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小暮男爵 ~第一章~ §6 / 朝の出来事 /


小暮男爵/第一章

<<目次>>
§1  旅立ち         * §11 二人のお仕置き②
§2 お仕置き誓約書    * §12 ランチタイムの話題
§3 赤ちゃん卒業?    * §13 お父様の来校
§4 勉強椅子        * §14 お仕置き部屋への侵入
§5 朝のお浣腸       * §15 お股へのお灸
§6 朝の出来事       * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7 登校           * §17 明君のお仕置き
§8 桃源郷にて       * §18 天使たちのドッヂボール
§9 桃源郷からの帰還  * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き

***<< §6 >>****/朝の出来事/*****

 朝の辛い儀式(お浣腸)が終わると私の身体は河合先生の手に
委ねられます。
 パジャマだけでも着ることができてやれやれ一息というところ
ですが先生と一緒に向かうバスルームでは再び裸にならなければ
なりませんでした。下着を身に着ける事ができるのはその後です。

 遥ちゃんもまだそうですが、我が家で小学生というのは自分で
自分の身体を洗うことができません。
 子供の身体は家庭教師の先生が洗う決まりになっていました。
 ですから、バスルームに着くと私たちは再び裸にさせられます。

 ただ、朝のバスルームというのはお風呂が沸いているわけでは
ありません。あくまで身体を洗うことだけが目的でした。
 バスルームで合流した私と遥ちゃんは、二人して冷たい洗い場
に裸で並び立ちます。当然、前はすっぽんぽんなのですが、別に
どこを隠すということもしませんでした。

 「どうだった?久しぶりのお父様は?」
 「どうって?」
 「久しぶりに抱っこしてもらったんでしょう?」
 「そ……そんなことしないわ。私、もう子供じゃないもん」
 私は見栄をはります。だって、この歳で赤ちゃんみたいに抱き
合って寝てたなんて言いたくありませんから。

 「どうだか……あんたは甘え上手だもん。また上手に甘えて、
お父様に何か買って貰う約束したんじゃないの?」
 遥ちゃんは羨ましそうな目で含み笑いです。

 「そんなことあるわけないじゃない」
 私は少しだけ語気を強めます。

 河合先生はこんな時、たとえその子達のすぐそばにいても何も
おっしゃいません。ただその会話に嘘が混じると、先生の手荒い
ボディーウォッシュをやり過ごさなければなりませんでした。

 『痛い!!』
 その時、私は思わず腰を引きます。

 それは河合先生のスポンジがお股の中で暴れたから。つまり、
嘘をついているからでした。

 「ほら、腰を引かない。無駄なおしゃべりはしないの」
 先生に叱られます。

 河合先生のスポンジは無遠慮に私の股間をゴシゴシしますが、
どんなに痛くてもそれで悲鳴を上げることは許されませんでした。

 河合先生の仕事は身体洗いだけじゃありません。歯を磨いて、
下着を穿かせて、髪をセット、お家の中だけで着る普段着を身に
つけさせるところまで、その全部が河合先生のお仕事なのです。

 一方、子供たちはというと、それにただただ耐えるだけが仕事
でした。

 どうしてそこまで?子ども自身にやらせればいいじゃないか?

 確かにそうですが、要はお父様の前に出る時、子どもたちだけ
では完璧に仕上がらないというのがその理由のようでした。

 あれで15分位もかかったでしょうか、やり慣れている先生の
手際のよさは天下一品です。ただし、その間、私たちは河合先生
のお人形ですから何もできません。
 『こういう髪型がいい』とか、『今日はこのお洋服で』なんて
注文も出してはみますが、それもあくまで河合先生しだい。
 彼女がダメと言えばだめ。私たちに決定権はありませんでした。

 そのあたり子供の立場は辛いところです。

 でも、これが中学生になると一変します。誰の手も借りません。
朝は自分で起きてバスルームに行き、顔をや身体を洗い、自分で
髪をとかします。その日に着る服だってクローゼットから自由に
選ぶことができました。
 もちろん、それをお父様が気に入るかどうかは別問題ですが、
自由の幅がぐんと増えることは確かです。

 女の子にとって自分で自分を装えるってとっても大事な事です
から小学生の私たちには隣りで作業する中学生のお姉さまたちが
羨ましくて仕方がありませんでした。

 ただ、そうは言っても良いことばかりではありません。実は、
困った事もあったんです。

 私たちは家庭教師の先生にお任せですから、どんなに寝ぼけて
いても先生がベッドから引きずりだしてくれますし、バスルーム
でふらふらしていても勝手に身繕いが済んでしまいます。

 ところが中学生になると、そうはいきませんでした。

 まず、必ず自分で起きなければなりませんし、自分で身繕いを
しなければなりません。『今日は疲れてるから今日だけお願い』
というわけにはいきませんでした。

 そのうえ、シャワーを浴びて身を清めたり、髪をとかしたりと
いった作業は担当の家庭教師が目を光らせていますから手抜きも
できません。
 お父様の待つ大食堂では子供たちの誰もがきちっとした身なり
で現れなければなりませんでした。

 戦後、爵位がなくなったと言ってもお父様は元男爵。ご本人は
家にいる時でも常にきちっした身なりをなさっています。
 ですから、子供たちにもきっとそうして欲しかったのでしょう。
『子供だからだらしのない身なりをしていても仕方がない』とは
お考えにならないみたいでした。

 目やにをつけたまま食堂のイスに座ろうものならまず顔を洗う
ようにお命じになりますし、寝癖を残したぼさぼさの髪や上着の
ボタンが外れているのもNG。スカートの裾からほんの少しだけ
シミズがはみ出していただけでも家庭教師が付き添って化粧直し
です。

 とはいえ、朝寝坊は大半の子に起こるもの。
 この日の朱音(あかね)お姉ちゃん……いえ、中学生になりま
したから朱音お姉様ですね……朱音お姉様を襲ったのもそうした
不幸でした。

 朝の食堂では、お世話になっている男の子二人、女の子五人の
合計七人が身なりを整えて朝の挨拶にやってきます。

 一番上は高校三年生の隆明お兄様。
 背が高く、細面で、目鼻立ちもはっきり、その日本人離れした
ルックスから妹たちの間では『ハーフよね、絶対』『お父様って
イギリス紳士じゃないかしら』という声が一般的でした。

 ただ、本当のところはわかりません。
 実は、お父様たち、後々のことを考えてここへ連れて来るのは
3歳までで父母共に身元の知れない子と決めていたのです。
 隆明お兄様がハーフかどうかはお父様もご存知ないことでした。

 二番目が高二の小百合様、
 肩まで伸ばした黒髪が美しい気品漂うお姉様。凛とした物腰は
すでに大人の女性を感じさせます。
 でも、こんなお姉様でさえも、お父様は私たちの前でむき出し
のお尻を叩いたことがありました。
 我が家はそういう家だったのです。

 このお二人は、私たちのような子供から見ると兄弟というより
むしろお父さんとか、お母さんといった感じに見えます。
 というのも、このお二人は身体が大きいだけでなく、言ってる
ことやってることが立派過ぎて私たちとは話がかみ合わないから
でした。

 何か言われる時は、たいてい雲の上から言葉が降って来る感じ
で、つまらないんです。
 こちらが返す言葉も、「はい、お兄様」「はい、お姉さま」と
しか言えませんでした。

 ま、その代わり、よく抱っこしてもらいましたから、そういう
意味でもお父さんお母さんみたいだったんです。

 この下は中学生。三年生の健治お兄様、二年生の楓お姉さま。
そして一年生の朱音(あかね)お姉さまです。

 このグループはお父様からある程度独り立ちを認められていま
すから、自分で自分の身体を洗うことができますしクローゼット
にあるどんな服でも自由に選んで着ることができます。

 ただ数年前までは私たちと同じ立場だったわけですから、まだ
子供時代の雰囲気も残しています。

 私たちが冗談を言ったり、こちらがふざけても受けてくれます。
読んでるマンガが同じだったりもしますから話も合いやすい関係
でした。

 その中学生グループの一人、朱音お姉さまがこの日の朝はなか
なか食堂に現れませんでした。

 他の子はとっくにお父様へのご挨拶を済ませ席に着いています。
最初の料理、ポタージュだってすでにテーブルに乗っています。

 そんな時でした。
 バタバタという足音が近づいてきたかと思うと、いきなり一陣
の風が食堂に吹き渡ります。
 とても急いでいたのでしょう。『ドン』という普段ならしない
はずの音がしてドアが開いたのでした。

 少し前かがみになって激しい息遣いが私の座る席までも聞こえ
そうです。

 「女の子じゃないみたいね」
 どなたかがそうおっしゃいましたが、まさにそんな感じでした。
ゲームやマンガに出てくる『艱難辛苦を乗り越えて、今、お城の
大広間に乗り込んだ若き勇者』といったところでしょうか。

 精悍な感じはすると思うのですが……
 でも、こんな登場の仕方、お父様にはあまり歓迎されませんで
した。

 遅ればせながら朱音お姉さまが朝のご挨拶にお父様のそばまで
行くと、お父様の方で手招きします。
 『もっと顔を近づけなさい』
 ということのようでした。

 「お前、目に何かついているぞ」
 まずは、お姉さまの目やにをナプキンで払い除けてから、その
全身を一通り見回します。

 「凄い格好だな。髪ぼさぼさ、上着のボタンは外れていて……
ん?……そのスカートの裾からチラチラ覗いているそれは何だ?」

 お姉さまは朝のご挨拶をしようと思ってそばに寄ったのですが、
これでは何も言えなくなってしまいました。

 「昨日の夜のお相手は誰だ。萩尾望都さんか?竹宮惠子さん?
それとも、大島なんとかさんかな?」
 お父様は家庭教師の武田京子先生を通じてお姉さまが夜な夜な
夜更かししてマンガを読んでいたのをご存知だったのです。

 ちなみに、お父様世代が読んでいた漫画は今のような形式の物
ではありません。手塚治虫先生登場以前の作品です。『のらくろ』
あたりでしょうか。単純で滑稽なショートストーリー。
 お父様は、複雑なストリー展開や人の情愛、感情の機微などを
マンガが伝えられるだなんて思ってらっしゃいませんから、漫画
は全て低俗な悪書だったわけです。
 当然、娘が夜更かししてまで読むものではありませんでした。

 「おまえは、まだ自分で自分の事が管理できないみたいだな」

 「…………管理って……」
 こう言われて、お姉さまは何か言いたげだったのですが……

 「お前はまだ子供だってことさ………………先生……武田先生」
 お父様はこう言って中学生専属の家庭教師武田先生を呼びます。
 武田先生は私たちでなら河合先生にあたる方、同じ役目でした。

 「先生、ご苦労だけど、この子を洗ってやってくれませんか?」
 お父様は、捨て猫でも処理するように朱音(あかね)お姉様を
武田先生へ依頼します。

 「はい、承知しました」
 武田先生は一流大学を出た立派な才女ですが、ここではお父様
に雇われているわけですし、そもそもこうなったことについては
ご自分にも責任があると感じられたのでしょう、二つ返事で引き
受けられると、朱音お姉さまを連れて食堂を出て行かれました。

 で、どうなったか?

 どうって、特別な事は何もありません。お姉さまが久しぶりに
私たちと同じ朝の体験をしたというだけです。

 身体をゴシゴシ洗われて……「ほら、腰を引かない」とかね。
 髪をセットしている最中……「ほら、脇見しない!」とかね。
 出してきた服に文句を言うと、「贅沢言わないの。あなたには
これが似合ってるんだから」とかね。
 言われたんじゃないかなあと思います。

 ただ、武田先生からは念入りに洗っていただいたのでしょう。
朱音お姉さまが食堂に戻られた時はもう大半の子が朝食をすませ
ていました。
 中には早々席を立つ子もいて、そんな時になってようやく朱音
お姉さまが準備を終えて食堂に戻ってきたのでした。

 遥と私は、その時もまだお父様の席で何やら話していました。
 子供の役得で、お父様のお膝の上はいつ登ってもセーフティー
エリア(安全地帯)だったのです。

 今のように情報がたくさんある時代ではないので、お父様から
の情報は子供たちにはとっても新鮮で貴重なんです。
 色んな話題や知識がそこにはありますから、食事が終わっても
私たちはできる限りお父様のそばにいたのでした。

 そこへ武田先生と一緒に朱音お姉さまが食堂に帰ってきました。
 もちろん、今度は一部のすきもなく仕上がっています。
 まるで、これから舞踏会にでも行くみたいでした。

 「わあ、綺麗!」
 「こんな素敵なドレスで食事するの?」
 二人の目の前をお姫様が通過します。

 「お…おはようございます。お父様」
 武田先生に背中を押されて少し緊張気味にご挨拶。
 そりゃそうです。さっきお父様に叱られてこうなったわけです
から朱音お姉さまだって心から笑顔というわけにはいきません。

 「おうおう、綺麗だ。綺麗だ。見直したよ。女の子はやっぱり
こうでなちゃいけないな…………武田先生、ご苦労様でした」
 感嘆の声を上げるお父様。余計な手間をとらせた武田先生をも
ねぎらいます。

 「やはり、ちゃんとしていれば朱音が姉妹の中で一番綺麗だよ」

 たとえお世辞でもお父様にこう褒められれば、朱音お姉さまも
まんざらでもないのか、はにかんで笑顔がこぼれます。

 ただ、我が家の場合。これでめでたしめでたしというわけには
いきませんでした。

 「よし、では食事にしようか。でも、その前に……朱音。鏡を
持って来てこの椅子に敷きない。お前もその方がはっきり目覚め
ることができるだろうから……」
 お父様は、ご自分の隣りにある椅子の座面を叩きながら、朱音
お姉さまに命じます。

 お父様がおっしゃる『鏡』というのは本当の鏡ではありません。
 鏡を椅子に敷くなんておかしいでしょう。

 ここでいう鏡はまるで鏡のように磨き上げられた鉄の板のこと。
 その冷たい金属の板を座面に敷き、その上に裸のお尻を乗せる
という罰なのです。

 実はこれ、学校でも同じ罰がありますから、女の子にとっては
わりとお馴染みのお仕置きなのですが、さらに我が家では、その
鉄板を冷やすための専用冷蔵庫まで用意してありました。

 キンキンに冷えた鉄板の上に裸のお尻を乗せればそりゃあ目は
覚めるでしょうが……

 「はい……」
 朱音お姉さまは短く答えてその冷蔵庫に向かいます。

 その瞬間、お父様は、まだ食堂に残っていた健治お兄様にだけ
ここを出るよう指図されましたが、他にも残る女の子たちには、
何もなさいません。

 もちろん、食堂にまだ残っていた数人のお姉さまたちも事情は
ご存知です。でも、そもそもそんな事に感心を示す人などここに
はいませんでした。

 というのも、これって学校でも家庭でもわりと頻繁に行われる
罰なので、私も含め女の子たちはすでに全員が経験済み。今さら
驚きませんでした。
 それに何より女の子が女の子のお尻見てもしょうがありません
から。

 ただ、そうはいっても本人は別です。だいいちトイレでもない
こんな人前でショーツを脱ぐのは恥ずかしいことですし、お尻が
鉄の板に当たる瞬間、その冷たさに思わず顔色を変えないように
気を配ったりもします。

 幸いロングスカートが裸のお尻を隠してくれますから外からは
普通に食事をしているように見えますが、キンキンに冷えた鉄の
板はよく尿意を呼びさましますからそれも要注意でした。

 そして、それをなんとか我慢していると……
 「どうした?……行って来なさい。こんな処でお漏らしなんか
したら、それこそ恥ずかしいよ」
 こんなことをお父様に言われてしまいます。
 これもまた恥ずかしいことでした。

 冷たい椅子に腰掛けて独りでする食事なんて誰だって嫌です。
 だから「こんな物いらない」と言って席を立ちたいのですが、
特別な理由なく食事を抜くことをお父様が許してくださらないの
でそれもできませんでした。

 『出されたものは全て食べること』
 この場に限らずこれがお父様の厳命ですから、子供たちが食事
を拒否することはお父様のお言いつけに逆らうことになります。
 覚悟を決めて席を立つこともできますが、その場合は、当然、
それなりのお仕置きを覚悟しなければなりませんでした。

 朱音お姉さまは重い手つきでスープを口に運びます。

 もったりもったりとした様子。
 そんなゆっくりとしたペースに、今度は、お父様が動きました。

 「ほら、いいからお口を開けて、このままじゃ学校に遅れるよ。
ほら、あ~~ん」

 お父様は自ら大き目のスプーンに料理を乗せてお姉さまの口元
へ運びます。

 お姉さまは恥ずかしくても、それをパクリっとやるしかありま
せん。

 「よし、その調子だ。お前にはまだこの方が似合ってるな」
 お父様にこんな事を言われても、やはり黙っているしかありま
せんでした。

 「美味しいか?……美味しかったら『はい』って言いなさい」
 「はい……」
 恥ずかしそうな笑顔から小さな声が聞こえました。

 二口、三口、スープをお姉さまの口元へ運ぶと、今度はお肉を
切り分け始めます。

 今度はフォークに突き刺して……
 「あ~~~ん」

 「ほら、もう一口。…………よし、食べた」
 お姉さまは口元を汚しながらお肉を頬張ります。

 「よし、もう一つだ…………頑張れ~~」
 一方お父様はというと、もう完全に朱音お姉さまを赤ちゃんに
して遊んでいました。

 「おう、いい子だ。よく食べたねえ。……ほら、もう一口……
おう、えらいえらい。今度はサラダにするかい?」

 お父様の問いに口いっぱいにお肉を頬張っている朱音お姉さま
は口が開けられません。

 「サラダ嫌いかい?ダメだよ。野菜もちゃんと食べないと……
誰かさんみたいに便秘しちゃうからね。………よし、口を大きく
開けて……あ~~入った入った。……お前はやっぱりその笑顔が
最高に可愛いよ。お前を独り立ちさせるのちょっと早かったか。
また、小学生に戻るか?私と一緒にネンネしようか?」
 お父様はお姉さまをからかいながらひとり悦にいっています。

 でも、こんな赤ちゃんみたいな食事に朱音お姉さまが歯を喰い
しばっているかというと……

 もちろん、恥ずかしいことなんでしょうが、お姉さまの顔は、
どこかお父様に甘えているようにも見えます。

 お父様の給仕が早くて思わずゲップなんてしちゃいますけど、
お姉さまの笑顔がすぐに復活してお父様を喜ばせます。

 「おう、ちょっと早かったか。じゃあもっとゆっくりにしよう」

 食事するお姉さまにとって両手は何の役にもたちません。イヤ
イヤすることもできません。今は、お父様に向かって笑顔を作る
ことだけが仕事みたでした。

 これってお姉さまに与えられた罰と言えば罰なんでしょうけど、
こうやってお父様と食事するお姉さまの姿は、時間の経過と共に
どこか楽しげなもへと変わっていきます。

 ですから……
 『いいなあ、私もやってもらおうかなあ』
 なんて思ったりして……小学生は不思議なものです。

 でも考えてみたら、朱音お姉さまだって数ヶ月前までは小学生
だったわけで、中学生になったからって瞬時に全てが切り替わる
というわけではないようでした。

 そして、テーブルの料理が三分の一くらいなくなったところで、
朱音お姉さまはやっと自分の手で食事をすることができるように
なったのでした。

 ただ……
 「武田先生。朱音は、今日の午前中、体育の授業がありますか」
 その空いた時間にお父様が武田先生に尋ねます。

 「いいえ、今日は体育の授業はありません。午前中は特に体を
動かすような行事はないと思います」

 武田先生の答えは朱音お姉さまを再び震撼させます。
 いえ、それは私にもわかる結論でした。

 ところが……
 「さあ、あなたたち、そろそろ学校へ行く準備をしないと遅れ
てしまいますよ」
 河合先生が呼びに来て、私たちはそれから先の様子を見る事が
できませんでした。

 でも、その様子は見なくてもだいたいわかります。
 だってそれは私たちにも沢山経験のあることだったからでした。

 おそらく朱音お姉さまはたくさんのイラクサをショーツの中へ
これでもかと言わんばかりに詰め込まれるはずです。

 まるでオムツみたいになったパンツを穿いての通学。
 これって歩くとまるでアヒルみたいですから傍目にもお仕置き
を受けたとすぐにわかるのでした。

 しかも、この罰はただ歩きづらいというだけでなく、登校後に
イラクサを取り去っても、なかなか痒みがとれないのです。
 そこで症状が悪化しかねない体育が午前中にある時はやらない
のが不文律になっていました。

 二人は廊下に出てから顔を見合わせて笑い転げます。

 そりゃあ、私がそんな事されたらとっても嫌ですが、他の子が
お父様の目の前でスカートを持ち上げ、そこに表れたパンツも、
お父様から引きずり下ろされて、その中にたくさんのイラクサを
詰め込まれているなんて想像しただけでも愉快な事でした。

 「あなたたち、笑いすぎよ。……もっと他人を思いやる気持を
持たなきゃ」
 河合先生に注意されて酔いは醒めますが、それまではお腹抱え
て笑い転げていたのでした。

***********<6>*************

小暮男爵 ~第一章~ §7 / 登校 /

小暮男爵/第一章

*****<< §7 >>****/登校/******

 小暮家でお世話になっている私たち姉妹が通っていた小学校は
郊外の山の中にありました。

 元は華族の子弟専用の女学校だったようですが、戦後、お父様
が買い取って場所を今ある場所に移し、男女共学の私立学校に。
 もちろんそれって私たちの為です。巷の余計な情報をいれずに
純粋無垢な少女(お人形)として育てる為には不便な田舎の方が
むしろ好都合というわけです。

 ただ、男女共学といっても、私たちが通っていた頃の学園は、
まだまだ女子が圧倒的に多くて、男の子はほんの数名。私たちの
クラスにも、一人だけ広志君という男の子がいましたが、この子、
私たち女の子パワーに圧倒されたのか、いつも教室の隅で小さく
なっていました。

 私はこの時まだ男の子が第二次性長期を迎えて大きく変化する
姿を知りませんから……
 『広志君って、意地っ張りで、少し偏屈なところもあるけど、
すねた顔が可愛いわ』
 なんて、思っていました。
 そう、男の子って私たちから見ると可愛い存在だったのです。

 ところでこの学校、不便な場所にあるのにスクールバスがあり
ませんから大半の子が自宅から自家用車で山腹にある広い駐車場
までやって来て、そこからは校門までの長い階段を歩いて登る事
になります。

 ですから、朱音お姉さまみたいに、お父様からイラクサパンツ
なんか穿かされると、車中では青臭い匂いがするので私たちから
嫌がられますし、駐車場で車を降りた後も山の頂上まで続く長い
階段を大きなお尻で登らなければなりません。
 これって、女の子には結構辛い試練でした。

 本当はこんな姿って恥ずかしいですから、一気に駆け出したい
ところですが、石段を一段登るだけでもイラクサの刺毛がお股に
摺れて痛痒く、とても一気になんて駆け上がれませんでした。

 それに、どんなに自然に振舞おうとしても、沢山のイラクサで
オムツのようになったショーツを穿くと動きがぎこちなくなって
しまい、お友だちからは、今、スカートの中がとうなっているか
見破られてしまいます。

 「あの子、スカートの下はきっとイラクサパンツよ。おそらく、
お父様のお仕置きね。いったい何をやらかしたのかしら?」
 なんて、お友だちの囁きが耳にはいると、その恥ずかしい姿を
直接見られたわけでなくとも、その場に居たたまれなくなります。

 イラクサのパンツは、そうした辱めとしての効果も期待しての
お仕置きだったのでした。

 リンカーン(お父様の自家用車)の中でも妹の私たちから散々
臭い臭いを連発されていた朱音お姉さま。駐車場ではお友だちと
「ごきげんよう」「ごきげんよう」のご挨拶はいつもより明るく
なさっていましたが、石段を上がり始めると、たちまちお友だち
からの失笑を買ってしまいます。

 「大丈夫?手伝ってあげるね」
 こうした場合、気がついたクラスメイトが親切心で手を取って
助けてはくれるんですが……

 『本当は、あなたたち笑ってるくせに……』
 こんな時って助けてもらう方だって疑心暗鬼になってますから、
せっかくの親切心もあまり心地よくはありません。

 朱音お姉さまはお友達に囲まれながらゆっくりゆっくり石段を
上がってきます。

 一方、一緒にリンカーンに乗ってきた妹の私たちはというと、
これがとっても残酷でした。

 「アヒルさん、アヒルさん、ここまでおいでアヒルさん」
 私と遥ちゃんはそんなお姉さまの姿がおかしくてたまりません。
そこで、階段を一気に駆け上がり、自分のお尻を振り振りして、
お姉さまをはやし立てます。

 『アヒルさん』というのは、イラクサで膨らんだ大きなお尻を
振り振りしながら階段を登る姿が、ちょうどアヒルさんが歩く姿
に似ているからなのです。

 でも、そんな様子を運転手さんは快く思っていませんでした。

 「ほら、あなたたち、ダメでしょう。朱音さんはあなたたちの
お姉さまなのよ。こんな時は助けてあげなくちゃ」
 河合先生は高い場所からお姉さまを見下ろしてじゃれあってる
私と遥ちゃんに注意します。

 実はこの学校、普段の日でも父兄参観が認められていて、家庭
教師の先生も受け持つ子どもの授業をいつでも見学できるように
なっていました。ですから、ほとんどの家庭教師が、毎朝、自分
の生徒と一緒に校門をくぐります。

 河合先生や武田先生もそれは同じ。お二人は受け持つ子供たち
を送り迎えするだけがお仕事ではありません。むしろ車を降りて
からが、お二人の大事なお仕事でした。

 「は~~い」
 私たちは気のない返事をして、いったん登った階段を下り始め
ます。

 河合先生の命では仕方ありません。私たちも他の子たちと一緒
に朱音お姉さまを救出に向かいます。

 ただ、その時はすでに武田先生はじめ沢山のお友達がお姉さま
に援助の手を差し伸べていましたから、むしろお姉さまの周りは
ごった返しています。まるでお祭りのお神輿のようにしてお姉様
が階段を上がってきます。

 人手はもう十分足りていると思いますから……
 「ねえ、私たちまで行ったら、かえってお姉さま恥ずかしいん
じゃない。ありがた迷惑なんじゃないかしら?」

 私の疑問に遥お姉様は……
 「それはそれでいいんじゃないの。恥ずかしいのもお仕置きの
一つだもの。それに女の子って何事にもお付き合いが大事だって
河合先生も言ってたじゃない。お付き合いよ。お付き合い」
 何だか悟ったような大人のような返事を返すのでした。

 そのあたり、私はまだ子供なのでよくわかりませんが、もし、
私が朱音お姉様の立場だったら……
 「いいから、ほっといて!近寄らないで!」
 なんて、怒鳴り散らしていたかもしれません。


 「やっと着いた」

 とにもかくにも、朱音お姉さまはみんなのおかげで遅刻せずに
山の頂上へと辿り着きます。

 お山の頂上からは白い灯台や外国航路の船が出入りする港町が
見えます。もしピクニックだったら最高のロケーションです。
 こんな見晴らしの良い場所に人知れず建っていたのが私たちの
学校、聖愛学園。ここに小学校と中学校がありました。

 1学年1クラスで6名から8名。全校生徒合せても、小学校で
40名、中学校も20名程度の小さな組織です。
 ですから、学校施設もこじんまりとしていて、周りの樹木より
高い建物などは必要ありません。深い緑の森に溶け込むように、
体育館やプール、図書館、教室棟、管理棟、ゲストルームなどが
散在しています。

 おそらく山の下からでは学校の建物は見えませんし、生徒たち
の声なども聞こえないと思います。それはお父様たちにとっても
好都合で、ここでどんなに厳しいお仕置きが行われてもその悲鳴
が外部に漏れる心配がありませんでした。

 それだけではありません。ここには他の学校ではまず考えられ
ないような設備まであります。

 その一つがプライベートルーム。

 教員室の脇にある階段を下りると、そこは半地下になっていて、
六つの小部屋と一つの大広間があるのですが、実はここ、学校の
オーナーでもある『六家』の人たちが共同使用するプライベート
ルーム。学校の敷地内にありながら学校の管理下ではないという
不思議な空間でした。

 ここでは六家のお父様方やその家庭教師さんたちが学校参観の
合い間、ドアに家紋の掲げられた御自分たち小部屋でつかの間の
休息をとったり、受け持つ子どもたちのデータを整理します。
 そして一つだけある大広間はというと、私たちが放課後茶道や
日舞などの習い事をするために使われていました。

 ま、それだけなら私たち子供にとっては何の問題ないのですが、
この部屋は他にも役割があったのです。それがお仕置きでした。

 ですから私たちの間ではここは『お仕置き部屋』として通って
いました。

 どういうことかというと……
 お父様や家庭教師が来校していれば、学校で、今の今、悪さを
したばかりの娘なり息子をすぐにプライベートルームへ呼び出し
て、すぐに罪を償わせることができます。実際、そうしたことが
たびたび起きていました。

 しかも、ここでのお仕置きはあくまで家庭内でのお仕置きです
から学校内ではありえないようなキツイお仕置きもできるわけで、
生徒にとってはまさに恐怖のエリアでもあったのでした。

 私は社会に出たあと、世間の学校にはこんな部屋は存在しない
と聞かされて絶句、もの凄いカルチャーショックでした。

 さて、話が飛んでしまったみたいですから元に戻しましょう。

 登校した私たちには、まずやらなければならないことがありま
した。

 私たちの学校では園長先生が丹精した色とりどりの薔薇の花が
咲くアーチが校門となっていまして、そこを潜ると何やら怪しい
胸像が設置してあります。

 『大林胤子先生』
 プレートの名前はそうなっていました。

 生徒はこの胸像の前では必ず一礼しなければなりませんでした。

 実は彼女、この学校の創立者なのです。あまりにも大昔に亡く
なっていますから生徒はもちろん先生方だって実のところ彼女に
一度も逢ったことがないはずなんですが、それでも生徒は、毎朝
この像の前ではご挨拶として一礼しなければならないのです。

 しかも、ご丁寧に私たちがちゃんと一礼したかを監視する為の
先生まで配置していますから、そのままスルーしてしまうと呼び
止められてしまいます。

 そんな時は……
 「あっ、ごめんなさい。うっかりしてました」
 胸像の前に戻って一礼すれば、大半、許してもらえるのですが、
ただ、間違っても……

 「そもそも、大昔に死んじゃってる人に今さら頭をさげても、
何の役にもたたないし、無駄な時間だと思いますけど」
 なんて、先生に口答えしちゃうのは絶対にタブーでした。

 ある日、そう答えてお尻を叩かれた子がいましたから。

 慌ててその子の家庭教師が止めに入ったのですが、きっと先生
もキレちゃったんでしょうね、
 「これは躾です。ほっといてください。お話はあとで窺います」
 そう言って、中二の子のお尻をスカートの上からでしたけど、
20回も勢いよく叩いていました。

 私の場合は……
 『あんた、石の置物のくせに偉そうな顔するんじゃないわよ』
 なんて、いつも心の中でそう思いながら一礼していました。

 この学校では胸像への一礼も日常的なご挨拶の一つ。ぺこりと
頭を下げさえすればいいのですからべつに手間はかかりません。
どのみちこの学校では出会う人にはすべて『ごきげんよう』って
ご挨拶するわけですから、胸像一つ分ご挨拶が増えたとしても、
本当はどうってことないはずなんですが、女子も第二次性長期に
入ると自分なりの屁理屈を言い出すようになりますから、こんな
事件も起こるのでした。

 もちろんうちの学校、こんな跳ね返り娘ばかりじゃありません。
むしろ大半は、目上の人の指示には何でも「はい」「はい」って
きく従順な子ばかりです。

 日頃から学校の先生だけでなく、お家では家庭教師の監視下で
細かなことまで注意されながら暮らしていますから、活発な子と
いうよりおとなしい子の方が圧倒的に多くなるのでした。

 例えば、ある先生がお仕置きを決断したとしましょう。
 先生が「さあ、お仕置きしますよ。全員パンツを脱いで!」と
命じると、みんな当然のようにパンツを脱ぎはじめるのですから。

 この学校の子供たちはそのくらい統制が取れているというのか
目上の人には従順なのでした。

 ですから、さっきのはあくまで特異な例。理由はともかく先生
がそうおっしゃるならって、どの子も胤子先生の前では必ず一礼
します。思わず胸像の前を通り過ぎてしまったら慌てて戻ります。
特に小学生では逆らう子は一人もいませんでした。

 当然、この日も私たち姉妹は先生に教えられた通り深々と一礼
してから校舎の中とへ入っていきます。


 校舎はログハウス風の木造校舎ですが、中は日本のどこにでも
ある学校と同じ構造。玄関口にはたくさんの下駄箱団地があって、
生徒はここで革靴と上履きを履き替えます。

 あっ、そうそう、うちの場合は生徒用だけでなくお供してきた
家庭教師のために父兄用靴箱というのも設置してありました。

 ちなみにこの父兄用靴箱、その名の通りお父様が来て使う事も。
ただそんな時はお仕置きで呼ばれた場合も多いですから、生徒は
お父様の顔を見るなり緊張したりします。

 うちの場合、華族学校時代からの習慣で、毎日が父兄参観日で
したから、良い事も悪い事も全てが河合先生や武田先生を通じて
その日のうちにお父様にも伝わりますが、場合によっては電話で
お父様が報告を受けることも。
 家庭教師の報告を電話で聞き、激怒して学校に乗り込むお父様
もいらっしゃいました。それほど娘が心配だったのです。

 家庭教師からの報告は、学校で行われたテストの結果は勿論、
『国語の時間、お友達とふざけあって先生に鏡を敷かされました』
とか『体育の時間、まじめに走らなかったので一周多く走らされ
ました』なんて恥ずかしい報告も次々とお父様の元に上がってき
ます。

 そのほかにも、休み時間にお友だちとひそひそ声で言いあった
先生の悪口が、なぜか家に帰るとすでにお父様が知っていたり、
ほんのちょっとからかっていただけなのに、お父様からは……
 「今日、お友だちを虐めてたみたいじゃないか。お友だちとは
仲良くしなきゃ」
 なんて注意されたこともありました。

 学校の先生と家庭教師、その両方で私たちはつねに見張られて
いる訳です。つまりこちらの情報はいつも筒抜け。まさに超監視
社会でした。

 でも、大人たちに言わせると、これも愛なんだそうです。
 私たちにとっては、おせっかいとか、過干渉という言葉の方が
ぴったりくるのですが。

 そんな大人たちの愛は他にもあります。

 私たちが登校してくると玄関口には必ず園長先生が立っていて
生徒全員とスキンシップをします。ハグして、頬をすり合わせて、
まるでそこに本当のお母さんが立っているみたいでした。
 実はこれ生徒全員の心と身体の健康チェックなんだそうです。

 これも胤子先生の胸像と同じようにスルーはできません。
 胸像に一礼するのと同様、子供たちは園長先生に抱かれる義務
がありました。

 園長先生に抱かれるのは、ほんの10秒ほど。これで私たちの
健康状態や心の状態までがわかるんだそうです。
 何も話さなくても分かるみたいですから摩訶不思議です。

 もちろん園長先生のハグは何も問題がなければすぐに開放され
ますが子供たちの抱っこの義務はここだけではありませんでした。

 教室に入ると、今度は担任の先生が私たちを待ち構えています。
 やることは園長先生と同じでした。子供たちをしっかりハグ、
頬を摺り合わせ、頭を良い子良い子してなでてくれます。
 ちょっとした赤ちゃん気分。

 担任の先生になると、もっと細かなことまでわかります。
 先生はこうしてハグするだけで、子供たちの今の体調や『宿題
をわすれた』とか『今朝、おねしょしてお父様に叱られた』とか
『今、お友達と喧嘩している』なんていう心のSOSまでわかる
んだそうです。

 何たって、全校生徒合せても40名ほどのこじんまりした学校
ですから、園長先生は登校時間に全ての生徒とスキンシップする
時間がありますし、担任の先生もお父様以上に子供たちの内実を
よくご存知でした。

 もちろん担任の先生は各々の家庭教師から色んな情報をリーク
してもらって、それで判断してるんでしょうけど、子供たちには
不思議な出来事だったのです。

 「あら、可愛いリボンじゃない。小さな鈴まで付いてるのね。
自分で選んだの。それとも、河合先生のお見立てかしら?」
 「私です。楓お姉さまに作ってもらいました」

 「そう、楓お姉さん器用だものね。黄色がよく似合ってるわよ。
ところで、今日の朝ごはん。ちゃんとトマトジュースも飲めた?
お父様、好き嫌いする子は身長が伸びないって心配なさってたわ
よ」
 「コップの半分だけ。吐きそうだったれど、なんとか……」
 「偉いわ。少しずつ慣れていけばいいのよ」
 「コップにまったく口をつけないと……お父様が睨むから……
恐くて……仕方ないんです」

 「あら、そうなの。それは大変ね。でも、それはあなたの為を
思ってのことでしょう。感謝しなくちゃ。……あっ、そう言えば、
昨日からまたお父様と一緒のお部屋で暮らすことになったんです
って?」
 「えっ、……まあ」
 「どう?……久しぶりにお父様と一緒のお布団は嬉しかった?
それとも遥お姉ちゃまと一緒の方がよかったのかしら?」
 「遥おねえちゃまと一緒の方がいいです。でも、そうすると、
お勉強ががかどらないから、お父様が心配して……」

 「そう、それじゃあ仕方がないわけね……お部屋のお引越しが
あったでしょうけど、宿題はちゃんとやってきた?」
 「はい、たぶん大丈夫だと思います」
 「そりゃそうね、お父様のお膝の上ではサボれないものね」

 担任の小宮先生の抱っこでは心にチクチクと刺さる言葉もあり
ますが、甘えん坊の私は、こうして抱っこしてもらうこと自体は
決して嫌いではありませんでした。


 こうしてクラス全員の子へのスキンシップが終わると……
 「さあ、始めますよ」
 担任の小宮先生の声と共に朝のホームルームが始まります。

 このホームルームでは、学校行事についての話し合いなんかも
しますが、子供たちにとって最も強い関心事は小テストでした。

 私たちの学校では子供たちがお家で予習復習をきちんとやって
きたか主要四教科では勉強時間の最初に必ず確認の為のテストを
します。
 でも、国語と算数は担任の小宮先生が担当されていましたから
それを朝のホームルームで間に合わせてしまうのでした。

 出題は漢字の書き取りや計算問題が中心で範囲も細かく区切ら
れていますから家でのお勉強時間は、私の場合、お父様のお膝の
上でなら30分くらいですみます。
 でも、毎日のことですからね、それぞれに事情があってうまく
いかないこともありました。

 これが紙に書いて提出するだけの宿題なら……『やったけど、
お家に忘れてきました』なんて言い訳もできますけど、こちらは
テストで確認されちゃいますからどうにもなりません。まさか、
『知識を家に置いてきました』なんて言い訳ができるはずもあり
ませんから。

 もし、合格点に届かない子が一人でもいると、その子のために
もう一度同じ授業をやったり、その子自身も別メニューで補修を
やらされたりします。

 おまけに先生の閻魔帳にはその子の欄にXが一つ。

 これ、一つ二つなら問題ないのですが、このXが一週間で7つ
以上ついちゃうと、週末はお父様までも学校に呼び出されて親子
で『特別反省会』ということになります。
 こうなるとシャレにならない事態でした。

 担任の先生から、この一週間のいけなかった事が、洗いざらい
書き出されたプリントが出てきて、これから先どんな生活態度で、
どんな勉強方法で頑張るのかが決められます。

 それだけじゃありません。反省会での態度まで悪いとなると、
たとえ親の見ている前でもお仕置きなんてことがありえますし、
それでも足りなければ、お家に戻って、お父様や家庭教師の先生
からみっちりとお仕置きなんてことも……
 『特別反省会』って子供にとっては恐怖の保護者会でした。

 ちなみに、朝の小テストの合格点は9割以上。それ以下の子は
放課後無条件でその範囲を補習させられます。

 ただこの学校は元は孤児と言っても育ちで言えば良家の子女。
しかもどの家庭でもみんな家庭教師を雇っていますから、たとえ
本人がどんなに嫌がっても強制的にお勉強させられます。
 子どもたちは毎日準備万全で登校して来ますから普通は全員が
合格点でした。

 とはいえ、なかには例外もあります。
 この日の朝はそんな稀なケースが起きてしまいました。

 このテストの採点は、ホームルームの時間中に隣の子と答案を
取り替えて生徒同士で行うのですが、私のお隣、広志君はクラス
唯一の男の子にして、六人しかいないけどクラス随一の秀才です。
普段お家でやっているお勉強は中学のテキストだと聞いたことが
ありました。

 そんな子が朝のテストで失敗するなんて、ありえないと思って
いたのですが……。
 広志君の答案を見ると漢字の書き取り問題で全40問中5つも
間違いがあります。9割が合格点なら許容範囲は4つ。5つ目は
アウトです。

 『いいのかなあ』
 私は、何だか広志君の答案にXをつけるのが恐くて、こっそり
消しゴムで消して答案を修正しようとしたんですが……。

 「だめよ、小暮さん。間違いは間違いのままにしておかないと、
広志君の為にならないわ」

 小宮先生に見つかってしまい注意されてしまいます。
 こうして、広志君の放課後の居残り勉強が確定。ホームルーム
が終わるなり広志君の席には女の子たちが殺到しました。

 「どうしたのよ。病気?」
 「身体の調子が悪い時は保健室へ行ったほうがいいよ」
 「そうそう、『今日は体調が悪いのでテストできませんでした』
って言えば先生許してくれるよ」
 
 女の子たちが心配して寄ってきますが、でも当の広志君は迷惑
そうでした。
 「そうじゃないよ。間違えたの。僕だって間違えることあるよ」
 そう言って女の子たちを払い除けます。

 「だって、お家では中学生の問題解いてるんでしょう。こんな
小学生の問題で間違うはずないじゃない」
 由美子ちゃんがこう言うと、詩織ちゃんも同調します。
 「そうよ、そうよ、こんな問題、ちょちょいのちょいのはずよ」

 でも、現実は違っていました。
 「そんなことないよ。家でやってる中学の問題はあくまで趣味
だもん。そりゃあ、方程式は面白いけど、そっちばっかりやって
ると鶴亀算なんか忘れちゃう。漢字だって同じさ。やってないと
忘れちゃうんだ。だから、テストがある時はちゃんとその場所を
復習しておかないと、やっぱり合格点は取れないんだ」

 「じゃあ、何で、今日は不合格になったの?」

 「それは……」
 広志君は言葉を濁します。

 すると、その答えを出したのは、広志君の家庭教師をやってる
会田先生でした。
 会田先生は、ホームルームの時間はずっと教室の後ろに設けら
れた父兄席で静かに見学されていたのですが、一区切りついたの
で、私たちのそばへと寄ってきます。
 うちの学校では休み時間に家庭教師が受け持つ子供に向かって
声をかけるのは日常茶飯事。それ自体は極当たり前の光景でした。

 「ずいぶんと偉そうなこと言うじゃない。……この子、昨日は
熱心にプラモデルばかり作ってて、ちっともこちらの言うことを
聞いてくれないから『もう、勝手になさい』って独りにさせたの。
大丈夫かなあって思ってたら、案の定ね」

 「ちょっとした手違いが起こっただけだよ」
 広志君は強がりを言いますが……
 「手違いって、どんな?」
 って先生に尋ねられると……
 「…………」
 それには答えられませんでした。

 「まあいいわ。これで今日一日が無事にすんじゃったら、私、
失業するところだったけど、朝の小テスト一つ満足に受からない
ようなら、どうやら、あなたには、まだまだ私が必要みたいね。
今日は、小宮先生からとびっきり痛いのを一ダースばかりお尻に
いただいて帰りましょう」

 「えっ!」
 驚いた広志君ですが、会田先生の冷たい表情が変わる事はあり
ませんでした。
 「……それが、何よりあなたの為だわ」

 「だから、たまたまだよ。たまたま間違えただけだって……」
 広志君、苦し紛れのいい訳を独り言のように小さな声で言いま
すが、会田先生は広志君を取り囲んだ女の子たちに向かっても、
さらに強烈にこう言い放つのでした。

 「みなさん、この子の成績なんてこんなものなの。みなさんと
大差ないの。この子、周りがちやほやしてくれるもんだからうぬ
ぼれてるみたいだけど、その方がよほどたまたまよ。今は成績が
あまり上がっていない子でも、あなたぐらいのポジションなら、
すぐに追いつくんだから……大きな口はたたかないことね」
 広志君、会田先生にたっぷりイヤミを言われてしまいます。

 どうやら広志君、昨夜は無我夢中でプラモデルを組み立ててた
みたいで、睡眠時間は二時間。会田先生と約束した宿題の範囲に
も目を通していません。しかもその睡眠時間だって、途中で眠く
なって机にうつぶせなって寝てしまったみたいでした。
 結局そんな広志君をベッドへ運んだのは会田先生だったのです。

 小学生も高学年になると、我を張って家庭教師の言う事をきか
なくなります。そのくせまだ自分で自分を律することができない
ものですから、独りにさせても満足な成果は期待できません。
 こんなことが起きてもそれはそれで仕方のないことでした。

 この日、広志君は居残りです。でも、同じ居残りといっても、
その対応はケースバイケース、千差万別です。

 広志君の場合は、単に補修授業があるというだけでなくその中
で何度も何度も飽きるくらい、涙がこぼれるくらい反省の言葉を
言わされると思います。それは担任の小宮先生が家庭教師の会田
先生から昨夜の事について説明を受けてその事情を知るからです。
 普段優しい小宮先生も怠ける子には厳しく接しますから。

 この学校が他の学校と大きく違っていたのは、家庭教師の存在。
家庭教師と学校の先生が連携をとって子供をお仕置きするという
摩訶不思議な学校でした。

 そんな超監視学校の一日がこれから始まります。

**********<7>**************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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