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小暮男爵 ~第一章~ §7 / 登校 /

小暮男爵/第一章

*****<< §7 >>****/登校/******

 小暮家でお世話になっている私たち姉妹が通っていた小学校は
郊外の山の中にありました。

 元は華族の子弟専用の女学校だったようですが、戦後、お父様
が買い取って場所を今ある場所に移し、男女共学の私立学校に。
 もちろんそれって私たちの為です。巷の余計な情報をいれずに
純粋無垢な少女(お人形)として育てる為には不便な田舎の方が
むしろ好都合というわけです。

 ただ、男女共学といっても、私たちが通っていた頃の学園は、
まだまだ女子が圧倒的に多くて、男の子はほんの数名。私たちの
クラスにも、一人だけ広志君という男の子がいましたが、この子、
私たち女の子パワーに圧倒されたのか、いつも教室の隅で小さく
なっていました。

 私はこの時まだ男の子が第二次性長期を迎えて大きく変化する
姿を知りませんから……
 『広志君って、意地っ張りで、少し偏屈なところもあるけど、
すねた顔が可愛いわ』
 なんて、思っていました。
 そう、男の子って私たちから見ると可愛い存在だったのです。

 ところでこの学校、不便な場所にあるのにスクールバスがあり
ませんから大半の子が自宅から自家用車で山腹にある広い駐車場
までやって来て、そこからは校門までの長い階段を歩いて登る事
になります。

 ですから、朱音お姉さまみたいに、お父様からイラクサパンツ
なんか穿かされると、車中では青臭い匂いがするので私たちから
嫌がられますし、駐車場で車を降りた後も山の頂上まで続く長い
階段を大きなお尻で登らなければなりません。
 これって、女の子には結構辛い試練でした。

 本当はこんな姿って恥ずかしいですから、一気に駆け出したい
ところですが、石段を一段登るだけでもイラクサの刺毛がお股に
摺れて痛痒く、とても一気になんて駆け上がれませんでした。

 それに、どんなに自然に振舞おうとしても、沢山のイラクサで
オムツのようになったショーツを穿くと動きがぎこちなくなって
しまい、お友だちからは、今、スカートの中がとうなっているか
見破られてしまいます。

 「あの子、スカートの下はきっとイラクサパンツよ。おそらく、
お父様のお仕置きね。いったい何をやらかしたのかしら?」
 なんて、お友だちの囁きが耳にはいると、その恥ずかしい姿を
直接見られたわけでなくとも、その場に居たたまれなくなります。

 イラクサのパンツは、そうした辱めとしての効果も期待しての
お仕置きだったのでした。

 リンカーン(お父様の自家用車)の中でも妹の私たちから散々
臭い臭いを連発されていた朱音お姉さま。駐車場ではお友だちと
「ごきげんよう」「ごきげんよう」のご挨拶はいつもより明るく
なさっていましたが、石段を上がり始めると、たちまちお友だち
からの失笑を買ってしまいます。

 「大丈夫?手伝ってあげるね」
 こうした場合、気がついたクラスメイトが親切心で手を取って
助けてはくれるんですが……

 『本当は、あなたたち笑ってるくせに……』
 こんな時って助けてもらう方だって疑心暗鬼になってますから、
せっかくの親切心もあまり心地よくはありません。

 朱音お姉さまはお友達に囲まれながらゆっくりゆっくり石段を
上がってきます。

 一方、一緒にリンカーンに乗ってきた妹の私たちはというと、
これがとっても残酷でした。

 「アヒルさん、アヒルさん、ここまでおいでアヒルさん」
 私と遥ちゃんはそんなお姉さまの姿がおかしくてたまりません。
そこで、階段を一気に駆け上がり、自分のお尻を振り振りして、
お姉さまをはやし立てます。

 『アヒルさん』というのは、イラクサで膨らんだ大きなお尻を
振り振りしながら階段を登る姿が、ちょうどアヒルさんが歩く姿
に似ているからなのです。

 でも、そんな様子を運転手さんは快く思っていませんでした。

 「ほら、あなたたち、ダメでしょう。朱音さんはあなたたちの
お姉さまなのよ。こんな時は助けてあげなくちゃ」
 河合先生は高い場所からお姉さまを見下ろしてじゃれあってる
私と遥ちゃんに注意します。

 実はこの学校、普段の日でも父兄参観が認められていて、家庭
教師の先生も受け持つ子どもの授業をいつでも見学できるように
なっていました。ですから、ほとんどの家庭教師が、毎朝、自分
の生徒と一緒に校門をくぐります。

 河合先生や武田先生もそれは同じ。お二人は受け持つ子供たち
を送り迎えするだけがお仕事ではありません。むしろ車を降りて
からが、お二人の大事なお仕事でした。

 「は~~い」
 私たちは気のない返事をして、いったん登った階段を下り始め
ます。

 河合先生の命では仕方ありません。私たちも他の子たちと一緒
に朱音お姉さまを救出に向かいます。

 ただ、その時はすでに武田先生はじめ沢山のお友達がお姉さま
に援助の手を差し伸べていましたから、むしろお姉さまの周りは
ごった返しています。まるでお祭りのお神輿のようにしてお姉様
が階段を上がってきます。

 人手はもう十分足りていると思いますから……
 「ねえ、私たちまで行ったら、かえってお姉さま恥ずかしいん
じゃない。ありがた迷惑なんじゃないかしら?」

 私の疑問に遥お姉様は……
 「それはそれでいいんじゃないの。恥ずかしいのもお仕置きの
一つだもの。それに女の子って何事にもお付き合いが大事だって
河合先生も言ってたじゃない。お付き合いよ。お付き合い」
 何だか悟ったような大人のような返事を返すのでした。

 そのあたり、私はまだ子供なのでよくわかりませんが、もし、
私が朱音お姉様の立場だったら……
 「いいから、ほっといて!近寄らないで!」
 なんて、怒鳴り散らしていたかもしれません。


 「やっと着いた」

 とにもかくにも、朱音お姉さまはみんなのおかげで遅刻せずに
山の頂上へと辿り着きます。

 お山の頂上からは白い灯台や外国航路の船が出入りする港町が
見えます。もしピクニックだったら最高のロケーションです。
 こんな見晴らしの良い場所に人知れず建っていたのが私たちの
学校、聖愛学園。ここに小学校と中学校がありました。

 1学年1クラスで6名から8名。全校生徒合せても、小学校で
40名、中学校も20名程度の小さな組織です。
 ですから、学校施設もこじんまりとしていて、周りの樹木より
高い建物などは必要ありません。深い緑の森に溶け込むように、
体育館やプール、図書館、教室棟、管理棟、ゲストルームなどが
散在しています。

 おそらく山の下からでは学校の建物は見えませんし、生徒たち
の声なども聞こえないと思います。それはお父様たちにとっても
好都合で、ここでどんなに厳しいお仕置きが行われてもその悲鳴
が外部に漏れる心配がありませんでした。

 それだけではありません。ここには他の学校ではまず考えられ
ないような設備まであります。

 その一つがプライベートルーム。

 教員室の脇にある階段を下りると、そこは半地下になっていて、
六つの小部屋と一つの大広間があるのですが、実はここ、学校の
オーナーでもある『六家』の人たちが共同使用するプライベート
ルーム。学校の敷地内にありながら学校の管理下ではないという
不思議な空間でした。

 ここでは六家のお父様方やその家庭教師さんたちが学校参観の
合い間、ドアに家紋の掲げられた御自分たち小部屋でつかの間の
休息をとったり、受け持つ子どもたちのデータを整理します。
 そして一つだけある大広間はというと、私たちが放課後茶道や
日舞などの習い事をするために使われていました。

 ま、それだけなら私たち子供にとっては何の問題ないのですが、
この部屋は他にも役割があったのです。それがお仕置きでした。

 ですから私たちの間ではここは『お仕置き部屋』として通って
いました。

 どういうことかというと……
 お父様や家庭教師が来校していれば、学校で、今の今、悪さを
したばかりの娘なり息子をすぐにプライベートルームへ呼び出し
て、すぐに罪を償わせることができます。実際、そうしたことが
たびたび起きていました。

 しかも、ここでのお仕置きはあくまで家庭内でのお仕置きです
から学校内ではありえないようなキツイお仕置きもできるわけで、
生徒にとってはまさに恐怖のエリアでもあったのでした。

 私は社会に出たあと、世間の学校にはこんな部屋は存在しない
と聞かされて絶句、もの凄いカルチャーショックでした。

 さて、話が飛んでしまったみたいですから元に戻しましょう。

 登校した私たちには、まずやらなければならないことがありま
した。

 私たちの学校では園長先生が丹精した色とりどりの薔薇の花が
咲くアーチが校門となっていまして、そこを潜ると何やら怪しい
胸像が設置してあります。

 『大林胤子先生』
 プレートの名前はそうなっていました。

 生徒はこの胸像の前では必ず一礼しなければなりませんでした。

 実は彼女、この学校の創立者なのです。あまりにも大昔に亡く
なっていますから生徒はもちろん先生方だって実のところ彼女に
一度も逢ったことがないはずなんですが、それでも生徒は、毎朝
この像の前ではご挨拶として一礼しなければならないのです。

 しかも、ご丁寧に私たちがちゃんと一礼したかを監視する為の
先生まで配置していますから、そのままスルーしてしまうと呼び
止められてしまいます。

 そんな時は……
 「あっ、ごめんなさい。うっかりしてました」
 胸像の前に戻って一礼すれば、大半、許してもらえるのですが、
ただ、間違っても……

 「そもそも、大昔に死んじゃってる人に今さら頭をさげても、
何の役にもたたないし、無駄な時間だと思いますけど」
 なんて、先生に口答えしちゃうのは絶対にタブーでした。

 ある日、そう答えてお尻を叩かれた子がいましたから。

 慌ててその子の家庭教師が止めに入ったのですが、きっと先生
もキレちゃったんでしょうね、
 「これは躾です。ほっといてください。お話はあとで窺います」
 そう言って、中二の子のお尻をスカートの上からでしたけど、
20回も勢いよく叩いていました。

 私の場合は……
 『あんた、石の置物のくせに偉そうな顔するんじゃないわよ』
 なんて、いつも心の中でそう思いながら一礼していました。

 この学校では胸像への一礼も日常的なご挨拶の一つ。ぺこりと
頭を下げさえすればいいのですからべつに手間はかかりません。
どのみちこの学校では出会う人にはすべて『ごきげんよう』って
ご挨拶するわけですから、胸像一つ分ご挨拶が増えたとしても、
本当はどうってことないはずなんですが、女子も第二次性長期に
入ると自分なりの屁理屈を言い出すようになりますから、こんな
事件も起こるのでした。

 もちろんうちの学校、こんな跳ね返り娘ばかりじゃありません。
むしろ大半は、目上の人の指示には何でも「はい」「はい」って
きく従順な子ばかりです。

 日頃から学校の先生だけでなく、お家では家庭教師の監視下で
細かなことまで注意されながら暮らしていますから、活発な子と
いうよりおとなしい子の方が圧倒的に多くなるのでした。

 例えば、ある先生がお仕置きを決断したとしましょう。
 先生が「さあ、お仕置きしますよ。全員パンツを脱いで!」と
命じると、みんな当然のようにパンツを脱ぎはじめるのですから。

 この学校の子供たちはそのくらい統制が取れているというのか
目上の人には従順なのでした。

 ですから、さっきのはあくまで特異な例。理由はともかく先生
がそうおっしゃるならって、どの子も胤子先生の前では必ず一礼
します。思わず胸像の前を通り過ぎてしまったら慌てて戻ります。
特に小学生では逆らう子は一人もいませんでした。

 当然、この日も私たち姉妹は先生に教えられた通り深々と一礼
してから校舎の中とへ入っていきます。


 校舎はログハウス風の木造校舎ですが、中は日本のどこにでも
ある学校と同じ構造。玄関口にはたくさんの下駄箱団地があって、
生徒はここで革靴と上履きを履き替えます。

 あっ、そうそう、うちの場合は生徒用だけでなくお供してきた
家庭教師のために父兄用靴箱というのも設置してありました。

 ちなみにこの父兄用靴箱、その名の通りお父様が来て使う事も。
ただそんな時はお仕置きで呼ばれた場合も多いですから、生徒は
お父様の顔を見るなり緊張したりします。

 うちの場合、華族学校時代からの習慣で、毎日が父兄参観日で
したから、良い事も悪い事も全てが河合先生や武田先生を通じて
その日のうちにお父様にも伝わりますが、場合によっては電話で
お父様が報告を受けることも。
 家庭教師の報告を電話で聞き、激怒して学校に乗り込むお父様
もいらっしゃいました。それほど娘が心配だったのです。

 家庭教師からの報告は、学校で行われたテストの結果は勿論、
『国語の時間、お友達とふざけあって先生に鏡を敷かされました』
とか『体育の時間、まじめに走らなかったので一周多く走らされ
ました』なんて恥ずかしい報告も次々とお父様の元に上がってき
ます。

 そのほかにも、休み時間にお友だちとひそひそ声で言いあった
先生の悪口が、なぜか家に帰るとすでにお父様が知っていたり、
ほんのちょっとからかっていただけなのに、お父様からは……
 「今日、お友だちを虐めてたみたいじゃないか。お友だちとは
仲良くしなきゃ」
 なんて注意されたこともありました。

 学校の先生と家庭教師、その両方で私たちはつねに見張られて
いる訳です。つまりこちらの情報はいつも筒抜け。まさに超監視
社会でした。

 でも、大人たちに言わせると、これも愛なんだそうです。
 私たちにとっては、おせっかいとか、過干渉という言葉の方が
ぴったりくるのですが。

 そんな大人たちの愛は他にもあります。

 私たちが登校してくると玄関口には必ず園長先生が立っていて
生徒全員とスキンシップをします。ハグして、頬をすり合わせて、
まるでそこに本当のお母さんが立っているみたいでした。
 実はこれ生徒全員の心と身体の健康チェックなんだそうです。

 これも胤子先生の胸像と同じようにスルーはできません。
 胸像に一礼するのと同様、子供たちは園長先生に抱かれる義務
がありました。

 園長先生に抱かれるのは、ほんの10秒ほど。これで私たちの
健康状態や心の状態までがわかるんだそうです。
 何も話さなくても分かるみたいですから摩訶不思議です。

 もちろん園長先生のハグは何も問題がなければすぐに開放され
ますが子供たちの抱っこの義務はここだけではありませんでした。

 教室に入ると、今度は担任の先生が私たちを待ち構えています。
 やることは園長先生と同じでした。子供たちをしっかりハグ、
頬を摺り合わせ、頭を良い子良い子してなでてくれます。
 ちょっとした赤ちゃん気分。

 担任の先生になると、もっと細かなことまでわかります。
 先生はこうしてハグするだけで、子供たちの今の体調や『宿題
をわすれた』とか『今朝、おねしょしてお父様に叱られた』とか
『今、お友達と喧嘩している』なんていう心のSOSまでわかる
んだそうです。

 何たって、全校生徒合せても40名ほどのこじんまりした学校
ですから、園長先生は登校時間に全ての生徒とスキンシップする
時間がありますし、担任の先生もお父様以上に子供たちの内実を
よくご存知でした。

 もちろん担任の先生は各々の家庭教師から色んな情報をリーク
してもらって、それで判断してるんでしょうけど、子供たちには
不思議な出来事だったのです。

 「あら、可愛いリボンじゃない。小さな鈴まで付いてるのね。
自分で選んだの。それとも、河合先生のお見立てかしら?」
 「私です。楓お姉さまに作ってもらいました」

 「そう、楓お姉さん器用だものね。黄色がよく似合ってるわよ。
ところで、今日の朝ごはん。ちゃんとトマトジュースも飲めた?
お父様、好き嫌いする子は身長が伸びないって心配なさってたわ
よ」
 「コップの半分だけ。吐きそうだったれど、なんとか……」
 「偉いわ。少しずつ慣れていけばいいのよ」
 「コップにまったく口をつけないと……お父様が睨むから……
恐くて……仕方ないんです」

 「あら、そうなの。それは大変ね。でも、それはあなたの為を
思ってのことでしょう。感謝しなくちゃ。……あっ、そう言えば、
昨日からまたお父様と一緒のお部屋で暮らすことになったんです
って?」
 「えっ、……まあ」
 「どう?……久しぶりにお父様と一緒のお布団は嬉しかった?
それとも遥お姉ちゃまと一緒の方がよかったのかしら?」
 「遥おねえちゃまと一緒の方がいいです。でも、そうすると、
お勉強ががかどらないから、お父様が心配して……」

 「そう、それじゃあ仕方がないわけね……お部屋のお引越しが
あったでしょうけど、宿題はちゃんとやってきた?」
 「はい、たぶん大丈夫だと思います」
 「そりゃそうね、お父様のお膝の上ではサボれないものね」

 担任の小宮先生の抱っこでは心にチクチクと刺さる言葉もあり
ますが、甘えん坊の私は、こうして抱っこしてもらうこと自体は
決して嫌いではありませんでした。


 こうしてクラス全員の子へのスキンシップが終わると……
 「さあ、始めますよ」
 担任の小宮先生の声と共に朝のホームルームが始まります。

 このホームルームでは、学校行事についての話し合いなんかも
しますが、子供たちにとって最も強い関心事は小テストでした。

 私たちの学校では子供たちがお家で予習復習をきちんとやって
きたか主要四教科では勉強時間の最初に必ず確認の為のテストを
します。
 でも、国語と算数は担任の小宮先生が担当されていましたから
それを朝のホームルームで間に合わせてしまうのでした。

 出題は漢字の書き取りや計算問題が中心で範囲も細かく区切ら
れていますから家でのお勉強時間は、私の場合、お父様のお膝の
上でなら30分くらいですみます。
 でも、毎日のことですからね、それぞれに事情があってうまく
いかないこともありました。

 これが紙に書いて提出するだけの宿題なら……『やったけど、
お家に忘れてきました』なんて言い訳もできますけど、こちらは
テストで確認されちゃいますからどうにもなりません。まさか、
『知識を家に置いてきました』なんて言い訳ができるはずもあり
ませんから。

 もし、合格点に届かない子が一人でもいると、その子のために
もう一度同じ授業をやったり、その子自身も別メニューで補修を
やらされたりします。

 おまけに先生の閻魔帳にはその子の欄にXが一つ。

 これ、一つ二つなら問題ないのですが、このXが一週間で7つ
以上ついちゃうと、週末はお父様までも学校に呼び出されて親子
で『特別反省会』ということになります。
 こうなるとシャレにならない事態でした。

 担任の先生から、この一週間のいけなかった事が、洗いざらい
書き出されたプリントが出てきて、これから先どんな生活態度で、
どんな勉強方法で頑張るのかが決められます。

 それだけじゃありません。反省会での態度まで悪いとなると、
たとえ親の見ている前でもお仕置きなんてことがありえますし、
それでも足りなければ、お家に戻って、お父様や家庭教師の先生
からみっちりとお仕置きなんてことも……
 『特別反省会』って子供にとっては恐怖の保護者会でした。

 ちなみに、朝の小テストの合格点は9割以上。それ以下の子は
放課後無条件でその範囲を補習させられます。

 ただこの学校は元は孤児と言っても育ちで言えば良家の子女。
しかもどの家庭でもみんな家庭教師を雇っていますから、たとえ
本人がどんなに嫌がっても強制的にお勉強させられます。
 子どもたちは毎日準備万全で登校して来ますから普通は全員が
合格点でした。

 とはいえ、なかには例外もあります。
 この日の朝はそんな稀なケースが起きてしまいました。

 このテストの採点は、ホームルームの時間中に隣の子と答案を
取り替えて生徒同士で行うのですが、私のお隣、広志君はクラス
唯一の男の子にして、六人しかいないけどクラス随一の秀才です。
普段お家でやっているお勉強は中学のテキストだと聞いたことが
ありました。

 そんな子が朝のテストで失敗するなんて、ありえないと思って
いたのですが……。
 広志君の答案を見ると漢字の書き取り問題で全40問中5つも
間違いがあります。9割が合格点なら許容範囲は4つ。5つ目は
アウトです。

 『いいのかなあ』
 私は、何だか広志君の答案にXをつけるのが恐くて、こっそり
消しゴムで消して答案を修正しようとしたんですが……。

 「だめよ、小暮さん。間違いは間違いのままにしておかないと、
広志君の為にならないわ」

 小宮先生に見つかってしまい注意されてしまいます。
 こうして、広志君の放課後の居残り勉強が確定。ホームルーム
が終わるなり広志君の席には女の子たちが殺到しました。

 「どうしたのよ。病気?」
 「身体の調子が悪い時は保健室へ行ったほうがいいよ」
 「そうそう、『今日は体調が悪いのでテストできませんでした』
って言えば先生許してくれるよ」
 
 女の子たちが心配して寄ってきますが、でも当の広志君は迷惑
そうでした。
 「そうじゃないよ。間違えたの。僕だって間違えることあるよ」
 そう言って女の子たちを払い除けます。

 「だって、お家では中学生の問題解いてるんでしょう。こんな
小学生の問題で間違うはずないじゃない」
 由美子ちゃんがこう言うと、詩織ちゃんも同調します。
 「そうよ、そうよ、こんな問題、ちょちょいのちょいのはずよ」

 でも、現実は違っていました。
 「そんなことないよ。家でやってる中学の問題はあくまで趣味
だもん。そりゃあ、方程式は面白いけど、そっちばっかりやって
ると鶴亀算なんか忘れちゃう。漢字だって同じさ。やってないと
忘れちゃうんだ。だから、テストがある時はちゃんとその場所を
復習しておかないと、やっぱり合格点は取れないんだ」

 「じゃあ、何で、今日は不合格になったの?」

 「それは……」
 広志君は言葉を濁します。

 すると、その答えを出したのは、広志君の家庭教師をやってる
会田先生でした。
 会田先生は、ホームルームの時間はずっと教室の後ろに設けら
れた父兄席で静かに見学されていたのですが、一区切りついたの
で、私たちのそばへと寄ってきます。
 うちの学校では休み時間に家庭教師が受け持つ子供に向かって
声をかけるのは日常茶飯事。それ自体は極当たり前の光景でした。

 「ずいぶんと偉そうなこと言うじゃない。……この子、昨日は
熱心にプラモデルばかり作ってて、ちっともこちらの言うことを
聞いてくれないから『もう、勝手になさい』って独りにさせたの。
大丈夫かなあって思ってたら、案の定ね」

 「ちょっとした手違いが起こっただけだよ」
 広志君は強がりを言いますが……
 「手違いって、どんな?」
 って先生に尋ねられると……
 「…………」
 それには答えられませんでした。

 「まあいいわ。これで今日一日が無事にすんじゃったら、私、
失業するところだったけど、朝の小テスト一つ満足に受からない
ようなら、どうやら、あなたには、まだまだ私が必要みたいね。
今日は、小宮先生からとびっきり痛いのを一ダースばかりお尻に
いただいて帰りましょう」

 「えっ!」
 驚いた広志君ですが、会田先生の冷たい表情が変わる事はあり
ませんでした。
 「……それが、何よりあなたの為だわ」

 「だから、たまたまだよ。たまたま間違えただけだって……」
 広志君、苦し紛れのいい訳を独り言のように小さな声で言いま
すが、会田先生は広志君を取り囲んだ女の子たちに向かっても、
さらに強烈にこう言い放つのでした。

 「みなさん、この子の成績なんてこんなものなの。みなさんと
大差ないの。この子、周りがちやほやしてくれるもんだからうぬ
ぼれてるみたいだけど、その方がよほどたまたまよ。今は成績が
あまり上がっていない子でも、あなたぐらいのポジションなら、
すぐに追いつくんだから……大きな口はたたかないことね」
 広志君、会田先生にたっぷりイヤミを言われてしまいます。

 どうやら広志君、昨夜は無我夢中でプラモデルを組み立ててた
みたいで、睡眠時間は二時間。会田先生と約束した宿題の範囲に
も目を通していません。しかもその睡眠時間だって、途中で眠く
なって机にうつぶせなって寝てしまったみたいでした。
 結局そんな広志君をベッドへ運んだのは会田先生だったのです。

 小学生も高学年になると、我を張って家庭教師の言う事をきか
なくなります。そのくせまだ自分で自分を律することができない
ものですから、独りにさせても満足な成果は期待できません。
 こんなことが起きてもそれはそれで仕方のないことでした。

 この日、広志君は居残りです。でも、同じ居残りといっても、
その対応はケースバイケース、千差万別です。

 広志君の場合は、単に補修授業があるというだけでなくその中
で何度も何度も飽きるくらい、涙がこぼれるくらい反省の言葉を
言わされると思います。それは担任の小宮先生が家庭教師の会田
先生から昨夜の事について説明を受けてその事情を知るからです。
 普段優しい小宮先生も怠ける子には厳しく接しますから。

 この学校が他の学校と大きく違っていたのは、家庭教師の存在。
家庭教師と学校の先生が連携をとって子供をお仕置きするという
摩訶不思議な学校でした。

 そんな超監視学校の一日がこれから始まります。

**********<7>**************

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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