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α201

α201<3>

シャワー室から戻ったパティーはすでに相当に憔悴しているように
見えた。
 にもかかわらず、お仕置きは当然のように強行されていく。

 『浣腸だけで十分だろう』
 私は思った。私のように男の支配する社会で育った者にとって女性
をいたぶるような行為は恥ずべきものとされているからだ。

 しかし、ここは男が支配する国ではない。主体はあくまで女性なの
だ。女性が自ら土木工事を行って都市を築き、一旦事が起きれば銃を
持って前線に赴くことが当然とされる社会なのだ。
 ましてや男性に比べ体力的にハンディのある女性は、何をやるにも
集団で取り組まなければならない。

 男の組織同様と言いたいが、それ以上に規律が厳しくないと成果も
得られないし、ヘタすれば組織が空中分解ってことにもなる。
 そのため幼い頃から長幼の序や身分の差は絶対で違反者はちょっと
したことでも、即、お仕置き。それも周囲に異性、つまり男が少ない
こともあるのだろう、破廉恥な体罰には事欠かなかった。

 この時も私は……
 「もう、憔悴してるみたいだし、許してやってもいいんじゃないか」
 と隣の母親に進言してみたのだが……

 彼女の反応は……
 怪訝な顔で一瞬私を見つめたかと思うと、次の瞬間は笑いだして…
 「大丈夫よ。女ってね、ちょっとしたことでもすぐに『参りました』
『ごめんなさい』って素振りを見せるの。これは習性。……でもね、
そんなことに付き合っていたら、女の性根は治らないのよ」

 「でも……」

 「大丈夫、私だって色んなお仕置きされて大人になったんだもの。
どこが限界かぐらいのことはわかるわ」

 「そうは言っても……」

 「あらあら、こんな事に引っかかるなんて……男性って……ホント、
フェミニストなのね」

 彼女の言葉にはどこか侮蔑的な意味が含まれていた。

 パティーの次なる試練は鞭打ち。シーソーのような傾斜のある板に
うつぶせになって辱めを受け、苦痛に耐えるお仕置きだ。

 板の低くなった側には横棒の長いT字バーがとりつけてあり、この
バーを握ってうつぶせになればパティーの仕事はそれで終わり。後は
助手を勤める二人のシスターの仕事。

 高くなった側のテーブル板の端にはクッションが置かれパティーの
下腹がそこにくるように調整される。さらに余った両足はこれでもか
というほど大きく開かれて足首が細い丸太に固定。
 当然、後ろから彼女の恥ずかしい部分が丸見えになるわけだが……
パティーも慣れてきたのだろう慌てた様子も悲鳴もなかった、

 ただ、あらためて見るパティーのお尻のお山には他の子に比べても
大きなお灸の痕が目につく。きっと何かとこれまでお仕置きを受ける
機会が多かったのだろう。
 こうした言い方には賛成したくないがそれだけ母親に可愛がられて
いるということでもあった。

 そんな大きな灸痕も含めて上級シスターはパティーのお尻を丹念に
アルコールに浸した脱脂綿で拭き取り始める。
 これは子供の鞭打ちに際してこの星ではよく儀式で、お尻の体温を
奪われた子はそれまで手が付けられないほど暴れていてもその瞬間、
身を固くして観念するのだそうだ。

 「いいこと、人は節度というものを持っていなければなりません。
オナニーを絶対にやってはいけないとは言いませんが、やり過ぎれば
記憶力が低下し健康を害します。だから自制することが求められるの
です。お父様お母さまとその回数についてお約束があったでしょう?」

 「…………」

 「……それを守れないのであればお仕置きはやむをえませんね」

 厳とした物言い。その事にパティーは反論することができなかった。
男性が圧倒的に少ないこの星ではお楽しみはレスボスの愛が一般的。
オナニーも許されていたから決して禁欲主義ではない。

 ただ、子供には制約があって、レスボスにしろ独り遊びにしろ親が
相手や日時などを承知している事が条件で、思い付きによる身勝手な
行為は許されていない。
 レスボスの愛も親の知らない処で楽しめば参加者全員がパティーの
ような憂き目にあうことになるのだ。

 上級シスターはこれでもかというほどたっぷりとパティーのお尻に
アルコールを塗りつけると、おもむろに革紐鞭を取り出した。
 六十センチくらいの細身のなめし皮で幅は五センチ位か。真ん中に
深いスリットが入っていて木製の握り手がついている。
 この星で未成年者のお仕置きに使うのは大半がこれだった。

 「ピシっ」
 「あっ」
 お尻のお山にそれが振り下ろされた瞬間、パティーの顔がゆがむ。

 私は確かに彼女と血縁が繋がっているわけではないがそれでも顔を
そむけた。
 やはり長く男社会を生きてきたからだろうその光景が残酷でならな
かったのだ。

 しかし、鞭音がやみ目を開けると母親はしっかりとその様子を冷静
に観察しているのがわかる。

 再び……
 「ピシっ」
 「あっ」
 パティーが両手を添えていたT字のバーを必死に握りしめる。

 今度は私も目をそらさなかったが母親は相変わらず冷静にその様子
を見ている。その姿が、私にはまるでつまらない映画を仕方なく観て
いるように見えて複雑な心境だが、彼女は決して冷たい人間ではない。

 「ピシっ」
 「いやっ」
 冷静に的確にパティーの心の中を読み解こうとしているのだ。

 「ピシっ」
 「いやっ」
 後で聞いた話だが女性はこんな事態になっても、ほんのわずかでも
よく見られようとする。今ある現実を受け入れず、自分の心の中だけ
ではなかったことにしようとする。

 「ピシっ」
 「いやっ」
 それが少しでも感じられるうちはお仕置きは終わらないのだそうだ。

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、ごめんなさいもうしません」
 六回目でやっと本心が飛び出すと母親はもう一段厳しい顔を造って
から私の方を見て笑った。

 「この子も、やっと、いい子になる産声をあげたわ」

 「?」
 私が訳が分からず悩んでいると……

 「女の子ってね、男の子と違ってなかなか本心を外に出さないの。
しかも年齢が上がるほどその意識が強くなって……ほおっておくと、
しまいにはね、自分の本心がどこにあるのかさえわすれてしまうから
やっかいなのよ」

 「まさか」

 私が驚くと……
 「本当よ。あなたにしてみれば可哀そうだという気持ちの方が先に
たつかもしれないけど、女の子ってこれくらいしないと本当の自分と
向き合おうとしない生き物なんだから」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、やめてえ~ごめんなさい、もうしませんから」
 隣の部屋からは悲鳴だけでなくパティーを縛り付けているロープや
机のきしむ音までが伝わって来る。

 「大丈夫でしょうか、健康を害してしまっては元も子もないと思う
んですが……」
 頼りなげに母親に尋ねると……

 「大丈夫よこのくらい。女の子ってね、このくらいでくたばったり
はしないものなのよ」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、いやあ~、死んじゃう~」

 「ほら、元気に叫んでるじゃない。ああして大声が出ているうちは
問題ないの。女の子の体ってぶったり叩かれたりすることには男の子
よりむしろ丈夫にできてるの」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、いやあ~、いやあ~、いやあ~、」

 「何?まだ心配してるの?私だって子供の頃はあんなものじゃない
お仕置きを沢山受けてきたんですもの。限界になった時ってのは見て
いればわかるわ」

 「ピシっ」
 「いやあ~っ、いやあ~、いやあ~、いやあ~、もうだめえ~~」

 「あなたには見えないでしょうけど、あれであの子、どうにもなら
ない恥ずかしい部分を今でも隠そうとしているの」

 「健気ですね」

 「いえ、健気じゃなくて……あんなことができるうちは女の子って
元気そのものなのよ」

 結局、パティーは一ダースの鞭を受けて傾斜のついた机からは解放
されたが、これは裏が終わっただけの話。
 鞭のお仕置きは、まだ表が残っていたのだった。

 傾斜のついた机からは解放されたパティーだったが、次のステージ
は、1m四方、高さ50cmほどの台の上。ここに乗せられて左右の
腕をそれぞれ天井からつり下がったベルトに戒められる。

 「あっ、いや」
 助手をつとめる二人のシスターによるあっという間の出来事。
 鞭打ちで疲れていたパティーにとっては『えっ、何するの』『だめ、
いや、やめて』という言葉を発する暇がないほどの早業だった。

 その動けないパティーの身体を上級シスターが触れてまわる。
 傷んだお尻はもちろん、泣きはらした顔、鳥肌の立つ両腕、震える
両足も、まだ可愛らしい胸のふくらみも、キュートなお臍も、さらに
その下に連なる緩やかな丘も例外ではなかった。

 自然にしていればそこに茂みができるパティーだが、今はすべすべ
に剃り上げられていて剃り跡すらない。つるつるで赤ん坊と同じ姿の
パティーだが、そこにはひと際大きなお灸の痕、灸痕があった。

 もちろん、これは彼女に限らず女の子全てが持っている火傷の痕に
違いないが彼女のそれはお尻のお山に一つずつ据えられたものも含め
ひと際大きかったのである。

 「では、今度は前のお仕置きです。しっかり歯を食いしばって頑張
りましょう。いいですね」

 「はい」
 上級シスターに宣言されるとパティーは蚊の鳴くような声で答える。
 これが彼女の精いっぱいの声だった。

 そんな緊張した雰囲気のなか、
 「びたっ」
 最初の一撃がパティーのお臍の下の膨らみに当たる。

 『これはずいぶん違うな』
 私は思った。
 お尻を叩いていた時のそれとは勢いが明らかに違っていたのだ。

 ささやかな膨らみがあるとはいえ膀胱や子宮まで距離が短い前側の
お尻(この星では恥丘のことをよくそう呼んでいた)への配慮だそう
だが、だからといってこのお仕置きが軽いものというわけではない。

 素っ裸、それも万歳しているような姿勢で立たされているのだから
女の子にとっての恥ずかしさは半端なものではない。
 大切なことは痛みではなく、自分の恥ずかしい場所をすべてさらけ
出させるということ。
 
 だから、鞭の役割も痛みを与えるというより放っておくと夢の世界
に逃げてしまう女の子の意識をつねに現実に引き戻しておく小道具と
して重要だったのである。

 鞭打ちの合間、両足を開き、他人に股座のなかにある自分の性器を
確認してもらうなんていうのは、うら若い少女にはとってはさぞかし
辛いお仕置きだったに違いない。

 「さあ、目をつぶらないの。自分のものなんだから恥ずかしくない
でしょう」
 上級シスターはパティーの股座にカメラを入れ前にあるモニターを
指さしながら自分の持ち物を確認させる。

 「あらあら、襞もだいぶよれてるから、ここにも相当手を入れてる
みたいね」
 上級シスターにこう言われるとパティーの顔が真っ赤になった。

 そして、お尻をぶたれていた時にもこれほど大量にはと思えるほど
大粒の涙を大量に流し始めたのである。

 「あなた、今に生まれて幸せよ。大昔は焼き鏝で大事な処を焼いた
こともあるったんだから……」

 「…………」
 上級シスターの脅しにパティーは息を飲む。

 「これからはせいぜい自重することね。でないと……お仕置きは、
もっともっと厳しくなるし、何より大人にしてもらえないわ」
 上級シスターは笑顔でパティーを諭す。

 実際、この星では年齢がいけば自動的に大人になれるのではなく、
大人委員会と称する組織の承認が必要だった。そこではとりわけ倫理
がうるさく、自分の心をしっかり制御できない者を大人社会の一員と
して加えることはできないとされていたのである。

 つまりオナニーを自制するというのもそのことの一つなのだ。

 仮に、大人と認められなければどうなるのか。
 たとえ身体だけ大人になっていても、いつまでも子供扱いのまま。
悪さをすれば幼い子供たちたと同じように素っ裸で枷に括られる運命
を受忍しなければならない。
 それが生活していく上でどれほど恥しいことか、辛いことなのかを
大人たちはみな知っていたからこそ、大人たちはハイティーンの娘に
厳しかったのである。

 パティーは上級シスターの長い説教の後やっと許されたが、これで
お仕置きの全てが終わったわけではなかった。
 このことを忘れないための教訓を与えなければならなかったのだ。

 その事で上級シスターが再び私たちがいる金魚鉢へとやってきた。

 「お嬢さんの灸痕は他の子と比べて少し大きいに感じますが、お家
ではどのようにされているのでしょうか?」

 上級シスターが尋ねる。確かにパティーの灸痕は他の姉妹と比べて
も少し大きかった。それを心配したのである。

 「ああ、あれですか。あの子、ああ見えてけっこうお転婆なところ
がありましてね、幼い頃、何かあるとよくお灸で矯正していたことが
あったんです。あの子にはお尻叩きや鞭よりお灸の方が効果的でした
から……」

 母親の言葉は私には初めて聞く情報だった。確かに子供と言っても
その性格は千差万別。矯正するための手段も、その子によって効果に
差があるもの頷ける。
 だからこそ、それぞれの子に最も効果のある罰を与えるのは当然の
ことなのだろう。

 灸痕は前にも説明したが医学の進んだこの星では簡単な手術で治る
ため子供の勲章として親もあまり罪悪感を持っていなかった。
 そんなことより、日々、子供が親の望むように行動してくれること
の方がはるかに大事だったのである。

 「そうですか、では普段お宅では艾は大き目のものを……」

 「ええ、この子にはいつも標準的なサイズの1.5倍程度のものを
使っていましたから………ああ、でもあえてそのサイズにすることは
ありませんよことよ。今日はしっかり骨身に応えてるみたいですから、
普通サイズで結構です」

 「わかりました」
 上級シスターは納得して帰ろうとしたが、それを母親が呼び止める。

 「ああ、お待ちを……これはあくまでこちら側の勝手なお願いなん
ですが……」
 彼女の言葉に上級シスターが振り向くと……

 「艾の大きさはそのままでいいんですが、お灸をすえる場所をもう
二か所ほど追加していただけないでしょうか」
 
 「二か所と申しますと……」

 上級シスターが尋ねると、いつもははっきりものを言うこの母親に
しては珍しく少しためらった様子で……
 「実は……この子、前にも申しましたように他の子に比べてお灸が
効果的ですので、我が家では通常の三か所の他にもお仕置きのしめに
据えてる場所がございまして……」

 「そうですか、どちらでしょう?」

 「クリトリスの根元と会陰です」

 「ああ、あれやっぱりそうだったんですね。小さいものでしたけど
ひょっとして思っていたのですが……」

 「あれ、あの子には結構効果があるんです。……微妙な場所ですし
……形ばかりでいいんですが」
 彼女にしては歯切れの悪い物言いだった。

 「わかりました。やってみます。こういう処にも据えられたという
精神的なショックを期待なさっているんですね。わかります。私たち
も例外的に行うことがありますから。もちろん過去にグレートマザー
からの禁止指令はでていませんでしょう?」

 「ええ、それはもちろん」

 「わかりました。では、やってみましょう。お宅でのやり方と同じ
かどうかはわかりませんけど、やってみます」

 上級シスターは約束して部屋を出、母親は「お願いします」と頭を
下げたのだった。

 呆気に取られている私の顔を見て母親は笑う。
 「どうしたのよ、その顔は。大丈夫よ。家では幼い頃からやってる
ことだし彼女はプロなんだから……」

 「でも、そんなところに……」
 私はこう言うだけが精いっぱいだった。

 「あなたは女の身体を知らないから大変な事って思うかもしれない
けど、あそこって触れられることには敏感だけど、熱には意外に鈍感
なんだから。上級シスターも言ったでしょう。大切なことは『こんな
ところにも据えられた』っていう精神的なショックだって。単に痛み
だけのお仕置きならその痛みがひけばすぐにまたやりだすわ。でも、
これって、お仕置きの効果がけっこう長続きするのよ」

 「…………」

 「なあに、その疑い深い目は……」

 「疑ってるわけじゃないけど、大丈夫かなって思ってさ」

 「男性は少女には肉欲がないと思ってるみたいだけど……とんでも
ない。男性と同じくらいあるの。オナニーだってやり始めてしまった
らもう止まらないんだから。そこは男の子と同じ」

 「そうなのか」
 私はあっけらかんと話す母親に調子を合せるしかなかった。


 さて、そうこうするうち隣の部屋ではパティーの最後のお仕置きが
始まろうとしていた。

 お灸のお仕置きは、もともと今はこの星の住人となっている彼らが
流浪の末にたどり着いたこの地で始めた医療行為で医学科学の進んだ
今となっては特に何かに役立っているというわけではないのだが……
今なお子供のお仕置きとしてだけその習慣が残っていた。

 艾の香りが部屋に充満していくなか、パティーの顔が青ざめる。
 もちろん、浣腸だって鞭だって彼女にとって嫌なことに違いないが、
お灸のお仕置きは格別だった。全身に鳥肌が立ち、両足が震え、唇が
青ざめて、心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど胸を打ち始める。

 たまらず、パティーは上級シスターの前に膝まづく。
 「……お、お願いです。お灸だけは許してください」

 もちろん、大人絶対のこの社会で子供がそんなことを言う立場には
ない。そんな事は百も承知しているが、パティーはすでに恐怖で押し
つぶされそうになっていたのである。

 『なるほどね、親の言う通りだわ』
 上級シスターは思った。もちろん他の子だってお灸が好きだなんて
子はいない。しかし、ここまで恐れる子は珍しかった。

 ただ、だからと言って『今回はやめてあげる』とは言えなかった。

 「どうしたの。そんなにお灸が嫌い。熱いから?痕が残るから?」

 「…………」
 これにはパティーが答えない。

 「だめよ、この星の子供たちのお仕置きのしめは、昔からお灸って
知ってるでしょう。あなたのお家では違っていたのかしら?」

 上級シスターがこう言うと……
 「いいえ、」
 ぼそぼそっとした不承不承といった声が返って来る。

 始めから無駄だとわかっていたから、断られたショックはそれほど
強くないようにも見えたが、やはり落胆の様子はこの金魚鉢の中から
でもはっきりわかった。

 「さあ、ここへいらっしゃい」
 上級シスターは、小さな椅子に座り、人目もはばからず泣きはらす
パティーを膝の上に引き寄せた。

 パティーはこの時体操服を着ていたが、その気持ちは素っ裸でいる
時とそれほど変わらなかった。
 今は、『お灸』『お灸』『お灸』『お灸』とそのことばかり。
 それ以外のことは何も考えられなかった。

 涙目を拭いて見れば、サイドテーブルには火のついたお線香、艾も
円錐形に綺麗に成形されたされたものが五つ六つ平皿の上に置かれて
いて、準備は全て整っている。

 『見るんじゃなかった』

 「あら、震えてるじゃない。どうしたの?怖いの?だって、初めて
じゃないんでしょう?これまでも何回だってやってきたんでしょう。
さあ、試練は勇気を持たなきゃ乗り越えられないわ」
 上級シスターはそう言ってブルマーをずり下ろす。

 「試練を乗り越えられなきゃ前には進めないでしょう。……あなた、
ずっとこのまま子供でいるつもり?……大人試験ではどのみちもっと
大きなお灸を据えられるのよ。知ってるでしょう」

 「…………」
 上級シスターに諭されてもパティーの震えは止まらい。

 大人試験の時にもこれが行われ、誰もがその熱さに歯が折れるほど
の我慢を強いられる試練だったのである。

 「さあ、行きますよ」
 上級シスターの声に、助手の二人がすかさずパティーの肩と両足を
押さえる。

 もうこうなってはパティーも、どうすることもできなかった。

 上級シスターの膝の上にうつぶせ。幼い頃ならお尻叩きとなるその
姿勢でブルマーが下ろされ可愛いお尻が顔を出している。

 鳥肌が立ち、震えているお尻のお山に円錐形の艾が乗せられると、
お線香の火が移される。

 「いやあ~~」
 パティーは大声と一緒にその場を跳ねのこうとしたが、頭も両足も
助手二人に厳重に抑え込まれていて果たせない。

 残ったのはパティーの嗚咽だけだった。

 こう書くと、何やら長い間パティーが灼熱地獄にさらされたようだ
が、お灸の所要時間は15秒から20秒程度。あっという間に終わる
話なのだが、幼児体験でショックを受けていたパティーには、これが
トラウマになっていたのである。

 「さあ、今度は表よ」

 上級シスターに促されて今度は仰向け。

 「いやあ~やめてえ~~もうしないから~~」

 艾が灸痕のある恥丘に乗せられ、火がつけられてそれが燃え尽きる
まで、パティーは騒ぎっぱなし。もし、二人の助手が頭と両足を必死
に押さえてくれなかったら、このお仕置きは失敗していたかもしれな
い。そのくらいパティーは必死だったのである。

 ちなみに、銀河系にある地球という星の一部でもこれと同じような
ことが行われているが、これはこの星の先祖が未だ文明開けぬ地球で
たまたま知り合った知能の高いサルに応急処置の治療を行ったものが
きっかけと言われている。

 さて、それはともかく、パティーは許されてシスターの膝を降りる。
 ブルマーを穿くこともいったん許されるが、これで本日のパティー
のお仕置きはすべて終了とはいかなかった。

 彼女にはまだ辛い現実が待っていたのだ。

 「パティー、これで一応あなたへ当初課したお仕置きは終わった事
になるけど、お灸のお仕置きの時に少し反抗したから追加のお仕置き
をするけど……いいわね」

 上級シスターは形の上ではパティーに承諾を求めているが、勿論、
パティーの側にそれを否定する権限はない。仮に否定したところで、
その先に見えるのはさらに厳しいお仕置き。
 『はい』と言う他はなかった。

 「はい、シスター」
 だから、この時のパティーの顔がどんなだったか、それは一口では
とても言えないほどだったのである。

 パティーは再び用意されたテーブルに仰向けになると、やっと身に
つけたブルマーを再び脱がなければならない。
 『これで何度裸になったなったことだろう』
 確かに女しかいない場所での出来事には違いないが恥ずかしくない
と言えばそれも嘘になる。まるで着せ替え人形のようにもてあそばれ
ている自分が情けなくてしかたがなかった。

 そんなことをぼんやり考えていると、再び両足が大きく開かれる。
鞭打ちの時に使ったのと例の細い丸太で両足首を縛られ……そのまま
持ち上げられるのだ。

 もし、何の説明もなくいきなりこんな事をされていたら、誰だって
きっと大声を出していたに違いない。

 でも、この時のパティーはすでに次から次に襲う試練に慣れてきて
いた。
 否、『疲れていた』『諦めていた』という言葉の方が正確かもしれない。

 『もう、なるようにしかならない』
 そんな気持ちの彼女の鼻を再びあの香りがくすぐる。

 「いやあ~だめえ~~」
 諦めていたはずのパティーの脳裏で再び警鐘が鳴る。

 パティーは慌てて起き上がろうとしたが時すでに遅かった。
 起き上がろうとする上半身も細い丸太に固定された両足も、二人の
助手によって1センチたりとも動かないのだ。

 『いやあ~、やめて~、だめ~』
 そればかりではない。あの忌まわしい香りが自分の最も大切な場所
にまとわりついて離れないのだ。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 パティーはやっとの思いで声を出す。
 しかし、それだけしか言えなかった。

 「いやあ~~!!!!!」
 やがて脳天を突き抜けるような熱さが襲ってきて……
 それは、さながら焼け火箸をヴァギナから差し込まれたような衝撃
だったのである。

 もちろん、これは彼女の思い。実際に肉体に起こる衝撃は先に説明
した通りだ。

 『こんなことされた』
 放心状態の彼女は何回も何回も頭の中でつぶやく。

 そして、そのショックからようやく一息ついた頃になって……
 「いいこと、自分で自分を律することのできない子には、何度でも
大事な処を焼いてあげるから、楽しみにしていて頂戴。いいわね」

 上級シスターの厳とした物言い。パティーは……
 「はい」
 と小声で頷くだけだった。


*******************************


 金曜日の翌々日。日曜日の午前、パティーは懲戒所人たちと一緒に
教会のミサに参加し、それが終わると解放された。
 
 たった二泊三日の苦行だったが、さすがに堪えたとみえてさっそく
人目もはばからず母親に飛びつく。
 彼女のお仕置きは私たちが見学した最初のあの日が最もきつくて、
以後は反抗しない限り少しずつ緩やかになっていった。

 ただ、彼女の懲戒所での苦行はお仕置きだけではなかった。
 お仕置きのない昼間も常に拘束衣の下着を身につけいなければなら
ないしトイレで用を足す時も監視役のシスターが傍について見ている。
夜は夜で大事な処にたっぷり促淫剤が塗られるから拘束衣を着せられ
た後は悶絶しながら夜中じゅうベッドをのたうち回ることになる。

 こうやって懲戒所にいる時はお仕置きだけではない。昼夜問わず、
絶対にオナニーをさせない。一歩踏み込んで薬で高まったオナニーを
やりたいという気持ちを押さえる為の訓練まであるのだ。
 これで疲れないはずがない。家庭に帰りたくないなんて思う子は
いなかった。

 パティーばかりではない。そんな懲戒所を出所してきた子供たちが
まず感じるのは家庭の温かさ、帰るべき場所のある安堵感だった。
 だから当初は誰でもが親のいう事を二つ返事できくようになる。

 『あんな処に比べたらここはまだまし』
 というわけだ。

 そんな瞬間を利用して母親はパティーにダメを押した。
 「パティー、あなたは今日からお父様のベッドで一緒に寝なさい」

 母の厳命にパティーは思わずのけぞる。
 『この歳で父親と同じ布団で練るなんて』
 生理的な恐怖感を覚えたのかもしれない。

 ただ、自分の立場を考えると、嫌とは言えない現実もわかっていた
ようで……。
 「はい、お母さま」
 と素直に答えたのである。

 しかし、それは私も同じだった。この星の習慣で普段から娘たちと
一緒には寝てはいるが、それはみんな幼子。
 こんな大きな子は初めてだ。

 無論、間違いなど起きるはずがないとは思っていても、二つ返事で
『いいよ』とも言えなかった。

 そこで、パティーと距離ができた場所で母親に真意を確かめる。

 「どうして、私がパティーとベッドを共にしなければならないんだ」
 小声で尋ねると……

 「あら、いいじゃない。親子なんですもの。問題ないでしょう。…
…それともあなたの方に何か問題があるのかしら」

 「いや、そういうわけじゃあ……」

 「じゃあいいじゃない。懲戒所に行ったと言っても、三日じゃまた
すぐに戻っちゃうわ。あなたが一週間を三日にしたんだから隣に寝て
その分、監視してもらおうと思ったの。だって、いくら気の強いあの
子でも父親と同じベッドのなかじゃできないでしょう」
 母親は軽やかに笑うが……。

 「そういうことか。でも、それならお前の方が適任なんじゃ……」

 「馬鹿ねえ、今のあの子にとって私は自分を地獄へ落とした大魔王
なのよ。そんなベッドで寝られるわけないでしょう。まずは懲戒所で
鍛えてもらった身体を冷まさなきゃいけないけど……それに私は適任
じゃないわ」

 「僕が適任だって言うのかい?僕は男なんだよ」

 「だから何?……だからいいんじゃない。普段あまり抱かれた事の
ないお父さんに抱かれるんだもの、悪い気分じゃないはずよ」

 「また、そんな冗談を……」

 「冗談じゃないわよ。あの子はあなたを好いてるもの。こんな時に
慰めてくれたらそりゃあ嬉しいはずだわ」

 「まさか……年頃の娘が父親を……」

 「どうして?そんなこと言うの?年頃の娘だって父親が好きな子は
たくさんいるのよ。あの子はね、あなたに慰めてほしいのよ」

 「え~~」
 私は懐疑的な顔をして驚く。

 「これは私が同性だからわかるの。女性は直接好き嫌いを言わない
から男性にはわからないかもしれないけど、女性はその仕草の端々で
その人をどう思っているかがわかるものなのよ」

 「う~~ん」
 私はこの時多くの不安を抱えていたが結局はこの母親に従うことに
なったのだった。

 ******************************
 
 懲戒所から帰宅して最初の夜、パティーは私たち夫婦(?)だけが
そこにいる居間に呼ばれる。
 他の子供たちは全員自分の部屋に下がらせていて、ここへは立ち入
らせなかった。

 「懲戒所はどうだった?大変だった?」
 ソファに腰を下ろした母親が自分の前に立つパティーにありきたり
な質問をすると……。

 「はい、お母さん」
 声は小さいが素直に答えた。

 「なら結構よ。もし、平気の平左ですごされてたら私たちの努力が
水の泡になっちゃうもの」
 母親は含み笑いを浮かべ、それを私にも見せて同意を求めてるよう
な仕草だった。

 そして……
 「だったら、受難の跡を見せてもらいましょうか」
 
 パティーに対してだけではないのだが、この母親は私だってギクリ
とするようなことをさらりと言ってのけるのだ。

 「えっ!……」
 パティーの驚きは当然だろう。

 「わからない?裸になりなさいって言ってるの。わかるでしょう?
懲戒所での成果を見たいのよ」

 「ここで?」

 「そうよ。ここにいるのはお父さんとお母さんだけだもの。別に
裸になっても恥ずかしくなんかないでしょう?」

 「えっ!?……あっ……はい」
 彼女は傷ついた自分の体をもうこれ以上誰にも見せたくなかったが、
母親の要求を否定しなかった。というか否定できなかったのである。

 二十歳未満の子供は幼児もハイティーンも同じ扱いというこの星に
あって母親の要求をはねつけるなんて勇気は、パティーでなくても、
誰にも湧いてこないに違いない。
 
 「はい、お母さん」
 パティーにはこの言葉しか残っていなかった。

 若い娘が異性である私を前にしての全裸は、相当に勇気がいること
だろうが、この星に生まれた以上それも仕方がなのだ。

 その勇気を母親は慎重に大胆にめでる。
 二つあるお尻の山の鞭の跡やさらに大きくなったお灸の痕。お臍の
下の様子も細かく観察した後は、ソファに仰向けに寝かせて、両足を
広げさせた。

 「ん……ここも丁寧な仕事がしてあるわね。結構だわ」

 母親は大変満足げだったが、この時ソファに寝ころんだパティーは
すでに大粒の涙を流していた。

 残酷な仕打ちにも思えるがこれがこの星の流儀。長幼の序、身分の
上下は絶対というテーゼをこの星に生まれた女の子たちは頭ではなく
身体に覚えさせられるのだった。

 「服を着ていいわ。……あっ、それから……いいから服を着ながら
聞いてちょうだい。あなた、これから一週間、お父様のベッドで一緒
に寝るの」

 「えっ!」
 その瞬間、パティーの手が止まる。

 「だってそうでしょう。これであなたを一人で寝かせたらまた同じ
事になりそうだもの。暫らくは様子をみてみないと……」

 「…………」
 母親の命令にパティーの口は開かない。

 『ほら、見ろ。ショックで口もきけないじゃないか』
 私は思ったのだが……母親の感覚は違っていたのである。

 『嬉しいのね。それをどうやって打ち消そうかまよっいるのね』
 と、こうだった。

 『無茶苦茶な事言いやがって、どういう精神構造をしているんだ』
 私は母親の理屈を純粋にそう思ったが……ただ……

 「はい、お母さん」
 力のないパティーの最後の返事。いつものように判で押したような
答え方だったのだが、ただその瞬間、私にはパティーの頬がうっすら
笑ったように感じたのだった。

 ****************************

 「お尻はもう痛くないのか?」
 私はぎこちない態度でベッドに腰を下ろす。すでにマークは夢心地。
仕事の半分はすでに終わっていたが問題はこれからだった。

 別に下心があるわけではないが、ハイティーンの娘とベッドインだ
なんて前いた星では考えられない事だったからパティーがというより
私の方がよほど緊張していたのである。

 「大丈夫、最初は大変だったけど、後の四回はそんなでもなかった」

 「お前も大変だなあ」

 「仕方ないよ。約束破っちゃったから」

 「でも、懲戒所では色々やられたんだろう?」

 「そりゃあねぇ」

 「でも、我慢できたんだ」

 「しなきゃしょうがないでしょう。どこにも逃げられないんだもの」
 高い鼻が天井を向く。

 「パティーは……今、幸せかい?」

 この問いにも彼女は即答した。
 「もちろんよ。お母さんも学校の先生方もやさしいもの」

 意外な言葉が返ってきた。
 何かあるたびに素っ裸の尻を叩かれている人たちを優しい人たちと
パティーは表現するのだ。

 ……しかし、
 『そりゃそうだ』
 と私は思った。

 誰もが生まれる場所を選べない。新天地を求めたくともそのコミュ
ニティを抜けられないことだってある。そこが理想の天地でなくとも、
そこで産まれてそこで生きてそこで楽しみを見つけなければならない。
 そうした意味で女の子は男の子より優れているようだった。

 「前のお父様……つまり、司祭様とは一緒に寝たことがあるの?」

 「小学校時代はね、だって週に一回は必ず順番がまわって来るもの。
家ではお父さんとお母さんで週二日くらい添い寝してたかな。ベッド
に入るといろんな処をさすりながら色んなことを話すの」

 「ん?……司祭様も?」

 「そうよ、お仕置きされて痛い処が早く治るようにって……年寄り
だからちょっと臭かったけど、色んなこと知ってて物知りだったし、
お母さんとうまくいかない時は何度も愚痴を聞いてくれたわ。だから
慰めて欲しい時は、本当は私の順番ではない時だってそうっとお父様
のベッドに潜り込んだりしたんだから……」

 『そうか、この星の父親は娘のなぐさめ役だったのか……でも……
今は、違うんだろうなあ。身体もおおきくなったし第二次成長期にも
はいってるしな』

 そんなことを思っていると、いきなり。パティーがきょとんとする
ような事を私につぶやくのだった。

 「お父様、今日は私を抱いてくれるんでしょう」

 その言葉は額面通り受け取ればもの凄くショックな言葉だった。
 しかし、パティーには何の他意もない。19の娘でも純粋に子供と
して扱われるこの星にあって親とのベッドインは特別な事ではない。
身体のありとあらゆる処をさすってもらい。昼間は言えなかった愚痴
をきいてもらうのだ。
 
 「おいで……」
 私はためらいながらもパティーを自分のベッドに誘ったが、この時
怖かったのはパティーではなく私の方だったのである。

 「お邪魔しますね」
 彼女はそう言ってネグリジェを脱ぎ捨てると、この時唯一身につけ
ていたショーツまでも脱ぎ捨ててベッドシーツに包まる。

 「ふう~」
 私は大きく一つ息をつく。
 幼い子も同じように全裸でベッドに入って来るが、ハイティーンと
もなると受け手の側の気持ちはまた格別だった。

 そして、いきなり……
 「私ね、お父様のことが好きだよ。司祭様も決して悪い人じゃない
けど、おじいちゃんだったもん」
 その明るい声にびっくりした。

 「怖くないのかい?」

 「どうして?私だって12の頃までは毎日お父様やお母様に抱かれ
てたんだから、今さら驚くような事じゃないじゃないでしょう?」
 
 パティーはどうしてそんなこときくのかって言わんばかりだったの
である。

 こうして、最初はぎこちない関係だったが、パティーが常に陽気に
振舞ったせいで私の心も次第にほぐれていく。
 
 「そうか、大人にはなりたくないのか」

 「なりたくないってわけじゃないのよ。だって、大人になれないと
いつまでもお仕置きを受けて暮らさなきゃならないでしょう。若い頃
ならまだご愛敬ってところもあるけど、おっぱいやお尻が垂れてきた
いい歳をした女が枷に捕まってみんなに見られてるなんて、さすがに
ぞっとするもの」

 「そんな人いるのかい?」

 「中にはね。さすがにああはなりたくないと思うわ。だから、今が
私にとって一番いい時かもしれないわね。今回は失敗したけど、幼い
頃のようにいつもいつもお仕置きされることもないし、大人のような
責任もまだないから」

 「なるほど」

 「ねえ、お尻さすって。指を谷間の奥に潜らせてもいいのよ」

 「えっ!」

 「ほら、またそうやって驚く。お父様はまだこの星に来て間がない
からわからないかもしれないけど、このベッドだって本当はお母さん
が懲戒所で頑張った私にご褒美としてセッティングしてくれたのよ」

 「…………」
 私は、言葉を失ってしまった。

 「私たちって女だけの世界でしょう。だから、オナニーもレスボス
もそれ自体禁止されているわけじゃないの。だって、それがなくなっ
ちゃったら人生にのお楽しみなんて何もなくなっちゃうもの。ただ、
自制心を失っちゃいけないってだけ。わかる?」

 「ああ、わかるよ。私もここへ来て色々勉強したから……」
 私はパティーが私と言う男を求めているんだとわかった。
 もちろん、この星でも親子でのファックはできない。しかし、それ
以外の事にならこの星はとても鷹揚なのだ。

 「あっ、そう。わかってるならいいの。じゃあサービスしてね」
 あっけらかんと言われて私の顔が赤くなった。

 「今日は頑張った私にお母さんがご褒美をくれたんだから……ね、
わかるでしょう?」
 私の身体にのしかかるパティー。もう主客は完全に転倒していた。

 「やったあ、だから、お父様って好きよ」

 ま、それから先のことについてはあまり細々としたことを書き連ね
たくはないので省略するが、この小悪魔は、私の手や指がどこにどう
入ろうとお構いなしで連れまわす。

 「お尻がまだ痛いの。さすってえ~」
 「お臍の下ってすぐかゆくなるのよ」
 「私のおっぱい小さいけどとっても感じやすいんだから」

 パティーは自分が感じることのできる全ての場所に私の指先を連れ
て行くと、そのたびにはしゃいでいる。その感触を楽しんでいる。
 私は何もする必要がなかった。
 そして、男の精気を全て吸い取った後に、静かに寝息を立てて眠て
しまったのである。

                   <第三話/終了>

α201<第二話>

 私は二十人も子どもがいるウィルソン家の父親となったわけだが、
私と子供たちに血縁関係はなく、妻もそれは同じ。私たちはあくまで
子育てのために便宜上の父親を名乗り、母親となっている。

 二人の身分は、子育てが仕事の公務員という不思議な夫婦なのだが、
『これは困った』と思うような出来事にはあまりめぐり合わなかった。
 子供たちは遺伝子解析をして受精しているせいか、いずれも美少女、
美少年で頭がよく、何より親に従順で品行方正。もちろん子供だから
着任初日に見られたようなこともないわけではないが、私が昔住んで
いた星の子供たちから見れば十分過ぎるほど上等だった。

 だから、もしこれだけが仕事ならここは私にとってパラダイスなの
だが、ま、そうもいかない。
 実は、私には二十人の子供たちの父親としての仕事の他にもう一つ
別の仕事をこなさなければならなかった。

 昨日お世話になった運転手に送られて次の日は朝からそこへ向かう
ことになったのである。

 「いやあ、本当に大丈夫でしょうか?私、こちらの宗教の事なんて
何一つ知らないんですよ」

 「わかってます。でも、それは問題ありません。向こうには正式な
教育を受けた司祭様がいらっしゃいますから、その方の指示で動けば
それでいいんです。あなたの立場は助祭といって、いわばアルバイト
みたいなものですから……」

 運転手氏はそう言うと車のスピードを上げる。

 そうやって着いた処は森の中にたたずむ一件の教会だった。


 緑の森に溶け込むように建つ漆黒の城といった感じで、平屋木造の
造りながら天井は高くその入り口に立つと歴史の重み、威厳や風格に
こちらが押しつぶされそうになった。

 「ここは礼拝堂の入り口。今の時間、司祭様はおおかた執務室です。
裏へまいりましょう」

 運転手氏に導かれ、中庭をよぎって裏へまわろうとすると、そこで
奇妙な置物に遭遇した。

 「……?」
 最初は、『生きていないのか?』『彫刻なのか?』とさえ思ったその
オブジェに私はびっくりする。

 「ホンモノ?」

 そこに飾られていたのは幼い子供たちだった。

 「この子たちは?」

 運転手氏に尋ねると彼女は答えず、この庭の管理人のような女性が
寄ってきて答えた。

 「お仕置きですよ。司祭様からお仕置きを受けてるんです」
 明るい笑顔で答えは明確に返って来る。

 「司祭様ってそんなことまでするんですか?」

 「ええ、この子たちにとって司祭様はお父様にあたりますから……」

 「?」
 私が怪訝な顔をしたので、管理人さんはあらためて説明してくれた。

 「この子たちは、この星の通常の出産ではなく、太古の昔から続く
伝統的な方法で生まれてきたのです」

 『太古から続く伝統的な方法?』
 私の頭は、当初、聞きなれない表現にしばし混乱したが、しばし、
頭の中を整理すると単純な結論が出てくる。

 「ひょっとして……」
 こう言っただけで、管理人さんは微妙な笑顔を返す。相手方は私が
話の中身を理解したことを知ったようだった。

 「この星では優秀な子孫を残すため、本来PCが想定しない形での
子造りはありません。つまり動物のようなSEXで子供を造ることは
原則的にないのです。ですが人間もまた動物ですから間違いが起こる
こともあります。そうした時、コンピューターの指示に従わず造った
子供は違法だから流産させるというのは、今度はバイキングの伝統に
反することになるので、そこでそのような子は『教会の子供』として
教会が養育するようにしているのです」

 「そうか、それでこの子たちにとっては司祭様がお父様というわけ
か……」

 「でも、この仕事は、本来、助祭様の仕事ですから、すぐにあなた
もお父様ですよ」

 「私の?……」
 私は一瞬びっくりしたが拒否はできないと悟るしかなかった。

 管理人の女性は私の悟った顔を見て静かに頷く。

 「この星では大人なら誰でも子どもをお仕置きすることができます。
ですから、日頃、子供たちはとても従順で、お手間は取らせませんよ」

 「大人は誰でも子供を叩くんですか?」

 「もちろん、むやみやたらではないですけど、必要とあれば誰でも
……それでも親や学校の先生、それにこの司祭様が最も多いですかね。
司祭様には色々他の仕事もあって子供の面倒まで手が回らないことも
多くて……今は私が代役を勤めていますが、本来、ここでの子どもの
世話はお仕置きを含めて助祭様の仕事になるんです」

 彼女が説明すると、それまで無機質だった銅像たちからさっそく声
が聞こえてきた。

 「わあ、おじさん、助祭さんなんだ」
 「わあ、今度の助祭さんかっこいい。私好きよ」
 「ねえ、私、もう三十分もここにいるの早く許してえ、もうお家に
帰りたいの」

 ピーちくパーちく黄色い声が飛ぶ中、管理人さんが説明を続ける。
 「ほら、ここに罪状が書いてありますから、ご覧になります?」

 私は日頃子供の悲劇を観察する趣味は持ち合わせていなかったが、
それでも好奇心は人一倍ある方だから近くによって観察してみると、
子供たちは意外に愛想がよかった。

 私に向かって「こんにちわ」「こんにちわ」と挨拶をするし……かと
いって媚びるような笑顔でもない。
 お仕置き中でも大人と話してはいけないとは言われていないようだ。

 彼らはそれぞれに不思議な器具で身体を拘束されていたが、誰一人
痛そうな素振りをしている者はいなかった。
 そして、止まり木に止まるその子の脇には、どうしてこうなったか
が書かれた掲示板が立っている。

 『妹とけんかをして怪我をさせてしまいました』と書かれた掲示板
の子はピロリーと呼ばれる大きな板で首と両手首を挟まれて膝まづい
ているし……『教室の黒板に落書きをしました』と書かれている子は
大人も見上げるような大きな木馬の上で縛られている。

 他にも、両足首を大きな板に挟まれていたり、肋木に大の字に括り
つけられていたりと、そのポーズは色々だ。
 大半の子はこうして何らかの器具で拘束されていたが……中に一人
だけ、野外テーブルの上でおむつ替えのポーズをとらされているロー
ティーンの子がいて目を引く。

 アリスというこの少女は、テーブルの上で赤ちゃんのおむつ替えの
姿勢を取らされており、両足が青空を突き上げるように持ち上がって
おりパンツも一緒に足首の処ではためいている。
 当然のことながら大事な処は丸見えだが、本人はどうやら観念した
様子で泣いてはいなかった。

 ただ彼女の場合、拘束されてはいないから、ここから逃げ出そうと
思えばできるはずだが、どうやらそうもいかないみたいで、屈辱的な
ポーズをひたすら我慢しているといった風に見えた。

 狭いコミュニティーでの出来事、教会からは逃げだす事は簡単でも
その先に逃げ場はないということか。
 それに、もし捕まったらその後どんなお仕置きを受けることになる
か、それは想像するだけでも恐ろしくそれが彼女たちの見えざる足枷
になっていたのである。

 実際、大人たちはお仕置きを授けるにあたり幼い子の場合は、必ず
拘束を掛けるが、十歳を越えるあたりからこうしたことで子供たちの
自制心を育てていく。恥ずかしさの自覚と我慢を覚えさせるのだ。

 女社会では抜け駆けやズルは絶対にダメで、これは男社会よりはる
かに厳しいものがある。もしこれを破ると……お仕置きは男の私でも
正視出来ないほどだった。

 ただ、そうした厳しさの反面、この社会はあちこちで寛容な扱いも
多く、情が絡んだり事情が理解できれば刑はどんどん緩くなっていく。
男社会のような紋切型や杓子定規な対応を女性が望まないことを子供
たちもよくわきまえていて、どうやって権力者(親や教師など)から
厳しい規則を緩めさせるか、そのあたりは名人芸をみせる子も少なく
なかった。

 私はもっと長い時間この彫刻の森を散策していたかったが……

 「……?(何だろう?)?」
 途中から何やら懐かしい音が聞こえ始めてしまい、私の興味はそち
らへと移っていく。

 「……?(ひょっとして鞭打ち?)?」
 私は思い切って付き添いの運転手氏に尋ねてみた。

 「間違っていたらごめんなさい。どこかで鞭の音が聞こえませんか?」

 私の質問に運転手氏は笑顔で即答する。
 「ああ、あれですか。あれは司祭様が信者の一人に愛を授けている
ところですわ」

 「愛?」

 「ええ、ですからお仕置きですよ。ここでのお仕置きは大人であれ
子供であれ虐待行為や刑事罰ではなく、すべて愛として行われるもの
なので、司祭様からその愛を授けていただこうとして、時折、大人が
ここを尋ねて来るんです」

 「?????大人がわざわざお仕置きを受けに来るんですか?」

 「そうですよ?外の世界で育った助祭様にはピンとこないかもしれ
ませんけど、大人たちからたっぷりと愛され十分にお仕置きを受けて
育った子供たちも一定の年齢に達すれば大人になります。そうなると
好きなことが何でもできますから、最初は楽しい時間ばかりなんです
が、自由には必ず責任が伴いますし、結果も求められます。すると、
あれほど渇望していたはずの大人の世界が今度は色あせて見えるよう
になるんです。そうなると辛かっただけのお仕置きがむしろ懐かしく
感じられるようになるんです」

 「お仕置きが懐かしい?」

 「ええ、だって大人の世界では人を責めるのに手加減がありません
が子供時代のお仕置きはすべて手加減されておこなわれます。それに、
終わればたっぷりのハグだって約束されていますから……」

 「なるほど、悲劇はあっても所詮コップの中の嵐。ハッピーエンド
は約束されているわけだ。女の子はそういうのを敏感に悟るんですね」

 「ええ……でも、一旦大人になったら今度は子供へは戻れない」

 「だから大人のまま子供の心に戻れる場所はないかと探すわけです」

 「つまり、それがここ。というわけですね」

 「ここは私たちにとっては聖域。司祭様は私たちが子供のころから
司祭様で、私たちも何年か前までは、この子たちと同じように沢山の
お仕置きを受けて育ちましたから……ここは私たちにとっては第二の
家庭みたいなところなんです」

 「それに、司祭様はとりわけ人間観察に優れたお方ですから婦人が
何を求めて懺悔室の戸を叩いたかよくよくご存じなのです。その観察
をもとに婦人に懲罰と許しを与えて肩の重荷を落として差し上げる。
それがあの甲高い音の正体というわけです」

 「なるほど、それでお仕置きは愛というわけですか。……では……
あなた方もご利用なさるんですか?その……懲罰室を?」

 「さあ……」
 「どうでしょう」
 二人は表情を緩めてお互いが笑顔で向き合う。

 「女性だらけの世界と聞いてましたからもっと気取った処なのかと
思ってましたけど違うんですね」

 「(はははは)女が気取るのは男性の前だけ。女同士見栄は張ります
けど、気取ってみても仕方がありませんでしょう。……着いてるもの
がみんな同じなんですから……」
 運転手氏は失笑したが、気を取り直すように……
 「でも、余りにだらしなくなるのも困りもので、もう一度、男性の
目を利用する事を思いついたというわけです」

 「そういうこと……慣れるまでは文化の違いにどっきりすることも
多いかもしれませんけど、慣れてしまえば、毎日がストリップ劇場で、
男性にはパラダイスかもしれませんよ」

 「(ははははは)」
 私は運転手氏やこの庭の管理人さんの言葉に当惑しはにかみながら、
最後は白い歯を見せて笑ってしまう。
 『男とはどこまでもスケベな生き物』だと今度は自ら苦笑したのだ
った。

 そんな談笑の輪の中に話題の主がやってきた。

 「あら、テレサ。こんにちわ。今日は何か教会に御用なの?」
 運転手氏が教会から出てきたちょっとだけおしゃれをしたテレサを
捕まえる。

 対するテレサ婦人の笑顔は『みんな、白々しい。知ってるくせに』
と言いたげであった。ただ、そうは言わずに……
 「あら、みなさんお揃いね。今日は来週のバザーに出す品物を届け
に来ただけよ」

 彼女はさらりとかわし、私に目をやる。
 「あら、ひょっとしてこの方、新しく赴任された助祭様かしら?」

 「はい、トーマスと申します。当地は初めてですが、美しい景色に
感銘を受けておりました」

 「まあ、ここには初めてこられたんですか?でも、美男子はどこに
いても絵になるわね。今度はこのお方のご指導を受けてみようかしら」

 私は、今の今、話を聞いたばかりなのでギクッと胸に矢が刺さった
が、どうやらこれも、婦人が私たちのよからぬ噂話を察して、先手を
打って放った矢のようだった。

 彼女は、笑顔の他は何も言わず化粧紙に包まれた小銭をそばにいる
管理人に握らせる。

 「ここにいる子供たちはもう許してあげてね。……それと、これ、
子供たちのお小遣い。人数分あるから分けて頂戴」

 彼女の言動は私には不可解だったが、あとでこの庭の管理人さんに
あらためてたずねてみると……
 どうやらこの子供たち、彼女が着飾って教会にやってきたのを見て
からかったのが原因でこうなったようだった。
 この星では親や教師のようにその子と直接的なかかわりがなくても
正当な理由があれば子供をお仕置きできるのだ。思うにご自身の体罰
を近くで子供たちに聞かせたくないというのがその理由のようだった。

 子供たちが次々と解放されていくなか、ただ、アリスに対してだけ
は……
 「あなたはもうしばらくそうしてなさい。懺悔室を覗くなんて許さ
れませんよ。十を越えた子が他人の心を慮ることもできないなくて、
立派なレディーにはなれなくてよ。」

 婦人はアリスに対してだけは厳しい。
 そればかりではなく、こうも言ったのだった。

 「さあ、みなさん。女の子というのはお股の大事な場所が自分では
なかなか見にくいですから、こうした機会に眺めてみましょう」
 婦人の発案で、幼い子から順に展示品の観察会となった。

 それが一回りすると、拘束されていた子供たちはポケットに小銭を
忍ばせてからその場を立ち去る。

 口止め料というほどの額ではないが、何があったか知ってしまった
周囲の人たちに、自分が少しでもよく見られたいと思ったのかもしれ
ない。

 もちろんこれ以前、司祭様にもそれなりのチップ(献金)は渡して
いるはずで、子供のお仕置きは無料だが大人がお仕置きをしてもらう
時は、少額とはいえけっこう小銭が必要だったのである。

 最後にアリスが許され、小さな金貨を一枚受け取る。これは他の子
の十倍以上の値打ちだが、もちろん嬉しいという顔はしなかった。

 アリスが駆け出し、テレサ婦人が去ってから私たちは教会の中へと
入っていく。

 脇玄関を入るとそこは礼拝堂と執務室をつなぐ幅広い廊下になって
いた。内部は薄暗く、ステンドガラスから差し込む自然光が柔らかく
冷ややかな空気ともマッチして神々しく感じられる異空間だ。

 目が慣れてくると、聖母子や神に祈る少年油彩が飾られているのが
分るが、家具や調度品などはなく長い廊下の先からわずかに人の気配
が感じられるだけだった。

 私たちは人の気配に引き寄せられるように遠くの光を目指して進む。

 するとその求める光がやがて大きくなり、私たちを引き寄せる声が
実は子供で、しかも結構な数いることもわかってくる。

 外光に満たされた輝く場所にまでやってきた時、私は思わず溜息を
つく。景色が開けたその場所は広い高台。しかも数多くの大砲が海に
向かって並んでいる。圧巻だった。
 「ここって広いんですね」

 教会というからおそらくはこの程度と頭の中で想像し高をくくって
いた私にそれはびっくりするほどの規模だったのである。

 「教会は町のシンボル。いざという時はいつも街中の人たちここに
避難し立てこもって戦います。私たちの祖先は船にはいくらでもお金
を掛けますが、お城にはあまり興味がなく立派なものは築かなかった
みたいです」

 「なるほど、この教会はお城の代わりでもあるんだ。……ここにも
子供たちがいるんですね。まるで学校だ」

 「放課後集まって来るんです。この教会の中は習い事教室みたいに
なっていて、それぞれ遺伝子で振り分けられた子供たちが学者志望は
勉強を芸術家志望の子は絵筆を……運動選手は中庭でボールを蹴って
いますわ」

 実は拘束されていた子供たちもここから抜け出し、面白いショーを
こっそり見学に行ったみたいなのだ。
 そのリーダーがアリスというわけだ。

 さて、一行はさらに奥へと進むと、そこに司祭様の執務室があった。
やっと目的地にご到着というわけだ。

 「おう、待っていたよ。コリンズ少佐」

 顎髭の白い老人は私が最近呼ばれたことのない名前で呼ぶ。

 「私のことをよくご存じですね。ダフネ大司教」

 「ここはアンドロメダでは片田舎。しかも女が支配する星だがね、
侮ってはいけないよ。のどかな田舎の風景も裏を返せば科学技術の塊。
科学力のみならず政治的にもアンドロメダ連邦政府の中枢に数多くの
人材を送り込んでいる。情報サーチ能力だって、当然、一流だ」

 「なるほど」

 「君はただ単にこの星の住民と先祖が同じ血筋を持っているという
ことで採用されたと思っているかもしれないが、君の氏素性。学歴、
職歴、病歴、性格などありとあらゆるデータを事前に取り寄せた結果
適任と判断されてここにやってきたのだ」

 「もともとここは海賊の秘密基地だったと聞いたことがあります。
してみると、ずいぶん様変わりしたわけですか?」

 「様変わり?そうではないよ。海賊なんて聞くと荒くれ者の集団と
感じる人が多いかもしれないが、当時から彼らは決してバカではない。
航海術を始め近隣では抜きんでた科学力と統治能力を持っていていた。
その伝統が女社会となった今も受け継がれているだけさ」

 「……女はこうしたことを自慢げに語らないからわかりにくい?」

 「そういうことだ。君はなかなか知恵者だな」

 「いえ、そういうわけでは……」

 「謙遜することはない。だからこそグランドマザーも君を助祭にと
推挙したんだろう」

 「グランドマザーって何ですか?」

 「何だ?そんなことも知らないのか?契約書にもそのことは触れて
あったはずだが……読まなかったのか?」

 「は、……はい。……実は、その時は自暴自棄になっていて、もう
どうでもいいという思いでサインしてしまったみたいなんで……」
 私は苦笑いと共に頭をかく。

 「……そうか……なら、教えてやる。グランドマザーというのは、
この星を統括するコンピューターの愛称だ。君はこの星に採用される
時、ある種の手術を受けたはずだ」

 「確か……目の奥に何か埋め込まれたような……」

 「あれはグランドマザーと交信するための基盤でな、この星に住む
者なら全員が身につけている。これにより全員の健康状態、精神状態
も逐一グランドマザーに蓄えられ続ける。だから私と話している今も
その内容はマザーには筒抜けなんだ」

 「えっ、ということは体制批判もできない。まずいんじゃないんで
すか?……さっきの話」

 「さっきの話って?……何を言っても大丈夫だよ。自由闊達な議論
は誰も邪魔しないから。それは大丈夫だ。具体的に体制転覆でも計画
しない限り、マザーも雑談や冗談までは本気にしない……そんなこと
言ってたら、私たち以上におしゃべりな女たちが暮らせんよ」
 司祭は一笑に付した。

 「それにしても怖い社会ですね。PCによる完全なる管理社会だ」

 「しかし、そのお陰で迷宮入りする事件は皆無だし……事故調査も
スムーズ。病気も超が付くほどの早期発見で平均寿命もアンドロメダ
では一二を争う長寿星だ。……どうだ、そのことの方がよほど凄い事
だろう?」
 司祭は複雑な笑みを浮かべる。

 「でも、プライバシーの心配が……」

 「それも事件捜査の対象にならない限りPCの中に封印されるから
外に出ることはないんだ」

 「ふう、」
 私は思わず溜息をついた。すると、それを見て感じることがあった
のか司祭が話を続ける。

 「但し、子供にはこれがないけどね」

 「えっ!どうして?」

 「簡単さ。事件捜査と同じ。親には子供の動静を知っておく義務が
あるからね、私的なこと隠しておきたいことでもPCが全部データを
流してくれるんだ。子供だってプライバシーは欲しいだろうけど……
この星では大人になるまで辛抱するしかないね。……でも、おかげで
みんないい子ばかり。違うかね?」

 「えっ……ええ……」

 「ここはぶったり叩いたり辱めたりとお仕置きも種類が多いが筋の
通らないことで子供が罰を受けることがないから、大人になってそれ
がために問題を起こすことは少ないんだ。もし、それでやり過ぎるよ
うならPCから私たちに情報がもたらされ、親の解任ってことだって
ある」

 「親の解任?そんなことあるんですか?」

 「司祭、教師、PCの三者で訴えを出せば、親は解任され次の親に
引き渡されることになる。親と言えど人間。誰とでもうまくいくはず
がないし間違いは起こりうるからそれを事前にチェックするためにも
PCの持つ個人情報が必要なんだよ。何事もプライバシーで囲っては
かえって人権が損なわれる。それは子育てにおいても同じという訳さ」

 「……なるほど……でもそんな生活をこの星の人たちはみんな承知
しているんですか?」

 「海賊というのは皆一族一家の意識でやってきた。船に同乗する者
は、血の繋がりがあろうがなかろうが、今日初めて乗船する者だって
みんな家族なんだ。そうでなければ海の上では生きられない。だから
もともと個人の隠し事(プライバシー)より社会の絆の方が優先なん
だよ」

 「まるで、軍隊だ」

 「軍隊ねえ……いや、そうじゃないな。それ以上だ。軍隊は、所詮
他人の集団だが、この星に住まう人たちに他人は存在しない。だから、
正規軍さえ何度も撃破してきた」

 「そんなに凄い装備を持ってたんですか!」

 「そうじゃない。装備品は常に正規軍に劣っているが、常に命令に
よってでなければ何もできない軍人と違って、砲手がやられればその
座に小学生座ることだってあるのが海賊の戦いなんだ」

 「小学生が大砲を打つんですか?…というか、戦闘そのものに…」

 「そう、参加してるんだ。しかも、命令によって動いているんじゃ
ない。見よう見まねで銃の打ち方を覚え、戦いの仕方も覚えていく。
最初は当然邪魔だ引っ込んでろと怒鳴られ突き倒されながらも祖国の
ため船のため家族のために戦い続けていると……やがて、彼は歴戦の
強者として迎えられるようになる。それが、もともとこの星の男たち
の姿だったのだ」

 「誰もが戦いを熟知して無駄のない動きで戦うということですか」

 「さすがは、もと軍人。分ってるじゃないか。だから、装備が少々
貧弱でも強いのさ。そんな猛者どもだ。女の扱いだって丁寧なわけが
ないだろう」

 「……というと……」

 「身まで語らせなさんな。船が帰ってくれば、その夜はあちこちで
乱交パーティー。もともと一族一家みな同じ仲間という彼らの頭の中
に他人の奥さんという概念はなく、大人と子供という区別すらない。
そこで船が着くとハイティーンの少女は地下牢へ退避というがこの星
の日常だったようだ」

 「凄いなあ、今では信じられない。そんな生活よく耐えられますね」

 「仕方がないだろう。ここに女として生まれ、それでも生きていか
なければならないのなら……そして、それを生き抜くのが女なんだ。
生きていくために何でもやる。やれるのが女なんだ。そして、それを
象徴するのがつまみの存在さ」

 「つまみ?」

 「酒のつまみ。古酒は鼻につく。新酒は飲めない。となるとあとは
つまみをでもとって楽しむかということになるだろう」

 「?」

 「なんだ、これだけ説明して分らんのか。お前も意外に鈍い男だな。
……子供だよ。ハイティーンがだめならローティーン」

 「……えっ!子供を……そんな非道なことを」

 「犯しはしない。たとえ酔っていても彼らだってそこまで非道じゃ
ない。だいいち、まだ入らないよ」

 「……」

 「ただな、男どもは何かしらの座興は求めているから、幼い子たち
のストリップでお茶を濁したというわけさ」

 「でも、そんなこと子供が嫌がるでしょう」

 「当然そうだが。親の命令なら仕方がないだろう。嫌ならお仕置き
と脅せば女の子は大半従う。お仕置きはそれほどきついことだからね。
この方がまだましかということになる」

 「それでですかね、私、この星に来て女の子が下をすっぽんぽんに
して晒されているのを何度か見ましたよ」

 「ん、まさにそれだよ。今でこそ、その必要がなくなったが、娘に
お仕置きを利用してストリップに慣れかそうというわけだ。だから、
あれだって元々は親心なんだよ」

 「親心って……」
 私はその先の言葉が出ない。

 「生きていくためには何でもしなきゃいけない。母親はそう言って
娘を躾ける。女の知恵さ。今はたしかに必要のないことかもしれない
が、女の生きざま、厳しさを伝えるものとして、今でもお仕置きの中
に残っているんだ」

 「凄いですね。今は女性の天下なんだし、すたれていてもいいはず
なのに……それを守り続けてるなんて」

 「男と女、本来ならどちらが欠けてもうまくいかないものだが……
もし欠けてしまったら……片方は神になる。少女はその供物なんだ」

 「????????」

 「(はははは)分らんのならそれはよい。忘れてくれ。若い君には
まだ早いな。しかし、どうだ、この星に関する君の疑問は解けたかね」

 「ええ、だいぶすっきりはしました。しましまたけど……」

 「そうかそれはよかった。実はマザーに頼まれてね」

 「マザー?……PCですか?」

 「そうだ、彼女たちはこの星に来て君が疑問に感じているであろう
ことを僕に伝えて……それを私の口から解き明かすよう依頼してきた
んだ」

 「彼女……たち……ですか」

 「そうか、それも知らなかったか。実はマザーというのは独立した
七台のPCの複合体のことなんだ。一台では故障暴走を止められない
からね。そこで出てきた多数決の意見が私たちに伝えられるという訳
さ」

 「…………」

 「開いた口が塞がらないか。……無理もない。来たばかりだもんな。
……でも、何事も慣れだよ。……ここに長く住んでいる私が言うんだ
から間違いない。女たちは私たち男性に優しいからね、不幸という事
でもないと思うよ」
 この星の男たちの最後の直系。海賊時代最後の生き残りは、静かに
語った。


 ****************************

 さて、語りたいことは山とあるが、これからはこの星での日常生活
を追いながら話していきたいと思う。

 まず、朝。
 平日の起床はおおむね七時。まずはバスルームに行ってシャワーと
洗顔。髭も剃るのだが、ここでまず最初の緊張が走る。

 もちろんそんなもの自分で髭を剃るのなら問題ないのだが、この星
の習慣で、髭剃りはその家の後継ぎの仕事とされていて、我が家では
それはマーク君になるのだ。

 御年七歳の少年がベッドに寝そべる私の顔に剃刀を近づけるのだ。
 これに恐怖を感じない人は稀だと思う。
 もちろん、髭剃りにあたっては女性たちが傍にひかえ、懇切丁寧に
指導してくれているが、喉元に大きな剃刀の刃が光ると、正直最初は
生きた心地がしなかった。

 ただ、子どもは呑み込みが早く、三カ月も経つとそれなりの仕事が
できるようになって、その意味でも驚いた記憶がある。

 こうしたことをするのは代替わりの時期を後継ぎ自らに判断させる
という海賊の習慣で、そのカミソリで寝首を欠いていつでも代替わり
してよいぞという意味である。
 もちろん、実際にそうやって親殺しをした子供はいないようだが、
バイキングの常に命を懸けて戦う勇敢さの表れでもあるのだ。

 朝の危険が去ると、朝食の時間。
 食堂には子供たちが全員集まり、一人ずつ朝のご挨拶。
 ここでは子供たちを一人ずつ膝に乗せ頬ずりをして親愛の情を示す。
 
 何しろ子供の数が多いから一人あたりの膝への滞在時間は短いが、
それでも一人一分ぐらいは私の愛撫を受け続けなければならない。
 幼い子はいざ知らず、ハイティーンの子がこれを大歓迎するはずも
なく思いっきり嫌な顔をする子もいる。

 きっと、思いは私の髭剃りと同じなのだろう。

 ただ、ここでもあまり露骨な態度を取ると……
 「パティー、スカートを上げなさい」
 「ピシっ」
 「パンツも下げて……」
 「ピシっ」
 ってことになり、母親の鞭で今一度目覚めることになるのだった。

 それだけではない。
 私のテーブルの傍らに置いたパソコンが警告を発した時はそれにも
対処しなければならない。
 前にも説明したが子供たちにはプライバシーがない。たとえ真夜中
でも彼らの情報は逐一グランドマザーの知るところとなるのだ。

 その情報が、朝には私のノートPCに届いていて、私はその処理も
しなければならなかったのである。
 ハイティーンの子が私の膝を嫌がるのはそのこともあってだった。

 「グランドマザーからの報告では……昨夜もまた楽しんでたみたい
だね」

 こう言うと、パティーは私の膝の上で身体を硬くする。
 何を言っているのか分っているみたいだった。

 昨日の夕飯からこの時間までは子供たちの自由時間。色んなことを
する。宿題をやって、ゲームをやって、ピアノを弾いて、もちろん、
おしゃべりだって大事な仕事だ。
 ただ、やってはいけないこともある。

 姉妹喧嘩、無断外出、布団をかぶっての長電話なんてのも親からは
歓迎されないことだが、親が一番嫌がるのはレスボスの恋と自らの体
を慰めること。つまりオナニーだ。

 この二つ、親も決して一度もやってはならないとは言っていないが、
毎日となると話は別で、悪癖が治らないようなら拘束衣としてオムツ
が当てられるようになる。
 実はパティー、すでにこの状態だった。

 にも関わらず、やはり一度覚えた蜜の味が忘れられないとみえて、
ベッドの中でオムツを切り離すと、十分に楽しんだあとに、どこから
調達したのか新しいオムツをはめ直していた。

 全てはベッド毛布の中の出来事であり、うまくやりおおせたつもり
でいたのだが、グランドマザーが知りうる情報は映像だけではない。
血圧、脈拍、呼吸、心拍数、何より不可思議に動く毛布が決め手で、
グランドマザーは彼女がよからぬことをやっていると結論付けたのだ。

 「これは何をしてるのかね?」
 私が尋ねると、パティーの顔色はすでに生気を失っていた。

 「それは……ベッドの中で着替えてて……」
 苦しい言い訳。しかし、そんな小娘のたわごとはこの社会では通じ
なかったのである。

 おもむろに彼女もパソコンの画面を覗き込む。
 それでも、グランドマザー、父親としての私、そして母親も判断は
変わらなかった。

 「まったく、あなたの自制心がないのにも呆れるわ。これはもう、
修道院で鍛えてもらうしかないわね」

 その言葉が出た瞬間だった。パティーは私の膝をはねのくと母親の
前に膝まづき、
 「修道院は嫌!もうしないから、もう一年だってしないから」
 必死に懇願したのである。

 しかし……
 「駄目よ。そんなことで許される時期はとうに過ぎてるわ」
 にべもない。

 「フルコースで一週間は向こうで鍛えてもらわないと治らないわね」

 「そんなあ、そんなことしたら死んじゃいます」

 「何。オーバーな事言ってるの。フルコースと言っても、お浣腸に
お鞭に、お灸、……あっ、そうだ。今度はお宮の中もやってもらいま
しょうね」

 お宮は陰部のことで、会陰やクリトリスの脇にお灸をすえること。
 実際の熱さはそれほどでもないのだが、女性、とりわけ少女にして
みると、こんなところにまでやられたという精神的なショックの方が
大きい場所だった。

 そんなことが朝昼晩三回行われるのだ。いくら普段からお仕置きが
あると言ってもそこは家庭内。他人の鞭とは違うのだ。
 その瞬間気絶してしまった彼女が後に『家の天井が落ちた気がした』
と、語ったのはあながち嘘ではないと思う。

 この結末は、結局、修道院に金〳土〳日の三日間だけ泊まり込むと
言うことで決着したが、母親は……
 「娘の気絶にいちいち付き合っていたら躾も教育もできませんよ」
 と、おかんむりだった。

 女は少女を含めよく気絶するけど、『背中に人が立っていない時には
倒れない』とも言われ、半ば演技だと言うのだ。
 しかし、たとえ演技であるにせよ、私は娘にあまり激しい罰は与え
たくなかった。

 さて、朝食が終わると子供たちは学校へと出かけ私は職場へ向かう。
 私の職場は、例の白髭の司祭さんが管理する教会。
 そこでの私の仕事は、一口で言えば雑用掛かり。墓地の草むしりや
煉瓦塀の修理、噴水池の掃除に花壇の世話、礼拝堂に設置された机や
椅子の修理なんてものまである。

 その他にもパイプオルガンを習い、日曜のミサで司祭様が説教する
原稿の下書きなんてのも……。

 こうして、仕事には事欠かないが、目が回るほど忙しいというほど
でもない。空いた時間は子供たちともよく遊んでいたから仕事の内容
に不満は何もなかったのである。

 ただ、金曜日になると、私の心はそわそわし始めた。
 実は、この日からパティーが女子修道院に付属する懲戒所にやって
来るからだ。
 そこは教会からも目と鼻の先。たまに少女の悲鳴が風に流れて聞こ
えたりもするくらいだ。

 母親の主張を曲げさせて一週間を三日間に短縮したとはいえ、私も
彼女を地獄の門の中へ送りやった一人に違いがないわけでその気持ち
は正直複雑だった。

 そんな時、一人のシスターが教会に訪ねてくる。曰く……
 「もしよろしかったらパティーさんのお仕置きを見学なさいません
か?」
 
 びっくりした私が……
 「そんなことできるんですか?」
 と尋ねると……

 「ええ、お仕置きの様子は後日ご自宅にビデオをお送りしますが、
親御さんとしては何かとご心配でしょうし普段一緒に生活していない
私たちでは分らない部分もありますから、一度はご一緒にその様子を
見ていただけると私たちも助かるんです」

 「なるほど……でも、パティーがそれをどう思うか……」

 「大丈夫ですわ。お仕置きを見学すると言っても同じ部屋に入るの
ではなく、防音装置のついた隣の部屋からマジックミラー越しにその
様子を見るだけですから悟られる心配はありませんわ」

 「妻にも話をしたんですか?」

 「ええ、金曜日最初に行われるお仕置きには伺うそうです」

 「分りました。では私も司祭様に許可をいただいてきます」

 こうして、話はとんとん拍子に進み、私は仕事を早めに切り上げて
教会近くの懲戒所へと向かうことになった。

 懲戒所というのは、親が手が付けられないと判断した子供を一時的
に預かってもらう施設のことで、女子修道院に隣接して建っている。
修道院の敷地内ではないが管理もすべてそこのシスターたちが担って
いた。

 当然、生活や規律は厳しく、誰もがお仕置きのノルマを抱えて入所
しているし、世俗の情報は一切持ち込まれないから、窮屈で屈辱的で
破廉恥な場所。子供たちの間では一般的に『刑務所』と呼ばれていた
場所だったのである。

 私たち夫婦(?)はその裏口で落ち合い、出てきたシスターの案内
で秘密の通路を抜け、俗に金魚鉢と呼ばれる小部屋へと通された。

 すると隣の部屋では全ての準備が整い、ジャストタイムでパティー
にここでの最初のお仕置きが開始されるところだった。

 「パティー、あなたはご両親とのお約束を破っていけない一人遊び
をしたとあるけど……本当ですか?」

 上級のシスターが、床に膝まづいて両手を胸の前で組むパティーに
尋ねると、パティーは静かに頷いた。
 今さらここで異を唱えたところでどうにもならないことはわかって
いるし、ヘタに抗弁して相手の機嫌をそこなえば今度はどんな災難が
降りかかるかしれない。パティーは女の子として常識的な判断をする。

 「そう、ならばここでお仕置きを受けても仕方がないわね。それは
大丈夫かしら?」

 「はい大丈夫です」
 すでに覚悟はできてるという顔だった。

 「よろしい、では、あなたへはどんなお仕置きが必要か、私の希望
を述べてみるわね。……そうねえ……あなたもこれが最初の出来事と
いうわけではないから百行清書というのでは効果がないでしょうし、
やはり身体に堪えるものがないと効果がないと思うの」

 「はい」

 「どうかしら、ここで朝昼晩のフルコースというのは……」

 「…………」
 こう言われてさすがにパティーも唇を噛む。

 「ちょっと身体には堪えるかもしれないけど、それでも、司祭様の
ミサの席でチビちゃんたちと一緒にお尻を出すことを思えば……どう、
恥ずかしくないんじゃなくて……」

 「……」
 その瞬間、パティーの顔が青くなる。

 日曜のミサでは幼い子たちがこの一週間で起こした悪さを咎められ、
祭壇で司祭様からお仕置きを受けるという儀式があるのだが、男女を
問わず近隣の大人たち全員が見ている前でのお尻叩きは恥ずかしさの
極み。
 痛み悲鳴を上げ、耐えかねて動いた拍子にその中までも見られて、
幼い時代にしても死ぬほど恥ずかしいかった。
 それを十六にまでなってできるはずがないではないか。

 「やっぱり、お仕置きはここで行いましょう。それでいいですね」

 「はい、けっこうです」
 パティーはシスターの言葉に肩で一つ息をつく。浣腸されて排泄を
見られたり、革紐鞭でぶたれて悲鳴をあげたり、灼熱地獄のお灸に我
を忘れてのたうち回ったりと、そりゃあ若い娘にとって美しくはない
出来事ばかりだけど、街の人たち全員に自分の秘密を見せびらかすの
を思えばここはまだ密室、周囲で見ている人たちも普段は接触のない
シスターだけというなら、パティーに限らず若い娘がどちらを選ぶか
は火を見るより明らかだったのである。

 「よろしい、浣腸は一日一回だけど、他のお仕置きは朝昼晩と三回
行います。そのあたり、前にも一度経験してるみたいだから……よく
ご存じよね」
 シスターの意味深な笑いにパティーの背筋は凍るが、ここまでくれ
ばもうどうすることもできなかった。

 時は金曜日の夕方、お仕置き部屋には少し広めのテーブルが置かれ
パティーは白い綿生地の体操服姿。下は紺地の提灯ブルマーで、白い
短ソックスをはいている。
 これがいわばこの懲戒所の制服のようなものでパティーも例外では
なかった。

 「仰向けになって寝なさい」
 パティーがシスターに命じられるまま机の上に仰向けになって寝そ
べると、後は二人の助手の仕事。本人には何の挨拶もなくブルマーと
ショーツが脱ぎ取られ両足が高々と持ち上げられる。
 女同士の出来事。そこに遠慮というものはないようだった。

 しかもその奥がさらによく見えるようにと一人の助手がさらに彼女
の谷間を押し開く。

 「…………」
 マジックミラー越しの私たちは、いきなり現れた娘の女としての姿
に思わず息をのむ。肛門、ヴァギナ、尿道口、クリトリスまで、その
すべて手の届きそうな処にあったからだ。

 もちろん私は彼女の親だから数々お尻も叩いたし、お風呂にだって
一緒にはいった。娘の割れ目だって知っているが、こうもあけすけな
姿を見たのは初めてだった。

 「そうねえ……色素沈着はないようだし襞も綺麗な形をしている。
やはり、このくらいの歳の子はだいたいクリトリスで間に合っちゃう
のよね。……ほら、ここに小さな炎症がある。このあたりは、だいぶ
使い込んでるみたいね」
 助手のシスターが開いた谷間を上級シスターがさらに検めていく。

 そりゃあ恥ずかしかっただろうが、こちらからはその表情は分らな
かった。ただただ女の姿がそこに見えただけ。

 そんな少女の穴の一つにガラス製のピストン浣腸器の尖った先が。
 「あっ、いや」
 パティーは思わずお尻の穴をすぼめ身体を左右に捩ったが……

 「ほら、だめよ。反抗しないの。お仕置きへの反抗が厳しいのは
お家だけじゃないの。ここはもっと厳しいのよ」

 上級シスターに諭されてパティーは大人しくなる。この星の少女達
は幼い頃からお仕置き慣れしているというか聞き分けがよい。たまに
抵抗することはあるものの大人が諭せば簡単にやめてしまうケースが
ほとんどだ。
 『抵抗=厳しいお仕置き』という図式は知識というよりその身体が
しっかりと覚えていた。

 「さあ、いきますよ。身体の力を抜いて……」

 上級シスターは大きなこげ茶色の薬瓶からガラス製の浣腸器で一気
にグリセリン液を吸い上げると、きっちり百CCの箇所で止めてすぐ
さまその尖った先を指で押さえる。
 ガラス器をそのまま薬瓶から引き上げると、液が逆流して床に零れ
落ちるからだ。

 それを見て助手のシスターが間髪入れず、パティーのお尻をさらに
押し開いてそこはこれ以上には開かないほどに全開。

 「あああああ」
 パティーからあられもない声が漏れて、ガラス器の先端がまだ幼い
という形容さえできる肛門へと突き刺さる。

 その間はあっと言う間の出来事。
 あとはじたばたしても無駄。静かにゆっくりとグリセリンが身体の
中に入っていくのをパティーは受け止めなければならなかった。

 「どう、ガラスの触感は?……最初はゴム栓にカテーテルを繋いで
とも思ったけど、ちょっぴり抵抗したからお仕置きもちょっぴり追加
したの。ガラスがお尻の穴に当たる感触って心地のいいものじゃない
けど、そのくらいは我慢しなくちゃね」

 「……」
 上級シスターの問いかけにパティーは静かに頷く。

 「あなたもいい歳なんだからわかってると思うけど、子供は大人に
お仕置きを言われたら素直に従わなければならないわ。たとえそれが
気に入らないことでも、大人たちの愛を素直に受け入れなければ損を
するのはあなたなのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは蚊の鳴くような声で答えた。
 その顔にはすでに涙と脂汗が浮き出ている。
 でも、パティーにとってはこれからがまさに正念場だった。

 「あっ、だめえ」
 二人の助手に身体を起こしてもらった瞬間に最初の津波がやってきた。
 グリセリンは効果が現れるのに一分とかからない。

 もちろん上級シスターは何がだめなのかは百も承知しているが……
 「何がだめなの?」
 冷静に尋ねる。

 「もう、漏れそうなんです。早くおトイレに行かせてください」
 パティーは恥も外聞もなく頼んだが……

 「大丈夫よ、ゴムの栓をしっかりしたから、たとえあなたが出そう
としてもあなたの力じゃもうでてこないの。ほら、見てごらんなさい」
 上級シスターははあはあと肩で息をするパティーを机の上から抱き
おろすと大きな姿見の前で彼女を抱くように立たせたのである。

 「…………」
 そこには拳大ほどの黒いゴムがはっきりと見える。実際のサイズは
肛門の中に入っている部分も含めるとかなり大きなものだが、そんな
物をすでにお尻の穴に入れられていたなんて……パティーはその瞬間
までまったく気づいていなかった。

 「外してください。おトイレに行かないとホントに出ちゃいます」
 パティーは上級シスターに哀願したが、返事は冷たかった。

 「駄目よ、パティー。あなたのお腹には、今、邪な悪魔のエキスが
たくさん溜まっているの。それを綺麗に出すためには最低でも五分は
我慢しないと邪悪なエキスは出てこないわ」

 こう言うと、パティーもまた癇に障ったのだろう。それまで指の腹
で握っていた上級シスターの腕に爪を立てて強く握ると……
 「嘘よ!」
 と一声言い放った。

 しかし、これは……
 「ピシっ……ピシっ」

 上級シスターの往復ビンタとなって返ってくる。

 「小娘が生意気いうんじゃないよ」
 それまでとは違ってどすの効いた低い声が浴びせられる。

 パティーはそのひと声だけで、パティーは再び静かになってしまう。
 もとより爆弾を抱えている身のパティー。争えるはずがなかった。

 そんなパティーに上級シスターはさらに難題を突き付ける。
 「とても元気があり余ってそうだから時間は十分に伸ばしましょう」

 上級シスターは勝ち誇ったように罰の追加を決めると、今度は一転
してパティーやさしく膝の上に抱き上げる。

 「駄目よ、子供は子供らしく従順にしていなければ大人に可愛がら
れない。子供が大人に可愛がられないで得になることは何もないのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは上級シスターの胸の中でこうささやくのが精いっぱい。
 とにかくお腹の中は大嵐。いくらゴム栓をしているとはいえ、いつ
大爆発を起こすか、そればかりが心配だったのである。

 約束の十分間が過ぎ、パティーもやっと許される時がやってきたが、
個室のトイレは与えてもらえなかった。目の前にある大きな鏡の下に
ベッドパン置かれ、そこに上級シスターが両方の太ももを支える形で
パティーを空中に吊るす。
 なんのことはない赤ちゃんが用足しするのと同じ姿勢だ。

 「あああああああ」
 助手のシスターが黒いゴム栓を抜くと、あれこれ考える暇などない。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 自然に出てしまった悲鳴。大粒の涙が一筋二筋頬を伝い、当然、滝
のように流れ落ちる水様便のうんちも待ったなしにベッドパンを叩き
つけていく。

 せめてもの救いはこのみじめな姿を家族に見られていないこと。
 否、本当は見られていると知らされていないことだった。

 「ヒック……ヒック……ヒック……」
 大き目のベッドパンが半分ほど埋まって、パティーはようやく落ち
着いきを取り戻したようだったが、嗚咽は続き大きな赤ん坊はしばし
恥ずかしい部分を両親の目の前で晒して泣き続けている。

 屈辱は時計の秒針が文字盤を一周するほどには長くなかったはずだ
がパティーにしてみたら『永遠』と感じられるほど心に突き刺さった
に違いなかった。

 人形となったパティーは二人の助手に支えられ、いったんは部屋を
出てシャワー室へと向かう。
 すると、その間を利用して、上級シスターが私たち夫婦のいる隠し
部屋へと入って来る。

 「どうですか、まだお浣腸だけが終わったところですけど、もし、
ご不快なら向こうの部屋の机の位置などは変えることができますけど」

 上級シスターは穏やかに語りかける。
 私は、その時『そうしてください。これでは娘に見つめられている
みたいで私たちも辛いので……』と言いたかったのだが、母親の方が
私より先にシスターの提案を否定する。

 「結構です。娘のこうした姿を見るのも私たちの仕事ですから……
今のところ何も問題はありませんわ」

 機先を制した母親の言葉に私は自分の思いを飲み込むしかなかった。

 「前にも申しましたが、同じお仕置きを与えても、人によってその
衝撃度は違います。普段お子さんと接しているご両親が『これは傷を
深めて危険だ』と判断されたら、遠慮なくそこの赤いボタンを押して
ください。すぐに対処を変えますので……」

 「承知しました。ご配慮感謝します」
 母親は答える。
 私はこの時になって初めて、修道院側がなぜ私たちを呼んだのかを
知ったのだった。

 ******************************

 さて、語りたいことは山とあるが、これからはこの星での日常生活
を追いながら話していきたいと思う。

 まず、朝。
 平日の起床はおおむね七時。まずはバスルームに行ってシャワーと
洗顔。髭も剃るのだが、ここでまず最初の緊張が走る。

 もちろんそんなもの自分で髭を剃るのなら問題ないのだが、この星
の習慣で、髭剃りはその家の後継ぎの仕事とされていて、我が家では
それはマーク君になるのだ。

 御年七歳の少年がベッドに寝そべる私の顔に剃刀を近づけるのだ。
 これに恐怖を感じない人は稀だと思う。
 もちろん、髭剃りにあたっては女性たちが傍にひかえ、懇切丁寧に
指導してくれているが、喉元に大きな剃刀の刃が光ると、正直最初は
生きた心地がしなかった。

 ただ、子どもは呑み込みが早く、三カ月も経つとそれなりの仕事が
できるようになって、その意味でも驚いた記憶がある。

 こうしたことをするのは代替わりの時期を後継ぎ自らに判断させる
という海賊の習慣で、そのカミソリで寝首を欠いていつでも代替わり
してよいぞという意味である。
 もちろん、実際にそうやって親殺しをした子供はいないようだが、
バイキングの常に命を懸けて戦う勇敢さの表れでもあるのだ。

 朝の危険が去ると、朝食の時間。
 食堂には子供たちが全員集まり、一人ずつ朝のご挨拶。
 ここでは子供たちを一人ずつ膝に乗せ頬ずりをして親愛の情を示す。
 
 何しろ子供の数が多いから一人あたりの膝への滞在時間は短いが、
それでも一人一分ぐらいは私の愛撫を受け続けなければならない。
 幼い子はいざ知らず、ハイティーンの子がこれを大歓迎するはずも
なく思いっきり嫌な顔をする子もいる。

 きっと、思いは私の髭剃りと同じなのだろう。

 ただ、ここでもあまり露骨な態度を取ると……
 「パティー、スカートを上げなさい」
 「ピシっ」
 「パンツも下げて……」
 「ピシっ」
 ってことになり、母親の鞭で今一度目覚めることになるのだった。

 それだけではない。
 私のテーブルの傍らに置いたパソコンが警告を発した時はそれにも
対処しなければならない。
 前にも説明したが子供たちにはプライバシーがない。たとえ真夜中
でも彼らの情報は逐一グランドマザーの知るところとなるのだ。

 その情報が、朝には私のノートPCに届いていて、私はその処理も
しなければならなかったのである。
 ハイティーンの子が私の膝を嫌がるのはそのこともあってだった。

 「グランドマザーからの報告では……昨夜もまた楽しんでたみたい
だね」

 こう言うと、パティーは私の膝の上で身体を硬くする。
 何を言っているのか分っているみたいだった。

 昨日の夕飯からこの時間までは子供たちの自由時間。色んなことを
する。宿題をやって、ゲームをやって、ピアノを弾いて、もちろん、
おしゃべりだって大事な仕事だ。
 ただ、やってはいけないこともある。

 姉妹喧嘩、無断外出、布団をかぶっての長電話なんてのも親からは
歓迎されないことだが、親が一番嫌がるのはレスボスの恋と自らの体
を慰めること。つまりオナニーだ。

 この二つ、親も決して一度もやってはならないとは言っていないが、
毎日となると話は別で、悪癖が治らないようなら拘束衣としてオムツ
が当てられるようになる。
 実はパティー、すでにこの状態だった。

 にも関わらず、やはり一度覚えた蜜の味が忘れられないとみえて、
ベッドの中でオムツを切り離すと、十分に楽しんだあとに、どこから
調達したのか新しいオムツをはめ直していた。

 全てはベッド毛布の中の出来事であり、うまくやりおおせたつもり
でいたのだが、グランドマザーが知りうる情報は映像だけではない。
血圧、脈拍、呼吸、心拍数、何より不可思議に動く毛布が決め手で、
グランドマザーは彼女がよからぬことをやっていると結論付けたのだ。

 「これは何をしてるのかね?」
 私が尋ねると、パティーの顔色はすでに生気を失っていた。

 「それは……ベッドの中で着替えてて……」
 苦しい言い訳。しかし、そんな小娘のたわごとはこの社会では通じ
なかったのである。

 おもむろに彼女もパソコンの画面を覗き込む。
 それでも、グランドマザー、父親としての私、そして母親も判断は
変わらなかった。

 「まったく、あなたの自制心がないのにも呆れるわ。これはもう、
修道院で鍛えてもらうしかないわね」

 その言葉が出た瞬間だった。パティーは私の膝をはねのくと母親の
前に膝まづき、
 「修道院は嫌!もうしないから、もう一年だってしないから」
 必死に懇願したのである。

 しかし……
 「駄目よ。そんなことで許される時期はとうに過ぎてるわ」
 にべもない。

 「フルコースで一週間は向こうで鍛えてもらわないと治らないわね」

 「そんなあ、そんなことしたら死んじゃいます」

 「何。オーバーな事言ってるの。フルコースと言っても、お浣腸に
お鞭に、お灸、……あっ、そうだ。今度はお宮の中もやってもらいま
しょうね」

 お宮は陰部のことで、会陰やクリトリスの脇にお灸をすえること。
 実際の熱さはそれほどでもないのだが、女性、とりわけ少女にして
みると、こんなところにまでやられたという精神的なショックの方が
大きい場所だった。

 そんなことが朝昼晩三回行われるのだ。いくら普段からお仕置きが
あると言ってもそこは家庭内。他人の鞭とは違うのだ。
 その瞬間気絶してしまった彼女が後に『家の天井が落ちた気がした』
と、語ったのはあながち嘘ではないと思う。

 この結末は、結局、修道院に金〳土〳日の三日間だけ泊まり込むと
言うことで決着したが、母親は……
 「娘の気絶にいちいち付き合っていたら躾も教育もできませんよ」
 と、おかんむりだった。

 女は少女を含めよく気絶するけど、『背中に人が立っていない時には
倒れない』とも言われ、半ば演技だと言うのだ。
 しかし、たとえ演技であるにせよ、私は娘にあまり激しい罰は与え
たくなかった。

 さて、朝食が終わると子供たちは学校へと出かけ私は職場へ向かう。
 私の職場は、例の白髭の司祭さんが管理する教会。
 そこでの私の仕事は、一口で言えば雑用掛かり。墓地の草むしりや
煉瓦塀の修理、噴水池の掃除に花壇の世話、礼拝堂に設置された机や
椅子の修理なんてものまである。

 その他にもパイプオルガンを習い、日曜のミサで司祭様が説教する
原稿の下書きなんてのも……。

 こうして、仕事には事欠かないが、目が回るほど忙しいというほど
でもない。空いた時間は子供たちともよく遊んでいたから仕事の内容
に不満は何もなかったのである。

 ただ、金曜日になると、私の心はそわそわし始めた。
 実は、この日からパティーが女子修道院に付属する懲戒所にやって
来るからだ。
 そこは教会からも目と鼻の先。たまに少女の悲鳴が風に流れて聞こ
えたりもするくらいだ。

 母親の主張を曲げさせて一週間を三日間に短縮したとはいえ、私も
彼女を地獄の門の中へ送りやった一人に違いがないわけでその気持ち
は正直複雑だった。

 そんな時、一人のシスターが教会に訪ねてくる。曰く……
 「もしよろしかったらパティーさんのお仕置きを見学なさいません
か?」
 
 びっくりした私が……
 「そんなことできるんですか?」
 と尋ねると……

 「ええ、お仕置きの様子は後日ご自宅にビデオをお送りしますが、
親御さんとしては何かとご心配でしょうし普段一緒に生活していない
私たちでは分らない部分もありますから、一度はご一緒にその様子を
見ていただけると私たちも助かるんです」

 「なるほど……でも、パティーがそれをどう思うか……」

 「大丈夫ですわ。お仕置きを見学すると言っても同じ部屋に入るの
ではなく、防音装置のついた隣の部屋からマジックミラー越しにその
様子を見るだけですから悟られる心配はありませんわ」

 「妻にも話をしたんですか?」

 「ええ、金曜日最初に行われるお仕置きには伺うそうです」

 「分りました。では私も司祭様に許可をいただいてきます」

 こうして、話はとんとん拍子に進み、私は仕事を早めに切り上げて
教会近くの懲戒所へと向かうことになった。

 懲戒所というのは、親が手が付けられないと判断した子供を一時的
に預かってもらう施設のことで、女子修道院に隣接して建っている。
修道院の敷地内ではないが管理もすべてそこのシスターたちが担って
いた。

 当然、生活や規律は厳しく、誰もがお仕置きのノルマを抱えて入所
しているし、世俗の情報は一切持ち込まれないから、窮屈で屈辱的で
破廉恥な場所。子供たちの間では一般的に『刑務所』と呼ばれていた
場所だったのである。

 私たち夫婦(?)はその裏口で落ち合い、出てきたシスターの案内
で秘密の通路を抜け、俗に金魚鉢と呼ばれる小部屋へと通された。

 すると隣の部屋では全ての準備が整い、ジャストタイムでパティー
にここでの最初のお仕置きが開始されるところだった。

 「パティー、あなたはご両親とのお約束を破っていけない一人遊び
をしたとあるけど……本当ですか?」

 上級のシスターが、床に膝まづいて両手を胸の前で組むパティーに
尋ねると、パティーは静かに頷いた。
 今さらここで異を唱えたところでどうにもならないことはわかって
いるし、ヘタに抗弁して相手の機嫌をそこなえば今度はどんな災難が
降りかかるかしれない。パティーは女の子として常識的な判断をする。

 「そう、ならばここでお仕置きを受けても仕方がないわね。それは
大丈夫かしら?」

 「はい大丈夫です」
 すでに覚悟はできてるという顔だった。

 「よろしい、では、あなたへはどんなお仕置きが必要か、私の希望
を述べてみるわね。……そうねえ……あなたもこれが最初の出来事と
いうわけではないから百行清書というのでは効果がないでしょうし、
やはり身体に堪えるものがないと効果がないと思うの」

 「はい」

 「どうかしら、ここで朝昼晩のフルコースというのは……」

 「…………」
 こう言われてさすがにパティーも唇を噛む。

 「ちょっと身体には堪えるかもしれないけど、それでも、司祭様の
ミサの席でチビちゃんたちと一緒にお尻を出すことを思えば……どう、
恥ずかしくないんじゃなくて……」

 「……」
 その瞬間、パティーの顔が青くなる。

 日曜のミサでは幼い子たちがこの一週間で起こした悪さを咎められ、
祭壇で司祭様からお仕置きを受けるという儀式があるのだが、男女を
問わず近隣の大人たち全員が見ている前でのお尻叩きは恥ずかしさの
極み。
 痛み悲鳴を上げ、耐えかねて動いた拍子にその中までも見られて、
幼い時代にしても死ぬほど恥ずかしいかった。
 それを十六にまでなってできるはずがないではないか。

 「やっぱり、お仕置きはここで行いましょう。それでいいですね」

 「はい、けっこうです」
 パティーはシスターの言葉に肩で一つ息をつく。浣腸されて排泄を
見られたり、革紐鞭でぶたれて悲鳴をあげたり、灼熱地獄のお灸に我
を忘れてのたうち回ったりと、そりゃあ若い娘にとって美しくはない
出来事ばかりだけど、街の人たち全員に自分の秘密を見せびらかすの
を思えばここはまだ密室、周囲で見ている人たちも普段は接触のない
シスターだけというなら、パティーに限らず若い娘がどちらを選ぶか
は火を見るより明らかだったのである。

 「よろしい、浣腸は一日一回だけど、他のお仕置きは朝昼晩と三回
行います。そのあたり、前にも一度経験してるみたいだから……よく
ご存じよね」
 シスターの意味深な笑いにパティーの背筋は凍るが、ここまでくれ
ばもうどうすることもできなかった。

 時は金曜日の夕方、お仕置き部屋には少し広めのテーブルが置かれ
パティーは白い綿生地の体操服姿。下は紺地の提灯ブルマーで、白い
短ソックスをはいている。
 これがいわばこの懲戒所の制服のようなものでパティーも例外では
なかった。

 「仰向けになって寝なさい」
 パティーがシスターに命じられるまま机の上に仰向けになって寝そ
べると、後は二人の助手の仕事。本人には何の挨拶もなくブルマーと
ショーツが脱ぎ取られ両足が高々と持ち上げられる。
 女同士の出来事。そこに遠慮というものはないようだった。

 しかもその奥がさらによく見えるようにと一人の助手がさらに彼女
の谷間を押し開く。

 「…………」
 マジックミラー越しの私たちは、いきなり現れた娘の女としての姿
に思わず息をのむ。肛門、ヴァギナ、尿道口、クリトリスまで、その
すべて手の届きそうな処にあったからだ。

 もちろん私は彼女の親だから数々お尻も叩いたし、お風呂にだって
一緒にはいった。娘の割れ目だって知っているが、こうもあけすけな
姿を見たのは初めてだった。

 「そうねえ……色素沈着はないようだし襞も綺麗な形をしている。
やはり、このくらいの歳の子はだいたいクリトリスで間に合っちゃう
のよね。……ほら、ここに小さな炎症がある。このあたりは、だいぶ
使い込んでるみたいね」
 助手のシスターが開いた谷間を上級シスターがさらに検めていく。

 そりゃあ恥ずかしかっただろうが、こちらからはその表情は分らな
かった。ただただ女の姿がそこに見えただけ。

 そんな少女の穴の一つにガラス製のピストン浣腸器の尖った先が。
 「あっ、いや」
 パティーは思わずお尻の穴をすぼめ身体を左右に捩ったが……

 「ほら、だめよ。反抗しないの。お仕置きへの反抗が厳しいのは
お家だけじゃないの。ここはもっと厳しいのよ」

 上級シスターに諭されてパティーは大人しくなる。この星の少女達
は幼い頃からお仕置き慣れしているというか聞き分けがよい。たまに
抵抗することはあるものの大人が諭せば簡単にやめてしまうケースが
ほとんどだ。
 『抵抗=厳しいお仕置き』という図式は知識というよりその身体が
しっかりと覚えていた。

 「さあ、いきますよ。身体の力を抜いて……」

 上級シスターは大きなこげ茶色の薬瓶からガラス製の浣腸器で一気
にグリセリン液を吸い上げると、きっちり百CCの箇所で止めてすぐ
さまその尖った先を指で押さえる。
 ガラス器をそのまま薬瓶から引き上げると、液が逆流して床に零れ
落ちるからだ。

 それを見て助手のシスターが間髪入れず、パティーのお尻をさらに
押し開いてそこはこれ以上には開かないほどに全開。

 「あああああ」
 パティーからあられもない声が漏れて、ガラス器の先端がまだ幼い
という形容さえできる肛門へと突き刺さる。

 その間はあっと言う間の出来事。
 あとはじたばたしても無駄。静かにゆっくりとグリセリンが身体の
中に入っていくのをパティーは受け止めなければならなかった。

 「どう、ガラスの触感は?……最初はゴム栓にカテーテルを繋いで
とも思ったけど、ちょっぴり抵抗したからお仕置きもちょっぴり追加
したの。ガラスがお尻の穴に当たる感触って心地のいいものじゃない
けど、そのくらいは我慢しなくちゃね」

 「……」
 上級シスターの問いかけにパティーは静かに頷く。

 「あなたもいい歳なんだからわかってると思うけど、子供は大人に
お仕置きを言われたら素直に従わなければならないわ。たとえそれが
気に入らないことでも、大人たちの愛を素直に受け入れなければ損を
するのはあなたなのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは蚊の鳴くような声で答えた。
 その顔にはすでに涙と脂汗が浮き出ている。
 でも、パティーにとってはこれからがまさに正念場だった。

 「あっ、だめえ」
 二人の助手に身体を起こしてもらった瞬間に最初の津波がやってきた。
 グリセリンは効果が現れるのに一分とかからない。

 もちろん上級シスターは何がだめなのかは百も承知しているが……
 「何がだめなの?」
 冷静に尋ねる。

 「もう、漏れそうなんです。早くおトイレに行かせてください」
 パティーは恥も外聞もなく頼んだが……

 「大丈夫よ、ゴムの栓をしっかりしたから、たとえあなたが出そう
としてもあなたの力じゃもうでてこないの。ほら、見てごらんなさい」
 上級シスターははあはあと肩で息をするパティーを机の上から抱き
おろすと大きな姿見の前で彼女を抱くように立たせたのである。

 「…………」
 そこには拳大ほどの黒いゴムがはっきりと見える。実際のサイズは
肛門の中に入っている部分も含めるとかなり大きなものだが、そんな
物をすでにお尻の穴に入れられていたなんて……パティーはその瞬間
までまったく気づいていなかった。

 「外してください。おトイレに行かないとホントに出ちゃいます」
 パティーは上級シスターに哀願したが、返事は冷たかった。

 「駄目よ、パティー。あなたのお腹には、今、邪な悪魔のエキスが
たくさん溜まっているの。それを綺麗に出すためには最低でも五分は
我慢しないと邪悪なエキスは出てこないわ」

 こう言うと、パティーもまた癇に障ったのだろう。それまで指の腹
で握っていた上級シスターの腕に爪を立てて強く握ると……
 「嘘よ!」
 と一声言い放った。

 しかし、これは……
 「ピシっ……ピシっ」

 上級シスターの往復ビンタとなって返ってくる。

 「小娘が生意気いうんじゃないよ」
 それまでとは違ってどすの効いた低い声が浴びせられる。

 パティーはそのひと声だけで、パティーは再び静かになってしまう。
 もとより爆弾を抱えている身のパティー。争えるはずがなかった。

 そんなパティーに上級シスターはさらに難題を突き付ける。
 「とても元気があり余ってそうだから時間は十分に伸ばしましょう」

 上級シスターは勝ち誇ったように罰の追加を決めると、今度は一転
してパティーやさしく膝の上に抱き上げる。

 「駄目よ、子供は子供らしく従順にしていなければ大人に可愛がら
れない。子供が大人に可愛がられないで得になることは何もないのよ」

 「はい、シスター」
 パティーは上級シスターの胸の中でこうささやくのが精いっぱい。
 とにかくお腹の中は大嵐。いくらゴム栓をしているとはいえ、いつ
大爆発を起こすか、そればかりが心配だったのである。

 約束の十分間が過ぎ、パティーもやっと許される時がやってきたが、
個室のトイレは与えてもらえなかった。目の前にある大きな鏡の下に
ベッドパン置かれ、そこに上級シスターが両方の太ももを支える形で
パティーを空中に吊るす。
 なんのことはない赤ちゃんが用足しするのと同じ姿勢だ。

 「あああああああ」
 助手のシスターが黒いゴム栓を抜くと、あれこれ考える暇などない。

 「いやあ~~やめてえ~~」
 自然に出てしまった悲鳴。大粒の涙が一筋二筋頬を伝い、当然、滝
のように流れ落ちる水様便のうんちも待ったなしにベッドパンを叩き
つけていく。

 せめてもの救いはこのみじめな姿を家族に見られていないこと。
 否、本当は見られていると知らされていないことだった。

 「ヒック……ヒック……ヒック……」
 大き目のベッドパンが半分ほど埋まって、パティーはようやく落ち
着いきを取り戻したようだったが、嗚咽は続き大きな赤ん坊はしばし
恥ずかしい部分を両親の目の前で晒して泣き続けている。

 屈辱は時計の秒針が文字盤を一周するほどには長くなかったはずだ
がパティーにしてみたら『永遠』と感じられるほど心に突き刺さった
に違いなかった。

 人形となったパティーは二人の助手に支えられ、いったんは部屋を
出てシャワー室へと向かう。
 すると、その間を利用して、上級シスターが私たち夫婦のいる隠し
部屋へと入って来る。

 「どうですか、まだお浣腸だけが終わったところですけど、もし、
ご不快なら向こうの部屋の机の位置などは変えることができますけど」

 上級シスターは穏やかに語りかける。
 私は、その時『そうしてください。これでは娘に見つめられている
みたいで私たちも辛いので……』と言いたかったのだが、母親の方が
私より先にシスターの提案を否定する。

 「結構です。娘のこうした姿を見るのも私たちの仕事ですから……
今のところ何も問題はありませんわ」

 機先を制した母親の言葉に私は自分の思いを飲み込むしかなかった。

 「前にも申しましたが、同じお仕置きを与えても、人によってその
衝撃度は違います。普段お子さんと接しているご両親が『これは傷を
深めて危険だ』と判断されたら、遠慮なくそこの赤いボタンを押して
ください。すぐに対処を変えますので……」

 「承知しました。ご配慮感謝します」
 母親は答える。
 私はこの時になって初めて、修道院側がなぜ私たちを呼んだのかを
知ったのだった。

 ******************************

<第二話/終了>

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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