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<実録>お仕置きとしてのお灸 ~ ケース3 ~

<実録>お仕置きとしてのお灸

<ケース3>

 私の家には内風呂がありましたから、普段はその風呂を使っていた
のですが、内風呂はどうしても狭いので窮屈。そこで月に2、3度、
お風呂屋さんを利用することがありました。
 何しろ大きなお風呂場は解放感がありますし、ここにはいろんな人
が訪れますから人間観察という意味でも楽しみでした。あ、もちろん
風呂上がりのコーヒー牛乳も格別でしたよ。
 そんなお風呂で出会ったのですが、おっそろしく灸痕のでかい人が
いました。背骨を挟んで二列に並んだお灸痕は圧巻で、そうですねえ、
直径が今の五百円玉くらいあったように思います。
 入れ墨じゃありませんけど、正直、怖かったです。
 『誰なんだろう?』
 と思っていると、連れの子供を見てわかりました。
 その子、私の家の近所にあった乾物屋さんの男の子だったのです。
 あ、私、今、思わず男の子なんて言いましたけど、実際は彼の方が
二つ三つ年上。しかもその彼の背中にもすでに立派な灸痕が備わって
いました。
 実はこれ、お仕置きでできたのではなくあくまで病気予防というか
施術。昔は…(といっても戦後のことですよ)国民皆保険がなかった
ので治療費が高額。庶民は病気が重くならないと病院へは行きません
でした。
 でも、庶民だって病気はしますし病気は治したい。痛みは取りたい
ですよね。そこでその代わりとなったのがお灸だったんです。誰かに
習ったツボの位置をたよりに薬局から艾を手に入れて自分なりに施術
していたみたいです。
 ただ、医者が出す新薬と違ってそんなに劇的には効きませんから、
何度も据え直すことになります。すると、長い間には火傷も成長して
五百円玉になるみたいでした。
 もちろん誰もがそんな大きな灸痕を残していたわけではありません
が、少なくとも体に良い事をしているという自覚はありましたから、
子供のお仕置きにはちょうどよいと考えたのでしょう。
 弘法大師以来の長い伝統(=お灸は弘法大師が広めたという俗説が
あるんです)もありますし、多少火傷の痕が残っても親の方の罪悪感
はほとんどゼロに近かったんじゃないでしょうか。
 というわけで、昔の子供は治療とは別にお仕置きとしてお灸をすえ
られた経験が少なからずあったみたいです。
 ちなみに、お灸は関西圏では『やいと』と呼ばれ、関東よりむしろ
盛んでした。とりわけ中国地方の山間部では子供が二歳になると親が
専門家の処へ連れて行って灸点を下ろしてもらっていた、という話を
聞いたことがあります。こうした処では病気になってもすぐに医者の
手配がままなりませんから日頃は民間療法だけが頼り。お灸はそんな
地域で暮らす人々にとってはいくつもある民間治療の大事な柱の一つ
だったみたいです。
 とはいえケロイド状の皮膚を背中に晒して大人にならなければなら
ないのは、さぞや辛いだろうなあと思っていましたから当人に尋ねて
みますと、まったくといっていいほど気にしている様子がありません
でした。
 『生まれた時に貧乏人の家か金持ちの家かは選べないし自分の場合
はこんな家に生まれたからこうなっただけ。顔かたちと同じだよ』
 と、淡々としたもの。多少、彼を憐れんでいたところがあった私は
恥ずかしい思いでした。
 幸不幸は結局のところ主観的な判断。親が子供と真摯に向き合って
育てていれば子供はそんな親との絆を大切にするでしょうし、恨みを
持つこともないはずです。
 よく『お仕置きすると子供の心が傷つく、それが連鎖する』と言う
人がいますが、私は、子供の心が傷つくことをあれこれ恐れるより、
それをどうやって癒してあげられるか、それが親の責任だと思います。
だって、心が傷つかずに大人になる子供はいないでしょうし、いたら
その子は大きなハンディを背負って社会に旅立つことになります。
 心の傷は確かにそれだけ見ればマイナスですが、治してしまえば、
それが人を成長させ、他人に対しても優しく接することができる能力
になります。ですから親が真に子供の成長や幸福を願って接する限り、
それがどんなお仕置きであっても私は必ずしも罪悪ではないと思って
いるのです。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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