2ntブログ

Entries

御招ばれ <第 2 章> 「第 3 回」

    御招ばれ <第 2 章> 「第 3 回」


*** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。



*** 目次 ********
 「第1回」(1)~(3)……伯爵様へのプレゼンテーション
 「第2回」(4)~(5)……遊園地での楽しいひととき
 「第3回」(6)~(8)……懲罰室でのお仕置き


********<主な登場人物>**********

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

****************************


**********「第 3 回」*********

御招ばれ<第2章>(6)

 町田先生に引率されてしおしおと居間へ連れて来られた二人で
したが、伯爵様の方は機嫌よくピアノを弾いておいででした。

 二人に気づくと……
 「ん?どうしたね」
 と声をかけられます。

 「私たち、お風呂場のマリア様の像を壊してしまったんです。
ごめんなさい」
 春花ちゃんが言うと、美里ちゃんも……
 「ごめんなさい」
 と続きました。

 「あっ、あれね。町田先生からも伺いましたけど、仕方がない
でしょう、壊れたものは元に戻りませんから…………それより、
あなた方、どこも怪我はありませんでしたか?」

 「はい……」
 「大丈夫でした」
 二人は上目遣いに小さな声で答えます。

 「それはよかった。それが何よりです。せっかく招待したのに
怪我をさせて返しては私も快くありませんから……」

 伯爵様はピアノを弾く手を休めません。

 「……ところで、あなたたち、よく、あんな高いところに手が
届きましたね。あれは確か、天井近くの通気口に固定してあった
はずですよ」

 「……それは……脚立を持ってきて……」
 春花ちゃんが答えますと、美里ちゃんも……
 「……マリア様は少し強く引っ張ったら、取れたんです」

 「脚立?……ああ、ありましたね。ペンキの塗り替えで使って
そのままにしていた古いのが……ああ、あれですか。……でも、
あれをあそこまで持ってきたんですか。……じゃあ、重かったで
しょう」

 「……あっ……はい」

 「今の子はなかなか活動的だ。そうそう、あのマリア様、本当
はあそこにコンクリートで固定してあったんですが、もうもろく
なってたみたいですね。あなたたちがそれを教えてくれたんです
からむしろ感謝しなければいけないかもしれませんね。……でも、
そこまでして……あなたたち、あのマリア様に何か特別の興味が
あったんですか?」

 「えっ?……いえ、そうじゃなくて……」
 美里ちゃんが答え始めましたが、途中で口ごもってしまいます。
 それって、やはり答えにくいことでした。

 「まさか、覗きじゃないですよね」
 伯爵様はそう言って二人の顔をちらっと見ます。

 「…………」
「…………」
 二人はその質問に答えませんでしたが、伯爵様は垣間見た子供
たちの一瞬の様子でわかったみたいでした。

 「……おやおや、そうですか?男の子の場合はよく耳にします
けどね。女の子でもやはり興味がありますか?……男の子の裸」

 伯爵様は終始にこやかですが、そう指摘された二人は赤面して
いました。

 「…………」
「…………」

 あの時の二人の思いに一番近いのは、やはりお風呂での開放感
からつい悪乗りしてしまったってことなんでしょうが……
 今、この場で考えると恥ずかしくて仕方がありませんでした。

 「男の子は見えましたか?」

 「……いいえ、みんなもう脱衣場の方に帰ってましたから…」
 春花ちゃんが答えます。

 「そう、それは残念でしたね。せっかく大きくて重い脚立まで
引っ張ってきたのに……獲物はありませんでしたか……」

 「…………」
「…………」

 しょげ返っている二人に伯爵様は……
 「ただ、獲物はなくても、罰は受けないといけないでしょうね。
あなたたちはそれだけの事をしてしまったんですから……」

 「……はい」
 「……はい」
 小さく蚊の鳴くような声ですが、二人は返事をします。

 その声に応えるように伯爵様はピアノをやめると、二人の方へ
向き直ります。そして、その小さな手を取ると……
 「でも、あなたたちは立派ですよ。二人とも勇気があります。
今は女の子もこうでなくちゃいけません」

 伯爵様は二人をその大きな両手で抱き寄せると……

 「いいですか、あなたたちは男の子のような事をしたんだから
男の子のような罰を受けなければならない。これは社会のルール
だから仕方がないことなんです。……それは分かってますよね」
 伯爵様はその皺くちゃな手で二人の頬を優しく包み込みます。

 「……はい」
 「……はい」
 二人が小さく頷くと伯爵様は零れ落ちそうな笑顔になりました。

 「ああ、いい子だ。いい子だ。それが分かっていれば十分だ。
……だけど、もしお仕置きを受けるようなことがあっても、それ
が終わった時には、君たちは男の子のように強くなってるはずだ
から、受けて損はないかもしれませんね」

 「えっ、嫌よそんなの」
 春花ちゃんは即座に否定しますが、美里ちゃんは、不安そうな
顔で尋ねました。
 「……本当なの、男の子みたいに強くなるって?」

 すると、伯爵様は美里ちゃんをお膝に抱きかかえて……
 「本当だよ。……試練は人を強くします。女の子も数々の試練
に打ち勝つことで強くなります。心の強さに男の子女の子の区別
はありませんから」

 「本当に男の子のように強くなれる?」
 今度は春花ちゃんが尋ねます。

 「力じゃないですよ。心が強くなるんです」
 伯爵様は春花ちゃんもお膝に抱き上げました。
 「若いうちというのは、とかく欲望が止まらなくて、あげく、
お仕置きされることも多いけど、それを恥じる必要はないんだ。
勲章だと思えばいいのさ。間違いがあっても罰を受けて償えば、
また先へ進める。お仕置きだって人生の貴重な経験の一つだから
無駄にはなっていない。君たちは、何もしない何もできないくせ
に口を開けば正義の味方を気取る臆病者なんかより数段良いこと
をしたんだからね。それは誇りに思っていいことなんだよ」

 伯爵は二人の頭を撫でながら、こう言って二人を諭し解放した
のでした。

 「伯爵様、ありがとうございました。今のお言葉、必ずやこの
子たちの人生の教示となりますわ」
 町田先生は、旧華族様の考えとはとても思えないその若々しい
思想に目を丸くしながらも伯爵様に丁寧にお礼を述べます。

 そして、うな垂れる幼い二人を引き連れて、今度は伯爵様から
お借りた懲罰室へと向かったのでした。

***************************

 伯爵家の懲罰室はお屋敷の北の隅にあって、普段は納戸として
使われている部屋がたち並ぶ廊下の一番奥にありました。
 そう、普段、家人があまり立ち寄らない場所にあったのです。

 入口が映画館で見かけるような厚い扉なのは、この部屋がその
昔、ホームムービーを鑑賞するする為の部屋だったなごりでした。

 つまり、人気のない場所で、おまけに坊音設備もしっかりして
いますから、少しぐらいの悲鳴では居間まで届きません。
 まさに懲罰室としてはうってつけの部屋だったわけです。

 町田先生が電気を点けると、そこは12畳ほどの広さがあって
窓は小さな天窓が一つあるだけ。普段使われていませんからカビ
臭い匂いがしています。

 そこに、罪人のお尻を鞭で叩くための拘束台や街のお医者さん
などでよく見かける黒革張りのベッド。傘立てのようなカゴには
ケイン、大きな壷には樺の枝鞭がたてかけてあります。さらに、
祭壇と暖炉、ソファなども見えます。暖炉は飾り暖炉で火は入っ
ていませんがAの刻印を押す為の焼き鏝までもが用意されていて
壁に掛かった牛追い鞭と共にこれ見よがしに犯罪者を威嚇します。

 懲罰室はまさにお仕置きのためにしつらえられた部屋ですから
子供を恐がらせる仕掛けがたくさんあったのです。

 実は、二人が暮らす寮の舎監室にも、これと似たようなものは
あったのですが、他の家で見る時それはまた格別の恐怖感でした。

 二人は、子供がお仕置きを受けている様子を描いた絵画の脇を
まるでお化け屋敷にでも入ったかのように息を殺して歩きます。

 すると、突然……
 「キャー」
 二人から悲鳴があがりました。

 立派な肖像画は、おそらく伯爵家のご先祖様なんでしょうが、
威厳のあるその風貌が二人を睨らんでいるようで、二人は思わず
抱き合ってしまったのでした。

 「何をキャーキャー言ってるの。これは伯爵様のお父様の絵姿
じゃないの。騒いだりしたら失礼よ」
 町田先生はたしなめますが、幼い少女二人にしてみたらここに
ある全てのものが恐ろしかったのです。

 「こっちへいらっしゃい」
 町田先生は部屋の隅に置かれた古ぼけたソファに腰を下ろすと
二人を目の前の床に膝まづかせます。

 これは、寄宿舎で行われている伝統的な作法でした。
 罪のある生徒は床に膝まづいたまま両手を胸の前で組み、先生
のお話を聞くことになります。
 
 「今日は楽しかったかしら?」
 町田先生の第一声は意外なほど明るい顔と声でした。

 これが町田先生のチェジオブポジション。
 というのも、普段の生活では春花ちゃんや美里ちゃんと先生は
あくまで生徒と先生の関係なのですが、もともと町田先生は二人
の養育係。つまり二人が赤ちゃんの頃はミルクを温めたりオムツ
を替えたりする係でした。

 つまり、町田先生は二人にとっては母親代わり。
 そこで、こうした親子水入らずの場所では、普段の先生と生徒
という関係から、親と子の関係に戻るのです。

 「今日はちょっとあなたたち羽目を外しすぎたみたいね」

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」

 二人は素直に謝りましたが、春花ちゃんがすぐに……
 「だってえ、美里のやつが、簡単に男の子のお風呂覗けるって
言うから……」
 ふて腐れて弁明しますから……

 「ほら、春花。あなたすぐに他人のせいにする。美里ちゃんが
どう言おうと、あなたが見に行かなければいいことじゃないの」

 「そりゃあ、そうだけど……」
 春花ちゃんはお口を尖がらしたままでした。

 「院長先生にご報告したら、さすがに驚いてらしたわ」

 「えっ!院長先生に今度のこと話したの?」
 春花ちゃんの驚きに……

 「当たり前でしょう。マリア様の像を壊しちゃったんだから、
その弁償もあるし……」

 「だって、あれは伯爵様がさっき仕方がないって……」

 「馬鹿言わないのよ。それはあくまであなたたちに対してそう
おっしゃっただけ。大人の世界ではそうもいかないわ。まったく、
女の子が覗きだなんて信じられないわ」

 「だって、女の子だって見たいものはわるわよ」

 挑戦的な春花ちゃんの言葉に先生は……
 「何、開き直ってるの。見たいものってのはあなたにとっては
『男の子の裸』ってことなの?」

 「別にそういうわけじゃあ……」

 「それに今日はそれだけじゃないでしょう。……ゴーカートは
脱線させるし……ボートはおじさんに救助してもらうし……この
家の人たちから報告を受けるたびに『またかまたか』って心臓が
ズキンズキンしたわ」

 「あっ、そうなの。だったら、ここにはお医者様が常駐してる
みたいだから一度診てもらったら」
 春花が真顔で言いますが……

 「春花、さっきも言ったでしょう、あなた、少し浮かれすぎよ」
 町田先生は渋い顔でした。

 「ねえ、お母さん、やっぱり今日、お仕置き?」
 美里ちゃんが心配そうに尋ねると……

 「仕方がないでしょう。ゴーカートやボートぐらいまだしも、
男湯は覗くわ、マリア様の像は壊すわでは、何もしないで帰って
きましたなんて院長先生にご報告できないわ」

 「いくつ?」

 「それはあなたたち次第よ。さっきの春花みたいにふて腐れた
態度なら、たとえ鞭百回でも足りないでしょうね」

 それを聞いて春花ちゃんはお母さんから目をそらし下を向いて
しまいます。


 「じゃあ、……まずはお祈りからよ」

 部屋の片隅には小さな祭壇があって十字架とマリア様が祀って
ありました。
 その前に子どもたち二人と町田先生が三人並んで膝まづきます。
 祈りの言葉は、はじめから決まっていました。

 「天にまします私たちのお父様。お願いがあります。どうか、
悪魔に謀られた魂をお救いください。いかなる苦役にも耐えます。
どんな試練にも立ち向かいます。その苦難の果てに私の魂が浄化
されんことを望みます。私の希望は、あなたの歩む光の道を一緒
に歩くことなのです。迷える子羊に愛のお仕置きをお願いします」

 三人は同じ言葉を唱和します。この言葉は子ども達がお仕置き
を受ける前には必ず唱えさせられる言葉でした。

 そして、これが終わると、子供たちはソファの前に戻って再び
膝まづきます。

 「スカートを上げなさい」

 町田先生の号令一下、子どもたち二人は俊敏に動きます。
 その動きはまるで軍隊のようでした。

 二人は、穿いてるパンツが誰の目にもはっきり見える様に自ら
スカートの裾をまくり上げます。

 ただ、そうやっても、すぐにお尻叩きが始まるわけではありま
せんでした。

 町田先生は再びソファに腰を下ろすと、子ども達を回れ右させ
て、ご自分は二人の恥ずかしい姿を後ろから眺めたまま、暫くは
何もしないでいるのです。

 時々……
 「ただ、そこでぼ~としてるだけじゃいけないでしょう。……
よ~く反省できるようにお祈りの言葉をもう一度復唱しなさい」

 両手が疲れて思わず手を下げてしまうと……
 「ほら、春花ちゃん、手を下げないの。スカートの裾でパンツ
が隠れてるわよ」

 寂しくなって泣き始めると……
 「ほらほら、美里ちゃん、泣かないの。あなたがめそめそ泣い
たからって、お仕置きは終わらないのよ」

 先生はこんなことを言いながらチビちゃんたち二人のパンツを
鑑賞し続けます。

 子供たちはパンツ丸見えと言っても見ているのはお母さんだけ
ですし、膝まづいているだけでぶたれているわけではありません
から痛くも痒くもありませんが、これが結構苦痛でした。

 大人と違って子供は何もしないでいるというのが苦手なのです。
特に女の子は相手が目の前にいるのにおしゃべりできないという
現実がストレスでした。

 そこで、先生がソファを離れ見慣れない伯爵家の懲罰室を観察
に行った隙をねらって小さな声で話し始めます。

 「ねえ、お母さん、怒ってると思う?」
 「わからないわ。あんなにしててもすぐに許してくれることも
あるから……あなたどう思うのよ」
 「私もわからないわ。でも、もし、ぶたれたら、私おとついも
あったら泣いちゃうわ。その時は笑わないでね」
 「笑わないわよ。私だって泣いちゃうもん。もし、鞭があった
ら、私の手しっかり握っててよ。暴れちゃうかもしれないから」
 「鞭って?……私たちそんな悪いことしたの?」
 「わからないわ」

 子どもたちは、自分たちにしか聞こえていないと思って話して
いましたが、その声は音響効果のよいこの部屋ではどこにいても
聞こえていました。

 先生は知らん振りしてソファへ戻ってきます。
 そして、その子らのすぐ後ろまでやって来くると、今度はいき
なり……

 「いやあ~!!!」
 「いやっっ!!!」
 続けざまに二人のパンツを太股の辺り迄ひき下ろしたのでした。

 「いきなり脱がさないでよ」
 「恥ずかしいよ」
  突然のことに驚いた二人からは思わず黄色い声が……

 でも、そうすると、間髪をいれず…
 「ピシャ」
 「ピシャ」
 町田先生の右手が可愛いお尻に炸裂。

 今、部屋の空気に晒されたばかりの二人のお尻がたった一撃で
ほんのり赤くなります。

 「うるさい子ねえ、お仕置き最中は、静かに罰を受けなければ
いけないって何度も教えてるでしょう。あなたたち忘れたの!?
『お仕置き中はおしゃべり禁止』こんな事、うちの子なら1年生
でも知ってることよ。

 「はい、お母さん」
 「はい、先生」
 二人はべそをかきながらも、それぞれ違う返事をします。

 でもこれ、どちらかが間違いという事ではありませんでした。
二人にとって町田先生というのは、先生であると同時にお母さん
でもあるのであから。

 「今日はここに誰もこないでしょうから、お母さんでいいわよ」
 町田先生もまた、小さなため息をついて、薄れゆく自分の怒り
に苦笑します。

 そして、これからさらに15分くらいかけて、娘たちの可愛ら
しい生のお尻を2mほど離れたソファで鑑賞するのでした。

 「美里、あなたみたいにおとなしい子が、何で男の子のお風呂
なんて覗こうとしたの?お母さん、あなたにそんな趣味があった
なんて初めて知ったわ」

 「……それは……男の子のお風呂の方が女の子のより大きくて
立派だって聞いたから、そういうの不公平だと思って……」
 「だからって、覗いてみても何も変わらないでしょう」
 「そりゃあ。そうなんだけど……」
 「それとも、男の子たちに『一緒に入れてください』って交渉
するつもりだった?」
 「そういうわけじゃあ……」
 美里ちゃんは顔を真っ赤にして口ごもってしまいました。

 「春花はどうなの?あなたの場合も男の子の裸に興味があった
のかしら?」

 「…………」
 春花ちゃんは首を横に振ります。

 「だったら、なぜそんなことしたの?美里ちゃんにお付き合い
かしら?自分もやらなきゃっ友だち甲斐がない思ったのかしら?」

 「それは…………」
 春花ちゃんとしては本当の事なんて絶対に言えるはずがありま
せんでした。

 だって、春花ちゃんの本心って『好きになった先輩の裸が見て
みたい』という邪な心だったわけですから……
 たとえお尻100回ぶたれても、その事だけは絶対に口にする
つもりがありませんでした。

 すると町田先生、そんな春花の気持を見抜いていたかのように
こんなことを言います。
 「ねえ、春花。あなた、誰か好きな人が出来たんじゃなくて?」

 春花ちゃんにとってはドキッとする言葉です。

 ですから彼女、余計に激しく首を横に振ります。
 「……(何で分かったんだろう?)……」
 春花ちゃん、お母さんの鋭い眼力に恐れおののきますが、勿論
そんな素振りは自分ではみせていないつもりでした。

 ところが、お母さんの方はというと、床に膝まづく春花ちゃん
の後姿を見ているだけで……
 『やっぱり、そうなのね』
 と思うのでした。


************(6)**********


御招ばれ<第2章>(7)

 「さて、そろそろ反省もできたかしら?」
 町田先生は腕時計で時間を確認します。

 そして……
 「それでは、まず美里ちゃん、いらっしゃい」
 先生は最初、美里ちゃんに声をかけるのですが……

 一旦パンツを上げ、お母さんの前に立った美里ちゃん、どこか
落ち着きがありませんでした。きっと……
 『えっ!どうして?……どうして、私からなの?いつもと順序
が違うじゃないの』と言いたかったのかもしれません。

 通常、二人続けてお尻叩きの罰を受ける場合、有利不利があり
ます。

 あとの子は、長いことお尻を晒して待っていなければならない
不利はありますが、痛みの点では先に呼ばれる子より有利でした。
 たいてい最初の子でお母さんの手は疲れてしまいますからね、
あとの子はお母さんの扱いが雑になるんです。そのぶん、痛みも
少なくて済むというわけでした。

 美里ちゃんも春花ちゃんとのコンビで日頃から尻を叩かれ慣れ
てますから、そのあたりは承知していました。

 「あら、どうしたの?何だか不満そうね。……今回、あなたを
最初に指名したのは、お風呂場の覗きをあなたの方が先にやらか
したからよ」

 お母さんは美里ちゃんがまだ何も言っていないのに、彼女の心
を見透かすように言い放ちます。

 「納得した?」

 「…………」
 美里ちゃんはお母さんの答えに小さく頷きます。

 『確かに確かに』ということでしょうか。
 いつもは悪戯を主導するのが春花ちゃんなのですが、今回は、
それが違っていました。

 「さあ、いらっしゃい」
 ソファに腰を下ろした町田先生がご自分のお膝を叩いて催促し
ます。

 「はい、お母さん」
 美里ちゃん、そこへ行くしかありませんでした。
 子供の悲しい定めです。

 『あ~あ、嫌だなあ』
 お母さんのお膝に寝そべりその時を待ちます。

 実は、お母さん、ここでも子どもたちをじらせます。いきなり
お尻ペンペンを始めるわけではありませんでした。

 「どうしたのかしら?いつもは春花に引っ張られてお付き合い
で悪さしてたのに、今日はあなたの方から悪さを仕掛けるなんて
珍しいわね」

 最初は、頭を撫でたり、背中をさすったり、太股を軽く叩いた
りしながらのお説教です。

 でもそれって、蛇の生殺しみたいで、子どもたちにとっては、
とっても嫌な時間なのでした。

 ここまできたらどの道お尻は叩かれるわけですから、だったら
『早くやってよ!!』って叫びたい心境だったのです。

 「男の子の裸、見てみたかったの?……うちには男の子いない
ものね。でも、あんなものいきなり見ると、あなたびっくりして
食事も喉を通らなくなるかもしれないわよ」

 「……別に、男の子の裸、見たかったわけじゃないもん」
 お母さんから言われ、美里ちゃんぽつんと小さく呟きます。

 「そう、それじゃあ、お隣りのお風呂の様子さえわかったら、
それでよかったわけなんだ」

 「…………」
 美里ちゃん、僅かに頷いたように見えますから……

 「そりゃあそうよね。女の子は男の子の裸なんて見たくないわ
よね」

 お母さんは納得したように美里ちゃんに語りかけますが、でも、
美里ちゃんの本心は違っていました。
 それを、お母さんは膝の上の感触で感じ取っていたのです。

 『この子、意外に早熟なのね。この身体、もうすでに男を求め
てるもの。きっと、あの時も男の子の裸に興味津々だったはずだ
わ。……となると、次はオナニーかあ……気をつけておかないと』

 お母さんは長年の経験から、こうして膝の上に抱きながら質問
を繰り返すことで、口には決して出さない女の子の本音がわかる
ようになっていたのでした。

 ただ、だからとっいって……
 『あなた、こんなこと思ってるでしょう!!』
 なんて迫ることはありません。
 そんなことをしたら女の子は余計かたくなになるだけですから。
 この時も……

 「あなたは女の子。男の子の裸なんかに興味あるはずないもの。
おかしいと思ったわ。だけど、やったことはやっぱりいけない事
よ。……滑りやすいお風呂場であんな大きな脚立の上に乗ったら
危ないし、現に、マリア様の像は壊してるしね。………それは、
わかるわよね」

 「はい、お母さん」
 美里ちゃんが返事をすると……
 
 「まあ、いいご返事。よし、それでは、簡単に済ませましょう」
 お母さんはそう言うと、美里ちゃんのスカートを捲りショーツ
を剥ぎ取ります。他の子ならまずショーツの上から叩いておいて
それから……という手順なのですが、二人は親子ですからそこに
遠慮はありません。

 「ピシッ……ピシッ……ピシッ」

 たちまち乾いた音が部屋一杯に響き渡ります。

 「いやあん、痛い、ごめんなさい」
 たった3発で、美里ちゃん、もう悲鳴を上げていました。

 実は、お母さんの言った『簡単に…』という言葉は『軽く…』
という意味ではありませんでした。

 「ピシッ」
 「いやあん、ごめんなさい」

 「ピシッ」
 「もうしません。しませんから~~」

 「ほら、大声を出さないの。みっともない子ねえ」

 「ピシッ」
 「だめえ~~壊れる、壊れるって~~」
 
 「お尻は壊れません。壊れないように神様が創ってるの」

 「ピシッ」。
 「うそ~~よ。痛い、痛い、やめて~~」

 「やめません。痛いから、お仕置きなの。それを我慢するから
お仕置きなのよ」

 「ピシッ」
 「人殺し~~」

 「美里ちゃん、ちょっと立ちなさい」
 お母さんはそこで一度美里ちゃんを自分の目の前に立たせます。

 美里ちゃんは、ショーツを穿いていませんからお母さんの前に
割れ目丸出しで立っています。
 でも、今はお尻をさすることが最優先で、そんなことかまって
いられませんでした。

 「あなた、たとえお仕置きの最中でも言っていい事と悪い事が
あるわよ。誰が『人殺し』なの。お仕置きで死んだ人なんていま
せんよ。あなたに5年生としての堪え性がないだけじゃないの。
あまりにだらしのない態度なら、お仕置きはもっときつくなりま
すよ」

 「はい、ごめんなさい」
 美里ちゃんは嗚咽しながら右手で涙を拭き左手でお尻をさすり
ます。

 「いらっしゃい」
 それを見ていたお母さん、美里ちゃんを膝に呼びます。
 でも、これはお尻をぶつためではありませんでした。

 涙を拭いて、鼻をかむため……そして、ほんの少し抱いてやる
ためでもあったのです。

 「さあ、もう一度。お仕置きって、必死に我慢するものなの。
鼻歌交じりで耐えられるようならお仕置きなんて意味がないわ。
あなたは必死に頑張って罪を償うの。それがあなたの義務。……
いいわね」

 「はい……」
 か弱い声がして、再び美里ちゃんはお母さんの膝にうつ伏せに
なります。

 その後は、先ほどと同じでした。

 「ピシッ」
 「いやあ~~痛い、痛い、痛い、だめ~~」

 「ほら、黙ってるの!大声を上げたり身体を揺すったら痛みが
逃げてお仕置きにならないわ。どうしても、できないならあそこ
にある拘束台に縛り付けて鞭でお尻を叩いてあげましょうか……
猿轡をするからどのみち声はでないけど、終わったあとも痛くて、
二三日は椅子に座るのも辛いくらいよ」

 「いやあ、いやあ、それは絶対にいや!!!」
 美里ちゃんは絶叫します。
 彼女は舎監室にある拘束台に縛られた中学生のお姉さんたちが
必死に許しを請う姿を目撃したことがあります。
 その時の印象から拘束台がとてつもなくきついお仕置きなんだ
という事は知っていたのでした。

 「だったら我慢しなさい。女の子は、何事にも我慢できない子
に幸せはおとずれないわ。神様がそう決めてるの。わかった?」

 「は……はい」
 美里ちゃんは弱弱しく返事を返します。

 こんな混乱している時に先生のお説教なんて耳に入りません。
でも『自分が頑張らなければこれは終わらない』という現実だけ
は身体に染み込んだみたいで……

 「ピシッ」
 「ひぃ~~~」

 「ピシッ」
 「いやあ~~」

 「ピシッ」
 「あっ~~~」

 目の玉が飛び出、顔は真っ赤、首から下は逆に全身鳥肌がたち、
冷たい電気(悪寒)があちこちに走るという最悪の状態のなか、
必死になって耐え続けたのでした。

 「ほら、できたじゃないの。簡単でしょう」

 町田先生は許しを与えて再び自分の前に美里ちゃんを立たせた
時にこう言います。
 先生が『簡単に…』と言ったのは『軽く』という意味ではなく、
厳しく短時間に終わらせるという意味だったのでした。

 「さあ、それじゃあ春花ちゃんが終わるまで元の場所に戻って
膝まづいてなさい。いいこと、お尻叩きは一旦これで終わるけど、
そこでまた泣いちゃダメよ。泣くのは大声を上げたり身体を揺っ
たりするのと同じように真面目にお仕置きを受けていない証拠
です。あまりひどいようならお仕置きはやり直し。いいですね」
 
 町田先生にこう脅されて、美里ちゃんはやっと、お母さんの膝
から開放されたのでした。


 「次は、春花ちゃん。いらっしゃい」
 お母さんの声が懲罰室の中で響きます。
 この時、春花ちゃん、両足が震えていました。

 もちろん、美里ちゃんのお仕置きを春花ちゃんが直接見ること
はありませんが、すべては自分の頭の後ろで起きたことなんです
から、直接見なくても春花ちゃんの様子はビンビン伝わります。

 『やばいなあ』
 普段は元気一杯の春花ちゃんですが、さすがにこの時はすでに
泣きそうな顔になっていました。多くの子供がそうでしょうが、
お母さんというのは世界一優しくて世界一恐い存在だったのです。

 そんな春花ちゃんを、でも、お母さんは笑顔で迎えます。

 「いらっしゃい」
 両手を広げ、まるで幼い子にするように、ソファに座る自分の
膝へ春花ちゃんを招き入れます。

 間近で見つめ合う顔はお母さんも春花ちゃんも笑顔でした。
 だって、世界一優しい人が微笑んでるんですから、春花ちゃん
が笑わないはずがありませんでした。

 春花ちゃん、お馬鹿じゃありません。このお膝でするお母さん
の話が楽しくないことも、そして、この人がやがて世界一恐い人
になることもわかっていました。
 それでもやっぱり春花ちゃん、こうして抱っこされると笑って
しまうのでした。

 「春花、あなた、今日は随分と羽目を外しちゃったみたいね」

 「ずいぶんって……そんなに色々何かやった?」

 「だって、ゴーカート脱線させたんでしょう」
 「あれは美里だって一緒だったし……」
 「でも、あなたが運転してた。しかも、男の子たちと競争して
たのよね」

 「競争なんてしてないもん。……ただ……」
 「ただ、何なの?」
 「…………」春花ちゃんはその先を答えられませんでした。

 「『ただ面白いからトロい男の子の車を次々に抜いてっただけ』
ってことかしら?……でも、それを競争っていうのよ。だいいち、
あのコースは追い越し禁止のはずよ。……スタート地点に大きな
張り紙がしてあったの見なかった?」

 「…………」
 「おや、どうやらその顔は知っててやったみたいね」
 お母さんは春花ちゃんとおでこをくっけます。

 「……それは……」
 春花ちゃん、お母さんの視線を正視できず、下を向いてしまい
ます。

 「無茶な運転して事故を起こしたあげくター坊に茂みに入った
カートを引き上げもらったそうじゃないの」

 「ター坊?」
 「峰岸高志。あなたより3つ上のお兄ちゃんよ。まだ中学二年
だけど、もう立派な好青年って感じの子よ。ま、あなたみたいな
山猿とは全ての点で違うわね」

 「ふう~ん……『あの子、峰岸高志って名前なんだ』……」
 春花ちゃん、この時初めてその子の苗字までを知ったのでした。

 「ねえ、お母さん、私って山猿に見えるの?」
 春花ちゃん、あらためて尋ねます。
 すると、その答えは峻烈でした。

 「あなたの場合は……恥知らず、世間知らず、無鉄砲、いつも
お母さんにお尻を叩かれて赤いお尻をしてるから山猿に違いない
んじゃない」

 「だって、高志君だって、私くらいの頃は……」
 あまりの言われように春花ちゃんは反論しますが……

 「あの子、あなたくらいの頃は、もう随分大人びてたわ。私、
あの子の担任だったからよく知ってるけど、とにかく隙のない子
で苦労したわ。あなたなんかと違ってお仕置きの理由を見つける
のに苦労したおぼえがあるもの。……ま、あなたとなら、比べて
みる必要もないわね」

 「ふうん」
 春花ちゃんはごく自然にお母さんの胸に顔を埋めます。
 それって泣いてるみたいでした。
 そして、ぽつりとこう言います。

 「ねえ、お仕置きって、悪いことしなくてもされるの?」

 「えっ?そんなことないわよ」
 春花ちゃんに不思議なことを言われて、町田先生、戸惑います
が……続けて、春花ちゃんに……
 「だって、高志君は、お仕置きの理由を見つけるのに苦労した
んでしょう」
 こう言われて、先生、さっきの自分の発言だと気づくのでした。

 「ああ、そういうことね。だから彼は例外なのよ。大半の子は、
あなたみたいに罪なることが多すぎて、お仕置きはむしろセーブ
するんだけど、あの子の場合は普通にしておくとお仕置きなしで
1年間過ごしちゃうから、他の子とのバランスをとる意味でも、
小さなミスも見逃さず厳しくお仕置きにしたの。そうしないと、
あの子だけが得してるみたいで、他の子からねたみを受けるもの。
集団生活では自分は優秀だから何でも他の子より得して当たり前
ってことにはならないのよ。優秀な子には優秀な子なりの責任と
いうものがあるのよ。……ま、あなたには、関係ない話だわね」

 「そうなんだ」
 春花ちゃん、何だか高志君との距離がずっと遠くなってしまっ
たような気持でした。
 そんな乙女心を無視してお母さんのお小言は続きます。

 「あなた、お池のボートでも…『ボート漕げます』なんて嘘を
ついて係のおじさんからボートを借りたあげく、帰れなくなって
おじさんに助けてもらったそうじゃないの」

 「えっ……あれも、美里ちゃんと一緒に……」
 春花ちゃん埋めていたお母さんの胸から顔をあげて苦しい弁明
をしますが、お母さんにそれは通じませんでした。

 「あなた、またそんなこと言って……」
 「…………」たちまちお母さんに睨まれてしまいます。

 「美里ちゃんが漕げもしないボートを借りたいだなんて言う訳
ないでしょう。そんなこと思いつくのはあなただけよ。違う?」

 「…………」
 春花ちゃん、それに答えられませんでした。
 ええ、その通りでしたから……

 「何でも他人のせいにしないの。あなたの悪い癖よ。……でも、
よかったわ。ボート小屋のおじさんにはご迷惑かけたけど、とに
かく何事もなかったんだから……」
 と、ここで先生、あることを思い出します。
 それは急速に頭の中を支配していきました。

 「ねえ、あなた……ひょっとして……ター坊のボートに乗せて
もらわなかった。……いえね、昼間、ター坊にあった時、『今日、
ボート小屋のおじさんに頼まれて女の子を乗せて池を一巡りした
んだけど、その子、シャイな子で一言も口をきかなかった』って
言ってたけど……まさか……それ、あなたじゃないないわよね」

 「…………」
 春花ちゃんはこれにも答えませんでしたが……

 「そうなの、やっぱり……(はははは)」
 先生は顔を真っ赤にした春花ちゃんを見て笑い出します。

 「あなたがシャイね……(はははは)あの子、完全にあなたを
誤解しちゃったわね」
 先生の言葉に……
 「いいでしょう、そんな事どうだって!!」
 春花ちゃん鼻息荒く言い放ちます。

 『でも、そうだとすると……』
 先生は再び頭をめぐらしますが、あれこれ考える必要もなく、
答えは至極簡単でした。

 『なるほどね、それで漕げもしないボートを借りに行ったり、
男の子のお風呂を覗き見しようなんて思いたったのね……』

 先生は結論の正しさには自信がありましたが、もうこれ以上、
この場でこの問題を蒸し返すつもりはありませんでした。

 そして、場面はいよいよお仕置きへと移ります。

 これから先のやり方は美里ちゃんの場合と同じでした。
 まずは、うつ伏せに寝かせておいて、頭や背中、お尻、太股、
手や足の指に至るまで丁寧にスリスリします。
 そうやってスリスリしながらお母さんはあらためて色んな事を
春花ちゃんに尋ねます。

 「ねえ、春花。今日は一日どんなことをして遊んだの?」
 「長い滑り台を滑って……メリーゴーランド乗って、ブランコ
とかジャングルジムとかで遊んで、それからゴーカートのところ
へ行ったの」

 「そう、楽しかった?」
 「とっても。だって、ここ遊園地みたいなんだもの。やっぱり
伯爵様ってすごいのね」
 「だったらまたここへ来たい?」
 「もちろん、毎日だっていいわ」

 「それじゃあ、次回も伯爵様からご招待を受けられるように、
ここでしっかりと罪を償っておかなければならないわね」

 「…う、………うん……」
 思わず春花ちゃんの身体に力がはいります。
 それは、当然、町田先生もそのお膝で受け止めていました。

 「いいかしら、心の準備は?」
 「…………………………はい」

 ご返事には少し時間がかかりましたが、こうして、春花ちゃん
のお仕置きは始まったのでした。


************(7)**********


御招ばれ<第2章>(8)

 町田先生は、春花ちゃんのふわりとしたフリルスカートの裾を
背中の方へと持ち上げます。

 取り去られたあとには白いショーツが現れますが、これはもう
慣れっこ。春花ちゃん、何も言いませんでした。

 そして、そのショーツの上を町田先生が平手で叩き始めます。

 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」

 春花ちゃんのお尻から一定のリズムで小さな音がします。
 でも、それはろくにスナップも効かせずに叩いていましたから、
それほど痛くありませんでした。

 「女の子がゴーカートに乗っていけないなんて言いませんけど、
ルールは守って乗らないと怪我をしますよ。男の子もそうだけど、
女の子は特に、顔に怪我でもしたら取り返しがつかない事になる
わ。ましてや、あなたは隣りには美里ちゃんがいたんですもの。
相手のことも考えなくちゃ。坂道でむやみにスピード出すなんて
絶対にだめです。いいですね」

 「はい、先生」
 春花ちゃんはスパンキングを受けながら長々とお説教を聞いた
後に普通に答えます。
 それは先生がまだそんなに強くお尻を叩いていないからでした。

 「もし、今度、こんなことがあったら、その時は……」
 先生はこう言った直後、春花ちゃんのショーツを太股へとずら
します。
 そして、今までとは違って手首のスナップを利かせた一撃を…

 「ピシッ」
 「(ヒヒヒヒ)」

 かろうじて悲鳴は立てませんでしたが、それは、それまでとは
明らかに違う威力でした。春花ちゃんは身を硬くします。

 「わかったわね」
 先生はこう言ってもう一つ。

 「ピシッ」
 乾いた音が天井まで響き、むき出しになったお尻が震えます。

 「だって……」
 「だって、何なの?」

 春花ちゃん何か他のことを言いたげでしたが、先生に強い調子
で迫られると、結局こう言うしかありませんでした。
 「……はい、先生」

 「そうね、わかったわね」
 先生は納得したような笑顔です。
 でも、これで終わりではありません。春花ちゃんの罪は一つで
はありませんでした。

 先生はむき出しになったお尻を再びスナップを利かさずに叩き
始めます。

 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」

 それはパンツの上からより少し威力が増しましたが、それでも
さっきの一撃に比べたら楽勝です。春花ちゃん、少し痛くなって
きた分は自ら唇を噛んで頑張ります。
 春花ちゃんは施設で一番のお転婆娘。誰よりもたくさんお尻を
叩かれて経験がある分、耐える力も美里ちゃん以上でした。

 「ボートは水の上なの。万一、落ちたりしたら、たとえ泳ぎを
知っていても必ず助かる保証はないのよ。ゴーカートなんかより
さらに危険だわ。そんなボートを一度も漕いだことがないくせに
嘘をついて借りるなんて……もってのほかです!!」

 「ピシッ」
 言葉の最後、また強い衝撃がお尻を襲います。

 「しかも、ここでも美里ちゃんが一緒に乗ってたんでしょう。
あなたのは責任は重大ね」

 先生はこう言うと、春花ちゃんのお尻の谷間を指で開きました。
 当然、普段は隠れている場所に外の風がス~っと入りますから
……。

 「……(!)……」
 春花ちゃんの脳裏に緊張が走ります。

 でも、お仕置きの最中は、よほど何か特別なことがないと叫ぶ
なんてことはできません。先生の指でお尻を開かれても小学生に
とっては特別な事ではありませんでした。
 なされるまま我慢していると……

 「ピシッ!」

 それは今までとはさらに威力が違います。
 ぶたれた瞬間、背筋を電気が走り、脳天に達する痛さでした。

 「あなた、自分のしたことがわかってますか?」
 先生はこう言ってもう一撃お尻に落とします。

 「ピシッ!」
 「いやあ」
 出してはならない声が初めて出ました。

 でも、春花ちゃん、すぐにそれに気づいて……
 「ごめんなさい」
 と言います。

 「ごめんなさいじゃすまないことだってあるのよ」
 こう言って再び…

 「ピシッ!」
 「(ヒヒヒヒヒヒ)ごめんなさい。わかりました先生」
 春花ちゃん、両手両足をバタつかせただけで、悲鳴を立てずに、
ごめんなさいを言います。

 でも、それはやっとの思いでできたこと。本当はこのまま寮へ
逃げ帰りたいくらいでした。

 先生はうつ伏せになった春花ちゃんの両足の間にご自分の右足
を挟み入れて春花ちゃんのお尻が再び塞がらないようにします。
 これって、春花ちゃんの恥ずかしい場所が先生から丸見えって
ことなんですが、春花ちゃん、あえて抵抗はしませんでした。

 女性同士ということもありますが、もし、へたに抵抗して罰が
重くなったら、今でもヒーヒーいってるお尻がもたないと考えた
からなのです。

 そして、再び、軽めのスパンキングとお説教が始まります。
 ただし、その軽めのスパんキングも、痛みが少しずつ少しずつ
蓄積していきますから、最初の頃のように鼻歌交じりでいうわけ
にはいきません。

 「……パン……パン……パン……パン……パン……パン……」
 その一発一発に身体を硬くし歯を喰いしばり、腰で町田先生の
お膝を巻き込むように力を入れて耐えなければなりません。

 「最後に、男の子のお風呂を覗いたことだけど、これなんかは
弁解の余地がないわね!!」

 「ピシッ」
 「いやあ~~~」
 今まで一番痛い平手でした。

 「そもそも、よくもそんな恥ずかしいことができたものだわ。
先生だって呆れたくらいだもの。あなたたちは、まだかろうじて
子どもだから、世間の人たちも『あれは子供のした事』で許して
くださってるけど、もう少し大きくなってからだと、それこそ、
世間で誰からも相手にされなくなってしまいますよ」

 「はい、ごめんなさい、先生」
 春花ちゃん、いつもこのあたりで強いのが来ますから、先回り
して先に謝っちゃいます。

 でも、それもそれってやっぱりいけないことでした。

 「ちゃんとぶたれてから謝りなさい」
 町田先生に言われてしまいます。

 そして、続けざまに、スナップのとてもよく利いたやつが六つ、
すでに十分温まったお尻に降り注ぎます。

 「ピシッ!!!」
 「いやあ~~」
 たった一撃目で、春花ちゃん白旗でした。

 部屋のどこにいても聞こえるような大きな悲鳴が上がり、それ
まで遠慮がちに動かしていた両足を思いっきりバタつかせます。

 「ほら、動かないの!」

 「ピシッ!!!」
 「だめえ~~~」

 「何がだめなの!これがあなたには一番効果のあるお薬よ」

 「ピシッ!!!」
 「ひぃ~~~~」

 「ほら頑張ればまだまだ悲鳴を上げずにできるじゃない。……
今度は、足をじっとさせてなさい」

 「できません」

 「できませんじゃないの。『できます』でしょう。さあ、歯を
喰いしばって」
 町田先生の声がまた強くなりました。

 「ピシッ!!!」
 「ごめんなさい」

 「ほらあ、また足が動いた。じっとしてなさいって言ってるで
しょうが……言われた通りできないなら、あそこの拘束台に縛り
付けて、乗馬鞭でビシビシやってもいいのよ。そっちの方がいい
のかしら?」

 「いや、いや、いや」
 春花ちゃんは必死に頭を振ります。

 いえ、彼女だって何とか耐えようとはしているのです。
 でも、その痛みは今まで経験したことのないもの。とても耐え
られそうにありませんでした。

 もちろん町田先生の方だって、春花ちゃんを中学生にするのと
同じ強さでぶっているわけではありません。
 手加減はしているのです。

 でも、それは今の春花ちゃんの限界を見極めながらやっている
ということで、当然その威力は、一年前、春花ちゃんをお仕置き
した時とは違って厳しくなっています。

 春花ちゃん、これからだってまだまだ体が大きくなるでしょう
から、次に何か粗相をしてお仕置きを受けるような時は、今より
さらに厳しく可愛いお尻が攻め立てられることになるのでした。

 「ピシッ!!!」
 「いやあ~~~死ぬ~~~」

 「誰が死ぬの?お尻叩きで死んだ人はいないわよ」

 「ピシッ!!!」
 「だめえ~~~助けて~~」

 「はいはい、助けてあげます。もういいわ」

 平手だけとはいえ相手はまだ小学生ですから、大人がちょっと
力を入れて叩けば、その痛みは相当なものになります。
 春花ちゃん、最後はどうやって耐えたのか自分でも分からない
くらいでした。

 でも、これが本当のお仕置き。簡単に耐えられる程度なら子供
の心に届きませんから、ぶつ方も心を鬼にして叩くのです。


 『やれやれ、この子もまだまだと思ってたけど、いつの間にか
大きくなって、お仕置きにも骨が折れるようになったわ。次回は
本当に拘束台でも使ってみようかしら。……でも、子供にあまり
無機質な罰は与えない方がいいって言うし、まだ早いかしらね』
 町田先生、そんなことを思いながら赤く腫上がった春花ちゃん
お尻に軟膏を塗り始めます。

 そして、それが終わると、重い荷物を転がすようにして膝の上
から床の上へ。

 もちろん、春花ちゃんを膝の上で介抱してあげてもよいのです
が、お尻叩き直後は、お尻がジンジンしていて、クッションの上
でも座るのは辛いのです。
 ですから、こうして床に転がし、ほてりを冷ましてあげるのが
一番の親切でした。


 春香ちゃんが古いペルシャ絨毯の敷かれた床の上でお尻をなで
なでしている間、町田先生は、今一度、部屋の中を見回ります。

 すると先生、壁に掛けられた側灯(そくとう)を見ていてある
ことに気づきます。
 『ひょっとしてこれは……』
 疑念は大きな姿見の前で決定的になりました。

 先生はその姿見の中にぼんやりとした黒い人影を見たのです。
 もちろん、その陰が何なのか、正確な事は何もわかりません。
 でも、そのシルエットには見覚えがあります。

 ただ、彼女は鏡の前に来てそれが分かってからも、特段表情を
変えませんでした。
 髪型をわずかに手直しするかのような仕草をみせ、スカートの
裾を両手で持って膝を軽く曲げる社交界でよくやるお辞儀をした
だけだったのです。

 その間僅かに30秒。でも、その僅か30秒間で、町田先生は
色んな事に頭をめぐらせていたのでした。

 この鏡の向こう側に座る人の身分、その人の性格、彼が子ども
たちに求めているもの、その思いを遂げる為に彼が取るであろう
手段など、色々と推測します。その一方で、自分は子供たちの為
に何がしてやれるだろうか?彼の求めに応じた場合、何が起こる
だろうか?拒否した場合はどうなるだろうか?

 ありとあらゆる可能性を30秒で考え、先生は結論を出したの
でした。

 もちろん、その結論は子供たちの為、とりわけ彼らの将来の為
に最もよい方法として選択したのです。

 町田先生は鏡の前で小さく会釈してその場を離れます。
 それは、当然、老人のためにした挨拶でした。


 すると、それを受けて鏡の内側では……

 「御前、いかがいたしましょう。退室なさいますか?」
 「どうしてだね、柏村」

 「どうも、こちらから見ていて、あの先生、この部屋の存在に
気がついていたように見えましたので、万一、御前に差し障りが
でてもと思いまして……」
 「気づいたでしょうね。彼女、さっきから隠しカメラの位置を
しきりに気にしていましたから……」
 「ならばなおの事、ここは危険なのでは?公になれば御前様の
ご人体(じんてい)にも関わります」

 「まあ、まあ……そう慌てなくても大丈夫ですよ、柏村さん。
どうやら、彼女、事を荒立てるつもりはないみたいですから…」
 「三上先生まで、そんな悠長な……どうしてそんなことわかる
んですか?」

 独り焦る柏村さんに伯爵様は静かに語りかけます。
 「柏村、落ち着きなさい。そんな大声を出したら、いくらこの
部屋が防音壁でしきられていても子供たちにまで聞こえてしまい
ます。そうなったら、せっかくの先生の好意が無駄になってしま
うじゃありませんか。ここは先生の好意に甘えて静かに鑑賞する
のが、大人のマナーですよ」


 大人たちが狭い部屋でお茶を飲みながら会話している頃、町田
先生はもうソファに戻っていました。

 彼女は依然として床に転がってお尻をさすっている春花ちゃん
や壁の方を向いたまま膝まづきスカートをたくし上げてお仕置き
の終わりをひたすら待っている美里ちゃんの様子を確認します。

 そして、今一度、頭の中を整理すると、やおら子供たち二人に
召集をかけたのでした。

 「はい、二人とも、私の処へいらっしゃい」
 町田先生は子供たちをソファの前に集めると、その場に膝まづ
かせ、両手を胸の前で組む姿勢をとらせます。

 すると先生、この時点でソファの角度を微妙に変えていました。
 膝まづいた子供たちのお尻が大人たちの窓からも正面に見える
ように調整していたのです。

 「いいですか、今日のあなたたちのお仕置きを受ける態度には
少し問題がありました。あなたたちもすでに5年生なんですから、
少しぐらいの痛みは辛抱して、声をだしたり、身体をよじったり
してはいけません。そのことはこれまでも何回となく注意してき
ましたよね。……ね、美里ちゃん、できていましたか?」

 町田先生が睨むと、美里ちゃんがうろたえたように……
 「ごめんなさい」
 と言いますから、それにつられたように春花ちゃんまでも……
 「ごめんなさい」

 その声はこれからの町田先生の行動を勇気付けます。

 「ま、わかってはいるみたいね。だったら、ちょうどいい機会
ですから、その反省をこめて、新しい罰を受けてもらいます」

 町田先生がこう言ったとたん、二人は期せずして胸の前で組ん
でいた手をほどき、両方の手でお尻をさすり始めます。

 『またお尻をぶたれるのなら、その前に、お尻を少しでも可愛
がっておかなきゃ』
 そんなことを思ったのかもしれません。

 もちろんやってはいけないことですが、二人はさっきまで散々
お尻をぶたれていましたから、『新しい罰』と聞いて慌てます。
またお尻を叩かれるんじゃないかと早合点して、無意識にやって
しまったのでした。

 でも、そんな子どもたちの動揺を先生はあえて咎めません。

 ただ……
 「大丈夫よ。もうお尻はぶたないから、それは安心していいわ。
……新しい罰というのはね、拘束台での鞭打ちのことなの」

 こう言われたとたん、二人の顔から血の気が引きます。
 顔面蒼白というやつです。
 拘束台は、本来中学生の罰。小学生の自分たちには関係ないと
ばかり思っていましたから、拘束台と聞いて頭の中がパニックに
なったみたいでした。

 さらに動揺する二人を鎮めようと先生は説明を加えます。

 「新しい罰といっても、またお尻をぶつわけじゃないの。……
中学生になれば、あなたたちもどのみち拘束台にはご厄介になる
わけだし、その時になってまごつかないように、どういう姿勢に
なるのかを、その前に一度体験してもらおうと思うの。だから、
今回はあなたたちをあの台に縛り付けるだけ。実際にぶったりは
しないわ」

 先生の提案、かなり強引です。もちろん子供たちにしても……
 『なぜ、そんなことを今やらなきゃならないのよ!!』
 という不満はあるはずです。

 でも、小学生というのは、比較的親や先生の命令には従順で、
中学生のように理屈でやり込めようだなんて考えたりしません。
 それに、下手にさからってもう一度お尻叩きのやり直しなんて
ことになったら、それこそ目も当たられませんから、二人はあえ
て疑問を差し挟みませんでした。
 春花ちゃんも美里ちゃんも、もうこれ以上お尻をぶたれるのは
まっぴらだったのです。

 「では、私が拘束台を準備しますから、あなたたちはその間に
そこで服を脱いで待っていなさい。……いいこと、靴下を除いて
下着も全部脱ぐのよ。……もし、それまでに、ちゃんと服が脱げ
ていなかったら、本当に鞭でぶちますからね」

 お母さんは二人に厳命を残して部屋に設置された拘束台の準備
にとりかかります。

 二人は不安と悔しさで唇を噛みますが、でも、それ以上の抵抗
はできませんでした。

 二人はお互いを見つめ合いましたが、どちらの顔にも『選択の
余地はありません』と書いてありました。
 『どうせ、見ているのはお母さんだけだから』というのが救い
だったようです。


 「春花、あなたはこちらよ」

 町田先生はまず最初に春花ちゃんをうつ伏せで操作する拘束台
の方へ案内します。

 これは斜めになった板の上に上半身をうつ伏せにして寝かせ、
お尻が体のどの場所よりも高くなるようにセットしたら、両足を
六十度ほど開かせて足首を固定して使うようになっていました。

 両手は自由ですが、足首が固定されているので逃げ出すことは
できませんし、鞭打たれる時はどのみちその痛みに耐えるために
頭の先に突き出た二本の棒をその手で握ることになります。

 むしろ両手を拘束しないのは、痛さのあまり無理やり拘束具を
振りほどこうとして手首を痛めるから。
 手首を傷めては、その後の勉強に差し障りが出るからでした。

 春花ちゃんは、自動車に轢かれたガマ蛙みたいな無様な格好で
細いテーブルに張り付きます。
 大きく開かれた両足の間からは、女の子が見えそうで気になり
ますが、それでも美里ちゃんがさせられている格好に比べたら、
まだましだったかもしれません。

 同じ頃、美里ちゃんはもっと屈辱的な格好をさせられていました。

 美里ちゃんの拘束台は壁に据付けられていて、短めのテーブル
が壁から突き出るように設置されています。美里ちゃん、この上
に仰向けに寝かされると、なんと両足を高々と持ち上げられて、
自分の頭の方にある壁の鎖に固定されているのです。

 当然、誰の目にも女の子は丸見え。おまけにこの姿勢で鞭打た
れると、お尻だけでなく大事な場所にも鞭が当たってしまいます。
 それって尋常な痛さではありませんでした。

 この拘束台、中学生でも特に強い反省が求められる場合にだけ
使用されるということになっていますが、それはあくまで建前。
このテーブルに一度も乗らず中学を卒業できる子は施設の寮には
一人もいませんでした。

 というのも、この拘束台、たんに個人的なペナルティーという
意味ではなかったからなのです。

 『教会の子供たち』は本来なら生まれてくるはずのない子ども
たち。教会側も、もろ手を挙げて祝福という訳にはいきませんで
した。

 たとえ、子どもたちに罪はないと分かっていても、大人たちは
子供たちに試練の輪くぐりを求めます。

 拘束台を使っての鞭打ちはこうした子どもたちなら誰もが経験
する通過儀礼。彼らが煉獄を通らずに天国へ行くことなど、大人
たちは決して許さなかったのでした。

 二人はそんな屈辱的な姿を晒して五分間ほど放置されますが、
その間も、町田先生は二人へのお説教を欠かしません。パドルや
ケイン、トォーズや乗馬鞭など、中学生が受けるであろう数々の
鞭を手に、時には鞭打つ真似をしてお転婆娘たちを脅し続けます。

 しかも、最後にはこんなに恥ずかしい姿の記念写真まで……

 「よし、これはいいお土産ができたわ。これは今度あなたたち
が悪さをした時に使わせていただきます。これをクラスのみんな
に公表したら、さぞやみんな驚くでしょうね。そうならないため
にも、これからはいい子にしてなさい」
 笑いながら話す町田先生の言葉に、二人の体は、穴という穴を
塞ぎ、毛穴という毛穴を全部鳥肌にして震えます。

 でも、先生、この写真をそんな目的に使用するつもりはありま
せんでした。


 約束どおり、二人は鞭の洗礼を受けることなく開放されます。
ただ、台から下ろされた二人は、もうぐったりとしていました。

 でも、これで二人のお仕置きが終わったわけではありません。
 すぐに選手交代。今度はお互い別の拘束台で縛られます。

 手順も同じ、記念写真も同じでした。


 こうして恥ずかしい時間は15分ほどで過ぎ去ったのですが、
子供たちには一つ気になることがありました。
 お尻を叩かれている間、拘束台にいる間、それまで薄暗かった
室内が一瞬パッと明るくなることが何度かあったのです。

 ですから、お母さんにそのことを尋ねると……
 「さあ、知らないわ。電気の配線の具合が悪いんじゃないの」
 というそっけない答えが返ってきます。

 疑問に思いながらも、子供たちにしてみれば、その時はそれで
納得するしかありませんでした。とにかく今は、お仕置きを完全
に終わらせるのが先決でしたから。

 でもその瞬き、実は、金魚鉢と呼ばれる小部屋にいる大人たち
が焚いたフラッシュだったのです。

 この懲罰室にはいくつもの隠しカメラが設置してあって、その
シャッターを金魚鉢の中から操作できるようになっていました。
 シャッターを押す一瞬だけ、部屋の明るさが最大になるという
わけです。

 結局、子どもたちは自分たちの知らないところで恥ずかしい姿
の写真を何枚も撮られていたことになるのですが、これが、巷で
よくあるような、ゆすりたかりのネタに使われる事はありません
でした。

 伯爵様には身分や社会的な地位がありますから、そんなことは
なさらないのです。

 これらの写真は、あくまで伯爵様のコレクション。書斎の金庫
へ納まり、他へ移ることもありませんでした。

 そればかりではありません。これは二人も知らないことですが、
これから先、二人には伯爵様が後ろ盾として着いてくださること
になります。

 すべては町田先生の……いえ、お母さんの取り計らいだったの
でした。


***********(8)***********

********「第3回」はここまで*******
~~第2章はここまでです~~ 

御招ばれ <第2章> 「第2回」

    御招ばれ <第2章> 「第2回」


*** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。


*** 目次 ********
 「第1回」(1)~(3)……伯爵様へのプレゼンテーション
 「第2回」(4)~(5)……遊園地での楽しいひととき
 「第3回」(6)~(8)……懲罰室でのお仕置き


********<主な登場人物>**********

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

****************************

***********「第2回」*********

 御招ばれ<第2章>(4)

 春花ちゃんと美里ちゃんはほかの子と同じように最初は50m
もある滑り台を滑り下りて伯爵様が子供たちのためにしつらえた
お庭へとやってきます。
 遊び場へ行くには何よりこの特大滑り台が便利でした。

 「ねえ、お尻火傷しなかった」
 「したかもしれない。ものすごく熱かったもん」
 「私も……」
 「ねえ、ちょっと私のお尻見てくれる?」
 「え~ここでえ~」
 「大丈夫よ。誰も来やしないわ」

 二人は物陰に隠れると二人でお互いのお尻を見せっこします。
 でも、何事もなかったみたいでした。
 実際、この滑り台はとっても眺めがよくてスリルがあって最高
なんですが、何しろ長い距離を滑りますから、お尻が熱くなると
いうのが欠点でした。

 「まず、どこ行こうか?」
 「メリーゴーランド」
 「やっぱそれよね」

 最初の乗り物はメリーゴーランド。
 これもここへ遊びに来た子供たちの定番でした。

 「わあ、聞いてたより小さいんだ」
 春花ちゃんが驚きます。
 無理もありません。中央にかぼちゃ型の馬車、その周囲を回る
木馬だってがたった3頭しかないんですから、ミニチュアサイズ
です。
 でも、これを動かしてくれる庭師の松吉さんとそのお弟子さん
にとっては大変な重労働でした。

 実は、今の常識じゃ考えられないでしょうけど、このメリーゴ
ーランドは人力なんです。電気やモーターじゃなくて、人の力で
歯車を回して動かす仕組みになっていました。

 何でも戦前の上海にあったものを伯爵様のお父様が移設なさっ
たんだそうで、相当年季が入っている代物なんですが、いまだに
現役で動きますから今の子どもたちにとっても大事な遊具でした。

 「おじさん、ありがとう」
 10周も回してもらった二人は松吉さんたちにお礼を言います。

 実際、それは街の遊園地にある物のように、早くて滑らかには
動きません。でも、ギシギシパッタンとのんびり動いていくのは
松吉さんの手加減がそのまま自分の乗った馬に伝わるから。
 でも、その方がかえって子どもたちにとっても松吉さんたちに
楽しませてもらったという実感が伴うのでつまらない物に乗った
という思いはありませんでした。


 このあと二人は、ジャングルジムやブランコでも遊びます。

 それって、どこにでもある遊具なのですが、ここは高い丘の上
にあります。ですから、ジャングルジムの天辺に登ると、眼下に
緑の街を一望できますし、ブランコを漕ぐと、眼下の街へ落ちて
行くようなスリルを味わうことができます。

 「ほんと、みんなが伯爵様のお屋敷にお招れしたいって思うの
わかるわ。だってここ、まるっきり遊園地だもの。お金持ちって
いいなあ。私もお金持ちの人と結婚したいなあ」
 美里ちゃんは淡い思いを語りますが……
 「そりゃあ無理よ」
 春花ちゃんが即座に否定してしまいます。

 「どうしてよ」
 「だって、私たち『教会の子どもたち』だもん。大人になった
らシスターか、そうでなくても教会の仕事に就くことになるわ」

 「そんなのどうしてよ。誰が決めたのよ」
 「知らないわよ。だって昔から決まってることだもん。私たち
大人になっても目立っちゃいけないんだって……だからお金持ち
とも結婚できないわ。そんなことしたら目立っちゃうもの」

 「変なの……」
 美里ちゃんは不満でしたが、彼女にとって大人はまだ先の世界
でした。
 「ねえ、今度、ゴーカートへ乗ってみましょうよ」
 春花ちゃんは話題を変えます。次のターゲットをゴーカートに
定めていたみたいでした。

 ただ、美里ちゃんは……
 「え~~あれって、男の子が乗るもんでしょう」
 ちょっぴり尻込みします。

 実はこの伯爵家へのお招れ、女の子だけではなく男の子も来て
いました。
 彼らもまた春花ちゃんや美里ちゃんたちと同じ境遇です。将来
は、やはり聖職者の道へと進まなければなりませんでした。
 ですから、寄宿舎は男女別々ですが、教会内にある学校は同じ。
当然、そこでは将来の聖職者を見据えて子ども達には他より高い
倫理感が叩き込まれていました。
 過激に見えるお仕置きもその為の教育だったのです。

 ただ、そんな彼らだって男の子です。スリルあるゴーカートは
大好きでした。

 実はこのゴーカート、形だけは街の遊園地にあるゴーカートと
同じ形をしていますが、エンジンが着いていません。
 動力がありませんから、実質的には坂道を下るだけの自転車と
いうところでしょうか。

 それでも男の子たちにとっては一番人気の遊具ですから、二人
がスタート地点へ行ってみると、そこは男の子だらけ。
 女の子としてはちょっぴり気の引ける空間でした。

 列に並んで順番が来ると、係りのおばさんが笑顔で迎えてくれ
ます。
 「あら、あなたたちもやってみるの?」
 「いいんでしょう、女の子でも」
 春花ちゃんは乗り気でしたが……
 「わたし、できないよ。恐いもん」
 美里ちゃんは尻込みします。

 すると、おばさんが……
 「だったら、二人乗りになさい。…………ほら、これだったら、
お友だちの隣りに座ってるだけだから楽よ」
 と、二人乗り用を出してくれました。

 「ちょうどよかった、一緒に乗ろう」
 春花ちゃんは相変わらず積極的です。美里ちゃんの手を取ると
無理やり座席に座らせてしまいました。

 「いいこと運転中はヘルメットをぬいじゃダメよ。それから、
危ないと思ったら早めにブレーキを踏んでね。このカート、安全
には作ってあるけど、転ぶと怪我するわよ」
 おばさんのそんな言葉を背に受けて二人は丘の頂上をスタート
していきます。

 「ヤッホー、すごい、すごい、けっこう早いじゃない」
 
 ハンドルを握って運転するのは、もっぱらん春花ちゃん。美里
ちゃんの席にもアクセル用(?)のペダルが着いていますから、
漕げばそれだけスピードが上がりますが、彼女、運転中は手摺に
しがみ付いているだけでした。

 エンジンが着いていないからって馬鹿にしちゃいけません。
 ブレーキを踏まなければ結構スピードがでるようになっていま
した。

 春花ちゃんは、もともと坂道になっていてスピードの出る道で
さらにペダルを漕ぎます。おまけにどんなカーブにきてもろくに
ブレーキをかけませんからスピードはあがる一方でした。

 疾走する春花ちゃんは有頂天です。
 「やったあ!!これで二人も男の子を抜いたわ。ゴーカートが
こんなに気持がいいなんて思わなかったわ。ねえねえ、あなたも
もっと一生懸命ペダル漕いでよ」
 美里ちゃんは春花ちゃんにせがまれますが、春花ちゃんが力任
せにペダルを漕ぐので、自分の踏むペダルまでが軽くなることが
恐くて仕方がありませんでした。

 「もう一人、前に男の子がいるから、抜いてみせるわ……」

 春花ちゃんは、また坂道が急になっているにも関わらず目一杯
ペダルを踏みこみます。
 どうやら夢中になりすぎて、その先のヘアピンカーブは見えて
いなかったみたいでした。

 「いやあ~~~」
 悲鳴と共に二人の乗ったカートはヘアピンカーブの茂みの中へ
……脱輪…横転…そして、二人はカートの外へと放り出されます。

 「いててて」
 幸い二人が負った怪我は擦り傷だけで大事には至りませんでし
たが……
 「だから、言ったでしょう、無理しないでって……」
 美里ちゃんはおかんむりです。

 でもカートの中で美里ちゃんがそんなことを言ったことなんて
一度もありませんでした。
 いえ、言葉にはしませんでしたが心の中ではずっと叫んでいた
みたいです。

 春花ちゃん、少しムカッとしたみたいですが、とにかく、今は
脱輪してしまったカートを元のコースへ戻さなければなりません。

 「ほら、そっち持ってよ!」
 春花ちゃんはまだ擦りむいた肘をすりすりしている美里ちゃん
にむかって命令します。

 二人は力を合せて、カートを引きずりだそうとしますが……
 「ほら、もっと力をいれなさいよ」
 また春花ちゃんが命令しますが、カートってタイヤでコロコロ
と動く時は快適なんですが、こうやって鉄の塊になってしまうと、
動かすのは簡単ではありませんでした。

 「とても無理よ。大人の人たちを呼んできましょうよ」
 美里ちゃんは提案しますが……
 「だめよ、そんな事したら町田先生に叱られるわ」
 春花ちゃんは乗り気ではありません。

 「だったらどうするのよ。このまま放っていくの?」
 「それは……」
 「こんなの見つかったら、それこそただじゃすまないと思うわ」

 「…………ただじゃすまないって?……オヤツ抜きとか?……
夕食抜きとか?」
 「そのくらいじゃすまないんじゃない?」
 「じゃあ、お仕置き?だって、今はお招れにきてるんだもん。
それは大丈夫よ」

 「何言ってるの。私たちって、いつまでもここにいられるわけ
じゃないのよ。寮に帰るのよ。そこで『二人、お話があります。
舎監室へいらっしゃい』なんてことになったらどうするのよ」
 「そうかあ…………」
 春花ちゃんは少し驚いた後、下を向いて黙ってしまいます。
 確かに、美里ちゃんの心配はその通りでした。

 そんな二人のもとへスタート地点でこのカートを貸してくれた
おばさんがやってきました。
 
 「あっ……」
 「やばっ……」
 二人は緊張しますが、おばさんは笑っています。

 「どうしたの?……ははあ、やっぱりそうか。……ブッシュに
突っ込んだのね。……だから言ったでしょう、早めにブレーキを
踏みなさいって……エンジンがついてないからって馬鹿にしちゃ
だめよ。ここのコースは坂道で、これでも結構スピードが出るん
だから…怪我はどうなの?肘から血が出てるわ。身体は大丈夫?」

 「ごめんなさい。大丈夫です。これは擦りむいただけですから」
 「ごめんなさい。私も大丈夫です。」
 二人はうなだれます。
 こうなったらもう逃げ隠れはできませんでした。

 「よかったわ、事故だけは心配なの。男の子の中には無茶する
子が多いから困るのよ。これも元はエンジンがついていたんだけ
ど、乱暴な運転で大怪我した子が出て、お父さんが外させたのよ」

 「お父さんって?」
 美里ちゃんがつぶやくと……

 「何言ってるの。あなたたち誰に招待されてると思ってるの?
うちの父が招待したからここにいるんでしょう」

 おばさんが笑っている間、二人は頭の中を整理します。そして
……
 『伯爵様をお父さんって呼べる人は伯爵様の娘さんだけよね。
伯爵様の娘さんってことは、つまり伯爵家のお姫様ってことだわ』
 という結論に達したのでした。

 「おばさん、伯爵家のお姫様なんですか?」
 春花ちゃんが、このキャディさんみたいな格好のおばさんに、
素朴な疑問をぶつけると……

 「お姫様?そうね、そうなるかしらね。ま、お姫様にしては、
少しとうが立ってるけど、そういうことになるかもね」

 二人はそう聞いてあらためて緊張したのか少しだけ後ずさりを
します。すると……

 「何なの?そんなに緊張することないでしょう。今は華族なん
て制度はないんだから、私もあなたも同じ身分よ。……そんな事
より、このカートを何とかしなきゃならないわ」

 トウの立ったお姫様はそう言ってコースの方を眺めます。

 やがて……
 「あっ、ちょうどいいのが来た」
 彼女はそう言ってコースの方へ出て行くと、まるでタクシーで
も止めるみたいに右手をあげます。

 すると、彼女の求めに応じて一台のカートが止まり、そこから
男の子が下りてきました。

 男の子は中学生。二人からみたらお兄さんです。
 カートを運転していた時には分かりませんでしたが、その場に
立ってみると、おばさんよりむしろ背が高く、すらっとした長身
なのがわかります。

 「お願いね」
 「いいですよ」
 そんな会話が二人の少女にも届きました。
 きっと、少年が手伝ってくれることになったのでしょう。

 男の子はヘルメットを脱ぎ捨てると、肩まで伸びた髪を手櫛で
かき分けます。すると、細い顎に切れ長の目、鼻筋の通った顔が
のぞきました。

 そして、お姫様に促されて男の子が事故のあったブッシュへと
顔を向けたその瞬間でした。
 春花ちゃんと彼は偶然視線があってしまいます。

 『…………』
 春花ちゃんは何も言いませんが、その瞬間、少女の心に何かが
起こったのは確かでした。

 「どうかしたの?」
 美里ちゃんが友だちの小さな異変に気づいて声を掛けますが…
 「何でもないわ」
 という返事でした。

 でも、本当に何でもないんでしょうか。

 春花ちゃんはお姫様と二人でこちらへむかって来る彼から一度
も視線を外すことがありませんでした。

 そして、いよいよ、彼が目の前まで来ると……
 「やあ」
 男の子が軽く挨拶しただけなのに、春花ちゃんは怯えたように
ほんの少し後ずさりします。

 春花ちゃんっていつも他人の先頭を歩こうとしますから、春花
ちゃんにとってはとても珍しいことでした。

 「ああ、これね」
 高志君は二人が困っているカートを見つけても、驚いた様子は
見せません。
 「これ、コースに戻せばいいの?」
 「高志君、お願いね」

 お姫様の求めに応じて、高志君は鉄の塊となったカートを持ち
上げます。それは二人がどんなに頑張っても全然動かなかった鉄
の塊がいとも簡単に動いた瞬間でした。

 「これでいいの」
 高志君はカートを舗装されたコースへと戻します。
 その間わずかに30秒ほど……

 「助かったわ。ありがとう」
 お姫様にお礼を言ってもらって高志君は去っていきます。
 「じゃあ」

 帰る姿は後姿だけ。中学2年の男の子が小学5年の女の子に媚
を売ったりしません。コースに置いてきた自分のカートにまっす
ぐ戻るとヘルメットを被って坂を下っていきます。
 ただそれだけのことなのです。
 なのに、春花ちゃんはそれもじっと見ていました。

 「ちょっと、春花、行くわよ」
 美里ちゃんはぼんやりしている春花ちゃんを叱りつけます。
 これも普段なら逆。とっても珍しいことでした。

 これって、春花ちゃんが高志君に一目ぼれしちゃったって事で
しょうか?
 そうかもしれません。でも、春花ちゃんの初恋が実る可能性は
ほとんどありませんでした。

 だって二人の間には色々な障害がありすぎます。
 だいいち住んでる寮が男子寮と女子寮で違いますし学校だって
小学校と中学校は別の学校。つまり顔をあわせる機会がほとんど
ないわけです。それに何より、高志君はクラスの人気者ですから
同年代の取り巻きも大勢います。小学5年の女の子に声を掛ける
必要はまったくありませんでした。

 この件だって、お姫様の頼みだからやってきただけなのです。
純粋な他人助け、ボランティアなわけですが……
 人は恋をすると、ものの見方が変わってきます。

 春花ちゃんの目に高志君は……
 『ブッシュの端で悲しんでる私を見つけて真っ先に助けに来て
くれたやさしい男の子』
 となるのでした。

 あとは、高志君との色んなデートシーンが次から次へと頭の中
に浮かんできます。
 公園のボートで……映画館の暗闇で……陽の当たるカフェで…
…楽しい妄想が次々と頭の中を駆け巡ります。

 こんな時、カートのスピードが上がるわけがありませんでした。
 いくら、今さっき事故ったからって、これじゃいくらなんでも
亀さんです。

 頭にきた美里ちゃんが……
 「ねえ、春花、あなたももっとしっかり漕いでよ。これじゃあ
いつまでたってもゴールに着かないでしょう!」
 そう言ってせっつくと……頭の中のシャボン玉を割られた春花
ちゃんが、とたんに美里ちゃんを睨みます。

 美郷ちゃんには訳が分かりませんでした。


 とにかく終点までついた二人、次は何で遊ぼうかと探している
と、春花ちゃんが突然お池のボートに乗ろうと言い出します。
 彼女、何か見つけたみたいでした。

 「えっ?だって、私、ボートなんて漕いだことないもん。……
あなただって、そんなことしたことないでしょう」
 美里ちゃんはしり込みします。だって、春花ちゃんとは幼い頃
からのお友だち。姉妹みたいなものです。ですから、春花ちゃん
だってボートを漕いだ経験がないのはわかるのでした。

 でも、春花ちゃん、強気に頑張ります。
 「大丈夫よ。そんなの簡単よ。やってうちにうまくなるわ」
 春花ちゃんは美里ちゃんの手を強く引っ張ると、貸しボートの
桟橋へ……

 もちろんこれも、乗るのはただでしたが、ただ、おじさんが、
 「君たち、ボート漕いだことあるの?」
 と尋ねてきます。

 二人が不安な顔になりますから……
 「やったことがないんだったら、少し待ってなさい。しばらく
したら経験のある人が来るからね、その人と一緒に乗りなさい。
ひっくりかえった危ないからね」

 おじさんはそう言って二人にしばし待つように促したのですが
……
 「大丈夫です。私、何回もボートを漕いだことありますから…」
 春花ちゃんがいきなり宣言してしまうのです。
 美里ちゃんは目を丸くしてしまいました。

 もちろんこれ、真っ赤な嘘でした。美里ちゃんも春花ちゃんも、
まだ一度もボートを漕いだことがありません。

 ただ、春花ちゃんのあまりにも自信に満ち溢れた態度に押され
て、おじさんが渋々ボートを貸してくれます。

 「いいかい、この救命胴衣は絶対に脱いじゃいけないからね」
 麦藁帽子のおじさんはそう言って、二人の乗ったボートを押し
て出してくれます。

 ボートは、最初、順調に湖面を進んでいきます。

 「やったー」
 美里ちゃんは大喜びでした。

 彼女、春花ちゃんがおじさんの前であんな大見得を切るもんで
すから、ひょっとして自分の知らないところでボートを漕いだ事
があるのかと思っていました。

 でも、春花ちゃんが上手だったのはまっすぐに進むことだけ。

 池の真ん中にある島にボートが突き当たると、そこでストップ。
このボート、一定方向には進めても方向転換ができませんでした。
 結局、二人を乗せたボートは小さな島の入り江で座礁してしま
います。

 「どうしたの?動かないよ」
 「困ったなあ、私、曲がり方ってしらないのよ」
 「何よ、さっきは偉そうに漕いだことあるって言ってたくせに」
 「だって、ああ言わなきゃ貸してくれないみたいだったから」
 「そうじゃないでしょう。おじさんは、経験のある人と一緒に
乗りなさいって言っただけじゃない。だから、そんな人が来るま
で待ったらいいじゃないの」
 「そうはいかないのよ!」
 「どうしてよ!?」
 「どうしてって……」
 春花ちゃんは口ごもります。

 春花ちゃんとしては、『今、高志君がボートに乗ってるから…』
とは言えませんでした。

 と、ここで、まごまごしている二人のもとへおじさんが助け舟
でやっきます。
 
 「大方こんなことだろうと思ってたよ。でも、とにかく事故が
なくて何よりだ」
 
 おじさんは恥ずかしくて顔を真っ赤にしている二人を、自分の
ボートに二人を乗せると、桟橋へと引き返します。

 でも、その時、高志君たちが乗るボートと出合ったんです。
 春花ちゃんは下を向き、その顔はさらに赤くなります。

 そんな春花ちゃんの気持を、おじさんが察したわけでもないん
でしょうが、高志君のボートに向かってこんなことを言うのです。

 「高志君さあ、よかったらこの子たちを乗せて池を一周してく
れないか?」

 「いいですよ。だったら、僕達も桟橋に戻りますから……」
 高志君は一緒にいたクラスメイトの女の子と目と目で会話して
からおじさんに返事を返してきました。

 結局、桟橋に着いた二隻のボート、一隻は高志君のクラスメー
トの女の子が美里ちゃんを乗せて出航。もう一隻は高志君が春花
ちゃんを乗せて遊覧です。

 春花ちゃんとしては、こんなこと、願ったり叶ったりだったに
違いありません。
 だって、初恋の人と、いきなりボートでデートできるんです。
積極的な春花ちゃんのことですから、さぞや話が盛り上がったと
思いきや……池をめぐってきた15分間、春花ちゃん、高志君を
目の前にしてほとんど口がきけませんでした。

 『さっき事故を起こして恥ずかしかったから…』
 勿論それもあるでしょうが、何より春花ちゃんは、それくらい
高志君のことが好きだったということのようでした。


**********(4)**************

 御招ばれ<第2章>(5)

 夕方になり、子どもたちはお屋敷に戻ってお風呂に入ります。

 もちろん男女は別。男の子には大きな浴槽の岩風呂が割り当て
られましたが、女の子にはそれより小さなお風呂。

 いえ、それだって、家庭のお風呂に比べたら何倍もあるのです
が、男の子のお風呂があまりに立派でしたから、美里ちゃんは、
それに不満でした。

 「あったまにくる。男の子のお風呂ってこ~んなに大きいんだ
よ。それに比べて女の子はこれだもん。ね、これって差別よね」

 「ふう~ん……ん?」
 流しで頭を洗っていた春花ちゃん最初は聞き流していましたが、
そのうちあることに気づきます。
 「あんたどうしてそんなこと知ってるの?」

 「だって、さっき見てきたもん」
 「えっ!?男の子のお風呂覗いたの?」
 「うん」
 美里ちゃんごく自然に頷きますからそりゃあ春花ちゃんだって
びっくりです。
 
 「ほら、あそこにマリア様の像があるでしょう。あれ取れるの。
あれ外したら向こう側が見えちゃったのよ」
 「見えちゃったって……あんた、そんなことしたの?」
 「簡単よ。脚立があるからそれに乗ってマリア様を床に下ろせ
ばいいだけだもん。男の子の裸、ばっちり見ちゃった」
 美里ちゃんに悪びれた様子はありません。

 「あんた、時々ビックリするようなことするのね。そんなこと
町田先生に知られたらお仕置き間違いなしだよ。パンツ脱がされ
てパドルの鞭で六つぐらいやられちゃうんだから」
 「いいじゃないの、男の子たちには見つかんなかったんだから。
そうそう、そういえば春花。昼間さあ、あなたと一緒にボートに
乗ってた男の子いたじゃない」

 「ああ、ゴーカート引き出してくれた子でしょう」

 「あの子も、今、入ってるよ」

 その瞬間、春花ちゃんの胸がキュンと痛くなります。
 そして、一瞬、高志君の裸を想像してしまうのでした。

 もちろん、そんな時には身体を洗う手は止まっています。
 急に動きを止めた春花ちゃんに、美里ちゃんはきょとんとして
しまいました。

 「どうしたの?」
 心配して尋ねますが……
 「何でもないわ。私、お湯に入るね」
 と、つれない返事が返るだけでした。

 いえ、これ春花ちゃんが美里ちゃんを毛嫌いしているわけでは
なくて彼女には彼女なりの理由があったわけですが、美里ちゃん
はまだそのことに気づいていませんでした。

 春花ちゃんは男の子たちのお風呂場との間にある壁際に身体を
沈めると何もせずただじっと耳を澄ましていました。

 「へえ~~高志、森脇先生から養子に来ないかって誘われてる
んだ」
 「まだ、わからないよ。決まったわけじゃないから……」
 「でも、先生が本気だったら行く気あるんだろう?」
 「そりゃなあ……」

 春花ちゃんは壁向こう側から反響して聞こえてくる高志君の声
を聞きたかったのでした。

 「いいなあ、高志は……あんな美人の森脇先生から声をかけて
もらって……俺なんて声をかけてくれたの中華屋の町井さんだけ。
考えちゃうよ」
 「いいじゃん、中華屋やれよ。俺なんて何軒もお招れしたけど、
どっからも誘ってくれなかったんだぞ」
 「ひがむな、ひがむな、まだ時間はあるさ」

 「ねえ、ねえ、やっぱり誘ってもらえる処があったら、どんな
処でもそこに行くべきかなあ」
 「そりゃあそうさ、ここにいたって、俺たち田舎周りの牧師に
しかなれないんだぜ。たとえどんな家でもそこの養子になったら
大人になって好きな事ができるじゃないか」

 「じゃあ、俺、ここの養子になっちゃおうかなあ」
 「おう、それいい。最高じゃん」
 「馬鹿、ありえないよ。こんなとこ……だって、そんなことに
なったらたちまち俺たち有名人じゃん。親が絶対潰しちゃうよ。
ここは遊びに来るだけさ」

 春花ちゃんは、最初、愛しい高志君の声を聞くことだけが目的
でしたが、そのうち男の子たちが話す内容にも興味を持つように
なります。

 『そうかあ、伯爵様が私を養女にしてくれるはずないもんね。
私もどこか探さなきゃ。……やっぱり、大西先生かなあ……でも、
先生、お姉ちゃんにだってあんなキツイお仕置きしてたもんなあ
……あたし、もつかなあ……』
 春花ちゃんは小さな胸を湯船に浮かべて思うのでした。

 そのうち、一緒にお風呂に入っていたお友だちが、一人二人と
脱衣場に向かいます。

 少し遅れて湯船にやって来た美里ちゃんも、春花ちゃんの耳元
で色んなことを話しかけていましたが、相手にされないので……
 「わたし、先に上がるね」
 と、声をかけたその時でした。

 美里ちゃんにとっては耳を疑うようなことを春花ちゃんが言い
出します。
 「ねえ、さっき、男の子のお風呂、簡単に覗けるって言ったよ
ねえ。……やってみようか」

 あれほど馬鹿にしていた張本人が、自分もやってみると言いだ
したのですから驚きでした。

 「でも、もうすぐお風呂の時間終わっちゃうよ。……ほかの子
もみんな出ちゃってるし……」

 心細そうに言いますが春花ちゃんの決心は変わりませんでした。
 もちろん断ることも出来たんでしょうが女の子はお付き合いが
大事ですからね、こうやって頼まれると、そっちへ引っ張られて
しまいます。

 結局は二人でもう一度男の子のお風呂場を覗くことに……

 大きな脚立をマリア様の像が飾ってある場所まで移動させて、
脚立を登り、天井近くにある通気口を塞ぐようにして祀ってある
マリア様を慎重に外します。

 あとはマリア様の代わりに通気口から身を乗り出せば、それで
OKでした。

 高志君たち男の子はすでに脱衣場に移動してその裸を見る事は
できませんでしたが、なるほど、この脚立の頂上からだと男の子
の岩風呂は丸見えです。

 「すごいなあ、伯爵様、毎日、こんなお風呂に入ってるのね」
 「うらやましいなあ、わたし、ここの養女になれないかなあ」
 二人は不安定な脚立の天辺にマリア様の像を乗せると、眼下に
広がるお客様用の岩風呂を見ています。ちなみに、伯爵様が普段
お使いになるお風呂は総檜風呂。子ども達には地味に見えるかも
しれませんが、ここよりもっともっと豪華なお風呂でした。

 「無理、無理、……あなたが養女なんて絶対無理よ」
 「どうしてよ。私、伯爵様のお気に入りなんだから」
 「よくいうわ。どこがお気に入りよ。あんなオモチャのピアノ
しか弾けないくせに……ま、私ならわからないけど」
 「わあっ!!よく言うわね。あんたこそ、あんな下手な絵、誰
でも描けるじゃないの」

 女の子二人の甲高い声はよく反響して脱衣所までも筒抜けです。
 そんな声に誘われるようにして黒い影が迫っていることに二人
は気づきませんでした。

 「ちょっと、あなたたち、何してるの!!」

 二人にとっては聞き覚えのある声が、突然、足元でします。

 「えっ!!」
 「いやあっ!!」
 慌てた二人は不安定な脚立の上で揉み合いに……
 そして……

 「ガッシャン!」
 二人は、自分たちが脚立の天辺にマリア様の像を置いたことは
すっかり忘れてたみたいでした。

 『どうしよう!!』
 『やばいよね!!』
 二人は同じ思いで顔を見合わせます。

 湯船で十分に温まっていたはずの身体が一気に冷めた瞬間で
した。

 二人は、鬼のように恐い顔をした町田先生を高い脚立の上から
見下ろすはめになります。

 「とにかく下りてらっしゃい」

 素っ裸の少女が高い脚立の上から男風呂を覗いている。
 もちろんそれだけでも先生が許すはずがありませんが、ただ、
この場ですぐにお仕置きとはなりませんでした。

 これからすぐに伯爵家のディナーがあるのです。
 伯爵家のお夕食ではドレスを着てお招れするのが習慣でした。
ですから、どの子もそれなりにおめかしして食卓に着席します。

 町田先生としては、どの子にも伯爵家から借りた衣装を着せ、
おめかしさせてその席に着かせなければなりません。実は先生、
そのお世話で大わらわの最中です。
 ですから、大変なことが起こったとは思っていても、すぐには
二人を叱れなかったのでした。

 でも、二人はというと、そんな先生の立場や心持なんてわかり
ませんから……
 『今、叱られないんだから、もう大丈夫なんだ』
 と思ったみたいでした。


 お客様をお招きしての伯爵家の夕食は本来なら豪華です。
 自慢の料理人たちが腕をふるい、三ツ星レストランも顔負けの
フルコースです。ワインやリキュールの香りが食堂に立ち込め、
葉巻の煙がたなびきます。

 ただ、今日の主役は子どもたち。正規のものではありません。
 料理も伯爵が普段食べているものと大差ありませんでした。

 「ねえ、ねえ、先生、これ、なあに?」
 春花は他の先生や上級生が伯爵様に向かってお招きいただいた
お礼を述べている最中、目の前にあるプレートに乗った料理を指
差します。

 「ビーフストロガノフよ」
 町田先生が仕方なく小声で囁くと、それよりはるかに大きな声
で……

 「ふう~ん、そんな名前なんだ。カレーライスかと思った」
 と言ったものですから、周囲で失笑が起こります。

 伯爵様もその瞬間にこやかな顔になりましたから、どうやら、
その声は伯爵様にも届いたみたいでした。

 和やかな雰囲気を作り出したともいえますが、町田先生にして
みたら『また、この子に赤っ恥をかかされた』という思いの方が
強かったみたいで、以後は春花ちゃんが何を聞いてきても知らん
ぷりをします。


 食事が始まると、春花ちゃんはさっそくカレーライスみたいな
料理をパクつきます。

 あっという間に完食すると、おしとやかにまだ食べている美里
ちゃんのお皿を覗き込んだりしますから、町田先生はたまらず…
 「春花ちゃん、そんなにジロジロ他人のお皿を覗き込むなんて
お行儀悪いわよ」
 とたしなめたのですが……

 しばらくして、柏村さんがやって来て……
 「伯爵様が、おそばに来るようにとの仰せです」
 と言います。
 もちろん、拒否などできませんでした。

 春花ちゃんや美里ちゃんは小学5年生。伯爵様の近くは上級生
の席ですから、二人はそこから離れた会場の末席にいました。
 それが、伯爵様じきじきのお召しで呼び出されます。

 『何の用だろう?』
 春花ちゃんは、緊張して上座の方へと向かいます。

 すると目の前の伯爵様が……
 「お肉はもっとたくさんあった方がいいかね」
 と問いかけます。

 「(えっ!?)」
 春花ちゃん、恥ずかしくて答えられませんでしたが……

 「持っていきなさい」
 
 伯爵様は自ら食卓に並ぶ色んな料理を取り分けて大きなお皿に
移し変えると、それを春花ちゃんの手に持たせてくれました。

 もちろん、「いらない」とは言えませんから……
 「ありがとうございます」
 春花ちゃんは伯爵様にお礼を言って下がりますが、さすがに、
これは恥ずかしい気持でいっぱいでした。

 ま、春花ちゃんはそうだったのですが、すべての女の子が春花
ちゃんと同じではありませんでした。
 ここには春花ちゃんよりさらに年下の女の子がいます。彼女が
見ると、それはそんなふうには映りません。

 彼女、何を思ったのか自分のお皿を持って席を立つと、伯爵様
の前にやって来て……
 「私も、お肉ください」
 と言ったのでした。

 町田先生、慌ててその子を退散させようとしましたが、伯爵様
は先生を制します。
 「あっ、いいんですよ先生。ここは正式な席ではない。まして
相手は子供じゃないですか、叱らないでください。いえね、私も
世間の親に習って、こんなことがしてみたかったものですから」

 伯爵様は、春花ちゃん同様その子にも穏やかな笑顔を振りまき
ます。
 「どれがいい。さあ、言ってごらん。どれでも取ってあげるよ」
 と問いかけるのでした。

 今の時代の人たちは、同じ家族なら大人も子供も当然同じ物を
食べているはずだと思ってるのかもしれませんが、昔はそうでは
ありませんでした。
 子供に与えられる食事は、その家のお父さんに比べ、質、量、
品数、などその全てにおいて劣っていたのです。

 ですから、多くの子供はお父さんの食べているものが欲しくて
よくおねだりに行きます。そして、それを分けてもらえることで
『お父さんは偉いんだ』『私はお父さんから愛されてる』と実感
することになるのでした。

 ただ、お皿をもって大人の食事のおもらいに行くなんてことは、
本来は幼い子のやること。春花ちゃん、どうやらそこは卒業して
いるみたいだったのですが、自分のお皿が空になり、やることが
なくなって他人の食事風景を見ていたら、それを伯爵様に『まだ、
お腹がすいているのだろう』と誤解されてしまったのでした。


 食事が終わると、子どもたちはおめかししていた衣装を控え室
で脱ぎ捨て、普段着に着替えて居間へやってきます。

 もちろん居間でくつろぐ時も、そのままの衣装で構わないわけ
ですが、この衣装、伯爵家からの借り物ですから、子どもたちに
汚されないうちにと先生たちがさっさと回収してしまうのでした。

 居間でのひと時は何か特別な行事があるわけではありません。
ピアノを弾いたりゲームをしたりして過ごす自由時間でした。

 大人たちの中には子供が苦手な人もいて、そんな人はさっさと
自分の部屋へ引きこもってしまいますが、伯爵様は大の子供好き
でしたからこんな機会も逃しません。子ども達と一緒にゲームを
したり、ピアノを弾いたり、昔話を語ったりします。

 ただ、この場所に春花ちゃんと美里ちゃんはいませんでした。

 二人も控え室で堅苦しい服を脱ぐと、普段着に着替えて居間へ
行こうとしたのですが……

 「あっ、そこの二人。だめよ。あなた達はここに残りなさい」
 と、町田先生に止められてしまったのでした。

 すべての子が普段着に着替えて部屋を出て行くなか、二人だけ
が残りました。
 それでもこの二人、なぜ自分達だけが残されたのか、この時は
まだ理解していなかったみたいです。

 「あなたたちには、まだやるべきことがあります。分かってる
でしょう」

 町田先生に言われた時も、二人は……
 「??????」
 でした。

 「あらあら、そのお顔は分からないってことかしら?」
 町田先生は一つため息をつくと……
 「…(ふう)…いいこと、お二人さん、あなたたちはお風呂で
男の子の浴室を覗き見した上に、あそこに祀ってあったマリア様
の像まで壊したの。…………どうかしら?思い出してくれた?」

 町田先生にこう言われて、やっと……
 「(ああ、あのこと、まだ根に持ってるんだ)」
 と、思い出したのでした。

 そう、お二人さんにとっては、そのことはすでに終わったこと
だったのです。
 ただ大人の世界では、こうした問題はそう簡単には過去になら
ないのでした。

 「これから伯爵様に謝りに行きます」

 「え~~」「今から~~~」
 二人は不満そうでしたが……

 「そう、今からよ。そして、そのあと、あなた方にはたっぷり
お仕置きを受けてもらいます」

 「(えっ!)」
 「(マジ?)」
 すでに終わったものだと思っていた二人には青天の霹靂です。
 たちまち顔は真っ青になりました。

 「だって、マリア様の像が割れた時は何も言わなかったのに」
 春花ちゃんは虚しい愚痴を口をしますが……

 「あの時は、あなた方に衣装を着せるので忙しかったの。でも、
他人の物を壊しておいてそのままってわけにはいかないでしょう。
それに、男の子ならともかく、女の子が覗きなんてハレンチすぎ
ます」

 「えっ~~男の子ならいいの」
 美里ちゃんは不満を口にしますが……

 「そう言うわけじゃなく、あなた方、自分のしたことが恥ずか
しくないんですかって言ってるの。……まったく、あなた方は、
何考えるのかしらねえ!!」

 「…………」
 「…………」
 二人は町田先生の剣幕に恐れおののいて下を向きます。

 「ま、本当なら、寮に帰ってからお仕置きするところだけど、
ここには防音設備のある立派な懲罰室があって、そこを伯爵様の
ご好意でお借りできるみたいだから、今日のお仕置きは、そこで
やってしまいます。いいですね!!」

 凍りつくような町田先生の厳命。
 「…………」
 「…………」
 二人に声はありませんでした。


*************(5)***********

********「第2回」はここまで******

御招ばれ <第2章> 「第1回」

    御招ばれ <第2章> 「第1回」


*** 前口上 ******
*)ソフトなソフトなお仕置き小説です。
  あくまで私的には……ということですが(^◇^)

*)あ、それと……当たり前ですけど、一応、お断りを……
  これはフィクションですから、物語に登場する団体、個人は
  すべては架空のものです。実在の団体とは関係ありません。



*** 目次 ********
 「第1回」(1)~(3)……伯爵様へのプレゼンテーション
 「第2回」(4)~(5)……遊園地での楽しいひととき
 「第3回」(6)~(8)……懲罰室でのお仕置き


********<主な登場人物>**********

 春花……11歳の少女。孤児院一のお転婆で即興ピアノが得意。
     レニエ枢機卿が日本滞在中に彼の通訳をしていた仁科
     遥との間につくった隠し子。
 美里……11歳の少女。春花の親友。春花に乗せられて悪戯も
     するが、春花より女の子らしい。絵が得意な少女。
     植松大司教が芸者小春に産ませた子。
      二人は父親の意向で母親から引き離されこの施設に
     預けられたが、彼女たち自身は父母の名前を知らない。
 町田先生……美人で評判の先生。春花と美里の親代わり。二人
      とは赤ちゃん時代からのお付き合い。二人は、当然
      先生になついているが、この先生、怒るとどこでも
      見境なく子供のお尻をぶつので恐がられてもいる。
 シスターカレン……春花のピアノの師匠。師匠と言っても正規
         にピアノを教えたことはない。彼女は周囲に
         『春花は才能がないから』と語っているが、
         本心は逆で、聖職者になることを運命づけら
         れていた彼女が音楽の道へ進むのを奨励でき
         ない立場にあったのだ。

 安藤幸太郎……安藤家の現当主、安藤家は元伯爵家という家柄。
       町外れの丘の上に広大なお屋敷を構えている。
        教養もあり多趣味。当然子どもは好きなのだが、
       その愛し方はちょっと変わっていた。

 安藤美由紀……幸太郎の娘。いわゆる行かず後家というやつ。
        日常生活では幸太郎の世話を焼くファザコン。
        子どもたちがお泊まりにくればその世話も焼く
       のだが、彼女の子供たちへの接し方も世間の常識
       にはかなっていなかった。

 柏村さん………表向き伯爵様のボディーガードということだが
       実際の仕事は秘書や執事といったところか。
        命じられれば探偵仕事までこなす便利屋さんだ。

 三山医師………ほとんど幸太郎氏だけが患者というお抱え医師。
        伯爵とは幼馴染で、世間でいう『茶飲み友だち』
        幸太郎氏とは気心も知れているためその意図を
        汲んで動くことも多い。

 峰岸高志………春花ちゃんが一目ぼれした中学2年の男の子。
       ルックスもスタイルもよくておまけに頭もいいと
       きてるからクラスの女の子が放っておかないが、
       彼自身は女の子に興味はない様子だ。

****************************

***********「第1回」*********

御招ばれ <第2章>(1)

 次の御招ばれの日が来ました。

 招待してくださるお父様たちがホールにずらりと居並ぶなかで、
春花と美里は、他の紳士たちと談笑する大西先生の脇を、抜き足
差し足ですり抜けていきます。
 そう、まるで門限破りした子が親に見つからないようにそうっ
と家の中へ入り込む、そんな感じでした。

 『どうして二人がそんなことをしたのか?』ですか……

 だって、このお二人さん、もうここ何ヶ月も続けて大西先生の
処へご厄介になっているでしょう。それが今回は方向転換して、
他に適当な家はないかと物色しているもんですから、大西先生に
見つかりたくなかったのです。

 どうやら二人には、大西先生と顔を合せるのは気まずいという
思いがあるみたいでした。

 でも、大西先生は紳士ですからね、そんな二人が逃げるように
安藤伯爵のもとへ出かけて行ったとしても何も言いません。
 先生は、先月、二人に茜さんへの厳しいお仕置きを見学させて
いましたからね、『あれを見てきっと嫌気がさしたんだろう』と
分かっていたみたいでした。

 ですから、全ては承知の上……

 「おや?あの二人、今日は先生のところに来ませんね。鞍替え
されちゃいましたかね?」
 話相手の渡辺さんにからかわれても、先生、余裕の笑顔でした。

 「いや、いいんですよ。二人には、先月、娘のお仕置きを見せ
ちゃいましたから……。きっと、それが恐かったんでしょう」

 「おやおや、それはまたどうして?娘さんのお仕置きそんなに
急を要するようなことだったんですか?そんなこと二人が帰って
からでもよかったでしょうに……」

 「もちろん普段ならそんなことしませんよ。ただ、あの子たち、
本気で私のところで暮らしたいという希望を持ってるみたいで。
だったら、私の方も『本気で娘として育ててあげますよ』という
つもりで、わざとそういうところも見せたんです」

 「なるほど、『娘として本気で受け入れるためにはお仕置きも
当然、受け入れてもらいますよ』というわけですな。生真面目な
先生らしいや」
 渡辺さんは笑います。

 「でも、そんなことしたら、あの二人、もう二度と先生のお宅
に来なくなっちゃうんじゃありませんか?」
 渡辺さん心配してそう言うと……

 「別にそれはそれで構いませんよ。無理強いする必要もありま
せんから。それより、あの子たちには今のうちにいろんな家庭を
知っておいて欲しいんです。将来、あの子たちが聖職者となった
時、こちらも浮世離れした説教は聞きたくありませんから」
 先生はあっさりとこう言い放ちます。

 ただ、先生、心のうちでは……
 『二人はいずれ私の処へ戻る』
 という確信めいたものはあったみたいでした。


 春花と美里の二人はとあるおじいさんの処へとやってきます。
 そこでは、すでに数人の子供たちがこのおじいさんの前に並ん
でいました。

 二人はその列に迷わず並びます。

 「やっぱり人気あるわね。安藤伯爵様」
 春花が美里に耳打ち。
 「私、こんな絵で大丈夫かしら?」
 美里は心配そうに持ってきた自分の絵を眺めます。
 「そんなのやってみなきゃわからないでしょう。とにかくチャ
レンジあるのみよ。抽選の列に並ぶのはそれからでもできるもの」
 春花は意気軒昂。この時彼女は小さなオモチャのピアノを抱え
ていました。

 実は、このお招ばれ会。子供の側だけでなくお父さん側も施設
の子どもたちを指名することができました。
 もし、相思相愛ならめでたく親子カップル成立というわけです。

 大西先生の場合は、お金持ちというほどではありませんから、
お招ばれの定員は二人だけですが、安藤伯爵の場合は、町一番の
資産家ですから、子どもたちをいつも12名以上も招待してくれ
ます。

 広いお庭にはたくさんの遊具が並び、図書室には毎週通っても
読みきれないほどの本があります。もちろん食事だって豪華です
し、天蓋つきのベッドなんて恐らくここ以外ではお目にかかれな
いかもしれません。

 ですから、そんなにリッチなお宅で週末を暮らそうと、多くの
子どもたちが手に手に自慢の品を携え、伯爵様のご指名を得よう
として売り込みをかけてきます。
 春花と美里が並んだのもまさにそのための行列だったのでした。

 子どもたちは、自分の番がきて伯爵の前に立つと、自分が最も
得意とする自慢できる芸を披露します。

 歌の上手い子は歌を歌いますし、楽器のできる子はそれを演奏
してみせます。手先の器用な子は自分で刺繍した手袋やハンカチ
をプレゼントするというのもごくポピュラーな方法でした。

 いえ、いえ、なかには女の武器を使う子も……

 「おじいちゃま、抱っこ」
 そう言って、いきなりおじいちゃんのお膝に飛び乗る子もいる
のです。

 伯爵様は車椅子生活ですが、子ども好きで知られた人ですから、
たとえ少々お膝に負担がかかってもそんな子を邪険にはしません。
 もし、笑顔の少女の頭を伯爵様が優しく撫でてくれたら、もう
女の子の勝ちでした。

 ただこれには年齢制限や体重制限がありますから、ごく幼い子
に限られます。春花や美里にはもうその資格がありませんでした。


 そんな幼い子の飛び道具を見た後に、とうとう春花と美里の番
がやってきます。

 二人は、この時伯爵様だけでなく、その後ろに控える大人三人
からも自分の芸を見られることになります。
 というのも、伯爵様はご高齢で病がちでしたから、どこへ出か
ける時もお医者様と看護婦さん、それに屈強なボディーガードの
三人を引き連れていたのです。

 「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
 「安藤のおじいちゃま、どうか、私たちを自宅に招待してくだ
さい。お願いします」
 心臓が飛び出そうな緊張のなか二人は美しく揃ったハーモニー
で安藤老人に売り込みを掛けます。
 実は、どちらが最初か決めていなかったのです。

 その二人の声に伯爵様は満面の笑み。ですから、まずは第一歩、
そこは成功したみたいでしたが……でも、すぐに鋭い質問が飛ん
できます。

 「君たちは、たしか…大西君の処へよく遊びに行ってたみたい
だけど、今日はそちらへは行かないのかね?」

 予期しない質問に二人は戸惑いますが、春花が意を決して先月
のことを……。

 「先週も大西先生の処へ行ったんですが……そこで娘さんの、
お仕置きを見ちゃって……それで、他の処でもいいかなあって」

 「なるほど……それで恐くなって、今週は私の処へ来たという
わけか……でも、君たち自身はぶたれたりしなかったんだろう?」

 「ええ、それは……」
 
 「そうか、君たちが何か粗相をしたわけじゃないんだね」

 「……はい」
 
 「よし、よし、だったら問題ないな……で、君たちは何を披露
してくれるのかな?」

 「………………………………………………」
 出し物を伯爵様にせがまれた二人、踏み出すのに少しだけ勇気
が必要でしたが、この時は先に美里ちゃんが動きます。

 「わたし、伯爵様のために絵をかきました」

 「そうか、見せてごらん」
 老伯爵は、美里ちゃんが差し出す絵を受け取る瞬間、その手を
とって美里ちゃんの身体をそっくりご自分の膝の上へ乗せてしま
います。

 車椅子生活の伯爵でしたが、その腕力は相当のものでした。

 こうして、おじいちゃんは美里ちゃんをお膝に乗せてその絵を
鑑賞することになります。

 「パステルと水彩か……ん?……これは……ほう、これ私かね。
なかなか上手じゃないか。特徴をよくとらえてる。下手な似顔絵
描きよりよほど味があっていいじゃないか」
 伯爵様は笑顔。好感触でした。

 「こちらは、水彩の風景画か。ここの中庭だね。綺麗な風景だ。
風がそよいでいる感じがよく出てる」

 こちらも好評価でしたが、突然、伯爵はボディーガードの柏村
さんを呼び寄せます。そして……
 「柏村、水彩の道具を借りてきてくれ」
 と、命じるのです。

 思わず柏村さん、『えっ!?水彩絵の具ならこちらに……』と
言おうとして口をつぐんでしまいました。
 実は伯爵、自分で描いた絵を見せに来る子があまりに多いので
絵の具はいつも手元に準備しているのです。

 しかし、柏村さんはその事にはふれませんでした。
 「承知しました」
 と一言だけ。絵の具を借りに舎監の部屋へと出かけます。

 その水彩の道具が届くまで、老伯爵は美里ちゃんの絵を褒めち
ぎります。そして、学校の事、寮での生活、お友だちの事などを
丁寧に尋ねたのでした。

 その間、おじいちゃんは美里ちゃんの身体を触り続けます。
 頭をなで、髭剃り後のざらざらした自分の頬を押し付けて頬ず
りしたり、まだ可愛らしい両手も両足もごつごつとした皺枯れた
大きな手で揉み上げます。
 太股も、ショートパンツを穿いた股間も伯爵には無関係な場所
でした。

 「あっ……」
 美里ちゃんにしたら気持のよいはずもありません。思わず声を
上げそうになりますが、何とかギリギリ耐えられる程度だったの
で我慢します。
 すると、伯爵様はさらにエスカレート。

 「あっ、あ~~ん」
 とうとう切ない声が出てしまいました。

 本当なら、横っ面張り倒してお膝から降りるところかもしれま
せんが、美里ちゃんにはその気はありませんでした。
 いえ、正確に言うと、最初はあったんですが、段々にその気が
なくなってしまったのです。

 悩ましく不快な思いを切ない快感へと変化させるテクニックを
伯爵は熟知しています。

 「あっ…あああ……(はあ)(はあ)……いやっ……あああっ」
 最初は嫌がっていた伯爵の指を美里ちゃんが自ら待ち望むよう
になるまでさほど時間はかかりませんでした。

 「ああっ、あつい……いやあ~……だめえ~~~」
 抱かれている伯爵様に聞こえないような小さな吐息が漏れます。
 そのあたりは老獪そのもの。伊達に70有余年、プレイボーイ
として生きてきてはいませんでした。

 「御前様、行って参りました」
 柏村さんが絵の具を借りて戻って来るまでわずかに10分ほど
だったでしょうか。もうその頃には、美里ちゃんは家で10年も
飼われている飼い猫のように伯爵様の懐に抱かれて甘えていたの
でした。

 「ほら、見ててごらん」
 伯爵様は美里ちゃんの絵を画板に張り付けると、絵の具を溶い
て自ら筆を取り描き始めます。

 美里ちゃんを膝に乗せたまま、画板も膝の上で……
 それって、とっても窮屈な姿勢なのですが、見る間に見違える
ほど美しく仕上がりました。

 「影はこうやってつけるんだ………光の当たってる部分は……
…こうやると立体感がでるだろう。………よし、ぐんと見栄えが
よくなった」
 伯爵様は、最後には美里ちゃんの筆を握らせ、その上から自分
の手を被せて補正していきます。

 「きれい」
 美里ちゃんは感嘆します。
 それはまるで別の人が描いた絵のようでした。

 「よし、これでいい。……どうだい?私のタッチは嫌いかい?」
 伯爵様のお膝の上で美里ちゃんは首を振ります。
 「よくなったと思います」
 「そりゃあよかった。これは額に入れて、……そうだな食堂に
でも飾ってあげるよ。だから、今週はそれを見に私の処へいらっ
しゃい」

 美里ちゃん、絵は不合格だったかもしれませんが、お招ばれに
は合格したみたいでした。


 「次の子は……ああ、春花ちゃんって言ったけ」
 伯爵様は春花ちゃんが自己紹介をする前にその名前を言い当て
ます。

 というのは、春花ちゃんがこの施設ではちょっとした有名人だ
からでした。

 いえ、学校の成績がいいとか、運動ができるとか、他の子には
できない特技があるといったそんな名誉なことではないんです。
 悪戯が好きな彼女、幼い頃から先生や友だちに悪戯を仕掛けて
まわる困ったちゃんだったのです。

 そのため、毎日のように先生からお尻を叩かれては庭の晒し台
に括り付けられる日々。おかげでここへ出入りする大人たちも、
自然とその名前を覚えるようになったというわけでした。

 「春花ちゃんは何を見せてくれるのかな?」
 伯爵様が尋ねると、即座に…
 「見せるんじゃないわ。聞かせるの。私のピアノを聞いてくだ
さい」
 春花ちゃんはそう言って、抱えてきたオモチャのピアノを床に
デンと置きます。

 「おう、そうか、そうか、それは失礼したな、じゃあ聞かせて
もらおうか」
 伯爵様は丁寧に大人の応対をしますが、何しろ相手は子ども、
そして玩具のピアノですからね、内心、その出来栄えなんて期待
していませんでした。

 案の定、春花ちゃんは右手だけで黒鍵もない小さな鍵盤を叩き
始めます。
 でも、それは意外なものでした。
 「ほう……」
 伯爵様も驚くような美しいメロディーだったのです。

 『ハ長調にまだこんな麗しい旋律が残っていたなんて……でも、
いったい何と言う曲だろう?聞いたことがないが……』
 こう思った伯爵様は春花ちゃんの演奏が終わるや盛大な拍手の
次にこう尋ねたのでした。

 「よかったよ。春花ちゃん。この曲は何という名前なの?」

 すると春花ちゃん、きょとんとした目を伯爵様に向けて、逆に
意外なことを尋ね返すのです。
 「今日は何月何日?」

 「11月8日だよ」
 「そう、じゃあ『11月8日』」
 「11月8日って?」
 伯爵様は一応ご自分の記憶をたどってみましたが、そんな名前
の曲は思い当たりませんでした。

 そんな伯爵様の怪訝な表情を見て春花ちゃんは……
 「だから、今の今作ったんだもん。出来立てほやほやよ。名前
なんてあるわけないわ。だから、譜面に書くときはいつも今日の
日付だけ入れておくの。偉い作曲家さんの作ったのを弾いた方が
よかった?」

 「そういうわけじゃないけど……じゃあ、今のは即興なんだ」
 伯爵様は驚きます。でも、春花ちゃんはあっけらかんとして…
 「そうよ、私の思いつき。その時の気分で指が勝手に動くの。
だからもう二度と弾けない。カレン先生がいれば楽譜に起こして
もらえるけど……(はははは)そういうのじゃだめ?……だって、
私、他に特技なんてないから……」
 最後は苦笑いでした。

 ところが、伯爵様の方はまんざらでもない様子で……
 「カレン先生って老シスターの?」
 「そうよ、おばあちゃん。カレン先生のピアノを悪戯してたら、
筋がいいって褒められちゃった。あなたはメロディーメーカーと
しては非凡なものがあるわねって……ねえ、非凡って何?」

 伯爵様は非凡の説明はせず、さらにこう尋ねます。
 「それじゃあ、今までもそうやって何曲も弾いてきたのかい?」

 「そうよ、新しいメロディーが浮かぶととにかくカレン先生の
処へ行くの。毎晩でもOKよ。……そこで先生が譜面におこして
くれるわ。でも、名前は付けないのよ。日付だけ。だから、今の
曲は11月8日って曲なのよ」

 春花はどうせだめだろうと思っていました。だめもとのチャレ
ンジだったのです。
 だって、ピアノの上手な子はこの施設に何人もいますから……
 ところが……

 「じゃあ11月10日や11月11日も弾いてくれるのかな?」
 「えっ!?」
 「私の家に来て、居間にあるうちのピアノで弾いてほしいんだ。
11月10日と11月11日」

 「ほんと!?」
 美里ちゃんに続き春花ちゃんもお招ばれ、合格のようでした。


***************(1)**********

 御招ばれ<第2章>(2)

 安藤家にお招ばれできたのは、春花や美里のように伯爵様から
ご指名を受けた子どもたち6名と希望者の中から抽選で選ばれた
6名の子どもたちの合計12名でした。

 安藤家の場合、受け入れる子どもの数が多いため、3人の先生
方も子守役としてチャーターされたバスに一緒に乗りこみます。
先生たちも子どもたちと一緒にお泊まりというわけです。

 こんなこと他の家庭へのお招ばれではありません。
 全ては安藤家への特別な配慮。教会側も子供のこととはいえ、
旧華族様には最大限の気を使っていたのでした。

 でも、それはあくまで大人の事情。
 子どもたちにしてみたら、小高い丘の上にまるでお城のように
建つお屋敷は一度は行ってみたい遊園地みたいなもの。その魅力
はドレスアップしての豪華な食事や天蓋つきのふわふわベッドと
いうだけじゃありませんでした。

 広い広いお庭には、急坂を利用して作った50mもある滑り台
や古い手動式のメリーゴーランド。坂道を下って遊ぶゴーカート。
テニスコートも孤児につき立ち入り禁止なんてことはありません
でした。

 雨の日は、お外で遊べないのでカードゲームや大型モニターの
あるテレビ室などで過ごすことになりますが、そこにもピンホン
やボウリング場(ただし自分でピンを立てる手動式ですが)など
があって子供たちは飽きることがありませんでした。
 もちろん、体を動かすことが苦手なチビっ子インテリさんたち
の為に図書室も開放してあります。

 もう、至れり尽くせりです。
 でもこれ、すべて安藤のおじいちゃんが訪ねて来る子供たちの
ために用意したものだったのです。


 「やったあ~~あれよ、あれ、きっとあれだわ」
 春花が美里の肩を激しく叩いて歓声をあげます。

 「あれって、お城じゃないの」
 美里がいぶかしがると……
 「だから、さっきから言ってるでしょう。本物のお城はむかし
焼け落ちちゃったけど、そのあと伯爵様がお家を建てる時わざと
お城の形にして造ったって……ねえ、先生、そうだよね」
 バスの車内に春花の底抜けに明るい声が響き渡ります。

 町田先生が答えました。
 「そうよ。だけど、あのお城は、伯爵様が地元の発展を願って
観光用として造られたものなの。伯爵様があのお城に住んでらっ
しゃるわけじゃないのよ」

 「なあんだ、お城に住んでるわけじゃないんだ。……じゃあ、
伯爵様は、今どこに住んでるの?」
 「お城の近くに立派なご自宅があるわ」
 「へえ~、伯爵様のお家って小さいんだ」
 「どうしてそうなるのよ」
 「だって、そこはお城より小さいんでしょう」
 「そりゃあそうだけど……あのねえ、春花ちゃん。今はお城に
住む人なんて誰もいないの。伯爵様のお住まいはたしかにお城に
比べたら小さいかもしれないけど、そこはもの凄く広くて立派な
お屋敷なのよ」
 「あ~あ、がっかり。せっかくお城でお姫様気分が味わえると
思ったのに……」

 町田先生と春花のとんちんかんな会話が終了してもバスはまだ
延々と山道を登り続けます。
 結局、15分もアクセルをふかしてやっと、子どもたちを乗せ
た観光バスは、お屋敷の車寄せまで辿り着いたのでした。

 ここで、一行はバスを下りる前、先生から注意を受けます。
 でも、それって目新しいものではありませんでした。
 学校で一回、バスに乗ってから一回、先生はすでに二回も同じ
事を話しています。

 『またか……』
 みんながそう思うのも無理からぬこと。
 でも、ここで帰されてら今までの苦労が水の泡ですから、耳に
タコでも聞くしかありませんでした。

 「いいですか、伯爵様のお屋敷に入ったらお行儀よくしていな
ければなりません。大声をだしたり、廊下を走ったり、もちろん
喧嘩はだめです。次に、家の中にはたくさんのお部屋があります
けど、私たちに与えられた部屋以外、勝手に入ってはいけません。
ドアを開けて部屋の中を覗くのもだめです。……春花ちゃん聞い
てますか?」

 町田先生は、高級外車がずらりと並ぶ車寄せの風景に見とれて
いる春花ちゃんを狙って注意します。
 そして、心配だったのでしょう。こう付け加えたのでした。

 「もし、勝手にお部屋を覗くような子がいたらお仕置きです。
お招ばれに来ているからひどい事はしないだろうと思ってるなら
今から考えを改めなさい。ここも寮と同じです。容赦はしません。
寮にいる時と同じようにパンツを脱がして竹の物差しでピシピシ
お仕置きです。……いいですね」

 「は~い」
 子供たちの力のない声が響きます。
小学生グループは比較的真剣な顔ですが、中学生グループは、
過去に何度も経験していますから『どうせ、そんなの脅かしだけ』
と高をくくった顔でした。

 と、まあここまでなら他の学校の修学旅行でもありそうな注意
かもしれませんが、伯爵邸へのお招ばれは、これだけではありま
せんでした。

 町田先生からマイクを受け取った大隅先生が次にこんなことを
言うのです。

 「いいですか、みなさん。これはたまに勘違いする子がいるの
であえて言いますが、みなさんはお招ばれで来たといってもまだ
子どもの身分です。それに対して、伯爵様をはじめ、ここで働い
ているお手伝いさんや庭で働いている男の人たちはみなさん大人
の人たちです。ですから、あなた方はその方たちの指示に従って
生活しなければなりません。間違っても『私はお客様なんだから』
なんて大柄な態度をとってはいけませんよ」

 「は~い」
 これまた子供たちの力のない声が響きます。

 「ねえ、町田先生、横柄な態度ってどういう態度なの?」
 春花ちゃんが尋ねると、先生は笑って……
 「横柄ねえ~……あなたの普段の態度がそうよ」

 「えっ?…………」
 ショックな言葉が返ってきます。

 それに加えて、美人の誉れ高い町田先生は、春花ちゃんにこう
も付け加えるのでした。
 「伯爵様はよく子どもたちを膝の上に抱きかかえられるけど、
それは子どもたちがとってもお好きだからそうされるだけなの。
決してそれを嫌がっちゃだめよ。伯爵様が気分を害されてしまう
から」

 「わかった。……でも、たぶん大丈夫よ。……だって、この間
も伯爵様に抱っこされたけど、私そんなに嫌じゃなかったから…」
 春花ちゃんは町田先生に白い歯を見せて笑うのでした。


 子供たちはバスを下りると建物の裏手にある入口へ移動します。
もちろん、正面玄関は車寄せの近くに立派なものがあるのですが、
そこは伯爵邸の正式な玄関。ご家族でさえ普段は裏へ回ります。
いくら招待されているといっても子ども風情が出入りできる場所
ではありませんでした。

 ご家族が普段利用している入口は裏玄関と呼ばれていて決して
勝手口ではありません。そこは、まるで温泉旅館の玄関みたいに
広くて、子供たちは玄関先で待っていたお屋敷の女中さんに案内
されて奥へと進むことになります。

 「おじゃまします」
 少女達は玄関を入ると一様に案内してくれる女中さんへご挨拶。
その明るく華やかな声が奥の座敷へも通ります。
 
 そこまではよかったのですが、女が三人寄ったら姦しいとか、
この場合は12人もの集団です。静かにしていろという方が始め
から無理でした。

 「わあ、綺麗なお庭!」
 「坪庭って言うのよ」
 「私、知ってるわ。こういうのって鹿威しとか水琴窟とかいう
んでしょう。うちにはないタイプのお庭よね」
 「当たり前よ、教会に灯篭なんかあっても似合わないもの」

 「ねえ、ねえ、これ花瓶よね?……でも、でっかいわね。……
私の身長より大きくないかしら?」
 「きっとヨーロッパのお金持ちが持ってたのを伯爵様が買った
のよ。フランス映画で見たことあるもの」
 「じゃあ、これ……メイドインフランス?」
 「馬鹿ねえ、それも言うならセーヴルじゃないの」

 子供たちの議論に、訳知り顔で先生が口を挟みます。
 「違うわ。これは有田焼だからメイドインジャパンよ。先代の
伯爵様が輸出仕様の花瓶を特注されたの。ここに伯爵家の御紋が
さりげなく入ってるわ」

 「へえ、だったら日本製なんだ。……ねえ、そういうのって、
底に書いてあるのかしら。『メイド・イン・アリタ』って………
ねえ、ねえ、倒してみるから手伝って……」
 その子が友だちに声を掛けて大きな花瓶を倒そうとしますから、
先生、今度は大慌てで……
 「馬鹿なことしないでちょうだい!もし壊したらどうするの!」
 大声で叫びましたが、時すでに遅く花瓶は倒されてしまいます。

 「ねえ、ねえ、これって、私だったら中に入れそうよ」
 「相変わらずあんたは子供ね。入っちゃえば、かくれんぼする
時、使えるかもよ」
 先生、子供たちの声を聞きながら生きた心地がしませんでした。

 「あれ?この人、誰だろう?」
 「きっと、ここのご先祖よ。何かで功績があったから、きっと
銅像にしてもらってるのよ」
 「何かって?」
 「そんなこと知らないわよ。私ここんちの子じゃないんだもん」
 「わあ、生意気。この人、髭なんてはやしてる」

 「昔の人はよく髭を蓄えてたのよ。珍しいことではないわ。…
……ほら、あなたたち何やってるの!!」

 「ねえ、ねえ、この廊下、スケートができるくらいツルツルに
磨いてあるよ。ほら……」
 「いや、ホント、楽しい。私、滑ってみようか」

 子供たちは中庭の日本庭園に驚き、伊万里の大きな花瓶に驚き、
ご先祖の胸像の頭を叩きます。
 先生は、伯爵様のお屋敷ということもあって、なるべく大声を
出さず、そのたびごとに子供たちへ丁寧な説明を繰り返してきま
したが、さすがにスリッパを脱いで花瓶の置かれた廊下を滑ろう
としますから……

 「いいかげんになさい!!」
 町田先生、とうとう堪忍袋の緒が切れたみたいでした。

 「幸恵、美登里、こっちへいらっしゃい」
 先生に呼ばれた二人。何をされるかはわかっていました。

 「……お尻を出して……」
 二人は先生の命令で両手を膝につけてかがみます。
 中学生の制服ですからそれだけではパンツが見えたりしません
が、こうした場合、スカートの上からというのはありえません。
 スカートが捲りあげられ、町田先生愛用の洗濯ばさみでずり落
ちないように止められてしまいます。

 「ピシ~!!」(ひぃ~)
 「ピシ~!!」(あっっ)
 パンツの上から平手でした。

 「ピシ~!!」(うっ~)
 「ピシ~!!」(いやっ)
 一人ずつ交互にお尻を叩かれます。

 「ピシ~!!」(ひゃ~)
 「ピシ~!!」(だめっ)
 結局、たった3発です。

 先の行事もありますし、まさかこんな処でパンツまで脱がせる
訳にもいきませんから、こんなものですが、学校や寄宿舎でなら、
パンツも剥ぎ取られ、硬質ゴムの特製パドルで12回、たっぷり
と自分の間違いを反省させられるところでした。

 ただ、それでほかの子たちの行いがあらたまったかというと、
そんなことはありませんでした。
 ワイワイキャーキャー、かしまし娘さんたちの賑やかな道中が
続きます。

 「こちらで、しばしお待ちください」
 女中さんに案内されてやってきたのは、次の間と呼ばれている
控え室。伯爵邸の居間はその隣りの部屋でした。
 女中さんが伯爵様に取り次いでから御目文字ということになり
ます。
 
 もちろん伯爵様に話は通っていますからすぐにお許しがでます。
 唐紙一つ向こうのことに大仰だと思われるかもしれませんが、
一口に居間と言っても、そこは庶民サイズではありませんでした。
50畳はあろうかというだだっぴろさです。

 女中さんが唐紙を開けた瞬間、いきなりはるか遠くに一人掛け
用のソファ見えて、そこに伯爵様が腰を下ろしているのがわかり
ます。その遠近感から春花たち新参者は思わず立ちくらみが起き
そうでした。

 「あ~、来たね。待ってたよ」
 伯爵様は満面の笑みで手招きします。
 それは施設で見た時と同じ好好爺の姿です。背後のお医者様や
看護婦さん、それに柏村さんも、やはり後ろで控えていました。

 「お邪魔します」
 伯爵様にそれに呼応して女の子たちがペルシャ絨毯の海を進み
ます。

 「ご招待、ありがとうございます」
 先頭きって伯爵様の前に進み出たのは、やはりこのお屋敷へは
ご常連の一人、谷口敬子ちゃんでした。

 「おう、敬子ちゃん。元気にしてたかい?」
 伯爵様は親しく握手を交わし頬ずりをして、次には敬子ちゃん
を御自身の膝の上に乗せてしまいます。

 敬子ちゃんはすでに中学生。大人の膝の上に乗る年齢ではない
のかもしれませんが、これがこのお屋敷のルールでした。

 伯爵様の膝に乗れば、頭もお尻も太股も身体じゅうありとあら
ゆるところを撫でられます。中には頬に生えている産毛が可愛い
と思わずほっぺたを舐められた子も……

 濃密なスキンシップはおじいさんの望みですから誰に対しても
こうします。
 ですから、これが嫌な子はたとえどんなご馳走が出ても二度と
このお屋敷へは来ませんでした。

 「敬子ちゃんも子供だ子どもだと思ってたけど、いつの間にか
もう立派なヤングレディーだな」
 おじいちゃんは敬子ちゃんをまるでお気に入りのぬいぐるみの
ように抱きしめます。それは、こうすることで若い子のエキスが
自分に乗り移ると考えてわざとやってるみたいでした。

 伯爵様との儀式が終わると、敬子ちゃんは伯爵様のお膝に乗っ
たまま、顔を男の胸の中に押し付けて甘えます。
 伯爵様は、子どもたちが甘える分にはどんなに甘えてきても、
決して嫌な顔をなさいませんでした。

 一息ついて敬子ちゃんは、あらためて小さな箱取り出します。
 「これ、私が刺繍したんです。よろしかったら使ってください」

 箱の中には白いハンカチが一枚。広げるとそこには色とりどり
の糸で縫い上げられた草花の刺繍が……

 「ほう、この刺繍は敬子ちゃんがやったの?……独りで?……
そうかい……こんなに細かな仕事をしたら随分と時間がかかった
だろう。……ありがとう。大事にするよ」
 伯爵様は目を細めて喜びます。

 こうしたやりとりは何も敬子ちゃんだけの事ではありません。
この後に並ぶ全ての子供たちが伯爵様の為に何かしらプレゼント
を用意していました。

 ここでのプレゼントは、お招れを受けた子どもたちが伯爵様に
そのお礼として差し上げるお土産のことなのですが、子供のこと
ですから、もちろん高価なものなんてありませんでした。

 中学生位になると、自分で刺繍を入れた絹のハンカチや手袋、
手編みのマフラー、蝋けつ染めのシガーケースなんていうのまで
持ち込むようになりますが小学生の頃はもっと素朴です。伯爵様
の似顔絵や画用紙でできた紙人形、押し花の栞、なんてのが定番
でした。

 いえいえ、何も形ある物とは限りませんよ。
 楽器が得意ならピアノやヴァイオリンの演奏でもいいですし、
得意な歌を熱唱したり有名な詩を暗記して朗読しても構いません。

 中には何を勘違いしたのか、100点のテストをプレゼントに
持ってきた幼い子もいました。ただそんな時でも、伯爵様は常に
笑顔です。その子と一緒に満点のテストをご覧になって……

 「お~~凄いじゃないか。末は博士になれるぞ」
 とニコニコ。答案用紙を大事そうに胸ポケットにしまわれると、
その子の頭をいつまでも愛おしくなでておいででした。

 そんな常連客のあと、恐る恐るペルシャ絨毯の海を渡ってきた
美里ちゃんの番が回ってきます。
 美里ちゃんのプレゼントは、やはり得意の水彩画でした。

 「おう、これは私だね、水彩で仕上げてくれたんだ。ん~~、
陰影も綺麗についてるし、私も一段と美男子になって嬉しいよ。
よし、これも一緒に飾ろう」
 伯爵様はそう言って美里ちゃんのプレゼントを柏村さんに手渡
すと空いてる壁を指示します。
 そこにはすでにたくさんの絵が飾られていました。

 気がつけば、他の子の絵に混じって、分不相応なくらい立派な
額に先日伯爵様に手渡した美里ちゃんの絵が飾られていました。

 「おいで」
 伯爵様はあたりをキョロキョロ見回していた美里ちゃんの目の
前に両手を出してご自分の膝の上に抱き上げます。

 最初は、頭をなでなでしたり、ほっぺを頬ずりしたりしていま
したが、そのうち、その可愛らしい指をパクリ。これはほかの子
にはない特別な愛情表現でした。

 きっと、『食べちゃいたいくらい可愛いよ』ということなんで
しょうが、でも何よりよかったのは美里ちゃんがそんな伯爵様を
嫌がらなかったこと。むしろ、笑って応えたことだったのです。

 そのご褒美ということでしょうか。以後、里美ちゃんは自分が
望みさえすれば、伯爵様が必ず招待客の一人としてリストアップ
すると約束してくれたのです。そう、このお屋敷の永久会員です。
 豪華な料理も、ふかふかのベッドも、図書室の高価な美術書も、
美里ちゃんはそのすべてを笑顔一つで手に入れることができたの
でした。

****************(2)*********

 御招ばれ<第2章>(3)

 次は春花ちゃんの番です。
 彼女もまた、その出会いの時と同じくオモチャのピアノを抱え
ていました。

 「春花ちゃん。おいで……」
 伯爵様は車椅子から両手を広げて春花ちゃんを迎えましたが、
11歳の少女ははにかみます。

 たしかに先日も春花ちゃんはおじいさんのお膝にお邪魔したの
ですが、あの時は必死の売り込みでしたし、これほど多くの子供
たちからも見られてはいませんでしたから。

 「どうした?いやなのかい?」
 彼女は幼な子ではありませんから、おじいさまの望まれるまま
にどんな時でもお膝に飛び乗るというわけにはいきませんでした。

 「春花ちゃん、伯爵様に失礼よ。バスの中でも言ったでしょう。
伯爵様はあなたを抱いてみたいの。せっかくあなたを求められて
いるのにお膝へ行かないなんてもったいないわ……ほら、行って、
行って……」

 町田先生は後ろから抱きついて押し出そうとしましたが、春花
ちゃんが抵抗します。
 すぐに伯爵様が……

 「先生、いいんですよ。やめてください。無理強いはよくない。
……それより、おじいちゃんとしては11月9日を聞いてみたい
んだが、やってくれるかい?」

 「11月9日?……」
 春花ちゃんは、最初それが理解できませんでしたが、すぐに、
11月9日が曲名で私にピアノを弾いて欲しいんだと理解します。

 「いいよ」
 春花ちゃんに笑顔が戻りました。

 彼女はオモチャのピアノをうやうやしく床に置くと自分も床に
お尻を落としてピアノに向かいます。ポニーテールの髪を後ろに
流してポーズを決めます。

 事実はともかく、春花ちゃんの心の中では、これで……
 『私は天才ピアニスト。そのリサイタルが今始ろうとしている』
 という情景になるのでした。

 奇妙な演奏会。
 部屋の片隅にはグランドピアノも設置してあるのに、わざわざ
オモチャのピアノを弾くなんて、ピアノを本気で習っている子供
たちにしてみたら理解に苦しむ光景だったに違いありません。

 ですから……
 「いったい何事?」
 「あの子、何を始めるつもりなの?」
 となるのです。

 でも、理由は簡単でした。
 春花ちゃんは右手でしかピアノを叩けないのです。
 彼女にとってはその右手でメロディーを刻むことだけがピアノ
を弾くことだったのです。

 当然、周囲はあきれ顔、失笑だって起こります。
 「何考えてるのかしらあの子。あれでおじい様へのプレゼント
のつもりなの?」
 「笑わせないでよ。冗談でしょう。あんなのでよかったら、誰
でも、それこそ幼稚園児でも弾けるじゃない」
 「ホント、どういう神経かしら。こっちは、おじい様に聞いて
もらおうと思って一週間必死に練習してきたっていうのに、図々
しいにもほどがあるわ」
 「そもそも、あの子、何弾いてるの?私、あの曲知らないけど」
 「私も知らないわ。単に滅茶苦茶弾いてるだけじゃない」

 散々な言われようですが、春花ちゃんは周囲の雑音をよそに、
トランス状態。お友だちの非難はまったく耳に入りませんでした。

 演奏が終わると、伯爵様だけが笑顔で拍手をします。
 そして……

 「おいで……」
 伯爵様は再び車椅子から両手を広げます。

 これで二度目ですからね。
 春花ちゃんだって、もうイヤイヤはしませんでした。

 「さあ、いってらっしゃい」
 町田先生にも再び背を押されて、春花ちゃんは伯爵様のお膝を
目指します。

 でも、緊張した顔で伯爵様のお膝近くまで来ると、いきなり、
両方の脇の下に大きな手が差し入れられ、男性の強い力で一気に
その身体は持ち上げられたのでした。

 「あっ!」
 その瞬間、春花ちゃんは思わず声を上げましたが、抵抗したの
はそれだけ。

 「どうした?こんなおじいちゃんのお膝じゃ嫌かな?」
 伯爵様は春花ちゃんの気持を代弁してそう尋ねます。

 「………………」
 当惑する春花ちゃん。
 ただ春花ちゃんにしてみると、そこは思っていたより心地よい
場所でした。

 実は、春花ちゃんが幼い頃に一番よく抱っこしてもらったのは
町田先生。女の先生です。
 でも、その時とは感触が違います。

 抱かれているといってもそこは軟らかな寝床ではありません。
体をよじるたびに、強い弾力の筋肉やゴツゴツした骨に当たって
身体の芯までグリグリと指圧されてる感じがします。
 それって少し痛いのですが、女の子の春花ちゃんにとっては、
それもまた不思議と気持ちよいのでした。

 おまけにその場所には魅惑的な香りが漂っています。
 誰が嗅いでも心地よい花の香りなどとは違いますが、嗅いでる
うち癖になります。

 『何だろう?この臭い?』
 それって男の体臭というやつなんですが、春花ちゃんは女の子。
自分にはない異性の香りには生理的に心引かれるものがあるので
した。

 「いいからじっとしておいで……」
 伯爵様に耳元で囁かれると、それにも心が震えます。魔法の粉
を吹きかけられたように身体の芯が熱くなります。とろんと眠く
なります。
 すべてが初体験でした。

 『そうだわ、これって、大西先生の処でも感じたわよね……』
 前にもどこかで感じたようなデジャビュが春花ちゃんの身体を
包み込んでいました。

 そう、お父さんのいない彼女たちにとって男性に触れる機会は
とても少ないのです。そもそも、免疫がありません。ですから、
たまに訪れるその瞬間にはとても大きく心の針が振れてしまうの
でした。

 最初は嫌がっていたはずの春花ちゃんがわずか数分で伯爵様の
胸に顔を埋めてトロンとなっています。まるで『さっき全身全霊
で演奏したからもう気力が残っていません』とでもいわんばかり
です。そこにいつもの威勢はありませんでした。

 伯爵様は柏村さんに車椅子を押させると、部屋の片隅に据え置
いたピアノに向かいます。
 そして、やおら、春花ちゃんが弾いたばかりの『11月9日』
を左手の和音を交えて演奏し始めるのでした。

 すると、さっきと同じメロディーのはずなのにお友だちの評価
が変わり始めます。
 「これ、さっきの曲かしら?」
 「そうよ。今、この子が弾いた曲だわ」
 「伯爵様が弾くとまるで違った曲に聞こえるから不思議ね」
 「でも、これって何の曲かしら?幼い頃弾いた練習曲みたいな
気もするけど……」

 「綺麗な曲」
 春花ちゃんがつぶやきます。美しい曲でした。
 いえ、春花ちゃん自身、この曲が今さっき自分が弾いた曲だと
は思えませんでした。

 「おじいちゃま、これ、私がさっき弾いた曲なの?」
 「そうだよ。とても綺麗な曲だから、私も弾いてみたくなった
んだ。こんな優しいメロディーがすぐに浮かぶなんて、君の心が
穢れてない証拠だよ」

 「へへへへへへ」
 春花ちゃんは褒められて恥ずかしそうに笑います。
 しばらくは伯爵様の懐で甘えていたい気分でした。

 でも、ほかの子たちの視線を感じて、そのお膝から降りようと
します。すると……

 「もう少しお膝においで、今、シスターカレンに向けてお土産
を作ってるところだから……」
 気がつけば、伯爵様は、譜面台に置かれた五線紙にお玉杓子を
書き連ねています。

 「君はどのみち楽譜は読めないんだろう?」
 「……うん」
 「だったら、カレン先生に読んで貰えばいい。カレン先生なら
もっともっと美しい曲に仕上げてくださるはずだから……」

 すると、春花ちゃんは顔を曇らせます。
 「先生、私のデタラメなピアノ。がっかりだった?」

 「どうして?……君のピアノはデタラメなんかじゃないし……
がっかりでもないよ。……まったく逆さ。君の弾くメロディーが
あまりにも美しいからカレン先生にお手紙を書く気になったんだ」

 「音符でお手紙?……それでシスターはわかるの?」

 「不思議かい?……でも、大丈夫。大人の世界ではね、これで
『素敵なプレゼントをありがとう』って読めるんだ」

 「ふうん」
 春花ちゃん首を傾げます。5年生の少女にしてみたら、まるで
狐につままれたようなお話でしたが、とにもかくにも伯爵様には
こちらからのプレゼントを受け取ってもらえたみたいですから、
春花ちゃんとしてはそれで十分だったのでした。

 実は、春花ちゃん、これといった特技が何もありませんから、
伯爵様へのプレゼントを何にしようか悩んでいたのです。そこで
一か八かやってみたのがオモチャのピアノだったというわけ。

 頼りは「あなたはこの教会一のメロディーメーカーよ』という
シスターカレンの軽いお世辞だけでした。


 12名のプレゼンが終わると、次はお茶の時間です。
 といっても、かしこまったものではなく子どもたちはテーブル
に用意されたケーキを配られたお皿に乗せてはパクつきます。

 ここでも、伯爵様は今日やって来た一番幼い子を膝の上に乗せ
ておいででした。

 この日一番の年少さんは4年生の女の子。まるでお人形のよう
な顔をしていますから伯爵様のお気に入りでした。
 伯爵様は、その子を膝の上に抱いてあやしながら、お隣の春花
ちゃん美里ちゃんコンビとお茶の会話を楽しみます。

 「君たち、ここは初めてだよね?どうして私の処を選んだの?
たしか、先週までは大西先生の処だったでしょう?」

 「そうなんだけど……たまには他の処もいいかなと思って……
それにお友だちから遊園地みたいにたくさん遊ぶ物があるよって
聞いたから……」
 春花ちゃんはほっぺを膨らませて素直に答えます。
 彼女のお皿には、すでに苺のショートケーキやシュークリーム、
ババロアまでもが乗せてありました。

 「そうか、お庭の遊具のことだね。あれは私が子供の頃遊んだ
おもちゃなんだ」

 「うそ!遊園地から持ってきたんじゃないの?」

 「そうじゃないよ。あれは父が買ってくれたんだ。ブランコも
シーソーもメリーゴーランドもジャングルジムも、みんなみんな
戦前の古いものなんだよ。だから、あのメリーゴーランドだって
電気じゃなくて人力でしか動かないからね、遊ぶ時は大人が一人
必ず付き添わなきゃ回らないんだ。回す時は重労働だって庭師の
松吉がこぼしてたよ」
 伯爵様は軟らかく笑います。

 「でも、今にして思えば、捨てなくてよかったと思ってるよ。
こうして君たちの役に立ってるんだから。私は、この通り身体が
不自由で、君たちと一緒に遊びたくてもできないからね。あの子
たちが私の代わりとなってよく働いてくれてるよ」
 伯爵様は、猛烈な食べっぷりの春花ちゃんを頼もしそうに眺め
ながら、膝の上に抱いた女の子のためにケーキを取り分け、その
子のオカッパ頭を優しく撫で続けます。

 「ところで、大西先生の処で、君たちはどんなことをしてたの?」

 「どんなことって……お部屋でトランプとかゲームをしたり、
裏の畑でお芋や西瓜を取って来たり、お母さんとクッキーを作っ
たり……おままごととか……お姫様ごっこだけど……先生ってね、
おままごみたいなこと好きみたいだから、お付き合いしてあげて
たのよ」
 春花ちゃんは一口サイズの苺のショートケーキを頬張るついで
に答えます。

 「『お姫様ごっこ』って?」

 「私たちと茜お姉ちゃまがお姫様や女王様になって……先生も
王様の衣装を着て、好き勝手に劇ををやるのよ」

 「好き勝手に?……要するに寸劇を即興でやるんだね……凄い、
アドリブ劇だよね。上手にまとまったのかな?」

 「分からないわ。でも、そんなことはどうでもいいの。私は、
お母様から作っていただいたお姫様の衣装を着て踊れれば、それ
でよかったんだから」
 と、春花ちゃん。

 「お母さんや明子さんがいつも拍手してくれたの」
 と、美里ちゃん。

 「……時々ね、お父さんが、昔の王様やお姫様がどんな生活を
してたか、教えてくれたわ」
 春花ちゃんは、相変わらず大きなシュークリームもぐもぐやり
ながら答えます。

 「そうか、そういえば大西先生は西洋中世がご専門だったね。
楽しかったかい?」

 「うん、とっても……その時の記念写真あるけどみたい?」
 今度は美里ちゃんがババロアを持ったまま笑いかけます。

 「見てみたいな」

 「たくさんあるよ。今度、持ってきてあげる」
 春花ちゃんは遠くのお皿に盛り付けてあったモンブランにまで
手を伸ばしますが届きませんからそれを獲得すべく席を外します。

 二人はあまりにたくさんのお菓子に驚いてしまいお行儀はよく
ありませんでしたが、伯爵様がそれに対して嫌な顔をすることは
ありませんでした。

 「大西先生は君たちに優しかったみたいだね?」

 「はい、とっても……先月は茜お姉ちゃまにお仕置きがあって
先生とは一緒じゃなかったけど、それまでは寝る時はいつも一緒
のお布団だったんです」
 まだ見た事のないケーキに夢中になっている春花ちゃんに代わ
って、美里ちゃんが伯爵様のお相手をします。

 美里ちゃんは春花ちゃんより少食なのか、お行儀がよいのか、
春花ちゃんより丁寧な言葉で伯爵様と応対しますが……
 でも、その美里ちゃんの口の周りにもすでに生クリームが沢山
ついていました。

 「そうか、大西先生、お嬢ちゃんのお仕置きまで君たちに見せ
たんだ。(はははは)これは驚いたな」

 伯爵様が感慨深げに漏らすとモンブランを手にした春花ちゃん
が帰ってきて割り込みました。
 「私たち見ただけじゃないよ。お父さんと一緒に茜お姉ちゃま
のお尻叩きまでやったんだから……」

 「そう、お尻をぶつ時の鞭の使い方も大西先生に習ったの」
 美里ちゃんが続きます。

 伯爵様はもう目が回りそうでした。
 いえ、伯爵様の家にだってルールはありました。男の子を中心
にお仕置きの鞭というのも、大人になるまでには一度や二度では
なかったのです。

 でも、それは決して他所の人に公開されることはありません。
信用のおける女中さんや家庭教師の先生を除けば赤く腫上がった
傷だらけのお尻を部外者が見る機会などありませんでした。

 まして、女の子の場合はなおさらです。
 10歳以上の子は完全密室で、悲鳴さえも外に漏れないように
地下室や離れで行われるのが普通でした。
 そんな常識を覆す大西先生の大胆なお仕置き事情に、伯爵様は
驚いたのでした。

 『でも、それをあえていとわないというのは………それだけ、
大西先生がこの子たちにご執心ということなんだろうな』
 伯爵様は大西家での出来事をそのように理解したのでした。

 そこで、一歩踏み込んで……
 『具体的な話を聞いてみようか』
 そんな気持もふっと心をよぎります。

 「それで、茜ちゃんは、どんな罰を受けたのかな?」

 伯爵様が尋ねると、春花ちゃんはこともなげに……
 「どんなって……普通のお仕置きよ。……お浣腸されてお尻を
ぶたれたの」

 「君たちはお浣腸もお手伝いしたのかな?」
 「それはなかったけど、茜お姉ちゃまがお庭でうんちする処は
見ちゃった(はははは)」
 「そうなの、お姉ちゃまったら、お父様に抱っこされてウンチ
してたの……」

 「そうかい。そりゃあ大変だったね。見てる方も辛かったろう」

 「そりゃあね。ウンチなんて見たくないけど、お仕置きだから
仕方がないよ。……いい気持はしないけど…でも、私たちだって
寄宿舎ではそのくらいされたことあるから…」

 「寄宿舎のお仕置きってそんなに厳しいのかい?」
 伯爵様が尋ねると、こんどは美里ちゃんがそれに答えました。
 「先生に素直にごめんなさいすればそんなこともないんだけど、
たまに女の子って素直になれない時があるのよ。……そんな時は
先生も意地張っちゃうから、お仕置きが自然ときつくなるの」

 「なるほどね。私は、教会の中って天使の園だとばかり思って
いたから……そんな処では女の子にお仕置きなんてしないのかと
思ってたけど……違うんだね」
 
 「違うわよ。そんなわけないじゃん。女の子だって人間だもん。
だらしない子も、怠け者も、見栄張りや…やたらと嘘をつく子が
たくさんいるんだから……おかげで、毎晩のように誰かの悲鳴が
舎監室の方から聞こえるの」

 春花ちゃんが言えば、美里ちゃんも……

 「お浣腸なんて、オムツをされてベッドに縛り付けられるの。
漏らしてしまうまでそのままよ。とっても残酷なんだから……」

 「でも、その後は先生が片付けてくれるんだろう?」

 「先生が?先生はそんなことしないわ。見てるだけよ。自分で
汚した物は自分で片付けなさいって言われるだけ……とにかく、
それを綺麗にしないとお仕置きが終わらないから、みんな泣きな
がらお洗濯するわ」

 美里ちゃんが得意になって説明していると二人より年上の子が
たまらず口を挟みます。

 「ちょっと、あんたたち、やめなさいよ。せっかくのお菓子が
まずくなるわ。だいいち、そんな事、伯爵様にお聞かせすること
じゃないでしょう。場所柄をわきまえなさいよ」

 そのあまりの剣幕に二人は思わず下を向いてします。

 彼女の言ってることは正論でした。
 『女の子は、みにくいことや人の嫌がることを口にしてはいけ
ない』
 先生にそう教わっていたからでした。

 伯爵様が施設で行われている女の子のお仕置きについて意外な
ほど無知なのも女の子たちがそうしたことをあえて話題にしない
からだったのです。


 オヤツの時間が終わると、子どもたちは自由に伯爵邸のお庭や
遊戯室、図書室なんかへ行って遊びます。

 図書室へ直行する子もいますが、小学生の大半はお屋敷のお庭
が目当てでした。

 丘陵地の坂道を利用して作った滑り台は50mもあってスリル
満点ですし、電気もモーターでもはなく庭師のおじさんが大汗を
かきながら動かしてくれるメリーゴーランドは、全てがゆっくり
でギクシャクした動きなのですが、順番待ちをする子が出るほど
の人気でした。

 女の子だけではありません。男の子に人気のゴーカートだって
あります。
 ただこれもエンジンはありませんでした。坂道を利用して四輪
の車が転がるだけなんです。ですから、終点まで来ると、あとは
スタート地点まで自分で押して坂道を登らなければなりませんで
した。

 そんなオンボロ遊具でも、子供たちにとっては立派な遊園地。
この日は夕方まで黄色い歓声の絶えることがありませんでした。

 そして伯爵様もまた子供たちのそうしてはしゃぐ姿を見るのが
大好きだったのです。
 この日も、木陰に車椅子を止めて子供たちの遊ぶ姿を見つめて
いました。

 「三山先生。ここにいると、先生のお薬はいらんよ」
 伯爵様はいつも付き添わせている主治医に笑顔を向けます。
 そこで、先生の方も……
 「伯爵は、その昔、子どもの甲高い声は苦手だとおっしゃって
ませんでしたか?」
 と切り返すと……
 「ところが、ここに子ども達を招くようになってからそうでも
なくなった。近くでないならなおさらそうだ。金きり声も遠くで
聞けば小鳥のさえずりのようにも聞こえるから不思議なもんさ」

 皮肉めいて伯爵様は語ります。でも、それって、本当は正しい
ことなのかもしれません。昔は多くの浮名を流した伯爵様も今は
好好爺。悦楽の源はすでにレディーではありませんでした。

 レディーを目の前にした子供たち。
 その柔らかい肌に触れ、穢れのない瞳を見つめ、屈託のない声
を聞くと、彼らの生気が自分の体内に取り込まれるようで楽しい
のです。

 若返りの方法に気づいた伯爵様は、できるだけ多くの子供たち
を屋敷に招きいれます。しかも、子どもたちには大人並み待遇を
用意していましたから、子どもたちの間でも人気がでないはずが
ありません。

 伯爵様のお屋敷へ行ってお泊まりしたいという子が殺到。最初
は他のお父さんたちと同様、二人から始めたご招待でしたが、気
がつけば、いつしか定員十二人となっていました。
 でも、伯爵様がそれで困るということはありませんでした。

 そんなお楽しみの伯爵様の耳元で、柏村さんが囁きます。
 彼は伯爵様に頼まれて何やら調べ物をして帰ってきたところだ
ったのです。

 「施設でのお仕置きは確かに行われておりました」
 「そうか、やはりあの子たちの話は、デタラメではなかったと
いうわけか……」
 「しかも、これがかなり過激でして……」
 「過激?」
 「ええ、実は……」
 柏村さんは付き添いの先生方や子供たちのお泊まりを受け入れ
ているお父さんたちに取材した内容を伯爵の耳元に流し込みます。
 
 「…………」
 それは少なからず伯爵を驚かしましたが、でも、少し考えれば
それももっともなことと理解したのでした。

 「いや、驚きましたよ。こんな可愛くて上品そうな子どもたち
が、施設ではそんな厳しい罰を受けているなんて……」

 柏村さんが驚いたように話すと、伯爵は悟ったようにこう言い
ます。
 「彼らの場合は孤児と言っても氏素性がはっきりしているから
教会もむしろ気を使って育ててるんだろう。そもそも、これだけ
品のいい子が何の体罰もなしにいきなり現れたらその方がよほど
驚異だよ。我々にしてもそうだ。厳しい鞭なくして華族の品格は
守れないとばかり、子どもの頃は色々あったからね。……わかる
気がするよ……わかった、ご苦労だったね。むしろ、これで納得
がいったよ」

 伯爵は、楽しげな子どもたちを見つめたまま、何も言いません
でしたが、その胸中に去来するものは新たなステージへの第一歩
だったのです。

*************(3)************

********「第1回」はここまで*******

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR