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小暮男爵 <第一章> §15 / お股へのお灸

小暮男爵 / 第一章

***<< §15 >>****/お股へのお灸/***

 『お股にお灸ですって~ひど~い、残酷すぎるよ』
 私は思いました。

 いえ、私が思ったぐらいですから、当事者はもっとショックな
はずです。

 特に瑞穂お姉様は、慌てて舞台を下りると進藤のお父様の目の
前までやってきて訴えます。
 「ひどいよ。だって、私、もう先生からお尻叩かれてるのよ。
もう、お仕置き済んでるのに……」

 でも……
 「だめだ。これはお父さんたちみんなで話し合って決めたこと
だからね、可愛いお前の頼みでも変更はできないんだ」

 「そんなの勝手に決めないでよ。私お嫁に行けなくなっちゃう
でしょう」

 「大仰だなあ。もう、お嫁入りの心配してるのかい?」

 「もうって……私だって女の子よ。傷物にされたら大変だもん」

 「傷物かあ。傷物はよかったなあ。そんな言葉、どこで覚えた
んだい?」

 「どこって……」

 「(ははは)お仕置きでそんな深刻な傷を作ったりはしないよ。
そもそも、お父さんがお前がお嫁にいけなくなるようなひどい事
すると思うのかい?そんなにお父さんは信用できない?」

 「え~~~だってえ~~お灸って痕が残るじゃない」

 「そりゃあ、多少はね。……でも目立つほどの痕じゃないし…
…それに、そんな場所、誰も覗かないじゃないか」

 「だって、お父さんは私の……覗くじゃない」

 瑞穂お姉様は両手でお父様の襟を掴みながら必死に食い下がり
ます。でも最後はお父様に懇願しているというより私にはどっか
甘えているようにも見えました。

 「だって私は君の親だもの、君が一人前になるまでは君の全て
を知っておかないいけないからさ。それに、これはお前たちだけ
の特別なお仕置きじゃないんだ。紫苑も美香も、そのまたずっと
先の先輩たちもみんなみんな一度はお股の中にお灸を据えられて
卒業してるんだよ。言ってみればここの伝統みたいなものなのさ」

 「うそよ……何なの、その伝統って……そんな野蛮な伝統って
うちにあったの?」
 瑞穂お姉様はそう言って絶句します。

 でも、私はそれが意外だったので……
 「うそ、瑞穂お姉様、お股のお灸のこと知らないんだ。そんなの
みんな知ってるよ」
 思わずつぶやいてしまいました。

 実は私のお家では、この恥ずかしいお仕置きはそんなに珍しい
ものではありません。
 何を隠そう普段お仕置きに縁のなかった私でさえ、これだけは
一足早く体験済みでしたから。

 あれは四年生の終わり、春休みで宿題もないから毎日が日曜日。
遥お姉ちゃんとわけもなく家中を走り回ってたら、廊下に飾って
あった大きな花瓶を割っちゃって……

 お父様がもの凄い剣幕、
『お前たち、勉強もしないで何を浮かれてるからだ!!』って、
廊下で正座してお説教されたあと、仏間に引っ張って行かれて、
二人並べて素っ裸。

 お手伝いに来た河合先生に泣いてとりなしを頼んだんだけど、
結局ダメで、二人とも仰向けに寝かされると、両足を高く上げる
あの恥ずかしいポーズのまま、河合先生に体を押さえつけられて、
女の子の一番恥ずかしい処を大人たちに全~部見られながら……
 「ひぃ~~~」って感じでお灸を据えられたことがあったの。

 だから遥お姉様だって当然これはもう経験済みだと思ったのよ。

 あの時は信じられないくらい恥ずかったし死ぬほど怖かったし
で二人共頭はパニック状態。気が狂ったみたいに泣き叫んだから、
その時の様子は家中の人がみんな知ってるわ。

 小百合お姉様や楓お姉様は……
 『こんなことぐらいでどうして?……ひょっとしてあんたたち、
何か他にやらかしたんでしょう?』
 って同情してくれたけど、あの時期はお父様と一緒にやってた
お勉強は逃げだしてばかりだし、逆に悪さは毎日のようにやって
たから、お仕置きは花瓶だけの問題だけじゃなかったみたいなの。

 そう言えば、あの時はパニくっていたのでお灸がもの凄く熱く
感じたけど、その後随分たってからお灸の痕を確認してみたら、
どうにもなってなかったわ。

 えっ、どうして?すぐに確認しなかったのか?

 もし酷いことになっていたら、私はお父様を恨んでしまいそう
で、それが怖かったのです。
 でも、後で河合先生に聴いたら、お父様、お線香の頭をほんの
ちょっと着けただけで、実際に艾を乗せてお灸をすえてないって
言われました。どうやら始めから脅かしだけのつもりみたいです。

 えっ、それでその後、お父様とはどうなったか?……

 別にどうにもなりませんよ。今までの生活と何一つ変わりあり
ません。

 お父様を見つけると、いつも抱っこをおねだりして背中に抱き
つきますし、何かと我儘言ってはお父様を困らせます。
 私はそんなお父様の困ったお顔を見るのが大好きでしたから。

 私の場合は、お股にお灸を据えられた前も後も甘えん坊さんで
悪い子だったんです。それに何より実年齢以上に赤ちゃんでした。

 たまに河合先生が忙しくて、お父様が私をお風呂に入れること
があるのですが、そんな時はお風呂場で裸ん坊さんのままタオル
ケットに包まれて、お姫様抱っこで書斎のソファにベッドイン。
包まれたタオルケットで汗を拭いてもらい、全身をマッサージ。
ほっぺやお乳にも乳液をスリスリしてもらったら、最後は下着を
着けずにパジャマを着てお父様のお膝で一緒に夜のお勉強開始。
 これがごく一般的なスケジュールでした。

 お姉様たちからは「お父様に甘えすぎ」って言われていたけど、
そもそもお父様がその習慣を変えようとなさらないし私も変えて
もらいたいなんて思わなかったから大きくなってもずっと続いて
いたんです。

 ベッドでお股を広げていても相手がお父様ならあえて隠すなん
てことはしなかったの。大胆でしょう。
 だって、お父様からならお仕置き以外何をされても楽しいんだ
もの。『楽しいことしてえ~~』って感じで大の字だったわ。
 お灸のお仕置きの時はあんなに騒いだのに、終わったら、もう
その日からケロッとしてたんだから。

 それに、これはその後本当にお灸を据えられて感じたんだけど、
お灸の痕ってつまりは火傷の痕なわけだから、しばらくは歩くと
そこが微妙に摺れて『あっ、ここ、ここに据えられたんだ』って
わかるのよ。でも、私にとってそれは傷じゃなかった。それって
私の体をお父様がつねに見守ってくれてるみたいで、逆に嬉しか
ったの。

こんな言葉、子供の私が使っちゃいけないかもしれないけど、
お股へのお灸って、お父様に手込めにされた気分なのよ。
 据えられた時はたしかに死ぬ思いだったけど、終わってみると、
お父様の愛を自分だけが独り占めできたような、そんな不思議な
高揚感が残ったわ。

 これを正直にお父様に話したら……
 「『手込め』ねえ……」
 最初は複雑な表情だったけど、そのうち……
 「……でも、そうかも知れないな。……だったら最後まで面倒
みてあげなきゃね」
 私の頭を撫でていつものように抱っこ。

 そして……
 「いずれにしても嬉しいよ。お前のことだから、こんな厳しい
お仕置きもきっと受け入れてくれるだろうと思ってはいたけど、
ちょっぴり心配もしてたんだ。お前がネガティブになっていない
なら、それが何よりだ」
 お父様、そう言うと突然お顔がほころんで……
 「ほ~~~ら、お父さんだよ~~~」

 よっぽど嬉しかったんでしょうね、お父様は私を目よりも高く
持ち上げると、何度も何度も頬ずりして、なかなか床に下ろして
くれませんでした。

 「でも、熱かったよ!ホントに据えるんだもん」
 私はお父様のご機嫌が直ってから、あらためて愚痴を言います。

 これは私に限らないと思いますが、愛されて育った子どもって、
厳しいお仕置きを言い渡されても『今は怒ってるけど、そのうち
許してくれるんじゃないかしら』って、心ひそかに期待している
ものなんです。
 それが最後までいっちゃったものだから、そこが私にとっての
不満でした。

 この時のお姉様たちも、端から見える暗い表情ほどには深刻に
考えてじゃなかったかもしれません。
 ただ、お姉様たちの様子が心配になりますから、私はその後も
目を皿のようにして隣の部屋の様子を窺っていました。

 すると、お父様たちどうやら今回は本気みたいで、お仕置きの
衣装である体操服をご自身で娘に着せ始めます。

 すると……
 「あっ、ずるい!私の時は素っ裸だったのよ!素っ裸にしろ!」
 またしてもつまらない独り言。女の子って妙なところに意固地
なんです。特に扱いが平等でないと怒ります。

 私は心の奥底から湧き起こる怒りで思わず目の前のガラス窓を
叩いてしまいました。

 が……
 その後の手順は私の時と同じでした。

 天井の蛍光灯が消され、部屋は一時的に真っ暗。
 すぐにお父様たちが手分けして部屋のあちこちに置かれた蜀台
の百目蝋燭に火をつけて回りますから、人の顔が判別できる程度
にはなりますが、揺らめく炎の明かりは電気の明かりと比べれば
はるかに暗くて子供たちには不気味で怖いものです。

 この舞台設定だけでも幼い子供たちには十分お仕置きでした。

 そんな時代劇のセットのような中で、まず、お父様とその娘が
畳敷きの舞台で、お互い正座して向き合います。

 すると、娘が両手を畳に着けてご挨拶。
 「お父様、お仕置きお願いします」

 なかなか子どもの側から言いにくい言葉ですが、言わなければ
お仕置きは始まりません。始まらなければ終わらないわけで……
この言葉は絶対に言わなければならない言葉でした。

 ご挨拶が終わると、その場で仰向けに寝かされて、お父様から
せっかく着せてもらったブルマーとショーツを剥ぎ取られます。

 その瞬間、大切な谷間が現れ、やがて両足も持ち上げられます。
 女の子だからここで悲鳴の一つも上げたいところですが、そこ
はぐっと我慢します。私たちの世界では追加の罰を受けないため
にもお仕置きの間は極力声を出してはいけませんでした。

 各家々の家庭教師が、仰向けになったお姉様方の両肩を両膝で
踏んで押さえ、高く上がった両足の太股をしっかりと鷲づかみに
して支えます。

 女の子にとってはこれ以上ないほど惨めで、恥ずかしいポーズ
です。私も同じ姿勢になりましたけど、お股の中をスースー風が
通って屈辱的というか、風邪をひきそうでした。

 ただ、こうしたお姉様たちの痴態を眺めていても、私には何の
興味も湧きませんでした。
 だって、女の子にしてみたらあんなグロテスクでばっちいもの、
鑑賞する対象じゃありませんから。

 ただ、明君に視線が移ると、それは別でした。
 『見ちゃいけない』と思いつつも男の子のアレには視線がいっ
ちゃいます。

 『へえ~、男の子のって、あんな感じなんだ。真ん中にまるで
縫ったみたいに筋が入ってる』
 声には出さないけど滅多に見られない映像に私の心は興奮状態。
いつしか小さなガラス窓にへばりついて明君のアソコを食い入る
ように見つめていました。

 すると明君……
 突然、大胆にも私に向かってピースサインを送ります。
 どうやら、私と目が合ったみたいでした。

 男の子って、恥ずかしいって言葉を知らないんでしょうか?
 女の子なら絶対にしないと思います。

 「?」
 それに気づいた明君のお母様がこちらを振り返ります。

 さらに、つられる様にして他のお父様たちもこちらを振り返り
ましたから……

 『あっ!!ヤバイ』
 私は思わず身を隠そうとしたのです。

 ところが、あまりに突然だったので、踏み台にしていた小さな
椅子の角で足を滑らせてしまい、真っ逆さま……

 「ガラガラ、ガッシャーン」

 場内に大きな音が木霊して、私はお尻をしたたか打ってしまい
ました。

 「いてててて」
 でも、すぐには起き上がれません。

 『やばい、逃げなきゃ』
 そうは思いましたが、お尻が痛くて痛くてなかなか立てません
でした。出来たのはその場によろよろと立ち上がるところまで。
 そこへお父様たちが駆けつけます。

 「何だ、美咲じゃないか……大丈夫だったか?」

 真っ先に駆けつけた小暮のお父様が私を抱き起こしてくれます。
 気がつくと、明君のお母様も瑞穂ちゃんのお父様も様子を見に
きていました。

 「へへへへへ」
 こういう場合って、もう笑ってごまかすしかありませんでした。

 「あれあれ、美咲ちゃんだったのかあ。くぐり戸開いてた?」

 「はい」
 小さな声で答えると……
 「鍵を誰かさんが掛け忘れちゃったみたいだね」

 瑞穂お姉さまのお父さん、進藤先生が笑えば、明くんのお母様
真鍋の御前様も続きます。

 「あらあら、これはとんだところを見られちゃったみたいね。
……あなた、男の子の物なんて初めて?そんなことないわよね。
うちの明とも一緒にお風呂入ってるから……」

 真鍋の御前様は、私が小さなガラス窓に顔を押し付け豚さんに
なってこちらを見ている私の姿を発見なさったのです。
 きっと私が男の子の物に興味津々と思われたのでしょう。
 とんだ恥さらしだったわけです。

 「えっ……まあ」
 私は俯きます。

 「でも、驚いたでしょう。みんなあんな凄い格好なんですもの
ね」

 真鍋の御前様は終始にこやかで私を叱るという雰囲気ではあり
ませんでしたが、お父様は……

 「大丈夫ですよ。この子はすでに経験済みですから」
 あっさり私の過去をばらしてしまいます。

 「経験済みって?……まさか、この子に、なさったんですか?」

 「ええ、今年の三月に……」

 「それは、また……手回しのよろしいことで……」

 「ま、いずれ六年生になったら同級生たちと一緒にあらためて
やらせるつもりではいますが、何しろこの子はお転婆ですからね、
そのくらいしないと効果がないんですよ。この子に限って言えば
予行演習というところです」

 「そりゃまた、とんだ災難だったわけだ」
 進藤先生は私の頭を鷲づかみにします。

 こんなこと、今だったら笑いことではすまないでしょうけど、
当時の親たちにとってこれはお仕置き、あくまで教育の一部。
 お灸も躾としてやってるわけですから、親たちも子どもたちに
そんなに深刻なことをしているとは受け止めていませんでした。

 「まあ、見ていたんなら仕方がない。その代わりお前も手伝い
なさい」
 
 お父様はそれがさも当然とでも言わんばかりに私の手を引いて
六年生がお仕置きを受けている隣りの大広間へ……。

 私、まるで罪人のようにして大広間へと入っていきます。
 すると、その入口でいきなり河合先生に組み伏せられている遥
お姉様と目があってしまいます。
 それって、お互いばつの悪い思いです。

 『あ~あ、下りてこなきゃよかった』
 そうは思いましたが後の祭りでした。


 六年生六人に対するお灸のお仕置きは畳の上で行われています。

 たくさんの、それこそ必要以上に沢山の蝋燭とお線香が周囲で
たかれるなか、私が騒ぎを起こしたために点けられていた蛍光灯
の明かりが消えて、あたりは再び揺らめくローソクの明かりだけ
に……

 お線香の香りが辺りに漂い、揺らめく蝋燭の明かりだけが頼り
というのは、それだけで小学生にはプレッシャーです。
 もし怒りに任せてお灸をすえるだけなら、こんな仰々しい舞台
装置は必要ありません。

 大切なことは、クラスのみんなが一緒にお仕置きを受ける場を
持つこと。そして、その思い出をこれから先も決して忘れないで
ほしいから、お父様たちは子どもが嫌がるお股へのお灸と決め、
ロケーションにも凝ったのでした。

 お父様曰く……
 子供時代に味わった恥ずかしい思い出や辛い思い出も、大人に
なれば楽しい思い出に変わる。でも、その辛い時代を共有した人
との絆はその後も切れることはない。

 小暮のお父様だけでなく他のお父様たちも同じ考えだったよう
です。六人のお父様たちはご自身の戦争体験を通してどなたもが
そう考えていたみたいでした。

 これって、今なら当然異論があるでしょうが、私たちはそんな
戦争帰りの人たちから教育を受けた世代なのです。
 ですから、時として、今では考えられないようなお仕置きまで
美化されてしまう傾向になるのでした。

 さて家庭教師の先生方はというと、子どもたちの両足を開ける
だけ開かせ、且つその体が微動だにしないよう厳重に押さえ込み
ます。

 場所はとっても狭い処。まさにピンポイントで手術というわけ
です。もし、驚いて両足を閉じたりしたら他の箇所が火傷しかね
ません。それだけに先生たちもここは真剣でした。

 私も何回かこの窮屈な姿勢でお灸をすえられた経験があります
が、これってたんに熱かったというだけでなく女の子にとっては
泣くに泣けないくらい恥ずかしいお仕置きでしたから決して忘れ
ることがありませんでした。

 家庭教師の「こちら準備できました」という声に合せ、その子
のお父様が一人また一人と一段高くなかった舞台に上がります。

 すると、『ついに来た~』といった感じで子どもたちの顔にも
緊張感が走ります。

 お父様が怖いのはどの子もみんな同じなのですが、ただ、その
受け止め方は人様々で、努めて平静を装っている子がいる一方で、
すでに全身を震わせプレッシーに押し潰されそうな子もいます。

 ですから、こんな時には不足の事態が起きることも……

 「おやおや、やっちゃったねえ」

 友理奈ちゃんのお父様は目の前で噴出した噴水に笑いが押さえ
きれませんでした。
 女の子のお漏らしもこんな姿勢でやれば男の子並です。

 「あらあら、大変、大変」
 たちまち他の家庭教師やお父様たちも気がついて、雑巾バケツ
やらボロ布などが用意され、友理奈ちゃんは隣の部屋に隔離され
てしまいます。

 お姉様たちも、せっかく脱いだパンツ、せっかく上げた両足で
したが全員いったん元に戻されて正座しなおすことになりました。

 畳に残る染みも、他のお姉様たちにはっきり見えたはず。誰が
何を引き起こしたかだって、はっきり分かったはずでした。
 誰の目にも事実は明らかでしたが、でもそれを言葉で指摘する
子はここには誰もいません。

 こうした事態が起こったとき、何をして何をしてはいけないか、
私たちは幼い頃から厳しく躾られています。家庭では家庭教師が、
学校では学校の先生が、もちろんお父様からも口をすっぱくして
注意を受けます。私たちは常に相手の立場や心情を思いやる子で
なければいけないと教えられてきたのです。

 もし、約束を破って友理奈ちゃんを笑ったりしたら、どの家の
子でも間違いなくお仕置きでしょう。

 お父様方が私たちに求めたのは、天才や秀才、スポーツマンや
芸術家といった一芸に秀でた子どもではなく、天使様のような、
純な心を持つ少女がお気に入りなのですから、不純な心の持ち主
はいらないということになります。

 ですから私たちの場合『お友だちと仲良く』と言われていても、
いじめや仲間はずれ、取っ組み合いの喧嘩さえしなければいいと
いう単純なものではありません。家庭でも、学校でも、常に相手
を敬うベストな友だち付き合いが求められていたのでした。
 もちろん幼い身で現実には難しいですけど努力は必要でした。

 今回のお仕置きの理由が『お友だちと仲良く出来なかった』と
いうは、お父様たちのそんな気持を反映したものだったのです。

 ですから、『お漏らしをした子を笑っちゃいけない』ぐらいの
ことは全員がわかっていました。


 しばらくすると、友理奈ちゃんが佐々木のお父様や家庭教師の
先生に連れられて隣りの部屋から戻って来ます。
 「みなさん、ごめんなさい」
 小さな声で謝ってから再び畳敷きのステージへと上がります。

 この歳でお漏らしするなんて、そりゃあ恥ずかしいに決まって
ます。もちろんそれをみんなに見られたことも分かっています。
それでいて誰も何も言わないのは友理奈お姉様にとってもかえっ
て辛いことだったんじゃないでしょうか。私はそう思います。

 友理奈お姉様は、お友だちの視線を避けるように俯いたまま、
お父様の処へ。

 すると、佐々木のお父様が両手を広げて……
 「おいで、友理奈。しばらくここで休もう」

 友理奈ちゃんは畳の上に正座した佐々木のお父様のお膝にお尻
をおろします。

 お膝の上に抱っこなんてこの歳ではちょっぴり恥ずかしいかも
しれないけれど、誰もその事を笑ったりしません。
 もちろん『どんな時でもお友だちを笑ってはいけない』という
約束事はありますが、実はこれ、ここでは他の子だってよくやる
自然な光景でした。

 幼い頃からことあるごとに抱かれ続けてきた私たちにとって、
お父様のお膝はお椅子と同じ。『お座りなさい』と言われれば、
素直に座ります。家庭教師の先生でも、学校の先生でも、いえ、
見知らぬ人のお膝にだってごく自然に腰を下ろすのがここの流儀
なのです。

 でも、自分のお父様のお膝はやはり誰にとっても格別でした。
 座り慣れてるせいか他の誰よりもお尻が優しくてフィットして
心が落着きます。

 お灸のお仕置きに限りませんが、子供にとって辛いお仕置きを
受けなければならない時は、そのショックが少しでも軽減される
ようにと、こういう形で待たされることが多いようでした。

 お仕置きは見知らぬ人からの闇討ちではありません。沢山沢山
その子を愛してきた人がその子の危険を察知して発する危険信号
みたいなものですから、他の人からやられたら悲鳴のあがるよう
な辛い体験も「静かになさい!」と一言命じるだけで、その子は
歯を喰いしばって我慢できるのでした。


 お仕置き前の緊張感のなか、お父様方が畳の上で車座になって
雑談されていますが、正座されているその膝の上にはそれぞれの
お子さんたち、つまり六年生のお姉様方が腰を下ろして頭を撫で
られています。

 私はおじゃま虫なわけですが、お父様の背中に張り付くことは
許されていました。

 緊張が少しだけほぐれた後、最初に口火を切ったのは、進藤の
お父様。つまり瑞穂お姉様のお父様でした。

 「それでは、よろしいでしょうか。当初は一斉にお灸をと考え
ておりましたが友理奈ちゃんの落ち着く時間も必要でしょうから
今回は一人ずつやっていきたいと思います。まずは瑞穂からやら
せていただきますけど、よろしいでしょうか」

 瑞穂お姉様が初陣を飾ることには他のお父様たちも異議はなく、
二人は車座の中心へと進みます。
 そこが、言わば子供たちの刑場というわけです。

 もうこうなったら覚悟を決めるしかありませんでした。


 瑞穂お姉様と進藤のお父様は、まずお互いが向かい合って正座
します。最初からのやり直しですから……

 「お父様、お仕置きをお願いします」
 瑞穂お姉様は畳に両手を着いてご自分のお父様ご挨拶。

 『お仕置きは愛を受けるわけだから、ご挨拶は必要なんだよ』
 私たちはお父様からこう教えられていました。
 もちろん小暮家だけではありません。他の五つの家でもこれは
共通の作法でした。

 「それでは始める。みなさんの見ている前だからね、みっとも
ない声は出さないように……いいね」

 「はい、お父様」
 瑞穂お姉様は健気に答えます。

 でも、心の中は震えていたはずです。女の子がこんなにも沢山
の人たちの前でお股を晒してお灸を据えられるなんて、五年生の
私が想像しただけでも恐ろしいことですから、体が変化し始めた
六年生なら、なおさらだったに違いありません。
 でも、避けて通れませんでした。

 『私の時は河合先生とお父様だけだったからまだよかったけど、
こんなに沢山の人たちからみられていたらショックだわ』

 私がそう思って辺りを見回すと、それまで車座になって座って
いた親子がいつの間にか瑞穂お姉様のお股の奥がよく見える場所
へと移動しています。

 気がつけば、私だけが取り残されていました。

 そして、私も……
 「美咲ちゃん。そこでは他の人が見えないよ。こちらへいらっ
しゃい」
 膝の上に遥お姉様を抱いてお父様が私を呼び寄せます。

 「お友だちのお仕置きを見学するのも、お友だちとしての責任
だけど、美咲ちゃんだけ特等席では他の人たちが見えないよ」
 お父様はこう私に注意したのでした。

 でも、これってふざけてそうおっしゃったんじゃありません。
ここではお友だちがお仕置きを受ける姿を見学するのもお友だち
としての大事な義務なのです。
 お父様は大真面目にこうおっしゃったのでした。


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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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