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ステファン卿の贈り物

<コメント>
 私の作品の中では、わりとまともな方です。(*^_^*)
 『何を基準にまともなんだ』って言われると困るんですが…

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        ステファン卿の贈り物

                     K.Mikami


 「ガチャン」

 という音とともにガラスの灰皿が割れる。

 私が安楽椅子に寝そべりながら薄目をあけて確認すると、犯人
はすでに床に膝まづいてその片付けにはいっていた。といっても
その手がてきぱきと仕事をしているようには見えない。

 破片を摘む指の震えが罪の重さを感じさせ、ひきつる頬と噛み
合わない唇はこれから起こるであろう我が身の不幸を自らに問い
掛けているかのようだ。

 おそらくはそうやって、自分の気持ちを高めているのだろう。

 『お仕置きして欲しいのか……かわらんなあ、おまえは……』

 ミー子が大型犬用の檻に入れられたまま、ここへ届けられて、
一年。この一風変わったところのある少女はその時と何も変って
いなかった。この家で最初に壊した灰皿も、彼女は同じ素振り、
同じ顔で拾い上げていたのだ。

 スカート丈の短いなす紺のエプロンドレスに、首に巻かれた臙
脂のリボンが妙に似合っている。彼女のリボンは喉に付けた金の
鈴の首輪なのだ。

 その鈴が私を気づかってかシャリン、シャリンと控えめな音を
たてているのがとても可愛い。思えば彼女とは不思議な縁なのだ。

****************************

 1998年のクリスマス。私は、商談を終えて帰国するところ
だった。すると商談相手が、

 「飛行機の中でクリスマスを祝うのも味気なかろう、一晩付き
合え」
 と言うのである。

 案内されたのはパリ郊外の瀟洒な屋敷、主人は男爵だという。
その時は仕事がまた一つ増えたと思うしかなかった。

 が、中の様子は私の想像していたものとはまったく違っていた
のである。

 乱交パーティーと言えば言い過ぎか。しかし、その表現もそう
遠くはない催しだったのだ。

 館の主、ステファン卿は『O嬢の物語』のモデルになった人物
と聞かされたが、その時はすでに好々爺といった感じで……その
せいか、若いというより、むしろ幼い少女を身近にはべらせては
楽しんでいた。

 そのうち、こうした催しにはつきもののショーが始まる。

 例えば、『懺悔聴聞僧や教師に扮した客が、少女の素行の悪さ
や怠け癖をなじっては懲罰を加える』といった寸劇を大真面目で
やってみたり……『どの娘のお尻を、どれくらい裸にして、何発
くらい、どんな鞭でぶてるか』を籤で決めたりするのだ。

 いずれもたわいのないことだが、それだけに場は盛り上がって
いた。

 そんななか、こうした趣向には一切参加せず、先ほどからステ
ファン卿のそばにべったりと寄り添って離れない少女がいた。

 『何もしないのに男爵の不興をかわないところをみると、老人
のお気にいりか。あの顔は日本人か?少なくとも東洋人だな』

 私は少女の第一印象をそのように見ていた。しかしそんな彼女
もやがて芸をしなければならないはめになる。客たちがこぞって
少女の芸を求めたのだ。

 彼女に課せられた課題は「マッチ売りの少女」だった。

 これは少女がマッチを篭に入れて紳士たちの間を廻り、マッチ
を一つ買ってもらうたびに客たちからの無理難題に応じなければ
ならないというもの。

 もとよりこういう席だから、求められることは破廉恥なことと
相場が決まっていたのである。

 例えば……

 「こう寒くては手がかじかんでマッチも擦れぬ。わしにはそん
な篭に入った冷たいマッチより、おまえのブラジャーやショーツ
の中でぬくぬくと暖まっているのをくれぬか」とか……

 「聞けば、そのマッチを暗がりで擦ると美しい幻影が現われる
そうではないか。いったいどんな夢が見られるのか試してみたい
ものだ。……おう、そうだ。お前のスカートの中の暗がりを私に
貸してはくれぬか」などといったたぐいだ。

 その紳士たちの無理難題に、少女はことごとく怯えてみせた。
実はその怯え、絶望の表情こそが彼女の芸だったのである。

 もとよりドンファンで知られる男爵が、この少女に手を付けて
いないはずがない。しかし、哀願する少女の姿は、まがう方なき
生娘と見えるのだ。

 『なるほど、これがあればこその男爵のお気にいりというわけ
か…』

 私はそれまでこうした乱痴気騒ぎに興味がなかったが、彼女の
出現で不思議に参加したい気になった。きっとサディストの血が
騒いだのだろう。

 「お嬢さん、私にも一つ売ってください」

 私が日本語で話し掛けると、とたんに少女の表情が一変する。
 それは、彼女がそれまで見せたことのない素直な驚き、不安の
表情だった。

 慌てたようにして「はい」という答えが返ってくる。

 異文化のこの地で東洋人が怪しげなことを密約しているなどと
勘繰られてもいけないから、日本語の会話はそれだけだったが、
今同じ日本人と知れたことで、彼女の表情にそれまでとは違った
色合が反映されるようになったのは確かだ。

 私は要求する。

 「最近、年のせいか手首が固くなってね、マッチを擦ろうにも
なかなか一回ではつかないんだよ。君、僕の手首が柔らかくなる
ように協力してくれないか……君のその柔らかなお尻で」

 そう言ってまもなく少女の顔に戦慄が走る。それは他の紳士達
に見せたのとは異なる少女の素顔だった。おそらくは私が日本人
と知って、夢から現実へ引き戻された思いがしたのだろう。

 少女は何も言わず男爵の元へと走り去ってしまう。ステファン
卿の背中に隠れ、恐々とこちらの様子を窺うさまはまるで幼女の
ようだ。

 私はステファン卿の前で片膝をつくと、国王陛下に臣下の礼を
とる騎士のように、深々と頭をさげた。
 もとより彼女は男爵のもの。私が少女を玉座の裏まで追い掛け
て行き、腕を引っ張って広間の中央へ連れ戻すことなどできよう
はずもないのである。

 「その儀は許せ」

 と男爵が一言のたまえば、それっきりだった。が、そこは遊び
慣れた粋人。
今度は本当に怯えているマッチ売りを私のもとへと帰してくれ
たのである。

 椅子に腰を下ろした私は彼女のお尻がステファン卿の方を向く
ようにして少女を膝の上に抱く。そしてスカートを捲るについて
目で合図を送り、ショーツをずらすについても、同じようにして
男爵に承諾を求めたのだった。

 …パン、………パン、………パン、………パン、………パン、
………パン、………パン、………パン、………パン、………パン

 始めはゆっくり軽く。しかし少女の顔はすでに真っ赤で涙ぐん
でさえいる。

 やがて…

 パン、……パン、……パン、……パン、……パン、……パン、
…パン、…パン、…パン、…パン、…パン、…パン、…パン、…

 少し間隔を狭く、強さも増してやると、声はまだ出ないものの、
可愛い双丘や小さな胸、お臍の下などが微妙に動き始めた。痛み
から逃げたいとする気持と自分の大事な処を観衆に覗き見された
くないという思いがぶつかって、この微妙な動きになっている。

 ……ぁ、……ぁ、……ぁあ、……あぁ、……ぁ、……ぁあ、…
ああ……ぁあ、……あぁ、……ぁ、……ぁあ、……ぁ、…ぁあ…

 それは、あまりに小さくて、最初、耳をそばだてていなければ
聞こえないほどだったが、必死に自分の大事な処を守ろうとする
叫びも、少女ならば美しく。
心地よい音楽となって私を陶酔させるのだった。

 パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、

間隔はさらに短くなって私も最後の仕上げ。スナップも、目一杯
きかせ始める。
しかし、こうなると体裁などかまってはいられない。先ほどの
羞恥心はどこへやら、足を激しく蹴り上げてはやみくもに許しを
乞い懺悔の言葉を口にするようになる。

 「あ~あ、やめて、……もう許して……もうたくさんよ………
ごめんなさい」

 最後の言葉はやはり日本語だった。

****************************

 それから一ヵ月後、すでに帰国していた私の所へ思わぬプレゼ
ントが届く。

 動物移送用の檻に入れられたその猫は、もうその時から臙脂の
リボンに金の鈴を喉に付けていたのだ。

 ステファン卿からの手紙には「おまえに会って以来こいつが芸
をしなくなった。一年の猶予をやるからおまえの責任でまた芸が
できるよう調教しなおせ」
 と書いてあったのだ。

 その約束の一年がもう間近に迫っていた。

 「ガシャン」

 再び灰皿の割れる音がする。さっきよりむしろ大きな音。私に
起きてほしいと願う音だ。

 「何だ、また壊したのか。おまえは、いったいいつになったら、
その粗相が治るんだ」

 私は、さも今それに気が付いたかのようなふりをして、いつも
どおりの演技を始める。

 パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、

「いやあ~いやあ~、ああ~、もうしないから。ごめんなさい。
もう許してよ~」

 しかし、そのあとが今日は少しだけ違うのだ。私は、ミー子が
私の膝の上でお尻をさすり、胸の中で充分に泣いたのを確かめる
と、椅子の下から一つの包みを取り出した。

 「何?、これ」

 「制服だ。高校の…」

 この時、ミー子の目が輝く。それは私を確信させた。やはり、
この子は高校に行きたいのだと…。そして、その確信が次の決断
へとつながる。

 「おまえをステファン卿のもとへは帰さない」

 「えっ!?」

 「おまえはこれからも私の処で暮らすんだ。そして、来年四月
からは高校へも通ってもらう。いいな」

 「…………私、…………」
 ミー子はそれだけしか言わなかったが、それで充分だった。

 「今のおまえの教養じゃ、私の話相手にもならんからな。……
それでいいだろう?」

 「来年って?、明日から来年よ」

 「あたりまえじゃないか」

 私の言葉にミー子の顔は破顔一笑といった体だ。

 「ミー子、来月から行きたい。一年生の三学期に編入させて…」

 「無理を言うな。だいいちおまえの学力じゃついていけないよ」

 「あっそうか。やっぱりね」

 ミー子が突然また不安げになるので、

 「大丈夫。これから四月までの間は、高校へ行っても困らない
ようにたっぷりしごいてやる。幸いおまえは頭からだけじゃなく
……」

 チリン、チリン、「ああ~ん、いやだあ~、ゆるして~」チリン、
チリン、「ああ~ん、恥ずかしいよ~~、いやあ~~」チリン、

 「お前は、ここからだって覚えられるんだからな、何も心配は
いらんよ」

 首に付けた金の鈴が可愛く鳴って、ミー子は憧れの制服を抱い
たまま、私の膝に再びもたれ掛かる。

 …パン…チリン…パン…「ああん」…パン…チリン「もう耐え
られない」…パン…チリン「ああん、だめだめ」…パン…チリン
「許してお願い」…パン

 2000年代の幕開けを告げる除夜の鐘がかすかに部屋に流れ
込むなか、私はそれでも笑みの消えないミー子の真っ赤に熟れた
お尻を、笑顔でもう一度、しっかりと叩き始めるのだった。

******* <了> *****************

       00/01/08


  

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tutomukurakawa

Author:tutomukurakawa
子供時代の『お仕置き』をめぐる
エッセーや小説、もろもろの雑文
を置いておくために創りました。
他に適当な分野がないので、
「R18」に置いてはいますが、
扇情的な表現は苦手なので、
そのむきで期待される方には
がっかりなブログだと思います。

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