こすか、そればかりが心配だったのである。

 約束の十分間が過ぎ、パティーもやっと許される時がやってきたが、
個室のトイレは与えてもらえなかった。目の前にある大きな鏡の下に
ベッドパン置かれ、そこに上級シスターが両方の太ももを支える形で
パティーを空中に吊るす。
 なんのことはない赤ちゃんが用足しするのと同じ姿勢だ。

 「あああああああ」
 助手のシスターが黒いゴム栓を抜くと、あれこれ考える暇などない。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 自然に出てしまった悲鳴。大粒の涙が一筋二筋頬を伝い、当然、滝
のように流れ落ちる水様便のうんちも待ったなしにベッドパンを叩き
つけていく。

 せめてもの救いはこのみじめな姿を家族に見られていないこと。
 否、本当は見られていると知らされていないことだった。

 「ヒック……ヒック……ヒック……」
 大き目のベッドパンが半分ほど埋まって、パティーはようやく落ち
着いきを取り戻したようだったが、嗚咽は続き大きな赤ん坊はしばし
恥ずかしい部分を両親の目の前で晒して泣き続けている。

 屈辱は時計の秒針が文字盤を一周するほどには長くなかったはずだ
がパティーにしてみたら『永遠』と感じられるほど心に突き刺さった
に違いなかった。

 人形となったパティーは二人の助手に支えられ、いったんは部屋を
出てシャワー室へと向かう。
 すると、その間を利用して、上級シスターが私たち夫婦のいる隠し
部屋へと入って来る。

 「どうですか、まだお浣腸だけが終わったところですけど、もし、
ご不快なら向こうの部屋の机の位置などは変えることができますけど」

 上級シスターは穏やかに語りかける。
 私は、その時『そうしてください。これでは娘に見つめられている
みたいで私たちも辛いので……』と言いたかったのだが、母親の方が
私より先にシスターの提案を否定する。

 「結構です。娘のこうした姿を見るのも私たちの仕事ですから……
今のところ何も問題はありませんわ」

 機先を制した母親の言葉に私は自分の思いを飲み込むしかなかった。

 「前にも申しましたが、同じお仕置きを与えても、人によってその
衝撃度は違います。普段お子さんと接しているご両親が『これは傷を
深めて危険だ』と判断されたら、遠慮なくそこの赤いボタンを押して
ください。すぐに対処を変えますので……」

 「承知しました。ご配慮感謝します」
 母親は答える。
 私はこの時になって初めて、修道院側がなぜ私たちを呼んだのかを
知ったのだった。

 ******************************

 さて、語りたいことは山とあるが、これからはこの星での日常生活
を追いながら話していきたいと思う。

 まず、朝。
 平日の起床はおおむね七時。まずはバスルームに行ってシャワーと
洗顔。髭も剃るのだが、ここでまず最初の緊張が走る。

 もちろんそんなもの自分で髭を剃るのなら問題ないのだが、この星
の習慣で、髭剃りはその家の後継ぎの仕事とされていて、我が家では
それはマーク君になるのだ。

 御年七歳の少年がベッドに寝そべる私の顔に剃刀を近づけるのだ。
 これに恐怖を感じない人は稀だと思う。
 もちろん、髭剃りにあたっては女性たちが傍にひかえ、懇切丁寧に
指導してくれているが、喉元に大きな剃刀の刃が光ると、正直最初は
生きた心地がしなかった。

 ただ、子どもは呑み込みが早く、三カ月も経つとそれなりの仕事が
できるようになって、その意味でも驚いた記憶がある。

 こうしたことをするのは代替わりの時期を後継ぎ自らに判断させる
という海賊の習慣で、そのカミソリで寝首を欠いていつでも代替わり
してよいぞという意味である。
 もちろん、実際にそうやって親殺しをした子供はいないようだが、
バイキングの常に命を懸けて戦う勇敢さの表れでもあるのだ。

 朝の危険が去ると、朝食の時間。
 食堂には子供たちが全員集まり、一人ずつ朝のご挨拶。
 ここでは子供たちを一人ずつ膝に乗せ頬ずりをして親愛の情を示す。
 
 何しろ子供の数が多いから一人あたりの膝への滞在時間は短いが、
それでも一人一分ぐらいは私の愛撫を受け続けなければならない。
 幼い子はいざ知らず、ハイティーンの子がこれを大歓迎するはずも
なく思いっきり嫌な顔をする子もいる。

 きっと、思いは私の髭剃りと同じなのだろう。

 ただ、ここでもあまり露骨な態度を取ると……
 「パティー、スカートを上げなさい」
 「ピシっ」
 「パンツも下げて……」
 「ピシっ」
 ってことになり、母親の鞭で今一度目覚めることになるのだった。

 それだけではない。
 私のテーブルの傍らに置いたパソコンが警告を発した時はそれにも
対処しなければならない。
 前にも説明したが子供たちにはプライバシーがない。たとえ真夜中
でも彼らの情報は逐一グランドマザーの知るところとなるのだ。

 その情報が、朝には私のノートPCに届いていて、私はその処理も
しなければならなかったのである。
 ハイティーンの子が私の膝を嫌がるのはそのこともあってだった。

 「グランドマザーからの報告では……昨夜もまた楽しんでたみたい
だね」

 こう言うと、パティーは私の膝の上で身体を硬くする。
 何を言っているのか分っているみたいだった。

 昨日の夕飯からこの時間までは子供たちの自由時間。色んなことを
する。宿題をやって、ゲームをやって、ピアノを弾いて、もちろん、
おしゃべりだって大事な仕事だ。
 ただ、やってはいけないこともある。

 姉妹喧嘩、無断外出、布団をかぶっての長電話なんてのも親からは
歓迎されないことだが、親が一番嫌がるのはレスボスの恋と自らの体
を慰めること。つまりオナニーだ。

 この二つ、親も決して一度もやってはならないとは言っていないが、
毎日となると話は別で、悪癖が治らないようなら拘束衣としてオムツ
が当てられるようになる。
 実はパティー、すでにこの状態だった。

 にも関わらず、やはり一度覚えた蜜の味が忘れられないとみえて、
ベッドの中でオムツを切り離すと、十分に楽しんだあとに、どこから
調達したのか新しいオムツをはめ直していた。

 全てはベッド毛布の中の出来事であり、うまくやりおおせたつもり
でいたのだが、グランドマザーが知りうる情報は映像だけではない。
血圧、脈拍、呼吸、心拍数、何より不可思議に動く毛布が決め手で、
グランドマザーは彼女がよからぬことをやっていると結論付けたのだ。

 「これは何をしてるのかね?」
 私が尋ねると、パティーの顔色はすでに生気を失っていた。

 「それは……ベッドの中で着替えてて……」
 苦しい言い訳。しかし、そんな小娘のたわごとはこの社会では通じ
なかったのである。

 おもむろに彼女もパソコンの画面を覗き込む。
 それでも、グランドマザー、父親としての私、そして母親も判断は
変わらなかった。

 「まったく、あなたの自制心がないのにも呆れるわ。これはもう、
修道院で鍛えてもらうしかないわね」

 その言葉が出た瞬間だった。パティーは私の膝をはねのくと母親の
前に膝まづき、
 「修道院は嫌!もうしないから、もう一年だってしないから」
 必死に懇願したのである。

 しかし……
 「駄目よ。そんなことで許される時期はとうに過ぎてるわ」
 にべもない。

 「フルコースで一週間は向こうで鍛えてもらわないと治らないわね」

 「そんなあ、そんなことしたら死んじゃいます」

 「何。オーバーな事言ってるの。フルコースと言っても、お浣腸に
お鞭に、お灸、……あっ、そうだ。今度はお宮の中もやってもらいま
しょうね」

 お宮は陰部のことで、会陰やクリトリスの脇にお灸をすえること。
 実際の熱さはそれほどでもないのだが、女性、とりわけ少女にして
みると、こんなところにまでやられたという精神的なショックの方が
大きい場所だった。

 そんなことが朝昼晩三回行われるのだ。いくら普段からお仕置きが
あると言ってもそこは家庭内。他人の鞭とは違うのだ。
 その瞬間気絶してしまった彼女が後に『家の天井が落ちた気がした』
と、語ったのはあながち嘘ではないと思う。

 この結末は、結局、修道院に金〳土〳日の三日間だけ泊まり込むと
言うことで決着したが、母親は……
 「娘の気絶にいちいち付き合っていたら躾も教育もできませんよ」
 と、おかんむりだった。

 女は少女を含めよく気絶するけど、『背中に人が立っていない時には
倒れない』とも言われ、半ば演技だと言うのだ。
 しかし、たとえ演技であるにせよ、私は娘にあまり激しい罰は与え
たくなかった。

 さて、朝食が終わると子供たちは学校へと出かけ私は職場へ向かう。
 私の職場は、例の白髭の司祭さんが管理する教会。
 そこでの私の仕事は、一口で言えば雑用掛かり。墓地の草むしりや
煉瓦塀の修理、噴水池の掃除に花壇の世話、礼拝堂に設置された机や
椅子の修理なんてものまである。

 その他にもパイプオルガンを習い、日曜のミサで司祭様が説教する
原稿の下書きなんてのも……。

 こうして、仕事には事欠かないが、目が回るほど忙しいというほど
でもない。空いた時間は子供たちともよく遊んでいたから仕事の内容
に不満は何もなかったのである。

 ただ、金曜日になると、私の心はそわそわし始めた。
 実は、この日からパティーが女子修道院に付属する懲戒所にやって
来るからだ。
 そこは教会からも目と鼻の先。たまに少女の悲鳴が風に流れて聞こ
えたりもするくらいだ。

 母親の主張を曲げさせて一週間を三日間に短縮したとはいえ、私も
彼女を地獄の門の中へ送りやった一人に違いがないわけでその気持ち
は正直複雑だった。

 そんな時、一人のシスターが教会に訪ねてくる。曰く……
 「もしよろしかったらパティーさんのお仕置きを見学なさいません
か?」
 
 びっくりした私が……
 「そんなことできるんですか?」
 と尋ねると……

 「ええ、お仕置きの様子は後日ご自宅にビデオをお送りしますが、
親御さんとしては何かとご心配でしょうし普段一緒に生活していない
私たちでは分らない部分もありますから、一度はご一緒にその様子を
見ていただけると私たちも助かるんです」

 「なるほど……でも、パティーがそれをどう思うか……」

 「大丈夫ですわ。お仕置きを見学すると言っても同じ部屋に入るの
ではなく、防音装置のついた隣の部屋からマジックミラー越しにその
様子を見るだけですから悟られる心配はありませんわ」

 「妻にも話をしたんですか?」

 「ええ、金曜日最初に行われるお仕置きには伺うそうです」

 「分りました。では私も司祭様に許可をいただいてきます」

 こうして、話はとんとん拍子に進み、私は仕事を早めに切り上げて
教会近くの懲戒所へと向かうことになった。

 懲戒所というのは、親が手が付けられないと判断した子供を一時的
に預かってもらう施設のことで、女子修道院に隣接して建っている。
修道院の敷地内ではないが管理もすべてそこのシスターたちが担って
いた。

 当然、生活や規律は厳しく、誰もがお仕置きのノルマを抱えて入所
しているし、世俗の情報は一切持ち込まれないから、窮屈で屈辱的で
破廉恥な場所。子供たちの間では一般的に『刑務所』と呼ばれていた
場所だったのである。

 私たち夫婦(?)はその裏口で落ち合い、出てきたシスターの案内
で秘密の通路を抜け、俗に金魚鉢と呼ばれる小部屋へと通された。

 すると隣の部屋では全ての準備が整い、ジャストタイムでパティー
にここでの最初のお仕置きが開始されるところだった。

 「パティー、あなたはご両親とのお約束を破っていけない一人遊び
をしたとあるけど……本当ですか?」

 上級のシスターが、床に膝まづいて両手を胸の前で組むパティーに
尋ねると、パティーは静かに頷いた。
 今さらここで異を唱えたところでどうにもならないことはわかって
いるし、ヘタに抗弁して相手の機嫌をそこなえば今度はどんな災難が
降りかかるかしれない。パティーは女の子として常識的な判断をする。

 「そう、ならばここでお仕置きを受けても仕方がないわね。それは
大丈夫かしら?」

 「はい大丈夫です」
 すでに覚悟はできてるという顔だった。

 「よろしい、では、あなたへはどんなお仕置きが必要か、私の希望
を述べてみるわね。……そうねえ……あなたもこれが最初の出来事と
いうわけではないから百行清書というのでは効果がないでしょうし、
やはり身体に堪えるものがないと効果がないと思うの」

 「はい」

 「どうかしら、ここで朝昼晩のフルコースというのは……」

 「…………」
 こう言われてさすがにパティーも唇を噛む。

 「ちょっと身体には堪えるかもしれないけど、それでも、司祭様の
ミサの席でチビちゃんたちと一緒にお尻を出すことを思えば……どう、
恥ずかしくないんじゃなくて……」

 「……」
 その瞬間、パティーの顔が青くなる。

 日曜のミサでは幼い子たちがこの一週間で起こした悪さを咎められ、
祭壇で司祭様からお仕置きを受けるという儀式があるのだが、男女を
問わず近隣の大人たち全員が見ている前でのお尻叩きは恥ずかしさの
極み。
 痛み悲鳴を上げ、耐えかねて動いた拍子にその中までも見られて、
幼い時代にしても死ぬほど恥ずかしいかった。
 それを十六にまでなってできるはずがないではないか。

 「やっぱり、お仕置きはここで行いましょう。それでいいですね」

 「はい、けっこうです」
 パティーはシスターの言葉に肩で一つ息をつく。浣腸されて排泄を
見られたり、革紐鞭でぶたれて悲鳴をあげたり、灼熱地獄のお灸に我
を忘れてのたうち回ったりと、そりゃあ若い娘にとって美しくはない
出来事ばかりだけど、街の人たち全員に自分の秘密を見せびらかすの
を思えばここはまだ密室、周囲で見ている人たちも普段は接触のない
シスターだけというなら、パティーに限らず若い娘がどちらを選ぶか
は火を見るより明らかだったのである。

 「よろしい、浣腸は一日一回だけど、他のお仕置きは朝昼晩と三回
行います。そのあたり、前にも一度経験してるみたいだから……よく
ご存じよね」
 シスターの意味深な笑いにパティーの背筋は凍るが、ここまでくれ
ばもうどうすることもできなかった。

 時は金曜日の夕方、お仕置き部屋には少し広めのテーブルが置かれ
パティーは白い綿生地の体操服姿。下は紺地の提灯ブルマーで、白い
短ソックスをはいている。
 これがいわばこの懲戒所の制服のようなものでパティーも例外では
なかった。

 「仰向けになって寝なさい」
 パティーがシスターに命じられるまま机の上に仰向けになって寝そ
べると、後は二人の助手の仕事。本人には何の挨拶もなくブルマーと
ショーツが脱ぎ取られ両足が高々と持ち上げられる。
 女同士の出来事。そこに遠慮というものはないようだった。

 しかもその奥がさらによく見えるようにと一人の助手がさらに彼女
の谷間を押し開く。

 「…………」
 マジックミラー越しの私たちは、いきなり現れた娘の女としての姿
に思わず息をのむ。肛門、ヴァギナ、尿道口、クリトリスまで、その
すべて手の届きそうな処にあったからだ。

 もちろん私は彼女の親だから数々お尻も叩いたし、お風呂にだって
一緒にはいった。娘の割れ目だって知っているが、こうもあけすけな
姿を見たのは初めてだった。

 「そうねえ……色素沈着はないようだし襞も綺麗な形をしている。
やはり、このくらいの歳の子はだいたいクリトリスで間に合っちゃう
のよね。……ほら、ここに小さな炎症がある。このあたりは、だいぶ
使い込んでるみたいね」
 助手のシスターが開いた谷間を上級シスターがさらに検めていく。

 そりゃあ恥ずかしかっただろうが、こちらからはその表情は分らな
かった。ただただ女の姿がそこに見えただけ。

 そんな少女の穴の一つにガラス製のピストン浣腸器の尖った先が。
 「あっ、いや」
 パティーは思わずお尻の穴をすぼめ身体を左右に捩ったが……

 「ほら、だめよ。反抗しないの。お仕置きへの反抗が厳しいのは
お家だけじゃないの。ここはもっと厳しいのよ」

 上級シスターに諭されてパティーは大人しくなる。この星の少女達
は幼い頃からお仕置き慣れしているというか聞き分けがよい。たまに
抵抗することはあるものの大人が諭せば簡単にやめてしまうケースが
ほとんどだ。
 『抵抗=厳しいお仕置き』という図式は知識というよりその身体が
しっかりと覚えていた。

 「さあ、いきますよ。身体の力を抜いて……」

 上級シスターは大きなこげ茶色の薬瓶からガラス製の浣腸器で一気
にグリセリン液を吸い上げると、きっちり百CCの箇所で止めてすぐ
さまその尖った先を指で押さえる。
 ガラス器をそのまま薬瓶から引き上げると、液が逆流して床に零れ
落ちるからだ。

 それを見て助手のシスターが間髪入れず、パティーのお尻をさらに
押し開いてそこはこれ以上には開かないほどに全開。

 「あああああ」
 パティーからあられもない声が漏れて、ガラス器の先端がまだ幼い
という形容さえできる肛門へと突き刺さる。

 その間はあっと言う間の出来事。
 あとはじたばたしても無駄。静かにゆっくりとグリセリンが身体の
中に入っていくのをパティーは受け止めなければならなかった。

 「どう、ガラスの触感は?……最初はゴム栓にカテーテルを繋いで
とも思ったけど、ちょっぴり抵抗したからお仕置きもちょっぴり追加
したの。ガラスがお尻の穴に当たる感触って心地のいいものじゃない
けど、そのくらいは我慢しなくちゃね」

 「……」
 上級シスターの問いかけにパティーは静かに頷く。

 「あなたもいい歳なんだからわかってると思うけど、子供は大人に
お仕置きを言われたら素直に従わなければならないわ。たとえそれが
気に入らないことでも、大人たちの愛を素直に受け入れなければ損を
するのはあなたなのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは蚊の鳴くような声で答えた。
 その顔にはすでに涙と脂汗が浮き出ている。
 でも、パティーにとってはこれからがまさに正念場だった。

 「あっ、だめえ」
 二人の助手に身体を起こしてもらった瞬間に最初の津波がやってきた。
 グリセリンは効果が現れるのに一分とかからない。

 もちろん上級シスターは何がだめなのかは百も承知しているが……
 「何がだめなの?」
 冷静に尋ねる。

 「もう、漏れそうなんです。早くおトイレに行かせてください」
 パティーは恥も外聞もなく頼んだが……

 「大丈夫よ、ゴムの栓をしっかりしたから、たとえあなたが出そう
としてもあなたの力じゃもうでてこないの。ほら、見てごらんなさい」
 上級シスターははあはあと肩で息をするパティーを机の上から抱き
おろすと大きな姿見の前で彼女を抱くように立たせたのである。

 「…………」
 そこには拳大ほどの黒いゴムがはっきりと見える。実際のサイズは
肛門の中に入っている部分も含めるとかなり大きなものだが、そんな
物をすでにお尻の穴に入れられていたなんて……パティーはその瞬間
までまったく気づいていなかった。

 「外してください。おトイレに行かないとホントに出ちゃいます」
 パティーは上級シスターに哀願したが、返事は冷たかった。

 「駄目よ、パティー。あなたのお腹には、今、邪な悪魔のエキスが
たくさん溜まっているの。それを綺麗に出すためには最低でも五分は
我慢しないと邪悪なエキスは出てこないわ」

 こう言うと、パティーもまた癇に障ったのだろう。それまで指の腹
で握っていた上級シスターの腕に爪を立てて強く握ると……
 「嘘よ!」
 と一声言い放った。

 しかし、これは……
 「ピシっ……ピシっ」

 上級シスターの往復ビンタとなって返ってくる。

 「小娘が生意気いうんじゃないよ」
 それまでとは違ってどすの効いた低い声が浴びせられる。

 パティーはそのひと声だけで、パティーは再び静かになってしまう。
 もとより爆弾を抱えている身のパティー。争えるはずがなかった。

 そんなパティーに上級シスターはさらに難題を突き付ける。
 「とても元気があり余ってそうだから時間は十分に伸ばしましょう」

 上級シスターは勝ち誇ったように罰の追加を決めると、今度は一転
してパティーやさしく膝の上に抱き上げる。

 「駄目よ、子供は子供らしく従順にしていなければ大人に可愛がら
れない。子供が大人に可愛がられないで得になることは何もないのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは上級シスターの胸の中でこうささやくのが精いっぱい。
 とにかくお腹の中は大嵐。いくらゴム栓をしているとはいえ、いつ
大爆発を起こすか、そればかりが心配だったのである。

 約束の十分間が過ぎ、パティーもやっと許される時がやってきたが、
個室のトイレは与えてもらえなかった。目の前にある大きな鏡の下に
ベッドパン置かれ、そこに上級シスターが両方の太ももを支える形で
パティーを空中に吊るす。
 なんのことはない赤ちゃんが用足しするのと同じ姿勢だ。

 「あああああああ」
 助手のシスターが黒いゴム栓を抜くと、あれこれ考える暇などない。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 自然に出てしまった悲鳴。大粒の涙が一筋二筋頬を伝い、当然、滝
のように流れ落ちる水様便のうんちも待ったなしにベッドパンを叩き
つけていく。

 せめてもの救いはこのみじめな姿を家族に見られていないこと。
 否、本当は見られていると知らされていないことだった。

 「ヒック……ヒック……ヒック……」
 大き目のベッドパンが半分ほど埋まって、パティーはようやく落ち
着いきを取り戻したようだったが、嗚咽は続き大きな赤ん坊はしばし
恥ずかしい部分を両親の目の前で晒して泣き続けている。

 屈辱は時計の秒針が文字盤を一周するほどには長くなかったはずだ
がパティーにしてみたら『永遠』と感じられるほど心に突き刺さった
に違いなかった。

 人形となったパティーは二人の助手に支えられ、いったんは部屋を
出てシャワー室へと向かう。
 すると、その間を利用して、上級シスターが私たち夫婦のいる隠し
部屋へと入って来る。

 「どうですか、まだお浣腸だけが終わったところですけど、もし、
ご不快なら向こうの部屋の机の位置などは変えることができますけど」

 上級シスターは穏やかに語りかける。
 私は、その時『そうしてください。これでは娘に見つめられている
みたいで私たちも辛いので……』と言いたかったのだが、母親の方が
私より先にシスターの提案を否定する。

 「結構です。娘のこうした姿を見るのも私たちの仕事ですから……
今のところ何も問題はありませんわ」

 機先を制した母親の言葉に私は自分の思いを飲み込むしかなかった。

 「前にも申しましたが、同じお仕置きを与えても、人によってその
衝撃度は違います。普段お子さんと接しているご両親が『これは傷を
深めて危険だ』と判断されたら、遠慮なくそこの赤いボタンを押して
ください。すぐに対処を変えますので……」

 「承知しました。ご配慮感謝します」
 母親は答える。
 私はこの時になって初めて、修道院側がなぜ私たちを呼んだのかを
知ったのだった。

 ******************************

<第二話/終了>

α201

α201


 ~~始めに~~

α201はアンドロメダ星雲の片隅にある小さな惑星。
 もともと宇宙海賊として名をはせた一族だが、ある時、Y染色体の
異常が起こって男性の比率が低下。海賊稼業ができなくなった。
 その後は、女性が主体となり、まじめな性格と高い知能を武器に、
インテリゲンチャとしてよその星に出向いては外貨を稼いでいる。
 そんな女の都に住む彼女たちだが男っ気がまったくない訳ではない。
もちろん生殖用に必要なのだが、それ以外にも主だった役職は男性が
勤めるというバイキング時代からの伝統が守られ、実務はほとんどを
女性が担当するようになった今でも、主要ポストは男たちにまかせて
いる。
 家庭にあってもそれは同じで、父親が家長を勤めるというしきたり
は変わっていなかった。
 ただ、何しろ男性が少なくなった社会。なり手がいないという事も
ある。そういう時は、かつては同族で今は星を離れている者の子孫を
見つけ出し高額な給与をエサに呼び戻すという方法が取られていた。
 これはそんな高い給与につられてやってきた一人の男の話である。
 宇宙人の話だが恰好はそのまま地球人。生活や文化も日本に近くて
ハチャメチャな設定だけど……(笑)……、ま、そんな些細なことは
あまり気に留めずにご覧ください。


 ~~物語~~

 「 α201は白鳥座の一等星デネブの惑星の一つで昔は宇宙海賊の
基地として恐れられていた星だったれど、今は平和よ。別名『女の都』
なんて呼ばれてるわ」

 「女の都?」

 「そう、男性がいないわけじゃないんだけど、数百年前、Y染色体
に異常が起きてまともな男性が生まれにくくなくなったの。今では、
その比率およそ100対1くらいって聞いてるわ」

 「じゃあ、女性の天下なんだ。男は隅に追いやられてますね」

 「ま、実務は確かにそうね。土木工事から軍事まで力仕事もすべて
女性が主役だから……ただ、もともと、海賊って呼ばれていたくらい
だから男社会の文化でしょう。男性に対するリスペクトを忘れたわけ
じゃないの」

 「例えば?」

 「名誉職ではあるけど、組織の長はたいてい男性が努めているわ。
内閣総理大臣から国会議長、県知事、学校も大半が男性が校長先生よ」

 「でも、それって、要するに女性の言いなりに動く操り人形なんで
しょう?」

 「ま、そう言ってしまうと身もふたもないけど……ただ、あなたの
行く処には、まだ男性の役割があるから安心して……」

 「私の行く処って……たしか、懲戒所ですよね」

 「そう、子供がお仕置きのために送られてくる施設のことよ。その
昔は感化院なんて呼ばれていたみたいだけど、要するに各家庭で手を
焼くお転婆さんたちがここに集められて、頭を冷やしてもらうために
つくられたの。……あなたにはうってつけのお仕事よ」

 「私が女の子たちに罰を与えるんですか?」

 「いえ、いえ、それはよほどの時だけ。大半は女の子たちが受ける
お仕置きをただ見ていればいいの。女の子って同じお仕置きでも同性
に見られるのと異性に見られるのではショックが大きく違うから……
ここでは男性が是非とも必要なのよ」

 「じゃあ、ひょっとして……その……お尻というか……性器なんか
も……」

 「当然ね。だってそれが目的だもの……下は四五才から上は18才
までの少女の大事な場所がばっちり拝めるわよ」

 「……えっ……大丈夫かなあ……」

 「大丈夫って何が?……大丈夫よ、精神鑑定もバッチリやったし、
あなたがこれ位で羽目を外さない人だってことも調べがついてるもの。
……でなきゃ私も推薦できないわ。いいから、いいから、バッチリと
楽しんでくればいいのよ。だって、あなた、3度のごはんよりあれが
好きなんでしょ」

 「………………」
 私は顔を赤らめるより仕方がなかった。



********************************

 α201は女の都と呼ばれるだけあって美しい星だった。私は彼ら
が昔は海賊をやっていたと聞いていたからどんなに荒々しい所だろう
と思っていてたが、宇宙船が発着する空港はもとより街のどこを見て
もゴミ一つ落ちていないし、公共トイレもホテルのパウダールームか
と見まがうばかりの豪華さだ。

 「美しい街ですね」
 私は空港に迎えに来た婦人の案内で車に乗ると、まるで童話の国の
ような街の様子を見てつぶやく。

 すると、彼女の答えはこうだった。
 「みなさん、そうおっしゃいます。きっと、多くの方が海賊の星と
聞いて、もっと粗野なイメージを持たれるんでしょうね。……でも、
こう言っては何ですが、海賊はあくまでこの星で行われていたわけで
ありませんから……」

 「そうですね」

 「むしろ、その時代からここはずっと美しい街並みだったんです。
何しろ、海賊というのは長期出張が多いでしょう。街を管理していた
の女性たちで、汚す暇がありませんわ」

 「…………」
 運転する彼女が笑い私もつられて笑う。

 「海賊というのは出稼ぎ仕事ですから、星の治世は昔から女の仕事。
世間の人は男性が生まれにくくなったので世の中が激変したと思ってる
みたいですけど、私たちに言わせればここは昔から女の都なんですよ。
政治、経済、教育、この星で起こるほとんどの事を取り仕切ってるのは
実は昔から女性なんです」

 「なるほど、見ると聞くとでは大違いというわけですか……さぞかし
優美な処なんでしょうね」

 「……優美?……さあ、それはどうですか……何しろ女性は男性に
比べてわがまま勝手なところがありますから……ほおっておくとすぐ
統制が取れない状態になってしまうんです。ですから、男性と同じ事
をしようとすると、規則や規律はむしろ男性以上に厳しくしておかな
ければならないんです。ですから、ここを見学されたほとんどの方が
それを見て『意外だ』っておっしゃいます」

 彼女の言葉通り、ここでの生活はむしろ男には真似ができないほど
厳しいものだったのである。

 「……で、私は、ここで何を期待されているのでしょうか。私には
恥ずかしながらこれと言って特技というのもありませんけど……」

 「いいんです。そんなことは……一般的な常識さえもっていてくだ
されば……あなたのお仕事は一応司祭補佐といったところですが……
べつに宗教的な知識はおいおい学んでいただけばよいことですから、
そこは気になさる必要はありません。大事なことは毎日のように女の
子がお仕置きを受けます。それをにやついたりせずしっかり見ていて
くだされば、それが一番の仕事なんです。簡単でしょう?」

 彼女の説明は星を出る時もここへ送られた宇宙船の中でも聞いた話
なのだが、どうも要領を得ない。
 しかし、私の仕事はなるほど、こうとしか説明のしようのない仕事
だったのである。

 

********************************
 
空港から市街地に入ってくると、どこも一区画が500坪はあろうか
という一戸建ての建物が並んでいる。広い芝にはブランコやシーソーが
置かれていて、そこだけでちょっとした街の公園といった雰囲気だ。

 「超がつきそうな高級住宅街ですね」

 こう言うと運転の彼女は……
 「でも、どの家にも子供が20人はいますからね、一歩、家の中に
入ってごらんなさい、四六時中雌猫の金切声を聞いてなきゃならない
から、そんな優雅な生活でもありませんよ」

 「20人?」

 「そう、もっと子だくさんの家庭もあるけど、いずれにしても血筋
は関係ないの。バイキングの父親ってのは生きてる時は英雄でもいつ
死ぬかわからないでしょう。だから、子供は血筋に関係なくみんなで
育てるというのがこの星の流儀なのよ」

 「なるほど、だから一軒一軒の家が広いのか」

 「そういうこと。単に御飯を食べさせるだけなら学校の寮みたいな
ところでもいいんでしょうけど、それだと愛情を知らない粗野な子が
多くなって街が荒廃してしまうでしょう。それで家庭は残そうという
ことになったの」

 「あなたもここの御出身なんですか」

 「そうよ。留学時代を覗けばここで生まれてここで育った」

 「子供時代はこんな家で……楽しかったですか?」

 「さあ、どうかしらね。今にして思えばそうかもしれないけど……
実際の子供時代は大変だったわ」

 「そうなんですか?こうして見ると豊かそうに見えるけど……」

 「あなたは海賊の家に生まれてないから分らないでしょうけど……
海賊って男たちが長期出張してるでしょう。だからもその隙を狙って
よく強盗がやって来るの。それを撃退しなきゃならないから女たちも
普段から軍事訓練に明け暮れてるの。当然、子供たちもそこは同じ。
今はあくまでお仕置きとしてなんだけど、昔は盗賊に攻め込まれても
動揺しないための訓練としてやってた側面もあるのよ」

 「お仕置きが訓練?」

 「そう、女の子は裸にされると精神的に弱くなるからそうなっても
耐えられるように日頃から裸でいることを体現させておくの」

 「過酷な暮らしだったんですね」

 「そうでもないわよ。男たちが出航すれば残っているのはほとんど
女と老人、幼児ばかりだけど、私たちだってアンドロメダ連邦政府の
一員でしょう。監視体制もバッチリだから非道なことをすればすぐに
ばれて大変なことになるからお宝は取ってもそんなに非人間的なこと
まではしないの。……ん?……そこはうちらも同じか( ̄∇ ̄;)」

 「アマゾネス?」

 ( ̄∇ ̄;)ハッハッハたしかにそう呼ぶ人もいたわね。男たちが
留守の間はその時代でも政治、経済、教育……全て女たちの天下よ。
だからね、そこは今と変わらないから、男に頼れなくなった今でも、
急に困ってるってわけじゃないのよ」

 「強いんですね」

 「男に頼れなくなった後も何度か盗賊が来たけど、全て追っ払った
んだから……私たち一人一人の力はないけど団結力では負けないの。
……幼い頃からきつい体罰で責め立てられることが多い社会だけどね、
でも、それが訓練にもなってるってわけ……」

 「…………」

 「何見てるの。……ああ、あれか……他の星じゃ、あんなのあまり
見ないものね。珍しいでしょう。でも、ここだとあんなの毎日だって
見れるわよ」

 運転手氏は笑う。その笑顔が日常の風景だと言っているようだった。

 「ちょっどいいわ、覗いて行きましょう」

 「いいんですか……」

 「もちろんよ。ここは教会の裏庭にあたる場所だからあなたの職場
の一つでもあるんだし……むしろ見学していくべきだわ」

 そこは古めかしい石造りの建物が日陰をつくる中庭。
 おりしも小学生高学年くらいの女の子たちが十数人ほどで一段高く
なった舞台を取り囲んでいる。

 まるでこれからこの狭い舞台で人形劇でも始まるのかといった風で
どの子の顔も楽しげだ。

 「…………」

 しかし、その舞台上を見てみると……それは世間一般の常識として
楽しい雰囲気のする光景ではなかったのだ。

 というのも、舞台上では同世代の女の子が二人、ラックと呼ばれる
鞭打ち台にうつぶせになって縛り付けられ、すでにスカートはめくり
あげられ、ショーツは引き下ろされ、普段は大事に隠されているはず
の可愛いたプッシーさえも丸裸になっている状態だった。

 いくら、子供とはいえ、これはないだろうと思う姿勢でいるわけだ
が、見学している同年輩の子供たちはと見てやるとこれが悲壮感とか
憐憫の情なんてものは微塵もない様子だった。
 『私たちは面白いサーカスを見学に来た』
 そんな感じに見えたのである。

 ところが車を降りた私たちが舞台に近づくとそれに気が付いた子供
たちから顔色が変わっていく。
 楽しそうだったその顔が一瞬にして青ざめ怯えた表情へと変化した。

 『緊張させてしまったか』
 という動揺が私の心に影をさす。

 「まあまあ、これは新しい司祭様でらっしゃいますね。……お早い
御着きで感謝申し上げますわ」

 壇上にいたシスターが私に語りかける。
 私は正直困ってしまった。
 確かに私の任務は司祭に違いないのだが、私はそもそもこれまでの
人生で入信などしたことがないのだ。
 ただ、職安で仕事を見つけていたとき教師の仕事をしたことがある
という理由だけで採用されたにすぎなかったのである。

 「大変申し訳ありません。私はまだこの星に来たばかりで、何が何
やらまったくわからないことだらけなのです。よろしければいくつか
教えていただけますか」

 私は舞台上で革紐鞭を持つシスターに向かって正直に尋ねてみた。

 「そうですか、無理もありませんわ。この星の習慣は一風変わって
いますから。何でしょう。何でもお答えしますよ」

 「そもそもここは教会でしょうか」

 「広い意味で教会と言えばそうかもしれません。修道院の敷地内に
ある礼拝堂の一区画で子供たちが学校で習う勉強の補習をしています」

 「塾?」

 「まあ、そうなりますからしら。この星では親や教師のほか私たち
も子供たちの面倒を見ているのです」

 「で、これは?」
 私が恥ずかしい恰好でいる二人の少女に視線を移すと……

 「お仕置きですわ。さっき教室でひそひそ話をしていたので連れて
きたんです」

 「かなり厳しいんですね」
 私が苦笑いして尋ねると……

 「この程度、この星では序の口なんですよ。男性からは厳しく映る
かもしれませんけど、女同士でやるぶんには大したことはしてないん
です」

 「でも、ここにも少数とはいえ男性が生活しているんでしょう?」

 「ええ、だからお分かりでしょう。……みんなの顔が変わったの。
……この台に縛られてる二人の心はもっと変わったはずですよ」

 私は赤面して……
 「いや、これれは失礼しました。では、さっそく退散します」
 慌てて踵をかえそうとしたが……

 「いえ、いえ、それは困ります。あなたをこの星にお呼びしたのは
こうしたお仕置きを見ていて欲しいからなのです。……ご存じの事と
思いますが、この星には男性が少ないので大半が女性同士。女同士の
世界ではどんなに厳しい罰を与えても効果があまりないのです」

 「つまり……その……私が男性であるという事に意味がある?」

 「女性同士では羞恥心もなく、体罰もインフレを起こして、身体が
持ちませんわ。そこで男性のお力をというか、その目をお借りしたい
のです」

 「なるほど、ということは男なら誰でもいいというわけですか」
 皮肉を言うと即座に否定してきた。

 「いえ、いえ。とんでもありませんわ。分別や教養は十分にないと
子供たちにしめしが付きませんから、そのあたりは人選も慎重に行い
ますの。決して誰でもよいというわけではありません。職安の方にも
そのあたりは十分に信頼できる人をと頼んでありますのよ」

 「なるほど、わかりました」
 私は自分の置かれた立場を思いやり心の中で思わず笑ってしまった
が、さりとて今さら尻尾を巻いて帰るにはこの星はあまりに遠かった
ので、しばらくはここに厄介になろうと決めたのだった。

 その後、二人の罪人はその可愛らしいプッシーが外気に十分当たる
までに剝きだされ、革ベルトの一撃一撃がしっかりと噛み締められる
ようにタオルを猿轡にして、脳天まで響く鞭の衝撃を受けていた。

 何だがとても残酷な光景に見えるが、ここの子供たちは幼い頃から
こうやって生活してきたのだろう、高らかに鞭音が響く最中にあって
も取り乱した様子を見せなかった。

 むしろ終わったあと、二人が軽く衣服を整えてシスター先生の前に
膝まづき懺悔や今のお仕置きに対する感謝の言葉まで述べるに至って
は、絶望に打ちひしがれているというより、まるで恍惚として先生に
すがりつき、甘えているようにさえ見えたのである。

 「まるで、甘えてるみたいだ」
 そこで運転手氏に正直に感想を述べてみると……

 「さすがは元先生。鋭い指摘です。……実際、甘えてるんですよ。
男性にはちょっと想像できないかもしれませんけど、女の子は相手が
好きな人ならぶたれていても撫でられれても、そこに大きな差はない
んです。好きな先生がいればわざとお仕置きされるように画策する子
だって少なくないんですよ」

 「でも、こんな姿、友達に見られたら、私は次の日から学校に行け
ませんよ」

 素朴な疑問をぶつけると、運転手氏は失笑する。
 「女の子のこと、まだよくお分かりになってないみたいですね」

 「……?……」

 「ここではたとえ裸になったとしても周囲がほとんど女の子ばかり。
着いてるもの、着いてないものがみんな同じですから。……それに、
お友だちからも悲劇のヒロインとして同情してもらえますしね。……
それもまた女性にとっては気分のいいことなんですよ……」

 「…?…少しくらいお尻が痛くても我慢できるってことですか?」

 「さっきの計算違いはあなたが現れたことかな……でも、それも、
多勢に無勢……数で圧倒的に優っている時は羞恥心も吹っ飛ぶんです」

 「そうか、ここは女の世界。異端者は私、というわけか」

 「女って男性がいるから女性らしくふるまおうとするのであって、
女って女性だけでいる時は男性以上に破廉恥が平気なんです。でも、
それでは社会の収拾がつかないからあなたは必要とされてるってわけ
……お分かりですか?」

 「やはり男の視線って幼い子でも気にするんでしょうね」

 「そりゃあもちろん。女性って男性以上に異性を気にしますから。
…………(少し間をおいてから)…………でも、それすらも、しばらく
したら慣れちゃいます。純粋な恥じらいなんて持ってるのは14、5
まででしょうか。17、8にもなればそれは人生の戦略、処世術です。
本心はストリッパーも顔負けの度胸の良さなんですよ」
 運転手氏は可愛く笑ってみせた。

 「そうなんですか。……でも、17、8にもなったらそもそも滅多
にお仕置きというのもないでしょうから」

 私がつぶやくと即座に返事が返ってきた。
 「ありますよ。18が19であっても、……親も教師も司祭様も…
…ここではみんなの前でお尻をむき出しにして叩くんです」

 「えっ?!だってハイティーンの子ってもう大人じゃないですか」

 「それはあくまでこの星のお外の出来事。ここでは二十歳未満の子
はすべて子供扱いです。胸が膨らみ、腰がくびれて、毛がはえても、
そんなのここでは関係ありませんわ。二十歳になる前日までは親も、
教師も、牧師さんも、とにかく権限のある大人は監督下にあるその子
を1分以内に裸にひん剥いて鞭打つことができるんです」

 「えっ?!そんな大きな子まで……」

 「男性は女がどんな時でも慎み深い存在と思ってるみたいですけど
女は男性が知らないだけで心の奥底から本当に自由人なんですから。
だから逆に、年齢、身分、権力、あらゆる力できっちきっちに縛って
おかないと、あっと言う間に組織が崩壊してしまうんです」

 「逆に厳しい規律や戒律が男性以上に必要というわけですか?」

 「そういうことです。男性の軍隊では、星が一つ違えば主人と奴隷
ほどに立場が違うとお聞きましたけど、それはここでも同じ。二十歳
の誕生日を迎えるまでは子供はみんな大人の奴隷なんです」

 「奴隷って……文句はでないんですか?」

 「陰ではいろいろ言ってるでしょうけど……でもそれは先輩たちが
一度は通った道……誰でも同じですから、そうなると文句を言わない
んです」

 「…………」
 私は、正直、声がでなかった。

 「それに何より女性は体力で男性に劣ります。ですから外からの敵
には常に集団で立ち向かわないと生きていけない。だから一度決めた
規則を安易に変更させないし、規律も男性社会以上に完璧でないと、
組織がすぐに崩壊してしまうんです」

 「そういえば、海賊の留守を狙って海賊がやって来るって言ってま
したっけ……ここでは女の子も立派なソルジャーなんだ」

 「そういうことです。……さて、おしゃべりしている間に着きました」

 「ここが教会ですか?」

 「いえ、そうじゃありません。ここはあくまであなたの自宅です」

 「自宅って……まるでみたい宮殿じゃないですか。いいんですか、
こんな豪華な社宅、私が独り占めして……」

 「いえ、一人じゃありません、奥さんもいますし、召使もいます。
何より、子供が二十人ですから、そう考えるとここもそんなに大きな
家ではないと思いますけど」

 「…………」
 私はこの瞬間まで妻の存在や子供が二十人もいるなんて知らされて
いなかったから一瞬にして目が点になったのだが……。

 「契約書、ございますけど……今一度、読んでみますか?」

 彼女がそう言って差し出した契約書には確かに、『子供は十五人から
二十五人を養育し、妻とのセックスは双方の合意ある時にのみ合法と
する』という文言が虫眼鏡が必要なくらい小さな文字で書いてあった。

 「…………」
 私は思わず苦笑する。意にはそわない内容だが中身をよく読まない
私にも責任があると感じたからなのだ。

 「オッケー、オッケー……ところで、みなさんこんな立派な建物に
住んでいられるんですか?」

 「立派かどうかは人の主観ですからわかりませんけど、この星では
このくらいは庶民の標準的なものですわ。同居人は、子供二十人の他、
奥さんに、メイドも数名おりますから、どうしてもこの位のサイズの
家が必要になるんです」

 「やっぱり、海賊って儲かる商売だったんですね」

 「…………」
 口を滑らした私を車を降りた運転手が睨みつけるので私はしまった
と思ったが後の祭りだった。

 「私たちは初めから略奪行為をしていたわけじゃありません。交易
の交渉がうまくいかない時、そういうこともあったというだけですわ。
だって、あなた方だって軍事力に差があるのをいいことにあちこちに
植民地を開き、現地の人を奴隷として使役していた過去があるじゃあ
ありませんか。私たちは一過性ですけど、何世代にも渡り奴隷貿易を
してきた方のほうが上品だったとは思いませんことよ」

 あまりに毅然とした彼女の態度に私は頭をかくしかなかった。
 たしかに、我々だって何世代にも渡って奴隷を使ってきたのだから
我々の方がよほど罪深いとも言えるのだ。

 「これはこれは旦那様、ご帰還感謝いたします」

 音楽ホールかと見まがうよな玄関に立つと上品な中年婦人が恭しく
挨拶してくれた。
 
 「この方は?」
 勝手のわからなない私が運転手氏に尋ねると……

 「あなたの奥様ですよ」
 という答えが……

 何とも奇妙な空気が流れた。

 「ご存じとは思いますが、ここでの家族には血縁はまったくありま
せん。子供たちはPC処理によって受精した遺伝子的に優秀な子たち
ばかりですし、この奥様もあくまで子育てをするための共同管理者と
いったところです」

 「それぞれ夫と妻、お父さん、お母さんというビジネスパートナー
というわけですか」

 「そういうことです」

 運転手は答えたが……
 「ただそんなに杓子定規に考えなくても日常生活はあなたが生まれ
育った血縁関係による家族とそんなに大差はありませんのよ」

 私の新しい奥さんが少しだけ私のショックを和らげてくれる。
 実際、一緒に暮らしてみた私の経験からすると、この星での生活は
それほどむなしいものではなかった。
 実の夫婦ではないとは言っても、お互いが合意すればSEXだって
自由なのだ。

 「では、居間へご案内いたします。まずは子供たちの挨拶を受けて
いただきますので……」

 そう言われて案内された居間はだだ広くて五十畳もありそうな処。
部屋のあちこちには大きな壺に入った沢山の花がいけられ、歓迎用の
紙飾りやミラーボールがまぶしく輝いていたりしたが、何より華やか
だったのは子供たち。下は本当の赤ん坊から上は二十歳前後の美少女
まで、おめかしした少女たちの集団にブスと呼べるような娘は一人も
いなかった。

 「いやはや、これは可愛い。……可愛い子ばかりだ」

 私が感嘆すると……
 「それはそうですわ。我が国自慢のPCが精子と卵子を吟味して、
容姿端麗、才能豊で健康に丈夫に育つであろうカップルを計算して、
掛け合わせ受精させた子供たちばかりですから」

 「なるほど……どおりでみんな美しいはずだ。これはドレスのせい
ばかりではありませんね。でも、こんなに沢山お子さんを作ったら、
お母さまも大変ですね。……で、お父様は?」

 私が何気に頓珍漢な質問をすると、婦人は思わず噴き出して……
 「いやですわ。あなたがそうじゃありませんか」

 「……(笑)……」
 私は冷や汗。この期に及んでもまだ実感がなかった。

 そもそも、どの子も私が産んだんじゃありませんよ。私はあくまで
この子たちを育てるのが仕事。この子たちを産んだん女性はそれぞれ
に違いますし、そもそも誰の精子と卵子を掛け合わせたかもPC以外
知らないことなんです」

 「ここでは子供を産む人と育てる人を分けているのか」

 「そういう事。昔は胎児を試験管で育てた時代もあったそうですが、
無機質な子ばかり多くなって社会秩序が乱れ始めたので『女性は特別
な理由がない限り、三人の子を出産しなければならない』と定めたの
です。都合三年近く掛かりますから大変な義務ですけど、種族を保持
していくためには仕方がありません。ただその代わりその子を育てる
義務はありませんから、そこを私たちがやっているというわけです」

 「……」
 私は、文化の違いでやむを得ないとは思いつつも言葉を失った。
 曲解して考えれば、ここでは肉親は一切存在しない。巨大孤児院で
国民を育てているということのようだ。

 「この方がなまじ情を挟まない分、適格な教育ができるんです」

 「…………」
 私はカルチャーショックが抜けないままにしばしその場でぼんやり
していたのだが……

 「海賊稼業をしてきた私たちは常に賊に襲われる危険があります。
残酷な目にも何度もあってきました。そんな時、なまじ血の繋がりが
あると冷静な判断ができず、より大きな悲劇となる事を悟ったのです。
ですから最初から他人が他人を育てるシステムにあらためたんです」

 運転手氏が私の心を見透かすように説明すると、マダムもその後に
続く。

 「でも子供たちに愛情は必要ですから、寄宿舎というのではなく、
家庭という仕組みは残したんです。そして、虐待などが起きないよう
私たちを含め子供たちはグレイトマザーと呼ばれるAIPCの監視下
で暮らしているという訳です」

 「グレイトマザー?……AIPC?……ですか」

 「あなた、ここへ来る前に目の検査を受けませんでしたか?」

 「ええ、まあ……」

 「あれで、それ以降あなたの視界は全てPCに伝わることになり、
それが虐待行動と判断されれば、検察に通報が行くというわけです」

 「あれって、そんなことだったんですか…………」
 私は驚き顔を引きつらせる。
 「それって、トイレとかSEXも監視されているってことですよね」

 「ま、確かにそれはそうですけど、犯罪に関係しない限りそうした
情報はPCの中で封印されていますから、プライバシーが侵害される
ということはありません。大人の情報はあくまで育てる子どものため
りものですから」

 「では、私もそのAIPCの指示で父親を演じるわけですか?」

 「ええ、でも、そんなに窮屈なものではありませんよ。何でもかん
でもAIPCの指示で動くというのではなく。父親にも母親にも広く
裁量権が認められていますから、日常生活で起こる諸問題をお仕置き
という方法で解決することだってできます。大半は他の星でやってる
子育てとそんなに変わりありませんよ。……ただ目に余るものだけを
AIPCが直接脳に指示するだけです。その時はすぐにやめなければ
なりません」

 「それは、そのAIPCが私たちの行動を常に把握しているという
ことでしょうか?」

 「そう言うことです。私たちだけでなく子供たちもメイドたちも、
およそ子供にかかわる人たちは、24時間365日、どこへ行っても
AIPCに監視下にありますから、この職にある限り、逃れられない
のです」

 「トイレの時も?」

 「ええ、トイレの中も、ベッドでの秘め事も全てです。でも子供を
トイレで折檻でもしない限りそんな映像が表に出ることはありません
から。大人の私達はプライバシーが犯されるということはありません」

 「子供は?」

 「子供はべつですわ。こちらは未だ保護を受けている身ですから。
オナニーなんて悪戯をしていると、その血流、血圧、呼吸、心拍数等
からAIPCが察知して私たちに知らせてくれます。……どのような
お仕置きが適切かも教えてくれますよ」

 「プライバシーはなしですか(溜息)……ここは超のつく監視社会
なんですね」

 「そういうとおどろおどろしく聞こえますけど、あくまで子供たち
への虐待や危険を防ぐためですから慣れればそんなに住みにくい世界
でもありませんのよ………では、子供たちを一人ずつ紹介していきま
しょう」

 母親は幼い子、まだ赤ん坊という子から一人ずつ自己紹介せていく。

 「この子はハナ。まだ生後一年あまりですが、話せますよ」

 「おとうちゃ……ま、……こ、こ、こんにちわ……私はハナと……
言います。……どうぞ、可愛がってください」

 「一歳の子が話した!」
 まだ完全にろれつが回らないハナは抱か上げたニーナが口添えして
やれば次から次へとご挨拶の言葉を口にする。
 まだ、意味は分っていないだろうが、それにしても驚かざるを得な
かった。

 「この子は学者候補として遺伝子を組まれていますから割と物覚え
は早いんです」
 とは、母親の弁。

 学者、エンジニア、医者、音楽家…ありとあらゆる職種に対応した
遺伝子の形で社会に必要な分だけ将来適任の職業人が生まれてくる。
 それを管理するのも当然AIPCだった。

 ハナは最後に私へのプレゼントとしておしゃぶりを渡してくれた。
 「はい、お父様」
 これは父となった私へのプレゼントのようだ。

 自ら創作活動ができるようになれば、私を描いた絵画だったり刺繍
したハンカチだったり、自ら作曲したピアノ曲だったりする。

 これから先は順々に年かさの子の挨拶となるのだが、いずれも華麗
なドレスを着こみお化粧まで施している。
 どの子も可愛くて化粧の必要はないだろうと思ったが……。

 「ありがとう、ありがとう」
 私はそれしか言えなかった。

 何しろほぼ一歳刻みで兄弟姉妹がいるという大家族なのだ。あとが
つかえている。

 ただ、女の都と呼ばれる星だけあってその大半は女の子。男の子は
七歳のマーク君だけ。彼ももちろん一張羅といえるような華麗な衣装
での登場だったが、甘えん坊さんとみえて私のそばに寄るといきなり
抱き着いてきたのには驚いた。

 後でわかったことだが、貴重な男子はどうしても過保護になりがち
のようで、甘ったれ、わがまま、といったところは他の兄弟より多少
大目に見られているところがあった。

 で、総勢18名。これでも十分に大所帯。
 一通りこの広間にいる子供たちの挨拶もすんだのでこれでてっきり
終わったと思っていたのだが……

 最後に二人、これまでになく年かさのありそうな少女が辺りを窺う
ようにして入ってきた、。
 すると……

 「マリー、べス、こっちへいらっしゃい」
 目ざとく見つけて母親が二人を呼ぶ。

 歳の頃なら十七、八といったところだろうか。二人とも子供と呼ぶ
には体つきもほぼほぼ大人の体型で、よその星でならヤングレディー
という名称で呼ばれていることだろう。

 しかし、この星での立場はあくまで子供。ハナやマークと基本的に
同じで大人に準じたというものではなかったのである。

 「あなたたち、どこへ行っていたの?もう、お父様は到着なさって
いるのよ。私、言いましたよね。今日は夕方までには新しいお父様が
いらっしゃるから用が済んだらなるべく早く帰ってくるようにって」

 「…………」
 「…………」
 二人は押し黙ったまま。どうやら、私などよりもっと大事なことが
あったようだった。

 「どこへ行ってたの?こんなに遅くまで……」

 「……それは……」
 「……その…………マリーが花火大会があるって言うから、つい」

 「花火大会?知ってますよ。でも、そんな事より我が家にあっては
新しいお父様をお迎えするのが大切なことじゃなくて。……お父様は
この家の当主なのよ。ないがしろにしていいわけがないでしょう……
そうした大事なことは忘れちゃったのかしら?」

 「いいえ」
 「そういうわけじゃないけど……」

 「とにかくお父様の着任早々こんな非礼は許されないから……これ
から二人にはお仕置きを受けてもらいます。

 「……!」
 「……!」
 その瞬間、二人の顔が真っ青になるのがわかった。

 そこで、一拍置いて……
 「私はべつに……」
 と言って身を乗り出してみたのだが……その際くだんの運転手氏に
耳打ちされる。

 「ご主人、……申し訳ありませんが、この星では子供のお仕置きは
母親の専権事項。奥様がこうして欲しいと申された時以外のお口出し
はご無用にお願いいたします」

 「……なるほど、そうでしたか」
 この星に来てまだ右も左も分らぬ身。こう言うしかなかった。

 その後、この二人は私のソファアに近づくと恭しくお辞儀をして、
「新しいお父様のご帰還に遅れてしまい申し訳ありませんでした」と
詫びてきた。

 その服装は他の子と違い普段着だったが、もちろんこちらはそんな
ことは何とも思ってはいない。鬼も十八番茶も出花とはいうが、その
顔は愁いを持ちつつも美しく『お父様』などと呼ばれてこちらの方が
緊張して赤面するくらいだった。

 他の子と同じようにマリーからは油絵、エリザベスからはゴブラン
織りのタペストリーが送られ、私はこれでてっきりこの件は一件落着
したと思った。
 ま、それが私の生まれ育った星では常識的だったからである。

 ただ、それが母親の次の言葉で撃ち砕かれる。

 「マリー。ベス。お父様のお許しが出ましたからこれからはお二人
ともお父様の子供としてここに住むことが許されます。でもその場合
は家のしきたりにしたがってお父様に非礼を働いた罰を受けなければ
なりません。分ってますね」

 「…………」
 「…………」
 母親の宣言直後、二人の顔から血の気が引いていくのがはっきりと
わかったから、これがとても深刻な事態なのだろうとすぐに分ったが
私にはそれを止めるすべがないこともすぐに理解できたのだった。

 「みなさん、これから規則を破ったお姉ちゃま達二人のお仕置きを
します。みなさんもこれは自分のことじゃないから関係ないなどとは
思わずしっかり見学しましょう」

 母親はこう言って子供たちを『お仕置き部屋』と称される部屋へと
移す。ニーナや家庭教師、メイドたちに促されて子供たちが大広間を
出る。
 血の繋がりがないとはいえ自分たちの姉がこれから酷い目にあうと
いうのだからさぞやショックなんだろうと心配したが……

 「…(笑)…」「……(笑)…」「……(笑)…」「…(笑)…」
 談笑しながら部屋を出ていく。あっけらかんとしているのだ。
 もちろん。その命令に誰一人逆らう者はなかった。

 恐らくこんな催しはこれが初めてというのではないのだろう。
 むしろ、ここでお仕置きを受けずに大人になるなんて不可能という
ことのようだった。

 そして……
 「さあ、ご主人もお願いします。あまり綺麗なものではありません
けど、これもご主人の義務に類することですらお願いいたします」

 メイドの一人に促されて私は席を立つ。
 できたら遠慮したい思いもあったが義務とまで言われれば席を立つ
しかなかったのである。

**************************

 お仕置き部屋はその名の通り子供をお仕置きするための部屋のこと。
この星の家庭では珍しいものではなく、寝室や食堂などと同じように
あって当たり前の場所だった。

 もちろん子供を懲戒する部屋は男中心の社会にもあるにはあるが、
それは大半が尻を叩くためのテーブルぽつんと置いてある簡素なもの。
それに比べこの星のお仕置き部屋は一見するとここが何をする場所か
一見して分らないほど凝った作りになっていた。

 大広間の三分の一ほどのスペースしかないその場所は、さらにその
半分が長椅子を使った観階段状の客席。残り半分がお仕置きを受ける
子の舞台となっている。

 私が到着した時、すでに観客席は埋まっていて、私の座る場所だけ
が空いていた。

 「さあ、ご主人、こちらへ」

 メイドの一人が私を呼び、恐らくは私のためであろう革張りの椅子
を勧める。
 ここは観客席に陣取る子供たちの中心。これから自分たちの仲間、
兄弟が悲惨な目に合うことになるのだから、さぞや私は快く思われて
以内のだろうと思っていたが、後頭部から聞こえるのは楽し気な談笑
ばかり。一応辺りを見回してみたものの……顔は青ざめ固唾をのんで
なんて子は、ここには誰もいなかった。

 「……?……」
 まるでサッカー場か野球場の観客席にいるみたいでこちらが呆気に
とられるほどみんな笑顔だったのである。

 そう、これから楽しい漫画映画でも始まるかのようにみんな心わく
わくの笑顔で舞台を見ていたのである。

 舞台の主役はもちろん先ほどの二人と母親。それに家庭教師らしき
女性がアシスタントとしてついていた。

 「では、始めます。服を脱いで」
 それは母親のそっけない号令で始まった。

 普通、17、8の娘にいきなり服を脱げなんて言えないもの。いや
言ってみたところで、たった一人とはいえ私という異性の混じる中で
それは無謀な要求に思えたのだが……

 「…………」
 二人は争うように服を脱いでいく。
 しかも下着を含めてあっという間、私は1分間ほどで全裸の少女を
目の当たりにすることになるのだった。

 「すごい、恥ずかしくないのかな?」
 思わず独り言をつぶやくと私の身の回りの世話をいいつかっている
らしきメイドが……

 「1分以内に命令を実行しないともっと恥ずかしい罰が追加される
からですわ。ここでは子供たちが19であってもマザーの命令は絶対
なんです」
 と、教えてくれた。

 「19でも子供扱いなんだ」

 「もちろんですよ。……二十歳になって大人認証試験に合格して、
それで初めて一人前の大人と認められるんです。それまで大人の命令
は絶対ですから。マザーに裸になれと命じられると、もうそれだけで
反論は許されないんです。1分以内に全裸で気を付けの姿勢をとらな
きゃそのあとどうなるか分りませんもの」

 「…………」
 私は二人が可哀そうになって思わず目を伏せたのだが……

 「いけません旦那様。目をそらさないでください。子供のお仕置き
を見学するのは父親としての大事なお務めですから……」

 「そうなのか……」
 右も左もわからない私はメイドの忠告に対してさえ従うほかない。
 すると……

 「あなたたち、先週の土曜日はちゃんと下草の手入れをしたの?」
 母親が二人に新たな難題を吹きかける。

 下草とはお臍の下の体毛。つまり陰毛のことで、彼女たちはすでに
ハイティーンだから備わっている。ただ、この星ではこれを自然な事
として許容してくれないところがあって、娘たちはこれが生えてくる
と週末は各自で綺麗に剃り上げなければならなかった。

 「あらあら、ずいぶんざらざらしてるわね」
 母親の鋭い眼光が二人の幼いハートを射貫く。

 その青ざめた顔はどうやらそれができていないと白状しているよう
だった。
 震えた顔からは嘘をつこうという気など起きない。そんな事をした
ら先に何が待っているか、その答えを彼女たちは若い身体に嫌という
ほど蓄えているからなのだろう。

 「ごめんなさい、やってません」
 「わたしもやってません」
 こう言う他はない。

 すると、母親は納得した顔でこう切り出す。
 「そう、それなら今回はそれをお父様にやっていただきましょう」

 「……(!)……」
 その瞬間、私の脳裏に電気が走る。青天の霹靂というのはこういう
事なのだろう。とにかくびっくりして目が点になった。

 「せっかく新しいお父様が見えたんですもの。幼い子と同じように
あなたたちも愛を授けてもらう権利があるわ。お父様が着任される日
も忘れて花火大会に出かけるようなあなた方の心の中には、きっと、
どうせこのお父様とは一、二年の短いお付き合いだからという思いが
あるのかもしれないけど、短い期間だからこそ濃密な関係になる事も
あるのよ。おむつの代わりにそのくらいのことはしてもらってもいい
んじゃなくて」

 私は母親の講釈を聞きながら、この星に父親という職業で来訪した
時、空港で二週間も足止めを食ったことを思い出していた。
 その時受けた数々のレクチャーの一つに風船にシェービングクリー
ムを載せてそれを剃り上げる訓練というがあったのを思い出したのだ。

 『あれって、これのことか』
 その時の風船の形を思い出して思わず苦笑する。

 「それは……」
 思わず声が出たが、その先の言葉は飲み込んでしまう。
 もちろん通常なら遠慮したいところだが、この星で『父親』という
職業に就き、これがその義務だと言われればやらないというわけには
いかなかった。

 二人はそれぞれ別のテーブルに縛り付けられて、まったく身動きの
できない状態の中、共に視線の定まらない表情で天上を見ている。
 顔面蒼白という言葉があるが、その顔はもう真っ白になっていた。

 「じゃあいくよ、動かないでね」
 二人が緊張しているのは当然だが、私はもっと緊張していた。
 本来なら少女の柔肌に触れてちょっぴり何か起きそうなものだが、
床屋でもない器用でもない私にそんな余裕はなかったのである。

 ただ、終わり際に……
 「この子たちは幸せですわ。若い男性に下のお世話を受けて……
女は男性の匂いを身につけているか否かで幸せ感が違いますから」
 という母親の言葉を聞く。

 「そうでしょか。私にはこの子たちが何度もシャワーで自分の身体
を洗う姿が想像できますよ」

 「それはそうでしょうしけど、何度洗ってもその匂いは落ちません。
いいえ。落ちないどころか歳と共にだんだん強くなります。そして、
ある時気づくんです。これが逆に女としての自信や勇気となっている
んだと……」

 「……ん?……それが、ひょっとしてこの星の血を引くとはいえ、
異邦人である私を受け入れる理由ですか?」

 「私たちの星ではY染色体が弱くなったために海賊をしていた時の
ような雄々しい男性は期待できません。そこで一旦は女性だけの社会
を創ってみましたが、結局、女性だけでは社会が成り立たないことを
悟って、もとの姿に戻したのです。ですからこの星では実務の大半は
女性が担っていますが、組織の要となる役職、例えば司祭様市長さん、
校長先生やもちろん家長もあなたでなければならないのです」

 「お飾りでも男性は必要ということですか?」
 皮肉めいて言うと……

 「そんなことはありませんわ。男性でなければならない仕事の出番
はたくさんありますもの」

 「これも?……その一つ?」

 「そういうことです。……ま、彼女たちがその意味を体感するには
もう少し時間がかかると思いますが……いずれにしても男性と女性は
お互い補いあって生活してこそ種族も維持できると悟ったということ
です。さあ、これで準備も整いましたし、これから本格的なお仕置き
になります」

 「これからなんですか?」
 思わず口を滑らせると……

 「ええ、ですからお仕置きです。……女性は男性の世界とは違って
女の子のお仕置きはたっぷりと時間を掛けて行いますの。……だって
それが何よりの愛情表現ですから……」

 「愛情表現?」

 「そうですよ。お仕置きは愛からくるもの。憎しみではありません
から。女の世界ではたとえその瞬間は不快でも時間を掛ければかけた
分だけその後の愛も深まるんです。ま、ご覧になっていてください。
フェミニストの方にするとちょっぴり刺激が強すぎるかもしれません
けど、決して現実から目をそらさないでくださいね。そんな事をした
ら、かえって女は傷つきますから」

 母親はそう言い残して仕事にとりかかった。

 「さあ、まず浣腸よ。シャワーの前で膝まづいて」
 母親はまだうすっらと涙が残る二人の瞳に命じる。

 この部屋の半分が階段状になった長椅子の観客席なのはすでに説明
したと思うが、もう半分は舞台になっていて壁際に三本のシャワーが
備えつけられている。

 その三室ある狭い個室に二人はそれぞれ入ると、やがて滝のように
降り注ぐであろう細かい穴の開いた蛇口の真下で膝まづく。そして、
自分たちの足首より若干高い位置に設置されたT字バーを両手で掴む
のだ。

 何の指示もなく行われる行為。その手慣れた仕草からこれが初めて
の体験ではないことがわかった。

 『これがここでの浣腸なのか』
 心の中だけで驚いていると……

 「さあ、足は閉じないの。何回言ったらわかるの。新しいお父様は
まだあなたたちの大事な部分をしっかりご覧になっていないんだから
この機会にちゃんと見ていただかなきゃ。あなたたちは今はまだ子供。
そこを隠す権利はないのよ」

 母親の強い口調が室内に響く。
 と、微かだがすすり泣く声が聞こえた。ハイティーンにもなっても
この姿。そりゃあ、当然の反応なのかもしれないが、気が付いて後ろ
を振り返ると、こちらはほぼ全員満面の笑みだった。
 まるでサーカスでも見学してるいるような楽しい笑顔ばかりなのだ。

 『この子たちだって当然、同じようなことをやられているはずなの
だが……子供というのは自分に関係ないことにはこうまで冷淡なのか』
 と、思ってしまった。

 やがて、天井とそう変わらない高さの棚に置かれたホーローびきの
小型バケツに浣腸液が入れられる。
 バケツからはゴム製の管が伸びていて途中にストッパー、先端は逆流
止めのふくらみがついている。
 もちろんお尻の穴に直結できるように十分な長さが確保されていた。

 「いいですか、では始めます。今回は色々無作法がありましたからね。
石鹸水ではなくグリセリンを使います」

 「え~」
 「いやあ~そんなの」
 思わず上がる二人の何とも悲し気な悲鳴。石鹸水とグリセリンでは
その効果に大きな違いがあるからだった。

 しかし、大人絶対のこの社会においてその方針が変更されることは
なかった。

 「あっ……」
 「いやっ……」
 その液体が身体の中に入ってきた時の二人の絶望的な吐息が室内
に流れる。

 恥ずかしい部分もお尻の谷間からはっきりとみえてはいるけれど、
二人がそれ以上の嬌声を上げることはなかった。
 むしろ、この時は後ろの観客席の方が大盛り上がりだったのである。

 『子供というのは自分の事以外ではこれほどまでに冷淡なのか』と
思うしかなかった。

 グリセリンがお腹の中に入ると、二人は肉屋につるされた肉の塊の
ように両手を丸木の棒に縛られたままつま先立ち、万歳をしたその姿
のまま身体を固定されてしまう。

 「…………」
 「…………」
 呻く声さえ出せない中にあって、足元には粗相した時のための盥が
……そのあとはひたすら我慢の時間だった。

 大人たちは手早く作業を行ったが……
 当然のことだが、グリセリンの効き目は石鹸水より遥かに早い。
 一分を待たずして、二人のお腹は耐え難いものになったようで。

 「ぁぁぁぁぁぁぁ」
 「ぁぁぁぁぁぁぁ」
 二人の声にならない声。

 が……
 「どうしたの?このくらいのことで変な声だして、お姉ちゃんたち、
こんなことも我慢できないなら妹たちに笑われるわよ。ほらしっかり
しなさい。……それとも、最近はお仕置きが少ないから我慢の仕方も
忘れちゃったのかしら?……ほら、しっかり肛門を閉じて!……ほら、
ほら身体だけはもうしっかり大人なんだから、妹たちの前でお漏らし
なんかしたらみっともないわよ」

 母親が囃し立てると必死に我慢する二人だったが……
 それもほどなくして限界に……

 そのあたりはさすがに日頃からこうしたことをやっていて経験豊富
な母親のこと、ダメだと分るとすぐにシャワー室のドアを閉める。

 「いやあ~~」
 最後の断末魔の声とともに……
 「ビシャー、ビリビリ」

 ドアはすでに閉まっていたが、何が起こっていたたのかは誰の脳裏
にもその映像がはっきり映る。妹たちにしてもそれは幾度となく自ら
経験したことだった。

 母親がドアを閉めて十秒以内。まさに絶妙のタイミングに私は変に
感心してしまったくらいだ。

 「ほら、お股を開いて……汚れをちゃんと落とさないと恥ずかしい
でしょう……」

 「あっ、痛い」

 「ほら、そのくらいのこと我慢するの!」

 母親はただでさえ狭いシャワー室の中に入り込むと、盥にたまった
汚物を引き出し、大きくなった娘の陰部までを綺麗に洗ってしまう。
 もちろん、こうした事は戒めを解いて本人にやらせたり、メイドに
任せてもよいことなのだが、我が家の場合、母親はそれはしなかった。

 「…………」
 「…………」
 すっかり消沈した二人。恥ずかしいなんてことさえ忘れてシャワー
室をでてきた。

 もちろんそんなみじめな少女の姿を注視する趣味はないが、『郷に
入りては郷に従え』という諺通りここまで来ると大分こちらの度胸が
ついている。

 『さて、これで終わりか……』
 一息ついたが、イヤそうではない。
 私にはもう一仕事残っていたのである。

 母親が二人に耳打ちした瞬間、少女二人の顔が再び青くなったので
何やらよからぬ胸騒ぎがしたのだが、案の定だった。

 二人は革張り椅子に腰を下ろす私の前まで来て膝まづくと胸の前で
両手を組む。そして……

 「お父様、お臍の下にお灸のお仕置きをお願いします」
 というのた。

 「??????」
 当初、私は何のことか分らず当惑してしまった。
 そもそもこの時までお灸というものを知らなかったからのだ。

 すると、そばにいたメイドが私に耳打ちをする。

 「お灸というのは……ほら、あれです」

 彼女が指さす先。そこはお臍の下、割れ目の上。小高いマウンドに
なっている恥丘と呼ばれる場所。もっと言えばさっき私が彼女たちの
下草を刈った場所だった。

 そこに小さな火傷のような痕があるにはあるのは先ほどの下草刈り
で承知していたが、それを見てもその時は何のことだか分らなかった。

 そんな私を見ていて、母親が感じ取ったのだろう。
 『そうか、この人は異邦人だから、私たちの歴史は知らぬのか』
 ということで、懇切丁寧に説明してくれたのである。

 「これは子供のお仕置きの証。これを付けているのは子供だけです
からたとえ他の海賊から色々と略奪を受けるようなことがあっても、
この御印が目に入れば誰も襲ったりしません。そこで親は娘にあえて
この火傷をつけておく習慣があるのです」

 「なるほど、では、この星の人たちは全員この火傷を……」

 「いえ、これはあくまで子供の時代だけ。大人になると簡単な手術
で綺麗にしてしまいますから……これはあくまで子供の証ですわ」

 「でも、そんなに便利なおまじないなら、火傷をそのまましておく
人もいるんじゃないですか」

 「いえ、いえ、それはありませんよ。子供時代、散々折檻を受けて
暮らしてきた子供たちが今さら子供に見られたくはありませんから」

 「つまり、男に犯されるより子供に見られる方が嫌だと……」
 私が思わず小声で尋ねると……答えはイエス。

 「それってプライドの問題なんです。海賊というのは仲間の略奪は
しても命は取りませんし子供にも手を出しません。その不文律が固く
守られてきたから、今があるんです」

 「強いんですね」

 「色んな意味で強くないと男社会の海賊世界では生きていけません
から。……この星の女性は大人になるまで有無も言わさぬお仕置きで
鍛えられていますから、他の星の女性よりそのあたり芯の強い女性が
多いんです」

 『なるほど、さもありなん。……同じアンドロメダ域内といっても
色んな星、色んな文化があるというわけか』
 私は思わず心の中でつぶやく。

 さてそれはさておきここでも私はこの星の習慣に従うしかなかった。

 「さあ、もう一度お父様にお頼みしなさい」
 母親に促されて少女たちは約束の言葉を口にする。

 「お父様、お灸のお仕置きをお願いします」
 「お父様、お灸のお仕置きをお願いします」

 さっきの言葉のやり直しなわけだが、今回はそれだけではなかった。

 「どうか成長した私たちの身体も見てください」
 母親の口添えに、しかし、今度は素直に言葉が出てこない。

 「さあ、ちゃんとお願いして……」

 「…………」
 「…………」

 「どうしたの?それとも幼い子のようにおむつの方がいいのかしら?」
 母親に執拗に迫られるといかにもしかたなくといった感じで重い口が
開く。

 「どうか成長した私たちの身体も見てください」
 「どうか成長した私たちの身体も見てください」

 再びの輪唱。私は今でも十分に成長した姿を見ていると感じていた
が、どうやら彼女たちが言う身体とはこれだけではなかったのである。

 二人はさきほど私が陰毛を剃り上げた時と同じテーブルに仰向けに。
 厳重に革のベルトで固定されると、何一つ身動きのできない状態も
先ほどと同じだった。

 そのすべすべの平原に今までの火傷の痕より一回りさらに大きな艾
が乗せられる。もうこれだけで相当な緊張なんだろう。透き通るよう
な肌に赤みが差し、鳥肌が微妙に震えているのがわかる。まだ可愛い
という表現しか浮かばないおっぱいの先端が起立していた。

 そんな彼女たちの小山に乗せられた艾の先端が赤くなる。
 私が母親に持たされた線香で火をつけたのだ。

 ちょっぴり罪悪感があったが、もうここまできたら仕方がなかった。

 「あっ~~~~」
 「いやあ~~~」

 二人はあらん限りの力を振り絞ってもがいてみたが、荒い呼吸を
繰り返す以外どうすることもできなかったのである。

 ただ、これは置き土産と言ってよいのか、二人そろってちょっぴり
お漏らしを……

 「まったくだらしがないわね。さあ、自分の粗相は自分で掃除する
の……」
 母の叱責を聞きながらお漏らしの処理も自分たちでしなければなら
ない。

 いや、それだけではない。
 お漏らしの罰として今度はテーブルにうつぶせになり両足を開ける
だけ開いたところで固定される。
 もちろん後ろからとはいえ、大事な処が大きく開かれてしまうわけ
で、若い娘にとって恥ずかしくないわけがないのだが、それに母親が
何一つ気を止める様子はなかった。

 そして、その可愛らしいお尻の山が四つ、観客席からもよく見える
ように並べられて、一山当たり十二回もの痛みが二人を容赦なく襲う
ことになるのだった。

 「ピシっ」「ひい~」
 「ピシっ」「いやあ~」
 「ピシっ」「だめえ~」
 「ピシっ」「許して~」
 「ピシっ」「もうしませんから~」
 「ピシっ」「ほんとだからあ~」
 「ピシっ」「死んじゃう~」
 「ピシっ」「痛いよう~」
 もうハイティーンになってる女の子がテーブルの上で幼い子のよう
に泣き叫ぶ。

 「ピシっ」「ごめんなさい」
 「ピシっ」「ああ~いやいや~」
 「ピシっ」「壊れちゃう~」

 鞭打ちのためにしつらえられたらしい皮の平ベルトによる折檻は、
女の子相手とは思えないほどの厳しさだったから私などはあまり気分
の良いものではなかったが、後ろで見ていた観客席の妹たちの思いは
大盛り上がり。まるでピクニックにでも来ているような楽し気な笑い
声が聞こえてくる。

 『お前たち、お姉ちゃんたちが心配じゃないのか!』
 と、思わず言い返したくもなったが、そこは大人の理性。子供とは
そういうものなのだと納得するしかなかった。

 一通り二人のお尻を温めた母親は肩で一つ二つ息をつくと革紐鞭を
戸棚に収める。
 「いいわ、ではお父様にあなたたちの成長を見ていただきましょう」

 母の言葉は辛い鞭打ちがこれで終わるという意味では二人にとって
嬉しくもあっただろうが、それがまた、別の恐怖の始まりでもあった
わけで、疲労困憊した二人はテーブルからすぐには起き上がれなかっ
た。

 そんな二人に投げかける母親の言葉は皮肉そのものだったのである。
 「さあ、あんよを上げて。……これからあなたたちがどれほど成長
したかを新しいお父様に見ていただきましょう。……ほらほら、早く
して……大丈夫よ今度は痛くも痒くもないから」

 その母の声に二人は動かざるを得ない。
 テーブルの上で仰向けに向き直ると大きくなった足重くなった足を
大儀そうに引き上げ、自らの両手で自らの太ももを支える。ちょうど
赤ちゃんがオムツを替えてもらう時に見せるポーズだ。

 「…………」
 「…………」
 無言の二人。
 もちろん、今、自分たちがしていることがどれほど恥ずかしいかは
百も承知しているが、この家の子供としてこれを拒否することはでき
なかった。

 そして、私もまたそれを拒否することができなかったのである。

 「…………」
 太ももを押し開いてくれたのは母親。そこにはまだ色素沈着のない
美しい桃の種が彼女たちの荒い呼吸と一緒に動いている。

 ことさらそれを眺めていたつもりもないが、母親はそんな私の心を
見透かしていたようだった。

 「綺麗でしょう。私たちの種族は色素沈着が起こる年齢が高いので
他の海賊たちの標的になりやすいんです。だから幼い頃からこうして
お灸をすえているんですわ……」

 母親は二人のお尻のお山につけられたお灸の痕を指さす。
 でも、ことはそれで終わらなかった。

 「……でも、ほら、御覧なさい。こんなに美しい肌をしているのに
こんな処にあちこち赤みが出て……きっと痒くて仕方がないてのね。
……ほら、こうやって、さらに押し開くと……ほら、襞が乱れてる。
これはよく二人で抱き合って、お互いで掻きっこしてるからこういう
ことになるのね。大方、花火大会に行ったというのも……実はこれが
目的ではないかと思ってますの」

 母親の笑いは言葉こそ丁寧だが、内容はえげつないもの。この二人
も若いのだから、そこはある程度仕方がないと考えたいところだが、
この星ではこうしたことも厳しいお仕置きの対象だったのである。

 「いや、二人ももう大人に近いんだし……」
 私は二人にとって助け舟を出すつもりだったが……
 「そうですわ。お父様は正しいことをおっしゃる。……だからこそ、
二人にはここでしっかりとした自覚を植えつけないと……今さら言葉
で言ってもらちがあかないから、厳しいお仕置きが必要ね。ここでも
やはり……お灸がいいんじゃないかしら」

 彼女はあっさり私の言葉を切り返すと、さっそく艾の準備に……

 『まさか』
 とは思ったが、標的はやはり二人の大事なものがしまってある洞の
中だった。

 老婆心ながら……
 「大丈夫なんですか?そんなことして……」

 「もちろん大丈夫よ。これがこのお二人さんにとって初めてという
わけでもないんだから……そうだ、また、お手伝いいただけます?」

 明るい笑顔で頼まれると、これはもう職業意識というべきか、拒否
はできなかなかったのである。

すえる場所はかなり特殊で、クリトリスの脇、会陰、肛門の下など
いずれも微妙なところばかりだが、当然ながら艾の大きさは、お臍の
下にさっきすえたものよりかなり小さかった。

 お線香から火が移ればあっと言う間の出来事だが……
 「あっ……んんん……ぃぃぃぃ」
 重苦しい息から察して二人のショックは小さくなかった気がする。

 「やっぱり、熱いですよね」
 そんな愚問を投げかけると母親が説明してくれた。

 「それはそうだけど、肉体的には大したショックはないの。むしろ、
女の子にとってはこんな処にまですえられたという精神的なショック
の方が大きくて長い間心に残るわ。お仕置きにとって大事なことは、
肉体を虐めることじゃなくて、長い間、戒めとして心の中に残すこと
なんですもの。これでいいのよ。……そうだ、すえる場所はお分かり
になったでしょうから、やっていただけます?」

 「私が?」

 「ええ、こうした事は男性の方が適任なんです。心に残りますから」
 母親はあっさり言うが……

 「でも、ショックが強すぎて……その……かえってまずくはありま
せんか?」
 疑問を投げかけると……

 「男性ってみなさんフェミニストなのね」
 母親は屈託なく笑い……
 「大丈夫ですよ。男性が心配なさるほど女性の体は軟(やわ)じゃ
ありませんから。特に、バイキングの血を引く私たちは伝統的に心も
強いんです。……でないと、海賊は生きていけませんから……」
 母親は再び笑った。

 複雑な心境だったが……
 「では、私が火をつけてもいいんですね」

 「もちろんですわ、ついでに艾も置いていただけると、この子たち
の記憶により鮮明に残りますから助かりますの……女の子は肌に触れ
られた記憶にとても敏感ですから、有意義なお仕置きとなりますわ」

 「あ~~やめて」
 「お願いやめてえ~~」

 お仕置き中は言葉を発してはいけないという約束を破って声がする。
彼女たちにとってはそれほどショックな出来事なのだろうが、母親は
満足した笑顔のまま。

 罪悪感は残るものの、私もやらざるを得なかった。

 「いやあ……だめえ~」
 「もうしないでえ~~」

 二人の少女は母親がまったく同じ事をした時にはあげなかった悲鳴
をあげる。
 何だか残酷で可哀そうにも思えるのだが、母親の思いは違っていた。

 「これで二人も大人になれますわ。今はショックが大きいかもしれ
ませんけど、これは私たちの通過儀礼のようなもの。今はどんなにか
ショックでも、いずれそれが生きる自信に繋がります。……男性には
お分かりいただけないと思いますけど、男の匂いを身につけることは
女にとっては世の中を生きるお守りなんです」

 「お守り?」

 「そうだ、もうついでですからこの二人に床入れをさせましょう」

 「床入れ?」

 「ほら、ここへ就職する時、子育て庁のお役人から指示ががあった
んじゃありません?夜は必ず子供二人を抱いて練るようにって……」

 「ええ、まあ……」

 「あれ、たいていは幼い子から始めるんですが、今日はもうついで
ですから、この子たちから抱いてください」

 「えっ!、この子たち?……いや、僕はあれは幼い子だけかって、
思ってましたけど……」

 「あら、うちのしきたりをご存じありません事?うちは赤ちゃんも
子供なら十九才と十一カ月の娘だってやっぱり子供なんですよ」

 「ええ、それはまあ、聞いてましたけど……」

 「うちでは十九の娘にだってお仕置きでおむつを穿かせますから、
二十歳を過ぎるまで扱いは何も変わらないんです。むしろこの子たち
は子供生活が長いのでしっかりとしたサービスができると思いますわ」

 「サービス?」

 「大人を喜ばせるサービスの事。女性が大人になる上で大切な技術
でもありますのよ。もちろん。娘相手に姦淫行為はできませんけど、
そのあたりはあなたの理性を信じていますから……」

 意味深な母親の言葉、実際、その夜は私が想像していた通りになる。
 二人が全裸で私の寝床に入り、ありとあらゆるサービスをしてくれ
るから、私は理性をとりとめるだけで精いっぱいだった。

 あとで、母親になんでこんなことをと尋ねると……
 「昔、仲間の海賊が攻めてきた時、大人になった女たちが身を守る
手段はこれしかなかったから、大人になる時は身につけておかなけれ
ばならない大切な技術なんです」
 いうのが答えだった。

 実際、この星で父親を職業としていた頃は年齢に関わらず子ども
たちから体中をすりすりされ、いたるところ舐められたが、慣れて
しまうと、それもまた楽しい思い出となったのである。

                     <第一話/終了>

ヤマトでの暮らし<1>

********  ヤマトでの暮らし<1> ********

 (ご注意)女の子がお浣腸とお灸のお仕置きを受けるお話。
 煽情的に書いたつもりはないけど嫌な人は見ないでください。


 <序1>~ブラックホールの調査でベガ星近くにやって来たカーク星人の宇宙船~
 「左舷15.223度、距離20000マイルにsu合金の救命艇。救命信号を発信中です」
 「カーク星のものか?」
 「いえ、そうではありませんが、信号はアンドロメダ系列に準拠しています」
 「生命反応は?」
 「いまだ不明。今、探索中です」
 「船長、救命艇がブラックホールの影響下に入るまであと128秒、本船は180秒
です」
 「船長、救命艇に生命反応があります。…………ん?……ヒューマノイドです。
…………ん?……しかもこれは……PCは地球人の可能性が最大と示しています。
しかも成人ではなく幼体の可能性が65パーセント」
 「どういうことだ、観察地球人の赤ん坊がテリトリーを脱出したというのか。
まあいい。とにかく時間がない。回収しよう。……電磁アンカを打って救出する。
電磁アンカ発射準備」
 「目標物を捕捉。準備完了しました」
 「よし、発射!!!」

 <序2>~カーク星の軍事基地~
 船長が捕獲した救助艇から子供を取り出し、調査した結果を上官に報告に来た。
「乗っていたのは本当に赤ん坊だけか」
 「はい、しかも生後6カ月位とのことです」
 「冷凍装置のデータは?」
 「それがあの船にはそもそも冷凍装置が付いていないのです」
 「冬眠装置がない?どういうことだ。あの子は起きてあの船に乗っていたのか?」
 「そういうことになります」
 「信じられんな。どういうことだ?」
 「しかも、我がテリトリーにはこの子を産む可能性のある遺伝子が存在しない
との報告も受けております」
 「?????ということはあの子は本巣の地球人ということか?」
 「素直に考えてそういうことになるかと……」
 「ますます信じられん。やつらいつからそんな知恵が着いたんだ」
 「いかがいたしましょう」
 「……ん……その赤ん坊、人種は分っているのか?」
 「PCの解析では遺伝子骨格等からみて98%以上日本人かと思われます」
 「わかった、ならばヤマト(星)の長に頼んで引き取ってもらえ」
 「はい、承知しました」



 春山の家に預けられて二年ほど経過したある日の夜だった。防音装置のついた
ベッドで僕は突然、目を覚ます。いつもならたとえ地震が来ても朝までぐっすり
というお気楽な性格の僕がその日はなぜか夜中に起きてしまったのだ。

 自らルーフを開け、外へ出てしまうと、そこには異様な空気が流れているのが
わかった。

 「どういうことかしら?このお家では、突然お鍋の底に穴があいてコンロから
納戸へとそのお鍋が逃げ出すって、ちょっと変じゃないかしら?」
 ママの声が聞こえたのでその声を頼りに廊下をよちよちと歩いてみる。

 「そういうこともあると思うけど……」
 自信なく弱弱しい円華(まどか)お姉ちゃんの声が聞こえる。
 でも、その声はすぐにひと際甲高いママの声にかき消されてしまった。

 「おだまりなさい!!!」
 強烈な声には僕もびっくりだ。
 でも、おかげでママの居場所がわかった。

ママの部屋の襖をそっと開けてみたら三人のお姉ちゃんたちが全員、畳の上に
正座させられているのが見える。僕はまだ三歳で詳しいことは分らなかったが、
子供たちにとって今ある状況がとても怖い状況なのはわかった。

 僕の家はお父さん、お母さん、お兄ちゃんまでが軍隊に所属している軍人さん
一家。普段はとっても優しいけど規則や決まりごとに従わない子がいると厳しく
て、女の子にもお仕置きや体罰が当たり前という世界だ。だから僕のような短い
人生経験しかない子でも、お姉ちゃん達がパンツを脱がされて恥ずかしい場所に
お灸をすえられているところとか裸のお尻が真っ赤になるまで叩かれ続ける様子
なんかをかつて何度も目撃していたのである。

 そこで純粋に怖くなった僕は寝床のある部屋へと帰ろうとしていたのだが……

 「あら、真ちゃん。起きたの?」
 お母さんに見つかってしまった。

 『やばい!』
 僕はとっさにそう思ったが手遅れだった。

 僕はお母さんに捕まり、抱っこされてお姉ちゃんたちが正座しているお部屋の
中へ一緒に入った。
 すると、その瞬間。何だかぷ~~んと匂うものがあるのだ。
 
 そこであたりを見回すと……
 お姉ちゃんたちが正座しているあたりにそれぞれオマルが一つずつ見える。
 しかも、どうやら、どれも役目を終えてそこに置かれているようなのだ。

 石鹸浣腸で出たうんちはたっぷり水分を含んでいるから本来あまり匂わないの
だが、さすがに三人分ともなると僕の鼻でも感じることができた。

 実はお母さん、子供たちに厳しい罰を与える時にはまずこれを行うのが習慣で、
お姉ちゃんたちの運命はこの時すでに決まっているようだった。

 お母さんのお仕置きは有無も言わさぬ『石鹸水によるお浣腸』が最初で、まず
これで機先を制した後、場合によっては『グリセリン浣腸』を追加して我慢させ、
次に『平手や固いゴムのスリッパによるお尻叩き』……さらには尾てい骨の上や
お臍の下の膨らみ、会陰なんて場所にもたっぷりと『お灸』がすえられることに
なる。

 いずれも子供たちにしてみたら拷問というか極刑のたぐいで、お姉ちゃんたち
にしてみたら生きた心地がしないままそこに座っていたに違いなかった。

 もちろん僕だってこのあと何回もお母さんからお仕置きされたけど、この時は
まだ赤ちゃんに近いということもあって、一度もお仕置きを受けた経験がない。
 これはヤマトに限らないだろうが、乳飲み児(ヤマトでは三歳まではそう呼ば
れている)はたとえ何かやらかしてもお仕置きってことにはならずにすんでいた。

 「あっ、ママ」

 母は私を抱き上げると一旦は私の寝床の方へ向かいかける。恐らくこういった
修羅場を幼い子に見せたくなかったのだろう。ところが、何を思ったのか途中で
引き返してしまい、修羅場の待つさっきの部屋へ逆戻りというわけだ。

 それって僕にしたら意外なことに違いないのだが、お姉ちゃんたちにとったら
それはもっともっと意外なことだったに違いないと思う。

 というのも、赤ん坊の前でのお仕置きなんてこれまでママが絶対に避けてきた
ことなのに、今になってなぜ?という思いがあるからだ。
 だから……

 「…………」
 僕がお母さんに抱かれて登場するとお姉ちゃんたちの顔は狐に摘ままれたよう
にあんぐりだった。

 でも、この理由は簡単だった。要するに、ママにとって僕はすでに赤ん坊では
ないと判断されていたようなのだ。
 でもお姉ちゃんたちにしてみたらまさに青天の霹靂。迷惑千万なお話だけど、
今はこんな状況だし、ママに面と向かって弟を連れてくるなとも言いにくい。
 どうやらママはそんなことも見越して僕を修羅場に連れてきたようだったのだ。

 「薫、玉手箱を持ってらっしゃい」
 お母さんはこの時11歳だった薫お姉ちゃんにいきなり御用を言いつける。

 実は、玉手箱というのはいつも救急箱と同じ棚に置かれている柳行李のことで
中にはピストン式の浣腸器やおむつ、お灸をすえるためのお線香、お尻叩き用の
竹製の物差しなどおよそ子供たちにとっては目をそむけたくなるようなしろもの
ばかりがぎっしりと詰まっているのだ。

 薫お姉ちゃんは自分の身体より大きなその柳行李を正座した母の膝小僧の脇に
置くとそうっと蓋を開ける。小さな子供にとってはこれだけでも一仕事だ。
 もちろん、こんなこと子供にやらせずとも母がやれば造作のないことだろうが、
母はこうした仕事をあえて罰を受ける子供たちにやらせて反省を促すようにして
いた。

 この瞬間、覚悟はしていたものの、三人のお姉ちゃんの顔が一様に青くなる。

 「円華(まどか)、薬箱を……」
 お母さんは続けて今年14歳になる長女の円華お姉ちゃんに用を言いつける。
 こちらも決して小さな箱ではないが、長女である円華お姉ちゃんはここにいる
兄弟の中では身体が一番大きいからこれは難なくだ。
 ただ、棚から下ろす時、その身体全体が震えていたのを僕は見逃さなかった。

 こちらにはお浣腸で使うグリセリン溶液やお尻の穴に栓をする脱脂綿、切り艾、
お尻叩きの後にできた傷を治すための軟膏などが入っていた。

 これもやはり母の膝のあたりに置かれて準備はだいたい整ったようだった。

 「こうして集まってもらったのは、お母さん、今日はみんなにお仕置きしよう
と思ったからなの」
 お母さんは三人の娘を前に単刀直入に切り出した。

 「わかってると思うけど、うちは木造住宅なの。火がついたらあっという間に
燃えるのよ。それ、みんなも分ってるわよね」
 母の言葉に神妙に正座していた三人がほんのちょっとだけ顎を引く。本当なら
『はい』という大きな声が期待されるのかもしれないが、三人ともとてもとても
そんな雰囲気ではなかったからこれが精いっぱいなのだ。

 女の子というのは常にこの先の展開を先読みしたがる生き物で、それに合せて
その場その場で対応も変えて活路を見出していく。
 世にいう口八丁手八丁というやつだ。

 ただ、それでも、それがどうにもならないほど絶望的だと悟ると……今度は、
今はまだ何も言わない方がよいと悟って押し黙ったまま時が過ぎるのを待つ戦術
へと変化させる。そのあたり我が前面に出る男の子と違ってとても狡猾だった。

 「……咲子ちゃん……あなた、プリンを自分で作りたいと思うのは立派だけど
……その時、お姉ちゃんたちに断ったかしら?」

 「…………」
 咲子ちゃんお姉ちゃんはおかっぱ頭の首を横に振る。
 三女咲子お姉ちゃんは8歳。三人の姉妹の中では一番年下だったが、それでも
僕から見れば別の世界で生きる人、立派なお姉ちゃんだった。

 「私、あなたには、『ガスコンロの火をつける時は必ず薫か円華お姉ちゃんに
やってもらいなさい』って、普段から口をすっぱくして注意してるわよね。……
それ、守れたの?」

 「…………」
 咲子お姉ちゃんは再び首を横に振る。すると、切り揃えられたおかっぱ頭の髪
の毛が纏のように舞う。

 これ小さな命令違反だが、共働きの春山家は子供たちだけで留守番をする事も
多く、春山家ではかなり重大な約束違反なのだ。

 咲子お姉ちゃまはこの時まだ八歳、春山家のルールでは、ガスコンロの着火は
薫お姉ちゃまか円華お姉ちゃまに任せないといけないことになっていた。

 「あなた、一人でやって、もし火事になっていたらどうするつもりだったの?
お姉ちゃまたちが逃げ遅れたらどうするつもり?このお家が燃えてしまったら、
あなたのお小遣いでは弁償できないのよ」

 お母さんの追求にうつむいたままの咲子お姉ちゃまはこの時すでに涙を流して
いた。

 「お姉ちゃまに断りもなくガスコンロに触ったんだから、これは火遊びという
ことになるわね」

 「えっ…」
 その瞬間、咲子お姉ちゃまの顔が思わず上がったけど、できたのはそれだけ。

 本当は『だって、それはお姉ちゃまたちが喜ぶと思ったからで火遊びじゃない
もの』と言いたかったのだ。
 でも、八歳の少女はお母さんに反論しなかった。

 「薫、あなたもよ。咲子がガスコンロに火をつけたのをあなた知らなかったの
かしら?」

 「えっ!……それは……ご本読んでて……」

 「若草物語ね、それは聞きました。でも、咲子は私が作ったプリンをあなたに
一番に食べさせるんだって張り切って作り始めたそうじゃないの。当然、コンロ
に火を着けなきゃいけないのはわかっていたはずよね。一番近くにいたあなたが
いてどうして焦げ臭いには気づかなかったのかしら?」

 「それは……咲子がはしゃいでるのがうるさくて、ご本をもって自分の部屋に
行っちゃったから……それで……」

 「いいこと、咲子のように幼い子は何かやり始めてもすぐに気持ちが別の事に
移っちゃうの。今度もお鍋をガスコンロにかけたまま自分の部屋へ漫画を読みに
行ったみたいだけど……だからこそお姉ちゃんたちのサポートが必要になるの。
ガスコンロの火はお姉ちゃん二人で必ず確認してちょうだいって、私、あなたに
も口を酸っぱくして何度も何度も注意してるわよね。忘れちゃったのかしら?」

 「…………」
 薫お姉ちゃまもお母さまに反論できなかった。ヘタに反論してお仕置きが増え
たら元も子もない。そう考えるとこれ以上は何か言わない方が得策と考えたよう
なのだ。

 母は普段おとなしいタイプの人だが、いったん怒りだすと手が付けられない。
それは生まれてこの方ずっと彼女と同居している子供たちにとったらみんな百も
承知していることだったのだ。

 「薫さんめそめそしないの。うっとうしいわよ。今さら泣いてごまかさないの。
そして円華さん。もちろんこうした場合、直接的な責任は咲子にあるんだけど、
こうした不始末の責任の一端は、あなたにもあるの。そこのところは分っている
わよね」

 「………………」
 「………………」
 二人は黙ってしまう。
 というのも、二人は母が留守の間はお家の指導責任者として咲子お姉ちゃんや
僕の面倒を見るよう普段からいいつかっていたのだ。このため母の前ではかなり
『ヤバいことになったなあ』と感じていたに違いなかった。

 実は、ヤマトの家庭では大半が共働きなので年長者の兄や姉が妹や弟の面倒を
みている事が多く十代半ばともなればお仕置きの権限も与えられている。ただ、
一たび妹や弟たちが問題を起こせば、兄や姉も監督責任を問われて妹や弟たちと
一緒にお仕置……なんてこともヤマトの家庭では珍しくなかったのだ。

 「ただいま」
 その時、長男の陽翔〈ひかる〉お兄ちゃまの声がした。

 「あっ、陽翔〈ひかる〉グッドタイミングよ。この子、お願いね」
 お母さんは開いた襖の方を振り返ると、早速の笑顔で、間髪を入れず、そこに
立っていた陽翔お兄ちゃんに僕を差し出したのである。

 陽翔お兄ちゃんは専門学校を出た21歳。お姉ちゃんたちとは違いすでに学校
を出て空軍で働いている。
 空軍といってもパイロットではなく今は整備工だけど、立派な軍服を着ていて
一日一回は優しく抱いてくれるから僕にとってもお気に入りのお兄ちゃんなのだ。

 その胸で語られるのは大空のこと、宇宙のこと。お母さんとは違うお話に僕は
いつもうっとりと聞き惚れていた。
 両親共に将来は父の跡を継ぐパイロットになるものだと期待しているみたいだ
けどそれは僕も同じだったんだ。

 と、そんなこんなで僕はご満悦だけど、お兄ちゃんの胸の中から眺める下界は、
なんだか騒々しい事になっていた。

 「円華、この子を見てて」
 僕という小荷物が離れて身軽になったお母さんはすぐに新しい小包に手をかけ
三女の咲子お姉ちゃんを長女の円華お姉ちゃまにを引き渡します。

 細々とした説明はしませんが、これには、『これから咲子をお仕置きするから
この子の身体を押さえててちょうだい』というメッセージが込められていました。

 私もやがてそうなるのですが、子供というのは長年母と顔を突き合わせている
とその表情や物腰でこの先の展開が簡単に読めてしまうもの。

 『お母さん、きっと私たちをお仕置きしたいんだろうな。でももし反論なんか
したら、さらに最悪の事態(お父さんからの超恥ずかしいお仕置き)にだってなり
かねない』
 こんな時三人の娘たちにとってバラ色の未来なんて見えません。今はただただ
我慢しかありませんでした。

 「…………」
 実際、円華お姉ちゃんに抱かれている咲子お姉ちゃんはすでに涙目になってる
し鼻をすすっています。姉妹の中で人生経験が一番少ない咲子お姉ちゃんにして
そこは了解しているようでした。

 とはいえ、お母さんが艾を丸め始めると、さすがにもう平静を装っていること
はできないみたいで……
 「だめ、お灸嫌!」
 思わず、声が出ます。

 「仕方がないでしょう、あなたがママとの約束を破ったんですもの」
 お母さんの冷静な声が幼い子をかえって怖がらせます。

 「もうしません。もう絶対にしませんから」
 かすれ声の咲子お姉ちゃまは最後の抵抗。でも、お母さんはあくまで冷静です。

 「もちろん、こんなことが二度とあっては困るけど、そうならないためには、
これがどんなに悪いことだったかをようくその身体に覚えておいてもらわないと
私も困るの。火事になってみんなの住む家がなくなってからでは遅いでしょう」

 「…………」
 口を真一文字に結んで歯を食いしばってる咲子お姉ちゃんに、お母さんは畳み
かけます。
 「……どうなの?咲子!そうじゃなくて?!」

 「…………」
 お母さんに凄まれるとまだ幼い咲子お姉ちゃまは声がでなくなるみたいでした。

 そんな咲子お姉ちゃまにお母さんは容赦ありませんでした。
 「円華、浣腸するからその子のパンツを脱がして膝の上であんよを万歳させて
頂戴」

 「あっ、いやあ!だめ!だめ!だめ!だめ!」
 突然、咲子お姉ちゃんは円華お姉ちゃんの膝の上で暴れ始めますが……。
 でも、その必死の抵抗がお母さんに伝わることはありませんでした。

 「ほら、静かにしなさい!」
 咲子お姉ちゃんを叱る声。

 お母さんの要求は円華お姉ちゃまにとっても大変だったみたいで、いくら相手
が幼児で自分は中学生といっても、大人に比べれば正座したその膝の上は狭いで
すし、腕力だって大人にはかないません。

 「円華、早くなさい!」
 円華お姉ちゃんにもお母さんからの叱咤激励が……

 「いやあ、お姉ちゃん、やめてえ~~~」

 妹の必死のお願いを聞きながらも、もしも、やりおうせなければ今度は自分の
お仕置きが増えかねません。円華お姉ちゃんにしてもそこは必死だったのです。

 「いやあ、やめてえ~~」
 咲子お姉ちゃんはさらに暴れますが、結局のところ力の差は如何ともしがたく、
円華お姉ちゃんのお膝の上でパンツが剥ぎ取られると身体が二つ折りにされ両足
が万歳の状態に。

 短いスカートが腰のあたりまでまくり上がって、スカスカのお股の中はみんな
みんなから丸見えになってしまいます。

 「ごめんなさい、もうしません。もう絶対しませんから~~」
 咲子お姉ちゃんはさっきから叫びっぱなしです。

 「何でもします、ごめんなさいします。お皿洗い手伝います。だからいや」
 咲子お姉ちゃんのお顔は真っ赤。引き裂かれたお股のはうんちの出てくる穴も
将来は赤ちゃんが出てくる予定の穴も、はっきりみんなに見られています。

 もちろんこんな恰好、恥ずかしいってこともあるでしょうが、でもそれ以上に
お線香を立て、艾を丸めて小さな塊を作っていることが、今、大問題でした。

 これがこの先どんなことになるか、咲子お姉ちゃんだけじゃありません。他の
お姉ちゃんたちだってこぞってその悲劇は体験済み。それぞれの身体でよ~~く
知っています。

 「お灸しないで……やめて、ごめんなさい。いい子にしてますから~~」
 咲子お姉ちゃんの声はすでに枯れています。
 それはまだお灸の経験のない僕にとっても可哀そうな出来事でした。

 お灸のお仕置きは地球ではすでにすたれてしまっていますが、ここヤマトでは
いまだ現役のお仕置きです。むしろお嫁に行く時は『私は実家でこんなにちゃん
と躾けられてきました』という証明書代わりになるところがあって、この星では
女の子にお灸のお仕置きをしない家の方がむしろ稀だったのです。

 もちろん春山家にあっても事情は同じで、二人のお姉ちゃんもこれは経験済み。
8歳の咲子お姉ちゃんにはまだ経験がありませんが、それでもお姉ちゃんたちの
様子は何度も見ていますから恐怖心はMAXでした。

 「いいこと、咲子。これはあなたが蒔いた種ですからね。他の人のせいには、
できないのよ。自分で刈り取らなくちゃいけないの。わかってるわね。しっかり
我慢するの。いいわね!」

 「あああああああ」
 お母さんの最後通牒とともに咲子お姉ちゃんの大声はやみます。
 もうこれ以上ママを困らすとどうなるか、わずか八歳でもそこは骨身にしみて
分っていました。

 ヤマトの子供たちはお灸に限らずどんなお仕置きでも騒いだり暴れたりしては
いけない事になっていたのです。

 「…………」
 艾とお線香を手にしたお母さんは咲子お姉ちゃんのお尻にににじり寄ると……
その可愛らしい肛門と小さなヴァギナの間にある狭いエリアに艾を乗せます。

 「××××××」
 その瞬間、円華お姉ちゃんが咲子お姉ちゃんの両目を覆ってしまいます。
すると……

 「いやあ~~~~~」
 恐怖にかられた咲子お姉ちゃまのものすごい声が部屋中に木霊します。

 でも、……次の瞬間、

 「はあ、はあ、はあ、はあ」
 その荒い息とは対照的に部屋全体の空気は和んでいました。

 というのも、お母さんがこの瞬間にやったのは、艾に火をつけたのではなく、
爪楊枝でその部分をひっかいただけでしたから。

 自分のことではないとはいえ二人のお姉ちゃんたちの顔に安堵の表情が浮かび
ます。そのほっとした空気は抱かれている僕にも伝わるほどでした。

 「さあ、もあういいわよ」
 お母さんの指示と共に円華お姉ちゃんの戒めが解かれます。

 すると、膝の上から畳の上にお尻をついた咲子お姉ちゃんが、真っ先に自分の
股間に手をやって確かめます。
 その姿がおかしかったのか薫お姉ちゃんだけが独り笑っていました。

 ただそうやって笑っている薫お姉ちゃん、今度は自分の番だということをどう
やら忘れていたみたいでした。

 「薫、次はあなたよ」
 だから、お母さんにこう言われると顔が青くなります。

 「えっ、私も?」

 「何を言ってるの。そりゃそうよ。あなたには咲子が危ないことをしないよう
注意しておいてねって言いつけておいたでしょう。わすれたの?」

 「それは……円華お姉ちゃんが……」

 「円華お姉ちゃんって?……私はあなたにもはっきり頼んでいたはずよ。もう
忘れたの?!」

 「そ……それは……」
 薫お姉ちゃま、どうも歯切れが悪かった。
 しかも……

 「それと、昨日、算数のテストが返ってきてるはずだけど……あなた、あれは
どうしたのかしら?」
 お母さんは、突然、この場面には関係のないことを持ち出す。
 でも、これ、お母さんにとっては珍しいことではなかった。

 何かを叱るついでにあの時はああだったこうだったと言い出すのだ。きっと、
これが女の性ってやつなのかなあ。僕もその後そういうことが何度もあって閉口
した。

 「えっ、…………」
 虚を突かれた薫お姉ちゃんは目を白黒。その声を聞いたとたん、絶句して目が
泳いでた。

 「今日、担任の先生からお電話があって『昨日、お返しした算数のテストの件
で学校へ来て欲しい』ということだったけど……実は私、そのテストをまだ見て
ないのよね……どうなってるのかしら?」

 ぎょろっと睨まれて、薫お姉ちゃまの顔が真っ青になったのを覚えている。

 うちは女の子に学校での成績をうるさく言う方ではないんだけど、それでも、
一定の点数は取らなきゃいけないし返されたテストはその日のうちにお母さんに
見せなければならないことが一応ルールとして決まっていたのだ。

 で、この約束違反は、当然、お仕置きという流れになっていく。

 「薫、このテストはどうなったの!」

 どすの効いたお母さんの声に……
 「…………」
 お姉ちゃんは身をすくませてだんまり。

 でも、ずっとそのままというわけにはいかない。

 「あるんでしょう!!ここへ出しなさい!!」
 兄弟みんなそうだけどお母さんに睨まれるとそれだけで体が浮き上がった気が
するから不思議だ。

 「は……はい」
 蚊の鳴くような声を残して薫お姉ちゃんは席を立つ。
 どうやら、物(ぶつ)は自分の部屋のどこかに隠してあるらしかった。

 やむを得ない仕儀となり薫お姉ちゃんは自分の部屋へと戻ったわけが、問題は
これにとどまらなかった。
 薫お姉ちゃまがいなくなった部屋で……

 「ところで、円華。あなた、このところ薫のお勉強みてやってるみたいだけど
……それ、うまくいってるのかしら!?」

 「えっ?……まあ……」
 突然、お母さんに振られた円華お姉ちゃま。こちらも心臓をわしづかみされた
みたいで顔が真っ青だ。

 「そうなの?……」
 お母さんの目ときたらまるで青大将が獲物のカエルを飲み込む時のような陰険
そのものの目だ。

 ヤマトでは親にこんな目をされてすくまない子供なんて誰もいない。
 ごく幼い時から親や教師にこの目で睨まれ、もし嘘をついていると判断される
と、問答無用でお尻を叩かれてきたからだ。
 もちろん、そうした親や教師の判断が事実と異なる事なんて滅多になかった。

 「あなた、最近、薫の宿題を手伝ってるでしょう?」

 「えっ!……まあ……」
 歯切れの悪そうな円華お姉ちゃまの答え。

 「私、最近のあの子の宿題、チェックしてるけど、よくできて一つも間違いが
ないから『わあ、あの子も頑張ってるなあ。円華が熱心にやってくれてるのね』
って安心してたのよ。……ところが、それにしては肝心のテストが落第点ばかり
……これって……どういうことかしら?」
 お母さんは事実をすでに知ってて真綿で円華お姉ちゃんの首を締め続けます。

 「どういうって……」

 「つまりあなたの場合は、薫を手伝ってるというより薫に弱みを握られた結果、
脅されてやらされてるんじゃないのかって思ったの……違う?」

 「脅されてって…………」
 円華お姉ちゃまは否定したかったようですが、すでにネタは上がっていたよう
でしたからどうしようもありません。

 「違う?」
 お母さんに強く念押しされると……

 「…………」

 「やっぱり図星みたいね。……ああいうことは、ドアに鍵をかけてやらないと
……あなたも大胆というか不用心ね」

 お母さんの『ああいうこと』という意味が当時の僕に分ろうはずもありません。
ただ、円華お姉ちゃんがまずい立場に追い込まれているのは、幼い僕でもすぐに
わかります。

 そんな気まずい雰囲気の中にあって、薫お姉ちゃまが部屋へと戻ってきます。

 「ほう35点に45点か……なるほど、これはまたずいぶんと派手なお点ね。
とても日頃から宿題を完璧に仕上げてくる子が取るお点じゃないわね」

 「…………」

 「あなた、このテストの時、体調が悪かったかしらね」
 お母さんは素知らぬ顔で尋ねます。

 もちろんこんなのひっかけに決まってますが、でも藁にもすがりたい気持ちの
子供たちにとっては効果があるみたいで……

 「えっ?…………それは…………すこし、風邪気味で……」
 薫お姉ちゃまは申し訳なさそうに答えたけど……返ってきたのは……

 「嘘おっしゃい!!!!!」
 って、この時は僕でも驚くものすごい雷だった。

 「…………」
 僕がお兄ちゃんの胸に顔を隠してしまうくらいだから、当然、薫お姉ちゃんも
円華お姉ちゃんも肩をすぼめて固まってしまっている。

 「私ね、あなたが宿題のドリルをやりながらこっそりTVアニメを見ていたの
は知ってたの……だけど、その時はまさか円華姉ちゃんにやってもらった答えを
丸写していただけなんて知らなかったから『へえ、算数がずいぶん上達したのね』
なんて思ってしまったけど、このテストの出来を見る限りことの真相はどうやら
そういう事じゃなかったみたいね」

 「…………」

 「仕方がないわね、宿題は円華に頼めても、まさかテストの教室にお姉ちゃん
を連れて行けないもの」

 「…………」

 「まったく、どんなネタで円華お姉ちゃんを脅していたか知りませんけど……
実の姉を脅して自分の宿題をやらせていたなんて、あなたも相当な悪党ね」
 お母さんは震えあがる薫お姉ちゃまの顔ににじり寄ります。

 「……あなた、そんなにあのアニメが見たかったのかしら?」

 「…………」
 薫お姉ちゃんは申し訳なさそうに小さく頷きます。

 「こんなことしてもテストをやれば結局はバレるって分らなかったの?」

 「…………」
 薫お姉ちゃんは黙ったまま。というか、お母さんにどう言っていいのかわから
ないまま呆然って感じだった。

 「あなたがそんなにそのアニメを見たいのなら見せてあげてもいいわよ。その
代わり、そのTVは孤児院で見なさい。私はあなたのような子と一緒に暮らす気
はありませんから!!!」
 きつい最後通牒です。

 すると……
 「いや、そんなの嫌」

 今度はとっさに薫お姉ちゃまが身を乗り出します。
 そりゃあ色々と厳しい家なんだけど、兄弟みんなここで生まれてずっと暮らし
続けていますからね、僕だってそんなこと絶対に嫌でした。

 「そう、嫌なの?……でも、もしそうだったら、今日はここでお仕置きを受け
なければならないけど、その方がいいのかしら?」
 こういう場合、大きな子なら家出っていう選択肢があるかもしれませんけど、
薫お姉ちゃんくらいの女の子にそんな選択の余地はありませんでした。

 「はい」
 結局、小さな声で承諾します。薫お姉ちゃまに限らず女の子みんなそうですが、
まだ寄る辺なき身の上ですから仕方がありませんでした。

 「(ふん)」
 お母さんは鼻息を一つ。これって勝利宣言だったみたいです。

 「円華、今からこの子にお浣腸しますから、準備して頂戴」
 お母さんは厳しい調子で円華お姉ちゃんに薫お姉ちゃんのお仕置きを命じた後、
それまではほったらかしだった僕を気遣うように頭を撫で始めます。
 そして、大人しくしているのを確認すると笑顔を一つ投げかけただけでしたが
その顔はどうやらご機嫌の様子でした。

 そんなお母さんの背中で声がします。
 「いや、だめ、お浣腸はしないで!私、もう11なのよ。恥ずかしいでしょ」

 薫お姉ちゃんは電気ショックでも受けたかのようにお母さんの息が掛かる所に
まで詰め寄ったんだけど、振り返ったお母さんの顔は冷静そのものという感じで
……。

 「何言ってるの。小学生の小娘が恥ずかしいなんて生意気言うんじゃありません。
そんなのは大人の身体になったら言うの。いったいあなたのどこが大人なの?」

 「…………」
 お母さんにそう言われて、薫お姉ちゃんは前かがみになって迫っていた身体を
思わずのけぞらせます。

 「どうしたの?胸はツルペタ、腰は縊れてないしお尻も小さいまま。お臍の下
にだって何もはえてないじゃないの。これのどこが大人なの?」
 表現がダイレクトなのは同性からかもしれません。

 「そんなこと言ったって……恥ずかしいから」

 トーンダウンした声をお母さんは拾います。

 「何もそもそも言ってるの!もし、あなたにどこか大人らしい処があったら、
ここで裸になって私に説明して頂戴」

 「そんな……(私に初潮があったの知ってるくせに!)」
 薫お姉ちゃまは不満そうな顔をしましたが声はでません。
 このケンカは容易に買えません。これ以上やりあってみても自分の方が恥ずか
しい思いをするだけですから仕方がありませんでした。

 ヤマトは地球とは異なります。ここでは14歳未満は一律に子供扱い。たとえ
胸が膨らみ初潮があったとしても、だからといって、それだけで大人とは認めて
もらえないのです。

 「私にしてみたらあなたはまだ赤ちゃんと同じなの。もし赤ちゃんが便秘なら、
お浣腸するでしょう。たとえ穿かせたおむつにべっとりとうんちが付いていても
綺麗にしてあげるわよ」

 「そんなこと……だって、私はもう赤ちゃんじゃないし……汚いから……」

 「そうなの?私の方はあなたのものなら何でもないことだわ。だって、身体は
大きくなったけど十年前までは実際に私があなたのおむつを取り換えていたんだ
もの……遠慮しなくていいのよ……」
 お母さんの言葉は丁寧ですが、鼻息は荒く、上から目線で薫お姉ちゃまの事を
覗き込みます。

 「…………」
 それを聞いた薫お姉ちゃまはすでに涙目だったけど、どうすることもできませ
んでした。

 ヤマトでは14歳になり『女子適性試験』を受けて合格するまでは全員が幼女。
そんな幼女のうちは、親がお仕置きとして娘を裸にすることもお浣腸することも
ごく自然な行いとされ、躾や懲罰、お仕置きとして親や教師から裸にされた時は
大事な部分を隠すことさえ許されていませんでした。

 「今日はあなたがこれまでやってきた悪い行いを全て洗い流すために二度目の
お浣腸をします」
 お母さんは薫お姉ちゃんに向かって高らかにお仕置きを宣言。

 「…………」
 お姉ちゃまは何か言いたそうな顔ですが、それを制するように……

 「はい、わかったら一分以内にお洋服を全部脱いで頂戴……」
 お母さんの強権的な指示が飛びます。

 「えっ?!」
 薫お姉ちゃまは驚き、そして慌てます。

 「えっ、じゃないでしょう!お仕置きのお約束。下着ももちろん全部よ」

 仮に一分以内に服が脱げなかったらどうなるか。
 相手は幼児ですから、そんな事があっても珍しくはありませんけど……。

 「いやあ、いやあ、だめ、だめ、ごめんなさい」
 薫お姉さまはうろたえながらも必死で服を脱ぎます。
 これって薫お姉さまには悪いけどはた目にはとってもコミカルでした。

 実は、こんな時、もたもたしているとお母さんが手伝ってくれるのです。
 ただ手伝ってはくれますが、その後、熱い蝋燭の雫を垂らされて全身くまなく
洗い清められることになりますから、幼児は何をおいても必死に脱ぐしかありま
せん。

 もし、それでも抵抗するようなら、さらに恥ずかしい場所、会陰やお臍の中、
恥丘やお尻のお山を割って尾てい骨の上といった服を着ていれば隠れそうな場所
にお灸がすえられることになりますから大変です。
 しかもその瞬間って、たいていパニックになっていますから、お母さまに命じ
られると、もかくも脱ぐしかありませんでした。

 「いやあ~~、待って!待って!」
 薫お姉ちゃんは家じゅうが揺れる程の大声を上げながら必死に今着ている全て
の服をこの場で脱ぎ続けます。
 ヤマトの子供たちにすればそれ以外の選択肢はありませんでした。

 お母さんから『一分以内』という言葉がでた途端、恥ずかしいなんて言ってる
暇さえなかったのです。

 「……できました」
 震えかえる薫お姉ちゃま。もちろんそれは寒いからという事ではありません。

 「ほら、麗々しく胸なんて隠さないの」
 お母さんは手荒く胸を隠す右手を払いのけます。
 「何、隠す必要があるの!ほら、まだ赤ちゃんの時代と何も変わってやしない
じゃないの」
 こうなると、もう情けは無用です。
 
  「ほら、左手ものけて!……ほら、まだ隠すようなことをする!……あなた、
まだ何も始まってないでしょう。本当に恥ずかしがり屋さんなんだから」

 嫌も応もない対応。
 今、ここにいるのは大半が女性。男性は兄貴と僕だけなんですが、その視線が
気にならないと言ったら嘘になります。11才だって恥ずかしいことに変わりは
ありませんでした。

 だけど、薫お姉ちゃま、こうなったらもう恥も外聞もありません。
 お母さんの目の前に裸で正座して頭を下げます。

 「お仕置きをお願いします」

 「そう、お願いされたのならやってあげなきゃいけないでしょうね。そうね、
あなたにはこれからお浣腸を15分間だけ我慢してもらいます」

 「えっ!」

 「何が『えっ!』よ。アニメ見たさに姉ちゃんを脅して宿題をやらせるような
破廉恥な子にはぴったりのお仕置きよ。何より、あなたのようにやりたいことが
あってもそれを我慢することができない子には『我慢』ということをまず最初に
教えなきゃいけないわ。アニメより宿題。これは家でも学校でも変わらない常識
なの。わかる?」

 「そんなあ~~」

 「何がそんなあ~よ。それに、姉ちゃんにどんな弱みがあるかしれらないけど、
それをネタに自分の宿題をやらすなんて、破廉恥すぎてご近所でも聞いたことが
ないくらいよ。開いた口が塞がらないってやつね。……そんな腹黒い子のお腹は
まず綺麗にしてあげなくちゃ。それにはお浣腸でお掃除するのが一番よ」

 「…………」

 「何なのその不満そうな顔は?……嫌ならここを出て行っていいのよ。孤児院
ででも暮らすといいわ」
 お母さんからいつもの最終兵器が飛び出します。

 「…………」
 これ、薫お姉ちゃまでなくても『はいそうですか』とは言えませんよね。

 「さあ、それが嫌ならここに仰向けに寝て両方の足を高く上げるの」

 「えっ……四つん這いでいいでしょう。だってそれだと全部見えちゃうから」

 「全部見えちゃう?甘えるんじゃないわよ!!何が見えるって言うの!?」

 「…………」

 「隠すものなんて何もないくせに……」

 「だって、お兄ちゃんがいるから……」

 「いいじゃないの。陽翔さんはあなたの実のお兄さんでしょう」

 「だから嫌なの!」

 「どうして?……それ以外、周りはみんな女の子なのよ。…どうなの!あまり
お母さんをてこずらせると、お灸の量を増やすわよ」

 「えっ、お灸も……」
 薫おねちゃんは絶句します。

 「当たり前でしょう。私があんなに咲子の様子を見といてねって頼んだのに、
自分はさっさと二階に上がって行っちゃって……」

 「あれは……お姉ちゃんがいたから……」

 「何言ってるの。私、あなたにも頼んだでしょう。お姉ちゃんお姉ちゃんって
何でもお姉ちゃんに頼るんじゃありません!!今回はお鍋に穴が空いただけじゃ
なくて火事になりかけたんだもの。その分のお仕置きも追加して当然じゃなくて
……」
 お母さんの鼻息は荒い。

 「ごめんなさい」
 薫お姉ちゃんは諦めて小さくつぶやくけど……。

 薫お姉ちゃんとしてはこれ以上は手が付けられなかったということなんだろう。
こんな時、ヤマトの子供はひたすら静かにしているしか方法がなかった。もし、
これ以上お母さんの機嫌を損ねたらどうなるか……我家の絶対君主は次にどんな
罰を追加してしてくるか……

 「…………」
 想像すらしたくなかったに違いない。

 一方、お母さんはというと、現実を受け入れるしかない薫お姉ちゃんが黙って
うつむいている間に着々とお仕置きの準備を進めていきます。

 「さあ、さっさと済ませないと風邪をひくわ。まずはお浣腸からよ。……さあ、
このお布団に寝て頂戴」
 お母さんのすぐ脇には古びた小さめのお布団が敷いてあり、これを叩きながら
薫お姉ちゃんをせかせます。

 この他にもガラス製のピストン式浣腸器やグリセリンの入ったこげ茶色の薬瓶。
バスタオルやシッカロール、大き目の紙おむつも予備も含めて五枚ほどあります。
 準備はすでにしっかりと整っていました。

 「…………」
 声が出ない薫お姉ちゃま。動きだって機敏なわけがありません。
 女の子にとってこんな辛い儀式はありませんでした。

 しかもそれだけではありません。
 「……(お灸!)……」
 これを見れば薫お姉ちゃんでなくとも顔色が変わるのは仕方がないでしょう。

 声は出しませんでしたが、ショックはこちらの方が大きかったかもしれません。
 お母さんが正座する腰のあたりには艾をいれた袋やお線香の箱、お線香立てが
ちらちら見え隠れしています。
 もちろん、お浣腸は辱めの恐怖でしたが、お灸はその強烈な熱さが時を超えて
脳裏に刻印される恐怖のお仕置きです。

 やられた経験のある子なら誰だってそうなるんじゃないかと思いますが、見た
だけで全身の毛穴が開き鳥肌が立ちます。呼吸が浅く早くなり、『夢よね、絶対
夢よね』うわ言のようにつぶやいてはその場に居たたまれなくなります。

 薫お姉ちゃまは、たとえ素っ裸でもこの場から逃げ出したかったに違いありま
せんでした。

 お浣腸とお灸。こんなに厳しい体罰は本家の地球上でならSMと呼ばれている
のかもしれませんが、ここヤマト星ではいまだに子供を懲戒するためのお仕置き
です。

 そうたびたび行われるものではありませんでしたが、たとえ幼稚園児でもこの
程度のお仕置きはこの星ではありなのです。しかも、一罰百戒ということなんで
しょうか、これが行われる時には家にいる姉妹全員がこの厳しいお仕置きを見学
させられるのが通例だったのでした。

 「さあ、ここに仰向けに寝て、両足を高く上げるの」
 お母さんは小さな古いお布団を叩きます。

 「…………」
 当然ですが、薫お姉ちゃんは生きた心地がしなかったと思います。

 ごく幼い頃『ごめんなさい』といってお母さんの胸に抱き着いたら、奇跡的に
許してくれたこもがあったのでほんの一瞬試してみようかとも思ったみたいです
が、この歳になるとそれも恥ずかしくてできなかったみたいです。

 「さあ、早くなさい。風邪ひくわよ」
 お母さんはこんな時とても冷静です。でも、そうした目は子供たちから見ると
とても冷たく映っていました。

 「……はい……」
 薫お姉ちゃん、遅ればせながらボソッと返事をして……あとはやるしかありま
せんでした。

 「………………」
 想像してみてください。素っ裸の女の子が仰向けに寝て、両足を高く上げると
どうなるか。

 「…………」
 女の子にとっては恥ずかしい処が全てが丸見えになりますよね。
 しかもお母さんはさらにその両足を思いっきり開かせますから、心がどっかへ
飛んで行ってしまいそうなくらいショックです。

 「……(~~~~)……」
 今の薫お姉ちゃんは下唇を噛んで声を出さないでいるのがやっとでした。もし、
悲鳴を上げれば、お母さんがさらに逆上するのはみえてますから必死に辛抱する
しかありません。

 僕を除けばここには女の子ばかり。とはいえこんな姿、誰だって恥ずかしいに
決まってますから自然に涙が溢れます。でも、お母さんに容赦ありませんでした。
 『女の子のお仕置きは、ぶったり叩いたりより辱めの方が効果がある』という
のがヤマト人の持論でしたから、三人姉妹もが年に数回はこの姿勢になることが
あるのでした。

 そしてその効果をさらに高めるために……
 「これから準備にとりかかりますからね、その姿勢を崩しちゃだめよ」
 お母さんは何かと準備があるからと理由をつけて、この姿勢を10分はキープ
させます。

 その間には……

 「お灸はどこにすえようかしらねえ……」
 お線香に火をつけてお尻やお臍の辺りをうろうろ。お灸をすえる時の予行演習
をしてみたり……

 「こうしたところは黴菌が着いたら大変だもの。消毒がも必要ね」
 アルコールを湿らした脱脂綿で大事な場所を拭ったりなんてこともします。

 お母さんは子供たちがお仕置きの緊張感を持ち続けられるように演出する事も
忘れませんでした。

 全てが整うと……
 「あなたたちはこんな恥ずかしい姿勢を取りたくないわよね」

 「…………」
 他の子が僅かに頷くと……

 「よかったわ。……だったら、お母さんの言いつけはちゃんと守りましょうね。
……いいですね!」
 お母さんは薄笑いを浮かべます。こういうのを為政者の貫禄というのでしょう
か、お母さんの言葉は柔らかですが、お部屋の中はとてつもない緊張に包まれて
います。

 このようにお母さんが主導する我が家のお仕置きで、もし、そこに女の子しか
いない場合はお仕置き開始前にあえてお仕置きを受けない子にも罰を受ける子の
恥ずかしい姿を強調して見せるというのが我が家のやり方のようでした。

 「……あっ、イヤッ……」
 たっぷりとグリセリンを吸い上げたガラスの浣腸器が薫お姉さまのお尻の穴に
触れると、もう瞬間反射的に声が出ます。

 その薫お姉さまの声って本当に小さなものなんですが、こんな時のお母さんの
耳は信じられないほどの高い性能を発揮します。

 「何がイヤなの。あなたのお尻の穴を触ってる私の方がよっぽどイヤよ。……
ほら!!お尻の穴を緩めて……さあ、嫌がってたらお浣腸できないでしょう」

 お母さんの叱責に薫お姉ちゃんは努力しているようでしたが、理性はお尻の穴
を開けようと命じていても、少女の本来の本能がいうことをきいてくれません。

 「しょうがないわね」
 お母さんはそう言った瞬間、薫お姉ちゃまのある場所をさっと撫でます。

 「……あっ!……」
 するとその一瞬、悩ましい声と共にお姉ちゃまのお尻の筋肉が緩んで、入口で
待っていたガラス管の先が身体の中に分け入ります。

 「まったく、初めてじゃあるまいに世話をかけて……そんな聞き分けのない子
にはお尻の穴と赤ちゃんが出てくる穴の中間あたりにお灸という印をつけるのも
手だわね」

 「!!!!!」
 お母さんの言葉は薫お姉ちゃんをさらに強く震撼させます。
 思わず反射的に起き上がろうとしましたが、すんでの所で思いとどまります。

 『あんな恥ずかしい所にまたお灸をすえられたら私どうなるのよ!!』
 今度は反射的な恐怖に、どうやら理性の方が勝ったようでした。

 「さあ、お尻の力を抜くの。いつも言ってるでしょう。我が家ではお母さんの
お仕置きを受けることがみんなに愛される条件だって。それは分っているわよね」

 「………」

 「いいのよ、私にやられるのが嫌いならそれはそれで…こんなのはお父様でも
できるんだから……その方がいいの?」

 「…………」
 薫お姉ちゃまは激しく首を振ります。それはとんでもない提案でした。

 「だったら我が儘は言わないの。あなたを守ってくださる神様にもお父様にも
お兄様にも兄弟たちも……もちろん私に対しても、すべての人を信じて受け入れ
なければ女の子の幸せは訪れないわ。……そういうこと、わかってるわよね」

 「はい、ごめんなさい」
 薫お姉ちゃまは鼻声で答えます。

 この瞬間、薫お姉さまのお尻の門が緩んだみたいでした。
 するとすかさずガラスの先端が押し入ってきます。
 そして、ガラスの中のお薬がお姉さまの体の内側へ……
 
 「……(ああああああ)……」
 思わず切ない吐息と涙が共に身体の外に吹き出します。
 お尻の中が満たされていく何とも言えない不快感。これはやられたことのない
人には分らない屈辱感です。

 さて……
 ヤマトの日本人たちは元をたどれば日本で生活していた人たちをカーク星人が
拉致して連れてきた人たちでしたから地球に住む日本人とは血筋こそ同じですが
時間の経過とともに生活習慣は大きく異なってしまっていました。

 ヤマトで女性の自立があまり声高に叫ばれないのも、お灸のお仕置きが習慣と
して残っているのも彼らの日常生活をあまり変化させたくないカーク人が監視と
援助を続けてなるべくそれまでと同じ生活スタイルを維持させたからなんです。

 江戸時代に拉致されてきた人たち、明治時代に拉致された人たち、そうした人
たちの発言権が未だに強いこの社会では女性が一人前と認められるためには結婚
して子供を産むことが大事な条件の一つとなっています。

 それでも、今あるこの社会は戦争や飢餓とは無縁ですからある意味幸福な社会
なわけです。つまり不幸を感じる女性たちがほとんどいないという事は社会変革
を望む声だって起きないわけで薫お姉さまも今はまだ必死にお母さまのお仕置き
を耐えるしかありませんでした。

 「……(ああああああ)……」
 浣腸液が全て身体の中に入り込むと、お姉さまのお尻にはその恥ずかしい恰好
のままおむつが当てられ始めます。

 でも、もうその時はお姉さまのお腹はぐるぐると鳴り始めています。
 最初に受けた石鹸水とは違ってグリセリンは即効性があるのです。

 「トイレ」
 お姉さまは思わずそう叫びましたが……
 この時、お母さんが目の前に出してくれたのは可愛いスワンのオマルだけ。
 しかも……

 「すぐにはだめよ。5分間は頑張らないと、お腹が完全に綺麗にはならないわ」
 お母さんはそう言うと薫お姉ちゃまの身体を正座したままの状態で抱きかかえ
ます。

 全身鳥肌のおむつ娘は大きな体の赤ちゃんと同じです。
 「あっ、いやあ、だめえ~~」

 恥ずかしいという気持ちは勿論あるのでしょうが、僕がみるところその時点で
は、それは薫お姉ちゃんがお母さんに甘えているようでした。

 「あっ……だめ……出る……もう出るから」
 震えの止まらないお姉ちゃんは5分はおろか3分も持たず涙を流して泣き言を
言い始めます。

 「お願い、お願い、おトイレ行きたい」
 必死に掴んだお母さんの襟元はこれを掴んでるからお漏らししないですんでる
といった感じで悲壮感が漂います。全身鳥肌、もし、手を離してしまったら……
その瞬間、おむつの中にうんちが漏れてしまいそうで恐ろしくて仕方がない……
そんなところだったと思います。

 実はこのあと何年かして僕もこのお仕置きを受けましたけど死ぬほど恥ずかし
かったのを覚えています。赤ちゃん以外でおむつにうんちをするなんてそりゃあ
イヤですから。

 たった1分後……
 「………………アアアアア」
 お姉ちゃんはもうどうにもならないくらい体が硬直して、ただただ必死に耐え
ていました。もうちょっと赤ちゃんに近ければ、もうとっくにお漏らしだったと
思いますけど、小学校も高学年になったら恥ずかしさだけでなくプライドという
のもありますからそりゃあ必死だったと思います。

 でも……
 「………………アアアアアあああああ」
 4分がもう少しで終わる頃、お姉ちゃんのプライドは崩れ落ちました。
***********

 それはお母さんがお姉ちゃんの下腹を揉んだからで、必ずしも薫お姉ちゃまの
せいではないのですが、それは理由にはなりませんでした。

 「残念だったわね、もうあと15秒だったのに、あなたの堪え性のないところ
が災いしたみたいね」
 お母さんはおむつが少し生暖くなって膨らんでいくのをお姉ちゃんを抱いた左
の掌で感じながら冷静に言い放ちます。

 「いや、お灸いや、ごめんなさい。もう一度やったら絶対に我慢するから」
 我が家では約束の時間までお浣腸を我慢できなかった子には、お灸の追加罰が
待っています。だから必死にお願いするわけですが……

 「だめよ。規則は規則なの。それに、今回はどうしてもあなたを許すつもりは
ないわ。お姉ちゃまの弱みを利用して自分の宿題をやらせておいて自分はアニメ
を見てるなんて、妹の……いえ、天使のすることではないわね」

 「えっ……だって、私は天使様じゃないもの」
 薫お姉さまは全身を震わせて思わず小声でぼそぼそっとつぶやきますが……

 「あっそうなの、私はあなたが私のお腹にいる時からずっと司祭様にこの子は
神様から授かった天子様ですよって言われ続けてきの。たから今日まであなたを
天子様だと思って大事に育ててきたけれど、どうやら私の勘違いだったみたいね。
いいわよ、そうじゃないって言うのなら。ただ、その代わり我が家に置いておく
必要もないわけだし、今日限りお家を出て行ってもらいましょうか」

 「そんなあ」
 薫お姉さまは畳に落としていた視線を上に上げて悲しそうに答えます。
 本当はお母さまの顔を見たかったのでしょうけど、それは涙に隠れて見えない
みたいでした。

 薫お姉ちゃまは子供と言ってもすでに10歳を越えていますから世間のことも
少しずつ理解し始めています。お母さんが自分を家から放り出すようなことは、
絶対しないとは本心で思っているのですが、それでもそこは子供です。お母さん
に言われるとやっぱりどこか不安だったりするのでした。

 「私とお父さんは、たとえあなたがいなくなっても、すでに子どもを4人育て
た実績があるから国からの報奨特別年金が出て、老後資金は大丈夫みたいなの。
今さら我儘なあなたを育てる必要はわ。だから、あなた、もう、いらないわね」

 冷たく言い放つお母さんに薫お姉ちゃまは目が点……

 「あたし……イヤ」
 薫お姉ちゃまは涙の雫を畳に落として叫びます。
 彼女の立場ではそう答えるしかありませんでした。

 ヤマトでは親に捨てられた子の行く先はお寺や修道院が経営する孤児院と相場
が決まっていて、薫お姉さまだってお母さんを本気で怒らせたらそういうことに
なるのかもしれません。

 「…………そんなの……」
 薫お姉さまはもちろんそんな事は絶対にイヤでした。

 だから……
 「ごめんなさい。私は本当に悪い子でした。どんな辛い罰でも受けますから、
私をもう一度天使としてここにおいてださい。私もお家で一緒に暮らせるように
してください」
 寄る辺なき身の上の子供たちの悲しさ。薫お姉ちゃんだけではありません、誰
だってこう言うしかありませんでした。

 この言葉はいわば子供たちが親の前で言わされるごめんなさいの慣用句みたい
なものなので必ずしも本心と言うわけではないんでしょうが、もし言わなければ
もっと酷いお仕置きが待っていることだけは間違いありませんでした。

 「そうやっと私の天使ちゃんとして暮らす気になったみたいね。汚いうんちも
出てしまったみたいだし、確かめてみましょう」
 お母さんはこう言うと、浣腸お仕置き用の小さな薄手の布団に薫お姉ちゃまを
寝かしますが……

 「いや!!!」
 お姉ちゃまは慌てたように身を翻そうとします。

 ただ、たっぷりの浣腸液とそれが引き連れてきたこれもたっぷりのうんちたち
がおむつの中をたっぷんたっぷんといわせていて、おむつはしていてもその隙間
からみじめなものがはみ出しそうでした。

 『あっ、だめ……いや、恥ずかしい』
 薫お姉ちゃまは今のままでも十分恥ずかしいのですから、自ら機敏に動いたり
しません。最悪の結果はそれを想像するだけでもいやでした。

 でも、そんな強がっていた薫お姉ちゃまが唯一身につけていたいた着衣(おむつ)
にお母さんの手が伸びます。

 「いや!」
 お姉ちゃまはほとんど反射的にお母さんの手を払いのけますが……

 「薫!!!!」
 お母さんのひと際強い鼻息混じりの声が部屋中に響き渡ると、薫お姉ちゃまの
ささやかな反乱もそれで決着したみたいでした。

 「…………」
 何しろバリバリの現役軍人(戦車隊の小隊長)とまだ世に出て11年目の娘。
それはまりに大きな違いでしたからどうにもなりません。

 薫お姉さまも最後はなすすべはなく覚悟を決めるしかありません。今はお人形
としてその汚れた正方形の布団に仰向けなっているしか仕方ありませんでした。

 「そうね、女の子は突っ張って生きるより先生や親の愛を信じて従順にしてる
のが一番よ。だって、このヤマトには善人でない人は一人もいないんですもの」
 薫お姉さまのおむつが取り去られ、お姉さまは思考停止状態に……お母さんの
ご機嫌もここでようやく直ります。

 「…………」
 やがて他の姉妹が見ている中でおむつが剥ぎ取られ、たっぷりと汚れたお尻が
現れ……そして、冷たいタオルや熱いタオルで丁寧に拭き取られていきます。
 女の子にとってはぶたれることより辛い時間なのかもしれません。

 そりゃあここに男の子は、大人の仲間入りをしたお兄ちゃんとほぼ赤ちゃんの
僕だけしかいませんが10歳を越えた女の子にとってこれが恥ずかしくないはず
がありません。
 これって、薫お姉さまにとってはもう拷問以外の何物でもありませんでした。

 『いやあ、やめて、死んじゃう』
 こうなると薫お姉さまにできることは今ある現実を忘れ去ることだけ。
 『これは悪い夢をみているだけ』と自分に言い聞かせ、信じ込ませることだけ
でした。

 「ほら、もうすぐ終わりますよ」
 ショック状態の娘を尻目にお母さんはてきぱきと仕事を片付けます。その声は
どこか楽しそうにも聞こえます。

 ほんの1、2分でしょうか、新しいパンツやおむつを穿かせればそれで終了と
いうところまではあっという間でした。

 ところが、そこからがまた時間がかかります。
 というも、お母さんは薫お姉ちゃまにもう一つのお仕置きを用意していたから
でした。

 「……?……!!!!」
 突然、お線香の香りが鼻をつきます。
 もとより、この家に生まれて11年、それが何を意味するのか分らないはずが
ありません。

 『いや、やめて、お灸怖い、ごめんなさい』
 もし、許されるなら薫お姉さまはその瞬間にこう絶叫していたと思います。
 でも、お姉さまはその泣き言を必死に我慢します。

 だって、そんなことしたら今度はどんなお灸のお仕置きが待っていることか。
艾の大きさ、すえられる場所、……いえ、一回で終わる保証だってありません。

 「………………」
 そんな思ひが脳裏をよぎり、嘆きの言葉は喉から先に出ませんでした。

 「そうね、薫ちゃんも少しずつ大人に近づいてるせいか聞き分けがよくなった
みたいね」
 お母さんからお褒めの言葉をいただきます。

 「そうよ、後先のことを考えて女の子は我慢することがが一番大事なの。嘘を
つかず、見栄をはらず、目上の人たちからのお言いつけをちゃんと守っていれば
不幸になる事は絶対になんだから……わかった?男の子なんかより全然楽ちんな
人生なんだから」

 「はい、お母さま」
 薫お姉さまは嗚咽が止まらないままだけどお母さんに相槌を打ちます。

 一方、お母さんはご機嫌で……
 「まあ、いいご返事ね。じゃあ、今日の出来事を忘れないようにちょっとだけ
頑張りましょうね」
 そう言うと薫お姉ちゃんの両足を再び持ち上げます。

 そして……
 「円華、ぼうっとしてないで手伝って!」
 それまで震えてみていただけの円華お姉ちゃまを呼びつけると、薫お姉ちゃま
の両足を任せます。

 「45度くらいに開いて、その子の足を頭の方へゆっくりと傾けてちょうだい。
要領はわかってるでしょう。……そう、赤ちゃんのおむつ替えと同じポーズよ」

 母の指示をそのまま実行すれば女の子の大事な処は全て丸見えです。
 本心を言うと、妹がこんな無様な恰好をしているんだからちょっとからかって
みたいところなんですが、円華お姉ちゃまはすでに中学生です。お仕置きだって
色んな経験をしてきています。その経験から言うと、次はわが身という事をよく
わかっていましたから、単純にそんな気にはなれませんでした。

 『今日は薫にまでこんなことをするのかあ……って事は、次はわが身ってこと
よね』

 実は会陰へのお灸はヤマトでは珍しくありません。妹の薫がやられていれば、
次は私ってことです。それは円華お姉さまにとってショック…いえ、大ショック
だったに違いありませんでした。

 「さあ、しっかり歯を食いしばって我慢するのよ。もし、暴れるようなことが
あったら続きは修道院でやってもらいます。いいですね」

 お母さんは最後通牒を突き付けます。

 『もし、熱さに我慢できなくて修道院でのお仕置きなんてことになったら…』
 そんなことは二人とも考えたくないことでした。

 「…………」
 「…………」
 『修道院』という言葉が出てきて、薫お姉さま、円華お姉さま共々声には出し
ませんけど心中穏やかではありません。というのも、修道院でのお仕置きは家族
とはまるっきり違うからなんです。

 赤の他人に大事な所を見られたうえに、もしシスターの機嫌を損ねれば素っ裸
で晒し台に括りつけられます。もちろん男性は猫の子一匹そこにはいませんが、
それがどんなに恥ずかしいことか。そんな可哀そうな子の噂を耳にするたびに、
私ならショックで死んじゃうかもと姉たちが噂しあっていました。
 本心かどうかは知りませんが……(笑)
 
 「さあ、いきますよ」
 お母さんの一声で薫お姉ちゃまの顔は一瞬にして真っ赤。
 もう、やるしか、いえ耐えるしかありませんでした。

 「いやあ~!!!」
 薫お姉ちゃまの顔が恐怖と絶望に変わり、全身鳥肌で震えているのがこうして
抱っこされている私の目にもはっきり分ります。

 後日、私もおチンチンの根っことおチンチン袋の根っこに、同じようにお灸を
すえられたことがありましたが、男女の差こそあれ位置関係的には同じような処
です。その時は僕もきっと薫お姉ちゃまと同じような顔をして震えていたに違い
ありませんでした。
 ただ自分のことは事態を客観視できないためか意外と恥ずかしくなかったのを
覚えています。

 「ひぃ~~~~」
 会陰へのお灸は他の場所よりことさら熱いわけではありません。ただ、こんな
所にお灸をすえられたという精神的なショックの方が大きくて、まるで手込めに
された気分がずっとこの後も続くのでした。

 「(いやあ~~~~やめて~~~~)」
 その時、薫お姉ちゃんの顔は真っ赤。反対に身体全体はガタガタ震えています。
 でも、悲鳴は上げられない。矛盾した気持ち、極度のストレスです。

 ましてや相手は子供。こんなお灸はまさに三重苦、四重苦、だったのでした。

 「よし、今日はこれだけにしておくけど、もし同じことがあったらお臍の中や
その下の小山、そうそうお尻の谷間を押し開いて尾てい骨ってのもお肉がついて
いないぶん熱いって気持ちが直接脳天に届いて反省するには効果的な場所だけど、
あなた、やってみる?」

 「…………」
 薫お姉ちゃんは、お母さんの声を聞いた瞬間から何かに間取りつかれたように
首を振り続けます。

 お母さんは円華お姉ちゃんにからめとられて身動きのできない薫お姉ちゃんの
すぐそばまできて火のついたお線香を次に悪さをした時には『ここにすえますよ』
『ここにもすえますよ』とその場所に近づけていきますからそりゃあ怖かっだと
思います。

 もちろん皮膚へ直に火を着けたりはしませんが、それでも小娘を教育するため
には十分に効果があるみたいでした。

 お仕置きは虐めや虐待とは違いあくまで戒めであり教育の一環ですからできる
ことにはそもそも限界があります。ですから思い入れたっぷりに演技はしますが、
実際に肉体を虐める行為は最小限に留めるのがどの家庭でも一般的だったのです。

 とはいえ、おてんば娘が成人する頃には体じゅうにお灸をすえられた痕が点々
とあるというのがヤマトでは常識になっていました。
 ただ、それがために親子の関係がおかしくなるようなこともありませんでした
から、これはこれで一つの文化なのかもしれません。

 ヤマト星では親や教師に限らず目上の人には絶対服従が子供の掟でしたから、
それに逆らっては生きていけないのです。

 しかも、ここはカーク星人が管理しているコロニーですから、ありとあらゆる
場所が最先端技術に管理、監視されています。街中はもちろん畑や森……どこへ
逃げても……いえ、家の中、トイレでさえも隠れる場所はありませんでした。

 そう、カーク星人による完全監視社会のヤマトでは地球上になら必ずある侵略
戦争や貧困がない代わりにプライバシーという概念がないのです。
 事細かな生活の指図までも命令したりはしませんが、親や教師が羽目を外して
子供を虐待していると判断すれば子供の周囲にバリアを張って保護します。
 そう判断されない限界点で親は子供にお仕置きをすることになっていました。

 お灸がここで許容されているのも、それが拉致した当時の日本でごく一般的に
行われていた子供へのお仕置きだったからで、彼らは日本人を生きた標本として
ありのままの姿で観察したかったからなのです。





 <人物>

 春山静香〈母>/普段は路面電車の運転手として働いているが、有事ではその
電車自体がわずかな改造で戦車となって戦闘に参加する。役職は小隊長中尉。
 春山智〈さとし〉父/通常は旅客便のパイロットだが、有事では航空部隊の
中隊長。大佐。
 陽翔〈ひかる〉長男/21歳/航空機、戦闘機の整備士。

 上記3名は通常は民間業務をしているが、訓練と有事の時だけは軍人として
働いている。もっともヤマトの世情は安定しており3名共戦闘経験はない。

 下記4名は春山家の子供たち。
 円華〈まどか〉/長女/14歳(中学2年生)/成績はよいが大人しい性格
 薫〈かほる〉/次女/11歳(小学5年生)/勝ち気だが怠け者。
 咲子〈さきこ〉/三女/8歳(小学2年生)/甘えん坊。
 光治〈こうじ〉次男/2歳半/救命艇で漂流中カーク星人に保護され春山家に
預けられたが、とても2歳とは思えない理解力がある。

 母の教育や躾はスパルタで厳しいが、子供たちは母を慕っている。
 父は子煩悩で優しい人だが怒ると怖い。
 陽翔は外では頼もしい存在だが、家の中では母に頭が上がらず、よく娘たちの
お仕置きを手伝わされる。

<実録> お仕置きとしてのお灸 <ケース4>

<実録> お仕置きとしてのお灸

<ケース4>
 僕も一度だけお灸をすえられたことがあります。
 加害者は母親。忘れもしない三年生の春休みで、当日は従妹たちが
家に泊りがけで遊びに来ていて大盛り上がり。
 とても勉強するような雰囲気ではなかったのですが、母親はそれを
咎めて僕を仏間まで引っ張っていくと、手の甲に艾を乗せて火をつけ
たのでした。
 「あなた、いつになったらお母さんとの約束をはたすの。学校から
出てた課題、一つも手を付けていないじゃない。春休みは短いのよ。
あっと言う間に新学期になっちゃうの。どうしてもやりたくないなら、
やりたくなるようにしてあげます。こっちへいらっしゃい!」
 と、まあこんな感じだったかな。
 まったくもって不届きな学校で春休みにまで課題を出してたんだ。
 で、この時はその場に居合わせた従妹たちも同席しての公開処刑。
 はなから『こりゃヤバいな』と思ったけど、どうしようもなかった。
 「いいこと、これはとっても熱いお灸だけど、終わるまでは絶対に
艾を払いのけちゃダメよ。もし、そんなことしたら、今度はあなたの
体を押さえつけて、お尻のお山にものすごく大きなのを据え直します
からね。そんな恥ずかしいことされたくなかったらしっかり我慢しな
さい」
 と、正座した僕の手を取ると、母は鬼の形相で脅してきたんだ。
 やがて、拘束された右手に艾が乗せられ、火がつけられて……
 お定まりのコースだ。
 たしかに、そりゃあ熱かった。半端なかった。熱いという言うより
むしろ錐でもまれているような強烈な痛みに襲われてそりゃあ頭の中
はパニック。
 そんな地獄の苦しみを今でもはっきり覚えている。
 ただ、それはそんなに長い時間続いたわけではない。あっという間
に終わってしまった感じだった。
 実はこの時期(昭和30年代後半)私が生まれ育った地方の片田舎
では、時ならぬお灸ブームが起こっていた。そのブームに乗って犠牲
になった子供は少なくないと思う。私だけではなかったのだ。
 被害者は、恐らくこのブームがなければ生涯一度もお灸なんてすえ
られないよい子がほとんど。流行り病のようなブームのおかげでみな
余計な体験をする羽目になったわけだ。
 まったくもって迷惑千万な話だが、子供は親には逆らえないから、
『じっとしてろ!』と言われたら、その時はただじっとしているだけ。
 これが、古くからお灸文化の根付いている場所ならその作法なども
しっかり伝承されているはずだから、どの程度で艾の火をけすべきか、
火傷になった場合の対処方法なども親たちがしっかりした知識を身に
つけたうえでやってくれるんだろうが、あの時は僕の家の近所という
ごく狭い範囲で起こったブームだからもともとの火元は井戸端会議。
そこで盛り上がって我も我もとお母さんたちが見よう見まねで始めて
しまったのだ。
 やり方も乱暴で、小さく円錐形に固めた艾を子供の皮膚の上に乗せ、
お線香で火をつけると、やがて火が回って子供が熱がるだろうから、
その時は火を消してやればいい……とまあ、こんな感じ。
 お灸をしごく簡単に考えているふしがあった。そう思いつきなのだ。
もっと厳しく言えば、これって大人たちの遊びだったかもしれない。
 だから、うちの母親も艾に火をつけたあとは僕が泣くのをひたすら
待っていたのである。
 ところが、いつになっても僕が泣かないものだから、首をかしげる
だけで、ついには艾が燃え尽き火が消えてしまったというわけだ。
 何ともしまらないお仕置きだが、しかもその後はどう薬をつけても
痕が残るから、しまいに……
 「なんで、あなたは泣かないのよ!泣かないからこんなことになる
んでしょうが……」
 となった。
 「だって、そんなこと言ったって、我慢しろっていったのはそっち
じゃないか!!」
 と僕は僕で当初は不満たらたらだったが、母のあまりの狼狽ぶりに
やがて何も言えなくなってしまう。
 『やっぱり、僕が熱いって言わないのがいけなかったのかなあ』
 しまいにはそう思えるようになっていった。
 おかげで、僕の手の甲にはケロイド状に輝く灸痕がはっきりと残る
ことになったが……でも、不幸中の幸いというのか、僕はそのことを
恥ずかしいと思ったことはない。……ん~~ちょっぴりあったか……
でも、ほとんどなかった。
 というのも、すえた相手が母親だったからだ。
 生まれてこの方母親べったりで暮らしてきた少年にとっては、多少
無理なお仕置きがあったとしても別の人が好きになることはないし、
心が傷つくこともない。もちろん、その絆が切れることだってない。
大人たちのようにちょっとしたことで『これを契機に別れましょう』
とはならないのだ。
 逆に親の方はそんな強い立場を利用して大義名分をたてに弱い立場
の子どもをいじったりからかったりして遊ぶことが少なくなかった。
これはいつも接している母親ならなおさらなんだ。
 要するに子供は親のおもちゃだってこと。子供の立場でいうなら、
おもちゃになってあげてるから可愛がってもらえてるともいえる。
 親子といえどギブアンドテイクでなければ良好な人間関係は長続き
しないんじゃないのかな。一方的な愛の注ぎ込みは危険だよ。
 それに、僕は親からおもちゃにされながら愛されてきたから親が今
何を考えているかわかるもの。相手の気持ちがわかれば、『この人は
嫌いだ』という人はぐっと少なくなるよ。
 今はお仕置きというと、その言葉を聞いただけで忌み嫌う人が多い
けど、これも大事なスキンシップだと思ってる。
 対人関係で大事な事は『何をされたか』じゃなくて『誰にされたか』
じゃないだろうか。その人とどういう人間関係にあるかが問題なんだ。
 好きな人だから、頼れる人だから乗り越えられるお仕置きってのも
あるんじゃないのかなあ。
 ひと昔前のスポーツ選手とそのコーチみたいに。
 もし相手が嫌いな人だったら、同じように頭をなでられ褒められて
も、やっぱりそれは不快だもの。嫌いな人のすることは些細なことも
全て虐めとしか感じられないはずだよ。
 そのあたりは親子も恋愛も同じじゃないのかと思う。
 もちろん、そうは言ってもそんな関係に甘えて親が子に虐待を繰り
返せば、それはそれで話は別なんだけどね。

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Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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