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美国園  <3>耐力検査

 ~ 中一グループ ~
 進藤佳苗(しんどう・かなえ)
 松倉亜美(まつくら・あみ)
 三井由香里(みつい・ゆかり)
 吉田恵子(よしだ・けいこ)
 木島弥生(きじま・やよい)


<3> 耐 力 調 査

 中一グループの五人は身体検査が終わると、しばらく放心状態
だった。

 もちろん、自分たちの番が回ってくるまでに、四年生、五年生、
六年生と妹たち三組が終わっている。
 聖書を複写しながら、どの子も舞台をチラッ、チラッと覗き見
していたのだから、自分たちがこの先どうなるのか、頭の中では
すでに学習済だったはずなのだが……。

 ところが、舞台に上がってみると……
 「………………」
 降り注ぐ上級生たちの視線が気にならないわけがない。

 『覗かれてる』
 そう感じるだけで両膝が震えて止まらなかった。
 心ここにあらずということなのだろう、中には自分の名前さえ
間違える子がいたくらいなのだから。

 まして、こんな処で裸になるなんて……
 それがどれほど勇気のいることか、五人はあらためて実感する
ことになる。

 しかも、彼女たちが受ける辱めはそれだけではない。
 テーブルの上で仰向けにさせられた五人は、最初、お臍の下を
綺麗にされるのだ。生まれて初めて谷間に生えだしたまだまだら
な軟らかい毛を、係りのシスターが手馴れた様子で綺麗さっぱり
剃りあげていく。

 院長先生からも事前の相談などはなく、気がついたら目の前で
ジョリジョリされいる。そんな子が少なくなかった。
 ということで……。

 「いやあ~」
 思わず悲鳴を上げてしまうと……
 「ほら、ピーピー言わない、ジタバタしないの」
 係りのシスターに一喝される。こちらは当然のことをしている
といった雰囲気だ。

 それだけではない……
 「あんたら、まだ子どものくせに、こんなの飾りは贅沢よ」
 そんなことまで言われて剃刀を大事な場所に当てられるのだ。

 美国園では、多少なりとも羞恥心を考慮してくれるのは高校生
から。中学生まではその扱いにおいて小学生と何ら変わりはなか
った。要するに子ども扱いというわけだ。

 今の人たちの感性では分かりにくいかもしれないが、古い世代
の人たちにはモラトリアムという概念がなく、相手を、大人か、
子どもかの二者択一で判断するところがあった。中学生の場合は
肉体的な変化は認めつつも、まだまだ稚拙な面が多いことから、
単純に子どもと見るむきが多かった。

 ましてや、古い価値観に縛られ日々禁欲的に暮らすシスターは
日頃向き合っているのが理性ある大人だけ。小中学生はというと、
いずれ理性を持たぬ山猿としか映っていない。
 彼女たちの頭の中では、男の子も女の子も全てが子どもとして
一括処理されるために、この二つに性差はなく、今なら当然配慮
されるべき乙女のプライドも、自ら女性でありながら考慮の必要
なしと判断していたのである。

 ただ、そんな山猿たちにも寝床は必要だから、身体検査が終り
バイブルの一節を清書し終わると、部屋が割り当てられる。

 五人部屋。ルームメイトは全員、中学一年生の少女たち。

 一人分は、粗末なパイプベッドと洗面用具が入った小さな鏡台
だけ。お隣とは一応カーテンで仕切られていたものの、何のこと
はない、大部屋の病室と言った風情だ。
 そこへ五人がやってきた。

 「あ~~~いや、今でもミミズが千匹体中を這い回ってる気が
する。気色悪いったらないわ」
 弥生は、さっそく与えられた自分のベッドで大の字になると、
これ見よがしに体中をかきむしる。

 「でも、いいじゃない、無事終わったんだから」

 由香里の言葉に佳苗が反応した。
 「まあ、今日のところは、これで終わりだけど……明日からが
ねえ……」

 思わせぶった言い方が気になったのだろう、今度は亜美が……
 「何よ、明日も身体検査やるわけ?」

 「身体検査はあれだけよ。だけと、他のことがあるの……」

 またしても佳苗が腹に一物って感じに聞こえるから、今度は、
恵子が凄んだ。

 「何よ!奥歯に物が引っかかってるみたいな物の言い方止めて
くれないかなあ!気になるじゃないの!言いたいことがあるなら、
はっきり言っちゃいなさいよ」

 「……ま、いいけどさ。知らない方が、今日はぐっすり眠れる
んじゃないかと思ったんだけど……」

 「どういうことよ?」
 亜美の声は大きかったが、気持はみんな同じとみえて、四人が
全員佳苗の方を向く。

 「去年の例だけど、身体検査の翌日は耐力測定があったのよ」

 「え~~~なに~~~今度は、体力測定?」
 「運動するの~~~?あたし、苦手だなあ~~~」
 亜美も由香里も誤解している。
 ひょっとして残りの二人も、やはりそれは誤解して耳に入って
来たかもしれなかった。

 「『たいりょく』って、べつに運動するわけじゃないわよ」

 佳苗の言葉に亜美は……
 「じゃあ、何するの?」

 「だから字が違うの。私が言ってるのは、体の力じゃなくて、
耐える力の方。耐える力と書いて耐力測定なの」

 「何よ、それ?」

 「う……うん……」
 佳苗は少し言いにくそうに間を持たせると……
 「だから手っ取り早く言っちゃうと、お仕置きの試験があるの」

 「何よ、それ……オシオキの試験って……」
 由香里は突然舞い込んだ言葉に頭の整理ができない。

 「だからさあ、その子がここのお仕置きにどれくらい耐えられ
るか、事前にチェックするのよ」

 「まさか~~~そんなのあり~~~~」
 「何よそれ……悪いことしたからお仕置きってことじゃなくて」
 驚きは当然だった。

 「そういうこと。……これは悪さをしたかどうかは関係なくて、
全員が受けさせられるの」

 「う、嘘でしょう、何も悪いことしてないのに私たちお仕置き
されちゃうわけ!!冗談じゃないわよ」

 「そんなの人権蹂躙よ」

 「私、お父様に訴えてやるわ」

 女の子の話は盛り上がり、その声は廊下にも鳴り響く。
 そこで、通りがかった若いシスターが顔を出すことになるのだ。

 「何が人権蹂躙なの。まだ嘴の黄色いひよこのくせに偉そうに。
……お父様に訴えるんですって、……どうぞ、どうぞ構わないわ。
ここでの体罰はすべてお父様の承諾を頂いてやってることなの。
あなたたちがどんなに泣こうがわめこうが、私たちが訴えられる
ことはないわ。…それに、もう一つ。あなたたちは大事なことを
忘れているみたいね。『私、悪いことなんか何一つしていません』
って顔してるけど、そもそも悪いことをしてない子は、始めから
ここへは来ないの。悪いことをしたから、お父様を怒らすような
ことをしたからここにいるんでしょう。どうやら、その辺りから
再教育しなきゃダメみたいね」

 「……………………………………………………」
 ストレートヘアの若いシスターにまくし立てられると、全員、
声が出なくなってしまった。

 「あら?みんな黙っちゃって、私、何か間違ったこと言ってる?
『悪い子にはお仕置き』これって世の中の当たり前じゃなくて…
…違うかしら?」

 「……………………………………………………」

 シスターは子供たちのだんまりに小さくため息をつくと……
 「たしかにさっきは、この部屋では相手にだけ聞こえるような
小さな声でならおしゃべりも許しますと言いましたけど、あなた
達の大声、廊下までキンキンに聞こえてますよ。もし耐力測定前
にお仕置きされたくなかったら、慎みなさい。いいですね」

 この部屋の室長でもある若いシスターはそれだけ言うと、一旦
部屋を離れる。

 これが自分たちの学校での出来事なら、すぐにでもおしゃべり
が復活しそうなものだが、さすがに後の祟りが怖かったのか……
 「また、あとでね」
 佳苗が言うと、それに異を唱える子はいなかった。


 とはいえ、ここに集まっているのは、若い女の子たちばかり。
このままずっと口をつぐんでいるなんてできなかった。

 おしゃべりはお風呂で再開する。

 「ねえ、でも、私たちのあんな詳しいデータなんて本当に必要
なのかしら」
 恵子が佳苗の背中を流しながら問いかける。

 サービスの裏には経験者の彼女だったらその辺の謎に詳しいん
じゃないのかという思い込みもあった。

 そんな思いを察してか、佳苗はこう答えたのである。
 「私もホントか嘘かは知らないんだけど、噂では、お父様の中
には、あのデータをもとに娘さんの生き人形を作る人がいるんだ
って。そういうの、お父様たちの中では流行ってるみたいなのよ」

 「生き人形って?……蝋人形みたいなものなの?」

 「さあ、材料が何なのかは知らないわ。ただ、私たちの身体を
忠実に再現した人形を職人さんに頼んで作ってもらってるらしい
わ」

 「いあ~~恥ずかしい。私、そんなのいらな~い」
 由香里が思わず両手で胸を隠す。

 「バカねえ、あんたの為に作るんじゃないわよ。……あくまで
お父様の趣味よ。娘の成長を写真や動画だけじゃなく、三次元で
も再現したいんだって……」

 「何だか悪趣味ねえ……でも、私のお父様はそんなことしない
と思うわ」
 亜美が甘えたような声を出すと……。

 「どうして、そんなこと分かるのよ?」
 佳苗が鼻で笑う。

 「だって、お父様は幼い頃から大の仲良しだもん。私、今でも
一緒にお風呂入ってるんだから……人形なんかいらないはずよ」
 亜美の言葉にその場にいた残りの少女たちはドン引きだった。

 「そんなのわからないわよ。愛してるからこそ、そうやって形
に残したいのかもしれないじゃない。だって、あなたは成長する
けど、人形は成長しないでしょう。可愛いままだもん」

 「それに、そのお人形、一体、何百万円もするみたいよ」

 「………………」
 一同絶句、本当にドン引きだった。

 父親が私の体でそんなお人形さん遊びみたいなことするなんて
……誰もが信じたくなかった。でも絶対にないとまでは言い切れ
なかったのだ。


 さて、次の日。それは約束通り行われた。
 それも、起きた瞬間から、行われたのである。

 朝六時、定刻の起床時間。
 とたんに、けたたましく手押しワゴンの車輪の音が廊下に響き
渡る。

 これは一台ではない。何台もの車輪の音が遠くから迫っている。
今日は耐力測定だが、これから毎日、このワゴンが寝ている少女
たちを叩き起こすことになるのだ。
 誰の身にも辛い朝の儀式だった。

 「おはよう、みなさん」

 どこかの部屋を係りのシスターが訪れたのだろう。まだ寝ぼけ
眼でいる少女たちの耳にもその晴れやかな声が聞こえる。

 『そうか、朝なんだ』
 ベッドで背伸びをするうち、この中一グループの部屋にもそれ
はやってきた。

 洗面器だのタオルだのワゴンには色んな物が乗っているのだが、
中でも少女たちの目を引くのが浣腸器。ピストン式のガラス製で、
ちょうど注射器を二周りほど大きくしたような形をしている。

 「!!!!」
 これを見て少女全員に緊張が走る。

 当時、病院にある浣腸器といえばたいていがこの形だったので
誰の目にも見覚えがあったのだ。
 この浣腸器、一般家庭で行なわれていたイチヂク浣腸と比べて
も迫力が違うことから、それはそれは強烈な思い出として残って
いた。

 今でこそ、子どもが病院に行っても滅多なことでは浣腸なんて
されなくなったが、当時は、医師の前で「熱があってお腹が痛い
みたいです」なんて母親が口を滑らそうものなら、たいてい注射
や薬の前にこの浣腸でお腹を綺麗にするのが一般的。

 だから、ここにいる五人も病院での浣腸は経験済み。もちろん、
それがどれほど恥ずかしいか、その後、何が起こるかも承知して
いる。だからこそ、このぶっとい注射器を見ただけで少女たちは
自然と緊張するのだった。

 「これから、お浣腸の耐力測定を行います。普段は時間を設け
ますが、今回はテストですから時間は区切りません。我慢できる
だけ我慢してください。もちろん、どうしても我慢できないなら
ベッドの上でやっても構いませんよ」

 早川シスターはごく自然に微笑んだが、少女たちの表情は……
 『そんなあ~~』
 というもの。

 「どのみち自分のベッドですから他の人に迷惑は掛からないわ。
……ただし、努力もせずにわざと漏らすなんて恥知らずなことを
する子はここにはいないと思うけど、それはNGよ。……もし、
そんな子がいたら……熱~いお灸をお臍の下に追加しますから、
そこは気をつけてね」

 若いシスターは若い子たちの緊張を解こうと思ったのか、茶目
っ気たっぷりの笑顔で、まだベッドの上にいる五人を前に説明を
始める。
 ただ、どうやって説明されようと、それはさらっと聞き流せる
といった内容ではない。全員が鳥肌をたてて聞くことになったの
は言わずもがなだった。

 『私たちにここでお漏らしをしろって言うの?』
 亜美の口びるが震える。

 『構いませんって……ここで我慢するの?このベッドの上で?』
 由香里は目が点になっている。

 「あの~~う」
 恵子が恐る恐る手を上げてみた。

 「何ですか、恵子さん」

 「もし、汚したら……これ……自分で洗うんですか?」

 恵子の質問に、他の四人の顔は複雑だ。
 『そんな最悪のケースを今はまだ考えたくない』
 そんな顔だった。

 「高校生なら、当然そうだけど、あなた方はまだ中学生だから
子ども扱いということで下働きのシスターが洗ってくれるわよ。
……どう?安心した?」

 「そうですか……わかりました」
 恵子の力ない返事が返ってくる。

 「ただし、これはわざと粗相したわけではないとこちらで判断
した場合だけよ。もし、恥も外聞もなくわざとやったりしたら、
自分で洗って中庭に干してもらいます」

 「えっ、どうして?」
 思わず恵子の顔が上がってしまった。

 「当たり前じゃない。不可抗力とわざとは違うの。ここでは、
わざと罰を免れようという子には特に厳しいお仕置きが待ってる
から、覚えておきなさい」

 「はい、シスター」
 恵子の消え入りそうな小さな声。
 『何だかバカなこと聞いちゃったかな』という思いも含まれて
いた。

 「ここでは何事にも全力で取り組まない子には厳しいお仕置き
があるの。みなさんも覚えておいてね。このお浣腸も当然そう。
わざと汚したりしたら洗濯だけじゃないわ。その物干しの隣りで
シーツが乾くまでパンツ一つで立ってなきゃいけないし、先ほど
言ったけど、お股の中を焼く『特別ヤイト』というのもあります。
せっかくの夏ですもの。冷たいのよりむしろ熱い方がお好みなら、
そうしてくださって結構よ」

 シスターは悪魔チックな笑顔を見せて微笑む。こうした場合、
もちろんこれは完全な脅しだった。

 お灸は当時の子どもたちにとっても最高刑。ましてお股の中だ
なんて、脅しに決まっているが、脅された方としては『実際には
やらない』という確証もないわけで……。
 このあとほとんどの子が自分のベッドの上で死ぬほど辛い我慢
をすることになるのだ。

 というわけで、子どもたちにしてみれば、シスターの言葉は、
信じられないほど残酷な宣言ということになるのである。

 「人によって耐えられる力は様々でしょうけど、あなたたちの
場合はまだ小学校を卒業してきたばかりですから、体もまだ華奢
ですし長時間は無理でしょうね。ただ、こうして見ると最近の子
らしく発育もよくてお尻の筋肉もしっかりしているみたいだから、
……そうですね……45分くらい我慢できるんじゃないかしら」

 『嘘でしょう……45分なんて……そんなに我慢できないわよ』
 由香里は思った。でも、それは他の子も同じ思いだったのだ。

 「あらあら、ずいぶん深刻な顔になっちゃったわね。……でも、
大丈夫よ。そんなに長くはしないから……とはいっても、30分
以内というのはないかもしれませんね。ま、そのつもりで頑張り
ましょうね」

 『さ……さんじゅう……ふん』
 弥生は気が遠くなりそうだった。
 いや、弥生だけではない。45分が30分でもそれはそんなに
変わらない。佳苗を除く四人が四人ともショックで口がきけない
でいた。
 
 実際、病院での浣腸も、薬の効果を上げるためトイレを5分か、
10分程度待たされたりするものだが、それでも大変な思いだ。
 全身に鳥肌がたち、脂汗で全身ぐっしょり。膝の震えは止まら
ないし、何かをしっかり握りしめていないと、飛び出してしまい
そうで怖い。当時はゴムプラグなんて一般的じゃなかった。

 それが浣腸なのだ。
 それを30分だなんて誰も乗り切れる自信がなかったのである。


 「さあ、始めるわよ。まず、自分のベッドの上で仰向けに寝て
くださいね」

 若いシスターの号令一下、どの子もその命令に反抗しなかった。
 渋々には違いないが、誰もが自分が寝ていた白いシーツの上に
身を置いて天上を眺めることにしたのである。

 「よろしい。このあとは全て私がやりますから、あなたたちは、
ただじっとしていればそれでいいの。それがあなたたちの仕事よ。
楽チンでしょう。……だから約束して欲しいの。奇声を上げたり、
暴れたりはしませんって……もし、それができない子には、別の
お仕置きをしますから、注意してね」

 早川シスターは、まだ中一の彼女達から見れば気品たっぷりの
お姉さんシスターだが、取っ組み合えば自分たちでも勝てそうな
ほど華奢に見える。しかも、こうして見渡せば、この部屋にいる
大人は彼女だけだし、彼女さえ突き飛ばせばこの部屋を逃げ出す
ことも可能なはず……
 亜美はよからぬことを考えていた。

 すると、ここで不思議な事が起きる。
 「亜美ちゃん、気持はわかるけど、あまり男の子みたいな冒険
は考えない方がいいわよ」
 早川シスターが、亜美の目の動き、ちょっとした素振りだけで
その心の奥底を言い当てたのだ。

 「たとえこの部屋を突破できても、その先にはたくさんの先輩
シスターたちが待ち構えているし、迷路のようになった学園内の
どこをどう行けば出口に辿り着けるのか、あなた、それも分から
ないでしょう」

 「……(えっ、どういうことよ。どうして私の考えてることが
分かるの?)……」
 微笑む早川シスターに、亜美は無言を通す。
 それは、何一言もおしゃべりしてないのに、どうして私の心が
読めるのか……怖くてならなかったからだった。

 タネをあかせば簡単なこと。
 多くの子がここで無謀なチャレンジを試みるから早川シスター
が先手を打ったのである。

 だから、これは亜美だけに効果があったのではない。他の子に
対しても、そのギラギラとした反抗的な瞳を閉じさせるのに効果
があったようだった。

 まず、全員のパジャマのズボンが脱がされる。
 脱がされたズボンは部屋の隅に放り投げられ、すぐに取り戻せ
ない場所へと行ってしまう。
 その結果、まずは下半身スッポンポンの少女たちの悩ましい足
が10本、5台の寝台に並ぶことになるのだった。


 そうしておいて早川シスター、まずは佳苗のベッドへとやって
来る。

 「あら、お久しぶりね、佳苗さん」
 早川シスターが、ベッドの上で無表情に天井を向いている佳苗
を覗き込むと、佳苗はプイと横を向く。

 「…………」
 しかし、覗き込まれた佳苗は顔をこわばらせていた。
 怯えていたと言うべきかもしれない。

 さっそく……
 「あら、一年も経つとご挨拶の仕方も忘れちゃうのかしら」
 シスターのイヤミがその顔に飛んでくる。

 「こん……こんにちわ、早川シスター」
 声は小さかったが、佳苗も覚悟が決まったようだった。

 「去年から見ると……あなたも、ずいぶん大人になったみたい
ね」
 早川シスターはまるで横たえたミイラを前に興奮する考古学者
のような目つきで佳苗の体を嘗め回す。

 女の子の身体が変化するのは、胸と腰とお臍の下。
 早川シスターはその全てに目を通した。

 「あなたがここへ再び足を踏み入れたのは残念だけど……でも、
その分、あなたが大人になっていていれば、こちらも助かるわ。
脱走3回は、あなたがまだ小学生だったから先生方も大目に見て
くださったけど、中学生にもなると最初の1回目から受ける罰が
グンと違うから、そこは大人の判断をしてちょうだいね。私も、
あなたの悲鳴は二度と聞きたくないもの。協力してくれるわね」

 「………………はい、シスター」
 佳苗は少し考えてから返事を……。
 色んな思いを整理するのに時間がかかったのだ。

 「そうそう、その調子。女の子はね、素直が一番なの。女性は
男性のように片意地張っても何もいいことはないわ。あなたも、
もう中学生なんだし、いつまでも『幼い子だから仕方がない』は
通らなくなるわよ。さあ、それじゃあ両足を上げて協力してね」

 早川シスターの言葉に佳苗は逆らわない。
 同部屋の子たちが、見てはいけないと思いつつもこちらを覗き
見している……そんな気配を感じながらも、彼女は両足を上げる。

 そこには、女の子の全てが綺麗に縦に並んでいた。

 あられもない姿というのは、まさにこういうことなのかもしれ
ないが、ここではこれが日常。佳苗だけではない、ここにやって
来た女の子のすべてが毎朝この姿にならなければならなかった。

 「ちょっと、拝見するわね」
早川シスターがそう言って触れた場所は、女の子、それも若い子
が最も強く刺激を感じる場所だった。

 ビニールの手袋さえつけていない素手の感触が、まだ思春期が
始まったばかりの幼い少女にとってどんなものか……

 「あっ~~~~イタイ、イタイ」
 長い吐息のあと、我慢しきれず正直な気持が口をついてでた。

 「まだ、固い蕾のようね」
 早川シスターがポツリと独り言。

 それに反応した佳苗が顔色を変えたのがシスターには見えたの
だろう。
 「あら、ごめんなさい。気に障ったかしら?……でもね、こう
したものは、たった一度でも、その密の味を覚えると、なかなか
抜け出せなくなるから……でも、あなたは立派よ。最初は誰でも
興味本位だけど、でも、それが抜き差しならなくなって、結局は
うちに来る子も多いの……誰とはいえないけどね」

 早川シスターは佳苗の大きな太股を左右に開くと、その間から
顔を出して可愛らしく笑って見せる。

 「でも、あなた……この一年でずいぶんと成長したじゃない。
こんな処にも、もうちゃんと毛が生え始めてるし……」

 早川シスターに言われて佳苗は顔が真っ赤になった。
 というのも、女の子は意外なほど自分のその場所には無関心で
お風呂や寝室で一人でいても、そのたびにしげしげと眺めたりは
しないものなのだ。恐らく佳苗も早川シスターに指摘されるまで
その事実は知らなかったに違いなかった。

 「あっ……あああ~~~……んんんんん……いやあ、いやあ」
 佳苗の頭が左右に揺れる。

 早川シスターはその後も遠慮がなかった。オシッコの出る穴、
赤ちゃんが出てくる処、そして、もちろんウンチの出る穴も……
穴のあいてる場所はすべて触れてみたのである。

 そして股間に異常のないことを確認すると、最後に一つ強めに
下腹をグイっと押してからその場を一旦離れた。

 「それでは始めますからね」

 シスターは、ベッドの脇に止められたワゴンに向かい、小さな
バケツの中にピストン式の浣腸器を突っ込んでグリセリン溶液を
吸い上げる。

 これが病院なら、さしずめこげ茶色の薬壜からおごそかに……
なんだろうが、ここでは朝の忙しい時に、五人をいっぺんに処置
しなければならない。そこで、浣腸液は、賄い担当のシスターが
調理室でバケツに作り置き、それを担当するシスターが受け持ち
の部屋へと運んで行く手はずになっていた。

 「わかってるでしょうけど、お尻の力を抜いてね。………もし、
このガラスの先が一回でお尻の穴に刺さらなかったら、反抗あり
とみなして、お仕置きが追加されるの……そういうこと、覚えて
るわよね」

 早川シスターの注意に佳苗は僅かに顎を引いてわかったという
合図。
 実際、故意ではなくとも、ガラスの先端がお尻の穴を刺激した
瞬間、お尻の穴に力を入れて肛門を閉じてしまう子は多いのだ。

 佳苗も昨年は幾度となく追加のお仕置きをもらった口だった。

 「あっ」
 ガラスの尖った感触がお尻の穴を刺激する。

 その一瞬、佳苗はお尻を閉じたが、すぐに思い直してその先端
を受け入れる。今頃は、カテーテルを繋いで先端もゴムになった
が、この頃はまだピストン式浣腸器の先端を直接肛門に押し入れ
るやり方が一般的だった。

 「…………」
 グリセリン溶液がお尻の中を逆流する感覚は、何とも言えない
不快感だ。

 「さあ、もう一本よ」
 一回が50㏄。二回なら100㏄。
 たしか昨年は1回で済んでいたから、『あれっ?』と思ったが、
言えなかった。

 代わりに早川シスターが……
 「小学生の時とは体が違うもの。50㏄じゃみんな鼻歌混じり
でしょう」

 佳苗は早川シスターの笑顔が憎たらしかった。
 小学生の時から確かに身体はいくらか大きくなったけど2倍に
なんかなってない。昨年は5人が5人とも泣きながらお漏らした
のを覚えているのだ。

 『どのくらい我慢できるだろう?』
 佳苗の脳裏には失敗する自分の惨めな姿しか映らなかったので
ある。

 「あっ……また入って来た……」
 二本目が下腹に入ると、自分でもその重さが分かるのだ。

 「さあ、今度は……オムツを当てましょうね」

 早川シスターは童顔だから、普段も高校生くらいに見える。
 だから、大きな赤ん坊にオムツをあてるその姿も、母親という
より、ママゴトを楽しむ少女のように無邪気に見えた。

 『あっ、やだ~~……だめえ~~~』
 グリセリンの効き目は早い。
 オムツを着け終る前に、早速、佳苗は顔をしかめなければなら
ないのだ。

 「あっ、だめ」
 思わず出た佳苗の言葉に、早川シスターが反応する。

 「何言ってるの、経験者が……そのうち、慣れるって知ってる
くせに……」
 意地悪な物言いに佳苗はさらに顔をゆがめる。

 実際、浣腸の効果には波があって、いつも一定に苦しいのでは
なく周期的に恐怖が襲ってくるのだ。
 最初の激しい便意を乗り切れば、その後は比較的楽に過ごせる
時期がおとずれる。
 そして、また……

 「あああっ~~~ひぃ~~~~いやあ~~~~」
 全身、鳥肌で脂汗の地獄が……これが、無限に続くことになる
のだった。

 もちろん、佳苗だけが犠牲者ではない。
 五人全員が早川シスターによって浣腸され、オムツを穿かされ
自分のベッドで四つん這いになって30分という時間が過ぎ去る
のを待っている。

 一応、プライバシーを尊重して、お互いベッドが見えないよう
間仕切りのカーテンは閉じられているのだが、この時、他人の事
に構っていられる余裕は誰一人持っていなかった。

 五人が五人とも、自分の事でとにかく精一杯なのだ。
 『とにかく恥をかきたくない』
 それだけが望みで全員シーツを必死に握りしめていたのである。


 30分という時間は、普段ならさして何も感じないほどの短い
時間なのかもしれないが、こうして過ごす30分は、その長さが
身にしみる。

 オーバーでも何でもなく気絶しそうなくらい苦しい時間なのだ。
しかし決して気絶なんかできなかった。もし、そんなことしたら
……

 『私、生きていけない』
 なりたての乙女たちは譲れない一線をそんな思いで耐え続ける。

 そんな苦悶の時間がベッドテーブルに置かれた砂時計によって
刻まれていく。
 『まだ10分』『まだ5分』『まだ2分』
 誰もが砂の落ちるスピードが他の物より遅いように感じられ、
30分は5時間にも8時間にも感じられるほどだった。


 「はい、よくがんばったわね」
 早川シスターが最初に始めた佳苗についてその終わりを告げる。

 ホッと一息と言いたいところだが、これですぐに楽になるわけ
でもなかった。

 「どう?まだ大丈夫?……それともオムツの中にしちゃう?」
 早川シスターは佳苗に確かめる。

 お姉さん達に比べれば濃度が薄いとはいえ、まだ幼い体の彼女
たちにとっては30分が限界で……もし、オムツを取り除くと、
オマルに跨る前に、そのまま………なんてケースも……

 もちろん、子どもたちは、そんな赤ちゃんのような真似なんて
イヤに決まってるが、意地を張った結果がどうなるか……今なお
続く下腹の大波が、『限界』『限界』『破滅』『破滅』と警告を発し
続けている。

 そんな恐ろしい未来予想図が頭をかすめた少女たちにとって、
 『ここではシスターの好意に甘えよう』
 というのも一つの選択肢だった。

 しかも佳苗は経験者。
 『今さらここで見栄を張っても仕方ない。これより辛く惨めな
行事がここではまだ沢山あるのだから……』
 彼女はオムツをトイレ代わりにした。

 四方をカーテンに遮られているから自分の醜態を直接友だちが
見学することはないものの、そりゃあ大変な勇気が必要だった。

 おならの音は聞こえるし浣腸液で薄まったと言ってもまったく
臭わないわけではない。何が起こっているのかを友だちは容易に
想像できるのだ。

 「……………………………………………………………………」
 仰向けになって両足を高く上げた佳苗の頭の中は真っ白。
 何も考えられない。何も考えたくない時間が流れていく。
 佳苗としては今起こっているこの忌まわしい現実が一刻も早く
流れ去って欲しかった。

 そんななか……
 「さあ、赤ちゃん、終わりましたよ」
 早川シスターは、終始ブスッとした顔を横に向けていた佳苗に
皮肉を込めて微笑みかける。
 それは満足という笑顔だった。

 男の感覚で言うと、本来、こんな事をしていて一番大変なのは
早川シスター本人のはずなのだが、こんな汚れ仕事をしていても
彼女自身はそれほど不満そうではなかったのである。

 勿論、『これはあくまで仕事』という割り切りもあるだろう。
しかし、何より大きいのは『哀れな少女を私が救ってやった』と
いう優越感が彼女の笑顔の原因だったのだ。

 奉仕する側とされる側の心模様。男の子の場合はどんな時でも
サービスを受ける側が有利だが、女の子の世界は逆。佳苗と早川
シスターの間には雲泥の差があったのである。


 佳苗の処置が終わると、次は亜美。
 彼女は早川シスターがそのベッドを訪れた時、すでに事切れて
いた。

 しかし、早川シスターはここでも慌てた素振りは一切みせない。
 もとよりこうなる事は自然なことだからだ。

 「大丈夫よ、心配しないでね。今すぐ綺麗にするから」
 穏やかな笑顔のシスターは放心状態の亜美を優しく介護した。

 「何も気にする必要はないわ。これはあなたの責任じゃないん
だから」
 シスターの手が、普段の生活では他人には絶対に触れさせない
場所を侵食していく。

 強烈な屈辱感。それまで築き上げてきたプライドがポッキリと
折れ『私の生涯はこの人にハンデを背負わされる』という恐怖が
圧し掛かる。

 亜美は自らに降りかかった不幸をあれこれ嘆いてはシスターの
処置が終わるのを待っていた。

 ところが、そんな不幸の真っ只中にあって亜美は自らの胸の奥
から湧き起こる不思議な感情を感じていた。

 甘く切ない思い。どこか懐かしい甘えの気持。
 そう、母にオムツ替えをしてもらっていた赤ん坊の頃の記憶が
一種の快楽となって蘇ってきたのだった。

 もちろん、そんなこと誰にも話すことはできない。自分の心内
でさえ消し去ろうとした思いだったのだから。
 しかし、その刹那の思いを、彼女は完全に消し去ることができ
なかったのである。

 「さあ、いいわよ。……しばらくは無意識に漏らしちゃうかも
しれないから、もうしばらくはオムツで我慢してね」
 早川シスターはそう言って亜美のベッドを後にする。


 三人目は由香里。
 彼女は前の二人とは違い未だ自らのプライドを守り続けている。

 四つん這いになった顔は真っ赤。シーツを弾き千切れんばかり
に握りしめ、全身を震わせて、未だ煩悩と戦い続けているのだ。
 この煩悩を沈めるのも早川シスターの仕事だった。

 「おめでとう由香里さん。よく頑張ったわ。もう、おしまいよ」
早川シスターは由香里を祝福して、その身体を持ち上げようと
したが……

 「いやあ~~~だめ~~~」
 由香里から強烈な拒否反応が返って来る。

 言葉だけでなく、その身体も1ミリたりとその場を動こうとは
しないのだ。
 いや、正確に言うと……動けなかった。

 彼女は必死に操を守り通した結果、今や、この姿勢で固まって
いたのである。もし、ほんのちょっとでも姿勢を崩したら大爆発
を起こしてしまう。
 そんな恐怖から由香里はその場を動けなかったのである。

 「いやあ~~~触らないで!!」
 少女の必死の声が甲高い声く部屋中に響く。

 しかし、早川シスターにしても、このままにしておくわけには
いかなかった。
 そこで、大波が治まるほんの僅かな時間を利用して、少しずつ、
ほんの少しずつ体勢を変えさせていく。

 そして、他の子の10倍は時間をかけて、ようようベッドパン
へ跨らす事ができた。

 ところが、ここでも由香里は抵抗する。
 こんな姿勢になっていてもまだ頑張っているのだ。

 30分もの間、全身全霊をかけて守り抜いた操を、そう簡単に
捨てられない。
 『今はもう大丈夫』『ここでやっても許される』と頭の中では
理解しているのに身体が反応しないのだ。

 「まだ、頑張ってるの。もう、いいのよ。ここで出してしまい
ましょう。どの道、いくら頑張ってもトイレにはいけないもの」

 早川シスターは説得を試みたが、一度固まってしまった強固な
由香里の意志は、すでに理性でのコントロールを失っていたので
ある。

 これもまた、この世界ではよくあることだった。
 だからシスターもまた慌てない。こんな時はどうすればよいか
彼女もまた十分に心得ていた。

 「はい、あまり、我慢してると身体によくないわよ。ここは、
カーテンで仕切られてるから他の子からは見えないの。大丈夫、
大丈夫よ、心配要らないから、ここでやっちゃいましょう」

 早川シスターはそう言いながらオマルにしゃがみ込む由香里の
下腹をゆっくり揉み始めた。

 そして、ものの10秒。
 それまで必死になって我慢し続けてきた由香里のお腹がそれに
以上耐えられるはずもなかったのである。

 「いやあ~~~~~」
 その瞬間、プライドが壊れた時の音が室内に響き渡る。

 これだけではない少女たちが命の次に大事にしてきたプライド
をここではいとも簡単に壊していく。

 女の子は『従順』『勤勉』ならそれでよいと思われていた時代。
そもそも女の子にプライドなど必要ではなかった。なまじそんな
ものを持っていると親の意見にさえ素直に耳を貸さなくなるから
かえって害悪だ、なんて意見さえあったほど。
 よくも悪しくも女の子は親や教師のお人形だったのである。


 プライドという鎧から開放された少女たちは、身も心も丸裸に
なって一時的に色んなコンプレックスに苛まれることになるのだ
が、それこそが大人たちの狙いで、指導者達はそんな因幡の白兎
のような少女たちを優しく介抱し、自分達への忠誠心を植えつけ
て、正しい道へと子供たちを導く。
 これが当時の更生。

 よって、こうした場所でのハレンチな行事は日常茶飯事だった
のである。


 四人目は吉田恵子。
 終わった三人は、言ってみれば良いとこのお嬢様タイプだが、
彼女と弥生は生まれ育ちが違っていた。
 二人は生まれも育ちも根っからの下町育ち。庶民の出だった。

 「あらあら、凄いわね。あなた、起き上がって大丈夫なの!?」
 早川シスターが驚くのも無理がない。仕切りのカーテンを開け
ると恵子はすでにベッドから起き上がっていたのである。

 「砂時計の砂が全部落ちたみたいなのでトイレへ行ってきます」
 気丈にも彼女はそう言って本当に歩き出そうとする。

 「ちょっと、待って……トイレまで遠いわよ。この部屋を出て、
廊下の先にあるけど……もし、途中で………」
 
 早川シスターは慌てて止めたが、恵子はそれを無視して歩こう
とするのだ。
 実際それって、とても危険なことだった。

 部屋の中には早川シスターを除くと他は同級の友だちばかり。
もちろん、友だちと言ってもどの子も昨日知り合ったばかりだが、
それでも彼女たちとは同室で、歳も同じ女の子同士。これからも
ずっと一緒に暮らす仲間たちだ。たった一晩といっても、すでに
何度もおしゃべりを繰り返して、お互い少しは分かりあえる間柄
になっている。その分、親近感だってあるのだ。

 それが、歳の離れた、これまでまったく口をきいたことのない
お姉様たちの前で醜態を晒すことになったら……。
 それって、同じ恥をかくにしても心に残る傷が断然違ってくる
のをシスターたちには長年の経験から分かっていた。

 もちろん、そんなこと今の恵子に関係ない。
 恵子の今は、恥をかきたくない一心。こんな処でやっちゃいけ
ないという義務感みたなものに突き動かされて必死に歩みを進め
ているのだ。だが、そこには冷静な判断が必要がだった。

 「院長先生!ちょっとお願いします」

 緊急性を感じたのだろう早川シスターが珍しく大きな声を出す。

 それに呼応して、すぐに院長先生が部屋を訪れた。
 院長先生は恵子たちの部屋に入るなり、ひと目で状況を把握。
笑顔で恵子を説得し始める。

 「あら、あなた、立派ね。自分でトイレへ行くのね。さすが、
乳母日傘で育ったお嬢様と違って下町の子はしっかりしてるわ。
偉いわよ。女の子はどんな時でも自分の事は自分でしなくちゃね。
……でも、この廊下は長いの。もし粗相なんかしたら、あなたが、
みんなの見てる前で、自分の粗相をお掃除することになるわよ。
それで、いいのかしら?……そんな危ないことをするより、この
部屋でやってしまった方がよくないかしら?だって、ここにいる
お友だちは、みんな、あなたと同じ境遇ですもの……恥ずかしい
なんてことないわ」

 「…………」
 しかし、恵子は首を縦に振らなかった。
 あくまでトイレだったのだ。

 すると、院長先生の方が方向転換。
 「いいわ、じゃあ、先生が手伝ってあげる」

 院長先生は納得した様子で恵子に近づくと……
 「あっ!」
 一瞬の早業で恵子の身体をお姫様抱っこした。
 そして、そのまま抱えて、トイレへと向かう。

 「あっ、院長先生、それは私が……」
 あまりの早業に早川シスターは着いていけず、部屋を出る院長
先生の背中に越しに声を掛けた。

 すると……
 「大丈夫よ。あなたは最後の子を手伝って……」
 院長先生はこう言い残すとそのままトイレへ。

 普段は上下関係がわりにはっきりしている修道院の社会だが、
このお浣腸ばかりは、一刻を争うので、誰彼なく手の空いた者が
その場の仕事を手伝う不文律となっていたのである。


 最後は木島弥生。
 彼女もまた恵子同様庶民の出なのだが、対応は恵子とは真反対
だった。

 実は、ベッドで四つん這いの姿勢でいる彼女のオムツはこの時
すでに膨らんでいたのだ。

 弥生は恥ずかしそうにしている。すでにお漏らししてしまった
ほかの子同様、申し訳なさいそうにしている。

 これって傍目で見る限り、何の問題もないように見えるのだが、
早川シスターの彼女を見つめる視線は厳しかった。
 彼女は子どもたちに浣腸を施した後もその様子をつぶさに観察
していたのだ。その観察眼からすると弥生の様子は不自然と感じ
られたのである。

 とはいえ、いきなり怒鳴ったりはしない。
 最初は穏やかに……

 「あら、あら、漏らしちゃったの?……大変だったわね。……
すぐにオムツを換えてあげるわね」

 早川シスターの言葉は文字に起こせば他の子と何ら変わりない
扱いだが、弥生は自分に向けられたその言葉に棘のようなものが
あるのを、すでにこの時、感じ取っていた。

 仰向けになってベッドに寝そべり、女の子にとってはこれ以上
ないほどの恥ずかしい、そして屈辱的なサービスにもじっとして
耐えていた弥生だったが、彼女の場合、さらにもう一つ耐えなけ
ればならない試練があったのである。

 「あなた、私がこんなことやってても、ちっとも恥ずかしそう
じゃないわね」

 弥生は早川シスターの言葉に慌てる。慌てて再び恥ずかしそう
な顔を作ってみせたが……

 「もう、およしなさいな」
 早川シスターにはそんな作り物の困惑顔がそもそも不快だった
のである。

 「私、注意したわよね。どうにもならなければ仕方がないけど、
頑張れるだけ、頑張りましょうって……あなた、これ、頑張った
結果かしら?」

 「…………」
 早川シスターの全てを見通したかのような自身ありげな物言い
に弥生の心はその芯が震える。
 弥生にしてみれば、真剣に我慢しているかどうかなんてどうせ
外からは分かりっこない。そう高を括っていたのだ。

 『ここにいるのは夏休みだけ。新学期が始まればもう会う事も
ないんだから、恥をかいても噂が広がる気遣いはない。だったら、
なるようになるさ』
 そんな男の子的な開き直りも彼女の心の中にあった。

 ところが、そんな思惑が通用しそうにない。

 そんな少女の心の動揺も、早川シスターは見逃さなかった。
 「弥生さん。あなた、随分度胸があるのね。私たちを試そうだ
なんて……しかも、こんな事までしでかすなんて……女の子には
なかなかできない芸当だわ」

 早川シスターの射るような視線に怯えて、弥生は思わず……
 「私はそんなこと……」
 と取り繕ってみたのだが……シスターはさらに眼光鋭く弥生を
睨みつける。

 女の子の世界では人を裁くのに証拠はいらなかった。
 素振りが怪しいというだけで彼女は有罪なのである。

 「そんなあなたの度胸には感心するけど……でもね、私たちも
これまで色んな子どもにたくさんのお浣腸をしてきたの。いわば、
『お仕置きのプロ』ってところかしらね。……だから、その子の
様子を見ていれば、それが不可抗力による事故なのか、それとも
真剣に私たちの罰を受けようとしているのか、ひと目で分かるの」

 「……でも……私は……」
 青くなった後も、弥生は再度反論を試みたが……

 「やめなさい。そうやって自分の心を偽るのが一番よくないわ。
ここではね、あなたが真実と向き合わうまでは罰がずっと続くの。
それって女の子の一番悪い性癖だから徹底的に是正させるのよ。
それがどんなに厳しく辛いことか……経験者はみんな地獄だった
って……そんなこと、経験しないにこしたことがないでしょう」

 「…………」

 「ここでは、バカになって素直にしているのが一番幸せに家へ
帰れる道なの。無駄な抵抗はしないにこしたことがないわよ」
 早川シスターはす弥生の耳元で囁く。

 「そうすれば、罰を受けずに済むんですか?」

 「いいえ、それでも罰はあるわよ。だって、お父様はその為に
あなた方をここによこしたんですもの。ただね、余計にぶたれる
ことはないでしょう」

 「…………」
 弥生は本当はそんな顔をしたくなかったが、悲しい顔になった。

 それに追い討ちをかけるように……
 「……それとね、あなたの場合、この検査では正確なデータが
でなかったから、次の耐力測定で倍の負荷を受けてもらうことに
なるの。それは我慢してね」

 「まだ、あるんですか?」

 「あるわよ、次はお尻叩きなの、あなたのお尻がケインの鞭に
どれだけ耐えられるか、テストするの。あなたの場合は他の子の
二倍の鞭を受けてもらうことになると思うわ」

 「…………」
 弥生は思わず息を呑んだまま言葉にならない。
 正直、卒倒しそうだった。

 「大丈夫よ。そんなに怖がらなくても。みんな参加するテスト
ですもの。これでお尻が壊れたなんて子もいないのよ。それに、
鞭打ちによる測定は身体をしっかり押さえつけてから行うから、
今回みたいなズルはできないの。あなた向きのテストよ」

 早川シスターの言葉は弥生にとって悪魔の囁き。
 少女はこのまま目をつむり、翌朝、あらためて目を覚ましたか
った。すべては夢だったことにして、この忌まわしいお話を終わ
らせたかったに違いない。

 しかし、現実は思うに任せない。
 こうして自分が粗相してしまったオムツの取替えを見続けなけ
ればならないのだ。惨めな自分と離れることはできなかった。

 「ほら、じっとしていなさい!」
 早川シスターの罵声が飛ぶ。
 13歳の少女には、こうした時でさえ夢の中へ逃げ込むことが
許されていなかったのである。


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Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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