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(1/30)      書斎

(1/30)      書斎

 私の家は例の学校からはかなり離れた処にあって、子供の足だと
電車バスを乗り継いでもゆうに1時間はかかった。この1時間とい
うのが大事で、当時の学校の内規ではこれ以上遠い処からは通えな
いことになっていたのである。

 このため母は最初だけでも学校近くにアパートを借りて近くに移
り住もうかなどと本気で考えていた。

 でも、そのもくろみをうち砕いたのが、私の無類のバス好き電車
好きだった。私は「バスや電車に乗れないんなら学校へは行かない」
とさえ言い放ってだだをこねたのである。

 ただ、最初の頃は時間がかかってもすべてバスで通した。電車を
利用すると早くは着くのだが、2回も乗り換えが必要でまとまった
自分の時間が取りにくいから困るのである。

 実は私、幼稚園当時から『バスや電車の中が一番心安らぐ』とい
う不思議な少年だった。母も、教師も、友だちも…それら人たちが
ことさら嫌いというのではないのだが、そばにいるとうざったい気
がして一人でいられる時間がほしかったのである。
 (だから孤立児なんて言われてしまうのだが……)

 もちろん何度も述べているように運転手さんや車掌さんとは仲良
しだった。だから何かやってるとすぐにちゃちゃを入れてくる事も
多かったが、乗客が残り数人となる地元営業所近くにならなければ
お互いおしゃべりはしないという不文律はできあがっていたから、
それはそれほど気にはならなかった。

 私はこの狭い空間で宿題をし、絵を描き、小説を書き作曲までし
ていた。いわばここが私の書斎代わりだったのである。この書斎で
過ごす40分間が私には貴重だったのである。自宅近くの営業所か
ら出る最も長い路線で終点まで乗って行き、そこで別の路線に乗り
換えて15分。さらに歩いて10分。

 今にして思えば一時間半もかけてよく通ったなあと思わないでも
ないが、何事も慣れの問題で通っていた当時はそれほど苦痛を感じ
たことはなかった。それもこれもこの激しく揺れる狭い書斎あって
のことだったのかもしれない。

 当時は私の街から遠くの学校へ通おうなんて物好きは我が家だけ
だったから物珍しさもあったのだろう。狭い管内だけの話だが、私
は常にアイドルだった。

 ところが、四年生になると私の前にライバルが現れる。私の指定
席にもう一人同じ制服を着た少年が無遠慮にも隣に座るようになる
のだ。こいつは、私と名字が同じということもあって最初から妙に
馴れ馴れしく初めは邪険にしていたのだが、そのたびに「ほら兄弟
なんだから」と車掌さんに言われて仕方なくそばにおいてやること
にした。

 しかし、何より不満だったのは彼の方が私より数段可愛いという
事。たちまち車内アイドルの座は何も知らない弟に奪われてしまっ
たのである。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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