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2/25 サマースクール(午前中)

2/25 サマースクール(午前中)

 *)僕の好きなプリズンものですが、Hはごくわずかです。

 午前中はどこも授業です。8時から12時まで、全国の系列校
から選りすぐられた劣等生達は、さらにその能力に応じてクラス
分けされて、そこでびっちり絞られます。

 私のクラスはGクラス。

 桃園学園は伝統的に成績がABCでつけられていて、Aは優秀
な生徒。Bがまあまあ。Cは一応合格という程度。
 もちろんこのABCの子はこんな合宿関係ありません。

 D以下が落第なんですが、その落第点にも種類があって、Dは
もう少しがんばりましょう…Eが努力が必要…Fが先生に相談。
 このEFあたりからが怪しくなります。

 でも、その先に、さらにGという評価もあって、これなんかは
箸にも棒にも掛からない生徒という意味でした。

 私は、いつも期末テストを白紙で出すようにしてましたから、
割り当てられる教室はいつもGクラス。でも、これは予定通りで
した。
 もともと避暑が目的の私は、なまじEやFのクラスよりこの方
が逆に気が楽だったのです。

 Gクラスは高校の授業にさえついていけない子が大半ですから、
授業の内容も中学レベル。頭の中を空っぽにして白河夜船で授業
を聞いていても、脳細胞を2%ほど活動させてアイドリングして
さえいればそれで十分でしたから私的には助かります。

 ただ、私はともかく他の多くのクラスメイトたちは授業を聞い
ていると、それが子守唄のように聞こえて条件反射的に眠くなる
人たちですから、教室にはいくつもの眠気覚ましが用意されてい
ました。

 例えば、手蜀のローソク。こっくりこっくり居眠りを始めた子
を見回り役のシスターが起こして回るのに使います。
 シスターから肩を叩かれた子はアウトです。
 でも効果は覿面で、手の甲に数滴垂らせばそれで十分でした。

それでも睡魔の誘いに負けそうな子にはパンツを脱いでもらい、
お尻をじかに座面にくっ付けて座り直してもらいます。
 あとは、その子が眠くなるたびに先生が教壇にあるスイッチを
入れてあげれば、その愛がたちどころにその子のお尻に伝わって
生徒の背筋がピンと伸びる仕掛けでした。

 通称、電気椅子。物騒なネーミングですが、もちろん、いくら
気持いいからといっても天国まで行くことはありませんのでそこ
は安心でした。

 ただ、それでもダメな場合もあります。
 その場合は仕方がありません。
 教壇の脇にある小机にうつ伏せになって、先生のもっと直接的
な愛をお尻に受ける事になります。

 小学生のチビちゃんたちならスリッパ。中学生には幅広の革鞭。
高校生になるとケイン(籐鞭)が一般的でした。

 年齢に応じて鞭の種類は違いますが、「ピシッ!」という衝撃
と共に全身の毛穴が開いて、頭の天辺から電気が抜けて行く効果
は一緒でした。

 この他にも、まだ幼い子の場合には熱いタオルや冷たいタオル
で見回りのシスターたちがお顔を拭いてくれるなんてサービスも
ありました。

 とかく劣等生というのは長時間椅子に座っているのが苦手です
から、まずはその訓練からです。先生も生徒を寝かさないように
色んな工夫をしているようでした。

 えっ!、私ですか?

 ええ、一応全部経験済みです。


 さて、こうして30分の授業が終わると、次は今やった単元の
テストが20分あって、これがここの一時限なんです。

 テスト結果は、悪いお点でも特別な罰はありませんが、合格点
に届かない子には午後の自由時間はありませんでした。

 Gクラスくらいになると、普段、学校で先生にあまりかまって
もらえない寂しさからなんでしょうか。自由時間をつぶしては、
先生と仲良くなる子が沢山いました。

 私も先生と仲良くなろうと、補習の補習にもよく参加しました
が、あまりやりすぎると……

 「わかってるのに、分からないふりをするような子には特別な
お仕置きが必要ね」
 なんて怖い顔で睨まれたことも……

 でも、それはあくまで例外。普段の先生方はとても優しくて、
私がなぜここに来ているのかを知ったうえで、快く抱いていただ
きました。

 幼い日の私は家庭で満たされない分をここでまとめて抱かれる
ことで、次の学期への英気を養っていたのです。


 さて、話を戻しましょう。

 朝の食堂で、ぎりぎりまでサリーとおしゃべりしていた私たち
でしたが彼女はEクラスですからここで別れなければなりません。

 「お昼、また一緒に食べようね」
 名残惜しい気持を振り払って私はGクラスへと向います。

 Gなんて特殊なクラスですから、例年人数がそんなに多くあり
ませんでした。生徒は五、六人といったところでしょうか。でも、
一番手の掛かる生徒たちでもありますから、授業先生を受け持つ
先生以外にも助教としてシスターが二人もついています。

 当然、ここで同じ学校の生徒に会うなんて滅多にありませんで
した。でも、この日は……

 教室に一歩足を踏み入れた瞬間、私の全身が凍りつきます。

 『どういうことよ!』

 おどおどと落ち着きのない生徒たちに混じって、一人だけ背筋
をピンと伸ばして、黒板をまっすぐに見つめている孤高の少女が
……。

 「あら、チッチ。偶然ね、あなたもこのお教室なの?」
 その子が私に気づいて微笑みました。

 「オマル!あなた、何やってるのよ。こんな処で……」
 私が驚くと……

 「何やってるはないでしょう。私も授業を受けに来たのよ」
 涼しい顔で言いますから、開いた口が塞がりません。

 彼女の名前は小川真由美。あだ名のオマルは本来名前から来て
いましたが、『便器みたいでイヤ』って本人が言うのでかえって
友達からはそう呼ばれるようになっていました。軽い虐めです。
 それはともかく……

 「どうして、あなたがここにいるわけ?」

 私の驚きに彼女は涼しい顔で……
 「それはこっちのセリフよ。どうしてこんな素敵な場所がある
のに教えてくれなかったのよ。私たち、友だちでしょう」

 「素敵な場所って……あなた、正気なの?……ここは劣等生の
溜まり場なのよ」

 「知ってるわよ、そんなこと。さすがに朝の浣腸にはちょっと
ビビッたけど……でも、ほかの子も同じことされてたから、別に
私一人じゃないみたいだし、あれはあれで楽しかったわ」

 「相変わらず能天気ね。楽しかったって、あなたってどういう
感性してるのかしら」

 「だから、そこはあなたと同じでしょうよ。……あなたこそ、
どうしてこんな処にいるわけ?」

 「それは……」
 私は言葉に詰まります。

 「私ね、あなたが普段『夏はいつも避暑地の別荘で過ごすの』
なんてキザなこと言うもんから『それっていったいどこだろう』
って、ずっと、思ってたのよ。それで、真理絵をとっちめたら、
チッチは毎年ここだって言うじゃない」

 「何だ、真理絵が裏切ったのか」

 「あの子、責めないでよ。あたし、ヤクザの親分に恨まれたく
ないから……」
 オマルが悪戯っぽく笑います。実際、真理絵のお父さんは全国
に名をとどろかす有名なヤクザの親分でした。

 「最初は、私も目が点になったけど……でも、考えてみれば、
あなたが毎年ここに来るってことは、そんなに居心地が悪かろう
はずがないわけだし……何より、何かしら魅力があるはずよね。
……だから、ま、風変わりな別荘だけど、私も参加してみよう
と思ったの。……あら?変な顔して……いけなかったかしら?」

 「別にいけなくはないけど……あなたってヒマね。世間の子は
今頃受験勉強で必死だっていうのに……こんなところで油売って
ていいのかしら?そんなことじゃろくな大学にいけないわよ」

 「うちの親と同じで嫌なこと言うはね、あなたって……でも、
そのあたりもあなたと同じなの」

 「どういうこと?」

 「私も受験に興味なんてないもの。大学はいける処でいいって
最初から決めてるの。…それに、夏休みだからって実家に帰って
みたところで、行く処行く処付き添いが着いて回るような家なの
よ。恋愛どころか、映画一本自由に観られないわ。…小学生じゃ
ないつうの。…だから、それならいっそ…ね、良い考えでしょう」
 最後は甘えるように私を見つめます。

 「よくないわよ!」

 大声を出してしまいましたが、こうなっては仕方がありません。
私の秘密基地はこうして悪友オマルに知られてしまったのでした。


**************************
 Gクラスの数学を担当するのは今年から斉田先生。でも授業の
やり方は同じでした。もともと端にも棒にもという生徒相手です
から、授業も難しいことには一切手をつけません。最初は中学の
教科書のそれも基礎的な内容を、猿でもわかるように懇切丁寧に
講義してくださいます。

 もちろん、それって他の子たちにはしてみたら、有意義なこと
ありがたいことなんでしょうけど、私やオマルにしてみると……
それって退屈で、退屈で……

 『あ~~あ』
 欠伸を押さえるのに必死にならなければならない拷問でした。
 手の甲に蝋涙が落ちると熱いですし……パンツを脱いで椅子に
座ると冷たいですし……もちろん、みんなの前でお尻をぶたれた
ら、そりゃあ恥ずかしいですから……

 そこでこんな時はインナートリップ(私の造語)に限ります。
 どういう事かといいますと……

 『さも授業を聞いているようなふりをしながら、実は、頭の中
では別のことを考えて楽しんでいる。一応、指された時の用心に
頭の2%だけは教室に残しておきますが、あとは夢の世界で遊ぶ
んです。成果物は色々。詩作、作曲、物語……中にはHな妄想も
含まれていました』

 私だけじゃありません。おそらくオマルだって授業中、意識は
この教室にはないと思いますよ。


 そうやって、どうにかこうにか30分の授業をしのぎきると…
 次はその授業がちゃんと理解できたかを試す確認テストに移る
わけですが、ここからはとたんに忙しくなります。

 20分あるテスト時間を惜しんで5分で仕上げます。
 とにかく早ければ早いほど次の授業までの休み時間が増えます
から、必死で解いていきます。

 私はいつもの通りやっているだけですが、どうやらオマルの奴
も私の異変に気づいたらしく、彼女も解答スピードを上げて私に
ついてきていました。

 結局……
 「先生、できました」
 私がそう言って席を立ったとき、オマルもすでに最後の問題に
取り掛かっていました。

 「……あら、千賀さん。もう出来たの?もっとゆっくりと考え
た方がよくなくて……見直しも必要よ。ケアレスミスがあるかも
しれないでしょう」
 
 斉田先生が、答案を提出して教室の外に出たがっている私に、
嫌味なことをおっしゃいますから……
 「ちょっと貸して!」
 私は、今出来上がったばかりのオマルの答案を持ち上げます。

 そして、私と彼女の二つの答案をしっかり見比べてから……
 「大丈夫ですよ先生。間違ってる処は一つもありませんから」
 と、言ったのです。

 すると、さらにしつこく……
 「どうして、間違ってないって分かるの?」
 なんて尋ねてきますから、思わず声が大きくなってしまって…

 「だって、二人の答えが一緒なんですもの。間違ってるはずが
ないでしょう!」
 私は、とっさに私にとっての正論を吐くと、二人分の答案用紙
を教卓の上に置き、オマルの手を引いてさっさと教室を退出して
しまったのでした。


 「ねえ、あんなこと言っていいの。先生、教室出る時も何だか
苦笑い浮かべてたわよ。あたし、あとでお仕置きなんてイヤよ」
 教室を出てオマルが心配そうに言いますから……

 「たぶん大丈夫よ」

 「たぶんって……」

 「仕方ないでしょう。次の授業まで時間がないんだもの。あそ
こで油を売ってる暇はないわ」

 「どういうことよ」
 
 「いいから、いらっしゃいよ。どうせ、あなた、私が、ここで
何をしてるのか知りたくて来たんでしょう?」

 私はオマルの手を引き、小走りで学校の中庭の垣根を越えて、
お隣りのお庭へと入っていきます。

 「ねえ、ここは学校じゃないの?」
 「そうよ、伯爵様のお屋敷」
 「大丈夫なの?」
 「もち、大丈夫よ」

 いつものように小道を通って庭の片隅。六角形の形をした離れ
が一軒、団扇サボテンに囲まれて建っていました。

 「コンコンコン」
 窓を叩いて中の老人に私が来たことを知らせます。

 「おう、智香ちゃん。お入りなさい」

 ロッキングチェアに揺られる老人が許可を出す前から私は窓を
開けて部屋の中へと身を乗り出していました。

 「やめなさいよ。窓からなんて、お行儀わるいわよ」
 オマルが私の上着の裾を持って止めますが……

 「いいの、いいの、おじちゃんの図書室にはここから入るのが
一番いいんだから。表になんて回ってたら時間がもったいないの
よ。どうせ20分でまた戻らなきゃならないんだもん」

 「相変わらず、せわしないのう。先生に言って、午前中だけで
もここにいられるようにしてあげようか?」

 優しい気遣いでしたが……
 「気持は嬉しいけど、いいわ、そんなこと気にしなくても……
私、補習でここに来てるんだもん。やることはやらないと他の子
に悪いでしょう」

 「律儀じゃのう……それはそうと、窓の外はお友だちかな?」

 おじちゃんに指摘されて、私はまだオマルが部屋の中へ入って
いない事に気づきます。

 「何やってるよ。大丈夫だから入ってらっしゃいよ。体育音痴
のあなたでも、そのくらい乗り越えられるはずよ」

 オマルは私にそそのかされてやっと窓からこの部屋へ進入する
決心がついたようでした。

***************************  

2/20 サマースクール(朝の食事)

2/20 サマースクール(朝の食事)

 *)男の子の好きなプリズンものの小説です。

 サマースクールの朝食はお庭の見える広い食堂で頂きます。
 要領は社員食堂なんかと同じ。お盆をもって配膳の窓口に並べ
ば、係りのおばちゃんが勝手に盛り付けてくれますから、それを
好きなテーブルまで持っていって食べるというわけ。

 小学生や中学生たちは引率の先生とひと塊ですが、高校生だけ
は好きな場所に陣取って、つかの間休息を楽しむことが許されて
いました。

 「チッチ、みっけ」
 そう言ってわたしの両肩を揉んだのはクラスメートのサリーで
した。

 「でも、すごい人ね」
 彼女はそう言って私の隣の席にプレートを置いて座ります。

 「全国の系列校から来てるからね」

 「それに凄い量。私こんなに食べきれないないわ。おばちゃん
ったら、あたしがもういい、もういいって言ってるのに、こんな
にご飯よそっちゃうんだから。……あたし、体育会じゃないのよ。
ダイエット中なんだからね……ねえ、食べきれない分はどこかに
捨てるの?」

 能天気なこと言いますから……
 「胃袋よ。あなたの胃袋。そこ以外に捨てる場所なんてないわ」

 「え~~無理よ。こんなに沢山」

 「おかずが足りなかったら、おばちゃんがまたよそってくれる
わよ」

 「馬鹿言わないでよ」

 「馬鹿じゃないわ。ここじゃそれが一食分。食べきらなきゃ、
ここを出してもらえないわ。もちろん、だからっていって授業に
遅れたら、それはそれでお仕置き」

 「悪い冗談言わないでよ」

 「冗談なんて言ってないわ。……だって、それがここのルール
だもの」

 「嘘でしょう。こんなのお相撲さんの食事じゃない。こんなに
食べたらかえって病気になっちゃうわ」

 「なったら……」私は笑った。「もし病気になったら、無理に
食べなくてもよくなるわよ。……ただし、仮病がばれたら……」

 「わかってるわ。一度、学校で酷い目にあったから……でも、
どうしてこんなに食べなきゃいけないの?」

 「決まってるじゃない。明日の朝もしっかり…」そこまで言うと、
私は声を潜めて、「…しっかり我慢するためよ」

 「えっ、あれ、今日だけじゃないの。明日もやるの?」

 「当たり前じゃない」

 「ひい~~~あれって、毎日なんだ。ちょっと勘弁してほしい
なあ、あたし、今でも、お腹渋ってるっていうのに……」
 サリーは本当に嫌そうな顔をした。

 「そんなの誰だって同じよ。高校生は身体が大きいからみんな
お薬だもん」

 「そういえば、さっき小学生みたいな小さい子もいたけど……」

 「一番下は小4から来てるわ」

 「わお!そんな小さな子もわざわざこんな処まで来てお仕置き
受けるの?」

 「そうよ、幼い頃から先生や目上の人がどんなに怖いかを叩き
込まれるの」

 「そうか、そういえば、あなた小学部からここなんだっけ…」

 「そうよ、私の人生楽しい時間は短かったわ。母が亡くなって、
継母がやってきたら、あっさり厄介払いされちゃって……」

 「じゃあ、小学生で参加したこともあったの?」

 「小五の夏休みに参加して以来、毎年来てるわ」

 「毎年!?……あんた、そんなに成績悪かったけ……」

 「簡単よ。期末テストを白紙でだせばいいだけだもん。最初は
継母への反抗心だったけど、そのうち居心地が良くなっちゃって」

 「居心地が良い?」

 「だって、家に帰っても、どのみち居場所なんてないんだもん。
……さすがに最初は、毎朝あんな恥ずかしい格好で浣腸でしょう
……泣いてばかりだったけど……慣れるとどうってことないわ。
それに意外にここの先生やさしいのよ」

 「ねえ、あれって、小学生もやってるの?」

 「当然そうよ。……ただ、あの子たちはまだましなの」

 「どうして?」

 「だって普通は石けん水なんだもん。私たちに比べれば、我慢
だってぐっと楽だわ。ただ、昨日不始末をしでかすと、こっそり
お薬を混ぜられるの。お姉様たちに比べたらそれでも濃度は低い
けど、とにかくまだ小さな身体でしょう。その時は死ぬ思いよ」

 「可哀想」

 「何言ってるの。他人のことなんか言えないでしょう。私たち
だって立場は同じなんだから……」

 「じゃあ、お漏らしする子もいるの?」

 「もちろんいるわ。私だってやっちゃったもの。うんちべっち
ょりのパンツを友だちに見られた時は、『明日までに死ななきゃ』
って、さっそく思ったくらいだわ」

 「自殺?」

 「ええ、そう…でも、やったことはないけどね。…ここって、
意外と先生は優しいし、それに小学生のお勉強は午前中だけで、
午後は教室でゲームやったり、近くの森にスケッチに行ったりと、
催しものも多くてさあ、そんなことしてるうちに忘れちゃうのよ」

 「ねえ、どんなことすると、翌朝のお浣腸ってきつくなるの?」

 「心配性ね。そんなに心配なの?」

 「当たり前でしょう。今日だって死にたいくらいだったわ……
このうえ、お漏らしだなんてしたら、本当に自殺するから……」

 「おやおや、威勢のいいこと。でも、そんなことじゃ死ねない
わよ」

 「どうして?」

 「だって、もう何十年もサマースクールやってるけど自殺した
子なんて一人もいないもの。先生が言ってたけど、本当にうたれ
強いのは男の子より女の子なんだって……」

 「そうかなあ」

 「いざとなれば現実的に対処できるのが女の子の強みなんだっ
て……」

 「ふうん、でも、やっぱり私、心配だもん。教えて……ここの
先生たちは何すると一番怒るの?」

 「当たり前だけど、まずは、お勉強かな。授業態度が悪い子や
テストの結果の悪い子は、実際の授業でも机にうつ伏せになって
お尻に鞭を受ける決まりだけど、加えて、翌朝も大変な事になる
ってわけ……」

 「私たちも?」

 「当然でしょう。私たち観光でここに来てるんじゃないのよ。
できが悪いからここで補習させられてるんだもの」

 「わかってるわよ。そんな大きな声ださないでよ」

 「でも、安心して、授業での鞭はそんなに痛くないの。だって、
あんまり痛くすると、次の授業がおろそかになるでしょう。……
授業中の鞭は体罰というより『気つけ薬』『目覚まし』『励まし』
かな。……でも、その分、次の朝、思い知らされるってわけなの」

 「…………」

 「あと……友だち同士の喧嘩やいじめもタブーよ。とにかく、
仲良くできない子はお仕置き。……それに先生や目上の人を批判
することも許されてないわね。前に、配膳係のおばちゃんに箸を
投げつけた子が、翌朝、うんちべっちょりになってるのを見た事
あるもの」

 「うえっ。食事の最中なのよ。そんなこと言わないでくれる」

 「仕方ないでしょう。事実は事実よ」

 「でも、ということは配膳係のおばちゃん?掃除のおばちゃん
とかも逆らっちゃダメなの?」

 「そりゃあそうよ。その人たちだって、私たちから見れば目上
じゃない。……つまり、ここでは私たちが最下層の身分ってわけ。
おまけにここは『見せしめ』『辱め』なんてハレンチやお仕置き
ばっかり多いから、学校と同じ気分でいたら、毎日大恥かくこと
になるわよ」

 「厳しいのね」

 「仕方ないのよ。これって劣等生の集団だもん。先生方だって
不真面目な子に甘い顔はしてくれないわ」


 と、その時である。サリーの目に奇妙なものが飛び込んできた。

 自分と同じ年頃の子が、シスターからスプーンでご飯を食べさ
せてもらっているのだ。

 「ねえ、あの子、どこか悪いの?……さっきから、シスターに
食べさせてもらってるみたいだけど」
 チッチに尋ねると……

 「あの子って……ああ、シスターがそばについてる子ね。……
私も具体的な事はわからないけど、恐らく、先生の事とか、この
合宿の事とかを批判したんじゃないかな。それで……」

 「それで?」

 サリーが不思議そうに尋ねるから……
 「それでって?……お仕置きを受けてるんじゃない」

 「あれ、お仕置きなの」

 「そうよ。……あの子、自分の手でご飯を食べることを許され
なくなったの。……何なら、あなたも大きな声で『こんな合宿、
人権侵害じゃない』って叫べばいいわ。そしたら、たちまち暇な
シスターが駆けつけて、あの子みたいに朝ご飯食べさせてくれる
わよ」

 「えっ……」
 
 「ここでは、先生方の批判なんかする子には、今がいくつでも、
赤ちゃんにさせられるしきたりがあるのよ。離乳食だけじゃない
わ。オムツを穿かされて、おしゃぶりを銜えさせられて……それ
でも反抗的な子はお灸まですえられるんだから……」

 「お灸?……ああ、千年灸ね。わたしもお母さんにやられた事
があるから知ってるわ」

 「違うわよ、ここのお灸は艾を肌に直接乗せて火をつけるの」

 「まさか、そんなことしたら、痕が残るじゃない」

 「そうよ。できるだけ目立たない処にはすえてるみたいだけど、
でも、娘の為になるからって、どの親御さんもお灸のお仕置きに
同意する承諾書を学校に提出しているはずよ」

 「本当に……」

 「わからないけど、心配なら聞いてみたら?」

 私が話すと、さすがにサリーもショックな様子でした。

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2/18 サマースクール(目覚めの儀式)

2/18 サマースクール(目覚めの儀式)

 *)男の子が好きなプリズンものの小説です

 桃園学園のサマースクールは、一学期に素行や成績が悪かった
子が行かされます。
 期間はその子の行状に応じてさまざま、最短は二週間ですが、
サマースクールでの生活態度いかんではいくらでも延長されて、
夏休み中ずっと、監獄暮らしなんて子もいました。

 私達の学校は世間的にはお嬢様学校ということになっています
が、親から本当に可愛がられている子は一人もいません。
 親に愛される子はこんな処ではない本当のお嬢様学校が世間に
いくらでもあるからです。

 ここは、『庶民の学校では体裁が悪いから』という理由だけで
放り込まれる全寮制の学校でした。
 ですから、親の方も、『休暇中だからといって何も家に帰して
よこさなくてもいいよ』というわけで、サマースクールは好都合
だったのです。

 一方、この学校、先生の大半が尼さん(シスター)である為に、
先生方も夏休みになったからバカンスというわけにはいかないの
です。修道院で平凡な日常を送るより、子供をいたぶっていた方
が、まだ気晴らしになると考えていたようでした。

 さらに言えば、学校としても保護者からたんまり特別の授業料
を徴収できますから、こちらも損はありません。

 生徒以外、万々歳のサマースクールでした。

 ただし、生徒はというと、こちらは地獄の日々でした。
 普段の学校生活だって厳しい規則に縛られていますが、サマー
スクールではそれが輪をかけて厳しいのです。素行や成績を理由
に選抜した子供たちですから、お仕置きの意味もあるのでしょう。
 刑務所並み、軍隊並み、いえいえそれよりもっと厳しかったと
思います。

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 朝、大部屋のスピーカーから牧場の朝という曲が流れ始めると、
女の子たちはシーツを捲って、両足を高く上げます。ネグリジェ
タイプの寝巻きは身につけていますが下着は身に着けていません
から下半身はスースーします。

 そこへ、古参のシスターたちがワゴンを押しながらやってきて
まず、入口から一番近いベッドへ……

 そこで寝ている女の子の……といっても、先ほど言ったように
両足を高く上げているわけですが……寝巻きを手荒く捲くると、
大事な処が丸見えになるようにします。
 女同士ですから男性よりましですが、それでも恥ずかしい事に
変わりはありません。でも、ここでは何をされても「ワー」とか
「キャー」とか言ってはなりませんでした。

 サマースクールでは『先生やシスターの言いつけには絶対服従。
必要以外の私語や嬌声も厳禁』だったのです。

 これは、小4から高3まですべて女の子たちに徹底されていま
した。もし、こんな事ぐらいで声をたててしまうようだと、その
子は、ベッドから引きずり出されて、目の覚める御菓子を六個も
食べさせられます。

 それは、立ったまま両手を膝小僧の裏側で組み、へっぴり腰の
姿勢で、お尻が後ろへ突き出したところを革紐鞭でピシャリ!と
いうもの。
 無防備なお尻への革紐鞭は、たとえ相手が女性でも堪えます。
 まして、幼い子には……それが手加減されているとしても……
強烈な恐怖体験でした。

 「ピシーッ」
 「悪うございましたシスター」

 「ピシーッ」
 「ありがとうございますシスター」

 これ見よがしに高い鞭の音と鼻声交じりの懺悔の声。

 こちらも恥ずかしい格好のままなのですが、友だちの苦悶の声
を聞かされるのは、こちらも苦痛以外の何ものでもありません。
 小学生の中には、そんな鞭の音に泣き出してしまう子も……

 もちろん、鞭は特別な子にだけのプレゼントですが、シスター
はベッドに取り残された子供たちのことを忘れたりはしません。

 少女一人ひとりのネグリジェを捲くりあげて、その中身を丹念
に検査していきます。

 「あら、こんな処が炎症を起こして赤くなってるけど、あなた、
ここが痒いのかしら……」

 自分たちのものは、もう古くてくたびれてしまい、やたら匂い
だけが強くなって困りものですから、若い娘(こ)のそれが羨ま
しいのかもしれません。
 古参のシスターたちは若い娘のソレを摘んだり、引っ張ったり、
押し広げたりして念入りにチェックするのでした。

 そして、これは怪しいとなると、校医の先生に連絡。
 校医の先生が診て正式にオナニーの痕跡ありと判断されれば、
その時点で、口に出すのさえ憚られるほどの厳しくてハレンチな
お仕置きを新たにいただけることになります。

 この時代、男の子には寛容になったオナニーですが、世間一般
も女の子の自慰は快く思ってはいませんでした。そこで桃園学園
は、それに乗っかった形だったのです。

 さて、身体検査も終わると、これからが本番です。

 古狸シスターズはノートをもとに浣腸の準備に取り掛かります。
そこには、女の子一人ひとりが、今朝、どんな溶液をどのくらい
身体に吸収して、どのくらいの時間我慢したらいいかが書かれて
いました。

 もちろんその判断基準は、身体の大きさや年齢もそうですが、
何より、昨日この子が、どれだけ努力したかが大きなウェイトを
占めていました。

 授業を怠けていないか…先生や友達の陰口を叩いていないか…
三度のご飯はちゃんと食べたか(お浣腸を恐れて食事を残す子が
珍しくありませんでした)…もちろん毎日行われるテストの結果
も、朝を楽に乗り越えられるかどうかの重要な判断材料だったの
です。

 その結果、大人たちから『この子はよい子』と認められれば、
高校生でも石鹸水を200㏄、20分も我慢すれば許してもらえ
ますが、『この子は問題児』と烙印を押された場合は、同じ浣腸
液でもグリセリン液で200㏄。おトイレやオマルも認められず
オムツをはめられて、そこへ垂れ流すように強制される子だって
いました。

 いくら周囲に男性がいないといっても、お友だちの見ている前
でのお漏らしは、乙女にとって生涯消し去ることのできない汚点
です。

 ですから、なかにはあまりのことに耐えかねて、ストライキを
起こす子もいましたが、そうした子の末路は桃園学園ではさらに
哀れでした。

 大半の問題児たちは三日ともたず自分の非力を悟ることになり
ます。

 サマースクールだけじゃありません。桃園学園はありとあらゆ
る機会を利用して、生徒を厳罰にかけ、教師や目上の者に対する
絶対服従の精神を叩き込む教育をしていたのでした。

 ですから、小学校以来この学園にお世話になってる私たちは、
幼児体験でそれを知っていましたから、まだ幸せでした。
 中学高校になった時は、めったなことでは先生に逆らいません
でしたから……

 でも、中学や高校から入った子の中には、桃園の洗礼を受けて、
大恥をかく子が少なくありませんでした。
 そんな女の子たちに向って先生方は……
 「これもいい経験よ。世の中に出てからかく恥よりよほど傷が
小さいわ」
 とおっしゃるのでした。

**************************   

2/15 パパのお仕置き

2/15 パパのお仕置き
    (ささやかなスパ物語です)

 「ミー子、パパがお話があるって、書斎へ行ってちょうだい」

 お母さんに言われて、私は顔をこわばらせた。
 だって、用件は大方、一学期の成績の事だろうから、ため息が
出る。

 3、3、3、3、と並ぶ通知表は他の家庭でならたいした問題
にならないかもしれないけど、うちの基準では『大いに問題あり』
なのだ。

 『とにかく兄貴二人が出来すぎるのよ。そんな兄ちゃんたちと
あたしを比べなくてもいいじゃない。あたしは女の子なんだもん。
お嫁にいければいいのよ。学校の成績は関係ないわ。だいたい、
今学期はテスト前に、アレ、みちゃったもんね。あれで、やる気
なくしちゃったんだから、これは不可抗力よ』

 そんなぼやきを頭の中でぐるぐる回しながら、お父さんの書斎
の前までやってきた。

 アレというのは、アキラ兄貴のアレ。
 期末テストの三日前。お風呂から出た私はヘアブラシを浴室に
忘れて取りに返ったんだけど……まだ、誰も入ってないと思った
お風呂場のドアを開けたら、仁王立ちの兄貴とばったり鉢合わせ
しちまって……

 「!!!!!」
 その瞬間、ばっちり見ちゃったの。

 幼い時は兄妹で一緒にお風呂にも入った仲だけど、最近の様子
は知らなくて、いきなり兄貴の成長したところを見ちゃったから、
14歳の女の子としては、ちょっとどころのショックじゃなくて
……

 目をつぶってもアレが浮かんじゃうし……勉強していてもすぐ
にアレが頭に浮かんじゃうし……ご飯はのどを通らないし……で
大変だったのよ。

 「どうしたの。あなた、そのウインナー好きだったじゃない」
 ってママに言われた時も……

 「何だか、痛いみたいで……」
 なんて、トンチンカンな事を口走っちゃうくらいだったもの。
相当、動揺してたと思う。

 当然、事情を知らないほかの家族は……
 「??????」
 だった。

 そんなわけで、一学期は三教科もいっぺんに4が3になっちゃ
ったから、お母さんがおかんむりなの。

 『でも、大丈夫よね。男の子と違ってお父さんは私の成績の事
そんなに気にしないみたいだから……それに、お父さんは滅多に
私をぶたない。お父さんは私に甘いから、泣きまねすればなんと
か……』

 私は書斎のドアを目の前にして頼りない根拠にすがる。
 だって、そうでも思わなきゃ、気絶しそうだもん。

 あたしだって、お父さんにお尻くらい叩かれたことあるのよ。
 たしかに、兄貴達に比べたら、あたしがお父さんからぶたれる
回数は少ない。書斎に呼ばれても無傷で帰れることが多いけど…
…でも、そのうち何回かは本当にお仕置き。

 その時は、そりゃあ痛かったんだから……内臓が口から飛び出
そう。……もう、半狂乱だったもん。

 『ふう~』
 一つ深呼吸して……

 「トントン」
 ノックをする時、やっぱり顔が引きつった。

 「ミー子です」
 「あ~、ミー子、入っていいよ」

 お父さんの声に恐る恐るドアを開ける。
 もし、お父さんが書斎の机に向っていればOKだ。
 忙しい時は、お父さんだってあたしをお仕置きしてる暇がない
から、うまくスルーできるんだけど……

 『あっちゃあ~』

 お父さんは、すでに応接ソファーに腰を下ろして私の通知表を
見てるじゃないの。

 『(絶望)』

 頭の中にその言葉しか思い浮かばないまま、お父さんが自分の
左隣りを叩くので、そこに座る。

 お愛想で笑ってみたけど、やっぱ、どっかぎこちない。

 本当なら、もっと離れて座りたいけど……そこからは、よく、
あたしの通知表の数字が見えた。

 「どういうことかなあ、これは……」

 「ごめんなさい」
 思わず、そう言うと……

 「私に謝っても仕方がないだろう。これは、ミー子の問題なん
だから……ただ、ミー子が自分は女の子だから学校の成績は関係
ないって思っているのなら、それは違うよ。……いいお婿さんに
恵まれるためにはやっぱり女の子の方もそれなりの教養がないと、
釣り合いがとれないだろう」

 「つ・り・あ・い?」

 「そう、お互いの教養が違えば話があわないだろう。女の子だ
から、お馬鹿でもいいってことにはならないんだよ」

 「お仕置き?」
 心細そうに尋ねると……いつもは笑って『大丈夫』『大丈夫』
って、言ってくれるのに……

 「今日、お母さんがそうして欲しいって言ってきた。『何なら、
お浣腸やお灸もやってもらえるなら私が手伝います』って………
でも、学校の成績が下がったくらいでそこまでは可哀想だよって
言ったんだ」

 「……」
 あたし、思わずお股の中がキューンってなっちゃった。

 すると、そこへお母さんがノックもせずに入って来て……
 「そんなことありませんよ。女の子だからって、学校の成績が
どうでもいいってことにはなりませんよ。それこそ、お兄ちゃん
たちと釣り合いがとれないじゃありませんか」

 『げっ!立ち聞きしてたんだ!!』

 「わかってるさ、だからこの夏休みは私がこの子の勉強をみて
みようと言ってるじゃないか」

 「もちろんそれはありがたいですけど…でも、それもちゃんと
けじめをつけてからでないと、この子だって、いきなり勉強机に
座らせても身が入らないと思いますから……」

 「……」
 何だか分からないけど、とにかく天敵襲来で、あたしのお股は
またキューンってなっちゃった。

 「私だって同じだよ。このままじゃいけないわけだし、ミー子
も何か刺激がないと奮起できないんじゃないかって思ってるんだ。
ただ、ミー子も、もう子供じゃないし……」

 パパがそう言うと即座にママが…
 「また、そうやって逃げる!子供ですよ。この子は子供!」
 念を押します。
 そして……

 「そりゃあ外に出れば、この子にだって何かしらの体面もある
でしょうけど、ここは家の中なんですから、家長であるあなたの
お仕置きを受けるのは子供として当たり前のことですわ」

 と、ここでパパがキレちゃった。
 「わかったよ。だったら、男の子たちと同じようにパンツを脱
がしてもいいんだな」

 「もちろん、けっこうですよ。あなた、そんなことためらって
らっしゃったんですか?私たち親子ですもの。そんなの遠慮する
方がおかしいでしょう」

 「……(何言ってるのよ。そこは遠慮しなさいよ!!!……」
 ママに突き放されて、またまた、あたしのお股の中がキューン
ってなっちゃう。……でも、これっていったい何なんだろう?…
…身体の芯が何だか熱いんだけど……

 『お仕置き』『お仕置きいやだなあ』『もう逃げられないなあ』
 そんな言葉が頭の中をでぐるぐる回って離れない。
 『でもこの人たち、あたしのパパとママだもんね。一緒に暮ら
してるんだし、お付き合いしなきゃいけないよね』
 結局はそう自分に言い聞かせて諦めるしかなかった。


 「おいで」
 お父さんがソファに座ったままで自分の膝を叩きます。すると、
なぜかお母さんが……

 「ちょっと待って」
 私を呼びとめ、目の前に立たせて身なりを整え始めます。

 「いいわよ、そんな……どうせすぐに皺くちゃになっちゃうん
だから」
 こう言ってふて腐れると……

 「そうはいきませんよ。私の処へ来る時はどんな格好でもいい
けど、お父様の場合はそうはいかないの」

 「お仕置きの時でも?……だって、これまでだって……何回か
あったじゃない。あの時は腕つかまれていきなりだったよ」

 「これまではあなたが子供だったから許されたの。同じ子供と
いっても、中学生になればそれなりに礼儀もわきまえないといけ
ないわ。女の子にとってお父様からいただくお仕置きは特別な事
なの。身なりもきちっとして、あくまでお願いしますって態度で
臨まなきゃね」

 「何よ、ご大層に…それができないと、またお仕置きってこと
なの?」
 あたし、軽い気持で言ったんだけど……

 「そうよ、『ハレンチな子にはハレンチなお仕置き』それが、
これからのルールよ。忘れないでね……あなただってハレンチな
お仕置きがどういうものか……知ってるわよね」

 ママの言葉には背筋が凍る思いでした。
 だって、我が家のハレンチなお仕置きって、本当に、ハレンチ
なんですから……

 「さあ、無駄口叩いてないで、いってらっしゃい。お行儀よく
するのよ」
 お母さんは私の髪をとかし、ブラウスの襟や袖服を伸ばしたり
引っ張ったり、靴下を引き上げたり、細々した事をやってから、
あたしを目の前にいるお父様のもとへ送り出します。

 『あ~~あ、がっかり』
 それまでは、まずパパの膝の上に根っこがって、笑ってごまか
そうと思っていた計画が、ママの一言で狂ってしまったわけです
から、がっかりです。

 でも、あたしだっておんなの子ですからね、気を取り直して…
 「お父様、お仕置きをお願いします」
 パパの足元に膝まづいて両手を胸の前に組んで、ちゃんと言え
ました。

 『よしよし』
 って、見上げたお父さんの顔が小さく頷いています。

 『しめしめ、大成功』
 …なんですが、『これでお仕置きがチャラになる』なんていう
浅はかな考えは捨てなければなりませんでした。

 お母さんがさっきからずっと見てますからね。
 お父さんだって、やらないという訳にはいかないみたいでした。

 「おいで……」
 お父さんが自分の膝を叩きます。

 何をやるかは明らかでしたが、もし、お母さんが見ていなけれ
ば、まずはお父さんのお膝に馬乗りになってお父さんの首っ玉へ
抱きつくところです。

 もちろん、『やめないか、馬鹿が…』なんて言われるでしょう
けど、お父さんが本気になって怒らないのは、何度もやって確認
済みですから、やってみる価値はありました。

 今日はそれもできなくて、がっかりです。

 私は仕方なくお父さんのお膝にうつ伏せになります。
 もう、このあとはまな板の鯉、我慢するしかありませんでした。

 『スカートの上から……スカートの上から……』
 こっちは必死に心の中でお願いしているのに、お父さんは無情
にもスカートの裾を捲り上げます。

 でも、これはまだ想定の範囲内。

 ところが、お父さんが一つ二つお尻を叩いたところで、また、
お母さんがしゃしゃり出るのです。

 「……あなた、中学生にもなった子がそんなことで堪える訳が
ありませんよ」
 そう言って、自ら私のショーツを剥ぎ取るのです。

 「えっ!やめてよ!」
 私は思わず身体をよじって抗議しましたが……

 「何言ってるの、あなた、私がやる時は、いつもパンツなんか
穿いてないじゃない」
 こんなこと、言われてしまいます。

 『確かにそれはそうですけど、何もそれをパパの前で言わなく
てもいいじゃないの』
 あたしは、ママがばらしちゃったことで、パパが、私とママの
お仕置きシーンを想像してるんじゃないかと思い、顔が真っ赤に
なりました。

 ですから、それ以上の抗議はしませんでした。薮蛇になったら
怖いですから。

 もちろん、大人になりかけの身体をお父さんに見られたくない
のは当たり前ですけど……もしここで暴れて、もっとお母さんを
怒らすことになったら……娘の羞恥心などまったく考慮しない人
のことです。今度は何をするかわかりません。……ですからここ
は、我慢するしかありませんでした。

 「……パン、……パン……パン、……パン……パン、……パン」 
少し間隔をおいて一定のリズムで、お父さんがあたしのお尻を
叩き始めます。

 お父さんのスパンキングは、お母さんみたいに一回一回が飛び
上がるほど痛いわけじゃないんだれど、一発一発が重い感じで、
回数が増えれば増えるほどその鈍痛がお尻に蓄積していくんです。

 息苦しくなり……やがて脂汗……そのうち、交通事故にあった
瀕死の蛙さんみたいにゆっくり手足をバタつかせる事になります。

 手足はゆっくりですが、心の中は半狂乱です。
 「……(パン)……ごめんなさい、もうしない、……(パン)
……もうしないから~~いやあ~~……(パン)……何でも言う
ことききます。……(パン)…お勉強します。何時間でもします。
……(パン)……言いつけまもります。次はどんなお仕置きでも
いいです。……(パン)…もう、ぶたないで、お願い、お願い」

 はたで聞いてると馬鹿みたいですが、兄貴たちだってこうした
事情は同じ。今までは眺めるだけでしたけど、実際にやられてみ
ると、その辛さがよくわかります。
 しかも、お父さんはこれを利用して子供たちに無理難題を押し
付けるのでした。

 私の場合は……
 「……(パン)……『今度、こんな成績だったら、恥ずかしい
お浣腸も熱いお灸もお母さんにしてもらうからね』『はい、いい
です』……(パン)……『これから、毎日8時間の勉強だ』……
『えっ』『何がえっだ』…(パン)『いや、だめ、ごめんなさい。
やります、やります』…(パン)…『痛い!いや、もうしないで』
『最後に、今日からしばらくはお父さんと一緒のお布団に寝る事。
いいね』『はい、大丈夫です』」

 と、まあこんな感じでした。
 お尻を叩きながらの約束ですから、真摯なお約束ではないかも
しれませんが、家ではこれもお約束はお約束。お父さんとの約束
は守らなければなりませんでした。

 だって、守らないと、次はもっと厳しいお仕置きが待っていま
すから……

 「どうした、痛かったか?……ん?お父さん嫌いになったか?」

 お尻叩きのお仕置きが終わると、あたしは幼い頃と同じように
お父さんのお膝に馬乗りになって頭を撫でられていました。
 やっと開放されたばかりで、お尻はジンジン、頭は朦朧として
いましたが、幼い頃の昔に戻ったようで、お父さんの言いつけが
何でも素直に聞けるのです。

 もちろんお母さんとだって、お仕置きの後、甘えることはあり
ます。でも、お母さんってのは、あたしからみれば、お師匠さん
みたいな人ですからね、師匠と弟子みたいな関係です。ですから、
ここまで自分の心をとろけさすことはありません。

 すっかりネコちゃんみたいになったあたしは……
 『お父さんになら、もうちょっと厳しいお仕置きされてもいい
のかな』
 なんて、危険なことまで感じてしまうのでした。


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2/12 これって、手込めの成果?

2/12 これって、手込めの成果?

 ここではいつも、僕が『お母さんから赤ちゃん扱いされてた』
なんて書いてるもんだから、多くの人はきっと僕たちの母子関係
を『ラブラブだったんだ』なんて思ってるかもしれないけどね、
現実はそんなに甘くはなかった。

 とにかく、精神年齢12歳の少女が子供を育ててるわけだから、
本来、そこに無理があるわけで…この人、息子が自分の言う通り
にならないと、すぐに癇癪を起こすんだ。

 実際、よく叩かれた。まとまった形での『お仕置き』というの
は年に何回もなかったけど、頭を小突かれたり、手の甲や太股を
叩かれたりというのは毎日といってよかった。

 しかも、それに嫌な顔をすると……
 「何?その顔は?……あんたがいけないんでしょうが……」
 なんて言って、すごまれる。
 普段からとっても怖いのだ。

 ところが、これだって、『お仕置き』なのかもしれないけど、
僕たちの育った環境では、こんなのあまりに日常的すぎて小説の
ネタにはならない。

 こんな微細なことは、そもそも『何で怒られたのか』すら次の
瞬間には忘れてしまうほどささやかなエポックだからだ。
 むしろ、覚えているのはその後で……

 「ほらほら、そのくらいのことで泣かないの!男の子だろう!」
お顔拭いてあげるからおいで……」
 てなことから始まるお母さんの『よしよし抱っこ』以下が話の
中心になるのだ。

 結果、事情を知らない人からすると僕たち親子は『超ラブラブ、
甘やかし放題の変態親子』ってなことになるのかもしれないけど、
ぼくに言わせるとそこはちょっと違ってて……

 僕がお母さんに従順なのは、すでに幼児の段階で手込めにされ
てしまったからなんだ。
 動物の調教みたいなもので、いったん主従関係が成立してしま
うと、家来の方は、角突き合せるよりとにかく付き従ってる方が
楽なんで何でも反射的にそうしてしまうだけなんだ。

 小学校高学年時代、体育会系のお母さんは、すでに僕の勉強を
みる力はなかったし、体格でも僕が勝ってた。
 でも……

 「ほら、お仕置きするからパンツ脱いで!」

 なんて言われるとね。何のためらいもなくパンツを脱いじゃう
からね、不思議なんだよ。

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2/11 ゴミ屋敷

2/11 ゴミ屋敷

 *)Hありません。

 何度も言ってるから今さら耳にタコだろうけど、うちの母親は
家事が一切できない人だった。

 作れる料理はサンドイッチだけ。(これを料理と呼ぶかどうか
は疑問もあるが……)
 お裁縫も猫のアップリケをライオンさんにする不器用さ(これ
と同じCMが流れた時は大笑いした)
 どこかの会で、「掃除はやってた」なんて思わず言っちゃった
けど、これも正確じゃない。彼女の掃除というのはゴミ屋敷状態
になっている部屋の荷物をお客さんが来るので別の場所へ移すと
いう力仕事だけだからだ。

 雑巾がけとか掃除機でお掃除しているのはおばあちゃん(お手
伝いさん)。本人はそんな時間があったら昼寝している人だった。

 「ねえ、お母さんはお掃除しないの?」
 って言ったら…
 「いいの。それはおばあちゃんのお仕事だから」
 と言われて、その昼寝に付き合わされてしまった。

 いや、もちろんこれだってお父さんがもっとしっかりしていれ
ば問題ないわけで、あながち彼女のせいとばかりは言い切れない
んだけど、それにしても他のお母さんたちとは大違いの人だった。

 だから、いつもキレイにしているほかの子の家が羨ましかった。
僕の家でキレイな場所といったら店先だけ。ここは営業上やむを
得ず綺麗にしてあったけど、プライベートスペースはどこも今で
いうところのゴミ屋敷。
 おかげで友だちを呼ぶのがとっても恥ずかしかったんだ。

 でも、そんなお母さんでも、一応、見栄は張るんだよね。
 あれは担任の先生が初めて訪ねて来た時だったけど、そんな事
むこうは百も承知だと思うんだけど、恥ずかしいからって大量の
シーツを買ってきては近所の遊郭跡の看板に掛けちゃったんだ。

 うちは、もともと遊郭街の真ん中に店を構えてたから、その頃
はすでに売春防止法ができて非合法にはなっていたけど、名残の
看板がまだあちこちにあったんだ。
 それを、その時だけ白い布を掛けて隠そうというわけ……

 そんなことにだけには労を惜しまない人だったんだ。


*********************

2/10 お母さんの赤ちゃん(馬鹿馬鹿しい話)

2/10 お母さんの赤ちゃん(馬鹿馬鹿しい話)

 「坊やは、お母さんの何だっけ?」

 お母さんにこう質問されたら、僕は必ず…
 「お母さんの赤ちゃん」
 と、答えた。

 というより、こう答えなければならなかった。
 なぜなら、お母さんがこの答えを望んでいたから……

 もちろん実際の歳が赤ん坊や幼児ならそれも可愛いだろうけど、
うちの親子関係では、たとえ息子が10歳を過ぎてもこの会話は
成立していた。

 いくつになろうと、お母さんにとっての僕は、可愛くて従順な
赤ちゃんでなければならないのだ。

 それは何も言葉だけではない。

 一緒にお風呂に入れば、頼みもしないのにお母さんが僕の体を
隅から隅まで丹念に洗ってくれるし……食事をすれば、僕が吐き
出したお肉を箸で摘んでお口に入れて噛み噛みした後、再び僕の
口の中へ入れてくれたりもする。

 お母さんって、家事はしないけど、こういう事だけはまめなん
だよ。

 この人、十二歳の時に実母が亡くなって、その後きた継母さん
とはうまくいかず、思春期は心を閉ざしていたから、心の発達が
十二歳で止まっている節があるんだ。お人形さん遊びをしていた
女の子がそのまま大人になっちゃったみたいな感じで……
 きっと、僕は彼女のお人形さんだったんだろうね。

 今の人の感覚なら、「おぇ~~」ってなもんだろうけど、僕は
それを恥ずかしいとか、汚いなんて思ったことは一度もなかった。

 もし僕がこれを嫌がってたら、二人の関係はもっと早くに終わ
っていたかもしれないけど……あいにく、僕の方もこんなことが
嫌じゃなかったもので、小学校時代はずっとこんな感じが続いた
んだ。

 これだけじゃないよ。僕は、お風呂で用を足したくてオマルを
お風呂場に持ち込んでいたし、口の中に入れられたスープをほん
の少し唇の周りに戻すなんてのも得意だった。

 いずれも、お母さんが、四つん這いになった僕のお尻を拭いて
くれたり、唇の周りについた食べ残しを舐めてくれたりするのを
期待してやってたんだ。

 「学校では、ちゃんと、おトイレ使えてるの?」
 「ちゃんとやってる」

 「給食の時、お口にミルクの残りがついていたらみっともない
わよ」
 「うん、大丈夫」

 『おいおい、僕を誰だと思ってるんだい。お母さんはお外では
散々僕のことを自慢してるじゃないか。その僕が、学校でそんな
無様なことするわけないだろう。これはあくまでここだけの事に
決まってるじゃないか。わかってるのかなあ』
 そんなことを頭の隅で思いながらも、僕はお母さんには可愛く
受け答えする。

 それが、僕たち親子の睦み事だからだ。

 当然だけど、夜は夜で一緒のお布団に寝るよ。
 僕はお母さんのオッパイを舐め舐め、頭を撫で撫でしてもらい
ながら、絵本を読んでもらったり、子守唄を聞いて寝るんだ。
 夜は、心も身体も完全に赤ちゃん仕様だったってわけ。

 「坊や、坊やはお母さんの赤ちゃんなの。だから、お母さんの
愛のお外には出られないのよ」

 「愛のお外?……それってお布団の外?」

 「場所じゃないわ。……お母さんのお言いつけを守っていれば、
たとえ地球の裏側にいてもあなたは私の愛の中だし、お母さんの
お言いつけが守れないなら、同じお布団で寝ていても、それは、
愛のお外なの。……わかった?」

 「ふ~~ん、僕、これからもずっと、お母さんのお言いつけを
守っていい子でいるよ」

 「そうなの。ありがとう。その言葉がお母さん一番嬉しいわ。
やっぱり、あなたは私の赤ちゃん。大事に育てた甲斐があったわ。
いつまでもお母さんの愛の中で幸せ幸せにしてましょうね」

 「うん大丈夫だよ、僕、お母さんの愛のお外には行かないから」

 いつも、だいたいこんな会話をしていた。

 一日が終わってお布団の中に入ると、毎日毎日同じ言葉の繰り
返し。たとえお仕置きのあった日でも、僕たち親子はこうやって
同じ会話を繰り返してたんだ。

 『馬鹿だろう』
 やってた小学生当時だって、僕、そう思ってたもん。

 でもね……こうやってると、不思議と今の幸せを実感できて、
心地よい眠りに着くことができたんだよ。

**************************

2/8 成功しかしない時代

2/8 成功しかしない時代

*)エッセイ

 人間誰しも多くの失敗を重ねて栄冠を掴み取るものなんだろう
けど、その為にはまず事前にやっておかなければならないことが
あるように思うんだ。

 それは……
 『やれば必ず出来る』という確信。

 こんなこと言うと、多くの人が……
 『えっ?そんなことないよ。やれるかどうか不安だったけど、
やり遂げたってケースも多いだろう』
 って、言うかもしれない。

 だけど、それはあくまで成長してからのお話だろう。
 僕が言いたいのは『その前があるだろう』って言いたいんだ。

 つまり、赤ちゃん時代。

 今は、赤ちゃんといえど、何でもかんでもべたべたと接しない
のかもしれないけど、僕が赤ちゃんの頃の親ときたら赤ちゃんを
まるで神様みたいに扱っていて、赤ちゃんがどんな事をしようと、
およそ叱るということをしなかったんだ。

 笑った………………(あら~ご機嫌ね、楽しいね)…よしよし
 泣いた………………(おやおや、どうしたのかな?)よしよし
 怒った………………(おやおや、ご機嫌ななめね)…よしよし
 ミルクを飲んだ……(わあ~たくさん飲めたのね)…よしよし
 おっぱい噛んだ……(お~~強い強い)………………よしよし
 ミルクを吐いた……(もう、お腹いっぱいかな?)…よしよし
 オムツが濡れた……(わあ~ちっち替えようね)……よしよし
 たっちした…………(わあ~上手、上手、頑張れ~)よしよし
 尻餅ついた…………(あらあら、大丈夫?)…………よしよし
 障子を破いた………(あら~~破けちゃったあ)……よしよし
 とにかく赤ちゃんが何をやってもやらかしても親は常に笑顔で
だっこして、「よしよし」としか言わなかった。

 赤ちゃんがやったことは、それがどんな結果になろうと、親が
すべてを受け留め、最大限その希望を叶えてやろうとするから、
赤ちゃんというのは何をやっても褒められるし、決して失敗する
事のない王様だったんだ。

 僕は、この体験が大事だと思ってるんだよ。

 人は心が無垢なこの時代にバラ色の世界を経験しているから、
その後いくら失敗しても『いつかは成功するんじゃないか』って
希望を持ち続けられるんじゃないだろうかってね。

 『三つ子の魂百までも』っていうじゃないか。

 そして、そうやって成功の希望を持ち続けられることが、偉大
な発明や発見にも繋がってくるわけだし、赤ちゃん時代は全てが
成功する夢の中にあってもいいんじゃないのかな。

**************************

2/6 桃子(遅い公園デビュー)

2/6 桃子(遅い公園デビュー)

 *)Hなしの作品です。

 私の育った家は、桃の畑を抜けて蜜柑山を上った中腹にありま
した。南斜面を平らな土地にして建てたお家は、麓から見上げる
と、どこかお城のようなので、近所の人たちからは冷やかし半分
に花井城なんて呼ばれていました。

 もちろん私の家はそんな大きなサイズではありませんが、田舎
のことですから部屋数だけは多くて、末っ子の私にも小学校に上
がる頃には勉強部屋が一つ割り当てられていました。

 南向きの崖に突き出すように配置された私の部屋は四畳半ほど。
ベッドと本棚と勉強机が運び込まれると、それで部屋が埋まって
しまいますから、何をやるにもいつもベッドの上が遊び場でした。

 でも幼い私にはそれで十分だったように思います。日当たりが
よく、お昼寝には最適な場所(夜はお母さんと一緒に寝ますから
使いません)ですし、窓を開ければ麓に広がる村の景色がいつも
輝いて見えます。

 とりわけ、この部屋から一番近い処にあるお家には、昼下がり
子供たちがいつも出入りしているのが見えますから、私も、一度
あそこへ行ってみたいと思っていたのです。

 ところが、身体の弱かった私はそれまで入退院の繰り返しで、
日頃、母からは一人での外出を許してもらえませんでした。
 駄菓子屋さんもいつも眺めるだけの存在だったのです。

 そんなある日のことです。従兄弟のひとり、一馬お兄ちゃんが
遊びに来たのです。

 一馬お兄ちゃんは当時まだ五年生でしたが、おやつの時間に、
そのお膝の上にのんのすると、そこはまるでお父様のお膝のよう
に大きくてびっくりしました。

 一方、私の方はというと、当時すでに一年生でしたが、身体も
小さく華奢で、誰かに抱かれると、まだ反射的に赤ちゃんと同じ
ように甘えることしかできませんでした。

 「叔母さん、下の駄菓子屋へ行って来ていいですか?」
 一馬お兄ちゃんがお願いすると、お母さんの許可が出ます。

 すると、お兄ちゃんが……
 「桃ちゃんも一緒に行こうか」
 と言うので……
 「私も行く……」
 と言ってみたのです。

 私は『ダメかな』と思っていたのですが、意外にも……
 「あら、桃も一緒に行くの。……いいけど……でも、あそこの
お菓子は食べちゃだめよ。あなた、ああいう物を食べるとすぐに
蕁麻疹がでるんだから……カズちゃん、この子にはああいった店
で売ってるお菓子は絶対に与えないでね」

 お母さんはとっても意地悪に釘を刺すのでした。

 私はお兄ちゃんと二人で坂を下りて行きます。子どもの足です
から10分くらいかかったでしょうか。駄菓子屋さんの中は大勢
の子供たちでごった返していました。

 「おや、見かけない子だね」
 割烹着を着た身体の大きなおばさんが一馬お兄ちゃんに向って
さっそく声をかけてきます。

 「叔母さんちに遊びに来たんで、ついでに寄ったの。普段は、
じぶんちのお店に行くから……」

 「何だ、後ろに誰か隠れてるね。妹さんかい」
 おばさんの声が聞こえます。

 私はそのお兄ちゃんの背中で小さくなっていましたが、その声
につられて顔だけ出してみます。
 すると、おばさんは私の顔をまじまじと眺めてから……

 「お譲ちゃん、お名前は?」

 「私の名前は花井桃子」

 「なんだ、やっぱり桃ちゃんか。大きくなったね。おばさんが
前に見た時は、まだ本当の赤ちゃんだったけど……」

 私のこと、このおばさんは何だか知ってるみたいでしたけど、
私はこのおばさんを見たことがありませんでした。

 「ほら、桃ちゃん、何にする?」
 一馬お兄ちゃんがいきなり私の手を引きます。
 それにつられておばさんから視線を下に移すと、そこには広い
広い台の上に処狭しとお菓子が並んでいました。

 ところが……
 「???????」
 私は首を傾げます。

 というのも、私はそれまでこんな御菓子を食べた記憶がありま
せんでした。
 私がイメージする御菓子というのは、お皿の上や缶に入った物
です。私は、普段、大人たちが三時に頂くのと同じものを一緒に
食べていましたから、駄菓子屋さんの店先に並んでいたものは、
だいぶ様子が違っていたのでした。

 迷っているというより、困っていると……
 「じゃあ、これにしな」
 お兄ちゃんが選んでくれました。

 お兄ちゃんは、大きなビニール袋を鷲づかみにして私の目の前
まで持ってきます。
 それは、大小さまざま、色とりどりの三角錐の飴の袋でした。

 「キレイだね」
 そのカラフルな飴は一つ一つに細い紐が着いていて袋の出口で
まとめられています。

 「どれでもいいから、一本だけ紐を引っ張るんだ。動いたやつ
がもらえるからね」
 お兄ちゃんの指示に従って、私はわけも分からず白い紐を一本
引っ張ります。

 すると、袋の中で飴の一つがほんの少しだけ動きました。
 「わあ、大きいのが当たったね。よかったね」
 おばさんがその当たった飴を袋から取り出して私の口に入れて
くれます。

 「!!!」
 それは口を一杯に開かないと入らない大きさの飴でした。
 おまけに、長い紐はそのまま飴に着いていますから、細い紐が
お口から出て私のお臍のあたりまで垂れています。

 そんな不恰好な私の頭におばさんがリボンを結んでくれました。

 「えっ、そんなの買ってないよ」
 お兄ちゃんが言うと……
 「サービスだよ。せっかく桃ちゃんが来てくれたんだから……
これから大事なお客さんなんだし……また、おいで」
 おばさんは笑顔で二人を送り出してくれました。

 私はお兄ちゃんに手を引かれ、息も出来ないほどの大きな飴を
口の中で転がす、というよりもてあましながら、公園へとやって
きます。

 「あれ、何してるの?」
 「野球だよ」
 石のベンチに二人して腰を下ろすと……しばし、男の子たちが
やっている野球見物です。

 「楽しそうだね」
 野球と言っても少年野球のような正規のものではありません。
使っているのゴムボール、バットはその辺に落ちている棒切れを
拾ってきての草野球です。
 私だってルールなんて知りませんけど、そんなこと女の子には
関係ありませんでした。男の子たちの明るい掛け声を聞いている
だけで何だか私までもが幸せのシャワーを浴びてるみたいだった
のです。

 と、ここで、私は先ほど口の中に入れてもらった飴を紐を引っ
張って取り出します。

 「どうしたの?」
 「お兄ちゃんにあげる」
 こう言って紐付きの赤い飴を渡しますから、お兄ちゃんが口の
中に入れてしまいます。

 すると、不思議なもので、その飴がまた欲しくなります。
 「…………」
 じいっ~と見ていて、お兄ちゃんの袖をひくと、お兄ちゃんは
私の気持が分かったみたいで、また、その紐付きの飴を私の口に
戻してくれました。

 そして、再び、私はその飴をお兄ちゃんに上げて……
 またすぐに私の口に戻して……
 そんなことを数回繰り返すうちに飴はなくなってしまいました
が、お兄ちゃんとの幸せな時間は残ったみたいでした。

 その後しばらくは一馬お兄ちゃんのお膝にのんのしてぼんやり
と公園を眺めて過ごします。
 公園の中では、ゴザの上で女の子がオママゴトをしていたり、
乳母車を押したお母さんたちが立ち話をしていたり、ブランコも、
シーソーも、滑り台も、みんなみんな子供たちの声の中にありま
す。

 そんなお昼寝しそうなのどかな昼下がりに、突然、拍子木の音
が響き渡って目が覚めました。

 見ると、一人のおじさんが拍子木を打ち鳴らしながら公園の中
を回っています。
 「何してるの?」
 「紙芝居が始まるんだよ。……ほら、あそこにある自転車……
あの周りにみんな集まってるだろう。あそこでやるんだ」
 「紙芝居?……桃も見に行きたい」

 こうして、二人は紙芝居屋さんの自転車が置いてある場所へと
やってきます。
 「ただ見してもいいけど、一応、水あめ買おうか」
 お兄ちゃんはこう言うと私に十円玉を二枚手渡します。
 「これ、おじちゃんに渡して……」

 私は、突然のお遣いに戸惑いましたが、わけも分からずそれを
おじちゃんの皺枯れた手の中に入れてみました。

 すると、皺くちゃの帽子を被ったおじちゃんが……
 「二人分だね」
 そう言って水あめのついた薄いせんべいを二枚渡してくれたの
です。

 「ありがとう」
 私はおじちゃんにお礼を言いましたが……実は、これも最初は
渡された物が食べ物だなんて思っていませんでした。

 ただ、これって、私にとってはとてもすばらしい出来事でした。
 というのも、これって私にとっては人生最初のお買い物だった
のですから。

 お金を払って、品物を手に入れる。
 当たり前の事のようですが、その当たり前を私はこれまで一度
もしたことがなかったのです。

 結局、水飴のついたおせんべいは知らない子にあげて、紙芝居
はお兄ちゃんにおんぶしてもらって後ろの方で見ました。
 劇画調の毒々しい絵は、当時の私にはあまり肌合いが合わない
ものだったので、すぐに視線をお兄ちゃんのうなじに移して寝て
しまいます。

 すると、突然身体が持ち上がったみたいなので眠い目を開けて
みると、私の身体はお父さんの胸の中にあります。

 帰りはお父さんの背中に張り付いて坂を上って行きます。
 「一馬君、ごめんね。桃のお守りなんかさせてしまって……」
 「いいんです。僕の処にも妹がいますから」
 そんな二人の会話が耳に入りました。

 いずれにしても、私にとってその日はそれはそれは幸せな一日。
忘れられない公園デビューの一日でした。
 一馬お兄ちゃん、ありがとうね。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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