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おばあちゃん先生のお仕置き

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 陽だまりの洋室の一人用のソファに腰を下ろして年配の婦人が
うたた寝をしている。

 それを部屋の入口から隠れるように覗き込む幼い少女が三人。
何やら言い争っている。

 「真理ちゃん、入ってよ」
 「いやよ、メグ(恵)ちゃんから入ってよ」
 「だって、あなたが最初にボールを芝生に入れたんじゃない」
 「何よ、あんな高い球、梯子でも持ってこなかったら取れない
じゃない。あんな球を投げた、あなたが悪いんでしょうが」

 すると三人の中では一番背の低い里香が二人を無視して部屋の
中へ……

 「先生、こんにちわ」
 里香は園長先生の身体を揺すっている。

 唖然とする入口の二人。
 「え~~~何するのよ」
 「やめなさいよ」
 二人は園長先生に取り付いた里香を必死に引き戻そうとするが、
里香はお構いなし。

 そのうち、うたた寝から醒めたおばあちゃんが起きてしまう。
 それどころか……

 「園長先生、お仕置き、お願いします」
 大きな声は園長先生を完全に目覚めさせてしまった。

 「あら、里香ちゃん。どうしたの?……あら、真理ちゃん……
メグ(恵)ちゃんも一緒なの。……御用かしら?」

 こうなると、部屋に入りそびれていた二人も中へ入ってこなく
てはならなくなった。

 「先生、園長先生にお仕置きをお願いしなさいって美川先生が」
 里香が、その幼い両の手で、さながら甘えるように園長先生の
お膝を揺する。

 その様子は、まるでお仕置きという意味が分かっていない幼子
のようだった。

 「あら、そうなの。……あなた、何かオイタしたのかしら?」
 先生は少し寝そべった身体を立て直すとき、おずおずと入って
来たほかの二人にも笑顔を振りまく。

 「あら、あなたたちも、お仕置きが必要なの?」

 三人の少女はこの時まだ7歳。
 学校で決められたオカッパの髪、服はライトブルーのシャツに
たけの短い臙脂のフリルスカートといういでたちでアイボリーの
短ソックスを履いている。靴は日本の学校ならどこでも採用して
いる先っちょが赤いゴムになった白い上履きを履いていた。

 「***********」
 「***********」
 二人は先生の前までやって来たが恥ずかしそうにしているだけ
で、何も話さない。

 話さないというより、こうしたことは話しづらい、むしろ里香
の方が異常だった。

 すると、ここでも園長先生のお膝を一足早く占拠していた里香
が口火を切る。

 「今さっき、私たち礼拝堂の裏にある芝生の上でゴルフの練習
していたんだけど、そしたら望月先生がカンカンに怒っちゃって
……」

 「望月先生が……ゴルフって??」園長先生は小首をかしげる。

 「あなたたち、ゴルフボールとかクラブとかお道具はどうした
の?」

 「何?それ……そんなの知らない」里香も先生のお膝の上で、
やっぱり小首を傾げる。

 「とにかくドッヂボールが入ればよかったの。芝生の真ん中で
穴掘りして……花壇の処からボールを蹴って……それでその穴に
何回で入るか競争してたんだけど、真理ちゃんって偉いんだよ。
3回で入れちゃったんだから……」

 「なるほど、そういう事でゴルフなのね」

 「そうだよ、ゴルフってできるだけ少ない回数でボールを穴に
入れた人が勝ちなんでしょう?」

 「そうね、だったらゴルフだわね。……それで、里香ちゃんは
何回で入れたの?」

 「七回。真理ちゃんなんて10回よ。……それで、もう一回、
花壇の処からやろうとしたら望月先生がかけっこでやってきて、
『あなたたち、何やってるの!』って……」
 里香は園長先生に両手で目尻を吊り上げて見せる。

 「どうやら望月先生、怒ってたみたいなの。それで園長先生の
ところでお仕置きしてもらいなさいって……」

 「なるほど、それで私の処へ来たのね」

 「そういうこと……ね、わかった?」
 里香ちゃんは屈託のない笑顔で園長先生を見つめる。

 「お話はわかったわ。……でも、あの芝生は、お姉さんたちが
年に一度開かれるテニス大会の為にだけ使う芝生なの。だから、
普段はああして何も行われていないけど、その日の為にお姉さん
たちがみんなで大事に大事に育ててるから、あそこには普段入っ
ちゃいけないのよ」

 「ふ~~~ん、そうなんだ。それで望月先生が、おばあちゃま
先生のところへ行きなさいって言ったんだ」
 里香は納得したみたいだったが、その顔はすぐに暗くなって…
 「……ねえ、おばあちゃん先生は、私たちをお仕置きするの?」
 不安そうに尋ねた。

 すると……
 「なあんだ、そんなこと心配してたの?大丈夫、しないわよ。
あなたたちはそれが悪いことだって今日初めて知ったんだもの。
もちろん、二度としないでしょう」

 「うん」

 「だったらそれで十分。お仕置きなんて必要ないわ。しません」

 「ほんと!?」
 今度は急に顔が明るくなった。

 「本当よ、こんなことであなたたちをお仕置きしたりしないわ。
私はあなたたちが本当の事を話してくれたことがとても嬉しいの。
だから、それで十分。お仕置きなんて必要ないわ」
 園長先生はそう言うと里香を膝の上からさらに高く抱き上げて
頬ずりする。

 「ホントにほんと」
 里香が念を押すと、他の二人もその場に膝まづいて園長先生の
顔を覗き込んでいた。

 子供たちにとってお仕置きはそれほど一大事なのだ。

 そんな子供たちの気持を察したのだろう。園長先生は三人の顔
を見回すと……
 「ここでは、嘘をつかない子、自分のしたことから逃げない子
にお仕置きしませんって決めてるの。ただ、あそこはお姉ちゃま
たちが大事に育ててる芝生だから、あなたたちが掘った穴は元に
戻さなきゃだめよ」

 園長先生は、里香の頭を撫でて頬ずりすると、いったん膝から
下ろし、代わりに真理を抱く。

 「頭についてるリボンは望月先生が作ってくださったの?」

 「そうよ、似合ってるって……」

 「とってもよくお似合いよ。あなた、あんな高い塀を飛び越え
ていくようなボールを投げられるなんて、運動神経がいいのね」

 「お転婆さんだって言いたいんでしょう」
 真理は少しはにかむような甘えるような仕草で園長先生の胸を
借りている。

 「いいのよ、それって素敵なことだもの。子どもの頃はお転婆
くらいでちょうど良いわ」

 園長先生は真理を下ろすと、最後にメグを抱く。
 メグは穴掘りを一生懸命やったせいか服が多少汚れていたが、
園長先生はそれを気にする様子もなかった。

 「あなたが一番一生懸命に穴を掘ったのね。お友だちのために
そうやって働く事はとっても尊いことよ。……でも、もうそれも
終わったから、今度はお顔とお手々を少し綺麗にしましょう」

 「柴崎、これを濡らしてきてちょうだい」
 園長先生はご自分のハンカチを秘書の柴崎さんに渡す。

 その短い間、園長先生は抱いたメグの額に自分の額を擦り付け
てお互い笑って過ごした。

 やがて、濡らされたハンカチが届くと、おばあちゃん先生は、
「あなたは望月先生にここでの顛末を報告してきてちょうだい」
と、新たな仕事を与える。

 その後は濡らしたハンカチが真っ黒になるまでメグの顔や手を
拭き、真理や里香ともにらめっこをしたり肩車をしたりして過ご
す。その姿はまるで三人の本当のおばあちゃんのようだ。

 それもそのはず、ここはカタリナ会の修道院が経営する特殊な
孤児院。彼女たちも赤ん坊の時からここの寄宿舎で暮らしている
から、他の世界を知らないのだ。
 園長先生のことを、おばあちゃん先生と呼ぶのはそのせいで、
子供たちにしてみれば園長先生といえど身内と変わらなかった。

 こうして、三人が三人ともおばあちゃん先生のお膝に乗ると、
これでお仕置きは終了。

 このくらいの年齢の子がお仕置きを受けるのは、それが他人を
怪我させてしまうかも知れない時と、自分が怪我してしまうかも
しれない時だけ。何をやったにせよ、本格的なお仕置きは、まだ
一度も受けたことがなかった。

 「もう二度と、あの芝生には入りませんってお誓いの言葉だけ
は述べましょうね」

 園長先生に促されて、三人はあらためて床に膝まづく。
 両手を胸の前で組んで……

 「私たちは、もう二度と、お姉様たちが大切にしている芝生の
中に入りません」

 園長先生の言葉に合わせて、三人も……

 「私たちは、もう二度と、お姉様たちが大切にしている芝生の
中には入りません」
 と、唱和する。

 これはこの学校のしきたりのようなもの。園長先生に呼ばれた
時はお仕置きを受けたか否かにかかわらず生徒は必ずこの姿勢で
こうした誓いの言葉を口にしなければ開放してもらえなかった。

 そして、その誓いの言葉が終わりかけた頃、膝まづいた三人は
不思議な音を聞くのである。

 「あっ……ああああ」

 それは誰かのうめき声。でも……

 『何だろう?』
 思わず顔を見合わせる三人。

 でも人生経験の浅い三人にはドアの向こう側にある苦悶の表情
を想像できなかった。

 「さあ、もういいわ。望月先生には私から三人は良い子に戻り
ましたってご報告しておくから心配要らないわよ」

 「ホント!必ずご報告してね」
 真理がほっとした笑顔で……でも、思いは三人とも同じだった。

 「さあ、もういいでしょう。行きなさい。次の授業は理科よね。
先生をお待たせしちゃいけないわ」
 園長先生のやさしい声に送られて、幼い子供たちは部屋をあと
にする。

 すると、三人が部屋を出たのを確認して、おばあちゃん先生は
一人用のソファから立ち上がったのだが……
 その顔は心なしか締まって見えた。

**********************

 「さて、どんな具合かしらね」
 園長先生は奥の扉を前にして一言。
 そして、天上まで続く高い高い本棚を右へと滑らすと……

 『ス~~~~』
 この大きな本棚が引き戸となって奥の部屋へと続いている。

 ただ、今ここにいた小さな子供たちとってそこは縁のない部屋。
ここはもう少し大きくなった子供が何かの折お仕置きをうける為
の部屋だった。

 薄暗かった部屋に、たくさんの白熱燈を従えたシャンデリアが
まばゆい光を放つ。
 それまで薄っすらとしか見えなかった景色が白日の元になる。

 あたりの気配に気を配る園長先生のそのキリリとしまった顔は
幼い子を相手にしていた先ほどまでとは別人だった。

 30平米程の広さの部屋には人一人が乗るには十分な長方形の
テーブルが一つ。
 今は中学校の制服を着た少女を一人、四つん這いにして乗せて
あった。

 「ああああああああっ」
 重苦しい吐息と共に少女の全身が小刻みに震え、それに合わせ
てテーブルも揺れている。

 ひんやりとした部屋の空気が、彼女の頑張りによる熱量だけで
まるでストーブでも炊いているように温まって感じられるから不
思議だ。

 しかし、園長先生の視線は冷ややかだ。

 うつ伏せの少女のお尻はテーブルに押し付けた顔より高い位置
にあって、おまけにスカートが捲り上がっている為にビニールの
オムツカバーが丸見え。
 それが小刻みに揺れて擦れキュキュという音を出していた。

 園長先生は少女のお尻を一瞥すると、自らこの部屋の管理人に
任命した木村先生に擦り寄り小声で尋ねた。

 「木村、どうなの……終わったのかしら?」

 「いえ、半分ほどで止まって、まだ残っています」

 「そう、じゃあ、今、オムツの中はベチョベチョってわけね。
どうりで軽く異臭がすると思ったわ」

 園長先生と木村先生はヒソヒソ話だったが、振り返ると少女の
顔は真っ赤になっている。
 そこで、今度は園長先生の声が大きくなる。

 「わあ~~臭い臭い。この娘、学校でウンコしちゃったんた。
わ~~恥ずかしいわね」
 園長先生はわざと幼い苛めっ子がはやし立てる時のような声を
出した。

 すると、少女が思わずテーブルに顔を伏せて隠す。
 今の少女に園長先生のお茶目なツッコミを相手にしている余裕
はない。
 全身鳥肌の少女は、未だ四つん這いのままで、時折襲う荒波に
必死に向き合っていた。

 「あっ……あああああ」

 少女の頭や額からあふれ出た球のような脂汗は、やがて一つの
雫となって頬を滑り降り、小刻みに震える顎の先端からテーブル
へと落ちる。そこには後悔の涙も含まれていた。

 「さて、どうでしょう。……小坂さん、どうなの?なぜこんな
ことになったのか、思い出してくれたかしら?」

 「はい……」
 力ない声が返って来る。

 「だったら、あなたがしたこと、教えてちょうだい」

 「…………は……はい」
 小さく震える声。でも、やっと搾り出した声だった。

 「そう、それはよかったわ。昔から教師の世界では健忘症の子
にはお鞭よりお浣腸が効くっていわれてるけど、本当みたいね」
 先生は少しおどけた調子だ。

 「カンニングをしました」

 「そう、カンニング」
 園長先生は何やら思わせぶった表情だが、事の顛末は、すでに
知れていた。

 「それじゃあ、あの紙はやっぱりあなたが作ったのね。今度の
テストって、あなたまでもがカンニングしなきゃならないほど、
そんなに大変だったの?」

 「いいえ……あれは……亜紀ちゃんに頼まれて……」

 「なるほど、あなたが自分の為にそんな事やるはずないものね。
……ということは、それって、純粋にお友だちの為なのかしら?」

 「亜紀ちゃん、このテストで合格点取らないと、午後も補修を
やらされて大事なテニスの試合に出してもらえなくなるからって
……それで……」

 「それで答案用紙にまず自分で答えを書いてから回収されない
問題用紙の方を破って、そこに答えを書き移して前の座席の亜紀
ちゃんに渡してあげた。……そういうことかしら?」

 「…………」
 律子は頷くだけで答えた。

 「ところが、その答えを書いた紙を亜紀ちゃんが自分だけじゃ
なく他の子にも回してあげたから、その紙はテストを受けていた
クラス全員に行き渡り、結局、大半の子が満点。……めでたし、
めでたし、というわけね」

 先生の皮肉に律子ちゃんは身の縮む思いだ。

 「…………そうよね」

 最後の『そうよね』には園長先生のため息も混じっていた。

 「あなたは、お友だちの為によかれと思ってやったのかもしれ
ないけど、それって安西先生にしてみたら大迷惑なの。テストは
子どもたちがどの程度教科の内容を理解しているかを示す大事な
指標なんですもの。仮に誰かに教えてもらった答えを書いて百点
がたくさん出たとしても嬉しくないわ。それは分かるでしょう?」

 「……は、はい」
 律子の蚊の泣くような声がする。

 「どう、こんな姿勢でテスト風景を見た事なんてないでしょう?」
 園長先生は、園長室に設置されていたモニターを四つん這いの
律子にも見えるように移動させていた。

 モニターは一台ではない。今、学園の中で何が行われているか
が瞬時に把握できるように、園長室では10台以上のモニターに
学園のあらゆる場所が映し出されていた。

 「あらあら、あなたのおかげてお友だちがみんな今日二回目の
テストを受けてるわ」

 「……私は……」

 「わかってる。あなたはあれは亜紀ちゃんの為にやっただけで
他の子のことは知らないって言いたいんでしょう」

 そして、園長先生はこう付け加える。
 「人間は安易な方法が見つかるとそれに流れるものなの。……
あなたにそのつもりがなくても、こういう事になるわ」

 「私はそんなことまで……」
 律子はそこまで言って口をつぐむ。

 「そんなことまで考えてなかった?でも、意図していなくても
起こった結果には責任を取らなきゃならないわ……それが大人に
なるということなの」

 「私は……ただ……亜紀ちゃんがそれで助かるならと思って……」

 「親切心が裏目に出たってことかしら?……今回は、あなたが
自分の為にカンニングしたわけじゃないけど、罪としては決して
軽くないよ。それと、何よりよくないのは私が最初にカンニング
ペーパーの出所を尋ねた時、あなたが素直に白状しなかったこと。
これが今回の一番の罪だわね」

 「ごめんなさい先生。……私、勇気がなくて……」

 「犯した自分の罪を素直に認めるのは勇気のいることだけど、
ここではあえてそれを求めるの。それはあなた達をこうして援助
してくださるお父様方が、高い学力より天使のような無垢な子で
あって欲しいと願っておられるから。その願いは私たちも同じ。
幼い頃、先生たちとかわした『嘘をつきません』というお約束は
あなたがここの生徒である限り絶対のお約束。知ってるわよね」

 「はい、先生」

 「じゃあ、先生に嘘をつかないというお約束を守れない子は、
理由のいかんを問わず辱めのお仕置きを受けなければならない。
この規則も知ってるでしょう?」

 「はい、先生」

 「よろしい。納得できたんなら、もう、お浣腸はいいわ。木村
に手伝ってもらって、カーテンの向こうで着替えなさい。それが
終わったら、ここへ戻ってケインで一ダース。それで、終わりに
しましょう」

 「えっ、ケイン?……あっ、……は、はい」
 律子ちゃんは明らかに動揺していた。

 ケイン一ダースは女の子としては厳しい罰。女の子の場合は、
通常はトォーズと呼ばれる革紐鞭が多かったからだ。

 「どうしたの?……不満?……これでもあなたのことを考えて
お仕置きは精一杯軽くしたつもりだけど、いやだったら別の罰を
考えなきゃいけないわね」

 「あっ、……い、いいえ……そんな……ありがとうございます」

 律子は慌てたどたどしく消え入りそうな声になる。
 もともと絶対君主の命令を拒否するなんて一介の生徒にはでき
なかった。

 園長先生は律子に一応の区切りをつけると、それまで注目して
こなかったマリア様の肖像が掛かった壁の方を見る。

 そこにはテーブルに乗る少女と比べるといくらか華奢な体つき
の女の子が二人、白い丸首シャツにブルマー姿で膝まづいていた。

 「マコちゃん、リサちゃん、お待たせ……さて、あなたたちは
反省できたかしら」

 園長先生に水を向けられて、二人は思わず顔を見合わせたが、
結局、声がでない。

 二人は小学五年生。小学生は中学生と比べても身体が小さくて
華奢だ。だから、こんな部屋に連れ込まれ大人に見下ろされると
たいていこんな事を思う。

 『怖い。オシッコちびりそう』
 二人は頭の中で同じ事を思っていた。

 律子もそうだが、二人もここで新参者ではない。赤ん坊の頃に
この修道院に引き取られ、以来ずっとシスターたちと一緒に暮ら
している。お姉ちゃん達が通う学校も入学前から出入りしていて
校庭は自宅のお庭の一部。学校の先生が親代わりになって遊んで
くれることもしばしばで、おばあちゃん先生とも普段ならため口
がきけるほど仲がよかった。

 ただ、子供たちに評判の悪いお仕置き部屋へ二人が連れて来ら
れたのは今回が初めてだし、園長先生のこんな怖い顔も初めて。
そのあまりの恐怖に二人とも声が出なくなっていた。

 「時の経つのは早いものね。つい最近まで私はあなたたちの事
を『可愛い赤ちゃん』『元気な赤ちゃん』とばかり思ったけど、
気がつけばあなたたちもすでに11歳。そろそろ赤ちゃんを卒業
させてあげて分別というものを身につけてもらわないといけない
年頃になってる。……今日は、それでここへご招待したの。……
驚いた?」

 「…………」
 「…………」
 二人は無言のまま頷く。それが今の二人に出来る精一杯だった。

 「ここはガールをレディへと創りかえる舞台裏。男の子もそう
だけど、女の子も単に歳を重ねればレディというわけではないの。
お姉様らしい気品や立ち居振る舞いは汗と涙、努力と試練を重ね
て身に着くもの。ここはその訓練の場所なのよ」

 「…………」
 「…………」
 二人はあらためて部屋の中を見回す。
 シャンデリアの輝くこの部屋は一見すると豪華だが、窓もなく
背の高い本棚が防音壁となって悲鳴をあげてもその声が容易には
外へ漏れそうにない。そんな圧迫感が二人を不安にしていた。

 「……目をぱちくりさせて……ビックリした?……正直ね。でも、
その正直でいることが、ここでは何より一番大切なことなのよ。
女の子は、自分を守ろうとして男の子より簡単に嘘をつくけど、
一つ嘘をついてしまうと、それを隠そうとして、次から次に嘘を
つかなければならなくなっていき、やがて自分のついた嘘を必死
に真実だと思い込もうとする。女の子にはよくあるパターンよ」

 「…………」
 「…………」
 二人は生唾を飲んだ。
 この二人にしても経験のない話ではなかったのだ。

 「そうやってあがいてみても、嘘が真実に変わることはないわ。
実際そうやって身を滅ぼした子が何人もいるの。私たちにしても、
そうした子にはたくさんお仕置きしなければならないし、お互い
何一つ徳になることはないのよ」

 「…………」
 「…………」
 二人の顔が青ざめる。

 「オシオキ……」
 マコちゃんが蚊のなくような小さな声でつぶやいた。
 この言葉が重いのはリサちゃんも同じだ。

 「あなたたちも立派なレディになるまでにはこういった部屋で
痛い思いや恥ずかしい思いをたくさん経験することになるわね。
でも、それもこれも、あなたたちのため。それにみんなに愛され
ている子に試練は少ないわ」

 「ホントに?」
 リサちゃんが不思議そうに尋ねた。

 「本当よ。……ここでは『清楚』で『勤勉』で『従順』な子が
愛されるの。生活にだらしのない子や怠け者、我ままばかり言う
子は嫌われるわ。学校で習ったでしょう」

 「はい」

 「中でも最も大事なことは、他人にも自分にも嘘をつかないと。
ここでは正直にさえしていれば恐れる事は何もないわ。お友だち
や先生、お姉様、周りにいる誰もが救いの手が差し伸べてくれる
から心配ないの。女の子はそれを大事にしなきゃ」

 おばあちゃん先生は中腰になってリサちゃんの頭を両手で持つ
と、頭と頭をコッツンコさせた。
 そして、こう続ける。

 「本当よ。ところが、大きくなるにつれて守りたいものが沢山
増えちゃうから、そういう勇気がなかなか出なくなっちゃって、
その結果、ああして恥ずかしい罰をたくさん受けるはめになるの。
……嫌よね、ああいうの」

 おばあちゃん先生の振り向く先に、今まで律子が頑張っていた
テーブルがある。その先、カーテンが引かれた向こう側では……
恥ずかしい音やすすり泣く律子の声が……

 二人がそれを映像としてそれを見る事はなかったが、カーテン
越しでも恐怖は十分に伝わってきていた。

 「お姉ちゃま、嘘をついたんですか?」

 園長先生は、再び幼い二人の方を振り返ると……

 「そうなの。最初は、『私、カンニングなんかしてません!』
って頑張っちゃったの。こちらは調べがついてるから訊いてるの
に……あなたたちだってあんなことするの嫌でしょう?」

 「…………」
 「…………」
 二人は即座に首を縦にする。

 「お浣腸って恥ずかしいし苦しいものね。嫌に決まったるわよ
ね」
 園長先生は静かに微笑むと自らその場に膝まづいて二人を一人
ずつ抱きしめた。

 リサちゃんをひとしきり抱きしめてから、次はマコちゃん……
 これは二人への最後通牒だった。

 「……よし、それじゃあ尋ねるけど、お二人さんは今日は何が
あってここへ行きなさいって秋山先生に言われたの?」

 「それは……」
 「え~~~っと……」
 二人はやはり口が重かったが……

 園長先生が念を押す。
 「リサちゃん、マコちゃん、ここでは嘘をつく子はいらないの」

 先生は事の顛末を知っていたが、あくまで二人の口からそれを
聞きたかったのだ。

 大きなプレッシャーが圧し掛かるなか、リサちゃんがやっとの
ことで口を開く。
 「お掃除の時間にマコちゃんが…『食堂の机を並べて、そこで
かけっこしない』って言うから……私、仕方なく……その……」

 すると、すぐにマコちゃんの反論が返って来た。
 「嘘だね、それリサちゃんが最初に言い出したんでしょう」

 「私は、ここ(食堂)で走ろうなんていってません。ここでも
できるねって言っただけじゃない」

 「嘘よ!リサちゃんが教室よりここ(食堂)の方が長く走れる
からここでやろうって……」
 二人はお互いの肩をぶつけ合う。

 しかし、園長先生にとってそんなことはどうでもよかった。
 「で、机を並べ替えて走路にしたのは誰なの?…リサちゃん?
マリちゃん?」

 「それは……二人で……」
 「自分の走る分は自分で作ったから……」

 「そう、あんな広いお部屋の端から端までに机を並べるのって
大変だったんじゃない?……でも、楽しかったんでしょう?」

 「…………」
 「…………」
 二人は小さく首をこっくり。

 「そりゃあ楽しいわよ。お友だちもたくさん応援してくれてた
みたいだし……食堂のおばちゃんも『急に運動会が始まったから
びっくりした』っておっしゃってたわ」

 「始めは、机を三つだけ並べて石飛するつもりだったんだけど
……リサちゃんが、もっと長くしてかけっこした方が面白いって
言うから……机を全部並べることになっちゃって……」
 マリちゃんはちょっぴり不満そうに反論したが……

 「どちらが最初に思いついたかなんて関係ありません。だって、
最後は二人して机を並べて走路にしたんだもの。この期に及んで
相手が悪いなんて言えないわ」

 「…………」
 「…………」
 二人はシュンとなった。

 「私がいけないって言ってるのはみんなで食事をするテーブル
に上履きのまま上がることです。あなたたちそんなことして汚い
とは思わなかったの。それに、不安定な机の上を走ったりしたら
危ないでしょう。足を踏み外して落ちたりしら、たとえ机の上の
高さからでも大怪我になるところよ。食堂は体育館じゃないの」

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 二人は殊勝な顔でうな垂れる。

 「ほら、見て御覧なさい」
 園長先生はモニターの映像を切り替え、今の食堂の様子を映し
出す。

 「ほら、あなたたちが土足で踏み荒らしたテーブルをお友だち
がお掃除してる。……これって、誰のせいでこうなったの?」

 「…………わたしたちです」
 「…………ごめんなさい」

 「本来なら、あなたたちが首謀者ですからね、率先してお掃除
に参加してもらうところだけど、今日はもっと大事なレッスンが
必要だと思って……それで、今日はこちらに来てもらったのよ。
……どういうことだか、わかるわね。ここに来たのが何の為か?」

 再び、おばあちゃん先生の黒い影が二人の顔に圧し掛かる。

 「はい」
 「はい」

 「何の為だか…わかるかしら?」

 「お仕置きですか?」
 リサちゃんだけが勇気を振り絞って答えたが思いはマリちゃん
も同じだった。
 二人はお仕置きを覚悟していたのである。

 「わかってるなら、それで結構よ」

 「…………」
 「…………」
 二人は先生の鋭い視線に耐え切れず視線を床に落としてしまう。

 「ただ、あなたたちの場合は、まだ小学生だから、鞭でお尻を
叩くお仕置きだけは免除してあげるけど……」

 「えっ、お仕置きしないの?」
 マコちゃんが、思わず視線を上げふっと息をつく。
 「帰っていいの?」
 リサちゃんも目が輝いた。

 「いいわよ。お仕置きが済んだら……」

 「えっ?だってお仕置きはしないって……」

 「そんなこと言った?私は鞭を使ったお仕置きは許してあげる
って言っただけよ。お仕置きはしませんなんて言ってませんよ」

 やっと二人の顔に血の気が戻ったのもつかの間、またシュンと
して下を向いてしまう。

 「ぶったり叩いたりはしませんよ。ただし、一つだけ、あなた
たちには大事なお仕事があるわ」

 「どんなこと?」

 「これから、ここで律子お姉様のお仕置きがあるんだけど……
それをここで見届けてほしいの」

 「えっ……お姉様のお仕置きを……」
 「……それって……見るだけ?」

 「そうよ、見るだけでいいわ。辛いお仕置きを事前に見学して
おけば、あなたたちがこれからオイタがしたくなったとき、思い
とどまるきっかけになるかもしれないでしょう。あなた達だって
中学生になれば、このくらいのお仕置き、ないとはいえないのよ」

 「他山の石とか……」
 「見せしめ?」

 「あら、マコちゃんもリサちゃんも難しい言葉知ってるわね。
その通りよ。律子お姉様だって、先生の前だけでお尻出すのと、
後輩に見られながらお仕置きを受けるのでは心に残るものが違う
んじゃないかしら。より深く反省ができた方が先生も助かるから
これは一石二鳥ね」

 「…………」
 「…………」
 二人にはおばあちゃん先生の笑顔が怖かった。

 そうこうしているうちにカーテンが引かれる。
 現れたのは紺の制服姿をピシッと身につけ、こわいほどの顔で
園長先生を見据える凛とした律子お姉様の姿。
 そこには、先ほどまでオマルにしゃがみ込み、涙を拭い鼻水を
すすりながら泣いていた姿はなかった。

 「園長先生、ありがとうございました」

 律子はこの修道院の作法にのっとって園長先生の前に膝まづき
両手を胸の前に組んで挨拶する。
 それは気品さえ感じさせる姿だった。

 それもそのはずでここで暮らす子供たちは単なる孤児ではない。
世間によくある、親の虐待や経済的に困窮したために施設に預け
られたという孤児たちとは少し事情が異なっていた。
 
 実は、ここの先生方、この子たちの親の素性をご存知なのだ。
しかもその名は、この教団の中にあっては『幹部』と呼ばれる人
ばかり。そんなお偉いさんたちが不義を犯してつくってしまった
のがこの子たちであった。

 堕胎を禁じる教義のもと、産んではみても育てられないわけで、
結局、同じ教団内の修道院で秘密裏に育ててもらうことになる。

 『教会の子供たち』と呼ばれるこの子たちには、当然、親から
養育料が支払われているから経済的には困らない。しかも、将来
ひょっとしたこの教団の幹部になることもありえるわけで、それ
なりの教養や躾も叩き込まれる。但し、人目については困るので、
生活のほとんどが修道院の中という超かごの鳥生活だった。

 「あなたも、中学生になって、少しは女らしく振舞えるように
なりましたね」

 園長先生は律子を褒めると、すぐにマリア様の額が掛かった壁
を向く。
 そして、幼い二人にこう命じたのだった。

 「あなたたち、あなた達もお姉様のお仕置きを見学させていた
だくんだったら、そのままの姿では失礼よ。ブルマーとショーツ
は脱いで見学しなさい」

 おばあちゃん先生の言葉は寝耳に水、青天の霹靂だった。

 『ブルマーとショーツってどういうことよ』
 『どうして私たちまでそんな恥ずかしいことしなきゃならない
のよ』
 二人の頭は混乱する。
 でも、これは園長先生の命令。無視も拒否も出来なかった。

 「…………」
 「…………」
 お互い、顔を見合わせ、両手でそうっとブルマーに手はかけた
ものの、そこから先が進まない。
 結局、ブルマーは下がらなかった。

 すると、園長先生が……
 「何してるの。早くなさい。あなたたちは、ここにお客さんで
来てるんじゃなないのよ。お姉様と同じようにお仕置きで来てる
じゃないの。お姉様のお仕置きをパンツを穿いて見るなんて失礼
よ」

 先生の言葉が真上から降ってきて二人は身が縮む。
 でも、だからって『はい、わかりました』とはならなかった。

 小学生といってもそこは女の子、恥ずかしいのだ。

 そんな乙女の気持を見透かすかのように、暗黒の大王が降りて
くる。

 彼女は二人の前で中腰になると……
 「何、愚図ぐすしてるの!…恥ずかしいの?…いいでしょう!
まわりは女性ばかりなんだから」

 たったこれだけ言う間に二人のブルマーとショーツを下ろして
しまう。

 「お仕置き部屋では先生の命令はすぐに従わなきゃ。お仕置き
が追加されてしまうわよ」

 『恥ずかしい』
 『死にそう』
 二人は頭の中ではぼやきながらも、先生に言われることなく、
胸の前で両手を組む。

 『とにかく、反省のポーズをとらなきゃ』
 『今度は本当にお尻をぶたれちゃうよ』

 二人が怯えるなか、先生は……
 「いい心掛けね。その姿勢でお姉様が美しい心を取り戻すのを
見ていなさい。その間は『お姉様が美しい心を取り戻せますよう
に』って、マリア様にお願いするの……いいですね」

 「はい、先生」
 「はい、先生」
 二人は反射的に声を揃えた。

 「さて、律子ちゃん。妹二人が、あなたのお仕置きを応援して
くれるそうよ。頑張らなくちゃね」
 先生は身体の向きをテーブルに戻すと、まだ何の準備もできて
いない律子ちゃんの顔を見て笑う。

 『夢なら早く醒めてよ~~』
 律子は心の中で叫んだ。

 あまりにも絶望的な状況になると、今、起こっている出来事が
まるで夢をみているように感じられて現実感がなくなってしまう
もの。
 でも、これは悲しい現実。律子ちゃんは、これから恥ずかしく
て痛いお仕置きを覚悟しなければならなかった。

 律子ちゃんは腰枕と呼ばれるクッションにお臍の辺りを乗せて
うつ伏せになると、テーブルの角を両手でしっかり握る。
 ガマ蛙が車に引かれたようにペッチャンコで、お尻だけが高い
無様な姿勢。でも、これが鞭のお仕置きの際に生徒が取らされる
姿勢だった。

 準備はこれだけではない。
 木村さんによってスカートが捲り上げられ、ショーツが下げら
れる。周囲が女子ばかりだから遠慮がないけど、お尻にスースー
風の当たる律子はやはり恥ずかしかった。

 「さあ、行きますよ。よ~~く歯を喰いしばっていないと舌を
噛みますからね」
 園長先生の声。

 最初はケインの先端がお尻のお山を撫で回すだけだったが……
そのうちそれがお尻を離れたと感じると、いきなり衝撃が走った。

 「ピシッ!!」①

 律子ちゃんの両手が思わず全力で机の角を握る。
 その瞬間はヒキ蛙の身体全体に電気が走っていた。

 「いやあ~~痛い」
 大きな声。肩を震わせ、肩まで伸びたストレートヘアが揺れる。
 本当は腰から下も揺らしたかったが、鞭は初心者ということも
あって念のため木村さんが腰を押さえていた。

 「だらしがないわね。このくらいのことで悲鳴をあげて……」

 園長先生は冷淡に言い放つ。
 実際、鞭のお仕置きと言うのは慣れているかどうかで受ける側
の感覚が随分違う。もし、これが幼い頃から親や教師にケインを
当てられていた子だったら悲鳴はおろか呼吸一つ変わらなかった
に違いない。
 先生はその程度でぶったのだ。

 「さあ、次」

 その言葉から10秒ほどあいて……
 「ピシッ」②

 「ひい~~~」
 園長先生にだらしがないと言われて必死に頑張ったから身体を
動かさず泣き言は言わなかったが、お尻が痛いという現実は同じ。
 自然と涙がこぼれる。

 「できるじゃない。このくらい誰でも耐えられるのよ。レディ
はこのくらいのことでジタバタしてはいけないの。恥の上塗りで
しょう。女の子は今自分がどのよう見られているかに細心の注意
を払わなきゃいけないの。……分かったかしら?」

 「はい、先生」
 律子ちゃんはこうしか言えなかった。
 反論なんて出来なかったのだ。

 「さあ、もう一つ。いきますよ」

 再び10秒後……
 「ピシッ」③

 「ひぃ~~~いやあ」
 出すつもりのない声が出る。

 「ふぅ」

 園長先生は一つため息をつくと……
 「…無様ね。そんなことではあなたを中学生と認めるわけには
いかないわね。心がまだ子供なら子供としてしか扱えないわね」

 こう言ってすでに三つの赤い筋が出来ていた律子ちゃんのお尻
へ顔を近づけていくと、何も言わず、少女の太股を……

 「あっ!!……」
 もちろん、律子ちゃんは自分が何をされたか分かったが、悲鳴
も上げなかったし押し開かれた太股も元に戻さなかった。

 そんな律子ちゃんに園長先生はきつい一言。
 「子どものあなたが隠す必要ないでしょう」

 そして……
 「さあ、もう一つ」

 「ピシッ」④

 「ひいっ~~」
 声は出来るだけ絞ったが、肩も頭も大きく揺れる。ついでに、
女の子の恥ずかしい場所も……

 中一の体ではそれはまだ子供のそれにも近かったが、スースー
する場所が恥ずかしいことに変わりはなかった。
 そこを風が通り抜けた瞬間、律子ちゃんの顔が真っ赤になった。

 「恥ずかしい?」

 「は……はい」
 先生の質問に素直に答えると……

 「恥ずかしいのもお仕置きよ。我慢しなくちゃね。できる?」

 「はい」

 「よろしい。では足を閉じないようにしなさいね。閉じたら、
鞭の回数を増やします。いいですね」

 「はい」

 「よろしい、ご返事は合格。では次、いきますよ」

 「ピシッ」⑤

 「あっっっっっっ」

 それは今まで以上にお尻に応えた。
 でも律子は我慢する。わずかな時間でも園長先生とのやり取り
が彼女の支えになっていた。これが無言のまま、太股を開かせ、
ケインで打ち据えていたら律子は大暴れしていたかもしれない。

 「お股が涼しいでしょう。でも、ここで暮らした子どもたちは
全員、こんな恥ずかしい格好をしてきたの。一回だけじゃなく、
何回も……」

 「私も、またぶたれるんですか?」

 「それはあなた次第。ここでは、怠けたり、規則をやぶったり、
お友だちを傷つけたりしない限り、お尻をぶったりしないもの。
あなたは優等生だから、こんな経験、今日が初めてなんでしょう
けど、多くの子はもう2~3回はここを訪れてるのよ」

 「えっ……でも、聞いたこと……」
 
 「口止めされてるからよ。ここであった事は絶対に外で話して
はいけないの。ただ、女の子っておしゃべり好きでしょう。話題
に困ると、ついついお友だちにおしゃべりしてしまうみたいね。
でも、そんなことが先生にバレちゃうと、ここへ連れ戻されて、
それこそ、これまで一度も経験したことのないようなお仕置きを
受けるはめになるわ」

 「オシオキ?……それって、どんなお仕置きなんですか?」

 「それは、あなたもお友だちにこの部屋でこんな事があったよ
っておしゃべりしてみれば分かるわ」

 「……」

 「さすが優等生ね、こんな姿でもお仕置きことが知りたいんだ」

 「そういうわけじゃ……」

 「つい、おしゃべりがながくなったわね。さあ、次、いくわよ」

 「ピシッ」⑥
 「ヒィ~~~~」
 そのあまりの勢いに律子の両目が思わず飛び出す。

 「痛い~~~」
 律子の小さな声も拾われ……
 「ほらほら、愚痴を言わないの。鞭のお仕置きは一発一発噛み
締めて反省しなきゃ」

 「はい」

 「さあ、次」

 「ピシッ」⑦
 「あああああああ」

 律子は地団太を踏む。痛みを逃がそうとして腰を激しく振った。
その中では自ら両足を開いてしまうことも。
 見学する妹たちにも自分の大事な処が丸見えになったが、今は
そんなこと言っていられなかった。

 「ピシッ」⑧
 「いやあ~~やめて~~~」

 「ピシッ」⑨
 「もうしませ~~んから~~」

 「ピシッ」⑩
 「いやあ~~痛い、痛い、だめだめ」

 それから先の律子は半狂乱。自分でもどうやって鞭のお仕置き
を終わらせたのか、覚えていないくらいだった。

 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
 荒い息が止まらないまま園長先生の声を聞く。

 「よく頑張ったわね。もう、おしまいよ」
 園長先生がねぎらうと……

 「いいんですか?あと二つでしょう?一ダースだから……」
 律子は最初そう言ってテーブルを離れなかった。

 「あら、あなた、意外にしっかりしてるのね。ほかの子なら、
そんなの無視して『もうかった』と思ってテーブルを降りるのに
……さすがは級長さんね」
 園長先生は律子の耳元までやって来て微笑む。

 「そんなこと……」
 園長先生の吐息が掛かるなか、律子は思わず頬を赤く染めた。

 「二つはおまけ。あなたが健気にお仕置きに向き合ってくれた
ことへの特別のご褒美よ。さあ、もういいわよ。起きて」

 今の律子は下半身が丸裸。自分の恥ずかしい場所ができる限り
見えないように慎重に身体をよじり、ショーツを上げスカートを
調えてテーブルを降りたのだが……
 あたりを見回すと、周囲ではちょっとした事件が起きていた。

 前にも話したが、先生の命で律子が受けていた厳しいお仕置き
を、マリちゃんとリサちゃんが並んで見ていたのだが……

 その時よほど怖かったのだろう、リサちゃんの方が、その場で
お漏らしを始めてしまったのだ。

 こんな厳しいお仕置きのある学校では幼い子のお漏らしなんて
珍しくない。先生も落ち着いたもので、律子ちゃんにさえ気づか
れないまま、新しいショーツが与えられたリサちゃんは部屋の隅
で正座してべそをかいていた。

 律子はその場面を直接見ていないが、その痕跡は絨毯のシミと
なって残っている。それを見ただけで一目瞭然。何が起こったか、
すぐに理解できたのである。

 さらにそのシミの脇、友だちの粗相と同居させられて迷惑そう
な顔をするマリちゃんと目があった。

 「…………」

 お仕置きを受けた者同士、言葉はかけないものの気持は通じて
いたらしく、律子が笑うとマリも同じように笑って返すのだ。

 ほどなく園長先生が二人の前に現れると……
 二人をマリア様が描かれた肖像画の下に並ばせ、膝まづかせる。

 ここでも二人はショーツを下ろして両手を胸の前で組むことに。
でも、これはこの教団の教義ではハレンチなことでも何でもなか
った。無垢な身体に穢れは宿らないと信じられていたのだ。

 「マリア様、もう二度と悪さはいたしません。これから先も、
どうかマリア様のご加護が得られますように」
 「マリア様、もう二度と悪さはいたしません。これから先も、
どうかマリア様のご加護が得られますように」

 二人はこの姿勢のまま懺悔する。

 懺悔が終わって、おばあちゃん先生が最後に注意したことは、
二人にとってとても大事なことだった。

 「ここで起こったことは決してお友だちに話してはいけません。
もし、あなたたちがお友だちに話せば、今度はあなたたちがあの
テーブルでうつ伏せになるの。そんなの嫌でしょう」

 「はい、先生」
 「はい、先生」

 「よろしい、分かったのならそれでいいわ。ショーツを上げて
帰りなさい」

 園長先生の言葉に二人は大喜び。
 さっそく立ち上がると駆け出すついでにショーツを引き上げた。

 「この部屋でのこと、決してよそで話しちゃだめよ」

 園長先生は駆け出す二人の背中めがけて叫んだが、はたして、
その声は少女たちの耳に届いただろうか。
 二人の少女は、園長室の開かれた扉の向こうで待つ多くのお友
だちの波の中へと消えていった。

 *****************<了>****

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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