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( 始めに )/ 登場人物 / 序章

(始めに)
 恐ろしく古い作品です。何しろ、まだフロッピーしか記憶媒体
がなかった頃に書いたものですから。
 悪い癖で、ろくに時代考証もせずに描きましたからね、(^^ゞ
『何となく西洋』という御伽噺です。一応1960年代半ばから
70年代前半を念頭に書いていたと記憶しています。




         カレンのミサ曲

**************<登場人物>********
先生……………音楽評論家
ラルフ…………先生の助手。腕のよくない調律師でもある。
カレン…………革命に巻き込まれて父と離ればなれになった少女
サー・アラン…広大な葡萄園とワイン醸造所を持つ男爵
フランソワ……サー・アランの娘。内気な娘だがカレンには
          敵愾心を持つ
その他…………お屋敷の女中頭(マーサ)
           メイドの教育係(スージー)等
****************************


          (序章)

 「先生、もう一時間も乗っていますけど、まだ着きそうにあり
ませんね」
 若い秘書が初老の紳士に耳打ちすると、それを受けて運転手が
答えた。
 「申し訳ございません。なにぶん主人の家は駅から離れており
ますので」
 バックミラーごしにお愛想らしき笑顔が映る。

 「気にしてはいませんよ。すでに前の晩、地図で調べてありま
すから、別段驚きはしません。それにしても、ここのご主人は、
広大な葡萄園を所有されているようですな。…駅からここまで、
そのすべてがサー、アランの持ち物なんでしょう?」

 「ここのすべてがそうではありませんが、大半はそうです。…
先代様が、駅から山を回らず直線で来られるようトンネルを計画
なさったのですが、工事の途中で落盤事故が起きてしまい、多く
の者が亡くなくなる不幸がございまして、計画は中止されてしま
ったのです」

 「それはまた残念なことですね。……でも、その代わり、途中
まで掘り進めたトンネルをワインの貯蔵庫になさって、事業の方
は大成功というわけですな」

 「よくご存じですね」

 「常識ですよ。ラルフ君。君は知りませんかね、トンネルから
ワインの瓶が貨車に揺られて出てくるワインラベルのイラストを
……」

 「じゃあ、サンダースってのはサンダースワインの……」

 「当然です。そんなことも知らないで、君はここへ私を連れて
来たんですか?こんなことはね、本来ならあなたの方が勉強して
おくべきことでしょうに……あれは、テーブルワインですがね、
なかなかのお味ですよ」

 「そうでしたっけ……たしか、この間は『あんなものうがい薬
にもならない』って…… \(◎o◎)/!」

 その瞬間、先生が秘書の足を踏んだので会話は途切れた。

 「いえ、私は、ただ……」

 「ただ、何ですか?」
 先生の少しいらだつ声。

 「いえ、私は…先日、サー・アランとお会いした時、是非とも
うちの娘のピアノを高名なブラウン先生にきいていただきたいと、
おっしゃられるもんですから……それを先生にとりついだまでで
……」

 「まあ、いいでしょう。あなたは本来、調律師であって、私の
秘書ではありませんから、そのあたりの不手際はやむを得ないと
しましょう。しかし、もし、これからも私の秘書として帯同する
つもりなら、そのくらいのことは調べておいてもらわないと困り
ますよ」

 「申し訳ありません。先生……でも、先生もこのお話をお受け
になりましたでしょう?」

 「ええ、受けましたよ。いけませんか?ワインのことも男爵の
人となりもよく存じ上げていたのでお受けしたまでです。音楽家
たるもの、たまには、田舎の新鮮な空気に触れなければ、感性が
くすんでしまいますからね。でも、それがどのような人物からか、
どのような趣旨の依頼かは、本来なら、あなたが調べておくべき
ことなんですよ」

 先生は秘書を叱りながらも、バックミラー越しの運転手に軽く
お愛想の笑いを返すのだった。


****************************

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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