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1/4 ブローチ(初恋)

1/4 ブローチ(初恋)

 小五の時に、僕は生まれて初めて恋をした。それまでも女の子
の友だちがいなかったわけじゃない。むしろ、こう言ったらなん
だが、男友だちよりこっちの方が多いくらいだった。

 女の子は乱暴な言葉は使わないし、先生の言うことはちゃんと
聞くし、身奇麗だし、すべての点で男より勝っているように思え
たのだ。
 (これはあとで心境の変化を起こすが、その時はそうだった)

 しかし、いくら普段口をきく女の子が多いといっても、それは
あくまで日常でのこと。恋となれば話は別で、心がときめく人は
これが初めてだったのである。

 その人は、亜麻色の髪で栗色の瞳、鼻筋が通っていて、巻き毛、
……どう見てもハーフにしか見えないが、お父さんお母さんとも
日本人で、国籍ももちろん日本人だった。

 ひょっとしたら養女なのかもしれないが、幼い僕にそんな立ち
入ったことはわからないし、だいいちそんな事はどうでもよい事
だった。
 大事なことは、僕が彼女を好きになってしまったという事だけ。
それだけだった。


 好きになった子ができたら、当然、その子の気を引きたいよね。
僕に好意を持ってもらいたいもの。

 でも、それってどうしたらいいのかまったくわからなかった。

 最初にやったことは、一緒に帰る算段をすること。
 「君んちの近くにある塾に通ってるんだ」
 なんて、白々しい嘘までついて、夢はかなったんだが……

 ところが……
 「………………」

 いざ一緒に歩いてみても、ほとんど何も言えなかった。
 他の女の子とはけっこう色んなことをおしゃべりして帰るのに、
この子のそばにいると、ただ心臓だけがドキドキするだけなんだ。

 「わたし、待ってたの?…塾に遅れない?」
 下校時、校門の前で彼女に言われた時は、顔が真っ赤になって
火照った。

 『本当は、君が好きだから一緒に帰りたいんだ』
 なんてね……どうしても、素直に口から出てこなかったんだ。


 そこで、今度は贈り物をしてみようと思い立つ。

 お小遣いをはたいて、雑貨屋でブローチを買う。
 500円。
 笑うことなかれ。これでも、当時の僕にとっては精一杯高価な
買い物なんだ。

 でも、それをどうやって渡していいのか?が分からなかった。

 『誕生日なんかじゃないのに、コレあげるって変だよな』
 ブローチを買ってしまってから気づく。
 しかも、雑貨屋で買ったから気の利いた包装紙なんかで包んで
ない。
 都会の子なら、きっとこんな時、綺麗な千代紙やリボンで飾り
つけてから送るんだろうけど、田舎もんの僕にはそんな気の利い
た知恵さえなかった。

 結局、
 『マキちゃんへ~倉川勉~』
 って書いた小さな紙を箱の中へ入れてただけ、外は買った時に
商品を入れてもらった茶色い紙袋のまま。


 そんな味気ない贈り物をランドセルの中に忍ばせること一週間。
 ここでも臆病者の僕は勇気がでないのだ。

 それでも、ついに決心してやったこと。
 それは何も言わずそのプレゼントをマキちゃんの机の上に置く
ことだった。

 ところが……

 「あれ?……これ何?」

 せっかくマキちゃんがその紙袋を手に取ってくれたのに……
 僕は……

 「………………」
 顔だけが赤くなった。

 そして、マキちゃんが、その紙袋を改めようとすると……

 「やめとけよ。きっと、誰かの忘れ物だよ。中なんか見ないで
先生に届けた方がいいよ」
 こう言って、逃げるように教室の外へと駆け出してしまう。

 その日はマキちゃんとは帰らず家に直行。

 『僕って、どうしてこう勇気がないんだろう』
 『マキちゃん、見たかな?見なかったかな?』
 と、そればかり考えてて、ずっと自己嫌悪だった。


 ところが、その日から三日後の日曜日、
 それまで誰からも何の連絡もなかったのに、いきなりお母さん
が……

 「今日、マキちゃんのお宅でお祝いがあるの。あなたも一緒に
行きましょう」

 『えっ!』
 いやはや、最初はひどく驚いた。

 『ひょっとして、僕がマキちゃんにブローチをプレゼントした
こと?……マキちゃんが怒ってる?……それとも……大人たちが
怒ってるのかな?』
 僕は、マキちゃんの家へ向う途中も心配げにお母さんの顔色を
窺ってみたが、お母さんは、別に怒った様子じゃなかった。

 はらはらドキドキのままマキちゃんの家へ着くと……

 「(ピンポーン)倉川です」

 お母さんの声に反応して、玄関の扉が開く。
 すると、マキちゃんが僕の目の前に現れた。

 「(あっ)!!!」
 僕がプレゼントしたブローチを胸に着けて……

 「さあ、あがって……一緒に記念日のお祝いをしましょう」
 マキちゃんの後ろから、マキちゃんのお母さんの声がした。



(あとがき)

 あとでわかったことですが、ブローチはそのままマキちゃんが
担任の安藤先生に届けたそうです。
 そこで、中をあらためたら……そこに、僕の下手な字が……

 これが単なる儀礼ではなく『心からプレゼント』だとわかった
先生は二人のご両親に連絡。

 大人たちで話し合ったあと、マキちゃんにこのブローチの事を
話したら……
 最初は驚いていましたが、お母さんの説得もあって『頂きます』
というご返事。
 そして、このパーティーとなったのでした。

 えっ、これって何のパーティーか……?

 マキちゃんにとっては『男の子から初めてプレゼントを頂いた
記念日』
 僕にとっては『女の子に初めてプレゼントをした記念日』
 ですよ。

 大人たちは、子どもたちのちょっとした成長でも喜んで、何か
につけて催し物を開きたがるんです。

 思えば、ダニーやメロディーは僕たちと歳も同じ11歳。
 僕たちは『結婚しよう』とまでは思いませんでしたが、お互い、
一緒にいれば他の御友だちより楽しいお友だち。恋人未満の関係
だったのです。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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