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(1/31) ローカル列車 

(1/31) ローカル列車

 私はマニアというほどではないが鉄道が好きな少年だった。それ
も最新鋭の機種には興味がなく、廃線寸前の鉄路をボロボロの車両
がノタノタと走る姿に憧れを持っていた。

 私が人生最初に手にしたカメラは子供にはちょっと贅沢な質流れ
品だが、これで撮った写真は鉄道の写真かその沿線の風景。それも
ローカル線と汽車ばかりだった。新幹線が開通したというので、父
に連れられてわざわざ東京まで乗りに出かけたが、結局「撮るもの
がなかった」という理由でとうとう一枚もシャッターを切らなかっ
たという変わり種である。

 その思いは小四のノートにあった。

 『こいつ(新幹線)は20年も30年もここを走り続けるだろう。
ならば、今乗らなくたってなくなりやしない。でも、赤字続きのロ
ーカルは、来年もここを走っているとは限らないじゃないか。今、
そこにわき起こる風を、今この車窓で受けとめて、感じられる生気
を大事にしよう。今しかないこの時を。どちらへ先に行くべきか、
そんなのあきらかだ』

 世間知らずの坊やの筆が踊っている。でもそれは当時の正直な気
持だろう。古い電車や汽車、ディーゼルなんてものは武骨で仰々し
くておよそなめらかという言葉からはほど遠い存在だが、それだけ
にどこか人間臭く、いかにも『お前のために働いてるぞ』って姿勢
に好感がもてたのである。

 私は生身の人間にはヒューマニティーを求めないくせにそんなも
のがないはずの機械にはこれを求めるのである。

 こんなこと書いてるとさぞ本人も他の子のために骨を折ったんだ
ろうなあ、なんて邪推されるといけないのであえて断っておくが、
当時の私は同世代の子供達と比べてもそんなにヒューマンな人間で
も徳の高い聖人でもなかった。

 それが証拠に、いつも見栄を張って学級委員の選挙に出たりする
が底の浅い人間性を見透かされて同性の票はいっこうに伸びない。
 いつも女の子の票でかろうじて当選していた。

 ちなみに、うちの県は恐ろしく男尊女卑の色彩の強いところで、
文部省が『男女二人の学級委員を選出』と書いてよこすと、勝手に
それを解釈、正副をこしらえて、事実上、男が正学級委員、女が副
学級委員になるよう人事配置していた。だから本来なら私がすべて
にイニシアティブを取らなければならないのだが、私は生来責任感
に乏しく日常の大抵の仕事は副委員長に任せっぱなしだった。

 むしろ話は逆で、不徳の固まり煩悩の固まりみたいな人間だから、
ヒューマンなものに憧れるのかもしれない。


電車<赤>
注)写真はこの記事とは無関係です。



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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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