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『ガキ大将』 ~真のリーダー~

 『ガキ大将』

 聞くに堪えない親から虐待や友だちからの陰湿ないじめなどが
テレビのニュースで流れるたびに思うのだが、僕の子ども時代は
恵まれていたのかもしれない。

 僕の場合、家は中流家庭だったが、親からも教師からもおよそ
お仕置き(体罰)を受けた経験がほとんどない。単に鈍感なだけ
だったのかもしれないが、誰かに虐められたという記憶もない。
僕を相手にすると、結局は教師を相手にすることになってしまう
からクラスメートがそれを嫌がっただけということなのかもしれ
ないが……とにかく学校で嫌な思いをさせられたことはなかった
ように思う。

 『……よって、僕は幸せな学園生活を送ることができた』
 と、まあ結論づけたいところだが、これが、そうでもなかった。
 何しろ歪んだ性格のせいで友だちが極端に少なかったのだ。

 幼稚園入園から高校卒業まで、どの年度をとっても僕のそばに
いる友だちというのはせいぜい二三人程度。大勢に囲まれて騒い
だという記憶がないのだ。そもそも僕の言葉を理解し、かつ辛抱
強く毒舌を聞き続けてくれる子がそんなに多いはずがもないから
それは仕方のないことかもしれないけど。

 僕だってべつに孤独を愛していたわけではない。できれば多く
のクラスメイトと屈託なく話をしたかったが、これが意外と難儀
だったのである。

 例えば幼稚園時代、『電車ごっこ』という意味が分からず……
 「電車は鉄の塊、切符を買って乗るの。こ~~んなに大きんだ。
知らないのか?……これ何?縄跳びの紐じゃないか。君たち、何
考えてるの?」
 とか言ってしまい、思いっきり顰蹙をかったことがあったけど、
その後もこうした病は治らなかった。
 (自己弁護するけど、これって悪意はまったくないんだ)

 それでも何とか仲間に入りたいとは思っていたから、僕だって
努力はしたんだよ。一応それなりに……

 偉そうな物言いや知ったかぶりはタブー。みんなが知らない事
は、こちらも『知らない』で通す。逆にみんながやると決めた事
は『これって親や教師に知れるとやばそうだ』と思っても一度は
友達と一緒にやってみる。お付き合いは人間関係の基本だからだ。
 とまあ、こんな調子で、やってはみたんだ。
 (これって、父の入れ知恵だったりするわけだけど……)

 おかげで母を悲しませたり、教師に廊下に立たされたりもした
んだけど、でも、そのおかげで視野はいくらか広がった気がする。

 その成果が最初に出たのは小4の時だった。
 ちょっと乱暴だったけど、体力があって男儀があって統率力の
あるガキ大将にもめぐり合えたんだから。
 それはそれで僕にしたら進歩だったんじゃないかなと思ってる。

 いや、正確に言うと、2クラスしかない小さな学校だったから
彼のことは小学校入学当時から知ってはいたんだけど、それまで
ずっと無視し続けていた。

 母や女の子たちの影響なんだろうね、僕の心の中で彼の評価は
『クラスの中の困ったちゃん』でしかなかったからだ。

 それが、四年生の夏。無謀にも彼と喧嘩をして負けてしまい、
その後は彼に付き従わなければならなくなった。
 (そういう約束で喧嘩したから)

 子分というのか客分というのかそのあたり立場は微妙なのだが、
いずれにしても、彼が率いるガキ大将クラブの中で、僕はありの
ままの彼を見る機会に恵まれたのである。

 そばで見る彼は女の子たちが噂するような粗暴な暴君ではなく、
頼もしい兄貴みたいな人なのだ。
 体力、ガッツ、克己心、逆境でも捨て鉢にならない自制心……
そうそう女の子のような偽善的なヒューマニズムではなく本当の
ヒューマニズムも彼から習った。
 とにかく僕には無いものばかり色々持ってるもんだからむしろ
羨ましかったんだ。

 最初は喧嘩に負けて渋々着いて行っただけ。だけど、そのうち
母の反対を押し切ってこちらが追っかけをするまでになる。
 僕の方が惚れてしまったのだ。

 そして三学期。僕は彼を学級委員の選挙に立候補させて、当選
させてしまう。
 女の子の支持はなくても男の子からは圧倒的支持だった。

 ところが……
 成績のよくない、粗暴な振る舞いも目立つ彼に学級委員は無理
と判断したのだろう「もう一度みんなでよく考えてみましょう」
などと担任の先生が再考を促してきた。
 ただ、それに強く異を唱えたのは僕だった。

 もちろん一介の生徒の発言など担任の教師にしてみたら取るに
足らないかもしれないけど、僕はそれまで先生との間で築き上げ
てきた信用を投げて選挙結果を認めてくれるように訴えたんだ。
 というのも、これは彼へのお礼のつもりでもあったから。

 ある日、担任教師が不在の学級会で生徒がガヤついてどうにも
収拾のつかない時があったんだけど、そんな最中のことだ。
 一人遅れて入って来た彼が開口一番、「みんなうるさいぞ」と
言ったら、どうだ、教室が一瞬にして水を打ったように静かにな
ったんだ。

 これはお調子者が奇声をあげた為にほんの一瞬静まったという
レベルではない。彼に遠慮して穏やかにしているのだ。
 僕はその瞬間の出来事を忘れることができなかった。

 昔の僕だったら、『それは彼がみんなを脅したから』と単純に
割り切った考えをしたに違いない。しかし、彼と一緒に過ごして
みると、現実がそうでないのがよくわかる。

 権力や後ろ盾の無い彼は普段の努力と気遣いでみんなの信用を
勝ち得ているのだ。
 その友だちとの間で築いた信用をここで投げ、静かにするよう
頼んでくれた。(そう、これは脅したのではない。頼んだのだ)
その結果として、今、この静寂が続いているとわかるのだ。

 友だち想いで、友だちと決めた約束はどんな些細なことも守り
抜く。大人たちの常識や価値観に左右されず自分の信念を貫く。
泣き言を言わない。嘘をついてまで罰を逃れようとしない。大人
たちからのお仕置きにも平然としていて恐れない。子どもだけど
とにかく肝が据わっている子だった。

 そもそもヤクザの倅だからお母さんたちの評判だってよくない。
当時、学校の周囲は田んぼや里山。そこで遊んで帰るからいつも
制服は泥だらけ。ランドセルの片方のベルトが切れていて、家で
補修してくるから朝は背負ってくるけど、帰りる時にはいつの間
にかそれが切れていて、繋がってる片方のベルトを肩に引っ掛け
て帰るのが常だ。

 僕たちの学校では信じられないほどの異端児だったんだけど、
偉そうなこと言っても何一つ他人の役に立たない僕なんかより、
彼はよっぽど立派なリーダーだったのだ。

 こう感じてる子はおそらく僕だけじゃないはずで、だからこそ
ざわついていた教室が静まりかえるわけで、女の子の評価では、
『薄汚れた厄介者』としか映らないのかもしれないけど男の子は
こういう人に魅力を感じてついていくんだと僕は思っている。


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コメント

[C32] 良いですね

良い話なのに不覚にもこのガキ大将が女教師なんかに皆の前で下半身を剥き出しにされて、だんだん心がおれて泣き叫んで謝罪するほどの羞恥と痛みの伴うお仕置きを与えられた姿を見た時の彼の失望を見てみたいと思ってしまった。
  • 2018-05-09 14:50
  • まーや
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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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