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α201<第二話>

 私は二十人も子どもがいるウィルソン家の父親となったわけだが、
私と子供たちに血縁関係はなく、妻もそれは同じ。私たちはあくまで
子育てのために便宜上の父親を名乗り、母親となっている。

 二人の身分は、子育てが仕事の公務員という不思議な夫婦なのだが、
『これは困った』と思うような出来事にはあまりめぐり合わなかった。
 子供たちは遺伝子解析をして受精しているせいか、いずれも美少女、
美少年で頭がよく、何より親に従順で品行方正。もちろん子供だから
着任初日に見られたようなこともないわけではないが、私が昔住んで
いた星の子供たちから見れば十分過ぎるほど上等だった。

 だから、もしこれだけが仕事ならここは私にとってパラダイスなの
だが、ま、そうもいかない。
 実は、私には二十人の子供たちの父親としての仕事の他にもう一つ
別の仕事をこなさなければならなかった。

 昨日お世話になった運転手に送られて次の日は朝からそこへ向かう
ことになったのである。

 「いやあ、本当に大丈夫でしょうか?私、こちらの宗教の事なんて
何一つ知らないんですよ」

 「わかってます。でも、それは問題ありません。向こうには正式な
教育を受けた司祭様がいらっしゃいますから、その方の指示で動けば
それでいいんです。あなたの立場は助祭といって、いわばアルバイト
みたいなものですから……」

 運転手氏はそう言うと車のスピードを上げる。

 そうやって着いた処は森の中にたたずむ一件の教会だった。


 緑の森に溶け込むように建つ漆黒の城といった感じで、平屋木造の
造りながら天井は高くその入り口に立つと歴史の重み、威厳や風格に
こちらが押しつぶされそうになった。

 「ここは礼拝堂の入り口。今の時間、司祭様はおおかた執務室です。
裏へまいりましょう」

 運転手氏に導かれ、中庭をよぎって裏へまわろうとすると、そこで
奇妙な置物に遭遇した。

 「……?」
 最初は、『生きていないのか?』『彫刻なのか?』とさえ思ったその
オブジェに私はびっくりする。

 「ホンモノ?」

 そこに飾られていたのは幼い子供たちだった。

 「この子たちは?」

 運転手氏に尋ねると彼女は答えず、この庭の管理人のような女性が
寄ってきて答えた。

 「お仕置きですよ。司祭様からお仕置きを受けてるんです」
 明るい笑顔で答えは明確に返って来る。

 「司祭様ってそんなことまでするんですか?」

 「ええ、この子たちにとって司祭様はお父様にあたりますから……」

 「?」
 私が怪訝な顔をしたので、管理人さんはあらためて説明してくれた。

 「この子たちは、この星の通常の出産ではなく、太古の昔から続く
伝統的な方法で生まれてきたのです」

 『太古から続く伝統的な方法?』
 私の頭は、当初、聞きなれない表現にしばし混乱したが、しばし、
頭の中を整理すると単純な結論が出てくる。

 「ひょっとして……」
 こう言っただけで、管理人さんは微妙な笑顔を返す。相手方は私が
話の中身を理解したことを知ったようだった。

 「この星では優秀な子孫を残すため、本来PCが想定しない形での
子造りはありません。つまり動物のようなSEXで子供を造ることは
原則的にないのです。ですが人間もまた動物ですから間違いが起こる
こともあります。そうした時、コンピューターの指示に従わず造った
子供は違法だから流産させるというのは、今度はバイキングの伝統に
反することになるので、そこでそのような子は『教会の子供』として
教会が養育するようにしているのです」

 「そうか、それでこの子たちにとっては司祭様がお父様というわけ
か……」

 「でも、この仕事は、本来、助祭様の仕事ですから、すぐにあなた
もお父様ですよ」

 「私の?……」
 私は一瞬びっくりしたが拒否はできないと悟るしかなかった。

 管理人の女性は私の悟った顔を見て静かに頷く。

 「この星では大人なら誰でも子どもをお仕置きすることができます。
ですから、日頃、子供たちはとても従順で、お手間は取らせませんよ」

 「大人は誰でも子供を叩くんですか?」

 「もちろん、むやみやたらではないですけど、必要とあれば誰でも
……それでも親や学校の先生、それにこの司祭様が最も多いですかね。
司祭様には色々他の仕事もあって子供の面倒まで手が回らないことも
多くて……今は私が代役を勤めていますが、本来、ここでの子どもの
世話はお仕置きを含めて助祭様の仕事になるんです」

 彼女が説明すると、それまで無機質だった銅像たちからさっそく声
が聞こえてきた。

 「わあ、おじさん、助祭さんなんだ」
 「わあ、今度の助祭さんかっこいい。私好きよ」
 「ねえ、私、もう三十分もここにいるの早く許してえ、もうお家に
帰りたいの」

 ピーちくパーちく黄色い声が飛ぶ中、管理人さんが説明を続ける。
 「ほら、ここに罪状が書いてありますから、ご覧になります?」

 私は日頃子供の悲劇を観察する趣味は持ち合わせていなかったが、
それでも好奇心は人一倍ある方だから近くによって観察してみると、
子供たちは意外に愛想がよかった。

 私に向かって「こんにちわ」「こんにちわ」と挨拶をするし……かと
いって媚びるような笑顔でもない。
 お仕置き中でも大人と話してはいけないとは言われていないようだ。

 彼らはそれぞれに不思議な器具で身体を拘束されていたが、誰一人
痛そうな素振りをしている者はいなかった。
 そして、止まり木に止まるその子の脇には、どうしてこうなったか
が書かれた掲示板が立っている。

 『妹とけんかをして怪我をさせてしまいました』と書かれた掲示板
の子はピロリーと呼ばれる大きな板で首と両手首を挟まれて膝まづい
ているし……『教室の黒板に落書きをしました』と書かれている子は
大人も見上げるような大きな木馬の上で縛られている。

 他にも、両足首を大きな板に挟まれていたり、肋木に大の字に括り
つけられていたりと、そのポーズは色々だ。
 大半の子はこうして何らかの器具で拘束されていたが……中に一人
だけ、野外テーブルの上でおむつ替えのポーズをとらされているロー
ティーンの子がいて目を引く。

 アリスというこの少女は、テーブルの上で赤ちゃんのおむつ替えの
姿勢を取らされており、両足が青空を突き上げるように持ち上がって
おりパンツも一緒に足首の処ではためいている。
 当然のことながら大事な処は丸見えだが、本人はどうやら観念した
様子で泣いてはいなかった。

 ただ彼女の場合、拘束されてはいないから、ここから逃げ出そうと
思えばできるはずだが、どうやらそうもいかないみたいで、屈辱的な
ポーズをひたすら我慢しているといった風に見えた。

 狭いコミュニティーでの出来事、教会からは逃げだす事は簡単でも
その先に逃げ場はないということか。
 それに、もし捕まったらその後どんなお仕置きを受けることになる
か、それは想像するだけでも恐ろしくそれが彼女たちの見えざる足枷
になっていたのである。

 実際、大人たちはお仕置きを授けるにあたり幼い子の場合は、必ず
拘束を掛けるが、十歳を越えるあたりからこうしたことで子供たちの
自制心を育てていく。恥ずかしさの自覚と我慢を覚えさせるのだ。

 女社会では抜け駆けやズルは絶対にダメで、これは男社会よりはる
かに厳しいものがある。もしこれを破ると……お仕置きは男の私でも
正視出来ないほどだった。

 ただ、そうした厳しさの反面、この社会はあちこちで寛容な扱いも
多く、情が絡んだり事情が理解できれば刑はどんどん緩くなっていく。
男社会のような紋切型や杓子定規な対応を女性が望まないことを子供
たちもよくわきまえていて、どうやって権力者(親や教師など)から
厳しい規則を緩めさせるか、そのあたりは名人芸をみせる子も少なく
なかった。

 私はもっと長い時間この彫刻の森を散策していたかったが……

 「……?(何だろう?)?」
 途中から何やら懐かしい音が聞こえ始めてしまい、私の興味はそち
らへと移っていく。

 「……?(ひょっとして鞭打ち?)?」
 私は思い切って付き添いの運転手氏に尋ねてみた。

 「間違っていたらごめんなさい。どこかで鞭の音が聞こえませんか?」

 私の質問に運転手氏は笑顔で即答する。
 「ああ、あれですか。あれは司祭様が信者の一人に愛を授けている
ところですわ」

 「愛?」

 「ええ、ですからお仕置きですよ。ここでのお仕置きは大人であれ
子供であれ虐待行為や刑事罰ではなく、すべて愛として行われるもの
なので、司祭様からその愛を授けていただこうとして、時折、大人が
ここを尋ねて来るんです」

 「?????大人がわざわざお仕置きを受けに来るんですか?」

 「そうですよ?外の世界で育った助祭様にはピンとこないかもしれ
ませんけど、大人たちからたっぷりと愛され十分にお仕置きを受けて
育った子供たちも一定の年齢に達すれば大人になります。そうなると
好きなことが何でもできますから、最初は楽しい時間ばかりなんです
が、自由には必ず責任が伴いますし、結果も求められます。すると、
あれほど渇望していたはずの大人の世界が今度は色あせて見えるよう
になるんです。そうなると辛かっただけのお仕置きがむしろ懐かしく
感じられるようになるんです」

 「お仕置きが懐かしい?」

 「ええ、だって大人の世界では人を責めるのに手加減がありません
が子供時代のお仕置きはすべて手加減されておこなわれます。それに、
終わればたっぷりのハグだって約束されていますから……」

 「なるほど、悲劇はあっても所詮コップの中の嵐。ハッピーエンド
は約束されているわけだ。女の子はそういうのを敏感に悟るんですね」

 「ええ……でも、一旦大人になったら今度は子供へは戻れない」

 「だから大人のまま子供の心に戻れる場所はないかと探すわけです」

 「つまり、それがここ。というわけですね」

 「ここは私たちにとっては聖域。司祭様は私たちが子供のころから
司祭様で、私たちも何年か前までは、この子たちと同じように沢山の
お仕置きを受けて育ちましたから……ここは私たちにとっては第二の
家庭みたいなところなんです」

 「それに、司祭様はとりわけ人間観察に優れたお方ですから婦人が
何を求めて懺悔室の戸を叩いたかよくよくご存じなのです。その観察
をもとに婦人に懲罰と許しを与えて肩の重荷を落として差し上げる。
それがあの甲高い音の正体というわけです」

 「なるほど、それでお仕置きは愛というわけですか。……では……
あなた方もご利用なさるんですか?その……懲罰室を?」

 「さあ……」
 「どうでしょう」
 二人は表情を緩めてお互いが笑顔で向き合う。

 「女性だらけの世界と聞いてましたからもっと気取った処なのかと
思ってましたけど違うんですね」

 「(はははは)女が気取るのは男性の前だけ。女同士見栄は張ります
けど、気取ってみても仕方がありませんでしょう。……着いてるもの
がみんな同じなんですから……」
 運転手氏は失笑したが、気を取り直すように……
 「でも、余りにだらしなくなるのも困りもので、もう一度、男性の
目を利用する事を思いついたというわけです」

 「そういうこと……慣れるまでは文化の違いにどっきりすることも
多いかもしれませんけど、慣れてしまえば、毎日がストリップ劇場で、
男性にはパラダイスかもしれませんよ」

 「(ははははは)」
 私は運転手氏やこの庭の管理人さんの言葉に当惑しはにかみながら、
最後は白い歯を見せて笑ってしまう。
 『男とはどこまでもスケベな生き物』だと今度は自ら苦笑したのだ
った。

 そんな談笑の輪の中に話題の主がやってきた。

 「あら、テレサ。こんにちわ。今日は何か教会に御用なの?」
 運転手氏が教会から出てきたちょっとだけおしゃれをしたテレサを
捕まえる。

 対するテレサ婦人の笑顔は『みんな、白々しい。知ってるくせに』
と言いたげであった。ただ、そうは言わずに……
 「あら、みなさんお揃いね。今日は来週のバザーに出す品物を届け
に来ただけよ」

 彼女はさらりとかわし、私に目をやる。
 「あら、ひょっとしてこの方、新しく赴任された助祭様かしら?」

 「はい、トーマスと申します。当地は初めてですが、美しい景色に
感銘を受けておりました」

 「まあ、ここには初めてこられたんですか?でも、美男子はどこに
いても絵になるわね。今度はこのお方のご指導を受けてみようかしら」

 私は、今の今、話を聞いたばかりなのでギクッと胸に矢が刺さった
が、どうやらこれも、婦人が私たちのよからぬ噂話を察して、先手を
打って放った矢のようだった。

 彼女は、笑顔の他は何も言わず化粧紙に包まれた小銭をそばにいる
管理人に握らせる。

 「ここにいる子供たちはもう許してあげてね。……それと、これ、
子供たちのお小遣い。人数分あるから分けて頂戴」

 彼女の言動は私には不可解だったが、あとでこの庭の管理人さんに
あらためてたずねてみると……
 どうやらこの子供たち、彼女が着飾って教会にやってきたのを見て
からかったのが原因でこうなったようだった。
 この星では親や教師のようにその子と直接的なかかわりがなくても
正当な理由があれば子供をお仕置きできるのだ。思うにご自身の体罰
を近くで子供たちに聞かせたくないというのがその理由のようだった。

 子供たちが次々と解放されていくなか、ただ、アリスに対してだけ
は……
 「あなたはもうしばらくそうしてなさい。懺悔室を覗くなんて許さ
れませんよ。十を越えた子が他人の心を慮ることもできないなくて、
立派なレディーにはなれなくてよ。」

 婦人はアリスに対してだけは厳しい。
 そればかりではなく、こうも言ったのだった。

 「さあ、みなさん。女の子というのはお股の大事な場所が自分では
なかなか見にくいですから、こうした機会に眺めてみましょう」
 婦人の発案で、幼い子から順に展示品の観察会となった。

 それが一回りすると、拘束されていた子供たちはポケットに小銭を
忍ばせてからその場を立ち去る。

 口止め料というほどの額ではないが、何があったか知ってしまった
周囲の人たちに、自分が少しでもよく見られたいと思ったのかもしれ
ない。

 もちろんこれ以前、司祭様にもそれなりのチップ(献金)は渡して
いるはずで、子供のお仕置きは無料だが大人がお仕置きをしてもらう
時は、少額とはいえけっこう小銭が必要だったのである。

 最後にアリスが許され、小さな金貨を一枚受け取る。これは他の子
の十倍以上の値打ちだが、もちろん嬉しいという顔はしなかった。

 アリスが駆け出し、テレサ婦人が去ってから私たちは教会の中へと
入っていく。

 脇玄関を入るとそこは礼拝堂と執務室をつなぐ幅広い廊下になって
いた。内部は薄暗く、ステンドガラスから差し込む自然光が柔らかく
冷ややかな空気ともマッチして神々しく感じられる異空間だ。

 目が慣れてくると、聖母子や神に祈る少年油彩が飾られているのが
分るが、家具や調度品などはなく長い廊下の先からわずかに人の気配
が感じられるだけだった。

 私たちは人の気配に引き寄せられるように遠くの光を目指して進む。

 するとその求める光がやがて大きくなり、私たちを引き寄せる声が
実は子供で、しかも結構な数いることもわかってくる。

 外光に満たされた輝く場所にまでやってきた時、私は思わず溜息を
つく。景色が開けたその場所は広い高台。しかも数多くの大砲が海に
向かって並んでいる。圧巻だった。
 「ここって広いんですね」

 教会というからおそらくはこの程度と頭の中で想像し高をくくって
いた私にそれはびっくりするほどの規模だったのである。

 「教会は町のシンボル。いざという時はいつも街中の人たちここに
避難し立てこもって戦います。私たちの祖先は船にはいくらでもお金
を掛けますが、お城にはあまり興味がなく立派なものは築かなかった
みたいです」

 「なるほど、この教会はお城の代わりでもあるんだ。……ここにも
子供たちがいるんですね。まるで学校だ」

 「放課後集まって来るんです。この教会の中は習い事教室みたいに
なっていて、それぞれ遺伝子で振り分けられた子供たちが学者志望は
勉強を芸術家志望の子は絵筆を……運動選手は中庭でボールを蹴って
いますわ」

 実は拘束されていた子供たちもここから抜け出し、面白いショーを
こっそり見学に行ったみたいなのだ。
 そのリーダーがアリスというわけだ。

 さて、一行はさらに奥へと進むと、そこに司祭様の執務室があった。
やっと目的地にご到着というわけだ。

 「おう、待っていたよ。コリンズ少佐」

 顎髭の白い老人は私が最近呼ばれたことのない名前で呼ぶ。

 「私のことをよくご存じですね。ダフネ大司教」

 「ここはアンドロメダでは片田舎。しかも女が支配する星だがね、
侮ってはいけないよ。のどかな田舎の風景も裏を返せば科学技術の塊。
科学力のみならず政治的にもアンドロメダ連邦政府の中枢に数多くの
人材を送り込んでいる。情報サーチ能力だって、当然、一流だ」

 「なるほど」

 「君はただ単にこの星の住民と先祖が同じ血筋を持っているという
ことで採用されたと思っているかもしれないが、君の氏素性。学歴、
職歴、病歴、性格などありとあらゆるデータを事前に取り寄せた結果
適任と判断されてここにやってきたのだ」

 「もともとここは海賊の秘密基地だったと聞いたことがあります。
してみると、ずいぶん様変わりしたわけですか?」

 「様変わり?そうではないよ。海賊なんて聞くと荒くれ者の集団と
感じる人が多いかもしれないが、当時から彼らは決してバカではない。
航海術を始め近隣では抜きんでた科学力と統治能力を持っていていた。
その伝統が女社会となった今も受け継がれているだけさ」

 「……女はこうしたことを自慢げに語らないからわかりにくい?」

 「そういうことだ。君はなかなか知恵者だな」

 「いえ、そういうわけでは……」

 「謙遜することはない。だからこそグランドマザーも君を助祭にと
推挙したんだろう」

 「グランドマザーって何ですか?」

 「何だ?そんなことも知らないのか?契約書にもそのことは触れて
あったはずだが……読まなかったのか?」

 「は、……はい。……実は、その時は自暴自棄になっていて、もう
どうでもいいという思いでサインしてしまったみたいなんで……」
 私は苦笑いと共に頭をかく。

 「……そうか……なら、教えてやる。グランドマザーというのは、
この星を統括するコンピューターの愛称だ。君はこの星に採用される
時、ある種の手術を受けたはずだ」

 「確か……目の奥に何か埋め込まれたような……」

 「あれはグランドマザーと交信するための基盤でな、この星に住む
者なら全員が身につけている。これにより全員の健康状態、精神状態
も逐一グランドマザーに蓄えられ続ける。だから私と話している今も
その内容はマザーには筒抜けなんだ」

 「えっ、ということは体制批判もできない。まずいんじゃないんで
すか?……さっきの話」

 「さっきの話って?……何を言っても大丈夫だよ。自由闊達な議論
は誰も邪魔しないから。それは大丈夫だ。具体的に体制転覆でも計画
しない限り、マザーも雑談や冗談までは本気にしない……そんなこと
言ってたら、私たち以上におしゃべりな女たちが暮らせんよ」
 司祭は一笑に付した。

 「それにしても怖い社会ですね。PCによる完全なる管理社会だ」

 「しかし、そのお陰で迷宮入りする事件は皆無だし……事故調査も
スムーズ。病気も超が付くほどの早期発見で平均寿命もアンドロメダ
では一二を争う長寿星だ。……どうだ、そのことの方がよほど凄い事
だろう?」
 司祭は複雑な笑みを浮かべる。

 「でも、プライバシーの心配が……」

 「それも事件捜査の対象にならない限りPCの中に封印されるから
外に出ることはないんだ」

 「ふう、」
 私は思わず溜息をついた。すると、それを見て感じることがあった
のか司祭が話を続ける。

 「但し、子供にはこれがないけどね」

 「えっ!どうして?」

 「簡単さ。事件捜査と同じ。親には子供の動静を知っておく義務が
あるからね、私的なこと隠しておきたいことでもPCが全部データを
流してくれるんだ。子供だってプライバシーは欲しいだろうけど……
この星では大人になるまで辛抱するしかないね。……でも、おかげで
みんないい子ばかり。違うかね?」

 「えっ……ええ……」

 「ここはぶったり叩いたり辱めたりとお仕置きも種類が多いが筋の
通らないことで子供が罰を受けることがないから、大人になってそれ
がために問題を起こすことは少ないんだ。もし、それでやり過ぎるよ
うならPCから私たちに情報がもたらされ、親の解任ってことだって
ある」

 「親の解任?そんなことあるんですか?」

 「司祭、教師、PCの三者で訴えを出せば、親は解任され次の親に
引き渡されることになる。親と言えど人間。誰とでもうまくいくはず
がないし間違いは起こりうるからそれを事前にチェックするためにも
PCの持つ個人情報が必要なんだよ。何事もプライバシーで囲っては
かえって人権が損なわれる。それは子育てにおいても同じという訳さ」

 「……なるほど……でもそんな生活をこの星の人たちはみんな承知
しているんですか?」

 「海賊というのは皆一族一家の意識でやってきた。船に同乗する者
は、血の繋がりがあろうがなかろうが、今日初めて乗船する者だって
みんな家族なんだ。そうでなければ海の上では生きられない。だから
もともと個人の隠し事(プライバシー)より社会の絆の方が優先なん
だよ」

 「まるで、軍隊だ」

 「軍隊ねえ……いや、そうじゃないな。それ以上だ。軍隊は、所詮
他人の集団だが、この星に住まう人たちに他人は存在しない。だから、
正規軍さえ何度も撃破してきた」

 「そんなに凄い装備を持ってたんですか!」

 「そうじゃない。装備品は常に正規軍に劣っているが、常に命令に
よってでなければ何もできない軍人と違って、砲手がやられればその
座に小学生座ることだってあるのが海賊の戦いなんだ」

 「小学生が大砲を打つんですか?…というか、戦闘そのものに…」

 「そう、参加してるんだ。しかも、命令によって動いているんじゃ
ない。見よう見まねで銃の打ち方を覚え、戦いの仕方も覚えていく。
最初は当然邪魔だ引っ込んでろと怒鳴られ突き倒されながらも祖国の
ため船のため家族のために戦い続けていると……やがて、彼は歴戦の
強者として迎えられるようになる。それが、もともとこの星の男たち
の姿だったのだ」

 「誰もが戦いを熟知して無駄のない動きで戦うということですか」

 「さすがは、もと軍人。分ってるじゃないか。だから、装備が少々
貧弱でも強いのさ。そんな猛者どもだ。女の扱いだって丁寧なわけが
ないだろう」

 「……というと……」

 「身まで語らせなさんな。船が帰ってくれば、その夜はあちこちで
乱交パーティー。もともと一族一家みな同じ仲間という彼らの頭の中
に他人の奥さんという概念はなく、大人と子供という区別すらない。
そこで船が着くとハイティーンの少女は地下牢へ退避というがこの星
の日常だったようだ」

 「凄いなあ、今では信じられない。そんな生活よく耐えられますね」

 「仕方がないだろう。ここに女として生まれ、それでも生きていか
なければならないのなら……そして、それを生き抜くのが女なんだ。
生きていくために何でもやる。やれるのが女なんだ。そして、それを
象徴するのがつまみの存在さ」

 「つまみ?」

 「酒のつまみ。古酒は鼻につく。新酒は飲めない。となるとあとは
つまみをでもとって楽しむかということになるだろう」

 「?」

 「なんだ、これだけ説明して分らんのか。お前も意外に鈍い男だな。
……子供だよ。ハイティーンがだめならローティーン」

 「……えっ!子供を……そんな非道なことを」

 「犯しはしない。たとえ酔っていても彼らだってそこまで非道じゃ
ない。だいいち、まだ入らないよ」

 「……」

 「ただな、男どもは何かしらの座興は求めているから、幼い子たち
のストリップでお茶を濁したというわけさ」

 「でも、そんなこと子供が嫌がるでしょう」

 「当然そうだが。親の命令なら仕方がないだろう。嫌ならお仕置き
と脅せば女の子は大半従う。お仕置きはそれほどきついことだからね。
この方がまだましかということになる」

 「それでですかね、私、この星に来て女の子が下をすっぽんぽんに
して晒されているのを何度か見ましたよ」

 「ん、まさにそれだよ。今でこそ、その必要がなくなったが、娘に
お仕置きを利用してストリップに慣れかそうというわけだ。だから、
あれだって元々は親心なんだよ」

 「親心って……」
 私はその先の言葉が出ない。

 「生きていくためには何でもしなきゃいけない。母親はそう言って
娘を躾ける。女の知恵さ。今はたしかに必要のないことかもしれない
が、女の生きざま、厳しさを伝えるものとして、今でもお仕置きの中
に残っているんだ」

 「凄いですね。今は女性の天下なんだし、すたれていてもいいはず
なのに……それを守り続けてるなんて」

 「男と女、本来ならどちらが欠けてもうまくいかないものだが……
もし欠けてしまったら……片方は神になる。少女はその供物なんだ」

 「????????」

 「(はははは)分らんのならそれはよい。忘れてくれ。若い君には
まだ早いな。しかし、どうだ、この星に関する君の疑問は解けたかね」

 「ええ、だいぶすっきりはしました。しましまたけど……」

 「そうかそれはよかった。実はマザーに頼まれてね」

 「マザー?……PCですか?」

 「そうだ、彼女たちはこの星に来て君が疑問に感じているであろう
ことを僕に伝えて……それを私の口から解き明かすよう依頼してきた
んだ」

 「彼女……たち……ですか」

 「そうか、それも知らなかったか。実はマザーというのは独立した
七台のPCの複合体のことなんだ。一台では故障暴走を止められない
からね。そこで出てきた多数決の意見が私たちに伝えられるという訳
さ」

 「…………」

 「開いた口が塞がらないか。……無理もない。来たばかりだもんな。
……でも、何事も慣れだよ。……ここに長く住んでいる私が言うんだ
から間違いない。女たちは私たち男性に優しいからね、不幸という事
でもないと思うよ」
 この星の男たちの最後の直系。海賊時代最後の生き残りは、静かに
語った。


 ****************************

 さて、語りたいことは山とあるが、これからはこの星での日常生活
を追いながら話していきたいと思う。

 まず、朝。
 平日の起床はおおむね七時。まずはバスルームに行ってシャワーと
洗顔。髭も剃るのだが、ここでまず最初の緊張が走る。

 もちろんそんなもの自分で髭を剃るのなら問題ないのだが、この星
の習慣で、髭剃りはその家の後継ぎの仕事とされていて、我が家では
それはマーク君になるのだ。

 御年七歳の少年がベッドに寝そべる私の顔に剃刀を近づけるのだ。
 これに恐怖を感じない人は稀だと思う。
 もちろん、髭剃りにあたっては女性たちが傍にひかえ、懇切丁寧に
指導してくれているが、喉元に大きな剃刀の刃が光ると、正直最初は
生きた心地がしなかった。

 ただ、子どもは呑み込みが早く、三カ月も経つとそれなりの仕事が
できるようになって、その意味でも驚いた記憶がある。

 こうしたことをするのは代替わりの時期を後継ぎ自らに判断させる
という海賊の習慣で、そのカミソリで寝首を欠いていつでも代替わり
してよいぞという意味である。
 もちろん、実際にそうやって親殺しをした子供はいないようだが、
バイキングの常に命を懸けて戦う勇敢さの表れでもあるのだ。

 朝の危険が去ると、朝食の時間。
 食堂には子供たちが全員集まり、一人ずつ朝のご挨拶。
 ここでは子供たちを一人ずつ膝に乗せ頬ずりをして親愛の情を示す。
 
 何しろ子供の数が多いから一人あたりの膝への滞在時間は短いが、
それでも一人一分ぐらいは私の愛撫を受け続けなければならない。
 幼い子はいざ知らず、ハイティーンの子がこれを大歓迎するはずも
なく思いっきり嫌な顔をする子もいる。

 きっと、思いは私の髭剃りと同じなのだろう。

 ただ、ここでもあまり露骨な態度を取ると……
 「パティー、スカートを上げなさい」
 「ピシっ」
 「パンツも下げて……」
 「ピシっ」
 ってことになり、母親の鞭で今一度目覚めることになるのだった。

 それだけではない。
 私のテーブルの傍らに置いたパソコンが警告を発した時はそれにも
対処しなければならない。
 前にも説明したが子供たちにはプライバシーがない。たとえ真夜中
でも彼らの情報は逐一グランドマザーの知るところとなるのだ。

 その情報が、朝には私のノートPCに届いていて、私はその処理も
しなければならなかったのである。
 ハイティーンの子が私の膝を嫌がるのはそのこともあってだった。

 「グランドマザーからの報告では……昨夜もまた楽しんでたみたい
だね」

 こう言うと、パティーは私の膝の上で身体を硬くする。
 何を言っているのか分っているみたいだった。

 昨日の夕飯からこの時間までは子供たちの自由時間。色んなことを
する。宿題をやって、ゲームをやって、ピアノを弾いて、もちろん、
おしゃべりだって大事な仕事だ。
 ただ、やってはいけないこともある。

 姉妹喧嘩、無断外出、布団をかぶっての長電話なんてのも親からは
歓迎されないことだが、親が一番嫌がるのはレスボスの恋と自らの体
を慰めること。つまりオナニーだ。

 この二つ、親も決して一度もやってはならないとは言っていないが、
毎日となると話は別で、悪癖が治らないようなら拘束衣としてオムツ
が当てられるようになる。
 実はパティー、すでにこの状態だった。

 にも関わらず、やはり一度覚えた蜜の味が忘れられないとみえて、
ベッドの中でオムツを切り離すと、十分に楽しんだあとに、どこから
調達したのか新しいオムツをはめ直していた。

 全てはベッド毛布の中の出来事であり、うまくやりおおせたつもり
でいたのだが、グランドマザーが知りうる情報は映像だけではない。
血圧、脈拍、呼吸、心拍数、何より不可思議に動く毛布が決め手で、
グランドマザーは彼女がよからぬことをやっていると結論付けたのだ。

 「これは何をしてるのかね?」
 私が尋ねると、パティーの顔色はすでに生気を失っていた。

 「それは……ベッドの中で着替えてて……」
 苦しい言い訳。しかし、そんな小娘のたわごとはこの社会では通じ
なかったのである。

 おもむろに彼女もパソコンの画面を覗き込む。
 それでも、グランドマザー、父親としての私、そして母親も判断は
変わらなかった。

 「まったく、あなたの自制心がないのにも呆れるわ。これはもう、
修道院で鍛えてもらうしかないわね」

 その言葉が出た瞬間だった。パティーは私の膝をはねのくと母親の
前に膝まづき、
 「修道院は嫌!もうしないから、もう一年だってしないから」
 必死に懇願したのである。

 しかし……
 「駄目よ。そんなことで許される時期はとうに過ぎてるわ」
 にべもない。

 「フルコースで一週間は向こうで鍛えてもらわないと治らないわね」

 「そんなあ、そんなことしたら死んじゃいます」

 「何。オーバーな事言ってるの。フルコースと言っても、お浣腸に
お鞭に、お灸、……あっ、そうだ。今度はお宮の中もやってもらいま
しょうね」

 お宮は陰部のことで、会陰やクリトリスの脇にお灸をすえること。
 実際の熱さはそれほどでもないのだが、女性、とりわけ少女にして
みると、こんなところにまでやられたという精神的なショックの方が
大きい場所だった。

 そんなことが朝昼晩三回行われるのだ。いくら普段からお仕置きが
あると言ってもそこは家庭内。他人の鞭とは違うのだ。
 その瞬間気絶してしまった彼女が後に『家の天井が落ちた気がした』
と、語ったのはあながち嘘ではないと思う。

 この結末は、結局、修道院に金〳土〳日の三日間だけ泊まり込むと
言うことで決着したが、母親は……
 「娘の気絶にいちいち付き合っていたら躾も教育もできませんよ」
 と、おかんむりだった。

 女は少女を含めよく気絶するけど、『背中に人が立っていない時には
倒れない』とも言われ、半ば演技だと言うのだ。
 しかし、たとえ演技であるにせよ、私は娘にあまり激しい罰は与え
たくなかった。

 さて、朝食が終わると子供たちは学校へと出かけ私は職場へ向かう。
 私の職場は、例の白髭の司祭さんが管理する教会。
 そこでの私の仕事は、一口で言えば雑用掛かり。墓地の草むしりや
煉瓦塀の修理、噴水池の掃除に花壇の世話、礼拝堂に設置された机や
椅子の修理なんてものまである。

 その他にもパイプオルガンを習い、日曜のミサで司祭様が説教する
原稿の下書きなんてのも……。

 こうして、仕事には事欠かないが、目が回るほど忙しいというほど
でもない。空いた時間は子供たちともよく遊んでいたから仕事の内容
に不満は何もなかったのである。

 ただ、金曜日になると、私の心はそわそわし始めた。
 実は、この日からパティーが女子修道院に付属する懲戒所にやって
来るからだ。
 そこは教会からも目と鼻の先。たまに少女の悲鳴が風に流れて聞こ
えたりもするくらいだ。

 母親の主張を曲げさせて一週間を三日間に短縮したとはいえ、私も
彼女を地獄の門の中へ送りやった一人に違いがないわけでその気持ち
は正直複雑だった。

 そんな時、一人のシスターが教会に訪ねてくる。曰く……
 「もしよろしかったらパティーさんのお仕置きを見学なさいません
か?」
 
 びっくりした私が……
 「そんなことできるんですか?」
 と尋ねると……

 「ええ、お仕置きの様子は後日ご自宅にビデオをお送りしますが、
親御さんとしては何かとご心配でしょうし普段一緒に生活していない
私たちでは分らない部分もありますから、一度はご一緒にその様子を
見ていただけると私たちも助かるんです」

 「なるほど……でも、パティーがそれをどう思うか……」

 「大丈夫ですわ。お仕置きを見学すると言っても同じ部屋に入るの
ではなく、防音装置のついた隣の部屋からマジックミラー越しにその
様子を見るだけですから悟られる心配はありませんわ」

 「妻にも話をしたんですか?」

 「ええ、金曜日最初に行われるお仕置きには伺うそうです」

 「分りました。では私も司祭様に許可をいただいてきます」

 こうして、話はとんとん拍子に進み、私は仕事を早めに切り上げて
教会近くの懲戒所へと向かうことになった。

 懲戒所というのは、親が手が付けられないと判断した子供を一時的
に預かってもらう施設のことで、女子修道院に隣接して建っている。
修道院の敷地内ではないが管理もすべてそこのシスターたちが担って
いた。

 当然、生活や規律は厳しく、誰もがお仕置きのノルマを抱えて入所
しているし、世俗の情報は一切持ち込まれないから、窮屈で屈辱的で
破廉恥な場所。子供たちの間では一般的に『刑務所』と呼ばれていた
場所だったのである。

 私たち夫婦(?)はその裏口で落ち合い、出てきたシスターの案内
で秘密の通路を抜け、俗に金魚鉢と呼ばれる小部屋へと通された。

 すると隣の部屋では全ての準備が整い、ジャストタイムでパティー
にここでの最初のお仕置きが開始されるところだった。

 「パティー、あなたはご両親とのお約束を破っていけない一人遊び
をしたとあるけど……本当ですか?」

 上級のシスターが、床に膝まづいて両手を胸の前で組むパティーに
尋ねると、パティーは静かに頷いた。
 今さらここで異を唱えたところでどうにもならないことはわかって
いるし、ヘタに抗弁して相手の機嫌をそこなえば今度はどんな災難が
降りかかるかしれない。パティーは女の子として常識的な判断をする。

 「そう、ならばここでお仕置きを受けても仕方がないわね。それは
大丈夫かしら?」

 「はい大丈夫です」
 すでに覚悟はできてるという顔だった。

 「よろしい、では、あなたへはどんなお仕置きが必要か、私の希望
を述べてみるわね。……そうねえ……あなたもこれが最初の出来事と
いうわけではないから百行清書というのでは効果がないでしょうし、
やはり身体に堪えるものがないと効果がないと思うの」

 「はい」

 「どうかしら、ここで朝昼晩のフルコースというのは……」

 「…………」
 こう言われてさすがにパティーも唇を噛む。

 「ちょっと身体には堪えるかもしれないけど、それでも、司祭様の
ミサの席でチビちゃんたちと一緒にお尻を出すことを思えば……どう、
恥ずかしくないんじゃなくて……」

 「……」
 その瞬間、パティーの顔が青くなる。

 日曜のミサでは幼い子たちがこの一週間で起こした悪さを咎められ、
祭壇で司祭様からお仕置きを受けるという儀式があるのだが、男女を
問わず近隣の大人たち全員が見ている前でのお尻叩きは恥ずかしさの
極み。
 痛み悲鳴を上げ、耐えかねて動いた拍子にその中までも見られて、
幼い時代にしても死ぬほど恥ずかしいかった。
 それを十六にまでなってできるはずがないではないか。

 「やっぱり、お仕置きはここで行いましょう。それでいいですね」

 「はい、けっこうです」
 パティーはシスターの言葉に肩で一つ息をつく。浣腸されて排泄を
見られたり、革紐鞭でぶたれて悲鳴をあげたり、灼熱地獄のお灸に我
を忘れてのたうち回ったりと、そりゃあ若い娘にとって美しくはない
出来事ばかりだけど、街の人たち全員に自分の秘密を見せびらかすの
を思えばここはまだ密室、周囲で見ている人たちも普段は接触のない
シスターだけというなら、パティーに限らず若い娘がどちらを選ぶか
は火を見るより明らかだったのである。

 「よろしい、浣腸は一日一回だけど、他のお仕置きは朝昼晩と三回
行います。そのあたり、前にも一度経験してるみたいだから……よく
ご存じよね」
 シスターの意味深な笑いにパティーの背筋は凍るが、ここまでくれ
ばもうどうすることもできなかった。

 時は金曜日の夕方、お仕置き部屋には少し広めのテーブルが置かれ
パティーは白い綿生地の体操服姿。下は紺地の提灯ブルマーで、白い
短ソックスをはいている。
 これがいわばこの懲戒所の制服のようなものでパティーも例外では
なかった。

 「仰向けになって寝なさい」
 パティーがシスターに命じられるまま机の上に仰向けになって寝そ
べると、後は二人の助手の仕事。本人には何の挨拶もなくブルマーと
ショーツが脱ぎ取られ両足が高々と持ち上げられる。
 女同士の出来事。そこに遠慮というものはないようだった。

 しかもその奥がさらによく見えるようにと一人の助手がさらに彼女
の谷間を押し開く。

 「…………」
 マジックミラー越しの私たちは、いきなり現れた娘の女としての姿
に思わず息をのむ。肛門、ヴァギナ、尿道口、クリトリスまで、その
すべて手の届きそうな処にあったからだ。

 もちろん私は彼女の親だから数々お尻も叩いたし、お風呂にだって
一緒にはいった。娘の割れ目だって知っているが、こうもあけすけな
姿を見たのは初めてだった。

 「そうねえ……色素沈着はないようだし襞も綺麗な形をしている。
やはり、このくらいの歳の子はだいたいクリトリスで間に合っちゃう
のよね。……ほら、ここに小さな炎症がある。このあたりは、だいぶ
使い込んでるみたいね」
 助手のシスターが開いた谷間を上級シスターがさらに検めていく。

 そりゃあ恥ずかしかっただろうが、こちらからはその表情は分らな
かった。ただただ女の姿がそこに見えただけ。

 そんな少女の穴の一つにガラス製のピストン浣腸器の尖った先が。
 「あっ、いや」
 パティーは思わずお尻の穴をすぼめ身体を左右に捩ったが……

 「ほら、だめよ。反抗しないの。お仕置きへの反抗が厳しいのは
お家だけじゃないの。ここはもっと厳しいのよ」

 上級シスターに諭されてパティーは大人しくなる。この星の少女達
は幼い頃からお仕置き慣れしているというか聞き分けがよい。たまに
抵抗することはあるものの大人が諭せば簡単にやめてしまうケースが
ほとんどだ。
 『抵抗=厳しいお仕置き』という図式は知識というよりその身体が
しっかりと覚えていた。

 「さあ、いきますよ。身体の力を抜いて……」

 上級シスターは大きなこげ茶色の薬瓶からガラス製の浣腸器で一気
にグリセリン液を吸い上げると、きっちり百CCの箇所で止めてすぐ
さまその尖った先を指で押さえる。
 ガラス器をそのまま薬瓶から引き上げると、液が逆流して床に零れ
落ちるからだ。

 それを見て助手のシスターが間髪入れず、パティーのお尻をさらに
押し開いてそこはこれ以上には開かないほどに全開。

 「あああああ」
 パティーからあられもない声が漏れて、ガラス器の先端がまだ幼い
という形容さえできる肛門へと突き刺さる。

 その間はあっと言う間の出来事。
 あとはじたばたしても無駄。静かにゆっくりとグリセリンが身体の
中に入っていくのをパティーは受け止めなければならなかった。

 「どう、ガラスの触感は?……最初はゴム栓にカテーテルを繋いで
とも思ったけど、ちょっぴり抵抗したからお仕置きもちょっぴり追加
したの。ガラスがお尻の穴に当たる感触って心地のいいものじゃない
けど、そのくらいは我慢しなくちゃね」

 「……」
 上級シスターの問いかけにパティーは静かに頷く。

 「あなたもいい歳なんだからわかってると思うけど、子供は大人に
お仕置きを言われたら素直に従わなければならないわ。たとえそれが
気に入らないことでも、大人たちの愛を素直に受け入れなければ損を
するのはあなたなのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは蚊の鳴くような声で答えた。
 その顔にはすでに涙と脂汗が浮き出ている。
 でも、パティーにとってはこれからがまさに正念場だった。

 「あっ、だめえ」
 二人の助手に身体を起こしてもらった瞬間に最初の津波がやってきた。
 グリセリンは効果が現れるのに一分とかからない。

 もちろん上級シスターは何がだめなのかは百も承知しているが……
 「何がだめなの?」
 冷静に尋ねる。

 「もう、漏れそうなんです。早くおトイレに行かせてください」
 パティーは恥も外聞もなく頼んだが……

 「大丈夫よ、ゴムの栓をしっかりしたから、たとえあなたが出そう
としてもあなたの力じゃもうでてこないの。ほら、見てごらんなさい」
 上級シスターははあはあと肩で息をするパティーを机の上から抱き
おろすと大きな姿見の前で彼女を抱くように立たせたのである。

 「…………」
 そこには拳大ほどの黒いゴムがはっきりと見える。実際のサイズは
肛門の中に入っている部分も含めるとかなり大きなものだが、そんな
物をすでにお尻の穴に入れられていたなんて……パティーはその瞬間
までまったく気づいていなかった。

 「外してください。おトイレに行かないとホントに出ちゃいます」
 パティーは上級シスターに哀願したが、返事は冷たかった。

 「駄目よ、パティー。あなたのお腹には、今、邪な悪魔のエキスが
たくさん溜まっているの。それを綺麗に出すためには最低でも五分は
我慢しないと邪悪なエキスは出てこないわ」

 こう言うと、パティーもまた癇に障ったのだろう。それまで指の腹
で握っていた上級シスターの腕に爪を立てて強く握ると……
 「嘘よ!」
 と一声言い放った。

 しかし、これは……
 「ピシっ……ピシっ」

 上級シスターの往復ビンタとなって返ってくる。

 「小娘が生意気いうんじゃないよ」
 それまでとは違ってどすの効いた低い声が浴びせられる。

 パティーはそのひと声だけで、パティーは再び静かになってしまう。
 もとより爆弾を抱えている身のパティー。争えるはずがなかった。

 そんなパティーに上級シスターはさらに難題を突き付ける。
 「とても元気があり余ってそうだから時間は十分に伸ばしましょう」

 上級シスターは勝ち誇ったように罰の追加を決めると、今度は一転
してパティーやさしく膝の上に抱き上げる。

 「駄目よ、子供は子供らしく従順にしていなければ大人に可愛がら
れない。子供が大人に可愛がられないで得になることは何もないのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは上級シスターの胸の中でこうささやくのが精いっぱい。
 とにかくお腹の中は大嵐。いくらゴム栓をしているとはいえ、いつ
大爆発を起こすか、そればかりが心配だったのである。

 約束の十分間が過ぎ、パティーもやっと許される時がやってきたが、
個室のトイレは与えてもらえなかった。目の前にある大きな鏡の下に
ベッドパン置かれ、そこに上級シスターが両方の太ももを支える形で
パティーを空中に吊るす。
 なんのことはない赤ちゃんが用足しするのと同じ姿勢だ。

 「あああああああ」
 助手のシスターが黒いゴム栓を抜くと、あれこれ考える暇などない。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 自然に出てしまった悲鳴。大粒の涙が一筋二筋頬を伝い、当然、滝
のように流れ落ちる水様便のうんちも待ったなしにベッドパンを叩き
つけていく。

 せめてもの救いはこのみじめな姿を家族に見られていないこと。
 否、本当は見られていると知らされていないことだった。

 「ヒック……ヒック……ヒック……」
 大き目のベッドパンが半分ほど埋まって、パティーはようやく落ち
着いきを取り戻したようだったが、嗚咽は続き大きな赤ん坊はしばし
恥ずかしい部分を両親の目の前で晒して泣き続けている。

 屈辱は時計の秒針が文字盤を一周するほどには長くなかったはずだ
がパティーにしてみたら『永遠』と感じられるほど心に突き刺さった
に違いなかった。

 人形となったパティーは二人の助手に支えられ、いったんは部屋を
出てシャワー室へと向かう。
 すると、その間を利用して、上級シスターが私たち夫婦のいる隠し
部屋へと入って来る。

 「どうですか、まだお浣腸だけが終わったところですけど、もし、
ご不快なら向こうの部屋の机の位置などは変えることができますけど」

 上級シスターは穏やかに語りかける。
 私は、その時『そうしてください。これでは娘に見つめられている
みたいで私たちも辛いので……』と言いたかったのだが、母親の方が
私より先にシスターの提案を否定する。

 「結構です。娘のこうした姿を見るのも私たちの仕事ですから……
今のところ何も問題はありませんわ」

 機先を制した母親の言葉に私は自分の思いを飲み込むしかなかった。

 「前にも申しましたが、同じお仕置きを与えても、人によってその
衝撃度は違います。普段お子さんと接しているご両親が『これは傷を
深めて危険だ』と判断されたら、遠慮なくそこの赤いボタンを押して
ください。すぐに対処を変えますので……」

 「承知しました。ご配慮感謝します」
 母親は答える。
 私はこの時になって初めて、修道院側がなぜ私たちを呼んだのかを
知ったのだった。

 ******************************

 さて、語りたいことは山とあるが、これからはこの星での日常生活
を追いながら話していきたいと思う。

 まず、朝。
 平日の起床はおおむね七時。まずはバスルームに行ってシャワーと
洗顔。髭も剃るのだが、ここでまず最初の緊張が走る。

 もちろんそんなもの自分で髭を剃るのなら問題ないのだが、この星
の習慣で、髭剃りはその家の後継ぎの仕事とされていて、我が家では
それはマーク君になるのだ。

 御年七歳の少年がベッドに寝そべる私の顔に剃刀を近づけるのだ。
 これに恐怖を感じない人は稀だと思う。
 もちろん、髭剃りにあたっては女性たちが傍にひかえ、懇切丁寧に
指導してくれているが、喉元に大きな剃刀の刃が光ると、正直最初は
生きた心地がしなかった。

 ただ、子どもは呑み込みが早く、三カ月も経つとそれなりの仕事が
できるようになって、その意味でも驚いた記憶がある。

 こうしたことをするのは代替わりの時期を後継ぎ自らに判断させる
という海賊の習慣で、そのカミソリで寝首を欠いていつでも代替わり
してよいぞという意味である。
 もちろん、実際にそうやって親殺しをした子供はいないようだが、
バイキングの常に命を懸けて戦う勇敢さの表れでもあるのだ。

 朝の危険が去ると、朝食の時間。
 食堂には子供たちが全員集まり、一人ずつ朝のご挨拶。
 ここでは子供たちを一人ずつ膝に乗せ頬ずりをして親愛の情を示す。
 
 何しろ子供の数が多いから一人あたりの膝への滞在時間は短いが、
それでも一人一分ぐらいは私の愛撫を受け続けなければならない。
 幼い子はいざ知らず、ハイティーンの子がこれを大歓迎するはずも
なく思いっきり嫌な顔をする子もいる。

 きっと、思いは私の髭剃りと同じなのだろう。

 ただ、ここでもあまり露骨な態度を取ると……
 「パティー、スカートを上げなさい」
 「ピシっ」
 「パンツも下げて……」
 「ピシっ」
 ってことになり、母親の鞭で今一度目覚めることになるのだった。

 それだけではない。
 私のテーブルの傍らに置いたパソコンが警告を発した時はそれにも
対処しなければならない。
 前にも説明したが子供たちにはプライバシーがない。たとえ真夜中
でも彼らの情報は逐一グランドマザーの知るところとなるのだ。

 その情報が、朝には私のノートPCに届いていて、私はその処理も
しなければならなかったのである。
 ハイティーンの子が私の膝を嫌がるのはそのこともあってだった。

 「グランドマザーからの報告では……昨夜もまた楽しんでたみたい
だね」

 こう言うと、パティーは私の膝の上で身体を硬くする。
 何を言っているのか分っているみたいだった。

 昨日の夕飯からこの時間までは子供たちの自由時間。色んなことを
する。宿題をやって、ゲームをやって、ピアノを弾いて、もちろん、
おしゃべりだって大事な仕事だ。
 ただ、やってはいけないこともある。

 姉妹喧嘩、無断外出、布団をかぶっての長電話なんてのも親からは
歓迎されないことだが、親が一番嫌がるのはレスボスの恋と自らの体
を慰めること。つまりオナニーだ。

 この二つ、親も決して一度もやってはならないとは言っていないが、
毎日となると話は別で、悪癖が治らないようなら拘束衣としてオムツ
が当てられるようになる。
 実はパティー、すでにこの状態だった。

 にも関わらず、やはり一度覚えた蜜の味が忘れられないとみえて、
ベッドの中でオムツを切り離すと、十分に楽しんだあとに、どこから
調達したのか新しいオムツをはめ直していた。

 全てはベッド毛布の中の出来事であり、うまくやりおおせたつもり
でいたのだが、グランドマザーが知りうる情報は映像だけではない。
血圧、脈拍、呼吸、心拍数、何より不可思議に動く毛布が決め手で、
グランドマザーは彼女がよからぬことをやっていると結論付けたのだ。

 「これは何をしてるのかね?」
 私が尋ねると、パティーの顔色はすでに生気を失っていた。

 「それは……ベッドの中で着替えてて……」
 苦しい言い訳。しかし、そんな小娘のたわごとはこの社会では通じ
なかったのである。

 おもむろに彼女もパソコンの画面を覗き込む。
 それでも、グランドマザー、父親としての私、そして母親も判断は
変わらなかった。

 「まったく、あなたの自制心がないのにも呆れるわ。これはもう、
修道院で鍛えてもらうしかないわね」

 その言葉が出た瞬間だった。パティーは私の膝をはねのくと母親の
前に膝まづき、
 「修道院は嫌!もうしないから、もう一年だってしないから」
 必死に懇願したのである。

 しかし……
 「駄目よ。そんなことで許される時期はとうに過ぎてるわ」
 にべもない。

 「フルコースで一週間は向こうで鍛えてもらわないと治らないわね」

 「そんなあ、そんなことしたら死んじゃいます」

 「何。オーバーな事言ってるの。フルコースと言っても、お浣腸に
お鞭に、お灸、……あっ、そうだ。今度はお宮の中もやってもらいま
しょうね」

 お宮は陰部のことで、会陰やクリトリスの脇にお灸をすえること。
 実際の熱さはそれほどでもないのだが、女性、とりわけ少女にして
みると、こんなところにまでやられたという精神的なショックの方が
大きい場所だった。

 そんなことが朝昼晩三回行われるのだ。いくら普段からお仕置きが
あると言ってもそこは家庭内。他人の鞭とは違うのだ。
 その瞬間気絶してしまった彼女が後に『家の天井が落ちた気がした』
と、語ったのはあながち嘘ではないと思う。

 この結末は、結局、修道院に金〳土〳日の三日間だけ泊まり込むと
言うことで決着したが、母親は……
 「娘の気絶にいちいち付き合っていたら躾も教育もできませんよ」
 と、おかんむりだった。

 女は少女を含めよく気絶するけど、『背中に人が立っていない時には
倒れない』とも言われ、半ば演技だと言うのだ。
 しかし、たとえ演技であるにせよ、私は娘にあまり激しい罰は与え
たくなかった。

 さて、朝食が終わると子供たちは学校へと出かけ私は職場へ向かう。
 私の職場は、例の白髭の司祭さんが管理する教会。
 そこでの私の仕事は、一口で言えば雑用掛かり。墓地の草むしりや
煉瓦塀の修理、噴水池の掃除に花壇の世話、礼拝堂に設置された机や
椅子の修理なんてものまである。

 その他にもパイプオルガンを習い、日曜のミサで司祭様が説教する
原稿の下書きなんてのも……。

 こうして、仕事には事欠かないが、目が回るほど忙しいというほど
でもない。空いた時間は子供たちともよく遊んでいたから仕事の内容
に不満は何もなかったのである。

 ただ、金曜日になると、私の心はそわそわし始めた。
 実は、この日からパティーが女子修道院に付属する懲戒所にやって
来るからだ。
 そこは教会からも目と鼻の先。たまに少女の悲鳴が風に流れて聞こ
えたりもするくらいだ。

 母親の主張を曲げさせて一週間を三日間に短縮したとはいえ、私も
彼女を地獄の門の中へ送りやった一人に違いがないわけでその気持ち
は正直複雑だった。

 そんな時、一人のシスターが教会に訪ねてくる。曰く……
 「もしよろしかったらパティーさんのお仕置きを見学なさいません
か?」
 
 びっくりした私が……
 「そんなことできるんですか?」
 と尋ねると……

 「ええ、お仕置きの様子は後日ご自宅にビデオをお送りしますが、
親御さんとしては何かとご心配でしょうし普段一緒に生活していない
私たちでは分らない部分もありますから、一度はご一緒にその様子を
見ていただけると私たちも助かるんです」

 「なるほど……でも、パティーがそれをどう思うか……」

 「大丈夫ですわ。お仕置きを見学すると言っても同じ部屋に入るの
ではなく、防音装置のついた隣の部屋からマジックミラー越しにその
様子を見るだけですから悟られる心配はありませんわ」

 「妻にも話をしたんですか?」

 「ええ、金曜日最初に行われるお仕置きには伺うそうです」

 「分りました。では私も司祭様に許可をいただいてきます」

 こうして、話はとんとん拍子に進み、私は仕事を早めに切り上げて
教会近くの懲戒所へと向かうことになった。

 懲戒所というのは、親が手が付けられないと判断した子供を一時的
に預かってもらう施設のことで、女子修道院に隣接して建っている。
修道院の敷地内ではないが管理もすべてそこのシスターたちが担って
いた。

 当然、生活や規律は厳しく、誰もがお仕置きのノルマを抱えて入所
しているし、世俗の情報は一切持ち込まれないから、窮屈で屈辱的で
破廉恥な場所。子供たちの間では一般的に『刑務所』と呼ばれていた
場所だったのである。

 私たち夫婦(?)はその裏口で落ち合い、出てきたシスターの案内
で秘密の通路を抜け、俗に金魚鉢と呼ばれる小部屋へと通された。

 すると隣の部屋では全ての準備が整い、ジャストタイムでパティー
にここでの最初のお仕置きが開始されるところだった。

 「パティー、あなたはご両親とのお約束を破っていけない一人遊び
をしたとあるけど……本当ですか?」

 上級のシスターが、床に膝まづいて両手を胸の前で組むパティーに
尋ねると、パティーは静かに頷いた。
 今さらここで異を唱えたところでどうにもならないことはわかって
いるし、ヘタに抗弁して相手の機嫌をそこなえば今度はどんな災難が
降りかかるかしれない。パティーは女の子として常識的な判断をする。

 「そう、ならばここでお仕置きを受けても仕方がないわね。それは
大丈夫かしら?」

 「はい大丈夫です」
 すでに覚悟はできてるという顔だった。

 「よろしい、では、あなたへはどんなお仕置きが必要か、私の希望
を述べてみるわね。……そうねえ……あなたもこれが最初の出来事と
いうわけではないから百行清書というのでは効果がないでしょうし、
やはり身体に堪えるものがないと効果がないと思うの」

 「はい」

 「どうかしら、ここで朝昼晩のフルコースというのは……」

 「…………」
 こう言われてさすがにパティーも唇を噛む。

 「ちょっと身体には堪えるかもしれないけど、それでも、司祭様の
ミサの席でチビちゃんたちと一緒にお尻を出すことを思えば……どう、
恥ずかしくないんじゃなくて……」

 「……」
 その瞬間、パティーの顔が青くなる。

 日曜のミサでは幼い子たちがこの一週間で起こした悪さを咎められ、
祭壇で司祭様からお仕置きを受けるという儀式があるのだが、男女を
問わず近隣の大人たち全員が見ている前でのお尻叩きは恥ずかしさの
極み。
 痛み悲鳴を上げ、耐えかねて動いた拍子にその中までも見られて、
幼い時代にしても死ぬほど恥ずかしいかった。
 それを十六にまでなってできるはずがないではないか。

 「やっぱり、お仕置きはここで行いましょう。それでいいですね」

 「はい、けっこうです」
 パティーはシスターの言葉に肩で一つ息をつく。浣腸されて排泄を
見られたり、革紐鞭でぶたれて悲鳴をあげたり、灼熱地獄のお灸に我
を忘れてのたうち回ったりと、そりゃあ若い娘にとって美しくはない
出来事ばかりだけど、街の人たち全員に自分の秘密を見せびらかすの
を思えばここはまだ密室、周囲で見ている人たちも普段は接触のない
シスターだけというなら、パティーに限らず若い娘がどちらを選ぶか
は火を見るより明らかだったのである。

 「よろしい、浣腸は一日一回だけど、他のお仕置きは朝昼晩と三回
行います。そのあたり、前にも一度経験してるみたいだから……よく
ご存じよね」
 シスターの意味深な笑いにパティーの背筋は凍るが、ここまでくれ
ばもうどうすることもできなかった。

 時は金曜日の夕方、お仕置き部屋には少し広めのテーブルが置かれ
パティーは白い綿生地の体操服姿。下は紺地の提灯ブルマーで、白い
短ソックスをはいている。
 これがいわばこの懲戒所の制服のようなものでパティーも例外では
なかった。

 「仰向けになって寝なさい」
 パティーがシスターに命じられるまま机の上に仰向けになって寝そ
べると、後は二人の助手の仕事。本人には何の挨拶もなくブルマーと
ショーツが脱ぎ取られ両足が高々と持ち上げられる。
 女同士の出来事。そこに遠慮というものはないようだった。

 しかもその奥がさらによく見えるようにと一人の助手がさらに彼女
の谷間を押し開く。

 「…………」
 マジックミラー越しの私たちは、いきなり現れた娘の女としての姿
に思わず息をのむ。肛門、ヴァギナ、尿道口、クリトリスまで、その
すべて手の届きそうな処にあったからだ。

 もちろん私は彼女の親だから数々お尻も叩いたし、お風呂にだって
一緒にはいった。娘の割れ目だって知っているが、こうもあけすけな
姿を見たのは初めてだった。

 「そうねえ……色素沈着はないようだし襞も綺麗な形をしている。
やはり、このくらいの歳の子はだいたいクリトリスで間に合っちゃう
のよね。……ほら、ここに小さな炎症がある。このあたりは、だいぶ
使い込んでるみたいね」
 助手のシスターが開いた谷間を上級シスターがさらに検めていく。

 そりゃあ恥ずかしかっただろうが、こちらからはその表情は分らな
かった。ただただ女の姿がそこに見えただけ。

 そんな少女の穴の一つにガラス製のピストン浣腸器の尖った先が。
 「あっ、いや」
 パティーは思わずお尻の穴をすぼめ身体を左右に捩ったが……

 「ほら、だめよ。反抗しないの。お仕置きへの反抗が厳しいのは
お家だけじゃないの。ここはもっと厳しいのよ」

 上級シスターに諭されてパティーは大人しくなる。この星の少女達
は幼い頃からお仕置き慣れしているというか聞き分けがよい。たまに
抵抗することはあるものの大人が諭せば簡単にやめてしまうケースが
ほとんどだ。
 『抵抗=厳しいお仕置き』という図式は知識というよりその身体が
しっかりと覚えていた。

 「さあ、いきますよ。身体の力を抜いて……」

 上級シスターは大きなこげ茶色の薬瓶からガラス製の浣腸器で一気
にグリセリン液を吸い上げると、きっちり百CCの箇所で止めてすぐ
さまその尖った先を指で押さえる。
 ガラス器をそのまま薬瓶から引き上げると、液が逆流して床に零れ
落ちるからだ。

 それを見て助手のシスターが間髪入れず、パティーのお尻をさらに
押し開いてそこはこれ以上には開かないほどに全開。

 「あああああ」
 パティーからあられもない声が漏れて、ガラス器の先端がまだ幼い
という形容さえできる肛門へと突き刺さる。

 その間はあっと言う間の出来事。
 あとはじたばたしても無駄。静かにゆっくりとグリセリンが身体の
中に入っていくのをパティーは受け止めなければならなかった。

 「どう、ガラスの触感は?……最初はゴム栓にカテーテルを繋いで
とも思ったけど、ちょっぴり抵抗したからお仕置きもちょっぴり追加
したの。ガラスがお尻の穴に当たる感触って心地のいいものじゃない
けど、そのくらいは我慢しなくちゃね」

 「……」
 上級シスターの問いかけにパティーは静かに頷く。

 「あなたもいい歳なんだからわかってると思うけど、子供は大人に
お仕置きを言われたら素直に従わなければならないわ。たとえそれが
気に入らないことでも、大人たちの愛を素直に受け入れなければ損を
するのはあなたなのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは蚊の鳴くような声で答えた。
 その顔にはすでに涙と脂汗が浮き出ている。
 でも、パティーにとってはこれからがまさに正念場だった。

 「あっ、だめえ」
 二人の助手に身体を起こしてもらった瞬間に最初の津波がやってきた。
 グリセリンは効果が現れるのに一分とかからない。

 もちろん上級シスターは何がだめなのかは百も承知しているが……
 「何がだめなの?」
 冷静に尋ねる。

 「もう、漏れそうなんです。早くおトイレに行かせてください」
 パティーは恥も外聞もなく頼んだが……

 「大丈夫よ、ゴムの栓をしっかりしたから、たとえあなたが出そう
としてもあなたの力じゃもうでてこないの。ほら、見てごらんなさい」
 上級シスターははあはあと肩で息をするパティーを机の上から抱き
おろすと大きな姿見の前で彼女を抱くように立たせたのである。

 「…………」
 そこには拳大ほどの黒いゴムがはっきりと見える。実際のサイズは
肛門の中に入っている部分も含めるとかなり大きなものだが、そんな
物をすでにお尻の穴に入れられていたなんて……パティーはその瞬間
までまったく気づいていなかった。

 「外してください。おトイレに行かないとホントに出ちゃいます」
 パティーは上級シスターに哀願したが、返事は冷たかった。

 「駄目よ、パティー。あなたのお腹には、今、邪な悪魔のエキスが
たくさん溜まっているの。それを綺麗に出すためには最低でも五分は
我慢しないと邪悪なエキスは出てこないわ」

 こう言うと、パティーもまた癇に障ったのだろう。それまで指の腹
で握っていた上級シスターの腕に爪を立てて強く握ると……
 「嘘よ!」
 と一声言い放った。

 しかし、これは……
 「ピシっ……ピシっ」

 上級シスターの往復ビンタとなって返ってくる。

 「小娘が生意気いうんじゃないよ」
 それまでとは違ってどすの効いた低い声が浴びせられる。

 パティーはそのひと声だけで、パティーは再び静かになってしまう。
 もとより爆弾を抱えている身のパティー。争えるはずがなかった。

 そんなパティーに上級シスターはさらに難題を突き付ける。
 「とても元気があり余ってそうだから時間は十分に伸ばしましょう」

 上級シスターは勝ち誇ったように罰の追加を決めると、今度は一転
してパティーやさしく膝の上に抱き上げる。

 「駄目よ、子供は子供らしく従順にしていなければ大人に可愛がら
れない。子供が大人に可愛がられないで得になることは何もないのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは上級シスターの胸の中でこうささやくのが精いっぱい。
 とにかくお腹の中は大嵐。いくらゴム栓をしているとはいえ、いつ
大爆発を起こすか、そればかりが心配だったのである。

 約束の十分間が過ぎ、パティーもやっと許される時がやってきたが、
個室のトイレは与えてもらえなかった。目の前にある大きな鏡の下に
ベッドパン置かれ、そこに上級シスターが両方の太ももを支える形で
パティーを空中に吊るす。
 なんのことはない赤ちゃんが用足しするのと同じ姿勢だ。

 「あああああああ」
 助手のシスターが黒いゴム栓を抜くと、あれこれ考える暇などない。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 自然に出てしまった悲鳴。大粒の涙が一筋二筋頬を伝い、当然、滝
のように流れ落ちる水様便のうんちも待ったなしにベッドパンを叩き
つけていく。

 せめてもの救いはこのみじめな姿を家族に見られていないこと。
 否、本当は見られていると知らされていないことだった。

 「ヒック……ヒック……ヒック……」
 大き目のベッドパンが半分ほど埋まって、パティーはようやく落ち
着いきを取り戻したようだったが、嗚咽は続き大きな赤ん坊はしばし
恥ずかしい部分を両親の目の前で晒して泣き続けている。

 屈辱は時計の秒針が文字盤を一周するほどには長くなかったはずだ
がパティーにしてみたら『永遠』と感じられるほど心に突き刺さった
に違いなかった。

 人形となったパティーは二人の助手に支えられ、いったんは部屋を
出てシャワー室へと向かう。
 すると、その間を利用して、上級シスターが私たち夫婦のいる隠し
部屋へと入って来る。

 「どうですか、まだお浣腸だけが終わったところですけど、もし、
ご不快なら向こうの部屋の机の位置などは変えることができますけど」

 上級シスターは穏やかに語りかける。
 私は、その時『そうしてください。これでは娘に見つめられている
みたいで私たちも辛いので……』と言いたかったのだが、母親の方が
私より先にシスターの提案を否定する。

 「結構です。娘のこうした姿を見るのも私たちの仕事ですから……
今のところ何も問題はありませんわ」

 機先を制した母親の言葉に私は自分の思いを飲み込むしかなかった。

 「前にも申しましたが、同じお仕置きを与えても、人によってその
衝撃度は違います。普段お子さんと接しているご両親が『これは傷を
深めて危険だ』と判断されたら、遠慮なくそこの赤いボタンを押して
ください。すぐに対処を変えますので……」

 「承知しました。ご配慮感謝します」
 母親は答える。
 私はこの時になって初めて、修道院側がなぜ私たちを呼んだのかを
知ったのだった。

 ******************************

<第二話/終了>

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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