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見沼教育ビレッジ (8)

****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 新井真治……振興鉄鋼㈱の社長。普段から忙しくしているが、
       今回、娘の為に1週間の休暇をとった。
 新井澄江……専業主婦。小さな事にまで気のつくまめな人だが、
       それがかえって仇になり娘と衝突することが多い。
 新井香織……小学5年生で美香の妹。やんちゃでおしゃべり、
       まだまだ甘えん坊で好奇心も強い。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。

**************************

 「お帰り」
 「お帰り」
 「お帰りなさい、お姉ちゃん」

 お父さん、お母さん、それに妹の香織が、一斉に挨拶します。

 「…………」
 こんなこと普段なら当たり前なのに、その時はとても嬉しい事
だったのです。

 お母さんにハグされ、妹を抱きしめます。
 ただ、部屋の一番奥、お気に入りの椅子までここへ持ち込んだ
お父さんの処へは、さすがにすぐには足を運べませんでした。

 ケイト先生がお母さんと挨拶を交わす中で……私はむしろ今日
知り合ったばかりの先生の背中に隠れるようにして立っています。
 普段だったら真っ先に飛んでいくはずのお父さんとは、どこか
視線を合せづらくなっていました。

 そんな様子が気に入らないのか、
 「どうした、美香?私の処へは来てくれないのか?」
 お父さんが痺れを切らして不満を言います。

 すると、それに答えたのは香織でした。
 「無理よ。だって、お姉ちゃん、せっかくのバカンスをパパの
お仕置きのせいで潰されちゃったんだもん。機嫌がいいはずない
じゃない」

 「そうか……やっぱり、そういうことか……」
 お父さんは私を見て苦笑です。それには、少し侮蔑的な表情も
混ざっていました。

 『すねやがって……』
 という思いがあったのかもしれません。

 でも、私の思いはそう単純ではありませんでした。
 もちろん、ここに強制連行された恨みはあります。でも、それ
以上に『お父さんが私のことを今でも怒っているんじゃないか』
という不安が心から拭い去れなかったのでした。

 そんな私の様子をお父さんは見透かしたようにこう言います。
 「美香、怒らないから、ここへおいで」
 
 お父さんは私の足が微妙に震えていたのを見逃しませんでした。

 「はい、お父さん」
 こう言われたら、娘としては行かないわけにはいきません。
 これでもお父さんの良い子ではいたいと思っていましたから。

 男の子は体力がありますし父親とは同性ですから生理的なこと
も含めてわかるはずです。ですから、そこまでは怯えないのかも
しれませんが、女の子にとって父親はとてつもなく大きな存在。
特に怒られた時は、まるで鬼の棲みかに乗り込む桃太郎ように、
気を引き締めなければなりませんでした。


 私がお父さんの処へ行く決心を固めると……
 ケイト先生も私が独りにならないよう、一緒にお父さんの処へ
やってきます。

 「私が、美香さんを担当する指導教官のケイト辻本です」

 名刺を差し出し、大人の挨拶。
 ケイト先生が私と父の間の緩衝材となってくれたのでした。


 「お嬢さんへのご心配事は親しすぎる同性の友達関係だとか」

 「ええ、この子を預かってくださっている学園長からお手紙を
いただいて……それが、気になりまして……」

 「私もあちらの園長先生や寮長先生にお会いしてそのあたりは
詳しく伺いましたが、それ自体は大きな問題ではないと思います。
これは男女に限らずそうなんですが、思春期のはじめ、子供たち
がそうした同性への強い思慕を抱くのはごく普通のことですから」

 「そうなんですか」
 父は小さくため息をつきます。

 「ただ男の子と違って女の子の場合は、こうしたことに夢中に
なりがちで、深入りすると学力の低下に繋がります。お父様は、
それがご心配なのでしょう」

 「ええ、うちには男の子がいませんから、いずれこの子に養子
を取って会社を任せることになると思うのですが、その場合でも
娘には一定の教養を積んでもらわないと……」

 「わかります。このことで学校の成績が下降ぎみなのをご心配
されているわけですね」

 「そういうことです。べつに一流大学を卒業して会社の事業に
参加させようと思ってるわけじゃないんです。平凡な専業主婦で
いいんです。ただ、そうであっても一定の教養は必要でしょうし、
……それに……婿さんの手前も、男性より女性に興味があったん
じゃ具合が悪い」

 「なるほど」
 ケイト先生の顔が思わずほころびます。
 それを押し隠すようにして先生はこう続けたのでした。

 「では、キャリアウーマンというより、よりよい奥さんになる
ためのプログラミングということでよろしいですね」

 「けっこうです。お願いします」
 父はソファに座ったまま深々と頭をさげます。そしてこう尋ね
たのでした。
 「それで、具体的にはどのようになさるのでしょうか?」

 「良妻賢母型で育てる場合に一番大事なのはルーツの確認です」

 「ルーツ?」

 「ルーツといってもご先祖という意味じゃなくて、自分が誰に
どのように愛されて育ってきたかを確認する作業が必要なのです」

 「????」

 「もっと、具体的な手順を言えば、美香さんには一度赤ちゃん
に戻ってもらうことになります。オムツをはめて哺乳瓶でミルク
を飲んで、ガラガラを振ったら笑ってもらいます」

 「????」
 父にしてみたら、先生のお話はいま一つピンときてないみたい
でしたが、私はもっと驚きです。
 『えっ!?何言ってるのよ!聞いてないわよ。そんな話』
 でした。

 「私たち家族は、どのようにすれば……」

 「ええ、ですから、美香さんを中学二年生ではなく赤ちゃんの
ように扱ってくださればそれでいいんです。授乳、オムツ替え、
……あくまで赤ちゃんとして一緒に遊んでくださればいいんです」

 「でも、そんなこと、今さら、美香がやってくれるでしょうか」

 父が不安そうに尋ねると……
 「やってもらうのではありません。この場合はやらせるのです。
素直に従わなければ可哀想ですがきついお仕置きが待っています」

 「なるほど」
 父は唖然として頷いていました。

 「もちろん、最初は恥ずかしくて嫌なことでしょうが、女の子
というのは、すぐに慣れます。その場その場の与えられた環境に
自分を順応させる能力はもともと男の子より優れていますから」

 「そうなんですか……」

 「ええ、女の子がどこにお嫁に行っても自分なりに生きる道を
見つけられるのはその順応性のためなんです。赤ちゃん返りは、
そのための訓練の一つなんです。……それと、もう一つ。幸せの
確認、という意味もあります」

 「幸せの確認?」

 「赤ん坊には何一つ自由がありません。その代わり親が何でも
してくれますから、ある意味人生で一番幸せな時期もあるんです。
そうした自分の幸せのルーツを再確認する事が、その後の人生で
困難へ立ち向かう時に大事なエネルギーとなるんです。私たちは
赤ん坊時代に得た幸せ感が、どれほど大事かを統計的に確認して
いますし、たとえそれが後発的なものであっても、一定の効果が
あることも経験済みなのです」

 「三つ子の魂百までも……ということですかな?」
 お父さんの顔にやっと笑顔が戻りました。

 「一見、馬鹿げて見えるやり方にも理由があるんです。すでに
お渡しした資料にそうしたことは詳しく書いてありますからご覧
ください」

 「なるほど、そういうことでしたか…………それで、私どもは
美香とどのように接すれば……」

 「特別なことは何もありません。普段通りに接してあげていい
と思います。ただし、最初の一週間だけは、赤ちゃんとして扱い
ますから、その時はご協力をお願いします」

 「協力というのは……」

 「主には授乳とオムツ替えです。特に、オムツ替えはお子さん
が大きいので大変だと思いますが、娘のためだと思ってご協力を
お願いします。こうしたことは、やはり他人より親子の方がいい
ので……それと……」
 先生は少し申し訳なさそうに声を低くしてこう続けます。
 「もし美香さんが赤ちゃんらしくないことをしたら、この私が
お仕置きします。かなり厳しいこともすると思いますが、それに
ついては口出しなさらないでください」

 「わかりました。頂いた資料をもっと詳しく読めばよかったん
ですが、不勉強で申し訳ない。実は、ここのことは私の秘書から
聞いて知ったんです。彼女もまたここの出身者のようで……」

 「それは、きっとキャリアウーマン型のカリキュラムを受けら
れたんだと思います。その場合はまったく別の人格になります。
でも、美香さんの場合は、良妻賢母型でよろしいんですね」

 「ええ、結構です」

 『何が結構よ、私はちっとも結構じゃないわよ。私、これから
どうなっちゃうの?』
 私は大人たちの会話を間近で聞いていてとてもショックでした。

 そんな私に、お父さんが声をかけています。
 でも、ショックを受けてる私は、すぐには頭の回線が繋がりま
せんでした。

 「美香、美香、……どうした?美香……聞こえないのか美香」

 途中から、ようやくお父さんの声が聞こえ始めます。

 「…………」
 慌てて父の方を見ると……お父さんはご自分の膝を軽く叩いて
います。それは『この膝に来なさい』という合図なのですが……

 私は、すぐにそこへ行く気にはなれませんでした。

 「おや、おや、どうやら臍を曲げられてしまったか……先生、
この子はやさしい子で、これでは休暇で帰るたびに真っ先に私の
膝に乗ってきたものなんだが……こんな処に連れて来たから……
どうやらそれを根に持ってるみたいですね」
 と、お父さん。

 「違いますよ。私がいるからですわ。美香さんも、もう14歳、
お父さんのお膝は、さすがに人前では恥ずかしいんでしょう……」
 と、ケイト先生。

 でも、私の心はそのどちらでもありませんでした。

 実は、例のロッカーでの出来事が私の頭の中ではまだ尾を引い
ていたのでした。
 あれは微かに触れた程度なのに、私の鼻の頭はあの時の感触を
覚えているのです。
 父の膝を見ても、それが鮮明に蘇ります。

 『お父さんだって同じ物を持ってた』
 そう思うと近寄れませんでした。

 「では、私は、夕食を済ませてからあらためてうかがいます」
 「まあ、先生、そうおっしゃらず、夕食はご一緒に……」
 母が止めますが……

 「いえ、合宿に入ると家族団欒で過ごせるのは食事の時ぐらい
ですから、そうした時は遠慮いたします。その代わりそれ以外の
時間はほぼ一日美香さんと一緒にいますので、そこはご承知おき
ください」
 先生はそう言って席を立ちました。

 ただ、部屋を出る時、私のブラウスの襟や棒タイを直しながら
……。
 「あなたはお父様の思われ人。女の子はね、そんな人を大事に
しなくちゃ生きていけないの。勝手は気ままは許されないわね。
いいから、お父様のお膝へ行って、いつものように甘えなさい」

 「えっ!」

 「これは命令。指導教官としての最初の命令よ」

 「命令?」

 「そう、命令。もし、私がこの部屋にいる間にお父様のお膝に
乗らなかったら、お仕置き」

 「えっ…だって……」

 「だってもあさってもないの。我を張って隣の子みたいになり
たくないでしょう」

 「隣の子って……(えっ!!!?)……(嘘でしょう!!)」
 私の脳裏に途中から昼間のお庭で出合った少女の映像が浮かび
ます。

 「……(何で、そんな事ぐらいでお仕置きされるのよ)……」
 そうは思いましたが枷に挟まれ裸で転がり込んで来た女の子の
事を忘れることは出来ません。ですから嫌でもお父さんのお膝に
乗るしかありませんでした。


 その様子を見て安心したのか、ケイト先生は一旦我が家を離れ
ます。

 一方、私はというと……
 お父さんのお膝に乗ってしまえば、もう昔の私でした。
 妹の香織とお父さんのお膝を奪い合います。

 私は全寮制の学校はお父さんお母さんに会えないから寂しいと
愚痴を言い、学校で起こったことをあれやこれや何でも話します。
 あること、ないこと、尾ひれをつけて……いったん話し始める
と止まりませんでした。

 でも、お父さんはそんな私の話を楽しそうに聞いてくれます。
 思春期になって、口うるさいお母さんとは口げんかすることも
多くなりましたが、お父さんとは昔のまま。
 口数は少なくとも、まるで大仏様に抱かれているような安心感
で、私を包んでくれます。

 そのせいでしょうか、お父さんって、私のお尻やオッパイに、
平気で手を伸ばしますが、私が抵抗したことはほとんどありませ
んでした。

 お父さんのお膝の上では、香織と二人、スカートがまくれ、シ
ョーツが見えても平気で笑っていられます。
 こんな場所、世界中探してもここだけでした。

 ここは私の秘密の場所。普段、学校ではお父さんの悪口ばかり
言っていますから、友達にはこんな姿は見せられませんでした。

 そんなお父さんが食事のあと、あらたまって私に宣言します。

 「私はここの規則だそうだから、一週間は美香と一緒に暮らす
けど、明日からはケイト先生がお前の親代わりだから、どんな事
でも先生に相談して、先生の指示に従って暮らさなきゃいけない。
いいね」

 「はい、お父さん」
 私が神妙に答えると……

 「ねえ、お姉ちゃん、今日からお仕置きなんでしょう。どんな
ことされるの?」
 香織がお父さんに抱きついて聞いてきます。

 でも、それには……
 「お仕置きなんかじゃないよ。お姉ちゃんは試練を受けるだけ。
お勉強をみてもらうだけさ。……そうだ、お前も、今学期は成績
が下がってたなあ、一緒にやってもらおうか」

 こう言うと、香織のやつ笑いながらお父さんの部屋から逃げて
行くのでした。


****** 見沼教育ビレッジ (8) ******

見沼教育ビレッジ (7)

****** 見沼教育ビレッジ (7) ******

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。
 キャシー……ふだんから襟足を刈り上げたオカッパ頭で、短い
       フリルのスカートを穿いている。お転婆で快活な
       少女。ケイト先生は元の指導教官で、離れた今も
       会えばまるで仲のよい親子ようにじゃれあう関係。
 堀内先生……普段は温厚なおばあさん先生だが、武道の達人で
       たいていの子がかなわない。美香が卒業するまで
       ケイト先生からキャシーを預かっている。
 樺山先生……規律担当の先生。四十過ぎの中年で黒縁メガネと
       タイトスカートがトレードマーク。『疑わしきは
       お仕置き』というのが信条。
 峰岸駿………男子エリアで暮らす高校2年生。背が高く美形。
       夜這い事件では恵子ちゃんの罪も被ってしまう。

 その他……百合子先生。/お隣りの子の指導教官
      京子先生/体育の先生。お仕置きも多く陰険との噂
          もあるが、生徒たちからは好かれている。

**************************
 
 「あなた、私が何も知らないと思ってるの」

 樺山先生はそう言って、恵子ちゃんに皺くちゃになった一枚の
便箋を突きつけます。

 すると、恵子ちゃんはそれを受け取りはしましたが……
 押し黙ったまま、それを開いて読もうとはしませんでした。

 「あなた部屋のゴミ箱から出てきたわ。こういうものは人目に
つかないように処分するものよ。それもしないで、炭焼き小屋へ
遊びに行くなんて……あなたもずいぶん舞い上がっていたのね」

 「……私……」
 恵子ちゃんは、何か言わなければならないと思っていたのかも
しれませんが、声にできたのはそれだけでした。

 「そこには、あなたが、炭焼き小屋で待ってるから来て欲しい
と書いてあるわ。……あなたにしては、随分と積極的ね」

 「…………」

 「駿君は好青年だから、きっと男義を出して罪を被ってくれた
んだと思うわ。……おかげで、あなたは人前でお尻を出さないで
すんだわけだから……そりゃあ、あなたにとっては大ラッキーで
しょうけど……それで、片付けていい問題かしらね」

 「……私は……何も……そんなこと……駿ちゃんに頼んだわけ
じゃないし……」
 恵子ちゃんの言葉は途切れ途切れ。まるでオシッコにでも行き
たいかのようにもじもじした様子で弁明します。

 「そりゃあ、あなたが頼んでないのはそうでしょうね。私も、
このことは彼が独りで判断したことだと思うわ。でも、それでは
私の気持がすまないの」

 「そんなあ、だって、あれは、さっき終わったことでしょう。
……それに……私が彼を呼んだっていう証拠はあるんですか?」
 恵子ちゃんは、やばいことになったと思い、思わず言葉に力が
入ってしまいます。

 でも、それって樺山先生には逆効果でした。

 「あなた、何か勘違いしてるわね。駿君がお尻をぶたれたこと
でこの件が全て終わった訳じゃないのよ。あれはあくまであなた
と駿君が逢引したことを咎めただけ。その罪の清算がすんだだけ
だわ」

 「どういうことですか?」

 「だって、あなたは駿君をここへ呼び寄せる手紙を書いて彼に
渡してるみたいだし……炭焼き小屋の鍵だって、部外者の駿君が
そのありかを知ってるはずがないでしょう。そもそも、消灯時間
を過ぎて外出するのは重大な規則違反よ」

 「だって、あれは……………………」
 恵子ちゃんはそう言ったきり言葉が繋がりませんでした。

 「だってあれは駿君が無理やり私を脅して…とでも言いたの?」

 「…………」
 恵子ちゃんが恐々頷きますと……

 「あなた、警備員のおじさんに発見された時、どんな格好して
たかわすれたの?」

 「……(えっ?)……」

 「最もお気に入りのワンピース姿で……普段は宝石箱に入れて
あるリボンをしてなかったかしら?……脅されて連れ出されたと
いう人が、わざわざそんな粧し込んだ格好で外に出るかしらね?」

 「…………」
 恵子ちゃん、真っ青で足元が震えています。
 もう、何も言えないみたいでした。

 そんな恵子ちゃんに樺山先生は追い討ちをかけます。
 「それに大事なことを一つ……女の子の世界ではね、そもそも
証拠なんていらないの……証拠がないといけないのは男性の世界
だけよ。……女の子や子どもの世界では、親や教師は怪しいって
思えばそれで罪は確定。子どもは罰を受けなければならないわ。
……知らなかった?」

 樺山先生の笑顔は私たちにも不気味に映りました。

 「あなたには、消灯時間を過ぎて外出した規則違反で罰を与え
ます」

 「だって、あれは、駿ちゃんに脅されて……無理やり……」
 恵子ちゃんは必死になって最後の自己弁護を試みましたが……

 こんな時、女の子にはよく効く薬がありました。

 「お黙り!!!」
 と一言。

 樺山先生の剣幕に、恵子ちゃんも口を閉じるしかありませんで
した。

 「あなたが独りで炭焼き小屋へ行くところは何人かの人が見て
るけど、その時、駿君が一緒だったと証言した人は誰もいないの。
駿君の証言は嘘だと思ったけど、どうせあなたをかばってのこと
だろうと思ったから許したの。あなたもそれはそれとして駿君の
好意を受けていいのよ。但し、罰は罰としてちゃんと受けなさい。
事実を捻じ曲げることは許さないわ」

 「だってえ~……」
 恵子ちゃんは甘えたような声をだします。
 それって、男性には有効かもしれませんが……

 「いい加減にしないと、街じゅう素っ裸で歩かせるわよ」

 樺山先生、最後は語気荒く言い放ったのでした。

 その剣幕は隠れている私たちにも伝わります。
 ですから、そ~~~と、そ~~~と退散しました。

 結局、この時の罰で恵子ちゃんは管理棟1Fの床磨きをさせら
ることになりました。
 みんなの前で鞭でぶたれることを考えれば、この方がよかった
のかもしれませんが、誰もが通る1Fロビーで掃除婦さんみたい
なことをやらされたわけですから、お嬢様育ちの恵子ちゃんには
辛い罰でもありました。


 さて、私たちの方のその後なんですが……
 私は、こんな危ない目にあってはたまらないとばかり帰ること
を提案したのですが、キャシーの奴、聞き入れませんでした。

 そこで、渋々二件目の覗き見を敢行することになります。

 一軒目は、それでも大道具の陰からこっそりでしたから、まだ
足場もしっかりしています。でも、二件目は、もっと危ない場所
からの観察だったのです。

 実は私たちのいる道具部屋と男性用の控え室は大きなロッカー
で区切られていました。
 そこで、キャシーの提案は、部屋を間仕切るロッカーの破れた
背板の部分から進入。その鍵穴から向こうの部屋を覗こうという
わけです。

 一人一個の割り当てではありましたが、それにしても中は狭く
足場も悪いですから、当初から困難は承知の上でした。

 「ねえ、こんなことして、本当に大丈夫なの?」
 キャシーに尋ねると……
 「大丈夫よ。たしかここには使用禁止の張り紙がはってあった
はずだから、このロッカーへは荷物を入れないはずよ」

 私はキャシーの言葉を信じてやってみることにします。
 いえ、私も峰岸君をもっと間近で見られるチャンスだと思い、
乗ったのです。
 ただ、今にして思えば、若気の至りと思うほかはありませんで
した。

 たしかに、ロッカー自体はキャシーの言う通りでした。
 窮屈でしたが、鍵穴から向こうの部屋が見えます。会話も聞こ
えます。峰岸君が、例の褌姿でテーブルに寝そべり、梶先生から
お尻にお薬を塗ってもらっているところがバッチリ見えます。

 予想していたより少し遠い位置でしたが、でも、これなら十分
楽しめます。
 私はルンルン気分だったのです。

 ところが、しばらくしてお薬を塗り終わると峰岸君はテーブル
を下りどっかへ行ってしまいます。

 『えっ!?どこへ行ったのかしら?』
 鍵穴というのは狭いですから広い範囲が見えません。

 峰岸君がいったん視界から消えるとどこへ行ったのかまったく
分からなくなってしまったのでした。

 そして、心配して探し回ること十数秒、彼はいきなり私の鍵穴
の前に現れます。

 『えっっっっっっっっ!!!!!』
 私は慌てます。

 でも、私が目の前のロッカーに潜んでいるなんて駿君知る由も
ありません知りませんから、悠然として最後の下着を外し始めた
のです。

 『あっ……あわわわわわわ』
 もちろん、声なんて立てられません。

 そして、今度はいきなりロッカーのドアが開いたのでした。

 驚いたの何のって……
 いえ、正確にはその暇さえなかったかもしれません。
 駿君の荷物の上に乗っていた私は、泡を食った拍子にそこから
転げ落ちます。

 でも、悲劇はそれだけではありませんでした。

 慌てた私はその場ですぐに膝まづいたのです。
 裸の男性の足元で膝まづく。それがどういう結果に繋がるか。
もちろんその時はそんな事を考えて行動する余裕がありません
から、それって一瞬の出来事です。

 私の感覚では、ロッカーが開いた瞬間、辺りが明るくなって、
もう次の瞬間は、私の目の前に彼の一物がぶら下がっていた。
 そんな感じでした。

 でも、人間不思議なもので、だからってすぐには反応しません。
その色、形、大きさ……その全てを目の前でじっくりと見てから、
私は我に返り悲鳴をあげたのでした。

 しかも、片手でそれを思いっきり払い除けた反動で、そいつが
鼻に先にちょこんと当たるというおまけまで付いて……
 もう散々でした。


 その後は、どこをどう逃げたのか自分でもわかりません。
 とにかく、夢中であえいでいるうち外に出られた。そんな感じ
でした。

 「あら、随分時間がかかったのね。ケイト先生、あなたたちを
探しに行かれたのよ。キャシーはまだなの?」

 堀内先生に出合いましたが、どうして本当の事が言えましょう
か。
 「それが……途中で、キャシーとはぐれちゃって……」
 そう言ってもじもじするしかありませんでした。

 そのうち、思いがけない場所からすました顔でキャシーが現れ
ます。彼女もきっとあれから隙を見て逃げてきたんでしょう。
 もちろん、堀内先生に彼女も本当のことは言いませんでした。

 「ここのトイレが混んでたんで、ちょっと遠くまで行って借り
たんです」
 なんて言っていましたけ……思えば、女の子の口は嘘ばっかり。
これじゃあ、女の子はみんな天国へは行けないかもしれません。


 さて、しばらくするとケント先生も戻り、私たち四人は再出発。
でも、野外劇場で時間を使ってしまったこともあり、私たちは、
もうこれ以上この公園に留まっているわけにはいきませんでした。

 公園を出て街に戻るとキャシーの家を確認。彼女とは、そこで
別れて、私は再びケイト先生と二人になります。

 すると、先生が信じられないことを言うのでした。

 「どう、峰岸君の裸は魅力的だったかしら?」

 「えっ!!!」
 私の顔色が変わります。
 だって、今の今の出来事なんですから……

 「ああ、立派なお尻でしたね。あんなにぶたれたら可哀想……」
 私は、引きつった笑顔で答えます。

 でも……
 「そうじゃないの。あなたたち、峰岸君を訪ねて楽屋へ行って
きたんでしょう。怒らないから言ってごらんなさい」

 やっぱり、あのことばれてたみたいでした。

 「それは……」
 私は返事に困ります。

 すると……
 「梶先生がね、『そういえば、二匹の可愛い鼠さんたちが遊び
に来てましたよ』って教えてくださったのよ。一匹はあなたよね。
そして、もう一匹はキャシー。……違う?」

 私、色々考えたのですが……結局は……
 「ごめんなさい」
 ということになったのでした。

 「いいのよ、気にしなくも……どうせ、キャシーに誘われたん
でしょうから……それにね、異性の裸に興味があるのは何も男性
の専売特許とは限らないわ。女の子だってそれはあって当然よ。
ただ、このことは、堀内先生には言わないようにね。あの先生、
腰を抜かすともう二度と立てないかもしれないから……」
 ケイト先生は笑っています。
 そして、それだけ言うと、あとは何も言いませんでした。


 そうこうするうち、私たちはここで暮らすための自分の家へと
戻ってきました。

 すると……
 郵便受けには、両親、それに妹の名前が追加されています。
 玄関を入れば、見覚えのある靴が並んでいました。

 そこで居間へと行ってみると……
 お父さん、お母さん、香織、みんなそこに揃っています。
 家族の顔を見ただけなのに涙が溢れます。
 今日一日の中で、こんなに嬉しいことはありませんでした。

****** 見沼教育ビレッジ (7) ******

見沼教育ビレッジ (6)

***** 見沼教育ビレッジ (6) *****

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。
 キャシー……ふだんから襟足を刈り上げたオカッパ頭で、短い
       フリルのスカートを穿いている。お転婆で快活な
       少女。ケイト先生は元の指導教官で、離れた今も
       会えばまるで仲のよい親子ようにじゃれあう関係。
 堀内先生……普段は温厚なおばあさん先生だが、武道の達人で
       たいていの子がかなわない。美香が卒業するまで
       ケイト先生からキャシーを預かっている。
 樺山先生……規律担当の先生。四十過ぎの中年で黒縁メガネと
       タイトスカートがトレードマーク。『疑わしきは
       お仕置き』というのが信条。
 峰岸駿………男子エリアで暮らす高校2年生。背が高く美形。
       夜這い事件では恵子ちゃんの罪も被ってしまう。

 その他……百合子先生。/お隣りの子の指導教官
      京子先生/体育の先生。お仕置きも多く陰険との噂
          もあるが、生徒たちからは好かれている。

**************************


 最初の12回が終わると、樺山先生は少し荒い息でした。
 そこで少し呼吸を整えてから……

 「では、次はズボンを脱いで行います」
 こう宣言して、彼のズボンを脱がしにかかったのですが……

 「先生、それは私が……」
 こう言って梶先生が手伝います。
 恐らく、ご婦人が紳士のズボンを脱がすというは、お仕置きで
あってもあまりエチケットにないと思って、手を貸されたのかも
しれません。

 いずれにしても、峰岸さんのズボンは脱がされ、私の目の前に
彼のトランクスがで~んと現れました。

 「いやん」
 私はまたキャシーの肩を借ります。

 私の家族は父を除けば女所帯ですから、男性の裸、たとえ下着
姿であってもそんなものを見る機会があまりありませんでした。

 もちろん、父と私は、幼い頃一緒にお風呂に入っていましたが、
父親というのは、性別は男であっても、男性としては見ないもの
なのので、その時は何も感じませんでした。

 そんな様子は、でもキャシーには不思議なものと映るようで…
 「ほら、何カマトトぶってるのよ」
 肩を揺すって私の顔を跳ね上げると……
 「そんなリアクションは、金玉でも見た時に取っておいた方が
いいわ」
 なんて言われてしまいます。

 私は顔が真っ赤に火照っていました。
 だって『金タマ』なんて日本語、意味は知ってはいても一回も
使ったことなんてありませんから、そりゃあ驚きます。

 『この人、どんな育ちをしてるのかしら?』
 とも思いました。

 席を立とうかとも考えましたが、でも、そうこうするうちに、
舞台では第2ステージが始まってしまい、今さら、この場を離れ
にくくなります。

 そこで、再び前を向くことに……
 そこには峰岸君(先輩だけどあえてこう呼びます)の引き締ま
ったお尻がで~んとありました。

 そこへ、樺山先生の鞭が飛んできます。

 「いいこと、邪まな心をあらためなさい」
 これから先はお説教付きです。
 そして、そのお説教の後に……

 「ピシッ」
 鞭が飛びます。

 「はい、先生」
 ズボンを穿いていても大きな音がしていましたが、下着になる
と、鞭音も変わって、だぶだぶのトランクスを揺らします。

 「……(ふぅ~)……」
 まだ下着でしたけど、私は目のやり場に困りました。

 というのも、あのトランクスのなかで、男の子の大事なものが
揺れているかと思うと、目をつむっていてもそれが脳裏に浮かん
できてしまいます。

 「女の子を忘れる最も手っ取り早い方法は、他に夢中になる事
を見つけることよ」

 「ピシッ」
 また、トランクスが揺れ、太股が揺れ、お尻が揺れます。
 すると、また例の妄想が……

 「はい、先生」
 峰岸君の声は、依然、涼やかでしっかりとしています。
 それって、今まで鞭でぶたれていないかのようでした。

 『すごいなあ男の子って…あんなにぶたれても平気なんだもん。
まるでスーパーマンだわ』
 変なことに感心しますが、それでも私のドキドキは別でした。

 「約束しなさい、あの子とはもう付き合わないって……」

 「ピシッ」
 もう、どうしていいのか分かりません。とにかくこれ以上見て
いたら、私の恥ずかしい場所が濡れだすのは目に見えてます。
 ですから、とりあえず目をつぶるしかありませんでした。

 「はい、先生、約束します」
 私は峰岸君の声を聞きながらも、目を閉じ、耳を両手で塞いで
下を向きます。

 「本当に約束できますか?」
 「ピシッ」
 「はい先生」

 「本当に大丈夫?」
 「ピシッ」
 「大丈夫です」

 「本当に大丈夫?約束できるかしら?」
 「ピシッ」
 「大丈夫です。約束します」

 私はどんなことがあっても峰岸君のお仕置きが終わるまで目を
つぶっていようと思ったのですが……

 「?」

 それまで規則正しく打ち込まれていた鞭音が、ある時ぴたりと
やみます。

 すると、不思議なもので、それはそれで気になって、やっぱり
目を開けてしまうのでした。

 すると、私の視界に最初に飛び込んできたのは……にこやかに、
樺山先生がご自分のケインを梶先生に手渡しているところでした。

 「あとは、お願いします、先生」
 どうやら、半分の18回が終わったところで選手交代という事
のようでした。

 でも、バトンを渡された梶先生というのは見るからにお年寄り。
普段から腰が少し曲がっているようにも見えます。ですから私…
 『これで、峰岸君もだいぶ楽になった』
 と思ったのです。

 ところが、ところが……

 「ピシッ」
 たった一撃で峰岸君の背中が反り返ります。

 ただ、梶先生の鞭は、先ほどの樺山先生の鞭に比べてもそんな
に高い音ではありませんでした。

 「ピシッ」
 続けて二発目が飛んできます。

 峰岸君、思わずうつ伏せになっている机に力一杯引き寄せます。
 これって、もの凄く痛い思いをした時のシグナルでした。

 鞭打ち用のテーブルは、机の幅が肩幅より若干広い程度にしか
ありませんから、みんな机を抱くようにして痛みに耐えます。

 きっと、この時は峰岸君は相当に痛かったんだと思います。
 机が浮き上がりそうでした。

 「ピシッ」
 さらに三発目。
 「ひぃ~」
 峰岸君が初めて声を上げました。女の子みたな悲鳴じゃありま
せんけど、その低い声は私の耳にもはっきりと聞こえました。

 「ピシッ」
 四つ目。

 「うっ……」
 また押し殺したようなうめき声。
 それって『僕は男の子だから、悲鳴なんか上げないぞ』という
やせ我慢にも聞こえます。

 でも、不思議でした。
 梶先生は樺山先生のように大きく振りかぶってなんかいません。
その鞭はせいぜい肩の高さくらいまでしか上がっていないのです。
ちょんちょんって軽く叩いているように見えます。なのに、樺山
先生の時より峰岸君ははるかに痛そうでした。

 「ピシッ」
 五つ目。
 相変わらず鞭の当たる音は低く、鈍い音に感じられます。

 「あっ、あああああ」
 その耐えられない痛みからくるうめき声は、今度ははっきりと
聞こえました。

 それって、もちろん私がぶたれていたわけではありませんが、
もう聞いてるだけで辛いうめき声だったのです。

 「ピシッ」

 「ひぃ~~~」
 パンツ姿の最後は少し強めだったみたいで、両手で握った机が
もう一度持ち上がろうとします。
 峰岸君は男の子の意地でやっとそれを止められた感じでした。

 鞭のお仕置きは慣れない子には拘束をかけますが、慣れた子や
上級生に対しては机に備わった革ベルトでの拘束はしません。

 これって一見すると拘束されない方が楽なように思われるかも
しれませんが、実際は逆で、お仕置き中はどんなにキツイ痛みが
襲っても、自分で自分を自制して、自分の体がテーブルから浮き
上がらないようにしなれければなりません。
 これがとっても大変だったのです。

 鞭のお仕置きでは、男女を問わずほんのちょっとでもテーブル
から身体を離せば、新たなお仕置きが追加される規則になってい
ました。


 『終わったあ』
 わたしは、梶先生が一息ついたので、これで終わりかと勝手に
思ってしまいましたが、36回のうち、終わったのは24回分。
まだ、あと12回分が残っていました。

 そこで、梶先生が峰岸君のお尻の方へやってきた時も、きっと
ズボンを元に戻してあげるんだろうと勝手に解釈していたのです。
 ところが……

 「…………」
 梶先生はズボンを穿かすんじゃなくていきなり峰岸君のパンツ
を下ろしたのでした。
 当然。峰岸君の引き締まったお尻が私の目の前に現れます。

 「いやあ!!」
 私に思い違いがあった分反応が遅れて素っ頓狂な悲鳴を上げる
ことになりました。

 当然、その声は周囲の人たちに聞こえたはずで……
 「ちょっと、変な声出さないでよ」
 キャシーに注意されます。

 すると、私はここでもう一つ思い違いをしていました。

 つまりパンツを脱いだ峰岸君の下半身は丸裸だと思ったのです。
 いくらうぶな私でもお父さんとお風呂に入ったことがあります
からそうなったら何が見えるかぐらいは分かります。
 それで、びっくりしてしまって声をあげたのでした。

 私は両手で顔を覆い、そこは見ないようにしていました。目も
つぶっていました。

 でも……
 「ピシッ」という鞭音は相変わらずですし……
 「うっっっ」という峰岸君の息苦しい悲鳴も相変わらずです。

 すると……
 数発後には、やっぱり目が開いてしまいます。

 そして、次の鞭音が聞こえると……
 私は禁断の指の扉を開いて、再び峰岸君のお尻を確認すること
に……

 峰岸君のお尻には、すでに赤い鞭傷が何本も入っていましたが、
私の目的はそれではありませんでした。

 「…………」
 私は悲鳴を上げて拒否しておきながら、それって変かもしれま
せんが、今度はアレを探してしまうのでした。

 ところが……
 「えっ?……何?……」
 目的のものは見つかりません。

 分かったのは、峰岸君が純粋な裸ではないということでした。
 彼は、パンツの下にお祭りなんかで男性がよく穿いている褌を
しめていたのです。
 ですから、目的のものは見つからないわけです。

 すると、人間勝手なもので、ほっとしたという思いのほかに、
『あ~あ、残念』という思いが混じれます。
 しかもその声が思わず独り言となって口から出てしまいます。

 「なあんだ、褌は着けてるんじゃない」

 すると、キャシーが私を振り返り……
 「ん?…………残念だった?」
 って、隣りで笑うのでした。

 私は、慌てて……
 「そんなことないわよ。変なこと言わないでよ」
 と否定しましが、本心は違っていました。

 そんな私の心を見透かすようにキャシーは頭の天辺からつま先
まで私の体の全てを一度じっくり眺めてから元の姿勢に戻ります。


 一方、舞台はいよいよ佳境に……
 「ピシッ」
 「これからは、心を入れ替えるんだな」
 それまで黙って峰岸君のお尻を叩いていた梶先生も最後の数発
ではお説教をいれます。

 「はい……先生……申し訳ありませんでした」
 苦しい息の下で峰岸君が答えます。

 もちろん最後の方は痛みが蓄積しますからその分は差し引いて
考えなければならないでしょうが、それにしても、樺山先生の時
と比べたら峰岸君の疲労度は雲泥の差です。

 ですから……
 『そんなに、たいして力入れてないみたいなのに、凄いなあ。
あんな強そうな男の子を息絶え絶えにしちゃうんだもん』
 私は変なことに感心してしまうのでした。


 公開処刑が終わり周囲の人たちが席を立ち始めるとケイト先生
たちが迎えに来ましたが、ここでキャシーが……

 「すみません、ちょっと、おトイレ…行って来ていいですか?」
 と尋ねます。

 そして、先生の許可が下りると……
 「美香、あなたも行かない」
 と私まで誘います。

 「私は……」
 その瞬間、断ろうとしたのですが……

 「いいから、付き合いなさいよ」
 キャシーはそう言って私の手を引きます。

 『まあ、仕方ないか……』
 そんな心境でした。

 「それじゃあ、ちょっと失礼して二人で行ってきます」

 キャシーは満面の笑みで二人の先生にご挨拶すると、私の肩を
抱いて出かけます。

 そのトイレですが、実はこの舞台の裏手にありました。

 行ってみると、それなりの人が見物していましたからトイレも
混んでいます。
 ただ、キャシーははじめからその列に並ぶつもりはありません
でした。その代わり……

 「こっちよ」
 私の袖をひいて同じ劇場裏手にある建物のドアを開けるのです。

 「何なの?」
 私がいぶかしげに尋ねると、人差し指を唇に当てて……
 「いいから、黙って!絶対に声を出しちゃためよ。面白いもの
見せてあげるんだから」
 そう言って中へ入っていきます。

 そこは舞台でお芝居をする時にでも使うのでしょうか、色んな
小道具や大道具が仕舞われている道具部屋でした。

 「何なの、ここ?」
 私は心配になって尋ねますが、キャシーは……
 「いいから、いいから、とにかく黙って……」
 と言うだけだったのです。

 そして、その薄暗い部屋の片隅へと私を連れて行きます。

 すると、何やら人の気配が……会話も聞こえます。
 キャシーが指を指しますから、何事かと思って覗いてみますと、
その壁のすき間から樺山先生の姿が……それだけじゃありません、
あの舞台では存在感のなかった恵子ちゃんの姿も見えたのです。

 恵子ちゃんはすでに着替え始めていました。
 私はそこで初めて恵子ちゃんもまたその時に備えてTバックを
穿いていたことを知ったのです。

 『そうか、いくら公開処刑と言っても、大事な場所まで丸見え
なんてことはないのか』
 なんて、ここでも変な事に感心してしまいます。

 すると、ここでキャシーが私に耳打ち。
 「ここは舞台の控え室なの。向こうにもう一つあるわ。きっと、
峰岸君たちはそっちを使ってるはずよ」

 どうやらキャシーのお目当ては峰岸君。こちらは的外れみたい
でした。ですから、私たちは部屋の反対側へ、峰岸君のいる部屋
へ場所を変えようとしたのでした。

 ところが……
 その時でした。ちょっとした事件が起こったのです。

 「パシ~ン」
 二人の逃げ足を止めたのは、平手打ちの甲高い音。

 見ると、ぶったのは樺山先生。ぶたれたのは恵子ちゃんでした。

***************(6)**********

見沼教育ビレッジ (5)

         見沼教育ビレッジ (5)

******<主な登場人物>************

 新井美香……中学二年。肩まで届くような長い髪の先に小さく
       カールをかけている。目鼻立ちの整った美少女。
       ただ本人は自分の顔に不満があって整形したいと
       思っている。
 ケイト先生…白人女性だが日本生まれの日本育ちで英語が苦手
       という変な外人先生。サマーキャンプでは美香の
       指導教官なのだが、童顔が災いしてかよく生徒と
       間違われる。彼女はすでに美香の両親から体罰の
       承諾を得ており、お仕置きはかなり厳しい。
 キャシー……ふだんから襟足を刈り上げたオカッパ頭で、短い
       フリルのスカートを穿いている。お転婆で快活な
       少女。ケイト先生は元の指導教官で、離れた今も
       会えばまるで仲のよい親子ようにじゃれあう関係。
 堀内先生……普段は温厚なおばあさん先生だが、武道の達人で
       たいていの子がかなわない。美香が卒業するまで
       ケイト先生からキャシーを預かっている。
 樺山先生……規律担当の先生。四十過ぎの中年で黒縁メガネと
       タイトスカートがトレードマーク。『疑わしきは
       お仕置き』というのが信条。
 峰岸駿………男子エリアで暮らす高校2年生。背が高く美形。
       夜這い事件では恵子ちゃんの罪も被ってしまう。

 その他……百合子先生/お隣りの子の指導教官
          京子先生/体育の先生。お仕置きも多く陰険との噂
                もあるが、生徒たちからは好かれている。

**************************

 美香とキャシー、それに二人の先生たちは、東屋を離れると、
林を抜けて公園の奥へと入っていきます。

 このあたりは広い原っぱになっていました。
 天然の芝がはりめぐらされ、アンツーカーの赤い土がその芝を
取り囲んでいます。

 「まるで、陸上競技場みたいね」
 美香が言うと……キャシーが……
 「だって、ここ、そうだもん。サイズは少し小さいけど、ここ
で体育の授業をやるのよ」

 「体育かあ、私、苦手だなあ……」
 と美香……でも、それをキャシーが励まします。
 「大丈夫よ。運動と言っても、たいていダンスだから。激しい
運動はあまりしないの。ほら、あそこでやってるでしょう。……
激しい運動をさせられるのはお仕置きの時だけよ」

 キャシーの視線の先では、女の子たちがフォークダンスを練習
している。そのカセットで流す音楽が、かすかに二人の歩く場所
まで届くのだ。

 「よかった、体育ってダンスなのね。だったら、私でも何とか
なるわ」
 美香は安堵の色だが……
 「ただし、真面目にやらないとだめよ。……サボってると……
ああなるから……」

 キャシーがそう言って振り返った瞬間だった、二人の女の子が
赤いアンツーカーを全速力で駆け抜け、おしゃべりしながら歩い
ている二人を追い越していく。

 「えっ!!!何?……どういうこと???」
 美香は、その瞬間、狐につままれたような顔になった。

 今、追い越して行ったランナー、帽子を目深に被り、靴と靴下
は確かに穿いていたのだが……それ以外、何も身につけていない
ように見えたのである。

 「ねえ、今の子たち……たしか、服……着てなかったよね」
 美香が確認すると、キャシーはあっさりしたものだった。
 「そうよ、裸だった。それがどうかした?」

 「えっ?」

 驚く美香の顔を見て、キャシーは美香にはそれでは足りないと
悟ったのだろう。言葉を足してくれた。

 「体育の京子先生って陰険なのよ。一通り教えたあと、『それ
では、各自、自主練習』なんて言ってその場を離れるんだけど、
その実、どっかで様子をうかがってて、サボってる子がいると、
ああして全裸でトラックを走らせるの。……裸で走るとねえ……
お股がすれて痛いのよねえ……」
 最後は苦笑するような顔になる。

 「キャシー、あなたも、やられたことあるの?」

 「あるわよ。そのくらい」
 キャシーは自慢げに笑い…
 「私、そんなに良い子に見える?」
 と続ける。
 『新参者をからかってやろうか』
 そんな感じの笑い顔だった。

 「ここって、すぐに裸にさせるのね」
 「まあね、周りに女の子しかいないし、やりやすいんでしょう。
でも京子先生は特にそうよ。……ほら、あそこでサングラスして
生徒たちを怒鳴りまくってるでしょう。……あの人よ」

 「あっ、今、お尻叩いた」
 美香が声を上げると……

 「そうそう、あの先生の鞭は樫の棒なの。折れてもいいように
何本もストックがあるわ」

 「樫の棒って、痛いの?」

 「当たり前じゃない。痛くない鞭じゃお仕置きにんらんいじゃ
ない。……だけど、他の先生がよく使うゴム製の鞭とは感じ方が
違う痛みなの。男の子の痛みっていうのかなあ……お尻の皮じゃ
なくてお尻の中、筋肉が痛いのよ。あの先生、ミストレスだから、
ちょっとした規律違反でも口より先に平手が飛んで来て、次は、
すぐに裸にされちゃうの。生徒とっては要注意の危険人物だわ」

 「ほかの先生は?」
 「京子先生よりましだけど……どの先生も学校の先生と比べた
ら大変よ」
 「厳しいの?」
 「当然そう。みんな立派なサディストよ。女の子を虐めるのが
楽しくて仕方がないって感じだもん。一度ね『男の子より厳しい
なんておかしい』って不満を言ったら、『女の子はあれこれ指図
しないと自分じゃ動かないから体罰は男の子以上に必要なんです』
って、怒鳴られちゃったわ」

 「……(そうか、ここって男の子より厳しいところなんだ。私、
やっていけるかな)……」
 美香は今さらながらここが怖い処だと思ったが、ふとした疑問
をキャシーにぶつけてみる。

 「ねえ、あなたは大丈夫なの?こんな処にいて……」

 「大丈夫じゃないよ。毎朝、浣腸されて、鞭でお尻叩かれて、
何かあればすぐに裸にされて……その日その日でまちまちだけど、
今日一日よい子でいなかったら、夜はお灸だってあるんだから。
今でもちっとも大丈夫じゃないけど、……でも、慣れるのよ」

 「慣れる?」

 「そう慣れちゃうの。最初は私だって、浣腸も、鞭も、裸も、
お灸も、何かやられるたびに暴れて悲鳴上げて、抵抗できるたけ
抵抗してたんだけど、それが、そのうち生活の一部みたいになっ
ちゃって、苦痛じゃなくなるの。それに二年もここにいるとね、
先生たちの癖みたいなものがわかってくるから、こちらもそれに
応じた対応ができるようになって罰を受ける回数も少なくなった
わ」

 「じゃあ、あの東屋にいた先輩はまだ慣れてない人なの?」

 「そういうわけじゃないわ。……ただ、人間って、罰を受ける
ことは承知しててもやりたいこと、やらざるを得ないことっての
がでてくるのよ。今日の公開処刑だって、二人ともそれを犯せば
どうなるかは知ってたはずよ。……でも、やめられなかった……
そういうことじゃない」

 「キャシーさんて……考えが深いんですね」

 それまで軽い人間だとばかり思っていたキャシーのこんな一面
を見て、美香は感慨深げにつぶやく。
 すると、彼女は彼女でこう返すのだ。

 「あなた、私がケイト先生にべたべたしてたから、『こいつ、
そんな人間か』って思ったんでしょう」

 「私はべつに……」
 美香は慌てて否定したが……

 「女の子は色んな顔を持ってて、それを相手に応じて使い分け
なきゃいけないの。……それは、私もここへ来て習ったわ。……
あっ、そうだ。東屋ってあそこだけじゃないの。まだ、三四箇所
あるから、暇なら一緒に回ってあげてもいいのよ」

 「いえ、結構です」
 美香はそれも慌てて否定する。

 「そりゃそうよね。私たちが女の裸見ても楽しくないもん。…
…それは見られる方だって同じように思ってると思うわ。きっと
『あんたたち暇ね』って顔されるだけだもんね」
 キャシーは、裸にされるお仕置きなんて大したことじゃないと
言わんばかりのしたり顔で美香を見つめたのだった。


 さて、そんな二人から50mほど後ろを歩いていた二人の先生。
彼女たちはあえて生徒のすぐそばには寄らず常に少し離れた場所
を保っていた。

 「ケイトさん、私、サディストかしらね」
 堀内先生が、突然、ケイト先生に尋ねる。

 自分たちは内輪の話と思って話していても、子どもの声という
のは自然と大きくなってしまうもの。ひそひそ話のつもりでも、
二人の話す声が風に乗って先生たちの耳にも届いていたのだ。

 「注意してまいりましょうか?」
 ケイト先生は先輩に気を使うが……
 「いいのよ、そんなことは……」
 おばあちゃん先生は笑顔で答える。

 「でも、ひょっとして、これみよがしに私たちに聞かせようと
して話しているのかもしれませんから……」
 再度、助言するケイト先生だが……

 「だったら、なおのこと聞いてあげなければならないわ。……
心遣いは嬉しいけど、生徒の私たちに対する評価や本音を聞く事
も教師としての大事な仕事だもの。ぴたっとくっついていたら、
彼女たち何も話さなくなってしまうもの……そうでしょう」

 「はい、先生」

 「私たちは、一般の学校では持て余すような子どもたちを沢山
抱えてるから、多くの場面で専制的になってしまうけど、それは
あくまで秩序を維持するため。神様になったつもりで、あれこれ
微細なことまで指示してはいけないわ。お仕置きだってそうよ。
正義を楯に何でもこれに頼ってると、そのうち子どもたちだって
こちらに向かって本音を語らなくなるの。お仕置きは、あくまで
子どもたちの為にやることで、こちらの都合は関係ないわ。……
『やられたからやり返すんだ』なんてのはお仕置きの理由として
は論外よ」

 堀内先生はベテラン先生らしく自説を力説するが、同時に裸で
走る少女たちを見ても、それがやりすぎだとは言わなかった。
 彼女にしてみても、今、ここで行われているお仕置きは許容の
範囲だと信じていたのである。


(美香の回想)

 その会場は東屋とは違って広い場所にありました。
 まるで野外ステージのような立派なドーム型の舞台があって、
それを見物するための客席も150席以上あります。

 『何なの、これ。……まるで劇場じゃない。……これじゃあ、
まるでショーだわ』
 私は野外ステージの一番後ろから全体を見渡してそう思います。

 実際、私の感想はそう大きく的を外れていませんでした。

 「あっ、もう始まってるじゃないの。急いで急いで」
 キャシーが私をせかせます。

 私たちが到着した時にはすでに舞台が始まっていて、客席では
50人ほどの観客がすでに事の成り行きを見守っていました。
 見渡せば、先生や生徒だけでなくこの村で働いている職員の人
たちの顔も見えます。

 「あっ、もう……何ぼ~っとしてるのよ。早く早く、いい席が
なくなっちゃうわ。こんなの後ろで見たって楽しくないんだから」
 再び、キャシーがはしゃぐように私をせき立てます。

 そして、観客席の前の方へ前の方へと行こうとしますから……
私……
 「いいわ、私、一番後ろ見てるから」
 と言ったのですが……

 「何言ってるのよ、そんな処じゃ肝心な物が見えないじゃない」
 キャシーは面倒とばかり私の手を引き、無理やり前の席を目指
します。

 「ここ、空いてますか?」
 目ざとく空席を見つけたキャシーが、品のよさそういご婦人に
声を掛けますと……
 「ええ、いいですけど……あなた、あの舞台の子とお友だち
なの?」
 と、席に置いていた荷物を取り片付けながら問い返してきます。

 するとキャシー。間髪をいれず、きっぱりと…
 「はい、そうです」
 と、答えたのでした。

 でも、これ嘘なんです。キャシーと舞台の子との間にはそんな
親しい関係なんてありませんでした。
 彼女、一番前の席で見たいばっかりに嘘を言ったのでした。

 というわけで、私たちは目の前が舞台という特等席で事の成り
行きを見学する事になります。

 私は、『こんな前で、恥ずかしい』と思いましたが仕方があり
ませんでした。


 その舞台では、中央に椅子とテーブルが出ていて、すでに二人
の規則違反者に対する尋問が始まっていました。

 テーブルの右側には、問題の女生徒とこちらの規律担当の樺島
先生。左側は夜這いに来たとされる男の子とやはりその規律担当
の梶先生が、それぞれ対峙しています。

 実はその男の子と女の子なんですが、二人とも頭からすっぽり
と大きな袋を被せられていましたから顔は分かりません。
 もちろん、罪を犯した子たちのプライバシーを尊重して、そう
しているわけですが……人間勝手なもので隠されると中が見たく
なります。

 あっちこっち見る角度を変えて袋の中の顔が見えないかと思い
ましたが、結局、見えませんでした。
 そこで……

 「ねえ東屋の時もそうだったけどさあ、あんな袋を被せられて、
あれって、苦しくないの?」
 私は小声でキャシーにこう尋ねてみました。

 すると……
 「大丈夫よ、私も何回か被ってるけど全然苦しくないわ。帽子
と同じ感覚よ。それに、あれ、荒い生地で出来てるから、こちら
からはその顔が見えないけど、被ってる方は外の景色や人の表情
が割とはっきり分かるの。……あなただってそのうち被らされる
でしょうから、その時わかるわ」

 キャシーが最後にドキッとするようなことを言うので……私は
思わず……
 「馬鹿なこと言わないでよ」
 と大声になってしまい……

 「お静かに……」
 と、さきほどの婦人から注意されてしまいます。


 そうこうするうち、舞台では逢引していた二人に対する尋問が
まだ続いてはいましたが、どうやら話はあらかた煮詰まってきた
ようでした。

 「そう、それでは、あなたは先月開かれた男女交流会の時に、
この子を見初めて言い寄ったけど相手にされなかったからここへ
夜這いに来て、それも相手にされなかったから、彼女を無理やり
炭焼き小屋へ連れ込んだ。…………こういう事でいいのかしら?」
 樺島先生は調書のようなものをとっていました。

 「はい、先生」

 「それで、あなた、深夜の炭焼き小屋で何をするつもりだった
のかしら?」

 「それは……」
 男の子の口が重くなります。

 「そんなこと聞くだけヤボかしらね。……ま、いいわ。でも、
こちらも心配だったから、この子の身体は調べたの」

 樺山先生はそう言って袋の中の男の子の瞳を見つめました。
 このくらいの近さなら、あるいはその子の瞳も見えていたかも
しれません。

 「……(ごくっ)……」
 一方、見つめられた男の子は唾を飲み込んだのがここからでも
わかりました。喉仏のあたりがしきりに動いていましたから。
 それって男の子にとっては緊張の一瞬だったんでしょうね。

 「……幸い、何事もないことがわかったわ」

 「……(ふう)」
 樺山先生に言われて、男の子がほっと肩を落とします。
 身に覚えなんかなくても、そこは気になるみたいでした。

 「ただね、これだけは覚えておいてほしいの。女の子ってね、
身の潔白を証明するだけでも心が傷つくのよ。だから、あなたも
これからは取り扱いには注意してね」

 樺山先生の言葉に相手方の規律委員、梶先生の口元も緩みます。
 実は樺山先生、この男の子のことを評価していました。
 というのも、彼が男の子らしく一人で罪を被る気でいるからで
した。

 『僕が恵子ちゃんを勝手に好きになって、無理やり炭焼き小屋
の鍵を持ってくるように迫ったんです』
 彼は最初からそう言ったそうです。全ての罪は自分にあります
と言いたかったのでしょう。
 でも、その潔さが、樺山先生には嬉しかったみたいでした。

 結果……
 樺山先生と梶先生が話し合い、夜這いについてのお仕置きが決
まります。

 「峰岸君。あなたには、鞭36回をケインで受けてもらいます
けど……いいですか」

 先生方の決めたことですから、今さら男の子が反対するはずも
ありませんが……ただ……

 「この袋、脱いでもいいですか?」
 と尋ねました。

 「いいけど、あなた、顔がわかってもいいの?」
 樺山先生が心配しますが……

 「いいんです。これ被ってると、熱いですから……」
 その時はまだ袋を被っていて、彼の表情を窺い知ることはでき
ませんでしたが、その時、袋の中の彼は何だか笑ってるみたいで
した。

 それで、彼、被り物を取ったのですが……
 そのルックスを見たとたん、私、震い付きたくなりました。

 「……(綺麗~~ここにこんな子いたの)……」
 その瞬間はきっとだらしなく口を開けて見ていたんじゃないか
と思います。

 立ち上がった峰岸君は細身で足が長く、被り物を取ると尖った
顎や切れ長の目がのぞきます。彫が深く整った顔は、まるで青春
映画のスターがそこにいるみたいでした。

 そんな彼が、手ぐしで前髪を書き上げた瞬間、私は自分の髪を
同じように撫でつけます。
 それって、彼のオーラが、今、私の頭にもふりかかったんじゃ
ないか……そんな妄想からだったのです。

 なるほど、こんな先輩に声を掛けられたら夢中にならないはず
はないでしょう。

 でも、最初はそうでも、その後は恵子ちゃんが、自分の方から
峰岸君にアタックをかけたに違いありません。ここへ呼び出した
のも彼女なら、炭焼き小屋の鍵を盗んできたもの彼女に違いない
と、私の女の勘はピピンと反応したのでした。

 そんな裏事情、女の先輩である樺山先生だって知らないはずが
ありません。
 ですが、ここは、せっかく恵子ちゃんを気遣ってくれた峰岸君
の顔を立ててあげることにしたみたいでした。


 ところで、峰岸君、彼が脱いだのは頭を覆っていた袋だけでは
ありませんでした。

 「それでは、準備して……」
 黒縁眼鏡、タイトスカート姿の樺山先生の顔が引き締まります。

 そこで峰岸君、こちらにお尻を向けてテーブルにうつ伏せにな
ったのですが、その際、自らズボンまで下ろそうとしたので……

 「あっ、いいわ。それは必要な時に私がやってあげるから」
 せっかく引き締まった樺山先生の顔がほころんで手が止まりま
した。

 ちなみに、男の子の場合は、女の子のようにたくさんの種類の
お仕置きを心配する必要がありません。男の子にとってお仕置き
といえば、大半が鞭でのお尻叩きと相場が決まっていたのでした。

 彼も、普段通りやることはやっておこうとズボンを脱ぎ始めた
のでした。


 「ねえ、キャシー。先生の持ってるの、あれケインじゃない?
……彼、大丈夫かしら」
 樺山先生が空なりさせている鞭を見て、私は心配になります。

 ケインは私たち女の子の学校では一番強いメッセージですから、
滅多に使われることがありませんでした。おまけにそれで36回
もだなんて絶句してしまいます。私にはそのこと自体信じられま
せんでした。

 ところが、キャシーはそうでもないみたいで……
 「大丈夫よ。彼、男だもん。私たちとは違うわ。それに慣れて
るはずだしね……ズボンの上からなら、どうってことないはずよ」
 「そんなあ、どうってことあるわよ」

 私には苦い経験がありました。
 私たちの学校では、新入生に、悪さをしたり怠けていたりする
とこれからどんな罰を受けるかを実際に体験させる行事があって、
私はケインを経験させられたのですが、他の子が見ているという
プレッシャーに押しつぶされたのか、そこでお漏らしを……

 入学早々赤っ恥なんてものじゃありません。
 以来、ケインを見るたびにオシッコに行きたくなってしまうの
でした。

 「ピシッ!!!」
 やがて、樺島先生の最初の鞭が峰岸さんのお尻に炸裂します。

 「きゃあ!」
 私が驚いてキャシーの二の腕にしがみ付くと……
 「よしよし、嫌だった見なけりゃいいの。目をつぶってなよ」
 まるで幼い子をあやすように言われてしまいます。

 再び…
 「ピシッ!!!」

 「きゃあ」
 青空に突き抜けるような甲高い鞭音だけで、思わず小さな悲鳴
をあげてしまいます。
 まるで、私がぶたれているみたいでした。

 「ピシッ!!!」

 当然ですが、鞭音はやみません。
 私はうっすらと目を開けて、その様子を確認しましたが、樺山
先生の鞭は、とても大きく振りかぶっていてから振り下ろします。
それって、私が過去に受けたものとは、同じ一撃でも質が違って
いました。

 「ピシッ!!!」

 『あんなの受けたら、私、一発で昇天するんじゃないかしら』
 そんなことさえ思いました。

 ただ、私のそんな思いは別にして、峰岸さんは悲鳴はもちろん、
足元さえも震えてはいませんでした。

 「ピシッ!!!」

 「すごいわ、やっぱり男の子って凄いのよ。いくらズボンの上
からでも、あんなに何回もやられて平気なんですもの」

 私の言葉は独り言のような呟きでしたが……キャシーがそれを
拾ってくれます。

 「だから言ってるでしょう。彼、この鞭に慣れてるのよ。……
それに樺島先生って、私たちにとっては恐い先生でも女性だもの。
……これが梶先生だったら、こうはいかないはずよ」

 「梶先生って誰?……ああ、向こうの規律担当の先生のこと?」

 「そうよ。あの先生がぶったらあんなに平然とはしてられない
はずよ」

 「だってあの先生、もう腰が曲がりそうなおじいさんじゃない。
いくらなんでも、あのおじいさんに比べたら樺島先生の方がまだ
ましよ。……若いし、力があると思うけどなあ」

 「そう思うでしょう。ところが、そうでもないの」

 私は半信半疑でしたが、やがて、キャシーの言ってる事実が、
目の前で起きます。


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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