2ntブログ

Entries

真理子のお仕置き

      真理子のお仕置き(上)
                 ~ ある朝の出来事 ~


 哲哉は兄弟の中で最後まで寝ていた。
 論文の執筆に時間を取られ寝たのが明け方だったのだ。
 その彼が周囲の喧騒で仕方なく目を開けると……

 『ん?何だこりゃ?』
 寝ぼけ眼に奇妙な人影らしきものが見える。
 誰かが寝ている自分の目の前に立っているみたいだ。
 焦点も合わないまましばしそれを見ていると……

 『わっ、やめろ、バカ』
 いきなり生暖かい水をかけられた。

 『わあっ、何するんだお前!!』
 こりゃあ、温厚な哲哉でなくても怒るかもしれない。
 だって、哲哉の頭を挟みつけるように立つ全裸のその子は彼が
目覚めたことを確認するや、いきなり放尿してきたのだ。

 起きた早々異常事態だった。
 慌てた哲哉はすぐさま三歳のミミの両脇を鷲づかみにして起き
上がる。

 「ミミ、ここはトイレじゃないんだぞ!!」
 哲哉が恐い顔を作って叱ったが、ミミは笑顔のまま。
 「知ってる」
 そう答えた顔も悪びれてる様子はなかった。

 「じゃあ、どうしてこんなことするんだ?」

 「だって、健太兄ちゃんもやってる」

 そう言われて気がついたのだが、6歳の健太までが立ったまま
パジャマから小さいのを出しては自分の腰の辺りへ放物線を描い
ている。

 「こら、健太!!!」

 さすがに大声が恐かったのか健太の放物線は一瞬で引っ込んだ
が、こちらも顔は笑顔、悪びれている様子など微塵もなかった。
 きっと彼らにしたら、こんなことは目覚まし代わりのちょっと
した悪戯ということのようだ。

 哲哉の大声に異変を感じたのだろう。台所から高校生の佳苗が
顔を出す。

 「……?……」
 彼女、しばし部屋の様子を観察していたが……

 「哲哉、いい歳して、おねしょなんて恥ずかしいわよ」
 と、こちらも笑顔で語りかけた。

 「何言ってるんだ!!お前、一番上の姉ちゃんだろう。何とか
しろよ!!」
 哲哉は大声を上げたが……
 「最後まで寝てる方が悪いのよ。私はチビたちのお弁当作りで
忙しいの。自分でやった不始末は自分で処理しなさいってのが、
亡くなった父ちゃんの言いつけなのよ。……ごめんね~~」

 佳苗は薄情にも台所へ戻っていく。
 「お前のところでは、いったいどんな仕付けしてるんだよ!」
 哲哉は憤懣やる方ない様子で台所へ帰る佳苗に罵声を浴びせた
が……確かにこの場合、相手が幼い子供たち、どうしようもない。

 実は、同じ屋根の下で暮らす兄弟と言っても、哲哉を除く四人
の子供たちは彼の父が再婚した相手、富子の連れ子だった。
 それでも普段ならまだ富子がいるから幼い子の暴走ににらみを
きかすこともできるのだが、ここ数日は、大人二人がハネムーン
に出ていて留守なのだ。

 その間は、大学生の哲哉と高校生の佳苗がボスとなって小さな
子供達をまとめていかなければならなかった。

 「いいかいミミ。お前は女の子なんだから、あんなことしちゃ
だめだよ」

 「あんなことって?」

 「寝てる人の顔にオシッコなんか掛けちゃいけないってこと。
あんなことすると、大事な処が全部丸見えになっちゃうぞ」

 「大事な処?」

 「そう、大事な処だ」
 哲哉はそう言いながら、ミミのお股をタオルで綺麗にしてやる。

 「お兄ちゃん、見たいの?」
 「見たくありません!」
 「だって、真理子お姉ちゃんが、男の子はみんな女の子のお股
が見たいって……」

 『やっぱり、黒幕はあいつか』
 哲哉は殺気を感じて僅かに開けられた襖に目をやる。
 すると、そこにはこの部屋を覗く人影が……

 『ヤバイ』
 と思ったのだろう、人影はさっとその場を離れるが、哲哉にし
ても佳苗にしても、今回の首謀者が誰かは分かっていた。

 真理子、11歳。
 肩まで伸ばしたワンレンのストレートヘアが自慢で、ことある
ごとに弟の健太や妹のミミをそそのかしては悪戯を仕掛けてくる。
もちろん、そのことは長女の佳苗も知っていたから、哲哉が寝床
て大声を上げたときも、黒幕は誰かすぐに分かっていたが、朝は
彼女にとっても忙しい時だから、あえて相手にしなかったのだ。

 その後、哲哉と佳苗は、自分たちのお父さんやお母さんと同じ
仕事をする。

 哲哉は素っ裸でいるミミに幼稚園の通園服を着せ、顔を洗い、
朝食の席では膝に抱いて一緒に食事をする。
 佳苗も食事のあとは健太や真理子のランドセルの中身を確認、
忘れ物がないかチェックしたり、妹や弟たちの身なりを整えたり
とこちらもお父さんお母さんの代わりだから双方朝は忙しいのだ。

 しかし、二人にとってお父さんお母さん代わりなのはこれだけ
でなかった。

 準備が整った健太が先に「行って来ます」と言って佳苗の目の
前を通過したその瞬間だった……

 「お待ち!」
 佳苗が機敏な動作で逃げようとする健太のランドセルを上から
鷲づかみにして引っぱる。

 「わあ!」
 健太は簡単に尻餅をついた。
 ランドセルを背負ってると、これがウイークポイントだ。

 「何するんだよ。学校行かないと遅刻しちゃうだろう」
 転んだ健太は不満を口にしたが、佳苗だって、もちろん戯れで
こんなことはしない。

 「あんた、何か忘れてない?」

 「何かって……?」

 「あんた、哲哉お兄ちゃまのお布団にオシッコして、それで、
何もしないでこの家を出られるとでも思ってるの?」

 「えっ!?」
 健太は青くなる。ことの良し悪しは別にしても佳苗姉ちゃんが
怒っているという現実は、たとえ一年坊主だってわかるのだ。

 「だって、あれは……真理子姉ちゃんが『哲哉兄ちゃんにこの
家で大きな顔されないように、最初に何かぎゃふんと言わせた方
がいい』って言うから……」
 もじもじとした様子で健太は事情を話した。

 実は、健太。このことは他言しないと、真理子姉ちゃんと固く
約束していたはずだったのだが、佳苗お姉ちゃんに凄まれると、
あっさり口を割ってしまう。

 「あっ、そう……あなたたち……哲哉お兄ちゃんをぎゃふんと
言わせたかったんだ」
 健太のおかげで、厳しい視線が次は真理子に向くことになった。

 「真理、……あなた、哲哉お兄ちゃんが嫌いなの?」

 「……そういうわけじゃあ……」
 真理子は下を向き、ぼそぼそと申し訳なさそうに答える。

 「まあ、いいわ。……」
 佳苗姉ちゃんは一つため息をつくと、視線を再び健太へ……

 「あんた……いくら一年生でも……哲哉お兄ちゃんのお布団に
オシッコすることがいけないことだってことぐらいは分かるわよ
ね」

 「…………」
 あらためて佳苗姉ちゃんに凄まれると健太はもう答えない。

 正直に答えてしまうと、そんなに悪い事とは思っていないのだ。
だって兄弟みんなのために真理子姉ちゃんがやろうと言ったこと
なんだから……

 ただ、普段は早口の佳苗お姉ちゃんが、それを封印して噛んで
含めるように自分に話していることで『これはまずいことなんだ』
と分かったみたいだった。
 だから、弱々しく「はい」とだけ答えたのである。

 「こんなこと放っておけないもの。お義父様に申し訳ないし…
…お母さんに知れたら、お灸ものよ」

 「エッ!!」
 健太はお灸という言葉に思わず顔をあげて驚く。

 「それが嫌だったら、学校に行く前に私からのお仕置きを受け
てもらうからね」

 「えっ、姉ちゃんから……」

 「そうよ、どうする?このままじゃ、あんたお母さんからまた
チンチン焼かれるよ。……その方がいいの?」

 小一の健太から見れば佳苗お姉ちゃんは大人も同じ。
 そのお姉ちゃんの威しだから効果がないわけがなかった。

 「ごめんなさい」
 健太は謝っただけだが、これが佳苗お姉ちゃんからのお仕置き
を承諾した証しだったのである。

 「分かったんなら、そこの鏡台の椅子に両手を着きなさい」
 佳苗姉ちゃんは凛とした態度で命じる。

 いや、佳苗お姉ちゃんだってほんの数年前までは、同じ姿勢で
お母さんからお尻をピシピシやられていた身なのだが、ここでは、
そんな弱さは微塵も見せなかった。

 かえって、いつからそこにいたのか、哲哉兄ちゃんが割り込ん
で来て……
 「いいよ。僕のことだったら……もう、何とも思ってないから」
 と、とりなしてくれたのである。

 ただ、それにも……
 「いいの。これは、うちの問題だから……厳しくする時はしと
かないと、示しがつかないわ」

 佳苗お姉ちゃんはこれも拒否したのである。

 「さあ、真理!ぼさっとしてないで、あなたも手伝いなさいよ。
健太の両手を押さえるの」

 佳苗お姉ちゃんは、もう完全にお母さんの代わりを務めていた。

 「……!……」
 背もたれのない鏡台用の椅子に両手を着いた健太の半ズボンと
パンツを一緒に脱がせると、お母さん愛用の三尺物差しを持って
構える。

 「しっかり、数を数えるの。……わかった?」
 佳苗お姉ちゃんは我が家の流儀に従ってそう命じる。
 そして、自分だって散々お世話になったそれで、「ピシャ」と
最初の一打を繰り出したのだ。

 「ひとつ」
 健太の声がすでに震えている。
 もちろん佳苗お姉ちゃんは十分に手加減しているのだが、痛さ
より恐さが先に立って健太は震えていたのである。

 「ピシャ」
 「ふたあつ」

 「ピシャ」
 「みっつ……」
 たった三つで健太の数を数える声は泣き声になっていた。

 でも、お仕置きはこれからだ。

 「ピシャ」
 「よっつ……」

 「ピシャ」
 「いつつ……」

 溢れ出た涙が頬を伝い、少しだけ赤くなったお尻の反対側では
可愛いおチンチンが一緒になって震えている。

 「ピシャ」
 「むっつ……」

 「ピシャ」
 「ななつ……」

 お尻がほどよいピンク色に染まり鳥肌がたっているのがわかる。
 端から見れば可哀想な姿だが、佳苗お姉ちゃんは心を鬼にして
こう叫ぶのだ。

 「ほら、声が小さくて聞こえない。もう一度、七つからよ」

 「ピシッ」
 「ななつ……」

 「ピシッ」
 「やっつ……」

 嗚咽が止まらなくなった健太は真理子姉ちゃんに両手を押さえ
られているため、涙を拭くこともできなかった。

 「鞭の一つ一つを『ごめんなさい』っていう気持で受けるの。
……わかった?」

 「はい」

 「声が小さい!もっと大きな声で!」

 「はい、わかりました」

 「よし、じゃあしっかり構えて……」

 「ピシッ」
 「ここのつ……」

 「ピシッ」
 「とう……」

 「いいこと、あんたのやったことは本来ならお灸にあたいする
の。このくらいじゃ足りないのよ。わかってる!」

 「はい」

 「よし、じゃあ最後はしっかり歯を食いしばって……いくわよ」

 「ピシッ!」
 「痛い!!ごめんなさい、もうしません。あああああ……」
 健太はこのお仕置き一番の鞭を受けて泣き叫び地団太を踏む。
 そして、それが終わってから思い出したように……
 「じゅういち」
 と数をかぞえるのだ。

 「ピシッ!」
 「いやあ~~もうしないで~~ごめんなさい。……じゅうに」

 十二も十一と同じ。でも、これで許されたのである。

 佳苗お姉ちゃんは健太の身なりを整えると涙を拭き鼻をかんで
学校に送り出す。
 当然、真理子だって健太と同じ小学校なのだから一緒にに家を
出ようとしたのだが……

 「あなたはまだ家を出ちゃだめよ。ミミを通園バスに乗せたら、
あらためてお話があります」
 と、佳苗お姉ちゃんに宣言されてしまったのだ。

 実は、この佳苗お姉ちゃん、お母さんが再婚する前から、妹や
弟たちが悪さをした時のために日頃から懲罰権を与えられていた
のである。

 それがどんなに恐いかを知っていた真理子は逃げられなかった。
もし、佳苗お姉ちゃんに逆らうと、それをお母さんに告げ口され、
今度はお母さんと二人がかりでのお仕置きを食うことに……
 それはさすがに彼女としても避けたかったのだ。

 自分の部屋で正座して待っていると、佳苗お姉ちゃんがやって
来た。

 「あんた、相変わらずね」
 「何が?」
 「何がじゃないでしょう。健太やミミをたきつけてあんなこと
させて……」
 「あたし、やってないよ」
 「だから、そこがいけないんでしょう。自分は手を汚さないで
人を使って悪ささせて……ま、あんたのことだから……二人に、
『哲哉さんのお布団でオシッコしたら哲哉さんが自分でやったと
勘違いして大慌てするわよ』ぐらいのこと言ったんでしょう?」

 「…………」
 真理子は答えなかったが、その時、彼女の顔色が変わったので
有罪が確定する。女の子の裁判では顔色だって立派な証拠、物証
はいらなかった。

 「ほら、ごらんなさい、やっぱり黒幕はあなたなんだから……
あなたのやってることは、哲哉お兄様やお義父様だけでじゃない、
何よりお母さんに恥をかかせてるのよ」

 「ごめんなさい」

 真理子はペコリと頭を下げて謝りはしたものの佳苗お姉ちゃん
にしてみれば、下げた頭より尖った口の方が気になるのだ。

 「まったく反省してないみたいね」

 「え~そんなことないよ」
 真理子は口を尖らせたまま反論したが……

 「あんたの顔は反省してるって顔じゃないわね。そんな顔で、
いくら『反省してます』なんて言っても誰も信じないわよ。……
仕方ないね、反省できないんじゃあ……こういう時は、お仕置き
しかないわね」

 「え~~やだあ~~~」

 「イヤじゃないでしょう。あんたが悪いんだから……頭で覚え
られない子はお尻で覚えるしかないじゃない」

 「いやよ。だって、ここには哲哉兄さんもいるのよ」

 「そうよ、だからいいんじゃない。『うちは、昔からこんなに
厳しく仕付けてます』というのを見てもらわないと、山猿ばかり
四人も連れて来たなんてお義父様に言われたら、お母さんだって
立つ瀬がないわ」

 「えっ……だって……」
 真理子は不承知でしたが、佳苗お姉ちゃんの厳とした物言いに
反論できません。結局……

 「さあ、もういいから、学校行きなさい」
 と、今度は家を追い出されてしまったのでした。


***********(上)*************


***********(中)*************

      真理子のお仕置き(中)
                 ~ ある夕方の出来事 ~

 午後3時半、真理子はルンルン気分で家に帰ってきます。

 『そうか、お仕置き、許されたんだ』
 もし、そう思った方がいたら、大変な勘違いです。

 彼女がルンルンなのは単純に学校が楽しかったから。
 朝のお仕置きの話なんてその頃にはすっかり忘れていました。

 そもそも小学生というのは、そんなネガティブな情報を長い間
覚えている能力がありません。学校の授業、友達とのおしゃべり、
給食、体育……ちょっとでも楽しいことがあれば、そちらに気を
取られて自分の都合の悪いことなんてすぐに忘れてしまいます。
 とても幸せな人生なんです。

 ですから、帰宅してすぐ、ランドセルを放り出してまた遊びに
出かけたとしても、その際、哲哉お兄ちゃんが「佳苗お姉ちゃん
がお部屋で待ってなさいって言ってたよ」と伝言したとしても、
聞いてるはずがありませんでした。

 結局、真理子ちゃんは夕方遅く、いつものようにもうそろそろ
夕飯ができてる頃だという時間になって帰って来ます。

 「お姉ちゃん、ただいま~~~おう、やったあカレーじゃん」
 真理子ちゃんは台所へ顔を出すと、すでに帰宅していた佳苗お
姉ちゃんともまるで何事もなかったかのように挨拶をします。
 もちろんその顔は何か心配事を抱えているようではありません
でした。

 また、お姉ちゃんの方も……
 「真理、先に健太と一緒にお風呂にに入っちゃって……」
 「いやだ……」
 「どうして?」
 「だって、健太の奴、私の身体ジロジロ見るんだもん。恥ずか
しくて……」
 「何言ってるの、二人ともまだ子どものくせに……いいこと、
あんたがお姉ちゃんなんだから、お風呂で健太の身体もちゃんと
洗ってあげるのよ」

 そんなお姉ちゃんとのやり取りはごく自然な日常会話。
 真理子ちゃんとしては佳苗お姉ちゃんが朝の出来事をまだ引き
ずっていようとは夢にも思っていませんでした。


 やがて、夕食。
 ここでもミミは哲哉が自分の膝の上に乗せて食事をさせますが、
健太と真理子は佳苗お姉ちゃんの作ったカレーを頬張ります。
 そして、お皿にカレーが無くなると、自分でごはんをよそいに
行き、大なべで煮込まれたカレーをかけて戻ってきす。
 これもごく自然な日常の風景でした。

 ただ、その夕食が終わったあとが、普段の日とは違っていたの
です。

 「ごちそうさま~」
 真理子ちゃんはそう言って席を立ったのですが……

 「真理子、ちょっと待って」
 「……ん?……何?」
 「あなた、何か忘れてない?」
 「何かって?」
 「私、あなたに、朝、お仕置きするって言わなかった?」

 「えっ!」
 真理子ちゃんはここでやっと朝の出来事を思い出したのでした。

 ただ、それって小学生にとってはあまりに古い情報でしたから
……
 「何だ、そのことか。お姉ちゃん、そんなことまだ根に持って
たの」
 と、笑って返したのです。

 「『根に持ってる』って何よ。それじゃ、まるで私が悪いみた
いじゃないの」

 「そういう訳じゃないけど……だって、あれは朝の話だから」
 真理子ちゃんのような小学生にとって朝と夕方は大人の感じる
半日ではありません。大人なら一週間くらいの長さになります。

 ですから、真理子ちゃんにしてみたらそれってすっかり過去の
出来事だったのでした。

 でも、高校生になった佳苗お姉ちゃんは大人に近いですから、
そうはいきません。
 朝の出来事は夕方にだって当然有効ですし、真理子の言動は、
お仕置きを逃げようとして誤魔化してるとしか映りませんでした。

 そこで……
 「真理、宿題がすんだら、私の部屋へいらっしゃい。ぐずぐす
してると、8時を過ぎたら私の方からあなたの部屋行くからそれ
までに済ましちゃいなさいよ」

 「えっ、そんなのないよ~~」
 急に真理子の泣きが入りますが……
 「何言ってるの!朝、お仕置きだって言ったでしょう。忘れた
の?」

 「だって……」
 真理子は不満そうでしたが……
 「あなたもお母さんと約束したわよね。お母さんがいない時は
私の指示に従います。お仕置きも受けますって……」

 「そりゃあ、そうだけど……宿題、たくさんあるし……」
 真理子が歯切れ悪そうに弁明しても、事態はよくなりませんで
した。

 「そんなの関係ないわ。だったら学校から帰って友だちと遊び
に出なければいいでしょう。こっちはそんなこと知らないわ。…
…とにかく、8時までに私の部屋に来ない時はこっちから出向き
ます。いいですね!!」
 佳苗おねえちゃんに強い調子で宣言されちゃいましたからね、
真理子ちゃんとしても、もうどうにもなりませんでした。


 「真理、宿題終わった?……たとえ終わって無くても、すでに
タイムアップよ」
 健太君とミミちゃんを寝かしつけたあと、佳苗お姉ちゃんが、
そう言って自分の部屋へと入ってきます。

 「どうなの?宿題は終わったの?」
 「まだ……」
 「そう、それは残念ね。でも、それは明日、学校でお仕置きを
受ければいいわ。今日の事は今日済ましちゃいましょう」

 「そんなあ~無茶言わないでよ」
 真理子ちゃんは泣き出しそうな顔をしますが……
 「真理、あんたわかってないみたいね。今日は、あんたの宿題
よりこっちの方が大事なの」
 佳苗お姉ちゃんはゆずりません。

 『ヤバっ!お姉ちゃん怒ってる』
 真理子ちゃんは、ベッド上に腰を下ろして膝を叩いてみせる姉
に殺気のようなものを感じてたじろぎます。お互い姉妹ですから、
そのあたりは敏感に感じ取ることができるのでした。

 これって死刑執行の時間ということでしょうか……

 もちろん、そんなの嫌に決まってます。でも、真理子ちゃんは
魅入られたように姉の膝までやってきます。
 幼い時から親代わりだった姉ですからそこに理屈はありません
でした。

 「さあ、おいで!」
 佳苗お姉ちゃんが今まで以上に強く膝を叩くと、それに驚いた
ように真理子ちゃんがうつぶせになります。

 スカートが捲られ、白い綿のショーツが顔を出すと……まずは
それを標的にして平手が飛びます。

 もちろん、ミミちゃんや健太君と同じ様に手加減はしています。
していますが、真理子ちゃんはその子達より年長ですから歳相応
の強さです。

 「いやあ、痛い、もっとやさしくやってよ」
 いきなり愚痴がでます。

 「何言ってるの、痛くないお仕置きがありますか!それじゃあ
お仕置きにならないでしょう!」
 佳苗お姉ちゃんはそう言うと、手首のスナップを効かせ、一層
強く真理子ちゃんのお尻を跳ね上げます。

 「ピシッ」
 「いやあ~~」

 佳苗お姉ちゃんの平手の音と真理子ちゃんの悲鳴が静かな家の
中に木霊しました。もし、健太君やミミちゃんが起きていたら、
きっと聞こえていたことでしょう。

 ただ、それを聞いた人がいました。
 その瞬間、玄関に立っていた哲哉お兄ちゃんです。

 哲哉お兄ちゃんは大学のゼミを終えてちょうど帰宅したところ
だったのです。

 一発だけじゃありません。続けざまに……

 「ピシッ」
 「いやあ、だめえ~~やめて~~~」

 「何言ってるの、コレくらいのことで……」
 「ピシッ」
 「だから、もっとやさしくって言ってるでしょう」

 「できません。そんなこと……」
 「ピシッ」
 「いやあ~~人殺し~~~」

 「やあね、この子。変なこと言わないでよ。ご近所に聞かれた
らどうするの。大きな身体して堪え性がないんだから……」
 「ピシッ」
 「どうもしないわよ。人殺し~~って叫ぶだけなんだから……
みんなに聞こえてもいいもん」

 「口の減らない子ね。だったら、黙らせてあげる」
 佳苗お姉ちゃんはそう言うと、それまでとは比べ物にならない
くらい強いやつを一発お見舞いします。
 「ピシッ!!!」
 「ぁぁぁぁぁぁ」

 確かにそれまでとは違って真理子ちゃんの悲鳴が上がりません
でした。
 今のは、とっても強くて、痛くて、痛みを堪えるだけで精一杯
だったのです。

 と、そこへ哲哉兄さんの声がしました。

 「ただいま」
 彼の声は襖の向こう側から聞こえます。

 「あっ、お帰りなさい」
 佳苗お姉さんはそれに反応して挨拶しますが、真理子ちゃんは
黙ったままでした。

 もちろんこんな格好見られたくありませんからね、心の中では、
『シッシ、シッシ、あっち行って』と叫んでいました。

 ですから、哲哉お兄ちゃんが気を利かせて……
 「僕、自分の部屋にいるから」
 と言った時は、ほっと胸をなでおろしたのです。

 でも、佳苗お姉ちゃんは膝に乗せた妹の心の変化を鋭く見抜き
ます。
 ちょうど『ここはもう少し厳しいお仕置きでないとダメね』と
思っていたところですから、この期を逃しません。

 「ちょうどよかった。お兄さんも入って来て」
 佳苗お姉ちゃんは部屋の外に声をかけます。

 もちろん、そんなこと真理子ちゃんにしてみたらとんでもない
ことですから、膝の上でジタバタし始めます。
 でも、佳苗お姉ちゃんは、そんな悪い子を膝の上から逃がしや
しませんでした。

 「ほら、今さらジタバタしないの。あんた、私の膝から逃げた
ら、今度はお灸だからね」
 この言葉が効果的だったみたいで、真理子ちゃんの抵抗はその
言葉と共に一瞬で止んでしまいます。

 もちろん、佳苗お姉ちゃんがお灸をすえることはないでしょう
が、たとえ威しと分かっていても一度でも据えられた経験のある
小学生にとってそれは恐怖以外の何ものでもありませんでした。

 ただ、部屋の中のジタバタは廊下にいても分かりますから……
 「取り込んでるみたいだから、またにするよ」

 哲哉が去ろうとすると、佳苗がそれを襖越しに呼び止めます。
 「そうじゃなくて、哲哉さん、こっちを手伝って欲しいのよ」

 『手伝って欲しい』
 この言葉は有効でした。ちょっと二の足を踏む事態でも頼まれ
たのなら仕方がないということになります。
 ですから……

 「じゃあ、いいんだね。本当に入るよ」
 哲哉は佳苗に再度断りを入れますが……

 「大丈夫です。お願いします」
 もちろん答えはOKでした。

 そこで、哲哉が襖を開けると……

 「!!!」

 目に飛び込んできたのは、真理子ちゃんの生のお尻でした。
 佳苗お姉ちゃんが襖の開くのに合せて真理子のショーツを引き
下ろしたのです。

 ですから、哲哉はもちろんですが、当の真理子ちゃんだって、
その瞬間は…
 「!!!」
 時間が止まったように身体が固まってしまいます。

 でも真理子ちゃんはその後も大声を出したり身体をよじったり
はしませんでした。
 まだ10年ちょっとの人生経験でも、それが恥の上塗りになる
ことぐらいは理解できたからでした。

 真理子ちゃんはできる限り静かに振る舞い、両足をしっかりと
閉じて間違っても中身が見えないように心がけます。

 ですが、佳苗お姉ちゃんは妹がこっそりやった行動を見逃しま
せん。そして、冷たく言い放ちます。
 「あら、あんたにも恥ずかしいだなんて思うときがあるんだ。
……でも、お仕置きは恥ずかしいことをさせるからお仕置きなの。
……ほら、足を開いて」

 佳苗お姉さんは自分の右手を強引に両方の太股が重なる場所へ
ねじいれましたが、真理子ちゃんの必死の抵抗にあいます。
 すると、ここでも伝家の宝刀を出して脅します。

 「往生際が悪いわね。ほら、いちいち抵抗しないの!これ以上
逆らうと本当にお灸をすえるからね」

 やはりこんな時でも『お灸』は効果覿面でした。
 真理子ちゃんの開かずの扉がたった一言で緩みます。

 「世話焼かせないの!」
 妹のお尻をポンと一つ叩くと、あとは一気呵成。
 佳苗お姉ちゃんはそこに右手を入れて大きく広げたかと思うと、
これも面倒とばかりショーツを足首から外します。

 幼い少女のストリップ。
 観客は哲哉お兄さん一人でしたが真理子ちゃんにはそれで十分
でした。

 真理子ちゃんは消え入りそうなくらい恥ずかしい思いで佳苗お
姉ちゃんの膝にしがみ付きます。
 今は、それくらいしかできませんでした。

 「いやあ!許してえ!もうしません!ごめんなさい!いやいや
いや……やめて~~早くやめて~~お願い、お願い、お願い」
 真理子ちゃんは佳苗お姉ちゃんの振り下ろす平手に絶叫します。

 それは生のお尻になってショーツぶんの衝撃が加わったという
単純なものじゃなくて、男の人から自分の大事な処を見られてる
というショックがそうさせるのでした。

 そして……
 「いやあ~~もうしないもうしない……ごめんなさい、ごめん
なさい……」
 泣き声と共に両足が跳ね回ります。

 すると、絶対に隠しておこうと思っているはずの大事な場所が
何度も何度も哲哉お兄さんの目に触れます。

 佳苗お姉さんだって、激しく抵抗する妹を押さえつけながらの
スパンキングですから厳しさ一杯でした。
 「ほら、生意気に恥ずかしがらないの……あなたはまだ子ども
なんだから……隠す処なんてどこにもないでしょう。恥ずかしい
なんて10年早いわよ」

 そうやって何度もスナップの効いた平手をお見舞いします。

 「だめだめ、やめて、ごめんなさい、だめえ~~壊れるから~」

 真理子ちゃんが絶叫するなか、見かねた哲哉お兄さんが彼女の
両手を押さえにかかります。

 どうしようもないほどの屈辱の中で、真理子ちゃんは、自分の
お尻が腫上がっていくのを我慢し続けなければならないのでした。


 あれで30回もぶたれたでしょうか。
 真理子ちゃんは佳苗お姉さんの膝の上から一旦解放されます。
 でも、これでお仕置きが終わったわけではありませんでした。

 床に転がされた真理子ちゃんは、恥ずかしいのも忘れて必死に
お尻をさすりますが、いくらさすってもお尻のヒリヒリが取れる
ことはありませんでした。

 そのうち、佳苗お姉さんから次の指示が出ます。
 「真理、裸になりなさい」

 「そんなあ~」
 真理子ちゃんは甘えた声を出しますが……

 「何がそんなよ。いつもお仕置きでやってることを今日もやる
だけじゃない」

 いつもやっていることというのは、佳苗お姉さんの前で全裸に
なって膝まづき、両手を背中に回して腰の辺りで組むこと。
 その姿勢まま許可が出るまでじっとしていなければなりません
でした。

 普段は佳苗お姉さんだけですから、たとえ割れ目が丸見えでも、
『これはお仕置きだから仕方がない』で済ませていましたが……
今回、哲哉お兄さんも見ているとなると、そりゃあ真理子ちゃん
の気持は複雑です。

 でも……
 「さあ、早くなさい。それとも、お灸の方がいいの。どっちに
しても哲哉お兄さんは帰らないわよ」

 佳苗お姉ちゃんはまたしてもお灸をちらつかせます。
 すると……

 「いや、お灸はいや」
 小さく真理子ちゃんがつぶやきます。

 「だったら脱ぎなさい。あんたみたいな子供の裸、誰も何とも
思っちゃいないわ」
 
 『そんなこと言っても……』
 真理子ちゃんは困った顔です。

 ですから、哲哉お兄さんも気を利かせて……
 「僕、出ていようか。その方がいいだろう」
 と言ってくれたのですが……

 「それは困ります」
 佳苗お姉さんはきっぱりと断言します。
 「これは、この子のお仕置きだから、ここにいてもらわないと
困るんです。お兄さんも協力してください」
 その口調はお母さんそっくりでした。

 「……」
 哲哉お兄さんもその勢いに押されて黙ってしまいます。

 「とにかく、今日は悪ふざけが過ぎてるし、何よりその原因は
この子にあるんですから……このくらいの辱めは当然なんです。
嫌じゃなかったら、ここにいてください。お願いします」

 佳苗お姉さんから真摯に頼まれると、哲哉お兄さんだって『嫌』
とは言えませんでした。


***********(中)*************


***********(下)*************

      真理子のお仕置き(下)
                 ~ ある夜の出来事 ~

 絶体絶命の真理子ちゃん。こうなったら、お兄ちゃんの前でも
脱ぐしかありませんでした。

 「ほら、ぐずぐすしないの!」
 佳苗お姉さんにまた叱られます。

 当時の五年生というのは今の子のように成長が早くないので、
大きな体の変化はまだこれからなんです。
 ただ真理子ちゃんは女の子。気持だけは生まれた時からずっと
女の子でしたから、男の子のように潔くとはいきませんでした。

 「ほら、ほら、もたもたしないの」
 最後は佳苗お姉ちゃんが手伝って脱がせていきます。
 真理子ちゃん、その最中に「私、自分でやるから」と言ったん
ですが、それも許してもらえませんでした。

 しかもこの罰、ただ裸になればよいというわけではありません。
 この地獄から抜け出すためには、罪を認め、反省の言葉を口に
しなければなりません。

 それもまた真理子ちゃんにとってプライドの傷つくことでした。

 まず、佳苗お姉さんがその台詞を教えます。
 「私は、ミミや健太をそそのかして、哲哉お兄さんのお布団で
オシッコをしました」

 こう言うと、真理子ちゃんは反論します。
 「だって、私、やってないもん」

 でも、それは通らなかったのです。
 「だから、前にも言ったでしょう。あなたが直接やらなくても
年端も行かない子をそそのかしてやらせたら、それは、あなたが
やったのと同じなの。……むしろ、まだ善悪の区別もつかない子
にやらせたあなたの方が罪は重いくらいよ。このくらいの罰は、
当然なの。……わかった!!」

 姉の大きな声、厳しい態度に真理子ちゃんはたじろぎます。
 思わずオシッコ漏らしそうになりました。
 ですから不満はありましたが、『仕方ないお付き合いしなきゃ』
と思うのでした。

 「さあ、わかったら私の言う通り懺悔するの。いいわね!!」

 「はい」

 「私はミミや健太をそそのかして……」
 「……私はミミや健太をそそのかして」

 「哲哉お兄さんのお布団で……」
 「……哲哉お兄さんのお布団で」

 「オシッコをしました」
 「オシッコをしました」

 「私の邪まな心を治すために……」
 「……私の邪まな心を治すために」

 「厳しいお仕置きをお願いします」
 「厳しいお仕置きをお願いします」

 もちろん、本心ではないでしょうが、でもこれを言わない限り
真理子ちゃんは次のステージへ進めません。
 このままずっと裸でいるわけにもいきませんから、それは仕方
がありませんでした。

 「はい、よくできました。……それじゃあ、あなたの望み通り
厳しいお仕置きをしてあげるから、覚悟しなさい」
 佳苗お姉ちゃんは素っ裸で膝まづく真理子ちゃんに宣言します。

 とっても理不尽な懺悔ですが、でも、これ、お母さんがいつも
やっていることでした。つまり、お姉ちゃんがやっているのは、
お母さんが普段やってるお仕置きを真似しているのです。

 ですから、佳苗お姉ちゃんだって幼い頃はお母さんにこの懺悔
を散々やられています。亡くなったお父さんの前で裸にされて、
お母さんが耳元で囁く台詞を棒読みにするのです。
 その後、お父さんから鞭でぶたれたことも一度や二度ではあり
ませんでした。

 佳苗お姉ちゃんにしてみれば我が家伝統のお仕置きを踏襲した
にすぎなかったのです。
 ですから、その後の鞭も、当然、伝統に則って行われます。

 「さあ、ここに仰向けになりなさい」

 佳苗お姉ちゃんは、真理子ちゃんの勉強机の上を片付けると、
広くなったテーブルを叩きます。

 「はい」
 真理子ちゃん、これからどんなことが起こるか承知していても、
もうそこへ行くしかありませんでした。

 この鞭はテーブルの上に仰向けに寝かされ、両足を高く上げた
姿勢で行われます。赤ちゃんのオムツ換えでよく見られるポーズ
です。
 女の子はすべてをさらけ出し、お尻の山を硬質ゴムのパドルで
叩かれます。

 その痛いの、恥ずかしいの……
 二つの苦痛がいっぺんに来るお仕置きだったのです。

 しかも、佳苗お姉ちゃんのときは、相手がお父さんでしたから
まだいくらか救いもありましたが、真理子ちゃんの場合は相手が
つい最近まで赤の他人だった哲哉お兄ちゃんです。

 そのお兄ちゃんが高く上げた両足を持ち、そこから自分の恥ず
かしい場所を間近で見ています。
 その恥ずかしさは半端じゃありませんでした。

 落ち着かない様子であちこち眺めている真理子ちゃん。
 どうやらパドル打ちは佳苗お姉ちゃんのようです。

 「さあ、いつものように数を数えなさい。声が小さいようだと
カウントしませんからね」

 お姉ちゃんはそう言うと、最初の一撃を振りおろしました。

 「ピシッ」
 「ひと~つ」
 たった一つですが、真理子ちゃん、もう涙声だったのです。

 「はい、もう一つ……」
 「ピシッ」
 「ふ…ふたあ~つ」

 「ほら、声が小さいわよ」
 「ピシッ」
 「みっつ」

 と、その時でした。
 予期せぬ出来事が……

 「何してるの?」

 襖が開いて、健太が顔を出します。
 寝ぼけ眼の少年に佳苗お姉さんも哲哉お兄さんもびっくりです。

 「何でもないわ。健太、トイレなの?」
 佳苗お姉ちゃんがとりなして、健太君をトイレへ誘導します。
 こんなところはすでに本当のお母さんみたいでした。

 すると、この瞬間、部屋には哲哉お兄ちゃんと真理子ちゃんの
二人だけ。

 真理子ちゃんは、今さっき健太君に恥ずかしい処を見られたん
じゃないかと思って気がかりです。そして、今まさらながら哲哉
お兄さんに恥ずかしい場所を見られているという思いで居たたま
れなくなるのでした。

 「どえうしたの。恥ずかしい?佳苗お姉ちゃんも言ってたけど、
恥ずかしいのもお仕置きだから、我慢しなくちゃね」

 哲哉お兄ちゃん、真理子ちゃんの絶望的な顔色に気づいたので
しょう。高く上がった両足を握ったままでしたが、近くにあった
タオルで真理子ちゃんのお股を隠してくれます。

 でも、それがまた恥ずかしくて、真理子ちゃんの涙は止まりま
せんでした。

 「小さい子のしたことだからね、僕は、健太君やミミちゃんの
ことは何とも思ってないよ。……でも、君はお姉さんだから……
まだ世の中の事がよく分かってない子をけしかけちゃいけないな」

 お兄ちゃんの優しさが真理子ちゃんには心にしみます。
 不思議なもので、こんな時は、何をしてもすぐに感情的になる
実の兄弟より、少し離れた場所にいる人の意見の方が心に届くの
でした。

 健太君をトイレへ送っていった佳苗お姉ちゃんが帰ってくると
お仕置きが再開されます。

 「さあ、歯を喰いしばって……いくわよ」
 「ピシッ」
 「四つ」
 お尻はすでに真っ赤でしたが、真理子ちゃんの声がほんの少し
だけ元気になったみたいでした。

 「恥ずかしい?」
 佳苗お姉ちゃんの問いかけに真理子ちゃんが小さく頷きます。

 「……だったら、ようく今日のことは覚えとくことね」
 すると……
 「はい」
 という素直な声が返ってきましたから、むしろ佳苗お姉ちゃん
の方が面食らってしまいました。

 「ピシッ」
 「五つ」

 最後の六つ目を振り下ろす時、佳苗お姉さんは……
 「私の分はこれが最後よ。あと半分は、哲哉お兄さんにやって
もらいますからね」
 佳苗お姉さんにこう言われた時も、真理子ちゃんは素直に頷き
ます。

 むしろこの言葉を聞いて面食らったのは哲哉お兄ちゃんの方で
した。
 『えっ!僕?』
 驚いてるうちに六つ目の鞭が飛んで……

 「ピシッ」
 「六つ」

 「よし、これで選手交代ね」
 佳苗お姉ちゃんはこう言って哲哉お兄ちゃんの胸に使い慣れた
パドルを押し付けます。

 『えっ、僕が?……ちょっと待ってよ』
 まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてパドルを受け取った
哲哉お兄ちゃんでしたが、それを眺めているうち、考えが変わり
ます。

 『そうか、僕が長兄。僕が当事者だもんね』
 自分はこの家では腹違いとはいえ長兄ですし、事件の当事者で
もあるわけで、拒否もしにくいと思うようになったのでした。

 『ん…………』
 それと真理子ちゃんはすでにこれ以上隠しようがないほど自分
をさらけ出していますから、これから先、自分が真理子ちゃんに
対してさらに残酷な辱めをするわけでもありません。

 そんなこんなを一通り頭の中で整理した結果……
 『お尻を叩くことぐらいなら仕方がないか』
 と決断したのでした。

 もちろん、そこでは十分に手加減するつもりだったのです。
 ところが……

 「さあ、いくよ。歯を喰いしばって……」
 「ピシッ」

 「いやあ~~~痛い~~~~助けてえ~~~~」
 最初の一撃を受けた瞬間、真理子ちゃんがこれまで以上のもの
凄い悲鳴を上げたのです。
 当然、哲哉お兄ちゃんはビックリです。

 「そんなに痛かったかい?ごめん、ごめん」
 哲哉お兄ちゃんは慌てて謝りますが……
 それを見ていた佳苗お姉ちゃんも即座に動き出します。

 妹の高く上がった足を拘束する役に回っていた佳苗お姉ちゃん
は、いったんその役を離れ、哲哉さんから無言でパドルを取上げ
ます。

 『あっ!』
 哲哉お兄ちゃんは、その瞬間、てっきり自分が叱られるのかと
思いました。

 でも、パドルを受け取ったお姉ちゃんはUターン。

 仰向けで学習机の上に寝ている真理子ちゃんにのしかかるよう
にして自分の顔を近づけると……哲哉お兄ちゃんから受け取った
パドルで鼻先でちらつかせながら……

 「真理、いいかげんになさい。ここはあんたが甘える場所じゃ
ないの。これはお仕置きなのよ。あんたがそんなことするのなら、
もう六回、パドルを増やしてもいいのよ」

 「…………」
 真理子ちゃんは耐えられず、佳苗お姉ちゃんが覗き込んだ方向
とは反対の方向に顔を向けますが、お姉ちゃんはさらに追い討ち
をかけます。

 「それともあなた……最近、お灸のお仕置きがごぶさたしてる
みたいだから恋しいんじゃないの?…あれ、やってあげましょう
か?」
 と、囁きます。もちろん、明らかな威しでした。

 「…………」
 哲哉お兄ちゃんの気を引こうとした真理子ちゃん、一言もあり
ませんでした。

 男の子の世界では分からないことも女同士ならわかるという事
がよくあるみたいです。これはその一つだったのかもしれません。
 佳苗お姉ちゃんは妹の微妙な変化を見逃さなかったのです。

 「哲哉さん、ビシビシやって構わないわよ。女はなまじ手加減
するとすぐに甘えが出るから厳しくやった方がいいの」

 「でも……」

 「大丈夫。どんなに強く叩いても、お尻は壊れたりしないから
……何なら、両足をもっと開かせましょうか?……この子だって、
今さら隠す処なんてないはずだから……」

 佳苗お姉ちゃんは、哲哉お兄ちゃんにパドルを返す時、発破を
かけます。

 でも、それだけではありませんでした。

 「あっ、ちょっと待ってて……今、お兄さんがやりやすいよう
にしてあげるから……」

 佳苗お姉ちゃんは両親がこんな日の為に用意している救急箱の
ような箱を真理子ちゃんの本棚から持ち出します。

 それは、この家の子供部屋には必ず置かれている『お仕置き箱』
 中には、艾やお線香、イチジク浣腸やグリセリンの入った茶色
の薬壜、ピストン式のガラス製浣腸器などが入っていました。

 佳苗お姉ちゃんはここからお線香とお線香立てだけを取り出す
と、火を点けて真理子ちゃんの枕元に置きます。
 たちまちお線香特有の香りが部屋中に広がりました。

 『もし素直にお仕置きを受けないなら、本当にお灸を据えるよ』
 という合図です。

 艾を出しませんでしたから、真理子ちゃんに対して本当にお灸
を据えるつもりはなかったんでしょうが、真理子ちゃんはかつて
両親から実際にお灸を据えられた経験がありますから、お線香の
香りを嗅いだだけでも相当なプレッシャーになるのでした。

 「これでいいわ。これで真理子もおとなしくなるはずよ」
 佳苗お姉ちゃんは自信満々に宣言します。

 これって『妹を厳しく躾けなきゃ』という姉の優しさではある
んでしょうが……ひょっとすると、妹が哲哉お兄ちゃんに寄せる
思慕を鋭く感じ取って、嫉妬していたのかもしれません。

 いずれにしても、真理子ちゃんは最後の最後まで恥ずかしくて、
恐くて、痛いお仕置きを受け続けなければならなくなるでした。

 「ほら、この際だから、あなたの全部をお兄さんに全部見せて
あげなさいな。……ほら、もっと足を開いて……」
 佳苗お姉ちゃんは暴走します。

 「いやよ、恥ずかしいもん」
 真理子ちゃんも抵抗したのですが……

 「何言ってるの、あなたのこんなところ、赤ちゃんのときから
まだ何も変わってないじゃないの。さあ、いいから開けて!!」

 佳苗お姉ちゃんは妹の穴という穴を全部さらけ出させてから、
哲哉お兄ちゃんにお尻をぶたせたのでした。

 「ピシッ」
 「一つ」

 「ピシッ」
 「二つ」

 「ピシッ」
 「三つ」
 「ほら、また声が小さくなった。もっと大きな声を出して……」

 「三つ!」
 真理子ちゃんのやけくその声が部屋じゅうに響きます。

 「大丈夫だよ、僕は聞こえてるから……」
 哲哉お兄さんは優しいのですが……

 「だめよ、今のはノーカウント。……そうね、あんたの場合は
それじゃ反省が足りないわね。……そうだわ、数を数えたあと、
『もう、二度と悪さはいたしません』って言うの。わかった!!」

 佳苗お姉ちゃんに脅されると、真理子ちゃんは素直に従います。
 長年の習慣でしょうか。真理子ちゃんは哲哉お兄さんより佳苗
お姉ちゃんの指示に従うのでした。

 「ピシッ」
 「三つ、もう二度と悪さはいたしません」

 真理子ちゃんが自分の指示通りに懺悔すると佳苗お姉ちゃんは
満足そうに……
 「次も、そう言いなさい」
 と再び指示をだします。

 「ピシッ」
 「四つ、もう二度と悪さはしません」

 「ほら、また足を閉じようとした。ダメだと言ってるでしょう」
 「ごめんなさい」
 「そら……もう一つ」

 佳苗お姉ちゃんは、ついには哲哉お兄ちゃんまでも顎で使って
いるみたいでした。

 「ピシッ」
 「五つ、もう二度と悪さはしません」

 「次に悪さをしたら、お灸でもかまいません」
 「えっ!?」
 「えっじゃないでしょう。お兄ちゃんの鞭の後にそう言うの。
言ってごらん!!」

 真理子ちゃん、もう、何も抵抗できなくなっていました。

 「ピシッ」
 「六つ、次に悪さをしたら、お灸でもかまいません」

 「よし、それでいいわ。お仕置きは素直に受けるのが何よりよ」

 結局、真理子ちゃんは佳苗お姉ちゃんから六回。役割を代えて、
哲哉お兄ちゃんからも六回。いえ、七回ですか。恥ずかしい姿勢
のままパドルでお尻をぶたれてから開放されます。

 ただ勉強机の上から開放されたあとも最後はやっぱり裸のまま
床に正座して頭を下げます。

 「お姉ちゃん、お仕置きありがとうございました」
 「お兄ちゃん、お仕置きありがとうございました」
 真理子ちゃん、お仕置きをしてくれた二人に向かって、お礼の
言葉もしっかり言わなければならないのでした。


 えっ!こんなことされたんだから、真理子ちゃん、さぞや哲哉
お兄ちゃんや佳苗お姉ちゃんのことが嫌いになっただろうって?
…………
 ところがね、そこが女心は不思議なところなんですよ。


***********(下)*************

美麗芸能事務所 ~里香の卒業~

(作者一言)
一話完結の話を一つ挟みます。
アイドルなんて柄にないもの書いちゃった。
描いてる時はまだよかったけど、読み返すと感性が錆びてる
なあって実感しました。(T_T)

**********************

      美麗芸能事務所 ~里香の卒業~

里香はダブルベッドに腰を下ろすと、ごぐ自然にサイドテーブル
に置かれたオンザロックのウイスキーグラスに手を伸ばす。
すると、男がそれを遮って自分がそれを口にする。

今度は封の切られたキャメル(タバコ)へと手が伸びた。

それをくわえデュポンを摺りあげ、立ち上がったオレンジ色の炎
に顔を近づけるが……再び、目の前からその炎が消える。

「やめないか、今夜はまだ仕事が残ってるんだろうが……そんな
タバコ臭い匂いをさせてスタジオに入るつもりか?」

男はその大きな手で女の華奢な手のひらごとデュポンを包み込む。

「桃野里香の仕事は何だ?」
男は里香の後ろからスルリと女の尻を抱き上げて自分の膝の上に
乗せる。

大柄な男と小柄な少女。それはまるで親子のようにも見えた。

「答えなきゃいけない?」

「ああ、もう一度聞いておきたいね」
男は少女の背中から細い顎を握った。

「アイドルよ。純情派アイドル」

「そうだ。覚えてはいたんだな。……だったら、何をして、何を
してはいけないのかも覚えてるだろう」

「…………」
少女は何も話さない代わりに小さく頷く。

「だったら、今日のクイズ番組、なぜ怒られたかわかるだろう?」

少女は再び小さくうなづいく。

「お前と組んだ安藤啓太(大御所俳優)はあの番組が招いた目玉。
いわばお客さんさんだ。それを差し置いてお前が、バンバン正解
してどうなる。お前は、ああした処ではお飾りなんだぞ。大御所
をたてて馬鹿に徹するのるがお前の仕事のはずだ。今さらそんな
こと講釈せんでも、わかってるだろう!?」

「わかってます。でも、あいつ、あんまり何にも知らないから、
馬鹿馬鹿しくなっちゃって……つい」

「何がついだ。そんなことで芸能界が生きられると思ってるのか。
お前はお嬢様ってふれこみで売ってるが、お前の親衛隊だって、
別に利口なお前を見たいわけじゃない。おもちゃとしてのお前が
見たいんだ。そこは勘違いするな!」

「はい」

男は美麗芸能事務所の社長。アイドル桃野里香の育ての親だ。
小6の時、大酒のみの父親を説得して事務所に所属させて以来、
彼が実質的な父親としてアイドル桃野里香を育ててきた。

芸能活動だけではない。勉強も行儀作法もきっちりやらせてた。
むしろ少女にしてみたらアイドルになりたくてこの道に入ったと
いうより、勉強のできる環境を求めて社長についてきた、と言う
べきかもしれない。おかげで、彼女は堀越ではなく都立に通って
いる。レッスンもイベントもコンサートもこなしながらなおかつ
都立に通うというのは至難の業なのだが、少女はそれをこなして
きたいた。

『山の手のお嬢様』をキャッチフレーズに中学二年でデビュー。
以来、仕事と勉強以外では何一つ余裕のない日常だったが、それ
でも、これまでは彼女が社長に対して不満を口にしたことはなか
ったのである。

「このあいだの『アイドル選手権』の時もそうだ……お前は選に
漏れたその瞬間、ふくれっ面したよな。…………あれ、バッチリ
カメラに抜かれてたぞ。……清純可憐なお嬢様で売ってるお前が、
あんな顔をしたら、イメージダウン間違いなしだ。こんなミスは
これまでなかった」

「ごめんなさい、あの時は疲れてたから……」

「そんなの理由になるか、たとえ12時間立ちっ放しでも笑顔を
撒き散らすのがお前たちの仕事だろうが……デビューの時、私と
かわした約束を忘れたのか?…ん?……それとも何か、アイドル
なんか飽きたか?………いずれにしても、それができないなら、
アイドルなんかやめてしまえ」
社長は右手で里香の顎を割れんばかりに握りしめる。

「ごめんなさい、ホントにごめんなさい。今度はミスしないから」

「それも聞き飽きたな。最近のお前は、仕事に身が入ってない。
デビューして4年、お前ももう18歳だからな、アイドルとして
は薹がたち始めている。そろそろ、卒業を考えてもいい時期かも
しれんな」

「卒業?」

「だから、アイドルやめて別の道に進むってことさ。ちょうど、
AVの仕事が来てるから……一度、やってみるか?」

「えっ!」
里香は驚く。そう聞いただけで身体が固まってしまった。

「そう驚くことはないだろう。いきなり役者といっても、どの道
お前にまともな演技なんかできないだろうし……歌手というのも
なあ……」
社長は鼻で笑う。里香の歌唱力を知っているからだ。

社長はさっき里香が悪戯していたタバコをくわえると…… 
「こちらがこり押ししても失敗したら二度目はこない。アイドル
なんて潰しの利かない商売だからな……別の道といって言っても、
道は限られるんだ。簡単じゃないのさ」

「…………」

「何だ浮かない顔だなあ。AV嫌か?清純派アイドルのAV出演
なんて、今じゃそう珍しくもないぞ。何よりお前は、まだ現役の
アイドルなんだし、商品価値は高いってわけだ」

「…………そんな」

「何が『そんな』だ、仕方がないじゃないか……アイドルとして
やっていけないなら………それとも何か、俺の処を出るか?」

「…………」
社長がそう突き放すと里香が困った顔をした。
ここを去りたくないという顔をしたのだ。

そこで社長はもう一押ししてみる。
「そうだ、やっぱりSMがいい。あれなら、演技もくそもない。
お前は、ただされるがままにしてればいいんだから。楽なもんさ」

「………………」
社長は膝に乗せた里香の身体の震えをじかに感じていた。
だから、『可愛いもんだ』と思ったのである。


そんな二人の蜜月を「サー」という金属音が引き裂く。
社長がリモコンを操作し、目の前のカーテンが一気に引かれた音
だった。

里香の前にいきなり眩いばかりの明るい舞台が現れる。
そこは社長の自宅に特設された練習用の舞台だった。

ここでは里香も幾度となくレッスンを受けていたから、本来なら
見慣れた風景のはずだったのだが……

「……(これは)……(いつの間に)……」
里香は声が出ない。

そこは普段とは違いSMのセットが組まれていた。
鞭打ち台や三角木馬の大道具に始まり、浣腸器や室内便器、枝鞭、
バラ鞭、極太蝋燭などの小道具がこれ見よがしに並べられいる。
ふと気づいて天井を見上げると、人を吊り上げる為の滑車までが
掛かっていた。
しかも、そこには仮面を着けた見知らぬ男が……

声には出ないが、里香は逃げ出さなければと思ったのだ。
だから、思わず社長の膝を飛びのこうとしたわけだが……それは
叶わなかった。

幸助社長もそれは承知して身構えていた。

里香が飛びのこうとした瞬間、彼は里香の両腕を握り押さえ込む。
結果、里香は僅かにお尻を浮かしただけだった。

「あっ……いや……」
里香は、幸助の胸倉を右手で押し、大きな太股を両手で押して、
その場から離れようともがいたが、どうにもならない。

そのうち、舞台から下りてきた仮面を被った黒いスーツ姿の男が、
里香をさらっていく。

その時、里香を手放す幸助社長に何のためらいもなかったのは、
彼がこの企画を立案したからに他ならない。

「あっ、だめえ~~~」
里香は、自分をさらおうとする男を前に、一瞬、懇親の力でそれ
を拒絶しようとしたが、カメラが回る時に光る赤いライトが目に
入ると、とたんにその手は力強さを欠くことになる。

『自分は、今、撮られている』
そう思った瞬間、里香は本名の青地里香から桃野里香へと変わる。
屈折した18歳の女子高生から、山の手のお嬢様へと変身する。
男のように仮面をつけていなくてもそれは同じだったのである。

これは理屈ではない。長年アイドルとしてやってきた彼女の習性。
もちろん、これが誰によって仕組まれたどんな企画かなんて事は
関係ない。この先どうなるのかがわからないままでも、カメラが
自分を捕らえれば、もうそれだけで、『この企画を成功させなけ
れば……』という強迫観念が強く彼女の脳裏に浮かぶのだった。

だから、後はこの黒いスーツ姿の男のなすがままだったのである。

「やめてえ~~もうしないで~~~人殺し~~~だめえ~~~」
椅子に腰を下ろした男の膝に乗せられた里香は必死に叫び続ける。
……が、本気になってその男と格闘はしなかった。

「だめえ~~~」
声は一段と大きくなり、スカートがまくられていく。

ショーツも下ろされて……
「いやあん」
甘い声に変わった。

「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
リズミカルに軽快に里香のお尻は赤くなる。

「いや、いや、いやあん」
甘えたような声が稽古場全体に響いた。

もちろん、それで何かが起こるわけではない。
「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
同じ強さ、一定のリズムで少女の尻を叩き続ける男。

痛さに耐えかねて里香が思わず後ろを振り返ると……
仮面のすき間から見える男の顔が僅かに笑ったように見えた。

やがて……
「だめえ、だめえ、もういやあ~~」
里香のお尻が、健康そうな子供のリンゴのほっぺのようになった。

それでも男は叩き続けたが……
「ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ……ピシッ」
このくらいが適当と思ったのか、30回ほど叩いてからその手を
止める。

ただ、それで終わりというわけではなかった。

今度はゴム製のパドルで……

「パ~ン」
「いやあ~もうだめえ~~許して~~壊れる、壊れるから~~」

乾いた音のあと、すぐに里香の悲鳴が続く。

「パ~ン」
「ホントにやめて~~」
「パ~ン」
「いやいやいやいや」
「パ~ン」
「だめえ~~お願~~い」

最初は元気よく叫んでいたが……

「パ~ン」
「痛いよ~~~」
「パ~ン」
「だめだよ~~」
「パ~ン」
「壊れる~」

やがて、声に力がなくなり……

「パ~ン」
「やめろよ~~~」
「パ~ン」
「やめて~~~」
「パ~ン」
「おねがい、やめて~~」

そのうち悲鳴は哀願へと変わっていった。

そして、ついには……
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
その哀願の声さえ聞こえなくなったのである。

今は、彼の膝でただただ痛みに耐えてじっとしているのが精一杯。
声を上げるのさえおっくうになっていた。

「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」
「パ~ン」
「…………」

そんな過酷な状況がしばらく続いて、里香の頭は機能を停止して
しまう。思考停止状態。しかし、そんな薄れいく意識の中で……
彼女はある夢を見ていた。

恋愛禁止の掟の中にあって、自分を唯一抱いてくれた男の温もり
が心の中に蘇ってきたのだ。

『そういえば、彼もあの時は私のお尻を叩いた』
里香の脳裏に、彼が自分の処女を奪い去る前にやった愛のスパが
その肉感と共に蘇るのだ。

『幸せだった。……あの時の気持がここにもあるみたい』
こんな苦痛がなぜ心地よいのか分からぬまま、里香は最後の数発
を見知らぬ男の膝でリンクさせる。

『今、彼が私のお尻を叩いてる』
自分の頭にそう信じ込ませることでお尻の痛みを逃がそうとした
のだ。


やがて……
里香はパドルを許され、男の手によってベッドに横たえさせられ
るのだが、そこでは何もしなかった。
社長に愚痴を言うわけでもなし、こんなひどい目にあわせた男に
食って掛かるわけでもなかった。
ただただ、今はそこに身を横たえていたかったのである。

それは里香がこのスパンキング男に疲れて動けないのではない。
むしろ、彼に酔っていたのだ。
『気持いい、こんなことって初めて、あの時はもっと優しかった
けど、彼にこんなことされたら、私、死んじゃうかもしれない』

里香は初めての男との逢瀬に今の現実を重ねて楽しんでいた。

そんな彼女の身体を仮面の男が再び抱きかかえる。
しかし、里香はそれにも抵抗しなかった。

後ろ手に縛られ、空中に吊るされてからですら、どこか夢見心地
だったのである。


里香がやっと危機感を感じたのは、自分を見上げている仮面の男
を見た時だった。

そこには仮面の男だけではない。社長も自分を見上げているないか
……そして何より、自分の真下には鋭角な角の木材が迫っている。

「いや!!」
里香は、不安定に吊り下げられた身体をひねったり、慌てて足を
バタつかせようとしたが、すでに手遅れだった。

「いやあ~~~やめてえ~~~」
里香の陰部が尖った角材の上へと吸い込まれていく。

「いやあ~痛い」
最初の痛みは、局部が着地した痛み。

しかし、そんなものは全体の中ではものの数にもならぬほどささ
やかな痛みでしかなかった。

「いや、やめて、お願い」
下半身を晒したまま三角木馬に乗った里香の哀れっぽい声が響く。

今まさに社長と仮面の男がそれぞれ自分の右足と左足に鉄アレイ
を括り付けようとしているのだ。

「だめえ~~~」
里香は最後の最後まで叫び続けたが、無駄だった。

『痛~~~い』
重しによって、里香の陰部はさらに角材へとめり込む。

それはスパンキングのようにヒリヒリとする痛みではない。脂汗
が滲むような重苦しい痛みが、股の中から子宮、胃、肺、そして
顎の辺りへと競りあがってくるのだ。
ボディーブローの痛みだ。

おまけに、手は後ろ手に縛られ、そこから伸びるロープが天井の
滑車へと繋がっている。胸もいつの間にかブラがはずされてむき
出しに……
とんでもない格好でいたのだ。

『あたし、何してたんだろう、どうして抵抗しなかったんだろう』
里香は今頃になって思ったが、あとの祭りだった。


そんな時、里香の股座が突然……

『えっ!!!!』

驚いた里香が体勢を変えようと重心をほんの少しだけ移動させる
と、もうそれだけで……

「いたあ~~~い」
激痛が走った。

三角木馬は、微動だにしないように跨いでいても脂汗が出るほど
痛い。ただその時は、麻痺させた急所によって激痛は避けられて
いる。それが重心を代えてしまうと、上半身の体重があらためて
麻痺していない急所の一点へのしかかることになり、その瞬間は
悲鳴を上げるほどの激痛が走るのだった。

「(はあ、はあ、はあ、はあ、はぁ、はぁ、はぁ、……………)」
やがて押さえつけた急所が麻痺し始めると、鈍痛を残して激痛は
治まる。激痛は短い間だけだ。

そうやって激痛が治まるにつれ、荒い息も収まるのだが……
そうやって痛みが治まる頃になって、里香は自分の身体の異変に
気づく。
右足の太股を細く血が流れているのだ。

バージンを失った時の血ではない。純粋な擦過傷の血なのだが、
里香にはそう映らなかった。あの時の映像が、生々しく頭の中で
リピートされていく。

「(いやあ~~やめて~~~)」
本当は声に出して叫びたかったが、それができなかった。

流れる血の道を仮面の男がその舌で上に向かって、美香の股座に
向かって舐めているのが見える。

『何て、ことを……』
おぞましい光景。二度とは見たくない光景のはずだ。
仮に相手がどんな人であっても絶叫するような事態のはずだが、
彼女は仮面の男を許してしまう。

官能が、頭の天辺から、手の指先から、足の指先から、子宮へと
一気に集まり、それが今度は頭の天辺へ、手の指先へ、足の指先
へと痺れを持って返る。
身体がこれを何回も繰り返すのだ。

『ああ、私、嫌って言わなきゃ……言わなきゃいけないのに……
言えない。言えないのよ。……だって、やめてほしくないから』
里香は自問自答する。

津波のような官能に何度も洗われた彼女の理性は、身体の麻痺と
一緒に消滅してしまったかにみえたのだが……

『違いないわ。やっぱり彼よ』
恍惚の意識の中で、里香は、今、この太股を舐めているのが誰な
のか、ついに感じ取ってしまったのだった。

「(あ~~こんなことって………恥ずかしい、お義父さん(社長)
が見ているのに……死ぬほど恥ずかしいのに……やめられない。
やめて欲しくない。………ああ、なんて私はだらしがない女なの。
……でも、これって、これって、嬉しいもの……こんな幸せな事、
今まで一度もなかったんだもの)」

里香には、うめき、悲鳴をあげる外への顔のほかに……もう一つ、
内なる心の叫びあったのだ。

最後に、仮面の男によって洗濯ばさみが里香の乳頭を飾る。

「痛あ~~~い」

久しぶりに心の声を上げた里香だったが、その声は悲嘆でも哀願
でもなかった。
後ろ手に縛られた自分が目の前までやってきた彼を抱けないもど
かしさと、彼に抱いて欲しい甘えとがない交ぜになった不思議な
よがり声だったのである。

そんな少女の喘ぎ声を聞いて、社長は小さくため息をついた。
彼にとって女の子は商品。その状態の良し悪しを見極める能力が
なければ芸能社の社長は務まらない。
当然、里香の心のうちもお見通しだったのである。


ひとごこちつくと、社長が口を開く。
いまだ歓喜に頬を赤く染めた里香を見上げながら、彼はこう問い
かけたのだ。

「なあ、美香。よう~く考えて答えるんだぞ」

「は……はい」

「お前、この男が誰だかわかるか?」
社長は、仮面男の二の腕を手荒く掴むと木馬に跨る里香の足元へ
突き出す。

「それは…………」
最初、里香は考えた。

この場でアイドルの掟に背いたことを告白したらどうなるだろう。
ましてや相手は社長の一人息子。ただではすまないかもしれない。

しかし、その瞬間、真治の右手が優しく、馬を跨ぐ里香の右足に
触れと……言葉はなかったが、里香にはそれが『大丈夫だから…』
と、彼が言っているように思えたのである。

だから正直に答えた。
「真治さんです」

里香には確信があった。たとえ顔は隠していても背格好、体形、
髪のくせ、何より自分に触れる時の感触が、あの時自分を愛した
彼だったのである。

その瞬間、真治は仮面を取る。

「まったくもってけしからん奴だ。父親の商品に手をつけるとは
な……」
社長は憮然とした表情を作りかけたが、その顔は途中から笑顔に
変わってしまう。

「ごめんなさい、わたし……」
里香はそれだけ言ってあとの言葉が出てこない。

しかし、それから先の言葉は、実は必要ではなかった。
社長はすでに里香が誰かに抱かれたことを察知していたし、それ
が原因でアイドルの世界から足を洗おうとしていたことも感じて
いたのである。

ただ、つい先日、事もあろうにまだ未成年の息子から里香と結婚
したいと打ち明けられて、これには怒りを抑えられなかった。

彼は、仕事上付き合いのあるヤクザをを使って真治を監禁。親の
権限とばかりに、息子のペニスに特大の灸を据えて脅しをかけた
のだ。
ただ、すでに里香のことしか見えなくなっている息子に、そんな
脅しは効果がなかった。

そこで、こんな趣向を……
父親は、もし、仮面を着け一言もしゃべらないお前を真治さんと
呼んだら二人の仲を許してやると約束したのである。

社長親子が勝手に仕組んだ賭け芝居に勝った里香に、もう余計な
言葉はいらなかった。

木馬を下ろされた里香は、下半身裸のまま社長の前に立つ。
すると、こう尋ねられた。

「お前、真治が好きか?」

「えっ……………………」
里香はしばらく間があって頷く。

「真治も私もサディストだぞ。それでもいいのか?」

「えっ……………………」
これもしばらく間があって頷いた。

「真治はお前と結婚する気だ。だが、お前はどうなんだ。真治と
結婚してもいいのか?」

「それは…………」
言葉に詰まったが、それも結局は、頷いてしまう。

「わかった、なら、アイドルは卒業させてやる。……ただし……
うちの鉄の掟である恋愛禁止の約束を破ったんだからな。そこは
たっぷりお仕置きしないとな」

「オ、シ、オ、キ……」

「そりゃそうだ。だってお前はまだうちの所属タレントなんだぞ。
……さあ、こい」

社長は満面の笑みで里香を膝の上に迎えた。

もちろん、ノーパン。
もちろん、平手。
社長だけじゃない、息子の真治も一緒に里香のお尻を責める。

「ピシャン」
「いやあ~~~」
「ピシャン」
「やめてえ~~」
「ピシャン」
「壊れる~~~」
「壊れない壊れない、大丈夫、大丈夫、ほら、真治。未来の花嫁
の両手を押さえてやれ……」
「ピシャン」
「だめえ~~~死んじゃう」
「死んじゃうくらい今に気持ちよくなるよ」
「嘘よ~~」
「嘘じゃないって、僕が気持ちよくしてあげるから……お父さん
代わって……」
「ピシャン」
「いやあ~~痛い、痛いって~~」
「痛い、痛いも好きのうちって言うだろう」
「言わないわよ~~~」
「ピシャン」
「ああああん、だめえ~~~~」
「ピシャン」
「いやあ~~~ん」

里香のその夜は、結局、仕事もキャンセルして社長親子と三人で
スパンキング大会。
辛く辛く、楽しい宴は夜遅くまで続いたのだった。

*************************

お仕置きの蔵 (お灸小説)

 お仕置きの蔵

(前置き)

 私が子供だったのは今から50年以上も前のこと。
 その頃の田舎といったら、親が子供を折檻するのは当たり前。
しかも、そのお仕置きについて誰もが納得する理由がないという
ことさえ稀ではありませんでした。

 今ならきっと大半が『虐待』ってことになるんでしょうね。

 でも、多くの子供たちがそうで、私もそうでしたけど、たとえ
厳しいお仕置きを受けても、親を恨むような子はあまりみかけま
せんでした。

 昔の子供は、『親や先生は常に正しいことをしている』と信じ
込まされていた節もありましたから、『よくわからないけど……
きっと、そういうものなんだろう』って親の折檻をあまり疑問視
しなかったんです。

 ぶたれた時は、『運が悪かった』って、これだけでした。

 そうそう、たまに友だちが『親からあんなことされた、こんな
こともされた』って、お仕置きされた事を愚痴ることがあります。
 そんな時、表向きはその子に同情して話を聞いているんですが、
心の中でものすごく興奮していたのを思い出します。

 他人の不幸は密の味ということでしょうか。

 とりわけ、女の子の話には尾ひれがつきますから、彼女だって
事実をオーバーに語って自分を悲劇のヒロインに仕立てていたの
かもしれませんが、それを差し引いても、今の親とはお仕置きの
常識が異なっていたのはたしかでした。

 私の両親についても、個人的にはそれほど常識を外れた人たち
とは思っていませんが、そこのところはわかりません。
 他の家の事を詳しく知りませんから、ひょっとすると、私の家
だけ飛びぬけて子供に厳しい家だったのかもしれません。

 ただ、そんな私も両親を恨むことはありませんでした。

 幼い頃の私にとって日常生活は可もなく不可もなし。おおむね
幸せな世界でした。

 もちろん厳しいお仕置きだって幾度となく経験してきましたが、
それって、今の人達が考えるほど深刻なダメージにはなっていま
せんでした。

 だって、親に愛されていた時間に比べれば、お仕置きされてた
のは短い時間です。小さなエポックに過ぎませんから、それさえ
過ぎれば、またおせっかい過ぎるほどの強烈な親の愛撫が待って
いました。

 親の愛撫とお仕置きが交互にやって来る生活の中で私は自分を
成長させていったのでした。

****************************

(本編)

 私の家はもともと農家でしたが、父が勤め人になったために、
農地は他人に貸していました。
 ただ、農家をやめてもお米を貯蔵しておく為の蔵だけは敷地の
隅にぽつんと残っていましたから、父親はその蔵を改造、二階を
書斎として使っていました。

 ところが、私が生まれ成長していくにつれ、そこはやがて子供
をお仕置きするための空間に変わっていきます。

 何しろ書斎だけで使うにはそこは広すぎるということで、両親
としても広いスペースの有効利用を考えたみたいでした。

 最初の頃は閉じ込めだけでした。

 電気もつかない離れの蔵へ閉じ込められるというのは幼い子に
とってはもの凄い恐怖です。
 昼間だってそうですが、夜に閉じ込められた時なんて気が狂い
そうに叫んでいました。

 もの凄い声で泣き叫び、たくさんたくさんごめんなさいを言っ
てようやく許してもらう事になりますが……さて、効果のほどは
というと、そう長続きはしません。

 一日二日はおとなしくしていても二三日後には、また蔵に入れ
られ……また、ごめんなさいを叫ぶはめになります。

 特に私の場合は、女の子より男の子のお友だちが多いお転婆娘
でしたし、学校の勉強はできません。おまけに手先も不器用で、
お裁縫の宿題などは、ほぼ母の手作りという困ったちゃんでした。

 ですから両親としてもお仕置きのネタには困らなかったみたい
で、三日にあけず蔵通いだったのです。

 でもそうたびたびとなると、ただ閉じ込めただけでは堪えなく
なります。

 以前だったら、親が手を引いて蔵の方へ行くだけでも泣き叫ん
でいたのに、四年生の頃になると慣れてしまい蔵の錠が下りても
うんでもなければすんでもありません。
 出してもらう間は、おとなしく一人遊びしているか、お昼寝を
して時間を潰せばよいと悟るようになっていました。

 こうなると、両親もただ閉じ込めただけではお仕置きとしての
効果が期待できないと考えるようになります。

 そこで、両親が次にとったのが実力行使。
 要するに身体をいじめたり辱めたりする体罰を蔵へ閉じ込める
前や後に付加する事でした。

 最初はいわゆるお尻ペンペンで、母親が平手でパンツの上から
お尻を叩く程度でしたが、年齢が上がっても私の素行がいっこう
に改まりませんから、その体罰は次第に過激なものへと変化して
いきます。

 五年生からはお尻叩きに竹の物差しが使われるようになります
し、六年生になると、それまで土間だった場所に畳が敷かれ……
そこでお灸がすえられることに……その熱かったこと……今でも、
その名残が肌に残っていますし、たまに夢にみたりもします。

 いえ、それだけではありませんでした。
 中学にあがると、両親のお仕置きはさらにエスカレートします。

 思春期に入り、ちょっとしたことでも恥ずかしいと感じる年頃
なのに、それを利用して肉体を虐める体罰ばかりでなく、思春期
の少女が身の置き所をなくすような辱めが公然と行われるように
なるのでした。


 まずは、母屋から罰を受ける蔵までの道中。

 これまでは、当然、服を着ていましたが、そこを素っ裸で歩か
せたのです。

 私が思わず泣くと、母が……
 「恥ずかしい?……でも、仕方がないわね。それだけのことを
したんだから……報いは受けないといけないわ」
 と突き放します。

 あれは中学二年の初夏の頃でしたか、学校でお友だちと一緒に
タバコを悪戯していたのがばれて学校でお仕置きされて帰宅した
日のことです。

 もちろん、それだけだって大変な事なんですが、家でのことを
慮った私がこっそり家からイチヂク浣腸持ち出し、近所路の茂み
で全部出してしまったものですから……

 「あんた、見られたのが節さん(うちのお手伝いさん)だから
まだいいけど、そんなことして、もし誰かに見られたどうするの!
近所中の笑いものになるところだったのよ。あんたも子どもじゃ
ないんだら、少しは後先のことを考えて行動しなきゃ!」

 それを知った母親はカンカンでした。

 結果、
 「そんなにハレンチなことが好きなら、恥ずかしいお仕置きも
必要ね。服を脱ぎなさい!……セーターもブラウスもスカートも
スリーマーもショーツもブラも靴下も……とにかく全部よ!!」
 青筋立てて怒鳴りまくるお母さんに取り付く島もありません。

 こうして新たなお仕置きが追加され、私は素っ裸でお父さんの
待つ蔵まで連行されることになったのでした。


 蔵は自宅の敷地内にあって。母屋からは石畳を100mくらい
歩いた先にあります。けっこう遠い距離ですが見ているのは両親
だけ。しかも周囲を高い煉瓦塀に囲まれていますから、この恥ず
かしい姿がよそに漏れることはないかもしれませんでした。
 ただ、家の敷地内とはいっても私は明らかに晒し者です。

 裏庭へ連れ出された瞬間から、恥ずかしいなんてもんじゃあり
ませんでした。

 母屋にいる時から涙が溢れ、石畳を歩いて蔵に入ってからも、
涙がとめどもなく流れて、私は一生分の涙をここで使い果たした
んじゃないかと思ったほどだったんです。

 小さな窓しかない蔵の中は日中でも真っ暗です。そこにわざと
大きなローソクが何本も灯されていました。
 これはこの蔵に電気が来てないからではなく、私にお仕置きの
恐さを実感させるための親の演出。
 私はすでに中学生でしたが十分効果がありました。

 蝋燭は部屋の四隅にありましたが、たとえ何本並べられていて
も電気に比べればほの暗く、おまけに常に大きな影ができます。
 揺らめく炎はまるで不安な私の心を表わしているようで、その
中にいるだけで私の心の中は穏やかではいられませんでした。

 「おいで」
 いきなり低い声が蔵の中で響きます。

 声のありかを見ると、蔵の奥に敷き込まれた六畳分の畳の上で
お父さんが正座しています。

 私は何一つ服を着ていませんから、恥ずかしいというのは当然
ありますが、私はお父さんの子供ですから、呼ばれた以上そこへ
行かざるをえませんでした。

 土間が畳に変わるあたりで用意されていた雑巾で足の裏を拭き、
畳に上がると、注意深く前を隠し、正座の姿勢で、むこうずねを
ずるようにお父さんの近くへとやってきます。

 何でもないことのようですが、もしこれが二三年前だったら、
私は立ったまま歩いて、お父さんの処へ行ったかもしれません。
でも十四歳ともなると、さすがにそれは恥ずかしくてできません
でした。

 「寒かったかい?」
 お父さんにきかれて、私は無言のまま頭を横に振ります。

 「恥ずかしかったかい?」
 再びお父さんに尋ねられて、今度は素直に頷きます。

 すると、お父さんは……
 「仕方ないな。恥ずかしいことさせてるんだから」
 と答えます。

 そして……
 「立ってごらん」
 と、あらためて私に命じるのでした。

 「はい」
 私は今さら反抗もできないと思い私の全てを見せる覚悟で立ち
上がります。

 父は座ったままですから、当然、私の方が父を見下ろすかたち
になります。
 そして、私のお尻回りがお父さんの視線の高さに。
 いくらお転婆の私でもこれは『恥ずかしい』と思いました。

 「その場で回ってごらん」
 そんな私を、父は正座したままぐるりと一回りさせます。

 もちろんお尻だけじゃありません。私の未熟なオッパイ。お臍。
萌え出したお臍の下。とにかく私がそれまで大事にしていた物が
次から次へとお父さんの間近であからさまになっていきます。

 お父さんだから、まだしもなんですが……一つ一つ丁寧に見つ
められると、もうこの場から消えてなくなりたい気分でした。
 でも、そうもいきませんから、知らず知らず身を縮めて中腰の
姿勢になります。
 すると、ここでも……

 「恥ずかしいのか?」
 父が少し睨んだだけで、私はもう何も言えなくなってしまいま
した。

 「学校でもお仕置きされたんだろう?……………何をしたから
お仕置きされたんだ?」

 「………………(今さら聞かなくても知ってるでしょう)」
 私は心の中で思います。

 「言いなさい。黙ってちゃわからないよ」

 「…………それは……美津子ちゃんと由香里ちゃんと三人で…
……………その…………」

 「三人でどうしたんだ?」

 「タバコをイタズラしてたのを先生に見つかっちゃって……」
 私はぼそぼそっと言ったあと、少し大きな声で…
 「でも、私、吸ってないから」

 私は反論したつもりだったのですが……
 「吸ってない?……でも、そのまま先生に見つからなければ、
お前も吸ってたんだろう」

 「…………それは」

 「だったら、同じことじゃないか。……お前だって、タバコを
吸ってみたいと思ってその場にいたんだろうから……違うかい?」

 「…………それは」

 「だったら、同じことだよ」

 「…………」

 「お前が実際にタバコを吸おうが吸うまいが、世の中がお前に
下す評価は不良少女。そしてお前が通う学校は『不良少女のいる
学校』と呼ばれることになる。お前は、そんなレッテルを学校に
貼ってしまったんからね、それだけでお前は十分罪になるんだ」

 「…………」
 私が小さく頷くと、父はそれを見て…
 「世の中で一番大事なことは信用。罪に問われなければそれで
いいんじゃない。世の中からどう見られているかが大事なんだ。
……わかるかい?」

 「…………」
 私は再び小さく頷きます。
 「お前は女の子なんだから、そこのところはなおさら注意して
暮らさなきゃ。……学校においても。そしてこの家にあってもだ」

 「…………」
 厳とした父の物言いは、もはや私の身がどうにも救われない事
を暗示していました。

 ですから……
 『ここで一発おちゃらけを言って、この場の雰囲気をなごませ
て……』
 といういつもの戦略も、今日は通用しそうにありません。

 「学校ではどんなお仕置きを受けたんだ?」

 「それは連絡帳に……」

 「それは知ってる。でも、お前の口から聞きたいんだ」

 お父さんの命令では仕方ありません。私は大きく一つ熱い吐息
をついてから答えます。
 「…(はあ)……放課後、園長先生のお部屋に三人で呼ばれて、
一人12回の鞭打ちを受けました。…………」

 「……それだけ?」
 私の言葉が途切れるとお父さんは早速催促します。

 それから先は、私の口から言い出しにくいこと。
 きっと、お父さんはその内容を知っていて、わざと私の口から
言わせたかったに違いありません。

 「………………………………………………………………」
 私はしばらく黙っていましたが、お父さんに睨まれればこれも
本当の事を言わざるを得ませんでした。

 そこで一つまたため息をついてから話し始めることにします。

 「…(ふう)……明日から一週間は普段のショーツではなく、
オムツを穿いて登校するようにって園長先生から言われました。
……それから……朝は、しっかり浣腸してお腹の物をできるだけ
出してから登校するようにって……あと……朝のホームルーム前
と昼食後の昼休みと放課後、教務の先生から鞭を六回ずついただ
きます」

 「そうか、それはよかった。どんなに厳しくしても一回だけだ
と子どもはすぐに忘れてしまうからな。継続するというのはよい
ことだ。この一週間は辛いだろうが、きっとよい教訓になるよ」

 「だって、毎朝、お浣腸しろだなんて、無茶よ!」
 思わず不満が口をつくと…
 「お浣腸は、鞭をいただく際に粗相が起きないようにだろう。
大丈夫、お前が心配しなくても、明日の朝はたっぷりのお薬で、
お腹を空っぽにして出してあげるから」

 お父さんの真顔に私は声がありませんでした。
 「…………」
 
 「ただ、今日の事(家の救急箱からこっそりイチジクを持ち出
して、用を済ませたこと)は、お前の不始末が原因だから、学校
は学校として、お家では、また別のお仕置きを用意するからね」

 「(えっ!)」
 ある程度覚悟していたこととはいえ、改めてお父さんの口から
出たお仕置きの言葉に私は血の気を失います。

 「それに、連絡帳にもこうして書いてあるんだ。『真理子さん
については学校といたしましてもそれなりの教訓を授けるつもり
でおりますが、ご家庭におかれましても、何かしら記憶に残るご
処置をお願いいたします』って……」
 父は私の鼻先に連絡帳を差し出します。

 そこには担任の森田先生のペンが走っていました。

 「……これって、お仕置きしろってことなの?」

 父に心細そうに尋ねますと、父は少し馬鹿にした様子で…
 「何だ、ここには『お仕置き』とか『体罰』なんて書いてない
じゃないかって言いたいのか?」

 父は私を笑い…
 「いいかい真理子。たしかにここには体罰とかお仕置きなんて
露骨な言葉は使われてないが、それは、お前の通っている学校が
品性を重んじる学校だから先生も露骨な表現を遠慮されてるだけ
で教訓もご処置も意味は同じ。お仕置きなんだよ。わかったかい、
お嬢様」

 「…………」
 私は、ぼーっと突っ立ったまま無言で頷きます。

 父の声は我が家では権威の塊。子どもはおろか母でさえ、父に
きつく命じられたら素直に従うしかありません。日頃は、父とも
仲良く冗談を言いあったりする私だって場の雰囲気は読めます。
この時ばかりは、面と向かって逆らうことなどできませんでした。

 「ほら、もういいわ。いつまで立ってるの。ちゃんと正座して
ご挨拶なさい」
 「あっ、お母さん」
 いつの間に私の後ろにまわった母が私の肩を叩いて助言します。

 私は慌ててその場に正座しなおすと……

 「お父様、真理子はいけない子でした。どうか、お仕置きで…
…良い子にしてください」
 少し言葉に詰まりましたが、どうにかご挨拶をすませることが
できました。

 今の子どもたちにしてみたら、子どもが親にお仕置きをお願い
しますだなんて、きょとんとしてしまう出来事なのかもしれませ
ん。でも、昔は、家からの追放される代わりにお仕置きで許して
もらっていましたから、こんなことまでもしっかりと子供に義務
付けていました。

 もちろん勘当だなんてこと、私の時代にはありませんでしたが、
それでも、挨拶を拒否すればどうなるか?
 当然ですが事態は同じじゃありません。お仕置きはさらに重く
なります。

 そうならないためにも親へのご挨拶はお仕置きには欠かせない
儀式だったのでした。

************(1)************

 「さてと……それでは、どんなお仕置きがいいかな。……お尻
叩きはこれから学校でやってくださるだろうから、それはそちら
にお任せするとして……お浣腸は真理子が勝手にすましちゃった
みたいだしな。あとは、……やはり、お灸かな」

 父は、穏やかで、にこやかで、独り言のように『お灸』という
言葉をつぶやきますが、私にしてみたら全身の毛穴が一気に鳥肌
へと変わる言葉でした。

 そう、それって学校でいただく鞭のお仕置き以上に恐怖だった
のです。

 今の子どもたちは、そもそもお灸がどんなものかを知らないと
思いますが、私がまだ子供だった時代はこれがまだ盛んに行われ
ていました。

 やり方は簡単。艾(もぐさ)と呼ばれる綿埃を固めたみたいな
小さな塊を皮膚に直接乗せて、それに火をつけるんです。
 台座なんてありませんから直接肌を焼きます。

 その熱いのなんのって……拷問みたいなものです。
 大の大人でも、火が回る時は自ら手ぬぐいを噛んで我慢したり、
たまらず「ヒィ~~」という声を上げるほどでした。

 それを幼い頃にやられてごらんなさいな。
 トラウマ間違いなしです。

 ですから、親サイドからみると効果覿面。
 お灸を一度でもすえられた子は……
 「そんなことしてると、またお灸だよ」
 なんて親に言われようものなら、まるでマンガみたいに、その
動きがピタッと止まってしまうのでした。

 こんなにも効果絶大のお仕置きというのは他にありませんから、
親たちはこれが子どもの肌に火傷の痕を残す危険があると知って
いても、このお仕置きがなかなかやめられなかったのでした。

 当然、私もそんなトラウマを受けた一人です。
 ですから、お灸という言葉を聞いただけで今でも緊張します。
 お父さんの宣告を聞いた瞬間もショックの余りただ呆然として
いました。

 ただ、お母さんがお線香や艾の袋を戸棚から取り出しているの
を見て我に返ります。

 「ごめんなさい、お父さん、何でもしますから、お灸だけは、
お灸だけはしないで」
 私はお父さんの膝にすがりつきます。
 中学2年生でしたが、これだけは恥も外聞もありませんでした。

 もちろん、親子ですからこれには多少甘えの気持はあったかも
しれませんが、でも、もしこれが鞭のお仕置きだったら、ここま
ではしなかったと思います。
 それくらいお灸というのは特別なお仕置きでした。

 「ね、やめてよ。……あんなのされたら、私、お嫁に行けなく
なっちゃうよ」
 私は父の膝で懇願します。

 お灸はもの凄く熱いというのもそうですが、火傷の痕が残ると
いうのも女の子には大問題でした。

 ですから、多くの親たちも娘の将来を考えて人目につく場所は
なるべく避けてすえるようにしていました。

 ただ、それでもお尻のお山やお臍の下には必ず据えられます。
特にお股の中へ据えられる時は、たとえそこが目立たない場所で
あっても、女の子としては自分の体の一部であり急所ですから、
ショックは大きいものだったんです。

 そんな乙女の思いを知ってか知らずか、昔の親は残忍でした。

 「大丈夫だよ。人目につくような場所には据えないから……」
 父は励ますように笑います。

 でもこれ、何もうちの父だけの特別な感性ではなかったと思い
ます。

 他の親たちも、お臍の下にあるビーナスの丘にはやがて下草が
はえて火傷の痕は隠れるだろうし、お尻のお山もお医者様と将来
の旦那様以外には見せることはないだろうから……と勝手に思い
込んでいました。

 いえね、自分の娘がTバックのようなものを身につけるなんて
当時の親たちは想像していなかったんです。
 もちろん大事な娘が婚前交渉だなんて、頭の片隅にもなかった
ことでしょう。

 厳しいお仕置きは今では単純に虐待としかとらえられませんが、
昔は、清純なままで結婚して欲しいと願う親の気持の裏腹だった
ように思うんです。


 「まずは服を着なさい。いつまでもその姿じゃ風邪をひくよ」

 お父さんは落ち着いた口調で、私に服を着るように命じます。
 でも、それは許されたということではなく『お灸のお仕置きを
これからしっかりやりますよ』という父なりの宣言でした。

 母が私のそばに身につける衣服をひとまとめにして置き、私は
半べそをかきながらもそれを一つずつ着ていきます。
 もう、諦めるしかありませんでした。


 着せられた服は、私がお気に入りにしている白いワンピ。
 一瞬、これを見てドキンとします。

 というのは……
 今日はお浣腸ではありませんが、昔、受けたお浣腸のお仕置き
ではお気に入りだったよそ行きの服をオマルの中に敷かれたこと
があったのです。

 「いいから、ここで用を足しなさい」
 両親に鬼のような顔をされて仕方なくオマルに跨ります。

 おまけに、汚してしまったその服を自分で洗わされたうえに、
それを着て街のデパートまでお遣いに出なされたのでした。

 私は気が違ったように何度も洗い直し、何度も嗅いでみました。
幸い臭いは染み付いていません。いくらかシミが残っていますすが、
それも気づく人はまずいないでしょう。

 ですから、客観的には何ら問題ないわけですが……
 だからって私の心に問題がないわけではありませんでした。
 こんな屈辱的な見せしめ辱めがどれほど私の心を傷つけたか…

 『誰かに臭うって言われるんじゃないか』
 『このシミを正体を知られるんじゃないか』
 そんなことばかり考えていました。
 デパートの中を歩く私は計り知れないほどの不安と恐怖で卒倒
しそうだったのです。

 お灸の痕のように人目に触れる不安こそありませんが、受けた
ショックはそれ以上だったかもしれません。

 でも父は男性。そんな娘の気持を慮ることはありませんでした。

 「何言ってるんだ。いい薬だ。恥ずかしいのもお仕置きだよ」
 と、これだけだったのです。


 私はレースで飾られた白いワンピースを着ながら、昔、汚して
しまったよそ行きワンピースのことを思い出していました。

 そして、着替え終わると再び父の前に正座します。

 「お父様、お灸のお仕置きをお願いします」
 両手を畳に着いて、頭を下げて……
 少々時代錯誤ですが、女の子はやらないわけにはいきませんで
した。

 私だって、どうしてこんなことしなきゃならないのか分かりま
せんが、男の子のように「オヤジさあ、どうしてこんなことしな
きゃいけないのさあ」なんて突っかかる勇気もありませんでした。

 女の子は何事も『お付き合い』が大事です。
 訳なんか分からなくても、それで相手が満足したり納得したり
するのなら、『それでいいかあ』と思ってしまうのでした。

 「どうしようか。幾つぐらい据えたらいいのかな?」
 お父さんが逆に目の前の私に尋ねてきます。

 これって、意地悪な質問でした。
 誰だってたくさんお灸を据えられたいなんて思っていません。
できるだけ少ない数を言いたいのですが、もし、私の答えた数が
お父さんが思っていた数より少ないと、反省が足りないと思われ
て、さらにキツイお仕置きってことになりかねません。

 可愛っ子ぶって……
 「一つ」
 なんて答えはNGでした。


 『どうしようかなあ~10じゃ少ないよね。……20じゃ……
まさか30以上なんて言わないよね』
 私の頭はもうパニックでした。

 そんな私にお父さんは助け舟(?)を出します。
 柔和な表情、穏やかな声で私に提案してくれたのでした。

 「どうしようね、そうだね。足の指の股に四つずつ、八箇所。
お臍の下の原っぱに三箇所。お尻も同じ場所に三回で、六ヶ所。
……あとは、尾てい骨の上にも三箇所くらいいるかな。……そう
そう、真理子もいつの間にかオッパイが大きくなってきたことだ
し、乳首の辺りにも小さいのを三つばかりやっておこうか。もう、
お前もそろそろ女を自覚しなくちゃいけない年頃だからね。……
いいかな、そんなところで……」

 お父さんの柔和な顔につられるようにして……
 「はい」
 私は思わず笑顔で答えます。快諾ってな感じでした。

 でも、それは……
 あれこれ思い悩むことから開放された喜びで、思わず手拍子に
口をついて出た返事だったのですが、冷静になって考えてみれば、
これって、今までにない数の多さ。
 私は今までにたくさんのお灸を一度に受けたことがありません
でした。


 「(えっ!?)」
 私は我に返ってすぐに顔を青くしますが、もう後の祭りでした。

 「よし、では私の膝に乗ってごらん。足の指からやろう」
 お父さんは正座したご自分の膝を叩いて、さっそく私のお尻を
催促します。

 「はい、お父さん」
 私は気乗りがしませんでしたが、行かないわけにはいきません
でした。

 幼い子のようにお父さんの膝の上にお尻を乗せて抱っこされ、
両足は畳につけて膝を立てます。後は何もする必要がありません
でした。

 お母さんが靴下が脱がせて、前回据えた場所を確認します。

 ちなみに、この時、お父さんは私の身体を押さえるだけ。お灸
そのものはお母さんの仕事だったのです。

 「まったく、あんたって子はいつになったらお灸のお仕置きを
卒業できるんだろうね」
 母はそう言って、小さな小さな艾を足の指の付け根に乗せて、
お線香を近づけてきます。

 私は幼い頃からお転婆でしたからお仕置きのお灸も幼い頃から
のお付き合いです。特にこの足の指の間は、そこが目立たないと
いうこともあって据えやすかったのでしょう。幼い頃は家の柱に
縛り付けられ、大泣きするなか、過去に何度も据えられた場所で
した。

 「あなた、おとといは、帰ってきたの何時だったのかしら?」
 「……七時です」
 「お父さんのお帰りが遅いのを知ってたのね」

 「(あっ、熱い!!)」
 右足の親指と人差し指の間に錐を立てられたような痛みが走っ
て、私は一瞬身を縮めます。

 ここは場所柄艾も小さいので、火が回るとすぐに消えてしまい
痛みは一瞬なのですが……

 「火曜日の朝、お父さんが『今さっき真理子とすれ違ったけど、
不機嫌そうにして何も言わなかったが、あいつ、何かあったのか』
っておっしゃってたけど……あなた、あの時お父様に朝のご挨拶
しなかったの?……それって、ひょっとして週末の英語のテスト
が悪かったから?」
 「(えっ!?それはお父さんには秘密してあげるって、言った
じゃないの。何で今頃そんなこと言うのよ)」
 普段は、物分りのいいようなことを言ってるお母さんですが、
こんな時は、ここぞとばかりに平気で私の秘密をばらしにかかり
ます。

 「女の子は何があってもご挨拶だけは忘れたらいけないの……
よく覚えておきなさいね!」
 「(あっ、熱い!!)」
 今度は人差し指と中指の間にピンポイントで痛みが走ります。

 もちろん、これも痛みは一瞬でした。

 「この間あなたのシーツを洗濯した時、少しごわごわがあった
けど……あなた、まさか、オナニーなんてしてないでしょうね」
 「してません!!」
 私は一瞬にして顔が真っ赤になり思わず大声が…

 それは母が嘘を言ったからではなく私の大事な秘密だったから
でした。

 「(あっ、熱い!!)」
 今度は中指と薬指の間が……

 もう、お分かりでしょう。母はこんな時、私が過去に犯した罪、
隠しておきたい秘密を足の指に艾を乗せて一つずつ父に報告する
のでした。

 右足で四つ、左足で四つ、指の股は、全部で八箇所あります。
日頃から私の一挙手一投足に目を光らせている母にしてみたら、
八つの罪を父に密告するチャンスがあるわけです。
 『これでも足りないくらいよ』って母は言うかもしれませんが、
八つの罪を父に密告された私は、まるで丸裸にされた気分でした。

 卑怯、卑劣、破廉恥……母にどんな罵声を浴びせても、今さら
どうにもなりませんでした。

 そんな母の密告や讒言を聞いて父がすぐに反応することはまず
ありませんでしたが、私の心が穏やかであろうはずもありません。

 むしろ、父はそんな私を心配してくれます。
 母の言葉に心が裸になって震えている私を、短い時間でしたが
優しく抱きかかえてくれました。

 ひょっとしたら、優しく私を抱きながらも母の言葉の中に本当
にお仕置きが必要な事を探していたのかもしれません。
 そこはわかりませんが……。
 いずれにしてもお仕置きの中の休憩時間。それは不思議なひと
ときでした。

 「大丈夫、誰だって完璧な一日なんてないから……間違ったら
謝ればいい。罰を受けたらいいんだ。その勇気さえあったらいい
んだよ。大丈夫、真理子はいい子だよ」
 結局、この日も父は母の讒言に耳を貸しませんでした。耳元で
お父さんに優しい言葉を掛けられ私は幼い日の真理子に戻ります。
父の懐で甘えます。

 こんなことがあるから、お仕置きなのかもしれません。
 こんなこと、虐待や刑罰ではないことでしょうから……


 さて、そうはいっても、私もいつまでも甘えていられる訳では
ありませんでした。
 お仕置きはむしろこれからが本番だったのです。

***********(2)*************

 「さて、そろそろ始めようか」
 お父さんは抱き合っていた私の顔を少しだけ離すと、穏やかな
笑顔を私に見せます。
 私はその笑顔にこたえて覚悟を決めなければなりませんでした。

 「じゃあ、まずお臍の下からだ。私の膝に頭を乗せて仰向けに
寝そべってごらん」

 私はお父さんが求める姿勢になります。
 もちろん、それから何が起こるかは承知していましたが、もう
イヤイヤはありません。もちろん大泣きなんてしません。幼い頃
とはそこが違っていました。

 「…………」
 お母さんによってワンピのスカートが捲り上げられショーツが
引き下ろされても私は何も変わりませんでした。

 やがて、まだ半分子供のお臍の下があらわになります。

 すると、すでに萌え出していた軟らかな下草をお母さんが蒸し
タオルを当てながら剃刀でジョリジョリと処理。
 まだ軟らかなうぶ毛に近いものですから手間はかかりませんで
した。

 「このくらいのことはあなたも自分でやらないとね」
 母が言いますから、思わず…
 「えっ!こんなことまで……」
 と言うと……

 「何がこんなことよ。あなたのことじゃなないの」
 と睨まれます。

 「だって、お母さんがそうしろって言うから、下着だって私は
自分で洗ってるのよ」
 少し不満げに言うと……

 「洗ってるって?偉そうに……私がやりなさいって言うから、
仕方なくやってるみたいだけど、あなたのやってるのは洗面器に
水をはってバシャバシャってやったら干すだけでしょうが……。
あんなのはね、洗ってるうちに入らないの。とにかく、女の子は
自分の事は自分で全部やれるようにならなくちゃ。それが当たり
前だもん。何でも他人に任すなんて恥ずかしいことなのよ」

 「それって、私が女の子だから?」
 「そうよ」
 「男の子はいいの?」
 「だって、男の人には仕事があるもの。……とにかく今度から
は自分でなさい」

 「え~恥ずかしいよ。やり方知らないし……」
 「何言ってるの!むだ毛の処理と一緒よ。私が教えてあげるわ」
 「えっ!?」
 その瞬間。お母さんにレクチャーを受けている自分の姿を想像
してしまい身震いします。

 「何よ、身震いなんかして?寒いの?……そもそも、お父様に
こうやってお仕置きされる事が何より恥ずかしい事じゃないの!
……やりたくなかったら、お仕置きなんてされないように良い子
にしていれば問題ないことでしょう!」
 私は些細なことでお母さんの機嫌をそこねてしまいます。

 そんなこんなも含めて、すっかり綺麗になった姿をお父さんも
私の頭越しに見ていました。

 やがて剃り上げられたそこに艾が三つ並びます。お臍の下から
割れ目にかけて縦方向、蟻の戸渡りと呼ばれるラインに沿って、
等間隔に置かれていきます。

 実はここ、最初にお灸を据えられたのは幼稚園児の頃でした。
以来、一年に一回位のペースでそれはやってきますから、今回で
何回目でしょうか?

 おかげで、こんな場所を晒しながらもお母さんと口喧嘩ができ
たりするわけですが、両親から何度もお灸を据えられたおかげで、
私のそこには灸痕と呼ばれる火傷の痕がはっきり残りケロイド状
に光っていました。

 『かわいそうに』ってお思いですか?
 でも、それを恥ずかしいと思ったことはありませんでした。

 というのも、この時期、私には仲間がいたんです。
 私たちの学校は女子校なのに体罰によるお仕置きが日常化して
いて、場合によっては親にまで子どものお仕置きを求めてきます。
 そんな時、お灸は学校ではできないお仕置き。しかも保護者側
も学校の要望に端的に応えられるお仕置きでしたから、私を始め
お友だちの大半がここに灸痕を持っていました。

 林間学校や修学旅行のようなお泊まりがあってみんなと一緒に
お風呂へ入る時などお互い見せっこです。
 あくまでローカルルールではありますが灸痕のある方が多数派
だったわけです。

 ですから、逆に、ここに灸痕のない子は仲間はずれにされかね
ませんでした。
 そこで、わざと子どもじみたイタズラをして親からお灸を据え
られるように仕向けたり、思い切って自分でお灸を据えてみたり、
(これをやると、大抵、親からお仕置きされますが…)はたまた、
ダイレクトに親に頼んですえてもらった子だっていました。


 はてさて、強がりを言ってしまいましたが、お灸のお仕置きと
いうのは慣れるということがありませんでした。

 「さあ、いきますよ。よ~く反省なさい」
 お母さんがそう言って火のついたお線香の頭持ち出すと、私の
緊張はピークになります。

 「あなたも中学生、今日はちょっぴり艾を大きくしたからね」
 そう言われて綺麗に円錐状に形どられた艾の天辺に移されます
と……やがて……

 「ひ~~~~~~」
 私はお父さんの太い腕にあらん限りの力でしがみ付きます。

 幼稚園の頃から据えられているというのに、中学2年になった
今でも、やることは同じでした。

 艾の頭に火がついて、それが肌へ下りてくるまで10秒くらい
でしょうか、それが肌を焼いてるのは5秒くらいです。
 でも、そのたった5秒が、耐えられないくらい熱くてショック
なのでした。

 「う~~~~~~」

 息を止めても、うめき声が自然に漏れ、痛みを訴える血が頭へ
と逆流します。全身の毛穴が開き、瞳孔は全開。充血した白目を
これでもかってほどひん剥き、手足の指十本を目一杯の力で握り
しめ、前歯が折れそうなくらい必死に歯を喰いしばります。

 中学二年生になった今でもそうしないと耐えられないのに……
幼稚園時代はどうやって耐えてたのか不思議になります。

 ですから、トラウマは当然でした。
 でも、昔の親って、こうやってわざと子供にトラウマをつけて
躾けていた節があるんです。

 「い~~~~~~(死ぬ~~~~~~~)」
 心の中で思います。

 脂汗と荒い息。
 『やっと三つ終わった』
 そう思った瞬間でした。
 お母さんが信じられないことを言います。

 「あなたも身体が随分大きくなって、お灸にも慣れたみたいね」

 『どういうことよ!?慣れたって……』
 私は目を剥いて頭を激しく左右に振りましたが……

 「お仕置きは何でもそうだけど、慣れてしまっては意味がない
わ。『ごめんなさい』って気持がなくなるもの。あなたも幼い子
じゃないんだし……そろそろ、ウォーミングアップが必要な歳に
なったんじゃなくて……」

 お母さんはそう言うと、太めのローソクを一本取り出しました。
 それは、この蔵の中を照らしている照明用のローソクと同じ物
なんですが……

 『えっ、まさか!』
 私の脳裏に嫌な予感が走ります。

 実はその昔、お灸をすえられそうになった時、お母さんが……
 「ま、今回は、お灸で躾けるほどでもないからこちらにしよう
かしらね」
 そう言って取り出したのが火のついた蝋燭だったのです。

 その時は仏壇用小さなものでしたが、右手をしっかりと掴まれ、
手の甲が真っ白になるまで蝋涙を垂らされたことがあります。

 蝋涙はお灸ほど熱くはありませんが、お仕置き時間はたっぷり。

 結局、両方の手の甲が真っ白になるまで、私は熱い蝋が自分の
手の甲に流れ落ちるのを我慢し続けなければなりませんでした。

 『えっ、ウォーミングアップって、まさか、あれなの!?』

 そう、そのまさかだったのです。
 しかも、今度はあれから身体も大きくなっているとして、蝋燭
も特大になっています。

 「…………」
 私は着々と準備を進める母に何か言いたかったのですが、結局、
何も言えませんでした。

 代わりにお父さんが私の頭を撫でながら……
 「大丈夫、頑張ろうね」
 と励ましてくれたのでした。

 私は普段自分の頭を撫でられることが嫌いでお父さんにもそう
されると跳ね除けていたのですが、この時ばかりは、静かにその
愛撫を受け入れます。
 実際、それだけ不安だったのでした。

 「………!………」
 母はアルコールの壜を逆さにして脱脂綿に含ませると、それで
私のビーナス丘を拭いていきます。

 アルコールによって一瞬ですが体温が奪われスースーと冷たい
感触が肌に残るなか、お灸はその熱さをぐっと際立たせます。


 「さあ、じっとしてなさい。お灸より熱くはありませんからね」
 優しい言葉とは裏腹にお母さんはいつになく厳しい顔。

 その顔が火のついた蝋燭の炎によって浮かび上がると、見慣れ
たはずの顔が恐くてたまりませんでした。

 やがて、その蝋燭が倒されます。

 「熱い!」
 最初の蝋が肌に触れた瞬間、私が反射的に叫ぶと……

 「このくらいのことで騒がないの!お仕置きは黙って受けるの。
騒いでしまったらそれで気が紛れるでしょう。効果が薄れるわ。
あなたには何回も教えてあげたはずよ」
 母に叱られました。

 実は、幼い頃の私は泣き虫で、ちょっとしたお仕置きでもすぐ
に泣いていましたが、泣いて許されることはありませんでした。
 泣いても泣いても父や母のお仕置きは続くのです。

 結局、泣いてもお仕置きは終わらないんだと分かるまで、私は
父の膝からも母の膝からも解放それることはありませんでした。
 そうやって、我慢ということを教わった気がします。

 こんなこと書くと、今の人たちは単純に『虐待を受けただけ』
って思うかもしれませんが、愛している子供が泣き叫んでいる事
くらい親にとって辛い時間はありません。
 でも、そんな辛い時間が長引いても折檻を続けてしまうのは、
『泣いて問題は解決しない』という社会の理(ことわり)を分か
らせる為でした。


 私のウォーミングアップはビーナス丘から始まります。

 「……ぁぁぁ……ヒイ~ヒイ~ヒイ~……ぅぅぅぅ……ぁぁぁ……」
 悲鳴をあげちゃいけないと思う中、声にならない声が漏れます。

 太いローソクの蝋涙が比較的高い位置から落とされてきます。
幼い頃も受けたお仕置きでしたが、一回一回の衝撃は量も威力も
幼い頃とは比べものになりませんでした。

 「……あっ、……いや、……あっつい……だめえ……だめえ~」

 最初は身じろぎせず必死に黙っていようとしましたが、やがて
熱い蝋涙のゼリーが私の丘を叩いて弾けるたびに私は身体をくね
らすようになります。

 「……あっ、……いや、……あっつい……だめえ……だめえ~」

 落ちた蝋涙が丘で固まり、『もう、終わりかしら』と思うたび
白い蝋はお母さんの手ではがされ、また新たな熱いゼリーが……

 『黙っていなければ』『黙っていなければ』と、いくら思って
いても、ついつい小さな声が唇の外へと出て行ってしまいます。
 そして、その声は次第に大きくなっていきました。

 「……あつい!、……いやあ!、……やめてえ~……だめえ~
……お願い~……もうだめえ~……熱い!いやあ~……いやあ~」

 あれでかれこれ10分くらい熱い蝋を受け続けたでしょうか。
 「あっ、熱い!!いや、やめて~!!いい加減にしてよ!!」
 とうとうその声は誰にでも聞こえる声になってしまいます。

 「そう、嫌なの?……それじゃあ。場所を変えましょう」
 お母さんはいつになく冷静です。

 『えっ!?場所を変えるって?』

 蝋涙の落ちる位置が身体の上へ上へと変更されていった結果、
 お母さんの言った意味がわからないでいると、ワンピースの裾
がスリーマーと一緒に捲り上げられ、まだまだ幼い私のお乳まで
もが二人の目の前にあらわになります。

 『いやっ!恥ずかしい!』

 一瞬の出来事。私の顔は火照って真っ赤になりました。
 身体をよじりますが恥ずかしさは増すばかりです。

 「……あっ、あつい……いや、恥ずかしい……あっ、だめ……
だめだってえ~……お願い、やめて~~……あっ、いや、熱い」

 そんな私の窮地を楽しむかのようにお母さんは笑っています。
 さらには何かに気づいたように私に覆いかぶさってきました。

 「あら、あら、奥手だ奥手だと思ってたけど、どうやら乳首の
あたりも女の子らしくなってきたじゃない」
 必死に熱いのを我慢しているさなかお母さんが私の乳首の先を
悪戯します。

 「もう、やめてよ!!」
 私は顔を背けます。声が裏返り涙声がでました。

 不思議なもので、お臍の下を晒している時にはあまり感じられ
なかった恥ずかしさがオッパイを晒さらした今は感じられます。

 「何?……恥ずかしいの?……あなたも女の子ね?……だけど、
あなた、昨日もお父様とお風呂一緒じゃなかったかしら」
 お母さんはわが意を得たりとばかりに笑います。

 たしかにそうでした。私の家は全てがオープンで私は普段から
父とも一緒にお風呂に入っていました。
 ですから、今さらオッパイを隠しても仕方がないはずなのです。
ところが今は、それがたまらなく恥ずかしく感じられるのでした。


 その後も、例によって、アルコールでその場を消毒しながら、
お母さんは熱いゼリーを落とし続けます。
 お臍からお腹、みぞおち、胸へと熱い蝋が落下する場所も段々
と上がっていくのでした。

 「熱いかしら?」

 「…………」
 私は答えませんでしたが、お母さんは一人で話を続けます。

 「それはよかったわ。これであなたの弱い心も少しは強くなる
はずよ。これからは悪い友だちに誘われてもノコノコ着いて行か
ないようにしてね。女は、どれだけ耐えられるかで強くなるの。
お仕置きは、男の子よりむしろ女の子に効果があるものなのよ」

 お母さんのわけの分からないお説教を頭の片隅で聞きながら、
本当は、子どもの頃のように大声で泣き叫びたかったのですが、
それができませんから、せめても身体をよじって降りかかる熱さ
から逃れ続けます。

 溶けた蝋がこんなに熱いなんて……もう、気が狂いそうでした。


 「よし、いいわ。よく頑張った。これからはこんなこともある
だって覚えておきなさい」
 お母さんの蝋燭攻撃は、まだ小さな私の乳頭の上にちょこんと
一つずつ落ちたのが最後でした。

 お母さんはくすぐったい乳首を揉んで白い蝋を落とすと、短く
なった蝋燭の炎を吹き消します。

 ところが、このお仕置き、これで終わりではありませんでした。


 「……?」
 気がつくと、お母さんが私の足元で何かしています。

 私は、それを確かめようと少しだけ体を起こしてみたのですが
……
 
 「えっ!!」
 目に飛び込んできたのは、ウォーミングアップ中にしでかした
私のお漏らし。
 それを母が片付けているところだったのです。

 「それは……」
 私はそれしか言えませんでした。
 正直、どうしてよいのかわからないまま、母がやっているのを
ただ見つめるだけだったのです。

 そして……
 「このままじゃ、またお漏らしするかもしれないから、ここで
導尿してしまいましょう」

 母の提案に私は反論できません。

 普段なら……
 『いやよ、どうしてそんなことしなきゃならないのよ』
 『恥ずかしいでしょう』
 『やるなら、お父さん、部屋から出してよ』
 なんてね、色んなことを言うところです。

 でも、母に迷惑をかけてると思った私は、いつもの威勢のいい
言葉が出てきませんでした。

 まごまごするうちに……
 気がついた時には尿道口から膀胱まで届くカテーテルを入れら
れていました。

 母は元看護婦。こんなことには手慣れています。
 カテーテルの端を咥えて中の空気を吸い取ると、娘のおしっこ
が出てきます。

 膿盆に流れ出るおしっこを見ながら、私は泣いてしまいます。
 いえ、泣きたくはないのです。
 でも、涙が頬を伝って流れ落ちるのを止めることはできません
でした。

**********(3)************

 導尿も終わり、後片付けも終わると、それまで優しく私の身体
を抱いていた父から声がかかります。

 「次はお尻だよ」
 私はあまりの気持ちよさにうとうとしていたみたいです。
 ですから、その時は父からおこされたといった感じでした。

 『あっ、そうか、まだお仕置きが残ってたんだ』
 馬鹿な話ですが、その時はそう思ったのでした。

 今度はうつ伏せにされて、やはり父の膝の上に乗ります。
 今や私もまな板の鯉、抵抗するつもりはまったくありませんで
した。

 もっとも……
 「偉いぞ」
 なんて、こんな姿勢のまま父から頭を撫でられても、それは嬉
しくはありませんが……

 いよいよ今度は父の出番でした。
 お父さんが私のスカートを捲り、ショーツを下ろします。

 母はというと、私の頭の方に正座して水泳の飛び込みみたいな
姿勢になっている私の両手を押さえています。

 私は自分のお尻が外の風が当たった瞬間、一つ大きく深呼吸。
 もうこれからは何があっても取り乱さないようにしようとだけ
心に誓っていました。

 緊張の中、まずはアルコール消毒。これはお父さんになっても
変わらない我が家のルールでした。
 そして、それが終わると、お山のてっぺんにお母さんがこしら
えた円錐形の艾が乗せられます。

 艾の大きさやそこにいくつ据えるかといったことは、各家庭で
さまざまでしたが、我が家の場合、左右のお山に据える場所は、
一つずつでした。

 ただし、ここに据えられる艾は他のどの場所よりも大きいです
から熱さはひとしおです。……いつも……
 「いやあ~~~ごめんなさい~~~とってとってだめだめだめ」
 と足をバタつかせて泣き叫ぶことになります。
 過去はずっとそうでした。

 でも、私も中学生ですから、今回こそは、静かにしていようと
心に誓ったのです。
 ところが……

 「ひぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 その熱いのなんのって……リニアカーみたいに身体がわずかに
浮き上がり、脳天めがけて冷たい電気が走ります。両足を激しく
畳に叩きつけるさまは、縁日の屋台で売っていたゼンマイ仕掛け
のお人形みたいでした。

 終わるとハァ、ハァと荒い息で、顔は真っ赤。必死に頑張った
証しでしょうか、その瞬間は目の玉が零れ落ちるんじゃないかと
思うほど前に飛び出していて恐いくらいの形相をしていました。

 この時も、何とか悲鳴だけは押し殺すことができましたが……
ただ、両足だけはどうにもなりませんでした。

 「バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ」
 その瞬間、両足がうるさいほど畳を叩きます。
 畳の上でバタ足の練習は小学生の時のままだったのです。

 それでも、
 「頑張ったな。お前もようやく泣かずにお仕置きが受けられる
ようになったわけだ」
 お父さんはまたしても私の頭を撫でます。

 「ありがとう、お父さん」
 私は思わずお礼を言ってしまいます。
 本当はその手を振り払いたいのですが、お山へのお灸の直後は
その気力さえ残っていませんでした。

 それに何より、私はこの先もう一箇所試練の谷を越えなければ
ならなかったのです。

 「落ち着いたらいくよ」
 お父さんの声がうつ伏せになった私の頭の後ろで聞こえます。

 「はい」
 小さく返事をすると、早速お母さんが私の両手を握ってくれま
した。他の場所では両手を拘束されるなんて良い感じがしません
が、この時だけはむしろそれがホッとするのです。

 お父さんは私のお尻の割れ目の上の方を押し開くと尾てい骨の
骨の出っ張りが感じられる処へ艾を乗せます。

 ここはお尻の谷間に灸痕が隠れて都合がよいということもあり
ますが、何より皮下脂肪が薄く熱がダイレントに身体へ染み渡り
ますからその熱さは極め付きでした。

 「今日は、お母さんにオシッコも採ってもらって、お漏らしの
心配もないからしっかり頑張るんだよ」
 お父さんから変な励ましを受けます。

 でも、それは事実でした。
 実際、ここに据えられた時、私は、何度となくお漏らしをして
いましたら……

 「あっああああああああああああああああああああああああ」

 こうとしか書けませんけど、でも、とにかく熱かったのです。
 全身が燃えてしまったような…そんな錯覚さえ生じさせるよう
な強烈な熱さ痛みだったのでした。

 真っ赤になった頬を涙がつたい、眼球が飛び出だして、必死に
両足が畳をバタ足する姿はお山へのお灸と同じです。
 でも、お山以上のショックが体には伝わっています。

 そして、それが終わった瞬間に、不思議な心持が私のお腹の底
からじわっと湧いてくるのも過去の経験と同じだったのです。

 これって、その時は特段の意識はなかったのですが、その後、
色んな経験をするなかで、これが性欲だと知ることになります。

 そういえば、かつて父が母に対してこんな事を言っていました。
 「女の子は精神的には性の目覚めが早いけど、肉体的な目覚め
は逆に男性より遅いんだ。だから、結婚前に少しだけ肉体の時計
を進めてやると、ハズバンドとうまくいくのさ」

 父はそれとは知らせないまま、お仕置きにかこつけて私に性の
レクチャーをしていたのかもしれません。

 しかも、この日は……

 「お前ももう子どもじゃないだし、このくらいのお仕置きでも
十分に分別のある行動がとれるようになるとは思うんだが………
どうしようか、お母さん。今回は、ついでに、お股にも据えてお
こうか」
 お父さんがお母さんに尋ねます。

 お父さんは『ついでに……』なんて、まるでお仕置きのおまけ
みたいなこと言ってますが、私にしたら、それは『冗談じゃない』
ってほどの一大事でした。

 ところが、頼みの綱のお母さんまでが……
 「そうですね、今後のこともありますしね、いつもの処にもう
一つ懲らしめを入れておいた方がいいかもしれませんね」
 あっさり、お父さんに賛成してしまうのでした。

 いつもの処というのは……
 お尻の穴と赤ちゃんが出てくる穴の間のことです。膣前庭とか
いいましたっけ。私の場合、性器に直接据えられることはありま
せんでしたが、ここだけは、小学5年生の頃までよくすえられて
いました。

 仰向けに寝かされ、両足を大きく開いたら、開いた両足が閉じ
ないように足首を首箒の柄で縛られます。
 その箒が、寝そべる私の頭の上を通過する頃には、私の大事な
場所はすべてオープンになって、もう自分では隠す事はできなく
なります。

 まさに『ポルノ』って感じのお仕置きですが、幼い頃はあまり
恥ずかしいという気持はありませんでした。
 あくまで悪さをした末のお仕置き。やってるのも両親ですから、
これをやられる時は恥ずかしいというより仕方がないという諦め
の気持の方が強かったのです。

 ただ、娘の身体が大人へと変化するなかにあって両親も考えた
んでしょうね、五年生以降はこのお仕置きを遠慮するようになっ
ていました。ここ数年はご無沙汰のお仕置きだったのです。
 ですから、私は『このお仕置きはもうなくなったんだ』と勝手
に思い込んでいました。

 ところが、それが突然の復活。おまけに、あの頃とは私の身体
も変化しています。いくらまな板の鯉、お父さんの人形になった
つもりでいても、これだけは『お仕置きをお願いします』という
わけにはいきませんでした。

 「お願い、ね、これだけはやらないで……他の処にして……ね、
いいでしょう。あそこは絶対にダメだもん。……ね…ね…ね」
 私はお父さんにすがり付いて懇願します。

 「そんなに嫌なのかい?」
 お父さんも私が直訴するなんて意外だったんでしょう。
 少し当惑した様子で尋ねますから……

 「当たり前じゃない。私、中学生なのよ。小学生じゃないの。
恥ずかしすぎるもん。絶対に嫌よ」

 私が気色ばんで言うと、お父さんは静かに笑って……
 「そうか、お前、中学生か、そうだったな」
 今、気づいたようなことを言います。

 そして……
 「そうか、そんなに嫌か。……それじゃあ、どうしてもやらな
きゃならんな」

 「えっ!?」

 「だって、嫌な事するのがお仕置きだもの。それは仕方がない
よ。……それに、どんな嫌なことをするかは親や先生の判断だ。
真理子の決めることじゃないんだよ」

 「それは……」
 私はそれだけ言って黙ってしまいます。実際子どもの立場では
それ以上は言えませんでした。だって、親や教師がお仕置きする
のは当たり前の時代なんですから。

 「痛い、つらい、恥ずかしいってのがお仕置きなんだ。わざと
そんなことさせてるんだ。『そんなことつらいから嫌です』って
言っちゃったらお仕置きなんてできないよ」
 お父さんは少し馬鹿にしたように笑います。

 もちろん、そんなことは百も承知です。でも、これはどうして
もって思うからお願いしてるのに、聞いてもらえませんでした。

 「どうしてもって言うのなら、司祭様の処で懺悔してお仕置き
していただいてもいいんだよ」
 お父さんは提案しますが……

 「…………」
 私は即座に首を横に激しく振ってみせました。

 もし、司祭様の処へ行って懺悔すれば、罰はお尻丸出しの鞭に
決まっています。司祭様は立派な方かもしれませんが私にとって
は赤の他人の男性です。その他人の男性が私のお尻を割って中を
あらためるだなんて、想像しただけで卒倒しそうでした。

 それに比べれば、ここで何をされたにしても相手はお父さんか
お母さんですから、娘としてはこちらの方がまだましだったので
した。


 準備が整い、箒が仰向けに寝ている私の真上を頭の方へと飛ん
でいきます。

 と同時に、私の身体はくの字に折り曲げられ随分と窮屈な姿勢
を強いられます。普段ならまったく風の当たらない場所にもスー
スーと風が吹き込みますから、この姿勢を続けていると、恥ずか
しさもさることながら、なぜか心寂しく不安になるのでした。

 「ほう、真理子もずいぶんと大人になってきたじゃないか」
 お父さんは私の身体の一部を一瞥してそう言います。

 たった、それだけでも、私の顔は真っ赤でした。

 しかも、これだけではありません。
 まずは両親揃って、クリトリスや尿道口、もちろんヴァギナや
アヌスも、一つ一つ指で触れて確認します。

 もちろん、そこは女の子にとって敏感な処ばかり、触れられる
たびに奇声をあげたい心持ですが、そうするとまた親に叱られて
しまいそうですから、ここは唇を噛んでしっかり我慢するしかあ
りませんでした。

 あれで、五分ほどでしょうか、二人は、まるで丹精した盆栽を
愛でるかのように私の陰部をなでまわします。

 それって、今なら幼児への性的虐待で警察行きかもしれません
が、当時の二人に、これといった罪悪感はありませんでした。

 私がこのことに不満を言うと……

 「何言ってるんだ。親が娘の身体を調べて何が悪い。だいたい、
お前のお股なんてオムツを換えてた当時から承知してるよ。だけど
年頃になると独り遊びを始めたりするから、そこはチェックして
やらんといかんだろうと思ってるだけだ」
 父はそう言ってうそぶきます。

 『娘の身体は親のもの』
 当時はそんな感じでした。

 ハレンチな身体検査が終わるといよいよお灸です。

 このお灸、幼い頃はお父さんが身体を押さえてお母さんが火を
着ける役でした。暴れた時、力のあるお父さんが身体を押さえて
いた方が安全だったからです。

 ところが、今回、火をつけるのはお父さんでした。

 「いいかい、真理子。これが今日のお仕置きでは最後のお灸に
なるけど、これで、お前は今回自分がしたことを反省しなければ
ならない。わかったね」

 私は畳に擦り付けた頭の位置から父の厳とした顔を見つめます。
その時見た父の顔は、お母さんがどんなに恐い顔をしても絶対に
出せない威圧感でした。

 こんな時、言葉は一つしかありませんでした。
 「はい、お父さん」

 私は父の巨大なオーラに飲み込まれ、飲み込まれたまま、熱い
お灸を受けます。

 「いやあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 父の据えたお灸は、最初、私の陰部を痙攣させます。
 もちろんそれだけでもお仕置きとしては十分なのですが、でも、
それだけではありませんでした。

 火が回り熱さが頂点に達した時、
 『熱いとか痛いとかといったものを超えて何かもの凄いものが
体の中にねじ込まれた』
 そんな感じがしたのでした。


 火が消えても全身に悪寒が残ります。
 しばらくは震えがとまりませんでした。
 それって、私の身体にとっては大変な出来事です。
 ただ、それが不快だったかというと……そうではありませんで
した。

 何か分かりませんが、今までに感じたことのないような快感が
身体じゅうを締め上げていったのは確かでした。

 『何だろう、これ?』
 お灸が終わっても、しばらくは箒と一緒に考えます。
 両親は私をすぐには自由にしてくれませんでしたが、でも、私
はそれでよかったのです。

 私は身体に箒をくっつけたまま、どこかマゾヒティクな快感に
しばし酔いしれることができたのですから……。


 年頃の娘が受けるお股へのお灸。
 実は、後になって知ったのですが、クラスメイトの半数が同じ
経験をしていました。

 そこで思ったのですが、これってお父さんによる手込めだった
んじゃないでしょうか。

 今回、お父さんがあえて火をつけたのも、悪い事から遠ざける
ための子どものお仕置きから、一人前の女性としてあえて男性を
求めるように仕向ける為のお仕置きへ変化させたんじゃないか。
 つまり、お仕置きを利用した一種の性教育。
 考えすぎかもしれませんが、そんな気がするんです。

 後年、父にその事を尋ねると……
 やはり、「考えすぎだよ」と笑いますから……

 「でも……」
 私は、さらに食い下がろうしましたが、やめてしまいます。

 確かに、そんなことは語らないほうがいいのかもしれません。
 それに、私だってまた厳しいお仕置きを受けるのは嫌ですから。

**********(終わり)**********

綾瀬のおばちゃん(3)

       << 綾瀬のおばちゃん(3) >>


<< 余計な一言 >>
 これは普段私が書いているものと違って、対象が子供ではあり
ません。『大人の赤ちゃんごっこ』世間ではエイジプレイなどと
呼ばれているものです。そのため、中にフェラチオの記述があり
ます。私の作品ですから、例によって細かな描写はありませんが、
一応、そういうものだとご承知ください。


 §3 馬鹿馬鹿しくて楽しい時間

 食後、子供たちは一階下の自宅に帰され、和子さんもこれから
先の準備が済むと、下へと降りていきました。
 残ったのは、僕とおばちゃんだけ。
 そのおばちゃんが僕に最終確認です。

 「ここは床屋さんと同じで、一度始めたら終わるまで私に全部
お任せの世界なの。何をされても絶対に逆らわないって約束する
かい?」

 そもそも1万円も払って(いえ、当時の僕にとっては大金です)
いったい何をされるかも分からない処へ入り込むなんて、とても
正気の沙汰とは思えません。今にして思えば、若気の至りという
やつでした。

 頼りは、丸川先生たちが書く小説だけ。そこに出てくる情景が
気に入っていて、ひょっとしてそれがここで行われているんじゃ
ないか、僕はそう踏んだのです。

 でも、肝心のサークル仲間の誰に聞いても、おばちゃんの事を
まともに答えてくれる人がいません。みんな口が重いのです。
 ただ、そうやってはぐらかすことが、逆に確信となって、僕は
不審者となってしまったのでした。

 「……はい、大丈夫です」
 おばちゃんの最終確認に、腹は決まっていましたが、あらため
て自分の心に『これから馬鹿なことをやるんだ』と言い聞かせて
返事をします。

 「それじゃあ、坊や、まずはこれに着替えて……」
 おばちゃんは和子さんが用意していった服に着替えるようにと
僕に命じます。
 そこで、その服を着てみますと……

 「ああ、可愛い、可愛い。爺さんたちと違ってお前は歳も若い
から見栄えがするじゃないか」
 おばちゃんは満足そうです。

 着替えたのは、股上の短いショートパンツとペコちゃんが胸に
大きくプリントされたニットシャツ。赤ちゃんのロンパースかと
思っていましたが、違っていました。
 夏にカジュワルな場所でなら大人が着ていてもそれほど不自然
さを感じさせない衣装です。

 「これ、何?」
 僕が衣装の袖を引っ張ると……

 「子供の服だよ。これからお前は私の子供になるんだ。歳は、
……そうだね、隼人か、……琴音くらいのつもりでいればいいよ。
……いずれにしても、私には絶対服従だよ。『はい、お母さん』
以外は許さないからね。イヤイヤをしたら即、お仕置き。いいね」

 「…………」
 その瞬間、私は『やっぱり、ここだったんだ』と思い。そして、
おばちゃんには、小説にあるように……
 「はい、おかあさん」
 と答えたのでした。

 「よし、いいご返事だよ。それじゃあ、まずお絵かきしようか」
 おかあさんはそう言って、ぼくを隣りの和室へ連れて行きます。

 そこにはすでにおコタ(炬燵)が用意されていました。
 時期は10月。まだそのシーズンには早いのですが、二人で、
一緒に入ります。

 まず、おかあさんがクッションに腰を掛けてコタツ布団を捲り
その股座(またぐら)へ私がお邪魔するという形です。
そうしないと、私の方がすでに身長が高いのでアンバランスに
なってしまいますから仕方がありませんでした。

 エイジプレイでは私は子供。あくまでおかあさんに抱かれる身
なのです。

 私はそんなおかあさんに負担をかけない形で抱っこされると、
目の前にあった大きなスケッチブックに絵を描き始めます。
 鉛筆で輪郭を描いて、クレヨンで上手に色を塗って……

 いえ、いえ……実はこれ、私が描いたものではありませんでした。
 私は鉛筆やクレヨンをただ握っていただけ。全てはおばちゃん、
いえ、おかあさんが私の手を包み込むように握り、慣れた手つき
で、さっさ、さっさと描いていきます。

 その上手なこと……驚きました。
 私は自分の握られた手から生み出される完成度の高いイラスト
が嬉しくなり、何だか自分まで絵が上手くなったように感じたの
でした。

 おかあさんが描くのは俗に『責絵』と呼ばれるSM劇画ですが、
私の嗜好を考慮しておどろおどろしいものは描きません。画題も、
『少女のお仕置き』になっていました。

 浣腸、お灸、尻叩き……いずれも親や教師からの折檻です。
 おかげで5、6枚描くうちに息子がすっかり目を覚まし、私は
おかあさんの描く少女に恋をしてしまいそうになります。

 「坊やは、こんなのが好きなんだね」

 おかあさんは僕の嗜好に副って最初の5、6枚を描き上げると、
更に奥深いテーマでまた5、6枚仕上げてくれました。

 おばちゃんはこうしてお客さんと一緒に絵を描くことで、相手
がどんな嗜好の持ち主で、今何を求めているかを判断して今日の
メニューを決めるのです。

 私は、その後何人かの女性に同じようなことを頼んでみました
が、大半は始めから決められたメニューを機械的にこなすだけ。
こんな事ができたのは、後にも先にも彼女だけでした。

 「これ、もらっていい?」
 思わず私がねだると……
 「いいわよ。お土産にあげる」
 快く応じてくれたのです。

 以来、これは私の宝物となりました。売るなんてとんでもない。
ネットにだって絶対に出しませんよ。

 「よし、坊やの嗜好もわかったことだし、次は綺麗綺麗しよう
か」
 イラストをまだ見入ったままでいる僕の頭の上からおかあさん
の声がします。でも、おかあさんの言う綺麗綺麗の意味が、最初
私には分かりませんでした。

 「ほら、いつまで見てるの。始めるわよ」
 やがて、おかあさんがシェービングクリームとT字のカミソリ
を持ってきたことで、私は了解します。

 実はこれ、丸川先生の小説にはよく出てくる光景だったのです。

 小説によれば、新入生は頭の毛以外すべての毛をおばちゃんに
よって剃り上げられることになっていました。すね毛、わきの下
……勿論、陰毛も全てです。
 いくら、子供だ、子供だ、と叫んでみても、はたからみれば、
グロテスクこの上ないことをしているわけです。これでさらに、
毛があったんじゃ、いよいよ興ざめしてしまいますから……

 私もそれについては覚悟を決めるしかありませんでした。

 ただ、私の場合……
 「ほう、お前さん、すね毛ばかりか、脇の下もつるつるじゃね。
まるで本物の子供みたいだ。こっちも手間が省けて何よりだよ」
 せんべい布団に全裸で寝かされている私を見て、おかあさんが
微笑みます。

 これって遺伝なんでしょうか。私は脇の下には毛が一本も生え
ませんでした。

 ただ、そんな恥ずかしい姿を晒していても、僕は笑っています。
『おかあさん』なんて呼んでいてもおばちゃんと会うのはこれが
二回目。所詮は赤の他人のはずです。なのに、なぜなんでしょう。
こうして笑われていることがちっとも苦痛ではないのです。

 そのことは私自身も不思議で仕方がありませんでした。

 「よし、坊や、さっぱりしたところで、次はミルクよ。その後、
お風呂に入ろうか」

 おかあさんは再び股上の短い半ズボンを穿かせ、ペコちゃんの
ポロシャツを着せて、布団の上に正座したままで僕の体を抱き上
げます。

 「さあ、おいちい、おいちいミルクですよ」

 「!」
 僕は目を丸くします。

 おかあさんの優しい声と共に目の前に現れたのは、どこで調達
したのでしょうか、巨大な哺乳瓶。その吸い口は、大人の私でも
口を大きく開けなければならないほどでした。

 でも、これが赤ちゃんのリアリティーなんでしょう。赤ちゃん
にとって哺乳瓶というのはこのくらい大きな存在のはずですから。

 何でも粉ミルクメーカーが宣伝用にこしらえたのを譲ってもら
ったんだそうですが……一説には、その社長がここで使うことを
見越して、そんなCMをわざと企画したんだとも聞きました。
 いずれにしても、これはありがたかったです。

 それはそうと孫の琴音ちゃんはすでに赤ちゃんじゃありません
から、今は哺乳瓶のお世話にはなっていないはずですが、大人の
赤ちゃんたちはいくつの年齢設定で遊ぶ時もこれだけはお定まり
のようでした。

 僕も目を輝かせてこれにしゃぶりつきます。

 「!!!」
 ところが、吸い付いてみて二度ビックリです。

 「美味しいかい?………あんたのおかあさんがいつもミルクに
ポポンS(ビタミン剤)を入れてたって聞いたから真似してみた
んだよ。どうだ、ママの味がしたろう」

 僕は感激、感心しました。実はその話をおばちゃんにした記憶
がなかったのです。恐らく何かのついでにポロリと口からこぼれ
出た程度でしょう。…でも、それを覚えていてさっそく利用する
なんて……さすがにおばちゃんはプロです。

 おばちゃんに上半身を揺らされ、子守唄を聞いてるうちに僕も
ちょっとだけ悪戯を……

 哺乳瓶のゴムの吸口を吸って出てきたミルクを、そうっと唇の
周りに吐き出してみたのです。

 当然、唇の周りは白く汚れますから、そのたびにおかあさんが
ガーゼで拭いてくれますが……

 それを何回か繰り返すうち、わざとやってるって気づいたんで
しょうね、今度は、おかあさんがそれを舐めて拭きとってくれる
ようになったのでした。

 普通の人の感性ならおばちゃんに口の周りを舐められたんです
からね、『おえっ!』ってなもんでしょうが、私の場合はそれも
楽しい遊びでした。


 授乳が終わると、次はお風呂でしたが、実は、これがこの日の
中で最も大変な出来事だったのです。

 「おかあさん、ちょっと準備がありますからね、いい子にして
いるのよ」
 おかあさんは僕の口に特大おしゃぶりを押し込むと、頭を撫で
て席をたちます。和子さんがお水だけを張ってくれていたお風呂
のガス釜に火をつけに行ったのです。

 当初、僕はそれだけのことだと思っていました。
 ところが、それにしては時間がかかります。

 『おかしいな、どうしたのかな?』
 と思っていたところへおかあさんは戻ってきたのですが……

 「えっ!?」
 それを見た瞬間、全身鳥肌、目が点になってしまいました。

 おかあさんは手ぶらでは戻ってこなかったのです。
 大判のタオルやら茶色の薬ビンやらを大き目の洗面器に入れて
運んできます。そこには見慣れたガラス製のピストン式浣腸器も
あって……これを見たら、驚くなという方が無理でした。

 『えっ、お風呂だと言ってたのに、その前に浣腸するのか?』
 僕の不安そうな目を見て、おかあさんはしてやったりといった
表情になります。

 「坊や、せっかくお風呂に入るだもの。一緒にお腹も洗っちゃ
おうね。だって、坊やのおうちではそうしてたんでしょう」

 『何言ってるんだ、そんなことするわけないじゃないか』
 僕はとっさにそう思います。

 「浣腸が終わってからお風呂に入るの?」
 恐る恐るたずねてみましたが……

 「そうじゃないの。お風呂でうんちするのよ。体が暖まってる
からそこで出すと気持がいいわよ」

 「えっっっっ!?『冗談だろう……』」
 僕はさらに驚き不安になります。

 でも、その瞬間、
 『!!!』
 僕はおばちゃんに余計なことを話してしまったのを思い出した
のでした。

 『そうか、僕が子供の頃お風呂場でウンコ漏らしちゃったこと、
おばちゃんに話したんだっけ……おばちゃん、何でもよく覚えて
るなあ』

 後悔先に立たずですが……

 「コラ!何ぶつくさ言ってるの。そりゃあ、世間でこんなこと
したら大変だろうけどさ。そもそも、ここは世間じゃないもの。
みんなここへ来て、自分の恥ずかしい部分を全~部さらけ出して
帰るんだよ。ここはそうやってリフレッシュするためにあるんだ
からね。かしこまってどうするんだい」

 「そりゃそうだけど……」

 「何だ、これだけ言ってもまだ恥ずかしいのかい。お前はまだ
若いからね……それじゃ仕方がない。このおかあさんが、目一杯、
恥をかかせてやるか」

 おかあさんはそう言うと……膝を抱えてうずくまっていた僕を
突き倒して仰向けにし、半ズボンをブリーフごとさっと脱がせ、
両足を高くあげます。

 「…………」
 一瞬の早業ではありましたが、僕も無抵抗でした。

 もちろん、おばちゃんと若い僕が争えば、勝負は見えています。
 でも、争いませんでした。
 自分からやって来て、お金まで払って、今さら逃げても何にも
なりませんから……

 「ほら、坊や、いくよ。ちょっと気持悪いけど我慢してね」

 ところが、そんなおばちゃんの声は、僕に魔法をかけます。
 不思議なもので、その声と共に僕の精神年齢が21から5歳へ
と変化するのでした。

 お尻の中へと流れ込むグリセリンが心地よいはずがありません。
どんな時にやられても、誰にやられても、それは不快に決まって
います。

 ところが、おばちゃんにやられたその浣腸だけは、なぜか心地
よいと感じてしまったのでした。

 「さあ、このまま、おっぷ(お風呂)に入ろうね」
 シミズ姿になったおばちゃんに抱き起こされ、手を引かれて、
おばちゃんちのお風呂へ行きます。

 豪華なお風呂じゃありません。ビニールのアヒルさんやブリキの
金魚さんたちが湯船に浮かぶ団地の小さなお風呂です。
 そんな狭い湯船にシミズ姿のおばちゃんと一緒に浸かった時、
僕はありえないものを感じてしまいます。

 イチジク浣腸をされ、シミズ姿のおばちゃんに抱かれるように
して湯船に浸かって震えながらウンコを我慢している図なんて、
こんなのマンガにさえならなほど滑稽な映像です。恐ろしいほど
馬鹿げています。
 でも、その時間は、同時に信じられないほどの幸福感を、僕に
もたらしたのでした。

 女性にはわからないと思いますが、多くの男性はウンチを我慢
する時、性的に興奮します。幼児の時もそうですから、フロイト
は幼児の一時期を『肛門期』だなんてよんでたくらいです。

 この男性特有の性的興奮が、二つの矛盾する感情に翻弄され、
僕のリビドーを高めていきます。

 僕は、『この湯船で漏らすかもしれない』という恐怖心の中で、
『でも、もし、ここで漏らしたらどんなに気持ちがいいだろう』
と考えたりもするのです。
 身体はガタガタと震えていながら、お湯の暖かさ、心地よさも
同時に感じています。
 それに、ガタガタと震えている僕の身体をおばちゃんが押さえ
ているは、拘束されているという不安感であると同時に、身体を
支えてもらっているという安堵感でもあるわけで……

 互いに相反するもの同士が絡みあい、僕の頭のあちこちでは、
回線がショートして火花が散ります。意識が朦朧とし始めます。

 でも、そんな異常電流が僕の生命エネルギーの炎を消し去る事
はありませんでした。むしろ、それは僕の身体の芯にしっかりと
溜め込まれ、やがて湧き上がるリビドーの触媒となっていきます。

 「よし、もういいぞ」

 ようやくおばちゃんがそれまで掴んでいた僕の両腕を離します。
 おばちゃんには僕の限界がわかっているみたいでした。

 「だめなら、ここでやってもいいよ」
 おばちゃんの許可を背中で聞きましたが、さすがにそこまでは
……

 「*********」

 ところが、おばちゃんは既(すんで)の所でトイレに間に合った
僕を急かせます。
 「ほら、早くせんと、せっかくの楽しみがなくなるぞ」

 おばちゃんに急かされてトイレを済ませると僕は再び煎餅布団
へ……

 「さあ、これからがお楽しみだ」

 まだ身体が温かいうちに仰向けに寝かされて今度はおばちゃん
の愛撫を受けるのです。

 バスタオルで身体中の汗と水滴がくまなく拭き取られ、香油が
全身に塗り込められます。これは身体を冷やさない工夫でした。

 「じっとしてるんだよ。そして、目一杯、我慢するんだ」

 乳首から始まった愛撫は舌と唇を使って僕の神経に添いながら
すべての性感帯を網羅していきます。

 切なさが顎をじんじん震わせ、両手両足の指先を痺れさせます。
 自然と身体が弓なりになり涙が滲みます。

 『ここも、ここも、……ここもだよ』

 最後に取り残された局部が、おばちゃんの愛を求めて猛り狂う
まで、それは続くのでした。

 最後に……おばちゃんは大きくなった噴水の吹き出し口に口を
着けますが、そこから歓喜の水を吹き上げるのにそう時間はかか
りませんでした。

 『あ~~~~~』
 お風呂の浣腸で僕の身体はよほど大きなエネルギーを溜め込ん
でいたのでしょうか、大人のオシッコが僕の頭の上を越えて遥か
遠くへ飛んでいきます。

 『やったあ~~~』
 僕は自分独りでは味わえなかった快感を、この時初めて味わい
ます。

 『あ~~~~~~』
 夢心地とは、まさにこのこと。

 ただ、大人のオシッコが一回済んでも、しばらくはおかあさん
の愛撫が続きます。おかげで僕は自分で楽しむ時より遥かに長い
時間、天国の住人でいられたのでした。

 そして、僕の愛液が一滴残らず身体の外へ出てしまうと……
 僕のお股には、たっぷりと天花粉がはたかれ、浴衣地で作った
昔ながらのオムツがお尻に当たります。
 その頃には、もうすっかり赤ちゃん気分になっていました。

 真新しいオムツがちょいと浮かしたお尻の下に滑り込む瞬間、
僕の身体は後ろに倒れて一瞬反身になり、ベランダに干してある
沢山のオムツが目に入ります。

 今さらながらですが、『そういうことだったのかあ』と思った
のでした。


 あとの時間は、おかあさんに甘えるだけ……
 オムツを付けた僕は、おかあさんの膝で離乳食をもらいます。
 絵本、といってもHな絵本なのですが、これを読んでもらい、
目を輝かせます。
 生のオッパイにはさすがに抵抗があったけど、結局は、それも
拒否しませんでした。

 そして、お背中をトントンされて子守唄が聞こえ始める頃には、
本当に目蓋が重くて仕方がなかったのです。

 「眠い……」

 「眠いなら寝てもいいのよ。私は未亡人だからここに来る人は
誰もいないの。安心しておネンネなさい」

 おかあさんとの時間は、僕が、当初思い描いていたシナリオと
完全に一致したわけではありません。でも、僕のシナリオ以上の
サービスをおばちゃんは僕にもたらしてくれたのでした。


 目が覚めると、僕の上には掛け布団が乗っけてありました。

 「坊や、目が覚めたかい?」
 おばちゃんにこう言われた瞬間、恥ずかしい話ですが、最初は
………
 『えっ!ここはどこ?』
 って思ったんです。
 すぐに思い出して赤面です。

 「驚いたよ。……あんた、二時間もここで寝てるんだもん」
 おばちゃんは縫いものをしていました。僕のイニシャルが刺繍
された涎(よだれ)掛けを縫っていたんです。

 「あっ、ごめんなさい。すぐ帰ります」
 僕は上半身を起こしますが……

 「いいのよ、寝たければ寝たいだけ寝て帰ればいいんだから…
そうじゃなくて、驚いたって言ってるの。ベテランになるとそう
いう人もいるけど、初日から本格的にここで寝た人は、あなたが
初めてよ。あなた、人を疑ったことがないでしょう?」

 「そうですか?僕はただ寝ていいって言われたもんだから……
そのまま寝てしまって……」

 「あんた、田舎じゃボンボンだったんだろうね。初日から何の
躊躇(ためら)いもなく私になつくんだもん。こっちが驚いちゃっ
たわ。人が良いにもほどあるよ」
 おばちゃんは手先を休めずこう言います。

 「ごめんなさい、こういうこと初めてだったから勝手がわから
なくて……きっと、やりにくかったんでしょうね」
 頭をかいて答えると……

 「そんなことはないわ。私の方こそ、あんたのお母さんの代わ
りができて嬉しかったのよ。お客さんは当然そうでしょうけど、
こちらだって苦痛だったらできない。私も好きだから続けてこれ
たの。………だけどね、もうここへは来ないほうがいいわね」

 「どうしてですか?」

 「あんたはこれからの人だもん。未来ある人はもっと前向きな
楽しみを見つけなきゃ。こういう道楽はね、世の中でそれなりに
仕事をして、もうこれからは、万事下り坂って人が通う処なのよ」

 「次は3万円用意します。お寿司も……」
 苦笑いでこう言うと……

 「馬鹿だね、お前。人の話を聞いてないのかい」
 おばちゃんに本気で怒られました。
 その後、気を取り直したおばちゃんがこう続けます。
 「………だから、そういう問題じゃないって言ってるだろう。
こっちは純粋に心配してるのさ。………お母ちゃんのオッパイが
恋しかったら、田舎(くに)に帰りな。お前の母ちゃんは、お前が
愛しくて仕方がないはずだから、また、こっそり抱いてくれるよ」

 「えっ?この歳でですか?……馬鹿馬鹿しい。うちの母親って
そんな人じゃありませんよ。結構、怖い人なんですから…そんな
ことしませんよ」
 僕は話しにならないとばかりハエを追うように右手を振ります。

 「やってみな。やってみればわかるよ。あんたみたいな子は、
そうやってでないと育たないはずだから……」
 おばちゃんは自信たっぷりに断言します。
 でも、それと同時に、さっきからやっていた涎掛けが完成した
らしく、それを僕の首に巻きつけてくれました。

 「よし、よし、似合う、似合う。良い子だね、笑ってごらん」
 おかあさんは独りではしゃぎ、僕もお愛想の笑いを返します。

 すると、おかあさんは小鉢に取り分けた離乳食代わりのおじや
をスプーンですくって、僕の口にねじ入れるのです。

 「ああ、上手、上手」

 おかあさんに乗せられて、僕も両手の指を目一杯広げたままで
赤ちゃん拍手。
 この時はもう息もぴったりの親子でした。


 しかし、さすがにいつまでもここにいるわけにもいきません。

 帰りしな、おばちゃんは……
 「その涎掛けは私との絆だから箪笥の奥に大事にしまっといて、
もし再びここへ来る機会があったら持って来てちょうだい」

 「はい。わかりました。またバイトでお金を貯めてから来ます」
 僕は、相変わらず明るく返事したのですが……

 「だから、ダメだと言っただろう。次は社会人になってから。
出世してからおいで。ここはね、自分で稼いだお金で遊ぶ処なの。
専門書買うからって、母ちゃんに嘘ついて、くすねたお金で来る
処じゃないんだよ」

 おかあさんは最後まで厳しい言葉を投げかけます。

 『……でも、どうしてわかったんだろう?……その事は絶対に
おばちゃんには話してないと思うんだけどなあ……』

 綾瀬の不審者は沈む大きな夕日を車窓に見ながら、六畳一間の
下宿先へと戻って行ったのでした。


******************(3)******

綾瀬のおばちゃん(2)

         << 綾瀬のおばちゃん(2) >>

 §2 オムツ翻るベランダ

 おばちゃんがくれた走り書きには住所と電話番号が書いてあり
ました。
 そこで、まずは地図を買ってその住所を確かめてみると、そこ
は綾瀬という地下鉄の駅から程近い団地だと分かったんです。

 二週間後の土曜日、
 私は興味半分でその綾瀬駅へ行ってみることにしました。
 でも、最初はそれだけ。改札さえ通らずそのまま帰ってしまい
ました。

 それから一週間後、
 まだ開通したばかりだった地下鉄の終点で下りると、綾瀬駅の
周辺を散策。
 『へえ、住所はこの団地なんだ。ということは……この最後の
数字は……2号棟の505号室ってことか』
 と、団地だけを確認、その日はそこまでです。

 そして、さらに二週間後、
 綾瀬を訪れること三度目にしてやっと私はおばちゃんが書いて
くれた住所に辿り着いたのでした。
 『間違いない。あの部屋だ。……それにしてもたくさんオムツ
が干してあるなあ。あの家何人も赤ちゃんがいるのかなあ』
 私はベランダ一面に翻る布オムツを見て思います。当時はまだ
紙おむつが一般的じゃありませんから布のオムツが干してあって
もちっとも不思議じゃありませんでした。
 その日はそれを確認して帰ります。

 まだうぶな頃でしたからね。すべては恐怖心と好奇心との戦い。
その戦いに好奇心が勝つと綾瀬へでかけるんです。

 これから先は毎週のように綾瀬へ通いましたが、それでも電話
する勇気はありませんでした。

 こうして三ヶ月四ヶ月と過ぎた頃、
 団地をうろつく不審者がとうとう発見されてしまいます。

 その日もベランダには沢山のオムツが干してありました。
 それをいつものように見上げていた時です。
 突然、女の人がそのベランダに現れて私を手招きします。

 最初は自分の事だとわかりませんでしたが、周りに他の人の姿
が見えませんから……
 『ヤバ、見つかっちゃった』

 もちろん、逃げるという選択肢だってあったはずですが、この
時はすでに『今日、電話しようか、やめようか』って思い悩んで
いましたから、実はいいきっかけだったんです。


 ご招待を受けて、私は505号室のチャイムを押します。

 出てきたのは和子さんでした。和子さんは、おばちゃんの実の
娘です。ベランダから私を手招きしたのもこの和子さんでした。

 『きっとここがおばちゃんのもう一軒のお店なんだ』
 なんて思っていましたが、奥に通されると、おばちゃんは居間
のソファに胡坐をかいて座っています。おまけに周りに変わった
ところなんて何もありません。何の変哲もない団地の一室だった
のです。
 所帯道具一式すべて揃っていますし生活観ありありの風景です。

 ただ、ない物もありました。いえ、物って言っちゃいけません
よね。赤ちゃんがいないのです。あんなに何時もオムツが干して
あるからには赤ちゃんは一人ではないと踏んでいたのですが……
開け放たれた2DKのどこを見回しても、肝心の赤ちゃんの姿が
ありませんでした。

 「ほら、何をキョロキョロしているの。そんなだから、あんた、
不審者と間違われるんだ」

 「不審者?僕が?」

 「そうだよ。毎週、週末にこの辺りをうろついく不審者がいる
から注意してたくださいって回覧板が回ってきてたからね。……
ひっとして、ひょっとしたらって思ってたんだけど……案の定、
ってわけだ」

 「えっ、……」
 私はそれまで他人から怪しまれていたなんて知りませんでした
から絶句します。

 「だから、ここに来る時は電話しなさいって言ったろう。……
警察に引っ張られたらつまらないじゃないか」

 「すみません」
 私が頭を下げると……

 「私に謝ったってしょうがないじゃないだろう、これは坊やの
問題だもん。……恐らくここに電話する勇気がなかったんだね。
……あんた、育ちがよさそうだし、気も弱そうだもんね」

 「こんな処、初めてだったから……」
 思わず弁解したら足元をすくわれて……

 「おやおや、こんな処で悪かったね。こんな処に大学の先生、
お医者、弁護士、代議士先生から警察の所長さんまで来るんだよ」
一介の学生ふぜいに『こんな処』よばわりされたくないね」

 「ごめんなさい」
 また、謝ることになった。
 すると……

 「はははは、可愛いね、あんた、はにかんだところなんか息子
そっくりだよ。……和子、和子、この子兄ちゃんに似てるだろう」

 おばちゃんが同意を求めて娘の和子さんを呼びます。

 「ええ、……」
 和子さんは台所からこちらを見て遠慮がちに笑います。

 すると、ここでおばちゃんは少しだけ声のトーンを落とすと、
真剣な顔になって話します。それは、ここでの約束事でした。

 「ここに来たらね、外での肩書きは一切関係なしだ。みんな、
私の子ども。私にすべてお任せで楽しむんだ。あんたの場合は、
学生だからどっちみち関係ないけど、たまに自分の地位にしがみ
つく人もいるんだよ。そうした人はここでは楽しめないね」

 「ところで、ここで、何するんですか?」

 「えっ!?」おばちゃんは目を丸くした。「何だ、丸川先生に
聞かなかったのかい?あんた、あの時、丸川先生達の連れだった
じゃないか?」

 「ええ、何となくは……でも恥ずかしくて……具体的な事まで
訊いてないんです」

 「呆れた。何をするかも知らないでここに来たのかい?」

 「ええ、まあ……」

 「まあ、いいわ。度胸があるのか、馬鹿なのかは知らないけど、
可愛がってあげるよ。今日の午後はちょうど空いてるしね……」

 「いえ、僕は……」
 私は慌てて否定しようとしたのですが……

 「何言ってるんだい。散々この辺うろついてたくせに……ほら、
財布出してみな」

 「えっ……」
 驚く僕を押し倒すようにおばちゃんがのしかかって来て、僕の
財布を強奪します。

 「ほら、見な。ここにちゃんと1万円、分けて入れてあるじゃ
ないか。これが何よりの証拠だよ。私が1万円でいいって言った
から、あんたちゃんと持ってきたんだね。…よし、これでいいよ」
 おばちゃんは僕の財布から1万円札を抜き取ると……

 「和子、これで寿司買ってきな」
 それを無造作に娘さんに手渡すのでした。

 とにもかくにもこれで交渉成立です。

 「私も、あんたの事はそこそこ聞いてるから、たぶん、大丈夫
だと思うけど……嫌になっても途中で逃げ出さないでおくれよ。
『変態がこの家から出てきた』なんて評判になったら、私の方が
ご近所から白い目で見られることになるからね」

 「ここって、自宅なんですか?」

 「そりゃそうさ、見ればわかりそうなもんだろう。ここは私の
自宅。娘は、一階下で亭主や子供たちと一緒にに暮らしてるよ。
だから、ご近所迷惑な音の出るスパンキングはここではやらない
んだ」

 「じゃあ、ここでは……」

 「だから、ここではそれ以外のことで楽しむんだ」

 「それ以外?」

 「まあ、いいさ。あんただって嫌いじゃないはずだから……」

 その時でした。入口の扉が開いて光がこちらへさしたかと思う
と、甲高い声が家じゅうに響きます。

 「おばあちゃん、お寿司は……」
 「あたしも……」

 声の主は、当時小学1年生の隼人君と幼稚園児の琴音ちゃん。
 この子たちは和子さんの子供、つまりおばちゃんの孫でした。

 二人はいきなりお婆ちゃんの首っ玉にしがみつきます。

 「ほらほら、お客さんが来とるというのに、ご挨拶せんかい」

 二人はそう言われて、仕方なく顔だけを私の方へを向け…
 「こんにちわ」
 「こんにちわ」
 と、さも大儀そうに頭を下げますから……

 「こんにちわ」
 私も笑顔を見せて挨拶すると、それを物珍しそうに眺めたあと、
再びお婆ちゃんの顔をすりすりします。

 しかし、ここで二人にとっては予期せぬ事が起こります。

 「お前ら、昨日、お父さんの大事にしとる皿を壊してしもうた
そうやな。…おおかた、また戸棚の上に乗って遊んどったんじゃ
ろう」

 お婆さんの言葉に二人の顔色が悪くなっていくのがわかります。
同時にそれまでしっかりとしがみついていた首っ玉からも、少し
距離を置くのです。

 二人は異常事態を察知したようでした。

 いえ、私だってこんな事は山と経験してきたのでわかるんです
が、たいてい手遅れでした。

 「今日は、お前達のお父さんからもお仕置きを頼まれとるから
な。やってやらにゃ、あかんだろうなあ」

 「えっ、だってあれお兄ちゃんが先に登ったんだよ」
 琴音ちゃんが言えば、
 「嘘だね、琴音が先に登ろうって言ったんじゃないか」
 隼人君だって負けてません。
 「うそつき!」
 「嘘じゃないもん」
 お互いが責任のなすりあいをしますが、こんな場合、たいてい
一方だけが親に責められるということはあまりありませんでした。

 ついにお婆ちゃんの目の前でつかみ合いの喧嘩になってしまい
ましたから……

 「ほれ、お客さんの前でみっともない。やめんかい。……ほれ、
隼人、こっちへ来るんじゃ」

 お婆ちゃんは隼人君を目の前に立たせると、着ていた服を脱が
せ始めたのでした。
 シャツだけお情けですが、あとは全部剥ぎ取られて……
 当然、可愛いお尻もオチンチンも丸出しです。

 「向こう行って」
 おばちゃんに強い調子で命じられると、壁の前で膝まづいて、
さっそく壁とにらめっこです。

 隼人君がおばちゃんに何も訊かずに壁の前へ行って膝まづいた
ところをみると、どうやらこれはこの家でよくやられているお仕
置きのようでした。

 隼人君だけじゃありません。琴音ちゃんだってそれは同じです。
やはり、シャツだけお情けで、下はすっぽんぽんのまま壁とにら
めっこです。

 「どう、可愛いストリップやろ。西洋じゃコーナータイムとか
言うんだそうな。……あんたの家でもあったかい?こういうの…」

 「………柿の木に縛り付けられたのが一回だけ……あとは……」

 僕が答えに詰まると、おばちゃんはその事とは関係ないことを
独り言のようにつぶやきました。
 「あんたをみてるとね。育ちがいいって言うか、あんたの親が
どんだけあんたを愛してたかわかるよ」

 その直後、入口のドアが開いて和子さんが、大きな桶を抱えて
帰ってきました。

 和子さんはそれを居間のテーブルに置いてから、自分の子ども
たちに気づきます。

 「あんたら、また、何かしでかしたんかいな」

 こう言って叱ると、今度はおばちゃんが……
 「違う、違う、和子、昨日のことや……」
 和子さんにはこう言い……僕には……
 「ほら、食べなさい。お昼まだなんやろ」
 とお寿司を勧めたのです。

 そして……
 「隼人と琴音。お前たちも、もういいから、ここへ来てお寿司
を食べなさい」
 って、チビちゃんたちにもお許しが出たのでした。

 子供は現金ですから、その声を聞くや一目散に大きな寿司桶の
前へやってきます。もちろんフルチンでしたが、そんなのお構い
なしでした。

 そんな二人におばちゃんと和子さんが服を着せなおし、ビール
やジュースもテーブルに乗って、昼の食事が始まります。

 「さ、遠慮はいらんよ。今日はおばちゃんのおごりだから……」

 人生経験のない僕は、この時、『これがここのルールなんだ』
なんて単純に思ってしまいましたが、これは僕だけの特別ルール。
社会人の人たちは、規定の3万円を払った上に、自分でお寿司を
差し入れていたのです。

 その事に、後々気づいて謝ると、おばちゃんは……
 「脛かじりのあんたからお金を取るってことは、あんたの親御
さんからお金取るってことだろう、それはできないんだよ。……
もちろん、社会人になって自分でお金を稼げるようになったら、
ちゃんとしなさいね。それが男の甲斐性ってもんだから……」

 学生時代、私はすべての点でこのおばちゃんに甘えっぱなしで
した。


*****************(2)******

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR