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小暮男爵 <第一章> §14 / お仕置き部屋への侵入

小暮男爵 / 第一章

<<目次>>
§1  旅立ち         * §11 二人のお仕置き②
§2  お仕置き誓約書   * §12 ランチタイムの話題
§3  赤ちゃん卒業?   * §13 お父様の来校
§4  勉強椅子       * §14 お仕置き部屋への侵入
§5  朝のお浣腸      * §15 お股へのお灸
§6  朝の出来事      * §16 瑞穂お姉様のお仕置き
§7  登校          * §17 明君のお仕置き
§8  桃源郷にて      * §18 天使たちのドッヂボール
§9  桃源郷からの帰還 * §19 社子春たちのお仕置き
§10 二人のお仕置き① * §20 六年生へのお仕置き


**<< §14 >>**/お仕置き部屋への侵入/**

 私は、当初下り階段に足を踏み入れる勇気がわきませんでした。
ここは私たち子供にとっては怖い場所でもありますからね、もし
これが一年前だったら、そのまま踵を返してお昼休みは友だちと
遊んでいたと思います。
 でも、この時は妙に遥お姉様のことが気になっていました。

 『遥お姉様が心配だもん。ちょっとだけ覗いてみうよ』
 最初、私の心の奥底から聞こえてきたのは天使の声でした。

 「お姉ちゃ~~ん。遥お姉ちゃん、いる~~」
 姉思いの優しい眼差し。妹の声が闇の奥で響きます。

 でも反応がありません。そこで、もう一度声を掛けようとした
その時です……
 『あなた、何考えてるのよ。お父様に見つかったらお仕置きよ。
バカなことはやめて引き返しなさいよ』
 理性の声が私を引きとめます。

 『そりゃそうね。バカなことはしない方がいいに決まってるわ』
 私は理性の声に従います。

 ところが、理性の声にいったんは納得したにも関わらず、私は
その深い闇を見つめて帰ろうとしませんでした。地下への階段を
見つめたまま動きませんでした。

 そうこうするうち闇の奥から次なる声が聞こえてきます。
 悪魔の囁く声です。

 『さあ下りておいでよ。遥お姉ちゃんの悲鳴が聞こえるかもよ。
何時も虐められてるお姉ちゃんの悲鳴って、聞いてみたいよね。
わくわくするわよね』
 
 それが背徳的な思いなのは小学生の私にも分かります。
 もし、お父様に見つかったら、私も同じお部屋に連れ込まれて
一緒にお仕置きなんてこともありえます。それも分かっています。

 『何やってるのよ!!その場から離れなさいよ!!お父様から
お仕置きされても知らないよ!』
 理性が私を必死に押しとどめますが……
 今度は理性が誘惑に負けてしまいました。

 いつの間にか私は暗い階段を下り始めていたのです。
 何の事はありません。結局私って子は、愛より理性、理性より
誘惑に弱い子だったのでした。


 暗い階段をゆっくりゆっくり下りきると、がらんとした空間に
薄暗い明かりが一つ。照明はありますが、スイッチを入れると、
誰かが来たと奥にいる人に分かってしまいますから、思いとどま
ってしまいました。

 やっと物の形がわかる程度の明るさだけを頼りに奥へと進むと、
地上とは明らかに違う空気感がこの場を支配しています。
 ひんやりした風が背筋を通り抜け、それに追われるようにして
さらに歩みを進めると目の前に防音耐火の大扉があって私を威嚇
します。

 『ここから出て行け!』
 『中に入ってこい!』
 このまったく違う二つの声が聞こえます。
 この鉄の大扉は私の最後の決心を待っているみたいでした。

 『そうよね、もしお姉様をお仕置きだったら、これが開いてる
はずないわよね』

 実は、床から天井までを覆いつくすこの大扉自体が開けられる
事は滅多にありませんが、普段、人が出入りする為に大扉の一部
に小さな扉が設置してあります。
 私はそこを押してみることにしました。
 すると……

 『開いてるわ。こいつ、お仕置きが始まっちゃうと閉められる
って聞いてたけど……でも、これだったら大丈夫よね……大丈夫、
大丈夫、本当に大丈夫よね……』
 私は自分の小さな胸に『大丈夫』『大丈夫』を何度も問いかけ、
慎重に慎重に小さな扉の先を窺います。
 まるで、探偵か泥棒さんの気分です。

 『ふぅ、やったあ~~~』
 やったことは小さな扉をくぐっただけ。でも、大冒険でした。

 すると、この先には廊下に並んだ七つの部屋が見えます。
 手前六つは六家のプライベートルーム。もちろん小暮家の部屋
もその並びの中にあって『小暮』のプレートが掛かっていますが、
人の気配はしません。

 もし、そこに誰かいれば、ドアに耳を着けることで分かります。
でも、そこに人のいる気配はしませんでした。

 今、人の気配がするのは一番奥にある大広間の部屋だけ。その
奥のからは複数の人の話し声がします。

 『やっぱりね、多分そうじゃないかと思ったのよ。来た甲斐が
あったわ。きっと六年生の子全員、お昼休みを利用してお父様方
にここへ呼ばれたのよ』
 私は胸を高鳴らせ、足音をしのばせて廊下をさらに奥へ奥へと
進むことにしました。

 実はここにある七つの部屋のうち手前の六つの部屋は各家専用
の個室。ドアには、お父様方のお名前『小暮』『進藤』『真鍋』
『太田』『佐々木』『中条』といったプレートが張ってあります。
 でも一番奥にある七つ目の部屋だけは違っていました。

 ここは普段お父様方の寄り合い所(サロン)みたいな使われ方
をしている場所で、基本的に子供たちも出入りが自由です。
 実際、放課後の習い事というのはここで行われていますから、
今が放課後なら問題ありません。私がコソコソ入ってくる必要も
ないわけです。
 ただ、習い事というのは昼休みに行われることはありません。

 お父様がお昼休みにお姉様をここに呼んだ。
 それが問題なのでした。

 そこは30畳ほどの広さがある大広間。

 間仕切りはありませんが、その一部は一段高くなった畳敷きの
舞台になっていて、お茶、お花、日舞、などの習い事はこの舞台
の上で先生とお稽古します。
 そんな様子をお父様方も一段低い板張りの床にソファやデッキ
チェアなどを持ち込んで参観なさいます。

 ですから、その限りでは何の問題もないのですが、この畳敷き
の舞台、行われるのはお稽古だけではありませんでした。
 その畳の上、実は子どもたちがお仕置きを受ける場にもなって
いたのです。

 もし問題が個人だけ、あるいは一つの家の中だけで収まるよう
ならお父様たちは個室を使いますが、なかに複数の家の子が同じ
問題を起こした場合などは、この大広間が使われるようでした。

 今回は、まさにそんなケースだったのです。

 私は、最初、大広間の扉に耳を押しつけて中の様子を探ろうと
しましたが、防音装置が施されているために音は聞こえても何を
言っているのかまでわかりません。

 思い切ってドアを開けてみようとしましたが、これも施錠され
ていて果たせませんでした。
 そこで、今度はこの部屋に隣接する隣りの部屋の扉をそうっと
押してみると、こちらは開きますから……。

 『やったあ~~ラッキー』
 私は心の中で叫びます。

 実はこの部屋、映写室でした。大きな映写機の脇でこっそりと
小さい窓を覗くと隣の部屋の様子が手に取るようにわかります。
正直、私としては願ったり叶ったり。特等席をゲットできたので
した。


 お父様たちはたんにお金持ちというだけでなく仕事をリタイヤ
していますから、そもそも世間のお父さんたちのように忙しくは
ありません。ただ、そのぶん子どもたちの生活についても細かな
処までもが気になるみたいで、家庭教師、学校の先生を問わず、
我が子に関するありとあらゆる情報を求めていました。

 そこで学校側もそんなお父様方の要望を答えて、私たちの成長
記録を最大限フィルムに収めるようにしていました。ここには、
その報告フィルムを上映するための映写機が置かれていたのです。
 (こんなこと今なら当然ビデオでしょうが、当時はそんなもの
ありませんから記録は全て映画として撮られていました)

 カメラは学校のいたるところで回されていました。
 勉強の様子だけじゃありません。食堂の風景、休み時間の遊び、
おしゃべり……先生に暇があればという条件付ですが、至る所で
撮影会だったのです。

 特定のカメラマンがいるわけではありません。手の空いた先生
がカメラをまわして私たちがいつも被写体になっていたのは承知
していましたが、それを特段意識した事もありませんでした。

 最初は物珍しさから「何やってるの?」と説明を求めますが、
そのうちそれは学校の備品の一つとなって、たとえカメラが回っ
ていても注意を払わなくなります。
 そうですねえ、カメラって胤子先生の胸像と同じくらいの意識
でしょうか。

 ただ、お仕置きの様子だけは意識します。
 これは後日の証拠とするため、先生方もけっこう克明に記録に
残すのです。裸のお尻はもちろん、おへその下の割れ目やお股の
中まで……こんな時、カメラに遠慮はありませんでした。

 しかも悪さが続くと、お父様からここへ呼び出されて、自分が
受けたそんな恥ずかしいお仕置きの数々を見せられます。

 そんなお仕置きされてる映画だなんて、そりゃあ子どもだって
恥ずかしいですから、それからしばらくはカメラが回っていると
意識しますが、これまた子どものことですから、そのうち忘れて、
いつの日かまた恥ずかしいフィルムを見せられることになるので
した。

 でも、今回はどうやらそれも違うみたいでした。この映写室に
人はいませんし、その準備をしている様子もありません。

 小窓から覗いてみると……
 六年生全員(といっても、ご案内のように六人です)が畳敷き
になった舞台の上で正座させられていました。

 その様子を見ているのは、うちのお父様をはじめ、この学校を
買い取った六人のお父様たち。こちらは板張りの床にお気に入り
の籐椅子を並べて座ってらっしゃいます。

 こちらからですとお父様方の顔は分かりませんが、向かい合う
形の子どもたちの顔はよく見えます。
 どの子も『まずいことになったなあ』という顔ばかりでした。

 私の家もそうですが、ここにいるお父様方というのは、功なり
名を遂げた末に老後の楽しみとして施設から私たちを引き取った
紳士淑女の方々ばかりです。
 ですから、普段の生活では、子どもから嫌われるような虐待や
お仕置きのたぐいは極力なさいません。
 そうしたことは家庭教師や学校の先生にお任せして、ご自分は
小鳥たちが肩にもたれたり膝に乗ってくるのをじっと待っておい
でだったのです。

 ただ、そんな好好爺然としたお父様も24時間365日決して
子供たちを叱ることがないのかというと、そこはそうではありま
せんでした。
 年に一度か二度、お転婆さんには三度くらいでしょうか、子供
たちの頭上に雷が落ちます。

 運が良いのか悪いのか、私が覗いたその日はそんなたまたまの
一日でした。

 「遥、なぜお前がここに呼ばれたか分かるか?」
 小暮のお父様が、その低い声で居並ぶ六人の子供たちを前に、
いきなり遥お姉様を指名します。

 それは私の名前ではありませんが、お父様の声に私の心臓も、
バックンバックンです。ろくにぶたれたことがなくてもお父様は
お父様。そのリンカーンみたいな風貌で見つめられると、子ども
たちはそれだけで身が引きしまる思いがするのでした。

 「………………」
 少し長い沈黙。

 お姉様はお父様の質問に答えられませんでしたが、その胸の内
をお父様が代弁します。

 「その顔だと…お前は『今回の飛び降り事件に参加してない。
先生から罰も受けてない。だから、私は悪くない』そう言いたい
みたいだな」

 「…………」
 お姉様の顔が思わず上がりました。

 「だけど、お父さんたちの考えは違うんだ。これは四時間目に
罰を受けなかったメグ(愛子)ちゃんや留美ちゃんのお父さんも
一緒の考えだから、二人も私の話を一緒に聞きなさい」

 「はい、おじさま」
 「わかりましたおじさま」
 二人は神妙な顔でお父様に答えます。

 『お父様、きついお仕置きをなさるつもりだわ』
 私は思いつきます。

 女の子は人の心の動きに敏感です。幼い頃ならともかく、もう
このくらいの歳になると大人たちが自分たちをどうしようとして
いるか、おおよそ察しがつきます。

 頭に思い描くお姉さま方の未来は辛い現実でしたが、子どもは
親がやると決めたらそれを受け入れるほかありません。この場合
も、『何か抗弁すれば、ごめんなさいをすれば許してもらえる』
とは期待できそうにありませんでした。

 「まず、私たちが嫌だったのは、お友だちが自習時間に騒いで
いるのにおまえたちがそれを止めなかったことだ。…悪さをして
いるお友だちをおまえたちは一度でも注意したかね?」

 「………………」

 「してないよね」

 「………………」
 お姉様は頷きます。それが精一杯でした。お父様の迫力に押さ
れて声が出ないのです。

 私より一つ年上と言っても、遥お姉様はまだ小学生。お父様の
ただならない気配を感じ取れば、もうそれだけでシュンとなって
しまいます。

 いえ、遥お姉様だけじゃありません。そこに居並ぶ六年生の子
全員が、この時はすでにしょげていました。

 実はこの学校の生徒は全員がお父様たちによって施設から連れ
てこられた子どもたちばかり。しかも親が知れている子は一人も
いません。あとからトラブルになるのを防ぐため、天涯孤独な子
以外、引き取らなかったのでした。
 つまり、養父のお父様はそれぞれに違っていても、天涯孤独な
身の上ということでは皆同じ立場だったのです。

 「いいかい、お前たちはそれぞれに育てていただいてるお父様
が違ってもみんな同じ境遇の兄弟なんだから、仲良くしなきゃ。
助け合わなきゃいけないんだ。自分だけ勉強や運動ができれば、
それでいいんじゃない。むしろ抜け駆けするような子はここでは
許さない。仲良くできない子は許さない。わがままな子は施設に
戻ってもらう。そう約束したよね」

 「はい…」
 「はい、お父様」
 「…約束しました」
 三人は小さな声で答えます。

 「今度の事、仲良しのすることなのかな?ほかの子が悪さして
いるさなか、自分たちだけはちゃんと自習してましたって、栗山
先生に報告したそうじゃないか。……それって、本当に良い事を
したって言えるの?」

 「えっ……」
 三人は戸惑います。
 だって、この遊びを始めたのは他の三人で、私たちは関係あり
ません。この三人が教室の窓からの飛び降りゲームを始めた頃は
たしかに自分たちは真面目に自習していましたから、先生に嘘も
ついていません。ですからそれで十分だとお姉さまたちは思って
いたみたいでした。
 『自分たちはこの悪戯の首謀者じゃない』というわけです。

 私の子供時代、戦争はすでに終わっていました。教育はすでに
個人主義で動いていましたからこんな主張も先生を前にしてなら
受け入れられたと思います。先生方は戦後がどのように変わった
かをよくご存知でしたから。
 でも、戦前の教育をしっかり受けてこられたお父様方をこれで
満足させることはできませんでした。

 もし、クラスの誰かが悪さをしたら他の子はそれを止めるのが
当たり前。そんな努力もしないで『自分は悪くない』という主張
は認められない。お父様たちはそう考えておいででした。
 うちの場合、仲良しというのは連帯責任でもあるのです。

 「河合先生の報告によると『遥が真面目に自習してたのは最初
の頃だけで、教室が騒がしくなるとすぐに席を離れてお友だちの
飛び降りる様子を見物してた。最後は、笑顔で拍手したりして、
とても楽しそうに見えた』とあるけど……これは河合先生が私に
嘘をついてるのかな?」
 お父様は河合先生からの報告書を眺めながら再度質問します。

 「………………」
 答えは返ってきませんでした。

 実は家庭教師の先生方は父兄席に陣取って授業を見学はします
が授業に口は出しません。こうした自習の時間でもそれは同じで、
子供たちがよほど危険な遊びでも始めない限り(今回はそれほど
危険と判断しなかったのでしょう)授業に口を出すことはありま
せんでした。

 「…………それは………だって、私が始めたわけじゃあ……」
 遥お姉様はそれだけ言うとあとは言葉になりませんでした。

 「確かにそうだ。やり始めたのは遥じゃない。でも、お友だち
の飛び降りを見学するだけでも私たちからすると参加してた事に
かわりはないんだよ。だってその間は座席を離れ窓から身を乗り
出して友だちが飛び降りるのを見てたわけだし、『私は真面目に
自習してました』なんて栗山先生に言ってはいけないだろうね。
それって嘘をついた事になるもの」

 「…………」

 「お友だちが悪さをしていると思ったのなら、そのお友だちを
止めてあげなきゃ。それが無理でも先生に御報告に行かなきゃ。
遥はどっちもしてないだろう?それって仲良しのお友だちにする
ことなのかな。遥のやってることはお父さん達の目には自分一人
抜け駆けしていい子に見られようとしている自分勝手な行動……
そんな風にしか映らないんだけどなあ」

 「……そんなこと言ったって…わたし、飛んでないし……」
 絞り出すようなお姉さまの声が聞こえました。

 「これが一般の学校なら、お友だちと言っても所詮他人だし、
それでいいのかもしれない。なにせ、今は個人主義の時代だから。
でも、お父さんたちは、ここにいる子どもたちには全員が本当の
兄弟のようになってほしいと思ってるんだ。……なぜだかわかる
かい?」

 「……」
 遥お姉様は首を振ります。

 「残念だけど、君たちには本当のお父さんやお母さんがいない。
ということは、帰る家だってないってことなんだ。……だろう?」

 「えっ、……だって、それは、お父様が……」
 驚いたお姉様が上目遣いにつぶやきます。

 「私のことかい?ありがとう。もちろん私が生きているうちは
おまえたちをずっと愛し続けるよ。でも、私ももう若くはない。
君たちが成人するまで生きてるかどうかさえ知れないじゃないか」

 「そんなこと……」

 「それから先はどうするね。……今住んでいる家は私が死ねば
すぐに人手に渡るだろうから君たちが住むことはできないんだよ」

 「えっ?」
 お姉様はきょとんとした顔になります。
 子供にとって誰かが死ぬなんてこと頭の片隅にもありませんで
した。私だってそれは同じです。お父様というのは未来永劫私達
を守り続けてくれる人だと信じていましたから。

 「もちろん、それでも人生が順調なら、帰る家なんてなくても
問題ないだろうね。……だけど、人間良いときばかりじゃない。
もし、家庭や仕事がうまくいかなかったら、その時はどうするね?」

 「どうするって……」

 「その立場にならないと分からないだろうけど、帰る家がない
って、とっても辛いことなんだよ。だから、君たちが社会に出た
あと、もし人生につまづいても路頭に迷わないように、私たちは
この学校を作ったんだ。だから、ここには他の境遇で育った子は
一人も入れてない。ここは同じ境遇同じ価値観で育った子だけの
学校にしてある。ここは学校であると同時に君たちにとってここ
が故郷となるようにあえてそうしたんだ」

 「ふるさと?」

 「そう、この学校が君たちのふるさとだ。だから、もし辛い事
があったら、ここに帰ってしばらく休んでいけばいい。ここには
長期滞在できるゲストハウスもあるから、臨時教員になって得意
分野の授業をしたり、可愛い後輩たちを抱いてあげてお尻をピシ
ピシ叩いてやればいいんだよ。今はまだお尻を叩かれる側の君達
だって、やがては後輩たちのためにお尻を叩く日がくるんだから」

 「…………」
 その瞬間、お姉様の頬がわずかに緩んだように見えました。

 「私たちが口をすっぱくして『みんな仲良く』『みんな仲良く』
って言い続けるのは、単に一緒に何かしましたとか、褒められま
しただけじゃなくて、叱られた事も、お友だちみんなで共有して
欲しいんだ」

 「叱られたことも?…………」

 「そう、叱られたこともだ」
 お父様はお姉様の狐につままれたような顔を見て笑います。

 「一緒に悪さをして一緒にお仕置きを受けて欲しい。お仕置き
はご褒美じゃないけど、同じ罰を受けた思い出として大人になれ
ば笑って話せるし、何よりそれで兄弟の絆も強まるから無駄には
ならないんだ。一番いけないのはね、『他の子が悪さしてるのに、
自分だけ知らんぷりしてるって事』みんなが助け合い愛し合って
暮らしてるこの場所でそんな薄情なことしかできないようなら、
君たちが人生最初に拾われた施設に帰ってもらうかもしれない」

 「…………」
 お姉様はお父様の言葉に思わずのけぞります。

 実は、お父様の言う『施設へ帰れ』という言葉は、幼い頃から
お父様たちに大事にされてきた私たちにとっては究極の威し文句
でした。
 私達には南極大陸で捨てられるくらいのショックだったんです。

 そもそも私たちは物心つく前にここへ来て生活を始めています
から誰の頭の中にも施設時代の思い出なんか存在しないのです。
 そんな未知の場所へ戻るなんて、たとえこの先厳しいお仕置き
が待っていたとしてもありえない決断でした。

 ですから……
 「ごめんなさい、お父様、遥は悪い子でした。どんなお仕置き
も受けます。いい子になります」
 遥お姉様はあっさり降参します。畳敷きの舞台を下りてお父様
の足元ににじり寄り両手を胸の前に組んで懺悔します。

 愛情深い両親に育てられた人からすれば、こんなこと、お芝居
がかって見えるかもしれません。でも絶対的な後ろ盾を持たない
私たちにしてみると、それは仕方がありませんでした。

 残り二人も事情は同じです。二人は、自分たちのお父様の前で
懺悔します。
 施設に戻されたくないという思いは、ここでは誰の胸の中にも
共通して存在していたからでした。

 ただ、これでハッピーエンドではありません。

 「わかった、ならば今日はお前たちのお股にお灸をすえること
にしよう。そうすれば、これから先も今の話が実感できるだろう
から……」

 「!!!」
 「!!!」
 「!!!」
 お父様の一言に、三人のお姉様方の顔色が青くなります。
 お姉様方の顔から血の気が引いく様子がこんなに離れていても
はっきりとわかりましたから、それは相当なショックだったんだ
と思います。

 確かに懺悔はしました。お仕置きも受けます。
 でも、まさか、お股にお灸だなんて……
 三人ともそんなことまでは考えていなかったみたいでした。

 そしてそれは実際に悪さをしていた残り三人にも当然のように
飛び火します。

 「他の三人も同じだよ。今日は、六人に同じお仕置きを受けて
もらうからね。六人まとめてお股にお灸のお仕置き。わかったね」

 お父様の宣言にも子供たちは誰一人反応しませんでした。
 「………………」

 「ご返事は!」
 お父様の野太い声が広間一杯に響き渡ります。

 「はい、ごめんなさい」
 「はい、お願いします」
 「お灸、受けます」
 揃いもそろってイヤイヤながらがはっきりわかるご返事だった
のですが、さすがにお父様方もそれを責めたりはなさいませんで
した。

 今から見ると随分乱暴なお仕置きのような気もしますが、当時
それは一般家庭でもまったく例のないことではありませんでした。
 (もちろん極めてレアなケースではありますが……)

 いずれにしても、お父様たちの願いは、子どもたち全員が同じ
お仕置きを受けることで単なるクラスメイトではない運命共同体
みたいな意識を持ってくれること。これからも弱い立場の子同士、
しっかりスクラムを組んで生きていって欲しいということでした。

***********<14>************

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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