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4/29 締め出し

4/29 締め出し

*)ショートショート

 「あんたみたいな子はもうおうちには入れません。どこへでも
行っちゃいなさい」

 お母さんにそう言われて僕は勝手口から突き出された。
 あとはガラス戸がピシャンと閉まって、要するに締め出された。

 「やれやれ……」
 僕はため息をつく。これがもっと幼い頃なら、「ごめんなさい」
と言って勝手口の扉を叩くところだろうが、すでに僕も四年生、
そうそうみっともないまねもできない。

 そこでどうしようか頭をめぐらした結果、一つの結論に達する。

 『不知火君の処に行ってみよう』
 そう思った。  

 不知火君というのは、隣のクラスの学級委員なんだけど、学校
では僕とも親しかった。
 ただ彼の家は僕の家から遠い。自転車でも1時間以上の距離だ。

 だから、おいそれと彼んちに遊びに行けなかったけど、今日は
これから時間も空いてることだし、遊びに行ってみるか……

 軽い気持だった。

 山を越え、谷を下り、橋を渡り、自動車の排ガスを吸いながら、
一時間の道中は小4の子にはちょっときつかったけど、それでも
本人がまだ家にいたからラッキーだった。

 「何だ、お前、そんな遠くから来たのか!?」

 不知火君のお父さんが驚く。不知火君ち、バイク屋さんだった。

 暗い階段を上がって、ひらけた六畳間が彼の城。

 でも、天才を謳われた不知火君にしては本が少ない気がした。
 「これだけ!?」
 なんて、偉そうな事を言ってしまった。

 僕の部屋にはこの何倍も色んな本があるけど、そもそも僕って
本を読まない。飾っとくだけなんだから意味がないのだ。

 そんな恥ずかしい話は彼にはせずに、彼が実際、読んでる本を
見せてもらうと、これがやっばり凄かった。

 不知火君の部屋にある本には『少年・少女』という定番の文字
がないのだ。

 『少年朝日年鑑』ではなく、『朝日年鑑』……『少年少女文学
全集』じゃなくて、ただの『文学全集』といったぐあい。

 何だかそれだけでコンプレックス。

 「凄いなあ不知火君って、読んでるのって、みんな大人が読む
ものばかりじゃないかあ」
 って言うと……

 「みんな兄貴のお古。家が貧乏だから買ってもらえないんだ。
それより、君の方が凄いよ。あれだけ習い事抱えながらだもん。
昔から先生たちに『朝倉の弁天小僧』って呼ばれてたんだろう」
 彼、他人を持ち上げるすべも知ってる。

 お互い褒めあってても仕方がないから、その後は庭に出て卓球
で汗を流し、家に戻って野球盤でゲームをやった。

 もち、こんな時は彼だって勉強時間のはずだが、いきなり来て
邪魔してしまった。おばさんはおやつを持ってきた時、笑顔だっ
たけど、後で彼、叱られたかも……

 とにかく、夕方まで遊んだ。
 話が合うから楽しいのだ。

 「そうか、君のおうちは朝倉だよね。こんな時分から自転車で
帰ったら途中で暗くなっちゃうよ。今日はうちでご飯食べて行き
なさい。その後、バイクで送って行ってあげるから……お母さん
心配してるよ」

 おじさんに言われて、その通りにしたんだけど……

 おじさんが何度うちに電話しても話し中なんだ。

 そこで、仕方なく家には連絡せずに帰った。
 おじさんが運転するバイクの荷台で、おじさんの腰にしっかり
しがみついて……こんな体験生まれて初めて。とってもとっても
スリリングな旅だった。

 というわけで帰宅。

 すると、何やら大勢の人が家の周りにたむろしている。消防団
の人たちも大勢いたから火事かと思って、玄関の処で心配そうに
しているお母さんの袖を引いてみた。

 「ねえ、ねえ、火事だったの?」

 すると、僕の顔を一瞬見て……
 「そうじゃないの。あんたがいないから探してもらってるんで
しょう」
 という答えだったが……もう一度、僕の顔を見ると、いきなり
しゃがみ込んで抱きしめた。

 「あんた、どこに行ってたの。心配するでしょう。遠くに行っ
ちゃいけないって言ってるでしょうが……」
 何が何だかわからないが、僕の頭を抱いて泣いている。

 だって、お昼には『どこへでも行っちゃいなさい』って言って
たみたいだったけど……
 大人ってすぐに勝手な事を言い出すから、困ったものなのだ。

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4/30 閉じ込め

4/30 閉じ込め

*)ショートショート

 ある日、僕は姉と一緒に一つの部屋に閉じ込められた。勿論、
何かしでかしたはずだが、悲しいかな今となってはそれが何だっ
たのか思い出せない。

 この時、姉は11歳。僕はまだ幼稚園だったが、二人でゲーム
をしたり、絵を描いたりして過ごす。お互いのん気なのか、鈍感
なのか、とりたてて泣き叫ぶなんてことはなく時間だけが過ぎて
いく。

 部屋からは出られなくても、時間がくればいずれ開放される。
両親が自分たちを見捨てたりはしない。そんな自信もあった。

 ところが、この時はけっこう開放までに時間がかかった。
 すると、姉の方が何だか落ち着かない様子を見せ始めた。
 腰をかがめ、両手をお臍の下辺りにやる。

 オシッコがしたくなったのだ。

 西洋なら子供を閉じ込めてもベッドパンがあるから問題ないが
日本の家ではまずそんなものはない。

 女の子が部屋の中でオシッコだなんて日本じゃ許されない。
 可哀想に思ったが、僕もどうにもならない。

 すると、僕までもよおしてきた。

 でも、僕は男の子だから我慢なんてしない。勉強机に乗り、窓
を開ければ、どくだみの植えてあるお庭へチャア~とできるのだ。

 と、ここでお母さんが庭にいるのがわかった。

 「お母さ~~ん、お姉ちゃん、オシッコしたいって」

 すると、

 「あっ、忘れてた」
 こう言ってお母さんが入口の引き戸の鍵を開けてくれた。

 お姉ちゃん、お臍の下を押さえてへっぴり腰、小走りで部屋を
出て行く。

 僕もトイレに着いて行くと、「シャー」という音が聞こえてる。
 あれって、女の子は男の子以上に勢い良く出るみたいだね。岩
をも砕くって音だったもん。

 それ聞いてると、何故か楽しい。
 訳はわからないけど、何故か楽しい。

 それだけ、たったそれだけのこと。

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4/29 イラクサパンツ

4/29 イラクサパンツ

*)古い資料の一節です。
載せるものがなかったものですから……


 西洋のおとぎ話によくその名前が出てくるイラクサ。
 お話の中では何だか棘があって怖そうな植物だから、幼い私は
これにはてっきり薔薇のような棘があるものと想像していたら、
刺毛といって日本にもよくある痒み(蕁麻疹)の出る草だと知って
拍子抜けした記憶がある。

 それからは主人公のお姫様がイラクサに阻まれて前へ進めない
なんて記述を目にすると『西洋のお姫様は随分意気地がないんだ
なあ』と思い直した。

 イラクサとは、多年生植物で高さは30~50cm位、茎は四角で、
葉と茎に刺毛がある。6月~9月頃、円錐形に緑色の花をつける。
 と、ものの本には書いてある。西洋のイラクサは日本のものと
は種類が若干違うみたいだが、刺毛があって痒みが出る草という
のは同じだ。

 そこでだ、これをお仕置きとしてパンツに仕込むのはどうだろ
うと考えた。
 僕は田舎の子だ。この手の草はよく知っている。その痛痒さは
独特で、1日2日は不快な痒みが続く。

 『いいじゃないか、これ、お仕置きで使えそうだよ』
 と思った。

 父や母から不始末をしでかした子供がイラクサが敷き詰められ
たパンツを穿かされる。

 『あの痛みを股間で味わったらどんな気持だろう?ただでさえ
微妙な部分だから、昼間もそうだけど、夜中はベッドで七転八倒
するんじゃないか』
 悪魔チックな想像が頭の中を駆け巡った。

 実際、この手の話はいくつかこしらえて、自分としてはグッド
アイディアと悦に入っていたのだが、最近、RGEフィルムの中
に私の夢想をそのまま映像にしたものが見つかって……

 『(ははははは)人間、考えることはみんな同じだあ』
 と笑ってしまった。

 もちろん、実際に試したことはありませんよ。念のため……

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4/28 百行清書

4/28 百行清書

*)古い資料の一節です。
載せるものがなかったものですから……


 主にイギリスの学校で行われていた罰。
 現在やっているかどうかは知らない。

 文字通り、定められた言葉を丁寧に百回書いて教師に提出しな
ければならない。
 乱雑な文字ではやり直しさせられるから結構時間を取られる。

 語句の内容は『この文章』と定まったものを書かせる処もある
が、私に情報を寄せてくれた人の経験では、清書の一節や謝罪の
言葉など学校や教師によってまちまちとのことだった。

 というのも決まった語句にしてしまうと生徒が暇な時を選んで
書き溜めておくからで、もちろん罰を受ける生徒の年齢によって
も一行の長さは異なるようだ。

 偉そうに小説に登場させているが実は私自身現物を見たことが
ない。
 ただ彼の手紙の文字は驚くほど綺麗で『ひょっとして百行清書
の成果か』なんて勘ぐりたくなるくらいだ。

 でも、それも違っているだろう。というのも、当時のイギリス
(欧州どこでもそうだが)学校教育での書き取りの時間が日本より
長いために、総じてみんな綺麗な字が書けるのだ。

 学生時代、さしたる用もないのにタイプを買ったのはこのため
でもあった。どんなに丁寧に書いても彼らにかなうわけないから。

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4/25 舐めて育てる

4/25 舐めて育てる

*)エッセイです。

 私の母は決して賢い人ではなかった。学校時代も勉強や裁縫は
まったくできない。明るい性格と体力だけが取得の人である。

 ふとしたきっかけで、母が父と結婚する前、恋仲だったという
男性に出会ったのだが、正直、びっくりした。

 たしかに彼、事業で成功してお金持ちにはなっていたのだが、
通された部屋はいわゆるキンキラキンの成金趣味。彼の身なりも
言葉遣いも母が私に求め続けた美的センスとはかけ離れていた。

 もともと父方母方ともに親戚にインテリが多い家系で、なぜ、
母がこの人を好きになったんだろうとその時は思ったが、すぐに
考え直した。
 むしろ、体育会系だった彼女にしてみればそんな人だったから
こそ心が通いあえたのかもしれない。

 しかし、現実はそう甘くはなかった。今では成功している彼も
その時代はまだ貧しい家の青年。だから、親兄弟から『家の格が
違うだろう』と反対されてしまったのだ。

 それで、本意ではなかったかもしれないが、私の父と結ばれる
ことになる。
 すると、彼女、ここで180度自分の生き方を変えてしまう。

 誰に対しても丁寧な言葉で応対し、どこのお嬢様が書いたのか
と思うような日記をつけ、教養書を読みあさり、生まれた僕にも
体力より学問、下品に見えるものは家の中に何一つ置かなかった。
 要するに嫁いだ家の家風に添って暮らそうとしたのだ。

 僕はそんな嫁いだあとの母の姿しか見ていないから、初恋の人
を見て『どうして?』と思ってしまったのである。

 そんな彼女だが、変えられないものもあった。
 純で、荒々しく、向こう見ずな男勝りの気性である。

 その気性は当然我が子へも向けられる。つまり子育てで現れる
のだ。

 『我が子への完全なる支配』

 そりゃあ母親が赤ん坊を支配して当たり前だが、彼女の場合は
度が過ぎていた。

 その典型例が舐めるということ。

 よく、動物の母親が生まれたばかりの我が子を舐めるシーンが
あるが、あれと同じように僕はやたらと母親から舐められていた。
 うちの場合は、『抱っこして戯れにほっぺたをちょこっと……』
なんて生易しいレベルじゃない。お風呂上りの裸の身体を、全身
くまなく舐めまくるのだ。

 まさに動物的な感性(愛情表現)だ。

 そりゃあ、オーラルセックスなんて大仰なものじゃないけど、
オチンチン、オッパイ、お臍だって例外じゃなかった。
 もちろん、当人(僕)が嫌がらないからやってたんだろうけど、
小学校2年生か3年生くらいまではその習慣が続いていた。

 この他にも、便秘になった時、僕のお尻の穴に指を入れて肛門
マッサージをしたり、自分の口で噛んで柔らかくしだお肉を僕の
口に入れたり、逆に僕が吐き出したお肉を平気で食べたりなんて
のは日常茶飯事。風邪をひいた僕を『とにかく暖めなければ』と
抱きしめ続け、ついには脱水症状を引き起こさせたことも……。

 つまり何をするにも『これでもか』というほどやらないと気が
すまない人だったのである。

 そんな濃厚なスキンシップのせいか、私にも子守さんはついて
いたのだが、何をするにも「お母さん」「お母さん」の日々。
 お母さんの許可なしには、何もしない、何もできない子だった。

 ある程度、歳がいって慌てた母が、「ほら、でれでれしないの」
「あっち行ってて」なんて叱ってみても、やはり何かあるたびに
やってきては「お母さん」「お母さん」なのだ。
 叱られようがお仕置きされようがここが一番居心地がいいから
いつもお母さんの腰にへばりついている。そんな少年だった。

 自分の生い立ちから、子供は勝手に自立するものと思い込んで
いた彼女、そこは誤算だったようで、実は『我が子への完全なる
支配』というのは自立させる時が一番大変だったのである。

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4/23 亀山物語<外伝>~4~

4/23 亀山物語<外伝>~4~

*)これは一応小説の一部なんですがHシーンありません。

 「ほら、見て……」

 香澄さんが箪笥の引き出しを開けましたから、覗きこみますと
……

 「……(えっ!!!)……」
 声になりません。

 「驚いた?」
 香澄さんはビックリ箱を開けさせた相手を見る時のような悪戯
っぽい笑顔で私を見ています。
 でも、私、どう返事してよいかわかりませんでした。

 「松下先生は、こうしたものは巷の人たちにみせてはいけない
って言ってたけど……やっぱり驚いちゃった?」

 「…………えっ?まあ……」

 「私、そんなふうに驚いてくれる子、大好きなの。……ふふふ
でも、そうやって驚くってことは、これが何するものか知ってる
ってことよね」

 「えっ?……ええ、まあ」
 悪戯っぽく笑われて私の心臓は彼女に掴み取られたようでした。
たしかに、そのいくつかは我が家にもありましたから。

 「じゃあ、無駄なお話かもしれないけど、一応説明してあげる
ね。……この中に入っているのは、お義父様が私をお仕置きして
くださる時のお道具なの」

 香澄さんは一番手前にあるガラスケースを取り出します。外の
蓋には赤い十字のシールが貼ってありました。

 「この大きな注射器みたいなのは、ピストン式の浣腸器。お薬
を入れて使うけど、それは使う時だけ大人の人が持って来るの。
なぜだかわかる」

 「いいえ」

 「ここへ置いておくと、お仕置きされそうな子どもが先に自分
で使ってしまって、罰を軽くしてしまおうとするからなの。……
お浣腸って二度目はとっても楽なのよ……知ってた?」

 「…………」
 その事実は知っていましたが、香澄さんがあまりにあけっぴろ
げに話しますから声がでなかったのです。

 「あっ、その顔は知ってる顔よね」

 「ええ、まあ……」
 私はやっとの思いで生返事をします。実際、その手の浣腸器は
うちにもありました。当時は、子供がお腹を壊すと、お医者様に
行ってもまず浣腸で、お腹の物を全部出すことから治療が始まり
ますから、家庭でも浣腸器を用意するところが珍しくありません
でした。

 私も幼い頃母にされたことがありましたから、思い出は強烈に
残っています。お仕置きではありませんが、恥ずかしくて、辛い
思い出でした。

 「次はこれ……」
 香澄さんが取り出したのは、文箱くらいの大きさの木箱です。

 中を開けると、病院でもらう薬袋のような袋とお線香でした。

 「これ、知ってる?」

 「ええ」

 「やっぱりね、あなたなら知ってると思ったわ。さっき、私が
お灸の話をしたら、あなた、目を輝かせてたもの」

 「そんな、目を輝かせてただなんて……」

 「嘘ついてもだめよ。私たち幼い頃から色んなお仕置き受けて
育ってきたからわかるのよ。『あっ、この子、本当はお仕置きが
好きなんだ』『お灸が好きなんだ』ってね」

 「そんな事、わたしはありません」
 思わず気色ばんで声が出てしまいましたが……

 「そう、それならごめんなさいね」
 香澄さんは言葉の上で謝っていますが、私の目には、『お前の
了見はお見通しよ』と映ります。

 「………女の子ってね、自分の一番辛いこと、恥ずかしいこと
を好きな人に無理やりされるのが一番気持のいいことなの」

 「……(この人、変態?)……」
 そんな言葉も頭に浮びますが、それは私の頭の中が理性で満た
されているから。
 この時すでに、香澄さんの答えを私の下半身は受け止めていま
した。

 「これはトォーズと言ってお尻を叩く鞭。他にも、ケインとか
ヘアブラシとか、色々あるけど……普段はもっぱら平手が多いの。
女の子はやっぱり肌と肌が触れ合った方がいいもの。……ただね、
『これは本当にいけないことなんだぞ!』って叱られる時は……
これで鍛えられるの」

 香澄さんはトォーズを取り出すと一振りします。
 「やわに見えるけど、これって結構痛いのよ。あなた、試して
みる?」

 「………………」

 「あら、ちょっと刺激が強かったしら?でも、亀山にいたら、
まだまだこんなものじゃないのよ。だけど、お仕置きされたから
不幸って思ったことは一度もなかったの」

 「どうしてですか?」

 「だって、あそこはお仕置きが生活の一部なんだもん。あなた
は親に一度もお仕置きされた事がないの?」

 「そんなことは……」

 「その時、親を恨んだ?」

 「それは……」

 「女の子はみんなそうだけど、お仕置きってね、何をされたか
が問題じゃないの。誰にされたかが問題なの。その人は愛せる人
か、信頼できる人か、それがすべてじゃなくて……」

 心臓にグサッと突き刺さる言葉でした。
 『私はお父さんを信頼できなくなったんだろうか?』
 ふと、そんなことを思います。

 「香澄さんはお義父様が信頼できたんですね」

 「もちろんよ。……お義父様だけじゃないわ、お母さんも先生
も賄いのおばちゃんも掃除のおばちゃんもみんな信頼してたの。
亀山の子どもって、どんな大人より身分が低いんだけど、どんな
大人からも愛される身分なの。だから、街行く誰に抱きついても
すぐにハグしてくれてるし、抱き上げてくれるの」

 「みんな顔見知りなんですものね」

 「それもあるけど、街で暮らすみんながみんな子供好きなのよ。
働いている人も女王様が特に子供好きな人しか採用しないから、
街で出会う誰に抱きついても毛嫌いなんてされたことがないわ」

 「へえ、何だか羨ましい。おとぎの国みたい」

 「かもしれないわね。絵本で読んだ童話の世界がそんな夢物語
に感じられなくて、幼い頃はお友だちと一緒にシンデレラや白雪
姫のお城を探しに行ったものよ」

 「見つかりました?」

 「まさか、あるわけないじゃない。でもダイヤモンドパレスは
見つかったわ」

 「ダイヤモンドパレス?」

 「女王様の執務室。全面ガラス張りの建物で、いつもキラキラ
輝いてるからそう呼ばれてるの」

 「女王様ってどんな人なんですか?」

 「品のいいおばあちゃんよ。会いに行くと『今日は楽しかった?
明日は楽しくなりそうかしら?』って必ず尋ねるてくるわ。……
子供たちにとって女王様のお膝は駆け込み寺みたいな処だから、
お義父様やお母さん、先生方とうまくいってないようだと、担当
を代えてくれたりもするの」

 「孤児院といっても、至れり尽くせりって感じなのね」

 「そりゃあね、私たちプロだから」

 「プロ?」

 「私たちってお義父様を楽しませて養育費をもらってるような
ものだもの。口の悪い人は『子ども妾』って言う人もいるくらい
よ。お義父様はお酒が入ると私を抱き上げてよくおっしゃってた
わ。『これは本物のスコッチ。そしてこれが本物の笑顔だ』って
……お母さんも『そうまでしてお義父様方が本物の笑顔を求めて
くださるから、あなたたちは幸せに暮らせるのよ』って……そう
言われて私たちは育ったの」

 「本物の笑顔ねえ……じゃあ、本物の泣き顔はお仕置きで生ま
れるの?」
 私はからかい半分に言ったつもりでしたが……

 「ピンポン、大正解。お義父様が亀山に大金を出して移住まで
するのは、本物の笑顔と同時に本物の泣き顔が見たいからなの。
子役がお芝居するんじゃなくて、本当に恐怖におののいている子
どもを抱いて愛撫したいからなのよ」

 「だから、お仕置きが厳しいんだ」

 「そういうこと。私はまだ若いからそこらの事情は分からない
けど、お義父様がおっしゃるには、歳を取ると若い子や幼い子を
抱いているだけでご自分も若返った気持ちになれるんだそうよ。
医者がくれるどんなお薬より、これが一番の不老長寿の妙薬なん
ですって……」

 「へえ、つまりは、『お薬を育ててる』ってわけなんだ。……
変なの……」
 私は素直に笑います。

 「ま、そういうこともあってね、私たちってよく裸にされたの。
お風呂は当然お義父様と混浴だし、寝る時も当番制で月に何回か
お義父様と一緒のベッドよ」

 「わあ、危ない!犯されなかった?」

 大仰に驚いてみせると……
 「馬鹿言わないで、私一人じゃないわ、他の子も一緒に寝てる
のよ、そんな事できないわ。それにお義父様はそんな方じゃない
もの。そのあたりは入居前に女王様が厳しくチェックなさってる
から大丈夫なの」

 「なあんだ、そうなのか……」

 「つまらない想像しないで……そんなことしたら亀山の秩序は
一発で崩れちゃうわ」

 「ふうん、お義父様って紳士なんだ」

 「当然よ。こんな処で晩節を汚すようなことはなさらないわ。
だからお金があっても社会的な信用のない人はここのお義父様に
はなれないの。……あ、でも、お触りは別よ。私もそうだったん
だけど、一緒に寝てると、大半の子は穴と言う穴を全て触られる
ことになるわ」
 またまた、香澄さんはドキッとするようなことを言います。

 「えっ?悲鳴あげなかったの?」

 「あげないわよ。だって、お義父様がやってるんだもの。問題
ないわ」

 「信頼関係ってこと?」

 「信頼できない相手を愛するっておかしいでしょう」
 あっさり言われてしまいました。

 「亀山ではね、小学生の裸なんて街中で見られるから珍しくも
何ともないの。お仕置きで学校から全裸でおうちに帰されたり、
お母さんが癇癪起こして、全裸で廊下やお庭に放り出されたり、
プールも小学生の頃は水着なしで泳ぐんだから……」

 「それって、いくら小学生でも恥ずかしくないの?」

 「恥ずかしいのは恥ずかしいけど……ほかの子も裸なんだから
みんなでお風呂に入ってると思えば気は楽よ」

 「中学生になると水着OKなの?」

 「13歳まではだめ。……ただし、14歳で試験にパスすると
女の子も一人前に認めてもらえるから、そんなことはなくなるの」

 「14歳の試験?」

 「そう、試験というか、試練かな。これまでやってきた悪さを
一気に精算するための特別なお仕置き。……これに合格したら、
ハレンチなお仕置きからは開放されるわ」

 「それって、相当キツイの?」

 「正直、大変は、大変なんだけど……でもやらないと、プール
で水着も着たいし、大きくなったオッパイを街の人に見せながら
帰らなきゃならないでしょう。……みんな必死で頑張るわ」

 香澄さんは明るく笑うのでした。

 「その試練ってどんなことをするんですか?」

 私は事のついでに尋ねてみたのですが……
 その時、部屋の扉がノックされます。

 「あっ、いけない松下先生だわ。詩織さん、悪いけど、今日は
ここまでよ」

 香澄さんはこれからお勉強のようでした。

 その日は、そのまま桐山邸から車で送っていただきましたが、
その道中、私は後ろの座席で自分の身体の中が濡れていることに
気づきます。
 恥ずかしいことが起きていたのです。

 『でも、また、明日、香澄さんに会って話を聞きたい』
 私は心の中でほくそ笑みながらも、運転手さんにはそ知らぬ顔
でそう思うのでした。

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4/21 亀山物語<外伝>~3~

4/21 亀山物語<外伝>~3~

*)これは一応小説の一部なんですがHシーンありません。

 「お義父様、ご病気なんですか?」
 香澄さんの部屋へと帰る途中、廊下でそう尋ねてみると……

 「あまりよくないみたい。だから、亀山も引き払ってこちらへ
戻られたくらいだから……ただ、私だけはどうしても手放したく
ないとおっしゃられて、女王様に無理言って連れて来ちゃったの」

 「女王様?」

 「そう、亀山の女王陛下、絶対君主、…グレートマザーなんて
呼んでる人もいたわ。……亀山って、実質的には彼女が経営して
いるの」

 「じゃあ、あなたのお義父様は?」

 「そこのお客様。子供のパトロン。うちのお義父様に限らない
けど、お義父様ってレストランで食事をするお客様みたいなもの
なの。店主はできるだけ美味しいもの、お客様に喜ばれるものを
と思って料理を提供するけど、それがたとえ不味かったとしても
お客様が自ら厨房で料理を作ることはないでしょう。それと同じ」

 「?????」

 「わからない?……無理ないわね。亀山で暮らしたことのない
あなたには意味不明よね」
 香澄さんは私の当惑した顔をみて笑います。

 「ねえ、お義父様って桐山さん一人だけじゃないの?」

 「そうよ。亀山には45軒のお家があるから少なくとも45人
のお義父様がいらっしゃるはずよ」

 「そんなに!」

 「いずれも功成り名を遂げたご隠居さんって感じのおじいさん
ばかりなの」

 「それって孤児を育てるボランティアをやってらっしゃる方々
なの?」

 「違うわ。皆さん相当な大金を払ってるみたいだもの。見返り
なしにそこまではなさらないわ」

 「見返りって?」

 「あなた、私の部屋に行ったんでしょう」

 「ええ」

 「だったら、気づかなかった?」

 「えっ?……ああ、あのベビーベットのことかしら……」

 「お義父様たちが単にお金を寄付するだけじゃなく、わざわざ
移り住むのはその為なの」

 「ん?どういうこと?」

 「だから、お義父様たちにしてみたら、自分の思い通りになる
子どもが欲しいの。『裸になれ』と言えば喜んで服を脱ぐし……
『赤ちゃんのように』と願えば、哺乳瓶でミルクを飲むような、
そんな従順な子がお望みなのよ」

 「……それって……つまり……あなたも……そうなの?」
 私は恐々尋ねてみました。
 すると、意外にも明るい声が返ってきます。

 「そうよ、私も亀山の子だもの、それは同じよ。……あそこは、
孤児と言っても赤ん坊の時でないと引き取らないし18歳になる
までは実の親でも面会できないシステムだから、時間はたっぷり
あるでしょう。その間にお義父様やお母さん、先生……とにかく
目上の人には絶対服従の精神を子供たちは叩き込まれるってわけ」

 「じゃあ、今でも……そのう……あなた、赤ちゃんの格好する
ことあるの?」

 「お義父様が望めば、喜んでやるわよ。……おかしい?」

 「えっ!」
 私は心臓がドキンとしました。

 「もっとも、最近は私も身体が大きくなり過ぎちゃってるから、
お義父様もオムツの取替えまではご覧にならなくなったけど……」

 「えっ!……」
 私はあらぬことを想像してしまい、全身に鳥肌が走らせますが、
香澄さんはまるで意に介した様子がありませんでした。
 それどころか……

 「赤ちゃんもそうだけど、最近は、ご病気もあって昔のように
お仕置きしてくださらないが残念だわ」

 「オシオキ?」

 「そう、叱られることよ。あなた親にお尻叩かれたことない?」

 「そりゃあ……」

 「亀山は凄いのよ。男の子だろうと女の子だろうと、どんなに
幼い子でもハイティーでもお尻丸出しで叩かれるの」

 「あなたも……」

 「もちろん、私、お転婆だったから幼い頃は毎日のようにやら
れてたわ。亀山のお義父様たちってね、そういう子どもの泣き顔
や悲鳴が大好きなの。ぶつのはたいていお母さんや先生方だけど、
終わるとね、お義父様がお膝に抱いて優しくしてくださるのよ」

 香澄さんは屈託のない笑顔、まるでそれが楽しい思い出だった
かのようです。

 「へえ、厳しいんだ」

 「お尻叩きだけじゃないわよ。赤ちゃん姿でお浣腸されたり、
お灸をすえられたり、下半身丸出しで木馬に跨ったり廊下に立た
されたり……とにかく色々よ」

 「残酷なのね……」

 「そうかしら……そうでもないわ。だって悪いことしなければ
お仕置きなんてされないもの。……何もしないのにお仕置きだけ
やってるわけじゃないのよ。……それに何より、お義父様たちは
そんな子どもたちのハレンチな姿がお気に入りなのよ。だから、
お母さんも先生も、ご機嫌とってるところがあるの」

 「でも、それで、心が傷ついたりしなかった?」

 「全然」香澄さんは首を振ります。
 「私たち生れ落ちた処はそれぞれ別々でも、みんな一年以内に
亀山に引き取られてるから、もともとお義父様のもとで生まれた
ようなものなの。……気がついたらお義父様やおかあさんや先生
が周りにいて、そこが人生の始まり。……他の世界なんて知らな
いし、何より、お義父様も、先生も、お母さんも普段はとっても
優しかったから、どんなお仕置きがあっても、だから心が傷つく
ってことはなかったわ。……わたしはね」

 「…………」
 怪訝そうな私の顔をみながら香澄さんは続けます。
 「あなたは外の人だからわからないでしょうけど、亀山では、
子供がお仕置きされるって、あまりに当たり前すぎて、女の子に
『あなた、なぜスカートはくの?』って聞くようなものなのよ」

 「そうなの……」

 「今の私は、分別がつきすぎて悪さなんかしなくなったけど、
そうやって育ったせいか、時折お仕置きされて泣いてた頃の自分
が無性に懐かしくなることがあるわ。…だから、最近まで小さな
しくじりをしでかしてはお義父様からお仕置きを頂いてたの」

 「わざとってことよね……そのことは当然お義父様も感づいて
らっしゃるんでしょう」

 「もちろんよ。おままごとみたいなものだもの。……その時は
とっても優しくとっても厳しく叱ってくださったから、心の中が
とっても熱くなれたの。……でも、それも今は病気が重くなって
しまったから、それもできなくなっちゃって……」

 『だから、学校であんな憂鬱そうな顔をしてたんだ』
 私は、義理とはいえお義父様をそんなも慕える香澄さんが羨ま
しく思われました。
 私の場合、実の父とは顔を合せるたびに口喧嘩で、そんな関係
にはなれませんでしたから……

 ただ、私の心の奥底にも香澄さんと同じ思いが眠っている事は
自分でもうすうす感じていたのでした。

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 二人は香澄さんの部屋へと戻って来ました。
 すると、すでにドアの前に若いメイドが独り立っています。

 「お嬢様、お茶をお持ちしてよろしいでしょうか?」
 「ええ、お願いするわ。私はココアでいいわ。詩織さんは?」
 「じゃあ、コーヒーで……」
 「あら、ごめんなさい。うちは未成年にはコーヒーとコーラを
お出ししないのよ。お義父様が『あれは、子供には有害だ』とか
おっしゃってて……でも、それ以外なら、大抵何でもあるわよ」
 「じゃあ、私もココアを……」
 「かしこまりました。……あ、それから…松下先生がお友だち
との歓談が長引くとお勉強の時間が押してしまいますから早めに
切り上げるようにと、ご伝言を賜っております」
 「わかったわ、承知しましたとお伝えして……」

 こんな会話のあと、私と香澄さんは部屋の中へ……

 「何だかお勉強時間にお邪魔しちゃったみたいですね。……私、
帰りましょうか」
 「いいのよ、変に気を回さないで。あと30分くらいどうって
ことないから安心して。松下の婆さん、昔から心配性なのよ」

 「松下先生って……」

 「お義父様が私の事を心配して亀山から連れて来たの家庭教師。
昔からそうなんだけど、今でもできが悪いとパドルでお尻を叩か
れるわ。女同士だから、そこは遠慮がないの」

 「それじゃあ、やっぱり大変じゃないですか、私、帰ります」

 「だから、いいって……私、あなたにもうしばらくここにいて
欲しいの。だってあなたには他の生徒にはない何かを感じるもの。
お話していて面白いわ。お友だちになれそうだもの」

 「いいんですか?ほんとうに……」

 「ええ、大丈夫よ。……ほら、見て、これが私の揺りかごよ」
 香澄さんは、四方を柵で囲われたベッドを軽く押してみます。

 すると、どうでしょう。その大きなベッドがまるで揺りかごの
ように揺れるのでした。

 『これって、本当に揺りかごなんだ』
 先程も一度見ましたが、それは何度見ても不思議な代物でした。
 サイズだけが大きい世の中どこにでも転がっていそうなベビー
ベッドなんですが、そのそばに寄るだけで、まるで自分が赤ん坊
に戻ったような気分になるのでした。

 「特注品ってことですよね」

 「そうみたいね、これも亀山から持って来たの。向こうでは、
お仕置き用だったから最初はとっても寝にくかったわ」

 「お仕置き用?」

 「そう、亀山では、悪さを繰り返す子には赤ちゃん返りという
お仕置きをさせることがあるのよ」

 「赤ちゃん返り?」

 「一日赤ちゃんに戻されるお仕置きのことよ。朝、お浣腸され
てオムツをはめられたら、あとはずっと、ここに寝かされるの。
食事は哺乳瓶のミルクだけ。おなかはすくし寂しいし退屈だし…
もし、催してきたらそれこそ大変。必死で頑張ることになるわ。
時々見回りに来る先生にも気取られないようにしないといけない
しね……」

 「おトイレには行かせてくださいって言えないんですか?」

 「それがだめなの。そんなこと言っても『あなたオムツ穿いて
るでしょう。そこにしていいのよ』なんてイヤミを言われて泣く
ことになるわ。…もっと厳しい先生になると、あらためてお浣腸
されることだってあるんだから」

 「もし、漏らしちゃったら……」

 「もちろん、先生がオムツを取り替えてくれるわよ。……でも、
いくら女同士でもウンチ漏らしたオムツを取り替えられるなんて
恥ずかしいもの。みんな夜の九時まで必死に我慢することになる
わ」

 「凄いのね、亀山のお仕置きって……」

 「とにかくお義父様たちが喜びそうなことは何でもやらされる
の。お尻叩きでも、お浣腸でも、お灸でも……しかも恥ずかしい
なんて言っちゃいけないんだから……貞操なんて文字、亀山には
どこにもないわ」

 「お灸なんかもすえられるんですね」

 「ええ、お灸は多いわよ。これはスペシャリストがいるから…」

 「スペシャリスト?」

 「そう、おばば様って言ってね、亀山の主みたいな人よ。……
亀山の子供たちは大半が彼女に抱かれて最初街へとやってくるの」

 「どういうことですか?」

 「もし、母親が自分の生んだ子を亀山に預けたいと思ったら、
まず裏山の麓に住むこのおばば様の処を訪ねなきゃいけないの。
そこで、まず引き受け先となるお義父様を探してもらって、話が
まとまったら、その母親はおばば様から身体の七つの場所にお灸
をすえられることになるの」

 「どうしてそんなことするんですか?」

 「一番大きな理由は本人確認のためよ。昔はDNA鑑定みたい
なものがなかったから、母と子に同じ灸痕をつけて18歳で再会
する時にそれで証明にしたの。……それと、どんな理由があるに
せよ自分の生んだ子を他人に預けるんだからそれなりのお仕置き
は必要ってのがおばば様の考えだったわ」

 「へえ……でも、そのお灸って子供の方にもすえるんでしょう」

 「子どもの方も二歳になると、母と同じ処にお灸をすえられる
ことになるわ。もし、おばば様が亡くなっても判別がつくように
だって……」

 「二歳の子にお灸……」
 私は言葉に詰まりました。

 「残酷な話でしょう。でも仕方がないの。それが亀山のしきた
りだから。その代わり、その後は親切なお義父様が何かと面倒を
みてくださるわ。お灸は悪さをするようになった子供がおばば様
から据えられるケースがほとんどなの。大事な証拠を消さない為
にも色揚げは大事な儀式なんだって……私もよくやられたわ……
結局うちの親は18になっても娘の処へ会いにこなかったけどね」

 「えっ、じゃあ、そのあとは……」

 「私の場合は親が迎えにこなかったからお義父様に引き取って
くださったけど、大半の子は短大か四年制の大学に進学するわ。
そこまではお義父様が援助してくださるの。いずれにしても卒業
後は自分で稼ぐことになるけど……あっ、ただし結婚相手は別よ。
それはお義父様がご存命ならお相手を見つけてくださるケースが
多いわ」

 「自由恋愛とかはできないんですか?」

 「そんなことないわよ。ただ、私たちって物心つくころから、
お義父様絶対で生活してきたでしょう。お義父様が決めてくださ
った方でもそんなに拒否反応はないのよ。それにそうした方って
大半が……」

 香澄さんはそこでほんのちょっとためらいましたが思い切って
言ってしまいます。
 「私たちを厳しく指導してくださる方だから私たちも頼りがい
があるの。そうした方を一からみつけるより楽なのよ」

 それは今の香澄さんとお義父様の関係に同じということのよう
でした。

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4/20 亀山物語<外伝>~2~

4/20 亀山物語<外伝>~2~

*)これ一応小説の一部なんですがHシーンありません。

 香澄さんの話によれば、彼女が育ったのは、『聖母会』という
宗教団体が運営する孤児院だそうです。

 ただ、孤児院といっても街で見かけるようなものを想像しては
いけません。規模が違います。
 三つも四つもの山々や広い田畑がそのまま孤児院の敷地になっ
ていたそうです。

 「そうなの、その中の一つの山が亀山と言って、ここには学校
や教会、病院、劇場、……何よりお義父様と一緒に暮らすお家が
たくさんあったの。つまり私たち孤児が暮らす街があったのよ」

 「街?」

 「そう、ここでは一軒のお家に十二三人の兄弟と同居してるの」

 「兄弟と同居って……それみんな孤児なの?」

 「そうよ、もちろんみんな血の繋がりなんてまったくないけど、
ここでは、同じ家に住む子供たちは、みんなお義父様と同じ苗字
を名乗って、同じ兄弟として育てられるの」

 「兄弟?」

 「そう兄弟よ。だってみんな同じ家に住んでるってことは同じ
お義父様の庇護を受けてるんですもの。血は繋がらなくても全員
兄弟に違いないわ」
 香澄さんは屈託なく私に笑顔を見せた。

 「お母さんはいないの?」

 「もちろんいるわよ。普段はそのお母さんと一緒に兄弟三人で
敷地内のコテージで暮らしてるわ。私のお母さんは真理子だった
けど、他にも良子さんとか真由美さんとか、紀子さんとか、色々
いらっしゃったの」

 「同じお義父様の元で暮らしていても、お母さんが一緒の兄弟
と違う兄弟がいたんだ」

 「そういうこと。あなた、なかなか飲み込みが早いわね。……
ただ、お母さんと呼んでても実際はニーナというか家庭教師なの。
お義父様は、すでに社会をリタイヤしてここに移られてるから、
子育てなんて、そんな骨の折れることはなさらないわ。ひたすら
子どもを可愛がることだけがお仕事なの」

 「それで、いじめとか喧嘩なんてないの?」

 「まったくないってことじゃないんだけど、少なかったわ……
うちはそれがテーゼだから、そういったことは特にうるさかった
わ。いじめ、喧嘩は厳禁なの。とにかく、兄弟でもクラスメイト
でも、みんな仲良くしてないと大人たちはご機嫌が悪かったわ」

 「叱られるの?」

 「叱られるなんて生易しいものじゃないわ。もし兄弟喧嘩して
たり、妹や弟をいじめてたりすると、幼い頃でもお尻の皮が擦り
むけるほどぶたれたわ」

 「体罰ありだったんだ」

 「ありもあり大有り。それもあなたたちが体験しないような、
やたらハレンチなお仕置きがたくさんあったんだから」

 「ハレンチなお仕置き?どんな?」

 「ふふふふふふ」
 香澄さんは思わせぶった笑みを浮かべると……
 「どんなって言われるても困るけど……とにんく本を読んでも、
どこにも書いてないようなハレンチなお仕置き。お義父様ってね、
そんな子どもの泣き顔を見たり、泣き声を聞いたりするのがお好
きなの。だからお母さまたちもお義父様のご機嫌取りに、そんな
セッティングをしてたんだと思うわ」

 「それって、あなたもやられたことがあるってこと?」

 「もちろん、お仕置きを受けずに山を降りる子なんて誰もいな
いもの。どんなに慎み深く過ごしていても、一学期に一回や二回
は必ずお仕置きされたわ」

 「ふうん、聞きたい。それって、例えばどんなことされるの?」

 「聞きたい?」

 「じゃあ、話してあげるけど道端というわけにはいかないから
私のお部屋へ行きましょうか。今日はお暇ある?」

 「ええ、まあ……」

 「だったらそうしましょう」

 すると、まるで香澄さんと私の会話が聞こえていたかのように
黒塗りの高級車が私たちの脇へと止まります。

 「心配しないで、私の家の車だから……学校が乗用車での通学
を快く思ってないみたいだから、いつもここで待ち合わせてるの」

 香澄さんは私を乗せて自宅へと向います。
 私は声を掛けた初日から香澄さんの家へと招待されたのでした。

***************************

 香澄さんのお屋敷は車で30分ほど行った丘陵地の一角にあり
ました。
 年輪を重ねた槇や松の巨木が門柱の代わりに立っていて、そこ
をくぐると広い池や咲き乱れる花壇が出迎えてくれます。

 「まるでお金を払って入る公園みたい」

 思わずつぶやいた私の声は香澄さんに聞こえたかもしれません。
彼女、思わずくすっと笑ったようでした。

 10台、いえ20台は駐車が可能でしょうか。広い車寄せを右
に見て、私たちの車は建物の脇をすり抜けて裏へと回ります。

 こんな名家の場合、その家の表玄関はお客様専用。家族が普段
出入りするのは、たいてい裏に別の玄関が用意してありました。
 とはいえ、その裏玄関だって、私の表玄関より数段立派です。

 「お帰りなさいまし……」
 まるで温泉旅館の女将のように女中さんが広い玄関で三つ指を
着いてご挨拶します。

 「鼎さん、お友だちをお連れしたの。お義父様にご挨拶する間、
私の部屋でお待ち願ってて……」

 香澄さんは学校のかばんを鼎さんに預けると、さっさと廊下を
奥へと進み始めます。

 「こちらへどうぞ」
 私は鼎さんに案内されて一足早く香澄さんの部屋で待つことに
……

 『…………』
 こんな大邸宅です。香澄さんのお部屋もさぞや豪華で煌びやか
……と思いきや、案内されたお部屋を見て、私は目が丸くなりま
した。

 「しばらく、ここでお待ちください」
 女中の鼎さんはあっさり帰ってしまいます。
 「あっ……」
 私は慌てて振り返りましたが引き止める暇もありませんでした。

 『どういうこと?……ここって、本当に香澄さんの部屋なの?』

 怪訝な顔であたりを見回すと、確かに机の上の本棚には高校の
教科書や学習参考書などが並んではいます。
 たしかにそこだけ見ればそうですが、それ以外の場所には……

 『これってサイズは大きいけどベビーベッドよね。四方に柵が
あるし、メリーゴーランドも吊り下げられてるし、クマちゃんの
ぬいぐるみもある。……えっ、何これ!こんな大きな哺乳瓶見た
ことないわ』

 でも、驚きはそれだけじゃありませんでした。壁には聖母子の
油彩……衣装戸棚の上にはフランス人形……ガラス戸棚の中には
バービー人形……小机の上ではリカちゃん人形のままごとセット、
それも今まで遊んでいたかの様に置かれています。
 気がつけば、天井まで届くような大きな本棚の中もたくさんの
童話や絵本が幅を利かせて、高校生が読むような小説や雑誌類は
片隅に追いやられていたのでした。

 『歳の離れた妹さんがいるのかしら?』
 そんなことを思っていると……鼎さんが部屋に戻ってきます。

 「至急、主人がお会いしたいとのことです。ご案内いたします」

 「えっ?わたし?」

 驚きましたが、断れませんでした。私は香澄さんが消えた廊下
を鼎さんに案内されて進みます。

 曲がりくねった廊下は、右に見える中庭に気を取られていると、
いつの間にか屋根のついた渡り廊下へと変わり、やがてその終点
へとやってきます。

 そこはお屋敷の離れなんですが、庶民の家ならこれだけで充分
一軒分の建坪があります。

 「こちらへ」
 その三間ある建物の一番奥の部屋へ案内された私は香澄さんと
再会しました。

 20畳の座敷は畳の部屋ですが、そこに大きなダブルベッドが
置かれています。
 ご主人の影虎さんはそのベッドで横になって私を迎えてくれた
のでした。

 「君かね、香澄のお友だちというは?」

 「はい、藤川詩織といいます」

 「私がこの子の父だ。本来ならもっとちゃんとした格好で挨拶
するところだが、あいにく病気がちでね、こんな格好で失礼する
よ」
 影虎さんは、年の頃なら80歳くらいでしょうか、温厚そうな
顔だちの紳士ですが、たしかに体調はあまりよくない様子でした。

 「香澄、なかなか品の良さそうなお嬢さんじゃないか。よかっ
たね、お友だちができて……安心したよ。実は心配していたんだ
よ。亀山は特殊な里だからね。友だちがいなくて困ってるんじゃ
ないかと思って……」

 「大丈夫ですわ。私は、お義父様さえいていただければ、独り
でもやっていけますから……」
 香澄さんが枕元に膝まづきお父さんの手を包み込むようにして
握っています。

 「そうは、いかないよ。特に女の子は、孤独が一番よくない。
せっかくできたお友だちなんだから大事にしなくちゃ。…………
あなたも、よろしくお願いしますよ。この子はゆえあって世間の
常識の通用しない処で育ちましたから、何かと驚かれるかもしれ
ませんが、決して悪い子じゃありませんから、末永くお友だちで
いてください」

 「大丈夫です。私もみんなから変わり者だと言われてますから」

 私は自虐的にそういいましたが、香澄さんのそれは私のはみ出
しぶりとは桁違いでした。

***************************

4/18 亀山物語<外伝>

4/18 亀山物語<外伝>

 *)昔書いた外伝の導入部分を補正したものです。

 私が転校してきたばかりのその子と出会ったのは校内のパン屋
さんの前でした。
 昼時に店を出す業者に男子も女子も群がるなか、そうした喧騒
を避けて、独りたたずむ少女がいました。

 『見るからにいい身なりをしているわ。ただもんじゃないわね』

 生徒は全員制服を着ていますが、誰もが同じ値打ちの服を着て
いるわけではありません。
 同じデザインの制服でも、その生地なり、仕立てなりで価格は
大きく違うものなのです。彼女の場合は肩のライン背中のライン
が身体にぴったりフィットしていますから最高の生地を仕立て屋
が丹念に仕上げた物なのでしょう。

 それだけではありません。彼女、ただ立っているだけなのに、
その立ち姿に気品がありますし、隙がありません。ああした姿勢
は普段やりつけていない田舎の小娘に、「お前もやってみろ」と
言ったところですぐに真似のできるものではありませんでした。
 生徒の私からみてもお嬢様という形容がぴったりの子だったの
です。

 「ねえ、何見てるのよ?」
 ノン子に肩を叩かれました。

 「……ああ、あの子ね。ちょっと変わってるでしょう。何でも
毎日一万円だしてはアンパン一つ牛乳一個買うんだってよ。……
おばちゃんが、おつりがないって言ったら『カード使えますか?』
だってさ……カードでパンが買えるわけないじゃない。『どっか
頭おかしいんじゃないか』ってみんな言ってるわ」

 『カードってクレジットカードのことだろうか』

 この時代、まだカードというのは大人の社会ですら一般的では
ありませんでした。持ってる人は大人でもごく限られた人たち。
未成年でも親に信用があれば発行してくれますが、これまで、私
以外の高校生が、実際に持ってるところを見たことがありません。
そんなクレジットカードを彼女も持っているのでしょうか。

 そんなつまらないことで興味がわいてしまい、私は彼女に声を
かけてみます。
 自分で買ったアンパンと牛乳を持って……

 「あなたの分、買っておいたわよ」
 こう声を掛けると彼女は軽く会釈して微笑み、そして何のため
らいもなく
 「ありがとう」
 と言って受け取りました。

 そして、そのまま立ち去ろうとしますから、
 「あら、だめよ、一万円払って……」
 と言ってみると……

 「あら、ごめんなさい。忘れてました。どうぞ……」
 これまた何のためらいもなく私に新札を一枚渡してそれっきり
また立ち去ろうとします。

 『嘘でしょう、この子、高校生にもなって買い物したことない
のかしら』
 私は唖然としました。
 
 私も小学校の低学年頃までは、買い物にいつも家の人が着いて
きて、その人がお金を払いますから、親からお小遣いという物を
もらったことがありませんでしたが、それはあくまで幼い頃まで
の事。こんなに成長した子がお金と関わらない暮らしをしてきた
なんて信じられませんでした。

 面白くなってきた私は、この世間知らずのお嬢様に、再び声を
掛けてみます。

 「あなた、おつりをわすれてるわよ」
 私が、もらったばかりの一万円札を渡すと、これまた……
 「あら、これいいんですか?……今日はたくさんお金が戻って
こなくて助かります」
 渡した一万円を何の疑いもなくまたお財布の中に丁寧にしまお
うとしますから、さすがに二の句がつげませんでした。

 「あなた、計算はできるわよね」
 恐る恐る尋ねてみると……
 「ええ、まあ一応、……通知表の数学の欄には5のスタンプが
押してありますので……それなりの評価は頂いてます」
 ときた。

 つまり彼女の頭の中では買い物と数学の計算は別の次元の世界
で起こっているということなのかもしれません。

 益々、興味を引かれた私は、ついでとばかり、
 「ねえ、あなたカード持ってたら、それでもいいわよ」
 と言ってみましたら、これもあっさり……

 「あら、それは助かるわ。では、これでお願いね」

 そう言って私に差し出したのは黒いアメリカンエクスプレス。
 『何コレ!!?、あなた何様なの???何であなたみたいな子
がこんな田舎の高校にいるのよ???』
 私の目が丸くなります。
 当時のアメリカンエクスプレスカードは私が父に頼んで作って
もらったVISAなんかよりはるかに格上のカードでした。

 私は、彼女のカードを確認するうち、風変わりだけどこの子と
お友だちになってみたいと思ったのでした。

***************************

 本当はそんなことをすると遠回りなのですが、帰り道が一緒だ
からという口実で彼女に近づきます。
 こんなお嬢様ですから私にはハードルが高いかと思ったのです
が、話せば意外に気さくな子でした。

 彼女の名前は桐山香澄。なんと、地元桐山藩の17代目当主、
桐山影虎氏の娘さんなのです。

 ならば納得のお姫様と言いたいところですが、実は、私も偶然、
この子と同じ桐山家のお姫様を一人知っているのです。
 ただ、その人は一般常識人。決して世間ずれなどしていません。

 そこで気になったのでさらに聞いてみると……

 「私、最近、お父様の養女になったばかりなんです」
 と教えてくれました。

 本妻との間にすでに娘さんがいるのにあらためて養女を迎えた
というのです。もちろんそれだけでも十分面白いお話なのですが、
話はさらに続きます。

 彼女の生い立ち、育った環境がまるでおとぎ話なのです。私は、
彼女から子ども時代の話を聞くたびに、まるで小説でも読み聞か
されているように、興味津々で引き込まれていったのでした。

***************************

4/17 初恋

4/17 初恋

*)思い出に基づく小説としてお願いします。

 僕の初恋っていつだろうって思ってみた。

 そりゃあ僕だって男の子、幼稚園時代から好みの女の子という
のはいたんだけど、それって、まだ恋というより『お友だち』と
いう感覚だったような気がする。

 僕が初めて異性の子を特別な思いで眺めたのは11歳のとき。

 だから、僕の初恋は小五のときだった。クラスメートにやたら
目鼻立ちのはっきりした子がいて、僕は『ハーフに違いない』と
勝手に思い込んでモーアタックをかけてみたが、わかったのは、
彼女のお父さんもお母さんも正真正銘の日本人だということ。

 ところが、その現実を受け入れられない僕の脳は……
 日本生まれ、日本語はベラベラで生活習慣も全て日本式な彼女
と会うたびに、何故か片言の日本語になっていた。

 彼女にしてみれば『不思議な子』と思われていたに違いない。

 そんな彼女とは、消しゴムの貸し借りから始まって、帰り道、
家族のことや学校のことなどを色々話するまでになっていたが、
その日はどうも話が弾まなかった。

 「ねえ、お腹痛いの?」
 無粋な少年はそんな尋ね方しかできないが『ひょっとして……』
という思いがあったのも確かだった。
 こうした嗅覚は、実は母の方がはるかに優れていたのだが、僕
も母の子として平均値以上のものを持ち合わせていた。

 だから口数の少ない彼女と家の近くで別れたあとも気になって
そっと彼女のあとを着いて行ったのである。

 何のことはない、第六感を頼りにストーカーをやらかした訳だ。

 美由紀ちゃんの家は新興住宅地の外れ。さすがに玄関先をうろ
つくのはまずいと思った僕は、当時竹やぶで崖になっていた家の
背後から彼女の家へと近づく。

 すると……詳しい会話は忘れてしまったが、家の外まで彼女の
お母さんが彼女を叱る声が聞こえるのだ。

 「おかあさん、もう、あなたをこれ以上許すつもりはないの。
嫌なら今すぐこの家を出て行きなさい」

 新興住宅地といっても、ここは他の家と少し距離があったから
おばさんとしても少しぐらい大きな声を出しても大丈夫だろうと
いう安心感があったのかもしれない。

 苦労して竹やぶを登ってきた僕はおばさんのいきなりの大声に
面食らってしまった。
 おまけに、見上げる二階の部屋からは……

 「いいから、持ってきなさい。やらなきゃ終わらないでしょう」
 なんて声も聞こえる。

 『何のことだろう?』
 と思っていると、しばらくしてから……バタバタっとトイレへ
駆け込む音が……。

 間髪をいれず土管の中を何かが落ちているような音がして……

 『そういえば、彼女の家、たしか二階にもトイレが……という
ことは……』
 と思った。

 さらに……
 「全部出してしまうのよ。お尻も綺麗にしてから出てきなさい
ね」
 というおばさんの声。

 小五のことで全てを見通せてた訳ではないだろうが、おおよそ
何が家の中で起きていたかはおばさんのおかげで想像できたので
ある。

 おまけに……
 「…パシっ、……パシっ……パシっ、……パシっ……パシっ、」
 という音と一緒に……
 「……ひとつ、……ふたつ、……みっつ……よっつ……いつつ」
 という美由紀ちゃんの声が……

 時折……
 「ほら、お尻を下げないの!」
 「ほら、手でかばうなら、やり直すよ」
 「ほら、黙ってないで……ごめんなさいはどうしたの!」
 なんていうおばさんの声も聞こえる。

 恥ずかしい話、僕の股間は思いっきりテントを張ってそのまま
になってしまった。

 『凄いや、だから、今日は僕とあまり話したくなかったんだ』
 僕は目を白黒させながらも、お仕置きの実況中継に聞き入って
しまう。

 もちろんこの話は美由紀ちゃんには内緒にしていたが……
 でも彼女の顔を見るたびにその日の情景が蘇って笑ってしまう
だった。

**************************

4/15 子守っ子、敬子の性春 ~4~

4/15 子守っ子、敬子の性春 ~4~

*)幼い男の子がオチンチンにお灸をすえられる話
なんですが、過激な内容はありません。


 お母さんから厳しいお仕置きを受けたあと、美咲ちゃんは私を
無視できなくなりました。何しろ私は怖いお母さんのお墨付きを
もらっていますから、あからさまに嫌々をするわけにはいきませ
ん。そんなことをしたら、今度はどんな目に合わされるかわかり
ませんから……

 仕方なく、私と一緒にお勉強します。

 最初の頃は自分でやらなければならない宿題を私に押し付けて
くる程度でしたが……それで信用を得ると、今度は、分からない
ことを尋ねるようになります。

 お母さんからのお仕置きで二人の関係が劇的に変わったという
わけではありませんが、それでも、美咲ちゃんは次第次第に私を
頼るようになっていきます。

 私の利用価値がわかってきたということかもしれません。

 宿題を見てもらい、学校で分からないことがあると私に尋ねる
ようになって、何だか私も家庭教師らしくなってきました。

 時には、「何よ、昔は子守のくせに!」なんて癇癪を起こす事
だってありましたが、私は気にしませんでした。

 そんな時は……
 「そんなこと、私はかまわないけど…お義母様の耳に入ったら、
また大変よ」

 こう言うと、とたんに大人しくなりました。
 きっと、あの日の思い出が蘇って怖かったんだと思います。

 お灸は子供にとっては極刑に近いお仕置きですから、一度やる
としばらくは……
 「そんなことしてると、またお灸だよ」
 という脅し文句だけで十分効果があります。

 実際、お義母様は、お嬢様風をふかせる美咲ちゃんに業を煮や
して、お線香に火をつけるところまでは何度かなさいましたが、
そのつど美咲ちゃんはお母さんに『ごめんなさい』をして許して
もらっていました。

 そして脅しだけのお仕置きが終わると、お母さんは美咲ちゃん
の身体を抱いてあやします。
 こうしてしばらく抱かれてから勉強机に戻された美咲ちゃんは、
何だか安心するのでしょうか、前にも増して一生懸命勉強するよ
うになるのでした。

 そんなこんなを繰り返しながら、美咲ちゃんは次第に私の存在
を認めるようになります。最初は冗談のつもりだったのでしょう
が、いつしか私のことをごく自然に「お姉ちゃん」と呼ぶように
なっていました。

 とはいえ私自身もまだ学んでる身の子供ですから、三田村先生
のように指導したからといって美咲ちゃんの成績が目立って上昇
するというものでもありません。ただ、お義母様は私の家庭教師
ぶりには満足されているみたいで、私が美咲ちゃんの成績が上が
らないことを恐縮すると……

 「いいのよ、学校の成績なんてまだ上がらなくても……今は、
勉強する習慣をつけさすことが大切だから……それに、あなたと
いう女の子が家の中にいるおかげで、あの子も少しずつ『女の子』
ってどんなものか分かってきたみたいで、私は嬉しいわ」

 「そういえば、近頃、少し大人しくなったみたいな気が……」

 「あなたもそう思うでしょう。私もよ……それがこちらの狙い
なの……あの子が生まれた頃は、商売が忙しくて、私も下のチビ
たちのようにあの子の面倒をみることができれなかったの。……
おかげで、気がついたら我が家に山猿が一匹迷い込んでたわ」

 お義母様は自嘲気味に笑います。でも、確かにそうでした。
 美咲ちゃんは男勝りのお転婆さんですが、下の男の子たちは、
お義母様が『心血を注いで育てた』なんて誇らしげにおっしゃる
ほどでしたから、ご近所から羨ましがられることはあっても後ろ
指を差される事はありませんでした。

 兄の高志君は、学者肌でしっかり者。弟の明雄君は、芸術家肌
で甘えん坊。二卵性ですからお互い顔も性格も違います。特に、
明雄君は端整な顔立ちもあって誰からも可愛がられていました。

 そんな弟たちに、美咲ちゃんは嫉妬やコンプレックスを抱いて
いたのかもしれません。それがお転婆にさらに拍車を掛けていた
のでしょう。

 そこへ、女の子の先輩(私程度のものですが)が現れたことで、
『ああ、こんなふうに生きていけばいいんだ』というお手本が手
に入ったのかもしれません。

 そんなお手本(?)に磨きをかけるためでしょう、お義母様は私
に美咲ちゃんと同じ日舞とピアノを習うように命じます。

 もちろん、そんなこと言われても……
 「もう、そんなに何でもできません」
 だったんですが……とうとうこれも断れませんでした。

 そもそも私、今でも子守ですからね、美咲ちゃんの家庭教師や
自分の勉強の他にも、下のチビちゃんたちをお風呂に入れたり、
食事させたり、着替えさせたり、子供部屋を片付けたり、なんて
いう子守本来の仕事があるんです。

 だから、学校の部活だってできないっていうのに、それでいて
この上習い事までできるわけがありません。
 ですから、断ってるのにお義母様は人使いが荒いと思いました。


 一年後……
 日常が分単位のスケジュールのなか、でも、気がつくとそれも
何とかこなせるようになっていました。そして何より驚いたのは
何時の間にか美咲ちゃんが女の子らしくなっていたことでした。
 忙しくしている私を身近に見ていて何か感じるところがあるの
かもしれません。

 お義母様に言われなくても家の仕事を手伝うようになりました
し、自分の下着は自分で洗いますし、私のことだって何のためら
いもなく素直に「お姉ちゃん」と呼ぶようになっていました。

 「あなたに感化されたのね。私の判断、間違ってなかったみた
いね」
 お義母様の誇らしげな顔を覚えています。

 でも、そうなると私は『御用済み』ということでしょうか。
 来年の三月にはいよいよ私も中学も卒業してしまいますから…

 すると、お義母様はここでも……
 「何言ってるの。今どき中卒じゃ将来困ることになるわよ。私
の処が嫌になったのなら仕方がないけど、そうじゃなかったら、
ずっとここにいなさい。県立の学費くらい出してあげるわ」

 ここでもあっさり私の将来が決まったのでした。


 さて、ここまでお話してくると、角田のお義母様って、何だか
女の子にばっかり厳しいように思われるかもしれませんが、そん
なことはありませんでした。

 たしかに、下の男の子は跡継ぎですから、そりゃあ大事に育て
られていました。まるで着せ替え人形のように、その場その場で
とっかえひっかえ着る服は、普段着にいたるまですべてオーダー
メイドですし、勉強部屋はお父さんと同じ重厚感のある机や本棚
がデンと並んで、オモチャ箱がなければとても子供部屋には見え
ません。
 その箱の中のオモチャもドイツ製ありアメリカ製ありで、まず
ご近所の子供たちが持っていそうにないものが沢山ありました。

 物だけじゃありません。お母さんは忙しい時間を割いて二人の
ためにありとあらゆる子供向けの本を読み聞かせていましたから、
この二人、とっても物知りだったのです。

 ただ、だからといって、何でも彼でも甘やかしていたという訳
ではありませんでした。

 二人の身にも雷は落ちます。つまり、厳しいお仕置きだって、
当然たくさんありました。
 ただ、そのお仕置き風景が、美咲ちゃんの時とはだいぶ違って
いたのでした。

 ある日、二人はおぼえたての自転車を乗り回して公園で遊んで
いました。当時はまだ物のない時代で、子供用自転車といっても
小学生を対象とした物しかありません。その下はいきなり三輪車。
その中間がありませんでした。
 四歳、五歳用の二輪自転車というものがまだなかったのです。

 そこで二人はお父さんから一番小さなサイズの自転車を買って
もらい、サドルを外してそこに座布団を敷いて練習していました。

 何とか漕いで走らすまでにはなったのですが、いかんせん足が
地面はおろか、一番下に下りたペダルにまでも着きませんから、
その段階ではまだ自分で自転車を止めることができませんでした。
 もし自転車を止めると転んでしまうから……

 危なっかしい二人は、自転車をお父さんと一緒に公園の中だけ
で乗るお約束をしたのでした。

 ところが、お父さんの身体がいつもあいているとは限りません。
私もお義母様から命じられたお勉強が忙しくなって、それまでの
ように四六時中二人に張り付いてるわけにはいきませんでした。

 そこである日、二人は自分たちだけで自転車を押して公園まで
やってきます。
 最初はおとなしく公園の中だけで遊んでいたので問題なかった
のですが、だいぶ自転車に慣れてきましたから、自信がついたの
でしょう、外の道を走ってみたくなったのでした。

 ところが、二人は自分たちだけでは自転車を止められない現実
をすっかり忘れていたのです。

 結果……

 「ガラガラガッシャン!!!」

 続けて……
 「ガラガラガッシャン!!!」

 お兄ちゃんが最初でした。続けて弟も、ガラス屋さんの店先に
突っ込みます。
 おかげでお店の商品が三つ四つ割れたみたいです。

 「あらあら、大丈夫?」
 さっそくお店のおばさんが出てきました。

 「ごめんなさい」
 高志君が言えば明雄君も……
 「ごめんなさい」

 この二人、双子ですから同じ日に生まれて立場は同じはずなの
ですが、高志君は日頃からお兄ちゃん風を吹かせていて、何かと
弟をかばいたがりますし、明雄君も明雄君で何かにつけて『お兄
ちゃん』『お兄ちゃん』って、金魚のウンチみたいに高志君の後
を着いてまわっていましたから、傍目には歳が離れた兄弟のよう
に思われていました。

 「二人とも怪我はなかった?」
 「ここはガラスが沢山あるからね、どこか切らなかったかい?」
 「さわっちゃだめだよ」
 おばさんは二人の怪我だけを心配してあちこち二人の体を調べ、
二人の身体と自転車についたガラス片も払い除けてくれました。

 もちろん怒った様子など微塵もありません。

 ですから、二人とも……
 「大丈夫だった」
 「ぼくも……」
 そう言って笑顔で答えます。

 すると……
 「お前たち、まだ危ないからここからは押して帰りなさい」
 途中から参加したおじさんが二人の自転車をお店の前へ出して
くれて、帰りしなそう言うので、二人は自分の自転車を押して家
へと帰ってきました。

 二人にしてみたら、ただそれだけのこと。一日の中で起こった
ささやかなエポックだったのです。
 ですから、それは親にどうしても話さなければならない事では
ないように思えたのでした。

 ところが、翌日、例のおばさんがお母さんに昨日の事を話して
しまいましたから門田の家は大変です。
 大人の世界は子どもの世界のようにはいかないのでした。

 さっそく、お父さんお母さんが揃って菓子折りをもって硝子屋
さんに謝りに行きます。
 幸い高価なものは壊れていませんでしたが、当然、お母さんの
怒りは二人の息子へも向くことになります。

 「あなたたち、昨日はどこで遊んでたの?」

 お母さんが正座して……その目の前で二人のチビちゃんたちも
正座しています。私もお手伝いで呼ばれていましたが、お母さん
の顔が厳しいですからね、もうそれだけで二人は神妙にしていま
した。

 「あなたたち、昨日は公園で遊ぶって言うから自転車で行く事
を許したのよ。『公園の中だけで自転車に乗ります。道路には出
ません』って、そういうお約束だったわよね」

 「……(ヤバイ)……」
 「……(ヤバイ)……」
 二人の顔から血の気がひきます。
 でも、もう手遅れでした。

 「あなたたち、二人してガラス屋さんのお店に自転車で突っ込
んだでしょう。……どうしてそうなるの?公園で乗ってた自転車
がいきなりガラス屋さんまで飛んでいったのかしら?」

 「………………」
 「………………」

 「二人とも黙ってたら分からないわ。どうなの、道路で乗って
たんでしょう!!」

 「はい」
 「はい」
 こういう時、最初に口を開くのはたいていお兄ちゃんで、明雄
君はそれに続くというのがいつものパターンでした。

 「やっぱり約束破って公園を出て道路で走らせてたのね。……
それで硝子屋さんに、ガシャンだったわけだ」

 「………………」
 高志君がうなづき、そして
 「………………」
 明雄君もうなづきました。

 「それで……どうして、そのことをお母さんに話してくれなか
ったのかしら?そんな大事なこと……叱られると思ったから?」

 「だって、おばさん怖くなかったよ。気をつけて帰るのよって
言ったもん」

 「……(ふう)」
 お母さんは一つため息をつくと……
 「いいこと、ターちゃん。そんなことがあったらまず真っ先に
お母さんに言わなきゃいけないの。……だって、お母さんたち、
あなたたちの不始末を硝子屋さんにお詫びに行かなきゃいけない
でしょう」

 「…う…うん……でも、おばさんに、ぼく、ごめんなさいした
よ」

 「それじゃ足りないの。お母さんたちが行ってちゃんと謝らな
きゃいけないの。今日硝子屋のおばさんからお話聞いてお母さん
とっても恥ずかしかったんだから……これからは誰かにご迷惑を
かけたら必ずお母さんに言ってちょうだい。いいわね」

 「はい」
 「はい」
 二人は少し身体を揺らしながらご返事します。それはちょっぴ
り不満のある時によくやる仕草でした。
 でも、次の言葉を聞いて、二人の揺れる身体がぴたりと止まり
ました。

 「今日は、そのことを忘れないためにこれからお仕置きします。
お灸のお仕置きよ……オチンチンに据えますから……いいですね」

 「………………」
 「………………」
 二人は顔面蒼白で声を失ってしまいました。

 そりゃあそうです。幼い子にとってお灸がどれほどのものか、
ましてそれをオチンチンにだって……それってやられた人でない
とわからないと思います。

 私は女の子なのでそこのことは分かりません。心棒だって性器
にじかではありませんから……

 でも、ここが美咲ちゃんとは違うんです。
 ジタバタしたり、大声を上げたり、……とにかく無駄な抵抗を
一切しませんでした。

 お灸を据えられるということになって、そりゃあ一大事のはず
なのにとってもおとなしいんです。
 そりゃあ悲しそうな顔はしてますけど、その顔だって、どこか
お母さんに甘えているようでした。

 「二人はここでおとなしく待ってなさい。………敬子ちゃん、
お手伝いしてね」
 お義母様に命じられて私は部屋を出ます。

 私の係りはバスタオル数枚と熱いお湯をはった洗面器、それに
二人分のオムツを持ってくることでした。

 このオムツの用意、実はお義母様の発案でメインのお仕置きが
終わったあと、この家の子どもたちがはめさせられる見せしめ刑
だったのです。

 お浣腸に限らず、お灸でも、お尻叩きでも、それが終わった後、
その日は寝るまでオムツ姿。夕食の時は、お父さんにまでそれを
見られますから、美咲ちゃんなんて夕食で呼ばれても、部屋から
なかなか出てこようとしませんでした。

 でも、結局はその姿をお父さんにも晒すことになります。もし
部屋に閉じこもったりすれば、また新たにお母さんの雷が落ちる
ことになりますから。

 「……さてと、まずお兄ちゃんの方からね」

 私が部屋に戻ると、お義母様の方はもうすっかり準備が整って
いて、ちょうどマッチを摺ってお線香に火をつけるところでした。

 私は、恐怖のあまり二人が逃げ出したんじゃないかと心配しま
したが、さすがにそれはありませんでした。

 ずっと、正座したままでお母さんがお灸のセットを持ってくる
のを待っている二人の姿を想像すると、もうそれだけで、健気で
抱きしめたくなります。

 それってお母さんはもっともっと感じてることでしょうから、
同じようなことでお仕置きする時でもチビちゃんたちには優しく
なりがちで……それがまた美咲ちゃんには不満みたいでした。

 「敬子ちゃん、あなた、高志の身体を抱いててちょうだい……
正座して、膝の上に乗っけておけばいいわ。……たぶん暴れたり
はしないと思うけど、一応、この子の胸のあたりに手を回して、
上半身だけは押さえておいてね…………そうそう、それでいいわ」

 私は子どもたちの拘束台の役目をおおせつかります。
 正直、『暴れたらどうしよう』と不安でしたが、私が抱きしめ
ても高志君はおとなしいままでした。

 お母さんに半ズボンとパンツを脱がされて、可愛いオチンチン
が丸見えになっても抵抗する素振りはみせません。

 何度も言いますが、美咲ちゃんとはえらい違いです。
 いったいどっちが年長者なんだろうって思ってしまいます。

 それをお義母様にあとで尋ねたら……
 「だって、美咲が生まれた時は仕事が忙しくて他人任せにして
しまった時期もあったけど、この子たちは生まれた時から片時も
離さず、ずっと私が抱いて育ててきたんですもの。子育てだって
気合の入れ方が違うの。そんなの当然よ」

 お義母様は自慢げにおっしゃいますが……
 『えっ!?この子たちを昼間あやしてたのは私なんですけど』
 なんて思わず言いたくなりました。

 でも、たしかに、お義母様のこの子たちに対する愛情は大変な
ものでした。哺乳瓶のミルクには常にビタミン剤とカルシウムが
入っていましたし、離乳食でさえご自分で一度噛んでから子ども
たちの口の中に流し込む念の入れようでした。

 オムツは30分ごとにご自分で点検、顔を見れば必ず話しかけ
ますし、頬ずりします。ほっぺを舐めまくります。

 濃厚なスキンシップは、ほっぺただけじゃありません。動物の
母親が生んだ自分の赤ん坊を舐めて育てるように、お義母様は、
とにかく子どもたちを全身舐めまくっていました。

 特にお風呂上りが大変です。裸になった二人の全身をくまなく
キスで攻めたててから丹念に舐めまくります。
 その中には、お臍だって、オチンチンだって、お尻の穴だって、
例外じゃありませんでした。もし、母親じゃなきゃ変態です。

 『そうやって育ててきた我子が自分を裏切るはずがない』
 お義母様は固く信じていましたし、実際子供たちもお母さんの
言いつけはよく守っていて、外へ連れ出しても『あれ買って~』
『もう帰る~』といったイヤイヤをして泣き叫ぶなんてことが、
ほとんどありませんでした。

 そんなお母さんにとっての扱いやすい『よい子』は、お仕置き
を受ける時だって『よい子』だったのです。

 「さあ、これから熱い熱いしますけど、しっかり我慢するのよ」

 お義母様はそうおっしゃいますけど、こればかりはだからって
おとなしくしていてくれるでしょうか。
 お兄ちゃんを抱きかかえている私は心配で仕方がありませんで
した。

 お母さんはロケット型のオチンチンをちょこんと持ち上げると
下の袋との間、つまりオチンチンの根元に大きな艾を乗せます。

 どうせ幼稚園児なんだから、という心安さはあるのかもしれま
せんが、私の方から見ると、とにかくすごい映像です。

 『えっもうそ、冗談!!!?』
 まさに、そんな感じの大きさでした。

 「さあて、これが我慢できるかなあ」
 お母さんは半分笑いながら高志君に問いかけます。

 すると……
 「…………」
 高志君は大きく首を振って反応。

 「そう、じゃあ、これからはお外の道では自転車乗らない?」
 お母さんが尋ねますから、一も二もなく……
 「もう、乗らない」
 という震えた答えが返ってきました。

 すると、少しだけ間を置いてから……
 「そう、それじゃあ、これは可哀想ね」
 お母さんはそう言うと、一度置いた艾を半分にして、また同じ
場所に乗せます。

 でも、それでもかなり大きな艾でした。

 「ご近所にご迷惑をかけたら、あなたたちだけじゃなないの。
お母さんたちだってごめんなさいしなきゃいけないの。わかる?」

 「……はい」

 「これからは、何でもお母さんに報告しますか?」

 「……はい」
 高志君すでに涙声でした。

 「これからお外の道では自転車に乗りません……言って御覧な
さい」
 「これからはお外の道で自転車に乗りません」

 「お外で起こったことは、みんなみんなお母さんにお話します」
 「お外で起こったことは、みんなみんなお母さんにお話します」

 お母さんは高志君に二つの誓いをたてさせます。
 すると、半分になった艾がまた半分になります。

 そして、最後に……
 「ところで、高志ちゃん。高志ちゃんは、これからもお母さん
と一緒に暮らしたいですか?」

 高志君は突然の質問に一瞬迷っていましたが、もちろん答えは
決まっていました。
 「……はい」

 ということで、艾はさらに半分に……
 でも、これで許されるというわけではありませんでした。
 残った艾は小さいですけど、それでも高志君の根元に目立って
あります。

 「じゃあ、これからお仕置きをします」
 お母さんは顔をきりりと引き締めました。
 「可哀想だけど、昨日あなたがしたことは角田の家では許され
ないことなのよ。お仕置きが嫌なら、お母さん、あなたとの縁を
切ります。その方がいいのかしら?」

 「えっ!?」
 こんな幼い子にそんなの酷ですけど、お義母様は美咲ちゃんに
もこのフレーズをよく使っていました。
 逆の見方をすると、子どもが自分について来るという絶対的な
自信があるからなんだと思います。

 「はい」
 高志君にとっては良いも悪いもありませんでした。
 経済的にも精神的にもお母さんの愛なしには生きられないんで
すから、当然と言えば当然……お灸のお仕置きだって当然受ける
より仕方がありませんでした。

 「敬子ちゃん、あなたの手でその子に目隠しできるかしら……
怖がるといけないから」
 お義母様は私に命じます。
 ですから、その通りにしますと……

 「……!……」
 乗ってた艾はあっという間の早業でお線香の頭くらいのほんの
小さなものになったのでした。

 そして……

 「ぁ~ぁぁぁぁ」
 その瞬間、高志君の身体は私の懐の中で反応しました。

 何とも切ない声が漏れます。
 両足をバタつかせました。
 背中が反りあがりました。
 当たり前ですけど、これでも十分熱かったと思います。
 でも、一瞬の出来事でした。

 「よし、よく頑張ったわね」
 お母さんはすぐにパンツを穿かせると高志君を抱き上げます。

 「あなたは私の大事な大事な赤ちゃんなのよ。ずっとずっと、
いい子でいましょうね。お母さんの愛の中にいればいつも幸せ。
……そうでしょう?……違った?……そうは思いませんか?」
 「はい」高志ちゃんはもう笑顔です。
 「そうでしょう。だったら、お言いつけをちゃんと守っていい
子でいましょうね」

 お母さんは高志君をひとしきり愛撫すると……

 「さあ、次はアー坊、あなたの番よ。あなたも、お兄ちゃんを
見習ってしっかり我慢してね。……あ、それから、……あなた、
お兄ちゃんなんだから、アー坊の身体押さえていて頂戴」
 お義母様はなんと、私の仕事をこんな幼い子に頼むのでした。

 『えっ!!大丈夫なの?』
 当然、そう思いましたが……

 手順は同じ。

 「ぁ~ぁぁぁぁ」
 その瞬間、アー坊(明雄君)の身体は高志君の抱っこの中で反応
しました。

 何とも切ない声が漏れます。
 両足をバタつかせました。
 背中が反りあがりました。
 当たり前ですけど、とっても熱かったと思います。
 でも、これも一瞬の出来事でした。

 そして、その後もまったく同じ……
 抱っこよしよし、頬ずりすりすりしながら……
 「アーちゃんはね、私の大事な大事な赤ちゃんなの。わかって
ますか」

 「はい」
 明雄ちゃんはお母さんに抱かれるともうすぐに笑うのです。

 「ずっとずっと、いい子でいましょうね。お母さんの愛の中に
いればあなたたちはいつも幸せですよ」

 「はい」
 明雄ちゃんは恥ずかしそうにお母さんの胸の中顔を埋めます。
高志君は羨ましそうにお母さんのすぐそばでそれを見ていました。

 最後は二人ともお母さんの膝の上に抱いてもらって……
 「ほんと、あなたたちは手の掛からない子で助かるわ。夜泣き
はしなかったし、ミルクは沢山飲んだし、街に連れ出してもだだ
をこねたことがなかったし……ご近所の誰からも、『どうしたら
そんないい子になるの?』って羨ましがられてたのよ。ほんと、
お母さん、あなた方が赤ちゃんで幸せだわ。………これからも、
お母さんのお言いつけを守っていい子でいましょうね」

 「はい」
 「はい」
 二人は少しはにかんだ様子でご返事します。
 でもお義母様のおっしゃってることは本当です。子守仲間の誰
に聞いてもこんなに大人の手を煩わせない子はどこにもいません
から、私自身も羨ましがられていました。

 だから、こんなお仕置きだって本当はいらないと思うのですが、
お義母様に言わせると、『お料理のスパイスと同じで、まったく
お仕置きをしないと親子も緊張関係がなくなって、お母様に飽き
てしまうの。お小言の効果がなくなってしまう』んだそうです。

 そんなスパイスを時折効かせながら、この男の子二人に関する
お義母様の可愛がりようは尋常じゃありませんでした。

 いくら幼児といっても、この時すでに、もう赤ちゃんという歳
ではありませんでしたが、お義母様はこれから先もこの子たちが
もっと大きくなってからも『あなたは私の大事な大事な赤ちゃん』
を連発していました。
 『食べちゃいたいくらい可愛い』なんてという表現がぴったり
するくらい、この男の子二人は愛されていました。

 私は男の子に恵まれなかったのでそのあたりは分かりませんが、
母親にとっての男の子って、父親が娘を溺愛するように、何だか
特別な存在なのかもしれません。
 だから美咲ちゃんが二人に焼きもちをやく気持もわかるんです。

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『悪い子』さんへ……ご返事遅れてすみません

『悪い子』さんへ……ご返事遅れてすみません

 一ヶ月もたって今さらご返事も変なんですが、私のブログ管理
が悪くて悪い子さんの拍手コメントに気づきませんでした。
 遅ればせながら、コメントありがとうございました。


 私の母は威圧も含め体罰には寛容な人でしたから、私の心の中
は『体罰=悪』ではないんです。勿論それって子供の方に自分は
愛されてるという実感がないと虐待になってしまいますが……
 幸い、私の場合は親を信じることができましたから着いていき
ました。

 ただ、それでも副産物はあります。
 本来は、飴と鞭を使い分けて教育訓練するわけですが、これが
段々ごっちゃになっちゃうんですよね。

 特に、鞭の危険がなくなってやれやれと思うようになってから、
妙に鞭(お仕置き)が恋しくなる。
 『パブロフの犬』じゃありませんが、鞭(お仕置き)が飴(愛)
を想起させるんでしょうね。

 しかも、その時はHな気分だって持ち合わせてるし、自分の体
は立派になってるから、昔のお仕置き(体罰)より過激なことを
求めるわけです。

 私のような古狸は親が過激なことをしてくれた分、今の子より、
大人になって求める夢やリアルは『もっと、それ以上でないと…』
と思うわけです。

 そう、大人になってマゾヒティクな快楽におぼれやすいという
ことになります。
 結果、こんな小説を書くことになるというわけです。

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4/9 抱っこと赤電話

4/9 抱っこと赤電話

*)あいも変わらず昔話のエッセイです。

 私は恵まれて育ったようだ。
 本人にしてみると『母親がもっと女らしい人だったらいいのに』
とか、『家がもっとリッチだったらいいのに』などと思っていた
から、あまりピンとこないけど、そういう事は贅沢な悩みなのか
もしれない。

 実際、親は私を愛してくれていたし、学校の先生は優しかった
し、友だちからいじめなんて受けたこともなかったから、それで
十分なのかもしれない。……そうそう、友だちの方からは偏屈で
付き合いにくい奴だと思われていたかも……

 いずれにしても、私はそんな優しい大人たちに囲まれて甘える
だけ甘えて大きくなった。
 親はもちろん、先生にも街のおじちゃんやおばちゃんたちにも
平気で抱かれに行ったし、また抱いてくれたから、昭和30年代
って、いい時代だったと思う。

 そうそう、それで思い出すことが一つある。
 あれは、まだ幼稚園に通い始めの頃、僕は隣町のアーケードで
道に迷ってしまったことが何度かあったんだ。

 当時は、お母さんに毎週のように隣町のデパートまでお使いを
頼まれていて……用を済ませたまではよかったんだけど……帰り
の道、バス通りへ行く方向が分からなくなってしまって……

 「えっ!3歳児を隣町までお使いにだすの!危なくないの?」
 近所のおばさんにはよくそう言われた。もちろん、『初めての
おつかい』じゃないからカメラも付き添いもない。

 今のように世の中が物騒だと考えたかもしれないけど、うちの
母親ってそんなことには平気な人だったんだ。物心ついた頃には
電車でもバスでも乗ってどこへでもお使いに出ていた気がする。

 そもそも本人が電車バス大好き少年だったから、バスに乗れる
ならと喜んで頼まれていたんだ。

 ところが、まだ子供だろう、ショーウィンドウに気を取られて
道を一つ間違えて曲がってしまうなんてことがよくあったんだ。

 見かけない風景に慌てた僕は、一旦、今来た道を引き返すんだ
けど、今度は間違って曲がってしまった十字路を行き過ぎてしま
ったりして、結局は迷子になっちゃうってわけ。

 『困ったなあ』
 とは思ったけど泣いたことはなかった。親もこんなことで泣く
ような子ならそもそもお使いになんか出さない。

 こんな時は、あたりを見回してまず赤電話(公衆電話)を探す。

 『しかたない、お母さんのガミガミって声は我慢して家に電話
しよう』
 そう思ってお守りの中から十円玉を二枚取り出す。困った時の
非常用電源だ。

 と、ここまではいいんだけど……
 悲しいかな設置された電話はたいてい高いところにあって幼児
の身体では手が届かないケースが多いんだ。

 ならば、『万事休す』か、というとそうではない。
 こんな時は子供ならではの奥の手があるのだ。

 「だっこ、だっこ」
 僕は通りがかりの見知らぬおじさんかおばさんの袖を引く。
 本当は、『家に電話したいので抱いてください』というのが、
ご挨拶としては正しいのだろうが、抱っこ抱っこで用が足りた。

 「えっ!????」
 そりゃあそうだろう。見ず知らず幼い子にいきなり『抱っこ、
抱っこ』ってせがまれたんだから、大人だって最初は『何事か?』
と思うはずである。

 ところが、真剣に頼めば、たいていの人は……
 「だっこするの?」
 とためらいつつも抱いてくれる。僕の実感を言えば街を歩いて
いる人は、ほぼ100%とっても親切な人たちだったんだ。

 とにかく抱かれてしまえばこっちのもので、体を赤電話の方へ
伸ばすと、おじさん(おばさん)はこちらの意図を分かってくれる。

 「ああ、電話するのね?お家に?」
 「そう、独りでかけられるの?」
 「坊や偉いのね」
 たいていは褒めてくれる。

 で、お母さんが電話に出たら、周りの風景を説明すると………
『ほら、角にいつも行くおもちゃ屋さんがあるでしょう。見える?
そこを右に曲がるの』ってな具合に教えてくれて問題は解決する
のだ。

 あとは、抱っこしてくれたおじさん(おばさん)に……
 「ありがとうございました」
 ってお礼を言えばOKってわけ。
 中にはご親切にバス停まで送ってくれた人もいた。

 こうした場合、普通の子なら道行く人や交番で帰り道を尋ねる
んじゃないかな。実際、お母さんからも……
 「もし、電話で用が足りなければ交番へ行くのよ」
 って言われてたけど、自分から交番へ行くことはなかった。

 なぜって、こんな幼い子がそんな事をしたら、僕は本当の迷子
扱いされて警察官のおじさんがたちまち親に連絡をとってしまう
から。

 結果、親が駆けつけるか、家まで送ってもらうことになる。
 そんなことは僕の沽券に関わるから嫌だったんだ。

 『3歳児の沽券って何だ?』ってなもんだろうけど……
 これはお父さんから教わった言葉。当時の僕はもの凄くプライ
ドが高かったんだ。

 いずれにしても、母がこんな幼い子に遠くへのお使いを頼めた
のは、町の治安がよくて、街の誰もが子供に親切だったからで、
母自身もそんな幸せな街に甘えて子育てしてたんじゃないかな。

 『甘える』って悪いことのように言う人がいるけど、甘えられ
る社会って大事だと思うよ。

****************************
 

4/5 おやつ

4/5 おやつ

*)エッセイ

 今の人は『家』という概念が希薄なので、。世の中というのは
日本国憲法以下、それに連なる法律で万事規制されているものだ
と思ってるみたいだけど、僕たちが子供の時代には『家』という
枠内だけで通用する法律というものがあったんだ。

 日本国中でここだけにした適用されないルール。そうローカル
ルールが各家庭に存在したのである。

 もちろん、それって我が家にも色々あったんだけど、僕が一番
不愉快だったのは、おやつに関することだった。

 もともと僕のお家で『おやつ』というのは、水菓子か、貰い物
のゴーフルや泉屋のクッキー、虎屋の羊羹、なんてところなんだ
けど、そこに『近所の駄菓子屋で買ってきた御菓子』というのは
含まれていなかった。

 でも、僕にだって『お友達とのおつき合い』ってなものがある
から、お小遣いで駄菓子屋の御菓子を買いたかったのだ。

 そこで、その事をお母さんに訴えると……
 渋々、お小遣いで駄菓子屋のお菓子を買うところまでは許して
くれた。そこまでは……

 ところが……
 「そこで買ったお菓子を道々食べてはいけませんよ。必ずお家
の中で食べなさい」
 って言われてしまったんだ。

 「おやつをお外で立って食べるなんて……あなたは、乞食の子
じゃないの。そんなみっともないまねしないでちょうだい」
 というのが母の言い分だった。

 だから、ごく幼い子の頃は駄菓子屋で買った御菓子をそのまま
家に持ち帰っていたのだが……
 家に着くと不思議な事に嬉々として買ったはずのその御菓子が
あまり美味しそうじゃないんだ。

 だから、おやつはこれまでのようにゴーフルやクッキーや羊羹
をお母さんのお膝の上で食べていた。
 こちらの方が断然美味しかったからだ。

 別にお菓子の味や値段は関係ない。これらのお菓子というのは
お母さんのお膝の上で跳ね回り、お母さんのお手々を舐めながら
食べることができるからとっても美味しいのだ。

 ところが、そんなある日のこと……

 悪友たちが、「一緒に食べようぜ」と言って僕を神社の境内に
誘いこんだ。
 僕としては、もうそれだけでちょっとした不良少年気分だ。

 「こんなところで食べていいの?」
 尋ねる僕に……悪友たちは不思議そうな顔をして……
 「何言ってるんだ?オマエ?」
 と言われた。

 そこで、さっきみんなと一緒に買ってきた駄菓子屋の御菓子を
みんなと一緒に食べてみたんだけど……これが……

 「(えっ)!!(美味しい)!!」

 僕は感激した。
 そのお菓子は信じられないくらい美味しかったんだ。

 『そうかあ!駄菓子屋で買うお菓子は、みんなでお外で食べる
から美味しいんだ!!』

 これが、僕がお外のルールを初めて知った瞬間だった。

************************

3/31  子守っ子、敬子の性春 ~3~

3/31  子守っ子、敬子の性春 ~3~

 お話は多少前後しますが、私がお義母様から二度目のキツイお
仕置きをもらう少し前のことです。

 夏休みの間も私はお義母様からずっと勉強させられていました
が、最後の1週間だけは、遅い薮入りのお休みをもらって実家に
帰ることができました。

 角田の家から実家までは近くの電停から電車に乗って20分。
終点で降りて徒歩でさらに山道を30分歩かなければなりません。
ただ、道中全部あせても一時間とかかりませんから、実家までは
そんなに遠い距離ではありませんでした。……ただ、ならば週末
ごとに実家に帰れるのかというと、そうはいきませんでした。

 そもそも私のように奉公してる者には世間の人が思い描くよう
な土曜日や日曜日といった日がないのです。
 むしろ世間とは逆で、学校に行かせてもらっている子守っ子は、
学校がお休みの土曜の午後や日曜に、ここぞとばかり家の人から
御用を言いつかります。ですから、土曜日や日曜日というのは、
むしろ忙しい曜日だったのです。

 もともと奉公人のお休みは薮入りと言って1月と7月の年二回、
それもそれぞれたった一日だけが公休日ですから、ほぼ一年中が
勤務時間でした。

 もっとも、私が育った頃になりますと、さすがに363日働き
づめはオーバーで、年に二回、一週間くらいのお休みを取る事が
できました。

 その日は若奥様にあつらえて貰った着物を着て、新しい下駄を
履いて帰ります。それと懐には多少まとまったお金が、お小遣い
として入っていました。

 しかも、こうした恩恵は何も働いている私だけじゃありません。

 私が実家に着くと、すでに若奥様が送った大きな柳行李が開け
られていて、家族全員が戦利品を分配しています。
 妹はすでにワンピースを着て独りファッションショーをやって
いましたし、兄は学生服に誇らしげに万年筆が刺さっています。
 もちろん母には帯止め、父は大吟醸を茶碗に注いですでに赤い
顔をしていました。

 7人の兄弟、父母、そして祖父母にいたるまで、薮入りになる
と、若奥様は私の家族全員分のお土産を用意して送ってくださる
のです。

 1日だけの昔とは違い、奉公人が一週間も実家で暮らせば、誰
だって里心がついてしまいます。実家にいる気安さから、お店や
主人の悪口だって飛び出します。そんな時、休暇明け、奉公人の
家族が奉公人を再び安心してお店へ送り出してくれるためには、
お店側も奉公人がお店で大事にされていることを家族にアピール
しなければなりません。

 そんなこともあって、若奥様は奉公人に何かと付け届けをして
くださっていましたが、他の商家なら子守っ子にこんな事までは
しません。

 年二回お店から送られる家族へのプレゼントは、お小遣い程度
の私のお給金より高価でしたから、家に戻った私の株はその瞬間
だけ上がります。若奥様は良い人だということになります。

 そんな、みんなが喜んでいる席で私が、『奉公先をやめたい』
などと切り出して、はたして家族が賛同してくれるでしょうか?
 その辺りは若奥様も計算ずくでプレゼント攻勢をしかけている
のでした。

 私は不利な状況のなか、夕食の時、両親の前で恐る恐る話しを
してみます。

 「今さあ、あたし若奥様の命令で学校の勉強させられてるの。
私の頭が悪いの、若奥様だった知ってるはずなのに、家庭教師の
先生までつけて無理やり『勉強しろ』だもん。こんなのおかしい
よ。……しかも、ついていけないと、お仕置きでお灸まですえる
んだから……あたしさあ、うちに戻って、家の仕事を手伝うよ。
……ね、それでいいでしょう」

 私は若奥様から特別な愛情を注がれている事までは話しません
でしたが、私なりに窮状を訴えます。

 すると母も私が『お灸』という言葉を使ったので心配になった
のでしょう。隣の部屋に私を呼ぶと、裸にして丹念に灸痕を確認
します。

 心棒はさすがに黙っていましたが、お尻のお山も尾てい骨も、
乳頭の周りやお臍、ビーナスの丘まで……相手が母親ですから、
ためらいはありませんでした。

 「ね、ヒドイでしょう」
 私は母に同意を求めます。
 『これがきっかけで家へ帰れるかも…』なんて思ったりもしま
した。

 ところが、母の反応は意外なほど冷静だったのです。

 「要するに灸痕がついたのはお尻の割れ目とお臍の下だけじゃ
ろう。お前が大騒ぎするからよほど何かされたのかと思ったら…
…このくらいの事なら家にいたってばあちゃんに据えられるから
同じだよ」

 「えっ……そんなあ……」
 あてが外れた私はがっかりです。

 確かに若奥様はお灸がとっても上手で、他の箇所は私が熱さを
感じるとすぐに火をもみ消してしまういわゆる寸止めですから、
灸痕は残っていませんでした。

 「それだけじゃないの。あの人、私のお股の中にもすえたんだ
から……」
 私は恥ずかしかったのですが、とうとう最後の手段に打って出
ます。

 私は、これを見せたら母が角田のお店へ怒鳴り込むんじゃない
かって思って心配していましたが、いざという時は、母だけなら
その場所だって見せるつもりで心の準備をしていたのです。
 ところが……

 「……ふう~ん、お前、すでに心棒まで入れてもらったんだ。
……それは、やっぱり、奥様が自らなさったのかい?」
 母は私を確かめもせず、こう聞いてきます。

 私はここぞとばかり若奥様の悪口を言い立てました。
 「だから、おかしいでしょう。それだけじゃないのよ。若奥様
は私を裸にして撫でたり擦ったりもするんだから……いいこと、
あの人がおかしいの、ちょっとやそっとの事じゃないわ。あの人、
きっと変態なのよ」

 もちろんそれは、母が私を家に戻してくれることを期待しての
ことでした。

 「そうかい…………」
 母がその時考えていたのもきっとその事だと思ったのです。
 『娘の為にどうやって父を説得しようか』って……

 ところが、その時母が考えていたのは、まったく別の事でした。

 「心棒ってのは、このあたりに昔からの習慣だけど、やるのは
たいてい良家のお嬢様だけ。うちらみたな貧乏人の家じゃ、まず
やらない。女中や子守になんか、お仕置きとしてたって、やられ
たなんて話、聞いたことがないよ。ましてや奥様がご自身で据え
てくださったなんて……お前、よほど若奥様から可愛がられてる
んだね」

 「ええええっ……何言ってるのよ。そんなことないよ。だって、
あれはお仕置きなんだよ」

 「だからさ、そんなこと、本来、奥様のお仕事じゃないもの。
女中や子守が何かしでかして折檻される時は、古株の女中がやる
ものなんだから。お前だって女なんだから、わかるだろう。女の
あんな処、誰だって触りたいなんて思やしないよ。それをやって
くださってるんだよ。お前の為に…………特別な思いがなきゃ、
ありえないよ」

 「だって……」

 「しかも、家庭教師までつけて勉強させてもらってるなんて。
お母さん、正直、若奥様の真意はわかないけど、そういう時は、
乗ってやってみて損はないと思うよ。それに、お前の口ぶりだと、
しゃべってる愚痴ほどには、どうしても今の生活が耐えられない
とは聞こえないもの」

 「どうしてそんな事わかるのよ!こっちは本当に大変なのよ!」

 「何だ?違ってるのかい?」

 「えっ!」

 「私はあんたを赤ん坊の時から負ぶって世話してるんだ。……
だから、あんたがどれくらい切羽詰ってるかぐらい分かるんだ。
……私はあんたの母親なんだよ!!……違ってるかい!?」
 母は最期には語気を強めます。

 「…………」
 私は言葉を失いました。
 というのも、家庭教師を付けられて勉強を始めた頃は、確かに
毎日毎日嫌で嫌で仕方がなかったのですが、少しずつ学校の勉強
が分かってくるようになると、それはそれで楽しみも出てきます。
それを母に見透かされたのがショックでした。

 「ここで言えるだけの愚痴を言ったら、お店へお帰り。そして、
若奥様に必死に着いて行ってごらん。それが何よりおまえの為だ
から……」

 「えええっ、だって、あそこはお灸が…………」
 私は最後の抵抗を試みますが……

 「お灸なんて、ここにいたって据えられるよ。お前は、そんな
事とは引き換えにならないくらい大きなチャンスを掴んでるんだ。
頑張ってごらん」

 「ええええっ……」
 私はすっかりあてが外れてしまってがっかりです。
 でも、母の言う『どうしても今の生活が耐えられないという訳
じゃないんだろう』という言葉もまんざら嘘じゃありませんから
仕方がありませんでした。

 私の家は元々水呑み百姓と呼ばれる小作の農家で、農地解放で
地主にはなりましたが、暮らし向きは決して楽ではありませんで
した。
 楽ではないから私が子守にだされたのです。

 そんな私が「帰りたい」なんてわがままを言っても両親が困る
のは分かっていました。だって、私が帰って農作業を手伝っても
それで私が自分の食い扶持を稼ぐことはできないのですから……

 母と二人して居間へと戻ってくると、母が家族を前に重い口を
開きます。
 それは『父が春先に怪我をして1ヶ月農作業に出られなかった
こと』や『すぐ上の兄が高校へ進学したいという話』でした。

 それらはいずれも、『うちの経済事情が厳しいから、おまえは
中学を卒業するまでは今のお店で働いて欲しい』という意味です。

 予想されていた展開とはいえ、私にとってはたびたびがっかり
です。
 『幼い頃から慣れ親しんだ家で、家族と一緒に暮らしたい』
 そんなささやかな幸せでさえ、この時はできませんでした。

 でも、そんな私の姿を見て不憫に思ったのでしょう。意外にも、
大吟醸で出来上がっていた父が承知してくれたんです。

 「お前がそんなに嫌なら仕方がないじゃないか。そこの主人に
お暇をいただけるよう、わしが手紙を書いてやるから安心しろ」
 とまで約束してくれたのでした。

 私はそんな父の口約束に一縷の望みを託していました。
 ところが、そんなはかない夢も、この間お義母様からお仕置き
をいただいた時についえてしまいます。

 父が、私の希望に反して『今後とも娘をよろしくお願いします』
と若奥様宛てに手紙を書いてよこしたのを見せられたからです。

 後で知ったのですが、父はすぐ上の兄が高校へ行くための資金
を角田の家から借りたみたいでした。

 実家での約束は父が酔っていましたから仕方がないとも言える
のですが、『裏切られた』という思いは残ります。
 それはお義母様から据えられた心棒よりもずっと長い時間私の
心を苦しめたのでした。

*************************

 二学期が始まると、とたんに三田村先生の予想が的中します。

 夏休み明けの確認テスト。これは夏休み中も真面目に勉強して
いたかを確認するテストです。これで私の国語はクラストップの
成績でした。

 普段、通知表が3だった子がいきなりクラスの最高点を出した
わけですから、当然、周囲は驚きます。
 特に担任の先生は私がカンニングしたんじゃないかって疑った
くらいでした。

 「あら、何だか気落ちしているみたいね。お勉強大変かしら?」

 お義母様に言われたのでその事を話すと……
 「大丈夫よ、あなたの力は本物ですもの。心配する事はないわ。
何度か試験を受ければそんな疑いすぐに晴れることじゃないの。
女は何かと目移りするけど、あれもこれもって追いかける人より、
与えられた場所で努力した人の方が幸せになるのよ。……あなた
に与えられたのは、この場所。そして、この私」

 「…………」

 「信じられる?」
 「…………はい」
 こう答えるしかありませんでした。

 「だったら、付いてらっしゃい。幸せにしてあげるから……」
 「はい」
 お義母様の強い言葉につられるように、ほんの少し声が大きく
なります。

 「その代わり、お仕置きも沢山よ。わかってる?」
 「はい」
 私はまた一歩、お義母様との中が近くなったみたいでした。


*************************

 さて、こうやってお義母様との関係ばかり述べていると、さも、
私が角田家の一員になったかのようですが、そうではありません。

 お義母様との関係は、あくまでお義母様と私が二人だけでいる
場合だけのことで、普段の私は相変わらず子守っ子のままでした。

 私は相変わらずお義母様の子どもたち三人の面倒をみなければ
なりません。着替え、入浴、食事のお給仕……はては下の男の子
二人(双子)のトイレの世話だって私の仕事でした。

 男の子は双子ですから共に4歳。お義母様がちゃんと仕付けて
らっしゃいますから身の回りのことは一通り何でもできるのです
が、私がそばにいると昔の習性で何でも甘えたがります。

 着替えや入浴は立ってるだけですし食事は欲しいものを指差す
だけ。仕方なく私がスプーンに乗せて口元まで持っていってやる
と、喜んで椅子の上で跳ね回ります。まだまだ赤ちゃん気分です
からトイレでウンチをする時なども、赤ちゃんがするように私が
だき抱えてやらなければなりませんでした。

 怖いお義母様が見ているとちゃんとしていますが……いない処
では二人とも私に甘え放題なんです。

 お義母様は、そんな二人を見て「自分でやりなさい!」と叱り
つけますが、効果があるのはその時だけ。放っておくと何もしま
せんから、結局は私がやる事になります。
 それは、子守っ子の悲しい宿命みたいなものでした。

 その点、美咲ちゃんはすでに10歳ですし、何より女の子です
から、子守の世話は受けたくないとばかりに自分のことは何でも
自分でしたがります。

 ま、それはいいのですが、彼女、大変なお転婆娘でした。

 幼稚園の頃から札付きで、女の子よりむしろ男の子の友だちの
方が多く、男の子と一緒にチャンバラごっこやターザンごっこを
やって遊んでいました。

 当然、喧嘩相手も大半が男の子ですし、顔はいつも日焼けして
真っ黒、年がら年中生傷が絶えませんでした。

 ご主人(お父さん)がよく冗談めかしに……
 「あいつ、そのうちオチンチンが生えるじゃないか」
 なんて言っていたほどなんです。

 今の言葉でなら『体育会系』ということになるのでしょうか。
学校の成績はビリから数えた方が早いですし、ピアノとか日舞と
いった習い事も続けてはいましたが、サボってばかりですから、
いっこうに上達しません。
 お義母様にしてみると、それが頭痛の種だったみたいです。

 そんな事情から、美咲ちゃんはお母さんからよくお小言をいた
だいていました。
 いえ、お小言だけならまだしも、キツイ折檻(お仕置き)だって
日常茶飯事だったんです。

 つまり美咲ちゃんとお義母様って似たもの親子だったんです。

 そんなある日のこと、その美咲ちゃんに勉強を教えるように、
つまり家庭教師になるようにと、お義母様が私に命じるのです。
 それは今までの経緯から、ある程度予想できたことなのですが、
いかんせん私にはハードルが高すぎます。

 「無理です」
 私ははっきりお断りしたのですが、お義母様は……

 「いいから、やって……あなたへのフォローは何でもしてあげ
るから……もちろん、言うこと事きかないようならあなたの判断
でお仕置きしたってかまわないのよ」

 「…………」
 お義母様はそうおっしゃいますけど、私はまだ14歳、しかも
使用人の立場です。主人の娘さんをお仕置きするなんて、そんな
大それたことできるはずがありません。

 でも、お義母様は聞き入れませんでした。
 そして、敬子ちゃんを前にこう宣言します。
 「あなただって、いつまでも山猿のままってわけにはいかない
でしょう。だから今度、敬子さんにあなたのお勉強をみてもらう
ことにしたの」

 当然、美咲ちゃんは大むくれです。
 だって、私は年長者といっても子守っ子ですからお嬢様である
美咲ちゃんは私の事を自分の下にいる人間だと思っていました。
それがいきなり自分の先生になるわけですから面白かろうはずが
ありません。

 でも……
 「いいわね」
 お義母様に強く言われると……
 「はあい」
 あくびしたようにも見えますが、美咲ちゃんとしてはとにかく
こう答えるしかありませんでした。

 しかも……
 「敬子さんには、もし、あなたがサボるようならお仕置きして
かまわないって言ってあるから、そのつもりでいなさいね」

 「えっ!?」
 美咲ちゃんの顔色が変わります。
 おまけに……

 「それでは、ちゃんと正座して、先生によろしくお願いします
をしましょう」
 最後はお義母様の指示で、私を前に両手を畳に着けてのご挨拶。

 「先生、よろしくお願いします」
 私の前で笑顔なんかありませんけど、笑顔のお母さんに押し切
られた格好でした。美咲ちゃんはこの時まだ10歳。お母さんに
言われたら嫌でも仕方がありませんでした。


 そこで、美咲ちゃんの家庭教師を始めるには始めたんですが…

 案の定、元は子守っ子だった私のレッスンなんかまともに受け
てくれませんでした。美咲ちゃんはたちまち膨れっ面になって、
ストライキです。

 でも、これもまたお義母様は織り込み済みのようでした。

 昭和30時代、このくらいの年齢の子がお母さんの言うことを
きかない時はどうなるか……

 「いやあ~~お灸だめ~~ごめんなさい、ごめんなさい、……
勉強します、勉強します、だめえ~~お灸しないでしないで~」

 突然、家中にもの凄い大音響が木霊します。
 もう少し歳がいけば、女の子ですからね、自分の悲鳴がご近所
にも届いて、恥ずかしいという気持も起こるんでしょうが……

 「いやあ~~人殺し~~鬼~~やめろ~~~死んじゃう~~」

 いつも元気一杯の美咲ちゃんは、仏間に引きずられて行く時も
元気一杯でした。

 「敬子ちゃん、あなたも手伝って」
 お義母様はもの凄い形相で私を睨みつけると一緒に着いて来る
ように指示します。
 まるで、私も美咲ちゃんの共犯みたいでした。


 仏間に引っ立てられた美咲ちゃんは、さっそく畳の上に仰向け
に寝かされ、ショーツを剥ぎ取られると両足を高くされます。

 「この子、押さえてて」
 お義母様がこう言って、美咲ちゃんの両足を私に預けるまで、
あっという間でした。

 「いや、お灸いや、ごめんなさい、もうしませんから、やめて」

 美咲ちゃんは仏壇にお灸を取りに行ったお母さんに向って必死
に命乞いしますが、身体をよじろうとすると……

 「お黙り!!」
 ドスのきいた声で一喝されてしまいます。

 すると、美咲ちゃんは本当に黙ってしまいました。
 私だって経験があるから分かるのですが、美咲ちゃんは本当に
怖かったんだと思います。お母さんが怖くて怖くて、声が出ない
みたいでした。

 こんな時、今のお母さんなら、まずお仕置きをするにあたって
事情を説明してくれるみたいですが、私の育った時代、私の育っ
た町ではこの位の子供をお仕置きするにあたっては親が何も説明
しない方がむしろ一般的でした。

 おいた(罪)とお仕置き(罰)は、できるだけ時間を短くが基本
だったのです。
 「お母さんはこんなに怒ってるのよ」
 という怒りの感情を子供に伝えることが大事だったんです。

 『もう、お仕置きは逃れられない。もし、これ以上お母さんを
怒らせたらどうなるか……』
 その先を経験済みの美咲ちゃんは諦めるという道を選択したの
でした。

 「やっと、おとなしくなったわね。……どうなの?少しは反省
した?」
 お母さんは美咲ちゃんのお股から顔を覗かせて、しょげ返って
いる美咲ちゃんの顔を見ます。

 「急におとなしくなったから、お漏らししたのかと思ったけど
……それはないみたいね」
 お義母様はそうは言いつつも美咲ちゃんのお股をタオルで綺麗
に拭き取ります。

 親子ですから、そのあたり何のてらいもありませんでした。
 そして、おそらくは私が据えてもらった艾よりさらに大きな艾
をまだ小さな大陰唇の近くに乗せます。

 「ほら、火をつけるよ。歯を喰いしばって!!」

 お母さんが言ったのはそれだけ。
 私より小さな身体の美咲ちゃんが私より大きな艾の味を噛み締
めます。
 それは、私にとっても子宮がぐっとしぼむほどの衝撃でした。

 「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
 声にならない声が私にも伝わります。
 それは両足を押さえている私にとっても辛い体験でした。

 ただ、美咲ちゃんは仏間へ入って来た時とはうって変わって、
静かにお灸のお仕置きを受けています。

 「よし、あなたも少しはお姉ちゃんらしくなったみたいね」
 お母さんは満足そうに笑うと、美咲ちゃんの両足を下ろして、
ショーツを穿かせ、正座したご自分の膝に乗せます。

 私が育った世界では『まずは、とりあえずビール』じゃなくて
『まずは、とりあえずお仕置き』
 そして、ここからがお小言でした。

 「どうして、学校で敬子先生のありもしない悪口なんか言うの。
敬子先生はあなたよりお姉さんで、成績も優秀。あなたに不足の
ない先生なのよ」

 「だって、子守じゃない」

 「そうよ、子守よ。だから、あなたたちお世話になったんじゃ
ない。それのどこが問題なの?学校の成績が優秀だから、今は、
あなたたちのお勉強もみてもらってる……それだけじゃないの。
それのどこが気に入らないの?」

 「それは……」

 「敬子ちゃんはね、子守をしながらお勉強してこんなに立派に
なったの。立派になったからあなたのお勉強をお願いしたのよ。
それに引きかえあなたはどうなの?何一つお家のお仕事をしない
ばかりか、何をやらしてもサボることばかり考えてるじゃない。…
…ん?敬子ちゃんとはえらい違いよね」

 「…………」
 美咲ちゃんは泣いているのでしょうか、お母さんの胸に顔を押
し当てます。

 「あなたは何もしなくてもずっと私の娘でいられると思ってる
のかもしれないけど……私は傲慢な子や怠け者は嫌いなの。……
いいのよ、あなたなんかここにいなくても……跡取りは、すでに
二人もいるんだし……」

 「えっ?」

 「そう言えば、叔父さんがあなたを養女に欲しいっておっしゃ
ってたことがあったわ。あなた、そっちで暮らした方がよくない?
……うちは女の子が欲しかったら、敬子ちゃんを養女にするから
……」

 「…………」
 この時、美咲ちゃんの顔が真っ青になったのがわかりました。
 それはあり得ないと思っても、お母さんと離れて暮らすなんて、
子どもは絶対に考えたくありません。ですから、お尻叩きより、
お浣腸より、お灸よりこれが一番キツイお仕置きだったのでした。

 「どうやら、あなたはわかってないみたいね。敬子お姉ちゃま
からあなたが習わなければならないのはお勉強だけじゃないの。
見習わなければならないことがたくさんあるの。それをよ~~く
覚えておきなさい」

 「はい」
 美咲ちゃんは少し甘えた声を出しますが、お母さんのお仕置き
がこれで終わったわけではありませんでした。

 「そう、良いご返事ね。それじゃあ、今日学んだことをお灸で
復習しましょう」

 「はい」
 美咲ちゃんの顔には明らかに不満な様子が窺えますが、養女に
出すとまで言われたら従うしかありません。

 美咲ちゃんにとってはこれからが本番。これからがお仕置きの
メインイベントでした。

 「敬子ちゃん、この子慣れてるからたぶん大丈夫だと思うけど、
一応、美咲の身体を押さえててね」
 私はお義母様に頼まれましたが……

 「そんなことしなくていい、大丈夫だよ。あんたは何もしない
で……」
 美咲ちゃんが自分で服を脱ぎ捨てながら不満そうに言います。
当時、角田の家の子供たちがお灸のお仕置きを受ける時に許され
るのはパンツ一つ。女の子の美咲ちゃんもショーツ一枚でした。

 美咲ちゃんの気持は分かります。他人の私が見ている前で裸に
なるのは嫌でしょうし、身体を押さえられるのはもっと嫌なんで
しょうけど……

 「生意気言うんじゃありません!!あんたのそういう処がいけ
ないの!!」
 お母さんに一喝されてしまいました。

 確かに私が押さえてなくても美咲ちゃんは耐えられるかもしれ
ません。けれど、これはお仕置きのためのお灸ですから、誰かに
取り抑えられながらお灸を受けさせるという屈辱感みたいなもの
がお仕置きをする側にとっては大事な要素となるのでした。

 腹ばいになった美咲ちゃんは、まずは首筋の少し下と腰の辺り
に背骨を挟んで二つずつ、仙骨の辺りに一つ、すでにある五箇所
の灸痕に新たな艾が乗せられます。
 そうしておいて……

 「美咲、もう敬子先生の悪口は言いませんね」
 「はい、先生の悪口は言いません」
 美咲ちゃんがお母さんにご返事すると、首筋の下にある艾にお
線香の火が移されました。

 「ひぃ~~~」

 「しっかりお勉強しますね」
 「はい、ちゃんと勉強します」
 今度も同じ。美咲ちゃんがお母さんの期待するご返事が出来て
から、腰の辺りに乗せられた艾に火が移されるのでした。

 「うっ~~~~」

 「次にこんなことしたら、このお尻の穴に焼き鏝ですからね。
分かってますか?」
 お母さんは、あえて美咲ちゃんの菊座に指を突き立てます。
 こんなこと、もちろん本当の親子だからできることでした。

 「はい、そんなことにならないように頑張ります」

 最後は仙骨のあたりに……

 「あっ、ああああああつ~~~」
 思わず顔が歪み、引きつったような声が出ます。
 慣れていても、やはり、ここが一番熱いようでした。


 「さあ、次は仰向けよ」

 仰向けにされた美咲ちゃんは、最後の砦である白いショーツも
剥ぎ取られて、その下、お臍の下に集中砲火を浴びます。

 もちろんここでも、一火ごとにお母さんが質問を繰り返します
から美咲ちゃんはそれに丁寧に答えなければなりませんでした。

 「美咲、もう敬子先生の悪口は言いませんね」
 「はい、先生の悪口は言いません」
 お母さんはその答えを聞いてからお線香の火を艾に近づけます。

 でも、もし美咲ちゃんがちょっとでもふて腐れた顔を見せたら
……

 「あら、そう、まだ反省が足りないみたいね」
 こうお母さんに宣告されて、やり直し。
 また、熱いお灸を最初から我慢しなければなりませんでした。

 もちろん、それは美咲ちゃんも十分に承知してはいるのですが、
いかんせんまだ幼い子供のことで、そういつまでもお芝居(?)は
続きません。

 そこで……
 「もう一度、最初からやり直します」
 なんて言われたら、もう手遅れでした。

 「いやあ~~~だめ~~~ごめんなさい、もうしません、もう
しませんぁぁぁ、熱い、いやあ~~もうしないで~~いや、いや、
いや、だめ、だめ、だめ、死んじゃう、死んじゃう」
 お灸は二度目三度目は最初の時よりさらに熱いですから、美咲
ちゃんの顔も最初の一火から歪みます。

 「おかあちゃま、何でも言うことききます、何でも言うことき
きますからもうしないで……」
 美咲ちゃんはたまりかねて甘えた声を出しますが、お母さんは
決して許そうとはしませんでした。
 むしろ……

 「ほら、敬子ちゃん、もっとしっかり押さえてて、ここが肝心
なところなんだから……」
 美咲ちゃんに向ったお義母様の怒りが、私の方へも跳ね返って
来ます。

 家庭内のお仕置きって、親も子も体裁をまったく気にしません
から、そのぶん過激でハレンチ。それは戦場というか、修羅場で
した。

 お義母様は艾を小さくして、何度も何度も据えます。
 そして美咲ちゃんが泣き疲れて懺悔する声さえ出なくなるまで
それは続いたのでした。


 一区切りがつくと、お義母様は美咲ちゃんを正座した膝の上に
抱き上げます。
 そして、まるで幼子をあやすように抱きしめてから再びお小言
するのがお義母様のやり方でした。

 「あなたは自分が角田家の娘だからここで働いている人は自分
より下の人間だぐらいに思ってるみたいだけど、それは違うのよ。
そもそも、今のあなたに何が出来るの?」

 「…………」

 「力仕事はもちろん、お裁縫もお料理も何もできないじゃない。
今のあなたは、私とお父様に食べさせてもらってるだけでしょう。
……違うかしら?」

 「…………」

 「そんなあなたが、ここで働いてる人たちを足蹴にするような
ことを言っていいはずがないわ。敬子ちゃんはたしかに子守よ。
でも、あなたなんかよりはるかに偉いの。誤解したらいけないわ。
そもそも、あの人たちを雇っているのは、お父様。そして、私。
あなたじゃないの。……いいこと、これだけは覚えておきなさい。
今のあなたは、この家ではまだ何の役にもたたないお人形でしか
ないの」

 「……はい」
 美咲ちゃんの口から小さな小さな声がやっとでました。
 その美咲ちゃんにお母さんは追い討ちを掛けます。

 「お人形は誰かにあげることができるわ。幸い、家には跡取り
もいることだし、あなたはもういらないの。叔父さんが子どもが
欲しいそうだから、あなた、そこで養女になった方がよくないか
しら?」

 「いや、お母さんのところがいい」
 今度はもっとはっきりした声がでます。

 「そう、だったら仕方がないわね。ここにおいてあげるけど、
その代わり、敬子お姉ちゃんとしっかり勉強して頂戴。いいわね」

 「……はい」
 また声が小さくなりました。

 「もう一度言います。敬子お姉ちゃんは山猿のあなたなんかに
比べたら、はるかに優秀なの。十分に家庭教師が務まるわ。もし、
今度お姉ちゃまを困らしたら、その時はお尻の穴に焼き鏝。……
いいわね」

 「いや、いや……美咲どこへも行かないから……」

 お母さんの厳命に美咲ちゃんの顔が震えます。そして、震えた
顔は、やがて震えたままお母さんの胸の中に収まるのでした。


****************************

4/4 僕のお嬢様

4/4 僕のお嬢様

 僕のささやかな人生経験ですべてを断定的に決め付けてはいけ
ないとは思うんだけど、僕の育った時代、僕の周りにいたお嬢様
なる人物はとても腰が低かった。

 誰と話しても丁寧な言葉で、僕なんか人間ができていないから
すぐに相手を見下したような態度になってしまうけど、どちらの
お嬢様もそれはまったくなかった。

 家に遊びに行くと、そこの使用人さんにもちゃんと『誰々さん』
とさん付けで呼ぶし、何かものを頼む時だって『お願いします』
という言葉づかいだった。

 よくマンガなんかで、お嬢様が家の使用人を呼び捨てにしたり、
あごで大人の人を使ったり、タバコなんかくわえてたりするのを
見ると、この人いったいどこのお嬢様だろうと思ったりしたもの
だ。

 むしろ事実は逆で、格式のある家であればあるほど親は世間の
評判を恐れて娘たちを厳しく躾けており、くれぐれも後ろ指など
指されないよう最大限の注意をはらって教育していた。

 もちろん、これは気品や知性、プライドといった事とは別で、
お嬢様というのは幼い頃から立ち居振る舞いを厳しく躾けられて
いたから、そこに立っているだけで、庶民の子には醸し出せない
『オーラ』のようなものを持っていたのだ。

 だから、庶民出の僕には……
 『このお嬢様って、いったいどんな教育を受けてるんだろう』
という素朴な疑問がわくし、そこから、よからぬ妄想だって生ま
れてくるのである。

 ところが、最近は……
 この『お嬢様』なる人物がとんと見当たらなくなってしまった。

 もちろん、世の中にお金持ちは沢山いるし、その娘だって沢山
いるんだけど、この人たちは僕が昔出合ったお嬢様ではないよう
な気がする。

 良きにつけ、悪しきにつけ国民みんなが同じ教育を受けるよう
になったということだろうか。
 昔のようなお嬢様なんて必要ないということなんだろうか。

 『お仕置き』が虐待と同意語になってしまったように『お嬢様』
もその意味が変質して古語になってしまうのかもしれない。
 寂しい限りだ。

**********************

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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