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小暮男爵 << §18 >> 天使のドッヂボール

小暮男爵

***<< §18 >>****/軽い話、ノンH

 午後の最初の授業は体育。もともと一学年一クラスで六人しか
いない学校で何をやるにも人数が足りませんから、体育の授業は
五六年生合同で行われていました。

 それでも十二名と少ないですけど、このくらいいればなんとか
ドッヂボールの試合ぐらい出来ます。
 うちは女の子中心の学校ですから、体育も普段はダンスばかり
やっていました。

 それが女性から男性に先生が代わって、球技もやりましょうと
いうことになり、最初はテニスやゴルフをやりましたが、もっと
子どもらしいことをというお父様たちの希望からドッヂボールを
始めることになったのです。

 大きな球を投げ合うなんて、それまでの人生で一度もしたこと
がなった子供たちですから前の二時間はひたすらその球を投げる
ことと取ることの練習でした。

 二人で一組。お互いが山なりのボールを放っては相手にそれを
キャッチしてもらいます。
 最初はまったく取れませんでしたが、練習の甲斐あってゆるい
ボールならみんながなんとか取れるようになります。

 そこで『今日は試合をしてみましょう』ということになったの
です。
 もちろんこの日の為に先生から教えていただいたルールも一応
覚えてはきましたが……。


 試合は五年生と六年生の対抗戦。いよいよ試合開始です。
 六年生チームも五年生チームもお互い六人のうち四人が内野、
二人が外野に散ります。

 さぞや、血湧き肉踊る熱戦が……
 と思った方も多いでしょうが、私たちのドッヂボールでは血も
湧きませんし、肉も踊りませんでした。

 例えば、一人の内野の子が、相手の内野の子めがけてボールを
投げるとします。

 こんな時、普通は何も言わず運動神経のなさそうな子をめがけ
て投げるんだと思いますが、私たちの学校ではそれは違っていま
した。

 「これから投げま~~す。瑞穂お姉様、お願いしま~~~す」
 必ず、自分が投げる球をとっていただく方を指名して投げるの
です。

 もちろん、こんなルール教科書には書いてありません。先生が
こうしなさいっておっしゃったわけでもありません。
 でも私たちの場合はやり始めるとごく自然にこうなるのでした。

 投げられたボールを瑞穂お姉様がキャッチすると、今度は……
 「美咲ちゃん取ってね~~」
 こう言ってからこちらへ投げ返してきます。

 そして、このキャッチに失敗すると……
 「ごめんなさい」
 と言って、取り損ねた子は外野へ……。

 これ、一見すると他でやってるドッヂボールと同じように見え
るかもしれませんが、実は、外野へ回る子の謝ってる相手が違う
んです。

 彼女、味方に対して失敗してごめんなさいを言っているのでは
ありません。投げてくれた人に対して、『せっかく投げてくれた
のに、取れなくてごめんなさいね』って謝ってから外野に向かう
のでした。

 そして、ここが一番違うのですが、私たちのドッヂボールでは
内野の数は減らないんです。

 どうしてかというと……
 相手方のリーダー、この場合は瑞穂お姉様が、「じゃあ、次は
里香ちゃん。入ってえ~~」というふうに、今、外野をやってる
相手側の子を指名して、外野へ回る子の代わりにその子が内野へ
入ってくるんです。
 ですから、内野4と外野2の数はいつも同じでした。

 こんなの、どこのルールブックに載っていないでしょうけど、
私たちの世界では、お友だちみんながボールに触れるようにと、
自然とこうなります。
 これって私たちだけのローカルルール。でもこの方が私たちに
とっては気持ちよかったのも事実でした。

 当然、試合終了で人数を数えてみても差なんてありませんから、
試合はいつも引き分け。勝ち負けなんてつきません。
 私たちはそれがよかったのでした。

 ローカルルールはまだあります。
 外野にいる子は相手の内野の子に球をぶつけたりはしません。

 ひたすら遠くへ飛んでいったボールを拾ってくるだけの球拾い。
そして……
 「これ、どうぞ」
 と言って取ってきたボールを相手の内野に手渡すだけの仕事で
した。

 すると、今度はボールをもらった相手が……
 「ありがとう。次は、あなたを指名してあげるからね」
 と、こうなるのでした。

 幼い頃からお父様や先生に『仲良し』『仲良し』で育てられた
私たちにはお友だちが敵になるというのが、どうにも理解できま
せんでした。
 ですから、試合に勝ったとしても満足感がありません。逆に、
『相手の方に悪いことをした』なんて思っちゃいますから、それ
は心持の悪いことだったんです。

 上手で投げた球を受けられない子には、前に来てもらって下手
で投げます。大事なことは相手がミスする事を喜ぶんじゃなくて、
逆に、取れるような球を投げてあげること。お友だちから投げて
もらった球をちゃんとキャッチしてあげること。
 これが大事なことだったんです。

 ですから内野全員がキャッチできると、もうそれだけで歓声が
あがります。それが最高の満足でした。


 そんな私たちのドッヂボールで事件が起きます。

 内野にいた広志君、そうフェンスの破れたのを利用して一緒に
谷底まで降りていって、先生にお尻を叩かれた時のあの子です。

 その子が、相手の内野だった留美お姉様が後ろに下がろうした
時に転んでしまったのを見て……
 「留美お姉ちゃま、取って~~」
 そう言って持っていたボールを高く放り投げたのでした。

 前に投げたのと違い狙って狙えるものではありませんが、不幸
にして高く上がったボールが加速度をつけてお姉様の頭に当たっ
てしまいます。

 「きゃあ」
 ボールは大きく弾んで外野へと飛んで行き留美お姉様の大きな
声が聞こえました。
 みんなびっくりです。

 「大丈夫?」
 「怪我なかった?」
 「医務室に行く?」
 たちまち、五六年生の女の子たちが心配して中条さんのもとへ
集まりますが、広志君だけは涼しい顔です。それどころか……

 「留美お姉ちゃま、取れなかったんだから外野に行ってよ」
 広志君の声がします。

 これには女の子全員、カチンときました。
 全員が広志君の方を振り返ると睨みつけます。

 これには広志君も少しびびったみたいですが、すぐにこう言う
のです。
 「だって、僕はルールどおりにやってるんだよ。取れない方が
悪いんじゃないか」

 たしかに、広志君は留美お姉様に一声かけてから投げましたが、
それって明らかに悪意があります。

 「何言ってるの!倒れてる子はどこからボールが来るか分から
ないでしょう!そんなことして投げたら危ないじゃない」
 私たちを代表して瑞穂お姉様が反論します。

 でも、広志君は折れませんでした。
 「どうしてさあ、僕たち、みんなドッヂボールやってんだよ。
だったら、そのルールに従ってたら別に何しててもいいだろう。
だいたい、留美お姉様は普段から鈍いんだよ」

 これには女の子全員、さらに『カチン!』です。

 愛子お姉様が、
 「あんたなんか内野やってる資格ないわよ」
 友理奈お姉様が、
 「そうよ、あなたこそ外野へ行きなさいよ」

 あとはもうみんな……
 「そうよ、そうよ、外野で頭を冷やすべきよ」
 「賛成、あなたがいたら楽しく遊べないもの」
 「だいたい男の子のくせに、あなた生意気なんだから」
 「そうよ、あなたなんかピルエットも満足に回れないくせに、
どうしてこんな時だけ態度がでかいのよ」
 五年生の子も混じって速射砲の一斉攻撃です。

 これには、広志君もたじたじでした。
 でも広志君、心の中でそんな女の子たちの意見をもっともだと
思っていたわけではありませんでした。

 広志君はボールを激しく地面に叩きつけるとコートを去ります。
顔を真っ赤にして、泣いて怒ってる、そんな感じだったのです。

 ほかの子がたいして怪我もしていない留美お姉様の処へ集まる
なか、私は広志君を心配して跡をつけます。

 見ると、そんな広志君を迎え入れたのは進藤のお父様でした。
(親子ですから当たり前と言えばそれまでなんですが……)

 実はこのドッヂボールの試合、昼休みに行われたお仕置きの後
で、お父様方が揃ってコートサイドで見学なさっていたのです。

 広志君は、最初進藤のお父様が差し出す手を払い除けて一度は
もっと遠くへ行こうとしますが、次にお父様が息子を両手で抱き
しめ、立ったまま懐の中に入れてしまうと、それからは広志君も
抵抗しませんでした。

 私はその時、広志君が泣いているように見えました。
 きっと悔しかったんだと思います。
 広志君は広志君で、自分のしたことが正しいと信じてるみたい
でしたから。

 抱き合う親子のもとに他のお父様たちも集まってきます。

 「だいぶ派手にやられてたみたいだね」
 と、佐々木のお父様が……
 「女の子というのはいったん火がつくと見境がなくなるから」
 と、今度は高梨のお父様も……

 他のお父様たちも次々に口を開きます。
 「ここは女の子社会だからね、調和第一というわけだ」
 「でも、これだと男の子には住みにくいですかね」
 「確かにそれはあるだろうね。男の子と女の子では生きていく
哲学みたいなものが違うから。私なんて未だに奥さんの考えてる
ことが分からないくらいだ」

 そして、中条のお父様が……
 「大丈夫、ヒロちゃんの言っていることは正しいよ」
 こう言うと、そこでやっと広志君は顔をあげます。
 やっと自分の考えに賛同してくれる人が見つかってほっとした
のかもしれません。

 中条のお父様は続けます。
 「ドッヂボールの試合だけでみると、君の言ってる事は正しい
んだよ。そもそも内野がボールを投げるのにいちいち声を掛ける
なんてよそじゃやってないだろうし、内野の子が転んだからって
立ち上がるのを待ってる子もいないだろう。逆にチャンスだから
ぶつけちゃえって、ボールぶつけちゃってもそれも構わないさ」

 「ほんとう」
 広志君は中条のお父様の方を向きます。すると、今まで泣いて
いたのがはっきりとわかりました。

 「本当さあ、大半の学校ではそうやってドッヂボールをやって
るんだから。……ただね、ドッヂボールのルールはそうでもこの
学校の生徒としては、それとは別に守らなければならないルール
があるんだ。女の子たちはそれを言ってるんだよ」

 「どういうこと?」

 「『お友だちとは、いつも仲良しでいましょう』ってことさ。
うちではこれが一番大切なルールなんだ。どんな規則や成績より
これが最優先のルールなんだよ。君だってそれは知ってるよね。
もう耳にたこができるほど聞かされてるだろうから」

 「う、うん……」

 「ドッヂボールをやってる時も君がこの学校の生徒である以上
それは守らなきゃいけないんだ。こんなことしたらお友だちの体
が傷つくとか、こんなことしたら仲が悪くなりそうだと思ったら、
それはドッヂボールのルールに書いてなくてもやっちゃいけない。
……わかるだろう?」

 「うん……」
 広志君は小さな声で答えます。

 「いや、私も驚きましたよ。この子たちは自分たちでちゃんと
自分たちにあったルールを創っちゃうんだから、大人顔負けだ。
しかも、こうして見る限りそれが美しく機能している。まさに、
これは天使たちのドッヂボールですよ」

 広志君を迎えにやってきた桜井先生が、お父様たちを前にして
大仰に驚いてみせます。
 もちろん、それってお父様たちを前にしてのお世辞があるかも
しれませんが、先生は子供たちを褒めちぎります。感心しきりで
した。

 そして、最後に……
 「とにもかくにもだ、ここは女の子たちに謝って、また仲間に
加えてもらわなきゃね。このまま逃げてちゃ男が廃るよ。さあ、
先生と一緒に行こう。一緒に謝ってあげるから……」
 そう言って広志君の手を引こうとします。

 すると、広志君が気の弱いことを言うのです。
 「僕……また、ドッヂボールできるかな?」

 「もちろんさ、もし、『広志君と一緒に体育をやるのが嫌だ』
何て言ったら今度はその子の方がお友だちと仲良くできなかった
ってことになるもの」
 と、桜井先生。

 「大丈夫だよ広志。もし姉ちゃんが嫌だなんて言ったら、私が
この場でお仕置きしてやるから」
 進藤のお父様は広志君の肩越しにそう言って笑うのでした。

 「ただし、最初にお前が謝らなきゃ、話にならないよ」
 最後は進藤のお父様が広志君の肩を押してコートへ戻ります。

 するとそれとほぼ同時に私もまた小暮のお父様に後ろから両肩
を掴まれました。

 「美咲ちゃんは広志君のことが好きなのか?」
 ぼそぼそっとした小さな声。でも唐突にお父様から言われて、
思わず私の心臓が止まりそうになります。

 私は振り返ると……
 「そんなわけないじゃない」
 怒ったような顔で否定するのですが……

 「そうか、午前中は一緒にスケッチしてたみたいだし、午後も
こうやって跡を追ってくるぐらいだから、気があるのかと思った
んだが、違ったか?」

 「馬鹿馬鹿しい。変な想像しないでよ。そんなの偶然。偶然よ。
あんなのタイプじゃないもの。私はもっとカッコいい子がいいの。
郷ひろみ、みたいな」
 私はむきになって否定します。

 「そうか、広志君はタイプじゃないのか。残念だなあ。お前が
その気なら進藤さんところと縁続きになれたんだが……」
 お父様は苦笑いです。

 私は十一歳。漠然とした美形の男子への憧れはありましたが、
具体的な想いはまだ何もありません。
 広志君のことだって、あまりにも幼い頃から彼を知っています
から彼のいやな処だって沢山知っているわけで、本当にそんなの
偶然だと思っていました。

 でも、お父様は人生の大先輩。私以上に私の心の奥底をご存知
だったみたいです。


 さて、私のことはともかく、広志君がコートに戻ってきます。

 「ごめんね、ボールぶつけて……」
 彼は留美お姉様にごめんなさいを言ってから、瑞穂お姉様にも
謝ります。
 「ごめんなさい。勝手にコートから離れて……」

 殊勝な心がけと言いたいところですが、実は広志君、バックに
大勢のお父様たちや桜井先生を引き連れていました。
 お父様たちにしてみたら広志君がちゃんとごめんなさいを言え
るかどうかを確かめるために一緒に着いてきただけなんでしょう
けど、女の子の立場からすると、それってまるで自分たちの方が
お父様たちに叱られてるみたいでした。

 広志君、大勢の保護者に見守られながらのごめんなさいだった
のです。

 また、ドッヂボールが再会され、当然、広志君もそれに加わり
ます。

絶対に勝ち負けの着かない天使のドッヂボール。勝った喜びも
負けた悔しさもここにはありませんが、私たちにとっては忘れ得
ないボールゲームの思い出だったのです。

**********************

*****************

<これまでの登場人物>

 学校を創った六つのお家
小暮
 進藤(高志)
 真鍋(久子)
 佐々木
 高梨
 中条

 小暮男爵家
 小暮美咲<小5>~私~
 小暮遥 <小6>
 河合先生
 <小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>
小暮 健治<中3>
 小暮 楓<中2>
 小暮 朱音(あかね)<中1>

 学校の先生方
 小宮先生<5年生担当>
 ショートヘアでボーイッシュ小柄
 栗山先生<6年生担当>
 ロングヘアで長身
 高梨先生<図画/一般人>
 創設六家の出身。自らも画家

 6年生のクラス
 小暮 遥
 進藤 瑞穂
 佐々木 友理奈
 高梨 愛子
 中条 留美
 真鍋 明(男)

 5年生のクラス
 小暮 美咲
 中条 由美子
 高梨 里香
 真鍋 詩織
 佐々木 麗華
 進藤 広志(男)

********************

小暮男爵 << §17 >> 明君のお仕置き

小暮男爵

***<< §17 >>****

 次は明君の番です。明君のお父様、いえ、お母様は真鍋久子と
おっしゃって古くからの紡績会社、東亜紡績の会長さんです。
 ご主人が亡くなられた後を継いで戦中戦後を乗り切った女傑と
お聞きしていますが、子どもの私にはそのあたり詳しくは分かり
ません。

 ただ、この学校の卒業生の多くが彼女の引き立てでデザイナー
になったり、アパレル関係の会社に就職しているんだそうです。

 お父様たちの間では、家での躾が女の子には厳しいことから、
ちょっぴり皮肉を込めて真鍋御前なんておっしゃってますけど、
私たち外の家の子にとっては、何でも相談に乗ってくれる親切な
おば様です。

 それに厳しいと言ってもそれはあくまで女の子についてだけ。
明君のような男の子に対しては逆にべたべた甘々でした。

 この時も、先立って行われたお父様たちの話し合いで、明君の
お仕置きに最後まで反対したのだそうです。

 「男の子はそのくらい元気があった方がよくありませんか」
 というのがその理由だったみたいですが、結局……

 「これは、クラスの子がみんな一緒にお仕置きを受けることが
大事なんです。男女も関係ありません。人は思い出を語るとき、
その時の感情を持って語りません。お仕置きのような辛い思い出
だって未来では楽しく語れるんです。むしろ、楽しい思い出より
辛い思い出の方が、人は強い連帯意識や共感を感じます。我々が
ボロボロになった国土を立て直せたのは戦争に行ったからです。
それもどん底の負け戦だったから。そこで我々は悟ったんです。
見渡せば焼け野原、みんな同じ立場の日本人なんだって。社会は
一度リセットされて身分も地位も関係ないところからスタートが
きれたんです。これは戦勝国にはない我々だけの特権なんです。
このクラスも同じでしょう。顔が整ってるとか、スタイルがいい、
成績が、運動が、性格が、子どもの世界にだって大人と同じ様な
しがらみは沢山あります。それをクラスの一員としてみんな平等
なんだって実感させるには、全員を同じ方法でお仕置きするのが
最も手っ取り早い方法なんです。だからたった一人の抜け駆けが
あっても意味がなくなるんです」

 中条のお父様がこんな大演説をぶって真鍋御前を説得なさった
んだそうです。

 私たちは孤児でお父様に養ってもらってる身でしかありません。
それでも、お父様を自慢し、自分の家のお兄様お姉様を自慢して、
それがまるで自分の実績ででもあるかのように振舞うことがよく
あります。それがお父様たちには心地よくなかったのでしょう。

 こうして真鍋のお母様は明君のお仕置きを承諾したわけですが、
明君が私たちにお尻を見せることには最後まで反対だったみたい
でした。

 「出世前の男の持ち物を何も女の子が覗かなくても……」
 ということなんですが、これも最後はお父様たちの反対多数で
押し切られてしまいます。

 こうして難産の末に明君の大事な処が私達の目の前に現れます。
『何をやるにも全員同じで…』というわけです。

 いえ、私はそんなもの見たいとは思わなかったのですが、いざ、
それが現れると、やはり、心穏やかではいられませんでした。

 「!!!」
 私だって女の子ですから、その瞬間は全身に電気が走って目を
そらします。

 それって単にグロテスクだからというのではありません。何か
別の感情が湧き起こって私はそこから逃げたいと思ったのでした。

 「????」
 ところが、それからすぐ、今度は無性にそれが見たくて仕方が
なくなります。

 「*****」
 顔を覆っていた両手の指を少しだけ開いて……そのすき間から
そうっと……

 そんな私の様子にお父様が気づきます。

 「どうした?そんなに明君が気になるのか?美咲ちゃんだって
三年生までは一緒にプールにもお風呂にも入ってたぞ」

 意地悪なことを言われて私の顔は火照りますした。
 実際、私たちの学校ではプールの時も三年生まではお互い水着
を着けません。林間学校、スキー合宿、お泊まり会のお風呂でも
当然のように一緒だったんです。

 ですから、私だって男の子のオチンチンを見たことはあるわけ
なんですが、その時はこうしてまじまじと見たわけではありませ
んでした。

 「どうした?辛いなら、あえて見なくてもいいよ」
 お父様にはこう言われましたが私は首を振ります。
 すると……

 「『あるものをあるがままに見て恥ずかしがらない』人として
これは大事なんだが女の子はこれが最も苦手だからなあ。だから
プールもお風呂も、あえて裸で通したんだ。ま、できるのは幼い
うちだけだが、それでも、最初からわけも分からず恥ずかしがる
より、この方がずっといいんだよ。何事も、経験しておくにこし
た事はないんだから……」

 私はお父様の言ってる意味が分からないまま頷きます。
 私って人の話をぼうっと聞いているだけでもすぐに合いの手を
いれてしまう癖があるんです。
 それが災いしました。

 「御前、私がお手伝いしましょう。もちろん、こうしたことは
お母様自らなさるのがいいですが施灸は慣れないと大変ですから」
 明君へのお灸を据えそびれている真鍋のお母様に小暮のお父様
が手を上げたのです。

 「そうですか、あいにく私は不器用で……お願いできますか?」
 真鍋のお母様は断りません。

 「ええ、大丈夫ですよ。幸いここに適当な助手もおりますから」
 小暮のお父様の一言。助手って誰でしょうか。

 「ん?……助手って?……」
 私は最初『適当な助手』の意味がわかりませんでしたが、手を
引かれたのですぐにそれが私のことだと気づきます。

 「えっ?!!え~~~~!!!」
 次の瞬間、私は震撼します。

 お父様の意図は、ズバリ私に間近で男の子のアソコを見せる事。
 でも、それってやっぱり女の子には身の毛のよだつ事態でした。

 「ほら、ここに座って手伝いなさい」
 お父様の命令ですから仕方なくそうしましたが、そこは明君の
ばっちい物が目の前30センチくらいにある場所だったのです。

 『堪忍してよ~』
 そう思って思わず視線をそらしたのですが……

 「だめだよ。ちゃんと見なきゃ。人間に備わるもので不浄な物
なんて何もないんだから」

 お父様はそう言いますが……
 『ばっちい物は、ばっちいの!これ女の子の常識!真実なんて
女の子はいらないの。美しければそれでいいの!嘘とまやかしで
十分よ!!』
 私は心の中で反論します。

 でも、ここが女の子の弱いところなんでしょうね。声に出す事
ができませんでした。

 すると、事態はさらに悪化します。

 「ほら触ってごらん」
 お父様は私の左手をその大きな手で包み込むと、そのまま目の
前にある明君の陰嚢を握らせます。

 生暖かくて、ぐにゃっとした感触。空気が抜けて皺皺になった
古い古いゴムボールというところでしょうか。それでも触れると
『これ生きてる』って感じますから蝦蟇蛙を手づかみしたような
感触でもあります。
 いずれにしても、こんな感触の物を触ったのはこれが生まれて
初めてでした。

 「いやっ!」
 私は拒絶しようとしますが、お父様に左手を押さえられていて、
離そうにも離せません。

 「どうした?嫌かい?でも、何事も経験しておくにこしたこと
はないんだよ。美咲ちゃんだって、将来、男の子が産まれたら、
どのみち竿も袋も握ることになるんだから」
 お父様は笑いますが……

 「離して!その時はその時よ。私が産んだ子なら可愛いもの。
その時は何だってやってあげるんだから……」
 私は偽らざる本音を口にします。

 「明君じゃだめかい?」
 お父様は自嘲ぎみにおっしゃったのですが、私はハッとして我
に帰ります。

 「そういうわけじゃないけど……」

 私は明君がクラスメイトで仲良くしなければならないお友だち
であることを思い出したのでした。お友だちとはどういう関係で
なければならないか。先生やお父様の言葉を思い出したのでした。

 『お友だちとはどんなことも分かち合わなければなりません。
どんな些細なことも隠してはなりません。それさえ守っていれば
私たちはお父様は違ってもみんな本当の兄弟姉妹ように必ず幸せ
になります』
 幼い頃、周囲の大人たちに毎日のように聞かされた言葉です。

 その言葉に、今、私は反しているんじゃないか、そう思ったの
でした。

 そんな私の気持をお父様は察したみたいでした。
 ですから、こう言います。

 「さあ、これから、明君のお仕置きをするけど、美咲ちゃん、
お友だちでしょう。手伝ってね」

 こう言われた時、私は逆らえません。ここで言う『お友だち』
『仲良くする』というのは、私たちとっては通り一遍の徳目では
ありません。家でも学校でも、それは一番大事にしなければなら
ない約束事だったのです。

 「えっ、私が?!!」
 私はお父様から火のついたお線香を握らされます。
 どうやら、私が明君の大事な場所にお仕置きをしなければなら
ないみたいでした。

 「大丈夫、お父さんがついてるから」
 お父様はお線香を持つ私の右手をしっかり包み込んでいます。

 こんな時、明君だってそりゃ泣きそうでしょうけど、私だって
泣き出しそうでした。


 「明ちゃん、あなたが先生に『あなたも一緒に飛び降りていま
せんでしたか』って尋ねられた時、どうして正直に言わないの。
嘘をつくからこんなことになるのよ。正直でない子はお仕置き。
仕方がないわね。しっかり我慢するのよ」
 真鍋御前様は明君に最後の忠告をして、明君の陰嚢を持ち上げ
ます。

 色素沈着のない、まだ皮膚と同じ色の丸い玉が持ち上げられ、
どうやら、その根元にお灸が据えられるみたいでした。
 
 身体の真ん中を縦に真っ二つにして通る蟻の門渡りと呼ばれる
線がおチンチン袋にも筋となって通っています。その筋を挟んで
両サイドに小さく艾が置かれます。
 それは女の子なら会陰に当たる場所でした。

 そこに艾を置いたのはお父様。そして、そこに火を着けるのは
私の持っているお線香です。

 『どうしよう、どうしよう』
 そう思ううちお線香がどんどん置かれた艾の位置に近づきます。
もちろんそれを操作しているのは私の手を包み込んでいるお父様
なのですが、火がついた瞬間は、やっぱりショックでした。
 大丈夫と思っていてもやっぱり心配です。

 「あっ~」
 明君は小さなうめき声をあげます。

 『大変なことしちゃった』
 その瞬間は、やらされたことでしたが、やっぱりそう思わざる
を得ませんでした。

 艾が小さいので二箇所とも熱いのはほんの一瞬です。
 もみ消す必要もないくらいの火事なんですが、人にお灸を据え
てあげるなんてこれが初めてですから、罪悪感でその瞬間は強い
ショックだったのです。

 でも、これで終わりではありませんでした。
 もう一箇所残っています。

 「さあ、次はここに、お願いするわね」
 真鍋のお母様が、今度は明君の竿を摘み上げ、それが戻らない
ように人差し指と中指で押さえながら私にお願いします。

 お母様の手で引き上げられたオチンチンは全てに皮膚が被った
ロケット型。先っちょに皮膚が余って皺皺になっています。
 これって赤ちゃんと同じ。典型的な子どものオチンチンです。

 この位の歳になると、中には大人の身体へと変化し始める子も
いますが、明君の場合はお臍の下もツルツルの純粋な子どもの姿
でした。
 ひょっとして明君がひんな姿でなかったら、お父様だって私に
こんなことまでさせなかったかもしれません。

 さて、次なる目標地点はというと、引き上げられたオチンチン
の裏側。陰茎と陰嚢の根元の部分です。
 ここも普通にしていれば、たとえ素っ裸でも外から見える場所
ではありませんでした。

 とはいえ、仰向けに寝かされて、両足を高く上げさせられて、
がんじがらめに押さえつけられてる姿は男の子だって相当に惨め
なはずです。
 でも、勇気のない私は、『もう許してあげて』なんてお父様に
言えませんでした。

 「さあ、次はここだよ」
 お父様の声。

 私はお父様のロボットとなって二つ目の場所にもお灸をすえ
ます。

 その瞬間きっと熱かったんでしょう。男の子のそこがぴくぴく
っと動いて、私はびっくり。
 耐えてる明君ではなく、私の方が思わず明君の太股にお線香の
火の玉をくっつけそうになりました。


 『やれやれ、終わった』
 と思ったのですが……ところがそうは問屋がおろさないのです。

 「明ちゃん、あなた男の子なんだから、瑞穂ちゃんだって三回
耐えてるのに一回だけじゃだらしがないわ。もう一回やっていた
だきましょう」
 明君の解放を止めたのは、なんとこのお仕置きには反対だった
はずの真鍋のお母様です。

 「もう一回、お願いできますか?」
 真鍋のお母様がうちのお父様にお願いします。

 「えっ、またやるの?」
 明君が心配顔で見上げますが、お母様は涼しい顔です。
 きっと、お灸を据えてみた結果、大したことがなさそうなので
急遽思いついたのかもしれません。

 「男の子は女の子と同じじゃいけないの。女の子が三回なら、
あなたは五回ぐらい我慢して男義をみせなきゃ」

 お母様の命令ですからね、明君、諦めるしかありませんでした。
 そして、私もまた、諦めるしかなかったのです。

 据える場所は同じ場所。
 でも今度はお母様自らその袋を摘み上げて『さあ、どうぞ』と
言わんばかりに私の目の前で目一杯押し広げます。
 恐々やっていた最初とは大違いでした。

 『あっ、さっきの……』
 そこにはさっき私がすえたばかりの赤い点が二つ残っています。

 そこに新しい艾が乗せられて……

 「さあ、それじゃあもう一回だ」
 お父様の指示でお線香を近づけます。

 もちろん、それって私の右手をお父様が動かしているわけで、
私の意志とは関係ありませんが、明君に対する罪悪感が消える事
はありませんでした。

 「あああああああ」
 小さな吐息が聞こえます。

 『あんな処に据えられて本当に大丈夫なのかしら?』
 私は女の子ですからそこへ据えられた男の子の気持なんて分か
りませんが、それでも、その場所が私たちの会陰や大淫唇と同じ
ような処だとお父様に聞かされて、少しほっとした気持になった
のも事実でした。

 というのも、私も恥ずかしい場所へお灸を据えられましたけど、
ここが特別熱かったという記憶はありませんでしたから。

 明君も二回目までは何とかを持ちこたえていました。

 ただ、三回目ともなると……

 「いやあ、やめて~~~、熱いからいやだあ、ごめんなさい、
お母さん、やめてよ~~~」

 上級生らしからぬ泣き言が聞こえます。
 実際、お灸というのは最初に据えられた時の驚きを別にすれば
連続して据えられると後の方が応えます。
 一回目より二回目、二回目より三回目が辛いのでした。

 ところが、真鍋のお母様はそんな明君を叱ります。
 「情けない声を出さないの!!あなた男の子でしょう!!この
くらいのこと、一年生のチビちゃんだって黙って耐えてるわよ!」

 御前様の大声が広間一杯に広がります。
 いつもは優しいお母さんの怒鳴り声にビックリしたんでしょう
か。明君は、その後、一言も泣き言を言いませんでした。


 こうして、最初の二人が三回だったおかげで、以後は他の子も
お灸は三回になり、とんだとばっちりを受けたわけですが、ただ、
その後は大した混乱もなくお灸のお仕置きは粛々と行われました。

 何人もの家庭教師から身体が1ミリも動かせないように押さえ
込まれて、女の子の一番恥ずかしい場所をみんなの前で晒し続け
る。お灸は大したことがなくても、もうそれだけで外へ行ったら
虐待でしょう。

 でも私たちの場合、クラスメイトはみんな幼馴染で同じ境遇の
子供たち。お父様も家庭教師も、事前に話し合って同じ価値観で
私たちに語りかけます。ですから、私たちにとってはこれが常識。
これが宇宙の全てなのです。
 叱られること、お仕置きされることは辛くても、それだけ切り
離して考えることなんかできません。私たちにとっては、これも
またお父様たちとの楽しい生活の一部でしかありませんでした。


 長い長いお仕置きの時間が終わり、すでに午後の最初の授業が
始まっています。ただそんな場合でも、この学校ではオーナーで
あるお父様たちのお仕置きが優先されます。

 この大広間の入口では次の時間を担当する体育の桜井先生の顔
が見え隠れしていましたが、お父様たちは慌てる素振りを見せま
せんでした。
 それはまだ最後の大事なご挨拶が残っていたからなのです。

 お姉様たちはすでに正座してして待っているご自分のお父様の
前に向き合うように正座します。
 お父様も娘もこの時は決して白い歯を見せません。
 まるで武道の試合前のような緊張感の中、小暮のお父様が代表
して声を掛けました。

 「それでは、礼をしましょう」

 こう言うと、娘たちは一斉に両手を畳に着けて……
 「お父様、お仕置きありがとうございました」

 子供たちの声が合唱となって大広間に響きます。

 お仕置きにお礼を言うなんて変なのかもしれませんが、これは
私たち間ではむしろ常識で、幼い頃からお灸に限らずお仕置きを
された後は必ずお父様にお礼を言う習慣になっていました。

 これも、もし、にやけた顔で挨拶なんかすると……お仕置きの
やり直しなんてこともあります。だからこそ子供たちだって真剣
なのでした。

 ただ問題はこれだけではありませんでした。
 礼が終わると子供たちはそれぞれのお父様のお膝に引き取られ
ます。幼い子のようにお父様から抱っこよしよしってされるわけ
です。

 これって、本当に幼い頃なら嬉しいんですが、ある程度年齢が
上がってくると、うっとうしくなります。
 でも、これも嫌がっていると……

 『まさか、お仕置きのやり直しとか?』

 ピンポーン。大正解。

 私たちはお父様の庇護のもと、何不自由なく暮らしているよう
に見えるかもしれませんますが、お父様のお人形としての役目は
常にきっちり求められます。
 ですから、このお膝では『お仕置きで元の良い子に戻りました』
というアピールが求められるのです。

 お父様からは、頬ずりをされたり、頭やお尻を撫でられたり、
顔を胸のなかへ押し付けられたりもしますが、それを常に満面の
笑みで返さなければなりません。お父様の天使であり続けなけれ
ばなりません。

 そんな睦み事が5分程度あって……
 「よし、良い子になった。さあ、午後の授業に出ておいで……」

 次がいよいよ午後の授業となるのでした。

*******************

小暮男爵 << §16 >> 瑞穂お姉様のお仕置き

小暮男爵

***<< §16 >>****

 瑞穂お姉様のお父様は進藤高志さんとおっしゃる実業家。今は
経営の大半を息子さんが受け継いでいらっしゃいますが、戦前は
関東一円に数多くの軍需工場を持つ社長さんだったんだそうです。

 もちろん戦前のご様子など私は知りませんが、こちらでは縞の
三つ揃えにスエードのハットを被った姿でよくお目にかかります。
家に遊びに行くと、いつも油絵を描いてらっしゃるか、ピアノを
弾いてらっしゃるかしていて多趣味な方でもあります。

 もちろん、子供は大好きで、ご自宅の居間でお見かけする時は
誰かしら子どもたちがその膝の上に乗って遊んでいました。
 私が遊びに行った際、当時三歳だった弘治君という男の子が、
お膝の上でお漏らしをしてしまいましたが、お父様はまるで何事
もなかったかのように顔色一つ変えませんでした。

 そうした愛された兄弟(姉妹)の中でも、瑞穂お姉様のことは
特に可愛がっていられたと人伝えに聞いたことがあります。瑞穂
お姉様は明るく頭もよくて、難しい話題にもお父様のお話相手が
務まる子だと評判だったのです。

 ただ、そんな甘い関係も、この場では封印しなければなりませ
んでした。

 進藤のお父様は、あられもない格好のお姉様を間近に見ながら
蝋燭からお線香に火を移してお線香たてに立てます。
 その顔は普段見る柔和なお顔とは違って、厳しく引き締まって
おられました。

 「恥ずかしい?」

 進藤のお父様に尋ねられた瞬間、お姉様の生唾を飲む様子が、
こちらからも垣間見えます。

 「…………」
 でも、お姉様はそれには答えません。
 緊張しているせいでしょうか、私には、お姉様が自らの誇りを
失いたくないと意地を張っているようにも見えました。

 「私は『恥ずかしいのか?』と尋ねているのに答えてくれない
のかね」

 「あっ、はい、恥ずかしいです」
 お姉様は慌てて答えます。

 勿論そんなことわかりきっていますが、進藤のお父様に限らず
お父様たちって、惨めな姿をした子どもたちに『恥ずかしいです』
と言わせたがります。

 そして、その返答はたいていこうでした。
 「仕方ないな、お仕置きだから………お父さん、お前にわざと
そんな格好させてるんだ。お前が、よ~~く反省できるようにね」

 「はい、ごめんなさい」
 お姉様は嗚咽交じりの小さな声で答えます。

 「いいかい瑞穂。なぜお前がこんな格好をしなければならなく
なったか、わかってるだろう?」

 「私が二階の窓から傘を差して飛び降りたから……でしょう?」
 お姉様が自信なさげに答えると……

 「確かにそれもあるけど……それについては、栗山先生が処置
してくださったから、まだいいとして……私たちが問題にしてる
のはね、実はそのことだけじゃないだ」

 「えっ?どういうこと?…………」
 お姉様の小さな声には意外というに思いが込められています。

 「君がメリーポピンズを始めた時に、どうして遥ちゃんたちも
誘ってあげなかったのかなってことさ」

 「どうしてって……それは…………」
 お姉様は少し考えてから……
 「だって、あんまりいいことじゃないし、誘ったら悪いかなと
思って……」

 「じゃあ、明君が真似した時は何で止めなかったの?」

 「えっ……それは…………」

 「そうじゃないでしょう。そんな事で遥ちゃんに声をかけたら
バカにされるんじゃないかって、心配したんじゃないの?」

 「えっ…………」
 お姉様は答えませんでしたが、どうやら図星のようでした。

 瑞穂お姉様とうちの遥お姉様はお互いライバル。たった六人の
中ですが、二人は勉強でも図工でも音楽でも、とにかくどんな事
でも張り合っていました。

 「図星みたいだね。いいかい、いつも言ってるように、クラス
のお友だちとは誰とでも仲良しでなきゃいけないんだ。仲間外れ
はよくないな。特にお前は級長さんじゃないか。たった六人でも、
君はみんなのリーダーなんだよ」

 「キュウチョウ?」

 「そうか、今は学級委員って呼ぶんだっけ……でも同じだろう?
君はクラスを代表して色んな行事をこなす立場にあるんだから、
いつもクラスがまとまるように気を配ってなきゃいけないのに、
それが自分から悪さを始めたり仲間はずれの子を作ったりしたん
だから……これって、いいわけないよね」

 「でもあれは、遊びだから……遥ちゃんはやらないと思って」

 「遊び?でも、声を掛けてみなけりゃわからないんじゃないか。
『たとえ、悪戯をする時でもみんなで一緒にやりましょう』って、
教えたよね。これは他のお父さん達も同じ考えなんだから他の子
もお父さん達からそう教わってるはずだよ。ここでは悪戯する事
より、友だちを仲間はずれにする事の方が罪が重いんだ」

 「…………」
 お姉様はその教えに気がついたみたいでした。

 これは私も小暮のお父様によく言われていました。
 『みんなで悪さをしてもそれはみんなで罰を受ければいいんだ。
簡単に償える。お尻が痛いだけだもん。でも、お友だちを傷つけ
てしまうと、その償いはそんなに簡単なことじゃないんだよ』

 私たちの学校では、クラスに六人しか生徒がいません。でも、
六人しかいないからこそ、その六人は、誰もが大親友でなければ
ならないのでした。

 「それに、たとえ瑞穂が勝手に始めたことでも、他の子にすれ
ば、級長さんがやってるんなら一緒にやってみようと思うんじゃ
ないのかな。……それとも、その子たちは私が誘ったんじゃない
勝手に始めたんだから自分には責任がないって言うつもりかい?」

 「えっ…だって、そんなこと誰だって、悪いことだと分かって
るはずだから……」

 「そうかな?お父さんそうは思わないよ。級長さんがやってる
ってことは、他の子がやってるってこととは同じにはならないん
だよ。ほかの子すれば『級長さんがやってるんなら大丈夫だろう』
って思っちゃうもの」

 「それは……」

 「お父さんも、お前にこんな格好をさせたくはなかったけど、
やってしまった罪の重さを考えると仕方がないと思ってるんだ。
しかも今回は、小暮のお父様が『お嬢さんだけお仕置きするのは
酷ですから、全員に同じお仕置きをしましょう』とおっしゃって
くださったからこうなったんだ」

 「ふう……」
 お姉様から思わずため息が漏れます。
 それはがっかりという顔でした。

 これがお姉様のどういう気持の表れだったのかは知りませんが、
進藤のお父様にとってその顔つきは、あまり良い印象ではありま
せんでした。

 「…しかし、そうなると、お前に与えられる罰はむしろ軽いと
言えるかもしれないな」
 お父様はそう言ってお姉様の顔色を窺います。
 そして、こう続けるのでした。

 「……そこでだ、今回は、ほかのお父様たちとのお話合いで、
会陰と大淫唇に一回ずつ、合計三箇所すえる予定にしてたんだが
……お前の場合はこんなバカな遊びを最初に始めた張本人だし、
クラス委員でもあるわけだから……お仕置きが他の子と一緒じゃ
不公平なんじゃないかと思ってな」
 お父様はこう言って再びお姉様の顔色を窺います。

 そして、最後に進藤のお父様はこう宣言するのでした。
 「……だから、今回は、各箇所三回ずつ私が直接据えてやる。
……それでいいな」

 でも、これには瑞穂お姉様びっくりでした。

 「いや、だめよ。だめ。ちょっと待って……そんなことしたら、
私、死んじゃうもん。そしたら、化けてでてやるんだからね」

 瑞穂お姉様は、どうにもならないほど体を押さえ込まれたこの
恥ずかしい姿勢のままオカッパ頭を左右に振って叫びます。
 顔は真っ赤、もちろん本気で自分の身体を心配しての事でした。

 「大仰だなあ、大丈夫だよ」
 進藤のお父様は軽くあしらいますが……

 「だめえ~~~そんなことしたらお嫁にいけないもん」
 
必死に起き上がろうとして頭だけこちらを向いたお姉様の目に
はすでに涙が光っていました。

 きっと怖かったんだと思います。必死だったんでしょう。
 そりゃそうです。こんな姿でいるだけでも超恥ずかしいのに、
これから、女の子にとって一番大事な処へお線香の火が近づいて
来るというんですから、そりゃあただ事じゃありません。

 でも、そんな親子喧嘩の様子を見守るお父様たちはというと、
あたふたとしていて落ち着きのない人など一人もいませんでした。

 恥ずかしいお股へのお灸は、何もこれが初めての試みではあり
ません。ここでは女の子が成長するたびにお灸が据えられます。
 お灸はいわば通過儀礼みたいなもの。据える場所も、据える艾
の大きさもあらかじめ決まっていて、痕もほとんど目立ちません
でした。
 大事なことは皮膚を焼くことではなく、全員で恥ずかしい思い
をしたこと。そんな体験を持つ事がお父様たちにとっては大事な
ことだったみたいです。

 「大丈夫だよ。心配しなくて……お父さんがそんな危ないこと
ミホ(瑞穂)ちゃんにすると思うかい。据える処はどこも皮膚の
上だからね、熱いのは熱いけどお尻に据えられるのと同じ熱ささ」

 「でも、三回…据えるんでしょう」

 「それはそうだけど、艾が小さいからね、すぐに消えるし痕も
目立たない。死んじゃうだの。お嫁にいけないだのって心配する
ことじゃないよ。現にここの卒業生はほとんどがこのお仕置きの
経験者だけど、みんな元気に働いてるし、お嫁に行って赤ちゃん
産んでるじゃないか」

 「そう…………」
 瑞穂お姉様はお父様の説得に安心したのか、それとも単に首が
疲れただけなのか、元の姿勢に戻ります。

 「さあ、始めるよ。いつまでもこんな格好でいたら、その方が
よっぽど恥ずかしいだろう。風邪ひかないうちにさっさと終わら
せなきゃ」

 お父様に言われて最後は瑞穂お姉様も観念したみたいでした。

 最後に、お父様が自ら猿轡を瑞穂お姉様の口にくわえさせたの
ですが、それにはお姉様、抵抗する素振りをみせませんでした。

 ただ、それが終わると、瑞穂お姉様の身体はさらに厳しく拘束
されることになります。
 最後になって他の家の家庭教師の先生たちも瑞穂お姉様の体を
押さえにかかったのでした。

 左右の足を押さえるのに一人ずつ追加され、目隠しがなされ、
お腹にも一人別の人が乗ります。

 幼い女の子一人にいったい何人の大人が…と思いたくなります
が、全ては安全を考慮してのこと。そして何より、瑞穂お姉様が
『今日ここに据えられたんだ』と心に刻む為の演出だったのです。

 実際、施灸自体は蚊に刺されたほどにしか熱くありません。
 それを印象深くドラマチックにしてお仕置きの効果をあげるの
がここでの先生たちの仕事でした。

 そのため進藤のお父様は見ている私たちに、これでもかという
ほど瑞穂お姉様のアソコを広げて見せてくれました。
 大淫唇や会陰だけではありません。小陰唇も膣前庭も尿道口も、
もちろんクリトリスや膣口、お尻の穴まで、瑞穂お姉様の陰部は
あますところなく外の風に当たることになります。

 そうしておいて約束の場所に艾が置かれます。

 たしかに、それは小さなもの。大きな胡麻くらいでしょうか。
私にはその程度にしか見えないほど小さなものだったのですが、
でも、こうやって大勢でがんじがらめに身体を拘束され、猿轡や
アイマスクまでされて、普段なら外には出ない場所を全て全開に
しているお姉様に艾がどんな大きさかなんて分かりません。

 驚異、恐怖、焦燥で気が遠くなりかけたかもしれません。
 その思いを進藤のお父様が現実へ引き寄せます。

 「それじゃあ、すえるからね」

 お姉様が必死に暴れる……いえ、暴れようとして押さえつけら
れてるさなか、艾に火が移ります。

 「うっっっっっっっっ」

 確かに会陰へそれは一瞬で終わりましたが、膨らみのある肉球
へ、すぐに次の使者がやってきます。

 「うっっっっっっっっ」

 「うっっっっっっっっ」

 三火の施灸が終わり他の子はこれで終了なのですが、お姉様の
場合はさらに六回の試練が続きます。

 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」

 約束は守られました。
 お姉様は取り乱すことなく、お父様も必要以上のことはなさい
ませんでした。

 黒い点が三箇所。それって他の子より大きいかもしれませんが、
それでもそんなに大きな点ではありません。
 そして、その黒い点が興奮しているためでしょうか、脈打って
いるのがはっきりとわかりました。

 『私も、ああなるんだわ』
 私は先々の事にあまり頓着しない性格でしたが、この時ばかり
はさすがに身が引き締まります。
 だって、このお仕置き。ここにいる限り私も必ず受けることに
なるのですから。

 ただ、それはそれとして、お姉様の痴態を見ていた私の体には
ある変化が起きていました。お臍の奥底からは何だかドロドロと
したものが湧き出して来るのです。
 お臍の下の方で湧き出したそれはお腹へ胸へと登り、やがて顎
へ。顎の骨、歯根、歯茎、最後は前歯の先から出て行きましたが、
最後に一言。

 『私もやられてみたい』
 脳裏に不思議なメッセージを残して立ち去ったのでした。

 全ての戒めが解かれて自由になった瑞穂お姉様は憔悴しきって
いますが、なぜでしょうか、私はそんな瑞穂お姉様に自分自身を
重ねて憧れてしまうのでした。

 「ふうっ」
 大きなため息がでます。

 最初から強烈なお仕置きを見学するはめになった私でしたが、
次は、別の意味で、私にとってはもっともっと強烈でした。

***********************

小暮男爵 ***<< §15 >>****

<これまでの登場人物>
 
   (学校を創った六つのお家)
小暮 進藤 真鍋 佐々木 高梨 中条

 (小暮男爵家)
 小暮美咲<小5>~私~    
 小暮遥 <小6>        
 河合先生   
 <小学生担当の家庭教師>
小暮 隆明<高3>
小暮 小百合<高2>    
小暮 健治<中3> 
 小暮 楓<中2>
 小暮 朱音(あかね)<中1>

(学校の先生方)
小宮先生<5年生担当>
ショートヘアでボーイッシュ小柄
栗山先生<6年生担当>
ロングヘアで長身
高梨先生<図画/一般人>
創設六家の出身。自らも画家

(6年生のクラス)
 小暮 遥
 進藤 瑞穂
 佐々木 友理奈
 真鍋 明

(5年生のクラス)
中条 由美子
高梨 里香

*******************

小暮男爵

***<< §15 >>****

 『お股にお灸ですって~ひど~い、残酷すぎるよ』
 私は思いました。

 いえ、私が思ったぐらいですから、当事者はもっとショックな
はずです。

 瑞穂お姉様が進藤のお父様に訴えます。
 「ひどいよ。だって、私、もう先生からお尻叩かれてるのよ。
もう、お仕置き済んでるのに……」

 でも……
 「だめだ。これはお父さんたちみんなで話し合って決めたこと
だからね、可愛いお前の頼みでも変更はできないんだ」

 「そんなの勝手に決めないでよ。私お嫁に行けなくなっちゃう
じゃないの」

 「大仰だなあ。もう、お嫁入りの心配してるのかい?」

 「もうって……私だって女の子だもん」

 「大丈夫だよ。そんな場所、誰も覗かないもの」

 「だってえ~~」

 瑞穂お姉様は両手でお父様の襟を掴みながら食い下がります。
 でもそれって、お父様に懇願しているというよりどっか甘えて
いるように見えます。

 「それに、これはお前たちだけの特別なお仕置きじゃないんだ。
紫苑お姉ちゃまも、満知子お姉ちゃまも、そのまた先の先輩も、
みんなみんな一度はお股にお灸を据えられて卒業しているから、
言ってみればここの伝統みたいなものなんだよ」

 「うそ……何なの、伝統って……」
 瑞穂お姉様は絶句します。

 『うそ、瑞穂お姉様、お股へのお灸のこと知らないんだ。……
そんなのみんな知ってるよ。』
 私はつぶやきます。
 自慢になりませんが、実は私、この恥ずかしいお仕置きを一足
早く体験済みでした。

 あれは四年生の終わり頃だったかな、春休みで宿題もないから
毎日が日曜日。遥お姉様と訳もなく家中を走り回ってたら、廊下
に飾ってあった花瓶を割っちゃって…お父様に『勉強もしないで
浮かれてるからだ!』って、正座でお説教されたあとお仕置き。
仏間に引っ張って行かれて、二人並べて素っ裸。お手伝いに来た
河合先生にとりなしを頼んだんだけどダメで、二人とも仰向けに
寝かされたあと、両足を高く上げるあの恥ずかしいポーズのまま
河合先生に体を押さえつけられて、お父様に恥ずかしい処を全部
覗かれながら、「ひぃ~~」って感じのお灸を据えられたことが
あったの。
 だから、遥お姉様だってこれはもう経験済みよ。

 そりゃあ今と比べたら私は幼かったけど、信じられないくらい
恥ずかったし、死ぬほど熱かったしで二人とも頭はパニック状態。
気が狂ったみたいに泣き叫んだから、その時のことは家中の人が
知ってるはずよ。

 ただ、その時の私は反抗期というか、お父様と一緒にやってた
お勉強は逃げてばかり、逆に悪さは毎日のようにやってたから、
今にして思うと『そんなお仕置きをされても、仕方がないかあ』
なんて思わなくもないんです。

 でも、お姉様たちの場合は『こんなことぐらいでどうして?』
と思っちゃいます。

 そう言えば、あの時はもの凄く熱かったので、きっと火傷の痕
が今も残っていると思いますが、その後、お灸の痕をあえて確認
することはしませんでした。

 どうして?心配じゃなかったのか?……

 もし酷いことになっていたら、私はお父様を恨んでしまいそう
で、それが怖かったのです。

 で、その後、お父様とはどうなったか?……

 いえ、別にどうにもなりませんよ。今までの生活と何一つ変わ
りありませんでした。

 お父様を見つけると、いつも抱っこをおねだりして背中に抱き
つきますし我儘言ってはお父様を困らせます。
 私はそんなお父様の困ったお顔を見るのが大好きでしたから。

 私の場合は、お股にお灸を据えられた前も後も甘えん坊さんで
悪い子だったんです。それに実年齢以上に赤ちゃんだったかな?

 お風呂上りは、裸ん坊さんのまんまタオルケットに包まれて、
お父様に抱っこされたままベッドイン。包まれたタオルケットで
汗を拭いてもらって、ついでに全身マッサージ。ほっぺやお乳に
乳液をスリスリしてもらったら、最後は下着を着けずにパジャマ
を着るのが習慣で……。

 お父様に甘えすぎかもしれないけど、赤ちゃん時代から続けて
きた習慣がそのまんまって続いてたの。
 ベッドでお股を広げていても相手がお父様ならあえて隠すなん
てことはしなかったわ。
 だって、お父様からならお仕置き以外何をされても楽しいんだ
もの。『楽しいことしてえ~~』って感じだったわ。

 それに、お灸の痕はつまり火傷の痕なわけだから、しばらくは
歩くとそこが微妙に摺れて『あっ、ここ、ここ。据えられたんだ』
ってわかるんだけど、それって私の体をお父様がつねに見守って
くれてるみたいで、逆に嬉しかったの。

こんな言葉、子供の私が使っちゃいけないかもしれないけど、
お股へのお灸って、お父様に手込めにされた気分なの。
 それって、お灸を据えられた時は確かに死ぬ思いだったけど、
終わってみると、お父様の愛を自分だけが独り占めできたような、
妙な高揚感が残ったの。

 これを正直にお父様に話したら……
 「『手込め』ねえ……美咲ちゃん難しい言葉を知ってるんだ。
……でも、そうかも知れないな。……だったら最後まで面倒みて
あげなきゃね……」

 お父様、突然お顔がほころんで……
 「でも、嬉しいよ。お前のことだから、こんな厳しいお仕置き
もきっと受け入れてくれるだろうとは思ってたけど、ちょっぴり
心配もしてたんだ。幼いお前がネガティブになっていないなら、
それが何よりだ。…………ほ~~~ら、お父さんだよ~~~」

 よっぽど嬉しかったんでしょうね、お父様は目よりも高く私を
持ち上げると、何度も何度も頬ずりして、なかなか床に下ろして
くれませんでした。

 「でも、熱かったよ!ホントに据えるんだもん」
 私はお父様のご機嫌が直ってから、あらためて愚痴を言います。

 これは私に限らないと思いますが、愛されて育った子どもって、
厳しいお仕置きを言い渡されても『今は怒ってるけど、そのうち
許してくれるんじゃないかしら』って、心ひそかに期待している
ものなんです。
 それが最後までいっちゃったものだから、そこが私にとっての
不満だったのでした。

 今度の事だって、お姉様たちの心の中はその暗い表情ほどには
深刻じゃないと思うんですが……ただ、そうは言ってもお姉様達
の様子が気になりますから、私はその後も、目を皿のようにして
隣の部屋の様子を窺っていました。

 すると、お父様たちどうやら本気みたいで、お仕置きの衣装で
ある体操服をご自身で娘に着せていきます。

 『あっ、ずるい!私の時は素っ裸だったのよ!素っ裸にしろ!』
 私って妙なところに意固地なんで困りものです。

 私は心の奥底から湧き起こる怒りで思わず目の前のガラス窓を
叩いてしまいました。

 が……
 それ以外は私の時と同じでした。

 まず、お父様とその娘がお互い正座して向き合います。

 すると、娘が両手を畳に着けてご挨拶。
 「お父様、お仕置きお願いします」

 なかなか子どもの側から言いにくい言葉ですが、言わなければ
お仕置きは始まりません。始まらなければ終わらないわけで……
この言葉は絶対に言わなければならない言葉でした。

 ご挨拶が終わると、その場で仰向けに寝かされて、お父様から
ブルマーとショーツを剥ぎ取られます。

 その瞬間、大切な谷間が現れ、やがて両足も持ち上げられます
から、本来なら女の子として悲鳴の一つも上げたいところですが、
お仕置きの間は極力声を出してはいけませんでした。

 各家々の家庭教師が、仰向けになったお姉様方の両肩を両膝で
踏んで押さえ、高く上がった両足の太股をしっかりと鷲づかみに
して支えます。

 女の子にとってはこれ以上ないほどの恥ずかしいポーズ。私も
同じ姿勢になったけど、お股の中をスースー風が通って、屈辱的
というか、風邪をひきそうでした。

 『ざまあみろ』
 なんて、ガラス窓を隔てた向こう側からわけもなく思っちゃい
ます。それが何なのか、子どものうちはわかりませんでしたが、
大人になるとそれが嫉妬だと気づきます。
 私はお仕置きを受けるお姉様方に嫉妬していたのでした。
 ですから、私は天使にはなれないと思います。

 ただ、こうしてお姉様たちの痴態を眺めていても、私には何の
興味も湧きませんでした。
 だって、女の子にしてみたらあんなグロテスクでばっちいもの、
鑑賞するものじゃありませんから。

 ただ、明君に視線が移ると、それは別でした。
 『見ちゃいけない』と思いつつも私は男の子のアレを見ちゃい
ます。

 『へえ~、男の子のって、あんな感じなんだ。真ん中にまるで
縫ったみたいに筋が入ってる』
 声には出さないけど滅多に見られない映像に私の心は興奮状態
です。いつしか小さなガラス窓に思いっきり顔を押し付けて明君
のアソコを見ていました。

 そうしたら、突然、明君が大胆にも私に向かってピースサイン
を送ります。
 どうやら、私と目が合ったみたいでした。

 男の子って、恥ずかしいって言葉を知らないんでしょうか?

 「?」
 それに気づいた明君のお母様がこちらを振り返ります。

 さらに、つられる様にして他のお父様たちもこちらを振り返り
ましたから……

 『あっ!!ヤバイ』
 私は思わず身を隠そうとしたのです。

 ところが、あまりに突然だったので、踏み台にしていた小さな
椅子の角で足を滑らせてしまい、真っ逆さま……

 「ガラガラ、ガッシャーン」

 場内に大きな音が木霊して、私はお尻をしたたか打ってしまい
すぐには起き上がれないでいました。

 『やばい、逃げなきゃ』
 そうは思いましたが、お尻が痛くて痛くてなかなか立てません。
 出来たのはその場によろよろと立ち上がるところまででした。

 「何だ、美咲じゃないか……大丈夫だったか?」

 真っ先に駆けつけた小暮のお父様が私を抱き起こしてくれます。
 気がつくと、明君のお母様も瑞穂ちゃんのお父様も様子を見に
きていました。

 「へへへへへ」
 こういう場合って、もう笑ってごまかすしかありませんでした。

 「あれあれ、美咲ちゃんだったのかあ。くぐり戸開いてた?」

 「はい」
 小さな声で答えると……
 「鍵を誰かさんが掛け忘れちゃったみたいだね」

 瑞穂お姉さまのお父さん、進藤先生が笑えば、明くんのお母様
真鍋の御前様も続きます。

 「あらあら、これはとんだところを見られちゃったみたいね。
……あなた、男の子の物なんて初めて?そんなことないわよね。
うちの明とも一緒にお風呂入ってるから……」

 「えっ……まあ」

 「でも、驚いたでしょう」

 二人はにこやかで私を叱るという雰囲気ではありませんでした
が、お父様は……

 「大丈夫ですよ。この子はすでに経験済みですから」
 あっさり私の過去をばらしてしまいます。

 「経験済みって?……まさか、この子に、なさったんですか?」

 「ええ、今年の三月に……」

 「それは、また……手回しのよろしいことで……」

 「ま、いずれ六年生になったら同級生たちと一緒に改めてやら
せるつもりではいますが、何しろこの子はお転婆で、そのくらい
しないと効果がないんですよ。この子に限って言えば予行演習と
いうところです」

 「そりゃまた、とんだ災難だったわけだ」
 進藤先生は私の頭を鷲づかみにします。

 こんなこと、今だったら笑いことではすまないでしょうけど、
当時の親たちにとってお仕置きはあくまで教育の一部。
 お灸も躾としてやってるわけですから、親たちもそんなに深刻
には受け止めていませんでした。

 「まあ、見ていたんなら仕方がない。その代わりお前も手伝い
なさい」
 
 お父様はそれがさも当然とでも言わんばかりに私の手を引いて
六年生がお仕置きを受けている隣りの大広間へ、私を連れて行き
ます。

 するとその大広間の入口でいきなり河合先生に組み伏せられて
いる遥お姉様と目があってしまいます。
 それって、さすがお互いばつが悪い思いでした。

 六年生六人に対するお灸のお仕置きは畳の上で行われます。

 たくさんの、それこそ必要以上に沢山の蝋燭とお線香が周囲で
たかれるなか、天井から照らしていた蛍光灯の明かりが消えて、
あたりは揺らめくローソクの明かりだけに……

 お線香の香りが辺りに漂い揺らめく蝋燭の明かりだけが頼りと
いうお部屋はまるで怪談話でも聞くような不気味な舞台設定です
が、お父様たちは大真面目に部屋中に照明用の蝋燭を灯しお線香
をこれでもかというほど炊いて準備を進めていきます。

 もし怒りに任せてお灸をすえるだけなら、こんな仰々しい舞台
装置は必要ありません。でも、そうではないのです。
 六人のお父様方が相談して、愛する子供たちの為、将来を真剣
に考えて、これが一番よい方法だという結論になったのでした。

 大切なことは、クラスのみんなが一緒に罰を受ける場を持つ事。
そして、その思い出をこれから先も決して忘れないでほしいから、
罰も子どもが一番嫌がるお股へのお灸と決め、ロケーションにも
凝ったのでした。

 お父様曰く……
 子供時代に味わった恥ずかしい思い出や辛い思い出も、大人に
なれば楽しい思い出に変わる。でも、その辛い時代を共有した人
との絆はその後も切れることはない。

 小暮のお父様だけでなく他のお父様たちも同じ考えのようです。
六人のお父様たちはご自身の戦争体験を通して誰もがそう考えて
いたみたいでした。

 これって、今なら当然異論があるでしょうが、私たちはそんな
戦争帰りの人たちから教育を受けた世代なのです。
 ですから、時として、今では考えられないようなお仕置きまで
美化されてしまう傾向になるのでした。

 さて家庭教師の先生方はというと、子どもたちの両足を開ける
だけ開かせ、且つその体が微動だにしないよう厳重に押さえ込み
ます。

 場所はとっても狭い場所にピンポイント。もし、驚いて両足を
閉じたりしたら他の箇所が火傷しかねません。そこで先生たちも
真剣でした。

 私も何回かこの窮屈な姿勢でお灸をすえられた経験があります
が、これってたんに熱いというだけでなく、女の子にとっては、
泣くに泣けないくらい恥ずかしいお仕置きだったのでした。

 家庭教師の「こちら準備できました」という声に合せ、その子
のお父様が舞台装置のセッティングを終えて一人また一人と一段
高くなかった十二畳のスペースに上がり込んできます。

 『ついに来た~』といった感じで子どもたちの顔にも緊張感が
走ります。

 お父様といえど大人が怖いのはどの子もみんな同じなのですが、
ただ、その受け止め方は人様々で、努めて平静を装っている子が
いる一方で、すでに全身を震わせプレッシーに押し潰されそうな
子もいます。

 ですから、こんな時には不足の事態が起きることも……

 「おやおや、やっちゃったねえ」
 友理奈ちゃんのお父様は目の前で噴出した噴水に笑いが押さえ
られませんでした。

 たちまち他の家庭教師やお父様たちも気がついて、雑巾バケツ
やらボロ布などが用意され、友理奈ちゃんは隣の部屋に隔離され
てしまいます。

 お姉様たちも、せっかく脱いだパンツ、せっかく上げた両足で
したが、いったん元に戻されて正座しなおすことになります。

 畳に残る染みも、その時のお姉様たちにははっきり見えたはず。
誰が何を引き起きたかだってはっきり分かったはずでした。
 誰の目にも事実は明らかでしたが、それを言葉で指摘する子は
ここには誰もいませんでした。

 こうした事態が起こったとき、何をして何をしてはいけないか、
私たちは幼い頃から厳しく躾られています。家庭では家庭教師が、
学校では学校の先生が、もちろんお父様からも口をすっぱくして
注意を受けます。私たちは常に相手の立場や心情を思いやる子で
なければいけないと教えられてきたのです。

 もし、約束を破って友理奈ちゃんを笑ったりしたら、どの家の
子でも間違いなくお仕置きでしょう。

 お父様方が私たちに求めたのは、天才や秀才、スポーツマンや
芸術家といった一芸に秀でた子どもではなく、天使様のような、
純な心を持つ少女がお気に入りなのですから、不純な心の持ち主
ならいらないということになります。

 ですから私たちの場合『お友だちと仲良く』と言われていても、
いじめや仲間はずれ、取っ組み合いの喧嘩さえしなければいいと
いう水準ではありません。家庭でも、学校でも、常に相手を敬う
ベストな友だち付き合いが求められていたのでした。
 もちろん幼い身で現実には難しいですけど努力は必要でした。

 今回のお仕置きの理由が『お友だちと仲良く出来なかった』と
いうは、お父様たちの気持を反映したものだったのです。

 当然、『お漏らしをした子を笑っちゃいけない』ぐらいの事は
全員がわかっていました。


 しばらくすると、友理奈ちゃんが佐々木のお父様や家庭教師の
先生に連れられて隣りの部屋から戻って来ます。
 「みなさん、ごめんなさい」
 小さな声で謝ってから再び畳敷きのステージへと上がります。

 この歳でお漏らしするなんて、そりゃあ恥ずかしいに決まって
ます。もちろんそれをみんなに見られたことも分かっています。
それでいて誰も何も言わないのは、友理奈お姉様には、かえって
辛いことだったんじゃないでしょうか。

 友理奈お姉様は、お友だちの視線を避けるように俯いたまま、
お父様の処へ。

 すると、佐々木のお父様が両手を広げて……
 「おいで、友理奈。しばらくここで休もう」

 友理奈ちゃんは畳の上に正座した佐々木のお父様のお膝にお尻
をおろします。

 お膝の上に抱っこなんてこの歳ではちょっぴり恥ずかしいけど、
誰もその事を笑ったりしません。勿論『どんな時でもお友だちを
笑ってはいけない』という約束事はありますが、実は、これって
ここではごく自然な光景でした。

 幼い頃からことあるごとに抱かれ続けてきた私たちにとって、
お父様のお膝はお椅子と同じ。『お座りなさい』と言われれば、
素直に座ります。家庭教師の先生でも、学校の先生でも、いえ、
見知らぬ人のお膝にだってごく自然に腰を下ろしますが、自分の
お父様のお膝はやはり誰にとっても格別でした。
 座り慣れてるせいか他の誰よりもお尻が優しくてフィットして
心が落着きます。

 お灸のお仕置きに限りませんが、子供にとって辛いお仕置きを
受けなければならない時は、そのショックが少しでも軽減される
ようにと、こういう形で待たされることが多いようでした。

 お仕置きは見知らぬ人からの闇討ちではありません。沢山沢山
その子を愛してきた人がその子の危険を察知して発する危険信号
みたいなものですから、他の人からやられたら悲鳴のあがるよう
な辛い体験も「静かになさい」という一言だけで、その子は歯を
喰いしばって我慢できるのでした。

 お仕置き前の緊張感のなか、お父様方が畳の上で車座になって
雑談されていますが、正座されているその膝の上にはそれぞれの
お子さんたち、つまり六年生のお姉様方が腰を下ろして頭を撫で
てもらっています。

 私はおじゃま虫なわけですが、お父様の背中に張り付くことは
許されていました。

 しばしの休憩の後、最初に口火を切ったのは、進藤のお父様。
つまり瑞穂お姉様のお父様でした。

 「それでは、よろしいでしょうか。当初は一斉にお灸をと考え
ておりましたが友理奈ちゃんの落ち着く時間も必要でしょうから
今回は一人ずつやっていきたいと思います。まずは瑞穂からやら
せていただきますけど、よろしいでしょうか」

 瑞穂お姉様が初陣を飾ることに他のお父様たちも異議はなく、
二人は車座の中心へと進みます。
 そこが、言わば子供たちの刑場というわけです。

 もうこうなったら覚悟を決めるしかありませんでした。


 瑞穂お姉様と進藤のお父様は、まずお互いが向かい合って正座
します。すると……

 「お父様、お仕置きをお願いします」
 瑞穂お姉様は畳に両手を着いてご自分のお父様ご挨拶。

 お仕置きを受ける相手に『お願いします』は変かもしれません
が、虐待されるわけじゃありません。愛を受けるわけですから、
これは必要なご挨拶なんだよ、とお父様から教えられていました。
 もちろん小暮家だけではありません。他の五つの家でもこれは
共通の作法でした。

 「それでは始める。みなさんの見ている前だからね、みっとも
ない声は出さないように……いいね」

 「はい、お父様」
 瑞穂お姉様は健気に答えます。
 でも、心の中は震えていたはずです。女の子がこんなにも沢山
の人たちの前でお股を晒してお灸を据えられるなんて、五年生の
私が想像しただけでも恐ろしいことですから、六年生なら、なお
さらだったに違いありません。

 『私の時は河合先生とお父様だけだったからまだよかったけど』
 私がそう思って辺りを見回すと、それまで車座になって座って
いた親子が、みんな瑞穂お姉様のお股がよく見える場所へと移動。
みんなが特等席に陣取っていました。

 今なら当然虐待でしょうけど……でも、お父様たちは大真面目
でした。

**********************

小暮男爵 ***<< §14 >>****

小暮男爵

***<< §14 >>****

 私は、当初下り階段に足を踏み入れる勇気がわきませんでした。
いえ、一年前だったらきっとそのまま踵を返していたと思います。
でも、この時は違っていました。

 『遥お姉様が心配だもん。ちょっとだけ覗いてみようかしら』
 まずは私の心の奥底から天使の声が聞こえてきます。

 姉思いの優しい眼差し。妹の声が闇の奥へと響きます。
 それは耳には聞こえない声。心の声でしたが、やがて……
 『あなた何考えてるのよ。見つかったら間違いなくお仕置きよ。
バカな事はやめなさいよ』
 理性の声に打ち消されてしまいます。

 『そりゃそうね。バカなことはしない方がいいに決まってるわ』
 私は理性の声に納得しました。

 でも、納得したにも関わらずその深い闇を見つめていると私の
足は帰ろうとしません。その地下への階段を見つめたまま動きま
せんでした。

 そのうち次なる声が聞こえてきたのでした。悪魔の囁く声です。
 『下りておいでよ。遥お姉ちゃんの悲鳴が聞こえるかも。何時
も虐められてるお姉ちゃんの悲鳴って、聞いてみたいよね。わく
わくするよね』
 
 それが背徳な思いなのは小学生の私にも分かります。
 もし、お父様に見つかったら、私も同じお部屋に連れ込まれる
かもしれません。お仕置きされるかもしれません。それも分かっ
ています。

 『何やってるのよ!!その場から離れなさいよ!!お父様から
お仕置きされても知らないよ!』
 理性が私を必死に押しとどめますが……
 今度は理性が誘惑に負けてしまいます。

 結局、私って子は、愛より理性、理性より誘惑に弱い子だった
のでした。

 薄暗い階段をゆっくりゆっくり下りきると、がらんとした空間
に薄暗い明かりが一つ。地上とは明らかに違う空気感がこの場を
支配しているのが分かりました。
 ひんやりした風が背筋を通り抜け。それに追われるように歩を
進めると、目の前に防音防火を兼ねた鉄の大扉があって私を威嚇
します。

 『ここから出て行け!』
 『中に入ってこい!』
 二つの違った声が聞こえます。大扉は私の最後の決心を待って
いるみたいでした。

 『そうよね、もしお仕置きだったら開いてるはずないわ』
 床から天井までを覆いつくすこの扉は滅多に開けられることが
ありませんが、代わりに人が出入りできるだけの小さな扉があり
ました。そこをそう思って押してみたのです。

 『開いてる。……こいつ、お仕置きが始まっちゃうと閉められ
ちゃうに……でも、だったら大丈夫よね……大丈夫、大丈夫……
本当に大丈夫よね……』
 私は自分の小さな胸に何度もそう問いかけ、小さな入口の扉に
身を隠しながら、この先に続く廊下の様子を窺います。

 『ふぅ、やったあ~~~』
 やったことは小さな扉をくぐっただけ。でも、大冒険でした。

 すると、さっそく廊下に並んだ七つの部屋のうち一番奥の部屋
から何やら話し声が……

 『やっぱりね、多分そうじゃないかと思ったのよ。来た甲斐が
あったわ。きっと六年生の子全員、お昼休みを利用してお父様方
に呼ばれたのよ』
 私は胸を高鳴らせ、足音をしのばせて廊下をさらに奥へと進み
ます。

 実はここにある七つの部屋のうち手前にある六つの部屋は各家
専用の個室。ドアにはお父様方のお名前『小暮』『進藤』『真鍋』
『佐々木』『太田』『中条』のプレートが張ってあります。つまり、
もしこれらのお部屋で何かあったとしてもどのみち私は立ち入れ
ませんから無駄骨になるわけです。

 でも一番奥にある七つ目の部屋だけは違っていました。
 ここは普段お父様方の寄り合い所(サロン)みたいな使われ方
をしている場所ですからどこの子供たちも出入りが自由でした。
 ま、多くの子どもたちにとって積極的行きたいという場所では
ありませんが……

 部屋は30畳ほどの広さがある大広間。間仕切りはありません
が、お父様方がそれぞれにお気に入りのソファやデッキチェア、
ステレオなどを持ち込んでくつろがれています。

 ただその一角にお父様方のくつろぎとはあまり関係のない一段
高くなった畳敷きのスペースがあってそこは子供たちをお仕置き
する場になっていました。

 もちろん全てのお仕置きがここで行われるわけではありません。
問題が個人だけで収まるような場合はたいてい個室を使いますが、
なかに、複数の家の子が同じ問題を起こした場合などは、ここが
使われるようでした。

 今回は、まさにそんなケースだと思って乗り込んだのです。
 私の読みは的中したみたいでした。

 私は、最初、大広間の扉に耳を押しつけて中の様子を探ろうと
しましたが、防音装置が施されているために音は聞こえても何を
言っているかまでわかりません。

 思い切ってドアを開けてみようとしましたが施錠されています。
 そこで今度は、この部屋に隣接する隣りの部屋の扉をそうっと
押してみると、こちらは開きますから……。

 『やったあ~~ラッキー』
 私は心の中で叫びます。

 実はこの部屋、映写室でした。大きな映写機の脇でこっそりと
小さい窓を覗くと隣の部屋の様子が手に取るようにわかります。
正直、願ったり叶ったりでした。

 お父様たちはたんにお金持ちというだけでなく仕事をリタイヤ
していますから、世間のお父さんたちのように忙しくありません。
その分、子どもたちの生活についても、細かな処までが気になる
みたいで、学校には逐一子供たちに関する報告を求めていました。

 そこで学校側もそんなお父様方の要望を受けて、私たちの成長
記録を最大限フィルムに収めて報告します。その報告フィルムを
上映するための映写機がここに置かれていたのでした。
 今なら当然ビデオでしょうが当時はそんなものありませんから
記録は全て映画として撮られていました。

 実際、私たちは8ミリだけでなく16ミリや32ミリといった
大型のカメラでも四六時中学校生活の様子を撮られていましたが、
その映像を私たち自身が目にする機会はあまりありません。
 そのせいでしょうか、手の空いた先生がいつもカメラをまわし、
私たちがいつも被写体になっていたのは承知していましたが特段
それを意識した事はありませんでした。

 カメラもカメラマンも最初は物珍しさから「何やってるの?」
と説明を求めますが、そのうちそれは学校の備品の一つとなって
特別の注意は払わなくなります。
 そうですねえ胤子先生の胸像と同じくらいの意識だったんです。

 実際、カメラは学校のいたるところで回されていました。勉強
の様子だけじゃありません。給食の風景、休み時間のおしゃべり、
とにかく暇さえあれば何でもかんでも記録に残されていました。

 ただ例外もあります。お仕置きり様子だけは後日の証拠とする
ため必ず記録に残してあります。
 裸のお尻はもちろん、おへその下の割れ目やお股の中まで……
カメラに遠慮はありませんでした。

 しかも悪さが続くと、お父様からここへ呼び出されて、自分が
受けたそんな恥ずかしいお仕置きの数々を映画で見せられたりも
します。
 その恥ずかしいのなんのって、自分のことですけれどもとても
正視できませんでした。

 でも、今回はどうやらそれとも違うみたいで、この映写室に人
はいませんし、その準備もしてる様子がありません。
 小窓から覗いてみると……六年生全員(といっても六人です)
が畳敷きになった舞台の上で正座させられています。

 その様子を見ているのは、うちのお父様をはじめ、この学校を
買い取った六人のお父様たち。こちらは板張りの床にお気に入り
の籐椅子を並べて座ってらっしゃいました。

 こちらからですとお父様方の顔は分かりませんが、向かい合う
形の子どもたちの顔はよく見えます。
 どの子も『まずいことになったなあ』という顔ばかりでした。

 私の家もそうですが、ここにいるお父様方というのは、功なり
名を遂げた末に老後の楽しみとして施設から私たちを引き取った
紳士淑女の方々ばかりです。
 ですから、普段の生活では、子どもから嫌われるような虐待や
お仕置きのたぐいは極力なさいません。
 そうしたことは家庭教師や学校の先生にお任せして、ご自分は
小鳥たちが肩にもたれたり膝に乗ってくるのをじっと待っておい
でだったのです。

 ただ、そんな好好爺然としたお父様も24時間365日決して
子供たちを怒ることがないのかというと、そこはそうではありま
せんでした。
 年に一度か二度、お転婆さんには三度くらいでしょうか、雷が
落ちます。

 運が良いのか悪いのか、私が覗いたその日はそんなたまたまの
一日だったのでした。


 「遥、なぜお前がここに呼ばれたか分かるか?」
 お父様はその低い声で居並ぶ六人の子供たちを前に、いきなり
遥お姉様を指名します。

 それは私の名前ではありませんが、お父様の声に私の心臓も、
ギクッと反応します。ろくにぶたれたことがなくても、お父様は
お父様。子供にとっては怖い存在だったのです。

 「………………」
 少し長い沈黙。

 お姉様はお父様の質問に答えられませんでしたが、その胸の内
をお父様が代弁します。

 「その顔だと…お前は『今回の飛び降り事件に参加してない。
先生から罰も受けてない。だから私は悪くない』そう言いたいみ
たいだな。だけどお父さん達の考えは違うんだ。これは四時間目
に罰を受けなかったメグ(愛美)ちゃんや萌(モエ)のお父さん
たちとも一緒の考えだから、二人も私の話を一緒に聞きなさい」

 「はい、おじさま」
 「わかりましたおじさま」
 二人は神妙な顔でお父様に答えます。

 『お父様、きついお仕置きなさるつもりだわ』
 私は思います。

 幼い頃ならともかく、もうこのくらいの歳になると大人たちが
自分たちをどうしようとしているかはおおよそ察しがつきます。
 頭に思い描くお姉さま方の未来は辛い現実でしたが、子どもと
いう立場では、大人がやると決めたらそれを受け入れるほかあり
ません。何か抗弁すれば許してくれるとは期待できそうにありま
せんでした。

 「まず、私たちが嫌だったのは、お友だちが自習時間に騒いで
いるのにおまえがそれを止めなかったことだ。…悪さをしている
お友だちをおまえは一度でも注意したかね?……してないよね」

 「………………」
 お姉様は頷きます。それが精一杯でした。お父様の迫力に押さ
れて声が出ないのです。

 私より一つ年上と言っても、遥お姉様はまだ小学生。お父様の
ただならない表情を垣間見れば、もうそれだけでシュンとなって
しまいます。

 いえ、遥お姉様だけじゃありません。そこに居並ぶ六年生の子
全員がすでにしょげていました。

 実はこの学校の生徒は全員がお父様たちによって施設から連れ
てこられた子どもたち。つまり、お父様はそれぞれに違いますが、
孤児ということでは皆同じ境遇だったのです。

 「いいかい、お前たちはそれぞれに育てていただいてるお父様
が違ってもみんな同じ境遇の兄弟なんだから、仲良くしなきゃ。
助け合わなきゃいけないんだ。自分だけ勉強や運動ができれば、
それでいいんじゃない。むしろ抜け駆けするような子は許さない。
仲良くできない子は許さない。そんな子は施設に戻ってもらう。
そう約束したよね」

 「はい…」
 「はい、お父様」
 「…約束しました」
 三人は小さな声で答えます。

 「今度の事、仲良し仲間のすることなのかい?ほかの子が悪さ
しているさなか、自分たちだけはちゃんと自習してましたって、
栗山先生に報告したそうじゃないか。……それって、本当によい
ことをしたって言えるの?」

 「えっ……」
 三人は戸惑います。
 だって、この遊びを始めたのは他の三人で、私たちは関係あり
ません。この三人が教室の窓からの飛び降りゲームを始めた頃は
たしかに自分たちは真面目に自習していましたから、先生に嘘も
ついていません。ですからそれで十分だとお姉さまたちは思って
いたみたいでした。
 『自分たちはこの悪戯の首謀者じゃない』というわけです。

 ところが、お父様の考えは違います。
 「河合先生の報告によると『遥が真面目に自習してたのは最初
の頃だけで、教室が騒がしくなるとすぐに席を離れてお友だちの
飛び降りる様子を見物してた。最後は、笑顔で拍手したりして、
とても楽しそうに見えた』とあるけど……これは河合先生が私に
嘘をついてるのかな?」
 お父様は河合先生からの報告書を眺めながら再度質問します。

 「………………」
 答えは返ってきませんでした。

 実は家庭教師の先生方は父兄席に陣取って授業を見学はします
が、授業に口を出す事はしません。こうした自習の時間でもそれ
は同じでした。子どもたちがよほど危険な遊びでも始めない限り
(今回はそれほど危険と判断しなかったのでしょう)授業に口を
出すことはありませんでした。

 「…………それは………だって、私が始めたわけじゃあ……」
 遥お姉様はそれだけ言うとあとは言葉になりませんでした。

 「確かにそうだ。やり始めたのは遥じゃない。でも、お友だち
の飛び降りを見学するだけでも私たちからすると参加してた事に
かわりはないんだよ。だってその間は座席から離れて窓から身を
乗り出して見てたわけだし、私は真面目に自習してましたなんて
栗山先生に言ってはいけないだろうね。それって嘘をついる事に
なるもの」

 「…………」

 「お友だちが悪さをしていると思ったのなら、そのお友だちを
止めてあげなきゃ。それが無理でも先生に御報告に行かなきゃ。
遥はどっちもしてないだろう?それって仲良しのお友だちにする
ことなのかな。遥のやってることはお父さん達の目には自分一人
抜け駆けしていい子に見られようにしている。自分勝手なことを
している。そんな風にしか映らないんだけどなあ」

 「……そんなこと言ったって…わたし、飛んでないし……」
 絞り出すようなお姉さまの声が聞こえました。

 「これが一般の学校ならそれでいいのかもしれない。お友だち
ともそんな関係でいいのかもしれない。なにせ今は、個人主義の
時代だから。お友だちといっても所詮他人だからね。……でも、
お父さんたちは、ここにいる子どもたちには全員が本当の兄弟に
なってほしいと思ってるんだ。……なぜだかわかるかい?」

 「……」
 遥お姉様は首を振ります。

 「残念だけど、君たちには本当のお父さんやお母さんがいない。
正確に言うわからないからだ。ということは、帰る家だってない
だろう」

 「えっ、……だって、それは、お父様が……」
 驚いたお姉様が上目遣いにつぶやきます。

 「私のことかい?ありがとう。もちろん私が生きているうちは
私はお前達をずっと愛し続けるよ。でも、私はもう若くはない。
君たちが成人するまでだって生きてるかどうか知れないじゃない
か」

 「そんなこと……」

 「それから先はどうするね。……今住んでいる家は私が死ねば
すぐに人手に渡るだろうから君たちが住むことはできないんだよ」

 「えっ?」
 お姉様はきょとんとした顔になります。
 子供にとって誰かが死ぬなんてこと頭の片隅にもありませんで
した。私だってそれは同じです。お父様というのは未来永劫私達
を守り続けてくれる人だと信じていましたから。

 「もちろん、それでも人生が順調なら、帰る家なんてなくても
問題ないだろうけど、もし、家庭や仕事がうまくいかない時は、
どうするね」

 「どうするって……」

 「その立場にならないと分からないだろうけど、帰る家がない
って、とっても辛いことなんだよ。だから、君たちが社会に出た
あと、もし人生につまづいても路頭に迷わないように、私たちは
この学校を作ったんだ。だから、ここには他の境遇で育った子は
入れてない。ここは、同じ境遇同じ価値観で育った子だけの学校
で、かつふるさとなんだ」

 「ふるさと?」

 「そう、この学校が君たちのふるさとだ。だから、もし辛い事
があったら、ここに帰ってしばらく休んでいけばいい。ここには
長期滞在できる宿舎もあるから臨時教員になって得意分野の授業
をしたり、可愛い後輩たちを抱いてあげてお尻をピシピシ叩いて
やればいいんだよ。今はまだお尻を叩かれるだけの君たちだって
やがては後輩たちのためにお尻を叩く日がくるんだから」

 「…………」
 その瞬間、お姉様の頬が緩みます。

 「私たちが口をすっぱくして『みんな仲良く』『みんな仲良く』
って言い続けるのは、単に一緒に何かしましたとか、褒められま
しただけじゃなくて、叱られた事も、お友だちみんなで共有して欲しいんだ」

 「叱られたことも?…………」

 お父様はお姉様の狐につままれたような顔を見て笑います。
 「そう、一緒に悪さをして一緒にお仕置きを受けて欲しい」
ここではそんなことするくらい
なら、
 「えっ!?」
 お姉様は思わず息を呑みます。

 「お仕置きはご褒美じゃないけど、同じ罰を受けた思い出って
大人になれば笑って話せるし、何より、それで兄弟の絆も強まる
から無駄にはならないんだ。一番いけないのは他の子が悪さして
るのに自分だけ知らんぷりしてるってこと。みんなが愛し合って
暮らしてるこの場所でそんな薄情なことしかできないようなら、
施設に帰ってもらうしかないかもしれないね」

 「…………」
 お姉様はお父様の言葉に思わずのけぞります。
 実は、お父様の言う『施設へ帰れ』という言葉は、幼い頃から
お父様たちに大事にされてきた私たちにとっては究極の威し文句
でした。
 南極大陸で捨てられるくらいのショックだったんです。

 そもそも私たちは物心つく前にここへ来て生活していますから
誰の頭の中にも施設時代の思い出なんか存在していないのです。
 そんな未知の場所へ戻るなんて、たとえこの先厳しいお仕置き
が待っていたとしてもありえない決断だつたのです。

 ですから……
 「ごめんなさい、お父様、遥は悪い子でした。どんなお仕置き
も受けます。いい子になります」
 遥お姉様はあっさり降参。お父様の前ににじりよって膝ま付き
両手を胸の前に組んで懺悔します。
 お芝居がかっていますが、仕方がありませんでした。

 残り二人も事情は同じです。二人は、自分たちのお父様の前で
懺悔します。
 施設に戻されたくないという思いは、ここでは誰の胸の中でも
共通して存在していたのでした。

 ただ……
 「わかった、なら、今日はお股にお灸をすえることにしよう。
そうすれば、これから先も今の話が実感できるだろうから……」

 「!!!」
 「!!!」
 「!!!」
 お父様の一言に、三人のお姉様方の顔色が青くなります。
 お姉様方の顔から血の気が引いく様子がこんなに離れていても
はっきりとわかりましたから、相当なショックだったんだと思い
ます。

 確かに懺悔はしました。お仕置きも受け入れました。
 でも、まさか、お股にお灸だなんて……
 三人ともそんなことまでは考えていなかったみたいでした。

 そしてそれは実際に悪さをしていた残り三人にも飛び火します。

 「他の三人も同じだよ。今日は、六人に同じお仕置きを受けて
もらうからね」

 六人まとめてお股にお灸のお仕置き。

 それは子供たち全員が同じお仕置きを受けることで、たんなる
クラスメイトというのではない、運命共同体みたいな意識を子供
たち全員の胸に植えつけたいというお父様方の熱い思いから来る
のでした。

*************************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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