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幼年司祭 (中編)

 中編

 私は告解を施す部屋へと戻って暖炉の火をおこす。
 この暖炉の上には大きな祭壇があり、回心を望む者はこの暖炉
の前で膝まづいて、まず神様に心を入れ替える旨を伝えるのだ。

 この時、神様には自分のありのままの姿を見てもらわなければ
ならないため、回心の儀式は女の子も含め全裸で行われることに
なっていた。
 体は神様によって与えられたが服は親が与えたものだからこの
場にふさわしくないというわけだ。

 また、『人の身体は、性器も含め、そのすべてが神様のお創り
くださった神聖なもの。卑猥なものなどあるはずがない』という
訳で、子供たちはいろんな機会に裸にされていた。

 親だけでなく教師や聖職者も、日常的に子供を裸にして、発育
状態やその日の健康状態、お仕置き以上の虐待を受けていないか
相互にチェックしあっているているし、身体検査は全裸で行い、
プールの授業も水着は着けない。何か悪さをしでかせば、廊下に
全裸で立たされるなんてことも日常茶飯事だ。しかもこんな時は
思わず両手で性器を隠したいところだが、それも許されていなか
った。

 子供は責任を問われない代わりに責任ある大人に全てを委ねよ
という古い戒律がここでは生きていたのである。
 言い返れば、子供は大人のなすがままにしていれば幸せに暮ら
せるということになる。

 さて、こんな重々しい儀式を執り行う部屋ではあるが、内部は
いたってシンプル。この部屋に余計な物が一切なかった。

 厳かな祭壇の前には、一畳ほどの古びた絨毯が敷かれ、あとは
黒光りする年季の入ったテーブルが部屋の中央に一つあるのだけ。

 そうそう、償いの為の鞭だが、これは部屋の壁に大きさ太さの
違うケインがこれ見よがしに掛けてあるのだが、これはあくまで
子供たちを怖がらせる為のデコレーション。実際に使用する鞭は
古びたテーブルの引き出しのなかにある。

 大きな引き出しを開けると、ケインをはじめトゥーズやバラ鞭、
パドルなど多種多様の鞭を一同に見る事ができるが、これも子供
をビビらせるための演出で、これをみんな使うわけではない。
 その子の年齢や性別、罪の軽重ここでの態度など総合的に判断
して的確な物を選択するが、女の子の場合はケインのような傷の
残りそうな物はやはり避けていた。

 その他、部屋の隅に置かれた大きな壷には水が張られた中に、
樺の木の鞭がまるで傘立ての傘のように無造作に刺さっていたり、
キューピットが女神様にオーバーザニーでお尻を叩かれていたり
する宗教画なども飾られているが、いずれも、『ここは、怖い処
なんだよ』と教えるための演出装置だった。

 私の方も、準備らしい準備はなく、衣装を告解用の白い法衣に
着替えると、カレンの父親がしたためた手紙に目を通しながら、
カレンが着替えを済ませてこの部屋へやって来るのを待っていれ
ばよかった。

 この父親からの手紙。もちろん告解そのものは私の権限だが、
親の意向をまったく無視することはできない。特に、罪の赦しを
得るのに必要な償いをどうするかは親の意向を反映させることに
なるからだ。

 とはいえ、手紙の内容に子供のための助命嘆願といったものは
少なく、むしろその大半が『なるべく厳しくお願いします』とか
『年頃になり親の目を嫌がります。性器の検査をお願いします』
『うちの場合はお灸をすえる習慣がありますからそれも可能です』
などといったものが多かった。

 手紙の内容を確認すると、あとは待つだけなのだが……。
 そうなってから先、しだいに鼓動が早くなり自分でも緊張して
いるのが分かる。
 もちろん、連れて来られる子供たちは緊張しているだろうが、
私もこうしたことに慣れることはなかった。

 いくら先輩から色んなノウハウを教わったとしても神でもない
自分が本当に人の心を読み取れるのか、自分の与えた鞭はその子
の心に本当に届いているのだろうか、など思うことは色々だ。

 そんな事に思いをめぐらしていると、さらに『平然として人を
罰することに罪はないのだろうか?』などとまで考えてしまう。

 村人は私に対し、感謝こそすれ悪くいう人はいないが、それは
私個人の人徳と言うより教団の権威が私の背中を明るく照らして
くれているからにすぎない。

 私はそれに乗っかって仕事をしているだけ。これから振るう鞭
も『これは自分の意思ではなく使途の意思によるもの』と自分に
言い聞かせて、子供たちをを罰しては許すを繰り返してきた>

 ただ、その一方で……
 『幼年司祭はロリコン野郎の成れの果て』
 なんて落書きが教会の壁に描かれたこともあった。

 確かに幼年司祭になれば、男女を問わず幼い子の性器は見放題。
懺悔に来た子の償いをどの程度に設定するかも私の判断一つなの
だから子供たちに恨みをかっても仕方がないのかもしれない。

 しかし、私に限らずいかなる聖職者も決して勝手気ままに鞭を
振るっている訳ではない。親の意向を聞き、子供の心をしっかり
と読んで的確なお仕置きを与えようと心がけている。
 それもこれも、その子を立派な村の一員に育てあげようと誇り
を持って仕事をしているから、いらぬことをしているとは思って
いないのだ。

 だからこそ、こんな平和な村にもあっても、私は、子供たちに
とっては怖い存在、親たちには子供の躾になくてはならないもの、
としてその役割が受け継がれてきたのだった。

 去勢されたうえに、下積みだけでも十年もかかるこの仕事は、
成れの果てがやるには、けっこう骨の折れる仕事なのである。


 それやこれや、いつものように頭の中を巡らせているうちに、
鋼鉄製の重い扉開く。
 重く厚い扉は防音の為だった。

 その扉がマーサの両手によってゆっくりゆっくりと開かれた時、
そこに現れたのは臙脂のジャケットから白い麻のワンピースへと
衣替えしたカレンの姿だ。

 この麻のワンピースはいわば白装束。
 『私に二心はありません。どのような償いもいたします』
 という決意の証として着るもので、誰もが教会にストックして
あるものの中からサイズの合うものを選んで借りることになって
いた。

 だから、これはカレンの私服ではない。しかし、清楚な雰囲気
を感じるカレンには、この白いワンピがことのほかよく似合って
いる。

 「カレン、ここへいらっしゃい」

 部屋に一歩踏み入れたカレンを、早速、手元に呼ぶ。

 そうやって、カレンが私のもとへとやってくると、重いドアが
鈍い音をたてて閉まっていく。
 あわてて振り返るカレンだったが、お母さんとマーサはすでに
閉まるドアの向こう側。これからはカレンと私、二人だけの世界
が始まることになる。

 カレンにとってこの行事は初めてではないから、取り乱したり
はしないが、まだ幾ばくかの恐怖と震えがその身体に残っている。
 それをしっかりと抱きしめると……こう諭した。

 「大丈夫だよ、震えることはないんだ。とにかく落ち着こう。
これは試練だけど、乗り越えられない試練というのはないはずだ
から。今日の事は、後日、君が大人になった時に必ず役立つこと
なんだよ。昔から言うよね、こうした試練は為になるレッスンだ
から無駄にはならないって……わかるよね?以前にも何度かお話
したから覚えてるだろう?」

 「そんなの…わかってます」
 私の問いに抱きしめられているカレンは胸の中で静かに頷いて
みせる。

 ありきたりの言葉でも女の子には大切なメッセージなのだ。

 大半の子どもたちは幼い頃から私のお仕置きを受け続けている。
学校には先生、家庭には当然、親がいて子供たちは色んな大人達
から叱られるわけだが村の中で起こした揉め事は私の担当だった。

 建物への落書き、喧嘩やいじめ、公園の遊具を独り占めする子
だって、大人たちに首根っこを掴まれて私の処へ連れて来られる
ことになるのだ。

 だから、私を嫌いな子だって大勢いるはずなのだが、なぜか、
ここへ来てこんな中年男の抱擁を露骨に嫌がる子はいなかった。

 こうやってしばらくお互い立ったまま抱きあううちに、カレン
の目から涙が溢れて、私のシャツを濡らし始める。

 カレンの涙を見た瞬間『これは本物だな』と思ったから、私は
彼女を抱いたまま椅子に腰を下ろす。幼子のように抱っこしたの
だ。

 ここで言う本物は懺悔する気がある、回心する気があるという
こと。もし、本物でない場合は、不本意ながら子供の意に反して
ここでもお仕置きすることになる。それは当然、本物の場合より
辛い体験だった。

 「神様に懺悔しようか」
 私が耳元で囁くと、カレンは静かに頷いた。

 彼女は自らの行いが神様との約束とは違うことをしてしまった
と恥じているのだ。そして、もう一度、父母や先生、教会の秩序
の中で暮らしたいと望んでいる。
 震える彼女の身体を抱いていてそれで分かった。

 ただ、気持はそうでも、その腰はすぐには上がらない。

 断っておくが、彼女がこの場でどんなに大粒の涙を流そうと、
甘える仕草で私を懐柔しようと、いったん宣告されたお仕置きが
変更されることはないし、鞭の威力が削がれることもない。
 その意味で、私は子供たちにとってはとても怖い存在なのだ。

 しかし、そんな怖い存在に、一時(いっとき)抱かれることで、
村の子供たちは安らぎを得る。
 親、先生、聖職者、鞭を振るう事のできる誰もがそうなのだ。
 逆の見方をすると、無条件で抱かれていても、安らぎを得られ
ない場合は、そもそもその子を叩いてはいけないのかもしれない。

 幼いカレンにそんな説明はしないが、私はカレンの様子を見て
いて、『私にはこの子にお仕置きする資格がある』と感じていた
から、方針は変えなかったのである。

 椅子に座り、しばらくはカレンを膝の上に抱いて、ただじっと
していた。
 この子は悪い子だから、キツイお仕置きが必要なんだとは考え
ていなかったのである。

 「さあ、そろそろ、神様に懺悔しようか」

 10分ほど抱いてから、私はカレンを膝の上から下ろす。
 幼い頃から同じ事をしてきたつもりだったが、カレンもすでに
15歳、私が去勢された人間であっても男の前で裸になるのには
抵抗があって当たり前の歳になっていた。

 私が彼女の足を床に下ろすと頬がほんの少し赤くなった。

 自ら一糸纏わぬ姿になって男の前に立つのは15歳の少女には
酷な注文なのかもしれないがこの村に生まれた以上そこは避けて
通れない。

 カレンにその決心をつけさすため私は急がせなかった。

 すると、ゆっくりだが白い麻のワンピを脱ぎ始める。
 軟らかいスリップも……
 白い綿のショーツも……
 手元を離れ脱衣かごにそれらが収まっていく。

 ブラだけしてないが、これはカレンの胸が特に小さかったから
ではない。ブラを身につけるのは化粧と同じで大人になってから
というのが大人たちの考えで、体育の時間など特別な必要のある
場合以外は身につけることを許していなかったのである。

 さて、こうして何一つ身に纏わなくなったカレンは、前を両手
で隠すような仕草をして祭壇の前で進み、その敷物に膝まづく。

 この時、私は介添え人として彼女の左肩に着いてサポートする
しきたりになっていた。これはカレンが言葉に詰まった時、助言
するためだ。

 「私、藤島カレンは神様とのお約束が果たせなくて今とっても
狼狽しています。このまま神様とのご縁が途切れてしまったら、
私は、この先、生きていけません。ですからここで回心します。
どうか、どうか、私を神様の僕に再びお加えください。その為に
何をなさねばならないのか、どのような試練を受けたらよいのか
お示しください。私は、仰せのままにその試練をお受けします」

 これは私たちの教団で懺悔を受けようとする者が必ず口にする
回心の言葉。長い台詞なので、幼い子には私が一つ一つ口移しで
教えることにしているが、中学に上がる頃には、もうほとんどの
子が暗記することになる。

 というのも、小四から中一の間は、それほどまでにお仕置きを
受ける機会が多いからだ。カレンの場合も同様で最後のお仕置き
からもう長い時間が経っていたが、私のサポートなど必要ないと
言わんばかりに、今でもしっかり覚えていた。

 使い古された敷物に跪き、両手を胸の前で合わせて祈るカレン。
 まさに乙女の祈りといった神聖な雰囲気が漂う。
 懺悔やお仕置きってこうでなくちゃと思う瞬間だった。
 そして、二度目が始まる。

 「……………………」
 ここでの私は見守るだけ。出番はなかった。

 「私、藤島カレンは神様とのお約束が果たせなくて今とっても
狼狽しています。このまま神様とのご縁が途切れてしまったら、
私は、この先、生きていけません。ですからここで回心します。
どうか、どうか、再び私を神様の僕にお加えください。………」

 神様からの答えを求めてこれを三回唱えることになるわけだが、
もちろん、何度唱えようと神様から直接の返事は返ってこない。

 そこで、三度目が終わると私が……
 「カレン、神様はね、君にどんな約束違反があったかをお尋ね
になってるよ」
 と、告げて次に進むことになる。
 約束事に従って、儀式は滞りなく進んでいくかに思われた。

 ところが……
 カレンの口から次の言葉が出るまで少し時間がかかった。
 「………………………………………………………………………」

 理屈を言えば、彼女はすでに私に対して全てを話しているのだ
から、今さら神様に話しても恥ずかしがることではないはずだが、
宗教の世界において神様というのは別格ということなのだろう。
 こういうケースはカレンに限らずけっこう多かったのである。

 そこで、再び、告白を勧めてみる。
 「誰だって自分の不始末を話したくはないだろうけど、ここで
勇気を持たなきゃ、君だけがみんなから置いてけ堀を食っちゃう
よ。さっき私に話した通り話せばいいのさ。神様は全能だからね、
君の事だってすでにご存知のはずだけど、ここはやっぱり君の口
から話さなきゃいけないことなんだ」

 カレンは私の説得に静かに頷いた。

 そして、再び両手を胸の前で組みなおすと……
 「母の財布から、500円だけ取ってレコードを買いました。
タイガースのレコードです。新曲が出るたびにやってたんですが、
それが見つかっちゃって……そのことで叱られてる時に『あなた、
最近、またオナニー、やってるでしょう』って脅されて、思わず
頷いちゃったら……二つともお父様に報告するって言われたから、
慌てて謝っんだけど、聞いてくれなくて……じゃあ、教会で懺悔
しましょうってことになっちゃって……でも、オナニーと言って
も、ほんのちょっとクリちゃんに触っただけなんです。ホントに
ちょっとだけなんです」

 カレンは驚くほど明快に事実を語る。大人の場合はそばで私が
聞いている事を考慮して、こうも赤裸々に語ったりしないものだ
が、乙女にはまだ神様との幼き日の思い出が残っているのだろう。
むしろ、大人以上に神様との距離が近いのかもしれない。

 『神様は全てをご存知だから嘘や隠し事をしてもすぐにばれて
罰がどんどん重くなりますよ』
 『神様は偉大で絶対的なものです。あなた方の小さな過ちも、
すべて見通しておられますからね。嘘ばかりついてると、地獄に
落とされますよ』

 村に生まれた子供たちは、親や先生方からこんなことを言われ
続けて成長する。
 その呪縛が良い意味でカレンの心に残っていたみたいだった。

 「わかりました。では、これを悔い改めますか?」

 私が尋ねると……「はい」……小さな声。

 「償いも受けますね?」

 再び私が確認するとこれにも……「はい」……再び小さな声が
聞こえた。

 「よろしい、では、お母様のお金を盗んだことには鞭12回を
卑しい楽しみにふけったことには鞭18回をその償いとして与え
ます」

 ここで、再び、カレンの声が止まった。
 それは、きっとそれまで受けたことのない償いを言い渡されて
戸惑っているのかもしれなかった。

 すると、それまで隣の隠し部屋からこちらの様子を窺っていた
母親が思わずマジックミラー越しに声を掛ける。

 実は、告解のこの部屋と隣の部屋はキューピットのお尻を叩く
女神様の絵を通して覗くことができるようになっていた。

 「さあ、勇気をもって、『はい、お受けします』って言うの。
うじうじしてたって試練は終わらないのよ。神様は乗り越えられ
ない試練はお与えにならないわ」

 母の言葉が背中を押して、カレンも勇気が出たようだった。

 今回、カレンは女の子だが、実際、こうした事には女の子より
男の子の方が勇気がなくて、今さらどうにもならないと分かって
いても、うじうじとしているのは男の子の場合が多かった。

 仮に、この懺悔が御破算になれば、日曜に行われる子供ミサで
村じゅうの子供たちが見守る中、お尻丸出しで鞭を受けなければ
ならない。

 女の子の場合は、打算的に考えて村じゅうの子供たちの前での
辱められるよりこちらの方が被害が少ないと考えるのか、たんに
権威に対し従順なだけなのか、いずれにしても、男の子にはそう
した勇気のない子が多かった。

 カレンは決断する。
 「私は、悔い改め、罪を償います」

 毅然とした態度、きりりと締まった顔立ち、鋭い眼光が、私を
見つめる。それは、思わず私がのけぞるほど凛々しかったのだ。

 「よろしい。……では、一つだけ、あなたに尋ねますよ」
 気を取り直し、背筋を伸ばしてカレンに尋ねる。

 「えっ!…あっ……はい」
 今度は予期せぬ出来事にカレンが戸惑う。
 でも、これもまた可愛い。

 「あなたは、なぜ、大人なら服を着て懺悔できるのに、子供は
裸にならなきゃならないのか分かりますか?」

 「えっ??……それは……そのう……幼い頃から司祭様たちが
そうしなさいって…………」

 カレンの答えはそこまでしか出てこなかった。
 そこで……
 「そう、確かにそうです。私たちはあなたたちのような子供に
対しては服を全部脱ぎなさいって言いますけど、それにはちゃん
とした理由があるんです。あなたにも教えてあげたはずだけど、
忘れてしまいましたか?」

 「え~~と、それは………………」

 カレンは困惑する。
 目が点に、顔が青くなり、わずかの間に紫色へと変化した唇も
震えている。

 『ひょっとして、これに答えられなかったら、お仕置きが追加
されちゃうんだろうか?』
 そんなことが脳裏をよぎっていたのかもしれない。

 笑い顔、泣き顔、困った顔に怒った顔、どんな表情になっても
可愛く感じられるのは少女の役得だった。

 「君が着ている服は君が仕事をして稼いだお金で買った物じゃ
ないよね。いわば、お父様、お母様からプレゼントされた物だ。
だから、真実の君は神様から創っていただいた時の身体以外には
何も持っていないわけで、その姿で神様には会わなきゃいけない
んだ。誰かにもらった服を着て、さも『これが自分の成果です』
といった顔で神様に会ってはいけないんだよ。それは神様を騙す
ことになるからね」

 「……はい」
 カレンは硬い表情のまま、小さな声で答える。
 きっと、『そんなこと言ったって……』という思いがあるのだ
ろうが……。

 「それが、自分の作り出したもの、稼いだお金で買った物なら
神様の前で、『神様が私を創ってくださったおかげで私はこんな
にも色々な物を生み出すことができました』って自慢することは
いっこうに構わないけど、誰かに無条件でもらった物はそれには
当たらないんだよ」

 「……はい、ごめんなさい」
 
 「謝る事はないよ。君はまだ子供なんだから……でも、それが
悔しかったら、早く自立して、神様に『今度はこんな事ができる
ようになりました』って報告に来ればいい。あなたを創った私達
の神様はそれを大いに喜んでくださるはずだし、ご両親も喜んで
くださるはずだ」

 「……はい、ごめんなさい」
 カレンは私の言葉を聞いていなかったのか、また、同じ言葉を
繰り返す。

 きっと『早くこのお説教が終わり、手早く鞭を受けて、一刻も
早くおうちに帰りたい』
 そう思っているに違いなかった。

 でも、これだけは言っておきたかったのだ。

 「今、君が持っているのは、神様から創っていただいた、その
若い身体だけ。その他は何も持っていないんだ。わかるかい?」

 「はい、司祭様」

 「でも、嘆く必要もないんだ。その若い体は金持ちがどんなに
金銀を積もうとも、決して手に入らない貴重なものなんだから、
君は、今、世界一の金持ちでもあるんだよ」

 「…………」
 その瞬間、カレンが思わず笑顔になった。
 きっと『最初は一文無しだと言っておきながら、最後は若い体
があるからすばらしい』だなんて調子の良い理屈だと思っている
のかもしれない。

 しかし、それは年をとればとるほど分かるのだ。
 若い体は何ものにも変えがたい貴重な財産……そして、それを
働かせるエネルギーが『自分には何もない』と自覚することだと
……。

 子供をあえて裸にするのは、そのことを自覚させるためだった。

 「さあ、カレン。始めようか」
 私はカレンの手を取った。

 すると、ここでカレンが恥ずかしがる。
 今までも裸だったはずなのにここにきて恥ずかしいのは今まで
の緊張感がふいに緩んだためかもしれない。

 私達の宗教に無縁な人には分からないと思うが、懺悔をすれば
どんなことでも許されるわけではない。仮に犯した罪が重ければ
懺悔では足りず公開の裁判、公開処刑となってしまう。
 それは子供たちも同じだった。

 悪質ないじめや度を越した悪戯は懺悔だけでは埋め合わすこと
ができない。その場合は、ミサの席に引き出されて裁判を受け、
心が凍りつくようなお仕置きをも覚悟しなければならなかった。

 今、カレンは、償いをすれば許されるという確約を私から得た。
恥ずかしい姿のまま鞭の痛みに耐えさえすれば出口は見えている
のだ。

 そこで、ホッとした瞬間、今度は自分の姿が恥ずかしくなった
というわけだ。人間なんて勝手なものだが、それも含めて神様が
お創りくださったものなのだから仕方がなかった。

 「さあ、今さら恥ずかしがってないで、さっさと立ちなさい」

 私がカレンの右手を強く引き上げると、彼女もそれ以上は抵抗
しなかった。

 立ち上がらせ、気をつけの姿勢を取らせてショーツやスリップ
を私自らが穿かせていく。

 もちろん、こんなことは彼女自身に任せればよいことだろうが、
子供の懺悔は、あくまで相手が子供ということで、罰が一段緩く
なっている。その代わり大人には認められる羞恥心が認められて
いないから、あえて私が子供の着付けを手伝い辱めを加えること
でその均衡をとっていたのである。
 つまり、これはサービスではなく罰の一種。

 とはいえ、幼いうちならいざ知らずこんな大きくなった少女に
それは酷かとも思うが、恥ずかしさを子供が主張してきた時は…

 「子供のくせに生意気なこと言うんじゃありません。そもそも
こんな大きな体になってから罪を犯す方がいけないんです。そん
なに恥ずかしかったら、二度とこんなことにならないように気を
つけるしかないですね」
 と、突き放すことにしていた。

 カレンにもかつてそんなことを言った記憶がある。
 それを覚えていたのだろうか、今回は何も言わずなすがままに
着せ替え人形になっていた。

 最後に白い麻のワンピを頭から被らせスカートの皺を整えると
着せ替え人形は完成。
 実際、これから先、子供たちを待っているのは忍の一字だから
その心は人形にでもならなければ耐えられなかったかもしれない。


 身づくろいが整ったあと、カレンの行き先は古びたテーブル。
ここにうつ伏せになり、懺悔の言葉を口にしながらひたすら私の
鞭の痛みに耐え続けなければならなかった。
 これは大人も子供も変わらない儀式だ。

 ところが……
 「さあ、うつ伏せになって……」
 私が勧めると、カレンはテーブルの角まで来て、こんなことを
言うのだ。

 「あのう、今日は最初にスパンキングはないんですか?」

 「スパンキング?……その方がいいのかね?」

 「いえ、……でも、昔、たしか、そうだったから……」
 心苦しそうな言い訳。しかし多くの子供たちを見てきた私には
彼女がそうされることを望んでいるのがはっきり分かった。
 自分に都合の悪いことならあえて口にしないというのが女の子
のポリシーだからだ。それをあえて口にするというのは、あえて
こちらをやって欲しいという意思表示に他ならなかった。

 「まあ、そうだな……」
 私は、カレンの望みに困惑する。

 というのも、この鞭打ちによる償いは、いくら決まり事とはいえ、
幼い子には多少酷な面もあるので、まずは椅子に座った私の膝に
その子を呼んで、お尻を平手で叩くスパンキングを行ったのち、
それにみあった回数を減らして、テーブルでの鞭打ちに移行する
という方法を採用していた。

 こうすると、叩かれる回数は増えるもののお尻が受ける衝撃が
少なくてすみ、こちらも相手の様子を窺いながら償いをさせられ
て、都合がよかったのだ。

 ただ、これはあくまで幼い子を想定したもので、小学六年生や
中学一年生といった大きな子でそれをやったことはなかったのだ。
カレンだって、中学に上がってからはそんな償いをしたことなど
ないはずだったが……。

 そこで、一瞬、私は彼女の提案を断ろうかとも思ったのだが、
……しばし考えてから思い直す。

 『免れることの出来ない鞭打ちとは違い、スパンキングは任意。
いくらお尻への衝撃が少ないといっても、男の私に自分のお尻を
間近に晒して、その手で叩かれたいなどとは、普通は思わない。
女の子ならなおさらそうだ。

 にもかかわらず、あえてスパンキングを持ち出すなんて……
 どうやらカレンは、無意識にもせよ誰かからのスパンキングを
欲しているのかもしれない。とすれば、それは彼女のオナニー癖
ともリンクする。

 『ひょっとして、心の悩みを抱えかなり重症かもしれないな』
とも思った。

 ただ、咲いた花が蕾に戻らないように、一旦成熟した女の体に
後戻りはないから、どんな事情であれ、それを望むのならやって
あげた方いいだろう』と思い直したのだった。

 私達の教団は子供の性に関して決して寛容ではないが、それは
感化を受けやすい年頃であっても無垢な心を大切にしたいから。
 ただ、幼い日より罰を受け続けることでそれが甘美な喜びへと
変化していく事も知られた事実であり、そうやって大人になって
いく子のその後の人格まで否定するつもりはなかった。

 「おいで……」
 私はイスに腰を下ろして、カレンを呼ぶ。

 私の声に反応したカレンが、さも申し訳ないと言わんばかりの
顔でやってくる。
 私の前に立ったカレンは一目見て傷心の表情。憔悴した様子で
下唇を噛み、必死に正気を保とうとしている。

 カレンのこの姿を見れば、ほとんどの大人が同情を禁じえない
だろう。

 でも、お仕置きを生業としてきた私には、彼女の素振りに別の
ものを見ていたのである。

 これは職業病だろうか。長い間こうした仕事をしてきた私には、
カレンのほっぺの下が微かにふるふると震えているのが気になる
のだ。それは笑いたい気持を必死に抑えているかのようだった。

 「ここへ来なさい」
 私が膝を軽く叩くと、カレンは素直に従う。

 『おっ!重い!』

 突然膝の上に圧し掛かった重みに、ちょっぴり驚く。
 前に抱いた時よりぐんと重く感じられたからだ。

 幼い日のカレンは毎週のようにこんな姿勢になっていたから、
そのイメージが残っていたのかもしれない。

 「さあ、始めるよ」
 私の声に緊張するカレン。

 この時、お尻の穴をぎゅっと閉めたに違いなかった。

 ただ、カレンが反抗らしい反抗を起こしたのはそれだけ。
 スカートの裾をいきなり捲っても、声を上げるわけでもなく、
嫌がる素振りは何も見せなかった。

 カレンに限らないが、幼年担当の司祭というのは、子供たちに
とって物心のついた頃からのお付き合い。幼稚園小学校の運動会
や学芸会、誕生会、村主催の催しなど、子供が参加するイベント
には教会代表として必ず顔を出して、お菓子や玩具を配り歩いて
いるからどの子とも顔なじみなのだ。

 そんなこともあって、村人には戸籍上の親が『家の中にいる親』
対して我々は『村の中にいる親』と呼ばれていた。
 こう見えて子供たちには、親が信じる神様との間を取り持って
くれるやさしい人として、普段は慕われていたのだ。

 だからこそ、こうした無理も素直に受け入れられるのだった。

 「さあ、それじゃあ、いくよ」

 ぷっくりとした白い綿のショーツが目の前にあって、私はそれ
を平手で叩き始める。

 ぺた、ぺた、ぺた、という感じ……リズミカルで一定の間隔を
置いて叩くのだが、決して強くは叩かない。

 手首のスナップを使わず、まるで撫でてるかのような軟らかい
タッチだから、気の早い子は、『なあんだこれなら永遠に叩かれ
続けても大丈夫だ』なんて思うかもしれない。

 カレンも当初は悲鳴を上げるわけでもなく、痛みに耐えかねて
体をよじるわけでもない。ごく普通に私と会話ができるのである。

 私はカレンに尋ねる。
 「君がここに帰ってきたのは、いつ以来だったかな?」

 「ここって……教会のことですか?」

 「そうじゃないよ。私の膝の上にさ……」

 「えっ……それは……」

 「あっ、思い出した。君が最後に私の膝に登ったのは小学校の
五年生の夏休みだ。……立ち入り禁止になってた村の池で男の子
たちと一緒に鯉を捕ってるところを水車小屋を管理している万平
さんに見つかって、ここに連れてこられた。あの時だろう。……
覚えてるかい?」

 「……はい、覚えてます。あの時は……たしか、男の子たちは
みんな先に家に帰されたのに私だけなぜかここに連れて来られて
……『ここでしっかり懺悔しろ』って言われて……どうして、私
だけって思って、怖かった」

 「なんだ、よく覚えてるじゃないか。おじさんは明日のミサで
男の子に混じって君がお尻を出すのは可哀想だと思って、それで
ここへ連れて来てくれたんだ。君だってみんなの前でお尻を出す
のは嫌だろう?」

 「えっ!?……ええ、そりゃあ……」
 カレンは、はにかむ。

 今、カレンの顔は床の方を向いていてこちらからは見えないが、
私はカレンの背中側さえ見えていれば、その顔がどうなっている
のか、容易に想像できたのだ。

 ショーツを纏った可愛いお尻はだいぶ大きくなったが、今でも
私の前で笑っているのが分かる。仮に私が鬼のような男だと思わ
れていたら、このお尻だって緊張して固く締まっていただろう。
 それもこれも、叩いてみればすぐにわかることだった。

 私は、そんなカレンのお尻にコツコツと警告を与え続けながら
会話を続ける。
 カレンもまた、懺悔室の緊張から解き放たれたからだろうか、
償いをしている身とはいえ、口だけはよく回るようになっていた。

 「まだ、あの頃と同じように男の子と遊ぶことが多いのかな?」

 「昔ほどじゃないけど……」

 「その中に好きな子はいるの?二宮君とか……」

 「いやだあ~~あいつ、そんなんじゃないもん。いないわよ、
クラスの男の子の中には……」

 「男の子は嫌い?」

 「別にそうじゃないけど、私は、もっと、背が高くて色白で、
たくましくて、教養があって、家がお金持ちで、何でも私の言う
ことを聞いてくれて、困ったことがあっても『大丈夫だよ、僕に
まかせて』って、いつも助けてくれる人がいいの」

 「なるほど、そりゃあクラスメイトじゃ無理だ。………でも、
そんな人がいたら、まず私がお近づきになりたいよ」
 私は、少女の夢を冷静に受け止めたつもりでいたが、やはり、
お腹の中では笑ってしまっていた。

 この年代の少女にとって恋は夢。童話と同じ。現実的な相手は
まだ探さないのだ。

 ただ、次の言葉は私の胸を突き上げる。

 「でも、女子ならいるわよ」

 「お母さんかい?」

 「まさか……バレー部の加山先輩」

 「カヤマ?……ああ、あの背の高い子だね。女の子が好きなの
かい?」

 「好きっていうか、憧れなの。あんな風になりたいなあって」

 「じゃあ、高校はバレー部に入るの?」

 「それも考えたんだけど……あそこ、練習、厳しそうだし……」

 「あのバレー部は県代表の常連だから、そうかもしれないね」

 「そうなのよ。このあいだ練習を見に行ったら、ミスしたり、
さぼってた子がショーツ一枚にさせられて体育館の中を走らされ
てたわ。びっくりしちゃったあ」

 「強い運動部ってのは、そんなものなんだよ。だって、この村
にいたって、かなり厳しいお仕置きがあるじゃないか」

 こう言うと……
 「だって、ここは司祭様だけだもん。他に見てる人はいないし」

 「私なら、いいのかい?」

 「だって……昔から悪いことすると、ずっとこうだったし……
今さら、神様と縁を切るのもいやだから……」

 「なるほど、私は人畜無害ってわけだ。……よし、じゃあね、
私は許されてるみたいだから、ついでにきくけど……オナニーは
いつ覚えたの?」

 「えっ!………………………………………………………………」

 と、それっきり、単刀直入な質問に驚いたのか、それまで多弁
だったカレンが急に無口になった。

 「答えたくないなら無理に答えなくてもいいよ」

 私の許しにカレンのホッとした顔が目に浮かぶ。

 「……さあ、30回が済んだ。これで1回、鞭の数を減らして
あげよう」

 私が言うと、驚いたカレンが叫ぶ。
 「えっ~~~たった1回なの。30回なら3回でしょう!!!
だって、昔はそういう約束だったじゃない」

 「おやおや、そういうことはよく覚えてるんだな。……だけど、
あれは君がまだ小学生だったからで、今は身体だって、こんなに
大きいんだから、その時と同じ条件というわけにはいかないよ」

 「じゃあ、どういう条件だったらいいの?」

 「そうだな……まず、パンツをぬいで、スナップの効いた手で
30回我慢したら、それぞれの罪で行う鞭を3回ずつ引いてあげ
よう」

 「じゃあ、60回我慢したら、6回ひいてくれるの?」

 「いいだろう、その代わり、途中で『もうやめた』というのは
認めないよ。60回のスパンキングは最後まで受けてもらうけど
それでいいかい?」

 「はい」
 カレンはきっぱりと答えた。

 恐らく昔の経験からこちらの方が楽だと踏んだんだろうが……

*********(中篇はここまでです)*********

Appendix

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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