2ntブログ

Entries

小暮男爵 <第一章> §14 / お仕置き部屋への侵入

小暮男爵 / 第一章

<<目次>>
§1  旅立ち         * §11 二人のお仕置き②
§2  お仕置き誓約書   * §12 ランチタイムの話題
§3  赤ちゃん卒業?   * §13 お父様の来校
§4  勉強椅子       * §14 お仕置き部屋への侵入
§5  朝のお浣腸      * §15 お股へのお灸
§6  朝の出来事      * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7  登校          * §17 明君のお仕置き
§8  桃源郷にて      * §18 天使たちのドッヂボール
§9  桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き


**<< §14 >>**/お仕置き部屋への侵入/**

 私は、当初下り階段に足を踏み入れる勇気がわきませんでした。
ここは私たち子供にとっては怖い場所でもありますからね、もし
これが一年前だったら、そのまま踵を返してお昼休みは友だちと
遊んでいたと思います。
 でも、この時は妙に遥お姉様のことが気になっていました。

 『遥お姉様が心配だもん。ちょっとだけ覗いてみうよ』
 最初、私の心の奥底から聞こえてきたのは天使の声でした。

 「お姉ちゃ~~ん。遥お姉ちゃん、いる~~」
 姉思いの優しい眼差し。妹の声が闇の奥で響きます。

 でも反応がありません。そこで、もう一度声を掛けようとした
その時です……
 『あなた、何考えてるのよ。お父様に見つかったらお仕置きよ。
バカなことはやめて引き返しなさいよ』
 理性の声が私を引きとめます。

 『そりゃそうね。バカなことはしない方がいいに決まってるわ』
 私は理性の声に従います。

 ところが、理性の声にいったんは納得したにも関わらず、私は
その深い闇を見つめて帰ろうとしませんでした。地下への階段を
見つめたまま動きませんでした。

 そうこうするうち闇の奥から次なる声が聞こえてきます。
 悪魔の囁く声です。

 『さあ下りておいでよ。遥お姉ちゃんの悲鳴が聞こえるかもよ。
何時も虐められてるお姉ちゃんの悲鳴って、聞いてみたいよね。
わくわくするわよね』
 
 それが背徳的な思いなのは小学生の私にも分かります。
 もし、お父様に見つかったら、私も同じお部屋に連れ込まれて
一緒にお仕置きなんてこともありえます。それも分かっています。

 『何やってるのよ!!その場から離れなさいよ!!お父様から
お仕置きされても知らないよ!』
 理性が私を必死に押しとどめますが……
 今度は理性が誘惑に負けてしまいました。

 いつの間にか私は暗い階段を下り始めていたのです。
 何の事はありません。結局私って子は、愛より理性、理性より
誘惑に弱い子だったのでした。


 暗い階段をゆっくりゆっくり下りきると、がらんとした空間に
薄暗い明かりが一つ。照明はありますが、スイッチを入れると、
誰かが来たと奥にいる人に分かってしまいますから、思いとどま
ってしまいました。

 やっと物の形がわかる程度の明るさだけを頼りに奥へと進むと、
地上とは明らかに違う空気感がこの場を支配しています。
 ひんやりした風が背筋を通り抜け、それに追われるようにして
さらに歩みを進めると目の前に防音耐火の大扉があって私を威嚇
します。

 『ここから出て行け!』
 『中に入ってこい!』
 このまったく違う二つの声が聞こえます。
 この鉄の大扉は私の最後の決心を待っているみたいでした。

 『そうよね、もしお姉様をお仕置きだったら、これが開いてる
はずないわよね』

 実は、床から天井までを覆いつくすこの大扉自体が開けられる
事は滅多にありませんが、普段、人が出入りする為に大扉の一部
に小さな扉が設置してあります。
 私はそこを押してみることにしました。
 すると……

 『開いてるわ。こいつ、お仕置きが始まっちゃうと閉められる
って聞いてたけど……でも、これだったら大丈夫よね……大丈夫、
大丈夫、本当に大丈夫よね……』
 私は自分の小さな胸に『大丈夫』『大丈夫』を何度も問いかけ、
慎重に慎重に小さな扉の先を窺います。
 まるで、探偵か泥棒さんの気分です。

 『ふぅ、やったあ~~~』
 やったことは小さな扉をくぐっただけ。でも、大冒険でした。

 すると、この先には廊下に並んだ七つの部屋が見えます。
 手前六つは六家のプライベートルーム。もちろん小暮家の部屋
もその並びの中にあって『小暮』のプレートが掛かっていますが、
人の気配はしません。

 もし、そこに誰かいれば、ドアに耳を着けることで分かります。
でも、そこに人のいる気配はしませんでした。

 今、人の気配がするのは一番奥にある大広間の部屋だけ。その
奥のからは複数の人の話し声がします。

 『やっぱりね、多分そうじゃないかと思ったのよ。来た甲斐が
あったわ。きっと六年生の子全員、お昼休みを利用してお父様方
にここへ呼ばれたのよ』
 私は胸を高鳴らせ、足音をしのばせて廊下をさらに奥へ奥へと
進むことにしました。

 実はここにある七つの部屋のうち手前の六つの部屋は各家専用
の個室。ドアには、お父様方のお名前『小暮』『進藤』『真鍋』
『太田』『佐々木』『中条』といったプレートが張ってあります。
 でも一番奥にある七つ目の部屋だけは違っていました。

 ここは普段お父様方の寄り合い所(サロン)みたいな使われ方
をしている場所で、基本的に子供たちも出入りが自由です。
 実際、放課後の習い事というのはここで行われていますから、
今が放課後なら問題ありません。私がコソコソ入ってくる必要も
ないわけです。
 ただ、習い事というのは昼休みに行われることはありません。

 お父様がお昼休みにお姉様をここに呼んだ。
 それが問題なのでした。

 そこは30畳ほどの広さがある大広間。

 間仕切りはありませんが、その一部は一段高くなった畳敷きの
舞台になっていて、お茶、お花、日舞、などの習い事はこの舞台
の上で先生とお稽古します。
 そんな様子をお父様方も一段低い板張りの床にソファやデッキ
チェアなどを持ち込んで参観なさいます。

 ですから、その限りでは何の問題もないのですが、この畳敷き
の舞台、行われるのはお稽古だけではありませんでした。
 その畳の上、実は子どもたちがお仕置きを受ける場にもなって
いたのです。

 もし問題が個人だけ、あるいは一つの家の中だけで収まるよう
ならお父様たちは個室を使いますが、なかに複数の家の子が同じ
問題を起こした場合などは、この大広間が使われるようでした。

 今回は、まさにそんなケースだったのです。

 私は、最初、大広間の扉に耳を押しつけて中の様子を探ろうと
しましたが、防音装置が施されているために音は聞こえても何を
言っているのかまでわかりません。

 思い切ってドアを開けてみようとしましたが、これも施錠され
ていて果たせませんでした。
 そこで、今度はこの部屋に隣接する隣りの部屋の扉をそうっと
押してみると、こちらは開きますから……。

 『やったあ~~ラッキー』
 私は心の中で叫びます。

 実はこの部屋、映写室でした。大きな映写機の脇でこっそりと
小さい窓を覗くと隣の部屋の様子が手に取るようにわかります。
正直、私としては願ったり叶ったり。特等席をゲットできたので
した。


 お父様たちはたんにお金持ちというだけでなく仕事をリタイヤ
していますから、そもそも世間のお父さんたちのように忙しくは
ありません。ただ、そのぶん子どもたちの生活についても細かな
処までもが気になるみたいで、家庭教師、学校の先生を問わず、
我が子に関するありとあらゆる情報を求めていました。

 そこで学校側もそんなお父様方の要望を答えて、私たちの成長
記録を最大限フィルムに収めるようにしていました。ここには、
その報告フィルムを上映するための映写機が置かれていたのです。
 (こんなこと今なら当然ビデオでしょうが、当時はそんなもの
ありませんから記録は全て映画として撮られていました)

 カメラは学校のいたるところで回されていました。
 勉強の様子だけじゃありません。食堂の風景、休み時間の遊び、
おしゃべり……先生に暇があればという条件付ですが、至る所で
撮影会だったのです。

 特定のカメラマンがいるわけではありません。手の空いた先生
がカメラをまわして私たちがいつも被写体になっていたのは承知
していましたが、それを特段意識した事もありませんでした。

 最初は物珍しさから「何やってるの?」と説明を求めますが、
そのうちそれは学校の備品の一つとなって、たとえカメラが回っ
ていても注意を払わなくなります。
 そうですねえ、カメラって胤子先生の胸像と同じくらいの意識
でしょうか。

 ただ、お仕置きの様子だけは意識します。
 これは後日の証拠とするため、先生方もけっこう克明に記録に
残すのです。裸のお尻はもちろん、おへその下の割れ目やお股の
中まで……こんな時、カメラに遠慮はありませんでした。

 しかも悪さが続くと、お父様からここへ呼び出されて、自分が
受けたそんな恥ずかしいお仕置きの数々を見せられます。

 そんなお仕置きされてる映画だなんて、そりゃあ子どもだって
恥ずかしいですから、それからしばらくはカメラが回っていると
意識しますが、これまた子どものことですから、そのうち忘れて、
いつの日かまた恥ずかしいフィルムを見せられることになるので
した。

 でも、今回はどうやらそれも違うみたいでした。この映写室に
人はいませんし、その準備をしている様子もありません。

 小窓から覗いてみると……
 六年生全員(といっても、ご案内のように六人です)が畳敷き
になった舞台の上で正座させられていました。

 その様子を見ているのは、うちのお父様をはじめ、この学校を
買い取った六人のお父様たち。こちらは板張りの床にお気に入り
の籐椅子を並べて座ってらっしゃいます。

 こちらからですとお父様方の顔は分かりませんが、向かい合う
形の子どもたちの顔はよく見えます。
 どの子も『まずいことになったなあ』という顔ばかりでした。

 私の家もそうですが、ここにいるお父様方というのは、功なり
名を遂げた末に老後の楽しみとして施設から私たちを引き取った
紳士淑女の方々ばかりです。
 ですから、普段の生活では、子どもから嫌われるような虐待や
お仕置きのたぐいは極力なさいません。
 そうしたことは家庭教師や学校の先生にお任せして、ご自分は
小鳥たちが肩にもたれたり膝に乗ってくるのをじっと待っておい
でだったのです。

 ただ、そんな好好爺然としたお父様も24時間365日決して
子供たちを叱ることがないのかというと、そこはそうではありま
せんでした。
 年に一度か二度、お転婆さんには三度くらいでしょうか、子供
たちの頭上に雷が落ちます。

 運が良いのか悪いのか、私が覗いたその日はそんなたまたまの
一日でした。

 「遥、なぜお前がここに呼ばれたか分かるか?」
 小暮のお父様が、その低い声で居並ぶ六人の子供たちを前に、
いきなり遥お姉様を指名します。

 それは私の名前ではありませんが、お父様の声に私の心臓も、
バックンバックンです。ろくにぶたれたことがなくてもお父様は
お父様。そのリンカーンみたいな風貌で見つめられると、子ども
たちはそれだけで身が引きしまる思いがするのでした。

 「………………」
 少し長い沈黙。

 お姉様はお父様の質問に答えられませんでしたが、その胸の内
をお父様が代弁します。

 「その顔だと…お前は『今回の飛び降り事件に参加してない。
先生から罰も受けてない。だから、私は悪くない』そう言いたい
みたいだな」

 「…………」
 お姉様の顔が思わず上がりました。

 「だけど、お父さんたちの考えは違うんだ。これは四時間目に
罰を受けなかったメグ(愛子)ちゃんや留美ちゃんのお父さんも
一緒の考えだから、二人も私の話を一緒に聞きなさい」

 「はい、おじさま」
 「わかりましたおじさま」
 二人は神妙な顔でお父様に答えます。

 『お父様、きついお仕置きをなさるつもりだわ』
 私は思いつきます。

 女の子は人の心の動きに敏感です。幼い頃ならともかく、もう
このくらいの歳になると大人たちが自分たちをどうしようとして
いるか、おおよそ察しがつきます。

 頭に思い描くお姉さま方の未来は辛い現実でしたが、子どもは
親がやると決めたらそれを受け入れるほかありません。この場合
も、『何か抗弁すれば、ごめんなさいをすれば許してもらえる』
とは期待できそうにありませんでした。

 「まず、私たちが嫌だったのは、お友だちが自習時間に騒いで
いるのにおまえたちがそれを止めなかったことだ。…悪さをして
いるお友だちをおまえたちは一度でも注意したかね?」

 「………………」

 「してないよね」

 「………………」
 お姉様は頷きます。それが精一杯でした。お父様の迫力に押さ
れて声が出ないのです。

 私より一つ年上と言っても、遥お姉様はまだ小学生。お父様の
ただならない気配を感じ取れば、もうそれだけでシュンとなって
しまいます。

 いえ、遥お姉様だけじゃありません。そこに居並ぶ六年生の子
全員が、この時はすでにしょげていました。

 実はこの学校の生徒は全員がお父様たちによって施設から連れ
てこられた子どもたちばかり。しかも親が知れている子は一人も
いません。あとからトラブルになるのを防ぐため、天涯孤独な子
以外、引き取らなかったのでした。
 つまり、養父のお父様はそれぞれに違っていても、天涯孤独な
身の上ということでは皆同じ立場だったのです。

 「いいかい、お前たちはそれぞれに育てていただいてるお父様
が違ってもみんな同じ境遇の兄弟なんだから、仲良くしなきゃ。
助け合わなきゃいけないんだ。自分だけ勉強や運動ができれば、
それでいいんじゃない。むしろ抜け駆けするような子はここでは
許さない。仲良くできない子は許さない。わがままな子は施設に
戻ってもらう。そう約束したよね」

 「はい…」
 「はい、お父様」
 「…約束しました」
 三人は小さな声で答えます。

 「今度の事、仲良しのすることなのかな?ほかの子が悪さして
いるさなか、自分たちだけはちゃんと自習してましたって、栗山
先生に報告したそうじゃないか。……それって、本当に良い事を
したって言えるの?」

 「えっ……」
 三人は戸惑います。
 だって、この遊びを始めたのは他の三人で、私たちは関係あり
ません。この三人が教室の窓からの飛び降りゲームを始めた頃は
たしかに自分たちは真面目に自習していましたから、先生に嘘も
ついていません。ですからそれで十分だとお姉さまたちは思って
いたみたいでした。
 『自分たちはこの悪戯の首謀者じゃない』というわけです。

 私の子供時代、戦争はすでに終わっていました。教育はすでに
個人主義で動いていましたからこんな主張も先生を前にしてなら
受け入れられたと思います。先生方は戦後がどのように変わった
かをよくご存知でしたから。
 でも、戦前の教育をしっかり受けてこられたお父様方をこれで
満足させることはできませんでした。

 もし、クラスの誰かが悪さをしたら他の子はそれを止めるのが
当たり前。そんな努力もしないで『自分は悪くない』という主張
は認められない。お父様たちはそう考えておいででした。
 うちの場合、仲良しというのは連帯責任でもあるのです。

 「河合先生の報告によると『遥が真面目に自習してたのは最初
の頃だけで、教室が騒がしくなるとすぐに席を離れてお友だちの
飛び降りる様子を見物してた。最後は、笑顔で拍手したりして、
とても楽しそうに見えた』とあるけど……これは河合先生が私に
嘘をついてるのかな?」
 お父様は河合先生からの報告書を眺めながら再度質問します。

 「………………」
 答えは返ってきませんでした。

 実は家庭教師の先生方は父兄席に陣取って授業を見学はします
が授業に口は出しません。こうした自習の時間でもそれは同じで、
子供たちがよほど危険な遊びでも始めない限り(今回はそれほど
危険と判断しなかったのでしょう)授業に口を出すことはありま
せんでした。

 「…………それは………だって、私が始めたわけじゃあ……」
 遥お姉様はそれだけ言うとあとは言葉になりませんでした。

 「確かにそうだ。やり始めたのは遥じゃない。でも、お友だち
の飛び降りを見学するだけでも私たちからすると参加してた事に
かわりはないんだよ。だってその間は座席を離れ窓から身を乗り
出して友だちが飛び降りるのを見てたわけだし、『私は真面目に
自習してました』なんて栗山先生に言ってはいけないだろうね。
それって嘘をついた事になるもの」

 「…………」

 「お友だちが悪さをしていると思ったのなら、そのお友だちを
止めてあげなきゃ。それが無理でも先生に御報告に行かなきゃ。
遥はどっちもしてないだろう?それって仲良しのお友だちにする
ことなのかな。遥のやってることはお父さん達の目には自分一人
抜け駆けしていい子に見られようとしている自分勝手な行動……
そんな風にしか映らないんだけどなあ」

 「……そんなこと言ったって…わたし、飛んでないし……」
 絞り出すようなお姉さまの声が聞こえました。

 「これが一般の学校なら、お友だちと言っても所詮他人だし、
それでいいのかもしれない。なにせ、今は個人主義の時代だから。
でも、お父さんたちは、ここにいる子どもたちには全員が本当の
兄弟のようになってほしいと思ってるんだ。……なぜだかわかる
かい?」

 「……」
 遥お姉様は首を振ります。

 「残念だけど、君たちには本当のお父さんやお母さんがいない。
ということは、帰る家だってないってことなんだ。……だろう?」

 「えっ、……だって、それは、お父様が……」
 驚いたお姉様が上目遣いにつぶやきます。

 「私のことかい?ありがとう。もちろん私が生きているうちは
おまえたちをずっと愛し続けるよ。でも、私ももう若くはない。
君たちが成人するまで生きてるかどうかさえ知れないじゃないか」

 「そんなこと……」

 「それから先はどうするね。……今住んでいる家は私が死ねば
すぐに人手に渡るだろうから君たちが住むことはできないんだよ」

 「えっ?」
 お姉様はきょとんとした顔になります。
 子供にとって誰かが死ぬなんてこと頭の片隅にもありませんで
した。私だってそれは同じです。お父様というのは未来永劫私達
を守り続けてくれる人だと信じていましたから。

 「もちろん、それでも人生が順調なら、帰る家なんてなくても
問題ないだろうね。……だけど、人間良いときばかりじゃない。
もし、家庭や仕事がうまくいかなかったら、その時はどうするね?」

 「どうするって……」

 「その立場にならないと分からないだろうけど、帰る家がない
って、とっても辛いことなんだよ。だから、君たちが社会に出た
あと、もし人生につまづいても路頭に迷わないように、私たちは
この学校を作ったんだ。だから、ここには他の境遇で育った子は
一人も入れてない。ここは同じ境遇同じ価値観で育った子だけの
学校にしてある。ここは学校であると同時に君たちにとってここ
が故郷となるようにあえてそうしたんだ」

 「ふるさと?」

 「そう、この学校が君たちのふるさとだ。だから、もし辛い事
があったら、ここに帰ってしばらく休んでいけばいい。ここには
長期滞在できるゲストハウスもあるから、臨時教員になって得意
分野の授業をしたり、可愛い後輩たちを抱いてあげてお尻をピシ
ピシ叩いてやればいいんだよ。今はまだお尻を叩かれる側の君達
だって、やがては後輩たちのためにお尻を叩く日がくるんだから」

 「…………」
 その瞬間、お姉様の頬がわずかに緩んだように見えました。

 「私たちが口をすっぱくして『みんな仲良く』『みんな仲良く』
って言い続けるのは、単に一緒に何かしましたとか、褒められま
しただけじゃなくて、叱られた事も、お友だちみんなで共有して
欲しいんだ」

 「叱られたことも?…………」

 「そう、叱られたこともだ」
 お父様はお姉様の狐につままれたような顔を見て笑います。

 「一緒に悪さをして一緒にお仕置きを受けて欲しい。お仕置き
はご褒美じゃないけど、同じ罰を受けた思い出として大人になれ
ば笑って話せるし、何よりそれで兄弟の絆も強まるから無駄には
ならないんだ。一番いけないのはね、『他の子が悪さしてるのに、
自分だけ知らんぷりしてるって事』みんなが助け合い愛し合って
暮らしてるこの場所でそんな薄情なことしかできないようなら、
君たちが人生最初に拾われた施設に帰ってもらうかもしれない」

 「…………」
 お姉様はお父様の言葉に思わずのけぞります。

 実は、お父様の言う『施設へ帰れ』という言葉は、幼い頃から
お父様たちに大事にされてきた私たちにとっては究極の威し文句
でした。
 私達には南極大陸で捨てられるくらいのショックだったんです。

 そもそも私たちは物心つく前にここへ来て生活を始めています
から誰の頭の中にも施設時代の思い出なんか存在しないのです。
 そんな未知の場所へ戻るなんて、たとえこの先厳しいお仕置き
が待っていたとしてもありえない決断でした。

 ですから……
 「ごめんなさい、お父様、遥は悪い子でした。どんなお仕置き
も受けます。いい子になります」
 遥お姉様はあっさり降参します。畳敷きの舞台を下りてお父様
の足元ににじり寄り両手を胸の前に組んで懺悔します。

 愛情深い両親に育てられた人からすれば、こんなこと、お芝居
がかって見えるかもしれません。でも絶対的な後ろ盾を持たない
私たちにしてみると、それは仕方がありませんでした。

 残り二人も事情は同じです。二人は、自分たちのお父様の前で
懺悔します。
 施設に戻されたくないという思いは、ここでは誰の胸の中にも
共通して存在していたからでした。

 ただ、これでハッピーエンドではありません。

 「わかった、ならば今日はお前たちのお股にお灸をすえること
にしよう。そうすれば、これから先も今の話が実感できるだろう
から……」

 「!!!」
 「!!!」
 「!!!」
 お父様の一言に、三人のお姉様方の顔色が青くなります。
 お姉様方の顔から血の気が引いく様子がこんなに離れていても
はっきりとわかりましたから、それは相当なショックだったんだ
と思います。

 確かに懺悔はしました。お仕置きも受けます。
 でも、まさか、お股にお灸だなんて……
 三人ともそんなことまでは考えていなかったみたいでした。

 そしてそれは実際に悪さをしていた残り三人にも当然のように
飛び火します。

 「他の三人も同じだよ。今日は、六人に同じお仕置きを受けて
もらうからね。六人まとめてお股にお灸のお仕置き。わかったね」

 お父様の宣言にも子供たちは誰一人反応しませんでした。
 「………………」

 「ご返事は!」
 お父様の野太い声が広間一杯に響き渡ります。

 「はい、ごめんなさい」
 「はい、お願いします」
 「お灸、受けます」
 揃いもそろってイヤイヤながらがはっきりわかるご返事だった
のですが、さすがにお父様方もそれを責めたりはなさいませんで
した。

 今から見ると随分乱暴なお仕置きのような気もしますが、当時
それは一般家庭でもまったく例のないことではありませんでした。
 (もちろん極めてレアなケースではありますが……)

 いずれにしても、お父様たちの願いは、子どもたち全員が同じ
お仕置きを受けることで単なるクラスメイトではない運命共同体
みたいな意識を持ってくれること。これからも弱い立場の子同士、
しっかりスクラムを組んで生きていって欲しいということでした。

***********<14>************

小暮男爵 <第一章> §15 / お股へのお灸

小暮男爵 / 第一章

***<< §15 >>****/お股へのお灸/***

 『お股にお灸ですって~ひど~い、残酷すぎるよ』
 私は思いました。

 いえ、私が思ったぐらいですから、当事者はもっとショックな
はずです。

 特に瑞穂お姉様は、慌てて舞台を下りると進藤のお父様の目の
前までやってきて訴えます。
 「ひどいよ。だって、私、もう先生からお尻叩かれてるのよ。
もう、お仕置き済んでるのに……」

 でも……
 「だめだ。これはお父さんたちみんなで話し合って決めたこと
だからね、可愛いお前の頼みでも変更はできないんだ」

 「そんなの勝手に決めないでよ。私お嫁に行けなくなっちゃう
でしょう」

 「大仰だなあ。もう、お嫁入りの心配してるのかい?」

 「もうって……私だって女の子よ。傷物にされたら大変だもん」

 「傷物かあ。傷物はよかったなあ。そんな言葉、どこで覚えた
んだい?」

 「どこって……」

 「(ははは)お仕置きでそんな深刻な傷を作ったりはしないよ。
そもそも、お父さんがお前がお嫁にいけなくなるようなひどい事
すると思うのかい?そんなにお父さんは信用できない?」

 「え~~~だってえ~~お灸って痕が残るじゃない」

 「そりゃあ、多少はね。……でも目立つほどの痕じゃないし…
…それに、そんな場所、誰も覗かないじゃないか」

 「だって、お父さんは私の……覗くじゃない」

 瑞穂お姉様は両手でお父様の襟を掴みながら必死に食い下がり
ます。でも最後はお父様に懇願しているというより私にはどっか
甘えているようにも見えました。

 「だって私は君の親だもの、君が一人前になるまでは君の全て
を知っておかないいけないからさ。それに、これはお前たちだけ
の特別なお仕置きじゃないんだ。紫苑も美香も、そのまたずっと
先の先輩たちもみんなみんな一度はお股の中にお灸を据えられて
卒業してるんだよ。言ってみればここの伝統みたいなものなのさ」

 「うそよ……何なの、その伝統って……そんな野蛮な伝統って
うちにあったの?」
 瑞穂お姉様はそう言って絶句します。

 でも、私はそれが意外だったので……
 「うそ、瑞穂お姉様、お股のお灸のこと知らないんだ。そんなの
みんな知ってるよ」
 思わずつぶやいてしまいました。

 実は私のお家では、この恥ずかしいお仕置きはそんなに珍しい
ものではありません。
 何を隠そう普段お仕置きに縁のなかった私でさえ、これだけは
一足早く体験済みでしたから。

 あれは四年生の終わり、春休みで宿題もないから毎日が日曜日。
遥お姉ちゃんとわけもなく家中を走り回ってたら、廊下に飾って
あった大きな花瓶を割っちゃって……

 お父様がもの凄い剣幕、
『お前たち、勉強もしないで何を浮かれてるからだ!!』って、
廊下で正座してお説教されたあと、仏間に引っ張って行かれて、
二人並べて素っ裸。

 お手伝いに来た河合先生に泣いてとりなしを頼んだんだけど、
結局ダメで、二人とも仰向けに寝かされると、両足を高く上げる
あの恥ずかしいポーズのまま、河合先生に体を押さえつけられて、
女の子の一番恥ずかしい処を大人たちに全~部見られながら……
 「ひぃ~~~」って感じでお灸を据えられたことがあったの。

 だから遥お姉様だって当然これはもう経験済みだと思ったのよ。

 あの時は信じられないくらい恥ずかったし死ぬほど怖かったし
で二人共頭はパニック状態。気が狂ったみたいに泣き叫んだから、
その時の様子は家中の人がみんな知ってるわ。

 小百合お姉様や楓お姉様は……
 『こんなことぐらいでどうして?……ひょっとしてあんたたち、
何か他にやらかしたんでしょう?』
 って同情してくれたけど、あの時期はお父様と一緒にやってた
お勉強は逃げだしてばかりだし、逆に悪さは毎日のようにやって
たから、お仕置きは花瓶だけの問題だけじゃなかったみたいなの。

 そう言えば、あの時はパニくっていたのでお灸がもの凄く熱く
感じたけど、その後随分たってからお灸の痕を確認してみたら、
どうにもなってなかったわ。

 えっ、どうして?すぐに確認しなかったのか?

 もし酷いことになっていたら、私はお父様を恨んでしまいそう
で、それが怖かったのです。
 でも、後で河合先生に聴いたら、お父様、お線香の頭をほんの
ちょっと着けただけで、実際に艾を乗せてお灸をすえてないって
言われました。どうやら始めから脅かしだけのつもりみたいです。

 えっ、それでその後、お父様とはどうなったか?……

 別にどうにもなりませんよ。今までの生活と何一つ変わりあり
ません。

 お父様を見つけると、いつも抱っこをおねだりして背中に抱き
つきますし、何かと我儘言ってはお父様を困らせます。
 私はそんなお父様の困ったお顔を見るのが大好きでしたから。

 私の場合は、お股にお灸を据えられた前も後も甘えん坊さんで
悪い子だったんです。それに何より実年齢以上に赤ちゃんでした。

 たまに河合先生が忙しくて、お父様が私をお風呂に入れること
があるのですが、そんな時はお風呂場で裸ん坊さんのままタオル
ケットに包まれて、お姫様抱っこで書斎のソファにベッドイン。
包まれたタオルケットで汗を拭いてもらい、全身をマッサージ。
ほっぺやお乳にも乳液をスリスリしてもらったら、最後は下着を
着けずにパジャマを着てお父様のお膝で一緒に夜のお勉強開始。
 これがごく一般的なスケジュールでした。

 お姉様たちからは「お父様に甘えすぎ」って言われていたけど、
そもそもお父様がその習慣を変えようとなさらないし私も変えて
もらいたいなんて思わなかったから大きくなってもずっと続いて
いたんです。

 ベッドでお股を広げていても相手がお父様ならあえて隠すなん
てことはしなかったの。大胆でしょう。
 だって、お父様からならお仕置き以外何をされても楽しいんだ
もの。『楽しいことしてえ~~』って感じで大の字だったわ。
 お灸のお仕置きの時はあんなに騒いだのに、終わったら、もう
その日からケロッとしてたんだから。

 それに、これはその後本当にお灸を据えられて感じたんだけど、
お灸の痕ってつまりは火傷の痕なわけだから、しばらくは歩くと
そこが微妙に摺れて『あっ、ここ、ここに据えられたんだ』って
わかるのよ。でも、私にとってそれは傷じゃなかった。それって
私の体をお父様がつねに見守ってくれてるみたいで、逆に嬉しか
ったの。

こんな言葉、子供の私が使っちゃいけないかもしれないけど、
お股へのお灸って、お父様に手込めにされた気分なのよ。
 据えられた時はたしかに死ぬ思いだったけど、終わってみると、
お父様の愛を自分だけが独り占めできたような、そんな不思議な
高揚感が残ったわ。

 これを正直にお父様に話したら……
 「『手込め』ねえ……」
 最初は複雑な表情だったけど、そのうち……
 「……でも、そうかも知れないな。……だったら最後まで面倒
みてあげなきゃね」
 私の頭を撫でていつものように抱っこ。

 そして……
 「いずれにしても嬉しいよ。お前のことだから、こんな厳しい
お仕置きもきっと受け入れてくれるだろうと思ってはいたけど、
ちょっぴり心配もしてたんだ。お前がネガティブになっていない
なら、それが何よりだ」
 お父様、そう言うと突然お顔がほころんで……
 「ほ~~~ら、お父さんだよ~~~」

 よっぽど嬉しかったんでしょうね、お父様は私を目よりも高く
持ち上げると、何度も何度も頬ずりして、なかなか床に下ろして
くれませんでした。

 「でも、熱かったよ!ホントに据えるんだもん」
 私はお父様のご機嫌が直ってから、あらためて愚痴を言います。

 これは私に限らないと思いますが、愛されて育った子どもって、
厳しいお仕置きを言い渡されても『今は怒ってるけど、そのうち
許してくれるんじゃないかしら』って、心ひそかに期待している
ものなんです。
 それが最後までいっちゃったものだから、そこが私にとっての
不満でした。

 この時のお姉様たちも、端から見える暗い表情ほどには深刻に
考えてじゃなかったかもしれません。
 ただ、お姉様たちの様子が心配になりますから、私はその後も
目を皿のようにして隣の部屋の様子を窺っていました。

 すると、お父様たちどうやら今回は本気みたいで、お仕置きの
衣装である体操服をご自身で娘に着せ始めます。

 すると……
 「あっ、ずるい!私の時は素っ裸だったのよ!素っ裸にしろ!」
 またしてもつまらない独り言。女の子って妙なところに意固地
なんです。特に扱いが平等でないと怒ります。

 私は心の奥底から湧き起こる怒りで思わず目の前のガラス窓を
叩いてしまいました。

 が……
 その後の手順は私の時と同じでした。

 天井の蛍光灯が消され、部屋は一時的に真っ暗。
 すぐにお父様たちが手分けして部屋のあちこちに置かれた蜀台
の百目蝋燭に火をつけて回りますから、人の顔が判別できる程度
にはなりますが、揺らめく炎の明かりは電気の明かりと比べれば
はるかに暗くて子供たちには不気味で怖いものです。

 この舞台設定だけでも幼い子供たちには十分お仕置きでした。

 そんな時代劇のセットのような中で、まず、お父様とその娘が
畳敷きの舞台で、お互い正座して向き合います。

 すると、娘が両手を畳に着けてご挨拶。
 「お父様、お仕置きお願いします」

 なかなか子どもの側から言いにくい言葉ですが、言わなければ
お仕置きは始まりません。始まらなければ終わらないわけで……
この言葉は絶対に言わなければならない言葉でした。

 ご挨拶が終わると、その場で仰向けに寝かされて、お父様から
せっかく着せてもらったブルマーとショーツを剥ぎ取られます。

 その瞬間、大切な谷間が現れ、やがて両足も持ち上げられます。
 女の子だからここで悲鳴の一つも上げたいところですが、そこ
はぐっと我慢します。私たちの世界では追加の罰を受けないため
にもお仕置きの間は極力声を出してはいけませんでした。

 各家々の家庭教師が、仰向けになったお姉様方の両肩を両膝で
踏んで押さえ、高く上がった両足の太股をしっかりと鷲づかみに
して支えます。

 女の子にとってはこれ以上ないほど惨めで、恥ずかしいポーズ
です。私も同じ姿勢になりましたけど、お股の中をスースー風が
通って屈辱的というか、風邪をひきそうでした。

 ただ、こうしたお姉様たちの痴態を眺めていても、私には何の
興味も湧きませんでした。
 だって、女の子にしてみたらあんなグロテスクでばっちいもの、
鑑賞する対象じゃありませんから。

 ただ、明君に視線が移ると、それは別でした。
 『見ちゃいけない』と思いつつも男の子のアレには視線がいっ
ちゃいます。

 『へえ~、男の子のって、あんな感じなんだ。真ん中にまるで
縫ったみたいに筋が入ってる』
 声には出さないけど滅多に見られない映像に私の心は興奮状態。
いつしか小さなガラス窓にへばりついて明君のアソコを食い入る
ように見つめていました。

 すると明君……
 突然、大胆にも私に向かってピースサインを送ります。
 どうやら、私と目が合ったみたいでした。

 男の子って、恥ずかしいって言葉を知らないんでしょうか?
 女の子なら絶対にしないと思います。

 「?」
 それに気づいた明君のお母様がこちらを振り返ります。

 さらに、つられる様にして他のお父様たちもこちらを振り返り
ましたから……

 『あっ!!ヤバイ』
 私は思わず身を隠そうとしたのです。

 ところが、あまりに突然だったので、踏み台にしていた小さな
椅子の角で足を滑らせてしまい、真っ逆さま……

 「ガラガラ、ガッシャーン」

 場内に大きな音が木霊して、私はお尻をしたたか打ってしまい
ました。

 「いてててて」
 でも、すぐには起き上がれません。

 『やばい、逃げなきゃ』
 そうは思いましたが、お尻が痛くて痛くてなかなか立てません
でした。出来たのはその場によろよろと立ち上がるところまで。
 そこへお父様たちが駆けつけます。

 「何だ、美咲じゃないか……大丈夫だったか?」

 真っ先に駆けつけた小暮のお父様が私を抱き起こしてくれます。
 気がつくと、明君のお母様も瑞穂ちゃんのお父様も様子を見に
きていました。

 「へへへへへ」
 こういう場合って、もう笑ってごまかすしかありませんでした。

 「あれあれ、美咲ちゃんだったのかあ。くぐり戸開いてた?」

 「はい」
 小さな声で答えると……
 「鍵を誰かさんが掛け忘れちゃったみたいだね」

 瑞穂お姉さまのお父さん、進藤先生が笑えば、明くんのお母様
真鍋の御前様も続きます。

 「あらあら、これはとんだところを見られちゃったみたいね。
……あなた、男の子の物なんて初めて?そんなことないわよね。
うちの明とも一緒にお風呂入ってるから……」

 真鍋の御前様は、私が小さなガラス窓に顔を押し付け豚さんに
なってこちらを見ている私の姿を発見なさったのです。
 きっと私が男の子の物に興味津々と思われたのでしょう。
 とんだ恥さらしだったわけです。

 「えっ……まあ」
 私は俯きます。

 「でも、驚いたでしょう。みんなあんな凄い格好なんですもの
ね」

 真鍋の御前様は終始にこやかで私を叱るという雰囲気ではあり
ませんでしたが、お父様は……

 「大丈夫ですよ。この子はすでに経験済みですから」
 あっさり私の過去をばらしてしまいます。

 「経験済みって?……まさか、この子に、なさったんですか?」

 「ええ、今年の三月に……」

 「それは、また……手回しのよろしいことで……」

 「ま、いずれ六年生になったら同級生たちと一緒にあらためて
やらせるつもりではいますが、何しろこの子はお転婆ですからね、
そのくらいしないと効果がないんですよ。この子に限って言えば
予行演習というところです」

 「そりゃまた、とんだ災難だったわけだ」
 進藤先生は私の頭を鷲づかみにします。

 こんなこと、今だったら笑いことではすまないでしょうけど、
当時の親たちにとってこれはお仕置き、あくまで教育の一部。
 お灸も躾としてやってるわけですから、親たちも子どもたちに
そんなに深刻なことをしているとは受け止めていませんでした。

 「まあ、見ていたんなら仕方がない。その代わりお前も手伝い
なさい」
 
 お父様はそれがさも当然とでも言わんばかりに私の手を引いて
六年生がお仕置きを受けている隣りの大広間へ……。

 私、まるで罪人のようにして大広間へと入っていきます。
 すると、その入口でいきなり河合先生に組み伏せられている遥
お姉様と目があってしまいます。
 それって、お互いばつの悪い思いです。

 『あ~あ、下りてこなきゃよかった』
 そうは思いましたが後の祭りでした。


 六年生六人に対するお灸のお仕置きは畳の上で行われています。

 たくさんの、それこそ必要以上に沢山の蝋燭とお線香が周囲で
たかれるなか、私が騒ぎを起こしたために点けられていた蛍光灯
の明かりが消えて、あたりは再び揺らめくローソクの明かりだけ
に……

 お線香の香りが辺りに漂い、揺らめく蝋燭の明かりだけが頼り
というのは、それだけで小学生にはプレッシャーです。
 もし怒りに任せてお灸をすえるだけなら、こんな仰々しい舞台
装置は必要ありません。

 大切なことは、クラスのみんなが一緒にお仕置きを受ける場を
持つこと。そして、その思い出をこれから先も決して忘れないで
ほしいから、お父様たちは子どもが嫌がるお股へのお灸と決め、
ロケーションにも凝ったのでした。

 お父様曰く……
 子供時代に味わった恥ずかしい思い出や辛い思い出も、大人に
なれば楽しい思い出に変わる。でも、その辛い時代を共有した人
との絆はその後も切れることはない。

 小暮のお父様だけでなく他のお父様たちも同じ考えだったよう
です。六人のお父様たちはご自身の戦争体験を通してどなたもが
そう考えていたみたいでした。

 これって、今なら当然異論があるでしょうが、私たちはそんな
戦争帰りの人たちから教育を受けた世代なのです。
 ですから、時として、今では考えられないようなお仕置きまで
美化されてしまう傾向になるのでした。

 さて家庭教師の先生方はというと、子どもたちの両足を開ける
だけ開かせ、且つその体が微動だにしないよう厳重に押さえ込み
ます。

 場所はとっても狭い処。まさにピンポイントで手術というわけ
です。もし、驚いて両足を閉じたりしたら他の箇所が火傷しかね
ません。それだけに先生たちもここは真剣でした。

 私も何回かこの窮屈な姿勢でお灸をすえられた経験があります
が、これってたんに熱かったというだけでなく女の子にとっては
泣くに泣けないくらい恥ずかしいお仕置きでしたから決して忘れ
ることがありませんでした。

 家庭教師の「こちら準備できました」という声に合せ、その子
のお父様が一人また一人と一段高くなかった舞台に上がります。

 すると、『ついに来た~』といった感じで子どもたちの顔にも
緊張感が走ります。

 お父様が怖いのはどの子もみんな同じなのですが、ただ、その
受け止め方は人様々で、努めて平静を装っている子がいる一方で、
すでに全身を震わせプレッシーに押し潰されそうな子もいます。

 ですから、こんな時には不足の事態が起きることも……

 「おやおや、やっちゃったねえ」

 友理奈ちゃんのお父様は目の前で噴出した噴水に笑いが押さえ
きれませんでした。
 女の子のお漏らしもこんな姿勢でやれば男の子並です。

 「あらあら、大変、大変」
 たちまち他の家庭教師やお父様たちも気がついて、雑巾バケツ
やらボロ布などが用意され、友理奈ちゃんは隣の部屋に隔離され
てしまいます。

 お姉様たちも、せっかく脱いだパンツ、せっかく上げた両足で
したが全員いったん元に戻されて正座しなおすことになりました。

 畳に残る染みも、他のお姉様たちにはっきり見えたはず。誰が
何を引き起こしたかだって、はっきり分かったはずでした。
 誰の目にも事実は明らかでしたが、でもそれを言葉で指摘する
子はここには誰もいません。

 こうした事態が起こったとき、何をして何をしてはいけないか、
私たちは幼い頃から厳しく躾られています。家庭では家庭教師が、
学校では学校の先生が、もちろんお父様からも口をすっぱくして
注意を受けます。私たちは常に相手の立場や心情を思いやる子で
なければいけないと教えられてきたのです。

 もし、約束を破って友理奈ちゃんを笑ったりしたら、どの家の
子でも間違いなくお仕置きでしょう。

 お父様方が私たちに求めたのは、天才や秀才、スポーツマンや
芸術家といった一芸に秀でた子どもではなく、天使様のような、
純な心を持つ少女がお気に入りなのですから、不純な心の持ち主
はいらないということになります。

 ですから私たちの場合『お友だちと仲良く』と言われていても、
いじめや仲間はずれ、取っ組み合いの喧嘩さえしなければいいと
いう単純なものではありません。家庭でも、学校でも、常に相手
を敬うベストな友だち付き合いが求められていたのでした。
 もちろん幼い身で現実には難しいですけど努力は必要でした。

 今回のお仕置きの理由が『お友だちと仲良く出来なかった』と
いうは、お父様たちのそんな気持を反映したものだったのです。

 ですから、『お漏らしをした子を笑っちゃいけない』ぐらいの
ことは全員がわかっていました。


 しばらくすると、友理奈ちゃんが佐々木のお父様や家庭教師の
先生に連れられて隣りの部屋から戻って来ます。
 「みなさん、ごめんなさい」
 小さな声で謝ってから再び畳敷きのステージへと上がります。

 この歳でお漏らしするなんて、そりゃあ恥ずかしいに決まって
ます。もちろんそれをみんなに見られたことも分かっています。
それでいて誰も何も言わないのは友理奈お姉様にとってもかえっ
て辛いことだったんじゃないでしょうか。私はそう思います。

 友理奈お姉様は、お友だちの視線を避けるように俯いたまま、
お父様の処へ。

 すると、佐々木のお父様が両手を広げて……
 「おいで、友理奈。しばらくここで休もう」

 友理奈ちゃんは畳の上に正座した佐々木のお父様のお膝にお尻
をおろします。

 お膝の上に抱っこなんてこの歳ではちょっぴり恥ずかしいかも
しれないけれど、誰もその事を笑ったりしません。
 もちろん『どんな時でもお友だちを笑ってはいけない』という
約束事はありますが、実はこれ、ここでは他の子だってよくやる
自然な光景でした。

 幼い頃からことあるごとに抱かれ続けてきた私たちにとって、
お父様のお膝はお椅子と同じ。『お座りなさい』と言われれば、
素直に座ります。家庭教師の先生でも、学校の先生でも、いえ、
見知らぬ人のお膝にだってごく自然に腰を下ろすのがここの流儀
なのです。

 でも、自分のお父様のお膝はやはり誰にとっても格別でした。
 座り慣れてるせいか他の誰よりもお尻が優しくてフィットして
心が落着きます。

 お灸のお仕置きに限りませんが、子供にとって辛いお仕置きを
受けなければならない時は、そのショックが少しでも軽減される
ようにと、こういう形で待たされることが多いようでした。

 お仕置きは見知らぬ人からの闇討ちではありません。沢山沢山
その子を愛してきた人がその子の危険を察知して発する危険信号
みたいなものですから、他の人からやられたら悲鳴のあがるよう
な辛い体験も「静かになさい!」と一言命じるだけで、その子は
歯を喰いしばって我慢できるのでした。


 お仕置き前の緊張感のなか、お父様方が畳の上で車座になって
雑談されていますが、正座されているその膝の上にはそれぞれの
お子さんたち、つまり六年生のお姉様方が腰を下ろして頭を撫で
られています。

 私はおじゃま虫なわけですが、お父様の背中に張り付くことは
許されていました。

 緊張が少しだけほぐれた後、最初に口火を切ったのは、進藤の
お父様。つまり瑞穂お姉様のお父様でした。

 「それでは、よろしいでしょうか。当初は一斉にお灸をと考え
ておりましたが友理奈ちゃんの落ち着く時間も必要でしょうから
今回は一人ずつやっていきたいと思います。まずは瑞穂からやら
せていただきますけど、よろしいでしょうか」

 瑞穂お姉様が初陣を飾ることには他のお父様たちも異議はなく、
二人は車座の中心へと進みます。
 そこが、言わば子供たちの刑場というわけです。

 もうこうなったら覚悟を決めるしかありませんでした。


 瑞穂お姉様と進藤のお父様は、まずお互いが向かい合って正座
します。最初からのやり直しですから……

 「お父様、お仕置きをお願いします」
 瑞穂お姉様は畳に両手を着いてご自分のお父様ご挨拶。

 『お仕置きは愛を受けるわけだから、ご挨拶は必要なんだよ』
 私たちはお父様からこう教えられていました。
 もちろん小暮家だけではありません。他の五つの家でもこれは
共通の作法でした。

 「それでは始める。みなさんの見ている前だからね、みっとも
ない声は出さないように……いいね」

 「はい、お父様」
 瑞穂お姉様は健気に答えます。

 でも、心の中は震えていたはずです。女の子がこんなにも沢山
の人たちの前でお股を晒してお灸を据えられるなんて、五年生の
私が想像しただけでも恐ろしいことですから、体が変化し始めた
六年生なら、なおさらだったに違いありません。
 でも、避けて通れませんでした。

 『私の時は河合先生とお父様だけだったからまだよかったけど、
こんなに沢山の人たちからみられていたらショックだわ』

 私がそう思って辺りを見回すと、それまで車座になって座って
いた親子がいつの間にか瑞穂お姉様のお股の奥がよく見える場所
へと移動しています。

 気がつけば、私だけが取り残されていました。

 そして、私も……
 「美咲ちゃん。そこでは他の人が見えないよ。こちらへいらっ
しゃい」
 膝の上に遥お姉様を抱いてお父様が私を呼び寄せます。

 「お友だちのお仕置きを見学するのも、お友だちとしての責任
だけど、美咲ちゃんだけ特等席では他の人たちが見えないよ」
 お父様はこう私に注意したのでした。

 でも、これってふざけてそうおっしゃったんじゃありません。
ここではお友だちがお仕置きを受ける姿を見学するのもお友だち
としての大事な義務なのです。
 お父様は大真面目にこうおっしゃったのでした。


************<15>***********

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR