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第1章 赤ちゃん修行 (3)

<A Fanciful Story>                    
            
           竜巻岬 《4》             

                     K.Mikami

【 第1章:赤ちゃん修業 】 (3)           
  《自殺未遂の罰》                 
                            

「もういや、こんな生活したくない。なにがアリスよ。私には
広美っていう立派な名前があるのよ。こんなことならあの時死ん
でいればよかったに……すべてあいつらが悪いんじゃないの。…
…悪魔よ…あいつら」

 一人になった少女は、さんざん泣いたあとに思い立ったように
悪態をつき始める。
そして、ベッドを飛び出すなり、鍵の掛かったドアを力任せに
開けようとした。

 「死んでやる…死んでやるんだから…」

 そこへ異変に気付いたハイネがやってきた。彼女はドアを開け
ると、興奮した広美を部屋のベッドへ突き倒し、刺すような眼差
しで彼女を睨みつけたのである。

 広美も一度ではひるまない。二度三度とハイネにかかっていっ
たが、流動食ばかり食べさせられ、ベッドに半年以上縛りつけら
れていた広美には勝ち目がなかった。

 そして、かかっていく気力がなくなると再びベッドでさめざめ
と泣き始めたのである。

 「あんた、さっき死にたいって言ってたけど、それって本当の
気持ちなのかしら?」

 広美はいったんは顔を上げたが、天井から睨みつけているよう
なハイネの顔にひるんですぐにまた枕を抱えてしまう。

 と、ハイネは次にこんなことを言うのだ。

 「別にかまわないよ。死にたければそれでも。元々自殺したい
という人を一度助けてみて、別の世界でならやり直す意志がある
のか、尋ねてるだけなんだから。無理強いはしないわ。いいわ、
私が放りこんであげる」

 ハイネはそう言うと、広美を独りで抱き上げ部屋を出た。

 『えっ!!!この人、どこにそんな力があるの!?』

 今度は広美が慌て始める。でも、あれだけ騒いだてまえ、どう
言って言いのか分からない。もちろん、ハイネの抱っこからは降
りたかったが、さきほどの格闘で疲れていたこともあって、なさ
れるままに……

 『いったい、どこへ連れて行く気?』

 広美の不安をよそにハイネは暗く長い廊下を足音をたてて進む。
細く曲がりくねった通路はどれも広美の知らない道ばかりだった。
そして、荷物用のエレベーターに乗って着いたのは地肌がむき出
しになった洞窟のような場所。

 「さあ、着いたわ。覗いてご覧なさい」

 ハイネに言われて岩の切り立った部分を恐る恐る覗いてみると、
そこは目もくらむような断崖絶壁。竜巻岬とは違って波打つ水も
どす黒く不気味に光っている。

 「うちで助けてもね、やっぱり死にたいって言う人は多いの。
そういう人はここから落ちてもらうのよ。……ここは竜巻岬とも
繋がっているから、水死体があがってもちっとも不思議じゃない
わ。死亡推定時刻が分からないように、半年くらい時間をおいて
から竜巻岬への水門を開けば、それで一件落着ってわけ。………
どう、納得したかしら?」

 ハイネの話を聞いたとたん、広美の顔色が青白くなる。それは
明らかに死にたくないという意思表示なのだ。

 無論、ハイネにもそれは分かっている。
 ポニーテールで小柄な彼女だが、彼女の仕事は養育係。たんに
力持ちというだけではなく、その人の顔色や素振りでその内心を
探り当てることに関してはプロフェショナルでもある。
 彼女にすれば、14の小娘の気持を言いあてることなど造作も
ないことだった。

 しかし、それは承知の上で、ハイネはなお広美へのお仕置きを
敢行したのである。

 「あそこに新しい篭があるでしょう。あれに乗って頂戴。……
一、二時間は大丈夫だけどそのうち切れて……ほら……」

 ハイネが指差す別の方角には、底の抜けた古い木製の篭がぶら
さがっていた。

 「そう言えば、何日か前にも、あそこに誰か入ってたわ」

 底の抜けた篭が吊してあるのは、さっき覗いた絶壁の先。当然、
その下は黒い海である。

 広美はガタガタと震えだし、やっている事といえば首を左右に
振ることだけ。

 「さあ、早くしてね。私はあなた以外にも仕事があるんだから」

 ハイネがそう言って広美を篭に乗せようとしたら、今度はテコ
でも動かない。

 「どうしたの。あなた、さっきは『死にたい、死にたい』って
言ってたじゃないの」

 二人はしばしもみ合いなった。無論これもハイネの計算のうち
である。頃合を見計らって……

 「どうしたの。死にたいんでしょう。なんなら、私がこのまま
投げ込んであげましょうか」

 凄んでみせると、広美はたまらずハイネの腰にすがりつく。
 そして……

 「ごめんなさい。わたし、わたし死にたくない。ここにおいて。
何でもするから、ここにおいてください」

 ハイネが求めていた言葉がやっと飛び出したのだ。

 「そう、気が変わったの。……ま、それならそれでいいけど。
だったら、ここの規則にしたがってお仕置き受けてもらうけど、
それで、いいのね」

 ハイネの凛とした態度に広美は力なくうなづく。

 『まだ子供ね。可愛いもんだわ。それはそれでこちらも楽しい
んだけど……』

 ハイネは内心ほくそ笑むと、さも大義そうに広美を……いや、
アリスを抱き上げて、一緒にお仕置き部屋へと向かったのだった。

****************************

 お仕置き部屋は三つあっていずれも十平米ほどの小部屋だが、
懲罰用の器具類が過不足なく配置され、いつお客さまがみえても
いいようにメイドがその都度ぬかりなく準備を整えている。

 「さあお入りなさい。今日は、あまりにも沢山のおしゃべりを
したし、ベッドからも抜け出したんだから、いつものように甘く
はないわよ」

 ハイネはアリスを小部屋に入れると、いつものようにメイドを
呼ぶが、アリスは落ち着きなくあたりを見回す。

 「えっ!?」

 そこはアリスがこれまで懲罰を受けていた部屋ではないからだ。
これまでは、カーペット敷きの床にソファーや椅子が置いてあり、
さながら日当たりのよい居間のような造りだったのに……ここは、
床は冷たい石造りだし、排水溝を流れる下水の音がどこからとも
なく不気味に響いて聞こえるし、何より窓すらなかったのだ。

 「いつもと雰囲気が違うから驚いた?……ちょっと早いけど、
あなたが赤ちゃんを卒業したら、こうした処でのお仕置もあるか
ら、今のうちに慣れといてもらおうと思って連れてきたの」

 「………」

 「…それは懲罰台。そこにうつ伏せに寝かされて、鞭でお尻を
ぶたれるの。もし立ち上がったり転げ落ちたりしたら、鞭の数が
増えるうえに新たな罰も追加されるから要注意よ」

 「………」

 「あら、恐いの。恐がらなくてもいいのよ。最初はほら、四隅
に付いてる皮バンドで手足を拘束してあげるから転げ落ちる心配
はないわ」

 「………」

 「そっちのは処置台。お潅腸なんかする時に使うの。…そうだ。
あそこを見てごらんなさいな。ほら、あの隅。二枚の板が渡して
あって、上から皮手錠付きの紐がぶらさがってるでしょう。あれ、
何だかわかる?」

 「…………」

 「あそこ、トイレなの。あそこで用を足すのよ」

 ハイネが意味深な笑みを浮かべる。

 「二枚の板に膝をついて、両手を皮手錠で固定して万歳をする
ような形で用を足すの。もちろん約束の時間までは我慢してもら
うわよ。もしも、それ以前に漏らしちゃうと、当然、新たな罰が
追加される事になるわ。そして、その為のお道具が入ってるのが
この書棚というわけ。分かったかしら」

 ハイネは口のきけないアリスの為に彼女が視線を動かすたびに
その説明をしてやったのだ。


 『あ~あ、やっぱりあの時飛び降りてりゃよかったかなあ』

 アリスの落胆を見透かすようにハイネが続ける。

 「どうしたの?怖いの?」
 ハイネは頬を膨らました。笑ったというべきかもしれない。

 「無理もないわね。怖がらせるために作ったんだから。でも、
こんなこと言ったら、叱られるかもしれないけど……大丈夫よ。
女の子はすぐに慣れるわ。そのうち鼻歌まじりでこの部屋を出ら
れるようになるんだから」
 不敵な笑顔だった。

 やがて、例のメイドたちがやってくる。
 いつものお定まりのポーズ。一人が椅子に座ってアリスを膝の
上に腹ばいにし、もう一人が丹念に彼女のおむつを脱がしていく。
 そこは変わらない日常だった。

 「パン(ぱん)パン(ぱん)パン(ぱん)パン………」

 一定の規則正しいリズムが部屋全体に響き渡る。
 ここは密室。音の反響が特によいのだ。

 「パン…あ、…パン…ああ、…パン…あぁ…パン…うっ…」

 きっかり100回。過不足なく温められたアリスのお尻はすで
に真赤に熟れていたが、さらに今回、アリスにはもっと苛酷な体
罰が用意されたのだった。

 「そあ、今度はここよ」
 ハイネが懲罰台の脇に立って指示する。

 『たった一回でもいい、自分のお尻をなでてやりたいのに』

 彼女のささやかな願いが叶えられることはなく、二人のメイド
に身体を押上げられたアリスは、その剥き出しの下半身で懲罰台
の鞍を挟み込まなければならなかった。

 「…<あっ>…」

 レザーの持つ独特の質感は彼女に病院の処置台の感触を思い起
させる。吸い付くようなその感触は、その時受けた潅腸の記憶と
ともに彼女の脳裏に今でも鮮烈に蘇る。

 『いやだなあこの感じ』

 彼女は不快な感触を再確認する。しかし、その不快と感じられ
る感性の中に、何やら別の感触が混じっていることに気付いて、
アリスは一瞬はっとする。

 『なんだろう、この感じ』

 でも、それが何か分からぬまま、レザー張りの枕が下腹に入り、
口の中にはいつものおしゃぶり。両手両足が革紐で拘束されて、
準備はあっという間に整ってしまう。

 今の感情が何なのか、捜し当てる間もなく、アリスには次のお
仕置きが待っていた。

 「今度は籐鞭だからこれまでとは違うわよ。しっかり懲罰台を
抱いてなさい………いいわね。さあ、歯をくいしばって、………
それ、ひと~つ」

 「ピシッ」

 ハイネの振り下ろしたイングランド流の籐鞭が、アリス自身の
感覚ではすでに二倍に膨れ上がっていたお尻に炸裂する。

 「<ひぃっ~>」

 まるで電気が走ったように痛みが脳天まで達し、両手足の指先
までもが痺れる。

 「さあ、ふた~つ」

 ハイネの声がした瞬間

 『殺される』

 アリスは素直にそう思った。実は、彼女、父親に甘やかされて
育てられた為に鞭の経験がまったくなかったのだ。

 「ピシッ」

 「<うっっっっ>」

 アリスは本当は声を出したかった。どんなに罰が増えても声が
出せれば少しは今の痛みが薄らぐような気がしたのだ。しかし、
現実がそれを許さない。猿轡がわりのおしゃぶりが、それを許さ
ないのだ。

 「みぃ~つ」

 『誰か助けて』
 許されているのは心で叫ぶだけ。

 「ピシッ」

 「<うっっっっ>」

 と、その時だった。入り口の扉がいきなり開いたのである。

 「なにごとですか。今時分」

 声の主はガウン姿のペネロープだった。

 「どうしました?何をやっているの?」

 彼女は訝しげに中へ入って来る。

 「まあ、アリスじゃないの。どうしたのいったい……」

 とたんに部屋の中の空気が怪しくなってきたのである。

 「ハイネこれはどういうこと。どうして、アリスがこんな所に
いるのかしら?ここは赤ちゃんのくる所ではないわ。赤ちゃんの
お仕置きにこんな項目はないはずよ」

 「…………」
 ハイネは答えない。

 「とにかくこの子を懲罰台から下ろしなさい」

 こうしてアリスの『誰か助けて』という心の叫びは意外な形で
実現したのだった。

 ところが……

 「そう、あなたの判断なのね。でも、これは明確なルール違反
だわ」

 ペネロープはハイネの説明に一定の理解は示したものの納得は
しなかった。

 そして、

 「あなたもここの一員である以上、罰は受てくださるわね」

 「はい、ミストレス」

 「これはあなたの仕事熱心からでた事だと信じたいので、鞭は
一ダースでいいけど、この子の面倒は、明日から他の人にやって
もらいます。それで、いいですね」

 「はい」

 ハイネは女主人の申し出を素直に受け入れた。否、雇われ人の
身分では受け入れざるを得なかったのだ。
 そんな悲しい現実を知ってか知らずか、助け船を出したのは、
意外にもアリスだったのである。

 「ぺネロープさん。ハイネさんは悪くありません。みんな私が
悪いんです。私がまた自殺したいだなんて言ったからこうなった
んです。だから罰を与えるなら私にしてください。私が受けます。
ですから、ハイネさんを首にしないでください。お願いします。
私、これからもずっとハイネさんと一緒に暮らしたいんです」

 ペネロープは突然の申し出に困惑する。こんなケースに今まで
遭遇したことがなかったのだ。そして、しばし考えたのち、少し
苦笑しながら、

 「あなたそんなに彼女のことが好きだったの?知らなかったわ。
だって、あなた、この間の園遊会ではお漏らしできなかったじゃ
ない」

 「あれは……」

 「この人、あの一件で相当に信用を失ってるのよ」

 「今度は必ず成功させます。必ず……ですから、お願いします」

 「分かったわ。そんなに二人が愛し合ってるなら、このことは
取り下げましょう。でも規則違反のお仕置きは受けてもらうわよ。
あなたもこのことに幾分かの責任があると感じてるのなら一緒に
見てなさい。そしてその痛みを二人で共有すればいいわ。………
じゃあ、始めてちょうだい」

 今度はメイドたちがペネロープのために働く。

 ハイネはもとより慣れたものだった。懲罰台にひらりと飛び乗
ると、自分でお腹に枕をいれて執行人が鞭を振るいやすい位置に
お尻を調整するのである。

 やがて、メイドたちが、ハイネのプリーツスカートの裾をその
下のスリップとともにめくりあげる。ハイネはつい今しがたまで
顎で使っていたメイドたちに、今度は辱められることになるのだ。

 当り前の事とはいえ、アリスには大人社会の残酷な場面を見た
ような気がした。

 そんなアリスをペネロープが呼び寄せる。彼女は自分のすぐ脇
に椅子を用意させてここに座れというのだ。

 「よく、見ておやり。あの子は一人でも観客が多い方が燃える
たちだから」

 このペネロープの言葉をアリスはまだ理解することができない。

 ショーツがはぎ取られ、自分とは比べものにならないほど肉付
きのよいはち切れんばかりのお尻や太ももがやがて細身の籐鞭で
鋭く切り刻まれていく様は、ただただ残酷としか映らなかったの
である。

*****************************

 その後、アリスはあちこちに引っ張り出された。とにかく人の
いるところにはどこへでもハイネが連れ出したのだ。

 メイド達の前で、村の子供たちの前で、庭師たちの仕事場で、
彼女はアリスにうんちを強要したのだった。
 そして、アリスが少しでも渋ると、いきなり灌腸。

 特に村の子供たちが囃し立てるなかおむつ替えをさせられた時
はショックで二日ほど食事が喉を通らないこともあったが、今度
ばかりはアリスもハイネに迷惑をかけたくないと思っていたから、
たとえその事でハイネからスパンキングのお仕置きを受けるよう
な事があってもじっと耐えたのである。

 こうして、一カ月後、アリスは次の園遊会でその役目を立派に
果たす。
 この城で二度目の生を受けた赤ん坊として、招待客の前で自分
の全てを晒し、そのデビューを飾ったのだった。

 「あなたは果報者ね。こんなに大勢の人たちから見守られて、
人生を再出発できるんですもの」
                             
 ぺネロープの言葉を、乳母車の中のアリスは誇らしげに聞いて
いたのである。
                             

*************<自殺未遂の罰(了)>***

第1章 赤ちゃん修行 (2)

<A Fanciful Story>                     

           竜巻岬《3》             
                     K.Mikami

 【第一章:赤ちゃん修業】(2)           
 《赤ちゃん卒業試験》                 

 広美が自らの力でおむつの中に用を足せるようになったのは、
アランに会った翌日だった。
 それまではお漏らしすら満足にできなかった子が、あの事件を
きっかけにひとつ吹っ切れたのかもしれない。

 一山越えた広美の赤ちゃんがえりは早かった。
 もともと若いせいもあって心の裏表が少なく、作り笑いや取り
繕った笑顔を見せてはならないというマニュアルは比較的簡単に
クリアできていた。

 お尻丸出しでオマルに跨がった時に、
 「いつまでこんなことやってなきゃならないのよ」
 と、お仕置き覚悟のセリフも飛び出しはしたものの、広美は、
しだいに自らの境遇に順応するようになっていく。

 その一つが喃語。つまり、赤ちゃん言葉。

 「ばぶ、ばぶ」

 言葉は話せないが、喃語を使うことは覚えたのである。

 するとハイネの方でも広美に少しだけ自由を与えるようになる。

 「そう、お庭に出たいのね」

 天気のよい日は庭でハイハイをさせたり、特大の歩行器を与え
て廊下を歩けるようにしてやったりした。

 外見は奇妙な母子関係も、時が経つにつれて、内心では本当の
母と娘のような関係へと変化していく。
 ただし、体のサイズ以外はすべて赤ん坊になったというわけに
はいかなかった。
 女の子には男にはない生理的な習慣があるからだ。

 この処理を他人に任せなければならない屈辱感は、女性にしか
わからないだろう。

 ハイネはある時はいたわり、またある時は叱りつけて、どんな
時でも広美が赤ん坊の気持のままでいられるように仕向けた。
 それが彼女の仕事だったからだ。しかし、そんなハイネの仕事
の中でも、これが一番やっかいなことだったのかもしれない。

 「…………」

 最初の三ヵ月は、ナプキンを取り替えるたびに二人のメイドと
格闘していた広美も、今ではおむつ替えと同様、ハイネに全てを
任せている。

 『もうそろそろいいかもしれないわね』
 ハイネは穏やかな顔の広美を見て思う。そこで七回目の生理が
終わったのを見計らって、広美に赤ちゃんの卒業試験を受けさせ
ようと決めたのだった。
                                   
****************************

 ある日の朝、その日も普段と変わらない朝だ。

 メイドに、おむつを替えて貰い、まずはハイネから与えられた
二本の哺乳壜に吸いつく。

 一本はミルク、もう一本はビタミン入りのジュースだ。
 ただ、それだけでは十四才の少女のお腹としては淋しい。そこ
で、ハイネから離乳食のようなものを食べさせてもらうのだが…

 「美味ちいですか?」

 もちろんその際もハイネにあやされている広美が自ら手を使う
ことはなく、口の中に押し込まれたスプーンをもぐもぐとやって
みせるだけだ。

 当初は、ぎこちなかったこの食事風景も、半年過ぎた今では、
すっかり板についている。ひょっとしてこの子は生まれた時から
このままなのではないか、と疑いたくなるような自然な食事風景
だ。

 固形食がないためかその分うんちが緩いが、どのみちおむつに
しなければならないので、むしろそれも好都合だ。

 ハイネは食事が終わると、広美を抱き上げ、二、三度頭を撫で
てから、自らの乳頭を広美の口に含ませる。もちろん、ミルクは
出ないが授乳させるのである。

 『大人二人のレズビアン?』

 傍目には無気味とも映るこの光景も、なさぬ仲の広美との人間
関係を保つ為には欠かせないスキンシップだった。

 「ばぶばぶ……まま……まま……」

 女性同士だからこそ成り立つこんな戯れ。実は、意外にも窮屈
な生活を強いられている広美をおとなしくさせておくのに効果な
レクリエーションにもなっていた。

 「広美ちゃんは今日もごきげんね。今日はね、大勢の人の前で
広美ちゃんが、ちゃんと、うんちができるかどうか見ていただく
大事な赤ちゃん卒業試験よ。これができたら、赤ちゃんは卒業。
お口もきけるし自分のあんよでお庭だって散歩できるようになり
ますからね。頑張りましょうね」

 ハイネが今日の卒業試験の様子を伝えたとたん、御機嫌だった
広美の喃語が止まり、乳を吸う力がなくなる。
 その瞬間、少女にとっては、大きな不安が心をよぎったのだ。

 たしかに、今ではおむつにうんちができるようになっていた。
だだそれは、あくまでハイネやメイドたちが見ている場所でのみ
可能なのであって、誰の前でもそれができるわけではない。その
事は何より広美自身が一番よく知っていたのである。

 「大丈夫、何も恐がることはないわ。いつものとおりにやれば
いいのよ。別にあなたの親戚が見にくるわけではないし、こんな
事があったよってその人たちが世間で言い触らしたりもしないの。
…それに、出なければ出ないで、お潅腸という手も…あっ、痛い」

 最後の言葉に広美は素早く反応する。それまで軽く握っていた
だけのハイネの乳房を思わず握り締めたのだ。大勢の見ている前
でお潅腸されたうえに排泄させられるなんて、十四の娘には想像
しただけでも身の毛のよだつ異常な出来事だったのである。

 「どうしたの。浮かない顔して……大丈夫よ。何度もやってる
けど、滅多に覗き込む人なんていないから。それに、集まる人は
みんな常識人で、ことさらこんなことが趣味というわけじゃない
の」

 「…………」

 「気にしちゃだめ。いつも言ってるでしょう。『頭を空っぽに
して嵐が通り過ぎるのを待つの』……何より、私がついてるわ。
さっさと済ませれば、五分で終わることよ」

 ハイネは広美をやさしくベッドへ戻すと彼女が落ち着きを取り
戻すまで添い寝する。

 「赤ちゃんを卒業したら、あなたは幼女になるの。それを卒業
したら次は童女。それがおわったら少女。それからレディーね。
レディーになったらもう恐い物なし。このお城を我がもの顔で歩
いて、それまで苛められたメイドたちも見返してやれるんだから。
それまでの辛抱よ」

 ハイネの言葉はたしかに嘘ではない。しかし、そこまでになる
には、この先も、長い長い茨の道を歩んでいかなければならなか
った。

****************************

 ゴブラン城では、月に一度、城主主催の園遊会が開かれること
になっており、お昼近くの十一時、城の大広間ではすでに大勢の
紳士淑女がそれぞれに歓談を始めていた。

 そんな中、ささやかな拍手と共にある種のどよめきが、静かな
波紋となって会場内に広がっていく。

 「おう…」
 「まあ…」
 「ほう…」
 ベビーカーに乗った広美が登場したのだ。

 「大丈夫よ。なるべく早く出しちゃいなさいね。我慢してると
お薬のききめが段々なくなっちゃうから」

 付き添うハイネが広美にアドバイスを送る。実はこの時、広美
は、すでに少量のグリセリンをお腹に入れられていたのだ。

 『会場で広美をお披露目すると、ほぼ同時にお漏らしが起きて、
おむつを取り替えて即退場』
 これがハイネの描いたシナリオ。とにか、く広美がこの会場で
お漏らしさえしてくれればよかったのである。

 ところが……

 「皆様にお知らせがございます。今回この城に新しい命が誕生
いたしました。名前はアリス。まだまだ、十四才という超未熟児
ではございますが、何とかここで生きていく目途がたちましたの
で、皆様にお披露目させて頂きます」

 城主アランの挨拶に、先ほど登場したときよりはるかに多くの
拍手とどよめきが起こる。普段は大人だが、今回は十四才という
年令が周囲の人達の興味を引いたようだった。

 実際、ベビーカーの周りには、大勢の紳士淑女が群がり始める。

 それが広美に、いや、今しがた名前が変わってアリスとなった
少女にどんなプレッシャーをかけたかは想像にかたくないだろう。

 彼らは一様に乳母車の中を覗きこむと、口々に赤ちゃんアリス
をあやし始めた。
 この顔見世は、本来、形だけのもの。こんなに盛り上がる事は
滅多にないのだが……

 「侯爵も果報者だ。こんないい子を天から授かるとは」

 「いや、これはペネロープ女史が自分の持ち物にするらしいぞ」

 「ほうっ。彼女、女もいけるのか」

 「いや、そうじゃなくて、アランの坊やじゃ、すぐに壊しちま
うから、取り上げたんだろうよ」

 列席者は、たわいのない世間話をしながらもアリスの頬を軽く
叩いたり、頭を撫でたりする。それは本物の赤ん坊に接するのと
何ら変わらなかった。

 ところが、アリスの方はというと……こちらは本物の赤ん坊の
ようにはいかない。多くの見知らぬ人たちに見つめられ、強烈な
羞恥心が彼女の身体をがんじがらめにしてしまう。

 アリスは身を固くし両手を胸の前で組んだままガタガタ震えて
いるしかなかった。
 当然、お漏らしなんてこと、少しぐらいグリセリンが入った体
にしても、できるはずがないではないか。

 「さあ、早く。いいから、やっちゃいなさい。今は誰もいない
わ……」

 ハイネが人だかりの途絶えたのを見計らって小声でせかすが、
効き目がない。

 「いや、絶対にいや」
 三十分を過ぎる頃には、薬の効き目も遠退いて、もう手が付け
られなくなっていた。

 そんな二人の様子を見兼ねて、ペネロープが顔を出す。

 「仕方ないわ。今日はあきらめましょう」

 彼女は広美の様子を確認すると、あっさり断を下してしまった
のである。

 「申し訳ありません。ペネロープ様。もう大丈夫かと思ったん
ですが……」

 「いいのよ。気にすることないわ。……人間、三十を越えると
羞恥心も薄らいで、このくらい何でもなく乗り切れるけど、この
子はまだ十四才ですもの。無理もないわ。その代わり、来月には
ちゃんとできるようにしておいてね」

 ペネロープはハイネにそう申し付けると、緊張で強ばったアリ
スのほっぺたを指で突ついて……

 「いいこと、今日からあなたは『アリス』と呼ばれるの。なか
なか可愛いお名前でしょう。赤ちゃんを卒業したら、私とも遊び
ましょうね」

 ペネロープは広美をあやすと、ふたたびハイネに向かって……

 「たとえ濡れてなくても、おむつは頻繁に取り替えた方がいい
わね。こういう羞恥心の強い子は、慣れも大事だから……」

 彼女はそれだけ言い残すと、ふたたびホステスの仕事へと戻っ
ていったのである。

 「そうね、たしかに、あなたにはもっと慣れが必要だったかも
しれないわね」

 強ばった顔、時折訪れる強烈な便意を意地になって押さえ付け
ているアリスの顔を見ながら、ぽつりとつぶやいたハイネは何か
決断したようだった。

 彼女は人をやってメイドを二人連れてこさせる。それは広美が
言葉をしゃべった罰にスパンキングを受けた時の二人組だった。
以後もこの二人組に幾度となくお仕置されていた広美はハイネが
何を決断したのか容易に想像がつくのだ。

 だから、本気になって逃げようとした。ベビーカーから自分の
力で抜け出そうとまでしたのである。
 しかし……

 「ほら、だめでしょう。赤ちゃんが独りで歩けるわけないんだ
から……」
 たちまちハイネに押し止められてしまった。

 以後はあっという間の出来事である。

 二人のメイドが到着しもベビーカーが大広間の隅に運ばれると、
いきなり、鼻を摘んで捻じ込まれた特注のおしゃぶりが口の中で
膨らむ。

 「うっ、うぅぅ……」

 それに気を取られているうちに、おむつが外され、両足が高く
跳ね上がり……

 「あっ……」

 あとは、『恥かしい』と思う間もないほど素早く、ピストン式
の潅腸器の先が直にアリスの菊座を直撃。大量のグリセリン溶液
が直腸へと送り込まれることになる。

 「ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 石けん水ならいざ知らず、グリセリン100CCというのは、
これまでにないほどの量。

 「あっ……だめえ……」
 苦しい息が悲鳴となって漏れるが……

 「そう、もうこれでだめなの。観念なさいね」

 ハイネの珍しく冷たい調子に、アリスは怯える。
 実際、こうなってはどうすることもできなかった。

 「あっ、ああああああ、いやいやいやや、漏れる、漏れる……
だめ、だめ、だめえ~~~…………」

 悲しいうめき声と共にアリスのプライドがおむつの中へと流れ
落ち、耐えられなくなった羞恥心は、彼女の意識を表の世界から
完全に消し去ってしまう。

 「ごめんなさい。この子ちょっと便秘ぎみなもので……」

 ハイネはたまたまそばを通りかかる紳士淑女に断りを言ったが、
今度は誰もアリスのベビーカーを覗こうとはしなかった。

 この会は紳士淑女のサロン。興味本位で何にでも首を突っ込む
ことが許される庶民の宴会ではない。
 彼らは、ハイネの行為がこの催しとは関係ないと知るや、今度
はあえて乳母車へは近づかない。

 ただ、そんな大人の対応を広美は知らないし、知っていたとこ
ろで、受けたショックが収まるわけでもないだろう。
 部屋へ戻ってきた少女は泣き崩れ、一晩中、ベッドの中で叫び
続けることになるのである。


************<赤ちゃん卒業試験(了)>***

第1章 赤ちゃん修行 (1)

<A Fanciful satory>
                     
           竜巻岬 《 2 》
             
                     K.Mikami


【第一章:赤ちゃん修業】 (1)
《 赤ちゃん修行 》

  「どう、おめざめはいかが」

 広美が起きると、そこは昨日までいた病院のようなところでは
なかった。彼女を起こしたのも昨日までの看護婦ではない。

 広美は、一瞬『いつの間にこんなことに』とも思ったが、何が
起こっても不思議ではないこの場所にあって、それも些細な事と
思い直したのである。

 「お早ようございます」

 広美のあいさつに相手は意外なという表情を見せたのち好感を
持った笑顔にかわる。

 「お早よう。私はハイネ。あなたの養育係よ。あなた、意外に
明るいのね。私、何人も自殺志願者を見てきたけどたった二日で
こんなに明るい顔になってる人は初めてよ。ペネロープ様がおっ
しゃってたけど、あなたへの試練は早く済みそうだわ」

 「あのう、その試練なんですけど、私、なにをすれば」

 「何もしなくていいの。しいて言えば何もしないことが、試練
かしらね。すべてのことを、あるがままに素直に受け入れる心が
出来上がれば、それで私からは卒業なの」

 「そうですか……でも、それなら簡単です。私、こう見えても
意外に素直ですから」

 「そう、それはよかったわ。……でも、これって意外に難しい
のよ。早い人でも二年、長い人のなかには四年五年ってかかる人
もいるわ」

 「そんなにかかるんですか?」

 「エエ、御領主様は中途半端なことはなさらないの。何より、
ここにいる人たちは、みんな死んじゃった身でしょう。時間は、
たっぷりあるもの」

 「…………」

 「帰りたくなった?」

 ハイネの問いかけに広美は顔を左右に振って見せたが、ハイネ
は広美の心を見透かす。
 若い子の場合は、一度自殺を決意しても、結果死にそこなって
しまうと、次はまた生きたいと願うものなのである。

 「ま、とにかく始めましょう。まず服を脱いで頂戴。パジャマ
だけでなくキャミソールもショーツも…靴下だけは脱がなくても
いいけど、あとはとにかく全部よ」

 「え、ここでですか」

 「そうよ。ここで。今すぐに」

 「分かりました」

 広美はそう言ったが、同時にベッドを離れて窓辺へ行く。彼女
はカーテンを閉めようとしたのだ。

 「だめよ。カーテンは開けとくの。大丈夫ここには男性は誰も
いないわ」

 「だって」

 「あらあら、さっき言ったのと違って、あなた、ちっとも素直
じゃないのね」

 「分かりました」

 広美は渋々服を脱ぐことに同意したのだった。

 「いいこと、よくお聞きなさい。これからのあなたはどんなに
些細な事でも我を張ることは許されないの。あなたはここにいる
誰のどんなことに対しても、すべて、無条件に受け入れなければ
ならない立場なのよ。………もし、少しでも我を張れば……」

 彼女は傍にあった籐鞭を取って一振りさせる。

 「あなたがこれまで経験したことのないような凄いお仕置きが
待ってるわ。……さあ早く。故意に遅らせるのも命令に逆らって
いるのと同じですよ」

 「大丈夫です。今、脱ぎますから」

 広美は慌てて脱ぎ始める。着ているものがパジャマだからすべ
てを終わるのにそんなに多くの時間はかからなかった。
 ハイネの希望どおり白い短ソックス以外何も身につけない姿に
なったのである。

 ただ、それでも恥ずかしいとみえて、シーツで自分の体をすっ
ぽりと覆ってしまう。しかし、それも…

 「さあ、そのシーツも取るの。そしてベッドに仰向けになって
……おむつが当てられないでしょう」

 「おむつって…」

 「これからあなたは赤ちゃんとしてここで暮らすの。口もきけ
ない。どこへも行けない。許されてるのは泣く事と笑うことだけ
の赤ちゃんとして、ここで生活しなきゃいけないの」

 「えっ!?」

 「だから言ったでしょう。すべてを受け入れる覚悟がないと、
ここでは生きていけないって」

 「赤ちゃん?……試練ってそういう事だったんですか?」

 広美はハイネの言葉を耳にするなり笑いだした。

 「何だそんなことなんですか。私、試練っていうから、もっと
凄い事やらされるのかと思っちゃった」

 広美があっけらかんとして笑うからハイネは戸惑った。
 「あなた簡単に言うけど……」
 ハイネは首を横に振る。その顔は、『まるで分かっていない』
と言いたげだったのである。

 「とにかく始めましょう」

 ハイネがそう言うと、広美は今度はあっさりそのすっぽんぽん
の体をベッドに横たえる。

 『なるほどまだ子供ね』

 寝てしまえばほとんど隆起していない胸、うっすらと、ほんの
申しわけ程度にしかはえていない陰毛、盛り上がった三角デルタ
など、それは成熟した大人の体にはまだまだ遠い、子どもの身体
だったのである。

 それに何よりそれまであんなに恥ずかしがっていたのに今度は
あっけらかんとしてベッド上で大の字になってしまう。そのあま
りの天真爛漫さに、今度はハイネの方が赤面する始末だった。

 「どう、久しぶりのおむつの感触は……。といってもそんな昔
のことは覚えていないでしょうけど」

 「なかなか結構よ。ふわふわしててとても快適」

 「だめじゃないの口をきいちゃ。さっきも言ったとおりあなた
は赤ちゃんとしてここで暮らすんだからお口はきけないわ。これ
が何より辛いの。あなたが赤ん坊として完璧になったらハイハイ
を教えてあげるけど言葉は絶対にだめ」

 たしかに広美はこの試練を甘く考えていた。何もせずただここ
に寝ていればいいのならたやすい事と思っていたのだ。しかし、
そのただ寝ているだけが次第に苦痛になってくるのである。

 仮に、病院に入院しているのなら、見舞い客も来るだろうし、
同部屋の人とおしゃべりもできるだろう。軽傷なら、病院の中庭
くらい散策できるかもしれない。たとえ、個室で重病でもベッド
で本くらいは読めるはずである。

 ところが、ここでは本当に何もすることができないのだ。独り
言さえも部屋の至る所に設置されたマイクに拾われて…

 「赤ちゃんらしくない赤ちゃんにはお仕置きが必要ね」

 たちまちくだんのハイネ女史が体格のいい従者二人と現れて、
広美はお仕置き部屋へ。

 広美はそのためだけに設けられた小部屋で、メイド服姿の懲罰
執行人の膝に乗せられると、話した単語の数だけお尻をぶたれる
ことになる。

「五十二回ね」

 広美の独り言を録音したテープが巻き戻されて、ハイネが罰を
宣言することになるのだ。

 「御免なさい。もう話しませんから」

 広美の哀願に……

 「あと十回追加」

 ハイネはそう答えるだけ。たちまち、パン、パン、パンという
小気味よい音が風通しのよい部屋に鳴り響く。何しろ十四の小娘
相手に男勝りの大女が二人がかりというのだから逃げようとして
も体はぴくりとも動かない。

 「あ、いや。ごめんなさい。もうしませんから」

 半ダースもいかないうちに、広美はたちまち悲鳴をあげたが、
それがまたいけない。

 「何度言ったら分かるの。赤ちゃんはお口をきかないのよ」

 ただその様子を見ているだけのハイネが子供を叱るような口調
で注意する。
 そして、さらに…

 「あと一ダース追加して頂戴」

 彼女はメイド二人に冷徹に追加の罰を言い渡すのだった。

 「あっ……あ、………いやっ………いたっ………」

 どんなに声を出さないように我慢していても出てしまう悲鳴と
嗚咽。しまいには涙と鼻水がないまぜになって可愛い顔もくしゃ
くしゃになってしまった。

 「いいわ、今日のところはこのくらいにしておきましょう」

 やっと、出たハイネお許し。
 しかし……

 「ひぃ~~~」

 触れられただけでも飛び上がるほど腫れあがったお尻に軟膏が
塗られ、倍に膨らんだお尻は、ふたたびガーネット柄のおむつに
包まれる。

 その間、広美にできたのは下唇を噛む事。ただそれだけだった。

 と、そんなことをしておいて、今度はハイネがやさしく広美を
抱く。プライドを汚され、わだかまりの残る少女の心中などまる
で眼中にないかのように、彼女は広美をあやしつけるのだ。

 それは、傍目には、摩訶不思議としかいいようない光景だった。
おむつを履かされ、ガラガラを持たされて、抱かれている娘は、
実は抱いているハイネより大きいのだ。
 しかし、ハイネはその重さを感じさせないほどしっかりと広美
を抱き抱えている

 「さあお部屋に帰りましょうね。赤ちゃんらしくできないと、
またここへ来て痛い痛いしますよ」

 ハイネは本気になって広美をあやすのだ。これには最初茶番劇
と馬鹿にしていた広美も思わず吹き出す。

 「あら、笑ったわね。その調子よ。さあ、ねんねしましょうね。
うんうん気持ち悪くなったら泣きなさいね。すぐにおむつを取り
替えてあげますから。でも、お口をきいちゃいけませんよ。また、
痛いたいですからね」

 広美は、最初、ハイネがなぜこんな馬鹿げたことをするのか、
まったく理解できなかった。しかし、『今は、とにかく赤ちゃん
を続けるしかない』それだけは分かっている。

 そして、時が経つにつれ、広美自身もこうした生活の『こつ』
のようなものを習得するようになっていったのである。

 たしかに言葉を話すことはできない。しかし、ハイネに向かっ
て笑いかければ彼女があらん限りのことをしてくれるのだ。
 ガラガラを振りカーテンを開け庭へも抱いて連れ出してくれる。
恥ずかしさはあるものの先ほどのメイドたちを使ってお風呂にも
入れてくれるのである。もしそれがいやなら泣くなりいやな顔を
すればそれでよいのだ。

 『なんだ、わりに簡単じゃない』

 若い広美は一週間もたたないうちに新しい生活に順応し始める。
ハイネ からも……

 「この分だと赤ちゃんを三、四ヵ月で卒業できるかもしれない
わね」

 とお褒めのお言葉までいただいたのだ。

 ただ、そんな広美にしても、容易には乗り越えられない壁があ
った。

 トイレである。

 「広美ちゃんはいつも便秘ぎみね。赤ちゃんはおむつにうんち
をするのがお仕事よ。おまるはそれがいつもできるようになって
から貸してあげるわね」

 ハイネは赤ん坊らしくおむつに用を足すことを求めたのだ。
 だが、いかに広美でもそれは簡単ではなかった。こんな状況下
なのだからそれもしなければならないとわかっていても、いざと
なると理性がそれを押しとどめてしまう。いつも寸前まではいく
のだが……

 「仕方ないわね。こんなにお腹がはっちゃって、これはもう、
潅腸しかないわね」

 ハイネの口からこの言葉が出るたびに、広美はまるでこの世の
終わりでも見ているかのような絶望的な顔になる。

 『こんなことならおむつにした方がどれだけいいかしれない』

 ハイネにお潅腸を宣言されるたびにいつもそうも思うのだが、
肝心な時になると理性がやってきて邪魔してしまう。
 結果、三日に一度は、腰から下の衣装を剥ぎ取られ、仰向けの
まま両足を天井高く上げなければならなかった。

 器具はガラス製のピストン潅腸器にカテーテルの管をつないだ
ものを使い、溶液は石けん水。もともと我慢しているお尻だから
あえてグリセリンは使わなくても、これで十分だったのである。

 「……<あっ、あっ、だめ、でるから、もうだめ>………」

 広美はたっぷり五百ccを体に入れられると、もうその時点で
激しい便意に苛まれていた。
 ところが、おむつを当てる間もないのではと思われたその状態
から、彼女はなおも踏張ってしまうのである。

 「さあ、もう大丈夫よ。全部出しちゃいましょうか。すっきり
するわよ」

 おむつをあてられ、ハイネに体を抱かれ、下腹をさすられて、
それでもなお少女は孤独な戦いは続くのである。

 「あっ…………」

 しかし、それに広美が勝利することはなかった。勝負は、常に
一瞬にして決し、少女は放心状態でベッドに横たわる。
 悲しいという積極的な衝動さえないままに、溢れ出た涙が頬を
濡らしていく。そして勝者側がすべてを取り片付けた後になって
初めて息を吹き返すのだ。

 こんな無益な戦いが三日にあかさず繰り返されていたある日の
こと。彼女はいつものようにその長い管をお尻から出していた。

 と、そこへ何やら話し声が聞こえて来るではではないか。
 声の主の一人はペネロープ。しかし、もう一人は明らかに男性
の声……

 不安が彼女を緊張させた瞬間、もうドアが開いてしまう。
 当然、広美に逃げ場などなかった。

 「おや、お食事中か」

 辺りの気配に気づいた中年男性は帰ろうとするが……

 「アラン、かまわないわ。この子はまだ赤ん坊ですもの」
 ペネロープがとりなす。

 広美にとって、それは最悪の事態だ。
 周囲が女性ばかりでも恥かしいこの姿を男性に見られるなんて、
もう、なりふりかまっていられない。

 「ハイネ、やめて。お願い。これ抜いて、これ、お願いだから」

 広美はあらん限りの勇気を振り絞って哀願したのだ。
 しかし、ハイネの答えは、おしゃぶりが一つだけ。
 それを鼻をつまんで広美の口にねじ入れたのである。

 特注のおしゃぶりは、一瞬にして広美の口の中で膨れ、声はお
ろか呼吸さえままならない。

 「静かに、ご領主様の前ですよ。それを取ったらお仕置きです
からね。それも飛び切りきついのを……」

 ハイネの言葉は広美には死刑宣告に近い。
 『どうしてこんな時に気絶できないのだろう』
 広美は逃げるに逃げられない今の自分が恨めしかった。

 処置が進み、いつものようにおむつがあてがわれるとアランが
ペネロープと共に広美のそばへと寄ってくる。

 「伯母さま。なかなか可愛い子じゃないですか」

 「でしょう。私のお気にいりなの。今はまだ、自分でうんちも
できないから、ものになるかどうか分からないけど」

 「私が手伝いましょうか」

 アランはそう言うと怯えてベッドの隅で震えている広美を抱こ
うとする。

 「いけません。アラン様。ご領主のなさることではありません」

 ハイネは止めたが、

 「伯母さま、いけませんか」

 「かまわないわ。あなたもいずれは赤ん坊んを抱くことがある
でしょうし、その子にとってもご領主様のお膝の上で用が足せる
なんて名誉なことですもの」

 こうして話は決まり、広美は領主アランに抱かれてその恥かし
い行為をするはめになったのである。

 「どう、もう出たかい」

 アランはやさしく声をかけるが、広美はそれどころではない。
今お腹がごろごろ鳴っているだけでも十分恥かしいのに、この先
汚物が漏れたら、あの匂いが漂ったら、悪い予感が脳裏を掠める
だけでも気が狂いそうだった。
 だから普段にも増して、あらん限りの力をお尻に集中させて、
耐えに耐えたのだ。
 が……、

 「アラン、ただ抱いてるだけじゃらちがあかないわ。そんな時
はね、その子のお腹を優しくさすってあげるの。耳の後ろに息を
吹き掛けたり、ほうずりしてあげたりしてもおもしろいわよ」

 ペネロープが悪知恵を授けるものだから。

 「……んっぁぁぁぁぁぁぁ………………」

 それはもうどうしようもないことだった。

 「この子、できたみたいだよ。ついでに私が替えてやろうか」

 アランは得意げにそう言ったが、これはさすがに……

 「とんでもございません。こんな不浄な物、ご領主様の手が汚
れます」

 ハイネが止め、これにはペネロープも反対しなかった。その代
わりペネロープ自らが広美のおむつ替えを手伝ったのである。

 「ハイネ、この子はいい経験をしたわ」

 「まったく。こんな幸運は待っていても訪れませんもの」

 「ねえ、ヒロミ。…女はね…殿方に自分の最も恥かしい行為を
見られることで脱皮できるの。そして、その時に……最も感じる
ものなのよ」

 事態が一段落したせいだろうか、ペネロープが耳元で語りかけ
たこの謎の言葉だけが、広美の記憶として、その後も残ったので
ある。


***********< 赤ちゃん修行(1)/了 >**

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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