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御招ばれ <第 2 章> 「第 3 回」

    御招ばれ <第 2 章> 「第 3 回」


*** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。



*** 目次 ********
 「第1回」(1)~(3)……伯爵様へのプレゼンテーション
 「第2回」(4)~(5)……遊園地での楽しいひととき
 「第3回」(6)~(8)……懲罰室でのお仕置き


********<主な登場人物>**********

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

****************************


**********「第 3 回」*********

御招ばれ<第2章>(6)

 町田先生に引率されてしおしおと居間へ連れて来られた二人で
したが、伯爵様の方は機嫌よくピアノを弾いておいででした。

 二人に気づくと……
 「ん?どうしたね」
 と声をかけられます。

 「私たち、お風呂場のマリア様の像を壊してしまったんです。
ごめんなさい」
 春花ちゃんが言うと、美里ちゃんも……
 「ごめんなさい」
 と続きました。

 「あっ、あれね。町田先生からも伺いましたけど、仕方がない
でしょう、壊れたものは元に戻りませんから…………それより、
あなた方、どこも怪我はありませんでしたか?」

 「はい……」
 「大丈夫でした」
 二人は上目遣いに小さな声で答えます。

 「それはよかった。それが何よりです。せっかく招待したのに
怪我をさせて返しては私も快くありませんから……」

 伯爵様はピアノを弾く手を休めません。

 「……ところで、あなたたち、よく、あんな高いところに手が
届きましたね。あれは確か、天井近くの通気口に固定してあった
はずですよ」

 「……それは……脚立を持ってきて……」
 春花ちゃんが答えますと、美里ちゃんも……
 「……マリア様は少し強く引っ張ったら、取れたんです」

 「脚立?……ああ、ありましたね。ペンキの塗り替えで使って
そのままにしていた古いのが……ああ、あれですか。……でも、
あれをあそこまで持ってきたんですか。……じゃあ、重かったで
しょう」

 「……あっ……はい」

 「今の子はなかなか活動的だ。そうそう、あのマリア様、本当
はあそこにコンクリートで固定してあったんですが、もうもろく
なってたみたいですね。あなたたちがそれを教えてくれたんです
からむしろ感謝しなければいけないかもしれませんね。……でも、
そこまでして……あなたたち、あのマリア様に何か特別の興味が
あったんですか?」

 「えっ?……いえ、そうじゃなくて……」
 美里ちゃんが答え始めましたが、途中で口ごもってしまいます。
 それって、やはり答えにくいことでした。

 「まさか、覗きじゃないですよね」
 伯爵様はそう言って二人の顔をちらっと見ます。

 「…………」
「…………」
 二人はその質問に答えませんでしたが、伯爵様は垣間見た子供
たちの一瞬の様子でわかったみたいでした。

 「……おやおや、そうですか?男の子の場合はよく耳にします
けどね。女の子でもやはり興味がありますか?……男の子の裸」

 伯爵様は終始にこやかですが、そう指摘された二人は赤面して
いました。

 「…………」
「…………」

 あの時の二人の思いに一番近いのは、やはりお風呂での開放感
からつい悪乗りしてしまったってことなんでしょうが……
 今、この場で考えると恥ずかしくて仕方がありませんでした。

 「男の子は見えましたか?」

 「……いいえ、みんなもう脱衣場の方に帰ってましたから…」
 春花ちゃんが答えます。

 「そう、それは残念でしたね。せっかく大きくて重い脚立まで
引っ張ってきたのに……獲物はありませんでしたか……」

 「…………」
「…………」

 しょげ返っている二人に伯爵様は……
 「ただ、獲物はなくても、罰は受けないといけないでしょうね。
あなたたちはそれだけの事をしてしまったんですから……」

 「……はい」
 「……はい」
 小さく蚊の鳴くような声ですが、二人は返事をします。

 その声に応えるように伯爵様はピアノをやめると、二人の方へ
向き直ります。そして、その小さな手を取ると……
 「でも、あなたたちは立派ですよ。二人とも勇気があります。
今は女の子もこうでなくちゃいけません」

 伯爵様は二人をその大きな両手で抱き寄せると……

 「いいですか、あなたたちは男の子のような事をしたんだから
男の子のような罰を受けなければならない。これは社会のルール
だから仕方がないことなんです。……それは分かってますよね」
 伯爵様はその皺くちゃな手で二人の頬を優しく包み込みます。

 「……はい」
 「……はい」
 二人が小さく頷くと伯爵様は零れ落ちそうな笑顔になりました。

 「ああ、いい子だ。いい子だ。それが分かっていれば十分だ。
……だけど、もしお仕置きを受けるようなことがあっても、それ
が終わった時には、君たちは男の子のように強くなってるはずだ
から、受けて損はないかもしれませんね」

 「えっ、嫌よそんなの」
 春花ちゃんは即座に否定しますが、美里ちゃんは、不安そうな
顔で尋ねました。
 「……本当なの、男の子みたいに強くなるって?」

 すると、伯爵様は美里ちゃんをお膝に抱きかかえて……
 「本当だよ。……試練は人を強くします。女の子も数々の試練
に打ち勝つことで強くなります。心の強さに男の子女の子の区別
はありませんから」

 「本当に男の子のように強くなれる?」
 今度は春花ちゃんが尋ねます。

 「力じゃないですよ。心が強くなるんです」
 伯爵様は春花ちゃんもお膝に抱き上げました。
 「若いうちというのは、とかく欲望が止まらなくて、あげく、
お仕置きされることも多いけど、それを恥じる必要はないんだ。
勲章だと思えばいいのさ。間違いがあっても罰を受けて償えば、
また先へ進める。お仕置きだって人生の貴重な経験の一つだから
無駄にはなっていない。君たちは、何もしない何もできないくせ
に口を開けば正義の味方を気取る臆病者なんかより数段良いこと
をしたんだからね。それは誇りに思っていいことなんだよ」

 伯爵は二人の頭を撫でながら、こう言って二人を諭し解放した
のでした。

 「伯爵様、ありがとうございました。今のお言葉、必ずやこの
子たちの人生の教示となりますわ」
 町田先生は、旧華族様の考えとはとても思えないその若々しい
思想に目を丸くしながらも伯爵様に丁寧にお礼を述べます。

 そして、うな垂れる幼い二人を引き連れて、今度は伯爵様から
お借りた懲罰室へと向かったのでした。

***************************

 伯爵家の懲罰室はお屋敷の北の隅にあって、普段は納戸として
使われている部屋がたち並ぶ廊下の一番奥にありました。
 そう、普段、家人があまり立ち寄らない場所にあったのです。

 入口が映画館で見かけるような厚い扉なのは、この部屋がその
昔、ホームムービーを鑑賞するする為の部屋だったなごりでした。

 つまり、人気のない場所で、おまけに坊音設備もしっかりして
いますから、少しぐらいの悲鳴では居間まで届きません。
 まさに懲罰室としてはうってつけの部屋だったわけです。

 町田先生が電気を点けると、そこは12畳ほどの広さがあって
窓は小さな天窓が一つあるだけ。普段使われていませんからカビ
臭い匂いがしています。

 そこに、罪人のお尻を鞭で叩くための拘束台や街のお医者さん
などでよく見かける黒革張りのベッド。傘立てのようなカゴには
ケイン、大きな壷には樺の枝鞭がたてかけてあります。さらに、
祭壇と暖炉、ソファなども見えます。暖炉は飾り暖炉で火は入っ
ていませんがAの刻印を押す為の焼き鏝までもが用意されていて
壁に掛かった牛追い鞭と共にこれ見よがしに犯罪者を威嚇します。

 懲罰室はまさにお仕置きのためにしつらえられた部屋ですから
子供を恐がらせる仕掛けがたくさんあったのです。

 実は、二人が暮らす寮の舎監室にも、これと似たようなものは
あったのですが、他の家で見る時それはまた格別の恐怖感でした。

 二人は、子供がお仕置きを受けている様子を描いた絵画の脇を
まるでお化け屋敷にでも入ったかのように息を殺して歩きます。

 すると、突然……
 「キャー」
 二人から悲鳴があがりました。

 立派な肖像画は、おそらく伯爵家のご先祖様なんでしょうが、
威厳のあるその風貌が二人を睨らんでいるようで、二人は思わず
抱き合ってしまったのでした。

 「何をキャーキャー言ってるの。これは伯爵様のお父様の絵姿
じゃないの。騒いだりしたら失礼よ」
 町田先生はたしなめますが、幼い少女二人にしてみたらここに
ある全てのものが恐ろしかったのです。

 「こっちへいらっしゃい」
 町田先生は部屋の隅に置かれた古ぼけたソファに腰を下ろすと
二人を目の前の床に膝まづかせます。

 これは、寄宿舎で行われている伝統的な作法でした。
 罪のある生徒は床に膝まづいたまま両手を胸の前で組み、先生
のお話を聞くことになります。
 
 「今日は楽しかったかしら?」
 町田先生の第一声は意外なほど明るい顔と声でした。

 これが町田先生のチェジオブポジション。
 というのも、普段の生活では春花ちゃんや美里ちゃんと先生は
あくまで生徒と先生の関係なのですが、もともと町田先生は二人
の養育係。つまり二人が赤ちゃんの頃はミルクを温めたりオムツ
を替えたりする係でした。

 つまり、町田先生は二人にとっては母親代わり。
 そこで、こうした親子水入らずの場所では、普段の先生と生徒
という関係から、親と子の関係に戻るのです。

 「今日はちょっとあなたたち羽目を外しすぎたみたいね」

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」

 二人は素直に謝りましたが、春花ちゃんがすぐに……
 「だってえ、美里のやつが、簡単に男の子のお風呂覗けるって
言うから……」
 ふて腐れて弁明しますから……

 「ほら、春花。あなたすぐに他人のせいにする。美里ちゃんが
どう言おうと、あなたが見に行かなければいいことじゃないの」

 「そりゃあ、そうだけど……」
 春花ちゃんはお口を尖がらしたままでした。

 「院長先生にご報告したら、さすがに驚いてらしたわ」

 「えっ!院長先生に今度のこと話したの?」
 春花ちゃんの驚きに……

 「当たり前でしょう。マリア様の像を壊しちゃったんだから、
その弁償もあるし……」

 「だって、あれは伯爵様がさっき仕方がないって……」

 「馬鹿言わないのよ。それはあくまであなたたちに対してそう
おっしゃっただけ。大人の世界ではそうもいかないわ。まったく、
女の子が覗きだなんて信じられないわ」

 「だって、女の子だって見たいものはわるわよ」

 挑戦的な春花ちゃんの言葉に先生は……
 「何、開き直ってるの。見たいものってのはあなたにとっては
『男の子の裸』ってことなの?」

 「別にそういうわけじゃあ……」

 「それに今日はそれだけじゃないでしょう。……ゴーカートは
脱線させるし……ボートはおじさんに救助してもらうし……この
家の人たちから報告を受けるたびに『またかまたか』って心臓が
ズキンズキンしたわ」

 「あっ、そうなの。だったら、ここにはお医者様が常駐してる
みたいだから一度診てもらったら」
 春花が真顔で言いますが……

 「春花、さっきも言ったでしょう、あなた、少し浮かれすぎよ」
 町田先生は渋い顔でした。

 「ねえ、お母さん、やっぱり今日、お仕置き?」
 美里ちゃんが心配そうに尋ねると……

 「仕方がないでしょう。ゴーカートやボートぐらいまだしも、
男湯は覗くわ、マリア様の像は壊すわでは、何もしないで帰って
きましたなんて院長先生にご報告できないわ」

 「いくつ?」

 「それはあなたたち次第よ。さっきの春花みたいにふて腐れた
態度なら、たとえ鞭百回でも足りないでしょうね」

 それを聞いて春花ちゃんはお母さんから目をそらし下を向いて
しまいます。


 「じゃあ、……まずはお祈りからよ」

 部屋の片隅には小さな祭壇があって十字架とマリア様が祀って
ありました。
 その前に子どもたち二人と町田先生が三人並んで膝まづきます。
 祈りの言葉は、はじめから決まっていました。

 「天にまします私たちのお父様。お願いがあります。どうか、
悪魔に謀られた魂をお救いください。いかなる苦役にも耐えます。
どんな試練にも立ち向かいます。その苦難の果てに私の魂が浄化
されんことを望みます。私の希望は、あなたの歩む光の道を一緒
に歩くことなのです。迷える子羊に愛のお仕置きをお願いします」

 三人は同じ言葉を唱和します。この言葉は子ども達がお仕置き
を受ける前には必ず唱えさせられる言葉でした。

 そして、これが終わると、子供たちはソファの前に戻って再び
膝まづきます。

 「スカートを上げなさい」

 町田先生の号令一下、子どもたち二人は俊敏に動きます。
 その動きはまるで軍隊のようでした。

 二人は、穿いてるパンツが誰の目にもはっきり見える様に自ら
スカートの裾をまくり上げます。

 ただ、そうやっても、すぐにお尻叩きが始まるわけではありま
せんでした。

 町田先生は再びソファに腰を下ろすと、子ども達を回れ右させ
て、ご自分は二人の恥ずかしい姿を後ろから眺めたまま、暫くは
何もしないでいるのです。

 時々……
 「ただ、そこでぼ~としてるだけじゃいけないでしょう。……
よ~く反省できるようにお祈りの言葉をもう一度復唱しなさい」

 両手が疲れて思わず手を下げてしまうと……
 「ほら、春花ちゃん、手を下げないの。スカートの裾でパンツ
が隠れてるわよ」

 寂しくなって泣き始めると……
 「ほらほら、美里ちゃん、泣かないの。あなたがめそめそ泣い
たからって、お仕置きは終わらないのよ」

 先生はこんなことを言いながらチビちゃんたち二人のパンツを
鑑賞し続けます。

 子供たちはパンツ丸見えと言っても見ているのはお母さんだけ
ですし、膝まづいているだけでぶたれているわけではありません
から痛くも痒くもありませんが、これが結構苦痛でした。

 大人と違って子供は何もしないでいるというのが苦手なのです。
特に女の子は相手が目の前にいるのにおしゃべりできないという
現実がストレスでした。

 そこで、先生がソファを離れ見慣れない伯爵家の懲罰室を観察
に行った隙をねらって小さな声で話し始めます。

 「ねえ、お母さん、怒ってると思う?」
 「わからないわ。あんなにしててもすぐに許してくれることも
あるから……あなたどう思うのよ」
 「私もわからないわ。でも、もし、ぶたれたら、私おとついも
あったら泣いちゃうわ。その時は笑わないでね」
 「笑わないわよ。私だって泣いちゃうもん。もし、鞭があった
ら、私の手しっかり握っててよ。暴れちゃうかもしれないから」
 「鞭って?……私たちそんな悪いことしたの?」
 「わからないわ」

 子どもたちは、自分たちにしか聞こえていないと思って話して
いましたが、その声は音響効果のよいこの部屋ではどこにいても
聞こえていました。

 先生は知らん振りしてソファへ戻ってきます。
 そして、その子らのすぐ後ろまでやって来くると、今度はいき
なり……

 「いやあ~!!!」
 「いやっっ!!!」
 続けざまに二人のパンツを太股の辺り迄ひき下ろしたのでした。

 「いきなり脱がさないでよ」
 「恥ずかしいよ」
  突然のことに驚いた二人からは思わず黄色い声が……

 でも、そうすると、間髪をいれず…
 「ピシャ」
 「ピシャ」
 町田先生の右手が可愛いお尻に炸裂。

 今、部屋の空気に晒されたばかりの二人のお尻がたった一撃で
ほんのり赤くなります。

 「うるさい子ねえ、お仕置き最中は、静かに罰を受けなければ
いけないって何度も教えてるでしょう。あなたたち忘れたの!?
『お仕置き中はおしゃべり禁止』こんな事、うちの子なら1年生
でも知ってることよ。

 「はい、お母さん」
 「はい、先生」
 二人はべそをかきながらも、それぞれ違う返事をします。

 でもこれ、どちらかが間違いという事ではありませんでした。
二人にとって町田先生というのは、先生であると同時にお母さん
でもあるのであから。

 「今日はここに誰もこないでしょうから、お母さんでいいわよ」
 町田先生もまた、小さなため息をついて、薄れゆく自分の怒り
に苦笑します。

 そして、これからさらに15分くらいかけて、娘たちの可愛ら
しい生のお尻を2mほど離れたソファで鑑賞するのでした。

 「美里、あなたみたいにおとなしい子が、何で男の子のお風呂
なんて覗こうとしたの?お母さん、あなたにそんな趣味があった
なんて初めて知ったわ」

 「……それは……男の子のお風呂の方が女の子のより大きくて
立派だって聞いたから、そういうの不公平だと思って……」
 「だからって、覗いてみても何も変わらないでしょう」
 「そりゃあ。そうなんだけど……」
 「それとも、男の子たちに『一緒に入れてください』って交渉
するつもりだった?」
 「そういうわけじゃあ……」
 美里ちゃんは顔を真っ赤にして口ごもってしまいました。

 「春花はどうなの?あなたの場合も男の子の裸に興味があった
のかしら?」

 「…………」
 春花ちゃんは首を横に振ります。

 「だったら、なぜそんなことしたの?美里ちゃんにお付き合い
かしら?自分もやらなきゃっ友だち甲斐がない思ったのかしら?」

 「それは…………」
 春花ちゃんとしては本当の事なんて絶対に言えるはずがありま
せんでした。

 だって、春花ちゃんの本心って『好きになった先輩の裸が見て
みたい』という邪な心だったわけですから……
 たとえお尻100回ぶたれても、その事だけは絶対に口にする
つもりがありませんでした。

 すると町田先生、そんな春花の気持を見抜いていたかのように
こんなことを言います。
 「ねえ、春花。あなた、誰か好きな人が出来たんじゃなくて?」

 春花ちゃんにとってはドキッとする言葉です。

 ですから彼女、余計に激しく首を横に振ります。
 「……(何で分かったんだろう?)……」
 春花ちゃん、お母さんの鋭い眼力に恐れおののきますが、勿論
そんな素振りは自分ではみせていないつもりでした。

 ところが、お母さんの方はというと、床に膝まづく春花ちゃん
の後姿を見ているだけで……
 『やっぱり、そうなのね』
 と思うのでした。


************(6)**********


御招ばれ<第2章>(7)

 「さて、そろそろ反省もできたかしら?」
 町田先生は腕時計で時間を確認します。

 そして……
 「それでは、まず美里ちゃん、いらっしゃい」
 先生は最初、美里ちゃんに声をかけるのですが……

 一旦パンツを上げ、お母さんの前に立った美里ちゃん、どこか
落ち着きがありませんでした。きっと……
 『えっ!どうして?……どうして、私からなの?いつもと順序
が違うじゃないの』と言いたかったのかもしれません。

 通常、二人続けてお尻叩きの罰を受ける場合、有利不利があり
ます。

 あとの子は、長いことお尻を晒して待っていなければならない
不利はありますが、痛みの点では先に呼ばれる子より有利でした。
 たいてい最初の子でお母さんの手は疲れてしまいますからね、
あとの子はお母さんの扱いが雑になるんです。そのぶん、痛みも
少なくて済むというわけでした。

 美里ちゃんも春花ちゃんとのコンビで日頃から尻を叩かれ慣れ
てますから、そのあたりは承知していました。

 「あら、どうしたの?何だか不満そうね。……今回、あなたを
最初に指名したのは、お風呂場の覗きをあなたの方が先にやらか
したからよ」

 お母さんは美里ちゃんがまだ何も言っていないのに、彼女の心
を見透かすように言い放ちます。

 「納得した?」

 「…………」
 美里ちゃんはお母さんの答えに小さく頷きます。

 『確かに確かに』ということでしょうか。
 いつもは悪戯を主導するのが春花ちゃんなのですが、今回は、
それが違っていました。

 「さあ、いらっしゃい」
 ソファに腰を下ろした町田先生がご自分のお膝を叩いて催促し
ます。

 「はい、お母さん」
 美里ちゃん、そこへ行くしかありませんでした。
 子供の悲しい定めです。

 『あ~あ、嫌だなあ』
 お母さんのお膝に寝そべりその時を待ちます。

 実は、お母さん、ここでも子どもたちをじらせます。いきなり
お尻ペンペンを始めるわけではありませんでした。

 「どうしたのかしら?いつもは春花に引っ張られてお付き合い
で悪さしてたのに、今日はあなたの方から悪さを仕掛けるなんて
珍しいわね」

 最初は、頭を撫でたり、背中をさすったり、太股を軽く叩いた
りしながらのお説教です。

 でもそれって、蛇の生殺しみたいで、子どもたちにとっては、
とっても嫌な時間なのでした。

 ここまできたらどの道お尻は叩かれるわけですから、だったら
『早くやってよ!!』って叫びたい心境だったのです。

 「男の子の裸、見てみたかったの?……うちには男の子いない
ものね。でも、あんなものいきなり見ると、あなたびっくりして
食事も喉を通らなくなるかもしれないわよ」

 「……別に、男の子の裸、見たかったわけじゃないもん」
 お母さんから言われ、美里ちゃんぽつんと小さく呟きます。

 「そう、それじゃあ、お隣りのお風呂の様子さえわかったら、
それでよかったわけなんだ」

 「…………」
 美里ちゃん、僅かに頷いたように見えますから……

 「そりゃあそうよね。女の子は男の子の裸なんて見たくないわ
よね」

 お母さんは納得したように美里ちゃんに語りかけますが、でも、
美里ちゃんの本心は違っていました。
 それを、お母さんは膝の上の感触で感じ取っていたのです。

 『この子、意外に早熟なのね。この身体、もうすでに男を求め
てるもの。きっと、あの時も男の子の裸に興味津々だったはずだ
わ。……となると、次はオナニーかあ……気をつけておかないと』

 お母さんは長年の経験から、こうして膝の上に抱きながら質問
を繰り返すことで、口には決して出さない女の子の本音がわかる
ようになっていたのでした。

 ただ、だからとっいって……
 『あなた、こんなこと思ってるでしょう!!』
 なんて迫ることはありません。
 そんなことをしたら女の子は余計かたくなになるだけですから。
 この時も……

 「あなたは女の子。男の子の裸なんかに興味あるはずないもの。
おかしいと思ったわ。だけど、やったことはやっぱりいけない事
よ。……滑りやすいお風呂場であんな大きな脚立の上に乗ったら
危ないし、現に、マリア様の像は壊してるしね。………それは、
わかるわよね」

 「はい、お母さん」
 美里ちゃんが返事をすると……
 
 「まあ、いいご返事。よし、それでは、簡単に済ませましょう」
 お母さんはそう言うと、美里ちゃんのスカートを捲りショーツ
を剥ぎ取ります。他の子ならまずショーツの上から叩いておいて
それから……という手順なのですが、二人は親子ですからそこに
遠慮はありません。

 「ピシッ……ピシッ……ピシッ」

 たちまち乾いた音が部屋一杯に響き渡ります。

 「いやあん、痛い、ごめんなさい」
 たった3発で、美里ちゃん、もう悲鳴を上げていました。

 実は、お母さんの言った『簡単に…』という言葉は『軽く…』
という意味ではありませんでした。

 「ピシッ」
 「いやあん、ごめんなさい」

 「ピシッ」
 「もうしません。しませんから~~」

 「ほら、大声を出さないの。みっともない子ねえ」

 「ピシッ」
 「だめえ~~壊れる、壊れるって~~」
 
 「お尻は壊れません。壊れないように神様が創ってるの」

 「ピシッ」。
 「うそ~~よ。痛い、痛い、やめて~~」

 「やめません。痛いから、お仕置きなの。それを我慢するから
お仕置きなのよ」

 「ピシッ」
 「人殺し~~」

 「美里ちゃん、ちょっと立ちなさい」
 お母さんはそこで一度美里ちゃんを自分の目の前に立たせます。

 美里ちゃんは、ショーツを穿いていませんからお母さんの前に
割れ目丸出しで立っています。
 でも、今はお尻をさすることが最優先で、そんなことかまって
いられませんでした。

 「あなた、たとえお仕置きの最中でも言っていい事と悪い事が
あるわよ。誰が『人殺し』なの。お仕置きで死んだ人なんていま
せんよ。あなたに5年生としての堪え性がないだけじゃないの。
あまりにだらしのない態度なら、お仕置きはもっときつくなりま
すよ」

 「はい、ごめんなさい」
 美里ちゃんは嗚咽しながら右手で涙を拭き左手でお尻をさすり
ます。

 「いらっしゃい」
 それを見ていたお母さん、美里ちゃんを膝に呼びます。
 でも、これはお尻をぶつためではありませんでした。

 涙を拭いて、鼻をかむため……そして、ほんの少し抱いてやる
ためでもあったのです。

 「さあ、もう一度。お仕置きって、必死に我慢するものなの。
鼻歌交じりで耐えられるようならお仕置きなんて意味がないわ。
あなたは必死に頑張って罪を償うの。それがあなたの義務。……
いいわね」

 「はい……」
 か弱い声がして、再び美里ちゃんはお母さんの膝にうつ伏せに
なります。

 その後は、先ほどと同じでした。

 「ピシッ」
 「いやあ~~痛い、痛い、痛い、だめ~~」

 「ほら、黙ってるの!大声を上げたり身体を揺すったら痛みが
逃げてお仕置きにならないわ。どうしても、できないならあそこ
にある拘束台に縛り付けて鞭でお尻を叩いてあげましょうか……
猿轡をするからどのみち声はでないけど、終わったあとも痛くて、
二三日は椅子に座るのも辛いくらいよ」

 「いやあ、いやあ、それは絶対にいや!!!」
 美里ちゃんは絶叫します。
 彼女は舎監室にある拘束台に縛られた中学生のお姉さんたちが
必死に許しを請う姿を目撃したことがあります。
 その時の印象から拘束台がとてつもなくきついお仕置きなんだ
という事は知っていたのでした。

 「だったら我慢しなさい。女の子は、何事にも我慢できない子
に幸せはおとずれないわ。神様がそう決めてるの。わかった?」

 「は……はい」
 美里ちゃんは弱弱しく返事を返します。

 こんな混乱している時に先生のお説教なんて耳に入りません。
でも『自分が頑張らなければこれは終わらない』という現実だけ
は身体に染み込んだみたいで……

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~」

 「ピシッ」
 「いやあ~~」

 「ピシッ」
 「あっ~~~」

 目の玉が飛び出、顔は真っ赤、首から下は逆に全身鳥肌がたち、
冷たい電気(悪寒)があちこちに走るという最悪の状態のなか、
必死になって耐え続けたのでした。

 「ほら、できたじゃないの。簡単でしょう」

 町田先生は許しを与えて再び自分の前に美里ちゃんを立たせた
時にこう言います。
 先生が『簡単に…』と言ったのは『軽く』という意味ではなく、
厳しく短時間に終わらせるという意味だったのでした。

 「さあ、それじゃあ春花ちゃんが終わるまで元の場所に戻って
膝まづいてなさい。いいこと、お尻叩きは一旦これで終わるけど、
そこでまた泣いちゃダメよ。泣くのは大声を上げたり身体を揺っ
たりするのと同じように真面目にお仕置きを受けていない証拠
です。あまりひどいようならお仕置きはやり直し。いいですね」
 
 町田先生にこう脅されて、美里ちゃんはやっと、お母さんの膝
から開放されたのでした。


 「次は、春花ちゃん。いらっしゃい」
 お母さんの声が懲罰室の中で響きます。
 この時、春花ちゃん、両足が震えていました。

 もちろん、美里ちゃんのお仕置きを春花ちゃんが直接見ること
はありませんが、すべては自分の頭の後ろで起きたことなんです
から、直接見なくても春花ちゃんの様子はビンビン伝わります。

 『やばいなあ』
 普段は元気一杯の春花ちゃんですが、さすがにこの時はすでに
泣きそうな顔になっていました。多くの子供がそうでしょうが、
お母さんというのは世界一優しくて世界一恐い存在だったのです。

 そんな春花ちゃんを、でも、お母さんは笑顔で迎えます。

 「いらっしゃい」
 両手を広げ、まるで幼い子にするように、ソファに座る自分の
膝へ春花ちゃんを招き入れます。

 間近で見つめ合う顔はお母さんも春花ちゃんも笑顔でした。
 だって、世界一優しい人が微笑んでるんですから、春花ちゃん
が笑わないはずがありませんでした。

 春花ちゃん、お馬鹿じゃありません。このお膝でするお母さん
の話が楽しくないことも、そして、この人がやがて世界一恐い人
になることもわかっていました。
 それでもやっぱり春花ちゃん、こうして抱っこされると笑って
しまうのでした。

 「春花、あなた、今日は随分と羽目を外しちゃったみたいね」

 「ずいぶんって……そんなに色々何かやった?」

 「だって、ゴーカート脱線させたんでしょう」
 「あれは美里だって一緒だったし……」
 「でも、あなたが運転してた。しかも、男の子たちと競争して
たのよね」

 「競争なんてしてないもん。……ただ……」
 「ただ、何なの?」
 「…………」春花ちゃんはその先を答えられませんでした。

 「『ただ面白いからトロい男の子の車を次々に抜いてっただけ』
ってことかしら?……でも、それを競争っていうのよ。だいいち、
あのコースは追い越し禁止のはずよ。……スタート地点に大きな
張り紙がしてあったの見なかった?」

 「…………」
 「おや、どうやらその顔は知っててやったみたいね」
 お母さんは春花ちゃんとおでこをくっけます。

 「……それは……」
 春花ちゃん、お母さんの視線を正視できず、下を向いてしまい
ます。

 「無茶な運転して事故を起こしたあげくター坊に茂みに入った
カートを引き上げもらったそうじゃないの」

 「ター坊?」
 「峰岸高志。あなたより3つ上のお兄ちゃんよ。まだ中学二年
だけど、もう立派な好青年って感じの子よ。ま、あなたみたいな
山猿とは全ての点で違うわね」

 「ふう~ん……『あの子、峰岸高志って名前なんだ』……」
 春花ちゃん、この時初めてその子の苗字までを知ったのでした。

 「ねえ、お母さん、私って山猿に見えるの?」
 春花ちゃん、あらためて尋ねます。
 すると、その答えは峻烈でした。

 「あなたの場合は……恥知らず、世間知らず、無鉄砲、いつも
お母さんにお尻を叩かれて赤いお尻をしてるから山猿に違いない
んじゃない」

 「だって、高志君だって、私くらいの頃は……」
 あまりの言われように春花ちゃんは反論しますが……

 「あの子、あなたくらいの頃は、もう随分大人びてたわ。私、
あの子の担任だったからよく知ってるけど、とにかく隙のない子
で苦労したわ。あなたなんかと違ってお仕置きの理由を見つける
のに苦労したおぼえがあるもの。……ま、あなたとなら、比べて
みる必要もないわね」

 「ふうん」
 春花ちゃんはごく自然にお母さんの胸に顔を埋めます。
 それって泣いてるみたいでした。
 そして、ぽつりとこう言います。

 「ねえ、お仕置きって、悪いことしなくてもされるの?」

 「えっ?そんなことないわよ」
 春花ちゃんに不思議なことを言われて、町田先生、戸惑います
が……続けて、春花ちゃんに……
 「だって、高志君は、お仕置きの理由を見つけるのに苦労した
んでしょう」
 こう言われて、先生、さっきの自分の発言だと気づくのでした。

 「ああ、そういうことね。だから彼は例外なのよ。大半の子は、
あなたみたいに罪なることが多すぎて、お仕置きはむしろセーブ
するんだけど、あの子の場合は普通にしておくとお仕置きなしで
1年間過ごしちゃうから、他の子とのバランスをとる意味でも、
小さなミスも見逃さず厳しくお仕置きにしたの。そうしないと、
あの子だけが得してるみたいで、他の子からねたみを受けるもの。
集団生活では自分は優秀だから何でも他の子より得して当たり前
ってことにはならないのよ。優秀な子には優秀な子なりの責任と
いうものがあるのよ。……ま、あなたには、関係ない話だわね」

 「そうなんだ」
 春花ちゃん、何だか高志君との距離がずっと遠くなってしまっ
たような気持でした。
 そんな乙女心を無視してお母さんのお小言は続きます。

 「あなた、お池のボートでも…『ボート漕げます』なんて嘘を
ついて係のおじさんからボートを借りたあげく、帰れなくなって
おじさんに助けてもらったそうじゃないの」

 「えっ……あれも、美里ちゃんと一緒に……」
 春花ちゃん埋めていたお母さんの胸から顔をあげて苦しい弁明
をしますが、お母さんにそれは通じませんでした。

 「あなた、またそんなこと言って……」
 「…………」たちまちお母さんに睨まれてしまいます。

 「美里ちゃんが漕げもしないボートを借りたいだなんて言う訳
ないでしょう。そんなこと思いつくのはあなただけよ。違う?」

 「…………」
 春花ちゃん、それに答えられませんでした。
 ええ、その通りでしたから……

 「何でも他人のせいにしないの。あなたの悪い癖よ。……でも、
よかったわ。ボート小屋のおじさんにはご迷惑かけたけど、とに
かく何事もなかったんだから……」
 と、ここで先生、あることを思い出します。
 それは急速に頭の中を支配していきました。

 「ねえ、あなた……ひょっとして……ター坊のボートに乗せて
もらわなかった。……いえね、昼間、ター坊にあった時、『今日、
ボート小屋のおじさんに頼まれて女の子を乗せて池を一巡りした
んだけど、その子、シャイな子で一言も口をきかなかった』って
言ってたけど……まさか……それ、あなたじゃないないわよね」

 「…………」
 春花ちゃんはこれにも答えませんでしたが……

 「そうなの、やっぱり……(はははは)」
 先生は顔を真っ赤にした春花ちゃんを見て笑い出します。

 「あなたがシャイね……(はははは)あの子、完全にあなたを
誤解しちゃったわね」
 先生の言葉に……
 「いいでしょう、そんな事どうだって!!」
 春花ちゃん鼻息荒く言い放ちます。

 『でも、そうだとすると……』
 先生は再び頭をめぐらしますが、あれこれ考える必要もなく、
答えは至極簡単でした。

 『なるほどね、それで漕げもしないボートを借りに行ったり、
男の子のお風呂を覗き見しようなんて思いたったのね……』

 先生は結論の正しさには自信がありましたが、もうこれ以上、
この場でこの問題を蒸し返すつもりはありませんでした。

 そして、場面はいよいよお仕置きへと移ります。

 これから先のやり方は美里ちゃんの場合と同じでした。
 まずは、うつ伏せに寝かせておいて、頭や背中、お尻、太股、
手や足の指に至るまで丁寧にスリスリします。
 そうやってスリスリしながらお母さんはあらためて色んな事を
春花ちゃんに尋ねます。

 「ねえ、春花。今日は一日どんなことをして遊んだの?」
 「長い滑り台を滑って……メリーゴーランド乗って、ブランコ
とかジャングルジムとかで遊んで、それからゴーカートのところ
へ行ったの」

 「そう、楽しかった?」
 「とっても。だって、ここ遊園地みたいなんだもの。やっぱり
伯爵様ってすごいのね」
 「だったらまたここへ来たい?」
 「もちろん、毎日だっていいわ」

 「それじゃあ、次回も伯爵様からご招待を受けられるように、
ここでしっかりと罪を償っておかなければならないわね」

 「…う、………うん……」
 思わず春花ちゃんの身体に力がはいります。
 それは、当然、町田先生もそのお膝で受け止めていました。

 「いいかしら、心の準備は?」
 「…………………………はい」

 ご返事には少し時間がかかりましたが、こうして、春花ちゃん
のお仕置きは始まったのでした。


************(7)**********


御招ばれ<第2章>(8)

 町田先生は、春花ちゃんのふわりとしたフリルスカートの裾を
背中の方へと持ち上げます。

 取り去られたあとには白いショーツが現れますが、これはもう
慣れっこ。春花ちゃん、何も言いませんでした。

 そして、そのショーツの上を町田先生が平手で叩き始めます。

 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」

 春花ちゃんのお尻から一定のリズムで小さな音がします。
 でも、それはろくにスナップも効かせずに叩いていましたから、
それほど痛くありませんでした。

 「女の子がゴーカートに乗っていけないなんて言いませんけど、
ルールは守って乗らないと怪我をしますよ。男の子もそうだけど、
女の子は特に、顔に怪我でもしたら取り返しがつかない事になる
わ。ましてや、あなたは隣りには美里ちゃんがいたんですもの。
相手のことも考えなくちゃ。坂道でむやみにスピード出すなんて
絶対にだめです。いいですね」

 「はい、先生」
 春花ちゃんはスパンキングを受けながら長々とお説教を聞いた
後に普通に答えます。
 それは先生がまだそんなに強くお尻を叩いていないからでした。

 「もし、今度、こんなことがあったら、その時は……」
 先生はこう言った直後、春花ちゃんのショーツを太股へとずら
します。
 そして、今までとは違って手首のスナップを利かせた一撃を…

 「ピシッ」
 「(ヒヒヒヒ)」

 かろうじて悲鳴は立てませんでしたが、それは、それまでとは
明らかに違う威力でした。春花ちゃんは身を硬くします。

 「わかったわね」
 先生はこう言ってもう一つ。

 「ピシッ」
 乾いた音が天井まで響き、むき出しになったお尻が震えます。

 「だって……」
 「だって、何なの?」

 春花ちゃん何か他のことを言いたげでしたが、先生に強い調子
で迫られると、結局こう言うしかありませんでした。
 「……はい、先生」

 「そうね、わかったわね」
 先生は納得したような笑顔です。
 でも、これで終わりではありません。春花ちゃんの罪は一つで
はありませんでした。

 先生はむき出しになったお尻を再びスナップを利かさずに叩き
始めます。

 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」

 それはパンツの上からより少し威力が増しましたが、それでも
さっきの一撃に比べたら楽勝です。春花ちゃん、少し痛くなって
きた分は自ら唇を噛んで頑張ります。
 春花ちゃんは施設で一番のお転婆娘。誰よりもたくさんお尻を
叩かれて経験がある分、耐える力も美里ちゃん以上でした。

 「ボートは水の上なの。万一、落ちたりしたら、たとえ泳ぎを
知っていても必ず助かる保証はないのよ。ゴーカートなんかより
さらに危険だわ。そんなボートを一度も漕いだことがないくせに
嘘をついて借りるなんて……もってのほかです!!」

 「ピシッ」
 言葉の最後、また強い衝撃がお尻を襲います。

 「しかも、ここでも美里ちゃんが一緒に乗ってたんでしょう。
あなたのは責任は重大ね」

 先生はこう言うと、春花ちゃんのお尻の谷間を指で開きました。
 当然、普段は隠れている場所に外の風がス~っと入りますから
……。

 「……(!)……」
 春花ちゃんの脳裏に緊張が走ります。

 でも、お仕置きの最中は、よほど何か特別なことがないと叫ぶ
なんてことはできません。先生の指でお尻を開かれても小学生に
とっては特別な事ではありませんでした。
 なされるまま我慢していると……

 「ピシッ!」

 それは今までとはさらに威力が違います。
 ぶたれた瞬間、背筋を電気が走り、脳天に達する痛さでした。

 「あなた、自分のしたことがわかってますか?」
 先生はこう言ってもう一撃お尻に落とします。

 「ピシッ!」
 「いやあ」
 出してはならない声が初めて出ました。

 でも、春花ちゃん、すぐにそれに気づいて……
 「ごめんなさい」
 と言います。

 「ごめんなさいじゃすまないことだってあるのよ」
 こう言って再び…

 「ピシッ!」
 「(ヒヒヒヒヒヒ)ごめんなさい。わかりました先生」
 春花ちゃん、両手両足をバタつかせただけで、悲鳴を立てずに、
ごめんなさいを言います。

 でも、それはやっとの思いでできたこと。本当はこのまま寮へ
逃げ帰りたいくらいでした。

 先生はうつ伏せになった春花ちゃんの両足の間にご自分の右足
を挟み入れて春花ちゃんのお尻が再び塞がらないようにします。
 これって、春花ちゃんの恥ずかしい場所が先生から丸見えって
ことなんですが、春花ちゃん、あえて抵抗はしませんでした。

 女性同士ということもありますが、もし、へたに抵抗して罰が
重くなったら、今でもヒーヒーいってるお尻がもたないと考えた
からなのです。

 そして、再び、軽めのスパンキングとお説教が始まります。
 ただし、その軽めのスパんキングも、痛みが少しずつ少しずつ
蓄積していきますから、最初の頃のように鼻歌交じりでいうわけ
にはいきません。

 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」
 その一発一発に身体を硬くし歯を喰いしばり、腰で町田先生の
お膝を巻き込むように力を入れて耐えなければなりません。

 「最後に、男の子のお風呂を覗いたことだけど、これなんかは
弁解の余地がないわね!!」

 「ピシッ」
 「いやあ~~~」
 今まで一番痛い平手でした。

 「そもそも、よくもそんな恥ずかしいことができたものだわ。
先生だって呆れたくらいだもの。あなたたちは、まだかろうじて
子どもだから、世間の人たちも『あれは子供のした事』で許して
くださってるけど、もう少し大きくなってからだと、それこそ、
世間で誰からも相手にされなくなってしまいますよ」

 「はい、ごめんなさい、先生」
 春花ちゃん、いつもこのあたりで強いのが来ますから、先回り
して先に謝っちゃいます。

 でも、それもそれってやっぱりいけないことでした。

 「ちゃんとぶたれてから謝りなさい」
 町田先生に言われてしまいます。

 そして、続けざまに、スナップのとてもよく利いたやつが六つ、
すでに十分温まったお尻に降り注ぎます。

 「ピシッ!!!」
 「いやあ~~」
 たった一撃目で、春花ちゃん白旗でした。

 部屋のどこにいても聞こえるような大きな悲鳴が上がり、それ
まで遠慮がちに動かしていた両足を思いっきりバタつかせます。

 「ほら、動かないの!」

 「ピシッ!!!」
 「だめえ~~~」

 「何がだめなの!これがあなたには一番効果のあるお薬よ」

 「ピシッ!!!」
 「ひぃ~~~~」

 「ほら頑張ればまだまだ悲鳴を上げずにできるじゃない。……
今度は、足をじっとさせてなさい」

 「できません」

 「できませんじゃないの。『できます』でしょう。さあ、歯を
喰いしばって」
 町田先生の声がまた強くなりました。

 「ピシッ!!!」
 「ごめんなさい」

 「ほらあ、また足が動いた。じっとしてなさいって言ってるで
しょうが……言われた通りできないなら、あそこの拘束台に縛り
付けて、乗馬鞭でビシビシやってもいいのよ。そっちの方がいい
のかしら?」

 「いや、いや、いや」
 春花ちゃんは必死に頭を振ります。

 いえ、彼女だって何とか耐えようとはしているのです。
 でも、その痛みは今まで経験したことのないもの。とても耐え
られそうにありませんでした。

 もちろん町田先生の方だって、春花ちゃんを中学生にするのと
同じ強さでぶっているわけではありません。
 手加減はしているのです。

 でも、それは今の春花ちゃんの限界を見極めながらやっている
ということで、当然その威力は、一年前、春花ちゃんをお仕置き
した時とは違って厳しくなっています。

 春花ちゃん、これからだってまだまだ体が大きくなるでしょう
から、次に何か粗相をしてお仕置きを受けるような時は、今より
さらに厳しく可愛いお尻が攻め立てられることになるのでした。

 「ピシッ!!!」
 「いやあ~~~死ぬ~~~」

 「誰が死ぬの?お尻叩きで死んだ人はいないわよ」

 「ピシッ!!!」
 「だめえ~~~助けて~~」

 「はいはい、助けてあげます。もういいわ」

 平手だけとはいえ相手はまだ小学生ですから、大人がちょっと
力を入れて叩けば、その痛みは相当なものになります。
 春花ちゃん、最後はどうやって耐えたのか自分でも分からない
くらいでした。

 でも、これが本当のお仕置き。簡単に耐えられる程度なら子供
の心に届きませんから、ぶつ方も心を鬼にして叩くのです。


 『やれやれ、この子もまだまだと思ってたけど、いつの間にか
大きくなって、お仕置きにも骨が折れるようになったわ。次回は
本当に拘束台でも使ってみようかしら。……でも、子供にあまり
無機質な罰は与えない方がいいって言うし、まだ早いかしらね』
 町田先生、そんなことを思いながら赤く腫上がった春花ちゃん
お尻に軟膏を塗り始めます。

 そして、それが終わると、重い荷物を転がすようにして膝の上
から床の上へ。

 もちろん、春花ちゃんを膝の上で介抱してあげてもよいのです
が、お尻叩き直後は、お尻がジンジンしていて、クッションの上
でも座るのは辛いのです。
 ですから、こうして床に転がし、ほてりを冷ましてあげるのが
一番の親切でした。


 春香ちゃんが古いペルシャ絨毯の敷かれた床の上でお尻をなで
なでしている間、町田先生は、今一度、部屋の中を見回ります。

 すると先生、壁に掛けられた側灯(そくとう)を見ていてある
ことに気づきます。
 『ひょっとしてこれは……』
 疑念は大きな姿見の前で決定的になりました。

 先生はその姿見の中にぼんやりとした黒い人影を見たのです。
 もちろん、その陰が何なのか、正確な事は何もわかりません。
 でも、そのシルエットには見覚えがあります。

 ただ、彼女は鏡の前に来てそれが分かってからも、特段表情を
変えませんでした。
 髪型をわずかに手直しするかのような仕草をみせ、スカートの
裾を両手で持って膝を軽く曲げる社交界でよくやるお辞儀をした
だけだったのです。

 その間僅かに30秒。でも、その僅か30秒間で、町田先生は
色んな事に頭をめぐらせていたのでした。

 この鏡の向こう側に座る人の身分、その人の性格、彼が子ども
たちに求めているもの、その思いを遂げる為に彼が取るであろう
手段など、色々と推測します。その一方で、自分は子供たちの為
に何がしてやれるだろうか?彼の求めに応じた場合、何が起こる
だろうか?拒否した場合はどうなるだろうか?

 ありとあらゆる可能性を30秒で考え、先生は結論を出したの
でした。

 もちろん、その結論は子供たちの為、とりわけ彼らの将来の為
に最もよい方法として選択したのです。

 町田先生は鏡の前で小さく会釈してその場を離れます。
 それは、当然、老人のためにした挨拶でした。


 すると、それを受けて鏡の内側では……

 「御前、いかがいたしましょう。退室なさいますか?」
 「どうしてだね、柏村」

 「どうも、こちらから見ていて、あの先生、この部屋の存在に
気がついていたように見えましたので、万一、御前に差し障りが
でてもと思いまして……」
 「気づいたでしょうね。彼女、さっきから隠しカメラの位置を
しきりに気にしていましたから……」
 「ならばなおの事、ここは危険なのでは?公になれば御前様の
ご人体(じんてい)にも関わります」

 「まあ、まあ……そう慌てなくても大丈夫ですよ、柏村さん。
どうやら、彼女、事を荒立てるつもりはないみたいですから…」
 「三上先生まで、そんな悠長な……どうしてそんなことわかる
んですか?」

 独り焦る柏村さんに伯爵様は静かに語りかけます。
 「柏村、落ち着きなさい。そんな大声を出したら、いくらこの
部屋が防音壁でしきられていても子供たちにまで聞こえてしまい
ます。そうなったら、せっかくの先生の好意が無駄になってしま
うじゃありませんか。ここは先生の好意に甘えて静かに鑑賞する
のが、大人のマナーですよ」


 大人たちが狭い部屋でお茶を飲みながら会話している頃、町田
先生はもうソファに戻っていました。

 彼女は依然として床に転がってお尻をさすっている春花ちゃん
や壁の方を向いたまま膝まづきスカートをたくし上げてお仕置き
の終わりをひたすら待っている美里ちゃんの様子を確認します。

 そして、今一度、頭の中を整理すると、やおら子供たち二人に
召集をかけたのでした。

 「はい、二人とも、私の処へいらっしゃい」
 町田先生は子供たちをソファの前に集めると、その場に膝まづ
かせ、両手を胸の前で組む姿勢をとらせます。

 すると先生、この時点でソファの角度を微妙に変えていました。
 膝まづいた子供たちのお尻が大人たちの窓からも正面に見える
ように調整していたのです。

 「いいですか、今日のあなたたちのお仕置きを受ける態度には
少し問題がありました。あなたたちもすでに5年生なんですから、
少しぐらいの痛みは辛抱して、声をだしたり、身体をよじったり
してはいけません。そのことはこれまでも何回となく注意してき
ましたよね。……ね、美里ちゃん、できていましたか?」

 町田先生が睨むと、美里ちゃんがうろたえたように……
 「ごめんなさい」
 と言いますから、それにつられたように春花ちゃんまでも……
 「ごめんなさい」

 その声はこれからの町田先生の行動を勇気付けます。

 「ま、わかってはいるみたいね。だったら、ちょうどいい機会
ですから、その反省をこめて、新しい罰を受けてもらいます」

 町田先生がこう言ったとたん、二人は期せずして胸の前で組ん
でいた手をほどき、両方の手でお尻をさすり始めます。

 『またお尻をぶたれるのなら、その前に、お尻を少しでも可愛
がっておかなきゃ』
 そんなことを思ったのかもしれません。

 もちろんやってはいけないことですが、二人はさっきまで散々
お尻をぶたれていましたから、『新しい罰』と聞いて慌てます。
またお尻を叩かれるんじゃないかと早合点して、無意識にやって
しまったのでした。

 でも、そんな子どもたちの動揺を先生はあえて咎めません。

 ただ……
 「大丈夫よ。もうお尻はぶたないから、それは安心していいわ。
……新しい罰というのはね、拘束台での鞭打ちのことなの」

 こう言われたとたん、二人の顔から血の気が引きます。
 顔面蒼白というやつです。
 拘束台は、本来中学生の罰。小学生の自分たちには関係ないと
ばかり思っていましたから、拘束台と聞いて頭の中がパニックに
なったみたいでした。

 さらに動揺する二人を鎮めようと先生は説明を加えます。

 「新しい罰といっても、またお尻をぶつわけじゃないの。……
中学生になれば、あなたたちもどのみち拘束台にはご厄介になる
わけだし、その時になってまごつかないように、どういう姿勢に
なるのかを、その前に一度体験してもらおうと思うの。だから、
今回はあなたたちをあの台に縛り付けるだけ。実際にぶったりは
しないわ」

 先生の提案、かなり強引です。もちろん子供たちにしても……
 『なぜ、そんなことを今やらなきゃならないのよ!!』
 という不満はあるはずです。

 でも、小学生というのは、比較的親や先生の命令には従順で、
中学生のように理屈でやり込めようだなんて考えたりしません。
 それに、下手にさからってもう一度お尻叩きのやり直しなんて
ことになったら、それこそ目も当たられませんから、二人はあえ
て疑問を差し挟みませんでした。
 春花ちゃんも美里ちゃんも、もうこれ以上お尻をぶたれるのは
まっぴらだったのです。

 「では、私が拘束台を準備しますから、あなたたちはその間に
そこで服を脱いで待っていなさい。……いいこと、靴下を除いて
下着も全部脱ぐのよ。……もし、それまでに、ちゃんと服が脱げ
ていなかったら、本当に鞭でぶちますからね」

 お母さんは二人に厳命を残して部屋に設置された拘束台の準備
にとりかかります。

 二人は不安と悔しさで唇を噛みますが、でも、それ以上の抵抗
はできませんでした。

 二人はお互いを見つめ合いましたが、どちらの顔にも『選択の
余地はありません』と書いてありました。
 『どうせ、見ているのはお母さんだけだから』というのが救い
だったようです。


 「春花、あなたはこちらよ」

 町田先生はまず最初に春花ちゃんをうつ伏せで操作する拘束台
の方へ案内します。

 これは斜めになった板の上に上半身をうつ伏せにして寝かせ、
お尻が体のどの場所よりも高くなるようにセットしたら、両足を
六十度ほど開かせて足首を固定して使うようになっていました。

 両手は自由ですが、足首が固定されているので逃げ出すことは
できませんし、鞭打たれる時はどのみちその痛みに耐えるために
頭の先に突き出た二本の棒をその手で握ることになります。

 むしろ両手を拘束しないのは、痛さのあまり無理やり拘束具を
振りほどこうとして手首を痛めるから。
 手首を傷めては、その後の勉強に差し障りが出るからでした。

 春花ちゃんは、自動車に轢かれたガマ蛙みたいな無様な格好で
細いテーブルに張り付きます。
 大きく開かれた両足の間からは、女の子が見えそうで気になり
ますが、それでも美里ちゃんがさせられている格好に比べたら、
まだましだったかもしれません。

 同じ頃、美里ちゃんはもっと屈辱的な格好をさせられていました。

 美里ちゃんの拘束台は壁に据付けられていて、短めのテーブル
が壁から突き出るように設置されています。美里ちゃん、この上
に仰向けに寝かされると、なんと両足を高々と持ち上げられて、
自分の頭の方にある壁の鎖に固定されているのです。

 当然、誰の目にも女の子は丸見え。おまけにこの姿勢で鞭打た
れると、お尻だけでなく大事な場所にも鞭が当たってしまいます。
 それって尋常な痛さではありませんでした。

 この拘束台、中学生でも特に強い反省が求められる場合にだけ
使用されるということになっていますが、それはあくまで建前。
このテーブルに一度も乗らず中学を卒業できる子は施設の寮には
一人もいませんでした。

 というのも、この拘束台、たんに個人的なペナルティーという
意味ではなかったからなのです。

 『教会の子供たち』は本来なら生まれてくるはずのない子ども
たち。教会側も、もろ手を挙げて祝福という訳にはいきませんで
した。

 たとえ、子どもたちに罪はないと分かっていても、大人たちは
子供たちに試練の輪くぐりを求めます。

 拘束台を使っての鞭打ちはこうした子どもたちなら誰もが経験
する通過儀礼。彼らが煉獄を通らずに天国へ行くことなど、大人
たちは決して許さなかったのでした。

 二人はそんな屈辱的な姿を晒して五分間ほど放置されますが、
その間も、町田先生は二人へのお説教を欠かしません。パドルや
ケイン、トォーズや乗馬鞭など、中学生が受けるであろう数々の
鞭を手に、時には鞭打つ真似をしてお転婆娘たちを脅し続けます。

 しかも、最後にはこんなに恥ずかしい姿の記念写真まで……

 「よし、これはいいお土産ができたわ。これは今度あなたたち
が悪さをした時に使わせていただきます。これをクラスのみんな
に公表したら、さぞやみんな驚くでしょうね。そうならないため
にも、これからはいい子にしてなさい」
 笑いながら話す町田先生の言葉に、二人の体は、穴という穴を
塞ぎ、毛穴という毛穴を全部鳥肌にして震えます。

 でも、先生、この写真をそんな目的に使用するつもりはありま
せんでした。


 約束どおり、二人は鞭の洗礼を受けることなく開放されます。
ただ、台から下ろされた二人は、もうぐったりとしていました。

 でも、これで二人のお仕置きが終わったわけではありません。
 すぐに選手交代。今度はお互い別の拘束台で縛られます。

 手順も同じ、記念写真も同じでした。


 こうして恥ずかしい時間は15分ほどで過ぎ去ったのですが、
子供たちには一つ気になることがありました。
 お尻を叩かれている間、拘束台にいる間、それまで薄暗かった
室内が一瞬パッと明るくなることが何度かあったのです。

 ですから、お母さんにそのことを尋ねると……
 「さあ、知らないわ。電気の配線の具合が悪いんじゃないの」
 というそっけない答えが返ってきます。

 疑問に思いながらも、子供たちにしてみれば、その時はそれで
納得するしかありませんでした。とにかく今は、お仕置きを完全
に終わらせるのが先決でしたから。

 でもその瞬き、実は、金魚鉢と呼ばれる小部屋にいる大人たち
が焚いたフラッシュだったのです。

 この懲罰室にはいくつもの隠しカメラが設置してあって、その
シャッターを金魚鉢の中から操作できるようになっていました。
 シャッターを押す一瞬だけ、部屋の明るさが最大になるという
わけです。

 結局、子どもたちは自分たちの知らないところで恥ずかしい姿
の写真を何枚も撮られていたことになるのですが、これが、巷で
よくあるような、ゆすりたかりのネタに使われる事はありません
でした。

 伯爵様には身分や社会的な地位がありますから、そんなことは
なさらないのです。

 これらの写真は、あくまで伯爵様のコレクション。書斎の金庫
へ納まり、他へ移ることもありませんでした。

 そればかりではありません。これは二人も知らないことですが、
これから先、二人には伯爵様が後ろ盾として着いてくださること
になります。

 すべては町田先生の……いえ、お母さんの取り計らいだったの
でした。


***********(8)***********

********「第3回」はここまで*******
~~第2章はここまでです~~ 

御招ばれ <第2章> 「第2回」

    御招ばれ <第2章> 「第2回」


*** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


*** 目次 ********
 「第1回」(1)~(3)……伯爵様へのプレゼンテーション
 「第2回」(4)~(5)……遊園地での楽しいひととき
 「第3回」(6)~(8)……懲罰室でのお仕置き


********<主な登場人物>**********

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

****************************

***********「第2回」*********

 御招ばれ<第2章>(4)

 春花ちゃんと美里ちゃんはほかの子と同じように最初は50m
もある滑り台を滑り下りて伯爵様が子供たちのためにしつらえた
お庭へとやってきます。
 遊び場へ行くには何よりこの特大滑り台が便利でした。

 「ねえ、お尻火傷しなかった」
 「したかもしれない。ものすごく熱かったもん」
 「私も……」
 「ねえ、ちょっと私のお尻見てくれる?」
 「え~ここでえ~」
 「大丈夫よ。誰も来やしないわ」

 二人は物陰に隠れると二人でお互いのお尻を見せっこします。
 でも、何事もなかったみたいでした。
 実際、この滑り台はとっても眺めがよくてスリルがあって最高
なんですが、何しろ長い距離を滑りますから、お尻が熱くなると
いうのが欠点でした。

 「まず、どこ行こうか?」
 「メリーゴーランド」
 「やっぱそれよね」

 最初の乗り物はメリーゴーランド。
 これもここへ遊びに来た子供たちの定番でした。

 「わあ、聞いてたより小さいんだ」
 春花ちゃんが驚きます。
 無理もありません。中央にかぼちゃ型の馬車、その周囲を回る
木馬だってがたった3頭しかないんですから、ミニチュアサイズ
です。
 でも、これを動かしてくれる庭師の松吉さんとそのお弟子さん
にとっては大変な重労働でした。

 実は、今の常識じゃ考えられないでしょうけど、このメリーゴ
ーランドは人力なんです。電気やモーターじゃなくて、人の力で
歯車を回して動かす仕組みになっていました。

 何でも戦前の上海にあったものを伯爵様のお父様が移設なさっ
たんだそうで、相当年季が入っている代物なんですが、いまだに
現役で動きますから今の子どもたちにとっても大事な遊具でした。

 「おじさん、ありがとう」
 10周も回してもらった二人は松吉さんたちにお礼を言います。

 実際、それは街の遊園地にある物のように、早くて滑らかには
動きません。でも、ギシギシパッタンとのんびり動いていくのは
松吉さんの手加減がそのまま自分の乗った馬に伝わるから。
 でも、その方がかえって子どもたちにとっても松吉さんたちに
楽しませてもらったという実感が伴うのでつまらない物に乗った
という思いはありませんでした。


 このあと二人は、ジャングルジムやブランコでも遊びます。

 それって、どこにでもある遊具なのですが、ここは高い丘の上
にあります。ですから、ジャングルジムの天辺に登ると、眼下に
緑の街を一望できますし、ブランコを漕ぐと、眼下の街へ落ちて
行くようなスリルを味わうことができます。

 「ほんと、みんなが伯爵様のお屋敷にお招れしたいって思うの
わかるわ。だってここ、まるっきり遊園地だもの。お金持ちって
いいなあ。私もお金持ちの人と結婚したいなあ」
 美里ちゃんは淡い思いを語りますが……
 「そりゃあ無理よ」
 春花ちゃんが即座に否定してしまいます。

 「どうしてよ」
 「だって、私たち『教会の子どもたち』だもん。大人になった
らシスターか、そうでなくても教会の仕事に就くことになるわ」

 「そんなのどうしてよ。誰が決めたのよ」
 「知らないわよ。だって昔から決まってることだもん。私たち
大人になっても目立っちゃいけないんだって……だからお金持ち
とも結婚できないわ。そんなことしたら目立っちゃうもの」

 「変なの……」
 美里ちゃんは不満でしたが、彼女にとって大人はまだ先の世界
でした。
 「ねえ、今度、ゴーカートへ乗ってみましょうよ」
 春花ちゃんは話題を変えます。次のターゲットをゴーカートに
定めていたみたいでした。

 ただ、美里ちゃんは……
 「え~~あれって、男の子が乗るもんでしょう」
 ちょっぴり尻込みします。

 実はこの伯爵家へのお招れ、女の子だけではなく男の子も来て
いました。
 彼らもまた春花ちゃんや美里ちゃんたちと同じ境遇です。将来
は、やはり聖職者の道へと進まなければなりませんでした。
 ですから、寄宿舎は男女別々ですが、教会内にある学校は同じ。
当然、そこでは将来の聖職者を見据えて子ども達には他より高い
倫理感が叩き込まれていました。
 過激に見えるお仕置きもその為の教育だったのです。

 ただ、そんな彼らだって男の子です。スリルあるゴーカートは
大好きでした。

 実はこのゴーカート、形だけは街の遊園地にあるゴーカートと
同じ形をしていますが、エンジンが着いていません。
 動力がありませんから、実質的には坂道を下るだけの自転車と
いうところでしょうか。

 それでも男の子たちにとっては一番人気の遊具ですから、二人
がスタート地点へ行ってみると、そこは男の子だらけ。
 女の子としてはちょっぴり気の引ける空間でした。

 列に並んで順番が来ると、係りのおばさんが笑顔で迎えてくれ
ます。
 「あら、あなたたちもやってみるの?」
 「いいんでしょう、女の子でも」
 春花ちゃんは乗り気でしたが……
 「わたし、できないよ。恐いもん」
 美里ちゃんは尻込みします。

 すると、おばさんが……
 「だったら、二人乗りになさい。…………ほら、これだったら、
お友だちの隣りに座ってるだけだから楽よ」
 と、二人乗り用を出してくれました。

 「ちょうどよかった、一緒に乗ろう」
 春花ちゃんは相変わらず積極的です。美里ちゃんの手を取ると
無理やり座席に座らせてしまいました。

 「いいこと運転中はヘルメットをぬいじゃダメよ。それから、
危ないと思ったら早めにブレーキを踏んでね。このカート、安全
には作ってあるけど、転ぶと怪我するわよ」
 おばさんのそんな言葉を背に受けて二人は丘の頂上をスタート
していきます。

 「ヤッホー、すごい、すごい、けっこう早いじゃない」
 
 ハンドルを握って運転するのは、もっぱらん春花ちゃん。美里
ちゃんの席にもアクセル用(?)のペダルが着いていますから、
漕げばそれだけスピードが上がりますが、彼女、運転中は手摺に
しがみ付いているだけでした。

 エンジンが着いていないからって馬鹿にしちゃいけません。
 ブレーキを踏まなければ結構スピードがでるようになっていま
した。

 春花ちゃんは、もともと坂道になっていてスピードの出る道で
さらにペダルを漕ぎます。おまけにどんなカーブにきてもろくに
ブレーキをかけませんからスピードはあがる一方でした。

 疾走する春花ちゃんは有頂天です。
 「やったあ!!これで二人も男の子を抜いたわ。ゴーカートが
こんなに気持がいいなんて思わなかったわ。ねえねえ、あなたも
もっと一生懸命ペダル漕いでよ」
 美里ちゃんは春花ちゃんにせがまれますが、春花ちゃんが力任
せにペダルを漕ぐので、自分の踏むペダルまでが軽くなることが
恐くて仕方がありませんでした。

 「もう一人、前に男の子がいるから、抜いてみせるわ……」

 春花ちゃんは、また坂道が急になっているにも関わらず目一杯
ペダルを踏みこみます。
 どうやら夢中になりすぎて、その先のヘアピンカーブは見えて
いなかったみたいでした。

 「いやあ~~~」
 悲鳴と共に二人の乗ったカートはヘアピンカーブの茂みの中へ
……脱輪…横転…そして、二人はカートの外へと放り出されます。

 「いててて」
 幸い二人が負った怪我は擦り傷だけで大事には至りませんでし
たが……
 「だから、言ったでしょう、無理しないでって……」
 美里ちゃんはおかんむりです。

 でもカートの中で美里ちゃんがそんなことを言ったことなんて
一度もありませんでした。
 いえ、言葉にはしませんでしたが心の中ではずっと叫んでいた
みたいです。

 春花ちゃん、少しムカッとしたみたいですが、とにかく、今は
脱輪してしまったカートを元のコースへ戻さなければなりません。

 「ほら、そっち持ってよ!」
 春花ちゃんはまだ擦りむいた肘をすりすりしている美里ちゃん
にむかって命令します。

 二人は力を合せて、カートを引きずりだそうとしますが……
 「ほら、もっと力をいれなさいよ」
 また春花ちゃんが命令しますが、カートってタイヤでコロコロ
と動く時は快適なんですが、こうやって鉄の塊になってしまうと、
動かすのは簡単ではありませんでした。

 「とても無理よ。大人の人たちを呼んできましょうよ」
 美里ちゃんは提案しますが……
 「だめよ、そんな事したら町田先生に叱られるわ」
 春花ちゃんは乗り気ではありません。

 「だったらどうするのよ。このまま放っていくの?」
 「それは……」
 「こんなの見つかったら、それこそただじゃすまないと思うわ」

 「…………ただじゃすまないって?……オヤツ抜きとか?……
夕食抜きとか?」
 「そのくらいじゃすまないんじゃない?」
 「じゃあ、お仕置き?だって、今はお招れにきてるんだもん。
それは大丈夫よ」

 「何言ってるの。私たちって、いつまでもここにいられるわけ
じゃないのよ。寮に帰るのよ。そこで『二人、お話があります。
舎監室へいらっしゃい』なんてことになったらどうするのよ」
 「そうかあ…………」
 春花ちゃんは少し驚いた後、下を向いて黙ってしまいます。
 確かに、美里ちゃんの心配はその通りでした。

 そんな二人のもとへスタート地点でこのカートを貸してくれた
おばさんがやってきました。
 
 「あっ……」
 「やばっ……」
 二人は緊張しますが、おばさんは笑っています。

 「どうしたの?……ははあ、やっぱりそうか。……ブッシュに
突っ込んだのね。……だから言ったでしょう、早めにブレーキを
踏みなさいって……エンジンがついてないからって馬鹿にしちゃ
だめよ。ここのコースは坂道で、これでも結構スピードが出るん
だから…怪我はどうなの?肘から血が出てるわ。身体は大丈夫?」

 「ごめんなさい。大丈夫です。これは擦りむいただけですから」
 「ごめんなさい。私も大丈夫です。」
 二人はうなだれます。
 こうなったらもう逃げ隠れはできませんでした。

 「よかったわ、事故だけは心配なの。男の子の中には無茶する
子が多いから困るのよ。これも元はエンジンがついていたんだけ
ど、乱暴な運転で大怪我した子が出て、お父さんが外させたのよ」

 「お父さんって?」
 美里ちゃんがつぶやくと……

 「何言ってるの。あなたたち誰に招待されてると思ってるの?
うちの父が招待したからここにいるんでしょう」

 おばさんが笑っている間、二人は頭の中を整理します。そして
……
 『伯爵様をお父さんって呼べる人は伯爵様の娘さんだけよね。
伯爵様の娘さんってことは、つまり伯爵家のお姫様ってことだわ』
 という結論に達したのでした。

 「おばさん、伯爵家のお姫様なんですか?」
 春花ちゃんが、このキャディさんみたいな格好のおばさんに、
素朴な疑問をぶつけると……

 「お姫様?そうね、そうなるかしらね。ま、お姫様にしては、
少しとうが立ってるけど、そういうことになるかもね」

 二人はそう聞いてあらためて緊張したのか少しだけ後ずさりを
します。すると……

 「何なの?そんなに緊張することないでしょう。今は華族なん
て制度はないんだから、私もあなたも同じ身分よ。……そんな事
より、このカートを何とかしなきゃならないわ」

 トウの立ったお姫様はそう言ってコースの方を眺めます。

 やがて……
 「あっ、ちょうどいいのが来た」
 彼女はそう言ってコースの方へ出て行くと、まるでタクシーで
も止めるみたいに右手をあげます。

 すると、彼女の求めに応じて一台のカートが止まり、そこから
男の子が下りてきました。

 男の子は中学生。二人からみたらお兄さんです。
 カートを運転していた時には分かりませんでしたが、その場に
立ってみると、おばさんよりむしろ背が高く、すらっとした長身
なのがわかります。

 「お願いね」
 「いいですよ」
 そんな会話が二人の少女にも届きました。
 きっと、少年が手伝ってくれることになったのでしょう。

 男の子はヘルメットを脱ぎ捨てると、肩まで伸びた髪を手櫛で
かき分けます。すると、細い顎に切れ長の目、鼻筋の通った顔が
のぞきました。

 そして、お姫様に促されて男の子が事故のあったブッシュへと
顔を向けたその瞬間でした。
 春花ちゃんと彼は偶然視線があってしまいます。

 『…………』
 春花ちゃんは何も言いませんが、その瞬間、少女の心に何かが
起こったのは確かでした。

 「どうかしたの?」
 美里ちゃんが友だちの小さな異変に気づいて声を掛けますが…
 「何でもないわ」
 という返事でした。

 でも、本当に何でもないんでしょうか。

 春花ちゃんはお姫様と二人でこちらへむかって来る彼から一度
も視線を外すことがありませんでした。

 そして、いよいよ、彼が目の前まで来ると……
 「やあ」
 男の子が軽く挨拶しただけなのに、春花ちゃんは怯えたように
ほんの少し後ずさりします。

 春花ちゃんっていつも他人の先頭を歩こうとしますから、春花
ちゃんにとってはとても珍しいことでした。

 「ああ、これね」
 高志君は二人が困っているカートを見つけても、驚いた様子は
見せません。
 「これ、コースに戻せばいいの?」
 「高志君、お願いね」

 お姫様の求めに応じて、高志君は鉄の塊となったカートを持ち
上げます。それは二人がどんなに頑張っても全然動かなかった鉄
の塊がいとも簡単に動いた瞬間でした。

 「これでいいの」
 高志君はカートを舗装されたコースへと戻します。
 その間わずかに30秒ほど……

 「助かったわ。ありがとう」
 お姫様にお礼を言ってもらって高志君は去っていきます。
 「じゃあ」

 帰る姿は後姿だけ。中学2年の男の子が小学5年の女の子に媚
を売ったりしません。コースに置いてきた自分のカートにまっす
ぐ戻るとヘルメットを被って坂を下っていきます。
 ただそれだけのことなのです。
 なのに、春花ちゃんはそれもじっと見ていました。

 「ちょっと、春花、行くわよ」
 美里ちゃんはぼんやりしている春花ちゃんを叱りつけます。
 これも普段なら逆。とっても珍しいことでした。

 これって、春花ちゃんが高志君に一目ぼれしちゃったって事で
しょうか?
 そうかもしれません。でも、春花ちゃんの初恋が実る可能性は
ほとんどありませんでした。

 だって二人の間には色々な障害がありすぎます。
 だいいち住んでる寮が男子寮と女子寮で違いますし学校だって
小学校と中学校は別の学校。つまり顔をあわせる機会がほとんど
ないわけです。それに何より、高志君はクラスの人気者ですから
同年代の取り巻きも大勢います。小学5年の女の子に声を掛ける
必要はまったくありませんでした。

 この件だって、お姫様の頼みだからやってきただけなのです。
純粋な他人助け、ボランティアなわけですが……
 人は恋をすると、ものの見方が変わってきます。

 春花ちゃんの目に高志君は……
 『ブッシュの端で悲しんでる私を見つけて真っ先に助けに来て
くれたやさしい男の子』
 となるのでした。

 あとは、高志君との色んなデートシーンが次から次へと頭の中
に浮かんできます。
 公園のボートで……映画館の暗闇で……陽の当たるカフェで…
…楽しい妄想が次々と頭の中を駆け巡ります。

 こんな時、カートのスピードが上がるわけがありませんでした。
 いくら、今さっき事故ったからって、これじゃいくらなんでも
亀さんです。

 頭にきた美里ちゃんが……
 「ねえ、春花、あなたももっとしっかり漕いでよ。これじゃあ
いつまでたってもゴールに着かないでしょう!」
 そう言ってせっつくと……頭の中のシャボン玉を割られた春花
ちゃんが、とたんに美里ちゃんを睨みます。

 美郷ちゃんには訳が分かりませんでした。


 とにかく終点までついた二人、次は何で遊ぼうかと探している
と、春花ちゃんが突然お池のボートに乗ろうと言い出します。
 彼女、何か見つけたみたいでした。

 「えっ?だって、私、ボートなんて漕いだことないもん。……
あなただって、そんなことしたことないでしょう」
 美里ちゃんはしり込みします。だって、春花ちゃんとは幼い頃
からのお友だち。姉妹みたいなものです。ですから、春花ちゃん
だってボートを漕いだ経験がないのはわかるのでした。

 でも、春花ちゃん、強気に頑張ります。
 「大丈夫よ。そんなの簡単よ。やってうちにうまくなるわ」
 春花ちゃんは美里ちゃんの手を強く引っ張ると、貸しボートの
桟橋へ……

 もちろんこれも、乗るのはただでしたが、ただ、おじさんが、
 「君たち、ボート漕いだことあるの?」
 と尋ねてきます。

 二人が不安な顔になりますから……
 「やったことがないんだったら、少し待ってなさい。しばらく
したら経験のある人が来るからね、その人と一緒に乗りなさい。
ひっくりかえった危ないからね」

 おじさんはそう言って二人にしばし待つように促したのですが
……
 「大丈夫です。私、何回もボートを漕いだことありますから…」
 春花ちゃんがいきなり宣言してしまうのです。
 美里ちゃんは目を丸くしてしまいました。

 もちろんこれ、真っ赤な嘘でした。美里ちゃんも春花ちゃんも、
まだ一度もボートを漕いだことがありません。

 ただ、春花ちゃんのあまりにも自信に満ち溢れた態度に押され
て、おじさんが渋々ボートを貸してくれます。

 「いいかい、この救命胴衣は絶対に脱いじゃいけないからね」
 麦藁帽子のおじさんはそう言って、二人の乗ったボートを押し
て出してくれます。

 ボートは、最初、順調に湖面を進んでいきます。

 「やったー」
 美里ちゃんは大喜びでした。

 彼女、春花ちゃんがおじさんの前であんな大見得を切るもんで
すから、ひょっとして自分の知らないところでボートを漕いだ事
があるのかと思っていました。

 でも、春花ちゃんが上手だったのはまっすぐに進むことだけ。

 池の真ん中にある島にボートが突き当たると、そこでストップ。
このボート、一定方向には進めても方向転換ができませんでした。
 結局、二人を乗せたボートは小さな島の入り江で座礁してしま
います。

 「どうしたの?動かないよ」
 「困ったなあ、私、曲がり方ってしらないのよ」
 「何よ、さっきは偉そうに漕いだことあるって言ってたくせに」
 「だって、ああ言わなきゃ貸してくれないみたいだったから」
 「そうじゃないでしょう。おじさんは、経験のある人と一緒に
乗りなさいって言っただけじゃない。だから、そんな人が来るま
で待ったらいいじゃないの」
 「そうはいかないのよ!」
 「どうしてよ!?」
 「どうしてって……」
 春花ちゃんは口ごもります。

 春花ちゃんとしては、『今、高志君がボートに乗ってるから…』
とは言えませんでした。

 と、ここで、まごまごしている二人のもとへおじさんが助け舟
でやっきます。
 
 「大方こんなことだろうと思ってたよ。でも、とにかく事故が
なくて何よりだ」
 
 おじさんは恥ずかしくて顔を真っ赤にしている二人を、自分の
ボートに二人を乗せると、桟橋へと引き返します。

 でも、その時、高志君たちが乗るボートと出合ったんです。
 春花ちゃんは下を向き、その顔はさらに赤くなります。

 そんな春花ちゃんの気持を、おじさんが察したわけでもないん
でしょうが、高志君のボートに向かってこんなことを言うのです。

 「高志君さあ、よかったらこの子たちを乗せて池を一周してく
れないか?」

 「いいですよ。だったら、僕達も桟橋に戻りますから……」
 高志君は一緒にいたクラスメイトの女の子と目と目で会話して
からおじさんに返事を返してきました。

 結局、桟橋に着いた二隻のボート、一隻は高志君のクラスメー
トの女の子が美里ちゃんを乗せて出航。もう一隻は高志君が春花
ちゃんを乗せて遊覧です。

 春花ちゃんとしては、こんなこと、願ったり叶ったりだったに
違いありません。
 だって、初恋の人と、いきなりボートでデートできるんです。
積極的な春花ちゃんのことですから、さぞや話が盛り上がったと
思いきや……池をめぐってきた15分間、春花ちゃん、高志君を
目の前にしてほとんど口がきけませんでした。

 『さっき事故を起こして恥ずかしかったから…』
 勿論それもあるでしょうが、何より春花ちゃんは、それくらい
高志君のことが好きだったということのようでした。


**********(4)**************

 御招ばれ<第2章>(5)

 夕方になり、子どもたちはお屋敷に戻ってお風呂に入ります。

 もちろん男女は別。男の子には大きな浴槽の岩風呂が割り当て
られましたが、女の子にはそれより小さなお風呂。

 いえ、それだって、家庭のお風呂に比べたら何倍もあるのです
が、男の子のお風呂があまりに立派でしたから、美里ちゃんは、
それに不満でした。

 「あったまにくる。男の子のお風呂ってこ~んなに大きいんだ
よ。それに比べて女の子はこれだもん。ね、これって差別よね」

 「ふう~ん……ん?」
 流しで頭を洗っていた春花ちゃん最初は聞き流していましたが、
そのうちあることに気づきます。
 「あんたどうしてそんなこと知ってるの?」

 「だって、さっき見てきたもん」
 「えっ!?男の子のお風呂覗いたの?」
 「うん」
 美里ちゃんごく自然に頷きますからそりゃあ春花ちゃんだって
びっくりです。
 
 「ほら、あそこにマリア様の像があるでしょう。あれ取れるの。
あれ外したら向こう側が見えちゃったのよ」
 「見えちゃったって……あんた、そんなことしたの?」
 「簡単よ。脚立があるからそれに乗ってマリア様を床に下ろせ
ばいいだけだもん。男の子の裸、ばっちり見ちゃった」
 美里ちゃんに悪びれた様子はありません。

 「あんた、時々ビックリするようなことするのね。そんなこと
町田先生に知られたらお仕置き間違いなしだよ。パンツ脱がされ
てパドルの鞭で六つぐらいやられちゃうんだから」
 「いいじゃないの、男の子たちには見つかんなかったんだから。
そうそう、そういえば春花。昼間さあ、あなたと一緒にボートに
乗ってた男の子いたじゃない」

 「ああ、ゴーカート引き出してくれた子でしょう」

 「あの子も、今、入ってるよ」

 その瞬間、春花ちゃんの胸がキュンと痛くなります。
 そして、一瞬、高志君の裸を想像してしまうのでした。

 もちろん、そんな時には身体を洗う手は止まっています。
 急に動きを止めた春花ちゃんに、美里ちゃんはきょとんとして
しまいました。

 「どうしたの?」
 心配して尋ねますが……
 「何でもないわ。私、お湯に入るね」
 と、つれない返事が返るだけでした。

 いえ、これ春花ちゃんが美里ちゃんを毛嫌いしているわけでは
なくて彼女には彼女なりの理由があったわけですが、美里ちゃん
はまだそのことに気づいていませんでした。

 春花ちゃんは男の子たちのお風呂場との間にある壁際に身体を
沈めると何もせずただじっと耳を澄ましていました。

 「へえ~~高志、森脇先生から養子に来ないかって誘われてる
んだ」
 「まだ、わからないよ。決まったわけじゃないから……」
 「でも、先生が本気だったら行く気あるんだろう?」
 「そりゃなあ……」

 春花ちゃんは壁向こう側から反響して聞こえてくる高志君の声
を聞きたかったのでした。

 「いいなあ、高志は……あんな美人の森脇先生から声をかけて
もらって……俺なんて声をかけてくれたの中華屋の町井さんだけ。
考えちゃうよ」
 「いいじゃん、中華屋やれよ。俺なんて何軒もお招れしたけど、
どっからも誘ってくれなかったんだぞ」
 「ひがむな、ひがむな、まだ時間はあるさ」

 「ねえ、ねえ、やっぱり誘ってもらえる処があったら、どんな
処でもそこに行くべきかなあ」
 「そりゃあそうさ、ここにいたって、俺たち田舎周りの牧師に
しかなれないんだぜ。たとえどんな家でもそこの養子になったら
大人になって好きな事ができるじゃないか」

 「じゃあ、俺、ここの養子になっちゃおうかなあ」
 「おう、それいい。最高じゃん」
 「馬鹿、ありえないよ。こんなとこ……だって、そんなことに
なったらたちまち俺たち有名人じゃん。親が絶対潰しちゃうよ。
ここは遊びに来るだけさ」

 春花ちゃんは、最初、愛しい高志君の声を聞くことだけが目的
でしたが、そのうち男の子たちが話す内容にも興味を持つように
なります。

 『そうかあ、伯爵様が私を養女にしてくれるはずないもんね。
私もどこか探さなきゃ。……やっぱり、大西先生かなあ……でも、
先生、お姉ちゃんにだってあんなキツイお仕置きしてたもんなあ
……あたし、もつかなあ……』
 春花ちゃんは小さな胸を湯船に浮かべて思うのでした。

 そのうち、一緒にお風呂に入っていたお友だちが、一人二人と
脱衣場に向かいます。

 少し遅れて湯船にやって来た美里ちゃんも、春花ちゃんの耳元
で色んなことを話しかけていましたが、相手にされないので……
 「わたし、先に上がるね」
 と、声をかけたその時でした。

 美里ちゃんにとっては耳を疑うようなことを春花ちゃんが言い
出します。
 「ねえ、さっき、男の子のお風呂、簡単に覗けるって言ったよ
ねえ。……やってみようか」

 あれほど馬鹿にしていた張本人が、自分もやってみると言いだ
したのですから驚きでした。

 「でも、もうすぐお風呂の時間終わっちゃうよ。……ほかの子
もみんな出ちゃってるし……」

 心細そうに言いますが春花ちゃんの決心は変わりませんでした。
 もちろん断ることも出来たんでしょうが女の子はお付き合いが
大事ですからね、こうやって頼まれると、そっちへ引っ張られて
しまいます。

 結局は二人でもう一度男の子のお風呂場を覗くことに……

 大きな脚立をマリア様の像が飾ってある場所まで移動させて、
脚立を登り、天井近くにある通気口を塞ぐようにして祀ってある
マリア様を慎重に外します。

 あとはマリア様の代わりに通気口から身を乗り出せば、それで
OKでした。

 高志君たち男の子はすでに脱衣場に移動してその裸を見る事は
できませんでしたが、なるほど、この脚立の頂上からだと男の子
の岩風呂は丸見えです。

 「すごいなあ、伯爵様、毎日、こんなお風呂に入ってるのね」
 「うらやましいなあ、わたし、ここの養女になれないかなあ」
 二人は不安定な脚立の天辺にマリア様の像を乗せると、眼下に
広がるお客様用の岩風呂を見ています。ちなみに、伯爵様が普段
お使いになるお風呂は総檜風呂。子ども達には地味に見えるかも
しれませんが、ここよりもっともっと豪華なお風呂でした。

 「無理、無理、……あなたが養女なんて絶対無理よ」
 「どうしてよ。私、伯爵様のお気に入りなんだから」
 「よくいうわ。どこがお気に入りよ。あんなオモチャのピアノ
しか弾けないくせに……ま、私ならわからないけど」
 「わあっ!!よく言うわね。あんたこそ、あんな下手な絵、誰
でも描けるじゃないの」

 女の子二人の甲高い声はよく反響して脱衣所までも筒抜けです。
 そんな声に誘われるようにして黒い影が迫っていることに二人
は気づきませんでした。

 「ちょっと、あなたたち、何してるの!!」

 二人にとっては聞き覚えのある声が、突然、足元でします。

 「えっ!!」
 「いやあっ!!」
 慌てた二人は不安定な脚立の上で揉み合いに……
 そして……

 「ガッシャン!」
 二人は、自分たちが脚立の天辺にマリア様の像を置いたことは
すっかり忘れてたみたいでした。

 『どうしよう!!』
 『やばいよね!!』
 二人は同じ思いで顔を見合わせます。

 湯船で十分に温まっていたはずの身体が一気に冷めた瞬間で
した。

 二人は、鬼のように恐い顔をした町田先生を高い脚立の上から
見下ろすはめになります。

 「とにかく下りてらっしゃい」

 素っ裸の少女が高い脚立の上から男風呂を覗いている。
 もちろんそれだけでも先生が許すはずがありませんが、ただ、
この場ですぐにお仕置きとはなりませんでした。

 これからすぐに伯爵家のディナーがあるのです。
 伯爵家のお夕食ではドレスを着てお招れするのが習慣でした。
ですから、どの子もそれなりにおめかしして食卓に着席します。

 町田先生としては、どの子にも伯爵家から借りた衣装を着せ、
おめかしさせてその席に着かせなければなりません。実は先生、
そのお世話で大わらわの最中です。
 ですから、大変なことが起こったとは思っていても、すぐには
二人を叱れなかったのでした。

 でも、二人はというと、そんな先生の立場や心持なんてわかり
ませんから……
 『今、叱られないんだから、もう大丈夫なんだ』
 と思ったみたいでした。


 お客様をお招きしての伯爵家の夕食は本来なら豪華です。
 自慢の料理人たちが腕をふるい、三ツ星レストランも顔負けの
フルコースです。ワインやリキュールの香りが食堂に立ち込め、
葉巻の煙がたなびきます。

 ただ、今日の主役は子どもたち。正規のものではありません。
 料理も伯爵が普段食べているものと大差ありませんでした。

 「ねえ、ねえ、先生、これ、なあに?」
 春花は他の先生や上級生が伯爵様に向かってお招きいただいた
お礼を述べている最中、目の前にあるプレートに乗った料理を指
差します。

 「ビーフストロガノフよ」
 町田先生が仕方なく小声で囁くと、それよりはるかに大きな声
で……

 「ふう~ん、そんな名前なんだ。カレーライスかと思った」
 と言ったものですから、周囲で失笑が起こります。

 伯爵様もその瞬間にこやかな顔になりましたから、どうやら、
その声は伯爵様にも届いたみたいでした。

 和やかな雰囲気を作り出したともいえますが、町田先生にして
みたら『また、この子に赤っ恥をかかされた』という思いの方が
強かったみたいで、以後は春花ちゃんが何を聞いてきても知らん
ぷりをします。


 食事が始まると、春花ちゃんはさっそくカレーライスみたいな
料理をパクつきます。

 あっという間に完食すると、おしとやかにまだ食べている美里
ちゃんのお皿を覗き込んだりしますから、町田先生はたまらず…
 「春花ちゃん、そんなにジロジロ他人のお皿を覗き込むなんて
お行儀悪いわよ」
 とたしなめたのですが……

 しばらくして、柏村さんがやって来て……
 「伯爵様が、おそばに来るようにとの仰せです」
 と言います。
 もちろん、拒否などできませんでした。

 春花ちゃんや美里ちゃんは小学5年生。伯爵様の近くは上級生
の席ですから、二人はそこから離れた会場の末席にいました。
 それが、伯爵様じきじきのお召しで呼び出されます。

 『何の用だろう?』
 春花ちゃんは、緊張して上座の方へと向かいます。

 すると目の前の伯爵様が……
 「お肉はもっとたくさんあった方がいいかね」
 と問いかけます。

 「(えっ!?)」
 春花ちゃん、恥ずかしくて答えられませんでしたが……

 「持っていきなさい」
 
 伯爵様は自ら食卓に並ぶ色んな料理を取り分けて大きなお皿に
移し変えると、それを春花ちゃんの手に持たせてくれました。

 もちろん、「いらない」とは言えませんから……
 「ありがとうございます」
 春花ちゃんは伯爵様にお礼を言って下がりますが、さすがに、
これは恥ずかしい気持でいっぱいでした。

 ま、春花ちゃんはそうだったのですが、すべての女の子が春花
ちゃんと同じではありませんでした。
 ここには春花ちゃんよりさらに年下の女の子がいます。彼女が
見ると、それはそんなふうには映りません。

 彼女、何を思ったのか自分のお皿を持って席を立つと、伯爵様
の前にやって来て……
 「私も、お肉ください」
 と言ったのでした。

 町田先生、慌ててその子を退散させようとしましたが、伯爵様
は先生を制します。
 「あっ、いいんですよ先生。ここは正式な席ではない。まして
相手は子供じゃないですか、叱らないでください。いえね、私も
世間の親に習って、こんなことがしてみたかったものですから」

 伯爵様は、春花ちゃん同様その子にも穏やかな笑顔を振りまき
ます。
 「どれがいい。さあ、言ってごらん。どれでも取ってあげるよ」
 と問いかけるのでした。

 今の時代の人たちは、同じ家族なら大人も子供も当然同じ物を
食べているはずだと思ってるのかもしれませんが、昔はそうでは
ありませんでした。
 子供に与えられる食事は、その家のお父さんに比べ、質、量、
品数、などその全てにおいて劣っていたのです。

 ですから、多くの子供はお父さんの食べているものが欲しくて
よくおねだりに行きます。そして、それを分けてもらえることで
『お父さんは偉いんだ』『私はお父さんから愛されてる』と実感
することになるのでした。

 ただ、お皿をもって大人の食事のおもらいに行くなんてことは、
本来は幼い子のやること。春花ちゃん、どうやらそこは卒業して
いるみたいだったのですが、自分のお皿が空になり、やることが
なくなって他人の食事風景を見ていたら、それを伯爵様に『まだ、
お腹がすいているのだろう』と誤解されてしまったのでした。


 食事が終わると、子どもたちはおめかししていた衣装を控え室
で脱ぎ捨て、普段着に着替えて居間へやってきます。

 もちろん居間でくつろぐ時も、そのままの衣装で構わないわけ
ですが、この衣装、伯爵家からの借り物ですから、子どもたちに
汚されないうちにと先生たちがさっさと回収してしまうのでした。

 居間でのひと時は何か特別な行事があるわけではありません。
ピアノを弾いたりゲームをしたりして過ごす自由時間でした。

 大人たちの中には子供が苦手な人もいて、そんな人はさっさと
自分の部屋へ引きこもってしまいますが、伯爵様は大の子供好き
でしたからこんな機会も逃しません。子ども達と一緒にゲームを
したり、ピアノを弾いたり、昔話を語ったりします。

 ただ、この場所に春花ちゃんと美里ちゃんはいませんでした。

 二人も控え室で堅苦しい服を脱ぐと、普段着に着替えて居間へ
行こうとしたのですが……

 「あっ、そこの二人。だめよ。あなた達はここに残りなさい」
 と、町田先生に止められてしまったのでした。

 すべての子が普段着に着替えて部屋を出て行くなか、二人だけ
が残りました。
 それでもこの二人、なぜ自分達だけが残されたのか、この時は
まだ理解していなかったみたいです。

 「あなたたちには、まだやるべきことがあります。分かってる
でしょう」

 町田先生に言われた時も、二人は……
 「??????」
 でした。

 「あらあら、そのお顔は分からないってことかしら?」
 町田先生は一つため息をつくと……
 「…(ふう)…いいこと、お二人さん、あなたたちはお風呂で
男の子の浴室を覗き見した上に、あそこに祀ってあったマリア様
の像まで壊したの。…………どうかしら?思い出してくれた?」

 町田先生にこう言われて、やっと……
 「(ああ、あのこと、まだ根に持ってるんだ)」
 と、思い出したのでした。

 そう、お二人さんにとっては、そのことはすでに終わったこと
だったのです。
 ただ大人の世界では、こうした問題はそう簡単には過去になら
ないのでした。

 「これから伯爵様に謝りに行きます」

 「え~~」「今から~~~」
 二人は不満そうでしたが……

 「そう、今からよ。そして、そのあと、あなた方にはたっぷり
お仕置きを受けてもらいます」

 「(えっ!)」
 「(マジ?)」
 すでに終わったものだと思っていた二人には青天の霹靂です。
 たちまち顔は真っ青になりました。

 「だって、マリア様の像が割れた時は何も言わなかったのに」
 春花ちゃんは虚しい愚痴を口をしますが……

 「あの時は、あなた方に衣装を着せるので忙しかったの。でも、
他人の物を壊しておいてそのままってわけにはいかないでしょう。
それに、男の子ならともかく、女の子が覗きなんてハレンチすぎ
ます」

 「えっ~~男の子ならいいの」
 美里ちゃんは不満を口にしますが……

 「そう言うわけじゃなく、あなた方、自分のしたことが恥ずか
しくないんですかって言ってるの。……まったく、あなた方は、
何考えるのかしらねえ!!」

 「…………」
 「…………」
 二人は町田先生の剣幕に恐れおののいて下を向きます。

 「ま、本当なら、寮に帰ってからお仕置きするところだけど、
ここには防音設備のある立派な懲罰室があって、そこを伯爵様の
ご好意でお借りできるみたいだから、今日のお仕置きは、そこで
やってしまいます。いいですね!!」

 凍りつくような町田先生の厳命。
 「…………」
 「…………」
 二人に声はありませんでした。


*************(5)***********

********「第2回」はここまで******

御招ばれ <第2章> 「第1回」

    御招ばれ <第2章> 「第1回」


*** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。



*** 目次 ********
 「第1回」(1)~(3)……伯爵様へのプレゼンテーション
 「第2回」(4)~(5)……遊園地での楽しいひととき
 「第3回」(6)~(8)……懲罰室でのお仕置き


********<主な登場人物>**********

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

****************************

***********「第1回」*********

御招ばれ <第2章>(1)

 次の御招ばれの日が来ました。

 招待してくださるお父様たちがホールにずらりと居並ぶなかで、
春花と美里は、他の紳士たちと談笑する大西先生の脇を、抜き足
差し足ですり抜けていきます。
 そう、まるで門限破りした子が親に見つからないようにそうっ
と家の中へ入り込む、そんな感じでした。

 『どうして二人がそんなことをしたのか?』ですか……

 だって、このお二人さん、もうここ何ヶ月も続けて大西先生の
処へご厄介になっているでしょう。それが今回は方向転換して、
他に適当な家はないかと物色しているもんですから、大西先生に
見つかりたくなかったのです。

 どうやら二人には、大西先生と顔を合せるのは気まずいという
思いがあるみたいでした。

 でも、大西先生は紳士ですからね、そんな二人が逃げるように
安藤伯爵のもとへ出かけて行ったとしても何も言いません。
 先生は、先月、二人に茜さんへの厳しいお仕置きを見学させて
いましたからね、『あれを見てきっと嫌気がさしたんだろう』と
分かっていたみたいでした。

 ですから、全ては承知の上……

 「おや?あの二人、今日は先生のところに来ませんね。鞍替え
されちゃいましたかね?」
 話相手の渡辺さんにからかわれても、先生、余裕の笑顔でした。

 「いや、いいんですよ。二人には、先月、娘のお仕置きを見せ
ちゃいましたから……。きっと、それが恐かったんでしょう」

 「おやおや、それはまたどうして?娘さんのお仕置きそんなに
急を要するようなことだったんですか?そんなこと二人が帰って
からでもよかったでしょうに……」

 「もちろん普段ならそんなことしませんよ。ただ、あの子たち、
本気で私のところで暮らしたいという希望を持ってるみたいで。
だったら、私の方も『本気で娘として育ててあげますよ』という
つもりで、わざとそういうところも見せたんです」

 「なるほど、『娘として本気で受け入れるためにはお仕置きも
当然、受け入れてもらいますよ』というわけですな。生真面目な
先生らしいや」
 渡辺さんは笑います。

 「でも、そんなことしたら、あの二人、もう二度と先生のお宅
に来なくなっちゃうんじゃありませんか?」
 渡辺さん心配してそう言うと……

 「別にそれはそれで構いませんよ。無理強いする必要もありま
せんから。それより、あの子たちには今のうちにいろんな家庭を
知っておいて欲しいんです。将来、あの子たちが聖職者となった
時、こちらも浮世離れした説教は聞きたくありませんから」
 先生はあっさりとこう言い放ちます。

 ただ、先生、心のうちでは……
 『二人はいずれ私の処へ戻る』
 という確信めいたものはあったみたいでした。


 春花と美里の二人はとあるおじいさんの処へとやってきます。
 そこでは、すでに数人の子供たちがこのおじいさんの前に並ん
でいました。

 二人はその列に迷わず並びます。

 「やっぱり人気あるわね。安藤伯爵様」
 春花が美里に耳打ち。
 「私、こんな絵で大丈夫かしら?」
 美里は心配そうに持ってきた自分の絵を眺めます。
 「そんなのやってみなきゃわからないでしょう。とにかくチャ
レンジあるのみよ。抽選の列に並ぶのはそれからでもできるもの」
 春花は意気軒昂。この時彼女は小さなオモチャのピアノを抱え
ていました。

 実は、このお招ばれ会。子供の側だけでなくお父さん側も施設
の子どもたちを指名することができました。
 もし、相思相愛ならめでたく親子カップル成立というわけです。

 大西先生の場合は、お金持ちというほどではありませんから、
お招ばれの定員は二人だけですが、安藤伯爵の場合は、町一番の
資産家ですから、子どもたちをいつも12名以上も招待してくれ
ます。

 広いお庭にはたくさんの遊具が並び、図書室には毎週通っても
読みきれないほどの本があります。もちろん食事だって豪華です
し、天蓋つきのベッドなんて恐らくここ以外ではお目にかかれな
いかもしれません。

 ですから、そんなにリッチなお宅で週末を暮らそうと、多くの
子どもたちが手に手に自慢の品を携え、伯爵様のご指名を得よう
として売り込みをかけてきます。
 春花と美里が並んだのもまさにそのための行列だったのでした。

 子どもたちは、自分の番がきて伯爵の前に立つと、自分が最も
得意とする自慢できる芸を披露します。

 歌の上手い子は歌を歌いますし、楽器のできる子はそれを演奏
してみせます。手先の器用な子は自分で刺繍した手袋やハンカチ
をプレゼントするというのもごくポピュラーな方法でした。

 いえ、いえ、なかには女の武器を使う子も……

 「おじいちゃま、抱っこ」
 そう言って、いきなりおじいちゃんのお膝に飛び乗る子もいる
のです。

 伯爵様は車椅子生活ですが、子ども好きで知られた人ですから、
たとえ少々お膝に負担がかかってもそんな子を邪険にはしません。
 もし、笑顔の少女の頭を伯爵様が優しく撫でてくれたら、もう
女の子の勝ちでした。

 ただこれには年齢制限や体重制限がありますから、ごく幼い子
に限られます。春花や美里にはもうその資格がありませんでした。


 そんな幼い子の飛び道具を見た後に、とうとう春花と美里の番
がやってきます。

 二人は、この時伯爵様だけでなく、その後ろに控える大人三人
からも自分の芸を見られることになります。
 というのも、伯爵様はご高齢で病がちでしたから、どこへ出か
ける時もお医者様と看護婦さん、それに屈強なボディーガードの
三人を引き連れていたのです。

 「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
 「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
 心臓が飛び出そうな緊張のなか二人は美しく揃ったハーモニー
で安藤老人に売り込みを掛けます。
 実は、どちらが最初か決めていなかったのです。

 その二人の声に伯爵様は満面の笑み。ですから、まずは第一歩、
そこは成功したみたいでしたが……でも、すぐに鋭い質問が飛ん
できます。

 「君たちは、たしか…大西君の処へよく遊びに行ってたみたい
だけど、今日はそちらへは行かないのかね?」

 予期しない質問に二人は戸惑いますが、春花が意を決して先月
のことを……。

 「先週も大西先生の処へ行ったんですが……そこで娘さんの、
お仕置きを見ちゃって……それで、他の処でもいいかなあって」

 「なるほど……それで恐くなって、今週は私の処へ来たという
わけか……でも、君たち自身はぶたれたりしなかったんだろう?」

 「ええ、それは……」
 
 「そうか、君たちが何か粗相をしたわけじゃないんだね」

 「……はい」
 
 「よし、よし、だったら問題ないな……で、君たちは何を披露
してくれるのかな?」

 「………………………………………………」
 出し物を伯爵様にせがまれた二人、踏み出すのに少しだけ勇気
が必要でしたが、この時は先に美里ちゃんが動きます。

 「わたし、伯爵様のために絵をかきました」

 「そうか、見せてごらん」
 老伯爵は、美里ちゃんが差し出す絵を受け取る瞬間、その手を
とって美里ちゃんの身体をそっくりご自分の膝の上へ乗せてしま
います。

 車椅子生活の伯爵でしたが、その腕力は相当のものでした。

 こうして、おじいちゃんは美里ちゃんをお膝に乗せてその絵を
鑑賞することになります。

 「パステルと水彩か……ん?……これは……ほう、これ私かね。
なかなか上手じゃないか。特徴をよくとらえてる。下手な似顔絵
描きよりよほど味があっていいじゃないか」
 伯爵様は笑顔。好感触でした。

 「こちらは、水彩の風景画か。ここの中庭だね。綺麗な風景だ。
風がそよいでいる感じがよく出てる」

 こちらも好評価でしたが、突然、伯爵はボディーガードの柏村
さんを呼び寄せます。そして……
 「柏村、水彩の道具を借りてきてくれ」
 と、命じるのです。

 思わず柏村さん、『えっ!?水彩絵の具ならこちらに……』と
言おうとして口をつぐんでしまいました。
 実は伯爵、自分で描いた絵を見せに来る子があまりに多いので
絵の具はいつも手元に準備しているのです。

 しかし、柏村さんはその事にはふれませんでした。
 「承知しました」
 と一言だけ。絵の具を借りに舎監の部屋へと出かけます。

 その水彩の道具が届くまで、老伯爵は美里ちゃんの絵を褒めち
ぎります。そして、学校の事、寮での生活、お友だちの事などを
丁寧に尋ねたのでした。

 その間、おじいちゃんは美里ちゃんの身体を触り続けます。
 頭をなで、髭剃り後のざらざらした自分の頬を押し付けて頬ず
りしたり、まだ可愛らしい両手も両足もごつごつとした皺枯れた
大きな手で揉み上げます。
 太股も、ショートパンツを穿いた股間も伯爵には無関係な場所
でした。

 「あっ……」
 美里ちゃんにしたら気持のよいはずもありません。思わず声を
上げそうになりますが、何とかギリギリ耐えられる程度だったの
で我慢します。
 すると、伯爵様はさらにエスカレート。

 「あっ、あ~~ん」
 とうとう切ない声が出てしまいました。

 本当なら、横っ面張り倒してお膝から降りるところかもしれま
せんが、美里ちゃんにはその気はありませんでした。
 いえ、正確に言うと、最初はあったんですが、段々にその気が
なくなってしまったのです。

 悩ましく不快な思いを切ない快感へと変化させるテクニックを
伯爵は熟知しています。

 「あっ…あああ……(はあ)(はあ)……いやっ……あああっ」
 最初は嫌がっていた伯爵の指を美里ちゃんが自ら待ち望むよう
になるまでさほど時間はかかりませんでした。

 「ああっ、あつい……いやあ~……だめえ~~~」
 抱かれている伯爵様に聞こえないような小さな吐息が漏れます。
 そのあたりは老獪そのもの。伊達に70有余年、プレイボーイ
として生きてきてはいませんでした。

 「御前様、行って参りました」
 柏村さんが絵の具を借りて戻って来るまでわずかに10分ほど
だったでしょうか。もうその頃には、美里ちゃんは家で10年も
飼われている飼い猫のように伯爵様の懐に抱かれて甘えていたの
でした。

 「ほら、見ててごらん」
 伯爵様は美里ちゃんの絵を画板に張り付けると、絵の具を溶い
て自ら筆を取り描き始めます。

 美里ちゃんを膝に乗せたまま、画板も膝の上で……
 それって、とっても窮屈な姿勢なのですが、見る間に見違える
ほど美しく仕上がりました。

 「影はこうやってつけるんだ………光の当たってる部分は……
…こうやると立体感がでるだろう。………よし、ぐんと見栄えが
よくなった」
 伯爵様は、最後には美里ちゃんの筆を握らせ、その上から自分
の手を被せて補正していきます。

 「きれい」
 美里ちゃんは感嘆します。
 それはまるで別の人が描いた絵のようでした。

 「よし、これでいい。……どうだい?私のタッチは嫌いかい?」
 伯爵様のお膝の上で美里ちゃんは首を振ります。
 「よくなったと思います」
 「そりゃあよかった。これは額に入れて、……そうだな食堂に
でも飾ってあげるよ。だから、今週はそれを見に私の処へいらっ
しゃい」

 美里ちゃん、絵は不合格だったかもしれませんが、お招ばれに
は合格したみたいでした。


 「次の子は……ああ、春花ちゃんって言ったけ」
 伯爵様は春花ちゃんが自己紹介をする前にその名前を言い当て
ます。

 というのは、春花ちゃんがこの施設ではちょっとした有名人だ
からでした。

 いえ、学校の成績がいいとか、運動ができるとか、他の子には
できない特技があるといったそんな名誉なことではないんです。
 悪戯が好きな彼女、幼い頃から先生や友だちに悪戯を仕掛けて
まわる困ったちゃんだったのです。

 そのため、毎日のように先生からお尻を叩かれては庭の晒し台
に括り付けられる日々。おかげでここへ出入りする大人たちも、
自然とその名前を覚えるようになったというわけでした。

 「春花ちゃんは何を見せてくれるのかな?」
 伯爵様が尋ねると、即座に…
 「見せるんじゃないわ。聞かせるの。私のピアノを聞いてくだ
さい」
 春花ちゃんはそう言って、抱えてきたオモチャのピアノを床に
デンと置きます。

 「おう、そうか、そうか、それは失礼したな、じゃあ聞かせて
もらおうか」
 伯爵様は丁寧に大人の応対をしますが、何しろ相手は子ども、
そして玩具のピアノですからね、内心、その出来栄えなんて期待
していませんでした。

 案の定、春花ちゃんは右手だけで黒鍵もない小さな鍵盤を叩き
始めます。
 でも、それは意外なものでした。
 「ほう……」
 伯爵様も驚くような美しいメロディーだったのです。

 『ハ長調にまだこんな麗しい旋律が残っていたなんて……でも、
いったい何と言う曲だろう?聞いたことがないが……』
 こう思った伯爵様は春花ちゃんの演奏が終わるや盛大な拍手の
次にこう尋ねたのでした。

 「よかったよ。春花ちゃん。この曲は何という名前なの?」

 すると春花ちゃん、きょとんとした目を伯爵様に向けて、逆に
意外なことを尋ね返すのです。
 「今日は何月何日?」

 「11月8日だよ」
 「そう、じゃあ『11月8日』」
 「11月8日って?」
 伯爵様は一応ご自分の記憶をたどってみましたが、そんな名前
の曲は思い当たりませんでした。

 そんな伯爵様の怪訝な表情を見て春花ちゃんは……
 「だから、今の今作ったんだもん。出来立てほやほやよ。名前
なんてあるわけないわ。だから、譜面に書くときはいつも今日の
日付だけ入れておくの。偉い作曲家さんの作ったのを弾いた方が
よかった?」

 「そういうわけじゃないけど……じゃあ、今のは即興なんだ」
 伯爵様は驚きます。でも、春花ちゃんはあっけらかんとして…
 「そうよ、私の思いつき。その時の気分で指が勝手に動くの。
だからもう二度と弾けない。カレン先生がいれば楽譜に起こして
もらえるけど……(はははは)そういうのじゃだめ?……だって、
私、他に特技なんてないから……」
 最後は苦笑いでした。

 ところが、伯爵様の方はまんざらでもない様子で……
 「カレン先生って老シスターの?」
 「そうよ、おばあちゃん。カレン先生のピアノを悪戯してたら、
筋がいいって褒められちゃった。あなたはメロディーメーカーと
しては非凡なものがあるわねって……ねえ、非凡って何?」

 伯爵様は非凡の説明はせず、さらにこう尋ねます。
 「それじゃあ、今までもそうやって何曲も弾いてきたのかい?」

 「そうよ、新しいメロディーが浮かぶととにかくカレン先生の
処へ行くの。毎晩でもOKよ。……そこで先生が譜面におこして
くれるわ。でも、名前は付けないのよ。日付だけ。だから、今の
曲は11月8日って曲なのよ」

 春花はどうせだめだろうと思っていました。だめもとのチャレ
ンジだったのです。
 だって、ピアノの上手な子はこの施設に何人もいますから……
 ところが……

 「じゃあ11月10日や11月11日も弾いてくれるのかな?」
 「えっ!?」
 「私の家に来て、居間にあるうちのピアノで弾いてほしいんだ。
11月10日と11月11日」

 「ほんと!?」
 美里ちゃんに続き春花ちゃんもお招ばれ、合格のようでした。


***************(1)**********

 御招ばれ<第2章>(2)

 安藤家にお招ばれできたのは、春花や美里のように伯爵様から
ご指名を受けた子どもたち6名と希望者の中から抽選で選ばれた
6名の子どもたちの合計12名でした。

 安藤家の場合、受け入れる子どもの数が多いため、3人の先生
方も子守役としてチャーターされたバスに一緒に乗りこみます。
先生たちも子どもたちと一緒にお泊まりというわけです。

 こんなこと他の家庭へのお招ばれではありません。
 全ては安藤家への特別な配慮。教会側も子供のこととはいえ、
旧華族様には最大限の気を使っていたのでした。

 でも、それはあくまで大人の事情。
 子どもたちにしてみたら、小高い丘の上にまるでお城のように
建つお屋敷は一度は行ってみたい遊園地みたいなもの。その魅力
はドレスアップしての豪華な食事や天蓋つきのふわふわベッドと
いうだけじゃありませんでした。

 広い広いお庭には、急坂を利用して作った50mもある滑り台
や古い手動式のメリーゴーランド。坂道を下って遊ぶゴーカート。
テニスコートも孤児につき立ち入り禁止なんてことはありません
でした。

 雨の日は、お外で遊べないのでカードゲームや大型モニターの
あるテレビ室などで過ごすことになりますが、そこにもピンホン
やボウリング場(ただし自分でピンを立てる手動式ですが)など
があって子供たちは飽きることがありませんでした。
 もちろん、体を動かすことが苦手なチビっ子インテリさんたち
の為に図書室も開放してあります。

 もう、至れり尽くせりです。
 でもこれ、すべて安藤のおじいちゃんが訪ねて来る子供たちの
ために用意したものだったのです。


 「やったあ~~あれよ、あれ、きっとあれだわ」
 春花が美里の肩を激しく叩いて歓声をあげます。

 「あれって、お城じゃないの」
 美里がいぶかしがると……
 「だから、さっきから言ってるでしょう。本物のお城はむかし
焼け落ちちゃったけど、そのあと伯爵様がお家を建てる時わざと
お城の形にして造ったって……ねえ、先生、そうだよね」
 バスの車内に春花の底抜けに明るい声が響き渡ります。

 町田先生が答えました。
 「そうよ。だけど、あのお城は、伯爵様が地元の発展を願って
観光用として造られたものなの。伯爵様があのお城に住んでらっ
しゃるわけじゃないのよ」

 「なあんだ、お城に住んでるわけじゃないんだ。……じゃあ、
伯爵様は、今どこに住んでるの?」
 「お城の近くに立派なご自宅があるわ」
 「へえ~、伯爵様のお家って小さいんだ」
 「どうしてそうなるのよ」
 「だって、そこはお城より小さいんでしょう」
 「そりゃあそうだけど……あのねえ、春花ちゃん。今はお城に
住む人なんて誰もいないの。伯爵様のお住まいはたしかにお城に
比べたら小さいかもしれないけど、そこはもの凄く広くて立派な
お屋敷なのよ」
 「あ~あ、がっかり。せっかくお城でお姫様気分が味わえると
思ったのに……」

 町田先生と春花のとんちんかんな会話が終了してもバスはまだ
延々と山道を登り続けます。
 結局、15分もアクセルをふかしてやっと、子どもたちを乗せ
た観光バスは、お屋敷の車寄せまで辿り着いたのでした。

 ここで、一行はバスを下りる前、先生から注意を受けます。
 でも、それって目新しいものではありませんでした。
 学校で一回、バスに乗ってから一回、先生はすでに二回も同じ
事を話しています。

 『またか……』
 みんながそう思うのも無理からぬこと。
 でも、ここで帰されてら今までの苦労が水の泡ですから、耳に
タコでも聞くしかありませんでした。

 「いいですか、伯爵様のお屋敷に入ったらお行儀よくしていな
ければなりません。大声をだしたり、廊下を走ったり、もちろん
喧嘩はだめです。次に、家の中にはたくさんのお部屋があります
けど、私たちに与えられた部屋以外、勝手に入ってはいけません。
ドアを開けて部屋の中を覗くのもだめです。……春花ちゃん聞い
てますか?」

 町田先生は、高級外車がずらりと並ぶ車寄せの風景に見とれて
いる春花ちゃんを狙って注意します。
 そして、心配だったのでしょう。こう付け加えたのでした。

 「もし、勝手にお部屋を覗くような子がいたらお仕置きです。
お招ばれに来ているからひどい事はしないだろうと思ってるなら
今から考えを改めなさい。ここも寮と同じです。容赦はしません。
寮にいる時と同じようにパンツを脱がして竹の物差しでピシピシ
お仕置きです。……いいですね」

 「は~い」
 子供たちの力のない声が響きます。
小学生グループは比較的真剣な顔ですが、中学生グループは、
過去に何度も経験していますから『どうせ、そんなの脅かしだけ』
と高をくくった顔でした。

 と、まあここまでなら他の学校の修学旅行でもありそうな注意
かもしれませんが、伯爵邸へのお招ばれは、これだけではありま
せんでした。

 町田先生からマイクを受け取った大隅先生が次にこんなことを
言うのです。

 「いいですか、みなさん。これはたまに勘違いする子がいるの
であえて言いますが、みなさんはお招ばれで来たといってもまだ
子どもの身分です。それに対して、伯爵様をはじめ、ここで働い
ているお手伝いさんや庭で働いている男の人たちはみなさん大人
の人たちです。ですから、あなた方はその方たちの指示に従って
生活しなければなりません。間違っても『私はお客様なんだから』
なんて大柄な態度をとってはいけませんよ」

 「は~い」
 これまた子供たちの力のない声が響きます。

 「ねえ、町田先生、横柄な態度ってどういう態度なの?」
 春花ちゃんが尋ねると、先生は笑って……
 「横柄ねえ~……あなたの普段の態度がそうよ」

 「えっ?…………」
 ショックな言葉が返ってきます。

 それに加えて、美人の誉れ高い町田先生は、春花ちゃんにこう
も付け加えるのでした。
 「伯爵様はよく子どもたちを膝の上に抱きかかえられるけど、
それは子どもたちがとってもお好きだからそうされるだけなの。
決してそれを嫌がっちゃだめよ。伯爵様が気分を害されてしまう
から」

 「わかった。……でも、たぶん大丈夫よ。……だって、この間
も伯爵様に抱っこされたけど、私そんなに嫌じゃなかったから…」
 春花ちゃんは町田先生に白い歯を見せて笑うのでした。


 子供たちはバスを下りると建物の裏手にある入口へ移動します。
もちろん、正面玄関は車寄せの近くに立派なものがあるのですが、
そこは伯爵邸の正式な玄関。ご家族でさえ普段は裏へ回ります。
いくら招待されているといっても子ども風情が出入りできる場所
ではありませんでした。

 ご家族が普段利用している入口は裏玄関と呼ばれていて決して
勝手口ではありません。そこは、まるで温泉旅館の玄関みたいに
広くて、子供たちは玄関先で待っていたお屋敷の女中さんに案内
されて奥へと進むことになります。

 「おじゃまします」
 少女達は玄関を入ると一様に案内してくれる女中さんへご挨拶。
その明るく華やかな声が奥の座敷へも通ります。
 
 そこまではよかったのですが、女が三人寄ったら姦しいとか、
この場合は12人もの集団です。静かにしていろという方が始め
から無理でした。

 「わあ、綺麗なお庭!」
 「坪庭って言うのよ」
 「私、知ってるわ。こういうのって鹿威しとか水琴窟とかいう
んでしょう。うちにはないタイプのお庭よね」
 「当たり前よ、教会に灯篭なんかあっても似合わないもの」

 「ねえ、ねえ、これ花瓶よね?……でも、でっかいわね。……
私の身長より大きくないかしら?」
 「きっとヨーロッパのお金持ちが持ってたのを伯爵様が買った
のよ。フランス映画で見たことあるもの」
 「じゃあ、これ……メイドインフランス?」
 「馬鹿ねえ、それも言うならセーヴルじゃないの」

 子供たちの議論に、訳知り顔で先生が口を挟みます。
 「違うわ。これは有田焼だからメイドインジャパンよ。先代の
伯爵様が輸出仕様の花瓶を特注されたの。ここに伯爵家の御紋が
さりげなく入ってるわ」

 「へえ、だったら日本製なんだ。……ねえ、そういうのって、
底に書いてあるのかしら。『メイド・イン・アリタ』って………
ねえ、ねえ、倒してみるから手伝って……」
 その子が友だちに声を掛けて大きな花瓶を倒そうとしますから、
先生、今度は大慌てで……
 「馬鹿なことしないでちょうだい!もし壊したらどうするの!」
 大声で叫びましたが、時すでに遅く花瓶は倒されてしまいます。

 「ねえ、ねえ、これって、私だったら中に入れそうよ」
 「相変わらずあんたは子供ね。入っちゃえば、かくれんぼする
時、使えるかもよ」
 先生、子供たちの声を聞きながら生きた心地がしませんでした。

 「あれ?この人、誰だろう?」
 「きっと、ここのご先祖よ。何かで功績があったから、きっと
銅像にしてもらってるのよ」
 「何かって?」
 「そんなこと知らないわよ。私ここんちの子じゃないんだもん」
 「わあ、生意気。この人、髭なんてはやしてる」

 「昔の人はよく髭を蓄えてたのよ。珍しいことではないわ。…
……ほら、あなたたち何やってるの!!」

 「ねえ、ねえ、この廊下、スケートができるくらいツルツルに
磨いてあるよ。ほら……」
 「いや、ホント、楽しい。私、滑ってみようか」

 子供たちは中庭の日本庭園に驚き、伊万里の大きな花瓶に驚き、
ご先祖の胸像の頭を叩きます。
 先生は、伯爵様のお屋敷ということもあって、なるべく大声を
出さず、そのたびごとに子供たちへ丁寧な説明を繰り返してきま
したが、さすがにスリッパを脱いで花瓶の置かれた廊下を滑ろう
としますから……

 「いいかげんになさい!!」
 町田先生、とうとう堪忍袋の緒が切れたみたいでした。

 「幸恵、美登里、こっちへいらっしゃい」
 先生に呼ばれた二人。何をされるかはわかっていました。

 「……お尻を出して……」
 二人は先生の命令で両手を膝につけてかがみます。
 中学生の制服ですからそれだけではパンツが見えたりしません
が、こうした場合、スカートの上からというのはありえません。
 スカートが捲りあげられ、町田先生愛用の洗濯ばさみでずり落
ちないように止められてしまいます。

 「ピシ~!!」(ひぃ~)
 「ピシ~!!」(あっっ)
 パンツの上から平手でした。

 「ピシ~!!」(うっ~)
 「ピシ~!!」(いやっ)
 一人ずつ交互にお尻を叩かれます。

 「ピシ~!!」(ひゃ~)
 「ピシ~!!」(だめっ)
 結局、たった3発です。

 先の行事もありますし、まさかこんな処でパンツまで脱がせる
訳にもいきませんから、こんなものですが、学校や寄宿舎でなら、
パンツも剥ぎ取られ、硬質ゴムの特製パドルで12回、たっぷり
と自分の間違いを反省させられるところでした。

 ただ、それでほかの子たちの行いがあらたまったかというと、
そんなことはありませんでした。
 ワイワイキャーキャー、かしまし娘さんたちの賑やかな道中が
続きます。

 「こちらで、しばしお待ちください」
 女中さんに案内されてやってきたのは、次の間と呼ばれている
控え室。伯爵邸の居間はその隣りの部屋でした。
 女中さんが伯爵様に取り次いでから御目文字ということになり
ます。
 
 もちろん伯爵様に話は通っていますからすぐにお許しがでます。
 唐紙一つ向こうのことに大仰だと思われるかもしれませんが、
一口に居間と言っても、そこは庶民サイズではありませんでした。
50畳はあろうかというだだっぴろさです。

 女中さんが唐紙を開けた瞬間、いきなりはるか遠くに一人掛け
用のソファ見えて、そこに伯爵様が腰を下ろしているのがわかり
ます。その遠近感から春花たち新参者は思わず立ちくらみが起き
そうでした。

 「あ~、来たね。待ってたよ」
 伯爵様は満面の笑みで手招きします。
 それは施設で見た時と同じ好好爺の姿です。背後のお医者様や
看護婦さん、それに柏村さんも、やはり後ろで控えていました。

 「お邪魔します」
 伯爵様にそれに呼応して女の子たちがペルシャ絨毯の海を進み
ます。

 「ご招待、ありがとうございます」
 先頭きって伯爵様の前に進み出たのは、やはりこのお屋敷へは
ご常連の一人、谷口敬子ちゃんでした。

 「おう、敬子ちゃん。元気にしてたかい?」
 伯爵様は親しく握手を交わし頬ずりをして、次には敬子ちゃん
を御自身の膝の上に乗せてしまいます。

 敬子ちゃんはすでに中学生。大人の膝の上に乗る年齢ではない
のかもしれませんが、これがこのお屋敷のルールでした。

 伯爵様の膝に乗れば、頭もお尻も太股も身体じゅうありとあら
ゆるところを撫でられます。中には頬に生えている産毛が可愛い
と思わずほっぺたを舐められた子も……

 濃密なスキンシップはおじいさんの望みですから誰に対しても
こうします。
 ですから、これが嫌な子はたとえどんなご馳走が出ても二度と
このお屋敷へは来ませんでした。

 「敬子ちゃんも子供だ子どもだと思ってたけど、いつの間にか
もう立派なヤングレディーだな」
 おじいちゃんは敬子ちゃんをまるでお気に入りのぬいぐるみの
ように抱きしめます。それは、こうすることで若い子のエキスが
自分に乗り移ると考えてわざとやってるみたいでした。

 伯爵様との儀式が終わると、敬子ちゃんは伯爵様のお膝に乗っ
たまま、顔を男の胸の中に押し付けて甘えます。
 伯爵様は、子どもたちが甘える分にはどんなに甘えてきても、
決して嫌な顔をなさいませんでした。

 一息ついて敬子ちゃんは、あらためて小さな箱取り出します。
 「これ、私が刺繍したんです。よろしかったら使ってください」

 箱の中には白いハンカチが一枚。広げるとそこには色とりどり
の糸で縫い上げられた草花の刺繍が……

 「ほう、この刺繍は敬子ちゃんがやったの?……独りで?……
そうかい……こんなに細かな仕事をしたら随分と時間がかかった
だろう。……ありがとう。大事にするよ」
 伯爵様は目を細めて喜びます。

 こうしたやりとりは何も敬子ちゃんだけの事ではありません。
この後に並ぶ全ての子供たちが伯爵様の為に何かしらプレゼント
を用意していました。

 ここでのプレゼントは、お招れを受けた子どもたちが伯爵様に
そのお礼として差し上げるお土産のことなのですが、子供のこと
ですから、もちろん高価なものなんてありませんでした。

 中学生位になると、自分で刺繍を入れた絹のハンカチや手袋、
手編みのマフラー、蝋けつ染めのシガーケースなんていうのまで
持ち込むようになりますが小学生の頃はもっと素朴です。伯爵様
の似顔絵や画用紙でできた紙人形、押し花の栞、なんてのが定番
でした。

 いえいえ、何も形ある物とは限りませんよ。
 楽器が得意ならピアノやヴァイオリンの演奏でもいいですし、
得意な歌を熱唱したり有名な詩を暗記して朗読しても構いません。

 中には何を勘違いしたのか、100点のテストをプレゼントに
持ってきた幼い子もいました。ただそんな時でも、伯爵様は常に
笑顔です。その子と一緒に満点のテストをご覧になって……

 「お~~凄いじゃないか。末は博士になれるぞ」
 とニコニコ。答案用紙を大事そうに胸ポケットにしまわれると、
その子の頭をいつまでも愛おしくなでておいででした。

 そんな常連客のあと、恐る恐るペルシャ絨毯の海を渡ってきた
美里ちゃんの番が回ってきます。
 美里ちゃんのプレゼントは、やはり得意の水彩画でした。

 「おう、これは私だね、水彩で仕上げてくれたんだ。ん~~、
陰影も綺麗についてるし、私も一段と美男子になって嬉しいよ。
よし、これも一緒に飾ろう」
 伯爵様はそう言って美里ちゃんのプレゼントを柏村さんに手渡
すと空いてる壁を指示します。
 そこにはすでにたくさんの絵が飾られていました。

 気がつけば、他の子の絵に混じって、分不相応なくらい立派な
額に先日伯爵様に手渡した美里ちゃんの絵が飾られていました。

 「おいで」
 伯爵様はあたりをキョロキョロ見回していた美里ちゃんの目の
前に両手を出してご自分の膝の上に抱き上げます。

 最初は、頭をなでなでしたり、ほっぺを頬ずりしたりしていま
したが、そのうち、その可愛らしい指をパクリ。これはほかの子
にはない特別な愛情表現でした。

 きっと、『食べちゃいたいくらい可愛いよ』ということなんで
しょうが、でも何よりよかったのは美里ちゃんがそんな伯爵様を
嫌がらなかったこと。むしろ、笑って応えたことだったのです。

 そのご褒美ということでしょうか。以後、里美ちゃんは自分が
望みさえすれば、伯爵様が必ず招待客の一人としてリストアップ
すると約束してくれたのです。そう、このお屋敷の永久会員です。
 豪華な料理も、ふかふかのベッドも、図書室の高価な美術書も、
美里ちゃんはそのすべてを笑顔一つで手に入れることができたの
でした。

****************(2)*********

 御招ばれ<第2章>(3)

 次は春花ちゃんの番です。
 彼女もまた、その出会いの時と同じくオモチャのピアノを抱え
ていました。

 「春花ちゃん。おいで……」
 伯爵様は車椅子から両手を広げて春花ちゃんを迎えましたが、
11歳の少女ははにかみます。

 たしかに先日も春花ちゃんはおじいさんのお膝にお邪魔したの
ですが、あの時は必死の売り込みでしたし、これほど多くの子供
たちからも見られてはいませんでしたから。

 「どうした?いやなのかい?」
 彼女は幼な子ではありませんから、おじいさまの望まれるまま
にどんな時でもお膝に飛び乗るというわけにはいきませんでした。

 「春花ちゃん、伯爵様に失礼よ。バスの中でも言ったでしょう。
伯爵様はあなたを抱いてみたいの。せっかくあなたを求められて
いるのにお膝へ行かないなんてもったいないわ……ほら、行って、
行って……」

 町田先生は後ろから抱きついて押し出そうとしましたが、春花
ちゃんが抵抗します。
 すぐに伯爵様が……

 「先生、いいんですよ。やめてください。無理強いはよくない。
……それより、おじいちゃんとしては11月9日を聞いてみたい
んだが、やってくれるかい?」

 「11月9日?……」
 春花ちゃんは、最初それが理解できませんでしたが、すぐに、
11月9日が曲名で私にピアノを弾いて欲しいんだと理解します。

 「いいよ」
 春花ちゃんに笑顔が戻りました。

 彼女はオモチャのピアノをうやうやしく床に置くと自分も床に
お尻を落としてピアノに向かいます。ポニーテールの髪を後ろに
流してポーズを決めます。

 事実はともかく、春花ちゃんの心の中では、これで……
 『私は天才ピアニスト。そのリサイタルが今始ろうとしている』
 という情景になるのでした。

 奇妙な演奏会。
 部屋の片隅にはグランドピアノも設置してあるのに、わざわざ
オモチャのピアノを弾くなんて、ピアノを本気で習っている子供
たちにしてみたら理解に苦しむ光景だったに違いありません。

 ですから……
 「いったい何事?」
 「あの子、何を始めるつもりなの?」
 となるのです。

 でも、理由は簡単でした。
 春花ちゃんは右手でしかピアノを叩けないのです。
 彼女にとってはその右手でメロディーを刻むことだけがピアノ
を弾くことだったのです。

 当然、周囲はあきれ顔、失笑だって起こります。
 「何考えてるのかしらあの子。あれでおじい様へのプレゼント
のつもりなの?」
 「笑わせないでよ。冗談でしょう。あんなのでよかったら、誰
でも、それこそ幼稚園児でも弾けるじゃない」
 「ホント、どういう神経かしら。こっちは、おじい様に聞いて
もらおうと思って一週間必死に練習してきたっていうのに、図々
しいにもほどがあるわ」
 「そもそも、あの子、何弾いてるの?私、あの曲知らないけど」
 「私も知らないわ。単に滅茶苦茶弾いてるだけじゃない」

 散々な言われようですが、春花ちゃんは周囲の雑音をよそに、
トランス状態。お友だちの非難はまったく耳に入りませんでした。

 演奏が終わると、伯爵様だけが笑顔で拍手をします。
 そして……

 「おいで……」
 伯爵様は再び車椅子から両手を広げます。

 これで二度目ですからね。
 春花ちゃんだって、もうイヤイヤはしませんでした。

 「さあ、いってらっしゃい」
 町田先生にも再び背を押されて、春花ちゃんは伯爵様のお膝を
目指します。

 でも、緊張した顔で伯爵様のお膝近くまで来ると、いきなり、
両方の脇の下に大きな手が差し入れられ、男性の強い力で一気に
その身体は持ち上げられたのでした。

 「あっ!」
 その瞬間、春花ちゃんは思わず声を上げましたが、抵抗したの
はそれだけ。

 「どうした?こんなおじいちゃんのお膝じゃ嫌かな?」
 伯爵様は春花ちゃんの気持を代弁してそう尋ねます。

 「………………」
 当惑する春花ちゃん。
 ただ春花ちゃんにしてみると、そこは思っていたより心地よい
場所でした。

 実は、春花ちゃんが幼い頃に一番よく抱っこしてもらったのは
町田先生。女の先生です。
 でも、その時とは感触が違います。

 抱かれているといってもそこは軟らかな寝床ではありません。
体をよじるたびに、強い弾力の筋肉やゴツゴツした骨に当たって
身体の芯までグリグリと指圧されてる感じがします。
 それって少し痛いのですが、女の子の春花ちゃんにとっては、
それもまた不思議と気持ちよいのでした。

 おまけにその場所には魅惑的な香りが漂っています。
 誰が嗅いでも心地よい花の香りなどとは違いますが、嗅いでる
うち癖になります。

 『何だろう?この臭い?』
 それって男の体臭というやつなんですが、春花ちゃんは女の子。
自分にはない異性の香りには生理的に心引かれるものがあるので
した。

 「いいからじっとしておいで……」
 伯爵様に耳元で囁かれると、それにも心が震えます。魔法の粉
を吹きかけられたように身体の芯が熱くなります。とろんと眠く
なります。
 すべてが初体験でした。

 『そうだわ、これって、大西先生の処でも感じたわよね……』
 前にもどこかで感じたようなデジャビュが春花ちゃんの身体を
包み込んでいました。

 そう、お父さんのいない彼女たちにとって男性に触れる機会は
とても少ないのです。そもそも、免疫がありません。ですから、
たまに訪れるその瞬間にはとても大きく心の針が振れてしまうの
でした。

 最初は嫌がっていたはずの春花ちゃんがわずか数分で伯爵様の
胸に顔を埋めてトロンとなっています。まるで『さっき全身全霊
で演奏したからもう気力が残っていません』とでもいわんばかり
です。そこにいつもの威勢はありませんでした。

 伯爵様は柏村さんに車椅子を押させると、部屋の片隅に据え置
いたピアノに向かいます。
 そして、やおら、春花ちゃんが弾いたばかりの『11月9日』
を左手の和音を交えて演奏し始めるのでした。

 すると、さっきと同じメロディーのはずなのにお友だちの評価
が変わり始めます。
 「これ、さっきの曲かしら?」
 「そうよ。今、この子が弾いた曲だわ」
 「伯爵様が弾くとまるで違った曲に聞こえるから不思議ね」
 「でも、これって何の曲かしら?幼い頃弾いた練習曲みたいな
気もするけど……」

 「綺麗な曲」
 春花ちゃんがつぶやきます。美しい曲でした。
 いえ、春花ちゃん自身、この曲が今さっき自分が弾いた曲だと
は思えませんでした。

 「おじいちゃま、これ、私がさっき弾いた曲なの?」
 「そうだよ。とても綺麗な曲だから、私も弾いてみたくなった
んだ。こんな優しいメロディーがすぐに浮かぶなんて、君の心が
穢れてない証拠だよ」

 「へへへへへへ」
 春花ちゃんは褒められて恥ずかしそうに笑います。
 しばらくは伯爵様の懐で甘えていたい気分でした。

 でも、ほかの子たちの視線を感じて、そのお膝から降りようと
します。すると……

 「もう少しお膝においで、今、シスターカレンに向けてお土産
を作ってるところだから……」
 気がつけば、伯爵様は、譜面台に置かれた五線紙にお玉杓子を
書き連ねています。

 「君はどのみち楽譜は読めないんだろう?」
 「……うん」
 「だったら、カレン先生に読んで貰えばいい。カレン先生なら
もっともっと美しい曲に仕上げてくださるはずだから……」

 すると、春花ちゃんは顔を曇らせます。
 「先生、私のデタラメなピアノ。がっかりだった?」

 「どうして?……君のピアノはデタラメなんかじゃないし……
がっかりでもないよ。……まったく逆さ。君の弾くメロディーが
あまりにも美しいからカレン先生にお手紙を書く気になったんだ」

 「音符でお手紙?……それでシスターはわかるの?」

 「不思議かい?……でも、大丈夫。大人の世界ではね、これで
『素敵なプレゼントをありがとう』って読めるんだ」

 「ふうん」
 春花ちゃん首を傾げます。5年生の少女にしてみたら、まるで
狐につままれたようなお話でしたが、とにもかくにも伯爵様には
こちらからのプレゼントを受け取ってもらえたみたいですから、
春花ちゃんとしてはそれで十分だったのでした。

 実は、春花ちゃん、これといった特技が何もありませんから、
伯爵様へのプレゼントを何にしようか悩んでいたのです。そこで
一か八かやってみたのがオモチャのピアノだったというわけ。

 頼りは「あなたはこの教会一のメロディーメーカーよ』という
シスターカレンの軽いお世辞だけでした。


 12名のプレゼンが終わると、次はお茶の時間です。
 といっても、かしこまったものではなく子どもたちはテーブル
に用意されたケーキを配られたお皿に乗せてはパクつきます。

 ここでも、伯爵様は今日やって来た一番幼い子を膝の上に乗せ
ておいででした。

 この日一番の年少さんは4年生の女の子。まるでお人形のよう
な顔をしていますから伯爵様のお気に入りでした。
 伯爵様は、その子を膝の上に抱いてあやしながら、お隣の春花
ちゃん美里ちゃんコンビとお茶の会話を楽しみます。

 「君たち、ここは初めてだよね?どうして私の処を選んだの?
たしか、先週までは大西先生の処だったでしょう?」

 「そうなんだけど……たまには他の処もいいかなと思って……
それにお友だちから遊園地みたいにたくさん遊ぶ物があるよって
聞いたから……」
 春花ちゃんはほっぺを膨らませて素直に答えます。
 彼女のお皿には、すでに苺のショートケーキやシュークリーム、
ババロアまでもが乗せてありました。

 「そうか、お庭の遊具のことだね。あれは私が子供の頃遊んだ
おもちゃなんだ」

 「うそ!遊園地から持ってきたんじゃないの?」

 「そうじゃないよ。あれは父が買ってくれたんだ。ブランコも
シーソーもメリーゴーランドもジャングルジムも、みんなみんな
戦前の古いものなんだよ。だから、あのメリーゴーランドだって
電気じゃなくて人力でしか動かないからね、遊ぶ時は大人が一人
必ず付き添わなきゃ回らないんだ。回す時は重労働だって庭師の
松吉がこぼしてたよ」
 伯爵様は軟らかく笑います。

 「でも、今にして思えば、捨てなくてよかったと思ってるよ。
こうして君たちの役に立ってるんだから。私は、この通り身体が
不自由で、君たちと一緒に遊びたくてもできないからね。あの子
たちが私の代わりとなってよく働いてくれてるよ」
 伯爵様は、猛烈な食べっぷりの春花ちゃんを頼もしそうに眺め
ながら、膝の上に抱いた女の子のためにケーキを取り分け、その
子のオカッパ頭を優しく撫で続けます。

 「ところで、大西先生の処で、君たちはどんなことをしてたの?」

 「どんなことって……お部屋でトランプとかゲームをしたり、
裏の畑でお芋や西瓜を取って来たり、お母さんとクッキーを作っ
たり……おままごととか……お姫様ごっこだけど……先生ってね、
おままごみたいなこと好きみたいだから、お付き合いしてあげて
たのよ」
 春花ちゃんは一口サイズの苺のショートケーキを頬張るついで
に答えます。

 「『お姫様ごっこ』って?」

 「私たちと茜お姉ちゃまがお姫様や女王様になって……先生も
王様の衣装を着て、好き勝手に劇ををやるのよ」

 「好き勝手に?……要するに寸劇を即興でやるんだね……凄い、
アドリブ劇だよね。上手にまとまったのかな?」

 「分からないわ。でも、そんなことはどうでもいいの。私は、
お母様から作っていただいたお姫様の衣装を着て踊れれば、それ
でよかったんだから」
 と、春花ちゃん。

 「お母さんや明子さんがいつも拍手してくれたの」
 と、美里ちゃん。

 「……時々ね、お父さんが、昔の王様やお姫様がどんな生活を
してたか、教えてくれたわ」
 春花ちゃんは、相変わらず大きなシュークリームもぐもぐやり
ながら答えます。

 「そうか、そういえば大西先生は西洋中世がご専門だったね。
楽しかったかい?」

 「うん、とっても……その時の記念写真あるけどみたい?」
 今度は美里ちゃんがババロアを持ったまま笑いかけます。

 「見てみたいな」

 「たくさんあるよ。今度、持ってきてあげる」
 春花ちゃんは遠くのお皿に盛り付けてあったモンブランにまで
手を伸ばしますが届きませんからそれを獲得すべく席を外します。

 二人はあまりにたくさんのお菓子に驚いてしまいお行儀はよく
ありませんでしたが、伯爵様がそれに対して嫌な顔をすることは
ありませんでした。

 「大西先生は君たちに優しかったみたいだね?」

 「はい、とっても……先月は茜お姉ちゃまにお仕置きがあって
先生とは一緒じゃなかったけど、それまでは寝る時はいつも一緒
のお布団だったんです」
 まだ見た事のないケーキに夢中になっている春花ちゃんに代わ
って、美里ちゃんが伯爵様のお相手をします。

 美里ちゃんは春花ちゃんより少食なのか、お行儀がよいのか、
春花ちゃんより丁寧な言葉で伯爵様と応対しますが……
 でも、その美里ちゃんの口の周りにもすでに生クリームが沢山
ついていました。

 「そうか、大西先生、お嬢ちゃんのお仕置きまで君たちに見せ
たんだ。(はははは)これは驚いたな」

 伯爵様が感慨深げに漏らすとモンブランを手にした春花ちゃん
が帰ってきて割り込みました。
 「私たち見ただけじゃないよ。お父さんと一緒に茜お姉ちゃま
のお尻叩きまでやったんだから……」

 「そう、お尻をぶつ時の鞭の使い方も大西先生に習ったの」
 美里ちゃんが続きます。

 伯爵様はもう目が回りそうでした。
 いえ、伯爵様の家にだってルールはありました。男の子を中心
にお仕置きの鞭というのも、大人になるまでには一度や二度では
なかったのです。

 でも、それは決して他所の人に公開されることはありません。
信用のおける女中さんや家庭教師の先生を除けば赤く腫上がった
傷だらけのお尻を部外者が見る機会などありませんでした。

 まして、女の子の場合はなおさらです。
 10歳以上の子は完全密室で、悲鳴さえも外に漏れないように
地下室や離れで行われるのが普通でした。
 そんな常識を覆す大西先生の大胆なお仕置き事情に、伯爵様は
驚いたのでした。

 『でも、それをあえていとわないというのは………それだけ、
大西先生がこの子たちにご執心ということなんだろうな』
 伯爵様は大西家での出来事をそのように理解したのでした。

 そこで、一歩踏み込んで……
 『具体的な話を聞いてみようか』
 そんな気持もふっと心をよぎります。

 「それで、茜ちゃんは、どんな罰を受けたのかな?」

 伯爵様が尋ねると、春花ちゃんはこともなげに……
 「どんなって……普通のお仕置きよ。……お浣腸されてお尻を
ぶたれたの」

 「君たちはお浣腸もお手伝いしたのかな?」
 「それはなかったけど、茜お姉ちゃまがお庭でうんちする処は
見ちゃった(はははは)」
 「そうなの、お姉ちゃまったら、お父様に抱っこされてウンチ
してたの……」

 「そうかい。そりゃあ大変だったね。見てる方も辛かったろう」

 「そりゃあね。ウンチなんて見たくないけど、お仕置きだから
仕方がないよ。……いい気持はしないけど…でも、私たちだって
寄宿舎ではそのくらいされたことあるから…」

 「寄宿舎のお仕置きってそんなに厳しいのかい?」
 伯爵様が尋ねると、こんどは美里ちゃんがそれに答えました。
 「先生に素直にごめんなさいすればそんなこともないんだけど、
たまに女の子って素直になれない時があるのよ。……そんな時は
先生も意地張っちゃうから、お仕置きが自然ときつくなるの」

 「なるほどね。私は、教会の中って天使の園だとばかり思って
いたから……そんな処では女の子にお仕置きなんてしないのかと
思ってたけど……違うんだね」
 
 「違うわよ。そんなわけないじゃん。女の子だって人間だもん。
だらしない子も、怠け者も、見栄張りや…やたらと嘘をつく子が
たくさんいるんだから……おかげで、毎晩のように誰かの悲鳴が
舎監室の方から聞こえるの」

 春花ちゃんが言えば、美里ちゃんも……

 「お浣腸なんて、オムツをされてベッドに縛り付けられるの。
漏らしてしまうまでそのままよ。とっても残酷なんだから……」

 「でも、その後は先生が片付けてくれるんだろう?」

 「先生が?先生はそんなことしないわ。見てるだけよ。自分で
汚した物は自分で片付けなさいって言われるだけ……とにかく、
それを綺麗にしないとお仕置きが終わらないから、みんな泣きな
がらお洗濯するわ」

 美里ちゃんが得意になって説明していると二人より年上の子が
たまらず口を挟みます。

 「ちょっと、あんたたち、やめなさいよ。せっかくのお菓子が
まずくなるわ。だいいち、そんな事、伯爵様にお聞かせすること
じゃないでしょう。場所柄をわきまえなさいよ」

 そのあまりの剣幕に二人は思わず下を向いてします。

 彼女の言ってることは正論でした。
 『女の子は、みにくいことや人の嫌がることを口にしてはいけ
ない』
 先生にそう教わっていたからでした。

 伯爵様が施設で行われている女の子のお仕置きについて意外な
ほど無知なのも女の子たちがそうしたことをあえて話題にしない
からだったのです。


 オヤツの時間が終わると、子どもたちは自由に伯爵邸のお庭や
遊戯室、図書室なんかへ行って遊びます。

 図書室へ直行する子もいますが、小学生の大半はお屋敷のお庭
が目当てでした。

 丘陵地の坂道を利用して作った滑り台は50mもあってスリル
満点ですし、電気もモーターでもはなく庭師のおじさんが大汗を
かきながら動かしてくれるメリーゴーランドは、全てがゆっくり
でギクシャクした動きなのですが、順番待ちをする子が出るほど
の人気でした。

 女の子だけではありません。男の子に人気のゴーカートだって
あります。
 ただこれもエンジンはありませんでした。坂道を利用して四輪
の車が転がるだけなんです。ですから、終点まで来ると、あとは
スタート地点まで自分で押して坂道を登らなければなりませんで
した。

 そんなオンボロ遊具でも、子供たちにとっては立派な遊園地。
この日は夕方まで黄色い歓声の絶えることがありませんでした。

 そして伯爵様もまた子供たちのそうしてはしゃぐ姿を見るのが
大好きだったのです。
 この日も、木陰に車椅子を止めて子供たちの遊ぶ姿を見つめて
いました。

 「三山先生。ここにいると、先生のお薬はいらんよ」
 伯爵様はいつも付き添わせている主治医に笑顔を向けます。
 そこで、先生の方も……
 「伯爵は、その昔、子どもの甲高い声は苦手だとおっしゃって
ませんでしたか?」
 と切り返すと……
 「ところが、ここに子ども達を招くようになってからそうでも
なくなった。近くでないならなおさらそうだ。金きり声も遠くで
聞けば小鳥のさえずりのようにも聞こえるから不思議なもんさ」

 皮肉めいて伯爵様は語ります。でも、それって、本当は正しい
ことなのかもしれません。昔は多くの浮名を流した伯爵様も今は
好好爺。悦楽の源はすでにレディーではありませんでした。

 レディーを目の前にした子供たち。
 その柔らかい肌に触れ、穢れのない瞳を見つめ、屈託のない声
を聞くと、彼らの生気が自分の体内に取り込まれるようで楽しい
のです。

 若返りの方法に気づいた伯爵様は、できるだけ多くの子供たち
を屋敷に招きいれます。しかも、子どもたちには大人並み待遇を
用意していましたから、子どもたちの間でも人気がでないはずが
ありません。

 伯爵様のお屋敷へ行ってお泊まりしたいという子が殺到。最初
は他のお父さんたちと同様、二人から始めたご招待でしたが、気
がつけば、いつしか定員十二人となっていました。
 でも、伯爵様がそれで困るということはありませんでした。

 そんなお楽しみの伯爵様の耳元で、柏村さんが囁きます。
 彼は伯爵様に頼まれて何やら調べ物をして帰ってきたところだ
ったのです。

 「施設でのお仕置きは確かに行われておりました」
 「そうか、やはりあの子たちの話は、デタラメではなかったと
いうわけか……」
 「しかも、これがかなり過激でして……」
 「過激?」
 「ええ、実は……」
 柏村さんは付き添いの先生方や子供たちのお泊まりを受け入れ
ているお父さんたちに取材した内容を伯爵の耳元に流し込みます。
 
 「…………」
 それは少なからず伯爵を驚かしましたが、でも、少し考えれば
それももっともなことと理解したのでした。

 「いや、驚きましたよ。こんな可愛くて上品そうな子どもたち
が、施設ではそんな厳しい罰を受けているなんて……」

 柏村さんが驚いたように話すと、伯爵は悟ったようにこう言い
ます。
 「彼らの場合は孤児と言っても氏素性がはっきりしているから
教会もむしろ気を使って育ててるんだろう。そもそも、これだけ
品のいい子が何の体罰もなしにいきなり現れたらその方がよほど
驚異だよ。我々にしてもそうだ。厳しい鞭なくして華族の品格は
守れないとばかり、子どもの頃は色々あったからね。……わかる
気がするよ……わかった、ご苦労だったね。むしろ、これで納得
がいったよ」

 伯爵は、楽しげな子どもたちを見つめたまま、何も言いません
でしたが、その胸中に去来するものは新たなステージへの第一歩
だったのです。

*************(3)************

********「第1回」はここまで*******

御招ばれ <第1章> 「 第 3 回 」

    御招ばれ <第1章> 「 第 3 回 」

 *** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


 *** 目次 ******
  <第1回>(1)~(6)  /いつもの大西家へ
 <第2回>(7)~(11) /お浣腸のお仕置き
  <第3回>(12)~(17)/鞭のお仕置き


 ***< 主な登場人物 >***************

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。

 大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
    医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
    春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
 大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
    茜は彼女を慕っている。
 大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
    だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
 高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
    子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
    もする。
 明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
    大西家の生き字引。

 **************************


*********<第3回>*************


 御招ばれ <第1章>(12)

 現れた茜ちゃんはトレードマークだった三つ編みを解いていま
した。自由になった髪がストレートに肩へ流れると、今までとは
印象が少し違って見えます。ほんのちょっぴりですが、お父さん
にもその姿は大人に見えました

 茜さんはお約束の白いレースのワンピースをさらりと着こなし、
白い短ソックスに黄色いアヒルのスリッパを履いていました。
 そして、お母さんが自分のものをおまじないに振りかけたので
しょうか、ほのかに薔薇の香りが漂います。

 「何だか大人の人みたいに見えるね」
 春花が言えば……
 「ほんと、キレイ」
 美里の思いも同じでした。

 ただ、妹たち二人を見た茜さんはというと、心穏やかではあり
ませんでした。

 そんな不安げな茜さんの肩を抱くように、今度はお母さんまで
が現れます。

 「なんだ、父兄同伴かい」
 お父さんはお母さんに皮肉を言いますが……

 「仕方ありませんよ。この子は女の子。しかもまだ幼いんです
からね。あなたが恐いんですよ。誰かが着いててやらないと……
こんな処でお漏らしでもしたら大変でしょう」

 お母さんは茜さんを擁護したつもりなんでしょうか?
 茜さんは顔を赤らめます。

 いずれにしても、大西家では二親がともに子供へ厳しく接する
ということはありませんでした。
 今日はお父さんがお仕置きをするというのですからお母さんは
茜さんのサポート役だったのです。

 「あのう、あの子たち、ずっと、ここにいるんですか?」
 茜さんは、さっそく目障りな二人につけて尋ねますが……

 「いけないかい?」
 お父さんから薄情な答えが返ってきます。

 「そうだよ。……実は、今日も施設の院長先生からこの子たち
を里子にお願いできないかというお話があってね、今、考えてる
ところなんだ」

 「そうなんですか……」
 茜ちゃんは気のない返事を返します。
 茜ちゃんにしてみれば、家族の中だけならいざ知らずお仕置き
をこんな子たちに見せるなんて…という思いが心の中で渦巻いて
いたに違いありませんでした。

 「ついてはね、この子たち、これまではお客さんとしてうちに
来ていたから、うちの楽しいところしか知らないでしょう。でも、
うちにも辛いことはたくさんあるよね。それを今回見せてみて、
それでもうちに来たいというなら呼んであげようかと思うんだ」

 「えっ、それじゃあ、私のお仕置きをこの子たちに見せるの?」
 茜ちゃんは、最初、目を丸くして大声をあげましたが……
 「……私、生贄なんですか?」
 自分の声に、妹たちが肩をすくめて驚いたのを見ると、最後は
歯切れ悪くお父さんに尋ねます。

 「生贄なんて人聞き悪いなあ。たまたま同じ部屋にいるだけだ
よ。……ところで、茜は、今日何かおいたをしたのかい?」
 お父さんは皮肉たっぷりにこう尋ね返す始末でした。

 「…………」
 これには茜ちゃんも返す言葉がありません。お父さんの前で、
茜ちゃんは下唇を噛むことしかできませんでした。

 「そんなに深刻にならなくても大丈夫だよ、たとえこの二人が
うちに来ることがなくなっても、ここでのことは街に漏れたりは
しないから……」

 「どうしてですか?」

 「この子たちは『教会の子供たち』だからね。私たちとは住む
世界が違うんだ」

 お父さんは、茜さんを安心さそうとしてこう言ったのですが、
その言葉が、どれほど茜さんを励ますことになったかはわかりま
せん。
 分かっているのは、今日はこれからこの妹分二人の前で自分が
醜態を晒さなければならないという現実だけでした。

 ちなみに『教会の子供たち』という用語はその子たちが単なる
捨て子ではなく、教会関係者が神に背いて創ってしまった子ども
たちのことを指していました。

 このため、一般の孤児たちとは異なり、この子たちに対しては
親からそれなりの養育費も出ていますし、面倒をみるシスター達
の扱いも丁寧です。

 ただ、その将来は決められていて大半が聖職者。子どもたちは
隔離された世界の中で大人になり、世間で注目されるような職種
につくことは認められていませんでした。


 「じゃあ、始めようか。……こっちへ来て座りなさい」
 少し顔の表情を引き締めてお父さんが茜さんを呼び寄せます。

 茜さんに与えられたのは、妹分二人が座っているようなソファ
ではありませんでした。どこの学校にも置いてあるような座面が
硬い木でできた粗末な椅子。
 そこに今の茜さんの立場が現れていたのです。

 「先日、学校から今学期の中間テストの結果をみせてもらった
んだけど……芳(かんば)しくなかったみたいだね」

 「ちっ、やっぱり、そのことなんだ」
 茜さんは思わず小さな舌打ちをします。
 実際、お母さんからはその事でお父さんが怒っているみたいだ
との情報を得ていましたから本当は自制しなければならないので
しょうが、お父さんとの間の普段が思わず顔を出してしまいます。

 「何だか不満そうだね。『何だ、そんなつまらないことで私を
呼びつけたのか』って顔をしているよ」
 お父さんの顔は笑っていますが、舌打ちされた側の人が相手を
面白くないのは誰でも同じことです。もちろん、相手がお父さん
でも、それは同じでした。

 「今学期の始め、私は茜の為にスケジュール表を作ってあげた
けど……あの通りできなかったみたいだね」

 「そんなことは……」
 茜さんは伏し目がちに小さな声で否定しようとしましたが……

 「手元の記録では、たしかにやったってことになってるけど、
もし、本当に私の指示通りにやっていたのなら、こんな結果には
ならなかったはずだよ」

 「それは……」
 お父さんの追及に茜さんの顔が曇ります。

 「それは、やってもいない勉強をやりましたって私に報告して
いたってことじゃないのかな。……つまり、私に嘘をついていた
ということだよね」

 「えっ……」
 茜ちゃんは『嘘』という言葉にひっかかりを覚えて顔をあげま
すが、『じゃあ、どれほど真剣にやっていたんだ』と問われたら、
それには返す言葉がみつかりませんでした。

 「小学校の頃はどうだったか、覚えているかい?」

 「『どうだった』って何が……」

 「勉強だよ。茜はどうやってお勉強してたか覚えているかい?」

 「それは……」
 茜さんは、再び頭を下げると、そのままじっとしていました。
嵐の過ぎ去るのを待つことにしたのでした。

 「えっと……」
 うつむくその顔は確かに申し訳なさそうな顔にも見えますが、
内心は、『あ~あ、お小言早く終わらないかなあ』と思っていた
だけでした。

 何よりこうしていればお父さんの恐い顔を見ずにすみますし、
お小言が頭の上を通り過ぎていきますから楽だったのです。

 そんなことですから、すぐに眠くなっちゃって……
 「茜、聞いているのかい?」
 なんてお父さんに強く言われちゃいます。

 「えっ?」
 茜ちゃんは思わず顔を上げましたが、その時すでにしっかりと
寝ぼけ眼。

 「どうやら、もうオネムのようだね」
 お父さんは声こそあげませんでしたが、我慢は限界に近づいて
います。ただ、悲しいことに幼い茜ちゃんにはその事を察知する
レーダーが心にまだありません。

 「忘れちゃったかな。小学校の頃のことは……」
 「あっ……はい……あっ、いいえ」
 お父さんは相変わらずの笑顔のままですから、茜ちゃんはその
顔を見て、むしろほっと一息です。

 でも、お母さんは大人ですし、何より長らく夫婦ですからね、
お父さんの気持は茜ちゃんよりよくわかっています。

 「覚えてます。テストのお点が悪いと、そのたびにお母さんが
家庭教師をやってくれて……もし、そこでも答えを間違えると、
お尻をぶたれてました……」
 消え入りそうな声で茜ちゃんが答えます。

 「そうだね、小学校では単元ごとにテストがあるから、各教科
一学期で10回はテストがある計算だもんね。茜ちゃんも、毎日
毎日痩せる思いだった訳だ」

 「…………」

 「その点、中学校では一学期に行われる主なテストは、中間と
期末の二回だけだもんね。今はずいぶん楽になったと思ってるん
じゃないのかな。……それで、気が抜けちゃったというわけだ」

 「(えっ、何が言いたいのかしら?)」
 茜ちゃんはお父さんの言葉に身の危険を感じます。
 それって、理屈ではなく女の第六感というやつでした。

 「茜。これは今回のテストに限らないんだけど、幼い時という
のは、何かにつけてお仕置きが多いんだ。……それも、おいたを
したらすぐにぶたれる。……覚えてるだろう?」

 「…………」
 茜ちゃんは小さく頷きました。

 「それが大人に近づくと、お仕置きの回数は減るものなんだ。
勿論、分別がついておいたの回数が減ったというのもあるけど、
私たちもまた、大きくなった子に、『些細なことまでとりあげて
お仕置きをするより、もう少し様子をみよう』と思い始めるんだ。
……その間に、我が子が自分で心を入れ替えてくれることを期待
してね」

 「…………」

 「だけど、たいてい裏切られる。それに、いつまでもってわけ
にはいかないんだ。一定の期日を区切って……それまでに成果が
見えない時は……頭のいい茜だったら、お父さんの言ってること
わかるよね」

 「…………」
 茜ちゃんにはお父さんの言っている事が分かるのですが、その
結果どうなるかは認めたくありませんでした。

 「テストも同じ。一学期に二回しかテストがないからその間は
遊んでいてもいいってことにはならないんだよ。中間や期末に備
えて計画を立てて勉強しておかないと、後でこうむる罰は小学校
の時のお尻ペンペンぐらいじゃすまないんだ。わかるだろう?」

 お父さんのお説教を、相変わらず申し訳なさそうな顔で居眠り
しながら聞いてる茜ちゃんでしたが、これではまずいと思ったの
でしょう。お母さんが割って入ります。

 「そうね、ちょうどいい機会だから、今日は中学生のお仕置き
がどんなものか経験してみるのがいいかもしれないわね」

 その瞬間、茜ちゃんの目が一瞬にして醒めます。
 というのも、幼い頃からお仕置きの大半はお母さんによるもの。
お母さんがお仕置きについて話せば、ぐっと現実味が増します。
たとえ自分のことではなくても緊張感が増します。

 お母さんの声は茜さんにとっては起床ラッパと同じだったので
した。


********(12)***********


 御招ばれ <第1章>(13)

 「さあ、お父様のお膝へいらっしゃい」
 お母さんが強い調子で茜さんの腕をとります。
 慌てた茜さんは突然のことに嫌々をしますが、それはお母さん
の腕を振りほどくほどではありませんでした。それが後々どんな
結果になって自分に跳ね返ってくるかを知っていたからでした。

 「おいで……目が覚めるから」
 お父さんがご自分の膝を叩いて指示します。

 「!」
 もう、こうなったらダメです。
 茜さんはそこへ行くしかありませんでした。

 幼い頃からお尻を叩かれていた茜さんにとってお父様のお膝は
世間で言う『お尻ペンペン』なんて生易しいものではありません。
ギロチン台並みの恐怖です。
 でも、そこへ行くしかありませんでした。

 「お父様、お仕置き、お願いします」
 茜さんはお父さんに一声掛けてその膝にうつ伏せなって寝ます。

 『お仕置き、お願いします』なんて、ぶたれる子供の側が言う
セリフじゃないかもしれませんが、これも大西家のしきたりです。
大西家では、朝、『おはようございます』を言うのと同じでした。

 「恐がらなくてもいいからね。茜は女の子だから私からの経験
があまりないかもしれないけど、私もお尻叩きは上手なんだよ」
 お父さんはそう言って、まずスカートの上から叩き始めます。

 リズミカルに軽快に……
 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」

 茜ちゃん、最初は『あれ?これって、お父さんの方が楽だ』と
勘違いしたのですが、すぐにその間違いに気づきます。

 最初の数回はまだそんなに痛くありませんでした。
 でも、10回を過ぎる頃から辛くなります。         
 「パン……パン……パン……パン(あっいや)……パン(ひぃ)
……パン(あっ、だめ)……パン(あっ)……パン(痛~~い)」

 普段お母さんからやられているスパンキングは、お尻の表面が
ピリピリするような乾いた感じの痛みなのですが、お父さんのは、
一発一発がお尻の肉の奥まで届く感じの重い痛みです。
 しかもお父さんのスパンキングは、お母さんと違って短い時間
では終わりませんでした。

 徐々に、徐々に蓄積されていく痛みの中で、茜ちゃんのお尻は
しだいに悲鳴を上げ始めます。

 「パン(あっ、いやあ~~~)……パン(だめえ~~~)……
パン(お願い、お母さんやめさせて~)……パン(あっいやいや)
……パン(ひぃ~~~)……パン(ああん、お母さん許して~)」

 茜ちゃんは、お父さんにお尻をぶたれていたのですが、許しを
求めたのは自分の両手を握るお母さんでした。

 ところが、そのお母さんは……
 「何やってるの。これくらいのことで、両足をバタつかせたり
して、幼い子じゃないの、みっともないことはやめなさい」
 と、逆に茜ちゃんを叱るのでした。

 いえ、それだけではありません。
 今度はお父さんが茜ちゃんのスカートを捲りあげようとします
から……

 「いやあん、しないで!!パンツ見えちゃう!!いや!!ダメ
エッチ、レディーに失礼よ」
 茜ちゃんは慌てて抵抗を試みますが、できたのは口だけでした。

 本当は右手でお尻をかばいにいきたいのですが、お父さんの膝
の上で万歳した格好の茜さんはその両手ともお母さんにしっかり
握られていてピクリとも動かせません。

 「あ~~ん、イヤだって……」
 その間にもお父さんのお尻叩きは再会します。
 今度はショーツの上から。当然スカートの上からより痛いこと
になります。

 「パン(あっ、いやあ痛い痛い~~~)……パン(だめえ~~~)
……パン(お願い、お母さんやめさせて~ホントに痛いんだって)
……パン(あっいやいやいやいや)……パン(ひぃ!ごめんなさい)
……パン(ああん、お母さん許して~誰でもいいから許してよ)」
 茜ちゃん、まだまだ口だけは達者でした。

 いえ、こうして必死に叫んでいないとお父さんの平手の痛みに
耐えられないから……というのが本当の理由かもしれません。

 ところが、真っ赤な顔をして奮闘する茜ちゃんの苦労をよそに
お父さんは涼しい顔。おまけに、茜ちゃんの最後の砦にまで手を
かけるのでした。

 「……!!!……」
 白い綿のショーツが剥ぎ取られてしまいますが、なぜかその時、
茜ちゃんに大声はありませんでした。

 妹分の二人がさっきから笑いを堪えながら見ているのは知って
いますから、もうこれ以上恥の上塗りをしたくないと思ったので
しょうか。

 もちろん、そんなことにはおかまいなく、二人は固唾を飲んで
茜ちゃんの裸のお尻を見ています。
 男の子でないのがまだしもなのかもしれませんが、女の子にと
ってはこれ以上ない屈辱でした。

 それに、当然のことですが、何の防御もない生のお尻はさらに
堪えます。

 「パン(いやあ~~もうぶたないで~~~ぶたないで~~~)
……パン(痛い、痛い、痛い~~痛いんだって~~お願~~い)
……パン(ひい~~~だめえ~~~壊れるから~~お願いよ~)
……パン(お母さんやめさせて~ホントに痛いんだってえ~~)
……パン(ああ~ん、お母さん許して~何でもする、何でもする
から~~~)」

 痰を絡ませながら必死に哀願する茜ちゃん。
 でも、お父さんからは、なかなかお許しが得られませんでした。

 「パン(いやあ~だめえ~)……パン(痛い、痛い、痛い~)
……パン(ひい~~)……パン(だめえ~壊れるから~~)……
……パン(お願い、やめてよ~)……パン(お母さんやめさせて)
……パン(ホントに痛いんだってえ~~)……パン(ああ~ん)
……パン(いやいやいや)……パン(お母さん許して、お願い、
お願い~何でもする、何でもするから~~~)」

 70回を超え、茜ちゃんはひところより口数が少なくなってい
ました。
 泣き疲れ、声も枯れて、もう大声も出なくなっていたのです。
 そして、その頃になってやっと許されます。

 茜ちゃんは床に転がると必死でお尻をさすりましたが、痛みは
すぐには引かず、5分くらいは床に泣き崩れたままただただ自分
のお尻をマッサージしていました。

 やがて、少し落ち着いた頃、お父さんと目と目があって初めて
自分の姿に気がついたみたいで……慌ててお父さんの足元に膝ま
づくと、両手を胸の前で組んでご挨拶します。

 「お仕置き、ありがとうございました」

 これも『お父様、お仕置きお願いします』という最初のご挨拶
同様、大西家のしきたり(躾と呼ぶべきかもしれません)でした。


 もっとも、これはほんの序の口。
 これはあくまで眠そうにしている茜ちゃんの目を覚まさすため
で、本当のお仕置きはこれから……ということのようでした。

 「目が醒めたかい?」
 少し仏頂面のお父さんの顔がいきなり茜ちゃんに迫ってきます。

 大人のそんな顔、恐いですからね。
 「はい」
 嗚咽の収まらない茜ちゃんでしたが小さな声が聞こえます。

 すると、お父さんはとたんに笑顔になって茜ちゃんを膝の上へ
抱き上げます。

 「お~~しばらく抱かないうちに重くなったなあ」
 お父さんの言葉はまるで幼児か赤ちゃんを抱いた時のようです。

 でも、お尻がお父さんの膝に乗っかると茜ちゃんは顔をしかめ
ます。そこはまだ完全に癒えていませんから、お愛想でも笑顔は
難しかったのでしょう。

 「どうした?まだ痛いか?……だったら、静かにして私の話を
聞きなさい。いいね」
 『動くとお尻が痛いよ』というわけです。

 お父さんは、茜ちゃんの頬にご自分の息がかかるほど強く抱き
しめます。
 普段ならタバコの臭いお父さんの顔に嫌々をするところですが、
今は、お父さんのお膝をお尻が摺れただけで飛び上がるほど痛い
ですから、おとなしくタバコの臭いを嗅ぐことになるのでした。

 「いいかい、茜。人はいろんな家に生まれる。農家もあれば、
八百屋さん、鍛冶屋さん、サラリーマン、人それぞれだ。でも、
どんな家に生まれようと、その家を盛り立てなければならない。
お父さんお母さんをお手伝いしなきゃいけない。それが子どもの
義務なんだよ。農家の一樹君も、八百屋さんの真理子ちゃんも、
鍛冶屋の高志君だって、みんなお家のお手伝いをしてるだろう。
それは、茜、君だって同じなんだよ」

 「……私もお手伝いするの?」
 茜ちゃんはぽつんと独り言のように言います。それはそれまで
一度も考えた事がなかったからでした。

 「茜ちゃん、お父さんの仕事は何だい?」

 「大学の先生」

 「そう、お家で商売してるわけじゃないよね。でも、お父さん
は茜ちゃんに手伝って欲しいんだ」

 「どんなことお手伝いするの?……お父さんの助手さんとか?」
 茜ちゃんは首を傾げます。

 「いや、それはまだ無理だろうけど、大学教授の娘らしくして
いて欲しいんだよ。茜ちゃんは世の中の事はまだ分からないかも
しれないけど、大学の先生、お医者さん、弁護士さんなんて仕事
は世間での信用が大事なんだ。『普段偉そうなこと言ってても、
あいつの娘、学校じゃ劣等生らしぞ。娘一人満足に育てられない
奴にこんな仕事頼んで大丈夫かなあ』なんて、思われちゃうと、
お父さんもお仕事がやりにくいからね」

 「つまり私はお父さんの娘にはふさわしくないってことなの?」

 「そんなことはないよ。私はお前を施設から引き取ってから、
ずっと愛してきたし、これからだって、お前がどんな成績でも、
嫌いになることなんて事ないはずだよ。だって、お父さんはお前
を見初(みそ)めてここへ連れて来たんだから……」

 「……うん」

 「でも、お前はどうなんだい。私とは血の繋がりもないし……
こんなお尻をぶつようなお父さんは嫌いかい?」

 「…………」
 茜ちゃんは首を横に振りました。

 理由は簡単です。
 今日はたまたまお尻をぶたれていますが、普段の茜ちゃんは、
お父さんに甘えてばかりいます。お父さんとは楽しい時間がほと
んどなのです。ですから、短い時間のお仕置きのために、楽しい
時間を犠牲にするという選択はありえませんでした。

 茜ちゃんは考えます。
 『要するに、お父さんを愛しているなら成績を上げなさいって
ことよね。でも、私、頭悪いし、頑張っても成績あがるかなあ』

 そんなことを思っていると……
 「よかった、茜も私を愛しているんだね。よし、だったら明日
からは私がお勉強の面倒みてあげるから、また一緒に頑張ろうね」
 お父さんがこんなこと言うのです。

 「えっ、(お父さんと一緒に!!)」
 茜ちゃんは驚きます。

 いえ、小学校時代の茜ちゃんはお父さんのお膝の上で勉強して
いました。お父さんにしてみれば相当に重いお荷物だったと思い
ますが、何しろ甘えん坊の茜ちゃん相手では、これが最も効率的
だったからお父さんも仕方なく続けていたのでした。

 そんな昔の姿が頭をよぎったので驚いたのでした。
 今さらお父さんにだっこされて勉強するなんて、嬉しいけど、
恥ずかし過ぎます。

 すると、そんな茜ちゃんの心の中を察するように……
 「もう、抱っこはしないよ。こんな重い荷物、いつまでも膝の
上に乗せて置けないからね……でも、それ以外は今までとおりだ。
集中心を欠いたような態度なら、すぐに竹の物差しで目覚ましだ。
あんまりだらしがないなら、お灸だってまたすえるよ。それに、
日曜日の朝は必ずお浣腸。便秘なんかしてるとそれが気になって
頭の回転も鈍くなるからね」

 『また、始まるのか。お父さんと一緒のお勉強。何だか体よく
言いくるめられちゃった感じだなあ』
 茜ちゃんは心の中でため息をつくのでした。


********(13)*************


 御招ばれ <第1章>(14)

 「茜さん。お父様が教えてくださるって、よかったわね」

 お母さんは『めでたしめでたし』みたいなことを言いますが、
茜さんにしたら、これからしばらくはお父さんに管理された憂鬱
な日が続くわけで、素直に喜べるわけがありませんでした。

 そんな気持、もっと大人になればうまくセーブできるんでしょ
うが、13歳になったばかり茜さんには自分の気持を素直に表現
することしかできませんでした。

 「何がよかったのよ!!ちっともよくないわよ!!」
 口をへの字にすると、眉間に皺を寄せ、お母さんを睨み返して
しまいます。

 「あかね!」
 お父さんは即座に厳しい顔をして茜ちゃんを睨みますが……

 「あ~あ」
 出るのはため息ばかり。お母さんへの謝罪の言葉はいっこうに
ありません。

 でもそれは、親しい関係なんだから、親子なんだから、すねて
も許されるはずでした。少なくともこれまではそうだったのです。

 「しょがない子だなあ、あまえはもう小学生じゃないんだよ」
 お父さんにこう言われても……

 「は~~い」
 気のない返事をするのが精一杯だったのです。

 「茜、やる気がないのならやめてもいいんだよ」

 お父さんの突然の言葉に、茜さんは心臓に杭を刺された思いが
します。

 「えっ!?」
 目を丸くした茜さん。そのまま声が出ませんでした。

 いえ、お父さんの家庭教師なんてやめてもらいたいというのは
本音なんですが、それが許されない立場にあることも、茜さんは
十分感じていたのでした。

 『そんなのやりたくありません。やめたいです』
 素直にそんなこと言ったらどうなるでしょうか。
 お父さんからぶたれるでしょうか。
 いえ、ぶたれるよりもっと辛いことが起きやしないか……
 茜さんはそっちを心配していたのでした。

 『妹たちもやがてこの家に来るというし、このまま無視され、
スポイルされ、自分だけがこの両親から相手にされなくなったら
どうしよう』
 茜さんの心配は、もちろん実の親子だって起こり得ることです。
でも、血の繋がりのない茜さんにとってはより深刻な問題だった
のでした。

 「茜。お前は頭もいいし私でなくても里親はすぐに見つかるよ」
 案の定、お父さんは茜さんの気持を見透かして、わざとこんな
事を言います。

 もちろん、お父さんは茜さんを愛しています。誰かが茜さんを
欲しいと言ってきても、絶対にどこへもやったりはしません。
 でも、時たまこうして脅してやれば、茜はより強く私を求めて
くるはず……大人は、そう読むのでした。

 実際、これまではこういった脅かしが不首尾になることは一度
もありませんでした。

 この時も、茜ちゃんはお父さんに擦り寄ります。
 そして、お父さんが手を出せば、茜ちゃんの身体に触れられる
距離にまで近づいてから…

 「お父さん、私のこと、嫌い?」
 と言います。

 「どうして?…大好きだよ。今も昔も、子どもの中で茜が一番
大好きだって言ってるだろう」
 お父さんはそう言って、茜ちゃんを身体ごと抱き上げて膝の上
で頬ずりします。

 お尻の痛みが遠のいた今は、気持ちよさだけが茜ちゃんを包み
ます。それは親子の儀式のようなものでした。

 「何で泣いてる?私がお前をどっかにやるとでも思ったのか?」

 幼い時からの習慣。茜ちゃんは、いまだにこの頬ずりから逃れ
られないでした。

 ところがこうなると、お父さんのペース。
 次はとんでもないわがままだって茜ちゃんは飲まなければなら
なくなるのでした。


 「それでね。茜。お父さんとしては今日の事をお前が忘れない
ために鞭を使おうと思うんだ」

 「………………………………お尻、ぶつの?」
 茜ちゃんはそれだけ小さく言って生唾を一つごくんと飲みます。

 「ああ、お父さんはその方がいいと思うんだ。言葉ってのは、
時間が経つと忘れちゃうからね。茜には、もっと忘れない方法で
心に刻んでおいてもらいたいんだ」

 「パンツも脱ぐの?」

 「ああ、パンツも脱いだお尻に竹の物差しでね。……嫌かい?」
 お父さんの声は穏やかでした。

 「……………………………………」
 『嫌かい?』って……そりゃ嫌に決まってます。茜さんは声が
ありませんでした。……でも、『嫌』と言ってみても結果が同じ
なのも分かっていました。

 いえ、茜ちゃんだってこの家の子、2歳からこの家でお父さん
と一緒に暮らしています。裸でベッドを共にした事だって何度も
あります。気心の知れた親子です。

 ですから、お父さんがこんなことを言い出すことぐらい、その
流れの中から読めます。べつに、青天の霹靂というわけじゃあり
ませんが、それでもあらためてお父さんにお仕置きを宣言される
と、子供としてはどう返事をしてよいのかわかりませんでした。

 そもそも幼い頃のお仕置きはこんなことを打診しません。茜が
悪いことをすれば、お父さんもお母さんも、いきなりスカートを
捲りあげて茜のお尻をぶち始めます。
 それが、前回、小学5年生の時のお仕置きでお父さんが初めて
こんな事を尋ねたような気がします。

 『あの時、私、どうしたっけ?』
 茜ちゃんは考えますが、昔の事で思い出せませんでした。
 困っていると、その答えをお母さんが耳元で教えてくれました。

 「茜、そんな時は『はい、お受けします』と言うの。お父様は
あなたの覚悟をきいてらっしゃるんだから、しっかりご挨拶しな
ければいけないの。いいこと、あなたも中学生、もう幼い子じゃ
ないんだから、自分の罪を償う勇気を持っていなきゃいけないわ」

 「はい、お母さん」

 お父様にも当然聞こえているお母さんの助言を受けて茜ちゃん
は、あらためてお父さんにご挨拶。

 「はい、お受けします」

 茜ちゃん、お父さんに抱っこされたままでご挨拶でした。
 でも、お父さんは怒りません。とっても満足そうな笑顔を浮か
べて茜ちゃんの頭を撫でるのでした。


 大西家での子供たちへの鞭打ちは、ごく幼い時は、お父さんや
お母さんが膝に抱きかかえてヘアブラシやパドルを使って行われ
ますが、その子が大きくなると、それ専用の拘束台を使って行わ
れます。

 それは普段お父さんの書斎においてあり、まわりの家具に調和
して一見ライティングデスクにしか見えませんが、部屋の隅から
引き出されてソファの代わりにそこへ置かれると、受刑者はその
姿に恐れおおののくことになります。
 一度でもその台に乗ったことのある者はそれがどれ程の物かを
知っているからでした。

 茜ちゃんのずっと上のお兄様たちでさえ、その時の強烈な痛み、
恥ずかしさをいまだに忘れられずいました。ましてや茜ちゃんは
女の子ですから、小学5年生の時にこの台に張り付けられた記憶
はまだ心の中に鮮烈に残っていました。

 大人たちが拘束台の準備をするさなか、茜ちゃんは呆然として
その様子を見ていたのですが、過去の辛い思い出に縛られたので
しょう。拘束台を見つめたままパンツを穿くことさえ忘れていま
した。

 「何してるの茜。パンツくらい穿きなさい。みっともないわよ」

 気がついたお母さんがやって来て呆(ほう)けた顔の茜ちゃん
にパンツを穿かせようとしますが、その時、あることに気づいて
手じかにあったタオルで茜ちゃんの太股を手早く拭きあげます。

 『まったく、この子ったら……』
 お母さんは心の中で思います。

 茜ちゃんはお漏らしをしていたのです。すでにお浣腸も済んで
いましたが、最後にお腹を洗った時の残りがいくらかまだ膀胱に
残っていたのでしょう。
 二筋三筋太股を雫が伝っていたのです。
 茜ちゃんはそれも気づかぬほどぼんやりしていたのでした。

 お母さんは、そんな茜ちゃんに何も言いませんでした。
 お母さんは、茜ちゃんにパンツを穿かせると、皺になっていた
白いワンピースの裾を整え、髪を手ぐしでセット、ハンカチで涙
を拭き、鼻をかんで、茜さんを元のお嬢さんの姿へと戻していき
ます。

 「よし、できた。どこ見ても立派なお嬢様よ」
 お母さんは完成した茜さんを前にして満足そうです。
 そして、こう言って励ます……いえ、叱るのでした。

 「茜、お父様の鞭はあなたの為に振り下ろされるの。だから、
あなたはお尻だけじゃなくそれをあなたの身体全体でしっかりと
受け止めなければならないわ。悲鳴なんか上げて、そこから逃げ
ようとしちゃいけないの。ただただお父様の鞭の痛み耐えるの。
分かるかしら」

 「…………」
 お母さんの力説にも関わらずこの時の茜ちゃんはまだお人形で
した。

 「あなたはまだ幼くて詳しい理屈は分からないでしょうけど、
この鞭は刑罰の鞭ではないの。お父様の鞭が強ければ強いほど、
痛みが強ければ強いほど、お父様があなたを愛してらっしゃると
という事なのよ。……わかった?」

 「…………」
 茜さんは小さく頷きます。

 すると……
 「わかったんなら、さあ、行ってらっしゃい」
 お母さんは茜ちゃんを送り出します。
 もちろん、そこに待っているのはお父さんでした。


*********(14)***********


 御招ばれ <第1章>(15)

 茜さんがお父様の前へやってくると……お父様の顔は今までの
ようににこやかではありませんでした。
 真剣な顔、少し怒ったような顔にも見えます。
 その顔を見ながら茜さんは膝まづき、両手を胸の前に組んで
……

 「お父様、お仕置き、お願いします」

 茜さんのはっきりした声が部屋のどこにいても聞こえました。
 いつもなら、茜ちゃんがこの言葉を口にすればそれに呼応して
お父さんの顔もにこやかな顔へと変わるのですが、この時ばかり
は恐い顔のまま。

 いえ、チンピラが凄んでるのとは違いますから、こういうのは
恐いというより威厳があると言うべきかもしれません。

 茜さんのご挨拶が終わると、お父さんはその威厳のある顔で…
 「恐かったかい?よく、勇気を出して来たね。でも今の君には
それが大事なんだよ。逃げないってことがね。あとは、歯を喰い
しばって必死に頑張るだけだ。……大丈夫。逃げなかった茜には、
これから先、きっと、いいことがあるから」

 お父さんは茜さんを励まします。そのうえで……
 「……よし、じゃあ、ここにうつ伏せだ」
 お父さんは拘束台のテーブルを指差すのでした。

 茜さんが上半身をテーブルに横たえると、そのテーブルが傾斜
して頭の方が下がり、お尻が一番高い位置に来て、茜さんとして
はとても窮屈な姿勢をとらされることになります。

 でもそれだけじゃありません。両手首も両足も革ベルトで拘束
されてしまいすから、これから先は泣いてもわめいても逃げ出す
ことは不可能でした。

 「わかってるだろうけど、これから先は何があっても声は出さ
ないようにしなさい。お前も、もう小さな子供じゃないんだから
恥ずかしいまねはしないように」

 お父さんはこう注意してから白いワンピースの裾を捲ります。
 せっかく穿きなおせたショーツも再び脱がされてしまいますが、
もうこれは運命と諦めるしかありませんでした。

 「………………」
 こんな格好、そりゃあ恥ずかしいに決まってます。ですけど、
その気持は、自分の心の中に納めておくしかありませんでした。

 そんな茜さんのもとへ今度はお母さんがやってきます。
 お母さんもまたにこやかではありませんでした。

 厳しい顔のまま一言……
 「口を開けなさい」

 何をするのか、されるのか、茜さんは分かっていました。
 「うっぐ」
 開いた口の中にタオルハンカチが入ります。

 お母さんがまずやったこと。それは茜さんにまず猿轡を噛ます
ことでした。

 一方、お父さんは、すでに長さ二尺の物差しを手にしています。
この長さがお尻をぶつにはちょうどいい長さでした。

 「!!!!」
 茜さんが突然緊張します。
 お父さんが試しに竹の物差しそれを振り下ろしたのです。

 茜さんの口はお母さんによって猿轡がされていましたが、耳は
耳栓なんてしてませんから、その空なりの音をどうしても拾って
しまうのです。

 『ブン』『ブン』という音が、茜さんの身体を硬直させます。

 『何でよう!何でお母さん、耳も塞いでくれなかったのよ!』
 茜ちゃんは勝手なことを思いながらも、その音を聞いただけで
もう生きた心地がしませんでした。

 「茜、しっかり歯を喰いしばって我慢するんだぞ」
 お父さんは茜ちゃんの頭を左手で鷲づかみにすると、お仕置き
の前、最後の注意を与えます。

 「…………」
 茜ちゃんは自分では『はい』と言ったつもりでしたが、言葉に
はなりませんでした。
 過去にそれがどれほど痛いかを経験している茜さんには、とに
かく恐くて恐くて、それどころではありませんでした。

 「ピタ、ピタ、ピタ」
 小さく三つ、お父さんの竹の物差しが茜ちゃんの可愛いお尻を
とらえます。でもこれは鞭打ちではありません。
 『さあ、これから、ぶちますよ』という警告でした。

 そして、約束どおりいよいよ本体がやってきます。

 「ぴしっ~~」
 乾いた音が部屋中に鳴り響きます。

 『ぎゃあ~~~』
 猿轡をしていなければ茜ちゃんはきっとこんな悲鳴だったこと
でしょう。
 それほどの衝撃でせした。

 お尻に当たった衝撃は電気となって背骨を走り脳天を突き抜け
て一瞬でどっかへ行ってしまいました。

 茜ちゃんは必死に拘束台の天板を握っていましたが、すぐには
震えが止まりません。両手が震え、両足だって茜ちゃんの意思と
は無関係に跳ね回ります。

 おかげで、ソファにいる春花と美里には、お姉様の大事な処が
丸見え。お互い女の子同士ですからそんなものが見えたとしても
別に驚いたりはしませんが、二人とも茜さんの慌てふためく様子
がよほどおかしかったのかソファの上で笑い転げていました。

 茜さんはたった1回ぶたれただけなのに、この騒ぎ。
 でも、お母さんはその最初の1回が一番辛いことを知っていま
した。普段は厳しいお母さんが茜さんを励まします。

 「茜、心をしっかり持つの」
 「いや、痛いもん、だめ」
 茜さんはお母さんが顔を近づけてくると、さっそくすがるよう
にして愚痴を言います。

 「弱音を吐いちゃだめ。お仕置きは始まったばかりよ」
 お母さんはやさしい眼差しで額に手を置きます。
 すると、そこへお父さんもやって来ました。

 「どうした?痛かったかい?」
 お父さんがそう言ったとたん、茜ちゃんは張り付けられている
拘束台の板の上に顔を押し付けます。

 『お父さんなんて顔も見たくない』ということでしょうか?
 というより、恥ずかしいという気持の方が大きかったみたいで
した。

 「痛いのは当たり前だよ、お仕置きなんだからね……」
 お父さんがこう言うと、茜ちゃんはぶっきらぼうに……
 「恥ずかしい」
 と背けた顔で答えます。

 「恥ずかしいか……それも仕方がないな。お仕置きは、痛くて
当たり前、恥ずかしくて当たり前。どのみち子どもにとって嫌な
ことをするわけだから。痛いのも恥ずかしいのも我慢しなくちゃ」
 お父さんはそう言って茜さんの顔を覗き込もうとしましたが、
茜ちゃんは顔をあげません。どうやらすねてるみたいでした。

 いえ、甘えてると言った方が正しいかもしれません。

 すると、ここでお父さんが意外な事を言います。
 「大丈夫だよ茜、そのうち慣れるから……」

 えっ!?本当でしょうか?
 だって、さっきまでハンドスパンキングで相当やられてるのに、
その上この鞭。これからもっともっと痛くなると思うのですが…

 実際……
 「茜、歯を喰いしばりなさい」
 お父さんにこう言われて受けた次の鞭は……

 「ピシッ!!」
 「ひぃ~~」
 お尻に鞭が当たった瞬間、茜さんの身体が弓なりになりました。

 ですから相当痛かったはずですが、茜さんは悲鳴を上げません
でした。

 相変わらずお母さんだけは娘の頭を撫で続けていますが、そん
なことが何の役にもたたないほど痛かったに違いないのです。

 ところが……
 「さあ、三つ目だよ。しっかりテーブルを握ってなさい!」
 お父さんの声に茜さんは従います。

 「ピシッ!!」
 「ひぃ~~」
 茜さんは自分の身体がバラバラになるんじゃないかと思った程
でした。

 でも、最初のようなうめき声は上げません。
 いえ、それどころじゃないって感じで、とにかく鞭が近づくと
必死に机にしがみ付く。それだけでした。

 「茜、どうだい?だんだん慣れてきたかな?」
 お父さんの不気味な言葉が頭から振ってきます。
 『何言ってるんだろう』
 茜さんは思います。とにかく今は、このラックにしがみ付いて
いるしかありませんでした。

 そして、四つ目。

 「ピシッ!!」
 「…………」
 もうどんなに小さな声も出ませんでした。本当は、お母さんへ
愚痴も言いたいし、お父さんへ恨みがましい悲鳴も聞かせたいん
です。でも、今の茜さんにとってはその何もかもが無理でした。
 そう、机にしがみ付いていること以外は……

 「どうやら、少しは鞭の味が染みてきたみたいだな。……さあ、
いくよ。もう一つだ」

 「ピシッ!!」
 「…………」
 茜さんのお尻にはすでに真っ赤な筋が何本も刻まれています。

 「反省できたのかな?できないようだと、まだまだ続くよ」
 お父さんはそう言ってから、しばらく茜さんのお尻の赤い筋を
見ていました。もともと相手が13歳の少女ということですから
お父さんだって思いっきりぶってたわけではいません。それなり
に手加減してやっていたのですが……

 「…………」
 女の子の肌というのはお父さんの予想以上にデリケートにでき
ているみたいでした。

 「ピシッ!!」
 「…………」

 やや弱い当たりになった6発目を終えると、お父さんは、何も
言わず春花と美里が陣取るソファへとむかいます。
 小休止でしょうか?

 お父さんは二人の座るソファにご自分も腰を下ろすと、笑みを
浮かべてこう言います。
 「驚いただろう?恐かったかい?」

 二人は顔を見合わせ、お互いどうしようか考えていましたが、
そのうちどちらからともなく頷きます。

 「正直だね。でも、とてもいいことだよ。人間正直でなくちゃ。
……実際、恐いことをしてるんだから、当たり前なんだ」
 不安そうにしている二人に向かって大西先生は微笑みました。

 その笑顔に少しほっとしたのでしょうか、春花が、上目遣いに
尋ねます。
 「お姉ちゃまは、いつもああしてぶたれてるの?」

 「いつもじゃないさ。男の子だと一学期に一二度必ずあるけど、
女の子の場合は年に一度くらいかな。でも、ないってことはない
ってことさ。今日はたまたまだよ」

 「私たちも、ここで暮らすとお姉ちゃんみたいにぶたれるの?」
 今度は美里が尋ねます。

 「大丈夫。私が見ている限り二人はとってもいい子だからね、
そんな心配はいらないと思うよ。それに、少しぐらいミスしても、
悪戯してもだからってすぐに鞭を使うわけじゃないんだ。ここで
張り付けられるのは、親の言いつけを何度言っても聞かなかった
飛び切りの悪い子だけさ」

 「うん」
 美里は小さく頷きます。

 「……ただ、うちの子になったら、こんな事が絶対にないとは
言えないからね、二人にはあらかじめそんな怖いところも見せて
おこうと思ったんだ」

 「ふうん、お仕置きって孤児院だけじゃないんだ。私たち孤児
だから先生たちにお仕置きされるのかって思ってた」
 「そうなの、だから普通の家で暮らせばお仕置きなんかされず
にすむんじゃないかと思って……違うんだね」

 「孤児院にいるからお仕置き?そんな馬鹿な……今はオリバー
ツイストの時代じゃないんだよ」
 お父さんは明るく笑いました。そして……
 「ただね、どんな家に生まれてもお仕置きのない家というのは
まずないんだ。修道院のお仕置きなんて軽い方さ」

 「そうなの?」
 「どうしてわかるの?私たちのお仕置き、見たことあるの?」

 「君たちがお仕置きされてるところなんて僕は見たことないよ。
だけど、君たち、とっても明るいじゃないか。厳しいお仕置きの
ある厳格な家で育つとね、子どもの性格まで暗くなっちゃうけど、
君たちにはそれがないから、すぐにわかるんだ」

 「普通のお家は私たちの孤児院より厳しいの?」
 美里が心配そうに尋ねると……

 「そういう処が多いかもしれないね。輝かしい歴史のある家で
あればあるほど、守らなければならない約束事が多くなるんだ。
当然、叱られることも多くなるってわけだ。……ただ、お仕置き
って、とっても恥ずかしいことが多いから、普通は家族以外の人
には絶対に見せないんだ。君たちが知らないのも無理ないよ」

 「じゃあ、おじさまの処はどうして私たちに見せたの?」

 「僕はあいにく嘘やごまかしが嫌いなんだよ。せっかく君達が
ここで一緒に暮らしたいと言ってくれているのに、後から『こん
なはずじゃなかった』なんて言われたくないんだ。まずはありの
ままの姿を見せて、それでもここで暮らしたいなら、どうぞいら
っしゃいってことなんだ」

 「…………」
 「…………」
 二人は思わず顔を見合わせ、お互い『ふっ』とため息です。

 子供にとって、とりわけ女の子にとって父親に叱られるという
のは、たとえぶたれなくてもとてもショックな出来事です。
 ましてや、こんな台に張り付けられてお尻丸出し。竹の物差し
でピシャリピシャリだなんて……二人にとっても、とても耐えら
れそうにありませんでした。

 「どうした?そんな深刻な顔して?……ひょっとして、あてが
外れたかな。おじさんはもっと優しい人だと思ってたんだろう」
 お父さんはソファに座ったままで二人をまとめて抱きしめます。

 いきなり窮屈な姿勢にさせられた二人でしたが、二人ともそれ
自体は嫌ではありませんでした。
 荒々しく大きな胸板は安心感の証でもあります。ここが私たち
のバックグラウンドだったら楽しいだろうに……そう思う気持は
二人の心の中に残っていました。

 ただ、お仕置きは絶対に受けたくありません。特に、目の前で
見たお姉ちゃまのお仕置きは……
 もちろん、そんなことは百も承知している大西先生は、二人に
こんなことを言います。

 「べつに無理してうちに来なくてもいいんだよ。世の中、立派
な里親さんは、他にたくさんいらっしゃるからね。院長先生に、
『気が変わりました』って言えばいいんだよ。

 「他の家でも、ここと同じお仕置きってあるんですか?」
 春花が心細そうに尋ねると……

 「どんなお仕置きをするかはその家しだいだけど、お仕置きの
ない家というのは期待しない方がいいと思うよ」

 「なあ~んだ、そうなのか。私たち孤児だもん、最悪だね」
 美里がかっかりと言った顔をします。

 すると、お父さんはいきなり美里の両脇に手を入れ、目よりも
高く差し上げます。そして、その身体を揺らしながらこう言うの
でした。

 「どうしてそうなるの?美里ちゃん?……そもそも里子を受け
入れようとする家で、子どもが嫌いな家なんてあるわけないじゃ
ないか。いいかい、お仕置きっていうのはね、子どもを愛してる
からやるんだ。嫌いだったらやらないことなんだよ」

 「ホント?だったら、おじさんも子供が好きなの?」
 「おじさんじゃない。お父さんだろう?」
 「あ、そうでした。お父さんも、茜お姉様が好きなの?」

 美里の声に、お父さんはさらにその身体を高く差し上げて……
 「もちろんさあ。もちろん、君たちも大好きだよ」

 すると、それを見ていた春花まで……
 「私も……」
 お父さんに抱っこをおねだり。

 「よし、いいよ……ほら、高い、高い」
 お父さんは美里を下ろし、春花も自分の頭の上へ差し上げます。

 もう、そんな事をしてもらうにはお姉さん過ぎる二人でしたが、
その瞬間は『キャッキャ、キャッキャ』その場は明るい笑い声に
包まれたのでした。


*******(15)*************


 御招ばれ <第1章>(16)

 一方、茜ちゃんの方はというと……
 お父さんが春花と美里のソファへ行ったあと、すぐにお母さん
からその戒めを解いてもらいます。

 お母さんの行動はお父さんとのお約束ではありませんでしたが、
そこは夫婦間の阿吽の呼吸というやつでしょうか。お父さんも、
それについては何も言いませんでした。

 ただ、これで茜さんが許されたのかというと、そういうことで
はありません。

 茜さんはお母さんに部屋の隅まで連れて行かれると、壁の方を
向いて膝まづかされます。
 さらに……

 「あら、どうするのか忘れたの?」

 お母さんに促され、真っ白なワンピースの裾を捲り上げます。
茜さんは真っ赤に熟れた赤いリンゴを二つ、この場にいるみんな
に披露しなければなりませんでした。

 もちろんスカートを持つ手はこの先もずっと上げたままです。
下げることは許されませんからこれだってけっこう辛い罰でした。

 これ、西洋の家庭ではよくみられるコーナータイムというやつ
です。受刑者にとっては小休止の時間でもありますが、茜さんは
その間も恥ずかしい姿勢のままで過ごさなければなりませんから
痛みはなくとも辛い時間に変わりはありませんでした。


 そんな茜さん、最初はただ静かにしていました。泣くわけでも
なく、涙を流すわけでもなく、感情を押し殺したように無表情で
いたのです。
 きっとお尻が痛くて他のことは考えられなかったのかもしれま
せんが……。

 ただ、それからしばらくして、お父様の声と共に春花や美里の
甲高い笑い声が耳に入ってくるうち涙が止まらなくなってしまい
ます。

 もちろん、丸出しのお尻は今でも痛むでしょうけど、涙の原因
はどうやらそれではないようでした。
 お父さんと楽しげに話す妹分二人の明るい声が彼女を泣かせる
のです。

 『昨日まであそこは私の居場所だったのに……お父さん、私を
嫌いになったのかなあ』
 余計な心配が頭の中を駆け巡るうちに、女の子はやがて悲しく
なるのでした。

 そんな思いを察してか、お母さんは茜さんのそばを常に離れず
にいました。いつも微笑んで、何か話しかけるわけでも、どこか
さすってくれるわけでもありませんが、お母さんには、茜さんの
気持ちがわかっているみたいでした。

 二人は声を出しません、時折、口ぱくだけで会話します。
 もちろん、口ぱくですから100%の正確性はありませんが、
そこは親子ですから、それだけで話は通じてるみたいでした。

 やがて、その甲斐あってか、茜さんにもいつしか笑顔が戻って
いました。

 茜さんに限りません。女の子はみんな寂しがり屋さんですから
そんな親しい人が一人そばにいるだけで心が随分と楽になるので
した。


 と、そんな茜さんのもとへ、お父さんがやってきます。
 「お父様がいらしたわよ」
 壁に向かっている茜さんにお母さんが耳打ちして教えてくれま
した。

 それって、普段なら嬉しいことなのかもしれません。茜さんは
お父さんが昔から大好きでしたから。でも、今は単純には喜べま
せんでした。
 むしろ、これから先も何をされるかわかりませんから、茜さん
にとっては怖い人なのです。

 『お父さん、まだ怒ってるかなあ』
 お父さんに対する恐怖から、顔も自然と青ざめます。

 案の定、茜さんの目の前に立ったお父さんは相変わらず怖い顔
をしていました。

 そんななか、
 「どうなんだ?少しは反省したかい?」
 お父さんの顔がほんのちょっとだけやわらぎます。

 実はこれ、お父さんとの仲直りのチャンスだったのです。

 ところが茜さん。たとえお父さんでも見下ろされてるって快く
ありませんから、その通りの顔をしてしまったのでした。

 「おや、おや、怖い顔だな、お父さんは嫌いって顔だね。ま、
いいさ。無理もないだろう。お尻をぶたれたらそりゃあ痛いもん
な……よし、仕方ない、もう少し素直な顔ができるまで付き合っ
てあげるか」
 お父さんの言葉に、茜さんは震撼します。全身身震いといった
方がいいかもしれません。

 『あっ、ヤバイ。私どうして気持ちが顔に出ちゃうんだろう』
 茜さんはここで軽率な自分を反省しますがすでに手遅れでした。

 「お母さん、この子をまた拘束台に縛りつけておいてくれ」
 「まだなさるんですか?」
 「意外に元気そうだから、もう少しやってみる。あ、それから、
なまじ緩いと拘束用のベルトが擦れてかえって怪我のもとだから、
ベルトはしっかりと締め上げてといてくださいね」
 お父さんはそれだけ言うと妹分の待つソファーと戻ります。

 すると、お父さんが離れたのを見はからい、お母さんが……
 「まったくあなたって、不器用ね。女の子のくせに、どうして
泣き真似の一つもできないのかしら。お父さんはあなたを許そう
と思って、ここへ来たのよ。分からないかしら?」

 「えっ、そうなの?」
 茜さんは狐につままれたような顔をします。それはちょっぴり
おどけたようにも見える顔でした。

 「まったく、何て顔するの!」
 お母さんはちょっぴりお冠です。
 「……ま、いいわ、そんな顔ができるくらいだから、あなたも
まだ元気なんでしょうね。……そんな元気なお子さんはお父さん
から、もう少しお尻を暖めてもらった方がいいかもしれないわね」

 お母さんが突き放すように言い放ちますと……
 「そんなあ」
 茜さん、ここで初めて哀れんだ声を出します。
 どうやらお母さんとならちゃんと泣き真似ができるみたいで
した。

 「何が、そんなあよ。女の子は人の顔色がわからないようでは
生きていけないの。そのことをよ~く覚えておきなさい!!……
今度の事はあなたにとって、とってもいい経験になるわ。いっそ、
気を失うまでやってもらった方がいいかもしれないわね」
 お母さんは、そうは言いつつも茜さんにパンツを穿かせます。
 そして、ぶつくさ言いながら、再び拘束台に茜さんを縛りつけ
ていくのでした。


 準備が整うとお父さんがやってきます。
 でも、今度は一人だけではありませんでした。
 春花と美里をお供に引き連れています。

 お母さんはお父さんが何を考えているのか、すぐにピンときま
したが、あえて、それを口にはしませんでした。

 一方の茜ちゃんは、またあの痛い鞭がやって来るのかと思うと、
気が気ではありませんから、必死に首を回して何とか後ろの様子
を確認しようとしますが、如何せん手足を拘束されていています
から思うようになりませんでした。
 そのうち……

 「ほら、バタバタしない」
 お父さんの雷が落ちます。

 「お前は受ける鞭の痛みをそのお尻で目一杯受けて反省すれば
それでいいんだ。それが今のお前の義務なんだよ」

 お父様にこう言われては13歳の小娘に反論なんてできません。
 茜ちゃんは後ろは諦めて、仕方なく縛られている拘束台を抱き
しめます。

 革のベルトで縛られて不自由な両手ですが、ちょうど拘束台の
足の部分がすぐそばにあって、その柱を握ることはできるように
なっています。
 今はそれが頼りでした。

 するとお父さん、今度は茜さんの両足を大きく広げさせます。
 両手と違い、両足は拘束されていませんから自由がききます。
 そこでお父さんは茜さんの両足を目一杯広げさせてその足首も
固定しようとしたのでした。

 「いやあ」
 茜さん、お父さんの手が太股に掛かると、とたんに甘えた声を
出しますが……

 「何が『いやあ』だ。この間までオムツしていた子が、生意気
いうんじゃない。私だってお前のオムツは何度も取り替えたんだ。
今さら恥ずかしがっても仕方がないだろう」
 お父さんはそう言って、茜ちゃんの太股をピシャリと一つ平手
で叩きます。

 これは、今では通用しないでしょうが、昔はよく親が口にした
言葉でした。要するに『お前はまだ子ども。赤ちゃん。何も言う
資格はない』というわけです。

 茜さんも例外ではありません。これ以降、茜さんはお父さんに
抵抗しなくなります。躾の行き届いた家の子であればあるほど、
子どもは親に従順ですから、この言葉だけで黙らすことができた
のです。

 お父さんが茜さんのオムツを取り替えていたのは今から十数年
も前のこと。子どもの茜さんにしてみたら、そんなの自分があず
かり知らない歴史の世界なんでしょうが……親であるお父さんに
してみると、それはつい最近起こった事。現在進行形の出来事で
した。

 お父さんは茜さんの身体を完全に拘束台に張り付けてしまうと、
今度は春花と美里に驚くようなことを言います。

 「ねえ、二人とも、お父さんを手伝ってくれないかな」
 「手伝うって?」
 「どんなことするの?」
 「だからね、これでお姉ちゃまのお尻を『ぱ~ん』ってやって
欲しいんだよ」
 お父さんは、愛用の二尺の竹の物差しを右手に持つと、それを
軽く振って茜さんのお尻を叩く真似をします。

 「えっ!」
 「……ホントに」

 「ホントだよ。……二人とも、お父さんのやってたところを見
てたから、出来るだろう?」

 「それは……」
 「…………」
 二人は黙ってしまいます。

 生まれてこの方、お尻って、自分のをぶたれたことはあっても
他人をぶったことなんて一度もありませんでした。
 二人にとってお尻叩きっていうのは大人の仕事だったのです。

 「嫌かい?……お父さんね、腕が疲れちゃったからさ。二人に
頼みたいんだよ」

 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」
 二人に即答はできません。そんなことやった経験もありません
し、何より、そんなことをして茜お姉ちゃんに嫌われたら………
そう考えると答えはノーなのですが、これまで親切にしてくれた
お父さんの頼みごとを断るというのも、それはそれで勇気がいる
ことでした。

 「……………………………………………………………………」
 「……………………………………………………………………」
 それに春花と美里にはおじさんの言葉をどう解釈していいのか
わかりませんでした。『冗談かな?』って思いますけど……でも、
おじさんが本気なら、正直やってみたい気持ちもあります。
 ですから、その真意を計りかねていました。

 すると、お父さんがそんな二人の心の中を察したのでしょう。
先に動きます。
 「何だ、二人とも恐いのか?そんなことしたら姉ちゃんに恨ま
れると思ってるの?」

 「…………」
 「…………」
 お父さんの質問に二人は小さく頷きます。

 実際、二人の気持は複雑でした。
 二人にとって茜さんの仕返しが恐いのも事実です。うまくぶて
るかどうかも心配です。でも、おじさまのお頼みが本当ならやら
なきゃいけないでしょうし……。
 色んな思いが錯綜する中、『他人のお尻をぶつのは楽しそう』
という単純な欲望もまた心の中で芽生えていたのでした。

 「どんなに強くぶっても大丈夫。だって、これはお姉ちゃまが
悪いからこうなってるんだもの。二人に復讐なんてさせないよ。
それに、やがて君たちだって自分の子をお仕置きすることだって
あるはずだよ。そんな時の参考になるじゃないか」

 大西先生が、やや強引な理屈で二人を説得しますと、春花は、
意外にもすぐにおれて、先生から二尺の竹の物差しを素直に受け
取ります。

 事情は美里も同じようでしたが彼女は春花に比べて慎重でした。
 渡された鞭をすぐには受け取ろうとしません。

 「ほら、美里ちゃんも……」
 大西先生は、あらためて美里ちゃんにも竹の物差しを目の前に
刺し出しますが、彼女は進んでそれに手を出しませんでした。

 「怖がらなくてもいいんだ。これはあくまで茜お姉さんのため
のお仕置きなんだから……君たちが何かされる訳じゃないんだよ。
それに君たちがやってくれると、実は私も助かるんだよ」

 「………」

 「君たちはまだ幼いのでわからないだろうけど、茜お姉さんは
君たちにぶたれるのがとっても恥ずかしいんだよ。だからこそ、
君たちに協力して欲しいんだ。お仕置きって、痛い辛いだけじゃ
なくて、恥ずかしいってのも大事だからね」

 お父さんがさらに説得を続けると、とうとう美里ちゃんも応じ
ます。

 「ねえ、いくつぶってもいいの?」

 すると、それまで消極的だと思っていた美里ちゃんの目が春花
ちゃん以上に輝いていることに大西先生は気づきます。

 「たくさんぶちたいの?」
 お父さんの言葉に……
 「だって、せっかくだから私やりたい」
 美里ちゃんの明るい言葉には相手を思いやる気持ちなんて微塵
もありませんでした。

 そんなあっけらかんとした妹分二人の様子を、茜ちゃんは辛い
拘束台の上で想像して屈辱の涙を流さなければならないのでした。


*********(16)************


 御招ばれ <第1章>(17)

 「春花ちゃん、美里ちゃん、おいで」
 大西先生は二人を茜さんの突き出たお尻のあたりへ呼びます。

 「まず、こうやって、物差しの先をお尻にくっつけて……すり
すりしたり、小さくトントンって叩くんだ。ほら、春花ちゃん、
やってごらん」

 先生はまだ幼い二人に鞭打ちの基本をレクチャーします。
 春花ちゃんは緊張しているのかぎこちない動きでしたが、美里
ちゃんは、おじさんの様子をしっかり観察していたのでしょう、
意外なほど上手に茜ちゃんのお尻をじらしていきます。

 たまらず茜ちゃんのお尻がもじもじし始めますから……。

 「ほう、上手だね。美里ちゃんはやったことがあるのかな……
お友だちのお尻を叩いたことがあるんだね」
 先生にからかわれると、美里ちゃんは初々しい笑顔でした。

 「よし、では次に、実際にぶつところをやってみようね」
 
 大西先生は今さっきやったじらし方を含めて最初から始めます。
そして、頃合いを見計らって一閃。

 「ピシッ」
 小気味よく乾いた音が部屋じゅうに木霊しました。

 「(ひぃ~~)」
 茜さんが思わず海老ぞりになります。

 さっきはお尻が裸、今はショーツ一枚とはいえ防ぐものがあり
ますから、まだましなのかと思いきや、そうでもありません。

 「…………」
 茜さんは、鼻水をすすりながら板の上に顔を着けて泣きます。
それって、他人には見られたくない顔でした。

 こんなにも痛がるのは、さっきまでの折檻で痛んだお尻がまだ
治っていないから。ある意味、これが今日受けた鞭のなかで一番
痛かったかもしれません。

 お父さんは最初幼い妹たちの恐れおののく顔を見ていましたが、
そのうち二人の違いに気づきます。春花ちゃんが、純粋な恐怖で
顔を引きつっているのに対し、美里ちゃんの場合は同じ恐怖でも
眼差しはしっかりと茜さんのお尻を捕らえています。

 『この子、こうした事に興味があるんだ』
 お父さんは美里ちゃんは怯えながらもその瞳の奥に怪しい光が
揺らめいているのを見逃しませんでした。

 一方お母さんはというと、茜さんの泣き顔を見て思わず苦笑い。
それは嘲笑ではありません。微笑みかけることで茜ちゃんを励ま
していたのでした。

 そんな茜さんの様子をお父さんの方からは直接見る事ができま
せんから、こういう時はお母さんのその表情が頼りです。
 お父さんは、お母さんの表情を見ながら茜さんがあとどれだけ
堪えられかを察知するのでした。

 「(なるほど、だいぶ、堪えてるみたいだな)」
 お母さんの顔色を見てそう悟ったお父さんは、この一発だけで
やめてしまいます。
 あとは春花と美里の番でした。

 「実際にぶつ時はね、鞭をお尻のほんの少し前で急停止させて、
そのしなりで叩くんだよ」

 お父さんは、鞭を持つ春花ちゃんの手をその上から包み込むと、
茜さんのお尻に向けて軽く振ってみせます。

 「ぴたっ」
 それは茜さんのお尻にヒットしましたが飛び上がるほどの痛み
ではありませんでした。

 「どうしてスピード緩めちゃうの?お姉ちゃん可哀想だから?」
 美里ちゃんが質問してきます。

 「そうじゃないよ。怪我をさせないためさ。血が出て、その痕
がお尻に見苦しく残ったら君たちだっていやだろう?……これは
お仕置きだもん、刑罰や拷問じゃないからね。痛みと恥ずかしさ、
それに悔しさが心の奥底から湧いて出たらそれでおしまいなんだ。
それ以上は親子でもしちゃいけないんだ」

 「どうして?憎いからぶつんじゃないの?」

 「そうじゃないよ。良い子に育って欲しいからお仕置きするん
だ。憎しみからは何も生まれないよ。もし、お仕置きされて親を
憎むようなら、それはお仕置きとしては失敗だよ。……君たちは
どうだい?院長先生にお仕置きされたら院長先生を憎むかい?」

 「……」
 「……」
 二人は首を横に振りました。

 「うちでは、お仕置きの日の夜は素っ裸でお父さんやお母さん
のベッドで一緒に寝ることになってるんだ」

 「どうして?」
 「恥ずかしくないの?」

 「恥ずかしくなんかないさ。お互い親子だもん。……子どもが
親に自分のすべてを見せられないようなら、私たちもそんな子は
信用できないからね。育てていけないじゃないか。……これから
も私たちと親子でいたければそれが条件というわけさ」

 「そんなの子どもの頃だけでしょう」
 「そう、赤ちゃんとか、幼稚園とか……」

 「そんなことないよ。うちではお嫁に行くまではたとえ二十歳
を超えても娘は娘だもん。……うちで娘として暮らしている以上、
たとえいくつになってもお仕置きはあるし、素っ裸でベッドにも
来てもらうつもりだよ」

 「……!……」
 お父さんの言葉は、幼い二人を驚かしましたが、何よりここで
張り付けられている茜さんにとってそれはショックな言葉でした。
 だって、そんなこと、初めて聞いたんですから……

 「お仕置きで大切なのは実はぶつことじゃないんだ。親の意見
を聞いてもらうことなんだ。だから、目一杯は叩かないんだよ。
お説教も沢山したいからね。あんまり強くして人の話を聞く余裕
がなくなるのも親としては困りもんなんだ。だから、幼い頃は、
お膝に抱いて平手で十分ってわけさ。君たちだって先生のお膝の
上にうつ伏せになってお尻ペンペンってことがあっただろう?」

 「うん」
 「あった」

 「この子だって昔はお膝で足りてたから、こんな台や鞭なんか
使わなかったんだ。ただ、身体がこんなに大きくなっちゃうと、
お膝に乗せてのスパンキングだけじゃ、途中で寝ちゃうからね。
もう少し強い刺激のある罰が必要になるんだよ」

 「すっごい!茜おちゃま、お尻ペンペンの最中に寝ちゃうの?」
 春花が目を丸くしますが……。

 「(ははははは)あくまで比喩さ。女の子ってのは慣れるのが
早いからね。どんなに辛い罰もすぐに慣れてしまって、その間は、
自分の頭に麻酔をかけて、意識を外の世界から遮断するることが
できるんだ。君たちはそんな経験ないかな?」

 「…………」
 「…………」
 二人はしばし考え、最後は顔を見合わせますが、この時は思い
当たることがありませんでした。

 いきなりそんなこと尋ねられてもピンとこなかったのでしょう。
でも……

 「そうか、ないか。いや、それならいいんだ。……(ははは)
だったら、君たちにはまだ鞭は必要ないというわけだ」
 お父さんがこう言ったあとは……

 「へへへへへ」
 「ふふふふふ」
 意味深な笑い顔の二人は、心の奥底に秘密を抱えていました。
 そう、思い出したのです。自分たちにも同じ癖があることを。

 お父さんはその含みのある笑顔から二人が自分のことを思い出
したんだと感じましたが、それ以上、二人を追求することはしま
せんでした。
 いえ、そんなことは、実際にお尻ペンペンをやってみればすぐ
にわかることですから。

 「それじゃあ、今度は……美里ちゃんやってみようか」

 お父さんは美里ちゃんを自分の近くに呼びます。
 レクチャーの要領は春花ちゃんと同じ。美里ちゃんの手を包み
こんで、軽く茜さんのお尻にヒットさせるつもりだったのです。

 ところが、美里ちゃんは、一度包み込まれた先生の手をするり
とすり抜けると、自分で鞭を振るいます。
 一瞬の出来事、誰にも止めることはできませんでした。

 「ピシッ」
 その衝撃に、茜さんは思わず海老ぞりになります。

 「ヒィ~~」
 もう、出さないと心に決めていた悲鳴まで出す始末でした。

 美里ちゃんは特別なことをしたわけではありません。さっき、
春花ちゃんの様子を見ていて、それを真似たのでした。

 スナップの効いた実に立派な一撃にお父さんもビックリです。

 気をよくした美里ちゃんの瞳には怪しい炎が揺らめきます。
 続けて第二弾もやろうというわけです。

 「ちょっと、ちょっと、待って」
 慌ててお父さんが止めに入ります。

 すると……
 「え~~~、ダメなの?だって、さっきいくつでもぶっていい
って言ったじゃない」
 美里ちゃんはおおむくれです。

 「いや、あれは……」
 お父さんは、美里ちゃんがこんなにもうまく鞭を扱えるなんて
計算外のでした。
 そこで……

 「よし、わかった。じゃあ、茜にパンツを穿かせるから、それ
からにしよう」

 美里ちゃんは、さっき見た茜お姉様の生のお尻を叩きたかった
のかもしれませんが、仕方がありませんでした。

 お父さんは、お母さんに言ってニットのショートパンツを取り
寄せると、茜ちゃんの足枷となっているベルトを外してショーツ
の上から、これを穿かせます。

 これって衣装が増えるというのに茜さんにしてみたらとっても
恥ずかしいことでした。

 「よし、これでいいよ」

 こうして準備万端整ったあと、美里ちゃんはお姉ちゃんのお尻
に熱い鞭を6発打ち込みましたが……

 「ピタッ……ピタッ……ピタッ…ピタッ……ピタッ……ピタッ」

 気持だけが先行したのでしょう、お父さんのレクチャーを忘れ
てむやみに鞭を振り下ろしましたから思うような成果はあげられ
ませんでした。

 「もっと、やるかい?」
 お父さんの言葉に美里ちゃんは首を振ります。

 おかげで茜さんは、この台の上で恥ずかしくのた打ち回る姿を
あらためて家族に見せずにすんだのでした。


 お休みの時間、茜さんは約束どおり素っ裸でお父さんのベッド
へ現れ、床を共にします。お母さんは小さい二人のベッドでご本
を読み聞かせてから戻ってきます。

 もちろん、その間にお父さんが茜さんに対して何か特別な事を
するわけではありません。ただ……

 「今日は辛かったかい?」
 「はい」
 「だったら、私が嫌いかい?」
 「そんなことありません」
 「正直に言っていいんだよ」
 「正直にって……」
 「もし、今度の事で私が嫌いになったのなら別の里親を探して
あげるからね。……嫌いな人にぶたれるのは本当に辛いからね。
私は茜を不幸にはしたくないんだ」
 「私はお父様の処にいたいんです。他の家は嫌です」
 「ホントに?」
 「本当です」
 「そう、だったらこれからも私は茜を愛していいんだね?」
 「はい」
 「よし、わかった。だったら、これからも私はお前を目一杯愛
してあげられるね」
 「はい」
 「よかった。これで茜に嫌われたらどうしようって思ったよ。
……いいかい、茜。人は愛するだけ、愛されるだけでは幸せには
なれないんだ。愛して、愛されて、はじめて幸せが訪れるんだよ」
 「はい、お父様」

 親子でこんなおしゃべりがあっただけでした。


 一方、春花ちゃんと美里ちゃんのベッドルームではこの二人も
この日最後のおしゃべりをしていました。

 「今日は凄かったね」
 「ほんと、凄かった」

 「こんな厳しいお仕置きのある処で誰だって暮らしたくないよ
ね」
 「……うん」

 「ねえ、来月はもっとお金持ちの家にお呼ばれしようよ」
 「……うん……でも、クジ当たるかなあ?」

 「当たるわよ。私、くじ運強いもの。任せなさい!」

 「それでどこの家に行くの?」

 「ねえ、今度は安藤さん家なんかよくない?」

 「それ、いいかも、一度行ったけどお夕食超豪華だったもの」

 「そうでしょう。あそこ、この町一番のお金持ちらしいわよ。
わたし、鴨料理って食べてみたいなあ」
 春花ちゃんが大西家のベッドで夢見るのは安藤家の食卓、その
豪華な料理でした。

 「よし、決まりね。次は必ずゲットしてみせるわ。私の念力で
……そしたら、こんなオンボロ屋敷に用はないわ」
 春花ちゃんは明るく笑います。

 ところが、その瞬間になって……

 「………………」
 なぜか美里ちゃんは無反応。

 春花ちゃんは、隣りのベッドで美里ちゃんが自分と同じことを
考えていると信じて疑いませんでしたが、美里ちゃんの思いは、
春花ちゃんとは少しだけ違っていたのでした。

 『お仕置きかあ……』
 美里ちゃんの頭の中では、大西先生から厳しくお仕置きされた
あと、とっても、とっても愛される自分の姿が、走馬灯のように
流れていたのでした。

********(17)**************

*******<第3回はここまで>*********
~~ 第1章はここまでです ~~

御招ばれ <第1章> 「 第 2 回 」

    御招ばれ <第1章> 「 第 2 回 」

 *** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


 *** 目次 *******
  <第1回>(1)~(6)  /大西家へ
 <第2回>(7)~(11) /お浣腸のお仕置き
  <第3回>(12)~(17)/鞭のお仕置き


 ***< 主な登場人物 >***************

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。

 大西泰幸……中世史の研究をする大学の先生。実の子はすでに
    医者として独立、『茜』という養女をもらっているが、
    春花や美里も養女にしたいという希望を持っている。
 大西一枝……大西泰幸の妻、専業主婦。茜を厳しく躾けるが、
    茜は彼女を慕っている。
 大西茜……大西泰幸の養女。13歳で春花や美里よりお姉さん
    だが、楚々とした感じのお嬢さんとして躾けられている。
 高瀬先生……古くから大西家に出入りしているお医者様。特に
    子供達へお仕置きがある時は浣腸や導尿などでお手伝い
    もする。
 明子さん……長い間大西家に仕えている住み込みの女中さん。
    大西家の生き字引。

 **************************


*********<第2回>*************


 御招ばれ <第1章>(7)

 「お母さん、高瀬先生、お願いします」
 茜さんは正座して両手を畳に着けて頭を下げます。

 「やっと、素直になったみたいね。女の子がふてくされた顔を
人様にみせてはいけません。何度も言い聞かせてることでしょう。
あなたももう子供じゃないんだからそのあたりは分別をつけない
と……」

 お母さんの言葉に、高瀬先生は……
 「茜ちゃんも最近は恥ずかしいんでしょう。近くに女医先生が
おられればいいのだが、あいにくこの辺りは男医者ばかりだから」

 「まさか、そんなこと。……お仕事でみえられた先生にそんな
失礼なことを思っていたら、今度あらためて、キツイお仕置きを
しなければなりませんわ」
 お母さんの鋭い視線ときつい言葉に茜さんはひるみます。

 誰だって家族でもない中年男に自分の大切な部分を見られたり
触れられたりするのは心地よくありません。…ましてや、これが
お仕置きに繋がる事となれば、茜さんに同情する余地は沢山ある
と思います。

 でも良家の子女はそんな感情を一切表に出してはいけませんで
した。お医者様や学校の先生やもちろん親に対しても、反抗的な
態度は一切許されていません。
 これもまた一つの厳しい現実(躾)だったのです。

 お母さんは躾けた通りに振舞う茜さんの態度に満足したみたい
でした。

 「では、ここへ来て、いつものように先生の健康診断をお受け
なさい」

 お母さんは敷かれた薄いお布団を叩きます。
 もちろんそれは否応なしでした。

 ブラウスもスカートもスリップもそこで脱いで綺麗にたたんで
から布団の上に上がります。
 身につけているのは、ジュニア用のブラとショーツだけ。つい
1年ほど前まではショーツだけでした。

 「茜、先生の診察のお邪魔になるわ。ブラも取りなさい」
 お母さんの声が聞こえましたが……
 「大丈夫ですよ、お母さん。そのままで」
 高瀬先生はそこはお母さんを制して茜さんを膝まづかせた姿勢
でご自分の前に立たせます。

 最初は聴診器で心音を聞き、肺や内臓にも異常がないかをチェ
ック。お腹を揉んだり、背中に回って肩甲骨の下辺りを叩いたり、
そこにも聴診器を当てたりします。

 そうやって型どおりの触診をすませた先生が次になさったのは、
茜さんの上半身のチェックでした。
 頭の天辺から腰の辺りまで、傷はないか、湿疹、吹き出物など
できていないか、皮膚は健康な肌つやをしているか、そんな事を
細かく見て回ります。

 そして、その最後に、茜さんに頭の後ろで両手を組ませると、
ブラをほんの少し捲り上げて、乳房の様子も確かめます。

 「……(あっ~~、あっ~~、いや、いや、気持悪い)……」
 茜さんは口にこそだしませんが、その瞬間は身体をよじりたい
気持で一杯でした。

 決して長い時間ではありません。先生が触れていたのは、一つ
十秒ほど、二つあわせても三十秒と掛かっていないと思いますが、
茜さんは先生から自分の乳房を揉みほぐされ、さらには、もっと
敏感な乳頭までも先生の指先で刺激されることになります。

 「……(あっ!いやあ!!)……」
 その瞬間は、顔をゆがめ、思わず大声を出しそうになります。
 できることなら先生の頭に空手チョップをお見舞いしたいとこ
ろです。でも、我慢するしかありませんでした。

 こんなこと、今が初めてじゃないから我慢できるのかもしれま
せん。幼い頃から定期的にやられてきたことで諦めがあるのかも
しれません。
 ただ、春の目覚めとともに茜さんには昔と同じ場所を触られて
いてもその心の奥底に微妙な変化が生じているのも確かでした。


 もちろん、身体検査は上半身だけではありませんでした。

 「上半身、どこも問題ないようですな。湿疹、吹き出物のたぐ
いもありませんし、触診による異常もありませんでした。いやあ、
綺麗な肌をしておられる。鮫肌の私などは羨ましい限りだ」
 先生は水差しのお湯をご自分で継ぎ足して再び洗面器のお湯で
手を洗います。

 「先生、茜は少しおっぱいの発達が遅いようにも感じられるの
ですが……」

 「(はははは)それは心配いりません。乳房の発達には個人差
が大きいですから………そういえば、うちの大学なんか、女子の
学生は揃いも揃ってみんなAカップでしたよ。……比較的偏差値
の高い学校でしたから、『あいつら頭に栄養がいるぶん、胸には
まわってこないんじゃないか』なんて男どもが戯(ざれ)ごとを
言ってたくらいです」

 「そういうものなんですか」
 お母さんが真顔で心配すると、高瀬先生は慌てたように……
 「いえいえ、戯ごとです。医学的な根拠があっての事ではあり
ませんよ」
 部屋中に響くような高笑いで先生は打ち消します。

 そんな大人たちの会話を聞きながら、茜さんは黙って上着だけ
を着始めます。
 でも、下半身は相変わらずショーツ1枚。
 いえ、茜さんにとってはむしろこれからが問題でした。

 明子さんが用意してくれた二つ折りの座布団の上に腰を乗せて
仰向けに寝ると、高瀬先生の顔が急に真剣になります。

 「お、準備できたかな……じゃあ、いつもの通りね」
 高瀬先生のその言葉が合図でした。

 いつも通り明子さんが茜さんの顔にタオルが掛け、お母さんが
ショーツを剥ぎ取ります。

 普段風の当たらないところに当たる風は冷たく感じられますが、
お母さんと明子さんによって両足が高く持ち上げられ、さらに、
その足が左右に引き裂かれると、少しずつ芽生え始めた茜さんの
少女としてのプライドも、一緒にどこかへ飛んでいってしまった
ようでした。

 真空状態の頭の中では何も考えられません。でも、茜さんは、
しばしの間こうしているより仕方がありませんでした。

 「……………………………………………………………………」

 高瀬先生が少女の奥の院を観察している間、大人たちは一様に
無言です。冷やかしも励ましも何もありませんでした。
 柱時計の時を刻む音だけが部屋中に響いて、それだけが茜さん
の耳にも届いていました。

 やがて……

 「……(あっ、いやあ)………(だめ、くすぐったい)………
(あっ、冷たい)………(やめてえ~~)……(だめえ~~)」

 ドーナツ状の丸い鏡を頭に巻いた高瀬先生が、茜さんの感じる
部分を次々と素手で触り始めます。今日からみると随分と乱暴な
ようですが、当時はまだこんな時にまでゴム手袋をはめる習慣が
ありませんでした。

 「……(あっ、いやあ~出ちゃう)……」

 一番最初に触れられたオシッコの出口は、ほんのちょっと触れ
られただけでオシッコが漏れそうでしたし……まだまだ未開発の
小さな突起も、先生の指が触れただけで電気が走ります。

 「……(あっだめ、くすぐったい)……」

 ウンチの出る穴には、先生の人指し指が無遠慮に入って来て、
これでもかというほどかき回してから出ていきました。

 「(うっっっ、もうやめてよう、芋虫が入って来たみたいよ。
気持悪いんだから)……」

 さらに、赤ちゃんの出口に拡張器が当てられると、その瞬間は
金属の冷たい感触に身体が反り、声が出そうでした。

 「……(いや、冷たい)……(やめてえ~)……(だめえ~)」


 苦行の時間は実際には5分程度です。
 でも……
 「もう、いいよ」
 先生の言葉がなんと嬉しかったことか……

 両足が布団の上に下ろされ、ショーツを引き上げます。
 脱がされるときはお母さんでしたが、引き上げる時はたいてい
茜さん自身でした。

 「お母さん何も心配いりませんよ。茜さんは健康そのものです。
13歳としては何の問題もありません。男の子は特にそうですが、
女の子もあと一年、14歳になる頃には劇的に変化しますから、
安心してください」
 先生は例によって洗面器のお湯で手を洗いながらお母さんには
嬉しい報告をします。

 「私は、茜が身体だけ大きくなっていくようで、ひょっとして
発達障害なのかと……」
 「(ははは)それは取り越し苦労というものです。この程度は
遅れのうちに入りませんよ。人によって発達のスピードというの
は違うものです。問題はありませんから」

 にこやかな大人二人の雑談は茜さんの耳にも届きますが、でも、
そんなこと、今の茜さんにしてみたらどうでもよいことでした。

 『何言ってるのよ。私の体がいつ大人になろうとお母さんには
関係ないじゃない。そもそも、そんなことをお医者様まで使って
なぜ調べなきゃならないのよ』

 茜さんは、お腹の中では苦々しくそう思っていましたが、例に
よって大人たちに向かってそんな事、声に出す勇気はありません。
 いえ、そんな事より、茜さんにとっては、次に控えるお浣腸が
何より心配でしたから、今はそのことで頭が一杯だったのでした。


************(7)**********


 御招ばれ <第1章>(8)

 「先生、では、お浣腸の方もお願いできますでしょうか」

 お母さんの一言で、いよいよその時がきます。
 茜ちゃんにとっては最初の正念場でした。

 「よろしいですよ。だいぶ溜まっているみたいなので、多めに
いたしましょうか」
 高瀬先生はそう言いながら往診かばんの中をまさぐります。

 出てきたのは100㏄も入るピストン式のガラス製浣腸器。
 この家の子供達を昔から散々脅かしてきた悪名高い代物でした。
 形状が痛い痛い注射器と同じで、おまけにこれは特大サイズと
きていますからね、子供達が怯えるわけです。

 茜ちゃんも事情は同じ。いまだに、これを見ると背筋に電気が
走ります。最初は『あんな大きなお注射!』と思って驚き、実際、
お浣腸を受けてみると、その恥ずかしさ、苦しさ、後味の悪さ、
(グリセリン浣腸は終わったあともお腹が渋ったようになります)
にショックを受けるというわけです。

 いずれにしても、この注射器のような浣腸器は、子供たちの…
とりわけ女の子たちの天敵でした。

 「どうでしょう、今回は100㏄お願いできないでしょうか」
 お母さんが高瀬先生にお頼みすると……

 「そうですか……本来、成長途中の子供に大量のお薬は負担が
大きいので避けたいところですが、無理のない程度にやってみま
しょう」
 先生はあっさり応じてしまうのでした。

 もしこれが見ず知らずの先生だったら断っていたでしょうが、
高瀬先生は幼い頃からずっと茜ちゃんを診て知っています。その
経験と自信から大丈夫と判断なさってやっていただいたのでした。

 お医者様をお仕置きに巻き込むなんて凄い家でしょう。
 でも、昔は全てがおおらかな世の中だったせいか実際にこんな
家庭も少なからずあるみたいでした。

 ただ、この時高瀬先生は一つだけ条件を出します。
 それは……
 「今回は、茜ちゃんにオムツをあててあげてください。そして、
その中にさせるようにしてください。オマルに跨ったり、へたに
トイレへ行くよりその方が安全ですから」

 でも、これもお母さんにしてみたら願ったり叶ったりでした。
 オムツへの排泄はいい見せしめになるからです。
 「承知しました」

 そして、お浣腸は始まります。

 茜ちゃんは先ほど受けた下半身の健康診断の時と同じように、
仰向けで、ショーツを脱がされ、両足を高く上げさせられます。
 要するに赤ちゃんのオムツ替えのポーズ。

 とても他人様にはお見せできない姿ですが、周囲にはお母さん
と明子さん、それに昔から茜ちゃんのことをよく知る高瀬先生と、
親しい人たちしかいませんから、そこは少しは気が楽なのですが、
ただ、こうした親しい人たちというのは親しいだけに無理難題を
吹っかけてきます。
 ですから、子どもたちは、大人たちの言いなり。どんな格好に
でもさせられのが普通だったのでした。

 いえ、茜ちゃんもこの格好になる前に、一応、お母さんに……
 「前は、横向きでなさったけど、それじゃいけないんですか?」
 と、言ってはみたんですが……

 「だめよ」
 あえなく一言で却下されてしまいました。

 実際、お浣腸の施術は茜さんの言うとおり横向きにしてやるの
が合理的でした。楽に大量に入りますから……
 ですが、お母さんだけでなく高瀬先生もまた、これが実質的に
大西家のお仕置きだと知っていますから応じてくれないのです。

 そうこうするうち、ぐずぐずしている茜さんを見てお母さんの
雷が落ちます。

 「何ぼそぼそ言ってるの!子供のくせに生意気言うんじゃない
の。ぐずぐす言ってるとお仕置きを増やしますよ」

 「……………………」
 と、これで決着。茜ちゃんはまたしても先ほどと同じポーズを
とることになるのでした。


 ところが……
 全ての準備が整ったようにみえてから、高瀬先生が思い出した
ようにこう言うのです。
 「あっ、そうだ、明子さん。これを蒸し器の中入れて五分ほど
蒸していただけませんか。先をアルコール消毒しただけでも十分
だとは思うんじゃが、煮沸消毒した方が安心じゃろうから……」

 この時になって、先生は浣腸器を蒸し器で蒸して欲しいと言う
のです。

 いえ、消毒なんて口実。これは茜ちゃんに対する高瀬先生から
のお仕置き。
 今やってるポーズを嫌がった茜ちゃんに大人の言いつけに従わ
ない子がどうなるか、そうやって考えなさいということでした。

 おかげで、茜ちゃんは自分で自分の両足を支える恥ずかしい姿
のまま、5分以上放置されることになります。

 こうしたことは、お母さんが先生に頼んだわけではありません。
すべては大人たちの阿吽の呼吸なのです。

 『大人は常に正しくて、子供はいつも間違いだらけ』
 それが当時の常識ですから、よほど酷い虐待でもしてない限り、
親が子供をお仕置きしていてもそれは常に正しいと誰もが思って
くれます。ですから、親に協力することだってやぶさかではない
というわけでした。
 オント、『子供はつらいよ』という時代でした。


 ところが、茜ちゃんにとって事態はさらに悪化します。

 まあ、間の悪い時というのはそういうものかもしれませんが、
それまで二階の書斎でお父さんから色んなご本を見せられ愉快な
お話をたくさん聞かされて楽しんでいたはずの春花と美里が急に
階段を駆け下りてきたのです。

 目的は極彩色に彩られた中世の時祷書の挿絵を茜おねえちゃま
にも見せたいという思いつきでした。

 もちろん二人は、階下でそんなはかりごとが展開されていよう
などとは夢にも思っていませんから、声も掛けません。いきなり
元気よく襖を開け放ってしまいます。

 「!!!?」
 「!!!?」

 その二人の視界に飛び込んできたのは、普段なら絶対に見られ
ない茜お姉様の恥ずかしい姿でした。
 このチビちゃんたちでさえ、そんな姿になったのは遠い昔の事
ですから覚えていないくらいです。

 「ほら、二人とも今はダメだと言っただろう」
 ほんの少し遅れてやって来たお父さんが珍しく二人を叱り付け
ますが、すでに手遅れ。
 二人は、すでにその映像をしっかりと頭の中に刻み付けてしま
っていました。

 「さあ、帰るよ。……今、お姉ちゃんは忙しいから、また後に
しなさいって言ってるだろう」
 お父さんはさっそく襖を閉め、二人の頭を回れ右させて部屋の
外へ向けさせます。
 これで茜さんの痴態は二人からは隔離されたことになるのです
が……

 「ねえ、茜お姉ちゃん何してるの?」
 「あれ、何かのゲームなの?」
 「お病気よ。だって、裸だったもの」
 「そうそう、まるでオムツ替えてもらう赤ちゃんみたいな格好
してた」
 「ねえ、私たちも仲間に入っていい?」
  さっそく二人からの矢継ぎ早の質問攻めが始まります。

 「ああ、わかったわかった、分かったからお部屋に行ってから
話そう」
 お父さんは慌てて二人を二階へ追い上げます。

 お父さんにとってこれは意図したことではありませんでした。
お父さんは、茜のお仕置きをこの二人にも見せる予定をたてては
いましたが、それはあくまで最後のスパンキングのシーンだけ。
その前段階であるお浣腸は含まれていません。

 お浣腸をこの二人にまで見せるのはさすがに娘に残酷と考えた
お父さんは、その間は、二人を書斎に呼び、珍しいご本や物語で
時間を稼ぐつもりでいたのでした。

 でも、一瞬とはいえ見られてしまったのなら仕方がありません。
お父さんは決心して、二人には大西家で行われるお仕置きの本当
の姿を話してしまうことにしたのでした。

 もちろん、その結果、二人がこの家に来るのが嫌になり里子の
話が破談になってもそれは仕方のないこと。バラ色の夢ばかりを
見せておいて後でショックを受けるより、その方がよほどこの子
たちの為だとお父さんは考えていたからでした。


 やがて明子さんによってお部屋へ蒸しあがったばかりの浣腸器
が届けられます。

 「あれ、どうかなさったんですか?」
 明子さんは自分がここを留守にした前と後でお部屋の雰囲気が
微妙に違うことを鋭敏に感じ取ります。

 「何でもないわ」
 お母さんは毅然として言い放ちますが、事故とはいえ茜ちゃん
の気持を考えるとお母さんの気持は晴れませんでした。

 それだけではありません。頬を伝う涙さえ拭うことも出来ない
茜ちゃんに対して見せる高瀬先生のその軟らかな表情だって……
それはどこまでも茜ちゃんを気遣ってのものだったのです。

 ただ、だからといって『今日のお浣腸はやめましょう』という
ことにはなりません。これもまた大西家の常識でした。
 そして、そのことは、もちろん茜さんだって承知していること
だったのです。


********(8)**************


 御招ばれ <第1章>(9)

 「先生、お薬は普段うちで使っているのでよろしいでしょうか」
 お母さんはおずおずとこげ茶色の薬壜を先生に差し出します。
 それは大西家に常備されていた200㏄入りのガラス壜でした。

 「もちろん結構ですよ。……おお。これはうちでお渡しした物
ですね」
 先生はうやうやしく受け取ります。

 この時代、お浣腸は便秘の為だけにするものではありませんで
した。お腹の具合が悪い時、とりわけ子供に熱がある時などは、
家庭内でも広く行われていましたから、街の薬局でイチヂク浣腸
を購入するだけでなく、病院の薬局からも光を遮断する色つきの
ガラス壜に入れて多めに持ち帰る家庭が少なからずありました。
 そう、お浣腸って、今よりずっと身近な医療行為だったのです。

 「さあ、行きますよ」

 高瀬先生は、おもむろに半透明な茶色のガラス瓶の蓋を取ると、
50%のグリセリン溶液を吸い上げ、最近、肉付きのよくなった
茜ちゃんの二本の足付け根を押し開きます。そして、緊張の為か
ヒクヒクと動いているまだ可愛らしい菊座を確認して、ガラスの
先端を差し入れます。

 「……(うっ)……」
 小さな衝撃ですが、とても恥ずかしい一瞬です。
 慣れない子の中には思わず拒んでしまう子も……でも茜ちゃん
のお尻は先生のガラスの突起を拒否せず受け入れます。

 「よし、いい子だ」
 満足そうな高瀬先生の声がしました。

 こんなこと普段は看護婦に任せている仕事。ここでも、恐らく
お母さんか、明子さんの方が場慣れしているかもしれませんが、
あえてそれを先生がやるのは、やはり先生が男性だから…つまり、
茜ちゃんに辱めをくわえるためでした。

 「ようし、その調子。……さあ、もう一ついくよ」
 先生は本来なら100㏄入る浣腸器にあえて全量をいれません。
 50㏄ずつ二回に分けて行います。
 それもこれも、このお浣腸がお仕置きとして行われているのを
知って、わざと時間をかけているのです。

 十分に時間をかけることで、高瀬先生は茜ちゃんをじっくりと
辱めることができます。
 そして、グリセリンを全て入れ終わると……

 「あえて栓はしないからね、自分の力で頑張るんだ。頑張って
頑張って、悪かったことを反省してごらん」

 高瀬先生はそこまで言ってから、それまで足元に脱ぎ捨てられ
ていたショーツをを足首に穿かせます。

 「!」
 すると、茜ちゃんの反応は早いものでした。

 こんなに長い時間、大人たちに恥ずかしい姿を見られていて、
今さら急いでみてもどうにもならないはずですが、茜ちゃんは、
自分の足首にショーツが引っかかったのを感じると、すぐさま、
それを引き上げました。
 どんなに長い間辱めを受けていても、その時間を一秒でも短く
したいというは少女の素直な気持なのかもしれません。

 その慌てぶりを見て、大人たちは思わず苦笑していたのですが、
茜ちゃんはそのことに気づいていたでしょうか。


 さて……
 これで恥ずかしさだけは若干緩和されることになりましたが、
だかといって、グリセリンの効果まで緩和されるわけではありま
せんでした。
 このお薬は即効性が顕著なお薬なのです。

 「ひぃ~~~~」
 ショーツを引き上げた直後には、もう茜ちゃんの顔色が変わり
ます。

 信じられないほどの強い下痢がいきなり茜ちゃんを襲います。
 お腹の急降下というやつです。
 「……(おなかが痛い)……」
 たちまち芋虫のように布団の上で丸まって、後は身の置き所の
ない地獄でした。

 栓はしてない。オムツもしてない。もしこのまま爆発したら、
他人に見せたくないものがあたり辺り一面に広がって薄い布団を
汚していきます。
 そんなこと、想像するだけで気絶しそうです。
 女の子にとってはとても耐えられそうにない現実でした。

 「いやあ、いやあ、だめえ~~出る出る出る」
 うわ言のような訴えが続きます。
 それを受け止めたのはお母さんでした。

 お母さんは身体を丸めた茜ちゃんをしっかりと抱きしめます。
 こんな大変な時ですから、茜ちゃんにはほとんど冷静な判断が
できません。お母さんに抱きしめられている今の今でさえ、少女
にとっては新たな罰を受けているように感じられて暴れるのです。

 「いや、いや、こんなのイヤ!!」
 茜ちゃんは熱病患者のようにお母さんの胸の中で何度も叫びま
した。
 でも、その身体はお母さんに押さえられてどうにもなりません。

 「あっ、だめ~~」
 大津波に反応して、思わず奇声が上がります。

 もし、これがお薬の影響のない普段なら、あるいは茜ちゃんは
全力を出してお母さんの抱っこを跳ね除けていたかもしれません。
 でも、今、その全力を出したらどうなるか……

 最悪の事態が頭をよぎります。
 そう考えると無理は出来ませんでした。

 だから、お母さんの力が勝って、茜ちゃんは次第にお母さんの
胸の中で締め付けられていきます。自由の利かない絶望の中へ。

 「あ~~ん、お母さん、いやいやいや……」
 半狂乱のようになった茜ちゃんは必死になってお母さんの中で
訴えますが、どうにもなりませんでした。

 『あっ、だめえ~~~私、壊れちゃう』
 窒息するほど圧迫されたお母さんの胸の中で、茜ちゃんは自分
の進退が窮まったこと悟ります。

 『今さら開放されても、もうどこへも行けない。ここでやって
しまうしか……』

 そんな絶望が心に広がるなか、茜ちゃんはそれまでとはまった
く違う感情が自分の心の奥底にあるのを感じるのでした。

 『どうしてだろう。どうしてこんなことしてるのに気持いいの。
こんなに苦しいのに……どうして?』
 『不思議な気持。苦しいことが気持いいなんて初めて……変よ、
変。絶対に変だけど、そんな気がするわ。私、壊れちゃったの?』
 『ああ~、まるで赤ちゃんに戻っていくみたい。とろけそう。
こんなに気持いいことって、何年ぶりだろう。こんなこと、誰に
話しても信じないだろうなあ』
 『ああ~、あまえていたい。このままずっとお母さんに甘えて
いたい』

 そんな娘の変化をお母さんも感じていました。
 それまで、お薬の入った不自由な身体ながらも必死にここから
這い出ようと手足をバタつかせていた茜の身体が今はすっぽりと
自分の胸の中におさまっているのです。抵抗しない分、膝の上も
軽くなります。
 それは茜が自らお母さんに抱かれたいと思っているからでした。

 『し・あ・わ・せ……こんな幸せもあるんだ』

 恥ずかしさに打ちひしがれながらも、それでいて安らぎを見出
した茜。でもそれは、二十数年前、茜のお母さんが自身で感じた
ことでもあったのです。
 そう、お母さんもまた娘時代、そのお母さん(茜ちゃんの祖母)
からお浣腸を受けて、その胸で泣いたことがあったのでした。

 「どうしたの?……落ち着いた?……苦しいでしょう?出して
しまっていいのよ」
 お母さんは茜さんに優しく声を掛けます。
 もちろん、お母さんはすべてを承知の上で茜ちゃんを抱きしめ
続けていましたからそれでもかまわなかったのです。

 とはいえ、お浣腸には波があります。小康状態の次には大波が
……

 「いやあ、だめえ、やめてえ~~トイレ、トイレ、トイレ」
 茜ちゃんの突然の大声。

 まるで目覚めて泣き出した赤ん坊のように声を荒げることも…
 ただ、そんな時も、お母さんはそ知らぬ顔で我が子を抱き続け
たのでした。

 「ああ、いい子、いい子、いい子ね。恐がらなくていいのよ。
あなたは私の赤ちゃん。それは今も変わらないわ。私が、ずっと
あなたを守っててあげるから大丈夫よ。何が起こっても大丈夫よ」
 お母さんは再びすっかりおとなしくなった茜ちゃんの頭をなで
つけながら囁きます。

 『何が起こっても大丈夫』
 お母さんの言葉には、『ここで用を足しなさい』という意味も
含まれています。
 ですから……

 「トイレ、トイレ行きたい」
 茜ちゃんがいくら頼んでも結局トイレは与えられませんでした。


 10分が経過した頃、そのトイレの代わりに用意されたのは、
最初からそういうお約束だったオムツ。

 もう、この頃になると、恥ずかしいと言って抵抗することすら
できないほど事態が緊迫していました。
 おかげで、大人たちが茜ちゃんのショーツを脱がせ昔ながらの
浴衣地を裂いて作ったオムツに履き替えさせるのにも、それほど
苦労はいりませんでした。

 すると、ここで先生が……
 「もういいよ。茜ちゃん、やってごらん」
 と言うのです。

 『やってごらんって言われても……だからって、できる訳ない
じゃない』
 茜ちゃんは悲しく思います。
 でも、一方で……

 『そんなこと絶対にできない。絶対にできないけど……もう、
限界。やってしまうかもしれない』
 茜ちゃんは自分の胸に語りかけるのでした。


 オムツをしてさらに10分後。茜ちゃんはそれでも必死に我慢
を続けていましたが、ついにその時がやってきます。

 「ほら、ほら、これ以上は身体に悪いからやめようね」
 高瀬先生はそう言って茜ちゃんの下腹を揉み始めます。
 すると、これが最後でした。

 「…………………………(!)……………………………………」

 その瞬間は静かでした。
 茜ちゃんは言葉も発せず身体も動かさずでした。
 いえ、むしろその瞬間は身体の動きが全て止まっていました。

 というのも、茜ちゃんにこれいった感情がなかったのです。
 『とうとう、やっちゃった』
 というほかは……

 まるで、白昼夢を見ているようなぼんやりとした意識の中で、
周りの大人たちが忙しく働いているのだけがわかります。

 『これって、どういうことだろう?』
 茜ちゃんは思います。

 さっきまであんなに恥ずかしいこと、嫌なことだと騒いでいた
自分が、今はまるで他人事のようにそれを冷静に見ているのです。
……これって、心の不思議としか言いようがありませんでした。


 茜ちゃんは、お母さんと明子さんにお股のなかを蒸しタオルで
綺麗に拭き取ってもらい、天花粉をたくさんはたいてもらって、
最後はショーツまで穿かせてもらいます。
 そうやってもう一度、茜さんはお母さんに抱かれます。

 「よく頑張ったわ」

 お母さんは抱きしめた茜ちゃんに頬ずりします。
 すると、茜ちゃんもまるで幼稚園児のように笑ってお母さんの
頬ずりを受け入れるのです。

 「あらあら、ご機嫌だこと。でも、随分と大きな赤ちゃんだわ
ね」
 明子さんがイヤミを言いますが、茜ちゃんはそれさえも笑って
答えるのでした。

 「お母さん、好き」
 茜ちゃんの小さな小さな囁きがお母さんの耳に届きます。

 すると……
 「ありがとう」
 お母さんもまた満足そうに答えます。

 成長するとともに大人へ大人へと向かっていた茜ちゃんの心が
この瞬間だけは赤ちゃんへ逆戻りということでしょうか。
 でも、それも高瀬先生に言わせると……

 「恥ずかしいなんてのは、所詮相対的なもんじゃ。信頼できる
親がおればこそ、こんなこともできる。茜ちゃんにとってもいい
息抜きになったはずじゃよ」
 となるのでした。

 でも、これで『一件落着、めでたしめでたし』とはいきません。
 茜ちゃんには、これからまだまだ新たな試練が待ち受けている
のでした。


********(9)**************


 御招ばれ <第1章>(10)

 茜ちゃんは、グリセリンのお浣腸が終わるとパジャマ姿になり
ました。水玉ピンクのパジャマは茜ちゃんのお気に入り。でも、
これでお浣腸が全てすんだわけではありません。

 「さてと、茜、お浣腸の最後にお腹を綺麗にしておきましょう」
 お母さんの言葉は茜ちゃんを再び震撼させます。

 「せっかく、パジャマ着たのに……」
 茜ちゃんが文句を言うと……

 「大丈夫よ。今度は石鹸水のお浣腸だから、刺激も強くないし、
我慢もしやすい。服を汚す気遣いはないわ」
 お母さんが言えば、高瀬先生も……
 「そうだよ。茜ちゃん。今日はグリセリンの量が多かったから
ね。残ったお薬を完全に身体の外へ出すためにもお腹の中をもう
一度洗った方がいいんだよ。洗濯する時、すすぎをやるだろう。
あれと同じだよ」
 こう言って茜ちゃんを説得します。

 もちろん、茜ちゃんがたとえ嫌がっても最後は脅しつけてやる
つもりでしたが、お母さんにしろ高瀬先生にしろ、できれば納得
ずくでやりたかったのでした。

 抵抗してもしなくても結果は同じです。
 そのことは当の茜ちゃんも承知しています。ただ彼女としては
この機会にもう少しお母さんに甘えたい。
 茜ちゃんの望みはむしろそちらにあったのでした。

 ですから、茜ちゃんも今回は比較的短い説得で観念します。
 何より今度は赤ちゃんのオムツ替えポーズではありませんから、
それだけでも心はとっても楽でした。

 「それじゃあ、お布団に横向きになって……」
 先生は茜ちゃんに命じます。

 今回の茜ちゃんは、身体の左側面を下にして横向きに寝ると、
左脚をまっすぐ右脚を曲げた姿勢で待ちます。シムズの姿勢とか
側臥位と呼ばれるこの姿勢は、直腸検査やお浣腸を受ける患者が
やらされる定番の姿勢でした。

 何よりこの方が患者にとって楽ですし大量の浣腸液も無理なく
体に入ります。高瀬先生もこれが茜ちゃんのお仕置きと気づいて
いなければ最初からこうしてやっていたはずでした。

 ただ茜ちゃんに対する見せしめ刑は相変わらずで、高瀬先生は
茜ちゃんを側臥位の姿勢にすると、パジャマのズボンを脱がして
からこう言うのでした。

 「明子さん、石けん水を作ってきてほしいじゃが……そう1L
もあればいいから……」
 先生は明子さんに注文を出します。

 もちろん茜ちゃんのパジャマのズボンを下ろしてから言わなく
てもいいことなんですが、あえてそうするのは茜ちゃんに恥ずか
しい思いをさせるためでした。

 茜ちゃんは……
 昔、同じような事があった時、自分でパジャマのズボンを引き
上げたら、『もうじき始まるから…』と、高瀬先生に止められた
ことを思い出していました。

 「点滴台(イルリガートル台)もお持ちしましょうか」
 明子さんは気を利かせてそう言いましたが……

 「それにはおよばんよ。……あっ、急がなくていいからね」
 高瀬先生はそう言って明子さんを送り出します。

 その時。茜ちゃんは一度は握ったズボンのゴムを離します。
 茜ちゃんはこのズボンは引き上げちゃいけないんだと悟ったの
でした。

 高瀬先生もまた、そんな茜ちゃんの小さな行動を見逃しません。
 「お母さん、茜ちゃんも大人になっりましたね」

 言われたお母さんも頬を赤らめて……
 「ありがとうございます」
 と応じます。

 「人の心を察することができるようになるのが大人への第一歩
ですから……」
 高瀬先生は何だか嬉しそうにそう言うと、茜ちゃんの裸のお尻
にバスタオルを一枚かけてあげるのでした。


 5分ほど、高瀬先生とお母さんは茜ちゃんがまだ幼い頃の昔話
に花を咲かせます。

 日頃、男の子とばかり遊んでいて、木登りは得意だけどお勉強
はさっぱりだったことや、お転婆に手をやいたお母さんが初めて
お灸を据えた日のこと。大の甘えん坊で夜は必ず両親どちらかの
布団に入って寝ていたこと。さらには幼稚園時代すでにオナニー
を覚えてしまいお母さんを慌てさせたことなど……その大半は、
茜ちゃんが赤面することばかりでした。

 これもお仕置きでしょうか?
 いえ、これは、きっと違うでしょう。
 だって、茜ちゃんはその間必死に笑いをこらえていましたから。

 もし、これが愛情や信頼関係のない親子だったら、茜ちゃんは
自分の恥ずかしい過去を話題にされて笑ったりできないはずです。

 同じ事をされても、相手のことをどう思っているかで、受ける
心持はまったく違うもの。他人からは虐待に思える行為も、その
親子にとってはまったく別のものだったりします。

 恥ずかしいお仕置きも実は相手次第。赤の他人なら許されない
虐待も、信頼関係のある親子ならお仕置きということだって……
昔はそんなこと、よくあることでした。


 やがて、明子さんが石鹸を溶いたぬるま湯をなみなみとお鍋に
入れて持って来てくれました。
 
 「これはたくさんだな。こんなにいらなかったのに。500㏄
もあればよかったんだ」
 高瀬先生はそう言いながらも、明子さんからのお鍋を受け取り
ます。その顔は笑っていました。

 いえ、高瀬先生だけではありません。お母さんも明子さんも、
そして、当の茜ちゃんですら、深刻な顔はしていませんでした。

 「さあ、いくよ」

 高瀬先生はさきほどグリセリンを入れて使った浣腸器を使って
今度はお鍋の中の石けん水を吸い上げます。
 今回は50㏄ではありません。100㏄全部吸い上げてから、
その先端を指で押さて、それをそのまま茜ちゃんのお尻へ……

 「ほれ、もう1本……じっとしてるんだよ」
 そう言って一回一回脱脂綿で栓をしてから次を準備します。

 結局、100㏄が5回で500㏄。全ての石けん水が茜ちゃん
のお尻に納まると、そこで許してくれました。

 「さあ、いっといで」

 高瀬先生に送り出させて茜ちゃんがむかう先。それは昼間春花
と美里が遊んでいたあのお外のトイレ。

 茜ちゃんが縁側に出るとお母さんが障子を閉めてしまいます。
高瀬先生もお母さんも、茜ちゃんのトイレタイムまで覗こうとは
思っていませんでした。

 夕闇が迫り、周りを高い生垣に囲まれた中庭はすでに真っ暗。
内庭ですから泥棒でも入ってこない限り誰の目も届きませんが、
ここで用を足すのは、さすがに茜ちゃんにとっても辛いものが…
 でも、仕方がありませんでした。
 だって、これは大西家の昔から習慣だったのですから。

 実のお子さんもお仕置きでここへ連れてこられた伝統のトイレ。
 でも、茜ちゃんには単に恥ずかしいというだけでなく別の不安
もあったのです。
 というのも、足を踏ん張るこの板、乗るとたわんでとても大き
く揺れます。

 『いやだなあ』
 茜ちゃんはできるだけ板を振動させないようにそっと乗ります
が、それでも板は自分の体重で揺れ始めます。

 不安定な足場におっかなビックリというわけです。
 すると、人間不思議なもので、そんな足元の揺れるところでは
出そうとしても出ないんです。

 お腹はすでにだぼだぼ、パンパンにはっています。
 石けん水は効き目が穏やかなのでグリセリンのような強い刺激
や切迫感はありませんが、それでも時間の経過と共に恥ずかしさ
だけでなく苦痛も増してきます。

 『早く、おトイレしなくちゃ』

 今さら恥ずかしいなんて言ってられませんから、ここで出して
しまいたいと思うのですが……でも、いざ出そうとすると……

 「いやっ!」
 揺れ動く足元に気を取られて、止まってしまうのでした。

 『どうしよう、どうしよう』

 まるで糞詰まりチンみたいにその場をやみくもに回り始めた茜
ちゃん。本来ならこんな姿だって他人には見せたくありません。
 ところが……次の瞬間、ビックリするようなことが起こります。

 「いやあ~」
 茜ちゃんは悲鳴もろともその身体が空中に浮かび上がったので
した。

 振り返った茜ちゃんは叫びます。
 「やめて、お父さん」
 犯人はお父さんでした。

 茜ちゃんは抱かれたままの姿勢で慌てて身体をよじりますが、
その大きな腕の中にすっぽり入った身体はどうにも身動きが取れ
なくなっていたのでした。

 「何だ嫌いなのか?」

 「当たり前じゃないの!!」
 茜ちゃんは大きな声を出しますが……お父さんは動じません。

 「大きな声を出すと、部屋の中の人に聞こえるよ」
 こう言うだけだったのです。
 そして茜ちゃんの意向は聞かずにパジャマのズボンとショーツ
をずり下げます。

 「いやっ……やめて……」
 茜ちゃんが出した大声は最初の『い』の音だけ。とっさに先の
事を考えると出なくなってしまったのです。

 悲鳴をあげれば、お母さんのお部屋の障子が開いて、中にいる
大人たちがこちらを見るでしょう。パジャマのズボンとショーツ
を脱がされてお父さんに抱っこされている私を……
 それは絶対に避けなければならない。茜ちゃんはとっさにそう
判断したのでした。

 お父さんは茜ちゃんを赤ちゃんにおしっこさせるように抱いて
板の上に乗ります。

 「どうするの?」
 「どうするって、ウンチとおしっこするんだろう」
 「いやよ、こんなの」
 「嫌でも、ここしかないんだよ。それはお約束のはずだよ」
 「だって、ここ揺れるもん」

 たしかに最初はお父さんの体重で板が大きくたわみましたが、
お父さんがじっとしゃがんでいると、その揺れは次第に収まって
いき、茜ちゃんの身体も安定します。

 でも、だからって……
 「…………」
 茜ちゃんは無言です。もちろん、ウンチも我慢していました。

 すると、お父さんが……
 「早くしなさい。鞭の数を増やしたいのかね」
 と、脅かします。

 「えっ!?」
 茜ちゃんは驚きます。
 でも、だからって……
 「…………」
 茜ちゃんは決断できません。

 すると。今度は……
 「しょうのないやつだなあ」
 お父さんが左手だけで茜ちゃんの太股を支えて、右手でお腹を
揉み始めます。

 「これでどうだ」
 「いやあ、だめえ~~そんなことしないで!そんなことしたら
出ちゃうよ~~」
 悲しい声で訴えますが…でも、それだけじゃありませんでした。

 「いやあ~~~~ん」
 お父さんは、何と茜ちゃんのお尻の穴にまで指を入れたのです。

 これには、茜ちゃんもどうすることもできません。
 「やめて、やる、ウンチするから……本当にするから……もう
しないで~~」

 とうとう降参です。

 「見ないでよ!!」
 茜ちゃんは悪態をついてからお父さんのお膝の上でお尻の筋肉
を緩めます。

 「………………」
 滝のような激しい音が夜のしじまに流れます。
 それは一度浣腸が済んでいますから、出てくるのはオシッコも
ウンチもほとんどが水でした。

 こんなことって何年ぶりでしょうか。
 鼻水をすすりながら、涙を流しながら、茜ちゃんはお父さんの
お膝の上で用を足します。

 もちろんそれって、屈辱的で恥ずかしい瞬間なわけですが……
茜ちゃんは笑っていました。
 親にも、友だちにも、とにかく誰にも言えませんが、こうして
いると、自分の心が温かいのに気づきます。嬉しいさがこみ上げ
てくるのです。

 『私、変態だわ……きっと……』

 自分の笑顔を俯くことで隠しながら、茜ちゃんの心はいつしか
幼児に戻っていたのでした。

 「終わったか?」
 お父さんの野太い声がして、茜ちゃんの目の前に白いティシュ
が現れます。

 もちろん、茜ちゃんはこれが何をする為の物かはわかっていま
した。不自由な姿勢ですが、出来ない事はありません。
 ところが、茜ちゃん、この期に及んでもたもたしているのです。

 とうとう堪忍袋の緒がきれたのでしょう。
 「もういい。ここで四つん這いになるんだ」
 お父さんは芝生の上に茜ちゃんを下ろします。

 この地域では『モーモーちゃん』と言われて、まだごく幼い子
が用を足した後に親からお尻を拭いてもらう時に取る姿勢でした。

 「まったくしょがないやつだ」
 お父さんは不満そうでしたが、やってくれます。

 大きな手が自分の大切な処にティシュと一緒にやって来て荒々
しくかき回します。少し痛いです。
 でもこれ、茜ちゃん自身が望んだことだったのです。

 女の子は恥ずかしくて素直に自分の希望を伝えられないときも
好きな人から何かしらして欲しいと思っています。
 そう、口にはださなくても茜ちゃんにとってお父さんは、まだ
まだ好きな人だったのでした。


********(10)************


 御招ばれ <第1章>(11)

 用事をすませたお父さんは、茜ちゃんをお母さんや高瀬先生の
待つ部屋へと送り届けます。

 「入るよ」
 そう言って障子を開けると……

 「あら、あなた、下りてらっしゃったんですか?」
 お母さんが驚いて出てきました。

 「窓から茜の戸惑ってた姿が見えたものだから……」
 茜ちゃんの肩を抱いて立っているお父さんに、部屋の中の人は
みなびっくりです。

 「さあ、入って……もう大丈夫だから」
 お父さんは、縮こまった小さな肩をそっと押して、茜ちゃんを
そっと部屋の中に入れてあげるのでした。

 「でも、本当に大丈夫なんですか?上の二人」
 お母さんの心配は茜ちゃんではなく、春花と美里がまた降りて
こないかというものでしたが……

 「大丈夫だよ、今度は部屋を出ないように言いつけてきたから
……茜、さっきはすまなかったね」
 お父さんは茜ちゃんにも素直にお詫びを言います。
 普段のお父さんはとても優しい人でした。

 「先生、グリセリンで100㏄石けん水で500㏄ほどかけて
洗っといたが、ついでに導尿もしておくかね?」
 高瀬先生がお父さんに尋ねます。

 その瞬間、茜ちゃんの背筋が凍りますが……お父さんはその時
の茜ちゃんの顔だけで十分だったみたいで……

 「いや、そこまではしなくていいですよ。今回、それはとって
おきましょう。これから先また色々とやっかいなことができれば
使うことがあるかもしれませんから……」
 高瀬先生の提案を断ってくれたのでした。

 すると、今度はお母さんが……
 「あなた、衣装はどうしましょう?体操服でいいですか?」
 と、言ってきます。

 「そうだな、体操服でもいいけれど、お浣腸もすでに済んでる
ことだし、白のワンピでいいんじゃないか」
 お父さんが提案します。

 大西家では、お仕置きの時の衣装はお父さんが決めるしきたり
になっていました。

 「わかりました。それでは、準備ができしだい二階に上げます
から……」
 「ああ、そうしてくれ。すぐにでもかまわないよ」

 お父さんはこうして一旦その場を離れます。

 『やれ、やれ……』
 障子を閉めてほっと一息。二階の書斎に戻ろうとしたその瞬間
でした。

 「ガラガラガラ……」
 戸車のついた二階の窓が閉まる音がします。

 お父さんはとっさに『しまったあ!』と思いましたが後の祭り
でした。
 そう、今の今まで春花と美里が下の様子を見学していたに違い
ないのです。お父さんは二人に階下には下りてこないように注意
していましたが『窓を開けてはいけない』『外を見てはいけない』
とは言っていませんでした。

 「こりゃあまた茜に借りを作ってしまったか」
 お父さんはぼやきながら階段を上がります。


 「待たせたね」
 お父さんが春花と美里の待つ書斎に帰ってくると、さっそく…

 「ねえ、おじさま。茜お姉ちゃんをお仕置きしたの?」
 「ねえ、したよね。私たち窓からずっと見てたんだから……」
 「ねえ、お浣腸のお仕置きしたんでしょう」
 「ねえねえ、お姉ちゃん泣いてなかった?」
 「ばかねえ、泣いてる決まってるじゃない。赤ちゃんみたいに
してオシッコさせられたんだもん」
 「ねえ、あれが私たちに見せたいっていうお仕置きなの?」
 「ねえ、だったら言ってくれたらいいのに……」
 「ホントよ、危うく見逃すところだったんだから……」

 お父さんは部屋に入るなり二人から矢継ぎ早の質問を受けます。
 しかもこの二人の声は明るく弾んでいて、茜ちゃんのお仕置き
をまるで楽しいショーのように思っているみたいでした。

 『おや、おや、こちらさんたちときたら、まだまったくの子供
だな』
 先生は思わず苦笑い。可愛い少女二人にあるいは抱きつかれ、
あるいはその腕にぶら下がられてお父さんはモテモテでしたが、
心は晴れません。

 実際、子どもというのは恐ろしく楽天的です。大人のように、
『その災いがやがて自分にも降りかかるかもしれない…』なんて
ネガティブな考えは持ちません。今が楽しければ笑い。悲しけれ
ば泣く。目の前のことにしか興味がありませんでした。

 ですから、自分に関わりがなければ誰がお仕置きされていても
それは楽しいショーなのです。もちろん、女の子の世界では友達
甲斐に同情して泣いてくれたりもしますが、それもつきつめれば、
自分が善い人と思われたいからそうするだけで、内心は別にある
みたいです。

 二人はすでに何度かこの家に遊びに来ています。でも、二人に
とって茜ちゃんはそんなに近しい距離ではありません。
 『茜ちゃんがお仕置きされる』と聞いて、それが楽しいものに
感じられたとしても無理からぬこと。子供なら仕方のないことで
した。

 先生は、春花と美里をひき連れてソファへ向かい、そこに腰を
下ろします。
 すると、二人はすぐに先生のお膝の上に乗ってきました。

 先生が二人に頬ずりしてもお尻に手がいっても嫌がりません。
 何回かのお泊り経験で、先生は自分たちには優しい人だと学習
しているみたいでした。

 「お浣腸は、お仕置きの前にやるんだ。ここでお仕置きしてて
粗相なんかされるとせっかくの絨毯にシミがついてしまうからね」
 「でも、あれもお仕置きなんでしょう?」
 「そう、だって茜お姉ちゃん泣いてたもん」

 「見えたのかい?」
 お父さんが不思議そうに尋ねますと……
 「うん」
 春花は首を縦にしますが……

 二階から遠い暗がりのトイレを見ても、見えるのはぼんやりと
した人影だけ。お父さんが茜ちゃんを抱っこしているのは何とか
分かったとしても、お父さんがパジャマのズボンを下ろしたのさ
え、ここからでははっきりと見えませんでした。

 春花が、『お姉ちゃんが泣いていた』というのはあくまで想像
にすぎませんが、先生は咎めませんでした。
 女の子から空想の翼を取り去ることは女性を裸にするのと同じ。
紳士たるもの、そんな無粋なことをしてはならないと考えていた
のです。
 先生は春花の嘘を微笑みの中に封印します。

 「ねえ、お姉ちゃんのお仕置きって、どうするの?」
 「どうって、鞭でぶつんだよ。君たちはずっとよい子だったから
そんなことは一度もなかったかい?」

 「んんんん」
 「んんんん」
 二人は首を横にします。

 「うちは四年生から鞭なの。それまでは平手だけだったけど…」
 「院長先生のはもの凄く痛くて、ほかの先生に抑えられながら
やるの」
 「みんな悲鳴あげるもん」

 「そうか、院長先生って恐いんだ」
 お父さんがこう言うと意外な答えが帰ってきました。

 「そんなことないよ。やさしいよ。私、好きだもん」
 「そう、いつもはとっても優しいの。規則を破ったり怠けたり
すると恐いけど……その時だけ」
 子どもたちの話は、信頼している、愛されてるからこそ、その
範囲内ではぶっても虐待ではなくお仕置きという事のようでした。

 「ねえ、お姉ちゃん、いくつぶたれるの?」
 「さあ、いくつになるかなあ。……いくつになるかは茜しだい
だな」

 「どういうこと?」
 「うちでは鞭の数を最初に決めないんだよ。『この子反省して
るな』ってわかるまで続けるんだ」

 「じゃあ、反省しないと、ずっとぶたれるの?」
 「ま、それはそうだけど、いつまでもじゃないさ」
 「どうして?」
 「だって、親の鞭で反省できない子なんて誰もいないもの……
そんないい加減な教育や躾はうちでもしていないからね。だから
みんな立派に育つんだ」

 お父さんが自信たっぷりに話すと、二人はさっそく耳元でコソ
コソ話。
 「ねえ、恐いね」
 「ホント」
 「私たちここの子じゃなくてよかったね」
 「うん」
 それは先生の耳にも届いていましたが笑っていました。

 「ねえ、おじさま。……今ここにはいないけど、おじさまには
お医者様になった二人のお兄ちゃんがいるって、明子さんが言っ
てたけど、ホント?」

 「ああ、ホントだよ。彼らだって僕からたくさん鞭を受けた。
二人とも男の子だったからね、茜より多かったんだよ。だけど、
それで恨むようなことはなかったんだ。茜を施設から引き取る時
だって……『私はお前たちに知識や知恵や常識は授けた。それが
親の責任だからだ。しかし、私の財産はあてにするな。「児孫の
為に美田を買わず」という言葉があるように、男ならそうした物
は自分の力で作り出すものだからだ』って言ってやったんだよ。
僕はね、自分の子どもに残す財産があるなら、一人でも二人でも
血縁を頼れない子を世に送り出したいんだよ」

 先生は幼い二人にはとうてい理解できないことをポロリ。
 思わず、本音がでてしまったのでした。


 そうこうしているうちにドアがノックされます。
 もちろんやって来たのは茜ちゃんでした。

 「そうだ、君たちはそっちのソファに座って見てて欲しいんだ。
見てるのが辛いような事が起こるかもしれないけど、できるだけ
声を出さないようにしてね。君たちには決して何もしないから…」

 先生は春花と美里に小声で指示を出すと、おもむろにノックに
返事を返します。

 「誰だい?」
 とはお父さんの声。
 「茜です。お呼びでしょうか?」
 と、茜ちゃんの声は少し緊張しているみたいでした。

 「お入りなさい」

 お父さんの声に厚い木製扉が開く音がします。これからがいよ
いよ本番でした。


********(11)***************

*******<第2回はここまで>**********

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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