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5/31 女の都 ~12~

5/31 女の都 ~12~

*)この項、まったくHありません。

 エレーナは長い廊下を戻る途中もキーウッド先生の腰を抱いて
離れません。それまでの辛い思い出を消し去るには、これが一番
よい方法だと知ってるみたいでした。

 「ほら、甘えないのよ。あなた、そんなに小さな子じゃないで
しょう」
 先生は腰を振ってエレーナを払い除けようとしますが、こちら
も笑っています。本気じゃありませんでした。

 こうしてじゃれて遊んでやることが、この子にとって何よりの
癒しだと先生も気づいていたからなのです。

 途中、図書室を通りましたが、すでに清書の時間は終わって、
部屋は空っぽ。みんなミサに行き、それも終わって、そろそろ朝
ごはんを食べに食堂へやってくる頃でした。

 「やったあ、今日は清書もミサもなしね。大ラッキーだわ」
 エレーナは喜びますが……

 「何言ってるの。お仕置き受けた子にそんな役得あるわけない
でしょう。バイブルの清書はもちろん、今日ミサで歌った賛美歌
も夜のうちに清書して提出するのよ」

 「なあんだ、やっぱりやるのか」

 「当たり前でしょう。お仕置きがあったからお勉めはしなくて
もいいってことにはならないわ」

 「ああ、また自由時間がなくなっちゃう」

 「仕方ないでしょう。あなたが悪いんだから……但し、オムツ
はもう脱いでもいいわよ」

 「えっ、いいの?」
 
 「だって、そんなの穿いてたら、蒸れてお尻があせもだらけに
なっちゃうわ。あなたが反抗的な態度ならこのまま着けさすけど
……」

 先生は腰にしがみついていたエレーナを両手でしっかり抱き上
げ、まるで赤ちゃんを高い高いであやすように、その身体を揺さ
ぶります。

 「あなた、これからいい子になるんでしょう?」

 先生とエレーナがにらめっこ。
 どちらもの笑顔でした。

 先生の顔より高い位置にいたエレーナが……
 「はい、先生。エレーナはこれからいい子になります」
 と答えて話は決まります。

 ただ、エレーナの本当の気持はちょっぴり複雑でした。
 『これってふかふかでけっこう気持いいのよね。ひょっとして
このままでもいいかな……なんてね』
 そんな思いも、心の片隅にあったみたいです。


 さて……
 エレーナはトイレでキーウッド先生からオムツを外してもらう
と、普段のショーツに穿き替えます。

 「ほら、今だって凄い汗じゃないの。こんなの一日じゅう穿い
てられないわ」

 あのトイレでは随分と恥ずかしい思いをしたエレーナですが、
こうしてキーウッド先生の前だと裸になってもさして恥ずかしい
とは感じません。

 それは、物心つく頃から先生がずっとお母さんの代わりをして
きたから。キーウッド先生というのはエレーナだけでなくクラス
メイト全員にとって『先生』と呼ぶ『お母さん』だったのでした。

 そんなエレーナがお母さんと一緒に食堂へと入ってきます。

 食堂は幼い子から高校生まで大人数が一堂に会しますすから、
女の熱気がむんむんと立ち込めています。それはとりもなおさず
女の子が『女』を営業している証でした。
 衣装、髪型、仕草、言葉遣い……相手を意識してはれるだけの
見栄をはって自分を高く見せようと競争しています。

 ところが、そんな争いにエレーナは参加しませんでした。
 ここでも彼女、先生の腰にしがみついてはさっきと同じように
甘えてみせます。ハズバンドが見つかったエレーナにとって女の
営業は必要ないことのようでした。

 女の都には、昔からお仕置きにまつわる不文律があって、罰が
終わった子は……『よく頑張りました』ということでしょうか、
しばらくの間、大人に甘える時間を与えられます。
 エレーナの今がそうでした。
 
 「ケイト、ご苦労様。慣れない仕事で大変だったわね。みんな
いい子にしてたかしら?」

 「してたよ。先生」
 先生はケイトに尋ねたのですが、グロリアがその中に入り込み
ます。

 「大丈夫です先生。みんな、とてもおとなしくミサに参列して
いましたから……」

 「ほらほら、抱きつかないのグロリア。あなたにやってあげた
ら、他の子にもしてあげなきゃならなくなっちゃうわ」

 「だって、エレーナは先生にくっついてるじゃないのさあ!!
……あっ、わかったわ、お仕置きされたからなんだ。ねえ、先生、
そうなんでしょう?……ねえ、エレーナ。サンドラのお婆ちゃん
から、あなたどんなお仕置きされたの?……お浣腸?……ねえ、
エレーナってばあ……あなた何されたのよ。やっぱり、お浣腸で
しょう」

 しつこく食い下がるグロリアに先生は一喝します。
 「グロリア、おやめなさい。食事の前ですよ」

 「は~い」
 口を尖らせ不承不承の返事を返したグロリアにキーウッド先生
は続けます。

 「エレーナはお仕置きなんて受けてません。シスターサンドラ
からご注意を受けただけだわ。お小言が長くなってしまったから
ミサにも出席でなくなったの。あなたのように見てもいないこと
を他へ行って言いふらすようだったら……あなたこそ、お浣腸の
お仕置き必要ね」

 「えっ!?……」
 こう言われてしまうと、グロリアだって二の句がつげません。

 「わかりましたか?」

 「は~い」
 グロリアは恐々答えるしかありませんでした。

 「いいわ、それで……覚えておきなさい。口は災いのもとよ」

 キーウッド先生は、このままほおっておけば、尾ひれがついて
どんどん広がってしまうグロリアの口害から、エレーナの名誉を
守りたいと考えたのでした。

 「エレーナ、あなた、私の隣にいらっしゃい。今日はあなたが
お姫様の席よ」

 先生のお隣はお姫様席と呼ばれ、本来なら先生の為に振舞われ
る料理をその席に着いた生徒も一緒にいただくことができます。
まさに特等席なわけですが……

 ただ、その席にエレーナが座れるというのは修道院学校の常識
としては、お仕置きが終わった直後だからに他なりません。
 『でも、たとえそれが分かっていても、他へ行っておしゃべり
してはいけませんよ』
 キーウッド先生はグロリアにそう諭したのでした。

 他人の名誉を守ってあげる思いやりは、修道院学校の美徳です。
でも、ともすれば女の子たちが忘れがちな美徳でした。

 では、エレーナの方はどう思っていたのでしょうか。

 自分がお姫様席にいることはお仕置きを受けたと宣言している
ようなもの。決して名誉なことではありません。これから先、口
さがないお友だちの陰口だって心配です。

 でも、今こうしてキーウッド先生から優しくしてもらっている
こと、自分を認めてもらっていることが彼女の支えでした。先生
との絆はこれから先の安心や励みに繋がりますから、彼女がこの
席を毛嫌いする理由もありませんでした。

 むしろ、この機会にエレーナは先生に甘えます。
 色んな料理を取り分けてもらい満面の笑みで舌鼓。場合によっ
てはスプーンで口の中まで運んでもらうことだってありました。

 「どうしたのポーラ?あなた、羨ましいのかしら?」
 先生は自分もそこに行きたいと言わんばかりのポーラに尋ねま
すが……

 「べつに……」
 彼女はそっぽを向いてしまいます。

 お仕置きの後大人たちがその子に優しいのは誰もが知っている
常識。でも、だからと言って、わざとお仕置きされようとする子
はいませんでした。

 それは小学生でも歳相応の矜持というものがありますし、お仕
置きの内容があまりに厳しくて、このくらいの役得では足りない
ということでもあったようです。

 でも、それでも……
 『私もお姫様席に行きたいなあ』
 ポーラがエレーナを見て憧れるのも事実でした。


 食事が終わり、他の子がすべて席を離れてから、先生はあらた
めてナプキンでエレーナの口元を綺麗にします。そして、自分の
目の前に立たせてからこう注意するのでした。

 「今日あなたは本来なら一日中着けてなければならないオムツ
を外してるけど、それは罰を免れたからじゃないのよ。罰を猶予
しているだけ。今日一日は、他の子だったら『いけませんよ』と
叱られるだけの場合も、あなたに限っては、最初からお尻叩きに
なります。……そのことは覚悟しておきなさいね」

 「……それって、他の先生もですか?」
 恐々尋ねると……

 「そう、他の先生も一緒。厳しいわよ。心してちょうだいね」

 「はい、先生」
 ちょっぴり緊張のエレーナ。

 「大丈夫、良い子にしてればいいだけよ」

 「はい、先生。大丈夫です」
 エレーナに笑顔が戻ると……

 「よし、良い顔になったわ。その調子で頑張ってね。それじゃ、
今度は国語の時間にまた合いましょうね」
 キーウッド先生はエレーナの心を解きほぐすように優しくハグ
して別れます。

 ここまでが、お仕置きを受けたエレーナの役得。
 これから先、彼女に特別な役得はありません。
 他の子と同じ。いつもの日常へと戻っていくのでした。

****************************

 <寄宿舎>
キーウッド先生
子供たち/ナンシー。ポーラ。グロリア。エレーナ。
エリザベス。ローラ。マリア。
図書室長/シスターサンドラ(お婆さん)

5/30 海草電車

5/30 海草電車

*)短編小説(読みきり)Hありません。ノーマルなお話です。

 ある秋の日のことです。
 その日は、朝からお母さんが何となくそわそわしていました。
 そして、朝ごはんを食べ終わると、お出かけの服に着替えます。
 いえ、お母さんだけじゃなく僕たち兄弟も一緒におめかしです。

 お母さんは言います。
 「今日は、来年入学する小学校にご挨拶行きますからね、二人
とも、お行儀良くしているのよ」

 というわけで、どうやらそのことで親子四人お出かけするみた
いでした。

 ま、理由はともかくお出かけは楽しいものですから、僕も弟も
大はしゃぎです。

 道端にタンポポが咲いていましたから……
 「これ、本当は春に咲く花なんだよ。こうやって秋に咲くのは
狂い咲きって言うんだ」
 僕はお兄ちゃんとしての威厳を弟に示します。

 もっとも、僕がお兄ちゃんと言っても弟とは生まれた日が同じ。
 つまり二人は二卵性双生児でした。

 ただ、世間が僕のことを「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」とちや
ほやするもんですから…僕の方が誤解して、
 『この子(弟)は僕が守ってあげなきゃいけないんだ』
 なんてお兄ちゃん風を吹かせるようになっていたのです。

 実は、二人に能力の差はほとんどなくて……知識や計算は僕が
……芸術的な才能はあっちゃん(弟)の方が、ほんのちょっぴり
優れていました。(と、大人の人たちが言っていました)

 次に僕たちは、空に浮かんだ雲を見て議論します。

 「ねえ、あの雲、鉄人28号に見えないか?」
 「嘘だよ、ピエロだよ。玉乗りしてるもん」
 「どこが玉乗りだよ。違うよ、あれ、地球だよ」
 「そんな小さな地球があるわけないじゃん」

 とまあ、こんな感じで道々口げんか。
 でも、僕はあっちゃんの保護者きどりだし…あっちゃんも僕の
ことは「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」って慕ってくれていました
から、二人は普段とっても仲よしでした。

 四人の小旅行は、電車に乗って二十分。歩いてやっぱり二十分。
 やっとこさ、目的の小学校へ着きます。
 校庭ではすでに大勢の子供たちが遊んでいました。

 やがて見知らぬ先生がやって来て、その子たちとボール遊びを
しましょうとか、お部屋の中でお絵描きをしましょうなんて言っ
てきます。
 お父さんお母さんはどこかで先生方とお話し合いしてるみたい
でどっかへ行ってしまいましたが、子供たちの周りにもたくさん
の先生がいらっしゃったので特別心配もしませんでした。

 と、そんなこんながあって……今度は、僕だけが他の数人の子
と一緒に先生に呼ばれます。
 何だろうと思って先生と一緒に着いて行くと、ほかの子たちと
並んで椅子に座らされました。

 「お名前は?」
 「お歳は?」
 「どこの幼稚園ですか?」
 「お父さんのお名前を知っていますか」
 「お母さんのお名前を知っていますか
 「今日はお家からどうやってここへ来ましたか?」
 誰に対しても同じことを聞いていきます。

 ほかの子は……
 「朝比奈敦子」
 「6才」
 「小鳩幼稚園」
 「朝比奈宗雄」
 「朝比奈敬子」
 「お父さん、お母さんと一緒にバスに乗って来ました」
 と、まあだいたいこんな感じで答えていくのですが……

 『なあんだ、家族を自己紹介すればいいんだ』
 僕は今起こっていることをこんな風に解釈しました。

 『それならそうと言ってくれればいいのに一つ一つきく事ない
じゃないか』
 そんな光景を目の当たりにしていると、僕の頭の中には尋ねて
くる先生に向って話したいことがたくさん出てきてしまいます。

 もちろん、色んなことが頭の中に湧き上がったとしても、それ
を話さなければいいだけのことなんですが、因果なことに、当時
の僕にはそれができませんでした。
 思いついたことは全て話さないと気がすまなかったのです。

 そこでは一問一答なんて形式は無視。
 「僕の名前は倉田勉。弟は篤。お父さんは倉田弘治。お母さん
は倉田花枝。僕は6才、弟も6才、二人は二卵性双生児なんだ。
5月16日がお誕生日だからその日が来ると二人とも7才です。
お父さんは38才、お母さんは28才。通ってるのは天使幼稚園。
お庭に大きなクリの木がある幼稚園だから、港町に来ればすぐに
わかるよ。今は栗のイガイガを踏んじゃうから近く行っちゃいけ
ないって先生に言われてるんだ。あ、そうだ、今日のことだよね。
今日はね、朝からお母さんの様子が何だかおかしかったんだ。何
だかそわそわしてたもん。そうだ、ここへ来る途中、タンポポが
咲いてたよ。珍しいでしょう。だから、あっちゃんに教えてあげ
たの。これは『狂い咲き』だよってね。そうそう雲も出てたよ、
綺麗な白い雲。あっちゃんはね、あれがピエロに見えるって……」

 立て板に水で、余計な情報満載の一人トーク。しかも、僕の番
だと思って勝手に話し始めるもんだから、周りの先生もあっけに
取られてお口あんぐりだったみたい。
 ただ、僕の方はやっとおしゃべりができて上機嫌だった。
 
 当然、「やめさせましょうか」という話が出たんだけど、当時
の校長先生がとても良い人で「もうしばらく聞いてみましょう」
ということになったみたいで……(僕はそんな事情知らなかった)
僕は延々話し続けちゃう。

 しかも、そのうち自分で自分のお話に酔ってしまい、だんだん
と『ため口』で話すようになります。

 で、そんな僕の無駄話が、やっと家の近くの駅から電車に乗る
という段になって、問題が生じるのでした。

 このあたりまで来る頃には僕は周りことなんて無視。とにかく
思いついた事は全部話さなきゃって、そればかり考えていたみた
いでした。
 大げさな身振り手振りを交えて、ため口で得意げに大演説です。

 「電車がホームに入ってきたんだけどさあ、これが回送なんだ
よね。がっかりしちゃった。せっかく特急が来たと思ったのに…」
 と、この言葉が問題でした。

 きっと、身振り手振りを交えて必死に話しているもんですから、
先生には僕の手の動きが海の中で昆布が揺らいでいるように見え
たんじゃないでしょうか。
 先生が、思わずこう言ってしまったのです。

 「電車のホームに海草が生えてたの?」

 「ん????」
 さすがの僕も言葉に詰まりましたね。
 最初は何の事だか、僕にもわかりませんでしたから。
 でも、それが思い違いだと分かると、今度はこう言っちゃった
の。

 「先生、ホームに海草が生えるわけがないじゃない。しょうが
ないなあ。回・送・電車。お客さんを乗せない電車があるだろう。
知らないの?そんな事も知らないんじゃ、世間の人に笑われるよ」

 もう完全なため口です。
 でも、この時笑われたのは、先生じゃなくて僕。
 場内大爆笑でしたから……

 何しろ、これから教えを請おうという先生に向って、つい最近
世の中に出てきたばかりの幼稚園児が世間まで持ち出して諭すん
ですからね、大人たちはこれを笑わずにはいられなかったみたい
です。

 「えっ、何????」
 どっと湧き起こった笑いには僕だって動揺します。
 きっと、どんな漫才のネタより面白かったかもしれません。
 お父さんもお母さんもその瞬間は卒倒寸前だったそうです。

 「えっ、まずい????」
 僕は、ここへ来て初めて自分がまずいことをしていると気づき
ました。

 だからその後はお友だちを見習って簡単に済ませたんですけど
……僕の顔と名前は先生方の脳裏に強烈に残ったみたいでした。


 親子四人での帰り道、お父さんはいつになくニヤニヤ笑ってい
ますし、お母さんは明らかに怒ってます。あっちゃんだけが慰め
てくれました。

 木枯らしの吹くよく晴れた秋の一日。
 今でもその日のことはよく思い出します。


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5/23 女の都 ~11~

5/23 女の都 ~11~

*)これは作者が自身の楽しみのために描く小説です。

 ケイトはなかなか寝付かれませんでした。
 慣れないベッドのせいもありますが、修道院の朝は4時に起き
なければなりません。普段そんなに早く起きたことのないケイト
にしてみたらプレッシャーです。

 それでも、いつの間に寝てしまい、気がつくと3時半。
 これから寝ていたら寝過ごしてしまうと考えた彼女はこのまま
起きてしまおうと決断したのでした。

 すると、微かにですが人の声がします。
 『なんだろう?』
 気になったケイトが声の方を目指して廊下を歩いていきますと。

 『なあんだ、そういうことか……』
 話し声は昨夜キーウッド先生が子供たちの勉強を指揮していた
司令室から。
 そこでは、昨日の夜、勉強中に眠りこけてしまったポーラが、
椅子に腰掛けた先生のお膝に抱っこされて、マンツーマンで勉強
をみてもらっていたところだったのです。

 もちろん、朝早く叩き起こされたポーラは大変でしょうけど、
キーウッド先生の場合は、ご自分の責任でもないことでの早起き
なんですからもっと大変です。

 でも、キーウッド先生に限らず、修道院の先生たちは子供たち
に対してどなたも愛情深く献身的でした。

 見れば、ポーラもまるで赤ちゃんのように甘えて見えます。
 その様子はまるで親子。

 厳しいお仕置きだってたくさんありますが、こんな光景を見て
いると『ポーラは幸せね』と感じられるのでした。

 『女の子は何をされたかではなく、誰にされたかが問題』
 ケイトはこの言葉を思い出していました。


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 朝4時きっかり、係りのシスターがハンドベルを鳴らして中庭
を回ります。
 決して大きな音ではありませんが、公式な目覚まし時計はこれ
だけでした。

 あとは、友だちが起こしてくれます。
 でも、誰もが素早くベッドから出られるとは限りませんでした。

 「わかったわよ、今、起きるから大丈夫よ」
 エレーナはハエでも追うようにナンシーの手を払い除けます。

 でも、完全に起きることはできませんでした。いったん起きて
も、また頭が枕に着いたとたん意識が遠のいていきます。きっと
昨日の夜が楽しくて疲れてしまったんでしょう。

 「ほんと、起きなさいよ」
 捨て台詞を残してその場を離れます。
 本当はナンシーだってもっと真剣に友だちを起こしたいところ
でしょうが、自分だって色々とやることがあります。ですから、
そう長くその場に留まることはできませんでした。

 裸の素肌にバスローブだけを羽織りクラスメートたちは洗面所
へ……
 顔を洗い、髪をとかし、歯を磨いて、髪飾りを決めたりコロン
を振ったもします。もちろんおしゃべりは必需品ですし、朝です
から用をたす子も……お化粧はしませんが、女の子はいったん人
前に出るとなったら短い時間にやることがたくさんでした。

 そんな一通りのイベントが終わってからナンシーが部屋に戻る
と、エレーナがまだベッドの中にいます。

 「何やってるの、図書室に遅れるわよ」
 マリアの二度目の警告で、エレーナはやっと目が覚めたみたい
でした。
 ですが、その時はもう身繕いなんてやってる暇がありません。

 ですから今朝の身づくろいは省略。若いシスターがすでに部屋
の隅で配り始めていた見習い用の法衣を、お友だちと同じように
列に並んで受け取るとそれに着替えて自分も図書室へと向います。

 エレーナにしてみれば顔は洗わなかったけど、法衣をもらえた
ことだし『これでよし』だったんでしょうが、彼女、一つ大事な
ことを忘れていたのでした。


 図書室には、一日でこの瞬間しか顔を合せないシスターたちが
いまいした。彼女たちはシスターキーウッドのように先生を兼務
していませんから、とても厳かな顔をしています。
 子供たちにしてみたら『偉いんだろうなあ』って思える人たち
です。

 図書室の管理を任されているシスターは神様にお仕えしている
わけですから、もともと心根の曲がった人たちではありません。
穏やかな所作、穏やかな物言い、大人が見ても十分立派に見える
人たちです。
 ただ、そのあたり、あまりに立派過ぎて、小学生にしてみると、
ちょっぴり融通のきかない人たちでもありました。

 さて……
 この図書室で子供たちは与えられたバイブル一節を清書します。

 もちろんかつては宗教的な教義を覚えさせるという意味が中心
だったのでしょうが、今は朝の時間を使って普段から綺麗な字が
書けるように練習させるのが目的。ワープロはあっても、綺麗な
字は女の都のたしなみ。子供たちは大人たちから機会を見つけて
は活字のような綺麗な字が手書きできるように訓練させられるの
でした。


 簡単な礼拝の後、子供たちはそれぞれに与えられたお手本を元
にバイブルを書き写します。

 いわば写経と同じようなことをしているわけで、子供には結構
きつい日課です。単純作業に弱い男の子だったら、あくび連発、
途中で隙をみて逃げ出す子だっているかもしれません。

 でも、ここは女の子の世界、お腹の中ではぶつくさ思っていて
も、大人たちが決めたことにはちゃんとお付き合いします。
 女の子にとっては人生のほとんどがこのお付き合いでした。

 お付き合いのために眠い目をこすりながら部屋に入って来たエ
レーナ。彼女だって他の子と何ら変わらなく作業していたのです。

 ところが……
 しばらくしてから、あるシスターが意地悪な物を図書室に持ち
込みます。
 これが彼女の朝を大きく変えることになるのでした。

 持ち込まれた物はお目付け役のシスターたちの間で話題になり、
やがて、エレーナの席へと若い一人シスターがやってきます。

 「エレーナちょっとペンを止めてね。……図書室長のシスター
サンドラがあなたに御用があるそうなの。ちょっとお隣の部屋へ
来ていただける」

 若いシスターは相手が子供でもとても丁寧に応対します。
 それは聖職にある者のたしなみ。

 もっとも、どう対応してもエレーナが「嫌です!」と言うこと
だけはありませんでした。
 答えは決まっていたのです。

 「はい、シスター」
 エレーナは楚々として席を立ちます。

 こうした席ではそのように振舞わなければならないと躾けられ
ていたからです。
 ただ、図書室や教室でこうして席を立って隣の部屋へ行く時、
それが生徒にとって好ましいことだったり誇らしいことだったり
することはまずありませんでした。

 声かけはもちろん、みんなが知らんぷりをして、さもエレーナ
が席を立ったなんて気づいていないとばかりに、もくもくと清書
作業を続けています。

 そんな中をエレーナが通り過ぎていきますが、でもエレーナの
ことは誰もが気にしていました。

 『さっきシスターが持ってきたバスローブ、あれってエレーナ
のじゃないかしら』
 『やばいなあ、彼女一度も袖を通さないでベッドに置いてきた
のね』
 『ばかねあの子、ささっと一度着てすぐに脱げば5秒とかから
ないのに』
 『慌てるから、そんなことになるのよ。きっと昨日ナンシーと
楽しみ過ぎたんだわ。自業自得ね』

 クラスメートたちは自分のおなかの中だけで色んなことを思い
ます。
 それは表向きお友だちのエレーナを心配しつつ、心の裏側では
これから始まるショーを色々想像しては、独り物思いにふけるの
が女の子の習性です。
 もちろん、何一つ顔色は変えずに、一瞬たりとも手も休めずに
……です。


 エレーナが若いシスターに連行されて隣りの部屋へ行くと……
そこにはクラスメートが心配していたバスローブがありました。
 要するにお友だちが心配していた通りの展開だったわけです。

 「エレーナ、こちらへいらっしゃい」
 図書室長のシスターサンドラがエレーナを呼び寄せます。
 エレーナにしてみたら、こんな場面、そりゃあ行きたくありま
せんが、行かないわけにはいきませんでした。

 恐る恐る近寄ると……
 お婆さんシスターはいきなり法衣からタオルを取り出して……

 「じっとしてなさいね……ほら、ほら、あなた、こんな大きな
目やにがついてるわ」

 お婆さんシスターはそのタオルでエレーナの目やにを取り除き
ます。
 でも、もちろんこれが目的で呼んだわけではありませんでした。

 「エレーナ、あなた、今日はお顔を洗いましたか?」

 「……えっ……」

 「実はね、あなたのベッドにまだ袖を通していない洗い立ての
バスローブが置いてあったの。……あなた、まさか裸で洗面所へ
なんか行かないわよね」

 そう、これが目的なんです。

 「……!……」
 エレーナは一瞬『やばい』と思いました。思いましたけど、今
になっては後の祭りですから……

 「ごめんなさい、今日はまだ顔を洗ってません」
 こう白状するしかありませんでした。
 
 「そう、やっぱりそうだったのね。……今朝は、どうしたの?
眠たかったのかしら?……」
 シスターサンドラは余裕の表情です。
 続けて……

 「でも、身だしなみは大切よ。特に神様の前に出る時は寝起き
の顔ではいけないわね。顔を洗い、髪をとかし、洗濯した清潔な
衣服を身につけていないといけなの……それは習ったでしょう?」

 お婆ちゃんシスターの言葉はとても穏やかで、エレーナを威圧
するような素振りはまったくありませんでしたが……

 「はい、シスター」
 エレーナはそう答える間も辺りをキョロキョロ。お仕置きされ
るんじゃないかという恐怖心から落ち着かない様子でした。

 「それでは、まず顔を洗いましょうか。そこのテーブルに水を
はった洗面器があるからお顔を洗いましょう」

 「はい、シスター」
 エレーナは心細げに答えて洗面器の水で顔を洗います。
 洗面所と違って水をバチャバチャ顔に掛けられません。そうっ
と、そうっと顔に水を掛けて、床が濡れないように気を使います。

 「あらあら、上手じゃない。レディーはお部屋の中でもお顔が
洗えるようにならなければならないけど、あなたはすでに合格ね」

 シスターサンドラに言われてホッと一息。
 このあとエレーナは、この部屋の中で髪をとかし、歯を磨いて
みせます。これも問題はありませんでした。
 ……でも、問題はこれからだったのです。

 「さてと……これで首から上は綺麗になったけど……せっかく
だから、身体全体綺麗にしてみましょうか」

 お婆ちゃんシスターの何気ない一言。そこからエレーナの苦難
が始まるのでした。

 「そうね、まず、着ているその法衣を脱ぎなさい。ついでに、
沐浴しましょうか。……そうだわ、あなた、今朝は朝のお勤め、
まだ済ましてないんでしょう」

 「…………」

 「だったらそれも一緒にやってしまいましょう」

 シスターはまるで事のついでにとでもいった感じで朝のお勤め
なんて言い放ちますが、この『朝のお勤め』実は修道院の隠語で
トイレのことです。

 朝のトイレを済ませていなければ、次はお浣腸。
 大人たちは乱暴に権力を行使します。
 それはエレーナにしてみたら、それまでとは比べ物にならない
ほど大変なことでした。

 「えっ!?」
 エレーナは思わず法衣の襟を握りしめてしまいます。

 それは思春期の入口に立つエレーナにしたら当然の反応。でも、
大人たちにしてみたら、それも小娘の命令拒否と映ってしまうの
でした。

 「どうしたの?驚くことないでしょう。私たちの前で裸になる
のがそんなに嫌なの?」

 「いえ……」
 深い皺をさらに深くして微笑むシスターに、エレーナは言葉を
濁しますが……

 「だって、あなたが清書するバイブルはマリア様への捧げもの
なのよ。心や身体に汚れや穢れは一切あってはならないわ。綺麗
な上にも、綺麗にして、心を込めて書かなければならないの……
わかってるわよね」

 「はい、シスター。教わりました」
 女の都は年功序列の縦社会。長老シスターに言われると、結局
エレーナもそれ以上反論できませんでした。

 「そこのテーブルに仰向けに寝てごらんなさい」
 シスターはエレーナにはこう言い。
 振り返って、若い助手のシスターには……
 「お浣腸を出してきて」
 と命じます。

 『仰向け……』
 その言葉がエレーナの脳裏を支配します。

 もちろんお浣腸は嫌に決まっています。お尻の穴を見せるのは
たとえ小学生だってとっても恥ずかしいのですから。
 でも、仰向けになるともっと深刻な問題がありました。

 うつ伏せや四つん這いと違い、仰向けになって両足を高く上げ
ると、自分の大事な処が全部丸見えになってしまいます。

 そこで……
 「四つん這いじゃだめですか?」
 心細く訴えてみたのですが……

 「だめよ」
 あっさりとガラス製のピントン浣腸器を手にした若いシスター
に退けられてしまいます。
 彼女はこう言うのでした。

 「あなたは頭のいい子だもの。分かってるでしょう。シスター
サンドラは直接おっしゃらないけど、これはあなたへのお仕置き
なの。『恥ずかしい思いをしたくない』なんて、あなたの方から
は言えないわ」

 エレーナは唇を噛むしかありません。
 そんなエレーナに無慈悲な声が飛びます。
 「さあ、準備して……」

 「…………」
 従うしかありませんでした。

 仰向けになったエレーナの短いスカートの中に若いシスターの
手が無遠慮に入り込み、ショーツが引きずり出されます。

 「…………」

 両足が跳ね上げられて、エレーナの隠しておきたい場所は全て
白日の下に晒されます。それでも悲鳴はあげませんでした。

 と、ここで、追い討ちをかけるようにお浣腸を手伝っていた別
のシスターの声が……
 「あら、あなた、このショーツシミがついてるけど……下着は
毎朝、ちゃんと取り替えてるんでしょうね」

 エレーナはもうこの場から消えてなくなりたい思いでした。

 「どうれ、見せてごらんなさい」
 ここでもお婆ちゃんシスターがでしゃばります。

 答えは簡単でした。
 「あなた、下着も昨日のままなの。呆れたものね。これじゃあ、
マリア様でなくても私だって嫌よ」

 図書室長としての怒りは当然厳しいお仕置きの上乗せとなって
表れます。

 「ああああああ」
 50ccお薬がエレーナの肛門から直腸へと流れ込みますが、
問題はこの後でした。

 「シスターレーナ、この子にオムツを……」
 
 図書室長の声がエレーナの頭の中で再びガンガンと響きます。
 『嘘でしょう!そんなのイヤ!』
 エレーナの脳裏に、かつてオムツをされ、べっちょりと汚れた
オムツを先生に取り替えてもらった日の様子がフラッシュバック
しました。

 「いや!いや!いや!やめて~!だめえ~~!オムツいや~!」
 もう、たまらず声が出ます。
 後先考えず必死でした。

 「いやいやいや、だめだめ、オムツしないで、ごめんなさい。
もうしませんから、オムツしないで、おトイレ行かせて~~~」
 
 エレーナは興奮してお婆ちゃんシスターに頼み込みますが……

 「ほらほら、そんなに大声を出さないの。そんな声をだしたら
ここで何されてるか向こうの部屋のお友だちに分かっちゃいます
よ。そんなに嫌なら、これからはちゃんと身づくろいをしてから
ここへいらっしゃい。特に昨日の下着はだめです。いいですか?」

 「は、はい、シスター」
 エレーナは許してもらえれることを期待してそう答えたのです。
ところが……

 「そう、わかってくれたら嬉しいわ。では、これからは間違い
のないようにしましょう。でも、今日はオムツになさい。あなた
みたいにだらしのない子は、自分がどれほどだらしのない人間か
を、実際、自分の目に焼き付けておいた方がいいわ」

 「ええええっ……」

 「だらしのない子には自分のだらしのない姿を…ハレンチな子
には自分のハレンチな姿を見るのが一番の効果的なの」
 お婆ちゃんシスターがこう言っている最中にもエレーナのお股
は若いシスターによって閉じられていきます。

 『あああ、だめえ~~~』
 エレーナは閉じられていく自分のお股を眺めるしかありません。

 女の都のオムツは貞操帯と同じ。一度装着したら自分では脱ぐ
ことができませんでした。

 それから1分としないうちに……
 「ああ、だめえ」
 お薬の効果はてきめんです。エレーナのおなかは一刻の猶予も
ならないと告げていました。

 エレーナは慌てて起き上がります。
 いつもそうしているからです。そうやってトイレへ駆け込んで
るからです。でも、今回はそのいつもやってることができません
でした。

 「あっ、どいて」
 立ちはだかる若いシスターの肩を払い除けてテーブルから飛び
降りようとしたのですが、逆にその身体はシスターに抱きかかえ
られてしまいます。

 「いやあ、やめてえ~どこへ行くの!トイレ、トイレ、トイレ
へ行くの」
 エレーナはできる限り若いシスターの胸の中で暴れます。

 でも、どうにもなりませんでした。
 エレーナは11歳、幼児じゃありませんから本当はもっと強い
力で暴れることだってできたはずなんですが、でもそんなことを
したら、信じられないほど恥ずかしいことが起きてしまいそう。

 抵抗するにも、おのずと限界があったのでした。


 シスターがエレーナを抱いて連れて来たのは『トイレ』
 いえ普段使っているトイレではありません。こうしたお仕置き
のために使われる特殊な『トイレ』でした。

 シスターに抱かれて入った部屋は薄暗く、四畳半ほどの広さの
中に家具とわかるのは粗末なベッドだけ。

 最初何もないように見えた部屋ですが、目が暗がりに慣れると、
部屋の奥、その壁の高い処にマリア様の肖像が掲げられているの
がわかります。
 そして、その真下には二本の平たい板が渡してありました。

 「さあ、着いたわ。もう大丈夫よ。……まずはそこの板の上で
膝まづくの……足を踏み外さないようにしてね」
 エレーナは若いシスターから身体を下ろされると、その二枚の
板に片膝ずつ着いて股がるように命じられたのでした。

 『何なのこれ?』

 訳がわからぬまま……いえ、分かったところで、すでにお腹が
切迫していますから逃げ出したりはできないのですが……今度は
両手を皮のベルトで固定されてしまいます。

 『いやあ、何するの!?』
 青ざめるエレーナ。でも、抵抗はできませんでした。
 だってその場を離れることさえままならないほど彼女のお腹は
切迫していたのですから……

 おかげでエレーナの身体は若いシスターのなすがまま。まるで
マリオネットの人形のようです。戒められた両手が空中へ上がっ
て行ったとしても、エレーナは何もできませんでした。

 両手に連れて上半身も立ち上がり、まるでバンザイをするよう
な姿勢で膝小僧から下がその二枚の板に着いています。

 そんな姿勢にさせておきながら、若いシスターが放ったのは、
冷たい一言でした。

 「これでおトイレの準備ができたわ。いいわよ、やってちょう
だい」
 若いシスターは、この姿勢のままでエレーナにウンチをしろと
いうのです。オムツを穿いたこの姿勢のままで……

 「えっ!?」
 訳がわからず狼狽するエレーナ。でも、その顔には絶望と深い
悲しみの表情が宿っていました。

 「できません」
 勇気を振り絞って訴えてみたのですが……

 「そんなことないでしょう。赤ちゃんの時は、みんなオムツに
してたのよ。今さらできないわけがないんじゃなくて……」

 「…………」
 エレーナは反論したかったのです。『赤ちゃんの時と今は違う』
と……でも、それさえできないほど事態は切迫していました。

 「助けてください」
 か細い声がやっとの思いでプライドを捨てて若いシスターの耳
に届きます。
 ですが……

 「だめよ、やることやらなきゃ、許してもらえないわ。マリア
様の前で大恥をかくことが、目下のあなたの仕事なの」

 「そんなあ~~~そんなことしたら、わたし死んじゃいます」
 荒い息の下でため息が渦巻きます。

 「オーバーね。大丈夫よ、こんなこと、あなただけじゃないわ。
あなたよりもっとお姉さんになってもやらされてる子がたくさん
いるんだから」

 若いシスターの言葉はエレーナには何の励ましにもなりません
でしたが、シスターは続けます。
 
 「ほら、前の壁、見ててごらんなさい」

 彼女はそう言うと……エレーナの目の前にある壁にスライドを
映してみせます。
 それはこの寄宿舎学校の子供たち。エレーナと同じように両手
を縛られマリオネットの人形となって苦悶の表情を浮かべている
スチールです。
 一枚二枚じゃありません。それが何十枚もあるのでした。

 「ええええええええ」

 「ね、こんなこと、あなただけじゃないでしょう。どうかしら、
お友だち、見つかった?」

 若いシスターの言葉はとても聖なる世界のものとは思えません。
どこか悪魔チックに聞こえます。
 でも、これでエレーナはおとなしくなったのでした。

 女の子というのは、『こんな非道なことを…』とは思いつつも、
『自分だけじゃないんだ』という安心感の方が頭の中を強く支配
しますから、お仕置きを受けて興奮する子をなだめるには『ほか
の子も同じよ』と訴えるのは意外に効果的だったです。


 「さあ、いいかげん、あなたも観念なさい」
 今度はこう言って若いシスターがエレーナの方へと近寄ります。
 仕方のない時間はもう目の前でした。

 すると、そこへ図書室長のお婆さんシスターが現れます。

 「どうですか?……終わりましたか?」

 「あっ、すみません、すぐに済ませますから……」
 突然の来訪に驚いた若いシスターがエレーナに取りすがろうと
しますが、シスターサンドラはそれを制します。

 「あら、まだなの?……エレーナちゃんは随分、頑張り屋さん
なのね……いいわ、私がやりましょう」

 彼女はエレーナの前に同じように膝まづくと、その下腹をなで
始めます。すると、もう数秒で……

 「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 堪えに堪えていたお腹が一気に開放されてしまいます。

 ぐったりした身体、僅かに立ち上る臭気。
 エレーナの変化はあえて確かめなくても誰の目にも明らかです。
そして、しゃくりあげて泣くエレーナが少しだけ落ち着きを取り
戻したのを見計らって、シスターサンドラはこう言うのでした。

 「大丈夫、大丈夫、泣かなくていいの。ここはお外の世界じゃ
ないの。ここはあなたが生まれた処、育った処、あなたは、まだ
揺りカゴの中にいる赤ちゃんなんですもの。……ここであなたが
どんな格好をしていても、誰もあなたを責めないし傷つけないわ。
……だから、『こんな事して恥ずかしい』って思ったら、今から
改めたらいいの。ここを出て、大人になった時に恥をかかない為
に、ここで色々と恥をかいたらいいのよ。あなたはまだ小学生、
お漏らしの一つや二つ経験しても誰も驚かないわ」

 お婆ちゃんシスターはそう言いながらエレーナのオムツに手を
かけます。若いシスターが気がついて慌てて止めに入りましたが、
……

 「大丈夫よ。このくらい、私だってまだできるわ」
 そう言って、エレーナが着けていたオムツを処理し、自らの手
で汚れたお股を……いえ、頭の天辺から足のつま先までシャワー
で綺麗に洗うのでした。

 シャワーの水圧と老婆のガサガサした手。二つのの刺激がまだ
両手を拘束されたままのエレーナに襲い掛かります。

 「いやあ、恥ずかしい。やめてえ~~」
 くすぐったいエレーナはたまらず身体をよじりますが……

 「ほらほら、もう少しの我慢よ。静かにしてなさい。この二枚
の板の下は深い深い穴になってるの。もし落ちたら、あなたは、
ウンコまみれ。助け出されてもしばらくは匂いがとれないから、
それこそ、大恥かくことになるわよ」

 シスターサンドラに注意されてエレーナもさすがにおとなしく
なります。

 このお仕置きは、お浣腸を我慢したり、オムツにお漏らしする
だけじゃありません。その後、体を綺麗にしたり新しいオムツを
はめさせられたしたりするところまで、そのすべてが恥ずかしい
お仕置きで構成されていたのでした。


 その締めくくり、真新しいオムツをはめられたエレーナの処へ
キーウッド先生が迎えに来ます。
 すると、その顔を見たとたんエレーナは恥も外聞もなく先生に
抱きつきます。
 それはまるで幼子のよう……困った先生が……
 
 「どうしたの?そんなに甘えて。……私にそんなに甘えても、
罰は軽くならないわよ。……今日は一日オムツ姿。これから先、
ちょっとでもおいたをしたら即、お尻むき出しでお尻叩き。……
『今日はしっかり辱めてくださいね』ってシスターサンドラから
言われてるの。私だって容赦しませんからね。……いいわね」

 キーウッド先生からは、かなり厳しいことを言われたはずなの
ですが、エレーナはそれでも先生の腰に抱きついくと笑顔で甘え
続けてしまうのでした。


***************************
 
<寄宿舎>
キーウッド先生
子供たち/ナンシー。ポーラ。グロリア。エレーナ。エリザベス。
ローラ。マリア。
図書室長/シスターサンドラ(お婆さん)

5/25 母との睦みごと

5/25 母との睦みごと

*)エッセイ(?)


 これ、小学校時代のぼくとお母さんが一緒のお布団で寝る時の
会話例。ぼくの場合は極端だけど……当時は小学校時代を通して
お母さんと一緒のお布団だった子は珍しくなかった。
 だって、僕の友だちたいていそうだもの。

 以下の会話は、あまりに馬鹿馬鹿しくて読むに値しないけど、
お布団の中での睦みごとは僕にとっては大事なひと時。愛なんて
所詮は本人同士の問題で、他人の目からは、馬鹿馬鹿しい行為に
しか映らないものなんだと思います。


 お仕置きのあとで……

 「あなたはまだまだ私の赤ちゃんなのよ。……だからお仕置き
さえ受けたら何でも許されちゃうの。…ん?…こういう抱っこは
嫌い?」

 「嫌いって……べつに嫌いじゃないよ。おかあさんだから……」

 「だったら、お母さんのお言いつけをきいて良い子でいてね」

 「うん」

 「うんじゃなくて、『はい』って言ってちょうだい」

 「はいお母さん」

 「よち、よち、……どうかしら?頭なでなで……お尻よちよち
……こんなことされると、まだまだ気持いいでしょう?」

 「うん」

 「だったら、やっぱり、あなたは私の赤ちゃんじゃない」

 「ぼく、赤ちゃんなの?おむつなんてしてないけど……」

 「そりゃそうよ、五年生にもなってオムツをする子なんていな
いわ。でも、あなたはずいぶん大きくなったつもりでいるけど、
私から見れば、おむつをしていた時と何にも変わらない赤ちゃん
なの」

 「ふうん……」

 「あなたが噛んだ感触が私のおっぱいにまだ残ってるもの」

 「ぼく、そんなことしたの?」

 「したわよ。あなたが覚えていないだけ。……二の腕だって、
もの凄い力でしがみ付くから痣ができて大変だったんだから……
でも、顔を見るとあなたはいつも幸せそうに笑ってた。だから、
お母さん、いつも幸せだったの……ほら、もう一度笑ってごらん」

 「へへへへへへ」

 「『はい、お母さん』って、もう一度言ってごらんなさい」

 「はい、お母さん」

 「よし、よし、いい子いい子。それでこそ、あなたは私の子よ。
あなたのことは、仏様お地蔵様マリア様、その他世界中の色んな
神様に何度も何度も頼んであるの。だから、必ず幸せになれるわ。
何より、こうしてお母さんの愛の中にいるんだもの。少しぐらい
お手々をパタパタあんよバタバタさせても大丈夫なの。お母さん
の愛の中からはみ出ることなんてないわ。不幸になんてなるはず
ないもの。……ん?……違う?」

 「違わない」

 「お母さんにはおんもで言うような難しいことは言わないでね。
お母さんには、こうしている時に『お母さん、大好きです』って
言ってくれたらそれでいいの。わかった?」

 「はい、お母さん」

 「よし、それでいいわ。私にはわかるのよ。あなたがどんなに
一日じゅうはしゃいでいても、夜になれば、必ず私のオッパイの
中へ戻ってくるって……ね、やっぱり私のこと好きなんでしょう?」

 「うん」

 「よし、じゃあ、私もあなたを、いつまでも『よい子良い子』
してあげられるわ。……頭なでなで、お尻よちよち、お背中トン
トン、あんよモミモミ、ほっぺスリスリ……ん?…どうですか?
……嬉しいですか?」
 
 「うん、いつもの事だもん、嬉しいよ」


 ぼくの小学校時代ってこんな感じ。
 その寸前まで、どんなにきついお仕置きされてても、寝る時は
恥も外聞もなくお母さんに抱かれるままに身を任せて、オッパイ
に顔を埋めて毎日毎晩一緒の布団で寝てたんだ。
 精神的な自立なんてまだ先のこと。口の悪い人は、『それって、
親に手込めに合ってるってことじゃん』なんて言うけど、当人は、
たとえ赤ちゃんごっこだったにしても、極めて幸せな時間だった
んだ。ホントだよ……

*********************  

5/20 女の都 ~10~

5/20 女の都 ~10~

*)作者独自の世界観が色濃い作品。Hはちょっぴりです。

 湯船で立ち上がった二人の割れ目からキノコがはえているので
す。

 「……(どうしたのよ、これ?)」
 ケイトは思わずその思いを口にしようとしてやめてしまいます。
キーウッド先生から聞いた両性具有の話を思い出したからでした。

 『そうか、これが、そうなのね。さっきまで何もなかったのに
いきなり現れるんだもの。そう言えば、お母さんから聞いたこと
がある。王子様のそれって、女性では想像できないくらい大きく
なるって……あの子たちも、きっとそうなったんだわ』

 ケイトは目のやり場に困って一瞬視線をはずしてしまいます。
 ところが心を落ち着けてもう一度それを見てみようとしました
ら、その時はすでに小さな谷間に格納されてしまって二人の物は
見えません。

 『まるで、魔法みたいね』

 狐につままれたような顔のケイトの背後でキーウッド先生の声
がします。

 「ケイトさん、その二人の身体も拭いてあげてね」

 ケイトはその声でハッとして我にかえり、慌てて二人を捕まえ
ると、湯船から流しに引きあげます。

 「あなたたち、ちょっとはしゃぎすぎよ」
 ケイトは二人を立たせたままお姉ちゃんらしくお説教しますが、
タオルを持つその手が子供たちの股間を捉えることはありません
でした。

 ケイトにしてみれば、この未知の生物をどう扱ってよいものか
皆目わからなかったからです。

 子供たちが全員脱衣場へと出て行き、お風呂場はケイトと先生
だけになりました。
 そこで、ケイトは再びキーウッド先生から声をかけられます。

 「どう?巨大なクリトリスを見た感想は?」

 「どうって……」

 「不気味でしょう。私たちのとは大きさだけじゃなく形も違う
ものね。……でも、あれで基本的には私たちと同じ持ち物なの。
オナニーだって、ちゃんとできるんだから……」

 「あの子たちにお仕置きするんですか?」
 オナニーという言葉にドキッとして、思わず尋ねてみると……

 「あの子たちって?……………ああ、グロリアたちのことね。
べつに何もしないわよ。あなただってああして遊んだことがある
んじゃなくて……」

 「えっ……」

 「それはみんな同じよ。神様がそのようにお創りになられたん
だから、私たちはその意に従って行動するだけよ。仕方がないわ。
ただ、時と場合をわきまえず、気持の赴くままというのではいけ
ないからそこはセーブさせるけど、ここはお風呂、無礼講だもの。
問題ないわ」

 「えっ、お風呂の中ならやってもいいんですか?」

 思わず『やってもいい』なんてはしたない言葉を使ってしまい
ケイトが顔を赤くしますから、先生もからかうように……

 「やってもいいのよ」
 と、笑って答えました。

 「人を好きになって睦みあうことに罪はないもの。違うかしら?
ただし、子どもの場合は気持のおもむくままになりがちだから、
そこは衛生ということも含め節度をもってやるようにって指導は
するの。あの子たちに許されてる場所はこのお風呂と夜のベッド
ぐらいなものよ」

 「………………」

 「どうしたの?変な顔して……ははあ、オナニーの事をご両親
に何か吹き込まれてきたんで、ここでは一切そんなことできない
と思ってたのね」

 「いえ、そういうことじゃ……」

 「大丈夫よ。昔は、子供のオナニーなんて純潔を損なう卑しい
行為だと言って一切認めてなかったけど、今ではこんな修道院の
中でも100%禁止ではないわ」

 「…………」

 「どうしたの?ほっとした?……ただし、さっき言ったように
どこでも、どんな時でもできるわけじゃないから、やり過ぎは、
やっぱりお仕置き。それは覚えててね」

 ケイトは先生の言葉に正直ホッとした思いでした。

 「あっ、それから……あの子たちのあれは、陰核でありながら
未発達のペニスでもあるの。ややっこしいのよ。いずれにしても、
そのことで子供たちを傷つけないでね。あの子たちは自分たちを
純粋な女の子だと思ってるし、こちらもそのつもりで接してるの」

 「もちろんです。なるだけ、この事には触れないようにします
から」

 ケイトは胸を張りますが、本心を言うと……
 『うっっっあの形、何だか夢に出てきそう』
 とも思うのでした。

***************************

 さて、お風呂がすむと、寄宿舎に戻って子どもたちはお勉強。
これにはケイトも加わります、これまでちょっとした先生気分で
過ごしてきましたが、彼女だってここの生徒なんですから、それ
は当たり前でした。

 「あなたはこれをやってね」
 初日のケイトにもキーウッド先生が課題を用意してくれいて、
それを手に寄宿舎内の学習室へと向います。

 『チビたちと一緒かあ、きっとうるさいんだろうなあ』
 ケイトは当初子供たちの騒音を心配していました。

 ところが部屋は静寂そのもの。いい意味で予想が裏切られます。

 『素敵なところね』

 部屋に入るとそこは図書室といった感じの部屋で、数多くの本
が壁一面を覆っています。子供たちは自分たちの為に用意された
コーナーから必要な本を取り出してきては、自分専用のパソコン
デスクで勉強します。

 ケイトが試しにちょいと覗いてみると、子供たちはヘッドホン
を着け学校から出された課題や百行清書なんかをやっていました。

 『この子たち、お風呂場の時とはまるで人格が違うみたいね』
 その落ち着きぶりはまるで大学生のようだったのです。

 パソコン作業というと、地球人はキーボードやマウスなんかを
想像してしまいますがオニオン星の子供たちが勉強するパソコン
にはそんなものはありません。
 セットされた紙に文字を手書きすればそれがそのまま隣にいる
キーウッド先生のモニターに出てきますし、先生の指示もやはり
手書き。花丸を描けば、それが今作業している子の紙に直接浮き
出て印刷されるようになっていました。

 そこはとても快適な空間のはずなんですが……

 『凄いなあ、これが天才児なのね。私、ついていけるかしら』
 今度は逆にケイトが不安を募らせるはめになります。

 「ここ、いいかしら」
 空いてる席をみつけたので、隣りに座るエレーナに尋ねると…

 「いいわよ」
 木で鼻をくくったような答えが返ってきます。

 みんな真剣そのもの。他人にかまってられないという様子です。

 『お風呂場で見た子どもたちは、あんなにも子ども子どもして
いたのに、ここに来るとまるで別人ね。…これが「ミュー」って
言われる子たちなんでしょうけど何だか怖い。小学生の部屋って
先生がいくら注意してもおしゃべりがやまないはずなんだけど…
そういえば、キーウッド先生もここには顔を出さないのかしら』

 ケイトは色んなことに思いをめぐらしながら、借りてきた猫の
ようになって与えられた課題をこなしていきます。

 しばらくして……

 「ひっ!」
 小さい悲鳴がヘッドホンをしていても聞こえました。

 ケイトが慌ててあたりを見回すと……どうやらナンシーが電気
ショックを受けたようです。

 ナンシーには申し訳ないけれど、ケイトはホッとしました。
 『最初が私でなくてよかった』
 と思ったのです。

 学校でもおなじみの電気椅子はここでも健在のようで、時間の
経過と共に驚いて腰を浮かす子が増えていきます。

 ケイトも終わりの時間が近づいた時に一度だけ……
 「ひぃ!」

 でも、先生の御用はそれだけではありませんでした。

 「ケイトさん、腰を浮かしたついでに頼まれてくれないかしら。
……ポーラが寝ちゃったみたいなの。風邪をひくといけないから、
悪いけど彼女を起こしてこちらの部屋まで連れて来てちょうだい。
そしたら、あなたも今夜はこれまでにしましょう」

 ケイトはモニターに映る先生の指示に従って荷物をまとめると
ポーラを探します。

 「あっ、いたいた……ポーラ、ポーラ、ほら起きなさい。……
こんな処で寝たら風邪をひくわよ」
 ケイトは何とか起こそうとしましたが、ポーラは机に顔をつけ
て熟睡中。瞼が一瞬上がったとしてもすぐに閉じてしまいます。
 仕方なく何とか抱きかかえましたが、とても重い荷物でした。

 先生の部屋はお隣。

 「よっこらしょ」
 ケイトが入っていくと、先生は、稼動してる7台のモニターを
見つめていらっしゃいました。

 「あらあら起きないのね。ごめんなさいね。重かったでしょう。
とりあえずそのソファに寝かして毛布を掛けといて……この子、
お昼に張り切りすぎて夜は疲れちゃったみたいなの」

 ケイトはソファで幸せそうな寝顔を見せるポーラを見ていると、
何だか自分も幸せな気分になるのでした。

***************************

 勉強時間が終わると僅か30分で消灯時間。

 歯を磨き、髪をとかして、パジャマに着替えると、もうそれで
残りは15分。女の子の時間割は実に細々していて、自由時間と
呼べるようなものがほとんどありませんでした。

 女の子たちは親や権力者、先輩たちから次々にやるべきことを
指示されます。
 男の身には何だかとっても窮屈な日課に思えますが、女の子達
にしてみると、自由な時間をもらって自己満足な趣味に走るより、
『好きな人の為に何かできた』『自分の仕事を評価してもらえた』
『自分はこの人と繋がっている』そんな喜びがエネルギーとなり
ますから、それはちっとも苦にはなりませんでした。

 キーウッド先生もそんな過密スケジュールに追われている一人。
勉強時間が終わると資料の整理もそこそこに寝室に戻って子供達
を待ちます。
 そして、入ってきた子どもたち一人ひとりに声をかけては抱き
しめるのでした。

 「マリア、今日はよくがんばったわね。成績あがったじゃない。
教えていただいたリーゼル先生に感謝しなくちゃね」

 「エリザベス、あなたのピアノすごく上達したわよ。音楽室で
聞いててびっくりしちゃった」

 「ローラ、教室に張り出してあった絵、あれ、昨日スケッチに
行って描いたのよね。今度、展覧会に出すの?もし入賞したら、
院長先生もお呼びして褒めていただきましょうね」

 キーウッド先生は何か必ず一つは褒めてから子供たちをベッド
へと送り込みます。どうでもいい事にだって、沢山の褒め言葉を
使います。
 もちろん、それがお世辞だぐらいのことは子供たちだってわか
っていますが、褒められて不快な気持になる子はいませんでした。

 そんな信頼関係もあって、キーウッド先生は子供たちの先生と
いうよりお母さんみたいな存在。でも、この先、全員がハッピー
エンドでオネムとはいかないみたいで、眠りにつく最後の最後に
なっても、子どもたちは、やっぱりお仕置きの影に怯えなければ
なりませんでした。

 原因は閻魔帳。
 先生は子供たちがベッドに入ったのを確認するとベッドフット
に掛けてある閻魔帳を見て回ります。
 そこには今日一日のその子の動静が細かく記載されていました。

 この夜は、ポーラだけがおねむで除外されていましたが、残る
6人にとっては寝る前にも関わらず緊張の瞬間なのです。
 こんな時、彼女達にできること、それはお愛想笑いだけだった
のです。

 「ナンシー、今日のあなたは、テストの成績がみんなAなのね、
素行もA、規則は……あれ、Bか……ああ、廊下を走っちゃった
のね。でも、どの先生の評価も高いわ。どうやら今日一日良い子
だったみたいね。こうしてうちの子が他の先生から褒められると
担任の私も鼻が高いものよ。明日も頑張りましょうね。この分だ
と、月末にはあなたの欲しがってたビスクドーのお人形をここに
飾れそうよ」

 「ほんと!」

 「本当よ。よい行いの子にはよい報いがないといけないわ」
 キーウッド先生はナンシーの頭を優しく撫でてから「おやすみ」
を言ってベッドを離れます。

 勿論、こんな良い子ばかりなら何も問題はないのですが、誰も
が良い子として一日を過ごしたとは限りませんでした。

 「マリア、あなた国語の授業にDなんてついてるけど、これは
どうしたの?」

 「教科書読んでたら、お話がつまらなくて、自分でお話作って
たら先生に『授業中のよそ見はいけません』って注意されて……
『教科書のこんなお話、面白くないから、今度私の作ったお話で
授業やりませんか』って言ったらまた怒られちゃった」

 「なるほどね、あなたらしいわ。今度あなたの作ったそのお話、
私に聞かせて」

 「いいわよ、今晩でも……」

 「今晩はちょっとまずいけど、時間があれば聞かせて欲しいわ。
先生、あなたの夢のあるお話が大好きよ」
 先生は最初苦笑していましたが、その顔はやがて穏やかな笑顔
に変わり、最後はマリアの頭を撫でながら閻魔帳を元あった場所
に置きます。
 マリアもまたセーフでした。

 「グロリア、あなた、またエリザベスに百行清書の代筆頼んだ
でしょう。何度言ったらわかるの。そんなことしても筆跡が違う
から先生方はごまかされないのよ」

 「だって、エリザベスがやってあげるって言うし……百行清書
なんてやってたら遊ぶ暇がなくなっちゃうもの」

 「仕方ないじゃない。元はと言えばあなたのせいなんだから。
……で、その原因は何なの?」

 「原因って、お仕置きの原因?」

 「そうよ」
 キーウッド先生の眉間に皺が寄ります。これは先生がとっても
ご機嫌斜めな時に起きる現象でした。

 「理科の時間にチューリップの球根を植えてたの、そしたら、
冬眠中の蛙さんを掘り出しちゃって、もとの土に戻したら、風邪
ひきそうだと思って、先生の机で暫く預かってといてもらおうと
思って入れといたら、急に動き出しちゃって、こいつ引き出しの
中をパッタンパッタン跳ね回るもんだからコリンズ先生も気づい
ちゃって……」

 「あっ、そう。わかったわ。あなたのことですもの、その様子
は手に取る様にわかるけど、そんなことしたら叱られるとは思わ
なかったのかしら?」

 「だって、蛙さんもの凄く可愛かったですもの。先生もきっと
好きになってくれると思ったんだけど、『こんなもの教室に持ち
込んではだめでしょう』だって……」

 「それで百行清書を命じられたんだけど、それもエリザベスに
押し付けちゃったってわけね」

 「ま、早い話をすると、そうなるかも……でも悪気はなかった
のよ」
 グロリアは思わずキーウッド先生から視線をそらし、他人事の
ようにつぶやきます。
これがいけませんでした。

 「何が早い話よ。遅く言っても同じでしょう。……いいから、
こっちへいらっしゃい」
 
 先生は毛布の中に手をいれると、全裸で寝ているグロリアの手
を握ってベッドから引きずり出します。

 「うっ、寒い」

 素っ裸で連行されるグロリア。
 もっともベッドの中で子供たちが全裸なのはグロリアに限りま
せん。この星のしきたりですから、他の子もベッドの中では同じ
姿でした。

 「エリザベス、あなたもよ」
 
 キーウッド先生はエリザベスも誘って、二人をご自分の寝床へ
連れ込みます。
 
 寝室は大部屋でしたが、先生のベットだけは天蓋付きの大きな
ダブルベッド。おまけにその周りは、薄い絹のカーテンで囲える
ようになっていました。
 つまり大部屋にある先生専用の小さなお部屋というわけです。

 二人はそこへ連れ込まれます。
 何が行われるかなんて、誰でも知ってる事でした。

 薄い絹のカーテンの中で明かりが灯ると、大人一人、子供二人
のシルエットが外の子供たちからもはっきり分かります。

 「ねえ、いくつぶたれるかな?」
 って、ローラ。

 「6つじゃない」
 って、エレーナ。

 「それはエリザベスよ。グロリアはその倍はぶたれると思うわ」
 って、ナンシーが。

 最後はマリアが結論を出しました。
 「いくつでもないわ、とにかくグロリアが泣くまでよ。『ごめ
んなさい、もうしませ~ん』ってね」

 マリアがグロリアの泣き方を真似ると他の三人は大笑いします。
 絹のカーテンの内と外では子供たちが対照的な表情を見せるの
でした。

 ただ、ここでは、ケイト一人が蚊帳の外でした。

 彼女は一度先生を手伝いにベッドから出ようと考えましたが、
子供たちと違い、素っ裸でベッドを出るのには勇気がいりました
し、何より呼ばれてもいないのにのこのこ出て行ってはいけない
んじゃないかと感じて、ベッドでじっと様子を窺うことにしたの
です。

 『それにしても子供って残酷ね。お友だちがお仕置きされよう
としているのに笑ってるなんて……』

 ケイトは最初そう思いましたが、思い返せば自分だってほんの
数年前までは同じようなものだったことに気づきます。
 子供にとっては自分に火の粉がかからない限りお友だちのお仕
置きくらい面白いショーはありません。それは仕方ありませんで
した。

 「パン……パン……パン……パン……パン……パン」
 二人へお仕置きが始まります。

 先生がグロリアをお膝に乗せてお尻を叩いているのがはっきり
と絹のカーテン越しに浮かび上がります。
 静寂をついて甲高い音が部屋中に響きます。

 子供たちは固唾を飲んでそのショーを見守ります。不安な顔で
……心配そうに……でも、どの子の口元も緩んでる。
 お仕置きを覗く子供の顔なんて、どれも同じだったのです。
 
 こんな時、笑っちゃいけないとはわかっていても、どうしても
心の中が顔に出てしまいます。
 小学生なりの倫理感と人間としての本音、その両方のバランス
が崩れたのはグロリアが悲鳴をあげた時でした。

 「ごめんなさい、もうしないで、痛い、痛い、いやいやいや、
もういい子になります。先生の言うこと何でもききますから……
いやあ~~痛い、痛い、痛い、だめ、だめ、いやあ~~」
 
 いつも姉御肌で偉そうにしているグロリアが恥も外聞なく騒ぎ
立て、悲鳴をあげていることくらい他の子にとって楽しいことは
ありませんでした。

 ところが、これがエリザベスになると……
 彼女はお尻をぶたれ始めるとすぐに泣いて許しをもとめます。
先生もすぐにやめてしまいました。

 「お友だちのためにやっても、それがいけないことならあなた
だっていけない子になっちゃうの。そのくらいはわかるでしょ」
 キーウッド先生は、べそをかくエリザベスを赤ちゃんのように
抱き上げてお説教しています。でも、それをベッドの中で笑うお
友だちは誰もいませんでした。

 同じお仕置きでも、その子が日頃どんな子かによって、観衆の
反応も変わってきます。それもまた人の世の真実でした。


 さて……
 二人のお仕置きが終わると、先生がカーテンから顔を出します。
 残りの子の閻魔帳をチェックしましたが、幸いこの二人以外に
カーテンの内側へ呼ばれる子はいませんでした。

 「……それではおやすみしましょう」

 キーウッド先生はマリア様の像の前で膝まづいて胸の前で両手
を組みます。
 「今日一日の神のご加護に感謝します。明日もまた、この子達
が健やかで暮らせますように」

 キーウッド先生のお祈りに合せるように子供たちもベッドの中
から……
 「今日一日の神のご加護に感謝します。明日もまた、お友だち
が健やかで暮らせますように」

 マリア様へのお祈りも終わって、最後に……
 「今日のお当番は誰だったけ……そうそう、ナンシーとマリア
だったわね。先客がいて狭いけど我慢してね」
 お当番の子がよばれます。

 このお当番の子というのはキーウッド先生と今夜ベッドを共に
することができる子。つまり先生のベッドで甘えられる幸せな子
のことでした。

 キーウッド先生と子供たちの関係は赤ちゃんの時から。実質的
には親子みたいなものですから、先生と同じベッドで寝るという
のは、世間ならお母さんと一緒に寝るという意味です。
 ただ、いくら大きなベッドでも全員一緒では狭いので当番制に
なっていたのでした。

 先生のベッドでは真ん中の先生を挟んで左側にローラとマリア
が…右側にはエリザベスが幼子のように先生のオッパイにしがみ
ついて甘え、その隣にグロリアが寝ていました。

 カーテンの中では、ここぞとばかり子供たちの甘えた声が聞こ
えます。

 そして、それはカーテンの外でも……
 ナンシーがエレーナのベッドにお邪魔して抱き合っています。
 みんな素っ裸。どこに手が滑り込んでもおかしくありませんが、
それをHという人はいませんでした。

 そう考えると自分だけが一人ぼっち。ケイトにとっては何だか
ちょっぴり寂しい夜なのでした。


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<寄宿舎>
キーウッド先生
子供たち/ナンシー。ポーラ。グロリア。エレーナ。
エリザベス。ローラ。マリア。
  

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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