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第3章 童女の日課(8)

<The Fanciful Story>

              竜巻岬《16》 

                              K.Mikami

【第三章:童女の日課】(9)
《悪戯オンパレード》<3>


 四人の童女たちにとってその冬のクリスマスは味気ないものに
なった。数々の悪戯がペネロープの不評をかってしまいXスマの
パーティーに呼ばれなかったのだ。

 パーティーのご馳走もケーキもプレゼントも全ては夢の彼方へ
と消え去り、かろうじてイヴの日のミサへの出席が許されただけ
だった。

 「あ~あ、つまらないなあ。去年のXマスプレゼントはさあ、
狐のハーフコートだったのよ。アン、あなただって、ツイードの
ドレスもらったじゃない」

 「そうよ、でもあんなものいつ着て行くの。クリスマスかせい
ぜい復活祭の時だけよ」

 「いいじゃないの、それでも。女の子はたった一日のために、
三百六十四日を犠牲にできるんですからね。ところがどうなの、
今年は……ロールケーキ一巻とチョコレートの小箱が一つだけ。
私たちは子供じゃないのよ」

 「何言ってるの。私たちは子供じゃない」

 「そりゃあそうだけど。クリスマスぐらい大人になってお祝い
したいわ。少女たちだってこの日はドレスを着てレディーたちと
対等な口をきいてパーティーに出席できるのよ。去年は、私たち
だってそうだったじゃない」

 「仕方がないでしょう。誰かさんが派手に悪戯をしかけるから」

 「何言ってるのよ。けしかけたの、あなたたちでしょう。……
こっちは、ない知恵絞ってあれこれ悪戯を考えてるのに」

 「どうだか。あんたのは単なる思いつきじゃないの」

 「言ったわね。私だって独りならあんなことしないわよ」

 「もういいじゃないアン。ケイトもやめて。私たちはすでに、
先生たちの間では四人組として悪名を馳せてるの。今さらケイト
一人が抜けてみても、それも四人組の仕業と思われるだけだわ。
それより、これからXマスパーティーの買い出しに行くんだけど
付き合わない」

 リサが思いがけない話を持ち出す。

 「買い出しってどこへ」

 「食料倉庫よ。私の勘に間違いがなければ極上のハムとウイン
ナー、それにシャンパンだってまだ残ってるはずよ」

 「でもねえ……今度見つかったらただじゃあすまない気が…」

 「何言ってるの。今までだって、ただすんだことなんて一度も
なかったじゃないの。アンはどう?…嫌なの?」

 「いいわ、つきあってあげる。どのみち、この四月には結論が
出るんだもの。良い子になるのはそれからでも遅くないわね」

 アンが腰をあげるとケイトも同調した。

 三人はドアの方へ。でも一人足りない。

 「アリス、あんたもいらっしゃい。抜け駆けはだめよ」

 アリスは気がすすまなかった。単なる悪戯ではなく泥棒という
行為が彼女を逡巡させていたのだ。が、積極的に反対することも
ままならない。結局、これも四人で行動することになった。

 しかし、もしこの時アリスを一人残していけば事態は変わって
いたかもしれない。

 「やったあ。大漁、大漁」

 食料倉庫は大バーゲン中だった。クリスマスと新年をひかえて
保存食を中心に買い溜めしてあるのだ。パーティーに浮かれて、
人が寄り付かないこともあり、買い出しは順調に進んだ。

 生ハムやウインナーはリサが……林檎やバナナはアリスが……
シャンパンはケイトが……それぞれ担当する。

 「アン。それも持っていくの」

 「これは上物のブランデーだわ。きっとご領主様のお使いもの
だわ」

 「だったらやばいんじゃない」

 「いいじゃないの。こんなチャンスめったにないのよ。どうせ
明日はお休みだし…私、これ持っていくわ」

 こうして四人は、意気揚揚と自室へ引き揚げてきた。

 すると……

 「ん???」

 部屋の電気がついている。

 「アリス、部屋の電気は消しなさいって言ったでしょう」

 「いやあね、消してきたわよ」

 四人が怪訝な面持ちで部屋に入ってみると……

 「…!…」
 「…!…」
 「…!…」
 「…!…」

 四人にとっては顔見知りの婦人が部屋の奥にどっかと腰を降ろ
しているではないか。
 しかもそれだけではない。今まで何もなかったはずのテーブル
にはローストビーフやフルーツポンチ、シャンパンなどが乗って
いる。

 「Xマスおめでとう。今夜はみなさんとささやかなパーティー
を開こうと思って準備したけど、どうやら徒労だったみたいね」

 ペネロープは呆れてものが言えないといったふうだった。

 と、その時、後ろのドアが閉まる。
 すでにコリンズ先生もこの部屋に入っていたのだ。
 四人はあっという間に袋の鼠になった。

 「…………………………」

 こうなってしばしの沈黙が過ぎた。ペネロープは自制しようと
つとめるのだが、そう思えば思うほど余計に鼻息が荒くなって、
四人をさらに萎縮させてしまう。四人は抱えてきた荷物さえ置け
ないままにその場に立ち尽くすだけだったのである。

 やがて、コリンズ先生が仲裁に入る。
 四人組にまず荷物を床に置くように促すと、アリスに向かって
……
 「懺悔なさい」

 「でも、許してくれる?」
 アリスはいつになく弱気になっていた。

 「許していただけるかどうかにかかわりなく、それが礼儀よ」

 コリンズ先生に背中を押されるように前へと進み出たアリスは、
ペネロープの足元で、両膝をついて胸の前で両手を組むいつもの
ポーズをとったが、ペネロープのあまりに鋭い視線に、ついその
目をそらしてしまう。

 「今日はせっかくのクリスマスなのに、これじゃあ淋しいって、
みんなが……それで、食料倉庫へ行って……」

 途切れ途切れの懺悔に、ペネロープが一喝。

 「アリス、誰に向って話してるの。私の目を見て話しなさい」

 アリスは恐怖心のあまり身動きがとれないのだ。
 見かねたコリンズ先生が、アリスの顔を起こしペネロープの方
へ向けて支えてやる。おかしな格好だが、こうしてやらなければ
彼女はまたすぐに下を向いてしまうのだった。

 「今日はせっかくのクリスマスなのに食事が淋しかったので、
食料倉庫から食べ物を取ってきてしまいました。ごめんなさい」

 「だらしがないわね。先生に支えていただかなければ懺悔一つ
まともにできないの。ま、それはいいでしょう。私はねアリス、
あなただけはこんな事をする子じゃないと思っていたからとって
も残念だわ」

 「………………」

 「コリンズ先生。その子を連れていらっしゃい。どうせ、一人
では私の膝まで辿り着けないでしょうから」

 アリスはコリンズ先生に抱えられるようにして、ペネロープの
膝にうつぶせになるとネグリジェの裾を捲りあげられた。

 「……パン」

 ワンフットスティクと呼ばれる小振りの枝鞭は小さな反動でも
よくしなって的確にアリスの丸い膨らみをとらえた。とはいえ、
所詮は七十に近い老人の力である。しかも、アリスはショーツを
穿いたままだ。

 「パン………パン………パン………パン」

 ゆっくりとした調子で控えめに響く鞭の音は、傍目には小学生
ぐらいまでしか効果がないようにさえ思えた。
 ところが、一ダース半をこえたあたりからアリスが暴れだす。

 両足を蹴りあげ、体をよじって、もがき苦しむのだ。コリンズ
先生があわててアリスの両手と頭を押さえるが、最後には……

 「ごめんなさい。もう悪さはしません。二度と盗みはしません
から。良い子になります。やめて、もうだめ。痛い、痛い、痛い
痛いんだってばあ~~ごめんなさい。ごめんなさい」

 アリスが子供のような懺悔を始めたのである。

 「さあ、もういいわ。これ以上は、私の方が重くてやってられ
ないもの」

 アリスは結局二ダース半で解放されたが、膝から降ろされても
歯の根はあわず、嗚咽も止まらない。それはアリスが鞭に慣れて
いないことを差し引いても驚きだった。だから

 「私はもう疲れたわ。あとはあなたがやってちょうだい」

 ペネロープがこう言った時、他の童女たちはほっとしたに違い
なかった。


 四人が均等に前菜を消化すると、次はいよいよメインディシュ
だが、それには準備がいる。

 四人は自分たちのベッドに仰向けに寝かされると、まず枕側の
ポストに両手を万歳するような形で縛り付けられた。
 続いてその両足も短い紐を足首に結わい着けて、右足は右手の、
左足は左手の、ポストに固定される。

 早い話、赤ちゃんがおむつを取り替える時のあのポーズ。
 女の子にとっては最も恥ずかしいあの姿勢で、この料理は食べ
なければならななかったのである。

 「アン、それにケイト。あなたたちがそんなにお酒が飲みたい
とは知りませんでした。本来なら許されないところですが、今日
はクリスマスでもあることですし、特別に許してあげましょう。
ただし、ベッドにはこぼさないようにね」

 ペネロープの挨拶が終わると、さっそくコリンズ先生によって
二人にお酒が振舞われた。ただしそれは口から飲むのではない。
グリセリンと混ぜてピストン式の浣腸器で肛門という名の口から
流し込まれたのだ。

 「……<あああ~>……」

 二人の下腹が一瞬にしてか~っと熱くなる。腸に直接手を突っ
込まれて揉みこまれているような、強烈な刺激が下腹を襲うのだ。

 お浣腸の経験はある二人だが、その締め付けられるような大腸
の動きはそれまでに経験したことのないものだったし、なにより
悪酔いしたような状態で排泄を我慢するのは最悪だったのである。

 おまけにこれまでなら何としてでも我慢しなければならないと、
心が一つにまとまっていたのに、直腸から吸収されたアルコール
のせいで頭が半分マヒしてしまい、こんな切羽詰まった状態でも、
時折このまま出したら気持ちいいかな、などと思ってしまうのだ。

 二人は、この不思議な凌虐感に苛まれながら寝ることもできず
クリスマスの夜を過ごさなければならなかった。

 これに対しリサとアリスの未成年組はもっと単純だった。

 「あなたたちは未成年ですからお酒は遠慮なさい。その代わり、
私があなた達にプレゼントをあげましょう。これはずっとあなた
たちのそばを離れないし、重くないから荷物にもならないわよ」

 ペネロープはそう言うと、日本で覚えたという鍼灸のお道具を
テーブルに取り出す。しかも、今回ばかりは艾の大きさが今まで
とは違っていたのである。

 お灸は、艾がごく小さなものなら熱いと感じる時間も短いし、
灸痕も、よほど目を近付けなければわからないほど些細なものだ
が、ある一定以上の規模で皮膚を焼いてしまうとその火傷の痕が
はっきりと残ってしまう。

 ペネロープは、今回あえてそれをやろうとしたのだった。
 目標となった地点は、肛門とヴァギナの間。ここに一センチ大
の艾を七個、十字の形にのせて一つずつ火をつけようというのだ。

 「……<んnnn>……」

 猿轡をされコリンズ先生ががっちりとその体を押さえているに
もかかわらずリサのベッドは地震のように揺れる。しかもそれが
終わったにしてもお仕置きはまだ全体の七分の一でしかないのだ。

 アリスの場合は、卒倒しかける自分の意識を繋ぎ止めるだけで
精一杯だった。

 「アリス、あなたにこんなことはしたくありませんでしたが、
仕方がありません。恨むなら私を恨みなさい。いきますよ」

 ペネロープの言葉が終わるとあの膨らむおしゃぶりが口の中へ。
あとはどうやって我慢したのかわからないほどの熱さ痛さだった。

 二人の寝台がそれぞれ七回ずつ揺れ動き、ペネロープは大仕事
を終えて帰って行く。
 四人が、やっと終わったと思ったのも束の間、その帰りしな、
ペネロープはコリンズ先生にこの四人の恥ずかしい格好を写真に
撮るように指示していたのだ。

 「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」
「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」「ガシャ(バシャ)」

 やがて、激しいシャッター音と共にフラッシュが焚かれ、四人
組は定められた格好のまま記念写真に収まる。
 しかも、彼らはこの後もこの恥ずかしい格好のままで夜明しを
しなければならなかった。

 成年組は夜中じゅうお浣腸を我慢し続けなければならないし、
未成年組もお灸の痕に薬を塗ってもらったものの患部をこすって
はいけないということで、お股剥き出しの格好を強いられたのだ。


 いずれにしても四人にとっては散々なクリスマスだった。
 いや、そう言ってはなるまい。この場合はコリンズ先生こそが
一番迷惑を被ったのだろうから。


 四人組に対するデザートは次の日の昼近くになって振舞われた。

 ペネロープの呼び出しにしたがって彼女の部屋へ行ってみると、
昨夜の四人組の痴態が、すでにパネルとなって張りだしてある。

 「どうかしら?……なかなかの出来栄えじゃなくて。せっかく
だからお城のみんなが見える所に飾りましょうか」

 ペネロープのこの本気とも冗談ともつかない言葉に四人は返す
言葉がない。昨日の今日だから、何と言っていいのかわからない
のだ。

 「あなた方が少女になりたくて色々運動しているらしいことは、
先生方から聞きました。でも、あなた方は時々やり過ぎるみたい
ね。今回のも、そうです」

 「ごめんなさい、お母さま」

 アリスが言うと他の子も
 「ごめんなさい」
 「お母さま御免なさい」
 「ごめんなさい」
 と、口をそろえる。

 すると、ペネロープは満足そうに微笑み……
 「私は、今でもあなたたちを愛していますよ。私はね、あなた
たちを愛したいから助けたんです。目的はたったそれだけ。一般
の人にはきっと奇異に聞こえるでしょうけど、本当に目的はそれ
だけなの」

 ペネロープは座っていた籐椅子から腰を浮かすと、アリスの手
を取り、再び座りなおした自分の膝に乗せる。
 そして、アリスの服を一枚一枚脱がせ始めたのである。

 「お金や財産目当ての人に言うことをきかせるのは、簡単よ。
でもねそれじゃあ嫌なの。子供は可愛いけど、けっこう残酷な事
も平気で言うし、何よりお婆ちゃんには育てるのが大変だわ」

 アリスはとうとう下着姿になった。しかし、それも…

 「アリス、恥ずかしい?」

 「いいえ、お母さま」

 ペネロープはアリスの体全体、局部や胸の膨らみまでも丹念に
撫でまわす。

 「どう、気持ちいいかしら」

 「………はい」

 「よろしい。あなたはどんな時にも私の愛を無条件で受け入れ
る準備ができているみたいね。これで安心したわ。服を着なさい。
次は、ケイトいらっしゃい」

 こうしてペネロープは四人を次々に裸にしていくと、その敏感
な部分を含めその身体全体を丹念に愛撫していく。
 そして、それが終わると、こう言うのだった。

 「四人ともあんなにキツイ折檻をしたのに、私の愛を受け入れ
る気持ちに変わりはないみたいね。あなたたちの愛が変わらなけ
れば、それは私も同じよ。このパネルを掲げる話はなかった事に
しましょう」

 「……ふう…」

 期せずして四人から一様にため息が……

 「このパネルは持ち帰りなさい。ただし、捨ててはいけません。
今度あなたたちが悪さをした時はこれをお城のどこか目立つ所に
掲げますからそのつもりでいなさい。いいですね」

 「はい、お母さま」

 こうして四人組に対するクリスマスディナーはお開きとなった。


 その帰り道、ケイトが、
 「う~~、今でも虫酸が走るわ。あんなの恐いからおとなしく
しているだけじゃない。どうしたら、あんなお婆さん愛せるのよ」

 「ケイト、聞こえるわよ」

 「聞こえたっていいわよ。あんな婆さんに愛されるくらいなら、
私は今でも竜巻岬から身を投げた方がまだましよ」

 「そうかしら、私にはあなたが一番お母さまの愛を受け入れる
気があるように見えたけど……違う……」

 アンがこう言うと、ケイトは……

 「何言ってるの、アン。馬鹿なこと言わないでよ」
 言下にはねつけたものの、なぜかそれ以後は何一つ口を開こう
とはしなかった。

 それはともかく、さすがにあのパネルの存在は童女達にとって
悪戯に対する大きな抑止力となった。
 女の子にとって身体を苛めるだけの体罰より見せしめとなる罰
の方がより効果的なのだ。たとえ異性がいない場所であっても、
自分の性器が写った写真が公衆の前に張り出されるなどという事
になれば、それは女としての自殺行為に等しかったのである。


 四人はすっかりおとなしくなり、冬場は何も問題を起こさず、
季節はやがて春を迎えようとしていたとある日曜日。

 四人は暖かさに誘われて湖へ来ていた。ここは城主が飲料水の
確保を目的に作らせたもので、湖といっても直径百メートルほど
しかない小さな池だが水温む頃には村人のボートが出て賑わう。

 ただ、この時はシーズンには少しばかり早かった。

 「まだ、誰もボートなんて漕いでないわね」

 「ちょっと早すぎたのよ」

 「じゃあ帰る?」

 「嫌だあ~、せっかく外出許されたのに、今度はいつお城の外
に出られるかわからないのよ」

 「だってボートがないのよ」

 「あるわよ。ほら」
 リサは陸揚げされている一艘のボートを指差す。
 それは真新しいペンキが塗られ、オールも付いていた。

 「大丈夫なの、これ」

 「だってこれペンキ塗りたてよ。沈むような船にペンキなんて
塗るはずないじゃない。それに、お母さまがボート屋さんが営業
してたらお母さまの名前を出して借りていいっておっしゃった
のよ。みつかったら、その時、そう言って断ればいいわ」

 「でも、誰が漕ぐの。私達みんなボートなんて漕げないのよ。
第一そのお話はエルマンじいさんがそこにいるから乗せてもらい
なさいってことでしょう」

 「私、漕げるわよ」

 「え、だってさっきは漕げないって」

 「さっきはあんまり経験ないし自信がなかったからそう言った
だけ。こんなの簡単よ」

 リサの言葉に説得力などない。だが、幼女の様に駄々をこねる
姿に負けて他の三人はボートに乗ることを承諾したのである。

 リサの目的は湖の真ん中にある小島。そこの白い水仙に彼女は
目を奪われていたのだ。

 「さあ、みんな手を貸してね」
 当然のことながら張り切るリサ。

 女の子四人でボートを水辺まで持っていくとそれはものの見事
に浮く。水も入ってこないようだ。

 「ほらごらんなさい。何の問題もないじゃない」

 たしかにその時は何の問題もなかったのだが……。

 リサは二人乗りのボートにお客を一人ずつのせて島をめざす。
かなり危なっかしいオールさばきで、なかなかボートを桟橋に着
けられず、思いのほか時間がかかったが、とにかく、全員を島に
上陸させることができた。

 「わあ、すごくきれい。想像以上よ」

 「こんなところがあったのね。誰がお手入れしてるのかしら」

 「まるでお城の中庭みたいよ。でも、これは自然の公園ね」

 「どう、みんな。私のおかげよ。尻込みしてたら何もできない
んだから」
 リサは鼻高々だった。

 「ねえ、この花摘んでいきましょうよ」
 アリスの提案に誰も異を唱えない。

 四人は手に持ちきれないほどの白水仙の束を抱えるとボートに
帰ろうとした。
 ……ところが、

「ボートが沈んでるわよ」

 見ると船の半分までが水に浸かっているではないか。

 「やっぱりこの船使えなかったのよ」

 これまで辛うじて持ちこたえていた補修用の板が外れて、そこ
から水が入ってきたのだった。

 彼女たちは慌てて水を掻き出そうとしたが、あいにくそこには
バケツのような物が何もない。
 今度は、ボートを岸まで引き揚げようとしたが、空のボートを
水辺へ引いてくるだけでもやっとだった彼女たちに、そんな力が
備わっている訳がなかった。

 「どうすんのよ。どうやって帰るつもり」

 「あんたがどうしてもボートに乗るんだって駄々をこねなきゃ
こんなことにはなってないのよ」

 「あ~あ、これでまたしばらくは外出は無理ね」

 非難はたちまちリサに集中する。

 「大丈夫、そのうち誰か向こう岸を通るわよ。大声だせば気が
つくわ」

 リサは悔しまぎれに言い返したが……
 一時間たっても、二時間たっても人っ子ひとりこの湖に人影は
現われなかった。

 夕暮れが迫るなか……

 「このままじゃ野宿ね」

 アンが言うと、リサが……

 「私はいやよ、野宿なんて」
 と答えるので、さすがに温厚なアンも怒って……

 「何言ってるの。あんたのせいでしょう。いいから早く薪拾っ
てらっしゃしゃいよ」
 と怒鳴ることになる。四人のなかに一時険悪な雰囲気も流れた。

 ところが、ケイトが隠れて煙草を吸うために、くすねておいた
ライターでその薪に火をつけると、助け船は意外に早くやって来
た。

 普段火の気のないところから煙が上がっているを不審に思った
村人が様子を見に湖へ降りてきてくれたのだ。

 「おじさ~ん」

 黄色い声を張り上げて泣き叫ぶ四人組に野太い声が返ってくる。

 「待ってろ、今、そっちへ行ってやるから」

 ちょうどその頃、お城の方でも帰りの遅い四人を気遣ってコリ
ンズ先生を中心に捜索隊が出発していた。

 「ちょうどよかったよ先生」

 村人が救援のための船を出すところへその捜索隊がやってくる。

 湖の岸辺は時ならぬお祭り騒ぎになっていた。野次馬を含め、
大勢の村人とお城から来た捜索隊が手に手に松明を持って桟橋に
集まり、小島で焚かれていたものとは比べものにならないほど大
きな焚火が四人の子供たちの到着を待ち焦がれていたのである。

 やがてバタバタという音とともにエンジン付きのボートに乗せ
られたお祭りの主賓が篝火の燃え盛る岸へと帰ってくる。

 「よかった、よかった」

 上陸した彼らに、期せずして拍手が起こった。誰の顔もこれで
一件落着という安堵感でいっぱいの笑顔だったのだ。

 ところが、そんな中で一人だけ恐い顔のまま仁王立ちしている
女性がいた。
 コリンズ先生である。彼女の顔は揺れる松明や焚火の炎の中に
あってより凄味が増し、子供たちにとってはこれから先の身の上
を暗示しているかのようだ。

 案の定、彼女は再会した子供たちにいたわりの言葉をかけるこ
とがなかった

 「弁解することはなにかある?」

 これが四人を前にした彼女の第一声だったのだ。

 「……………」

 それがないとわかると、

 「アン、あなたケイトの手を持ちなさい。ケイトはアンのお腹
に頭を入れる のよ。リサ、あなたはアリスを手伝いなさい」

 コリンズ先生のてきぱきとした指示に従いアンとリサがお友達
のお仕置きの準備をすると先生は何の躊躇もなく二人のスカート
の裾をそのくるぶしのあたりから一気に捲り上げる。

 すると、彼女たちはいずれもショーツを穿いていなかった。
 それは彼女たちの好みというではなく、外出着としてメイドが
用意してくれた前近代的なファッションには、始めからショーツ
など付いていなかったのだ。

 当然、二人の剥出しのお尻は村人や捜索隊の人たちの前に晒さ
れる事となる。
 燃え盛る焚火にほてったお尻が松明の炎の中で怪しく揺らぐ中、

 「ピシッー」

 手慣れた鞭の軌跡が鮮やかなラインを刻む。
 いつもの手順、いつもの風景だ。

ただ、鞭打たれて初めて、
 『恥ずかしい』
 という感情がケイトとアリスにわき起こった。
 恐怖心が過ぎ去り初めて我に返ったというべきかもしれない。
 気がつけばこのお仕置きはいつもの身内での折檻ではないのだ。
見ず知らずの人たちに自分たちはお尻を晒しているのだ。

 そう思うと、一刻も早くこの場を逃げ去りたい気持ちで一杯に
なった。

 その心は自分たちを支えてくれている友達にも伝わる。

 彼女たちもまた、両手とお腹から伝わってくる友だちの異常な
身震いに、はっと我に返ったのだろう。

 だから、友だちの一ダースの折檻が終わった後、リサは無理を
承知で頼み込む。

 「お願いです。私へのお仕置きはお城へ帰ってからにしてくだ
さい。その時は鞭の数が二倍になってもかまいませんから」

 しかし、そんな願いが受け入れられるはずがない。

 「だめよ。ここでの鞭はお城での十倍も効果があるんだから。
あなたも明日からは少女になるんだし、いつまでも、聞き分けの
ないことを言ってちゃいけないわね」

 コリンズ先生の言葉は四人にとってはまさに青天の霹靂だった。

 「私、少女になれたんですか」
 恐る恐るリサが尋ねると

 「そうよ。今日、あなた方が行方不明になる前に四人まとめて
少女になる事が決まったの」

 「お母さまのお許しも得たんですか」

 「もちろんそうよ。でも、ひょっとしたら今回の事件でお流れ
になるかもしれないわね。……さあ、そうならないためにも少女
らしくちゃんと罪の償いをなさい」

 四人は希望と不安を胸にお城へ帰ったが、結局、決定は覆らな
かった。

 アリスが童女になって一年余り、四人は待ちに待った少女とし
ての暮らしをやっとスタートさせることができたのである。

夏の夕暮れ(アルベルト・エーデフェルト)

<イメージ絵画>
夏の夕暮れ(アルベルト・エーデフェルト)


************* <了>******


第3章 童女の日課(7)

<The Fanciful Story>

               竜巻岬《15》

                             K.Mikami

【第三章:童女の日課】(8)
 《悪戯オンパレード》<2>


 四人は土曜日の夕食をほとんど残していた。そして、日曜日の
朝食にも誰も手をつけようとしない。

 「帰ろうか」

 リサが言うとそれには誰も反対しなかった。どうせ食べないの
だから腹ぺこの身には目の毒になるだけ。四人とも腰を浮かしか
けたのである。すると、

 「席を離れてはいけません」
 食事係のメイドが慌てて四人を制止する。

 「どうしてよ。食べる食べないは私達の自由でしょう」
 ケイトが噛み付くとそのメイドは

 「これはペネロープ様のご命令なのです。皆様の食事の皿に、
たとえパンひとかけらでもあるうちは部屋へ帰してはいけないと
言われているのです」
 と言って譲らない。

 『そうはいってもね』
 四人は同じ思いで顔を見合わせる。たとえ、ペネロープにそう
言われてもだからといって食事に手をつける気にはならなかった
のだ。

 やがて、食事が終わり少女やレディーたちが部屋へ戻っていく
とそこへペネロープがやってきた。

 「どうしたの、ずいぶんと食が細いようだけど。どこか具合が
悪いのアン」

 「……いえ、今日は食欲がないんです」

 「昨日の夕食もだったでしょう。いくらかでも手をつけていた
のはケイトのお皿ぐらいだったかしら」

 「私、便秘ぎみなんです」
 ケイトがそう言ったとたん他の三人の厳しい視線が彼女に向く。

 「そう、そうなの。ということは……アン、立ってごらんなさい」
 ペネロープの指示にしたがってアンが椅子から腰を浮かすと…

 「スカートをあげてご覧なさい」
 アンはもちろんいやだったが、やるしかなかった。

 「そう、そういうことだったの。わかりました。……とにかく、
神から与えられた食物をないがしろにしてはいけません。童女で
あるあなたたちには特段の事情がない限り与えられた食事を残す
権利はないのよ」

 「はいお母さま」

 「それが終わったらまずシャワー室へ行きなさい。それから、
ミサよ。遅れないようにいらっしゃいね」

 「はいお母さま」

 ペネロープが去り、童女たちの顔には心なしか元気が出た様子
だった。

 「ねえリサ。シャワー室にもこのベルトをつけて入るの」

 「当然そうよ」

 「だったらショーツが…」

 「濡れるわ。でも、こんな時はお母さまがメイドに鍵を預けて
おいてくださるから新しいショーツに着替える時だけは貞操帯を
外してもらえるの」

 「え、だったらトイレへ行けるの」

 「それは無理よ。ショーツを着替える間だけだもの。でも、お
しっこはできるでしょう。シャワー室で」

 「え、シャワー室でおしっこするの」
 アリスの大声に古株の二人が角を出す。

 「ちょっとあんたたちそれでも女の子なの」

 「こっちはまだ食事中なのよ」

 こうしてペネロープの好意により四人は日曜日の朝に一度だけ
小用をたすチャンスができた。三人はさっさと用をすませてシャ
ワー室を出ていったが、アリスだけが取り残されている。

 「さあ、早くしないとミサが始まってしまいますよ。みんなの
前でお漏らしするよりここの方がよっぽどいいでしょう」

 最後まで抵抗するアリスに係のメイドがお尻を一つピシャリと
叩く。

 とたんに暖かい物がショーツの中に溢れやがて両足の太ももを
伝って降りていく。降り注ぐ冷たいしぶきの中で涙するアリス。

 「さあ、お腹のなかを空にしちゃうの。恥ずかしいなんて言っ
てられないでしょう。もうお仕置きの時までにこんなチャンスは
ないんだから……これに懲りたらつまらない悪戯はしないことね」

 泣きだしてしまったアリスに中年のメイドは教師のような説教
をして送り出してやるのだった。


 月曜日の朝、四人にとっては長いお仕置きのフィナーレがやっ
てくる。彼女たちはハワード先生が自らの創作活動や授業の合間
に憩う控え室に集められた。

 「これから、君たちには、少女たちの前で絵のモデルをやって
もらう。君たちが立派な芸術作品をこしらえてくれたおかげで、
できなくなったデッサンの授業の代りだ。ものの十五分も、同じ
姿勢を取っていればいいんだから、鞭でぶたれるより楽だろう」

 「裸で…」恐る恐るリサが尋ねると先生は即座に否定する。

 「いやいや、衣裳はあるよ。リサ、君は農家の娘だ。ケイトが
羊飼いの少年。アンは悪戯天使。アリス、君が一番いい役だ。昔
のお嬢様をやってもらおう」

 ハワード先生がそう言ってる間にメイドたちがさっそくやって
きて着付けにかかる。

 「君たちは、その衣裳をつけて私が指示する姿勢のままじっと
していればいいんだ。テーマは『哀願』。親や主人に哀願する時
の表情をリアルに絵にしたいんだ。といっても君たちは役者じゃ
ないから演技はできない。そこで…」

 彼は簡便式の浣腸器を取り出す。

 「誰でも名優になれるこの秘薬を使うことにする。これなら、
条件さえ整えば誰だって迫真の名演技をすることができるからね」

 四人は誰彼となく顔を合わせ、そして、諦めるしかないことを
確認するのだった。

 やがて準備は着々と進んで、四人全員が四つんばいに。

 『あっ』『おっ』『うっ』『えっ』

 四人のお尻にいっせいに簡便式の浣腸器が突き立てられる。
 これは日本で言ういわゆる無花果浣腸と同じようなものだが、
ここの場合、使い捨てではないために、この前は誰が使ったのか
わからない。その不安感そして不快感があった。

 量は二倍に希釈したグリセリンが三十cc。演技中にアクシデ
ントがあってもいけないし、何より二日半の蓄積があるからそれ
で充分だったのである。

 四人はさっそく舞台となるアトリエへむかう。
 すると、期せずして拍手が湧き起こった。アトリエは、四つの
ブースに仕切られており、どこでも少女たちが数人画板を抱えて
今や遅しとモデルの登場を待っていたのだ。

 リサは足枷をはめられた少女が地面にお尻をつけて上半身だけ
を起こし、神に許しを請うところ。書き割りはのどかな田園風景
だが清教徒の衣裳をまとった男達が彼女を取り囲み、告知板には
『私は淫らな行為をしました』と書いてある。

 ケイトは、羊小屋の柱に両手を鎖で縛られ、これから主人に鞭
打たれようとする少年の役。書き割りにかかれた羊の足元にコン
ドームの箱が描き足されているところがみそだ。

 アンは、大きな帆立貝を背にしたビーナスの膝の上で、お尻を
叩かれている天使の役。
 どこのブースも人物まできっちり書き割りに描き込まれている
が、ここだけは美人で評判のハワード夫人がビーナス役で特別出
演している。

 そして、アリスは、両親の前に膝まづいて哀願する少女。衣裳
から見て十九世紀後半のブルジョワ家庭であろうか。書き割りの
片隅にはすでに鞭打ちの準備がメイドたちによって整えられて
いる。

 もちろん四人の童女たちにとってはこんな舞台設定など気に掛
けている余裕はない。時折くすくすと忍び笑う少女たちの声さえ
も耳に入らないほどに彼女たちは一つのことに集中していなけれ
ばならなかったのだ。
 しかも……

 「アリス、もっと顔をあげて」

 「アン、むやみに顔を動かさない。それじゃデッサンできない
だろう」

 「ケイト、柱に顔を着けるんじゃない。顔をこちらに向けて」

 「リサ、とってもいい表情だけど、まさかもう漏らしたんじゃ
ないだろうね」

 ハワード先生が時々意地悪なことも言いながら四人を叱咤激励
してまわる。

 五分もたてば、四人とも全身脂汗でびっしょりとなり息も荒く
なる。

 十分過ぎる頃には……

 「頭を振るんじゃない」

 たとえ、そう言われてもこれ以外に薄れゆく意識を呼び覚ます
ことができない。
アリスの目にも、リサの目にも、すでに大粒の涙が光っていた。

 だから……

 「さあ、もうすぐ終わりだよ」

 ハワード先生の言葉は描く少女たちに投げ掛けられたものだが、
描かれる童女たちにとっても貴重な気付薬となったのである。

 「さあ、時間だ。おしまいだよ」

 先生はそう言うと舞台と客席の間に設けられたカーテンを引く。

 やがて広いアトリエのあちらこちから……

 「*******」

 最後まで残っていたアリスのブースでも…

 「駄目だよ。アリス。ここでやるんだ」
 ハワード先生はアリスの少女らしい哀願にも儼として突き放す。

 結局、アリスも室内便器(bedpan)に跨がるしかなかったので
ある。

 「*******」

****************************

 童女たちの日曜日はもちろん学校はお休み。でも、ミサに出た
あとの彼女達は何もすることがない。レディーになるまではTV
やラジオはもちろん、新聞さえも見ることができない。付き添い
がなければ村へも降りられないのだ。

 そんな彼女たちが決まって集まる場所があった。
 お城に付属する修道院の鐘つき堂の上だ。そこは四つの大きな
鐘の真下までタラップがあって、その一番上の段はやや広めにな
っている。ベッドとしては狭いが物思いにやふけるには重宝する
空間だったから、彼女達は違法は承知でいつもたむろしていたの
だった。

 「退屈ねえ。どうしてお母さまは私たちにテレビを見せてくれ
ないんだろう」

 「決まってるじゃない。里心がついて逃げ出すからよ。そんな
心配がなくなった子だけをレディーとして認めるの」

 「あ~あ、いつになったらレディーになれるのかしらね」

 「羽があったらなあ。今すぐ飛んでいくのに」

 と、いつものように愚痴を言い合ってる時だった。これだって
決して今日に限ったことではないのだが、突然夕刻を告げる鐘が
鳴りだす。

 「グァ~ン。グァ~ン。グァ~ン」

 「わあ、もうこんな時間なの」

 とにかく真近で鳴りだすのだからたまったものじゃない。四人
はたちまち耳を押さえるとタラップを降りていく。

 「わあ、私、耳が壊れそうよ」

 「ねえ、これからどこへ行くの」

 「どこって……行く処なんてどこにもないでしょう。鐘が鳴り
止んだらまた上に戻りましょうよ」

 「でも、今度はまた一時間後に鳴るのよ」

 「そうだ、鐘を叩く棒があるじゃない。あの膨らんでる処に布
を巻き付ければいいのよ。そうすれば音も小さくなるわ」

 「でも、ばれない」

 「わからないわ。やってみなきゃ」

 「それはいいけど。そんな適当な布があるの」

 「あるでしょう。みんな一枚ずつ穿いてるじゃない。鐘も四つ
だしちょうどいいと思うんだけど」

 「穿いてるってそれもしかして……」

 「そう、それ。形といい大きさといいちょうどいいじやない。
第一伸びるから紐で縛る必要がないわ」

 「ねえ、ケイト。それってひょっとして悪戯?」

 「そうよ。みんな、当然、協力してくれるわよね」

 「えっ……、私、昨日コリンズ先生から一ダースも鞭をらった
ばっかりよ」

 「それがどうしたの。いやなの」

 「いやって訳じゃないんだけど……」

 「大丈夫、一度やってみてあんまり音が小さくなり過ぎるよう
ならやめるわ。すぐにばれたら悪戯としても面白くないもの」

 ケイトはこう言ったが、幸か不幸かショーツ巻き付け作戦は、
頃合良く鐘の音を小さくしてくれ、実験は大成功だったのだ。

 それから二週間余り、多少音色の悪くなった城の鐘は童女たち
のショーツを巻き付けたまま鳴り続けた。

 最初はすぐにでも発見されてしまうのでは、と鐘が鳴るたびに
その音色に気を配っていた童女たちも、この頃になると四人集ま
っても鐘のことは話題にならない。当然、鐘の音が昔に戻ったと
しても誰もそれに気がつかなかった。

 そんなある日のこと。四人が揃ってペネロープに呼ばれる。
 こんな場合には まず誉められることは期待できない。ただ、
鐘の事をすっかり忘れていた彼女たちはビニール袋の中に入った
自分たちのショーツを見て初めて事の重大さに気付いたのだった。

 「これは三日前に鐘楼の定期点検にきた技師さんがご親切にも
届けてくださったものです。持ち主が分かったのでお返しします。
あなたたちのでしょう」

 ペネロープはそれだけ言うと目を閉じてしまう。
 その言葉は抑揚を押さえた物静かな調子だが、それだけに凄味
があって彼女の秘めた決意が童女たちにも伝わってくるのだ。

 四人は恐る恐る自分のショーツを手にしたが、本来ならば出る
はずの謝罪の言葉が、ペネロープのオーラに圧倒されたのか出て
こない。

 そうこうしているうちに再びペネロープがこう言い放った。

 「あなたがたは私の子供たちです。ですから私の信じる神様の
子供たちでもあるのです。その神様をないがしろにする行為は、
どのような理由があっても許されません。どのように許されない
かはコリンズに伝えてありますからそこへ行ってお聞きなさい」

 ペネロープはそれだけ言うと二度と口をきかなかった。ききた
くなかったというべきか。いずれにしても四人の童女たちはそれ
がどういう結果をもたらすにせよ、コリンズ先生の処へ行くしか
なかったのである。


 その夜、童女たちはやっとの思いでベッドに辿り着いた。本来
ならここで、今日のお仕置きはやり過ぎよとか誰々に比べて自分
のは不公平だったとか百花繚乱のおしゃべりが展開されるのだが、
今日に限っていえばどのベッドからも声がでない。

 「う~ん」

 時折、低い唸り声がするだけ。まさにそこは野戦病院の趣だっ
たのである。

 そこへ少し遅れてコリンズ先生が入ってきた。
 彼女は何も言わず四人の手当を始めるが、これにも童女たちは
何の反応もしめさなかった。

 『まだお仕置きするんですか』とか『(手当てしていただいて)
ありがとうございます』といった言葉がでてこないのだ。

 四人はなされるままに手当を受けるとそのまま眠りこんだ。
 そして、コリンズ先生もまた薄いマットと毛布を持ち込むと、
その夜は童女たちの部屋に泊まり込んだのである。


 次の日の朝、メイドがいつものように洗濯物を取りにくる。

 「さあさあ、起きてください。お折檻の翌朝だからといって、
起きなくていいというルールはここにはありませんよ」
 彼女はいつものようにシーツをはぎ取っていく。

 「さあ、手を離して」

 リサのベッドへやってくると、寝坊助が思わず自分の寝ていた
シーツを掴んで離さない。

 二人の睨めっこがしばらく続いた後、メイドに促されてリサは
渋々手を離したが、おかげて自分の粗相がばれてしまう。

 「……しょうがないね。子供ならよくあることだけど…」
 メイドはため息をつく。
 「私の親もきつい処のある人だったから私もたまにありました
よ。すると翌朝さらに折檻が増えてね。子供って何て不幸なんだ
ろうって恨んでましたっけ…」

 事情はアリスも同じだった。あまりのショックやストレスに、
生理的な機能が追い付かなかったのだ。

 「おやおや……昨日のお折檻はよほどきつかったんでしょうね。
もっとも、ペネロープ様にしてみれば、あの鐘は革命で焼け落ち
たご実家のお屋敷に唯一残ってた遺品ですから大切になさるのも
無理はないですけどね。あんたたち、手をつけたものが悪かった
のよ」

 ケイトだけはそっぽを向いたままでシーツは掴まなかったが、
やはり事情は同じだった。

 「さあ、用がすんだらさっさと出ていきなさい。こちらには、
まだ大事な仕事が残ってるの」

 おしゃべりなメイドに何もかもばらされてはたまらないと思っ
たのか、コリンズ先生はメイドを追い返してしまう。実際四人に
対するお仕置きは昨夜の折檻でもまだ終わってはいなかったのだ。

 「今日のシャワーはありません。みなさんは、これで体を洗い
ましょう」
 メイドを追い出したあとコリンズ先生は洗面器にお湯を用意
する。

 四人は痛む体をおしてその場でネグリジェを脱がなければなら
ない。素肌が現われると昨夜受けた鞭傷が体のあちこちに残って
いるのがわかる。胸、お腹、 背中、太もも、もちろんこんな事
は今までに一度もないことだった。

 「では、もう一度ベッドに横になりなさい」

 コリンズ先生の指示に四人は無言で従う。

 二度にわたる高圧浣腸、雨霰と降り注いだ鞭、意識朦朧となる
まで言わされた懺悔の言葉、その他筆舌に尽くしがたい責め苦の
数々が彼女たちから一切の言葉を奪っていたのだ。

 コリンズ先生は、四人の両手足を大の字にしてベッドポストに
括り付けると、やんごとなき刑罰執行人の到着を待った。

 先生はこれから先何が起こるかを説明しないが、この不自由な
姿勢が意味するものの答えは簡単に導きだすことができる。ただ、
だからといって特段の恐怖も湧かなかった。彼女たちはそれほど
までに疲れきっていたのである。

 やがて、この朝の儀式をつかさどる司祭がメイドを一人つれて
やってきた。

 『やっぱり』
 四人は思う。

 彼女は何も言わず入ってきて、あたりを一瞥、そのままアンの
ベッドへと押し掛ける。そして、これまた何も言わず、いきなり
アンのネグリジェの裾を捲り上げると、ショーツをほんのわずか
割れ目が見える程度まで引き下げたのである。

 そのあとはアンが予想していた通りのことが起こっただけ。

 『……う~……熱い……痛い……いや……助けて……』

 ペネロープは昨夜の折檻で痛んだ体を癒すべくあちこちのつぼ
に灸を下ろしていく。これに対しアンは自分のお腹の方からほの
かに立ち上る煙をぼんやりと眺めながら五分間も顔をしかめ続け、
心の中で苦痛を叫び続けたのだった。

 「よい子になりますか」

 最後にペネロープが諭しても、すぐには答えが返ってこない。
今の彼女はそれほどまでに必死に耐えていた。熱さにというより、
体に火を付けられたというショックに……そして何より取り返し
のつかない粗相に耐えていたのだ。

 コリンズ先生が
 「さあ、よい子になりますっていうの」

 アンの耳元で口添えしたので、やっと……

 「よい子になります」
 という言葉がアンの口から出たが、彼女はこの時すでにかなり
の量を失禁していたのである。

 慌てたコリンズ先生が
 「あらためて浣腸しましょうか」
 と提案したが、ペネロープはそれには首を振る。

 実際、幸か不幸か他の子は、先におねしょをした為そのような
問題は起きなかった。

 ペネロープは、他の三人に対しても同じ灼熱地獄を加えると、
そのいずれからも「よい子になります」という約束を得て部屋を
出て行ったのである。

 『やれやれ』
 四人の思いは同じだった。

 四人にやっと生気が戻る。ところが、ここまでやってもまだ、
四人に対するお仕置きは終わらなかったのである。

 次の日から二十日間、四人は普段より一時間も早く起こされる
と、中庭へ集合。キャミソールとショーツだけの出立ちで、ある
特殊な体操をやらされたのだった。

 「ショーツをおろして、両手は頭の後ろ…前かがみになります。
……アン、もっと頭を低くするの。ほら、もっと。もっと。……
全員が揃わないと先へ進まないから他の子に迷惑がかかるわよ」

 こうして全員がお尻を高く上げるポーズを取ると、彼女たちの
後ろで控えていたメイドたちが、革紐鞭を四人のお尻に一撃ずつ
ゆっくりと間をおいて放っていく

 「ピシャ」

 「アン、こんなことぐらいでぐらついてどうするの。あなたは
この中じゃあ一番のお姉さんなのよ」

 「ピシャ」

 「リサ、姿勢を崩さないの。あまりにだらしないと、やり直し
させるわよ」

 「ピシャ」

 「ケイト、もっともっと、お尻を高く上げて。あなただけまだ
お尻が低いわよ」

 「ピシャ」

 「アリス、しっかりしなさい。あんた寒いの。お膝が笑ってる
わよ」

 コリンズ先生は全員が正しい姿勢で静止できるまで待ってから、

 「体を元に戻して。……ショーツを上げて。……きおつけ。…
………もう一度ショーツを下ろして。……今度はしゃがみます」

 その場にしゃがみ込んだ彼女たちの足元には、小さな篭が二つ
用意してあって、その一つには何枚もの真新しいハンカチが入っ
ている。その一枚を抜き出すと、

 「……アリス、まだ早いわよ。やり直し。前から後へ、全部、
きれいに清めるのよ。それには最低でも二十秒はかかるでしょう。
ちょこちょこなんてのはだめよ」

 ここでしゃがんだまま性器や肛門をハンカチで奇麗に拭き取る
と、次の号令でそれをもう一つの篭に入れて立ち上がるのだ。

 「よろしい。ショーツを上げて立ち上がります。……きおつけ。
腰に両手を当てて休め」

 これで一回りだ。ほどなく、

 「きおつけ。ショーツをおろして、両手は頭の後ろ…前かがみ
になります」

 次の回の号令が始まる。

 童女達は、この鞭とお尻拭きのセットを毎朝二十回もやらされ
るのだ。噂を聞きつけて少女たちにの中にも早起きが増える。
 とりわけしゃがんでのお尻拭きはトイレを見られているようで
これまでにない恥ずかしさと羞恥心を童女たちに与えた。

 「もう、慣れたわ」

 アンもケイトもリサやアリスが愚痴を言うたびにそう言い返し
続けたが、心のなかは違っていた。あのお尻拭きのポーズは何度
やっても何度見られても、やっぱり恥ずかしいのだ。

 彼女たちがこの屈辱的な体操から解放され、やっと今回の事件
でのお仕置きが終了したのは十一月も末、もうあたりは冬の装い
に変化し始めていた頃だったのである。


******************<了>*****

第3章 童女の日課(7)

<The Fanciful Story>

             竜巻岬《14》

                            K.Mikami

【第三章:童女の日課】(7)
 《悪戯オンパレード》<1>


 前にも説明したが、チップス先生は高齢である。動作も鈍く、
しかも話す内容も、たとえ聞き逃しても不自由がない程度の常識
的なもの。
 となれば、退屈するのは仕方がないのかもしれない。

 そこで生徒としては空いた時間を有効に活用すべく色々な内職
を始めるのだが、それでも、これまでは好きな本を読むくらいが
せいぜいだった。そこへ脱退したはずのケイトが小さな鏡を持ち
込む。

 彼女は、先生が黒板の方を向くたびに、太陽光線を反射させて
先生の薄くなった頭を光り輝かせるというアイデアを思いついた
のだ。そして、先生がこちらを振り向く瞬間、角度を変えて先生
が光の存在に気がつかないようにする。

 このスリルに満ちた遊びはたちまち他の三人にも広がった。

 彼らは、いかに長い間先生に光線を当てていられるかを競い、
やがて授業そっちのけでこの暇つぶしに興じるようになる。

 しかし、この愉快な遊びもそう長くは続かなかった。
 一週間後、ケイトが悪乗りしてしまう。それまで密告もせずに
いてくれた助教師のスワンソンさんにちょっかいを出したために、
眩しがる彼女の様子に不審を抱いた先生がケイトの鏡を見つけて
しまったのだ。

 当然、鏡は取り上げられケイトはお仕置き。黒板の前に引き出
されると、両手を頭の後ろに組んで前かがみになるポーズを要求
された。

 その姿勢でお尻を六回。
 それはお転婆童女に対する処置としてはこれまでと何ら変わら
ない儀式に思えた。

 ところが…

 「……<No>……」

 チップス先生は助教師が差し出すいつものトォーズに首を振る
と、わざわざ隣の部屋まで行き、自ら気に入った籐鞭(ケイン)を
探し出してきた。

「ピュー、ピュー」

 彼はその調子を見るべくケイトのすぐ脇で二度ほど空鳴りさせ
てみる。そして何の合図もなくいきなり、

 「タッタッタッ」

 数歩助走をつけておいて目一杯振りかぶった位置から一直線に
ケイトのお尻目ざして振り下ろしたのだ。

 「ビシーッ」

 鈍く唸るような音が教室に漂うとそれはショーツ一枚など何の
防御にもならないほどの威力だった。

 「ビシーッ」

 よろめいたケイトが体勢を立て直すと、間をおかずふたたび、
低周波が教室内に響く。

 「ビシーッ」

 「…あっ…」

 鞭には慣れっこのはずのケイトの口から、思わずうめき声が聞
こえたことで、事の重大性が他の三人にも伝わるのだった。

 「ビシッー」

 「…ひいっ…」

 気がつくと彼女の膝は笑いが止まらなくなっている。

 「ビシッー」

 「いやあ~」

 次に鞭が振り下ろされる瞬間、

 「やめて!」

 ケイトの禁じ手がほんの一瞬チップス先生の始動を遅らせたが、
先生は最初に決めた六回目を放棄しない。ケイトにしてもそれは
百も承知の事。だから、それほどまでに切羽詰った叫びだった。

 「ビシッー」

 腰を伸ばしてまっすぐに立つことを許されたケイトの唇が細か
く振るえ、鼻をすする嗚咽も膝の震えも止まらないでいる。
 こんな彼女を三人が見たのは初めてだった。

 「ケイト、君は私をただの老いぼれと侮っているようだがね、
老いぼれていても私は男なんだよ。だから弱い者苛めは大嫌いだ
し、君のお尻の形を変えることぐらい、造作もないことなんだ。
分かったかね」

 「はい先生」

 「今夜の反省会では、コリンズ先生に同じ罰をやってもらう。
……そこで君も分かるだろう……男と女の力の差を……そして、
それが分かったら、二度とこのようなことはしないことだ」

 「はい先生」

 三人はまるで幼児のように従順になったケイトにただただ呆れ
るばかり。

 その時は三人とも声をかけづらかったが、それでも夜になると
気になるらしく、コリンズ先生の処から帰ってきたケイトを捕ま
える。

 「ねえ、どうだった」

 女の子はこうした時に残酷なものだ。反省会でコリンズ先生に
同じ六回の鞭打ちを受けてベッドに帰ってきたばかりのケイトを
取り囲むと、しきりにその感想を求めた。

 「やめてよ!どうでもいいでしょう、そんなこと……」
 ケイトは煩わしそうに三人を払い除けるとベッドに倒れこむ。

 男社会ならこれで終わりだが、女の子の世界は違う。
 頼まれもしないのに…今、「やめてよ!」って払いのけられた
はずなのに、リサとアリスがケイトの手当をする。

 彼女たちはケイトのスカートを勝手に捲り上げると……
 冷たいタオルで剥出しになったお尻を冷やす。

 「いたっ。もっと丁寧に乗せなさいよ」

 八つ当りするケイトに困惑する二人。
 ……でも、やはり聞いてみたかった。

 「ねえ、やっぱりチップス先生の方が凄かったの」

 「いいでしょう。そんなこと…」

 邪険にされたリサは、お尻に乗っけたタオルを掴むと、
 三十センチ程の高さから再びケイトのお尻目がけて投げつける。

 「ひぃ~」

 ケイトは思わず声をあげるとそのまま海老ぞりになった。
 そして、さも恨めしそうにリサの方を振り向くと、彼女を睨み
つけたのである。

 しかし、だからといって口をきかないというのではない。
 仕方がないという表情は見せながらもケイトは重い口を開く。

 「要するに痛みの質が違うのよ。チップス先生のは骨身に沁み
る感じなの。だから、内蔵が破裂したかと思ったわ」

 「大仰ね。お腹をぶたれたわけじゃないのよ。たかがお尻よ。
どうして内臓が破裂するのよ」

 「本当よ。女の先生にぶたれても痛いのはお尻の皮かせいぜい
筋肉までだけどさあ、チップス先生のは体の骨が全部ばらばらに
なったんじゃないかと思ったんだから」

 「本当に?」

 「何よその疑うような目は。だったらあんたやってもらったら
いいじゃない。あんたなんて、おしっこちびるから」

 「嫌ねえ、変なこと言わないでよ。私、そんな弱虫じゃないわ」

 リサもアリスもケイトの痛みが分からない。ケイトがショック
を受けているのだからよほど強烈だったのだろうとは思うのだが、
それがいったいどんな物なのかは、やはり経験しなければ分から
なかった。

 ところが、この会話に一切加わらなかったアンが、
 翌日……

 「何の真似かね。アン」

 彼女は授業が始まると持ち込んだ鏡を使って正々堂々チップス
先生の顔を照らしつけたのだ。

 そして、教壇に呼びつけられると……
 「実は、昨日はケイトだけしか見つかりませんでしが、私たち
三人もずっと鏡で遊んでいたんです。ですから、私達もケイトと
同じようにお仕置きしてください」

 アンはチップス先生に毅然として言い放った。
 勿論、これにはチップス先生も驚いただろうが、何より驚いた
のは、事前に何の相談も受けなかったリサとアリスだった。

 「アン、やめてよ。私はスワンソン先生にまで光を当ててなん
か……」
 リサは途中まで言い掛けて思わず口をふさぐ。

 気まずい雰囲気が教室内に漂った。ただ、チップス先生として
も昨日は勢いに任せての事だったが、今日はそこまでテンション
を高める自信がない。

 「あなたたちは、そんなにもこの老人にやって欲しいのですか?」
 最後はむしろアンの情熱に押し切られる形で、チップス先生が
決断したのだった。

 「三人とも、両手を頭の後ろで組んで、前かがみになるんだ」
 三人全員のお仕置きが決まる。

 「ビシーッ」/「ひぃ~~」
 「ビシーッ」/「いっっっ」
 「ビシーッ」/「いやあ~~~ごめんなさい」

 「ビシーッ」/「ううううう」
 「ビシーッ」/「あっっっっ」
 「ビシーッ」/「もうしませんから~~~」

 「ビシーッ」/「あぁぁぁぁぁ」
 「ビシーッ」/「やぁぁぁぁぁ」
 「ビシーッ」/「いやだあ~~許してお願い」

 昨日と同じ鞭、やはり同じように振りかぶって、数歩の助走を
つけて……しかし、それは昨日ほどの威力はなかった。それでも、
三人がその鞭の威力を理解するのに六発も必要なかった。

 「ビシーッ」/「しない、しない、もうしませんから~~」
 「ビシーッ」/「だめえ、ぶたないで、もういい、もういい」
 「ビシーッ」/「だめえ~~~死んじゃう、ごめんなさい」
 三発目からは、まるで悪戯坊主を父親が折檻しているかのよう
に我を忘れて泣き喚いたのである。

 結果。
 リサは歯の根があわず熱病患者みたいだったし、アリスにいた
ってはお漏らしまでする始末だったが……
 ただ、アンだけが比較的冷静だったのである。

 その日の夜、お尻を腫らして泣き叫ぶ二人の子供を尻目にいつ
も喧嘩ばかりしているアンの所へケイトがやってくる。

 「昨日はありがとう」

 「何が……私は何もしてないわ。お礼ならその二人に言うべき
よ。私はお尻をぶたれたかっただけ。おもいっきり男の力でね」

 「お父さん、厳しかったんだ」

 「………」アンはただ静かに頭を振る。

 あとはケイトがアンのお尻を濡れたタオルで冷やしワセリンを
ぬって手入れしただけ。ただそれだけで夜が更けていった。

 次の日のシャワー室。四人並んでいつものようにメイドに体を
洗って貰いながらアンがぽつりと言った。
 「このままじゃ一番早く少女になれるのはやっぱりケイトね」

 「…………」
 違わなかった。だからそれには誰も反論できない。

 「ねえ、ケイト。今度何かやるときは私達も誘ってくれない」

 「………」
 アンの誘いにケイトは答えない。
 するとアンは他の二人に……
 「ねえ、あなたたちだってその方がいいでしょう」
 これも間違いではなかった。

 「………」
 だから他の二人も口を開かないのだ。

 「ケイト、あなたしかいないわ。私達を少女にできる人は……
わかるでしょう私の言ってる意味。……アリスはお嬢様だし……
リサは監獄暮らしですっかり気が弱くなってるの。私も、常識に
捕われすぎてて子供じみたことなんて今さらできないわ」

 アンが話終わらないうちにケイトが噛み付く。
 「要するに私がこの中で一番ガキだってそう言いたいわけね」

 すると、アンは……
 「そういうことよ。今頃気づいたの?」

 「ちよっとあんた、否定しなさいよ。不愉快ね。あんたは私に
頼み事をしてるのよ」
 と、ここまでは威勢が良かったが、これから先は言葉が穏やか
になる。
 「……でも、仕方ないか……事が事だから………わかったわ。
でも私についてくるんならそれなりに覚悟はしといてね。今まで
みたいに平穏無事にはすまないわよ。それでいいの」

 「私はOKよ」
 リサが答える。そしてアリスも……
 「私も大丈夫よ」

 こうして四人は再びスクラムを組んで少女を目指すことになっ
たのである。

**************************

 手始めに狙われたのは美術のハワード先生だった。
 美術といっても童女たちに創造的作業はなく、来る日も来る日
もイコンの制作とデッサンばかり……要するに模写の作業ばかり
なのだ。

 いくら女の子が忍耐強く長時間の単純作業にむいているといっ
ても飽きてくる。ましてケイトは、一度少女にあがった経験から
少女になれば自由に風景画を描いたり、蝋けつ染めやガラス細工
など創造的な活動ができることを知っていたのでなおさらだった。

 そんな鬱積した思いを晴らすチャンスが訪れた。この日、先生
は授業の途中で抜け出して町へ行かなければならない用ができた
のだ。すると……

 「先生、このメディチ。描きいいようにしていいですか」

 ケイトの言葉に先生は深く考えずに「いいよ」と言ってしまう。
『置いてある角度を変えるのだろう』ぐらいにしか考えなかった
のかもしれない。しかし、彼女はこの言葉に『悪戯をしますよ』
という意味を込めていたのだ。

 先生が教室を離れるとケイトはさっそく作業を開始する。

 「アン、アリス、リサ、みんな来て」

 ケイトは三人を引き連れると先生のアトリエへ行って何色もの
ペンキと筆を持ってきたのだ。

 「どうするの。こんなもの持ってきて」

 「決まってるじゃない。この胸像真っ白で描きにくいでしょう。
だから着色してあげるの」

 「いいの、そんなことして」

 「いいんじゃないの。先生は描きいいようにしていいって言った
んだから」
 ケイトは笑って答える。

 「これ、塗った後で落とせるの」

 「まず、無理でしょうね。………おや?……どうしたの?……
やるの、やらないの?」
 ケイトは腰に両手を当てて三人の答えを待つ。

 「ねえ、これでどのくらい叱られそう?」

 「いいことリサ。悪戯ってのはね、後先の事を考えてやるもの
じゃないの。打算があったらそれは陰謀。打算を考えたらやめる
べきことをあえてやるから悪戯なのよ。……わかったかしら?」
 ケイトは悪魔チックな笑みを浮かべる。

 「ケイトの言うとおりね。私達これまで打算で考えてきたから
本当の悪戯ができなかったんですもの。いいわ、私やる」
 アンがまず最初に筆を取った。

 「おやおや、たかが悪戯に一大決心ね。でも、仕方がないか。
……どうなのリサは?」
 ケイトに促されると

 「どうか罰が小さくて済みますように」
 リサもお祈りをしてからこわごわ筆を取る。

 最後に残ったアリスも
 「お母さま、ごめんなさい」
 ケイトの手から目をつぶって絵筆を一本引き抜く。

 ただし、リサとアリスに限って言うと、当初はこれから悪戯を
始めようという雰囲気ではなかった。無理やり悪に加担させられ
ているといった感じだったのだ。

 ところが、ものの十分も経たないうちに主客転倒。

 「駄目よ、アン。そこは断然緑だわ」
 「ケイトやめて、そこは私が塗るんだから」
 「だいたいケイトはセンスが悪いのよ。私が手伝ってあげる」
 「アン、黄色持ってきて…それはオレンジ色じゃない。馬鹿ね、
レモン色の方に決まってるでしょう」

 この悪戯を存分に楽しんだのは無理やりやらされていたはずの
リサとアリスの二人組だったのである。

 「どう、なかなか素敵でしょう」
 「あなたたちじゃこうはいかないわね」
 二人は、作品を自画自賛。出来上がりにすっかり満足していた
彼女たちは自分たちのまわりに誰がいるのかまったく気がついて
いなかった。

 「なるほど素敵だ。私もこんなに鮮やかなメディチを見たのは
初めてだよ」

 二人はその低く聞き覚えのある声に一気に血の気が引く思いが
した。振り返る必要もないが、確認してみると……

 「……!……」
 「……!……」

 案の定、そこにはハワード先生が立っている。
 夢中になった二人が時間の観念を忘れていたのに対し、用件が
早くすんだ先生は生徒のことを心配しておっ取り刀で帰ってきた
のだ。

 「これは四人の共同制作かい」

 すると、ケイトがそれに答える。
 「先生。私が『描きやすいようにしていいですか』って言った
ら『いいよ』っておっしゃいましたので……お言葉に甘えて」

 「なるほど、首謀者はケイト君か。でも、君がこれを塗った訳
じゃないだろう」

「……………」

 ケイトは一瞬まわりの友達を慮り、彼女たちの意志をあらため
て確認すると、先生に答えを返した。

 「……はい」

 「だろうな。君にはこれは無理だ。見事な色彩感覚だ」
 先生は感心した様子だ。そして……
 「まあいい。今日はこれをデッサンしよう。そして、水彩で色
を着けてみようじゃないか。好きな色でかまわないよ。君達の色
のセンスを見たいから」

 ハワード先生がこう言ったのできっとリサはこれでお仕置きは
なくなったと思ったのだろう。安堵した彼女は肩を落とし大きく
息をついたのだ。

 すると、先生がそれを見ていて、すかさずこんなことを言う。

 「どうしたんだい、リサ。そんなに落ち込んで………せっかく
やった悪戯にお仕置きがつかないので残念なのかい。大丈夫だよ。
今日の事は『許されない悪戯がありました』ってコリンズ先生に
報告してあげるからね。お仕置きだって後日たっぷりやってあげ
るから、何も心配しなくていいんだよ」

 先生は悪戯っぽく笑う。そしてそれは現実のものとなったので
ある。


 その日の夕方、コリンズ先生は反省室に四人全員を呼び出す。
これはマンツーマンが原則の反省会では異例のことだった。

 「今日の美術の時間は、なかなかユニークなことをやらかした
みたいね。だから罰もユニークなのを用意したの。ここ二三日で
メンスの始まる人いるかしら……」

 「………」誰も答えない。

 「正直に言わないとあとで余計な恥をかくことになるわよ」

 「………」しかし、やはり誰も答えなかった。

 「よろしい、それは幸いね。では、四人ともまずこれを着けて
ちょうだい」
 コリンズ先生が手渡したのは、厚手の革でできた一見ベルトの
ような物だった。

 「何ですか。これ…」
 アリスが尋ねると、コリンズ先生だけでなく仲間三人も驚いた
ようにアリスの顔を覗き込む。

 「そう、あなた知らないのね」
 コリンズ先生は小さく笑みを浮かべると、アリスから一旦その
ベルトを取り上げて……
 「私が着けてあげるわ。スカートの裾をまくって…」

 アリスはあたりを見回す。すると他の子も同じようにしている
ので恐る恐る先生の指示に従ったのである。すると、アリスの前
に膝まづいた先生からさらに注意事項が……

 「あ、それから。今日はお仕置ですから地肌に直接着けないで、
ショーツの上から着けてくださいね」

 先生は半分ほどたくしあげられたネグリジェの裾の中へ手を入
れると、あっという間にアリスの股間にそれを装着したのだった。

 「さあ、これでよし。ご自分で見てご覧なさい」

 アリスが確認すると、革のベルトは腰に巻かれたのち、背骨の
あたりで一方が分れ、お尻の割れ目を通って股上をはい上がると
お臍の下あたりで腰のベルトと出会い鍵を使い再び一体となって
いる。

 「アリス、これは貞操帯っていうのよ。あなたも名前ぐらいは
聞いたことがあるでしょう。本来の目的は別にしてここではオナ
ニーの防止やお仕置きの補助具として使うの」

 『これが貞操帯なのね』
 アリスはまだ幼女の頃お茶会の席でリサがこの装着を命じられ
てべそをかいていたのを思い出していた。

 「みなさんにはこれを月曜日まで着け続けてもらいます」

 「え!月曜日まで…」

 「そうですよ。あすは美術の時間がありませんし、あさっては
日曜日でしょう月曜日の午前中チップス先生に事情をご説明して
午後の時間と取り替えていただいたので、その時お仕置きをして
いただけるそうです」

 事情が飲み込めないアリスを除き他の三人はコリンズ先生の話
に顔が真っ青だった。

 自室にかえった子供たちは口々に不満をぶつける。

 「普通はこんなの一日だけじゃない。それが二日半だものね」

 「この週末はブルーね。今月はメンスが二回もって感じだわ」

 「まったく陰険なのよ。こんなことやらせるなんて」

 「仕方がないでしょう。それだけのことやっちゃったんだもの」

 そんななかアリスがまた周囲を驚かす。
 「ねえ、これってトイレの時はどうするの」

 しばし誰からも声がでなかった。

 「つまりそれが陰険ってことなのよ」

 「この三日間私達にそれは禁句になるわね」

 「お嬢様、お嬢様はこんなことされた事がないからわからない
でしょうけど。これを取り付けられるとね、トイレはできないの。
少なくとも大の方はね」

 「!」

 アリスはこの時初めてことの重大さに気がついたのだった。

 この懲罰、実は恥を捨ててかかれば小だけはなんとか可能なの
だが、それは、お漏らしのあと濡れたパンツを穿いたままにして
いるのと実質的には同じ事で、女の子としてはとても勇気のいる
ことだったのである。

 とはいえ、大は我慢すればなんとかなるが、小の方は、時間が
たてばたつほど苦しくなる。その夜そして次の午前中はまだなん
とかなったが、土曜日の午後からはしだいに口数も減り誰の体も
頻繁に尿意を訴えるようになった。

 自然、食事も喉を通るはずがない。
 四人はお腹が減っているにもかかわらず、出された食事に手を
つけることができないでいたのだった。


************<了>***********

第3章 童女の日課(6)

<The Fanciful Story>

            竜巻岬《13》

                              K.Mikami

【第三章:童女の日課】(6)
《少女への条件》


 四人が将来を語り合った次の日の夜、アリスはコリンズ先生の
部屋を訪れて いた。

 「みんな少女になりたくて一生懸命やっているんです。先生に
気に入られようと思って…お仕置きされないように頑張ってるん
です。…でも、これ以上は…どうしたらいいのか分からなくて…」

 彼女は四人を代表して単刀直入にどうしたら少女に上がれるの
か尋ねてみたのだ。

 「そう、……そうねえ………私は逆に考えてたわ。あなたたち
は少女になりたくないんじゃないかって……」

 「え?」

 「……あなたやアンは頭が良すぎるのね……」

 彼女はしばらく考えていたが、そのうち

 「もうしばらくしたらお手本が来るから、そこで、何か教えて
あげましょう。……ただし、ヒントだけよ」

彼女はそう言ってこの時はアリスを返したのだった。


 コリンズ先生の言っていたヒントは意外に早くやってくる。
 次の週の日曜日、ゴブラン城に大勢の子供たちが訪れたのだ。

 十才未満のおちびちゃん二十人余り。彼らは縦横無尽に城の中
を駆け回り、丹精して育てた草花を勝手に摘み取ったり、ご先祖
の肖像画に髭を描き加えたりしたが、ペネロープは何一つ怒らな
かった。そればかりか童女や少女たちに彼らの面倒を見るように
命じたのだ。

 「せっかくの日曜日になぜこんなことやらされなきゃならない
のよ」

 当初は不満も出てくるが、そこは女の子。幼い子になつかれる
と、まんざらでもない様子で一緒に遊んでいる。実際、篭の鳥で
ある彼女たちは日曜日だからといって町へ遊びに出ることはでき
ない。幼い子と戯れることは彼女たちにとっても格好のレクリエ
ーションなのだ。

 しかも、おちびちゃんたちの遊び相手は彼女たちだけではない。
いつも飄々としているチップス先生がお漏らしした子のパンツを
替え、毎日のように鞭を振るうハワード先生までもが子供たちの
馬になって遊んでいるではないか。

 そんな様子を不思議そうに見ていたアリスにコリンズ先生が声
をかけた。

 「あれが答えよ」

 「え?」

 「あの子たちのようになればいいの。先生方に可愛いなと思わ
れればいいの。抱いて貰えるようになれば童女は卒業よ」

 「そんなこと…」

 「無理だと思ってるの」

 「だって、私達は体も大きいし、あんな無邪気な顔には戻れま
せんもの」

 「そんなこと言ったら、今少女になっている子供たちはみんな
童顔かしら、子供のように背が低いの」

 「………」

 「おちびちゃんたちをよく見ていなさい。何か分かるはずよ」

 「………?………?………?………?」

 「分からない?では、一つだけ教えてあげる。罰を受けるかも
しれないからやめておこうとは絶対に思わないこと。『自分たち
のやりたいことをやりたいようにやる野蛮な勇気』というのが、
あなたたちには必要なの。ほらご覧なさい。あの子」

 「え!?」

 「あんまり悪乗りするからとうとうハワード先生を怒らせちゃ
って、お尻を叩かれてるでしょう」

 「ええ」

 「でも、あれであの子は大人とつき合う時の限界を一つ覚えた
の。あの位の年令までは、毎日のようにお尻を叩かれて、それで
一つ一つ学んでいくものなのよ。それが子供らしい、童女らしい
ってことなの」

 アリスは思わずコリンズ先生の方を振り向く。

 「あなたたちは大人の思考回路でうまく立ち回ろうとし過ぎる
の。もし、童女のままでいたいのなら今のままの方が断然楽よ。
でも、もし少女に上がりたいのなら、もっともっとお尻を丈夫に
しなきゃだめね」

 「ありがとうございます先生」

 コリンズ先生の助言はさっそく他の友だちに伝わる。しかし、
よい子でいようというのならまだしも、たくさんの悪さをして、
たくさんのお仕置きを受けなければならないと言われても、簡単
に賛同者は現われなかった。

 「なるほどね。それで、お転婆娘たちはさっさと少女になれた
のにアンだけは取り残されていたのね」

 「でもねえ、そんなにあちこちで悪戯したら体がもたないわ。
だってそうでしょう。本当のガキどものお仕置きは、大人たちが
手加減してくれるけど、私達は鞭の勢いだって正味なのよ」

 「だったらこのままの方がいいの。チップス先生の話を聞いて
年を取るのは幸せ?」

 リサに同調してアリスも興奮気味に、

 「だめよ。それじゃいつまでたっても自由を手にできないもの」

 「だったら、アリス。あなたがまずお手本をみせてよ」

 「え!!」
 アリスはケイトの切り返しに驚いたが、これも成りゆき、やる
しかなかった のである。


 次の日アリスはチップス先生が現われる前に彼の似顔絵を黒板
に描いた。

 頭の薄い、皺の深い、山羊のような髭は先生にそっくり。友達
もその見事な出来栄えに拍手を送ったが、アリスとしては、もう
やけっぱちだった。だから、先生が教室に現われた時は顔面蒼白、
気絶しないで座っているのがやっとだったのだ。

 「『敬愛するチップス先生へ、アリスより』か」

 チップス先生はアリスが書いた精一杯のメッセージを読み上げ
ると、アリスを一瞥。再び黒板に向き直ると、一旦は黒板消しを
持ったもののアリスの労作に結局は手をつけず、そのまま授業を
始めたのである。

 ただ、授業の終わりに

 「アリス。君はなかなか絵がうまいな」
 と誉めただけだった。

 アリスはめげない。次の日は先生の椅子にブーブークッション
を仕掛ける。
 しかしこれも、風船がユーモラスな音を教室内に響かせたもの
の……

 「失礼、今日はお腹の調子が悪くてね」
 こう言ったきり先生は押しつぶした風船を取ろうともしない。

 三日目はもっと直接的に、小さく丸めた紙つぶてを指で弾いて
先生にぶつけてみた。これなら怒るだろうというわけだ。

 たしかに先生は授業後アリスを呼び付けた。しかし、友だちの
注目が集まるなか、先生が言ったことは……

 「教室を散らかしたらいけないよ。紙屑は自分で拾って帰りな
さい」
 これだけで言って退室してしまったのである。

 ところが、こうなってくると他の友だちの方に気の緩みがでて
きた。

 『チップス先生が教育方針を変えて自分たちに体罰をしかけて
こなくなったんじゃないか』

 彼女たちは、それまでもさんざん鞭を貰ってきたのに、たった
三日間の事件でそれらを綺麗に忘れ、自分たちの都合の良い方向
に勝手に解釈してしまったのだ。

 四日目、アリスがチップス先生から『王子と乞食』を読まされ
ている最中、アンは膝の上にバルザックをひろげて『谷間のユリ』
を読んでいるし、リサはイラスト制作中、ケイトも爪の手入れに
余念がなかった。

 そこへ先生が近づいてきたが、気の緩んだ彼女たちはまったく
気付かない。

 「アン、それはまだ君が読むような本じゃない」

 アンは真っ青になった。他の連中もあわてて手を止めたが、

 「リサ、お絵書きは午後からハワード先生の担当だ。ケイト、
君の爪は一時間もたつと邪魔になるほど伸びるのかね」

 いずれもすでに手遅れだった。

 「三人とも、前へ出なさい」

 チップス先生の声は若い先生のように張りや艶があるわけでは
ないが、確固たる信念に裏打ちされた低い声は充分に凄味がある。

 彼はまずアンを教壇の前まで呼ぶと、

 「手を頭の後ろに組んで前かがみなるんだ」

 チップス先生の命令に教室内には動揺が広がる。

 「もっと体を前に……もっと……もっと倒して。……お友達に
君のパンツがはっきり見えまで倒すんだ」

 それは、お仕置きとしてお尻を叩く時のポーズなのだが、これ
まで教室内でそれをやったことはなく、いつも補佐役で付き添っ
ている女性の助教師スワンソンさんが悪戯っ子を隣の部屋へ連込
んで処理するのが普通だった。

 さらにスワンソンさんがウエールズ流の革紐鞭トォゥズを持っ
て現われると、これまた慣例を無視して、先生はその鞭を引き渡
すように求めたのである。

 『え!』

 再び教室内に言い知れぬ動揺が……

 アリスが童女になってからというもの軽い懲戒として手を打ち
据えられる事はあっても、チップス先生自らがお尻をぶった事は
一度もなかったのだ。

 すべてが異例のそして生徒たちには最悪の展開だった。

 「ピシッ」

 革紐鞭特有の平手で叩いたときに近い乾いた音がする。

 「ピシッ」

 先生は見せしめの意味もあるのだろう。一回一回にゆっくりと
間をおく。

 「ピシッ」

 「バルザックが好きなのかね」

 「え、……いいえ」

 アンが慌ててそう答えると次の一撃はそれまでの二倍はあろう
かという勢いで飛んできた。

 「ビッシィーー」

 「あっ……はい、好きです」

 「……アン。嘘はいけないよ。嫌いなものをわざわざ授業中に
読んだりしないだろう」

 「ピシッ」

 「はい、ごめんなさい」

 「嘘をついた罰だ。今日の夜、コリンズ先生に頼んで体の中も
外も全部洗ってもらいなさい。そして綺麗な体になったら、また
明日ここへきなさい」

 「え!…そ、そんな…」

 意外な処置に思わず口をついて出てしまった言葉に再び二倍の
勢いで鞭が飛んでくる。

 「ビッシィーー」

 「あ、ごめんなさい。はい。良い子になります」

 「よろしい。次はケイト。こちらへいらっしゃい」

 後の二人も概ねこんな調子だった。そして最後に、

 「アリス」

 チップス先生はついにアリスまでも呼び付ける。恐る恐る行っ
てみると、

 「君はここ数日、しきりに私を挑発しているようだが、そんな
にお仕置きをしてほしいのかね」

 「………」

 アリスは答えられない。確かにお仕置きを期待してやった行為
だが、だからといって『そうです』とも言えないのだ。

 「私があの時君を罰しなかったのは、君がすでに君自身に罰を
与えていたからだ。君の顔は真っ青だったし唇も小刻みに震えて
いた。自分のしたことが理解できている何よりの証拠だ。なら、
お仕置きは必要ない。そうだろう」

 「……はい先生」

 アリスはかぼそい声で答える。

 するとそれを不憫に思ったのかチップス先生はいつもの柔和な
顔、穏やかな口調へと戻るのだった。

 「しかし、私は考えが浅かったようだな。私は君がなぜそんな
柄にもない事を始めたかを理解しようとしなかった。……つまり、
少女になりたいんじゃな」

 「………はい。四人一緒に」

 アリスは思い切って告白する。

 「なるほど、それはそれでもっともな話だが……ただ、私は、
これまで君がすべてを理解した上で、ずっとここに留まっている
ものとばかり思っておったから……あえて、この すべすべした
手やお尻を無理に傷つけることもないからね」

 チップス先生はアリスの手をいとおしそうに握ってみる。

 「アリス、注意してお聞き。ここでレディーになるというのは、
世間でいう ところの大人になるという意味じゃない。レディー
という身分が与えられるにすぎないのだ」

「……身分……」

 「そうだ。レディーになってもペネロープ女史が一言『あなた、
裸になりなさい』と言えば君は裸にならねばならんだろうし……
『鞭を与えます』と言えば、やはりそうしなければならんじゃ」

 「じゃあ、私たちどのみち奴隷と一緒なんですか?」

 「いや、それほど悲惨ではないよ。奴隷なら君たちを殺す事も
できるし売ることもできる。が、それはない。ペネロープ女史の
目的はただ一つ。これは領主様も同じじゃが、君たちを意のまま
に愛したい。それだけなんじゃ」

 「意のままに…愛したい?……」

 「そうだ。でもそれは単なる肉欲ということではない。色々な
意味を込めて彼らは君たちを愛したいと願っておる」

 「愛したい?…………ペットのように?……」

 「んん!?……当たらずとも遠からずじゃな」

 チップス先生は静かにうなずいた。

 「彼らはある偶然がきっかけで、子供が育ってきた環境と同じ
環境をつくってやりさえすれば、たとえ成人した大人でも、最初
から自分たちが育てた子供と同じようになついてくれると信じて
おるのだ」

 「…本当に?………でも、ただ、それだけのためにこんな?」

 「そうだ。ただそれだけのためにこんな大仕掛なことをする。
きっと身分で人を縛り付けていた時代が忘れられんのだろうな。
契約による人間関係を好まぬ貴族の性といえばいえなくもないが
……」

 「………………」
 言葉にならない。アリスはあらためて自分がとんでもない所で
生きていると実感するのだった。
 ただ、だからといって決心が変わったかというとそうではない。

 「それでも少女になりたいかね」
 チップス先生の問いかけに、

 「…………はい」
 アリスは少し顔を強ばらせながらも答えたのである。

 「君たちも……」
 先生は他の三人にも聞いてみる。

 「………………」
 「………………」
 「………………」
 結果は同じ。三人は無言のまま、それぞれが静かにうなずく。

 それが結果として良かったのか悪かったのか、チップス先生は
四人の意志を聞いてこう決断したのである。

 「わかった。ならば明日からは君たちへの接し方を変えてあげ
よう」


 その夜、四人はさっそく会議を開く。

 「ねえ、アンは知ってたの。私達がなぜ生かされているのか」

 「薄々はね。でも、あんなにはっきり先生から聞いたのは初め
てよ」

 「で、どうするの」

 「どうするって…、これまでどおりやっていくしかないでしょう。
どんどん悪戯やって、ばんばんお仕置きされるだけよ」

 「いつまで?」

 「いつまでって…それは…」

 「だってそれで確実に少女に上がれる保証はないんでしょう。
私、このままでもいいかなあって……」

 「今さら何言ってるの。みんなで決めたことじゃない。一緒に
少女になろうって」

 「だってこれでうまくいかなかったらぶたれ損だもの」

 ケイトが消極的なことを言う。しかし、彼女の気持ちを身勝手
だとは誰も言えなかった。ただ、

 「ねえ、ケイト。竜巻岬のお花畑が完全に閉鎖されたの知ってる」

 「知らないけど、それがどうかしたの」

 「という事は、これから先、あそこでは誰も自殺しないという
ことよね。ということは、童女も未来永劫あなた独りってことに
ならないかしら」

 「…そ、そんなこと分からないじゃない。少女から落ちてくる
子がいるかもしれないし……」

 ケイトの動揺は明らかだった。

 「とにかく私は抜けるわよ」
 ケイトは高らかに宣言した。

 『好きになさい!』
 と言ってやりたいところだが、この分野の第一人者は、やはり
ケイトをおいて他にはいなかった。他の子がどんなに努力しても
一週間で集計すると、常にケイトが一番多く悪さをし、一番多く
お尻を叩かれている。

 残った3人も、ケイトを抜きにしては考えられなかったのだ。

****************<了>******** 

第3章 童女の日課(5)

<The Fanciful Story>

             竜巻岬《12》

                          K.Mikami

【第三章:童女の日課】(5)
《それぞれの夜》


 童女が四人になって彼女たちの部屋は狭くなったが、そのぶん
親密度は増していく。そんななか彼女たちは誰もがそろって少女
へ進めるように研究を始めていた。

 赤ちゃん卒業試験のようなもののない少女への進級はひとえに
ペネロープの決断にかかっていたが、その決断を促してくれるの
は先生方の助言、なかでも最も影響力を持っていたのがコリンズ
先生の口添えだ。

 「コリンズ先生は何を判断材料にしているの」

 「分からないわ」

 「だって、ケイトは少女になったことがあるんでしょう」

 「でも、何が気に入られたのか分からないのよ。わかっている
のは、誰の目にも子供と映るように行動しなければだめってこと」

 「わかってるわそんなこと。だから私、できるだけ子供っぽい
言葉を使うようにしているのよ」

 「それだけじゃだめよ。子供のように大きな声で挨拶したり、
どうでもいいようなチップス先生のお話を大真面目な顔で聞いた
りするの」

 「…あと、お仕置きの時の恐がり方よね。これが難しいのよ。
手のひらに鞭をもらう時も、これからとってもきついお仕置きを
もらうつもりになって、手や唇をほんの少し震わせるの……」

 「そんなことできないわ。だって私、役者じゃないのよ」

 「だから、先生たちの前だけで子供を演じようとしてもだめよ。
朝起きた時から寝るまで、『自分は子供なんだ』『子供なんだ』
って、言い聞かせなきゃ……」

 「難しいわね。……でもケイトはいいわよね。いくつになって
も根が子供なんだから……だけど私なんか子供の時からませてた
もん。今さらそんな無垢な乙女なんて、簡単にできそうにないわ」

 「とにかくここに四人いるんですもの。よいところはどんどん
真似しあわなきゃ」

 「ねえ、そもそも、どうして私たち、赤ちゃんや幼い子のもの
真似しなきゃいけないの。命を助けてもらったのは嬉しいし生涯
ずっとここにいろと言われたら、私はそれでもいいと思ってるの
よ。でも、なぜこんなことが必要なの」
 アンが疑問を投げかける。

 「それは新たな人生を歩みだすためには思い切った自己改革が
……」
 ケイトは自信なさげに答えた。

 「それはお母さまの意見よね。でも、自殺に失敗して、その後、
成功を収めた人でもこんなことはしなかったはずよ」

 「仕方がないでしょう。それがお母さまのご意向なんだもの。
娘としては、それに従うだけよ。それとも、あなたここから逃げ
出す算段でもあるのかしら」

 「べつにそういうわけじゃあ……」

 「だったらそんなこと言わない事ね。もし、お母さまや先生方
の耳に入ったらただじゃすまないわよ」

 「ねえ、アン。ここから逃げ出すってそんなに絶望的な事なの」

 「なんだアリス。あなたこれまで一度も逃げ出そうとしたこと
なかったの」

 「え、……ええ、まあ」

 「私達の体には自殺の治療のついでに小型の発信機が埋め込ま
れているの。だからお城を逃げ出すと百メートルも行かないうち
に衛兵が追ってくるわ」

 「それにここのご領主は不思議に村人には人気があって私達に
とっては門番も同然。見つかったらたちまち密告されてしまうわ」

 「私なんて警官を見つけたから保護を求めたのに、車で送って
もらったのはなんとお城の中。『お嬢さん。ここが一番安全です
よ』だってさ」

 「村の警官なんてご領主様の家来も同然なのよ」

 「駄目じゃないケイト。ご領主様だなんて言ったら…」

 「あっ、いけない。お父さまよね、お父さま」

 「ねえ、もし脱走して捕まるとお仕置きされるの」

 「当然そうね」

 「たいていは地下の懲罰台ね。あそこにくくり付けられて最初
は半日、次は丸一日。それもとびっきりのを延々よ。……アン、
あなたはどのくらいで治ったの」

 「十日くらいは椅子に座るのが恐かったわ」

 「まだいい方ね。私なんて二週間よ。よく今でもお尻がついて
ると思うもの。それに一ヵ月は赤ちゃん時代に戻っておむつ生活
を強制されるから、三度目をやる人はまずいないわね」

 「でも、レディーになれば外出もできるんでしょう」

 「そうなの。それが不思議なんだけど。レディーになった人が
ここを訴えたってケースはまだないのよ」

 テレビもラジオも新聞さえも届かないお城の中で四人のおしゃ
べりは際限なく続くのだった。

*************************

 それと同じ頃、城の遊戯室では、ペネロープがレディーたちを
集めてトランプに興じていた。

 「マリア。お母さまは、お元気かしら」

 「はい、おかげさまで」

 「心配だったら帰ってもいいのよ。あなたを育ててくれた大事
なお母さまですもの」

 「大丈夫です。もう落ち着きましたから」

 「それならいいけど。私への遠慮があるんだったら……それは
無用なことよ。私はあなたを十分に愛せたからもうあなたに義務
は残ってないわ」

 「はい………」

 マリアはぽっと顔を赤らめた。

 「……でも、私はここにいたいんです」

 「そう。それでは好きになさい」

 「イヴ、孤児院の方はどうなの。うまくいってるのかしら」

 「はい、お母さま」

 「このあいだ見に行った時は、みんな綺麗なお洋服を着ていた
けど、あれは私が来るので特別なのかしら」

 「いいえ、お母さま。特別なことは何も……ただ、最近は孤児
の数が減ってきたのと物が豊かになったのとで継ぎのあたる服を
着ているような子はもう………」

 「まあそうなの、知らなかったわ。お婆さんになると、世情に
うといから……でも、それはなによりじゃない。私の届けた服は
オリバーツイストのお芝居をやる時にでもお使いなさいな」

 「申し訳ありません。決してそのようなつもりでは……」

 「何もあなたが謝ることはないわ。そういえばおもちゃ箱にも
山のようにおもちゃがあって今の子供たちは幸せね。でも、親の
いないことにかわりはないのだから、暇を見つけてここへ連れて
らっしゃい」

 「はいお母さま」

 「せいぜいここの子供たちにチビちゃんたちを抱かせるように
するわ。前にも言ったけど、感受性が豊かで、常に新しい刺激に
さらされている子供たちは、ベッドの他にも絶対的な安息の場が
必要なのよ」

 「はいお母さま。助かります。職員の数も限られていますから
なかなか長い時間相手をしてやれなくて」

 「大人に抱かれることは、赤ん坊にとって必ずしもハッピーで
はないわ。自由を奪われて機嫌をそこねる場合もあるけど、反面、
そこは外の刺激にわずらわされない絶対に安全な場所でもあるの。
孤児たちが、情緒不安定で社会への適応能力に乏しいといわれる
のは、幼少期に抱かれる機会が少ないくて、か弱い神経をオーバ
ーヒートさせる為だと私は思うのよ」

 「ん?どうしたの、ローズマリー」

 「あがりです」

 「あら、あなたまた勝ったの。お金がかかるとあなたは強いわ」

 「私が強いのではなくてペネロープ様が弱いのです」

 「しかたないわね、はい十ポンド。もういいわ、やめましょう」

 「お母さま」

 「なあにマリア」

 「もし、違ってたら御免なさいねローズマリー」
 彼女は最初にローズマリーに断りを言う。

 「ローズマリーがここで初めておむつをつけたって…本当です
か」

 「本当よ。若い時の彼女はおしゃべりで、怠け者で、反抗的。
とにかく役たたずのメイドだったの。ある時、先代のお供で長期
に旅行することになって荷造りを手伝わせたんだけど、その時も
ぐうたらやってるから『もっとてきぱきできないの』と言ったら、
何と言ったと思う」

 「さあ」

 「『私、日給で働いてますから急いでやって次に仕事をもらう
よりのんびりやった方が得なんです』なんて、臆面もなく言った
ものだから私も頭にきて『そうなの。そんなに仕事をしたくない
ならやらなくてもいいわ。あなたみたいな怠け者は赤ちゃんの方
がお似合いね』って無理やりおむつをはめさせたの」

 「へえ」

 「それで慌ただしく出掛けたんだけど、半年後、旅行から帰っ
たらびっくり。ローズマリーが今だにおむつをして寝かされてる
じゃない。話を聞いたら他のメイド達も私があまりの剣幕だった
ので、これは逆らっちゃいけないと思ったらしいのよ……」

 「………」

 「ところが、今度は、ローズマリーがやけに素直になったの。
最初はお仕置きのせいで一時的に張り切っているだけだと思って
たんだけど。三ヵ月、四ヵ月たっても変わらないから、とうとう
首にできなくてここまできたというわけ」

 「じゃあその時の成功を応用して私達を…」

 「確証はなかったわ。でも、イヴが竜巻岬から運ばれてきた時、
この子だけは警察に渡さずに私の手元に置きたかったの。当時の
私は子供が独立したばかりで愛することのできる子供が欲しかっ
たから」

 ペネロープはマリアの手を取る。

 「あとは、自然のなりゆき。自然自然にノウハウが蓄積されて
いって今のようなシステムになったんだけど……ここも孤児院と
いえばいえなくもないわね。……今だに誰も裏切らないから続い
ているだけよ」

 「裏切るだなんて……私たちみんなお母さまの愛があったから
こんなに幸せでいられるんですもの。恨みに思う人なんて、誰も
いませんよ」

 「ありがとうマリア。嬉しいわ」

 マリアはペネロープの静かな抱擁を受けた。

*************************

 女性たちが優勢なこの城のなかにあっても領主は男性である。
父母が早くに亡くなったためアランは十歳にして爵位を得ていた
が、二十四歳になる現在も城や領地の管理はペネロープにまかせ、
彼は好きな絵や写真、それに作曲といった趣味に人生の大部分の
時間を費やしていた。

 「リチャード、どうだい。その椅子の寝ごこちは」

 この夜、アランはパブリックスクール時代の友人と城のサウナ
でたっぷり汗を流した後、裸のまま彼をアトリエに案内していた。

 「なんだかごつごつしているな」

 「そこがいいんだ。頭の当たる所以外は全て三角柱の角が体に
当たるようにわざと作らしたんだ。それが適度に全身を刺激する
だろう」

 「そりゃあ、そうだが……ここで何をしようというんだ」

 二人は奇妙な形をした木製の寝椅子をふたつ並べて寝そべって
いる。それはアーチ形に腰のあたりが一番高くなるように反って
いて、ただでさえサウナで頭に血が上っているところに、さらに
頭に血が上るようなことをしていた。

 「この格好で髭を剃るんだ」

 アランが指を鳴らすと手筈の女性たちが五六人現われて、まず
は二人の顔に蒸しタオルを乗せる。おかげで友だちは視界が完全
に遮られた。
 すると、この期に及んでアランは友人にこう忠告するのだ。

 「髭剃の最中は絶対に動くなよ。下手に動けば大怪我にだって
なりかねないから」

 「どういうことだ。ここの理髪師は下手なのか?」

 「まあ、そのうち分かる」

 アランの言葉が終わる頃には大きな剃刀が二人の顎の髭を捕ら
え始めたが、それと同時に、寝そべる二人の今一番高い処にある
部分が何者かによって舐められたのである。
 局部だけではない。乳首、足の裏なども一斉に始められた。

 「<わっ、ああっっっっっ>」

 男ならそりゃあ一大事なのだが、なるほど動けない。
 今、まさに剃刀の刃が逆剃りのために顎の下に食い込んでいる
最中だからだ。

 『足の裏は犬か?』
 長く大きくざらついた舌とその足音から友人は判断した。

 『くそっ、尻の穴まで何かしてやがる』

 そこはメントール剤が塗られ棒状の物が挿入されただけだが、
時が時だけに体は何にでも敏感に反応する。

 「<ヒィ~~~~っっ>」

 乳首、手の指先、足の指先、わきの下、へその穴、尻の穴……
もちろん一番大事な急所までも、たった一丁の狂暴な剃刀の下で
一斉に辱められているのだ。
 こんな残酷な話があるだろうか。

 「<ぎゃあああぁぁ~~~~~>」

 男の性か、それとも羞恥心か、果ててしまえば終わるものを、
一度は我慢する。

 二度目の波。

 「<ああ~~~~~ぁぁ>」

 三度目の波

 「<ああ~~~~~ぁぁ>」

 女だちが引き起こす大波を必死にこらえていたが……

 「ああああああ~~~」

 四度目の波が押し寄せた時、こみあげてきたものをリチャード
はとうとう我慢できなかった。

 「くそう」

 彼は思わずつぶやく。何だか強姦されたようで悔しいのだ。

 終わると尻の穴から棒状の物が取りのぞかれ、犬も去っていき、
体には薄い毛布が一枚かけられる。もちろん髭は綺麗に剃りあげ
られていた。

 「アラン」

 友人は隣の長椅子で寝そべるアランに声をかけるが、今は余韻
に浸っているのか起きる気配がない。


 毛布が掛けられて二十分ほどの短い時間だったが、睡魔の導く
ままに二人は仮眠をとった。


 「リチャード」

 今度声を掛けたのはアランだった。

 「あまり長くその椅子にすわってると今度は背中が痛くなるぞ」

 彼は友人を起こすと背中に赤い横縞を付けたままシャワー室へ。
事情はもちろん友人も同じだった。

 アランは遅れてやってきたリチャードに声をかける。

 「どうだいあの椅子の座り心地は」

 「…………」

 「ああした愛撫はお気に召さないか」

 「…………」

 「どうやら不評を買ってしまったな」

 アランが諦めてぽつりと独り言を言いうとリチャードが初めて
口を開く。

 「あれは髭をあたるために作ったのか」

 「他に何の目的がある」

 「こんな醜悪な髭剃は生まれて初めてだ」

 「すまなかった。君にはうってつけかと思ったんだが…」

 「あ~、今でも誰かに体中舐められてるみたいで気色が悪い。
これで天国が覗けなかったらおまえをぶん殴ってるところだ」

 二人はシャワー室を出るとバスローブに着替えて居間へ。
 そこではさきほど二人を辱しめた女性の一人が待っていた。
 全裸の彼女はアランに籐鞭を預けると何も言わず天井からぶら
さがった革紐を自分で両手でつかんで前かがみになる。

 「ピシッ」

 アランが一振り、豊満な尻を目掛けて打ち据えると、不安定な
姿勢の彼女は右に左にその体を揺らすから、リチャードはアラン
が新しいショーを始めたのを知ることになる。

 その揺れが収まった頃になってまた一振り。

 「ピシッ」

 アランは、かなり力一杯鞭を振り下ろしているが、彼女は声を
たてない。といって、必死にこらえているといった風でもないが、
一つ一つの鞭の味を噛み締めるかのように、毎回毎回苦痛に歪む
自分の顔を作りわけている。

 「ピシッ」

 次に鞭を振り下ろすためには揺れる女体が落ち着くのを待って
やらねばならないから、一回一回には時間がかかるが、アランも
友だちもその時間を惜しむ様子はなかった。

 まるで、ゲームのような、儀式のような時間が過ぎていく。

 「ピシッ」

 一振りごとに、筆で掃いたような赤い筋が増えていき、彼女の
お尻への化粧はだんだんと濃くなっていく。

 「ピシッ」

 と、この時、それまで横揺れしていた彼女の体が、初めて縦に
伸び上がる。両手に握られた紐にすがりついた彼女の身体が海老
ぞりになったのだ。

 「ピシッ」

 十二回目が終わると同時に彼女は床に倒れた。

 それを見て、アランは愛用の籐鞭をマントルピースの脇にある
鞭入れに立てかけるようにして落とす。

 すると、その「カタン」という音に反応して彼女の吐息が部屋
に流れた。

 ほどなく立ち上がった彼女にアランは一言……
 「ブランデー」

 アランの注文を聞いて彼女は部屋を出ていった。

 「待たせたな」

 アランが一仕事終えてリチャードのもとへやってくると……
 すでに友人はシガーに火をつけソファーでくつろいでいた。

 「家庭の事情に深入りする気はないが、彼女は何か罪を犯した
のか?」

 「いや大したことではない。さっき髭を剃ったときに僕の顔を
若干傷つけたんだ」

 「美女に厳しいな」

 「そうでもないさ。あれは彼女が望んだことだ。私は、彼女の
要望に答えたにすぎない」

 「どういうことだ」

 「君は僕が万に一つもしくじるような女に剃刀を持たすとでも
思っているのか?野暮天の君にはわからんだろうが、この傷は、
彼女が僕にサービスを求めるサインとしてつけたものなんだ……」

 と、その時、噂の美女がブランデーを持ってやってくる。

 「そしてこれがそのささやかな返礼というわけだ。断っておく
が彼女はここのメイドではないからな」

 「ん?」

 「彼女は私の有能な秘書だ。別にメイドでもそうだが、今どき
領主だからといって好き勝手に鞭を振るうことのできる女なんて、
どこにもいやしないよ。今日は、君を楽しませようと思って協力
してもらったが、先日は僕の方が彼女たちに協力させられたばか
りだ」

 「協力?どんな」

 「マーガレット、言ってもいいか」

 アランはマーガレットに許可を求める。すると、彼女がうなづ
いたので。

 「魔女狩りの寸劇だ。私は異端審問官と刑吏の役をやらされた」

 「なるほど、なかなかおいしい役どころじゃないか。おまえ、
最近クラブに顔を見せないと思ったら毎晩この美女たちとじゃれ
あってるんだな。今度やる時は私も誘ってくれよ。台本の覚えは
いい方だから…」

 「台本なんてないよ。舞台設定があるだけ。後は全部アドリブ
でやる劇なんだ」

 「難しそうだな」

 「慣れればそうでもない。当意即妙が要求されるがね。特に、
サド役は相手がどんな責められ方を求めているかを劇中で瞬時に
判断しないと興を失することになる」

 「なるほど、益々興味深いな」

 「いずれにしてもこの劇はサド役が奉仕者で、楽しんでるのは
魔女にされてる方さ」

 「そりゃそうだ」

 「興味があるなら招待するよ。ただし、最初は端役だがね」

 「見学だけってのはないのかい」

 「みんなが役になりきって陶酔する劇なんで、しらふの観客に
見せる劇じゃないが…まあ、その時は門番の役でも用意してやる
よ」

 「門番か……俺は魔法使いの方がいいなあ。ハハハハハハ」

 リチャードの甲高い声が静まり返った城中に響き渡った。


*******************<了>***

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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