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☤☤☤☤☤☤  銀河の果ての小さな物語  ☤☤☤☤☤☤

     ☤☤☤☤☤☤   <第2章>  ☤☤☤☤☤☤
          ~ バンビ~の幼年期 ~



§2 お仕置き適齢期

 僕は生まれた時は男の子だったみたいです。それを大人たちが
身体を色々いじって、見た目女の子のようにしてしまったのです。
 ですが、完全に女の子の身体にすることはできませんでした。

 たしかに、僕の身体は一見すると女の子に見えます。お臍の下
にオチンチンなんて見えませんし、大昔は使われていた赤ちゃん
の出てくる処(=ヴァギナ)だってちゃんとあります。

 でも、僕がそのヴァギナに指を入れても、くすぐったいだけで
何か感じるなんて事はありませんでした。そもそもその奥に子宮
なんてありませんし、成長してもメンスは来ません。赤ちゃんを
産むことだって絶対にないわけです。

 大人たちは、僕をそかな奇形にしてお母さんに預けたんです。
 身勝手なもんです。散々実験材料にしておいてうまくいかなく
なると他人に預けるんですから。

 ただ、いい事もありました。奇形の子を育てるのは大変だから
と、普通なら四五人一緒に子育てしなければならないところを、
僕一人だけにしてくれたんでした。

 おかげで、僕は最初から一人っ子。姉妹が多い家庭と異なり、
四六時中お母さんと一緒の生活だったのです。

 一緒のお布団で寝て、一緒にご飯を食べて、一緒にご本を読ん
で、一緒に玩具で遊ぶ。一日中、お母さんと一緒なんです。
 そうそう、お母さんとはトイレまで一緒でした。

 べったりとしたお母さんとの甘えん坊生活。
 おかげで幼稚園に入れられると、そこは退屈で退屈で、いつも
あくびばかりしていました。

 別に先生が怖いとか、お友だちが意地悪とかいうんじゃありま
せん。先生とも、お友だちとも、ちゃんとちゃんとお付き合いは
したんですから。
 ただね、幼稚園って処はお母さんが『行きなさい』と言うから
仕方なく行ってるだけで、本当は一日中ずっとお母さんのおそば
にいたかったんです。

 そんな中、僕にとって一番のお友だちは、マーサお婆ちゃんと
一緒に暮らす子供たちでした。
 実は、マーサお婆ちゃんというのはお母さんのお母さん。だから、
そこの子供たちというのは僕から見れば叔母さんになるんですが、
ま、そんな血縁関係みたいなものはここではあんまり意味があり
ません。

 だってこの星の家族って最初からみんながみんな血が繋がって
いないわけですからね、叔母さんと呼ぶのもちょっと変なんです。
要するに子供たちはみんなお友だちでした。

 そんな僕たち子供が大事にしなければならない事は、お母さん
から愛されること。お友だちと仲良くすること。それに先生から
信頼されることの三つだけ。

 これだけ守っていれば、パッピーライフだったんです。

 ところが、これが意外に大変でした。
 お母さんはいいんです。赤ちゃん時代から一緒で気心が知れて
いますから。でも、お友だちは幼稚園にも小学校にも色んな性格
の子がいますからね、お付き合いするのに骨が折れます。それに
先生も、色々無理難題言ってきますから、言いつけられた課題を
すべてクリアするのは大変骨の折れる仕事でした。

 そんな時、頼りになるのは、やっぱりお母さんなんです。
 ですから、子供たちはお母さんの命令にはたいてい従います。
 例えば……

 「パンツを脱いで、お膝の上にうつ伏せになるの」

 こんなこと言われてお膝を叩かれたら、どんなに幼い子だって、
これから何をされるかはわかっていますよ。
 でも、そう言われたからって逃げ出す子はこの星にはいません。

 どんな子も、パンツを脱いで、お母さんのお膝に横たわります。

 それは『恐怖のあまり仕方なく』というのではなく、お母さん
との信頼関係がそうさせるんです。

 お母さんはいきなり強くなんて叩きません。たっぷり、お説教
して、何度も僕に『ごめんなさい』を言わせるんですが……その
間は、お尻はすりすりだけか、軽くしか叩かないんです。

 「わあ、恥ずかしいなあ、もう、こんな恥ずかしい事やめよう
ね」
 そう言って、強くぶつのは、最後の二三回だけでした。

 その後は、抱っこに切り替わって……
 お尻よしよし、お背中トントン、頭なでなで、ほっぺスリスリ
が、お母さんのお膝の上で僕が泣き止むまで、ずっと続くことに
なります。

 そんな優しいお仕置きが、ずっと続けばいいのですが、幼い子
も大きくなると、それでは効果がなくなりますから、お仕置きも
少しずつ厳しいものへと変わります。

 そして、それがとりわけ劇的に変化するのが、10歳を越えた
あたりでした。

 それまでお尻叩きは平手だけだったのに、スリッパが使われる
ようになりますし、スパンキングの前にはお浣腸だって受けさせ
られます。

 いえいえ、それだけじゃありません。

 お母さんの言いつけを守らない子は、沢山のイラクサをパンツ
の中に入れられたり、オムツを穿かされて学校へ行かされます。
 おうちだけじゃありませんよ。学校だってそうです。テストの
成績が悪かった子には、放課後お尻に革紐鞭のお仕置きが待って
いました。

 とりわけ10歳から13歳というのがこの星のお仕置き適齢期。
この時期はどんなに良い子で頑張ってみても、一学期に二三回は
親や教師からのお仕置きを我慢しなければなりませんでした。

 そんな中にあって、ローラお姉ちゃまは、マーサお婆ちゃんが
育てた最後の子どもなのですが、幼い頃から評判のお転婆さんで
した。ですから、お仕置き適齢期ともなると、もう毎週のように
お仕置きされてたみたいでした。

 そんなある日の事です。ママが僕に言いいます。
 「今日は、お婆ちゃまから、ローラちゃんを教会の懲戒部屋で
お仕置きするから見にいらっしゃいってお誘い受けてるの。ママ
と一緒に着いてきてね」

 「えっ!」
 お母さんに言われて、僕は青くなります。

 そりゃあ、お仕置きを受けるのは僕じゃありませんけど、それ
って、僕とそれほど年の変わらない子が大人たちに泣かされるの
を見学するわけでするからね、気持のいいものじゃありませんで
した。

 「えっ、僕も行くの」
 嫌そうに言うと……

 「そうよ、まだまだ赤ちゃんだとばっかり思ってたけど、思え
ばあなたもすでに8歳。そろそろ自立しなくちゃね。今までは、
赤ちゃんということもあって、そんなに厳しい事もしてこなかっ
たけど、あなただってそろそろお仕置き適齢期を迎えるわ。……
今日は11歳のローラちゃんのを見て『自分もおいたをすると、
これからはああなるんだ』って、自覚するにはいい機会になると
思うのよ」

 そう、お仕置き適齢期の子は単に大人たちからお仕置きされる
というだけじゃないんです。姉妹や同級生、はては、町のみんな
の前で晒し者にされる事が珍しくありませんでした。

 女って、男性の前では猫を被ってますけど、本当はハレンチな
ことが男性より大好きなんです。

 そんなわけで、まだ赤ちゃんの僕もこれまでにたくさん晒し者
にされたお姉ちゃんたちを見てきました。
 いえいえ、見ただけじゃありません。

 晒し台にはたいてい鞭が掛けてあるのですが、それは9歳まで
の子なら親の監督のもとで誰でも自由に取ってお姉ちまのお尻を
ぶつことができました。僕だって何度となくお姉ちゃまのお尻を
叩いたことがあります。

 ですから、お仕置きには慣れっこなんですが、やっぱり親しい
お姉ちゃまのお仕置きを今さら見に行きたいだなんて思いません
でした。それって、やっぱり可哀想ですから……

 でも、お母さんの命令なら、それも仕方のないことでした。
 だって、僕はこの時まだお母さんの赤ちゃん。お母さんの命令
は絶対だったんです。


 教会の懲戒所は礼拝堂の隣りに隣接した煉瓦造りの古めかしい
建物でした。この建物はさらにそのお隣りの修道院とも隣接して
いて、子供のお仕置きを頼まれると、暇をもてあましたシスター
たちがすぐに駆けつけて手伝ってくれますから、そういった意味
でも便利な建物だったのです。

 この時も、三人のシスターたちがローラお姉ちゃまのお仕置き
を手伝ってくれました。
 何しろこの人たちときたら、昔は何人もの子供たちを育ててき
たベテランばかりですからね、マーサお婆ちゃんとしても心強い
助っ人だったわけです。

 この儀式はローラお姉ちゃまがまず素っ裸にされるところから
始まります。男の人はもちろんいませんし、見ているのは家族と
身内だけ、『死ぬほど恥ずかしい』ってわけじゃありませんけど、
それでもやっぱりお仕置きで裸になるのはお風呂に入るのなんか
と違って恥ずかしいことでした。

 「さあ、何をぐずぐずしてるの。お前はいつから服も脱げない
赤ちゃんになったんだい」
 いつになくマーサお婆ちゃんの厳しい声が飛びます。

 それに促されるのようにして、ローラお姉ちゃまは裸になりま
した。スカートもブラウスもスリップもショーツも靴下も……ま、
とにかく全部脱いじゃいます。

 「お姉ちゃま、お風呂に入るの?」
 僕が抱っこされたお母さんの方を振り返って尋ねると……
 「そうよ、ここで汚れた心とからだを綺麗にするの」

 「お仕置きって心とからだを綺麗にすることなの?」
 こう尋ねても……
 「そうよ。子供は自分では何もできないから、心と体をいつも
綺麗にしてないとすぐに病気になっちゃうの」

 「ふうん」
 分かったような分からないようなあいまいな返事をして、再び
前を向き直ります。
 すると、お姉ちゃまはすでに大きな盥の中に入って膝まづいて
いました。

 お姉ちゃまの前には、マリア様の像が飾られた祭壇があって、
お姉ちゃまは壁に掛けられた沢山の蜀台に照らされています。
 電気と違ってローソクはささやかな風にも揺らめきますから、
それはとても幻想的な光景でした。

 そんな中、まずはお姉ちゃまの身体にシスターたちが桶でお湯
をかけて隅々まで洗い清めます。これは沐浴と呼ばれてお姉ちゃ
まの体を冷やさないためでもありました。

 室内にはたちまち湯気がたちこめ、ローソクの光までもが霞む
ほどでしたが、僕はここで一つの発見をします。
 実はお姉ちゃまの体に掛かったお湯は、すのこ状になっている
盥の底から流れ出て盥自体にはお湯が溜まらない仕組みになって
いました。

 「この盥、お湯が抜けちゃうからちゃぷちゃぷはできないね。
でも、お姉ちゃま気持よさそう。僕もやってもらいたいな」
 僕がお母さんに話しかけると……
 「馬鹿なこと言わないの。これからが大変なのよ」
 という答えが返ってきました。

 たしかにお姉ちゃまは、その後、石鹸のついたタオルを強引に
口の中にねじ込まれて、「オエ」「オエ」言いながら苦しそうに
していましたし、顎の下や脇の下、ぺちゃぱいのおっぱいやお股
の中までもシスターたちにゴシゴシやられていました。

 「あれ、痛くない?」
 僕が尋ねると……
 「痛いけど、もうお姉ちゃんだから我慢しているのよ」
 ということみたいです。

 実際お姉ちゃまは、シスターたちに何をされても、お人形さん
みたいに静かにしていて、大声を上げたり暴れたりはしませんで
した。

 でも、本当に大変だったのはこれからだったのです。

 「ローラちゃん。あなたはこの二週間、数多くの過ちを犯しま
した。今日は、それをここで精算しましょう」
 祭壇の前に立って凛とした態度でいるお婆ちゃんは、普段は、
僕たちにもとても優しい修道院の院長先生。

 でも、この時はとっても意地悪だったんです。

 「はい、院長先生」
 この時、ローラお姉ちゃまは素直にご返事しましたが、すでに
その全身が震えていました。

 「ねえ、お姉ちゃま、寒いんじゃない?早くお洋服着たほうが
いいよね。僕、着せてあげようか……」

 すると……
 「そうじゃないわ。いいから見てなさい。黙って見てるの」
 こう言ってお母さんは僕の顔を再び盥の中のお姉ちゃまの方へ
向け直します。

 「あなたは、先週の月曜日。仮病を使って学校を休もうとしま
したね」

 「はい」

 「その時、お母様がどれほど心配されたことか。……聞けば、
体温計をぬるま湯につけて、熱があるように装ったとか……」

 「…………」

 「悪知恵だけは働くのね。分かってるでしょうけど、それって
とってもいけないことですよ」

 院長先生がそこまで言った直後です。
 「あっ!」
 ローラお姉ちゃまは、思わず後ろを振り向こうとしました。
 でも……

 「後ろを向かない!」
 院長先生にきつく叱られてしまいます。

 でも、それって、仕方のないことだったんです。
 だって、その時、別のシスターがお姉ちゃまのお尻を開いて、
イチヂク浣腸を挿したんですから……そりゃあ、誰だって後ろを
振り向きますよ。

 でも、それって、やっぱりいけないことでした。
 身体を洗ってもらっていた時と同じように、盥の中に入ったら
どんな時もじっとしていなければならなかったのです。

 「あれ、何してるの?」
 僕が尋ねると、ママが小さな声で教えてくれます。
 「お浣腸よ。お姉ちゃんはおいたをしたから、そのおいたの分
だけ、あのスポイドでお尻に石けん水を入れられるの」

 「もう、終わり」
 「まだまだ、これからよ。いいから静かに見てなさい」
 お母さんは再び僕の顔をお姉ちゃまの方へと向けます。

 「そもそも、なぜ学校を休もうとしたのかしら?」

 「…………」
 院長先生の質問にローラお姉ちゃまはやっぱり答えられません
でした。
 正確には、答えたくなかったのかもしれません。

 「いじめっ子がいるからかしら?…………そうじゃないわね。
先生がやってきないと言ってた課題をやってなかったからよね」

 「…………」
 お姉ちゃまはやっとの思いで頷きます。
 すると……

 「!」
 また、スポイド浣腸がお姉ちゃまのお尻の穴に突き刺さります。

 「ということは、宿題になってた課題をやってこないわけです
から、テストのお点も悪かったわよね。何点だったのかしら?」

 「35点と45点です」

 「合格点は?」

 「80点です」

 「それって、合格点までかなり足りないわよね」

 「……は、はい」
 お姉ちゃまが言いにくそうに答えると、その直後、後ろにいた
おばちゃんシスターが、今度はお姉ちゃまに盥の中で四つん這い
になるように命じます。

 「!」「!」
 今度はスポイド二つです。

 もちろん、この時だって、お姉ちゃまは何一つ抵抗しませんし、
声も出しません。
 終わると、再び盥の中で膝まづいて、両手をぺちゃぱいの前で
組んで院長先生のお話を聞きます。

 どうやらこれが、ここのルールのようでした。

 一回の量は僅かですし、お薬も石けん水ですから、すぐに我慢
できなくなるわけではありませんが、それでも、お姉ちゃまの体
にはお薬が少しずつ溜まっていきますから……いつまでも最初と
同じ気持というわけにはいきませんでした。

 「あっ……」
 何か感じたのでしょう。お姉ちゃまは辛そうな顔で院長先生に
訴えかけます。

 「お…おトイレに行きたいんです」

 でも……
 「まだだめよ。まだお話が終わってないわ。ね、もう少し我慢
なさいな」

 院長先生の言葉は穏やかですけど、お姉ちゃまにしてみたら、
悲しい返事でした。

 「水曜日は、ドリスお姉ちゃまの日記を勝手に読んでて喧嘩に
なったわね」

 「でも、あれは、ドリスお姉ちゃんが予定より早く帰ってきた
から……」

 「早く帰ってきたって……そんなの理由にならないわ。………
日記は他の人には見られたくないことだって書くから、他の人が
見ちゃいけないものなの。学校で習わなかったかしら……」

 「……習いました」
 ローラお姉ちゃまが渋々認めると、そこでまた四つん這いです。

 「!!(あっっっ)」

 「木曜日は……朝寝坊したんですって?」

 「…………あれは、お仕置き済んでます」
 お姉ちゃまがこう言うと、院長先生は不思議そうな顔になって
……

 「どうして?お仕置きが済んだかどうか、あなたが決めるのか
しら?……あなたなの?……そうじゃないでしょう。……それに
何より、なぜ、朝、起きられなかったのかしら?それが問題よね」

 「…………それは…………」
 お姉ちゃまは気まずそう、答えにくそうだったのです。

 「こっそり、寝室から起きてきて、お姉様たちと一緒になって
Hなテレビを見てたからじゃないかしら?」

 「………………」
 院長先生の詰問にお姉ちゃまは答えられませんでした。
 だって、それって真実ですから……

 代わりに他のシスターたちが、またお姉ちゃまを四つん這いに
して、もう一つ、お尻へのお注射(浣腸)です。

 「もう、堪忍して……」
 思わず四つん這いになったお姉ちゃまの口から愚痴が漏れます
けど……

 「ダメよ。まだ、まだ、他にもたくさんあるんだから……さあ、
もう一度膝まづいて両手を胸の前に組むの………」

 院長先生にこう言われましたが、お姉ちゃまは首を横にします。
すると……

 「あらあら、どうしたの?……ストライキ?……嫌なの?……
だったら、いいわよ。そこでうんちしちゃっても……残りは熱い
鞭で償ってもらいますから……」

 院長先生のせっかくのお誘いにも、お姉ちゃまは首を振ります。
 どうやら、どっちも嫌みたいでした。

 そこで、もう一度膝まづいて、両手を胸の前で組もうとしたの
ですが…………

 「いやっ」
 小さな声と共に慌ててしゃがみ込みます。

 どうやら、これがローラお姉ちゃまの限界だったみたいです。

 桶の淵が高いので、お姉ちゃまがうんちしている様子は、直接
見えませんでしたが、不気味な破裂音は、僕には不快ですから、
あまり考えもせずに……

 「ママ、臭いね」
 って、言ってしまったのでした。

 これってその場の雰囲気でそう言ってしまっただけで、本当に
臭かったわけじゃないんですけど、僕の声を聞いてお姉ちゃまは
ずっと泣き通しになってしまうのでした。

 シスターが何をどうなだめても嫌がって自分の身体に触れさせ
ようとしません。

 仕方なく、それまで傍観していたマーサお婆ちゃんがなだめて
ローラお姉ちゃまの身体を洗い、バスローブに包んで抱き上げる
と、自分の席へ連れて帰ります。

 マーサお婆ちゃんの膝の上に抱かれたローラお姉ちゃまは、僕
と同じようにママに甘えます。
 だって、僕は『マーサおばあちゃん』だなんていってますけど
ローラお姉ちゃまにしてみれば、その人がお母さんなんですから、
そのお膝が気持ちよいのは当たり前のことでした。

 「大丈夫、泣かなくていいわ。だって、あなたは、今、こんな
にも綺麗な体になったんですもの。恥ずかしがることなんてない
でしょう。穢れをまとってすましてるより、よほど立派なことよ」

 お母さんに頭を撫でられたお姉ちゃまはとろんとした目をして
お母さんの胸の中へその泣き顔を埋めます。
 でも、これでパッピーエンドではありませんでした。

 「あなたは、これから生まれ変わるの。デュラックの子として
……でも、そのためには、試練を受けなければならないわ。……
そうやって罪は償わなければならないの。……それがデュラック
の掟よ。……誰でも同じ。……あなたがこれからもデュラックの
一員でいたければ、それは避けては通れないのよ」

 マーサお婆ちゃんの言っていた試練。それはお尻への鞭でした。
机に縛り付けられて、3回か、6回か、12回。革紐の鞭を剥き
出しになったお尻で必死に受け止めなければなりません。

 いえ、それだけじゃありません。大人たちの前で膝まづいて、
『鞭をお願いします』と、自らお願いしなければならないのです。

 それは子供にとっては恐ろしいほどの勇気が必要な課題でした。
そして、何よりそんなこと理不尽に感じられたのです。

 僕だったら……
 大人たちに無理やり腕を引っ張られ、膝の上に強引に乗せられ
て、泣き叫びながらお尻を叩かれておしまいです。
 でも、同じ子供でも、お姉ちゃまでは果たさなければならない
義務がそれだけではありませんでした。

 「……………………………………………………………………」

 一方、それを迎える大人たちも、すんなりと子どもたちが自分
の目の前で膝まづいて懺悔してくれるなんて考えてはいません。
一時間でも二時間でも、子供たちが『他に道はない』と悟るまで、
辛抱強く待ち続けるのでした。


 「さあ、勇気を持ってやるべきことはやらないと道は開けない
わ。辛いことから逃げようとしたら、さらに辛い事になるだけよ。
ここが嫌なら、学校の教室でみんなの見てる前で鞭をいただく事
になるけど、その方がいいのかしら」

 「…………」
 マーサお婆ちゃんの説得にローラお姉ちゃまは首を横に激しく
振ります。

 小学生だって理屈は分かっています。
 これは拒否できないって……拒否すれば、もっと辛い罰になる。
もっともっとハレンチな罰を受けなければならないって……でも、
多くの女の子にとって、その勇気はなかなか出ないものでした。

 「私ももちろんだけど、院長先生にしても、他のシスターたち
にしても、あなたをとっても愛してるのよ。……愛しているから、
こんなことで止めてあげようとしてるんじゃないの。あなたの罪は、
本来なら全校生徒の前で、むき出しのお尻を一ダースもぶたれる
ような重い罪なのよ」

 「…………」
 ローラお姉ちゃまは、さっきからずっとお母さんに頭を撫でて
もらっていましたから、心はだいぶ落ち着いたようでした。

 「…………」
 でも、時折院長先生の方をちらりと見るくらいで、立ち上がる
勇気はなかなか起きないようでした。

 すると、それにマーサおばあちゃんも業を煮やしたのでしょう。
 「仕方がないわね」
 こう言って、ローラお姉ちゃまをそのまま抱いて立ち上がろう
とします。

 すると、ここでやっとローラお姉ちゃまが慌てるのでした。

 「ごめんなさい、行きます。行きますから」

 お姉ちゃまはマーサお婆ちゃんが次に自分をどうするか、自分
がどんな目にあうかを知っていたみたいでした。
 長い付き合いですからね、そこは敏感なんです。だから、慌て
たのでした。

 「ほら、いつまで甘えてるの。さっさと、行っておいで」

 ローラお姉ちゃまはそれまで包まれていたバスーロブから抜け
出て、すっぽんぽんの身体で院長先生の場所まで向います。

 それってたった3mくらいですが、きっと長い長い距離に感じ
られたに違いありませんでした。
 ええ、僕もその後にまったく同じような事を経験しましたから
わかるんですけど、『途中で卒倒しないかなあ…』なんて密かに
期待するくらいなんです。

 どうせ罰を受けに行かなければならないなら、さっさと済ませ
ればけば良さそうなものですが……そこは人間の弱いところで、
嫌な事、辛い事はできるだけ先延ばししたいじゃないですか。
 女の子の場合は怖がりさんの子が多いですからね、特にそうな
んです。

 だから、多くの子がお母さんが業を煮やすまで、そこで甘える
ことになるのでした。

 「ローラは悪い子でした。どうか、それに見合うだけのお仕置
きをお願いします」

 ローラお姉ちゃまは院長先生の足元に膝まづくと、自分へのお
仕置きをお願いします。
 もうこの時は覚悟が決まっていたのか、お姉ちゃまは凛とした
態度でした。

 「わかりました。では、そこへうつ伏せになりなさい」
 院長先生もこれには満足そうな笑みで答えます。

 そこで、お姉ちゃまは腰枕の乗った懲罰用の机に自分から寝そ
べると……介添えのシスター二人が両手両足を革のベルトで固定
しますが、お姉ちゃまは何一つ暴れたりはしませんでした。

 両足が大きく広げられて女の子の大事な処も全部丸見えですが、
それもお姉ちゃまは意に介さないみたいでした。

 すべては承知の上で、自分からこうしているんだという自覚が、
お姉ちゃまを強くしているのでした。

 そんなお姉ちゃまの心臓を試すように、院長先生がトォーズと
呼ばれる幅広の革紐鞭をお姉ちゃまのお尻にちょんちょんと当て
ます。
 すると、お姉ちゃまのお尻やあんよは電気を当てられた蛙さん
みたいに痙攣します。

 女の子なら誰だってそうでしょうが、そんなことをされれば、
全身の筋肉がぎゅっと縮んで、子宮だって縮んで、全身の毛穴は
開き、瞳孔だって開いて、子宮から絞り取られた血が頭に駆け上
って沸騰します。

 そんな幼い子の恐怖体験を楽しむかのように院長先生二度三度
と鞭をちょんちょんとお姉ちゃまのお尻に当て続けるのです。

 そのたびに、お姉ちゃまの血圧は普段の倍くらいになってるん
じゃないでしょうか。
 それは小さな身体にとって、限界を超えるほどのテンションマ
ックスです。

 やがて……
 「ピシッ」
 本物がやってきました。

 でも、不思議なことに、厳しい鞭がお尻を襲った瞬間は、それ
ほどのショックはありませんでした。
 もちろん、痛いのはこの上なく痛いのですが……

 むしろ、それまで頭に上った血液が、今度は一気に子宮を目指
してかえっていく刹那で、私たち女の子は何かを感じるのでした。

 もちろん、この時のお姉ちゃまには、まだそんな特別な気持を
感じ取る余裕なんてないでしょうが、こうしたことを何度か繰り
返すうちに、多くの女の子たちは、自分の心の中に沸き起こる体
の不思議に気づくことになるのでした。

 女の都というのは中に女性だけしかいませんから、女性同士の
恋愛には寛容で、お互いが大人同士なら夫婦のように愛し合って
一つ屋根の下で暮らすことも認められています。

 でもその時は、幼い日に味わったこうしたお仕置きの思い出が
蘇るのでした。

 それは院長先生だってご存知ですら、無理強いはなさいません。
 少しずつ、少しずつ、お仕置き適齢期の子を慣らしていって、
女性の楽しみをレッスンしていきます。
 お仕置き適齢期の鞭は単に悪さをした報いというだけではなく、
女性としての性教育という側面を隠し持っていたのでした。

 ローラお姉ちゃまは、最初12発の予定が、たった3回で終わ
ってしまいます。
 もちろん、表向きは……
 「今日は特別。あなたももう十分反省してるみたいだから今回
は許してあげます」
 なのですが……そこには……
 『少しずつ、少しずつ、じらすようにやっていかなければ、蕾
は開かないわ』
 という思いも存在するのでした。

 「お姉ちゃま可哀想だったね」
 帰り道、僕がお母さんに言うと……

 「そんなことはないわ。お姉ちゃまは院長先生を始め、あそこ
のシスターさんたちにとっても愛されてるのよ。お仕置きされる
ってことは愛されてるってことなのよ」

 お母さんの言うことは、まだ幼い僕には理解できませんでした
が、僕はお姉ちゃまの裸のお尻を見ることができましたからね。
なんだかとっても得した気分でした。

 えっ、女の子の裸に興味ないだろうって……

 いえいえ、そんなことありませんよ。だって僕は体は女の子の
ように見えても頭脳は男の子なんですから……
 女の子の裸、大好きなんです。


***************************  

1/31 えっ、これとこれが同じ感覚なの?

1/31 えっ、これとこれが同じ感覚なの?

 バカボンちゃんは大学生だが自他共に認める超マザコン児。
 これまでもお母さんのいいなりで生きてきた。

 「そんなことで不自由は感じないのか?」
 って聞いたら……
 「別に……」
 というそっけない答えが返ってきた。

 本人曰く、
 「とにかくお母さんから気に入られるように生きていたいんだ」
 そうだ。

 そんなバカボンちゃんだって男の子なんだからSEXに興味が
ないわけじゃない。
 好きな子だって生意気にいるんだ。

 ところが、いざやってみようとすると、勇気がでない。
 悩んでいたら……先輩に…
 「そんなもの、押し倒してしまえばあとは自然にできるよ」
 と助言された。

 『そんな馬鹿な、練習しなくてできるわけないじゃないか……
やっぱり、堀の内あたりで練習してからの方がいいかなあ』
 なんて、真剣に思ってたらしいんだけど……

 ある日、試しに押し倒してみたら……

 なるほど先輩の言う通り……
 あっという間に『男』という処のスイッチが入って…………
 あっという間だったんだけど…………
 できた。


 と、ここまでは常識人にだってありがちな話なんだけど、問題
はここから……

 その後は場慣れして楽しめるようにはなったんだけど、そこで、
ふと思ったんだそうだ。

 『この気持って、どっかで感じたことがあるな』って……

 『SEXは初めてでも、この気持ちよさは何か別のことで身体
が覚えてる』って……

 『何だろう?何だろう?』
 ってずうっと思ってて、やっとわかったって言うもんだから、
軽い気持で……

 「へえ、何だったの?」
 って、聞いたら……

 『これってね、ママに抱っこよちよちされてる時の気持ちよさ
と同じなんだ。SEXっていうのは、ママの抱っこは同じ気持ち
よさなんだよ』
 ってね……こう、宣(のたま)うんだ。

 僕は、お口あんぐりだった。

 ま、こんなふうに感じられる人はバカボンちゃんの他にいない
だろうけど、バカボンちゃんはそう感じたんだそうだ。
 しかも……

 『で、思うんだけど、ママの抱っこってSEXより優れてるよ』
 って言うから……
 「どこが?」
 ってたずねてみると……

 『だって、SEXってのはおちんちんだけの気持ちよさだけど、
ママの抱っこは身体じゅう全部が気持よかったもの』

 「身体じゅう?」

 『そう、身体じゅう。赤ちゃんは身体じゅうおちんちんだった
ってことさ。あんよやお手ての指の先、ほっぺや顎の先端、頭も
お尻もお背中も……もちろん、おちんちんだって……赤ちゃんは
触れられる場所全てがおちんちんなんだ。……中でも、僕の経験
では、お口なんか亀頭と同じ役割だった気がするよ』

 唸るよね。フロイトもビックリのすごい発想だよね。

 『僕の場合、オナニーを覚えたのが物心ついた直後だったから、
その影響があるのかもしれないな』
 って、本人は付け加えておりました。

 そこで、僕の開いた口はまだ閉じなかったけど……
 「君がどう思おうと勝手だけど……くれぐれも他所で言わない
ように……」
 と、釘だけは刺しておきました。

**************************

1/30 薬のせいなのか?歳のせいなのか?

1/30 薬のせいなのか?歳のせいなのか?

 目下、絶不調。
 小説もエッセイも書いててまとまらない。まともなもの(勿論
僕の基準での話だけど…)ができない。

 『二ヶ月ほど前から呑み始めた前立腺の薬のせいかも……』
 などと疑ってしまう。

 とにかく書いてて楽しくないのが、何より苦痛だ。
 僕の場合、最初からお他人様の評価は気にしてないんだけど、
本人が楽しくないのでは話にならない。

 こんなことは今までなかっただけにショックなのだ。

 『単純に歳のせいなのかなあ』
 『こんな時は、思いついたものを何でも殴り書いてみるかあ』
 などと思っております。

*********************

銀河の果ての小さな物語 < 第2章 > §1

☤☤☤☤☤☤  銀河の果ての小さな物語  ☤☤☤☤☤☤

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             ~ バンビ~の幼年期 ~


§1 昔とった杵柄

 あれは五歳の頃だったか、近くのゲーセンで遊んでいたらすぐ
にコインがあっという間になくなっていく。
 何しろまだ生まれてこの方5年しかたっていないので、うまく
遊べないのだ。
 遊べないけどゲームはやりたい。特にシューティングゲームは
私のお気に入りだった。

 「ああ、終わっちゃった。もう帰ろうね」
 母はそう言ったが……

 「だめえ!もう一度やる~~~~~」
 だだをこねてゲーム機にしがみつく。

 「ご飯食べなきゃいけないでしょう」
 こう言われても……

 「ご飯いらないから、これやるの~~」
 声はだんだんに大きくなる。

 「しょうがないわね」
 彼女はそう言って再びコインをいれてくれたのだが、それは、
僕がやるためではなかった。
 僕はお膝にのんのするだけ。お母さんが自分で操縦席に座った
のである。

 「ダダダダ…ダダダダダダダダダダダ……ダダダダダダダダダ
……ダダダダダダ…ダダダダダダダダダダ……ダダ…ダダダダダ
ダダダダダ…ダダ」

 お母さんのコスモビーグル(一人乗り戦闘機)があっと言う間
に敵の戦闘機を蹴散らしていく。
 重爆撃機や宇宙空母や敵基地なんかが次から次へと木っ端微塵
になっていく。
 それはゲームというより、始めからストーリーのあるアニメを
見ているようだった。

 第1、第2ステージぐらいではそうでもなかったが……

 「ダダダダ…ダダダダダダダダダダダ……ダダダダダダダダダ
……ダダダダダダ…ダダダダダダダダダダ……ダダ…ダダダダダ
ダダダダダ…ダダ」

 第4、第5も短時間で決着させると……
 当然、その勇姿に観衆も増える。
 そのざわつきの中で僕はなにげにおばさんたちの会話を聞いて
しまったのだった。

 「わあ、凄いわね」
 「そりゃそうよ。あの人プロだもん。恐らく空軍のパイロット。
それも編隊長経験者だわ」
 「まあ、そうなの……どうりで」
 「え!?どうしてわかるの。ただのゲーム好きじゃないの?」

 「違うわ。私、空軍にいたからわかるのよ。ゲームでは左手の
薬指は必要ないけど、実際のコスモビーグルでは、あれで尾翼の
方向舵を操って命中精度を高める重要な働きがあるの。だから、
いつも左の薬指が動いてる。それに、右手の小指が常に動いてる
でしょう。あれは編隊の他の機へ指示や連絡を送るための打電用
なの」

 「そんなの言葉でいいじゃん」

 「そんなことしたら、相手にこちらの動きを読まれちゃうわ。
あれは、各編隊ごとに暗号化されていて、その日ごと別のソフト
を使ってるのよ」

 「じゃあ、何打ってるのかわからないわね」

 「そんなことはないわ。打電する時はみんな同じよ。ただ途中
が暗号化されるだけだから。でなきゃ、百も二百も乱数表覚えら
れないでしょう」

 「あ、そうか。じゃあ、あの小指はごく普通の……」

 「そう、モールス信号よ。…だから分かるの。あの人が編隊長
だって…他の機に指示を出しながらゲームをやる人なんていない
もの。第七ステージと言えば、ゲームとは言ってもほとんど実戦
さながらのはずなのに、まだこの余裕だもの。現役時代は相当に
腕のたつビーグル乗りだったはずよ」

 「ふうん……でも、そんなお偉いさんが、どうしてこんな処に
いるわけ?ここは養育惑星で、ここで軍人と言えば、怪我したか、
歳を取って除隊した退役軍人だけのはずよ。あの人、まだ若いし
怪我してるようにも見えないけど」

 「そんなこと知らないわよ。……あっ、待って、また打電し始
めたから読んでみるわ…『セリーヌ、アナタノコドモ…バンビ…
…コンナニオオキクナッタワ……キジュウソウシャモコノトシニ
シテハソウトウナモノヨ……デモネ……ワタシ…コノコヲグンニ
イレルキハナイノ…ネ…ソノホウガアナタニトッテモイイコトデ
ショウ』」

 その直後、母のゲームは終わってしまった。

 「チッ、ゲームじゃ錐揉みが使えないか!そのくらいソフトに
組んどきゃいいのに」

 残念そうなお母さんの、ちょっときつい言葉。普段だったら、
もっとやさしい言葉を使うのに……その時は、お顔もちょっぴり
恐かった。

 しかし、期せずして周囲の観衆から拍手が起こると、お母さん
は顔を赤らめて僕の手を引いて外へ出た。
 お母さんは自分がみんなから見られていた事を知らなかったの
だ。

 そんな中、店で聞いた『セリーヌ』という名前が気になった。
 おばさんたちが話していた『バンビ』というのはどうやら私の
ことのようなのだ。

 そこで、近くのパフェに入ったとき、お母さんに……

 「ねえ、セリーヌって誰のこと?」
 単刀直入にこう切り出してみたんだ。

 すると、ほんの一瞬だけど、幼い私にもはっきり分かるほど、
お母さんの顔色が変わったようだった。

 「セリーヌって?……ああ、セリーヌね、子供服のメーカーの
名前よ」

お母さんは取り乱す様子もなく答えたが、私が『セリーヌ』と
いう名前を最初に聞いたのはこの時が初めてだったのである。

***************************

銀河の果ての小さな物語 <第1章> §2

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            ~ バンビの赤ちゃん期 ~


§2 

 私が少しずつ記憶を頭の中に残せるようになって、つまり物心
がついて、私の目の前にいつも現れる人がお母さんと呼ばれる人
なんだと知れる頃になると、彼女はしきりに私を公園へ連れだし
家では文字を教え始めた。

 そして、二歳で文字を読み、三歳でそれが書けるようになると、
この人は、そのたびに大喜びして、公園に集まって来る人たちを
集めては、覚えたての芸を私に披露させたのである。

 誰にでもできることを、さも『この子にしかできない』と言わ
んばかりの物言いをされては、観衆も呆れて言葉もでなかったと
思うけど、そこは人のよい住民のこと、嫌な顔一つせず、この風
変わりな親子を褒めてくれていた。

 すると、私はともかく、このお母さんなる人物は、そのことが
いたく心地よいと見えて、
 「じゃあ、今度は英語を……」
 「算数も……」
 「ついでにピアノも……」
 なんて言い出す始末。こんな案配だから私が覚えなければなら
ないノルマは、あっという間に膨らんでいく。

 「さあ、始めますよ!」という声に、いやいやもたくさんした
のだが、いざとなると、まだ小さかった私をしっかりと膝の上に
抱きかかえ、鼻息一つを私の後頭部に吹きかけては、仕事に取り
かかってしまう。こうなると、体の小さな私は何一つ身動きが取
れなかった。

 目を開ければ書き取りと算数のドリル。手は、問題を解くこと
以外何もできないように両手ともしっかり上から包み込まれてい
るし、頭はおっぱいの谷間がしっかり挟みつけていし……後ろは
おろか横さえ向けない窮屈な場所。
 わずかに自由になる両足をばたつかせても、太くて大きな足に
は大して影響がなかった。

 こんな状態が長く続けば、幼児にとっては、お勉強というより
拷問に近かったのだが、それを支えたのはお母さんのお膝にのん
のしているという心地よさだった。
 あめ玉をしゃぶらされ、頭をなでられ、時には本物のおっぱい
まで舐めながら、時に、ほっぺたを強く引っ張られたり、恐い顔
で脅かされたことだって何度もある。

 たっぷり2時間、この苦行が終わると、ご婦人はさらに機嫌が
よくなるのである。

 で、それが何かの役にたったのかというと……(^_^;)

 彼女が公園へ行って、自分の鼻の高さを自慢すること以外には、
あまり益はなかった。一方、子どもの側からすれば……
 『お母さんはおっかない!とっても、とっても、おっかない!』
 という思いだけが他の子より強くなる。つまりは、マザコンに
なったというわけだ。
 おかげて、我が子の支配はぐっとしやすくなった。

 もっとも、子どものうちは別にマザコンであっても、それほど
不自由なことはなかった。
 お膝の上で元気にはしゃぎ、うまうまをスプーンでお口に入れ
てもらい、ちゃぷちゃぷお風呂で体を洗ってもらいながら湯船で
眠るなんてことは、子供にとってはなかなか気持ちのいいものだ
からだ。
 ついでにうんちまでしたら、これはさすがに叱られたが……

 マザコンじゃあ自分の好きなことができないっていう人もいる
けど、そもそも世の中に出てまだ間のない身では、何をして遊ぶ
のが一番楽しいのかさえ、まだ分からないままなのだ。

 前にやっていて楽しかった事やおもしろそうな事を見つけたら、
とにかく、
 「あれ!」
 って指を指せば、お母さんがお膳立てしてくれるからたいてい
それでOKだった。

 「どうしたの?あれしたいの?」
 ってお母さんが寄って来て、抱き上げる。
 どうにかすると、指さしたことより、この瞬間(=だっこ)の
方が一番楽しかったりするのだ。

 望みはもちろん叶わない事だってあるが、そんな時はたいてい、
頭をなでなで、お背中すりすり、抱っこよちよちの残念賞がつい
てきた。

 ただ、それでも満足できなくて、いやいやを続けると……
 一転、恐い顔になるから、その按配が難しい。もっとも、そん
な時もお母さんの腕を目一杯の力で握りしめて泣けば、そのうち
顔色は変わってくるのである。

 結果、お母さんの二の腕に大きな青あざがついても、それは、
子どもの私があまり心配する事ではなかった。
 この間も公園で……

 「この子ったら、泣きながら『ママ嫌い、ママ嫌い』って言っ
てるのに、腕だけはしっかり握ったままだから……ほら、見てよ、
こんな大きな痣になっちゃって……もう、やんちゃで困ったもん
だわ」

 笑いながら、私のつけた痣をしきりに自慢していた。
 お母さんという親は、実に不思議な生き物だ。
 少し、マゾっ気があるな、ありゃあ(^◇^;)

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銀河の果ての小さな物語 <第1章> §1

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     ☤☤☤☤☤☤   <第1章>  ☤☤☤☤☤☤
             ~ バンビの赤ちゃん期 ~

§1

 私がその人と出会った時、彼女は文字通り巨人だった。巨大な
顔は、私を見つけるといつもものすごいスピードでよって来る。
たいてい笑っているから、その意味ではそんなに恐くはなかった
が、巨大なスプーンに何やら山盛りになったものを口の中へねじ
入れられた時は殺されるかと思うほどショックだったこともある。

 「美味しい?」

 彼女がしつこく尋ねるので思わず頭を下げると、また同じよう
なものをを山盛りにして私の口元へ持ってくるから、どうやら頭
を下げるのは「もっと!」という意味らしい。

 しかも、私が昨日までやっていた、口に含むとやわやわで噛む
とミルクの出る食事がしたいと思っても、彼女は、ひたすら……
「あ~ん、あ~ん」を繰り返すばかりだった。

 仕方なく、試しにもう一度ほんのちょっとだけ口を開けると、
スプーンの先で私の口を無理やりこじ開け、その山盛りの物質を
無遠慮に私の口の中へと押し込む。

 そしてここでも「美味しい?美味しい?」としつこく尋ねるの
だった。

 飲み込めと言われれば飲み込めなくはない代物だが、どうも、
私は彼女の笑顔に弱い。彼女が笑うとついつい私も一緒になって
笑顔になってしまうのだ。
 それを誤解して……

 「そう、おいちいの。よかったわ。あなたはね、銀のスプーン
をくわえて生まれてきたの。不幸になんかなるはずないわ」
 と、きた。

 これは、その後もかなり長く私に語り続けた彼女の決まり文句
だった。
 そして、そのトレードマークである銀のスプーンをアップリケ
や刺繍やらで、やたらめったら私の服に縫いつけていた。

 もちろん、私がそんな異物をくわえてこの世に生まれてこなか
ったことは周知の事実なのだが、これは世に言う慣用句の一種で
『それほどまでに幸せな幼年期』と言う意味らしかった。
 早い話が彼女の育児自慢なのだ。

 お母さんの必要すぎるおせっかいはともかく、『養育惑星97』
での私の生活はそれほど不快なものではなかった。
 緑の草原にいつも緩やかに南風が吹いていて、そこに百件余り
の住宅が建ち並んでいるのだが、森も湖も山も川もそのすべてが
私には優しかった。

 養育惑星であるため、もともと人工的に気候を調整して住みや
すくはしてはあるものの、調整したのは何も自然だけでなかった。
 ここに住む住民はある意味選ばれた人たち。みんな穏やかで、
とげとげした感じの人は一人もいなかった。

 もともと子育てが仕事の彼女たちは、幼い子が公園で砂遊びに
夢中なら、その子が飽きるまで、その砂遊びにつきあってくれる。
山遊び、川遊び、家の内外を問わず私たちがやりたいことの最初
の先生だった。

 お昼もそうだ。いい匂いがしていれば、どのお家でも上がり込
んで、そこでご馳走になって、何の問題もなかったのである。

 子供たちは、誰もが袖無しのジャケットを着せられているが、
これさえ身につけていれば大人たちは機嫌がよかった。というの
も、このライフジャケットさえ着ていれば、その子が、今どこで
何をしているか、たちどころに中央管制室のモニターに映し出さ
れる仕組みになっている。

 居場所だけではない。今日、食事したか、うんこしたか。今、
運動しているか、寝ているか。今、楽しいげにしているか、恐い
思いをしているか。などなど大人たちは子供たちの動静をリアル
タイムで監視できる。
 当然、その情報はコンピューターが一元管理していた。

 早い話24時間体制で監視されているわけで、子どもたちは、
どんなに平静を装っていても大人たちに嘘をつくことができなか
ったのである。

*******************(1)*****

 しかも、この薄手のジャケットは万が一危険なことが起こった
時にも重宝だった。

 例えば一定以上のスピードで何らかの物がその子に近づいたり、
周囲の温度が異常なスピードで上昇したり、はたまた頭から水を
かぶったりしただけでも、たちどころに体全体をバリアで包んで
保護する仕組みになっていた。

 こうなると、一時的に子ども自身は身動きがとれないが、数分
以内に、大人たちが駆けつけてくれるので子どもが不慮の事故に
遭う可能性は極めて低かった。
 だから、この星ではライフジャケットを身につけずに外に出る
ことは、裸で外に出るのと同じだったのである。

 穏やかな大人たちとクオリティーの高い安全装置のおかげで、
子供たちはすべてにおいて快適に暮らしていけていると思われる
かもしれないが、子どもの立場で言わせてもらうと、全てが快適
とまではいかなかったのである。

 例えば、この安全装置。子どもの立場からすれば、高い崖から
落ちても、池に飛び込んでも、たき火の中で騒いでも全然平気だ
と分かってしまえば、誰だって試してみたくなるのが人情。
 ところが、大人たちはそれを絶対に許さなかったのだ。

 それを許すと、いつしかジャケットを着忘れて崖から飛び降り
かねないと彼らは危惧していたようだった。
 だから、そんなことを企てる悪戯っ子は、崖から落ちて怪我は
しないものの、その日の夕方、母親から真っ赤に熟れたリンゴか
トマトのように、色が変わるまでお尻をぶたれるはめになるので
ある。

 養育惑星ではカラスの鳴かない夕方はあっても、子どもが母親
からお仕置きされて悲鳴あげない夕方はなかった。まるで持ち回
りのように、どっかしらの家で子どもの「ごめんなさ~い。もう
しませんから~~」という声がしていた。だから、子供にとって
はここが天国だなんてとても思えなかったのである。

 ちなみに、ここでは子どもをお仕置きするのは何も母親だけと
は限らない。ここに住む大人なら誰でも、街で悪さをするお転婆
娘を見かければ、その子のショーツをはぎ取ってお尻を叩く事が
できた。

 そもそもこの星には自制心のない大人などいなかったし、子供
が嫌いな大人や子供の要望に応えらないほど忙しくしている人も
一人もいなかった。
 ここでは大人たちも比較的のんびり暮らしているのだ。

 そのせいだろうか、子供の方も顔見知りの大人たちからぶたれ
ても、それほど強いショックではなかった。

 しかも、親や先生からは……
 「あなた方は、何兆という中から選ばれた特別な神の子です。
ですから、グレートマザーはあなた方のために、この愛のエリア
を与えてくださいました。この愛のエリアは、天国と同じくらい
すばらしい場所なのです。ですから、ここで起こったことは天国
で起こったことと同じ。あなた方がお母様にお尻をぶたれるのも、
神様にぶたれたのと同じなんですよ」
 と、こう言ってお説教してくるのだ。

 こんな無茶苦茶な論理でも、これを大まじめに、毎日のように
語り聞かされれば、洗脳されない子供はいない。
 「大人は偉い人。神様と同じ」
 という乱暴な神話も、素直に心に届くという仕掛けだったので
ある。

********************(2)****

 おまけに、彼らは小型のエアジェットを背負って普段から野山
や町中を自由に飛び歩いている。
 子どもとしてはそういった意味でも街ゆく大人たちは、殿上人。
 『大人になれば空が飛べる』と信じるだけでも、大人になりた
いという動機付けには充分だった。

 ただ、街行く大人たちが誰も親切で、どんな時でも甘えられる
とはいっても、子どもにとって、お母さんというのはやはり別格
の存在。

 特に私の場合は、お母さんがよほど気に入っていたのか、家に
いる時はいつもそばにいたし、遊びの途中でも理由もなしに家に
戻ることが何度かあった。少し離れた処にいた時でも、彼女が、
何をしているのかをいつも気にしていたのである。

 そして、つとめて抱いてもらっていた。朝といわず昼といわず、
夜だって当然のように添い寝だった。

 ま、赤ん坊なのだから当たり前かもしれないが、お母さんの懐
が一番心地よい場所だったような気がするのだ。

 それはまた、逆の見方をすれば彼女がいかに私を大事にしてく
れていたかという証でもあった。

 お母さんは幼い私のことを、『バンビ』『バンビ』と呼んで愛
してくれた。

 なぜ、『バンビ』なのかはその後分かることになるが、いずれ
にしても、こうして大事にされ愛された子供というのは、途中で
多少きついお仕置きにあっても、そう簡単には大人を恨んだりは
しないものなのである。

******************(3)****

1/15  SF?

1/15  SF?

 何しろ書いてる本人にサイエンスの知識がないのでサイエンス
フィクションとはならないかもしれませんが、とにかく、お星様
の世界の物語です。

 僕の場合は、舞台はどこでも、世界観はみんな一緒なんです。
実の子であろうとなかろうと、みんながみんな大人たちから愛さ
れていて……それでいてお仕置きのある世界が好きなんです。

 僕が小説を書くのは、あくまで、自分の心を癒すためですから、
今回も、そのパターンは変わらないと思います。
 みなさんが息抜きにコーヒー飲んだり、飴を舐めたりするのと
同じ気持で書いているんです。

***********************

☤☤☤☤☤☤  銀河の果ての小さな物語  ☤☤☤☤☤☤

    ☤☤☤☤☤☤   <序章>   ☤☤☤☤☤☤


よく晴れた日、穏やかな一日の昼時に執務室のスピーカーが鳴る。
「第七飛行編隊帰還します」

グレートマザーはその放送をこれという感慨もなく聞いていた。
彼女にしてみれば、今もってなかなか咲かない庭のバラの方が気
がかりだったのだが…、

 「フローネ編隊長からの伝言です。ライラ第三惑星にある秘密
基地RZ303の殲滅に成功せり。当方の死傷は軽傷3名。捕虜
一名を伴い帰還します」

 と、その最後の言葉がひっかかった。


 やがて、そのフローネ編隊長がドアをノックする。

 「ご苦労様でした。やはりあなたに任せてよかったわ」

 グレートマザーがそう言って出迎えたのは、空軍パイロットの
軍服を着込み、長い髪を肩まで垂らした歳の頃30前後の精悍な
顔立ちの女性。
 もっとも、ここでは断らなくても女以外いないのだが……。

 「激戦を予想したけど、意外に早い決着だったわね」

 「敵のバリア網に穴が空きましたのでそこから急襲しました」

 「あなたのことだからぬかりはないと思うけど、完璧に始末は
つけてきたんでしょうね?」

 「はい、マザー。麻薬の製造工場は全て塵芥に帰しております
し、売春夫やその関係者もすべて処刑しました」

 「お客となった者たちは見つかった?」

 「残念ながら十名ほど……しかし、すべて処刑しました」

 「そう、それでいいわ。麻薬や売春は、この国の美しい風紀を
乱します。邪な行いは、ほおって置けばせっかく築き上げたこの
清浄の地を滅ぼす悪しき温床となりかねないわ。男どもにたぶら
かされた子たちは可哀想だったけど、麗しき祖国を守っていく上
では、やむを得ない処置ね」

 グレートマザーは初老の貴婦人だった。世襲ではないがこの国
の代表者であり、何より自国の軍隊の統帥権は彼女が握っていた
のである。
 派手な身なりはしていないが、スキのない着こなしと、気品の
ある指の動きだけ見ても庶民でないことはすぐにわかる。ただ、
肩まで届く緩やかにウェーブのかかった髪の中から覗くその顔は
どこか冷徹で寂しげに見えた。

 「……ところで……さっきの話では、関係者は全て処刑したと
報告があったのに、なぜ捕虜を連れ帰ったの?」

 「……」フローネ中佐は静かにしていた。

 「どうして?そんな必要があったのかしら?」

 グレートマザーがもう一度問いかけてからフローネは口を開く。

 「胎児でしたので……」

 「胎児?」
 その答えはグレートマザーにとっても意外な答えだった。

 「セリーヌの子どもです」

 「えっ?……セリーヌって……セリーヌ中尉のこと?」
 フローネ中佐の次の答えはもっと意外だったようだ。

 「彼女、生きていました。私が麻薬工場を爆破するまでは……」

 「どういうこと?」

 「今回の作戦はある密告者の情報で動いたのですが……」
 フローネが言葉に詰まる。

 「……それがセリーヌだったってことなの?」

 「わかりません。今となっては……ただ、彼女が基地を覆って
いた磁力バリアの一部を解除して私たちを迎え入れてくれていた
のは確かです」

 「どうしてかわるの?」

 「彼女、磁力装置の解除レーバーを握ったまま、息絶えていま
したから。……私が最初に発見した時は、まだ体が暖かかっ……」

 フローネ中佐の目から涙がこぼれ落ちた。

**************************(1)*

 歴戦の勇士。ビュラック空軍の英雄でもある彼女は普段容易に
自分の感情を表に出さない。しかし、そんな彼女も、かつて窮地
に立った編隊を救うため、囮になって敵陣へ馳せたかつての片腕
セリーヌ中尉の死には感情を抑え切れなかったのだろう。まして、
知らぬこととはいえ、身ごもっていた彼女の頭に銃弾を降り注い
だのが自分だとしたら、それはなおのことだった。

 「……すみません。動揺してしまって……」

 「いいわ、あなたと彼女の仲を私も知らない訳じゃなくてよ。
気にすることはないわ」
 グレートマザーは平静を装っていたが、彼女もまた、動揺して
いたのである。女性は男以上に心の動揺が仕事の出来高に大きく
関わってしまう。今、男どもと対等に渡り合えるフローネを失う
ことは為政者としてはあまりに大きな痛手だった。
 しかし、彼女をこれ以上引き留めることもまたできそうになか
った。

 ビュラック星はもともとムーア星人が地球から研究材料として
拉致してきた人間のうち女だけを収容するコロニーだった。彼ら
は男女を別の星で飼い、男に対してはその能力を色々試させたが、
女にはこれといった興味を示さず、ただ生殖の時だけに利用して
いたのである。

 そのムーア人も5千年前、他の異星人との戦いに敗れてこの地
を去り、拉致された地球人にしてみれば安息の日々が訪れるかに
思われたが、ムーア人から自由にになった後も、彼らは互いに元
の星で独立して暮らし、言語をほぼ同じにする男女でありながら
も交わって暮らすことは今日までなかった。

 つまり、お互いが、男のいない星(ビュラック星)、女のいな
い星(ダンネル星)の住人だったのである。

 「ところで、その胎児は女の子なの?」

 「……」
 すぐには答えが返ってこない。

 グレートマザーとフローネ中佐の間にあいた時間が、その答え
だった。

 「……わたし……」
 フローネ中佐の言葉は続かなかった。
 そして、二人の間に再び間があく。
 そして、今度、口を開いたのはグレートマザーだった。

 「ビュラックでは、男の子は育てられないわ。もし、誤ってお
互いが望まない性別の子を得た場合は……発見しだい、相手の星
に引き渡す約束になってるのもご存じよね」

 「……(でも、協約には胎児という項目は)……」
 フローネは下唇を動かしていた。ほんのちょっとしたきっかけ
で、それは言葉に変わるはずだったが、そのきっかけがつかめぬ
ままに、グレートマザーが再び話しだす。

 「私を困らせないでね……あなたにはリーダーとしての誇りも
責任もあるはずよ。……どうしたの?そんな変な顔をして。……
どうやら、疲れているみたいね。このところ忙しくて前線にいる
時間が長すぎたみたいね。……どうかしら、この辺で少し休養を
とった方がいいんじゃなくて?」

 彼女は穏やかに語りかけ、そして、一瞬にしてフローネの肩に
のしかかっていた中佐の肩称をはぎ取ったのである。

 「いいのよ、これで……今のあなたには考え事より休養が必要
だわ」

 グレートマザーはフローネ中佐の肩を短い時間抱き、頬ずりを
交わす。しかし、説明はそれだけ。それだけでフローネの肩称は
グレートマザーの机の引き出しの中へ。

 良いも悪いもなかった。絶対君主として女の都に君臨するグレ
ートマザーの鶴の一声で、フローネ中佐はいきなりの除隊を余儀
なくされたのである。

**************************(2)*

 「どうして、急にやめるんですか?」
 「それはあの胎児を連れ帰ったことと関係があるんですか?」
 「やむを得ませんよ。あの時は副長と一緒だったんですから…」
 「まさか、胎児を放り出して亡骸だけ持ってこれませんもの」
 「男の子だったから問題なんですか?…せめて女の子なら……」
 「何言ってるの!どちらにしてもあの子は副長の子どもなの。
副長の忘れ形見なのよ」

 部下たちが除隊を聞いて詰め寄るなか、フローネ中佐は静かに
机の中を整理していく。
 「そんなこと関係ないわ。規則は規則だもの。私たちはこの星
で純血を守り通してきたからこそ、男どもの支配から逃れられて
こうして暮らしていけるんだもの。だいいちここで男の子をどう
やって育てるの?」

 「とにかく私、グレートマザーに掛け合います。マザーだって、
事の次第はご存じなんでしょう!?」
 「私も……」
 「私も……」

 部下の驚きや狼狽をフローネは笑って遮った。

 「バカなことは言わないで、何も問題はないわ。私は、疲れた
から辞めるだけ。ただそれだけよ。私もそろそろ生きのいい後輩
に道を譲らないとね。……私の代わりなんて、ビュラック空軍に
ごまんといるでしょう。騒ぐことじゃないわ」

 実際、セリーヌを失ってからの彼女は、戦いにもどこか精彩を
欠いていたから、彼女自身も部下が気をもむほどには落ち込んで
はいなかった。
 むしろ、これをきっかけに指揮官としての能力がさらに下がれ
ば、それは部下の命をも危険にさらすことにもなるわけで、フロ
ーネとしてもこれは納得できる事だったのである。

 ただ、セリーヌが残した子どもにだけは、もう一度会いたいと
願っていた。

 だが……
 「ああ、あの子なら、すでにダンネル星に送りつけたわよ」

 担当者からはつれない返事が返ってきたのである。


 願いはかなわぬまま、三日後、フローネは自らが幼年期を過ご
した養育惑星へと帰って来た。

 除隊したといっても、犯罪を犯したわけでも不名誉な事をした
訳でもない。自ら希望して長期の休暇をとって除隊したのだから、
負い目などないはずだったが、あの赤ん坊のことだけは、ずっと
気になり続けていた。

 『あの子に会いたい』

 そんな思いが募って、道行く誰もが英雄の帰還を祝福してくれ
るなか、独りフローネの心は晴れなかったのである。

**************************(3)*

 ところが、実家に帰ると、そんな彼女を驚かす出来事が待って
いた。

 「ただいま~」

 そう言って入るなり玄関先で彼女は赤ん坊の泣き声を耳にする。

 「お帰りなさい。早かったのね」
 母の声、妹たちもあとに続く。
 「わあ~、おねえちゃまだあ」
 「フローネお姉さまお帰りなさい」
 「お土産は?」
 14歳を頭にチビたちにたちまち取り囲まれてしまった。

 「赤ん坊の声がするけど、また一人引き受けたの?」

 フローネの問いに母の意外な言葉が返ってきた。

 「ああ、あれ。あれはあなたの子どもよ」

 「私の?まさか……」

 「本当よ。グレートマザーが直々にここへ届けにいらしたの。
初心者のあなたにも育てられそうないい子が見つかったからって
……」

 「グレートマザーが直々ここへ?……まさか、冗談でしょう」

 「冗談じゃないわ。昨日の夕方お見えになったの。……その時、
『軍人はやめても母ならやれるでしょう』っておっしゃってたわ。
……でも、この仕事も大変よ。甲高い声を一日中聞かされてると
ノイローゼになるわよ」

 フローネが軍人としての職業を持っていたように、彼女の母は
『母』が職業だった。ここでは血縁関係で家族が営まれている訳
ではない。遺伝子解析で得られたデータをもとに相性のよさそう
な者達が寄り添って一つ屋根の下で暮らしていた。つまり、家族
といっても誰もが生さぬ仲の親兄弟たちだったのである。

 フローネはそんな母の言葉を頭の後ろで聞きながら、家の中へ
……赤ん坊の泣く部屋へと入っていく。頭の片隅に、もしかして、
という思いが浮かんだからだ。

 間違いなかった。ベビーベッドに寝かされていたその赤ん坊は、
間違いなく冷たくなった母親からフローネ自身で取り上げた生命
だったのである。

 『この女の子が成人するまで、あなたが育てなさい。その間、
あなたの軍人としての職責をすべて解きます(グレートマザー)』

 グレートマザーの置き手紙にある通りだった。赤ん坊のペニス
は極限まで小さくされ、睾丸はすでに体の中に埋め込まれていた
のである。

 「必ず、育ててみせる」

 彼女は赤ん坊を拾い上げると、数奇な運命に翻弄される幼き命
を必死に抱きしめ、嬉し泣きにくれるのだった。






<登場人物/設定>


***** <舞台設定> **************

ビュラック星
 女の都。地球からムーア星人が拉致した地球人のうち、
 女だけを住まわせた星。
 科学技術は男の都(ダンネル星)に劣るが、結束力で
 五千年もの間、男の支配をはねのけ続けている。
 政治形態はグレートマザーを頂点にした専制国家。

ダンネル星
  男の都。地球からムーア星人が拉致した地球人のうち、
 男だけを住まわせた星。
 科学技術ではビュラックより優秀だが、都市の結束力は
 弱く、内紛は珍しくない。政治形態は有力者の協議による
 寡頭制。
 統制が弱いため、女相手の売春宿を経営する者や、麻薬
 の密売者があとをたたない。
 女の都との統合を望んでいるが、女の都側が拒否し続け
 ている。
 ただ、男の都側も力ずくでの決着は望んでいない。

ムーア星人
 地球から学術調査目的で地球人を拉致してきたが、
 今から五千年前異星人との争いに敗れて二つの星を放棄
 した。 

男女の生みわけ
  お互いの星が卵子と精子を提供しあい、遺伝子分析の
 結果、自分たちにとって都合のよい子どもだけを試験管
 で作り出す。
 特に女の都では、遺伝子解析を経ない自然分娩は処罰
 の対象。このためセリーヌの子どもは、男の子であり、
 かつ自然分娩で生んだ子であることからビュラック星で
 は二つの意味で育てることができない。

養育惑星
 子育て専用の惑星。そこで母親を職業とする女性に四五人
 の姉妹と一緒に育てられる。この星は養育が目的のため素行
 の悪い人物は存在を許されず、みな穏やかに暮らしている。


***** <登場人物> ****************

 フローネ(中佐)
  長い髪を肩まで垂らした歳の頃30前後の精悍な顔立ちの女
  第七飛行編隊の隊長として、数多くの武勲に彩られているが
  副長の死をきっかけに今はその副長の遺児と一緒に養育惑星
  で暮らしている。

 セリーヌ(中尉)
  フローネ中佐のかつての部下。囮作戦で戦死したと思われて
  いたが、その後も生き延び、最後はフローネの編隊を引き入
  れる手引きをして戦死(?)。その時、お腹にいた男の子は
  奇跡的に命をとりとめ、今はフローネ中佐が職を辞して面倒
  をみている。

 グレートマザー
  ビュラック星の絶対君主。
  時に冷徹、時に情に厚い、初老の婦人。

 ハイネ
  セリーヌの子ども。男の子だが、ビュラック星では男として
  は育てられないため、去勢され、ペニスはちょっと大きめの
  クリトリス並に、睾丸は萎縮させて体の中に埋め込まれている。
  臆病だが心優しい男の子。物心着く前からフローネが育てた
  ので彼女が母だと信じている。


*****************************

1/11 だめだこりゃ

1/11 だめだこりゃ

 『お正月だし、ポルノ気のないものでも書いてみよう』なんて
思ったのが間違いで、何にも浮かばなかった。

 で、結局、今まで書いてたのと、固有名詞しか違わないのよう
なお話しかできなかった。

 多くの人はリクエストを取って、それに則した作品をこしらえ
てるみたいだけど、浅学菲才の僕にはそういうことは無理みたい
です。

 今年も、勝手気ままに書き散らすだけのブログになりそうです
けど、よろしかったらお付き合いください。

*************************

有隣学園(1)

          有隣学園(1)

 そこは古風な学園だった。もともと、戦前、鉄道と不動産で財
を成した億万長者が自分のたった一人の愛娘のために開いた学校
で、その愛娘が今は理事長先生をしているという風変わりな学校
でもある。

 親の溺愛が過ぎてとうとう70歳の今日まで嫁に行かなかった
この娘は、それでも多くの少女たちを育て、良縁へと導いている。
 そう、ここは今どき珍しい良妻賢母型の女の園なのだ。

 入学試験も、ペーパー試験の結果より、家庭環境や素行の方が
重視されるため、庶民の娘(こ)が一般入試でこの学園に入学する
のは極めて困難なお嬢様学校でもある。

 ただ、ならば学園の中に貧しい家の出がまったくいないのかと
いうと……これがそうでもない。
 生徒の一割五分から二割程度は、学費を免除された『給費生』。
学費のほか、修学旅行の費用やお小遣いまで学校から支給される
厚遇ぶりだった。

 美由紀も、そんな一人。
 親は畳職人。とてもお嬢様学校の学費など払える身分ではない
だが、彼女が幼稚園に上がる時、父親がたまたま学園の仕事を任
されたのがきっかけで、冗談半分に幼稚園に入園させてやると、
そのまま小学校、中学校、高校とエスカレーターを駆け上がって、
高校三年生。今では規律委員長として、すっかり学園の顔になっ
ている。

 そんな美由紀が、今、理事長室にいた。

 理事長先生の大きな事務デスクの脇で直立不動の姿勢をとって
いる。
 そんな美由紀に向って理事長先生が尋ねる。
 「この子、どうしたのかしら?」

 「喫煙です。寮の部屋でタバコの吸殻がみつかりました。他に
三人、事実を認めました」

 「そうなの……何事にも好奇心を持つ年頃だから……」
 白髪の理事長先生は正面に向き直ると……
 「小森さん。ここではタバコは厳禁よ。…分かってるでしょう
けど、この国の法律でも、それは認められていないわ」

 先生がそう、話しかけたのは、デスクの前に敷かれた薄い敷物
に膝まづいている女の子。中等部二年の小森彩香だった。
 ところが、この女の子、理事長先生にではなく、美由紀に向か
ってこう言うのである。
 
 「わかってるわよ。そんなこと………ちょっと、悪戯してみた
だけじゃない。給費生のくせに、うるさいんだから……あなた、
誰のおかげでこの学校にいられると思ってるの」

 小森に噛み付かれても美由紀は表情を変えない。
 『給費生のくせに生意気……』
 そんな言葉を入学以来何度聞いたことだろう。しかし、そんな
事を気にしていたら、ここでは生きていけなかった。

 「たしかに私は給費生だけど、そんな私に生徒会の選挙で票を
投じてくださったのは一般の方々よ。だから、こうして規律委員
なの。私は与えられた仕事を誠実にやってるだけよ」

 他にも悪さをしていた友達がいたのに、自分だけがこんな処に
連れて来られたもんだから彩香の腹の虫は治まらないだが、今は
そんなことにかまっていられない。慌てて、先生に謝ってみる。

 「ごめんなさい。理事長先生。ほんの些細な悪戯だったんです。
たまたま、そこにタバコがあったから、触ってみたくなって……」
 苦しい言い訳だった。見苦しいと言うべきかもしれない。

 「そう、悪戯心は誰でもあるわね」
 理事長先生が応じると、美由紀も口を挟んだ。

 「ちょっとした悪戯にしては、あなたの部屋にあった20本の
吸殻は多くなくて……一人当たり5本。……だいいちそのタバコ
はどうやって手に入れたのかしら……あなたのお部屋に突然現れ
たの?」

 「それは……」
 彩香は言葉に詰まる。

 「常習性があるということみたいね」
 理事長先生の声に彩香は青ざめた。

 「お友だちの話では、一ヶ月ほど前から始まったみたいです」

 「そのお友達は?」

 「たまに、彩香さんから分けてもらって、吸ってたみたいです」

 「で、……その子たちは?」

 「口を石鹸で洗ったあと鞭1ダースを与えて部屋に帰しました」

 「そうなの。その子たちは首謀者じゃないというのね」

 「はい」

 二人の会話から自分の立場がどんどん悪くなっていくと悟った
彩香は……
 「私は、そんなんじゃなくて……ただ、みんなにタバコを見せ
たびらかしたかったから……そしたら……みんな勝手に吸い始め
ちゃて……」

 しかし、そんな弁明、年上の二人は聞く耳を持っていない様子
で、別のことを話し始める。

 「で、美由紀さんはどのように処置したいのかしら?」

 「…………」
 理事長先生に尋ねられた美由紀だったが、しばらく口を開かな
かった。

 生徒の自治が幅広く認められているこの学校にあっては、鞭を
使った体罰さえ生徒同士で可能だった。上級生が下級生を、生徒
会が一般生徒を懲戒できるのだ。

 とはいえ、そこには限度がある。もてあました生徒を規律委員
がここに連れて来るときは、その限度を越えて先生にお仕置きを
依頼する時だったのである。

 そんな美由紀に、理事長先生はあえて『どうしたいのか?』と
尋ねたのだ。投げたはずのボールを投げ返された格好だった。

 ただでさえ嫌われ役の規律委員が理事長先生にこうして欲しい
と言ってしまうと、当然、一般生徒との間に大きな溝が生じる訳
で、美由紀としても軽々しく口を開けなかったのである。

 そんな嫌な空気を感じ取ったのだろう。彩香が先に動く。
 彼女は胸の前で両手を組むと理事長先生に訴えた。
 「先生、お願いです。月曜の朝礼でのお仕置きだけはしないで
ください。私、みんなに見られるのだけは絶対にいやなんです」

 彼女の頭の中では、さっきの意趣返しとばかりに美由紀が月曜
の朝礼での懲罰を提案しかねないと思ったのだ。

 「私は、この子が他の子と同じ罰ではいけない気がしたのです
が、理事長先生に別のお考えがあればそれに従います」

 美由紀の答えに理事長先生が静かにうなづく。
 彼女は美由紀の答えに納得した様子だった。
 そして、正面へ向き直ると、彩香に向って……

 「そうね、確かにみんなの見ている前でのお仕置きは可哀想ね。
でも、それは校長先生がご判断なさること。私の権限ではないわ。
私は確かにあなた方の生活全般を預かってるから寮などで起きた
出来事には口を挟むけど、学校での事は、やはり校長先生の権限
なの。私にはどうすることもできないわ」

 理事長先生は彩香の顔色を窺いながらも事務机の引き出しから
分厚いファイルを取り出してながめ始める。
 そこには、素行や成績、性格や最近の様子など、全生徒の記録
が収められていた。
 当然、見ていたのは彩香の項目だった。

 「あなた、この一ヶ月で二度も舎監の黒田先生に呼び出されて
お鞭頂いてるのね」

 独り言のような理事長先生のつぶやきに彩香は顔を赤らめる。
 舎監の先生からの鞭は、それ専用のテーブルに手足を縛られて、
むき出しになったお尻をなめし皮の鞭でぶたれるもので、その音
が寮の廊下に響くために、ぶたれていない子にもそれなりの戒め
となっていたのである。

 「舎監の黒田先生から頂いた鞭でも効果がないというのは……
やはり、向こうで相当な訓練を積んだからかしらね」

 理事長先生は美由紀の顔をファイル越しに見ては微笑む。
 彩香は帰国子女。『向こう』は外国。『訓練』とは鞭打ちを意味
していた。

 「イギリスは、やはり、本場ですから……」

 美由紀の言葉に彩香はそれが何を意味しているのか悟ったよう
で……

 「私、イギリスでも鞭でぶたれたことなんて一度もありません。
今はもうそんな野蛮なことしませんから!」
 と、少し憤然とした様子で口を尖らすと……

 「あら、そうなの。おあいにくだったわね。こちらはまだその
野蛮な習慣がたくさん残ってるのよ。おまけに、それで足りなけ
れば、お浣腸だって、お灸だって、生徒をお仕置きする方法には
事欠かないわ。特に、あなたみたいな跳ね返り娘には鞭は効果的
なレッスンなのよ」

 理事長先生に笑われて、さすがの彩香も顔を青くした。
 そんな青い顔をした少女の頭上を大人二人の会話が飛び交う。

 「お浣腸はすませたの?」

 「はい、二百ccを二十分我慢させました」

 「そう、お薬(グリセリン)は使った?」

 「一割だけです」

 「そう、よくこの子が我慢したわね」

 「大丈夫です」
 美由紀は自信たっぷりにそう言い放ったが、事実は違っていた。
ものの十分で彩香は屈辱的な大爆発を起こしていたのである。

 ただ、美由紀はそのことを理事長先生に言うつもりはなかった。
 それは彼女なりの温情。美由紀にしても帰国子女としてハンデ
の多い彩香の頑張りは頑張りとして評価していたのである。

 「いいわ、お浣腸の方がちゃんと済んでるなら、あえて厳しい
ことまで必要はないでしょう。……ただ、お父様のお話では彩香
ちゃんもこれから先はずっと日本で暮らすみたいだし、目上の人
に対する口のきき方は覚えておかなければならないわね」

 理事長先生はそう言いながら、机の一番下の引き出しから幅広
の革ベルトを取り出す。

 それはお約束の鞭だった。
 幅が五インチ、長さは二フィートで、鞭を振るう人が持ち安い
ように握るための柄が付いている。部屋の隅には、まるで傘でも
たてかけたようにしてケインも置かれていたのだが、こちらは、
いわば脅かしのための看板で、これが実際に使われる事は滅多に
なかった。

 「…………」
 その鞭を見た瞬間、彩香は、まるで森の中で大蛇にでも出くわ
したかの様な顔になった。彼女はこの学園に来てまだ一年と数ヶ
月だが、それでも、この鞭の威力がどんなものかを十分に知って
いたのである。

 「さあ、始めましょうか」
 気がつくと、彩香の目の前にいきなり理事長先生が……

 「!!!」
 もちろん、理事長先生はゆっくりと椅子から立ち上がって彩香
の場所まで行き、そこで彩香と同じ様に膝まづいただけの事なの
だが、呆然としていた彩香には、その途中の記憶が消えていたの
である。
 それほどまでに彼女は動揺していたのだった。

 「どうしたの?鳩が豆鉄砲食らったような顔してるけど……。
あなただって昨日今日ここへ来たわけじゃないんだし……まさか、
今さらこの部屋から無傷で出られるなんて思ってないわよね?」

 「それは…………は、はい」

 「悪さをして、ここに連れてこられて、それでもここを無傷で
出られるのは、学校を辞める時だけよ」

 「……(はい)」
 彩香は『はい』と言ったつもりだったが声にはできなかった。
ただ、首を縦にしただけだったのである。

 「たらだったら、まずはお約束をやってちょうだい。女の子の
世界というのは、何より形が大事なのよ」

 理事長先生に促されて、彩香はあらためて胸の前で手を合せる。

 「彩香は悪い行いをしました。……でも、これからもこの学校
の生徒でいたいのです。私はこの学校を愛しています。どうか、
これからいい子になれますように、お仕置きをお願いします」

 オドオドした様子で彩香が宣誓すれば……
 「わかりました。よく言えたわね。……私もあなたが大好きよ。
だから、お仕置き、頑張りましょうね」
 理事長先生は、彩香の両手を取ると、一緒に立ち上がり、近く
のテーブルへと連れていく。

 その古びたサイドテーブルは部屋の他の調度品とも違和感なく
マッチしているが、女の子たちのお臍が当たる角の辺りはすでに
塗料が相当に剥げていて、のべ何百人もの子がこれを使った事が
わかった。

 理事長先生は、そんな女の子たちの涙とよだれとおしっこまで
も受け止めてきたそのテーブルに、彩香をうつ伏せにさせると、
ご自分は彩香の両手を握ったまま美由紀にこう命じるのだった。

 「美由紀さん、あなた、やってちょうだい」

 そう、ここでは規律委員の美由紀が鞭を振るうのだ。
 規律委員は生徒会の中でも花形、名誉ある職責ではあったが、
同時に刑吏のような嫌われ仕事もやらなければならない。

 「はい、先生」
 美由紀に迷いはなかった。

 彩香のスカートを捲くりあげ、その裾が落ちないように大型の
洗濯ばさみで留めると、ショーツまでも下ろしてしまう。
 彩香は、たびたび後ろを振り返ろうとして身体をねじったが、
それ以上は理事長先生が許さなかった。

 「心配なのは分かるけど、もう心を決めなさい。鞭のお仕置き
というのは、心静かに受け入れないと、よけいに痛いわよ」
 理事長先生が諭す。

 やがて……
 「ピシッ」
 乾いた音が室内に響いた。
 「……(あっ)」
 最初は『今、お尻に当たった!』という程度。

 「一つ、理事長先生、お鞭、いただきました」
 彩香は自分の身体に起こった事をあえて目の前の理事長先生に
報告する。
 馬鹿馬鹿しく見えるが、これがこの学園のしきたりだったので
ある。

 「ピシッ」
 再び、乾いた音が響く。
 「……(うっ)」
 最初に比べれば痛いが、まだ声をたてるほどではない。

 「二つ、理事長先生、お鞭、いただきました」
 理事長先生は彩香のこの声を聞くと、また静かに頷く。
 この頷きを合図に美由紀が次の鞭が振り下ろすのだ。

 「ピシッ」
 「……(ひっ!)」
 彩香の口から思わず悲鳴が漏れそうになった。
 美由紀が鞭の勢いを強めたのではない。たった三発でも痛みは
お尻に蓄積されるから、これから先は彩香にとってはもっともっ
とキツイ事になるのだ。
 それが証拠に……

 「どうしました?」
 理事長先生に促されて、彩香は慌ててご挨拶する。
 「三つ、理事長先生、お鞭、いただきました」

 理事長先生は、今度はほんの少し間をとって頷いた。

 「ピシッ」
 「……(ひぃ~)」
 彩香は閉じた両足を擦り合わせた。
 「四つ、理事長先生、お鞭、いただきました」
 少し投げやりで、どこか悲しげな声だ。

 「ピシッ」
 「……ぁぁぁ」
 彩香は両足で小さく地団太を踏み、その口からは僅かながらも
声の混じった吐息が漏れる。
 「五つ、理事長先生、お鞭、いただきました」
 すでに、彩香の声は震え始めていた。

 「ピシッ」
 「あっっっっっ」
 その瞬間、彩香はうつ伏せになった自分の体を思わず起こそう
としたが、理事長先生の戒めているその手を感じてやめてしまう。

 『今は、ここにいなきゃいけない』
 この時はまだ、彼女の理性がそう命じて、身体をコントロール
していたのだった。

 「六つ、理事長先生、お鞭、いただきました」

 理事長先生は、しばしの間、彩香が落ち着くための休みを与え
てくれたが、もちろん、それでこの鞭打ちが終わりになる訳では
なかった。

 先生は再び、静かにうなづく。

 「ピシッ」
 「いやあ~~」
 七回目にして初めて漏れた悲鳴だった。
 地団太を踏む両足は激しくなり、先生の戒めを抜けようとする
両手にも今まで以上の力が入る。

 もちろん、それは美由紀が鞭の威力を高めたわけではない。
 鞭の痛みは短時間で和らぐことはない。回数が増えれば増えた
だけ痛みがお尻に蓄積していく。
 ……やがて、それはほんのちょっと触れられただけでも悲鳴を
上げるほどの痛みになるのだった。

 「どうしました?ご挨拶は?」
 理事長先生の顔が先ほどまでのように笑顔ではなくなる。怖い
顔が目の前にあるのだ。
 彩香はそれを見て怯え、あらためて、ご挨拶する。

 「七つ、理事長先生、お鞭、いただきました」

 理事長先生の顔は厳しいまま。少し間をとっただけで次の合図
を出す。

 「ピシッ」
 「だめえ~~~」
 彩香の声は鞭音より大きかった。

 「何がだめなの。中学生のくせにタバコなんて吸う方がよほど
ダメなんじゃなくて……」
 理事長先生の顔が、いつになく厳しいのを見て、彩香は思わず
息を飲む。
 そして、その厳しい顔にむしろ落ち着きを取り戻したのか……
 「八つ、理事長先生、お鞭、いただきました」
 と、素直に答えるのだった。

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~~」
 彩香の地団太はさらに大きくなり、すでに真っ赤に染まった剥
き出しのお尻の割れ目からは、まだ可愛らしい女の子のプッシー
が顔を覗かせるまでなったのである。

 「九つ、理事長先生、お鞭、いただきました」
 彩香の声はすでに涙声。
 だが、先生は許してくれなかった。

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~~」
 彩香は、全身全霊を込めて我慢したから、悲鳴は小さくなり、
戒めを抜けようとする力も弱まったが、お尻の踊りだけはもとの
まま。
 当然、美由紀には彼女のプッシーを晒すことになったのである。

 「十一、理事長先生、お鞭、いただきました」
 彩香がこう言うと、すかさず理事長先生から……
 「まだ、十回目。ずるしちゃだめよ」
 という声が飛ぶ。

 彩香は慌てて言い直す。
 「十、理事長先生、お鞭、いただきました」

 彩香に悪意はなかった。お尻が痛くて頭が混乱してしまったの
だ。でも、そうやって理事長先生に指摘されると、少女の心は、
また新たな罪を犯してしまった気分になる。
 『また、罰が増えたんじゃないだろうか』
 頭の中はダークな気分で一杯になるのだった。

 「ピシッ」
 「やめて~~」
 とうとう彩香の口から泣き言が漏れた。
 『小学生とは違うんだから、恥ずかしいことにだけはなりたく
ない……』
 中学生のプライドを彼女なりに守ろうとした彩香だったのだが、
それもこれまでだった……

 「どうしたの、彩香ちゃん。ご挨拶は?」
 先生にこう言われても、泣きはらした顔の彼女は、すぐに対処
ができないでいたのだ。

 「痛い?…………」
 理事長先生の問いかけに鼻水をすすりながら頷く彩香。
 すると……

 「可哀想ね。でも、痛いからお仕置きなのよ。こんなに痛い事
されたくなかったら、いい子でいなくちゃね。……この学園は、
神様に仕える天使の里なのよ。心の汚れた子が一人でもいたら、
神様に申し訳ないわ」
 理事長先生はまるで幼い子を諭すような言葉で彩香を諭したが、
それが意外にも今の彩香には効果的だったのか、彼女の顔が再び
しまる。

 「いい顔ね。そうよ、お仕置きだからって、泣いてても始まら
ないもの。……さあ、あと一つだけ我慢しなさい。そうしたら、
少しお休みしましょう」
 理事長先生は、こう言って彩香を励ます。
 そう、彩香へのお仕置きはまだまだこの先も続くのだった。


**************************

1/4 

1/4 あけましておめでとうございます

 ちょっと、遅いご挨拶ですが、新年最初のアップです。

 今年も、よろしくお願いします。

              管理人/TUTOMU KURAKAWA

*********************

1/4 ブローチ(初恋)

1/4 ブローチ(初恋)

 小五の時に、僕は生まれて初めて恋をした。それまでも女の子
の友だちがいなかったわけじゃない。むしろ、こう言ったらなん
だが、男友だちよりこっちの方が多いくらいだった。

 女の子は乱暴な言葉は使わないし、先生の言うことはちゃんと
聞くし、身奇麗だし、すべての点で男より勝っているように思え
たのだ。
 (これはあとで心境の変化を起こすが、その時はそうだった)

 しかし、いくら普段口をきく女の子が多いといっても、それは
あくまで日常でのこと。恋となれば話は別で、心がときめく人は
これが初めてだったのである。

 その人は、亜麻色の髪で栗色の瞳、鼻筋が通っていて、巻き毛、
……どう見てもハーフにしか見えないが、お父さんお母さんとも
日本人で、国籍ももちろん日本人だった。

 ひょっとしたら養女なのかもしれないが、幼い僕にそんな立ち
入ったことはわからないし、だいいちそんな事はどうでもよい事
だった。
 大事なことは、僕が彼女を好きになってしまったという事だけ。
それだけだった。


 好きになった子ができたら、当然、その子の気を引きたいよね。
僕に好意を持ってもらいたいもの。

 でも、それってどうしたらいいのかまったくわからなかった。

 最初にやったことは、一緒に帰る算段をすること。
 「君んちの近くにある塾に通ってるんだ」
 なんて、白々しい嘘までついて、夢はかなったんだが……

 ところが……
 「………………」

 いざ一緒に歩いてみても、ほとんど何も言えなかった。
 他の女の子とはけっこう色んなことをおしゃべりして帰るのに、
この子のそばにいると、ただ心臓だけがドキドキするだけなんだ。

 「わたし、待ってたの?…塾に遅れない?」
 下校時、校門の前で彼女に言われた時は、顔が真っ赤になって
火照った。

 『本当は、君が好きだから一緒に帰りたいんだ』
 なんてね……どうしても、素直に口から出てこなかったんだ。


 そこで、今度は贈り物をしてみようと思い立つ。

 お小遣いをはたいて、雑貨屋でブローチを買う。
 500円。
 笑うことなかれ。これでも、当時の僕にとっては精一杯高価な
買い物なんだ。

 でも、それをどうやって渡していいのか?が分からなかった。

 『誕生日なんかじゃないのに、コレあげるって変だよな』
 ブローチを買ってしまってから気づく。
 しかも、雑貨屋で買ったから気の利いた包装紙なんかで包んで
ない。
 都会の子なら、きっとこんな時、綺麗な千代紙やリボンで飾り
つけてから送るんだろうけど、田舎もんの僕にはそんな気の利い
た知恵さえなかった。

 結局、
 『マキちゃんへ~倉川勉~』
 って書いた小さな紙を箱の中へ入れてただけ、外は買った時に
商品を入れてもらった茶色い紙袋のまま。


 そんな味気ない贈り物をランドセルの中に忍ばせること一週間。
 ここでも臆病者の僕は勇気がでないのだ。

 それでも、ついに決心してやったこと。
 それは何も言わずそのプレゼントをマキちゃんの机の上に置く
ことだった。

 ところが……

 「あれ?……これ何?」

 せっかくマキちゃんがその紙袋を手に取ってくれたのに……
 僕は……

 「………………」
 顔だけが赤くなった。

 そして、マキちゃんが、その紙袋を改めようとすると……

 「やめとけよ。きっと、誰かの忘れ物だよ。中なんか見ないで
先生に届けた方がいいよ」
 こう言って、逃げるように教室の外へと駆け出してしまう。

 その日はマキちゃんとは帰らず家に直行。

 『僕って、どうしてこう勇気がないんだろう』
 『マキちゃん、見たかな?見なかったかな?』
 と、そればかり考えてて、ずっと自己嫌悪だった。


 ところが、その日から三日後の日曜日、
 それまで誰からも何の連絡もなかったのに、いきなりお母さん
が……

 「今日、マキちゃんのお宅でお祝いがあるの。あなたも一緒に
行きましょう」

 『えっ!』
 いやはや、最初はひどく驚いた。

 『ひょっとして、僕がマキちゃんにブローチをプレゼントした
こと?……マキちゃんが怒ってる?……それとも……大人たちが
怒ってるのかな?』
 僕は、マキちゃんの家へ向う途中も心配げにお母さんの顔色を
窺ってみたが、お母さんは、別に怒った様子じゃなかった。

 はらはらドキドキのままマキちゃんの家へ着くと……

 「(ピンポーン)倉川です」

 お母さんの声に反応して、玄関の扉が開く。
 すると、マキちゃんが僕の目の前に現れた。

 「(あっ)!!!」
 僕がプレゼントしたブローチを胸に着けて……

 「さあ、あがって……一緒に記念日のお祝いをしましょう」
 マキちゃんの後ろから、マキちゃんのお母さんの声がした。



(あとがき)

 あとでわかったことですが、ブローチはそのままマキちゃんが
担任の安藤先生に届けたそうです。
 そこで、中をあらためたら……そこに、僕の下手な字が……

 これが単なる儀礼ではなく『心からプレゼント』だとわかった
先生は二人のご両親に連絡。

 大人たちで話し合ったあと、マキちゃんにこのブローチの事を
話したら……
 最初は驚いていましたが、お母さんの説得もあって『頂きます』
というご返事。
 そして、このパーティーとなったのでした。

 えっ、これって何のパーティーか……?

 マキちゃんにとっては『男の子から初めてプレゼントを頂いた
記念日』
 僕にとっては『女の子に初めてプレゼントをした記念日』
 ですよ。

 大人たちは、子どもたちのちょっとした成長でも喜んで、何か
につけて催し物を開きたがるんです。

 思えば、ダニーやメロディーは僕たちと歳も同じ11歳。
 僕たちは『結婚しよう』とまでは思いませんでしたが、お互い、
一緒にいれば他の御友だちより楽しいお友だち。恋人未満の関係
だったのです。

*************************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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