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(1/22)      母の結婚

(1/22)      母の結婚

 今の人たちは、結婚とは好きになった者同士が合意して行うもの
だと思っているかもしれないが、少なくとも私の父母の世代までは
本人同士の意思というのはあまり関係なかった。

 親同士がその利害関係から相手を決めていたケースも多く、私の
両親の結婚もまさに家同士の打算の産物だった。もちろん、二人が
結婚したのは戦後のことだが、それでも当時結婚について何が最も
重要かといえば、まずは家同士の問題だったのである。

 私の両親の結婚もそうした政略結婚みたいなものだから、最初か
ら二人のうまがあっていたわけではなかった。つまり、好き嫌いで
言えばお互い相手が好きということではなかった。

 父方の事情は、男三人の兄弟のうち二人は有名大学を出ていて、
田舎に帰り質屋の継ぐ気がないということ。頼りにしていた番頭さ
んも店を継ぐより別の場所で独立したいという意向を持っていた。
さりとて、自閉症ぎみの親父では荷が重く、江戸時代から続く質屋
は存続をめぐり行き詰まっていた。そこで祖父は商売のできそうな
娘を親父に嫁がせて実質的にその人に跡をついでもらおうと考えた
のである。
 もちろん、彼女が男の子が産んでなるべく早くその子が跡を継い
でくれることも期待していたに違いない。

 一方、母方の方は、海運事業を営んでいた両親に早く死に別れた
母たち兄弟は長兄を中心に規模を縮小してトラック運送と石油販売
だけで商売を続けていたのだが、伯父(長兄)がまだ大学を出たて
で経験不足ということもあり、銀行がなかなかお金を貸してくれず
資金繰りに苦しんでいた。
 そこへ私の祖父が母の評判を聞きつけて乗り込み。当時兄を手伝
っていた母の商売ぶりをみて、これならやれるとふんで親代わりだ
った長兄に話を持ち込んだのである。

 当初、長兄は「まだ何一つ女らしいことをさせていないから」と
断ったが、祖父が「家事なんてものは女中にやらせればいい」と言
って口説き落としたらしい。当然、多額の支度金が父方から出たの
は間違いない。おまけに最初から家事一切はできないものとしてお
嫁に来ていたから本人もそのことには引け目も感じていないようだ
った。
 ま、それでもへこむ人はいるだろうが彼女の場合は平気だったよ
うだ。

 つまり母にとってこの結婚は一つビジネスとしてとらえている節
があった。つまり多額の支度金の代わりに旧家でもある質屋の家を
守り男の子を産んで彼に跡を継がせる。そんなギブアンドテイクで
この結婚を考えていたようだった。
 だから私を育てるというのも愛情というより一種の義務だったの
である。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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