2ntブログ

Entries

(1/12)     お仕置き指南

(1/12)     お仕置き指南

 この豆腐屋の婆さんは実に世話好き話し好きだった。学歴なんて
なかったがやりて時代に培った豊富な経験と知識は母を始めとする
当時の若妻たちには人気があって何かと知恵をつけてまわっていた
のである。

 お灸を子供のお仕置きに使ってみなさいとそそのかしたのも恐ら
く彼女に違いない。だから典子(仮名)ちゃんのお母さんをたきつ
けたのも恐らく……と思えるのだが、もちろん今となっては証拠の
ある話できない。

 実はこの婆さんの話には尾ひれがつくことが多く、そのあたりは
人として欠点とみるべきかもしれないが、そんなことは承知して、
母はこの婆さんとつき合っていた。

 そもそも女の井戸端会議というのは、常日頃から真実だけが語ら
れている場ではない。とりわけ私の田舎は多くの芸能人を輩出して
いることからもわかるように、虚実取り混ぜておもしろ可笑しくそ
の場を盛り上げることが友だちづきあいの条件で、たとえまことし
やかに話した内容が嘘で、その話に乗せられて損をしたとしても、
当人を責めないのが暗黙のルールとなっていた。つまり幼い頃から
芸能人になるべく訓練を積んでいたのである。

 まして婆さんはその昔遊郭の「やりて」だったわけで、男の心理
から色恋のテクニック、家事のやり方に至るまで、まだ人生経験の
浅い若妻たちを手玉にとることぐらいぞうさなかったに違いない。
 そんな彼女が足抜けをした遊女を折檻した時の話なんかはけっこ
う凄みがあって私がその後SM小説なぞを戯れに書いたときのネタ
本になっている。
どうやら典子ちゃんもそんな婆さんの術中にはまって悲劇をみたよ
うだった。

 それはともかく、この時代の親というのは典子ちゃんに限らず女
の子でも平気でなぐっていた。子供が多かったせいもあるだろうが、
夕暮れ時に町内を一周すると親の罵声と子供の泣き声が必ずセット
で聞こえてきたものだ。

 しかし、私はその時代を子供として生きて感じるのだが、当時の
親が今の親より子供を可愛がっていないとは思っていない。時代が
違うし価値観だって違うから一概に比較はできないが、少なくとも
その子を家族の一員として処遇していた点では今の親より優れてい
たと思うのだ。

 多くの子供が家の経済事情を知っていたし、綺麗事抜きに誰もが
ヒーローになれない現実も悟っていた。父親は強く、まずはその壁
を乗り越えなければ何事も始まらないことも承知していた。
 ペットならいずれも不要な素養だが。

コメント

コメントの投稿

コメント

管理者にだけ表示を許可する

Appendix

このブログについて

tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

最新記事

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR