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綾瀬のおばちゃん(3)

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 これは普段私が書いているものと違って、対象が子供ではあり
ません。『大人の赤ちゃんごっこ』世間ではエイジプレイなどと
呼ばれているものです。そのため、中にフェラチオの記述があり
ます。私の作品ですから、例によって細かな描写はありませんが、
一応、そういうものだとご承知ください。


 §3 馬鹿馬鹿しくて楽しい時間

 食後、子供たちは一階下の自宅に帰され、和子さんもこれから
先の準備が済むと、下へと降りていきました。
 残ったのは、僕とおばちゃんだけ。
 そのおばちゃんが僕に最終確認です。

 「ここは床屋さんと同じで、一度始めたら終わるまで私に全部
お任せの世界なの。何をされても絶対に逆らわないって約束する
かい?」

 そもそも1万円も払って(いえ、当時の僕にとっては大金です)
いったい何をされるかも分からない処へ入り込むなんて、とても
正気の沙汰とは思えません。今にして思えば、若気の至りという
やつでした。

 頼りは、丸川先生たちが書く小説だけ。そこに出てくる情景が
気に入っていて、ひょっとしてそれがここで行われているんじゃ
ないか、僕はそう踏んだのです。

 でも、肝心のサークル仲間の誰に聞いても、おばちゃんの事を
まともに答えてくれる人がいません。みんな口が重いのです。
 ただ、そうやってはぐらかすことが、逆に確信となって、僕は
不審者となってしまったのでした。

 「……はい、大丈夫です」
 おばちゃんの最終確認に、腹は決まっていましたが、あらため
て自分の心に『これから馬鹿なことをやるんだ』と言い聞かせて
返事をします。

 「それじゃあ、坊や、まずはこれに着替えて……」
 おばちゃんは和子さんが用意していった服に着替えるようにと
僕に命じます。
 そこで、その服を着てみますと……

 「ああ、可愛い、可愛い。爺さんたちと違ってお前は歳も若い
から見栄えがするじゃないか」
 おばちゃんは満足そうです。

 着替えたのは、股上の短いショートパンツとペコちゃんが胸に
大きくプリントされたニットシャツ。赤ちゃんのロンパースかと
思っていましたが、違っていました。
 夏にカジュワルな場所でなら大人が着ていてもそれほど不自然
さを感じさせない衣装です。

 「これ、何?」
 僕が衣装の袖を引っ張ると……

 「子供の服だよ。これからお前は私の子供になるんだ。歳は、
……そうだね、隼人か、……琴音くらいのつもりでいればいいよ。
……いずれにしても、私には絶対服従だよ。『はい、お母さん』
以外は許さないからね。イヤイヤをしたら即、お仕置き。いいね」

 「…………」
 その瞬間、私は『やっぱり、ここだったんだ』と思い。そして、
おばちゃんには、小説にあるように……
 「はい、おかあさん」
 と答えたのでした。

 「よし、いいご返事だよ。それじゃあ、まずお絵かきしようか」
 おかあさんはそう言って、ぼくを隣りの和室へ連れて行きます。

 そこにはすでにおコタ(炬燵)が用意されていました。
 時期は10月。まだそのシーズンには早いのですが、二人で、
一緒に入ります。

 まず、おかあさんがクッションに腰を掛けてコタツ布団を捲り
その股座(またぐら)へ私がお邪魔するという形です。
そうしないと、私の方がすでに身長が高いのでアンバランスに
なってしまいますから仕方がありませんでした。

 エイジプレイでは私は子供。あくまでおかあさんに抱かれる身
なのです。

 私はそんなおかあさんに負担をかけない形で抱っこされると、
目の前にあった大きなスケッチブックに絵を描き始めます。
 鉛筆で輪郭を描いて、クレヨンで上手に色を塗って……

 いえ、いえ……実はこれ、私が描いたものではありませんでした。
 私は鉛筆やクレヨンをただ握っていただけ。全てはおばちゃん、
いえ、おかあさんが私の手を包み込むように握り、慣れた手つき
で、さっさ、さっさと描いていきます。

 その上手なこと……驚きました。
 私は自分の握られた手から生み出される完成度の高いイラスト
が嬉しくなり、何だか自分まで絵が上手くなったように感じたの
でした。

 おかあさんが描くのは俗に『責絵』と呼ばれるSM劇画ですが、
私の嗜好を考慮しておどろおどろしいものは描きません。画題も、
『少女のお仕置き』になっていました。

 浣腸、お灸、尻叩き……いずれも親や教師からの折檻です。
 おかげで5、6枚描くうちに息子がすっかり目を覚まし、私は
おかあさんの描く少女に恋をしてしまいそうになります。

 「坊やは、こんなのが好きなんだね」

 おかあさんは僕の嗜好に副って最初の5、6枚を描き上げると、
更に奥深いテーマでまた5、6枚仕上げてくれました。

 おばちゃんはこうしてお客さんと一緒に絵を描くことで、相手
がどんな嗜好の持ち主で、今何を求めているかを判断して今日の
メニューを決めるのです。

 私は、その後何人かの女性に同じようなことを頼んでみました
が、大半は始めから決められたメニューを機械的にこなすだけ。
こんな事ができたのは、後にも先にも彼女だけでした。

 「これ、もらっていい?」
 思わず私がねだると……
 「いいわよ。お土産にあげる」
 快く応じてくれたのです。

 以来、これは私の宝物となりました。売るなんてとんでもない。
ネットにだって絶対に出しませんよ。

 「よし、坊やの嗜好もわかったことだし、次は綺麗綺麗しよう
か」
 イラストをまだ見入ったままでいる僕の頭の上からおかあさん
の声がします。でも、おかあさんの言う綺麗綺麗の意味が、最初
私には分かりませんでした。

 「ほら、いつまで見てるの。始めるわよ」
 やがて、おかあさんがシェービングクリームとT字のカミソリ
を持ってきたことで、私は了解します。

 実はこれ、丸川先生の小説にはよく出てくる光景だったのです。

 小説によれば、新入生は頭の毛以外すべての毛をおばちゃんに
よって剃り上げられることになっていました。すね毛、わきの下
……勿論、陰毛も全てです。
 いくら、子供だ、子供だ、と叫んでみても、はたからみれば、
グロテスクこの上ないことをしているわけです。これでさらに、
毛があったんじゃ、いよいよ興ざめしてしまいますから……

 私もそれについては覚悟を決めるしかありませんでした。

 ただ、私の場合……
 「ほう、お前さん、すね毛ばかりか、脇の下もつるつるじゃね。
まるで本物の子供みたいだ。こっちも手間が省けて何よりだよ」
 せんべい布団に全裸で寝かされている私を見て、おかあさんが
微笑みます。

 これって遺伝なんでしょうか。私は脇の下には毛が一本も生え
ませんでした。

 ただ、そんな恥ずかしい姿を晒していても、僕は笑っています。
『おかあさん』なんて呼んでいてもおばちゃんと会うのはこれが
二回目。所詮は赤の他人のはずです。なのに、なぜなんでしょう。
こうして笑われていることがちっとも苦痛ではないのです。

 そのことは私自身も不思議で仕方がありませんでした。

 「よし、坊や、さっぱりしたところで、次はミルクよ。その後、
お風呂に入ろうか」

 おかあさんは再び股上の短い半ズボンを穿かせ、ペコちゃんの
ポロシャツを着せて、布団の上に正座したままで僕の体を抱き上
げます。

 「さあ、おいちい、おいちいミルクですよ」

 「!」
 僕は目を丸くします。

 おかあさんの優しい声と共に目の前に現れたのは、どこで調達
したのでしょうか、巨大な哺乳瓶。その吸い口は、大人の私でも
口を大きく開けなければならないほどでした。

 でも、これが赤ちゃんのリアリティーなんでしょう。赤ちゃん
にとって哺乳瓶というのはこのくらい大きな存在のはずですから。

 何でも粉ミルクメーカーが宣伝用にこしらえたのを譲ってもら
ったんだそうですが……一説には、その社長がここで使うことを
見越して、そんなCMをわざと企画したんだとも聞きました。
 いずれにしても、これはありがたかったです。

 それはそうと孫の琴音ちゃんはすでに赤ちゃんじゃありません
から、今は哺乳瓶のお世話にはなっていないはずですが、大人の
赤ちゃんたちはいくつの年齢設定で遊ぶ時もこれだけはお定まり
のようでした。

 僕も目を輝かせてこれにしゃぶりつきます。

 「!!!」
 ところが、吸い付いてみて二度ビックリです。

 「美味しいかい?………あんたのおかあさんがいつもミルクに
ポポンS(ビタミン剤)を入れてたって聞いたから真似してみた
んだよ。どうだ、ママの味がしたろう」

 僕は感激、感心しました。実はその話をおばちゃんにした記憶
がなかったのです。恐らく何かのついでにポロリと口からこぼれ
出た程度でしょう。…でも、それを覚えていてさっそく利用する
なんて……さすがにおばちゃんはプロです。

 おばちゃんに上半身を揺らされ、子守唄を聞いてるうちに僕も
ちょっとだけ悪戯を……

 哺乳瓶のゴムの吸口を吸って出てきたミルクを、そうっと唇の
周りに吐き出してみたのです。

 当然、唇の周りは白く汚れますから、そのたびにおかあさんが
ガーゼで拭いてくれますが……

 それを何回か繰り返すうち、わざとやってるって気づいたんで
しょうね、今度は、おかあさんがそれを舐めて拭きとってくれる
ようになったのでした。

 普通の人の感性ならおばちゃんに口の周りを舐められたんです
からね、『おえっ!』ってなもんでしょうが、私の場合はそれも
楽しい遊びでした。


 授乳が終わると、次はお風呂でしたが、実は、これがこの日の
中で最も大変な出来事だったのです。

 「おかあさん、ちょっと準備がありますからね、いい子にして
いるのよ」
 おかあさんは僕の口に特大おしゃぶりを押し込むと、頭を撫で
て席をたちます。和子さんがお水だけを張ってくれていたお風呂
のガス釜に火をつけに行ったのです。

 当初、僕はそれだけのことだと思っていました。
 ところが、それにしては時間がかかります。

 『おかしいな、どうしたのかな?』
 と思っていたところへおかあさんは戻ってきたのですが……

 「えっ!?」
 それを見た瞬間、全身鳥肌、目が点になってしまいました。

 おかあさんは手ぶらでは戻ってこなかったのです。
 大判のタオルやら茶色の薬ビンやらを大き目の洗面器に入れて
運んできます。そこには見慣れたガラス製のピストン式浣腸器も
あって……これを見たら、驚くなという方が無理でした。

 『えっ、お風呂だと言ってたのに、その前に浣腸するのか?』
 僕の不安そうな目を見て、おかあさんはしてやったりといった
表情になります。

 「坊や、せっかくお風呂に入るだもの。一緒にお腹も洗っちゃ
おうね。だって、坊やのおうちではそうしてたんでしょう」

 『何言ってるんだ、そんなことするわけないじゃないか』
 僕はとっさにそう思います。

 「浣腸が終わってからお風呂に入るの?」
 恐る恐るたずねてみましたが……

 「そうじゃないの。お風呂でうんちするのよ。体が暖まってる
からそこで出すと気持がいいわよ」

 「えっっっっ!?『冗談だろう……』」
 僕はさらに驚き不安になります。

 でも、その瞬間、
 『!!!』
 僕はおばちゃんに余計なことを話してしまったのを思い出した
のでした。

 『そうか、僕が子供の頃お風呂場でウンコ漏らしちゃったこと、
おばちゃんに話したんだっけ……おばちゃん、何でもよく覚えて
るなあ』

 後悔先に立たずですが……

 「コラ!何ぶつくさ言ってるの。そりゃあ、世間でこんなこと
したら大変だろうけどさ。そもそも、ここは世間じゃないもの。
みんなここへ来て、自分の恥ずかしい部分を全~部さらけ出して
帰るんだよ。ここはそうやってリフレッシュするためにあるんだ
からね。かしこまってどうするんだい」

 「そりゃそうだけど……」

 「何だ、これだけ言ってもまだ恥ずかしいのかい。お前はまだ
若いからね……それじゃ仕方がない。このおかあさんが、目一杯、
恥をかかせてやるか」

 おかあさんはそう言うと……膝を抱えてうずくまっていた僕を
突き倒して仰向けにし、半ズボンをブリーフごとさっと脱がせ、
両足を高くあげます。

 「…………」
 一瞬の早業ではありましたが、僕も無抵抗でした。

 もちろん、おばちゃんと若い僕が争えば、勝負は見えています。
 でも、争いませんでした。
 自分からやって来て、お金まで払って、今さら逃げても何にも
なりませんから……

 「ほら、坊や、いくよ。ちょっと気持悪いけど我慢してね」

 ところが、そんなおばちゃんの声は、僕に魔法をかけます。
 不思議なもので、その声と共に僕の精神年齢が21から5歳へ
と変化するのでした。

 お尻の中へと流れ込むグリセリンが心地よいはずがありません。
どんな時にやられても、誰にやられても、それは不快に決まって
います。

 ところが、おばちゃんにやられたその浣腸だけは、なぜか心地
よいと感じてしまったのでした。

 「さあ、このまま、おっぷ(お風呂)に入ろうね」
 シミズ姿になったおばちゃんに抱き起こされ、手を引かれて、
おばちゃんちのお風呂へ行きます。

 豪華なお風呂じゃありません。ビニールのアヒルさんやブリキの
金魚さんたちが湯船に浮かぶ団地の小さなお風呂です。
 そんな狭い湯船にシミズ姿のおばちゃんと一緒に浸かった時、
僕はありえないものを感じてしまいます。

 イチジク浣腸をされ、シミズ姿のおばちゃんに抱かれるように
して湯船に浸かって震えながらウンコを我慢している図なんて、
こんなのマンガにさえならなほど滑稽な映像です。恐ろしいほど
馬鹿げています。
 でも、その時間は、同時に信じられないほどの幸福感を、僕に
もたらしたのでした。

 女性にはわからないと思いますが、多くの男性はウンチを我慢
する時、性的に興奮します。幼児の時もそうですから、フロイト
は幼児の一時期を『肛門期』だなんてよんでたくらいです。

 この男性特有の性的興奮が、二つの矛盾する感情に翻弄され、
僕のリビドーを高めていきます。

 僕は、『この湯船で漏らすかもしれない』という恐怖心の中で、
『でも、もし、ここで漏らしたらどんなに気持ちがいいだろう』
と考えたりもするのです。
 身体はガタガタと震えていながら、お湯の暖かさ、心地よさも
同時に感じています。
 それに、ガタガタと震えている僕の身体をおばちゃんが押さえ
ているは、拘束されているという不安感であると同時に、身体を
支えてもらっているという安堵感でもあるわけで……

 互いに相反するもの同士が絡みあい、僕の頭のあちこちでは、
回線がショートして火花が散ります。意識が朦朧とし始めます。

 でも、そんな異常電流が僕の生命エネルギーの炎を消し去る事
はありませんでした。むしろ、それは僕の身体の芯にしっかりと
溜め込まれ、やがて湧き上がるリビドーの触媒となっていきます。

 「よし、もういいぞ」

 ようやくおばちゃんがそれまで掴んでいた僕の両腕を離します。
 おばちゃんには僕の限界がわかっているみたいでした。

 「だめなら、ここでやってもいいよ」
 おばちゃんの許可を背中で聞きましたが、さすがにそこまでは
……

 「*********」

 ところが、おばちゃんは既(すんで)の所でトイレに間に合った
僕を急かせます。
 「ほら、早くせんと、せっかくの楽しみがなくなるぞ」

 おばちゃんに急かされてトイレを済ませると僕は再び煎餅布団
へ……

 「さあ、これからがお楽しみだ」

 まだ身体が温かいうちに仰向けに寝かされて今度はおばちゃん
の愛撫を受けるのです。

 バスタオルで身体中の汗と水滴がくまなく拭き取られ、香油が
全身に塗り込められます。これは身体を冷やさない工夫でした。

 「じっとしてるんだよ。そして、目一杯、我慢するんだ」

 乳首から始まった愛撫は舌と唇を使って僕の神経に添いながら
すべての性感帯を網羅していきます。

 切なさが顎をじんじん震わせ、両手両足の指先を痺れさせます。
 自然と身体が弓なりになり涙が滲みます。

 『ここも、ここも、……ここもだよ』

 最後に取り残された局部が、おばちゃんの愛を求めて猛り狂う
まで、それは続くのでした。

 最後に……おばちゃんは大きくなった噴水の吹き出し口に口を
着けますが、そこから歓喜の水を吹き上げるのにそう時間はかか
りませんでした。

 『あ~~~~~』
 お風呂の浣腸で僕の身体はよほど大きなエネルギーを溜め込ん
でいたのでしょうか、大人のオシッコが僕の頭の上を越えて遥か
遠くへ飛んでいきます。

 『やったあ~~~』
 僕は自分独りでは味わえなかった快感を、この時初めて味わい
ます。

 『あ~~~~~~』
 夢心地とは、まさにこのこと。

 ただ、大人のオシッコが一回済んでも、しばらくはおかあさん
の愛撫が続きます。おかげで僕は自分で楽しむ時より遥かに長い
時間、天国の住人でいられたのでした。

 そして、僕の愛液が一滴残らず身体の外へ出てしまうと……
 僕のお股には、たっぷりと天花粉がはたかれ、浴衣地で作った
昔ながらのオムツがお尻に当たります。
 その頃には、もうすっかり赤ちゃん気分になっていました。

 真新しいオムツがちょいと浮かしたお尻の下に滑り込む瞬間、
僕の身体は後ろに倒れて一瞬反身になり、ベランダに干してある
沢山のオムツが目に入ります。

 今さらながらですが、『そういうことだったのかあ』と思った
のでした。


 あとの時間は、おかあさんに甘えるだけ……
 オムツを付けた僕は、おかあさんの膝で離乳食をもらいます。
 絵本、といってもHな絵本なのですが、これを読んでもらい、
目を輝かせます。
 生のオッパイにはさすがに抵抗があったけど、結局は、それも
拒否しませんでした。

 そして、お背中をトントンされて子守唄が聞こえ始める頃には、
本当に目蓋が重くて仕方がなかったのです。

 「眠い……」

 「眠いなら寝てもいいのよ。私は未亡人だからここに来る人は
誰もいないの。安心しておネンネなさい」

 おかあさんとの時間は、僕が、当初思い描いていたシナリオと
完全に一致したわけではありません。でも、僕のシナリオ以上の
サービスをおばちゃんは僕にもたらしてくれたのでした。


 目が覚めると、僕の上には掛け布団が乗っけてありました。

 「坊や、目が覚めたかい?」
 おばちゃんにこう言われた瞬間、恥ずかしい話ですが、最初は
………
 『えっ!ここはどこ?』
 って思ったんです。
 すぐに思い出して赤面です。

 「驚いたよ。……あんた、二時間もここで寝てるんだもん」
 おばちゃんは縫いものをしていました。僕のイニシャルが刺繍
された涎(よだれ)掛けを縫っていたんです。

 「あっ、ごめんなさい。すぐ帰ります」
 僕は上半身を起こしますが……

 「いいのよ、寝たければ寝たいだけ寝て帰ればいいんだから…
そうじゃなくて、驚いたって言ってるの。ベテランになるとそう
いう人もいるけど、初日から本格的にここで寝た人は、あなたが
初めてよ。あなた、人を疑ったことがないでしょう?」

 「そうですか?僕はただ寝ていいって言われたもんだから……
そのまま寝てしまって……」

 「あんた、田舎じゃボンボンだったんだろうね。初日から何の
躊躇(ためら)いもなく私になつくんだもん。こっちが驚いちゃっ
たわ。人が良いにもほどあるよ」
 おばちゃんは手先を休めずこう言います。

 「ごめんなさい、こういうこと初めてだったから勝手がわから
なくて……きっと、やりにくかったんでしょうね」
 頭をかいて答えると……

 「そんなことはないわ。私の方こそ、あんたのお母さんの代わ
りができて嬉しかったのよ。お客さんは当然そうでしょうけど、
こちらだって苦痛だったらできない。私も好きだから続けてこれ
たの。………だけどね、もうここへは来ないほうがいいわね」

 「どうしてですか?」

 「あんたはこれからの人だもん。未来ある人はもっと前向きな
楽しみを見つけなきゃ。こういう道楽はね、世の中でそれなりに
仕事をして、もうこれからは、万事下り坂って人が通う処なのよ」

 「次は3万円用意します。お寿司も……」
 苦笑いでこう言うと……

 「馬鹿だね、お前。人の話を聞いてないのかい」
 おばちゃんに本気で怒られました。
 その後、気を取り直したおばちゃんがこう続けます。
 「………だから、そういう問題じゃないって言ってるだろう。
こっちは純粋に心配してるのさ。………お母ちゃんのオッパイが
恋しかったら、田舎(くに)に帰りな。お前の母ちゃんは、お前が
愛しくて仕方がないはずだから、また、こっそり抱いてくれるよ」

 「えっ?この歳でですか?……馬鹿馬鹿しい。うちの母親って
そんな人じゃありませんよ。結構、怖い人なんですから…そんな
ことしませんよ」
 僕は話しにならないとばかりハエを追うように右手を振ります。

 「やってみな。やってみればわかるよ。あんたみたいな子は、
そうやってでないと育たないはずだから……」
 おばちゃんは自信たっぷりに断言します。
 でも、それと同時に、さっきからやっていた涎掛けが完成した
らしく、それを僕の首に巻きつけてくれました。

 「よし、よし、似合う、似合う。良い子だね、笑ってごらん」
 おかあさんは独りではしゃぎ、僕もお愛想の笑いを返します。

 すると、おかあさんは小鉢に取り分けた離乳食代わりのおじや
をスプーンですくって、僕の口にねじ入れるのです。

 「ああ、上手、上手」

 おかあさんに乗せられて、僕も両手の指を目一杯広げたままで
赤ちゃん拍手。
 この時はもう息もぴったりの親子でした。


 しかし、さすがにいつまでもここにいるわけにもいきません。

 帰りしな、おばちゃんは……
 「その涎掛けは私との絆だから箪笥の奥に大事にしまっといて、
もし再びここへ来る機会があったら持って来てちょうだい」

 「はい。わかりました。またバイトでお金を貯めてから来ます」
 僕は、相変わらず明るく返事したのですが……

 「だから、ダメだと言っただろう。次は社会人になってから。
出世してからおいで。ここはね、自分で稼いだお金で遊ぶ処なの。
専門書買うからって、母ちゃんに嘘ついて、くすねたお金で来る
処じゃないんだよ」

 おかあさんは最後まで厳しい言葉を投げかけます。

 『……でも、どうしてわかったんだろう?……その事は絶対に
おばちゃんには話してないと思うんだけどなあ……』

 綾瀬の不審者は沈む大きな夕日を車窓に見ながら、六畳一間の
下宿先へと戻って行ったのでした。


******************(3)******

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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