2ntブログ

Entries

5/31 女の都 ~12~

5/31 女の都 ~12~

*)この項、まったくHありません。

 エレーナは長い廊下を戻る途中もキーウッド先生の腰を抱いて
離れません。それまでの辛い思い出を消し去るには、これが一番
よい方法だと知ってるみたいでした。

 「ほら、甘えないのよ。あなた、そんなに小さな子じゃないで
しょう」
 先生は腰を振ってエレーナを払い除けようとしますが、こちら
も笑っています。本気じゃありませんでした。

 こうしてじゃれて遊んでやることが、この子にとって何よりの
癒しだと先生も気づいていたからなのです。

 途中、図書室を通りましたが、すでに清書の時間は終わって、
部屋は空っぽ。みんなミサに行き、それも終わって、そろそろ朝
ごはんを食べに食堂へやってくる頃でした。

 「やったあ、今日は清書もミサもなしね。大ラッキーだわ」
 エレーナは喜びますが……

 「何言ってるの。お仕置き受けた子にそんな役得あるわけない
でしょう。バイブルの清書はもちろん、今日ミサで歌った賛美歌
も夜のうちに清書して提出するのよ」

 「なあんだ、やっぱりやるのか」

 「当たり前でしょう。お仕置きがあったからお勉めはしなくて
もいいってことにはならないわ」

 「ああ、また自由時間がなくなっちゃう」

 「仕方ないでしょう。あなたが悪いんだから……但し、オムツ
はもう脱いでもいいわよ」

 「えっ、いいの?」
 
 「だって、そんなの穿いてたら、蒸れてお尻があせもだらけに
なっちゃうわ。あなたが反抗的な態度ならこのまま着けさすけど
……」

 先生は腰にしがみついていたエレーナを両手でしっかり抱き上
げ、まるで赤ちゃんを高い高いであやすように、その身体を揺さ
ぶります。

 「あなた、これからいい子になるんでしょう?」

 先生とエレーナがにらめっこ。
 どちらもの笑顔でした。

 先生の顔より高い位置にいたエレーナが……
 「はい、先生。エレーナはこれからいい子になります」
 と答えて話は決まります。

 ただ、エレーナの本当の気持はちょっぴり複雑でした。
 『これってふかふかでけっこう気持いいのよね。ひょっとして
このままでもいいかな……なんてね』
 そんな思いも、心の片隅にあったみたいです。


 さて……
 エレーナはトイレでキーウッド先生からオムツを外してもらう
と、普段のショーツに穿き替えます。

 「ほら、今だって凄い汗じゃないの。こんなの一日じゅう穿い
てられないわ」

 あのトイレでは随分と恥ずかしい思いをしたエレーナですが、
こうしてキーウッド先生の前だと裸になってもさして恥ずかしい
とは感じません。

 それは、物心つく頃から先生がずっとお母さんの代わりをして
きたから。キーウッド先生というのはエレーナだけでなくクラス
メイト全員にとって『先生』と呼ぶ『お母さん』だったのでした。

 そんなエレーナがお母さんと一緒に食堂へと入ってきます。

 食堂は幼い子から高校生まで大人数が一堂に会しますすから、
女の熱気がむんむんと立ち込めています。それはとりもなおさず
女の子が『女』を営業している証でした。
 衣装、髪型、仕草、言葉遣い……相手を意識してはれるだけの
見栄をはって自分を高く見せようと競争しています。

 ところが、そんな争いにエレーナは参加しませんでした。
 ここでも彼女、先生の腰にしがみついてはさっきと同じように
甘えてみせます。ハズバンドが見つかったエレーナにとって女の
営業は必要ないことのようでした。

 女の都には、昔からお仕置きにまつわる不文律があって、罰が
終わった子は……『よく頑張りました』ということでしょうか、
しばらくの間、大人に甘える時間を与えられます。
 エレーナの今がそうでした。
 
 「ケイト、ご苦労様。慣れない仕事で大変だったわね。みんな
いい子にしてたかしら?」

 「してたよ。先生」
 先生はケイトに尋ねたのですが、グロリアがその中に入り込み
ます。

 「大丈夫です先生。みんな、とてもおとなしくミサに参列して
いましたから……」

 「ほらほら、抱きつかないのグロリア。あなたにやってあげた
ら、他の子にもしてあげなきゃならなくなっちゃうわ」

 「だって、エレーナは先生にくっついてるじゃないのさあ!!
……あっ、わかったわ、お仕置きされたからなんだ。ねえ、先生、
そうなんでしょう?……ねえ、エレーナ。サンドラのお婆ちゃん
から、あなたどんなお仕置きされたの?……お浣腸?……ねえ、
エレーナってばあ……あなた何されたのよ。やっぱり、お浣腸で
しょう」

 しつこく食い下がるグロリアに先生は一喝します。
 「グロリア、おやめなさい。食事の前ですよ」

 「は~い」
 口を尖らせ不承不承の返事を返したグロリアにキーウッド先生
は続けます。

 「エレーナはお仕置きなんて受けてません。シスターサンドラ
からご注意を受けただけだわ。お小言が長くなってしまったから
ミサにも出席でなくなったの。あなたのように見てもいないこと
を他へ行って言いふらすようだったら……あなたこそ、お浣腸の
お仕置き必要ね」

 「えっ!?……」
 こう言われてしまうと、グロリアだって二の句がつげません。

 「わかりましたか?」

 「は~い」
 グロリアは恐々答えるしかありませんでした。

 「いいわ、それで……覚えておきなさい。口は災いのもとよ」

 キーウッド先生は、このままほおっておけば、尾ひれがついて
どんどん広がってしまうグロリアの口害から、エレーナの名誉を
守りたいと考えたのでした。

 「エレーナ、あなた、私の隣にいらっしゃい。今日はあなたが
お姫様の席よ」

 先生のお隣はお姫様席と呼ばれ、本来なら先生の為に振舞われ
る料理をその席に着いた生徒も一緒にいただくことができます。
まさに特等席なわけですが……

 ただ、その席にエレーナが座れるというのは修道院学校の常識
としては、お仕置きが終わった直後だからに他なりません。
 『でも、たとえそれが分かっていても、他へ行っておしゃべり
してはいけませんよ』
 キーウッド先生はグロリアにそう諭したのでした。

 他人の名誉を守ってあげる思いやりは、修道院学校の美徳です。
でも、ともすれば女の子たちが忘れがちな美徳でした。

 では、エレーナの方はどう思っていたのでしょうか。

 自分がお姫様席にいることはお仕置きを受けたと宣言している
ようなもの。決して名誉なことではありません。これから先、口
さがないお友だちの陰口だって心配です。

 でも、今こうしてキーウッド先生から優しくしてもらっている
こと、自分を認めてもらっていることが彼女の支えでした。先生
との絆はこれから先の安心や励みに繋がりますから、彼女がこの
席を毛嫌いする理由もありませんでした。

 むしろ、この機会にエレーナは先生に甘えます。
 色んな料理を取り分けてもらい満面の笑みで舌鼓。場合によっ
てはスプーンで口の中まで運んでもらうことだってありました。

 「どうしたのポーラ?あなた、羨ましいのかしら?」
 先生は自分もそこに行きたいと言わんばかりのポーラに尋ねま
すが……

 「べつに……」
 彼女はそっぽを向いてしまいます。

 お仕置きの後大人たちがその子に優しいのは誰もが知っている
常識。でも、だからと言って、わざとお仕置きされようとする子
はいませんでした。

 それは小学生でも歳相応の矜持というものがありますし、お仕
置きの内容があまりに厳しくて、このくらいの役得では足りない
ということでもあったようです。

 でも、それでも……
 『私もお姫様席に行きたいなあ』
 ポーラがエレーナを見て憧れるのも事実でした。


 食事が終わり、他の子がすべて席を離れてから、先生はあらた
めてナプキンでエレーナの口元を綺麗にします。そして、自分の
目の前に立たせてからこう注意するのでした。

 「今日あなたは本来なら一日中着けてなければならないオムツ
を外してるけど、それは罰を免れたからじゃないのよ。罰を猶予
しているだけ。今日一日は、他の子だったら『いけませんよ』と
叱られるだけの場合も、あなたに限っては、最初からお尻叩きに
なります。……そのことは覚悟しておきなさいね」

 「……それって、他の先生もですか?」
 恐々尋ねると……

 「そう、他の先生も一緒。厳しいわよ。心してちょうだいね」

 「はい、先生」
 ちょっぴり緊張のエレーナ。

 「大丈夫、良い子にしてればいいだけよ」

 「はい、先生。大丈夫です」
 エレーナに笑顔が戻ると……

 「よし、良い顔になったわ。その調子で頑張ってね。それじゃ、
今度は国語の時間にまた合いましょうね」
 キーウッド先生はエレーナの心を解きほぐすように優しくハグ
して別れます。

 ここまでが、お仕置きを受けたエレーナの役得。
 これから先、彼女に特別な役得はありません。
 他の子と同じ。いつもの日常へと戻っていくのでした。

****************************

 <寄宿舎>
キーウッド先生
子供たち/ナンシー。ポーラ。グロリア。エレーナ。
エリザベス。ローラ。マリア。
図書室長/シスターサンドラ(お婆さん)

5/30 海草電車

5/30 海草電車

*)短編小説(読みきり)Hありません。ノーマルなお話です。

 ある秋の日のことです。
 その日は、朝からお母さんが何となくそわそわしていました。
 そして、朝ごはんを食べ終わると、お出かけの服に着替えます。
 いえ、お母さんだけじゃなく僕たち兄弟も一緒におめかしです。

 お母さんは言います。
 「今日は、来年入学する小学校にご挨拶行きますからね、二人
とも、お行儀良くしているのよ」

 というわけで、どうやらそのことで親子四人お出かけするみた
いでした。

 ま、理由はともかくお出かけは楽しいものですから、僕も弟も
大はしゃぎです。

 道端にタンポポが咲いていましたから……
 「これ、本当は春に咲く花なんだよ。こうやって秋に咲くのは
狂い咲きって言うんだ」
 僕はお兄ちゃんとしての威厳を弟に示します。

 もっとも、僕がお兄ちゃんと言っても弟とは生まれた日が同じ。
 つまり二人は二卵性双生児でした。

 ただ、世間が僕のことを「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」とちや
ほやするもんですから…僕の方が誤解して、
 『この子(弟)は僕が守ってあげなきゃいけないんだ』
 なんてお兄ちゃん風を吹かせるようになっていたのです。

 実は、二人に能力の差はほとんどなくて……知識や計算は僕が
……芸術的な才能はあっちゃん(弟)の方が、ほんのちょっぴり
優れていました。(と、大人の人たちが言っていました)

 次に僕たちは、空に浮かんだ雲を見て議論します。

 「ねえ、あの雲、鉄人28号に見えないか?」
 「嘘だよ、ピエロだよ。玉乗りしてるもん」
 「どこが玉乗りだよ。違うよ、あれ、地球だよ」
 「そんな小さな地球があるわけないじゃん」

 とまあ、こんな感じで道々口げんか。
 でも、僕はあっちゃんの保護者きどりだし…あっちゃんも僕の
ことは「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」って慕ってくれていました
から、二人は普段とっても仲よしでした。

 四人の小旅行は、電車に乗って二十分。歩いてやっぱり二十分。
 やっとこさ、目的の小学校へ着きます。
 校庭ではすでに大勢の子供たちが遊んでいました。

 やがて見知らぬ先生がやって来て、その子たちとボール遊びを
しましょうとか、お部屋の中でお絵描きをしましょうなんて言っ
てきます。
 お父さんお母さんはどこかで先生方とお話し合いしてるみたい
でどっかへ行ってしまいましたが、子供たちの周りにもたくさん
の先生がいらっしゃったので特別心配もしませんでした。

 と、そんなこんながあって……今度は、僕だけが他の数人の子
と一緒に先生に呼ばれます。
 何だろうと思って先生と一緒に着いて行くと、ほかの子たちと
並んで椅子に座らされました。

 「お名前は?」
 「お歳は?」
 「どこの幼稚園ですか?」
 「お父さんのお名前を知っていますか」
 「お母さんのお名前を知っていますか
 「今日はお家からどうやってここへ来ましたか?」
 誰に対しても同じことを聞いていきます。

 ほかの子は……
 「朝比奈敦子」
 「6才」
 「小鳩幼稚園」
 「朝比奈宗雄」
 「朝比奈敬子」
 「お父さん、お母さんと一緒にバスに乗って来ました」
 と、まあだいたいこんな感じで答えていくのですが……

 『なあんだ、家族を自己紹介すればいいんだ』
 僕は今起こっていることをこんな風に解釈しました。

 『それならそうと言ってくれればいいのに一つ一つきく事ない
じゃないか』
 そんな光景を目の当たりにしていると、僕の頭の中には尋ねて
くる先生に向って話したいことがたくさん出てきてしまいます。

 もちろん、色んなことが頭の中に湧き上がったとしても、それ
を話さなければいいだけのことなんですが、因果なことに、当時
の僕にはそれができませんでした。
 思いついたことは全て話さないと気がすまなかったのです。

 そこでは一問一答なんて形式は無視。
 「僕の名前は倉田勉。弟は篤。お父さんは倉田弘治。お母さん
は倉田花枝。僕は6才、弟も6才、二人は二卵性双生児なんだ。
5月16日がお誕生日だからその日が来ると二人とも7才です。
お父さんは38才、お母さんは28才。通ってるのは天使幼稚園。
お庭に大きなクリの木がある幼稚園だから、港町に来ればすぐに
わかるよ。今は栗のイガイガを踏んじゃうから近く行っちゃいけ
ないって先生に言われてるんだ。あ、そうだ、今日のことだよね。
今日はね、朝からお母さんの様子が何だかおかしかったんだ。何
だかそわそわしてたもん。そうだ、ここへ来る途中、タンポポが
咲いてたよ。珍しいでしょう。だから、あっちゃんに教えてあげ
たの。これは『狂い咲き』だよってね。そうそう雲も出てたよ、
綺麗な白い雲。あっちゃんはね、あれがピエロに見えるって……」

 立て板に水で、余計な情報満載の一人トーク。しかも、僕の番
だと思って勝手に話し始めるもんだから、周りの先生もあっけに
取られてお口あんぐりだったみたい。
 ただ、僕の方はやっとおしゃべりができて上機嫌だった。
 
 当然、「やめさせましょうか」という話が出たんだけど、当時
の校長先生がとても良い人で「もうしばらく聞いてみましょう」
ということになったみたいで……(僕はそんな事情知らなかった)
僕は延々話し続けちゃう。

 しかも、そのうち自分で自分のお話に酔ってしまい、だんだん
と『ため口』で話すようになります。

 で、そんな僕の無駄話が、やっと家の近くの駅から電車に乗る
という段になって、問題が生じるのでした。

 このあたりまで来る頃には僕は周りことなんて無視。とにかく
思いついた事は全部話さなきゃって、そればかり考えていたみた
いでした。
 大げさな身振り手振りを交えて、ため口で得意げに大演説です。

 「電車がホームに入ってきたんだけどさあ、これが回送なんだ
よね。がっかりしちゃった。せっかく特急が来たと思ったのに…」
 と、この言葉が問題でした。

 きっと、身振り手振りを交えて必死に話しているもんですから、
先生には僕の手の動きが海の中で昆布が揺らいでいるように見え
たんじゃないでしょうか。
 先生が、思わずこう言ってしまったのです。

 「電車のホームに海草が生えてたの?」

 「ん????」
 さすがの僕も言葉に詰まりましたね。
 最初は何の事だか、僕にもわかりませんでしたから。
 でも、それが思い違いだと分かると、今度はこう言っちゃった
の。

 「先生、ホームに海草が生えるわけがないじゃない。しょうが
ないなあ。回・送・電車。お客さんを乗せない電車があるだろう。
知らないの?そんな事も知らないんじゃ、世間の人に笑われるよ」

 もう完全なため口です。
 でも、この時笑われたのは、先生じゃなくて僕。
 場内大爆笑でしたから……

 何しろ、これから教えを請おうという先生に向って、つい最近
世の中に出てきたばかりの幼稚園児が世間まで持ち出して諭すん
ですからね、大人たちはこれを笑わずにはいられなかったみたい
です。

 「えっ、何????」
 どっと湧き起こった笑いには僕だって動揺します。
 きっと、どんな漫才のネタより面白かったかもしれません。
 お父さんもお母さんもその瞬間は卒倒寸前だったそうです。

 「えっ、まずい????」
 僕は、ここへ来て初めて自分がまずいことをしていると気づき
ました。

 だからその後はお友だちを見習って簡単に済ませたんですけど
……僕の顔と名前は先生方の脳裏に強烈に残ったみたいでした。


 親子四人での帰り道、お父さんはいつになくニヤニヤ笑ってい
ますし、お母さんは明らかに怒ってます。あっちゃんだけが慰め
てくれました。

 木枯らしの吹くよく晴れた秋の一日。
 今でもその日のことはよく思い出します。


**************************

5/23 女の都 ~11~

5/23 女の都 ~11~

*)これは作者が自身の楽しみのために描く小説です。

 ケイトはなかなか寝付かれませんでした。
 慣れないベッドのせいもありますが、修道院の朝は4時に起き
なければなりません。普段そんなに早く起きたことのないケイト
にしてみたらプレッシャーです。

 それでも、いつの間に寝てしまい、気がつくと3時半。
 これから寝ていたら寝過ごしてしまうと考えた彼女はこのまま
起きてしまおうと決断したのでした。

 すると、微かにですが人の声がします。
 『なんだろう?』
 気になったケイトが声の方を目指して廊下を歩いていきますと。

 『なあんだ、そういうことか……』
 話し声は昨夜キーウッド先生が子供たちの勉強を指揮していた
司令室から。
 そこでは、昨日の夜、勉強中に眠りこけてしまったポーラが、
椅子に腰掛けた先生のお膝に抱っこされて、マンツーマンで勉強
をみてもらっていたところだったのです。

 もちろん、朝早く叩き起こされたポーラは大変でしょうけど、
キーウッド先生の場合は、ご自分の責任でもないことでの早起き
なんですからもっと大変です。

 でも、キーウッド先生に限らず、修道院の先生たちは子供たち
に対してどなたも愛情深く献身的でした。

 見れば、ポーラもまるで赤ちゃんのように甘えて見えます。
 その様子はまるで親子。

 厳しいお仕置きだってたくさんありますが、こんな光景を見て
いると『ポーラは幸せね』と感じられるのでした。

 『女の子は何をされたかではなく、誰にされたかが問題』
 ケイトはこの言葉を思い出していました。


*************************

 朝4時きっかり、係りのシスターがハンドベルを鳴らして中庭
を回ります。
 決して大きな音ではありませんが、公式な目覚まし時計はこれ
だけでした。

 あとは、友だちが起こしてくれます。
 でも、誰もが素早くベッドから出られるとは限りませんでした。

 「わかったわよ、今、起きるから大丈夫よ」
 エレーナはハエでも追うようにナンシーの手を払い除けます。

 でも、完全に起きることはできませんでした。いったん起きて
も、また頭が枕に着いたとたん意識が遠のいていきます。きっと
昨日の夜が楽しくて疲れてしまったんでしょう。

 「ほんと、起きなさいよ」
 捨て台詞を残してその場を離れます。
 本当はナンシーだってもっと真剣に友だちを起こしたいところ
でしょうが、自分だって色々とやることがあります。ですから、
そう長くその場に留まることはできませんでした。

 裸の素肌にバスローブだけを羽織りクラスメートたちは洗面所
へ……
 顔を洗い、髪をとかし、歯を磨いて、髪飾りを決めたりコロン
を振ったもします。もちろんおしゃべりは必需品ですし、朝です
から用をたす子も……お化粧はしませんが、女の子はいったん人
前に出るとなったら短い時間にやることがたくさんでした。

 そんな一通りのイベントが終わってからナンシーが部屋に戻る
と、エレーナがまだベッドの中にいます。

 「何やってるの、図書室に遅れるわよ」
 マリアの二度目の警告で、エレーナはやっと目が覚めたみたい
でした。
 ですが、その時はもう身繕いなんてやってる暇がありません。

 ですから今朝の身づくろいは省略。若いシスターがすでに部屋
の隅で配り始めていた見習い用の法衣を、お友だちと同じように
列に並んで受け取るとそれに着替えて自分も図書室へと向います。

 エレーナにしてみれば顔は洗わなかったけど、法衣をもらえた
ことだし『これでよし』だったんでしょうが、彼女、一つ大事な
ことを忘れていたのでした。


 図書室には、一日でこの瞬間しか顔を合せないシスターたちが
いまいした。彼女たちはシスターキーウッドのように先生を兼務
していませんから、とても厳かな顔をしています。
 子供たちにしてみたら『偉いんだろうなあ』って思える人たち
です。

 図書室の管理を任されているシスターは神様にお仕えしている
わけですから、もともと心根の曲がった人たちではありません。
穏やかな所作、穏やかな物言い、大人が見ても十分立派に見える
人たちです。
 ただ、そのあたり、あまりに立派過ぎて、小学生にしてみると、
ちょっぴり融通のきかない人たちでもありました。

 さて……
 この図書室で子供たちは与えられたバイブル一節を清書します。

 もちろんかつては宗教的な教義を覚えさせるという意味が中心
だったのでしょうが、今は朝の時間を使って普段から綺麗な字が
書けるように練習させるのが目的。ワープロはあっても、綺麗な
字は女の都のたしなみ。子供たちは大人たちから機会を見つけて
は活字のような綺麗な字が手書きできるように訓練させられるの
でした。


 簡単な礼拝の後、子供たちはそれぞれに与えられたお手本を元
にバイブルを書き写します。

 いわば写経と同じようなことをしているわけで、子供には結構
きつい日課です。単純作業に弱い男の子だったら、あくび連発、
途中で隙をみて逃げ出す子だっているかもしれません。

 でも、ここは女の子の世界、お腹の中ではぶつくさ思っていて
も、大人たちが決めたことにはちゃんとお付き合いします。
 女の子にとっては人生のほとんどがこのお付き合いでした。

 お付き合いのために眠い目をこすりながら部屋に入って来たエ
レーナ。彼女だって他の子と何ら変わらなく作業していたのです。

 ところが……
 しばらくしてから、あるシスターが意地悪な物を図書室に持ち
込みます。
 これが彼女の朝を大きく変えることになるのでした。

 持ち込まれた物はお目付け役のシスターたちの間で話題になり、
やがて、エレーナの席へと若い一人シスターがやってきます。

 「エレーナちょっとペンを止めてね。……図書室長のシスター
サンドラがあなたに御用があるそうなの。ちょっとお隣の部屋へ
来ていただける」

 若いシスターは相手が子供でもとても丁寧に応対します。
 それは聖職にある者のたしなみ。

 もっとも、どう対応してもエレーナが「嫌です!」と言うこと
だけはありませんでした。
 答えは決まっていたのです。

 「はい、シスター」
 エレーナは楚々として席を立ちます。

 こうした席ではそのように振舞わなければならないと躾けられ
ていたからです。
 ただ、図書室や教室でこうして席を立って隣の部屋へ行く時、
それが生徒にとって好ましいことだったり誇らしいことだったり
することはまずありませんでした。

 声かけはもちろん、みんなが知らんぷりをして、さもエレーナ
が席を立ったなんて気づいていないとばかりに、もくもくと清書
作業を続けています。

 そんな中をエレーナが通り過ぎていきますが、でもエレーナの
ことは誰もが気にしていました。

 『さっきシスターが持ってきたバスローブ、あれってエレーナ
のじゃないかしら』
 『やばいなあ、彼女一度も袖を通さないでベッドに置いてきた
のね』
 『ばかねあの子、ささっと一度着てすぐに脱げば5秒とかから
ないのに』
 『慌てるから、そんなことになるのよ。きっと昨日ナンシーと
楽しみ過ぎたんだわ。自業自得ね』

 クラスメートたちは自分のおなかの中だけで色んなことを思い
ます。
 それは表向きお友だちのエレーナを心配しつつ、心の裏側では
これから始まるショーを色々想像しては、独り物思いにふけるの
が女の子の習性です。
 もちろん、何一つ顔色は変えずに、一瞬たりとも手も休めずに
……です。


 エレーナが若いシスターに連行されて隣りの部屋へ行くと……
そこにはクラスメートが心配していたバスローブがありました。
 要するにお友だちが心配していた通りの展開だったわけです。

 「エレーナ、こちらへいらっしゃい」
 図書室長のシスターサンドラがエレーナを呼び寄せます。
 エレーナにしてみたら、こんな場面、そりゃあ行きたくありま
せんが、行かないわけにはいきませんでした。

 恐る恐る近寄ると……
 お婆さんシスターはいきなり法衣からタオルを取り出して……

 「じっとしてなさいね……ほら、ほら、あなた、こんな大きな
目やにがついてるわ」

 お婆さんシスターはそのタオルでエレーナの目やにを取り除き
ます。
 でも、もちろんこれが目的で呼んだわけではありませんでした。

 「エレーナ、あなた、今日はお顔を洗いましたか?」

 「……えっ……」

 「実はね、あなたのベッドにまだ袖を通していない洗い立ての
バスローブが置いてあったの。……あなた、まさか裸で洗面所へ
なんか行かないわよね」

 そう、これが目的なんです。

 「……!……」
 エレーナは一瞬『やばい』と思いました。思いましたけど、今
になっては後の祭りですから……

 「ごめんなさい、今日はまだ顔を洗ってません」
 こう白状するしかありませんでした。
 
 「そう、やっぱりそうだったのね。……今朝は、どうしたの?
眠たかったのかしら?……」
 シスターサンドラは余裕の表情です。
 続けて……

 「でも、身だしなみは大切よ。特に神様の前に出る時は寝起き
の顔ではいけないわね。顔を洗い、髪をとかし、洗濯した清潔な
衣服を身につけていないといけなの……それは習ったでしょう?」

 お婆ちゃんシスターの言葉はとても穏やかで、エレーナを威圧
するような素振りはまったくありませんでしたが……

 「はい、シスター」
 エレーナはそう答える間も辺りをキョロキョロ。お仕置きされ
るんじゃないかという恐怖心から落ち着かない様子でした。

 「それでは、まず顔を洗いましょうか。そこのテーブルに水を
はった洗面器があるからお顔を洗いましょう」

 「はい、シスター」
 エレーナは心細げに答えて洗面器の水で顔を洗います。
 洗面所と違って水をバチャバチャ顔に掛けられません。そうっ
と、そうっと顔に水を掛けて、床が濡れないように気を使います。

 「あらあら、上手じゃない。レディーはお部屋の中でもお顔が
洗えるようにならなければならないけど、あなたはすでに合格ね」

 シスターサンドラに言われてホッと一息。
 このあとエレーナは、この部屋の中で髪をとかし、歯を磨いて
みせます。これも問題はありませんでした。
 ……でも、問題はこれからだったのです。

 「さてと……これで首から上は綺麗になったけど……せっかく
だから、身体全体綺麗にしてみましょうか」

 お婆ちゃんシスターの何気ない一言。そこからエレーナの苦難
が始まるのでした。

 「そうね、まず、着ているその法衣を脱ぎなさい。ついでに、
沐浴しましょうか。……そうだわ、あなた、今朝は朝のお勤め、
まだ済ましてないんでしょう」

 「…………」

 「だったらそれも一緒にやってしまいましょう」

 シスターはまるで事のついでにとでもいった感じで朝のお勤め
なんて言い放ちますが、この『朝のお勤め』実は修道院の隠語で
トイレのことです。

 朝のトイレを済ませていなければ、次はお浣腸。
 大人たちは乱暴に権力を行使します。
 それはエレーナにしてみたら、それまでとは比べ物にならない
ほど大変なことでした。

 「えっ!?」
 エレーナは思わず法衣の襟を握りしめてしまいます。

 それは思春期の入口に立つエレーナにしたら当然の反応。でも、
大人たちにしてみたら、それも小娘の命令拒否と映ってしまうの
でした。

 「どうしたの?驚くことないでしょう。私たちの前で裸になる
のがそんなに嫌なの?」

 「いえ……」
 深い皺をさらに深くして微笑むシスターに、エレーナは言葉を
濁しますが……

 「だって、あなたが清書するバイブルはマリア様への捧げもの
なのよ。心や身体に汚れや穢れは一切あってはならないわ。綺麗
な上にも、綺麗にして、心を込めて書かなければならないの……
わかってるわよね」

 「はい、シスター。教わりました」
 女の都は年功序列の縦社会。長老シスターに言われると、結局
エレーナもそれ以上反論できませんでした。

 「そこのテーブルに仰向けに寝てごらんなさい」
 シスターはエレーナにはこう言い。
 振り返って、若い助手のシスターには……
 「お浣腸を出してきて」
 と命じます。

 『仰向け……』
 その言葉がエレーナの脳裏を支配します。

 もちろんお浣腸は嫌に決まっています。お尻の穴を見せるのは
たとえ小学生だってとっても恥ずかしいのですから。
 でも、仰向けになるともっと深刻な問題がありました。

 うつ伏せや四つん這いと違い、仰向けになって両足を高く上げ
ると、自分の大事な処が全部丸見えになってしまいます。

 そこで……
 「四つん這いじゃだめですか?」
 心細く訴えてみたのですが……

 「だめよ」
 あっさりとガラス製のピントン浣腸器を手にした若いシスター
に退けられてしまいます。
 彼女はこう言うのでした。

 「あなたは頭のいい子だもの。分かってるでしょう。シスター
サンドラは直接おっしゃらないけど、これはあなたへのお仕置き
なの。『恥ずかしい思いをしたくない』なんて、あなたの方から
は言えないわ」

 エレーナは唇を噛むしかありません。
 そんなエレーナに無慈悲な声が飛びます。
 「さあ、準備して……」

 「…………」
 従うしかありませんでした。

 仰向けになったエレーナの短いスカートの中に若いシスターの
手が無遠慮に入り込み、ショーツが引きずり出されます。

 「…………」

 両足が跳ね上げられて、エレーナの隠しておきたい場所は全て
白日の下に晒されます。それでも悲鳴はあげませんでした。

 と、ここで、追い討ちをかけるようにお浣腸を手伝っていた別
のシスターの声が……
 「あら、あなた、このショーツシミがついてるけど……下着は
毎朝、ちゃんと取り替えてるんでしょうね」

 エレーナはもうこの場から消えてなくなりたい思いでした。

 「どうれ、見せてごらんなさい」
 ここでもお婆ちゃんシスターがでしゃばります。

 答えは簡単でした。
 「あなた、下着も昨日のままなの。呆れたものね。これじゃあ、
マリア様でなくても私だって嫌よ」

 図書室長としての怒りは当然厳しいお仕置きの上乗せとなって
表れます。

 「ああああああ」
 50ccお薬がエレーナの肛門から直腸へと流れ込みますが、
問題はこの後でした。

 「シスターレーナ、この子にオムツを……」
 
 図書室長の声がエレーナの頭の中で再びガンガンと響きます。
 『嘘でしょう!そんなのイヤ!』
 エレーナの脳裏に、かつてオムツをされ、べっちょりと汚れた
オムツを先生に取り替えてもらった日の様子がフラッシュバック
しました。

 「いや!いや!いや!やめて~!だめえ~~!オムツいや~!」
 もう、たまらず声が出ます。
 後先考えず必死でした。

 「いやいやいや、だめだめ、オムツしないで、ごめんなさい。
もうしませんから、オムツしないで、おトイレ行かせて~~~」
 
 エレーナは興奮してお婆ちゃんシスターに頼み込みますが……

 「ほらほら、そんなに大声を出さないの。そんな声をだしたら
ここで何されてるか向こうの部屋のお友だちに分かっちゃいます
よ。そんなに嫌なら、これからはちゃんと身づくろいをしてから
ここへいらっしゃい。特に昨日の下着はだめです。いいですか?」

 「は、はい、シスター」
 エレーナは許してもらえれることを期待してそう答えたのです。
ところが……

 「そう、わかってくれたら嬉しいわ。では、これからは間違い
のないようにしましょう。でも、今日はオムツになさい。あなた
みたいにだらしのない子は、自分がどれほどだらしのない人間か
を、実際、自分の目に焼き付けておいた方がいいわ」

 「ええええっ……」

 「だらしのない子には自分のだらしのない姿を…ハレンチな子
には自分のハレンチな姿を見るのが一番の効果的なの」
 お婆ちゃんシスターがこう言っている最中にもエレーナのお股
は若いシスターによって閉じられていきます。

 『あああ、だめえ~~~』
 エレーナは閉じられていく自分のお股を眺めるしかありません。

 女の都のオムツは貞操帯と同じ。一度装着したら自分では脱ぐ
ことができませんでした。

 それから1分としないうちに……
 「ああ、だめえ」
 お薬の効果はてきめんです。エレーナのおなかは一刻の猶予も
ならないと告げていました。

 エレーナは慌てて起き上がります。
 いつもそうしているからです。そうやってトイレへ駆け込んで
るからです。でも、今回はそのいつもやってることができません
でした。

 「あっ、どいて」
 立ちはだかる若いシスターの肩を払い除けてテーブルから飛び
降りようとしたのですが、逆にその身体はシスターに抱きかかえ
られてしまいます。

 「いやあ、やめてえ~どこへ行くの!トイレ、トイレ、トイレ
へ行くの」
 エレーナはできる限り若いシスターの胸の中で暴れます。

 でも、どうにもなりませんでした。
 エレーナは11歳、幼児じゃありませんから本当はもっと強い
力で暴れることだってできたはずなんですが、でもそんなことを
したら、信じられないほど恥ずかしいことが起きてしまいそう。

 抵抗するにも、おのずと限界があったのでした。


 シスターがエレーナを抱いて連れて来たのは『トイレ』
 いえ普段使っているトイレではありません。こうしたお仕置き
のために使われる特殊な『トイレ』でした。

 シスターに抱かれて入った部屋は薄暗く、四畳半ほどの広さの
中に家具とわかるのは粗末なベッドだけ。

 最初何もないように見えた部屋ですが、目が暗がりに慣れると、
部屋の奥、その壁の高い処にマリア様の肖像が掲げられているの
がわかります。
 そして、その真下には二本の平たい板が渡してありました。

 「さあ、着いたわ。もう大丈夫よ。……まずはそこの板の上で
膝まづくの……足を踏み外さないようにしてね」
 エレーナは若いシスターから身体を下ろされると、その二枚の
板に片膝ずつ着いて股がるように命じられたのでした。

 『何なのこれ?』

 訳がわからぬまま……いえ、分かったところで、すでにお腹が
切迫していますから逃げ出したりはできないのですが……今度は
両手を皮のベルトで固定されてしまいます。

 『いやあ、何するの!?』
 青ざめるエレーナ。でも、抵抗はできませんでした。
 だってその場を離れることさえままならないほど彼女のお腹は
切迫していたのですから……

 おかげでエレーナの身体は若いシスターのなすがまま。まるで
マリオネットの人形のようです。戒められた両手が空中へ上がっ
て行ったとしても、エレーナは何もできませんでした。

 両手に連れて上半身も立ち上がり、まるでバンザイをするよう
な姿勢で膝小僧から下がその二枚の板に着いています。

 そんな姿勢にさせておきながら、若いシスターが放ったのは、
冷たい一言でした。

 「これでおトイレの準備ができたわ。いいわよ、やってちょう
だい」
 若いシスターは、この姿勢のままでエレーナにウンチをしろと
いうのです。オムツを穿いたこの姿勢のままで……

 「えっ!?」
 訳がわからず狼狽するエレーナ。でも、その顔には絶望と深い
悲しみの表情が宿っていました。

 「できません」
 勇気を振り絞って訴えてみたのですが……

 「そんなことないでしょう。赤ちゃんの時は、みんなオムツに
してたのよ。今さらできないわけがないんじゃなくて……」

 「…………」
 エレーナは反論したかったのです。『赤ちゃんの時と今は違う』
と……でも、それさえできないほど事態は切迫していました。

 「助けてください」
 か細い声がやっとの思いでプライドを捨てて若いシスターの耳
に届きます。
 ですが……

 「だめよ、やることやらなきゃ、許してもらえないわ。マリア
様の前で大恥をかくことが、目下のあなたの仕事なの」

 「そんなあ~~~そんなことしたら、わたし死んじゃいます」
 荒い息の下でため息が渦巻きます。

 「オーバーね。大丈夫よ、こんなこと、あなただけじゃないわ。
あなたよりもっとお姉さんになってもやらされてる子がたくさん
いるんだから」

 若いシスターの言葉はエレーナには何の励ましにもなりません
でしたが、シスターは続けます。
 
 「ほら、前の壁、見ててごらんなさい」

 彼女はそう言うと……エレーナの目の前にある壁にスライドを
映してみせます。
 それはこの寄宿舎学校の子供たち。エレーナと同じように両手
を縛られマリオネットの人形となって苦悶の表情を浮かべている
スチールです。
 一枚二枚じゃありません。それが何十枚もあるのでした。

 「ええええええええ」

 「ね、こんなこと、あなただけじゃないでしょう。どうかしら、
お友だち、見つかった?」

 若いシスターの言葉はとても聖なる世界のものとは思えません。
どこか悪魔チックに聞こえます。
 でも、これでエレーナはおとなしくなったのでした。

 女の子というのは、『こんな非道なことを…』とは思いつつも、
『自分だけじゃないんだ』という安心感の方が頭の中を強く支配
しますから、お仕置きを受けて興奮する子をなだめるには『ほか
の子も同じよ』と訴えるのは意外に効果的だったです。


 「さあ、いいかげん、あなたも観念なさい」
 今度はこう言って若いシスターがエレーナの方へと近寄ります。
 仕方のない時間はもう目の前でした。

 すると、そこへ図書室長のお婆さんシスターが現れます。

 「どうですか?……終わりましたか?」

 「あっ、すみません、すぐに済ませますから……」
 突然の来訪に驚いた若いシスターがエレーナに取りすがろうと
しますが、シスターサンドラはそれを制します。

 「あら、まだなの?……エレーナちゃんは随分、頑張り屋さん
なのね……いいわ、私がやりましょう」

 彼女はエレーナの前に同じように膝まづくと、その下腹をなで
始めます。すると、もう数秒で……

 「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 堪えに堪えていたお腹が一気に開放されてしまいます。

 ぐったりした身体、僅かに立ち上る臭気。
 エレーナの変化はあえて確かめなくても誰の目にも明らかです。
そして、しゃくりあげて泣くエレーナが少しだけ落ち着きを取り
戻したのを見計らって、シスターサンドラはこう言うのでした。

 「大丈夫、大丈夫、泣かなくていいの。ここはお外の世界じゃ
ないの。ここはあなたが生まれた処、育った処、あなたは、まだ
揺りカゴの中にいる赤ちゃんなんですもの。……ここであなたが
どんな格好をしていても、誰もあなたを責めないし傷つけないわ。
……だから、『こんな事して恥ずかしい』って思ったら、今から
改めたらいいの。ここを出て、大人になった時に恥をかかない為
に、ここで色々と恥をかいたらいいのよ。あなたはまだ小学生、
お漏らしの一つや二つ経験しても誰も驚かないわ」

 お婆ちゃんシスターはそう言いながらエレーナのオムツに手を
かけます。若いシスターが気がついて慌てて止めに入りましたが、
……

 「大丈夫よ。このくらい、私だってまだできるわ」
 そう言って、エレーナが着けていたオムツを処理し、自らの手
で汚れたお股を……いえ、頭の天辺から足のつま先までシャワー
で綺麗に洗うのでした。

 シャワーの水圧と老婆のガサガサした手。二つのの刺激がまだ
両手を拘束されたままのエレーナに襲い掛かります。

 「いやあ、恥ずかしい。やめてえ~~」
 くすぐったいエレーナはたまらず身体をよじりますが……

 「ほらほら、もう少しの我慢よ。静かにしてなさい。この二枚
の板の下は深い深い穴になってるの。もし落ちたら、あなたは、
ウンコまみれ。助け出されてもしばらくは匂いがとれないから、
それこそ、大恥かくことになるわよ」

 シスターサンドラに注意されてエレーナもさすがにおとなしく
なります。

 このお仕置きは、お浣腸を我慢したり、オムツにお漏らしする
だけじゃありません。その後、体を綺麗にしたり新しいオムツを
はめさせられたしたりするところまで、そのすべてが恥ずかしい
お仕置きで構成されていたのでした。


 その締めくくり、真新しいオムツをはめられたエレーナの処へ
キーウッド先生が迎えに来ます。
 すると、その顔を見たとたんエレーナは恥も外聞もなく先生に
抱きつきます。
 それはまるで幼子のよう……困った先生が……
 
 「どうしたの?そんなに甘えて。……私にそんなに甘えても、
罰は軽くならないわよ。……今日は一日オムツ姿。これから先、
ちょっとでもおいたをしたら即、お尻むき出しでお尻叩き。……
『今日はしっかり辱めてくださいね』ってシスターサンドラから
言われてるの。私だって容赦しませんからね。……いいわね」

 キーウッド先生からは、かなり厳しいことを言われたはずなの
ですが、エレーナはそれでも先生の腰に抱きついくと笑顔で甘え
続けてしまうのでした。


***************************
 
<寄宿舎>
キーウッド先生
子供たち/ナンシー。ポーラ。グロリア。エレーナ。エリザベス。
ローラ。マリア。
図書室長/シスターサンドラ(お婆さん)

5/25 母との睦みごと

5/25 母との睦みごと

*)エッセイ(?)


 これ、小学校時代のぼくとお母さんが一緒のお布団で寝る時の
会話例。ぼくの場合は極端だけど……当時は小学校時代を通して
お母さんと一緒のお布団だった子は珍しくなかった。
 だって、僕の友だちたいていそうだもの。

 以下の会話は、あまりに馬鹿馬鹿しくて読むに値しないけど、
お布団の中での睦みごとは僕にとっては大事なひと時。愛なんて
所詮は本人同士の問題で、他人の目からは、馬鹿馬鹿しい行為に
しか映らないものなんだと思います。


 お仕置きのあとで……

 「あなたはまだまだ私の赤ちゃんなのよ。……だからお仕置き
さえ受けたら何でも許されちゃうの。…ん?…こういう抱っこは
嫌い?」

 「嫌いって……べつに嫌いじゃないよ。おかあさんだから……」

 「だったら、お母さんのお言いつけをきいて良い子でいてね」

 「うん」

 「うんじゃなくて、『はい』って言ってちょうだい」

 「はいお母さん」

 「よち、よち、……どうかしら?頭なでなで……お尻よちよち
……こんなことされると、まだまだ気持いいでしょう?」

 「うん」

 「だったら、やっぱり、あなたは私の赤ちゃんじゃない」

 「ぼく、赤ちゃんなの?おむつなんてしてないけど……」

 「そりゃそうよ、五年生にもなってオムツをする子なんていな
いわ。でも、あなたはずいぶん大きくなったつもりでいるけど、
私から見れば、おむつをしていた時と何にも変わらない赤ちゃん
なの」

 「ふうん……」

 「あなたが噛んだ感触が私のおっぱいにまだ残ってるもの」

 「ぼく、そんなことしたの?」

 「したわよ。あなたが覚えていないだけ。……二の腕だって、
もの凄い力でしがみ付くから痣ができて大変だったんだから……
でも、顔を見るとあなたはいつも幸せそうに笑ってた。だから、
お母さん、いつも幸せだったの……ほら、もう一度笑ってごらん」

 「へへへへへへ」

 「『はい、お母さん』って、もう一度言ってごらんなさい」

 「はい、お母さん」

 「よし、よし、いい子いい子。それでこそ、あなたは私の子よ。
あなたのことは、仏様お地蔵様マリア様、その他世界中の色んな
神様に何度も何度も頼んであるの。だから、必ず幸せになれるわ。
何より、こうしてお母さんの愛の中にいるんだもの。少しぐらい
お手々をパタパタあんよバタバタさせても大丈夫なの。お母さん
の愛の中からはみ出ることなんてないわ。不幸になんてなるはず
ないもの。……ん?……違う?」

 「違わない」

 「お母さんにはおんもで言うような難しいことは言わないでね。
お母さんには、こうしている時に『お母さん、大好きです』って
言ってくれたらそれでいいの。わかった?」

 「はい、お母さん」

 「よし、それでいいわ。私にはわかるのよ。あなたがどんなに
一日じゅうはしゃいでいても、夜になれば、必ず私のオッパイの
中へ戻ってくるって……ね、やっぱり私のこと好きなんでしょう?」

 「うん」

 「よし、じゃあ、私もあなたを、いつまでも『よい子良い子』
してあげられるわ。……頭なでなで、お尻よちよち、お背中トン
トン、あんよモミモミ、ほっぺスリスリ……ん?…どうですか?
……嬉しいですか?」
 
 「うん、いつもの事だもん、嬉しいよ」


 ぼくの小学校時代ってこんな感じ。
 その寸前まで、どんなにきついお仕置きされてても、寝る時は
恥も外聞もなくお母さんに抱かれるままに身を任せて、オッパイ
に顔を埋めて毎日毎晩一緒の布団で寝てたんだ。
 精神的な自立なんてまだ先のこと。口の悪い人は、『それって、
親に手込めに合ってるってことじゃん』なんて言うけど、当人は、
たとえ赤ちゃんごっこだったにしても、極めて幸せな時間だった
んだ。ホントだよ……

*********************  

5/20 女の都 ~10~

5/20 女の都 ~10~

*)作者独自の世界観が色濃い作品。Hはちょっぴりです。

 湯船で立ち上がった二人の割れ目からキノコがはえているので
す。

 「……(どうしたのよ、これ?)」
 ケイトは思わずその思いを口にしようとしてやめてしまいます。
キーウッド先生から聞いた両性具有の話を思い出したからでした。

 『そうか、これが、そうなのね。さっきまで何もなかったのに
いきなり現れるんだもの。そう言えば、お母さんから聞いたこと
がある。王子様のそれって、女性では想像できないくらい大きく
なるって……あの子たちも、きっとそうなったんだわ』

 ケイトは目のやり場に困って一瞬視線をはずしてしまいます。
 ところが心を落ち着けてもう一度それを見てみようとしました
ら、その時はすでに小さな谷間に格納されてしまって二人の物は
見えません。

 『まるで、魔法みたいね』

 狐につままれたような顔のケイトの背後でキーウッド先生の声
がします。

 「ケイトさん、その二人の身体も拭いてあげてね」

 ケイトはその声でハッとして我にかえり、慌てて二人を捕まえ
ると、湯船から流しに引きあげます。

 「あなたたち、ちょっとはしゃぎすぎよ」
 ケイトは二人を立たせたままお姉ちゃんらしくお説教しますが、
タオルを持つその手が子供たちの股間を捉えることはありません
でした。

 ケイトにしてみれば、この未知の生物をどう扱ってよいものか
皆目わからなかったからです。

 子供たちが全員脱衣場へと出て行き、お風呂場はケイトと先生
だけになりました。
 そこで、ケイトは再びキーウッド先生から声をかけられます。

 「どう?巨大なクリトリスを見た感想は?」

 「どうって……」

 「不気味でしょう。私たちのとは大きさだけじゃなく形も違う
ものね。……でも、あれで基本的には私たちと同じ持ち物なの。
オナニーだって、ちゃんとできるんだから……」

 「あの子たちにお仕置きするんですか?」
 オナニーという言葉にドキッとして、思わず尋ねてみると……

 「あの子たちって?……………ああ、グロリアたちのことね。
べつに何もしないわよ。あなただってああして遊んだことがある
んじゃなくて……」

 「えっ……」

 「それはみんな同じよ。神様がそのようにお創りになられたん
だから、私たちはその意に従って行動するだけよ。仕方がないわ。
ただ、時と場合をわきまえず、気持の赴くままというのではいけ
ないからそこはセーブさせるけど、ここはお風呂、無礼講だもの。
問題ないわ」

 「えっ、お風呂の中ならやってもいいんですか?」

 思わず『やってもいい』なんてはしたない言葉を使ってしまい
ケイトが顔を赤くしますから、先生もからかうように……

 「やってもいいのよ」
 と、笑って答えました。

 「人を好きになって睦みあうことに罪はないもの。違うかしら?
ただし、子どもの場合は気持のおもむくままになりがちだから、
そこは衛生ということも含め節度をもってやるようにって指導は
するの。あの子たちに許されてる場所はこのお風呂と夜のベッド
ぐらいなものよ」

 「………………」

 「どうしたの?変な顔して……ははあ、オナニーの事をご両親
に何か吹き込まれてきたんで、ここでは一切そんなことできない
と思ってたのね」

 「いえ、そういうことじゃ……」

 「大丈夫よ。昔は、子供のオナニーなんて純潔を損なう卑しい
行為だと言って一切認めてなかったけど、今ではこんな修道院の
中でも100%禁止ではないわ」

 「…………」

 「どうしたの?ほっとした?……ただし、さっき言ったように
どこでも、どんな時でもできるわけじゃないから、やり過ぎは、
やっぱりお仕置き。それは覚えててね」

 ケイトは先生の言葉に正直ホッとした思いでした。

 「あっ、それから……あの子たちのあれは、陰核でありながら
未発達のペニスでもあるの。ややっこしいのよ。いずれにしても、
そのことで子供たちを傷つけないでね。あの子たちは自分たちを
純粋な女の子だと思ってるし、こちらもそのつもりで接してるの」

 「もちろんです。なるだけ、この事には触れないようにします
から」

 ケイトは胸を張りますが、本心を言うと……
 『うっっっあの形、何だか夢に出てきそう』
 とも思うのでした。

***************************

 さて、お風呂がすむと、寄宿舎に戻って子どもたちはお勉強。
これにはケイトも加わります、これまでちょっとした先生気分で
過ごしてきましたが、彼女だってここの生徒なんですから、それ
は当たり前でした。

 「あなたはこれをやってね」
 初日のケイトにもキーウッド先生が課題を用意してくれいて、
それを手に寄宿舎内の学習室へと向います。

 『チビたちと一緒かあ、きっとうるさいんだろうなあ』
 ケイトは当初子供たちの騒音を心配していました。

 ところが部屋は静寂そのもの。いい意味で予想が裏切られます。

 『素敵なところね』

 部屋に入るとそこは図書室といった感じの部屋で、数多くの本
が壁一面を覆っています。子供たちは自分たちの為に用意された
コーナーから必要な本を取り出してきては、自分専用のパソコン
デスクで勉強します。

 ケイトが試しにちょいと覗いてみると、子供たちはヘッドホン
を着け学校から出された課題や百行清書なんかをやっていました。

 『この子たち、お風呂場の時とはまるで人格が違うみたいね』
 その落ち着きぶりはまるで大学生のようだったのです。

 パソコン作業というと、地球人はキーボードやマウスなんかを
想像してしまいますがオニオン星の子供たちが勉強するパソコン
にはそんなものはありません。
 セットされた紙に文字を手書きすればそれがそのまま隣にいる
キーウッド先生のモニターに出てきますし、先生の指示もやはり
手書き。花丸を描けば、それが今作業している子の紙に直接浮き
出て印刷されるようになっていました。

 そこはとても快適な空間のはずなんですが……

 『凄いなあ、これが天才児なのね。私、ついていけるかしら』
 今度は逆にケイトが不安を募らせるはめになります。

 「ここ、いいかしら」
 空いてる席をみつけたので、隣りに座るエレーナに尋ねると…

 「いいわよ」
 木で鼻をくくったような答えが返ってきます。

 みんな真剣そのもの。他人にかまってられないという様子です。

 『お風呂場で見た子どもたちは、あんなにも子ども子どもして
いたのに、ここに来るとまるで別人ね。…これが「ミュー」って
言われる子たちなんでしょうけど何だか怖い。小学生の部屋って
先生がいくら注意してもおしゃべりがやまないはずなんだけど…
そういえば、キーウッド先生もここには顔を出さないのかしら』

 ケイトは色んなことに思いをめぐらしながら、借りてきた猫の
ようになって与えられた課題をこなしていきます。

 しばらくして……

 「ひっ!」
 小さい悲鳴がヘッドホンをしていても聞こえました。

 ケイトが慌ててあたりを見回すと……どうやらナンシーが電気
ショックを受けたようです。

 ナンシーには申し訳ないけれど、ケイトはホッとしました。
 『最初が私でなくてよかった』
 と思ったのです。

 学校でもおなじみの電気椅子はここでも健在のようで、時間の
経過と共に驚いて腰を浮かす子が増えていきます。

 ケイトも終わりの時間が近づいた時に一度だけ……
 「ひぃ!」

 でも、先生の御用はそれだけではありませんでした。

 「ケイトさん、腰を浮かしたついでに頼まれてくれないかしら。
……ポーラが寝ちゃったみたいなの。風邪をひくといけないから、
悪いけど彼女を起こしてこちらの部屋まで連れて来てちょうだい。
そしたら、あなたも今夜はこれまでにしましょう」

 ケイトはモニターに映る先生の指示に従って荷物をまとめると
ポーラを探します。

 「あっ、いたいた……ポーラ、ポーラ、ほら起きなさい。……
こんな処で寝たら風邪をひくわよ」
 ケイトは何とか起こそうとしましたが、ポーラは机に顔をつけ
て熟睡中。瞼が一瞬上がったとしてもすぐに閉じてしまいます。
 仕方なく何とか抱きかかえましたが、とても重い荷物でした。

 先生の部屋はお隣。

 「よっこらしょ」
 ケイトが入っていくと、先生は、稼動してる7台のモニターを
見つめていらっしゃいました。

 「あらあら起きないのね。ごめんなさいね。重かったでしょう。
とりあえずそのソファに寝かして毛布を掛けといて……この子、
お昼に張り切りすぎて夜は疲れちゃったみたいなの」

 ケイトはソファで幸せそうな寝顔を見せるポーラを見ていると、
何だか自分も幸せな気分になるのでした。

***************************

 勉強時間が終わると僅か30分で消灯時間。

 歯を磨き、髪をとかして、パジャマに着替えると、もうそれで
残りは15分。女の子の時間割は実に細々していて、自由時間と
呼べるようなものがほとんどありませんでした。

 女の子たちは親や権力者、先輩たちから次々にやるべきことを
指示されます。
 男の身には何だかとっても窮屈な日課に思えますが、女の子達
にしてみると、自由な時間をもらって自己満足な趣味に走るより、
『好きな人の為に何かできた』『自分の仕事を評価してもらえた』
『自分はこの人と繋がっている』そんな喜びがエネルギーとなり
ますから、それはちっとも苦にはなりませんでした。

 キーウッド先生もそんな過密スケジュールに追われている一人。
勉強時間が終わると資料の整理もそこそこに寝室に戻って子供達
を待ちます。
 そして、入ってきた子どもたち一人ひとりに声をかけては抱き
しめるのでした。

 「マリア、今日はよくがんばったわね。成績あがったじゃない。
教えていただいたリーゼル先生に感謝しなくちゃね」

 「エリザベス、あなたのピアノすごく上達したわよ。音楽室で
聞いててびっくりしちゃった」

 「ローラ、教室に張り出してあった絵、あれ、昨日スケッチに
行って描いたのよね。今度、展覧会に出すの?もし入賞したら、
院長先生もお呼びして褒めていただきましょうね」

 キーウッド先生は何か必ず一つは褒めてから子供たちをベッド
へと送り込みます。どうでもいい事にだって、沢山の褒め言葉を
使います。
 もちろん、それがお世辞だぐらいのことは子供たちだってわか
っていますが、褒められて不快な気持になる子はいませんでした。

 そんな信頼関係もあって、キーウッド先生は子供たちの先生と
いうよりお母さんみたいな存在。でも、この先、全員がハッピー
エンドでオネムとはいかないみたいで、眠りにつく最後の最後に
なっても、子どもたちは、やっぱりお仕置きの影に怯えなければ
なりませんでした。

 原因は閻魔帳。
 先生は子供たちがベッドに入ったのを確認するとベッドフット
に掛けてある閻魔帳を見て回ります。
 そこには今日一日のその子の動静が細かく記載されていました。

 この夜は、ポーラだけがおねむで除外されていましたが、残る
6人にとっては寝る前にも関わらず緊張の瞬間なのです。
 こんな時、彼女達にできること、それはお愛想笑いだけだった
のです。

 「ナンシー、今日のあなたは、テストの成績がみんなAなのね、
素行もA、規則は……あれ、Bか……ああ、廊下を走っちゃった
のね。でも、どの先生の評価も高いわ。どうやら今日一日良い子
だったみたいね。こうしてうちの子が他の先生から褒められると
担任の私も鼻が高いものよ。明日も頑張りましょうね。この分だ
と、月末にはあなたの欲しがってたビスクドーのお人形をここに
飾れそうよ」

 「ほんと!」

 「本当よ。よい行いの子にはよい報いがないといけないわ」
 キーウッド先生はナンシーの頭を優しく撫でてから「おやすみ」
を言ってベッドを離れます。

 勿論、こんな良い子ばかりなら何も問題はないのですが、誰も
が良い子として一日を過ごしたとは限りませんでした。

 「マリア、あなた国語の授業にDなんてついてるけど、これは
どうしたの?」

 「教科書読んでたら、お話がつまらなくて、自分でお話作って
たら先生に『授業中のよそ見はいけません』って注意されて……
『教科書のこんなお話、面白くないから、今度私の作ったお話で
授業やりませんか』って言ったらまた怒られちゃった」

 「なるほどね、あなたらしいわ。今度あなたの作ったそのお話、
私に聞かせて」

 「いいわよ、今晩でも……」

 「今晩はちょっとまずいけど、時間があれば聞かせて欲しいわ。
先生、あなたの夢のあるお話が大好きよ」
 先生は最初苦笑していましたが、その顔はやがて穏やかな笑顔
に変わり、最後はマリアの頭を撫でながら閻魔帳を元あった場所
に置きます。
 マリアもまたセーフでした。

 「グロリア、あなた、またエリザベスに百行清書の代筆頼んだ
でしょう。何度言ったらわかるの。そんなことしても筆跡が違う
から先生方はごまかされないのよ」

 「だって、エリザベスがやってあげるって言うし……百行清書
なんてやってたら遊ぶ暇がなくなっちゃうもの」

 「仕方ないじゃない。元はと言えばあなたのせいなんだから。
……で、その原因は何なの?」

 「原因って、お仕置きの原因?」

 「そうよ」
 キーウッド先生の眉間に皺が寄ります。これは先生がとっても
ご機嫌斜めな時に起きる現象でした。

 「理科の時間にチューリップの球根を植えてたの、そしたら、
冬眠中の蛙さんを掘り出しちゃって、もとの土に戻したら、風邪
ひきそうだと思って、先生の机で暫く預かってといてもらおうと
思って入れといたら、急に動き出しちゃって、こいつ引き出しの
中をパッタンパッタン跳ね回るもんだからコリンズ先生も気づい
ちゃって……」

 「あっ、そう。わかったわ。あなたのことですもの、その様子
は手に取る様にわかるけど、そんなことしたら叱られるとは思わ
なかったのかしら?」

 「だって、蛙さんもの凄く可愛かったですもの。先生もきっと
好きになってくれると思ったんだけど、『こんなもの教室に持ち
込んではだめでしょう』だって……」

 「それで百行清書を命じられたんだけど、それもエリザベスに
押し付けちゃったってわけね」

 「ま、早い話をすると、そうなるかも……でも悪気はなかった
のよ」
 グロリアは思わずキーウッド先生から視線をそらし、他人事の
ようにつぶやきます。
これがいけませんでした。

 「何が早い話よ。遅く言っても同じでしょう。……いいから、
こっちへいらっしゃい」
 
 先生は毛布の中に手をいれると、全裸で寝ているグロリアの手
を握ってベッドから引きずり出します。

 「うっ、寒い」

 素っ裸で連行されるグロリア。
 もっともベッドの中で子供たちが全裸なのはグロリアに限りま
せん。この星のしきたりですから、他の子もベッドの中では同じ
姿でした。

 「エリザベス、あなたもよ」
 
 キーウッド先生はエリザベスも誘って、二人をご自分の寝床へ
連れ込みます。
 
 寝室は大部屋でしたが、先生のベットだけは天蓋付きの大きな
ダブルベッド。おまけにその周りは、薄い絹のカーテンで囲える
ようになっていました。
 つまり大部屋にある先生専用の小さなお部屋というわけです。

 二人はそこへ連れ込まれます。
 何が行われるかなんて、誰でも知ってる事でした。

 薄い絹のカーテンの中で明かりが灯ると、大人一人、子供二人
のシルエットが外の子供たちからもはっきり分かります。

 「ねえ、いくつぶたれるかな?」
 って、ローラ。

 「6つじゃない」
 って、エレーナ。

 「それはエリザベスよ。グロリアはその倍はぶたれると思うわ」
 って、ナンシーが。

 最後はマリアが結論を出しました。
 「いくつでもないわ、とにかくグロリアが泣くまでよ。『ごめ
んなさい、もうしませ~ん』ってね」

 マリアがグロリアの泣き方を真似ると他の三人は大笑いします。
 絹のカーテンの内と外では子供たちが対照的な表情を見せるの
でした。

 ただ、ここでは、ケイト一人が蚊帳の外でした。

 彼女は一度先生を手伝いにベッドから出ようと考えましたが、
子供たちと違い、素っ裸でベッドを出るのには勇気がいりました
し、何より呼ばれてもいないのにのこのこ出て行ってはいけない
んじゃないかと感じて、ベッドでじっと様子を窺うことにしたの
です。

 『それにしても子供って残酷ね。お友だちがお仕置きされよう
としているのに笑ってるなんて……』

 ケイトは最初そう思いましたが、思い返せば自分だってほんの
数年前までは同じようなものだったことに気づきます。
 子供にとっては自分に火の粉がかからない限りお友だちのお仕
置きくらい面白いショーはありません。それは仕方ありませんで
した。

 「パン……パン……パン……パン……パン……パン」
 二人へお仕置きが始まります。

 先生がグロリアをお膝に乗せてお尻を叩いているのがはっきり
と絹のカーテン越しに浮かび上がります。
 静寂をついて甲高い音が部屋中に響きます。

 子供たちは固唾を飲んでそのショーを見守ります。不安な顔で
……心配そうに……でも、どの子の口元も緩んでる。
 お仕置きを覗く子供の顔なんて、どれも同じだったのです。
 
 こんな時、笑っちゃいけないとはわかっていても、どうしても
心の中が顔に出てしまいます。
 小学生なりの倫理感と人間としての本音、その両方のバランス
が崩れたのはグロリアが悲鳴をあげた時でした。

 「ごめんなさい、もうしないで、痛い、痛い、いやいやいや、
もういい子になります。先生の言うこと何でもききますから……
いやあ~~痛い、痛い、痛い、だめ、だめ、いやあ~~」
 
 いつも姉御肌で偉そうにしているグロリアが恥も外聞なく騒ぎ
立て、悲鳴をあげていることくらい他の子にとって楽しいことは
ありませんでした。

 ところが、これがエリザベスになると……
 彼女はお尻をぶたれ始めるとすぐに泣いて許しをもとめます。
先生もすぐにやめてしまいました。

 「お友だちのためにやっても、それがいけないことならあなた
だっていけない子になっちゃうの。そのくらいはわかるでしょ」
 キーウッド先生は、べそをかくエリザベスを赤ちゃんのように
抱き上げてお説教しています。でも、それをベッドの中で笑うお
友だちは誰もいませんでした。

 同じお仕置きでも、その子が日頃どんな子かによって、観衆の
反応も変わってきます。それもまた人の世の真実でした。


 さて……
 二人のお仕置きが終わると、先生がカーテンから顔を出します。
 残りの子の閻魔帳をチェックしましたが、幸いこの二人以外に
カーテンの内側へ呼ばれる子はいませんでした。

 「……それではおやすみしましょう」

 キーウッド先生はマリア様の像の前で膝まづいて胸の前で両手
を組みます。
 「今日一日の神のご加護に感謝します。明日もまた、この子達
が健やかで暮らせますように」

 キーウッド先生のお祈りに合せるように子供たちもベッドの中
から……
 「今日一日の神のご加護に感謝します。明日もまた、お友だち
が健やかで暮らせますように」

 マリア様へのお祈りも終わって、最後に……
 「今日のお当番は誰だったけ……そうそう、ナンシーとマリア
だったわね。先客がいて狭いけど我慢してね」
 お当番の子がよばれます。

 このお当番の子というのはキーウッド先生と今夜ベッドを共に
することができる子。つまり先生のベッドで甘えられる幸せな子
のことでした。

 キーウッド先生と子供たちの関係は赤ちゃんの時から。実質的
には親子みたいなものですから、先生と同じベッドで寝るという
のは、世間ならお母さんと一緒に寝るという意味です。
 ただ、いくら大きなベッドでも全員一緒では狭いので当番制に
なっていたのでした。

 先生のベッドでは真ん中の先生を挟んで左側にローラとマリア
が…右側にはエリザベスが幼子のように先生のオッパイにしがみ
ついて甘え、その隣にグロリアが寝ていました。

 カーテンの中では、ここぞとばかり子供たちの甘えた声が聞こ
えます。

 そして、それはカーテンの外でも……
 ナンシーがエレーナのベッドにお邪魔して抱き合っています。
 みんな素っ裸。どこに手が滑り込んでもおかしくありませんが、
それをHという人はいませんでした。

 そう考えると自分だけが一人ぼっち。ケイトにとっては何だか
ちょっぴり寂しい夜なのでした。


***************************


<寄宿舎>
キーウッド先生
子供たち/ナンシー。ポーラ。グロリア。エレーナ。
エリザベス。ローラ。マリア。
  

5/17 女の都 ~9~

5/17 女の都 ~9~

*)この項ではHがありません。

 寄宿舎はその年代ごとに建物が分かれていました。
 生まれたての赤ちゃんから幼稚園までを預かる保育園のほか、
小学校低学年、小学校高学年、中学校、高校……と細分化されて
います。

 なかでも、ケイトがお世話になったのは、そんな組織の中でも
特殊な小学校高学年のグループ。

 院長先生に……
 「こうした修道院内で学ぶ子供たちは、そのほとんどが将来は
聖職者となる身なの。だから一般の学校ではそれほど重要視され
ないバイブルの学習が重要になってくるわ。当然、みんなかなり
の知識量よ。そうした事に一般の子はついてこれないでしょう。
勿論、そんな子に出来ないからって罰を与えたりはしないけど、
ただ、お客さんとして座っているだけというのも辛いでしょう。
その点、この子たちは小学生といっても授業の内容はすでに中学
レベルだし、特殊な事情で預かった子たちだから、バイブルにも
そんなに多くの時間を割いていないの、あなたにとっても、とっ
つき易いと思うのよ」
 こう説得されて、ケイトはここの所属となったのでした。

 正直それでも……
 『どうして、中学生の私が小学生と暮らさなきゃならないのよ』
 という思いはあったのですが、院長先生に押し切られた格好だ
ったのです。

 修道院内の学校は、普段の授業は別々でも食事時だけは大広間
に全ての子たちが集まってきます。

 各グループごとにテーブルが用意され、同年代の子供達がそれ
ぞれに楽しく会話しています。
 なのに、自分だけはこのチビちゃんたちと一緒なんですから、
そこはちょっぴり悔しい気持も……

 小学生のテーブルに座るとケイトだけが背丈も抜きん出ていて
目立ってしまいますから、それも不満の種でした。

 物欲しそうにチラチラとよそのテーブルに目をやるケイトに、
キーウッド先生はすぐに気づきます。

 「ケイトさん、いいわよ。席が空いていれば、どこへ移動して
食事してきても……」

 「えっ!?……いえ、そんなわけじゃ……」
 ケイトは言葉を濁します。本当は同世代の処へ行ってみたいの
ですが、今日が初日のケイト、いっい誰に声をかけていいのやら
わかりませんし、親しいお友だちなんて誰もいませんでした。
 それに……

 「だめだよ、お姉ちゃん。よそ行っちゃあ。あなた、うちの子
でしょう」
 グロリアが引き止めます。

 座った席の右側からはエリザベスも……
 「私のお肉あげるから、お姉ちゃま、どこにも行かないで……」
 なんて哀願される始末……結局、ケイトはどこにも立つことが
できませんでした。

 この二人だけじゃありません。子供たち全員がケイトのお皿に
自分の料理を分けて乗せてくれます。
 ついさっきあんなことがあったのに、子供たちにはわだかまり
というものがありません。気がつけば僅かな時間でケイトは子供
たちのお姉ちゃま、第二の先生になっていたのでした。

 「ほら、グロリア。ケイトお姉様のお膝はあなたのお椅子では
ありませんよ」

 キーウッド先生に叱られてグロリアは渋々ケイトのお膝を下り
ましたが、お昼にたった一度抱いてもらっただけで、『ここは、
私の指定席』と勘違いしているようでした。

 「ケイト、あんまり言うこときかないようだったらお尻の一つ
や二つどやしつけてもかまわないわよ。この子たち頭はともかく
心は赤ちゃんのままだから、優しくしてるとどこまでもつけあが
ってくるの、気をつけてね……」

 キーウッド先生はそう言ってくれましたが、ケイトにしてみる
と、グロリアのお尻もまんざら悪いものではありませんでした。
 もちろん、赤ちゃんみたいに軽くはありませんでしたが……


 夕食が終わればお風呂、これも各グループごとに入浴するのが
しきたりで、三日に一度順番がまわってきます。
 当然キーウッド先生は子供たちに係りきり、ケイトも見かねて
子供たちをお手伝いしますが、その時ふと思ったのです。

 『ひょっとして、私にもこの子たちの子守をさせようとして、
……院長先生はこのグループに私を入れたのかしら?』

 ケイトは思います。あながちそれも間違いではなかったみたい
でしたが、ここまでくればそれも成行き、諦めるしかありません
でした。

 さて、修道院のお風呂というのはとても大きくて立派なもので
した。
 体を洗う場所という窮屈な概念ではなく、くつろぐ場所として
そこにありました、湯船がちょっとしたプールぐらいあります。

 当然、そんな開放的な場所で子供たちがじっとしているわけが
ありません。
 流しを走り回り、湯船で泳ぎ、お湯を吐き出しているライオン
の頭に上ると何度でもそこから湯船へ飛び込みます。
 もうやりたい放題でした。

 日頃口うるさいキーウッド先生もさすがにここではお手上げ。
とにかく一人一人捕まえては、まず身体に傷がないかをチェック、
ボディソープで全身を洗っていくだけで手一杯でした。

 腕白盛り(?)が7人もいますからね、見るからに大変そうです。
 仕方なくケイトもお姉さんとして先生のお手伝い。
 泡だらけの子どもたちにシャワーをかけて石鹸分を洗い流して
あげるのがお仕事でした。

 「ポーラ、走らないの、ほら、また石鹸踏んづけて転ぶわよ」
 「ほら、ナンシー、じっとしていて……オモチャはシャワーの
あとでいいでしょう」
 「グロリア、ライオンの頭から降りなさい。危ないでしょう」

 ケイトは何だかお母さんにでもなった気分で子どもたちを叱り
つけます。
 時折、言うこときかない子のお尻を叩く音が、「ピシャン!」
と高い天井に跳ね返って清らかに響きました。

 その一瞬だけ、子供たちは誰がぶたれたのかを確認するために
立ち止まりますが、一瞬だけです。子どもたちの歓声がこだます
お風呂場で子供たちの運動会が終わることはありませんでした。

 そんな子供たちの扱いにも慣れた頃、ケイトはキーウッド先生
の言葉を思い出しました。

 『両性具有か……たしかに、この子たちのそれって、こうして
間近でみると、割れ目からほんのちょっとだけ顔を出してるわ。
……この子たちって、もともとあそこが大きいんだわ』
 ケイトはナンシーの身体にシャワーをかけながら思います。

 でも、それ以外は紛れもない女の子。あどけない顔に平たい胸、
お臍の下もスベスベです。女の色気より、ミルクの香りが似合い
そうな少女たちでした。

 そこで、試しにお股の中にそっと手を入れてみたのですが……

 「………(確かに、確かに、女の子ね)………」

 彼女たちどこを触っても露骨に嫌がったりしませんし、女の子
にとって最も敏感な場所に触れても平気な顔をしています。

 『なるほどね、この子たち、まだ正真正銘の赤ちゃんなのね。
私なんかとは大違いだわ』

 ケイトは、自分がこの歳の頃には、すでにHな感情が芽生え、
悪い遊びにも手を染めていたことを恥じいります。

 『私は天使ってガラじゃないわね』
 ケイトが心の中で苦笑した、その時でした。

 ケイトの目に、湯船の中で抱き合うグロリアとエリザベスの仲
睦まじい姿が飛び込んできます。

 それは紛れもなく、シスター遊びでした。
 お姉さんのグロリアが妹エリザベスの支配して二人で楽しんで
るように見えます。

 グロリアは抱きかかえたエリザベスの身体を隅々まで撫で回し、
何度も何度も自分の舌を相手の唇の中に押し入れてエリザベスの
呼吸を奪います。

 酸欠になり、意識が朦朧としているエリザベスに、グロリアは
キスの嵐。エリザベス顔と言わず胸と言わず唇のスタンプです。
エリザベスはそのたびに身体を反らせますが決して嫌がっている
様子ではありませんでした。

 そんな様子はキーウッド先生も見ていました。
 けれど、それを咎めようとはしません。あまり気持のよいもの
とは映っていないかもしれませんが、黙殺している。そんな感じ
でした。

 オニオン星はほとんど女性だけの星です。当然、性を謳歌する
場合も相手は女性。レズビアンやその入口であるシスター遊び、
自分独りで夢の世界に浸るオナニーに関しても大人たちの間だけ
なら、それはむしろ他の星の住民より寛容でした。
 何しろ『子供ができる』といった事故の心配がありませんから
その意味でも問題がなかったのです。

 ただ同じ行為も子供たちがやるとなると、それは違ってきます。
まだ人生経験の少ない彼女たちが、こうしたことに溺れることは
好ましくないと考える人たちがほとんどだったのです。

 性衝動が本能的な男性は成長すれば嫌でもその情動と向き合わ
なければなりませんが、女性の場合は自分の身体を学習させない
限り一律には性の衝動が強まっていきません。
 そこで、若い頃からそんなものを開発して勉学に差し支えたら
もったいないと大人たちは考えていたようでした。

 よって、ケイトのように大人の遊びを真似するような子が出て
くると、親たちは心配して、その毒気を抜いてもらおうと修道院
に娘を預けることになります。

 ところが、一般の人たちからは禁欲世界と見える修道院も実は
性欲と無縁ではないのです。抑制的で、表沙汰になる事はあまり
ありませんでしたが、シスター遊びもオナニーもちゃんと行われ
ていました。その補完を担っていたのが厳しい体罰だったのです。

 厳しい体罰が女の子の性衝動を高め、モラルや倫理観が高い分、
背徳の喜びだって倍加します。数少ない逢瀬は至上のリビドーを
彼女たちに約束するのでした。

 一般的にシスターは性の不具者ではありません。むしろ熟達者
でした。キーウッド先生も当然その一人。
 その彼女がグロリアとエリザベスを見ていて不快な顔になって
いたのは、ケイトが考えている事とはまった違った原因だったの
です。

 『まだチビのくせに、妬けるわ。……どうしてあの子たちって
あんなに上手なの?………いったいどこで習うのかしら?………
やっぱり頭のいい子は、こんなことにも知恵が回るのね』

 キーウッド先生の視線の先、湯船の中でもつれ合う幼い二人を
見て、ケイトは先生が二人をお仕置きするんじゃないかと思って
いました。
 ならば、その前に二人を止めてあげようと、そこへ近づいた、
まさにその時でした。

 「えっ!!」
 ケイトは二人に声をかけようとして思わず足を止めます。

 ケイトの視界に入って来たもの。それはそれまで一度も見た事
のないものだったのです。

***************************


5/15 女の都 ~8~

5/15 女の都 ~8~

*)作者独自の世界観なので一般の人の理解は難しいかも…

 キーウッド先生は部屋にいた全ての子をトイレへと追いやると、
ケイトに向ってこう言いました。

 「ごめんなさいね、来た早々驚ろかしてしまって……あの子達
も、べつに悪気はないんだけど、何しろ子供なもんだから、相手
を思いやる気持がまだないのよ」

 「でも、凄いですね、あの子たち。まるで大人がしゃべってる
みたいですもの」

 「それはね、ボキャブラリーが豊富ってだけなの。なまじ頭が
いいだけに覚えた言葉は使いたがるのよ。……あなた、『新人類』
って言葉を知ってるかしら?」

 「ええ……へえ~やっぱりそうなんですか……たしか『ミュー』
って呼ばれてましたっけ、教会では新しいタイプの子を育ててる
って、噂で聞いたことがあります」

 「そう、そう、それよ。あの子たちがそうなの。みんなが姉妹
という社会は麗しいかもしれないけど、それももそろそろ限界に
近づいてるの。この500年、ずっと近親相姦だったんですもの」

 「それって、いけないことなんですか」

 「これまで培った科学の力でなんとか破綻なくやってきたけど、
いつまでもというわけにはいかないわ。そこで国は500年ぶり
に試験管ベビーの研究に着手しているの。それに教会も協力して
……私はその子守をさせられてるってわけ」

 「じゃあ、あの子たちは王様や王子様のお種じゃないんですね」

 「そう、一般の子供達とは違うわ。何人もの遺伝子を切り貼り
操作して創ったクローンよ。……結果、頭がよくて、病気にかか
りにくいというところまでは成功したんだけど……」
 先生はそこまで言って苦笑い。

 「何か、問題がでてきたとか……」

 「そうなの、あの子たち、普段の見た目は女の子なんだけど、
……ある刺激で、突如として男の子にもなるのよ」

 「男の子に?……でも……さっき裸になったの見ましたけど、
あれって、しっかり女の子でしたよね」

 「普段はね……でも、さっき私があの子たちのお尻を叩いて、
お浣腸したでしょう」

 「ええ、お仕置きされてました」

 「ああいう事をすると、あの子たちの隠れていたクリトリスが
びっくりするほど大きく勃起して、小さいながら立派にペニスと
しての機能まで果たすようになるのよ」

 「えっ?だって、私たちには、そもそも陰嚢が……」

 「ところが、そのないはずの物が、あの子たちにはあったの。
今はまだ機能していないけど、第二次成長期が終わらないうちは
機能しないという保証もないわ」

 「それって、両性具有ってことですか?」

 「そういうことね。だから、理論的には、自分のコピーである
赤ちゃんを自分独りで産むことができる体質ってことになるわね」

 「…………それって、実験が成功したってことなんですか」
 ケイトが恐る恐る尋ねてみますと……

 「さあどうかしらね、私はお医者様でも科学者でもないから、
あの人たちが最終的に何を意図しているのかまで分からないけど
……ただ、どんな形にせよ、あの子たちはいったんこの世に生ま
れてきたんですもの。先々どういう結論になっても、教会も私も、
あの子たちを守りぬく覚悟よ」

 「そうなんですか。……でも、そんな大事なこと、私なんかに
打ち明けて、いいんですか?」

 「だって、あなただって院長先生に自ら誓ったでしょう。……
ここではどんな些細なことでも一切の隠し事はしませんって……
それは私もそうなのよ」

 「…………」
 キーウッド先生の笑顔に、ケイトはその背筋が一瞬ゾクゾクと
しました。

 確かに、嘘のない世界というのは美しいかもしれません。でも、
女の子にとって嘘なく暮らせというのは、『裸で暮らせ』と言わ
れてるようなもの。その危うさがケイトを不安にさせたのです。

 そんなケイトの思いを知ってか知らずか先生は続けます。

 「ただね、あの子たち、色んな意味でまだ未完成なの。だから、
今はまだ教会の外では暮らせないわね。ただ、将来的には社会に
出て活躍できるように、しっかりと躾てやるつもりよ」

 「どんな、ところが一般の子と違うんですか?」

 「どんなところねえ……」
 キーウッド先生は少し思わせぶったような笑みを浮かべてこう
答えます。

 「今度、あの子たちがトイレから帰ってきたら、両手を広げて
御覧なさいな、そうすればわかるわ」

 意味不明なキーウッド先生の言葉。
 でも、実際そうしてみると……

 「おねえちゃま~~~」

 あのグロリアが、今度は何のためらいも、わだかまりもなく、
前も隠さずにケイトの膝に飛び乗って幼児のように甘えます。
 これにはさすがにケイトもきょとんとしてしまいました。

 見れば、お隣りではキーウッド先生もナンシーやポーラに抱き
つかれています。いずれの子もこの部屋を出て行った時のまま。
それを恥ずかしいとも感じていない様子でした。

 その状態を、キーウッド先生は……
 「この子たち、こう見えてすでに11や12なのよ。……でも、
これがこの子たちの普段なの。頭に比べて心の発達がものすごく
遅いものだから、まるで幼児みたいでしょう」

 「ええ……」

 「これが、目下一番の悩みの種なの。たしかにこの子たちは、
純粋で、従順で、およそ他人を疑わない天使さんたちよ……でも、
それはここが天国だから美しいで通るけど、このまま街の中では
生きられないわ」

 キーウッド先生は一人ひとりにパンツを穿かせ、スカートの
ピンを外してやりながら話しています。
 そうやって、全員が元の姿に戻ってから、今度はあらためて、
腰掛けている自分の足元を指差し、ケイトをそこに呼ぶのでした。

 「はい、先生」

 ケイトは先生の足元に膝まづき胸の前で両手を組みます。
 それはこの教会のというより、オニオン星の作法でした。

 「さすがに子供たちの提案は受け入れませんけどね……あなた
だってここへ入寮する以上それまでの穢れを祓うためのお仕置き
は必要よ。……それは、大丈夫かしら?」

 「えっ、……あっ、はい」
 正直、色んな事があったのでケイトもその事はすっかり忘れて
いましたが、今さらシスターに『嫌です』も言えませんでした。

 「そう、それでは、そこのお仕置き台にうつ伏せになって頂戴」

 キーウッド先生が提案したのは、ケイトの学校にも置いてある
懲罰台でした。
 うつ伏せに寝て、手足を縛られ、お尻の辺りを捲られて、鞭で
お尻をぶたれます。オニオン星の女の子なら誰だって一度は経験
する作法でした。

 踏んづけられたヒキガエルみたいな格好は無様ですが、たいて
いお仕置きを行う先生と二人きりですから、それほど深刻なこと
にはなりません。

 ただ、今回は……
 「ケイトさん。こういう事は私一人がやってもいいんですけど、
せっかく子供たちがお仕事をしたがってるので今回は子たちにも
やってもらいます。……いいですね」

 「は…はい」
 そんなこと、ヒキガエルになってから言われてもどうにもなり
ません。
 ケイトは『はい』と言うほかありませんでした。

 「それじゃあ、最初はグロリア、あなたからにしましょう。…
…ほらほら、よ~く狙って…思い切り引っ張るの。……だめだめ
もっと目一杯引っ張らないと、これは効果がないわ。……可哀想?
…今頃何言ってるの、大丈夫よ、このくらいのことでお姉ちゃま
が壊れたりはしないわ」

 キーウッド先生はケイトのお尻の方で何やら子供たちに指示を
出していますが、ヒキガエルとなってしまうと後ろを確認しよう
にもそれができません。

 『狙うって、どういうこと?』
 こうしたお仕置きは、たいてい幅広の革ベルトやハドルで行い
ますから、狙うという意味がわかりませんでした。

 でも、そのうち、剥き出しになったお尻に何かが当たります。

 「イタッ!」

 ケイトは思わずお尻をブルブルっとさせます。
 もちろん、痛いという気持はありましたが、大人の人たちから
受ける鞭とはおよそ違う種類の衝撃でした。

 『何だろう?』
 考える間もなく次が来ます。

 「イタッ!」

 両方のお山に一つずつ。
 そして、選手交代。

 「イタッ!」
 飛び上がるほどではないにしても、それはそれで結構堪えます。

 「えっ?」
 次は失敗したみたいで、お尻にゴムの感触が一瞬残りました。

 『ひょっとしてこれって……』
 ケイトは思います。
 そして、その想像がどうやら当たりのようでした。

 「イタッ!」 「イタッ!」
 「イタッ!」 「イタッ!」
 「イタッ!」 「イタッ!」
 「イタッ!」 「イタッ!」
 「イタッ!」 「イタッ!」

 全部で14回、ケイトのお尻にそれは炸裂します。

 決して鼻歌交じりでも耐えられるというわけじゃありませんが、
それは、ケイトにとってもむしろ懐かしいと感じる痛みだったの
です。

 ゴムのパチンコによるお仕置き。

 昔、おままごとで、お母さんや先生役の子が「お仕置きします」
と宣言すればたいていこれでした。
 椅子やソファに腹ばいになって寝て、友達がパンツを脱がせる
とHな気分も手伝ってブルブルっとしたものです。やがて、その
強いゴムの力を利用してお尻をパチン。
 あまり強くやると喧嘩になりますからその加減も大事でした。

 ただし、これで終わりではありませんでした。

 「どうだった?子供たちのお仕置きは……」

 「痛かったです」

 「嘘おっしゃい、余裕綽綽だったんじゃないの。でも、今度は
そうはいかないわよ。しっかり、お口を閉じて舌なんか噛まない
ようにしてちょうだいね」

 見ればキーウッド先生は木製のパドルを手にしています。

 「何回ですか?」
 怖くなったケイトが尋ねますが……

 「回数は言えないわ。このパドルの思いがあなたに伝わるまで
よ」

 先生はそう言うと、おもむろにケイトのスカートをあらためて
跳ね上げ、ピンで留めて、お尻を叩き始めます。
 当然、その後ろではさっきお手伝いした子供たちがお姉さんの
お尻を見ていました。

 「ピタッ」……「あっ」

 一撃目から違います。
 それまでのアイドリングが効果的だったのか、思わず最初から、
『痛い』と声が出そうでした。

 「ピタッ」……「ひいっ」

 二つ目とは思えない痛さです。
 先生の言葉に嘘はありません。これでは舌を噛みそうです。

 「ピタッ」……「ひい~~っ」
 三つ目ですでに顔がゆがみます。
 こんなこと初めてでした。
 
 「ピタッ」……「(いやあ~~)」
 四つ目からはたまらずだんまり戦術です。
 自らテーブルに顔を強く押し付け、テーブルの足をしっかりと
両手で握りしめ、全身に力を込めて先生のパドルを耐えぬきます。
 こんな痛いお仕置き久しぶりでした。

 12回。
 回数は少なくても、それはそれは堪えるお仕置きだったのです。

 「さあ、もういいわ」

 先生はお仕置きの終わりを告げてくれましたが、ケイトはすぐ
には立ち上がれませんでした。
 ゆっくりと、腰を伸ばすように立ちあがると……

 「あら、あら、痛かった?でも、これくらいはしないと記憶に
残らないから意味ないわ。大丈夫、寝る時までには治るから……」
 先生は起き上がったケイトを優しく抱き寄せます。

 そして……
 「あなたもこれで正式にここの寮生。頑張ってね。……それから、
あなたはここではお姉さんなんだから、時にはこの子たちのお仕
置き、手伝ってね」
 先生は小声で囁くのでした。

****************************

5/13 女の都 ~7~

5/13 女の都 ~7~

*)作者独自の世界観なので一般の人の理解は難しいかも…

 「ほら、子供たち、静かになさい。お仕事ですよ」

 「……(お仕事?)……」
 見渡せば、どの子も小学生とおぼしき幼子ばかり。彼女たちが
とても仕事を任されているとは思えませんでしたが……

 シスターの声に、バタバタっと子供たちが配置につきます。
 そうなるまでに1分とかかりませんでした。

 マリア様が祭られた祭壇を背に一段高い処に1人が座り、右に
3人、左にも3人の子供たちが着席。
 ケイトの席はそうやって囲まれた真ん中の席ということのよう
でした。

 『何なの?これ?……だいいちこの椅子、学校にあるのと同じ
じゃないの。これじゃあまるで、私が裁判にかけられてるみたい
じゃないの』
 ケイトの不安は周りを辺りを見渡すうちに的中してしまいます。

 「では、これより、ケイト・カーソンさんの入寮にあたって、
事前の審問を行います」
 ケイトの正面、一段高いところに座る髪の長い少女が宣言した
ことで、ケイトの不安は現実のものとなったのでした。

 「検察官、ケイト・カーソンさんが入寮するにあたり不都合な
点がありますか?」

 裁判官の指示に応えて、髪を短く刈り上げたオカッパ頭の子が
立ち上がりました。

 「ケイト・カーソンさんには幼い頃からオナニーの悪癖があり
ます。教会からいただいた資料によれば、学校の授業でも1時限
で30回以上もハレンチな妄想にふけっているとか。このような
子が、神の花園であるこの場所で私たちと一緒に暮らすのはふさ
わしくないと思うのです。ですからケイトさんには他で暮らして
いただいて私たちは彼女を寄宿舎に招くべきではないと考えます」

 落ち着いた物腰のその子はとても難しい言葉を使っていますが、
容姿は見るからに小学生です。

 「わかりました。では、弁護人はどう考えますか?」

 今度立ち上がったのは、ケイトから見ると右側の椅子に座って
いた女の子の一人です。耳のあたりまで伸びた髪の先をくるりと
カールさせた髪型、可愛い顔ですが、あえて眼鏡をかけてそれは
隠していました。

 「独り遊びは確かに私達のマリア教では認められていません。
でも、そのような者は排除せよとは、私達のバイブルのどこにも
書いてないはずです。むしろ、その81章には、子供はどんな子
とも等しく仲良くしなければならないと書いてあります。ですか
ら、むしろ私はケイトさんをここで受け入れるべきだと思います
がいかがでしょうか」
 凛として涼やかな声が会場に響きました。

 『どういうことなの?ついさっき、私がこの部屋に入って来た
瞬間、ちらっと見えたけど、たしか、この子は机の上に乗って、
はしゃいでたわ。まるっきり子供だったはずなのに、それが今は、
まるで大人がしゃべってみたい』
 ケイトは子供たちがみせるギャップに驚かされのでした。

 「わかりました。ではキーウッド先生はいかがお考えでしょう
か?」

 審問官役の子がシスターに尋ねます。
 ここではシスターが舎監や学校の先生などといった仕事を兼務
しています。キーウッド女史も教会内ではシスターでありながら、
子供たちのあいだでは先生という立場だったのです。

 「そうですね、たしかにケイトさんは完璧ではないかもしれま
せん。でも、そもそもこの世の中に完璧な人というのはいないと
思いますよ。だからこそ私たちにはマリア様のご慈愛が必要なん
です。それはこの花園に住まう人にとっても同じ。偉そうに言う
あなたちだって、間違いをしでかすたびに私たちからのお仕置き
を受けることで罪を償って今があるのではないですか。ですから、
彼女の場合も外での穢れを祓ったうえで、ここに住まわせてあげ
ればいいんじゃないかと考えますがいかがでしょう」

 「わかりました先生。私はそれでよいと思いますれどナンシー
さんたちはいかがですか?」
 審問役の子が検察官役の子に尋ねますと……

 「結構です。異存ありません」
 「私も先生の意見が正しいと思います」
 「私も同じです」
 そこに座っていた3人の子供たち全員が、異口同音に賛成しま
した。
 
 「ポーラさんは……」
 今度は弁護人役の子に尋ねますが、こちらも……
 「私も先生の意見に従います」
 「私もそれがいいと思います」
 「私も……」
 そこにいた3人にも異を唱える子はいません。

 最後に……
 「ケイトさんもそれでよろしいですね」

 「あっ……はい」

 急にこちらへ振られて慌てたケイトは、ほとんど考えもせずに
手拍子に返事を返しますが、それが特段悪い事だとも感じていま
せんでした。

 ケイトは思います。
 『始めはこの子たちの大人びた物言いに驚いたけど、要するに
これって私を迎える儀式だったのね。全ては最初から決められた
方向で結論が用意された小学校の学級会みたいなものなんだわ』

 ケイトはほっと胸をなでおろします。
 でも、ケイトにとっての問題はむしろこれからだったのです。

 「では、これからケイト・カーソンさんを私達の寄宿舎に迎え
いれるにあたって、どの程度のお仕置きが必要かを議論していき
たいと思います。グロリアさんはどの程度が妥当と考えますか?」

 審問官は検察側の席の真ん中に座るソバカス顔で赤毛の少女を
指名します。

 『どうやら、話す順番も最初から決まってるみたいね』
 ケイトはまだこの時余裕がありました。
 だって、相手は自分よりいくつも年下の子たちですから……
 『どんなに偉そうに振舞っていても所詮は小学生、私は中学生
なのよ』
 という思いがあったのは確かでした。

 ところが、グロリアの口をついて出た言葉は、その愛らしい顔
からは似ても似つかない辛辣な言葉だったのです。

 「まず、今までの穢れを洗い流すためにも、まずは高圧浣腸が
いいと思います」

 「高圧浣腸って……それは、寮生全員の前でやるの?」
 キー・ウッド先生が思わず口を挟むと……

 「当然そうです。裏庭の野外トイレに全員を集めて行います。
お仕置きは恥ずかしくないと効果がありませんから……それに、
こうしたことは他の子達にもよい見せしめになると思うんです」

 「そりゃあそうでしょうけど……」
 キー・ウッド先生は独り言のようにつぶやきますが、グロリア
はさらに続けます。

 「裏庭の後は、中庭の懲罰台で寮生全員から1回ずつの鞭打ち
を受けて反省してもらいます。あとは大広間に移って蝋燭神事。
蝋燭の熱い蝋を全身に10本も浴びたら、きっとオナニーをやり
たいなんて気持はなくなると思いますから。最後は、メントール
入りの傷薬をお股に塗って終わりです」

 『………………』
 ケイトは聞いてて目がくらみそうでした。

 このあどけない顔のどこにそんな恐ろしいことを思いつく能力
があるのか、そしてそれをどうしてこんなにも楽しげに話す事が
できるのか。その可愛らしい笑顔と厳しすぎるお仕置きの内容。
そのギャップに、ケイトにはむしろ現実感がありませんでした。

 「エレーナ何か、ありますか?」
 審問官は、続いて弁護側の席の真ん中に座る清楚で上品そうに
みえる少女に声をかけます。

 ケイトは、その子が弁護人席にいますから当然自分を弁護して
くれると思ったのですが……

 「私もグロリアに賛成です。それでいいと思います。オナニー
はしつこくてなかなか治りませんから……厳しいお仕置きが効果
があると思います」

 「エリザベスは……」

 「私もそれくらい厳しい方がいいかなと思います」

 『まさか、あなたたち本気なの!』
 ケイトは目が点になりました。

 すると、キーウッド先生が……
 「ちょっと、いいかしら……」

 「何でしょう?」

 「あなたたち、さっきから随分勇ましいことを言ってるけど、
そんなお仕置きを、あなたたちは一度でも受けたことがあるのか
しら?」

 「えっ!?」
 子供たちはお互い顔を見合わせます。

 「たしかに、私はあなたたちにこれまで色んなお仕置きをして
きたわよ。…お浣腸もしたし、お尻を叩いたことも蝋燭を使った
こともあった。メントール入りの傷薬も、あれはとっても沁みる
お薬だから、あれだってお仕置きと言えなくはないわね。でも、
それを全部一緒にしたことはないはずよ。誰か全部一緒にされた
人いるかしら?」

 「………………」
 子供たちは全員首を振りました。

 「自分がされたことのないお仕置きをして、もしケイトさんに
何かあったら、あなたたち責任とれるの?」

 キー・ウッド先生の言葉に多くの子が尻込みする中、グロリア
だけが反論します。
 「でも、ケイトさんは私達より年長だから、少しぐらい厳しく
ても、耐えられるんじゃないでしょうか?」

 「それは違うわ、グロリア。あなたの勘違いよ。ケイトさんは
あなた達より年少なの。お姉さんじゃなくて妹なのよ。たしかに
巷での年齢はあなた達より上かもしれないけど、この修道院での
経験はまだ何もない子だもの。0歳なんじゃなくて……」

 「えっ……それは……」
 グロリアは黙ってしまいます。

 「ここで暮らしたことのない子に、ここでの長く暮らしていた
あなたたちが今まで一度もやられたことのないようなお仕置きを
与えるなんて、無茶じゃないかしら……それって、『虐め』って
いうんじゃなの?……ねえ、グロリア、そうは思わない?」

 「はい、先生」
 先生の言葉にグロリアも折れます。もともとみんな小学生です
から、先生の言葉に逆らってまで何かをやらかそうだなんて気持
は最初からありませんでした。

 「これから、あなたたちは中学生になり、高校生になります。
それに伴って、寄宿舎での自治も広く認められるようになります
から、自治会役員をしていると、お友だちをお仕置きしなければ
ならないケースも今以上に増えるでしょうけど、それはあくまで
そのお友だちの為にやるお役目なのであって、いくら権限がある
といっても、個人的な腹いせや虐めを楽しむ手段に使ってはなら
ないの。……そこは、わかってるでしょう」

 「………………」
 全員が先生の言葉に首をうな垂れていました。

 「あなたたちは、本来とても聡明な子供たちだから、粗暴な事
はしないけど、こうした事が何より心配なの。今、ケイトさんを
尋問した時、あなたたちにそんな邪悪な気持がなかったと言える
かしら?」

 「ごめんなさい」
 「ごめんなさい」
 数人から声があがりました。
 もし大人ならそこはごまかしてしまうところかもしれませんが、
子供たちは素直に自分の罪を認めてしまいます。たとえ、それが
お仕置きにつながっていたとしてもそこは純粋だったのです。

 「わかりました。では、一人1ダース。お尻を叩きますから、
ここへいらっしゃい」
 キー・ウッド先生は椅子に腰掛けた自分の膝を叩きます。
 最初、子供たちみんな尻込みしていましたが……

 「グロリア!」
 先生の声に、まずグロリアがその膝にうつ伏せなると、あとの
子もそこへ一列に並びます。

 「パン……パン……パン……パン……パン……パン……」
 「ああ……いやあ……ごめんなさい、もうしません。痛い~」
 最初の6回はスカートを跳ね上げてショーツの上から……

 「パン……パン……パン……パン……パン……パン……」
 「だめえ、恥ずかしいから……ああ、いやあ~~ごめんなさい」
 最後の6回はそのショーツも取り去って……

 そして、お尻叩きが終わると先生はこんな事を言うのでした。
 「グロリア、あなたがケイトさんに求めたことは心配しなくて
いいわ。どこからそんな情報を仕入れたのか知らないけど、ああ
したことは中学生や高校生になって自治会役員になったら先輩の
子があなたに必ずやってくれることになってるのよ」

 「えっ?」
 グロリアは窮屈に顔を上げます。

 「さっきも言ったでしょう、自分がされた事のないお仕置きは
してはいけないって。つまりね、お仕置きの権限を持つ子はその
お仕置きをまず自分で体験してからでないとその罰をお友だちに
与えることができないのよ。あなたも、これからちょっぴりそれ
を体験してみる?」

 「えっ!!!!」
 視界に先端のキャップを取り去ったイチジク浣腸が……

 いきなりの出来事。グロリアは何もできませんでした。

 「……!!!……」
 キー・ウッド先生は剥き出しになったグロリアのお尻へそれを
差し込みます。

 キー・ウッド先生は十分に我慢させてから、おトイレを許しま
すが、哀願に満ちた目をしたグロリアの願いを無視します。

 「行きなさい!」
 先生の命令はそれだけです。

 すでにショーツを剥ぎ取られていたグロリアは、短いスカート
の裾もまだピンで留められたままになっています。つまり下半身
が丸裸なわけですが……

 「さあ、次の人、ここにいらっしゃい」
 キーウッド先生は、グロリアの哀願のある眼差しを無視して、
次の子のためにご自分の膝を叩きます。

 グロリアとしてはこれを何とか下ろして欲しかったのですが、
先生は何事もなかったかのように次の子のお尻を叩き始めます。

 「グロリア、あなた、もうおトイレに行っていいのよ」
 冷たい視線、冷たい言葉がグロリアの胸に突き刺さります。

 『先生、やっぱり、私を怒ってるんだ』
 グロリアはあらためて思いました。

 でも、グロリアにはもう時間がありませんでした。ですから、
たとえ下半身丸裸のままでも、おトイレへ駆け込まなければなり
ません。

 前を押さえたグロリアが小走りになって部屋を出て行きます。
廊下からはぺたぺたという足音がまるで泣いてるように聞こえて
きましたが……。

 同じ罰を受けていても、誰が一番悪いかをはっきりさせる。
 これもまた、キーウッド先生のお仕置きだったのです。

***************************

5/11 女の都 ~6~

5/11 女の都 ~6~

*)派手なシーンはありませんが、一応Hな小説です。

 その瞬間、マーシは驚き、ケイトは固まりました。リサは訳が
分からず二人の顔を見ています。

 でも、お母さんは淡々としていて怒っても笑ってもいません。
 それはこの計画が冗談や脅しではなく本気だという事の証でも
あります。

 「ケイト、あなたにはパルム修道院の院長先生からじきじきに
お手紙を頂いてるの。向こう様ではあなたをブドウ園の収穫期に
見習い修道女として受け入れてくださるそうよ」

 パルム修道院の院長先生とお母さんは古くからのお友達。その
お友だちに、お母さんはケイトのことを頼んだのでした。

 「もちろん、昼間、ブドウの収穫をお手伝いしなきゃいけない
けど、あなたも貞操帯を着けて学校に通うより、その方がよほど
落ち着いてお勉強ができるんじゃなくて……向こうでは貞操帯も
外してよいそうだから」

 お母さんの言ってることは分かります。修道院で暮らせば学校
の中で友だちの陰口に怯えないですみます。窮屈な貞操帯からも
開放されます。ですから、そこだけみればよいことのように見え
ますが……

 でも、ご存知のように修道院という処は保養所じゃありません。
 家族が移住するわけでもありません。ケイトだけが独りで出か
けて行って暮らすのです。

 それがどんなものか、ケイトやマーシには理解できます。

 いくら見習いでも修道女の生活は朝早く起きて、夜寝るまで、
分単位のスケジュールがびっしり。食事時間を除けば自由になる
時間なんて10分とありませんでした。

 『お母さん、ごめんなさい、今度から良い子になりますから、
どんなお仕置きも受けますから、私を修道院なんかやらないで。
私、ここでお母さんと暮らしたいんです』

 ケイトは14歳、最近は体つきも女の子らしくなってきました
し、時々生意気な理屈を主張したりもしますが、心の中は、まだ
まだ子供。親元を離れて自分だけが修道院に追いやられるなんて、
怖くて怖くて仕方がありませんでした。ですから、恥も外聞なく
この言葉をお母さんにぶつけてみようと心の中で準備していたの
です。

 お鞭に、お浣腸に、熱い蝋涙……これまでお母さんから色んな
お仕置きを受けてきました。
 でも、ケイトはこれまで自分がこの家で受けてきたどんなお仕
置きよりも修道院に行かされる方が辛いと感じていたのです。

 ただ、とうとうその言葉が口をついて出ることはありませんで
した。
 特に理屈はありません。強いてあげるなら中学生のプライドが
邪魔をしたのです。小学生のようにお母さんの膝に取りすがり、
泣き叫んでごめんなさいを言う勇気がありませんでした。

 「では、早い方がいいわね。先方には明日からお願いしますと
申し上げることにするわ」

 お母さんのこの一言でケイトの修道院行きは決着したのでした。

**************************

 オニオン星には、古くから慈愛に満ちた女神様(マリア様)を
あがめる宗教があって、住民の大半はこのマリア教の信者でした。

 ですから教会は権威の象徴ですし修道女たちは尊敬の対象です。
修道院に入ってブドウ園のお手伝いをする事だって、それ自体は
とても名誉なことなのですが、ただこれには一つだけ大きな問題
がありました。

 内心の問題です。

 世俗社会では、どんなに相手を憎んでいてもこちらから手さえ
出さなければ誰からも非難されません。
 でも、修道院の中は聖地ですから、それが許されませんでした。

 相手を憎むこと、蔑(さげす)むこと、辱(はずかし)めること、
その全てが許されませんでした。
 どんな笑顔で隠しても修練を積んだシスターには通用しません。

 戒律を破った者は罰を受けます。

 自分の内心を赤裸々に晒されること、それを理由に折檻を受け
ることは大人たちには大変な苦痛です。
 ケイトはそんな中に飛び込まなければならなかったのでした。

**************************

 白いワンピース姿のケイトが差し回された車で修道院に着いた
のはお昼少し前。
 ちょうど昼食時だったせいもあって挨拶もそこそこに院長先生
の脇でお昼を頂きます。

 簡単な自己紹介はその食堂で済ませましたが、正式なご挨拶は
そこから場所を移して院長室でした。
 そして、その院長室では先生から見習い修道女の心得のような
ものを窺います。

 「ここはマリア様も降りてこられる地上の楽園です。ですから、
そこに働く者もマリア様のご意思を受け継ぐ者でなければなりま
せん。それは見習いと言えどあなたも同じなのですよ」

 「マリア様のご意思?」

 「マリア様がまだこの地上に御住まいの頃、我々に求められた
戒めです」

 「戒め?」
 ケイトは戒めという強い言葉にドキッとします。

 「一つは、身も心も生まれた時と同じように綺麗なままでいる
こと。巷でもそれはいけないことでしょうが、どんな小さな嘘や
ごまかしもここでは通用しません。こんな小さなことと思っても
それは即、お仕置きとなって跳ね返ってきますから気をつけてね」

 「はい」

 「あなたのお母様があなたの下草を綺麗に処理されてからここ
へ出されたのもそのためなの。ここいる18歳未満の子はすべて
私がマリア様から預かった幼児たち。あなたもそのように思って
私に従わなければならないのよ。さっきの食事で私が噛んだ肉を
あなたの口に入れたら、あなたたいそう驚いていましたが、あれ
だって私とあなたが親子となる大事な儀式の一つなのです」

 「いつも……あれ、やるんですか?」

 「いえいえ、最初だけですよ。最初の一日だけ。ただし、今日
明日は、あなたはここでどんな身分の子より下の扱いになります。
それはよろしいですか?」

 「はい」
 ケイトはあまり深く考えず自分は新参者なのだから当然の事と
してそう返事しました。
 すると……

 「よろしい、心に曇りのないご返事ね。私にとっては何よりの
プレゼントよ」
 院長先生は皺を深くして満足そうにでした。


 ケイトは若いシスターに修道院で暮らす部屋へ案内されます。
 そこは長い廊下の先にあって、時折その廊下に面した部屋から
甲高い子供の声が聞こえます。

 「ここには小さい子供たちもいるんですね?」
 何気なく尋ねたつもりでしたが、その若いシスターはドキンと
するようなことを返してきます。

 「あなたと同じよ、この子たちもオナニーの矯正でここに来て
るの」

 「…………そうなんですか。みんな大変なんですね」

 「そうでもないわ、この子たちはまだ性欲といってもささやか
なものだから、別の事で気を紛らわせることが出来れば悪い癖は
起こりにくいの」

 「私は、これから何をすればいいんですか?」

 「何をって?」

 「一日の日課というか……」

 「ああ、そういうことね。朝は4時に起床。聖書の一節を綺麗
に清書する作業を一時間くらいしてから、5時から食事の仕度か、
お庭の掃除をして、6時が朝食、7時からミサ。8時からは学校
が始まるわ」

 「学校って、あるんですか?」

 「何言ってるの、あなただってまだ義務教育の最中じゃない。
ここには色んな事情で親元を離れた子を7歳から預かってるのよ。
小学校中学校とも敷地内にあるわ」

 「じゃあ、私も……」

 「そうよ、短い期間だけど、あなたもそこで勉強するの。今は
ブドウの収穫時期だから午後はたいていそれにかり出されるはず
よ」

 「私、農作業なんてしたことないんですけど……」
 ケイトが不安そうに言うと……
 「大丈夫、まじめにやってさえいれば、成果は問われないわ。
午後5時になると、農園から戻って食事の仕度やらお風呂の仕度。
6時に夕食、7時がミサ、それから消灯時間の9時まではお勉強
時間かお仕置き時間ね」

 「お仕置き時間?」

 「そう、一日通して問題のありそうな子が教務のシスターか、
場合によっては院長先生の部屋に呼ばれてお仕置きを受けるの」

 「………………」

 「あら、どうしたの?怖いの?……大丈夫よ、誰もが呼ばれる
わけじゃないもの。それにマリア教のお仕置きにはそんなに過激
なものはないのよ。きっと、あなたの家庭で行われていた程度の
ものだわ」

 「……(それでも)……」
 ケイトは思います。
 そして、それに追い討ちをかけるように……

 「ああ、お仕置きで思い出したけど、これからチビちゃんたち
からお仕置きを受けることになるけど我慢してね。ちょっとした
儀式というか、おままごとだから……」

 彼女は気になることを言って、とある部屋のドアを開けるので
した。

***************************

5/9 女の都 ~5~

5/9 女の都 ~5~

*)派手なシーンはありませんが、一応Hな小説です。

 リサちゃんが学校で居残り勉強していることは、当然、家族の
中でも話題になっていました。

 「居残り勉強って……クレマン先生と?」
 「へえ~あの子、頑張ってるんだ」
 二人の姉はお母さんに詰め寄ります。

 そのお母さんは、台所でビーフシチューとハンバーグを作って
います。いずれもリサちゃんの好きなおかずでした。

 お母さんはその日の朝、新しい下着をリサちゃんに着せていま
した。まさか、初日からクレマン先生にパンツを見せることには
ならないでしょうけど、お母さんはお母さんなりに心配していた
のです。

 そんな家族のもとへリサちゃんが帰ってきます。
 「ただいま~~あ~~お腹すいた。勉強するとお腹がすくわ。
……あっ、私の好きなビーフシューとハンバーグじゃない。……
ラッキーー」
 明るい声でした。

 「ねえ、クレマン先生どうだった?怖かった?」
 「全然」リサちゃんは首を振ります。

 「電気ショック、何回くらいもらったの?」
 「一回もなかった。……でも、二時間はやっぱり長いわ。最後
は死にそうだったもん」

 「まあ、あんたの場合、これまで15分と続けて勉強したこと
なかったからね」
 「失礼ね、あるわよ、そのくらい」
 「嘘おっしゃい。勉強机に向ってても大半マンガ読んでるだけ
じゃないの」
 「嘘です~~15分以上かかる宿題だってあるもの」

 「ほらほら、夕ご飯にするわよ」
 お母さんの声で、姉妹喧嘩はそこでお開き。

 実際、リサちゃんにとって初日は問題ありませんでした。
 長い時間の勉強で疲れましたが、クレマン先生だっていきなり
難しい事をリサちゃんに求めたりしません。まずは、前の学年の
おさらいから順序だてて説明してくれます。ですからリサちゃん
だって大丈夫。電気ショックの洗礼も受けずに済んだのでした。

 ただ、初日はそれでよかったのですが、二日目、三日目と序々
に内容も難しくなりますし、問題を解くスピードも、速さが求め
られるようになって……四日目、ついに最初の電気ショックが…

 あとは日を追うごとに、電気ショックの数が増えていきます。
電気ショックはそれ自体ものすごく痛いものではありませんが、
まるで追い立てられるように問題を解かされるのはプレッシャー
で、リサちゃんはついに泣き出してしまいます。

 べつにぶたれたわけではありませんが、クレマン先生の要求に
ついていけないのが悲しかったのです。

 ま、これもお仕置きと言えなくもないのかもないのかもしれま
せんが、リサちゃんは、何とかクレマン先生の要求に応えようと
頑張り続けましたから、最後の数日、お勉強が終わる時はいつも
『涙、涙……』でした。

 その代わり、リサちゃんの学力は二週間で見違えるようによく
なっていました。
 本人はもちろんですが、それはお母さんにとっても『感謝感謝』
だったのです。

****************************

 さて、リサちゃんの問題はこうして解決しましたが、子どもを
三人も抱えていると、問題は次から次にやってきます。

 今度は次女のケイトのことで、お母さんはまた頭を悩ます事に
なるのでした。

 「ただいま」
 ある日、ケイトが浮かない顔で帰ってきます。

 「…?…」
 その顔を見た瞬間、お母さんはピンときました。

 もしこれが赤の他人だったら見過ごしていたかもしれません。
ケイトはつとめて平静を装っていましたから。でも、お母さんと
いうのは、その子と赤ん坊の時から接していて、もの凄く小さな
変化も的確に嗅ぎ分ける能力をもっています。

 おやつを娘の部屋へ持って行き、勉強机の上にそれを乗せると
 「何があったの?」
 と尋ねてみました。

 ケイトの答えは…
 「べつに……」
 だったのですが……

 「連絡帳、見せて……」

 お母さんは連絡帳を出させます。
 娘達の通う学校は細々としたことにも目が行き届いていました
から、担任教師のしたためた連絡帳を見れば、たいていのことは
そこに載っています。

 案の定、ケイトの憂鬱の原因がそこに書いてありました。

 『そういうことか』
 お母さんはそれを見て納得すると同時に、小さなため息をつき
ます。

 そこには……
 『健康診断の結果、ホルモンバランスに若干の異常がみられま
したので、一週間貞操帯を装着して経過観察を行います。ご家庭
におかれましてもお気づきの点がありましたらご連絡ください』
 と書かれていました。

 分かりにくい表現ですが、要するに『ケイトにはオナニー癖が
ありそうなので、矯正措置として一週間貞操帯を装着させること
にしました』というものです。

 ケイトも年頃、当然、初潮は済んでいますし、体つきも大人に
向っています。性欲だってないわけがありません。
 ただ、大人というのは身勝手で、自分たちだってその事で散々
悩んだはずなのに、大人になると娘にはやたらと純潔を求めるの
です。

 大人たちは言います。
 『オナニーなんて不健康、シスター遊びは不純な行い。そんな
穢れた娘は、よりハレンチなお仕置きで自分の汚さを自覚させ、
矯正させなければならない』

 これがオニオン星の正論です。

 もちろん、そんなこと子供たちにとっては承服しがたいもので
したが、まだ力のない彼女たちには、それに抗(あらが)うすべが
ありませんでした。

 地球より若干科学の進んでいるこの星の学校では、生徒の座る
椅子に測定器が仕掛けてあって、性的に興奮するとそのデータが
記録されることになっていました。

 もちろん、そんなことが授業中に一回二回あったからといって
問題にはしませんが、これが10回、20回となれば話は違って
きます。

 クラスあるいは学校に特殊な関係を持つ子がいるんじゃないか
と疑われて、放課後、精密検査が行われます。
 クリトリス、膣口、肛門、尿道口…ありとあらゆる恥ずかしい
場所が念入りに調べられ、もしそこで『オナニーの常習性あり』
と判断されれば、その場で、貞操帯を装着させられてしまうので
した。

 オニオン星で使われているこの手の貞操帯は、薄いシリコンで
出来ていて、いったん装着すると自分独りで取り外しできません
し、女の子のお臍の下にある全ての穴を塞いでしまいますから、
オナニーだけでなく、オシッコもうんちも月経の処理も自分独り
では何もできませんでした。

 そこで、用を足すたびに家ではお母さん、学校では保健の先生
の手を煩わせることになります。これは女の子にとってはとても
辛いことだったのです。

 しかも問題はそれだけではありませんでした。

 先生方は誰に貞操帯を装着させているかを他の生徒たちに知ら
れないように配慮しますが、貞操帯を着けられた子はどうしても
保健室の利用頻度が高まりますから、クラスメイトにバレること
だって珍しくありません。

 学校は虐めにつながるような陰口や噂話をもちろん禁止しては
いましたが、女の子って陰口が大好きですからね、告げ口される
と『校長室行き』と分かっていても、貞操帯をめぐる井戸端会議
がなくなる事はありませんでした。

 「ねえ、あの子、誰のこと思ってオナってるの?」
 「そういえば、最近、あの子の方から変な匂いがするけど、朝、
家で一回やってから学校にきてたんじゃない?」
 「わぁ~ばっちい子」
 「家じゃないと思うわ。お母さんにばれたら大変だもの。学校
来てからトイレでやってるのよ」
 「ねえねえ、淫乱ベルト(貞操帯)捲いてるって誰のこと?」

 と、まあ、こんな話をあちこちでされたら、そりゃあ年頃の女
の子が傷つかないはずがありません。その意味でもこのお仕置き
は辛かったのです。

 いえいえ、問題は学校だけに留まりません。
 家に帰っても、こうした話題が大好きな人たちがいます。

 そう、自分の姉妹。
 彼女たちは親しいですからね、噂話だけではおさまりません。
 お母さんの名代として、ウンチやオシッコのお手伝いも……

 姉や妹に晒す自分の恥部はこれ以上ないほどの屈辱的でした。

 でも、それは承知でお母さんは長女のマーシにケイトの世話を
頼みます。それはケイトにとってこの貞操帯が初めてではなく、
また過去に彼女のオナニーを偶然目撃していましたから、ケイト
にその癖があることはお母さんも知っていたのです。

 お母さんは、今回、ケイトに厳しいお仕置きをして、その癖を
治すつもりだったのでした。

***************************

5/8 女の都 ~4~

5/8 女の都 ~4~

*)派手なシーンはありませんが、一応Hな小説です。

 リサちゃんは校長先生からお母さん宛のお手紙を託されて部屋
を出ます。

 校長先生との約束通りこの場でのお仕置きはありませんでした
が……
 『なによ、毎日二時間、二週間も居残り勉強させられるなんて
その方がよっぽどきついじゃないのさあ』
 リサちゃんはぼやきます。

 もちろん、これからクレマン先生との授業がとうなるか分かり
ませんが、もし、そこでもできが悪いようだと……電気の電圧を
あげたり、やたら滅多らスイッチを入れられたりしかねません。

 帰り道、小石を蹴り蹴りそんな最悪のシナリオが頭に浮かんで
離れませんでした。
 『いやだなあ』
 出るのはため息ばかりです。

 すると、そんなリサちゃんの前を親友のドリスが、何だか歩き
にくそうにして歩いているのが見えます。

 『あっ、あいつ』
 リサちゃんは今までの深刻な顔を封印、さっそく彼女の前へと
回り込みました。
 その時は、今までのことはすべて忘れて満面の笑顔です。

 「何よ、あんた、どうして私のお仕置き待っててくれなかった
のさあ。独りで帰るつもりなの?……私たちお友だちでしょう」

 文句を言うと……ドリスちゃんは肩まで伸びた長い髪の奥から
顔を歪めたままリサちゃんを見下ろして弁明します。

 「仕方ないでしょう、イラクサパンツ穿かされてるんだもの。
あんたの帰りなんて待ってらんなかったのよ」

 「ん?」
 リサちゃんはドリスちゃんの後ろ姿からそれは分かっていたの
ですが、あえて初めて気づいたというような顔をして、いきなり、
彼女のスカートを捲り上げます。

 「ばか、やめてよ!!」
 ドリスちゃんの嬌声と共にリサちゃんが見たのは、ぽっこりと
膨れたドリスちゃんの白いショーツでした。

 「ふうん……どうしたの?……何、やらかしたの?」
 リサちゃんは、興味津々。ドリスちゃんの困った顔を覗き込み
ながら自分のことは棚に上げてお友だちをからかってる、そんな
笑顔でした。

 「たいしたことしたわけじゃないの。ブラウン先生の似顔絵を
アンナと見せっこしてたら、いつの間にか後ろに先生が立ってて
……」

 「似顔絵って、例のお尻かいてる猿の絵でしょう。それって、
まずいわよ。ああみえてブラウン先生ご自分の顔が猿に似てるの
とっても気にしてるんだから……ふうん、それでイラクサパンツ
穿かされたんだ」

 「わかったらあっち行っててよ。……これって、とっても歩き
にくいんだから……」

 「ねえ、そんなのさっさと捨てちゃいなさいよ。あとでお股の
中が痒くなって仕方がないわよ」

 「わかってるわよ!そんなこと。でも、そうはいかないでしょ」

 「どうして?」

 「そんなことしたら、私、お母さんに殺されちゃうわ。ちゃん
と先生の罰を受けなかったって……」

 「オーバーねえ。おばさん、私と会うと、いつだって優しそう
な笑顔だよ」

 「馬鹿ね、それはあなたが他所の子だからよ。うちのお母さん、
家の中じゃもの凄く怖いんだから……」

 「そうか、うちの母さんも陰では色々言うけど、その子に面と
向かってだとめったに怒ったりはしないものね」

 「当たり前じゃない。どこの親もそんなの同じよ。リサちゃん
は、外ではニコニコしてたのに家の中に入ったとたんお母さんが
怖い顔になったってことないの?」

 「ん?………」
 リサちゃんはちょっとだけ思い出してから答えます。

 「あっ、ある」

 「じゃあリサちゃんちだってあるんじゃない。お母さんなんて
みんなおんなじよ。……ところで、あなた、今日は何だったの?
あなたの方こそ校長室へ呼ばれたんでしょう?」

 「まあね」

 「何よ、言いなさいよ。私も話してあげたじゃない……あなた
だけ黙ってるなんて卑怯よ」

 「わかったわ、話せばいいんでしょう。今日は校長室に呼ばれ
たけどお仕置きはなかったの」

 「あれ、珍しい」

 「喜んでばかりはいられないわ。……ただし、明日から二週間、
クレマン先生と二人っきりで居残り勉強なのよ」

 「わあ~かわいそう。だってあの先生、マンツーマンになると
やたら張り切っちゃって、自分が出した問題を生徒が間違うたび
に、やたら電気椅子のボタン押すんだってよ」

 「ほんと?」

 「ホントよ。マリアから聞いたの。モルモットにされたって」

 『ヤバッ…』
 リサちゃんは思いますが、校長先生と約束した事を今さらどう
することもできませんでした。


 「じゃあね」
 「また、明日、一緒に学校行こうね」
 「わかった」

 二人はドリスちゃんの家の前で別れましたが、よたよた歩きの
ドリスちゃんが家の中に消えてほどなく……

 「馬鹿だね、この子は……また、何もらってきたのさあ!……
いいから脱いで……そんなもの途中で捨ててくればいいんだよ」

 ドリスちゃんのお母さんの甲高い声が、その家から遠ざかろう
としていたリサちゃんの耳にも届きます。

 『ほうらみなさい。だから、途中で捨てればよかったのよ』
 そうは思いましたが、今は人のことをとやかく言っている暇は
ありません。
 すぐそこに自分の家がもう見えていました。


 「ただいまあ」

 玄関を入って、居間へ行くと、すでにお母さんがおやつを用意
して待っていました。

 朝、トラブルがありましたからね、『怒ってるかな?』って、
ちょっぴり心配なリサちゃんでしたが、お母さんはいつものよう
に笑顔で迎えてくれます。

 「おやつが出てるから手を洗っておいで……」

 ランドセルを部屋に置いて、手を洗って戻って来るとお母さん
はいつものお母さんでした。
 テーブルに置かれた菓子盆のクッキーと一杯のミルク。それを
食べて飲んで頭をなでなでされるのも普段と変わらない日常です。

 「今日は写生に行ったんだろう。どこまで行ったの?」
 「すぐ近く、学校の裏山に登って、頂上から港町を描いたの」
 「上手に描けた?」
 「わからない、あまり時間がなかったから仕上げは教室に戻っ
てやったの。でも、先生はよく描けてるって褒めてくれたわ」

 お母さんはリサちゃんの学校での出来事を色々と尋ねます。
 叱る時もまずは当たり障りのないことから……これもいつもと
同じでした。

 でも、それがひと段落すると……
 「今日、国語のテストがあったわよね。あれ、どうだった?」
 いよいよ本題。

 朝、見つかってしまった45点の算数のテスト、あれもおやつ
を食べたテーブルに登場します。
 リサちゃん絶体絶命なんですが……

 「国語、35点だった」
 リサちゃん、もう開き直っていました。

 「そうなの」
 もちろん、お母さんはがっかりです。強心剤が欲しいくらいで
した。

 「あっ、忘れてた」
 でも、ここでリサちゃんはランドセルの中にしまった35点の
テストと校長先生からの手紙を取りに行きます。
 実はこの校長先生からお手紙がリサちゃんにとって唯一の救い
だったのです。

 「はい、これ……校長先生からのお手紙」
 戻ってきたリサちゃんはぶっきらぼうにそのお手紙をお母さん
に手渡しました。

 そこには、これから二週間の補習授業を行うことと……これが
大切なことなんですが……その間、家庭ではお仕置きをしないで
ほしいというお願いが書いてありました。

 「わかったわ、クレマン先生が補習してくださるのね。………
だったら、お仕置きはいらないわね」

 手紙を読み終わったお母さんの言葉にリサちゃんはほっと肩を
なでおろしましたが……

 「…でも、先生とマンツーマンだったら、あなた相当に頑張ら
ないとついていけないわよ。わかってる?」

 「わかってる」

 「クレマン先生、ご自分の時間を削って手伝ってくださるの。
だから出来の悪い子は情け容赦なくお仕置きされても文句はいえ
ないの。そういうこと、分かってる?」

 「わかってる」

 「ふう……」
 お母さんはリサちゃんの気のないご返事に心配そうにため息を
つきます。

 『わかってるわよ。うるさいわね』
 リサちゃん、もちろんこれから大変なのは承知していましたが、
とにかく今はお母さんからのお仕置きがなくなったことで、つい
つい笑みが顔に出てしまうのでした。


**************************

5/7 女の都 ~3~

5/7 女の都 ~3~

*)派手なシーンはありませんが、一応Hな小説です。

 リサちゃんはドアをノックします。
 本当のことを言うと、もうそれだけでおしっこをちびりそうで
したから、『リサです。お呼びでしょうか』という声がでません
でした。

 すると、ドアの向こうから……
 「リサちゃんね。入ってらっしゃい」
 という校長先生のいつもの優しい声がします。

 『いつも、この声に騙されて悪乗りしちゃうのよね。気をつけ
なくちゃ』
 リサちゃんは自分に言い聞かせてドアを開けました。

 一番奥の大きな机に校長先生がいてその脇にはクレマン先生が
立っています。
 20畳ほどの室内はワックスで磨き上げた板張り、ほんのちょ
ぴりカビ臭くてオシッコ臭いもする、いつに変わらぬ風景です。

 リサちゃんは劣等生ですから、ここはご常連でしたが、ここに
来ると、いつも背中がぞくぞくっとします。
 ですから、水をかぶったワンちゃんのようにそれをブルブルっ
と払い除けてから、いつも奥へと進みます。

 校長先生も、クレマン先生も、本心はともかくこの時はいつも
にこやかでした。お母さんみたいに最初から目を三角に釣り上げ
たりしていません。

 「そこのお椅子に腰掛けなさい」
 校長先生に勧められるまま、リサちゃんは校長先生と向かい合
う椅子に腰をおろします。

 これは生徒を尋問するための尋問椅子。ですから、リサちゃん
だって表情はまだ硬いままでした。

 『ここでホッとしてちゃまずいわ。いつものように調子に乗っ
ちゃうもの。ここは『ごめんなさい』って顔をしなきゃ』
 リサちゃんがそう思ってると……

 「どうしたの?今日はいつものような元気がないみたいだけど、
お母さんに怒られそうで怖いのかしら?」

 「…………いいえ」
 リサちゃんが搾り出すような声で答えますと……

 「それならいいけど、お母さんのお仕置きが気になるようなら、
先生、お手紙書いてあげてもいいわよ。『今回のことで、新たな
お仕置きはしないでください』って……」

 「ホント!」
 リサちゃんは思わず大声で立ち上がります。
 もちろんそれって、願ってもないことだったからでした。
 おまけに……

 「ホントよ。それに、今日はここでお仕置きもしないわよ」

 校長先生の言葉は耳を疑うような朗報でしたが、でもそれには
条件がついていたのです。

 「嬉しい?……そりゃそうよね。でも、それには理由があるの」

 「えっ?」

 「今日のテストに限らず、このところ成績が芳しくないのは、
あなたも自分で分かってるでしょう」

 「……はい」

 「そんな子に、ここでお仕置きしても効果は期待できないの。
お仕置きってカンフル剤みたいなものだから、ちょっとした躓き
には効果があっても根本的な治療にはならないわ。あなたの場合
は小手先の事じゃなくて、もっと本格的なお勉強が必要だと私達
は判断したの。わかるかしら?」

 「本格的なおべんきょう?」

 「そう、これから二週間の間は、放課後クレマン先生と一緒に
お勉強するの」

 「え~~~~~」
 リサちゃんは思いっきり嫌な顔をします。
 だって、お勉強が好きだったり興味があったら、テストのお点
がこんなに低いはずがありませんから……

 「体育だったらやってもいいけど……」
 小さい声で愚痴を言うと……

 「そちらはもう十分優秀だってわかってるもの、いらないわ。
あなたにとって大事なのは国語と算数よ」
 校長先生が諭すようにおっしゃると……

 「算数ってつまらないもの」

 「どうして?」

 「だって、数字と記号ばかりで、人間がでてこないもの。あれ
じゃ誰に頼っていいかわからないわ」

 「頼る?」
 思わず出たクレマン先生の驚きの声を制して校長先生は続けま
した。
 「そうね、でも、これもできないと、大人になって困るわよ。
家計簿がつけられないんじゃ、お母さん失格よ」

 「お母さんかあ……」
 リサちゃんが思わずつぶやきます。

 校長先生はリサちゃんがお母さんに憧れているのを知っていま
した。
 勿論、この星でもクレマン先生のように王様のお城に種を授け
てもらいに行かない人もいましたが、多くの人は苦労はあっても
『お母さん』と呼ばれたいと思っていたのです。

 「どのくらい勉強するの?」

 「一日、二時間くらいかな」

 「……(えっ!)……」
 クレマン先生は軽くおっしゃいますが、リサちゃんはその瞬間、
目がまん丸です。彼女そんなに長く椅子に座っていた経験があり
ませんでした。

 『いやよ、そんなの。そんなに長い時間電気椅子に座ってたら
お尻が焦げちゃうわ』
 リサちゃんは思います。

 科学の進んだこの星では子供が勉強する時は電気椅子に座らせ
てやるのが一般的でした。
 コンピューター管理のこの椅子は、ここに座った子が居眠りを
始めたり、問題を間違えたり、勉強と関係ない事を思ったりする
と、たちまち穿いてるショーツを伝って微弱な電気が流れる仕組
みになっていましたから、怠け者の生徒には効果的なアイテムだ
ったのです。

 お勉強嫌いのリサちゃんは、授業中に何回となく、「はっ!」
「はっ!」とさせられます。そのたびに背筋はピンと伸びますが、
もちろんそれで火傷なんてしません。
 ただ、それって心臓によくないですから、乱用を避けるため、
家庭には置いてありませんでした。

 そこでリサちゃん、電気椅子のない自宅でできないかと思って
 「お母さんに習っちゃいけませんか?」
 と尋ねてみたんですが……

 「もちろん、それが出来ればそれが一番いいけど……お母様は
お仕事がお忙しいでしょう?それに、クレマン先生は子供たちに
勉強を教えるのがお仕事だもの。きっと、あなたのお勉強だって
はかどると思うわよ」

 校長先生に説得されてしまいます。
 結局、放課後二時間、二週間も、リサちゃんはクレマン先生の
マンツーマン特訓を受けるはめになったのでした。

***************************

5/6 女の都 ~2~

5/6 女の都 ~2~

*)派手なシーンはありませんが、一応Hな小説です。

 三人はスクールバスで学校へとむかいます。
 学校は小高い丘の上、幼稚園から小学校、中学校、高校までが
ここにあります。

 ですから、下はまだ赤ちゃんみたいな幼稚園児から身体つきは
すでに大人に見える高校生まで、みんな一緒に校門をくぐります。
 そしてすぐに現れる学校の創立者、ケイト・ミス先生の胸像
に一礼、その先にあるそれぞの学校、幼稚園、小学校、中学校、
高校へと流れて行きます。

 このケイト・スミス先生の胸像への一礼はこの学校に通う生徒
なら、幼稚園児であろうと高校生であろうと登校と下校の時には
必ず一回ずつしなければならない挨拶でした。

 小学校に通うリサも当然それはわかっていたのですが、今朝、
出来の悪いテストをお母さんに見られてしまいましたから、その
ショックを引きずっていたのでしょう。
 スミス先生の胸像を思わずスルーしてしまいます。

 すると、その直後、担任のクレマン先生のお腹へ体当たり。

 「どうしたのリサちゃん。スミス先生の前を通り過ぎちゃった
わよ」

 クレマン先生ににこやかに言われて、はっと我にかえったリサ
ちゃんは慌てて胸像の前に戻ると、そこに膝まづいてあらためて
ご挨拶します。

 普通は、この胸像の前を通り過ぎる時、スミス先生の顔を見て、
ちょこんと頭を下げさえすればよいことになっていたのですが、
このご挨拶を忘れて通り過ぎてしまった子は、改めてその前に膝
まづいてご挨拶をする規則になっていました。

 『もう百年以上も前に亡くなった人に今さらご挨拶なんて変だ
よ。意味ないよ』
 って、男の子なら言いたいところですが、女の子の社会では、
序列はとても大事なこと。そのトップに位置する創立者のケイト
スミス先生は、たとえ亡くなって何年経っていようと後輩たちが
必ずご挨拶しなければならない人だったのでした。

 「どうしたの?ぼんやりしてた?……さては、お出掛けの時に
お母さんに叱られたのかな?」
 スミス先生へのご挨拶が終わったリサちゃんの肩を、クレマン
先生が優しく抱いて、二人は小学校の敷地へ……

 「……あなた、昨日、返した算数のテスト。あれ、お母さんに
ちゃんとお見せしたの?」

 「…………」
 リサちゃんは何も言わず先生を見つめますが……
 先生はそれで全てお見通しでした。

 「隠してたのね。……それをお母さんに見つかった?」

 「…………」

 「図星みたいね。でも、だめよ。現実から逃げたってどうにも
ならないわ。どのみち夢の世界へは逃げ切れないもの。あなたの
立場がどんどん悪くなるだけよ。お仕置きがどんどんきつくなる
だけだわ」

 「うん」
 リサちゃんは小さく頷きますが、その拍子に、涙が一雫地面に
落ちます。

 勿論リサちゃんだって先生のおっしゃることは分かっています。
でも誰だって怖い目や痛い目にはあいたくないですからね。つい
つい怖くなって、先延ばし、先延ばしを考えてしまうのでした。

 「今日は国語のテストがあるけど、ちゃんとお勉強してきた?」

 「…………」
 先生の問いにリサちゃんは自信なさげに俯きます。

 「無理ないか、心配事抱えてたら勉強なんて手につかないもの。
……そんなことじゃ、今日の国語のテストも心配ね」


 先生の不安は的中してしまいます。
 リサちゃんの国語のテストは35点。合格点の80点には遠く
及びません。それどころか、これで国語は3回連続不合格点です。
 それはこの小学校においては放課後のお仕置きを意味していま
した。


 小学校の放課後、校長室に呼び出されたリサちゃんは、3人の
子供たちが順番待ちをしてる長椅子に並びます。

 どの子も緊張した面持ち。リサちゃんだって、とても笑顔には
なれませんでした。
 そんな張り詰めた空気の中、突然、部屋の中から悲鳴が聞こえ
ました。

 「いやあ、もうしないで、お願い、痛い、痛い、だめえ~~」
 
 悲痛な叫びは1分くらい続いたでしょうか。そして、しばらく
してから校長室のドアが開きます。

 出てきたのは、リサちゃんと同じ学年の子。
 担任の先生に付き添われていましたが、とても打ち萎れた感じ
で声さえ掛けにくい雰囲気です。
 おまけにその子、大事そうにベッドパンを抱えていましたから、
それだけでも何があったかが分かります。

 『私もお浣腸させられるのかなあ』
 リサちゃんは暗い気持になります。

 お浣腸は、厳しいお尻叩きや鞭打ちのお仕置きの際、女の子が
思わず粗相をしてしまわないように事前に行われるもので、部屋
の隅に置かれたベッドで行われます。

 まるで赤ちゃんがオムツ替えをする時のように仰向けに寝て、
両足を高く上げて、すっぽんぽんの自分のお股を大人たちの前に
晒します。
 いくら女の子ばかりの世界、いくら幼い小学生でも、そりゃあ
恥ずかしいに決まっていました。

 おまけにトイレへ行くことは許されず、部屋の片隅に置かれた
ベッドパンに跨って用を足すことになりますから、恥ずかしさも
ひとしお。先生にいくら『これはお仕置きじゃないのよ』なんて
言われても、子供たちにしてみたらこれ自体もう立派なお仕置き
だったのです。

 次に部屋に入ったのは、リサちゃんの小学校では最上級生の子。

 しばらくすると、部屋の中から鞭音が響き始めます。

 「ピシッ、…………ピシッ、…………ピシッ、…………ピシッ」

 『トォーズだわ。私もあれかなあ』
 リサちゃんの両腕に思わず鳥肌が……

 トォーズは女の子のお仕置き用に特注された幅の広い革ベルト
の事。低学年の子には脅かしで見せるだけなんですが、10歳を
越える頃になると実際に使われ始めます。

 もちろん平手より痛いのですが、籐鞭(ケイン)などと違って、
痕がつくことがほとんどありませんし、痛みがひくのも早くて、
校長室でいくつぶたれても自宅につく頃にはお尻に痛みがありま
せんでした。

 「ピシッ、…………ピシッ、…………ピシッ、…………ピシッ」

 結局、12回。鞭音が響きましたが、ついに悲鳴が聞こえる事
はありませんでした。

 ほどなく、校長室のドアが開きます。
 
 「お仕置き、ありがとうございました」
 お姉様は、部屋の中で一礼すると、まるで何事もなかったかの
ようにリサちゃんの前を通り過ぎていきます。

 『かっこいいなあ。やっぱり、お姉様になると違うのね。私、
一年経ってもああはなれないだろうなあ』
 リサちゃんはお仕置きされても凛として誇りを崩さないお姉様
の姿に憧れを抱きます。

 ちなみに、学校での上級生はみんな『お姉様』でした。
 いえ、たしかに間違いじゃありません。だって、この星の子供
たちは血縁でみれば、みんな腹違いの姉妹なですから、『お姉様』
でも間違いありませんでした。

 次に部屋に入ったのはリサちゃんより幼い子。

 でも、いっこうに鞭音も悲鳴も聞こえてはきませんでした。

 『いったい、何やってるんだろう。……チビちゃんだからなあ
お仕置きってないのかなあ』
 リサちゃんは羨ましそうに校長室のドアを見つめ、自分の事を
思い出します。

 というのも、校長室に呼ばれた子は全員がぶたれるというわけ
ではありませんでした。改悛の情が認められればぶたれない場合
だってあるのです。

 特に幼い子は校長室に呼ばれた段階で震え上がっていますから
先生方もお仕置きには慎重なのです。
 お小言の最中に泣き出す子もたくさんいますから、逆に先生方
がなだめたりします。

 このように、女の子社会の場合は改悛の情がお仕置きに大きく
影響しますから、校長室に入ったら、できるだけ申し訳なさそう
な顔をしていなければなりません。年齢に関わらず当然ため口は
タブーなのですが……

 でも、先生があまりにやさしかったのでリサちゃん思わずため
口で話し、普段の調子で冗談を言ったら、お手々とお尻に小さな
蝋燭の蝋を垂らされてしまいました。

 8歳の少女は、健気にも悲鳴はあげませんでしたが、そりゃあ
熱いに決まっています。恥ずかしいに決まってます。
 『あの時はまずかったなあ、つい悪乗りしちゃって……』
 苦い思い出が頭をよぎります。

 幼い妹は部屋を出て帰る時、手の甲をさすり、数回スカートの
上からお尻をさすっていましたから、ひょっとしてこのお仕置き
を受けたのかもしれません。

 そして、いよいよリサちゃんの番がまわってきたのでした。

*****************************

5/4 女の都 ~1~

5/4 女の都 ~1~

*)Hな小説です。

 銀河の外れに、全人口が1万人あまりという小さな星がありま
した。

 オニオン星。
 住民はヒューマノイド。つまり人間に近い形をしていますが、
その大半が女性。男性は王様と王子様のお二人だけ。ですから、
この星は別名『女の都』と呼ばれていました。

 何でも、美しい子や頭のいい子を求めて遺伝子操作を繰り返す
うち、Y染色体に異常が生じて滅多に男の子が産まれなくなった
のだそうで、男の子が産まれる確率は1万回に1回くらい。

 圧倒的な女性上位なわけですが、とにかく精子がありませんと
子孫が絶えてしまいますから偶然生まれてきた男の子は貴重です。
 そう、貴重な存在だったからこそ、このお二人が王様や王子様
に祭り上げられたというべきかもしれません。

 お二人の仕事は、とにかく子種を蒔くこと。
 つまり、人口の大半を占める女性とのSEXです。
 もちろん、彼らの科学力なら人工授精という方法もありますが、
過去の過ちに懲りたのか、もう長いことそうした技術は封印して
昔ながらの方法で子供を創っていました。

 つまり、20歳になった女性は、王様か王子様のお城へ行って
処女の膜を破ってもらうのです。
 これには良いとか悪いはありません。王様王子様が好きか嫌い
かも関係ありません。あくまで国民の義務として王様王子様に身
を委ねて子供を創るしか方法がありませんでした。

 そして、女の子ができると、これも義務として子育てします。

 もちろん、一回で着床するとは限りませんから、何回も何回も
王様や王子様に会いにいく女性も珍しくありませんでした。でも、
中には色んな事情から妊娠できない人もいて、そんな人は国から
子育て中の人たちのために養育費の負担金を出すように求められ
ますから、子供を授からないというのは結構真剣な悩みだったの
です。

 そんなことから、この星は女性だらけの星。女の都と呼ばれる
ようになったというわけです。

 ところが、ごくごくまれ。それこそ宝くじに当たるような確率
ではありますが、お腹に男の子を宿すことがあります。
 もし、そんなことになると大変でした。

 とにかく1万回に一回しか生まれない男の子ですからね、町は
お祭り騒ぎ。その女性は聖母とあがめられてお城へ上がることに
なります。

 一夜にして、平民から女王様になるわけですからシンデレラも
真っ青の夢物語です。
 もちろんこの星に住む女性なら誰もがこの夢物語を追いかけて
いました。

 ですが、現実はそんなに甘くはありません。
 大半の娘は女の子を生んで育てる人生です。
 そして、生まれた子もまた、そうした『女、女、女』の世界で
育っていくことになります。

 そんな女だらけの都ってどんな処でしょうか……
 男性と同居する一般の社会では綺麗好きでおしとやかと評判の
彼女たち。きっと町には四季に草花が咲き乱れ、華やかで清潔で、
誰もが上品に挨拶を交わしながら暮らしているとお思いですか?
 では、ちょっと覗いてみましょう。

****************************

 カーソン一家はお母さんの他、11歳のリサ、14歳のケイト、
16歳のマーシと三人の娘がいます。

 この家庭に限らず、どのお宅でもお父さんというのはいません
から、お母さんは働きながら子育てしなければなりませんでした。

 事務の仕事をしながらの子育ては一見大変そうにも見えますが、
娘たちは幼い頃から家事を分担させられてきましたから、娘たち
もこのくらいの歳になれば母親代わりの仕事が一通りできるよう
になっています。

 一番下のリサにしても自分の下着は自分で洗い、お姉ちゃん達
が作ったおかずを自分で詰めてお昼のお弁当も作ります。
 朝の食事もお母さんが作るのではなく、すでに娘たちの仕事に
なっていました。
 お母さんは食堂へ来て、ただ新聞を広げて読むだけ。

 「何なの!これ、卵、焦げてるじゃないの。やり直しなさい。
こんなの食べられないわ」
 なんて横柄に文句を言うだけでした。

 女の都は、男以上に厳しい身分社会。
 男の社会では実力がつく事で父親の口を塞ぐことができますが、
女の都の娘たちはいくつになっても子供は子供。どんなに家事が
上手になっても、子供は母親に何一つ逆らえませんでした。

 「ルミホフお父様のご慈愛に感謝申しあげます」
 「セミホフお父様のご慈愛に感謝申しあげます」

 食事の挨拶には王様、王子様への感謝の言葉が必ず入ります。
 思えば、この母親も娘たちも王様、王子様のお子さんなんです
から、当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、王様王子様
に子種を頂くこと以外、庶民に特別な恩寵はありません。

 それでも、女の子たちにとって、王様王子様は権威そのもので
あり、尊敬や憧れの対象でした。王様王子様からじかに愛された
ということ、王室と血筋がつながっているという事が誇りだった
のです。

 さて、食事が終わると、娘たちは学校へ行くわけですが……

 「マーシ、こんな襟垢のついたブラウス着て、あなたちゃんと
洗濯したの?」
 お母さんはマーシの白いブラウスの襟を引っ張ります。

 「洗濯しました。でも、これ以上落ちないんです」

 「そんなことはないわ、あなたのやり方が悪いの。今日は期末
試験でしょう。先生方に襟元だって見られるわ。……いいから、
新しいのを下ろして行きなさい。……これは脱いで。私が洗って
おくから」

 「あっ、ケイト。ちょっとお待ち」
 もう、ちょっと声をかけるのが遅かったら玄関から飛び出して
いました。

 お母さんの言葉に仕方なく足を止めたケイトでしたが……
 お母さんはケイトの傍まで寄ると、彼女の顔をひと睨み。……
いきなり膝下10センチのフリルスカートの裾を捲り上げます。

 「いやぁ!」

 「やっぱり、そうね。……あんた、この間もシルクのショーツ
を学校に穿いて行って注意されたばかりじゃないの」

 「仕方ないでしょう、流行ってるのよ。みんなで見せ合ってる
の。だって、家の中で穿いてても誰も見てくれないもの」

 「そんなの他人に見せることじゃないでしょう」

 「だって、そんなことしたら私だけ仲間外れにされちゃうもん」

 「ほかの子は関係ないでしょう。学校の規則でショーツの生地
は綿と決まってるんだから従うのは当然じゃないの。規則違反で
またイラクサのパンツを穿かされるわよ」

 「さあ、あなたも穿き替えてらっしゃい」

 二人が着替えに戻ったあと、お母さんは残ったリサにも……

 「さてと、リサ。これは何かしら?」
 お母さんは皺くちゃになったA4版の紙をテーブルの上に広げ
はじめます。

 それはリサのテストの答案用紙。
 45点と書いてありました。

 「それは……」

 「ゴミ箱の中にあったお菓子の箱の底に、綺麗に折りたたんで
しまってあったわ。あなた、ずいぶん不思議な場所にテスト用紙
をしまうのね」

 「…………」

 「まあいいわ、その話は学校から帰ってからにしましょう」

 とまあ、お母さんはいつもこんな感じで子供たちを送り出すの
でした。


 女の都の学校には当然男性がいません。先生も生徒も女の子。
 ということは、当然、そこは華やかで上品で、粗野なんて言葉、
校庭の片隅にもありません。なんて言いたいところですが、事実
はそうではありませんでした。

 実は、女性が優しくて上品なのは男性を意識するから。
 生まれてこの方、どこにいても男性を意識する必要のなかった
彼女たち、そもそも上品に振舞う必要なんてありません。
 むしろ直感で行動する女の子たちは、男の子以上に自由奔放で
ハレンチ。優しい心の持ち主なんて童話の世界以外に存在しませ
んでした。

 そんな粗野で恥知らずな連中の面倒みなければならない先生達
もまた穏やかでやさしいはずがありませんでした。
 男性のように体力のない女の先生たちが頼るのは、細かすぎる
規則とそれに反した時、公明正大に許されるお仕置き。

 もともとハレンチな女の子に課すお仕置きですから、お仕置き
だって半端じゃありません。それにさらに輪をかけたものになり
ます。

 小学校から高校まで、男性の目があったらここまではまずやら
ないだろうと思われるようなハレンチなお仕置きのオンパレード。
女の都の子供たちはそんな試練を何度も受けて大人へと成長する
のでした。

***************************

5/3 お父さん

5/3 お父さん

*)ショートショート。太郎君のお父さんの話でHありません。

 昭和30年代の頃というと、世間ではまだまだ怖いお父さんが
たくさんいた時代。
 でも、太郎君のお父さんは温和でおとなしい性格だったので、
太郎君、お父さんから怒られたという記憶がほとんどない。

 『勉強しろ』なんて言わないし『部屋のお片づけはどうなった
の』なんて声も聞いたことがない。
 そういう事は全てお母さんに任せて、そばに寄るといつもお膝
に抱き上げてよしよしって頭を撫でてくれた。

 そして、太郎君が興味を示せばなんでも教えてくれたんだ。
 学校では習わない方程式の仕組みや英語での挨拶、ロケットの
構造や漢詩の解説。体系的とか学問的にではなく、あくまで雑学
なんだけど、幼い子にはそれで十分子守唄代わりになっていた。

 幼い太郎君のボキャブラリーがあまりに豊富で大人たちを驚か
せていたのもお父さんのお膝あってのことなのだ。

 旧制中学しか出てない割りに、けっこう物知りだから、太郎君
にとっては知的好奇心の源泉でもあったんだ。

 書道と東洋哲学が趣味で、お友だちとご本も何冊か出している。
 みんな自費出版だから赤字。そんな本を出す時だけお母さんに
は猫なで声だ。

 「うちには出来の悪い長男がもう一人いる」
 ってお母さんがよくこぼしてたけど、この出来の悪い長男って
のがお父さんのことなの。

 そんなお父さんに太郎君一度だけ大声で怒鳴られて、ぶん投げ
られたことがあった。

 あれは、お父さんが展覧会に出すための作品を清書していた時
のこと。大きな紙に、やたら難しい字ばかり書いてたお父さんが
一息ついたように見えた。
 てっきり、もう終わったと思ったから……

 「お父さん」
 って……座敷の真ん中で正座して前かがみになったその背中に
ポンと乗ってみたら……

 「何するんだ!」って怒鳴られたあげく、まるで紙くずを放り
投げるように身体ごと襖にドン。
 まだ名前を書いてなくて、それが歪んじゃったみたいなんだ。

 まだお昼だけど、お星様が輝いた。

 冷静さを取り戻したお父さんに、すぐによしよししてもらった
けど、部屋の真ん中から隅までふっ飛んだんだもん、そりゃあ、
痛かった。よく襖が破れなかったなあって思うほどの勢いだった
んだ。

 そのあとは、お父さんと一緒に甘納豆を食べた。
 お父さん、書斎に必ずストックしておくから、行くと必ず食べ
られるんだ。

 遠い昔のお話なので、その時なぜお父さんの処へ行ったのか、
今はもう忘れてしまったけど、最初からそれがお目当てだったの
かもしれない。

 社会やお家のためには、何の役にも立たない人だったかもしれ
ないけど、どこかのおじさんが言ってたよ。

 『愛すべき人』なんだってさ。

***************************

5/2 だんまり

5/2 だんまり

*)エッセイ(?)思い出(?)何だかよくわかない話。

 お仕置きって何もぶったり叩いたり辱めたりするだけじゃない。
子供にただプレッシャーをかけるだけのお仕置きというのもある。
例えばそれが『黙んまり』だ。

 要するに、親が子供に口をきかなくなる。今の言葉でいうなら
無視というやつだ。

 これって、けっこう子供には堪える。それまで必ず返ってきた
答えが返ってこない。ご飯とかおやつとかはくれるし、着替えも
してくれるし、お風呂にも一緒に入るけど無言。

 『まずいなあ』
 という思いだけがずっとつきまとって、もの凄いプレッシャー
なのだ。何より、他のお仕置きと違ってお仕置きされてる時間が
長いのがいただけなかった。

 特に太郎君、「お前、口から先に生まれただろう」と言われる
くらいのおしゃべり好き。特にお母さんと一緒にいれば、女の子
並みかそれ以上、会話が途切れることがなかった。

 それがいきなり、相手が口をきかなくなるんだから、もの凄い
不安で泣き出すことも何度かあった。つまり、こんなささやかな
ことでもお仕置きの効果はあったのである。

 ただ、太郎君の場合、そのお母さんがこれまた子供並に感情の
起伏の激しい人だったから自分の方も長くは持たない。二三時間
が限界で、それ以前でも太郎君が泣き出すと許してしまう。

 いや、それもただ単に許すだけじゃなくて、それから先、しな
くてもよい事まで始めるのだ。

 だんまりのお仕置きが終わった太郎君、気がつけば赤ちゃんの
格好というのがよくあった。

 さすがに小学校も高学年になるとそういうこともないけど、低
学年の頃までは、お母さんの方もそれまで溜めに溜め込んでいた
ストレスを一気に発散させてくるのだ。抱っこして、おんぶして、
速射砲のように言葉が出てくる。

 気がつけば、オムツをはめられ哺乳瓶をくわえさせられてる、
なんてケースがよくあった。もちろん、無意味なことなんだよ。
でも、彼女こんな形でしか子供を愛せないのだ。

 こうなると、太郎君だって逆に『もうわかったから』って逃げ
出したいところだが、そうはいかない。
 こんな格好でお外へは出られないから、実質お仕置きは続いて
いるのかもしれない。

 しかも、夜は夜で、お勉めが待っている。
 もう、とうに用のなくなったお母さんの生のオッパイを舐めて
絵本を読んでもらう。

 「ずっと、ずっとお母さんの愛の中にいます。可愛い、可愛い
赤ちゃんでいます」
 こんな言葉を一緒にくるまったお布団の中で何度も何度も言わ
されるのだ。

 繰り返すが、太郎君のお母さんは街で会えば普通のお母さんだ。
ただ、12歳で精神年齢が止まっているので、こんな形でしか、
息子を愛せなかったのである。
 そして、太郎君もそれにお付き合いするしかなかった。

 でも、それはそれで幸せだったような気がする。
 太郎君の描く小説が浮世離れしているのは多分にこの為なのだ。

***************************

5/1 お尻叩き

5/1 お尻叩き

*)ショートショート

 太郎君にはたくさんの従兄弟たちがいるが、一番仲がいいのは
一番近くに住む明広君だ。歳も同じ、学校も同じ、クラスは違う
けど、お互い弟がいるところまで一緒だ。
 家だって歩いて10分くらいしか離れていないから、家同士も
とっても仲がよくてお互い幼稚園時代からの付き合いなのだ。

 そんなわけで、太郎君と明広君はお互いの家をよく行き来して
は遊んでた。
 人生ゲームや野球盤、トランプ、将棋、プラモや模型飛行機の
組み立て……男の子だから外で遊ぶことだって多いよ。キャッチ
ボールやターザンごっこ、庭の木に秘密基地も作った。

 夏休みともなれば、互いの家に宿題帳を持ち込んで机を並べて
お勉強。特に明広君のお母さんである紀子おばさんは学校の先生
だから、太郎君の方が明広君の家へお邪魔する方が多かった。

 でもこの二人、めちゃめちゃお互いを意識していて、相手より
一秒でも早く問題を解いて、紀子おばさんの処へ持って行こうと
いつも競争していたのである。

 その日も、おばさんの出した問題がほぼ同時に仕上がった二人
は、二階の勉強部屋から脱兎のごとく降りてくる。
 目指すは一階の台所で仕事をしている紀子おばさん。

 ところが、お互い我先にと思うあまり階段途中でもみ合いになり、
数段残して……二人とも尻餅。

 「ドスン、ドスン」
 という鈍い音と振動が家中に響いた。

 「ちょっとあなたたち何してるの。お父さんは昨晩徹夜なさっ
て、まだおやすみになってるの。遊ぶんならお外で遊びなさい」

 二人はせっかく仕上げた解答用紙を取上げられ、二人とも答え
あわせもしてもらえないまま、お外へと放り出された。

 時刻はお昼近く。すでに太陽がギラギラと頭の上で輝いている。
いくら元気な子供たちでも、公園広場まで行って他の子と一緒に
遊ぶのはしんどかった。
 そこで、二人でサッカーを始める。

 サッカーといっても最初はじゃれあってるだけなんだけど……
 そのうち白熱してしまって……僕の蹴ったボールが……

 「ガシャン」
 明広君のお祖父さんが大切にしてる盆栽の鉢を割ってしまう。

 当然、紀子おばさんはおかんむりだけど……
 その時はまだびっくりするほどには叱られなかった。
 その時丁度昼ごはんだったからだ。
 その代わり……

 「二人とも、午後はお部屋の中で遊びなさい。静かに遊ぶの。
トランプとかゲームとかできるでしょう。今度何かやらかしたら、
お父さんにお願いしてお尻叩き。明広は最近お仕置きが遠のいて
るからこんなことするのね。昔のように裸で柿の木に縛り付けて
あげましょうか」

 おばさんは怖い顔して二人を脅す。

 そりゃあ、小学生だもん。それだけだって十分怖かったから、
午後の最初はおとなしくゲームで遊んでた。

 ところが、ひょんなことから……
 「本物の刀ならうちにもあるよ」
 と明広君が言うので……

 客間に飾られていた日本刀を見に行ってみることになった。

 ただそこは、本来子供たちが立ち入ってはいけない場所だった
みたいなんだけど……

 「すげえ~~これ重いなあ~~」
 太郎君は床の間に飾られた本身の刀をさっそく持ち上げてみる。

 「これ、抜けるかなあ」
 「もちろん抜けるさ」
 二人は本身の刀を鞘から抜いてしまう。

 「鎧もあるんだね」
 「それは預かりものだから触れちゃいけないんだって……」
 「でも、槍ならあるよ」
 「どこに?」
 「あっ、ほんとだ」
 槍は鴨居に二本も掛けてあった。

 二人は、踏み台などを使い苦労してその槍を床へ下ろす。
 そして、下ろしてしまえばやっぱりそれで遊びたい。二人して
その重たい槍を持って構えた。

 もちろん、じゃれあい。
 でも、やってるうちに声も動作もしだいに大きくなる。

 「ガシャン」
 槍で立ち回りをやってるうちにガラス窓を割ってしまった。

 今日、三つ目のしくじり。

 お互い『やばい』とは思ったが、一度割れた窓ガラスは元には
戻らない。

 そこへ間の悪いことに障子があいて紀子おばさん(お母さん)が
……

「…………」

 彼女の目に……畳の上に無造作に転がる抜き身の真剣。自分の
背丈より長い槍を持つ腕白坊主二人。しかもその奥には今割れた
ばかりのガラスも見える。

 何があったかなんて一目瞭然なんだけど……
 でも不思議なもので、おばさん(お母さん)は子供たちを叱らな
かった。きっと、開いた口が塞がるのに時間がかかったからかも。

 「いらっしゃい」

 それだけ言うと、二人の手を引いて行き、おじさん(お父さん)
の部屋の前で正座して座ってなさいと言うだけだった。

 そうしておいて自分は明広君のお父さんの部屋に入っていく。

 「やばかったね」
 太郎君はこの時まだ笑顔。でも、そう言って振り向いた明広君
は、もう涙を一杯に浮かべて泣いていてたからびっくりした。

 『げげげ…これからそんなに怖いことが始まるのか』
 楽天家の太郎君もさすがに心配になった。

 数分して、明広君のお母さんが書斎のドアから顔だけ出して、
二人を呼ぶ。

 この時、明広君は太郎君から抱き起こされるようにして立った。
もし太郎君がいなかったらこれをお母さんがやってたことだろう。

 二人は俯きながら、お父さんのもとへ……

 明広君のお父さんは大学の先生。仕事柄部屋に閉じこもってる
ことが多くてアウトドアのイメージはないんだけど、大人の中で
も身体が大きくてがっしりしている。
 まだ小五の二人には、まるでそこにグリズリーが座ってるよう
に見えた。

 「二人とも、夏休みでちょっと、羽目を外しすぎちゅったな。
お爺ちゃんの大切な盆栽は壊しちゃうし、あの刀や槍だって刃は
着いていないけどお前たちの玩具じゃないんだよ。わかってるよ
ね、明広」

 「はい」
 明広君は声がすでに涙声。涙だってこの部屋に入って来てまだ
間がないのに何回拭いたかしれなかった。

 「ごめんなさい」
 太郎君だってこんな様子をみれば、これはただ事じゃないって
わかるから、さっそく謝った。もちろん、申し訳なさそうな顔を
している。
 でも、お腹の中では……

 『明広君、どうしてあんなに怯えてるんだろう。……おじさん、
優しそうに見えるけどなあ』
 って、思っていたんだ。

 すると……
 「明広、今日は私からお仕置きだ。お前ももう大きいし言葉で
言えば理解はできるだろうけど、これ以上ほおっておくと大怪我
のもとだからね、次に何か悪さをする時はほんの少し立ち止まる
きっかけにはなるだろう。お母さんじゃ間に合わないそうだから
私がやってあげる。おいで……」

 明広君のお父さんはそう言って椅子に腰掛けたまま両手を広げ
る。

 「……はい」
 小さな声がして、まるでその大きな腕の中へ吸い込まれるよう
に明広君が飛び込むのだ。

 明広君のお父さんは手馴れた様子で膝の上で息子をうつ伏せに
すると、半ズボンだけをずり下げる。
 パンツだけになったお尻をお父さんが平手でペンペンし始める
んだけど……

 「ごめんなさい、もうしません、いいこになります。いやいや、
もう許して、ぶたないで、ごめんなさい、ごめんなさい、だめえ」
 明広君が泣き叫ぶのだ。

 そりゃあ、もの凄い力でバシバシやられていたら、納得なんだ
けど、太郎君にはそんなふうには見えない。
 お父さんは少しスナップを効かせただけで軽く叩いているよう
に見えるのだ。

 『どうして、あのくらいことで大騒ぎするんだろう』
 太郎君の心の中はむしろ不思議だったのだ。

 あれで30回くらい叩かれただろうか、赤くなった様子を確認
するように最後はパンツも脱がして、5回ぶたれた。

 その苦痛に歪む顔は、太郎君がまだ一度も見たことのないもの
すごい形相だったのである。

 『覚悟を決めるしかないな』
 太郎君は思った。
 実際、アー坊(明広君)が開放されるや、今度はター坊に向って
おじさんは両手を広げる。

 『死刑執行台』
 そんな思いで、おじさんに抱かれたター坊(太郎君)だったのだ。

 「………………」

 たしかにやってることは同じ。おじさんはアー坊と同じように
半ズボンをさげてお尻をたたき始めた。

 「ぃぃぃぃぃぃひひひひひひ」
 そりゃあ痛くないはずはない。まだ子供だもん。
 特に、最後の5発はもの凄く痛かったけど…でも、それって、
歯を喰いしばっていれば何とか耐えられるくらいの痛さ。アー坊
みたいに大騒ぎするような痛さではなかったのだ。

 「太郎君、おうちに帰ったら、おじさんが怒ってもの凄いお仕
置きをされたって言うんだぞ」
 明広君のお父さんはター坊に不思議な助言をして開放してくれ
た。

 『とうして、そんな恥ずかしいこと親に言わなきゃならないん
だ?』

 ター坊は長くその意味が分からなかった。でも、大人になって
から気がついた。
 『もし、自分ちの子が訪問先で悪さをしたのにお仕置きがまだ
だったら、家であらためてお仕置きをしなければならない。でも、
すでに報いを受けていたら、相手の親もそれ以上のことを息子に
しないはずで、だから「お仕置きは済んでるよ」って自分の親に
言いなさい』
 という意味だったのである。


 ところが家に帰った太郎君、恥ずかしくてアー坊の家でお折檻
されたことが言えなかった。

 当然、おうちで再びお母さんからお仕置き。

 耳を摘んで仏間に引っ張って行かれると、お灸のお仕置き。
 太郎君の家ではこれが一番きついお仕置きなのだ。

 「ごめんなさい、もうしません、いいこになります。いやいや、
もう許して、お灸しないで、ごめんなさい、ごめんなさい、だめえ」
 気がつけば、明広君と同じことを言っている。

 そして、それが終わりその様子を覗き見していた天敵の姉から
……
 「あんたって、ほんと、男のくせに意気地がないんだから……
いつも据えられてるくせに、こんな小さな艾でビービー泣いたり
して……見ていてみっともないったらないわ」

 太郎君は姉ちゃんの言葉に『だったら覗くな』と思ったけど、
でも、その瞬間、明広君がなぜあんなに怯えていたかがわかった。

 二人にとってお尻叩きやお灸はそれぞれが幼児の頃に味わった
恐怖体験なのだ。
 その強烈な思い出が、歳を経て、今は耐えられるような身体に
なっていても、恐怖心を払拭できない。
 つまり、トラウマになっていたのだ。


 二人は大出世なんてしなかったけど、立派に大人になった。

 僕たちの時代って愛情に裏打ちされたお仕置きが沢山あって、
親に手込めにされた子供時代だったかもしれないけど、その時の
トラウマがあるから、力では自分の方が勝るような歳になっても
親の人生経験を素直にきくことができたわけで……人生の経験則
って大事なことじゃないだろうか。だって社会に巣立ってからも
役にたってるもの。
 太郎君は思うのだ。

*************************
  

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR