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<A Fanciful Story>

           竜巻岬《7》

                      K.Mikami

【第二章:幼女の躾】(3)
《幼女から童女へ》


 アリスはリサと同じようにお仕置きを受ける覚悟をしていた。
しかし、昨晩は「今日はもう遅いから寝なさい」とハイネが言う
ので、『私は明日なのかあ』と思っていた。

 ところが、朝食がおわってもその気配がない。
 お祈り、食事、絵本の読み聞かせ、お散歩……いつもの日課が
いつものように繰り返されるだけなのだ。
 お昼近くになり、たまらずアリスの方から尋ねてみると……

 「ん、そうね、今回、あなたはいいわ。聞くところによると、
リサが強引にあなたを図書室へ引っ張っていったらしいし………
それに、私たちも部屋の鍵を掛忘れたり、おしゃべりに夢中にな
ってて部屋に戻るのが遅れたりしたから、あながち、あなたたち
だけの責任じゃないのよ」

 「でも、私たちが悪さをしなければハイネだって鞭で三ダース
もぶたれずにすんだんですもの。やっぱり私には罪があると思う
んです。もう覚悟はできてます。どんな罰でも受けます」

 アリスは勇気を振り絞って告白してみた。彼女としても、自ら
『罰を受けたい』などと申し出たのは、人生これが初めての経験
だったのである。

 「そう、そこまで言うのならお話するけど、実はペネロープ様
があなたのお仕置きを免除してくださったの。それにリサの受け
たお仕置きはとても厳しいものなのよ。せっかくペネロープ様が
免除してくださってるんだから、あなたは好意には甘えてた方が
いいわ」

 「でも、それじゃ嫌なんです。ハイネさんにも、リサさんにも
それじゃ悪いですし、何より私が仲間はずれにされたみたいで…」

 「そう、わかったわ。それならペネロープ様に話してみるけど、
あとで後悔しても知らないわよ」

 こうしてハイネはペネロープに相談に行ってみたが、その答え
はハイネにとってはむしろ意外なものだった。

 「そう、あの子そんなこと言ってるの。困ったわね」

 ペネロープはしばし考えてから、こう言ったのである。

 「ま、いいわ。…そんなにお仕置きして欲しいのなら、やって
あげましょう。その代わり、中途半端はだめよ。思いきり厳しく
してちょうだい。この際、そんな殉教者精神が何の美徳にもなら
ないことを教えておくことも大事なことかもしれないわね」

 こうしてアリスに対し幼女としては異例ともいえるお仕置きが
敢行されたのだった。

 「ねえ、もう一度聞くけど、本当にお仕置きしてほしいのね」

 お仕置き部屋にアリスを連れてきたハイネは、あらためて問い
ただす。

 「…………………」

 一方、確認を求められたアリスはこの期に及んで戸惑っていた。
というのも、そこはアリスが赤ちゃん時代、ハイネに折檻されて
いるところをペネロープに助けてもらった、あの思い出の部屋だ
からだ。

 「ペネロープ様がね、『そんな聞き分けのない子は逆にうんと
厳しいお仕置きが必要ね』っておっしゃってるの…………どう?
それでもやる?」

 「…………」

 「あなた、顔が青いわよ。大丈夫?……今さら後悔してない?」

 「…………」
 アリスにためらいの気持ちがないといえば嘘になる。
 しかし……

 「あなたはまだ幼女なんだもの『あれはもののはずみでした』
って、泣いて謝るっても恥ずかしいことではないのよ。幼女って
甘えるのが仕事だから……」

 「甘えるのが仕事…………」
 アリスは思わずハイネの言葉を鸚鵡返しにつぶやく。

 「前にも教えてあげたけど、もう忘れちゃったの?…だったら
それだけでもお仕置きね」
 ハイネは含み笑いで答え、こう続けるのだった。

 「いいこと、幼女の時期というのは、甘えてはお仕置きされ、
甘えてはお仕置きされ、を繰り返す時期なの。そのなかで自分の
居場所というか、心のよりどころを肌で感じて覚えていくの」

 ハイネはアリスを膝の上に抱くと頭を撫で始める。
 最初は抵抗のあったアリスだが今ではすっかり慣れてハイネに
身を任せている。

 「ペネロープ様の考えではね、自殺する人の多くは帰るべき心
の拠り所がないからすぐに自暴自棄になるんだって、そしてそれ
は、しっかりした幼女時代を送っていない事に原因があるんです
って……だから、ここでは、しっかり甘えさせて、しっかりお仕
置きさせて、それが両方しっかりできるようにならないと幼女は
卒業できないのよ」

 「………………」

 「あなた、迷ってるんでしょう。だったら、私がもう一度ペネ
ロープ様に申し上げて……」

 ハイネが助け船を出すと、それにははっきりと首を横に振った
のである。

 「じゃあ、いいのね」

 「はい。私が決めたことですから」
**********
 最後はきっぱりとそう言い切ったのだった。

 「そう、わかったわ。では、これに着替えなさい」

 ハイネはアリスに着替えを手渡す。それは白いニットのシャツ
と黒いブルマース。

 「ここでは汚れてもいいようにそれを着るの。……着替えたら
こっちへ来て」

 アリスが着替えている間、ハイネは処置台で浣腸の準備をする。
ゴムの水枕みたいな容器に石鹸水を入れているのを横目で見なが
ら、それでもなぜかアリスの心は落ち着いていた。

 無理やり何かをやらされるのと自らすすんでやることの違いと
言ってしまえばそれまでだが、お仕置きするハイネの側にしても
これまでのような情熱が感じられないことをアリスは女の直感で
感じ取っていたのかもしれない。

 「さあ、ブルマーを脱いだら両足を高くあげて………そうよ、
赤ちゃんがおむつを替える時のあのポーズよ」

 「え?お浣腸って横向きに寝てやるものじゃないんですか」

 「おや、あなたよく知ってるわね。確かにお医者様ではそうよ。
でも、これはお仕置きのためのお浣腸だから、女の子がもっとも
恥ずかしがるポーズでわざと取らせるの」

 やがて肛門にガラスの管が突き立てられるとクリップが外れて
大量の溶液が波打つように体の中へと入ってくる。
 それはこれまでのピストン式の浣腸器のように途切れることが
ないため、まるで浣腸液に溺れているようで、いったいあとどれ
くらい体の中に入ってくるのだろうという不安もあった。

 「……(あっ、いや)……」

 アリスは、声こそ出さないものの、その想定外の量の多さに、
思わず身体を捻る。このままでは、ひょっとして石鹸液が口から
溢れ出すんじゃないか、そんな妄想さえ頭をよぎったほどなのだ。

 「いやあ、止めて」

 とうとう耐え切れず、思わず叫ぶが、もとよりハイネがそれを
許すはずがない。
 代わりに……

 「大丈夫よ。ゆっくり深呼吸をすればもっと楽に入るわ。ほら、
ほら、お尻の力を抜くのよ。これはそんなに力を入れなくても漏
れたりしないものなのよ」

 アリスはハイネに励まされ続けてようやく一リットルもの溶液
をお腹の中に貯め込んだが、大変なのはこれからだった。

 少しでも体を動かせばお腹の石鹸水も一緒に動く。まるで盥を
お腹の中に入れて歩いているみたいなのだ。

 「あ~あ~」

 グリセリンのような激しい便意こそないが、それでもちょっと
した衝撃で、あたりは水風船に針を刺したようなことになりかね
ない。

 「はあ~はあ~」

 二枚の板を渡した簡単なトイレに膝をついてまたがるだけでも、
ハイネの肩を借りての大仕事だったのである。

 「さあ、いいこと。ここで三十分、我慢するのよ」

 「(えっ!三十分ですって……)」

 ハイネはアリスの両手を皮手錠で拘束しながら、『そんなこと、
あなたなら簡単よ』と言わんばかりだが、万歳をさせられている
アリスにしてみたら、『それは絶対に無理』と確信がもてるほど
の長い時間だったのである。

 「どうかした?……ひょっとして、自分でお仕置きを申し出た
こと後悔してない?」

 ハイネは意地悪く中腰になってアリスのブルマーを覗き込む。
 しかし……
 「………はあ……はあ…………あっ…………」

 大きく肩で息をつき、時折襲う大波に体をよじりあるいは伸び
上がるようにして、やっとの思いで恥ずかしい洪水を耐えている
アリスには、ハイネのそんな意地悪な質問にも、そもそも答える
余裕がなくなっていたのである。

 「あ~~もう、だめ」

 アリスは時々絶望を口にする。最初は七分後、その次は五分後、
さらには二、三分おきに「もう だめ」だった。
 しかし……

 「だめよ、まだまだ頑張りなさい。もしこんなに早く漏らした
ら、あんたの一番恥ずかしい処に焼きごてだからね」

 どんなに他のことに気を回す余裕がなくてもこの『焼きごて』
という言葉は強烈だった。

 「はあ、はあ、いやあ~~~……はあ、はあ、だめ~~~…」

 アリスの息が荒い。それでもハイネが「焼きごて」「焼きごて」
と威嚇し続けるたびに、アリスは緊張感を取り戻し、何とか持ち
こたえている。若さや羞恥心、幼い時の躾の厳しさなどもそれを
支えていたのかもしれない。それでも……

 「ああっ、!!!!」
 二十分近くになると、それまでにはなかった大きな声が出た。

 「ああっ!!!!!」
 とても、少女とは思えない低くて凄みのある声が部屋中に反響
する。
 さらに大きな波、重い波がアリスの小さく堅い堰を突き崩そう
としていたのだ。

 「ああっ!!、ああっ!!」という大声の間隔が次第に狭まり
……やがて………

 「だめ、だめ、だめ、いや、いや、いや、いや、いや、いや、」

 最後はそれだけ言ってぐったりとなった。

 大半のものが一気に吹き出した後で、ハイネはアリスの汚れた
ブルマーを脱がせる。

 「もう全部出しちゃいなさい。どうせここはトイレなんだから」

 ハイネは、汚物となったブルマーをアリスから貰い受けると、
そう吐き捨てて、さっとカーテンを引く。
 わずかな時間だが、アリスに密室を提供してくれるのはハイネ
のやさしさからくる心遣いだった。

 「どう、もうすんだ?」

 十分ほどアリスの好きにさせたハイネが再びカーテンを開ける。

 「さあ、いつまでもめそめそしてられないの。お仕置きはまだ
たくさん残ってるんだからね」

 彼女は備え付けのホースの蛇口をひねるとまだ拘束されたまま
のアリスの下半身を洗い始める。

 「さあ、もう終わったの。今のうちに全部出しちゃいなさい。
そんなもの身体に残しておいても何の得にもならないわよ」

 ハイネは水道ホースの先を絞って、水を勢いよくアリスのお尻
に噴射すると、自らの手で下腹をさすり、肛門をこじあけ、性器
までもを丹念に洗い清めたのだった。

 「ごめんなさいね。ハイネ。こんなことまでさせちゃって」

 「何をおっしゃいます王女様。これは私のお仕事よ。それに、
あなたへのお世話も、もうすぐ終わりみたいだし……これくらい
何でもありませんことよ」

 「もうすぐ終わりって」

 アリスが尋ねると

 「ペネロープ様があなたの童女への昇進を決断なさったみたい
なの」

 「でも、あなたは私とずっと一緒なんでしょう」

 「そうはいかないわ。今の私はあなたの子守りが仕事だけど、
あなたがここの生活に慣れて、自分のことを一通りできるように
なればお払い箱なの」

 「えっ、私から離れちゃうの?」

 「だって童女になるってそういうことだもの。……これからは
ペネロープ様が本当のお母さまよ」

 「え?もう、会えないの」

 「そんなこともないわ。あなたの先生としてなら、これからも
会う機会はあるはずよ。……でも、それはあくまで先生と生徒で
あって、こんなことまではしてあげられないわね」

 ハイネはアリスの股間に入れたタオルで彼女の大事な処をひと
なでする。

 「いや、やめてハイネ」

 アリスは困惑したが、久しぶりの笑顔も戻ったようだった。

****************************

 「次は懲罰台。……前に一度上がってるから要領は分かってる
わよね。今度も手足は固定してあげるけど猿轡はなしよ。どんな
に痛くても声を出さないようにしてね。でないと、鞭の数がまた
増えることになるから……わかった?」

 「わかりました。でも、…………はい、先生」

 アリスが小学生のようにちょっとおどけて手をあげる。
 すると、ハイネもそれに答えて。

 「なんですか。アリス・ペネロープさん」

 「このブルマー、また履くんですか?」

 「どうして?それはまだ使ってないから気持ち悪くないわよ」

 「いえ、そうじゃなくて。どうせ懲罰台の上ではまた脱ぐんで
しょう」

 「そうですよ。だから穿くの。ここは空調が効いてるから裸で
だってできるけど、それじゃ脱がされたって気持ちがなくなって、
恥ずかしさが半減してしまうもの。お仕置きは苦痛半分、恥ずか
しさ半分なのよ」

 「(なるほど、そういうことか……)」

 アリスは恥ずかしさの罰を受けるため、また新たなブルマーを
穿くと懲罰台に……

 「はい、いくわよ……………………………………………………」

 ハイネは柳の小枝を束ねた一本鞭を握って、そう宣言したが、
それっきり、なかなか最初の一撃をアリスのお尻にヒットさせな
かった。

 手にした鞭をわざとアリスの目の前で空なりさせたり、可愛い
お尻にこすりつけたりして、『痛いよ』『痛いよ』という恐怖感を
アリスに十分味合せてから、やおら強い一撃を放ったのである。

 「ピシッ」

 「(ひぃ~~~~)」
 籐鞭より一回り太い柳の枝鞭が、アリスのお尻にまとわりつく
ように赤い筋をつける。

 「はい、ふた~つ」

 「ビシッ」
 「(ひぃ~~~~)」

 柳の枝鞭の衝撃は、籐鞭に比べればいくらか小さいが、まるで
剃刀で切られたような鋭い痛みが残るのだ。

 「はい、み~っつ」

 「ピシッ」
 「(いゃゃぁぁぁ)」

 「はい、よ~っつ」

 「ピシッ」
 「(ぅぅぅぅぅぅ)」

 「はい、いつ~つ」

 「ピシッ」
「(ひぃぃ~~~)」
 ハイネは淡々と鞭を振るい、アリスの方も声を出さないという
約束事を必死に守った。

 「はい、む~っつ」

 「ピシッ」
 「(もうやめて~)」

 「はい、なな~つ」

 「ピシッ」
 「…キャ…」

 必死の我慢も七つ八つと重なる頃には限界にきていた。子犬が
いじめっ子に悪戯された時のような掠れた甲高い声が漏れる。

 「それ、や~っつ」

 「ピシッ」
 「…あぁ…」
 アリスはほとんど生理的に拘束された両手を振り解こうとする
が……

 「それ、ここのつ」

 「ピシッ」
 「痛い」

 この時初めて意味のある声が出ると、あとはもう感情を押さえ
きれなかった。

 「さあ、もう少しよ。それ、じゅっか~い」

 「ピシッ」
 「もう、やめて、ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません」

 それはアリスの理性が言わせた言葉ではない。どうにも耐えら
れなくなった彼女の体が無意識に声を出させるのだ。

 「やめなさい。あんまり言うと本当に焼きごてが待ってるわよ」

 「それ、じゅういち」

 「ピシッ」
 「いやあ、だめえ~~死んじゃう、ごめんなさい、だめえ~~」

 それから先は、鞭がお尻に当たっているかどうかに関係なく、
「あわ、あわ、あわわ、わあわ」と声にならない声をあげ、まる
で幼児が泣き叫ぶようにわめきだした。

 「よしよし、よくがんばったわ。これが最後よ。じゅ~に~」

 「ピシッ」
 「いやあ~もういやあ~死んじゃう、ごめんなさい、だめ~」

 恐らくアリス自身も今自分が何を言っているのか、どんな姿で
ハイネに見られているのか、そんなことを思う余裕はなかったに
違いない。
 その清楚な顔は涙と汗とよだれでくちゃくちゃ、おかっぱ頭の
髪は脂汗にまみれてざんばらになっていた。

 「はい、はい、おしまい。おしまい。……もう終わりましたよ。
そんなに痛かったの?」

 ハイネは鞭のお仕置きが終わると幼い子をあやすような優しい
口調に戻り、顔も笑っている。

 「仕方ないわね。あなた慣れてないのね。……きっと、あなた
のご両親はあなたを大事にし過ぎて鞭を与えたことがないのね。
一ダースぐらいの鞭くらいで取り乱すなんて、あなたの歳なら、
恥ずかしいことなのよ。……こんなの親が厳しければ小学生でも
耐えるわよ」

 アリスは、ハイネの言葉を、自分が泣きだしたからだとばかり
思っていたが……

 「あ!」

 懲罰台を下り、あらためてブルマーを穿こうとして、アリスは
初めてそこが濡れている事に気付いたのである。

 ハイネがまるで母親のような口調で叱る。
 「だから、さっき全部出しておきなさいって言ったでしょう。
仕方ないわね。さあ、さっさとこれに着替えて……」

 そんな有様だから、ペネロープが部屋へ入ってきたのも気付く
はずがなかったのである。

 「!?………………!!」

 アリスはどこかで嗅いだことのあるなつかしい匂いを感じとり、
辺りを見回して、そこで初めてペネロープがここにいるのを発見
するのである。

 「アリス!こっちへ来なさい!」

 その声は普段は温厚なペネロープがたまにみせる凄味の効いた
声だった。

 「はい、おかあさま」
 アリスとしては覚悟を決めるしかない。

 「そこに膝をついて両手を胸の前で組むのです」

 ペネロープはアリスに恭順を示すポーズを取らせると、静かに
語り始めた。

 「あなたのお仕置きを見ていました。お浣腸は途中でこぼすし、
鞭には声をたてるし、とても私の娘にふさわしいとは言えませんね。
本来なら幼女で修業した方がよいのかもしれませんが、今はリサを
救ってやらなければならないで、あなたを童女に引き上げることに
します」

 「お礼を言って」
 ハイネが耳元でささやくのでアリスは慌てて……

 「はい、ありがとうございます。お母さま」

 アリスはお礼を言ったが、でも、次にはこう切り返す。

 「でも、なぜリサさんと私が関係あるんですか」

 この言葉にあわてたハイネが…
 「アリス、やめなさい」
 と諭す。この城の幼女は目上の人から求められた時以外、自分
の意見を言えなかったのである。

 しかし、ペネロープはそれにはかまわずこう答えた。

 「幼女は養育係を張りつけておかなければならないので人手が
要るのです。あなたもいったんは童女にしますが、まだ荷が重い
と分かれば幼女に戻すかもしれません。それは覚悟しておいてね」

 「はい、お母さま」

 「よろしい、では、今日のぶざまなお仕置きを償いなさい」

 「はい、お母さま」

 アリスはハイネに教えられた通り、『はい、お母さま』を連発
したが、それはこれから自分の身に何が起こるかがわかっていた
からではない。
 たとえ何がどうなっているのか分からなくても、この城の幼女
は、こう言わなければならなかったのである。

 「では、そこに仰向けになって寝るのです」

 ペネロープは処置台に視線を移して指図する。

 「はい、お母さま」

 アリスが処置台で仰向けになる。
 もちろん、ペネロープの言葉に異論など唱えられない。
 後はハイネが手伝ってくれた。

 「気持ちをしっかり持つのよ」

 ハイネはアリスのブルマーを太ももまで引き下げると、腰枕を
使って剥出しになったアリスのお臍の下が寝ているアリスからも
よく見えるように腰の位置を調整し、さらに両手両足を処置台に
固定しようとした。

 ところが……

 「ハイネ、その子を縛る必要はありません。この子はそんな事
をしなくても立派に耐えられます。ほら、ごらんなさい。ここ…」

 ペネロープは、今剥出しになったばかりのアリスの三角デルタ
を指差す。そこにはかなり近寄って見なければならないほどかす
かにだが、灸痕が残っているのだ。

 「あなたがたはお灸のことを『東洋の焼きごて』だなんて大仰
な呼び名で呼んでるけど、お浣腸もお鞭もまともに受けられない
この子だって、かつて何度か経験があるお灸なら声一つたてない
はずよ」

 ペネロープはさも自信ありげにハイネに呟くと古い灸点に三つ
四つ艾を乗せて一気に線香の火を近付けた。

 「…<え、まさか>……」

 アリスの驚きは当然だろう。
 しかし、そのまさかだったのである。

 「……<いや、どうしてペネロープ様がお灸なんて知ってるの
よ!!!>……<何よ、そんなにたくさん全部いっぺんに>……
<無理よ!嫌、やめてよ~私、そんなことされたことないのに>
……<あっ、いやあ~~>…<あっ熱い、痛い>…<ひ~~>…」

 アリスにとってそれは熱いというより、鋭い錐で揉み込まれる
ような強烈な痛みだった。
 ただペネロープの言う通り、彼女はこれには声をたてなかった
のである。

 「今度はうつぶせになって………」

 次はお尻のお山だった。

 「………<ああ、いや熱い、痛い>……<痛い、痛い、>……
<いやあ~~~もういや、やめてえ~~~何でお灸なのよ~~>」

 アリスは心の中で必死に懇願する。
 しかし、鞭の時のように取り乱すことはなかった。

 「さあ、もう一度仰向けに戻りますよ。今度はね、赤ちゃんが
おむつを替える時のポーズよ………」

 「…<ああん、そんな処すえられたことないのに>……<いや、
やめて、お嫁にいけない><ひい~熱い、痛い。いゃあつ~い>」

 結果に自信を持ったペネロープは、まるでハイネに見せつける
かのようにアリスにいろんなポーズを取らせ、さらに十数か所、
なかにはとても他人には言えない処までもお灸をすえたのだった。

 しかも、お灸に関してはペネロープの言った通り、鞭やお浣腸
とは異なり、どんなに責められても、アリスはついに一言も声を
出さなかったのである。

 「どう?私の言ったとおりでしょう。一ダースの鞭でさえお漏
らしするこの子がこんなに沢山お灸をすえても声一つ上げないで
耐えたでしょう。つまり、お仕置は慣れなの。この子は今の親に
甘やかされて育ったから、鞭や浣腸をされたことがないだけよ」

 ペネロープはハイネに薀蓄を述べると、今度はアリスに向って。

 「どう?アリス、久しぶりのお灸の味は?」

 「…………」

 「………昔のお母さんを思い出したかしら?」

 「…………」
 アリスは青ざめた顔でお義理に頷く。
 すると……

 「お灸は、昔、日本に旅行した時に向こうの母親がやっている
のを見て習ったんだけど、これまではあまり試す機会がなかった
の。ここの人たちは、もの凄く残酷なお仕置きだって言うんです
もの。そんなことないわよね?」

 「………………」
 本当は『はい、お母さまと言わなければならない。
 それは分かっていたが、アリスはとうとう言えなかった。

 「あなたの灸痕を見つけて、思い出して、やってみたんだけど、
ことのほかうまくいったわ。これからはあなた限定でこのお仕置
きをやってあげますね」

 「(そんなあ~~~)」
 泣き出しそうなアリス。あまりのことに反論も思いつかない。
 アリスはこの時とんでもないことの実験台にされたのである。


********************<了>*****

第2章 幼女の躾 (2)

<A Fansiful story>

           竜巻岬《6》

                     k.Mikami

【第二章:幼女の躾】(2)
《初めての友達》


 アリスが幼女となってしばらくしたある日のこと、ペネロープ
がお茶の席にアリスを招いた。
 そこは本来、童女と呼ばれる人たちから参加を許される場所で、
いまだ幼女でしかないアリスが招かれるのは破格の扱いだ。
 しかも、彼女はペネロープのすぐ脇に席を取る。

 「アリス、何だかだいぶやつれたみたいに見えるけど……幼女
の暮らしは大変なのかしら」

 「いいえ、大丈夫です。お母さまのご慈愛に感謝します」

 「ありがとう。でも、ここではそんな型にはまったごあいさつ
はいらないわ。今日は、あなたが心に抱いている本当の気持ちを
私に話して欲しいの。ハイネもいないしここでなら何を言っても
かまわないのよ」

 「……<そう言われても>……」
 とアリスは思う。

 「そう、常によい子でいたいのね。それはそれで大変に結構よ。
でも、もし我慢できなくなったらいつでも私の処へいらっしゃい。
私の胸になら全てをぶちまけていいのよ。あなたは私の娘なんだ
から、何も遠慮はいらないわ」

 ペネロープは慈愛に満ちた母の眼差しでアリスを諭した。

 「はい、おかあさま」

 ハイネに娘の養育を任せている以上、母親とはいえ小さなこと
にまであれこれと指図できないペネロープだが、アリスのことは
ずっと気にかけていた。

 実際、庶民と異なり上流階級の家庭では子供たちが親と一緒に
食事をしたり歓談したりできるのは十才を過ぎたころから、それ
以前は、養育係に全権を委ねている場合がほとんどで、その場合
「お早ようございます」と「おやすみなさい」を言いに子どもが
親の処へ出向く以外は、親の方が養育係の処へ出向いて子どもに
会いに行くことになるのである。

 当然、子供は実際の親より養育係の方に懐くわけで、アリスも
その点では例外でなかった。どんなにきつい折檻を受ても自分の
庇護者はハイネしかいないと信じていたのである。
 その意味からもペネロープに普段の愚痴は言いにくかった。

 お茶の席にはアリスのほかにも大勢の子供たちが参加している。
 もちろん子供たちといっても、いずれも二十歳を越えた人たち。
一般社会ならレディーと呼ばれる人たちだ。ただここでの身分は、
『童女』であったり『少女』であったりする。

 ペネロープはそんな子供たち一人一人に声をかける。
 この時間は、普段は子供で管理されている彼女たちがつかの間
大人に戻れる瞬間。ペネロープにしても彼女たちのことを細かく
観察しては事故の起きないようにしているのだ。

 「フランソワ、ピアノの発表会までもうあまり時間がないけど
大丈夫なの」

 「はい、今回はとても体調がいいんです」

 「そう、それはよかったわ。当日、貧血で倒れたなんてあまり
名誉なことではありませんものね」

 「キャシー、あなたの油絵がまた入選したんですって」

 「はい、今度の作品はサロンにも出品させて頂きました」

 「そう、それはよかったわ。でも、あまり公の場所に展示すると、
もともとあなたはプロなんだし過去が分かってしまわないかしら」

 「それは大丈夫です。以前とは絵のタッチを大きく変えてしま
いましたから……気付く人は誰もいないはずです」

 「ミッシェル、あなたから頂いたレースの花瓶敷、とても重宝
しているわよ。あなた、器用なのね。知らなかったわ」

 「いいえ、お母さま。私は何も取柄がありませんから、編み物
ぐらいしかできなくて」

 「とんでもない。女の子にとって編み物は立派な趣味ですよ。
もっと高度なものを習いたいのなら先生を呼んであげてもよくて
よ」

 「はい、お母さま。ご好意に感謝します」

 「では、誰か探しておきましょう」

 ペネロープ女史はこうして大半の子を誉めたが、中には叱る子
もいた。そうした子に対しては自ら出向くのではなくまず自分の
席近くに呼び寄せてから話を切り出すのが彼女のやり方だった。

 「リサ、あなた最近手遊びをするそうね。世間じゃあんなもの
健康に影響がないから放っておけばいいって言う人もいるけど、
ここでは禁止しているの。……そのことは知っているわよね」

 「はい、お母さま」

 ペネロープの前に立って小さくなっているのは、軽くウェーブ
の掛かった髪をかきあげるスレンダーな体つきの女性。こんな処
で暮らしているから化粧っ気はないが、アリスの目にはその精悍
な顔つきが十分『美人』と評価できる人だったのである。

 「男性のように、やらないとストレスで仕事や勉強にも支障が
でるというのならいざ知らず、女性には、それほどの強い欲求は
ないはずよ。あれはたとえ健康に直接的な害はなくても生活習慣
が乱れ根気が奪われるからここでは禁止しているの。分かってる
でしょう」

 ペネロープはそこでいったん言葉を区切ると、周囲を気にして
から再びリサを静かな眼差しで見つめる。

 「コリンズ先生にもご相談してみるけど、場合によっては幼女
か、ひょっとすると、赤ちゃんに戻ってもらうかもしれないわね」

 「許してください。もう二度と手は触れませんから」

 リサは慌てたようにペネロープの前に膝まづくと両手を胸の前
で組んで哀願した。

 「およしなさい。リサ。ここはそんなことをする場所ではない
わ。お茶の席なのよ」

 「私、もう、赤ちゃんなんていやです。あんな恥かしい思いを
するくらいなら死んだほうがましです」

 リサは激しく訴えたが、ペネロープはいたって平静だった。

 「そりゃあ、死ぬのは構わないけど、もう死ねないでしょうね。
あなただって、一度は赤ちゃんを経験しているもの。あれを乗り
越えてから再び死を選んだ人は誰もいないの。あなたたちを厚遇
してあげられるのも、二度と自殺なんてしないだろうって確信が
あるからよ。だから軽々しく『死ぬ死ぬ』って言わないで頂戴ね」

 「…………………」

 リサは急に静かになった。本当は死ぬ気などない自分の気持ち
をペネロープに見透かされて恥かしかったのだ。

 「本当は赤ちゃんに格下げするお仕置きもあるけど、しばらく
は幼女で様子を見てあげましょう。その代わり一週間は貞操帯よ。
いいですね」

 「はい、お母さま」
 リサは小さな声で答えた。

 「…てい…そう…たい…」

 側(かたわら)で聞いていたアリスが、思わず、ぼそっと呟いく。
すると、そのアリスの言葉にペネロープが反応したのである。

 「ん?……あなた、貞操帯って知らないの?」

 「…………」
 それがどんな用途で使われて、どんな形のものなのか知らない
はずなのにアリスの顔が赤くなる。

 「無理もないか、あなたはまだ若いものね。アリスちゃんには
まだ関係ないわね。貞操帯というのはね、おいたをするお手々が
体の中に入らないようにするものなの」

 アリスもやがてはお世話になるその器具、この時はペネロープ
に説明されても、とんとそのイメージが浮かんでこなかった。

****************************

 二日後、アリスに初めての友だちができた。
 先日のお茶会で出会ったリサが格下げされて幼女のクラスへと
やってきたのだ。

 リサはこの時十八才、十五才になっていたアリスとは三つしか
違わないが、育ちのせいかアリスに比べると随分と大人びている。

 「へえ~あなたがアリスちゃん。随分、可愛い顔してるのね。
とても十五には見えないわ」

 「だったらいくつに見えるの?」

 「そう、いいとこ十一ってところかしらね。なるほどお母さま
のお気にいりって感じだわ。だってあなた清楚で品があるもの。
きっと私なんかとは育ちが違うのね」

 「私が『お気に入り?』…そんなことないわよ。だって滅多に
ペネロープ様……いえ、お母さまになんてお目にかからないもの」

 「それは当たり前よ。だって、あなたまだ幼女じゃない。ここ
では童女になって初めて一緒に食事もできるし、養育係への不満
だって、少しは口にできるようになるんだもの」

 「じゃあ、幼女って辛い立場になったんだ」

 「そりゃそうよ。お庭だろうと、食堂だろうと、養育係が一言
『パンツをおろして!』って言えば、三秒以内にパンツを下ろさ
なきゃルール違反だし、一言でも口答えしたら、やっぱり無条件
でお尻をぶたれる身の上よ。……でも、今日からは私もあなたと
同じ」

 「そうだ、そういえば私、先日のお茶会でお母さまから、不満
なことがあったら何でも相談にいらっしゃいって……あれって、
本当に不満なんて口にしちゃっていいのかしら?」

 「もち、かまわないわ。お茶会ってそんな席だもの。……でも、
ほんとに!?」
 リサは目を丸くして大仰に驚いてみせる。

 「羨ましいなあ。私なんて幼女の時にそんなこと一度も言われ
たことないのよ。やっぱりあなたはお母さまのお気にいりなのよ」

 「そうかしら」

 「絶対そうよ。これは明らかな差別だわ」

 「差別かどうかはわからないけど、私は早く童女になりたいわ。
ここにきてもう一年近くになるけど絵本の他はただの一冊も本を
読んだことがないの。赤ちゃんの時は無我夢中だったけど、今は
なんだかのんびりしすぎて頭のなかに蜘蛛の巣が張りそうだわ」

 「それ、私へ皮肉かしら」

 「え、どうして?」

 「だって童女や少女になったら勉強や習いごとをたくさんやら
されるのよ。それもたっぷりとお仕置き付きでね。私はその点は
幼女って羨ましいなあって思ってるの。ただ、養育係の命令には
絶対服従だけど、のんびり暮らせるもの……」

 「私とは反対ね。私、忙しいのはかまわないの」

 「あなた、若いからね、じっとしてられないんでしょう」

 「……ただね、慣れたのは慣れたのよ。幼女の暮らしにも……
だって今では、どこでもパンツが脱げるもの」

 アリスは自分で言って思わず苦笑する。

 「そう、退屈だったらちょうどいいわ。あなたの好奇心を満足
させてあげられるちょっとした穴場があるの。ついてらっしゃい」

 「でも、もう夕食もすんだし、このお部屋を出ちゃいけないん
でしょう」

 「大丈夫。三十分くらいなら養育係も帰ってはこないわ。あの
人たち、町から運んできた荷物を納屋に入れるのを手伝ってるの。
いいから、いらっしゃいよ」

 アリスはリサに誘われるまま恐る恐る部屋を出て着いて行くと
……

 「どこへ行くの。ここは、たしかご城主様の……」

 「わかってるわよ、そんなこと。……さあ、ここから入るのよ。
ちょうど改修工事をやってて、おあつらえ向きに壁が壊れてるの」

 「わたし……」

 アリスが二の足を踏むとリサはぐいっと彼女の肩をつかむ。

 「何言ってるの、今さら。ここまで来たら、あんたも同罪よ。
見て帰らなきゃ損じゃない」

 二人が工事のためにあけた穴から中へと忍び込むと、ちょうど
そこはお城の書庫。

 「どう、すごいでしょう。天井まで本がびっしりよ。これ全部
売り飛ばしてもトラック十台じゃ運びきれないわね」

 「だって、これ全部侯爵様のものでしょう」

 「当たり前じゃない。きっと何代も前からここにため込んでる
のよ」

 「ねえ、これってどういうふうに分類してるのかしら。何だか
雑然と並んでいて見つけにくい気もするけど」

 「何言ってるの。ここは街の図書館じゃないのよ。ご領主様が
ご自身で分かっていればそれでいいじゃない。そんなことあなた
が心配することじゃないわ。それよりおもしろいものがあるの。
こっちへ来て」

 リサは、ずけずけと書斎の方へ入っていくと……どこでそれを
知ったのか本棚の奥に隠されたスイッチを……

 「えっ!!」

 驚くアリスの目の前で、本棚の一部が横にスライドして秘密の
入り口が現われたのである。

 「やっぱりまずいわよ。もし、見つかったら。私たちただでは
すまないのよ」

 アリスの不安にもリサは強気だった。

 「大丈夫よ。ご領主様はすでに出掛けたし、ここはご領主様の
プライベートルームだもん、もう夜だし誰も来ないわ。……さあ、
入って、入って……あなたの望みの本じゃないかもしれけどね、
ちょっと面白いものがあるのよ」

 「でも……」

 「何、うじうじ言ってるの。……前にも言ったけど、ここまで
来たら、あなたも同罪なんだからね」

 リサは再びアリスの肩を鷲掴みにすると、その秘密の部屋へと
力任せに放り投げたのだった。

 アリスが踏鞴を踏んで入った処は主人愛用の葉巻とコニャック
の香りがまだ残る小部屋で、壁には数点の油絵が掛かっていた。

 「これは…………えっ!」

 何気なく掲げられた絵を眺めていたアリスだが、気がついて、
思わず息をのむ。

 油彩は、どの絵を見ても子どもが家庭で折檻されているところ。
子供の年齢や性別、親の身分などはさまざまだが、父親の威厳に
恐怖する子供の顔や母の慈愛の中で泣く子供の様子などが、克明
に描きこまれいた。
 もちろんどれも具象画。写真と見まがうばかりの描写力だった
のである。

 「ほら、これ」

 アリスが壁に掲げられた絵画に見入っていると、どこから持ち
出してきたのか、リサが自分の上半身が隠れるほどの大きな画集
を持って現れる。

 「ほら、見て!」
 そこにはさらにエロティクな絵が……

 「何?それ……」

 「エロチックな絵ばかり集めた本よ。『SYUNGA』って題
が付いてるわ。…………ねえねえ、コレ見て御覧なさいよ。……
へえ、『家庭での折檻』なんて絵、本当にあったんだ」

 「なあに、『家庭での折檻』って……」

 「『O嬢の物語』に出てくる絵よ。あなたの国の北斎もあるわ。
ほら……これって、大蛸に女の人が絡みつかれてるんでしょう。
ぞくぞくしちゃうわ」

 「わあ、何よこれ。……気持悪い。……グロテスクなだけよ」

 「そうかなあ、私は好きよ。北斎って、なかなかのセンスだと
思うわ」

 二人は知らず知らずその画集の虜になっていく。
 だから、背後に人が近付いていようとは露ほども疑っていなか
ったのである。

 「えへん」

 咳払い一つで二人は天井までも飛び上がった。

 恐る恐る振り向いてみると、そこには……

 「このお城も古いから幽霊はよくでるけど、こんなにはっきり
と見えたのは初めてよ」

****************************

 ペネロープにこんなところを見られてしまってはもう申し開き
がたたない。

 二人は元いた居室まで連行されると、そこでネグリジェの裾を
自ら捲るように命じられたのだった。

 「………………」

 呼び寄せられたメイドたちの視線を気にして逡巡していると、
それにもペネロープの鋭い声が飛ぶ。 

 「さあ、早くなさい」

 「……………………」

 やがて二人の震える足が、くるぶしからふくらはぎ、さらには
太ももへと、次第にあらわになっていく。やがて、白いショーツ
までもが周囲の目に晒されることになったが、二人の悲劇はそれ
だけではない。

 無表情を装うメイドたちによってネグリジェの裾が少女たちの
胸元で止められると、さらにその次は……

 「ショーツもお脱ぎなさい」

 ペネロープはにべもなかった。

 「……………………」
 「……………………」

 幼女の悲しい定め。二人は否応なしに実行すると……

 「あら、リサ。……あなた、いつの間にそんなに成長したの?」

 ペネロープは皮肉な笑顔でリサに近づくと、その股間に萌えだ
した下草に触れてみる。

 「幼女というのはね、アリスみたいにここがすべすべになって
なきゃおかしいでしょう。あなた、日頃のお手入れを怠ってるの
ね」

 「それは……それは……」

 リサには、その次の言葉が出てこない。
 ただ、ペネロープも『だからどんな罰を与える』とは言わなか
った。それは養育係の領分だからだ。しかし、事が発覚した以上、
ただではすまない。さすがのリサもこれには正体がなくなるほど
呆然としてしまったのである。

 その後二人は、その哀れな姿のまま、おのおの別の窓辺に連れ
て行かれると、上半身を窓の外へ突き出すような姿で膝まづかさ
れる。そして一番下が半円形に刳り貫かれた鎧戸が降ろされると、
二人は枷として細工されたこの窓に、身体を完全に挟まれた格好
になったのだった。

 建物の外からは二人の少女が戯れているように見えるこの光景。
実はこの二人、誰かに鎧戸を上げてもらわなければ絶対に部屋へ
は戻れなかったのである。

 「ハイネ~~~」

 「シャルロッテ~~~」

 二人は恥を忍んでたまたま下を通りかかった自分達の養育係を
呼ぶ。
 まさかこのまま夜明かしもできないから誰に助けてもらっても
よさそうなものだが、その時は必ずお尻を見せなければならない
理不尽さがあるため、やはり一番親しい関係にある人がよかった
のである。

 『なんてことを』

 二人の養育係がこれを見て驚かないはずがない。慌てた二人は
押っ取り刀で飛んで来る。

 そこには、当然、ペネロープが待っていた。
 彼女はことの真相を伝えると、養育係の二人に釈明を求めた。
 そして、それを聞いた上で……

 「ハイネとシャルロッテ。どうやら、これはあなたたちに責任
があるみたいですね」

 と結論づけたのである。こんな時、罰を受ける側の対応という
はその年令や身分にはあまり関係がないようで、二人の養育係の
態度は、ついさっきまでしょげかえっていた二人の幼女と大差な
かったのである。

 「ともに鞭を半ダースずつ六回、相手のために振るいなさい」

 まさに二人にとっては『やれやれ』と言いたげな事態である。

 「分かっていると思いますが、手加減というのは罰せられたい
と願う相手を侮辱することであり、自らの罪の浄化をないがしろ
にするものです。その場合は数に数えませんからそのおつもりで
…………では、始めなさい」

 ペネロープは毅然として言い放つ。
 が、二人の耳元へやってくると、こうも呟いたのである。

 「お二人とも、腕の見せ所ですよ」

 その瞬間、ハイネとシャルロッテにかすかな笑みが戻る。
 しかし、罰は罰。ペネロープの言い付けどおり、ひとりがその
豊満なお尻を突き出すと、もう一人が籐鞭で細く赤い筋を付けて
いく。

 細身のケインが奏でる『ピュー、ピュー』という風を切る高い
音やお尻を捕らえた瞬間の『ピターン』という鈍く乾いた音は、
なぜか罰を受けている養育係本人よりも、その音だけしか聞こえ
ないはずのアリスやリサの方により強い衝撃を与えることになる。

 おまけに、佳境に入り……

 「あっ…あっ、いたっ……ああ、ありがとうございます…あ~」

 鞭打たれる側の切ない声が聞こえ始めると、窓辺の二人は耳を
押さえる事ができない自分がもどかしくてならなかった。

 「よろしい。以後はこのようなことが起こらないように」

 ペネロープは三十分にもおよぶ懲罰の終わりを稟とした態度で
告げ、部屋の出口に向かったが、その際ハイネとすれ違いざまに

 「アリスへのお仕置きはもういいから」
 と、小声でささやいたのだった。

 「さあ、もういいからお部屋へ入りなさい」

 「まったく、あなたたちのおかげでとんでもない目にあったわ」

 二人の養育係はそれぞれに受け持ちの娘を鎧戸から解放したが、
結局、その夜お仕置き部屋へと連れ去られたのはリサだけだった。

 「今日はもう遅いからあなたは寝なさい」

 ハイネにそう言われたアリスだが友だちが折檻されているかと
思うとなかなか寝つかれない。

 『リサはどんなことされてるんだろう』

 いろんな空想が次から次へと沸き上がり、やがて悪夢となって
かけ巡る。

 二時間ほどでリサは部屋へ戻ってきたものの、その顔は見るか
らにやつれ、もう誰とも視線をあわせたくないという雰囲気で、
ベッドに入ってもすすり泣きが聞こえる。

 とうとうリサに声がかけられなかった。

 『明日は我身ね……』

 アリスはリサのすすり泣きを聞きながらその晩はまんじりとも
できなかったのである。


*****************<了>********

第2章 幼女の躾 (1)

<A Fanciful Story>

           竜巻岬《5》

                      K.Mikami

【第二章:幼女の躾】(1)
《幼女の躾》


 赤ちゃんを卒業してアリスには服が与えられた。花柄のワンピ
に、下着は清潔感のある白い綿のキャミソールとショーツ。
 それは女の子のごく普通のファッションのようだが……

 「ねえ、これってなんでこんなにスカート丈が短いの。…膝上
二十センチ以上あるわよ」

 アリスが文句をいうとハイネの答えは明快だった。

 「何言ってるの。あなたはまだ幼女。つまり幼稚園児なのよ」

 アリスのファッションは言われてみれば納得の特大幼児服なの
だ。

 「服だけじゃないわ。あなたは身も心も幼児でなきゃいけない
の。いいこと言葉が使えるようになったといっても、今使えるの
はせいぜい朝晩のご挨拶と物をもらった時の感謝の言葉ぐらいよ」

 「例えば、どんな言葉ならいいの?」

 「だから…『おはようございます、お母様』『おやすみなさい、
お母様』『ありがとうございます、お母様』…とにかく、最初は、
『はい、お母様』って言えればそれでいいの。でも、間違っても
大人の人たちと議論なんかできないのよ」

 「分かってるわ。ペネロープ様の前で可愛らしい園児を演じれ
ばそれでいいんでしょう。簡単よ。私こう見えてもお芝居は上手
なの」

 「いいえ、それじゃだめよ。演じるんじゃなくてなりきるの。
そうでなければペネロープ様はあなたを認めてくださらないわ。
あのお方は、感受性がもの凄く強いんだから……」

 「ねえ、これってどのくらいかかるの。また六ヵ月、八ヶ月?」

 「人によってだけど、あなたなら……ひょっとして、三ヵ月も
かからないかもしれないわね。何しろ根が子供だから…地のまま
でいいのかもしれないわ。……ま、そういうところは私も助かる
んだけどね……」

 ハイネは母親のように甲斐甲斐しく着付けを手伝っているが、
ふと思い出したように

 「そうだ、忘れてたけど、あなた、むだ毛の処理はしたの?」

 「むだ毛って」

 「ここのことよ」ハイネはアリスの股間を叩く。

 「?」

 「ここに毛のはえた園児なんていないでしょう」

 「え、そんなことまでやるの」

 「当たり前でしょう。お仕置きの時はパンツも一緒に脱がされ
るのよ。その時、どんな言い訳するつもり。これまでは赤ちゃん
ということで私がやってたけど、これからはあなたが毎日自分で
お手入れするの」

 「剃刀で?」

 「そうよ、殿方が使うT字の剃刀が洗面所に出てるから、それ
を使うといいわ。毎日じょりじょりやってね。厳しい人になると、
お仕置きの時は必ずそこを触って検査するんだから……ざらざら
してただけでも追加罰よ」

 「厳しいのね。おっぱいは取らなくていいの?」

 アリスはふざけてそう言ったのだが、ハイネは至極真面目に…
 「取りたいなら、医師を呼んであげてもいいわよ」

 「…………」

 「幼女は、演技やパフォーマンスじゃなくて、身も心も幼女に
ならなきゃ卒業できないの。自分のおっぱいが大きい事に疑問を
もたないようなら、失格よ。気をつけてね」

 「わかったわ。気をつける……」

****************************

 アリスは楽屋裏で色んなノウハウをたたき込まれると、ハイネ
に付き添われて恐る恐るペネロープの処へ。これが幼女になって
初めてのご挨拶だった。

 「まあ、まあ、よく来たわね。どうかしら久しぶりに着た服の
感触は……」

 ペネロープの部屋は厚いペルシャ絨毯が敷き詰められ、ロココ
を基調とした数々の調度品が所狭しと配置されているような処。
 彼女はそんな家具に埋もれるようにしてソファに座っていた。

 「えっ……あっ、はい、とっても気持ちいい…です!」

 アリスは、その豪華な調度品に目を奪われつつも、老婆の前に
立ってわざと幼児のような口調で話す。

 「おむつの生活は大変だったでしょう」

 「はい、慣れませんでしたから……」

 「誰でも、慣れてる人はいないわ。今さら、この歳になって、
赤ちゃんをやれって言われても戸惑うのは当然だもの。……でも、
あれで、あなたは生まれ変わることができるの」

 「…?…」

 「自殺するような人が、口先でいくら、『私は今日から生まれ
変わります』なんて宣言してみても、人間、そう簡単に今までの
生活習慣を変えることなんてできないわ」

 ペネロープはその皺枯れた指でアリスの頭を撫でたが、彼女は
嫌がらない。権力者に媚びてというのもあろうが、アリス自身、
目の前のこの老婆に、言い知れぬオーラを感じていたのである。

 「人は成長するにつれて知らず知らず自分の歪んだプライドで
物事を判断しようとするものなの」

 「歪んだプライド」
 アリスは小さな声でその言葉を口にする。

 「そう、大人に取ってプライドは必要よ。何よりそれで自分の
心を守ってるもの。でも、それが正当なものなら困難はあっても
自殺なんて手段はとらないわ。それが間違ってるから結果や手段
も間違うの」

 「…………」

 「再スタートを切るには、そんな歪んだプライドを、まず剥ぎ
取ってしまわなければ、次の人生も結果は同じよ。……だから、
ここでは、まず…親の愛情以外生きるすべのない本当の赤ん坊に
戻って、とにかく恥をかくことから始めるの」

 ペネロープはアリスの瞳を見据える。それはまるで魔法使いが
少女に呪いをかけているようにも見えるが、アリスはひるまない。
 ペネロープの瞳をしっかりと見つめて話を聞いているのである。

 「その最初の試練にあなたは打ち勝ったの。だからここにいる
のよ。今のあなたは、もうヒロミ・キーウッドじゃないの。私の
大事な娘、アリス・ペネロープなのよ」

 「えっ!……私が、ペネロープ様の……む…す…め………なん
ですか?」

 いきなり『娘』という言葉が出てきて、驚き取り乱すアリスを
見て微笑みながらペネロープはこう続けた。

 「そうよ、法的にはまだだけど、このお城の中ではそうなの。
だから、これからは、私のことは『お母さま』って呼ばなければ
ならないけど……できるかしら?」

 「えっ!?……(何だ、そういうことか)」

 アリスは一瞬驚き、次には『何だ、そう言うことか…』と納得
するわけだが、いずれにしても、これを拒否することも、アリス
には許されていなかった。

 「私に対しては、常に『はい、お母様』って言うのよ。言って
ごらんなさい」

 「あ……は、…はい、お母様」

 「よろしい。大変よいご返事ですよ。これからあなたはペネロ
ープ家の子供としてここで生きるの。年令はおいおい引き上げて
あげるけど、立場はずっと子供のまま。……もし、子供の領分を
逸脱するようなことがあれば、ただちにお仕置き……いいわね」

 「………」
 ペネロープの鋭い視線にアリスは思わずたじろぐ。

 「それと、立場は子供でも体は大人なんだからお仕置きの時は
世間の子供よりぐんと厳しいわよ。……それも覚悟しといてね」

 「はい、お母さま」

 「よろしい。では、最初の躾をしましょうか。……まず、私の
足元に膝まづくの。………そう、そうしたら、両手を前に出して
ごらんなさい………そうです。手のひらを上にして品物がそこに
乗るようにするのよ」

 アリスはペネロープの求めに応じて恭しく両手を差し出す。

 「……できましたね。……よろしい。……それが、我が家では
子供たちが目上の人に何かをしていただく時のポーズです。……
覚えておきなさい。大事な姿勢ですからね。……では……まずは
お菓子をあげましょう」

 ペネロープはケーキを一つアリスの両手に乗せる。

 「ありがとうございます。お母さま」

 アリスがお礼を言うとペネロープはたったそれだけのことにも
満足そうに微笑むと……

 「まあ、感心だこと。やはり私が見込んだ娘だけのことはある
わね。ではね、そのケーキはハイネに預けなさい。今度はご本を
あげましょう」

 ペネロープはケーキをハイネに預けて何もなくなった手に再び
今度は絵本を乗せる。

 「グリム童話とアンデルセンよ。お部屋に帰ってハイネに読ん
でもらいなさい」

 「ありがとうございます。お母さま」

 しかし、それもまたすぐにハイネに預けろと言うのだ。

 そして、次はクレヨン、その次はお人形……
 ペネロープは、自らが用意した女の子の欲しがりそうな品物を、
アリスの両手の上に与え続けていく。

 もちろん、アリスはそのたびごとに……
 「ありがとうございます。お母さま」
 とお礼を言わなければならなかった。

 そんな儀式がしばらく続き……
 『何の為にこんなまどろっこしいことをしているのだろう』と
思い始めた矢先のことだった。

 次にアリスの手に乗った物は奇妙な物だった。細い枝を束ねた
箒の先のような物。

 「これが何だか分かりますか?」

 ペネロープに尋ねられて少し間があったが、アリスはこの正体
を思い出す。

 「思い出したみたいね。そう、これは樺の木の鞭よ。何に使う
かも……ご存じよね。……今すぐに使うものではないけれど……
あなたにとって、これも大事なものよ」

 「はい、お母さま。ありがとうございます」

 「賢いわ、あなた。私の意味がわかったみたいね」
 ペネロープは頬を緩ました。

 「そうなの。大人が子供にあげるものは、甘いお菓子や楽しい
ご本ばかりじゃないの。辛いものもあるのよ。……でも、そんな
時でも、ご返事は……『はい、お母さま、ありがとうございます』
なのよ……言えるかしら」

 「はい、お母さま」

 「まあ、いいご返事だこと。きっと、あなたのお母様はいい躾
をなさってたのね」
 アリスの答えにペネロープはますます上機嫌だった。

 そして、次はもっと衝撃的なものとなる。

 「……!……」

 何にでも『はい、お母様』は分かっているつもりでも、さすが
に、これに対するお礼の言葉は、とっさには出てこなかった。

 大きな注射器のようなガラス製のピストン式の潅腸器。ほんの
少し前までなら、忌まわしくて撥ね除けていたであろう代物を、
今はさしたる違和感もなく手に乗せることができる。
 それだけでもアリスには驚きだった。

 「あなた、散々苦労したみたいだから、これが何だか、あえて
言わなくてもよいでしょうけど……これも女の子には、なくては
ならないお品物なのよ」

 「はい、お母さま。ありがとうございます」

 「そして、最後はこれ」

 ペネロープが最後に乗せたのは、2フィートほどの細い鉄の棒。
ちょっと見は暖炉をかき回す火箸のようにも見えるが、その先に
はペネロープ家の家紋であるイチイの花が彫りこまれている。

 「あなた、その様子じゃご存じないみたいね」

 ペネロープはそう言ったが、アリスはこれを知らなかったわけ
ではない。『まさか、こんなものまで…』という思いが、彼女を
怪訝な顔にさせていたのである。

 「それは、焼き鏝っていうものよ」

 「(やっぱり)」
 ペネロープの答えにアリスの悪い予感は見事に的中してしまう。

 「あら、ご存知だったの。……本来は、牛や馬が我が家の所有
であることを現すために押すものだけど……この城では人間にも
絶対に使用しないとは言い切れないの。その時は、覚悟してね」

 「…………‥」

 「あら、そのお顔の様子だと、ご不満なのかしら?」

 ペネロープは目が点になっている少女を励ますつもりでこうも
付け加えるのだ。

 「でも安心して、私、結構こういうことには手慣れているから、
あなたをそんなに苦しませずに刻印できると思うわよ。だから、
これにも『ありがとうございます』を言ってね」

 「……あ、~は、い。おかあさま。ありがとうございます」

 さすがのアリスもこの時ばかりは平常心ではいられなかった。
だから、恐る恐るこう尋ねてみたのである。

 「あのう~、焼き鏝ってどこに押されるんでしょうか?」

 「あらあら、あなた、もうそんなこと心配してるの……いいわ、
教えてあげる。お臍の下よ。下草を全部綺麗に刈り取ってから、
真っ赤にしたのをジューってね。……やられたことないでしょう
けど……熱いわよ~~~」

 ペネロープはあっけらかんとしている。
 アリスには、穏やかに笑って答えているのだが、その口元は、
言外に『あなた、可愛いわね』と言ってるようだった。

 「………………」

 「どうしたの?浮かない顔して……大丈夫よ。滅多なことでは
そんなこと起きないから……」

 ペネロープは椅子に座ったまま、アリスを膝の上に引き寄せて
抱きしめる。

 「あら、あら、あなた、お顔が真っ青よ。ちょっとお薬が効き
過ぎちゃったかしらね……よし、よし、いい子、いい子、大丈夫、
大丈夫、何もあなたにそんな事をするなんて言ってないでしょう。
泣かないでちょうだい。ただね、自殺する人って、物事を短絡的
に考える人が多いから、緊張感のない生活は危険なの。その戒め
なのよ。元気をだして……」

 心配したペネロープが、抱いたアリスの身体の肩や背中を擦り、
両手に息を吹きかけると、青ざめた少女の顔にもいくらか赤みが
さし始めた。
 それを確認して、彼女はこう約束させるのだ。

 「さあ、復習よ。…あなたは私の娘として私が与えるどんな事
にも『ありがとうございます』と言って、無条件に受け入れなけ
ればなりません。それはクッキーや絵本やリボンといった楽しい
ことばかりじゃなくて、お仕置きのような辛いことに対しても、
やはり『ありがとうございます』と言って受け入れなければなら
ないの。……できますか?」

 「はい、お母さま」
 
 「よろしい。………やはり、私の判断は正しかったみたいね。
あなたを竜巻岬で見かけた時から、『この子はとても立派な躾を
受けてる』って感じてたの。やはり私の目に狂いはなかったわ」

 ペネロープはアリスを自分の目の前で立たせると、その両肩を
掴んで……

 「しばらくは、人生をやり直すための修行の日々だから、辛い
ことも多いでしょうけど、辛抱しなさいね。私が決して悪いよう
にはしないわ」

 彼女はこう言ってアリスを励ましたのである。

***************<了>**********

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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