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見沼教育ビレッジ / 第1章 / §8

****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************

 「お帰り」
 「お帰り」
 「お帰りなさい、お姉ちゃん」

 お父さん、お母さん、それに妹の香織が、一斉に挨拶します。

 「…………」
 こんなこと普段なら当たり前なのに、その時はとても嬉しい事
だったのです。

 お母さんにハグされ、妹を抱きしめます。
 ただ、部屋の一番奥、お気に入りの椅子までここへ持ち込んだ
お父さんの処へは、さすがにすぐには足を運べませんでした。

 ケイト先生がお母さんと挨拶を交わす中で……私はむしろ今日
知り合ったばかりの先生の背中に隠れるようにして立っています。
 普段だったら真っ先に飛んでいくはずのお父さんとは、どこか
視線を合せづらくなっていました。

 そんな様子が気に入らないのか、
 「どうした、美香?私の処へは来てくれないのか?」
 お父さんが痺れを切らして不満を言います。

 すると、それに答えたのは香織でした。
 「無理よ。だって、お姉ちゃん、せっかくのバカンスをパパの
お仕置きのせいで潰されちゃったんだもん。機嫌がいいはずない
じゃない」

 「そうか……やっぱり、そういうことか……」
 お父さんは私を見て苦笑です。それには、少し侮蔑的な表情も
混ざっていました。

 『すねやがって……』
 という思いがあったのかもしれません。

 でも、私の思いはそう単純ではありませんでした。
 もちろん、ここに強制連行された恨みはあります。でも、それ
以上に『お父さんが私のことを今でも怒っているんじゃないか』
という不安が心から拭い去れなかったのでした。

 そんな私の様子をお父さんは見透かしたようにこう言います。
 「美香、怒らないから、ここへおいで」
 
 お父さんは私の足が微妙に震えていたのを見逃しませんでした。

 「はい、お父さん」
 こう言われたら、娘としては行かないわけにはいきません。
 これでもお父さんの良い子ではいたいと思っていましたから。

 男の子は体力がありますし父親とは同性ですから生理的なこと
も含めてわかるはずです。ですから、そこまでは怯えないのかも
しれませんが、女の子にとって父親はとてつもなく大きな存在。
特に怒られた時は、まるで鬼の棲みかに乗り込む桃太郎ように、
気を引き締めなければなりませんでした。


 私がお父さんの処へ行く決心を固めると……
 ケイト先生も私が独りにならないよう、一緒にお父さんの処へ
やってきます。

 「私が、美香さんを担当する指導教官のケイト辻本です」

 名刺を差し出し、大人の挨拶。
 ケイト先生が私と父の間の緩衝材となってくれたのでした。


 「お嬢さんへのご心配事は親しすぎる同性の友達関係だとか」

 「ええ、この子を預かってくださっている学園長からお手紙を
いただいて……それが、気になりまして……」

 「私もあちらの園長先生や寮長先生にお会いしてそのあたりは
詳しく伺いましたが、それ自体は大きな問題ではないと思います。
これは男女に限らずそうなんですが、思春期のはじめ、子供たち
がそうした同性への強い思慕を抱くのはごく普通のことですから」

 「そうなんですか」
 父は小さくため息をつきます。

 「ただ男の子と違って女の子の場合は、こうしたことに夢中に
なりがちで、深入りすると学力の低下に繋がります。お父様は、
それがご心配なのでしょう」

 「ええ、うちには男の子がいませんから、いずれこの子に養子
を取って会社を任せることになると思うのですが、その場合でも
娘には一定の教養を積んでもらわないと……」

 「わかります。このことで学校の成績が下降ぎみなのをご心配
されているわけですね」

 「そういうことです。べつに一流大学を卒業して会社の事業に
参加させようと思ってるわけじゃないんです。平凡な専業主婦で
いいんです。ただ、そうであっても一定の教養は必要でしょうし、
……それに……婿さんの手前も、男性より女性に興味があったん
じゃ具合が悪い」

 「なるほど」
 ケイト先生の顔が思わずほころびます。
 それを押し隠すようにして先生はこう続けたのでした。

 「では、キャリアウーマンというより、よりよい奥さんになる
ためのプログラミングということでよろしいですね」

 「けっこうです。お願いします」
 父はソファに座ったまま深々と頭をさげます。そしてこう尋ね
たのでした。
 「それで、具体的にはどのようになさるのでしょうか?」

 「良妻賢母型で育てる場合に一番大事なのはルーツの確認です」

 「ルーツ?」

 「ルーツといってもご先祖という意味じゃなくて、自分が誰に
どのように愛されて育ってきたかを確認する作業が必要なのです」

 「????」

 「もっと、具体的な手順を言えば、美香さんには一度赤ちゃん
に戻ってもらうことになります。オムツをはめて哺乳瓶でミルク
を飲んで、ガラガラを振ったら笑ってもらいます」

 「????」
 父にしてみたら、先生のお話はいま一つピンときてないみたい
でしたが、私はもっと驚きです。
 『えっ!?何言ってるのよ!聞いてないわよ。そんな話』
 でした。

 「私たち家族は、どのようにすれば……」

 「ええ、ですから、美香さんを中学二年生ではなく赤ちゃんの
ように扱ってくださればそれでいいんです。授乳、オムツ替え、
……あくまで赤ちゃんとして一緒に遊んでくださればいいんです」

 「でも、そんなこと、今さら、美香がやってくれるでしょうか」

 父が不安そうに尋ねると……
 「やってもらうのではありません。この場合はやらせるのです。
素直に従わなければ可哀想ですがきついお仕置きが待っています」

 「なるほど」
 父は唖然として頷いていました。

 「もちろん、最初は恥ずかしくて嫌なことでしょうが、女の子
というのは、すぐに慣れます。その場その場の与えられた環境に
自分を順応させる能力はもともと男の子より優れていますから」

 「そうなんですか……」

 「ええ、女の子がどこにお嫁に行っても自分なりに生きる道を
見つけられるのはその順応性のためなんです。赤ちゃん返りは、
そのための訓練の一つなんです。……それと、もう一つ。幸せの
確認、という意味もあります」

 「幸せの確認?」

 「赤ん坊には何一つ自由がありません。その代わり親が何でも
してくれますから、ある意味人生で一番幸せな時期もあるんです。
そうした自分の幸せのルーツを再確認する事が、その後の人生で
困難へ立ち向かう時に大事なエネルギーとなるんです。私たちは
赤ん坊時代に得た幸せ感が、どれほど大事かを統計的に確認して
いますし、たとえそれが後発的なものであっても、一定の効果が
あることも経験済みなのです」

 「三つ子の魂百までも……ということですかな?」
 お父さんの顔にやっと笑顔が戻りました。

 「一見、馬鹿げて見えるやり方にも理由があるんです。すでに
お渡しした資料にそうしたことは詳しく書いてありますからご覧
ください」

 「なるほど、そういうことでしたか…………それで、私どもは
美香とどのように接すれば……」

 「特別なことは何もありません。普段通りに接してあげていい
と思います。ただし、最初の一週間だけは、赤ちゃんとして扱い
ますから、その時はご協力をお願いします」

 「協力というのは……」

 「主には授乳とオムツ替えです。特に、オムツ替えはお子さん
が大きいので大変だと思いますが、娘のためだと思ってご協力を
お願いします。こうしたことは、やはり他人より親子の方がいい
ので……それと……」
 先生は少し申し訳なさそうに声を低くしてこう続けます。
 「もし美香さんが赤ちゃんらしくないことをしたら、この私が
お仕置きします。かなり厳しいこともすると思いますが、それに
ついては口出しなさらないでください」

 「わかりました。頂いた資料をもっと詳しく読めばよかったん
ですが、不勉強で申し訳ない。実は、ここのことは私の秘書から
聞いて知ったんです。彼女もまたここの出身者のようで……」

 「それは、きっとキャリアウーマン型のカリキュラムを受けら
れたんだと思います。その場合はまったく別の人格になります。
でも、美香さんの場合は、良妻賢母型でよろしいんですね」

 「ええ、結構です」

 『何が結構よ、私はちっとも結構じゃないわよ。私、これから
どうなっちゃうの?』
 私は大人たちの会話を間近で聞いていてとてもショックでした。

 そんな私に、お父さんが声をかけています。
 でも、ショックを受けてる私は、すぐには頭の回線が繋がりま
せんでした。

 「美香、美香、……どうした?美香……聞こえないのか美香」

 途中から、ようやくお父さんの声が聞こえ始めます。

 「…………」
 慌てて父の方を見ると……お父さんはご自分の膝を軽く叩いて
います。それは『この膝に来なさい』という合図なのですが……

 私は、すぐにそこへ行く気にはなれませんでした。

 「おや、おや、どうやら臍を曲げられてしまったか……先生、
この子はやさしい子で、これでは休暇で帰るたびに真っ先に私の
膝に乗ってきたものなんだが……こんな処に連れて来たから……
どうやらそれを根に持ってるみたいですね」
 と、お父さん。

 「違いますよ。私がいるからですわ。美香さんも、もう14歳、
お父さんのお膝は、さすがに人前では恥ずかしいんでしょう……」
 と、ケイト先生。

 でも、私の心はそのどちらでもありませんでした。

 実は、例のロッカーでの出来事が私の頭の中ではまだ尾を引い
ていたのでした。
 あれは微かに触れた程度なのに、私の鼻の頭はあの時の感触を
覚えているのです。
 父の膝を見ても、それが鮮明に蘇ります。

 『お父さんだって同じ物を持ってた』
 そう思うと近寄れませんでした。

 「では、私は、夕食を済ませてからあらためてうかがいます」
 「まあ、先生、そうおっしゃらず、夕食はご一緒に……」
 母が止めますが……

 「いえ、合宿に入ると家族団欒で過ごせるのは食事の時ぐらい
ですから、そうした時は遠慮いたします。その代わりそれ以外の
時間はほぼ一日美香さんと一緒にいますので、そこはご承知おき
ください」
 先生はそう言って席を立ちました。

 ただ、部屋を出る時、私のブラウスの襟や棒タイを直しながら
……。
 「あなたはお父様の思われ人。女の子はね、そんな人を大事に
しなくちゃ生きていけないの。勝手は気ままは許されないわね。
いいから、お父様のお膝へ行って、いつものように甘えなさい」

 「えっ!」

 「これは命令。指導教官としての最初の命令よ」

 「命令?」

 「そう、命令。もし、私がこの部屋にいる間にお父様のお膝に
乗らなかったら、お仕置き」

 「えっ…だって……」

 「だってもあさってもないの。我を張って隣の子みたいになり
たくないでしょう」

 「隣の子って……(えっ!!!?)……(嘘でしょう!!)」
 私の脳裏に途中から昼間のお庭で出合った少女の映像が浮かび
ます。

 「……(何で、そんな事ぐらいでお仕置きされるのよ)……」
 そうは思いましたが枷に挟まれ裸で転がり込んで来た女の子の
事を忘れることは出来ません。ですから嫌でもお父さんのお膝に
乗るしかありませんでした。


 その様子を見て安心したのか、ケイト先生は一旦我が家を離れ
ます。

 一方、私はというと……
 お父さんのお膝に乗ってしまえば、もう昔の私でした。
 妹の香織とお父さんのお膝を奪い合います。

 私は全寮制の学校はお父さんお母さんに会えないから寂しいと
愚痴を言い、学校で起こったことをあれやこれや何でも話します。
 あること、ないこと、尾ひれをつけて……いったん話し始める
と止まりませんでした。

 でも、お父さんはそんな私の話を楽しそうに聞いてくれます。
 思春期になって、口うるさいお母さんとは口げんかすることも
多くなりましたが、お父さんとは昔のまま。
 口数は少なくとも、まるで大仏様に抱かれているような安心感
で、私を包んでくれます。

 そのせいでしょうか、お父さんって、私のお尻やオッパイに、
平気で手を伸ばしますが、私が抵抗したことはほとんどありませ
んでした。

 お父さんのお膝の上では、香織と二人、スカートがまくれ、シ
ョーツが見えても平気で笑っていられます。
 こんな場所、世界中探してもここだけでした。

 ここは私の秘密の場所。普段、学校ではお父さんの悪口ばかり
言っていますから、友達にはこんな姿は見せられませんでした。

 そんなお父さんが食事のあと、あらたまって私に宣言します。

 「私はここの規則だそうだから、一週間は美香と一緒に暮らす
けど、明日からはケイト先生がお前の親代わりだから、どんな事
でも先生に相談して、先生の指示に従って暮らさなきゃいけない。
いいね」

 「はい、お父さん」
 私が神妙に答えると……

 「ねえ、お姉ちゃん、今日からお仕置きなんでしょう。どんな
ことされるの?」
 香織がお父さんに抱きついて聞いてきます。

 でも、それには……
 「お仕置きなんかじゃないよ。お姉ちゃんは試練を受けるだけ。
お勉強をみてもらうだけさ。……そうだ、お前も、今学期は成績
が下がってたなあ、一緒にやってもらおうか」

 こう言うと、香織のやつ笑いながらお父さんの部屋から逃げて
行くのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §9~§10

****** 見沼教育ビレッジ (9) ******


 その日も遅くなって、ケイト先生が再び新井家へやって来た。

 持ち込んだ大きな荷物見て、美香はてっきりこれは先生の私物
なのだとばかり思っていたが、先生の私物は僅かで、その大半が
美香の為に準備されたものだったのである。

 先生は美香の両親を彼女の部屋へ集めると、その荷物を解いて
説明を始める。

 「これが、今晩から着るあなた用のパジャマよ」

 美香はタオル地でできているそのパジャマを自分の身体に当て
てみるのだが……
 「これって……赤ちゃんの……」

 「そう、赤ちゃんがよく着てるわね。オールインワンとか……
コンビネーションとか……ロンパースとか、あなたたちの処では
どう呼ばれてるか知らないけど、要するに上下が一体になった服
なの。……ほら、こうやって背中のチャックを閉めると……もう
独りでは脱げないわ」

 先生にパジャマを着せられた美香は突然不安な気持になった。
 そこで……
 「このパジャマって……これでなきゃ…いけないんですか?」

 「そうよ。なかなかお似合いよ」

 「…………」

 「最初の一週間、あなたはすべてにおいて赤ちゃん扱いなの。
だから衣装だってすべて赤ちゃん仕様のものを身につけなければ
ならないわ」

 「…………」

 「あら、心配かしら?……そりゃそうよね。もう何年もやって
ないもの。……でも、堅苦しく考える必要はないのよ。ママゴト
の赤ちゃん役だと思えばいいわ」

 「口をきいてはいけないんですか?」

 「そこはOKよ。口がきけないとお勉強がはかどらないもの。
ただ、ご返事はすべて『はい先生』『はいお父様』『はいお母様』
ってことになるわね。赤ちゃんの間は、『いいえ』という言葉は
タブーよ。相手を否定する言葉は言わないお約束になってるの。
もちろん口答えもできないわ」

 『やっぱり……そうなんだ』
 美香は、夕方、先生と父とが交わしていた会話の内容からある
程度覚悟はしていたものの、こうやって面と向かって現実を突き
つけられるとたじろぐ。

 「あなたが赤ちゃんの間は、着替えも食事もお父様やお母様に
やっていただくことになるわ。……どう、楽チンでしょう。何も
しなくてもいいんだもの。こんな楽な暮らしはないはずよ」

 『それで、お父さんまでここに呼ばれたんだ』
 ケイト先生のイヤミな言い方に美香は顔をしかめた。
 と、同時にその時の様子を頭の中で思い浮かべてみたのである。

 『えっ!?……まさか?』
 その中で、ある疑念が頭に浮かんだのだ。
 でも、その質問はやはり勇気が必要だったのである。

 「あのう……まさか……そのう……オムツも穿くんですか?」

 答えはすぐに返って来る。
 「当然そうよ……あなた、赤ちゃんですもの」

 ケイト先生は驚く美香の顔を楽しんでからこうも付け加える。
 「ただし、それは寝る時じゃなくて、起きてから……お浣腸の
あと、ウンチを10分くらい我慢したら、その後お父様かお母様
に付けてもらうことになるわ」

 「えっ!……両親からオムツを穿かせてもらうんですか?」
 美香はショックのあまり声が震える。
 母はともかく、父にそんな恥ずかしい格好……絶対に嫌だった
からだ。

 「どうして?……恥ずかしいかしら?」

 『…………』
 美香は素直に頷いてみせるが……

 「でも、ここではみんなやってることなのよ。あなた一人だけ
特例にはできないわ。ここではね、恥ずかしいことと痛いことを
繰り返しながら成長していくの。女の子が嫌うことが本当は最も
為になることだってわかったからそうしてるのよ」

 『今からでも逃げ出したいなあ。………でも、今さら後戻りも
できないのよね』
 美香はケイト先生の笑い顔を恨めしく見つめるしかなかった。

 そのケイト先生が追い討ちをかける。
 「オムツだけじゃないわよ。このパジャマだって、下には何も
身につけないから、どのみち一度はご両親の前でスッポンポンに
ならないと着替えられないわ。だいいち、パジャマに着替える前
には、ご両親の前に全裸で膝まづいて、今日一日の反省をしなけ
ればならないの。だから、どのみち、あなたはご両親に対しては、
ご自分の裸を見られることになるの。……どう?わかった?」

 「そうなんですか」
 美香は力のない返事を返す。それが今は精一杯の勇気だった。

 「赤ちゃんになるというのは、単に格好だけの問題じゃなくて
身も心も穢れのない時代に戻るってことなの。そこからやり直す
という意味でそうするのよ。だから、裸になることを嫌がったり、
目上の人のお言いつけに逆らえば、即、お仕置き。でもその時、
弁解やいい訳をしてはいけないことになってるの。何よりそんな
ことしてたら赤ちゃんをいつまでも卒業できないことになって、
ご両親にもご迷惑がかかるのよ」

 「いい訳しちゃいけないんですか?」

 「だって、赤ちゃんがいい訳できるはずないでしょう」

 「そりゃあ、そうですけど……」

 「もし、生意気な口をきいてしまうと、そばで誰が見ていよう
と、裸にひん剥かれて、いやってほどお尻を叩かれることになる
から、そこは注意してね」

 「何も言えなくなるんですね」

 がっかりしたような美香の声が聞こえると……
 「何にも言えないなんて、そんなことはないわ。さっき言った
でしょう。誰とでもちゃんとお話しできるわよ。ただし『いいえ』
『ダメです』って言えないだけ。『はい、お父様…はい、お母様』
という相手をご機嫌にするご返事なら、いつでも言えるわよ」
 ケイト先生はそう言って笑うのだった。

 そんな先生に美香の母、澄江が尋ねる。
 「先生、このようなことは11歳の子にも有効なんでしょうか」

 「ああ、そうでしたね。香織ちゃんのことですね。もちろん、
大丈夫ですよ。親への絶対服従は、女の子の基本的な躾ですから、
独立するまでなら、早過ぎることも遅過ぎることもありません。
……その件は、こちらが終わってからお部屋にうかがいますので、
まずは美香ちゃんの方を先にすませてしまいましょう」

 『えっ!この話、香織も一緒だったの?』
 美香は一瞬驚きましたが、今は妹より自分の事でした。

 「さあ、美香ちゃん、オネムの時間ですからね。お父様お母様
におやすみのご挨拶をしてベッドに入りましょうね」

 ケイト先生の言葉に美香は否も応もなかった。
 何も逆らうつもりもなかったから……
 「おやすみなさいお父さん、おやすみなさいお母さん」
 と普段通りに言ったつもりだったが……

 「あらあら、もう忘れちゃったの」
 ケイト先生に指摘されて美香は思い出す。思い出したくない事
を思い出したのである。
 「……!……」

 「あら、思い出してくれたみたいね。そうなのよ、ここではね、
裸になってご挨拶するの。……これは今のあなたが何一つ持って
いないことを再確認するためにやるの」

 「何一つ持ってないって?」
 美香は素朴な疑問を思わず口に出してしまった。

「そうでしょう。あなたが今着ているお洋服も、玩具も学用品も、
学校の授業料だって、何一つあなたが出したお金ではないはずよ」

 「だって、それは……私は子供だから……」

 「子供だからそんなの当たり前?」

 「ええ」

 「だったら、その当たり前を自覚してもらう為にやってちょう
だい。自分は何も持たない一文無しで、今あるものはすべて親の
愛から出ているということを自覚する為に……女の子は愛されて
こそ幸せなのよ。男の子の様に自分勝手な夢を追いかけてるだけ
では、幸せにはなれないわ。……わかるかしら?」

 「…………」
 美香は少し半信半疑ながら小さく頷く。
 そうしなければならないと思ったからだ。

 「だったら、何が自分を幸せにしているのか、それを常に自覚
しておくことは大事なことよね。あなたのように生まれた時から
親に愛されて育った子どもは、両親の愛って空気みたいにあって
当たり前のものだから、親の愛が冷めるなんて理解しにくいこと
でしょうけど、親の愛といえど無尽蔵ではないの。あなたの対応
次第では、無くなってしまうものなのよ。それを自覚してもらう
為にやってもらうの。……わかったかしら?」

 「はい、先生」

 「そう、それではまず服を脱がせましょう」
 ケイト先生は、母の澄江に向かって語りかけたのだが、美香は
自ら服を脱ぎ始めた。


(美香の回想)

 私はすでに覚悟を決めていましたから、自ら服を脱ぎ始めたの
ですが……
 「あらあら、美香ちゃん……あなた、気が早いのね。ちょっと
待って……あなたお利口さんで、自分で服を脱げるのは知ってる
けど……あなたは、今のところはまだ赤ちゃんなの……ですから、
そうしたことは、お父様やお母様にやっていただきましょう」

 ケイト先生は私の手を止めさせます。

 結局、私は父の前へ連れて来られ、制服の赤い棒タイを外して
もらいます。
 父の仕事はそれだけでした。

 あとは、母がすべて……ブラウス、スカートに始まり、靴下も
スリーマーもジュニアブラも……そして最後のショーツまで……
母の手で私からすべての衣服が剥ぎ取られたのでした。

 『何だか、荘厳な儀式みたい』
 私は思います。もちろん、裸にされたことは恥ずかしいことで
したが、それ以上に裸の自分がとてもドラマチックに感じられて
不思議に逃げ出したいほどの羞恥心はありませんでした。

 父と母が見つめるなか、私は二人の前で膝まづき両手を胸の前
で組みます。
 「これからベッドに入っておやすみします。今日一日のお二人
の御慈愛に感謝します。明日もお二人の良い子で過ごせますよう
に……」

 挨拶の言葉はケイト先生が後ろから小さな声で耳打ちしながら
教えてくださいます。

 私の声は、まるで時代がかったお芝居の台詞を棒読みしただけ
ですから、よその人が見たらさぞや滑稽に映ったことでしょうが、
目の前のお父さんもお母さんもソファに座っていつになく真剣な
表情です。

 すると、こんなママゴトみたいなお芝居でも……

 『お父さんが王様で、お母さんがお妃様。私、お姫様になった
みたい』
 馬鹿な幻想が頭をよぎり私の心は浮き立ちます。

 普段なら絶対に口にしない言葉を話す時、私の心はトリップし、
不思議と恥ずかしさはなくなるのでした。


 ご挨拶が終わると、父と母は協力してタオル地でできた続き服
を私に着せていきます。

 私はこの時、父の前で割れ目まで晒して気まずかったのですが、
父も母もこんなに大きな身体の私に赤ちゃん用のパジャマを着せ
るのが面白かったのか、一転して今度は二人で笑っていました。

 「さあ、これで大きな赤ちゃんが出来上がったわ。……どう?
着心地は?……あなたの体のサイズに合せてぴったりに仕上げた
のよ」
 ケイト先生に尋ねられましたが……

 『何だか、着ぐるみを着せられたみたい。熱くて汗をかきそう』
 というのが正直な気持だったのです。
 ただ、その苦情は言えなくて……

 「大丈夫です」
 とだけ一言。

 「夏場にこのパジャマは熱いとは思うけど、今日だけ我慢してね。
実は、これから妹さんの方へも回らなきゃならないので、あなた
と添い寝ができないのよ」

 「添い寝?」

 「明日からは、私かお父様お母様、その誰かと一緒にベッドを
共にすることになるでしょうから……その時は裸ん坊さんにして
あげられるけど、あなたを独りにすると、また悪い遊びを思い出
さないとも限らないでしょう」

 「悪い遊び?………………」
 私はしばし考えてから……
 「えっ!!私、そんなことしません」
 驚いて否定しますが……

 「そうは言っても、あなたには前科もあることだし……この服
は、そのための服でもあるのよ」

 私はこの時はじめてこのパジャマがオナニー防止用だと知った
のでした。

 私はベッドに寝たまま、お父さんお母さんに『おやすみなさい』
を言います。

 部屋の電気が消え、眠りについたわけですが、このパジャマ、
想像通りとにかく熱くて、とてもすぐに寝られませんでした。

 エアコンは働いていましたが、ものの五分と経たないうちに、
全身汗でびっしょりです。

 なかなか寝付けぬうちに10分、20分と過ぎていきます。

 すると、そのうち……
 「いやあ~~~ごめんなさ~~い、もうしない、もうしません
から~~~ゆるして、ゆるして、しないしないもうしないから」
 妹の香織の大泣きが、遠く聞こえてきます。

 それがどんな理由で、どんなお仕置きをされているのかまでは
分かりませんでしたが、それを子守唄代わりに私はまどろみます。

 妹の悲鳴が子守唄なんて、不謹慎かもしれませんけど、建前は
ともかく姉妹なんて所詮は親の愛を巡って争うライバル関係です
から、ライバルの情報は常に気になります。
 そして、両親がどんなお仕置きをするか、その結果どうなって
しまうか、過去の経験からたいてい想像がつきますから、そんな
妹の痴態を想像するだけでも心はうきうきだったのです。


 『それにしても暑いわ』
 その夜はまるでサウナ風呂の中にいるような暑さでした。

 この続き服のパジャマ。冬は暖かくていいのでしょうが、夏は
熱がこもって最悪です。
 おかげでベッドに入って5分としないうちから体中大汗でした。
ひょっとして、寝付いたのは失神したからかもしれません。


 ところが、朝、起きてみると、状況は一変していました。

 「えっ!!!」
 寝ぼけ眼の私に、その素肌がいま裸でいることを伝えます。

 着ていたはず赤ちゃん服がありません。素肌に当たる感触は、
毛布の肌触りのみ。

 『もし、このままこの毛布を捲られたら……』
 そう考えると、本能的に毛布の裾を自分の体へ捲きつかせます。

 すると、その衝撃でベッドの隣人が目を覚ましたようでした。

 「あら、起きたの?」

 「……け、ケイト先生。……先生がどうしてここに……」

 「そんなに驚かなくてもいいじゃないの。私はあなたの子守り
だもの。一緒に添い寝するのは当たり前だわ。その事は説明した
はずよ」

 「……あ、そうでした。……あのう……私……昨夜、着ていた
パジャマ……着てないみたいなんですけど……」

 「ああ、そのことね。あんなの着て寝たら暑くて寝られないで
しょう。だから脱がしてあげたの」

 「えっ!?」
 私は脱がされた記憶がありませんから頭の回線がショートしま
す。
 「そんなこと……私……」

 「知らないでしょうね。熟睡してたみたいだから……羨ましい
わ。あんな大汗かきながらでもちゃんと寝られるんだもん。……
若いっていいわね」

 「…………」
 そりゃあ女同士の話ですから、ビックリするほどの事はないの
かもしれませんが、ケイト先生に私の裸を見られたのはそれなり
にショックでした。

 いえ、それだけじゃありません。その話にはまだ続きがあった
のです。
 「それで……そのついでってわけでもないんだけど、あなたの
大切な処も拝見したわ」

 「……(!!!)……」
 私は、一段ときつく毛布を絞りめ、先生とは反対の方を向いて
しまいます。

 「悪く思わないでね。これも私のお仕事だから。……どのみち、
ここでは隠し事はできないの。……特に、オナニー癖のある子や
レスポスの恋に身をやつす娘たちは、ちょっとでも疑いがあれば、
それこそ穴という穴を全部調べられることになるわ」

 「……」
 私は、思いあまってケイト先生の方を振り向きます。

 『私はそんな恥ずかしいことなんてしてません』
 と宣言するつもりでした。
 『ほんのちょっぴりだけです』というのは伏せて……

 振り向いた時の目がきっと真剣だったからなのでしょう。
 先生は笑って……
 「大丈夫よ。あなたのは襞は綺麗なものだったわ」

 「えっ!」
 私は自分で振り向いていおきながら先生には何も言わず、また
先生に背を向けてしまいます。

 「あなたの悪戯は、まだ、おっぱいとお豆ちゃん止まりね。…
…どっちも先端にほんの少し炎症があったわ」

 『!!!!!!』
 それを聞いた瞬間、私の頭がボイラーのように沸騰します。
 『馬鹿なことやめてよ!!』
 私は大声を上げたい気分でした。

 「これをお父様にご報告してもいいんだけど、また余計な心配
をなさるかもしれないから、これは、あえて報告しないでおくわ
ね。あなたもその方がいいでしょう」

 『もう、いやだあ~~~そんなところまで見られてたんだあ。
……私、その時なぜ起きなかったんだろう』
 そのことが悔やまれてなりませんでした。

 すると、ここでケイト先生がベッドを抜け出します。

 そこで私も……
 「あっ、起きます。あの~昨日着てたパジャマは?」
 と言ったのですが……

 「ああ、あのパジャマ……あれは汗びっしょりで濡れてるから
着ない方がいいわ。冷たくて風邪ひくわよ。それより、あなたは、
これからお浣腸だから、ベッドに寝てなさい。起きてもやること
ないもの」

 『……(え~~~このままの格好で、お浣腸なの~~~)……』
 私の身体は、今、素っ裸。想像するだにそれは悲しい姿でした。


****** 見沼教育ビレッジ (9) ******

****** 見沼教育ビレッジ (10) ******


 毛布越しに恐々見ていると、ケイト先生はお浣腸の準備をして
いました。

 特大の注射器のような形をしたガラス製のピストン式浣腸器が
湯気のたつ蒸し器に入れられ、今煮沸消毒されているところです。
……薬戸棚からはこげ茶色の薬壜が取り出されていました。

 『あれ、ひょっとしてグリセリンかしら………いやだなあ……
あのお薬、苦手なのよ。もの凄く強烈にお腹が差し込んで………
出した後もお腹が渋ってしょうがないし……きいてみようかしら』

 そんなことを思っていた時でした。楽しそうに鼻歌を口ずさん
でいたケイト先生と目があったので尋ねてみると……

 「あのう……グリセリン使うんですか?」

 「あら、グリセリンなんて知ってるところをみると、あなた、
これやったことがあるのね」

 「ええ、……まあ……」
 言いにくそうに答えると、その先も突っ込まれます。

 「お家で?……それとも学校で?」

 「えっ…………それは…………両方です」
 急に声が小さくなります。私はこんなこと尋ねなきゃよかった
と思いましたが、後の祭りでした。

 「あなた、普通にしている時は、便秘気味なの?」

 「………………」
 私が答えたくなくて無言でいると……

 「お仕置きね……」

 「ええ」

 「うちも同じよ。このお浣腸はお仕置きとしてやるの。だから、
当然、グリセリン。普通は濃度50%溶液だけど、体調が悪い時
は薄めてあげるわ。……ただし、前日おいたが過ぎた子には原液
なんてのもあるから気をつけてね。あなた経験ないかもしれない
けど、原液ってもの凄くお腹が渋るわよ」

 「(原液?)」
 私は目を白黒です。

「まさか、お父様はやらないでしょう?こういうことはお母様の
仕事だものね。……学校では上級生にやってもらったんじゃない
の?」

 「ええ、……まあ……」

 「お浣腸は尾篭な話だから、外聞もあって、学校でも家庭でも、
『うちはこれをお仕置きとしてやっています』なんて言いたがら
ないけど……けっこうあちこちでやってるのよ」

 ケイト先生がビニールシートを広げた時でした。

 「おはようございます、先生」
 お母さんの声。

 お母さんが部屋のドアをお義理にノックをして、両親が一緒に
……いえ、それだけじゃありません。両親の後ろに隠れるように
香織までもが一緒に部屋へ入ってきます。

 『なんで、あんたまでが一緒なのよ。昨夜はぴーぴー泣いてた
くせに、今日はよくそんな笑顔でいられるわね。あんたには関係
ないことでしょう』
 私は香織を見るなり、妹を追い払いたくて仕方がありませんで
した。

 私はどうしてよいのか分からず、とにかく毛布を必死になって
身体に捲きつけます。

 お母さんはともかく、お父さんや香織には、この姿を見られた
くありませんでした。

 「おはよう、お姉ちゃん」
 香織は私のベッドに両手を着くと私の顔を見て満面の笑みです。

 「おはよう、美香。昨日はちゃんと眠れたかい?」
 と、今度はお父さん。

 「おはよう、美香ちゃん。先生ができたら布製のオムツの方が
いいとおっしゃるから……お母さん、あなたの為にオムツ作って
きたの。これ前に作ったのは何年前だったかしらねえ」
 お母さんは昨夜徹夜で縫い上げた布製のオムツとオムツカバー
を三つも持って私の枕元に立ちます。

 家族全員にベッドを囲まれ、進退窮まったというのは、まさに
このことです。
 私は、もう、どうしてよいかわからず、ただ引きつった笑いを
浮かべて応対するしかありませんでした。

 「あら、いい顔ねえ」
 そこへケイト先生もやってきて私の怯えた顔を見つめます。

 「お仕置きを受ける時は、そうした申し訳ないって顔をしてる
のが一番よ……」

 先生はそう言うと、いきなり毛布の裾を持って捲りあげます。
 それがどうなるか、誰にもわかることでした。

 「……大丈夫、大丈夫、見てるのお父様とお母様だけだもの」
 先生はそういいながら今度は私の両足を高く持ち上げます。

 これもどうなるかは誰にでも分かります。
 ただ、先生のそのあまりの手際のよさに私は声を出す暇があり
ません。
 どうやら、私、悲鳴を上げるタイミングを逸したみたいでした。

 「お父様もお手伝いください」

 ケイト先生はそうしたことには距離を置きたいお父さんに声を
かけます。お父さんはそ知らぬふりで壁の方を見ていました。

 それに対して香織は積極的です。こんなチャンスは滅多にない
とばかりに、何も隠すものがなくなった私のお尻を至近距離から
まじまじと見ています。

 『あんた、こんなもの見て面白いの?……だって、あんたと私、
同じ体じゃない』
 なんて言ってやりたくなりました。

 そんな好奇心旺盛な香織にケイト先生がまず声をかけます。

 「香織ちゃん、コレ、お姉ちゃんのお尻に挿してくれるかなあ」

 ケイト先生がそう言って香織に手渡したのはイチヂク浣腸。
 『えっ、香織にやらせるの!!ちょっと、ちょっと、やめてよ』
 私の心はいきなり大慌てです。

 香織だって……
 「やだあ~、ばっちいもん」
 と、最初は断ったのですが……

 「ダメよ。香織。あなたも家族の一員なんだもの。協力しない
と……」
 お母さんが諭します。

 「え~~やらなきゃだめなの?」
 香織は一見不満そうに見えますが……その笑顔はまんざらでも
ない様子。
 私はこの子の姉ですから、そこらの事はよくわかるのでした。

 「香織ちゃん、香織ちゃんはお姉ちゃんが好きでしょう」
 「うん……」
 「だったら、大好きなお姉ちゃんの為にもお仕置きしてあげな
きゃ。お仕置きは愛されてる人からがやらないと効果がないの。
お姉ちゃまのお尻をばっちいなんて言ったらお姉ちゃまに失礼よ」
 「だってえ……」
 香織はなおも渋っていましたが……
 「こういうことはお互い様。あなただって、いつかお姉ちゃま
からこういうことをされることがあるかもしれないわ」
 ケイト先生の説得に香織は満を持して決心したみたいでした。

 『ふん、やりたいくせに!』
 私の方はプンプンです。

 「こう持って……ほら、ここに刺すの。……膨らんでるところ
は私が合図をしないうちは強く握らないでね。お薬が出ますから」
 ケイト先生は手取り足取り香織を指導です。

 そのうち……
 『あっ!!!』
 その瞬間、私のお尻の穴がケイト先生によって開かれました。

 「さあ、ここに差し込んで」

 香織は言われた通りにしましたが、私の方が問題でした。
 イチヂクの先がお尻の穴に当った瞬間、私は思わず門を閉じて
しまいます。

 「ほら、ダメでしょう!幼い子じゃないんだから……」
 ケイト先生、さっそく私にお小言です。

 「ちゃんとやらないと、昨日の香織ちゃんみたいにお灸をすえ
られることになるわよ」
 ケイト先生はとっておきの威し文句を私に投げかけます。

 お灸、それは滅多にないお仕置きでしたが、それでも女の子に
とってはおぞましいお仕置きの一つです。
 そして、それと同時に、昨夜の香織の悲鳴がお灸だと知ったの
でした。

 『……てっことは……私も…………!!!!』
 嫌な予感が頭を掠めた瞬間、嗅ぎ慣れたお線香の香りがします。

 『!!!(いつの間に?)!!!』
 原因はお母さんでした。私がそこへ目をやった時は、お線香が
すでに燃えていて、艾も丸められて、準備万端だったのです。

 「私も一応許可をいただいてるけど、こういうことはお母様に
やっていただくことになると思うわ」

 「…………」もう言葉がありませんでした。

 「わかったら、抵抗しないの。大人しくお浣腸を受けましょう。
……ね、わかった?」
 ケイト先生の声に、私は頷くしかありませんでした。


 香織のイチジクがお尻に刺さり、あの嫌な感触がお尻の穴だけ
でなく身体全体に広がります。

 「よくできたわ。あなた、なかなかお上手よ」
 ケイト先生のお世辞に送られて香織が私のお尻から離れました
から、私は急いで立ち上がろうとします。
 ところが……

 「あら、何やってるの!あなた、まだお浣腸が済んでないのよ」
 ケイト先生がベッドから起き上がろうとしていた私の肩を押し
返します。

 私はベッドに仰向けで、逆戻り。両足も再び上げさせられたの
でした。

 「では、まず、お母様にはこちらで……」
 ケイト先生はあの馬鹿でかい注射器みたいな浣腸器をお母さん
に手渡します。

 『やだなあ、あんな大きなので……イチヂクでいいじゃないの』
 心の中でぶつくさ言いながらその時を待っていると……

 「さあ、いきますよ。今度はちゃんとお尻の筋肉を緩めなさい。
あんまり見苦しい真似をしてると、本当に熱いお灸ですからね」

 お母さんに脅されて、私は最大限の努力はします。そのガラス
の尖った先をお尻の穴で受け入れようと努力はしたのです。
 でも、これは人間の防衛本能。身体が自然に拒否してしまうの
でした。

 「ほら、しっかりしなさい。私に恥をかかせないの!」
 お母さんの突き刺すガラスの先端がお尻の入口をつんつんしま
す。

 「ほら、本当にお灸になりますよ。いいのね、それで……」
 お母さんの更なる脅しにビビッた私は、お尻の門を開けるべく
更に一層の努力をしてみますが、これが身体の中に入ったらどう
なるかを私自身が知っていますから、簡単にはお尻の門は開きま
せんでした。

 と、そのときです。

 「いやっ!!」
 私の大事な場所が誰かの手で触れられます。

 小さな芽を悪戯したのはケイト先生でした。
 でも、おかげでお母さんの思いは叶います。

 「………(あっ、流れてる)………」
 気がついた時は、グリセリンのあの嫌な感覚がお尻の中に……。

 「(いやあ!)」
 私はたまらず両手で顔を覆いますが……

 「ダメよ、顔を隠しちゃ。どんな時でも現実を直視しなきゃ。
あなたにとっての現実は何?……上級生に誘われるまま桃色遊戯
にうつつを抜かしていたあげく、成績を下げて、お父様お母様に
ご心配をかけて……それで、こういう事になったんでしょう?」

 「…………」
 私は小さくそれと分からないほど小さく頷きました。

 「だったら、ちゃんとお仕置きされてる自分も見つめなきゃ。
逃げてちゃ反省にならないわ。自分がどういう姿をしているか、
見にくかったら、鏡を持ってきましょうか?」」

 「いや、やめて」
 私はケイト先生の提案に思わず声が出てしまいました。

 「ほら、ほら、イヤを言ってはいけないと教えたはずよ」
 ケイト先生の声に我に返ります。

 『そうだ、今は赤ちゃん。イヤは言っちゃいけなかったんだ』

 ハッとした私は、
 「ごめんなさい、もう言いません」
 慌てて謝りますが、先生はそれには答えずさっさと私の足元に
鏡を置きます。

 「ほら、よ~~く見て御覧なさい。女の子はなかなか自分では
こんな処見ないから、こんな時はいい機会だわ」

 そう言われて見た鏡には私自身の恥ずかしい場所が……

 こんなの見たいのは男の子だけ。女の子は見たくありません。
 でも……

 「ほら、ちゃんと見なさい!自分の汚い部分から目を背けない
のよ」

 先生の強硬な態度に押されて、私はじっくり私の恥ずかしい処
を鏡ごしに見る事になります。それはすでに薬の効果が効き始め
ていた身としては、『こんな事で時間を取られたくない』という
思いからでもありました。

 「トイレ、行ってもいいですか」
 今度こそ、と思ってそう言ったのですが……
 
 「あら、だめよ。まだ肝心のお父様からのお仕置きが終わって
ないてでしょう」

 ケイト先生の声に……
 「でも、もう出そうなんです」
 と泣き言を言うと……

 「大丈夫よ。幼い子じゃないんだから……しっかりお尻の穴を
閉めていればまだまだこれくらい耐えられるわ。……さあ、恥を
かきたくなかったら頑張りなさい。これも、いい教訓になるわ」
 残酷な答えが返って来ました。

 その瞬間です。私のお腹に大津波が……
 「あっ、だめえ~~」

 ベッドのシーツを必死に両手で握りしめ……下腹に意識を集中
します。

 「ほら、大丈夫でしょう」
 ケイト先生は少しだけ落ち着いた私を見て冷たく言い放ちます。

 確かにその時の大津波は漸(ようよ)うのことで治まりました
が、もうこれ以上あんなお薬を受け入れるのは無理でした。
 ですから、恥を忍んでケイト先生に……

 「もう、ダメなんです。ホントに出ちゃいます」
 と申し上げたのです。
 けれど……

 「さあ、そんな泣き言言ってる間に済ませた方がいいわ。……
お父様、ご準備をお願いします」

 ケイト先生は仕事を先へ進めようとします。

 お父さんの顔も『約束したことだから仕方がない』というお顔
でした。
 その顔で先生からあの注射器のお化けを受け取ります。

 『あっ、お父さんが来る!』
 私に迫る新たな恐怖です。

 ただ、お父さんから受けるお浣腸というのは不思議でした。
 それって心の表面では、お母さんからやられた時より、ずっと
恥ずかしいのです。お父さんは男性ですから……

 でも、私はお父さんが幼い頃からずっとずっと好きでした。
 思春期になって口にはあまり出さなくなりましたが、その気持
はその時も変わっていません。
 すると、不思議なことが起きました。

 「……あっ!」
 お父さんが突き刺したガラスの先端を私のお尻はすんなり受け
入れたのです。

 お母さんの時にはあんなに抵抗したガラスの先を、今度はあの
時より、たくさんお薬がお腹に入っているのに……ちょっとでも
気を緩めたら噴出しそうだというのに……それは、するりと私の
お尻に刺さったのでした。

 「さあ、いくよ。頑張るんだよ」
 お父さんの声に素直に頷きます。

 『あっ…入ってくる……入ってくる』
 私はお父さんのグリセリンを受け入れながら、でも不快な気持
は何一つしませんでした。

 むしろ、その瞬間は恍惚として天井を見ていたのです。

 擬似セックス。
 もちろん、その時はそんなこと思いもしませんが、大人になり
セックスを経験すると、あの時のあれはそんな気持だったんだと
分かるのでした。


 結局、私のお尻には、香織の30ccと両親が50ccずつの
130ccが入ります。

 終わった時、おなかの中は大嵐です。たまになぎの時間がある
といってもそれは短く、すぐにまたお腹の大嵐がやってきます。
ですから、トイレに行こうにも危なくてベッドから起き上がる事
さえ困難になっいました。

 その大嵐の私のお尻りに大きな帆が張られます。

 「おトイレ、おトイレ」
 私は弱弱しく叫びましたが……

 「大丈夫よ、美香さん。今日はもうその心配はないわ。だって
あなた、今は赤ちゃん。このベッドの上で存分におトイレできる
んだもの。……こんなに幸せ、またとないわ」

 『そんなあ~~~』
 私は悪い冗談だと思っていましたが、大人たちは本気だったの
です。

 「お父様、お母様、それではお約束ですので、お願いします。
こんなに大きくなったお子さんの下の世話は大変だと思いますが、
こうした事は他人よりご両親の方がはるかに効果的なのです」

 「分かってますわ。自分の娘ですもの。造作のないことですわ」
 お母さんは満面の笑みで答えます。

 つられてお父さんも……
 「あっ……そうだね」
 承知しましたが、その顔は若干引きつって見えます。

 そんな二人の様子を見ながら私は……
 『何でこんなことしなければならないの?なぜこんことするの
よ!馬鹿じゃないの!』
 とそればかり御題目のように思っていたのです。

 そんな御題目を唱えながら頑張っている私の脇にケイト先生が
立ちます。
 それって、私にしてみたら地獄からの使者でした。

 「ほら、もうオムツはめてもらってるんだから、ここに出して
いいのよ」
 地獄からの使者が私の特大オムツを叩きながら笑います。

 『ちょっと、やめてよ!!』
 私はこの時だって必死です。

 ケイト先生は人のことだと思って笑っていられますが、こちら
は『はい、そうですか』という訳にはいきませんでした。
 油汗を流し、顎を震わせて、それでも必死に頑張っていたので
した。

 そんな私のお腹を、先生はいきなりギュウ~っと押し込んで、
鷲づかみにして揉み始めます。

 「……あああっっっ……だめえ~~~~」

 私は微かに声を上げましたが、抵抗できませんでした。

 生暖かいものがあっという間にお尻全体に広がり、同時に私の
プライドが溶けてなくなります。

 その瞬間は、何が起こったのか理解できませんでした。
 いえ、理解しようとしませんでした。
 そう、理解したくなかったのです。

 『夢よね、こんなの夢よ。現実じゃないわ』
 私の心の奥底から今を認めない言葉が響きます。

 『そうよ、悪い夢みてるだけだわ』
 私はその言葉にすがるしかありませんでした。


****** 見沼教育ビレッジ (10) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 / §11~§12

****** 見沼教育ビレッジ (11) ******


 『今、自分の腰のあたりがスースーするけど、きっと、私……
風邪ひいてるんだわ』

 馬鹿げてると思うでしょうけど、それしか自分の心を納得させ
られなかったのです。

 もちろん、お父さんとお母さんが私の為に仕事をしている事は
知っています。
 でも、それを認めるわけにはいきませんでした。
 だって、それを認めてしまったら、私はもう二度と誰とも顔を
合せられないような気がして怖かったのです。

 ですから、薄情者の妹が……
 「わあ~~お姉ちゃん、ばっちい」
 なんて叫んでも、それを受け入れることは出来なかったのです。

 『………………………………………………………………』

 オムツ替えに掛かった時間はおそらく1、2分でしょう。
 でも、その時間は、私には30分にも1時間にも感じられる程
長いものでした。

 「終わったよ」
 お父さんが枕元にやって来て声を掛けますが、お母さんはまだ
汚物を片付けていました。
 私はお父さんの笑顔にも顔を反対側に向けます。

 でも、そこにも妹の香織の顔があって……
 「よかった、私はお浣腸しなくてもいいんだって……」
 小憎らしい笑顔で私の顔を覗き込みます。

 何もない時だったらきっと首を締め上げていたと思います。

 行き場のなくなった私はしかたなく正面を向いて目を閉じます。
 すると、私の下半身にはしっかりオムツがはめられているのが
わかりました。

 「このオムツ、ずっとしてなきゃいけないの?」
 私は目を開けましたが、その時涙がこぼれました。

 「大丈夫だよ。お勉強の時は涼しい格好になるみたいだから」
 お父さんはやさしく教えてくれたのですが……

 香織はのしかかるようにして私の顔を見つめると……
 「お姉ちゃん、大丈夫だよ。すぐ取ってくれるよ。……だって、
これから痛~~い鞭を六回も受けるんだもの。オムツなんてして
たら痛くなくなるもの。絶対はずしてくれるよ」
 妹はそう言って笑います。

 天使のような笑顔。でも、そのお腹の中は、明らかにこれから
起こる私の受難が嬉しくて仕方がないといった様子でした。

 「悪魔」
 私が香織の顔めがけて吐き捨てると……彼女はさらに甲高い声
で笑います。

 『そうか、そうだったわね』

 でも、私は香織のおかげで朝の儀式のことを思い出しました。
 そうなんです。朝の儀式はまだ終わっていないのです。お浣腸
だけでホッとしてはいられませんでした。

 「あら、何なの?……何だか楽しそうね」
 噂をすれば…ということでしょうか、ケイト先生がお父さんの
背中から顔を出します。

 「美香さん。せっかくお母様から穿かせていただいたオムツだ
けど……これ、いったん脱がすわね。……あなたには、これから、
先学期の反省をして、鞭を受けてもらうことになってるの。……
そのことは説明したから覚えてるでしょう」

 ケイト先生は、そう言いながら私のオムツを脱がそうとします
から……
 「あっ、いいです。私、自分で脱ぎますから……」

 さきほどのお浣腸で度胸がついたのか、私、自ら申し出たので
した。ところが……

 「あっ、それは結構よ。せっかくのご好意だけど、こういう事
はあなたが自分でしちゃいけないことになってるの」

 「どうしてですか?」

 「だって、あなたは、今、赤ちゃんですもの。自分で着替えは
おかしいでしょう」

 「……」

 「それにね、赤ちゃんのお仕置きは、何より辱めが大事なの。
……恥ずかしいと思う気持をあなたが持つことがお仕置きなのよ。
オムツ替えも自分でやるより誰かにしてもらった方が恥ずかしい
でしょう。だから、脱がすのも私がやってあげるの。わかった?」

 「…………」
 私は何も答えませんでした。
 何も言えず、ただ裸の私を見つめるだけだったのです。

 「いらっしゃい」
 ケイト先生の優しい言葉に導かれ、ベッドを降りて鞭打ち台へ
と向かいます。

 鞭打ち台といっても、そこにあるのはサイドテーブルに腰枕を
乗せただけの簡素なものでしたが、今回はそれで十分でした。

 私が腰枕の上にお臍を乗せてうつ伏せになると、お尻が『どう
ぞお願いします』とばかりに浮き上がります。それは鞭を振るう
人がお尻を調教するのにちょうどいい位置でした。

 「足を開いて……」
そう言われましたから足を開きましたが……

 「もっと、広げなさい」
 と言われます。そこで、もっと開いたのですが……

 「さあ、恥ずかしがってないで、もっと一杯に開くの。もう、
ご両親の前ですべて見せちゃってるんだから今さら恥ずかしがる
ことなんてないでしょう……」
 先生はとうとう私の太股に両手を入れて力ずくでこじ開けます。

 私はべつに抵抗するつもりはなかったのですが、お浣腸の時と
同じで本能的に自分を守ってしまうみたいでした。

 「…………」
 お股の中に風がスースー入り込むなか、私は硬質ゴムでてきた
パドルの衝撃に耐えようとしてぶたれる前から身体が熱くなり
ます。
 こんな時はたとえ素っ裸でも寒さを感じている余裕がありませ
んでした。

 「懺悔の言葉はあなたの目の前に張ってある紙を読みなさい。
一発目って書いてあるところには何て書いてあるかしら?」

 ケイト先生の指示で、私は初めて自分がうつ伏せなった机の上
にそんな張り紙がしてあることを知ります。

 「私は悪い子でした。こんな悪い子にどうかきついお仕置きを
お願いします」

 「そう、それよ。でも、もっと大きな声を出して読むの」

 「…………」
 私はその瞬間、恥ずかしくなって声が出ませんでした。
 というのは、これは小学生の時には家庭や学校で散々やらされ
てましたから……中学生になった今は、もう卒業できたと思って
いたのです。
 それを香織の見ているこの場所で今さら……という思いが頭を
よぎったのでした。

 「どうしたの?嫌なの?……嫌なら、他のお仕置きに切り替え
ましょうか?……お灸でもいいのよ。そっちにする?」

 ケイト先生に脅かされて、私は勇気を振り絞ります。

 「私は悪い子でした。こんな悪い子にどうかきついお仕置きを
お願いします」

 私はもう半分以上やけで大声を出します。

 すると、ケイト先生の声がして……
 「では、お願いします」
 私は小さな声を聞いたのでした。

 『何のことだろう?』
 私にふとした疑問がわきます。
 でも、答えはすぐに出ました。

 「美香、歯を喰いしばりなさい。息を止めて、しっかり頑張る
んだよ」

 『えっ?私の腰に乗せた手はお父さん?』

 「ピシッ~~~」
 ろくに考える暇もなく強烈な一撃が私のお尻に炸裂します。
 それって、私の心と身体をバラバラにするのに十分でした。

 男性と女性では同じパドルでぶたれても痛みの質が違います。
 その時の痛みは、振り返らなくても間違いなくお父さんだった
のです。

 「だめ、お父さんだめえ~、しないでそんなことしないで……
お願い、ごめんなさいするから、お父さんやめて~、お願~い」

 恥も外聞もなく私は後ろを振り向いて鞭を握るお父さんに泣き
つきます。

 それって、理屈じゃありませんでした。
 ケイト先生の鞭だと思っていたのが肩透かしを食らったという
のはあるかもしれませんが、私にとっては幼児体験が全てでした。

 もちろん、お父さんから年から年中叩かれていたわけではあり
ません。我が家では、何かあっても私をぶつのは大抵お母さんで
した。お父さんが私を叩くことなんて一年に一回くらいしかあり
ません。
 でも、たとえレアなケースであっても、その強烈な思い出は、
今でも私の心の奥底に刻まれ続けています。

 『お父さんの顔は恐い。お父さんのお尻ペンペンは痛い。鞭は
もっともっと痛い。あの時お父さんは私を納屋の中に放り投げて
閉じ込めた』

 幼い日に経験した恐怖が、こんなに身体が大きくなった今でも
私を必要以上に震え上がらせ取り乱させるのでした。

 「ほら、ごめんなさい、ごめんなさい言ってないで、さっさと
二発目の項目を読みなさい。お仕置きの鞭がいつまでも終わりま
せんよ」
 お母さんが恐い人にはどうしなければならないかを脇から教え
てくれます。

 「もう一度良い子に戻れますように、厳しい鞭をお願いします」

 「そうだな、良い子に戻ってもらわないと、何より私が困る」
 お父さんはそう言って鼻息を一つ。それがうつ伏せになった私
にも伝わったのでした。
 そして、再び……

 「ピシッ~~」

 「いやあ~~ごめんなさい。もう、ぶたないで、いい子になり
ます。約束します。ごめんなさい。ごめんなさい」

 信じられないことですが、お父さんにぶたれる時、私の対応は
幼児の頃とほとんど変わりがありませんでした。
 中学生のプライドなんて、お父さんの前では軽~く吹っ飛んで
しまうのです。

 「さあ、三発目を読んで……」
 お父さんの声が恐いのです。

 「どんな…(はっはっはっ)…辛いお仕置きにも…(はっはっ
はっ)…耐えますから、もう一度、…(はっ)…良い子に………
良い子に……(はっ)……してください」
 私は反省の言葉は途切れ途切れ、嗚咽が止まりません。

 「ほらほら、いくら女の子でもそんなにぴーぴー泣いてばかり
じゃちっとも反省してることにならないぞ。少しぐらい痛くても
ぐっと我慢して耐えなきゃ。……ほら、もっとしっかりせんか」
 私はどんどん追い込まれていきます。

 「はい……」
 私は真面目に真面目にお仕置きを受けているのに、お父さんに
謝らなければならないのでした。

 「さあ、しっかり、歯を喰いしばって……こんな時は何も考え
ないことよ」
 お母さんが脇で励まします。

 「ピシッ~~~」
 三発目はお尻も暖まってきて、特に痛かったです。

 ひと際甲高い音がして、身体が机ごと前に持っていかれそうに
なります。その衝撃は、お尻だけじゃありません。頭の天辺まで
届きました。

 「かわいそう」
 香織の独り言が聞こえました。

 「じゃあ、あとの三つは…母さんに頼もうか」
 お父さんが突然パドルをお母さんに渡します。

 それは、事情はともあれホッとした瞬間でした。

 「私は誓います。絶対に悪い子にはなりません。お父様お母様
のどんなお言いつけも守ります」

 現金なもので、パドルがお母さんに渡ったとたん反省の言葉が
すらすら言えるようになります。

 「ピシッ~~」

 「(ひぃ~~~)」
 ぶたれた瞬間、私は机を両手で握りしめます。もちろんお尻は
ヒリヒリしています。
 お母さんだから優しいってことじゃ決してありません。
 でも、私はこの痛みに慣れていましたから、正直、お父さんの
鞭より、はるかに楽だったのです。

 「ほら、頑張れ、頑張れ、あと二つだぞ」
 いつの間にかお父さんが中腰になって私と視線を合せています。
 お父さんは私をあやすように笑っていました。
 いつもの優しいお父さんがそこにはいたのでした。

 恐いお父さんと優しいお父さん、それはどちらも私がよく知る
お父さんだったのです。

 「さあ、五発目を読んで……」
 今度はお父さんが私を励ます番です。

 「もし、それでもまた悪い子に戻ったら、もっともっとキツイ
恥ずかしいお仕置きをたくさんたくさんお願いします」

 私は早口ですらすらっと読んでしまいました。
 すると、それはそれで……

 「もっと丁寧に……心をこめて読むの」
 お母さんのお小言です。

 「ピシッ~」
 
 「ひぃ~~」
 お母さんの鞭は甲高い乾いた音がします。ぶたれた直後はお尻
の表面がヒリヒリして、そりゃあ痛いですから、思わず悲鳴を上
げてしまいますが、お母さんのお鞭はお尻のお肉にはあまり影響
を与えませんから、その痛みが長く続くことはありませんでした。

 「これからお勉強頑張ります。もし怠けていたら、夜にはまた
キツイお仕置きで励ましてください」

 「ピシッ~」

 最後の一発が届いた瞬間、私は悲鳴を忘れ安堵の顔をしました。
 それは、お母さんも見ていたみたいで……

 「あら、最後は効いてないみたいね。……だったら、もう一つ」

 「ピシッ~」
 とんでもないのが最後におまけでやってきます。

 「ひぃ~~」
 前の悲鳴がお芝居というわけではありませんが、これは本当の
心の声。最後の衝撃は目を白黒させ地団太を踏むほどの衝撃だっ
たのでした。

 「いつも言ってるでしょう。女の子はお仕置きを受けてる時は
いつも申し訳ないって気持でいなきゃ。やれやれ、なんて気持を
外に出しちゃいけないの。わかってる?」

 私はキツイおまけの一撃とお小言をもらってようやくお母さん
のパドルから開放されたのでした。

 『やれ、やれ、』
 今度は本当にやれやれです。

 でも、これで朝の儀式がすべて終わりたわけではありませんで
した。
 ほっとしていた私の耳に、まだ鞭打ち台にうつ伏せで張り付い
ていた私の耳に、ケイト先生が……

 「美香ちゃん、ご苦労様、起きていいわよ。……それじゃあ、
あとはお父様からお尻にお薬を塗っていただきましょう」

 こんな言葉を聞いたものですから……
 「えっ、お父さんにまた、見せるの」
 私の口は忘れっぽくて、思わず本音をポロリとさせてしまうの
でした。

 「あら、お父様はお嫌い?」

 「いえ、……そういうわけじゃあ……」

 「忘れたの?今のあなたは、『いいえ』を言えない子なのよ」

 「…………それはわかってますけど……」

 「わかってますけど、何なの?『恥ずかしいからそれは嫌です』
なのかしら?……でも、赤ちゃんの立場にあるあなたに、それは
言えないお約束よ」

 「………………(!)」
 泡を食った私は頭の中で、何とか反論を、口実をと探しました
が、結局、生唾を一口飲み込むことしかできませんでした。

 「今のあなたは、『パンツを脱ぎなさい!』と命じられたら、
脱がなきゃならないし、『お股を広げなさい!』と言われたら、
やらなきゃならないの。もちろん、穏やかに話して従ってくれる
なら何もしないけど、わがままを言うようだと、お隣のお嬢さん
みたいに、枷を首に捲きつけて大恥かきにお隣へ飛び込むことに
なるわ。あなたは頭のよさそうな子だから、そのあたりの理屈は
わかるわよね」

 「はい、先生」
 私は伏し目がちにうな垂れます。

 「わかったのなら、お父様のお膝にいらっしゃい。……お薬を
塗っていただきましょう。そのあと、オムツも着けていただいて
……それから、朝のお食事……分かりましたか?」

 「はい、先生」

 「よろしい。良いご返事ですよ。良い子はいつでもそんなふう
に素直でなくちゃいけないわ」
 ケイト先生は素っ裸の私を抱きしめます。そして、こう続ける
のでした。

 「あなたのように、今でもご両親から愛されてる子は、人生に
つまづいたら、まずはすべてを脱ぎ捨てて、その愛の中に戻って
みるのが再生の近道よ。その勇気があなたに幸せをもたらすの。
今はこの世の中で唯一あなたを愛してくれる人たちの前だもの。
どこをどう見られたっていいじゃない」

 「……はい」
 私の声は囁くように小さいものでしたが、ケイト先生の言葉が
何となくわかるような気もするのでした。

 「逆に言うとね、私のどこをどう見られたって構わないと思え
るお相手を見つけられるかどうが女の子の幸せの鍵なの。……今、
それはお外にはいないわ。家の中にいらっしゃるでしょう」

 ケイト先生はそう言って私を回れ右させると、すでにソファに
腰を下ろしているお父さんの元へ私の肩と背中を押したのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (11) ******

****** 見沼教育ビレッジ (12) ******


 「覚悟を決めたか?……どうやら、お前も少~~しだけ大人に
なったみたいだな」
 お父さんは最初厳しい顔でそう言います。

 『覚悟って何よ!……こんな状況じゃ仕方がないじゃない……
私は私、何も変わってないわ』
 言われた私はそう思っていました。

 でも、お父さんには私の心持が最初の頃とは幾らか違ってきた
のがわかるみたいで、顔は厳しくても嬉しそうにしている様子が
こちらへと伝わってきます。

 ただ……
 『何がどう違うって言うのかしら?』
 幼い私にその具体的な中身まではわかりませんでした。

 お尻ペンペンの姿勢でお薬を塗られ、ベッドに仰向けらされて
オムツを穿かされます。
 友だちに見られたら自殺だってしかねないくらい哀れな姿です。

 当然……
 『こんな屈辱の時間、早く過ぎ去ればいいのに……』
 とそればかり思っていました。

 ただ、最初の頃と違いがあるとすれば、それはまわりの景色が
よく見えるようになったということでしょうか。
 お父さんがやっているたどたどしいオムツ替えの手つきやお母
さんとケイト先生の何気ない会話。香織の手持ち無沙汰な様子迄、
その時は冷静に観察できるようになっていたのでした。

 「要するに諦めただけよ」
 私は誰に聞かせるわけでもなく、ぼそぼそっと小さな声で独り
言を言います。

 すると、それにお父さんが反応しました。
 「だから、『お前も大人になったなあ』と言っているんだ」

 「諦めることが?」

 「そうだ、……それも一つだな」

 「どういうことよ」

 「お前はさっきまで自分のわがままや欲望だけを連呼していて、
それが受け入れられないと心を閉じていた。でも、今は、自分が
置かれている状況を冷静に観察しようとしている。こうなると、
『自分の欲望は一旦脇に置いてとりあえずは諦める』という選択
だって出てくる」

 「だって、諦めたらどのみち負けじゃない」

 「そうじゃないよ。相手のことを冷静に観察したうえで諦める
のは、何も逃げる負けるという意味じゃない。むしろ、その先で
よりよい結果を得るための手段なんだ」

 「ふうん」

 「そうしたこと分かればお前も一人前なんだろうがな。まだ、
そこまではいってないようだな。…………ま、いいさ。その方が
こちらも長いこと楽しめるというもんだ」

 お父さんは自分の出来栄えに満足したように笑うと、オムツ姿
の私を抱き上げます。
 いつ以来でしょうか、お姫様だっこなんて……。

 「先生、出来上がりましたよ」
 お父さんは自分の作品を誇らしげに目よりも高く差し上げます。

 「あら、美香ちゃん、お父様に抱っこしてもらったの?」
 「わあ~~よかったわねえ~~」
 お母さんやケイト先生の声に私の体は全身がピンク色に染まり
ました。

 「わあ、いいなあ、お姉ちゃん、私も抱っこされたい」
 妹の香織までもがお父さんの袖を引きます。

 「だめだよ。これは頑張ったおねえちゃんのご褒美なんだから。
お前もお浣腸するかい?」
 お父さんに言われると、香織はもちろん……
 「いやだあ、恥ずかしいもん」
 と、女の子らしく身体をくねらせて照れてみせます。

 「よかったわね、美香ちゃん、その調子よ」
 ケイト先生はお父さんに抱きかかえられた私の顔を覗きこむと、
人差し指で私のほっぺを突っついてあやします。

 ケイト先生だけじゃありません。この時、私を取り囲む全ての
人が私を本当の赤ちゃんを見ているように見つめ、微笑みかける
のでした。

 『まったく、何よ!馬鹿にしないでよ!』
 という気持も一瞬湧きましたが、家族全員が笑っている中では
それもすぐにかき消され、いつしか不思議な気分に……

 「ほ~~ら、高い、高~い」
 お父さんは何度も何度も私の身体を上下させます。
 すると、その度に天井が近くなったり遠くなったりしました。

 『私、赤ちゃんの頃って覚えてないけど、こんなだったのかあ。
このまま寝てしまいたいくらい気持がいいわ』
 私はお父さんの大きな腕の中でまどろみかけます。

 『不思議、痛いお尻がくすぐったくて気持いいなんて……』
 久しぶりに味わうお父さんの抱っこはパドルで叩かれたお尻が
まだ少し痛かったりしますが、それさえも心地よく感じられて、
楽しい思い出になったのでした。


 「さあ、お着替えを済ませたらしたら、顔を洗って食堂へ行き
ましょう。さっきから、いい匂いがしてきたわ」
 ケイト先生の明るい声が響きます。

 着替えと言っても脱ぐものはありません。私、その時はオムツ
しか身につけていませんから、あとは一つずつ服を着ていくだけ。
バンビのプリントされたスリーマーに始まり、袖と襟にレースの
着いた薄いピンクのブラウス。紺のプリーツスカートは膝上15
センチで小学生の妹のものより丈が短いものでした。

 しかし、ここでも私は一人前に扱われません。
 自分で服を着ることができないのです。

 お父さんとお母さんが、寄ってたかって裸の私に下着から身に
つけさせていきます。
 私はそんな甲斐甲斐しく働く二人に手出しすることは許されま
せんでした。

 「いいなあ、お姉ちゃん、お父さんとお母さんに何から何まで
やってもらって……」

 香織は脇で不満そうでしたが、私は……
 『何言ってるの。いつでも代わってあげるわ』
 と思っていました。

 実際、お母さんは、着替えの最中、目が笑っていません。
 考えてみればこのお仕置き、私だけが辛いんじゃありません。
私はお父さんお母さんにも大迷惑をかけているのです。

 ですから、お母さんがちょっとでも不機嫌な顔をすると、私は
申し訳なくて、着替えの最中や身づくろいをする洗面所でも、私
の心は針のむしろに乗ったままだったのです。

 妹はまだ幼いので私の気持なんてまだ分からないみたいで……
本当に代われるものなら代わりたいと思っていました。


 私たち家族は身支度を整えると食堂へ行きます。
 朝の食事の仕度は賄いのおばちゃんがやってくれていましたが、
私はここでも何一つ自由を与えられなかったのです。

 『?』

 私は食堂に入ってすぐ、奇妙な椅子の存在に気づきます。
 それは、サイズこそ大人用の椅子でしたが、形は幼児用の椅子
とそっくりだったのです。

 背もたれのプーさんのイラストはご愛嬌だとしても、その椅子
は前に小さなテーブルがあり、身体が転げ落ちないようにお股を
通したベルトで固定できるようになっています。
 お母さんと一緒に離乳食を食べる乳幼児が座る椅子という感じ
でした。

 『!』
 私は嫌な予感がしましたが……

 「美香ちゃん、いらっしゃい」
 ケイト先生がその椅子を引いて私にここへ座るように促します。

 『やっぱり』
 と、がっかり。どうやら、私の予感はピンポンのようでした。

 私はその椅子に座り、お父さんお母さんがその両脇に座ります。

 「いただきます」

 ケイト先生も交えて、みんなで食卓を囲みましたが、案の定、
私は何もさせてもらえませんでした。
 私に出来たのは、「いただきます」というご挨拶とお父さんや
お母さんがスプーンで口元まで運んできてくれた料理をパクリと
やって、口の中でもぐもぐするだけ。

 もし料理を乗せたスプーンが目の前にやってきたにも関わらず
口を開かず顔を背けると、もうそれだけで食事は中断。

 「いやあ、もうしないでえ~~~ごめんなさい、悪い子でした
いやいや。ごめんなさい、ごめんなさい、もうしないもうしない」

 香織がしかめっ面をする中で、私はオムツを脱がされて涼しく
なったお尻が真っ赤に焼きあがるまでお父さんやお母さんからの
平手打ちを覚悟しなければなりませんでした。

 それだけじゃありません。もし……
 「美味しいかい?」
 と尋ねられたら、満面の笑みで答えるのも、赤ちゃんとしての
私の義務だったのです。


 お浣腸されたうえにオムツにお漏らし。強烈にお尻をぶたれた
あとは、オムツをはめられて朝の食事を無理やり口の中にねじ込
まれる。これほど屈辱的な朝がこれまであったでしょうか。
 私は肉体的も精神的にもフラフラで自分の部屋へ向かったので
した。


 勉強部屋に戻ると、ごく自然に自分のベッドへ倒れこみます。

 「どう?朝の儀式の感想は?」
 それを見たケイト先生がカーテンを開けながら尋ねました。

 「…………」
 でも、私は答えません。答えたくありませんでした。

 「朝の儀式で疲れたのはわかるけど、ここからはもっと大変よ。
何しろお勉強しなきゃいけないんだもの。そのためには……まず、
オムツを外さなくてはね。この温気ですもの、こんな物してたら、
それこそお尻じゅうあせもだらけになっちゃうわ」
 ケイト先生は私が寝そべるベッドに腰を下ろします。

 「こんなこと、明日もあるんですか?」
 私は倒れこんだままの姿勢で、腰を下ろしてきたケイト先生を
薄目を開けて見つめます。

 「残念だけど、明日の朝も同じよ。そして明後日も……」

 ケイト先生は首を横に振りながら答え、私を仰向けにすると、
オムツを外し始めます。
 普通の常識なら、こんな事されたら抵抗するところでしょうが
私もすっかり慣れてしまったのか、この時は声もださず無抵抗で
した。

 「その先もずっとこうなんですね」

 疲れた声泣きそうな声に先生は……
 「疲れちゃったの?……無理もないわ。今日が初日ですもの。
……でも、すぐに慣れるわ。だって、ここにいる子たちはみんな
同じことしてるんですもの。あなただけじゃないから安心して」

 『あなただけじゃない』というのは、女の子には励ましの言葉
なのかもしれません。でも、ケイト先生にそう言われても、私の
心は『はい、そうですか』という顔をできませんでした。

 ですから、目を閉じて先生とは反対の方を向いてしまいます。
 すると、その視線の先には壁に掛かったゴム製のパドルが……

 今さら『あれ、どんな時に使うんですか?』と聞く気にもなり
ませんから、再び先生の方へ向き直ると……先生がちょうど蜀台
を戸棚から出している処でした。

 それは極太のローソクを1本だけ立てるタイプのタイプの物で、
小机の上には予備のローソクまでもがまだ箱に入ったままて準備
されています。

 『明かりなら電気で十分なはずなのにどうして?』

 パドルは今さらですが……こちらの蜀台は気になります。です
から、理由を尋ねてみたくなったのでした。

 「ローソクって必要なんですか?」
 恐る恐る尋ねてみると……

 「ああ、これ?……これは『お目覚まし』よ」

 「お目覚まし?」

 「そう、授業の途中で眠くなった子を起こす時に使うの。……
……火の着いた蝋燭をこうやって……」
 ケイト先生は私の右手を取ると、まだ火のついていない蜀台の
蝋燭をその上で傾けてみせます。

 「……!!!……」

 いくら世間知らずの私でも、それがどんな結果をもたらすかは
わかります。

 私は慌てて右手を引っ込めてしまいました。
 ただ、すねている時間はありませんでした。

 「さあ、そろそろ、最初の先生がお見えになるわ。これからは
私とあなたと、各教科の先生と三人でお勉強することになるの。
お勉強中はお父様やお母様といったご家族はご遠慮いただいてる
けど……どう、それじゃあ寂しい?」

 「……別に、そういうわけじゃあ」
 弱弱しく答えると……

 「じゃあ、しゃきっとした顔をしなさい。どの先生も真剣勝負
でみえられるのよ。50分間の授業で、あいだに10分の休憩が
入るけど……集中してやらないと……お昼も夜もごはんを立って
食べることになるから気をつけてね」

 「立って食べるって?……どうしてですか?」
 私は思わず尋ねます。
 それって、さっきは『分かりきってるから尋ねないでおこう』
としたことでした。

 「だから、お尻が痛いと椅子に座りにくいでしょう」

 「お仕置きってことですか?あのパドルで、やるんですか?」
 恐いけど、尋ねてしまいます。

 「10分休憩とお昼ごはんの後や夕ご飯の前に、先生方の指示
を受けて私がやるの。10分休憩の時は時間の関係で平手のお尻
叩きが多いけど……昼ごはんの後や夕ご飯の前は、庭の晒し台に
拘束してパドルが多いかしらね……親御さんから許可の出ている
子はお灸もあるし……赤ちゃん扱いだから公園で木馬に乗ったり、
乳母車でお散歩ってのもあるわね……こちらは気晴らしにはなる
かもしれなくてよ」

 「木馬って、三角木馬ですか?」

 「あらあら、おませさんはそんなことまで知ってるの。困った
子ねえ……」
 思わず口をついて出た言葉にケイト先生は苦笑します。そして、
こう続けるのでした。

 「ここでの木馬は、そんな危ないものじゃなくて、よく幼児が
家の中で乗って遊んでる玩具の木馬。それをただ大きくしただけ
の物なの。ただし、公園の木馬はオムツ姿で乗らなきゃいけない
から、それは覚悟しておいてね」

 「乳母車は?」

 「こちらは楽ちんよ。特注された大型乳母車に乗ってればいい
んですもの。これって中が広いでしょう、乗り心地が最高なの」

 「そうですか……」
 私が気のない返事を返しますと……
 
 「ただし、お家を出る時、もの凄くよく効くお浣腸をするから、
途中でオムツ換えをしなければならなくなるわね。知らない人が
沢山見ている前でのオムツ換えなんて、赤ちゃんにはぴったりの
お仕置きでしょう?」

 ケイト先生の皮肉な笑いに……私は滝に打たれたみたいに全身
びっしょりの脂汗。顔は真っ青になってしまいました。

 「そんなに怯えなくてもいいわ。真面目にやってさえいれば、
私のお尻叩きだけで済むはずだから……」

 ケイト先生の言葉はありがたかったのでしょうか。
 私には……
 『あなた、どんなに頑張ってもお尻叩きは免れませんよ』
 と、聞こえてしまうのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (12) ******

見沼教育ビレッジ / 第1章 /§13~§14 

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******


 そうこうしているうちに最初の先生がやってきます。
 森田先生と言う国語の先生。白髪にメガネをかけ、チェックの
ジャケットを着た温厚そうな年配の紳士でした。

 最初は1学期の復習から……
 ここでの授業は学校のように懇切丁寧にはやってくれません。
要点だけを掻い摘んで説明したら、即、確認テスト。という流れ
で、授業はめまぐるしく進行していきます。
 50分の授業は学校の一時限と同じですが、それでいて1ヶ月
分という猛スピードです。

 『そんなのついていけない』
 と最初は思ったんですが、やっていくうちに……でも、それで
どうにもならない、ついていけないという事はありませんでした。

 というのも、先生方はすでに今まで過ごしていた学園から詳細
な学力情報を得ていました。それは単に中間や期末の成績を取り
寄せたというだけでなく、これまで私が学校でどのような勉強を
してきたのか…理解力は…応用力は…暗記力は…集中力は…等々
ありとあらゆるデータを元に授業案を練って進めていきます。
 ですから、この50分の中に無駄な時間というのは一秒たりと
ありませんでした。(ちょっとオーバーか……でも、そんな感じ)

 おかげで50分が終わると、もうそれだけでこちらは疲労困憊
です。
 『1日分たっぷりやったあ~~』
 そんな感じでした。

 これを午前中だけでも4クール、午後は2クールというのです
から…………死にます。

 おまけに……
 翌日は広い範囲からの復習テストが最初にありますし、漢字や
英単語の類は、毎日に100個以上暗記してきて明日に備えなけ
ればなりませんから、授業のない午後や夜も自由時間が自由時間
になりませんでした。

 「こんなの絶対続きませんよ」
 私は1日終わってケイト先生に愚痴を言うと……

 「大丈夫、大丈夫、あなたのことをすべて調べ上げた上で組ん
だ授業ですもの。どの先生も、あなたにできないことは最初から
求めないの」
 と、軽~~く言われてしまいました。

 「だって~~え、課題だってこんなにあるんですよ」
 それでも私が甘えると……

 「だから、慣れるわよ。朝の儀式と同じ。辛いのは最初だけ。
すぐに慣れるわ。だって、私の授業中の蝋燭にも、授業後のお尻
叩きにも、あなた、すぐに慣れてきてるじゃない」

 「慣れてません!あれは、それどころじゃなかったから……」

 「そうそう。いつも『それどころじゃない』って思って続けれ
ばいいのよ」
 ケイト先生の笑顔に私は膨れっ面でした。

 私は、授業中、何度かケイト先生の蜀台から流れ落ちる蝋涙を
手の甲に受けます。いえ、それだけじゃありません。授業の終わ
りには必ずケイト先生からのお尻叩きが待っていました。これは
その時間を受け持った教科の先生が私の授業態度を判断して下す
罰で、『なし』というのはありません。最低でも三つ、多い時は
12発もパンツを脱がされたお尻に平手打ちされます。
 こんな大変な勉強は初めてでした。

 でも、たしかに、ケイト先生の答えにも一理あります。
 これほどまでに忙しいと普段なら大騒ぎになるお仕置きでさえ、
もうどうでもよいことのように感じられますから……
 人間って、不思議なものです。

 朝のお浣腸も、オムツも、お漏らしも、授業中のローソクも、
授業後のお尻叩きも……忙しさの前にはその優先順位が下がって
しまうのでした。

 「私、馬鹿なんですから……」
 私は、今の苦役から逃れたくて何度かこんなことを言いました。
 すると、ケイト先生は……

 「あら、あら、あなたいつからお馬鹿さんたちの仲間入りした
の?……園長先生は、あなたのこと、最近、成績が落ちてるけど、
本来はとっても優秀な生徒だっておっしゃってたわよ」

 「そんなこと買いかぶりです」

 「そんなことないわ。だって、あなたは今日一日やっただけで、
もう随分と慣れたんですもの。……それは、今、あなたの人生の
フィールドが机の上にあるってことなの。机の上で作業している
時が一番楽しいでしょう?」

 「楽しくありません!!!……だいいち、机の上の作業って、
……それって当たり前じゃないですか!勉強させられてるんです
から……」

 「当たり前じゃないわ。だって、体育会系の人たちに同じ事を
しても寝てしまうのよ。どんなに蝋涙を落とそうが、鞭でお尻を
叩こうが、この人たち結果は同じなの。……でも、そんな子たち
が指導者にこんなトレーニングをしなさいって命じたら……今の
あなたと同じ。不満はあってもやはり真剣に取り組むの。だって、
その子たちにとって人生のフィールドは、机の上なんかじゃなく
本物のグランドの上にあるんだから……」

 「…………」

 「大丈夫、私がついてるから……どんなにあなたが『嫌だあ』
って言っても、ほとんど24時間、私はあなたのそばを離れない
の。赤ちゃんの面倒をみる母親と同じね。……こんな重宝な人を
利用しない手はないんじゃないかしら?」

 『どういう意味よ。あなたなんて厄介なだけよ』
 心はすでにけんか腰でしたが、たしかにその後、ケイト先生は
色んなアドバイスで私を助けてくれたのでした。


 1日6時限みっちり、学校と同じように時間割にそって授業が
行われます。息抜きに他のお友だちと一緒に体育や美術や家庭科
なんてのもありますが、大半の授業が、個室でマンツーマンって
ことでした。

 ここで、個々の先生のことをあれこれ書いてもいいのですが、
読者さんも退屈でしょうからそこは省きます。いずれにしても、
勉強の忙しさにかまけているうち、一週間はあっという間に過ぎ
去りました。


 次の日曜日……
 この施設は曜日に関係なく動いていますから日曜日もおやすみ
ではありませんが、お父さんがこの日施設を離れるというので、
私は特別に半日だけ家族水入らずで過ごすことを許されました。

 とはいえ、その日も午前中は初日と同じ。
 朝のお浣腸、お漏らしに始まり、両親からのお尻叩き……勿論
お勉強もあります。その最中に落とされる蝋涙だって別に回数が
減ったようには感じられませんでした。

 ただ、最初の頃に比べて何をされるにしても気持が楽になった
のは確かでした。
 蝋涙を恐れて殊更『授業集中しなきゃ』と思うこともなくなり
ましたし、課題を聞いて『こんなの徹夜しなきゃこなせないじゃ
ないの!!!』と癇癪を起こすこともなくなりました。

 いえ、そんな立派な事ばかりではなく……
 日頃繰り返されるハレンチなお仕置きのせいで、どこでも平気
で裸になれちゃいますし、誰にお尻をぶたれても驚かなくなって
いました。

 わずか一週間で、ケイト先生の言う通り、ここの生活に慣れて
しまったみたいで……それって自分でも、ちょっぴり、恐い気も
します。

 そんな日曜日の午後、突然ケイト先生の提案でぽっかりと暇が
できたのでした。

 昼食後、家族でよもやま話をしたあとで、お父さんが私を誘い
一緒に散歩に出かけることに……
 でも、お母さんと香織は家に残っていました。

 お父さんと二人だけの時間なんて久しぶりです。
 これが幼い頃なら何か買ってもらえると思って単純に喜んだと
思いますが、思春期になるとそこに微妙な溝が生まれます。

 『また、お小言かなあ?』
 『ひょっとしてお仕置きとか……』
 『まさか、ここが終わったらまた別の更生施設に行けなんて、
言わないでしょうね』
 私はお父さんと一緒に歩いていても、ネガティブな方向でしか
ものを考えられませんでした。

 「どうだ、ここでの生活は慣れたか?」
 「ええ、まあ……」
 「嫌なことばかりさせたから、私を恨んでるんだろうな?」

 「そんなこと……」
 私は下を向きます。
 言葉は否定的でしたが、それが私の本心でないことをお父さん
も承知しているみたいでした。

 「自分で抱えきれなくなったら、私の処へ直接連絡しなさい。
お母さんに話すと止められるだろうから、ケイト先生に話すんだ。
彼女が取り計らってくれるよ」

 「えっ?……じゃあ、明日やめてもいいの?」
 私は思わず本音を口走ってしまいます。

 すると……
 「もちろん、それでもいいけど…おまえはそんな弱音を吐く子
じゃないと信じてるよ」

 「…………」
 こう言われると、次に言葉がでませんでした。

 私には中学になった今でも『お父さんの信頼を裏切りたくない』
という呪縛が常に働いています。そして、そのことはお父さんも
よく承知していることだったのです。

 「ところで、おまえはどんなタイプの男性が好きなんだ?」

 「えっ!何よいきなり……」
 たしかに、そんなこといきなり言われても返事に困ります。

 もちろん私にだって憧れる人はいます。友だちとも色んな話を
します。
 ハンサムで、背が高くて、優しくて、英語が話せて……でも、
中学生の私にとってそれは具体的な誰かを指すのではなく、まだ
まだ、少女マンガに出てくる『彼』でしかありませんでした。

 そして何より、そんなことはお父さんには話したくないことだ
ったのです。

 そこで、私は逆にこんな事を言います。
 「私……お父さんの跡を継いで社長さんやってみたい」

 それは、お父さんのそばにずっといたいという意味程度だった
んですが……

 「(ははは)嬉しいけどね、お前には無理だ」
 あっさり、言われてしまいました。

 あまりにもあっさり言われてしまいましたから、ちょっとムッ
として……
 「どうしてよ。世の中には女性の社長だってたくさんいるのよ」

 「(ははは)そりゃあ、そうだけど……うちは『鍛冶屋』だ。
アパレルや雑誌社ならそうした道もあるだろうが、うちで働いて
いるは大半が男性。女の子が切り盛りできる商売じゃないんだよ」

 「ケチっ」

 「ケチで言ってるんじゃないよ。人はそれぞに向いた道がある
というだけのことさ。女の子は社会で片意地張って生きるより、
いい旦那さんにめぐり合って、子どもをつくり、その子と一緒に
愛し愛されて暮らすのが一番だ」

 「う~~~~ふる~~~~い。今どきそんなの流行らないよ」
 私は両手で胸を抱いて寒~~~いという仕草をみせます。

 「流行る流行らないの問題じゃないよ。人はそれぞれにあった
生き方をしないと幸せにはなれないってことさ」

 「だったら、いいよ。私は別の会社に勤めて、そこで社長さん
になるから……」

 「おやおや、随分勇ましいこと言ってくれるじゃないか。……
そんなにお嫁さんじゃいやなのか?」

 「だって、お母さん見てると、まるでお父さんの召使いみたい
なんだもん。あんなの嫌よ」

 「そうか、お母さん、そんなこと言ってたのか?」

 「そういうわけじゃないけど……私だって、男の子に負けない
くらい学校の成績いいんだから……できないはずないわ」

 「学校の成績ねえ……」
 お父さんは少し小馬鹿にしたしたような含み笑いを見せたあと
……
 「うちにも学校の成績が優秀だから雇ってくださいって推薦状
を持って毎年大勢の人がやってくるけど……そいつは、社会人と
しての優秀さにはあまり関係ないみたいだな」

 「なんだ、勉強なんてしなくてもいいんだ」

 「そうじゃないさ。ま、いいだろう、こんな話をおまえにする
のは少し早かったみたいだ。とにかく、今、おまえがやらなきゃ
ならないのは勉強。グレードの高い婿さんと幸せに暮らす為にも、
話し相手にもならんようなじゃじゃ馬や山猿じゃ、向こうも逃げ
出すよ。教養は何より大事だ」

 「私の結婚する人って、そんなふうに立派な人じゃなきゃいけ
ないの?」
 私はそれまでお父さんの求めに何でも応じてきたのに、この時
はちょっと変でした。

 「お前のお婿さんになる人は私の会社を継げる人でなきゃいけ
ないんだよ。跡継ぎがいなければ、会社はよその人の手に渡って
しまうからね。それではご先祖に申し訳ないから避けたいんだ。
……それがいけないかい?」

 「…………」
 私は何も答えませんでしたが、お父さんは私の気持がわかった
みたいで……自ら話題を変えます。

 「そうだ、ケイト先生が、この一週間のおまえの成績を取りに
行ってくださいっておっしゃってたから……まずは、管理棟まで
行ってみるか」

 お父さんの言葉は、私に新たな警戒心を抱かせます。せっかく
伸ばしかけていた羽根がまた引っ込んでしまいます。
 『やっぱり、お仕置きってことなの?』
 ここへ連れて来られてからというもの、私の頭からはお仕置き
という言葉が離れませんでした。


 管理棟は背の低い建物が多いこの施設の中では一番大きなビル。
7階のラウンジからは食事をしながら施設全体を一望することが
できました。

 その一階にある窓口でお父さんは私の成績表を受け取ります。

 「何て書いてあるの?」
 無表情で成績表を見ているお父さんの脇からそっと顔をのぞか
せると……

 「達成率95%。とてもよく頑張っておられます。これからも
この調子でお続けくださいだってさ」
 まずは嬉しいニュースが舞い込みます。

 でも、それには続きがありました。
 「ただし、達成できなった5%については、1%1回として、
ご父兄の手でお尻を叩いて励ましてあげてください……か……」

 この時、お父さん顔が笑っていましたから……私は……
 「嘘よ!そんなの。そんなこと書いてあるはずないじゃない」
 そう言って、お父さんが見ているレポートを奪い取ったのです。

 ところが、私の笑顔はそれを読んだ瞬間終わってしまいます。

 「…………」
 それって、冗談でも何でもなく、お父さんが読んだそのまま、
そこに書いてあったのでした。

 「どうやら、あと5回、私はお前の尻を叩かなければならない
らしいな」
 お父さんのニヒルな笑いは私の身体を再び凍りつかせます。

 おまけに、窓口の人までが……
 「お尻叩きでしたら、映画館がありますよ。ここの映画館は、
全部個室でから、お尻叩きにみなさんよくご利用されます」

 余計な情報まで教えてくれるのでした。

 このビルは、『管理棟』というくらいですから、もちろん事務
処理のための窓口が並んでいましたが、ビルの中はそれだけでは
ありませんでした。
 その他にも、映画館やゲームセンター、ボウリング場、カフェ、
コンビニなどが一緒に併設されていました。ですから付き添いの
家族たちもここをよく利用していましたし、私たちにとっては、
アミューズメントタウンとしての意識が高い場所だったのです。

 というわけで……
 「じゃあ、せっかくだから映画でも観て帰るか……」
 ということになったのでした。

 ただ、この場合、私の心は複雑です。
 『え~~~~』
 という気持も当然ありましたが、仕方がありませんでした。

 ただ映画館といっても、ここは街の映画館とは造りが違います。
 入口で入場料を払うと、部屋の鍵を渡され、指定された部屋に
に入って映画を観るシステムです。
 この映画館にはそうした8畳ほどの広さの個室が七つ八つあり
ました。

 いずれの部屋も独立していて厚い壁で区切られていますから、
ここなら、どんなに厳しくお尻を叩いてもお尻を叩く音や悲鳴が
外に漏れるのを心配する必要ないのかもしれません。

 私は、部屋に入ってさっさとソファに腰を下ろしたお父さんを
入口付近で恨めしそうに見ていました。

 「なんだ、毎日、散々お尻を叩かれてるくせに、まだ恐いのか」
 お父さんは笑います。
 でも、お父さんは恐い。やっぱり恐いものは恐いのでした。

 「いいから、おいで」
 再度促されて、ようやくお父さんの近くへ寄ってきます。
 これって幼稚園の時も、小学校の時も、そして中学生になった
今も変わらない儀式みたいなものでした。

 お父さんはお膝を叩きます。
 私は仕方なくそこへうつ伏せになると……

 「(はははは)ちょっと待ちなさい」
 今回はそう言って私をいったん立たせ、あらためて私のお尻を
膝の上に乗せ、私はお父さんと同じ方向を向いて座ります。

 「美香、この映画館なあ、映画を観る時に、おまけがついてる
みたいだぞ。……ほら」
 お父さんは目の前のしらっちゃけた画面を指差します。

 「おまけって?」
 その時、私はこのおまけが何のことだかわかりませんでした。

 ほどなく、室内が暗くなり映像が鮮明に見えてきます。

 ちなみにこの映画館、機械の操作は観客にまかされていました。
鍵を回し、セレクトボタンを押して、自分のみたい映画を観ます。
ただ、その中には、観客にとっては二度と見たくない映画という
のも含まれていました。

 『新井美香ちゃんの成長記録』

 『えっ~~~~~』
 タイトルバックにいきなり私の名前。
 それで驚いていると、さらに……

 『ん?……これって……どこかで見たような?……』

 『えっ!!!、これ!これ!これ!』
 私の身体が震えます。

 「止めてよ!止めて!」

 だってそれは、先日、ケイト先生からお尻を叩かれている時の
映像だったのです。
 数学の先生から「今日は少し集中が足りなかったみたいだね」
なんて言われた直後です。例によって休憩時間に裸のお尻を二十
四回も叩かれた時の映像でした。

 『いったい、どこで撮ってたのよ!』
 慌てた私は後ろを振り返ろうとしましたが、そんなことは百も
承知のお父さんが私の身体をしっかり押さえ込んで動かないよう
にしています。

 「やめて、止めてよ。こんなの恥ずかしすぎるわよ」
 私は叫び、身体をよじって抵抗します。
 ですが、その願いは叶えられませんでした。

 「いいから見てなさい」
 お父さんは、もう私を離しません。
 中学生にもなればもう少し抵抗できると思ったのですが、これ
もまた小学校時代と同じでした。

 「いいから、静かに見てなさい。自分の恥ずかしい姿を見るの
も、お仕置きだよ」
 こう言われてしまいます。

 そして、それは……
 朝の儀式の場面も克明に記録していました。
 お浣腸の場面も、オムツを穿かされる場面も、お漏らしも……
とにかく恥ずかしすぎて私は目を開けていられませんでしたが、
お父さんにはそれも不満なようで、目をつぶるたびに怒られます。

 「ほら、目を背けるんじゃない。自分のことだろうが、自分が
しでかしたことだうが……」
 お父さんはこう言ってイヤというほど太股を抓っては私を起こ
すのでした。

 「イヤっ!!!」
 これって、もう拷問でした。
 ですから、泣き出してしまいます。

 『自分の醜い部分は見せたくない、隠してしまいたい』
 女の子の大切な思いが踏みにじられて、そりゃあもう私の心は
パニックだったのです。

 そんな私を力ずくで押さえつけたまま、お父さんは耳元でこう
囁くのでした。

 「いいかい美香、美香は女の子だから綺麗なものだけ見て暮ら
したいんだろうけど……でも、世の中それだけではいけないんだ。
現実を直視する勇気がないと、女の子もやがては不幸になるから
ね。自分の醜い姿も勇気をもって見つめるんだ。……いいね」

 「これって、お仕置きなの?」

 「女の子に不足しがちな勇気を持つ大事な訓練だ。……でも、
そう考えたければ、それでもいいよ」

 「なんだ?おまえ、震えてるのか?……大丈夫だよ、怯えなく
ても……私がしっかり抱いててあげるから……それに、これは私
たち家族だけが見ることのできるプライベートフィルムだ。この
ことを知ってるのは私たち家族とケイト先生だけ。外には決して
漏れないからね。そこは安心していいんだよ。………だからね、
たとえ辛くても、目をそらさずにちゃんと見るんだ。……いいね」

 お父さんに励まされながら、私はその15分ほどの映画を観る
ことに……

 最初は、醜い隠したい場面の連続で目を覆ってばかりでしたが、
でもそのうち身体の力が少しずつ抜けていき、やがてどんな場面
も目をそらさず見る事ができるようになっていました。

 そして、その最後には不思議な感情が芽生えるのでした。

 映像はほとんどが私のお仕置き場面。汚くて、惨めで、悲劇的
……私にとっては何一つ晴れがましいところや自慢できるところ
なんかなかったはずなのに……でも、家族がケイト先生が、私の
ために献身的にお仕置きしている姿がそこに映っているんです。
それってお仕置きされてる最中はわからなくても、こうして映画
になって客観的に観るとよくわかります。

 ですから、最後にはこう思ったのでした。
 『私って、愛されてたんだ』
 と……

****** 見沼教育ビレッジ (13) ******

****** 見沼教育ビレッジ (14) ******


 お父さんのお膝の上で観た私の映画は、そりゃあほろ苦かった
けど、最後には思わず笑ってしまいました。

 どうして笑ったかというと……
 『へえ~~私のアソコってあんなになってたんだ』
 って分かったのがおかしかったのです。

 男の子は性器が見える処にあって普段見慣れてるでしょうけど、
女の子は努力しないとあそこは見ません。痒みがあったり、血が
出たりすれば、そりゃあ見ますけど……部屋に鍵を掛け、大胆な
ポーズをとって、鏡に映して……普段そんな努力はしないのです。

 『ばっちいものは、見ずにすむならあえて見ない』というのが
女の子のポリシーでした。

 ですから、アソコの事は意外と本人も知らないのです。

 それを図らずも目の当たりにして、笑ってしまったのでした。

 「何だ?何がおかしい?」
 お父さんは私に不思議そうに尋ねますが……

 「何でもないわ」
 私が本当のことを口にするはずかありませんでした。


 「さてと、映画は何を見るかな……」
 お父さんの前に5つのボタンがありました。
 そのどれにも映画のポスターが小さく縮尺版になって貼り付け
てありました。

 「美香、あまえはどれがいい?」
 お父さんは私に選ばせようとします。

 そこで、そのポスターを一通り眺めてから……
 「『ベニスに死す』なんていいんじゃないかな。この子、綺麗
だし……」
 と、望みを言ったんですが……

 「だめだ、だめだ、こんな退廃的な映画は……子供の観るもん
じゃないよ」
 あっさり否定されてしまいます。

 そして……
 「『屋根の上のヴァイオリン弾き』なんていいんじゃないのか?」
 と薦めてきますから、今度は私が……

 「嫌よ、こんな暗い映画、もっと明るいのがいいわ」

 「だったら、ちょっと古いが『俺たちに明日はない』ってのも
あるぞ。……西部劇だ」

 「だってあれ、銀行強盗の話でしょう……人が死ぬお話は嫌い
なの……それに、あれ大人の話よね」
 私は、最初の『ベニスに死す』を否定されたことで少しむくれ
ていました。

 そこで、その妥協案として選んだのが……
 「これなんか、いいんじゃない。『小さな恋のメロディ』……
男の子が可愛いわ」

 「まあ、いいだろう」
 お父さんはあまり乗り気ではなかったみたいですが、承知して
くれます。

 一方、私の方もこの時この映画のことはよく知りませんでした。
 ポスターのマークレスターが可愛かった。
 選んだ理由は、ただ、それだけのだったのです。

 「あ~、ビールとつまみ。ハイネケンあるか?……ならそれと
つまみはピーナッツでいいよ。………美香、おまえはどうする?」
 お父さんが内線電話でルームサービスに注文を出します。

 「私は、オレンジジュースとポップコーンでいいわ」
 私はオットマンに足を投げ出して答えました。

 ささやかですけど、これでやっと避暑地気分です。

 注文の品が部屋に届いてから、お父さんは映画のボタンを押し
ます。
 すると、開演のブザーが鳴り、辺りが暗くなります。
 映写機が回り始めました。

 スクリーンは小さめですが二人だけの貸切映画館は誰に気兼ね
もいりません。
 注文したオヤツをつまみながら……もし、観ている映画がつま
らなければ、毛布を掛けてそのままソファで寝てしまえばいいの
ですから……

 私は、当初、この映画にあまり興味がわきませんでしたから、
そうするつもりでした。
 お父さんに肩を借り、寄り添ってお昼寝するだけでもよかった
のです。

 ところが、私はその映画を最後まで見続けます。

 『飾り気はないけど、どこまでも美しいイギリスの景色と透き
通るような男性ハーモニーのBGM。……英国の子どもたちって、
こんなにも素敵な学園生活を送ってるんだ。私もトレシーハイド
になりたい。好きな人と一緒にあのトロッコに乗って未来を目指
したい……』

 映画を観たことのない人には、何を言っているか分からないで
しょうけど、とにかく大感動したのでした。

 もっとも、お父さんはというと……
 「まったく呆れた映画だ。どこの世界に、11歳のガキが結婚
なんか考える。おまえが11の時は、まだ、私の膝で甘えられる
だけ甘えてたぞ。……でも、それがまともな子供の姿だ」
 
 お父さんにはこの映画を理解することはできないようでした。

 でも、私の11歳も、ただお父さんの膝で甘えていたわけでは
ありませんでした。
 それって、むしろ『お付き合い』という気持の方が強くて……
何でも「お父さん」「お母さん」ではありませんでした。

 実ることはなくても淡い恋心はすでにありましたから、ダニー
とメロディの世界はまったくのおとぎ話ではなかったのです。

 そんな蒸気した顔の私を見て、お父さんは私を抱き寄せます。
 顔と顔が出会い、その口からは先ほどのビールの臭いがします。

 「いやあ」
 私はそのお酒の臭いでお父さんをいったんは拒絶しますが……

 「忘れたのかい?まだ、五回、私からのお尻叩きが残ってるよ」

 こう言われると私は再びそこへ戻らなければなりません。
 そう、私はまだ14歳。彼らからみたらお姉さんのはずですが、
それでもお父さんやお母さん、大人たちが決めたルールのなかで
生きていかなければなりませんでした。

 『あ~、私はいつあのトロッコに乗れるんだろう』

 私はそう思ってお父さんのお膝に身体を沈めます。
すると、今度はお父さんが……

 「こうして、おまえのお尻をいつまで叩けるかな」

 お父さんはそう言いながら、私のスカートを上げ、ショーツを
下げます。
 さすがに、人前でこの姿を晒すことはなくなりましたが、お父
さんにとってお尻叩きはいまだ現役。熱く厳しいお父さんの平手
の下で、私はまだまだお父さんの子どもを演じなければならない
のでした。

 「ピシッ」
 「いやあ~」
 「何がいやあ~だ。こんな大きなお尻を叩かなきゃいけない私
の方がもっと嫌だ。ほら、ここは家の中じゃないんだ、こんな処
で足を開かない」

 私が慌てて、両足を閉じますと……
 「ピシッ」
 「いやあ~」
 再び、両足をバタつかせなければならないほど痛いのがやって
きます。
 
 「少し口をつつしめ。いくら防音装置のある部屋でもそれじゃ
外の人に聞こえるぞ」
 お父さんはそう言って、もう一つ……

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~勘弁して~~」
 本音が出ます。だって、この時のお尻叩きはとっても痛かった
のです。一発一発がこんな痛い平手は初めてでした。

 「どうだ、少しはこたえたか?……おまえは今までのお仕置き
が私の目一杯だと思っていたのかもしれないが、こっちはこっち
で、気を使って緩めてたんだぞ。わかったか?」

 「はい、お父さん」

 「よ~~し、もうひとふんばりだ。しっかりつかまってなさい。
……ほれ」

 「ピシッ」
 「いや~~~~~」
 私は無意識に太股を開いてバタつかせます。
 そんな様子はまたビデオに撮られてしまうかもしれませんが、
こんなキツイお仕置きのもとでは、そんなこと言っていられませ
んでした。

 私はもう必死にお父さんのお膝を握りしめます。
 きっと、お父さんの太股にはくっきりと痣が残っているに違い
ありません。でも、それも仕方のないことでした。

 「『痣のつくほど抓っておくれ、それを惚気の種にする』か、
昔の人はいいことを言うなあ……」
 お父さんは、にが笑いを浮かべると、意味不明の独り言を言い
ます。そして、それが終わってから、最後の一発が炸裂したので
した。

 「ピシッ」
 「ひ~~死ぬ~~~」

 「大仰なこと言いなさんな。いまだお尻叩きで死んだ子なんて
いないよ。……さあ、終わったよ」
 お父さんは私を立たせ、身なりを整えさせます。

 そして、こう言うのでした。

 「私は、これから仕事に戻らなきゃならないので、美香とは、
ここでお別れだ。これからはお母さんやケイト先生の言いつけを
守って、頑張るんだぞ」

 「もう行っちゃうの?」
 私は急に寂しくなりました。

 「大丈夫、お母さんは残るから……」

 「でも……」
 人間なんて勝手なものです。
 つい先ほどまで、甘いアバンチュールを想い描いていたのに、
いざ別れるとなると、心が思いっきり子供に戻ってしまいます。

 「最後に、お前のお尻を思いっきり叩けてよかったよ」

 「もう、お父さんたら、嫌なことばかり言うんだから……」

 「そのうちお前にも分かるだろうがな。お尻なんてものは叩く
より叩かれてる時代の方が幸せなんだよ」

 「まさかあ~~。そんなわけないじゃない」

 私はその場で痛むお尻をさすりながら笑いましたが……でも、
時を経て気づいたのです。『お尻を叩かれる子は愛されてる子』
なんだと……

 お父さんの言う通りでした。
 でも、いつかは私もお父さんの元を離れて独りで羽ばたかなけ
ればなりません。そう、ダニーとメロディのように……二人して、
トロッコを全力で押して未来へ向かわなければならないのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (14) ******

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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