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<第一章> 小暮男爵 §19 / 社子春たちのお仕置き /

小暮男爵/第一章

<<目次>>
§1 旅立ち         * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書   * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業?   * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子       * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸     * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事     * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校          * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて      * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き


***<< §19 >>*/社子春たちのお仕置き/**

 体育が終わると、次は今日最後の授業、社会科です。

 私たちの社会科はちょっと変わっていてマイクロバスに乗って
街や野山や港、時には山奥のダムなんかまで足を伸ばして授業が
行われます。要するに社会科見学なんですがその頻度が他の学校
に比べてとても多いのでした。

 そのため本来教室でやるような講義は、道中のマイクロバスの
中で済まして現地ではその後提出させられるレポートの情報収集。
帰りのバスの中では今日のまとめみたいな講義もありましたが、
大半は先生と一緒に歌を歌ったりお友だちとのおしゃべりしたり
と、まるでピクニック気分です。……かなりユニークでしょう。

 先週は二時間を使って街のコンビナートを見てまわり、教科書
にはない『公害』のことを知りました。
 実はこれ、公害の発生源を沢山持っているお父様たちにとって
はあまり語ってほしくないことなんだそうですが、大事なことだ
からと倉持先生が教えてくださったんです。

 それをおとといレポートにまとめて発表会をしたばかりです。
 ですから、今日は何をするのかな?と思っていたら……
 ま、予想はしてましたけど、単元テストでした。

 私たちの学校は一般の学校のように教科書の内容を先生が教室
で授業することが少なくて、特に理科や社会は大半が宿題として
家でやってこなければなりません。

 それで、そのことに不満を言うと……
 「そんなのたいして時間のかからないことだもの。家でやって、
学校でもやってたら時間の無駄でしょう。学校は学校でしかでき
ないことをやりましょうよ」
 倉持先生にはあっけらかんとそう言われてしまいます。

 ならば、教科書の内容は覚えなくてもいいのかというと……
 学校では教えないくせに、教科書の各単元ごとにテストはやる
んですよ。これが……。

 先生が教えない内容をテストだけするなんて手抜きもいいとこ。
理不尽だと思いませんか。でも、うちの学校ではこれが当たり前
なんです。

 おまけにこのテスト、80点未満だとお仕置きなんてことも。
 もっと理不尽なわけです。

 テストがあることはその子の家庭教師にもちゃんと伝えてあり
ますから、前日の夜はどの家庭でも家庭教師が試験範囲の単元を
子どもに勉強させることになります。

 このため、この単元テストで不合格点を取ってお仕置きされた
なんて話もあまり聞きませんが……それでも、そこは分別のない
小学生のこと。家庭教師と諍いを起こして匙を投げられたなんて
ことになると不合格ってこともあります。

 こうした場合、目上の人への反抗と不勉強というダブルパンチ
ですからね、学校でのお仕置きも土曜日の午後に居残りさせられ
たり日曜日に呼び出されたりしてトラウマになるほど相当きつい
ことをされます。
 
 当時、こうした居残りや日曜日の呼び出しを、『特別反省会』
と呼んでいましたが、実質的には『特別お仕置き会』です。

 私は、在学中に三度この会に呼ばれる憂き目に遭いましたが、
二度目、三度目は園長室のドアノブを握る手がぶるぶると震えて
うまく回せなかったいくらい怖いかったです。

 この会では周囲に他の子供たちがいませんし、先生方も心を鬼
にして取り組みますから、子ども相手でも情け容赦がありません。
 ですから、いくらおしゃべりな私でもこの時の顛末をお友だち
に事後報告する気にはなれませんでした。


 さて、それはともかく、授業が終われば、教室をお掃除して、
ホームルーム。それが終われば、また、あのポンコツリンカーン
に乗って帰るというのが普通の日課でした。

 最近は小学校でも部活が盛んだと聞いていますが、私の通って
いた頃の小学校は、学芸会や体育祭、文化祭など個別の催し物に
関する準備で居残ることはあっても部活での居残りはありません
でした。
 ただ、前に述べたように、お父様が半地下になったあの部屋で
個別に習い事をさせることがありましたから、その場合は、下校
時間がずれます。

 いずれにしても、下校する時は園長室に立ち寄って、園長先生
に『ごきげんよう(さようなら)』を言って帰るのがこの学校の
しきたりになっています。

 すると、園長先生もお別れに来た生徒をただ帰したりしません。
一人一人を抱きしめると……
 「今日の単元テスト100点だったそうね。がんばったわね。
もう、ここにお仕置きで呼ばれることはないわね」とか……
 「今日、主催者の方からご連絡があって、あなたが出品した絵
がまた入選したそうよ。これで三回連続かしらね」とか……
 「あなたお掃除がとっても上手なのね。あなたがお掃除すると、
教室が見違えるほど綺麗になるって牧田先生おっしゃってたわ」
 など……ネタは色々ですが、とにかく生徒が喜びそうなことを
見つけては褒めてくれるのでした。

 チビちゃんたちと上級生では掃除時間の関係で下校時間に微妙
なずれがありますし、何といってもここは全校生徒が50名程度、
の小規模な学校。他の学校なら一クラス分でしかありませんから、
こんな細やかな対応ができるのでした。

 ところが、そんな麗しいお別れの儀式がこの日に限ってはあり
ませんでした。
 
 下級生たちは順調に下校したのですが、上級生、それも五年生
と六年生のクラスが、ホームルームが終わった後も教室から出る
ことを許されなかったのです。

 こんな時は、誰からともなくヒソヒソ話が始まります。
 「ねえ、何かしら?」
 「良いことじゃないわよね、絶対」
 「叱られるってこと?」
 「たぶんね」
 
 「やだなあ、私たち何かしたっけ?」
 「何言ってるの。体育で広志君、むくれちゃったじゃないの」
 「だってあれは広志君が悪いんでしょう?私たち悪くないもの」

 「そうはいかないわよ。体育の授業を混乱させた連帯責任とか
言われるんじゃないの?」
 「レンタイセキニン?何よそれ。私たち関係ないでしょう!?」
 「そうでもないわよ。麗華ちゃんなんか、『ピルエットも回れ
ないのにあんた生意気よ』とかなんとか言わなかった?」
 「えっ!?あたし?……あたしなの?……だって、あれは……
みんな言ってたから……つい……」

 『ひょっとして、お仕置き?』
 そんな恐怖がふと女の子たちの頭をの中をよぎります。

 園長先生は滅多にお仕置きに参加なさいませんが……それは、
過去においてもゼロということではありませんでした。

 重苦しい空気が流れるなか、園長室に呼ばれていた小宮先生が
帰っていらっしゃいました。

 「え~と、今日これから習い事に行く予定の子はいますか?」

 先生は、最初私たちにそう尋ねて、私たちの中にそうした子が
いない事を確認します。

 「……それでは、そうした予定はないようですから……」
 私はこの瞬間、小宮先生がふっと寂しい顔をなさったようで、
気になりました。これって、根拠のない女の子の感なんですが、
私の感はたいてい当たってしまうのでした。

 「実は、園長先生があなたたちとお話がしたいそうですから、
これからみんなで園長室へまいります」

 先生は取り立てて何の説明もしません。その後は表情も変えず
私たちを園長室へ連れて行きます。
 でも、私は何か特別な事情があると睨んでいました。


 園長室、そこは日当たりの良い8畳ほどの洋室。厚いペルシャ
絨毯が敷かれ先生が執務するための大きな事務机がありますが、
そのほかの家具は、生徒を抱っこするためのソファや大きな花瓶、
それにクラシックな書棚くらいでしょうか、ちなみにその書棚の
引き出しには、良い子へのご褒美としてお菓子がストックされて
いました。

 {お菓子?}

 そう、お菓子です。駄菓子ですけど……私たち、駄菓子屋さん
に寄る機会がありませんから、その代わりなんです。お父様たち
が『これも経験だから』と始めたんだそうです。

 {ちょっと変じゃないですか?}

 変じゃないですよ。うちでは園長先生がご褒美としてお菓子や
オモチャを渡すのは日常の風景なんです。
 お父様がおっしゃるにはご褒美ってその物の価値以上に励みに
なりますから子供には大切なんだそうです。

 但し、それは家に帰りつくまで封を切ることができませんから、
結局、『買い食いの醍醐味を味わう』というのというところまで
はいきませんでした。

 幼い頃の私たちは朝夕二回必ず園長先生に抱かれ、下校時には
小さなお土産までもらって帰って来たというわけです。
 つまり、園長先生って、立場は校長先生でも私たちにとっては
おばあちゃんといった存在に近かったのかもしれません。

 一般の人たちから見れば学校の先生が何もそんなことまでって
思うかもしれませんが私たちには初めから親類縁者がいません。
甘えられる人がいないのです。そこで、家庭教師と担任の先生が
お母さんの代わりを、園長先生がお婆ちゃんの代わりをしてくれ
ていたのでした。

 もちろん、そう取り計らったのはお父様たち。
 この学校が同じ境遇の少人数の子供たちだけで構成されている
のも、ここが単に知識を学ぶ場だけでなく家庭としても機能する
ようにとの思惑があったからなのです。

 では、なぜ、そんな巨費を投じてまで私たちを優遇してくれた
のかというと、そこにはお父様たちなりの計算もあるのですが、
それについては小学生の私たちはまったく与り知らぬことでした。

 今は、とにかく全員が緊張して園長室へとやってきます。
 すると、ドアが閉まっていました。

 『どうして今日はドアが閉まってるんだろう?』
 嫌な感じです。また不安になります。

 えっ、園長室のドアが閉まっていて当たり前じゃないですか?

 いえ、違うんです。
 うちの場合、子どもたちがお別れの挨拶に立ち寄りますから、
どんなに寒い日でもこの時間はドアが必ず開いていたのです。
 それが閉まっているというのは、それだけでも、『何かある』
と思えるのでした。

 「小宮です。よろしいでしょうか?」
 小宮先生がノックすると……

 「小宮先生ね、どうぞ入ってらして……」
 という声がします。
 そこで、ぞろぞろと部屋の中へ入っていくと……
 「わあ、いらっしゃい。……みんな、一緒に来てくれたのね。
さあ、入ってちょうだい」

 私たちの前にいる園長先生はいつもと変わらない笑顔でした。

 園長先生が事務机に座り、小宮先生がその脇に立って、私たち
は園長先生の前に並びます。これが私たちの定位置。小宮先生に
手を引かれ園長室で叱られる時もこれが定位置でした。

 『何となく嫌な感じだなあ』
 と思っていると、全員が揃ったのを確認して園長先生がやおら
お話しを始めます。

 「実はね……このところの、あなたたちのクラスの様子が気に
なっていたの。それで記録を調べてみたら先々週は由美子ちゃん
と詩織ちゃんが大喧嘩してるし、先週は単元テストで合計7回も
不合格者が出たでしょう。それぞれ不合格を取った人は違うけど、
ああした業者テストは、ひねった難しい問題なんかないんだもの、
ちゃんと宿題さえやっていたら誰でもちゃんと100点が取れる
仕組みになってるのよ。それができないっていうことはちゃんと
宿題をやってこなかったからだわよね。……そうじゃなくて……
麗華ちゃん。……違うかしら……里香ちゃん……」

 園長先生の問いかけに二人は俯いてしまいます。

 「今週もあったでしょう。お掃除の時間に雑巾を投げ合って、
お隣りでまだ授業されていた牧田先生に叱られたの。……あれは、
誰だっけ?……それに、今日は美咲ちゃんと広志君がフェンスの
外へ突き抜けちゃうんだもの。これじゃあ小宮先生も心の休まる
暇がないわね」

 園長先生はこのほかにも色々とここしばらくの私たちの悪事や
怠け癖なんかを並べ立てます。
 私なんか疾の昔に忘れていることなのによく覚えているもんだ
と感心してしまいます。

 結局、六人のうちそこに登場しない子は一人もいませんでした。
 一言で言ってしまうと『あなたたち、たるんでるわよ』という
わけです。

 ただ、だからと言って、今回私たちがお尻の心配をする必要は
ありませんでした。
 というのは……

 「そこで、もう少しあなた方をしっかりと指導していただこう
と思って、今回は小宮先生に私のお仕置きを受けてもらうことに
したの」

 『ぎょっ!』
 みんなそれを聞いた時は驚きます。
 目が点になってしまいました。

 「そんなあ~~」
 由美子ちゃんだけが思わず声を上げますが、でも、気持は他の
五人も同じでした。

 『えっ、また?』
 でも、私、しばらくして思い出したんですよ。
 いえね、他の五人だって追々思い出すとは思うんですが。

 実は今から3年前、私たちが小2の頃です。同じようなことが
あったんです。

 『私たちのせいで小宮先生が園長先生からお仕置きされる』
 そう聞かされた時は幼いせいもあって今以上にショックでした。

 『どうしよう』『どうしよう』『どうしよう』『どうしよう』
 『どうしよう』『どうしよう』

 六人が六人とも同じ気持です。でも、女の子って、こんな時は
からっきし意気地がありません。
 『先生は助けたい。でも、自分はぶたれたくない』
 というわけです。

 そんな中、この時は麗華ちゃんがジャンヌダルクでした。

 彼女は園長先生に泣きながら、『私がお仕置きをうけますから、
小宮先生を許してください』と直訴したんです。

 すると、園長先生も小宮先生もふき出しちゃって……
 でも、二人とも、とても嬉しそうに笑っていました。

 麗華ちゃんは園長先生に抱っこされ泣き止むまであやされます。

 結局、その日、子どもたちは誰一人ぶたれませんでしたし小宮
先生も無事だったんですが、それって、残りの五人にしてみると
気持は複雑でした。

 『これって、先生方が私たちを試したんだろうか?……もし、
そうなら、麗華ちゃん以外の私たちって自分勝手で薄情な子ども
って見られちゃったんじゃないだろうか………』
 そんな疑念が頭の中から離れませんでした。

 今回だって事情は同じです。
 ですから『誰かが手を上げたら八方丸く収まるんじゃないか』
と思って、お互いの顔を見合わせるのですが……
 『ならば、私が……』なんて名乗り出る子はいません。

 前回、名乗り出てくれた麗華ちゃんも今回は下を向いてしまい
ます。

 小2から小5。その間に私たちも随分大人になっていました。
一時の感情に流されず多くの事が理性で判断できるようになって
いましたから。

 でも、それって裏を返せば、ずるくなってるってことなのかも
しれません。
 お互い顔を見合わせるだけで、いっこうにらちがあきませんで
した。

 そのうち、園長先生が……
 「……それでね、今日はあなたたちには小宮先生のお仕置きを
お手伝して欲しいと思ってここへ呼んだのよ。やっていただける
かしら?」

 ここでまた、私たち六人はお互いに顔を見合わせることになり
ます。

 しばしの沈黙のあと、詩織ちゃんが尋ねます。
 「私たち、何をすればいいんですか?」

 すると、園長先生は……
 「あら、詩織ちゃんやってくれるの?簡単なことよ。これから
私が小宮先生のお尻をこのおしゃもじみたいな形をしたパドルで
100回叩くから、あなたたちは先生が懲罰台から逃げ出さない
ように両手と両足をしっかり押さえてくれていればいいの。……
簡単でしょう」

 園長先生は笑っていますが、私たちにとって事はそう簡単では
ありませんでした。

 だって、小宮先生というのはこの学校に入学以来ずっと私たち
の担任の先生。うちはその先生が学校を辞めない限り、入学から
卒業までずっと同じクラスを受け持つ決まりになっていました。

 たしかにいつもラブラブだってわけじゃありません。反発して
口をきかなくなったこともありますし恥ずかしいお仕置きだって
一度や二度じゃありませんけど、それでも小宮先生は、私たちに
とっては学校でのお母さんなんです。

 そのお母さんが、目の前でお尻をぶたれようとしているのに、
それを手伝うなんて簡単に応じられることではありませんでした。

 とうとうと言うか、仕方なくというか、やけっぱちというか、
そのあたり明確な理由はありませんけど、私が口を開きます。
 何の因果かこの時私は学級委員をしていたのです。
 その責任が後押ししたみたいなものでした。

 「園長先生、私が代わりにお尻をぶたれたら小宮先生は許して
もらえますか」
 私の場合は、麗華ちゃんみたいに激情型ではありません。仕方
なく、本当に仕方なくですから声は絞り出すようにしかでません
でした。

 「あら、美咲ちゃんが代わりになるの。級長さんともなると、
色々と大変ね」
 園長先生は、苦りきった私の顔を微笑ましく観察しながらも、
どこかからかい半分です。
 もちろん、私のお腹の中などとっくにご存知でした。

 「せっかくだけど、その心配はいらないわ。だってあなたたち
はその時その時ですでにお仕置きを受けてるもの。『罰を受けた
ら、それでおしまい』それがここのルールでしょう。せっかく、
良い子に戻ってるのに、また罰を受ける必要なんてないわ。……
これは先生と小宮先生の問題なのよ」

 「……でも、それだと……小宮先生が可哀想だから……」
 歯切れの悪い言葉で反論してみると……

 「大丈夫よ。小宮先生は大人だもの。あなたたちに比べれば、
身体もしっかりしてらっしゃるから、こんなおばあちゃんの鞭で
音を上げることなんかないはずよ」
 園長先生は取りあってくれません。

 そればかりか……
 「小宮先生、あなた幸せ者ね。こんなやさしい生徒に囲まれて
……私を悪者にして……羨ましい限りだわ」
 こう言って茶化します。

 そして約束通り、小宮先生は普段なら子どもたちがうつ伏せに
なるはずの懲罰台(といってもそれは単なる古い机なんですが)
に身をかがめます。
 これを出してあるからさっきドアを閉めていたのでした。

 結局、私たちは園長先生の指示通り動くしかありませんでした。

 私が先生の右手を、由美子ちゃんが左手を握ります。後ろでは、
里香ちゃんが右足を、詩織ちゃんが左足を押さえます。
 そして、麗華ちゃんと広志君が捲りあげたフリルのスカートが
落ちてこないように持っている係りでした。

 実は、小宮先生、普段はタイトなスカートを穿いていることが
多いのですがこの日のことはあらかじめ決まっていたのでしょう。
突風に煽られたら捲れあがりそうなフリフリのスカートをはいて
いました。

 先生は大人ですから、さすがにパンツまで脱げとはおっしゃい
ませんが、それでも、薄いショーツ一枚では豊満なヒップライン
は隠せません。

 私たちは否応無しにそれを目にします。広志君は、頬をぽっと
赤くしたみたいでした。

 そんな広志君の脇に立つ園長先生は見上げるような巨人です。
これは園長先生の身体が単に大きいというだけでなく、私たちが
全員腰を落として低く身構えていますから、先生がそこに現れる
と、私たちからはまるで赤鬼が立っているように見えるのでした。

 園長先生は、決して怖い顔をしているわけではありませんが、
迫力は十分です。

 「さあ、みんなさんにご注意よ。しっかり聞いてちょうだいね。
いいこと、お仕置きの最中はみんなその場を動かないでください。
下手に動くとこのパドルが当たってしまって危ないですからね。
どうしても動きたい時は手を上げずに私に声をかけてちょうだい。
……いいですね。」
 園長先生はそう言って子供たちに注意を促したあと小宮先生に
対しても……

 「いいこと、あなたもそうよ。あなたが動くと、子どもたちに
危険が及びますからね、そこは十分に注意してちょうだい」
 小宮先生の耳元でこう囁いてから……。

 「さあ、いきますよ」
 園長先生はまず最初の一撃を振り下ろします。

 「パシッ」
 園長先生を振り下ろしたパドルが鈍い音を立てました。

 「一つ、園長先生、お仕置きありがとうございます」
 小宮先生はこう答えます。

 これは私たちの学校でのしきたりみたいなもので、園長室での
お尻叩きは、ぶたれるたびに一つ二つと数を数えていき、最後に
ありがとうございましたと付け加えます。

 もちろん、通常は子供が言うわけですが、先生の場合も例外は
認められていないみたいでした。

 いずれにしてもこれを延々百回もやるわけですから、それだけ
でも大変です。

 ただ、その一回一回にご挨拶をしなければならないお尻叩きは、
鞭の威力がそんなに強くありません。
 最初の頃は痛みの蓄積もありませんから、本当なら小宮先生も
鼻歌交じりのはずですが、教え子の手前、そして園長先生の手前
楽そうな顔もできませんでした。
 そこで真剣な面持ちで罰を受け続けます。

 ただ、20回30回と進むうち、その顔にも変化が……。
 真剣な顔というより、苦痛に満ちた歪んだ顔になるのです。

 園長先生の振り下ろす鞭の勢いが変化したわけではありません。
一つ一つの衝撃は小さくてもそれが数を重ねるごとにお尻の奥に
痛みが蓄積されていきますから、重苦しい息が詰まるような鈍痛
が、徐々にひどくなっていくのでした。

 ですから最初は鼻歌まじりで応じられていても、この頃になる
と、お尻をさすりたくて仕方がなくなります。
 
 そして40回、50回ともなると、たとえ軽くぶたれていても
その衝撃は思いっきりぶたれたのと変わらなくなり……

 「あっ、いや」

 決して嬉しいことではないはずなのに思わずよがり声のような
ものが漏れるようになるのでした。

 つまり、こうなってからが、お尻叩きは本当のお仕置きでした。

 「あっ、いや、だめ」

 最初は三回に一回ぐらいで出ていたよがり声が、二回に一回と
なり、やがて60回を越えるあたりでは毎回聞こえるようになり
ます。

 でも、そうなると、私のハートもまたチクチクと痛むことに。
小宮先生の苦痛は、まだ耐えられる段階なのかもしれませんが、
その声を聞くだびに良心がチクチクします。
 先生へのお仕置きの原因が私たちにあることへの罪悪感でした。

 「あっ、あああああ」

 園長先生の鞭が小宮先生のお尻をとらえるたびに小さなうめき
声が私の耳元で反響します。
 私はそのたび『どうしよう』『どうしよう』とそればかり思う
ようになるのでした。

 そんな時です。
 「みんなも同じ姿勢のままでは大変でしょう。ちょっと、休憩
しましょうか」

 それまで一度も休まなかった園長先生が、ここで休憩を入れて
くださったのです。
 今までが70発。残りがちょうど30発というところでした。

 すると、ここで私が口を開きます。
 それって今考えても、『どうして私そんなことしたんだろう?』
と思うようなことなのですが……。

 「園長先生、小宮先生のお仕置き、私たちが代わってあげられ
ないでしょうか?」

 恐らく小宮先生の激しい息遣いに後先考えずに言ってしまった
んだと思います。おまけに……

 「残り30回を五人で分けて、一人6回で……」

 私は笑顔で園長先生と交渉します。
 もちろんお友だちに『こうしよう』だなん相談したことはあり
ません。全ては私の独断なのです。

 すると、園長先生、しばし思いをめぐらしているご様子でした
が、笑顔になって、まず、私以外の子供たちに尋ねます。

 「ねえ麗華ちゃん。学級委員さんがあんなことおっしゃってる
けど、あなたはそれでいいのかしら?」

 「えっ、それは……」
 麗華ちゃん、いきなりの質問に、当然のように戸惑います。

 でも、考えた末の答えは……
 「はい、大丈夫です」
 でした。

 園長先生は次々に子供たちに尋ねてまわります。
 もちろん、みんな思わぬ質問で最初はどぎまぎですが、やがて
出てくる答えはどの子もイエスでした。

 みんな私のわがままを受け入れてくれたんです。

 「そう、それじゃあ、そうしましょうか」
 園長先生は応じてくれますが、懲罰台から開放された小宮先生
の方がむしろ浮かない顔でした。

 「あなたたち、気持は嬉しいけど、やめなさい。園長先生の鞭
は痛いのよ」

 小宮先生はそうおっしゃいましたが、もうそれは覚悟の上です。
他の子の中には話の流れの中でやむを得ずお付き合いしてしまっ
たという子だっていたはずですが、私は小宮先生の苦しそうな息
に耐えられなくなっていたのでした。

 ところが、私たちへの罰は、懲罰台ではありませんでした。

 私たちは、園長先生が執務する大きな事務机の前に一列に並ば
されます。

 そして、まず私から……

 「美咲ちゃん、スカートを上げて……」

 私がスカートを上げると、問答無用でショーツが引き下ろされ
ます。
 あっという間の出来事。恥ずかしいも、嫌も応もありませんで
した。

 「前かがみになるの。……そうよ、私にしっかりお尻を見せて
ちょうだい」
 お仕置きですから園長先生の声もいつもより厳しい声ですが、
仕方ありません。

 もう、そのあとは……
 「ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、」
 立て続けに5回、パドルでお尻をぶたれました。

 「次は麗華ちゃんね。スカートを上げてちょうだい……あっ、
美咲ちゃん、あなたはまだスカートを下ろすの早いわよ」

 園長先生は私がスカートの裾を下ろすことを認めませんでした。

 「ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッ、」
 
 麗華ちゃんもゴム製パドルでのお仕置きは同じです。
 そして、お仕置きのあと、スカートの裾をそのまま持ち上げて
いなければならないのも同じでした。

 「次、由美子ちゃん」

 こうして園長先生は次から次に子どもたちのお尻を叩いていき、
六人のお尻叩きが終わると、そこに下半身丸出しの六人が並ぶ事
になります。

 「どう?お尻は痛かった?」

 園長先生は私たちに尋ねますが……
 「………………」
 それに答える子はいませんでした。

 いえ、五回ぶたれましたけど、痛みはそれほどでもないのです。
ただ、この姿が悲しくて答える気にはなれないのです。

 女の子って気が小さくて猜疑心の強いところがありますからね、
『何だか、かえってまずいことしちゃったのかな』とか『まだ、
何かお仕置きされるのかなあ』とか思っちゃうんです。

 「お尻、あまり痛くなかったでしょう?少し遠慮したからよ。
あなたたちが、こんなにも強く小宮先生のことを慕ってるなんて
思わなかったからびっくりしたわ」

 「それって、よかったんですか?」
 由美子ちゃんが尋ねます。

 「もちろんよ。ごく幼い時と違ってある程度分別がついてから
そうした決断をするには相当な勇気が必要だわ。あなた方は偉い
なって思ったの。そんな社子春みたいな子、本気でぶてないもの。
ただね、あなたたちもいったんは小宮先生の罰を肩代わりすると
言ったんだから、その約束は最後まで果たさなければならないわ。
だから強くぶたれない代わりにしばらくそうやって立ってなさい」

 『え~~、そっちの方がきついよ~~』
 私は思いましたが、仕方がありません。

 女の子はこのあと引き上げたスカートの裾がピンで留められ、
男の子は半ズボンとパンツが足首まで引き下ろされて、それぞれ
恥ずかしい姿のまま10分ほど壁に向かって立たされます。

 今、こんなことやったらきっと警察沙汰でしょうけど、でも、
当時、私たちの学校ではこうしたこともそう珍しいことではあり
ませんでした。

 チャイルドポルノなんて言葉がまだ一般的ではなかった時代。
小学生の下半身なんて人畜無害と考えられていましたから、親や
教師が子どもを晒しものにして罰する見せしめ刑もそれはそれで
立派にお仕置きとして成立していたのです。

 もちろん、晒し者になってるこちらはとっても恥ずかしかった
わけですが、お仕置きという大義名分のもと、大人たちは子ども
の羞恥心にはとんと無頓着、というか無頓着を装っていました。

 むしろ、園長先生はこの姿を見て……
 「可愛いじゃないですか、小宮先生。この頃が無邪気で穢れが
なくて、それでいて扱いやすくて、一番いい時期ね。だから昔は、
新米教師が入ってくると、まずは4年生5年生の担任をやらせた
ものなのよ」

 「そうなんですか」

 「あなたは考えすぎなの。こんなに良い子たちが、あなたから
離れたり、裏切ったりするものですか」

 「ほんと、私もそう思いました」

 「こんな天使たちを直接指導できるなんて、羨ましくてよ」

 二人のこの会話が何を意味するのか、幼い私にはその時はまだ
よくわかりませんでしたが、今はわかります。
 どうやらこの催し、園長先生が小宮先生に自信を持たせようと
企画されたものだったみたいです。でもそう考えると、私もほん
のちょっぴりですがお手伝いできたみたいでした。


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<第一章> §20 / 六年生へのお仕置き /

小暮男爵 / 第一章

***<< §20 >>**/六年生へのお仕置き/**

 長い長い園長先生へのお別れのご挨拶がすんで部屋を出ると、
そこにはすでに六年生の子供たちが待っていました。

 私たちと同じように六人の子どもたちを担任の栗山先生が引率
していらっしゃいましたが、こちらのご用は、おそらく社子春と
いうことではないみたいです。
 だって、栗山先生、タイトスカートでしたから……。

 私はその中にいた遥お姉様と笑顔でご挨拶。
 相手もこの時は笑顔でしたが、その顔はすでに引きつっていて、
無理に笑おうとしているのが子供の私にもよく分かります。
 そのあたり女の子は相手の表情を敏感に感じ取るものなのです。

 『お姉様たち、やっぱり、あれで呼ばれたのよね』
 私は思います。あれというのは自習時間に起きた乱痴気騒ぎ。

 あれは昼休み、お父様たちによってお仕置き済みなはずですが、
それはあくまで家庭での事。彼女たちに対する学校でのお仕置き
はまだ済んでいません。それが、これからここで行われる。私は
そう読んだのでした。

 すると、とたんに何だか楽しい想像がいくつも頭に浮かびます。

 リンゴと同じくらい真っ赤になるまでお尻を叩かれ、失神寸前
までお浣腸のウンチを我慢して、歯が折れそうになほど熱いお灸
に耐えます。
 その様子が走馬灯のように頭のなかを駆け巡るのです。

 『うっふ……うっふふ……ふふふふふ』
 悪魔チックな妄想が一つ一つが私の頭を掠めるたびに私の頬を
緩めていきます。

 園長先生や小宮先生、いえ、他の多くの先生方が私たちのこと
をまるで天使のようだなんておだてますがこれは真っ赤な嘘です。
生身の私たちは人の不幸が三度のごはんより大好きな悪魔の心を
持ついけない少女たち。
 ただ、それを滅多に顔の外に出さないだけでした。

 ところが不覚にもそんなにやけた顔をした瞬間、誰が私の肩を
叩きます。
 「五年生のご用はもうすんだの?」

 振り返ると、河合先生が立っていました。

 「あっ……はい」
 全身の毛穴が開き顔面蒼白でのご返事。

 もちろん、河合先生に私の心の内が読めるはずありませんが、
それでもその顔は一瞬にして青ざめてしまいました。

 「遅くなればマイクロバスで送ってもらえるでしょうけど……
遥ちゃんと一緒に帰る?」

 「はい、そうします。ちょっとだけ心配だから……」

 これも嘘です。
 本当は、お尻をぶたれて泣き顔で出てくる遥お姉ちゃんが見て
みたかっただけでした。

 「そう、それじゃあ食堂でチョコレートパフェでも食べようか」

 「やったあ~~」
 河合先生のお勧(すす)めにテンションが上がります。
 こちらちらはもちろん本物の笑顔でした。


 放課後の食堂。一般の学校ならランチが済めばもう用はありま
せんから調理のおばさんたちも食器を洗ってすでに帰宅している
頃かもしれませんが、ここは学校の先生だけでなく、家庭教師や
お父様方、臨時の先生たち、OB、OGなど色んな方が利用され
ますから午後も軽食や喫茶をやっています。

 子供たちだって大人が注文してくれれば飲食ができます。
 チョコレートパフェは当時の私たちにしてみたら十分なご馳走
でした。

 そのパフェを頬張りながら、私はぼやきます。
 「今日、園長先生に何されたと思う?」

 「何って……お仕置き?」

 「そう、スカート上げて、パンツまで下げさせられて、全~部
丸見えだったんだから。……その格好で10分よ。10分も立た
されたんだから。……あの人、絶対、変よ。……ヘンタイ……」

 私はチョコレートパフェのせいでテンションが上がりっぱなし。
四方のテーブルみんなに聞こえるような大きな声で自分が下半身
を裸にさせられた話を叫んでいたのでした。

 河合先生は、犬のような食べっぷりでパフェを頬張る私から、
園長室での出来事を順を追って尋ねていきます。

 「…………なるほど、そういうことだったの」

 パフェがきいたのか、私は密室での出来事を洗いざらいぶちま
けますが、それはやがて今日の出来事を離れて、普段の生活での
不満にまで及ぶことになるのでした。

 「だいたい、うちはなぜ月に1度身体検査があるの。あんなの
年に一回やれば十分よ。それも校医の黒川先生の前でお股開いて
あそこまで見せるなんて。だいだい黒川先生もヘンタイなのよ。
いつも嬉しそうにニヤニヤしながらアソコ触ってくるんだもん。
いやらしいったらないわ」

 と、そこまで絶叫した時でした。
 聞きなれた声が耳元でします。

 「誰が変態なんだい?」

 「あっ、お父様」
 私は思わず『やばっ』と思いましたが手遅れでした。

 ちなみに、『お父様』とか『お姉様』とかいう仰々しい言葉が
気になってる方がいるみたいなんで断っておきますが、これって
特別相手を敬ってそう言ってるんじゃないんです。『お父様』は
私たちにとっては単なる名詞。ごく幼い頃に、「この人のことは
『お父様』と呼びなさい」「この人はあなたの『お姉様』ですよ」
って教えられたから、未だにそう呼んでるだけなんです。

 そのお父様が……
 「いったい誰が変態なんだい?」
 って、大きな顔をパフェのそばへ寄せてきます。

 「いえ、それは……えっと……」
 私は一瞬息が詰まって心臓が喉から飛び出そうです。
 ここでは理由のいかに関わらず大人を批判することは禁じられ
ていますから、もうびっくりでした。

 河合先生の場合は日頃から『何でも私に打ち明けてちょうだい』
って姉御肌を見せていましたから心安いのですが、ここでは誰に
でもそうできるわけではありません。目に余るようなら、当然、
お仕置きでした。

 「美咲ちゃん、目上の人を軽々しく変態扱いしてはいけないよ。
ましてここは食堂、色んな人が近くにいるから大声で話をしたら
それだけで他の人たちに不快な思いにさせてしまうんだよ」

 「ごめんなさい」

 「君の場合はまだ世間も道理も知らない子供の立場なんだから、
まずは、目上の人の愛情を余すところなく受け入れるところから
はじめなきゃ。お父さんは、君に悪影響が及ぶような人とは接触
させていないつもりだ。園長先生も、小宮先生も、もちろん黒川
先生だって、君が批判できるような底の浅い人物ではないんだ。
わかるね?」

 「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
 私はお仕置きだけはまぬがれようと平謝りでした。

 「先生、どうしたんだね、美咲がだいぶ興奮してたみたいだが、
何かあったのかね」
 お父様は河合先生に事情を尋ねられます。

 「…………そういうことか」
 河合先生の説明をすっかり聞き終えると、お父様は『なるほど』
と納得なさったみたいでした。そして、こうおっしゃったのです。

 「美咲ちゃん、君も学級委員をやっていたからわかるだろう。
リーダーというのは孤独なんだよ。部下は自分のことを信頼して
くれているだろうか、自分は愛されているだろうかって、いつも
気になってるんだ。だからそれを確かめたいんだけど、上下関係
があるとまともに尋ねても下の者はなかなか本心を打ち明けくれ
ないからね、それで、勢いこんな方法をとるんだ」

 「こんな方法って?」

 「だって、今日はみんなで社子春をやったんだろう?」

 「トシシュン?」

 「知らないかね、社子春という名の仙人になりそこなった青年
のお話を……」

 お父様の言葉に私は頭をめぐらします。すると、昔読んだこと
のある童話がヒットしました。

 「君たちにとって小宮先生は単なる担任の先生じゃないんだ。
入学以来ずっと面倒をみてもらっているお母さんでもあるんだ。
だから、お母さんとしては、自分が子どもたちにお母さんと認め
られているだろうか、困った時この子たちは本当に助けてくれる
だろうかって、心配になるんだと思うよ。それを試したかったん
じゃないのかな」

 「私たちが先生を助けるの?」

 「そうだよ。困難であればあるほど下の者が一致団結して上の
人の指示に従って行動してくれないと、困難はのりきれないもの。
どんな時でもお母さんを助けてくれますか?って試しているのさ」

 「お母さんを助ける?…………それで、社子春…………じゃあ、
なぜ園長先生は私たちのパンツを脱がせたの?」

 「それは、君たちがまだこんなに小さな子供なんですよって、
小宮先生に見せつけるためだよ」

 「ん?……だって、私たち子供じゃない」
 私は意味が分かりませんでした。だって、私たちが子供なのは、
べつに裸にならなくても分かってるはずですから。

 「そりゃそうなんだけど、君たちくらいの年齢になると、世間
常識や分別はなくても知識だけは相当ついてくるから、大人の方
でもついつい煽られて子供を大人と同じように扱ってしまうこと
があるんだ。……でも、そうやって任せても、結局は気まぐれで
責任感のない対応に終始する事が多くて思うような結果がでない。
ストレスは溜まる一方ってわけさ。……そこで園長先生は原点に
戻って『ほら御覧なさい。この子たち、まだこんなに子供でしょ』
ってやったんじゃないのかな。ま、これはあくまで想像だけどね」

 「…………」

 「分からないか?ま、無理もない。大人になったらわかるよ。
……それにだ、周りにいたのはどうせ女の先生だけなんだし……
いいんじゃないのか、そのくらいは……」

 「そのくらいじゃないよ。乙女の純情を踏みにじられたのよ」
  私がむくれてみせると……

 「そうか、乙女の純情かあ~~、困ったな、それは……」
 お父さんは苦笑します。

 ですからてっきり私に同調していれたと思ったのですが……
 「……それじゃあ、お父さんも今夜あたりお家で美咲ちゃんの
その乙女の純情とやらを見せてもらおうかな」

 『冗談!?……でしょう?』
 お父様は冗談めかしにそう言ってのけますが、それって私たち
の世界にあっては現実の危機なのです。ありうることですから。
 ですから、私は慌てて河合先生の陰に隠れるのでした。


 1時間ほどして三人は遥お姉様を迎えに行きます。

 そこには私たち家族だけでなく他の家族もたくさんいました。
六家ではおおむね各学年に一人ずつの子供がいますから、各家の
お父様たちや家庭教師、加えて私のようなおせっかいな妹たちで
園長室のドアの前はごった返していました。

 「ねえねえ、ミーミ、聞いてよ。さっきまで凄かったんだから」
 「そうそう、もの凄い悲鳴があがってたの」
 「あれ、ケインじゃない。風切る音が聞こえたから」
 「嘘おっしゃい。こんな厚いドアの外からそんな音が聞こえる
わけないでしょう」
 「聞こえました。私、ドアに耳を近づけてずっと聞いてたもん」
 「ばかねえ、ケインなんて私たち小学生には使わないわよ」
 「だって、壁に掛かってるでしょう」
 「あれは脅かしなの。実際には使わないの」
 「いいえ、使います」
 麗華ちゃんがむきになります。

 私が現れたとたん、ちょうど話を聞いてもらえる相手を探して
いたんでしょうね、クラスメイトたちから集中砲火です。

 でも、彼女たちが明かす、ドアの外からの諜報活動はこれだけ
ではありませんでした。

 「ねえ、中でお浣腸があったみたいよ。黒川先生入っていった
もん」
 「それだけじゃないの。中井先生まで呼ばれたんだから、……
きっとお灸よ」
 「すごいでしょう、トリプルのお仕置きだったみたいよ」
 詩織ちゃんは満面の笑み。
 どうやら悪魔の心を持つ少女は私だけではないみたいでした。

 そうやって、女の子たちがわいわい騒いでいるうちに、ドアが
開きます。

 すると、お友だちは自分のお姉様の顔を見つけて擦り寄ります。
すると先ほどまで笑顔から一変、その顔は深い同情心に包まれて
いました。
 どうやら女の子が天使なのは女の子として営業している時だけ
のようです。

 私も人だかりのなかで遥お姉様を探します。

 『あっ、いたいた』
 ドアから最後に出てきました。

 下唇を噛んで必死に泣き顔を見せないようにしているのがよく
分かります。

 「お姉様~~」
 私が軽い感じで呼びかけると、気が着いて笑い返してきました。
 
 「大変だったね」
 私はねぎらいのつもりで言ったんですが……
 「大したことじゃないわ」
 首を振って前髪を跳ね上げます。いつものお得意のポーズです。

 『無理しちゃってえ~』
 とは思いますが、そこがまた遥お姉様の良い所でもあります。

 ところが……
 「遥、大丈夫か?」
 お父様がそこへ現れたとたん、お姉様はお父様の胸の中で泣き
始めたのでした。

 「痛かった。先生、ひどいことするんだよ。こんなこと今まで
一度もされたことなかったのに……」
 私に対してなら絶対に出さない甘えた声が、大きな胸の中から
聞こえます。でも、これが女の子でした。

 「仕方がないじゃないか。お仕置きだもの。辛くないお仕置き
というのはないよ。それも年長になれば段々きつくなってくる。
身体が大きくなった子に幼稚園時代と同じことをやっても効果が
ないだろう。それは先生だって知ってることだ」

 「ねえ、お昼休みにお父様にやられたのとどっちが凄かったの?」
 私が不用意に尋ねると、お姉様はそれまで隠していた顔を私に
向けて睨みつけます。

 「…………」
 ですから、それ以上は聴けなくなってしまいました。

 お父様は、「食堂で少し休んでいこうか」と提案しましたが、
お姉様が「すぐに帰りたい」と言うので、そのままリンカーンに。

 自宅までの1時間近い道中、遥お姉様はその車内で自分の体を
両手で支えながら座っていました。いえ、なるだけお尻がシート
に着かないようにしていたわけですから、正確には立っていたと
言うべきかもしれません。

 ポンコツリンカーンのシートはすでに中のクッション材が飛び
出す始末でしたから、決して乗り心地のよいものではありません
が、それでもこんな姿で乗っているお姉様を見たのは初めて。
 何があったかは一目瞭然でした。

 そして、家に帰ったあとも……
 お姉様は私と一緒にお風呂に入ることを拒否します。
 普段そんなことをしたら「家族が多いのに、そんなわがままは
認められません。後の人に迷惑がかかるでしょう」って河合先生
に叱られるところですが、それも今日はありませんでした。

 「あなたは先に宿題をすませてらっしゃい」
 遥お姉様がお風呂の間、私は勉強部屋へ追いやられます。

 その時河合先生が普段より優しくお姉様に接しているのがよく
わかりました。
 きっと、お尻は出血していてもおかしくないくらい腫上がって
いるはずですから、そこを洗う時はとても神経を使っていたはず
です。そして、お姉様の愚痴も聞いてあげてたんだと思います。
お姉様のお風呂はいつもより長い時間がかかっていました。

 ちょうど宿題をすませた頃、私にお風呂の番が回ってきました。

 私は、お姉様のことについてお風呂の中で……
 「お尻真っ赤になってた?」
 「ずっと泣いてたでしょう?」
 「ねえ、みんな、お浣腸があったって言ってたけど、ホント?」
 「お灸もあったって……どこにすえられてた?」
 いくつも質問を繰り出しましたが、河合先生の答えは一つだけ。

 「知りません」

 でも、あまりにしつこく尋ねますから、私の身体を洗いながら
……
 「それはあなたに関係のないことでしょう。そういうことはね、
プライバシーと言って無理にこじ開けて中を見てはいけないもの
なの。あなたも自分がされたお仕置きを根掘り葉掘り尋ねられる
のは嫌でしょう。自分がされて嫌な事は他人にもしてもいけない。
習ったでしょう。確かにここのお仕置きはよそと比べても厳しい
けど、それは、ここが他所の何倍も大きな愛情に包まれてるから
できることなの。だから、遥ちゃんもどんなに厳しいお仕置きが
あってもそれを恨む事はないはずよ。あなただってそうでしょう。
お父様に厳しいお仕置きされたらお父様を恨む?」

 「それは……」
 私は返事に困ります。私だってその直後は確かに恨みますが、
お父様が相手だとすぐに忘れてしまうからでした。

 「でしょう、あなたの場合はまだまだお父様大好きだものね。
それはそれで幸せな時間だわ」

 最後はちょっぴり私を腐(くさ)します。
 でも、それは確かにそうでした。当時の私はまだまだ『お父様
ラブ』の時代。たとえたまにお仕置きがあったとしても、その後
それ以上のフォローがお父様から必ずありますから、お仕置きが
憎しみへと変わることはありませんでした。


 その日の夕食。
 遥お姉様の席はいつもの場所とは違っていました。

 普段は小学生同士私とおしゃべりしながら食事を取るのですが、
こんな時、お父様はご自分の席の隣にその子の席を用意させます。
罪を犯した子はその日お父様の隣りで食事しなければなりません
でした。

 それだけではありません、まずはその席の脇に立って、普段は
しないご挨拶を姉妹に向かって……

 「今日は、学校で自習の時間に騒ぎを起こしてお仕置きを頂き
ました。これからは良い子になりますから、お姉様、美咲ちゃん、
また今までどおり仲良くしてください。お願いします」

 頭をペコリとさげると姉妹みんなから拍手をもらいます。
 こんな拍手、嬉しくも晴れがましくも何でもありませんけど、
やらないわけにはいきませんでした。

 そしてもう一つ。
 『今日はご飯いらない』
 というわけにもはいかなかったのです。
 うちではご飯を食べるのは子供の権利というより義務でした。
病気以外では泣きながらでも食べさせられたのです。

 「さあ、座りなさい」
 お父様は遥お姉様に椅子を勧めますが、これも普段の椅子とは
違っていたんです。

 お尻の痛みを和らげる円形のクッションが座面に敷かれている
のはいいとして、問題はその椅子の形でした。
 それは、まるでレストランに置かれた幼児用の椅子のようで、
そこに座ると膝の上にバーが下ろされ簡単には脱出できないよう
になります。
 ちょっとした拘束椅子だったんです。

 問題はまだあります。
 その食事の仕方。これも尋常ではありませんでした。

 まず、隣りに座る河合先生が、親切にも胸元に大きな涎掛けを
掛けてくれるのですが、これは『あなたは今、幼児なんですよ』
という目印。ですから、食事そのものも、この時は一人で楽しむ
ことができませんでした。

 「あ~~ん」

 河合先生が一口ごと料理の乗ったスプーンを遥お姉様の口元へ
運びます。

 「ほら、遥ちゃん、あ~~~ん」
 時にはお父様も参加して二人で赤ちゃんごっこです。

 ですから、お姉様の仕事はそのスプーンをパクリとやるだけ。
 まるで離乳食を口元へ運んでもらって食べる幼児のようなもの
ですが、もちろんイヤイヤはできませんでした。

 お父様にしたら、『お前はまだ幼児と同レベルなんだぞ!』と
いう戒めだったのかもしれません。
 実際、プライドの高い遥お姉様は渋い顔でご飯をを食べていま
したから。

 ただ、私の場合、これはお仕置きになっていませんでした。

 普段からお父様ラブの私にしたらこんなのは大歓迎なんです。
喜んで赤ちゃんを引き受けて食べ物をこぼしたりミルクをわざと
口の周りに着けたりしてお父様の注意をひきつけます。
 ここぞとばかり甘えに甘えてむしろ本人はご満悦でした。

 実際そうやってみてもお父様が私を叱ったことが一度もありま
せんでしたから。
 はてさて、これってお仕置きなんでしょうか?疑問が残ります。


 さて、食事が済むと今度はそれぞれ自分の部屋に戻ってお勉強。

 普段なら河合先生が小学生二人の面倒を一緒にみるところなん
ですが、この日はあいにくとお姉様が厄日でしたから、お父様も
遥お姉様の応援に出かけます。

 これはお仕置きでショックを受けている遥お姉様を慰めるため、
あるいは叱咤激励するためでした。

 私の経験から言ってもこの時のお父様はとてもやさしくてお膝
に抱っこしてもらいながら、河合先生とマンツーマンで勉強する
ことになります。

 お父様の抱っこは子供にとっては格別の安心感で、よく居眠り
をしては叱られていました。

 お姉様だってその事情は同じだと思います。普段、私と一緒に
いる時は『私はあなたとは違うの、もう大人なの』ってな感じで
すましていますが、彼女にとってもお父様はいまだ特別な存在で
あるはずです。
 実際、二人きりの時、お姉様が幼い子のようにお父様に甘える
姿を何度も見ていました。

 一方、その夜の私はというと……こちらも一人で勉強していた
わけではありません。
 高校生の隆明お兄様と小百合お姉様が、私の面倒をみるように
とお父様から言いつかっていました。

 このお二人はそれぞれ高三と高二。小学生の私からみればもう
立派に大人です。ですから同じ兄弟姉妹といっても、同類とか、
ライバルといった関係ではありません。
 二人は、どちらかと言うと、お父さんお母さんといった感じで、
甘えん坊の私は勉強中も他の大人たちと同じように接して、この
二人にも甘えます。

 最初は、「ほら、甘えないの」って叱られますけど、めげずに
甘えていると、私も遥お姉様と同じように隆明お兄様のお膝の上
でノンノしてお勉強することが許されます。

 「やったー」
 私は問題を一つ解くたびに大はしゃぎ。でも、どんなに乱暴に
跳ね回ってもこの筋肉質の椅子はびくともしません。

 『これで、お姉様と一緒の条件でお勉強できるわ』
 そんな嬉しい思いもありました。

 ただ、勉強自体はノルマ制。一応2時間とはなっていますが、
時間がきたから終了ではありません。全ての課題が出来るまでは
この人間椅子からは開放してもらえませんでした。

 二時間半後、お父様が遥お姉様を連れて私の勉強部屋になって
いるお父様の書斎へと戻ってきます。

 「なんだ、そちらは、まだ終わっていないのか?」
 「いえ、こちらも、もうすぐ終わりますから」
 「大丈夫です。もう少しですから……」

 お兄様、お姉様が急に私を急がせて、ほどなく私の方も今日の
勉強が終了します。
 このあと、二人に残る仕事と言えば、お父様と一緒に寝るだけ
でした。

 私たちは、洗面所へ行って歯を磨くと、お父様の書斎に戻って
素っ裸の上にパジャマだけを身につけてお父様のベッドの中へ。
 素っ裸の時はお父様に見られることだってありますが気にした
ことはありませんでした。

 この時、二人は11歳と12歳。今の基準でならもう親と添い
寝する歳ではないのかもしれませんが、当時は小学校を卒業する
まで親と添い寝をしている子も、そう珍しくありませんでした。

 こんな時のお父様は愛情の大盤振る舞い。
 ベッドの中でも私たちの身体を触りまくります。

 頭をなでなで。
 ほっぺをすりすり。
 お背中トントン。
 お尻よしよし。
 お手々をモミモミ。
 あんよもモミモミ。
 果ては、オッパイの先を指の腹でスリスリしたり、お股の中に
手を入れたりもしますが、それも私たちはOKだったのです。

 私も遥お姉ちゃんも、お父様のコチョコチョ攻撃に大笑いして
身もだえます。

 こんなこと他の人なら絶対に許しませんけど、お父様の場合は
赤ちゃん時代からの習慣がそのまま残る形で、全てが特別だった
のです。

 こうして、ベッドインした三人の濃密な時間が過ぎていきます。

 お父様は、どんな罪でお仕置きされた場合も、それが終われば、
一定時間、私たちを最大限甘やかして、辛い心が癒されるように
配慮してくださっていました。
 ですから、これは強制ではありません。私たちが嫌がればなし
なのです。

 でも、私にしろ遥お姉様にしろ裸の自分をお父様の体に沈める
ことを嫌がったことは一度もありませんでした。

 こうしたベッドの中での秘め事は、私にとっても、遥お姉様に
とっても、それはそれは目くるめくひと時、今まで生きてきた中
で一番楽しい瞬間だったのです。


********<20>****<第1章・完>****

小暮男爵 <第一章> §18 / 天使たちのドッヂボール

小暮男爵 / 第一章

<<目次>>
§1 旅立ち         * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書   * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業?   * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子       * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸     * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事     * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校          * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて      * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き


**<< §18 >>*/天使たちのドッヂボール/**

 午後の最初の授業は体育。もともと一学年一クラスで六人しか
いない学校では何をやるにも人数が足りませんから体育の授業は
五六年生合同で行われていました。

 それでも十二名と少ないですけど、このくらいいればなんとか
ドッヂボールの試合くらい出来ます。
 うちは女の子中心の学校ですから、体育も普段はダンスばかり
やっていました。

 それが女性から男性に先生が代わって、球技もやりましょうと
いうことになり、最初はテニスやゴルフをやりましたが、もっと
子どもらしいことをというお父様たちの希望からドッヂボールを
始めることになったんです。

 大きな球を投げ合うなんて、これまでは一度も経験したことの
なった子供たちですから、前の二時間はひたすらその球を投げて
取ることの練習でした。

 二人で一組。お互いが山なりのボールを放っては相手にそれを
キャッチしてもらいます。
 最初はまったく取れませんでしたが、練習の甲斐あってゆるい
ボールならみんながなんとか取れるようになります。

 そこで『今日は試合をしてみましょう』ということになり先生
から教えていただいたルールも一応は覚えてはきたのですが……。


 試合は五年生と六年生の対抗戦。普段テニスコートとして使わ
れている場所に白線を引いてコートを作りました。
 六年生チームも五年生チームもお互い六人のうち四人が内野、
二人が外野で試合開始。

 みんな上級生ですしね、さぞや血湧き肉踊る熱戦が…と思った
方も多いでしょうが、私たちのドッヂボールでは血も湧きません
し肉も踊りませんでした。

 例えばこうです。一人の内野の子が、相手の内野の子めがけて
ボールを投げるとします。

 こんな時、普通は何も言わず運動神経のなさそうな子をめがけ
て投げるんだと思いますが、私たちの学校ではそれは違っていま
した。

 「これから投げま~~す。瑞穂お姉様、お願いしま~~~す」
 必ず、自分が投げる球をとっていただく方を指名して投げるの
です。

 もちろん、こんなルール教科書には書いてありません。先生が
こうしなさいともおっしゃっていません。
 でも、私たちがやり始めると自然にこうなるのでした。

 投げられたボールを瑞穂お姉様がキャッチすると、今度は……
 「美咲ちゃん取ってね~~」
 瑞穂お姉様がこちらの側の誰かを指名して投げ返してきます。

 そして、そのキャッチに失敗すると……
 「ごめんなさい」
 と言って、取り損ねた子は外野へ移るわけです。

 これ、一見すると他でやってるドッヂボールと同じように見え
るかもしれませんが、実は、外野へ回る子が謝ってる相手が違う
んです。

 彼女、味方に対して失敗してごめんなさいを言っているのでは
ありません。投げてくれた人に対して、『せっかく投げてくれた
のに、取れなくてごめんなさいね』って謝ってから外野に向かう
のでした。

 こうなると、普通は内野の数が減りますよね。
 ところが、ここが一番違うところなんですが、私たちのドッヂ
ボールでは内野の数は減らないんです。

 どうしてかというと……
 相手方のリーダー、この場合は瑞穂お姉様が、「じゃあ、次は
里香ちゃん。入ってえ~~」というふうに、今、外野をやってる
相手側の子を指名して、外野へ回る子の代わりにその子を内野へ
入れちゃうんです。

 ですから、内野4と外野2という数はいつも同じでした。

 もちろんこんなこと、どこのルールブックにも載っていません。
いませんけど、私たちの世界ではお友だちが内野にいなくなるの
は寂しいんです。みんながボールに触れるようにしたいんです。
 すると、自然にこうなります。

 私たちだけのローカルルールなんですが、でも、このやり方に
反対する子は誰もいませんでした。
 『教わったルールには書いてないけど、こうしましょうね』と
お互いが申し合わせることすらありませんでした。
 だって、この方が私たちにとって気持ちよいことだったんです
から。

 当然、試合終了で人数を数えてみても差なんてありませんから、
試合はいつも引き分け。勝ち負けなんてつきません。
 でも、それがよかったんです。

 ローカルルールはまだあります。
 外野にいる子は相手の内野の子に球をぶつけたりはしません。

 ひたすら遠くへ飛んでいったボールを拾ってくるだけの球拾い。
そして……
 「これ、どうぞ」
 と言って取ってきたボールを相手の内野に手渡すだけが外野の
仕事でした。

 すると、今度はボールをもらった相手側が……
 「ありがとう。次は、あなたを指名してあげるからね」
 と、こうなります。
 外野に行っても仲間はずれはありませんでした。

 幼い頃からお父様や先生に『仲良し』『仲良し』で育てられた
私たちには、そもそも仲良しのお友だちがその時だけ敵になると
いう現実が、どうにも理解できなかったのでした。

 ですから、無理に勝ち負けを決めてみてもそのことに満足感が
ありません。勝ってしまうと、何だか相手に悪いことをしたよう
で、とても心持が悪くて困ります。
 ですから、結果はいつも引き分け。それでよかったのでした。

 上手で投げた球を受けられない子には、前に来てもらって下手
で投げます。大事なことは相手がミスするのを喜ぶんじゃなくて、
逆に、取れるような球を投げてあげること。お友だちから投げて
もらった球をちゃんとキャッチしてあげること。
 このキャッチボールこそが大事でした。

 ですから内野全員がキャッチできると、もうそれだけで大きな
歓声があがります。それが私たちにとっては最高の満足なのです
から。


 そんな私たちのドッヂボールで、実はこの日、ある事件が起き
ます。

 内野にいた広志君。覚えてらっしゃいますか?そうフェンスの
破れたのをいいことに校外へ出て谷底まで降りて行ったあの子。
私と一緒に先生からお尻をぶたれたあの子です。

 その子が、相手の内野だった留美お姉様が後ろに下がろうした
瞬間、転んでしまったのを見て……
 「留美お姉ちゃま、取って~~」
 そう言って持っていたボールを高~~く放り投げたのでした。

 前に投げたのと違い狙って狙えるものではありませんが、不幸
にも高く上がったボールが加速度をつけてお姉様の頭に当たって
しまいます。

 「きゃあ」
 ボールは大きく弾んで外野へと飛んで行き留美お姉様の大きな
声が聞こえました。
 見ていたみんなはびっくりです。

 「大丈夫?」
 「怪我なかった?」
 「医務室に行く?」
 たちまち五六年生の女の子たちが総出で中条さんの元へ集まり
ますが、当の広志君だけは涼しい顔です。それどころか……

 「留美お姉ちゃま、取れなかったんだから外野に出てよ」
 広志君の声がしました。

 これには女の子全員が『カチン!』ときました。
 全員が広志君の方を振り返ると睨みつけます。

 すると、広志君もこれに少しびびったみたいだったのですが、
すぐに気を取り直してこう言います。
 「だって、僕はルールどおりにやってるんだよ。取れない方が
悪いんじゃないか」

 たしかに、広志君は留美お姉様に一声かけてから投げましたが、
これって明らかに悪意があります。

 「何言ってるの!倒れてる子はどこからボールが来るか分から
ないでしょう!そんなことして投げたら危ないじゃない」
 私たちを代表して瑞穂お姉様が反論します。

 でも、広志君は折れませんでした。
 「どうしてさあ、僕たち、みんなドッヂボールやってんだよ。
だったら、そのルールに従ってたら別に何しててもいいだろう。
だいたい、留美お姉様は普段から鈍いんだもん」

 これには女の子全員がさらに『カチン!』です。

 愛子お姉様が、
 「あんたなんか内野やってる資格ないわよ」
 友理奈お姉様が、
 「そうよ、あなたこそ外野へ行きなさいよ」

 そのあとは、もうみんなで……
 「そうよ、そうよ、外野で頭を冷やすべきよ」
 「賛成、あなたがいたら楽しく遊べないもの」
 「だいたい男の子のくせに、あなた生意気なんだから」
 「そうよ、あなたなんかピルエットも満足に回れないくせに、
どうしてこんな時だけ大きな顔してるのよ」
 五年生の子も混じって速射砲の一斉攻撃です。

 これには、広志君もたじたじでした。
 でも広志君、心の中でそんな女の子たちの意見をもっともだと
思っていたわけではありませんでした。

 広志君はボールを激しく地面に叩きつけるとコートを去ります。
顔を真っ赤にして、泣いて怒ってる、そんな感じだったのです。

 そもそも、たいして怪我もしていない留美お姉様の処へ女の子
全員が集ってくるんだって、広志君にしたら不満だったのです。
 私は広志君を心配してあとをつけます。

 見ると、そんな広志君を迎え入れたのは進藤のお父様でした。
(親子ですから当たり前と言えばそれまでなんですが……)

 実はこのドッヂボールの試合、昼休みに行われたお仕置きの後
で、お父様方が揃ってコートサイドで見学なさっていました。

 広志君は、最初進藤のお父様が差し出す手を払い除けてもっと
遠くへ行こうとしましたが、お父様が強引に息子の体を懐の中に
入れてしまうと、それからは抵抗しませんでした。

 私はその時、広志君が泣いているように見えました。
 きっと悔しかったんだと思います。
 広志君は広志君で、自分のしたことが正しいと信じてるみたい
でしたから。

 抱き合う親子のもとに他のお父様たちも集まってきます。

 「だいぶ派手にやられてたみたいだね」
 と、佐々木のお父様が……
 「女の子というのはいったん火がつくと見境がなくなるから」
 と、今度は高梨のお父様も……

 他のお父様たちも次々に口を開きます。
 「ここは女の子社会だからね、調和第一というわけだ」
 「でも、これだと男の子には住みにくいですかね」
 「確かにそれはあるだろうね。男の子と女の子では生きていく
哲学みたいなものが違うから。私なんて未だに奥さんの考えてる
ことがよく分からないくらいだ」

 そして、中条のお父様が……
 「大丈夫だよ、ヒロちゃん。君の言っていることは正しいよ」
 こう慰めると、そこでやっと広志君はお父様の胸から顔をあげ
ます。
 やっと自分の考えに賛同してくれる人が見つかってほっとした
のかもしれません。

 中条のお父様は続けます。
 「ドッヂボールの試合だけでみると、君の言ってる事は正しい
んだよ。そもそも内野がボールを投げるのにいちいち声を掛ける
なんてよそじゃやってないだろうし、内野の子が転んだからって
立ち上がるのを待ってる子もいないだろう。逆にチャンスだから
ぶつけちゃえって、ボールぶつけちゃってもそれも構わないさ」

 「ほんとう?」
 広志君は中条のお父様の方を向きます。すると、今まで泣いて
いたのがはっきりとわかりました。

 「本当さあ、大半の学校ではそうやってドッヂボールをやって
るんだから。……ただね、ドッヂボールのルールはそうでもこの
学校の生徒としては、それとは別に守らなければならないルール
があるんだ。女の子たちはそれを言ってるんだよ」

 「どういうこと?」

 「『お友だちとは、いつも仲良しでいましょう』ってことさ。
うちではこれが一番大切なルールなんだ。どんな規則や成績より
これが最優先のルールなんだよ。君だってそれは知ってるよね。
もう耳にたこができるほど聞かされてるだろうから」

 「う、うん……」

 「ドッヂボールをやってる時も君がこの学校の生徒である以上
それは守らなきゃいけないんだ。こんなことしたらお友だちの体
が傷つくとか、こんなことしたら仲が悪くなりそうだと思ったら、
それはドッヂボールのルールに書いてなくてもやっちゃいけない。
……わかるだろう?」

 「う……うん……」
 広志君は小さな声で答えます。
 すると、そこへ桜井先生がやってきました。

 「そうですね。その通りです。いや、私も驚きましたよ。この
子たちときたら、自分たちで自分たちにあったルールをさっさと
創っちゃうんだから、大人顔負けだ。しかも、こうして見る限り
それが美しく機能している。こんな事が自然にできるなんて凄い
ですよ」
 広志君を迎えにやってきた桜井先生が、お父様たちを前にして
大仰に驚いてみせます。
 
 すると、小暮のお父様が…
 「ここには同じ境遇で育った同じ常識を持つ子どもたちだけが
集められてますから、ルールも自然にこうなっちゃうんですよ」

 佐々木のお父様は……
 「過保護に過ぎるという批判もありますが、私たちは年寄りだ。
とげとげしいことは望まないものだから、育て方も自然こうなる。
……仕方ありませんな」

 進藤のお父様も……
 「私たちがよくお仕置きで子どもを裸にするもんだから、口の
悪い人は青髭の王国だなんて言いますがね、それは違いますよ。
ここでは誰にでも甘えられるし、心が無防備でいても困らない。
巨大なお風呂にみんなで入っているみたいなもので、裸でいられ
ることこそ楽園の証しなんですよ」

 桜井先生はドッヂボールの試合を見つめながら……
 「そうですか、ここはみなさんが作った楽園ですものね。……
分かるような気がします。私なんか、いつも勝ち負けにばかりに
こだわってきましたから、こんな子供たちのこんな姿を見ると、
まるで天使たちがドッヂボールをやっているように見えますよ」

 もちろん、それってお父様たちを前にしていますからお世辞が
あるのかもしれませんが先生はその後も私たちを褒めちぎります。
感心しきりでした。

 そして、最後に……
 「さあ、広志君。とにもかくにも、ここは女の子たちに謝って、
また仲間に加えてもらわなきゃ。このまま逃げてちゃ男が廃るよ。
さあ、先生と一緒に行こう。一緒に謝ってあげるから……」
 桜井先生は広志君の手を引いてお父様の懐から引き離します。

 すると、広志君、なぜか気の弱いことを言うのです。
 「僕……また、ドッヂボールできるかな?」

 「もちろんさ、もし、『広志君と一緒に体育をやるのが嫌だ』
何て言ったら今度はその子の方がお友だちと仲良くできなかった
ってことになるじゃないか。必ず許してくれるよ」
 と、桜井先生。

 「大丈夫だよ広志。もし姉ちゃんが嫌だなんて言ったら、私が
この場でお仕置きしてやるから……」
 お父様も励まします。

 「ほんと?」
 桜井先生に手を引かれた広志君がお父様の方を振り返ると……

 「ただし、最初にお前が謝らなきゃだめだよ」
 最後はお父様が再び広志君の肩を押してコートの中へ。

 するとそれとほぼ同時に私もまた私のお父様から両肩を掴まれ
ました。

 「どうした?美咲ちゃんは広志君のことが好きなのかな?」
 ぼそぼそっとした小さな声。でも唐突にお父様から言われて、
思わず私の心臓は止まりそうでした。

 「えっ!?」
 私は振り返ると……
 「そんなわけないじゃない」
 怒ったような顔で否定するのですが……

 「そうか、午前中は一緒にスケッチしてたみたいだし、午後も
こうやって彼の跡を追ってくるぐらいだから、ひょっとして気が
あるのかと思ったが……違ったか?」

 「馬鹿馬鹿しい。変な想像しないでよ。そんなの偶然。偶然よ。
あんなのタイプじゃないもの。私はもっとカッコいい子がいいの。
郷ひろみ、みたいな」
 私はむきになって否定します。

 「そうか、広志君はタイプじゃないのか。残念だなあ。お前が
その気なら進藤さんところと縁続きになれたんだが……」
 お父様は苦笑いです。

 私は十一歳。漠然とした美形の男子への憧れはありましたが、
具体的な想いはまだ何もありません。
 広志君のことだって、あまりにも幼い頃から彼を知っています
から彼のいやな処だって沢山知っているわけで、本当にそんなの
偶然だと思っていました。

 でも、お父様は人生の大先輩。私以上に私の心の奥底をご存知
だったみたいです。

 さて、私のことはともかく、広志君がコートに戻ってきます。

 「ごめんね、ボールぶつけて……」
 彼は留美お姉様にごめんなさいを言ってから、瑞穂お姉様にも
謝ります。
 「ごめんなさい。勝手にコートから離れて……」

 殊勝な心がけと言いたいところですが、実は広志君、バックに
大勢のお父様たちや桜井先生を引き連れていました。

 お父様たちにしてみたら広志君がちゃんとごめんなさいを言え
るか確かめたくて一緒に着いてきただけなんでしょうけど、女の
子の立場からすると、それってまるで自分たちの方がお父様たち
に叱られてるみたいでした。
 広志君、大勢の保護者に見守られながらのごめんなさいだった
わけです。

 また、ドッヂボールが再会され、当然、広志君もそれに加わり
ます。

絶対に勝ち負けの着かない天使のドッヂボール。勝った喜びも
負けた悔しさもここにはありませんけど、私たちにとっては忘れ
得ぬボールゲームの思い出でした。

************<18>***********

小暮男爵 <第一章> §16 / 瑞穂お姉様のお仕置き /

小暮男爵 / 第一章

<<目次>>
§1 旅立ち*§11二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書   * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業?   * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子       * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸     * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事     * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校          * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて      * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き


**<< §16 >>**/瑞穂お姉様のお仕置き/**

 瑞穂お姉様のお父様は進藤高志さんとおっしゃる実業家。今は
経営の大半を息子さんが受け継いでいらっしゃいますが、戦前は
関東一円に数多くの軍需工場を持つ社長さんだったんだそうです。

 もちろん戦前のご様子など私は知りませんが、こちらでは縞の
三つ揃えにスエードのハットを被った姿でよくお目にかかります。
家に遊びに行くと、いつも油絵を描いてらっしゃるか、ピアノを
弾いてらっしゃるかしていて多趣味な方でもあります。

 もちろん、子供は大好きで、ご自宅の居間でお見かけする時は
誰かしら子どもたちがその膝の上に乗って遊んでいました。
 私が遊びに行った際、当時三歳だった弘治君という男の子が、
お膝の上でお漏らしをしてしまいましたが、お父様はまるで何事
もなかったかのように顔色一つお変えになりませんでした。

 そうした愛された兄弟(姉妹)の中でも、瑞穂お姉様のことは
特に可愛がっていられたと人伝えに聞いたことがあります。瑞穂
お姉様は明るく頭もよくて、難しい話題にもお父様のお話相手が
務まる子だと評判だったのです。

 ただ、そんな甘い関係もこの場では封印しなければなりません。

 進藤のお父様は、あられもない格好のお姉様を間近に見ながら
揺らめく百目蝋燭の炎から太くて長いお線香に火を移して真鍮製
のお線香たてにこれを立てます。

 百目蝋燭というのは、江戸時代芝居小屋の照明に使われていた
特大の蝋燭で、瑞穂お姉様の周りを照らすくらいなら四方に立て
るだけで十分な明るさがあります。

 その蝋燭の怪しい光に照らされてお父様の顔は普段見る柔和な
お顔とは違い、厳しく引き締まっておられました。

 「恥ずかしい?」

 進藤のお父様に尋ねられた瞬間、お姉様の生唾を飲む様子が、
こちらからも垣間見えます。

 普段見ることのない百目蝋燭の大きな炎の揺らめきとその光を
照り返して鈍く光る真鍮製の大きな線香たて。そのお線香たてに
立っているお線香も特大ですから、その香りがすでに部屋全体に
たなびいています。

 私たちよりもう少し以前の子なら、お灸も沢山据えられていた
でしょうからこうした雰囲気にも場慣れしていたかもしれません。
でも、私たちにとってここはもう完全に異空間。
 普段活発な瑞穂お姉様の目が泳いでいたとしても不思議なこと
ではありませんでした。

 「…………」
 それは緊張しているのでしょうか、自らの誇りを失いたくない
と意地を張っているのでしょうか、お姉様は天井を見つめたまま
何も答えません。

 「私は『恥ずかしいのか?』と尋ねているのに答えてくれない
のかね」
 お父様の問いかけがお姉様を正気に戻したみたいでした。

 「あっ、はい、恥ずかしいです」
 お姉様は慌てて答えます。

 勿論そんなことわかりきっていますが、進藤のお父様に限らず
お父様たちって、自ら惨めな姿にしておきながら、子どもたちに
『恥ずかしいか?』と問いかけます。

 そして、その時のお父様の返答はたいていこうでした。
 「仕方ないな、お仕置きなんだから我慢しなさい……お父さん、
お前にわざとこんな格好をさせてるんだ。……お前が、よ~~く
反省できるようにね。……わかるだろう?」

 「はい、ごめんなさい」
 お姉様は嗚咽交じりの小さな声で答えます。

 「いいかい瑞穂。なぜお前がこんな格好をしなければならなく
なったか、わかってるだろう?」

 「私が……二階の窓から傘を差して飛び降りたから……です」
 お姉様が自信なさげに答えると……

 「確かにそれもあるけど……それについては、栗山先生が処置
してくださったから、まだいいとして……私たちが問題にしてる
のはね、実はそのことだけじゃないだ」

 「えっ?どういうこと?…………」
 お姉様の小さな声には意外というに思いが込められています。

 「君がメリーポピンズを始めた時に、どうして遥ちゃんたちも
誘ってあげなかったのかなってことさ」

 「どうしてって……それは…………」
 お姉様は少し考えてから……
 「だって、あんまりいいことじゃないし、誘ったら悪いかなと
思って……」

 「じゃあ、明君が真似した時は何で止めなかったの?」

 「えっ……それは…………」

 「そうじゃないでしょう。そんな事で遥ちゃんに声をかけたら
バカにされるんじゃないかって、心配したんじゃないの?」

 「えっ…………」
 お姉様は答えませんでしたが、どうやら図星のようでした。

 瑞穂お姉様とうちの遥お姉様はお互いライバル。たった六人の
中ですが、二人は勉強でも図工でも音楽でも、とにかくどんな事
でも張り合っていました。

 「図星みたいだね。いいかい、いつも言ってるように、クラス
のお友だちとは誰とでも仲良しでなきゃいけないんだ。それが、
うちのルールだろう。仲間外れはよくないな。特に、お前は級長
さんじゃないか。たった六人でも君はみんなのリーダーなんだよ」

 「キュウチョウ?」

 「そうか、今は学級委員って呼ぶんだっけ……でも同じだろう?
君はクラスを代表して色んな行事をこなす立場にあるんだから、
いつもクラスがまとまるように気を配ってなきゃいけないのに、
それが自分から悪さを始めたり仲間はずれの子を作ったりしたん
だから……これって、いいわけないよね」

 「でも、あれは遊びだから……遥ちゃんはやらないと思って」

 「遊び?でも、声を掛けてみなけりゃわからないじゃないか。
『たとえ、悪戯をする時でもみんなで一緒にやりましょう』って、
教えなかったかい?」

 「……はい、お父様から聞きました」
 弱弱しい声が聞こえます。瑞穂お姉様がこんな声を出すなんて
私の知りうる限り初めです。

 「これは他のお父さんたちも同じ考えのはずだから、他の家の
子だってその子のお父さんからそう教わってるはずだよ」
 確かに私も小暮のお父様によく言われていました。

 「……はい、わかります」

 「ここでは、悪戯することより友だちを仲間はずれにすること
の方が罪が重いんだ」

 「…………」
 お姉様はその教えにあらためて気がついたみたいでした。

 「みんなで悪さをしてもそれはみんなで罰を受ければいいんだ。
簡単に償える。お尻が痛いだけだもん。でも、お友だちを傷つけ
てしまうと、その償いはそんなに簡単なことじゃ終わらないんだ」

 私たちの学校では、クラスに生徒が六人しかいません。でも、
六人しかいないからこそ、その六人は、誰もが大親友でなければ
ならないのでした。

 「それに、たとえ瑞穂が勝手に始めたことでも、他の子にすれ
ば、級長さんがやってるんなら一緒にやってみようと思うんじゃ
ないのかな」

 「……それは……」

 「それとも、その子たちは私が誘ったんじゃない勝手に始めた
んだから自分には責任がないって言うつもりかい?」

 「えっ…だって、そんなこと誰だって、悪いことだと分かって
るはずだから……」

 「そうかな?お父さんそうは思わないよ。級長さんがやってる
ってことは、他の子がやってるのとは同じにはならないんだよ。
ほかの子すれば『級長さんがやってるんなら大丈夫だろう』って
思っちゃうもの」

 「それは……」
 瑞穂お姉様は絶句します。きっと、色々言いたいことはあった
でしょうが、それ以上は言えませんでした。

 「お父さんも、お前にこんな格好をさせたくはなかったけど、
やってしまった罪の重さを考えると仕方がないと思ってるんだ。
しかも今回は、小暮のお父様が『お嬢さんだけお仕置きするのは
酷ですから、全員に同じお仕置きにしましょう』とおっしゃって
くださったからこうなったんだ。本来なら、お前が他の子と同じ
お仕置きというのはあり得ないんだよ」

 「ふう……」
 お姉様から思わずため息が漏れます。
 それはがっかりという顔でした。

 これがお姉様のどういう気持の表れだったのかは知りませんが、
進藤のお父様にとってその顔つきは、あまり良い印象ではありま
せんでした。

 「みんな平等って良いことのように聞こえるかもしれないけど
……でも、そうなると……お前に与えられる罰は、むしろ軽いと
言えるかもしれないな」
 お父様はそう言ってお姉様の顔色を窺います。
 そして、こう続けるのでした。

 「……そこでだ、今回は、ほかのお父様たちとのお話合いで、
会陰と大淫唇に一回ずつ、合計三箇所すえる予定にしてたんだが
……お前の場合はこんなバカな遊びを最初に始めた張本人だし、
クラス委員でもあるわけだから……お仕置きが他の子と一緒じゃ
お前だって肩身が狭いだろうから……」

 お父様はこう言って再びお姉様の顔色を窺います。
 そして、最後に進藤のお父様はこう宣言するのでした。

 「……今回、ほかの子は各箇所一回ずつだが、お前の場合は、
各箇所三回ずつ私が直接据えてやる。……それでいいな」

 これには瑞穂お姉様もびっくりでした。
 思わず、起き上がろうとしますが、それは先生に阻まれてしま
います。

 一回でもショックなお灸を三回ですからね、それって当然なの
かもしれません。

 「いや、だめよ。だめ。ちょっと待って……そんなことしたら、
私、本当に死んじゃうもん。そしたら化けてでてやるんだからね」

 この期に及んで瑞穂お姉様は強気に出ます。これまでは、猫を
被ってたんでしょうか。

 どうにもならないほど体を押さえ込まれたこの恥ずかしい姿勢
のままオカッパ頭を左右に振って叫びます。
 顔は真っ赤、もちろん本気で自分の身体のことを心配していた
のでした。

 「大仰だなあ、お前は何でも大仰に考えるからいけない。……
お父さんが大丈夫と言えば大丈夫だよ」
 進藤のお父様は軽くあしらいますが……

 「だめえ~~~そんなことしたら、私、お嫁にいけないもん」
 
必死に起き上がろうとして頭だけこちらを向いたお姉様の目に
はすでに涙が光っていました。

 きっと怖かったんだと思います。必死だったんでしょう。
 そりゃそうです。こんな姿でいるだけでも超恥ずかしいのに、
これから、女の子にとって一番大事な処へお線香の火が近づいて
来るというんですから、そりゃあ誰にしたってたまったもんじゃ
ありません。

 でも、そんな親子喧嘩の様子を見守るお父様たちはというと、
落ち着き払って事の成り行きを見つめています。あたふたとして
いる人など一人もいませんでした。

 恥ずかしいお股へのお灸は、何もこれが初めての試みではあり
ません。ここでは女の子が成長するたびにお灸が据えられます。
 お灸のお仕置きはいわば成長の証しであり、通過儀礼みたいな
もの。据える場所も据える艾の大きさもあらかじめ決まっていて、
痕もほとんど目立ちませんでした。

 大事なことは皮膚を焼くことではなく、全員で恥ずかしい思い
を共有すること。そんな体験を持つことがお父様たちにとっては
大事なことだったみたいです。

 「大丈夫だよ。心配しなくて……お父さんがそんな危ないこと
ミホ(瑞穂)ちゃんにすると思うかい。据える処はどこも皮膚の
上だからね、熱いのは熱いけどお尻に据えられるのと同じ熱さだ
から……」

 「でも、三回……据えるんでしょう」

 「それはそうだけど、艾が小さいからね、すぐに消えるし痕も
目立たない。死んじゃうだの。お嫁にいけないだのって心配する
ことじゃないよ。現にここの卒業生はほとんどがこのお仕置きの
経験者だけど、みんな元気に働いてるし、お嫁に行って赤ちゃん
だってちゃんと産んでるもの」

 「そう……なんだ……」
 瑞穂お姉様はお父様の説得に安心したのか、それとも単に首が
疲れただけなのか、元の姿勢に戻ります。

 「さあ、始めるよ。いつまでもこんな格好でいたら、その方が
よっぽど恥ずかしいだろう。風邪ひかないうちにさっさと終わら
せなきゃね」

 お父様に言われて最後は瑞穂お姉様も観念したみたいでした。

 最後に、お父様が自ら猿轡を瑞穂お姉様の口にくわえさせたの
ですが、それには姉様も抵抗する素振りをみせませんでした。

 ただ、それが終わると、瑞穂お姉様の身体はさらに厳しく拘束
されることになります。
 最後になって他の家の家庭教師の先生たちも瑞穂お姉様の体を
押さえにかかったのです。

 左右の足を押さえるのに一人ずつ追加され、目隠しがなされ、
お腹にも一人別の人が乗ります。

 幼い女の子一人にいったい何人の大人が必要なんだと思いたく
なりますが、全ては安全を考慮してのこと。そして何より、瑞穂
お姉様が『今日ここにお灸を据えられたんだ』と心に刻むための
これもお父様たちの演出だったのです。

 実際、施灸自体は蚊に刺されたほどにしか熱くありません。
 でもそれを印象深くドラマチックにしてお仕置きの効果を上げ
るのがここでの先生たちのお仕事だったのでした。

 そのため進藤のお父様は見ている私たちに、これでもかという
ほど瑞穂お姉様のアソコを広げて見せてくれました。

 大淫唇や会陰だけではありません。小陰唇も膣前庭も尿道口も、
もちろんクリトリスや膣口、お尻の穴まで、瑞穂お姉様の陰部は
あますところなく外の風に当たることになります。

 そうしておいて約束の場所に艾が置かれます。

 たしかに、それは小さなもの。大きな胡麻くらいでしょうか。
私にはその程度にしか見えないほど小さなものだったのですが、
でも、こうやって大勢でがんじがらめに身体を拘束され、猿轡や
アイマスクまでされて、普段なら外には出ない場所を全て全開に
している今のお姉様に、乗せられた艾がどんな大きさだったか、
なんて分かりっこありませんでした。

 驚異、恐怖、焦燥で気が遠くなりかけたかもしれません。
 その思いを進藤のお父様が現実へ引き寄せます。

 「それじゃあ、すえるからね」

 お姉様が必死に暴れる……いえ、暴れようとして押さえつけら
れてるさなか、艾に火が燃え移ります。

 「うっっっっっっっっ」

 会陰へのそれは一瞬で終わりましたが、膨らみのある肉球には
すぐに次の使者がやってきます。

 「うっっっっっっっっ」

 「うっっっっっっっっ」

 三火の施灸が終わり、他の子なら、これで終了のはずですが、
お姉様の場合はさらに六回の試練が続きます。

 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」
 「うっっっっっっっっ」

 猿轡からうめき声が漏れ、首を振るたびに脂汗が畳に飛び散り
ます。でも、どうにかこうにか約束は守られました。
 お姉様は取り乱すことなく、お父様も必要以上のことはなさい
ませんでした。

 結果、お姉様には黒い点が三箇所残りましたが、それって他の
施灸箇所から見れば、まだまだ小さなもの。それに火傷が治って
皮膚の色が戻ってくれば恐らく見分けもつかなくなるでしょう。

 ただ、その黒い点を見て私だけは興奮しています。瑞穂お姉様
のお仕置きが終わっても自分の胸が脈打っているのがはっきりと
わかりました。

 『私も、ああなるんだわ』
 普段、先の事にはあまり頓着しない私もこの時ばかりはさすが
に身が引き締まります。
 だって、このお仕置き。ここにいる限りは私もいずれ受ける事
になるのですから。

 ただ、それはそれとして、お姉様の痴態を見ていた私の体には
ある変化が起きていました。お臍の奥底からは何だかドロドロと
したものが湧き出して来るのです。
 お臍の下の方で湧き出したそれは、やがて電気となってお腹へ
胸へと登っていき、やがて、顎へ、顎の骨、歯根、歯茎、最後は
前歯の先から出て行きましたが、その電気が立ち去る瞬間に一言。

 『私もやられてみたい』
 脳裏に不思議なメッセージを残して立ち去ったのでした。

 全ての戒めが解かれて自由になった瑞穂お姉様は憔悴しきって
いますが、なぜでしょうか、お仕置きを受けていないはずの私の
方がまだ興奮しています。
 私は、そんな瑞穂お姉様に自分自身を重ねて憧れてしまうので
した。

 「ふうっ」

 お姉様の大事な処が隠れてしまった瞬間、深呼吸と共に大きな
ため息がでます。

 最初から強烈なお仕置きを見学するはめになった私でしたが、
次は、別の意味で、私にとってはもっともっと強烈なものを目撃
することになるのでした。

************<16>***********

小暮男爵 <第一章> §17 / 明君のお仕置き /

小暮男爵 / 第一章

***<< §17 >>***/明君のお仕置き/***

 次は明君の番です。明君のお父様、いえ、お母様は真鍋久子と
おっしゃって古くからの紡績会社、東亜紡績の会長さんです。
 ご主人が亡くなられた後を継いで戦中戦後を乗り切った女傑と
お聞きしていますが、子どもの私にはそのあたり詳しくは分かり
ません。

 ただ、この学校の卒業生の多くが彼女の引き立てでデザイナー
になったり、アパレル関係の会社に就職してたりして働いている
んだそうです。

 ちなみに、私たちの制服はそうしたOGたちが毎年持ち回りで
製作しているのでその年ごとにデザインが変わります。ですから、
世間でよくある伝統のユニホームというものはありませんでした。
 逆に言えばそれほどこの業界には多くの人材を輩出してきたと
いうわけです。

 さてこの御婦人、お父様たちの間ではお家の中での躾が厳しい
ことから、ちょっぴり皮肉を込めて『真鍋御前』なんておっしゃ
られていましたが、私たちのような外の家の子から見ると何でも
相談に乗ってくれる親切なおば様でした。

 それに厳しいと言ってもそれはあくまで女の子についてだけ。
明君のような男の子に対しては逆に私たちが『どうしてそこまで』
と思うほどべたべた甘々だったのです。

 この時も、先立って行われたお父様たちの話し合いで、明君の
お仕置きに対して最後まで反対したのは真鍋御前だったそうです。

 「男の子はそのくらい元気があった方がよくありませんか」
 というのがその理由だったみたいですが……結局。

 「これは、クラスの子がみんな一緒にお仕置きを受けることが
大事なんです。男女も関係ありません。人は思い出を語るとき、
その時の感情を未来に持ち越して語りません。お仕置きのような
辛い思い出だって未来では楽しく語れるんです。むしろ、楽しい
思い出より辛い思い出の方が人は強い連帯意識や共感を感じます。
我々がボロボロになった国土を立て直せたのは、逆説的に言うと、
戦争に行ったからです。それもどん底の負け戦だったから。……
そこで我々は悟ったんです。見渡せば焼け野原、みんな同じ立場
の日本人なんだって。おかげで日本は一度リセットされて地位も
身分も関係ないところからスタートがきれたんです。これは英国
のような戦勝国にはない我々だけの特権なんです。このクラスも
同じでしょう。見渡せば、顔が整ってる、スタイルがいい、成績
がいい、運動ができる、人に好かれる……同じ子供、同じ孤児と
いっても大人と同じようなしがらみはたくさんあります。それを
クラスの一員としてみんな平等なんだって実感させるには全員を
同じ方法でお仕置きするのが最も手っ取り早い方法なんですよ。
ですからたった一人の抜け駆けもあったら意味がなくなるんです」

 中条のお父様がこんな大演説をぶって真鍋御前を説得なさった
んだそうです。

 私たちは世間的には孤児で、今はお父様に養ってもらってる身
でしかありません。それでもお父様を自慢し、自分の家のお兄様
お姉様を自慢してそれがまるで自分の実績ででもあるかのように
振舞うことがよくあります。
 それがお父様たちには心地よくなかったみたいでした。

 こうして真鍋のお母様は明君のお仕置きを承諾したわけですが、
明君が私たちにお尻を見せることには最後まで反対だったみたい
でした。

 「出世前の男の持ち物を何も女の子が覗かなくても……」
 ということなんですが、これも最後はお父様たちの反対多数で
押し切られてしまいます。

 こうして難産の末に明君の大事な処が私達の目の前に現れます。
『何をやるにも全員同じで…』というわけです。

 いえ、私はそんなもの見たいとは思わなかったのですが、いざ、
それが現れると、やはり、心穏やかではいられませんでした。

 「!!!」
 私だって女の子ですから、その瞬間は全身に電気が走って目を
そらします。

 それって単にグロテスクだからというのではありません。何か
別の感情が湧き起こって私はそこから逃げたいと思ったのでした。

 「????」
 ところが、それからすぐ、今度は無性にそれが見たくて仕方が
なくなります。
 そこがまた不思議でした。

 「*****」
 最初は顔を覆っていた両手の指を少しだけ開いて、そのすき間
から、そうっと……

 そんな私の様子にお父様が気づきます。

 「どうした?そんなに明君のことが気になるのか?美咲ちゃん
だって、三年生までは一緒にプールにもお風呂にも入ってたじゃ
ないか」

 意地悪なことを言われて私の顔は火照りました。
 実際、私たちの学校ではプールの時も三年生まではお互い水着
を着けません。林間学校、スキー合宿、お泊まり会のお風呂でも
当然のように一緒だったんです。

 ですから、私だって男の子のオチンチンを見たことはあるわけ
なんですが、その時はこうしてまじまじと見たわけではありませ
んでした。

 「どうした?辛いなら、あえて見なくてもいいよ」
 お父様にはこう言われましたが私は首を振ります。
 すると……

 「『あるものをあるがままに見て恥ずかしがらない』というの
は人として大事なことなんだが女の子はこれが苦手だからなあ。
だからプールもお風呂も幼いうちはあえて裸で通したんだ。ま、
できるのは幼いうちだけだが、それでも最初からわけも分からず
恥ずかしがるより、この方がずっといいんだよ。何事も経験して
おいて損はないんだから……」

 私はお父様の言ってる意味が分からないまま頷きます。
 私って人の話をぼうっと聞いているだけでもすぐに合いの手を
いれてしまう癖があったんです。
 でも、それが災いしました。

 「御前、私がお手伝いしましょう。もちろん、こうしたことは
お母様自らなさるのがいいですが施灸は慣れないと大変ですから。
幸いうちには適当な助手もおりますから」
 明君へのお灸を据えそびれている真鍋のお母様に小暮のお父様
が手を上げたのです。

 「そうですか、あいにく私は不器用で……お願いできますか?」
 真鍋のお母様は断りません。

 「ええ、大丈夫ですよ。お任せください」
 お父様は代役をかってでます。
 でも、助手って誰でしょうか?

 「ん?……助手って?……」
 私は、最初、お父様のおっしゃる『適当な助手』の意味がわか
りませんでしたが、手を引かれて驚きます。

 「ほら、行くよ」

 「えっ?!!え~~~~!!!」
 次の瞬間、私は震撼しました。

 お父様の意図は、ズバリ私に間近で男の子のアソコを見せる事。
 でも、それってやっぱり女の子には身の毛のよだつ事態でした。

 「ほら、ここに座って……私を手伝いなさい」
 お父様の命令ですから仕方なくそうしましたが、そこは明君の
ばっちい物が目の前30センチくらいにある場所だったのです。

 『堪忍してよ~』
 そう思って思わず視線をそらそうとしたのですが……

 「だめだよ。ちゃんと見なきゃ」
 いち早くお父様が気づいて私の顔を正面に向けなおします。

 「人間に備わるもので不浄な物なんて一つもないんだから」
 お父様はそう言いますが……
 『ばっちい物は、ばっちいの!これ女の子の常識!真実なんて
女の子にはいらないの。美しければそれでいいの!夢でいいの!
嘘とまやかしで十分よ!!』
 私は心の中で反論します。

 でも、ここが女の子の弱いところなんでしょうね。どうしても
声に出す事ができませんでした。

 すると、事態はさらに悪化します。

 「ほら触ってごらん」
 お父様は私の左手をその大きな手で包み込むと、そのまま目の
前にある明君の陰嚢を握らせます。

 生暖かくて、ぐにゃっとしてて……空気が抜けて皺皺になった
古い古いゴムボールといったところでしょうか。それでも触れて
いると、『これ生きてる』って感触があります。まるで蝦蟇蛙を
手づかみしたような気持悪さでした。
 いずれにしても、こんなに薄気味悪い物を直接手で触れたのは
生まれて初めて。

 「いやっ!」
 私は拒絶しようとしますが、お父様に左手を押さえられていて、
離そうにも離れません。

 「どうした?嫌かい?でも、さっきも言ったようにどんな事も
経験しておくにこしたことはないんだよ。……美咲ちゃんだって、
将来男の子が産まれたら、どのみち竿も袋も握ることになるんだ
から」
 お父様のしたり顔を見て、ついに私もキレます。

 「離して!その時はその時よ。私が産んだ子なら可愛いもの。
その時は何だってやってあげるんだから……」
 私は偽らざる本音を口にします。

 「明君じゃだめかい?」
 お父様は自嘲ぎみにおっしゃったのですが、私はハッとして我
に帰ります。

 『当たり前じゃないの!』
 という言葉を飲み込んで……
 「そういうわけじゃないけど……」
 と言う言葉に変更。とたんに元気がなくなってしまいます。

 私は明君がクラスメイトで仲良くしなければならないお友だち
だということをその場で思い出したのでした。
 『お友だちとはどういう関係でいなければならないか』
 先生やお父様の言葉を思い出したのでした。

 『お友だちとはどんなことも分かち合わなければなりません。
どんな些細なことも隠してはなりません。それさえ守っていれば
私たちはお父様が違っていてもみんな本当の兄弟姉妹ように必ず
幸せになります』
 幼い頃、周囲の大人たちに毎日のように聞かされた言葉でした。

 その言葉に、今、私は反しているんじゃないか、そう思ったの
でした。

 そんな私の気持をお父様は察したみたいでした。
 ですから、こう言います。

 「さあ、これから、明君のお仕置きをするけど、美咲ちゃん、
お友だちでしょう。手伝ってね」

 こう言われた時、私は逆らえません。ここで言う『お友だち』
『仲良くする』というのは、私たちにとってはとおり一遍の徳目
ではありません。家でも学校でも、それは一番大事にしなければ
ならない約束事だったのです。

 「えっ、私が?!!」
 私はお父様から火のついたお線香を握らされます。
 どうやら、私が明君の大事な場所にお仕置きをしなければなら
ないみたいでした。

 「大丈夫、お父さんがついてるから」
 お父様はお線香を持つ私の右手をしっかり包み込みます。

 こんな時は、明君だってそりゃ泣きそうだったでしょうけど、
私だって泣き出しそうでした。


 「明ちゃん、あなたが先生に『あなたも一緒に飛び降りていま
せんでしたか』って尋ねられた時、どうして正直に言わないの。
嘘をつくからこんなことになるのよ。正直でない子はお仕置き。
仕方がないわね。しっかり我慢するのよ」
 真鍋御前様が珍しく明君を強い調子で叱ります。

 そうしておいて、真鍋御前は明君の陰嚢を自ら持ち上げたので
した。

 色素沈着のない、まだ皮膚と同じ色の皺皺の丸い袋が持ち上が
ります。
 どうやら、その根元にお灸が据えられるみたいでした。
 
 身体の真ん中を縦に真っ二つにして通る蟻の門渡りと呼ばれる
線がおチンチン袋にも筋となって通っています。その筋を挟んで
両サイドに小さな小さな艾が置かれます。
 これは女の子なら会陰に当たる部分でした。

 そこに艾を置いたのはお父様。そして、そこに火を着けるのは
私の持っているこのお線香です。

 『えっ!?……どうしよう、どうしよう』
 そう思っているうちにもお線香がどんどん置かれた艾の位置に
近づきます。もちろんそれを操作しているのは私ではありません。
私の手を包み込んでいるお父様なのですが、艾に火がついた瞬間
は、罪悪感でいっぱい。やっぱりショックでした。
 お父様がなさることですから大丈夫とは思っていてもやっぱり
心配だったのです。

 「あっ~」
 明君は小さなうめき声をあげます。

 『大変なことしちゃった』
 その瞬間は、やらされたことでしたが、やっぱりそう思わざる
を得ませんでした。

 艾が小さいので二箇所とも熱いのはほんの一瞬です。
 もみ消す必要もないくらいの火事なんですが、人にお灸を据え
てあげたことなんてこれまで一度もありませんでしたから、その
瞬間は頭の中の血がすべて引いて顔面蒼白になっていました。

 「ふう……」
 ため息を一つ。でも、これで終わりではありませんでした。
 もう一箇所残っています。

 「美咲ちゃん、次はここに、お願いするわね」
 真鍋のお母様が、今度は明君の竿を摘み上げ、それが戻らない
ようにと人差し指と中指で押さえながら私に指示します。

 お母様の手で引き上げられたオチンチンは表より少し色が濃く
なっていますが、お父様のようにはなっていません。その全てに
皮膚が被ったロケット型。先端だって皮膚が余って皺皺になって
います。
 要するにこれって赤ちゃんのと同じってこと。典型的な子ども
のオチンチンでした。

 この位の歳になると、中には大人の身体へと変化し始める子も
いますが、明君の場合はお臍の下もツルツルで純粋な子どもの姿
をしていたのでした。

 ひょっとして明君がこんな姿でなかったら、お父様だって私に
こんなことまではさせなかったかもしれません。

 さて、次なる目標地点はというと、引き上げられたオチンチン
の裏側。陰茎と陰嚢の間、竿の根元部分です。
 ここも普通にしていれば、たとえ素っ裸でも外から見える場所
ではありませんからお父様たちにしてみたら好都合でした。

 そんな配慮がなされているとは言っても、仰向けに寝かされて、
両足を高く上げさせられて、がんじがらめに押さえつけられてる
男の子の姿って相当に惨めです。
 でも、勇気のない私は、『もう許してあげて』なんてお父様に
言えませんでした。

 「さあ、次はここだよ」
 お父様の声に従いお線香が動きます。

 私はお父様のロボットとなって二つ目の場所にもお灸をすえる
つもりでしたが、気がつくと、お線香を動かしているのは私自身。
お父様は力を入れていません。
 私はハッとして動きを止め、後退りしようとしましたがそれは
お父様が許してくださいませんでした。

 再び艾に火がつきます。

 「あっ、いや……」

 その瞬間きっと熱かったんでしょう。男の子のそこがぴくぴく
っと動いて、私はびっくり。
 耐えてる明君ではなく、私の方が思わず明君の太股にお線香の
火の玉をくっつけそうになりました。


 『やれやれ、終わった』
 私はそう思ったのですが……
 ところが、そうは問屋がおろさなかったのです。

 「明ちゃん、あなた男の子なんだから、瑞穂ちゃんだって三回
耐えてるのに一回だけじゃだらしがないわ。もう一回やっていた
だきましょう」
 明君の解放を止めたのは、なんとこのお仕置きに当初は反対だ
ったはずの真鍋のお母様でした。

 「小暮先生、もう一回、お願いできますか?」
 真鍋のお母様がうちのお父様にお願いします。

 「えっ、またやるの?」
 明君が心配顔で見上げますが、お母様は涼しい顔です。
 きっと、お灸を据えてみた結果、大したことがなさそうなので
安心なさったんだと思います。
 でも、そうなると、見栄やプライドが頭をもたげます。
 明君はそんなお母様の生贄になったのでした。

 「明ちゃん、男の子は女の子と同じじゃいけないの。女の子が
三回なら、あなたは五回ぐらい我慢して男義をみせなきゃ」
 真鍋御前の鼻息が急に荒くなります。

 お母様の命令ですからね、明君、諦めるしかありませんでした。
 そして、私もまた、諦めるしかなかったのです。

 据える場所はまたしても同じ場所。
 でも今度はお母様自らその袋を摘み上げ、『ココ、ココ』って
指でポイントを指し示し『さあ、どうぞ』と言わんばかりに私の
目の前でその部分を目一杯押し広げるのです。
 イヤイヤやっていた最初とは大違いでした。

 『あっ、さっきの……』
 そこにはさっき私がすえたばかりの赤い点が二つ残っています。

 そこに新しい艾が乗せられて……

 「さあ、それじゃあもう一回だ」
 お父様の指示でお線香を近づけます。

 もちろん、それってお線香を持つ私の右手をお父様が動かして
いるわけで、その事に私の意志は関係ありませんが、明君に対す
る私の罪悪感が消える事はありませんでした。

 「あああああああ」
 今度は小さな吐息が少し大きくなって聞こえます。

 「大丈夫なの?」
 私が振り向いてもお父様は左手で私の頭を撫でるだけ。

 私は女の子ですからそこへ据えられた男の子の気持なんて分か
りませんが、それでも、その場所が私たちの会陰や大淫唇と同じ
くらい大切な場所だとはわかっていました。

 頼りはお父様だけ。お父様を信頼するだけでした。


 明君も二回目までは何とかを持ちこたえていました。

 ただ、三回目ともなると……

 「いやあ、やめて~~~、熱いからいやだあ、ごめんなさい、
お母さん、やめてよ~~~」

 上級生らしからぬ泣き言が聞こえます。
 実際、お灸というのは最初に据えられた時の驚きを別にすれば
連続して据えられると後の方が応えます。
 一回目より二回目、二回目より三回目が辛いのでした。

 ところが、真鍋のお母様はそんな明君を叱ります。
 「情けない声を出さないの!!あなた男の子でしょう!!この
くらいのこと、一年生のチビちゃんだって黙って耐えてるわよ!」

 御前様の大声が広間一杯に広がります。
 いつもは優しいお母さんの怒鳴り声にビックリしたんでしょう
か。明君は、その後、一言も泣き言を言いませんでした。


 こうして、最初の二人が三回だったおかげで、以後は他の子も
お灸は三回になり、とんだとばっちりを受けたわけですが、ただ、
その後は大した混乱もなくお灸のお仕置きは粛々と行われました。

 何人もの家庭教師から身体が1ミリも動かせないように押さえ
込まれて、女の子の一番恥ずかしい場所をみんなの前で晒し続け
る。お灸はそのものは大したことがなくても、もうそれだけで、
外へ行ったら虐待でしょう。

 でも私たちの場合、クラスメイトはみんな幼馴染で同じ境遇の
子供たち。お父様や家庭教師、学校の先生はいつも私たちを膝に
乗せ頭を撫でてくれる人。周囲に気を使わなければならない人が
ここには誰もいないんです。誰もが善良で、気心の知れた人たち
しか周りにいない平和な村で、私たちは叱られたことやお仕置き
されたことをそれだけ切り離して考えたりしません。
 私たちにとってはお仕置きだってお父様たちとの楽しい生活の
一部でしかありませんでした。


 さて……
 長い長いお仕置きの時間が終わり、すでに午後の最初の授業が
始まっています。ただそんな場合でも、この学校ではオーナーで
あるお父様たちの子供たちに対するお仕置きが優先されます。

 この大広間の入口では、すでに次の時間を担当する体育の桜井
先生の顔が見え隠れしていましたが、お父様たちは慌てる素振り
を見せませんでした。
 それはまだ最後の大事なご用事が残っていたからなのです。

 お姉様たちはすでにご自分のお父様の前に向き合うように正座
しています。
 すると、まるで武道の試合後のような空気感のなかで、小暮の
お父様が代表して声を掛けます。

 「それでは、礼をしましょう」

 こう言うと、娘たちは一斉に両手を畳に着けて……
 「お父様、お仕置きありがとうございました」

 子供たちの声が合唱となって大広間に響きます。

 お仕置きに対して子供の側がお礼を言うなんて、世間的には変
なのかもしれませんが、これは私たち間ではむしろ常識で、幼い
頃からお灸に限らずお仕置きをされた後は、必ずお父様や先生に
お礼を言う習慣になっていました。

 ですから、これもお仕置きの一部。もし、にやけた顔なんかで
ご挨拶すると、お仕置きのやり直しなんてこともありますから、
子供たちだってこの礼が終わるまで息が抜けませんでした。


 礼が終わると子供たちはそれぞれのお父様のお膝に引き取られ
ます。幼い子のようにお父様から抱っこよしよしってされるわけ
です。

 これって、本当に幼い頃なら嬉しいんですが、ある程度年齢が
上がってくると、むしろうっとうしくなります。
 でも、これも嫌がったりすると……

 ひょっとして、お仕置きのやり直しとか?

 ピンポーン。大正解。

 私たちはお父様の庇護のもと、何不自由なく暮らしているよう
に見えるかもしれませんますが、お父様のお人形としての役目は
常にきっちり求められます。
 ですから、このお膝では『お仕置きで元の良い子に戻りました』
というアピールが求められるわけです。

 お父様からは、頬ずりをされたり、頭やお尻を撫でられたり、
顔を胸のなかへ押し付けられたりもしますが、それを常に満面の
笑みで返さなければなりません。
 私たち子どもは常にお父様の天使であり続けなければならない。
これもまたこの世界の大事な約束事だったのです。


 そんな親子の睦み事が5分程度あって……
 「よし、良い子になった。さあ、午後の授業に出ておいで……」

 これでやっと開放です。
 これから、いよいよ午後の授業となるのでした。

*************<17>**********

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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