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第1章 メイド服のピアニスト(§1~§7)


               第 1 章
          メ イ ド 服 の ピ ア ニ ス ト

 車はやがてサー・アランの屋敷へと到着。

 「う、ひょう~……こりゃあ、たまげた。まるでお城ですね。
これじゃあ、使用人も十人以上はいますね」

 「何を言ってるんですか、桁が一つ違いますよ。あなたの言う
十人程度でよければ、その扉の向こうに並んでますよ」

 先生の言う通りだった。扉が開かれると、メイドや執事などが
ずらりと並んで二人を迎える。しかし、やはり彼らを一番待ち望
んでいたのは、この屋敷の主だった。
 玄関の大きな扉が開くなり二人のもとへ駆け寄ってきて……

 「先生、こんな草深い田舎へようこそおいでくださいました。
お引き受けくださった後も、本当に来ていただけるか、そればり
案じておりました。私はもう、先生にお目にかかれただけで感激
です」
 サー・アランは早速先生の両手を握ってまくし立てた。

 「いえ、いえ、男爵様のお招きとあらば、こちらもお断りする
理由がございますまい」

 「詳しいお話は、また御夕食を挟んでいたしますが……」

 「いえいえ、あらかたのことはお手紙を頂戴したので承知して
おりますよ。…きっと、何かの手違いでしょう。音楽院にも時々
おっちょこちょいなのがおりますからね……」

 二人の会話を後目に秘書のラルフはその豪華なロビーをあちら
こちら見学している。そして厚いペルシャ絨毯の敷き詰められた
螺旋階段の上から、おどおどした様子でこちらをうかがっている
一人の少女に気づくのだった。

 「やあ」
 彼は笑顔を振りまくが、視線をそらされ無視されてしまう。
 そのうち……

 「ラルフ、行きますよ」
 
先生の一言で、大人たちが動き出す。

********************(1)*****

 来客の二人は広い寝室付きの居室へと通された。普通のホテル
なら5部屋もまかなえようかという広さである。

 「先生……先生は、ここの主人の用向きをご存じなんですか?」

 ラルフが尋ねると先生はこともなげに答えた。
 「当然です。こんなことはこの時期なると、どっからともなく
数件舞い込みますからね。……おそらくは……さきほど君が袖に
された、あの娘」

 ブラウン先生は衝立の陰に置かれていた洗面用具を見つけると、
さっそくそこへ出かけていって、ポットから水を洗面器に移し、
石鹸を泡立て始める。

 「袖にって?……たって!あれはまだ子どもじゃないですか」

 「あの子が、きっと音楽院の試験に落ちたんでしょう。でも、
あきらめきれない。そこで不憫に思った親御さんは、娘を音楽院
に入れる為に私に白羽の矢を立てたというわけです。私が紹介状
を書けば八方丸く収まりますから……」
 先生はそこまで言って洗面器に顔をつける。

 「なるほど、………でも、ですよ。その娘がどうしようもなく
下手だったら?」

 先生は洗面器から顔を上げると……
 「まず、その心配はいりません。これだけの名家なら、当然、
受験のためにはそれなりの家庭教師をつけているはずです」

 「なら、なぜ落ちたんです?」

 今度はタオルを探しながら……
 「あなたは人生経験が浅いですね。……考えてもごらんなさい。
こんな田舎で蝶よ花よと育てられている娘がいきなり人生初めて
の舞台に立ったんですよ。緊張して当然でしょう」

 「じゃあ、なぜ学院は落としたんですか?……父親は男爵だし
資産家だから多額の寄付も見込めるでしょうに……」

 先生は顔を拭き終え、今度は窓辺へとやって来た。

 「だからです。堅物というのは、どの世界にもいるんですよ。
学院の財政状況は音楽教育とは関係ないと高をくくってる人たち
がね。……でも、そんな人たちでも……学院のお財布を預かって
いる人たちから頼まれれば、そうむげには断れやしません。……
それにです。実際、お荷物になるほどひどい娘というのなら……
それはそれで、私にも断る手だてはありますから……」

 「なるほど」

 「おう、やってますね。ここまで聞こえますよ」

 「えっ!」

 ラルフは先生が腰を下ろす出窓に近づいた。そして、身を乗り
出して、ピアノの主を覗き見てみたのである。

 一方、先生はというと、流れてくるピアノの音色以外に興味は
なかった。

 「月光ですね。……ん、……不思議な編曲だが……でもこれは
以外に筋がいい」

 先生のにんまりとした顔を尻目にラルフの顔が曇る。

 というのも、身を乗り出した窓から、その眼下にピアノの主が
見えるのだ。それは、先ほど階段の上からこちらを心配げに見て
いた少女とは別人だったのである。

 しかも彼女はメイド服を着ておんぼろなアップライトピアノに
向かっているのだ。

 『大丈夫かなあ、この先生。お嬢様のピアノと女中のピアノの
区別もつかないで……』
 ラルフがこう思ったのは無理からぬ事だった。

 「は、はあ~ん、分かりましたよ。あのピアノ。一オクターブ
高いミと一オクターブ低いラの音高が少し変なんです。ですから、
彼女、それをカバーして弾いているんです。でも、彼女なかなか
センスがありますね。よほど耳がよくないとこうは弾けない」

先生は依然として楽しそうだったが、ラルフはこう言わざるを
得なかった。

 「先生、違いますよ。だって、あの娘、メイド服なんか着てる
し、第一ここから見てもあのピアノは上等とは言えませんから」

 すると、先生。半眼に見開いた目でラルフを睨みながら、こう
言ってのけるのだった。

 「無粋な人ですね。あなたは……そんなこと、わかってますよ。
でも、そんなこと、どうでもいい事じゃありませんか。…大事な
ことは、今、この瞬間、心地よいピアノの音が窓から流れ込んで
旅の疲れを癒してくれている。……それだけで充分でしょう」

 ラルフはお手上げといった様子で肩をすぼめる。

 が、世の中、何も無粋なのは先生の秘書ばかりではなかった。

**********************(2)***

 「カレン!あんた、また、こんな処で油売って……もうみんな、
晩餐会の料理を運んでるのよ」

 無粋な声に、たちまちピアノの音はかき消されてしまう。

 「すみません、今すぐ行きますから」

 ラルフはこの時初めてカレンという彼女の名前を知り、その声
を聞いた。

 そして半分ほど開いた丸窓から彼女の横顔がのぞいているのを
見つけると、透き通るような白い頬をさして流れて落ちる黒髪が
肩先で小さくカールされているのを脳裏に刻みつけるのだった。

 「もういいわ、今さら台所に行ってもろくに仕事も残ってない
でしょうし……」

 先輩の冷たい声が、砕けたガラスの刃のようにカレンの心臓を
突き刺す。

 「そんな事より、不本意ながらあなたの教育係を仰せつかって
る私としては、あなたに言っておかなければならない事があるわ」

 「……」
 少女のうつむく顔がラルフにはいとおしく、そんな自分の顔を
ブラウン先生が覗き込んでいるのさえ気づかないで見とれていた
のである。

 「あなた、いったい何様のつもりなの。そりゃあ、連れてこら
れた時は、ご主人様のお世話だって聞かされてたけど、……でも、
その仕事は、もう首になったんでしょう!?」

 教育係の言葉にカレンの顔が赤く染まった。

 「だったら、今は、何なの?……ここにいる大勢のメイドの中
の一人よね?……それも、かなりできの悪い……新米の……」

 「……」
 カレンの顔に影がさし、小さく頷く。彼女自身もそんな自分の
立場を承知しているようだった。

 「だったら教育係である私の教育を受けるのは、あなたの義務
じゃなくて?……」

 教育係から教育を受けると言うのは有り体に言えば罰を受ける
ということ。カレンは顔を少し上げ、見開いた眼を教育係に向け
たが、その顔は硬直したままだった。

 「……それとも、何かしら、そのおんぼろピアノを背負って、
あなた、ここを追い出されたいのかしら?」

 「……」カレンの表情が今度は青ざめる。
 堅くこわばるは表情は、教育係と称するこの先輩メイドの言葉
が、いたいけな少女にとって、とてつもなく重いものである事を
示していた。

 「かがみなさい」

 そう言った瞬間、ラルフの目には、窓越しに教育係のメイドが
籐鞭を握っているのが見える。彼女がカレンの向こう側を横切っ
たのだ。
 癖のある赤い髪はぼさぼさで、もとより化粧などしていないし、
目の下にうっすらソバカスの残る童顔の娘だった。カレンとは、
それほど歳が離れていないようにも見えたのである。

**********************(3)***

 「さあ、どうしたの?……それとも、ここを出る決心がついた
のかしら?」

 激しくかむりを振るカレン。長い髪が首筋にまとわりつくよう
に、ばさばさっと揺れる。
 彼女にしても行くあてなどあろうはずもないのだから、答えは
始めから決まっていそうなものだが、それに答えるにはいくらか
の勇気が必要だったのである。

 「少しは物分かりがよくなったのかしらね」

 カレンは、今までピアノを弾くために座っていた丸い椅子に、
今度は両手を着いてかがむと、空いたスペースの向こうの壁には
ミケランジェロだろうか聖母子が掛かっているのがわかる。

 しかし、これでも教育係としては充分ではなかった。

 「こういう時はね、自分でスカートはめくるものなのよ。……
お嬢様」
こう皮肉って、彼女は足首までを覆っていたロングスカートの
裾を、すべて腰の上までたくし上げたのである。

 カレンの背筋に悪寒が走るが……

 「いいこと、お嬢様。こんな時はね、ご親切ありがとうござい
ますって言うのよ」
 スージーにこう言われれば、やはり……
 「ご親切、ありがとうございます」
 カレンもこう答えるしかなかった。

 ただ、それからはしばらく間があく。スージーがカレンのお尻
をじっくり観察し始めたからだ。
 『どう、料理しようか』
 そう思ってるのかもしれなかった。

 まだ14歳の少女の太股は子ども子どもしているが、それでも
ショーツに包まれたお尻の部分だけは、幾分か女を主張し始めて
いる。

 しかし、すらりと伸びた白い足は華奢で、日頃、野山を駆け回
っている田舎娘ほど頑丈ではなかった。

 ラルフは、普段、なかなか外気にさらされることのない華奢な
足が、今、寒そうに震えているのを見ると、素直に『可哀想だ』
と思った。憐憫の情を禁じ得なかったのである。

 「ま、この程度の過ちなら、普通は、鞭が二ダースってところ
だけど……あなたの場合、耐えられるかしらね?……間違っても
粗相なんてしないでよ」

 教育係の忠告は、ショーツの上でぴたりと止まった籐鞭の先端
からもカレンの体の中へと送り込まれていく。

 すると、そんな静寂のなか、カレンの唇が震えだすのが見えた。
 今、その鞭の先端からは恐怖という名の薬液が注入され続けて
いるのだ。

 それがカレンの身体に十分染み渡ったところで……

 「さあ、しっかり受け止めなさい」
 スージーがそう言うと、それまでぴたりと綿のショーツの上で
止まっていた籐鞭が数回そこをゆっくりこすりつけてから離れて
いく。

 「ひゅ~」

 軽い音ともに最初の衝撃がやってきた。

 「あっ!」
 「ピシッ」
 手慣れた感じで鞭がしなり、ショーツの上で弾む。

 決して強く叩いた感じではなかったが、カレンはそれを全身で
受け止めたようだった。

 続いて二つ目。

 「あっっ」
 「ピシッ」
 思わず、カレンの息が乱れる。おそらく自分が予想しなかった
タイミングで次が飛んできたのだろう。
 気のせいか、ラルフには教育係がうっすら笑ったように見えた。
 その直後、ふたたび……

 「いやあっ」
 「ピシッ!」
 カレンの両足が初めてばたつく。

 まだ思春期を迎えたばかりの少女に下される過酷な懲罰を覗き
見るのは、紳士としてはあまり立派な趣味とは言えない。それは
わかっていたが、ラルフはこの光景に目を奪われていた。

 「あっ、だめえ」
 思わず、次ぎに鞭が飛ぶタイミングでカレンが振り返る。
 しかし、それは今の彼女には詮無いことだったのである。

 「何がだめなの。ちょっと優しくし過ぎたから、くすぐったい
のかしら?…さあ、前を向きなさい。お仕置きは始まったばかり
なのよ」

 教育係のこの一言で、カレンはふたたび前を向かされてしまう。
 カレンにしてもそうした事情はわかっていた。このまま、歯を
食いしばって教育係の鞭に耐えなければならない事情は……

 「まったく、最近の子は堪え性がないんだから困りもんだわ。
私が子どもの頃なんて、たった3つで後ろなんか振りかえろうも
のなら、問答無用でショーツをおろされたものよ」

 「すみません」
 こう言わなければならない立場もカレンは承知していたので
ある。

***********************(4)***

 「ほら、いくわよ」
 ほんの少しいらついた声がした後、また同じ事が繰り返される。

 「ピュッ」
 「いたあ~い」

 「ピュッ」
 「あ~~だめえ~」

 「ピュッ」
 「ああっ~あああ」

 もうカレンのダンスは止まらなかった。腰を振り、足をばたつ
かせ、お尻をしきりに上下させる。肩が笑い、籐鞭が当たるたび
にいやいやをして髪がなびく。長い髪に隠された向こう側では、
泣いた顔がこの痛みに耐えているに違いなかった。

 「まったく、だらしがないね。このくらいの事でじたばたする
なんて、あんた、親からいったいどんな教育を受けてきたんだい。
この辺じゃあ、お姫様だって、もうちょっと我慢するよ」

 「ごめんなさい」

 「さあ、謝ってばかりいないで、両手をついて踏ん張るの。私
だってあんたのお仕置きだけが仕事じゃないんだからね」

 「はい……」

 「返事だけは一人前だ。…………さあ、もう一つ」

 「ピュッ」
 「あっっっっっっちっ」

 「ピュッ」
 「ひぃ~~~いやあ」

 「さあ、もう一つ」

 「いやあ!!だめえ~~~」

カレンは、とうとうその鞭が振り下ろされる前にその場にしゃ
がみ込んでしまった。

 「何なの、それ?…反抗してるわけ?……いいわよ、それなら
それで、ここにはあなたを無理矢理閉じこめておかなければなら
ない理由は、これっぱかりもないんだから。いつだって荷物まと
めて出て行ってちょうだい」

 カレンにとって、それは辛い言葉だった。寄る辺なき身の上の
彼女にとって、ここ以外に生活できる場所はないのだ。

 「ごめんなさい、立ちます」

 カレンは勇気を振り絞って立ち上がろうとした。が、教育係は、
そんなカレンの勇気に水をさす。

 「だいたいメイドのぶんざいでこんな大仰なピアノを持ち込む
なんて、聞いたことがないわ。あなた、ここのご主人の人が良い
のにつけ込んで、いくらかせしめようとしてるんでしょう」

 「ち、違います」

 「……だって、あなた、本当はご主人のお下の世話で呼ばれた
って言うじゃない。だから、こんな立派な個室まで戴いたのに、
いざとなると、それも拒否したんですって?まったく、いい度胸
してるわ」

 カレンにとって教育係のこの言葉は最も辛いものだった。
 というのも、その一つ一つに嘘がないからである。

 実際、この14歳の少女は、曖昧な形とはいえ、ここの主人の
下の世話を約束してここへ来ていた。父の形見であるこのピアノ
を置いてもらえるという条件の前には、何でも飲むしかなかった
のだ。

 うぶな彼女には、それが具体的にどんな事なのかを彼女自身が
知っていたわけではないのだが、嘘をついたという負い目だけは
カレンの心の中にしっかり残っていた。

 カレンは丸いピアノ椅子によろけるようにしがみつき、自ら、
スカートをまくり上げると、教育係がため息混じりに吐き捨てる
残りの繰り言を、お尻をつきだした不格好な姿勢のままで聞いて
いたのである。

 「しかも、今度はメイドで雇ってくださいだなんて、よく言え
たもんだわ。……盗人猛々しいって、きっとあなたのような人の
ことだわね。ま、それだって、今のところまともに勤まっていな
いようだし、ここから追い出されるのも時間の問題ってところだ
わね」

***********************(5)***

 教育係は地元の小作人の娘だった。幼い頃から父と言わず母と
言わず、ことあるごとに鞭で育てられた彼女にとって三つ四つの
鞭ですぐに悲鳴を上げる娘は、何だかとてつもなくだらしのない
女として映ったのだ。

 「さあ~て、どう料理しようかしらね。こんな意気地なしは…」

 小声でつぶやくうちに、彼女はまだまだこれから発達が見込め
る可愛いお尻を眺めて、ふと悪戯心が湧いてしまうのだった。

 『この子、売春宿にいたにしては、まだすれてないし、これで
けっこう可愛いじゃない』

 逃げ惑い、やがて追いつめられる灰色ネズミを見下す猫のよう
な視線でカレンのお尻を見下ろしながら、教育係は籐鞭を自分の
胸の前で半円形にしてそのしなり具合を確かめる。
 そして、それまで使わなかった手首のスナップも、ほんの少し
生かして、カレンのお尻をヒットしてみた。

 そう、ほんの少しだけ強く叩いてみたのである。

 「ピシッ!」
 「いやあ!」

 まるでびっくり箱のふたが開いたように、カレンが立ち上がる。
 いや、飛びあがったと言う方が正確だろう。ほんの一瞬だが、
彼女の両足は床に着いていなかった。

 「あらあら、驚かしちゃった?でも、これくらいが、ここでは
当たり前なのよ。今までは、ご主人様の寵愛があるらしいという
ことでこちらも手加減してきたけど、これからはそうはいかない
わ。ふ抜けた女中には特に厳しくというのが、女中頭のマーサ様
のご指示でもあるんですからね。あなたも覚悟しておくことね」

 カレンは教育係の声をその硬直した顔のままで聞く。
 彼女自身、お勤めをおろそかにするつもりはないのだが、この
ピアノの前に立つと、時間はあっという間に過ぎ去ってしまうのだ。

 『このままではここを追い出されてしまう』

 カレンの心がなお一層曇った。彼女にとっての一大事はこのお
屋敷を追い出される事というより、父のピアノを弾く場所がなく
なることだったのである。

 ところが、そんな進退窮まったカレンの耳に、先程とは打って
変わって猫なで声のスージーの声が届く。

 「ねえ、カレンさあ。今さらこんなこと言うのも変だけど、私は、
あなたのピアノが好きよ」

 教育係はピアノ椅子につけたカレンの両手を取ると、代わりに
その椅子へ自ら腰をおろしてきた。

 『なぜ?』『どうして?』『今さら?』
 戸惑うカレンにスージーは続ける。

 「ねえ、これはあなたの心がけしだいだけど……私……あなた
の味方になってあげてもいいと思ってるの。そりゃあ、あんたは
役立たずの木偶の坊だけど、このお屋敷に女中なんては大勢いる
んだもの。あんた一人の手がなくても、どうとでもなるわ」

 「どういうことですか?」

 あまりに意外な展開に、むしろさらなる怯えさえみせるカレン。
そのカレンに向かって、スージーはこう続ける。

 「これからあなたは、お屋敷の仕事の他に私から言いつかった
用もこなすの」

 「お仕事が増えるってことですか?」

 「だから、お屋敷の仕事は形ばかりでいいのよ。大事なのは、
私の方……」

 「スージーさんの身の回りのお世話をするんですか?」

 「ま、そういうことね……女中頭のマーサ様が、私もそろそろ
一人前になったから身の回りの世話をする娘を一人つけてもいい
っておっしゃってくれてるの。……誰にしようか迷ってたけど、
どうかしら?あなた……どうせろくに仕事もできないんだもん、
いいお話でしょう?」

 「…………」
 まだ十四歳になったばかりの彼女には、教育係の言っている事
が、今ひとつ飲み込めない様子だった。

 「どうしたの?私じゃ不満?……そんな贅沢は言えないはずよ。
……どの道あなたって、ご領主様のチワワになりたくて、ここに
来たんでしょう?」

 「チワワ?」

 「だからペットよ。人間ペット。だって、あなたは御領主様の
ご機嫌取りが仕事でここへ来たんでしょう?だったら、そっちの
方があなたには合ってるんじゃなくて…」

 教育係の言葉通り、確かに楽と言えば楽かもしれない。しかし、
カレンにしてみれば、それがどんな仕事なのか、御領主様の時と
同様、何もわかっていなかったのである。

***********************(6)***

 もともと彼女はザイールで父と暮らしていたが、国内に革命が
起きて、父は船をチャーターして逃げ出すことに、しかし、その
途中、船が難破して父とは離ればなれになっていた。

 天涯孤独となった少女は、その後、ロンドンでセレブを相手に
売春宿を経営していた叔父夫婦の元へと引き取られたが、結局、
父は叔父夫婦のもとには現れず、ザイールから送ったピアノだけ
が送られてきたのである。

 しかも、彼女をもてあました叔父夫婦は、たまたま店の客だっ
たサー・アランが店の子ではないカレンに目をつけたのを幸いに、
体よく彼女を追っ払ったのだった。

 つまり、カレンは売春宿から来ていたが、これまで一度もお客
を取ったことはなく、また、サー・アランにしても、たしかに、
カレンにはそれなりの期待を寄せて引き取ってはいたが、それは
まだ先のことで、今はまだ、自分の娘とほぼ同じ年恰好の少女を
手込めにしようとまでは考えていなかった。

 勿論、彼の権力なら、無理強いしようとすればいつでもできた
話だが、『今はまだ実が熟すのを待っていた』そんな段階だった
のである。

 スージーは、しばらくカレンを膝の上に抱いて楽しんだあと、
まるで大きなぬいぐるみでも抱くようにして場所を普段カレンが
寝ているベッドへと移す。

 そして、大胆にも自分の穿いていたショーツを脱ぎ捨てると、
両足を大きく開き、その中へカレンの顔を突っ込んだのである。
 自分の様子をカレンに見せつけたのだ。

 同性の局部、それは見ていて感じのよいものではない。

 「何よ、その目は?かまととぶってるんじゃないわよ!あんた
だって、同じもの持ってるでしょう!……それとも、…あなた、
何かぶら下げてるのかしら?……御領主様ってね、そっちの方も
お楽しみになるって言うから、あんた、ひょっとして……いいわ、
調べてあげる」

 教育係はそこまで言うと顔を背けたままのカレンに飛びかかり、
一緒にベッドの上へと倒れこむ。

 「いやあ!やめて!」

 必死に逃れようとするカレンを若い教育係は逃さない。
 フォークナイフの他は絵筆ぐらいしか持ったことのないカレン
腕とは違い、重い洗濯物の篭を毎日運んでいるスージーの筋肉は
男勝りなのだ。

 「んんんんん」
 たちまち組み伏せられ、カレンは身動きができない。できる事
と言えば、強い口臭を放つ教育係の吐き捨てた息をわずかに吸う
ことだけだった。

 「いいじゃない。あんた、こうしてみると意外に可愛いのね。
私にぴったりよ。……本当のこと言うとね、役に立ってる他の子
じゃマーサ様がいい顔なさらないからあんたなの。あんたなら、
元々役にたってないんだし、誰も文句いわないでしょう」

 教育係はカレンに事の次第を説明しながら、か細いカレンの肩
と言わず手と言わず、太股、胸、はては大事な割れ目の中さえも
大胆にまさぐり始める。

 「……(やめてえ~)……(やめてえ~)……(お願~いょ)」
 カレンは悲鳴を上げたつもりだったが声にはなっていなかった。

 「あんたの大事な仕事の一つはね、私のここを舐めることなの」
 教育係がここと言って握ったのはカレンの秘所。突然のことに
カレンの頭は混乱し、息が詰まった。

 「あなた、ご領主様のフェラは拒否したみたいだけど、私のは、
やってくれるわよね。だって同じ女の子のものだもん、恐くない
はずよ」

 カレンは教育係の申し出をもちろん拒絶したかったが、それも
できないほどカレンの心と体はがんじがらめになっていた。その
瞬間はアナコンダにでも巻き付かれたかように、首を振る事さえ
かなわなかったのである。

 「ほら、じたばたしないの。…この期に及んで、いやだなんて
絶対に言わせないんだから。だって、そうでしょう。あなたは、
朝と夜、二回だけ私の大切な処を舐めればいいんだもの。あとは
好きなだけピアノが弾けるの。こんな有利な取引はないはずよ」

 絶体絶命のその時だった。

 「トン、トン、トン」

 部屋のドアが誰かによってノックされたのである。

***********************(7)***
二人の天使(ブグロー)

二人の天使/ブグロー
************** <第一章はここ迄です> ***

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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