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§1

<ブルマー事件>

§1

 それは私が小学五年生の二学期に起きました。
 私たちの学校は幼稚園から小学校、中学校まで同じ敷地にあります。
街外れにあって亀山に住む子供たちしか通いませんから一クラスは12
名前後。運動場はテニスコートぐらしかありません。ただ車寄せのある
趣のあるレンガ造り二階建ての建物は大きく立派で、前庭、中庭、裏庭
と三つあるお庭にも四季それぞれに色んな草花が咲き乱れています。
 外見だけ見ると学校というよりどこかの邸宅のような造り見えるかも
しれませんが私たちにとってはこれが学校でした。
 一緒なのは建物だけではありません。先生方も小中学校はもちろん、
幼稚園までもこなすオールマイティーなのです。なかには、一時限目が
中学の先生、二時限目は小学校、午後からは幼稚園で子供たちとお遊戯
なんてスーパーウーマンもいらっしゃいました。
 そんなわけで生徒たちはもちろん、どの先生方とも超がつくほど親密
で、おまけに先生は必ずどの子かのママというわけですから、良いこと
悪いこと、すべてはママに筒抜け。学校で起こったことはどんな些細な
ことでも隠し事なんてできませんでした。
 おまけに、教室の後ろには中二階席というのがあって元気なお父様や
退職して今は養老院たお住まいの先生方、それに心配事のある娘を抱え
たママなんかが授業の合間を縫って見学に訪れます。
 私も授業中に隣の子とおしゃべりしていたら紙くずを丸めたボールが
頭の上に落ちてきますから『誰よ!こんな悪戯するの!』ってあたりを
見回したら、ママが中二階から睨んでた、なんて事がよくありました。
 こんな話をすると、『わあ~息が詰まりそうな学校生活ですね』なんて
同情されますが、私たちは他の世界を知りませんからそれを窮屈と感じ
たことはありませんでした。
 むしろ、幼い頃は学校にいてもママやお父様がわりに近い処にいます
から、見つけるといつも抱きつきに行っていました。これも普通の環境
なら「あなた、ここは学校なのよ。甘えるんじゃないの」なんて言って
叱られるところでしょうが、亀山というのは、もともとお父様たちが私
たち子供を思う存分抱きたくて造った街ですから、それもありませんで
した。
 いつでもどこでも大人たちへの抱きつきOK。というより大人たちに
両手を広げられたらそこへ飛び込まなければならなかったのです。亀山
で『抱かれる』というのは子供とっては特権というより、むしろ義務の
ようなものだったのです。
 ですから逆に子供たちは抱かれたい大人たちを選べません。体臭がす
るからからとか、顔が醜いからなんて理由で大人たちの愛撫を拒否する
ことはできませんでした。それは幼い頃はある種苦痛でもありましたが、
それも慣れが解決します。ある程度年齢がいくと嫌いな大人でもお愛想
で笑えるようになるのでした。
 そして大人たちにうまく抱かれればプレゼントへの期待も膨らみます。
亀山にはそもそもおもちゃ屋さんとか駄菓子屋さんなんてものがありま
せん。お金をもらっても使う処がありませんでした。ですから欲しい物
は何でも大人たちからの現物支給。大人たちに抱かれて喜ばせてそれを
ゲットする術を次第に身につけていくことになるのでした。
 こうした生活が亀山では実に13歳まで続くのです。本物の赤ちゃん
の時から大人の身体に近づく13の歳まで私たちはお父様の抱き天使、
無垢な赤ちゃん役を演じ続けなければなりませんでした。
 このためでしょう、大人たちは外の情報をほとんど与えてくれません
でした。もともと外界と隔絶したこの地ですが、貴重な情報源であるテ
レビは一日に一時間半だけ。それもすべて検閲済みのビデオでしか見る
ことができません。本も内容にHなものがある時は子供向けの物でさえ
見ることを許されなかったのです。
 ただ、そうは言っても歳がいけばそういつまでも純粋無垢な赤ちゃん
というわけにはいきません。ここの子供たちの多くは女の子ですから、
できるだけママやお義父様に気に入られたいと思ってがんばりますが、
それでも11歳くらいになるとそれまで押さえつけていた自我が頭をも
たげ始めます。私たちの場合はそれがブルマーでした。
 当時、私たちは学校の制服や発表会で着るユニホーム、日々の私服も
すべて亀山出身のデザイナー三人がわざわざ亀山を訪れて作ってくれて
いました。ですから、どの子もとってもお洒落さんだったのです。
 ところが、体操着だけはいつまでも同じ白のジャージにブルマー姿。
私たちが仮縫いなんかで学校を訪れるこれらのOGに「ねえねえ体操着
はもっとカラフルなのにしてよ。今どきブルマーなんてださいの穿いて
るのうちぐらいよ」っておねだりしてもこれだけは頑として聞き入れて
くれなかったのです。
 そこで、私たちは思い切って先生に嘆願書を出したのです。「ブルマー
をショートパンツに替えてください」ってね……
 ところが、嘆願書を見せると……
 「これは何!ショートパンツですって!まだ嘴の黄色いひよこのくせ
して何言ってるの。ブルマースは我が校の伝統あるユニホームなのよ。
それに何よりあなたたちのお父様方がお気に入りのスポーツウェアなの。
あなた方が自分たちのご都合で変えることのできるものではないの」
 なんて頭ごなしに園長先生に言われたものだから……
 「だって、あんなの時代遅れでかっこ悪いし……」
 「誰も穿きはたくないって……」
 「そう、オムツ穿いてるみたいでいやなんです」
 「あんなの時代錯誤ですよ」
 「そう、私、こんな姿じゃ恥ずかしくて……」
 なんて、口々に言ったら……
 「恥ずかしい?……お黙りなさい!生意気言うんじゃありませんよ。
あなたたち、いったい誰のおかげでこうやって暮らしていけると思って
るの。お父様に愛していただけてるからでしょう。そのお父様がブルマ
ー姿のあなたたちの運動する姿を見たいとおっしゃっるならそうすれば
いいだけのことじゃありませんか。あなたたちのお姉さまたちもこの姿
で体育をやってきたのよ。どうしてあなたたちだけが恥ずかしいの?」
 私たちはそれを言われると弱いのです。
 でも、何事によらず流行のファッションに身を包みたいと思うのは女
の性(さが)みたいなものですから……
 「だったら、お父様たち全員の承諾をいただいたら許可してください
ますか?」
 私がだめもとで粘ってみたら、あっさり……
 「いいですよ。ここにあなた方のお父様からの承諾書を持ってきたら
あなたたちの望みが叶うようにしてあげましょう」
 園長先生は自信たっぷりにこうおっしゃったのです。
 で、私たちは、一瞬顔を見合わせ、飛び上がって喜びます。
 誰の心の中も『私のお父様は私のことを他の子より可愛がってるんだ
から承諾書なんてチョロイものよ』という思いがあったのです。
 ところが……
 「えっ!どうしてだめなの?ねえ、お父様は時代の流れに逆らうの?
一生のお願い。ねえ~~承諾書にサインして……してくれたら、何でも
言うこときくから……」
 私がどんなに猫なで声で甘えて頼んでも……
 「困ったねえ、私はお前のブルマー姿が見たいんだよ。それはいけな
いことなのかい?」
 お父様は膝に乗せた私の頭を撫でながら11歳の少女の色仕掛け(?)
には反応しませんでした。
 「(えっ、いい子にしてたら何でもしてあげるよって言ったのに………
私のこんな簡単な望みを叶えてくれないの?)」
 お父様は私を特別に愛してくれていたと思っていたのに、それがそう
でもないとわかって正直ショックでした。
 おまけに遠くで二人の会話を聞いていたママまでもが……
 「何言ってるの。体操着は学校で決まってるものでしょう。そんなの
簡単に変更できるわけないじゃない」
 だめを押してきます。
 ただ、お父様はこうもおっしゃったのでした。
 「お前がどうしてもブルマーを穿きたくないなら、他のお父様の承諾
も取らないとね。これは私の一存で決められる事じゃないから……もし、
他のお父様たちの多くがそれに賛成だとおっしゃるなら私はそれに反対
するつもりはないよ」
 つまり、多数決には従うというわけです。でも、翌日学校に承諾書を
持ってこれたのは12名中たった2名でした。
 どの子も『我こそはお父様の一番の愛児』と思っていたみたいですが、
どうやら当てが外れたみたいでした。
 ま、ここでやめておけばみんな無事ですんだのですが、女の子という
のは時として意地になって無謀なことをやらかします。この時もそうで
した。
 既成事実を作ってしまおうというわけです。
 ワープロで打った承諾書の文言の下に、自分たちでお父様のサインを
真似て署名し、普段お父様たちが返却されたテストを確かに見ましたよ
という証につくハンコを勝手に持ち出して押してしまったのです。
 そう、思いついたのは承諾書の偽造でした。
 その偽造書類は結局11枚集まりました。ところが私だけはその印鑑
がどこにあるのかわかりません。そこでお父様にお友達が作った11枚
の承諾書を見せて……
 「ねえ、他のお父様はみんな承諾してくださったの。だから、お父様
も…いいでしょう」
 また、お膝の上でお色気作戦です。
 すると……
 「………………」
 お父様はしばらくの間かき集めたその承諾書をじっとご覧になってい
ましたが、そのうち…ふっと、笑顔になって……
 「仕方ないな……承諾書を書くとするか」
 とおっしゃったのです。そして、私をお膝からおろすと書斎へ……
 私は、当然、心の中でガッツポーズ。
 『渋々だって嫌々だって書いてくれればいいのよ』
 なんて生意気なことを思っていました。
 数分後、書斎から戻ったお父様の手には封書が一通握られています。
表書きには『承諾書』とありますから、当然これはブルマーを変更して
もよいというお墨付きに違いないと思うじゃないですか。ですから……
 「これは中を見ずに園長先生にお渡しするんだよ」
 と言われた時もさして疑いをもっていませんでした。
 『とにかくこれで準備は整った』
 そう思ったのです。
 私たち12名は2枚の承諾書と9枚の偽造承諾書、それに封を切って
いない承諾書1枚を携えて園長室に乗り込むとショートパンツへの変更
を迫ります。
 すると、最初いぶかしげにその書面を眺めていた園長先生も、やがて
昨夜のお父様と同じような笑顔になります。
 そして…最後に私が提出した封書を開封して中を確認すると、思いっ
きりほほの筋肉を緩めてお笑いになったのでした。
 「わかりました。でも、もう少しお待ちなさい。こちらにも準備とい
うものがありますから」
 そうおっしゃって私たちを一旦部屋から出されたのです。
 「やったやった、大成功」
 「さすが、茜。あったまいい~~」
 「ちょっちょっと頭を働かせばこんなものよ」
 私は友達の手前、一緒にはしゃいでいましたが、これは女の勘という
のでしょうか、お父様といい、今の園長先生といい、その笑顔にどうも
違和感を感じて仕方がありませんでした。
 そして、次の週末。
 私たち12人は園長先生に呼ばれます。それは他のお友だちにすれば
成功を確信する言葉でした。
 「これから、あなたたちには新しい体操着を朝比奈さんの処へ取りに
行ってもらいます。何分、最初のことで身体にフィットするかわかりま
せんからお姉様の処で試着させてもらいますからお行儀良くするのです
よ」
 園長先生にこんなことを言われて送り出されました。
 本来、篭の鳥の私たちはあまり亀山の外に出る機会がありません。で
すから他のお友だちは、マイクロバスに乗って山を下りることができる
というだけで大はしゃぎでした。
 ただ、私はというと園長先生に会う前に行われた健康診断の方が気に
なっていました。普段は外出許可の出る日に健康診断なんてしないから
です。
 『どうして健康診断なんかしたのかしら?…………まさか!?』
 でも、そのまさかだったのでした。
 バスは1時間ほどかけて朝比奈お姉様の別荘へとやってきます。
 ちなみにお姉様は『森のアリス』という子供服ブランドの社長さん。
私たちと同じ亀山出身で、主にローティーの子の制服や私服をデザイン
してもらっていました。
 そんな縁もあって、私たちが彼女の別荘を訪れるのも今回が初めてと
いうわけではありませんでした。私たちは過去にも新作発表会のモデル
として呼ばれたことが数回あって、そのたびに法外なギャランティーを
せしめていたのです。
 こんなことは他でも沢山あって亀山のOBやOGたちは私たち現役を
ことあるごとに呼んではお金を握らせてくれていました。それは、一旦
銀行に預けられ私たちが社会へ巣立つ時に渡されます。
 つまり亀山のOBやOGというのは単なる卒業生というだけではなく、
一種、現役世代の親代わりのようなところがあったのです。
 私たちが通された広い広い居間にはその親御さんたちがすでに三人も
ソファーに腰を下ろして待っておられたのでした。
 「あら、いらっしゃい」
 「元気にしてたあ」
 「この子たち五年生だっけ、最近の子は身体も大きいわね」
 このお三人さん、いずれもアパレル業界の方々で、樺山のお姉さまは
下着メーカーの『ホワイトスワン』朝比奈お姉さまは子供服メーカーの
『森のアリス』藤田お姉さまは『装美』というファション雑誌の編集長
をなさっています。
 もちろん一介の孤児にすぎない私たちから見ればみんな雲の上の存在
です。
 ちなみにここへ着てきた服や下着も元はといえばお姉さま方からいた
だいたもの。雑誌に取上げられた際にはちゃんとモデル料が自分の口座
に振り込まれていました。
 とはいえそこは子供のこと、親切されたからと言って三人にことさら
恩義を感じることもありませんでしたが、日頃から、ママや園長先生、
女王様からまでも日ごろから「くれぐれも粗相のないようにしなさい」
なんて言われていましたから、部屋に入って三人をいっぺんに見た時は
緊張してしまいました。
 「おかけなさい」
 どぎまぎする私たちに対して、朝比奈のお姉さまに言われましたが、
まずは床に膝まづいて両手を胸の前で合わせてご挨拶。亀山では室内で
大人の人たちにご挨拶する時は『乙女の祈り』と呼ばれるこのポーズを
とります。
 「本日はお招きにあずかり、ありがとうございます」
 12名の子が一斉にこれを始めましたから、大合唱になってしまいま
した。
 「はい、はい、わかったわ。いいからお座りなさい」
 朝比奈のお姉さまは、まず大きなソファーに子供たちを分散して座ら
せると、今度はおもむろに手を広げます。
 これは『私に抱きつきなさい』という大人側のサイン。こうされた時、
子供たちは何をさておいても飛び掛っていかなければなりません。逡巡
すれば無礼と思われますから、短い距離をもう条件反射で駆け寄ります。
 すると、12名もいる場所でのこと、他の子と朝比奈のお姉さまの目
の前でぶつかりそうになりました。
 結局、彩夏(さやか)ちゃんや春奈(はるな)ちゃんに譲ってもらい
私が最初にお姉さまに抱きつきます。
 「あなたはお名前は清美(きよみ)さんだったけ」
 「はい、そうです」
 「お父様は藤山様よね」
 「はい、そうです。お父様は藤山慶介です」
 「ママは?」
 「駒田春子先生です」
 私たちはこんな時、ママのことを先生と紹介します。家ではママです
が、それはあくまで内々での事。あくまで正式には家庭教師の駒田先生
なのですから。
 「そう、ママは春子先生なの。肌がつやつやしたなかなか美人の先生
よね。私のママはもうおばあちゃんだったからうらやましいわ」
 朝比奈のお姉さまは私を膝の上で抱き上げたまま私の頭を撫で背中を
さすり頬ずりをします。それは特別なことではなく大人たちが必ずやる
挨拶のようなもの。何しろ亀山では泣いても笑っても13歳までは全員
赤ちゃんという位置づけですから、挨拶も赤ちゃん並みというわけです。
 と、ここでお姉さまが、とある大きめの紙袋を取り出します。
 「これ、着て御覧なさい。あなたに似合うと思うわ」
 お姉さまがその中に手を入れて取り出したのは真新しい体操着。上着
はピンク、下はモスグリーンのパンツ。それは、私たちが待ちに待った
ユニホームだったのです。
 見ると、他の席でも樺山や藤田のお姉さまからも最初に抱かれた子が
おニューの体操着をいただいています。
 まさに『やったあ~~』という気分です。ですから、それをお姉さま
から「着て御覧なさい」と言われたときも何のためらいもありませんで
した。
 ここは女子だけの世界。さっさと服を脱いで下着になると、着替えを
済ませ、お姉さまの膝は次の子に譲って、空いたソファーの上で思いっ
きり跳ね回っていました。
 ええ、五年生なんて知恵があるように見えてもまだまだほんの子ども
なんです。ですから、このあと自分たちがいかに子供であるかを思いっ
きり知ることになるのでした。
 子供たちが全員新しい体操着に着替えたのを見届けると朝比奈のお姉
さまが大きな封筒を取り出します。そこから白い紙が現れて……
 「谷口茜ちゃん……これ、お返ししておくわ。とっても綺麗なサイン
だったのでびっくりしたわ」
 「守山秀子ちゃん……あなたのお父様は、たしか元の法務大臣よね。
そのお子さんがこんなことしちゃお父様だってお嘆きになるわよ」
 「駒田清美さん……」私の番です。恐る恐る側によると見えてきたの
は私たちが園長先生に提出した体操着変更の承諾書でした。それを提出
したそれぞれの子に返していたのでした。
 「これはあなたが考えたの?……」
 「……えっ、…いえ……」私は返事に困りました。
 「たいした知恵者ね。でも、今はまだこんなことをすべきじゃないわ。
今はまだ赤ちゃんなんだから……お義父様やお義母様、ママや園長先生、
女王様たちのお膝にの上で甘えてなきゃ……そういうのは嫌?もう飽き
ちゅゃった?」
 「…………」
 「でも、それがあなた方の今のお仕事よ。背伸びしても良い事は何も
ないわ」
 「…………」
 このサイン、あなたたちが自分で書いたんでしょう?」
 「……!!!」
 私はいきなり背中を鉈で割られたような強烈なショックを受けます。
このサインはみんなが何度も何度もそれぞれのお父様のサインを真似て
書いたものでしたが、何度も練習しましたから、いわば自信作だったの
です。
 亀山を知らない人たちには『所詮小学生が大人のサインを真似ること
なんてできるはずがない』とお思いかもしれませんが、私たちは幼い頃
から一日何時間もペン習字をお稽古させられて育ちましたから、自分で
言うのも何ですが同年代の小学生と比べればかなり綺麗な字を書きます。
 お父様のサインを真似ることだって、それほど難しくないと踏んだの
ですが……
 「あまりにも綺麗な字だから、承諾書を見た時はあなたのはお父様も
園長先生も、一瞬、目を見張ったようよ。でも、筆圧も線の勢いが弱い
から、すぐに誰かが真似て書いたものだってわかったの」
 「………(そうか、それで二人ともあの時笑ったのね。もう、あの時
ばれてたんだ)」
 私は立ち尽くしたまま臍を噛みます。
 「それで、園長先生から『こういうものは受け取れませんから子供達
に返してください』って言付かったの。……それと、もう一つ。あなた
のお父様と駒田先生からは、それぞれお手紙をいただいたの。それが、
これよ」
 朝比奈お姉さまはそうい言って二通の封書を私に手渡します。それは
間違いなくお父様とママの筆跡でした。
 「(承諾書!!)」
 そこには奇しくも私が提出したのと同じ文字が書かれていました。
 「いいから、中を読んでごらんなさい」
 そう言われて中を見ると……
 『承諾書、朝比奈孝子様へ。親として娘(清美)には厳しいお仕置き
が必要だと信じております。いかなるお仕置きにも同意いたしますので、
どんなに泣き喚こうが決して手を緩めないでください。もし、反抗的な
態度でお困りの時はご連絡ください。こちらでさらに厳しい折檻をして
ご報告いたします。お手数かけて申し訳ありませんが、よろしくお願い
いたします。……清美への追伸。清美、歯を食いしばってしっかり耐え
なさい。そこであまり見苦しいようなまねをするようならお家でママに
改めて折檻をしてもらいます』

§2

§2
 お父様のお手紙は私をこの世から煉獄の世界へと連れ去るものだった
のです。
 「(いやよ、わかったんなら、あの時叱らないのよ!注意してくれれば
いいじゃないの!!)」
 私は心の中で叫びましたが、こうなってはもうどうにもならないこと
だったのです。
 承諾書はもう一通ありました。こちらはママから朝比奈のお姉さまに
宛てられたもの。もちろん中身は、私に関するお仕置き承諾書でした。
 『承諾書、朝比奈孝子様へ。思う存分のお仕置きお願いいたします。
本来なら私がそちらへ伺って折檻しなければならないのですが、こちら
で手の離せない用を園長先生より言い付かっております。なにとぞこち
らの事情をお察しの上よろしくお願いします。なお、清美は我慢強い子
ですらスパンキングは平手60回とトォーズ30回位は楽に耐えます。
お浣腸もイチヂク30㏄程度なら30分は我慢しますので、くれぐれも
泣き喚きに惑わされることなく厳しくお願いします』
 「(何よ!そんなにもつわけないでしょう!私が、いつそんなに厳しい
お仕置き受けたのよ!いい加減なこと言わないでよ!)」
 私は声にこそ出しませんでしたが心の中はすでに半狂乱だったのです。
 この手紙にもお父様と同様に私への追伸が書かれていました。
 『清美へ追伸……あなたも身体が大きくなり心も強くなってきました
からそろそろ私の腕の中でのお仕置きでは退屈なようですね。……』
 「(そんなことないよ!)」
 『……そこで、今回は亀山の人たち以外からお仕置きを受けてもらう
ことにしました。朝比奈様の場合はうちのOGですからあなたの立場や
亀山の仕組みなどもよくご存知のはずです。完全に他人とはいえません
ので、あなたが最初にお尻を叩いて頂く方としては適任なのではないで
しょうか。……』
 「(勝手なこと言わないでよ!ママでいいよ!ママのお膝に乗るから)」
『……なお、私は今回忙しくてそちらへは行けませんが、代わりに、
園長先生と女王様があなたたちのお仕置きを見守ってくださいます。…』
 「えっ!」
 私は思わず手紙から顔を上げます。すると、その視線の先に見慣れた
お二人の姿があるではありませんか。
 「(いつの間に)」
 お二人はいつの間に開いたか覚えていないカーテンの奥でオムツを畳
んだり、ガラス製のピストン浣腸器を確認されたりしていました。
 「(何よ!何よ!何なのよ!)」
 私は残り少ない手紙の最後を読みます。ひよっとして『冗談ですよ』
なんて書いてないかと思ったのです。
 『甘い』ですか?
 でも、その時は本当にそんな気分だったのです。『藁にもすがる』って
いうか、そんな気持ちでした。
 『……あなたにとってこれは初体験です。でも、何度も言ってるよう
に「女の子は愛される人の中で恥をかかないと強くなれません」今回は
あなたとも顔なじみですし信用できるうちのOGということでこちらの
三人にお願いしました。お姉さま方のお手を煩わせることなくしっかり
恥をかいてらっしゃい』
 「(何よ、何よ、人の気も知らないで、勝手なことばかり言わないでよ)」
 もちろん動揺しているのは私だけじゃありません。周囲に気を配れば
すでに涙目の子もいます。すでに私同様全ての子に今回の件が告げられ
ていたからでした。
 「さあ、みなさん。事情は分かりましたね。辛いでしょうけど亀山で
暮らす子にとっては避けて通れない事ですからね。10人のお子たちは
気持をしっかり持ちましょう。あっ、それから香澄ちゃんと朝香ちゃん。
あなた方は今回の偽造には直接関わらなかったけど他の子が悪いことを
するのをただ見てたわけですからね、今回も見学とお手伝いはきっちり
やっていただきますよ」
 朝比奈のお姉様はまるで私たちの先生のような口調でおっしゃいます。
これはやがて私たちもそうなるのですが、亀山では上級生になると先生
のように下級生の面倒をみさせられます。そこでは一定の約束事のもと
で下級生にお仕置きする権利も認められていました。それは高校へ行く
ともっとはっきりします。お姉様たちは亀山の卒業生ですからそうした
ことも心得ておられるみたいでした。
 「さあ、それでは、まず最初は発声練習からしましょうか。みなさん、
お父様の写真の下に行って下さいね。そこで乙女の祈りを捧げますよ。
いいですか」
 朝比奈お姉さまは奥の壁に掲げられたお父様方の写真を見ながら私達
に指示なさいます。
 「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」
 もしこれが、お母様やママが言ったのなら、一目散ということになる
のですが、顔見知りとはいえ洋服屋さんのおばさんが号令したのでは、
みんなお互いの顔色を窺うだけでそう機敏には行動できませんでした。
 しかたなく園長先生が動きます。
 「さあ、さあ、あなたたちにお姉さまの号令を拒否する自由はありま
せんよ」
 先生はいきなり私の前で膝間づくと、いきなり私の穿いてたショート
パンツをそのショーツごと引き下ろします。
 そして……
 「ピシャ」
 私のお尻はまるで楽器のようないい音で鳴ったのです。
 こうなると、嫌も応もありませんでした。一人の子が部屋の奥に飾っ
てあるお父様の写真の前へ向かうと、他の子も釣られるようにして動き
出します。
 結局、私だけが取り残されたような形になりました。
 すると、園長先生はおもむろに私のショートパンツを元に戻して背中
を一つ叩きます。
 もう、行かないわけにはいきませんでした。
 「お父様ごめんなさい。清美はお父様の名前を騙って悪いことをしま
した。どんなお仕置きでも受けますから、終わったら今までと同じ様に
可愛がってください」
 この文言は目の前の壁に貼り付けてあります。要するにカンペです。
ただ、五年生くらいになると懺悔の言葉も自分で考えなければならない
のです。膝まづく姿勢で、お仕置き担当の先生からは何度も何度もダメ
だしされますから、最初に懺悔の言葉が整うころには幾筋もの涙で頬が
濡れているものなのです。
 ですが、それだけは許してもらったみたいでした。
 ただ、これは一回じゃ収まりません。
 「声が小さいわよ。そんな小さな声じゃ、お父様にも神様にも聞こえ
ないわ。さあ、もう一回」
 「もっとゆっくりはっきり言いなさい。何言ってるかわからないでし
ょう。さあ、もう一回」
 「泣きながら言ってもだめよ。お鼻ぐじゅぐじゅさせて言うことじゃ
ないの。はい、もう一回言って」
 「あら、痰が絡んじゃったの?ほら、これに出して……」さっそく、
口元にティシュがあてがわれますが、そこにペッてやると……
 「はい、すきっきりした?じゃあ、もう一回」
 とにかく何かと難癖をつけられて、結局10回以上は懺悔させられる
のが普通でした。
 この時は懺悔の言葉が最初から決まっていましたからその分厳しくて、
20回も同じ言葉を繰り返し繰り返し写真のお父様とそれより一段高い
処に祀ってあるマリア様に向かって語りかけるはめになったのでした。
 「はい、いいでしょう。こんなに大きくてはっきりした声ならお父様
の耳にもマリア様の耳にも届いたことでしょう……」
 「(そんなわけないじゃない)」
 思わず私の心に悪心が走ります。こんなの慣用句なんですから聞き流
せばよいのですが、私はそれができなくて、一度、心の声をお外に漏ら
してしまい、下半身全裸のお臍の下をトォーズで『ピシッ』とやられた
ことがありました。以来心の声はお外に漏らしていませんがいつも胸の
あたりまで上がってくるのでやっかいです。
 「さあ、では、こちらを向いてください」
 朝比奈お姉さまの涼やかな声がかえって不気味に感じられます。
 言われたとおり後ろを向き直ると、そこにはこちらの予想通りお浣腸
の準備が整っていました。
 グリセリンを入れた焦げ茶色の薬ビンとガラス製のピストン式浣腸器。
山のように積まれたオムツやタオル。床には白いシーツが敷き詰められ、
そこに薄い敷布団が乗っています。黄色いゴムのチューブが見えるのは
ガラス製の浣腸器を直接お尻に刺すと、万が一暴れてガラスが割れ子供
に怪我をさせてはいけないというお姉様方なりの配慮だったのでしょう。
 実際、家や学校でのお仕置きの際は、直接、ガラスの尖った先がお尻
の穴に突き刺さるのが普通でした。
 「!!!!」
 いえ、それよりもっと重要なものが目に入ります。
 カテーテルや膿盆と呼ばれる金属製の皿、それに局所麻酔用の注射器
までもが見えます。これは導尿とよばれて強制的におしっこを採るため
のもので、お浣腸のお仕置きをやるからと言って必ず行われるものでは
ありませんでした。
 「ねえ、お灸もすえられるの?」
 寂しがり屋の真理江が私の耳元で囁きます。
 「嘘よ、だっておばば様が来てないじゃない」
 そうなのです。お灸と導尿はよく一緒でした。お灸の熱さに耐えかね
て、一度お浣腸したにもかかわらず残っていたおしっこがまた漏れ出す
なんてことがありますから、徹底的に膀胱からおしっこを抜こうとして
これが行われることが多かったからでした。
 ただ今日はお灸のお仕置きには欠かせないおばば様の姿が見えません
から、それはないんじゃないかと思ったのです。
 「二人とも、お仕置き中は私語は厳禁よ」
 私達は背中の声に震え上がります。それは女王様の声でした。彼女は
文字通り亀山では絶対君主。お父様ですらその決定には逆らえないくら
いですから、年端も行かない小娘からみれば雲の上の存在だったのです。
 「はい、ごめんなさい」
 「はい、ごめんなさい」
 二人はそれしか言えませんでした。
 子供達全員が正座したのを確認すると朝比奈お姉さまが口を開きます。
 「では、次は汚れた身体の中を洗いましょう」
 お姉さまはそう言って視線を泳がせると私と目を合わせます。
 「清美さん、いらっしゃい」
 「えっ!(どうして私が最初なのよ)」
 私はショックでしたが、行かないわけにはいきません。
 そうなんです。どうやら大人たちの間では、今回の許されざる犯行を
指揮したのは『私』ということになってるみたいでした。
 「さあ、お洋服、脱ぎましょうね」
 朝比奈お姉さまの前に立つとお姉さまは微笑んで一言。でも次の瞬間、
 「万歳して……」
 樺山、藤田の二人のお姉さまが前後から挟みつけるように、前からは
若い樺山お姉さまがシャツを、少しお年を召した藤田お姉さまは後ろか
らパンツを、一気に剥ぎ取ります。
 「…………」
 まるで追いはぎです。短ソックスを除き全裸にされた私は、あまりの
早業に胸を隠すのさえ忘れてしばし薄い布団の上に立っていました。
 「さあ、ここへ仰向けになるのよ」
 お姉さまにそう言われて慌ててしゃがみますが後の祭りでした。
 「やり方は学校でやっているのと同じ。お薬が全部身体に入ったら、
裸のまま私に抱きつくの。10分たったら可愛いオムツを当ててあげる
から、その後はそこに出してしまっていいわよ」
 「…………(そこに、って?)……」
 私は自分の両足の裏が天井を向いているのに気づきます。
 もう、私の見せたくないものがお友達に丸見えになっているのがわか
ります。でも、それは仕方がないことでした。でも、『そこに出していい』
というのには引っ掛かります。
 「あら、そのお顔は、何か心配そうね」お姉さまはそう言うと、私の
ほっぺをちょんちょんと突いて……
 「あら、ひょっとして、おまるなんか期待してるのかしら?」
 「……(おまるというより、おトイレは行けませんか?)……」
 そんな私の顔に不気味な笑顔が逆さになって大きくしかかります。
 「だめよ。これだけのことしたんですもの。今日は……」
 「………あっ!」
 油断していたらいきなり硬質ゴムの先がお尻に突き刺さります。
 「……オムツの中にするの」取り込み中のさなかお姉様の声が遠くに
聞こえます。
 「……(いや、気持ち悪い)」
 言葉は出さず、首を振るだけて自分の気持ちを外へ伝えます。
 実際、これから先はどうすることもできませんでした。
 50ccのあの嫌な気持ちをお臍の下に受け入れるとあとはゴムの管が
抜かれて言われた通り朝比奈のお姉さまに抱きつきます。
 「……(ひぃ!)」
 最初の便意がもう抱きつく前から起こりました。
 「さあ、私のブラウスをしっかり握りしめて我慢するのよ。あなたの
したことはね、大人の世界ならおうちから追放されても文句の言えない
ようなことなのよ。しっかり我慢して、悪い物をぜ~んオムツに出して、
しっかりお友達にそれを見てもらいましょう」
 「そんなあ、おトイレは?」
 「そんなもの必要ないわ。あなたの仕事はたくさんウンチがでたら、
それをお友達に見てもらうことですもの」
 「…………」
 「そんなに困った顔しなくてもいいでしょう。どの道、お友達だって
あとで同じことするのよ」
 私の思い切り閉めた肛門の筋肉がほんのちょっぴりですが緩みます。
 「(そうだ。今日は私だけじゃない)」
 これが唯一の救いでした。
 とはいえ、これはどこで何度やってもやっぱり地獄のお仕置きだった
のです。
 強烈な下痢が短い周期で定期的に私のお尻を苛みます。
 「……あっ、いや、だめ、だめ、うっっっおう、いや、いや……」
 こんな訳の分からないつぶやきを漏らしながら、顔は一面脂汗。両手
両足にはびっしり鳥肌が立って毛穴が開いています。しかも全裸で……
 しかし、もう後先のことを考える余裕なんてありませんでした。今は
ただ正座したお姉様という大木に蝉のように抱きついて自分のプライド
を守るのが精一杯なのです。
 おかげで悲しいとか恥ずかしいという感情すら湧きませんでした。
 「さあ、もういいわ。オムツを当ててあげるからそれまでは我慢する
のよ」
 そう言ってお膝を下ろされます。
 10分なんて遊んでいたらあっという間ですがこんなことの10分は
1時間にも2時間にも感じられてお膝を降りた時は精根尽き果てていま
した。
 ですから、あらがう元気もなく私のお股にはオムツがはめられていき
ます。もちろん、お友だちは私のひくひくと動く汚い部分を目の当たり
にしているはずですが、それを気にする気力さえありませんでした。
 「さあ、もういいわよ。ウンチ出してごらんなさい」
 こんな事をお姉様が耳元で囁きます。でもねえ……
 「いやよ、そんなの。おトイレでやりたい。おトイレに連れてって」
 無理は承知で訴えますが……
 「だめよ、さっき言ったでしょう。今日はお仕置きだもの。おトイレ
でなんかできないわ。みんなの前で恥をかかなければお仕置きにならな
いでしょう」
 「いやあ、絶対にいやあ」
 私はさらにごねます。もちろんそれはむなしい抵抗なんです。でも、
何かやっていなければもう本当にこの場で全てをぶちまけてしまいそう
だったのです。事態はそれほど切迫していたのでした。
 「大丈夫よ。いいからここでやっておしまいなさい。後は、私たちが
あなたの身体を綺麗にしてあげるわ」
 ええ、結局はそういうことになるはずです。あらがっても仕方のない
ことは分かっていました。でも、こんな言葉はやはり悪魔の言葉として
しか聞くことができません。ですから私はお姉様に目をむいて抵抗する
のです。
 「あらあら、怖い顔して、お父様にもそんなお顔することがあるの?
だめよ、お父様にだけはそんな顔をみせちゃいけないわ。女の子はお顔
が命。少しぐらい辛いことがあっても人を怖がらせるようなお顔をして
はいけないわ」
 「(何、勝手なこと言ってるのよ!)」
 「今のあなたはお父様からの愛があるから楽しく元気に暮らしていけ
るのよ。そのお父様が望まないことをあなたはしてはいけないの。お顔
も、ブルマーもよ」
 お姉様が明るく諭します。でも、その時でした。再び大きな波がお臍
の中で暴れます。
 「あっ、だめえ!」
 また、必死に肛門を閉めました。でも……
 「朝比奈さん、貸して御覧なさい」
 園長先生が半ば強引に私を奪い取ります。そして、お姉さま同様正座
した上私を乗せると下腹を擦り始めます。
 「あ、いや、そんなことしないで!」
 左手一本で私の身体を支える園長先生に普通なら上げない声を上げて
抵抗しましたが、園長先生の右手はお臍の下をさらに下りていきます。
 そして、オムツをすり抜けると……
 「あっっっっ…いやぁぁぁぁぁぁ…出る~~~~~~~」
 クリトリスも尿道口も今まさに蹂躙されて……
 そりゃあ、女性同士ではありますが……
 「(こんなこと、イヤぁぁぁぁぁ)」
 先生の指先に擦れてクリトリスが痛いというのは覚えていますがそれ
以降の記憶に感情はありませんでした。もうこれ以上辛い記憶を残した
ら立ち直れない。頭の中がそう判断したのかもしれません。
 大きなおならをいくつもしながら大量のウンチが鉄砲水のように数回
にわたって出てきました。
 そして、それが一段落すると、園長先生に両方の太ももを抱えられて
おまるへ。ちょうどよちよち歩きの赤ちゃんがウンチをする時のような
あんな姿勢で……みんなが見ている前で……
 「さあ、もうちょっと出ないかしら?お腹に残っていたら出した方が
いいわよ。少しでも残ってるとパンツに着替えた時、気がつかないうち
に漏れちゃったりするから……」
 園長先生の言葉に私は激しく首を振ります。お腹に少し残っているの
はわかっていましたが、ここであらためてあんな汚いものを出すなんて
とってもできないと思ったのです。
 でも、それは園長先生だけでなく女王様もご承知だったみたいで……
 「(えっ!うそ!)」
 私の前に現れたのは女王様でした。そして、あろうことかその手で私
の下腹を擦(さす)ったのです。
 「何?驚いちゃって?私も女性ですからね、赤ちゃんのお下のお世話
ぐらいするのよ。あなただってそのうちやらなきゃならなくなるわ」
 そして、切ない感情が、指の先、顎の先、乳首の先から子宮の方へと
痺れを伴って伝わります。それはこれまでにほとんど感じたことのない
感情でした。純粋な性欲ではありませんがその萌芽なのかもしれません。
 ただ、少なくとも麻酔薬の役割は果たしていたようで私は再びウンチ
とおしっこを中腰の園長先生のお膝の上からおまる目がけてしてしまっ
たのでした。
 「……!」
 と、その時です。見学していた誰かがくすっと笑ったのがきっかけで
私の感受性が復活します。
 「ああ、だめ」
 私は身体を揺すって園長先生のお膝を降りようとします。
 もう、1秒でも0.1秒でも耐えられませんでした。
 その事は経験豊富なお二人にはお分かりだったようですが、さりとて
すぐに恥かき終了とはなりませんでした。
 「はいはい、わかったわ。でも、もうすぐだから我慢なさい」
 こう言われて、あらためて薄い布団の上に立たされると蒸しタオルで
お股の中を清められ、今度は寝かされてまたあのオムツ換えのポーズ。
ベビーパウダーをこれでもかというほどはたかれると、ここでやっと、
まともなショーツを穿かせてもらえるのでした。
 その後、ショートパンツやスリーマー、ジャージなんかを着せられて
再び体操着姿に戻してもらって私のお浣腸のお仕置きは終了しましたが、
お友達の列に戻っても他人(ひと)と口を利く気がしません。隣の子の
腕がほんのちょっと触れただけでも飛び上がりそうなほどの嫌悪感が走
ります。
 「(もうこのまま死んでしまいたい)」
 本当にそんな惨めな気持ちでした。ですから、体育座りで眺める次の
お友達も私と同じような目にあっているのですが……
 「…………」
 何の感情も沸きませんでした。普段の私なら、神妙な顔はしていても
心の中では拍手喝采で見ているはずなのに、歓喜する光景も、ほとんど
ぼんやり眺めるだけだったのです。
 そうそう、大事なことを忘れていました。実はお友達の列に戻った時、
私は女王様に勧められるまま正座した膝を椅子代わりに座っていました。
女王様は亀山の絶対君主ですから大人なら恐縮するところでしょうが、
そこは子供のこと、頭を撫でられ、両手の指を揉んでもらっても、当然
という顔をしていました。

§3

§3
 でも、その次の茜ちゃんの時でした。
 茜ちゃんは普段は私同様活発というか、お転婆な少女でした。ですが、
そんな子ほどこんな事には弱いものなのです。
 彼女はオムツに用を済ませ、私と同じように園長先生に抱えられて、
おまるのある場所へと移動させられようとしていましたが、どこか疳の
虫に触ったのでしょう。
 突然、激しく暴れて園長先生の両手から降りてしまいます。
 でも、その際……
 「うわっ!」
 自分がさっきやってしまったオムツの上に右足を下ろしてしまったの
です。
 「わあ、……あ~~あ、ばっちい子ね」
 大人たちが大慌てするなか、茜ちゃんは泰然自若として立ち尽くして
います。きっと、あまりの事に頭の回線が切れてしまったのかもしれま
せん。ぬちゃぬちゃウンチが白いソックスにべっちゃり着いてしまいま
した。
 「ピシャ!」
 園長先生の平手が茜ちゃんの可愛いお尻にヒットして乾いた音が部屋
中に響きます。
 「おとなしくしてないからでしょうが…」
 園長先生の叱責に茜ちゃんは無言のままでいましたが、心には響いた
みたいでした。
 すっかり正気に戻った茜ちゃんでしたが、大人たちはこの子にはこれ
では足りないと感じたのでしょう。再びオマルに跨り用を済ませたあと、
お股を綺麗に拭き上げてから薄いお布団に仰向けに寝かせます。
 「…………」
 茜ちゃんは言葉を発しませんでしたが、周りの雰囲気から、これから
自分が何をされるかわかっていたことでしょう。その無念さは私達の処
までも伝わってきます。
 「お注射するけど、動かないでね」
 茜ちゃんはお股をこれでもかというほど広げさせられて尿道口近くに
細身のお注射を受けます。
 お注射は局所麻酔のキシロカイン。今はゼリーで塗り薬ですが当時は
注射でした。
 「暴れたら大変な事になりますからね。わかってますね」
 なんて散々脅されたあげく震えながら大また開きを続けるのです。
 その目的は導尿でした。
 とたんに周囲の女の子たちが微妙にお股を閉じ腰をもじもじさせ始め
ます。もちろん今行われていることは茜ちゃんだけの問題、自分達には
関係のないことはわかっていますが、女の子たちにとっての『導尿』は、
その言葉を聞くだけで身の毛がよだつお仕置きであり、また胸の奥から
エロティクな気持ちを呼び覚ましてくれる魔法の言葉でもあったのです。
 女の子は赤ちゃんが出てくる場所とおしっこが出てくる場所がとても
近くにありますから、ウンチ以上におしっこをしている姿を見られる方
が恥ずかしいのです。
 しかも導尿はおしっこの穴からカテーテルと呼ばれる管を差し込まれ
て強制的におしっこさせられるわけで、先生しか見てない処でやられて
も消え入りたいほど恥ずかしいのに、それをお友達の前でやるわけです
からこんな屈辱的なお仕置きはありません。
 自分のおしっこが膿盆にたれていくのをぼんやり眺めている茜ちゃん
の心が尋常だったはずがありません。でも……
 「もしここで暴れたら、次は……)」
 茜ちゃんはそう思った事でしょう。そしてその先は、それは想像する
だに恐ろしい事だったのです。
 そんな茜ちゃんの様子を見ていて私の心は落ち着きを取り戻していき
ます。
 殿方には理解しにくいことかもしれませんが、女の子というのは自分
が人より恵まれていると感じる時より、自分より不幸な人がいると感じ
る時の方が安心できる生き物なのです。
 ですから、男性に「よくこんな悲惨な映像を正視できるなあ」なんて
感心されてしまいますが、女の子ならそれは当たり前のこと。だって、
私の方が『幸せ』で勝ってるんですから……
 そう、女の子は自分勝手で本当はとっても残忍な生き物なんです。
 それはともかく、茜ちゃんのおかげで私は息を吹き返します。
 「(私より不幸な子がいる)」
 そう思うことができたのです。
 あとはいつも同じでした。顔だけはちゃんと深刻そうに装っています
が、心の中はまるでバラエティー番組でも見ているかのようにお友達の
痴態をはしゃいで楽しんでいます。
 そこは子供ですから、すぐに落ち込みますが大人のようにネガティブ
に考え込むなんてこともありませんでした。
 「あら、今度は楽しいみたいね……」
 私は耳元でささやく女王様のために首を横に振りますがそこは女同士。
微妙な変化も見逃しませんでした。
 「いいのよ、それで…赤ちゃんは正直な方が良いわ。でもこれだけは
忘れてはだめよ。こんなお仕置きの最中に笑顔でいられるのも、あなた
たちには帰る家があるから、飛び込むベッドがあるから、安らげる大人
の胸があるからなのよ」
 彼女は続けます。
 「本来、孤児にはないこれらの物をお父様方が用意してくださったの。
だから間違ったことには一般家庭ににも負けないちゃんとしたお仕置き
ができて、社会に出ても立派な働きができて、それが亀山に還流して、
ここが孤児の楽園になったというわけ。あなたたちは分不相応なほどに
幸せ者なのよ」
 女王様のお話は亀山ではたいてい『このくそばばあ!お前、だいたい
説教が長いんだよ!』なんてお腹の中で思いながら聞いていましたが、
大人になると、その言葉の意味がわかります。
 赤の他人同士の社会では血の繋がりのある人たちのように『親だから
こんな事は当然してくれるだろう』という暗黙の了解事項のようなもの
がありません。ですから、これでもかというほど沢山のスキンシップが
常に必要になるわけです。『13の歳まで赤ちゃん』という人間関係も、
そういう関係でなければ子供の側が大人たちからの愛を素直に受け入れ
ないから、そうしているのです。
 お仕置きはそんな愛の一部として、大人たちがやる年中行事のような
ものですから、一見するとものすごく理不尽で厳しい事をしているよう
に見えるかもしれませんが、実際には『そのために心に深手を負った』
なんて子はいないと思いますよ。
 私だって、そりゃあお転婆でしたからね、厳しいお仕置きを山と受け
て山を降りましたが、だからと言って『あの時代が不幸だった』なんて
思った事は今まで一度もありませんでした。
 むしろその逆で、あの時代が一番楽しかったように思います。
 ま、そこにいた頃は、不満たらたらでしたけど……(⌒-⌒;)
 それはともかく、子供たちの列にはお浣腸を終えた子が次々と帰って
きて、それを女王様や樺山、藤田のお姉さまたちが慰めます。
 慰めるといっても膝に乗せて髪を撫でてお手々を揉み揉みする程度の
ことなんですが、これも亀山の習慣で子供達は何かお仕置きされた後は
必ず大人たちのよちよち抱っこを受けなければなりませんでした。
 中には「ほっといてよ!」と言いたい時だってありますがそれを拒否
するとお仕置きが増えますから大人たちの愛玩をおとなしく受けるしか
ありませんでした。つきりこれもまたお仕置きの一部だったのです。
 こう言うと、『嫌なことされてたのか?』と思う人もいるかもしれませ
んね。女の子はたまに虫の居所が悪い時があるというだけで普段はそん
な事ありませんよ。そりゃあぶたれてる時よりこちらの方がぐんといい
ですから。
 私なんて甘えん坊でしたからね「ほら、もう離れなさい」なんて言わ
れるまで大人たちの身体にセミみたいにくっついていました。 (⌒-⌒;)
 こうして、お浣腸のお仕置きが終わると、次はいよいよお尻たたきの
お仕置きが始まります。
 ところが、ここでなぜかお浣腸を受けなかった彩夏(さやか)ちゃん
や春奈(はるな)ちゃんが先にお仕置きを受けることに……
 その罪はお友達と一緒にいたのにその悪事を止めなかったから。
 二人とも園長先生のお膝にうつ伏せになり裸のお尻を平手で叩かれま
す。だいたい20回位でしょうか。終わり頃には手足がばたつき途切れ
途切れに悲鳴が漏れるという程度。世間の常識は知りませんが亀山では
軽い部類の罰です。
 そもそも最初からその程度で済ますつもりだったから二人にはお浣腸
をかけなかったのでした。
 ということは、私達はそれではすまない。そのことは他の子全員がわ
かっていたことだったのです。
 「さあ、おちびさんたち。これからがいよいよ本番ですよ」
 朝比奈お姉さまの笑みに全員の顔がこわばります。
 「大丈夫、試練は必ず乗り越えられるわ」
 近くにいた藤田お姉さまが私の手をとって励まして下さったのですが、
当時の私にすればそれは皮肉以外の何ものでもありませんでした。
 「清美さん、しらっしゃい」
 園長先生のご指名です。
 「はい」
 私は小さくご返事をして立ち上がります。視界の隅に陽光に包まれた
お庭が開け放たれたステンドグラスの扉の向こうに見えます。私は一瞬
そこへ駆け出したい衝動に駆られましたが……
 「どうしたの?」
 園長先生の声が再びします。
 もう、行かないわけにはいきませんでした。
 私は椅子に座った園長先生の足元で膝まづくと胸の前で手を組んで…
 「今回はお父様のサインを偽造してしまいました。どうかよい子に戻
れるようにお仕置きをお願いします」
 そう懺悔すると、園長先生はまず私を膝の上に抱き上げます。さっき
女王様や藤田のお姉さまとやっていたようにその膝の上に馬乗りになり
大きなお胸の中に顔をうずめて抱きつくのです。
 「いい子ね、ちゃんと懺悔ができたのね。亀山の子はこうでなければ
ならないわ。だってこれからもあなたはお父様の天使様として暮らすん
でしょう」
 「はい、先生」
 私はすでに体中が震えていました。園長先生はその身体をやさしく抱
きしめ頭をなでつけながら私の頭をご自分の胸の谷間へとさらに押し付
けます。
 「わかったわ。それでは辛いお努めだけど受けなきゃならないわね。
大丈夫、歯を食いしばって頑張ればすぐに終わるわ。そうすればあなた
はこれからもずっとずっとママやお父様から誰よりも大きな愛を受けら
れるはずよ」
 「本当に?」
 「もちろん、あなたのママやお父様は誰よりもあなたのことを心配な
さってるわ」
 「…………」園長先生はそう言って私の顔を覗き込みます。
 「子供は大人より沢山の悪さをするから大人より沢山お仕置きされる
けど、それが終われば、みんなもとの天使様。以前の綺麗な心のまま、
誰からも愛されるわ」
 「愛されるって大事?」
 「大事よ。特に女の子はどのくらい愛されているかでどのくらい幸せ
かがわかるの。どんなにお金を稼いでいても、愛されない人は幸せには
なれないわ」
 「…………」
 「さあ、では始めましょうか」
 園長先生はそう言うと私を膝の上でうつ伏せにして寝かせます。
 頭が少し下がってお尻がちょんと上がって、デニムのショートパンツ
がみんなの視線に晒されて自己主張しているはずです。
 そんなパンツを……
 「パン」「パン」「パン」「パン」「パン」「パン」
 園長先生は小気味よく叩きます。大きな音はしますが、厚い生地の上
からですからそれほど痛くはありません。
 次はモスグリーンのショートパンツが引き下ろされ白い綿のショーツ
が顔を出します。
 「パン」「パン」「パン」「パン」「パン」「パン」
 これも続けざまに6回ほど平手で叩かれましたが、足をちょっとばた
つかせただけで乗り切りました。
 でも、さすがにそりショーツまで取られて丸いお尻が現れると平常心
というわけにはいきません。
 「パン」
 たった一撃でそれまで跳ね上げなかった処まで足首が上がります。
「パン」
 思わず身体が硬くなります。両手両足は使えませんがそれ以外の部分
で園長先生のお膝を挟みつけようとします。
 「パン」
 「ぁぁ」
 小さな吐息と同時に握りこぶしを固めていました。
 「パン」
「いっ……」
 腰が小さくはねます。
 「パン」
「ひぃ」
 たった裸のお尻にたった5発命中しただけでもう悲鳴。
 これでは先が思いやられます。ですから、やせ我慢をして次を待ちま
した。
 「パン」
 「……」
 覚悟を決めて臨んだその1発だけは悲鳴を上げずにすみましたが……

 「パン」
 「いやあ~」
 最初の悲鳴が上がると後はぐずぐず……
 「パン」
「いやあ、だめえ~~」
 「パン」
 「駄目じゃないでしょう。さあ、お手々を戻して……」
 先生は私のお尻をかばった手を元の位置に戻します。
 「パン」
 「痛い、先生、痛い」
 「当たり前でしょう、お仕置きなんだから……さあ、お尻をさすらな
いの」
 「パン」
 「だめえ~~~」
 「駄目じゃないの。これから効果がでるんですからね」
 「パン」
「ひい~~」
 この時から朝比奈のお姉さまが私の右手を押さえてしまいます。
 ですから、私のお尻は園長先生の右手の独壇場。
 「パン」
 「いやいやいややや」
 お尻を叩く乾いた音と言葉にならない私の嬌声が部屋中に響きます。
 「パン」
「ぎぃあ~~ぎゃあ、ひぃぃひひひひひひひどい」
 「ひどくなんかありません。このくらいまだ序の口よ」
 「パン」
 「パン」
 「パン」
 あとは何回叩かれたか覚えていませんが、園長先生のお膝から降りた
時、顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていたのは確かでした。
 そんなひどい顔を樺山のお姉さまがタオルでぬぐってくださいます。
 おかげでその間は真っ赤になっているであろうお尻を沢山さすること
ができたのでしたが……
 「さあ、お父様の写真の前で懺悔なさい」
 ただその後は、そのままの格好、つまりショーツも脱がされた格好で
お父様の写真が飾られた壁の真下に膝まづき亀山流の乙女の祈りを捧げ
なければならなかったのです。
 「私はお父様のサインを偽造してしまいました。どうかもとのよい子
に戻れますように厳しいお仕置きをお与えください」
 お尻の痛みはすぐに引きましたが、涙は次から次にあふれて止まりま
せん。こうした時、子供たちは同じ懺悔の言葉を延々繰り返さなければ
なりませんでした。
 むき出しのお尻の方は数回懺悔の言葉を口にすると「パンツを上げて
いいわよ」ってお許しがでますが、懺悔の言葉は相変わらず繰り返さな
ければなりません。もちろんそんなこと子供達とっては苦痛ですから、
次第に声が小さくなったり、言葉が不明瞭になったりしますが、そんな
ことをしていると、見張りの先生にその場で四つんばいになるよう命じ
られ、またパンツを下ろされて、革のパドルでお尻をぶたれるはめにな
ります。
 今回はそのお努めを樺山のお姉さまがなさっていました。
 革のパドルはせいぜい5、6回。沢山ぶたれればそりゃあ痛いのです
が、このくらいならそれほど痛みはありません。ただ、四つんばいにな
るということは、またしても大切な処が丸見えになっちゃいますから、
その意味で辛いお仕置きだったのです。
 私の周りには次第に最初の平手打ちを終わった子たちが周囲に集まり
始めます。それは私以上に泣き叫んだり暴れたりした子ばかりでした。
 『ちっ、意気地のない子』
 私は心の中でちょっぴり場違いな優越感に浸ります。
 えっ?どうしてそんな事がわかるのか?(^◇^;)
 いえ、わかりませんよ。私が勝手にそう思ってるだけです。ひょっと
したら私より我慢強い子がいたかもしれません。でも、そんな事はどう
でもいいんです。女の子というのは、どんなにつまらない思い込みでも
それを心の支えにして過酷な試練も乗り切れるのでした。
 女の子が男の子以上に打たれ強いのはこの思い込みがあるからでした。
 やがてすべての子のお尻叩きが終わり、私の背中では何やら舞台装置
が整えられているのがわかります。最初にお浣腸までしたんですから、
きっとお馬を用意しているのでしょう。
 その覚悟はもうとうについていました。
 亀山では、小学三年生までの子にはほとんどのお仕置きが平手だけの
スパンキング。鞭を使っての厳しいお仕置きというのはありません。
 それが四年生になると、お仕置きに鞭が登場し、同時にお浣腸もやら
なければならなくなります。とりわけ小学五年生から中学一年生までの
三年間は厳しいお仕置きの最盛期で、この時期に鞭とお浣腸とお灸をい
っぺんにやる『トリプル』と呼ばれるお仕置きを経験しない子はいなか
ったと思います。
 もちろん女の子ですから、男の子みたいに無鉄砲な事はしませんが、
女の子とはいえこの頃は体力的にも男勝りのの時期。大人たちが女の子
達が震え上がるようなお仕置きを言い渡すためのネタに不自由すること
なんてありませんでした。
 「駒田清美さん、こちらへいらっしゃい」
 また、私からです。もちろん振り返りたくもありませんが、今更逃げ
出すこともできませんでした。
 長い間膝まづいていましたから立ち上りぎわふらついてしまいます。
そうやって後ろを振り返ると、そこには椅子に座った女王様を取り囲む
ように園長先生や朝比奈、樺山、藤田の各お姉さま方が立ってこちらを
見ておられますが、私の方から見れば全員ふらふらと陽炎のように揺れ
ておられました。
 私はおぼつかない足で前へ進むと女王様の足元に膝まづきます。
 「本日はお仕置きありがとうございます。これからもこの地で幸せに
くらせますように厳しいお仕置きをお願いします」
 私は心にもない事をすらりと言いぬけました。だって、これは亀山の
ご挨拶。どのくらい悪い子だったか、本当にそう思ってるかなんて事は
この際、関係ありませんから。
 でも、大人たちの評価は違っていました。
 「まあ、素直ないい子じゃなくて…」
 「ほんと、目が澄んで美しいわ」
 「お父様もこんな子ばかりならお幸せにちがいないわね」
 三人のお姉さまたちはこちらの背中が痒くなるような事を口々言って
私を褒めます。そして、園長先生や女王様まで……
 「明るい子なの。勉強もできるし水彩画なんかここ何年も県展で連続
入選してるわ」
 「じゃあ、お父様も可愛がってくださるんじゃなくて……」
 「よく教室にいらっしゃるから、きっとお父様もこの子には目をかけ
られてると思うわ。……ま、私の立場で言わせていただくと、お転婆で
お調子者で、大人に取り入るのが上手だから、時々今回みたいにお友達
をそそのかしてよからぬ事をたくらんだりするから要注意人物だけど」
 「まあ、酷い言われようね。こんなにいい子なのに」
 「でも、男性って、そのくらいの方がかえって歯ごたえがあって付き
合いやすいみたいよ」
 園長先生とお姉さま方の会話の中に女王様も混じります。
 「これは正式に要請があったわけじゃないけど、藤山のお父様は中学
からこの子を男の子の中で学ばせようとお考えのようなの」
 「(えっ!何よ、それ!聞いてないわよ!)
 私は女王様の口から出た突然の辞令に戸惑いを隠せませんでした。
 亀山は基本的に女の子の世界です。小学校は一クラス6人から8人で
構成されていますが大半は女子。男の子はクラスに1人か2人しかいま
せん。その男子も中学になると男子だけで集まって授業に臨みますから
中学からは晴れて女の園で学べるはずだったのです。
 ところが、女の子であっても一学年に一人か二人、男の子のクラスに
編入される子がいて、そうした子は、以降男の子と一緒に全寮制の高校
へ進学、四年制大学を目指すことになります。
 そう、今で言うキャリアウーマンへの道が敷かれてしまうわけです。
 ここにいるお姉さまにしたところでつまりはそういうルートから今日
あるわけで、私も同じ道を進めと命じられたわけです。
 でも、それは私の人生設計からは大きく外れていました。
 私の予定ではこれからも他の女の子たちと一緒に中学高校を卒業し、
短大を経てお父様が用意してくださった方と結婚。子供ができたら……
びしびしお尻を叩いて育てようと思っていたのです。

§4

§4
 私は他人(ひと)にこそ言いませんでしたがお父様が大好きでした。
お当番の夜、真っ裸でお父様と一緒にベッドを供にできる幸せを失いた
くなかったのです。
 知らない人は素っ裸で里親とベッドインなんて言ったら強姦されてる
ぐらいに思ってるようですが、もちろんそんなことはありません。ただ、
幼い頃愛撫され続けてきた女の子達の中には強いエディプスコンプレッ
クスを持つ子が少なくなく私もその一人でした。ですから、結婚はして
も何か口実を見つけて離婚、子供達と一緒にこの亀山へ舞い戻りお父様
を独り占めにして暮らすという夢を幼いなりに描いていたのでした。
 「あら、元気がないわね。私達みたいになるのは嫌なのかしら?」
 「そりゃあ、嫌よね。いつまでもお父様の愛の中にいたいもの」
 「あら、あなたファザコンだったの?」
 「どうして?知らなかった?私、男子のクラスに入れられた時なんて
お父様に『絶対に嫌!みんなと一緒に勉強する』って泣いて頼んだのよ」
 「へえ~~そうなんだ」
 「他に何人の姉妹(きょうだい)がいても、お父様は私だけをみてる。
愛してると思ってたもの」
 「それはみんなそうよ。物心つかない頃から素っ裸で抱かれ愛撫され、
服を着せてもらい、お菓子をもらい、玩具をもらい、お膝の上で跳ね回
ってもお腹をあんよで蹴っても、ただ頭を撫でられるだけ。それでいて
他の人がどんなにお仕置きしてもお父様だけはかばってくれるんだから、
これで嫌いになるはずがないじゃない」
 「だから、そういう風に仕組まれてるの。子供が自分を愛するように」
 「あら、じゃああなたは騙されたと思ってるの?お父様や亀山の人達
に……」
 女王様が口を挟みます。
 「そんなつもりは……私だってお父様が大好きですから」
 藤田のお姉さまはまるで少女のように頬を赤らめました。
 「私は、たとえ事実はその愛が私だけに降り注がれたものでなくても、
私だけがお父様に愛され続けてきたと思ってきたの」
 「それはみんな同じよ。お父様は仮想の恋人、永遠の恋人なの……」
 「だからさあ、私が言いたかったのは『私こそはお父様に一番愛され
てきた娘なんだ』って信じられるなら、それが一番幸せなことなんじゃ
ないかってことよ。……自慢じゃないけど、私、お父様にフェラチオを
いたしましょうかって持ちかけたことがあるんだから」
 「えええええ」
 「うっそ~~」
 「本当よ」
 「で、お父様は?」
 「目を丸くしてた」
 「そりゃあそうでしょうね」
 「それでしばらく困った顔をなさって、間があって『できるのか?』
っておっしゃっるもんたから『えっ、たぶん……本で読みましたから』
って言っちゃったの」
 「で、どうしたの?やってあげたの?」
 「まさかあ。……『どこでそんな本を読んだの?』って追求されて…
(ハハハハハ)いやあ、五体がばらばらになるんじゃないかって思える
ほどの強烈なトリプルだったわ」
 「いくつの頃?」
 「だから、この子と同じ歳の頃よ。うちの場合、この頃が一番お仕置
きがきつい頃だから本当はもっと自重しなきゃいけないんだろうけど、
何しろ子供でしょう。何でも興味津々だったのよ。…でも一番辛かった
のは、それからしばらくはお床入りでパジャマを着せられたことなの。
何だかお父様との間に垣根ができてしまったみたいで……」
 「それからはずっとパジャマ?」
 「いいえ、数回したら、お父様の方から『嫌ならそう言いなさい』っ
て言って脱がしてくれたの。私、恥ずかしそうにはしてたけどとっても
嬉しかったわ」
 「わあ~~お惚気ね」
 「いいじゃないの。私のお父様だもの。私も普段はお友達に『まるで
熊みたいにのしかかってくるだもの。いつもベッドの端で震えてるのよ』
なんて言ってたけどやっぱりお父様の胸の中が一番安らげたわ」
 「かあ様(ママ)は?」
 「もちろん、ママは別格。私のお師匠さんだもん。ただ、色々教えて
もらって感謝はしてるけど『安らげる』とか『癒される』っていうのと、
それはちょっと違うのよね。それに比べてお父様は男性だからママより
遠い存在なのかもしれないけど、私達になくてはならない存在というか、
絶対的存在というか……」
 「とにかく、良くも悪しくも権威の塊だったわ。だから抱かれている
と絶対的な安心感みたいなものがあったもの」
 「『もう、何されてもいい』みたいな……」
 「そうそう、どっちみち裸だし(ハハハ)」
 周囲に笑いの波紋が広がります。
 「ま、考えてみれば、私達はみんな処女を奪われたわけじゃないけど、
心の処女は、遠い昔、お父様に捧げちゃったのかもしれないわね……」
 朝比奈のお姉さまはそこまで言うと、ようやく私の存在に気がついた
みたいで……
 「あら、あら、ごめんなさい。こっちの話に夢中になっちゃって……
いいこと、今のことは他所言って話しちゃだめよ」
 こう言って大人のおしゃべりに区切りを着けたのでした。
 「これからお鞭のお仕置きをいただくことになるけど……もう、随分
時間がたっちゃったから、また少しだけ、お尻を暖めた方がいいわね」
 女王様はこともなげにおっしゃいましたが、お尻を暖めるというのは
要するにもう一度お尻をぶつってことですから女王様のおっしゃりよう
はあんまりです。
 「(何よ、自分達で勝手におしゃべりしておいて、どうして私が余計に
ぶたれなきゃならないのよ)」
 私は大いに不満でしたが、広げられた両手の中へ飛び込むしか道はあ
りませんでした。
 「ピシッ」
 「いやあ、だめえ」
 私はいきなりパンツとショーツを下ろされてうろたえます。
 「ピシッ」
 「だめじゃないでしょう」
 「ピシッ」
 「ああ、痛い!」
 「ピシッ」
 「だめえ、やめて~~」
 私はお尻を振り振りあんよをバタバタ。
 だって、今度のは最初のスパンキングより痛いんですから仕方があり
ません。実際、同じお膝の上でのお尻叩きといっても微妙な手首のスナ
ップの具合で衝撃はいかようにも調節できるのです。
 「ピシッ」
 「いやあ~~~(どうして今度はそんな強くぶつのよ)」
 私はむくれていました。でも、そうなると身体を自分で静止できず、
手も足もばたついてしまいます。
 そうなると……
 「ほらほら、お譲ちゃん暴れないのよ」
 「もうすぐすみますからね」
 まるで幼女をあやす時のような猫なで声でお姉さまたちが応援に駆け
つけます。
 「ピシッ」
 「ひぃ~~」
 右手と左右の足を一本ずつ押さえられたら、あとはどうすることもで
きませんでした。
「ピシッ」
 「あっ~~~」
 完全に身体を押さえ込まれ裸のお尻を晒してただただ痛いのを待ち続
けるなんて、他人からみれば悲惨にしか映らない光景ですが、私はその
瞬間、ほんの一瞬ですが、胸の奥に塊る不思議な切なさを感じ取ってい
ました。
 「ピシッ」
 「うぅぅぅぅ(えっ?)」
 「ピシッ」
 「いぃぃぃぃ(何だろう?)」
 「ピシッ!!」
 「…………(これって?)」
 最後の三つは強烈でした。特にラストは女王様が放った衝撃の中では
一番強烈だったのですが、私はそれを悲鳴もあげず感じてしまいます。
 思えばこれが初めての肉欲、『女としての私』を意識した瞬間だったの
です。
 女王様による10回のスパンキングが終わると、次は園長先生。
 やり方は同じです。
 「ピシッ」
 「あなた、反省してますか?」
 「はい」
 「ピシッ」
「口先だけじゃないの」
 「違います」
 「ピシッ」
 「本当に……」
 「本当です」
 「ピシッ」
 「いやあ、痛い」
 「痛いのは当たり前です。お仕置きなんですから。あなた、亀山の子
じゃなかったかしら」
 「ピシッ」
 「亀山の子です」
 「だったら、ごめんなさいじゃなかったの?」
 「ピシッ」
 「ひぃ~~ごめんなさい。もうしません」
 「ピシッ」
 「ああっ、いやあ~~~」
 「嫌じゃないでしょう。ありがとうございますでしょう」
 「ピシッ」
 「ありがとうございます。先生」
 「ピシッ」
 「ほら、もう一回」
 「いやあ~、ありがとうございました」
 「ピシッ」
 「まだ終わらないわよ」
 園長先生は結局私をいたぶりながら20回もお尻を叩いたのです。
 それだけではありません。お姉さまたちも代わる代わる椅子に座り、
真っ赤になった裸のお尻をめでては、そこを10回ずつ平手で叩いたの
でした。
 ただ、それらはいずれも痛みと屈辱だけ。女王様がやってのけた芸当
を再現する人はいませんでした。
 「さあ、もういいでしょう。いつまで床にお尻をへばりつけてるの」
 園長先生はやっと終わった大人たちのスパンキングで真っ赤になった
お尻を冷ましている私をせき立てます。
 次はいよいよ鞭のお仕置きでした。
 「いらっしゃい」
 園長先生が両手を広げます。
 「(『ようこそ、地獄の入り口へ』か……)」
 私は園長先生の言葉の続きを呟きます。
 そして、覚悟を決めてその懐へ……
 「大丈夫、あなたはいい子だもの。きっとお父様の天使に戻れるわ」
 先生は私を抱き上げると少し広めのテーブルに腰を下ろして私を膝の
上へ抱きかかえます。頭を撫でられ、背中をさすられ、頬ずりをされて
……でも、いやいやをする気力もありませんでした。
 なされるままにしてやろう。それが一番楽にこの場を乗り切れそうな
気がしたのです。
 確かにその判断は間違っていなかったと思います。
 私は、やがて無言のまま園長先生がテーブルに仰向けになって倒れ込
むので、その上にうつ伏せに乗っかるのような形になります。
 そして、園長先生が膝を立て、私のお尻はそこで晒されて、私の顔は
先生の胸の中へ……万歳をした私の両脇から先生の太い両腕が伸びて、
私の背中は抱きかかえられます。
 亀山での鞭打ちは、通常、お馬と呼ばれる拘束台を使って子供を革の
ベルトで固定して叩くのが一般的ですが、幼い子や気の弱い子の場合は
こんな形で抱き合いながらというのも稀ではありませんでした。
 こうして教師が抱いてやることで心の負担を軽くできると考えられて
いたのです。
 「ほら、ここに頭を乗せなさい」
 園長先生がご自分の胸にクッションを乗せて体全体のバランスを取り
ます。ちなみに先生の立てた膝頭にはバスタオルが乗せられ、そこに私
のそけい部が乗っかかる形になります。
 体勢が整ってもまるでやじろべいのように不安定で私の両足はつま先
がテーブルに触れるくらい、踏ん張ることなどできませんでした。
 「さあ、いいですよ」
 園長先生の声に、当然のごとくパンツとショーツが脱がされ、お尻が
外の風に吹かれてすーすーします。加えてアルコールたっぷりの脱脂綿
でお尻が綺麗に拭き取られますから、その意味でも私の緊張はマックス
でした。
 「さあ、歯を食いしばって」
 朝比奈お姉さまの声がして最初の一撃が……
 「パーン」
 乾いた音が部屋中に木霊します。もちろんお尻は物凄い衝撃でしたが、
存外びっくりするほどの痛みはありませんでした。
 「一つ、お姉さまありがとうございました」
 私は朝比奈のお姉さまにお礼をいいます。自分をお仕置きする人にあ
りがとうだなんて変かもしれませんが、これは亀山のしきたり。礼儀で
した。そして鞭打ちの最中はこれ以外何も言ってはならなかったのです。
 「さあ、もう一つよ」
 そう言って次の一撃が……
 「パーン」
 やっぱり意外なほど痛くなかったのです。
 「二つ、お姉さまありがとうございました」
「そう、ちゃんとご挨拶できるのね。でも、まだまだよ」
 「パーン」
 「ぅ……」
 でも、このあたりから痛みがお尻に蓄積され始めます。
 「三つ、お姉さまありがとうございました」
 「感心、感心、亀山の子はそうでなくちゃね。さあ、次よ」
 「パーン」
 「いっぃぃぃ」
 私はこの鞭で初めて園長先生を頼りました。それまで軽く握っていた
だけの二の腕を痛みに耐えかねて強く握ったのです。
 私ははっとしてすぐに手を離しましたが先生はにこやかに笑っておい
ででした。
 「四つ、お姉さまありがとうございました」
 「パーン」
 「ひぃ~~」
 私は五回目で思わず悲鳴を上げます。
 「五つ、お姉さまありがとうございました」
 不安定な身体を自分で制御しながら、しかも園長先生に迷惑をかけて
はいけないという思いから先生の身体に思いっきり抱きつく事もできま
せん。
 「パーン」
 「いやあ~~」
 悲鳴は続きます。その鞭は、トォーズの衝撃そのものはそれほどでも
ないのに、とても辛いお仕置きとなったのでした。
 「六つ、お姉さまありがとうございました」
 「まあ、最後はちょっとあやしかったけどいいでしょう」
 朝比奈のお姉さまは私の苦し紛れの悲鳴を見逃してくださいました。
 「ほっ……」
 私は思わず胸をなでおろします。しかし、鞭のお仕置きがこれで終わ
ったということではありませんでした。
 「さて、次は私の番よ」
 朝比奈のお姉さまに代わって今度は樺山のお姉さまが私の後ろに立ち
ます。
 ということは樺山のお姉さまが終わっても、さらに藤田のお姉さまも
控えていらっしゃるということじゃないですか。もう目の前が真っ暗に
なりそうでした。
 樺山のお姉さまも始める前に私のお尻をアルコール消毒します。
 「いやあ、やめてえ~~」
 恥ずかしい声が部屋中に木霊します。きっと、お友達だってそれを聞
いたはずです。そう思うと顔が真っ赤になりました。
 普段ならそんなにうろたえないはずなのに、ちょっと環境が変わった
せいでしょうか、動揺してしまいました。
 「いいから、私の胸に抱きつきなさい」
 「…………」
 私は一瞬躊躇しましたが背に腹は替えられません。園長先生のお言葉
に甘えることにしました。
 無我夢中で先生の大きな胸を抱きしめたのでした。
 「パーン」
 クッションに顔をうずめ、園長先生の背中に手を回して抱きしめると、
先生もまた私の背中を抱いてくださいます。結果、体がさっきより安定
したせいかお姉さまの鞭も比較的楽に受けられます。おまけに園長先生
と抱き合うことで心までもしっかり先生から守ってもらっているような
安らぎを感じます。
 ひょっとしら、こんなことも予想して学校ではあまりやらないやり方
での鞭打ちを選択されたのかもしれません。
 「一つ、……お姉さま、……お仕置き……ありがとうございました」
 途切れ途切れの感謝の言葉。涙でくしゃくしゃの顔はどうにもなりま
せん。鼻水をすすりながらそれを隠すように園長先生の胸の上に置かれ
たクッションに顔をダイブさせます。
 「だめねえ、あなた、そんなつっかえつっかえの言葉じゃ、ちっとも
反省してるよう聞こえないわよ。さあ、やり直し、もう一度最初からよ」
 樺山のお姉さまはこう言って再びトォーズを私のお尻で擦り擦り。
 十分じらしてから二発目、いえ一発目がやってきます。
 「パーン」
 「一つ、お姉さまありがとうございました」
 「あれ、お仕置きありがとうございましたじゃなかったっけ?」
 「えっ!?」
 「お仕置きという言葉が抜けたわよ。じゃあ、もう一度最初から…」
 「えっ?えええええ」
 私は泣きそうになりました。本当は今の姿勢を翻して、樺山お姉さま
の胸倉へ飛び掛りたいくらいだったのです。
 でも、それはできません。できることは……
 「はい」
 そう答えてより強く園長先生を抱きしめることだったのです。
 「(あっ……)」
 またアルコールでお尻が清められ、トォーズの革紐がお尻を擦り擦り。
 「…………」
 「パーン」
 「あっ!…………一つ、お姉さまお仕置きありがとうございました」
 不意をつかれて感謝の言葉が少しだけ遅れます。
 でも、樺山のお姉さまはそれすら問題にするのでした。
 「どうしたの?どうしてすぐに感謝の言葉がでてこないのかしら?…
…ひょっとして、私達じゃ嫌なの?」
 「違います」
 私は思わず大声を出しましたが…
 「だったら、感謝の言葉がなぜ遅れたの?」
 「それは……」
 私は即答できずにいました。
 でも、そのうちに今度はお姉さまが私のお尻を開いて中を覗き込みま
す。
 「…………」
 女同士ですから、それほど強烈な羞恥心があるわけではありませんが、
それでも……
 「可愛い」
 樺山のお姉さまに小声でそう言われると、私の顔は真っ赤になるので
した。
 「パーン」
 「一つ、お姉さまお仕置きありがとうございました」
 「やっと、まともにできたわね。……ところで、私、いくつあなたの
お尻をぶったんだっけ?」
 「えっ?……」
 突然の質問に面食らいます。実際その時の私はそれどころじゃありま
せんでしたから数なんて覚えていませんでした。
 「あら、大事なことも覚えてないのね。真剣にお仕置きを受ける気が
ないんじゃないの?」
 「(そんなあ~~)」
 「今までに、私、あなたのお尻を四回ぶったのよ?覚えておきなさい。
……じゃあ、また最初からよ」
 「(え~~もういやよ)」
 私はもう絶望的な気分でした。

§5

§5
 「ちょっと待ってね。この子のお顔があんまり汚れてるから……」
 女王様はこう言って私の顔を拭いてくださいます。
 その時、しばしの間があって、あらためて周囲を眺めてみると、藤田、
朝比奈の二人のお姉さまが何やら微笑みながら小声で談笑している内容
が私の耳に入ります。
 「この子が首謀者なの?」
 「そうみたいよ。そもそもの言いだしっぺが彼女だし、お友達二人が
自分にはできないって言ったら、その二人分のサインも自分で作っちゃ
ったらしいわ」
 「へえ、なかなか可愛い顔してやり手じゃない。こんな子を持つと、
お父様も大変ね」
 「ところが、事件が発覚してしまうと、この子のお父様は園長先生や
女王様にまで穏便な処置を求めて出向いたそうよ」
 「男性はえてしてこんな子が好きなのよ」
 「どうして?」
 「だって、ちょっとぐらいやんちゃな方が張り合いがあるというか、
お仕置きに困らないでしょう」
 「なるほどね」
 私は二人の会話を聞いていて…
 『私、首謀者なんかじゃないもん。お友だちができないっていうから
助けてあげただけじゃないの。だいいち、お父様は私のお仕置きを見た
がってるみたいなこと言わないでよ。お父様は今まで何回もお仕置きさ
れそうになった私を助けてくださったのよ。私が姉妹の中で一番のお気
に入りなんだから』
 私は声を大にして言いたかったのですが、とうとうその勇気がでませ
んでした。
 私は、二人が大好きなお父様の悪口を言っているようで腹が立ちます。
 そして、腹が立ったまま樺山お姉さまの鞭を受けます。
 「パーン」
 すると不思議なことにその回はそれほど痛く感じませんでした。
 おかげで、感謝の言葉の方もさっぱり忘れてしまいます。
 「……………あっ、一つ、お姉さまお仕置きありがとうございました」
 これには当の樺山のお姉さまもあきれたご様子だったみたいです。
 「もういいわ。あなたとやってると先に進まないから、次のを最後に
しましょう。ようく、歯を食いしばりない」
 樺山のお姉さまはそう言うと、何と、私が脱いだショーツを口元へ…
 「口を開けて……」
 もちろん嫌でしたが、仕方なく開けた口の中へ私のショーツがねじ込
まれます。そうしておいて……
 「パーン!!!」
 最後の一打で私の身体全体に電気が走ります。手の指先、足の指先、
脳天が痺れて、そこから雷の電気が放電していったようでした。
 本物の目の玉が飛び出そうになるほどの衝撃というのも生まれて初め
て。オーバーに聞こえるかもしれませんが、ひょっとしたら今の衝撃で
身体がばらばらになったんじゃないかと思えるほどだったのです。
 「…………………………」
 おかげで暫くは放心状態。歯の根が合わずがたがたと震える口元を見
てお姉さまは処置なし、待っていられないと思われたのかもしれません。
私が感謝の言葉を言い出す前に……
 「もういいわ。これで六回ね。だけど次にやったら、これでは許して
もらえませんからね」
 樺山のお姉さまはこう言って許してくださったのでした。
 でも、これで終わりではありませんでした。もう一人、最後に藤田の
お姉さまが待っておられます。このお姉さまは私が寝そべったままお尻
をぶたれるのをよしとはしてくださいませんでした。
 「こちらへいらっしゃい」
 私は命じられるままにテーブルを降り、暖炉の前に立つと……
 「大丈夫?痛かったでしょう。カバちゃんは手加減というものを知ら
ないから困ったものだわ。だいたいこんな可憐なお嬢ちゃんにショーツ
で猿轡なんて品のないことしなくてもいいのにね」
 私はその時まだ下半身がすっぽんぽんでしたが、藤田のお姉さまのお
顔があまりに穏やかに見えたので、少しだけほっとしたのか笑顔を取り
戻します。
 「さあ、これを噛んで……」
 それはおしぼり大の硬いクッションで、よくアニメなどでみかける犬
が銜える骨の形、プリント柄も同じ骨の形でした。
 私は指示されるまま少し前かがみになって両手を膝の裏側で組み合わ
せます。
 恥ずかしい姿勢、窮屈な姿勢で私はお姉さまの鞭を待つことになるの
でした。
 「私のはすぐに終わりますからね。それに反省の言葉や感謝の言葉は
いらないからとっても楽よ。……但し、暖炉の側を離れたり、しゃがみ
込んだりしたら鞭を追加しますからね。わかった?」
 「……」私は猿轡をしたまますでに真っ赤になっ顔を上げ下げします。
 「鞭のお仕置きは、その愛をしっかり謙虚に受け止めることが何より
大事だもの。無用の脅かしはいらないわ。ね、そうでしょう」
 お姉さまは私に同意を求めましたが、その答えを考えているうちに、
もう最初の衝撃がやってきます。
 「パーン」
 一瞬、目の前が真っ暗。全身に悪寒が走り鳥肌が立ちます。
 「(ひぃ~~~)」
 「パーン」
 その瞬間息が詰まります。酸欠状態で思わずその場にしゃがみ込もう
としましたが、すんでのところで思いとどまります。
 「パーン」
 前のめりになってあやうく暖炉まで歩いていきそうです。
 「パーン」
 今度は思いっきり伸び上がります。おかげで膝の後ろで組んで絡ませ
ていた両手が解けそうになります。
 「(ぎゃあ~~)」
 「パーン」
 「(死ぬぅぅぅ)」
 本当にそう思いました。
 「パーン」
「(あぁぁぁぁ)」
 最後の一撃は亀山の伝統にのっとって一番強烈です。その時は私自身
の身体が持ち上がったようにさえ感じたのです。
 私は生まれて初めて自分に子宮があるのを感じます。そしてそれが、
ぎゅーっと萎むのを感じたのでした。
 確かに、たった六回、それもリズムよく打ち据えられますから今まで
のお姉さまたちより早くは終わりはしましたが、でもそれが楽だったか
と言うと、答えはNO。
 私はその短い時間に失禁し、再びお姉さまの手を煩わせることになり
ますし、お仕置きが終わって藤田のお姉さまに抱かれた後も歯の根があ
いませんでした。
 こんなに長い時間葉の根が合わず震えていたのは初めてでした。
 「今日は楽しかった?……ん?そんなわけないか」藤田のお姉さまは
私を膝の上に抱き上げると、笑いながらご自分のおでこを私のおでこに
擦り付けます。
 「……でもね、時間がたって大人になったあとに振り返ると懐かしい
思い出になるはずよ」
 「どうして?私、こんな嫌な思い出、早く忘れたいわ」
 「忘れられないわ」
 「どうして?」
 「あなたをぶった人がみんなあなたを愛してるからよ。そしてあなた
も、その人たちに愛されてると感じているから……愛の思い出の中には
遊園地で遊んだ思い出なんかと同じようにお仕置きも忘れられない思い
出なの。…お仕置きは確かに辛い体験だけど、大人になってもう自分を
叱ってくれる人が誰もいなくなったとわかると、それはとっても寂しい
ことなのよ」
 「わからないわ、そんなこと。お仕置きは悪い子だけのものだもの。
よい子は受けないもの。ないにこしたことないじゃない」
 「お仕置きを受けずにいる子の方が幸せ?」
 「そりゃそうよ。当たり前じゃない。美郷ちゃんなんか、いつだって
良い子にしてるから滅多にお仕置きなんてされないんだもの。私なんか
羨ましくて仕方がないわ」
 「美郷ちゃん?……ああ、あの、おとなしいそうな子ね。あの子は、
確かにお仕置きを逃げてるわね。……でも、そんなこと子供にとっては
自慢にならないのよ。だってお仕置きを受けない代わりにあの子は多く
の愛も受け取り損ねてるもの。あなたが受けた多くのお仕置きはあなた
が得た計り知れないほど多くの体験と大人たちからの洪水のような愛の
証でもあるの。あなたは美郷ちゃんよりはるかに幸せ者よ」
 「それって皮肉?」
 「皮肉じゃないわ。あなたも大人になればその意味がわかるわ。全て
は愛の中での睦ごとだもの」
 「でも、私、お仕置きされると、とっても心が傷つくわ。死んじゃい
たい時だってあるんだから……」
 「そうなの?でも、あなた生きてるじゃない」
 「そりゃあ……」
 「大丈夫よ、痛い思い出も恥ずかしい思い出もそれはみんなあなたを
愛している人たちからのプレゼントだもの」
 「プレゼント?」私はそのあまりに意外な言葉に目を丸くしました。
 「……そんなのいらない」
 「あなたもいつかは社会に出て憎しみを持つ人や見ず知らずの人から
いわれのない暴力や辱めを受ける時が来るわ」
 「どうして?そんなのいやよ」
 「それは大人の社会が亀山のような楽園ではないから仕方のないこと
なの。でも、そんな時、お仕置きという名の免疫を持たないで社会に巣
立ってしまったら……そんな子は弱いものなのよ」
 「美郷ちゃんは?」
 「彼女がどんなに良い子ぶってお仕置きを避けていても、そこは先生
方が工夫して彼女にもちゃんと愛のお仕置きを与えてくださるはずよ」
 「お仕置きって予防注射みたいなものなの?」
 「そうよ、だから亀山にはあなた達を愛さない人は誰一人として街に
入れてないの」
 「だから、子供の楽園って呼ばれるの?」
 「そういうこと。だいたい十歳を超えた子を街の真ん中で裸にできる
処なんて、日本国中探しても恐らくここだけのはずよ。それはあなた達
にとってはありがたくないことに思えるでしょうけど、それができるっ
てことが幸せなことなの」
 「…………」
 「普通の家庭でもその子を愛して育てたお父様やお母様ならその子を
裸にだってできるでしょうけど、それ以外の人が裸にしようとしたら、
その子は傷つくはずよ。でも、ここは山全体街全体がお父様やお母様の
働きをするように女王様によって創られだ特殊な場所なの」
 「特殊な場所?」
 「そうよ、ここではお父様方や先生方だけでなく、庭師のおじさんや
賄のおばちゃんに至るまでここに暮らす全員が子供愛することが義務に
なってるの。あなたたちだってお友だちを虐めたら厳しい罰を受けるで
しょう。あなたはこの街で自分を傷つける人に合ったことがある」
 「…………ん~~~ん」私はしばらく思いをめぐらしましたが、結局、
 「…先生はよくお仕置きするし、お友達は意地悪することもあるけど
……けど……」
 「けど、何?」
 「幸せでしょう。だって叱られたって、意地悪されたって、とにかく
近くにいる誰か大人の人に抱いてもらえばいいんですもの。これって、
世間では当たり前のことじゃないの。とてもとても幸せなことなのよ」
 「……うん、それはそうだけど……」
 「なたはこの街しか知らないからわからないでしょうけど、山を降り
ると、巷はそんなに子供好きの人ばかりが暮らしているわけではないの」
 藤田のお姉さまのお説教はまだまだ続きましたが、私の方はお膝の上
で眠くなってきていました。ですから、そのうちお説教を子守唄に半分
眠りかけていたのです。
 ところが、その半分閉じたまぶたが突如元に戻ります。
 。・゜・(/Д`)・゜・。うわぁぁぁぁん
 もう無意識でした。私はいきなりお姉さまの膝を飛び降りると一目散
に走りだします。そして懐かしいその大きな胸に抱きつくと、訳もなく
ただただ泣き続けるのでした。
 たしかに、お姉さまの言うとおりです。亀山の子供達は、悲しいこと、
嫌なこと、ご機嫌斜めな時、もちろんうれしい時だって、誰彼かまわず
近場の大人に抱きつきます。だって抱きつけば必ず抱き上げてくれます
から、どんなにむしゃくしゃしていてもこれ以上心持が悪くなることは
ありません。
 でも、それはここの習慣のようなもの、誰に抱かれてもみんな平等、
効果が同じということではありませんでした。
 当然、お父様やママは別格だったのです。
 その別格な人に抱かれて、私はしばしご満悦で過ごします。
 お友達が鞭でぶたれて悲鳴を上げているのを肴にお父様に身体の全て
を任せます。すると、お父様のことですからショートパンツ越しに当然
陰部にもその指先が立ち寄りますが、気にもなりませんでした。
 これもまた亀山の習慣なのですが、どのみち十日に一度のお当番の日
にはどの子も素っ裸になってお父様とベッドインしなければなりません
から、そこでは否応なしに体中を撫で回されるわけで、ショートパンツ
の上からなら何でもないことでした。
 もちろん、お父様は紳士ですから子供が嫌がればやめてくださいます。
ただ、私の方も物心ついた時からの習慣ですし、今さら、嫌がったり、
悲鳴を上げたり、なんてことはありませんでした。
 それでもなされるままに身を任せていると、最近は私の身体に微妙な
変化が訪れます。
 「(何だろう、この切ない気持ちは……あっ、ショーツが濡れている)」
 そんなことを思うようになっていました。でもそれが何なのか、性の
知識が一切封印されている亀山に育った私にはわかりませんでした。
 結局、その後他の子のお父様も現れて、私のお父様だけが特別に私を
気遣って会いにきてくれたのではないというのがわかって、ちょっぴり
ショックでしたが、でも、こうして抱かれていると『私だけのお父様』
という実感が持てますから、私は幸せなひと時を送ることができます。
 きっと、これは女王様の配慮なのでしょう。
 『どの子も幸せなままに、お仕置きを終えなければならない』
 これもまた亀山の習慣。どんなに罪深いことをしてどんなに厳しい罰
を受けた時でも最後は必ず大人の抱っこで終わることになっていました。
 もっとも思春期になると……
 「あんな奴に抱かれること自体が苦痛、こっちの方がよっぽどきつい
お仕置きだわ」
 そんな憎まれ口をお友達同士でぶちまけたことも珍しくありません。
ただ、幼い頃から誰もが顔見知りで、その誰にでも幾度となく抱かれて
育ちましたから、『好き』という言葉に濃淡はあるものの『この人は絶対
に無理』という人は、本当は、誰もいませんでした。
 むしろ今回、お山の外にいるお姉さまたちからお仕置きされたので、
そのことがよほど怖かったのかもしれません。
 それにしてはけっこう親しげだったですか。(^◇^;)
 幼児の時に習い覚えた習性というのは恐ろしいもので、亀山の子は、
どんな大人に抱かれてもその瞬間は反射的に笑顔になってしまいます。
それは『大人に可愛がられなくちゃいけない』という脅迫観念みたいな
ものをママや先生、されに司祭様たちから植え付けられて育つからで、
最初は嫌だなと思っても、結局は大人たちに丸め込まれてその愛を受け
入れてしまうようにできていました。
 私は抱っこされたまま帰路の車に乗り込み、亀山に着いた後もお父様
に負ぶさって家へと帰ってきます。
 私もこの時すでに11歳、幼い子とはいえませんから私を背負っての
山登りは大変だったと思いますが、お父様は存外ご機嫌なご様子でした。
 察するに、私が泣いて抱きついたのが功を奏したようでした。
 お父様たちがおっしゃってましたが、女、子供は着せて喜ばす楽しみ
と脱がして泣かす楽しみがあるのだそうで、今回は後者がお父様の琴線
に触れたようでした。
 やがて家にたどり着いたお父様を目にした女中さんたちは慌てて私を
引き離そうとしましたが、お父様がそれをさえぎりました。
 「いいから、私が運んでいく」
 お父様がそう言って家の中へ入っていきますから、結局女中さんたち
の仕事は私の靴を脱がせただけでした。
 居間に着いた私はさすがにソファへと下ろされましたが、その後もお
父様のサービスは続きます。
 それまで身に着けていたショートパンツの体操着を上下共、下着ごと
脱がされて普段着へと着替えさせてもらいます。
 「なんだ、恥ずかしいか?」
 ショーツを脱がされた瞬間、ほんのちょっとイヤイヤをしましたから
そう尋ねられましたが、私は即座に首を振ります。お父様が何をしても
私たちは嫌とは言えない立場だったからです。といって、どうにもなら
ないほどの恥ずかしさはまだないのですが……
 「あなた、何もそこまでなさらなくても……」
 そばにいたお母様が口ぞえしてくださってそれ以降はお母様に身を委
ねます。
 そのお母様がお尻にお薬を付けてくださいました。ちなみに、お母様
というのはお父様の奥様のこと。ですから私たちは当然お母様とお呼び
するのですが、お父様ほど積極的に私達と関わろうとする方は稀でした。
 きっと、ご主人が行くというので仕方なく移住してきた方がほとんど
だったのかもしれません。ただ、それで私たちが意地悪されたとか困っ
たということはありませんでした。
 私たちは赤ちゃんという身分ですから、普段から大人たち、とりわけ
ママからは日に何度も裸にされてその場にあった服へと着替えさせられ
ます。パジャマに始まり朝食用の服、部屋着、学校への通学服、お外で
遊ぶ為の普段着、夕食用の服、お父様の処へお泊りする時の服など用途
別に様々です。やはては生理の日のための入浴用下着というのまであり
ました。
 これらは一つには私をお父様に可愛く見せるための演出なのですが、
それだけではありません。万が一誰かに虐待を受けていたらそれを早め
に見つけ出して心の傷が深くならないうちに対処するためでした。
 ですからお着替えそのものは特別なことではないのですが、お父様が
じきじきに子供の着替えを手伝うなんて事は滅多にありませんでした。
 きっと泣いて懐に飛び込んだ私がとっても愛おしかったのでしょう。
 「おいで……ほら、おいで」
 ソファに腰を落ち着けたお父様は着替えが終わった私をまるで子犬の
ように呼び寄せます。そして、その全身をくまなく撫で回しながら今日
のお仕置きのことを、また根掘り葉掘り尋ねるのでした。
 それは現場でも散々話しましたからすでにネタ切れだったのですが、
お父様はそれを許してくださらなかったのです。
 実際、私のお父様に限らず亀山に住むお父様たちはみなさん尋常じゃ
ないほどの子供好きでした。ふよふよとした肌をお人形や縫いぐるみの
ようにして四六時中抱いていたいという思いがあったようでした。
 ですから、本来教育係であるママたちは私たちをお父様がお気に召す
ように育てようとします。
 従順で可憐で清楚、楽器が上手に弾けて、綺麗な字が書けて、時には
古典詩なんかもそらんじてみせて…と、そんな理想の少女に向けて育て
られます。
 もちろん子供ですから、失敗もあり、悪戯もあり、癇癪を起こしたり
もしますが、そうしてお仕置きされている光景もお父様は大好きだった
のです。
 そして、そんな泣き叫ぶ子を懐に入れてあやすのがまた大好きでした。
 悪趣味ですか?(^_^;
 ええ、でもお父様たちはそれが楽しみで私たちを育てているようなと
ころもあるので、仕方がないんです。それが暴走しないのはお父様たち
の身分や社会的信用がブレーキになっているのと、女王様が上手に手綱
さばきをしているからでした。
 そんなわけで、我が子がお仕置きされると聞きつけるやお父様たちは
カメラを持って現場に駆けつけます。そして八ミリか十六ミリのカメラ
が回っている隠し部屋に撮影班の人たちと一緒に入り幾枚ものスクープ
写真を撮り終えると意気揚々と引き上げるのでした。
 いえ、そんなことをしなくても亀山では子供たちへの厳しいお仕置き
はその大半がカメラの元で行われていたのです。
 そのため、その映像はその日のうちにお父様の手元へ渡り子供たちも
いつの日かお父様のお膝の上でそれを目にすることになります。
 『お仕置きされてる自分の映像を見るなんて、最低!!!』
 そうは思いますが、お父様が…
 「ほら、見てごらん」
 と囁けば目をつぶり続けることはできませんでした。
 それならばと……
 『要するに必要最小限のことだけ注意深くやってお仕置きを受けない
ようにすればいいんじゃない』
 なんて言って、用心深く用心深く生活してみようとする子もいますが、
それはあまりに困難な道でたいてい途中で挫折してしまいます。
 というのも、そんな我が子の異変に気づくと、ママの方が黙っていま
せんで、揚げ足を取るような形で我が子を他の子と同じお仕置きの列に
加えてしまうのです。
 子供の揚げ足なんていくらでも取れますから……(^◇^)
 そもそも亀山ではそんな消極的な子は誰からも好まれませんでした。
 「あなた、お仕置きも受けないような引っ込み思案でどうするの!!
そんなのちっとも偉くないのよ。どんなオイタをしても子供のうちは、
お仕置きさえ受ければすべてが帳消し。元の清らかな身体でお友達との
楽しい生活に戻れるんだから。こんな楽なことはないわ。そして、経験
であれ教訓であれオイタで得たものが必ずその後に残るの。そのことが
子供とってはとっても大切なことなのよ。あなたのように普段からオド
オドしていたら何も身につかないまま空っぽの大人になってしまうわ。
さあ勇気をもってお仕置きを受けてらっしゃしゃい」
 先生はこんなことを言ってお仕置きを逃げ回る子をいさめるのでした。
 世間の子にはこんなものはきっと求められないでしょうが、亀山では
『お仕置きを受ける勇気』というのも女の子とっての大事な資質だった
のです。

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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