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(1/13)       軽便鉄道

(1/13)       軽便鉄道

 今はもう駅舎も線路も鉄橋も跡形すら残っていないが、私が子供
の頃まで街のはずれには軽便鉄道が走っていた。単行(一両編成)
の小さな電車で、朝夕を除けば車内はいつもガラガラ。緑豊かな田
園風景をトコトコと走る姿は私のお気に入りだった。

 私は子供の頃から不思議な少年で、何でも古いものが好みだった。
電車は新幹線よりローカル列車、飛行機もジェットよりプロペラ、
バスだって新型車両が来ると次を待って来年廃車と決まったポンコ
ツを選んで乗っていた。
 この軽便鉄道もピカピカの新造車両が走っていたら、たいして興
味がわかなかったに違いない。

 私は一週間分の小遣いを貯めると、日曜日はこの電車に乗って過
ごした。母には半ば住み込んで家事をしていたおばあさんの実家が
その沿線にあったからそこを尋ねるという大義名分を掲げて出かけ
ていたが、その実、おばあさんの家へ立ち寄ることはあまりなくて、
お気に入りの電車に乗ってお気に入りの場所に降り立ちお気に入り
の夕焼けを眺められればそれで満足だったように思う。

 おばあさんの家へ寄らないのは、彼女が嫌いだったからではなく、
行けば長い時間そこで足止めをくってしまうからで、私にしてみれ
ば小さなボタ山から眺める田園風景、とりわけ藁葺き屋根の向こう
に落ちる夕日が美しくて、何も考えずごつごつと寝心地の悪い山の
上で帰りの電車が来るまで何もせず寝ていた。
 私にとっての軽便鉄道はこれもまた癒しの旅だったのである。

 子供にしては随分すがれた趣味と思われるかもしれない。
 たしかに、私はどうも子供らしいはつらつさに欠けるところがあ
ったようで同年代の子供と遊ぶより、少し上の世代と一緒に過ごす
時間が長かったし、それが大人でも老人でも私的には何ら差し支え
なかった。
 もちろん相手方にしてみれば小うるさいチビ助につきまとわれて
迷惑千番だろうが、そんなことも含めて私はこうした目上の人たち
に取り入るすべを自然と身につけていったような気がする。

 とにかく、直情的で無礼な振る舞いの多い同年代より、理性豊か
で自分の知らない事をあれこれ教えてくれる年上の方がそばにいて
心地よかったのは事実で、それが叶わない時に訪れるのがこの軽
便鉄道、そしてこのボタ山だったのである。

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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