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見沼教育ビレッジ (4)

            見沼教育ビレッジ (4)

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。
 キャシー……ふだんから襟足を刈り上げたオカッパ頭で、短い
       フリルのスカートを穿いている。お転婆で快活な
       少女。ケイト先生は元の指導教官で、離れた今も
       会えばまるで仲のよい親子ようにじゃれあう関係。
 堀内先生……普段は温厚なおばあさん先生だが、武道の達人で
       たいていの子がかなわない。美香が卒業するまで
       ケイト先生からキャシーを預かっている。

 その他……百合子先生。/お隣りの子の指導教官

**************************

 「ねえ、先生、連れてって……いいでしょう……」
 キャシーはケイト先生の腕を強く引いてまたもやおねだり。
 それって、まるで幼児が親に向かって遊園地に連れて行くよう
だだをこねているのと同じだった。

 実は、公開処刑が行われる公園へは指導教官が付き添わなけれ
ばそもそも入ることが出来なかったのである。

 一方、ケイト先生はというと……
 「そうねえ、どうしようかしらねえ……」
 そんなキャシーの猛攻をのらりくらりとした調子で受け流して
いる。

というのも、これがキャシーだけならまだいいのだが、美香に
は少し刺激が強すぎるのではないかと考えていたのだった。

 と、その時である。

 「あら、あら、何かもめごとかしら?」

 低い声がキャシーの耳元に突き刺さる。
 とたんに、キャシーがその場で立ち上がった。

 それまで散々甘ったるい声を出していたキャシーが、いきなり
直立不動になったのだから、美香だってこれはいったい何事かと
びっくりだ。

 声の主は、白髪の乾いた髪に深い皺を刻んだおばあさん。老女
と呼んで差し支えない人だった。
 その人にケイト先生も立ち上がって深々と一礼する。

 「ケイトさん、どうしました?」
 このおばあさん、まずはケイト先生に事の次第を尋ねた。

 「実は、キャシーが今日の公開処刑を今日ここへ来たばかりの
新井美香に見せたいとせがむものですから、今、どうしようかと
思案しておりまして……」

 「なるほど」
 事情を理解した老婆が、今度は美香へ視線を移すと……

 「あなたね、新井美香さんというのは……」

 「あっ、はい……」
 周りの雰囲気から美香も緊張せざるを得なかった。
 『この人、きっと偉い人なんだわ』
 美香は思ったのだ。

 実際、その判断は間違っていなかった。彼女はこのビレッジの
幹部クラス。一教員にすぎないケイト先生とは身分が違っていた
のである。

 「美香さん。あなた、お父様と一緒にお風呂に入ったことある
かしら?」

 『えっ、お風呂?……どういうこと?』
 美香は、その瞬間、先生がなぜそんな事を訊くのか理解できな
かったが、とりあえず、正直に答えた。

 「あります。父は私が背中を流すと、とても喜びますから…」

 「そうなの。それは感心ね。うらやましいお父様だわ……その
時、あなたも一緒に裸になってお風呂に入るのかしら?」

 「昔はそうでしたけど、今は……ちょっと、恥ずかしくなって
……」

 「何年前まで一緒にお風呂を楽しんでたの?」

 「おととしくらいまでです。…あっ、去年も何度かありました。
……家族旅行の温泉で…ですけど……」

 「そう、それじゃあ、あなた、お父様の身体は見たことあるの
ね」

 『お父さんの身体を見たことがあるかってどういうことだろう』
 美香には老先生の謎が理解できなかったが、とりあえず……

 「はい、先生」
 と、答えたのだった。

 すると……
 「いいんじゃないですか、ケイト先生。…父親とでは感じ方が
違うかもしれませんが、何事も勉強と考えていいと思いますよ」

 この鶴の一声で話は決まり、ケイト先生も、美香が公園の中を
歩くことを許可したのだった。


 帰り道は二人増えて四人の道中。キャシーの参加で明るい道行
となったが、何より変わったのはそのルート。
 今度はフェンスの外側ではなく、公園の中を通って帰ることに
なったのである。

 公園の入口で、二人の教員は自分のカードを警備員にかざして
入る。その際、『この子たちも…』と、一言口ぞえすればそれで
よかった。
 この公園は、一般の入場者はもちろん、ここの生徒であっても
先生と同伴でなければ中に入ることが許されないエリアだった。

 「やったあ~」
 キャシーは、公園に入れたのがよほど嬉しかったのか、ゲート
をくぐるなり満面の笑みで公園内をあちこち走り回る。

 でも、美香はというと……
 『ここって、はしゃぐような処かしら。ただ木が生い茂ってて、
花壇があって、ベンチがあって、それに、噴水、東屋……こんな
公園、どこにでもあるじゃないの。……あの子、ホントにまだ、
子供ね』
 キャシーのはしゃぎぶりを冷ややかな目で見ていたのである。

 「ねえキャシー、ここって何か特別なものでもあるの?だって、
見た感じ普通の公園じゃないの」
 キャシーがひとしきり運動してから自分のそばに戻ってきたの
で美香が尋ねてみると……

 「だからあ、今日は男の子の公開処刑が見られそうなのよ。…
…こんなチャンス滅多にないんだから……」

 「公開処刑って……男の子もここに来るの?」

 「さっき、食堂であなたにも話したはずよ。この間、男の子と
女の子が逢引してるところを先生に見つかったって……うちはね、
男女問わず恋愛厳禁だもん。デートが見つかっただけでも、当然、
お仕置きってことなの」

 「それがここであるの?」

 「そういうこと。……こういう場合、例外的に男の子もここへ
呼んでお仕置きするの」

 「じゃあ、……その……そんな時は女の子も男の子のエリアへ
行ってお仕置きを受けるの?」
 その恐ろしい光景を想像して、美香の瞳孔が目一杯開く。

 「さすがにそれはないわね」
 子供の会話に割り込んだのはケイト先生だった。

 「いくら厳しく対処するといっても、男の子と女の子では受け
るショックが違うもの。ただし、女の子の方には甘いということ
にはならないわ。そういうことって、女の子の世界の中では当然
公開処刑だし、体罰も、ひょっとしたら男の子以上かもしれない
わ。……あなた、知ってるかな?『見るは法楽、見られるは因果』
って言葉」

 「見るは法楽?……見られるは因果?……何それ?……」
 最初、分からなかった美香だったが、途中で思い出した。
 「……ああ、見世物小屋の入口なんかで叫んでる口上ですね」

 「ピンポ~ン。そうそう、それそれ。ここはそういう場所なの。
青天井の大きな見世物小屋。だから、お客さんとして先生と一緒
に見物するぶんには、こんなに面白い見世物はないかもしれない
けど……もし、お仕置きとして連れてこられたら、シャレになら
ないほどの生き地獄よ」

 「ここでお仕置きされるんですね」

 「そういうこと。特に見せしめの罰ではここがよく使われるの。
この公園、もともと先生たちの憩いの場だから、生徒も特に許可
された子以外入ってこないし、もちろん一般人の出入りもなくて、
プライバシーが守れるから、ここではけっこう厳しいお仕置きが
行われるのよ」

 「だから、見るだけなら法楽なのか……」

 「そういうこと。……見るだけじゃないないわよ。参加だって
できるんだから……」
 今度はキャシーがその中へ割り込む。

 「参加?……私たちがお仕置きに参加するの?」

 「そうよ。ほら、あそこの東屋に誰かいるみたいだから行って
みましょうよ。やり方を教えてあげるわ」

 キャシーは美香の手を引っ張ると、その東屋へ。


 (美香の回想)

 私は、キャシーが独りで暴走してるんじゃないかと思って振り
向きましたが……すぐ後ろにいた先生二人もその事に対して咎め
だてする様子はありませんでした。

 「わかった。わかったから、そんなに引っ張らないでよう」
 私はキャシーに文句を言いながらも着いて行きます。

 キャシーが私を連れて来たのは青い瓦屋根の東屋でした。

 東屋というは簡単に言うと公園内の休憩所みたいなところで、
ここは六畳ほどの広さがある建物。建物といっても壁や窓はなく、
あるのは屋根とそれを支える柱だけですから、中の様子が外から
素通しで見えます。

 『ここでもやってるの!!』
 私は思いました。
 女の子が一人、東屋の中に設置されたピロリーに掴まっている
のが見えるのです。

 自分の家の庭で一度体験済みでしたからショックはその時ほど
大きくありませんが、それでも同性がこんなことされているのを
見るのは心地よいことではありませんでした。

 当然のようにその子も全裸でしたが、なぜか大きな袋を頭から
被せられていましたから顔はわかりません。

 「ねえ、あれ、誰なの?」
 私は思わずキャシーに尋ねてしまいます。
 すると……

 「そばにいる先生が担当教官だろうからから、察しはつくけど
……ほら、この子、頭からすっぽり袋を被せられてるでしょう。
こういう時は、その子が誰かわかっても、『誰々ちゃん』って、
声をかけてはいけないルールになってるのよ。……だから、あと
で教えてあげるね」

 キャシーが私に耳打ちします。

 「ねえ、この子何したの?」
 私は同じようにキャシーに耳打ちしました。

 すると……
 「それは、そこに書いてあるわ」
 キャシーは入口の掲示板を指差します。

 そこには彼女のものでしょうか、ショーツが一枚掛けてあり、
黒板には……
 『私は、テストの時間にカンニングをしてしまいました。もう
一度、真人間になってやり直したいので、どうか、皆さんご協力
をお願いします』
 と書かれています。

 この文言から、もちろん、これがカンニングの罰だという事は
分かったのですが、『皆さんご協力をお願い…』の意味がわかり
ませんでした。

 そこで……
 「ねえ、ご協力って、何するの?」
 と、キャシーに尋ねてみると……

 「ご協力って?ああ、あれね。要するに、この子のお仕置きを
手伝って欲しいってことだわ」

 「お仕置きを手伝う?……それって私たちも?」

 「そうよ。ここでは、お仕置きのお手伝い、先生じゃなくても
生徒でもいいの。この子のお尻に火の出るような鞭を与えて反省
を促すの」

 「そんな、残酷な……」

 「ちっとも残酷じゃないわよ。むしろ感謝されるわ。……ほら、
あそこに『30/12』って書いてあるでしょう。……あれはね、
現在12名の方から鞭をいただきましたって印なの。この子は、
どのみちあれが『30/30』つまり30人の人から鞭打たれる
までこの枷から開放してもらえないの。だから、あなたも、私も、
あの子のお尻をぶってあげれば、あの子だってそれだけ早く開放
されるわけだから、あの子から感謝されるってわけ。人助けよ」

 「……私、」
 私はそう言っただけでしたがキャシーは行ってしまいます。

 「あっ、待ってよう」
 私は慌ててキャシーを追いかけようとしましたが……彼女は、
すでに東屋の中。そこへ立ち入る勇気はありませんでした。

 しばらくすると、まだ外に立っていた私に向かってキャシーが
手招きします。

 そこで、恐る恐る私も中に入ってみると、いきなりそこにいた
先生に……
 「あなたも、やってくださるの?」
と、尋ねられ、ゴム製の一本鞭を手渡されそうになります。

 私は、その鞭をまるで不浄な物でも差し出された時のように、
両手を突き出して拒否。後ずさりしたのでした。
 「いえ、違うんです。私は関係ありませんから……」

 いくら行きがかりとはいえ、自分とは何の関係もない女の子の
お尻をぶつなんて、良い子を装ってきた私の常識では考えられま
せんから当然こうなります。

 「あらあら、残念ね。あなた、こうしたことは初めてかしら?」

 先生がやさしく問いかけますから……
 「は……はい、先生」
 怯えながら答えると……

 「難しく考える必要はないのよ。この子のお尻をぶつことは、
虐めとは違うの。誘惑に負けそうになるこの子の心の弱さを強く
する大事なお仕事なんだから……名誉なことなのよ」

 再度、先生に勧められます。
 すると、そばで聞いていたキャシーまでもが……

 「やってあげなよ。さっきも言ったけど、もし、あなたがやら
なかったら他の人がやるだけのことなの。どのみち、30人って
ノルマは決まってるんだから……」

 「えっ、そんなこと言わけても……私……鞭なんて使ったこと
ないし……」

 「だから、いいんじゃない。先輩にしてもそれは好都合のはず
よ」

 「えっ!?(そうか、この人、私たちより年長よね)」
 確かにその通りです。枷に繋がれたその人は私たちより身体も
一回り大きく、胸もお尻も私たちより成熟しています。

 『そうか、弱い者をぶつわけじゃないのね』
 変な安心感が生まれたのも事実でした。

 「だってあなたのような子がぶってもあまり痛くないでしょう。
それでいて一人分稼げるんだもの。芸達者な先生達に厳しくされ
るより、よっぽどラッキーだわ」

 『そうか、そういうものなのか』
 私はキャシーの言葉を単純に信じてしまいます。

 いえ、本当のことを言うと、こんな立派なお尻を、一度、鞭で
しこたま叩いてみたかったのです。
 まさに本心は好機到来なんです。
 でも、私は女の子、そんなこと表立っては言えませんでした。

 「じゃあ、先輩のためにやってみます」
 私の顔は『あくまで周りの勧めで仕方なく』という風に作って
ありましたが、内心の顔は笑っています。
 いえ、すでに笑いが止まらなくなっていました。

 『今まで、お父さんやお母さんからぶたれたことはあるけど、
人をぶつのはこれが初めてよ。お人形さんのお尻と違って、緊張
するなあ』
 鞭を持たされて足が震えているのは、怯えていたからだけでは
ありませんでした。可憐な少女の正体は、その心の内に分け入れ
ば、恥知らずなインプ(小悪魔)だったのです。


 胸の高まりを抑えきれず私は順番を待ちます。
 最初はキャシーでした。

 彼女は慣れた様子で鞭を空なりさせると、その先っちょをお尻
のお山に着けて小さく軽く叩き先輩の緊張を高めます。
 そして、その鞭が、膝まづく先輩のお尻を離れて、大きく弧を
描くと……再び急降下して来て……

 「ピシッ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響。
 先輩は身体を固くして耐えます。
 お土産は豊満なお尻についた赤い一本の線でした。

 「あと、二つね」
 とは先生の声。

 そこでキャシーが再び鞭を空なりさせると、先輩の身体一面に
鳥肌が立ちます。
 それは、キャシーの鞭が先生方と同じ威力を持っていることの
証明だったのです。

 パターンは同じです。
 鞭の先っちょがお尻のお山をくすぐってから、やがて離れ……
大きく弧を描いて空中に舞うと……急降下して……

 「ピシッ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響し、先輩は身体を固くして耐えます。
 抜けるはずのない厚い板の穴から両手を引き抜こうとするのは
それだけ痛かったからでしょう。
 お土産が増えて、赤い線は二本になります。

 「あと、一つ。これがラストよ」
 先生の声に、キャシーは余裕の笑顔で返事をします。

 その後のキャシーは、前の二回と同じでした。
 鞭のさきっちょがお尻のお山をくすぐり、やがて、大きく弧を
描いて空中を舞ったかと思うと、急降下して……三たび、大きな
お尻を鞭がとらえます。

 「ピシッ~~」
 「いやあ~~」

 東屋の天井に鞭音が反響し、同時に先輩の悲鳴が聞こえます。
 先輩の身体は相変わらず枷に繋がれたままでしたが、その体は、
まるで溶けた雪だるまのように、だらんとピロリーの厚い板に垂
れ下がります。


 お土産の赤い鞭筋は三つ。
 これを六本にするのが私の仕事でした。

 キャシーの動作の見よう見まね。
 「ピシッ~~」
 東屋は音響装置がいいのか。予想以上に反響します。

 そして、二発目……
 「ピシッ~~」
 「いやあ!!!」

 『私なんかの鞭で、そこまでしていただかなくても』
 なんて、こちらが恐縮したくなるのような悲鳴があがります。
そして、ピロリーが本当に倒れるんじゃないかと思うほど、枷に
捕まった先輩はその両手首と自分の首を必死に抜こうとしたので
した。

 「お譲ちゃん、あなた、なかなか筋がいいわよ。では、ラスト
ね」
 先生の声に送られて、私は再び大きな弧を描きます。

 「ピシッ~~」
 「いや!」

 最後、先輩も踏ん張って、あまり大きな悲鳴になりません。

 すると、鞭初心者の私は……
 『あれ、なぜ悲鳴が小さいんだろう?……失敗しちゃったのか
なあ。何がいけなかったんだろう』
 と、思ったのでした。


 たった三回の鞭でしたが私の身体は激しく上気していました。
 興奮状態の私はケイト先生や堀内先生がいつこの東屋を訪れた
のかも知りませんでした。

 お二人は、やはりそれが義務だと思われたのでしょう。
 私たちと同じように鞭をとって、先輩に対し三度の戒めを行い
ます。

 でも、それは、私たち子供が振るった鞭に比べてことさら強い
というものでもありませんでした。

 おそらく私たち二人がきつく叩き過ぎたので調整されたのかも
しれません。
 先輩にとって、先生方は救世主。私たちこそがお邪魔虫だった
ようでした。


************(4)***********

見沼教育ビレッジ (3)

          見沼教育ビレッジ (3)

*)このセクションにはHな場面ありません。ごめんなさいネ。


******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。
 キャシー……ふだんから襟足を刈り上げたオカッパ頭で、短い
       フリルのスカートを穿いている。お転婆で快活な
       少女。ケイト先生は元の指導教官で、離れた今も
       会えばまるで仲のよい親子ようにじゃれあう。

**************************


 お昼になった。
 美香とケイト先生はいったん家を離れて管理棟にある食堂へと
向かう。
 予約を入れればデリバリーサービスもしてくれるのだが、先生
は美香に村の様子を見せようとして外へ誘ったのだった。

 家並みが途絶えたあたりからマロニエの並木がまっすぐに続き
敷き詰められた石畳には塵一つ落ちていない。木立を吹き渡る風
のざわめきとテニスコートで打ち合うボールの音だけが二人の耳
に届いていた。

 「何だかとっても静かな処なんですね。普段行く軽井沢の別荘
よりこっちの方がよぽど静かだわ」
 美香は大きく伸びをする。

 「ここは、巷の喧騒の中でいつもお転婆している子どもたちの
溜まりたまり場だから、あえて静かな環境にしてあるの。人間、
騒がしい処で暮らすと、心まで刺々しくなって、間違いも起こし
やすくなるから。………もちろん、彼らにが静かにしているのが
苦手なことは知っているわ。……でも、……いえ、だからこそ、
こうした場所でも暮らせるように訓練しているの。……ところで、
あなたは、どう?……こんな環境はお嫌い?」

 「いいえ私はむしろ静かな環境の方がいいです。運動している
より本を読んでる方がすきですから……」

 「そう、それはよかった。あなたの場合はあまり大きな問題を
抱えていないみたいだから、きっとそう答えると思ったわ。……
ところで、あなたはSだったわね」

 「S?」

 「シスター遊びのことよ。時代によって呼び方は色々だけど、
思春期の女の子が一度は通る通過儀礼みたいなものだわ。だから、
ほおっておけばいいんだけど……大人たちは昔の自分を忘れて、
何だかんだと問題視するのよ。特に生理を異にする父親にそれを
理解させるのは至難の業。そこは諦めた方がいいかもしれないわ
ね」

 「そうなんですか……」
 美香は気のない返事を返した。

 「ただね、腐っちゃだめよ。それはそれとしてお付き合いして
あげなくちゃ」

 「おつきあい?」

 「そう、女の子の人間関係は突き詰めればみんなお付き合い。
お仕置きだってごく幼い時は別として、大きくなればお付き合い
で罰を受けてるみたいなものだもの……」

 「えっ?」

 「あら、あなたは、違うのかしら?」

 「それは……」

 「あなたの歳ではまだ難しかったわね。ごめんなさいこんな話、
忘れて………いずれにしても、お父様はあなたが可愛くて仕方が
ないの。だから、こんな些細なことにまで目くじらをたてちゃう
の。そこは理解してあげてね。ちょっとしたことでも放っておけ
ないのよ。だから今度の事でも、お父様を恨んじゃいけないわ。
これはお父様とのお付き合いだと思って受け流すのが、あなたに
とっても一番よ」

 「お仕置きなのに……」
 美香は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

 『これまで、父の教えは常に正しくて、お仕置きはその当然の
結論だったはずなのに……それをお付き合いだなんて……』

 美香は、この人は何て歪んだ考えなんだろうと思った。
 思ったけれど……振り返れば、自分だってそう思ってこの試練
を乗り切ろうとしていたのである。

 そんな困惑した美香に気づいた先生は……
 「ごめんなさい、まだ気にしてる?……忘れて……余計なこと
言っちゃったわね」
 先生は慌てて自分の言葉を取り消す。

 そして、無理やり美香の視線をそちらへ向けさすように……
 「ほら、見て見て……あの子、おかしいでしょう……(プッ)」
 ケイト先生は、大人たちに混じってテニスをしている若い娘を
指差すと、なぜかプッとふいた。

 「どうしたんですか?急にふいたりして……」
 怪訝な顔の美香にケイト先生は……
 「なんでもないわ。……ただ、あの子、またオムツ穿かされて
るのかって思ったのよ」

 「オムツ?」
 「そう、よ~く、見て御覧なさい。あの子のアンダースコート。
ね、違うでしょう」

 「あっ、ホントだ。今日の朝、失敗しちゃったんでしょうか?」

 「たぶんね、……あの子、チャコって言うんだけど、昔から、
からっきし堪え性がないのよ。お浣腸すればどこはばからずすぐ
にお漏らすしするし、鞭で叩たこうとすると、鞭が当たる前から
ぴーぴー泣くしね。この間も、お灸をすえようとしたら、まるで
この世の終わりみたいな声だったわ」

 「お灸って……そんなこともお仕置きにあるんですか?」

 「親御さんの許可があればやるわよ」

 「……私は……」

 「あなたはまだじゃない。私が指示されてないから……お灸は
それをやる専門の鍼灸師さんがいらして、私たちは助手で駆りだ
されるの。お灸の場合、暴れる子も多いから人手がいるのよ」

 美香は、ケイト先生の話を聞きながらほっと胸をなでおろして
いた。数は少ないとはいえ彼女自身も経験者だったのだ。

 人心地ついた彼女は、ポツンとつぶやく。
 「……私もやってみたいな」

 「ん?……」

 美香の独り言に気づいた先生が、わざと……
 「えっ!?オムツを?……お灸を?」
 なんて言うから、美香の顔が真っ赤になった。

 「いえ、そうじゃなくて、テニスをです」

 「何だ、そうなの……」
 先生は美香の顔を真っ赤にさせてご満悦だったのである。

 「どうぞ、どうぞ、いいわよ。お昼休みや夕食の前は自由時間
だもの。何してても構わないわ。テニスやろうと映画を見ようと、
あなたの自由よ。クラブハウスに行けば誰か相手してくれるはず
よ。やってみる?」

 「いえ……でも、今、私、お金ないから……」
 美香が恥ずかしそうに言うと……

 「何言ってるの。ここで生活するのにお金なんていらないわ。
食事もスポーツも学用品も、とにかくここで入り用のものは全部、
研修費としてあなたのお父様から事前事後にいただくからそれで
賄われてるの。ただし、タバコは手に入らないわよ。ここでは、
ただ、勉強して……スポーツして……おとなしく寝るだけの生活。
散々お転婆してきた子にとっては退屈で辛い日々でしょうけど、
やがて、みんなこの静かな暮らしにも順応していくわ。あとは、
言葉遣いや礼儀作法を教えて、卒業」

 「……それが四週間なんですね」

 「あなたの場合はね。……でも、長い子は、半年、一年、二年、
ってここにいる子もいるわ。………中学までは義務教育だから、
近くの学校へここから通わせてるの。よほど、ここがお気に入り
みたいよ」
 先生は含み笑いを浮かべたあと、こう続ける。
 「あなたの場合、学業は優秀だし、罪と言ってもシスター遊び
くらいだから、ここの生活に順応するのは早いんじゃないかしら。
ただ、夜は貞操帯をはめてもらうことになるから、ちょっと窮屈
かも……それと、ここの規則で寝る時はパジャマも下着も許され
ないの。私と一緒にすっぽんぽんでベッドに入ることになるわ」

 「えっ!そこで、私、何されるんですか?」
 不安になって美香が尋ねると……

 「何されるって……ご挨拶ね」
 ケイト先生、顔をしかめてちょっとくさったような顔に…でも、
すぐに気を取り直して……
 「何もしないわよ。ただ私とあなたが一緒にベットで寝るだけ。
あなたがベッドで何か変なことをしやしないか、大人たちが心配
してるから、私がお目付け役になって一緒にいるだけの事だわ。
だって、あなた一度信頼を裏切ってるでしょう。だから、新たに
純潔の証しを立てるためにそうしてもらうの。それさえ慣れたら、
後は楽よ。ここではバカンス気分で過ごせるわ」

 「そうなんですか」
 美香が気のない返事を返す。
 バカンス気分はオーバー。何より両親がここへ来るというのが
今の美香には気になっていた。


 マロニエの並木道の両側には、テニス場の他にもボウリング場、
ゲームセンター、映画館やカフェ、お花屋さんやヘアサロンなど
まるでどこかの街が移転してきたように並んでいる。

 「ここには図書館や体育館みたいなものだけじゃなく、色んな
施設があるんですね」

 美香が驚いて尋ねると、ケイト先生の答えは明快だった。
 「だって、お勉強ばかりしていたら飽きるでしょう。誰だって
息抜きは必要だわ。健全な娯楽は次の仕事の活力源よ。真面目に
取り組んだ子にはこうした処へ来て遊べるように自由時間が増え
る仕組みになってるの。逆に、だらけてやってると勉強部屋での
監禁時間が増えて、お仕置き時間も増えるってわけ……」

 「信賞必罰ってことですか?」

 「それほどオーバーな話じゃないけど、やはり人参は必要って
話よ。……それに、ここは父兄同伴が原則でしょう。付き添って
くださる親御さんたちのためにもこんな施設が必要なのよ」


 並木道を過ぎると、二人は高いフェンスで囲われた公園を右に
見ながら進む。
 やがて、目の前が開け、高い処に大時計のある管理棟が現れる。
生徒たちの為の食堂はこの中にあった。

 時分時とあって中は混雑していたが、カフェテリア方式の食堂
は整然と秩序が保たれている。

 「ここで生徒手帳をおばさんに渡してね」
 美香が先生に言われるまま先ほどもらったばかりの生徒手帳を
カウンター越しのおばさんに差し出すと、受け取ったおばさんは
手早くその手帳を機械にかざし、お盆のバーコードも機械に読み
取らせてから、お盆と生徒手帳を美香へ。

 生徒とおばちゃんが一体になった流れ作業。まるで儀式のよう
にスムーズだ。

 「あとはそのお盆に好きなものを乗せてくればいいわ。ただし、
各コーナーに係りの人が立ってるから、必ずその人がそのお盆と
料理の器についてるバーコードを読み取ってから持ってくるのよ。
もし、それをしないで持ってくると、罰を受けることになるから
気をつけてね」

 「あ、……はい」
 美香は、なぜそんな手間の掛かることをするのか分からぬまま
生返事をして料理を取りに行く。

 大広間はまるでホテルのバイキングレストランのようだった。
壁沿いに色んな料理が目移りするほどたくさん並んでいたのが、
美香はこれが初めてということもあってあまり食欲がわかなった。

 スープと生野菜、それに小さなクロワッサンを二つだけ取ると
ケイト先生を探し始める。

 混雑する大食堂は、気がつけば生徒と先生のカップルばかり。
どのペアもまるで親子のような親しさだ。

 そんな熱気にも圧倒されて美香は心細かったが、そのうち先生
の方がまごつく美香に気づいたのだろう。
 「美香、こっちよ」
 という声がかかった。

 声の方を向くと、先生はすでに自分の分の料理をお盆にとって
着席している。いや、そればかりではない。その隣りでは、なぜ
かやけに親しげな女の子が一人、ケイト先生にじゃれついていた
のである。

 近づくと、さっそくその子が……
 「新米さん。ここでは好きなものを好きなだけ取って食べれば
いいの。たとえお相撲さんみたいに沢山食べてもお金はいらない
から心配しないでね」

 ませた口をきくこの子は、でも、見るからにまだ小学生という
姿だった。
 顔が幼く見えるということもあるが、短いフリルのスカートや
襟足を刈り上げたオカッパ頭が美香にそう思わせたのである。

 「あら、あなた、それだけでいいの」
 ケイト先生が美香の持ってきた食事を見て心配するが……

 「あっ、わかった。あなた、何か悪いことしたんでしょう」
 その子が疑いの目で美香の瞳を覗き込む。
 「だから、心配して食べないんだ」

 「悪いこと?」
 美香にはこの女の子の言う意味が分からない。

 「またまた、とぼけちゃって……お浣腸されるかもしれないと
思って控えてるんでしょう?」

 「キャシー!」
 ケイト先生は突然女の子を一喝する。

 「ごはんの時間よ。場所柄をわきまえなさい。……いいこと、
この子は今日ここへ来たばかりなの。そんなことは知らないわ。
だいたい、あなたに他人の事が言えるのかしら……またこんなに
襟足を刈り上げてもらって………あなたと会うと、いつもワカメ
ちゃんカットじゃないの」

 「ワカメちゃんカット?」
 聞きなれない言葉に美香の口から思わず独り言がでた。
 それをケイト先生が説明してくれる。

 「この子のこんな頭、幼い女の子しかしないでしょう。だから、
ここではこういう頭のことをワカメちゃんカットって言うの」
 先生は抱きついてきたキャシーのうなじを愛おしく逆撫でる。

 「この子、キャシーと言ってね、こんなに甘えん坊さんだけど、
けっこうやんちゃなのよ。……こんな頭で、こんな服着てるから、
あなた、小学生に見えたんじゃない。でも、これでれっきとした
中学二年生」

 『私と同学年?』
 美香はこの時初めてこの子が自分と同学年だと知ったのだった。

 「こんな短いスカート穿かされて、こんなヘアスタイルにされ
て……この事自体、立派なお仕置きなんだけど、この子みたいに
悪さばかり繰り返す子は、このスタイルに自分が慣れちゃって、
恥ずかしいなんて思わなくなっちゃうから困まりものだわ」

 「仕方ないわ。だって、これが私のトレードマークだもの」
 キャシーは明るく言い放った。

 「先生はキャシーさんのことよくご存知なんですね」

 美香はケイト先生に向かって話したのだが、それに答えたのは
キャシーだった。
 「ご存知もなにも、ケイト先生は先週まで私の指導教官だった
んだもん。……ねえ、先生。二人はとっても仲良しなんだから…」

 キャシーは甘ったれた声を出したかと思うと、いきなり先生の
懐に顔を突っ込んできて頭をすりすり。

 「コラ、コラ、やめなさい。まったくもう~いつまでたっても
あなたはそうなんだから……」
 ケイト先生は迷惑そうにキャシーを引き離すが、かといって、
そんなに強く叱るわけでもなかった。

 ヘアスタイルもさることながら、その大胆ないちゃつき方にも
美香はあいた口が塞がらなかったのである。
 たしかに美香は学校で友だちと擬似恋愛を楽しんではいたが、
それはあくまで友だち同士。学院内で教師と生徒がこんなふうに
戯れることがあったかといえば、それは絶対に考えられなかった
のである。

 美香はケイト先生にじゃれつくキャシーを見ていて……
 『何なのこの子。節操はないし、貞操観念はないし、幼稚で、
頭も悪そうで、もとは浮浪児かしら?ひょっとして精薄児かも』
 頭の中で散々に酷評してみるのだが……

 でも、そのうち………
 『でも、この二人楽しそうね。まるで息の合った漫才師みたい』
 やがて、自分のそうした思いが、実は嫉妬だと気づくのである。

 実際キャシーは子供っぽいところはあっても美香が考えている
ほど頭が悪い子ではなかった。
 
 「さあ、いつまでやってるの。食事がさめてしまうわ。………
お祈りして、お食事をいただきましょう。」
 ケイト先生がキャシーを跳ね除けて、居住まいを正して食事が
始まる。

 「今日、ここで暖かい食事がとれることを神様に感謝します」
 ケイト先生が最初にお祈りの言葉を述べ、生徒もあとに続く。
お祈りは宗教宗派に関係なくできるように簡素な言葉だけだが、
子どもたちはこの食前の祈りを欠かしてはならなかった。
 これも躾の一つだったからだ。

 ただ、食事が始まっても、二人はまるで親子のように親しげに
話しを続けている。

 キャシーは午前中の出来事を洗いざらい物語り、ケイト先生は、
キャシーのために自分の料理を取り分けて与えたり、ナプキンで
口元を拭いたりする。まるで、幼い子のためにする甲斐甲斐しく
世話を焼く母親のような献身ぶりだった。

 『何もそこまで……』
 とも思うが、美香にはそれがどこかうらやましくもあった。

 そして、気がつけば、他のテーブルでも事情は似たり寄ったり
だったのである。

 『これって、みんな先生と生徒の関係よね。でも、みんな親子
みたいに見えるわ』
 
 美香が驚くのも無理なかった。
 肩を抱いたり、頭を撫でたり、膝の上に抱いて頬ずりなんての
もあった。ある先生などは自分のスプーンに料理を乗せて生徒の
口元まで運んでやっているのだ。

 『幼児じゃあるまいし……』
 美香は思う。たしかに生徒の歳を考えれば異常というべきかも
しれなかった。
 しかし、これがここのやり方。お仕置きのやり方だった。

 「どうしたの、美香?狐につままれたような顔になってるわよ。
羨ましいのかしら?」
 思わず、ケイト先生から声がかかった。

 「そんなこと」
 美香は否定したが……

 「ここでは、先生がお父様お母様の代わりをしているの。それ
も、まだ若い頃のお父様とお母様の代わりをね」

 「どういうことですか?」

 「お父様お母様が若いってことは、あなたたちは、もっと幼い
わけでしょう。そんな幼い頃の思い出をを疑似体験させてるの。
ひねくれ根性の染み付いた子ってね、そのままでは何を言っても
聞く耳をもたないけど、幼児の昔に戻してあげると、話を聞いて
くれるようになるから、まずは、その時代に戻してあげてるのよ」

 「私も……そんなふうに甘えなきゃいけないんですか?」

 「あなたにはたぶん必要ないと思うけど、でも、もしあなたが
手を焼くようなお転婆さんだったら、年齢はどんどん戻されて、
最後は赤ちゃん扱いよ」

 ケイト先生の言葉を追いかけてキャシーが……
 「そうそう、赤ちゃんって大変なのよ。オムツを穿かされて、
おしゃぶりをくわえさせられて、食事は哺乳瓶のミルクだし……
柵で囲われた特性ベビーベットで一日中過ごすの。そりゃあ一日
二日は、この方が楽でいいかなんてたかをくくってるられるけど、
三日も経つと死にそうに寂しくなるわ」

 「(ふふふふふ)」
 キャシーの言葉を聞いた美香は思わず含み笑いをした。そして、
キャシーにこう尋ねたのである。
 「楽しそうね。何日くらいやらされるの?」

 「楽しい?……馬鹿言わないでよ。あなたオママゴトと勘違い
してるからそう思うのよ。最後は先生に必死に懺悔して『どんな
お仕置きでも受けますから許してください』って言わされるんだ
から……」

 「あなた、やられたことあるのね」
 美香はキャシーのその時の姿を連想して笑ってしまう。

 「まあね、こんなに大きくなってから両親にオムツ替えを見ら
れたらどんな気持がするか。それで効果がないと、この人、今度
はお友だちまで呼んで来るんだから……女の子のプライド、ずた
ずた……二度と立ち上がれないんじゃないかと思ったわ。………
あなたも一度体験してみればいいのよ」

 「(あっ、そうか……なるほどね)」
 美香は、言葉にこそださなかったが、少しだけこのお仕置きの
恐さがわかったような気がした。
 「(確かに、そんなことになったら恥ずかしく街を歩けない)」
 と思ったのだ。

 「で、何日くらいやらされるの?」
 美香は続けてキャシーにたずねてみる。

 確かに大変な罰には違いないが、心の奥底から笑いがこみ上げ
てくるから彼女の頬は膨らんでいる。むしろ、笑いを堪えるのに
必死といった顔になっていたのだ。

 その質問にはケイト先生が答えた。
 「期間とかは別に決まってないわ。とにかく改心するまでよ。
ほかのお仕置きでもそうだけど女の子のお仕置きでは期間や量を
あらかじめ決めないの。どんな微罪でお尻を叩く時でも、反省し
なければお尻が赤くなって血が滲むようになっても終わらないの。
そこらが男の子とは違うところだわ」

 「えっ、ここに男の子っているんですか?」

 「この管理棟のエリアは女の子専用だから男の子いないけど、
男の子は男の子で別の管理棟エリアがあるの。二つのエリアには
高い塀があるから、男の子の顔を見る事は普通はないわね」

 ところが、ケイト先生の答えに、キャシーが反論する。
 「普段はそうよ。でも、今日は特別。……ごくたまにだけどね、
男の子を見る事ができるの。それもヌードでよ」
 キャシーの声が弾んでいた。

 「(ヌード?)」
 すると、キャシーの言葉に美香の胸までも高まるのだ。

 彼女だって思春期の女の子。『男の子のヌード…』と聞けば、
ただそれだけで生理的に胸がときめく、顔が赤くなってしまうの
である。

 「ねえ、ちょうどよかったわ。今日、公園で公開処刑があるの。
一緒に見に行かない?」

 「公開処刑?」

 「そう、みんなが見ている前で行われるお仕置きのことよ。…
…何でも、向こうの男の子とこっちの女の子が炭焼き小屋で逢引
してたんですって……男の子はともかくその女の子、大胆なこと
するもんだと思うわ。私ならできないわね。だって公開処刑なん
かされたらプライドずたずたで、これから先もう生きていけない
と思うもの」

 キャシーの意見に、しかし、ケイト先生は……
 「大丈夫よ。あなたは、こんな短いスカート穿いて、こんな頭
にカットされても、こうして元気じゃない。たとえみんなの前で
裸になされて鞭でぶたれるようなことになっても、神経が図太い
んですもの、ちゃんと生きていけるわ」

 「わあ、ひどいよ先生。それじゃあ、まるで私にデリカシーが
ないみたいじゃないですか」

 「あら、あなたにそんな高級なものあったかしら、あなたとは
二年もつきあったけど、一度もそんなもの感じたことがないわ。
『ひょっとしてこの子、山から逃げてきたお猿さんじゃないか』
って思ったぐらいよ」

 「わあ、ひどい、先生ひどいよ。私だって女の子なんだからね」

 最後は、二人、またじゃれあいだした。
 ただ、美香にしてみると、キャシーが語る公開処刑が具体的に
どんなものなのか、この時は今一つピンとこなかったのある。


*****************(3)********

見沼教育ビレッジ (2)

      見沼教育ビレッジ (2)

******<主な登場人物>************

 新井美香……14歳。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールかけている。目鼻立ちの整った美少女だが
       本人は自分の顔に不満があって整形したいと思っ
       ている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 ケイト先生…日本生まれの白人女性。サマーキャンプでは美香
       を担当する。助教師二人と共に美香の更生にあた
       るが、彼女はすでに美香の両親から体罰の承諾を
       得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************

 見沼教育ビレッジは、ビレッジという名の通りまるで一つの村
のようでした。

 ひときわ背の高い管理棟を中心にして、教会があり公園があり
体育館があります。テニスコートも図書館も映画館だってあるん
です。手紙だってちゃんと届きます。そして、何より意外だった
のは寄宿舎というか寮というか、子どもたちが集団で寝泊りする
建物がないことでした。

 生徒には一人一軒の一戸建て住宅が割り当てられ、子供たちは
そこで暮らすことになります。その住宅群だけで村の七割程度を
占めていました。まさに、ビレッジというわけです。

 私が寝泊りする家も、当然こうした住宅群の中にありました。

 『まるで建売住宅みたいね』

 整然と同じような建物が並ぶさまは、まるで不動産開発会社が
切り開いた新興住宅地みたいです。

 「ほら、ここがあなたの家。似たような家が多いから、ほら、
間違わないようにちゃんと名前が書いてあるわ」
 ケイト先生に案内された家のポストにはすでに私の名前があり
ました。


 玄関を入ってまず案内されたのは私の部屋。

 「ここがあなたの部屋。天蓋付きのベッドなんて素敵でしょう。
……あ、荷物はそこに置いていいわ。後はこの子が自分で片付け
るでしょうから、あなたたちは帰っていいわよ」

 ケイト先生は部屋に着くなり付き添って来た二人に私の荷物を
置かせて返します。ここからはケイト先生と私のマンツーマンで
した。

 実は荷物といっても寮生の身ですから所帯道具のようなものは
ありません。二人が持ってきてくれたのもトランクが二つだけ。
学校の寮から持って来たのは、私服が二三着と下着、それに……
お気に入りの小説や教科書、参考書のたぐいと、洗面道具くらい
でした。

 「私、ここで先生と勉強するんですか?」
 私は部屋をひとあたり見回して尋ねます。そこには天蓋つきの
ベッドの他にも天板の広い机や天井まで届くような大型の本棚、
一人用のソファや大型のベンチチェストなどが置いてありました。

 「ここでの私は、あなたの子守りがお仕事なの。言ってみれば
お母さん役よ。だから、あなたがどんなにわずらわしいと思って
も、私は一日中あなたのそばにいて色んなアドバイスを送り続け
ることになるわ。ただし、勉強の方は専門の先生がいらっしゃる
から、昼間、その方がこちらへ出向いて、ここで教えてくださる
ことになってるの」

 「家庭教師?」

 「まあ、形の上ではそういうことになるかもね。でも、ここの
先生方は世間の家庭教師のように甘くないわよ。ちょっとでも、
集中心を切らすと、即、お仕置き」

 「…オ…シ…オ…キ」

 「耳を思いっきり引っ張られて、このベンチチェスに寝かされ
て、『目を覚ませ~~』ってお尻を叩かれることになるわ」

 「ここにうつ伏せになるんですか?」
 
 「軽い時はね」

 「軽い時?」

 「普通は、うつ伏せじゃなくて、そこに仰向けに寝て、両足を
高く上げて鞭をいただくの。……パンツなんか脱がされちゃうと
痛くて悲鳴があがるわよ」

 先生は悪戯っぽく笑いますが、こちらはその言葉を聞いた瞬間、
心がすでに瞬間凍結状態になっていました。

 『それって、痛いというより、恥ずかしい』
 と思ったのでした。

 そう思って再びこの部屋を眺めなおすと、ベッドの天蓋からは
人を拘束するための革紐がぶら下がっていますし、天井には頑丈
そうな滑車が据えつけられています。壁に掛かっている牛追い鞭
はもちろん実際には使われないでしょうが、傘立てのような籠に
立てかけられた樺枝の鞭や書棚の引き出しから覗くケインは現役
のようです。

 そうこうするうち、私は衝撃的なものを見つけてしまいます。
それは大きなチェストの裏側に隠すようにして置いてありました。

 「……あらあら、気づいちゃった」
 緊張した私の視線をケイト先生は追っていたのでしょう。
 何も言わないのに私の心を読み解きます。

 チェストの裏には卑猥な雑誌によく登場する三角木馬が隠れて
いました。

 『まさか、これ……三角木馬じゃないわよね。……うっ……嘘
でしょう。いくらお仕置きでも、これじゃまるでSMなじゃない』

 目を丸くしていると……
 「あらあら、最近の子はおませさんね。あなたみたいな子でも、
これが何かわかるのね」

 不安で一杯になった私の心を逆撫でるかのようにケイト先生は
わざわざその組み立て式の木馬を部屋の中央へ引っ張り出すと、
あっという間に組み上げてしまいます。

 「牛追い鞭はお飾りだけど、こちらは絶対に使わないとは約束
できないの。……その驚きようだと、これがどんな物か知ってる
みたいね。……乗ったことがあるの?」
 先生は木馬をポンポンと叩いて警告します。

 「…………」
 私は慌てて顔を横に振りました。

 「当たり前だけど……これって、とっても痛いわよ」

 私は三角木馬を正視できないて、思わず目を背けたのですが、
その背けたはずの視線の先には今度はベッドパンがありました。

 「あら、今度はオマルにご執心なの?……やはり頭のいい子は
好奇心旺盛ね」
 ケイト先生はまごつく私をからかいます。

 「それはあなたのトイレ。もちろん、あなただって普段は家の
トイレを使うことができるんだけど……勉強をさぼったり、悪さ
ばっかりやってると、この部屋に監禁されちゃうから……使える
トイレはそれだけになるるわ。特に、メンスの時は注意しないと
……私たちは慣れてるからいいけど、あなたは大恥をかくことに
なるわよ」

 その日、天気は晴天。私に与えられた部屋は日当たりがよくて、
その陽だまりの中に私もいたはずでしたが、幼い私はケイト先生
の思うがまま、何か説明を受けるたびに小さな胸を抱いて震えて
いるしかありませんでした。


 「ここがお風呂。二人で入っても狭くない広さでしょう」

 「二人?」

 「そう、私とあなたが一緒に入るの。ここではね、私とあなた
は四六時中いつも一緒なの。食事も、勉強も、お風呂だって一緒
に入るのよ」

 『二人一緒だなんて、ここではプライバシーなんてないのか
しら?』

 私は心の中だけでつぶやいたはずでしたが……先生は、まるで
私の心の声が聞こえたかのように話し始めます。

 「残念だけど、ここではプライバシーなんてものはないのよ。
ここでの四週間、あなたは身も心も自分のすべてをさらけ出して
生きていかなければならなくなるわ。赤ん坊みたいに……勿論、
それが女の子にとってどれほど辛いことかは知ってるけど、辛抱
するしかないわね。……だって、そうしなければ、あなたは再生
されないもの。……あなたが更生することはご両親の願いであり、
私たちの願いなの。それを忘れないでね」

 「はい、先生」
 私は諦めにも似た境地でそう言ったつもりでしたが……

 「いいご返事だわ」
 ケイト先生は初めて私を褒めてくださいました。

 「ただ、私や先生方、もちろんご両親もそうだけど、あなたを
守る立場にある人に対しては、自分を隠すことが許されていない
けど、それ以外の人に対しての秘密は守られるわ。ここはハイソ
なお嬢様がよく利用するから、この建物だってプライバシー重視
の造りになってるの。どの家も全室冷暖房完備、防音装置付きよ」
 ケイト先生の顔に再び柔和な笑みが戻ります。

 「あなただって、自分がお仕置きされてる姿を他人に覗かれた
くないでしょう?」

 「ええ、まあ」

 「それにね……こうして隔離してしまうと、子どもたちに思い
切ったお仕置きができるから、私たちにとっても都合がいいのよ。
何事も、中途半端はよくないわ」

 私は『なるほど、そういうことか』と思いました。

 「じゃあ、この家の中の悲鳴は外に漏れないんですか?」

 「家の中でやる分にはそうよ。窓を閉めれば、ほとんど悲鳴は
聞こえないわ……だって、どんな時も他人の迷惑をかけちゃいけ
ないでしょう」

 ケイト先生は悪戯っぽく笑ったあと、こうも続けるのです。
 「ただし、中には見せしめとしてお仕置きする場合もあるから、
そんな時は、もちろん別よ」

 『見せしめ!』
 私の心にその言葉強く残ります。

 「あら?また、驚かせちゃったかしらね。あなたは賢いから、
まず大丈夫だと思うけど、我の強い子やおいたが過ぎる子の場合
は、こちらもそうそう綺麗事ばかり言ってられないから、非情な
こともしなければならなくなるの」

 「それって、どこで……やるんですか?」

 「学校の朝礼やミサのあとで行われることも多いけど……一番
多いのは、やはり自宅の庭よ。ピロリーって知ってる?」

 「えっ……まあ……」
 私は歯切れの悪い返事をします。
 知ってるのに知らないと言えば叱られそうですし、知ってます
なんて大きな声では言いにくいものでした。

 「首と両手を二枚の板で挟んで晒し者にするの。うちのは膝ま
づくタイプだから小さいの。……そうね、百聞は一見にしかず、
ここで説明するより見に行った方が早いわね」

 「…えっ!?………」
 私は何も反応しなかったつもりでしたが、ケイト先生は私の手
を引いて庭へと連れ出します。

 そこは高い生垣に囲まれた10坪ほどの空間でしたが、手入れ
の行き届いた草花が咲き乱れ、ベンチや小さな噴水まであります。
 一見すると住宅街のどこの家庭にでもあるような庭なのですが、
その庭の片隅に、ケイト先生が説明していた木製の晒し台(ピロ
リー)がありました。

 「あなた、やってみる?」
 「えっ!」
 先生に誘われて私は一瞬驚きましたが、あえて抵抗はしません
でした。どうせ形だけと思っていましたから……

 「まず、この桶の中で膝まづくの」

 まずは古いバスタオルが数枚敷き詰められた大きな桶に入って
膝まづくと……次は、目の前にある半円形にくり貫かれた厚い板
にそれぞれ首と左手右手を乗せます。

 後はその上から同じように三つの半円形のくり貫きがある板が
セットされて、私の首や両手首は板から抜けなくなります。
 それにしても、高さといい、穴の大きさといい、私にぴったり
でした。

 「まるであつらえたみたいですね?」
 何気にこう言うと、先生は涼しい顔で……
 「あつらえたのよ。昨日、あなたの体形を園長先生からお聞き
して、あつらえたの。だから、これはあなた専用。………でも、
もしこのキャンプで太ったら調整してあげるわね」
 ケイト先生はいたずらっ子のような笑顔を浮かべます。

 私はそれを見てまたまた背筋がぞくぞくっとしました。
 最初は、おふざけのつもりでしたが、実際にこうして体を拘束
されてしまうと、やっぱり恐怖です。

 今は服も着ていますし、お尻をケインでぶたれる心配もありま
せんが……これが裸にされ、こんな形にされてお尻をぶたれたら
……そんなこと、想像しただけでお漏らししそうでした。

 「どうしたの?……あなた、震えてるわよ。寒いの?……」
 ケイト先生は意地悪そうな目つきで尋ねます。

 「…………」
 私は窮屈な首を振ることしかできませんでした。

 「あなたはそこまで先生を怒らせないと思うけど…一応言って
おくとね、最悪のケースは、お部屋で浣腸されて……裸でここに
連れて来られて……ここで拘束されたまま、この桶の中でお漏ら
し……なんて事もあるの」
 先生は、まるで幼い子に言って聞かすように、……お部屋……
ピロリー…桶…と、その一つ一つを指差しながら私に説明します。

 「想像してごらんなさいな。自分がそうやって剝き出しのお尻
を叩かれてるところを……」

 「…………」
 たしかに、こうして拘束されていると服は着ていてもその恐怖
が実感できます。

 「……ここでぶたれるのはベッドルームでぶたれるのとは違う
の。……たいていの子がたまらず悲鳴をあげるわ。……恐いのよ。
だから、そんな時は、お隣を覗かなくても、鞭音と悲鳴で何やっ
てのるかすぐにわかるってわけ」


 ケイト先生がまさにそんな話をしていた時です。
 まるでその時を計ったかのように女の子が一人、私たちの庭へ
転がり込んできました。

 実は、この庭の大部分が高い生垣によって目隠しされています
が、ただ一箇所、火事など不測の事態が起こった時の為に、自由
にお隣と行き来できる木戸が設けられていました。

 彼女はそこから入ってきたのです。

 とにかく凄い格好でした。
 上半身は裸。下半身だって身につけているのはオムツだけです。
おまけに私と同じように首と両手首を厚い板に挟まれていて……
それをすっぽり被っています。

 初対面の人の前に出るのにあられもない格好と言ってこれほど
ハレンチな姿で現れる人は見たことがありませんでした。

 「!!げっ!!」
 「!!えっ!!」
 驚きはお互い様でした。

 彼女は私たちの存在に気づくと、まず目が点に……
 そして、数秒後、顔を真っ赤にしてしゃがみ込みます。
 その身体のつくりからして、どうやら私と同年代のようでした。

 「見ないで!!見ないで!!みんな見ないでよお!!」
 彼女はしゃがみ込んだまま叫び続けます。
 本当な両手で胸だけでも隠すんでしょうが、あまりにも大きな
帽子のせいでそれもできませんでした。

 「みんなあっち行ってよ」
 怒っているような泣いてるような声が響きました。
 でも、そのやむにやまれぬ声が、彼女にとっては最も恐い人を
呼び寄せることになるのでした。

 「あ~いたいた」
 女の子を追って再び木戸が開きます。
 入って来たのはケイト先生と同じ大人の女性。ケイト先生より
少し年配の……私の母くらいの年恰好でした。

 「やあ、ケイト、そちらは新人さん?」
 彼女はケイト先生に比べれば大柄で小太り、貫禄があります。

 どうやら、この人はケイト先生のお仲間。今入って来た少女の
指導教官のようでした。

 「そう、今日からここで暮らす短期受講生。初日だから最初に
色々説明しておこうと思って……」

 「ふ~ん、なかなか品のいいお譲ちゃんだ。こんな子が、何か
するとしたら『S』かな」
 その人は拘束された私の姿を頭の天辺から足先まで眺めてから
評価します。
 そして、こんなことを言うのでした。

 「で、親は来るのかい?」

 「ええ、ご両親とも今日の夕方までには……たしか、妹さんも
一緒に……」

 『えっ親って何よ!?香織(妹)まで一緒ってどういうことよ』
 今度、驚いたのは私の方です。

 「百合子先生、何かお手伝いしましょうか?」
ケイト先生は百合子先生に申し出ますが……

 「大丈夫よ。一人でできるから……」
 ケイト先生の申し出をあっさり断ると……

 「ほら、だだこねてたって何も良いことなんておきないよ。…
…あんたもいい加減ここに長いんだし、ちっとは悟らないとね」

 百合子先生はそう言って少女の枷を外すと……
 「さあ、向こうでオムツを替えないと………おや?何すねてる
んだい。……えっ?恥ずかしい?……何、言ってるの!!いつも
すっぽんぽんのくせして……だから言ってるだろう、恥ずかしい
のもお仕置きのうちだって……だいいちこれが最初じゃないんだ
もの。十回もあんたの恥ずかしい処を見せられたらご両親だって
すでに見飽きてるよ。いいかい、ここに入ったら、辛抱して我慢
して卒業するしかないの。一般の学校みたいに中途退学ってのは
ないんだからからね」
 こう言って諭します。

 百合子先生の言葉はケイト先生に比べたら乱暴です。
 でも、少女は泣きながら頷いていていました。
 どうやら、これ以上抵抗するつもりもないみたいです。

 「さあ、約束どおり今夜はお灸20個。ご両親もお手伝いして
くださるから、しっかり頑張るんだよ」
 最後まできつい言葉。でも、少女は百合子先生に促されるまま
立ち上がります。

 百合子先生は、そのままオムツ姿の少女に肩を貸すようにして
このお庭を出て行きます。

 少女の一時の激情はすっかり収まったみたいに見えましたが、
私の方は逆でした。
 少女の受けた受難がやがて現実のものになりかねないと思うと、
今度は私の方が、我を忘れて逃げ出したい気分だったのです。

 そんな胸騒ぎを見透かしたかのようケイト先生は穏やかに尋ね
ます。
 「あらあら、あなた目、またが点になってるわよ。大丈夫?」

 「……えっ、」
 私はその言葉で我に返ります。

 「気にしなくていいわ。あの子、もとは札付きの悪だったから。
でもね、あんな子に限って、一皮捲れば気持が弱いのよ。だから、
今は、虚勢じゃなくて本当の強さを教えてる最中なの」

 ケイト先生はそう言いながら私の枷を外してくださいます。
 でも、それはそよ風が一瞬頬を掠めた程度の、ささやかな勇気
しか私に与えませんでした。

 「あのう、私の両親がここに来るって本当でしょうか?」
 私はさっきの先生たちの会話から生じた疑問を尋ねてみます。
 すると、答えは明快でした。

 「ええ、いらっしゃるわよ。昨日あなたに渡したパンフレット
にもちゃんと書いてあったはずよ。ここでの暮らしは原則として
家族一緒なの。場合によっては、ご両親にもあなたのお仕置きを
お手伝いしていただくかもしれなくてよ」

 「そうなんですか」
 私は気のない返事を返します。

 『厳しいお仕置きを両親の前でなんて残酷』
 『両親に取り押さえられながらケイト先生からお仕置きされる
なんて…………それって、どんな気持だろう』
 色々と頭をめぐらしますが、考えれば考えるほど頭は混乱する
ばかりでした。

 「4週間って、けっこう長丁場なの。お互い肩のこらない関係
でいましょうよ。ね」
 ケイト先生はピロリーから私を解放するとねあらためて握手を
求め、ハグしてくれます。

 『そうかあ4週間かあ。その間、私、ずっと缶詰にされちゃう
んだろうなあ!あ~あ、大切な夏休みが終わっちゃうじゃないの』
 私はケイト先生に抱かれながら、身の不運を嘆きます。
 今は、次から次に突きつけられる新たな事実に心の休まる暇が
ありませんでした。


*************(2)**********

見沼教育ビレッジ (1)

         見沼教育ビレッジ

 見沼教育ビレッジはお嬢様専用のリフォームスクール。

 リフォームなんていうから、『お嬢様が洋服屋さんでも始める
のか?』なんて思ったあなた、思いっきり勘違いです。

 ここでリフォームするのはお洋服でも住宅でもありまん。
 お嬢様本人の人となり。性格を更生(リフォーム)させる学校
のことなんです。

 つまり、問題のあるお嬢様を躾直そうというわけです。

 そりゃあ親にとって娘は可愛いですからね、お金に飽かせて、
蝶よ花よで育てるんですが、そのうち、年齢とともにわがままが
強くなっていき、やがて親もそんな娘の要望に応えられなくなる
日がやってきます。

 そこで親がビシッとできればいいんですが、たいていその頃に
は親は娘になめられてますから小言がききません。
 そんな時、親が頼るのが見沼教育ビレッジというわけです。


 夏休み、お嬢様が避暑地の別荘で暮らすなんてのはごく自然の
ことですから、ここではそんな形式をとって行います。
 夏休み、中学生のお嬢様は避暑地の別荘でバカンスを楽しんで
おられたのだと言う体裁にしてあるわけです。

 でも、そこでの生活はお嬢様にとっては地獄のバカンス。

 子どもの父兄から、合宿中はどのような体罰も認めるという旨
のお墨付きを得ている指導教官が情け容赦ないお仕置きでお嬢様
を責め立てますから、これで性格の変わらない女の子はいません
でした。


******<主な登場人物>************

 新井美香……14歳。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールかけている。目鼻立ちの整った美少女だが
       本人は自分の顔に不満があって整形したいと思っ
       ている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 ケイト先生…日本生まれの白人女性。サマーキャンプでは美香
       を担当する。助教師二人と共に美香の更生にあた
       るが、彼女はすでに美香の両親から体罰の承諾を
       得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************


 美香が園長室に呼び出されたのは、よく晴れた初夏も終わりに
近づいた夕方近くだった。

 トントンと軽くノックをして……
 「新井美香です。お呼びでしょうか?」
 ドアの向こうへ問いかけると……

 「入ってらっしゃい」
 園長先生の聞きなれた声が返ってきた。

 そこで美香がドアを開けると、いきなり強烈な西日が顔を刺す。
 その刺激のおかげで最初は部屋の様子を鮮明に見ることはでき
なかったが、中に数人の人たちがいたことだけはわかった。

 太陽の光を右手で遮って、あらためて部屋の中を確認すると、
そこには園長先生の他に見知らぬ三人の女性たちがいたのである。

 「おかけなさい」
 園長先生に椅子を勧められて腰を下ろすと、さっそく目の前に
一通の手紙が差し出される。

 「これ、あなたのお父様からのお手紙。まずは読んでみて」
 園長先生に言われて封を切ると、そこには万年筆でしたためら
れた父の見慣れた字が並んでいた。

 『二週間前に起きた事件のことは園長先生からお聞きしました。
美香とはこうして離れて暮らしていますから、千キロ以上離れた
この場所から事の仔細を検証することはできませんが、園長先生
は高潔なおかたですから、そのお言葉を信じるとして、あなたの
したことは新井家の娘として私の娘としてとうてい許されるもの
ではありません。あなたが私の娘を名乗る時は全てに無垢でなけ
ればいけないのです。穢れていてはいけないのです。その掟は、
美香も十分に承知していると思いますからあえて正直に言います
が、今の身体のままでは、私は美香を自宅に受け入れるつもりは
ありません。あなたがこれからも私の娘であり続けたいのなら、
まずは、穢れたその身体を洗い流す禊ぎが必要なのです。そこで
提案なのですが、私はあなたの父として、あなたには夏休みの間、
見沼の教育ビレッジに参加してもらおうと思っています。そこで、
身も心もリフレッシュし、無垢な身体を取り戻してから帰宅しな
さい。以上。………あ、それから、もし、美香が身の潔白を訴え
たいのであれば、園長先生には許可をとってありますから、自宅
であれ会社であれとにかく私に直接訴えかけなさい。その内容に
酌むところがあれば再考します。……父より』

 美香はこれが父の手紙だと確信する。というのも、父の手紙は
いつもこのようにそっけない文章だったからだ。
 『何なのこれ。まるで事務連絡ね』
 美香は心の中でため息をついた。

 実は、美香、二週間前に寮の倉庫で友だち数人とシスター遊び
(レズ遊び)をしていて舎監の先生に見つかった事があったのだ。

 レズ遊びは家でも学校でも厳禁。
 ただ女の子だけの世界ではこれはよくあること。クラスの半数
以上の子が、すでに相手を見つけて経験済みの遊びだったから、
そんなことぐらいで『身が穢れてる』なんて大仰に言って欲しく
ないと思ったが、かといって大人たちが聞き耳の前をたてるなか、
父にその話で弁明する勇気も湧いてこなかったのである。

 「お電話はよろしいかしら?あなたの方で言いたいことがあれ
ばご連絡なさい。私たちは、その間、席を外しますよ」
 園長先生のせっかくの提案にも……

 「いえ、結構です」
 美香は電話を遠慮する。

 そもそもレズ遊びをしていたこと自体は事実なので覆らない。
あとは父に許しを請う言葉しか残っていないわけだが、こちらは、
そんな泣き言、他人には聞かれたくないというプライドが邪魔を
したのである。

 こうやって話が分かってきて、あらためてあたりを見回せば、
今ここに座っている女性たちがその見沼教育ビレッジの人たちだ
とわかる。
 『どうりで、みんな取り澄ました偽善者の顔をしてるわ』
 美香は心の中で思うのだった。


 彼女らは女生徒たちの間では『見沼の人買い』と呼ばれていた。

 彼らはひとたび親や学校から要請があれば、直ちに駆けつけて
子どもたちを拉致同様の手段で人里離れた自分たちのリフォーム
スクールへと連行する。

 そこで、素行の悪い娘は真人間になるための訓練を受けるわけ
だが、もともと口で言って諭して効果の上がる相手ではなし……
当然のことながら、そこでは各種お仕置き、体罰が横行していた。

 とりわけ、女の子だけの合宿所は男の目がないことをいい事に
ハレンチの限りをつくすと、美香も経験してきた友だちから一度
聞いたことがあったのである。


(美香の回想)

 でも、行かないわけにはいきませんでした。

 だって、我が家では父の命令は絶対でしたし、何より義務教育
も終わっていない私が家を飛び出しても生活ができませんから。
 今の娘さんのように、行くあてもないのにとりあえず家を飛び
出すなんて勇気は私にはありませんでした。


 案の定、私は三人の大人たちによって学校から連れ去られます。

 待たせてあったのは大きなベンツでしたが、一人は運転、私は
後部座席で大人二人に挟まれるようにして乗っていなければなり
ませんでした。

 こういうのって、拉致っていうんでしょうか?
 なるほど、人買いにさらわれていく娘の気分でした。

 「あのう、向こうでは、私、どんなことをするんでしょうか?」
 心細くなった私は、園長室でのやりとりから、どうやら三人の
中にあっては彼女がボスなのだろうとあたりをつけた人物に尋ね
てみます。

 すると、返ってきたのは意外に明るい声でした。
 「生活の大半はお勉強よ」

 「でも……私……そんなに成績は悪くありませんけど……」
 心苦しそうに言うと……

 「知ってるわ。園長先生にそのあたりは詳しくお伺いしたから。
でも、安心して。中二のあなたがどんなに優秀でもうちもそれで
おたおたするような教師陣じゃないの。ちゃんとかみ合うはずよ。
それにあなた、机での作業は得意でも、お外は苦手なんでしょう」

 「お外?」

 「そう、園長先生がおっしゃってたわ。美香さんはお転婆さん
の割に体育は苦手だって。うちは体育だってちゃんカリキュラム
にあるから弱点克服にはいい機会だわ。それに、うちはたんなる
学習塾ではないの。先学期の悪い生活習慣をあらため、忍耐力や
克己心を養って目上の人を敬う心を育てるのが目標なのよ」

 ケイト先生は、小柄で童顔、明るい声でした。ソバカスを残す
白い肌やツインテールの髪型のせいもあって、一見するとまるで
生徒のようにも見えます。
 ですから、心安く思えたのかしれません。私が気になることを
思い切って尋ねてみますと……。

 「お仕置きってあるんですか?」

 その瞬間、先生の顔が真顔になって……
 「ないと言ったら嘘になるわね。あなたは頭がよさそうだし…
…そのあたりはすでに情報収集ができてるんじゃなくて……」

 「えっ……」

 「これから行くところへは先学期の反省の為と来学期の準備の
為に行くの。当然、あなたの先学期がすばらしいものならこの車
にあなたは乗っていないわ。それくらいわかってるわよね」

 「あっ……はい」

 「だから、期間中は先学期の反省をこめて、朝昼晩それぞれに
6回のパドルを受けてもらうことになるわ。1日合計18回」

 「18回も……」

 私が驚くと……
 「あらあら、あなた小学生じゃないんですもの。そのくらいは
耐えられるし、授業にも支障がでないはずよ。チビちゃんの場合
は3回ってのもあるけど、あなたぐらいの歳の子なら、多い子は
12回、1日なら36回ってのもあるのよ。もちろん、それって
先学期のおいたがどれくらいかで多い少ないはあるけど、年齢や
体格それにこれまでの鞭の経験なんかで、その子が反省するのに
ちょうどいい回数と鞭の種類を決めてるの」

 私はもうそれだけでもショックでしたが話はまだまだ続きます。
 
 「もちろん、授業態度が悪かったり規律違反を犯せばその時は
また別に鞭が飛ぶことになるわよ。でも、これはあなたの心がけ
次第でどうにでも防げるものだから、そこは努力してね……あっ、
そうだ、それと……うちでは、朝、起きた時に必ず浣腸をかける
習慣があるの。身体の中にある不浄な物を綺麗に洗い流してから
一日を始めるためよ」

 お浣腸の件は、経験者の友だちから聞いたことがありましたが、
こうしてあらためて言われるとやはりショックでした。

 「普通30分くらい我慢してもらうけど……もし粗相すると、
その日はずっとオムツ穿きだから気をつけてね」

 「さっ……さんじゅっぷん」
 私の『30分』には『嘘でしょう!』という驚きの言葉も入っ
ています。

 目を丸くする私に……
 「最初のうちは大変だけど、大丈夫よ。そのうち慣れるから。
これも、鞭と同じようにその子の体格や年齢で量や濃度を変えて
あるから、べつにあなただけ意地悪して多めになんてことはない
から安心して……あと、まだ色々あるんだけど、それは向こうへ
着いてからのお楽しみということにしましょう」

 ケイト先生は優しく笑いますが、私にはそんな優しい笑顔さえ
不気味に感じられて仕方かありませんでした。


 そうやって車で二時間あまり、着いたのは群馬県の山の中。
 こんな人里離れた場所では、どんな大声をだしても誰の耳にも
届きそうにありませんが、さらにご丁寧なことに、この村はその
敷地全体が5mもある高い二重のフェンスで囲われていました。

 しかも、このフェンスの中をドーベルマンを連れたおじさんが
24時間体制で警備していますから……
 『これじゃあ、逃げ出すなんて絶対無理ね』
 私は高いフェンスを見ただけで諦めのため息です。

 まさに、ここは刑務所か、どこかの国の収容所みたいでした。

 でも、このフェンスの場所からは見えるのは、うっそうと生い
茂る木々や山々ばかり。肝心の村の建物はここから何一つ見えま
せんから、それを探していると……

 「さあ、いらっしゃい。ビレッジはここから少し歩いた場所に
あるの。ついてらっしゃい」

 ケイト先生に言われた時は、それらの木々の向こう側くらいに
建物があると思っていましたが……

 「先生、まだですか?」
 「だらしないわね。もう少しよ。……なるほど、あなた、体育
は苦手みたいね。……ま、その方が脱走の心配がなくていいかも
しれないけど……」

 フェンスの入口から大人達に連れられて険しい山道を歩くこと
30分。
 やっと、村の建物が見えてきます。

 「ふうっ……何で、こんなに遠いの。車で来ればいいのに」
 山道を歩かされ思わず出た愚痴にケイト先生が反応しました。

 「ここの広さを実感してもらうためよ」

 「広さ?」

 「そう、ここはね、お転婆さんが多いでしょう。だから、ほら
こんなに広い場所だから逃げるのは大変よって教えてあげてるの。
ちなみに、脱走を試みただけで訓練期間が一週間伸びるから気を
つけてね」

 相変わらず明るい声が返って来ましたが、私はため息しか出ま
せんでした。


***********(1)************

 

お招れ<第2章> 番外おまけ

      お招れ<第2章> 番外おまけ

*)これはあくまでおまけです。Hとは無縁です。

**********************

 数日後、伯爵様は、ご自宅の書斎で春花ちゃんや美里ちゃんの
あの日の写真を見ていました。

 一部は金魚鉢から操作して大人たちで撮ったもの。町田先生が
子供たちのお尻を叩いている様子が映っています。
 残りは、町田先生が帰り際に残していったネガを現像したもの
でした。

 「ほう、あの先生、写真もなかなか腕がいい」
 伯爵様が言えば……

 「どれどれ……」
 娘の美由紀が伯爵様の右の肩から声を掛けてきて数枚の写真を
受け取ります。

 「なるほどね、よく撮れてるじゃない。アヌスやヴァギナだけ
じゃなくクリトリスまでばっちり撮れてるわね」

 「(ははははは)この間の一件ですね。お嬢様はお撮りになら
なかったのですか?せっかくのチャンスでしたのに……」
 三山医師が仲間に加わります。

 「私はそんなことはしないわ」

 「そうですかあ?」
 三山医師はお嬢様に疑いの目を向けると、一拍おいてから……
 「そうかあ、同じ裸でもお嬢様の場合は男の子の方でしたね。
……おう、そういえば、この間も峰岸とかいう幼い子に熱い視線
を送ってらっしゃいましたが……本当に写真は撮られなかったん
ですか?」

 「馬鹿なこと言わないで、私はそんなことはしません。こんな
ふうに写真を見て楽しむのは男性の趣味よ」
 お嬢様はそう言って父親へ手持ちの写真を返します。

 すると、今度は伯爵様の左肩からは三山医師が現れて、やはり、
数枚の写真をゲットするのでした。

 「ほう、確かにこれは凄い。ピントもばっちり合っております
な。こんな写真が撮れるのなら、今度、医学雑誌に載せる論文の
写真はあの先生にたのもうかな」

 「あらあら先生。父のお守りのほかに、論文なんて書く気力が
まだおありなんですか?」

 美由紀が疑い深いまなこで笑うと、三山医師も笑って応じる。
 「いやいや、これは手厳しいですな」

 その場には和やかに時が流れていました。

 ただそんな中にあって柏村さんだけが何だか浮かない顔だった
のです。

 柏村さんは意を決して口を開きます。
 「御前、大変差し出がましいのですが……」

 「何だね?」

 「このようなお写真は手元に残されない方がよろしいかと思い
ますが……」

 「ん?」
 伯爵様は柏村さんの方を向くと怪訝な顔を見せます。
 でも、その顔は長続きしませんでした。
 また、すぐに柔和な顔に戻ります。

 「そういえば、君は金魚鉢の中でもそんなことを言ってたね。
きっと苦労性なんだろうね。ま、私のことを心配しての事だろう
から、それは嬉しく思うけど、これはそんなに気に病むことでは
ないんだよ」

 「ですが……このようなものが、万一、外部に漏れますと……」

 「外部に?……(ははは)君が盗むつもりかね?」

 「めっそうもない」
 柏村さんは慌てて首を振り右手で顔の前を扇ぎます。

 「だったら、いいじゃないか。……よしんば、これが外に流失
したとしても、所詮は子供が尻を叩かれているところとその股の
写真にすぎないじゃないか。大事にはならんよ」
 伯爵様は柏村さんの心配がむしろ滑稽だとでも言いたげでした。

 「柏村さん、あなたはまだ若いから分からないでしょうけど、
父はすでに80を超えた老人なの。若い人のように成人の女性を
お相手にして楽しむ気力はすでに残っていないわ。……だから、
これはその代わりなのよ」

 「はい、そのあたりは承知しております……」
 美由紀の言葉に柏村さんは小さい声で答えます。

 「……それに、お父様があの子たちを具体的にどうこうしよう
というわけでもないわ。たまたまお仕置きの機会があったから、
それを利用させてもらったの。あちらの先生も、そんなこちらの
事情をよくご存知だから手伝ってくださったのよ。もし、これが、
出版社へ持ち込んで小銭でも稼ごうだなんて輩だったらあの先生
も協力してくださらないはずよ」
 美由紀は柏村を諭します。

 「柏村君、君はまだ若いな」
 三山医師の場合は、少し嘲笑を含んでいたかもしれませんが、
美由紀と同じ柔和な笑顔でした。

 「あの先生、このお家と何らかの関わりを持ちたかったんじゃ
ないのかな。もちろん、これを利用してゆすりだのたかりだのを
するつもりはないだろうけど、これをきっかけに顔つなぎをして
おけば、それはそれで損はないからね」

 三山医師の言葉を受けて伯爵様もこう諭します。

 「いいですか、柏村君。世間でよく贈収賄事件というのが報道
されるでしょう。あれを見て世間の人は、例えば1億円の賄賂が
渡されたと報じられると、『ああ、1億円あれば甘い汁がすえる
んだ』って単純に思うみたいですけどね。あなた、見ず知らずの
人から『はい1億円』って手渡されて『はい分かりました』って
犯罪に手を染めますか?」

 「1億円ですか?」
 柏村さん一瞬考えましたが、最終的には……
 「いいえ」
 でした。

 「そうでしょう。贈収賄事件の大半は、それまでにお互い密な
人間関係があって、抜き差しならない事情あって、それでお金が
動くんです。金額は二の次なんですよ。私は犯罪を犯すつもりは
ありませんが、こうして恥ずかしい写真をプレゼントされたわけ
ですから、私の性分として、あの子たちに何かあった時、知らん
ぷりはできにくくなりました。もちろん法律的に私を縛るものは
何もありませんが、私は動くでしょうね。あの先生は、そうした
私の性格も織り込んだうえで子どもたちの写真を撮られたんじゃ
ないでしょうかね」

 「深謀遠慮……大人の判断というわけですか」
 柏村さんは伯爵様の説明を少しは理解したようでした。

 「私はあの子たちの品性も教養の程度も知っていますし実際に
抱いてもいます。その温もりを感じて見る写真だから、これには
値打ちがあるんです。……どこの馬の骨かも知れないポルノ雑誌
の写真とは値打ちが違うんですよ。……わかりますか?」

 「ええ、……まあ……」
 柏村さんは少しがっかりしたようでもありました。

 「どんな写真も裸さえ映っていればみな同じではないんです。
あなたにしてみたら『……それにしても、たかが数枚の写真では
出費が大きい』と、ため息かもしれませんね。ただ、私のような
老人になると、考えが違ってくるんです。『これでいくらかでも
若さが取り戻せるなら、安い買い物じゃないか』ってね、そんな
ふうに思えるんですよ」

 伯爵様は柏村さんと話している間も写真をアルバムに張る作業
を休みませんでした。

 そして、完成したアルバムは隠し戸棚の奥にある金庫の中へ。
 伯爵様にとって二人の写真はそれほど大事なものだったのです。

 こうして、春花ちゃんと美里ちゃんの写真は、伯爵様の手元に
残り、二人少女たちは自分たちも気づかないうちに高額な保険に
加入することになったのでした。

****************************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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