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第1章 赤ちゃん修行 (2)

<A Fanciful Story>                     

           竜巻岬《3》             
                     K.Mikami

 【第一章:赤ちゃん修業】(2)           
 《赤ちゃん卒業試験》                 

 広美が自らの力でおむつの中に用を足せるようになったのは、
アランに会った翌日だった。
 それまではお漏らしすら満足にできなかった子が、あの事件を
きっかけにひとつ吹っ切れたのかもしれない。

 一山越えた広美の赤ちゃんがえりは早かった。
 もともと若いせいもあって心の裏表が少なく、作り笑いや取り
繕った笑顔を見せてはならないというマニュアルは比較的簡単に
クリアできていた。

 お尻丸出しでオマルに跨がった時に、
 「いつまでこんなことやってなきゃならないのよ」
 と、お仕置き覚悟のセリフも飛び出しはしたものの、広美は、
しだいに自らの境遇に順応するようになっていく。

 その一つが喃語。つまり、赤ちゃん言葉。

 「ばぶ、ばぶ」

 言葉は話せないが、喃語を使うことは覚えたのである。

 するとハイネの方でも広美に少しだけ自由を与えるようになる。

 「そう、お庭に出たいのね」

 天気のよい日は庭でハイハイをさせたり、特大の歩行器を与え
て廊下を歩けるようにしてやったりした。

 外見は奇妙な母子関係も、時が経つにつれて、内心では本当の
母と娘のような関係へと変化していく。
 ただし、体のサイズ以外はすべて赤ん坊になったというわけに
はいかなかった。
 女の子には男にはない生理的な習慣があるからだ。

 この処理を他人に任せなければならない屈辱感は、女性にしか
わからないだろう。

 ハイネはある時はいたわり、またある時は叱りつけて、どんな
時でも広美が赤ん坊の気持のままでいられるように仕向けた。
 それが彼女の仕事だったからだ。しかし、そんなハイネの仕事
の中でも、これが一番やっかいなことだったのかもしれない。

 「…………」

 最初の三ヵ月は、ナプキンを取り替えるたびに二人のメイドと
格闘していた広美も、今ではおむつ替えと同様、ハイネに全てを
任せている。

 『もうそろそろいいかもしれないわね』
 ハイネは穏やかな顔の広美を見て思う。そこで七回目の生理が
終わったのを見計らって、広美に赤ちゃんの卒業試験を受けさせ
ようと決めたのだった。
                                   
****************************

 ある日の朝、その日も普段と変わらない朝だ。

 メイドに、おむつを替えて貰い、まずはハイネから与えられた
二本の哺乳壜に吸いつく。

 一本はミルク、もう一本はビタミン入りのジュースだ。
 ただ、それだけでは十四才の少女のお腹としては淋しい。そこ
で、ハイネから離乳食のようなものを食べさせてもらうのだが…

 「美味ちいですか?」

 もちろんその際もハイネにあやされている広美が自ら手を使う
ことはなく、口の中に押し込まれたスプーンをもぐもぐとやって
みせるだけだ。

 当初は、ぎこちなかったこの食事風景も、半年過ぎた今では、
すっかり板についている。ひょっとしてこの子は生まれた時から
このままなのではないか、と疑いたくなるような自然な食事風景
だ。

 固形食がないためかその分うんちが緩いが、どのみちおむつに
しなければならないので、むしろそれも好都合だ。

 ハイネは食事が終わると、広美を抱き上げ、二、三度頭を撫で
てから、自らの乳頭を広美の口に含ませる。もちろん、ミルクは
出ないが授乳させるのである。

 『大人二人のレズビアン?』

 傍目には無気味とも映るこの光景も、なさぬ仲の広美との人間
関係を保つ為には欠かせないスキンシップだった。

 「ばぶばぶ……まま……まま……」

 女性同士だからこそ成り立つこんな戯れ。実は、意外にも窮屈
な生活を強いられている広美をおとなしくさせておくのに効果な
レクリエーションにもなっていた。

 「広美ちゃんは今日もごきげんね。今日はね、大勢の人の前で
広美ちゃんが、ちゃんと、うんちができるかどうか見ていただく
大事な赤ちゃん卒業試験よ。これができたら、赤ちゃんは卒業。
お口もきけるし自分のあんよでお庭だって散歩できるようになり
ますからね。頑張りましょうね」

 ハイネが今日の卒業試験の様子を伝えたとたん、御機嫌だった
広美の喃語が止まり、乳を吸う力がなくなる。
 その瞬間、少女にとっては、大きな不安が心をよぎったのだ。

 たしかに、今ではおむつにうんちができるようになっていた。
だだそれは、あくまでハイネやメイドたちが見ている場所でのみ
可能なのであって、誰の前でもそれができるわけではない。その
事は何より広美自身が一番よく知っていたのである。

 「大丈夫、何も恐がることはないわ。いつものとおりにやれば
いいのよ。別にあなたの親戚が見にくるわけではないし、こんな
事があったよってその人たちが世間で言い触らしたりもしないの。
…それに、出なければ出ないで、お潅腸という手も…あっ、痛い」

 最後の言葉に広美は素早く反応する。それまで軽く握っていた
だけのハイネの乳房を思わず握り締めたのだ。大勢の見ている前
でお潅腸されたうえに排泄させられるなんて、十四の娘には想像
しただけでも身の毛のよだつ異常な出来事だったのである。

 「どうしたの。浮かない顔して……大丈夫よ。何度もやってる
けど、滅多に覗き込む人なんていないから。それに、集まる人は
みんな常識人で、ことさらこんなことが趣味というわけじゃない
の」

 「…………」

 「気にしちゃだめ。いつも言ってるでしょう。『頭を空っぽに
して嵐が通り過ぎるのを待つの』……何より、私がついてるわ。
さっさと済ませれば、五分で終わることよ」

 ハイネは広美をやさしくベッドへ戻すと彼女が落ち着きを取り
戻すまで添い寝する。

 「赤ちゃんを卒業したら、あなたは幼女になるの。それを卒業
したら次は童女。それがおわったら少女。それからレディーね。
レディーになったらもう恐い物なし。このお城を我がもの顔で歩
いて、それまで苛められたメイドたちも見返してやれるんだから。
それまでの辛抱よ」

 ハイネの言葉はたしかに嘘ではない。しかし、そこまでになる
には、この先も、長い長い茨の道を歩んでいかなければならなか
った。

****************************

 ゴブラン城では、月に一度、城主主催の園遊会が開かれること
になっており、お昼近くの十一時、城の大広間ではすでに大勢の
紳士淑女がそれぞれに歓談を始めていた。

 そんな中、ささやかな拍手と共にある種のどよめきが、静かな
波紋となって会場内に広がっていく。

 「おう…」
 「まあ…」
 「ほう…」
 ベビーカーに乗った広美が登場したのだ。

 「大丈夫よ。なるべく早く出しちゃいなさいね。我慢してると
お薬のききめが段々なくなっちゃうから」

 付き添うハイネが広美にアドバイスを送る。実はこの時、広美
は、すでに少量のグリセリンをお腹に入れられていたのだ。

 『会場で広美をお披露目すると、ほぼ同時にお漏らしが起きて、
おむつを取り替えて即退場』
 これがハイネの描いたシナリオ。とにか、く広美がこの会場で
お漏らしさえしてくれればよかったのである。

 ところが……

 「皆様にお知らせがございます。今回この城に新しい命が誕生
いたしました。名前はアリス。まだまだ、十四才という超未熟児
ではございますが、何とかここで生きていく目途がたちましたの
で、皆様にお披露目させて頂きます」

 城主アランの挨拶に、先ほど登場したときよりはるかに多くの
拍手とどよめきが起こる。普段は大人だが、今回は十四才という
年令が周囲の人達の興味を引いたようだった。

 実際、ベビーカーの周りには、大勢の紳士淑女が群がり始める。

 それが広美に、いや、今しがた名前が変わってアリスとなった
少女にどんなプレッシャーをかけたかは想像にかたくないだろう。

 彼らは一様に乳母車の中を覗きこむと、口々に赤ちゃんアリス
をあやし始めた。
 この顔見世は、本来、形だけのもの。こんなに盛り上がる事は
滅多にないのだが……

 「侯爵も果報者だ。こんないい子を天から授かるとは」

 「いや、これはペネロープ女史が自分の持ち物にするらしいぞ」

 「ほうっ。彼女、女もいけるのか」

 「いや、そうじゃなくて、アランの坊やじゃ、すぐに壊しちま
うから、取り上げたんだろうよ」

 列席者は、たわいのない世間話をしながらもアリスの頬を軽く
叩いたり、頭を撫でたりする。それは本物の赤ん坊に接するのと
何ら変わらなかった。

 ところが、アリスの方はというと……こちらは本物の赤ん坊の
ようにはいかない。多くの見知らぬ人たちに見つめられ、強烈な
羞恥心が彼女の身体をがんじがらめにしてしまう。

 アリスは身を固くし両手を胸の前で組んだままガタガタ震えて
いるしかなかった。
 当然、お漏らしなんてこと、少しぐらいグリセリンが入った体
にしても、できるはずがないではないか。

 「さあ、早く。いいから、やっちゃいなさい。今は誰もいない
わ……」

 ハイネが人だかりの途絶えたのを見計らって小声でせかすが、
効き目がない。

 「いや、絶対にいや」
 三十分を過ぎる頃には、薬の効き目も遠退いて、もう手が付け
られなくなっていた。

 そんな二人の様子を見兼ねて、ペネロープが顔を出す。

 「仕方ないわ。今日はあきらめましょう」

 彼女は広美の様子を確認すると、あっさり断を下してしまった
のである。

 「申し訳ありません。ペネロープ様。もう大丈夫かと思ったん
ですが……」

 「いいのよ。気にすることないわ。……人間、三十を越えると
羞恥心も薄らいで、このくらい何でもなく乗り切れるけど、この
子はまだ十四才ですもの。無理もないわ。その代わり、来月には
ちゃんとできるようにしておいてね」

 ペネロープはハイネにそう申し付けると、緊張で強ばったアリ
スのほっぺたを指で突ついて……

 「いいこと、今日からあなたは『アリス』と呼ばれるの。なか
なか可愛いお名前でしょう。赤ちゃんを卒業したら、私とも遊び
ましょうね」

 ペネロープは広美をあやすと、ふたたびハイネに向かって……

 「たとえ濡れてなくても、おむつは頻繁に取り替えた方がいい
わね。こういう羞恥心の強い子は、慣れも大事だから……」

 彼女はそれだけ言い残すと、ふたたびホステスの仕事へと戻っ
ていったのである。

 「そうね、たしかに、あなたにはもっと慣れが必要だったかも
しれないわね」

 強ばった顔、時折訪れる強烈な便意を意地になって押さえ付け
ているアリスの顔を見ながら、ぽつりとつぶやいたハイネは何か
決断したようだった。

 彼女は人をやってメイドを二人連れてこさせる。それは広美が
言葉をしゃべった罰にスパンキングを受けた時の二人組だった。
以後もこの二人組に幾度となくお仕置されていた広美はハイネが
何を決断したのか容易に想像がつくのだ。

 だから、本気になって逃げようとした。ベビーカーから自分の
力で抜け出そうとまでしたのである。
 しかし……

 「ほら、だめでしょう。赤ちゃんが独りで歩けるわけないんだ
から……」
 たちまちハイネに押し止められてしまった。

 以後はあっという間の出来事である。

 二人のメイドが到着しもベビーカーが大広間の隅に運ばれると、
いきなり、鼻を摘んで捻じ込まれた特注のおしゃぶりが口の中で
膨らむ。

 「うっ、うぅぅ……」

 それに気を取られているうちに、おむつが外され、両足が高く
跳ね上がり……

 「あっ……」

 あとは、『恥かしい』と思う間もないほど素早く、ピストン式
の潅腸器の先が直にアリスの菊座を直撃。大量のグリセリン溶液
が直腸へと送り込まれることになる。

 「ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 石けん水ならいざ知らず、グリセリン100CCというのは、
これまでにないほどの量。

 「あっ……だめえ……」
 苦しい息が悲鳴となって漏れるが……

 「そう、もうこれでだめなの。観念なさいね」

 ハイネの珍しく冷たい調子に、アリスは怯える。
 実際、こうなってはどうすることもできなかった。

 「あっ、ああああああ、いやいやいやや、漏れる、漏れる……
だめ、だめ、だめえ~~~…………」

 悲しいうめき声と共にアリスのプライドがおむつの中へと流れ
落ち、耐えられなくなった羞恥心は、彼女の意識を表の世界から
完全に消し去ってしまう。

 「ごめんなさい。この子ちょっと便秘ぎみなもので……」

 ハイネはたまたまそばを通りかかる紳士淑女に断りを言ったが、
今度は誰もアリスのベビーカーを覗こうとはしなかった。

 この会は紳士淑女のサロン。興味本位で何にでも首を突っ込む
ことが許される庶民の宴会ではない。
 彼らは、ハイネの行為がこの催しとは関係ないと知るや、今度
はあえて乳母車へは近づかない。

 ただ、そんな大人の対応を広美は知らないし、知っていたとこ
ろで、受けたショックが収まるわけでもないだろう。
 部屋へ戻ってきた少女は泣き崩れ、一晩中、ベッドの中で叫び
続けることになるのである。


************<赤ちゃん卒業試験(了)>***

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このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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