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『天国へ行く夢』 ~ Hありません ~

 『天国へ行く夢』

 僕は、昔、天国というか天国のような場所に行く夢をよく見た。
気がつくと僕は盥のような小さな船に乗っていて川を下っている。
途中、いくつもの分岐点があって、そこには例えば『知性』とか
『素行』『忍耐力』『理性』なんて看板があってそこには誰かしら
が立っている。男性の時もあるし、女性の時もある。若者、老人、
そういえば大きな蛙とか白蛇とか人間でないものもあったけど、
僕の場合は蛇が嫌いだから、そんな時は全身の毛穴が開いて卒倒
しそうになるのだが幸いそこにいる人なり動物なりが僕に危害を
加えた事は一度としてなかった。

 僕を乗せた盥はやがてその分岐点を右なり左なりに流れていく。

 そうやって幾つもの分岐点を自分の意思とは無関係に通り過ぎ
ていくと、やがて、盥は大きな滝を流れ落ちる。
 その落ちていく瞬間、のどかな村の景色がちらりと見えるが、
そこがどこなのか皆目分からない。

 落ちていく滝壺までは何十メートルもある落差だから、これは
当然助からないと思いきや、僕の体はある巨大な女性の手の平で
受け止められる。

 しかし、僕の体は助かったと思うまもなく、彼女の口の中へと
吸い込まれるのだ。

 要するに巨大な顔の巨大な口の女性に飲み込まれるわけだが、
これが不思議にも、滝壺に落ちた時のような恐怖感がない。

 暗い通路をゆっくりと落ちていき、やがてこれ以上は落ちない
場所まで辿り着くと疲れが出たのか僕は心地よさを感じてそこで
寝てしまう。

 どれほど寝たかは分からないが、その瞬間は強烈な光を感じて
僕は目を覚ます。
 そして、その強い光に導かれるようにして歩き出し、その光の
場所へと出た瞬間、夢はいったん途切れてしまうのだ。

 次は、もう朝。母の胸の中で穏やかに目を覚ます。

 「どうしたの?怖い夢でもみたの?」
 母に尋ねられた僕は首を振る。
 僕は母にも夢の中身は話したことがなかった。

 ただ、強い光の世界で起こった出来事が、極めて断片的にだが
覚醒した脳裏に現れ、そしてその断片をジグソーパズルのように
つなぎ合わせると、それはそれで一つの物語として完成するのだ
った。


 強い光の世界へと出た私を待っていたのは、私を飲み込んだ人
の笑顔。

 美しい笑顔は私を包み込む。僕のベッドは彼女の片方の頬だけ
で十分だ。
 何しろ私と彼女の身体は10倍以上違っているから僕の存在は
手のひらの中に十分納まるのだ。

 やがて、僕の目の前には彼女が自然に曲げた薬指の先が現れ、
その爪の先を僕は何の躊躇もなくしゃぶり始める。

 むしゃぶりつく爪の間からミルクが……

 「美味しい?」
 その女性に尋ねられたが、僕は答えなかった。
 美味しいのか美味しくないのか、判断がつかないからだ。

 ただ、ミルクが僕の喉を潤して、お腹の中へと流れ込む時に、
絵も言われぬ快感を僕に与えてくれたのは確かだった。

 身体全体がふぁ~~としていて、とても暖かくとにかく眠い。
その極楽気分のままに寝てしまうと、私は夢の中の夢の世界へ。


 今度は大きなはすの葉に乗り川を下っていく。
 辺りは最初真っ暗だったが、次第次第に夜が明け川の幅や流れ
行く速度なども分かってくる。何より、周囲が明るいと心が落ち
着く。

 今度の川は川幅が狭く、ゆっくりと流れ、川岸にも多くの草花
がある。そのせいか、これからどこに流れて行くのか分からなく
ても心は落ち着いていた。

 やがて、そんな川岸に誰かが立っているのが見える。

 近づくとお地蔵様だった。
 そして、私がそのお地蔵様を通り過ぎようとした瞬間、私は、
額に水のしぶきを感じる。

 僕がその水しぶきを跳ね除けようと額の中心を触ると、そこが
小さく盛り上がっている。
 ほくろが一つできていた。

 冷ややかなほくろを気にしていると、やがて、声が聞こえた。
 聞き覚えはあるが、どこで聞いたかは分からない声だ。

 「心を無にして聞きなさい。お前は、これから私たちとここで
暮らすことになる。不自由かもしれぬが慣れれば住みよい処だ」

 「はい」
 私は返事をしたが、わけはわかっていなかった。
 ただ、遠い過去に地獄へ行くことを嫌ったのを思い出した。

 『地獄へ来い。その方が楽しいぞ』
 仲間たちの忠告を無視して私は盥の船に乗って極楽を目指した
のだ。

 と、なると……これは大願成就ということになるんだろうか?
 しかし、そこに不思議と満足感はない。

 蓮の葉はさらにスピードを緩め、やがて小さな桟橋に流れ着く。

 着いたとたん、座って前を見ていたはずの私の身体が倒れて、
美しく青い空が見えた。

 『何て、澄み切った空なんだ』
 そう思って眺めていると、そこに二人の顔が現れた。

 見知らぬお爺さんとお婆さんだが、なぜか懐かしい気持がした。

 その二人に私は身体を抱かれる。
 実はこの時、私は赤ん坊の身体になっていたのである。

 私は二人の住む藁ぶき屋根の家に移され、そこで育てられる。
ミルクはここでも二人の薬指をしゃぶることで出てきた。

 そんな生活がどれほどの期間続いたのかは分からないが、僕の
身体は日増しに大きくなっていき、部屋の中を這い、庭を駆ける
頃になると迎えがやってくる。

 五色に彩られた牛車が天空から現れて僕を乗せて連れ去るのだ。

 僕は天へ戻る牛車から地上のお爺さんお婆さんを眺めることが
できたが、その顔は驚きと言うより納得の笑顔だった。
 そして、その牛車で僕を抱いているのは僕が最初に抱かれた人。
この女の人が僕を天上の世界へと連れて行ったのである。


 天上の世界は紫雲の上に広がる平原で常に心地よい音楽が流れ
ている。ここには地上にあるような家や野山はない。ここにある
のは、青い空と僕の体を包み込む雲の流れだけ。

 殺風景な景色に思えるかもしれないが、ここでは、それを想像
しさえすれば何でも思い通りになる。豪華な寝台も美しい調度品
も、広い庭やそこへ集まる小鳥たち。里山や田畑や小川までもが
自由にデザインされていきなり目の前に現れるのだ。

 『所詮は夢の世界』
 僕はこれが夢の世界であることを自覚しながら夢を見ている。
 しかし、それでいてなお『これは夢ではない』と自覚するもの
があった。

 それが、彼女の人肌。僕は今が夢の世界であると自覚しつつも、
この肌にまとわりつく女の柔肌を『これは夢』と片付けることが
できなかった。

 その彼女、この天上でいろんな世界を私に描いてみせた。
 そして、描かれた彼女の世界観を私は受け入れることになる。

 自然の摂理、人の心から見る政治、経済、歴史、そして未来図。
それら哲学の全ては、こうやって私が10歳までに彼女の胸の中
で学んだものであり、私が学校や大学でやってきた事というのは、
実は、それらの検証作業をやっているにすぎないと後から気づく
ことになるのだった。

 そう、だから良い悪いは別にして私の頭の中はすでに10歳で
固まってしまったのだ。


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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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