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シンプル イズ ベスト

~作者一言~

『斉藤家のお仕置き』は、あいも変わらずのお仕置き小説。
筋立て単純で、お仕置きがソフト。スパンキング中心という
作品です。子供が親に従順なのは私の趣味。実際、当時は
いいとこの子ほど親に従順だった気がします。
それだけ、親が自分に無茶な事はしないという確信が
あったんじゃないでしょうか。
お尻を叩くのも、パンパンパンと感情に任せて叩いて終わり
というのではなく、お説教しながら時間をかけてというのが
良家の子女の当時のスタイル。それだけお金持ちは、
時間にも余裕があったんだと思います。

*********************

『斉藤家のお仕置き』 ~ §1 お父様のお仕置き ~

 『斉藤家のお仕置き』
            ~ §1 お父様のお仕置き ~

 午後11時30分。由香里は終電一つ前の電車を降りて、自宅
へと続く一本道を早足で歩く。

 場所は山の手の高級住宅街。まだ治安もよい時代だったから、
暗い街灯の並木を独りで歩いていても心配することはないのかも
しれない。それでも18歳の少女にとって夜道は怖い。
 自宅に近づくにしたがい、しだいに小走りになって……やがて
外灯がまだ灯る自宅へと入っていった。

 「ただいま」
 エントランスの明かりを点けると……

 「おかえりなさい」
 真っ暗な廊下の先で台所の明かりから母の声がする。

 由香里は、今、予備校に通い、授業が終わるとそこの自習室で
勉強して、いつも今頃、自宅に帰ってくる。

 「おかえりなさい」
 母が玄関の娘に向かって叫ぶ声もいつもと変わらなかった。

 これから母と居間で夜食を食べてもう少し遅くまで勉強する。
 これも由香里の日課だ。
 その予定で由香里は長い廊下を奥へと歩いて行ったのである。

 「おう、由香里、帰ったか……お帰り」
 途中、居間を通り抜ける時、父の声がした。

 『えっ!?』
 由香里は不意を突れた気分だ。

 真夜中、父が自宅の居間にいて何の不思議もないはずなのだが、
由香里にしてみると、今日は仕事が忙しく帰らない予定と聞いて
いたからである。

 だから、本来なら『お父様、ただいま帰りました』という挨拶
がスッと出てくるはずだが、それが出てこなかった。

 「どうしたね、私の顔に何かついているのか?」

 「……いえ、ただいま戻りました」
 父にそう言われて、由香里は慌てて挨拶する。

 『何かが普段と違う?』
 由香里はその瞬間感じた。どこがどう違うのかは説明できない
が、そこは女の勘、少女の感性だろうか、18年同じ屋根の下で
一緒に暮らしてきた娘の経験がそれを訴えていたのである。

 由香里は父から逃げるように母のいる台所へと向かう。
 その時、父の座るソファでコロンの匂いが鼻についた。

 『そうだわ、こんな遅い時間なのに、お父様が着替えてない』
 由香里はそこに気づく。

 普段なら、もうほとんど寝るだけのこの時間。お父様の衣装は
たいていガウン姿だ。それが、たとえ部屋着とはいえセーターに
スラックス姿。コロンの匂いがまだ残っているというのなら未だ
お風呂にも入っていないのだろう。
 まるでこの真夜中に誰かと会う約束をしているみたいだった。

 台所へ行くと母が鼻歌を歌いながら笑顔でうどんを煮ている。
 それはいつもの姿。いつもの空気。

 「お母さん、ただいま。今日のおうどんの具は何を入れたの?」
 母の姿を見て安心した由香里が、母と並び鍋から上がる湯気を
覗き込むと……

 「バカ」
 母がいきなり由香里の耳元で小さく囁く。

 思いがけない言葉に驚いて母の顔を見る由香里。
 でも、その母の顔は笑顔で普段と何ら変わらなかった。

 そして、変わらないその笑顔のまま、再び……
 「今日は真理ちゃんや清美ちゃんと一緒だったんでしょう?」

 『えっ!?』
 母の言葉に動揺する由香里。

 そこで……
 「ねえ、いつのこと?」
 と、母に尋ねてみたのだが……母はそれには答えず鍋を火から
下ろしてしまう。

 次に出た言葉は……
 「さあ、冷めないうちにいただきましょう」
 というものだった。

 ダイニングテーブルで食べる母と娘二人だけの夜食。
 この間もっぱら食べるのは由香里だけで母はお茶を飲むだけ。
 母は娘の旺盛な食欲に目を細めて笑っているだけてだった。

 「今度、城南デパートでプレタポルテの発表会があるの。一緒
に行かない?」
 「うん、うん」
 由香里は湯気の立つどんぶりに顔を着けたまま頭を振る。

 「私、勉強があるから……」
 と、そっけなく断った。

 「それはそうでしょうけど。でも、たまには息抜きもしなきゃ。
受験生だから大きなお休みはとれなくても小さな息抜きは必要よ。
根をつめすぎると、かえってそれが大きなロスに繋がってしまう
わ」

 こうした母との会話も由香里にとっては毎夜のこと、この日も
母とはいつも通りの夜だったのだが……問題はこれからだった。

 夜食を食べ終えたあと、母が食器を片付けながらなにげにこう
言うのだ。
 「あなた今日は予備校の授業が終わってからどこか行ったの?」

 「えっ……どこかって?……私は、いつものように自習室で」
 由香里は咄嗟に取り繕ったが、本当はギクッと胸に突き刺さる
言葉だったのである。

 「そう、ならいいけど……いえ、お父様が変なことおっしゃる
から……」

 「変なこと?」

 「いえ、いいのよ。大したことじゃないから……」

 母は言葉を濁したが、実は由香里にはちょっと後ろ暗いところ
があった。
 今夜は、この春すでに大学生になっていた真理や清美なんかと
示し合わせてディスコで遊んで帰って来たのだ。
 母に気遣いをさせずとも、由香里は自分でちゃっかり息抜きの
時間を作っていたのである。

 これが最初の経験だった三人は、入店する時こそおどおどして
いたが、店を出る頃にはノリノリ。
 興奮冷めやらぬ三人は、店を出たところでいきなり向けられた
マイクにも、店の中での雰囲気そのままにノリノリで答えてしま
うのだった。

 「今夜は最高。今度はお立ち台に上がるんだから」
 清美が興奮気味に叫ぶと……真理も……
 「由香里なんてね、知らない男の子に声掛けられちゃったんだ
から……」

 「あの子、カッコよかったよね」
 「あの子、カッコよかったよね」
 二人の友だちから同時に振られて由香里は動揺する。

 由香里はいまだ予備校生。まるでお酒に酔ったおじさん紳士と
同じようなテンションでははしゃげなかったのである。

 すると、インタビュアーが……
 「あなた方は、おいくつですか?」
 と尋ねるので……

 「……21です」
 ちょっと間があって真理が答えると……

 「全員、同じ歳なの?」
 と、清美。

 「そう、三人とも高校時代の同級生なんです」
 最後は由香里も答えて、この瞬間から三人は一足早く21歳に
なったのだった。

 由香里の脳裏にその時の思い出が蘇ったのだ。

 『まさか、あれ、見てたなんてことないよね』
 由香里は心配する。
 でも、そのまさかだった。

 「お父様が『由香里がテレビに映ってる』って大騒ぎするもの
だから慌てて居間に飛んでいったんだけど、その時はもう映って
いなくて……私、『人違いじゃないですかって笑ったら…』いや、
真理ちゃんや清美ちゃんたちとも一緒だったから間違いないって
…『大丈夫ですよ、由香里は真面目に予備校に通っていますから
心配には及びませんよ』って申し上げておいたけど…それでいい
かしら?」

 「……ええ……まあ……」
 由香里はいい加減な返事を母に返しながら……
 『どうして、ディスコなんか行ったんだろう、どうしてテレビ
があんなところに来てるのよ』
 由香里は後悔したものの、それも後の祭り。

 「ねえ、お父様が心配なさってるから、あなたからそのことを
説明してちょうだい」

 「そのことって?」

 「だから、ディスコなんて行ってませんって……」
 母の言葉は、由香里の心に重く圧し掛かった。

 由香里は母に背を押され父の疑念を晴らすために居間へ……
 でも、それってどうすることもできなかったのである。


 居間に戻ると、父はそれまで英字新聞を読んでいたが由香里に
気づいくとそのタブロイド版を二つ折りに。

 「おう、由香里。食事は済んだのか?……ん?……どうした?
顔色がよくないな。今夜もまだ勉強するのか?」

 「えっ?……まあ……」

 「体調が悪いのなら早めに床に入った方がいい。受験は長丁場、
焦ることはない。じっくり体調を整えて臨めば、お前の実力なら
大丈夫さ。今度は、風邪をひいてうまくいきませんでしたなんて
いい訳は聞きたくないからね」

 「…………」
 気をつけて見て見てもお父様はいつものお父様。
 由香里には何か言いたいことがあるようには思えなかった。

 そこで……
 「それじゃあ、あたし、勉強するから……」
 そう言って踵を返したら……。

 「そうだ由香里。今日、お父さん、テレビを見ていたらね……」

 そこまで言って父がふき出すので……
 「えっ?」
 由香里は思わず振り返ってしまう。

 「テレビの中で、お前が21になった姿を見つけたよ」
 振り返った由香里に、父は最初だけ笑っていたが、すぐにその
笑顔は消えて難しい顔になる。

 その瞬間、父の難しい表情や21という言葉に……
 『ヤバっ……』
 由香里は思わずその場から逃げ出したい衝動にかられたが……

 「…………」
 もしこの場から逃げたとして、この先どうなるか、過去の経験
が思いとどまらせることになった。

 斉藤家のルールでは、親に嘘をつく代償はお尻叩きと決まって
いて、それは18になった今でも変更されていなかったのである。

 「今日、テレビを見ていたら、六本木のディスコから出てきた
三人のお嬢さんたちがTVのインタビューを受けててね、これが
お前や真理ちゃん清美ちゃんにそっくりなんだよ。ま、三人とも
化粧をしていたから素顔は別人なのかもしれないがね」

 「………………」
 由香里はたちまちその場に居たたまれなくなる。
 というのも、そのTVのインタビューというのは、紛れもなく
今夜の出来事だったから。

 ディスコを出てすぐのこと、いきなり突きつけられたマイクに
清美ちゃんが、そして真理ちゃんも反応してしまったのだ。
 普段の二人はそんなに大胆ではないが、ひょっとしたらほんの
少しだけ舐めたカクテルが気を大きくさせてしまったのかもしれ
ない。

 『そういえば、インタビュアーのおじさんに歳をきかれた真理、
やたら21を強調していたけど、あれはきっと未成年じゃまずい
と思ったわね』
 由香里はその時の様子を詳細に思い出す。

 あれもこれも今夜の出来事を色々と後悔してみるが、父を前に
してしまうと、それも何の役にもたたなかった。

 そして、そんな娘を見て父親も……
 「お前が化粧した姿なんて初めて見たよ。なかなか綺麗に出来
てたじゃないか。……自分でやったのか?」

 「いいえ、清美のお姉さんに……」

 「里美さんか、お前も21になる頃にはああしてもっと美しく
なるんだろうな。楽しみだ」

 「…………」
 由香里は、はにかんで俯く。女の子はどんな状況でも美しいと
言われるほど嬉しいことはないのだ。

 「それで、化粧はどこでしたんだ?。衣装も借りたんだろう?
……それも、里美(清美のお姉さん)さんの処か?」

 「……はい」
 蚊の泣くような小さな声で答えると……

 「ま、お前も18歳だ。あれもこれもしちゃいけないと言った
ら可哀想だろうから息抜きは色々あっていいと思うけど夜の街に
出るのはどうかな。それとお酒はまだダメだよ」

 「あれは清美が無理やり勧めてきて……私はほんのちょっぴり
舐めただけで……」
 心が舞い上がっていただろう由香里は余計なことをしゃべって
しまう。

 「舐めただけか……」
 父は苦笑しただけだったが……

 『!!!』
 その瞬間、由香里は背後に人の気配を感じる。

 振り返ると、そこに母が立っていた。
 こちらは父のように穏やかな顔ではない。はっきり言えば怒っ
た顔をして由香里を睨んでいたのである。

 由香里は、その顔が物語る事の真実をそこで初めて知ることに
……。

 『……そうか、この話、母の方が父をたきつけたんだわ』

 長年、親子をやっていると娘はちょっとした情報だけで家庭内
の今がわかる。
 実際、事実はその通りだった。


 居間でくつろぐ夫婦の目の前。身体の線がくっきりと出る服を
着こなした娘が、突然、テレビの中に現れたのだ。

 家の洋ダンスにはないような衣装を着て娘がいきなりテレビに
現れたものだから、当然、両親は驚いたわけだが、二人の間には
最初から温度差があった。

 父の方はただ苦笑するだけ。
 彼にしてみると、家に持ち帰った報告書に目を通すことの方が、
その時はよほど大事だったのである。

 ただ母は心穏やかではない。体の線が出る派手な衣装を着込み、
普段はしないイヤリングをさげ付け睫も着けている。ルージュも
チークもコテコテで不自然。とにかく塗ればいい、そんな感じの
メイクだ。

 『何なの、これは……やりたければ教えてあげるのに』
 母から出るのはため息ばかり。本人はこれでも美しく変身した
つもりでいるのかもしれないが、ちっとも似合っていないのだ。

 日頃、スッピンの顔しか見たことのない母にしてみれば、イン
タビューに答える娘の姿は、まるでサーカスのクラウンのようで
まるで晒し者のようにさえ見える。

 「あの子、いったい何してるのよ?」
 思わずテレビを見ていた母の口から独り言が出たくらいだった。


 一方、由香里はというと、こちらは自分の行く末について考え
ていた。

 もし、これが父親だけの怒りなら丸め込む方法は幾つかある。
彼女にはその自信もあった。ただ母の怒りを静める方法となると
こちらは皆目分からない。
 女の怒りに理性も寛容もないことは、自分も同じ性なのだから
よく分かっていた。

 そこで仮に父を丸め込んだとしてもお仕置きなしで今夜ベッド
ルームへ戻れる可能性は極めて低い。
 これもまたこの家庭に生まれ育った由香里には先行きが見えて
しまう話なのだ。

 絶体絶命の由香里。
 確かに何のペナルティーもなくこの場を切り抜ける方法はない。
しかし、父のお仕置きを受けるか、母のお仕置きを受けるかなら、
まだ選択の余地が残っている。そこで……

 「ごめんなさい。お父様、……私、嘘ついてました」
 由香里は父に向かって素直に謝った。

 咄嗟の判断ではない。彼女なりに色んなケースを想定したあげ
く『これが最も被害が少ない』と判断したのだ。

 最悪のケースは父親に甘えて許してもらう場合。逆上した母が
何をしでかすか、由香里にはそれさえ分からない。
 母との関係ではお仕置きだって、平手や鞭のスパンキングだけ
とは限らない。浣腸、お灸、蝋燭、木馬…SMまがいのお仕置き
がずらりと並ぶ。同性だけにむしろ遠慮が無いのだ。

 そんな泥沼になるくらいなら、父親の前に身を投げた方がまだ
ましというもの。これが由香里の結論。お父様に身を任せた方が
かえって被害も少ないという読みだったのである。

 「そうか、残念だな。お前はいつも良い子だと思っていたのに
……親の目を盗んで、夜の繁華街をうろつくなんて……とっても
いけないことなんだよ。特にお前はまだ浪人生、立場は高校生と
同じだ。大学生の清美ちゃんや真理ちゃんと比べても立場は同じ
じゃないんだ。……わかるだろう?」

 「……はい、お父様」

 「これは、お前が浪人したいと私に言ってきた時に話して聞か
せたよね。覚えているかい?」

 「……はい」

 「覚えているなら何よりだ。だったら、こうした場合には鞭を
お尻に受けなければならないというのも知っているだろう?……
うちの規則だからね」

 「はい、お父様」

 「よろしい、だったら準備をしなさい」

 父が視線を移す先では母がすでにソファに腰を下ろしている。

 「(あっ……)」
 由香里は思わず生唾を飲む。彼女はくつろいでいるのではない。
可愛い生贄を待っているのだ。

 母の目は父の鞭で由香里が思う存分泣き叫ぶのを期待する目。
そのきつい目に由香里は驚いたのだった。
 そんな人の膝の上に、由香里は腹ばいにならなければならなか
ったのである。

 由香里はゆっくりゆっくりお尻叩きの姿勢になった。
 幼い頃は母の膝も広くて、とにかくそこへ倒れこみさえすれば
それはそれでよかったのだが、今は、自分の体が接するあちこち
が気になるのだ。

 大きな身体は母の膝を飛び越えて両手が床に着くし、長い髪も
邪魔になる。胸の膨らみ、お臍の下の辺りだってこれが母の膝に
触れると不快だった。
 母親は同性なのだから問題なさそうにも思えるが、押し当てた
胸の膨らみやお股の様子で何か悟られるんじゃないか、由香里は
余計な心配をしてしまうのだ。

 母が娘のお腹にクッションを入れ、お尻は鞭が狙いやすいよう
より高い位置にセットされる。
 こうなっても『ショーツは綺麗にしてただろうか。こんなこと
なら替えてくるんだった』などと少女にとっての心配の種は尽き
なかった。

 女の子は自意識とコンプレックスの塊。だから自分の身体も、
最高に美しい時だけ他人に披露して、それ以外は見せたくない。
私の体は私だけのもの。唯一無二の財産。だから、私以外の人が
勝手に私の体に触れるなんて許せないし、その悪口だって絶対に
聞きたくないのだ。

 でも、これは我家でのお仕置き。娘が自分勝手に決めた約束事
なんて両親には関係ない。たとえ訴えても『お前のわがまま』と
一蹴されるだけ。そんなことは由香里も当然わかっていた。

 「さあ、準備はできたかな」
 大きな子どもが母の膝の上に乗ると、頭の上から父の声がする。

 「今日は、予備校の授業が終わったあとは、自習室でそのまま
勉強していたんじゃなくて、ディスコへ遊びに行ったんだね」

 「はい」
 由香里は申し訳なさそうな小さな声で答える。

 すると、今度は母が……
 「六本木にいきなりじゃないでしょうが……まずは里美さんの
マンションに行って、そこで里美さんの衣装を借りて、里美さん
からお化粧までしてもらって、それから出かけたんでしょう」
 母は娘の行動を大胆に推理してみせる。

 すると……
 「えっ……あっ、はい」
 由香里は母の言葉にあわせ思わず息を呑む。

 それは母の思い込みが百%真実だったからではない。母の言葉
が一部事実と異なっていたから、逆に言葉に詰まったのだった。

 実はその時の衣装、化粧道具はお年玉をはたいて買ったもの。
自宅では親がうるさいから里美さんのマンションに預けておいた
ものなのだ。

 ただ親にその事実は言えない。とにかく一刻も早く母の膝から
降りたい由香里にとってこれ以上余計な波風を立てたくなかった
から、思わず言葉を飲み込むことにしたのである。

 「なるほど……私は、偶然出会った友だちに誘われて仕方なく
着いて行ったのかとばかり思ってたけど、どうやらこれはかなり
計画的な犯行だったわけだ」

 父はほっぺたをぷっと膨らませると硬質ゴムで出来た一本鞭を
由香里のぷくっと目立つお尻に当ててくる。
 いざ本番、そういう時になって狙いを外さぬよう、あらかじめ
間合いを計っているのだ。

 母の膝でプルプルと震えるやんちゃなお尻を打ちすえるのに、
この3フィートの長さが一番適していた。

 「困ったね」
 父のこの一言だけでも由香里は身の縮む思いだ。

 この家で鞭のお仕置きがある場合、男の子ならそれはもっぱら
ケインだが、女の子の時は傷が残るのを恐れて親も籐鞭は使わず
鞭はほとんどがゴム製だった。

 ゴム製の鞭は皮膚の表面だけに衝撃が集中するため裂傷の危険
が少なく、万一、血が滲むようなことがあっても傷口が浅いため
痕が残らない。
 ケインのような肉をえぐるような痛みはないものの、女の子の
お仕置きとしてはこれで十分。彼女たちにとっては、無様な姿を
晒し続けているこの瞬間こそが何よりのお仕置きだったのである。

 事実、こうして鞭の先っちょでお尻をちょんちょんと突かれる
だけでも、由香里は生きた心地がしなかった。

 その恐怖の源泉は幼い日の苦い経験。

 由香里は小学校の高学年から中学生の始めの頃、母にがっちり
体を押さえつけられ、身じろぎひとつ許されないまま父からこの
ゴムの鞭でお尻を何ダースもぶたれた経験があり、それが今でも
トラウマになっている。

 さすがに高校生になってからは滅多に行われなくなったものの、
両親が娘の躾にとって重要と思っていたその時期には、だいたい
一学期に1回や2回は必ず行われる斉藤家の儀式だったのだ。
 その痛かったこと。

 あまりの痛さに半狂乱になって泣き叫び、ごめんなさいは何回
言ったかわからない。でも、約束の回数が終わるまでは、決して
許してもらえなかった。
 おかげで、途中母の膝にお漏らしをしてしまったり、それでは
足りないとばかり母からあらためてお灸をすえられたりもした。

 そんな恐怖の歴史が、今なお由香里の脳裏をよぎるのである。

 「まず、今日はお勉強をさぼっちゃったこと、これがいけない
な。分かるよね?」

 「はい、……お父様」
 最近、あまりこの姿にならなかったので、最後のお父様という
言葉を付けるのが少し遅れた。
 普段は『お父さん』で十分だが、こうしてお仕置きを受ける時
だけは『お父様』と様付けして呼ぶ習慣になっていたのだ。

 「歯を喰いしばって……」
 父がこう言うと、さっそく最初の一撃がヒットする。

 「ピシッ」
 乾いた音が居間に鳴り響き、由香里は思わず下唇を噛む。

 「(ひっ~~~~)」
 由香里にとっては久しぶりの衝撃。
 でも、それって幼い頃にはよくあった出来事だから、その一撃
ですぐに昔の痛みを思い出すことができた。

 『みっともなく泣きわめきませんように』
 そんな心配が頭をよぎる。

 「遊びに行った場所も感心しないよね。六本木のような盛り場
に未成年の娘が……それも、夜、出歩くなんて……」

 「ごめんなさい、お父様」

 「どのくらいいけないことだったか教えてあげるから、じっと
してるんだ」
 父はこう言うと、二発目を打ち下ろす。

 「(ひぃ~~~~~~~~~)」
 全身に電気が走って痺れる。
 それは一発目よりはるかに痛くて涙が滲んだ。

 「わかったか?」

 「くすん……は、はい」
 小さく鼻をすすり、由香里は父に答える。
 本当はすでにお尻に手を回してさすりたかったが、そんな事は
許されない。お仕置き中は何が何でも必死に我慢して手をお尻に
回してはいけないルールだったのである。

 「それだけじゃない。あの服は、どうしたの?」

 「あれは…………」
 しばらく間があってから、
 「里美お姉さんのところで借りて……」
 申し訳なさそうに答える由香里。

 でも、母には娘のそれが真実でないことを、女の勘、母の勘で
感じ取っていた。

 「お化粧も里美お姉さんに手伝ってもらったのかい?」

 「はい」
 由香里は自信を持って答えるが、これも嘘だと母は感じていた。
やりなれた者があんな下手なメイクをするはずがないからである。

 「それじゃあ、これは二つだ。『浪人中は高校生らしい服装で
過ごし、お化粧だって大学生になるまでしません』っていう約束
だったよね」

 「えっ、どうして二つなの!」
 由香里は思わず頭を振って父親を見つめる。

 「だって、服とお化粧で二つだろう?」

 「えっ?それって別なの!?」

 「そうだよ」

「(ふふふふふふ)」
 驚いた娘の声に母が思わずふき出してしまう。

 そして……
 「ほらほら、ジタバタしないの」
 母は抱きかかえた由香里の胴回りを、どうだとばかりにあらた
めて締め直す。母の太い腕に力がこもると、それはまるで大蛇に
締め付けられたように身動きがとれない。
 母はこうやって何回も子供たちのお尻を叩いてきた。

 それは何も幼い頃ばかりではない。中学生になっても、高校生
であっても、母の太い腕から斉藤家の子どもたちは誰も逃れられ
なかった。

 母の恐怖は、大きな蛇に締め上げられるこうした圧迫感ばかり
ではない。今は父が鞭を振るっているが、当然このまま子どもの
尻を叩くことだってある。

 大きな蜂の大群に襲われて、ピシピシと容赦なくお尻を刺され
まくるような恐怖の平手打ち。
 もし、痛みに耐えかねて母の膝から逃げ出そうものなら、広い
居間の隅で、下半身を丸出しにして膝まづき、その姿のまま父の
帰りを待たなければならない。

 そんなこと年頃の娘にとっては耐え難いほどの屈辱だったから
その意味でも母の怒りは恐怖の的だった。

 この時代、斉藤家に限らずお家の中というのは、日本の法律が
及ばない、いわば治外法権みたいなものだったから、親はどんな
罰でも自由に決めてそれを子供たちに強いることができていた。

 由香里が母の膝の上でおとなしくしているのも、幼い頃からの
そんな恐怖の歴史があってのこと。言葉だけで良家の子女が育て
られていないことは、暗黙の了解事項、ある種の常識だったので
ある。

 母の強い締め上げによって由香里の身体の震えが止まりお尻も
落ち着きを取り戻すと、的が狙いやすくなったのだろう、父の鞭
が再び降りてくる。

 「ピシッ」

 「(ひぃ~~~~)」
 今度は少し強めに叩かれたので、由香里は思わず声を上げよう
としたが、それを思いとどまらせたのはやはり母の太い腕だった。
 身動きのできない身体が鞭の当たった瞬間さらに締め上げられ
逆にそれが心を落ち着かせていたのである。

 「ピシッ」

 「(ひぃ~~~~)」
 由香里は、何とか声を出さないように自分の心を押さえつける
だけで精一杯だ。

 ゴムの鞭といって甘くみてはいけない。ハイティーンに悲鳴を
上げさせることぐらいこれで簡単にできるのだ。

 「あと、親には嘘をつかないようにしないとね。これが、一番
罪の重いことだからね」

 「はい」

 「私たちはお前がいつものように予備校の自習室で勉強してる
ものとばかり思っていたからね、お前がテレビに映っても最初は
全然気がつかなかった。お化粧のせいかもしれないけど……でも、
清美ちゃんや真理ちゃんが一緒に映っていたから、お前だとわか
ったんだ」

 父がこう言うと、母は由香里の耳元で……
 「お父様は鈍いわね。私だったらあなたがどんな化粧していて
も一目見てわかるわよ」
 と、囁く。

 「ま、それはともかく。これは私たちに対して嘘をついたこと
になるからね、ごめんなさいじゃすまないんだ。背信行為だから
やっぱり罰を受けて罪は償わなきゃ。それはわかるだろう?」

 「はい」
 由香里はオオム返しに答える。でもそれは鞭がまた一つか二つ
増えただけと思っていたからだ。
 ところが……

 「良いご返事だ。よし、ならば、これには鞭三つだ」

 「え~~」
 由香里は思わず叫んでしまった。立て続けに鞭三つは辛かった
からだ。しかし……

 「何が、え~~だ」
 父は顔をしかめる。そして……
 「親に嘘をつくことはどんなことより罪深いことだって教えて
きたはずだよ。それを軽く考えてるのなら、もっとしっかり体に
刻み込まなきゃだめだな。……よし、鞭は六つだ」

 「………………」
 由香里は声にこそださなかったが、心の中は相当にショックだ
った。ゴムの鞭は一つ一つに間があけば、痛みがすぐに引くので
問題ないが、立て続けにやられると、そりゃあ痛いのだ。

 『六回だなんて嫌よ。私、今日これからまだ勉強しなきゃいけ
ないのに、椅子に座れなくなっちゃうじゃない』
 由香里は思ったが、18歳になっていても父が決めたお仕置き
には逆らえなかった。

 18歳は身体こそ大人だが、心はまだ子供の想いをあちこちに
残している。特に親元で何不自由なく暮らしている子にとっては
いつでも甘えることのできる貴重な存在なわけで、日頃は散々に
不平不満を口にしていても、いざ親の前に出るとなると何も言え
ない逆らえない、そんな子が良い所の子には多かったのである。

 由香里もそんな中の一人だから、ここは諦めて母の膝にすがり
つくしかなかった。

 「ピシッ」

 「ちょっと、やめて。もう少し待ってからにして、痛いもの」
 由香里が顔を上げて不満を言うと……

 「当たり前だ。痛いからお仕置きなんじゃないか。……お前は、
お仕置きされてるんだぞ、遊んでるんじゃない」
 逆に父に凄まれ、由香里は顔を元に戻す。

 それでも何か不満なのか床に敷かれた絨毯の模様をあらためて
見つめながら……
 「そりゃあそうだけど……もう少しやさしくというか……愛情
があってもいいと思うんだけど……」
 ぶつくさ独り言を言うのだった。

 「何が愛情だ。自分がどれほど愛されてるのかわからんのか。
そもそもお仕置きしてもらえるなんてのは愛されてるからだろう
が……」

 「変なの、お仕置きされてる子が愛されてるなんて……」

 「何が変なものか。子どもを愛しているからこそ手元に置いて
育てるし、よくなって欲しいと思ってるからお仕置きするんじゃ
ないか。口を尖らせたりしてみっともない。お父さんのお仕置き
が嫌なら『御國園』にでも行くか?」

 『!!!!えっ!!!!』
 父の言葉に由香里は固まってしまう。

 御国園というのは、キリスト教系の女子矯正施設。生活態度に
問題のある子を一時的に預かり、規則正しい生活習慣を身につけ
させることを目的としたリフォームスクールなのだが、何しろ、
スパルタで、生徒は24時間365日シスターのいやらしい体罰
に怯えながら暮らさなければならない。
 おかげで、友だちの間でここは『地獄のキャンプ』とも呼ばれ
恐れられていたのである。

 由香里は、父から、たとえ冗談にもせよ、そんな施設の名前を
聞かせて欲しくなかった。

 「さあ、わかったら、今はしっかり我慢することだけ考えるん
だ。……ほらあ、だらっとお母さんの膝に寄りかからない。……
お前はもう十分に重たいんだから、お尻を上げてあげないとお母
さんが大変だよ」

 父に言われ由香里は渋々自分のお尻を上げる。
 そして、鞭打ちが再開。

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 当たり前だが、そりゃあ痛い。一回目より二回目、二回目より
三回目と痛みが少しずつお尻に蓄積していくのだ。

 「ピシッ」

 「あぁぁぁぁぁぁ」
 由香里はたまらずその場で地団太を踏んだ。

 「ピシッ」

 「いやあ~~~痛い、痛い、だめだめだめ、もうだめ」
 由香里は耐えられず声を張り上げるが……

 「何言ってるの。甘えるんじゃありません。見苦しいことする
ようだったら、お父様に言って鞭の数を増やしていただきますよ」

 娘をたしなめたのは母だった。
 と同時に、背骨が折れるんじゃないかと思うほどの渾身の力を
込めて娘の身体を抱きしめる。
 そうしておいて、娘のお尻にはまた鞭が飛んできたのである。

 「ピシッ」

 「ひぃ~」
 すると、今度は不思議に耐えられた。
 女の子は、息も出来ないほど強く抱きしめられると、かえって
心が落ち着いて耐えられるのだ。

 「ピシッ」

 「あぁ~~~」
 強く抱きしめられたこと、強くお尻をぶたれたこと、いずれも
男なら負の体験だが、由香里にとってそれは不思議な麻酔となり
ある種の秘薬となって日常生活では得られないような快楽を子宮
にもたらすことになる。

 『この切ない気持は何だろう?』
 すでに小学校の高学年時代から感じていたこの不思議な気持を、
今、また感じる。しかし、この不思議な気持を誰かに話したこと
など一度もない。文字通り、これは彼女の秘め事だった。

 「よし、これくらいでいいだろう。お尻の痛みが明日に残った
ら、勉強に差し支えて、それもいけないだろうからな」

 父にようやく許されて、由香里は母の膝を離れる。
 振り返って父の顔を見る時、由香里はすでに許されているのに
ちょっぴり怖かった。

 その怯えた顔を父も見たのだろう。由香里を呼び寄せると……
 「最後におやすみのキスをしてくれるかな?」
 父は笑顔で由香里の強張った顔を解きほぐし、今のお仕置きの
お礼を求める。

 「ありがとうございます。お父様」

 由香里は無精ひげの目立つ頬にキスをする。
 これもまた斉藤家でのお仕置きのしきたりだった。

 「お父さん、好きかい?」
 「はい」
 「本当に?」
 「はい」
 由香里はこう言うしかなかった。

 「来週は山中湖の方にでもドライブに行こう。そんな息抜きは
ちょくちょくあってもいいから。……今日は疲れただろう。もう
勉強はやめて、さっさと寝なさい」
 父はこう言うと居間を離れていく。

 彼には報告書に目を通しておくという仕事がまだ残っていたの
だった。

****************************

『斉藤家のお仕置き』 ~§2/お母様のお仕置き~

 『斉藤家のお仕置き』
         ~ §2 お母様のお仕置き ~

 『あ~~あ、やれやれ、やっと終わったわ~~』

 お仕置きが終わり父が居間を出て行くと、由香里はまるで他人
事のように笑い、伸びをしながら大あくび。
 さながら嵐の一夜が過ぎて、今、朝日の当たる部屋で目覚めた
とでも言いたげだった。

 「それじゃあ、ちょっと早いけど、お父さんとのお付き合いも
終わったことだし、私、先に寝るわね」
 由香里はそう言って母の目の前を横切った。
 すると……

 「ちょっと、お待ちなさい。お母さんあなたに聴きたいことが
あるわ」
 母が由香里の足を止める。

 「えっ?」

 振り返った娘に母は肺腑をえぐるような言葉を投げかけるので
ある。

 「あの服……あれ、あなたの服よね?」

 「……あの服って?……」
 由香里はとぼけたが……

 「何言ってるの。今夜、六本木に着ていった服よ」

 「だから、あれは……里美さんが貸してくれて……」

 「嘘おっしゃい。里美さんみたいな大柄な人にあの服が着れる
もんですか」

 由香里は返答に困った。服装に無頓着な父とは違い母にそこは
ごまかせないのだ。

 「調べたらあなたの貯金通帳から12万円引き下ろされてたわ。
あれで買ったんでしょう。……たいした買い物ね」

 「えっ、私の通帳見たの!?へんな事しないでよ。そんなの、
プライバシーの侵害よ!」
 由香里は青くなって訴えたが……

 「何がプライバシーよ。親が娘のお金の使い方心配してどこが
悪いの。ま~だ、高校卒業したばかりのネンネのくせに一人前の
口きかないの」

 「だって、あたし、もう18なのよ」

 「もう18なんじゃなくて、まだ18よ。高校卒業してどこか
で働いているならまだしも、浪人なんて遊び人と同じじゃないの。
今のあなたは、私たちの子どもという以外、何の身分もないのよ」

 「何よ、そこまで言わなくてもいいじゃないの。……だいいち
あれはお年玉で私のお金だもの。それで何買おうと自由でしょう」

 「そうはいかないわ。親としては娘の浪費癖を見て見ぬ振りも
できないもの」

 「浪費じゃないわよ。必要だと思ったから買ったんじゃない」

 「なら訊くけど、自分で買った物をどうして里美さんに借りた
なんて嘘つかなきゃならないの?あなたに後ろ暗い処があるから
でしょうが……」

 「だって、正直に言ったら、怒ると思って……」

 「そりゃあ怒るわよ。浪人生のあなたが今やらなきゃならない
のはお勉強。あんな処へ行ってはしゃいでいる暇はないはずよ」

 「だから、あれはたまたまお友だちに誘われて……」

 「あらあら、あなたって人は、お友だちにたまたま誘われたら
お小遣い全部はたいてドレスを買っちゃうの?それって浪費じゃ
なくて……」

 「……(だから、言いたくなかったのよ)……」
 由香里は思ったが、もうそれ以上反論しなかった。

 「……それと、里美さんのマンションで仕度したみたいだけど、
里美さんには会ってないわよね」

 「えっ、どうして?」

 「だってその場に里美さんがいたらあんなみっともないメイク
で表に出すわけないもの。あれ、あなたが自分で顔を作ったんで
しょう?」

 「………………」
 これにも由香里は答えられなかった。

 「里美さんは美容部員なのよ。あんなみょうちくりんなメイク
してたら直してくれるに決まってるもの。おそらく清美ちゃんが
お姉さんの部屋の鍵を持ってて、そこをお姉さんのいない留守を
狙って無断借用したってことかしらね」

 『スルドイ』
 由香里の心臓に母の矢が刺さる。

 「もし里美さんのお化粧道具悪戯したんなら後で謝っておくの
よ。誰だって自分のお化粧道具を他人に触れられたくないもの。
ましてや、相手はプロなんだもの、商売道具に手なんかつけたら
すぐにわかっちゃうわよ」

 「はい」
 由香里は素直に答える。母の洞察力に脱帽。白旗を上げるしか
なかった。

 すると今度は母がまるで品定めでもするかのようにまじまじと
自分を見つめていることに由香里が気づく。
 それは、18年間におよぶ母との付き合いで学び取った経験を
踏まえて言えば決してよいことではなかった。

 「あなたも、色んな面で成長したところはあるけど、まだまだ
幼稚な部分も多いわね。そんな幼稚な処は鍛えて強くしないとね。
今日のこと、おさらいしましょう」

 母はそう言ってソファを立ち上がる。
 由香里の顔は真っ青だった。

 母はこの時『お仕置き』という言葉を一言も使っていないが、
でも母の用語を娘が翻訳すると『これから防音設備のある地下室
でお仕置きをします』という意味だったのである。

 今夜、斉藤家のお仕置きは父親だけで終わりではなかった。


 斉藤家の地下室は、仏間の脇にある襖を開けるとそこに階段が
あってそこから下りていく。

 本来、大事な物をしまっておく隠し部屋として作られたもので、
由香里の幼い頃はピアノの練習をする為の部屋だったが、由香里
がピアノをやめてからは、もっぱら母専用のお仕置き部屋として
使われてきた。

 ひんやりとした湿気は由香里にとって今でも恐怖そのもの。
 おまけに土蔵造りで音が外に漏れにくい構造になっているこの
部屋は子どもたちの悲鳴があがっても父を煩わせないですむため、
母にとっても都合がよかったのである。

 六畳ほどのスペース。もちろん電気を点けなければ真っ暗だ。
このため、由香里も幼い頃はよくお仕置きとしてこの部屋に閉じ
込められていた。真っ暗な部屋で泣けど叫べど出してもらえない
恐怖は、今でも由香里のトラウマになっている。

 部屋の電気が点くと部屋の様子がわかる。
 今は使われていないアップライトピアノが奥にデンと置かれ、
古びたソファ、年代物の書棚、鳩時計なども目に入るが、調度品
のようなもの見当たらず、ただ、小天使が女神にお尻を叩かれて
いる可愛らしい油彩が額に入れて飾られているだけだった。

 重い扉を締め切ると、ここでは小さな物音までが反響するよう
になる。由香里にとってはそれもまた大きなプレッシャーだった。

 「さあ、それじゃあ、あなた、そこで裸になりなさい」
 部屋に入るなりさっさとソファに腰を下ろした母が、未だ入口
付近に突っ立ってもじもじしている由香里に向かって命じる。

 「えっ!?……」
 戸惑う由香里に……

 「いいでしょう裸になっても……今は寒い時期じゃないんだし、
女同士なんだから……さあ、パンツもみんな脱ぐのよ」

 「だってえ……」
 母の命に渋々脱ぎ始めた由香里だったが……

 「ほら遅い。さっさとやって。今夜はもう遅いのよ。グズグズ
やってる暇はないわ」
 母は由香里をせかす。

 由香里は渋々服を脱いだ。もとより同性の母だから心の負担は
それほどでもないが、それでも、お風呂に入るわけでもないから
恥ずかしそうにしていると……

 「こちらへ来て」
 母はソファに座ったまま手招きする。

 そして、目の前にやって来た由香里をその場で膝まづかせると、
その身体の表裏を丹念に調べ始めた。

 顔、髪、耳……耳たぶにピアスの穴がまだ開いていないことを
確認すると……小さな胸。実は、由香里の胸は未だにAカップ、
他の場所は人並み発達しているのに、ここだけは遅れていた。

 さらに下がってお臍からその下も……中学時代はまだ薄かった
陰毛も最近は綺麗に生えそろい女らしくなっているが母はさらに
その先も求めたのである。

 「片足をテーブルの上に乗せて……」

 由香里が言われた通り右足をソファテーブルに乗せると、母の
右手が緩んだ太股の間に滑り込む。
 もし見知らぬ男性なら大声を出していたところだ。
 しかし、母は由香里が幼い頃からこうした事を幾度となく繰り
返していた。

 手探りながら、尿道口からヴァギナ、アヌス、クリトリスにも
その指は伸びる。
 少女の聖域も母だけには開放されていたのである。

 だから必要とあらばベッドで仰向けに寝かせ両足を上げて中の
様子を確認するなんてことも……
 もちろん、拒否すれば目の玉が飛び出るくらい痛いお尻叩きを
覚悟しなければならないから、18歳になった今でも、由香里は
違和感なく母の指を受け入れてしまうのである。

 表が終わると裏、つまり背中を見せる。
 もちろん頭も首も肩甲骨も一通り見ていくが、やはりここでの
中心は試練を受けたお尻だった。
 父から受けたゴム鞭のお仕置きがどれほどの効果を上げている
のか、母はそれが知りたかったのである。

 その結論は……
 「ん~~大丈夫そうね。うっ血もそんなにひどくなさそうだし、
これならまだ百回くらい大丈夫だわ」

 『えっ!?何よ百回って……』
 由香里にとってそれは好ましくない母の独り言だ。

 だから、
 「だめよ、まだ、もの凄く痛いんだから」
 とは言ってみたものの……

 「大丈夫よ。少しうっ血が出てるけど、このくらいが平手での
お仕置きにはちょうどいいの。さあ始めましょう。両手を胸の前
で組んで……」
 母は由香里に恭順のポーズを求める。
 
 この恭順のポーズは斉藤家の決まりごとだった。
 もし、このポーズを子供たちが拒否すると、ひどいお仕置きが
目白押しでやって来るから子供の立場としてはやるしかなかった
のである。

 「今日は予備校の自習室に残って勉強しているって嘘をついて
本当は六本木に行っていましたよね?」

 母の問いに由香里は小さく「はい」と答えた。
 もっともそれ以外の答えを母親は期待していないから由香里も
そう答えるしかないのだ。

 すると……

 「いらっしゃい」
 母は自らの膝を叩く。
 ここへうつ伏せになりなさいという合図だ。

 嫌も応もない。久しぶりに素っ裸のまま母の膝の上へうつ伏せ
になった由香里。先ほど父からお仕置きを受けた時も同じように
母の膝にうつ伏せになったが、あの時は父が鞭を右手で使うので
由香里は母の左手から入ったが、今度は母の右手側から滑り込ま
なければならない。
 こんなことがスムーズなのも、由香里自身こうしたことが一度
や二度でない証拠だった。

 「親に嘘をついてはいけません。もし、急用ができて電話した
時、そこにあなたがいなかったら、私たちが心配するでしょう。
今、どこにいるかはちゃんと私たちに伝えなきゃ。そしてそれが
伝えられないような処へは行かないの。わかった?」

 「はい、ごめんなさい」

 「わかったら、その事をしっかりお尻で覚えなさい」
 母はこう言うと由香里のお尻を叩き始める。

 「ピシッ」「あっ、痛い」
 「ピシッ」「ひぃ~~~」
 「ピシッ」「だめえ~~」
 由香里はたった3回ぶたれただけで絶叫する。

 母は父と違って平手。でも、むき出しのお尻を思いっきりぶつ
ものだから、その方がよっぽど痛かったのである。

「ピシッ」「いやあ~~お願い」
 「ピシッ」「もうしませんから~~」
「ピシッ」「だめえ~~壊れるよ~~」

 「いつも大仰な子ね。こんなことで女の子は壊れません。ほら、
ジタバタしないの。足をバタつかせるから大事な処が見えてるわ
よ」

 「ピシッ」「見えてもいい。やめて~~痛いから~~」

 「何言ってるの。痛いのは当たり前でしょう。お仕置きしてる
んだもの。あなた、撫でてもらえるとでも思ったの?」

 「ピシッ」「いやあ~~だめえ~~~」
 「ピシッ」「もうしないから~~~」

 由香里は自分の大事な場所が外気に晒されてもかまわず両足を
バタつかせるが、これで1サイクルが終了。
 母の膝に寝そべっていた大きな赤ちゃんは先ほどの床に戻され
再び膝まづいた姿勢で両手を胸の前で組まなければならない。

 その娘に対して母親は……
 「お母さん、ディスコがどんな処か知りません。でも、受験生
のお前が行くところじゃないのはわかります。あなたは、すでに
社会人の清美さんや大学生の真理さんとは身分が違うの。あの人
たちが行くからって一緒について行っちゃいけないの。分かる?」

 「はい、わかりました」
 由香里はこうとしか言えなかった。

 そして、再び……
 「分かったんなら、ここへいらっしゃい」
 こう言われて母の膝へと戻るのだ。

 「ピシッ」「いやあ~~~もうしないで~~~」
 「ピシッ」「痛い痛い痛い、死ぬ死ぬ死ぬ」
「ピシッ」「いやあ~~もうしませんから~~」

 「ピーピーとうるさい子ねえ。久しぶりにお仕置きされたから
痛いだけでしょうが。このくらいの痛みにも耐えられないって、
18にもなってだらしがないんだから……」

 「ピシッ」「いやあ~~~死ぬ~~死ぬ~~~死んじゃう」

 「こんなことで死にません。大仰に騒ぎ立てないの。あなた、
いつまでも子どもなんだから。お外、通る人に聞こえるわよ」
 母は叱りつけるように言い放ったが効果はなかった。

 「ピシッ」「ぎゃあ~~だめえ~もうしないで、もうしない…
(ゲホ、ゲホ、ゴホ、ゴホ、ゴホン)」
 この時、由香里の喉に痰が絡む。

 すると、咄嗟に母がティシュを娘の口元に当てて吐き出させる。
あっという間の連係プレー。こんなことも日頃お尻叩きが親子で
日常的に行われているからできることだった。

 無論、だからといって、これで終わりではない。

 「ピシッ」「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません」
 「ピシッ」「いやだ、いやだ。もうぶたないで、許してお願い」

 「あ~ピーピーとうるさいわね。あなた、もう小学生じゃない
のよ。少しは慎みなさい。足もバタバタ跳ね上げて、年頃の娘が
みっともないでしょう。いくら親でも目のやり場に困るわ」
 母は、真っ赤になった娘の尻たぶを掴むと、自分の成果を確認
しながら話す。

 一方、由香里はというと、こちらは後ろを振り返る余裕もない
様子で……
 「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません」
 消え入るような声で答えるだけ。

 「ピシッ」「あ~~~~~~」
 「ピシッ」「ひぃ~~~~~」
 「ピシッ」「うっ~~~~~」
 由香里は母に言われて一時(いっとき)母の平手を必死に我慢
する。

 「ほら、ごらんなさい。やろうと思えばできるじゃない。……
女の子は耐えるのが仕事なの。こんなにだらしないんじゃお嫁に
行った先からすぐに追い返されちゃうわね。……いいこと、今度
騒いだら、お仕置きをお灸に切り替えますからね。覚悟しときな
さい」

 母の言葉は由香里には強烈だった。もちろん、お灸を据えられ
たことは過去に幾度もある。だから、それがいかに強烈に熱いか
知っているわけだが、彼女にとって問題はそれだけではなかった。
灸痕と呼ばれる火傷の痕がこの先もお尻に残ったらどうしよう。
由香里の心配はむしろそこにあったのだ。

 「あなた、お年玉を使って大きな買い物をする時は、必ず私に
相談するって約束したわよね。あの約束はどうなったの?反古?」
 母はそう言うとお尻を叩く。

 「ピシッ」
 「うっ……それは……(そんな約束したっけ?)」
 母との約束はどうやらなかったみたいだが、そんなの関係ない。
こんな時、母は勝手に約束を追加してしまうのだった。

 「あれ、いくらしたの?」
 「ピシッ」

 「じゅう……に…万円くらい」
 由香里は搾り出すような声で答える。

 「そう……あなた、随分お金持ちなのね。たった一晩のことに
12万円も出せるんて……」

 「べつに一晩ってわけじゃあ……」
 由香里が思わず口を滑らすと……

 「あなた、毎晩通うつもりでいたの?」
 「ピシッ」

 「いやあ~~そうじゃなくて……」
 真っ赤なお尻が震える。

 「あなた、何様のつもり。あなたはまだ受験生なのよ。勉強が
第一じゃないの」
 「ピシッ」

 「いやあ~~やめて~~」

 「やめて欲しいのはこっちよ。まるでサーカスの道化役みたい
な下手くそな化粧して、ピチピチのドレス着て、テレビに映った
ときは、いったいどこのバカ娘かしらって思ったわ。あれ、また
やるつもりでいたのかしら?」

 「ピシッ」
 「いやあ~」
 「ピシッ」
 「だめえ~」
 「ピシッ」
 「ごめんなさい」

 「うちもお金のなる木があるわけじゃないの。あなたそんなに
持ってるのなら自分で予備校のお金払いなさい。アルバイトでも
何てでもして自分で大学に行きなさい」

 「そんなあ~」

 「何がそんなあ~~よ。甘ったれるんじゃないわよ」

 「ピシッ」
 「ぎゃあ~~だめえ~もうしないで、もうしない…」

 「ピシッ」
 「いやあ~~~~ああああああ」
 その時、甲高い悲鳴が急に低い声に変わる。

 「あ~あ、何なのこの子、このくらいのことで粗相なんかして、
ホントにだらしないんだから……」

 「ピシッ」

 「……」
 今まであんなにもワーワーギャーギャー騒いでお仕置きされて
いた由香里がその一撃だけ声を出さなかった。

 理由は簡単。恥ずかしかったからだ。
 女の子にとってはどんな痛みより恥ずかしい事が一大事だった
のである。

 母は、由香里を膝の上からいったん払い除けると、呆然として
立ち尽くす娘を尻目にロココ調の書棚へ。
 しかし、母は本を取りに行ったわけではない。今、その書棚に
納まっているのは蔵書ではないのだ。

 色んな種類の鞭やピストン式の浣腸器、お灸をすえるための艾
といった当時子どもを折檻をする為に使っていたお道具の数々が
所狭しと詰め込まれていたのである。

 それを見た由香里の顔が真ざめたのは当然だろう。

 しかし、母は別の折檻を思いついたわけではない。
 書棚の引き出しからタオルを数枚持ち帰ると、由香里の鼻先へ。

 これで自分の粗相を綺麗にしなさいということだったのである。

 幼い子ならこうした場合、母親がやってくれるかもしれないが、
18歳にもなる娘にそこまではしてくれない。
 由香里は、まずその一枚で自分の股間を綺麗にすると、残った
タオルで床も拭く。
 ソファに悠然と腰を下ろす母の目の前で、四つん這いになり、
赤いお尻をフリフリしながら、自分で粗相したオシッコを丹念に
丹念に拭き取らされたのである。

 そして、やっとのことでその仕事が終わると、使ったタオルは
バケツの中へ。
 しかし、これでお仕置きが終わったわけでもなかった。

 由香里は一息入れる間もなく母が視線を動かせば、それだけで
再び母の足元に膝まづく。再度母が視線を動かせば今度は胸の前
で両手を組む。
 長年の習慣。こんな時、親子に言葉はいらなかった。

 「ごめんなさい。粗相してしまいました。お仕置きして下さい」

 「まったく、18にもなって、あなたはよくよくだらしがない
わね。今度やる時はお浣腸してからにしましょう。いいですね」

 「はい、お母様」
 由香里はこう言うしかなかった。
 これ以外、何を言っても叱られるからである。

 「さあ、いらっしゃい」
 由香里は膝を叩く母の声と一緒に再び膝の上へ。

 「どんなに痛くても悲鳴をあげない。身体をジタバタさせない。
お尻叩きは言葉の代わりに痛みをお尻に覚えさせる事が大事なの。
大声を上げたり身体をバタつかせたりしたら、痛みというお薬が
お尻から吸収されないわ。そんなに時はまた別の罰を与えます。
……いいですね」
 凛とした母の言葉。どうやら母は本気モード。

 「はい、お母様」
 由香里に逃げ場はなくなってしまったのである。

 「ピシッ」
 「今度、嘘をついたらどんな罰でも受けます」

 母は、由香里のお尻を一つ叩くたびに口上を述べる。つまり、
口移し。由香里はすぐに母の言葉を復唱しなければならない。

 「今度、嘘をついたらどんな罰でも受けます」

 「ピシッ」
 「今度お尻叩きを受ける時はお浣腸もお願いします」
 「今度お尻叩きを受ける時はお浣腸もお願いします」

 バカなことだと思う。だけどやらなければならなかった。

 「ピシッ」
 「今度お尻叩きで騒いだらお灸のお仕置きもお願いします」
 「今度お尻叩きで騒いだらお灸のお仕置きもお願いします」

 人権侵害だと思う。でもやらなければならなかった。

 「ピシッ」
 「今度約束を破ったらお父様から裸のお尻に鞭をいただきます」
 「今度約束を破ったらお父様から裸のお尻に鞭をいただきます」

 「え~」
由香里が思わず不満を口にしようものなら……
 「何言ってるの!そのくらい当たり前でしょうが!!」
 と、すぐに母から凄まれる。

 「だって、私、もう18だし……」
 などと言ってみても……
 「何言ってるの。18が20でもあなたはお父様の子どもなの。
お父様は他人じゃないのよ」

 「だって~~」
 さらに由香里がごねると……

 「そう、……わかったわ」

 「ピシッ」
 「今度約束をやぶったら、御国園に行きます」

 「ちょっ……ちょっと、待ってよ。そんなのないわよ」
 由香里は思わず顔を上げて母を見る。
 しかし……

 「何言ってるの。あなたお父様のお仕置きが嫌なんでしょう?
だったら仕方がないじゃない。あなたがいくつかなんて関係ない
の。女の子はお嫁に行くまでお父様の娘だもの。お仕置きも当然、
そこで裸になるんだって当たり前。それができないなら、あなた
の居場所は懲戒所しかないでしょう。それをあなたが拒むことは
できないわ。日本の法律では子どもの居場所は親が決めることに
なってるんだから」

 「そんなの人権侵害よ」
 由香里は涙目涙声で訴えるが……

 「何、生意気言ってるの。まだ世間の風から保護されてる身で
大仰なこと言わないのよ。お父様は兄弟の中でもあなたを何より
大切になさってるんだから。その好意を無にしちゃいけないわ。
今日だって、あなたのスカートを捲ろうとしたら首を振って止め
たのはお父様なのよ」

 「どうなんだか。時々私のこといやらしい目で見るんだから。
心の中じゃ何考えてるんだかわからないわ」

 由香里は反発したが……
 「由香里!!いい加減になさい!!」
 母に一喝されるとその後はまた床に視線を落としておとなしく
なってしまう。

 結局……
 「今度約束をやぶったら、御国園に行きます」
 由香里は母にこう言わざるを得なかった。

 斉藤家の子どもたちはこうして母親の言いなりに次の機会での
お仕置きを色々と約束させられてしまう。
 
 「さあ、もう一度よ」
 母はそう言うと再び娘のお尻を叩き始める。

 「ピシッ」
 「今日はどこへ行ったの?」

 「ディスコです」

 「ピシッ」
 「お父様にはお断りを入れたの?」

 「いいえ」

 「ピシッ」
 「嘘をついたの?」

 「そうです」

 「ピシッ」
 「ディスコへ行くためドレスを買ったわね。それは、ちゃんと
ご報告した?」

 「いいえ」

 「ピシッ」
 「じゃあ、罰を受けても仕方がないわね」

 「はい……でも、もうやめて、痛くて痛くてもうだめなんです」
 突然、由香里は泣き言を言ったが……

 「ピシッ」
 「何言ってるの。痛いからお仕置きなんでしょうが……最近は
お仕置きが減ってるからあなたのお尻がだらしなくなってるだけ
よ。我慢しなさい」

 「ピシッ!!」
 母はそれまで以上の威力で由香里のお尻を叩く。

 「…………」
 思わず海老ぞりになった由香里だったが声はでなかった。

 すると……
 「ほら、ごらんなさい。静かにできるじゃない。甘えないの」

 「ピシッ!!」
 再び強い衝撃が……

 「だめえ~~~もうホントにだめ~~~」

 「もう聞き飽きました。そんなに私たちのお仕置きがいやなら
やっぱり御国園に行きなさい」
 「ピシッ!!」

 「だめえ、それはもっとだめ」
 由香里は声を振り絞り必死になって頭を左右に振ってみせるが
……

 「あなたみたいに根性のない子は一日中お仕置きしてくれる処
で鍛えてもらった方がいいの」
 「ピシッ!!」

 「いやあ、絶対に嫌~~~」

 「だったら素直になりなさい」
 「ピシッ!!」

 「ごめんなさい」

 「そう、じゃあ、私たちのお仕置きなら何でも受けるのね?」
 「ピシッ!!」

 「はい」

 「次に悪さしたら、お股の中にお灸。わかりましたか?」
 「ピシッ!!」

 「はい」

 「ベッドに縛り付けて歯が折れるほど熱いのをすえてあげます。
いいですね」
 「ピシッ」

 「はい、いいです」

 「鞭はケイン。百回は叩きますよ。皮膚が裂けて血が出るけど
仕方ないわね」
 「ピシッ!!」

 「はい」

 「お浣腸も必要ね。しっかりお腹にグリセリンを入れてあげる
から、お庭でしてちょうだい」
 「ピシッ!!」

 「はい」

 「そうね、誰もいないと寂しいでしょうから、お父様に見てて
いただきましょう。いいですね」

 母がそう言うと、これまで従順だった由香里が再び顔を上げる。
でも……
 「何なの!不満なの。御国園の方がいい!」
 こう凄まれると由香里は何も答えられない。

 父の目の前で排泄するなんて、女の子にとってはぶたれること
より何倍も強いショックだったのだ。


 母のスパンキングはたっぷり平手で50回。赤いお尻は感覚が
なくなるほどジンジンしていて、女の子としてのプライドもズタ
ズタ。心も折れて放心状態になった娘を今度は母がやさしく抱き
上げる。

 「良い子ね、あなたは私の天使ちゃんなの。もうおいたしちゃ
だめよ」

 こうして抱き上げられ子は幼児に戻って、
 「はい、お母様」
 と返事をしなければならなかった。

 実は、ここまでが斉藤家のお仕置き。
 もし、これを嫌がると……

 「ピシッ」
 「いやあ~~~ごめんなさい、もうしませんから~~~」

 最初に戻ることになるのだった。

*********************

『天国へ行く夢』 ~ Hありません ~

 『天国へ行く夢』

 僕は、昔、天国というか天国のような場所に行く夢をよく見た。
気がつくと僕は盥のような小さな船に乗っていて川を下っている。
途中、いくつもの分岐点があって、そこには例えば『知性』とか
『素行』『忍耐力』『理性』なんて看板があってそこには誰かしら
が立っている。男性の時もあるし、女性の時もある。若者、老人、
そういえば大きな蛙とか白蛇とか人間でないものもあったけど、
僕の場合は蛇が嫌いだから、そんな時は全身の毛穴が開いて卒倒
しそうになるのだが幸いそこにいる人なり動物なりが僕に危害を
加えた事は一度としてなかった。

 僕を乗せた盥はやがてその分岐点を右なり左なりに流れていく。

 そうやって幾つもの分岐点を自分の意思とは無関係に通り過ぎ
ていくと、やがて、盥は大きな滝を流れ落ちる。
 その落ちていく瞬間、のどかな村の景色がちらりと見えるが、
そこがどこなのか皆目分からない。

 落ちていく滝壺までは何十メートルもある落差だから、これは
当然助からないと思いきや、僕の体はある巨大な女性の手の平で
受け止められる。

 しかし、僕の体は助かったと思うまもなく、彼女の口の中へと
吸い込まれるのだ。

 要するに巨大な顔の巨大な口の女性に飲み込まれるわけだが、
これが不思議にも、滝壺に落ちた時のような恐怖感がない。

 暗い通路をゆっくりと落ちていき、やがてこれ以上は落ちない
場所まで辿り着くと疲れが出たのか僕は心地よさを感じてそこで
寝てしまう。

 どれほど寝たかは分からないが、その瞬間は強烈な光を感じて
僕は目を覚ます。
 そして、その強い光に導かれるようにして歩き出し、その光の
場所へと出た瞬間、夢はいったん途切れてしまうのだ。

 次は、もう朝。母の胸の中で穏やかに目を覚ます。

 「どうしたの?怖い夢でもみたの?」
 母に尋ねられた僕は首を振る。
 僕は母にも夢の中身は話したことがなかった。

 ただ、強い光の世界で起こった出来事が、極めて断片的にだが
覚醒した脳裏に現れ、そしてその断片をジグソーパズルのように
つなぎ合わせると、それはそれで一つの物語として完成するのだ
った。


 強い光の世界へと出た私を待っていたのは、私を飲み込んだ人
の笑顔。

 美しい笑顔は私を包み込む。僕のベッドは彼女の片方の頬だけ
で十分だ。
 何しろ私と彼女の身体は10倍以上違っているから僕の存在は
手のひらの中に十分納まるのだ。

 やがて、僕の目の前には彼女が自然に曲げた薬指の先が現れ、
その爪の先を僕は何の躊躇もなくしゃぶり始める。

 むしゃぶりつく爪の間からミルクが……

 「美味しい?」
 その女性に尋ねられたが、僕は答えなかった。
 美味しいのか美味しくないのか、判断がつかないからだ。

 ただ、ミルクが僕の喉を潤して、お腹の中へと流れ込む時に、
絵も言われぬ快感を僕に与えてくれたのは確かだった。

 身体全体がふぁ~~としていて、とても暖かくとにかく眠い。
その極楽気分のままに寝てしまうと、私は夢の中の夢の世界へ。


 今度は大きなはすの葉に乗り川を下っていく。
 辺りは最初真っ暗だったが、次第次第に夜が明け川の幅や流れ
行く速度なども分かってくる。何より、周囲が明るいと心が落ち
着く。

 今度の川は川幅が狭く、ゆっくりと流れ、川岸にも多くの草花
がある。そのせいか、これからどこに流れて行くのか分からなく
ても心は落ち着いていた。

 やがて、そんな川岸に誰かが立っているのが見える。

 近づくとお地蔵様だった。
 そして、私がそのお地蔵様を通り過ぎようとした瞬間、私は、
額に水のしぶきを感じる。

 僕がその水しぶきを跳ね除けようと額の中心を触ると、そこが
小さく盛り上がっている。
 ほくろが一つできていた。

 冷ややかなほくろを気にしていると、やがて、声が聞こえた。
 聞き覚えはあるが、どこで聞いたかは分からない声だ。

 「心を無にして聞きなさい。お前は、これから私たちとここで
暮らすことになる。不自由かもしれぬが慣れれば住みよい処だ」

 「はい」
 私は返事をしたが、わけはわかっていなかった。
 ただ、遠い過去に地獄へ行くことを嫌ったのを思い出した。

 『地獄へ来い。その方が楽しいぞ』
 仲間たちの忠告を無視して私は盥の船に乗って極楽を目指した
のだ。

 と、なると……これは大願成就ということになるんだろうか?
 しかし、そこに不思議と満足感はない。

 蓮の葉はさらにスピードを緩め、やがて小さな桟橋に流れ着く。

 着いたとたん、座って前を見ていたはずの私の身体が倒れて、
美しく青い空が見えた。

 『何て、澄み切った空なんだ』
 そう思って眺めていると、そこに二人の顔が現れた。

 見知らぬお爺さんとお婆さんだが、なぜか懐かしい気持がした。

 その二人に私は身体を抱かれる。
 実はこの時、私は赤ん坊の身体になっていたのである。

 私は二人の住む藁ぶき屋根の家に移され、そこで育てられる。
ミルクはここでも二人の薬指をしゃぶることで出てきた。

 そんな生活がどれほどの期間続いたのかは分からないが、僕の
身体は日増しに大きくなっていき、部屋の中を這い、庭を駆ける
頃になると迎えがやってくる。

 五色に彩られた牛車が天空から現れて僕を乗せて連れ去るのだ。

 僕は天へ戻る牛車から地上のお爺さんお婆さんを眺めることが
できたが、その顔は驚きと言うより納得の笑顔だった。
 そして、その牛車で僕を抱いているのは僕が最初に抱かれた人。
この女の人が僕を天上の世界へと連れて行ったのである。


 天上の世界は紫雲の上に広がる平原で常に心地よい音楽が流れ
ている。ここには地上にあるような家や野山はない。ここにある
のは、青い空と僕の体を包み込む雲の流れだけ。

 殺風景な景色に思えるかもしれないが、ここでは、それを想像
しさえすれば何でも思い通りになる。豪華な寝台も美しい調度品
も、広い庭やそこへ集まる小鳥たち。里山や田畑や小川までもが
自由にデザインされていきなり目の前に現れるのだ。

 『所詮は夢の世界』
 僕はこれが夢の世界であることを自覚しながら夢を見ている。
 しかし、それでいてなお『これは夢ではない』と自覚するもの
があった。

 それが、彼女の人肌。僕は今が夢の世界であると自覚しつつも、
この肌にまとわりつく女の柔肌を『これは夢』と片付けることが
できなかった。

 その彼女、この天上でいろんな世界を私に描いてみせた。
 そして、描かれた彼女の世界観を私は受け入れることになる。

 自然の摂理、人の心から見る政治、経済、歴史、そして未来図。
それら哲学の全ては、こうやって私が10歳までに彼女の胸の中
で学んだものであり、私が学校や大学でやってきた事というのは、
実は、それらの検証作業をやっているにすぎないと後から気づく
ことになるのだった。

 そう、だから良い悪いは別にして私の頭の中はすでに10歳で
固まってしまったのだ。


**************************

『ガキ大将』 ~真のリーダー~

 『ガキ大将』

 聞くに堪えない親から虐待や友だちからの陰湿ないじめなどが
テレビのニュースで流れるたびに思うのだが、僕の子ども時代は
恵まれていたのかもしれない。

 僕の場合、家は中流家庭だったが、親からも教師からもおよそ
お仕置き(体罰)を受けた経験がほとんどない。単に鈍感なだけ
だったのかもしれないが、誰かに虐められたという記憶もない。
僕を相手にすると、結局は教師を相手にすることになってしまう
からクラスメートがそれを嫌がっただけということなのかもしれ
ないが……とにかく学校で嫌な思いをさせられたことはなかった
ように思う。

 『……よって、僕は幸せな学園生活を送ることができた』
 と、まあ結論づけたいところだが、これが、そうでもなかった。
 何しろ歪んだ性格のせいで友だちが極端に少なかったのだ。

 幼稚園入園から高校卒業まで、どの年度をとっても僕のそばに
いる友だちというのはせいぜい二三人程度。大勢に囲まれて騒い
だという記憶がないのだ。そもそも僕の言葉を理解し、かつ辛抱
強く毒舌を聞き続けてくれる子がそんなに多いはずがもないから
それは仕方のないことかもしれないけど。

 僕だってべつに孤独を愛していたわけではない。できれば多く
のクラスメイトと屈託なく話をしたかったが、これが意外と難儀
だったのである。

 例えば幼稚園時代、『電車ごっこ』という意味が分からず……
 「電車は鉄の塊、切符を買って乗るの。こ~~んなに大きんだ。
知らないのか?……これ何?縄跳びの紐じゃないか。君たち、何
考えてるの?」
 とか言ってしまい、思いっきり顰蹙をかったことがあったけど、
その後もこうした病は治らなかった。
 (自己弁護するけど、これって悪意はまったくないんだ)

 それでも何とか仲間に入りたいとは思っていたから、僕だって
努力はしたんだよ。一応それなりに……

 偉そうな物言いや知ったかぶりはタブー。みんなが知らない事
は、こちらも『知らない』で通す。逆にみんながやると決めた事
は『これって親や教師に知れるとやばそうだ』と思っても一度は
友達と一緒にやってみる。お付き合いは人間関係の基本だからだ。
 とまあ、こんな調子で、やってはみたんだ。
 (これって、父の入れ知恵だったりするわけだけど……)

 おかげで母を悲しませたり、教師に廊下に立たされたりもした
んだけど、でも、そのおかげで視野はいくらか広がった気がする。

 その成果が最初に出たのは小4の時だった。
 ちょっと乱暴だったけど、体力があって男儀があって統率力の
あるガキ大将にもめぐり合えたんだから。
 それはそれで僕にしたら進歩だったんじゃないかなと思ってる。

 いや、正確に言うと、2クラスしかない小さな学校だったから
彼のことは小学校入学当時から知ってはいたんだけど、それまで
ずっと無視し続けていた。

 母や女の子たちの影響なんだろうね、僕の心の中で彼の評価は
『クラスの中の困ったちゃん』でしかなかったからだ。

 それが、四年生の夏。無謀にも彼と喧嘩をして負けてしまい、
その後は彼に付き従わなければならなくなった。
 (そういう約束で喧嘩したから)

 子分というのか客分というのかそのあたり立場は微妙なのだが、
いずれにしても、彼が率いるガキ大将クラブの中で、僕はありの
ままの彼を見る機会に恵まれたのである。

 そばで見る彼は女の子たちが噂するような粗暴な暴君ではなく、
頼もしい兄貴みたいな人なのだ。
 体力、ガッツ、克己心、逆境でも捨て鉢にならない自制心……
そうそう女の子のような偽善的なヒューマニズムではなく本当の
ヒューマニズムも彼から習った。
 とにかく僕には無いものばかり色々持ってるもんだからむしろ
羨ましかったんだ。

 最初は喧嘩に負けて渋々着いて行っただけ。だけど、そのうち
母の反対を押し切ってこちらが追っかけをするまでになる。
 僕の方が惚れてしまったのだ。

 そして三学期。僕は彼を学級委員の選挙に立候補させて、当選
させてしまう。
 女の子の支持はなくても男の子からは圧倒的支持だった。

 ところが……
 成績のよくない、粗暴な振る舞いも目立つ彼に学級委員は無理
と判断したのだろう「もう一度みんなでよく考えてみましょう」
などと担任の先生が再考を促してきた。
 ただ、それに強く異を唱えたのは僕だった。

 もちろん一介の生徒の発言など担任の教師にしてみたら取るに
足らないかもしれないけど、僕はそれまで先生との間で築き上げ
てきた信用を投げて選挙結果を認めてくれるように訴えたんだ。
 というのも、これは彼へのお礼のつもりでもあったから。

 ある日、担任教師が不在の学級会で生徒がガヤついてどうにも
収拾のつかない時があったんだけど、そんな最中のことだ。
 一人遅れて入って来た彼が開口一番、「みんなうるさいぞ」と
言ったら、どうだ、教室が一瞬にして水を打ったように静かにな
ったんだ。

 これはお調子者が奇声をあげた為にほんの一瞬静まったという
レベルではない。彼に遠慮して穏やかにしているのだ。
 僕はその瞬間の出来事を忘れることができなかった。

 昔の僕だったら、『それは彼がみんなを脅したから』と単純に
割り切った考えをしたに違いない。しかし、彼と一緒に過ごして
みると、現実がそうでないのがよくわかる。

 権力や後ろ盾の無い彼は普段の努力と気遣いでみんなの信用を
勝ち得ているのだ。
 その友だちとの間で築いた信用をここで投げ、静かにするよう
頼んでくれた。(そう、これは脅したのではない。頼んだのだ)
その結果として、今、この静寂が続いているとわかるのだ。

 友だち想いで、友だちと決めた約束はどんな些細なことも守り
抜く。大人たちの常識や価値観に左右されず自分の信念を貫く。
泣き言を言わない。嘘をついてまで罰を逃れようとしない。大人
たちからのお仕置きにも平然としていて恐れない。子どもだけど
とにかく肝が据わっている子だった。

 そもそもヤクザの倅だからお母さんたちの評判だってよくない。
当時、学校の周囲は田んぼや里山。そこで遊んで帰るからいつも
制服は泥だらけ。ランドセルの片方のベルトが切れていて、家で
補修してくるから朝は背負ってくるけど、帰りる時にはいつの間
にかそれが切れていて、繋がってる片方のベルトを肩に引っ掛け
て帰るのが常だ。

 僕たちの学校では信じられないほどの異端児だったんだけど、
偉そうなこと言っても何一つ他人の役に立たない僕なんかより、
彼はよっぽど立派なリーダーだったのだ。

 こう感じてる子はおそらく僕だけじゃないはずで、だからこそ
ざわついていた教室が静まりかえるわけで、女の子の評価では、
『薄汚れた厄介者』としか映らないのかもしれないけど男の子は
こういう人に魅力を感じてついていくんだと僕は思っている。


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Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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